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はると悪夢の薬師

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #リュカ・トワル #オウガブラッド #猟書家 #はるの物語

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 アリスのはるは、今日も不思議の国を巡る。
 思い出せた辛い過去の欠片を受け入れ、乗り越えて。
 硝子の国で出会ったオウガブラッドのアリスと共に。
 元の世界に戻るための『自分の扉』を探して。
 また不思議の国へと辿り着く。

「……あれ?」
 ロゼが目を覚ました場所は、牢獄だった。
 陽の光の入らない、蝋燭の灯が揺れるだけの薄暗さ。
 どこかじめっとした空気は地下だからだろうか。
 十数人は入れそうな広さがある部屋だけれど、三方は石壁で、残る一方は鉄格子。
 家具も何もない、ただの空間。
 そこが――血に塗れていた。
「っ!?」
 一体何人が、いや何十人が殺されたのかというほどに。
 壁も床も天井も格子も。全てが血に染まっていて。
 鉄錆のような嫌な臭いが鼻につく。
『いい香りだね、ロゼ。ボクの大好きな、血の香りだ』
 内から響いてきた愉し気な声に、包帯を巻いた右手を思わずぎゅっと抑えるけれど。
『真っ赤な血の色も、ぬるっとした感触も。
 ボクを呼び覚ます素敵な目覚ましだね』
 声はますます愉しそうに、ロゼの心を酷く震わせる。
「黙って。私は、あなたになんか負けない。変わっていくと決めたのだから」
 包帯の下で疼く右目と右腕に、必死に抗うロゼだけれども。
 声はそんなロゼの様子すら愉しむように、不快な笑みを深めて。
『頑張るね、ロゼ。でもそれも、いつまで続くかな?』
 逃げ出すことのできない牢獄。
 ロゼに憑依したオウガの本能を呼び覚まそうとする血の海。
 絶望しかない空間で、ロゼはひたすらに耐える。
 この身をオウガに渡しはしないと。

「だが、あることをきっかけに、ロゼはオウガに乗っ取られてしまった。
 狂気のままにアリスを貪る狼のオウガに、ね」
 こうなるまで気付けなかったと悔しそうに顔を歪め、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は説明を続ける。
 硝子の国で猟兵達が助けたオウガブラッドのアリス・ロゼ。
 身の内のオウガに、そして自分の心に、立ち向かおうと決意して。
 アリスとして『自分の扉』を探し始めた、青髪青瞳の少女。
 しかしそんなロゼの覚悟を嘲笑うかのように。
 ロゼの意識を弱め、オウガを呼び覚まそうとする存在に、囚われてしまった。
 その相手は『悪夢の薬師・スリーピーシープ』。
 猟書家幹部『リュカ・トワル』の意志を継ぐことで猟書家を名乗るオウガだ。
「ロゼを助けて、この薬師を倒しておくれ」
 夏梅の願いに、猟兵達は頷いて。
 ふと、問いかける。
 ロゼがオウガに乗っ取られてしまった『きっかけ』とは何なのか、と。
 夏梅はまた表情を曇らせると、苦々しい口調で答えた。
「牢獄には、ロゼの友人――アリスのはるも囚われていたんだ」

 負けない。オウガになんか、負けない。
 立ち向かうと決めたのだから。
 背中を押してくれた人達がいたのだから。
 黄色と橙のおひさま硝子と青色の優しい星型硝子を左手に握りしめて。
 ロゼは必死に抗い続ける。
『でも、そろそろ限界じゃないかな?』
 閉ざされた牢獄。血塗られた部屋。
 絶望を絵に描いたような光景は、確実にロゼの心を弱らせていた。
 それでもロゼは諦めない。
 負けない。オウガに負けるわけにはいかない。
 だって、大事な友達とずっと一緒にいたいから。
 もう二度と友達を失いたくないから。
(「……もう二度と?」)
 浮かび上がった言葉に、ロゼはふと、疑問を感じる。
 確かにロゼは、アリスラビリンスに来た最初の国で、破壊と殺戮を行ってしまった。
 オウガブラッドとして安定する前の、望まぬ惨劇。
 でもそこに、ロゼの友達はいなかった。
(「じゃあ、何で……?」)
 疑念が心を過った、その時。
『ほら、ロゼ。見てごらん』
 オウガがとても愉しそうに囁き、ロゼの意識を牢獄の隅へと向けさせる。
 何もないと思っていた牢獄に、人影があった。
 床に倒れて、血に塗れ、動かない誰か。
 ロゼはぼんやりとその姿を見て。
 小麦色の長い髪に半ば隠れたその幼さの残る顔と、髪に飾られた鈴を見て。
 青色の左目を見開く。
「……はるっ!」
 悲鳴のような声を上げると同時。
 絶望の中で、ロゼの身体はオウガに乗っ取られた。

 りりん。


佐和
 こんにちは。サワです。
 絶望の牢獄から見える希望はあるでしょうか?

 オウガブラッドのアリス『ロゼ』は17歳の少女。
 憑依していたオウガにその身を奪われ、白髪の人狼の姿となっています。
 第1章はそのオウガ化したロゼとの戦いです。
 猟兵達を殺し喰らおうと襲い掛かってくるロゼを倒してください。
 戦闘開始時は、ロゼの意識はありません。
 倒した時にロゼの意識が取り戻せていれば、ロゼは元の姿に戻ります。

 ロゼは、『はると硝子の天使(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=36660)』で猟兵が助けたオウガブラッドです。
 必要な情報は今回のOPに出してあるので未読でもいけるはずです。
 より詳細に知りたい場合のみ、参考にどうぞ。

 アリスの『はる』は10歳程の少女。
 ロゼとは硝子の国で出会い、友達になりました。
 第1章開始時点では、牢獄の隅で倒れています。
 血塗れで死んでいるかのように見えますが無傷で、気を失っているだけです。
 はるのこれまでを知りたい方は、タグを利用して過去の登場作をご確認ください。
 今回、はるの過去は関係しないため、未読で全く問題ありません。

 第2章は『悪夢の薬師・スリーピーシープ』とのボス戦です。
 無事にロゼを助け出せていれば『オウガ・ゴースト』で共に戦ってくれます。
 はるも、状況によっては、歌声で癒す『シンフォニック・キュア』のようなユーベルコードで支援することが可能です。

 また、当シナリオには特別なプレイングボーナス(全章共通)が設定されています。それに基づく行動をすると判定が有利になります。

 【プレイングボーナス】オウガブラッドに正気を取り戻させる/共に戦う。

 それでは、絶望の赤と青を、どうぞ。
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第1章 ボス戦 『アリーチェ・ビアンカ』

POW   :    狂月招来(フルムーン・コネクト)
予め【獣の本能と己の狂気に身を任せる】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    狂気感染(パンデミック・ルナライト)
【あらゆる者を狂わせる月の光】を降らせる事で、戦場全体が【狂気に満ちた満月の下】と同じ環境に変化する。[狂気に満ちた満月の下]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    狂光軍行進曲(ルナティック・マーチ)
【人狼化し、それぞれの武器】で武装した【自身が喰い殺した者達】の幽霊をレベル×5体乗せた【狼の幽霊の群れ】を召喚する。

イラスト:さいばし

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リカルド・マスケラスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 はらり、と。ロゼの右目と右腕を覆っていた包帯がほどけて落ちる。
 肩までだった髪は長く長く伸び、足元に届きそうな程になると。頭には狼の耳が生え、髪の続きを思わせる勢いで狼の尾が伸びていく。
 そして、青色がかき消されたかのように真っ白になった。
 真っ白な、人狼。
 オウガブラッドとしてロゼの操る炎が青白かったのは、ロゼの青とオウガの白が混ざっていたからなのかもしれない。オウガと混じった右目の青が、左目に比べて白みがかっていたのもそれが理由か。
 だが今、その身体にロゼの色はない。
 青色を失ったかのような白だけが、ロゼの姿を包み。
 そして。
 ゆっくりと開かれた両目の色は、赤。
 青を完全に飲み込み、そして血を渇望するかのような色。
 その赤が、にいっと残酷な笑みを浮かべた。
「そうだよ、ロゼ。そのままボクの中で眠っているといい。
 最初にボクらが出会った時のように。
 全てをボクに委ねて、ボクが壊して殺すのを、待っているといい」
 ロゼにしか聞こえていなかった嘲るような声を。
 ロゼの口から紡ぎ出して。
 ロゼとなったオウガは、嗤う。
 それでも、ロゼの声が聞こえないのを確かめて。
 手を持ち上げ、目の前で思った通りに握りしめられるのを見て。
 オウガは――『ロゼ』は、笑みを深くすると。
 その赤い視線を、牢獄の隅へと流し。
「最初に壊すのは、あれがいいかな」
 血塗れで倒れているアリスのはるを見て、愉しそうに嗤った。
 
黄泉川・宿禰
WIZ ※アドリブ連携等歓迎
酷いことをする輩もいたものだ


俺はこのロゼという女と面識はない
だが、話を聞く限り
変わることを恐れない、強い心を持っていることは、
この俺にも伝わってくる

ならば力を貸そう
立ち上がると決めた者がいるならば、支えてやらねばなるまいよ

まずはそこのオウガの動きを止め
それから女の目を覚まさせてやるとしよう

【UC:咒怨・畜生道】発動

目には目を、歯には歯を
狼には狼を、だ

数百頭の狼の群れをぶつけ
その隙に指先に呪力を込め、<呪詛>弾ををオウガに叩き込む

そこの女、とっとと目を覚ませ
オウガの意志によるものとはいえ、
大切な友を自らの手で殺めるつもりか?
それが嫌なら、頑張って足掻いてみせろ



「酷いことをする輩もいたものだ」
 嗤う『ロゼ』に顔を向け、呟いたのは黄泉川・宿禰(両面宿儺・f29564)。
 その目元は『怨』の字が書かれた赤い布で隠されているけれど、不快そうで不満そうなどこか不機嫌な様子は、口元だけでも充分に伝わってくる。
 ――宿禰はロゼとの面識はない。
 オウガに変わってしまう前の姿すら知らない。
 だが、グリモア猟兵から話を聞いて。
 血塗れの牢獄に立って。
 そこで愉しそうに嗤う『ロゼ』を見て。
 でもまだ何も壊されていないのを確認して。
 それだけでも分かることがある。
(「変わることを恐れない、強い心を持っていることは、この俺にも伝わってくる」)
 ならば、と宿禰の心は決まった。
「力を貸そう」
 口元に強気な笑みを湛えて。
 抗うロゼに。
 勝ち誇る『ロゼ』に。
 わざと聞こえるように独白する。
「立ち上がると決めた者がいるならば、支えてやらねばなるまいよ」
 それに反応してか『ロゼ』の赤い瞳がちらりと宿禰に向き。
 途端、召喚される人狼の幽霊の群れ。
 牙や爪を剥き出しにして、または人型ゆえに武器を持って。
 狂気に濁った目で宿禰を捉えると行軍を開始する。
 迫り来る狂狼の軍勢に、だが宿禰は、ふむ、と考えるような仕草を見せると。
 漆黒の千早を羽織った装束の袖をふわりと靡かせるように片手を掲げ。
「目には目を、歯には歯を。狼には狼を、だ」
 こちらも喚び寄せるのは狼の霊。
 数百頭もの群れは一斉に走り出し、同数に近い人狼の幽霊に挑みかかった。
 牙が、爪が、激しくぶつかり合い、共に消えていくけれど。
 人狼1体に対して狼は数頭での乱戦となっていて、全ては倒せていない。
 それでもかなりの数を減らし。人狼の幽霊に対して充分な戦果を上げ。
 そして、戦っているのは宿禰だけではないから。
 他の猟兵達の動向も見つつ、宿禰は『ロゼ』にその指先を向ける。
「そこの女、とっとと目を覚ませ」
 指名するように指示したその指先に呪力を込めて。
 呪詛を『ロゼ』へ放つと共に、声を飛ばし。
「オウガの意志によるものとはいえ、大切な友を自らの手で殺めるつもりか?
 それが嫌なら、頑張って足掻いてみせろ」
 ロゼの中に眠る強い心を鼓舞するように宿禰は語りかけた。

成功 🔵​🔵​🔴​

寧宮・澪
希望は、きっと、どこにでも…

うーん、よろしくない匂い…換気したい、洗い流したい…
うん。世界を、一度入れ替えましょ…『逆さま世界』

海の中でも呼吸ができちゃう、月が水没した逆さの世界…
歌わないでする行為は失敗しやすい、花の香りの海の世界

歌いながら、はるさんを守る位置に行って…うん、はるさんは怪我なし
持ち込んだ布で顔とか拭いてあげて、ロゼさんに怪我がないのが見やすいようにしておきましょ…

ロゼさん、はるさんは無事ですよ…貴方のお友達は失われていません
起きてくださいな…貴方はひとりじゃないですよ…
ほら、血も牢獄も、今はないんですから…

歌声にのせ、語りかけながら、はるさんを守っておきますね…



 地下のような澱んだ空気に満ちる血臭。
 鉄錆を思わせる酷い生臭さに、寧宮・澪(|澪標《みをつくし》・f04690)はいつもぼんやりしている黒瞳をわずかながらも顰めて。
「うーん、よろしくない匂い……」
 ぽつり呟く声も、間延びしたいつもの眠たげな口調ではあるけれど、どこか不快気な色を帯びている。
「換気したい、洗い流したい……」
 俯き気味になった顔に、さらりと長い黒髪がかかり。
 少しだけその表情を隠した澪だけれども。
「うん。世界を、一度入れ替えましょ……」
 すぐに答えを出して、顔を上げた。
 とはいえ、眠たげな様子が一変することなどなく。やる気や決意に満ち溢れた、と言うにはほど遠く。そのまま眠ってしまいそうな、のんびりゆったりした雰囲気で。
 紡がれていく、妙なる歌声。
「魚は飛んで、鳥は泳ぎ。時計は逆向きくるりと回る。
 空は足元、海は上。世界はくるりと逆さまに」
 そして世界が入れ替わる。
 海の中でも呼吸ができる、月が水没した『逆さま世界』。
 薄暗い牢獄が、穏やかな海に変わり。
 鉄錆の異臭が、優しい花の香りに変わる。
 そこを歌で満たしながら。
 歌唱を伴わない行為禁止の法則を広めながら。
 歌わない人狼の攻撃行動が次々と失敗していくのを横目で流し見ながら。
 澪はゆっくりと、倒れているアリスのはるの元へと近づいた。
 小麦色の髪をそっと避け、血に汚れた顔を拭いてあげて。
「うん、はるさんは怪我なし」
 その血がはるのものではないと確認すると。
 他にもはるの無事を確かめに来た猟兵達と視線を合わせて頷いてから。
 こちらを見ている『ロゼ』に、そしてきっと心配しているであろうロゼに、はるの様子が見やすいように自身の位置を変える。
「ロゼさん、はるさんは無事ですよ……貴方のお友達は失われていません」
 そして、歌声に乗せて、澪はロゼへと語りかける。
 安心させるような温かな声で。
 その心に寄り添うような優しい声で。
 澪は歌い、絶望を逆さまに変えていく。
「起きてくださいな……貴方はひとりじゃないですよ……
 ほら、血も牢獄も、今はないんですから……」
 集った猟兵達を示し。花の香りが満ちる海の世界を示し。
 澪は、ロゼが目を覚ますまで、はるの傍でロゼの大切な友達を守りながら、はるを大切に思うロゼの心も守るように、ゆるりゆるりと歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、ロゼさん、完全に混ざりあって灰色になるのもダメですけど、完全に黒だけになっちゃうのもダメです。
シマウマさんのように白と黒がどちらも否定せずにあるべきなんですよ。
ほら、真っ白なアヒルさんにも目とか黒はあるんです。
ふえ?それは関係ないって、アヒルさん、私は真面目に説得しているんですから。

このまま、はるさんを殺させてしまうなら……。
アヒルさん、ハイパー宝貝モードなら幽霊さんには負けませんよね。
あとははるさんとどうにか切り抜けてください。
恋?物語ではるさんを私に宿らせます。
これではるさんを殺すには私を殺すしかありませんよ。

はるさん、アヒルさんあとはお願いします。



 血塗れの牢獄は、気弱なフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)にとって、目を背けたくなるような光景だったけれども。つばの広い大きな帽子で顔を隠したくなるのを必死にこらえて、そこに立つ『ロゼ』を見つめた。
 白い髪。赤い瞳。狼の耳と尾。そして何より、殺戮を悦ぶように愉し気に嗤うその表情は。どれもこれも、フリルが知るロゼとは違うもの。
 異なる色になってしまった少女に、フリルは弱々しくも頑張って語りかける。
「ふええ。ロゼさん、完全に混ざりあって灰色になるのもダメですけど、完全に黒だけになっちゃうのもダメです」
 それは、以前ロゼを狙っていたオブリビオンを思い起こしての言葉。
 アリスの白とオウガの黒を混ぜて、灰色の純粋融合体を生み出そうとしていた狂気の猟書家『灰色の天使グリエル』。
 あの時、フリルはグリエルに訴えた。白と黒は、お互いがいるから……混ざり合っていないからこそ、より自身の色がはっきり見えるのだ、と。
 それを思い出し。そして、今度はロゼに向けて。
 フリルは必死に言葉を紡ぐ。
「シマウマさんのように白と黒がどちらも否定せずにあるべきなんですよ。
 ほら、真っ白なアヒルさんにも目とか黒はあるんです」
 言いながら前に差し出した両手の上に鎮座するのは、いつもフリルと一緒のアヒルちゃん型ガジェット。確かにその身体は真っ白で、黄色いくちばしの上に円らで黒い瞳がくりんとついているのですが。
「ふえ? それは関係ない、ってアヒルさん、私は真面目に説得しているんですから」
 呆れたように鳴くガジェットに、フリルはおろおろと反論していた。
 があ。
 ……そうですね。どこかズレてるのはいつものことですね。
「私だけ分かってないみたいなこと言わないでください」
 とまあ、いつものわちゃわちゃしたやりとりを交わしてから。
「それより、ロゼさんです」
 フリルは視線をまた辺りへと戻す。
 ガジェットともめている間に、血塗れの牢獄は花の香りに満ちた穏やかな海となり。
 倒れているアリスのはるの傍に、駆け寄った幾人もの猟兵の姿が見える。
 しかし『ロゼ』は変わらずはるを狙っているようで。
 その周囲にものすごい数の人狼の幽霊が現れていた。
(「このまま、はるさんを殺させてしまうなら……」)
「アヒルさん、ハイパー宝貝モードなら幽霊さんには負けませんよね」
 フリルは、桃源郷の桃の花からガジェットに破魔の力を持たせ、その手のひらからそっと降ろすと。
 気弱ながらも赤い瞳に決意の色を混ぜて、はるに近付く。
 倒れているはるに怪我はなさそうで、気を失っているだけだろうと、他の猟兵達と同じく判断したフリルは。
「はるさん、私に宿ってください」
 ユーベルコード『果たされなかった想いを叶える恋?物語』を紡いだ。
 気絶中の対象を幽霊に変えるその力で、はるの姿を変えると、フリルは自身を依代として迎え入れるように両腕を広げる。
「……これではるさんを殺すには私を殺すしかありませんよ」
 はるが目を覚ますまで。無抵抗に殺されてしまわないように。
 文字通りに身体を張って、自身を盾とし鎧として、フリルは憑りつかせたはるを守る。
 そして。
(「はるさん、アヒルさん……あとはお願いします」)
 すうっと息を吸うと、フリルは歌を紡ぎ出した。
 それはフリルに憑りついたはるの歌。
 はるが持つ能力程に回復の力はないようだけれども。
 ゆるりゆるりと紡がれる長い黒髪のオラトリオの歌と、声を重ねるように響かせる。
 はるを守る、そのフリルの行動が成功するように……

成功 🔵​🔵​🔴​

南雲・海莉
杏さん(f16565)、祭莉くん(f16554)と
牢屋が破られたられたらはるさんの下に駆け寄って安否確認するわ
…大丈夫よ、リンデン
彼女の事、頼むわね

太陽の魔力を武器に宿すわ
「絶対に壊させはしない
はるさんもロゼさんも」
相手の攻撃に怯まず見切り
相手の狂気に対して立ち回りで存在感を放って意識を引き、皆の盾になる
両手の武器で受けつつ
皆の声が届くまで時間を稼ぐわ

「狂気を司るは月の魔力
なれば太陽の魔力を以て克す!」
ロゼさんの思い込みを、絶望をUCで切り崩す

「大丈夫、はるさんは無事よ
これでも医術の心得があるの、間違いないわ」

「ロゼさん、もう一度あなたの声を、言葉を聞かせて!
私達は何度だって助けに行くもの!」



 破られた血塗れの牢獄を褐色の影が走り抜ける。
 倒れたアリスのはるのすぐ傍で足を止めたそれは、褐色の毛並みを持つ、レトリーバー種に似た大型犬だった。
 キャスケット帽をちょんと頭に乗せたその背には、小さな翼が一対生えていて。
 心配そうに鼻先ではるをそっとつつきながら、翼を、そしてふっさりした尻尾をゆっくりと揺らしている。
「……大丈夫よ、リンデン」
 大型犬に追いついて、はるの傍にしゃがみ込んでいた南雲・海莉(With júː・f00345)が、落ち着かないその様子にふっと微笑み声をかけた。
 はるに意識はなく、琥珀色のはずの瞳は閉ざされたままだけれど。その身を汚す血は、はるのものではないし、呼吸も安定していると確認して。
 相棒と並んではるの様子を覗き込んでいた金瞳の少女にも安心させるように頷く。
 大きな帽子を被った少女も近づいてくるのを見ながら、海莉は立ち上がった。
「彼女の事、頼むわね」
 告げた言葉に、相棒の力強い鳴き声が返ってきて。
 その頼もしさにまた海莉の口元が緩む。
 でもすぐに、気持ちと共にそれを引き締めると。
「絶対に壊させはしない。はるさんもロゼさんも」
 海莉は漆黒の瞳で『ロゼ』を睨み据えた。
 オウガとして、真っ白な人狼の姿となった『ロゼ』。
 その周囲には、猟兵が現れたからだろう、人狼の幽霊が無数に喚び出されている。
 これまた大群の狼の霊が、人狼に群がるように襲い掛かり、その数を減らしているが。
 それでもまだ幽霊は『ロゼ』の前に、壁のように立ち塞がっているから。
 海莉は剣を抜き、道を切り開くために斬りかかった。
「……歌を」
 その背にかけられたのは、どこか眠たげな声。
 牢獄が海に、血臭が花の香りに、変えられた『世界』の法則を理解した海莉は。
 響く歌声を聞きながら、その旋律に自身の声も乗せて、剣を振るう。
 ことごとく攻撃が失敗する人狼の幽霊を他の猟兵と共に斬り伏せ、倒して。
 その向こうに立つ『ロゼ』に迫り行く。
「狂気を司るは月の魔力。なれば太陽の魔力を以て克す!」
 剣に込めるのは陽光の属性の魔力。
 その刃が狙うのは『ロゼ』ではなく、ロゼの思い込みと絶望。
「汝、希望を司るもの。その|軌跡《奇跡》をここに現せ!」
 海莉は剣の間合いの外で『ロゼ』に向けて剣を振るい。
 その剣風をロゼへと放つ。
 肉体を傷つけず、絶望のみを攻撃するユーベルコード『陽光斬』を。
「大丈夫、はるさんは無事よ。これでも医術の心得があるの、間違いないわ」
 ロゼの不安の根源を、その絶望の原因である誤認を、言葉でも打ち消して。
 おひさまのような白炎を纏う銀瞳の少年と共に、海莉はロゼへと手を伸ばす。
「ロゼさん、もう一度あなたの声を、言葉を聞かせて!
 私達は何度だって助けに行くもの!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、オウガだ!

あれ、もしかして、ロゼ姉ちゃん?
おひさまが首にかかってる。

よっし、アンちゃん、はるちゃんお願い。
おいら、ロゼ姉ちゃん取り返してくるー!

人狼は、満月ぽい雰囲気だとやる気出ちゃうよねー!
だから、ちょいとテンション下げよう?

隙を突いてダッシュで踏み込み、ゆべこ発動。
ふわっと白炎で包み込んで。

ロゼ姉ちゃん、だいじょぶだよ。
はるちゃんは無事!(アンちゃんに手を振り)

あれはアンちゃんが撒き散らしたケチャップだよ、きっと。
オムライス食べたいって言ってたからね♪
オウガのやる気を削ぎながら、武器受けからのカウンターぱんち!

海莉姉ちゃんもリンデンも来たよ。
帰っておいで?


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

ロゼ、人狼に乗っ取られた
人狼には満月病がある…(心配そうにまつりんにもちらりと目をやり)
今ははるに接触させては駄目
まつりん、ロゼをよろしく

逃げ足使いロゼを避けて牢屋までダッシュ
牢屋の柵は怪力で取っぱらってはるの傍へ向かおう
はる、大丈夫?
同じくはるの傍に来た人達と一緒に容態を確認しよう
UC発動
うさみん☆、はるに回復を施して?
そして十分回復したらそのまままつりんのサポートへ

はる、はる
痛いところがないか、そして心が落ち着くようにとじっと瞳を見つめ、友達が来たよ、とわたし達の存在を認識してもらおう
そして
はる、ロゼを救けて
はるの言葉が、想いがロゼを救けだせる



「アンちゃん、オウガだ!」
 血に塗れて赤い牢獄の中に浮かび上がるかのように白い人狼の姿を見た木元・祭莉(まつりん♪@sanhurawaaaaaa・f16554)は、警戒の声を上げた。
 指もさして示しながら、傍らの双子の妹を振り向くと。
「ロゼ、人狼に乗っ取られた」
 こくん、と頷く木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)。
 その言葉に祭莉は銀瞳を見開いて。また『ロゼ』へと振り返る。
 改めて白い人狼をじっと見つめた祭莉は、以前自分がロゼに渡した、黄色と橙のおひさま硝子を見つけて、ようやく気付いた。
「あれ、もしかして、ロゼ姉ちゃん?」
 短かった髪は長くなり。狼耳と狼尾が生えている。
 何より、硝子のように綺麗な青色が、その髪からも瞳からも消えていたから。
 祭莉がすぐに気付けなかったのも無理はない。
 ……難しい説明は聞き流して勢いで突撃する野生児だから、というのもありますが。
 ようやく現状を正しく理解した祭莉は、むう、と困惑を見せていた。
(「人狼には満月病がある……」)
 杏は、人狼という種族が、満月を見ると狂暴化する、その悲しき特徴を思い出し。
 心配そうな金瞳を、ロゼだけでなく、傍らの兄へも向ける。
 祭莉の頭にも髪色と同じ赤茶の狼耳があり、ふさふさの狼尻尾が揺れていた。
 でも祭莉は、友人の変貌に戸惑いながらも、杏がよく知る元気で明るいままで。
 いつもと変わらぬ姿に、杏はこっそり、ほっとした。
 そして杏は、しっかりとロゼに向き合い、そして牢獄にいるもう1人の友人に視線を向けて頷く。
「今ははるに接触させては駄目」
「はるちゃんもいるの?」
 祭莉はまたしても杏の言葉に驚いて、妹が見ている方向を見て。
 倒れているアリスのはるに、いた! と声を上げた。
 本当に説明を聞いていなかったんだなぁと思わせる言動に、しかし杏は、いつものことなので特に気にせず頷いて。
「よっし、アンちゃん、はるちゃんお願い。
 おいら、ロゼ姉ちゃん取り返してくるー!」
「ん。まつりん、ロゼをよろしく」
 でも瞬時に事態を判断し、適切な選択をする祭莉を信頼して。
 双子は別々の方向へと駆け出した。
 杏は、はるの元へ向かいがてら、牢獄の要素である鉄格子をその怪力でぐいっと広げ、ロゼを閉じ込めるものを取っぱらう。
 気休めかもしれないし、何の意味もないかもしれないけれど、この閉塞感を少しでも和らげられればロゼの気持ちも楽になるかもしれない、なんて思いながら。
 ロゼの為に小さなことでも何かしたいという気持ちを込めて。
 逃げられる牢獄に変えていく。
 すると、そこに聞き覚えのある声で、緩やかな歌が紡がれて。
 気付くと牢獄は海になっていた。
 ふわっと広がる花の香りが、酷い血臭を上書きしていく。
 入れ替わった世界に杏が目を見開くと。
 その傍らを、褐色の毛色の大型犬が駆け抜けたから。
(「はるもロゼも、友達たくさん」)
 他の猟兵の存在も頼もしく感じて。杏ははるの傍に辿り着く。
「はる、大丈夫?」
 問いかけに、はるは気を失ったままだったけれど。
 そっとはるの顔についた血を拭いてあげるオラトリオが淡く微笑み。
 はるが無傷であると手早くも的確に確認した黒髪の少女が力強く頷いた。
 大型犬もその尻尾をぱたぱたと嬉しそうに揺らしていたから。
 杏はほっとして。
 でも、目を開けないはるにそっと手を伸ばした。
「うさみん☆ はるに回復を施して?」
 その願いはユーベルコードとなってうさ耳付メイドさん人形を動かし。うさみみメイドさんは無造作に取り出した回復薬を、ぽいぽぽいとはるに投げる。
 これではるは大丈夫。
 だから杏は、双子の兄へと視線を向けた。
 杏とは逆にロゼに向かってダッシュした祭莉は、狼の霊と人狼の幽霊が戦い混乱する中に、鼻歌混じりに飛び込んでいた。
 立ちはだかる人狼の幽霊を、無造作なパンチで打ち消して。
 混戦の中から、見た目より簡単に抜け出すと。
「人狼は、満月ぽい雰囲気だとやる気出ちゃうよねー!
 だから、ちょいとテンション下げよう?」
 一気にロゼの前に踏み込んで。
 隙をついてのユーベルコード発動。
 おひさまのような白炎が、ロゼを含む辺り一帯を覆った。
 その炎はロゼを傷つけることなく、『ロゼ』のやる気だけを吸収するものだから。
 祭莉は、ふわっと白炎に包み込まれたロゼに、にぱっと笑いかけて。
「ロゼ姉ちゃん、だいじょぶだよ。はるちゃんは無事!」
 ほら、と示しながら振り向いて、杏に大きく手を振ってみせる。
「赤いのはアンちゃんが撒き散らしたケチャップだよ、きっと。
 オムライス食べたいって言ってたからね♪」
 手を振り返してくれた妹に、にこやかに濡れ衣を着せながら。
 安心させるように、おひさま笑顔を振りまいて。
「海莉姉ちゃんもリンデンも来たよ」
 剣を振るい、ロゼの絶望を切り落とそうとしている黒髪の少女と。
 はるの近くでナイトのように控える褐色の大型犬も指さして見せながら。
 他にも、ロゼの友達が、ロゼに声をかけるのを聞きながら。
 獣の本能とオウガの狂気で『ロゼ』が繰り出す攻撃を、しっかり見切ってあえて受け止めた祭莉は。
「帰っておいで?」
 そこからカウンターパンチを繰り出した。
 戦う兄の姿を、そしてロゼに向かう猟兵達を、杏はじっと見つめる。
 ロゼを助けるために集まった皆。
 投げかけられる多くの言葉。
(「でも、きっと……」)
「はる、はる」
 杏は傍らのはるに声をかける。
 まだ目覚めないアリス。
 その存在を、杏は真っ直ぐに見つめて。
 友達が来たよ、と伝えるように呼び掛けて。
「はる、ロゼを救けて」
 そして願う。
 ロゼと一緒にいたはるの言葉。
 きっとそれがロゼにとって一番だと思うから。
「はるの言葉が、想いが、ロゼを救けだせる」
 杏ははるに声をかけ続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
【白兎】
猫ぱーんち!
周りの地面を壊してオウガが動きにくくするの。

あなた、名前は?
ロゼちゃんに名乗ったから知ってるかもしれないけど、わたしはヘザーなの!
あなたは殺すのが好きなの?戦うのが好きなの?
みんな殺したあとはどうするの?つまんなくない?
相手が生きてたらまた壊しあえて楽しいの!
ロゼちゃんがいやじゃなければ、わたしが何回でも壊しあってあげるの!
だから今は、ロゼちゃんに体返してあげてくれない?

ダメそうならアリスの歌の時間かせぎなの。
なるべくキズつけたくないけど、アリスとはるちゃんがいるからだいじょぶよね。
相手の攻撃はジャンプやダッシュ、スライディングで避けるの。

ほら、二人とも!妹のアリスなの!


アリス・トゥジュルクラルテ
【白兎】
最初に、はるさんの、安否を、確認、して、アリスと、はるさんの、周囲を、浄化の、結界で、守る、です。
お姉ちゃんが、ロゼさんと、戦う、してる、間に、愛聖歌を、歌唱、して、オウガさんを、大人しく、させる、です。
これで、ロゼさんも、目を、覚ます、はず。
でも、お姉ちゃんの、説得が、上手く、いく、だったら、歌う、ない、です。
オウガさん、とも、お友達に、なれると、いい、です、けど。

ロゼさんや、お姉ちゃんたちの、手当を、しながら、お姉ちゃんの、お友達に、挨拶、する、です。
初めまして、ロゼさん、はるさん。
いつも、お姉ちゃんが、お世話に、なってる、です。
妹の、アリス、です。よろしく、お願い、する、です。



「はるさんは、無事、ですか?」
 髪色と同じ淡いピンク色の兎耳を垂らしたアリス・トゥジュルクラルテ(白鳥兎の博愛者・f27150)は、倒れたはるの元に駆け寄っていく猟兵達に、軽い吃音が特徴的な穏やかな声を心配気に投げかけた。
 血塗れで倒れている、まだ幼さの残る小麦色の髪の少女。
 その姿にアリスは胸を痛め。
 だが、医術の心得があるのか手早く状況を確認した黒髪の少女が大丈夫だと頷き、オラトリオがその顔の血を拭って苦痛の見えない表情を露わにし、うさみみメイドさん人形がぽいぽぽいと回復薬を投げ始めるのを見て。
 アリスはほっと息を吐き、微笑む。
 ユーベルコードの前では気休めだと分かっているけれど、浄化と結界の技能ではるの周囲を守り。それから振り向いたアリスは。
「猫ぱーんち!」
 元気に攻撃を繰り出す姉、ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)をその赤い瞳に捉えた。
 パンチと言いながらも繰り出したのは得意の蹴り。
 手は足だから足も手だと言い切るヘザーは、元気に立った兎耳や猫のような金瞳から、アリスと同じキマイラであることは一目瞭然。確かに兎や猫ならば、手も足ゆえに足も手だと言えるのかもしれませんが。
「猫ぱーんち!」
 やっぱり人狼の幽霊を蹴りで倒し、そして叩きつけた単純で重い一撃は、周辺地形すらも破壊していく。
 周りの地面を壊したら、オウガが動きにくくなるのではないか。
 オウガを取り巻く幽霊を蹴り払いながらもその先の戦いを見据え、ヘザーはまた蹴りを繰り出した。
「お姉ちゃんが、ロゼさんと、戦う、してる、間に」
 踊るように攻撃を続けるヘザーの姿に、アリスはぐっと胸元で手を握りしめ。
 すうっと大きく息を吸うと。
 その口から歌声を響かせた。
「嗚呼 愛しき女神 我らの想いを夢見た彼の者に 届け給え
 愛に飢えた子どもに無償の愛を 愛を知らぬ我らに女神の愛を……」
 聖なる魔力を籠めた、愛の女神の聖歌『愛聖歌Ⅰ』。
 相手の邪神のみを攻撃する歌声を、小鳥が囀るように、星が瞬くように、ささやかに出も美しく広げていく。
 きっとロゼにも歌声が届いて。
 きっと『ロゼ』から助け出せると信じて。
 ロゼが目を覚ましてくれるように祈りながら。
「オウガさん、とも、お友達に、なれると、いい、です、けど」
 ぽつりと零れた願いも、歌声に乗せて。
 戦う姉の背を支えるように、アリスはアリスの戦いを繰り広げた。
 その美しい声に、ヘザーはふっと微笑みを浮かべ。
 人狼の幽霊を蹴り消して、ようやく辿り着いた『ロゼ』を真っ直ぐに見据える。
「あなた、名前は?」
 唐突な問いかけに『ロゼ』の赤い瞳が訝し気に歪んだ。
 睨むようなその表情に気圧されることなく、ヘザーは変わらぬ口調で語りかける。
「ロゼちゃんに名乗ったから知ってるかもしれないけど、わたしはヘザーなの!」
 自己紹介と共に繰り出された蹴りは、『ロゼ』が獣の本能のままに繰り出した蹴りに受け止められ。そのまま、狼爪が鈍く光る狂気に満ちた手刀が振るわれるけれど。
 大ぶりなその攻撃をヘザーはあっさりと見切り、ぴょんっとジャンプして躱した。
「あなたは殺すのが好きなの? 戦うのが好きなの?
 みんな殺したあとはどうするの? つまんなくない?」
 そしてまた蹴りと共に言葉を重ねて。
 友人となったロゼにではなく。
 今相対している『ロゼ』に向き合っていく。
「相手が生きてたらまた壊しあえて楽しいの!
 ロゼちゃんがいやじゃなければ、わたしが何回でも壊しあってあげるの!
 だから今は、ロゼちゃんに体返してあげてくれない?」
 だがしかし、返ってくるのはヘザーを拒絶するような攻撃ばかり。
 その拳を兎のように軽やかに避けて、その蹴りを猫のようにしなやかに躱し。
 ならばとヘザーもまた、パンチと言いながら蹴りを繰り出す。
(「なるべくキズつけたくないけど」)
 言葉が届かないならその身を以って伝えるしかないと。
 手加減せずに『ロゼ』に向かって行く。
 きっとそれがロゼを取り戻すために必要な事。
 それに。
(「アリスとはるちゃんがいるからだいじょぶよね」)
 にっと笑ったヘザーは、自身を包む美しい旋律に兎耳を揺らしながら、また『ロゼ』に向けて地を蹴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
オウガも猟書家も流石に下衆で
胸糞悪いぜ
ロゼを取り戻す

戦闘
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う
ロゼの体だからって遠慮はなしだ
手を抜いてたらロゼを取り戻せないからな

大剣の連撃を放ちつつ
人狼の体に紅蓮の炎を延焼させてく

避けられても
剣が削った地面から延焼し
オウガを囲むように炎の壁を生み出す

破魔や浄化を宿した炎が
獣の本能や狂気を焼却し
オウガの力を弱体化させてくぜ

顔色悪いぜ?
大人しく引っ込んだ方が身の為じゃないか

声かけ
はるは大丈夫だ
怪我一つしてやしない
全部があんたの心を絶望に染める為の策略だ
ここであんたが屈したら
はるが悲しむ
はるの隣に帰って来るんだ

事後
お帰り
お疲れさんっと

悔やむ事はないぜ
猟書家の策略だ

俺たちがいる
例え何度だって取り戻してやるから
安心してくれよな

次いでに言わせてもらうけど
もし仮にはるに万が一のことがあっても
自分を責めて自暴自棄になるのはダメだ
友達がそうなることを
はるは一番望んでいない
友達を思うなら
どんな時でも自分を大切にして
前を向いて進むんだ、ってな

さて黒幕のお出ましだ
やれるか?



 閉ざされた牢獄。血塗られた部屋。
 それは恐らくロゼの絶望を具現化したものだったのだろう。
 だとするならば。
 倒れ動かない血塗れの友人。
 それこそがロゼがアリスとなった所以なのかもしれない。
 だとしても。
「胸糞悪いぜ」
 それを無理矢理突き付け、見せつける猟書家に。
 絶望をより増幅させて現れた、白狼のオウガに。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は不快気な表情を隠そうともせず、吐き捨てるように呟いた。
 刃に『焔摩天』の文字が輝く巨大剣を、その憤りのままに握りしめ。
 いつも戦う時と同じように、油断も手加減もなしに構える。
「ロゼの体だからって遠慮はなしだ。
 手を抜いてたらロゼを取り戻せないからな」
 覚悟と共に、刃を走る獄炎。
 紅蓮の大剣となった焔摩天を『ロゼ』に突き付け、いつものように口元に不敵な笑みを浮かべるけれど。それはいつもより少し固く。緊張のようなものが見てとれて。
「ロゼを取り戻す」
 それでも、決意を抱き、ウタは地を蹴った。
 まず目の前に立ちはだかったのは、人狼の幽霊の群れ。喰い殺された上に狼へと変貌させられた幽霊は、自身の嘆きを、無念をウタにぶつけるように、そしてこの狂気へ引きずり込もうとするかのように、ウタへ襲い掛かってくる。
 その怨嗟の咆哮に少し顔をしかめつつも、ウタは焔摩天を振るい。
 纏う獄炎で薙ぎ払い、さらに進む。
 白い人狼の姿をした『ロゼ』へと。
 そして、その内に眠るロゼへと。
 大剣の連撃を繰り出し、狼の霊の群れにも助けられながら道を切り開き、ウタは迫る。
 その途中、美しい歌声が聞こえたと思った途端、景色が変わった。
 薄暗い牢獄が、穏やかな海に。
 鉄錆の異臭が、優しい花の香りに。
 世界が入れ替わったかのように激変する。
「なんだよ、これ」
 驚いたのはウタだけでなく『ロゼ』もだったようで。
 慌てつつも驚愕の表情で、美しき『逆さま世界』を見回した。
 とするとこれは猟兵側のユーベルコードか、とウタが理解したところに。
「……歌を」
 小さく、でもはっきりと聞こえた指示の声。
 そのキーワードで、変化した世界の法則を察したウタは。
 にっと笑うと、歌を口ずさみながら『ロゼ』に斬りかかった。
 手加減抜きの剣戟は『ロゼ』の白い身体をしっかりと捉え。
 紅蓮の炎を延焼させていく。
 すぐに『ロゼ』はその炎を自身の白炎で打ち消すけれど。
 ウタの剣は、紅蓮は、次々と『ロゼ』に傷を増やし。
 次第に赤瞳に焦燥の色が見えてきた。
「顔色悪いぜ? 大人しく引っ込んだ方が身の為じゃないか」
「うるさいな。それならお前たちから先に壊してやるよ!」
 ウタの挑発に『ロゼ』は、獣の本能と己の狂気に身を任せると、戦闘力強化のユーベルコードを用いて、鋭い爪を、燃え上がる白炎を、さらに強くウタへ向かわせる。
 おっと、とウタが一度間合いを開けたところに。
 歌声に包まれて飛び込んできたのは、兎耳を揺らすキマイラの少女。
 迎え討つように、狼爪が鋭く光る手刀が振るわれるけれども。
 少女は大ぶりなその攻撃を、ぴょんっと躱して。
「あなたは殺すのが好きなの? 戦うのが好きなの?
 みんな殺したあとはどうするの? つまんなくない?」
 蹴りと共に、言葉を重ねる。 
「相手が生きてたらまた壊しあえて楽しいの!
 ロゼちゃんがいやじゃなければ、わたしが何回でも壊しあってあげるの!
 だから今は、ロゼちゃんに体返してあげてくれない?」
 しなやかに、軽やかに、繰り出される体術。
 それに合わせるように。ウタも再び『ロゼ』へと接近し、焔摩天を振るう。
 強化された『ロゼ』の身体能力に、今度は剣を避けられたけれども。
 ウタは気にせずそのまま焔摩天を振り下ろし、むしろ地面に叩き付けるようにして。
 刃の炎を周囲へも広げ、『ロゼ』を囲むように炎の壁を生み出した。
 破魔の力を、そして浄化の力を宿した炎。
 それで『ロゼ』を包み込み、弱体化を狙って。
「ロゼ。聞こえてるな」
 ウタはロゼへと語りかける。
「はるは大丈夫だ。怪我一つしてやしない。
 全部があんたの心を絶望に染める為の策略だ」
 一度間を開けたその時に、ウタはアリスのはるの様子をちらりと確認していた。
 はるは倒れたままだったけれども。
 駆け寄った少女達の安堵の表情と。はるを護ろうとする動き。
 それらで大丈夫だと判断して。
 そのことを誰よりもロゼに教えてやりたいと。
 ウタは剣に、言葉を、思いを、乗せる。
 そして何よりも、伝えたいのは。
「そこの女、とっとと目を覚ませ。
 オウガの意志によるものとはいえ、大切な友を自らの手で殺めるつもりか?」
 赤い布で目元を隠した猟兵の、どこか厳しい、でもロゼの心の強さを信じた思い。
 それは違う言葉ではあったけれど、ウタの思いと同じものだったから。
「ここであんたが屈したら、はるが悲しむ。
 はるの隣に帰って来るんだ」
 ウタはその続きを紡ぐように、ロゼへと心の手を伸ばす。
 そこに飛び来るは、間合いの外からの剣風。
「ロゼさん、もう一度あなたの声を、言葉を聞かせて!
 私達は何度だって助けに行くもの!」
 絶望のみを攻撃し、ロゼの不安の根源を絶ち斬ろうとする陽光の剣技を、長い黒髪の少女が何度も放ち。
「起きてくださいな……貴方はひとりじゃないですよ……」
 世界を変えた歌声の合間に、眠たげでおっとりとした、でもしっかりとロゼに向けられた声も紡がれていく。
 重なる思いに、重なる攻撃に。
 どんどんと『ロゼ』の顔色は悪くなり、余裕が消えていき。
「……るさい、うるさい、うるさい!
 この身体はボクのものだ! ボクが全部殺して、ロゼも壊すんだ!」
 白炎を放ちながら、鋭い爪が光る手刀を振り回した。
 ウタはそれを剣で受け流し。他の猟兵もそれぞれにかわす中で。
 見切った上であえて受け止めに行ったのは、茶色い人狼の少年。
「帰っておいで?」
 攻撃を受けることで生み出した隙に、ロゼへの優しい言葉と、『ロゼ』へのカウンターパンチを繰り出して。
 大きく吹き飛ばされ、転倒する『ロゼ』。
 すぐに『ロゼ』は起き上がるけれども。
 殴られた部分を、斬られた傷を、押さえながらの動きには、負傷の影響が感じられ。
 そして、顔をしかめて虚空を睨み付けると、自分の頭を押さえる。
「……うるさい! 黙って壊されてろ!」
 呻くような声は猟兵に向けられたものとは思えず。
 まるで『ロゼ』にしか聞こえない声に反論しているような……
「ロゼ!」
 届いている、と。
 確信したウタが、その名を呼んだ、その時。
「ロゼさんっ!」
 別の声が、ロゼに届けられる。
 はっとして振り向いたウタが見たのは、目を覚まし、しっかりと立ち上がってこちらを見つめるはるの姿。
 そのすぐ横で、大きな帽子を被った銀髪の少女が、役目は終わったとばかりにへたり込んだのと。短い黒髪の少女と褐色の毛並みの大型犬がはるに寄り添い、また守るように傍に立っているのも見て。
 ふっとウタの口元に安堵の笑みが浮かぶ。
 そしてはるは。
 長い小麦色の髪を揺らし。そこに飾られた鈴をりりんと鳴らし。
 おそらくロゼが何よりも望んでいたであろう声を、張り上げた。
「あたしは大丈夫です!
 あたしは……あたしたちは、壊れたりしませんから!」
 その声に背を押されるように、ウタは再び地を蹴る。
 焔摩天を握りしめ、『ロゼ』に向かって。
 地獄の炎を噴出した勢いも乗せて。
 炎の大剣で斬りかかる。
「…………っ!」
 大きく開かれた『ロゼ』の口から声なき悲鳴が聞こえた気がする中で。
 ウタは『ロゼ』を斬り伏せて。
 倒れた『ロゼ』に油断なく剣先を向けて。
 そのまま『ロゼ』が動かないのを、しばらく見つめていた。

 そして。
 気付けば白く長かった髪が、青く、短くなって。
 白い狼の耳と尻尾が、消え去って。
 ゆっくりと。
 ロゼは身を起こす。
 怖々と辺りを見渡すその瞳も、硝子のように美しい青色に戻っていた。
「お帰り、ロゼ」
 その様子に、ウタはようやく焔摩天を収め、お疲れさんっと笑いかける。
 ウタを見上げた青瞳が、戸惑いに揺れたけれど。
 それがロゼの動きに繋がる前に。
「ロゼさん……っ」
 駆け寄ってきたはるがロゼに抱き着いた。
 はるはそのままロゼの胸で泣くかのように肩を震わせ。
 驚いて目を見開いていたロゼは、次第に申し訳なさそうに顔を曇らせる。
「……あの、私……」
「悔やむ事はないぜ。猟書家の策略だ」
 だから先に、ウタはにっと笑って話しかけた。
「俺たちがいる。
 例え何度だって取り戻してやるから、安心してくれよな」
 言いながら、ロゼの元に集まってきた猟兵の皆を指し示せば。
「そうそう。おいらも杏ちゃんも、澪姉ちゃんも。
 それに海莉姉ちゃんとリンデンもいるよ!」
 ぱたぱたと茶色い狼尻尾を揺らしながら、にぱっとおひさま笑顔が輝き。
「お帰りなさい、ロゼさん」
 長い黒髪の少女が微笑む横で、褐色大型犬が一吠え鳴く。
 そこに兎耳のキマイラ姉妹が、妹が姉に押される形で飛び込んできて。
「ほら、2人とも! 妹のアリスなの!」
「初めまして、ロゼさん、はるさん」
 にこにこ元気にウサギ耳を立てた少女の紹介に、おっとりとした垂れ耳ウサギなキマイラ少女がぺこりとお辞儀をする。
「いつも、お姉ちゃんが、お世話に、なってる、です。
 妹の、アリス、です。よろしく、お願い、する、です」
「あなたが『アリスさん』ですね」
 妹がいるとその名を聞いたことのあるはるが、嬉しそうに微笑む傍で。
 ロゼは青い瞳を瞬かせていて。
「俺も名乗ろうか? 黄泉川・宿禰だ」
 続く、赤い布で目元を隠した少年の、少し面白がるような自己紹介と。
 があ、と鳴いて胸を張るアヒルちゃん型ガジェットを、見つめる。
「アヒルさんは名乗らなくていいんですよ。
 わたしたちはもうはるさんとロゼさんの友達ですから。
 ……え? アヒルさんはそうだけどわたしは違う? そんな酷いですアヒルさん」
 大きな帽子を被った少女が、ガジェットと何やら言い合うのも見て。
 また青い瞳をぱちくりさせると。
「友達増えたね、ロゼ姉ちゃん」
「ん。みんな友達」
 にぱっと笑うおひさま笑顔と、寄り添う優しい慈しみの笑顔。
 そんな双子の言葉が、ロゼに実感を抱かせたようで。
「友達……」
 確かめるように口にしたロゼは、固く握りしめていた左手を、ゆっくりと開く。
 そこに輝くのは2つの硝子。
 青色の星型硝子と。
 黄色と橙のおひさま硝子。
 大好きな『硝子の森』でロゼが手に入れた、決意と友達。
 きらきら輝くそれを見つめて、ロゼの表情がくしゃっと歪む。
 ぽろぽろと零れる涙。
 オウガにその身を奪われ、皆を傷つけてしまったことを悔やみ。
 それでも側にいてくれる友達を嬉しく思う。
 複雑な気持ちを心の内に留めておけず、溢れ出してしまったかのように。
 ロゼは、泣いて。
「ごめん、なさい……」
 掠れた声で紡がれた言葉に、ウタは優しい苦笑を浮かべた。
「ついでに言わせてもらうけど……
 もし仮にはるに万が一のことがあっても、自分を責めて自暴自棄になるのはダメだ。
 友達がそうなることを、はるは一番望んでいない」
 涙に濡れた青瞳が見上げてくるのを、穏やかに受け止めて。
 でも、違うよとしっかり伝えるために。
「友達を思うなら、どんな時でも自分を大切にして、前を向いて進むんだ、ってな」
 ウタはゆっくりと、でも力強く告げると。
 にっと笑って見せた。
「自分を、大切に……」
 言葉を繰り返すロゼに、思いが沁み込んでいくのを感じて。
 ふっと下を向いて、言葉を噛みしめるように考えるロゼを見つめていると。
 再び顔を上げたロゼは。
 まだ少しぎこちないながらも、笑みを浮かべて。
「……助けてくれて、ありがとう」
 言葉を変えて、告げた。
「お帰りなさいです」
 はるが嬉しそうに応えれば。
 猟兵達もまた改めて、その帰還を喜ぶように、言葉を重ねた。
 優しく温かい思いに包まれて、またロゼが泣きそうになっていたけれども。
 その気配を察して、ウタは表情を引き締める。
 他にも気付いた猟兵達と共に振り返ると。
 そこに不気味な影が見えたから。
「さて、黒幕のお出ましだ。やれるか?」
 振り向かずに告げたウタに、ロゼが頷いた気配が伝わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』』

POW   :    真実の赤い薬
対象への質問と共に、【赤い薬】から【対象が目を逸らし続けてきた真実の亜空間】を召喚する。満足な答えを得るまで、対象が目を逸らし続けてきた真実の亜空間は対象を【オウガとして具現化されたトラウマ】で攻撃する。
SPD   :    虚構の青い薬
小さな【青い薬】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【夢と思えぬ仮想現実だが、夢だと見破る事】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    アルミラージの秘薬
【アリス適合者の絶望、オウガブラッドの苦痛】【バロックメイカーの恐怖、殺人鬼の狂気から】【精錬した自己再生薬『アルミラージの秘薬』】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。

イラスト:key-chang

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は榊・霊爾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 いつの間にか、周囲は暗い闇が広がる不気味な世界になっていた。
 閉ざされた牢獄でも、血塗れの部屋でもない。
 もちろん穏やかな海でもない。
 地面も空も真っ黒で。壁も鉄格子も何もない空間がどこまでも続いている。
 そこに、ぽつんとその人影は現れていた。
 血のような赤い汚れがついた黒く重苦しいローブに身を包み。長い耳がついているかのような大きなフードの下に、大きな目を1つ赤く描いた黒い布で上半分を覆った顔が、病的なまでに白い口元ににたりと笑みを浮かべている。
 そしてその頭部には、奇妙な形の赤い角が大きく左右に生えていて。
 ローブの下でそっと合わせた両手の上に、怪しい赤と青の光を浮かべていた。
 長い髪や艶やかな口元、スカートのように膝丈で広がるローブのデザインと、黒いブーツを細い脚が綺麗に揃えられたその所作から、女性のように思えるけれど。顔が見えず、体格がローブに隠されているから、華奢な男性、という可能性もある。
 つまり、得体の知れない見た目の相手。
 ただ1つ確かなのは。
 この存在こそが、ロゼを捕らえ苦しめたオウガ、猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』であると、いうこと。
 それだけ分かれば充分とばかりに、構える猟兵達だったが。
「問おう」
 戦いの前に、薬師の白い口が動く。
 紡がれたのは女とも男とも思える中性的で冷たい声だった。
「汝が絶望した真実は何か」
 その右手に赤い光を……赤く輝く薬を浮かべ。
「汝が切望する虚構は何か」
 その左手に青い光を……青く輝く薬を浮かべ。
 にたり、と白い口を歪めると。
「その絶望を、その苦痛を、その恐怖を、その狂気を、我に捧げよ。
 そして、我が秘薬の……不老不死薬の素材となるがいい」
 トラウマを掘り起こす赤い薬と。偽りの世界に閉じ込める青い薬は。
 薬師の手から猟兵達へと放たれた。

 りりん。
 
フリル・インレアン
ふええ、はるさんもロゼさんも無事でよかったです。
あのアヒルさん、はるさんが私の中で歌ったシンフォニック・キュアの効果が弱かったのは私が音痴だからと言いたそうですね。
そんなことはないと思います。
はるさん程上手ではありませんが私でも出来ると思います。
そんなこと言っている場合ではなかったですね。
猟書家さんの相手です。
その攻撃はしっかり防いで、没収の魔法です。
ロゼさん達の苦痛を込めたフォースフライパンの攻撃です。



 涙を拭って笑顔を見せる短い青髪のロゼと。
 その傍で嬉しそうに笑う長い小麦色の髪のはる。
 2人のアリスを改めて見つめたフリル・インレアン(f19557)は。
「ふええ、はるさんもロゼさんも無事でよかったです」
 ほっと息を吐いて微笑んだ。
 オウガに奪われていたロゼの身体を、蝕まれかけていたその心を、取り戻せたことを。
 ロゼを壊すために共に囚われていたはるを護れたことを。
 2人の笑顔からじわじわと実感して。
 ふと、フリルは視線を感じると、自身の手元を見下ろす。
 そこにあるのは、アヒルちゃん型のガジェット。
 小さな白い身体をフリルの両手の上にちょこんと乗せたガジェットは、黄色いくちばしの上の円らな黒い瞳でじっとこちらを見つめていた。
「……あの、アヒルさん。はるさんが私の中で歌ったシンフォニック・キュアの効果が弱かったのは私が音痴だからと言いたそうですね」
 間違ってもロゼがはるを傷つけないようにするために。気を失い倒れていたはるを護るために。フリルが選んだユーベルコードは、自身を依代にして、幽霊に変えたはるを迎え入れるものだった。
 これならば、気絶したはるが無防備な状態でいるのを防げるし、フリルという依代がはるを護る鎧になれると思ったくらいで。はるに戦って欲しくてユーベルコードを使ったわけではなかったから、戦闘力が落ちるのは気にもしていなかったのだけれども。
 まさかの指摘に、フリルは心外とばかりに頑張って怒って……
「そんなことはないと思います。
 はるさん程上手ではありませんが私でも出来ると思います」
 あれ? 反論は『ユーベルコードの効果だから仕方ない』ではなく『音痴じゃない』の方でしたか。
 そんなこんなで、ガアガア、違います、としばし仲良く言い合って。
 ようやく、状況に気付いたフリルが、はっとして下を向いていた顔を上げた。
「そんなこと言っている場合ではなかったですね」
 血塗れの牢獄から、真っ黒で何もない空間へ、変化した周囲の様子と。
 そこにぽつんと佇みこちらを見つめる不気味な人影。
 猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』。
 その手袋に覆われた黒い手から、奇妙な赤い薬と青い薬を放ち、ロゼを、はるを、猟兵達を、その不可思議な効果に捕えようとしていたから。
「そうはさせませんよ」
 フリルは、薬を放った後の隙へと駆け寄って。
 その接近に気付いた薬師が、自己再生薬『アルミラージの秘薬』により自身を強化して迎え撃とうとしたところで。
「変な薬を作る猟書家さんには、没収の魔法です」
 しっかりとその攻撃を防御し、それにより得た『お仕事に不要な物を取り上げる没収の魔法』の効果で奪ったのは、秘薬の原料らしき『オウガブラッドの苦痛』。
 フリルはそれを、サイキックエナジーで形作った『フォースフライパン』に込めると、薬師に向けて思いっきり振り抜く。
 ロゼが薬師から受けた心と体の苦痛を、そのまま叩き返すかのように。
 フリルのフライパンは、薬師の頭で見事な程の音を響かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黄泉川・宿禰
SPD ※アドリブ連携等歓迎
偽りの世界:怪異にその身を蝕まれた妹が、普通の人間として、平和に生きている世界

幸せそうな妹の姿
微笑ましいことだ
現実がそうであればどれだけ良かっただろう

だが、現実は
父の手によって母は死に、俺と妹は人外の身となった

UC、発動
夢を見る時間は終わりだ
餓鬼魂を召喚し、偽りの世界を喰らい尽くす

こんな風に
妹と、「友達」が笑って過ごせる世界を創る。
改めて、そう決意を固める


──さて、「ロゼ」よ。待たせたな
「友達」の一人として、改めて俺も手を貸そう
一緒にあの猟書家を倒すぞ

後ろからの援護射撃なら任せておけ
もう、誰も傷つけさせはしない
偽りの世界で、そう誓ったんでな
死ぬ気でやってやるさ



 投げ放たれた虚構の青い薬が黄泉川・宿禰(f29564)に触れる。
 途端、宿禰の前に1人の少女が現れた。
 艶やかな長い黒髪をふわりと揺らし、憂いのない無垢な笑顔を浮かべて。
 華やかなサクラミラージュの街並みを楽し気に歩いて回る、普通の少女の姿。
「……宿儺、か」
 それは宿禰の妹。犯罪者の父の手で怪異を埋め込まれ、その身を蝕まれた娘。
 だが、今宿禰の目の前で微笑む少女は。
 普通に日々を暮らし。普通に毎日を楽しみ喜び。
 平和に、生きていた。
 微笑ましく。
 そして……悲しい光景。
 宿禰は顔を隠す赤い布から唯一見える口元を、きゅっと結んだ。
(「現実がこうであればどれだけ良かっただろう」)
 母が父の手によって死ぬことなく。
 妹が人外の身とならず。
 宿禰も水子としてそのまま消え、怪異に取り込まれることもなかったならば。
 妹は、こうして幸せそうに過ごせたのだろう。
 しかし、現実は――。
「夢を見る時間は終わりだ」
 宿禰は結んだ口元をふっと緩めて。周囲に餓鬼魂の群れを放った。
 飢餓状態の餓鬼魂は、全てを貪り喰らおうと襲い掛かり。
 青い薬が創り出した偽りの世界を喰らい尽くしていく。
 華やかで平和な街並みも。
 そこで幸せに笑う妹も。
 消えていくけれど。
(「こんな風に宿儺が……宿儺と『友達』が笑って過ごせる世界を創る」)
 宿禰は改めて、決意を固めて。
 口元の笑みを苦笑に変える。
(「……友達、か」)
 ちらりと赤い布越しの視線を向けた先にいるのは、青髪のロゼ。
 友達を思い、自身の中に居るオウガに負けずに自分を取り戻したアリス。
「さて、ロゼよ。待たせたな。
 『友達』の1人として、改めて俺も手を貸そう」
 立ち上がったロゼに、その背を押すように声をかけ。
 世界を喰らい終えた餓鬼魂をまた周囲に従えると、見据えるは猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』。
「一緒にあの猟書家を倒すぞ」
 言いながら、宿禰は、感じたこそばゆさに苦笑を隠せない。
 ロゼの『友達』。
 それは、はるのことであり、顔見知りらしい猟兵達のことだと思っていたから。
 まさかそこに宿禰自身も入るとは思ってもいなかった。
(「面と向かって言われると、なんだか気恥ずかしいものだな」)
 心地良いむずがゆさを宿禰は振り払うと。
 激励したロゼが地を蹴るのに合わせて、餓鬼魂を操った。
「もう、誰も傷つけさせはしない。偽りの世界で、そう誓ったんでな」
 ロゼを援護するように、餓鬼魂が、薬師へと貪り喰らいついて。
 黒いローブのような服やマントが、流血に赤く染まっていくのを見ると。
 宿禰は不敵な笑みを浮かべる。
 薬師が望む絶望を捧げてなどやらない。
 もう友達を苦痛に苦しませはしない。
「今度はお前が『絶望』する番だ。とくと味わえ」
 妹とロゼの笑顔を胸に思い浮かべ、宿禰は微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
【白兎】

ふろーふし?
ふーん。そんなに死にたくないんだ。へんなの。

リボンをほどいて速さを上げてクスリを避けるの。
それでももしも吸い込まれたら、きっとアリスと恋人がわたしよりも先に死なない、わたしを殺してくれる夢を見るの。
うれしい、ありがとう。
でもウソ。だって二人ともやさしいから、わたしを殺してくれないの。だからいつかわたしの命をぜんぶアリスにあげてわたしは死ぬの。

あなたのことは壊すんじゃなくて殺してあげるの。
攻撃を避けずに顔がわからなくなるくらい爪でズタズタに殺してあげる。お父さんの時みたいに。
ほらオウガくん、殺すのぜんぜん楽しくないの。

…うん、帰るの。
(ロゼちゃんとはるちゃんに怖がられたかな)


アリス・トゥジュルクラルテ
【白兎】

不老不死は、年を、取る、ないで、寿命が、ない、事。
(アリスだって生きたいけど、ただ人並みに生きたいだけ。不老不死なんてゴールのないマラソンと同じなのに)

はるさんの、そばを、離れる、ない、ように、して、浄化の、結界術で、守る、です。
はるさん。回復は、任せる、です。
あちらが、強化、する、なら、こちらも、愛聖歌Ⅱで、お姉ちゃんや、みんなを、強化、です。
痛みも、苦しみも、乗り越える、して、ここに、いる、から。大丈夫、です。

お姉ちゃん。待ってる、人が、いる、から、帰る、しよう?
ロゼさん、オウガさんと、たまに、お話、して、あげて、下さい。きっと、閉じ込める、されて、窮屈な、だけ、だと、思う、です。



 赤い薬と青い薬を手にして。
 絶望を、苦痛を、恐怖を、狂気を、よこせと告げる不気味なオウガ――猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』。
 その目的は。
「ふろーふし?」
 聞いた言葉を繰り返し、ヘザー・デストリュクシオン(f16748)はこくんと首を傾げ、長いウサギ耳を揺らした。
「ふーん。そんなに死にたくないんだ。へんなの」
 欠片も理解できない、といった様子に、妹のアリス・トゥジュルクラルテ(f27150)は赤い瞳を揺らし。垂れたウサギ耳をさらにしゅんとさせる。
「お姉ちゃん……」
 快楽主義者で、自身が傷付くことを厭わないヘザー。
 その身を心配しながらも、しかしその在り方を否定することはアリスにはできず。
 だから、生きて欲しいと願うしかできないけれど。
「不老不死は、年を、取る、ないで、寿命が、ない、事……」
 それでもアリスは、薬師と同じものは望まない。
 ヘザーに生きていて欲しい。
 アリスだって生きたい。
 でもそれは、ただ人並みに生きたい、だけだから。
(「不老不死なんてゴールのないマラソンと同じなのに」)
 アリスはふるふると首を左右に振り、白く長い髪をふわりと揺らしながら。
 胸元で両手を組み、ぎゅっと握りしめた。
 そこに飛んできたのは、虚構の青い薬。
 あっと思った時には、アリスの前にヘザーがいて。鋭い猫の爪が振るわれ。
「……あれ?」
 急に目の前に現れた人影に、ヘザーはまた首を傾げた。
 長い黒髪。赤褐色の外套。精霊剣を携えたその男性は。
 ヘザーが愛した恋人。
 だが彼は、ヘザーに冷たい黒瞳を向け。手にした剣でヘザーを貫く。
「あ……」
 猫のような金瞳を見開いたヘザーが、倒れながら傍らを見ると。
 そこにはヘザーが愛する妹のアリスが、いて。
 その口から紡がれた歌が、ヘザーの魂魄を削っていく。
 大好きな人達に殺されるヘザーは。
「うれしい。ありがとう」
 自身の望む結末に、満面の笑みを浮かべた。
 愛した人がヘザーより先に死なず。愛した人がヘザーを殺してくれる……夢。
「でも、ウソ」
 そう、これは夢だ、とヘザーは笑顔で理解する。
(「だって2人ともやさしいから」)
 妹も恋人も、ヘザーを殺してはくれない。
 だからヘザーは願うのだから。
 いつか――。
(「いつかわたしの命をぜんぶアリスにあげてわたしは死ぬの」)
 虚構の青い薬が創り出した仮想現実を見破り、真っ暗で何もない元の空間に戻ったヘザーは、胸元の青いリボンを解いて外しながら駆け出した。
 身軽になって。スピードを上げて。
 もう変な薬に捕らえられたりしないで。
 薬師へと迫り、鋭い猫の爪を振るう。
「あなたのことは壊すんじゃなくて殺してあげるの」
 薬師は自身をアルミラージの秘薬で強化して迎え撃つけれども。
 ヘザーは攻撃を一切避けることなく。
 傷つきながら、それ以上に薬師に傷を刻んでいく。
「顔がわからなくなるくらいズタズタに殺してあげる。お父さんの時みたいに」
 自分のか薬師のか分からないほどの赤に塗れて。
 執拗に傷つけ、そして傷ついていくから。
「はるさん。回復は、任せる、です」
 はるのそばを離れずに、浄化の結界術を広げていたアリスは、そう言ってすうっと息を吸い込んだ。
 姉が外した青いリボンを、揃いの赤いリボンの前でぎゅっと握りしめながら。
 紡がれるのは祈りの歌。
「嗚呼 愛しき人よ 忘れはしない 君との思い出 君への愛を
 遠く離れていても 変わらず君想う 女神の御許で 永久に幸あれ……」
 相手を鼓舞し、細胞を活性化させて戦闘力を強化する『愛聖歌Ⅱ』。
 美しき妙なる歌声に力強さも湛えて。
 戦う皆を支えていく。
 そこに重なるのははるの歌声。
 優しく温かい回復の旋律。
 アリスは、懸命に歌うその姿に、立ち向かっていこうとするその心に、ふっと赤瞳を微笑ませて。
「痛みも、苦しみも、乗り越える、して、ここに、いる、から」
 はるにも届ける、鼓舞の歌。
「大丈夫、です」
 絶望なんてしなくていい。
 苦痛を恐れなくていい。
 ちゃんと前を向いて、歩いていけているのだから。
 共に歩いてくれる人がいるのだから。
(「アリスもお姉ちゃんもいますから」)
 大丈夫。
「ロゼさん」
 そしてアリスは、ロゼにも振り返り、微笑む。
 ロゼに。そして、その身の内の『ロゼ』に。
「オウガさんと、たまに、お話、して、あげて、下さい。
 きっと、閉じ込める、されて、窮屈な、だけ、だと、思う、です」
 穏やかな言葉に、ロゼが青瞳を見開いた。
 思ってもみなかったこと、だったのだろう。
 戸惑い揺れる青に、アリスは優しく微笑んで。
「ほらオウガくん、殺すのぜんぜん楽しくないの。
 それよりもアリスといる方がぜんぜん楽しいの!」
 そこにヘザーが声を飛ばした。
 その間にも、ヘザーはウサギのように跳び猫の爪を振るい、傷つけ傷つけられていて。
 赤く染まるその身に、はるが必死に歌を紡いでいたから。
「お姉ちゃん」
 アリスは、今度はヘザーに手を差し伸べる。
「待ってる、人が、いる、から、帰る、しよう?」
「……うん、帰るの」
 優しく抱きしめるように。
 戻ってきたヘザーの手を、そっと握りしめ、繋ぐ。
 共に歩いていく。
 共に生きていく。
 それを祈り、願って。
 アリスはふんわりと微笑んだ。
 そんな妹のやさしさに包まれて。
 ヘザーは少し困ったような複雑な微笑を浮かべると。
 その額をアリスの肩に乗せるように、そっと寄りかかる。
(「ロゼちゃんとはるちゃんに怖がられたかな」)
 俯き気味になった視線に、自身の血に汚れた身体を映しながら……

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
不老不死を求める気持ちは、わからなくはないですね……
そのために犠牲を求める気持ちは、わからないですが

青い薬に目を瞬けば別の場所
サムライエンパイアのとある屋敷、日の当たる縁側
枯山水の庭を見ながらぼんやりとする時間
ぽかぽかの陽気にゆったり気分、微睡みたくなるこの空気
時折優しく吹く風に、この屋敷の主の|香《こう》が交わる幸せな時間
後ろからかかる穏やかな声に頷いて、白檀の香りに目を細め

おや、鈴の音が聞こえます
ちりんって、かわいい音
ああ、はるさんと、ロゼさんの物語の結末もハッピーエンドに近くあって欲しいですね…

なら、起きなくちゃ
これは確かに求める世界ですが、残念ながら私は満足できないんですよ
見える|もの《予知》が消えるでなし、泣く人がいなくなるでもなし…

ふふ、私はわがままなので…いつかこの世界も手に入れますし、いつもの酒場の日常も捨てませんし
電子の世界もまだまだ奥深く、|謳《うた》も捨てられない
だから、夢はおしまい

さあ、貴方にも香りをお裾分け…聞いてみて、微睡んで…
ゆっくりお休みくださいな…



「不老不死を求める気持ちは、わからなくはないですね……」
 クッションに半ば顔を埋めながら、寧宮・澪(f04690)は呟く。
 老いも死も、人が恐れる変化であることは確かで。それがなければと望む瞬間はきっと誰にでもあるだろうと思うし。それを叶えようと強く願い続ける者は、今も昔もどんな世界でもいるとは思う。
 ないものねだりは人の性、かもしれない。
 だがしかし。
「そのために犠牲を求める気持ちは、わからないですが」
 眠たげな黒瞳に宿るのは、否定の光。
 どんな願いであれ、それに踏み躙られる存在があるのなら、認められないと。
 澪はおっとりと、でもきっぱりと、拒絶して。
 猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』を見据えた。
 その目前に飛んできたのは、青。
 小さな虚構の青い薬が大きく見える程に迫り。
 咄嗟に目を瞬けば。
「……サムライエンパイア?」
 景色が一変していた。
 そこは竹林の中に建つ、とある古い屋敷。しかしきちんと手入れされているようでボロではなく、風情ある佇まいを見せる場所。
 その、日の当たる縁側に、澪は寝そべっていて。
 辺りを見回していた頭を、いつも持っているクッションにぽふっと収めると、穏やかな時の流れが感じられる、枯山水の庭が見える。
 ぽかぽかの陽気に、ぼんやりと、ゆったりした時間を眺め。
 安らぐ空気に、とろんと微睡んでいく。
 時折、優しく吹く風が、澪の長い黒髪をさらりと小さく揺らし。
 鼻腔に届けられる、白檀の香り。
 そして、耳をくすぐる、穏やかな声。
 感じたこの屋敷の主の|香《こう》に目を細め。愛しい人に呼ばれた名に頷き。
 景色に、香りに、声色に、澪は幸せを抱きしめて――
 りりん。
「おや、かわいい音」
 聞こえた鈴の音に、澪は起き上がった。
 それはこの幸せな屋敷にはない音。
 辛い過去に立ち向かうアリスの持つ音だから。
 ああ、と澪は理解し。思い出して。
 ふふっと微かな笑みを浮かべる。
「はるさんと、ロゼさんの物語の結末もハッピーエンドに近くあって欲しいですね……」
 長い小麦色の髪の小さなアリス。
 そして、オウガにその身を蝕まれる青髪のアリス。
 2人の少女のこれまでと、これからを思い、願い。
 なら起きなければと、澪は、青い薬に囚われていた意識を起こす。
「これは確かに求める世界ですが、残念ながら私は満足できないんですよ」
 風情ある屋敷。ゆったり気分。微睡みの時間。穏やかな愛。
 それは確かに澪の幸せで、切望するものだけれども。
 ここに澪が居続けても。
 見える|もの《予知》が消えるでなし。泣く人がいなくなるでもなし。
 だから澪は、起き上がる。
 立ち上がり、進み続ける。
「ふふ、私はわがままなので……」
 この穏やかで愛しい世界も、いつかは手に入れるし。
 いつもの酒場の日常も捨てたりしない。
 電子の世界もまだまだ奥深く、|謳《うた》も捨てられない。
 だから、澪は起き上がり。
「だから、夢はおしまい」
 青い薬が見せる虚構の夢から外に出て。
 真っ黒で何もない空間に佇む薬師を、改めてその黒瞳に映す。
「さあ、貴方にも香りをお裾分け……」
 そしてその手に召喚するのは金継ぎの香炉。
 そこから立ち上る香の煙は、夢の中で澪が包まれたのと同じ白檀。
 大切に愛し、愛された香り。
「聞いてみて、微睡んで……」
 愛し恋しいかの香りに、澪も穏やかに微笑んで。
 共に眠りませ、遠く夢の路を通いませ、と『香る夢』を広げていく。
「ゆっくりお休みくださいな……」
 幸せのお裾分けをするかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 青い薬が迫り来て。
 虚構の世界がはるの前に広がる。
 大きな門の間から伸びる広い道の先には3階建ての大きな建物。
 大きな入り口がある建物中央の上部には、大きな丸い時計が時間を刻んでいて。
 ベランダに面して並んだ大きな窓の向こうには、大きな部屋が幾つもあった。
 何百人も入れそうなその建物は、1つだけでなく、幾つも並んでいるし。
 それより小さな建物も、様々な形で、隣や間に建っていて。
 庭園のような中庭や、運動ができる広い空き地も、建物の向こうに点在する。
(「……え?」)
 見えていない部分を知っている自分に。
 この場所に見覚えのある自分に、はるは驚いて。
 琥珀色の瞳を見開くと。
「学園……」
 ぽつり、と零れ出る単語。
 そこは子供達の学び舎にして互助組織。
 はるも通い、生活していた場所。
 それを、思い出した、瞬間。
 建物に、そこへ続く道に、幾つもの人影が現れた。
 それは学校へ通う子供達の姿。
 大きな学校ゆえに、知らない顔ばかりではあるけれど。
 その誰もが楽しそうに笑っていて。
 賑やかな喧噪が伝わってくる。
 ここに、はるはいた。
 ここで、はるは過ごしていた。
 そう自覚するのを待っていたかのように。
 人混みの向こうで、こちらに向けて手を振るツインテールの少女の姿が見えた。
 その周りにいる友達も、はるに気付いて笑顔を向けて。
『……はるちゃん!』
 呼ばれた名に、はるは笑顔で走り出そうとして――
「はる」
 どこからか響いた少年の声に、足を止めた。
 声の主を探して辺りを見るけれど、その姿は見えず。
 でも、聞き覚えのある声に、はるはその姿を思い描く。
「歌ってくれ」
 大きな剣を携えて、炎の翼を広げた、少年を。
 幾度もはるを助けてくれた、猟兵の姿を。
「それは守るべきものを思い出させてくれる。
 きっとまやかしに抗じる錨になる」
 りりん。
 姿なき声に、鈴の音が重なって。
 はるは、理解する。
 これはまやかし。青い薬が見せる虚構の夢。
 まだはるはアリスラビリンスにいるし。自分の扉を見つけてすらいない。
 だからこれは、まだ辿り着けない、遠い現実。
 自覚をすれば、青い薬の効果は切れる。
 楽しい学び舎が、共に過ごす友人が、その姿を薄れさせて。
「必ず……」
 はるは、消えゆく夢に声をかける。
「必ず、帰りますです」
 全ての過去を思い出して。全ての過去を受け入れて。
 いつか、きっと。
 だから今は。
 真っ黒に変わっていく周囲を見据え、はるはすうっと息を吸い。
 歌を、紡ぎ出した。
 
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

不老不死?
当たり前に年を取り、成長していく方が楽しいと思うのに
思いながら手に取ったのは、青い薬

…あれ?
気が付けばいつもの朝の風景
わたし達の家の台所で、ご飯が炊けて、たまこ(飼い鶏)のたまごが籠一杯
そっか、朝ご飯を作らなきゃ
今朝はたまごかけごはん
ん、まつりんおはよ…
んん?何やらまつりんが真剣顔のイケメン風を醸し出してる
どうしたの?少し話しかけにくい辛そうな表情
これは…本物?
何かおかしい、何故か長い黒髪の友人と傍らのリンデンの鳴き声が聞こえる
そして、まつりん、たまこが足元に来てもビビらない

確信、これは現実ではない!

怪力で思い切りまつりんに抱きついて
まつりん、わたしはここ、何も怖くない
そのまま【あたたかな光】まつりんと皆を優しく包み込もう
大丈夫、と声を掛けて

薬師、薬は傷を癒やす物
貴女には癒せない、消えて
灯る陽光でたたき斬る


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、ボスだ!

ぜつぼう?
おいらが絶望するワケないじゃん!
おしりぺんぺんだーい!(ぺんぺーん♪)

あれ。穴がある。
これ、母ちゃんに蹴り落とされたヤツ?
なんか、かんじ似てない?

ね、アンちゃんって振り向いたら。
いたのは、アンちゃんじゃなくて、父ちゃん。
でも、目が青かった。あれ?

……アンタ、誰?

問い掛けたら、いきなり首筋掴まれて、ぶらん。
こらー、離せー!
暴れてたら、いきなり穴に落とされた。

ちらり見えたのは、母ちゃんの左の八重歯。
尖ってて、狼みたいだなって……
おおかみ……?

そして、おいらは、おおかみに、なった。

そうそう、おいらも人狼病なんだ。
だから、あんまり長生きしないんだって。
一緒に生まれた妹とも、途中で別れちゃうんだって!

……でも、まあ。
まだアンちゃん、ここにいるしね!(にぱ)

言ったじゃん、おいらは絶望しないって。
絶望するほど、何かを望んだコトなんてないよ?

ばいばい、眠そうな羊さん。
不老不死なんて、退屈だと思うし。
アンタにあげるモノなんかないよ!(かいじんけん)



「問おう」
 血に汚れた黒いローブに身を包んだ猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』が、目深にかぶったフードの下で、にたりと笑う。
「汝が絶望した真実は何か。汝が切望する虚構は何か」
「ぜつぼう? おいらが絶望するワケないじゃん!」
 病的なまでに白い口から紡がれた問いに、木元・祭莉(f16554)は、きぱっと答えた。
 その言葉通り、元気な銀色の瞳にはキラキラと希望が灯っていて。
「おしりぺんぺんだーい!」
 くるりと背を向け、狼尻尾の揺れるお尻を叩いて見せる仕草も楽し気に。
 周囲にも陽気さを振り撒きながら、おひさま笑顔で笑って見せる。
 しかし薬師は、そんな祭莉を嘲るかのように気味悪く笑ったまま。
 手の内に赤い薬と青い薬を持って。
「その絶望を、その苦痛を、その恐怖を、その狂気を、我に捧げよ。
 そして、我が秘薬の……不老不死薬の素材となるがいい」
「不老不死? 当たり前に年を取り、成長していく方が楽しいと思うのに」
 歪んだ笑みが紡ぐ歪な要求に、今度は、双子の妹である木元・杏(f16565)が、心底不思議そうに首を傾げた。
 まだ子供な杏だけど、だんだん背が伸びてきて。同じ体格だった双子なのに、いつの間にか兄の方が大きくなっていて。でも、少しだけ見上げる目線が、見下ろされることが少なくなってきたことが、くすぐったくも嬉しいから。
 それを否定するような薬師に、思わず反論してしまう。
 でもそんな2人に、赤い薬と青い薬が放たれて――。
「……あれ?」
 杏は、兄と暮らす木元村の家の台所に立っていた。
 目の前の籠には、飼ってる雌鶏のたまごがいっぱい入っていて。
 ふんわり漂う香りは、炊き立てのご飯。
 いつもの朝の風景。
「そっか、朝ご飯を作らなきゃ」
 雌鶏たまこの新鮮卵とほかほか白飯のたまごかけごはん。
 慣れた様子で素早くその準備を整えていると、そこに兄が起きてきた。
「ん、まつりんおはよ……」
 いつもの通りに朝の挨拶。
 でも兄から、気楽で陽気な声は返ってこなくて。
 真面目な顔でじっと佇んでいる。
 ちょっと大人びてきた顔立ちが、真剣みを帯びてイケメン風を醸し出し。
 杏をいつも元気づけてくれるおひさま笑顔が消えていたから。
「どうしたの?」
 不安気に、杏は問いかける。
 それでも兄から答えはなく。
 しかし続けて話しかけるのは少し躊躇われた。
 どこか俯くような兄の表情が、どこか辛そうに見えたから。
 何があったのかと心配になる。けれども。
(「これは……本物?」)
 同時に感じる違和感。
 何かがおかしい、と杏は困惑し。
 そこに、聞き覚えのある犬の鳴き声が、届いた。
「……リンデン?」
 辺りを見回すけれど、見慣れた家の中には杏と兄しかいない。
 姿なき声に、違和感がまた膨らんで。
「それでも…………本当の幸せがそこにあるなら」
「海莉!」
 途切れながらも聞こえた長い黒髪の友人の声に、はっとする。
(「本当の幸せ?」)
 ぐるぐると回る思考。
 それが答えに行きこうとしたその時。
 響いたのは、にわとりの鳴き声。
「たまこ」
 今度は、赤い鶏冠に鋭いくちばし、くりっとした黒い瞳に真っ白羽毛な、堂々とした雌鶏の姿がちゃんと見えて。
 でも、近寄って来るその姿や声に、兄は驚きも怖がりもしなくて。
 足元にちょこんと佇む雌鶏と、普通に並び立っている。
(「……違う」)
 いつも何故か雌鶏に襲われて、いつも雌鶏にビビっていた兄。
 仲良くすればいいのに、と願った光景が、今目の前にあるけれど。
 襲われて逃げて騒いでいる、どこか楽しそうで杏が好きな現実とは違ったから。
 確信する。
 これは――。
「あれ? アンちゃん、穴があるよ」
 一方、祭莉は大きな穴を覗き込んでいた。
 いきなり目の前に現れた、不審な穴。
 でも、どこか見たことがある気がして首を傾げ。
「そっか。これ、母ちゃんに蹴り落とされたヤツにかんじが似てるんだ」
 思い出して、ぽんっと手を打つ。
 妹と2人、木元村に住むことになった、始まりを思い出して。
「ね、アンちゃん……」
 その懐かしさを共感しようと振り向いた。けれど。
 そこにいたのは妹ではなく、妹と同じ黒色の髪の男性。
「父ちゃん?」
 背が伸びて来た祭莉よりもまだ背が高く、精悍な体格のその人は、怖いほど静かに祭莉を見下ろしていた。
 その瞳は、祭莉と同じ銀色のはず、だったが。
(「目が青い」)
「……アンタ、誰?」
 纏う雰囲気の違いに。自身を映すその色の違いに。
 祭莉の中の何かが警戒する。
 しかし、問いかけに答えが来るより前に、祭莉は背後からいきなり首筋を掴まれ、ひょいと軽く持ち上げられた。
「こらー、離せー!」
 ぶらんぶらんさせられる中で暴れていると、これまた唐突に離れる手。
 落下した先には、さっき覗き込んだ大きな穴があった。
「わっ!?」
 穴に落された祭莉は見る。
 穴の縁から、落ちていく祭莉を笑って見つめる、妹と同じ金色の瞳を。
「母ちゃ……」
 その口元にちらりと見えた、尖って狼みたいな左の八重歯を。
 祭莉と同じ赤茶色の髪に、ウサミミではなく、狼の耳が立っていたような気もして。
(「おおかみ……?」)
 呆然と思いながら、落ちていった祭莉は。
 ……おおかみに、なった。
 そう。祭莉は人狼病の感染者。
 ゆえに、その寿命は短いと言われてきた。
 一緒に生まれた妹と同じ時を生きられないと。途中で別れてしまうのだと。
 聞いた話を思い出して。
 やがて来る妹との別離をじわりと実感するとともに、絶望が祭莉を――
「まつりん」
 そこに聞こえたのは、柔らかく優しい杏の声。
 生まれた時から聞いていて、いつも傍にあった、祭莉のおひさま。
 そして、絶望から守るように、優しい手が伸ばされて。
「まつりん、わたしはここ。何も怖くない」
 ぎゅっと包み込まれるような感覚に、祭莉は銀色の瞳を閉じた。
 その声を。その温かさを。その優しさを。
 ゆっくりと確かめて。
(「……でも、まあ。まだアンちゃん、ここにいるしね!」)
 絶望の赤い薬の効果をあっさりと跳ね返すと、にぱっと笑う。
 杏が一緒にいる。それこそが祭莉の真実だから。
 いつものおひさま笑顔を浮かべて。
「……イタイ痛いアンちゃん!」
「あ」
 気付けば杏の怪力172が発揮されてしまっていて、再び祭莉は暴れていた。
 夢中だった杏は、祭莉の声に慌てて力を緩め。
 青い薬が見せていた虚構の夢を打ち破っていたことを実感する。
 だって、涙目の祭莉は、真剣顔でもイケメン風でもない、いつもの祭莉だったから。
 杏が笑うと、祭莉の笑顔もおひさまのように輝いたから。
(「こっちが現実」)
 杏は、祭莉を抱いていた手を放し。
 代わりに『あたたかな光』で祭莉を優しく包み込んだ。
 祭莉だけではない。
 仮想現実が消えたそこには、長い黒髪の少女が、背に小さな翼を生やした大型犬が、そして何より、はるとロゼがいたから。
「皆、大丈夫」
 杏は大切な友達も、優しくあたたかなオーラで包んでいく。
 そして、金色の瞳で、むむ、と睨み付けるのは。
 血に汚れた黒いローブに身を包んだ、悪夢の薬師。
 その視線を辿るように、祭莉が元気に駆け出した。
「言ったじゃん、おいらは絶望しないって。
 絶望するほど、何かを望んだコトなんてないよ?」
 迷いの晴れた背中は、真っ直ぐに走って行くから。
 杏も、その後を追いかけて。
「薬師」
 フードの下で薄く笑う薬師に告げる。
「薬は傷を癒やす物。貴女には癒せない」
 不老不死なんて退屈だし。絶望も虚構もいらないから。
 双子は揃って薬師に迫り、硬く握った拳と白銀の光とをそれぞれに振りかぶる。
「ばいばい、眠そうな羊さん。
 アンタにあげるモノなんかないよ!」
 祭莉が思いっきり叩きつけた『灰燼拳』が、ローブの上から薬師を殴り飛ばし。
「消えて」
 暖陽の彩が花弁のように舞い散る中を、杏の灯る陽光が鋭くたたき斬った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
守るって約束したもの
UC使用
私も|医師《 くすし 》を目指す者よ
癒しだってできる!

(赤い薬が見せるのは多くの人々
見覚えの無い姿も、義兄を追う中で幻で見た姿も
声は無くても皆、その目が言う
『返せ』と)

「…絶望、ね」

(奥から歩み出るのは義兄に良く似た壮年の男性
「息子を返してくれ」)

「…勝手に」
『人の心を覗くな』か
『今更都合の良いことを』か
言葉の続きは自分でも分からず

トラウマに対しては見切り、武器受け等で防御に徹する

リンデンの一吠えに背中を押され
毒に抗ってるのはみんな同じ
私も負けない

「分かってる
たった数年一緒に居ただけの自分と
生まれた時から愛されようと求め続ける相手と
どっちが義兄さんにとって重いかぐらい!
記憶が戻った時、求めるのが昔の大切な人々かもってことぐらい!」

自分の闇を正視する覚悟も無しに
義兄さんを救えるなんて思ってないのよ!

「それでも義兄さんの本当の幸せがそこにあるなら」

躊躇わず踏み込み
絶対の中の希望に手を伸ばすように

「風よ、邪毒を浄化せよ!」
風の属性を刀に宿し、真っ直ぐに敵を貫く



 にたり、と嗤う白い口。
 血に汚れたローブの下で、黒手袋に覆われた手が不気味に浮かべる赤と青の薬。
 南雲・海莉(f00345)はそれをキッと睨み据えて。
「守るって約束したもの」
 緋色のマン・ゴーシュ『Flamme』を牽制するように一振りすると、ルーンの刻まれた刃に言の葉を乗せた。
「水よ、揺蕩いて生命を癒し守護するものよ。
 風よ、移ろいて世界を浄化するものよ。
 今ここにその加護を示せ」
 後ろにいるはるとロゼを庇うように立ちながら。
 そこを、邪気を清める魔力が籠った風と蒸気の結界で覆うようにして。
「私も|医師《 くすし 》を目指す者よ。癒しだってできる!」
 防御力と治癒力を増強させる『風雫の障壁』を張り巡らせる。
 だがしかし、結界を蝕むように赤い薬が亜空間を広げ、結界の隙をついて青い薬が仮想現実へと誘いをかけ。
 海莉も、赤い薬が生み出した真実に囚われた。
 ――そこには多くの人々が、いた。
 見覚えがある者がいる。見覚えがない者もいる。
 海莉と親しい者たちではない。
 姿を消した義兄を追う中で、出会い、話し、その存在を知った者。幻で見た姿も。
 人々に声はない。そもそも声を出そうとしていない。
 でも、その目が、海莉に集まる視線が、声を出す以上に訴える。
 返せ。
 返せ。
 返せ、と。
 海莉の行動を咎め、海莉の思いを詰り、海莉の願いを難じるように。
「……絶望、ね」
 それらを受け止めて、海莉はぽつりと呟いた。
 真実から目を逸らしてなどいなかったと言えば嘘になる。
 知りたくなかったなど一瞬たりとも思わなかったとも言い切ることはできない。
 突き刺さる視線。声なき声。
 その人々の奥から歩み出て来た、義兄によく似た壮年の男性。
『息子を返してくれ』
「勝手に……」
 反射的に言い返しかけて、しかしすぐに海莉は口を噤んだ。
 飲み込んだ言葉が何だったのか、自分でもよく分からない。人の心を覗くな、か。今更都合の良いことを、か。それとも他の言葉だったのか。
 瞬間的に生まれた何とも言えない複雑で発作的な激情。怒り嘆き焦り憎しみ悲しみ苛立ち切なさ寂しさ歯痒さ罪悪感……それらが向かう先すら、自分へなのか目の前の人達へなのかここに姿のない人へなのか、曖昧で。混じりあい過ぎてただただ『苦しい』とも言える、闇に飲み込まれていくような負の感情の塊。
 これがトラウマ、なのだろうか。
 分からないながら、ぐっと奥歯を噛みしめ、海莉は抗う。
 そこに、犬の鳴き声が力強く、響いた。
(「リンデン」)
 相棒の一吠えに、はっとして。海莉は知らず俯きかけていた顔を上げる。
 立ち止まりかけていた背中を押してもらったような感覚に、海莉の黒瞳に力が戻り。
 手にしていたマン・ゴーシュを改めて握りしめた。
(「毒に抗ってるのはみんな同じ」)
 きっと誰もが心に闇を持ち、毒のように蝕んでくるそれと戦っている。
 はるも。ロゼも。他の猟兵達も。
 そしてきっと目の前に現れた人達も……義兄も。
 だからこそ。
(「私も負けない」)
 海莉は真っ直ぐに、真実を見据えた。
「分かってる。
 たった数年一緒に居ただけの自分と、生まれた時から愛されようと求め続ける相手。
 どっちが義兄さんにとって重いかぐらい!」
 自分を助け、愛してくれた義兄。
 守りたかった人を助けられず、愛されたかった人に傷つけられた義兄。
 それら全ての手が伸ばされたならば、義兄がどの手を掴むか、なんて。
「記憶が戻った時、求めるのが昔の大切な人々かもってことぐらい!
 ……分かってる」
 義兄の大切な人達の中から、自分は選ばれない。
 そのことは、ただただ『苦しい』。
 けれども。
「自分の闇を正視する覚悟も無しに、義兄さんを救えるなんて思ってないのよ!」
 海莉は、纏わりつく闇を振り切るようにマン・ゴーシュを掲げ。
 その『苦しみ』の向こうに望む世界へと、声を張り上げた。
「それでも義兄さんの本当の幸せがそこにあるなら!」
 振り抜いた刃が亜空間を切り裂き、赤い薬が見せる絶望をかき消せば。
 真っ黒な世界に佇む猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』の姿が見える。
 傷だらけのウサギ耳の少女が退いたところに、大きな帽子を被った少女と、よく知る双子の兄妹が飛び込んでいき。さらにそこにロゼも加わるのも見て。
 海莉も躊躇いなく踏み込んでいった。
 構えた剣に刻まれたルーンが、その覚悟に応えるように淡く輝き、刀身に力を宿す。
 美しきFlammeが迷いの消えた軌跡を描いて。
「風よ、邪毒を浄化せよ!」
 突き出したマン・ゴーシュは薬師を、そして絶望を、貫いた。
 その中にある希望へ手を伸ばすように真っ直ぐに。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 赤い薬が迫り来て。
 真実の世界がロゼの前に広がる。
 大きな門の間から伸びる広い道の先には3階建ての大きな建物。
 大きな入り口がある建物中央の上部には、大きな丸い時計が時間を刻んでいて。
 ベランダに面して並んだ大きな窓の向こうには、大きな部屋が幾つもあった。
 何百人も入れそうなその建物には、それより小さな建物が繋がり。
 その向こうには、花壇が並ぶ中庭を挟んで、2階建ての運動用の建物もある。
 外での運動をするための空き地も、大きな建物の向こうに広がっていて。
(「……え?」)
 見えていない部分を知っている自分に。
 この場所に見覚えのある自分に、ロゼは驚いて。
 青い左目を見開くと。
「学校……」
 ぽつり、と零れ出る単語。
 そこはロゼも通っていた、子供達の学び舎。
 それを、思い出した、瞬間。
 建物に、そこへ続く道に、幾つもの人影が現れた。
 それは学校へ通う子供達の姿。
 クラスや学年が違えば交流も薄くなるから、知らない顔が多かったけれど。
 その誰もが、ロゼをちらちらと見て、ひそひそと小声で話していて。
 針のむしろのような嫌悪の感情が突き刺さってくる。
 ここで、何かがあった。
(「ここで、私が、何かをした……?」)
 怯えがロゼの心に走った、その時。
 遠巻きにしていた生徒達の中に、見覚えのある姿を見つける。
 それはロゼの友達。
 クラスメイトの中でも特に一緒に学校生活を過ごしていた仲間達。
 でも、そこにいるのは3人で。
 1人足りない、と思った、瞬間。
 悲嘆。恐怖。後悔。惨苦。様々な負の感情が一気にロゼを襲い。
 軽蔑し、恨むような3人の目が向けられて。
『人殺し!』
 息が、詰まる。
 心が、痛む。
 絶望がロゼを包み込んで――
「ロゼ」
 どこからか聞こえた少年の声に、はっとして顔を上げる。
 声の主を探して辺りを見るけれど、その姿は見えず。
 でも、聞き覚えのある声に、ロゼはその姿を思い描く。
「必ず俺たちが、はるが側にいる」
 大きな剣を携えて、炎の翼を広げた、少年を。
 ロゼを抱きしめてくれた、小麦色の髪の、同じアリスの少女を。
 そして、ロゼを助けてくれた、新しい友達を。
 思い描いて。
 ロゼはぎゅっと左手を握りしめ。右手の力も感じながら。
「必ず……」
 蔑むように睨んで来る3人に声をかける。
「必ず、私が何をしてしまったのか思い出すわ。
 目を逸らさないで、向き合って……貴方達に答えを返しに行くから」
 全ての過去を思い出して。全ての過去を受け入れて。
 いつか、きっと。
 だから今は。
 赤い薬が生み出す絶望の亜空間から逃れたロゼは、真っ黒に変わった周囲を見据え。
 薬師に向けて地を蹴り、包帯のない右手を振りかぶった。
 
木霊・ウタ
心情
心と命を弄ぶ下衆を海へ還すぜ

はる
歌ってくれ
それは守るべきものを思い出させてくれる
きっとまやかしに抗じる錨になる

ロゼ
遠慮はいらない
オウガの力をお見舞いしてやれ(ぐっ

また幻が現れるかも
けど必ず俺たちが
はるが側にいる
歌声が偽りの世界から抜け出す糸になるはず

戦闘
身から荒ぶる炎を呼び起こし
手を振ってワイルドウィンドに具現化

迦楼羅の翼で宙を飛びながら
はるの歌の伴奏として
そしてロゼの動きを彩るBGMとして
旋律を奏でる

やっぱこの猟書家を倒すのは
力を合わせた二人じゃなきゃな

けどバックアップだけじゃない
旋律が響き渡ると共に
焔を秘めた風が吹き抜けて
亜空間や仮想現実へはるの歌声をより疾く届けて
薬の解毒を助けたり
偽りの空間や幻そのものを燃やし灰にしていくぜ

曲はクライマックス
オウガを秘めた己への恐怖を克したロゼが
秘めていた力を発揮し
はるの歌声に乗って翔れば
秘薬の力なんかよりも速くて強いはずだ

倒れる薬師に向かって風が吹き抜け
焔に巻き込み灰に帰す

終幕
演奏を続けて鎮魂に
安らかに

いいコンビたったぜ(ぐっ



「その絶望を、その苦痛を、その恐怖を、その狂気を、我に捧げよ」
 暗い闇が広がる空間に佇む不気味な猟書家『悪夢の薬師・スリーピーシープ』。
 目深にかぶったフードと、顔の大半を隠す布の下で、病的なまでに真っ白い口でにたりと嗤い。血のように赤い汚れのついたローブの下から、黒い手袋に覆われた手を伸ばす。
「そして、我が秘薬の……不老不死薬の素材となるがいい」
 放たれるのは、赤い光と青い光。
 赤く輝く真実の薬と、青く輝く虚構の薬。
 トラウマを勝手に掘り起こし、偽りの世界に強制的に閉じ込める、その能力と目的に。
 ロゼを苦しめオウガを唆した、その在り様に。
 木霊・ウタ(f03893)は不快気に顔を歪めて、睨み据えた。
「心と命を弄ぶ下衆だな」
 怒りを露わにし、激情のままに、ブレイズキャリバーたる自身から荒ぶる炎を呼び起こすと。振った手の先に炎が収束し、炎風を纏うギターが具現化する。
 力強く、迷わずに、ただただ吹き抜けるサウンドウェポン『ワイルドウィンド』。
「海へ還すぜ」
 にっと笑ったウタは、さらにその背に金翅鳥『迦楼羅』の炎翼を広げると。
 旋律と共に宙へ舞った。
 響く歌声が、奏でる調べが、闇の中に響き渡り。
 そこに生み出された赤い亜空間へ、青い仮想現実へ、じわりと沁み込んでいく。
 さらに、焔を秘めた風が吹き抜ければ、より疾く、より広く、サウンドが伝わり。
 薬師の薬に抗う者達へ、支援の奏でを届けていった。
「はる」
 鼓舞する音階と共に紡ぐのは、そうあって欲しいという願い。そして期待。
「歌ってくれ。
 それは守るべきものを思い出させてくれる。きっとまやかしに抗じる錨になる」
 鈴鳴らすアリスは、もう怖がるだけの幼子ではなく。助けられるだけではなく自身も友達を助けようと、前へ進もうと足を踏み出したのだから。
「ロゼ」
 慈しみの音律と共に紡ぐのは、忘れないで欲しいという願い。そして応援。
「必ず俺たちが、はるが側にいる」
 青き星のアリスは、もうオウガに怯えるだけの少女ではなく。友達を大事に思う気持ちを思い出し、共に在るために戦うことを決めたのだから。
 ぎこちないながらもそれぞれの過去に立ち向かう2人のアリス。
 虚構の青い薬に囚われてしまっても、真実の赤い薬に絶望を与えられても、きっとその歩みは止まらない。止まって欲しくない。
 だからこそ。
 ウタは偽りの空間を燃やし灰にする勢いで炎の旋律を広げ。2人が薬から抜け出す助けとなるように、暗い中を照らして舞い、歌う。
 そこに重なる、小さな小さな鈴の音。
 そして、焔の風に、妙なる旋律が凛と合わさって。
 吹き消されるように消えていく、虚構の薬。惑いの幻覚。
 現れたのは、偽りの世界から抜け出した、はるとロゼ。
 願い、待ち望んだ姿に、ウタはにっとその口元の笑みを深くして。
「やっぱこの猟書家を倒すのは、力を合わせた2人じゃなきゃな」
 はるの歌声に、地を蹴るロゼに、背の炎翼をさらに広げた。
 餓鬼魂が援護し、白檀の煙が幸せに香り。ウサギキマイラの少女が爪を、大きな帽子を被った少女がフライパンを振るって。切り開かれた道を、はるの歌声が彩り、ウタの炎で盛り上がる旋律が伴奏を務め。
 そこをロゼが駆け抜ける。
 今のロゼなら。
 オウガを秘めた己への恐怖を克したアリスなら。
 沢山の『友達』と共に在ると識った彼女なら。
(「秘薬の力なんかよりも速くて強いはずだ」)
「遠慮はいらない。オウガの力をお見舞いしてやれ」
 だからウタは、曲も場面もクライマックスと、ギターを奏でる手にさらに力を込めて。
 真っ直ぐに薬師へと立ち向かっていくロゼを。
 はるの歌声に乗って翔る美しい青を。
 支え、称え、そして喜ぶように、炎の音色を響かせた。
 双子の兄妹が、虚構を殴り飛ばし、叩き斬り。
 長い黒髪の少女が、絶望を貫く。
 そんな猟兵達に――いや、『友達』に続くように、ロゼは包帯のない右腕を、オウガの力を乗せた一撃を振りかぶって。
「行け! ロゼ!」
 叫ぶウタの声にも背を押されたロゼは、薬師に迫り。
 薬師の不気味なローブが青白い炎に包まれた。
 そして、はるの歌声が、オウガの炎をさらに強くして。
 燃え上がる、絶望と虚構。
「……我が……不老不死、の……」
 炎の中で、薬師はまだロゼに手を伸ばすけれども。
 ウタはその歌声を強めると炎翼を羽ばたかせ、炎の風のように、伸ばされた手の先へと急降下して割り込む。
 吹き抜けた一陣の風は、薬師を焔に巻き込んで。
「導く……不滅……」
 ぼろり、と薬師の腕が、身体が、灰に帰したかのように崩れ消えていった。
 同時に、真っ暗だった世界が淡く明るくなっていく。
 敵の姿がなくなったことに、光が差し込んできたことに、皆、1つの戦いの終わりをじんわりと実感していったから。
 ウタも地に降り立つと、背の迦楼羅を収めた。
 でも、その手のワイルドウィンドはそのままで。
 演奏を続ける手も止まらない。
 ただ、奏でる曲は穏やかで優しく、慈しむような旋律に変わり。
 紡ぎ上げるのは、骸の海へと向けた鎮魂歌。
(「安らかに」)
 例えこの世界を滅さんとするオウガだとしても。
 ロゼを苦しめ、弄んだ下衆だとしても。
 その根源は、捨てられた過去。
 怒りもあるけれど、哀れな存在だとウタは思うから。
 猟兵としてその浸食は許さぬ一方で。
 滅することが過去に安らぎを与えることになると考えるから。
 ウタは静かに願い、曲を奏で、送る。
 そうして一曲、捧げ終わり。ようやくギターを炎に戻すと。
 ロゼが。はるが。こちらを見ていたことに気付く。
 辛い過去に立ち向かおうとする少女達。
 過去に負けずにいてくれたアリス達。
 ウタは、並び立つ2人ににっと笑いかけると。
「いいコンビだったぜ」
 握りしめた右手の親指だけをぐっと立てて突き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月29日


挿絵イラスト