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古王、冠の塵埃を払わんとす

#UDCアース

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#UDCアース


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●自然律
 水の流るること、風の過ぐること。
 雲の空をよぎり、雷の天より放たるること。
 森羅万象の流転の則を、自然律という。
 他方、人類史は自然律の破壊の歴史。
 提を築いて水を堰き止め、雲を裂き風を裂き、肉体を空に游ばせ、大地に泥土を積んで憚らない。
 蹂躙せらる自然律は、皮肉にも蹂躙せらるによって過去と悪意とに結びつき、ヒトに腐敗の牙を剥く。
 口から口へと伝播した恐怖を熾火とし、うらみの万年氷から太古の神が今、蘇らんとしている。

●グリモアベースにて​​
「だ、誰かぁー……コルチェのお願い、聞いてくださーい……」
 ひょろりと背の高いミレナリィドールの少女が、多くの猟兵達が忙しく往来するグリモアベースの真ん中で、囁くような小さな声で叫びをあげている。コルチェ・ウーパニャン(ミレナリィドールのブラスターガンナー)の光ファイバー製の髪が放つ淡く青白い光は、彼女の不安な内心をそのまま示していた。

 数多の世界で起こる数多の事件の情報行き交うグリモアベースで、コルチェのか細い叫びはしばしの間かき消されっぱなしだったが、それでも確かに、その声を聞いて取った猟兵はいる。
 彼女へ歩み寄った猟兵へありがたそうにぺこりとおじぎして、コルチェは予知した事件の説明を開始した。

 現場はUDCアース、日本。呪物と、数を頼みとするUDC怪物とが結びつき、より強大な邪神を呼び出さんとしている。
 猟兵のすべきは、まずは呪物を回収して儀式を阻止し、次いで群れ為すUDC怪物を蹴散らした上で、邪神を不完全なままに打ち倒す。――かいつまんで話せば、このようになる。

「――呪物はお山の権利書。色々噂に翻弄された土地だったみたい。新幹線が通るとか、ゴルフ場が出来るとか。
 土地バブル……って知ってる? コルチェは知らないんだけど、それがダメになるまでは悪い人に色々されちゃって、今は禿山になってあんまりいい状態じゃないの。
 この土地のために脅された人、泣いた人はたくさんいる。人が殺されて埋められてるとか、口さがない噂にもさらされて、権利書そのものがおかしくなっちゃったのね。
 それが噂話で新しいオブリビオンを生み出すUDC怪物と結びついて、すごーいやばーいオブリビオンを生み出すカギになっちゃってるの!!」
 コルチェはもじもじからめあっていた指先を引き離し、その場で地面を蹴伸びして、平泳ぎのごとく宙を大きく大きくかいて見せた。自らの説明に切迫感の無きを自覚して、現れんとする敵の強大さを表現したものらしい。
 場所は日本の田舎町。土地バブルも今は過去、人口の減少に伴って、かつては賑わった商店街もシャッターの閉まったままの店がちらほら見られる。
 呪物と化した権利書は、商店街の小さな不動産屋から買い取られ、今はその土地その場所へ、買主を操り、運ばれている。
 人に奪われた権利を、大地そのものが取り戻さんとしているように。

 傀儡とされているのは、よれた灰色の背広を着こんだ、バーコード頭のうら寂しい男で、脳味噌を呪詛に食い荒らされ、最早自由意志もなく、ゆらゆらよろめきながら、山へ権利書を運んでいる。
 この、人の手による権利書の移動こそが、邪神召喚の儀式。権利書が山へ辿り着いたらおしまいだ。人は嵐をやり過ごすが如く、邪神の腹の満ち足りるのを待つ他ない。
 逆に、この背広の男の足が止まり、もう山へ向かって進めなくなった時点で儀式は中断される。天災の如きオブリビオンに、人の力で立ち向かうことが可能になる。

「不動産屋さんからお山までの距離は2キロくらい。
 ルートはいくつかあるけど、呪物を持ったおじさんは、そのルートのどれかを、1時間くらいかけて通るよ。
 しばらく時間をかければ、どんなやり方でも見つけられるはず。市街戦になるとは思うけど、建物とかの被害が少なくなるような方向へある程度誘導したりも出来るかもしれないね!
 ……あ! 現地のUDC組織のエージェントさんが、皆の捜査の邪魔にならないように、​オブリビオンが現れた時点でシュバッと避難誘導から情報統制までバッチリやってくれるから、人の被害は心配しないで!」
 説明の不足はないか、指折り、考えながらコルチェは話し続ける。……多分、無い。多分……いや。まだあった。
「操られてるおじさんはもう、生きた人間じゃない。だから、助けてあげることは出来ないの……。
 でも、ここはおじさんが暮らした町だから。お山を見て育ってきたはずだから……うう、コルチェじゃうまく言えないけど……お願い! コルチェの分まで、頑張ってきてー!」


紺色
 お世話になります。紺色と申します。

 調査・集団戦・ボス戦の構成で、転移先は不動産屋さんの前です。

 調査パートでは、プレイングに対し十分な結果が得られるよう判定しますので、ニガテなステータスの行動をあえて避けなくても大丈夫です。
 また、それはそれとして、秀でたステータス、スキルにもボーナス的なものはもちろんプラスします。
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第1章 冒険 『呪物回収【易】』

POW   :    街中を駆け巡り、虱潰しに呪物を探します。

SPD   :    怪しい痕跡を探し、それを頼りに呪物の場所まで辿ります。

WIZ   :    一般人から情報を聞き出します。何も知らない人からは怪しい目で見られるでしょう。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

テュティエティス・イルニスティア
目標の身なりが分かっていて、歩みも速くはない。
ならば焦らずともよいでしょう。まずは山までの全ルートを地図で確認、頭に叩き込みつつ、不動産屋の前で一服します。
これは願掛けと言いますか、己の“第六感"を呼び醒ます準備と言いますか。
ともかく煙が流れる先に、件の男が居ると思うのです。
ひとまずはそちらに向かってPOW的にひた走り、あとはひたすら虱潰しに目標を捜索……ああ、吸殻はちゃんと携帯灰皿に。
発見したらスマートフォンなどで他猟兵に連絡、合流まで追跡継続。山に入りそうなら静止すべく接触。
他猟兵からの連絡も受けられるようにして、勘と体力勝負より優れた作戦の方がいれば、そちらに協力しましょう。

アドリブ歓迎


支倉・新兵
POW

まずは商店街の中である程度高所の広範囲場所を見付けそこに陣取る
捜索もだけれど、そのまま市街地戦に移行するならそこが俺の『陣地』になる…確り見定めないとな(地形の利用)

ポイントを見定めればそのまま捜索に移行、高所から狙撃銃のスコープを覗き、ターゲッティングデバイス越しに商店街内や山へと続くルートを可能な限り監視(視力、スナイパー、第六感)
勿論高所からだけじゃどうしても見落としは出るから、影の追跡者に地上からもルートを捜索……俺が狙撃主なら観測手(スポッター)、って所か

標的補足後足止めする段になれば脚を狙うなり威嚇射撃するなりその場での狙撃を試みる、無理そうなら同業者と連携

アドリブや絡み歓迎


黒木・摩那
【WIZ】

権利書が呪物とか生々しいですね……

ともかく一刻も早く不動産屋さんを探さないと。


まずは電脳ゴーグルのナビで、山から不動産屋までの道路を調べて。
道を歩く人にも不動産屋さんのことを聞きこみます【情報収集】。
おじいちゃんがぼけちゃって、というのが口実【言いくるめ】。

ただ山に行くこと自体が儀式ということなので、
土地土地の由緒あるお寺や遺跡に立ち寄る可能性はありそう。
そこも考慮して、探索をします【第六感】。

不動産屋を発見したら、街中ではすぐに確保せずに、
被害を抑えられる広い場所や人の少ないところに誘導します。
具体的には「立入禁止」の黄黒テープを先回りして、行先を通せんぼします。


ヘンペル・トリックボックス
【WIZ】

おじさんが暮らした町だから。お山を見て育ってきたはずだから──なるほど、その一言だけでも依頼を受けるに値しましょう。えぇ、紳士ですので。死者に慈悲を、変えられない結末に一抹の救いを、そして未来に平穏を。さて、往くとしましょうか。

事前に不動産屋から山までの有力なルートを確認し、【情報収集】。【コミュ力】を活かして「山の方向へフラフラ歩いていく男性を見ませんでしたか?」と聞き込みをしながら、大まかなルートの当りを付けます。
目的の男性を発見したら、浄三業神呪符に【破魔】の力を籠めて動力源の呪詛を浄化。多少体力を消耗してでも永眠させるとしましょう。呪物は奪われることのないように確保しますね。


真木・蘇芳
【WIZ】
俺は目利きじゃないからな
その呪物について聞いて回るか
他の奴らが痕跡を追ってるんだから当たり位は情報があるだろう
目星に【恫喝】を使って隠さず言わせてみるか?
上手く行けばいいんだがな
※アドリブ、連携歓迎、ヤンキーキャラです。


赫・絲
【WIZ】

早いトコ見つけ出して儀式を止めないとねー。
とりあえず、おじさんが権利書買い取ったっていう商店街に行ってみるよ。
何か手がかりがあるかもしれないし。

不動産屋とかその近くのお店の人とかに、おじさんが向かった方向を見てた人がいないか尋ねる
「お父さんの大事な友達が行方不明で、そのおじさんがどうやら瓜二つみたいで探してる」とか言ってみようかな
【情報収集】【コミュ力】も使って、できるだけ怪しく見えないように
手がかりを得られたら、行く先々でそれを繰り返して足取りを【追跡】するよ

おじさんを見つけたら、行く先を一時的に通行止めにしたりして、
被害が少なくすむような開けた場所へ誘導しておきたいね


月暈・芥朶
噂話の力は恐ろしいものだね
権利書、しっかり手に入れよう
これからの犠牲者を増やさない為にも
初めての仕事だから結構緊張…まあ、なんとか頑張ってみせよう

野生の勘を頼りに、怪しい痕跡を探し、それを頼りに呪物の場所まで辿る
可能ならば羽ばたいて空の上から権利書を持つ男性を探そうか
よろめきながら歩いているなら、険しい道は困難だろうか?
歩きやすいが目的地に近い道を探してみようかな

目標を発見したら、足元にイーカロスを打ち込み足止めを
おじさん、アナタに恨みはないんだけど…ごめんね?
アナタの暮らした町、過ごした山、様々ないのち、守るために死んでもらうよ
枢を使って痛みのないよう素早く目標を討伐、権利書を手に入れよう


アンテロ・ヴィルスカ
UDCアースは君の方が歩き慣れていそうだな
宜しく頼むよ、由紀君(f05760)

ここは君の勘に任せ【POW】といこうじゃないか
鎧姿は目立つな…調査中、俺は平服で過ごそう。

一層の事、危なっかしい酔いどれだ…なんて
親切な人間が彼を止めてくれていれば楽なのだけどねぇ。

由紀君の野生の勘で大まかな位置をつかんだら
俺の地縛鎖に念動力を使いダウジングでの追跡を試みよう
ついでに君の好きな猫でも探すかい?…冗談だよ。

人気のない場所に彼自ら向かわないようであれば致し方ない
幾つかの道にロープワークで鎖を張り巡らせ
封鎖した上で戦いにお誂え向きな場所へと誘導しようか。

物好きな人間がついて来ても困るしね?

アドリブ歓迎


鹿忍・由紀
アンテロ(f03396)と依頼で一緒になるのは初めてだね。
俺もUDCアースでの経験は数年だけだよ。まあ、ほどほどにやろうか。

【POW】かな。
バーコード頭で背広のおっさんなんてどこにでもいるからうっかり間違えないようにしないとね。
夜だったら酔っぱらいと間違えそうだけど真っ昼間からよろめいてるならわかりやすいか。

行動ルートが読めないのが面倒だな。野生の勘とかで絞れないかな。
こっちな気がする。なんとなく。
間違ってたら、違うルートも探してみよう。
猫は…仕事に巻き込んだら可哀想だ。

対象らしき人を見つけたらUC追躡で様子を確認しながら先回りしてアンテロのロープワークに任せよう。
人と行動すると楽で良いね。



●UDCアースにて

 揚げ油の香りがする。商店街のどこかでコロッケでも揚げているのだろうか。
 猟兵達は喧噪のグリモアベースから斜陽の商店街へ。皆それぞれに顔を見合わせ、頷くと、連携をとるため町へ散開していく。

●この町は

「権利書が呪物とか生々しいですね……」
黒木・摩那(冥界の迷い子)の誰へとも無い呟きは、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士)の耳にとまる。
「おや、お嬢さん! 呪物といえば、あなたが想像なさるのはこういったものでございましょうか?」
 ヘンペルは、腰から曲げる慇懃な礼と共に、頭に乗せていたシルクハットをすいと取る。
 ハットへ袋をはめた手を突っ込んで掴み出したのは、おもちゃの指輪、花束。ぬいぐるみ。エキゾチックな顔立ちにつかみどころのない笑顔を浮かべたまま次から次へ、手品の仕掛けを取り出していく。
「随分たくさん仕込んでいたみたいですね。髪が乱れてますよ」
「ややっ」
 摩那は手ぐしで髪を整えるヘンペルを後目に、中指でそっと眼鏡のブリッジを押さえる。ぴたりと合った眼鏡はズレもさほど生じないのだが、これは癖のようなものだ。
「ともかく探さないと」
 スマートグラス『ガリレオ』を起動すれば、レンズに仔細なマップが浮かび上がる。形はアンダーリム、色はレッド。傍目には普通の眼鏡と何ら変わりがないが、使い方さえ理解していれば、市販のスマートフォンなどよりよほど役立つ。
 ナビ機能で調べ出した、不動産屋から山までのルートと目の前の道とを照合しつつ、ちらとヘンペルの様子を確認する。

 ヘンペルは求めた行動も、求められていない行動も早かった。摩那がルートその他の確認をしている間に、既に山方面からこちらへ、通りがかかった人へ声をかけている。ヘンペルは空っぽにしたシルクハットを胸に当てて、胡散臭い笑顔を浮かべたまま、紳士らしく一礼した。
「失礼。山の方向へフラフラ歩いていく男性を見ませんでしたか?」
「ぼけちゃったおじいちゃんが出て行っちゃって」
 後追いで摩那が補足すると、住民は気の毒がって辺りを見回す。その仕草だけで、標的とこの道ですれ違わなかったことが二人には分かる。

 その住民とは別れて、二人はは聞き込みを続けたが摩那にはもう一つ、目星をつけた場所がある。摩那は今回の儀式の特性上、土地の寺、遺跡などに立ち寄る可能性を感じていたのだ。
 探索の結果のみを言えば、そちらにも標的は現れてはいなかった。
 だが、たどり着いた小さな稲荷神社の、稲荷像の色あせた前掛けを見て、感じたことはある。 

 ――途絶した土地開発の被害者である立場は、この町の住人達も同じであること。
 人が減り、若者が減り、我が身の事すらままならぬ老人が増え、日々の暮らしに追われて、自然に思い馳せる余裕が少しずつ減っていったこと。
 二十年以上もの間、誰も手をかけることが出来ず、禿山のままにしておくほかなく、郷土の土地を腐敗に任せるしかなかったこと。

 ヘンペルの誰へとも無い呟きが、摩那の胸まで落ちてくる。
「……死者に慈悲を、変えられない結末に一抹の救いを、そして未来に平穏を。――さて、往くとしましょうか」
 ヘンペルの笑みがいっそう深くなる。
「それが紳士の務めですから」

●商店街にて

「お嬢ちゃんのお父さんの大事な友達が行方不明でこの町にっ!?」
 架空の父の親友のことを語る絲の紫の眼は、熱っぽいのに奥底では冷めているような、それとも反対に奥底の熱っぽさをうわべの冷めた態度で覆ってから糖衣でコートしたような、とにかくメランコリックな温度差を持っていて、それがいたずらっぽくも、寂しげにも映った。彼女の好むスイーツでならば、甘くて冷たいアフォガートあたりに喩えられようか。
 絲は見つめた相手をたった一人の特別な人間にしてしまう力のある、魅力的な瞳を持っていた。
 ……慌てふためいて『行方不明の絲の父親の大事な友達』を誰かが見かけていないか、辺り中の顔見知りに声をかける八百屋のおばさんを、絲は一歩引いて見ている。
 ここに来る前は、転移してすぐにあった不動産屋に顔を出し、同じことを伝えて同じ反応を得て、先ほど使い道の無い土地の権利書を買い取り、ふらふら出て行った不審な男の行く先を確認している。
「……早いトコ見つけ出して、儀式を止めないとね」

 八百屋を出た絲はまた同じことを、道を変えて繰り返す。聞き込みをすると決めたは良いが、思っていたより『メンドーなこと』だったようだ。
 絲の小さな唇から、ため息の出るほど美しい、ため息がもれる。
 
●男二人が手を組めば

 人間歴のまだ浅いアンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める)にとって、拠点にしていないUDCアースは特になじみが薄い。小柄な日本人サイズの古びた街並みと、狭苦しい道路を物珍しく見回して、長身のアンテロは連れだってこの地に転移した、同じく長身の鹿忍・由紀(余計者)へ視線を戻した。
「UDCアースは君の方が慣れていそうだな。宜しく頼むよ、由紀君」
「俺もUDCアースでの経験は数年だけだよ。まあ、ほどほどにやろうか」
 さあ、どこから捜査の手をつけよう。

 ――ところで、由紀はダンピールであることを差し引いても顔が良い。彼さえその気になって、ほんのわずかにでも視線を合わせて、ついでににこりとでもしてやれば、力になりたしという住民が幾人も現れそうなものだが、そのあたりに頓着が無いのか、それとも、そのへんの一般人を見繕って助けを乞うなどそれこそめんどくさいという向きもあろうか。とにかく由紀はそのアドバンテージを活用する方法を選ばなかった。
 すなわち、野生の勘の働くまま、なんとなくこっちな気がする方へ、由紀は気ままに散歩のような足取りで歩きだす。

「バーコード頭で背広のおっさんなんてどこにでもいるからうっかり間違えないようにしないとね」
「一層の事、危なっかしい酔いどれだ…なんて、親切な人間が彼を止めてくれていれば楽なのだけどねぇ」
「夜だったら酔っぱらいと間違えそうだけど真っ昼間からよろめいてるならわかりやすいか」
 男二匹、軽口をたたき合いながら当てなく歩む。
 別に行く先が掴めたという確証があるわけではないのだが、ここらあたりと由紀が立ち止まった。そこでアンテロが軽く握った指先をつと開くと、指先に片端を絡められたままの、細かな細工の銀鎖が宙吊りに落ちる。ここからはダウジングで探そうというのだ。
「ついでに君の好きな猫でも探すかい?」
 冷めた態度を日頃はとりがちの由紀もしばし考え込み、やがてかぶりを振った。
「猫は……仕事に巻き込んだら可哀想だ」
 アンテロは微笑んだ。
「冗談だよ」 
「…………」
 内心の読み取れない表情で由紀はアンテロの顔をじっと見つめる。その内心を、アンテロは分かっているようだ。

●地上とその中間から

 優れた戦士の全てが、戦士の顔をしているとは限らない。
 支倉・新兵(人間の戦場傭兵)の姿は、年齢に比してかなり幼い目鼻立ちも相まって、無個性にのどかな田舎町によく溶け込んだ。
 猟兵としてより、傭兵としてのキャリアの方が遥かに長い新兵は、他の者とは少し毛色の違う行動をとった。いや、自らのパフォーマンスを発揮するには、こうするほかなかったというべきか。
 新兵は七階建てマンションの屋上の、冷たいコンクリートに腹ばいになり、来るべきときを待っている。
 田舎のことゆえ、広範囲をカバーするには不十分な高さのビルしかなく、彼の『陣地』形成には妥協を強いられたが、誘導先の想定は、ターゲットの発見よりも早く、容易だった。新兵はどちらかといえばそちらの方を重視して、ポイントを選定している。

 新兵は影の追跡者を観測手……スポッターとしつつ、自らもターゲッティングデバイスを通して見える範囲を索敵しながら、インカム越しに通話する。
「君は……ティテュエティスだっけ?」
『テュティエティス』
 電話口の女は穏やかに訂正した。
「……えー、テュティエティス。君の方からは何か確認できてるかい?」

「いいえ。それは今、これから」
 テュティエティス・イルニスティア(人間の探索者・f05353)は吸い殻を携帯灰皿へ納め、煙の流れる行方を目で追った。
 齢25にして経験豊富な新兵と、同じく齢25にして駆け出しを自認するテュティエティスがとった戦術は、奇しくもそのキャリアと同様、正反対と言ってよい。入念に準備をした上でここと決めたところから一歩も動かない新兵と、心の赴くまま、第六感に任せることにしたテュティエティスとは。

 テュティエティスは今日の仕事を、煙草の一服から始めている。大きな地図を広げて、山までのルートを指でたどりながらの小休止。
 小さな町ゆえ、道は入り組んで網の目のごとくなっている。どうせ虱潰しに探すことになるのなら、まずは一息、落ち着いて全体を俯瞰するに限る。
 2月末の季節外れに温かい陽気を煙と共に吸い込んで、テュティエティスはしばし黙考に時間を費やした。
 煙と共に行う深呼吸は、願掛けみたいなものだ。そも、焦る必要はない。
 放棄された自然が腐敗の牙を剥くのなら、このコロッケの香りまじりの、人と寄り添ってきた自然に、行くべき道を尋ねてみたい。
 一服終えて吸い殻を携帯灰皿へ落とすと、煙の流るる方向へ、テュティエティスはひた走った。

 ――テュティエティスにひた走られて困った……わけではないが、あてを無くしたのは真木・蘇芳(フェアレーター)だ。
 蘇芳はヤンキーである。ヤンキーはややこしいことと労働が嫌いだ。ここへは退屈しのぎの憂さ晴らし、ついでに報酬金を目当てに飛んだだけであって、堅苦しいことはなし、敵を殴るだけのつもりだったというのに、移動する人物を探せとかいう、面倒事から始めねばとなって、ちょっと気分は萎えている。

 だから、のんびりとテュティエティスが地図に隠れて煙草を吸い出したのを幸い(蘇芳にはそう見えた)、サボり仲間発見とばかり、それに倣おうと思っていたのに、彼女が突如目的意識を持って駆けだしたので対応できなかったのだ。
 自分一人戦いに出遅れるのも業腹だしと、蘇芳もしぶしぶながら聞き込みを開始することにした。

 蘇芳に目利きの技術はないが、自分にだってやってできないことはなかろう。
 ヤンキーとはおしなべて気が短いものだ。目利きも目星もなければ他のスキルで補えばいい。
 すなわち、恫喝である。

 結果として蘇芳は人払いに成功した。
 隠密裏の捜査中、人払いを同時に行おうとすれば特別の工夫、技術が必要となりがちだが、その点、蘇芳は正攻法を取るだけでは通常得難い、稀な戦果を得たと言えよう。

●そして空から

 ――白皙をくっきりと彩った、ダークグレーのアイカラーにメタル系ルージュ。髪の代わりの羽毛を後頭部へ優雅に流し、耳、喉には繊細なタトゥー。鎖骨の概ねと胸の半ばまでを顕わにした大胆な装いとは裏腹に、彼の態度、ふるまいは、猟兵としての初仕事であることを差し引いても控えめだった。
 純白のパンツに包んだ、目をみはるほど長い長い足を音もなく踏み出して、月暈・芥朶(塵屑色)はそっと歩く。パントマイマーとしての癖なのか、それとも大きな物音を立てること自体を避けているのか、次いで羽ばたかせた翼の羽音もほとんど無い。
 芥朶はまずは勘頼りに上空から捜索を開始したが、芥朶は対象の姿そのものより、歩く姿に特徴を認めた上で、更に洞察を加えている。つまり、よろめき歩くならば、険しい道は通れないのではないかということ。
 階段や坂道や国道などを避けて、目的地へ遠回りせず辿りつける道。
 狭い田舎町だ。全体を見渡せば、くまなく探すまでもなく――見つけた。芥朶のメタルにくっきり彩られた唇が、ほっと緩む。他の猟兵達も、その包囲網を狭めている。とはいえ、ここからが本番だ。
 指に絡めた鋼糸『枢』を、優しさゆえに敢えて繰る覚悟は出来ている。

●発見、そして

 初老の男が歩いている。
 よれた灰色の背広に、バーコード頭がうら寂しい。
 グリモアベースで受けたさんざんな説明そのままの姿の男が、よろめき、時に道へ手をつきながら、呪物の入った書類鞄だけは手放さず、ふらふら歩いている。
 もはや彼の表情は、瞳孔がぐるんと裏側に回り、よだれが剃り残しの目立つ顎下まで流れた異様なものとなっているが『不思議と』見とがめられることはない。
 猟兵達以外には。

「こっちは通行止めでーす」
 絲が男の行く手を遮る。
 行く道に渡しているのは赤い毛糸だ。

「別の道へどうぞ」
 摩那が行く手を阻む。
 過ぎんとした道に張ったのは立入禁止の警告テープ。

「悪いね。他の道を使ってくれるかい? 君にお誂え向きの場所を用意している」
 張り巡らせた鎖の向こう、アンテロと由紀が立ちふさがる。
 幾度も幾度も、向きを変えて歩み続ける男の背を見つつ、由紀が言う。
「人と行動すると楽で良いね」
 気安い仲とはいえ、由紀もよろしく頼まれておいて大した言い分である。
 猫の件の仕返しだろうか……? アンテロは苦笑する。

 そうして、男がよたよたたどり着いたのは、小さな公園だった。まだ日の短い季節柄、もはやあたりは薄暗く、利用する子供たちの姿も見えない。
 頼りない街灯の元、公園をまっすぐ突っ切ろうとしたところで……もはや反射的な動きもとれなくなっているのが見てとれる。男は糸の切れた人形のように崩れ落ちて顔から地面に突っ込んだ。
 暗く視界の悪い中、脚を撃ち抜いたのは『陣地』からの狙撃を行った新兵だ。
 ヘンペルの浄三業神呪符が、破魔の力を用いて咒を破壊する。破壊と共に権利書は燃え上がった。こうなっては確保の必要もあるまい。
 そうして……
「おじさん、アナタに恨みはないんだけど…ごめんね? アナタの暮らした町、過ごした山、様々ないのち、守るために死んでもらうよ」
 死を運ぶ天使の如く、芥朶が空から舞い降りる。彼は、顔を地に擦りつけながらももがく男の首へ枢という名の鋼糸、運命を断つ糸を巻きつけた。

 彼はもう、歩けない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『噂語り』

POW   :    自分ソックリの妖怪『ドッペルゲンガー』の噂
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使ってきた猟兵のコピーを生み出し、操り】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    学校の七不思議『動く模型』の噂
戦闘用の、自身と同じ強さの【動く骨格模型】と【動く人体模型】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    予言をする妖怪『くだん』の噂
対象のユーベルコードに対し【使ってくるユーベルコードを言い当てる言葉】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 暗がりに、顔のない女が立っていた。男が立っていた。老人が、若者が、なにものでもないものが立っていた。
 悪意に満ちた口だけが、にたりと笑っている。
 皆、先ほどまで歩いていた男の頭へ屈みこみ、ひそひそ、何かささやいている。
 ひそひそ。ひそひそ。
 冷たい風と、暗闇と、悪意と死と絶望と恐怖をささやいている。
 ひそひそ。ひそひそ。

 しかし咒は破壊され、男も無力化されており、仲間を増やすに至らない。
 ひそひそ話をやめぬまま、人の悪意の塊が、立ち上がり、猟兵達を不思議そうに見つめている。
黒木・摩那
【WIZ】
何か妙なのが出てきました。
これが予知にあったという、噂話で新しいオブリビオンを生み出すUDC怪物でしょうか。

こちらを見てはひそひそと話をする彼ら。
ここは立入禁止にしているはずだし、直前までは人気は無かったはず。

UDC? 嫌な感じはするけど、断定はできないし。

まずはすぐに立ち去るように強く警告します。

正体を現したら、ルーンソードにUC【偃月招雷】を下ろして対応します。
【破魔】【属性攻撃】あり。

UDCが早々にここを突き止めたということは、すぐに邪神も姿を現しそうです。



 妙なものが現れた。敵か人か、見定めんと摩那はレンズの向こうの目を軽く眇める。とはいえ、人払いもすんでいるし、そも、直前まで人影はなかった……。グリモアベースで聞いた予知を思い返せば、正体に予想はついている。ついてはいるが、摩那はまず、呼びかけずにはいられなかった。
 意志を表す余地無く、他人に自らの運命を決められることの悲しさを、苦しさを、摩那は知っている。
「あなた達は誰? すぐに立ち去りなさい!」
 強い口調の誰何の声に、しかし答えた者はいなかった。代わりに、本来知るべくもない、摩那の過去が彼らの唇から漏れ出す。
「あの子、外の景色を見たこともなかったんだって」
「聞き耳を立てて暮らしていたんだって」
「鳥の鳴き声に」
「人の悲鳴に」
「次に悲鳴をあげるのが、自分じゃないように祈りながら、声を潜めて、自分の鼓動を聞いていたんだって」
「かわいそうな子」
 ――最終通告は済んだ。口々に笑いさざめき、嘲り笑う影達には、もはや温情をかける必要も無い。
 冷静さを保ったままの摩那の内心を推し量れる者は、今この場にはいない。摩那は、傍目には臆せず、怯まず、細剣を抜き払う。
「ウロボロス起動……励起。昇圧、集束を確認……帯電完了」
 『偃月招雷』。
 緋き魔法剣は僅かな振動と共に今や光り輝き、刀身を数多のルーン文字が駆け上がる。移り変わるルーンは、さながら万華鏡のごとく暗がりの摩那の哀しき横顔を照らしている。
破魔の力を宿した緋月絢爛は、その名の通り夜の戦場を絢爛彩り、まずは一体、UDCを両断した。

成功 🔵​🔵​🔴​

支倉・新兵
SPD

さて、ここから正念場
『陣地』に狙撃銃構えて陣取り、索敵はスポッター(影の追跡者)に任せ補足する傍から狙い撃ちと行こう
UC攻撃に対応するらしいが使うUCはあくまで索敵役、骨格や人体模型を呼び出すようだけれど本体撃ち抜けば済む話、そういうのは狙撃主の本領だ
(スナイパー、視力、第六感、地形の利用)

勿論狙撃主は位置を悟られたら終わり、隠密にも気を配る
迷彩と地形を生かし無闇矢鱈な発砲はせず手数最低限で効果的な狙撃を…となれば調査の時同様他猟兵との共闘が理想かな?
俺が狙撃で本体傷付け、模型を解除した所を他の猟兵が仕留める、可能なら『陣地』への接近を阻害してくれると更に助かるけどね
(目立たない、迷彩)



「……んん?」
 新兵は喉の奥でくぐもった声を漏らす。
 現れると予想していた骨格模型、人体模型が姿を現さなかったのだ。
 過去の亡霊であるオブリビオンの、一種『システマチックな防衛反応』が、影の追跡者に反応した。
 しかし相手がどのような手段に出るにせよ、判断速度を重視した射撃には変わりない。
 新兵は狙撃銃と一体になったかのようにスコープを覗いた姿勢を崩さなかった。無駄弾を撃って警戒されては商売あがったりだ。最低限の弾丸で、最大限の戦果をあげる。
 しかし……本来なら信頼できる相棒に任せるスポッターの役を、新兵は引き続き、影の追跡者で代用している。
『ユーベルコードの制御と、新兵得意の精密射撃とをそれぞれ別の技術で、同時に行おうとする選択は、右手半分、左手半分で別のことをするようなもので、運を味方につけることなく、結局、双方に悪影響を及ぼした』。

 新兵が敵UDCの二、三体を攻撃し、他猟兵のとどめの足掛かりとしたところだった。
 『スポッター』の視界で、敵UDCと無いはずの目が合う。極めて見つかりにくいはずの影の追跡者は、影踏みのごとく踏みつけにされ、動きを封じられる。
 と同時に、通話デバイスが応答もしていないのに通話モードに入ったと同時、ひどいノイズと共に耳に煮え滾った鉄を流し込まれたような痛みが走る。
『―――――――』
 何か……言っているようだが、聞こえない。
 インカムを外してもまだ続く、決して正気ではいられないような痛みの中で、しかしそれでもまだ、新兵は冷静だった。
 最後の力を振り絞ったスポッターが、自らの動きを阻害し、消し去らんとするUDCの姿を視界に収めた。
 ――戦場の狙撃手は孤独だ。狭いスコープを覗くとき、世界にはターゲットただ一人。そこには自分さえも存在しない。
 幸いにして、眉間を――眉どころか目も無い相手に眉間があるのかは疑問だが、急所を撃ち抜かれたUDCは、にたにた笑いはそのままに、塵と消えている。口封じは出来ているわけだ。
 スポッターは消し去られたが、やるべきことは変わらない。
 払い落としたインカムを拾い上げ、闇にまぎれてスナイパーは笑う。
 神経を研ぎ澄ませ。
 クレバーにやろう。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

真木・蘇芳
なんだ?
ぶつくさぶつくさ、ものもはっきり言えないのか
うるせぇ、俺はそういう意地汚いのが嫌いなんだ
根暗か
胸ぐら掴んで投げるぞ?
何も伝える気がないなら黙れ、黙って殴られていろ
俺はこの拳が答えだ



 蘇芳は激怒した。
 街のヤンキーである彼女が、教科書にも載るあの名作を学んでいるかは本人のみが知るが、ともかく激怒した。
 蘇芳はつかつか歩み寄ると、手近の敵の肩をずんと突き、相手の踵が浮くほど強く胸ぐらを掴んで顔と顔とを突き合わせる。要するにガンを付けた。
「なんだ?​ ぶつくさぶつくさ、ものもはっきり言えないのか​」
 一言も言わせぬ間に蘇芳は更に凄む。
「うるせぇ、俺はそういう意地汚いのが嫌いなんだ​。根暗か​? 何も伝える気がないなら黙れ、黙って殴られていろ​」
 とうとうUDCのつま先までもが宙に浮いた。かと思うと、とんぼを打つのに失敗したように脳天から地面に叩きつけられる。
 掴んだ胸倉を中心に敵を半回転させた蘇芳は、もはや聞いているのかも分からない、倒れ伏した背中へ呟く。
「俺はこの拳が答えだ​」

 公園に硝煙が漂いだす。蘇芳の腕にはパンツァーパトローネ。繰り出すのは戦車への鉄拳(パンツァーファウスト)​。
 何ものも打ち砕く意志のもと、は言葉通りの意味だ。弾丸に勢いを借りた、我が身すらも破壊しかねない高速度高威力の攻撃はやまず、途中、目には見えない何かも一緒に投げ飛ばした気がするが、蘇芳はあまり、気にしなかった。というか、止まらなかった。目の前に立つもの全て打ち砕くまで、止まる気はない。
 止まる気はなかったが……少しは骨のありそうなのが現れたようだ。
 立ちふさがったのはドッペルゲンガーの噂。蘇芳と同じ顔、同じ構えで、にぃと笑う。
 実力はほぼ互角。
 拳と拳の火花が散る。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンペル・トリックボックス
はてさて、権利書を呪物化させた原因は彼らでしたか。ヒトのカタチをとった悪意ある噂──ここで根絶やしにするとしましょう。えぇ、紳士的に。

UCを相殺されると厄介ですので、摩利支天隠形符で早々に姿を消しつつ呪符での【暗殺】を中心に立ち回ります。使用する呪符は【破魔】の力を込めた『金行太白符』。【忍び足】で気配を消して接近し、一体一体を確実且つ速やかに切断していくとしましょう。

まぁ味方からも見えなくなるので、気付かれず一緒に範囲攻撃に巻き込まれたりするかもしれませんがそれはそれ、紳士的に受け止めますとも。



 妙な男だ。ヘンペルの戦いを見たもの、皆口をそろえて言うだろう。
 浅黒い肌に彫の深い、中東系の顔立ちで、纏うは格式が高すぎてだいたいの場所においてそぐわぬ正式礼装、シルクハットにタキシード。
 で、あるのに、彼のとるバトルスタイルは陰陽術である。
 前触れがないにも程があろう。この、あきれ返るような人間びっくり箱の次の一手を読もうなど、土台無理な話である。UDCに意志があったなら、一言泣きが入ったはずだ。

 にも関わらず、ヘンペルはまだ、ユーベルコードの相殺を警戒している。
 用いるは摩利支天隠形符。トレードマークのシルクハットにぺたりと貼り付ければ、ヘンペルの姿はかき消されたように見えなくなる。
 姿を消し、足音を消し、気配を殺して忍び寄れば、もはやUDCにユーベルコード相殺の目は無い。
 続けて操るは金行太白符。万物に宿る五行を操るは、万物を操るに等しい。この度はその切断の理を用い……ようと、したところ、目から火花が出そうなほどの衝撃がヘンペルに走る。
 ――後頭部を、弾丸の勢いが乗った拳でしこたま殴られたのだと分かったのは数瞬も後のことである。
 そういえば先程の拳には火気がこもっていたが、陰陽道では火剋金と言って火は金を滅ぼす関係にあるというが……いや、そんな。さすがに偶然である。
 打ち合わせ無しに透明化した自分にも落ち度はあろう……。呪符を貼りつけたシルクハットが落ちぬように、ヘンペルは堪えてうずくまった。
 どんなに痛みが激しくても、紳士であるからには涙は見せられない。いや、透明化しているので物理的に見えないのだが。集中が途切れる前に、ヘンペルは口の中でつぶやく。
 喼急如律令。
 急々に律令のようにせよ。命じた言葉に応じ、愕く暇も与えられず、符を貼られたUDCは紙切れのごとくすぱりと両断され、消え去った。

成功 🔵​🔵​🔴​

テュティエティス・イルニスティア
今日の煙はハズレでしたね。
やっと辿り着いてみれば件の男は始末された後で、気味の悪いものがぽつぽつと。
どのような事を呟き囁いているかは、コルチェさんの説明を聞いて此処にいるのですから今更問うまでもないとして。
あれに銃弾を叩き込んで片付ける気分には……なれませんね。
ここは一つ、違うものを。
宇宙世界の音楽船団謹製、白いギター“スタラト”を武器に戦い……いえ【パフォーマンス】を披露します。
懐に忍ばせていたメタルテープも砕いて、天才ギタリストの霊を喚び出します。霊と一緒に鎮魂歌めいた旋律を爪弾くのもおかしな話ですが、せめて倒れた男と、口さがない噂に泣いた人々と、この土地を想って奏でますよ。

アドリブ歓迎



 テュティエティスは、しばしの間立ち尽くす。
 彼女は犠牲となった男を先回りして道を阻んだり、とどめをさしたりと、他の猟兵のごとくする気にはなれなかった。
 先ほどまでテュティエティスは、男のこの公園を目指して歩く後を、先回りするでもなく、手を引くでもなく、その背中を見つめて追って歩いていた。
 転んで、立って、歩いて、もはやぎりぎりのところでやっと人としての体裁を保っている有様の男の背中を、まるで屠殺場に曳かれていくいく病の牛を見るような心持ちで見ていたのだ。
 そして今、動かなくなった男を見て、気味悪くひそひそ話す人の群れを見て、とても銃をとって戦う気にはなれない。

 テュティエティスは、だから、銃の代わりに、ギターを掲げた。

 スターライトキャスター、スタラト。まだ上手くはないけれど、駆け出しのテュティエティスがこれから人生と苦楽を共にしていく、テュティエティスのギター。
 もう一方の手にはメタルテープ。力をこめて砕けば、水玉模様のギターを携えた、金のロングヘアーの若い男性ギタリストが現れて、テュティエティスへギターの音色で挨拶する。ギターを持つ者なら皆、一度は耳にしたことがあろうかという天才ギタリストだ。テュティエティスが常に携えて離さない、メタルテープの住人の一人でもある。
 これがテュティエティスの、世界に捧ぐ旋律の能力だ。
 もう会えない人とまた出会い、音楽を通して力を借り、人へ、敵へ、世界へ訴えかける能力。

 今奏でるのは鎮魂歌。この場、この時に相応しい、最高の一曲を。
「せめて倒れた男と、口さがない噂に泣いた人々と、この土地を想って奏でますよ」

 音楽の力では、倒れた男は動かないし、口さがない噂に泣いた人々はこの場にいないし、世界も震えなかった。
 だが、殴られても消されても、にたにた笑いを消さなかった敵達が、今初めて動揺を見せている。
 やっと知ったのだ、テュティエティス達の鎮魂歌によって。
 音が音によってかき消されることを。
 声を限りに訴えた言葉が、誰の耳にも届かぬ恐怖を。

 ギターをつま弾くテュティエティスの表情には母性がある。強さと、それを上回る優しさと世界への大きな愛がある。
 本当は、まだそんな年ではないけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月暈・芥朶
さてさて、噂話さんの登場か
噂にも良いもの楽しいもの色々あるはずだけれど、悪意の溢れてしまう噂は本当に恐ろしいものだね

悪い物それら全て縛り上げて、切り刻んであげよう、この枢で
もう二度とそんな噂を立てないように、悲しい話をしないように

IT'S SHOWTIME!
この手には何もありません
何も掴むことはできません
けれど目の前の悪意達は一瞬でバラバラになりましたとさ

君たちのどんな悪意に充ちたささやきだって、ステージの僕には歓声にしか聞こえないんだ
もっと褒めてくれて構わないよ?

感動のフィナーレ…とはまだまだいかないみたいだけれど
多くの悪意を少しでも削り取り消し去ることが出来るならば
力を奮ってみた甲斐が有る



 囲まれている。
 というより、自分たちを……芥朶と被害者の男を中心として現れたというべきか。
 芥朶は、しばし現れた敵UDCの群れが囁く悪意の噂を黙って聞いていたが、やがて、我が手で命を巻き取った男の瞼をそっと閉じさせてやると、立ち上がった。
「噂にも良いもの楽しいもの色々あるはずだけれど、悪意の溢れてしまう噂は本当に恐ろしいものだね」
 見下ろした被害者はむろん沈黙を保っていたが、芥朶にはいらえがあったような気がした。
「悪い物それら全て縛り上げて、切り刻んであげよう、この枢で。
 もう二度とそんな噂を立てないように、悲しい話をしないように」
 舞台化粧の奥の悲しげな瞳のゆらめきはもはや失せ、顔を手のひらで撫で下ろすと、よぎった手のひらの下から現れた芥朶の表情は、先ほどの大人し気な青年のものとは打って変わっている。
 さあ、舞台の幕開けだ。

 枢の奏でる独特の風切り音だけが、芥朶の声無き戦いの伴奏音として響いている。
 彼が普段見せる内気な青年の顔と、今おどけながら敵を切り裂く姿と、どちらが本当の彼なのだろう?
 優雅なマイムに乗せた、目に見えぬ刃、目に見えぬ糸で敵を屠る芥朶の表情は陶酔の極み、退廃美の極みにある。
 今の芥朶には、敵の不快な囁きは万雷の喝采と変わって聞こえ、ますます技は冴えるばかり。
『Φτερά κεριού!』
 敵UDCの力ある言葉により芥朶を演技は一度途絶えたが、彼のまなざしは熱っぽいままだ。
 悪意を削り取り消し去り、感動のフィナーレが訪れるまで。

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿忍・由紀
アンテロ(f03396)と同行。
随分喧しいエスコートだね。

耳障りな声だ。
技能先制攻撃とユーベルコード影雨で数を減らそう。
宙にダガーを出現させ、敵を射抜く。

…うわ、根に持ってる。
横目でぼやきつつ、差し出されたアンテロの手の中に影でダガーを一本錬成。

敵にコピーされた自分を見てげんなり。
なかなか趣味が悪いことするね。
戦いづらいとは思わないけど、見ていて気持ちいいものじゃないよね。
って…ひどいね。優しくしてよ。
全くそんな事思ってなさそうに、容赦なく切り捨てられる自分のコピーを見て呟いてみたり。

アンテロのコピーが出てきたら無言で一切躊躇いなくダガーで斬撃。
ああ、本当に心が痛むよ。

アドリブ、改変ご自由に。


アンテロ・ヴィルスカ
これらが彼を導いていたものか
なかなか手厚いエスコートだ、なぁ?由紀君(f05760)

俺からの一手は【POW】
由紀君、それ一本此方にくれないかい?
連れがいると楽でいいねぇ。

彼に向け差し出した手で影の刃を要求
血を双剣に伝せ、ブラッドガイストによる武器改造でリーチを伸ばす
同時に鎧も纏い攻撃体制を。

人の形を取っているが、彼らにフェイントはきくのだろうか?
態と一撃目を外し、鎖で首を搦めとっての二回攻撃
背後から串刺しの如く貫くよ。

敵の攻撃は…おや由紀君が二人?
これは間違えないようにしなくては
なんて、複製された彼にも遠慮なく斬撃を。

いやぁ、仲間を傷付けるのは心が痛む
実に悪意に満ちているね?

アドリブ歓迎



 アンテロ、由紀は二人、肩を並べて二歩、三歩ばかり距離をとる。戦いにふさわしい距離をとる。
「これらが彼を導いていたものか。なかなか手厚いエスコートだ、なぁ? 由紀君」
「エスコートだとしたら、随分喧しいエスコートだね」
 かなりの数だ。抜け目なく敵数を目で追って数えながら、アンテロは飄々と由紀へかしらを寄せるが、対して由紀は気のない答えを返した。楽しい会話に花を咲かせるには、生憎敵の声が耳障りに過ぎる。
 由紀は更にもう一歩、下がる。自らの影を踏みにじるためだ。それを合図として、夕闇に同化した由紀の影が、細かな切片となって無音のままに立ち上がる。切片は闇を吸ってダガーへと成長し、由紀とアンテロ、二人の背後でぴたりと静止した。
 影雨。
 影のダガーは由紀の手の一振りを合図に驟雨の如く敵の群れへと殺到し、概ね、にたにた笑いのために大きく開いた口の中へ吸い込まれるように突き立った。これで少しは静かになったろうか……

「由紀君、それ一本此方にくれないかい? 連れがいると楽でいいねぇ」
 いや、そうでもなかった。楽しげなアンテロの声がする。
「……うわ、根に持ってる」
 今由紀が投げたのを拾って使えば早かろう……と、言っても良いが、互いに信頼してこのUDCアースに伴って訪れた連れだ。このくらいのサービスはしてもバチは当たらないだろう。
 由紀がぼやきつつ、自分の顔も見ないまま差し出されたアンテロの手の中へ一本、影の刃を錬成すると、アンテロはその刃を、ぎゅうと握りしめた。

 ――レザーの黒手袋越しに、血が滴る。肘まで捲り上げたシャツのカフスが、腕に込められた力で一時はち切れんばかりだったから、こめられた力は相当なものと隣に立つ由紀にも分かる。手のひらの深い傷が、アンテロの双剣に血を伝わせる。
 血の伝ったあとから、剣の質感が変わる。すなわち、血が滴った形に、歪んだつららのように、真黒き剣は長く伸び、また両手の剣から肌を覆い侵食するがごとく鎧が展開され、アンテロは表情の分からぬ黒騎士へと変貌した。

 アンテロは騎士らしい名乗りをあげることはしない。態勢がととのって即、間髪を容れず敵の顎先をまず右手の一刀で払い、のけぞるように避けた女子高生風へ銀鎖の首飾りを装ってやる。そのまま独楽のごとく引き回し、踊るようなステップを踏ませて、くるりと向けさせた背を……左手の一刀で刺し貫く。
「――おやすみ」
 伊達男らしく耳元でささやいて、アンテロは力を失ったUDCを地へ突き飛ばした。
 アンテロが倒れ行くUDCの背越しに見た敵は……
「……おや、由紀君が二人?」
「なかなか趣味が悪いことするね。戦いづらいとは思わないけど、見ていて気持ちいいものじゃ……」
 由紀が言い終わる前に、アンテロの双剣が二閃して、由紀のドッペルゲンガーは縦に四等分される。
「ひどいね。優しくしてよ」
 四つの音を立てて地に落ちて、そのまま砂と消えていく自分を見下ろし、由紀はぼそりと呟く。
 答えは兜の中でくぐもって、楽し気に聞こえた。
「いやぁ、仲間を傷付けるのは心が痛む。実に悪意に満ちているね?」
 アンテロが言い終わるのとほとんど同時に由紀はアンテロの鎧の喉元めがけてナイフを一投する。アンテロが身半分、体をそらして避けると、その背で双剣を振りかぶったドッペルゲンガーが、両手を頭上にかかげたまま、どうと背側へ倒れて消えた。
「ああ、本当に心が痛むよ」

 倒れ伏して、他のものと同様に消えゆくUDCを前に、由紀とアンテロはしばし見つめ合う。
 根に持っているのはお互い様のようだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

赫・絲
人の口に戸は立てられない、なんて言うけど
今回ばかりは戸が立てられないなら塞ぐだけ
その煩い口、噤んでもらうよー

ユーベルコードを言い当てる暇を与えないように
目に見える範囲の敵に即座に両手に持つ全ての鋼糸を放って【先制攻撃】
すぐに【属性攻撃】で糸に雷を伝わせ【全力魔法】でそれを増幅
喋る間もなく黙らせてあげるよ

模型が現れようと自分の現し身が現れようと惑わない
狙うのはただ、噂を語る顔のない者達だけ

こちらの攻撃を阻まれないように
相手の攻撃はできる限り【見切り】で回避したいトコ

口だけで、真実を見る目は持たない
ただ騙るだけのお前達は噂話そのものだね
さよなら、どうぞお静かに



 藍色に染まりつつある夕暮れの中、絲の眼はますます冴え冴え冷たく色を濃くした。
 人の口に戸は立てられない、なんて言うけれど、今回ばかりは戸が立てられないなら塞ぐだけ。
 うるさい口は、縫い閉じよう。
 
 先制、速攻、殲滅。
 絲のしたことを短く言えば、このようになる。
 絲の、宙の何かを指でかき寄せるような仕草と、放り出すような仕草に応じて、朱と名づくグローブから目に見えぬほどの細い鋼糸が放たれる。
 髪ほどにも細い鋼糸を繰るのに、強い力は必要ない。まして今は、雷の力を数多い鋼糸の全てに這わせている。絲がピアノを弾くような柔らかいタッチで軽く方向を決めてやるだけで、導電性のものであれば鉄であろうが肉であろうが、柔いも硬いも無関係に、たやすく両断する。
 敵の伝う血で朱に染まり、辛うじて目に見えるようになった鋼糸も、絲の指先一つで血振りされ、新たな獲物をまた、膾にする。

 彼女の敵の攻撃を躱す身の軽さにも、特筆すべきものがあろう。
 攻守一体の絲の鋼糸には、刀と同じく峰と刃とがあり、峰を用いれば息のあるまま縛り上げることも出来るが、その細い細い細い糸の峰へ、体重など無いかのような、かろい仕草で不可視の綱を渡るように絲が立つ。
 と、そろえた靴先へほんのわずかな足首のひねりを加えたと同時に、絲の身体はすとんとかろく落下を開始し、同様に左右から襲い掛かる敵の首がまとめて2つ、ぽろんと落ちた。

「口だけで、真実を見る目は持たない。ただ騙るだけのお前達は噂話そのものだね。
 ――さよなら、どうぞお静かに」
 まさしく。もはや口を開ける敵は、ただの一体として残ってはいない。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『緑の王』

POW   :    暴食
【決して満たされぬ飢餓 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【辺り一帯を黒く煮え滾る消化液の泥沼】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    巡り
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【消化液 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    慈悲深く
【激しい咆哮 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々羅・赤銅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 土砂崩れの如き地響きが、猟兵達の耳のみならず、腹の底をずしんと震わせる。
 ――いいや、実際に振動となって猟兵達を愕かせたのではない。力持つオブリビオンの現るるに伴う、命あるものとしての本能的警戒が、地響きとなって感じ取られたのだ。

 時、至れり。町はすっかり夜となった。
 底知れぬ黒き血、言い知れぬ白き骨を晒したあさましい姿となっても未だ気品を失わぬ、傷つき膿んだ緑の王が、腹を減らして猟兵達を睥睨する。
 完遂されなかった儀式により、身動きに些かの障りはあれど、その力は計り知れない……。
 ここで何としてでも止めねば、長年にわたって育てあげた骨髄の恨みをぶつけるがごとく、緑の王は町を、山を、命を全て平らげるだろう。
ヘンペル・トリックボックス
「アイタタ……いやはや、近頃の淑女はパワフルですねぇ。さて──」
よもや腐れ落ちた自然律の成れの果てと相見えようとは。‥‥‥天災を相手取る覚悟で参ります。えぇ、紳士ですので。

兎にも角にも消化液の拡大を止めるのが先決でしょう。敵を中心とした四方に土行鎮星符を放ち、地烈を起こして即席の溝渠を作り出します。次いで【全力魔法】で【範囲攻撃】化したフラワーウィンドを展開、拡大していく消化液を食い止めながら、本体にも攻撃。咆哮による衝撃波は花弁を障壁に転用して防ぐとしましょう。

枯れ木に花を咲かせましょう──ではないですが。せめて華やかなる葬送を、貴方に。



 まだ耳鳴りがやまないほどしこたま殴られた後ろ頭を、ヘンペルは撫でる。並の百歳なら死んでいるところである。
「アイタタ……いやはや、近頃の淑女はパワフルですねぇ。さて──」
 ──よもや腐れ落ちた自然律の成れの果てと相見えようとは。……天災を相手取る覚悟で参ります。
 ヘンペル・トリックボックスは、多弁にして言葉足らずの男である。
 多すぎる言葉の影に隠れて、彼の真意はなかなか表に現れない。だから今このときにも、言葉になって現れたのは、この、冗談めかした一言のみであった。
「えぇ、紳士ですので」

 万物に宿る五行を操るは、万物を操るに等しいと、先には書いた。
 だがそれは誤りであった。今、訂正しよう。万物に宿る五行を操るは、万物と対話するがごときもの。
 まずヘンペルは、緑の王の吐き出す消化液を、四方に放った土行鎮星符で地烈を起こし、溝渠を築くによって押しとどめた。
 続けて、ありったけの力をこめた、ユーベルコードを発動する。

 ――花が。花が。闇夜に、花が。
 かつて山野に咲いたとりどりの花が、目にもをかしき花吹雪となって、渠から溢れんとする腐敗した消化液を更にまた押しとどめ、緑の王へ殺到する。
 胸の詰まるような美しい光景だった。
 祝天に舞え楽曄の風(カレイド・パレイド・フラワーウィンド)。
「枯れ木に花を咲かせましょう──ではないですが。せめて華やかなる葬送を、貴方に」

 尊敬する友人にするように、礼儀正しく、ヘンペル・トリックボックスはお辞儀をする。
 自然との戦いは、かようにして始まった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒木・摩那
さすがは土地の権利書から生み出された邪神。
まるで土地そのものを食べそうな勢いね。
力は削がれているとはいえ、まだまだ強力です。
このまま町に出すわけにはいきません。
ここで倒します。

■戦闘
邪神の攻撃を見るに、飢餓系と思われます。
これは火で浄化【破魔】が効きそうです。

UC【トリニティ・エンハンス】で【炎の精】をルーンソードに下ろします【属性攻撃】。この炎の剣で邪神を一刀両断です。

邪神からの攻撃は【呪詛耐性】と【第六感】で回避を試みます。



 とぷとぷこもった音をたてて、消化液は流れ続けている。
 肩を並べて戦う猟兵達のあらゆる手立てが尽くされているが、どれも長くは保つまい。
 摩那の『ガリレオ』のレンズ上で目まぐるしく文字が去来し、摩那はレンズ上の情報とその更に奥の視界から得られる情報とを目まぐるしく比較した上で、邪神の様子から、摩那は独自に類型化した分類により、邪神を飢餓系と分類した。
 奪われたものへのやり場のない怒り、悲しみが、飢えとなって自らをも苛み、コントロールを失って、周囲のものを無差別に襲う悲しき邪神。
「まるで土地そのものを食べそうな勢いね。力は削がれているとはいえ、まだまだ強力です。このまま町に出すわけにはいきません。
 ――ここで倒します」

 破魔の力を緋月絢爛へ込めれば、炎に照らされたように、紅のルーン文字が刀身を駆け巡った。喚び出した精霊は、ごうごう焔のように髪を巻き上げていて、面差しが摩那によく似ている。精はルーンソードに絡みつき、いっそう文字は明々輝いた。
 炎宿した魔法剣の一閃、二閃が、邪神周囲の消化液の沼を蒸発させ、文字通り切り開く。
 その道を、摩那は古代の巫女のごとく、みどりの黒髪を、煮え滾る消化液の蒸発する不浄の風に煽られるがままになびかせながら、一歩一歩、歩み出した。
 ぬたぬたという、粘性の足音も摩那の耳には入らない。炎剣を大上段に振りかぶり、切り開いた道同様に、邪神へ振り下ろす。
 ――一刀両断とはいかなかったが、一撃は加えた。
 自慢の第六感が、びりびり危険を伝えてくる。呪詛耐性ももはやここまで。
 ブーツの靴底が嫌な煙を立てだしたのを潮に、摩那は消化液の沼を脱出する。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンテロ・ヴィルスカ
神々しいね、そして憐れだ…
残念ながら手を抜いている余裕はなさそうだな、由紀君(f05760)

日が落ちれば街中とは言え視界が悪い…
足元を消化液で満たされるのは厄介だ。
【POW】sarkofagi
防具改造で鎧の内側に鋭い棘を生やし
双剣と鎧に最大限の血を注いで、生命を絶つ斧を造り上げる。

勢いを乗せ地面ごと敵を砕いたら、消化液は亀裂へと誘い込もう
長くは持つまいが少しの間、足場を確保出来れば…
やぁ、眼は覚めたかな緑の王?

輸血パックから血を補給すると見せかけ、目潰し。
大振りな武器は得意ではない…
一撃も無駄にしないよう由紀君の動きに合わせ確実に叩き込む。

今日はよく血を使う日だね、実に疲れた…

アドリブ歓迎


鹿忍・由紀
ああ、面倒な大物が出てきちゃったな。
流石にアンテロ(f03396)に任せっきりってわけにもいかないか。

あの消化液、邪魔だな。うっかり飛び込んだら溶かされるのか。
暗視、視力で明確な視界を確保。
上手いことやってくれたね、アンテロ。…なかなかにえげつないけど。
地形の利用、2回攻撃で、アンテロが用意した足場を伝って「絶影」による急接近、斬撃。
足場を確保できる時間が限られてるなら、その時間内で早く動けば良い。
離れる際はロープワークで敵の首に鋼糸を巻き付ける。
周りの引っ掛けられる場所を利用して引っ張り、消化液の中に引きずり倒してやる。

アンテロは献身的な戦い方をするんだね。今日は沢山鉄分取らなくちゃ。



「残念ながら手を抜いている余裕はなさそうだな、由紀君」
「ああ、面倒な大物が出てきちゃったな。
 流石にアンテロに任せっきりってわけにもいかないか」
 二人、ちらりと視線を通わせる。
「あの消化液、邪魔だな。うっかり飛び込んだら溶かされるのか」
 由紀は夜目が利き、視界が確保されているが、アンテロはそうはいかない。
 街灯は頼りなく公園を照らしているが、それも消化液の浸食が進めばそれも危うい。

 ――神々しいね、そして憐れだ……。
 アンテロは鎧の内で呟く。
 アンテロの分厚いフルアーマーの内側で起こったことはアンテロのみが知るが、彼の鎧がより硬く膨れ上がり、手の双剣が吸い合うように一つとなって、より重い戦斧へ変じたとなれば、傍らの由紀にも想像はつく。
 アンテロは鎧の内で、無数の棘に串刺しにされながらも、うめき声一つ洩らさなかった。
 汚泥と化した地を歩む足跡に、血の一滴も落ちてはいない。全て注ぎきった。鎧と、この斧とに。
 sarkofagi。本来得手ではない大振りの攻撃だが、アンテロは沼を抜け、動きの鈍い邪神に一撃、叩きつける。単純な衝撃そのものと言ってよいその一撃は、邪神もろとも大地を割って深いクレバスを作り上げる。
 足元の消化液は、クレバスへ流れ込んでいく。消化液の流れが、分厚く仕上げた鉄靴を喰らっているが、またしばし、時は稼げた。

 ――上手いことやってくれたね、アンテロ。……なかなかにえげつないけど。
 由紀は、今にも泥中へ膝をつかんばかりのアンテロの背を見つめ、胸中一人ごちる。

 アンテロの戦果ははかり知れないが、彼のダメージを思えばあまり声高に褒める気にもなれない。我が身を犠牲に作ってくれたこの好機を思えば、責める気にも。
 彼を労う暇もない。これは、アンテロが文字通り、心血注いで作り上げた好機だった。
 応えねば男が廃ろう。アンテロの驚異的な一撃も、いわば大海を汲むが如きもので長くはもつまい。
 この一刃は、必ず通す。

 一度全身をかがめて、バネをためる。スニーカー履きの足でもぬかるみに足を取られるが、消化されるよりは何倍もましだ。
 猫のように身ごなし軽く、わずかな足場を素早くたどった由紀は邪神へ肉薄する。

 すれ違いざまに繰り出した『絶影』と名がつく渾身の影のダガーの一撃は、ひとたびは戦斧によって傷つき、穢れた血を流す緑の王の喉元へ、正面から何の抵抗もなく呑みこまれる。
 どす黒い消化液と血を流しながら、緑の王はのけぞった。……しかし、柄まで突き込み、頸椎まで貫いたはずの影のダガーが、喉元で、ずるずると、傷口を引き返していく。――どす黒い消化液と共に、排出せんとする。

 ――いいや。暗がりにも明らかな鮮血の赤が、緑の王の反射的攻撃を食いとめた。
 泥中のアンテロが、自らの輸血パックを切り裂いて、緑の王へ目つぶしを喰らわせたのだ。
 ……あれは、アンテロが回復のために携えているものではなかったか?
 由紀の眉が僅か、寄る。……が、またもアンテロが身を挺して作った好機である。 
 由紀は緑の王のぐらぐら揺れる喉元と、沼地と化した公園を頼りなく照らす街灯へ鋼糸をかけて、全力をもって引く。
 指先の感覚を保つため、敢えて素肌のままだった指に、鋼糸が食い込む。
 ――これほど重いものは、ついぞ引いたことがない!
 しかし、更に力を込めて引き続ければ、とうとう邪神は泥濘へ……消化液の沼へ墜落する。
 ――邪神が自らの消化液で自らを喰らいだす。おぞましい悲鳴が響いたが、それは、歓喜の声にも聞こえた。辛うじて動く両腕を消化液の沼へついて、緑の王は泥で濡れた髪を振り乱し、にたぁと笑う。
 自らを消化し、空腹を僅かなりと癒しているのか……。

「今日はよく血を使う日だね、実に疲れた……」
 これだから、人間の身体は……こんなにも、重い……。
 アンテロは沼を脱出し、斧を杖にし、膝を突き、肩で息する。由紀の声は頭上からした。 
「アンテロは献身的な戦い方をするんだね。」

 ……献身、などではない。
 ヤドリガミとなって得たこの肉体に、さほど、価値を感じていないだけだ。
 邪神を憐れに感じたのも、自然に対する畏怖だとか、センチメンタルな理由ではない。
 本来知性と意思とを持つべきモノが、本来思うがままになるべき……なるはずの肉体を持つことで、獲得した知性、意志をさかしまに失い、大きすぎる力に翻弄される哀しさが、不自由が、一瞬我が身に、重ね合わされただけで……
 口の端に上りかけた自嘲の笑みに、由紀は気づいたろうか。少なくとも由紀の様子は変わりがないが、これはいつものことだ。
「今日は沢山鉄分取らなくちゃ」
「――ああ、全くだ」
 アンテロは笑う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真木・蘇芳
おいよぉ、あのあとからお前みたいな奴とやるのかよ
少しヤバいな、これは
例えるならこいつは災害のそれだ
人は災害には勝てない、生き物は自然には負けるように出来ている

だからってむざむざ死ぬ気はない
抗うのも生き物の本能、本質
しかしあの泥をどうするか
距離を取るか、捨て身で行くか
賢い戦い方じゃあないな
周りの奴らから遠距離組を集めて打ちのめす
塹壕や壁位ならこの拳で作れるしな
あの泥を周りの奴らに当てないようになんとかするか
あれはあの泥は治る気がしない
俺はああいう奴の強さを見てるからな
咆哮に衝撃波を重ねて相殺出来ないか試すか
俺は近づけない相手は苦手だ
まあ、一発位は殴っておくか
お前には因縁でもあるみたいだぜまったく


月暈・芥朶
やっとボスのお出ましかい
緑の王、どんな劇を演じてくれるのか楽しみだよ
IT'S SHOWTIME
イーカロスをダーツのように射ち牽制をした後
フェイントをかけて近づいて、枢による視覚外からの攻撃を試みる
見えないものって、恐ろしいだろう、ほうら
遊ぶような穏やかさで、笑いながら攻撃を仕掛けて行く
距離を詰めすぎたらまたイーカロスで敵と距離を取って
偽物だらけの刃があなたを貫くよ
白にまみれてズタズタに切り裂かれてしまいなさい
どんな攻撃が来ても、視線は真っ直ぐ前へ、攻撃は軽くいなして
枢で敵を捉えたら盾にすることも厭わずに
ショータイムはまだまだこれから
もっと踊ってもらわなきゃ
ゆっくりと散っていってね

連携アドリブ◎


テュティエティス・イルニスティア
全く。もう一つテープを用意しておけば、彼に地鎮の曲を弾かせて終わりだったのに。
そんな姿で、そんな目をされたら。
知りたくなっちゃうじゃない。
あんたを。
蹂躙せらる自然律の、骨髄の恨みってやつを。

銃は使いたくない。ギターは投げ捨てた。
残るはナイフと身体だけ。
だから――黒く煮え滾る恨みの沼にあたしを限界まで捧げてあげる。それくらいの勇気はあるわ。
満足は出来ないでしょうけど納得はして頂戴。
あんたもあんたの恨みも此処で一旦終わり。
猟兵とオブリビオンの間にそれ以外の結末はないの。
それが“もう一人のあたし”の持つナイフで齎されることを切に願うわ。

……だまし討ち?
悪いわね。あたしも執念深い女なのよ。

アドリブ歓迎


支倉・新兵
SPD

ん、これは観測手を使うまでもない…まだ距離はあるはずなのに、もの凄い存在感とプレッシャーだ。
近付かれれば俺が狙撃主なのを差引いても多分どうしようもない…こいつ(自決用拳銃)の使用も考えなきゃかもな…なんて、悪い冗談だが。

勿論そうなる前、相手の攻撃が届く一瞬でも前に射程外から弾丸をぶち込むのが狙撃主(おれ)の役割…狙撃地点からじっくりと、相手が無効化できないタイミングに、あいつ用に設えたUC製の専用弾丸を叩き込んでやる。
咆哮や泥沼を考えれば悠長には出来ないが焦るな…咆哮や泥沼の影響を多少受けても狙撃体制は崩さず引き付け、無効化できないギリギリのタイミングで、ライフルの引鉄を引く。



●パンツァーシュレック
 ――おいよぉ、あのあとからお前みたいな奴とやるのかよ。
 蘇芳は鼻と口を袖で押さえ、緑の王を遠巻きに睨み付ける。

 水の澱むこと、風の荒ぶること。
 雲の空を覆い、沼より瓦斯の浮かび滾ること。
 森羅万象流転の則を自然律と呼ぶならば、これも自然律の別側面。
 しかし他方、人類史は自然律への屈服の歴史。
 ひとたび自然が荒ぶれば、堤を破られ家屋を倒され、蹂躙せらるも為す術なく、鎮まるを祈り、待つばかり。

 ――少しヤバいな、これは。例えるならこいつは災害のそれだ。
 蘇芳はヤンキーであって正義の味方ではない。彼我の実力差を嗅ぎ分けて、戦うべきでないと感じたならば、道を譲るも吝かではない。
 人は災害には勝てない、生き物は自然には負けるように出来ている。蘇芳はそう考えている。

 ――だからってむざむざ死ぬ気はないが。
 抗うのも生き物の本能、本質だ。

 蘇芳は賢く戦うことに決めた。拳の弾丸を推進剤にした、単純で重い、拳の一撃を、足元の大地へ、叩きつける。叩きつける。叩きつける。
 塹壕と土塁を築こうというのだ。塹壕へは作る端から消化液が流れ込んでいくが、その分拡散が抑えられている。
 あの泥は治る気がしない。あんな中へ接近戦を仕掛けるなど、他の奴ら含めて正気ではない。
 自分の築くこれが、距離を保って戦わんとする者たちの、手助けになれば良いのだが……。
 蘇芳は昏い空を見上げる。
 空と、一羽、華麗に舞う鳥を。

●Φτερά κεριού
 街灯の天辺に、真白き大鳥が一羽立っている。
 頼りない白の灯りが、彼の翼を、夜の曇天をスクリーンとして、大きく、あえかに映した。
 翼を広げた演者は、両腕も広げて背側へ倒れ込んで行く。
 神話にある太陽を目指した青年のごとく、黒き海へ墜落するかに思われた瞬間、芥朶はくるりと反転し、空へ高々、舞い戻って行く。
 彼の幕はまだ続いている。

 もし仮に、自然から生まれた人間が、腐り、飢えに狂った自然に打ち克つことが出来ないとしたならば、偽物だらけの刃は如何であろう。蝋で出来た羽根の刃、質量のほぼない、触れるもの全て傷つけて啼く鋼糸は?
 芥朶は指間に数多、蝋の刃を携えて、腕を振り抜くとともに射つ。次いで繰る、枢。
 牽制のために放ったイーカロスも枢の絡め技も、緑の王は全て無抵抗に受けた。
 肌に穿たれた穴からは血の替わりに消化液が流れ、黒い毒沼を更に広げる。

 周囲への被害は大きいが、芥朶は遊ぶような穏やかさで舞い、笑いながら穿ち、斬る。白き蝋の羽根の概ねは、邪神の能力で吸収され、消化液と共に半ば溶けた状態で流れ出ていたが、この舞台の主演は邪神。腹が満ちるまで、付き合ってみるのも面白い。
 ――偽物だらけの刃があなたを貫くよ。
 ――白にまみれてズタズタに切り裂かれてしまいなさい。
 蘇芳の築いた土塁へ、鳥が宿るように音も立てず舞い降りた芥朶はルージュを黒々引いたくちびるで笑う。
 どのような攻撃も、こうなった芥朶へは届かないだろう。芥朶のまなざしはねっとり甘く、隙が無い。
 枢が引き裂き、イーカロスが突き刺す。こうしているだけでも、緑の王に引導を渡すことが出来るかもしれない。きっと、夜明けまでには。
 しかし。

●キャット・ハズ・ナイン・ライブス
 ――全く。
 もう一つテープを用意しておけば、彼に地鎮の曲を弾かせて終わりだったのに。
 そんな姿で、そんな目をされたら。
 知りたくなっちゃうじゃない。
 あんたを。
 蹂躙せらる自然律の、骨髄の恨みってやつを。

 テュティエティスはギターを投げ捨てた。銃も置いた。ナイフ一本のみを携え、消化液の沼へ全く無頓着に侵入する。
 こういう思いつきで動きたがるから、テュティエティスのギターは新しいのに傷が多い。
 ここまで肩を並べて戦ってきた、仲間たちの制止の声も聴かず、テュティエティスは黒く煮え滾る恨みの沼へ、つま先を、踝を、脹脛を、腰までを、近づくにつれ深くなる沼へ浸し、しゅうしゅういやな煙の上がるのもかまわず、満身創痍の邪神へ歩み寄り、抱き寄せた。
 柔肌が酸で焦げ、血が吹いても、テュティエティスは緑の王から離れなかった。敵の全身から血の代わりにあふれ出す消化液で生きながらに溶かされる激痛よりも、なすすべなく焼かれる悲しみ、叫びも届かず削り取られる苦しみ、肉でじかに感じる恨みつらみの集合に意識を集中させ、テュティエティスは語り掛ける。
「言葉にならない悲しみも、あたしが受けとめてあげる。
 だからあんた、もあんたの恨みも此処で一旦終わり。満足は出来ないでしょうけど納得はして頂戴。
 猟兵とオブリビオンの間にそれ以外の結末はないの」
 それが。
 その結末が、“もう一人のあたし”の持つナイフで齎されることを切に願うわ。

 テュティエティスの身体から力が失われると同時、彼女に抱かれていた緑の王が、目を見開く。
 緑の王の、一番やわらかいところ。薄い胸のあばらの隙間へ、背からナイフが差し込まれている。
 
 我が執念の炎は尽きまじ。テュティエティスと同じ顔をした女が、同じように体を溶かされながら、緑の王を二人の身体で挟み込み、支えるようにテュティエティスごとナイフで刺し貫いている。
 同じ顔の女は言う。
「……だまし討ち? 悪いわね。あたしも執念深い女なのよ」

 離れたところで歯噛みしていた蘇芳は気づく。消化液の毒性が、嘘のように消えている。もはや身を溶かされることもない。
 泥沼をかきわけ、かきわけ、かきわけ、蘇芳はテュティエティスを助け起こし、空舞う芥朶へ託す。
 まだ猟兵達には一矢ある。今こそ撃てる銀の弾丸が。でなければ、蘇芳の肉体労働の甲斐がない。

●ワイルドキャット・カードリッジ

 引け、引鉄。
 神経を研ぎ澄ませ。
 クレバーにやろう。

 新兵は狙撃手として、自らの安全を確保し十分な距離をしているが、それでも存在感、プレッシャーはここまで肌にぴりぴり伝わって来る。近づかれれば、今度こそ取らねばならない手段があるかもしれない。
 ――むろん、そうなることはないよう、十分に策は練ってあるのだが。

 射程外に陣取って、弾丸をぶち込むのが狙撃手の役割。
 たった一発の銃弾の為に、粘り強く待つことも仕事で、新兵はそれをした。
 味方の華々しい戦い、苦しみ、全て、ターゲッティングデバイス越しに見つめながら、最後の最後、相手がこの一発を無効化できなくなる瞬間を。

 ライフルと一体になり、自らの意志さえ消えるほどの集中の末、新兵は彼自身の経験に命じられるまま、引鉄を引く。伏せた上半身を絡みつかせるようなライフルの構えが、新兵へ骨ごとやられそうな強い衝撃を伝えつつ、このたった一発の弾丸を、正確にターゲットへ届ける。
「こいつはあんたへの、『銀の弾丸』だ」
 放つはワイルドキャット・カードリッジ。弾はホローポイント弾の形をしていたが、高速で飛ぶ弾丸の姿は、むろんのこと新兵自身も確認できない。銀の弾丸は土塁の隙間を次々にすり抜けて森の王のこめかみを正確に穿ち、ホローポイント弾最大の特長を、森の王の体内で開花させる。
 これは、人の手で作った唯一の、自然の力のこもらない『鋼の種』だ。弾は着弾と同時に、森の王のこめかみの少し内側で炸裂し、目には容易に見えない、血に濡れた花を咲かせる。
「――もうこれは、使わなくてすみそうだな」
 新兵は自決用の小さな拳銃を、懐から放り出して苦笑いする。 

 蘇芳の目の前で、森の王は角の片方をはじけ飛ばした。もはや辛うじて息をしているような姿に、殴るのも気がひけて、蘇芳は一発、大きく抉られた額の、残った隅をぴんと指ではじく。
「――お前には因縁でもあるみたいだぜ、まったく」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

赫・絲
遂にお出ましみたいだねー。
随分と腹ペコみたいだし、お前も好きで此処に喚ばれたワケじゃないだろうけど、その腹、命で満たしてあげるワケにはいかないんだ。
もう一度眠ってもらうよ。

消化液で溶かされるのは勘弁だし、周囲の足場をしっかり確認
攻撃を【見切り】足場も利用しながら回避
咆哮は動作などからそれを悟ったら敵口許を狙って鋼糸を急速射出
口を縫い止めるようにしてそれを防ぐ
間に合わないようなら首に下げてるヘッドフォンを引き上げて少しでも咆哮の軽減を

足を狙って糸を射出し、バランスを崩させるように
絡め取ったら地に捻じ伏せ
【全力魔法】で増幅した雷を【属性攻撃】で鋼糸に纏わせ仕留めにかかる

此度の縁は、これまで。



 無残な姿だ。邪神の角を折れ、全身に深手を負い、もはや長くはないことは明らかである。
「お前も好きで此処に喚ばれたワケじゃないだろうけど、その腹、命で満たしてあげるワケにはいかないんだ。
 もう一度眠ってもらうよ。」
 絲は沼の浅きをローファーで足取り軽く辿り、粛々、別れの為の準備をする。

 邪神は物言いたげに唇を開いたが、聞くべき言葉もありはしない。絲が邪神の顎を上げさせ、放った口封じの糸がついと唇を縫い取ると、緑の王は諦めたように目を閉じた。やがてこのまま、息が止まるだろう。

 消化液を吐き尽くした邪神はもはや、随分軽くなっていた。
 足を絡め取られた緑の王は、傷ついた下半身を引きずられて全身泥沼へ崩れ落ち、絲へ馬乗りにまたがられる。
 じわりと邪神の、目が開いた。視線の一瞬の交錯。
 絲は彼女のもてる力全て、鋼糸に注ぎ込む。
「またね、はないよ。此処でお終い」

 ――邪神の力が完全に失せるに伴い、厚い雲が夜空を過ぎて、月がぽっかり顔を出す。
 人工光と自然光に照らされて、絲と緑の王、それぞれ見つめ合う瞳と瞳が至近距離できらめき合ったが、それもやがて、緑の王のまなこは濁り、黒き淵の彼岸と此岸に、生者と亡者のさだめは今再び分かたれた。

 黒き沼より、骸の海へ。
 此度の縁は、これまで。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年03月07日
宿敵 『緑の王』 を撃破!


挿絵イラスト