7
大気汚染から森を救え!~森の中の花畑編

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0





「おねがいが、あるの」
 グリモアベースに集った猟兵たちを前に、ちょこんと椅子に腰かけて彼らを待っていた少女――色採・トリノ(光に溢れ・f14208)は微笑んだ。
 言った拍子に喉の収縮だろうか、チィと鳴った音は鳥の声に似て。軽く、自分の喉元に手を当てて、少女は言葉を続ける。
「アックス&ウィザーズの世界には、行ったこと、ある?」
 猟兵たちの中には、その問いに頷く者もいれば、そうでない者もいるだろう。あるいは、これが猟兵になって初めての依頼だという者もいるかも知れない。
 答えは各々の胸中だけで返してくれるだけでいいと、トリノは自分の後ろに広がる光景を振り仰いだ。

 先ほど彼女が言ったとおり、アックス&ウィザーズの光景なのだろう。後ろには葉の落ちていない樹々と茂みが広がっている。
 どうやら森のようだ。
 ただし、そこに満ちる大気は薄っすらと黒い薄布を被せたように濁り、お世辞にも美しいとは言い難い。
「大気汚染らしいの」
 少女は微笑んだまま、静かに告げる。
「森の中の何かが原因で、空気が汚されてしまったみたい」
 マイペースな少女がそこまで言うと、それでは、その原因排除が今回の仕事なのかと猟兵の一人が尋ねた。
 少女はきょとりと目を瞬かせると、くすくす笑って首を振る。
「あのね、今回は、少し変わったケースなのよ」
 曰く、
「リノが予知したのとおんなじに、この件に関する予知をしたグリモア猟兵の人がいたの」
 と。
「でも、予知の内容はおたがいに少し違っていて……リノが予知したのは、大気汚染が原因で暴れ出したオブリビオンの事件」
 もう一方の予知は、さっき言ってもらったとおり、大気汚染の原因となったオブリビオンの排除、と、トリノは囀るように言った。
「森には人が立ち入ることもあるから、オブリビオンに行き会ったら、たいへんでしょう? だから、そうなる前に退治してほしいの」

 ねぇ、猟兵さん、おねがいできる?
 少女は首を傾いで、皆を見上げた。じっと見上げてそのまま、時が止まったかのように固まること数瞬。一度、ぱちりと瞬きをしてようやく動きを取り戻す。
「あ、でもね。原因の方が気になるって人は、もちろん、そちらの応援に向かっても、いいのよ」
 どちらも大切で、どちらも看過できない事件だもの。
 おすきな方に手を貸してね。
 言って、少女はグリモアを起動させる。
 猟兵たちを、世界を廻る渡り鳥へと変えるために。

「そう。そう。そういえば、ね」
 猟兵たちが飛び立つ寸で、トリノが思い出したように言った。
「今回、皆が向かう森には、変わった果物がなる場所があるみたい」
 見た目も、味も、きっとびっくりすると思うわと思わせぶりに。
「おしごとが済んだら、少し羽を伸ばしてくるのも、いいと思うわ?」
 それじゃあ、いってらっしゃいと、トリノが言い終わるかどうかの内に……ぶわりと、羽根の形をした発光体が舞い上がり、猟兵たちを包み込む。

 遮られた視界が再びクリアに戻り――、気づけばそこは森の中だった。


夜一
 お世話になっております。夜一です。
 本シナリオは、隰桑MS「大気汚染から森を救え!~森の中のゴブリン編」とのコラボシナリオとなっております。
 両シナリオの参加者及びNPCが直接的に交流することはできませんが、同世界・同時刻に起きた二つの事件というシチュエーションで遊ぼうという企画です。
 隰桑MSはとても真摯にキャラクターと向き合い描写して下さるMSさんで、とても素敵なので推しMSのお一人です。皆で推しましょう、ぐいぐい。

 なお、同時刻という設定ではありますが、どちらのシナリオにも参加したい方がおられましたら、そちらを制限することはありません。
 楽しんでいただければと思います。

●ご注意
 ・マスターの執筆傾向。
 アドリブ色が強めです。
 参加PCさんに他の参加者の方と行動を連携させるリプレイが多いです。
 ご参加いただいた方のキャライメージを損なわないことを最優先でリプレイを作成しておりますが、ご了承の上ご参加いただけると幸いです。
 アドリブ不可や単独描写希望の方は、ステータスシートにその旨を記載いただけると助かります。

●その他
 本シナリオは
 第1章 集団戦
 第2章 ボス戦
 第3章 日常パート
 という構成になっております。

 NPC(トリノ)は、第三章でお声かけがあった場合のみ登場いたします。
 特にお気遣いいただかなくても大丈夫ですが、お気軽にお声かけも嬉しいです。
 NPCへの声掛けプレイングを優先したりなどはしません。
 皆様のお好きなように。思い思いに遊んでいただければ幸いです。

 それでは、皆様の個性あふれるプレイングを楽しみにしております。
64




第1章 集団戦 『花と星の妖精』

POW   :    花を操る
自身が装備する【色とりどりの花】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    森の恵み
【食べると幻覚が見えるキノコ】【硬く巨大なきのみ】【どっしりと実った果実】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    星詠み
【占い】が命中した対象に対し、高威力高命中の【様々な結果】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【プレイングの受付開始は追加OP記載まで、今暫くお待ちください】

『誰か来たよ』
 森へと足を踏み入れた猟兵の耳が、幼く高いささやき声を捉える。
『誰か来たよ』
 声は猟兵たちが転送された地点から、少し森の奥へと行った先から聞こえるようだ。
 奥……つまり、空気の汚れが濃い方へと猟兵たちは歩み始める。
『こっちに来てる』
 ささやく声が増す。どこかからこちらを窺っているようだ。構わずなお進む。

『来るよ』『来るよ』
 ひそひそ。

『来るよ』『来るよ』『来るよ』
 ひそひそひそひそ。

『来るよ』『来るよ』『来るよ』『来るよ』『来るよ――』
『『来た!!』』

 がさり。茂みを抜けると、そこは一面の花畑だった。
 恵みに満ちたこの森、空想的な側面を持つこの世界ならば、なるほど、冬の花畑というのもあるものなのだろう。しかし、黒く汚染された大気のせいかどうにも花々には元気がないようだ。猟兵たちが一時見惚れていると――、

『勝手に入ったな、知らないぞ!』
『勝手に入ったね、知らないよ!』
 突如、眼前に子供に似た姿をした小さな影がふたつ現れた。二体はくるりくるりと宙を舞うように跳びながら、猟兵たちを威嚇する。
『ここは僕らのなわばりで』『これが私たちのなりわいよ』
『知ーらないの、知らないの』

『『知らないヤツらは おことわり!!』』

 言葉と同時、草花のあちこちから小人たちが姿を現し、猟兵たちの足元の草花がぐねりと蠢き始めた。
 “花と星の妖精”たちは、どうやら、訪れた猟兵たちを逃がす気はないらしい。
 どの道、事件の解決には彼らを鎮める必要もあるならば、取るべき手段は一つ――戦う他にはない。
アリャン・ミシュラ
森の...大気汚染....、オブリビオン....。それで...人が、危ないのか...。俺は...、人を護る.....。

【SPD】森の中なら隠れられる所は沢山あるだろ....?...木の上とか....?適当な場所にう、上手く隠れてオブリビオンを...撃つ。
...あいつ......、友人に助けてもらう必要はない....。一人でやれる...さ....。
他の奴らの...援護も....できたら、やりたい....。


アイシス・リデル
あっちの事件には、おっきな本体のわたしが参加して
こっちの事件には、ちっちゃな分裂体のわたしが参加する、よ
(このプレイングに問題があれば流してください)

きたない空気の中じゃ、他の猟兵の人たちも戦いにくい、よね
それに妖精さんたちも、きたないのもくさいのもいや、だよね
うん。大丈夫
わたしたちが、なんとかするから

「この」わたしは、ちっちゃくてちゃんと戦えないけど……できる事はある、よ
わたしの体内にきたない空気を取り込んで、花畑の空気をきれいにする、ね
その分、わたしの身体はきたなくなっちゃうけど、毒耐性があるから大丈夫
全部きれいにできるかはわからないけど、これで他の猟兵の人たちも戦いやすくなる筈、だよね


刑部・理寿乃
縄張りを荒らされるのはいい気分ではないですよね。
ですが、君達も荒らした側で文句は受け付けませんよ。可愛らしい容姿に騙されないんだから!

相手は小人。的が小さいし、動きも早そう……。
まあ、【気合】で当ててきましょう。一人ずつ確実に。

森の恵みというのが厄介ですね。ユーベルコードが封じられたらちょっときついわね。鋼糸を使って、相手を拘束し【怪力】で強引に引き寄せ【敵を盾にして】防げるかしら?


ミスティ・ミッドナイト
奇襲ですか。皆様、冷静な対処を。

ステップ1
素早く【情報収集】【戦闘知識】で敵・味方の位置を把握。
ステップ2
飛んでくるキノコや木の実、花びらをUCで撃ち落とし、味方への攻撃を妨害します。ショットガンの【範囲攻撃】でまとめて撃ち落とすのも良いかもしれません。
ステップ3
標的が小さい上に茂みに隠れられると厄介ですね。ですが、それは向こうも同じこと。【フェイント】【地形の利用】を活かし、攻撃を避けつつ味方の【援護射撃】。攻撃の機会を作ります。

こちらの世界は初めてですが、善良な人々がオブリビオンの驚異に晒されているのなら、やることは変わりません。…そう、こちらも引くことは出来ない身。
お相手致しましょう。


ルク・フッシー
「が、がんばろう...」
怯えながらも、グラフィティスプラッシュにより妖精達を攻撃します。ルクは塗料に属性の力を込められるので、色々な属性攻撃を試してみたいです。
「よ、よろしくね...」




 わんさと姿を現す妖精たちに、ミスティ・ミッドナイト(霧中のヴィジランテ・f11987)が声を掛ける。
「奇襲ですか。皆様、冷静な対処を」
 戦場傭兵である彼女は、ゲリラ戦(というには可愛らしい敵だが)にも経験があるのだろう。初めての世界ではあるが、それで動じることはない。常の冷静さを保っている。
(やることは変わりません。……そう、こちらも引くことは出来ない身ですから)
 彼女にとっては、オブリビオンの脅威から、弱き人々を守ることこそ使命であり、定めなのだ。
 努めて淡々と、変わらぬ表情のままで。汚れた風に、ポニーテールが靡く。
「お相手致しましょう」
 妖精たちにそう答えながらも、直ちに自分たちの得意な間合いに下がる、あるいは出る仲間たちを見て、その位置を把握する。同時に、敵の姿を観察した。
(取り囲まれている……という訳ではないようですね)
 花畑がテリトリーの妖精たちは、花畑の外に潜んでいる様子はない。一瞥したところでは、彼らの領域に踏み入れたばかりの猟兵たちの後ろに敵の伏兵はいない。
 それは幸いだったと思いながら、ミスティ自身も銃を構え行動を開始した。

「うぅ……ぐすっ、目がしぱしぱするよ……」
 あまり戦闘には慣れていないのだろう。ルク・フッシー(普通の仔竜(じゃない)・f14346)が大きな緑色の目をぐしぐし擦りながら、心細そうにつぶやいた。
 大気汚染に苦しめられるのは何も自然やオブリビオンだけではない。この森に足を踏み入れた猟兵たちも、多少の差はあれど影響が出るのも当然だろう。今はまだ時折、咳が聞こえる程度だが……特にナイーブな仔竜にとっては、あまり好ましくない環境なのも無理からぬことで。なかなか花畑へと踏み入れることができない。
 そんな状況を目に停めたのは、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)だった。
 猟兵としての登録データより、何故か一回り小さくなった様子の彼女は、仲間が苦しんでいるのを見て、ぐと、心を決めた様子を見せる。
(きたない空気の中じゃ、みんなも戦いにくい、よね)
 それに、と、向けるオレンジの輝くの視線は妖精たちに。
 敵とは言え、この環境の中では、彼らもきっといやだろうと思えば、聖者である彼女が取るべき行動はただひとつ。
 アイシスはルクに少し離れた場所から、声を掛けた。
「うん。大丈夫……わたしたちが、なんとかするから」
「な、なんとか……?」
 それに、わたし“たち”?
 ルクの問いかけに応えるより先に、アイシスは、体の前で祈るように手を組み、目を閉じた。ユーベルコード、《母なるアイシス:犠牲者(マザー・アイシス・サクリファイス)》を発動させる。
 周囲の汚染は急速にアイシスへと収束し、周囲の空気は清浄なものへと変化する。森全体はさすがに難しいが、この花畑の戦闘に必要な範囲であれば然程時間を掛けずとも十分に浄化できそうだ。
 更に、猟兵たちの体の不調も改善したようだ。ルクが、目をぱちぱちと瞬かせた。
『あそこにいるよ!』
『喰らえー!』
 アイシスの行動に気付いた妖精たちが、キノコや木の実、果実をぽこぽこ放り投げる。
 咄嗟に動けないアイシスだったが、放り投げられたそれらの物物は彼女の体に届く前に、べしゃりと絵具で塗り潰され叩き落とされた。
 ルクが、思い切って特大絵筆を振るったのだ。
 アイシスが密かに毒を体に溜め込みながらも、ありがとうを伝え、そっと尋ねる。
「これで少しは戦いやすくなる、かな?」
 ルクは振り返り、頷く。まだ少し怖いけれど、
「ぼ、ボク……が、がんばってくるよ……」
 ぎゅっと、絵筆の柄を握りしめ、ルクは花畑に踏み入れた。

 確かに、自分たちの縄張りを荒らされるのはいい気分では無いだろうと、刑部・理寿乃(ドラゴニアンのサウンドソルジャー・f05426)は妖精たちの心にも一定の共感を持ちながら、けれど、彼ら自身もオブリビオンなのだ。
 槍を手に、前へと進み出る。
「君達も荒らした側でしょう、文句は受け付けませんよ」
 ふわふわとした尻尾を威嚇するように振って。柔らかな色合い、柔和な印象の少女は、この時ばかりは心を竜にして宣言した。
「可愛らしい容姿には騙されないんだから!」
 まずは一突き、ランスの刺突を繰り出す。
 ひょいと避けられたのは予想通りで、理寿乃はやっぱりと顰め面する。
(的が小さいし、動きも早いみたい……)
 元は普通の農民であった彼女だ。歴戦の戦士のような、巧みな技はあまり覚えがない。
(気合……気合……。一人ずつ確実に、ね)
 紫と黄色の瞳で、敵の動きをしっかりと捕らえ、先の動きを予測する。
「そこ!」
 ぐっと槍を突き出せば、何とか一体、捉え貫くことができた。
「よし、この調子で~……」
 言いかけた瞬間、理寿乃に向けて、色とりどりの花が押し寄せる! 妖精たちの反撃だ。
「わわっ、さすがにこれは数が……!」
 振り払うには多少手間だと、慌てかけたところに、どこからか弓による支援とショットガンでの阻害が入る。
 弓は樹の上に隠れ、妖精たちを狙撃しつつ機を伺っていたアリャン・ミシュラ(cry砂漠の放浪者・f12336)。
 ショットガンはミスティによるものだ。
 ほっとした理寿乃が、手早く二人に、ありがとー! と手を振った。
 言葉少なな人狼の青年は、少し迷いながら、軽く手をあげて応じる。
 それから、位置がバレたとまた速やかに移動をし、新たな狙撃の位置取りをおこなった。
(森の……大気汚染で……人が、危ないのか……)
 新たに弓を番えながら、青年を狙いを定める。
 彼の脳裏にふと、親しい友人の陰がちらりとよぎるが、アリャンは大丈夫だと首を振った。
「今は大丈夫だ……一人でやれる……さ……」
 引いた弦を離す。真っすぐに飛んだ弓は、見事に妖精の小さな体を射抜いて落とした。
「俺は……、人を護る……」
 誰かに向けてそう呟くと、青年は再び、移動を開始した。

(ん、彼は……)
 戦場を見渡していたミスティの視線が、ルクに留まる。戦いに慣れぬ様子ながら、花畑に踏み込んだ彼に一人で集団戦はミスティから見ても幾分心配で。
(支援した方が良さそうですね)
 夜霧のように速やかに。ミスティはルクへと駆け寄った。
 そして気づく。
「これは……」
 ルクの歩いた道筋には、カーペットのように様々な色のペンキで彩られていた。
 あるいは青、あるいは黄色。そしてそれらは――、
「え、えい!」
 ルクの声が響く。彼の塗った赤いペンキは、炎の魔力が込められていて、命中した妖精が熱い熱いと叫びながら、ぱたりと倒れた。
 仔竜がふーっと息を吐く。
「援護します」
 ミスティが声を掛けると、ほっとした様子でルクがはにかんだ。
「こ、心強いです……よ、よろしくね……」
 ぺこり。頭を下げたルクの背後に、妖精が忍び寄ろうとするのを、ミスティは見逃さなかった。
「失礼」
 すかさず引き抜いた銃から秒間19発もの弾丸を発砲する。
 ユーベルコード≪速射(ラピッドファイア)≫は、その頼もしさをまざまざと見せつけた。……ちょっと仔竜の心に恐怖を覚えさせるぐらいに。
(こ、このお姉さん……ちょっとこわい、かも……)
 表情を隠せない仔竜に、
(怖がらせてしまいましたかね……)
 表情が出ない女は、一抹の申し訳なさを感じながら、その背を守りに入った。

 アイシスは一人、加護の付与や空気の浄化という形で仲間たちを支援していたが、攻撃の手段を持たない彼女が妖精たちに狙われるのは必然であったろう。
 妖精たちには、アイシスが森の空気を浄化していることが分からない。
「待って、妖精さん。わたしたちは空気を……っ」
 アイシスが彼らのためにもと言葉を重ねようとするも、妖精たちは聞く耳持たず。
『えーい、ぽかすかやっちゃえー!』
 発動している何かを止めるためにも、森の恵みでその技を邪魔しようとする。
「……っ!!」
 やっぱり、聞いてもらえないんだと、アイシスがぎゅっと目を閉じた。
 次の瞬間聞こえてきたのは、妖精たちの『ぎゃんっ』『あてー!』という悲鳴だった。
「あっぶなーい。アイシスさん、怪我はしなかった?」
 目を開くと、理寿乃がにっこり微笑んでアイシスを庇うように立っていた。
 彼女の手元からは、彼女の左目のように美しい色の糸……【クリセイオーの残糸】が伸びており、妖精を何匹か捉えていた。
 状況から見るに、どうやら、彼女は手繰り寄せた妖精たちを盾に使ったらしい。
「う、うん。大丈夫……」
 ごめんね。と、心の中で妖精さんに謝りつつ、アイシスが答える。
「良かった~。アイシスさん一人だと危ないみたいだから、私、この近くの敵から退治しますね」
 ドラゴニアンの女性が言うと、二人のほぼ真上の樹上から、声が加わる。
「……俺も、いる……援護しよう……」
「あ、アリャンさんもそこにいたんですねー」
 今気づいたとばかり、理寿乃が声を掛けると、応えるように葉っぱが一枚、ひらりと落ちて来た。
「それじゃあ、アイシスさんの近くはお任せしても大丈夫ですか?」
 問えば、無言。けれど、もう一枚葉っぱが落ちてきて。きっとこれが寡黙な青年の了承の合図だろうと受け取った元農家のドラゴニアンは、くるくる、腕を回した。
「それじゃあ、私はもう少し離れたところの敵も倒してきちゃいますねぇ」
「あ、あの……!」
 離れいく理寿乃と、それから姿は見えない青年を、アイシスが呼び止めた。
 何でしょうと振り返る女に、少しいい澱みながら、ブラックタールの少女は、
「あ、ありがとう」
 笑みを浮かべて、礼を言い。

「もう一息、がんばりましょうねっ」
 理寿乃が槍を手に、頷き、
「……ああ、がんばろう……」
 アリャンもまた、聞き取れるか否かの声で返すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

八幡・茜
ふふふ、勝手に入ってごめんなさいね
でも、こんなに美人なおねーさんと知り合いになれるなんて、あなたたちは幸せなのよ!

あんまり痛めつけるのも気が引けるから、お友達になって通してもらおうかしら
森の木々を利用してこそこそと相手に近づくわね
それで掴める位置まで移動出来たらお友達になりましょう!
ふふふ、お友達になれば通してもらえるわよね!
おねーさんってば天才ね!
一人使えたら、抱きしめて確保しつつもう一人を捕まえてーって沢山お友達を増やすわね!

それにしてもあなたたち……可愛いわね!
お友達になれたらぎゅーっとして、沢山可愛がってあげたいかしら!
おねーさんにいっぱい甘えてもいいのよ! はぁ、お家へ連れて行きたい




「ふふふ、勝手に入ってごめんなさいね」
 目の前に浮かぶ妖精たちに向けて、尻尾を左右にふりふりさせながら、八幡・茜(妖狐の戦巫女・f04526)が両手を腰に仁王立ちする。
「でも、こんなに美人なおねーさんと知り合いになれるなんて、あなたたちは幸せなのよ!」
『なんだこの狐の人~!』
『変な人だ、変な人だ!』
 急に背後から登場し、声高らかに宣言する女に動揺する妖精たち。
 そんな彼らにぴいきゃあ叫ばれてもおねーさんにはどこ吹く風といった顔で、ふふんとその声すらも嬉しげに白く整った鼻を鳴らした。
 妖精たちの愛らしさに、痛めつけるのは気が引けると感じた茜は、こっそりと樹々に隠れ隠れしながら、接近する隙のある妖精たちを探していたのだ。
 そして愛でたく……いや、目出度くその獲物と認定されたのは、目の前に浮く二体の妖精さんたちである。
『えぇい、何だかよく分からないけど、おまえも追い出してやるーっ!』
 言って、わたわたと占いに入ろうとした妖精たちの虚を突いて、茜はぱしっと相手の小さな小さな手を取る。
『!?』
 慌てた隙に、もう一人の手も、ぱしっ。
『ななな、なにすんだー!?』
『なにするのー!?』
「ふっふっふ……それはもちろん……」
 茜は不敵に笑う。妖精二体は気が気ではない。ごくりと唾をのみ込んだ。
「お友達になりましょう!!」
 ぺかーっと、満面の笑みで茜が言うと、
『『は……?』』
 呆気に取られた妖精たちが一時動きを止めた。もちろん彼らは反対する……かと、思いきや、実は既に茜のユーベルコードは発動していた。
 みよんみよんと、繋いだ手から流し込まれる『友達になることを強制される毒電波』。
 それを受けた妖精たちは、本人たちが望まないにも関わらず、身動きが取れなくなっていることに漸く気付いた。
「はーい、それじゃあもうお友達ね! おねーさんってば天才! ……それにしてもあなたたちって、とっても可愛いわね!」
 おねーさんぎゅーしちゃう! なんて言いつつ、熱烈な抱擁と頬擦りをお見舞いする。妖精たちは言い返すこともできない。
「ふふふ、おねーさんにもいっぱい甘えてくれてもいいのよ?」
 にぃっこり。純粋な笑みは可愛らしくも美しい。……小脇に妖精たちの血の気の引いた顔が浮かんでなければ、もっと完ぺきだったのだが。
 一挙に二人を確保して小脇に抱えつつ、あちらにも一人で浮かんでる狙いやすそうな獲物もといお友達がいると見るや、陽気な妖狐のおねーさんはぴょんぴょん、軽い足取りで花畑を進んでいく。途中、
「はぁ、お家へ連れて行きたい」
『『ひぃっ……!!』』
 つぶやきと、喉から絞り出したような悲鳴が何度か聞かれたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
大気汚染、か…
妖精達に悪意は無いんだろうし
ある意味では被害者とも言えるんだろうけどね

★Staff of Maria を構え
花は僕の十八番だから
この場所では絶対に、負けてあげない

敵の攻撃は予備動作を【見切り】ながら
【空中戦】と地上戦を繰り返すことにより回避
風の【全力魔法】で周囲の花をも捲き上げる竜巻を発生させ
視界妨害兼攻撃

びっくりした?
でも僕の本業は魔法じゃないんだなぁ

敵の動きが止まってる間にUC発動
位置と数を捕捉し
【催眠】を混ぜた【歌唱】で操る花弁で一掃
万一回避されても催眠で鈍れば強化した魔法でトドメ

花畑は初めからあるし
今回の場合は僕の魔力を流し込むことで領土にする
が…正しいのかな

ごめんね?


ルーシー・ルー
空気が綺麗で旅してて気持ち良い世界だし、大気汚染は放って置けないわね。ま、原因とかの究明はもう一つの依頼に行った猟兵達に任せるとして…こっちは暴れてるオブリビオンをブッ飛ばしてやるわ。

花と星の妖精…まったくあっちこっちから喧しい連中ね。「ワンダリング・ファイアバード」で片っ端から片付けてやるわ。沢山いるみたいだけど、【高速詠唱】して全員焼き落としてあげる。周りは植物だし、延焼させない方が気遣うわね。

※絡みアドリブ歓迎です


オルハ・オランシュ
縄張りに上がり込むのは申し訳なく思うけど
君達はこの汚染は気にならないの?
花に元気がないのだって、余所者の私にも一目でわかるのに……
放っておくわけにはいかないんだよね
この仕事を請けた以上、私は退かないよ

なるほど、単なる森の恵みじゃないってことか
対策が必要だね
万一攻撃力を削られてもいいように
トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化しよう
もちろん当たるつもりもないんだけど!
【見切り】を狙って少しでも被弾を避けるよ

小さい相手だけど外さないようによく狙いを定めて
【範囲攻撃】で一気に攻撃しちゃおう
他の猟兵と力を合わせて、さくっと終わらせたいな




「大気汚染、か……」
 花畑の最中に立ち、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はぽつりと零した。
「妖精達に悪意は無いんだろうし、ある意味では被害者とも言えるんだろうけどね」
 凶暴化する彼らの気持ちもある程度は分からなくはないと、澪は言い。
 その傍らにしゃがみ込んで弱った花を撫でていたオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)も、つられたように呟いた。
「でも、花に元気がないのだって、余所者の私にも一目でわかるのに……」
 顔を上げる。
 目の前に浮かぶ妖精たちは、侵入者の姿に気が立っている様子だ。
 その怒りの矛先を向けるべき相手は、きっと本当は別のはずなのに。
 オルハにはそれが歯がゆい。
「ま、妖精たちがどうしたいかはさておき……どちらにせよ、この世界は空気が綺麗で旅してて気持ち良い世界だもの。大気汚染は放って置けないわよね」
 二人に比べると一歩二歩引いた物言いは、ルーシー・ルー(ブレイズ・ネスト・f13750)の言葉だ。
 杖の先で地面を押しながら、少年少女の様子を眺める。その視線はどこか、二人の動き方を見定めるような色合いで。
「もちろん、放ってなんかおかないよ」
 オルハが立ち上がった。三叉槍【ウェイカトリアイナ】は、今日もしっかり手に馴染む。
「引き受けた以上、私は退かない」
 少女の若草に似た瞳の色は、その柔らかさに反して、鋭く輝いていて。
「僕だって」
 澪もまた、淡く、燐光を放つような美しい杖【Staff of Maria】を構える。
「僕の十八番のこの場所で、負けてあげないつもりはないよ……絶対に」
 少しの茶目っ気を含めて言うも、言葉に秘められたその強さは到底隠せるものではない。
 二人のやる気を目の当たりにし、ルーシーが帽子の唾を引き下げる。
「オーライ、そうこなくっちゃ」
 言って、にやりと好戦的な笑みを浮かべた。

「君達はこの汚染は気にならないの?」
 自分に差し向けられた花や木の実等を次々に打ち落としながら、オルハが少し強い口調で妖精に尋ねる。
 仲間の内の一人の献身により、今でこそ空気は清浄なものに変わったが、それでもこの花畑から数メートルも外に出れば、再び黒い靄で満たされているのだ。
『僕らはこの花畑を守るだけだーっ』
『出てけ出てけー!』
 妖精たちの答えは、オルハの問いへの答えにもなっていない。彼らにとって大事なのは『縄張りである花畑を侵入者から護ること』だけなのだ。
 花を直接的に守ろうとか、森全体を救おうとか、そういった頭は初めからないらしい。
(やっぱりだめみたいだね……)
 少しでも、どうにかしたいと言ってくれたなら、と思わなかったわけではない。
 そうすれば、力を貸してあげれたかもと。
 オルハは身軽に跳び退いて、妖精たちから距離を取る。
(それならそれで、私は私の仕事をやりとげるまでだよ!)
 オルハの槍が赤い光を帯びる。選択した属性は炎、攻撃力の強化だ。
 敵の攻撃の特性を把握し、万一に備え、自身を強化する。
 オルハが自己強化で足を止めたのを見計らい、妖精たちがわーわーとキノコを投げつけた。
 ぴくりとオルハの大きな耳がキノコの飛来音を聞き取る。
 振り返り、その軌道を読み取ると、素早く身をかわした。
「もちろん当たるつもりはないんだけどね!」
 かわし様に一気に間合いを詰めると、槍で横に薙いで敵を一掃する。
 槍の巻き起こした風が、花弁も巻き上げて散らした。

「へぇ、あの子やるじゃない」
 ルーシーがちらりとよそ見していれば、その足元で黒猫が何かをルーシーに訴え掛けた。
「はいはい、分かってるわよ」
 まったく、口うるさいんだからといつもの調子で、ルーシーは杖を振りかざした。
「大気汚染の原因も気にならないじゃないけど……ま、究明についてはそっちに行った猟兵が上手くやるでしょ。……こっちはこっちでブッ飛ばしてやらないとね」
 杖の先端が紅の光を発し、眩いばかりに花々を照らす。
 植物と炎の相性は、ある意味で抜群だ。燃える、という意味でだが。
 不穏な気配を感じ取った妖精たちは、大急ぎでルーシーの元へと詰めかけた。
『なんか、あいつ、危ない気配がするぞー!』
『みんな、やっちゃえー!」
 女は、ふぅと、呆れたように息を吐く。
「まったくあっちこっちから喧しい連中ね……やっちゃわれるのは、アンタたちの方だって教えてあげるわ」
 言うや、女は複雑な呪文を間違うこともなく一息で唱え切った。途端に杖の輝きが最高潮へと達し、その中心から孵るように、炎の鳥達が次々に生まれて周囲の妖精たちを燃やして落とす。
『ひっ』
 あっという間に数を減らされ、妖精たちに動揺が広がった。
 落ちた妖精から炎が燃え広がりそうになるのを、指先ひとつで消化して、
「まったく……延焼させない方が気遣うわね」
 ぼやくように言えば、ルーシーは残った妖精たちへと向き直った。
 構えた杖の先、一羽の炎の鳥が、威嚇するように羽を広げた。
「さ、次に燃やされたいやつは誰?」

 彼の飛翔とは異なり、妖精たちは『浮遊』といった飛び方ならば、一度高く飛び立たれてしまえば、妖精たちには文字通り手も足も出せない。
 天に向かって木の実を放れど、重力に従って落ちて来たそれを、自らの顔面で受け止めて『ぐぇっ』などと呻いている。
 澪は、妖精たちの攻撃を的確に見切りながら、取り囲まれて花や森の恵みを投げられても冷静に飛び立ちこれを回避していく。
 澪の多彩な動きに業を煮やした妖精たちが、ある程度固まって来たのを見て、
(そろそろ頃合いかな)
 澪は、スタッフを振るい、自身の現時点で行える最大の力で風を繰り、竜巻を発生させる。
「びっくりした?」
 千切れ、舞う花を守ることもできず、慌てて天空を見守るばかりの妖精たちに、澪は悪戯っぽい笑みを浮かべ、地面へと降り立った。
「でも僕の本業は魔法じゃないんだなぁ」
 まだ驚いた様子で空を見上げている妖精たち。彼らの数と位置は、既に上空から把握済みだ。
 少女のような高さを残す少年の歌声が、花畑に並みとなって広がっていく。
 眠気を掻き立てる魔力を込めた歌声、《誘幻の楽園(エデン・オブ・ネニア)》は、妖精たちの動きを鈍化させ、眠りの内に操った花弁で彼らを永遠の眠りへと落としていった。
 サク、サクと、歩く度、散った花を補うように澪の足元から花畑が広がる。
 やがて、妖精たちのほとんどは花畑から姿を消した。
 森らしい静寂に包まれる中、澪は再び、悪戯っぽい声で言った。
「ごめんね?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『息吹の竜『グラスアボラス』』

POW   :    フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【次回のプレイング受付は、当方の都合により22日の朝8時30分以降となります。
 それまでに追加OPを掲載いたしますので、プレイングの御参考にお使いください。

 また、受付開始前のプレイングは、必ず一度お返しすることになりますので、どうかご了承くださいますよう、お願い申し上げます】

 妖精たちから花畑を取り返した猟兵たち一行の耳に、樹々を震わす咆哮が飛び込んでくる。
 その方角へ急ぎ向かった面々を、強風が襲う。
 汚れた空気が渦を巻く。
 足に力を込めその場に喰いとどまり、前方を見れば、淡い色合いの美しい竜が――美しい色合い“だったのだろう”竜が、辺り一帯、手当たり次第にブレスを吐き散らしていた。
 その鱗や翼には薄っすら、黒い煤が溜まったように濁っており、竜が元来持っていたのだろう新芽や花のような明るく柔らかな色味は失われ黒ずみ。
 周囲の樹々は、鋭利な刃物で切られたように傷ついているものもあれば、どうしてそうなったのか草花に侵食されたように覆われているものもある。
 一目で見て分かるだろう。
 竜は、暴走している。

 息吹の竜『グラスアボラス』は、この何にぶつければいいのか分からない憤怒を、自分を苛む空気を、吹き飛ばそうとして我武者羅に息を吐きつけているのだ。

 けれどそれは唯空気をかき混ぜるだけの行為だ。事件の解決に結びつくものではない。
 このまま放置すれば、見境を失くした竜は森に入ったこの世界の住人に危害を加えることは想像に難くない。
 もしかすると清浄な空気を求め、人里へと向かってしまう可能性すら考えられるだろう。
 ――思うところがある者もいるかもしれないが、この竜は倒さなければならない。今、ここで。

 猟兵は武器を手に、臨戦態勢を取る。
 花畑の空気は、今なお、正常には遠く――。
栗花落・澪
可哀想…だけど、倒さなきゃいけないんだよね。
ただ……うん、挑戦だけは、してみてもいいかな

敵の直接攻撃は予備動作を【見切り】、【空中戦、オーラ防御】で回避
風にはそれに負けないくらいの風を
【全力魔法】で足止めしながら
【催眠を混ぜた歌唱】で動きを鈍らせる

敵がSPD攻撃を放って来たら
UCの輝きに【優しさと祈り、破魔】を混ぜることで
痛みの無い暖かな浄化の輝きに変換し
竜胆の花弁を相殺しながら
その温もりで包み込んであげたいね
出来るなら、被った煤くらいは払ってあげて

最期に抱くのが怒りだなんて悲しいから
もっと早く助けてあげられなくてごめんね
他の猟兵がどう出るかだけど
僕の望みは、せめて少しでも幸せな終わりを


アイシス・リデル
さっきまでに取り込んだ毒で、身体をおっきくする、ね
そこまで強力な毒じゃないから、あんまりつよくはなれない、けど
このわたしでも、普通に戦えるぐらいには、なると思うから
わたしだって、猟兵だもん
他の人たちに、迷惑はかけない、よ
わたしたちの中のスクラップで、新しいバラックスクラップを組み上げて戦う、ね

戦いが終わったら、犠牲者のコードでグラスアボラスの汚れをわたしの中に取り込む、ね
もう消えちゃうあなたには、意味のない事かも知れないけど……
ほんとうなら、あなたはもっときれい、なんだよね
だったら、最後にきたないままなのは、いや、だよね
うん、大丈夫
きたないのも、くるしいのも全部、わたしが持っていってあげるから


ルク・フッシー
(そっちも、被害者かもしれないけど...)「や、やらなきゃ...」
『真の姿』を発動。強化された【連射塗装】で火属性の赤い絵の具を連射し、本体だけでなく花畑も焼き尽くす作戦。ただし他の猟兵が他の属性で戦うなら、そちらに合わせます。

『真の姿』ルク自身をかたどったような石像。ところどころヒビ割れていて、ヒビから塗料をホーミングレーザーのように発射する。大抵の場合は胎児のような姿勢をとる(どの姿勢でも視界などに問題は無い)。意識や人格に変化はなく、若干浮いているが自力で動いたり話したりはできない。その分防御力に長ける。

「ごめんね...」

【真の姿の描写を除き、アドリブ、絡み歓迎します。】


刑部・理寿乃
……(どんなに時が経っても狂った竜を見るのは――)憐れで切なくなるわ。解放してあげましょう、その苦しみから。

敵はそう素早い感じは受けませんね。中~遠距離から範囲攻撃が多い感じ……。
余り他の方と固まらないように動きます。
頭部をドラゴニアン・チェインで狙い、繋いだオーラの鎖で味方に放とうとする息吹を【怪力】で無理矢理方向を変えます。
そうして自分の方に来た攻撃は【武器受け】します。完全に防ぐことはできないかもしれません。
「性ではないですが、今回は特別です。少しぐらい痛みを分かち合ってあげます」
一撃で楽にしてあげられない自分への戒めもある。どうか早く終われるよう願います。


八幡・茜
オブリビオンである限りは、どれだけ可愛くても滅ぼさないといけないのよね
やらなきゃいけないなら仕方がないわね!
ふふふ、あなたは幸せものね。この美人のおねーさんを見ることができたのだから!

風に吹き飛ばされないように木や地面の凹凸を利用しつつ近づき
近づけたら首のあたりにしがみつくわね
両手を繋いでぎゅーっとしがみついて、こっちが傷を負っても気にしない
首のあたりにしがみつければ鈴の音が届くと思うし、訳の分からないものに絡まれる恐怖を与えて神雷を使うわ
ふふふ、あなたがいけないのよ、こんなに可愛い姿をしているから!
ついつい抱きしめたくなっちゃう!

怖いのは一瞬だけ
最後は優しく抱きしめてあげらえるといいのだけど


ミスティ・ミッドナイト
グリズリーやイノシシならば、人里に降りないよう対策のしようもありますが…。
おとぎ話に出てくるような竜…ドラゴンですか。それも見境がなくなっている。
黙って見過ごすわけにはいきません。それが人間のエゴだとしても、人々に危害を加える可能性があるのならば“害獣”です。対処しなくては。

ステップ1
口の向き、呼吸のタイミングを【見切り】、ブレスの回避を試みます。
ステップ2
念の為、竜の機動力は抑えたほうが良いでしょう。翼をハンドガンで狙います。
ステップ3
隙を見せたらグレネードランチャー(UC)で40mmグレネード弾を撃ち込みます。

巨体だけあって動きは鈍そうですが、油断せずにいきましょう。




 目の前にいるのは、倒すべき敵。オブリビオンだ。
 だが、それを目の当たりにした時の感情は――敵対より、同情を抱く者の方が多かった。
「あれが、予知に掛かったメインターゲットと見て間違いないでしょうね」
 ミスティの赤い瞳が龍を捉える。その表情に揺らぎはない。
「……苦しそうだ、ね」
 アイシスが、僅かに表情を曇らせ呟いた。
 黒い肌、不浄とともにある少女は、穢れに塗れる辛さを知っている。
 そこから生まれた自分なら耐性もあり、言ってしまえば――“慣れている”。けれど、そうでない者の苦しみは如何ばかりか。
 分かるからこそ、心が苦しい。
 澪もまた、目を伏せようとして……頭を左右に振り、食い止める。
「可哀想……だけど、倒さなきゃいけないんだよね」
 肩まで届く琥珀の髪が、風に舞う花びらのようにざわざわと揺れた。
(ただ……)
 けれど、乱れる髪とは裏腹に、その瞳には真っすぐな、揺らがない決意が満ちている。
(うん、挑戦だけは、してみてもいいかな)
 握りしめた手の中、花びらで満ちた小瓶が、ひやりと冷たく感じられ。

「オブリビオンである限りは、どれだけ可愛くても滅ぼさないといけないのよね。残念だわ」
 ふぅと、茜が息を吐いた。
 先ほどまで抱えていた妖精たちは既にどこかでさようならしてきたようだ。
 彼女には珍しく、眉尻下げたしょげた表情を浮かべながら口とがらせて。
「ええ、グリズリーやイノシシのような獣ならば、人里に降りないよう対策のしようもありますが……ドラゴン。それも見境がなくなっている。オブリビオンでなくても、駆除対象でしょうね」
 ミスティがそっと頷いた。
 黙って見過ごすわけにはいかない。彼女も、此処に立つ理由があるのだ。
 人間に危害を加える可能性があるのだとするならば――、
「それが人間のエゴだとしても、人々に危害を加える可能性があるのならば“害獣”です。対処しなくては」
 その言葉に、ルクは一度びくりと身を震わせたものの、ぎゅっと目を瞑って、自分の底にある幽かな勇気を奮い立たせる。
 その様子は、目の前の苦しむ者を見まいとしているようにも見え。
「や、やらなきゃ……」
 あの竜も、被害者なのかもしれない。けれど、だからと言って見過ごすわけにはいかない。
 ミスティの言うとおりなのだ。
 自分だって、この事件……暴れるオブリビオンを退治するという任務を受けてここに来たのだ。
 辛うじての勇気で自信を繋ぎ止めるルクの横で、
「やらなきゃいけないなら仕方がないわね!」
 明るい声が、沈痛な空気と弱くなりそうな思考に歯止めをかけた。
 茜が、明るい水色の目を細めて笑う。
 にこっと笑う口元から、ほんのわずかに犬歯が見えた。
 ずもずもと、徐々にアイシスの体が大きさを変える。
 ≪母なるアイシス:暴食者(マザー・アイシス・グラトニー)≫。アイシスのユーベルコードだ。
 先ほどまでやや小さい体だったアイシスが、妖精たちとの戦いの間に食べた大気中の『毒』を元に、自身の体を強化していく。毒自体は強いものではないが、戦闘中ずっと空気を清浄化し続けていたのだ。食べた量はそれなりになっている。
「これなら、いける、かな」
 戦うには十分だろう。背丈も、ほぼ遜色がないほどまで膨らませることができた。
 同時に、ガラガラと自身の中に取り込んでいたスクラップを取り出し、素早く組み立てていく。
 赤黒い汚れのついた特殊な形のスコップ。それを手に、しっかりと構える。

 常、見た目通りに、ふわふわと柔らかな表情を浮かべることが多い理寿乃は――けれど、今の表情は、硬く、厳しい。
「……」
 口を閉ざし、目の前の竜を見る彼女の心をチクチクと棘が苛む。
(どんなに時が経っても狂った竜を見るのは――)
 憐れで切なくなる。
 同じ竜の血統である彼女だから、その苦しみに余計に共感してしまう。
 ……理由は、それだけではないかも知れないが。
 すぅと、息を吸う。
 故郷のものとは違う、苦い、汚れた空気が臓腑を満たした。
「解放してあげましょう、その苦しみから」

 皆、狙うのは短期決戦だ。

 だって、苦しみは早く終わる方が、いい。


 怒りのままに暴れ狂う竜は、絶え間なくブレスを吐き続けているように見えて、実のところそういうわけでもなさそうだった。
 もう長くそれを続けているのだろう。
 元々の大きな体もあり、動きは鈍重だ。猟兵たちが来るまでの間、ずっと動き暴れ続けていたのだから当然と言えば当然だが……、
(もう、素早くは動けないみたいですね)
 敵の動きを観察していた理寿乃が、冷静に見極める。
 敵の攻撃範囲も、単体に向けたものというより、ブレスの通り道一帯をまとめて攻撃するものが多いようだ。
(固まらない方が良さそうかな)
 理寿乃が率先して皆と距離を離すように動くと、他の面々も意図を察して位置をばらけさせる。
 理寿乃同様に敵の動きを具に見ていたミスティは、散る前に全員に聞こえる程度の声量で言葉を掛ける。
「バテて動きは鈍くなっているようですが、油断せずにいきましょう」
 ミスティが牽制に一撃、トリガーを弾く。
 真正面からの一撃は、風で軌道を変えられたが、
(……先ほどまでの様子と、今ので大体のタイミングは掴めましたね)
 敵の攻撃の威力も大方把握できた。仲間たちの動きを視界の端で追いかけながら、ミスティはタイミングを計り始める。
 彼女の中のほぼ正確なタイマーがゼロを数えたところで、ミスティは木の影から飛び出し、グラスアボラスの側面へと走って回り込む。
 途中、走りながら何発か弾を撃つが、それは彼女の目的ではない。
 飛び出して来た彼女を追って竜が鎌首を擡げ、竜巻染みたブレスを放った。
 ミスティは、ブレスが己を捉えようとする瞬間、一気に駆ける速度を上げそれを振り切る。
 グラスアボラスがミスティを追いかけようと、翼をはためかせ、花を踏み荒らしながら向きを変え始める。
「こら、そっちはだーめ」
 敵の動きを上空から察した澪が、竜の前に風の壁を生み出し、それを阻む。
 続けて、彼専用のマイク【Angelus amet】を手に、歌声を響かせ始めた。
 眠りを誘うような歌声は、花畑を心地好く包みんでいく。
 音に気を取られたこともあるだろう、竜の気はミスティから反れ、体は方向転換を止める。
「澪さん、ありがとうございます」
 空飛ぶ彼には聞こえないだろうが、律義にお礼を呟いたミスティは、竜の真横のポジションを取ると、しっかりと足を止めた。
 自身の体を固定したその瞬間には、傭兵は既に照準を定めており。
 銃口が火を噴いた。
 連続して撃ち込まれた弾は、竜の翼の皮膜を破り筋を断つ。
 咆哮が歌声を掻き消した。
 片羽だけでも奪えば十分。少なくとも空を飛ぶことはできないだろう。
 猟兵たちの連携を安全そうな木の影に一旦身を隠して見ていたルクが、こくりと唾を飲み込む。
「ぼ、ボクも、がんばらなくちゃ……」
 ルクは一人静かに真の姿を解放する。
 細長い体をくるりと丸く、蹲るような姿勢を取った。すると、尾から徐々に、ルクの体が石へと変化していく。
 それほど時間を掛けず、それは完成した。
 ルクを象った彫像のような彼の真の姿は、地面から僅かに浮き上がった。
 浮かんだ拍子に、体の所々に入った亀裂から、インクがぼとぼとと漏れ出す。
(あ、当たれ……!)
 先ほど見ていた澪の魔法にならい、風の属性の薄緑色のインクを選んだルクは、そう念じながら敵に向けて亀裂から塗料を一斉に噴出させる。
 当たった塗料は風を呼び、刃物のような鋭さで竜の体を斬りつけた。合わせて、噴き上げる風が足元に咲く花をも散らす。
(や、やった……!!)
 命中した喜びに一瞬、インクの勢いが弱まる。
 その隙に竜は痛みを込め、ブレスを吐き出そうとルクへと顔を向けた。
 竜がルクへと狙いを定めた瞬間、竜の形をしたオーラがその頭部を襲う。
 オーラは命中するや激しい爆発を生じさせ、爆発の煙が収まるとグラスアラボスの頭部は輝くオーラでできた鎖でがっちりと結び付けられていた。
 鎖のもう一方の先は、理寿乃がしっかりと掴んでいる。
 理寿乃が鎖を無理やりに引く。
 ルクを狙うはずだったブレスは、方向を変えて理寿乃へと向かう。

 避けようとすれば避けられるその攻撃を、理寿乃は避けなかった。

「性ではないですが、」
 ギチ、と、オーラの鎖が軋む。
「今回は特別です。少しぐらい痛みを分かち合ってあげます……っ」
 その手に持った赤錆びたバスタードソードで幾分受け流したとはいえ……直撃は、やはり効く。
 体のあちこちに細かな切り傷を受けながら、ドラゴニアンの女は、鎖を緩めようとはせず。
「っ! 理寿乃さん、無理しちゃだめ、だよ……!」
 傍から見れば、あまりにも無謀だ。
 手に持ったスクラップで竜の機動力である足を叩いていたアイシスが、声を上げた。
「私のことはいいんですっ」
 理寿乃が応える。竜の動きを押さえるために歯を食いしばっているせいだろうか……その声は重たげに、振り絞るように聞こえた。
「いいから、早く……!」
「ええ、早く終わらせましょう」
 言葉のみで同意して、傭兵は持ち替えた武器をグラスアボラスへと違わず向けた。
「アイシスさん、離れてください」
 《携帯式擲弾発射器(グレネードランチャー)》から放たれる40mmグレネード弾は、ドラゴンの肉を抉るだけに留まらず、その爆発は周辺の地面をも抉る。
 堪らず、竜は自身を守ろうと自身の爪を紫色の花びらへと変じ、猟兵たちを一掃しに掛かる。
「全ての者に光あれ」
 天から、声が、光が注ぐ。
 澪の《Fiat lux(フィーアト・ルクス)》の輝きが、無数に思える量の花びらの一枚一枚を光の粒子へと変え、相殺する。
 それは、柔らかな、春の日差しのような光。
 空気の中の黒い粒さえ光を反射して輝き、まるで天上の光景にも似て――。

「うふふ、つーかまーえたっ!」
 グラスアボラスの背に、軽快な声と共に女が乗る。
 うわぁ、ひなたぼっこみたい。ぬくぬくね! と言う声は、遊ぶとき同様に、気取らず、快活で。
「ふふふ、あなたは幸せものね。この美人のおねーさんを見られるなんて。それに、ぎゅーも付いてるのよ!」
 シャン、シャン。
 女の動きと竜の呼吸による体の上下に合わせて鈴が鳴る。
「ふふふ、あなたがいけないのよ、こんなに可愛い姿をしているから! ついつい抱きしめたくなっちゃうわ」
 茜は、ふっと息を吹きかけた。煤が舞う。
 けれど、一部はこびり付いて、手で拭わなければ取れそうにない。
 竜は女を振り払わない。
 振り払う力すら、もうないのかもしれない。ただ荒い呼吸を繰り返すばかりだ。
 茜が白く細い指で、撫でるように竜の皮膚を擦った。なぞった跡が、くっきりと残る。
「怖いのは一瞬だけよ」
 巫女が、頬を竜の首にくっつけ、目を閉じた。
 白い頬が汚れ、白い髪が汚れ、白い衣装が汚れるのも厭わずに。
 パチリと空気に火花が爆ぜて。
 茜の背後に巨大な神聖な気配を纏った大樹が現れる。
「大丈夫」

「おねーさんに、任せなさい」

 竜が最期に感じた感情が何だったのか……知る者は、ひとりもいない。


 倒した竜を、最期ぐらいは綺麗な姿で、と望んだ者は多かった。
 アイシスは自分なら隅々まで綺麗にしてあげられると言って、先の戦いで彼女の浄化の力を見ていた仲間たちはそれに反対する理由もなく。
 竜の体は少しの時間の後、怪我を除いてまるで洗ったかのようにピカピカになっていた。
「きれい、だね」
 アイシスが、ランタンのようにピカピカに輝く目を細めて言った。
 淡い色の、カラフルな、綺麗なドラゴンだ。
「最後にきたないままなのは、いや、だもんね。大丈夫……あなたの、きたないのも、くるしいのも全部、わたしが持っていくから」
 こつりと、おでこを竜の額にぶつける。
 その後ろで澪とルクは、両手を竜へと合わせた。
「もっと早く助けてあげられなくてごめんね」
「ごめんね……」
 誰のせいでもない。ましてや相手は敵だけれど、そう、思わずにはいられなくて。
 理寿乃もまた、皆から少し離れた場所で目を閉じる。
 自分に力があれば――なんて、想っても、きっと、詮無きことなのに。
 軽く目を伏せていたミスティの横で、しっかり竜の安寧を願っていた茜が、祈りを済ませてくるりと方向を変えた。
 髪の毛が風に乗ってふわりと膨らむ。
「さ、気持ちを切り替えて、お楽しみの時間と行きましょう!」
 一体どんな果物なのかしら!
 意気揚々と進むのにつられ、一人、また一人と花畑と竜に背を向け、歩き出す。

 みんなの後から移動しながら、それでも少しばかり後ろ髪引かれる気持ちで、理寿乃がちらりと振り返った。
「あ」
 彼女のあげた幽かな声を拾ったミスティが同様に振り返り、目を見開いた。
「あれは――」

 振り返った先、美しくなった竜の骸は急速にその姿を変え始めた。
 肉が消え、骨となり、草花と苔が骨を埋め尽くして――、

 それは、失われたはずの竜の時間が、急速に与えられたかのようにも見えたかも知れない。
 まるで昔からあった、遠い昔の遺物のように。
 草花に包まれた骸は、ただ、温かな光に包まれて、安らかに、そこに眠り続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『果物取りしましょう!』

POW   :    野山を力いっぱい駆け巡り、目につく果物を収穫する。

SPD   :    野山を軽やかに駆け巡り、目当ての果物を収穫する。

WIZ   :    野山を観察して果物の生る木を探し当て、収穫する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【第三章の受付は、2月28日(木)午前8時30分以降から開始と致します。
 それ以前に送って頂いたものは一度ご返却いたします。(再送は歓迎です)
 お手数おかけしますが、ご確認よろしくお願い致します。】
●マスターコメント補足
 当シナリオは、『大気汚染から森を救え~森の中のゴブリン編(作者 隰桑MS)』(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=4265)とのコラボシナリオです。
 そちらの、第3章 日常 『雨已まぬ森』との同時参加ももちろん可能です。
 隰桑MSは小説的な文章が御得意なMSさんで、キャラクターの把握もですが、見知らぬキャラクター同士でもとても自然な掛け合いを描いてくださいます。舞台やシチュエーション構成が巧みです。
 戦闘描写もクールでおすすめですが、日常もとてもお上手だと思います。ぐいぐい。
 トリノはお呼びがあれば遊びに、なければ背景でもぐもぐにこにこしているでしょう。
 なお、隰桑MSの依頼には喜んで遊びに行く予定です。共々、よろしくお願いいたします。

 ****


 森の中心にある清浄な滝。
 そこから跳ねる飛沫が雨のごとく降り注ぎ、一年を通して止むことのない恵みを齎すというこの森で、今回猟兵たちが誘いを受けた噂の果物は、まさに、その滝の真裏に存在するという。

 暗くて滑りやすいので気を付けてとの忠告に従って。
 滝の落ちる轟音と、その反響音に圧倒されながら、自然が作り出した細い岩の道を進めば、やがてぽっかりと刳り抜かれた自然の洞窟が現れる。
 水と空気の流れ、頑丈な岩の砦に守られた洞窟内部は、幸いにも済んだ空気のままであった。
 ランタン、懐中電灯、あるいは光源となるものを手に覗き込む。ひやりとした空気が肌を刺す。
 光に反射し、岩肌のあちこちにくっついた鉱石のような結晶が、一斉にキラキラと美しく輝いた。まるで夜空のようだ――が、

 はて。
 果物など、一向に見当たらない。

 色とりどりの鉱石の群れは美しくはあるが、果たして噂は嘘だったのだろうか。

 ――もし、猟兵たちが事前にその果物のことを聞いていなければ、そのまま洞窟見学をして帰ってしまっていたかもしれない。
 不思議な果実「ルスタリ」は、既に皆の前にあったにも関わらず。
 そう。この鉱石の群れ……正確には、鉱石に似たものこそ、その果実なのだ。

 摘まんでも、やはり無機物にしか思えないだろうが、口に放ればあら不思議。
 カチリと歯に硬さが当たったかと思えば、次第に口の中の温度でとろりと溶けて口中に潤いが広がる。
 紫はクワの実。朱色はキイチゴ。
 熟れ方によって色も味も変わるらしい。色々と試してみるのも良いだろう。

 もし、透明な実を見つけられたら……静かに目を閉じ、口に入れてごらん。
 懐かしい、あるいは温かな匂いと味に出会えるかも知れない。

 ただし、珍しい果物なので、取り過ぎにはご注意を。

 【透明なルスタリをご希望の方は、味や匂い、それを味わったときのキャラクターの心情・様子など記載いただければ幸いです】
カチュア・バグースノウ
へぇ、ルスタリ?
鉱石みたいに堅くて、味が違うのね!
もちろん、いただくわ!

好奇心の塊だから色んな色のルスタリを食べまくるわ
酸っぱいのもあるのかしら
…どう考えても外れよね
それも醍醐味なんだけど!

透明なルスタリもあるの?
へー、とても綺麗ね!
匂いは…熟れた果実の甘い香りがするわ
いただきまーす
(もぐもぐ)
(もぐもぐもぐもぐ)
メロンみたいな味がする…
メロンから瓜臭さをとったみたいな、みずみずしくてとても美味しい果物ね
おいしいわよ!

…あれでも後味が…かっ辛い!
からーい!
唐辛子そのまま食べたみたい!
水!!

ぜぇ…はぁ…
甘くて辛くて、不思議な食べ物だったわ

アドリブ、絡み歓迎


ミスティ・ミッドナイト
不思議な果実もあるものですね。グミのような食感…なのでしょうか。どれどれ。

…ふむ。みずみずしくて、どことなくキイチゴを思わせる余韻にほんのり残るビターさ。
見た目もそうですが、面白い味をしていますね。オリジナルカクテルを考えつきそうです。

折角ですし、祝勝祝いということで。
鞄からポータブルミキサーを取り出し、ルスタリを数個放り込んでミックスジュースに。それをトリノさんや他の方々に振る舞います。
ご安心を。アルコールは入っていませんよ?

持ち帰ってジャムにするのもいいかもしれませんね。
とはいえ取り過ぎないように数個だけ頂いていきます。
汚染問題は解決したというのに、私達が自然破壊しては意味がないですから。


刑部・理寿乃
滝の裏側の洞窟とかなんだかワクワクしますね(少年ハート)
しかし、分かっていても鉱石っぽいのを食べるってなかなか勇気がいるわね。
いや、発想の変えましょう。形の変わったシャーベットだと。

やはり狙うはレアの透明なルスタリですね~。
見つけたら果実だけにかじりつきます。
【味と匂いは桃。その味と前の章のドラゴンの事で何か思い出して、涙を流します】
美味しすぎて涙腺がやられちゃったのかなっと誤魔化し、ディアーアンエアと呟きます。


八幡・茜
滝の中の洞窟! なんだかゲームの世界みたいで浪漫あふれるわね!
ふふふ、このおねーさんが隅から隅まで探索してあげるわ!

とりあえず朱色のルスタリを口に入れて味わってみようかしら
こんな綺麗で鉱石みたいなのに食べられるなんて素敵ね、昔都会で見た飴玉みたいだわ
煮たり焼いたりしても面白そうだけど……とりあえず普通に鍋で煮てみようかしら!
ふふふ、どんな風になるのか楽しみね! なんかジャムみたいになりそうだけど! それはそれで美味しそうね!

一通りルスタリを楽しんだら洞窟を色々見て回ろうかしら
このルスタリの実の根本とか興味があるわね、何を栄養素としてどうやって生っているのかしら?


東風・春奈
鉱石のような果実とは、なんとも摩訶不思議な世界ですねー
ふふー、ですが、試さずにいられましょうかー

変わった色がたくさんあるようですが、その中でも、あまりおいしくなさそうな色に挑戦してみたいと思いますー
ケミカル・カラーな緑色や黄色い斑点の浮かんだ白色、この土のような色はなんでしょうかー
誰も挑まないような味にこそ、挑戦しがいがあるというものですねー

よほどひどい味でない限り、笑顔のままぱくりぱくりー
美味しければそれを『トリノさん』や他の方に共有したり、二個目を食べたりしたいですー
逆の場合は何も言わず、滝の水でお口直しですー
ちなみに、リバースはしませんー

アド歓迎
口調は丁寧語+語尾を「ー」で伸ばしますー




「滝の裏側の洞窟とかなんだかワクワクしますね」
「ええ! なんだかゲームの世界みたいで浪漫あふれるわね!」
 理寿乃と茜の冒険心にわくわくと弾む声が反響した。こだまする声から、その洞窟の大きさが何となく測れるだろう。
 この空間は、思った以上に深くて、広い。
 ランタンを掲げても天井が照らし出されないということから、天井も高いことが分かる。気持ちのいい声の通り方だ。
 そしてその事実は、某妖狐のおねーさんの好奇心をくすぐるのに十分でもあった。
 茜のしっぽ、そして周囲に浮かせたライト代わりの狐火が、主の笑い声に合わせてふるるんと揺れる。
「ふふふ、このおねーさんが隅から隅まで探索してあげなくちゃね!」
 ……とはいえそれは一先ず後から。
 一行は先に、噂の果物「ルスタリ」に手を伸ばすのだった。


(しかし、分かっていても鉱石っぽいのを食べるってなかなか勇気がいるわね)
 鉱物に似た果物……と言われても、見た目も、手に持った感触も、どう見ても石そのものだ。しいて言うなら、密度の関係か、石よりは軽いような気がする。けれど、重さの違いが明確に分かるほどの大きさでもない。
 理寿乃は手に持ったまま、暫く果実と睨めっこしていた。
 ふわふわの竜の尾が、警戒するように、落ち着かないように、左右に小さく揺れる。
「鉱石のような果実とは、なんとも摩訶不思議な世界ですねー」
 森の方から遊びに来た東風・春奈(小さくたって・f05906)が、空に似た色合いの、まぁるい瞳でぐるりと洞窟を見渡した。ついでにその場で一回転すると、スカートの裾がふわりと膨らみ、広がって。
「不思議な果実もあるものですね」
 ミスティは警戒というよりは物珍しげに、また慎重に。手元に乗せてよく観察する。
 少し強く押してみても、感触は石のようだ。グローブ越しに爪で弾くと、カツカツと鈍い音がする。
「これを初めて食べた人は、どういった経緯で口に入れたのでしょうね」
 ミスティが呟く傍ら、
「ふふー、ですが、試さずにいられましょうかー」
 春奈が楽しげに笑う。大人しそうな見た目に反し、春奈は好奇心旺盛な女の子なのだ。
「ルスタリって言うんだっけ? 鉱石みたいに堅くて、味が違うのね!」
 好奇心旺盛は春奈だけに限らない。
 カチュア・バグースノウ(蒼天のドラグナー・f00628)は、もちろんとばかり、早速一つ拾っては興味深そうにしげしげと一通り眺めると、何の躊躇もなく、ぽいっと口の中に放り込む。
 口に入れた直後は、やはり石なのではないか……と思わせる硬さだが、間も無くほろりと崩れるように口の中いっぱいに甘い果汁があふれ出す。
 ジュースを入れた小さなカプセルが、瞬間に口の中で弾けたような感覚に、カチュアはパッと顔を輝かせた。
「あ、すごく甘い。へぇ、なんだか面白い食感ね」
「グミのような食感……なのでしょうか。どれどれ」
 毒性がないことが保証されているものならば、ミスティもミスティで飲食に携わる身として知らぬ食材への興味は尽きない。
 カチュアを見習い、薄紫色のルスタリを摘まむと口の中へと入れてみた。
 口の中に入れ、舌で転がすようにしてじっくりと味と香りを味わう。
 ワインを味わうときのようだ。とは言え、彼女はソムリエではなくバーテンダーなのだが。
「……ふむ。みずみずしくて、どことなくキイチゴを思わせる余韻にほんのり残るビターさ。
見た目もそうですが、面白い味をしていますね。オリジナルカクテルを考えつきそうです」
 だから、味わってすぐに思いつくのは、カクテルに流用できないかということで。
 砕いてグラスの縁に付けたらソルティ・ドッグのようになるかも等と考えながら、次の実を手に取る。
「こんな綺麗で鉱石みたいなのに食べられるなんて素敵ね、昔都会で見た飴玉みたいだわ」
 袖が岩場を伝う水に触れないようにそっと押さえながら。
 あなたは少し親近感があるわね、と、手近にあった朱色のルスタリを手にした茜もまた、アクセサリーでも手に取って見つめているかのように、灯りに透かして眺めていたが、やがて、あーんと口を開けて、勿体ぶるように宝石を口に入れる。
 甘酸っぱくて、苺のような。でもそれよりは少し酸味があるだろうか。
 じわりと広がる水気と、どこかで味わったことがあるようで、でも確かに今まで出会ったことがない味。
 茜は口元を軽く押さえて、微笑んだ。
「うーん、次々に手が伸びちゃいそうね。じっくり味わわないと」
 食べすぎちゃうかもしれないわ、と言って。ふと、ぱちぱち、天色の明るい瞳を瞬きさせる。
「食べないの?」
 おいしいわよー?
 手に持った別のスルタリを、ふりふりして見せるのは理寿乃に向けて。
「食べます、食べますっ」
 言われて、理寿乃は慌てて答える。それから、一人心の中で、
(いや、発想を変えましょう。形の変わったシャーベットだと!)
 言い聞かせ。硬く目を閉じ、意を決して口の中へ、ぱくん! 果実に見えないその実を入れた。
 ううん、やっぱり石なんじゃ……と不安が湧き上がって来た瞬間、パッと姿を変えたその実に理寿乃のオッドアイが丸く見開かれた。
「お……いしいっ」
 今口に放ったのは、理寿乃の左目によく似た淡い琥珀に似た色。
 蜂蜜かとも思うような凝縮された甘味と香り。けれど、水気が多いからだろうか、喉が渇くほど甘さが口の中に残る事は無く、くどさは一切感じられない。
「た、確かにこれは気を付けないと採りすぎちゃいそうですね~」
 その口当たりの軽さが、ぽいぽい摘まんでしまいそうになる要因だ。一つの大きさも小指の先ほどで手軽に摘まめるサイズ感なのが危ない。
 文字通り、いくらでも食べられてしまいそうだ。

「あら、二人はもう食べないの?」
 そんな中、色んな色のルスタリを次々の試しているが、手のひらに隙間なくルスタリを並べて二人に問いかけた。
「カチュアさん、いっぱい採りましたね~」
「折角だもの! あ、でも勘違いしないでよね! ちゃんと一色につき一個って決めて採ってるんだから」
 安心してちょうだい、と言ってまた一つ摘まむ。彼女は彼女なりにルールを決めてこの果物を満喫しているのだ。
「わぁ、私の持っていない色もありますねー」 カチュア同様、掌の上で露天商を開いていた春奈が、理寿乃の声に呼ばれて近づいてきていた。
 カチュアの手のひらの上のものは、どちらかというと自然界の中にある宝石に近い、色合いのものが多いが、春奈の手のひらの上のものはそれよりも更に多彩な色合いと形だ。
 発光しているネオンカラーのもの、斑点の浮かんだ白色、本当に岩なのではないか? と思えるような茶色……みんなが敢えて手に取らずに、というか見て見ぬ振りしていたものを果敢に採取している。
「なかなかチャレンジャーね、あなた」
 その品ぞろえを見たカチュアも、その好奇心の強さは認めざるを得なかった。
「誰も挑まないような味にこそ、挑戦しがいがあるというものなのでー」 あまりおいしくなさそうなのが、おいしかったときの嬉しさは人一倍ですー、などとマイペースに春奈は言って。
 目を丸くする理寿乃の目の前で、にこにこしながら、春奈は一つ摘まんで口に放り込んだ。これまた毒々しい紫がかった赤色の果実だった。
「あ、これは結構おいしかったですねー。召し上がりますかー?」
 丁寧に断る理寿乃と、それじゃああたしはもらうわと手を伸ばすカチュア。
 今しがた春奈が食べたものと似た色のものを口に入れると、途端、カチュアが口を尖らせ、ん~! と声にならない声を上げた。
「酸っっっっ……ぱ!! 今のはすごく酸っぱかったわ……!」
「あれー? おかしいですねー。同じ場所で採った、同じ色のものだったはずですがー?」
 不思議がるドワーフと、今の色は外れねと言いつつも、それすら楽しんでいる様子のエルフ。これもこういう運要素のあるものの醍醐味よね! と、懲りることなく、口直しに甘そうな色の果実を放る。それから、
「とりあえず、目についた色は採ってみたのよね。他にも何色かあるのかしら」
 淡い色から濃い色、暖色から寒色。虹を切り取って並べたかのようなグラデーションを二人に見せる。
 さながら、宝石商である。カチュアの真っ白な掌の上だと、色は余計に鮮やかに、チカチカと星のように瞬いている。
「あ、でも、アレはないんですね」
「アレ?」
 気づいたのはドラゴニアンの女。カチュアの手のひらの上のルスタリは、どれも色づいている。噂のアレがない。
「レアの透明なルスタリです~。私、それを試してみたくって」
「透明なルスタリもあるの?」
 レアと聞いては探さずにはいられまい。カチュアもますます乗り気になって、透明なルスタリを探しにあちこちを廻り始める。
 この暗がり、透明故に見つかりづらいその実も、皆で手分けしたおかげでいくつか見つけられるまではそれほど掛からなかった。


 手分けして見つけた透明なルスタリは二つ。
 特に熱心に探していたカチュアと理寿乃が手に入れたのは必然だったろうか。
 水晶のような果実は、透かしてみれば向こうが見えるほど純度の高い透明度だ。
「へー、とても綺麗ね!」
 カチュアが声を上げる。顔に近づけて、くんくんと鼻を鳴らした。
「……熟れた果実の甘い香りがするわ」
 そういえば、一緒に来ていたグリモア猟兵が、透明なルスタリは熟れ切って実が落ちる直前、たった数時間だけしか採るチャンスがないものだと言っていたことをふと思い出す。
 物は熟れ切ったときが一番おいしいと言うならば、これは特に期待が高まるというものだ。こくりと唾を飲み込んで、期待満々、エルフは「いただきまーす」と唱えた後、一息に果実を口に放った。
 ――暫く咀嚼した後、
「メロンみたいな味がする……?」
 いや、メロンよりも瓜臭さがない気がする。甘く、瑞々しく、それまで食べたルスタリのどれとも違う味わいだ。これはこれで意外だが、美味しいことには変わりない。
「うん、みずみずしくて、とってもおいしいわよ!」
 カチュアが味を確信して、そういった瞬間だった。
 チリリと口の中に異変が生じる。ん? と疑念を抱くが早いか、口の中が燃えるように熱くなった!
「……かっ辛い!!」
 エルフの真っ白な肌が、一気に赤く染まる。ぱたぱた、口の中を冷やそうと自分自身を手で扇いでもちっとも収まらない。
「からーい! 唐辛子そのまま食べたみたい! み、水!! 水はない!?」
 焼け石に水……いや、今はその水がほしいのだ。だからと言って、岩から漏れ出す滝の水をそのまま口付けて飲むわけにもいくまい。ひーっと悲鳴を上げながら、周囲の人に助けを求める。
「か、辛いんですか?」
 急変した彼女の様子に、ミスティが驚きながらも、少し待っていてくださいねと断って、手際よく鞄からポータブルミキサーを取り出した。
 慎重に、自分が味わって甘味のあった色のルスタリ選び、いくつか入れると、リズミカルに何度かシェイクする。洞の中に木霊する音が、他の音と交じり合い、不思議な音楽を奏でて。
「辛いものを食べた時に水を飲むと辛み成分が余計に広がってしまいますから、甘味で上書きできるといいのですが」
 できあがったミックスジュースを、持ってきた紙製のコップに少しずつ注ぎ分けると、まずは急を要するカチュアに渡し。
 それから、他の面々にも配っていく。手際の良さは、さすが現役バーテンダーだ。
 ミスティは、折角ですし祝勝祝いですと言って、渡した相手がまだ未成年であることに気付くと、
「ご安心を。アルコールは入っていませんよ?」
 無表情ながら、茶目っ気たっぷりに、そう付け足した。
 ミスティから受け取ったミックスジュースを、ぐいっと一気に煽る。染みわたる~……! と身振りと表情が物語って。
 ようやくひと心地ついたカチュアが、ぜぇ……はぁ……と呼吸を整えつつ、
「なかなか刺激的だったわ……甘くて辛くて、不思議な食べ物ね」
 掻いた汗を乾かすように、ぱたぱた、まだ自分を手で扇ぎながら言った。

(辛いんだ……)
 少しみんなから距離を置いてカチュアの様子を見ていた理寿乃が、その様子にちょっぴり怖いような、残念なような気持ちで、自分が見つけた分の透明なルスタリを見つめる。
 カチュアの言葉から味は分かったはずなのに、どこか心惹かれる気がして……この小さな石のような果物が自分を呼んでいる気がして、恐る恐る唇に当て、そっと押し込んだ。
 何の味もしない……? と、不思議に思ったその瞬間、口の中には桃に似た味わいが広がる。それと同時に、理寿乃の心の中に、浮かび上がるのは先ほど対峙した暴走し、苦しむドラゴンの姿。
 そして――、

「理寿乃さん、どうしたの?」
 茜に声を掛けられ、理寿乃は我に返る。
 そこでやっと、自分がやや長い時間そうしていたことと、自分の頬が濡れていることに気付いた。
 ぐしぐしと袖で頬を拭いながら、何とか笑った表情を浮かべる。
「ううん、何でも……美味しすぎて涙腺がやられちゃったのかなっ」
「そう? ならいいけど。何かあったら、おねーさんが相談に乗るわよ?」
 茜は優しく微笑んでそうとだけ言うと、ほら、ミスティさんがジュース配ってるから行きましょ! と理寿乃の肩をぽんと叩き、先にミスティの元へと向かう。
 その背を追おうとして、けれど理寿乃の足は一瞬、その場に縫い留められる。
 忘れられないその記憶に向けて、誰にも、洞窟の反響にさえも拾われないほど小さく呟いた、
「ディアーアンエア」
 その言葉の意味は、手向けた相手は――。


「とっても、おいしい」
 いただいたジュースに舌鼓を打ちながら、トリノが微笑む。
 もちろん新鮮なものをそのまま食べるのもおいしいが、ものを加工して味わいを深めるのは人間だからこそ行う事ができる楽しみ方だ。
 プロのバーテンダーが選んだ実は甘さや酸っぱさがバランス良くミックスされて、幾重にも味が織り重ねられている。生のままや、一つ二つの実を口に入れただけでは生み出せない味と言えるだろう。
「ジュースにして飲んだのは、もしかしたら、リノたちが初めてかもしれないわね」
「持ち帰ってジャムにするのもいいかもしれませんね」
 ミスティが自分の持ち帰り用に採ったルスタリを保存容器に入れて蓋をする。環境のことを考えて、遠慮がちに数個だけ入れた容器は、仕舞うときカラカラと音を立てた。
 そんなミスティの呟きに、ふふふと意味ありげな笑みを浮かべたのは妖狐の女だった。
「それも面白そうだと思って、おねーさんは準備してきたのよね!」
 じゃじゃーん。取り出したのは携帯用の小さな鍋だ。火元は自前で狐火が御座いとばかり、鍋を火にかけ、ルスタリを程々に敷き詰める。
 焼いたりしても面白そうだけど、と言いながら、とりあえずは鍋で煮てみることにして。
「ふふふ、どんな風になるのか楽しみね!」
 後は結果を御覧じろ、というやつで。既に鍋の熱でとろりと溶けだしている果実を見ながら、
「なんかジャムみたいになりそうだけど、それはそれで美味しそうよね!」
 できあがったら皆にもご馳走するわね!
 好奇心旺盛なおねーさんは、パチリと片目を閉じて笑うのだった。
「待ってる間、いかがですかー?」
 春奈が、カップ片手に、トリノたちへ例の如く例のチャレンジブルなルスタリを持っててこてことやってきた。
 ゔっとミスティが反射的に体を後ろへ引く。傭兵ゆえの防衛本能が働いたのかもしれない。
「おいしいの?」
 差し出された果実の見た目のインパクトに動じることなく、寧ろ気にした様子もなく、茜が尋ねる。
「はいー。今私も食べてみましたが、美味しかったですよー。おいしくないのは、取り除きましたー」
 おいしくなかったものが混じっていたのは否定せず。
 ともあれ、ぜひぜひ♪ と、勧められれば断ることもなく。まずは茜が、続いてトリノが、手を伸ばし、口に放る。
 と、……一瞬、多重人格の少女の右目が開いて、何色かに変化したような……?
「トリノさん、今「おいしい」
 やや食い気味でトリノが言った。矢継ぎ早に、二の矢を番え、
「ハルちゃん、おいしいわ。ありがとう」
 にっこり。多重人格者の聖者はチィと鳴き声に似た音を喉から鳴らしながら微笑んだ。

 ・
 ・
 ・

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル
(隰桑MSのシナリオのプレイングと対になってます)
(問題ありそうなら却下して下さい)

濡れてるのも暗いところも
慣れてるから大丈夫、だよ
でも、ここはいつものところとは全然違うね
水も空気も、すっごくきれい
汚さないようにしなきゃ、ね

他の人がいない時に、こっそりと
1つだけ果物を貰って、「あっち」のわたしと合流するね

ただいま、わたし
大丈夫。ちゃんと、きれいにしてきたよ
お土産の果物もね、貰ってきたんだから
ふへへ。嘘じゃないよ?
……た、たぶん
トリノお姉さんはちゃん食べられるって言ってたもん

そんな風にわたしたち同士でお喋りして、笑い合った後
1人のわたし戻って、ルスタリの実をいただきます




 賑わう人々から離れ、こそこそと洞窟を見て回る影がひとつ。アイシスだ。
 暗がりでライトのような役目を果たすオレンジ色の両目を輝かせて、洞窟のあちこちを楽しそうに頬緩ませて見ていく。
 濡れている場所、暗い場所。言葉にすれば、いつも自分がいる場所と同じようだが、そことここはまるで違う。
 濡れた岩に足を取られることもなく、アイシスはするすると陰から陰へ、みんなに近づきすぎない彼女の“いつもの”距離感で洞窟内を移動する。
(水も空気も、すっごくきれい)
 岩から沁み出す清水に触れる。そのまま飲んでも平気そうだ。……そんなこと、アイシスのいつも過ごす場所では逆立ちしたって考えられない。
「汚さないようにしなきゃ、ね」
 常々気を遣っているだろうに改めてそう誓って、アイシスはぺたぺたと足音鳴らして暫し洞窟見学を楽しんだ。

「そろそろ行かなくちゃ、かな」
 しばらく楽しんだ後、少しの名残惜しさを胸に抱きながら、黒い少女は辺りの様子を覗って誰も自分を見ていないことを確認すると、素早くルスタリを一つ採取する。
 色とりどりの果実はどれも綺麗で、ぴかぴかしていて、どれにするか、ずっと迷っていたけれど、自分の瞳と同じオレンジの色を選ぶことにした。
 その一個を、手にしっかりと握りしめて、大事に大事に、胸に抱え込むようにすると、アイシスは誰にも気取られないよう物音も立てずに洞窟を抜け出し、森へと向かう。
 森の、やはり周囲に他の人がいない場所で落ち合う事にしていたのは、もう一人の黒い少女。
 待っていたその人物に、アイシスは声を掛ける。
「ただいま、わたし」
 二人、ブラックタール故の少し崩れた笑顔で、挨拶を交わす。
 それから、お互いの状況を確認する言葉に、「大丈夫。ちゃんと、きれいにしてきたよ」と自信たっぷりに答えた。
「お土産の果物もね、貰ってきたんだから」
 実は、一刻も早く見せたくて、会う前からずっとうずうずしていたのだ。小さい方のアイシスは、握りしめていた手のひらを開き、その手の中に輝く石を相手に見せた。
 「果物」と言ったことが信じられず、問い返してきた相手に、思わず笑う。相手は自分のはずなのに、今は少しだけ、誇らしい気持ち。
「ふへへ。嘘じゃないよ? ……た、たぶん」
 それからちょっと、不安な気持ち。
「トリノお姉さんはちゃん食べられるって言ってたし……みんなも、食べてたもん」
 とはいえ、自分ではまだ食べていないのだ。
 だって、食べるなら一緒が良かったから。
 間違えて本当に宝石を持ってきてたら……と心配にならないわけではない。

 宝石のような石は、二人の間を行ったり来たり。落っことしたりしないように、丁寧に、丁寧に、扱って。
 かわす言葉は、寸分違わず同じ気持ちだ。だって、“わたしたち”は、“わたし”なんだもの。
 でも、ひとりでもふたりと同じぐらいに、楽しくて。
 広い森の中、誰に聞かれるわけでもないなら、憚る必要もなく声を上げて無邪気に笑い合う。

 笑いもやがて落ち着いて、
「それじゃあ、そろそろ食べちゃおうか」
 どちらともなく切り出せば、瞬きの間に影はひとつだけになった。

「いただきます」

 それは、モミジイチゴのような、甘い、甘い、優しい味。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
わぁ…すごい、面白い木の実!
ねぇトリノさん
これ、ほんとに貰っちゃっていいの…?

出来ればお土産分も欲しいけど…
周りの取り分を見て適度に遠慮しながら集めるね

熱で溶けるなら紅茶に混ぜるのもいいかも
砕いたらどうなるんだろ
細かく刻むのは?他のルスタリと混ぜたら?
料理を嗜む者として、興味は尽きないね

きっと星空みたいな料理になるんだろうなぁ

<透明のルスタリがあれば>
味:苦手な牛乳とは全然違う
優しくて甘いミルクの味
澪の記憶には無い母の味

あれ…なんで、僕…
ごっ、ごめんね急に、変だよね!
えへへ、ゴミでも入ったかな…
大丈夫。大丈夫だから…

突然流れた涙に戸惑いつつも笑顔を繕う

※基本的にトリノさんに話しかけるね




 時間は少し遡り、洞窟に入ってすぐのこと。
 中の景色を見るなり、澪は声を上げた。
「わぁ……すごい、面白い木の実!」
 ふわりと後ろを振り返り、現場にやって来ていたグリモア猟兵へと尋ねる。
「ねぇトリノさん、これ、ほんとに貰っちゃっていいの……?」
 その様子には、気が引けている様がありありと浮かんでいて。同い年の少年のそんな表情に、くすくす笑いながら、トリノは頷いた。
「ええ、大丈夫。この森を訪れる人たちの共有財産、みたいなものらしいから」
 取り過ぎなければねと、いう言葉に、納得と同時にどのぐらいまでならお土産用に採ってもいいものかと考えながら、澪は周囲を確認しつつゆっくり採取を始めるのだった。

 その隣で一緒に果実を採っているトリノの耳に、澪の呟きが雫のように入り込んでくる。
 澪は真剣な表情で、採った果実を眺めながら、小さな声で独り言を零していた。
「熱で溶けるなら紅茶に混ぜるのもいいかも……砕いたらどうなるんだろ……」
 じぃっと見つめているトリノの視線に気づいて、澪は頬を少し朱色に染め、慌てて手を振った。
「あ、ごめんね……! 料理を嗜む者として興味深いなぁって、つい……!」
 澪の言葉に、ようやく彼の呟きの意図理解したトリノが、ああ、と微笑む。
「レイちゃんは、お料理するのね。すごいわ」
 その言葉に、今度は澪がきょとんとする番で。
「レイ“ちゃん”?」
「ええ、レイちゃん。……リノ、人のこと、ちゃん付けで呼んじゃうの。いやだった?」
 女扱いされているというわけではないらしい。
 とはいえ、男の子としてはやっぱりちゃん付けはちょっぴり複雑な心境ではあるが、相手が好んで呼んでいると聞けば、駄目と言い切るのも悪い気がして。
 一瞬悩んだものの、大丈夫と頷くと、多重人格者の少女は嬉しげに笑った。それから、話を戻し、
「お料理のおはなし、もっと聞かせて?」
 と問いかける。どうやら、料理をしない身として興味があるらしい。純粋に話を聞くのが好きということもあるのだろう。期待に満ちた目を澪に向けている。
「ええっと、僕が思ったのは、細かく刻んだらどうなるのか、とか。他のルスタリと混ぜたら面白いんじゃないかな、とか」
 頭に浮かんできたアイディアを、取り留めもなく語っていく。
 その度、少女はうんうんと頷いて。
 声に出して誰かに語れば、頭の中だけで考えるよりも創造は広がり、滝のように湧き出していく。こんな料理もいいなとか、あんな料理にしたらどうなるだろうとか、ついつい熱を込めて話してしまって……けれど、どの料理を想像しても、その姿はどれもキラキラと輝いている。
「きっと星空みたいな料理になるんだろうなぁ……」
 澪はうっとりと呟いた。
 そんな折に、何気なく手にしたルスタリに、
「あ」
 トリノが小さく声を上げる。
 本当にそこにあるのかと思えるほど、透明な果実。無意識だったからこそ、手にすることができたのだろうか。
 どうするか迷っていれば、食べてみたらと勧めるような顔でトリノが笑んだ。その顔に後押しされて、澪はおずおずと果実を口に入れる。

 星空のような石は、星よりもずっとずっと、澪の身近にあった懐かしい味がした。

 物心つく前に失くした、彼の記憶にはない、けれどその根底には確かに残る仄かに甘い優しい味。
 大切な人を思い出させるような――。

「レイちゃん? 大丈夫……?」
「あれ……」
 知らずの内に、一筋、涙が頬を伝う。
「なんで、僕……」
 次々に溢れそうになる透明な雫を慌てて隠そうとして、背を向けて。
「ごっ、ごめんね急に、変だよね!」
 声が少し上擦った。くるりと振り返れば、いつもの笑顔を繕ってトリノに笑いなおし。
「えへへ、ゴミでも入ったかな……大丈夫。大丈夫だから……」
 笑う少年に、トリノは、そっと、首を左右に振った。
「変じゃないわ」
 言って、
「ちっとも。変じゃないわ」
 繰り返す。
「透明なルスタリは、雫の色なのね。食べたら、溢れてしまうのよ、きっと」
 だから、その涙は流れてもいいものだと言ったところで、二人の背後からカチュアの悲鳴が上がった。
 どうやら、彼女もまた透明なルスタリを食べて、何かが溢れたらしく、トリノがおかしげにくすくす笑い声を零す。
「……カチュアちゃんから溢れたのは、汗だったみたい、だけど」
 ワンピースの裾を軽く払って、少女は立ち上がる。少年へと、手を差し伸べた。
「ミスティちゃんが、ジュース、配っているみたい。いっしょに、飲みに行きましょう?」
 お料理の参考にもなるかも、と。まだ少し赤い目を恥ずかしげに擦って、少年も立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルク・フッシー
「あ、あの...皆さん...」
「ボクに...絵を描かせてくれませんか?」

ここは本当に…素敵な場所ですね
ボク、自分で果物を食べるより、色採さんを含めた猟兵の皆さんの姿や、綺麗になった森や…あの竜の亡骸を絵に描き残したいです

「猟兵になってから、ボクは、ボクの絵を…」
「戦いや、何かの道具に使ったり…そんな事ばっかりだったから」
「普通の絵が描きたいんです」
「……それだけです」(にこっ)

アドリブ、絡み歓迎します




 大きな青みがかった緑色の目を、ぴかぴかに輝かせて。
 この光景の一片も見逃すまいとしていたルクが、その場にいた猟兵たちみんなを振り返り、勇気を振り絞って声を掛けた。
「あ、あの……皆さん……」
 ぎゅっと強く手を握りしめて、彼は続ける。
 小さな棘の生えた細い尻尾が、ふるふると震えていて。
「ボクに……絵を描かせてくれませんか?」
 気弱な彼にとって、その声かけはどれほどの勇気が要ったことだろう。
 一緒に戦った顔ぶれが多いとはいえ、初対面に近い人が多いこの場では、やはりとてつもなく緊張してしまう。
 ルクは、一度、大きく息を吸い込んだ。
 ひんやりとした空気が心地よく、彼のドキドキと弾む心臓を落ち着ける。自分が守った空気、自分が守った場所……見渡せば、星のようにチカチカと煌めく果実が、ルクに寄り添ってくれているように思える。
 色とりどりの実は、まるで自分の大好きな絵に使う塗料を散らしたみたいだ。
 薄暗さもあるのか、どことなく気分が落ち着いてくる。
「ここは本当に……素敵な場所ですね」
 ルクは呟いた。皆に説明をするため、というより、心に浮かんだ言葉を思わず呟いてしまったという風に。
「ボク、猟兵の皆さんの姿や、綺麗になった森や……あの竜の亡骸を絵に描き残したいんです」
 自分で果物を食べるよりと言って、伺うように皆を見る。暫く、皆が口を噤む。
 その静けさに、ルクは更に言葉を連ねた。
「猟兵になってから、ボクは、ボクの絵を……」
 手に持った絵筆を見下ろす。
 ここ最近、絵に没頭したのはいつだったろうかと、それが気に掛かっていた。
「戦いや、何かの道具に使ったり……そんな事ばっかりだったから」
 
「普通の絵が描きたいんです」

 純粋に、その気持ちだけだった。今なら、この場所なら、また「絵を描く」それだけに夢中になっても許される気がして。
「……それだけです」
 告げたい気持ちを全て告げて、ルクは、にこりと、自然に微笑んだ。

「いいんじゃない?」
 一拍置いた後、カチュアが言う声が聞こえ、一人が口火を切れば次々に、
「綺麗な景色ですものねー。絵に収めたくなる気持ち、分かりますー」
「ふふふ、おねーさんの美しさ、しっかり描きとめてちょうだいね!」
「私も特に構いませんよ」
「私はともかく……竜の絵は、完成したら見せてもらいたいですね」
「僕も楽器なら心得があるけど、美術は専門じゃないから、見てみたいな」

 好意的な言葉に、ルクの仄かだった笑みは、深まって。
 満面の笑顔に変わると、弾む、大きな声で皆へと告げた。

「ありがとう!」

 絵を描こう。
 今回出会ったもの、出会った気持ち。
 その全てを詰め込んで。

 時間を掛けて、ゆっくりと完成した絵を自分で見ていたら、後ろから覗き込むトリノが、にこにこと笑って言った。
「ルクちゃんは絵描きさんだから、舌じゃなくて目と筆で、ものを味わうのね」
 待っていて、と言うが早いか、行って戻ってきた少女の手には小さな葉っぱのお皿。その上に……、
「茜ちゃんが作っていたジャム。少し、分けてもらったの。これ、絵の具に使えないかしら?」
 言って、絵の隅っこを指さした。
「絵描きさんは、自分のサインをする、でしょう? ルクちゃんも、折角だから、今日しか出会えない果実を使って、サインしたらどうかと思って」
 ね? 首を傾げたかと思うと、葉っぱのお皿を押し付けて、グリモア猟兵の少女は背を向けた。
「今からね、茜ちゃんが洞窟を調べて回るんですって。楽しそうだから、ルクちゃんも、終わったら来てね」
 チィ。
 鳴き声残して、飛ぶようにふわふわと仲間たちの元へと去って行く。

「ルスタリって、何を栄養素としてどうやって生っているのかしら――」
 遠く、仲間たちの賑やかな声が聞こえる。

 ああ、いいな。
 竜の少年は耳を澄ませた。
 描きたいものが次々に浮かんでくる。胸を満たす充実感と、まだまだ描きたいという飢え。

 けれど一先ずは、宝石のような星々の下、眠る竜と踊る小人たちの絵の端に、自分の名前と今日の日付を書き入れる。

 ジャムは、あの竜の翼の色に似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月04日


挿絵イラスト