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駆けろ、希望のフューチャーロード!

#キマイラフューチャー

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#キマイラフューチャー


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●デッドにヒートでハードにダンス
 キマイラ・フューチャーでは、いつもどこかがお祭り騒ぎだ。12月の冷たい北風が吹く中でも、寒さなんて気にしないとばかりに今日も彼らは元気に楽しんでいる。
「さあ、始まりました、キマイラレーシング・グリモア杯!アツい心と心がぶつかり合う魂の戦場!果たして今年のクール・ディセンバーで栄冠を手にするのは一体どのマシンになるのか!!実況、解説は毎度お馴染み、このジータローがお送りします!」
 マイクを片手に熱中した様子で喋る、大きな狐の耳に鶏の羽と尾を生やした、派手な男性キマイラ。その声に合わせて盛り上がる彼らの前には、様々なスタイルの地走機械がずらりと並んでいる。それは普通の四輪車を始めとして、自転車もあればオートバイもあり、ごてごてに電飾で飾られたデコトラックに、果ては王様が座るような椅子の載った台車まで、「地面を走れさえすれば、とにかくなんでもあり」という具合である。
 その列の一角、色物の中に混ざった正統派レーシングカーの横で、参加者らしきキマイラたちが集まっている。胸につけたゼッケンの色が違う二組のチームは、いわゆるライバルなのだろう。今にも一触即発な雰囲気で、戦闘に立ってにらみ合うのは青毛の狐と赤毛の狸のキマイラだった。まず口を開いたのは、ツンとした雰囲気の狐キマイラだった。
「フフン、今月もご苦労様だね。また負けにきたのかい?」
「試合前のエキシビジョンじゃ、こっちのがタイムは速かったんだぜ。あんた、そんなに油断してていいのかい?」
 狐の刺すような発言に噛みつき返す技術者風の狸のキマイラ。互いにバチバチと火花を散らすその向こうでは、各自のチームが和やかに歓談している。またいつものか、と思いつつ、どちらが勝つかを予想しあっている観衆たちの間では参加者の名前が書かれたチケットが取り交わされ、掲示板のオッズが毎分ごとに更新されていく。
 盛り上がっていく群衆に、ステージの上の司会者もワクワクした表情だ。そろそろ参加者をスタート位置へと誘導しようと、彼がマイクを握りしめたその時だった。
 ガコン、ガッシャーーーーーーン!!ドルルルッ、ルルルルッ!
「なっ、なんだーーっ!!?突如として会場に現れたスロットマシーン!暴れ出すスロット、コインの代わりに、ロケット噴射で突撃だーーっ!アーお客様、落ち着いて、落ち着いてご避難ください!そっちは参加者のマシンが!マシ、ンガアァーーーー!!!」

●バッドラックは突然に
「……という、次第である。いや、キマイラの世界もイベントには事欠かなくて、実に愉快なのであるな」
 静電気で逆立ち気味な毛を整えながら、甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)はそんな感想を述べる。予知とはいえ、それなりに緊迫した状況ではあるのだが、なんとなくキマイラたちが襲撃さえも楽しんでいそうに見えたので緊迫した状況とも言いがたいのだ。
「ともかく、今回の任務はキマイラたちのレース会場に現れた怪人たちを倒してきてほしい、というものである。スロットのような怪人がぞろぞろと、少なくとも五体くらいは現れたのでいい感じに撃退していってくれ」
 スロット怪人の攻撃は主にスロットをフル回転させての連続攻撃、ロケットエンジンを装着することでパワーアップしたり、あえて自分に制約をつけることで身体能力をアップさせるなど、力を溜めて攻撃してくるのが特徴だ。
「だが油断はしないほうがよいな。こうした場合、彼らの指揮官がどこかにいるのも世の常なのだ。こちらはスロット怪人の数を減らしていけば、その内に見つけることもできよう。皆が楽しみにするレース会場を荒らしにくるとは実に不届きな輩である」
 ついでにこちらも、とクヌギは一枚のチラシを見せる。キマイラレーシングの開催を知らせるチラシには、当日でも参加可能と書かれており、エントリーシートが付いていた。
「もし興味があれば、参加してみるのもいいだろう。我輩も危険が無ければ向こうへと飛べるのでな、ひとつ見物してみるつもりである」
 毛づくろいを終えて、やや機嫌と毛並みの良くなったクヌギはグリモアを懐から取り出して、君たちをレース会場へとテレポートさせるのだった。


本居凪
 お世話になっております、本居凪です。二本目はまたまたキマイラフューチャーで、イベントを壊そうとする怪人を倒しましょう!といった方向で。皆さまの全力戦闘プレイングをお待ちしています。
 以下、今回の敵解説。スロット怪人は次のような技で戦います。
 【POW】●プレジャー・プリーズ:自身の【刹那的な楽しみ】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
 【SPD】●スリーセブン・スラッシャー:【頭部のスロットをフル回転しての連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
 【WIZ】●ロスト・ロケット:自身の装備武器に【遺失技術製のロケットエンジン】を搭載し、破壊力を増加する。
 スロット怪人を倒せば第一章終了、二章は彼らを率いる怪人とのボス戦です。事件を解決した後は皆で楽しく熱いレース対決が待っていますが、最後のみのご参加して頂くのも大丈夫です。どうぞよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『スロットマシン怪人』

POW   :    プレジャー・プリーズ
自身の【刹那的な楽しみ】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    スリーセブン・スラッシャー
【頭部のスロットをフル回転しての連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    ロスト・ロケット
自身の装備武器に【遺失技術製のロケットエンジン】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リゲル・ロータリオ
「おおっ?なーんか楽しそうな事になってるっすね?いい感じに倒せばいいんすね?りょーかいっすよ!」

俺の速度について来れるっすか?スピード勝負っす!
眼の前をちょこまか飛び跳ねるように動き回ったり、
尻尾を振って注目させるように誘導しつつ、回避を優先して動くっすよ
いい運動になって楽しいっすねー♪
鬼さんこーちら、手ーのなーる方にっ、ってね

攻撃に転じられそうなら、水鉄砲からグラフィティスプラッシュをお見舞いするっす
せっかくお祭りなんだし、敵さんも派手に楽しくデコっちゃいますよー?


ビビ・クロンプトン
【心情】キマイラもレースもどうでもいい……。敵を倒す。私の役目はそれだけ……。一般人の避難誘導なんてしないよ……。とにかく敵を倒すことが最優先。犠牲が出ようが、私には関係ないもの……。
【戦闘】後方からクイックドロウを使って、ブラスターで撃ちぬいていくのが今回の基本戦術……。とにかくスピード重視。敵から一定の距離をとって、逃げ回りながらスロット怪人を狙撃していく……。5体いるみたいだけど、そのうちの1体を集中して狙いたい。数を減らすことが優先……。


櫟・陽里
客席に一人のモータースポーツファンがいた
ポップコーン片手に完全に休暇態勢だ
ぅおおおい!
俺がこの異種格闘レースをどんだけ楽しみにしてたと思ってんだよ!
シリーズ成績とエキシビジョンのタイムと今日のメカニックのタイヤ選択と…ああもう本気で残念だよ

サーキットという聖域、絶対取り返すからな!
デッドにヒート、してやろうじゃねぇか!!

SPD勝負!
愛車のライに乗って突撃
ホームストレートを全力疾走
体当たりのヒット&アウェイ
華麗なターンを見せつつ見栄を切る
コース上では速い奴が王者なんだ!
モタモタと力溜めてる敵なんかに
俺が捕まるわけねぇんだよ!

高速回転?ロケット噴射?
宇宙バイクで鍛えた俺の動体視力には遅く見えるぜ!


天花・雪兎
みんなで楽しいお祭りをしていたから、スロット怪人も誘われてきちゃったんだね
でも、壊しちゃ駄目だよ!止めなくちゃ!

【フォックスファイア】を使って、ぼくへの注意を逸らしながら
右から左から、時々上や下から敵を狙い撃ち!
集中攻撃を受けないように立ち回りには気を付けるよ
もしあと1~2撃程度で倒せそうな敵がいたら、狐火を合体させて派手にぶつけちゃおう!
そのあとはすぐに消火

戦うのは初めてだし、無理のない範囲で行動しよう
目標は最低1体の撃破

複数から狙われて攻撃されたり
一緒に戦う人の邪魔になりそうな時は臨機応変に対応できるよう、敵との距離にも気を付けよう


ラルフ・アーレント
ホント、キマイラ達って強かだよな。その何でも楽しむ精神見習いた……、いけど、程々にしとかないとマズい気がする。

【バトルキャラクターズ】で此方側の手数増やしつつ、手負いの敵に集中攻撃する方針で。
若し狙われてる一般のキマイラが居たら、召喚したキャラクター向かわせて庇うとかできねーかな。人的被害は抑えたいし。
連続攻撃は予備動作っぽいのが見えた時点で回避に専念。避けさえすりゃ後は隙だらけ、って事だろ?

あと、効くか分かんねーけど、[鎧砕き1]で防御崩せないかな?
もし上手く行ったら、仲間に弱ってる奴や防御崩した奴の情報共有して共闘したいところ。



●グリーン・フラッグ
 わあわあとキマイラたちがスロットマシンから逃げ惑う。そこへ颯爽と現れた、水色の髪のキマイラ、リゲル・ロータリオ(飛び立て羽ばたけどこまでも・f06447)。

「おおっ?なーんか楽しそうな事になってるっすね?いい感じに倒せばいいんすね?りょーかいっすよ!」
 リゲルは金色の目を好奇心に光らせて意気揚々と、キマイラを追いかけていた一台のスロットマシン怪人の目の前へ出る。

「さあ、俺の速度について来れるっすか?」
 リゲルの動きはひらひらと蝶のようで捉えどころがない。楽しそうな笑みを崩さずに、まるでダンスを踊っているように、自分に触れてみろと怪人たちを煽っていく。一台が釣られれば、近くにいたもう一台も、リゲルの動きに誘き寄せられるように近づいていくが、スロットマシン怪人の大振りな動きではまるで届かない。長い尻尾を囮にして自分へ注意を引きつけながら、リゲルは二体のスロットマシン怪人の隙を伺っていた。
(いい運動になって楽しいっすねー♪)
「鬼さんこーちら、手ーのなーる方にっ、ってね」

 遊んででもいるかのように煽るリゲルと、ガタン、ガタンとスロットを回しながら彼を取り囲もうとするスロットマシン怪人。左右に立った二台のスロットマシンの回転が、更に更に速くなっていく。
 だが、自分の左右に立った怪人に臆することなく、リゲルが取り出したのは水鉄砲だ。ただし、その中からスロットマシン怪人へ向けて噴き出すものは水ではなく、色のついた塗料である。
 左右同時に、スロットマシン怪人はリゲルへと連続攻撃を繰り出す。だがリゲルは野生の勘でスロットマシン同士の間を潜り抜け、続けて【グラフィティスプラッシュ】を発動させる。撃ち出された塗料が命中した先から、スロットマシンはお祭りに浮かれたような、カラフルな色合いで彩られていった。

「せっかくのお祭りなんだし、派手に楽しくデコっていっちゃいますよー?」
 スロットの絵柄を塗料で上から塗りつぶし、視界を潰されてどたんばたんとぶつかり合うスロットマシン怪人たちを見てリゲルは笑う。このままぶつかり合わせれば、やがて相打ちになるだろう。わあ、ド派手そうで面白そう。
 リゲルは相打ちする二台を楽しそうに眺めていたが、やがて少し離れた場所にまた一台のスロットマシンと、近くで浮かぶ10個の狐火を見つけ、そちらへ気が惹かれたようだった。

 周囲にまとわりつく狐火を消そうとするスロットマシン怪人を相手に、10個の狐火を操っているのは天花・雪兎(雪の子供・f02304)。女の子のようにも見えるが、彼はれっきとした男の子。初めての戦闘に緊張で白い狐耳をピンと立たせながらも、雪兎は【フォックスファイア】を操作する。

「みんなで楽しいお祭りをしていたから、スロット怪人も誘われてきちゃったんだね……でも、壊しちゃ駄目だよ!止めなくちゃ!」
 
 右から、左から、上かと思えば下から弾ける狐火に、怪人も狐火を狙うか雪兎を狙うか迷っているらしく、攻撃を行う代わりにロケットエンジンを稼働させて、次の一撃で開放させる力を溜めて、溜めて、爆発の機会を待つ。
 それを受けないようにぎりぎりで立ち回りつつ、戦い慣れてはいなくとも、せめて一体だけでもと、雪兎は狐火で自分への注意を逸らしながらスロットマシン怪人を狙い撃っていった。
 ところどころ焦げた様子の相手に、あと少しだと雪兎は狐火を合体させて強化。合体して、雪兎の頭ほどもありそうな大きなになった火球は、スロットマシン怪人の顔を目掛けて飛んでいき、怪人はボンと派手な音を立てて爆発した。
 仰向けに倒れていくスロットマシン怪人を恐る恐る覗き込む。爆発で割れたスロットが動くことはもうなさそうだ。
 一息つこうとする雪兎だが、爆発音を聞きつけた新手のスロットマシン怪人はその一瞬の猶予さえも与えてはくれない。

「ちーっす、俺も混ぜてもらっちゃっていいっすかねー!」
 そんな言葉と共に、ハイテンションで雪兎とスロット怪人の間へ飛び込んできたのはリゲルだった。驚きに目を白黒させる雪兎に、リゲルは笑いかける。
「ほらほら、構えた構えた! 敵は待っちゃくれねーっすよ!」
 水鉄砲を構えて、次々にスロットマシン怪人へ塗料をぶつけていくリゲル。雪兎は慌てたように狐火をもう一度分散させ、落ち着く為に深く息を吸って、吐く。

「すぅ、はぁ……。うん!ぼくは大丈夫!」
「よっしゃ、そんじゃあもう一丁!さくっとやっちゃうっすよー!」
 リゲルはにかっと笑って、水鉄砲を手に駆けだす。雪兎はその後方から、怪人たちへ向けて狐火を放つのだった。

●イエロー・フラッグ
 敵味方、更には逃げる観客まで入り乱れての集団戦は、戦い慣れている者にとっても時に厳しいものだ。
 今、一体のスロットマシン怪人が、がらんがらんとスロットを回転させて逃げ惑うキマイラたちを追う。そのレバーにも似た両腕をぐるぐると回転させて、足につけたロケット噴射でスタッフテントを吹き飛ばしながら迫り来るスロットマシン怪人。
 彼らの襲撃を主催者の用意したイベントか何かだと思っていたらしい一部のキマイラも状況の深刻さにようやく気付いて脱兎の勢いで逃げ出しはじめる。
 その無防備な背中へ向けてスロットマシン怪人の振り上げられた腕が届こうかという、まさにその時。
 
 金属で金属を叩いたような甲高い音を立てて怪人の腕を受け止めたのは、ラルフ・アーレント(人狼のブレイズキャリバー・f03247)の操るゲームキャラクターだった。額に1と書かれた、ロールプレイングゲームの戦士のような恰好をしたキャラクターが、その手に持つ盾で怪人の腕を受け止めている。その傍でラルフは、腰が抜けたように座り込んでいるキマイラの男に手を貸して助け起こしながら、声を掛けた。

「大丈夫か、立てる……よな?」
「あ、ああ、なんとか。兄ちゃんが助けてくれたのかい、ありがとな」
「いいから、ここはオレに……、いや、オレたちに任せて早く逃げるんだ!」

 ゲームキャラクターがすんでの所で怪人の動きを留めてはいるが、いつ吹き飛ばされないとも分からない。ラルフに急かされるように、キマイラは尻尾の毛を逆立てて乱戦地帯となったレース会場を駆け抜けていく。これでまた一人、キマイラを避難させたが、まだまだ避難完了とは言い難い。

(ホント、キマイラ達って強かだよな。その何でも楽しむ精神見習いた……、いけど、程々にしとかないとマズい気がする)

 ラルフが視線を戻せば。スロット怪人のレバーの腕と、ドットのイメージをそのまま形にしたような戦士の盾とで、鍔迫り合いが繰り広げられていた。
 だが、ラルフの能力ではまだ怪人一匹を相手するには力が足りていないのか、右だ左だ、上から圧し潰すような猛攻に盾を持つ戦士の体力も尽きてしまったようで、チカチカ点滅した後に、光の粒子となって消滅してしまう。もう一度召喚することも出来るが、同じ相手に同じ戦法、結果がそう簡単に変わる筈も無く。
 歯噛みするラルフの耳に聞こえてきたのは、うるさいくらいの、モーター音。



 ここに、一人の男がいた。走ることを愛し、バイクを愛し、モータースポーツを愛する男。破壊の始まったレース会場に、彼、櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)の悲痛な叫びが響く。
「ぅおおおい! 俺がこの異種格闘レースをどんだけ楽しみにしてたと思ってんだよ!」
 シリーズ成績、エキシビジョン時点のタイム、メカニックのタイヤ選択。レースの勝者はいったい誰になるのかとわくわくしながら調べたデータも、会場が壊されては無駄なものとなってしまう。そうなっては、出場するレーサーにとっても自分にとっても、本当に残念な結果で終わってしまうことだろう。うなだれた陽里が顔を上げる。
 その緑色の目は星の光に負けないくらい、熱く燃えて輝いていた。

「サーキットという聖域、絶対取り返すからな!デッドにヒート、してやろうじゃねぇか!!」

愛車である宇宙バイクのライに飛び乗って、陽里は手始めに自分の一番手近な、直線距離上に見えるスロットマシン怪人へと体当たりを繰り出すのだった。


 ……という経緯を経て、突っ込んできた陽里のバイクは、スロットマシン怪人の側面へと勢いよく命中する。けたたましい音を立ててぐらぐらとスロットマシン怪人が揺れるも、倒すまでには至らない。
 体当たりを仕掛けた陽里はライのハンドルを切って、怪人の体を足場にして衝撃をいなしつつ、着地。陽里は驚いた顔のラルフにグッと親指を立てて、救援に来たことを伝えるつもりで笑ってみせた。
「よう、助太刀させてもらうぜ!」

 ラルフと陽里、二人の相手するスロット怪人は足にロケットエンジンを搭載していた。足のエンジンによる突撃から始まる、レバーの腕での連続打撃を警戒する二人だが、回避に専念していればまだ連続攻撃も脅威ではない。しかし避けることは出来ても、決め手にかけていた。攻撃を食らわないようにしても、連続攻撃を行っている正面からは近づけない。
 なので横から背後から、陽里とライの突撃やラルフの操作するキャラクターがアタックするのだが、スロットマシンの外装は硬く分厚い。ダメージは与えられているはずなのだが、今ひとつ効いているかが見えてこない状況に、二人の顔にも余裕がなくなってくる。
 ならばこれでどうだと、ラルフが狙ったのは怪人の側面に陽里が付けた最初の傷。塗装の剥がれかけた場所を狙って、彼の操る格闘家キャラクターの貫くような一撃が突き刺さる。ヒビが走って、小さな拳の形に外装がボロボロと崩れ落ち、機械と複雑に入り組んだコードがぎっちり詰まった、スロットマシン怪人の内部がむき出しになった。そこを狙って攻撃すればこの怪人は倒せるかもしれない。しかし二人でもこの有様なのだ。トドメの一撃を狙うには、やや厳しい状況だった。

 そんな二人の隙間を縫うように、剥き出しになった部品を狙ってブラスターによる一撃で撃ち抜いたのは、ビビ・クロンプトン(感情希薄なサイボーグ・f06666)だった。
 銀色の髪を風に揺らして、ビビが再度、【クイックドロウ】で熱線をスロットマシン怪人へと撃ちこむ。命中した場所から、バチバチと火花が散ってスロットマシンの動きもぎこちないものになっていく。それをチャンスと見たラルフと陽里の二人が、更なる追撃を怪人へと行う。遠すぎず、近過ぎず、一定の距離から素早く撃ち込まれるユーベルコードは敵の傷口を抉るように的確に命中し、そこへラルフと陽里からのダメージも重なって、やがてスロットマシン怪人の動きは完全に止まったのだった。
 
 しかしビビはそれを確認しても表情ひとつ変えず、また別のスロットマシン怪人を倒す為にその場を立ち去る。ビビの心は、勝利の実感にも波立つことはない。

(キマイラもレースもどうでもいい……。敵を倒す。私の役目はそれだけ……)
一般人の誘導も、どうでもいい。とにかく敵を倒すことが、ビビにとっての最優先事項なのだ。ビビの感情の無い、冷えた銀色の瞳は次の倒すべき対象を捉える。

(犠牲が出ようが、私には関係ないもの……。)
 ただ敵を倒す。どうしてそう思うのか、どうしてそうしなければいけないのか、感情も理由も置き去りにして、少女の姿をした銀色のサイボーグは、一体でも多くの敵を倒す為、武器を手に再び戦場を駆けていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

初神・ザラメ
「」

基本的に煽っていくスタイル。
SPDとトラッシュトークで撹乱しながら、
怪人の攻撃力や技の使用を封じるのが主な狙い。
そしてスロット怪人を容赦なく台パンしてゆきます。

「クルクルするのはクルマだけでいんだよ、なんで目がクルクルするほうがいやがんだクソが」
「スロットは(勝てないから)キ゛ラ゛イ゛な゛ん゛た゛よ゛ぉ゛!」
「ザラメぜってー許さねーからなぁ」

3.I.T.B.使用時
「もーいいバグれ! バグってくらばれ! ばいつぁごみ!」

※元々良くもありませんが、
感情が昂ぶると滑舌(くち)と頭が更に悪い感じになります。


絡繰・ビリー
レース!これは参加するっきゃない!そのために、まずはお仕事だよ。
・行動
気合いを入れて名乗り上げるよ、観客もいるしね?
「猟兵のビリー、参上!皆様よろしく!」
敵は前情報だと強化して殴り合いタイプ。捌けるかな?
使うのはスクラップビルド・マメタンク。ビルドロボットはマシン巻き込むかもしれないし…
「レース前の調整といこうか。我について来れるか?」
正面から体当たりと見せかけて、敵の技のタイミングを見計らって横に避け、ドラフトターンで背後から全力体当たり!気付かれても体当たり!
失敗は恐れない。皆を盛り上げて、楽しいレースにするために頑張るぞ!


アノルルイ・ブラエニオン
「この足のみでコースを走破して優勝する。つもりだったのに……レースの邪魔をするとは許せん!」
怒りを燃やしつつ、ロングボウで怪人を射る
「エルフの弓術を見よ!」
基本的には猟兵の【援護射撃】を行い
自身が狙われたら【見切り】で避ける
「何の!スロットマシーン見切り!」
スリーセブンスラッシャーを避けたら距離を取って矢を乱れ撃つ
囲まれないように動きながら、大勢を相手取るつもりで戦うが、周りに敵が居ないか、観客が危険にさらされ、かつ普通に撃っても届かない程遠くに敵がいる時は千里眼射ちを使う


リア・ファル
【心情】
キマイラレーシング・グリモア杯!

自慢の制宙高速戦闘機「イルダーナ」で参加して、
ボクが運営するECサイト「Dag's@Cauldron」の宣伝をしちゃおう、と思っていたのだけれど。

参加しようと思って来てみれば、なんだかキナ臭いね、
まずスロットマシーンにはご退場願おうか

【行動】
「目押しと行こうか。 慧眼発動!」
スリーセブン・スラッシャー攻撃の悉くを、慧眼発動(デジャビュ・ヴィア・サンドボックス)で
演算解析!避けて避けて避けまくる


相手の急には止まれない無防備な背後から、宇宙バイクで突撃!
他の猟兵の目の前に体勢でも崩せれば最高かな

成功したら、
いけない、エントリー用紙を出してこないと!と去る


ニエベ・リコリン
レースに参加して優勝したら、賞金もらってがっぽりウハウハですよねぇ?
フフ…ヤル気になったですよ!

方針は他の猟兵の方々との連携重視、超重要なのです
敵の動きをよく見て行動を予測、
敵の攻撃方法はどうやらフル回転のみのようで、
攻撃が来そうであれば声掛けで注意を促したり、援護もするのです
だからわたしが困った時も、皆さん助けて下さいなのです!

敢えて不利な行動する敵は畳み掛けるチャンスですかねぇ
そんな素振りの敵は一気に押し切りたいのです
(細い葉っぱで2足歩行する鋭い牙が生えたスノーフレークの花を召喚)
さぁゆくのです、オオマツユキソウの皆さん!
オラ、スロットマッスィーンならコイン吐くのです、金貨寄越すですよ!


アメリア・イアハッター
レース、レース、素敵なレース!
沢山の人と一緒に風を切る、最高のイベント!
…だってのに!なんで邪魔が入るのよ!
もー怒った!エアハート!
貴方がただ速いだけのマシンじゃないってこと、教えてあげましょう!

・方針
SPDを活かして相手の攻撃を避け、隙を作る事を重視
隙ができたと判断した時は自らも攻撃に転じつつ、仲間に隙ができた旨を呼びかける

・行動
ユーベルコード【Air Heart】を使用
【騎乗】技能も用いて回避重視で戦闘
突撃して攻撃するふりをして相手の攻撃を誘発し、攻撃を回避する様に
囲まれない様に注意
隙ができて攻撃が可能と判断した際に武器【Vanguard】で殴りつける
「すっきありぃ!」

絡み共闘アドリブ歓迎


天花・雪兎
仲間が来てくれなかったら、危なかったよ…反省
まだスロット怪人がいるんだ
最後まで油断しないようにしよう!

残る怪人との距離に十分気を付けて
一人に攻撃が集中しないように【フォックスファイア】で敵の注意を引きながら攻撃するよ

身体能力の強化も怖いけど…特にロスト・ロケットの動きには注意するね
もしその動きを見つけたら…
次の怪人の攻撃の前に、ぼくの(もしくは仲間の)火力で倒せそうなら攻撃続行
【フォックスファイア】を叩き込んで、撃破するよ!
でも、次の攻撃まで倒すことができなさそうなら、距離を取って回避できるように警戒するね
回避後はすぐに攻撃に移れるよう、体制も整えなくちゃ!

任せて!今度はぼくも皆を助けるんだ!



●ウォームアップ・レーサーズ
 レース。それは種族も性別も越えて、あまねく走り屋を呼び寄せる。走り屋、レーサー。そして猟兵の中にも、自分の愛機を持つ者はそれなりに多くいる。
 そんな彼らは、今回のレースに参加しようと、あるいは既に参加をするつもりでレースの開始を今か今かと待っていた。だからこそ、スロットマシン怪人の無慈悲で非道な乱入行為で滅茶苦茶になってしまった会場で、戦う為に立ち上がっていたのだった。
 まず、絡繰・ビリー(ガラクタクラフトマン・f04341)が逃げる観客の波の中で声をあげる。
「猟兵のビリー、参上! 皆様よろしく!」
 人並みに揉まれそうなほど小さな彼を乗せて持ち上げているのは、スクラップ素材で組み上げられた豆タンク。【スクラップビルド・マメタンク】で召喚した、ビリー自作の愛車だ。そのタンクの上で、大きな声で名乗りを上げたビリー。その姿は周囲からも思わず拍手が巻き起こる程、堂々としたものだった。
 ビリーはタンクから、レース場で暴れているスロットマシン怪人を見下ろす。
「レース前の調整といこうか。我について来れるか?」
 そのままスロットマシン怪人へと正面から体当たりしていくのかと思わせておいて、ビリーは怪人のフルスイングをギリギリの距離で避ける。避けた際に傾けた姿勢のまま、華麗なドリフトターンを見せたビリーとタンクは、怪人の背後から突撃、全力を込めた体当たりでスロット怪人を押し倒してみせたのだった。
「皆を盛り上げて、楽しいレースにするために頑張るぞ!」
「そうそう、レースってのは楽しくって、とっても素敵な最高のイベントよね!」
 ビリーの声に同意するアメリア・イアハッター(想空流・f01896)にとっても、レースは大切なもの。彼女も自慢のバイク、エアハートと一緒にレースに出場するつもりで、こうして開始の時を待っていた一人である。
「…だってのに! なんで邪魔が入るのよ! もー怒った!」
 アメリアは黒い流線形のバイクにまたがって、エアハートへと声をかける。
「空を駆けるわ! エアハート!」
 彼女の声を聞いて変形するエアハート。アメリアは古びた赤い帽子をしっかりと被り直して、愛機のハンドルを握り、戦場に立っている敵をその真っ直ぐな目で見る。
「貴方がただ速いだけのマシンじゃないってこと、教えてあげましょう!」
 アメリアの声に応えるようにエアハートもアクセル全開、スロットマシン怪人に向かって行く。
 だが、アメリアの行おうとしているのは突撃ではない。
 自分の方へと向かってくる黒いバイクへ向かって、怪人がレバーのような腕を振り上げ、スロットを回転させても、アメリアのスピードにはまるで追いつけない。彼女はそのスピードを生かして、敵の攻撃を誘い、攻撃を回避しながらも自分が攻撃に転じられるチャンスを伺っていたのだ。
 ごとごとと音を立てて彼女の正面、敵にとっては背後からビリーの豆タンクが姿を現し、アメリアにかかりきりだった敵の死角からバックアタックを行う。敵の態勢が崩れたのを見逃さず、アメリアは腕を伸ばすと、装備した【Vanguard】でスロットマシン怪人を殴りつけた。
「すっきありぃ!」
 バコン、と大きな音を立てて、スロットマシン怪人のリール部分が大きく凹む。ガタガタと震えだすスロットマシン怪人への更なる追撃を狙って、アメリアは周囲の仲間へと呼びかける。
「さぁ、今よ、やっちゃえー!」、
「そこだね、なら、ボクにまかせてっ!」
 アメリアの声を聞きつけて宇宙バイクで駆け付けたのはリア・ファル(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f04685)だ。自慢の制宙高速戦闘機「イルダーナ」で参加して、自身の運営するECサイト「Dag's@Cauldron」の宣伝をと考えていたリア。彼女もまた、レースの邪魔をするスロットマシン怪人を倒そうとレース会場を駆けていた。
 新手の登場に怪人も負けてはいられないと、凹んだ頭部でリアがやってきた方を向き、連続攻撃を繰り出さんと低く構える。対するリアもスロットマシン怪人を見つめて、【慧眼発動(デジャビュ・ヴィア・サンドボックス)】を行った。
「目押しと行こうか。 慧眼発動!」
 彼女の瞳から得た情報で限定状況を入力、予測結果を脳内から、電子で構成された肉体へと反映する。
「その一撃は、もう『知ってる』よ」
 スロットマシン怪人の、激しい連打。しかしリアはその一つ一つを避けて、ついには、怪人の横をすり抜ける。そしてリアは攻撃を続けるしかないその無防備な背中へと、宇宙バイクで最後の一撃を食らわせるのだった。

●スロットマシンは台パンするもの
 ニエベ・リコリン(スノウトキシカ・f04518)もレースに参加予定だったが、彼女の参戦する理由は、はっきり言えば、金銭目当てだ。
(レースに参加して優勝したら、賞金もらってがっぽりウハウハですよねぇ?フフ…ヤル気になったですよ!)
 可憐な天使の見た目とは裏腹に悪辣な事を考えているニエベの隣で、同様にスロット台を思いっきり殴りつけている初神・ザラメ(探命・f02625)の姿があった。彼女はその速さとスロット並みによく回る口で煽りつつ、魔族のような角と爪で抉るようにスロットマシン怪人を殴っている。
「クルクルするのはクルマだけでいんだよ、なんで目がクルクルするほうがいやがんだクソが!!」
 その辺に放置されている車のボンネットに飛び乗って、スピードと重力を乗せたザラメの一撃がスロットマシン怪人へ襲い来る。
「スロットはキ゛ラ゛イ゛な゛ん゛た゛よ゛ぉ゛!」
 その声にはスロットへの単純な怒りだけではない、経験者だけが感じられる悲痛さも僅かに混ざっていた。
「ザラメぜってー許さねーからなぁ」
 カァ、と息を吐いて、昂り続ける感情のボルテージに舌を縺れさせながら、ザラメは胡乱な目を向ける。今も回転を続けるスロットのリール。ザラメの脳裏によぎる、揃わない絵柄。呑みこまれていくメダル。更にそれが写真のようにいくつもいくつも、頭の中で重なっていき。
「もーいいバグれ!  バグってくらばれ!  ばいつぁごみ!」
 そして下される、【3.I.T.B.(スリーインザブラック)】。ザラメの口から吐かれるトラッシュトークに紛れるノイズが、スロットマシン怪人の意識を掻き乱す。
 グルグルと回るリールには虫食いが目立つシンボルしか表示されず、始まる逆回転、絵柄が揃ってもいないのに鳴りだす当たりの音。
 見事にバグって状態異常となったスロットマシン怪人を存分に殴り倒しながら、ザラメが引き攣った声で笑い、ニエベが細い葉っぱで2足歩行をする鋭い牙が生えたスノーフレークの花、【花成術・オオマツユキソウ】で召喚したオオマツユキソウをけしかける。
「あはっ、ははははっ! ざむぁーねぇーのー!」
「オラ、スロットマッスィーンならコイン吐くのです、金貨寄越すですよ!」

 魔族と天使の少女がふたり、壊れかけのスロットマシンをタコ殴り。地獄とはもしかしたら、こんな光景を言うのかもしれない。

●ウォーキング・バトルフィールド
 雪兎が先ほど倒したスロットマシン怪人の他にも、まだ敵は残っている。
(さっきのも仲間が来てくれなかったら、危なかったよ……反省だね)
 まだスロット怪人がいることに、最後まで油断しないようにしよう。改めてそう思った雪兎は、敵に囲まれた仲間がいないか探していた。戦場のあちこちではスロットマシン怪人によるロケットモーターの音と、スロットが回転する音が響いている。だがそれもだんだん少なくなっているように思えて、雪兎には自分の他にも戦っている仲間がいることが心強かった。

「この足のみでコースを走破して優勝する。つもりだったのに……レースの邪魔をするとは許せん! くらえ!」
 走る雪兎が見つけたのは、レースへ参加できなかった怒りを燃やしつつ、ロングボウで怪人を射ているアノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)。
「エルフの弓術を見よ!」
 囲まれないように敵の動きを見切り、弓を引き絞って戦ってはいるが、アノルルイ一人ではスロットマシン怪人二体を相手取るにはやや手が足りていないようだった。後ろからなぎ払うように、雪兎は【フォックスファイア】をスロットマシン怪人に叩きこむ。
「ねえ、大丈夫だった?」
「おやおや、可愛らしい助太刀だ! 丁度いい! キミも一緒にあいつらへレースができないことへの怒りを叩きつけてやろう!」
 そう言ってアノルルイは矢を乱れ撃つ。攻撃を食らったスロットマシン怪人がロケットエンジンへ力を溜めようと、ぐっと腕のレバーを後方へ引いた。
「あ……あれ、あの動き、きっと力を溜めているんだよ!」
「何だい、それなら攻撃してくる前に倒すまでだな、力を合わせてだ!」
 アノルルイがレバーを引いた方の怪人へと弓を射る。両手を構えた雪兎の【フォックスファイア】と、アノルルイによる弓の援護射撃が繋がっていく。
 燃え立つ炎の中を、ひゅんとエルフの矢が飛んだ。矢はスロットの、コインを投入する挿入口へと吸い込まれるように命中する。そしてがたがたぴしぴしと、更にはボカンと大きな音を立て、スロットマシン怪人がまたひとつ、稼働を停止させたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『機関車怪人』

POW   :    トレイン・フリーク
【時刻表】【鉄道模型】【鉄道写真】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    出発進行!
自身の身長の2倍の【蒸気機関車】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    アクシデントクラッシュ
対象の攻撃を軽減する【高速走行モード】に変身しつつ、【煙を噴き上げながらの体当たり】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●スチーム・トレイン・トライアル
 猟兵たちの奮闘によって、暴れるスロットマシン怪人は次々に機能を停止させられていった。会場にいたキマイラたちも既に避難が済み、ここに残っているのは猟兵か、レース会場に襲撃してきた怪人しかいない。破壊され、崩れ落ちたスロットマシンの台があちこちに転がる戦場に、どこからか汽笛の音が響く。
 
 ピィーーーーーーーーーーーーーーー。
 
 十二月の寒さから生まれた霧ではない、白い靄が空へかかる。鼻をつく石炭の匂いと、古い、古い、錆びた鉄の匂い。周囲を覆う白煙が、更に濃くなる。

「ぼぅ、ぼぅ、ぼぅ。よくこれだけ某の部下たちを破壊したものだな」

 煙の中に現れるシルエット。頭部と肩に装着したパイプから吐き出される煤煙を引き連れて、レース会場を襲った犯人、その名も『機関車怪人』が、ついに姿を現したのだった。彼さえ倒せば、スロットマシン怪人もすべて動作を停止する。
 
 キマイラたちのレースを無事に再開させる為。そしてレースに参加する為。
 猟兵たちはそれぞれの信念を胸に、機関車怪人へ立ち向かっていくのだった。
リア・ファル
【心情】
お出ましだね、機関車怪人
これ以上レースの邪魔はさせない、大人しく車庫に回送してもらおうか!

【行動】
相手の情報を計算して攻めるのがボクの戦い方だね、
機関車怪人をよく観察し、分析する
挑発に乗ったりしないよ
「直線速度、コーナリング性能、入力完了。予測進路判明」

SPD勝負だ、制宙高速戦闘機『イルダーナ』で追走して、食らいついていく
「なかなかやるね、けど足下…もとい車輪がお留守になってないかい?」

ここぞというタイミングが来たら、五光の神速疾走(ブリューナク)による
連続突撃で相手の脱輪転倒を誘い、気勢を削ぐ

他の猟兵達と連携して達成できたら言うこと無しだね、
色々と相手をフォローできたら嬉しいな


櫟・陽里
へぇ、怪人っつっても配線だの機構だの詰まってんだな
覚えとくよ

ここはサーキット!
自分の意思で走行ラインを選び駆け引きをする…
熱き自由がある場所さ!
機関車はレールの上に帰った方が身のためだぜ?

場所とイベント柄、仲間はスピード型が多いか?
バランス見て必要と判断したら正面から組み合って足止め役をやるよ
皆、うまく連携しようぜ!
ライにロケットエンジンを追加搭載し
怪人の正面から突っ込んで単純な押し合い力比べ

足止めが必要なければスピード勝負
敵の騎乗や高速走行に食らいつき競り合う、又は先回り
自由なルートを選ばせない
これがレースの駆け引きってもんさ!
鉄道では不可能な超小回りターンを決め
鋭い加速で敵の排気パイプ狙い



●スチーム・トレイン・ピットイン
 現れた親玉の怪人へ、猟兵たちが向ける視線は厳しいものだ。レース会場を滅茶苦茶にした相手というのもあるのだろう、レースに参加することを望んでいたものたちの目は、絶対に倒すという気合に満ちている。

(お出ましだね、機関車怪人。これ以上レースの邪魔はさせない、大人しく車庫に回送してもらおうか!)
 イルダーナのハンドルを握るリアの手にも力が籠る。だが彼女の戦い方は、その電子の頭脳で相手の情報を計算して攻めるというもの。まだどんな攻撃をしてくるかも不明な相手には、観察と分析こそが必要だ。今はまだ、情報収集に徹しようと彼女は機関車怪人の次なる行動を待つ。
 彼女に代わるように、機関車怪人へと向かっていくのが、同じく宇宙バイクのライに騎乗している陽里だった。スピード型の多い場で、彼は仲間が実力を発揮できるように、まずは前へ出る。

(へぇ、怪人っつっても配線だの機構だの詰まってんだな……)
 その機関車のような見た目が気になっていた彼の目は、しっかり怪人へと向けられていた。彼と同じ二足歩行でも、怪人の身体に生えたパイプからは常に留まることなく煙が噴き出し続けている。
 陽里は怪人の視線を向けさせようと、パンと拳銃で空を撃つ。

「ここはサーキット! 自分の意思で走行ラインを選び駆け引きをする……熱き自由がある場所さ! 機関車はレールの上に帰った方が、身のためだぜ?」

 ふっと挑発するように言葉を続ける陽里を見て、もくもくと煙を吐き出しながら、機関車怪人は不敵に笑ったようだった。機関車のようなそのヘッドに光るライトが点滅してチカチカと瞬いている。
「ぼぉおーーーう、面白い、某(それがし)にレースは出来ないと言うか」

 機関車怪人は言葉通り面白がっているような口調で、陽里に意識を向けた。その手にはいつの間にか、鉄道模型が握られている。鈍く黒く、触れればとても冷たそうな鉄の蒸気機関車の模型をその手のひらに乗せて、機関車怪人は顔の前へと掲げる。

「機関車とは、何よりも長い道を行く。速さが欲しいのならば新幹線に乗ればいい。だがどんなに速さがあっても、何よりこの身を振るわせるのは、石炭を燃やし、煙を棚引かせて走る、その威容! 石の塊を燃やし喰らって動く、バケモノのようなその姿!」
故に、私も食らうのだ。熱く熱く機関車について語る機関車怪人の光っている頭部のライトは一層輝きを増し、彼の胸元を覆う鎧の一部がスライドすると、そこには燃え盛る炉の口が現れる。怪人が蒸気機関車の模型をその炉へと放り込めば、パイプから噴き出す煙は黒く染まっていく。【トレイン・フリーク】が強めたものは、力。
 何もかもを線路の端まで押し出すような攻撃力だ。

「ぼ、ぼ、ぼ……出でよ、我がトレインっ!!!」
 
 ピィ、と短く汽笛が鳴った。揺れるような地響きの後に、機関車怪人の吐き出した靄を突き抜けるようにして現れたのは、彼の身長の二倍もあろうかという、それは巨大な、蒸気機関車だった。

「貴様たちを倒し、我がトレインが貴様たちよりも速いとなれば、レースをするまでもない。貴様たちは、某こそが一番速い男となる為の踏み台となってもらおう!」

 車輪を回して、盛大に煙を煙突から吐き出す蒸気機関車。そのパワーは相当なものだろう。機関車怪人は大きく跳びあがって、機関車の上へと飛び乗った。
 だが、力ならば。陽里とて負けてはいないのだ。ライに追加搭載されたロケットエンジン。陽里はギアを上げて、そのエンジンへと火を点けた。

「速さ比べの前に、俺と力比べをするとしようぜ!」
 怪人の騎乗する機関車へ向けて、正面から陽里とライが突っ込んでいった。吹き飛ばしてやると、どちらも互いに思いながら、その動力を最大まで稼働させる。ぶつかり合う男たちの様子を間近に見つめて、リアは機関車怪人の情報を脳内のコンピュータで捕捉し、計算し、計算を行っていく。

「直線速度、コーナリング性能、入力完了。予測進路判明。……よし、これならいけるっ!」
「そうか!!」
 組み合って怪人の足止めを続ける陽里の背中にリアが告げる。それへ返すように、陽里が力と声を張り上げた。

「ぼっう、ぼうぼう、所詮はその程度か。某の力はまだまだこんな、ものではないぞ……!」
 機関車怪人は出力を更に上げていく。どんどんと押し込まれていく陽里とライに、しかし苦戦の色はない。自分が足止め役になるのだと決めていた彼は、見事その仕事を果たしたのだ。目の前の男を吹き飛ばそうとする機関車怪人に向かって、リアはイルダーナを走らせる。速く、速く、もっと強く。
「突撃形態(アタックモード)へ移行。いくよ、イルダーナ!」

 ついに陽里を突き飛ばした機関車が、その勢いを保ったまま車輪を更に回転させて速度を上げる。食らいつくようにその横へ追いついたリアは【五光の神速疾走】で、その車輪を狙って何度も何度も突撃を仕掛けていった。

「ぼぅ、ぼぉーーう! 面倒な壁を壊した次は命知らずの蜂とは! それもまた、吹き飛ばす!」
「なかなかやるね、けど足下…もとい車輪がお留守になってないかい?」
 強く煙を吐き出して、機関車怪人はリアを狙い、轢いてやろうと機関車を操る。だが彼女とイルダーナの連撃は、怪人が機関車を大きく動かしたその隙を突き、車輪の一つをぽっきりと根本から折り取っていった。

 ドガン!と外れた車輪の軸が地を抉る。転がっていくひとつの車輪を失っただけで、その巨大な機関車は、見事に態勢を崩してしまったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ビビ・クロンプトン
【心情】いよいよボスの登場だね……。勿論容赦なんてしないよ……。私の役目は貴方のようなオブリビオンを倒すことだもの……。どんな犠牲を払おうとも、ね……。
でも、どうして倒さないといけないんだったっけ……。まあ、いいか……。早く終わらせて帰ろう……。
【戦闘】的が大きいみたいだから、引き続き後方からクイックドロウで狙撃していくよ……。周囲は気にしない。機関車怪人のみを一点集中……。でも蒸気機関車を召喚した場合はそちらをさきに倒す……。あれがいると本体が強くなるみたいだから、ね……。
私自身は常に動き回って、敵からなるべく狙われないようにする……。スピードと回避重視、だよ……。


天花・雪兎
ついに出たな、悪者め!
みんなの楽しいお祭りは、ぼくが守ってみせるぞ!

父上がくれた[白雪姫]と名付けたカラクリ人形の手を握る
カラクリ人形だから感情はないはずだけど、「大丈夫」って言ってくれてる気がするんだ
彼女に1つ頷いて、怪人に向かい合う

何かあってもすぐ助け合いできるように、戦闘では仲間と一緒に行動するよ!
白雪姫を使い『フェイント』を織り交ぜながら攻撃
【フォックスファイア】も使って敵を翻弄しよう
攻撃力を強化した後のアクシデントクラッシュには注意
積極的に声もかけて仲間に注意も促す

戦闘が無事に終わったら、ぼくもレースに参加するんだ!
だって、ぼくは楽しいお祭りが大好きなんだ
お前なんかに絶対負けないぞ!



●トレイン・インパルス
 車輪を一つ失ったものの、機関車の勢いはまだまだ止まらない。大きく蛇行しながら走り続けるその姿は、さながら巨大な蛇のようでもある。大地に深く轍を刻みつけながら走り続ける巨大な機関車に、遠くから狙いを定めているのはビビであった。

(いよいよボスの登場だね……。勿論容赦なんてしないよ……。私の役目は貴方のようなオブリビオンを倒すことだもの……。どんな犠牲を払おうとも、ね……)
 どれほど勢いがあったとしても、あの大きな的ならそう外しはしない。長く続いている車体の側面を目掛けて、ビビのクイックドロウが炸裂する。
 離れた場所からの攻撃に機関車怪人も反撃しようと彼の頭程もあろう石炭の塊を投げつけるが、戦場を動き回る小柄なビビに命中させるにはあまりに技量が足りていなかった。その隙にも、ビビは機関車へと機械的にクイックドロウを発射していく。

(でも、どうして倒さないといけないんだったっけ……。まあ、いいか……。早く終わらせて帰ろう……)
 
 走り、狙撃を続けながらも彼女の胸をよぎる疑問。彼女の無くした何かが声をあげているかのように、鋭く響いた汽笛の音が一段と耳に障る。
「うるさい……」
 声と共に狙って発射されたブラスターの一撃は、機関車の汽笛を圧し折った。

 ビビが後方から機関車を狙って攻撃をするその傍では、雪兎が召喚したからくり人形の手を握り、ついに現れたスロットマシン怪人たちのボスを前に士気を高めていた。
(みんなの楽しいお祭りは、ぼくが守ってみせる! お前なんかに絶対負けないぞ!)
 楽しいお祭りが好きな気持ちは、雪兎も同じ。だからこそレースの開催を邪魔する機関車怪人は絶対に倒すんだと、父親に譲り受けたからくり人形『白雪姫』の手を強く握る。ぎゅ、とその手が握り返されたような気がして、雪兎はハッと隣に立つ『白雪姫』を見上げる。人形に感情はない。
 だが、いつもと同じはずの彼女の顔は、雪兎を応援してくれているような、「大丈夫」だと、言ってくれているような気がして。

「……うん、頑張ろうね!」
 彼女の手を引き、その手に繋がる操り糸を雪兎は装備する。周囲に浮かび上がる【フォックスファイア】。その一つを先頭に、雪兎と「白雪姫」は怪人の元へと向かっていくのだった。

 機関車の車輪は外れ、ビビの射撃によって破壊された部位も多い。怪人は愛する機関車を猟兵たちによって破壊されていくのが悲しいのか、その頭部のパイプから出ていた白煙もやや途切れがちで、細く頼りなく見えた。

「某の機関車をここまで攻撃してこようとは、非道なる猟兵を許すものか!」
「ぼくたちの楽しみにしているイベントを壊そうとするお前なんかには、言われたくないよっ!」

 奮起する機関車怪人へと、雪兎が向かっていく。近くにいる仲間にも届くような、その声は大きなものだった。怪人は己の汽笛の一鳴りで、彼へと返す。
 浮かぶ狐火は怪人の目を眩ませて、炎を消そうと怪人が動けば『白雪姫』による攻撃で怪人の意識を雪兎自身から逸らさせる。フェイントを取り混ぜたその一人と一体の攻撃は、後方からのビビの攻撃の目くらましともなって、怪人に傷を負わせていくのだった。

「これで、どうだっ!」
 怪人の胴体を狙って、合体させた雪兎の狐火が飛ぶ。しかしその炎は、ぼろぼろの巨体で割り込んできた機関車が盾となって防がれてしまった。
 だが、それが機関車にとっては振り絞った最後の力だったのだろう。炎に包まれて消えていく機関車。その戦闘力、更に生命力は機関車怪人と共有されていた。その機関車が消えたということは、機関車怪人の命も限界が近いということだ。

「ぼおおぉぉーーーん!! マイ・トレインーーー!」
 消えていく機関車を涙(は出ていないが)ながらに見ているしかできない機関車怪人。いくらその手を伸ばしても掴めるものは無く、ただ空を切るだけだ。うなだれながらもその頭部のライトは、猟兵への復讐に光を燃やしているのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

初神・ザラメ
●真の姿はより黒さと魔物っぽさが増し、素早く動く影のようです

「ジャックポットのあとに出てきたっておせーんだよ、周回遅れ」

SPDで立ち回りつつ、ダガーや手足の爪で
機関車怪人のパイプや時刻表など大事そうなモノを引き裂きます

「つかテメーダイヤ持ってんだろザラメが預かってやっから置いてけコラ」
どうもダイヤを宝石(diamond)と勘違いしているようです
この後のレースでの"元手"にでもする気なのかも知れません

CRT-Overwrite使用時
機関車怪人の重量や速度が乗る攻撃に対し
流れに身を任せどうかします
「こーんなド直球ストレート、イージーすぎてあくび出るわ」
「キヒャヒャ(死ぬかと思った)」



●トレイン・ラスト・アクセラレーション
 怪人の召喚した機関車は光の粒子となって完全に消滅した。だが、怪人はまだ諦めてはいない。その手に握られているのは愛する機関車の写真と分厚い時刻表。時刻表を開き、怪人はがさがさと線がいくつも書かれた薄い紙を手元で広げた。

「まだ、まだだ……! マイ・トレインが消えようとも、某にはこのダイヤグラムがまだある……! うむ、この直線超イカすワー! まるで空より流れ堕ちる流星雨の如く!」
 ダイヤグラムに描かれた線図を指と視線で追って興奮する機関車怪人。その身体のパイプからは、先ほどの意気消沈ぶりが嘘のように勢い良く白煙が噴出されている。だが、その姿よりも怪人の言葉へと強く反応を示したのはザラメだった。真の姿を解放させた彼女の身体はより黒く、鋭い爪はより鋭く、魔物っぽさの増している姿で、カッとピンク色の瞳を見開いて怪人を凝視しながら彼女はぶつぶつと何事かを呟いていた。

「だいや……?今ダイヤって言ったよなあいつ言った言った絶対言った」
 ダイヤグラムとは、鉄道の運行状況を線図化したものであるのだが、ザラメは勘違いをしているのか、光る宝石のダイアモンドを怪人が持っていることに驚いていた。その誤解をまったく疑うことなく、彼女の独り言は続く。

「あんな見た目して何持ってんだよそういや石炭もダイヤか?石炭もダイヤも成分的にはおんなじ石だったよなあ、……ああ分かったそういうことか!そうか!」
 何かしら、彼女の中で納得がいったようで。ザラメは目を細め、口を歪めてギザギザの歯が見えそうな笑みを見せると、懐からダガーを取り出しその自慢のスピードで黒い影のように走り、まだダイヤグラムを眺めてうっとりとしている怪人の元へと飛び出していく。胸元でネックレスが揺れる音が爬虫類じみた足で大地を蹴りつけながら進む音と合わさって、ザラメを更に勢い付かせる。

「ジャックポットのあとに出てきたっておせーんだよ、周回遅れ!」
 彼女のダガーの一撃は、怪人が顔の前で広げていたダイヤグラムと時刻表、ついでに身体から伸びるパイプのいくつかを引き裂いた。

「ほ、は、お、こ、某の、コレクションーーーー!!!!!!!!」
「つかテメーダイヤ持ってんだろ?ザラメが預かってやっから置いてけコラ」
 中心からビリビリに破かれたダイヤグラムを両手に、天を仰いで怪人は叫ぶ。なぜだなぜなのだと悲嘆にくれる怪人へとダガーを突きつけて要求する姿は、さながら行き会った旅人に金を寄越せと迫る盗賊のようだった。

「なんだと!! このダイヤグラムは既に廃線した路線の、某のとっておきのとっておきだ!! 絶対に渡すものか!」
 もちろん、ザラメのその要求は当然のように怪人に跳ねられる。怪人はコレクションを破壊された怒りを攻撃力へと転換し、体に残っているパイプから勢いよく白煙を噴き出した。そしてそのままザラメに向かっていくも、ザラメはひょいと避けて馬鹿にしたような笑いを見せる。

「こーんなド直球ストレート、イージーすぎてあくび出るわ」
「その減らず口を潰してやろうか!」
 怪人の【アクシデントクラッシュ】がザラメを襲う。しかし彼女には避ける動作さえ見えず、そのまま機関車怪人の激突で吹き飛ばされていく姿を、機関車怪人が想像した瞬間。

「キヒャヒャ!!」
 すぐ近くで聞こえるザラメの笑い声。まさかと怪人は思ったが、ザラメは今の攻撃のダメージなどまるで無かったように笑っている。そしてそのまま、ダガーでもう一撃。避けようのない攻撃に、機関車怪人の頭部で光るライトにヒビが入る。
 だが、ザラメもその内心では死を覚悟していた。【CRT-Overwrite.(クリティカルオーバーライト)】の発動が間に合わなければ、かなり危険だったと言えよう。距離を取った後、握りしめたダメージリポートを移した超小型記録媒体をこっそり背後へ捨てたザラメは一息つこうとして怪人の前であることを思い出し、代わりに生意気そうな顔で笑ってやったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

櫟・陽里
無骨な鉄塊がエネルギーをガバガバ喰らって力強く疾走
わかる確かにカッコいい胸が熱くなる!
けど鉄道ってのは人や物を運ぶ宿命だろ
見失ってねぇか?
圧倒的力強さも洗練された効率良さも突き詰めれば
人のため思いやりのために備わってる

やっぱここはお前の居場所じゃねぇ
乗り心地すら犠牲にし他人に道を譲らない
俺の相棒こそがサーキットにふさわしいんだ!

さぁ勝負だ!
俺の武器は運転技術と集中力
敵の攻撃は見切って避ける
華麗なクイックターン!
高速モードにもアクセル全開で喰らいつき競り合いながら体当たり
追いかけっこに夢中になってくれりゃこっちのモンさ
ピットウォールめがけてチキンレース
俺は壁を利用できるぜ
お前はどうだ?


アメリア・イアハッター
私は!レースが!したいのよ!
もうそんなにボロボロになっちゃったのなら、潔くやられちゃいなさい!
それでもまだレースの邪魔をしたいっていうのなら、容赦はしないわ!

・行動
既に敵の機動力が低下していることを見越して、小回りのきく宇宙バイク「エアハート」に乗りながら攻撃
【騎乗・操縦・ダッシュ】技能を駆使して敵の攻撃を回避しながら周囲を回りつつ【Ice Cloud】使用
氷による【マヒ攻撃】によって、更に敵の機動力を奪う
他の猟兵が大技を使おうとしていた場合は、Ice Cloudを使用し続けて攻撃が当たりやすいようフォロー
誰もいなければ、凍った部分を狙って思いっきりAir Heartで突撃だ!

共闘アドリブ歓迎



●トレイン・エクスプロージョン
 顎への一発を食らってヒビの入ったライトが、踏切の降りる寸前の、あの不気味な点滅を繰り返す。見つめる者を不安にさせるリズムで、チカチカと瞬く照明は、機関車怪人の心の乱れを表すようでもあった。

「………おのれ、おのれ、猟兵どもめ、某の、ダイヤグラム……」

 それまでの騒がしさが嘘のように、機関車怪人はふらふらと身体を左右に揺らし、まだ傷の少ない筒の先端から白く細い蒸気の煙を吐き出すたび、その勢いで破壊され隙間の出来た鎧が浮かび上がってカタカタと音を立てている。

「まだ終わってはいない、某が、倒された我が機関車の仇を取ってやるのだ……!」
「もう、まだ向かってくるなんて! 私は! レースが! したいのよ! もうそんなにボロボロになっちゃったのなら、潔くやられちゃいなさい!」

 なおも立ち上がる機関車怪人のそのしぶとさに、アメリアの気持ちを汲み取ったエアハートの車体も力強く震える。
 アメリアの言う通り、機関車怪人の動きは見るからに戦闘を開始した時よりも鈍くなっているというのに、その機関車への執着と勝利への執念がなせる技か、彼はまだ立ち上がって体内の炉に火を熾す。【トレイン・フリーク】が胸の炉でくべた写真から得た力は、防御の力。誰よりも何よりも硬い鉄の鎧で、機関車怪人はアメリアへと向かって走る。

「……そんなになっても、それでもまだレースの邪魔をしたいっていうのなら、容赦はしないわ! いくわよ、エアハート!」
 機関車怪人の動きはそれまでの戦闘での負傷によって明らかにアメリアよりも遅くなっている。アメリアはエアハートのスピードを上げて機関車怪人の安直な攻撃を回避し、その小回りの利く車体を生かし、怪人の周りをぐるぐると回りはじめて攻撃の隙を伺う。機関車怪人がアメリアの動きを阻もうとしても、攻撃が届く前に避けられ、アメリアから離れようとしても今の怪人の機動力では先回りされてしまう。そうする間にも、アメリアの【Vanguard】から放たれる【Ice Cloud】が、怪人の身体に命中する度に凍結箇所を増やし、冷気は鎧の隙間から機関車怪人の関節を凍えさせて、怪人の動きを更に麻痺させていくのだった。自分だけが削られている状況に、怪人は忌々しそうに短く汽笛を鳴らして、

「ならばこの身体でっ、道を塞ぐもの全てを吹き飛ばすまで!」
 アメリアに向かってアクシデントクラッシュを仕掛ける怪人。そこへ【ゴッドスピードライド】、まさに神速とも言えそうな速さで走ってきた陽里が、アメリアに向かう攻撃の矛先を無理矢理体当たりで変えさせる。
 陽里だって、無骨な鉄塊がエネルギーをガバガバと喰らって力強く疾走する姿が素晴らしいのだと語る機関車怪人の言葉には同意ができた。確かにモンスターマシンはカッコいいし、そんな大物の走りは見ていて胸も熱くなるというものだろう。
 だが。だがしかし、だ。

「けど、鉄道ってのは人や物を運ぶ宿命だろ。見失ってねぇか?」
「なんだと、おぉっ!」
「圧倒的力強さも洗練された効率良さも突き詰めれば、人のため思いやりのために備わってる!」

 圧倒的な防御力で、陽里の攻撃にもまるで揺るがない機関車怪人だったが、陽里は彼の進行方向よりも前に、前にと、その操縦技術で割り込んでいった。凄まじい集中力に機関車怪人の攻撃は見切られてしまい、いくら遠ざけてもすぐに距離を詰めてくる。何度も何度もかかってくる陽里を振り切ろうと走る機関車怪人だったが、陽里と同じくエアハートで疾走するアメリアが放った強烈な冷気はその足を凍てつかせ、怪人は思うように走れないことへの苛立ちに汽笛を甲高く鳴らした。
 機関車怪人の左右を挟むようにして並走する三人だが、ただ一人、陽里には目指す場所があった。それは、レースに参加する車が並ぶ筈だったピットコースだ。狙い通り、コースとピットとを隔てるピットレーンが見えてきても、陽里は速度を緩めずそのまま進んでいく。機関車怪人は壁を避けようとするが、左右は陽里とアメリアによって既に塞がれている。
 
(やっぱここはお前の居場所じゃねぇ。乗り心地すら犠牲にし他人に道を譲らない……俺の相棒こそがサーキットにふさわしいんだ!)

 ピットウォールぎりぎり、バイクのタイヤを上げる陽里とアメリア。反して、壁の目の前で止まろうとブレーキをかける怪人。
 ピットウォールの壁にタイヤ痕を残して、一人は壁を走り、一人は壁から跳んでいく。では、機関車怪人は?
 機関車怪人は、アメリアに凍らされた足をコースへと突き立てて、かろうじて壁との衝突を回避していた。だが、これで怪人は、自分から自分の動きを封じてしまった。頭の上から、壁から跳んで、空へと飛んだ、バイクの音が聞こえてくる。

「──さあ、空を駆けるわ、エアハート!」
 見上げた先に、赤い声と、黒き疾風。機関車怪人の周囲を漂う白煙の雲を突っ切って、アメリアとエアハートはまっすぐに、怪人へ向かって。


 衝突の衝撃は、風を生む。
 怪人の爆発の後には、レース会場一面に広がっていた白煙も、スロットマシン怪人の残骸も、名残も残さず綺麗さっぱり消えたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『スーパーキマイラレーシング』

POW   :    気合と勢いでライバルをはね飛ばし突き進む

SPD   :    速さとドライブテクでぶっちぎる

WIZ   :    ステージギミックやアイテムを使い、賢くゴールを目指す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●メンテナンスタイム
 機関車怪人を撃退し、安全になったことを知ったキマイラたちはそれぞれのマシンの元へと集まっていた。レースを潰そうと暴れていた怪人は猟兵たちが倒したが、すべてのマシンに被害が無かったわけではない。走行の出来ないレベルに大破したものから、タイヤの交換のみで済みそうなものまで、レースの始まる前から既に会場のあちらこちらでさまざまなドラマが繰り広げられている。
 レースの主催が改めてレース大会の参加者を募った結果、レースを続行するのに十分な人数はなんとか集まったようだ。このレースを目当てに来た猟兵ならば、もちろん出場登録は既に済んでいることだろう。あとはそれぞれのマシンの最終調整を終えて、スタートラインに並ぶだけだ。

「では、改めて今回のルールを確認しておこうか」
 怪人がいなくなり、安全になったこともあってこちらへ来れるようになった甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)が客席でレースの運営本部から貰ってきたという二つ折りのパンフレットを読んでいる。そのパンフレットによれば、このレースではだいたいこのようなルールが書いてあるそうだ。

『ひとつ、レースに参加する者は、一人でもチームを組んでもよい。』
『ひとつ、レースには、地を駆けるものならばなんでも参加してよい。補足:ただし、レースの公平性を保つ為、空を飛ばないものに限る。』
『ひとつ、コースは会場をぐるっと一周。なお、運営スタッフの厚意によりコースにはさまざまなギミックが搭載されている。ギブアップする際は受付時に渡した白旗を揚げて運営の回収を待つこと』
『ひとつ、とにかくゴールするまではなんでもあり。ただし、故意にマシンの破壊を狙う行為にはレッドカード。違反者は即座に運営が回収する』
『以上! 楽しいレースになるように祈ってるゼ! グッドラック!』

「……ぎみっく、とは、もしやあれのことだな?」
 クヌギが客席から見下ろしたコース上には、地面から生えて上下している壁だの、上から滝のように水が流れ落ちてくるゲートだの、絶壁を越えて反り返っている坂道だのと何やらレースというには色物過ぎるものがいくつも見えた。
 あそこを今から走るのか、猟兵へ向けられたクヌギの視線はそんな風に言っている。
「我輩はここで皆の走る姿を見るつもりでいるが、もし何かあれば呼ぶといい。楽しいレースを見たいのは、我輩も同じであるのでな」
 健闘を祈っているぞ。クヌギはパンフレットを眺めながら、ゆらゆらと赤い尻尾を揺らした。
櫟・陽里
観戦もいいがやっぱ走る側は格別!
視界いっぱいナニコレ感しかねぇ
面白セクションすぎだろありえねー!走りてー!

SPD重視  
先行逃げ切り作戦だ
不測の事故が続出しそうなコースで後ろに沈んだら巻き込まれる
スタートシグナルに集中して…ロケットスタート!
二輪の加速力と機動力で集団から抜け出し
狙えホールショット!

先行すると障害物のクリア方法を他人に学習されちまうけど
その代わり水とか泥とか事故で荒れた路面じゃなく
綺麗な路面を好きなラインで走れて気分いいな

前輪後輪のバネとアクセルオンオフと荷重のかけ方を上手く使えば
大ジャンプも壁走りもお手の物!
FMXとかトライアルの選手気分で楽しもう
派手に魅せる走りをするぜ!


リア・ファル
戦艦ティル・ナ・ノーグの中央制御ユニットであるボクの航海術…、
ナビゲーションユニットとしての有能さをアピールしたいところだね!

「今回は宇宙(うみ)じゃないけど、行けるよね、イルダーナ?」

そう愛機に告げ、情報収集と分析しつつ走行

五光の神速疾走を使って、加速
演算を活かした緻密なドライビングで攻める

最終コーナーでラストスパート、ボクの騎乗テクと逃げ足、時間稼ぎで順位キープできたら良いな

勝っても負けてもチャッカリ宣伝
「良いレースだったね。ボクの走りはどうだったかな。
ボクや他の運び屋がキミの欲しいものを届ける、オンラインショップ『Dag's@Cauldron』をヨロシクね!」


化野・那由他
ふふふ、この日の為に用意したブラック火車号の実力を見せるときね……!運良くマシンを手に入れたのはいいけれど改造に費用をかけすぎて懐事情が火の車だったりするのは、ええ、忘れましょう。

ブラック火車号は真っ黒な車体に、炎のように燃え上がる毛並みの凶悪な猫の絵が描かれたレーシングカー(ヘッドライトが光る目になっている)。
油圧ポンプやらシリンダーやらで、ぴょんと跳ねることができます(飛びはしません)。仕組みはよく分かってません。キマイラフューチャーで偶然出会った支援者のお爺さんが難しいコトを言ってましたが動けばいいんですよ動けば!
……POWで突き進みます。スピード狂っぽくなっていて余り後先考えてません。



●韋駄天よりも疾く
「大変お待たせしました、お客様方……これよりキマイラレーシング・グリモア杯……再開だァーーー!! さあ、血沸き肉躍る、最速レースの始まりでございます!」
 
 振り上げられる実況兼解説、ジータローのマイクに合わせるように会場のあちこちで振り上げられるメガホンに腕、そして巻き起こる声、声、声。再建された会場の客席にはレースの再開を待ち望んでいたキマイラたちがギッシリ満員、買い直したポップコーンやドリンク片手に、仕切り直しとばかりに盛大に騒いで、会場の熱気をこれでもかと上げていく。

「今回のグリモア杯はレース開始前のハプニングもあり、レースに参加予定だったチームの参加辞退に涙した方も多いでしょう……しかし、新たな挑戦者の登場にワクワクしているワタシのようなお客様も多いのでは? 心はでっかく大穴狙い、掴め夢のビッグチャンス!ですね!」

 ジータローの言うように、会場で暴れるスロットマシーン怪人と猟兵の戦い、その活躍ぶりを見ていたキマイラも少なくはなかった。そんな彼らがレースにも出場するのだ。既に出場辞退したチームから新たにエントリーした猟兵たちの勝利に賭けて、チケットを買い直したキマイラたちは客席で彼の言葉に大きく頷く。そこへステージ横からスタッフがジータローへと何事か耳打ち。

「はい? エー、もうですか……もうちょっと喋らせてくれても……フゥ、えー、はい、まだるっこしい前置き等不要!と、主催からのお言葉も頂きましたので、早速第一レースから開始して参りましょう! では、出場選手、スタートラインへ!」

 鶏の尾羽を揺らして、ステージからレース会場へ向けてフラッグで合図を送る。真直ぐに引かれたラインに沿ってずらりと並ぶ最初の走者たちに向けて、観客席からも拍手と歓声が降り注ぐ。その中には、相棒であるライやイルダーナに搭乗する陽里、リアに並んで、化野・那由他(書物のヤドリガミ・f01201)の姿もあった。

「観戦もいいがやっぱ走る側は格別だな!」
 グローブを装着した手をがっしりと合わせてコースへ目をやる陽里。彼にとっての聖域とも言えるこのレース会場を守る為に戦場というコースを走り抜けてきたが、矢張り本物のサーキットは良い。視界に広がるキマイラたちの作り上げた面白ギミックだらけのコースを見ても、彼の心にあるのは走りたいという思いであった。

「今回は宇宙(うみ)じゃないけど、行けるよね、イルダーナ?」
 リアが愛機へ向けて確認する様に告げれば、任せてと言う様に返ってくる振動。リアもまた、戦艦ティル・ナ・ノーグの中央制御ユニットである自身の航海術、つまりナビゲーションユニットとしての有能さをアピールするつもりでいた。
 彼女自慢の演算回路も、どんなコースが来ようとも対応するつもりで、スタートラインの位置から見える情報を既に収集し、分析を開始している。

「ふふふ、この日の為に用意したブラック火車号の実力を見せるときね……!」
 真っ黒な車体に、炎のように燃え上がる毛並みの凶悪な猫の絵が描かれたレーシングカーのハンドルを撫でながら呟く那由多だが、その実、運良くマシンを手に入れたもののいささか改造に費用を掛け過ぎた。その額を思い返せば、やや遠い目にもなったりする。

(ブラック火車号……名前の通りに懐事情が火の車だったりするのは、ええ、忘れましょう。それにしてもあのお爺さんは何と言っていたのかしらね……?)

 偶然出会った、キマイラフューチャーの好事家なのだろう、レースに出ようと思った彼女にぽんとこのレーシングカーをくれたお爺さん。彼が何やらこの車の仕掛けについて小難しい事を言っていたような気もするのだけど、どうにも那由他の頭に刻むには難解過ぎた。怪異譚の類であれば、きっとすんなり馴染むのだろうに。
 とりあえず困ったらここを押せと言われたハンドル右下の赤い謎のボタンだけ確認して、那由他はスタートダッシュを決める為にアクセルに足を掛け、ハンドルを握り込んだのだった。

 グリモア杯・第一レース。客席にも緊張走る、その一瞬。誰もが固唾を呑んで見守る、下げられたチェッカーフラッグが高く、振り上げられる、その一刻。
 
 ──スタートまで。
 3。

 2。
 
 1。

 ドン、と大きく差を付けて、まず飛び出したのはリア・ファル。【五光の神速疾走】でイルダーナの稼働性能を上げたことで、他の者よりも先行することが出来たのだ。同時にスタートした二位以下の集団から抜け出そうとする陽里のライ、その後方を追いかける形で、那由他のブラック火車号が追いかける。
 
 彼らの目前へとまず迫るのは、コースの地中から飛び出しては沈む壁のエリア。
 前を行くリアは目測から計算していた壁の沈むタイミングを読み切って、壁の沈んだコースを選択してすいすいと進んでいく。負けじと陽里も二輪の加速力、機動力を生かし、壁の隙間を抜けていくことでリアの後を追いかける。

 機動力を生かした二者の立ち回りに、後を追うキマイラたちも負けるものかと加速をかけるが、上下する壁に阻まれる者もいれば、車体を持ち上げられてしまう者もいて、序盤から混沌とした状況が生まれていた。
 その混沌を跳ね飛ばすように、那由他も走る。脇目も振らず、というか目にも入らず、アクセルを踏み込んで、踏み込んで、ぐんぐんと上がっていくメーター。

「ふふ、ふふふふ……! 速い、私は速いのよ……!」
 速さに憑りつかれた者の目をした那由他が走らせるブラック火車号。ヘッドライトもびかーと光らせ走るその姿は、まさしく怪猫の名に相応しい。その勢いのままに壁へも突っ込むブラック火車号だが、乗り手が猟兵だからこそだろうか。奇跡的な事に掠り傷ひとつ無く、むしろ壁を吹き飛ばしていく勢いで進んでいく。その余波で壁の上へ乗りあげてしまっていた猫車で参加していたキマイラの二人組が吹き飛ばされもしたが、無事に運営が回収したとか、なんとか。
 
 さて、一位を争うリアと陽里、それを追いかける那由他とキマイラたちを待ち受けるのは流れ落ちる水の門。
「通り抜けさえすれば問題の無いただの水が流れているだけの門だが、その水流の激しさは滝の如し、果たして走者たちは通り抜けられるのかーーーー!」

 実況の声がマイク越しに響く。搭乗するマシンが水に弱ければ、そこで一発敗退も決まってしまうだろう。滝へ向かって突き進む参加者たちを客席も見守っている。

「たとえ豪雨の中でも、ボクの走りは止まらないよっ!」
 
 ここでもリアは演算を駆使し、水量が比較的少なく、濡れずに済むポイントを見つけ出してイルダーナで駆け抜ける。宇宙で活躍する者として、機体の防水性能は元より万全だ。

 陽里も同様、しかしこちらはスピードを活かしての一点突破で滝を抜ける。身を屈め、滝を貫く様に進む姿は、弾丸のよう。派手な水飛沫を上げながら、飛び出した陽里が観客へ見せるのは高くタイヤを上げたウィリー走行。その派手なパフォーマンスに客席のキマイラたちもわっと盛り上がる。
「このくらいの水圧、俺にもライにも、なんてことないぜ!」

 しかしこのエリアで最も客席を沸かせたのは、那由他であったことをここに記そう。マシンパワー全快で突き進んできた那由他は他のキマイラを弾きつつ、前を行く二機の宇宙バイクも射程に収める位置へと辿りついていた。三番手、ここから先をどう行くか、などと考える余地はもう、彼女の頭にはなかった。

「ふふふふふ……え、何あの……滝……」
 近付いてくる滝の冷気に少しばかり頭も冷えたのか、ふと見れば那由他の目前に迫る滝。突き進んで大丈夫なのか、頭を過ぎる一抹の不安。いいや、今こそ秘密兵器(?)の出番ではないか!
 自分へマシンを託してくれた謎のお爺さんを信じて、那由他はハンドルの下の赤いボタンへ指を伸ばす。はい、ぽちっとな。
 途端、ブラック火車号の後方からゴトゴトゴトーン!と盛大に音がした。

「ふぇ?! まさか、こ、壊れ……てない!!」
 ほっと、アクセル全力で踏み込みながら胸を撫で下ろしたのも束の間。ぐわぁん、と後方から何かで蹴っ飛ばされたような衝撃とふわっと浮遊感。続く、ジェットコースターで下降していく時のあの感覚。那由他の口から抜け出る魂。
 びゅんと、滝へ向かってひとっ飛び。ブラック火車号に搭載されていた油圧ポンプとシリンダーが爆発的な推進力を生み、爆発的なジャンプ力を見せたのだった!

「あれは、飛んだ? いや、跳ねたのだ! おお、ブラボー、キャッツ!」
 なお、観客席ではこの光景を見て、やけにきらきらした瞳をした白衣の老キマイラも跳ねていたのだった。ともあれ、派手なウィリー走行の後に更に大きく派手なレーシングカーが見せた大ジャンプに、観客席ではビッグウェーブが巻き起こる。だが、肝心の那由他は口から魂を浮遊させたまま、それでもアクセルは踏みっぱなしのハンドルも握ったままでいたのは、レースを走り抜けようという思い故か、ここまできて火の車のままでいられないという思い故か。実に立派な姿であった。

 段々と脱落者も増えていくレースの最終局面は、反り立つ崖。ここまでくると観客はリアか陽里か、どちらかが勝つだろうと確信し、声援も二人への者が増えていく。声援を受けながら、競り合うように走る二機のバイク。一歩先に出たのは、陽里だ。

「滝まである上に次は崖とか、面白セクションすぎだろ、ありえねー!」

 笑って、アクセルをオンオフ、ぐっと預けていた体重を前から後ろへ移動させて、駆けのぼる断崖絶壁、その更に曲線を描くカーブの先の空を目指すように走り抜ける。ぐるんと裏返る視界に映るのは、客席と、走り抜けてきたコース。彗星のように追走する、リアとイルダーナ。

「まだまだっ、逃がさないよ!」
「レースで“逃げる”は褒め言葉……ってね。見えたぜ、ベストライン!」

 放物線を描くように、崖の上を飛ぶ二人。その真下には、チェッカーフラッグを下ろして、先にゴールラインを通過するマシンを見逃すものかと待つキマイラの姿。共に宇宙を往く者同士の決着は──【Over the Top】。宇宙を、戦場を、駆け抜けてきた経験の差が、勝機を分けた。

 グリモア杯第一レース、結果発表。
 一位、櫟・陽里。二位、リア・ファル。三位、化野・那由他。

 初戦からキマイラたちの期待に違わぬ名勝負に、会場のあちこちから拍手と歓声、大量のチケットが舞い飛ぶ。そしてステージでの結果発表の後、ちゃっかりとリアはマイクを借り、会場の観客へ向けて自分の店の宣伝を行っていたのだった。

「やぁ、良いレースだったね。ボクの走りはどうだったかな?ボクや他の運び屋がキミの欲しいものを届ける、オンラインショップ『Dag's@Cauldron』をヨロシクね!」

 ──その走りっぷり、ステージで見せた可愛らしさに、キマイラフューチャーにはこれ以降、リアのファンがちょっとだけ増えたんだとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リゲル・ロータリオ
ついに始まるっすね。俺マシン持ってないんすけど、なんかレンタルとかできないっすか?
このバイクっぽいの、ビビッときたっす!俺の相棒になってくれっす!
いくっすよハッピー流星ダッシュモーター号!

レースもバイクもわかんねっすけど、ダッシュでいってゴールしたらいいんすよね?なんかそんな感じ
ってあのギミックっつーの?すっげー楽しそうっすね!ゴールも大事っすけど、折角だから遊んでいきたいっす!
唸れ俺のスカイステッパー!【野生の勘】でタイミングよく飛び跳ねてギミックを堪能するっす、きっとバイクごと跳べる気がする!

ゴールが狙えそうなら、ラストは【スライディング】で勢いに任せて滑り込むっす!
レース、楽しいっすね!


櫟・陽里
いやホント、サーキットは最高だな
自分の出番が終わったら
当初の予定通り、観戦も楽しむつもりだ
NPCのクヌギが観戦席にいるなら
隣に座ってポップコーンを差し出す
何か親近感感じるんだよな!

そこでギアチェンジだ!とか
あの後ろについたヤツは次のコーナーで仕掛けるなとか
感想全部声に出てる
青毛の狐と赤毛の狸の戦いも気になるけど
俺はやっぱバイクの活躍が見たいかなぁ
クヌギは?乗ってみたい乗り物とかあるか?

レースの最後はやっぱアレだろ!
シャンパンファイト!!
本物のシャンパンは高いから無理なんだけどな!
無糖の炭酸水ボトルをたくさん用意したから
参加者の皆と遊べたらいいなと思ってる
まぁ1人でもやる


初神・ザラメ
【TEAM GOATia】
ナニやったって勝ったヤツが正義
『勝ってバカ「ぐぬぬ」』だよ
※勝てば官軍

ま、バレないよーにはするけどな

厄介そーなヤツらにちょっかい出しとくか
(開始直前の集中妨害)

●車のシステムにちょっとした仕込み(WIZorSPD)
1.スタートシグナルとコンマ単位で同時な自動アクセル
⇒反射神経だとかそんなチャチなもんじゃないロケットスタート
2.中盤ほどから自チームの車に接近した他車の計器をハック
⇒実際の速度と表示が噛み合わないことによる運転ミスを誘います
ベテランや感覚派には通用しないかも

もし何らかの理由でリダンとクシナが運転不可能なら
ザラメがリモートで運転します(が、ダメ)(ヘタクソ)


リダン・ムグルエギ
【TEAM GOATia】
アタシは…面倒だけれどメインドライバー
目立ち過ぎたザラメちゃんのスケープゴートというわけよ

ザラメちゃんの遠隔操縦やクシナちゃんのサポートで人並の運転技量を補ってもらうわ

事前:
車にうちの会社のロゴとかをペタペタ
後、見た人に「近くのものが遠くに見える」ような暗示(催眠術)を施したフラッグをセットするわ

ただ、今の作戦じゃ「そもそも近くや後方の相手しか妨害できない」
だから、終盤にこうするの
レースゲームのお約束、コースデザイン想定外ショートカット!
レプリカクラフトでギミックを避ける道を作って上位層へ食いつくわ
そしていざとなったら…クシナちゃん、任せた!(ぶん投げ

アドリブ大歓迎


クシナ・イリオム
【TEAM GOATia】アドリブ歓迎
私はサブドライバー担当
しばらくはリダンの懐に隠れてイリオム教団秘術・竜神の護りでこっそり障害物でも設置しようかな。道路を横断する親猫と子猫の模型とか
…私なら隠れられるからこれも遮蔽物として召喚できるはず

存在が露見したら妨害対策もするよ
フェアリーランドで相手の飛び道具をガード。

終盤はレプリカクラフトに合わせて竜神の護りで足場になりそうな物を大量召喚して相手の頭上を超えて一気に駆けるよ。
最後についてはドライバーを投げては行けないなんてルールはないからね。リダンにゴールまで投げてもらって最後のブーストをきめるよ。
…羽を使わなければ飛んでないからセーフだよね?



●天のニーケー、微笑むような
 開幕から大盛り上がりを見せたグリモアレース。その後も順調にレースは進んでいき、ことある事に歓声が舞い、拍手が飛び交っていた。
 熱狂のボルテージもぐんぐんとメーターをあげて会場の盛り上がりも最高潮、ついに舞台は最終レース。最後の出走者が並ぶコースへ、観客たちもそれぞれ贔屓の選手に応援する声を張り上げていた。
 
 その、最後の出場選手たち。何やら因縁浅からぬ、バリバリと睨みあいをしている青い狐と赤い狸の乗るレーシングカーのその横、リゲル・ロータリオと【TEAM GOATia】の三人娘、リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)、初神・ザラメ、そしてリダンのジャケットの裾に隠れるように飛んでいるクシナ・イリオム(元・イリオム教団9班第4暗殺妖精・f00920)が、コースの上に並んでいた。
 それぞれリゲルはレンタルしてきたハッピー流星ダッシュモーター号、【TEAM GOATia】はリダンをメインドライバーに、フラッグをつけ、彼女のブランドのロゴマークステッカーを貼ったマシンに乗っている。

「ふむ、最後はあの四人のようだ。さて、どの車が一等速いのだろうな?」
 観客席でうむうむと、クヌギは腕組みレーサーたちの顔を見下ろした。
「いやーホント、サーキットは最高の場所だな。こんな熱いレースがいくつも見られるなんてさ」
 その横に空いた席へ座る陽里は、自分の出番が終わった後は当初の予定通りにレース観戦を楽しんでいた。売店で買ってきたポップコーンを差し出す陽里に、有難くと礼を言ってクヌギもぽりぽり摘まんで齧る。
 櫟とクヌギ、同じ読みの名を持つ男が二人、並んで眺めるそのコースの上では、【TEAM GOATia】の三人娘が何やら顔を突き合わせて円陣を組んでいた。

「だからさぁ、ナニやったって勝ったヤツが正義、『勝ってバカ「ぐぬぬ」』だよ! 『勝ってバカ「ぐぬぬ」』」
「……勝てば官軍?」
「んだよそれ、官軍ってのじゃなくて、負けたバカは勝ったヤツにぐぬぬってなるだろふつー」
「…………」
 どうしようこれ、と言う目をリダンへ向けるクシナ。これがザラメちゃんでしょう、とアイコンタクトで返すリダン。
「はいはい、結果としてはそうね。面倒だけれど、アタシもメインドライバーとして頑張るわ。ふふ、目立ち過ぎたザラメちゃんのスケープゴートというわけね?」

 ちらりと見る、ライバルたち。開始前にザラメが煽りに行ったこともあって、狐と狸のキマイラの方は血気盛んに燃えている。だがリゲルには逆に刺激となったようで、どんなレースになるのかとわくわくとした目でコースを見ている。
(レースもバイクもわかんねっすけど、ダッシュでいってゴールしたらいいんすよね? ギミックっつーのも楽しそうだし、ゴールも大事っすけど、折角だから遊んでいきたいっす!)
 リゲルはキマイラらしい楽しさ最優先の思いを胸に、レンタルで見つけた本日の相棒、ハッピー流星ダッシュモーター号に跨って、広がるコースの先を見据える。

「へへ、いくっすよ、ハッピー流星ダッシュモーター号!」

 ドコドコと鳴り響くドラムロール。ステージに焚かれるスモークの中、仰々しくマイクを持った実況の声が会場へ響く。
「さあ、泣いて笑って! 駆けて賭けて、走ってきたか! これが最後の大一番、まだ賭けてないお客様は走った走った! 勝負はいつだって一瞬だ!」

 スタート横で、チェッカーフラッグを持ったキマイラが旗の先端を下げる。
「目に焼き付けろよ、そのかっちょいい走りっぷりを!」

 ピ、とステージ大画面、映る大きなカウントダウン。ひとつひとつ、減る数字に、誰もが息を呑んでいる。
 フラッグ下がり、減る数字。

 スリー。
 ツー。
 ワン──!
 
 青空に翻る白黒切って、各車一斉にスタートダッシュ。狐と狸、キマイラたちの車を抑えて、まず始めに飛び出たのはやはり機動力に飛びぬけたリゲル。ハッピー流星ダッシュモーター号のアクセルをぐんと握って、名前に負けない走りっぷり。

 後を追うキマイラたちだが、その動きはやや鈍い。ザラメ仕込みのロケットスタートでチューンナップされたレーシングカーにも易々追いついた横を走るリダンたちの車につけられたフラッグが、彼らの集中に水を差しているせいだ。それは近くのものが遠くに見えるというリダンの暗示。ちらちらと近づいたと思いきや遠ざかる、かと思えばあり得ない程近くに現れる相手に、さしもの彼らのハンドルさばきも迷いが生まれ、距離感を弄っていく彼女たちは悠々と、大きく開いた車と車の間を通り抜けていった。

 最初の難関、上下する壁もリゲルはひょいひょいと飛び越える。むしろ楽しそうな顔さえ見せる余裕さえ、彼にはあった。野生の勘と【スカイステッパー】の合わせ技で、難なくこのエリアをクリアしていく。
 続くGOATiaの車も、リダンの運転で横に左に振られながらも壁と壁の合間を抜けていく。クシナも飛ばされない様に掴まりながら、【イリオム教団秘術・竜神の護り】をこっそり発動。飛び出る壁のその後ろに、猫の模型を設置しておく。本物の猫がいるはずもない場所ではあるが、下がる障害物の向こうに何かが突然に現れる状況は、ドライバーにとっては怖いものだ。案の定、模型を見た狸のキマイラのスピードが一瞬緩んでしまう。
「模型に惑わされるとは、それでも本気で走っているのか!」
 その横をすかさず抜き去る狐のマシン。

「そこでギアチェンして抜きさるんだな! よし行け、いけー!」
 実況並みの大声で、陽里も腕を振り上げる。
「櫟氏はレースがまこと、好きなのであるな」
「まぁな、見るも走るも楽しいもんだぜ。クヌギは?乗ってみたい乗り物とかあるか?」
「我輩の土地では、あまり乗り物は見ぬからなぁ。天まで伸びる赤い……消防車、だったか。一度あれが走る姿を見たが、勇ましく警鐘を鳴らす様は実に良かったぞ」
 見目が赤一色というのも、バシッと決まっていて格好良い。いいものであるよな、消防車!クヌギの言葉を聞いて、そうかそうかと、陽里も頷き笑っていた。

 さて、競い合う走者の前に現れる滝のギミック──も、これで最後だからと、整備担当がコンコンしてみたら盛大に滾々と湧き出して、華厳の滝も驚きの大瀑布に超進化。パワーアップした滝が彼らを迎え撃つ堅固な城壁のようにどうどうと流れ落ちていたのだった。
「はーーー、でっけえっすねこいつは!」
 リゲルの口もぽかんと開いてしまうけれど、その次に浮かべたのは笑みの形。バイクと共に借りたゴーグルを下げて、背伸びするようにバネを使って跳びあがる。スカイステッパー、しかし飛ぶのは一度ならず。二度、三度、ぴょんぴょんと空への階段を飛んでいく。
「よっ、とぉ!」
 刻み刻んだ空中段差、彼が走るは風の道。リゲルは流れる滝の上を飛び越えて、サーキットコースへと舞い戻る。

 大瀑布に突っ込んでいくGOATiaの車上でも、様々な声があがっていた。
「うわなんだよあの滝、ちょっと水使いすぎじゃねーか」
 これで泳げたりしないのかとヒレのあるリダンの尻尾をつっつくザラメに、尾びれがあっても泳げると決まったものじゃないのよと尻尾で払うリダンだが、その横顔は少し硬い。
「このまま突入して……もし私に何かあれば、後はよろしくね、ザラメちゃん」
「は?!」
 突入する覚悟を決めたリダンだが、ザラメに運転などできようはずもない。やばい、やばくねと冷や汗流し、何とかしろよと三人の中では参謀役と言えそうなクシナをせっつく。
「仕方ないね、想定より少し早いけど、やっちゃおうか。いいね?リダン」
「これはもう少し終盤になってから、と思っていたのだけどね」
 自分をつつく禍々しく伸びたザラメの爪を手で除けつつ、クシナはリダンの握るハンドルの上へと顔を出す。滝までの距離はまだ、余裕はある。

「帝竜よ、大地を動かし此の身を護り給え」
 紡ぐ言葉は、彼女が囚われてきた暗殺教団が信奉する神への祈り。コースの左右がぐらぐらと、盛り上がって隆起する。滝へ向かって伸びあがるスロープこそ、彼女たちの最終手段、コースカット用のジャンプ台。
「……私はヴァルギリオスが神だなんて思ったことないけどね」
 無表情で落とされる言葉は果たして、信じる事の無かった神への神頼みに対してか。ともあれ、これで下ごしらえは完了だ。ここから更に上乗せするのは、リダンの役目。
「ザラメちゃん、ちょっと一瞬だけ操縦お願いするわね、そのままアクセル全開で大丈夫だから」
「だああ、いきなり頼んでくるなってのぉ!」
 【レプリカクラフト】を行う為に手を離したリダンに代わって、ザラメは運転をリモート走行へ切り替える。弾むように前後のタイヤが交互に持ち上がってから、ぐぉんと更に増す勢い。即席加工の終わったジャンプ台へ向かって全速力で進んでいく。ギミックだって、言い換えれば仕掛け罠。偽物であっても精巧に出来た罠はしっかりと作動する。先に飛んだリゲルを追うように、乗り上げた場所からぴょんと飛び出たバネ仕掛けは彼女たちを跳ね上げて、滝の上へと運んでいった。飛び越えた滝の向こう側、流れ落ちる流水の音と大きな着地の音に紛れて聞こえた悲鳴は、はてさていったい誰のものだったのか。

「あっはっは、後ろもなんか面白いことになってそうっすねー」
 背中の方から聞こえてくる盛大な音に笑いながらハッピー流星ダッシュモーター号で先行するリゲルの目には最後の難所が見えてくる。さあ、こいつはどう攻略してやろうか。にやりと笑うその顔に宿るのは、どこまでも楽しいという思いだけ。
 
「ふふ、私たちのこれ、一度きりで終わるわけないじゃない?」
 がたがたと着地の衝撃に揺れたマシンの中で、リダンの目がゆらりと剣呑な光を帯び、彼女が何も言わぬ内から、クシナが前方のコースを隆起させていく。
「これぞレースゲームのお約束、コースデザイン想定外ショートカット!」
 作り出されるずらりと並んだジャンプ台。ばったんどっかんと跳ねて、跳ねて、跳ねる、彼女たちのマシンはどんどんリゲルとの距離を詰めて、とうとうその背に追いついた。

 最後の崖の先端を同時に飛びだす二台のマシン。コース最後の直線ストレート、ゴールラインはもうすぐそこに。最後まで笑みを崩さないリゲルに、不敵な笑みを浮かべるリダン。ザラメは敵意を露わにしていたし、クシナはいつもの無表情。

「こいつで最後……っす!」
 バイクを傾け、勢いをつけたスライディングでゴールを狙うリダン。
「それはどうかしら……クシナちゃん、任せたっ!」
「了解だよ、リダン」
 片手を離して、リダンはクシナを……ぶん投げる!そしてクシナも投げられる!
 
 そして上がった、チェッカーフラッグ。結果を待つ者たちの視線が、ステージの大画面へと向けられる。両者同時に通過したように見えたが、結果はいかに。
 静寂の中、現れた実況兼解説、ジータロー。ゆっくりとマイクを顔の前へ。
「ただいま、ビデオ判定の結果が出たようです。さあ、グリモア杯最終レース、その結果は…………」
 ごくり、と誰かが息を呑む。
「………勝者!! 【TEAM GOATia】!!」
 
 シン、と会場の音が止まって。
 それから、地の底から湧き出るような、大歓声。
 
 嵐のように、雨のように、素晴らしいレースを見せてくれた猟兵たちへ、向けられる賛辞の拍手と喝采の声。
 観客席の可愛らしいキマイラの子供たちはリゲルへと花を飛ばし、それは彼の角と耳に花冠のように引っかかる。リゲルは照れ臭そうに、だけどしっかり笑顔で手を振り返し。投げられたクシナもふらふら飛びながら、合流したリダンたちと勝利を喜び合う。その顔はいつもの通りの無表情なのだが、どこか綻んでいるようにも見えて。

 初出場の猟兵たちに、華麗に、または巧妙に、先を行かれて後から同着ゴールした狐と狸のキマイラ二人も、勝利した彼らへと拍手を送る。しかし、途中で抜き去られたのはこっちが先だ後だ、同着でも先にゴールをしたのはボクだオレだと、またも始まる睨みあい。ライバル同士の決着はまだまだつきそうにない。


 勝者を称える声援の中、テンションも最高潮になった観客たちによって胴上げされている陽里が開けたボトルから勢いよく吹き上がるのは、無糖の炭酸水。
 陽の光にきらめく炭酸の、弾けた粒のひとつひとつに映る皆の笑顔。冬の空の下、その笑顔は何よりも、きっと空の太陽よりも、ずっとずっと輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月11日


挿絵イラスト