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斯くて我らは回生す

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層

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#第三層


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●死の言祝ぎ
 どれだけ『空』を塗りこめたって、この日の記憶を消せはしない。
 血色に脈打つ天井。土は腐臭を放ち、村の外では作物を育む事も侭ならない。
 すべてが、すべてが私たちを拒むこの大地で。
 私は、あなたに出逢えたのだから。

 鐘が鳴る。式の始まりを謳っている。
 生前叶わなかった望み、私の前の私が命を閉ざすまで。
 望まれて生まれる事も、あたたかな腕に迎えられる事も――ましてや家族、だなんて。

 ――家族。
 その響きに、とうに失った心臓がとくん、と遠くで鳴った。

 私、家族になるの。今日、この人と。

 からん。がらん。
 鐘の音に背中を押され、回廊を歩く。
 足元を見る。痩せた足だ。
 擦り切れて爪は割れ、花嫁の足と誇るには心許ない。
 それでもいい。透いた体でも成せる事はある。
 あなたの腕に飛び込むには、この身ひとつあればいい。

 そうして駆け出した私たちを出迎えたのは。

 ――楽園の終わりを告げる、鐘の音だった。

   ◇    ◇    ◇

 それからの事は、湧き上がる激情を抜きに聞く事をおよそ困難にした。
 だから私は記そうと思う。
 私が案内役から何を聞き、理解したかを。

 ダークセイヴァーの上層。
 類稀なる奇蹟の楽園は、ある日予定通りに崩落した。
 花嫁と花婿が誓いの口付けをする瞬間。
 彼らの首は二度と互いを見ぬよう、背中合わせに縫われた。
 村人は酸の沼に沈み、我が子だけでもと抱きかかえた母親は。
 愛し子の腹から零れる赤い命を、その口に味わった。

 私は可能な限り記そうと思う。
 できる限り感情を排し、記そうと思う。
 ペン先が折れた。まただ。努めて冷静であらねばならない。
 私は今から――この現実に立ち向かうのだから。

                   ――或る猟兵の手記

●『なぜ』
 伝え聞いた予知の内容に、誰からともなく問いがこぼれた。
 ――どうして、と。
「……ダークセイヴァーだからよ」
 返すグリモア猟兵の声は重く、押し殺すような響きだった。
「理由になってないのはわかってるわ。でもそれがまかり通る場所……この世界に生まれたというだけで。魂人たちは今も囚われ続けているわ」
 この地であてがわれた希望には必ず『奪われる為』の但し書きがつく。
 救いを求め、切り拓いた第三層。
 そこでは考えうる最悪を上回る、人の言葉では言い表せぬ光景が広がっていた。

 予知に見えた魂人は、箱庭じみた小世界の中で仮初の平穏を生きている。
 闇の種族の使いが時折来るほかは、辛うじて生きられる美しき花の楽園だ。
「まずは魂人たちの信頼を得て、有事に動けるよう備えてほしいの。でも、言葉や振舞いには気をつけて。現地に生まれ変わった魂人は、こう信じているわ。死後の世界にようやく安寧を得られたんだって」
 従えばうまくいくと信じる彼らに外界の真実を伝えたとて、俄かには信じまい。
 魂人たちは自分たちが飼われている事も、間もなく摘みとられる事も知らないのだ。

 時がくれば、闇の種族が現れる。
「式をね、挙げるんですって」
 魂人同士の婚姻の儀。その真っただ中に『収穫』は行われるという。
 無論、式を止めても結果は変わらない。
 あくまで今が時期であり、魂人の行いに闇の種族は関心を寄せない。

 闇の種族が箱庭の土を踏んだ瞬間、崩壊ははじまるだろう。
 大地はぐずぐずと腐葉土のように沈み、同じだけの質量の酸の沼が足元を覆う。
 悠長に構える猶予はなく、狼狽えていては猟兵であっても全身を溶かされるか、よくて闇の種族の供物になるだけだ。魂人は言うまでもない。
「どうするかは皆さんに……お任せするわ。全力で立ち向かうなら止めはしないし、魂人を守りながら逃げるのも。ただ、憶えておいて。闇の種族は今の私たちであっても、きっと太刀打ちできない。少なくとも」
 そこで言葉を切る意味。
 ごくり、と皆が唾を飲む様子に、グリモア猟兵は自らの悪癖を自覚する。
「……あらゆるものを棄て、本気で討つなら。魂人は見捨てる事になるわ」
 だが、それが事実であるならば。案内役は重みを持たせてでも、言わねばならぬのだ。

 闇の種族の追っ手を振り切り、崩壊する楽園からの脱出が叶えば、あとは辛く険しい逃避行となるだろう。
 魂人がいれば追われた事を嘆くか、自らの境遇に立ち尽くすやもしれぬが、それでも。彼らは此処を越えねば、生きては行けまい。

 説明を終えたグリモア猟兵は、表情を見せぬままゲートを開いた。
「現地での判断は皆に任せるわ。後の脅威を祓うためなら、最善を尽くせば届くかも」
 いつもなら、ここで彼女の檄が飛ぶだろう。
 だから送られる猟兵たちは激励を待ち、身支度を整えた。
 だが、転送の光は言葉もないまま強まっていく。

 そうして、あなたたちは聞いた。
「……けて」
 彼女の唇が、掠れた声を紡ぐのを。
 知己の者がいれば、らしくない声だったと語るだろう。
 だが、涙ぐんだ目で彼女は確かにこう告げたのだ。
 ――お願い、あの人たちをたすけて……と。


晴海悠
 ダークセイヴァー上層、そこには更なる地獄が待ち受けていました。
 死すらも救いとならぬ、無間の闇。
 ですが、ここまで読んだあなたなら答えは出ている筈です。

 果て無き闇の、果てを見るために。
 行動を考え抜き、あなたの想いを全力でぶつけてください。
 全身全霊のリプレイにて、お返しいたします。

『一章 日常』
 仮初の平和を生きる、魂人との交流。
 彼らのうちある若い男女が、婚礼の儀を迎えるようです。
 直後の事を考えれば、式は半ばで終わるでしょう。
 ですが、ここでどれだけ彼らの信頼を得られるかが後の展開の要となります。

『二章 ボス戦』
 翼ある蛇を宿した闇の種族が、楽園を摘みとるべく現れます。
 同時に楽園は崩壊をはじめ、すべては酸の沼に沈むでしょう。
 闇の種族は比類なき力をもつ強敵です。逃走のために、魂人のユーベルコード『永劫回帰』を用いてやり過ごす場面も出てくるでしょう。
 逃走の説得に応じるかは、これまでの信頼とかける言葉によって判定します。

 また、猟兵の過半数が選択すれば闇の種族に全力で立ち向かう事も可とします。
 ただし、現時点での領主は超強敵です。成功・大成功の判定を得るのは非常に難しくなります。
 仮に勝利を得ても、代償は大きなものとなるでしょう。ご留意ください。

『三章 冒険』
 色とりどりの花が咲く地獄のような花園を、ただひたすらに進みましょう。
 魂人が生きていれば逃避行、いなければ猟兵だけで追手を逃れる事になります。
 花園にはオブリビオンの仕掛けた罠があり、また罠はなくとも人々は心を折られているでしょう。
 どんな声なら届くのか。考え抜いた末の言葉であれば、彼らも受け入れるでしょう。

『その他』
 主に土日に執筆時間を確保するため、プレイング受付期間をタグとマスターページにてお知らせする予定です。
 期間外にお寄せいただいたものは採用率が低くなります事をご了承ください。
 また、全編を通して案内役のリグは登場せず、関係者じみたNPCも一切出ません。あくまで皆様の物語としてお楽しみください。

 それでは、リプレイでお会いしましょう。晴海悠でした。
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第1章 日常 『終わらぬ地獄にささやかな安らぎを』

POW   :    共に音楽を楽しむ

SPD   :    共に舞踊を楽しむ

WIZ   :    共に遊戯を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 遠景。多くの世界に於いてそれは、心安らぐものの筈だ。
 遠くを見渡せば、空の代わりに映るのは脈打つ血の色の樹。
 目に不快な色が焼きつき、目蓋を閉ざしても振り払えない。

 それに比べ、眼前の光景はまだ穏やかなものだ。
 美しき花の咲く、小さな集落。
 ダークセイヴァーでは豊かと呼べる村の中で、人間、人狼の者、オラトリオ。
 生前さまざまな種族だった魂人が、半透明の体で第二の生を甘受している。

 声が聞こえる。
 花嫁の召し物を手に、魂人が談笑しながら小屋の中へ消えていく。
 次第に近づく晴れの舞台。
 痛ましい事だが、彼らの望みが叶うことは恐らく、ない。

 幸い、いまのところ彼らに警戒のそぶりはない。
 来訪者として接触するなら、珍しがられても拒まれる事はないだろう。
 ただしそれも、彼らの営みを邪魔せぬことが前提だ。
 事情を話して逃げろといっても訝しまれるか、
 気持ちは信じたとしても彼らの経験が理解を拒むだろう。

 世間話から入るか、家屋の修理など困りごとを請け負うか、
 あるいは式の手伝いを申し出るのも喜ばれるだろう。
 限られた時間で信用を得、有事に動けるだけの信頼を築かねばならない。

 目の前の幸福はほどなく摘みとられる。
 これより彼らは楽園を追われ、厳しい大地を歩んでいかねばならぬのだ。
七那原・望
アマービレでねこさんをとにかくたくさん呼び出し、彼らにお願いします。
村中に散開し、村人達と仲良くなってください。あなた達なら簡単なはずです。
そして事が起こったら全力魔法の結界術で村人を護ってください。

わたしは式場に。
賑やかさに釣られ、関係者から結婚式をする旨を教えてもらった子供という体で新郎新婦に接触を図ります。

あの、ご結婚おめでとうなのです!
もし良ければお祝いに歌を贈りたいのですけど、いいですか?

それでは僭越ながら。

シンフォニック・キュアを込めて歌います。

どうかあなた達の幸せが永遠に続きますように。

しばらく彼らの馴れ初め等を聞いて交流し、その後は関係者と共に式に参列させてもらいましょう。


疾風・テディ
✿連携・アドリブ歓迎。

「こんにちは!」
UCで事前に召喚しておいた優しさ100%のねこたちを連れつつ、努めて明るく魂人さんたちに声をかけるよ。

「ご結婚されると聞きました。どんな場所であっても、おふたりが家族になることは素敵なことです。なのでおめでとうと言わせてください」

余計な言葉は多分重みへと変わってしまうだけだから、あとは純粋無垢なねこたちと精霊たちにこの場を和ませてもらう。

__せめてひと時だけでも安らぎを。

「私の国では白い鳩は幸運を呼ぶといって、結婚式に飛ばされたりするんです。だからこの子にもお二人の門出をささやかながら祝ってもらいましょう」

そう言ってだいふくを空に飛ばすよ。
__少しでも警戒をお願いね、だいふく。

一通りのご挨拶を済ませたら、だいふくに空を警戒してもらいつつ、私もうもたん、ダニーと一緒に有事に備えるよ。



 花が咲く。昼でも暗い空に負けじと、わずかな光を求めて空へと伸びている。
 その生き方は、この地に生まれた命のすべてに当てはまるのかもしれない。
 目隠しをした少女、七那原・望(封印されし果実・f04836)にとっては、幾度目か数えるのも億劫なほど見慣れた景色だ。
 いや、見慣れたというのは語弊がある。視覚を封じた彼女が今捉えているのは、人々の声、肌に纏わる湿気――地に落ちて甘い臭気を放つ花の香りだ。
「花……お花があちこちに咲いてるのです?」
 予知では、村には花が咲く様子が見えたという。香りだけでは何の花かまでは判らぬが、自身も髪に花を宿す身としては幾許か親しみ深くも感じた。
 少し離れた所で、村人らしき気配。続いて彼らに呼びかける、若く張りのある声が響いた。
「こんにちは!」
 白い鳩の風精霊、だいふくに跨る疾風・テディ(マイペースぐだフェアリー・f36106)は、硝子ペンで描いて呼び出した9匹のネコたちを引き連れていた。
「ご結婚されると聞きました。どんな過酷な土地であっても、おふたりが家族になることは素敵なことです。なのでおめでとうと言わせてください」
 明るい声で話しかける相手は新郎新婦なのだろう。望もまたそちらへと駆け寄り、聞き及んだ体で二人へと呼びかける。
「あの、わたしも聞いたので。ご結婚おめでとうなのです!」
 小さな少女に祝いの言葉を告げられ、元はオラトリオと思しき魂人の女性は口元を綻ばせる。
「旅の方まで聞きつけてくださるなんて……! ありがとう、ございます。ふふ、過酷といっても前の人生に比べれば……この村での暮らしは穏やかなものですよ。ね?」
「ああ。開墾すれば作物は育つ、生きていけない事はないさ。主様も、俺たちが御使いの言葉に従っていればよくしてくださるしな」
 新郎の言葉に、テディはちくりと痛みに胸を抑えた。この者達は真実を知らない。今の暮らしが明日へ繋がると、淡く叶わない希望を抱いてしまっている。
 余分な言葉を付け足す前に、振り切るように言の葉を風に乗せる。
「私の国では白い鳩は幸運を呼ぶといって、結婚式に飛ばされたりもするんです。だから、この子にもお二人の門出をささやかながら、祝ってもらおうと思って」
 精霊の背から降りて背中をとんと優しく叩けば、だいふくはクルル、と鳴き声ひとつ残して空へと軽やかな羽音を響かせる。
(「少しでも警戒をお願いね、だいふく」)
 望もそれに倣い、白いタクトを振って召喚の儀を執り行う。鈴がちりりと鳴り、現れたのは魔法の猫たち。一見戦う術を持たないただの猫に見えるが、どの子も魔法の結界術を身につけた頼れる子たちだ。
 呼び出された猫たちはテディの猫と戯れじゃれていたが、
「ねこさん、ねこさん、出番なのですー。村中に出向いて、皆さんと仲良くなってください」
 望の呼びかけにはっと使命を思い出し、各々の思う方へと散っていく。いざとなれば魔法の結界を張り、力の及ぶ限り村人たちを護ってくれるだろう。

 愛くるしい動物たちの仕草に、魂人たちの口元がやわらかく綻ぶ。その様子を見て、望はひとつ、こんな事を申し出た。
「もし良ければ、お祝いに歌を贈りたいのですけど、いいですか?」
「歌……? ええ、ぜひ」
 それでは僭越ながらと背筋を伸ばした望は、聖なる魔力を乗せ、自身の想いを歌声に乗せた。
 少女の澄んだソプラノの声。式の準備の手が止まり、人々がこちらへ視線を向けるのを感じる。近くではテディが羽毛布団のうもたんに埋もれ、傍にいた新婦らも熱を帯びた感じ入るような眼差しをこちらへ向けている。
(「どうか、あなた達の幸せが永遠に続きますように」)
 そう、願いを込めざるを得ない。すぐに叶わないと知っていればこそ、それでもと苦難乗り越える願いを少女は歌声に籠めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK

……あんまり、人と接するのは、得意じゃないというか、嫌われやすいというか……
ふぅ……まあ、やるだけ、やってみよう……別の意味でも気が重いな、この層は

POWで
式には音楽も必要でしょう、幸いにも多少は心得があるわ
私、産まれてこのかた、家族と呼べる存在を得た事はないのだけれど、結ばれる彼と彼女のこれからが幸せになるのだと、そういうことはわかる……つもり

だから、良ければその幸せ、少しだけ感じさせてくれて、また少しだけ、祝福させてもらえたら、嬉しい

……こんな感じかな
フィドルというか、ヴァイオリンで実際に弾いてるとこ見せて、腕前は信じてもらえるかしら
それにしても、家族、羨ましいね


瞳ヶ丘・だたら
■POW
善人ぶるつもりはない。人助けなど性に合わん。……それでもこれは、些か悪趣味に過ぎる。

集落で自己紹介を済ませ、古びた家屋や柵の修繕の手伝いを申し入れる。
戦車についたアームは大きく強力、あたしの〈操縦〉技術があれば細かな作業も問題なく行える。式場の設営に携わることも可能だが……やめておこう。あたしには眩し過ぎる。
そうやって集落中を巡りつつ、式場を起点として、この集落からの最短脱出ルートを探っておくとしよう。
万事〈落ち着き〉を以って当たりたいところだ。彼らに多少なりと安心を与える為にも。

……本来言うべきでないのかもしれないが。
関わった魂人には、万が一の時は式の最中でも逃げ出すように伝えよう。



 集落の人々は互いに助け合い、式の準備へと取り掛かっている。
 共助で成り立つ村社会は、裏を返せば否が応でも人と関わりを持たざるを得ない場所だ。
「……あんまり、人と接するのは、得意じゃない……けど」
 肆陸・ミサキ(黒白を弁ぜず・f00415)はゆるく頭を振った。誰も巻き込まぬよう遠ざけてきた性分、こうした密な繋がりを求められると不得手な自覚があった。
「ふぅ……別の意味でも気が重いな、この層は」
 やるだけやってみようと小さく零し、包みからフィドルを取り出して村人の方へと歩み寄る。
 式場前の広場へ向かうと、既に先客がいた。
 短く切り揃えた前髪の下、女性の表情は隠れて見えない。代わりに大きな単眼模様がギョロリと睨みを利かせ、振り向かれればドキリと心臓が大きく跳ねそうだ。
「……手伝いに来た。とはいえ式の手伝いは性に合わん。壊れた柵や小屋があれば、修繕を請け負おう」
 瞳ヶ丘・だたら(ギークでフリークな単眼少女・f28543)。およそ煌びやかな事に関心を示さぬ彼女は、裏方として村の建屋などの修理を申し出た。
「おや、いいのかい? それならあっちの納屋が壊れて困ってたんだが……」
「委細承知した。戦車とあたしの操縦技術をもってすれば、そう時間はかからんだろう」
 言うが早いか花嫁たちに背を向け、物々しい装飾の四脚戦車へと身を滑り込ませる。
 鉄の蹄が地を踏み鳴らし、ピストンじみた駆動音を立てながら郊外へと向かう。外れの納屋は屋根が外れてからそれなりに経っているようで、木材が足りないのかかき集めた資材で繕うような修繕が成されていた。
 中の鍬や鋤が湿気に錆びぬよう、賢明な努力の跡が見えた。一見恵まれた村といえ、彼らは庇護の中で安穏としてるわけではない。生きようとする彼らの意思諸共、すべては間もなく刈り取られてしまうのだ。
(「善人ぶるつもりはない。人助けなど性に合わん……それでも、これは」)
 悪趣味に過ぎる――吐き捨てたくなる思いを飲み込み、たたらはマニピュレーターの操縦桿を握りしめた。

 小屋が次第に修繕されていく様子を遠目に見守り、ミサキは「あちらは任せて良さそうですね」と呟いた。
「式には音楽も必要でしょう。私で良ければ、奏でましょうか」
「よろしいのですか? はじめて会う方にここまで良くしていただいて」
「ええ。……私、産まれてこのかた、家族と呼べる存在を得た事はないのだけれど。結ばれるあなた達のこれからが幸せになるのだと、そういうことはわかる……つもり」
 そう言い添えて、まずは実力を示すように弓を弦に当てる。
「だから、良ければその幸せ。少しだけ祝福させてもらえたら、嬉しい」
 炭化した腕でも、慣れてくれば力の籠め具合も判るものだ。体を揺らし、弦を小刻みに震わせ、繊細かつリズミカルに触れて祝い事向けの舞踏曲を奏でていく。
 次第に手拍子が生まれ、聴衆の心がひとつになっていくのを感じる。外野として祝うつもりが、自身も少しばかり彼らの中に迎え入れられた気がして、長らく遠ざけていた人の温かさがちくり、と切なく胸を刺す。
「……こんな感じ、かしら」
 歌ってもいないのに少し息が切れたのは、なぜだろう。感情をごまかすように彼らを見れば、肩を抱かれた新婦は目を瞬きもせずに見開き、幸せそうな溜息を零す様子が見えた。

 やがて拍手の巻き起こる頃には、たたらも戻ってくるのが見えた。彼女は思う所があるらしく、広間の外れで獣が近づかないか見張っていた者に何事かを伝えている。
 警護は彼女のような、冷静に動ける者たちに任せていいだろう。汗を拭い、ミサキは夫婦となる二人の方へと歩み寄った。
「それにしても、家族、羨ましいね」
 何気なく本音を告げると、一瞬意図を図りかねたように二人が顔を見合わせるのが見えた。こうしたところで僕は不器用なのだと、また胸が痛くなる。
 だから、ミサキは言い添えた。誤解なく意図が伝わるよう、自分のちっぽけな羨望になど構わず歩き続けられるよう。
「皆が羨ましくなるくらい、幸せに生きてね」
 願わくば、後に続く者が現れるくらいに――これからの道が如何に過酷であれ、希望求める意思なくしては人は流れていくばかりなのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カーバンクル・スカルン
さすが式場に選ばれるだけの場所だ、華やかだね。

重い工事箱と建材を傍らに置いて、依頼を受けてきた……って名乗るとするか。依頼主は流れの行商人が祝儀代わりに頼んできた、とか適当に言って。

ボロボロの荒屋に新婚夫婦を住ませるわけにはいかんしね? 胡散臭くても仕事がちゃんとしてたら文句は言えんでしょ。……まあ、この作業も無駄に終わるらしいんだけどさ。

家屋を補修しながらも、その時に出来た廃材建材の余りを使ってカタリナの車輪を大量に作って隠しておく。

———これが無きゃこの後の逃避行、私は彼らを守りきれない。



 村の中でも小高い斜面に位置する教会は、咲き乱れる花に囲まれていた。
「さすが式場に選ばれるだけの場所だ、華やかだね」
 担いできた工具箱や建材をどさりと下ろし、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)は辺りの者に声をかけた。
「ちょいと流れの行商人に頼まれて、家屋の修繕を請け負ったんだ。ご祝儀がてら、新居を綺麗にしとこうかってね」
「流れの……ですか? どの辺りを通りかかったんでしょう」
 新婦はいくらか首をかしげていたが、行商人が訪れぬ地だという事は分かる筈もない。現実を歪めて受け止めている彼女たちが狼狽えぬよう、カーバンクルは「細かい事は気にせずに!」と勢いで押し切り、建材を運んでいく。
 新婚夫婦の住まう予定の新居は、以前からあった家屋を直しているのか、ところどころに古い部材も見受けられる。
「ボロボロの荒屋ってほどじゃないかもだけど……綺麗に越したことはないっしょ」
 尤も、この作業も無駄に終わるだろうとは彼女も承知している。村がどのような運命を辿るか、如何に覆しようがないかは案内役の表情を見れば十分に判った。
「……ま、何が無駄かはやってみるまでわからないもんだしね」
 化粧板を渡し、一部むき出しとなっていた内壁を整えていく。様子を見に来た村人は、そこまでは手が回らなかったと感謝の言葉が寄せられた。
 無論、こうした記憶が『永劫回帰』の源となるなら無駄ではない。だがカーバンクルの狙いは副産物にもあった。村人の目を盗んで端材を組み合わせ、引き剥がした廃材とも合わせて巨大な構築物を作っていく。
 幸い、村には茂みや生垣がそこかしこにあった。隠す場所には事欠かない。牧歌的な村には似合わぬ針だらけの車輪を、カーバンクルは随所に隠していく。
(「これでいい……これが無きゃ、この後の逃避行、私は彼らを守りきれない」)
 あくまでその目は、次を見据え。いつ敵の襲来があっても応じられるよう、カーバンクルは着々と準備を整えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルパート・ブラックスミス
【騎乗】する愛機こと専用トライクの後部座席に花束を山積みにして【運搬】
持ち込むのはUDCアースのカサブランカ
白をメインに赤や黄色も添えて「祝福」の花言葉だけを込めて配る

上層といえどダークセイヴァーである以上自分が黒騎士であることは見れば判るだろう
問われれば肯定し、今日結ばれる二人を騎士として祝福し見守りに来たのだと相応の振る舞い・【礼儀作法】をもって応える

解っている、滑稽な話だ。
騎士が護れなかったから死んで此方にいるというのに。
今から崩れるこの時間を護ることもできないというのに。

それでも今、騎士は宣言しよう。
道化やドンキホーテにしか見えないとしても。
今より歩む二人の旅路を、黒騎士は護るのだと。


ライラック・エアルオウルズ
一度奇跡と信じたものに
現実を突き付ける、なんて
余りに惨すぎるじゃないか

極力、式の傍に控えたい
準備する魂人に声掛け
《コミュ力/読心術》で
人好きする様に心掛け

先程、式を挙げるのだと
偶然に伺ったものだから
祝いを告げたかったのと
何か手伝いをと思ってね

鞄に詰めた花を覗かせ
花束や花冠や指輪など
作れたら、と思うし
不要なら、飾るでもいい
素敵な舞台にしたいな

実は僕も結婚する予定で
本当は親近感を抱いたのさ
御覧の通り、老いた身だが
――しあわせになることに
遅すぎる、とか、ないよね

終えたら、つと、柔く呟いて

往く先にあかりが満ちるように
僕の街では祝いに灯を贈るんだ
愛用品は贈れはしないのだけど
せめて、式に、灯と添うていい?



 カサブランカ。白亜に塗られた家壁のごとく、柔らかかな白を讃える花が揺れている。
 白、黄、赤。色豊かな花束を抱えるのは、花とは不釣り合いな鉄の腕だ。
 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)、それが彼の名だ。甲冑の中身がそうなのではなく、甲冑こそが黒騎士ルパートなのだ。
 ざっ、ざっと規律正しい足音が土の上に響く。立ち居振る舞いと呪われた剣を見て、魂人たちは彼が騎士だと思い至った様子だった。
「あなたは……騎士、様?」
「いかにも。黒騎士ルパート、今日このめでたき日を祝う為に参った。結ばれる二人の新たな門出を祝福し、見届ける為に来たのだ」
 長年跨った宇宙バイクの後部座席には、まだ沢山の花が積まれていた。陽を受けて育った、この世界では見られぬ色の花々に、魂人たちはいっそ目映そうに目を瞬かせて覗き込んでいる。
「……おや、此れは。式を挙げると偶然伺って駆け付けてみれば。騎士の参列する結婚式とは、何とも僕好みの話運びだ」
 不意に横からの声に振り向けば、誂えのいい服に身を包み、白い髪の男が立っていた。
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)――そう名乗った彼は鞄の蓋を緩め、持ち寄った花を覗かせた。
「祝いを告げたかったのと、何か手伝いをと思ってね」
「目的は同じか。ならば、貴殿の飾り付けも手伝おう」
 まずは時間のかかる方からと、ライラックは持ち込んだ花でリースを編んでいく。
 新婦の家にひとつ、新郎の家にひとつ、互いの仲を結ぶよう二種の花で編まれた花輪が家の戸口を彩っていく。そして作った花冠を試しに新婦に被って貰えば、翼持つ魂人の彼女は分かりやすいくらいに頬を染めた。
「……実は僕も、結婚する予定で。本当は親近感を抱いたのさ」
「あら……、なんて嬉しい偶然かしら。おめでとうございます!」
 あなたにも幸ありますよう、と微笑む彼女に、愛しき人の姿が重なる。照れを隠すように作家は俯き、残りの花束作りへと意識を向ける。
 作家として一人、本に埋もれて生きた歳月は長い。適齢というものがあるとすれば、些かそれを過ぎたという思いもあった、が。
「……しあわせになることに遅すぎる、とか、ないよね」
 ふと、視線をあげて遠くを見れば、遠くには壮年期と思しき男女の姿。歳の差はないとはいえ、仲睦まじい彼らの姿を見れば、己が心配は些事に思えた。

 細かな作業は終わったとみて、ルパートは無骨な鉄の指で花を折らぬよう優しく掴み、式場へと運びはじめた。花を生ける花瓶も足りなくなり水桶まで出動したが、山積みの甲斐あってカサブランカの花は教会から広場までのヴァージンロードを築いた。
 感極まる様子の二人に近付き、作家の男はひとつ申し出をつけ加えた。
「往く先にあかりが満ちるよう、僕の街では祝いに灯を贈るんだ。これは愛用品だから、贈れはしないのだけど」
 夜色のカンテラの内から、滲むような光が覗く。
「せめて、これを手に提げて。式に、灯と添うてもいいかな?」
 そう告げれば花婿は、門出を照らしてもらえる事ほど心強い事はないと快諾した。
「こんなに、綺麗な花に囲まれて歩けるなんて」
 花嫁は頬を押さえ、式の始まる前から落ち着かない様子だ。間もなく化粧の時間も近づいているが、その前にとルパートの方へ歩み寄り、こう告げる。
「騎士様、それに紳士のあなたも。こんなに沢山の心遣い、ありがとうございます」
 礼を告げられた甲冑は僅かの間、無言で立ち尽くした。逡巡たる思いが駆け巡ったなどと、表情のない彼の胸の内を誰が窺い知れようか。
(「解っている。滑稽な話だ」)
 リビングアーマー、生ける鎧となった由縁。護るべきだった主は甲冑の内側で果て、こんなに式を待ち侘びる彼女らの時間も、己は護る事もできないのだ。
(「それでも今、宣言しよう。道化や、遍歴の騎士を騙るかの滑稽な人物にしか見えないとしても」)
 穏やかな動作で敬礼を見舞い、騎士は誓いと共に槍を地に突き立てる。今より歩むこの二人の旅路を、自分達は護るのだ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ソルドイラ・アイルー
マグダレナ嬢(f21320)と

随分と浮かない顔をしていますね、マグダレナ嬢!
おや、吾輩の性分を否定しますか。しかし吾輩が今すべき事は彼等を祝福する他ならぬ、其れ許りと言っても良いものであります。参列するならば拍手を祝詞を! で、ありますよー
まあその塞ぎ込んだ顔は心にでも使いなさいな。楽園ですよ此処は。嘘が付けぬのなら精々真摯でありなさい

さあてこの土塊、人形でも使って一芸でも致しましょうか! 今は踊り子よりも運び手の方が必要ですかね
ややっ家屋の修理は一大事ですね。吾輩も手伝います。住処に穴が開いていたら隙間風や雨漏りに震え、心を休めるのが厳しくなりますからね。家はご自身で建てられたのでしょうか?


マグダレナ・クールー
ソルドイラ君(f19468)と

……貴方はどうして、そんなにも陽気に振る舞えるものなのですか。かえって違和感を抱きかねます
結婚とは素晴らしいものだとわたくしは思います。けど。……壊される為に作られた楽園は、……(牢獄と言おうとした。偽りとも。しかし言葉にするのを躊躇う。魂人を傷つけそうだと思ってしまったからだ)

どうしましょう。お喋りは好きです。でも。難しく感じてしまいます
《グツグツニ。ゴアイサツダイジカ。アケオメソシテメリクリニ?》
……めでたい状況ではありません、リィー。……でも、彼等は祝福されるべきです
……二人に、おめでとうを伝えにいきます。その後は、ソルドイラ君を追って家屋の修理に向かいます



 ぶんすか、ぶんぶん。
 裾からはみ出た土色の巨大な尻尾が、華やかな式の予感に大きく、リズミカルに揺れる。
 竜人を模した姿の男、ソルドイラ・アイルー(土塊怪獣・f19468)は、式を前に浮き立つ村人以上の陽気さで傍らの女性へと呼びかけた。
「随分と浮かない顔をしていますね、マグダレナ嬢!」
 見れば成程、マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)は対照的に顔を伏せ、地面ばかりを眺めて歩いている。
「……貴方はどうして、そんなにも陽気に振る舞えるものなのですか。かえって違和感を持たれかねません」
「おや、吾輩の性分を否定しますか。しかし変に振る舞いを変え湿っぽくしては、大事なアイデンティティまで土塊になってしまいます故!」
 ガハハと豪気に笑ってみせたが、紳士の笑い声はマグダレナの気分を上向かせるものではなかったらしい。
「吾輩が今すべき事は彼等を祝福する事に他ならず、即ち誇りと言っても良いものであります。参列するならば拍手と祝詞を! で、ありますよー」
 生臭紳士の品行が場から浮いている、というのもあるが。元アリスの女性の浮かない表情の原因は、また別にあった。
「もちろんわたくしも、結婚とは素晴らしいものだとは思います。けど……壊される為に作られた楽園は、それでは……」
 まるで牢獄だ、との言葉は喉の奥に引っかかり出てこなかった。目が合ったのだ、魂人と。会話の中身まで聞こえていなくとも、姿を認めた相手を傷つけるような言葉は到底、吐けなかった。
 彼らの境遇が、かつての自分と僅かに重なる。美しき監獄、囚われの身と知らない迷子のアリス。真実を知る事が身を救うとは、いつだって限らないものだ。
「まあ、その塞ぎこんだ顔は心の中だけにしときなさいな。我輩達からはどうあれ、彼らにとって楽園ですよ、此処は。嘘が付けぬのなら精々真摯でありなさい」
 窘めるような声に、マグダレナは人を食ったような態度の男にまだ及ばぬと自覚する。狂気をねじ伏せ歩いてきた自負はあったが、『扉』を閉ざした己は彼ほど割り切り上手にはなれそうもない。
「さあてこの土塊、人形でも使って一芸でも致しましょうか! 周りを見るに、今は踊り子よりも運び手の方が必要ですかね」
 自身の力を土壌に分け与え、ソルドイラの下僕たる土人形が次々と立ち上がり殖えていく。
「何かお手伝いできることはございませんかー? 不肖このソルドイラ、お役に立ちますでありますよー」
 助力を自ら申し出れば、村人からは家の床や壁に穴が空いていると相談があった。
「ややっ、それは一大事ですね。住処に穴が空いていたら隙間風や雨漏りに震え、心を休めるのが厳しくなりますからね」
「それも勿論だが、どうもネズミが棲みついたらしくてな……追い出して塞げるか?」
「はいはい、お安い御用で! それではちょいと家の構造を拝見……ご自身で建てられたのでしょうか?」
 手際よく取り入るソルドイラの手腕に、マグダレナは半ば圧倒されて見守るばかりだった。自分も何かをしに来た筈が、どうしたと言うのか、足は一向に動かない。
「どうしましょう。お喋りは好きです。でも……難しく感じてしまいます」
 そう零すと、体の内側からわんわんと響く声が返ってきた。
『グツグツニ。ゴアイサツダイジカ。アケオメ、ソシテ、メリクリニ?』
「……リィー、めでたい状況ではありません」
 自身をオウガブラッドたらしめる存在の、場違いな声。正常な視界をくれてやった都合、魂人たちの本来の姿は呑気なこのオウガにしか見えていない。マグダレナの目には現実とは異なる、或いは『真実の姿』とも呼べる陰鬱な景色が見えている。
「……めでたい、とは呼べません、でも。彼等は確かに祝福されるべきです」
 ものの正しく見えぬ身でも、成せる事。二人に言葉を届ける事ならば、己にもできよう。その後は、どうしようか。家屋の修理も、金槌や釘の位置さえ分かればできるだろうか。
 弱気を振り切り、マグダレナは歩む。残酷な童話の真実を知ったとて、道の続きは茨の中に、力ずくで切り拓く他ないのだ、と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

館野・敬輔
【一応SPD】
他者絡みアドリブ大歓迎

…この村は闇の種族にとっての箱庭か
彼らに待ち受ける運命はあまりにも残酷極まりないけど
精一杯抗う為に、魂人を一人でも多く救う為に…介入しよう

村の外からの来客を装って式に参列
基本的に式の間は花嫁と花婿からは目を離さない
誓いの口づけをした後の惨劇だけでも防ぐために
いつでも飛び出し彼らを庇えるよう身構えておく

もし誰かに誘われたら式の余興がてら踊ってみるけど、
僕、ダンスが盆踊りになったことがあるんだよな(苦笑い気味に)
下手でも良ければ、誰か(魂人でも可)と踊ろう
変な踊りになっても勘弁してほしいけど
これで空気が和やかになって信頼を得やすくなれば、まあいいか


エリシャ・パルティエル
死すら救いにならない世界
もし自分の家族がと考えたら…

これから起こることが
どんなに酷くても目を背けちゃだめ
彼らを救うためにやってきたのだから

花嫁がどれほどこの日を楽しみにしていたかわかるわ
最後までできなくても式を手伝って祝福してあげたい
新郎新婦に話しかけてお祝いしたい旨を伝えるわ
馴れ初めなんかも聞けるかしら

準備してきた花びらを見せて
フラワーシャワーって言うの
参列者が祝福のために花を降らせるの
悪いものから遠ざける効果もあるのよ

…実際にできるかわからないし
僅かな気休め程度だとしても

たとえこの先に地獄が待ち受けていても
愛する人となら乗り越えていけるはず
今は耐える時だとしても
必ずこの世界に光を取り戻すわ


鎖木・茜
ここにいる皆様方は過去のわたくし
あの頃
お母様の…オブリビオンの作った箱庭の中で
お母様の過去を再現する演者でいれば
幸福は約束されておりました
ですから今の皆様方には他人の声が届かないのも身に染みて
ならば
今はただ幸せを彩るお手伝いを

旅人を装い新郎新婦に話しかけ
辛い気持ちは「演技」でごまかし
結婚式を挙げるのですわね
お二人の為に祝い歌を歌いましょう
この里に祝歌があればそれを教わり
無ければ故郷に伝わる婚礼歌を
いつか贄として捧げるための幸福な記憶となるよう
心を込めて歌いますの

お二人の幸せの記憶を少しでも長く保てるよう
これからもずっと家族として支え合えるよう
二人が共に手を取り合えるよう
祈りを込めて歌いますわ



 着々と準備が整う、門出の儀。
 ささやかなままで終わる筈だった式場には今、猟兵達の持ち寄った花が飾られ、彩り豊かなものとなっていた。
 人々は昏い空に似つかぬ笑顔を浮かべ、明日を夢見て動いている。
「この村は……闇の種族にとっての箱庭、か」
 館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、下層でもあまり見ない人々の笑顔に忸怩たる思いを噛み殺していた。
 虐殺を生き延び戦い続けた日々には、当然多くの者が命を落とすのを見た。以前ならば彼らの死後の安寧を祈り、同時にこれ以上苦しまずに済むと安堵したかもしれぬ。
 そんなものはない――と。突きつけられた時の背筋凍る思いは、敬輔の記憶にも新しい。そして残酷にも眼前の魂人たちは、真実をまだ知らぬのだ。
「ここにいる皆様方は……嘗てのわたくし、ですわ」
 鎖木・茜(自由を手にした姫君・f36460)の口からそんな言葉が出るのも無理はないだろう。茜も少し前までは箱庭で、定められた過去の再現を辿るばかりの日々だったのだ。
「今の皆様方にお声が届かない理由も、身に染みてわかりますもの」
 従っていればと条件付きで、約束された幸福。そこから道を踏み外す事の恐ろしさは、飼い慣らされた者にしか理解できまい。
 日頃明るさを振りまくエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)も、真実を知った上で見る魂人の営みには続く言の葉が見当たらない。
「死すら救いにならない世界、って……」
 金の瞳は光景を見逃すまいと見開かれ、同時に恐れを宿すように揺れていた。自分の家族の身に同じ事が起きたらと、彼女を聖者たらしめる想像力がいやに働く。
「彼らに待ち受ける運命は、あまりにも残酷極まりないけど。精一杯、抗うとしよう」
 向き合う覚悟を決めた敬輔が、まず村の中へと踏み入った。続いて茜も「今は幸せを彩るお手伝いを」と、彼に倣って歩んで行く。
(「しっかりするのよ、エリシャ。目を背けちゃダメ。これから起こることがどんなに酷くても……彼らを救う為にやってきたんだから」)
 軽く頬を叩き、気を確かに持って一歩を踏み出す。彼らとの関わりは痛みなしには終わらない。それでもここへ来ることを選んだ己には、見届ける義務があるのだ、と。

 他の猟兵と同じく旅人を装って茜が近づけば、村の魂人は今日は来客ばかりだと驚きを隠さずに告げた。そもそも村の成り立ちを鑑みれば『来客』自体があり得ないだけに、彼らの純粋な反応が逐一、胸を刺す。
「あのね。お花をいっぱい用意してきたの。フラワーシャワーって言って、参列者が祝福の花をいっぱいに降らせるの……やってみない?」
 エリシャが籠いっぱいに抱えた花びらを笑顔で見せれば、村の者たちは触れた事のない文化に興味深げに尋ねてきた。
「悪いものから遠ざける効果もあるのよ」
「本当ですか? その効き目って、私たち二人以外にもあるのかしら」
 覗き込んだ花嫁の、些細な一言が鼓膜を揺らす。この娘は、生来持つであろう優しさを半ば無自覚に他者へ振りまいてきたのだろう。
「結婚式を挙げるのですわね。なればわたくしは、お二人の為に祝い歌を捧げましょう」
 まずは祝歌のようなものが伝わってないか尋ねてみたが、村には歌や音楽の文化が根付いていない様子だった。ならばと茜は故郷の記憶を辿り、花嫁と花婿に捧げる婚礼歌を歌い上げる。
 はじめは儀礼の場での歌を歌っていたが、途中エリシャが手拍子を打つのを見、茜は踊りに向いた曲目へと変えていく。先に訪れていた猟兵が気を利かせて弦楽器を手にし、歌にあう伴奏を小気味よく奏でてくれた。
「ほら、敬輔も!」
 半ば強引にエリシャに促され、人々の前に出てしまった敬輔は参ったように頭を掻く。余興がてら踊れない事はないが、不得手な自覚はあった。
「僕、ダンスが盆踊りになったことがあるんだよな」
 苦笑い気味にそう伝えても盆踊りが何かと興味を示されるばかりで、敬輔は覚悟を決めて村人と手を取り合った。
「……先に言っとくが、手と足がもつれても後悔するなよ?」
 リズムに乗り、始めぎこちなく踊りはじめた二人は互いの出方を探りながら歩調を合わせていく。時に足を踏んづけるたび笑いが起こり、敬輔が謝れば気にしないでと村娘は笑った。
(「普段なら勘弁願いたいところだけど……場の空気が和やかになるなら、まあいいか」)
 剣を振るうばかりの己が身には、手と足を別な方へ動かす事すらも難しいらしい。それでも娘に導かれ、敬輔たちの作る踊りの輪に手拍子が巻き起こった。

 あちこちで作られた踊りの輪が解け、皆笑顔のまま残りの準備へと戻っていく。
「……誓いの口づけをする頃が、惨劇の始まりだったか。念のため、彼らの身辺を警護しておくよ」
 元の険しい表情に戻り、敬輔は式場の片隅へと歩んで行く。立ち位置、動線、彼らを逃がす退路の確保。朗らかであどけなくも見えた青年の姿は消え、今の彼は既に戦う者の動きをしている。
 夢幻の如くかき消えた華やかなひと時に、茜は想う。たった今の幸せな記憶が贄となり、彼らの命を守ってくれればいい。
 無論、使わずに済むなら越した事はない。茜とてそこまで捻くれてはいない。ただ、一切の犠牲なく遣り過ごす事は途方もない夢物語だとも理解していた。
「お二人の幸せの記憶を、少しでも長く保てるよう……これからもずっと家族として支え合えるよう。わたくし、祈っていますわ」
「そうね……あたし達も、できる事をしなくちゃ。フラワーシャワーも実際にできるかわからないし、気休めかもしれないけど」
 言葉を切り、魂人の顔を見る。数刻の後には笑顔は曇り、彼らは悲嘆に暮れる事になるだろう――それでも。
「この先、どれ程の地獄が待ち受けようとも、愛する人となら乗り越えていけるはず。今は耐える時だとしても……必ずこの世界に光を取り戻すわ」
 エリシャの目には、はじめとは違う、強く揺るぎない輝きが宿っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

シャルロット・クリスティア
……少し、懐かしいですね。
暮らしは決して良いものではなくとも、その中で拾い上げたささやかな幸福に感謝する……。
それだけのことでも、なんだか嬉しくなったものです。

予知の事は伏せるとして、偶々たどり着いた新参者ということにしておきましょう。

結婚式とは、いいタイミングでこれたものです。
新郎新婦の為人は存じませんが、私にも祝福と祈りをさせていただけたら、と。

どうか、幸福な未来がありますように。
この先、困難が降りかかろうと、ともに乗り越えていけますように。
その先に、また新たな幸福を見つけられますように……と。

願えば、きっと叶うものですから。
だから、私たちにも願わせてください。


ノネ・ェメ
連携、アレンジ歓迎


ウェディングプランナー、なんて概念もないのでは。だからそれに近いお世話したい。
それで花嫁さんの友達、、親友になる。

〝音纏〟で常に最適な身なりに。
UC効果の技能、とりわけ●地形の利用、●礼儀作法、●ブームの仕掛け人なども駆使。
姿勢ゃマナーの指導、衣装ゃ食卓のコーディネート、わたしに出来うる限りのサポートを。

二人がやりたい事、重きを置いてる事。
実現のためにゎ、きける限り二人の話をきく事がメイン。
式を作り上げてく中で、花嫁さんの中にわたしの●存在感も示してきたい。

良くも悪くも予知ゎ予知として……今ゎ式のより良い成功しか考えてない。
絆を固く結べたなら、二人三脚ゎ躓かされる時も心身共に一緒。


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

いいなー結婚式!
結婚式って好きだなー
なんで好きかって?こう…ハッピーな感じがするから!
でも邪魔が入っちゃうんだっけ?
んもー
ボクが手伝ってあげるよ!

●これは夢。しょせんただの夢
●でも夢の間だけなら何でもオールオッケー!
ジャマが入るんなら―!入らないようにしよう!
UC『歪神』発動
取り敢えずお邪魔虫くんは全部消しちゃえばいいかな!
うーーーん…って念じて
ハイ消えた!
とジャマな子は一度全部消しちゃおう(でないと彼らにも記憶が残っちゃうし)

そして結婚式は慎ましい準備の努力を尊重してあげるか
それとももっと豪勢にコーディネートしてあげるか悩みどころだね
そこはTPOに合せていい感じに!



 ささやかな幸せは、足元を見ている時にこそ見つかる。遠く彼方を目指す強い意思も眩しいものだが、身近なものに目を向けてこそ拾えるものはあるのだ。
 生前とは違う、第二の生。傍にある幸せに目を向け始めた魂人の姿に、シャルロット・クリスティア(霞む照星の行方・f00330)はかつての自身を重ねていた。
「……少し、懐かしいですね」
 暮らし向きは、いいものとは呼べない。それでも拾い上げたささやかな幸福に感謝するだけで嬉しくなったものだと、シャルロットは自らの出自を回顧する。
 過去は燃え落ち、償いと弔いのための旅に出た。死した愛すべき隣人も、更に過酷な生を受けたと知った今では償い切れぬ。だが、仮初のものだったとしても――今ひと時だけでも、笑顔を浮かべる魂人の姿に確かに救われる心地がした。

 シャルロットが式場についてみれば、そこには何人かの先客の姿があった。
「わーい結婚式ー! あはは、楽しいなー!!」
 特に目立ったのは騒々しく駆けまわる少年の姿。ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)、風のように気まぐれな彼が少年神だとは、容易には信じられまい。
「結婚式って好きだなー。なんかこう、ハッピーな感じ! あとご飯も食べられるし!」
 あちこちを駆けまわり忙しないロニはさておき、間もなく結ばれる二人を探していたシャルロットは、新婦と思しき女性が不思議そうな表情をするのを目撃した。
「う、うぇでぃんぐ、ぷらんなー……?」
「はい。わたし、ゎ……結婚式を素敵にするお手伝いを、したぃの」
 ノネ・ェメ(о・f15208)。音で構成された不可思議な肉体は規則正しく揺らぎ、彼女の発する声は独特の響きを持っていた。
(「ウェディングプランナー、なんて概念もやはりなぃみたいだけど。わたしは式を素敵に彩って……花嫁さんの友達、うぅん。親友に、なりたい」)
 音を纏う体は、着替えるのも一瞬。ぶぅんと僅かに映像が乱れ、ノネの姿はシックなワンピース姿へと様変わりした。
「わ……すごい、今のはどんな魔法なのかしら」
 周囲から漏れる、驚きの声。落ち着いた色合いの、花嫁を引き立てる装いになったノネは、あらためて二人の希望を聞き出しはじめた。
「そうね。私たち自身の衣装はささやかでもいいから、皆さんが参加してよかったって思える式にしたくて」
「なるほど……でゎ、食卓はマナーの厳し過ぎない、より話の弾むパーティ形式に。ぁと、持ち帰れるものも何かあった方が……?」
 細かく要望を聞きとり、ノネはアイディアを出していく。式当日となれば大がかりな変更はできないが、それでも理想が形になるたび花嫁の表情が綻ぶのが見えた。
「……聞くに、だいぶ準備もできてきたみたいですね。結婚式とはいいタイミングで来れたものです」
 頃合いを見計らってシャルロットも、たまたまたどり着いた新参者を装って二人に近付く。
「お二人の為人は存じませんが、私にも祝福と祈りをさせていただけたら、と」
 そうして祈りを捧げようと、した時だった。
「式っていいなー。でも邪魔が入っちゃうんだっけ? んもー。ボクが手伝ってあげるよ!」
 きゃははと笑うような声が響いた瞬間。目の前の景色が大きく揺らぎ、暗転した。

 花嫁は、己の纏う純白のドレスに目を瞬いた。頭にはケープ、純潔を表す白一色に身を包む、色をもつのは緋き刻印のみ。
 体が、ひとりでに動く。両脇でカサブランカが頭を垂れ、恭しく迎えてくれる。
 視線の先に待つ、人。誂えのいい、村では手に入らぬ礼服に身を包んだ愛しき人――彼もまた、驚きに目を見開いてこちらを見ていた。

 夢。夢だ。こんなの、起こるわけがない。夢のすべては質感を伴い、肌に触る織物の心地、花の香りまでもが真に迫る。
 あり得ない程の理想に満ちた、結婚式のリハーサル。居合わせた誰も、これが少年神の見せたもうひとつの現実だとは知る由もない。

 参列する者の中から、シャルロットがやはり驚きながらも、笑顔で祝辞を述べる。
「おめでとう。願えばきっと、叶うものですから。あなた達にどうか、幸福な未来がありますように」
 視界が、歪む。じわりと温かい滴が溢れ、目に映るカンテラの光を滲ませる。
 皆で少しずつ持ち寄った思い、添えた花。決して叶わない筈の結婚式、叶わなかった筈のあたたかな夢は、まもなくかき消える。
 現実を歪めるほどの、全知全能の力。たとえ全てが消えたとて、この光景は人々の脳裏に、強くまばゆい光として記憶されるだろう。
(「二人三脚。絆を固く結べたなら……躓く時も立ち上がる時も、心身ともに一緒だから」)
 ノネが、祝福の花びらを受け取り、高々と投げられたフラワーシャワーが降り注ぐ。
 やがて元に戻る景色の中で、誰にも邪魔されず――二人は幻に、そっと口づけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『蛇王ペイヴァルアスプ』

POW   :    一万の蛇の王
敵1体を指定する。レベル秒後にレベル×1体の【大蛇】が出現し、指定の敵だけを【巻き付き締め付け】と【毒牙】で攻撃する。
SPD   :    ヴァイパースマイト
自身の【胸に埋め込まれた『偽りの太陽』】が輝く間、【蛇鞭状の両腕】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    有翼の蛇龍
召喚したレベル×1体の【大蛇】に【龍翼】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。

イラスト:佐渡芽せつこ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夢は終わり、褪めた現実が舞い戻る。
 あの白昼夢が皆の共有財産だと知る手掛かりは、
 花嫁の頬に残る泪のひとしずくぐらいのものだろう。

 魂人たちは戸惑いながらも辿る。
 夢にまで見た、終える事のできない式の続きを。

 あなたたちは気付く。
 建物の一角、庭の木々、村が徐々に陥没していく姿に。
 外ではキィキィと甲高く、警戒に遣った使い魔の泣き叫ぶ声。
 現れたのだ。黒き死の色に凝り固まる闇の者、楽園を焉わらせる剪定者が。

 村はずれに現れた巨躯は大地を踏みしめるが、地響きが轟く事はない。
 ずぶりと足は沈み、足元からは沸き立つ酸の沼が溢れ出す。
 四肢に這わせた万の蛇、その一つ一つが人体を絞め殺すに足る太さで、
 巻き付かれれば背骨をへし折られるだろう。
 中には翼を宿す蛇もいて、陸路ばかりを警戒してはいられない。
 そして胸元の光球が輝く時、蛇の鞭打は縦横無尽に駆け、
 彼の敵の睥睨した者を纏めて薙ぎ払うだろう。

 今の猟兵が束となっても、勝てるかは不明。
 この敵を今ここで斃すとすれば、支払う代償は想像に難くない。

   ◇    ◇    ◇

 この難敵を相手取りながら魂人たちを逃がし、自らも逃れなくてはならない。
 魂人と共に逃れるならば、関門は三つある。

 第一に、村からの逃走経路。
 村は長くは保たないが、調査により比較的地盤の固い経路が判明した。
 それは村の入り口より真っ直ぐ出る道。
 まだ酸の沼に飲まれ切ってはいないが、敵の足元を潜らねばならぬ。

 第二、敵の攻勢。
 敵は蛇の王一体、たった一体の放つ万の蛇から魂人を守らねばならぬ。
 彼奴の思考パターンは一切が不明。
 異端の神にも似た人智及ばぬ相手だが、
 それでも何らかの知性があれば注意を惹く事も不可能ではない。

 第三、足止めと撤退戦の難しさ。
 倒しきるのでなく束の間の応戦であっても、猟兵自身にも危険が伴う。
 村人を逃がしきった後にどこまで足止めをするか、
 どこで切り上げるかにより以後の状況は変わるだろう。

 全てを一人で請負う必要はない。各々適した役目に特化するのも有効だろう。
 だが、ゆめ忘れてはならぬ。
 ただ一瞬の気の緩み――猟兵・仲間の誰かが命の危機に瀕するたび、
 魂人は叫びと共に躊躇いなく『永劫回帰』を放つだろう。
 術を一切使わせずに乗り切る事は、恐らく至難だ。
 だが、生きていく気力まで削がれぬよう努めねばならぬ。

 武器を握るあなたたちと、崩れゆく村。
 見下ろす蛇王の貌なき貌は、全てを死の秩序に沈めようとしていた。
七那原・望
村中のねこさん達は全力魔法の闇属性結界術でみんなを護りながら闇に紛れて移動してるはず。

こちらもアマービレで追加のねこさんを呼び、説明を。

ねこさん達が結界でみんなを護りますから、彼らやわたしの仲間達の案内に従って村の入口から脱出してください。

あなた達は永遠に幸せにならないといけないのです。
こんな悪意にも、永劫回帰にも、その幸せを踏み躙られないでください。

果実変性・ウィッシーズアリスを発動。
ねこさん達の全力魔法範囲攻撃で蛇王や万の蛇達にお互いの大多数が猟兵や魂人に見え、本来の猟兵や魂人が一切見えない幻覚を見せます。

攻撃の余波を結界で防ぎ、同士討ちで時間を稼いで猟兵や魂人の避難を待ち、最後に撤退を。


ノネ・ェメ
全員が逃げれる路を探し当てて誘導最優先、、
ぇ説得しないと逃げないとかないよね。目に見えて異変起こってるのに。怒ってないよ、怒るよ??

天災でも疫病でもそーぢゃん、大事なのゎ此処でなく、此処に住む皆ぢゃん。ぇぇと、後ゎ、、
自分達より皆によかったって思ってほしーわけぢゃん。わたしも二人によかったって思ってほしーんぢゃん。結婚ってこの先の生き方ぢゃん。仕切り直しも振り返りも、今を生き抜いた先でしか出来ないぢゃん!

闇の種族さんへゎ一応要求を。ただ仮に戦おーとする猟兵さんいたら、魂人さんより話す必要あるのでは……皆一丸でないと……悪さするのも戦うのも逃げないのも皆、皆、、

お願い! 魂人さんを助けさせて!!


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

●カンペ
え~それでは訓練を始めたいと思いま~す!
出来るだけ最低限の負担で乗り切りたいと思いますのでいっしょにがんばりましょ~!

なかなかキツい相手だけどボクたちもがんばるよ!
信じて!

●訓練
UC『歪神』使用
その間、例により本物の蛇王くんは手をさっと振って消しておきましょ…おこう!
じゃあみんな本番に向けコピー蛇王くんを使って繰り返し最適な避難ルートを探る訓練だよ!
出来るだけ『永劫回帰』は使わないでいこうね思い出がもったいない!

●本番
本番では訓練どおり避難までの間[球体]くんたちとUCの副次効果で防御力を+したボクの身体を張って魂人くんを守ったり蛇王くんの気を引いたりする!



 村のほうぼうに散った魔法猫から、友であり召喚主の少女を案ずる念話が届く。
 闇魔術の結界で押し寄せる酸を阻み、じりじりと安全圏へ後退していく猫たちに、七那原・望は「無理はしないでなのです」と呼びかけた。
 守りの手数は多い方がいい。そう判断してタクトを振り、新たに呼び寄せた猫たちに状況を説明する。
「ねこさん、ねこさん。皆さんを安全に逃がしてなのです」
 呼ばれた魔法猫はみゃ、と短く頷き、魂人を護送する結界構築に早速取り掛かった。
 望の背を向けた村の方角から、怒りと焦りのない交ぜになった声が響く。
「ないない、逃げないとかないよ! 目に見えて異変起こってるぢゃん。怒ってないけど、怒るよ??」
 見れば、避難を渋る魂人にノネ・ェメが手を焼いていた。
「天災でも疫病でもそーぢゃん、大事なのゎ此処でなく皆の命ぢゃん。仕切り直しも振り返りも、生き抜いた先でしか出来ないぢゃん!」
 叫ぶ、らしからぬ声。戦いや荒事を好まぬ少女も堪らず声を荒げ、そのたびに纏う音のレイヤーがざり、と乱れた。
「言われなくても危ないのはわかってる。だけど此処を出てどこへ行けばいい? 暮らしていける土地なんざ……」
「そんな心配も!!」
 だん、と地団駄に泥が散る。映像が乱れ、青白い電子の層しか見えなくなったノネの、目頭のつまった声だけが耳朶を震わせる。
「生きてなきゃ……明日どうしよって悩む事もできない、ぢゃん」
 こぽこぽと畑から湧く酸のあぶく。作物は根元から溶け、萎れた茎は横たわる間もなく沈む。もう此処で暮らせない事は誰の目にも明白だ。この村はたった今、死んだのだ。

 とうとう根負けして、魂人たちも歩き出す。だが、何処へ?
 目指す方角も判らぬ迷い人の足取りを、場違いに明るい声がはたと止めた。
「え~、それでは避難訓練を始めたいと思いま~す! 出来るだけ最低限の負担で乗り切りたいと思いますので、いっしょにがんばりましょ~!」
 瞬間。世界を塗り替える神の力が、再びこの大地に作用した。

   ◇    ◇    ◇

 歪な神の力は、現実と何一つ変わらぬ光景を再現した。
 酸の沼の刺激臭も、這いよる万の蛇のもたらす痛覚もそのままに、唯一現実と違えたのは蛇王の存在。
 ロニの神力を以てしても本物は手に余る故に、少年神は彼奴を贋物と入れ替えた。木偶の某とまでは行かないが、現実の蛇王と比べれば脅威の度合は計るべくもない。
「これは死んでも死なない予行演習! なかなかキツい相手だけど、ボクたちもがんばるよ! 信じて!」
 ロニの言葉に、居合わせた猟兵は意図を察した。最適な避難経路を探るなら、今だ。彼の全能の力も連発はできまい――チャンスは恐らくただ一度きり。
「こっちなのです。ねこさん達に続いて脱出してください」
 望の指揮の元、魔法猫たちが結界のバリケードを築き、酸を阻みながら前進する。その中に身を滑らせた魂人は、沼に飲まれる恐怖に唾を飲みながらも猫の足跡を辿って沼地を渡る。
 殺到する蛇に結界が破れ、一人がなぎ倒される。ダメ、と叫びながら力を行使しようとした魂人を、ロニが呼び止めた。
「あの人なら無事だよ。まだ永劫回帰は使わないでおこうね……思い出がもったいない!」
 見れば傷は浅く、辛うじて致命傷は免れている。いずれなかった事になる傷とはいえ、死に至る傷でないなら魂人も無効化しようがない。

 やがて時空は巻き戻り、全ては痛みを伴う現実へ。此処からは一撃でも貰えば落命しかねぬ、決死の舞台だ。
 闇の種族の貌はいやに目映く、常闇の世界らしからぬ光に満ちている。そして同じ輝きが胸元に満ち、触手のように蠢く無数の蛇が地上へと鎌首を下ろし、行く手を塞いだ。
 鬱蒼と茂る蛇鞭の森。無防備なままあすこへ踏み入れば、首も胴もちりぢりに裂かれるのが落ちだろう。
 感情の起伏も見えぬ蛇王の面へ、ノネは螺旋状に音を手繰り、ささやかながらも要求を飛ばした。
「お願い! 魂人さんを助けさせて!!」
 矮小なものに興味がないのか、はたまた助けるという概念が辞書に無いのか。闇の者はただ興を削がれたように矛先を変え、村の家々を地ならしし始めた。
「あちらの家は避難してもらったのです。念には念を……わたしは一人も欠けない事を望むのです」
 望が呼び寄せる、より力ある精鋭の猫は、蛇の群れに幻夢の帳を纏わせた。
 互いが互いを敵と誤認し、食い合う蛇の頭。歪なウロボロスの環を編む横を抜け、魂人たちは恐怖に震えながらも逃れる。

 幻覚の途切れた頃には、はじめの何人かが村を抜けた。蛇鞭に薙がれて死にかけた魂人も、ロニが頑健となった身を呈して庇い、一命をとりとめた。
 村の入り口の向こう、実りもない地獄の大地が続く。
「あなた達は永遠に幸せにならないといけないのです。こんな悪意にも、永劫回帰の宿命にも、幸せを踏み躙られないでください」
 楽園は焉わり、彷徨の旅へ。当て所ない不安が募り、足を竦ませる、が。
「……仕切り直しも振り返りも、生き抜いた先でしか出来ない――か」
 脳裏に木霊する少女の声に背中を押され、彼らは遠くへと駆け出していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ソルドイラ・アイルー
マグダレナ嬢(f21320)と

あんぎゃあ! 吾輩が立て直した家が酸に飲み込まれっああ~~!!? いやあ、もう住めませんね流石に。大変残念ですが住処は諦めて避難しますよ皆さん方~!
どんなカタチでも生き残れば勝ち、だが四肢が拭きとんじゃあ先が不便。そんなことが無きよう、我が身を崩して道を示しましょう

街を築くよりは陸路の補強ですよ人形たち。魂人に蛇が絡みつこうものなら身を粉にしてハジケなさい
しかし数で押す側は数で押されるとは! 吾輩自身への攻撃は武器受けで対処を。魂人に毒牙が向かうものなら捨て身で庇います
毒は土中で分解できる代物でありましょうか? 土盾の意地の見せ所でありますね。砂かけしてやりますよ


マグダレナ・クールー
ソルドイラ君(f19468)と

その不謹慎は励ましのつもりなのですか?! ……逃げますよ皆さん。全員で、誰一人残す事なく皆で、村の入口に向かうのです。走って! わたくしは闇の種族に、抵抗を
腹に太陽といえそうなものを埋め込んでいるだなんて、靦然ですね……恐れてなんかいませんよ。貴方なんて怖くない
リィー、あの腹が光った時は特に気張ってください。わたくしも慌てずに、合わせてなぎ払います。ですが締め付けに耐えきれなくなったら引っ込んでください!

わたくしは、魂人の永劫回帰を利用するかもしれません……それで、生存率が上がるなら。皆で生き残れるなら
魂人の幸福を否定してでも、わたくしは魂人を奪われたくないのです



 木片が舞う。家々が最後の悲鳴をあげ、触手状の腕の先で紙切れの如く事切れる。
 ここで生きたい。辛うじて恵まれたこの土地で、第二の生こそ幸せに。すべての望みは完膚なきまでに砕かれ、酸の沼に沈みゆく。
「あんぎゃあ! 吾輩が立て直した家が酸に飲み込まれ……っああ~~!!?」
 修繕を手伝った家のあまりな末路に、ソルドイラ・アイルーは堪らず土塊の頭を掻き毟る。だが科学者たる彼は頭の回転も速ければ、状況に順応するのも早かった。
「いやあ、もう住めませんねえ流石に。大変残念ですが住処は諦めて避難しますよ、皆さん方~!」
「……まったく、貴方は。声に残念さが足りないのですよ」
 やや呆れた響きで返る、マグダレナ・クールーの声。見れば村人たちは膝をつき、茫然と自らの家や畑が形を失うのを眺めていた。
「いえいえ、まだ逆転の目はありますとも! どんなカタチでも生き残れば勝ち、ですが四肢が吹き飛んじゃあ先が不便。万一にもそんなことが無いよう、我が身を崩して道を示しましょう」
「その不謹慎さは励ましのつもりなのですか!? ……とにかく、逃げますよ皆さん」
 龍人型の土人形を生み出し始めたソルドイラに橋梁の確保を任せ、マグダレナは跪いたままの村人の背中に手を当てる。
「……駄目だ。俺達はここを捨てては生きていけん。こんな恵まれた土地が他にないことぐらい、お前さん方も解ってるだろう」
 諦念に首を振る魂人の意思を、しかしマグダレナはよしとはしない。
「走って! 全員で、誰一人残す事なく皆で村の入り口に向かうのです!」
 喝を入れる、叱咤の声。先ほどまで温厚だった女性の言葉と思えず、村人たちは目を見開く。
「……ソルドイラ君の言葉は些か無神経ですが、間違ってはいないのです。ここで何としても生き残らねば、逆転の活路は開けないのですから」
 オウガとの共存を経て狂気をねじ伏せた聖女の目は、呼びかけながらも進むべき方を見据えていた。
 険しくも活力にあふれた目。この人物は他人事として言っているのではない。
 彼女もまた、何かと戦っているのだと――そう信じられたからこそ、魂人は腰を上げ彼女の言葉に従った。

   ◇    ◇    ◇

 村人たちがマグダレナに連れられ退避を始めた時、土人形の数は優に八十を超えていた。闇の種族に比べ力は心許なくとも、土でできた体は此方に大きく味方した。
「街を築くよりは陸路の補強ですよ、人形たち。こちらに蛇が絡みつこうものなら、身を粉にしてハジケてやりなさい!」
 群がる蛇に土塊は弾け、酸を阻む防波堤として横たわった。幾度来ても土人形の誰かが盾となり、塹壕のように築かれた間隙を縫って人々は退避する。
 人々を逃すマグダレナへ、狙い撃つように蛇の群れが殺到した。噛み裂き、締め付け、暴れのたうつ蛇に、聖女の内側で虚ろな声が響く。
『ウネウネ、ナニスル! オイシクナイナラヘンピンオハヤメニ!』
 締め付けの強度はそのままに、跳ね返すオウガの呪い。蛇王の動きが明らかに鈍り、代わりに胸元の光球が輝きを増すのが見えた。
「腹に太陽もどきを埋め込んでいるだなんて、靦然ですね……恐れてなんかいませんよ。貴方なんて怖くない。リィー、あの腹が光っている間は特に気張ってください」
 動きを増し、激しく打ち据える蛇の鞭打は流石に堪えた。ハルバードで薙げども薙げども終わりは見えず、村人たちを匿い切れるものではない。
 魂人を庇った土塊がびしゃりと弾け散り、続いて襲い来る触手に魂人の透いた体が貫かれた。遠く彼方に叫ぶ声がこだまし、緋き刻印が輝いた後には死を『なかった事』にされた魂人が恐怖の表情で立っていた。
(「それでいい……それでもいい。貴方たちの幸福を否定してでも、わたくしは貴方たちの命を奪われたくないのです」)
 永劫回帰の責め苦も受け入れよう。命より代えがたいものなどそうはない。
 たとえ彼らにとって幸福が、如何に得難いものであろうとも――思い出など、流れ着いた先でまた新たに紡げばいいのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カーバンクル・スカルン
さあ、全力逃亡と参りましょうか。

混乱する魂人達に向けてあちこちに隠していた車輪に巻き付いた鎖が放たれ、捕縛・車輪に拘束。そしてそのまま自走させて唯一の逃げ道に突撃ー! その途中に蛇が待ち受けていても構わず轢き飛ばせ!

もし反撃の一撃を食らおうと、この車輪は受けた瞬間にあらゆる傷を治す特別仕様。叫びはすれど【永劫回帰】は使わせねぇぜ!

激痛によるアフターケアは……生きてさえいれば時間が解決してくれると思うよ? うん。


肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK

夢の終わりね
この世界はいつだって、唐突に理不尽を叩きつけてくる
本当に、最低だわ

シャリオに乗せれる数人乗せて、機を見て走らせる
全員救うなんて私にはできないし、他の猟兵の手段に期待するよ
私の事を想うなら、どうか回帰を施すのだけは止めてほしいのだけれど……

しかし蛇か……寒さにも熱にも弱いって聞いてたのに、煩わしい光に集まっているね
焼却と範囲攻撃で、本体よりも召喚された個体を、魂人を狙うやつから順に払って道を拓かないと

逃がせるだけ逃がしたら、後退しながら飛んでくる蛇は焼いて、さっさと逃げよう



 豊かだった村は瞬く間に様相を変え、先ほどまで華やかな式の準備が執り行われていたとは信じ難い。
 黒土は酸に飲まれ、堪え難き悪臭が立ち込めるが、その事に嘆く者は多くない。
 当然だ。魂人の目は殆どが、地響きもなく迫る闇の種族の威容に注がれている。戦の経験がなくともあれに触れた者の末路は思い描けよう、嘆きより先に戦慄が来て然るべきなのだ。
「夢の終わりね……この世界はいつだって、唐突に理不尽を叩きつけてくる」
 自身の言う理不尽を、肆陸・ミサキも経験したのだろう。村はずれでは式を祝う筈だった鐘が沼に落ち、ぶくぶくとあぶくを吐きながら煙を立てていた。
「……本当に、最低だわ」
 下層でも見た光景の、さらに凄惨極まる再演。どこまでも続く死の螺旋、世界に創造者がいるならば悪趣味に過ぎる。
 振り向けば、震える魂人の家族の縋るような視線。逃走の意志は恐らくあるが、彼らに酸の沼を渡る手段はない。ならばとミサキは自らの影に鍵を突き立て、黒い影を纏う重二輪車を呼び出した。
「まずは貴方たちから機を見て先に逃げて。このシャリオに乗れば、蛇の目を欺いて駆ける事もできる筈よ」
 掴まれる限りの魂人を乗せ、影の内に匿う。大人で二名、子らも含めれば三名程度が限度だろうが、家族を安全に逃がせるなら使わない手はない。
「全員救うなんて私にはできない。だから……後はお願いできるかしら」
「わかったわ。悩んでる時間はなさそうだもの。全力逃亡と参りましょうか」
 要請を請けたカーバンクル・スカルンがパチンと指を鳴らせば、村の随所に隠していた車輪が魂人たちを捕らえた。鎖で四肢を雁字搦めにされた彼らに自由はなく、恐怖の叫びだけが耳元に届く。
「もう手段を選んじゃいられなさそうだ。このまま唯一の逃げ道に突撃ー!」
 自走し始めた鉄車輪は、村人たちの意思も無視して沼地を駆けていく。焼け付く酸の痛みに悲鳴が上がるが、車輪の真価はそこからだ。
「この車輪は本来、拷問器具。受けた瞬間にあらゆる傷を治す特別仕様……永劫回帰は使わせねぇぜ!」
 酸で焼けた箇所から治癒力が引き出され、激痛と引き換えに強引に治していく。有り余る再生の力はケロイドも残さない代わり、彼らの顔は苦痛に歪んだ。
(「激痛のアフターケアは……生きてさえいれば、時間が解決してくれると思うよ? うん」)
 常時ならば倫理も問えようが、今魂人の全員を救うには手が足りぬ。若干良心の呵責も感じはしたが、命に代わりはない。
 譬え彼らに憎まれても、生きて貰う事の対価ならお釣りがくるだろう。

   ◇    ◇    ◇

 酸の沼を抜け、眼前に居並ぶは翼持つ蛇の軍勢。如何に車輪が魂人を生かし続けるとて、黙って見ていれば彼らの魂は痛みの記憶に擦り切れてしまう。
「……させない」
 故にミサキは全てを焼く灼熱の球を掲げ、魂人に迫る蛇へと翳した。
 軌跡を残して移動した白き光球から放たれる、夥しい熱線。車輪やシャリオを焼かないよう手前で爆ぜた光は、代償に敵ばかりかミサキの身をも灼く。
「っ……」
 猟兵として戦い慣れた今でも、肌の焼ける痛みは新鮮だ。傷だらけの皮膚を焼く疼痛の鮮烈さに、まだ己がヒトである事を自覚する。
 眩い熱線のすぐ向こう、蛇が大口を開けた。こちらの手を咬み裂かんとする顎を、己が身も顧みず、動かなくなるまで焼き焦がす。
 視界を分かち合った二輪車からは、遠く彼方に毒々しい花園の景色が見えた。抜けたのだ、この死地を。
 村人全員が逃げ遂せるまで、後どれ程か。己が体力が保つのは、後どれ程か。
(「僕だけでいい。全部、僕だけで終わらせると……そう、誓った」)
 意識の飛びかけるのを頬を張って保ち、眼を見開く。やがてじりじりと後退しながらもミサキは、時間の許す限り退路を保つため戦い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
此処で終えたら、夢で終わる
往く先でなら叶えられるんだ
まぼろしでなく、ほんとうに

どうか今は駆けてほしい
僕たちが必ず、あかりを灯すから

《救助活動》で導き
逃がし逃げる事を優先して
確と《全力魔法+高速詠唱》
ハッピーエンドに近付きたい

燈籠で小夜啼鳥を喚び
五線譜で王を拘束し行動妨害
攻撃を遮ると共に、気を引き
魂人や仲間の逃亡の隙を作る

癒し手が足りなければ治癒
共に不要時は蛇薙ぐ事に専念
《範囲攻撃》で蛇を散らし
安全な経路を作り出すように

敵の攻撃は、極力見切り回避
不可・《かばう》必要があれば
《オーラ防御》で弾き、凌ぐ

過不足のないよう、見極め
一時だって気を緩めない
撤退の機は仲間に合わせ
誰かを残す事なく、駆ける


ルパート・ブラックスミス
【先制攻撃】、敵の『偽りの太陽』目掛けて爆槍フェニックスを【怪力】込めて【投擲】し【挑発】
僅かにでも【部位破壊】になれば己のUCを阻む此方を認識する筈だ

来い、巨人。黒騎士が相手をしてやる
容易く叩きのめせると思うなよ

【錬成カミヤドリ】展開
120超の複製鎧を念力で【空中浮遊】、敵の意識が足元に向かないよう上空から【空中戦】を仕掛けよう
複製鎧はこの場限りのもの、全滅しようが痛手にもならん
半壊しようが動く【継戦能力】を活かし【時間稼ぎ】に徹する

複製鎧が壊滅した段階で撤収
逃げ遅れた魂人いれば【救助活動】
青く燃える鉛の翼による【空中機動】で拾い、敵攻撃から【かばう】ように抱え逃走を図る


シャルロット・クリスティア
雌伏の時には慣れてるつもりでしたが、勝てない戦いとは、こうも歯がゆいものか……!
他者の身を守る術は心許ない。なら私にできることは、護衛よりも牽制、足止めの側。
そちらに注力します。

地に足をつけての戦いはできない。
朧影で疑似的な空中戦を演じます。
ナイフを投げ、瞬間移動し、地に落ちる前にまた投げて移動を繰り返す。
離脱もこれを使えばある程度はやりやすいと思いますが……。

無理に懐に飛び込む必要はない。
憎悪を理性で押さえつけ、蛇の頭を一つ一つ、着実にガンブレードで切り落とす。
特に、村人を狙うような蛇は優先して叩き落さねば。

既に死んでる身です。致命打の一つや二つ貰っても戻せる。
永劫回帰など無くとも……!



 花瓶に生けられたばかりの花が、椿のようにぽとりと首から落ちた。
 何が起きているのか判らず狼狽える花嫁の肩を、男が抱き寄せ辺りを窺っている。
「……来てしまった、ようだね」
 出来るならば邪魔される事なく、思いを遂げさせてやりたかった。ライラック・エアルオウルズの声にはそんな落胆が入り混じる。
「何が起きているんだ……俺達はどうなる?」
 式に参じていた新郎新婦の友らしき男が問えば、首を振るライラックに代わり、シャルロット・クリスティアが端的に説明する。
「逃げましょう。この村は……まもなく、終わります」
 訳を聞く前に促され、扉を潜って見えたのは、この世の終わりとも思える眺めだった。

 花を手に参列していた騎士は、今は槍を手に戦っていた。
 こちらへと迫る、聳えるまでの巨躯。蛇王が動きを見せるよりも早く、黒騎士は槍を掲げ、敵へと投げ打った。
 蒼焔の翼が広がり、蛇王の胸の光球へと吸い込まれていく。命中したかは判らぬが、槍が舞い戻ると同時に敵の躰がこちらへ向くのを感じた。
「……来い、巨人」
 敵の注意を一手に惹くべく、ルパート・ブラックスミスは厳かに宣告する。
「黒騎士が相手をしてやる。容易く叩きのめせると思うなよ」
 無数の複製体、ヤドリガミの持つ神力で急造されたルパート自身が、念力で網目のように拡がり飛翔する。
 空へ、空へと鎧の舞い上がるにつれ、蛇王の顎は次第に上を向く。地上へ意識を向けさせまいとするルパートの意思は、他の猟兵にも伝わった。
「私も、行きます。誰かを守るよりは牽制の方が得意ですので……あなた達はどうか、無事逃げ果たして」
 何か光るものを投げ上げたかと思えば、シャルロットの姿は既に地上に無い。遥か上方、人体の跳躍では叶わぬ位置で、長い彼女の金髪が翻っていた。
「此処で終えたら、夢で終わる。往く先でなら叶えられるんだ。まぼろしでなく、ほんとうに」
 避難済みの者たちの足跡や轍を確かめ、作家の男は新郎新婦と友人の手を引く。
「どうか今は駆けてほしい。この道が何処に続くにしても……僕たちが必ず、あかりを灯すから」
 恐々と、ではあったが。彼らの頷きが返るのを確かめ、まばらな足音は酸の沼の先へと向かっていった。

   ◇    ◇    ◇

 沸き立つ酸。沈みゆく家々の崩壊の音。鬱屈した気分にさせるそれらの音に負けじと、ピィチュン、ピィチュン――小夜啼鳥が高らかに希望を謳う。
 心に住まう愛しき人の、現し身とも呼べる小さな鳥。後にたなびく五線譜は蛇王の足元に巻き付き、進路を僅かに妨げた。
 譜はすぐにぶちぶちと引き千切られるが、蛇鞭の一撃を飛来したルパートの鎧が身を呈して防ぐ。がらりと上半身から崩れる、騎士の鎧。新婦の喉から悲鳴が上がるが、壊れた筈の鎧は尚も立ち上がり、続け様にくる触手に貫かれたまま動きを封じ込めた。
 決死の抵抗あって、魂人に被害及ぶ事だけは防いでいる。だが、それだけだ。根本的解決、この闇の者を討ち果たす事のできぬもどかしさに、シャルロットは奥歯を噛みしめる。
(「雌伏の時には慣れているつもりでしたが、勝てない戦いとはこうも歯がゆいものか……!」)
 敵に貫かれる前、ナイフを投げ転身し、次なる蛇の頭へと飛翔する。使い込まれたガンブレードに呪詛を携え、刃触れる瞬間にインパクトを放つ――が。
(「……浅い!」)
 蛇頭を斬り落とすつもりで放った刃は半ばで止まり、続いて襲う横殴りの衝撃。翼持つ蛇に突撃されたのだと知り、すぐに迂回路を取りながらガンブレードの回収に向かう。
 地上ではライラックが灯籠片手に魂人を導き、迫る脅威には魔導書を開いて応戦する。
「まだ式も半ば……どうかお静かに」
 星空を思わす魔導書から彼の友人が飛び出し、蛇の矛先を逸らした。
 片時も安堵の息をつく暇は与えられない。頭上でガチン、ガランと鎧が弾かれ、死の足音は耳元まで迫っている。
 沼地の向こう、逃げた筈の村人の数名が待つのが見えた。新郎新婦の二人を置いて逃げるのは気が引けたのだろう、危険も顧みず戻ってきたのだ。
 あと少し、あと少しで新婦たちを彼らの元へ送り届けられる。足早に向かおうとしたライラックはそこで、頭上の物音が途絶えたのに気付く。
 ルパートの呼び寄せた百二十余の鎧が、全て消えていた。皆、護るために戦い費えてしまったのだ。誰が悪いわけでもない。策が悪かった訳でもない。一人の犠牲もなく渡り切るには、相手が悪すぎただけの事。
「……いけない、早く!」
 叫び声に新郎が駆け、新婦の手を強く引いた。彼は其処で、いやに彼女の重みが軽いと気付き、振り返った。
 見てはならぬ。見てはならぬのだ。愛しき人の姿が其処にあると信じるならば、尚のこと振り返ってはならなかった。

 息の詰まる思いで見つめるライラックの、新郎の男の視線の先。血飛沫と共に弾け飛んだ筈の彼女の姿は、確かにあった。
 胸を押さえ、二人の親しき友人が頽れた。沼に倒れ伏す前にルパートが抱きかかえ、燃え盛る鉛の翼で遠くへ運び去る。
「……大丈夫か。意識を強く保て」
 揺するように空中で呼びかければ、男は弱々しく目を見開きこう述べた。
「母親の……思い出なんざ、くれてやる。あんたらばかりにいい恰好、させたくなくてな」
「……そうか。よく、やった」
 優しき母の面影を改竄されて尚、笑う男の目蓋を無骨な指先でそっと閉ざす。
 まだ、戦いは終わらない。眠りから覚めた彼の前に全員が揃っていられるか――全ては自分たちの双肩に懸かっているのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鎖木・茜
【鎖】
目の前に現れたおぞましい姿
向けられる殺気に息を呑んで
戦わなければ
倒さなければ
でも動けない

掛けられる声に顔を上げれば
翼ある蛇が目前まで迫り来て
もうダメだと思った瞬間蘇り

魂人が永劫回帰で助けてくれた
その事実に恐怖を強引に押込め歌唱を
笑ってくれた魂人の顔が涙でくしゃくしゃに
楽しかった村での舞台が心的外傷になったのならば
わたくしの舞台と演技で新しい思い出を作って差し上げますわ!

指定UC顕現
世界を石畳と高い建物の
蒸気煙るアルダワの街へ
ここは崩壊した村ではなく
わたくしが初めて見た舞台の世界
蛇王は醜悪な大道具
そこから動かないことですわ!
地形の利用で村人達と共に深い蒸気と建物に身を隠し
出口へ向かいますわ


館野・敬輔
【鎖】
【SPD】
アドリブ大歓迎

吹き付ける殺気に即応し指定UC発動
新郎新婦(他の魂人でも可)に迫る蛇を「衝撃波」で「吹き飛ばし」黒剣の「2回攻撃」で切り払って追い払いつつ
ふたりを「怪力」で持ち上げ逃げようとするが
動けぬ茜に気づいてしまう

「そこの赤髪の女の子、危ない!」と叫ぶもカバーは間に合わず
永劫回帰で蘇る場を目撃

一瞬歯噛みするが
世界が塗り替えられ蛇王がスタチュー化するのに目を見開く
今がチャンスだ!
ふたりを離さぬようしっかり抱え込み
「ダッシュ」+UC効果の高速移動で一気に足元を駆け抜け
このまま村の入り口まで走り抜けるぞ!

※茜とは本シナリオが初対面
(存在は知っていたが新しい身体を得た事は知らない)



 吹き付ける風に木片が混じり、館野・敬輔は咄嗟に目を瞑った。
 目を開いた時、彼の姿は揺れる黒の陽炎にまかれ、そこだけを見れば夜の訪れと判らぬ程に姿は塗り潰されていた。
 纏うのは彼の剣が食らった命、昏き魂の波長に引きずられそうなのを堪え、続け様に刃を振るう。飛ばした斬撃波の向こう側では蛇の頭と胴が泣き別れし、あと一歩で噛み裂く予定だった魂人の前で崩れ落ちた。
「……間に合った、か」
 彼らを担ぎ上げて避難させようと走ったところで、目に入る光景。
 膝をつき、酸に焼かれながらも動けぬ茜色の髪の少女。血の気の失せた頬に影を落とし、鎌首をもたげた翼ある蛇が予備動作に入っていた。
 醜悪な闇の者、居るだけで世界を喰らう悪しき性。蛇が獲物をいたぶるのに刃は不要。舌のちらつくあの頭で、咬み裂き、巻き付き、抱き締めるだけでよい。
「あ……、あ……」
「そこの女の子、危ない!」
 ばくん、と喉の食い破られる音。ただ一撃で致命打に足りる咬み傷は、鎖木・茜の華奢な首を確かにへし折った筈だった。
 熱く灼くような痛みの代わり、聞こえたのは木霊する叫び。現実を塗り替える力が働き、茜は蘇らされたのだ。
「くっ……大丈夫か!?」
 刃で蛇を退けた敬輔の向かう先は赤髪の彼女でなく、胸を押さえて倒れた魂人の女性の方へ。事態の飲み込めた茜も震える膝を黙らせ、彼女の元へ歩み寄る。
「……貴女が、助けてくれたんですの?」
「いいから、にげて」
 目に涙を溜める女性の中では、何か大事なものが欠けたのだろう。それでも突き放すように気丈に微笑み、こう告げる。
「これが私たちの運命なら、あなたたちを巻き込めないもの」
「っ……」
 罪深き刃だと、茜は思った。幸と呼べるものを知らない彼女たちにあてがうには、永劫回帰の力はあまりに皮肉が過ぎる。
 だから、女性に負けじと茜は笑った。喉の奥、恐怖の震えがひくついたが、唾ごと飲み込み押し黙らせた。
「わたくしたち、生憎運命とは仲が悪いの」
 喋る茜の背を追い越し、蛇の影がちらついて見えた。
「新しい思い出を作って差し上げますわ。わたくしの舞台と演技で、いくらでも!」
 襲い掛かる蛇の挙動を飲み込む何かが弾け、辺り一面を灰に塗り替えた。

   ◇    ◇    ◇

 酸でぐずぐずに爛れていた足元に、今は石畳が広がっている。
 蒸気噴き上げる街並み、ダークセイヴァーの昏き空を塗り替えるには至らないが、この街は多くの猟兵に見覚えがあった。
 街にそぐわぬ物体、たとえば聳える蛇王の巨躯がそうだ、そういったものは軒並み石像と化す魔力が働いた。蛇は動きを止め、蛇王本体はさすがに抵抗したが、それでも多少動きは鈍っている。
「これは……驚いたな。アルダワの石畳か?」
 突如発現した新たな力に、敬輔が目を見開いた。だがすぐに己が役割を思い出し、魂人ふたりを担ぎ上げる。
「とにかく、今がチャンスだ。走るぞ!」
 名も知らぬ赤髪の少女に呼びかけ走り出せば、恐らくは猟兵であろう彼女も従った。
(「ここはわたくしが初めて見た、舞台の世界。醜悪な蛇王は似合いませんの」)
 深い蒸気に身を隠し、蛇王の追撃を辛うじて躱す。魔法は次第に解け、幻想の街が崩れ行く。
「まだまだ……そこから動かないことですわ!」
 魔法をかけ直すように念じたが、それより敬輔が暗黒の刃を飛ばして蛇王の体を押しやるのが先だった。ざりざりと削れる斬撃波の音、あれしきでは闇の種族には足りぬだろうが、一秒押し留めただけで上出来だ。
 崩れる石畳の上を二人分の足音が慌ただしく駆け、やがて全ては元の沼地へと沈んでいく。
「このまま村の入り口まで走り抜けるぞ!」
 村人全員が逃れるまで、あとわずか。彼らの脱出劇は蛇王の目を惹き、結果的に最後に残る者を後押しする事となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

疾風・テディ
✿アドリブ・連携歓迎。

(怖い……でも私がここで立ち止まっていられない!1人でも多くの魂人さんを救わなきゃ!)

だいふく!負担をかけてごめんね、力を貸して!
UCで主に空を飛ぶ蛇たちの迎撃と妨害をするよ。地上で逃げる皆のところに向かえないようにサポートする。

まず、周りが暗くなってきてるなら“闇に紛れる”。サイズも小さいから敵の目を潜って、できたらだいふくと一緒に飛んでる蛇の背後から全力で突風攻撃。
攻撃が当たらないとしても、周りに地上で逃げる人達とは反対方向への気流を起こして蛇たちを遠ざけるよ。

できる限りの数を遠ざけたら無理せず撤退。
なるべく助けになれるといいけど……。


エリシャ・パルティエル
彼らの楽園は崩壊する…
でもじっとしてたら命を落とすだけ
全員をここから逃がさなきゃ

敵への対処は仲間に任せて
あたしはショックで動けない魂人や
現実を受け入れられない魂人へと声をかけるわ

ここにはもういられないの
辛い気持ちも信じたくない気持ちもよくわかるわ
けれどこのままここにいても
あなたたちの楽しい記憶が奪われていくだけ

不安な気持ちはわかるわ
これからのことも一緒に考えましょう

いつになるかわからないけど
またみんなで結婚式のお祝いをしましょう
そのためにはみんな無事にここから逃げるのよ

自分の身は自分で守れるように
周りの状況には十分に注意を払うわ

魂人たちが立ち上がってくれたのなら
仲間と協力して出口へと誘導するわ



 村は村だった頃の面影を留めず、沼底から瘴気の吐息をこぽこぽと吐いている。
 底に沈む、人々の生きた証。そこには暮らしが、営みがあったはずなのに、全ては覆われ素知らぬ顔で沼底に横たわっていた。
 事態を招いた闇の者が憎い。それ以上に、怖い……でも。
 ぶるりと怖気を身震いで跳ねのけ、疾風・テディは抗うべき惨状を強くにらんだ。
(「ここで立ち止まっていられない。一人でも多くの魂人さんを救わなきゃ!」)
 白い鳥精霊の羽毛に掴まり、逃げ遅れがいないか丹念に探していた時だった。テディのとがった耳に、はじめはか細く、けれど段々と悲哀を増して大きくなる泣き声が聞こえた。
「ぁああ……いやあああああ!!」
 泣き叫ぶ女性の隣には、背を撫でるエリシャ・パルティエルの姿。恐慌状態に陥った彼女を見捨てていけなかったのだろう。
 酸に触れる、女性の手。その僅か先には木と蔦で編まれた十字状の簡素な標。何が埋まっていたとしても、掘り起こし、掬いあげるには全てが遅かった。
 刻限だとエリシャも悟り、女性の肩に手を置き呼びかける。
「……お願い。聞いて。ここにはもういられないの」
 泣き叫ぶ彼女の泣き声に負けぬよう、強く、けれど優しく声を耳に被せる。
「辛い気持ちも信じたくない気持ちもよくわかるわ。けれどこのままここにいても……ううん、もういられないのよ」
「でも、……でも……!」
 いたたまれなくなったテディはエリシャと目を合わせ、強い視線で訴えかける。頷きが返るのを見、きらめく軌跡を残して即座に飛び立つ。
 小さなフェアリーに時間稼ぎを委ね、エリシャは女性の手を握る。こみ上げる言葉は矢継ぎ早で、自分が生来好む言葉よりも強い語調になるのを感じた。
「お願い、立って。もうここに居ちゃいけないの。このまま座ってたら、これからを思い悩むことも……」
 靴の先が酸に触れた。焦げるような悪臭が立ち込め、自身にも後がない事を悟る。
「……いなくなった人を悼む事も、できないのよ」
 最後の祈りを籠め、エリシャは女性の手に手を重ねた。

   ◇    ◇    ◇

 忙しなく視線を彷徨わせたテディの目に、少数の翼ある蛇の群れが映りこむ。
 狙う獲物を見失ったせいか、蛇の動きはこれまでより緩慢だ。だが少数でも退けなくてはならない――魂人たちの逃げる僅かな時間を稼ぐために。
(「だいふく、負担をかけてごめんね……」)
 沸き立つ酸の煙に身を隠し、蛇の群れの背後に回り込む。仕掛けるタイミングを見計らい、息を潜める。小が大を圧倒するには、周到さがいるのだ。
(「でもお願い、助けたいの。もう一度、力を貸して!」)
 頃合いよく吹かせた突風は、うねる乱気流となって蛇の背を押した。気流にもまれて絡まった蛇は、翼があるのに何処へもいけず、腹立ち紛れに互いを威嚇した。
 気流に乗って舞い戻る途中、十字架のように目映い金の光が弾けるのが見えた。光の色にすぐに先ほどの女性を連想し、テディを乗せただいふくは光の方角へと強く羽ばたく。
「お姉さん! こっち!」
 突風で酸を押し退け、辛うじて人が踏める道をかき分けた。最初にテディが、後に手を重ねた二人が駆けゆき、すぐに村のあった大地は酸の下に沈み込む。
「また……っ、こんなひどい私でも……っ、いつか、会えるかな……」
「ええ、会えるわ。だから走って」
 涙声で駆ける彼女は別れる間もなかったのだろう。だから、走る。
「いつになるかわからないけど、またみんなで弔いをしましょう。めでたい日にはお祝いも。だから……無事にここから逃げるのよ」
「逃げる……どこへ逃げればいいかなぁ……」
 留まって死を迎えてでも傍にいたい。だから、走る。人の想いと行動はかくもちぐはぐで、繋がらないものだと後にエリシャは回顧した。
 走る。走る。抱えきれない思い、すべての記憶を未整理のままに、涙を呑んで……走る。

 もう、魂人は村を目にする事はなかった。そのような猶予は残されていない。
 振り返る一片の余地も残されていない事だけが、生き残った魂人のせめてもの救いだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 冒険 『愚滅の花園』

POW   :    花を炎で燃やす、刈り取るなど、物理的に罠を排除して進む

SPD   :    空を飛ぶ、花の敵意を逸らすなど、知略を尽くして罠を回避し進む

WIZ   :    幻を打ち破る、毒を浄化するなど、魔法的な手段で罠を解除して進む

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 走る。走る。息の切れるまで。
 後ろも見ず走り続けたあなたたちの鼻腔を、かぐわしきを通り越し、
 噎せ返る程に濃い花の香りが満たす。

 見渡せば、辺りは一面の花園だ。
 毒々しいまでに咲き誇る花は荒れ地を割り、あり得ぬほどの生命力を見せる。
 死に満ちたこの上層の地で、これ程までに強く咲くもの。
 だが、決して看過できない理由があった。

 なぜならば。

 花に抱かれ眠る、嬰児と思しき華奢な髑髏。
 ひび割れた頭骨は明らかに普通ではない死因を物語る。
 頭蓋に直接根差す花の繁茂は、寄生植物か。
 或いは毒や幻覚にあてられ、命を保てなかったのかもしれぬ。

 これは死に咲く花だ。あってはならぬものだ。
 オブリビオンの罠か、いっそ花自体がオブリビオンやもしれぬ。

   ◇    ◇    ◇

 得体の知れぬ花園に、魂人が身を寄せ合うのが見えた。
 懸命の救助の甲斐あって、彼らは奇跡的に全員が揃っている。

 越えるべき関門の一つは、この花園だ。
 香気や花粉を吸い込まぬよう防護策をとるのもよい。
 吉と出るか凶と出るかは判らぬが、いっそ焼き払うのも手だ。
 いずれにせよ、彼らだけでは越えられぬ地。手を貸してやるのがいいだろう。

 そして、最後の関門は彼らの『これから』だ。
 あなたたちが手を離した後も、彼らは生きていかねばならぬ。
 猟兵として留まる事は許されない。
 当面の危難は去った以上、手を離して見守るのが成すべき事だ。

 だから、私たち猟兵にできるのは。
 限られた時間で言の葉を伝え、彼らの魂と向き合う事ぐらいだ。

 近隣に村はない。人里はおろか、小屋の一つも見当たらない。
 恐らくはゼロから、危険な荒野で、彼らは集落を築かねばならぬ。
 途方もない気力がいるだろう。
 これまで以上の生きる理由、強き拠り所がいるだろう――それでも。

 Quo Vadis――譬え己が生が、如何に長き彷徨の旅路であろうとも。

 ――ヒトは、生きていかねばならぬのだ。
七那原・望
癒竜の大聖炎で魂人達の負傷を癒やし、周囲の花を浄化し、焼き払います。

こんな花は相応しくない。アネモネの方がいいです。赤は君を愛す。白は希望。青は固い誓い。紫はあなたを信じて待つ。今日という門出の日にはピッタリです。

とても過酷で果てしないですけど、それでもあなた達は闇の種族から解放されたのてす。
それは本当にめでたいことなのです。

もう一度言います。
あなた達は永遠に幸せにならないといけないのです。その幸せは誰にも踏み躙られてはいけないのです。

いつかわたし達がこの世界を滅ぼし(かえ)ます。だからあなた達はその日を信じて、幸せになってください。

改めて、ご結婚おめでとうなのです。
どうかいつまでもお幸せに。


ノネ・ェメ
 よかった、全員が無事だったみたい。よかったぁ……!(歓喜)
 あのね。結婚式をはじめ、住むところの仕切り直しをするとなると、またちょっといろいろと一からやってかなきゃいけないかもしれないけど、けどね、こーして生きてれば。それだけで何でも、何度でも、また始めれると思うのね、まその、わたし達の力でもって支え続けてあげる事ゎ難しーかもしれなぃけど、けどね、また会えるから、こーして生きてれば。ね、だからね、とりま生きてこ? 離れてたとしても、お互いに、一緒に……今後もステキな思い出が変わってしまう時があるかもわかんないけど、わたしの中の、あなた達との思い出ゎステキなままでいるし、忘れないし……
 ね。。



 傷持てる彼らを、どこまでも紅く燃ゆる花園が出迎える。
 ゆれて、咲う。命を嗤う。矮小なお前達は運命に遊ばれ、流離う事しかできぬのだと。
 不愉快な色だと、七那原・望は思った。だから焼く事にした。最愛のヒトから譲り受けた癒しの炎、竜の焔が地に零れて燃え広がる。
「こんな花は相応しくない。アネモネの方がいいです」
 自身の髪に咲く花を、彼がしてくれるように撫でる。地に満ちる炎は逃げようとする魂人を優しく包み、酸に焼け爛れた傷跡だけを焼いて苦痛を取り払う。
 消えた傷跡を不思議そうに見遣る彼らの中にも、オラトリオだった者がいた。魂人の花は白く染まっていたが、生前はきっと様々な色を持っていた事だろう。
「今日という門出の日には、ピッタリです」
 だから、望は微笑んだ。君を愛す。希望、固い誓い……あなたを信じて待つ。アネモネの持つ花言葉の、いずれも明るい響きを彼らの未来に思って。
「これからの旅路がどれだけ過酷で果てしなかろうと、闇の種族からは解放されたのです。それは本当に、めでたいことなのです」
 まだ心からそうは思えぬのだろう。彼らの顔は皆一様に俯き、燃え盛る花園の景色から目を伏せている。

 擦り切れた足で、よたつきながら魂人は歩く。数えた彼らの影法師に逃げ遅れがないのを確かめ、ノネ・ェメは安堵に息を吐き胸をなでおろす。
「どうなるかと思ったけど……皆、無事みたい。よかったぁ……!」
 生き延びた魂人の表情はまだ暗く、自分たちが生きている事実から目を伏せているようだ。無理もなかろう――この世界では生きるも死ぬも地獄、彼らの魂は終わりの安らぎもない永劫回帰の裡に囚われたままだ。
「あのね。結婚式をはじめ、住むところの仕切り直しをするとなると、またイチからいろいろやってかなきゃいけないかもしれないけど」
 俯く顔を覗き込み、ノネは呼びかけ続ける。言葉は届いているのだろうか。彼らの視線は移ろい、定まらず、ただ無目的に歩く事で現実から目を逸らし続けている。
 絶望とは、物理的なものだ。重く圧し掛かり、人に無気力を学ばせる。
「けど、ね? 生きてればそれだけで、何度でもまた始められると思うのね。わたし達の力でも支え続けるのゎ難しーかもしれないけど……」
 傍にいるのに声の届かぬ彼らに、どんな言葉なら届くのだろう。思いつく限りの言葉をひねり出し、ノネは思いを伝え続ける。
「……また、会えるから。こーして生きてれば」
 叶うかも判らぬ再会の約束。歩いていた男の一人がようやっと、こちらを見た。
「……どうしてだ」
 生気を失った彼の目には、村にいた時のような光はない。
「どうしてそんなに明るくいられる」
「それは……生きてればいい事があるって信じてるから。ステキな思い出が変わってしまう時もあるかもしれないけど……消えたわけぢゃ、ないから」
 男の目にハッとした揺らぎと迷いが一瞬見え、またすぐ元のように光を失った。
 今すぐに前を向くことは難しいだろう。だが、男は胸の奥の温かい記憶を自覚した。過ごした日々が譬え仮初の平穏で、改竄されたとしても――幸せがあった事実だけは、揺らがない。
「とりま、生きてこ? わたしも忘れないし、あなた達との思い出ゎステキなままでいるし……ね?」
 先を促され、歩む。まだ足取りは覚束なく、歩きを覚えた赤子よりも弱々しい。それでも、歩んで行かねばならぬのだ。

   ◇    ◇    ◇

 癒しの焔が消え、後には養分を含んだ黒土が熱を帯びて横たわる。
 死の華が消えた大地に、命が芽生えるかはわからない。ただ少なくとも、これで暫くは運ばれてくる毒の花粉も少なくなるだろう。
 結局ドレスを纏う事のなかった花嫁は、肩を支えられながら歩む。結ばれる事を夢見た時の喜びは消え、青ざめた頬を煤煙が醜く彩っている。
「もう一度言います。あなた達は永遠に幸せにならないといけないのです。その幸せは、誰にも踏み躙られてはいけないのです」
 幸せ――幻想のものでしかない響きに、堪え難いように花嫁は目を瞑る。
「……もう、いいの。踏み躙られたわ、とっくに」
 諦めた声音。これが自分たちの宿命だと受け入れたような声に、望は首を振り言葉を被せた。
「いいえ、よくないのです。だから、わたし達が……変えます」
 変えるとは、何か。言葉の意味を問う視線に、望は覆い隠された眼でまっすぐに見返した。
「いつかわたし達がこの世界を『滅ぼし』ます。だからあなた達はその日を信じて、幸せになってください」
 滅ぼすという言葉には別の響き。不条理を憎み、現実を塗り替えようとする眩しい意思。
 わからぬ。どうすれば彼女のように強くあれるか、煤に塗れた花嫁は己には真似できぬと思った。
 だから、託そうと思った。何もできぬ自分達の代わりに縋る思いで「お願い」と口にした筈の声は、嗚咽に塗れてまるで言葉にならなかった。
「あらためて、ご結婚おめでとうなのです――どうかいつまでも、お幸せに」
 咽び泣き、肩を支えられてやっと立てる花嫁の背を、望の小さな手が撫で続けていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カーバンクル・スカルン
引き続き魂人を車輪に繋いだまま爆走逃亡中!

はーい、どいたどいたー! 轢かれたくなきゃ黙って道を譲りなー!

無事危険ゾーンを突破できたら、車輪を解体して出来た材料で住居を作っていきましょう。

作業ついでに雑談もする。あれを見た後なら「真実」を信じる気になってくれてるだろ。

残念な話だけど、ここは楽園ではない。あなた達もよく知る吸血鬼より偉い奴の遊び場だよ。……あなた達は「偉い奴のおもちゃ」に選ばれて、ここに連れ込まれたのさ。

考えてみ。晴れの舞台をめちゃくちゃにして、最愛の母の記憶を改竄させて……最低な奴らの好きそうなことでしょう?

でも今回はあなた達の危機に間に合えた。あとは任せとき?



 毒を撒き、咲き誇る花園。
 その真ん中を縫うように、歪にひしゃげた車輪が駆け抜ける。
「はーい、どいたどいたー! 轢かれたくなきゃ黙って道を譲りなー!」
 轍を追う、カーバンクル・スカルンの声。スクラップビルダーたる彼女が転がしているのであれば、当然ただの車輪ではない。
 車軸に磔となった魂人の表情は青ざめたものを通り越し、恐怖に歪んでいた。闇の種族の与えた苦痛に魂は荒み、花の嵐を後に残しながら駆けていく。
 これだけ猛スピードで抜けては瘴気や毒の花粉を吸わずには済まないが、彼らを死に至らしめる事はない。危険は激痛と引き換えに取り除かれ、彼らは言葉通り『命だけは』無事でいた。

 一足先に危険地帯を抜けた魂人を下ろし、もう頃合いだと車輪を解体する。やっとの思いで解き放たれても、魂人がすぐに起き上がる事はない。
 傍らでカーバンクルは木材をばらし、建材に使えそうなものを吟味していた。お転婆娘たる彼女は傷や痛みにも慣れているのだろう、意識はすでに住居の建設へと向かっていた。
 村人たちが身を起こさぬのを見て、さすがに様子が気になり声をかける。
「おーい……大丈夫?」
「……ええ。おかげで体は、無事みたい」
 言葉に何か含みがあるのを気にしつつも、このまま座っていては仕方がないと引き続き彼らに呼びかける。
「まあ、無事でよかったよ。でも……残念ながらここは楽園ではない。あなた達もよく知る吸血鬼より、えらい奴の遊び場だよ」
 既に闇の者の顕現を見た後では頷くほかない、この世の真実。思い出した村人の肩は震え、嗚咽と、あまり見てはならぬものが地に満ちた。
「あなた達は『えらい奴のおもちゃ』に選ばれて、ここに連れ込まれたのさ。だってほら、考えてみ? 晴れの舞台をめちゃくちゃにして、最愛の人の記憶を改竄させて……最低な奴らの好きそうなことでしょ?」
 彼女の言葉は、絶望に打ちひしがれる彼らの魂に染み入った。どこまでいっても虐げられる宿命は、心の痛覚さえも麻痺させていく。
「でも、今回はあなた達の危機に間に合えた。あとは……任せとき?」
 そう言って差し伸べたカーバンクルの手は、魂人の一人に跳ね除けられた。
 何事か。助けた自分の手を拒む意図が分からず、緋色の髪の少女は目を瞬く。
「あんたが助けてくれたってのは本当なんだろう。感謝はしてる……いや、できれば感謝したい」
 言葉に滲む、遠回しな拒絶の意思。気付けば一同の眼差しは冷たく、自身に注がれていた。
 彼らの様子に、カーバンクルはやっと事の因果関係に気付く。
 闇の種族から逃れる際には、やむを得なかったとしても。その後彼らを運ぶにあたり、拷問器具を使う以外の手段はなかったのか、と。
 庇護されるだけの対象ではない。彼らは紛れもなく心を持った人間だとの、視野を欠いた事を自覚する。
「……感謝してるんだ、あんたらには。したいんだ、あんたにも。だから……せめて時間を、くれないか」
 拳を握りしめる彼の元を離れ、頭をぼりぼりと掻いた。如何に悪気はなかったとて、手段と言葉は選ぶべきだった、と。
(「この手段をとるならせめて、優しいアメ役は誰かに任せるべき、だったかな」)
 今の己にできるのは、彼らの眼差しを一手に引き受ける事ぐらいのものだ。言い訳もせずに仮住まいの建設に取り掛かる、スクラップビルダーの寂しげな背中が薄い光に照らされていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

あるこ~あるこ~♪どこまでも~♪
んもー
ごきげんなアトラクションが多すぎない?

●UC『神心』を使う…その前に
●[ミレニアムドラゴン号]による説得
『あのねえお坊ちゃん?いやクソガキ。おめえはこいつらのママか?ちげえだろうが!』
なるほど~
ボクもニュースポットで加減が分からずやりすぎたとこあるし~
いつもボクたちが助けられるわけじゃないんだからあの子たちにがんばってもらわないとね!

●ビッと方角を指し示し
じゃあ[ドラゴン号]くん!ボクの勘【第六感】によると少しはマシかなって立地のスポットがあるから移動ルートを偵察してきて!
嫌ならキミに全員乗せたっていいんだよ!定員オーバーだけど!

●UC『神心』使用
お聞きよこの世界のみんな!
彼らにはこの先大変な生活が待ってるんだ
と世界のみんなに説明して
そんな彼らが…ちょっとくらい楽したっていいと思わない?
と気付かれないようこっそり賛同者を募って住環境をほんの少しだけ改善してあげよう!
最期までめんどうみれないなら甘やかすなって怒られちゃったし!



 全知全能の神がおわすならば、世界を如何に作り給うたか。唯一の秩序に思えた死の静寂も、開けてみれば新たな苦しみへ連綿と続くのみ。
 断言しよう。この世界に仮にも神がいたならば――神の御心は確かに死んだのだ。

 空は陰鬱な黒に満たされ、明るきものの悉くと相性が悪い。故にロニ・グィーの無邪気な声が、いつもに増して浮くのも道理であった。
「あるこ~あるこ~♪ どこまでも~♪」
 下手をすれば耳に障る鼻唄にも、魂人は抗議のひとつ飛ばす余力もない。そればかりか彼らの一人が花の蔓に足をとられ、どさりと無抵抗に地へ転がった。
「んもー。ごきげんなアトラクションが多すぎない?」
 仲間の猟兵が助け起こすのを見て、少年神は辺りの花園を見遣る。風のようなロニの心は満ちる悪意になど構いやしないが、それでも花が、魂人の妨げとなるのだけは彼にも解った。
 三度、神力を発揮しようとしたロニの元に、上空から渋いバリトンの声が降る。
『あのねえお坊ちゃん? いや、聞けよクソガキ。おめえはこいつらのママか?』
 見れば竜をあしらった船首を宙に突き出し、大きな飛空艇が意思をもってこちらへ呼びかけている。
『ちげえだろが! いつまで面倒見る気だ……いつ、そいつらは自力で歩く気になる』
 毟っていた花を放り出し、ロニはポンと手を打つ。
「なるほど~。ボクもニュースポットで加減が分からずやりすぎたみたい~」
 救助が叶った今では、彼らの命は危険に晒される事はない。優先順でなら他の者が先だ。次に猟兵と見える時まで、あとは自力で生き抜いてもらわねばならぬのだ。
「いつもボクたちが助けられるわけじゃないんだから、あの子たちにがんばってもらわないとね!」
 言うが早いか、ロニの指先はビッとある方角を指し示す。
「じゃあドラゴン号くん! ボクの勘によると、あっちに少しはマシかなってスポットがあるからさ。移動ルートを偵察してきてよ!」
『ああン!? 何指図してんだこのガキは!』
「嫌ならキミに全員乗せたっていいんだよ! 定員オーバーだけど!」
 意思持つ飛空艇は反駁しようとして、あらためて魂人の一団を見る。数は多く、彼ら全員を乗せては速度は出ないだろう。猟兵たちが力の限りを尽くして救い出した命の数は、飛空艇に浅慮を思い留まらせるだけの説得力を持っていた。
『……努力に免じて見てきてやる。後で覚えとけよ』
 旅立った飛空艇の背を見送り、ロニは彼方の空へと呼びかける。ドラゴン号へ、ではない。この世界に住まう、虐げられし命へ宛てての声だった。
「お聞きよ、この世界のみんな! 彼らにはこの先、大変な生活が待ってるんだ」
 澄んだ邪気のない声は昏い空に響み、次第に消え入りながら大気を渡る。
「そんな彼らが……ちょっとくらい楽したっていいと思わない?」
 声に、こだまは返らない。命を嘲笑う悪しき魂、彼奴等を除くすべてが死滅したかのように、鳥の羽ばたき、虫の声……木々のざわめきさえも聞こえぬ寒々しき静寂が耳を冒す。
 まだだ。ロニは諦めを知らない。我を通し続ける少年神の本分は、道なき場所に道を敷く事にこそあった。
「皆も苦しいだろうけどさ、ほんのちょっと願ってくれるだけでいいんだ。ほら、最後までめんどうみれないなら甘やかすなって怒られちゃったし!」
 笑いながら呼びかけた瞬間、遠く彼方の地平が微かに光った。
 それだけだ。それだけでロニには十分と分かった。
 彼処まで歩きたどり着いたならば、魂人は世界のもたらしたほんの少しの優しさに出逢えるだろう。
 もう、ロニは何も言わぬ。調子外れの鼻唄と、意味の籠もらぬ戯言以外は。
 陽気に歌い続ける彼の耳元で、巨人の力を宿したピアスが風に揺れ、ちりりと音を立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
先程(第2章)拾い上げた新郎新婦の親友を抱えながら
UC【黒騎士が宣告する火刑】での【範囲攻撃】【地形破壊】
単純な【焼却】だけでなく、花そのものを鉛に変換することで花粉を撒き散らせず花園を塗り潰す

新郎新婦には特に気を割き【鼓舞】する
この二人だけには意地でも生きてもらう。


諦めるな、生き続けろ。

お前たちが生きているのは偶然ではない。
お前たちが生きようとした以上に、お前たちは生きろと願われた生命なのだ。
代償は既に払われた。その果てが、この花園に転がる髑髏でいいわけがない。

諦めるな、生き続けろ。喪ったものに価値を与えろ。
支払われた代償に報えるのは、お前たちの幸福だけなのだ。


シャルロット・クリスティア
あまり、この手の予防手段を集団レベルで行える手は持ってないんですが……知恵としてできることくらいは。
ひとまず、皆さんを風上に誘導しましょう。
燃やすにしろ、伐採するにしろ、散った花の花粉や魔力が風に乗ると厄介です。

……形はどうあれ、「死ねた」私には、貴方達と絶望を共有することはできない。
いや、する資格すらないのかもしれません。
生きていれば、きっといいことがあるなんて、無責任なことも言えるわけがない。

けど……一時のものだったとしても、あの婚姻のときに感じた幸福は、紛れもなく本物だったはずです。
その感情だけは……偽りと否定しないであげてください。
私からのお願いは、それだけです。



 冷たく風に冷える鉄の腕の中で、魂人の男は重たい目蓋を薄らと開ける。
 どこまでも赤黒く、見慣れた地平だと思った。下層で目にしたよりも更に毒々しく、世界の全てが絶望の胎内にあるのだと今は理解できる。
 救った者は、無事か。弱々しい視線で男が問い質すように見た時、ルパート・ブラックスミスは全て心得たように口を開く。
「案ずるな。生きている。望むなら会わせてやってもいいが、まだ意識の移ろう身には辛かろう」
 言われてみればやけに体が重い。何か大事なものを失った気がする。
 こんな時、心の拠り所は誰だったか――見出だそうとした母の面影が変貌した事に気付き、男は「はは」と笑って再び眼を閉ざす。
「……道理で、身も心も」
 続きを制する迄もなく、彼は眠った。辺りの警戒を兼ねて視線を遣れば、前方ではシャルロット・クリスティアが一同を率いている。
(「あまり、集団を安全に逃がす手段は持ってないんですが……まず知恵としてできることは」)
 花畑を燃やす者がいたのを見、シャルロットは湿らせた指を風にあて、風上と思しき方へと進路を変更する。
 小高い丘の上へ動かし終えた頃には案の定、ルパートが花園を焔の花壇へと変えていた。青く燃ゆる鉛となった花からは花粉こそ漏れぬが、呪詛をもった鉛も直に触れれば毒だ。念のため、退避しておいて正解だろう。

 大方が燃えるまでを待ち、焦土地帯となった燃え跡を裸足のまま征く。じり、と足の裏に伝わる熱に、まだ痛覚が死んでいない事を自覚する。
 死なぬだけいい。命を紡ぎ続ける事がひとまずの希望だ。そう猟兵には信じられても、生きる糧を奪われた魂人には十分堪えた。
 花嫁の視線が僅かに俯き、上体が傾いだ――それを許さじと、ルパートの声が降り注ぐ。
「諦めるな、生き続けろ」
 厳めしい甲冑の騎士は、彼ら二人のすぐ後ろを歩く。寄り添うというより、諦めて斃れぬよう見張っているとした方が違和感のない眺めだった。
「お前たちが生きているのは偶然ではない。お前たちが生きようとした以上に、お前たちは生きろと願われた生命なのだ」
 腕に抱える彼らの友人の、不規則な寝息が黙り込む合間に聞こえた。
「代償は既に払われた。その果てが……この花園に転がる髑髏でいいわけがない」
 精魂が今ここで、尽き果てようとしていても。命懸けで二人を救った彼がそれを望まないのは、自明の理だ。

   ◇    ◇    ◇

 負けたくない。負けたくはない――誰に、何に。涙はとうに枯れ果て、足を交互に前に出すそれすらも、無目的な動作の連続だ。
 幾度も捨てたくなった。命を、歩みを放棄するかわり、花嫁は問いをぶつけたくなった。
「……どうして。あなたたちはどうして、歩き続けられるの」
 その先の思考を、シャルロットは容易に想像できてしまう。生きた所で甲斐はなく、死しても先に救いはない。寄る辺も向かう先もないこの世界にあっては、生きも死にもせぬ石像に変えられた方がまだ報われたと言えよう。
 答える代わり、シャルロットは前を見たままこう告げる。まるで自分達の歩む道は平行に、二度と交わらぬというように。
「……形はどうあれ、『死ねた』私には貴方達と絶望を共有することはできない。いや、する資格すらないのかもしれません」
 今生きているのに死ねたとは何の冗談か。問おうとした視線の先でシャルロットの身体に何かを見、花嫁は再び黙り込んだ。
「生きていればきっといいことがある、なんて……無責任なことも言えません」
 命を繋ぎ止めてしまった彼女ならではの言葉だろう。あらん限りの執着でしがみつき覗き込んだ匣の底には、望み叶わぬ絶望郷が栄えていた。
「けど……一時のものだったとしても、あの婚姻のときに感じた幸福は。紛れもなく、本物だったはずです」
 痩せた胸に手を当て、はるか遠い日の名残り火を感じる。村を見て「懐かしい」と一声漏らしたのもまた本心で、それはシャルロット自身にも嘗てあり、今も彼女を突き動かす原風景なのだ。
「その感情だけは……偽りと否定しないであげてください。私からのお願いは、それだけです」
 握り締めた拳は震えたまま、ゆっくりと力なく解かれた。かわりに花嫁の喉はか細く、消え入りそうな声を紡ぎ出す。
「……信じて生きていけというのね。夢見た幸せがここにない、幻想だとしても」
 願えば、きっと叶う。その言葉の意味が今は、あまりにも遠い。はるか天上の光のように、途方もなく彼方で光っている。
「諦めるな、生き続けろ」
 無慈悲にも思える声が、脊髄に響く。見ればルパートが力尽きかけた別の魂人の手を掴み、無理にでも立たせようとしていた。
 背中に針金でも入れられたようだ、と花婿は思った。闇の使者の号令のように声は響き、熱に浮かされたようにいつまでも自分達を突き動かす。
「喪ったものに価値を与えろ。支払われた代償に報えるのは、お前たちの幸福だけなのだ」
 この際、多少意に沿わずともいい。自分達を生かし続けている命令に、花婿は内心で感謝を告げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ソルドイラ・アイルー
マグダレナ嬢(f21320)と

まーー。なんとも面白くない習性をしていますね、この人食い花は。土砂で埋め立ててやりましょうか
材料が足らずとも土人形に足場になって貰えば道は作れます。足で踏まれても土は土。むしろ土は踏まれてこそでしょうに!
しかし呼吸する際はお気を付けて。異物を感じたら咳をすることを忘れずに、であります

さて。どうしてここまでするのか、と疑いを持つのはいい事です。貴方方は吾輩達に連れられて、今はこんな花道とも呼べぬ闇の中に居ます
先程の返答には勿体ないからと述べましょう。答えたので吾輩も質問しても構いませんね?

これまで歩みを止めた者は居ましたか。動けぬ者の手を繋ぎ、背負う事を止めぬのは何故ですか。誰かの危機に対して誰かを庇うのはどうしてでありましょうか

吾輩達は確かに逃げろと指示をしました。貴方方はそれに従いました。しかし、逃げるという選択を選んだのは紛れもなく貴方自身でもあるのです
あの村には残りたかったでしょう。ですが選んだのです。選択する力があるのです
迷いなさい、自らが選ぶ為にも


マグダレナ・クールー
ソルドイラ君(f19468)と

怪我をした人は居ませんか。肉体的損傷であれば治療を。疲労だって癒せます。解毒もできますから、遠慮なく申し出てください。わたくしも対象を見つけ次第、光りに向かいます
……この光は心は、治せません。心の傷はわたくしには癒せません。拒むのです。治癒を。わたしが怨讐するように悲嘆するのは、今はまだ手放してはならない感情です。持ち続けて忘れてはならない思いなのです

……。あれは、選ばざる得ない状況でした。それは選択肢を与えられているのではなく強いられていて、強制的で自由が尊重されていませんでした。まるで非を責めるかのように。悪いことなんて何もしていないのに
してないんですよ、貴方達は。悪い事なんて何一つも。それは確かな事なんです

生きていいのです。ですが、わたくしは生きなきゃダメだと言い直します
あの村でしたかった事はなんですか
それは捨ててはならない理想です。追い求めなければならない幸福です。理不尽を覚えるからこそ、幸福を求めるのです
祈る手は動かさないと。伸ばしたら掴めますから



 行軍は続く。ざりざりと地を擦る音は力なく、小石にすら足をとられ転びそうだ。
 猟兵がいなければ、気力の萎えた者から落命していただろう。
 死の華は一見、何も手出しをしてこないように映る。だが不自然に咳込んだ者がいたのに気付き、ソルドイラ・アイルーはすぐさま魂人の背を叩いた。
「いけません。……吐きなさい」
 苦しみ喘ぐような咳。喉から転がり出た種はしゅるしゅると萌芽し、地面に寄生植物の網を広げた。
「まー、なんとも面白くない習性をしていますね、この人食い花は! 片っ端から土砂で埋め立ててやりましょうか」
 体内で発芽すれば命はなかっただろう。軒並み土を被せてやりたいところだが、花畑全てを覆うにはソルドイラの力も、使える土砂の量も足りそうにない。
 咳をした魂人は青ざめてはいたが、無事だ。顔色を確かめたマグダレナ・クールーは、近くにいる者たちへ声を投げかけた。
「怪我をした人は居ませんか。長き旅路です。かすり傷でも菌が入れば致命傷となりかねません」
 おずおずと子連れが手をあげるのを見、マグダレナはすぐさま傍へと駆け寄った。
「息子が、さっき木の枝に足をとられて手をついたんです。手が痛いって」
「……見せてください」
 嫌がる子の手首を押さえ見てみれば、患部は赤黒く鬱血していた。内出血か捻挫か、いずれにせよ子どもに我慢させる傷ではない。マグダレナは己の背に後光を背負い、生まれながらの光にて魂人の子の傷を癒す。
「ありがとうございます……ほら、ありがとうを言いなさい」
 傷の持つ疼きが取れても、少年はべそをかく事を止めない。マグダレナに感謝どころか、睨むような視線を返し、顔を背けた。
 だからだろう。不躾な我が子を叱ろうとした母親は、聖女の口から零れた寂しげな自白に耳を疑った。
「……この光は、心は治せません」
「え……?」
 見ればマグダレナは片目を覆い、己に見えない正常な景色に思い馳せるように目を閉じた。
「心の傷はわたくしには癒せません。拒むのです、治癒を。わたくしが怨讐するように悲嘆するのは、今はまだ手放してはならない感情なのです。持ち続けて、忘れてはならない思いなのです」
 母子に眼前の、毅然と立つ乙女の生い立ちは分からない。言葉の全ては理解できぬが、この者が何か暗いものを背負い、今も戦っている事だけは伝わった。
「……あれは、選ばざるを得ない状況でした。選択は与えられるのではなく強いられていて、自由など尊重されていませんでした。まるで、非を責めるかのように……悪いことなんて何もしていないのに」
 漸く不思議そうにこちらを見た少年の顔に微笑み、目線の高さを合わせる。怯えていた眼差しが、マグダレナの真意を図るように純粋に向けられる。
「してないんですよ、貴方達は。悪い事なんて何一つも。それは確かな事なんです」
 少年の眦がぴくりと震えた。それから幼さに似合わぬ皺を刻み、堰を切ったように涙雫が零れた。これまでずっと堪えていたのだろう。透明な体から溢れる透き渡った雫が止むまで、マグダレナは彼の背を撫で続けた。

   ◇    ◇    ◇

 いつまでも足を止めてはおれず、少年はマグダレナの胸に担がれた。他の者も時に猟兵たちの肩を借り、何とか行軍についてきている。
 体力の秀でた者にも楽な行程ではない。だから、魂人が疑問を抱くのは当然の成り行きだった。
「なあ。あんたらは、何が目的なんだ。どうしてここまでしてくれるんだ」
「そうですねえ……疑いを持つのはいい事です。貴方がたは吾輩達に連れられて、今はこんな花道とも呼べぬ闇の中に居ます」
 ソルドイラはすぐ答えを返さずに前方を見た。彼の生み出した土人形が次々と身を横たえ、地に咲く花ごと土の桟橋の下に埋め立てていく。
「先ほどの問いには、勿体ないからと述べましょう。答えたので吾輩も質問して構いませんね?」
 何かと身構えた男に、ソルドイラが問うたのは次のような事だった。
「これまで歩みを止めた者は居ましたか。動けぬ者の手を繋ぎ、背負う事を止めぬのは何故ですか。誰かの危機に際して誰かを庇うのは、どうしてでありましょうか」
「それは……」
 答えあぐねた彼の戸惑いに被せるように、科学者の男は淡々と事実を述べる。
「吾輩達は確かに逃げろと指示をしました。貴方がたはそれに従いました。しかし、逃げるという選択をしたのは紛れもなく貴方自身でもあるのです」
 村を棄て、逃げる。それは即ち、過去の思い出よりも命、未来を選ぶのと同義だ。幸せに満ちた過去と共に沈む事をよしとせず、村人たちは確かに未来を望んだのだとソルドイラは説く。
「あの村には残りたかったでしょう。ですが選んだのです。貴方がたには選ぶ力があるのです……これからも迷いなさい、自らが選ぶ為にも」
 前方では膝をついた魂人へ、マグダレナが駆け寄るのが見えた。
「生きていいのです。いいえ、生きなきゃダメです」
 村で叶えたかった事、夢見た明日。叶わぬものとなったそれらを抱えたまま、生きて足掻けと聖女は説く。
 地についた手の泥を祓い、祈りの形に組ませる。力を分け与えるように寄り添い、己が光を呼ぶ。
「理不尽を覚えるからこそ、幸福を求めるのです。さあ……祈る手を動かして。伸ばしたら、掴めますから」
 嘘でもいい、希望の光が僅かでも心に宿ってくれれば。呼びかけ続けるマグダレナの傍で、十字架の後光がまた一人、魂人を癒した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎖木・茜
【鎖】
自己嫌悪ですわ
宇宙皇帝ペンギンには立ち向かえましたのに
あんなに動けなくなるだなんて

敬輔様の励ましに顔を上げ
ありがとう存じます敬輔様
自己紹介がまだでしたわね
鎖木・茜ですわ
自分の身体を得ましたの

指定UC
9体の冒険家を召喚しますわ
世界知識で集落がありそうな場所を探索
そちらへ向けて敬輔様に道を切り開いて頂きます
道具の便利な使い方や水脈の探し方など
今後に役立つ助言も致しますわ

花畑を抜けたら
助けてくださった魂人にもお礼とお詫びを
鎖木・茜と申します
お名前を伺っても?
もし危機が訪れたならば
必ず救いに参りますわ
あなたは命の恩人ですもの

別れ際に皆で祝い歌を歌いましょう
歌は
音楽は
道行きの支えとなるでしょうから


館野・敬輔
【鎖】
他者絡みアドリブ大歓迎
茜自己紹介後の呼称は茜姫

自己嫌悪中の茜をフォロー
そんなに落ち込まないで
僕が恐怖や絶望に慣れ過ぎているだけ

…あなたがなぜ、僕の名前を?
って茜姫?!
そうか、身体を得たのか…

話の続きは
皆で花園を抜けてから、だな

「視力、世界知識」で花の特性を観察
冒険家のアドバイスも参考に「失せ物探し」で最短経路を見極め
「属性攻撃(炎)、浄化」で炎の魔剣にした黒剣で花を刈り取り道を開き
毒や幻の影響を受ける前に一気に駆け抜けよう

楽園を追われた魂人達の未来は前途多難
今すぐ絶望から這い上がるのは難しいかもしれない
だけどこれからは僕たち猟兵がいる
また危機が迫ったら駆けつけるから
どうか…諦めないで



 力なく、うなだれる者達の背。どれだけ歩けども安住の地は見えず、大地そのものが生きる事を阻むかに思えた。
 気力を削ぐ、暗澹たる眺め。肩を落とす者の中には、鎖木・茜の姿もあった。
「……自己嫌悪ですわ。宇宙皇帝ペンギンには立ち向かえましたのに……あんなに動けなくなる、なんて」
 華々しく初陣を飾った気でいた己に嫌気がさす。茜とて侮ったつもりはないが、ここまで来れば否応なしに実感する。世界を覆う絶望、これが猟兵の立ち向かう相手なのだ、と。
「そんなに落ち込まないで。たまたまフォローに回れたのも、僕が恐怖や絶望に慣れ過ぎているだけなんだ」
 館野・敬輔が呼びかければ、こちらを見上げる透いた翠の瞳。見知らぬ者の筈が、底まで見通せる瞳の色はどこか懐かしくも思えた。
「ありがとう存じます、敬輔様」
「……あなたがなぜ、僕の名前を?」
 振り返る赤髪の少女は不思議そうな敬輔の顔を見、得心がいったように微笑む。
「ああ……自己紹介がまだでしたわね。鎖木・茜ですわ。自分の身体を得ましたの」
「茜姫!? ……そうか、身体を得たのか」
 俄かには信じがたい事ではあったが、それなら全て辻褄が合う。見知らぬ少女とばかり思っていたのは、敬輔が幾度となく接点を持った者だったのだ。

 時と場所が許せば語らいたい事もあったが、それより先に小さく悲鳴が上がる。見れば前方、魂人の前に明らかに危険と思われる茨の植物。
「……と、話の続きは皆で花園を抜けてからだな」
「ええ。行きましょう」
 二人の行く先に広がる茨の茂みは、意思を持つようにのたうっている。足元には犠牲となった獣の骨、大方捕食されて力尽きたのだろう。
「肉食の植物だな……それも死肉性じゃなく、こちらを捕らえる獰猛なヤツと見た」
 立ち込める花粉を吸わぬよう布で口元を覆い、魂人たちを下がらせる。同時に敬輔の黒剣が熱を帯び、打ち立ての鉄塊のように赫々と火の粉を噴いた。
「お待ちになって。斬り払うだけでなく、抜けるべき方角を探した方が良さそうに思えますの」
「……それもそうか。何か策はあるか?」
 こくりと頷き、茜は誰かを呼ぶように手を打ち鳴らす。
「さあ皆様、始めますわよ! 今日の演目は九人の探検家の繰り広げる冒険譚ですの!」
 現れた幻の冒険家たちは各々の方へ飛び去り地理を調べていたが、やがて調査結果を手土産に茜たちの方へと舞い戻る。
「集落はなさそうですけれど、あちらの方に開けた場所があるみたいですわ。近くには小さな林もあって、木材も採れそうでしたの」
「あっちだな。毒や幻の影響を受ける前に一気に駆け抜けよう」
 炎の魔剣が鮮やかな軌跡を描き、群生する食肉植物を薙ぎ払う。振り返り、後を駆ける魂人の姿を確かめ、また前を向く。
 うねる茨、舞い散る花粉。おぞましき眺めの中、前を往く敬輔たちが足を止めぬ事だけが魂人たちの救いだった。

   ◇    ◇    ◇

 花畑を抜けた頃には、先に辿り着いた者たちがあたりを警戒しながら待っていた。彼らの中には茜を命懸けで助けた魂人もいて、茜の表情がわずかに悔恨に曇る。
「……茜姫」
「ええ。分かっていますわ」
 ゆっくりと近寄る茜を避けるそぶりもなく、女性は気丈に微笑み待っていた。
「鎖木・茜と申します。先ほどは助けていただき、感謝いたしますの……差し支えなければ、お名前を伺っても?」
「あら、何かと思えばそんなこと? いいのよ、もう」
 女性は笑いながら名を教えてくれた。特別珍しい響きも持たず、努めて記憶しなければ忘れてしまいそうな名だった。だから聞いた名を繰り返すように呟き、茜は彼女へと約束を告げる。
「この胸にしかと刻みましたの。もし危機が訪れたら、必ず救いに参りますわ。……あなたは命の恩人ですもの」
「あら……それはあなたと仲の悪い、運命の導きでかしら?」
 彼女は魂人たちの中でも珍しく強気な方なのだろう。茜自身の言った事だけに返す言葉もないが、魂人の女はそのまま笑顔でこう続けた。
「期待せずに待ってるわ。期待を抱くと私たち、きっと裏切られるから。でも……きっと、忘れた頃に助けに来てくれるのよね?」
「ええ。次こそは絶体絶命になる前に、助けに来てみせますの」
 頷き、茜は他の魂人達を呼びよせる。何事かと見守る彼らの耳に、茜の澄んだ歌声が届きはじめる。別れに寄せた祝い歌、いつか再会の時が来れば思い出せるようにと、茜の想いは調べに乗り、昏い空へとのぼって消えていく。
「未来は前途多難……か。今すぐ絶望から這い上がるのは難しいかもしれない」
 見守る敬輔の視線の先、魂人は歌を聴いてもまだ前を向くには至らない。気力を取り戻すのにどれだけかかるか。それまでに襲撃があれば、彼らは深く傷つくだろう。
「だけどこれからは僕たち猟兵がいる。また危機が迫ったら駆けつけるから」
 命を紡ぎ縁を繋げた、それが最良の成果だ。生きていればいい事があるとの綺麗ごとを彼らに本気で説ける日が来るかは、すべて自分達の双肩に懸かっている。
「どうか……諦めないで」
 彼らに、かつての自分に宛てた言の葉は人知れず歌にかき消え、茜の歌う希望の調べと混ざり合っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

疾風・テディ
✿アドリブ・連携歓迎

「お姉さん、こっちだよ!」
寸前に助け出した魂人さんと一緒に逃避行。
目の前に花園が見えてきたら、新しい技を試すよ。今回の試練をだいふくと一緒に切り抜けてきた証。

「だいふく、行くよ!お姉さん、背中に乗って!しっかり掴まっててね」
おっきな鳩になって、お姉さんを背中に乗せて飛ぶよ。花粉も香りも、羽ばたきの時に起こす風で追い払う。花園の終点、他の魂人さんたちのところまでこのまま飛び続けるよ!

「お姉さん、お疲れ様。……助けられてよかった」
元に戻って、少しお話。
「きっと、あの人もお姉さんに生きてて欲しいって思ったと思う。……ねぇ、お姉さんにはきっとその人と過ごした幸せな記憶があるんだよね。だったら、絶対にその記憶は忘れないで。どんな辛い世界でもね、幸せな記憶があるだけできっと少しは良くなるから」

「もう一度お墓、作ろう。そこにその幸せな思い出を少しだけ埋めて。私も手伝うよ」

何度挫かれても、また立ち上がって生きていけるように。幸運な祈りを込めて。


エリシャ・パルティエル
なんとか全員そろって逃げられたわね…
強引になってごめんなさいね
でも誰一人欠けてほしくなかったの

花の香気や花粉を吸いこまないように
服や布などで口元を覆ってもらって
絶望に囚われないように声をかけ続けるわ

この世界で暮らすのはまだまだ辛い
それは事実よ
けれどこれから変わっていくの
あたしたちが必ず変えて見せるわ
だからどうか希望を失わないで
楽しい思い出は命を救うためだけじゃなくて
心を満たす大切な栄養だから
日常に小さな幸せを見つけるの

何もないなら作るしかない
あなたたちにとって暮らしやすい場所をね

UCで必要そうな道具類や材料を用意するわ
そんなにいいものじゃないけど
ないよりはずっとましよ
みんなで営みを取り戻すの


ライラック・エアルオウルズ
灯す先に影落としたこと
どうしようもなく、無念で
然れど、実に格好良いね
友人の為に体を張るとは

それなら、僕だって
新たな友人たちのために
背筋を伸ばしたくもなるさ

魔導書を撫ぜれば、詠唱
毒花と異なる柔い花降らし
傷は癒やして、力は増して
花園を図書館と変えよう

この景も、いっとき限りだが
得る力は確かに残るものだよ
式場だってね、露と消えたとて
幸は無かったことにはならない
まぼろしの楽園、であっても
出会いは確かなものだろう?

其処に残るものがあるなら
膝をつかずとも大丈夫だ
それを確と抱えて、護って
今度はほんとうに築くんだ
貴方たちの、夢のような先を

信じて歩んでおくれ
そうすれば、花座す図書館は
それを成すための力になるから



 先発の者によって切り拓かれた道が、次第に狭まり元に戻る。死の花は生命力だけは逞しく、自らの版図を取り戻す速さは真っ当な植物の比ではない。
「お姉さん、こっちだよ!」
 伸びてくる蔦を風精霊のだいふくが嘴で押さえ、その隙にと疾風・テディは後ろの女性へと呼びかけた。魂人の女性は青ざめた顔ながらも蔦をかきわけ、茂みの向こう側へと何とか抜けた。
「なんとか全員そろって逃げられたわね……さっきは強引になってごめんなさいね。でも、誰一人欠けてほしくなかったの」
 軽く咳込んだ女性にエリシャ・パルティエルがハンカチを貸し、毒の花粉を吸わぬよう口元に当てさせる。魂人たちの顔が俯くたびに励まし続けた甲斐あって、これまでの行軍で置き去りにされた者は辛うじて出ていない。
 茂みをかき分けて進むと、危険を承知で待っていたのだろう。
「やあ、再会が叶って何よりだ。彼らが待つと云って、聞かなくてね」
 新郎新婦たちを伴って、ライラック・エアルオウルズが笑顔で出迎えてくれた。

 契りを交わせずとも、二人はもう夫婦と呼べよう。手を取り合って草花の茂みを乗り越え、共に歩む様こそが証左だ。二人を守るため体を張った男も今は意識を取り戻し、自らの力で歩いている。
「……灯す先に影落としたこと。どうしようもなく、無念で」
 ライラックが呼びかければ、魂人の男は首を振りながら答えた。
「できるなら、最後まで式を挙げさせてやりたかったさ。ただ……式なんざ後から何時でもできる。あいつらの居ねぇ式に、意味はないからな」
 思慮深く友人思いの男の言葉に、同意を示すように深く頷く。それからライラックは話題を変えるように持ちかけた。
「然れど、実に格好良いね。友人の為に体を張るとは」
 間近で見る、業深き永劫回帰の力。躊躇っていては間に合わなかっただろうに、男は母の思い出を即座に投げ打った。
「それなら、僕だって。新たな友人たちのために、背筋を伸ばしたくもなるさ」
 何を――。そう問いかけた男の眼前、白く痩せた指先が魔導書を撫ぜる。粋な手柄をとられてばかりでは名が廃る、作家はハッピーエンドを齎せてこそ名乗れよう。

 視線を横切る、柔く淡い紫色の光。藤にも似た色のリラの花が、陰鬱な眺めを覆い隠して風に舞う。
 幸せなど、思い描けば何処にでも。想像世界より生み出された図書館が、毒の花園の上に柔らかい光の絨毯を敷いていく。
「これは……すごい、すごいじゃない!」
「この景も、いっとき限りだが。得る力は確かに残るものだよ」
 エリシャが快哉の声をあげ、呆気にとられた魂人の手を引く。癒しの力に満ちたこの花園ならば、今しばらくは渡るにも差し支えない。
「式が露と消えたとて、幸は無かったことにはならないさ。まぼろしの楽園、であっても。あなた達の出会いと縁は、確かなものだろう?」
 ライラックにそう告げられては、男も頷かざるを得まい。村が酸に沈んだとて、何もかもが終わったわけではないのだ。

 次第に気力を取り戻す者の中、テディは最後に連れ出した魂人の彼女がまだ体力を取り戻せていない事に気付く。酸と瘴気に間近で晒され過ぎたのだろう――己のすべき事を見つけたテディはだいふくを促し、彼女へと呼びかける。
「お姉さん、背中に乗って!」
「背中に……って、どこに……」
 フェアリーサイズだった小鳩が目の前で、みるみる大きくなるのを女性は見た。有無を言わさず掴まされた羽毛の、小刻みに上下する温かさに目を瞑る。
「しっかり掴まっててね!」
 だから、そう呼びかけられた時も。驚く心とは裏腹に、彼女の手は毛布を手繰り寄せるように、自然と暖かな羽にうずもれていた。

 軽やかな羽音が、夜明けなき空に響き渡る。果ては暗くとも足元は彩りの大地、柔らかい生命の紫が広がっている。
 風に花を撒き散らし、白鳩は翔ぶ。はるか向こうで待つ、仲間の元へと。死を運ぶ花粉も香りも、村を襲った悲しみも。白き幸運の速度には決して追いつけない。
「だいふく、いっけー!」
 白き幸、花座す図書館を眼下に見て、静かに飛ぶ。一直線にどこまでも、矢印の如く。帰る場所を知るのに、道標は要らないだろう。彼女らが鳩であるならば。

   ◇    ◇    ◇

 辿り着いた先で見たものは、死の花園よりは優しく、けれど生きるため切り拓くには不毛の大地だった。神のもたらした恵みが慈悲を芽吹かせるには、もう暫くかかるだろう。
 周辺の木々や、解体した歯車の残骸。僅かな建材で小屋の骨組みと屋根が組まれ、風雨と寒さを凌いでいる。到底村や集落とは呼べないが、それでも命を奪うものが居ないだけこの地ではマシだ。
「お姉さん、お疲れ様。……助けられて、よかった」
 元に戻ったテディとだいふくの背から降り、魂人の女性は今もまだうずくまっている。村に残したものはかけがえなく、喪失の痛みは易々とは癒えまい。
「きっと、あの人もお姉さんに生きてて欲しいって思ったと思う。……ねぇ、お姉さんにはきっと、その人と過ごした幸せな記憶があるんだよね?」
「……ええ。今も憶えているわ。顔が目の前に浮かぶの……私を呼ぶ、声までも」
「だったら、絶対にその記憶は忘れないで。どんな辛い世界でもね、幸せな記憶があるだけできっと、少しは良くなるから」
 生き抜く糧となる、大切な記憶。この世界ではそれすらも薪のように、燃やされ消えていく宿命だけれど。
「もう一度お墓、作ろう? そこに幸せな思い出を少しだけ埋めて、さ。私も手伝うよ」
 そうすれば、きっと思い出せるから――テディの言葉に、女性はゆっくりと頷いた。

 迫る別れの時。最後にできる事をと、エリシャは身に宿す聖人の力を呼び覚ます。
「あのね。この世界で暮らすのはまだまだ辛いと思うの。それは事実よ」
 窮民を救った聖者になぞらえ、生み出したのは鍬や鋤に水を溜める桶。使えそうな生活備品を、営みに欠かせぬものから配っていく。
「けれど、これから変わっていくの。あたしたちが必ず、変えてみせるわ」
 生きていく場所がないなら、作るしかない。これ以上付き従えない代わりに、あり余る道具を委ねて自立を促す。
「だからどうか、希望を失わないで。楽しい思い出は命を救うためだけにあるんじゃないの。心を満たす大切な栄養だから……日常に小さな幸せを見つけるの」
 かつて村にあったのと遜色ない備え、これならば木々を切り倒し、小屋を組むにも事欠くまい。方策が授けられた人々の目に、確かな意思が宿るのを感じた。
「其処に残るものがあるなら、膝をつかずとも大丈夫だ。確と抱えて、護って……今度はほんとうに築いておくれ」
 帰りの転送光が地に満ちた。名残惜しさを振り切り、ライラックが別れを告げる。
「もう一度、夢見て。貴方たちの、夢のような先を」
 希望の種は、既に撒かれた。芽吹くには幾年の歳月と、労力がいるだろう。
 それでも――生きていける。生きていく。どこまでも過酷な大地の上で。
 彼らの明確な意思を対価として受け取り、猟兵たちは帰還の光に包まれていった。

●力への意志
 それからの便りは、何一つ入っていない。
 魂人たちに報せる手段はないのだから、当然だ。
 この件に関わった猟兵たちの誰一人として、魂人の行方を知る者はいない。
 ただ、急を告げたグリモア猟兵から再度の招集がかからない事。
 即ち『彼らが今のところ窮地に陥っていない』事に、あなたは今日も安堵する。

 楽園を追われた民は、何処へ行くのだろう。
 知恵の果実をもがずとも、ヒトは彷徨い歩く宿命にあるのやもしれぬ。
 当て所ない、彷徨の旅路。
 行き着いた彼らが希望を見出だすには、世界はまだ過酷に過ぎる。

 闇の者を討ち倒す術を、あるいは下層の民や魂人を救う術を、
 探して戦い続ける事こそが。
 出逢った彼らに報いる、遠回りにして唯一の道だ。

 帰り着き、泥のように眠るあなたの意識に、誰のものとも判らぬ声が響く。
 手を繋ぎ、笑いあい、以前のように元気に駆ける子らの姿もあっただろう。
 朧げな未来の光景は、まだ叶わない。揺らぎ続けたままだ。
 現実のものとするには、まだ幾多の試練を経ねばならないだろう。

 深い眠りの底へと沈みゆく、あなたの意識の中で。

 ――からん、がらん。
 鐘の音が、門出を祝うように鳴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年07月09日


挿絵イラスト