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幸福の在処

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#戦後


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●愛を捨てた神
 今は亡き国の、それは半人半馬神であった。
 愛と生命を司るその神を祀る神殿は人里離れた山間にあったが、静謐な空気のなか、季節ごとに色と形を変える花畑を抜けて、人々はたびたび訪れては祈りを捧げた。
 ――自分よりも隣人が、そして世界が、幸せでありますようにと。

 それでも、国は滅びてしまった。
 数百年も前のことだ。理由を知るものは誰もいない。それは、その地に祀られていた神もまた同じだった。
 人々から忘れ去られた神殿は朽ち果て、足繁く通うなかで生まれた野路はふたたび草に隠れた。
 花々だけが、変わらずに辺りを満たしている。

 その一点に、突如として大きな窪みが生まれた。
 獣の足のような、馬の蹄のような形のそれが、無残にも花を踏み潰しながらひとつ、またひとつと刻まれていく。
 残された跡には、黒い靄が留まっていた。
 愛すべき民を失った神の悲しみと、民の祈りを無碍にした見知らぬ輩への憎悪と、そして民の願いを叶えられなかった己への失望が、決して消えることのない淀んだ闇となって、花々の彩を音もなく浸食する。

 その跡の続く先には、巨大な白馬の姿があった。
 人の姿も、言葉も、愛さえも捨てて邪神と成り果てたそれは、拒絶の白を纏い、憂いの蒼の尾を揺らしながら、濁った心のままに山を下り始めた。

●幸せを願う
「彼の名は、生命の神『ヴィー』。討つことでしか、最早止められない。……この依頼、頼めるだろうか」
 ウェズリー・ギムレット(亡国の老騎士・f35015)は集った面々へと伺うように視線を巡らせると、言葉を続けた。
 国は滅びたが、然程離れていない場所にちいさな集落が残っている。その人々に被害が及ばぬように、と。
 今から行けば、ヴィーはまだ陽の沈みかけた山間の花畑にいるだろう。多少花を散らしてしまうことにはなるが、人命には変えられない。
「以前とは違い、今のヴィーは言葉を失っている。意思疎通はもちろん、残念ながら説得もできまい」
 特に、全身に憎悪のオーラを纏ったら注意が必要だ。超攻撃力と超耐久力を得た彼は、理性を失い、速く動くものを無差別で攻撃し続ける。
 そうでなくとも、生命力を吸収する聖なる蒼炎や、動きを封じつつ不戦不殺の感情を与える遠吠えによる攻撃もある。また、非常に機敏で、かつ飛行能力もある。意志を強く持ち、短期決戦で討ち取るのが良いだろう。

「無事終えたら、集落の祭りに参加するのも良いかもしれないね。――特に、誰か大切な隣人がいるのなら」
 そう言うと、男は短いフレーズを口にした。彼の故郷の、詩の一編だ。

 Something old,(なにかひとつ古いもの)
 Something new,(なにかひとつ新しいもの)
 Something borrowed,(なにかひとつ借りたもの)
 Something blue,(なにかひとつ青いもの)
 ――and a sixpence in her shoe.(そして靴の中に、6ペンス銀貨を)

「我々の世界だと、結婚式の『サムシングフォー』と呼ばれているそれに、良く似た風習らしい」
 その集落では、誰かの結婚式ではなく、1年のうち最も花が美しく咲き誇るこの季節に、なにか古いものや新しいもの、貸すもの、青いもの、または銀貨1枚を贈る。
 古いものは、絆や伝統を。
 新しいものは、未来への希望を。
 借りたものは、借主との繋がりを。
 青いものは、幸運を。
 そして銀貨は、豊かで幸せな生活を意味するという。
 贈る相手は恋人でなくとも構わない。家族でも、友人でも、亡き人でも。
 あなたが幸せであれと願う相手であれば、誰でも。

 最後に、その集落の人々と亡国の民との繋がりは定かではない、と老騎士は添えた。
 けれど、だからこそ言えるのだろう。
 どれほどに刻を経ても、場所が変わっても――人が誰かを想う気持ちは、変わることがないのだと。


西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。

ささやかな祈りを、届けにいきましょう。

●補足(受付期間は後述に記載)
2章完結のシナリオとなります。
各章のみの参加、途中参加も歓迎です。

<1章:ボス戦『生命の神『ヴィー』』>
夕暮れ時の花畑での戦闘。
集落とは距離が離れていますので、人払いや集落への配慮は不要です。
会話はできませんが、語りかけても構いません。

<2章:日常『幻夜の花畑』>
満月の浮かぶ、静謐な夜の花畑で行われるお祭りに参加できます。
祭りと言っても屋台やダンスパーティなどがあるわけではなく、各自好きなように花畑で過ごすものです。
(大切な人へ、改めて想いと願いを紡ごう、という趣旨です)
※会話はご自由に。ただし、過剰に騒ぐような行為はお控えください。
※贈り物は各自でご持参ください(花であれば現地調達も可能です)。
※飲食物の持ち込みも可です。
※咲いている花は、何かご希望あれば季節問わずプレイングにてご指定ください。極力採用いたします。
※当章に限り、お声かけいただき、プレイングに問題がなければ当方グリモア猟兵もご一緒します。

●プレイング
・同伴者はご自身含め2名まで。プレイング冒頭に【IDとお名前】もしくは【グループ名】をご明記下さい。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。
・2章は、各選択肢以外にも、OPに添った内容であればご自由にお過ごしください。

●プレイング受付期間・採用人数
🦄1章:OP公開時点から受付開始。先着4~5名様のみ採用。
🌷2章:受付開始日時はタグ参照。オーバーロード以外で先着10名様のみ採用(同行者の方が先着に入っていれば、お連れ様も採用いたします)。
※先着10名に見たなさそうな場合、10名未満でも受付を締め切る場合がございます。

⚠オーバーロードについて
・上記条件に限らず、送信可能であればいつお送りいただいても構いません。
・プレイングに問題がない限り全て採用します。
・当MSページ「🔹オーバーロード」項もご参照ください。

皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『生命の神『ヴィー』』

POW   :    生聖歌
【頭部の毛もしくは尾から放つ聖なる蒼炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【生命力を吸収する聖なる蒼】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    生邪歌
【全身に憎悪のオーラを纏った姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    ○聖歌
【歌のような物悲しく美しい遠吠え】を披露した指定の全対象に【動きを封じて、不戦不殺の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アリス・トゥジュルクラルテです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

栗花落・澪
責任、なのかな
神様の想いを考えると、やるせない案件ではあるけど
だからこそ悲しみの連鎖は止めてあげないとね
せめてその炎が大切な民の命の灯を奪わぬように
繋がりは定かでないとはいえ…ね

【オーラ防御】を身に纏い
こちらも翼の【空中戦】で常に一定の距離を保ちながら
時折地に魔力を注ぎ込み少しずつ★花園を生成していく

貴方がもし復讐を果たしたとしても
もう誰も報われない
むしろ傷つくのは貴方自身だから
だから僕が…僕らが、止めるね

【高速詠唱】で風魔法の【範囲攻撃】で花々を巻き上げ花嵐を作り
神様…ヴィ―さんの視界を奪いつつ無差別攻撃の標的に
その隙に【指定UC】発動
【破魔】の輝きで憎悪も何もかも、【浄化】するように攻撃



●今はなき路の果てに
 その黒い靄を視界に捉えたと同時、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の腕が俄に粟立った。
 この世界もとうに春は終わりを告げ、夏を迎えるころだというのに、あたりを包む空気は寧ろ冷ややかだった。確かに山稜の向こうに陽は沈み始めているが、そればかりが理由ではないような気がした。それほどに、その靄は言い様のない悲哀を帯びている。
 山林に身を潜めたまま、澪は慎重に靄を追った。次第に強まる冷気に、否が応でも標的へと近づいているのが分かる。
 色濃く影を纏いながら視界を遮るように伸びる枝葉の隙間に、動く白がちらりと見えた。そのまま一足飛びに近づくと、音を立てぬように幹のうえから様子を窺う。どうやら、標的はまだこちらに気づいていない。
 ならばと、澪は手早く錬成したオーラを身に纏った。事は一刻を争う。彼の心情を思えばこそやるせないが、だからこそ悲しみの連鎖はここで断ち切らねばならない。
 例え繋がりがなくとも、その炎が大切な民の命の灯を奪う前に。

 邪神が澪の潜むほうへと視線を向けるよりも一拍先に、澪が葉陰から一気に飛び出した。純白の羽根を広げ、夕暮れの空に高く飛翔する。
 本来ならば美しい蒼を湛えていたであろう双眸からは、既に光は失われていた。濁った硝子のようなそれに澪を映したヴィーは、獣の両前足で大地を蹴って後に続く。
 蒼い鬣と尾を靡かせながら駆ける白馬は、讃える者を失っても、心が闇に落ちてもなお、荘厳な気を纏っていた。
 けれど、それもすぐさま掻き消された。低く短く呻いたヴィーの身体を憎悪の闇が覆いつくすと、強化された肉体によって一瞬にして間合いが詰められた。反発するように後方へと距離を取りながら降下すると、澪はそっと地に触れた後、再び空へと戻る。
 斜照が描くふたつの影が、花畑のうえを目まぐるしく動く。その最中、上空からちらりと見えたのは幾つかの家屋の屋根だった。
(責任、なのかな)
 誰かの前で口に出していれば、恐らく是と返ってくるのだろう。
 力ある者だからこそ護らねばならない命が、そこに在った。

 幾度も繰り返される応酬のなか、戦場に変化が訪れ始めていることを澪だけが知っていた。
 向けられた攻撃を躱しながら、時折地に触れては魔力を注ぎ込む。それは静かにひとひらの花弁となり、花となり、終ぞ無数の彩となってあたりを埋め尽くしていた。
 それを見留めた澪は、すぐさま詠唱を紡ぎ始める。忽ち生まれた風は、一面の花びらを攫って一気に巻き上げた。――まさに、嵐のように。
 瞬く間に視界を埋め尽くされたヴィーは、牙を見せて苛立ちを顕にしながらも攻撃に転じた。闇に飲まれ失われた理性では、より速く動くものを敵と見なすしかない。
 それこそが、澪の狙いであった。自ら作りだした隙を、みすみす逃すようなことはしない。少年はヴィーを視線で捉えると、僅かに柳眉を寄せる。
「貴方がもし復讐を果たしたとしても、もう誰も報われない。むしろ傷つくのは貴方自身。――だから」
 僕が……僕らが、止めるね。
 祈るように指を組み、両翼を広げ光を喚ぶ。その瞬間、空に滲む陽に勝るほどの白光が、一瞬にしてあたりを包んだ。
 破魔を宿す輝きは、そのまま邪神を飲み込んだ。裡からその巨体を無数に穿ち、悲しみも、失望も、そして憎悪すらも浄化してゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
私も…もしかしたら、彼のようになってしまっていたかもしれませんね。
愛する民が、理不尽によって喪われ、奪った敵と無力な己を呪い続ける。違いがあるとすれば、敵を知っているかどうか。私は対峙し、彼は知らなかった。敵が明確でないからこそ、世界を呪った。解ってしまうからこそ、私は貴方を殺さなければならない。
あなたに世界は壊させない。
ここで終わりにしましょう。ここからが未来です。私を境に過去と未来、ここから先が未来です。貴方は此処を越えられない。私が越えさせない。
UC発動
炎は結界術で防ぎつつ竜脈使いで力を借り、浄化を載せて攻撃!
怨みも呪いも後悔も全て此処で断ち切ります。



 幾度も血肉を断たれた故か、それとも堕ちた心が光に飲まれた故か。痛みを堪えるかのように貌を歪ませたヴィーの姿に、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)は憂いを顕にした。
 あれは、私の姿だったかもしれない。
 清らかな水が滾々と湧く水晶であり、またそれを水源とする川の神でもあったこの身。
 幾度となく見舞われた邪神の襲撃によって、愛する民を理不尽に奪われた過去。そうして生まれた無力な己を呪うこの感情は、今もまだ絶えることなく裡深くに渦巻いている。
 違いがあるとすれば、安寧を壊した相手を知っているか否かだろう。私は直接対峙できたが、彼は知らなかった。
 だからこそ世界を呪った。呪わずにはいられなかった。何処にいるかも知れぬ禍根へと、淀む心のままに吼えずにはいられなかったのだろう。
 そうして晶は、素早く手許に水を喚んだ。静かに気を注ぎながら、一歩、また一歩とヴィーへと近づく。
「……私は、貴方を殺さなければならない」
 睨めつける視線が、晶を捉えた。
 憎いのでしょう。己の道を閉ざさんと立ち塞がる者が。
 私を殺してでも、成し遂げたいのでしょう。愛する民を屠った者への、誅戮を。
 あなたの抱くこころが、手に取るようにわかる。
 ――ならばこそ、止めねばならない。
「あなたに世界は壊させない。……ここで、終わりにしましょう」
 語気を強めた女の声と、ヴィーの咆吼が重なった。瞬間、雄々しくたなびく尾から放たれた蒼炎が、聖なる光の粒子を散らしながら戦場を駆け抜ける。
 速やかに防御結界を展開した晶は、続けて身体中の気を足許へと注いだ。結界が蒼炎を弾く、その振動にも揺らぐことなく、地中に眠る龍脈を探り、逆に己の裡へと呼び込む。
 忽ち膨れ上がった力を、御することなぞ造作もない。何故なら晶は、大地と密に繋がる川の神なのだから。
「怨みも、呪いも、後悔も。……全て、此処で断ち切ります」
 蒼炎が止んだ一瞬の間に、膨大なる力を注ぎ一気に錬成した水型の刃が、晶の手許から解き放たれた。
 浄化の気を纏った三種の刃は、光の残滓を切り裂くように一直線に奔ると、そのまま白馬の喉元に深く喰らいつく。ヴィーによる生聖歌が途切れ、その巨軀がぐらりと大きく揺れた。
 晶は次の一手を構えながら、その場にどうと仁王立つ。まるで、戦場を分かつ大河のように。
「貴方は此処を越えられない。私が越えさせない」
 私を境に、過去と未来がある。此処は――私は、その境界線。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

生命の神が
生命を奪うなんて事、あっちゃならねぇ
…絶対止める
瑠碧…行ける?
気遣うように視線やり
一度手に触れ
あと…悪ぃ瑠碧
終わったら花も癒してやってくれ
よかった

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波目晦ましに飛ばしつつ残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る

聖なる蒼炎でも
火は火だ
絶対瑠碧の元には届かせねぇ
敵との間合い離し過ぎず
限界突破で最大まで集中して敵の動き見極め引き付けて見切り
同時に衝撃波のオーラ張りオーラ防御で相殺狙い
仮に消せなくて命中しても絶対倒れねぇ
瑠碧に心配かけちまうし
あんたにも奪わせねぇって決めたんだ
覚悟決め加速し一歩踏み込みUC
もう還れ
あんたの民も待ってる


泉宮・瑠碧
【月風】

尊い祈りと、そう願える民…
…ヴィーは独り、残されてしまったのですね
…はい、大丈夫
花々も勿論です
植物の精霊にも
暫し伏せるように花々の身を低くと頼みます
可能な限り治しますから…
少しでも被害が少なくなれば

蒼炎の火には怯えます
火は…森を焼く…
でも
理玖も花も、焼けては駄目です
水の精霊にも
火の勢いを抑えるよう願います

…自分よりも、と他を尊び祈った方々は
今の貴方を見て、悲しむと思います…

不戦不殺の感情は元より私の願う事
動きが封じられても
私はただ願い、祈るだけ…生命森林
害される花々が癒え、また元気に咲くように
理玖の身が無事であるように
…ヴィーの悲しみが、せめて今だけでも癒えるように

もう…おやすみなさい



 機を伺っていた陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、その瞬間を見過ごさなかった。
「瑠碧……行ける?」
「……はい」
 気遣う視線に大丈夫だと頷きを返し、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は手に触れたぬくもりへ己のそれを重ねた。
 隣人の幸せを願う民と、その尊き祈り。それを成す力がありながらも、知らず独り取り残されてしまった神。彼らを想うと、胸が痛む。
「あと……悪ぃ、瑠碧。終わったら、花も癒してやってくれ」
「勿論です」
「よかった」
 承諾とともに向けられた微笑みに、理玖も言いながら安堵した。
 相手が神ならば、力の出し惜しみなぞしている余裕はない。自ずと選ぶ手は限られる。放つのならば、超高速で繰り出す、大威力の一撃しかあるまい。
 恐らく風圧で周囲の花を散らしてしまうだろうが、己の傍らには森の娘たる瑠碧がいてくれる。
(生命の神が生命を奪うなんてこと、あっちゃならねぇ……絶対、止める)
 ひとつ軽やかに弾き、握りしめた龍珠に誓いを込める。そのままドラゴンドライバーへ嵌めると、理玖は高らかに叫んだ。
「変身ッ!」
 装甲が全身を包み込むや否や、力強く地を蹴った。体勢を立て直さんとするヴィーへ向け、駆けながら数発の衝撃波を繰り出す。
 白馬は後ろへと短く飛ぶと、機敏な動きで蒼炎を放ち返した。軌道上でぶつかり合った力は相殺され、戦場に激しい爆風が巻き起こる。
 続けて蒼炎を放とうとしたヴィーの動きが、俄に止まった。見れば、その胸には理玖の拳が深々と穿たれている。
「聖なる蒼炎でも、火は火だ。――絶対、瑠碧の元には届かせねぇ」
 機敏だという邪神に、元より衝撃波が当たるとは思ってはいない。敢えて生み出した爆風に紛れ、残像を纏いながら一気に間合いを詰める。それが、男の狙いであった。
 強烈な一打を見舞われ、ヴィーは堪らず低く嘶きを洩らした。溢れ出る苛立ちのままに、夜色の尾がゆらゆらと揺れ、そのたびに蒼炎の火片がちりちりと空気を焼く。その光景に、知らず瑠碧の身体が強張った。
 火に飲まれ、為す術もなく焼け落ちた里。今でも脳裏に刻まれ、消えることのない光景。
 けれど、あのときとは違う。今の私にはこの力があり、そして愛おしい人がいてくれる。
(……理玖も花も、焼けては駄目です)
 娘は唇を結ぶと、意志を宿した双眸に戦場の有様を映した。植物の精霊伝手に身を低くするよう花々へ伝え、万が一のときは火の勢いを削ぐよう水の精霊に願う。
 これだけのことで、すべての憂いを未然に防げるとは露ほども思ってはいない。それでも、幾許かでも闘いの痕が拭えるのならば。
 邪神の胸を抉った拳を引き抜くと、その勢いのままに理玖は一度後方へと距離を取った。その途端、哀傷を帯びた咆吼が、あたり一帯に響き渡った。反射的に耳を塞ぐも、それでもなお鮮明な音が鼓膜を震わせる。
 その美しい歌声は、見えない鎖となって忽ち瑠碧の動きを封じた。裡にあるはずの静かな闘志が、討たねばならぬという意志が、音もなく霧散してゆく。
 けれど、それは元より瑠碧の望みであった。だからこそ、娘は決して揺らぎはしない。
「……自分よりも、と他を尊び祈った方々は、今の貴方を見て、悲しむと思います……」
 今は唯、心から願う。
 害された花々が癒え、また元気に咲くように。
 理玖の身が無事であるように。
 そして――ヴィーの悲しみが、せめて今だけでも癒えるように。
「もう……おやすみなさい」
 その祈りが、一陣の風を喚んだ。瑠碧の淡い青の髪が柔く靡き、その小柄な身体を包むように木の葉の幻影が円環を描きながら、視界いっぱいに降り注ぐ。
 清浄なる若葉に触れたものは、見る間に再起し始めた。折れた草花は徐に身を起こし、荒れた大地は平らかになり、理玖の傷もたちどころに消えていく。
 清冽な大気に満ちた戦野は、まるで静謐な森であった。懸命に生きようとするものを支える、浄化の園。それがまた、瑠碧を捉えていた無力の鎖を解き、闘う理玖の支えとなる。

 花園に佇む白馬は、明らかに惑いを抱いていた。
 度重なる浄化によって闇に染まった心に一条の光が差し、それが心の揺らぎを生む。
 ヴィーは迷いを払うかのように首を振ると、先程よりも更に苛烈な蒼炎を灯し始めた。気づいた理玖が庇うように瑠碧の前に立ち、鋭い眼光を向ける。
 戦場へと足を踏み入れてから高め続けていた集中は、とうに限界以上へと至っていた。だからこそ、先に動いたのは理玖であった。
 ほんの僅かなヴィーの動きに気づいた男は、間髪入れずに放たれた初手の蒼炎を容易く躱すと、反撃と言わんばかりにオーラを纏った衝撃波を繰り出した。
 相手の尾の動きにあわせて次々と放たれるそれは、攻撃であり、また防御でもあった。幾つかは狙い通り相殺され、生まれた爆風の中を怯むことなく理玖が疾駆する。
 逃げる間なぞ与えぬと、一足飛びに間合いを詰めんとする男の頬を、四肢を、防ぎ漏れた蒼炎が容赦なく焼いた。
 それでも、理玖は臆しはしない。倒れることなぞ、あってはならない。
 そうなっては瑠碧に心配をかけてしまうし、何よりも。
「あんたにも奪わせねぇって、決めたんだ」
 爆炎の中から突如現れた男に、ヴィーは一瞬後退った。逃しはせんと、理玖は更に加速して大きく一歩を踏み込むと、握りしめた拳に覚悟を込め、勢いのままに渾身の一撃を放った。
 ヴィーの喉元を捉えた拳が肉を断ち、骨を穿った。胸を覆う白い毛並みを、首から背へと連なる白鱗を、鮮血が濡らしてゆく。
「――もう還れ。あんたの民も待ってる」
 青の双眸に憐れな神を映しながら、男はそう静かに告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK

民を失って、憎しみに染まった神さま…
もう、あなたの為のお花畑にも、気付けないの?
神仏を沈めるのも、ヒュッテンブレナーの務めの一つなの
せめて、その憎しみ、祓ってあげようと思うの

荒れ狂う神よ
あなたの怒り、憎しみ、絶望、ここでお受けするの
その怨嗟、ぼくに聞かせて?
遠吠えを誘うの

聞こえる…
受け止めるように両手を広げて、その遠吠えをしっかり聞くの
うん、戦いも、命を奪う事も、無くなってしまえばいいの
ずっと、それが実現できる事を夢見て、ぼくは進んできたの
ぼくがあなたの前に現れたのは、あなたの命を奪う為じゃないの
この悲しみと絶望を、祓う為なの

歌を思い出す
その中の、神の気持ちを汲み取る
その本質を知る
冷酷さと復讐心を表したような蒼炎を理解する
怒りと憎しみが具現したオーラを理解する

いま、それを祓ってあげる!
UC発動
ありったけの魔力をつぎ込んで、復讐心も、怒りも、憎しみも、悲しみも、ぼくの咆哮で吹き飛んじゃえ!
『うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!』

元に戻してあげられないけど、せめて安らかに…


クーナ・セラフィン
忘れられた時こそが本当の死、そう聞くけれどもね。
末裔かどうかは関係なくてそこに生きている人がいる、それを害そうとするなら騎士として止めなければ。
例えかつて崇められていたとしても、ね。

陽だまりのオーラに浄化の力を加え身に纏い遠吠えに抵抗。
花畑はなるべく荒らさぬように、敵の動き出しに合わせ突撃槍突き込んで妨害。
…何とも物悲しい歌。直に聞くと足を止めたくなってくる。
けど、それ以上にキミを止めたいんだ。
昔が素敵だったからこそ、喪った今がやるせないのかもしれない。
…それでも、人を害させる訳にはいかない。
UC発動し、吹雪と花弁の嵐で顔を狙い凍らせ幻の中で穏やかに終わらせてあげたいな。

※アドリブ絡み等お任せ



 気づけばとうに陽は沈んでいた。青々とした山は夜の影を落とし始め、その尾根を縁取るように、残照が宵に茜を滲ませている。
 ひとたび吹き抜けた風が、戦場の砂塵を拭い去った。遮るもののなくなったそこにあるのは、独り残された悲しき神だけであった。
 未だ心が燻るのだろう。苛立つように獣の前足で地面を踏み荒らすヴィーへと、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が控えめに一歩近づいた。視線の先にある無残な花々の姿に、ひとつ息を零す。
(民を失って、憎しみに染まった神さま……もう、あなたの為のお花畑にも、気付けないの?)
 分かっていたことだが、どうしようもないやるせなさが込み上げる。
 ならばせめて、その憎しみを祓いたい。神仏を沈めるのも、ヒュッテンブレナーの務めのひとつなのだから。
「……荒れ狂う神よ。あなたの怒り、憎しみ、絶望、ここでお受けするの。その怨嗟――ぼくに聞かせて?」
 声は届いていないはずだ。それでも、まるで応えるかのようにヴィーが顔を上げた。光の灯らぬ眸に少年を映すと、再び高く、澄んだ遠吠えがあたりに響き渡る。
「……何とも物悲しい歌だね」
 クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が、無意識に下ろしかけていた銀槍に気づいて、今一度柄を握る手に力を込めた。少しでも気を許すと、途端に足を止めたくなってしまう。
(忘れられた時こそが本当の死、そう聞くけれどもね)
 それでも――たとえ、嘗て崇められていた存在だとしても。そこに生きている人がいるのならば、そしてそれを害そうと言うのなら、騎士として止めねばならない。迷いも躊躇いも、ありはしない。
 猫騎士はひとつ深呼吸をして気持ちを正しながら、静かに陽だまりのオーラを練り上げ始めた。そこに浄化の力を加え、歌に抗う透いた鎧を身に纏い終えると、そのしなやかな脚でもって大地を蹴り上げる。
 花畑はできる限り荒らさぬように。けれど、神よりも疾く戦場を駆る。
 如何ほどに耳に木霊しようと、最早クーナにはかの聖歌は届かなかった。一気に距離を詰めると、ヴィーの動きに合わせて幾度となく銀槍を突き出してゆく。
 女の鋭い攻撃を浴びながらも、神の歌は止むことはなかった。受け止めるように両の手を広げ、ロランは唯々耳を澄ます。
(聞こえる……。……うん、戦いも、命を奪うことも、無くなってしまえばいいの)
 自分もまた、その実現を夢見てここまで歩んできた。
 だから、あなたの心も知りたい。理解して、すべての闇を祓いたい。

 次第に苛立ちを顕にしだした様子に、クーナの口端が僅かに上がる。やりづらいと思われているのなら僥倖だ。正にそれこそが狙いなのだから。
 騎士であればこそ、女はこの闘いにおける己の立ち位置をよく理解していた。そして、己の活かし方も。
「昔が素敵だったからこそ、喪った今がやるせないのかもしれない。……それでも、人を害させる訳にはいかない」
 高速で繰り出された前脚での蹴りを軽やかに躱すと、小柄な身を巨軀の下に滑り込ませて背後へと躍り出る。
 視界の広い馬の、そこは唯一の死角であった。
 ヴィーが咄嗟に振り向くが、半拍遅い。狙い通りの場所に位置取ったクーナは、宙に浮いたまま舞うように身を反転させた。その軌道に銀槍を乗せ、白馬の顔面めがけて満身の力で突き出した。
 大きな弧を描く風圧とともに、花弁と雪が一斉にして舞った。忽ち花は幻惑を見せ、雪は脳諸共を凍てつかせる。
「……けど、それ以上にキミを止めたいんだ」
 例え幻であろうと、せめて最期は、幸せだったころの夢を。
 聖歌が途絶えた。訪れた静寂のなか、ロランはその旋律を思い出す。ひとつひとつの音、連なる音色から、ヴィーの心――その本質を探る。
「ぼくがあなたの前に現れたのは、あなたの命を奪うためじゃないの。……この悲しみと絶望を、祓うためなの」
 解への到達は、ほんの一瞬であった。
 野に佇んだ少年は、冷酷さと復讐心を表したようなその蒼炎を、怒りと憎しみが具現したオーラを、心で理解する。ゆっくりと閉じていた双眸を開け、未だ幻惑の中を彷徨う白馬を確りと見据える。
「わかったよ、あなたの心……いま、それを祓ってあげる!」
 ロランの覇気を感じたヴィーが、再び聖歌を紡ぎ始めた。たちどころに戦場を満たした物悲しい旋律に、けれど少年は怯まなかった。魔力を繰り、裡へと集めた満月の力が、幼く愛らしい面立ちに隈取りのような魔術文字を描いてゆく。
 いつしか、ロランのいた場所には狼の姿があった。大輪の満月を背に、天を仰ぐ。
『うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!』
 激しくも澄んだ一筋の咆吼が、戦場の空へと響き渡った。限界を超えて振り絞った魔力をつぎ込んだ、それはロランの心そのものであった。
 復讐心も、怒りも、憎しみも、悲しみも。すべて、この咆哮で吹き飛んでしまえばいい。
 消えてしまった街を、失われてしまった命を、元に戻すことはできない。
 ――だからこそ、せめて安らかに。そう願わずにはいられない。

 哀歌は再び途絶え、高らかな咆吼の残響も空の遙かへと静かに消えてゆく。
 独り残された悲しき神の姿は、もうどこにもなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『幻夜の花畑』

POW   :    動物達と戯れる

SPD   :    自由に散歩する

WIZ   :    ゆっくりお月見をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

陽向・理玖
【月風】

瑠碧お疲れ様
大丈夫?
様子伺い手繋ぎ花畑へ

すげぇな
花も月も綺麗だ
良さそうな場所で注意深く腰を下ろし

結婚式の奴聞いた事あったけど
世界が違っても
同じような事思うんだなって思っちまった
少し楽しげに笑い
ぴかぴかの新造銀貨を手渡し

世界が違っても
種族が違っても
この身に流れる
許されてる時さえ違う

それでも
瑠碧がいい

瑠碧と一緒がいい

俺は瑠碧と一緒だったら
それだけで豊かで幸せな生活が送れると思ってて
実際今一緒に暮らしてて…その
送れてるし

瑠碧も
俺と一緒で
そうあってくれたらいいって願ってる

って瑠碧も銀貨と新しい物?
同じ気持ちが嬉しくて
月も銀貨も綺麗だけど
やっぱ瑠碧も綺麗だ
抱き寄せ
帰ったら
額に入れて一緒に飾ろうか


泉宮・瑠碧
【月風】

理玖もお疲れ様
少し悲しいけれど…大丈夫です

手を繋いで花畑に着けば
わ…綺麗…
理玖と同様、草花を踏まない様に気を付けて座ります

他の世界の誓いの言葉はよく知りませんが
…願う事は、どの世界も同じなのかも
そうして新造銀貨を受け取り

互いの時間の件には少し悲し気になるけれど
それよりも嬉しさに目が潤んで聞いて…

私は新しいハンカチに包んだ銀貨を布ごと渡し

私も、理玖と一緒がいいです
今、共に暮らしていて豊かで幸せで…
でも
私がどんなに幸せでも
理玖が幸せでなければ意味が無くて…
理玖も豊かで幸せな生活でありますようにと
…共に歩む未来への希望も

腕の中で安心しつつ
はい…
飾られる銀貨は
きっと形の違う結婚指輪みたいですね



●心の道行、幸せの在処
 話に聞いていた集落は、山々に囲まれた素朴な土地だった。便利なものはあまりないが、代わりに、文明が発展する過程で失くしてしまった懐かしいものがそこかしこに窺える。
 猟兵たちが訪れたころは、既に祭りは静かに始まりを迎えていた。案内人の話では、今宵を過ごす花畑は、戦場となったそれとはまた別の方角にあると言う。
 大丈夫? と問いかけながら、陽向・理玖(夏疾風・f22773)の優しい眸が泉宮・瑠碧(月白・f04280)の顔を覗き込んだ。
「少し悲しいけれど……大丈夫です」
 返る答えに、矢張り、と心中で思う。優しい彼女のことだ。討たねばならぬと言っても、かの神の生涯を、そして最期を憂いているだろう。すぐには難しくとも多少でも気が晴れればと、理玖はそっと瑠碧の手を取った。
 お疲れ様、と労いの言葉を互いに掛ける。
 柔く包むように手を握る男へ、応えるように娘もそっと力を込めた。

「わ……綺麗……」
「すげぇな……。花も月も綺麗だ」
 素朴な石畳の続く道を往き、辿り着いた場所は拓けた花園だった。
 柔らかな初夏の風が吹き抜けるたびに、草と花と、土の香りがふんわりと辺りに満ちる。草葉の擦れ合う音の合間に、微かながら心地良い虫の音も響いている。
 草花を避けながら進んだ先に、丁度良い高さの岩を見つけたふたりは、椅子代わりに腰を下ろした。周囲に咲く瑠璃唐綿の幾つかに虹色の光彩を纏った蝶が止まり、淡い青を柔らかに灯す。
 どちらからともなく、口を開いた。
 景色の美しさ。最近あったこと。そんな他愛もない話を経て行き着くのは、いつだって互いの想いだ。
「……俺は、さ。瑠碧と一緒だったら、それだけで豊かで幸せな生活が送れると思ってる」
「理玖……」
「実際、今一緒に暮らしてて……その、送れてるし……。瑠碧も俺と一緒で、そうあってくれたらいいって……願ってる」
 いつもの声音にほんのすこしの恥じらいを滲ませながら、理玖は瑠碧へと手を差し出すように促した。開かれた両の掌のうえに、握りしめていた真新しい銀貨を静かに乗せる。
 それは、未来への希望と、豊かで幸せな生活を願う印。
「結婚式の奴、聞いたことあったけど、世界が違っても同じようなこと思うんだなって思っちまった」
 そう言ってどこか愉しげに笑う男に、
「他の世界の誓いの言葉はよく知りませんが……願うことは、どの世界も同じなのかも」
 娘もふわりと微笑しながら、下ろしたてのハンカチを差し出した。
 ゆっくりと開けば、月光を浴びて澄んだ煌めきを纏った、1枚の銀貨。
「……って、瑠碧も銀貨と新しい物?」
「はい。……私も、理玖と一緒がいいです」
 共に暮らしている今は、それだけで豊かで幸せだけれど、自分がどんなに幸せであっても、大切な人が幸せでなければ意味がない。
 だからこそ、瑠碧は心から願う。理玖の豊かで幸せな生活と、そして共に歩む未来への希望を。
 夜風に溶けるように紡がれる言葉を胸に留めながら、理玖は傍らの華奢な肩をそっと抱き寄せた。互いに同じ想いであることが、今なによりも嬉しい。
「世界が違っても、種族が違っても……この身に流れる、許されてる時さえ違っても。それでも、俺は瑠碧がいい。――瑠碧と一緒がいい」
 強化されているとは言え、人間とエルフ。その寿命の違いに、娘の双眸に微かな憂いが浮かぶも、すぐに滲む涙が掻き消した。潤む眸のまま、安堵に身を任せるように男の肩へと頭を預ける。
 月も銀貨も綺麗だけど、やっぱ瑠碧も綺麗だ。
 そっと毀れた声に、自然と漏れる笑み。今までも、そしてこれからも贈られるであろう、愛おしい言葉たち。
 そうだ、と短く零すと、理玖が耳許で囁いた。
「この銀貨、帰ったら額に入れて一緒に飾ろうか」
「はい……きっと、形の違う結婚指輪みたいですね」
 それは、決して燦めきを失わぬ心のかたち。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小林・夏輝
【犬兎】
結婚式に似た風習ならもっと適任いたと思うけど
なんで俺呼んでくれたの?
あぁ、あいつ炎使いだもんな

澪の言葉と長い準備期間に思わず瞬き

あ、あぁ…ありがとな

花畑に座り澪が離れたのを確認してから
贈り物をそっと手に取り眺める
それは月明りで輝いて

…綺麗だな
俺なんも用意出来てないのに
でも、あー…そうだな、ちょっと待ってろ

桔梗の花を数本摘んで笑顔で差し出し

帰ったら改めて加工してやるから
今はこれで…な

澪は花に詳しいけど
俺は詳しくないと知られてるから
青い物は幸運
それ以上の意図は気づかないと思う
それでいい
本当はこの花の言葉は知ってるけど
知らないフリ

恋から庇護へ
想いの形は変わったけど
永遠に、変わらぬ愛を、お前に


栗花落・澪
【犬兎】
青といえば夏輝君かなって
紫崎君(恋人)は赤のイメージ

本当は去年の冬に準備してたんだけど
折角だから誕生日頃に渡そうと思って
丁度良かった

クリスマスに行われてた色んな企画に便乗して
手作りした小さなネックレス型のスノードーム
プレゼントは全員に用意したわけじゃなかったから
渡す時期もバラバラになっちゃったけど

ね、付けてあげるから座ってくれる?

犬の形を模したガラスの中に閉じ込めた青い雪
男の子らしくシルバーのチェーンを通したそれを
そっと夏輝君の首にかけ

この雪ね、本物なんだよ
防護の魔力が付いてるから溶けないんだって

いいよ、お返しは
大切にしてくれたらそれで充分

わ、可愛いーありがとう!
僕も大事にするね…!



 夜風に嫋やかに揺れる桔梗の群れを見つけて、足を止めた。
 花へと落とした視線を上げて振り向いた小林・夏輝(お調子者の珍獣男子・f12219)は、後をついてきていた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)へと尋ねた。
「なんで俺、呼んでくれたの?」
 結婚式に似た風習ならもっと適任いたと思うけど。そう続けた言葉には、「青といえば、夏輝君かなって」と答えが返る。彼は赤のイメージだから、と。「あぁ、あいつ炎使いだもんな」納得しながら、夏輝は敢えて視線を逸らすように月を見た。
「渡したかったのは、これなんだ」
 澪が取り出して見せたのは、犬の形を模した硝子ドームだった。ちらちらと燦めく青い雪を閉じ込めたそれが、男の子らしいシルバーチェーンの輪の先で揺れている。
「本当は去年の冬に準備してたんだけど、折角だから誕生日頃に渡そうと思って」
 丁度良かった、と笑う澪に、夏輝は静かに瞠目した。聞けば、クリスマスごろにあった企画で作った手作りだという。なんとも長い準備期間だ。
 限られた人たちに用意したもので、渡す時期も様々になってしまったと苦笑を洩らすと、澪は改めて夏輝に向き合った。
「ね、付けてあげるから座ってくれる?」
「あ、あぁ……ありがとな」
 視線を巡らせ座れそうな場を探し、見つけた古木の切り株に腰を下ろした。後ろに回った澪の気配に、自然と背筋が伸びる。
「この雪ね、本物なんだよ。防護の魔力が付いてるから、溶けないんだって」
 後ろで響く澪の声を、唯静かに聞く。一瞬、澪の指先が首筋に触れた後、銀輪のひんやりとした感触が肌に落ちた。
 再び離れた気配に振り向くと、澪はすこし離れた場所で、遠く山々の峰まで続く花畑を眺めていた。柔く夜風に靡く後ろ髪から視線を戻し、胸に佇むちいさな雪硝子をそっと手に取る。月の光を纏って燦めくそれに、思わず見入ってしまう。
「……綺麗だな。俺、なんも用意出来てないのに」
「いいよ、お返しは。大切にしてくれたらそれで充分」
「でも……。――あ」
 優しい言葉をそのまま受け取るには心苦しさを感じた夏輝は、ふと思いついて言葉を句切った。
「……そうだな、ちょっと待ってろ」
「夏輝君?」
 名を呼ぶ声には背を向けたまま、しばらくしゃがみ込んでいた夏輝は徐に立ち上がった。踵を返し澪の元へと戻ると、凛とした青を湛える桔梗の花を数本、花束にして差し出した。
「帰ったら改めて加工してやるから、今はこれで……な」
「わ、可愛いーありがとう! 僕も大事にするね……!」
 弾む声に、浮かべた笑みを更に深める。
 花に詳しい澪は、夏輝は然程知識を持っていないことを良く知っている。だからこそ、"青いものは幸運"。それ以上の意図には、気づかぬだろう。
 それでいい。
 本当は、桔梗の持つ花言葉を知っている。けれど、少年は黙って知らぬふりをする。
 恋から庇護へと形を変えた、裡なる想い。
 それでも永遠に変わらぬ愛を、お前に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と

月光が差す花畑の
美しい光景に思わず圧倒されながらも
…行きましょうか、ラナさん
手を差し出しゆっくりと歩き出す

こうして一緒にいられるだけで
幸せだなんて思うようになったのはいつからだろう
なんて柄にもなく考える
差し出されたハンカチに
ありがとうございますと微笑んで受け取り
嬉しくて照れくさくて
ラナさんの前でどんな顔をしてるだろう
贈りたい物はたくさんあって
迷ってしまったけれど、今は
ポケットに忍ばせた一枚の銀貨に
綺麗な青い花を一輪添えて
願うはラナさんの幸いと、それから

ラナさん
これからもずっと、一緒にいてくれますか?
改めて口にすれば顔が火照ってしまうけれど
どうか、月の光が隠してくれたら


ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)

わあ…
大きな月と花畑に思わず瞳を輝かせ
何時もの温もりに手を重ねて

あの、蒼汰さん
差し出すのはイニシャルと青い花が入った白いハンカチ
この為に自身で刺繍した真新しい品

受け取って頂けますか?
彼と一緒に居るだけで私は幸せだけれど
それよりも貴方の幸運を、未来への希望を
いつだって強く願うから

その隣には私が居れたら
私が、幸せをあげられたら
そう願ってしまう気持ちは
今までは知らなかった我儘な自分の感情

差し出された銀貨と青いお花
そして彼の言葉には息を飲んで
…想いが重なっていることがこんなにも嬉しい
はい、これからもずっと
蒼汰さんのお傍に居させて下さい

潤んだ瞳で見つめれば
その視界は滲んでいた



 一際大きな夜風が、野を渡った。
 途端、夜空に大輪の花を咲かせた月の前で幾重もの花びらが軽やかに舞い、その花の波間を水晶のような虹光を纏った蝶が躍る。
 その光景に思わず息を飲んだ月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)の傍らで、眸を燦めかせるラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)の、ちいさな感嘆の声が毀れた。
「……行きましょうか、ラナさん」
 伺うように問うてみれば、答えの代わりに、そっと触れた掌にぬくもりが返る。

 いつからだろう。こうして共に居られるだけで幸せだと感じるようになったのは。
 柄にもなく過ぎった想いに自嘲めいた息を零しかけたところで、蒼汰さん、と名を呼ばれた。
「受け取って頂けますか?」
 淡い桜色の髪を柔らかに揺らしながら、苺色の双眸が蒼汰を映す。
 用意したものは、ふたつ。一緒に過ごせるだけで幸せだけれど、それよりも貴方の幸運を、未来への希望を、いつだって強く願っているから。
 ――その隣には、私が居られたら。私が、貴方に幸せをあげられたら。そんな我儘な感情を教えてくれたのも、貴方。
 ラナのちいさな手には、何かを包んだような真っ白なハンカチがあった。真新しいそれを丁寧に受け取り、静かに開けると、今日このために自ら刺繍したという蒼汰のイニシャルと、一輪の青い花が現れる。
「ありがとうございます……」
 ふたつの品が意味するものに気づき、微笑みがじわりとはにかみへと変わる。今、自分はどんな顔をしているだろう。裡で綯い交ぜになる嬉しさと照れくささに、今すぐにでも顔を隠してしまいたくなる。
「お……俺からは、これを」
 ポケットに忍ばせておいた1枚の銀貨を取り出すと、蒼汰は燦めく青い花を一輪添えて、ラナの掌に乗せた。
 愛しい人へと、贈りたいものは数えきれぬほどあって迷ってしまったけれど。
 今願うのは、彼女の幸いと――それから、
「ラナさん。……これからもずっと、一緒にいてくれますか?」
 それは、ずっと抱いていた想い。幾度も繰り返してきた裡なる祈り。それでも、音にして出すと恥ずかしさが込み上げた。
 どうか、どうか。この赤らむ頬を、月光が隠してくれますように。
 僅かの間を置いて、ちいさく「はい」と声が毀れた。手渡された銀貨と花を優しく両の手で包むと、ラナは静かに顔を上げた。
 屹度、声は掠れてしまうだろう。けれど、想いが重なることがこれほどに嬉しいのだと、言葉にして伝えたい。
「これからもずっと、蒼汰さんのお傍に居させて下さい」
 滲む視界に最愛の人を映しながら、溢れる想いのままに、娘は花のように柔く綻んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
小さなあなたを見つけるのも慣れたもの
レインさん、お久しぶりね
ふわりとあなたの傍へ
微笑んでみせて

元気そうで何よりですわ
お手紙も嬉しいですけれども
此の目であなたの姿を映したいですから

あら、なにかしら?
受け取った小箱の中身は――
まあ…まるであなたのような意匠ですこと…

ふふ、ありがとう
結婚式にはこれを付けて出ようかしら
薬指の濃藍の指輪が鈍く輝る
サムシングブルーというのでしょう?
私の故郷にはない風習ですけれども
せっかくですから

私からも贈り物を
そっと祈れば
ひらり降り注ぐ桜の花弁
桜の加護をあなたへ

あなたとあの子(紫陽花狼)の道行に祝福を
私だってあなたの幸せを願ってましてよ?

ええ、私の晴れ姿見届けて下さいまし


氷雫森・レイン
【桜雨】
―貴女に…私は要らないわね?
去年紫陽花咲き誇る庭園でそう言った身で待っている
鳥型精霊に託した手紙を受け取っただろう彼女を
「…来るかしら」
虫のいい話でしかないと嘆息した所で鈴の音を聞いた気がして我に返る
「エリシャ…」
見間違う筈のない人
「…久しぶりね」
愛しい春の香りに操られる様に体が動き
「手、出して」
首飾りから小箱を取り出し、その掌中へ転がす
箱の中、薄く花柄が透ける薄青の包み紙に眠るのは角飾り(装備9)
「この時期、贈り物をするのが此処の習わしなんですって」
貴女に私は要らなくても
ずっと幸せを願っていたくて
「!…よかったわね、エリシャ」
返されたのはまるでフラワーシャワー
「式…呼んでくれるの?」



 ――ねぇエリシャ。貴女に……私は要らないわね?
 去年の今ごろの、紫陽花の咲き誇る庭園で。俯いていた顔を上げ、確りと彼女の春色の双眸を見つめてそう告げたのは、他の誰でもない私自身だったのに。
「……来るかしら」
 鳥型精霊に託した手紙は、既に届いているだろう。そうして今、ほんの少しの期待を抱いて待っている。あのときと、あの宿と同じように、紫陽花に囲まれたこの場所で、鈴の音のような声が名を呼ぶのを。
 自分でも呆れるくらい、なんて虫の良い話だろうか。
 それでも、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は聞き逃さなかった。待ち望んでいた声に、ふわりと羽根を羽ばたかせながら振り向く。
「レインさん」
「エリシャ……」
 己の名を呼ぶ懐かしい声の主へと微笑むと、千桜・エリシャ(春宵・f02565)は柔らかな所作で傍らへと歩み寄った。掌に乗るほどのちいさなレインを見つけるのも、もう慣れたものだ。
「……久しぶりね」
「ええ、本当に。元気そうで何よりですわ」
 返ってきた短い言葉に、エリシャは笑みを深めた。
 そうして気づく。どうして。何故来たの。そう問いたくとも問えぬ、妖精の心に。
「お手紙も嬉しいですけれども、此の目であなたの姿を映したいですから」
 言いながらふわりと過ぎった愛しい春の香りに、レインもまた、誘われるように傍にゆく。

「手、出して」
 首飾りから小箱を取り出しながら告げたレインのちいさな要求に、「あら、なにかしら?」と首を傾げながら、エリシャは素直に掌を広げた。
 手に毀れ落ちた小箱から現れたのは、薄く花柄が透ける薄青の包み紙に眠る、甘雨蝶の角飾りであった。月の光に翳せば、蝶の形をした板硝子の中に、降り続ける雨だれが見える。
「まあ……、まるであなたのような意匠ですこと……」
「この時期、贈り物をするのが此処の習わしなんですって」
 私は要らないのだろうと、貴女へ問うたのは私だった。
 それでも、貴女に私は要らなくとも、ずっと幸せを願っていたかったから。
「ふふ、ありがとう。……結婚式には、これを付けて出ようかしら。サムシングブルーというのでしょう?」
 私の故郷にはない風習ですけれども、せっかくですから。そう続けるエリシャの薬指には、鈍く光る濃藍の指輪があった。
「結婚……するのね。……よかったわね、エリシャ」
 思いがけない言葉に大きく眼を瞠ると、レインはちいさな両手を胸の前で強く握りしめた。私と貴女の道は違えてしまったけれど、貴女は幸せだった――幸せで、いてくれた。
「ですからレインさん。私の晴れ姿、見届けて下さいましね?」
「えっ? 式……呼んでくれるの?」
「ええ。――それと、私からも贈り物を」
 言って、常春の桜鬼はそっと祈るように指を絡ませた。途端に夜空から降り始めた桜の花びらが、慈雨のような優しい加護となってレインを包む。
 それはまるで、花嫁を祝う花の雨。
 ちいさなレインと紫陽花狼の道行へ贈る、祝福。
「私だって、あなたの幸せを願ってましてよ?」
 月を背に、エリシャはそう淡く、柔く微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブOK
絡み×

お祭りが見える小高い丘の上から眺めてるの
遠くても、音と匂いでお祭りの様子はよく分かるの
狼の能力も、ちょっとだけ便利なの

空の満月を見上げて、人狼病と狂気がざわついてるのを感じるの
宝貝【魔符桃香】から立ち昇る桃の香りが狂気を抑えてくれてるから、暴走の心配はないの

祈りを捧げる様な、静かなお祭りだね
ちゃんと、奉ってもらえてるみたいだよ、よかったね?
あなたが守れなかったもの、いっぱいあったと思うけど、守れたものも、あるよ
長い間、ありがと
ゆっくり休んでほしいの

子狼の姿に変身して、月に向かって遠吠えをするよ
あの時受けた思いを、歌を、声に乗せて
みんなの心に、少しだけ、残ってくれるといいな



 少し離れた小高い丘に立ち、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は静かに集落の方を見遣った。
 ちらちらと揺れる灯り。密やかな音と、草花の香り。離れていても、狼化しつつある五感がそれを教えてくれる。
 天を仰ぎ、澄んだ双眸に月を映す。
 吸い込まれそうなほどのひかりに魅入るほどに、裡で眠っていた人狼病と狂気がざわめき始める。
 けれど、不安はない。桃の精がくれた花びらの入ったサシェから立ち昇る桃の香が、荒れ狂うはずの心を抑えてくれると知っているから。
 再び祭りへと視線を戻す。賑やかさとは程遠い、祭りと気づかぬほどのささやかな時間。
 ――それはまるで、祈りを捧げるような。
「ちゃんと、奉ってもらえてるみたいだよ。……よかったね?」
 今は亡き神へと、静かに零す。
(あなたが守れなかったもの、いっぱいあったと思うけど。守れたものも、あるよ)
 それが、この花園。そして、この時間。
「長い間、ありがと」
 ゆっくり休んでほしいの。そう、心からの言葉を紡ぐ。

 ゆらめく灯を眺めながら、ロランは静かに子狼へと転じた。
 そうして、あのとき受けた想いを、歌を、音にして、旋律に乗せる。
 少しだけでいい。皆の心に、残るようにと祈りながら。
 子狼は、遙かなる月へと啼く。――遠く、遠く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
ミモザさん(f34789)と。

最期は憎悪とかも和らいだと信じたいなぁ…
…さ、お祭りに行こう。
借りたもの…は、どれも贈れないなぁ。
古いのなら…これならいいかな?

贈り物は羽ペンを古いのと新しいのを一つずつ。
シオンの花畑あるかな。百合とかでもいいけど。
ミモザさん見かけたらご挨拶、ちょっとの間ご一緒どうかにゃー
大切な人…妖精猫?はもういないから。
昔何度か羽ペン渡してたんだ、あの子に。
結構不器用ですぐ駄目にしてたから向こうで…なんで古いのか?
未来への希望はねー、大変な事になりそうだし絆の方がね?
これもまだ書けるし!
あとミモザさんには新しいのを贈る。
しあわせに、頑張っていこうにゃー。

※アドリブ絡み等お任せ



 彼女になにを贈ろうかと考えて、古い羽根ペンを手に取った。
 それとは別に、新品も。
 この先の苦難には絆を。――そしてその先の未来に、希望を。

 お疲れ様、と出迎えた海藤・ミモザ(millefiori・f34789)に微笑みと挨拶を返すと、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はちらりと花畑のある方へ視線を向けた。
 最期に神は、なにを想ったのだろう。答えを知ることはできないが、せめて少しでも憎悪が和らいだと信じたい。
「ちょっとの間、ご一緒どうかにゃー」
「ふふ、勿論! クーナさんのお誘いなら喜んで♪」
 ふんわりと嬉しそうに笑ったミモザは、躍るような足取りでクーナの隣に並んだ。これから向かう先にどんな景色が広がっているのか浮き足立つが、逸る心をそっと落ち着かせる。今日は、ゆっくりとした時間を愉しみたい。
 月光に照らされ、光彩を纏いながら白い蝶たちが花びらのように舞う。その向こうに広がる紫苑の花を見つけたクーナは、近くまでいくと足を止めた。つと触れた紫青の一片に、大切な人の姿が浮かぶ。
 あの妖精猫は、もういない。
 それでも、記憶から消えることはないのだろう。これまでも、これからも。
「そうだ。ミモザさんに、これを」
「わ! 良いの? ありがとう! なんだろなー。開けて良い?」
「勿論」
 クーナが快く頷くと、娘は眸を燦めかせながら包装を解いた。現れた歴史を感じさせる羽根ペンを、まるで魅入られたように見つめる。
「素敵……! これ、年代物だね?」
「昔、とある妖精猫……? まぁ、そんな存在がいてね。何度か渡したことがあったんだ、その子に」
「何度か??」
 小首を傾げ、不思議そうに瞬くミモザに、つい笑みが漏れる。そうだろう。幾ら柔く脆いとはいえ、そうそう何度も贈るものではない。
「結構不器用な子でね。すぐ駄目にしてたから、向こうで……」
 そうして昔語りを終えると、「ちょっと意外だったかも」とミモザが言った。「クーナさんは、新しいものを選びそうだったから」と続ける。
「新しいもの……"未来への希望"はねー。ほら、これからもっと大変なことになりそうだし」
「確かに。倒しても倒しても、次から次へとオブリビオンが出てくるしね」
「そう。だから、絆の方がね? それに、それもまだ書けるし!」
 言いながらペンで何かを宙に描くような仕草をするクーナに、ミモザも釣られて笑みを零と、そうだ、と短く洩らして荷物から小箱を取り出した。綺麗に結んだリボンが崩れていないか確かめてから、クーナへと差し出す。
「私からも、クーナさんへ! お誕生日おめでとうも兼ねて」
「私に……? 嬉しいにゃー。ありがとう」
 誕生日という思いがけぬ言葉にひとつ瞠目したクーナは、ほわりと眸を細めて受け取った。
 開けてみれば、天鵞絨の台座のうえに、乳白色の宝石を抱いたブローチがあった。月の光を浴びて、その表面が柔らいミルキーブルーに変わる。
「お誕生石が良いなーって思って、ムーンストーンにしてみたんだ。青く光るの、綺麗かなって」
 ブローチなら、服や鞄など好きな場所につけられるし、羽根帽子の羽根留めにもできるだろう。ピンを外して、首飾りや腕飾りにするのも良いかもしれない。
「ミモザさんは"青いもの"にしたんだね」
「色々悩んだんだけどね。――最後は"運"かな、って!」
 言って、満面の、どこか自信たっぷりに笑う。
 できることをすべてやって、足掻いてもみたのなら、あとはもう運次第。そんなときに、幸せを引き寄せる力となるように。
「あ! それ、新品でもあるよ!」
 だから未来への希望も詰まってるね! と笑顔の追撃をするミモザに、クーナもくすくすと声を立てる。
「実は、新しいものも持ってきててね」
「えー! じゃあ、私もそれにお返しする!」
「有り難いけど……それじゃあいつまでも終わらないんじゃない?」
「気持ちには気持ちで返したいもん! 貰ってばっかりじゃ悪いし……!」
 意気込んだり、困り顔を見せたり。くるくると変わる表情に、ついつい笑みが毀れてしまう。
 こんな他愛もないやり取りが、この先もできるように。
「しあわせに、頑張っていこうにゃー」
「おー!」

 何処までも、あなたの幸福を祈っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月14日


挿絵イラスト