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スーベニール

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 そこは小さな村だった。
 小さいながらも美しく活気に満ちた村だった。
 今ではもう村ですらない。
 荒れ果てた廃村に風が吹く。
 キィ……。
 錆びた鉄の悲鳴だけが聞こえる。
 キィ……。
 酒場の扉の蝶番。
 あるいは外れて投げ出されたままの荷車の車輪。
 音を立てるものは残骸ばかり。
「あれはあれで悪くはないがな」
 遠くどこかで独りごちるものがいた。
「静謐は悪くないが」
 肘掛けに置いた馬の頭骨を撫で、肉の無い唇に当てた剣身を吐息で静かになぞりながら。
「まだ足りぬ」
 微かに曇った血溝の際を指の腹で真横に拭う。
 これを振るった者はどのような眼差しを持っていたか。
 時は宝を蝕む。
「まるで足りぬ」
 我が形見たちよ。

「来てくれたか。助かった」
 辻村・聡(死霊術士・f05187)は、ダークセイヴァーの荒れ果てた光景を背に猟兵たちの訪れを待っていた。
 暗く荒涼としていることが当たり前の世界だが、映し出されている村はそれに止まらない。風に吹かれる草木の他に動くものが何もない。
 廃村だ。しかも、最後の人影が絶えて間がない。
 廃墟の多くにはまだ人の生活の痕跡が残っており、病みながら生い茂る植物たちも建物を倒壊させるにはいたっていないようだった。襲撃されたというよりは人が消えたというありさまだ。変に静かな終わりに満ちている。
「見ての通りだ。この村にはもう生存者が残っていない。もっと早く気づくべきだった……」
 言っても詮ない。聡はそれ以上の悔恨を飲み込む。
「最初に命を失ったのは、生まれて間もない赤ん坊だったらしい」
 その屍はまるでゴミでも捨てるかのようにして街道に放り出されていたという。
「これは、オブリビオンの仕業だ。名は、エルシーク」
 あるいは往生集め。
 一見雑とも思える最初の暴虐にはそれなりの意味があると、まともな村民ほどすぐには思い至らない。その後に続く事態とは少し様相が違ってもいたからだ。
 その村はとにかく運が悪かった。
 偶然にも武勇に優れる若者が多く、彼らは皆、村のために武器を手に取った。
 座して恐怖を受け入れるには、腕に覚えがあり過ぎた。
 しかし、程なくしてそこは廃墟と化した。
「村民は絶えてしまったが、村のどこかにエルシークへと繋がる手がかりが残されているはずだ。それを探し出して、撃破して欲しい。人がいないので難しい面もあるかもしれないが、可能な限り速やかに行いたい」
「速やかに?」
「この場に止まっていても新たなものは何も生まれない。それを知るだけに、早晩、他の場所へと移って同じことを行うからだ」
 人間の手で何とかできる相手ではない。また無人の村ができ上がる。今、この機会を逃すわけにはいかないのだった。
「それと、このオブリビオンには妙な収集癖がある。猟兵は猟兵であるがために魔の手の対象となりやすい。どうか、くれぐれも気を付けてくれ」
 なまじの勇者などよりも、猟兵たちは武勇に長ける。だからこその依頼。
 敵の性情を口にする時、聡はわずかに瞳の色を陰らせた。心というものは思うに任せない。ゆっくりと瞬きをしてそれを払うと、自らの役目のために踏み出す。
「行こうか」
 人の死に絶えた村へ。


来野
 こんにちは、来野です。
 今回はダークセイヴァーを舞台とする事件です。
 写真で見る廃墟には趣を感じますが……。

 探索して頂く村は無人です。
 村の中で事件の形跡や敵に至る道筋を探していただくこととなりますので、対象は残された物や状況となります。
 聞き込みという手段を取れないために少し難しい調査となるかもしれませんが、どうか皆様のお知恵とお力をお貸しください。
 二章以降は戦場へと突入する予定です。

 皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。
 どうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『過去に沈む場所』

POW   :    閉ざされた扉を破り家屋などの内部を調べる、未知の脅威に備える

SPD   :    村全体を見回って観察する、物理的な痕跡やその原因を調べる

WIZ   :    魔法の痕跡を調べる、地理や気象、その他の着眼点から調査する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

テムス・シュペート
(自分から共闘を申し込むような性格ではありませんが、共闘・アドリブなど大歓迎です)
「…いやな、景色だな…。」と、凄惨な村の状況に胸を痛ませつつ探索します。

・行動・
村全体を足で軽く散策し、何も見つからなければユーベルコード【リザレクト・オブリビオン】を使用。
【死霊騎士】と【死霊蛇竜】を召喚し、【死霊騎士】と【死霊蛇竜】と共に魔術的な痕跡などの観点から状況を観察します。
(【死霊騎士】と【死霊蛇竜】についての詳細描写はマスター様にお任せします。)


彩花・涼
村を守るために戦った彼らに敬意を抱き、必ずエルシークを倒すと誓おう
収集癖か…もしかしたら奴の癖が痕跡として残っているかもしれないな

【SPD】村全体を見回り観察しよう
街道が最初に現れた地点のようなのでそこから、
村人と争った跡や明らかに人間ではない足跡等を【追跡】して
エルシークの行き先を分析しよう
痕跡が不透明な箇所は【地形の利用】と【戦闘知識】から敵と村人の動きを予測して繋げていく

ある程度探索したら、他の猟兵と情報共有して情報を統合する
エルシークの向かった先がわかれば、急いで奴を追いかける


夜刀神・リヨ
きっと、いい村だったのでしょう…。救えなかった事を悔やんでも仕方ありませんが…。
エルシーク…この報いは、必ず受けてもらいます…(奥歯を噛みしめながら)

【SPD】
村全体を端から端まで細かく見回って、武器の残骸や足跡、戦闘があった痕跡などがないか探してエルシークへと繋がる手がかりを掴みたいと思います。
「第六感」で怪しいと思ったり、気になった所は徹底的に探って行きましょう。些細な事でも構わないので、そういった手掛かりらしき物、痕跡などを隈なく探索。
痕跡を発見した場合は、「どういった状況」で「どの様にして出来たか」など調べようともいます。


その他、アドリブや絡み等大歓迎。



●大地の囁き
 街道の土は乾いている。
 埃っぽさが鼻と喉とに堪えたが、ゆえに轍の跡もしっかりと残っていた。天候は猟兵たちに味方したらしい。
「どういうことでしょう」
 夜刀神・リヨ(Phantom Uvall・f13429)が足許へと俯くと、彩花・涼(黒蝶・f01922)も怪訝な面持ちで屈み込む。
「妙だな」
 指先で触れてみたものは当たり前の大人の足跡。大きさからいって男性のものだろう。脇に刻まれているのは荷車の車輪の跡と馬の蹄の跡に違いない。
「まるで争っていない」
 他にも人の足跡は残っているが、歩幅は徒歩のそれと思しく靴底の形にも乱れた様子がない。複数で村の隅々まで見た結果であるから、決して見落としではないはずだ。
 少なくともここには屍が捨てられていたのではないのか。リヨは考え込む。
「最初の犠牲者ということですから血の跡はもう残っていないとしても、この場で殺害されたのではないのかもしれませんね」
 そうした二人の会話を耳に留め、テムス・シュペート(ゼンマイ発明家・f02295)が足を止める。
 示し合わせたわけではないが、村を見て回ろうと思うと自然とこの道を使うことになるらしい。残された足跡は生活感に満ちたものであるというのに、網膜に刻んできた光景はどこもかしこも異様な静けさに支配されていた。
「いやな、景色だな……」
 そう呟いてしまうほどに。
 差しかかる影に気づき、涼が身を起こす。手に残った土埃を払って細い車輪の跡を指差した。
「これを追ってみよう。何かを運んだのだろう」
 恐らくは赤ん坊の屍。
 陰鬱な予想を裏付けるように、車輪の跡は教会の尖塔が見える方向へと向かっている。傍らを歩む靴跡の持ち主は、どのような面持ちでこの道を辿ったのだろう。
 あともう少しで教会という四つ辻に差しかかった時、リヨが異変に気づいた。
「馬の足跡が……」
 二手に分かれている。
 他の足跡や車輪の跡に紛れてしまって分かりにくいが、蹄の跡は一組ではないようだ。
 そこでテムスが用いるものはリザレクト・オブリビオン。彼の手前でゆらりと空間が揺らぐと、死霊騎士と死霊蛇竜とが音もなく浮かび上がる。
 不思議なことが起きた。
 死霊蛇竜は召喚主の脇に付き従って特に動こうとしなかったが、死霊騎士はそうせずに荷車とは別方向の蹄の跡へと顔を向け、踏み出したのだ。
「こっちの蹄は随分と大きな馬のものだよね」
 荷車引きの馬の残した跡と死霊騎士が見ている蹄の跡とを比較し、テムスが呟く。涼が顔を上げた。
「軍馬か?」
 首を捻りながらもテムスは大きな窪みを辿ってみる。だが、すぐに足を止めた。
「何かありましたでしょうか?」
 リヨの問いにテムスは首を横に振った。
「無い」
「……?」
「無くなったんだ。蹄の跡が、急に。争った跡も血痕も無いんだよ」
 三人は視線を見交わし、薄く眉根を寄せる。
 死霊が反応するような何かを帯びる馬と、その突然の消失。普通ではないことが起きたのは確かだ。馬の遺骸などどこにも転がってはいないし、運ばれた形跡も無い。
「順番でいうと荷車が後だな」
 涼が読み取り、路面を指差す。荷車の車輪の跡が後から刻まれたために、大きな蹄の跡は薄れて見えにくくなったのだろう。
 三人は残された車輪の跡を追って教会の前へと行き着く。
 小さな村の割には立派な造りだ。すぐ傍らは墓地となっていて、敷地の一番手前の片隅に、まだ新しい小さな墓碑が見える。犠牲となった赤ん坊の墓だろう。
 そこに供えられている枯れた花束が、風に吹かれてカサリと葉を落とした。
「エルシーク……この報いは、必ず受けてもらいます……」
 リヨが奥歯を噛み締める。
 涼は来た道を振り返った。この村を必死に守ろうとした者は確かに居たはずなのだ。
(「必ずエルシークを倒すと誓おう」)
 その想いを伝えるべき者たちも、ここで誓った物事はあっただろうか。役目を果たした騎士と蛇竜の姿が、テムスの傍らから静かに薄れていく。
 弔いの鐘は沈黙を守り、尖塔の影は彼らの足許に闇よりも深く黒かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ルイス・アケーディア
静かな場所は嫌いではないが。
人間だけがあるべき場所にいない村というのは気持ちが悪い。

さて。俺も一介の財宝蒐集家として、(この状況でそう名乗るのは癪だが、)奴が何を集めているかには興味がある。

まずは街道へ。
村民の死体の痕跡はないのだろうか?
死体があるなら、無くなった物や盗られたような痕跡を探す。
死体がなければ、目当てはモノではないかもしれないな。
村中を見回って、不自然に何もない場所を探そう。
恐らくそこは奴が活動した場所で、痕跡が残っているならその辺りだろう。

ユーベルコードは金属を含む物が手掛かりとして有用そうな場合の探索に使う。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。あのオブリビオンが関わっているのね。
確か、英雄の遺品や骸を蒐集する性質があったはず…。
村人達が骸でも、まだこの近辺にいるなら探せる…?

私は【吸血鬼伝承】を使用して霧化して家屋の中に侵入
残された品の中から第六感を頼りに所有者の愛用品を見切り、
対象に自身の生命力を吸収させて【吸血鬼伝承】を応用発動

…生まれよ、出でよ。我が眷属…。

追跡の呪詛を施して魔力を溜め蝙蝠に変化させた後、
持ち主の元まで飛ばして追跡できないか試みる

…飛んでいって。貴方の持ち主の元まで…。

…猟兵である為に魔の手に掛かりやすい、か。
念のため、往生集めの奇襲には警戒しておこう。
万が一、攻撃を受けたら大鎌をなぎ払い武器で受ける。



●鋼
 街道へと打ち捨てられた赤子の屍は、墓地に葬られているようだ。それを伝え聞くと、ルイス・アケーディア(ストーンヘンジ・f08628)は街道の半ばで足を止めた。
 遺体から消えていたものがあればと考えたが、埋葬済みとなると次に当たるところはどこか。
「この状況で蒐集家を名乗るのは癪だが」
 ぐるりと周囲を見渡した。
「俺も一介の財宝蒐集家として、奴が何を集めているかには興味がある、……」
 その時、ルイスの赤い瞳に移ったものは鍛冶屋の看板だった。鎚と金床の意匠がそれを物語っている。
「看板は無事か」
 工房内はどうだろう。
 扉を開けて、動きを止めた。
 無いといえば何も無い。まずは鍛冶屋本人がいない。
「静かな場所は嫌いではないが」
 作業台がそのままの工房内に、ひと気がないのがどうにも気持ち悪い。
 そして本来は商品が並べられていたのだろう棚にも何も無い。
 ここはダークセイヴァーだ。商品といっても人間のための道具は質素なものだっただろう。鍬や草刈り鎌の果てまでが無いが、蒐集家がそのようなものを欲しがるだろうか。
「妙だ」
 そこでルイスが用いたユーベルコードは燦爛たる宝物庫の管理者だった。身の丈240.4cmのウォーマシンの肉体が浮き――
 ジャララララッ!
 彼の周囲に銀貨が舞った。何枚も何枚も。
 それと共にはためいたのは、注文書の束。
「売ったのか」
 盗られたのではない。全ての鋼は剣や槍に打たれて村民の手に渡り、武器にするには脆い銀貨ばかりが残った。そして仕事柄屈強な鍛冶屋も武器を手に取ったからこその無人だろう。
 価値あるはずの金属がルイスの外殻に当たって滑り落ち、チャリンという小さな音を立てた。

●連れていって
 鍛冶屋の向かいは庭に鍛錬所を持つ人家だ。扉は施錠されていて開かない。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は霧と化し、空気取りから屋内へと滑り込む。
(「死臭……」)
 すぐに異変に気づいた。奥の寝室には老夫婦と思われる遺体が折り重なるようにして朽ちている。鍵を開けて外に出る力も尽きた末の死か。
 リーヴァルディは無人の部屋を探して扉を開けた。女性の部屋のようだ。
 そこで問題のオブリビオンの情報を思い返す。
「確か、英雄の遺品や骸を蒐集する性質があったはず……」
 何らかの鍛錬をしていた女性の部屋。残された物の中に愛用の品は無いだろうか。
 10分後、リーヴァルディは難しい面持ちで手の上の品を見つめることとなる。それは飾り気のない髪留めだった。
「言うことをきく気はない、か」
 持ち主に置いていかれたためか、造りが粗雑過ぎるのか、複雑な術に耐えられない髪留めは彼女の手の上で不動を保っている。
「骸でも、まだこの近辺にいるなら……」
 オブリビオンの元に向かった者を探し出すことはできないか。
 髪留めを手にしたままリーヴァルディは霧へと戻り、家の外へと漂い出た。衣服が身に従うように装飾品程度ならば吸血鬼伝承の能力の内として連れて行けるだろう。
「……飛んでいって。貴方の持ち主の元まで……」
 その想いが通じたものか否か、暗い空へと漂う霧の身は軽い。庭の林檎の樹よりも高く浮き上がり、程なくして眼下に家の屋根を見ることとなる。
(「空中?」)
 リーヴァルディは意識を周囲へと向けた。
 前方に見えるものは教会の尖塔。
 そうしてその傍らに位置する裏山の崖。
 風を叩くものの音が聞こえる。なにゆえか、そんな気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三岐・未夜
……廃墟かぁ……みんな、戦って死んじゃった、のかな……。
生きるために抗ったなら、もしかしたら、何か少しでも手掛かりを遺してくれてるかもしれない。探してみよう。
……何か受け取らなきゃ。

玄火を周囲に浮かべて明かりにして、家の中を調べてみよう。
例えば竈の中や瓦礫の下、床下や額縁の裏、屋根裏とか。
人が物を隠すなら何処か、を考えて動くつもり。【第六感】
……生きるために抗った人たちなんだから、後続のために何か遺してるって思いたいんだ。

…………それと。
もし遺骨とか放置されてるなら、叶うなら祈ってあげたい。
僕たちが引き継ぐから、安心して眠ってって言ってあげたい。間に合わなかったんだから、せめて。【祈り、破魔】



●残されたもの
「僕たちが引き継ぐから、安心して眠って」
 三岐・未夜(かさぶた・f00134)は遺骨を見つけるたびに足を止めて祈った。
 ゆえに、気づいた。
「この人も」
 納屋の壁に凭れている遺体は、脇に杖が転がっているところから見て老人のものだ。最初の内は埋葬する余裕もあったのか、野晒しの骸は決して多くはないが、そのほとんどが老人か女性なのだ。
「みんな、戦って死んじゃった、のかな……」
 そうして帰りを待ちわびる者たちは、生きる手立てを失い息絶えた。畑には草が生い茂り、商店には商品の姿がない。
「生きるために抗ったなら、もしかしたら、何か少しでも手掛かりを遺してくれてるかもしれない」
 未夜は棚が空っぽのパン屋の扉を押した。牛乳やバターの香りがしない代わりに、この店からは死臭も感じない。小麦粉だらけの調理場を抜けて奥の住居を覗いてみる。玄火(ハジメノヒ)のどこか寂寥を感じる炎たちを灯して。
「……生きるために抗った人たちなんだから」
 未夜は思いを巡らせる。
 生き残ろうと必死になった者たちならばどうする? 絶望なんてそうたやすいことじゃない。
「後続のために何か遺してる」
 驚くほどに片付いた部屋を見て未夜は思案した。おかしい。まるで引っ越しでもしたようだ。
「引っ越し」
 さっと振り返った。店には美しい風景画が掛けられていた。あれはなぜ置き去りにされたのだろう。
「あった」
 額の裏から一通の書簡を探し出し、封筒を見た。受け取ったのはこの店を切り盛りしていた女性だろう。差出人は、こちらも女性名。
 未夜は封筒から四つに畳まれた便箋を抜き出し、祈りを捧げる。それから静かに広げて眼差しを落とした。

●message 01(風景画の裏の手紙)
 愛するアデルへ

 手紙をありがとう。
 逃げていらっしゃい、アデル。
 魔物と戦うなど、とても恐ろしいことです。
 こちらは幸いにして山から鉄鉱が出ます。
 あなたとお腹の子供の食べ物くらいは賄えます。
 それにアデル、
 あなたが逃げなければあなたの夫も逃げられないでしょう。
 妻を危険にさらして夫が戦わなければ、
 ひとは心ないことを言います。
 あなたがまず、逃げるという罪を負いなさい。
 そして夫に追わせなさい。
 そうすれば二人、いいえ三人とも助かる。
 関所の手形を同封します。

 ルフェール村の母より

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
アァ……ココもだーれも居なくなった。
聞き込みは出来ないなら人がいたであろう場所から探そうカ。
情報は味方と共有する。

家の中は勿論、他にも建物があればソコへ
ヒトでも動物でも足跡を見つけたら追跡を使って足跡を辿る。

足跡など無かったらまずは家の外から。次に家の中。
狼は耳も鼻も目もイイ。
臭い、音、それから何も見落とさないように隅々まで観察。
ナニかを見つけたらその近くに手掛かりがないか探してみる。

しかし、コノ村の人々はどーやって過ごしていたのか…。
ドコに集まって居たのか。
広い場所、隠れることの出来るくらい広い場所も探してみようカ
何かヒントがあるとイイなァ……。


冴島・類
今は人がいなくとも
生きた痕跡、爪痕は何処かにあるはず

その声を、こぼさないように
同じことをさせない為に
耳を澄まして

【SPD】
村の中を見回り
無人の家屋の中に入り、
人のいなくなった中で、不自然な痕跡がないか調査

辻村さんは、相手は収集癖があると言ってました

普通家屋にあるはずの物がないみたいなことか…
若しくは、人々が持ち立ち上がったはずの武器の行方も気になりますし
襲撃された跡(血痕など)がある場に共通点がないかなど
メモ取り
手が届かぬ位置はコードにて複製して操る鏡で写して見たり
第六感を働かせつつ入念に

基本は観察と痕跡調査
ですが
万一調査時に鳥や、鼠など動物がいれば
動物会話にて人を襲った者を見ていないか聞いて



●小さな証言者
「アァ……ココもだーれも居なくなった」
 エンジ・カラカ(六月・f06959)は静まり返った村内を見渡す。
「今は人がいなくとも、生きた痕跡、爪痕は何処かにあるはず」
 冴島・類(公孫樹・f13398)の考えに、意外やあっさりと頷くと肩を並べた。なんとなく同じ方角となったのだ。
 街道伝いに家々を覗いて回ると、その中に一件、他とは少し趣の違うものがあることに気づく。類はメモを取る手を休めた。
「あれは……」
「家畜小屋カ?」
 脇に藁の山が積まれているところを見ると間違いがなさそうだ。
 周囲に残された足跡は馬のものか。地面へと俯いているエンジの傍らで類が小屋の戸を開ける。
「やはり、馬がいたようだね」
 中はもぬけのからだったが、壁には蹄鉄が掛けられている。農耕馬ではなく乗用の馬を飼っていたらしい。
「馬は戦場に戦いに、小屋には、コレは……」
 後に続いたエンジが耳をそばだて、短く息を吸い込む。人狼の五感が生き物の存在を知覚していたが、目につく場所に動くものはない。
 様子を知った類の周囲に、いくつもの鏡が生じ始めた。彼の本体の複製品、空蝉写しの技だ。
 あらゆる隙間、物陰、高い場所までを子細に映し、他の鏡面に反射させると――
 馬具の棚の上で何かが動いた。
「ネズミ」
 エンジが見分けて指差す。灰色の小さな生き物がその場で跳ね、棚と壁の隙間へと駆け出した。
「待ってくれないかな?」
 類が語りかけると、ネズミの動きがピタリと止まる。
 ぎこちなく二人を見返った。
「チ……、チゥ、オマエ、話せるのか? 大きい、オマエ、大きいネズミか?」
「違うけれど……ネズミ君、この辺りで人間を襲ったものを見なかったかな」
「チッ、チ、そっちの大きいのは? 人間襲ったもの? 見た」
 動物との会話が成り立っている。黙って見守るエンジを一度見て、類はネズミへと向き直る。
「大きくてネズミではないけれど、大丈夫。見たんだね。どのようなものだった?」
「チィ……オマエらより大きい、黒くて空を飛ぶ、人を殺す、ネズミは食べない……すごく、気味が悪い」
 そのままを人語で伝える類とネズミとを交互に見て、エンジは口を開く。
「ネズミは食べないカラ、聞いてくれないカ? どこかに隠れられる広いトコロはないカ」
 頷いてそれを伝えた類にネズミは言った。
「チ……ッ、ある。教会は広い。ネズミは入れる。けど、人間はきっと入れない」
「入れない?」
「チゥ、鍵。神父が鍵を掛けた。チッ、チ……話せる、大きいネズミたち」
 棚の上のネズミが身軽に跳ねた。エンジの肩を中継して地へと降り立つ。
「チチッ、オマエたちも、あれと戦うのか? 帰って来ないのか? ネズミは教えない方が良かったんじゃないのか?」
 小さなネズミは猟兵二人を大きなネズミと決めつけ、じっと見つめてから物陰へと消えた。類がエンジに答えを伝えている間もカサコソと動く気配が感じられたていたが、やがて静かになる。
 主を失った薄暗がりだけが二人を包み込み続けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニコ・ベルクシュタイン
『往生集め』エルシーク、か…。
悪趣味な蒐集家であるという事だけは辛うじて知っているが
果たして此の廃墟から、其の手掛かりを見つける事は出来るだろうか。

WIZ判定
村の何処かに近隣の情報を記した地図や書物が無いかを探し
次にエルシークが狙いそうな場所に目星を付けたい
恐らくは此の廃墟と化した村よりもっと大きな場所を狙うのではないか?
推測でしか無い此の思考を裏付ける証拠が欲しい所

または「日記」を探しても良いかも知れない
日々起こる異常事態を記さずにはいられぬ者も居ただろう
首尾良く見つかったら内容を精査し、敵の行動を整理し、
前述の地形情報と合わせて次の行き先を推理したい。

捜索の後は丁寧に場を整えるのを忘れずに



●清廉なる罪業
 右手に教会、左手に鍛冶屋、今、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)の目の前には小さくも造りのしっかりとした家の扉がある。
「『往生集め』エルシーク、か……」
 そこは教会の神父の住まう家だった。無論、今は無人。中に踏み込んでみると、節制を絵に描いたような清潔な生活の残り香が感じられる。
(「悪趣味な蒐集家であるという事だけは辛うじて知っているが、果たして此の廃墟から、其の手掛かりを見つける事は出来るだろうか」)
 聖職者が前線に立って戦うとは思えない。それだけにこの家には書斎があった。
 扉を開けて、ニコはほっと息を落とす。壁にこの地方の地図が掲げられている。
「この村の名がアルジェン」
 状差しに残る郵便物から地名を割り出し、その周辺へと視線をさまよわせる。ニコの瞳が探すのは、ここよりも大きな村だった。エルシークの行き先。
「こちらのツルハシの印は鉱業の要所だな。……ルフェール?」
 崖を回り込んだ向こう側。人間が馬車で行こうと思えば半日近くかかりそうな場所だが、その村は大きい。
 記された地名を読み上げて眉根を寄せた。
「……」
 無言で両袖机を振り返る。
 中央の薄い引き出しを開けて指先を忍ばせるのは天板の裏。
「どういうわけか……ここに隠したくなるものだが」
 あった。封蝋で留められた小さな鍵を剥がす。
 それを使って鍵付きの引き出しを開けてみると、目当てのものがそこにあった。
 日記だ。
 日々これ異常事態の連続となれば、記したくもなるのが人情。この際、人の秘密を云々言っている場合ではない。
 事は人命に関わる。終えたらきちんと元通りにしよう。
(「推測でしか無い此の思考を――」)
 パララララという紙を繰る音は、危急を告げる鳥の羽ばたきの音にも聞こえる。
「裏付けてはくれないか」
 どうか。

●message 02(神父の日記)
 ○月○日 失踪したという前任者に代わって赴任する。
  何があったというのか。誰にもわからない。
 ○月○日 リーサの赤ん坊が殺された。酷たらしい。
  自警団のアルノーの馬が疑われたがあれは違う。
  あれは
 ○月○日 風が鳴る。あれらが来る。塔から。神よ。
 ○月○日 村から働き手が消えていく。止めるべきなのか。
  しかし、そうしたら次は我が故郷ルフェールが
 ○月○日 神よお許しください。私は彼らを止めませんでした。
  それどころか鼓舞しました。誰も帰って来ませんでした。
  お許しくださいお許しくださいお許しください
  鍵   封鎖を    あれには    翼が
        むだ

成功 🔵​🔵​🔴​

レイラ・エインズワース
鳴宮・匡サン(f01612)と

村ごと、誰一人残らなかったナンテ
どうして、紡がれるハズだった未来がこんな風に絶えちゃうんダロウ
やっぱり、過去の夢は、夢に還らなキャいけないんダヨ

街中を移動して痕跡の調査
かつての所有者の書を手繰り、【世界知識】や【情報収集】
で魔力の痕跡をたどっていくヨ
呼び出すのは過去の幻
宝さがしは得意デショ? と、怪盗に声をかけて
争った場所ヤ、人のいた痕跡のある場所、
証拠になりそうな品物を重点的に探させるヨ
その周りは重点的に調べていきたいナ
周囲の警戒はお任せ
ありがト、絶対逃がさないように頑張るカラ
もうこれ以上未来への灯を奪わせナイ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ
好きに動かしてくれたラ嬉しいナ


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携OK
◆レイラ(f00284)と

……気持ち悪いな
え? いや、この光景がさ
ただ人の姿だけがないってのは、明らかに異様だ

この光景と、痛いほどの静寂の中にあると少し胸がざわつく
それは、言葉にはしないけど

レイラの魔術痕跡の探索に同行する形で
単独行動は避けるようにする
何か潜んでいないとも限らないからな
……ああ、集中してていいよ
周囲の警戒はこっちでしておくから

彼女の探査と並行してこちらも目で見ての調査を
争いの跡、何かを移動させたような痕跡
明らかに人でない者の居た形跡はないか
細い路地から、建物の陰
見落としのないように当たっていこう

あんまり気負うなよ
……大丈夫、止められるさ
その為に来たんだろ



●沈黙の底
「……気持ち悪いな」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)のその声を聞いて、レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)は手を止めた。彼女の傍らにいるのは、紳士の品格を感じさせる初老の怪盗。義理堅き怪盗の夢(リアニメイト・ファントムシーフ)にて呼び出された霊だが、つられたものかその手も動きを止めた。
「え? いや、この光景がさ。ただ人の姿だけがないってのは、明らかに異様だ」
 匡は街道を見渡すことのできるテラス窓を指差し、ヒラリと片手を振る。まるで何でもないことのように。
「村ごと、誰一人残らなかったナンテ、どうして、紡がれるハズだった未来がこんな風に絶えちゃうんダロウ」
 レイラは静けさの中に微かな吐息を混ぜ、目の前の書棚へと向き直る。
「やっぱり、過去の夢は、夢に還らなキャいけないんダヨ」
 二人と一つの霊がいるのは村役場の二階。村民のための資料部屋だった。
 匡は窓辺での警戒を続けて怠らないが、人影の抜け落ちた村の光景とそこを支配する静寂とを目の当たりとする時、微かな胸のざわめきを禁じ得ない。
 その思いは言葉にされることもなく、波立った胸の内へと沈むのだが。
(「それにしても」)
 この村はどこかおかしい。周囲を探索して歩いている時から、妙な違和感を拭いきれない。
 匡は窓の外へと視線を投げる。
 もし見られているというのならば、相手の位置を特定できないはずもないだろう。嫌悪感を伴うだけに。
 だが、時折感じるものはそれとは違う。例えるならば、蜜蜂の羽音に感じる微かな酩酊感や肌に当たる細かな砂塵の感触だった。
「ノイズ……?」
 それに近いものだと気づいた時、ガタンという音が部屋の中に響いた。怪盗の霊が二重構造になっている書棚に気づき、それを脇にスライドさせた音だった。
「何か見つけタ? 宝さがしは得意デショ?」
 脇から覗き込むレイラへと霊が指し示してみせるものは、一冊の書物。しかし。
「これハ……」
 困惑げな声を聞いて、匡が振り返る。レイラが取り出したものを見て、薄く眉根を動かした。
「封印だよな? それ」
「多分ネ。見てはいけないという意味ダヨ」
 見つけたものはごくありふれた装丁の書物だった。
 しかし、オニキスの念珠を連ねたロザリオで固く括られており、開くためには糸を切る他なさそうに見える。メダイの位置で丁寧に繋ぎ直してあるのだ。
 人間の手による封印だが、信仰心の込められたものだろう。
 黙って見つめていたレイラは、意を決して傍らの机へと手を伸ばす。
「……。もうこれ以上未来への灯を奪わせナイ」
 拾い上げるものは、置き忘れられたペーパーナイフ。
「あんまり気負うなよ。……大丈夫、止められるさ。その為に来たんだろ」
 匡の言葉に頷いて、細い刃先を念珠の間に差し入れる。
 ブツリ、という鈍い音。
 祈りを数えるための黒い珠が、猟兵たちの足元にいくつも散らばった。

●message 03(アルジェン村村史)
 村を悩ませたものは、大雨のたびに起きる東の川の氾濫だった。
 村議の末に設計された聖堂の塔は、有事の際の村民の避難先として活用されるべく、内に多数の小部屋と最上階にロビーを備えることとされた。
 長い螺旋階段は幅も広く取られ、途中階には崖の上へと待避するための回廊も造り付けられている。
 それは実に志の高い計画であったが、完成を目前として問題が起きた。

 作業中の石工が高層階から転落し、死亡したのである。
 なお、正式な情報は伏せられ公式文書も破棄されたが、実際の工事中の死亡者はこれにとどまらない。

 工事は中断された。
 未完の塔は使われることなく、以後、死者の塔と――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロジロ・ワイズクリー
村ごと消してしまうなどと、なんと酷い話だろう。
「――救うには遅過ぎたか、いや、…まだ次が」
新たな犠牲者を出さない為に出来る事からしていこう。

【WIZ】
左耳へと付けた耳飾りを外し細い糸へと下げ、所謂ダウジングの要領で『失せ物探し』を行おう。魔法の痕跡、失われた物、或いはエルシークの収集癖の対象品。宝石の導きに従い、手がかりを『おびき寄せ』よう。

ダークセイヴァーはホームグラウンドでもある。
『世界知識』と照らし合わせて不自然なところがあれば一層念入りに。



●閉ざされた戦場
 街道の乾いた土が、ロジロ・ワイズクリー(ブルーモーメント・f05625)の靴底で脆く崩れる。
 まるで何かが動いたかのような錯覚が、この村では笑えない。
「――救うには遅過ぎたか、いや、……まだ次が」
 ロジロは片耳を飾る耳飾りを外した。東白という名を持つそれは、夜明けの空のごとき複雑で美しい色合いを見せている。今、闇に支配された世界にあっても。
「どこかに手がかりがあるというのならば……」
 細い糸を用いて東白をつり下げ、手前へと向けて腕を差し出す。いわゆる、ダウジングの手法だ。
 ゆらり。
 失せ物探しの耳飾りが揺れる。
「墓地? いや」
 いくつもの墓碑の影へと振れたようにも思えたが、一歩踏み出してみると違う。小刻みに震える耳飾りに従うと、ロジロの足は教会の塀へと向かうことになった。塀に向かいながら中には入らないという不思議な動きだ。
「確かに、これでは入れないでしょうが」
 門扉を見返って、ロジロは呟いた。
 太い鎖でぐるぐる巻きにされた鉄柵の影が長く斜めに伸びている。鎖の様子を見るに、封鎖は外から行われたようだ。
 ゆらり。
 耳飾りの動きは反時計回り。
 教会の敷地は、かなりの広さだ。大人数が集うことも可能だろう。
(「この地方は得てしてこういうもの――」)
 国柄を良く知るロジロからすれば長い塀も不思議ではなかったが、前方に見えたものは心穏やかな光景ではなかった。
 通用門を背にして座り込んでいるものがいる。いや、ある。聖職者の亡骸だ。
 アァ。
 溜め息に似た鳴き声をあげてカラスが飛び立ち、東白が小刻みに揺れる。
 ロジロは膝を落とし、亡骸の拳から覗くものを引き抜いた。
 それは、通用門の鍵だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三寸釘・スズロク
◆SPD

戦って勝った相手の武器を奪って集めてる…とかって類だったら
UDCアースの日本にも似たような逸話のある僧兵がいたよなァ。
アレは借金のカタのためだっけか。
まぁそれより大分趣味が悪そうだってのだけはわかる。

にしても無人ね…戦えない子供や老人も皆殺されちまってるってコトよな。
飼ってた家畜なんかも居なくなってんのかな?
つーか、死体も…?
もしソレごと持ってってるんなら血の跡を探して辿るのが早そうか。

電子機器どころか電気もない世界の情報収集はやっぱ難儀だなァ。
【次元Ωから覗く瞳】で村の地形情報…
屋根登ったりして色んな角度から取り込んでみて
肉眼じゃ気付かなそうな血痕や足跡の検索できねーか試してみるか。



●欠落
 風が吹き抜け、耳許で鳴った。
 三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)は、今、消防団の物見台の上にいる。
「戦って勝った相手の武器を奪って集めてる……とかって類だったら、UDCアースの日本にも似たような逸話のある僧兵がいたよなァ」
 期せずして、今、彼の正面に見えているものは聖堂、言うなれば僧院だ。
「坊さんだってコトはないだろうケド、大分趣味が悪そうだってのだけはわかる」
 手を緩く振って猿梯子を登った疲れを払い、視線を下へと転じる。墓地が見えた。
(「にしても無人ね……」)
 一つ、二つ、三つ。
 数えるのは途中で放棄したが、急に新しい墓が増えたという形跡はない。ここに来るまでに見た屍は『死んだ』というありさまで『殺された』ものではなかった。
「飼ってた家畜なんかも居なくなってんのかな? つーか」
 ――死体も……?
 閑散とした村。増えた形跡のない墓碑。スズロクの考えは、そこにたどり着く。
「電子機器どころか電気もない世界の情報収集はやっぱ難儀だなァ」
 そう言いながらも電脳魔術士である彼が行使するものは、ユーベルコード・次元Ωから覗く瞳(チートシート)。
 村の地形情報を見えるだけ取り込み、演算を終えれば、敵の行動の予測がつく。
「ハズ……あ?」
 スズロクの瞳が注視したのは、墓地の手前の一点だった。
 軍馬クラスの大きさの馬の蹄の跡が残っていた場所。
「いや、待て……馬の脚だとは聞いてねェって……」
 馬の脚ではない。が、この村の中には徹底して『欠けている』ものがあった。
 戦う者たちの屍と、エルシークの足跡。
 その時、スズロクの頬を何かが掠めて、掴む前に消え失せた。それは、黒い。
 ――羽根?

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『首無しの天馬』

POW   :    突進
【高速移動】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【突進】で攻撃する。
SPD   :    幽鬼の馬車
自身の身長の2倍の【馬車】を召喚する。それは自身の動きをトレースし、自身の装備武器の巨大版で戦う。
WIZ   :    飛翔
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 それはダークセイヴァーでは良く見る光景だった。
 丈の高い尖塔に、美しく円を描く空中回廊。
 そこから、黒い羽根が落ちてくる。

 見上げれば回廊の上に黒い影が並んでいた。
 それは有翼の馬だ。
 翼を持ちながら首を持たない黒い天馬たちだ。
 ガツッ。
 回廊を蹴る蹄の音が一斉に響き渡る。
 猟兵たちであれば教会の敷地に踏み込むことはたやすいだろう。
 だが、そこまでだとばかりに羽ばたく。
 仮に敷地の外だとて一兵たりとて逃さない。
 主へと至ることは許さない。

 首を持つものたちへの妬心と
 高みの首魁を守ろうという決死の覚悟が
 猟兵たちを目掛けて黒い豪雨のごとくに襲いかかる。
彩花・涼
番人というわけか、いいだろう。蹴散らしてやる

敵が近づいてくる前は黒爪で【スナイパー】して撃ち落としにいく
近づいてきたら黒華・改で斬りかかり接近戦をしよう、【2回攻撃】と【生命力吸収】で体力を削りにいく

敵がUCを使用して馬車を召喚したら、【見切り】と【武器受け】で敵の攻撃をいなしつつ、ある程度敵が周囲に集まったらUCを使用して黒蝶で周囲の敵を攻撃し喰らい尽くす
この戦法の場合は味方と共闘できないので、1人で戦う事になるがな

殲滅したら教会に突入だな
残るはエルシーク……村人たちの無念は晴らす



●Metamorphose
 闇空に黒く広がる翼。羽ばたきの音はあるが、嘶きはない。
(「番人というわけか、いいだろう」)
 彩花・涼(黒蝶・f01922)は黒い銃身を虚空へと向けた。
「蹴散らしてやる」
 初弾。
 舞い上がったはずの天馬が虚空で膝を折った。一直線に墜落を始める。
「一体」
 涼が大きく飛び退くと、地に叩きつけられた馬体は黒い羽毛の嵐となって彼女の頬を打つ。そうしてすぐに薄れて消えた。
 翳した腕の向こうで風が鳴る。
 急激に迫るのは鈍色の蹄。
 涼の額を蹴り抜こうとしたそれは、しかし銃身で脇へと逸らされ、持ち主が旋回するのを許した。
 ドッ!
 着地した天馬の蹄の音は痛恨の音色を持って教会の壁に跳ね返る。
「大きいというのも難儀なものだな」
 振り返った馬の首の付け根から黒い血飛沫が上がった。
 細身の黒剣、黒華・改を突き立てた涼は、引き抜きざまに手首を返し、竿立ちとなった馬の脚の腱を断つ。速い。
 地響きを立てて天馬は倒れ、涼の動きはさらに切れ味を増す。
(「殲滅したら教会に突入だな」)
 石造りの壁を視界の隅に確認した時、差し掛かる影が急にその形を変えた。
 馬車が来る。
 涼は正面を向いたまま、後ろへと引く。銃身で、グリップで、相手の動きを外へと弾き、いくつもの蹄を左右へと逃す。
 この瞬間を待っていた。
 味方との距離を開けた涼を孤立したと判断し、天馬たちが一斉に襲いかかった。
 そう、この瞬間を待っていた。
 群がる黒い馬体を食い破り、黒い蝶の一群が舞い上がる。高く、広く、あたかも天馬が蝶へと生まれ変わったかのように。
「村人たちの無念は晴らす」
 黒蝶の前奏曲。涼の肩先で、蝶の翅がひらりと踊った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
翼は持てど首は無し、余計なものばかりが付いているのだな。
…邪魔立てはさせぬよ、立ちはだかるならば屠るまで。

共に戦う猟兵が居る場合は、時に援護も考慮に入れて行動する
連携の意思ある者が居れば積極的に受諾したい

攻撃は【花冠の幻】で、少しでも多くの敵を巻き込めるように
多少の危険を承知の上で敵陣へと踏み込んでいく「覚悟」を
(花弁に変化させる武器はお任せ致します)

飛翔で何処まで舞い上がろうと、
我が花弁は共に舞い上がり追いすがる
さて、何体地に墜とせるだろうか

埒外の存在であるのはお互い様やも知れぬが、
何の罪咎も無き人々を害するのは決して許されぬよ。
疾く、失せて貰おうか。俺達は道を急いでいる。


ロジロ・ワイズクリー
酷い遺体だったのに、それでも唯一見た村の人間だというのがやるせない。

持ち主、発見場所から教会の鍵か?と其方を見れば聞こえた鋭い音。成程、そこを護るなら分かり易い。こちらも其処を目指して行こう。

マントの内側から蝙蝠さんを呼び出して『先制攻撃』を仕掛けよう。直接当てるのが目的ではなく、空中の跳ねる方向を絞り込ませる為に進行方向の妨害として。動きが読めれば、どんなに素早くとも弾は当たる。
願わくばその片翼の付け根を撃ち抜いて撃ち落とす、或いは機動を削ごうと引き金を引く左手に強く『祈り』を込めて。

・WIZ/連携等OK



●天獄への道
 丈の高い鉄柵の間を抜けて、ロジロ・ワイズクリー(ブルーモーメント・f05625)は空を仰ぐ。
 つい今し方まで封鎖されていた聖域の尖塔。回廊の上に居並ぶ異様な獣の影は、頂を守護する彫像のようだ。
「成程、そこを護るなら分かり易い」
 マントの内へと手を入れながら歩み出す。それにしても。
(「数が――」)
 次々と広げられる翼は、闇空をさらに黒く塗りつぶす勢い。思案の面持ちとなった時、脇に立つ猟兵がいた。
 見ているものは同じ高み。
「翼は持てど首は無し、余計なものばかりが付いているのだな」
 ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)だった。首なし天馬からロジロの手の上へと視線を転じる。
 そこに乗せられているもの、それは蝙蝠さんだ。
 実際のところは生体偽装式蝙蝠型ドローンだが、どこからどう見ても蝙蝠である。それ以外の何ものでもない。
「それを放つのだろうか」
 ニコの問いに頷くロジロ。
「では、飛びやすくしよう」
 頷き返し、ニコは地を蹴った。駆ける姿も靴音も隠さない。
 尖塔の脇へと回り込んで十分な距離を取り、手にするものは時刻みの双剣。長針と短針、時計の針を象った二振りを刃側を携えて構える。
 つられて一斉に飛び立つ首なし天馬たち。
(「さて、何体地に墜とせるだろうか」)
 二振りの短剣を天へと放ると、それらは時を早送りするかのように何度も回る。刻の刃と刃が虚空で涼やかにぶつかった。
「夢は虹色、現は鈍色、奇跡の花を此処に紡がん」
 逸れたと侮った天馬たちの眼前で、短剣は虹色の薔薇の花びらへと変じる。虹色の花の嵐へと。
「……邪魔立てはさせぬよ、立ちはだかるならば屠るまで」
 慌てて天を蹴る蹄は次から次へと黒く散り、落ちる羽も虹色の輝きに勝てない。共に埒外、されど鈍色の蹄は赤子を蹴り殺した凶器だ。その現は決して許されるものではない。
「疾く、失せて貰おうか。俺達は道を急いでいる」
 そうした仲間の惨状を知って、軌道を変えた馬の一群がいた。それぞれが虚空を蹴り、詠唱後の猟兵を狙おうと身を翻す、が。
 そこにジグザグ飛行で飛来する黒い飛膜。蝙蝠さんだ。
 右へ、避けられない。前へ、回り込まれる。
 ならば左へ――
 そう動くことはわかっていた。
 照準を定めたロジロは、引き金を引く左手に強く祈りを込める。
「結果は己自身へと問え」
 ガンッと吼えるマスケット銃の銃声。片翼を撃ち抜かれた天馬が、宙を何度となく蹴ってもがきながら、地へと叩きつけられる。変に捩れた翼はもう用をなさない。
 輪郭を失い、黒い羽毛へと変じて舞い上がる天馬であったもの。それは空に還ることはなく、猟兵の足許へと縋りつく。
 結果は、消滅。
 ロジロは背後を振り返った。
 風にキィ、と鳴るのは通用門の鉄柵。
 あまりにも無残な亡骸が、この終末の村で唯一出会った、それでも村民だったとは。
(「やるせない……」)
 向き直る先には、祈りと共に加護の銃弾を放つ自らの左手。ロジロは銃把を握り直す。
 虹色の花降る下、新たな銃声が響き渡り、黒い羽根が散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
教会の奥のものを護ろうとしてるんだよね。
……でも、逃げ切れたひとがもし少しでもいたのなら、いつの日か此処に帰って来るかもしれない。
その時に、余計なもの残しとく訳にいかないよ。

飛ぶなら撃ち落とす!
火の矢を生成して【属性攻撃】で火力を強化するよ。弾幕張って逃げ場をなくして、空から引きずり下ろしてこ。【操縦、範囲攻撃、援護射撃、誘導弾、先制攻撃、全力魔法、生命力吸収】
自分への攻撃に対しては、【誘惑、催眠術、ハッキング】で思考を誘導して狙いを曖昧にし、【おびき寄せ、見切り、第六感】で避けやすいように動く。

生憎、首はあげらんないんだよ。それに、馬が狐の首なんて貰ったって意味ないでしょ。



●後顧の憂い
 三岐・未夜(かさぶた・f00134)の正面にあるのは、分厚い扉だった。
 そこは塔の入り口前。頭上から耳障りな羽ばたきが聞こえてくる。
「教会の奥のものを護ろうとしてるんだよね」
 こんな護衛たちがいたのでは、ただの人間には上階に至ることすら困難だろう。さりとて、逃げることも閉じ込めることも時間稼ぎにしかならない。
(「……でも、逃げ切れたひとがもし少しでもいたのなら、いつの日か此処に帰って来るかもしれない」)
 万が一にも撃ち漏らしがあれば、後の悲劇に繋がる。
 未夜は少しずつ後ろへと距離を取り、広い場所へと足を運んだ。上空から良く見えるだろうが、それで構わない。
「飛ぶなら……」
 回廊から飛び立った天馬の一群が急降下を始めた。開けた場ならば囲むことができる。敵にとっては美味しい状況だ。
 同時に慢心を呼ぶ状況でもある。
 未夜の周囲で炎が揺れた。
「飛ぶなら撃ち落とす!」
 中空に生成するものは幾つもの燃え盛る矢。襲いかかる黒い天馬たちを、紅蓮の炎で迎え撃つ。
 バチリ。
 翼を焼き焦がす音がそこかしこで爆ぜ、黒煙と火の粉が濃く立ち込めた。その向こうから唐突に覗くのは、一対の前脚。
「当たると、思ってるよね」
 未夜はゆらりと脇に揺れる。
 蹴り抜く勢いの蹄が肩の上を抜け、天馬は地へと膝をつく。どぉっと前に突っ込み、横転した。
「生憎、首はあげらんないんだよ」
 黒煙が風に流れると、耳のピアスが輝く。彼の頭を蹴り潰そうとする蹄は、その一つを掠めることもできなかった。
 どうしても定まらない狙いに自ら大地に墜落することとなった天馬たちは、馬体に炎の矢を突き立てられて次々と黒い塵に変じていく。
「それに、馬が狐の首なんて貰ったって意味ないでしょ」
 鈍色の蹄は虚しく宙を蹴り、未夜の足許に黒く崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
鳴宮・匡サン(f01612)と

コレが、あそこにあった死者の塔
この奥に、今回の首魁がいるのナラ、見逃すワケにはいかないヨネ
翼をもつ相手は厄介だケド、
私は一人だけじゃないんだカラ

機動力が高いナラ、その動きを鈍らせるネ
朗々と歌のように【高速詠唱】で『再演・許さじの腕』を使うヨ
籠めるのは【全力】の魔力と【呪詛】
炎は広げて命中重視
相手の翼や足を絡めとって、その場にとどめテ
ランタンから炎を放って攻撃
コレだけじゃ倒せないケド、鳴宮サンがきっと射抜いてくれるカラ
【世界知識】で尖塔の構造が把握できたら、天馬が近づいたところを縛り付けたり
上手く不意をうちたいナ
コレ以上、絶対に奪わせないカラ


アドリブ・絡み歓迎ダヨ


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携OK
◆レイラ(f00284)と

死者の塔には死の遣いが潜む、ってわけか
笑えない冗談だ

飛翔能力に加え、この数だ
自由に動かれちゃ厄介だが――こっちも一人ってわけじゃない
レイラ、頼むぜ

初速の速いアサルトライフルを用いての射撃で応戦
魔術で動きが鈍った個体から順に落していく
とにかくまずは、数を減らさないとな
近づかれ過ぎないように、位置はこまめに調整
レイラにも位置取りに気を付けるよう促す

捕えきれず空へ逃れた個体や
馬車を牽く個体へは【抑止の楔】
脚と翼の付け根を重点的に狙って勢いを削げば
レイラが捕えてくれるだろ

理不尽に奪うなら、理不尽に殺されても文句は言えないよな?
勿論、お前らの主だって同じだぜ



●Karma
 天馬の並ぶ回廊は、あたかも城塞を守る砲台のようだった。一群が飛び立つとまた次の群が現れる。
「コレが、あそこにあった死者の塔」
 レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)の掲げるランタンが、犠牲者の命の上に建つ塔を柔らかく照らし出した。
「この奥に、今回の首魁がいるのナラ、見逃すワケにはいかないヨネ」
「死者の塔には死の遣いが潜む、ってわけか。笑えない冗談だ」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、投げかけられた灯りを辿って塔の上部を見上げる。
 そこにいるのだろう首の無い天馬たちの首魁、あるいは頭目。隠匿されていた死の匂いが、オブリビオンたちを呼び込んでしまったというのか。
「翼をもつ相手は厄介だケド、私は一人だけじゃないんだカラ」
 ランタンの下に並ぶのは猟兵の影たち。
 飛翔するのみならず数で押して来るとは確かに厄介だが、そう、一人ではない。
「レイラ、頼むぜ」
 匡は程々の距離を作って、点在する生け垣の裏へと回った。
 ランタンの焔がゆらりと揺れ、レイラの瞳が幾何学的に配置された植え込みと石で造られた壁の影とを見通す。次第に大きくなるのは黒い天馬たちの落とす影。
「壁から、離れたいのネ?」
 馬は放射状に散る。見分けた瞬間に紫焔が踊った。
「自分のしたコト、覚えてないノ? ――」
 朗々と歌い上げるのは再演・許さじの腕。
 間近な羽ばたきよりもレイラの唇の動きの方が速い。
 足許の土がボコボコと蠢くと、そこから一斉に湧き出す無数の腕、腕、腕。
 罪の数だけ生じるのだから、敵の業はいかほどか。
 バササッ。
 呪詛に満ちた指に掴みかかられて、黒い翼がそこかしこで騒ぐ。
 毟れた羽毛が黒い雪のように舞うが、それらは地に触れる前に焔に焦がされて煤へと変わった。
 奈落へと引きずられながら必死に足掻く天馬。その前脚がガクンと動きを止める。
「とにかくまずは、数を減らさないとな」
 豪雨には豪雨を。
 匡のアサルトライフルRF-738Cが、天へと戻ることのできない黒馬に順次とどめを刺していく。
(「壁を避ける……」)
 その理由はすぐにわかった。
 しきりに羽ばたくあの耳障りな羽音。あれが頭部を持たない連中の感覚器代わりだろう。
 外へ、外へ。
 天馬たちは中空で散開し、地に近いものへと躍り掛かる。
 その内の一頭が、腕に絡め取られた味方の背を踏み台にして虚空へと戻った。
 じわり、と。
 仲間すら足場にする一頭の背後で、闇が揺らぎ始める。
「馬車か」
 乗り手はいないだろうに。
 匡は生け垣を飛び越えた。
 巡る車輪。巨大な馬車を召喚して急旋回した一頭を狙い、翼の付け根を撃ち抜く。
 別の蹄がこめかみに飛んできたが、真横へと身を投げて頭上へと逃した。
 レイラが紫焔を放つ。
「コレ以上、絶対に奪わせないカラ」
 地を蹴って中空へと逃れようとした天馬は、後脚を亡者の腕に掴まれて竿立ちとなった。
 鈍った翼で無茶に羽ばたこうとも飛べはしない。前脚はただ足掻くばかり。
 ずるり……ずるり……。
 自らの罪に引きずり戻され、次の瞬間には胸から背へと撃ち抜かれて黒い羽毛の渦へと変わる。
「理不尽に奪うなら、理不尽に殺されても文句は言えないよな?」
 地に背を押し付けて銃口を仰向けた匡は、降りかかる羽毛にも目を閉ざさない。
 不安定な姿勢だが、低反動がものをいった。
「勿論、お前らの主だって同じだぜ」
 ――エルシーク。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
首の無い馬……?
アァ……珍しくは無いなァ。ケド、邪魔だ。馬が殺した?
アァ……口が無いから喋りはしないカ。

先制攻撃で人狼咆哮。見方は当たるなヨ。
飛ぶのも、馬車も、突進もぜーんぶ厄介だなァ。
でも飛ばれるのが一番厄介だ。コレは空を飛べない。

ドコカに飛び移れそうな建物があれば足を使って飛び乗り
飛んだ馬にはソコから攻撃。
馬の数が多いなら孤立しないようにしておこうカ。
属性攻撃は相棒の拷問器具、賢い君の毒。

馬からの攻撃は狼の素早さを生かし、見切りで回避。
自慢の足なンだ。空飛ぶ馬にも負けないサ。



●空を駆ける
 闇空に狼の咆哮が轟く。
 猟兵たちはわきまえたもので、各々が良い位置について互いの戦線を乱さない。注意喚起もあればなおのこと。
 エンジ・カラカ(六月・f06959)の人狼咆哮は、彼を狙った天馬たちを中空で蹴散らした。大気がビリッと震える。
「首の無い馬……? アァ……珍しくは無いなァ」
 しかし、邪魔だ。その上、相手は喋ることができない。
 惨殺の実際を吐かせようにも頭がないのでは、まさに話にならないではないか。
 降り注ぐ黒い羽根を片手で払い退け、エンジは教会の敷地内を見渡した。
 面倒の無い攻撃などありはしない、が。
「飛ばれるのが一番厄介だ」
 仲間の惨状を見た一頭が、中空を蹴って急旋回する。退避は許したくないが、怖じ気づいた敵の動きは思いのほか速い。
 その時、金の瞳に映るものがあった。
 大きな葡萄棚だ。
(「行けるカ」)
 エンジは駆けた。
 十分な助走で力を溜め、地を蹴る。曲がりくねった蔓を足場に跳躍し、横木を掴んで前方に一回転すると、棚の上へと身を乗り上げた。
「コレなら、逃げられないだろ」
 鉢合わせしそうになった天馬は、慌てて前脚を跳ね上げる。
 エンジが手にするものは相棒たる拷問具。賢い君の毒を以て目の前の脚の自由を奪いに掛かる。
 ドウッ! という重たい衝撃と共に首なしの天馬が棚の上に落ちた。もんどり打ちつつも起き上がろうとするが、その動きがおかしい。
 自由を奪われ始めたのだろう。
「自慢の足なンだ」
 滅茶苦茶に足掻く蹄を避けて、もはや立ち上がることのできない黒い尖兵を棚の上から蹴り落とす。
「空飛ぶ馬にも負けないサ」
 続いて飛び降りたエンジの一撃が天馬にとどめを刺すと、舞い散る羽根は葡萄棚よりも高く渦を巻いて黒い塵と化した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三寸釘・スズロク
やべ、こんなトコ一人で居たら危ねえな。急いで物見台降りて教会行く
しかしあの上に居んのか…
人々を救うハズの聖堂が、今や絶望の象徴ってのは皮肉すぎる話だぜ…
せめて形見を取り返しに行かねえとな。

結構高く飛んでるし素早いな、俺の銃の腕じゃ当たりそうにねえ。
ここは首のないモノ同士仲良くやって貰いますか。
…くれぐれも味方を巻き込まないように。
『エレクトロワイヤー』スイッチオン、『バーゲスト』起動…


いつも高い所から見下ろしてるヤツってのは、いけ好かねえよなぁ?
【首なし人形の咆哮】…コイツに首はねえが替わりにランチャーが生える。
『俺』達みてえな無駄口叩くアタマより、余程役に立つ。
駄馬共、撃ち落としてやるよ!



●持たざるもの
 元より仄暗い空から異形の影が次々と舞い降りる。
「やべ」
 首なし天馬の襲来を眼前で見ることとなった三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)は、簡素な梯子を伝って物見台を降り、教会の敷地内へと駆けつけた。
 狙い撃ちをされてはたまらない。
「しかしあの上に居んのか……」
 真下から見上げる塔は、本来、敬虔な意図で建設されたもののはずだ。そこから黒い絶望が降り注ぐという現実は、皮肉以外の何ものでもない。
「せめて形見を取り返しに行かねえとな」
 スズロクは両手を軽く握って開き、指先に意識を傾ける。
 見たところ天馬の飛翔力は非常に高く、極めて照準を合わせにくい。
 ならば。
「ここは首のないモノ同士仲良くやって貰いますか」
 周囲から距離を取る。エレクトロワイヤー、スイッチオン。
 十指に括る電子の糸を待機させ、続いて起動するのは機械人形『バーゲスト』。
 バサリ。
 不穏な羽ばたきが飛来し、いくつもの首のない影が地上へと迫る。
 だが、それを遮る形で組み立てられていく巨躯にも妬むべき首がない。
 ほんの一瞬、敵の動きが滞った。
「遠慮はいらねえんだぜ」
 響き渡る駆動音。機械人形の頭部にランチャーが持ち上がる。
 腹立たしくも見下ろしてくる連中を叩くには、絶妙の角度だ。
「コイツは、『俺』達みてえな無駄口叩くアタマより、余程役に立つ」
 スズロクから発せられるコマンドが十の指を介してエレクトロワイヤーを走り、バーゲストの銃身を解放する。
「駄馬共、撃ち落としてやるよ!」
 発射されるのはバーゲスト・ロアのグレネード弾。
 戦慄した天馬たちは次々に宙を蹴って散らばるが、真の阿鼻叫喚は、その後だ。
 スズロクが指を躍らせるまでもなく、その攻撃はホーミングする。
 爆音に次ぐ爆音。
 スズロクとバーゲストの肩に、闇色の塵が降り注ぎ続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
大丈夫だよ、小さな鼠君
僕らはあれを倒して戻る
だって、やることがある

奪われた日々は、取り戻せなくとも
共に、弔う事はできる

教会に至る前に上から来る羽音
初手は空からの彼らに利がありそうだ

僕らも一人じゃないですし
近くにいた味方の猟兵さんと連携意識

これも多生の縁
僕は、一撃が軽いし
攻め手は、頼もしい方に

天馬の攻撃の囮役を、と
瓜江を起こし、駆ける

喚ばれる馬車や、天馬の動きは
フェイントと残像交えた自身と瓜江の動きで引きつけ
味方へ向かいそうならかばいつつ
動きの予備動作を注視
見切れたら

敵の動きに強打の踏み込みを察すれば
コードの舞で致命傷は避けれるよう軽減し
短刀で脚と翼狙い衝撃波放ち切返す

雨の先
道と扉を開いてみせる


鷲生・嵯泉
此処で騒ぎが起こればエルシークの興味を引く事も出来よう
他へと向かう前に、此方へと向かわせる事も出来るかもしれん

叶うならば他と連携を以って当たる
宙を行こうとも此の眼に映る限り逃しはせん
纏まろうが個で動こうが同じ事、馬を追うなら鞭をくれるまで
破群猟域に怪力を加え、全て叩き潰してくれる
攻撃は見切りと第六感で出来るだけ躱し
多少の傷は激痛耐性で無視して攻撃を優先する
主を守ろうという気概は見事だが、其れも此処迄だ
道を開けるがいい

喪われたものを救う事は既に叶わんとしても
悪趣味な蒐集家の手に落ちた侭にして置く事は出来まい
……いや、赦し難い、だな
帰す先は無いとしても。眠る先は蒐集家の手元では無い筈だ


リーヴァルディ・カーライル
事前に防具を改造。
自身の存在感を誤魔化し、無力な獲物に見える誘惑の呪詛を付与。
他の猟兵が敵を攻撃しやすいように囮になる。

…ん。厄介なのは、空に逃げられるから。
自分から地に降りてくれば、ただの馬ね…。

第六感を頼りに攻撃を見切り回避優先で行動。
避けきれない攻撃は大鎌を盾に怪力任せに武器で受け、可能な限り敵を惹き付ける。

…所詮は獣ね。至極、読みやすい…。

十分に敵を集めたら大鎌を振るい【限定解放・血の波涛】を発動。
生命力を吸収する血色の波動で周囲をなぎ払った後、
敵の体内に潜り力を溜めた波動を爆発させて傷口を抉る2回攻撃を行う。

…消えなさい、エルシークの尖兵。
お前達の主もすぐに骸の海に送ってあげる。



●道を開き道を絶つ
 最後の一頭まで玉砕の覚悟か、黒い天馬の群は倒してもなお回廊へと姿を現し続ける。
「初手は空からの彼らに利がありそうだ」
 羽音は教会に急行する合間にも耳に届いていた。冴島・類(公孫樹・f13398)は頭上を見上げながら通用門をくぐる。
「宙を行こうとも此の眼に映る限り逃しはせん」
 その言葉と共に肩を並べたのは、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
「……ん。厄介なのは、空に逃げられるから」
 するりと敷地内に滑り込んだリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、どうしたわけかひどく心許なげな趣を纏っている。
 それが呪詛を用いた敵を慢心させる罠であると知った時、類と嵯泉はそれぞれの戦い方に適した距離を置いて彼女の元から離れた。
 バサリ。
 不気味な羽ばたきの音が、リーヴァルディの頭上で大きな円を描き始める。
 孤立した少女一人、多数で囲めば造作もない。
 心を嬲るようなゆったりとした翼の動きと、次第に下がっていく円の高度とがそうした勘違いを物語っているようだ。
 唐突に、一頭が急降下を始める。
 しかし、その蹄は、頭どころかリーヴァルディの肩先すら掠めない。
 二頭め。
 ガツッ!
 渾身の後脚蹴りが、彼女の大鎌の柄を捉えた。しかし、呆気なく押し返される。
(「自分から地に降りてくれば、ただの馬ね……」)
 この膂力はどこから出てくるというのか。
 全く理解の及ばない首なし天馬たちは、躍起になって一人の少女へと襲いかかる。
 それが悲劇の幕開けとも知らずに。

 さて――
「馬を追うなら鞭をくれるまで」
 一点へと殺到する天馬たちは、周囲への注意が甘い。
 ヴンッ、という風切る音が走った時、それが何であるのかもわかっていなかったのではないか。
 嵯泉の目の前で胴を薙ぎ払われた首なし馬が、一瞬の静止の後に地へと倒れ伏す。
 つい今し方までは刃であったはずのもの。それが馬体を鞭打つ長さとしなりとを持って、必中の打撃を打ち込んでいた。
「主を守ろうという気概は見事だが、其れも此処迄だ」
 それは嵯泉の破群猟域。彼の瞳に捉えられたものは、乱打の刃から逃れることができない。
「道を開けるがいい」
 宙を蹴る脚を粉砕され、わずかに残った首の付け根を潰されて、天馬は黒い羽毛の吹雪へと化す。
 だが、それを飛び越えてくる更なる一頭。
「……!」
 こめかみに衝撃を受け、片目を曇らせる鮮血の色を見た嵯泉だったが、地を打つ刃はそこで急旋回をする。
 ドッ!
 思ってもいない方向から打ち据えられた天馬は、斜めに傾いで膝を着いた。
「無念だろうが、見えている」
 激痛を耐え抜いたのか。目尻から落ちる血の筋にも、嵯泉は瞬きをしていない。
 半ばが赤く染まった視界で塔の高みを仰ぐ。
 そこからも見えているだろうか。見えているのならば他へ向かうことなく足を止めるが良い。
 悪趣味な蒐集家の赦されざる蛮行。救うことも帰すこともできないにせよ。
「眠る先は蒐集家の手元では無い筈だ」
 鋭く重く風が鳴り、新たな天馬が膝を折る。

 次から次へと押し寄せるものたちは、死に物狂いの様相だ。
「瓜江」
 類が起こすのは濡羽色の髪を持つ絡繰人形、瓜江。
 影のごとく添うその身を赤い糸で手繰り、虚空を蹴る天馬の動きを制して一方向へと寄せていく。
 家畜小屋の小さなネズミは、猟兵である者の身を案じていたが。
(「大丈夫だよ、僕らはあれを倒して戻る」)
 なぜならば、やることがあるのだから。
「奪われた日々は取り戻せなくとも、共に弔う事はできる」
 右へ、左へ。
 瓜江の頭を踏み砕こうと襲い来る天馬を赤い絡繰り糸で翻弄し、乱戦状態の群から引き離す。
 行きたい方角はおおよそ分かる。行かせはしない。
 類は味方のいる方角へと背を向けて、我が身を盾に使う。手にするものは銀杏色の組紐飾りの付いた短刀、枯れ尾花。
 ゴッ!
 馬の蹄が、塔の壁を蹴った。上空で一回転し、類の正面の空間をもう一度蹴る。
 目に見えないはずの大きな三角形が見えた気がした。
「風集い、舞え」
 それは、翅果の舞。
 額を蹴り抜かれようとする寸前、類のその身は神霊体へと化し、わずかの動きで鈍色の蹄を見送る。
 ひらりと、
 銀杏色の組紐飾りが翻った。
 類は衝撃波を放つ刃を馬の脚の付け根へと走らせ、そのまま翼の根元を狙って返す。得物が短刀ならばそれも一瞬のこと。
 駆けるもならず飛ぶもならず。
 胴震いした天馬は黒い血飛沫を上げて倒れ伏し、そこで塵へと変じていく。
「雨の先、道と扉を開いてみせる」
 降り注ぐ闇の羽ばたきへと宣告し、類は正面の塔を見つめた。

 耳を塞ぐほどの羽音。押し寄せる速駆けの蹄。
 猛攻を集め、かわして耐え続けたリーヴァルディの唇が微かに動いた。
「……所詮は獣ね。至極、読みやすい……」
 次の瞬間、その身は目覚めを得て刹那のヴァンパイアと化す。
「……消えなさい、エルシークの尖兵」
 大鎌の刃が弧を描いて旋回し、殺到する天馬の脚を次々と刈り飛ばす。
 限定解放・血の波涛。
 どうっと墜ちてくる馬体を迎え撃つものは血色の波動。一斉に吹き飛ばされた黒い天馬たちは各々の身に呑んだ波動にさらに内から蝕まれ、身動きもならぬままに四散する。
 過去を刻む大鎌で漂う黒い塵を退け、リーヴァルディは天を仰ぐ。
「お前達の主もすぐに骸の海に送ってあげる」
 そう、すぐに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『往生集め『エルシーク』』

POW   :    賢者の双腕
見えない【魔力で作られた一対の腕】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    蒐集の成果
自身が装備する【英雄の使っていた剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    幽暗の虫螻
【虫型使い魔】の霊を召喚する。これは【強靭な顎】や【猛毒の針】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 静謐は、そう悪くはない。
 しかし、これは。
 最後の一頭が地に落ちた時、蒐集家の手の上の黒い羽根も消え失せた。
 馬を失ったか。

 蒐集家、いや往生集めが身を起こした場は、塔の最上階のロビー。
 本来は人々の避難場所として造られた空間だが、生きてここまで上って来れた強者はそういなかった。
 自警団長に、その恋人の女。鍛冶屋の男に、それから。
 ぐるりと見渡す壁には、首なし馬に蹴り殺された、あるいは蒐集家自らの手に命を奪われた者たちの武具があまた飾られている。
 白骨と化した持ち主の腕を、台として。

 次の村への道のりが少々億劫だが、しかし、そう悪くはない。
 今は行くよりも、そう。
 あれらが――
 欲しい。


 塔の扉を開けると、ロビーの入り口まで続く長い螺旋階段がある。
 あるいは塔の外側に造り付けられた簡素な昇降機を使う手もあるだろう。
 それは最上階の通用口まで一度に数人を運び、何度でも昇降させることができる。
 無論、飛べるものであれば、最上階のテラスに至ることはたやすい。
 猟兵の行く手を阻むものはない。
 ただ、待ち構えるものだけがいる。
 その身、その武具を、我が物にせんと。
 エルシーク。
 往生集めのその身には、頭と腕があって胴がない。
ロジロ・ワイズクリー
”往生”とは極楽と呼ばれる地へ往きて生まれる意もあるそうだが、死を意味するが此処ならば、己の死を最後の蒐集とすればいい。

銃を主軸として使う為、他の者と共に昇降機にて移動する。
召喚された虫型を『スナイパー』として『クイックドロウ』『2回攻撃』を駆使しながら屠っていこう。近距離へと迫る者がいるなら、その『援護射撃』を。隙あらばエルシークの、その額を狙って。

倒した暁には腕だけになった彼らを墓地へ、埋葬と祈りを。
(第一章で)発見された地図を元に、ルフェールへと伝書を蝙蝠さんに託し飛ばそう。大きい村だ、この結果が逃げた者がいれば伝わるのではないかと。


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携OK
◆レイラ(f00284)と

生きる為に奪うのを否定はしないさ
だけど、ただ奪う為だけに与える死を、俺は認めない
……認めてはいけない

レイラの魔竜で、テラスまで運んでもらう
で、ここからどうする……え、突っ込むって?
レイラ、意外と大胆だよな……

ロビーに突入と同時に背から飛び降りる
二手に分かれて攻めよう

相手の攻撃は軌道を見切り、最小限の動きで躱しつつ接近
腕に掴まれないようにだけは気を払うが
避け切れない武具は顧みない
レイラが何とかしてくれるだろうから
近付いたら至近距離からアサルトライフルで銃撃

――往生集め、ね
蒐集が趣味なんだろ
じゃ、遠慮なく全弾持っていきなよ
……往生するのはそっちだけどな


レイラ・エインズワース
鳴宮・匡サン(f01612)と

蒐集家、それが今回の頭目なのネ
物を集める欲望は際限がナイ
集められる側だった私はよく知ってるカラ
これ以上、やらせナイ

呼び出すのは魔竜
鳴宮サンと竜に乗ってテラスまで運ぶヨ
準備できタラ、そこカラ突入しちゃうネ

竜を走らせて留まらないようにしナガラ、
朗々と歌のように【高速詠唱】で魔竜の魔術詠唱を肩代わり
竜の魔法もまた武具の召喚
空間から呼び出した槍や剣を射出して、敵に打ち出すヨ
敵の武具は私や鳴宮サンに直撃するのダケ、この武具で撃ち落とすネ
本体へ向かう魔法に籠めるのは【全力】の魔力と今回奪われた者たちの【呪詛】
貴方への墓標にはもったいないくらいじゃナイ?

アドリブ・絡み歓迎ダヨ


エンジ・カラカ
ハロゥ、ハジメマシテ。
とーってもイイ趣味デスネ。

頭と腕、胴がない。さーて、どうしようカ。
賢い君、賢い君、どーする?どーしよ。
薬指の傷から滴る血で賢い君を動かす。

先制攻撃でその腕に狙いを定めてみようカ。
胴が無いならやっぱ腕からだなァ……。
アカイイトで燃やしてしまおう。運命のアカイイトで。

トドメは味方任せ。賢い君と足止めに立ち回る。
賢い君の2回攻撃で確実にダメージを与えたいンだ。

集めたモノはどーでしたか?満足したのカ?
この村はどーでしたか?返答次第では賢い君が怒るかもしれないなァ……。


三岐・未夜
……昇降機で良いかな、開くと同時に飛び出て攻撃するくらいのつもりでいないと危険かもだけど……。

……気に入らないよね、こんなの。だって此奴、ひとの死を収集癖の行為の一環としか見てない。そんなに軽いもんじゃないのに。
……集めた物も何もかも、燃やしちゃおう。元の持ち主の所へ送ってあげなきゃ。
UCを使用し、火の矢を【属性攻撃、祈り、破魔】で強化。
【操縦、2回攻撃、範囲攻撃、誘導弾、先制攻撃、全力魔法、援護射撃】で部屋ごと敵を薙ぎ払うよ。

それで敵のヘイトも稼げれば、自分への攻撃は【誘惑、催眠術】で狙いを曖昧にして、【見切り、第六感、フェイント】で躱すよ。僕を狙えば、それが他の誰かへの隙にもなるでしょ。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。昇降機に階段、空を飛ぶ
私が敵なら何を選んでも迎撃できるように罠を張る…
…だけど。この方法は予想外のはず

事前に装備類に魔法陣を刻んでおき防具を改造
敵の気配や存在感を視覚化する呪詛を付与
敵の攻撃は【常夜の鍵】で転移し回避

…塔の外から魔力を溜めた銃弾の2回攻撃を最上階に撃ち込む
行動を第六感を頼りに見切り、敵と足場になりそうな場所を狙撃
弾丸に刻んだ魔法陣で仲間を最上階まで転移させる

…敵に銃弾が当たれば大鎌の刃だけを転移
怪力任せに大鎌をなぎ払い生命力を吸収し傷口を抉り隙を作る

終わった後は遺品や遺体を回収し、礼儀作法に則り埋葬する
…貴方達の仇は討った。
もう苦しむ事は無い。眠りなさい、安らかに…。


彩花・涼
これ以上奴の収集癖を続けさせるわけには行かないな…ここで終わりにしよう

螺旋階段から向かうが、その際【目立たない】で気配を消しつつ【殺気】も消して静かに進む
先行したり昇降機から行く猟兵とは攻撃タイミングをずらして気づかれないうちに黒鳥で【スナイパー】し、狙い撃つ

撃ったら即座に武器を黒華・改と黒爪に持ち変え、敵の攻撃に【見切り】と【武器受け】で備え、【カウンター】でUCを使用し斬撃を放ち、更に黒蝶を纏わりつかせる

敵が怯んだら、高速移動で接近して黒華・改で斬りふせる
貴様の悪趣味もこれで終いだ


鷲生・嵯泉
お前にくれてやるもの等、何一つ無い
在るとするならば、お前自身の終焉のみだ

待つもの面倒と螺旋階段で上へ
隠れて進むのも性に合わん
待ち構えているというのなら真正面から当ってやろう
見切りと第六感で攻撃は躱すか、或いは毒耐性、激痛耐性で無視する
攻撃は最大の防御、1歩たりとも引きはせん
手数の多さには烈戒怒涛で能力の底上げをし
範囲攻撃となぎ払いで抗するとしよう
お前を斃す糧となるのなら、命を削る甲斐もあるというものだ
往生集め、其の手が最後に掴むのは、自身の往生の時だと知るがいい

……叶えばの話だが
恐らくは帰す宛の無い物ばかりなのだろう
せめて此処ではない場所へ
教会にでも運んで置ければ良いのだが


冴島・類
螺旋階段を駆け上がり、蒐集家の元へ

人々が救いを求め集う先だった場所を、こんな風に使うなど

次の場所へは、行けませんよ
此処で終わりです

その場で共に戦う皆様と連携、共闘意識

ロビー到着次第、状況とエルシークの攻撃手段、挙動を注視

遠隔の使い魔の攻撃や剣の軌道には、
惑わされぬよう、第六感を働かせながら見切り意識し
瓜江を残像用いながら操り引きつけと、味方への攻撃庇えるよう動く

エルシーク自体に攻撃を届かせる為、短刀で道を開くこと念頭に
相手の体勢が崩れた隙を狙い
コードの絡繰糸で指し、炎で捕まえようと

骨も、命を賭して立ち向かった想いや刃も
お前に愛でられる為にあった訳じゃない

返してもらいますよ
この村に生きた人達に


三寸釘・スズロク
はあ…やっぱ、人形動かすと、消耗が…
昇降機俺も乗りまス、乗せてくれ…

武器と、腕…随分集めてくれちゃってまあ。
この昏い世界で、アンタらに刃向かえる勇気ある人々ってのはそう多くねえ
気高くて、尊くて、価値があるよな
アンタらが自分では得難い…決して得られないもんだ
そりゃ欲しいよなぁ?

此処で人形暴れさせると大事な形見を傷つけそうなんで
俺は虫達やあいつの足止めしておこうかね
カンプピストルタイプのガジェット出して【氷海に棲む蛇の牙】
砕くのは誰かに任せるか、もう一挺『Fanatic』で。
俺らはアンタの形見なんて、ひとつも遺しといてやんないぜ

腕以外の遺骨も残ってるかねえ…
村の皆一緒に、静かに眠らせてやりたいよな


ニコ・ベルクシュタイン
エルシークの元へは螺旋階段を使って堅実に行く
そのかわり全力で駆け上がろう
何、其の程度でへばる程脆弱な造りでは無いさ
此の肉体も、本体もな

お前にくれてやるものは何も無いと知れ
そちらが剣を複製するならば、俺も俺の象徴である双剣で挑む
【傲慢なる時の支配者】にて時刻みの双剣をありったけ召喚し
エルシークの剣の操作に合わせて相殺を狙う
懐中時計たる我が名を冠した秘技は如何かな?

敵の剣の数の方が多くとも「2回攻撃」の併用で
再度双剣を繰り出して対応していきたい
隙あらば複製ではない、本体の双剣で「捨て身の一撃」を

お前は何としても、此処で骸の海に還さねばならぬ。
俺の手で其れが叶わなくとも、他の猟兵が成し遂げるだろう。



●高き闇空の底へ
「昇降機俺も乗りまス、乗せてくれ……」
 三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)のその声に、先に乗り込んでいたロジロ・ワイズクリー(ブルーモーメント・f05625)と三岐・未夜(かさぶた・f00134)が、どうしたんだという顔つきで入り口の横木を開ける。
「はあ……やっぱ、人形動かすと、消耗が……」
 肩で息をつく様子に、場の空気が良い具合に緩んだ。
 太いロープの巻き上げが始まると、木の床に囲いを設けただけの昇降機が塔の外壁沿いを上昇し始める。
「開くと同時に飛び出て攻撃するくらいのつもりでいないと危険かもだけど……」
 存外の速さを感じて、未夜が片側の隅に寄る。ロジロとスズロクが反対側の隅。
 前髪が風に煽られて冷えた時、ガコンという音が鼓膜を打った。塔側の横木を跳ね上げて、通用口を蹴り開ける。
 ヴンッと風切る音が聞こえた。
「虫――」
 ロジロの銃弾が、虫を象った遣い魔の毒針の尾を跳ね飛ばす。
 その上を飛び越えて最上階への侵入を果たし、左右に散開するのはスズロクと未夜。さっと凍りついた床の上で、身動き一つならない遣い魔が焼き焦がされる。
「歓迎が足りなかったか……」
 猟兵たちを出迎えたのは、闇空を臨んでいながら地の底より滲み出たかのような声だった。

 間を置かず、ダン! という音がロビーの壁へと響き渡る。
 階段室の扉が開き、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)と冴島・類(公孫樹・f13398)、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)とが突入を果たす。
「ほう」
 低い感嘆の声を上げたのは、この部屋の今の主、エルシーク。人を出迎えるための唯一の広間で、往生集めは奥の壁を背に、恐らくは『立って』いた。最上階であることが嘘のようだ。
「息も切らさぬとは」
 猟兵たちの姿にそう独りごちたが、三名の後ろを足音一つ立てずに駆け上がってきた彩花・涼(黒蝶・f01922)の存在には気づいていない。本来は避難所である塔のこと、扉の外には広い踊り場がある。
「人々が救いを求め集う先だった場所を、こんな風に使うなど」
 類が瞳の色を陰らせた。
 広間には等間隔に窓が並んでいる。その間の壁から突き出しているものは、まるで剥製であるかのような腕の骨。その上に掛けられた武具たちは、心ならずも故人自らが捧げ出しているさまだ。
 その時、見えないいずこからか銃声が響いた。それと同時に姿を現したのはエンジ・カラカ(六月・f06959)。
「ハロゥ、ハジメマシテ。とーってもイイ趣味デスネ」
「我ながらそう思う」
 皮肉を解さないのか鈍感なふりか。エルシークは頷いてみせたが、そのままの姿勢で片腕を後ろの壁へと伸ばした。足を使わずに移動したものを警戒したに違いない。
 転送役を担うリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は塔の外で魔法陣を維持し、その様子を注視する。紫の瞳の中には遠い敵の姿が明確な像を描いていた。
 かつての持ち主の腕から大剣が身を浮かせ、エルシークの五指の内へと無骨な柄を委ねる。
 空気が冷たく張りつめたそのとき、テラスに大きな黒い影が差した。

 ざ、と吹き込む風に、全ての窓のカーテンが重たく翻る。
 テラスから飛来したものは、レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)が召喚した黒焔を纏う魔竜。その背にはレイラと鳴宮・匡(凪の海・f01612)の姿がある。
(「物を集める欲望は際限がナイ。集められる側だった私はよく知ってるカラ、これ以上、やらせナイ」)
 ヤドリガミである猟兵が、本体であるカンテラを携えて石を敷き詰めた床へと飛び降りる。続いて着地した匡は傍らへと一歩退いた。
「で、ここからどうする……」
「こうするヨ」
「え」
 地響き。背を空にした魔竜は、一切、止まる様子を見せない。
「突っ込むって?」
 凄まじい音が響き渡る。
 玉座よろしく設えられた椅子が竜の突進に吹き飛ばされ、窓を突き破って落ちて行く。身軽に避けたリーヴァルディの脇で、それはただの廃物と化した。
(「レイラ、意外と大胆だよな……」)
 匡の思いはエルシークの思いでもあったのかもしれない。
 ガツン! という固い音が大気を震わせる。
「やってくれるではないか――」
 往生集めが剣先を床に突き、体勢を立て直した音だった。
「猟兵ども!」
 木の根が突き立っているかのような白い蓬髪の周囲で、何も無いはずの空間が黒い渦を滲ませ始める。

●真の覇者たち
 無数の黒い渦。それらがこの世に造り出すものは、エルシークが携える剣とそっくり同じ物だった。灼熱に耐えて火を入れることも、鎚を振り上げて打つこともなく。
 模造でありながら、大剣はこの世を裂く勢いで飛来する。
 ニコを取り巻く大気が波立った。
「お前にくれてやるものは何も無いと知れ」
 無より生じるものはいくつもの時計の針、長針と短針を象った時刻みの双剣。刻の刃が、ありったけの勢いで大剣の刃を受け止め、それを鈍らせる。
「時を……制するというか」
 エルシークの指先が、剣の柄で微かに跳ねた。
 退くを良しとしないのか。模造の大剣は力任せの打撃で双剣を弾き返し、ニコへと迫る。
 落ちる刃の影。そして、太刀風。
 巻き起こしたのは、敵の剣ではない。ニコの眼前に新たに生じた双剣だった。長大な刃は、粉砕されて朱の錆と化す。
「懐中時計たる我が名を冠した秘技は如何かな?」
 それは傲慢なる時の支配者。飛来する剣をユーベルコードで葬り去り、作り上げた空隙をニコは駆ける。
「お前は何としても、此処で骸の海に還さねばならぬ」
「妬ましきことよ。そのような無聊は、二度と、……っ」
 捨て身の一撃を受け止める大剣。刃の軋みは、引きつった歯軋りにも似ていた。

 断ち斬りの威力を持つ剣身は、受けずに肩先に逃しても耳鳴りに似た風を鼓膜に残していく。
 堂々の正面突破に出た嵯泉は、三つ、四つとオブリビオンの剣をかわし、神経を削るそれらの気配を全て耐え切った。
 五つめ。
 刃の下をかいくぐるその身が、封印を解かれた剣精を纏う。新たな一歩を踏み出した時、烈戒怒涛の威力で斬と打とがどっと広がり、嵯泉の周囲の剣を根こそぎ薙ぎ払った。
 開けた視界の先で、エルシークが手前の肩を下げた。胴が無いために見分けづらいが、恐らくは重心が低い。嵯泉には見分けがつく。
「危険を省みぬとは、勇猛なことだ」
「お前を斃す糧となるのなら、命を削る甲斐もあるというものだ」
 駆ける一歩ごとに、嵯泉の寿命は削られて行く。わかっていながら風切る速さに身を任せ、大気を震わせる踏み込みと共に渾身の力の初太刀を突き込んだ。
「削ると言わず、っ……全て差し出すが良い」
「お前にくれてやるもの等、何一つ無い」
 鋼と鋼の咆哮が、広間の空気を痛いほどに震わせる。
 エルシークは大きく数歩後ろに押された。
「在るとするならば、お前自身の終焉のみだ」
 盾代わりとされる無数の剣を葬り、斬り込むことこそがその応え。
 手首の痺れも意に介することなく、嵯泉は敵の握る大剣を弾き飛ばした。

 壁に柄を激突させて、剣はガラリと床に落ちる。
 それを拾い上げようとしたオブリビオンの手許で、一発の銃弾が爆ぜた。
(「この方法は予想外のはず」)
 塔の外で子細に敵の様子を見ているリーヴァルディが、次の手を打つ。
 もし、自分ならば。
 自分ならば、他者が入り込める場所の全てに迎撃の罠を張る。
 だから、塔の中には入り込まず――
「あなたの方が、よこすといい」
 即座に転送するのは、大鎌の刃。
 仄暗い空にそびえ立つ塔の広間へ、半月の刃を送り込む。
「……!?」
 拾い上げた剣でそれを止めようとしたエルシークだが、視界外からの攻撃に判断が追いつかない。
 ガンッ! という耳障りな音を立てて後ろの壁に叩きつけられるオブリビオン。それを魔法陣越しに見つめ、リーヴァルディは静かに瞬きをした。
 ざわざわと蠢きだす遣い魔への対処も、外であれば邪魔は入らない。位置を特定される前に屠ってしまおう。
 さらに抉れ。刃に命じることは、それだった。

「……気に入らないよね、こんなの」
 やっと剣を拾い上げたエルシークへと未夜の声が飛ぶ。それを聞いているのは往生集めのみならず、今では骨と化した腕であり、それらが掲げる武具たちだ。
「何が気に入らぬ」
「ひとの死を収集癖の行為の一環としか見てない。そんなに軽いもんじゃないのに」
 未夜の周囲に灼熱の揺らぎが生じ、ぽつりぽつりと炎が点り始める。
「感じぬのだよ」
 オブリビオンの応えは茫漠として、生命体の環から遠い。
「猟兵よ。お前の思う死とは、重たいものか」
 遣い魔を前に出し、エルシークは剣を構え直す。
 未夜を取り巻く炎たちは紅蓮の破魔矢を象り、全ての鏃を敵に向ける。それら揺れる炎に照らされているというのに、未夜の姿はどこかつかみ所がない。
 唇は動いている。動いて、こう言った。
「……集めた物も何もかも、燃やしちゃおう。元の持ち主の所へ送ってあげなきゃ」
 ゴッ! という勢いの炎の一斉射撃は、玄狐ノ性。それは毒虫のみならず周囲の故人の腕の骨や武具にまで及ぶ。
 熱波が広間の壁を舐めた。
「貴様……!」
 蒐集品への被害に、エルシークが声を荒げる。
 だが、それが何だというのだろう。
(「僕を狙えば、それが他の誰かへの隙にもなるでしょ」)
 大丈夫。敵の攻撃は当たらない。
 未夜は、次の炎を点す。

 一歩、踏み出したのだろう。前へと出たエルシークが剣を倒し、肘を引く。
(「頭と腕、胴がない。さーて、どうしようカ」)
 エンジの瞳は、剣の軌跡をじっと見つめる。それは小動物一匹も見逃さない瞳だ。
 しかし、なんと当てにくい敵か。
「賢い君、賢い君、どーする? どーしよ」
 冷静に判断した上で左手を開き、顔の前へと上げた。薬指にあるのは傷痕。そこへ、赤い糸を走らせる。
(「胴が無いならやっぱ腕からだなァ……」)
 肝心なのは狙い。
 双子の炎(アカイイト)――火の、緋の糸が、細く長く虚空を走りオブリビオンの右腕を絡めとる。これでもう動かせまい。
「アカイイトで燃やしてしまおう。運命のアカイイトで」
「離せ、猟兵」
 エルシークが怒りを込めて振り下ろそうとした大剣は、切っ先を宙へと向けたまま動かない。赤い色に下腕をぐるりと巻かれて、黒い眼窩がエンジを睨めつける。
「集めたモノはどーでしたか?」
「……どう、とは」
「満足したのカ?」
「せぬな。決して」
「この村はどーでしたか?」
 返答次第では何が起きるかわからない。
「儚きものよ」
 次の瞬間、強烈なきな臭さが部屋中に立ち込め、大剣の切っ先がガンッと床を打った。

 次々と揺れる炎の中、遣い魔が前へと這う。主の前を阻む者たちを屠り、宝を守ろうというつもりか。
 そこに立ちはだかったのは、スズロク。
「人形暴れさせるのもやめたんだ」
 虫のためでもオブリビオンのためでもないが。
 彼の手にあるものは、カンプピストルのフォルムを持つガジェット。
「ちっとばかし、立ち往生しといて貰うぜ」
 打ち出す冷凍弾が遣い魔の目の前で床に着弾する。鈍重に踏み出そうとする虫は、一歩すら行けずにその場に立ち往生した。爆音の後に冷気は急に拡散し、敵の脚部を氷付けにしたからだ。
 往生か。しかし――
「この昏い世界で、アンタらに刃向かえる勇気ある人々ってのはそう多くねえ」
 スズロクは壁から腕が生えているかのような部屋を見回す。
「気高くて、尊くて、価値があるよな」
 エルシークが冷気に巻き込まれた剣の先を床から引き剥がしにかかる。
「わかるのか」
「アンタらが自分では得難い……決して得られないもんだ。そりゃ欲しいよなぁ?」
 ベキリ、という不気味な音が立った。
 頭骨の中の黒い眼窩が、どろりとしたものをはらんでスズロクを見る。
「わかり過ぎるその頭、我が宝としてくれよう」
 応えの代わりにスズロクが握り直したものは、銀の銃身を備えた拳銃、Fanatic。
 虚しく毒針を震わせる遣い魔は、銃声と同時に凍ったままで砕け散った。

 類は、駆け上ってきた螺旋階段を見返った。攻撃のさなか広間を抜けていく味方を、できることならば庇いたい。
 傍らに呼び出した瓜江を絡繰糸で先行させ、広い空間を奥へと走った。
 風をはらむ濡れ羽色の髪。
 残像を幾重にも描いて舞い、視線を引き寄せ幻惑させる揺らぎの軌道。
 ヴンッ!
 遣い魔の毒針が大きな弧を描いて行く手を遮る。類はそれを短刀の峰で押さえ、振り払いざまに本体を飛び越えた。
「次の場所へは、行けませんよ」
 エルシークの間合いに入る。
「馬を失ったのは痛かったが……!」
 柄頭で瓜江の動きを外へと制して、胴を持たぬ者は大きく左に身を傾けた。右腕を焼き焦がされてバランスを欠いている。
「此処で終わりです」
 大剣の一振りに瓜江を犠牲とし、類は背後から来る毒針の根元を枯れ尾花で刺し止めた。逆の手を掲げ、絡繰糸の踊る指で敵を指し示す。
「燃えよ、祓え」
 どっと迸る炎が長い長い尾を引き、敵の左肩を捕らえる。肉の無い顎が跳ね上がり、剣の切っ先が落ちた。
「骨も、命を賭して立ち向かった想いや刃も、お前に愛でられる為にあった訳じゃない」
 類は遣い魔から引き抜いた短刀で、骨と武具の並ぶ壁を示す。
「返してもらいますよ。この村に生きた人達に」
 次に切っ先を向けるものは、目の前にいるエルシークだった。

 猟兵たちの的確な狙いに削られて、敵の動きはその剣と共に切れ味を鈍らせていく。盾として繰り出すものたちも次から次へと屠られ、広間には次第に空間が目立ち始めていた。
 涼はエルシークの狙いを引きつける猟兵たちを見分け、敵の死角となる位置を選びながら奥へと向かった。それは狙撃者の動きだ。
 だが、壁際を進むと、どうしても死者の腕の下を潜ることとなる。
(「これ以上奴の収集癖を続けさせるわけには行かないな……ここで終わりにしよう」)
 足元に落ちる異様な影を見つめ、そう胸中に決する。
 反対側の壁の前に位置するロジロも、目指すところは部屋の奥だ。通用口の扉の陰から柱の裏へと走る。
 涼の動きを見分け、彼女の元へと向かう虫を見つけると、そちらへと銃口を向けた。固く斬り結び合う者たちの鋼の音を盾にして、引き金を引く。
 紛れる銃声。
 どこから狙われ何が起きたのか、遣い魔は知る暇も無かっただろう。涼は埃と化したそれを踏み越えて無言のまま進み、銃身をわずかに揺らして援護へと応えた。
 とはいえ、ここは高層に造られたロビー。盾となる遮蔽物は極端に少ない。
 そう思えたところに、大きな影が差した。
 レイラの魔竜が広間を横切る形で歩を進め、全身の黒い焔を揺らす。
「私が肩代わりするカラ」
 あなたは存分に戦いなさい。
 高く低く歌い上げる詠唱は魔竜のそれとして武具を呼び、召喚者やその連れへと向かう無数の大剣と中空で切り結ぶ。
 あたかも伴奏であるかのような剣戟の響き。その下を匡がくぐった。魔竜の尾を跨ぎ越し、アサルトライフルの銃口をエルシークへと定めて石の床を駆ける。
「生きる為に奪うのを否定はしないさ。だけど、ただ奪う為だけに与える死を、俺は認めない」
「なに……」
(「……認めてはいけない」)
 その時になって間近な猟兵たちの気配を察したエルシークは、長大な剣身を自身の顔の前へと斜めに上げた。
「“往生”とは極楽と呼ばれる地へ往きて生まれる意もあるそうだが」
 ロジロは天でありながら青く澄み渡ることのない淀みを窓の外に見る。
 その言葉に首を巡らせたエルシークは、
「死を意味するが此処ならば、己の死を最後の蒐集とすればいい」
 その言葉と共に撃ち出された弾丸を避けきることができず、頭骨に突き出た異様な片側を欠いた。
 ガチ、ガチ、ガチガチガチ。
 骨の顎門が尋常ならざる音を立て始めた。そこに一呼吸を置いて撃ち出される涼の銃弾。
(「次――」)
 残った突出部に着弾を認め、涼はスナイパーライフルをサブウェポンへと入れ換える。共に銃身は黒い。逆の手には黒剣、黒華・改。
 ガツッ。
 痙攣を宿して振り出された大剣を、黒爪の銃身で受け止める。涼がその全身に纏うものは、黒い蝶の群れ。
 ギ、ギ、ギという奥歯に堪える軋みが腕を伝わってくるが、敵は盾に使っていた刀身を捉えられて無防備となった。
(「次――」)
 握りの甘い手へと黒い刃が斬撃を放つ。
 そこに駆け込んだのは、匡。
「――往生集め、ね。蒐集が趣味なんだろ」
 骨がわずかに口を動かした。
「しゅ、……いや、これは……寄す……が」
 黒く穿たれた眼窩が、未だに信じていない現実を間近に睨んでいる。なす術もなくして、ここまでの急な接近を許したことなどかつて無かった。
「じゃ、遠慮なく全弾持っていきなよ」
 真夏の豪雨のごとき銃声が響き渡る。砕けて散る爪、落ちる大剣。それらが甲高い悲鳴を上げる。
 虚空より飛来する刃は、しかし、レイラの魔術による武具が頭上で跳ね退けた。全て朱の錆と化して、魔竜の黒い焔に焼き焦がされる。
「……往生するのは、そっち……だけど、な」
 匡の喉に冷たく目に見えないものが触れた。そこに浮き上がり始めるものがある。
 数は五つ。
 じわり、じわり、刻み込まれていく姿なき指が残す絞首の痣だ。それでも、引き金に掛けた指は外さない。
 す、とエルシークの脇に滑り込んだ涼が、黒華・改の剣身を延髄の位置へと走らせた。
「貴様の悪趣味もこれで終いだ」
 固い骨の抵抗を、全力で断つ。
 黒い蝶が渦を描いて舞い、全弾尽きた静寂が訪れたその時――
 ゴトリ……
 物言わぬ頭骨が床に落ち、深く穿たれた弾痕から亀裂を走らせ、ただ静かに散った。
 テラスから吹き込む風が、それを闇空へと払う。
 あるいは、骸の海へ。

●往生
 壁から降ろされた武具と骨を、嵯泉とスズロク、ロジロが拾う。
 村を守ろうとして狙われた鉄と、それを握った腕たちだ。
 それ以外の骨はと改めたところ、途中階の小部屋の扉を開けた途端に雪崩を起こす勢いで転がり出てきた。
 がらり、ごろり、と。
 凄惨と言うしかない量であったが、それらはリーヴァルディの力で外へと移送され、他の遺骨や遺品と共に墓地へと運ばれた。
「……貴方達の仇は討った。もう苦しむ事は無い。眠りなさい、安らかに……」
 埋葬は正しく丁寧に執り行われ、死は死として扱われた。
 本来の意義を取り戻し、弔いの鐘が死者の数だけ鳴る。
 空へと舞うものは黒い飛膜の影。
 ルフェール村へと、伝令の蝙蝠さんが飛ぶ。
 そこには猟兵たちの手によって今日の命を守られた者たちが生きている。
 託された便りを胸に抱き切々たる想いを噛み締めるさまは、戻る遣いが返信にて伝えることだろう。
 そこにあるものは、感謝の念。
 ひたすらに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月03日


挿絵イラスト