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匂道の大掃除

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●クズだ! クズが出たぞ!
 赤ら顔で徳利に口をつけ、男は中の酒を直接飲み干した。
 ぶんぶん、と振って中が空であると知るとそれを放り投げ、直ぐに次の徳利へと手を伸ばして窓の外を眺める。
「おーおー、絶景だなァ」
「へいっ旦那ァ!」
 窓の外には、咲き満ちて滴る枝垂れ梅。
 男に答える取り巻き達の声に、脇息に行儀悪くもたれかかった男は満足げに口笛を鳴らすが、「それで?」と問うた声はそんな音とは裏腹に、室内にぐっと冷え切って響いた。
「お前ェ達は揃いも揃って雁首並べて何してやがる」
「へ、へぇ……旦那にあっし共が各地でかっぱらってきたモンを納めに……」
「かっぱらってきたモン、なァ。まァたどうせ酒だの真珠だの金だのそんなモンだろう手前ェら」
 ぎょろりと睨み据える男の視線に、取り巻き達は一様に肩を竦めて視線を逸らす。
「代わり映えがしねェんだよ、クソが」
 手にしていた徳利を取り巻きへと投げ飛ばした男が、ひぃ、と悲鳴を上げる取り巻き達へと下卑た笑みを向けた。
「お前ェ達もちったあ頭使え。金、酒、うめぇもん、それにこの絶景だ。――あと足りねェモンはなんだ?」
 取り巻き達は互いに顔を見合わせる。これだけ手元に揃えて、他に何が欲しいというのか。
 悩んでいる間に、一人の取り巻きが宙を舞って壁へと叩きつけられ転がった。男はかったるそうに、取り巻きを蹴り飛ばした足をぶらぶらと揺らしている。
「あァあァ、馬鹿ばっかりでまいっちまうなァ」
 ずだん、と音を立てて徳利が並ぶ膳を踏み散らし、男はねっとりと取り巻きに囁く。
「これで足りねェモンときたら、相場は決まってンだろうが」
 ――女だよ。

●やっつけちゃってください
「クズをやっつけて欲しいんだよねー」

 身も蓋もない一言に、彼女の元に集まってきた猟兵達はずっこけた。
 その様子に唇を尖らせた赫・絲(赤い糸・f00433)は、ため息を落とし肩を竦める。
「だってほんとにクズとしか言いようがないんだもん。やれるなら私が殴り飛ばしたいぐらいだけど、そうもいかないからさー」
 手伝って。
 そう告げた絲は、猟兵達の顔をぐるりと見回すと自らが視た事のあらましを話し始める。

 場所はサムライエンパイア。枝垂れ梅が立ち並ぶ名所の近くだという。
「そこに梅が綺麗に見れる有名な旅籠があるんだけど、クズ男が取り巻き引き連れて居座っててねー」
 取り巻きといっても各地で盗みを働き、男へと上納金のように納めている泥棒達らしい。逃げ足は速そうだが、腕が立つわけではなさそうだ。
 だが、その男が取り巻きの泥棒達に次に求めたものは、『女』。女性達を攫って連れて来いというのだ。
 このままでは近隣の女性達や梅見に訪れた観光客の女性達が、人攫いの被害に遭いかねない。
「そんなワケでね、ちょっとシメて来てほしいんだー」

 ただ、注意点がひとつ。
「旅籠や枝垂れ梅には、できれば被害を出さないで欲しいの」
 男に居座られているせいで、旅籠は商売あがったり。年に一番のかきいれ時に憂き目にあっている主は、男が居なくなれば一刻も早く営業を再開したいようだ。
 枝垂れ梅も、沢山の観光客が毎年それを楽しみに訪れている名所の梅だ。失われるにはあまりに惜しい美しさである。

 幸いにして、泥棒達も男の命を果たさねばと焦っている。そして、何より彼らはあまり知恵がある方ではない様子。
「目立つところ歩いて誘き寄せたりとかー、女装でも騙せるかも? あとはやっぱり泥棒だからねー。目の前で金目のモノちらつかされたりしたらつい盗みに近寄ってくるんじゃないかな」
 そうなればあとはこちらのもの。
 男の方は、取り巻き達がいつまで経っても戻らず辺りが騒がしいとあれば、様子を見に勝手に旅籠から出てくるだろう。そこを狙うといい、と絲は言い添えた。

「無事に片付いたら、旅籠で少し休ませてもらっておいでよ。店主さんもきっと大喜びだろうから」
 頷き、出立の準備を整える猟兵達に笑みを向けると、絲は手の中で朱い毛糸玉を転がし始めた。
 はらはらと宙に広がるそれは、一つの線のように空を舞うと、扉を描き出す。

「それじゃ、どうぞよろしくね。いってらっしゃい」
 音を立てて猟兵を別の世界へと迎える扉の横で、絲はゆうらりと手を振った。


雨玉
 はじめましての方も何度目ましての方もこんにちは。
 お目に留めていただきありがとうございます。雨玉と申します。

●依頼の流れ
 戦争の真っ最中ですが、二本目の今回は『サムライエンパイア』に現れたクズ退治のシナリオです。
 日頃の鬱憤を込めたり込めなかったりしつつ、ぼこぼこのどかばきにやっつけちゃってください!
 ちょっとゆるくコミカルな感じになるかな、と思います。

 第三章では、梅が見える旅籠での時間をのんびりと過ごしていただけましたら。
 成人されている方は飲酒も可能です。詳細は章開始時に御案内します。

●執筆ペースについて
 基本は週末を中心に、その時にいただいているプレイングの中から執筆する方針です。その都合上、お急ぎの方には不向きかと思いますので御注意ください。
 執筆日につきましては、雑記とこちら(https://tw6.jp/club/thread?thread_id=6977)のスレッドで章進行の都度御案内いたします。お手数ですが御確認いただけましたら幸甚です。
 なお、第一章は【2月17日(日)】の執筆を予定しております。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『名もなき盗人集団』

POW   :    これでもくらいな!
【盗んだ縄や紐状のものまたはパンツなど】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    これにて失礼!
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    ここはおいらに任せておくんな!
【なけなしの頭髪】が命中した対象を爆破し、更に互いを【今にも千切れそうな髪の毛】で繋ぐ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●大掃除、開始
 怒鳴り声に追い立てられるように、旅籠から枝垂れ梅が立ち並ぶ街道へと放たれた泥棒達。迎え撃つは、彼らをボコボコにしようと街道に潜む猟兵達。
 斯くして、大掃除は今幕を開ける。
ハーバニー・キーテセラ
折角の梅の時期にぃ、なんとも穏やかではありませんねぇ
ここは一肌脱ぎましょ~

通り道でナイフ投げの大道芸
跳んで跳ねて、人目を集めて、ついでに盗人の目も集めましょ~
おひねりが集まるところとか見せればぁ、狙ってくれるかもぉ?
ついでにぃ、盗人っぽい人にはお顔の確認も兼ねてぇ、チラリ流し目
誘惑と誘き寄せですよぉ

近寄ってくればぁ、現行犯の捕り物の開始ですねぇ
咎力封じで縛り上げてしまいましょ~
もし逃げ始めたならぁ、追いかけっこですねぇ?
兎の健脚から逃げられるとは思わないことですよぉ
ええとぉ、ではぁ、

御用だ、御用だぁ~
もしくは、
まぁてぇ~、た~いほだぁ~

このどっちかを言うのが様式美なんですよねぇ?
え、違う?



●兎少女の捕物帳
 くるり、ナイフを回しながら見上げた先には、青空より滴っているようにも見える紅の花が揺れている。
「折角の梅の時期にぃ、なんとも穏やかではありませんねぇ」
 くるり、くるり。
 周囲に聞こえない程の声で囁いたハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)は器用に両の手でナイフを回した。そのまま数メートル先の的へ投擲、二つ続けて刺し落とす。
 サムライエンパイアでは物珍しいバニーガール姿というのも相まって、すごい女の子がいるぞ、と噂を始めた通行人達が続々と人垣を厚くし始める中、ハーバニーはくるり、ナイフを回しながら、くるり、跳び跳ね一回転。宙からナイフを投げ、着地と同時にナイフを投げ。全てを的へと命中させれば、集まった人々から喝采と共におひねりの貨幣が投げ渡された。
 そしてその人垣の中に、感激したのか目を潤ませながらも、空を舞うおひねりへと鋭い視線を走らせる男が、一人。
(習性はぁ、隠せないものですねぇ)
 人垣へと大きく手を振って歓声に応えながらその様子を観察していたハーバニーは、男と目が合うと艶やかに微笑んでウインクを一つ投げた。
 途端に頭の先からつま先まで真っ赤になった男には内心うわぁと回れ右したくなったものの、顔を緩ませこちらへと向かってくる様子を見るに、上手く釣れはしたようだ。
「いやあ嬢ちゃん若えのにすげえなァ、感動しちまった! どうだ、あっしと一緒に来ねェか。今より稼がせてやれると思うんだがなァ」
 そう言いながら下卑た笑みでハーバニーを上から下まで舐めるように眺める男の手を取り、少女は自身渾身の笑みを向ける。
「はぁい、いいですよぉ。それではぁ、参りましょ~」
 がちゃり。
「んァッ!?」
 取ったその手にどこからともなく取り出した手枷を嵌めると、男は目を白黒させた。まさかの状況。しかし、そこは腐っても泥棒だ。咄嗟に状況を判断し、逃げる力は高かった。
「なんてこったい、さいならだ!」
 慌てて空を蹴り宙を駆けて逃げ出す男に、ハーバニーはあらあらぁとおっとり呟きながら、その言に反する速度で駆け出す。
「追いかけっこですねぇ? 兎の健脚から逃げられるとは思わないことですよぉ」
「ひぃっ」
 必死に宙を逃げる男。御用だ、御用だぁ~、と地から追うハーバニー。
 新たな見世物かと沸く街道に、これが様式美と聴いていたけど違うのかしら、なんて首を傾げながらも、ハーバニーが投擲した拘束ロープは、見事男の脚を捉え男を顔面から地へと叩き落とす。
「ごっぷぇ」
 呻いて地に伏した男をそのままぐるぐる巻きにすれば、再び通行人たちから拍手喝采。
 再度舞い飛ぶおひねりにゆうらり手を振って応えながら、ハーバニーはそのまま男を引きずっていった。

 ちなみに引きずられ運ばれた男は、後程路地裏で猟兵達にボコボコにされたんだとか。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェイフェイ・リャン
わー。クズがいるアル。
大人しくお縄につけ、といって聞く手合いではなさそうネ。
すでになにかしら盗みとかの余罪を犯している様子。
どこかの女性に被害が出るのも時間の問題ネ。
容赦なくいくアル。

ワタシは女の子なので、うーん……釣れる、アルか……?
一人歩きをしていれば獲物としては狙いやすそうアルな。
向こうがワタシに食いついたら良し。他の猟兵に食いついたら加勢に入れば良しネ。
トリニティ・エンハンスを炎の魔力・攻撃力重視で拳に纏ってグーでいくネ。こう見えて、カンフーは得意ネ。歯ぁ食いしばるヨロシ。
「男の風上にも置けないアルな!」
「フェイフェイ・パンチ!!」



●クズ退治パンチ
「わー、クズがいるアル」
 枝垂れ梅の香がほのかに薫る街道へと到着したフェイフェイ・リャン(がりゅー・f08212)は、早速その視界の端に怪しげな男を捉え、げんなりと顔をしかめた。
 梅の木の陰から着物姿の女性達を物色するように眺めているその怪しい男こそ、どこからどう見ても今回の標的だろう。よくよく見れば男が背負った風呂敷からはなにやら高そうな首飾りがまろびでており、既に盗みを働いた様子が見て取れる。
「これは、どこかの女性に被害が出るのも時間の問題ネ」

――容赦なくいくアル。

 決意を固めたフェイフェイは、散歩にでも訪れたかのようにさりげなく、男の前へと歩み出た。
 着物の女性達の中で、フェイフェイが着ている身体のラインを美しく魅せる東国風の服は、男の目に物珍しく映ったのだろう。男は街道に並ぶ木々の影を渡るように少しずつフェイフェイとの距離を詰めてくる。
(うーん……釣れた、アルが……)
 獲物として食いついてくれたのは良いが、コソコソカサカサと動くその様子は気持ち悪いことこの上ない。
 これ以上気分が下がる前に、とフェイフェイは人通りの多い街道を逸れ、小道へと入っていく。
 そのまま幾つか道を折れ、しばし曲がり角で物陰に隠れていると、人影が少なくなったことを好機と捉えたか、男が堂々と道を駆けてこちらへやって来た。
「そこの姉ちゃん、怪我ァしたくなかったら大人しくしやがれ!」
 風を切るように飛んできた縄――いや、何か小さな布切れをいくつも結んだような縄のようなものをさらりと避けたフェイフェイは、それを踏んづけて地に縫い止める。
「ああっ卑怯じゃねぇか何しやがる!」
「どの口がそれを言うアルか。ワタシみたいにか弱い女の子をいきなり襲うなんて、男の風上にも置けないアルな!」
 言うが早いかフェイフェイが掲げた拳の周りがゆうらり陽炎のように揺れ、炎が灯った。
 拳へと収束された強化の魔の力を感じながら縄らしきものを踏んづけずんずんと男へ近づいていけば、あっこれヤベェ、と言わんばかりに男は顔を真っ青にする。
「す、すいませんッしたァッ! ちょっとした冗談でごぜぇやして、怪我ァさせようなんて気は実のところこれっぽっちもなく、それどころかお可愛いらしい姉ちゃんだ、と目を奪われて着いてきただけなんでさァ。それが女に声をかけたことなんてねぇもんだからちょっと上手く声がかけらんねぇであの、聞いて、」
「――聞いてるわけないアル。こう見えて、カンフーは得意ネ。歯ぁ食いしばるヨロシ」
 ついに男の前に仁王立ちになったフェイフェイに男は絶望の笑みを浮かべ、最後のあがきとばかりにしっかりと歯を食いしばった。
「フェイフェイ・パンチ!!」
「ぎぃやぁぁぁぁ!!!」
 その頬にフェイフェイ渾身のグーが決まり、男の身体が歯を食いしばった意味もない程に遠くへ吹き飛んでいく。
 こうして街道の平和はまたひとつ守られたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

坂月・陽波
酒に食い物、そして女か。まったく鬼か何かかな。なんにせよ梅の花を霞むような無粋な輩は散らすに限る。

あらかじめ【情報収集】で問題の宿から近い通りで賊を狙う。
用意した酒甕(小)を抱え、念には念を入れ女性らしい【礼儀作法】でお嬢さんのフリして【誘惑】しよう。(つまりは女装)そして敢えて酒を盗られる。
酒を盗られたらこっちのものだ。【竹葉潜虎】で仕留めてしまおう。残念だったな、それは罠というものさ。そして、俺は男だったのさ。

それにしても、女性は皆身なりがしっかりしているね。歩きづらくないのかな。


武蔵天狗・弁慶
(天狗の面のヒーローマスク「弁慶」と、依り代の金髪の青年「牛若」です)
おうおう!
周りの迷惑も考えず……しかも女を攫ってこいたあ太え野郎じゃ!
わしらが懲らしめてやるからのう!覚悟せい!

まずは泥棒達をおびき寄せなきゃならんのじゃな……。
んんん……そうじゃ、牛若!おぬしが女の格好をせえ!
なあに、おぬし体つきも細いし金の髪も珍しがられるじゃろうて。
天狗の面で顔を隠して、口元だけだして笑っておけば怪しまれんじゃろ。

おびき寄せればこっちのもんじゃ!
牛若の身軽さであれば女の着物でも動けるはずじゃ!
重い拳で、彼奴等に一泡吹かせてやろうぞ!
美しき枝垂れ梅に悪しき者は似合わんからのう!



●美しい花には罠がある
(女性は皆身なりがしっかりしているね。歩きづらくないのかな)
 華やかに香る枝垂れ梅の下、笑顔で会話を楽しむ女性達の姿に目を遣った坂月・陽波(暁は流霞に埋む・f02337)は、手にした小さな酒甕を、よいしょ、と重そうに抱え直した。
 脚を開き過ぎぬよう、少し内股にしずしずと。梅の花飾りを飾った長い三つ編みを風に揺らし、見惚れるようにこちらを見た男性へは笑みを向け、すれ違いざまに嫋やかに会釈。
 服装も礼儀作法もすっかり『お使いに出たお嬢さん』となった陽波は、お使い先の店を探すかのようにきょろきょろと辺りを見回し、旅籠近くの街道を歩く。
 勿論、特段目的地が決まっているわけではない。時折わざと隙を見せるようにおっとりと道に迷ったような素振りをして、罠にかかった泥棒がこちらへ来るのを虎視眈々と待ち構えていた。
 そして狙い通り、そんな彼の視界を塞ぐように立つ頭部に寒風吹きすさぶ、見るからに怪しい男。
「おう嬢ちゃんどうしたァ、さっきからきょろきょろきょろきょろと。迷子にでもなったかァ?」
「あ、いえ、大丈夫です……」
 あまり喋るとぼろがでるかもしれない。思わず言葉少なになるのを少し怯えたように半歩下がってみせて誤魔化せば、目の前の男がにたりと嗤った。
「なになに、遠慮するこたァねぇ。ここいらにはちったあ詳しいつもりだ。あっしが案内してやらぁ。それも重いだろう? こっちに寄越せ」
 どうやら陽波の狙いどおり、女性と勘違いしてこちらを標的としてくれたらしい。呆れた下衆だ、と内心白い目で見ながらも、街道のど真ん中で騒ぎを起こしては周囲の一般人に被害が及ぶかもしれないと、陽波は強引に酒甕を奪った男に腕を引かれるまま、裏路地へと入っていく。

 一方その頃。主たる街道から少し逸れた別の道では、金の髪を揺らした青年が梅の木の下にひっそりと佇んでいた。
 主たる街道程ではないものの美しい枝垂れ梅が咲き誇るこちらの道は、どうやら梅見の穴場になっているらしい。ちらほらとやって来る観光客達は、彼の姿を見遣ると一様に驚いたり、物珍しい者を見るようにしげしげと眺めたり。その度に、目元を隠した天狗面の下、相手を魅了するように口元に笑みを浮かべる。
 その様はまるで此岸ではないどこかの住人の姿のようでもあり。人々からは観光地ということもあってか見世物の一種か何かと思われているようだ。
「うむぅ、上手く溶け込んでおるのう牛若。その調子じゃ!」
 金の髪の青年が被った天狗面がそう語ると、青年は肩を大きく竦める。
 彼は天狗面――ヒーローマスクである武蔵天狗・弁慶(fast.牛若丸・f14394)の依り代だ。名を牛若という。
 周りの迷惑も考えず女を攫おうなどという太え野郎は懲らしめてやらねば、と気炎を上げた弁慶に命じられ、女性用の着物を着こんでその不届き者を待ち構えているのだ。
「体つきも細いし、金の髪も珍しがられるじゃろうと読んだのは正解じゃったな」
 カッカッカッと威勢のいい笑い声を挙げる弁慶に一瞬抗議するような素振りを見せた牛若は、しかしその視界に怪しい男の姿を捉えると、静々とそちらへ視線をやって微笑んだ。
「はっはぁ、姉さん、変わったナリしてんなァ」
 天狗面に少々たじろぎながらも、牛若が浮かべた笑みが功を奏したらしい。男は牛若の方へと興味深げに近寄ってくる。
「普通の女を連れてっても飽きた、とか言われかねねェし……ちっと物珍しいぐらいの方がいいか……?」
 思案するような男のその呟きは、弁慶と牛若の耳にもしっかり届いていた。弁慶に促された牛若はそっと男の手を取ると、細い路地へと誘っていく。
「お、おぉなんだ姉さん、いやに積極的じゃあねえか。参ったなァ」
 そんなことを言っていても、男の顔つきは全く参っていない。むしろ脂の浮いたその頬を紅潮させてでれでれに緩ませている。

 それぞれ離れた二つの路地。
 しかし今が好機と捉えたのは、二者――いや、三者同時であった。

「藪を突けば蛇、それでは竹ならばどうだろうね」
「ん、おっと……何だ何だ。何だってんだ嬢ちゃ、って、ひええええ」
 突如として掴まれていた腕を逆に引くように立ち止まった陽波を振り返って尋ねた男は、手にした酒甕からぶわりと飛び出してきた鬼武者の姿に、腰を抜かして酒甕を落とした。
「残念だったな、それは罠というものさ。そして――」
 ――俺は男だったのさ。
 流麗にそう笑った陽波とは対象的に悲鳴を上げる男の顔面へと、鬼武者が刀を手に迫っていく。

「行け、牛若! 重い拳で、一泡吹かせてやろうぞ!」
 路地へと入った途端に聞こえたその勇ましい声に、手を引かれていた男はぎょっと逃げ出そうとするが、もう遅い。
 日頃より重い女性用の着物もものともせず、片手で逃げ出そうとする男をしっかりと抑え込んだ牛若は一歩踏み込み、男を射程の中に捉えた。
「あっすいません悪かったお許しをぉぉぉぉぉ!」
 その洗練された動きに命の危機を感じたか、必死に上げられたその悲鳴の元へと、牛若の鍛え抜かれた一撃が迫り――。

「梅の花を霞むような無粋な輩は散らすに限る」
「美しき枝垂れ梅に悪しき者は似合わん!」

 二つの罠に嵌められた二人の泥棒は、それぞれの場所で、それぞれその声を聴くことなく、地に伏したのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユア・アラマート
花を愛でる情緒がある所だけは褒めてもいいが、やはり無粋に変わりはないな
とりあえず、取り巻きを始末するのが先決かな
もっとも、こういうのは結構得意だよ

取り巻きの目につく所に出ていって、視線が合ったら満面の笑みで語りかける。こんにちはお兄さん、貴方も梅見ですか?
無防備で警戒心のない風を装い、自分に興味を向けるよう【誘惑】
なんだか困ってそうだけど…へえ、それは横暴な大将だ
いいよ。私が行っても。その前に、ちょっとつまみ食いはいかが?
貴方の顔、気に入ったよ

と最大限に油断させた所で【だまし討ち】【全力魔法】【属性攻撃】でどーん
敵とは言え自らの少ない資源(髪)を消費させちゃ可愛そうだしさっさと片付けてしまおう



●つまみ食い(未遂)のお代、頂戴します
 猟兵達の手により泥棒達の始末が進む中、ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)も現地へと到着するや否や、梅香る道へと足を踏み出した。
 やわらかな初春の香りを胸を満たすように吸い込めば、咲き誇る梅の花の先に件の旅籠が目に入る。
(花を愛でる情緒がある所だけは褒めてもいいが、やはり無粋に変わりはないな)
 ひとまずは取り巻きを始末するのが先決、と旅籠を睨み据えていた視線を街道へと戻し、ユアはゆったりと歩を進めていく。

 しばらく進み、街道の終わりが見えてきた頃。ユアは一本の梅の木へとその足を向けた。
 木の下には、途方に暮れたような顔で膝を抱えて座る、どこからどう見ても泥棒ではと思われる出で立ちの男。
 よくそんな姿のまま出歩こうと思うな、と呆れながらも、男の前で腰を落としたユアは、彼へと満面の笑みで語りかける。
「こんにちはお兄さん、貴方も梅見ですか?」
「へ? あ、あっしですかい?」
「そう、貴方ですよ。貴方以外に誰が?」
 ふふ、と鈴鳴るように笑みを零せば、男の視線が自然とユアへ吸い寄せられる。
「いやァ、梅見と洒落込める状況ならよかったんですがねぇ」
「どうかしたの? さっきから見ていれば、なんだか困ってそうだけど……」
 こてりと小首を傾げ心配そうに見つめるユアの視線に誘われるように、男は長いため息をつく。
「こんなこと姉さんに話すのもなんですが、実はァ、あっしらが仕えてる旦那がそのぅ……女を、御所望でねェ。ところがこちとら生まれてこの方年頃の女と碌すっぽ話したことすらねえときた。こりゃあどうやって着いてきてくれる女を探しゃあいいかと途方に暮れてたんでさァ」
 どうやらこの泥棒、攫ってでも何とかしようと考えない程度には良心的らしい。だが、それはそれ、これはこれだ。これまでに罪を働いた泥棒には違いないし、放っておく訳にもいかない。
「へえ、それは横暴な大将だ。そんなにお困りならいいよ、私が行っても」
「へっ!? ね、姉さんいいんですかい」
 渡りに船とばかりに残り少ない頭髪を逆立たせる勢いで目を輝かせた男に、ユアは首肯を返し、男の方へと顔を寄せる。
「構わないよ、困ったときはお互い様だ。そうそう、その前に――ちょっとつまみ食いはいかが?」
「!?」
 貴方の顔、気に入ったよ。
 極上の声に耳打ちされれば、男は最早骨抜きだ。それがユアの使う手札の一つとも知らず、こちらへ、と導かれるままに路地裏へとふらふら着いて行く。

 そうして角を曲がり、二人が人目に着かなくなったその瞬間。

 ぶわりと二人の周りに浮かび上がったのは、爆ぜるような暴風を閉じ込めた杭。
 百を超えるそれが、宙に現れては男へと射出され、男の頭髪を吹き飛ばすように当たっては爆ぜる。
「ふぎゃー!?」
「少ない資源……あっお前の髪のことだが、消費させては酷だからね。さっさと片付けさせてもらうよ」
 あはは、と朗らかにユアが笑うその間にも、追撃の爆風は止まらない。
「みぎゃー!!!」
 こうして一時夢を見た男は、つまみ食い未遂の代償を支払ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霄・花雫
【リュシカおねぇさんと】
ほら、おねぇさんアメジストで大出費だったみたいだし、稼ぐのお手伝いしなきゃ

んー……旅籠と枝垂れ梅からは遠ざけなきゃいけないんだよね
女のヒト狙ってるんなら、あたし囮になれるよね!リュシカおねぇさんどうする?一緒に囮やる?それとも誘導先で待ってる?
ん、じゃああたし釣って来るねー

敵が気が付きそうな場所にひとりで無防備に歩く演技
襲われたら、か弱い少女を演じてギリギリ逃げてるような距離感で被害がない場所まで敵を引き付けるよ
時々振り返って、不安そうな顔して慌ててまた走り出すような演技もしちゃえ【パフォーマンス、誘惑、フェイント、逃げ足】

よっし。
あーとーはー、おねぇさぁーん!


リュシカ・シュテーイン
【花雫さんとぉ】
うふふぅ、うふぅ、いえぇ、いいえぇ、あれはぁ、企画でしたのでぇ、仕方のないぃ、出費だったんぅ、ですよぉ。
さてぇ……稼ぎましょうか

……とてもぉ、危ない事をお願いしてしまうのですがぁ、しょうしょう彼らをぉ、花雫さんに誘き寄せていただきましょうかぁ

おまかせぇ、くださいぃ
私は少し離れて隠れた位置からぁ、【視力】【スナイパー】を用いてぇ、炎は抑えた衝撃のみを大きく調整した爆破の法石を鉄鉱石に描きぃ、花雫さんが石の範囲に入らないようぅ、注意して泥棒目掛けて射出いたしますよぉ

この弾もタダではないんですよぉ……お水だけのご飯から脱却するチャンスなのでぇ……必ず当てさせていただきますよ



●お水御飯脱出計画
 綻ぶように咲き零れる枝垂れ梅の花にそっと触れた霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)は、その美しさに魅了されたかのようにやわらかな笑みを浮かべた。
 周囲のものなど視界に入らず、目に映るはただ梅の花だけ。
(……そう見えるように歩けてるかな?)
 木々の間を渡るように軽やかに歩く彼女は、時折ちらりと周囲に視線を走らせている。全ては、襲われやすくするための演技だ。
「おねぇさんアメジストで大出費だったみたいだし、稼ぐのお手伝いしなきゃ!」

 意気込むように小さく頷いた小さな熱帯魚の姿を、遠くからはらはらと見つめる影、一人。
 彼女と一緒にやってきたリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)だ。
 花雫の様子を確認しながらくしゅん、とくしゃみを一つ落としたのは、花雫の言のせいだろうか。
「企画でしたのでぇ、仕方のないぃ、出費だったんぅ、ですよぉ。そうぅ、仕方のないぃ……仕方のぉ……」
 自分に言い聞かせるように呟く声が尻すぼみになっていくのも無理はない。先日のバレンタインデーの折、高価な宝石を予想以上に放出する羽目になったリュシカは、今やお水を御飯にしなければならない状況なのだ。稼がねば明日は……いや、明日の御飯はない。
 そんな訳で泥棒退治をすべく、手伝いと囮を申し出てくれた花雫を離れた物陰から見守りつつ、好機を待っていたのであった。

 二人の思惑通り、ゆらゆらと梅の花に誘われるように歩いていた花雫の背に、下卑た笑い声がかかる。
「嬢ちゃん、一人でそうふらふらと歩いてちゃァ危ねえったらありゃしねェ。この辺りは観光地だから盗人なんかも多いんだ。良ければあっしが嬢ちゃんの行く所まで、一緒に着いてってやらァ」
 振り返ってみれば、そこに居たのは事前に教えられていた泥棒の特徴そのものの男。盗人猛々しいとはまさにこのことだろう。
 そう言うおじさんがどう見てもこの辺りで一番怪しい、とつい口から出かかった言葉を何とか飲み込んだ花雫は、ふるふると震えるように首を横に振り、怯えた顔を見せながら男に背を向けて走り出した。
「あァ、待ちゃあがれ、このっ!」
 途端に焦ったように追いかけてきた姿を振り返って確認しながら、花雫は引き離し過ぎないように、それでいて追いつかれないように、街道を絶妙な速度で走る、走る。
 とは言え相手は花雫の倍以上の歳はあろうおっさんだ。息を切らした男が追ってくる速度が徐々に緩まれば、これだけ離せば大丈夫だろう、とばかりにほっとした顔で走るのを止め、男が迫れば再び不安気な表情をわざと見せ、慌てて走り出す。
 それを繰り返すうちに、花雫はすっかり街道の外れまで駆けてきていた。辺りを見ても枝垂れ梅の並木はもう途切れた後で、観光客もここまでは来ていないようだ。
「は、っはァ……くっ、そ……はァ……散々走らせ、やがって、大人を、馬鹿にすンのも、いい加減にしやがれ、小娘ェ!」
「そんなこと言われてもなー。おじさんが怖いから、逃げただけだよ?」
「あァ!?」
 額に青筋を浮かせた男にやれやれ、と肩を竦めながらも、花雫はこの追いかけっこの最後の仕上げに、大きく息を吸い込んで彼女を呼んだ。
「おねぇさーん!」

「はぁいぃ、おまかせぇ、くださいぃ」
 それはそれは、おっとりした返事だった。
 しかし直後には、真っ直ぐに飛来した鉄鉱石が男の守るものがなくなった額へと命中。途端に爆発し、男の首をもぐ勢いでその身体ごと後ろへと吹き飛ばしていく。
 街道を駆け抜けた花雫を、物陰を渡りながらひっそりと追いかけていたリュシカが用意した、『爆破の法石』だ。花雫が近くにいることや周囲の状況を鑑みて炎はしっかりと抑えたものではあるものの、その衝撃の威力たるやすさまじい。
「よかったぁ、当たりましたぁ」
 近くの曲がり角から顔を出したリュシカが安堵したように吐息を零せば、花雫もぐっと親指を立ててグッジョブのポーズ。後は適当に縛り上げて、と二人が合流したその時。
「ちっくしょう!騙しやがって!」
 がば、と吹き飛んでいた男が起き上がる。額から血を吹いてはいるが、どうやら存外頑丈らしい。
「女だからって容赦ァしねェ!!」
 喚きながら、男はなけなしの頭髪を二人に向かって撃ち込んでくる。当たりたくない、これは当たりたくない。
「おねぇさん!」
 半ば悲鳴のように上がった花雫のその声に、リュシカはしかと頷いた。
 そのまま愛用のスリングで立て続けに鉄鉱石を射出。なけなしの頭髪を男に叩き返しながら、次、さらに次、と鉄鉱石を撃ち込む。その数、五個。つまり、五度の爆発。
 さすがにこれには男も立ち上がりようがなかったようで。辺りに漂った煙が晴れた頃には、男の頭部は地面にめり込み、辛うじて見えている脚だけがぴくぴくと揺れていた。
「よっし、これで一段落だね!」
「そうですねぇ。あぁ……この弾もタダではないんですよぉ、つい沢山使ってしまいましたがぁ……早く解決してお水だけのご飯から脱却したいですねぇ……」
 ほっと笑顔を見せながらも肩を落とし、複雑な表情になるリュシカの背を、花雫は困ったように笑いながらそっと励まして撫で続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
盗人退治……っていうとなんかほのぼのしてるけど
まあ、あんななりでもオブリビオンだ
気を付けて事に当たらないとな

現地風の和装
腰の帯に解りやすく、現地の通貨を紐通しにして吊っておく
思いっきりスリやすいようにね
後はその辺を練り歩いてかかるのを待とうかな
『影の追跡者』に自身の死角を見張らせ、接近してきた所に顔面にグーパンねじ込んでボコボコにする
壊鍵を全開にして殴るわけじゃないけど、
まあ、「2回攻撃93」なので
うん、「2回攻撃93」

一人ボコしたらまた釣り歩きに戻る
万一取り逃がすようなことがあったら銭を一枚使って衝撃で加速、指弾にしてその髪の毛が撃滅してる頭に追加ダメージを叩き込んでやる
ハゲ泥棒、許すまじ



●仕置きの百八十六撃と、追加の一撃
「あんななりでもオブリビオンなんだよな、一応。あんななりでも」
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)が自分に言い聞かせるように呟いたのも無理はない。
 彼の視界に写っているのは、綺麗な着物を着て梅の下を楽しげに談笑しながら歩く、二人の美しい女性――を、後ろから穴があく程見つめている、怪しい男。いや、どう見ても泥棒。今回の標的。
 放っておいたら女性達に今にも飛びかかりかねないその男を見過ごすわけにもいかず、灰色は腰の帯に紐通しにして吊るした銭を揺らして、わざと男の前を横切った。
 ちゃり、と微かに鳴った銭の擦れる音に、男が弾かれたようにこちらを見る。泥棒たるもの、その音を聞き逃すことはないと言うかのような反応速度だ。斯くして、美しい女性達へと向いていた男の視線は、灰色の狙い通り、彼の腰に下がった銭へと固定された。
 いつでも男が銭をスリに来れるように、歩みはゆったりと。時折立ち止まり梅をしげしげと眺め、灰色はのんびり歩き出す。
 その間にも、事前に喚び出しておいた『影の追跡者』は、しっかりと彼の死角を補い、情報を伝えてくれている。
 観光客が多いとは言え、ここは枝垂れ梅が立ち並ぶ長い街道の途中。長い分人が散り、さすがにスリを楽に働ける程ごった返してはいないからか、泥棒は慎重に灰色から並木一本分程離れた木陰で様子を伺っているようだ。
 しかし、灰色としてはそれでは困る。これだけ餌を見せつけているのだ、早く食いついて欲しいところである。
 ならば人目が少ないところへ、と旅籠が立ち並ぶ方へ足を向けた。この先は細い路地ばかりだ。ここならば人目を気にしている泥棒でも追ってくる可能性は高いと踏んだ灰色の読みは、果たしてその通りになった。

 後ろからひたひたと早足で、男が近づいてくる。しかし男は気づいていなかっただろう。灰色にはその様子も全て『影の追跡者』を通じて見えていたということに。
 そしてそんなことは露も知らない男が、灰色の腰元へと手を伸ばした、その時。
「窃盗は犯罪」
「ぎゃぶっ」
 男の顔面に、振り向く勢いも乗せ振りかぶられたグーパンが、綺麗にめり込んだ。
 そのまま一撃、もう一撃。普段の灰色が放つ拳に比べれば、『壊鍵』が全開にされていない分一撃の威力はずっと低い。
 しかし、止まない。グーパンの雨霰が止まらない。
 その数、百八十六撃。
 ……最早男の状態を確認するまでもない。

 そしてそこに不運な泥棒が、もう一人。
 顔を上げた灰色の視界に飛び込んでしまった不運なその男は、灰色の足元で伸びている仲間を見遣ると、即座に踵を返す。しかし、それでは遅すぎた。
 下げた銭を一枚手に掴んだ灰色は、充填されていた衝撃を込めた指先で銭を弾き、逃げ出す男の後頭部へと放つ。
「ぐぎゃぁぁぁ」
 見事、衝撃から守るものが撃滅しているその後頭部に一撃が命中すれば、男はスローモーションのように前方に倒れ込み、そのまま動かなくなった。

「――ハゲ泥棒、許すまじ」
 囁いた即席仕置人・灰色は、再び街道へと歩を進めていく。
 勿論、次なる標的を求めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久澄・実
まーちゃん(f13102)と一緒✌️

はー、クズの臭いがぷんっぷんしよる
存分に殴ったれっちゅうお達しも出とることじゃし?
盛大にやらせて貰……あー、聞こえん聞こえん!

お小言尻目に
泥棒サンへにんまり笑顔でオサソイ

なぁなぁ兄ちゃん。女探しとるんて?
ワシらそいった商売しとるんよ
別嬪さんいーっぱいおるで
兄ちゃん苦労してそうじゃしなァ
格安で話つけちゃるわ
な、どないする?

金払わず拐ってまえ、思うてくれたら儲けモン
乗って来たら路地裏にご案内

まーちゃぁぁん!
『お客サマ』連れてきたでぇ!

さぁて、喧嘩祭りじゃ!
思いっきし暴れたろ
何か壊してもうたら、コイツらのせいにすりゃええんじゃし?

あ、髪燃やしてしもうたらゴメンなァ


久澄・真
実(f13103)と

クズなぁ。
慣れたものすぎて区別つくのなんてお前の嗅覚ぐらいじゃねぇの?
ところで暴れすぎて物壊したりしてみろ
てめぇの取り分から差っ引くからな。


実が男を引き連れてくるのを路地裏で待機
高級煙草ふかしながら男を見るや否や鋭い八重歯覗かせにやありと
「いらっしゃい~別嬪さんじゃなくてすまねぇなあ?」
さあてじゃあ早速お仕事といくか
実、暴れていいぞ。あ、物は壊すなよ?


実が暴れてる合間で後方から敵さん方が逃げられない様に意地悪く攻撃
時々物を破壊しそうになる実を攻撃
「気をつけろっつってんだろうがぁ!!」
おこです

使用技能:敵を盾にする、武器受け、フェイント、呪詛、怪力

※アドリブ、他者との絡みOK



●お出でませ、そして散りませ、お客様
「はー、クズの臭いがぷんっぷんしよる」
 すんすん、とわざとらしく鼻を鳴らした久澄・実(●◯●・f13103)に、呆れた視線を隠しもしない久澄・真(○●○・f13102)はわざとらしくため息をつく。
「慣れたものすぎて区別つくのなんてお前の嗅覚ぐらいじゃねぇの?」
「んなことないやろ、こんなに臭うのに。まあええわ。存分に殴ったれっちゅうお達しも出とることじゃし? 盛大にやらせて貰……」
「暴れすぎて物壊したりしてみろ。てめぇの取り分から差っ引くからな」
「あー、聞こえん聞こえん!」
 真の小言に素早く耳を塞いだ実は、あーあーと聞こえない振りをしながらも、その視線の先に早くも標的の姿を見つけていた。
 通り掛かる女という女に片っ端から声をかけている、心許ない頭髪の男。教えられていた標的の姿に間違いないだろう。真に目配せをすれば、同様にその男に気づいていたらしい真は、既に予定通り路地裏へと向かっている。
 その姿を見て取って、今もまた通り掛かった女性に声をかける前に逃げられがっくりと肩を落とす男にひょいひょいと近寄ると、実は男の顔を覗き込むようにしてにんまり笑みを浮かべた。
「なぁなぁ兄ちゃん。女探しとるんて?」
「うっわァ、なんだ手前ェ藪から棒に!」
 驚き後退る男に、男が後退った分だけ距離を詰めた実がからからと笑う。
「いやァだって兄ちゃん、さっきから見とれば随分苦労してそうじゃし」
 そう言われれば、男もぐうの音も出ない。諦めたように深い溜め息をついた男が、じとりと恨めしそうに実を見遣る。
「その通りだァ。ったく、最近の若ェ奴ァ遠慮がねえなあ。ずけずけ言いやがって。……あっしらの旦那が女ァ求めててなァ。ところがどっこい、全くもって女共ときたら話も聞いちゃァくれねえ。どうしたもんかと思ってたとこだよ」
「なーんだ、それなら話は早いわ」
「はァ?」
 きょとんと見上げてくる男に、実はもう一度笑みを向け、その耳に囁く。
「実はワシら、そいった商売しとるんよ。別嬪さんいーっぱいおるで。兄ちゃんなら特別に格安で話つけちゃるわ」
 な、どないする?
 どこか人好きのする実の雰囲気に呑まれたか、問われた男はそれなら折角だから、と簡単に話に乗ってきた。
 金の持ち合わせはありそうにない。払わずに拐ってしまえと思っているのかもしれないが、実にとってそこは些細な話であった。路地裏に案内できさえすればいいのだ。
 こっちこっちー、と男を呼べば、何だってこんな路地裏に、とぼやきながらも男は着いてくる。余程困っていたということもあるのだろうが。

「まーちゃぁぁん! 『お客サマ』連れてきたでぇ!」

 そんな男をよそに路地裏に響く実の声。それと同時に男を挟むようにその背後に現れたのは、真だ。
 ぎょっとしたように振り返った男に、高級煙草をふかした真は、その煙を白く、空へとたなびかせると、鋭い八重歯を覗かせてにやありと笑みを向けた。
「いらっしゃい~別嬪さんじゃなくてすまねぇなあ?」
「ちっ」
 騙されたのだと気づき、素早く逃げ出そうとする男が振り返れば、そこにはばきりばきりと指を鳴らす実。そして片や、にたりと笑む真。
「実、暴れていいぞ。あ、物は壊すなよ?」
「何か壊してもうたら、コイツらのせいにすりゃええんじゃろ?」
「いいわけないだろ」
 その声を聞いたか聞かずか、掌を裂いた実の拳に『地獄の炎』が灯る。繰り出される拳を間一髪で避けた男のなけなしの髪に炎がかすめ、ちりちりと燃えた。
「うぁっちぃぃぃぃぃ!!」
「あ、燃やしてしもた? ゴメンなァ残り少ないのに」
「手前ェェェェ!」
 激昂した男が、縄……いや、縄というにはもっと繊細な素材で出来た縄のような何かを実に向かい放つが、間に割り込むように飛び込んできた一人の騎士が、それを切り落とす。
 真が喚び出した死霊騎士は共に喚ばれた死霊蛇竜と連携し、攻撃から実と真を守りながらも隙を見つけては逃げようとする男の行く手をその都度阻み、男を歯噛みさせる。
「そんなもんかぁ、兄ちゃん!」
 高らかに笑う実が振りかぶった拳を、舌打ちした男は宙へと飛び上がって避けた。
 思わず路地に面した旅籠の垣根へと前のめりに拳を突っ込ませそうになった実に、死霊蛇竜が体当たりをかます。
「痛ってえ! まーちゃん、コイツ敵間違えとる!」
「うるせえ俺が命じたんだよ! 物壊さねえように気をつけろっつってんだろうがぁ!!」
 吠え合う二人を尻目に今が好機と男はそのまま宙を駆けるが、世の中そう上手くはいかない。
「誰が逃げていいっつったぁ!」
 先程の実の物損未遂の件で未だお怒りの真の命により、蛇竜がその尾で男を地面へと叩き落とし。
「わしは暴れたいんじゃ、逃げられちゃ困るのう」
 その目前へと、炎を纏わせた拳を打ち鳴らす実がゆうらり、立ち塞がった。
 遂に緩く瞳を閉じた男は、がくりとその場で項垂れる。

 それからしばらくの後。
 路地から出てきたのは、白と黒の髪をした、二人の青年だけであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

嶋野・輝彦
泥棒を捕まえる
狙いは女?
囮をやる猟兵の近くに居て
だらしねぇカッコ、徳利でも下げていかにもな風体で居りゃ問題ねぇだろ

で【第六感】で泥棒が仕掛けて来た所を

●POW
【先制攻撃】【だまし討ち】【怪力】
「テメェ、何やってんだゴラァ!!」
徳利でぶん殴る
【怪力】で胸倉掴んで
【恫喝】【存在感】【コミュ力】【殺気】

「テメェ、徳利割れちまったじゃねーか!酒だってタダじゃねぇんだぞ、ふざけんなクソが!」
ボコボコにする

反撃されても【激痛耐性】【覚悟】で耐える、つーか無視
逃げられない事優先

ボコボコにして泥棒が動かなくなったら
【怪力】で旅籠に投げ込む
どのみちやるこたぁ変わんねぇんだ、分かり易く煽ってやった方が早いだろ?


秋遊・空桜
クズ…?難儀なお人もおるもんやなぁ
泥棒したり、女の人を泣かせるのはとってもあかんことやね
せっかくの梅の花も悲しんでまうし、頑張って捕まえよ

うちも、大きな通りを歩いて誘き出せしよかな
大きな荷物を抱えて、景色を見ながら「おのぼりさん」ぽくゆったり歩こ
泥棒さんがやって来たら反撃や
「狼藉」はあかんよ、泥棒さん

うちのお箸はなんだって掴めるよ
【ちょこっとお味見】で泥棒さんにカウンターや
…泥棒さんの髪の毛を食べるって思うと、すごく抵抗あるんやけど…
ううん、食べるんはあくまで「泥棒さんの邪気」や…!
自分に言い聞かせながら、泥棒さんの動きを封じてまおう
そうすれば【零距離射撃】で周りにに被害出さずに攻撃できるかな



●可憐なる乙女と頑健なる当たり屋
 見上げた枝垂れ梅は心なしか、この場で働かれるかもしれない未来の狼藉に、悲しんで涙を零しているように見えた。
「難儀なお人もおるもんやなぁ」
 ぽつり、呟いた秋遊・空桜(そらびじょん・f10801)は、一つ大きく深呼吸をして気を取り直すと、大きな荷物を抱え直す。これだけの荷物を持ってゆったり歩けば、泥棒には与しやすい『おのぼりさん』に見えるだろう。
「せっかくの梅の花を悲しませんように、頑張って捕まえよ」
 ぐっと拳を握りしめ、準備を整えた空桜は路地裏から街道へと飛び出して行く。

 のんびり、ゆったり。
 紅の花に、白の花に、ほぅ、と吐息を漏らしながら見事な枝垂れ梅を眺めれば、自然とその歩はゆったりと遅くなる。その様はまさに空桜が狙ったとおりのおのぼりさんのようで。いつしかその姿を付け狙う一つの影が、彼女をじっと見つめていた。
 そして、次はどの梅を眺めようかと楽しげにきょろきょろと視線を走らせる振りをして周囲の観察をしていた空桜も、その影に気づく。
(来たね泥棒さん、逃がさへんよ)
 未だ何も気づいていない素振りで、あの梅も綺麗、と笑みを浮かべゆったりと歩く。泥棒の男が距離を詰めやすいように、何気なく男の前を通っていくのも忘れない。
 そうして歩み寄った梅の木の下、声をかけられやすいようにと重い荷物をよいしょと下ろした、その時。

「ようよう嬢ちゃ――」
「テメェ、何やってんだゴラァ!!」
 バキャッ!!!!!

 掛けられた声と、知らない声、そしてその不穏な音は同時だった。
 振り返って目を白黒させた空桜の視線の先にいたのは、先程から空桜を付け狙っていた泥棒男と、それにもう一人。
 だらしなく着流しの襟元を緩ませ、その手に割れた徳利を持った男――嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)だった。
 敵の狙いは、女。
 少しだらしがなく――正直に言えば柄が悪い観光客を装い街道の人々の中に溶け込んでいた輝彦は、それならば、と囮となるべく街道へとやって来た猟兵達の近くにさりげなく控え、淡々と囮に泥棒が引っかかる時を待っていたのだ。
 そして、丁度視線の先におのぼりさんになりきっている空桜と、あからさまに空桜をつけている怪しい男を見つけると、男が空桜に声をかけるその瞬間をしっかりと見極めて、男の頭に徳利を叩き込んだのであった。

 そんなこととはまだ気づかない空桜がその場に釘付けになっている中、輝彦は男の胸倉を軽々と掴み上げ揺さぶる。
「テメェ、徳利割れちまったじゃねーか!酒だってタダじゃねぇんだぞ、ふざけんなクソが!」
 ドスの利いたその声は、泥棒男達が旦那と仰ぐ男のものよりもずっと怖かったのだろうか。途端に涙目になった男がぶるぶると首を横に振って口を開きかけるが、その口が何か発する前に、「うるせぇ!」の一言と共に輝彦の拳が男の頬を殴り飛ばす。
「ひっ、まだ何も言って」
「うるせえっつってんだろうが!」
 反対の頬にめり込む拳。呻いて泣き出す男。しかし、男もこのままではまずいと感じたのだろう。こんな危ないヤツの元はとっとと逃げるが勝ちと言わんばかりに、胸倉を掴んでいる輝彦の手を射抜くべく、なけなしの頭髪全てを使い果たすかの勢いで撃ち出す。
 それは胸倉を掴んでいて身動きの取れない輝彦の手を吹き飛ばし、そのチャンスに男は逃げられる、はずだった。
「狼藉はあかんよ」
 ……果たしてこの場合どちらが狼藉なのだろう。
 浮かんだ疑問を片隅に捨て我に返った空桜が、秋の色をした漆塗りの箸で空を掬う。途端に輝彦の手へと向かっていた頭髪が、吸い寄せられるようにその箸へと絡め取られた。
「あんまりそうは見えんけど、あんた猟兵さんなんやろ? 手伝うわ」
 泥棒の頭髪を食べると考えれば抵抗はあるが、眼前の猟兵が泥棒男を捕らえようとしているのは恐らく、多分間違いない、多分。
 ならば少しでも彼が有利になるように、食べるのは泥棒の邪気、と必死に自分に言い聞かせ、空桜は箸が掴んだ頭髪から邪気を啜り取る。
 はらり、はらりと邪気を吸われた頭髪が地に落ちれば、自身から直接力を吸われたように泥棒男の身体から力が抜けていく。
 最早泥棒男に輝彦の手から抜け出すだけの力はこれっぽっちも残ってはいなかったが、だからと言って輝彦に容赦はない。そもそもここで容赦するようなら、最初からいきなり徳利で殴りかかり言いがかりをつけてきたりはしないだろう。
 そのままドカドカバキバキと、それはもうこてんぱんに男を殴り飛ばしていく輝彦を、空桜は通り掛かる人目から隠し、何でもないんです、と微笑みで誤魔化す。
 誤魔化している間にすっかりと顔の形が変わってしまった泥棒男を引きずる輝彦を慌てて追えば、そこは件の旅籠。
「え、何する気?」
「どのみちやるこたぁ変わんねぇんだ、分かり易く煽ってやった方が早いだろ?」
 面倒そうな輝彦の返事に、何をしようとしているのか察した空桜は慌てて首を横に振った。
「あかんあかん! できれば旅籠に被害出さんといてって言われたやろ?」
「わぁってる。だからこうして外に呼び出すんじゃねえか」
 言うが早いか、引きずっていた男が輝彦の手により旅籠の中に投げ込まれる。彼なりに気を遣ったのか、はたまた偶然か、それにより旅籠のものが壊れたりはしなかったが。
「ここの主さん、卒倒せんといいけど……」
 梅の香薫る風が吹く中、空桜の小さな囁きと心配をよそに、輝彦は黙って旅籠を見上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『遊び人の与太郎』

POW   :    酒狂
【酩酊状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    博徒
【賽を二つ振って出た目】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【出目×100枚の一文銭を降り注がせること】で攻撃する。
WIZ   :    女衒
【絶世の美女】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠上崎・真鶴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●クズ、登場
 それは、旅籠の外まで聞こえてきそうな程不機嫌そうな、粗暴な足音だった。

 ぎしぎしと階段を踏みならして上階から降りてきた男は、その勢いで踏みつけた『モノ』を訝しげに覗き込む。
「成程なァ。人が気持ち良く寝てりゃあさっきから外が喧しいわ、女ァ連れて来いっつったのに待てど暮らせど戻ってきやしねェわ。どこの野良犬が吠えてやがるかと見に来てみりゃァ」
 鼻を鳴らしてくつくつと嗤った男が、その脚を振り上げた。鈍い音をたてて、踏みつけられていた泥棒の身体が旅籠の外へと蹴り出され転がる。
「――随分と虚仮にしれくれるじゃァねえか、あァ? どこのどいつかは知らねェが、」
 追うようにして旅籠から出た男は、立ち並んだ猟兵達をぎらりと睨めつけた。

「ただで済むと思うなよ」
嶋野・輝彦
どこのどいつ?俺だよ、俺

【第六感】で相手の行動の動線予測で当てに行く
攻撃はウィーハンマーで
【先制攻撃】【だまし討ち】【怪力】【捨て身の一撃】【鎧砕き】
悪事の作法も知らねぇ三流がイキってんじゃねぇぞオラァ!!

【恫喝】【存在感】【殺気】
女なんて足が付きやすいモンに手ェだすなんざ、三流も三流、ド三流じゃねぇかテメェアホか!!
ゴミクズみたいなシノギしやがってぶち殺すぞ!
素人相手でこの程度か?程度が知れるぞオラァ!
煽って攻撃誘導

相手の攻撃は
【第六感】で躱す
躱せなかったら【覚悟】【激痛耐性】で耐える
つーか無視、顔色変えずに対応
効かねぇよクソボケが

死にかけたら戦場の亡霊発動
まぁ自分から死にかけに行くんだがな


秋遊・空桜
周りを確認
一般の人や旅籠に被害が出ないように気をつけて動かんとね
もし誰かいたら避難するように【礼儀作法】をもってお願いしよ

狼藉もんの親玉さん
人に迷惑かけちゃあかんって、誰にも教えてもらわんかったの?
これ以上好き勝手はさせへんよ

酩酊状態になられると厄介やな
酔っ払いには手が付けられへんの、どこの世界もおんなじやねぇ
他の猟犬さんが少しでも戦いやすくなるように【援護射撃】や
万華散鏡・桜から放つ梅の花吹雪に意識を向けさせてみよ
隙ができたら色とりどりの花びらが織りなす強い一撃をお見舞い
【夢幻万華鏡】や
…本物の梅の綺麗さには適わへんけどな
でもあんたはきっと、風景を楽しむ心はわからんままなんやろね…可哀想な人



●風流も知らぬ三流への仕置き
 男――与太郎の視線を真っ向受けて、真っ先に動いたのは秋遊・空桜(そらびじょん・f10801)だった。
 素早く周囲に視線を走らせると、がたがたと震えながら旅籠の中からこちらの様子を伺う壮年の男の元へと与太郎の脇を抜け駆け寄る。
 与太郎はその様子に忌々しげに舌打ちをするが、かと言って空桜には手を出さない。いや、出せない。
 与太郎の眼前で、明らかに堅気のものではない空気を纏った嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)がその場から動くことを躊躇わせるほどの視線を与太郎へとくれているからだ。
 その間に、空桜は座り込んで後退る壮年の男の傍へとしゃがみこむ。
「もしかして、ここの主さん?」
「へ、へぇ」
「騒ぎにしてもうて堪忍ね。すぐにあの男懲らしめるから、扉きっちりしめて、外出て来んと待っとって」
 膝をついて寄り添い、しっかりと目を見て話す様子に安心したかのように、震えていた男はひとつ深呼吸をすると頷いた。
 表へ取って返した空桜の後ろで、旅籠の扉が閉まる。これで、旅籠の中に被害が出ることはない。
「……黙ってりゃァ好き勝手しやがって」
「好き勝手してんのはそっちやろ、狼藉もんの親玉さん」
 吐き捨てるように言った与太郎の背を空と桜が混じり合う瞳で睨みつけ、空桜は愛銃『万華散鏡・桜』を構える。
「人に迷惑かけちゃあかんって、誰にも教えてもらわんかったの? これ以上好き勝手はさせへんよ」
「そういう訳だ。……ああ、さっきどこのどいつっつってたな」
 その反対側、与太郎の正面で面倒そうに手にした金槌をゆらした輝彦の口が、楽しげに歪んだ。
「俺だよ、俺」
 瞬間、踏み込んだ一歩と共に振り下ろされた金槌が、一直線に与太郎の頭部を打ち据えにかかる。
 息を飲んで一歩引いたのは、これまでくぐった場数故の判断か。はたまた輝彦に気圧されたか。いずれにせよそれにより紙一重で一撃を避けた与太郎は、すかさず手の中で揺らした賽を地へ転がした。出目は――五十一。
「はン、まあまあだな」
 にたりしたその笑みを合図とするかの様に、輝彦の頭上に大量の一文銭が降り注ぐ。
 それはまるで豪雨――いや雨というより霰に等しく。輝彦が金槌で打ち払う間にも、その隙間を縫った一文銭が勢いを持ってその身体へと降り落ち、輝彦の足を止めた。
 その一瞬を逃さず、与太郎は手にしていた徳利を勢いよく煽る。周囲を睨めつけていたその視線はどろりと濁り、まるで理性を失ったかのようで。
「! あかん、様子がおかしい」
 即座に変化に勘付いた空桜が、与太郎の視界に入るように駆けて愛銃の銃爪を引いた。
 その銃口が放つは、鉛玉でなく、梅の花吹雪。
 吹き荒れる紅白の花弁の吹雪につられたように与太郎の視線がそれを追い、一文銭を飛ばしては花弁を撃ち落とす。一つの一文銭で大半の花弁が消し飛ぶあたり、輝彦の頭上に今も降り注いでいる一文銭とは威力が段違いらしい。しかしその間に空桜が再び銃爪を引けば、視線は再び新たに生まれた花の嵐へと奪われ、花を散らすように一文銭が飛んだ。
「酔っ払いには手が付けられへんの、どこの世界もおんなじやけど……ちゃんとした判断はできひんみたいね」
「らしいな」
 三度銃爪に指をかけた空桜に答え、降り注いでいた五千百もの一文銭の雨霰からようやく抜け出した輝彦が、花弁に執着する与太郎へと駆ける。あれだけの数の一文銭に打ち据えられ、それでも顔色一つ変えない輝彦の隣には、いつしか霞が人形を取ったような『何者』かが、金槌を手に侍っていた。
 その霞は輝彦が与太郎の背目掛けて金槌を振り上げれば共に金槌を振り上げ、輝彦と一挙手一投足を合わせると、彼と同時に花弁に視線を奪われたままの与太郎に痛烈な一撃を与える。
「悪事の作法も知らねぇ三流がイキってんじゃねぇぞオラァ!!」
 与太郎が衝撃に転がれば、凄んだ輝彦が追い縋り、再度一撃。
「女なんて足が付きやすいモンに手ェだすなんざ、三流も三流、ド三流じゃねぇかテメェアホか!! ゴミクズみたいなシノギしやがってぶち殺すぞ!」
 起き上がろうとしたところに、更にもう一撃。
 しかし酔いにより痛覚が麻痺しているのか、与太郎は一欠片の容赦もない二つの金槌の殴打に、よろめき転がりながらも立ち上がる。
「あぁ、素人相手でこの程度か? 程度が知れるぞオラァ!」
「ひッ」
 それでも繰り出された金槌の衝撃は、道に響き渡るその大音声は、相手が悪いと悟るには十分であっただろう。じりり、後退るようにわずか動いた足と地の擦れる音を、思わず零れ落ちたような小さな悲鳴を、空桜は聞き逃さなかった。
「逃がせへんよ!」
 少女が掲げた銃から放たれる、紅白混じり合う梅の花。花弁は与太郎の姿を飲み込むように眼前に弾けると、彼の視線を、視界を奪う。
「……本物の梅の綺麗さには適わへんけど」
 囁いた声に、応えるように銃が吠えた。
 銃口から吐き出された花弁の礫は、先の花弁に飲まれていた与太郎の腹に激突し、ぶつかると同時に花開くように散り、与太郎の身体を後方へと吹き飛ばす。
 地に跳ねて転がる与太郎を追うように色とりどりの花弁が舞う様は、吹く春風に花弁が舞う様に似て。
「でもあんたはきっと、風景を楽しむ心はわからんままなんやろね」

 可哀想な人。

 憐れむようにぽつり、落ちた空桜の声と共に、梅の花弁が一枚ひらり、地に落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋稲・霖
おーおー、クズの親玉のおなーりー…って感じ?
ヤツを煽って旅籠や梅を傷付けなさそうな場所で戦うぜ!
皆が暴れて外まで引っ張り出してくれたんだ!俺もしっかり仕事しなくっちゃなあ

使えるもんは全部使って攻撃してみるぜ!属性攻撃とか2回攻撃とかな!

何人助けが来ようが関係ねえぜ!俺の力でまとめてどっかーん…なーんちゃって
良い女をぶっ飛ばしちゃうのはなっかなか良心が痛むんだけどさぁ
オブリビオンだって思えば何とかやれるっしょ!
…う、うらやましくねーからな!全然!

※アドリブ、他参加者との共闘歓迎です


フェイフェイ・リャン
クズの親玉アルな。絲の代わりにぶっ飛ばすアル。
天網恢恢疎にして漏らさず。悪業の報いを受けるヨロシ!

とはいえ油断は禁物アル。
勢い任せで返り討ちに遭っては意味ないネ。

酒狂が見るからに厄介アルな。
女衒で絶世の美女を呼んでるときは逆に動かないでいるヨ。自ら呼んだ美女に襲いかかりそうネ。
っていうか絶世の美女呼べるなら攫う必要ないアルヨ!?
トリニティ・エンハンスを水の魔力、防御重視ネ。水でも被って酔いを冷ますヨロシ!

「うぇぇ、酒くさいアル……!」
「一銭に笑うもの一銭に泣くアル!ましてこんな雑な投げ銭なんて言語道断ネ!」
「成敗!!」



●絶世の美女なんて、喚べるんじゃん
 あっちで騒ぎが、と通行人が話しているのを耳に挟み、泥棒か、はたまた親玉かとふわりと狐の尾を揺らして駆けた秋稲・霖(ペトリコール・f00119)の前に、それらしい男が吹き飛んでくる。
 遠巻きに見た、他の猟兵がボコボコにしていた泥棒とは風貌が違うし、明らかに質が良く見える物を身に着けている辺り、きっとコイツが。
「クズの親玉のおなーりー……って感じ? 割になんか逃げ腰じゃん、ダッセ」
「あァ手前ェ! 今何つったァ!」
 吹き飛んだ衝撃で多少酔いが醒めたか、立ち上がって飛ばされてきた方向とは逆の方へと足を向けていた男――与太郎が額に青筋を浮かべたのを見て取り、霖は「ビンゴ!」とからり笑った。
 そうと分かればやることは決まっている。
「いやだから、ダッセェって言ったんだよおっさん。やけにキョロキョロしてるわ、吹き飛んできた方じゃねぇ方に行こうとするわ。大方猟兵に追われて逃げてきたんじゃねーの? うわーダッセェって思って」
「調子乗ってんじゃねェぞ、小僧がァ!」
 向かい来る与太郎に、「やっべぇ」と舌を出して焦ってみせつつも、全て霖の思惑通りだ。
 挑発に乗り、売った喧嘩を丁寧に買い取ってくれたなら、後は離れた場所まで誘導するだけ。
 こちらがどれだけ枝垂れ梅に傷をつけないよう気をつけても、与太郎がそんな繊細な心を持ち合わせているとは限らない。いや、多分持ち合わせていないだろう。
 梅の木がまばらになる辺りへと、彼を追う与太郎を引き連れ、霖はひたすら駆けていく。

「こんだけ広々としてればそろそろ大丈夫っしょ!」
 並び立っていた枝垂れ梅の間隔が広くなってきた辺りで霖は足を止めた。人通りもなく、ここならば支障なく戦えるだろうと、くるり、振り返る。
 その視線の先には与太郎と、そしてなぜか、もう一人。
「ちょこまか逃げやァがって、ダセェのはどっちだァ小僧!」
 散々走らされた苛立ちを込めたか、立ち止まった霖へと凄み躍りかかってくる与太郎の後ろで、地を踏む軽やかな音と共にオレンジの髪が宙に踊った。

「天網恢恢疎にして漏らさず。悪業の報いを受けるヨロシ!」
「食らいやが、んごっ」
「あーらら」

 拳を避けようと身を捩った霖の横を、拳だけでなく与太郎本人がつんのめるように転がっていく。その背には、小さな靴の跡がくっきりと浮かんでいて。一拍遅れて、与太郎の背に跡を刻んだ靴で音もなく着地したフェイフェイ・リャン(がりゅー・f08212)は、茶の瞳をすっと霖に向けた。
「アナタも猟兵アルか?」
 霖が首肯を返せば、フェイフェイの唇が三日月を模る。
「それは丁度いいネ、一緒にぶっ飛ばすアル!」
「任せろ、やっちまおうぜ!」
 ぱちんとハイタッチ一つ。即座に共闘に入るべく与太郎を挟み撃ちにせんと彼へ向かう二人に、起き上がった与太郎が唾を吐き捨てる。
「一人に対して二人で襲いかかろうなんざァ、卑怯じゃねェか、あァ? そっちがその気なら手があらァ!」
 どの口が卑怯を語る、と思いながらもその言を警戒するように足を止めた二人の前で、与太郎は賽を次々と地面へ叩きつけた。
 地面にぶつかる度に煙幕を立ち上らせるその賽に、咄嗟に口元や目元を庇った霖とフェイフェイの目前に現れたのは――思わず目を瞠るほどの、絶世の美女。
「……っていうか、絶世の美女呼べるなら女の子攫う必要ないアルヨ!?」
 思わず呆然としていたフェイフェイも、叩きつけられた四つ目の賽がまた一人美女に代わったのを見れば我にも返る。猟兵達にボコボコにやられた泥棒達も、こうも簡単に呼び出せるなんて知ったら大層腹立たしいだろう。これには少し憐憫の情が沸いた。
 一方の霖は、ちょっぴり歯噛みした。うらやましくない、全然、うらやましくなんか。どうせオブリビオンだし!
 しかしさすがに女に手を出すのは良心が痛むと躊躇っているうちに、目前で攻撃の指示も出さずに……いや、今出しているのかもしれないがどう見てもただいちゃつき始めた絶世の美女達と与太郎を見れば、そりゃうらやましくないと幾ら自分に言い聞かせようとちょっとはうらやましいのである。男の子だし。
「……ちょっと、大丈夫アルか」
 内心の葛藤を見透かしたように呆れた視線を向けてくるフェイフェイの声にはっとすると、霖はぱしりと頬を叩き、気合を入れ直した。
「何人助けが来ようが関係ねえぜ! 俺の力でまとめてどっかーんってするから、あのおっさん頼む!」
「任されたアル!」
 拳を打ち鳴らして応えたフェイフェイに頷くと、霖の掌の上にゆうらり灯火が揺れた。『狐の火点し』だ。
 灯火は溢れるように膨らみ、滴ったものからそれぞれに散り、女達の元へと飛来するとその身体全てを焼き尽くすように燃え盛る。
 あいつらはオブリビオン、あいつらはオブリビオン、と唱え次々と火を放つ霖の横を、フェイフェイが駆けた。
 その拳に纏うは、守りを高める水の魔の力。火に飲まれていく女達の間を瞬時にすり抜け、一呼吸の間の出来事に慌て、目を見開いた与太郎へと拳を振りかぶる。
「水でも被って酔いを冷ますヨロシ! 成敗!!」
「ぎゃァァァ!」
 フェイフェイ渾身のストレートが与太郎の頬へクリーンヒットし、与太郎は本日何度目か、地面の上に転がされたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハーバニー・キーテセラ
虚仮にしたとはぁ、これは異なことを~
最初から下げる程のモノがない人を、馬鹿になんてしませんよ?
……あらぁ~、すいませぇん。ついついぃ、本音がぁ
うふふ~、ごめんなさいねぇ

出会い頭からのクイックドロー
兎の早業。銃弾の連続射撃でご挨拶ですよぉ
そしてぇ、擬獣合身からのぉ、脱兎!
スーパーな兎さんに乗っかってぇ、跳んで跳ねてぇ、動き回って敵の攪乱ですよぉ
微妙に遠い位置に陣取ってぇ、チクチクと射撃……もとい、援護射撃を繰り返しましょ~
でもぉ、こちらから意識を切ればぁ、それは狙い目ぇ
猛加速でスーパーな兎さんの突撃&至近距離からの銃弾をプレゼントして差し上げましょうねぇ
全弾、持っていくといいですよぉ~


武蔵天狗・弁慶
てめえが親玉か!
何でも自分の好き勝手にやろうったってそうはいかんぞ!
もう二度とそんな気も起こらんよう、わしらが成敗してくれる!
ゆくぞ牛若!

まずは先制攻撃じゃ!牛若の機動力を生かして決めさせてもらうぞ!
刀の切れ味は如何かのう?なかなか見事じゃろう!

酩酊状態の動きは読みにくいが、なあに、牛若ならひらりと躱してみせるじゃろう!
動きの速いものを攻撃する性質であれば、わしらが囮になり動きを集中させよう!
他の猟兵が隙を見つけてくれるやもしれん!

牛若とわしは世界一じゃからな!
酔っ払いなんぞに負けんぞ!



●速く、もっと速く
「ちッ……くしょう、何度も虚仮にしゃァがって……」
 ぺっ、と吐いた血混じりの唾と共にからりと奥歯が飛び出したのを見て、与太郎は忌々しげに吐き捨てた。
 しかし、そうは言っても先程からどうにも分が悪い。悪すぎる。面子を潰されたままというのは最高に不快だが、配下の泥棒達は一人として戻らないし、ここは一旦退いて立て直すべきか、等と転がり倒れ伏したフリをしたまま与太郎が打算的に頭を捻っていた、その時。
「虚仮にしたとはぁ、これは異なことを~。最初から下げる程のモノがない人を、馬鹿になんてしませんよ?」
「ッあァ!?」
 ゆったりと響くその声で、しかし与太郎の頭に血を上らせるには十分な一言を放ったハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)は、激高した男の声に、あらぁ、と口元に手を当てると、小首を傾げ微笑んだ。
「すいませぇん。ついついぃ、本音がぁ。うふふ~、ごめんなさいねぇ」

 お詫びにこちらを差し上げますねぇ~。

 笑みもその言も緩やかに。しかしその緩やかさからは想像もつかない程素早く愛銃『ヴォーパル』を手にしたハーバニーが与太郎へプレゼントしたのは、死出の旅路への片道切符。
 息つく間もなく繰り出される銃弾の雨に与太郎は身体を捻り、ごろごろと地を転がりながら反動を使って起き上がった。
「さっきからどうにも、来る奴来る奴ただ者じゃァねェな、畜生」
 腰に下げた徳利に手を伸ばし、ぐいと煽って空にすると、それを邪魔くさそうに放り投げる。人が変わったように濁った目をした与太郎が弾いた一文銭を紙一重で避けたハーバニーは、近くの塀にめり込んだ一文銭を見て目を細めた。
「あなたもぉ、やればできるみたいですねぇ~」
 与太郎の動きから視線を外さず囁いたハーバニーの元に、一匹の兎がどこからか駆けてくる。近づけば近づく程、普通の兎とは異なるとわかるその兎は、人一人が乗れる程。隣に並んだその兎にふわりと跳び乗ると、縦横無尽に跳ねる兎を一文銭が次々と追いかけてくる。
 躍起になって二羽の兎――バニーガール姿のハーバニーと彼女がのる兎を追いかけていた与太郎は、背後に別の陰が迫っていることに気づきもしかなった。

「てめえが親玉か! 何でも自分の好き勝手にやろうったってそうはいかんぞ!」

 大音声と共に、与太郎の背を袈裟に斬る鋭き刃。
「がァッ!」
 その衝撃に呻き声を上げた与太郎が前にのめるが、よく見れば刃は着物を裂き、そして背に薄ら刃傷を刻んだに留まっている。これには斬りかかった武蔵天狗・弁慶(fast.牛若丸・f14394)も唸り、牛若も目を見張った。
「なんじゃあ、酔っぱらいよるとこうも頑丈になるのか。厄介じゃが……なあに、それなら好機を待ってもう一度狙うだけじゃ! ゆくぞ牛若!」
 首肯を返した牛若が、振り返った与太郎の視界を奪うように軽やかに、猛烈な速度で地を駆ける。駆ける度に着物の袖がひらり、ひらりと舞えば、そちらへと与太郎が一文銭を続けて弾いた。酩酊して判断能力の鈍った与太郎にとって、視界を速やかに動くものは苛立ちの元なのだろう。気づいたハーバニーが少し離れた塀の上から与太郎の視界に入れるように銃弾を撒けば、今度はそちらの元を追うようにハーバニーへと一文銭が投擲された。
 銭を避けながら目配せするハーバニーに、全てを理解した弁慶と牛若も頷いて応える。
 与太郎の視界を横切るように駆けては、時にその刀で浅く切りつけて意識を向けさせ。弁慶と牛若に意識が向けば、今度はハーバニーがその銃弾で意識を奪いに掛かる。
 交互にそれを繰り返す内に、与太郎は最早完全にそれぞれを追いきれず、その時視界に入ったものを追うように一文銭を投擲し始めていた。
「おぬし! どうやらここが好機じゃ!」
「そのようですねぇ、一息にまいりましょう~」
「応!」
 応え、先に駆けたのは弁慶と牛若だった。与太郎の視線を引き連れ、周囲を円を描くように走ると、ハーバニーが控える方へ与太郎の背を向けさせる。
 その背がハーバニーの視界に入った瞬間、彼女を乗せた兎がどう、と音を立て塀を蹴った。兎の足が一息に彼我の距離を一メートルにまで詰め、愛銃を掲げたハーバニーの唇が笑みを象る。
「全弾、持っていくといいですよぉ~」
 情け容赦なく背後から撃ち込まれたその弾に、与太郎の身体が踊るようによろめいた。
 そしてその隙を、今度は弁慶と牛若が逃さない。
「今じゃ牛若! わしらが世界一であることを思い知らせてやろうぞ!」
 弁慶の声に背を押されるように地を蹴った牛若が、瞬く間にその刃の射程に与太郎を捉えた。
 その勢いも乗せ袈裟懸けに振り下ろした刃が、今度は与太郎の肩を抉るように斬り裂き、深い紅を刻み込む。
「酔っぱらいなんぞに負けんぞ!」
 肩を押さえ逃れるようにしゃがむ与太郎を、天狗の面が見下ろしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

坂月・陽波
奴さん降りてきたか。おそようさまだ。昼間から飲んで暴れてとは、なんとだらしのない。などと言って聞くわけもないか。それはそれとしてキミ、徳利を投げたな?

奴に酒をやるなどもったいない。よって酒は使わない。
【錬成カミヤドリ】で大盃を17個生成。
内10個を奴の周りに飛ばし【フェイント】を仕掛けて敵の妨害と味方の援護を。隙あらば脛なり膝裏なりにぶつけて転かす。
残り7個は銭が降ってきたときのため待機。頭上に浮かせて銭を受け止め、溜まったら奴に向かって【投擲】。
たしかこういうのを浄財と言うんだったか、いや違ったか?まあいいか、浄財浄財。これは徳利の分、これは御膳の分、これはキミの使い走りが落とした甕の分だ。



●降れ降れ、一文銭
 主要な通りからは離れた往来のあまりない道とは言え、それでも時折通り掛かる人はいる。喧嘩か、と見て取り引き返した人々の噂の声により、泥棒を締め上げていた猟兵達も続々と与太郎の元へと向かっていた。

「外に出てきていたか、『おそようさま』だ」
 坂月・陽波(暁は流霞に埋む・f02337)も、その一人だ。
 傷を負いながらもなんとか他の猟兵を撒いて逃げた与太郎の元へとゆっくり歩を進めた陽波は、近づく程に立ち込める強い酒の香りに、呆れたように肩を竦める。
「昼間から飲んで暴れてとは、なんとだらしのない。……などと言って聞くなら、こんなところにはいないか」
「うるせェ、小僧!」
 これまでの戦闘の中で自分が複数人に追われていることを察したのだろう。また現れたかと言わんばかりの与太郎は、直ぐ様腰元に手を伸ばして徳利を煽ると、それを放り投げた。
 途端、濁るように虚ろになる与太郎の眼前で、陽波の視線が冷たく細められる。
「徳利を投げるとは、キミなどにやる酒はないな」
「ガタガタ抜かしてんじゃねェ!」
 吠えた与太郎が掌を揺らし、賽を転がした。その隙に、陽波は自身の周りに速やかに大盃を展開していく。その数、十七。
 陽波の手により放たれた大盃が正面から与太郎に襲いかかったところで、与太郎が転がしていた賽がぴたりと止まった。出目は、六十八。
「こりゃァたんまり出たもんだ、受け取れェ、小僧!」
 けたけたと厭らしく笑う与太郎に、陽波は慌てることなくそうか、と一つ頷いた。
 直後、頭上から滝のように降り注いで来た一文銭が、鈴鳴るような音を立てながら傘のように掲げられた大盃へと流れ込んでいく。
「ありがたくいただこう。たしかこういうのを浄財と言うんだったか、いや違ったか?」
 大盃に守られ、その身にはただの一つも銭を食らわずにいる陽波に、ムキになったように飛来する大盃を撃ち落とそうとしていた与太郎が、陽波を狙い、一文銭をその指先に構えた。
 しかし、いざ撃ち出さんとしたところで、大盃が脛へと速度を増して激突する。
「――!」
 声にならない悲鳴を上げた与太郎の悲劇は、しかしこれでは終わらない。次の大盃に膝裏を抉られかくりと膝から崩れ落ちたところに、さて、と陽波の声が耳を打つ。
「しっかりといただいたが、これ程あっても困る。お返ししよう、浄財浄財」
 細い指先が与太郎を指せば、陽波の頭上で滝のような銭を受け止めきった七つの大盃が男の元へと向かい、盆を返すように中に溜め込んだ銭を与太郎へと投げつけた。
「まずこれは徳利の分」
「ぎゃァっ」
「次にこれはキミが旅籠で好き勝手に暴れた分」
「うごァァッッ」
「あとこれはキミの使い走りが落とした甕の文だな」
「……っが」
次々と返却されていく六千八百もの銭に、与太郎も徐々に溺れるように言葉少なになっていく。

「さて、これで全部かな?」
 涼やかに陽波が囁いたその先には、銭の山から手だけを辛うじて突き出した与太郎の姿があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久澄・実
まーちゃん(f13102)とォ

あっ、まーちゃんまーちゃん!
あいつクズじゃ、いっとうのクズじゃろ!

いかにもな風体の男を指差し目を輝かせ
転がる泥棒をひょいと飛び越え親玉の元へ

――ここで暴れられんとか嘘じゃろ。なァ?

嬉々として掌を裂き
炎を手持ちの鉄パイプへ

無鉄砲の先制攻撃
反撃されても、痛いんは多少慣れとるし
ただただ獲物を見留めた狂犬として
鎧をも砕く怪力で振り下ろす

ゴメンなァ
旦那に恨みは無いんじゃけども
暴れてもエエ表のオシゴト、久々なんよ

ちゃあんとした防御はまーちゃんがやってくれるじゃろ
野生の勘と第六感、あとは相手の殺気を読んで躱してこ

みぃんなが作ってった傷
積極的に抉ってこうなァ


連携・行間任せるわ


久澄・真
実(f13103)と

おーおー金蔓の親玉登場か。
精々俺達の私腹の肥やしになってくれや。

指差して喜び勇む実に「行け」とでも言うかの様に片手をひらりと
自身は尚も後方からの攻撃、サポート
両手から伸ばした操り糸でそこらへんに転がってる泥棒の体を取っては投げ、己と実の盾代わりにしたりそのまま敵に投げつけたり

のびてる泥棒を盾に一文銭を避けながら
…チッ、シケてんなぁ
どうせ降らせるなら金貨降らせろや

器損による不利益が出ないよう【絶望の福音】で敵サンの攻撃あらかた予想して野性動物の様に暴れてる実に時折指示を出しながら思い切り遊ばせる

使用技能:敵を盾にする、武器受け、フェイント、怪力

※アドリブ、他者絡みOK



●親玉様、いらっしゃいませ
 自らが降らせた一文銭の海からひっそりと抜け出し、命からがらと言わんばかりの疲弊ぶりを見せながらも、与太郎は人気のない路地へと駆け込んだ。
 確かに自分を狙って来る奴来る奴どうにも腕が立つとあれば、最早面子より命の方が惜しくなってくる。一先ず傷を癒やし、話はそれからと路地から往来を除きこんだその背に、無邪気な声がかけられた。
「まーちゃん、まーちゃん見て! あいつクズじゃ、いっとうのクズじゃろ!」
 目を輝かせ、いかにもな風貌をした与太郎を指差す久澄・実(●◯●・f13103)に、後ろから覗き込んだ久澄・真(○●○・f13102)がにたりと笑う。
「おーおー、金蔓の親玉登場か。精々俺達の私腹の肥やしになってくれや」
 行け行け、と言わんばかりに真が片手をひらりと振れば、実が嬉々として掌を裂き、血を溢す。溢れた端からごうごうと燃え盛る炎に転じるそれを鉄パイプへと流し込むと、一息で与太郎との距離を詰め、脳天目掛けて鉄パイプを振り下ろした。
「んな……っ」
 新たな襲撃に、しかし咄嗟に身を翻す辺りが、この男が命永らえてきた所以であるのかもしれない。
 与太郎はそのまま風を切り振り回される実の鉄パイプを、右に左に辛うじて避けながら路地へと視線を走らせた。すると視界の端に、見覚えのある装束が飛び込んでくる。ぼろぼろになるまで殴られ伸びている自分の配下だ。恐らくはこの二人の手によるものだろうが、今はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、与太郎は速やかにその泥棒が背負っていた荷物へと飛びついた。
「そいつに何の用だ、憐憫の情でも湧いたか?」
「ッチィ!」
 しかし、荷物を引き剥がそうとする与太郎へと、これまたボロ雑巾にされた別の泥棒の身体が投げつけられる。真の操り糸の仕業だ。
 胴にまともにそれを食らって吹き飛びながらも、与太郎は荷物を離さなかった。その中から徳利を二本取り出すと、一つを煽り、もう一つを腰へと括り付ける。
「ゴメンなァ、旦那に恨みは無いんじゃけども」

 暴れてもエエ表のオシゴト、久々なんよ。

 喜色満面、与太郎が酒を煽る寸時すら逃さず再び鉄パイプを振り回した実の強襲を、与太郎は掌で打ち払うようにして捌き、もう片方、握りしめた拳で実の腹を打ち据えた。
「――!」
 一瞬詰まった息に目を見張りながらも、しかし実は下がらない。逆に好機とばかりに、拳を打ち込み体勢を崩した与太郎の横腹へと燃え盛る鉄パイプを叩き込んだ。
 そのまま与太郎が路地の壁へと叩きつけられれば、「壊すんじゃねえぞ!」と真がすかさず実へと怒鳴る。
「そうは言うてもここで暴れられんとか嘘じゃろ。なァ?」
 からから笑う実に大きくため息をつきながらも、わかってる、と手振りで応えた真は、実の陰で賽を振った与太郎を見て取ると、何かを予見したように、速やかに実へと転がっていた泥棒を一体投げた。
「来るぞ、使え」
「えー、なになに?」
 直後、泥棒を盾にした二人の頭上に陰が差し、濁流の様に銭が流れ込んでくる。
「ざまァねェ! これで動けねェだろうが!」
「…チッ、シケてんなぁ。どうせ降らせるなら金貨降らせろや」
 転がり落ちた一文銭を見遣るや舌打ちをし、手にしていた泥棒で銭を打ち払って凌いでいた真は、高らかに嗤いながら逃げ出す与太郎の背へと、手近な泥棒をまた一体振り回して投げつけた。
 これまでに負った傷にその一撃がよく利いたか、はたまた見えていなかった分受け身を取りそこねたか。悲鳴を上げた与太郎は、腰を折るようにしてその場に倒れ込んだ。
「やれ、実」
「任せてまーちゃん。こんなもん痛くも痒くもないわ」
 その声に手にしていた泥棒をひょい、と脇に捨てた実が、一文銭の濁流を浴びながら与太郎を追う。その様は、まるで獲物を捉え狩りを楽しむ猟犬――いや、狂犬だ。
「痛いんはどこかなァ、旦那。背か、それともさっき叩いた脇腹か、それともさっきからちょいちょい庇っとるその肩か」
 高らかに笑う実の元で再び逃げ出そうとする与太郎の上に、泥棒がまた一体投げ飛ばされた。伸びてからも真の一文銭の盾にされていた、哀れな泥棒だ。
「これまでみぃんなが作ってった旦那の傷、積極的に抉ったるから」
 犬歯を剥き出しにした実が大上段に鉄パイプを振りかぶり、目を輝かせる。
 瞬きの後、振り下ろされた鉄パイプは炎の残像を連れて、傷を負った与太郎の肩を焼き砕くかのように、打ち据えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

壥・灰色
上等だ
おれもお前のことは知らないが、知らない同士仲良くしよう
おまえも、おれと関わった以上知るべきだ
おれと殴り合ったらどうなるかをな

壊鍵
撃殺式、起動

両手に握り込んだメリケンサック
ユーベルコードを見るからして、かばい立てに入る女が幾多といるだろう
大変申し訳ないが、その一体にたりとて容赦はしない
蹴り避け、叩き避け、払い避け
のけながら進みより、全力の拳は与太郎のほっぺたに取っておく

別に、誰彼構わず殴りたいわけじゃない
腹の立つ奴を思う存分殴ってやりたいだけだ

来世もうちょっとマシに生まれてこられるよう、願をかけてやる
少々荒療治だけどね

全力の右ストレートを、敵の頬に叩き込む



●できれば、知り合いたくなかった
 刀傷により抉られていた肩は焼け焦げ砕かれたことで止血はされたが、最早そちらの腕は使い物にはならなくなっていた。
 それでも本日何度目か、迫る猟兵から逃げ出したのだから、与太郎は本当に逃げ足だけは早く、またその逃げ時を逃さない男と言えるであろう。
 しかし、その与太郎にも出会いは調整できない。
 上がりきった息で路地を幾つも抜けた男の目に映ったのは、灰の髪、そして灰の瞳。
「十中八九、どうみてもお前だな。さっきの泥棒達の主」
 喧騒の声は、あちこちで上がっていた。その中でぼろぼろになったいかにもな風体の男と出逢えば、最早何一つ疑うことはない。壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は眼前の男の頬へとストレートを叩き込むべく、いつもの通り右腕に『撃殺式』を集中させた。
「ち、違う、俺じゃねェ! 俺は人違いで殴られてこんな目に合ってンだ! むしろ助けてくんねェか?」
 その圧に、その様相に、灰色が潜った幾多の戦場の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。必死に弁明を始めた与太郎を、灰色は目を細めて見つめる。
「お前じゃないっていう証拠でも?」
「証拠……なんざねェが、そもそも旦那は俺のことなんかこれっぽっちも知らねェだろ? じゃあ人違いかどうかなんてわからねェ筈だ!」
 唾を飛ばし身振り手振りまで交えだす与太郎に、灰の青年は静かに頷いた。
「上等だ、それなら知らない同士仲良くしよう」
「だ、旦那ァ……?」
 すり寄るようにこちらへとやって来る与太郎へ、佇まいを直した灰色がメリケンサックを握り直す。
「残念だけど、特徴は事前に聞いている。おれ達が追っているのは間違いなくお前だよ。だから知らない同士仲良くしよう。そして、知るべきだ。おれと殴り合ったらどうなるかを」
 直ぐ様振り抜かれた右ストレートを、与太郎は身体を捻り地に転がって避けた。
「道理で逃げても逃げても見つかるわけかァ、畜生がァ!」
 その反動で起き上がると、動かない腕を庇いながらも、もう片方の手で賽を地へと次々叩きつける。
 一つ叩きつけられるごとに煙幕から美女が現れ、与太郎に蹴り出されて灰色の方へと泣きながら駆けてくる。繰り返されるうちに、瞬く間に灰色の周りが美女だらけになるが、彼がそれで足を止める男であったなら、与太郎にもまだ好機はあっただろう。
 しかし灰色は、オブリビオンが使うただの術に惑わされる男ではなかった。彼の元へと向かった美女は、蹴られ、左手で払われ、時に肘鉄を食らい、次々に倒れ伏して与太郎への道を開けていく。
「別におれだって、誰彼構わず殴りたいわけじゃない」
 ただ、腹の立つ奴を思う存分殴りたいだけ。だからこそ美女達をいなすように捌きながら、ついに与太郎の眼前に仁王立ちになった灰色に、与太郎は咄嗟に腰の徳利を一つ飲み干した。
「来世はもうちょっとマシに生まれてこられるよう、願をかけてやる。荒療治だけどね」
 それが、与太郎が聞いた灰色の最後の言葉だった。
 荒療治と一言で言うには荒さが過ぎる右ストレートを頬に受け、与太郎は近隣の屋根をも越えて吹き飛んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユア・アラマート
梅見は如何だったかな?
何度目かはわからないが冥土の土産には十分だったろう。だがそろそろ店じまいだ
女が欲しいなら私が相手になってあげるよ。絞り尽くされる覚悟はできてるな

影の閃赤で自らの分身を召喚。【ダッシュ】で高速移動を全員が散らばって行うことで、攻撃の的を絞らせないようにして撹乱
どれが本人か分からせないようにもしながら、徐々に敵を前後左右から包囲する形で接近して逃げ場を塞ぎ。敵が混乱している隙をついて【先制攻撃】【2回攻撃】で速度を乗せたダガーの一撃を喰らわせる

お前も運がいいね。こんなにたくさんの美女に囲まれるんだから
まあ、これだけの数を用意させたんだから。対価はきっちりと支払ってもらうがね



●お還りは、お支払いの後で
 散々猟兵達に追われた与太郎の身体は遂に宙を舞い、屋根を越えて、地面にどさりと着地――いや、落下した。
 それでもなお起き上がれるのは、一撃を受ける前に酩酊状態になっていたからであろう。少ない理性を動員して辺りを見回せば、どうやら人通りも、先程まで自分を追っていた猟兵達もいない。
 しかしこれ幸いと逃げ出す足を踏み出した与太郎の前に、銀の髪を風に揺らしたユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)が、すたり、塀を越えて軽やかに着地する。
「梅見はいかがだったかな?」
「っチィ! まだいやがんのかァ!」
 舌打ち一つ、即座に彼女に背を向けて逃げ出した与太郎は、しかし息を呑んでその足を止めることになった。
 彼の目には、背中側にいる筈のユアの姿が映っている。ならば右にと足を踏み出せば、そちらにも。蹈鞴を踏んでいる間にその反対にも。
「そろそろ店じまいの時間だ。冥土の土産には十分だったろう?」
 耳に、囁く声と共に吐息がかかる。そんな近くにも気づけばユアが、否、ユアの『分身』が現れていた。
 そう、次々与太郎の行く手を阻んだのはユアの分身。『影の閃赤』の力だ。
「お前も運がいいね。こんなにたくさんの美女に囲まれるんだから。……さあ」
 一歩、また一歩と与太郎へ近づくユアが花咲くように口端を上げれば、分身達もゆるやかに笑う。
「絞り尽くされる覚悟はできているな?」
「くそがァァァ!」
 突破せねば逃げ道はないと悟ったか、与太郎の指先から一文銭が次々弾かれる。風を切るその速度は、与太郎が酩酊から抜け出していないことを示していた。
 しかし、ユアの分身はそれをそれぞれ軽やかに避けてみせると、そのまま与太郎の周りを翻弄するように駆け巡る。
 時に近づき、時に離れ、時にその背に、時に正面に。
 ユアとも分身とも区別がつかぬまま、その影が動く先へと一文銭を放ち続ける与太郎をからかうかのように駆けながら、ユアはひっそりと手に馴染んだ刃を潜ませる。
「先程からどうやら金を撒いてくれてはいるようだが、どう見ても価値は低そうだ」
 そう肩を竦めるユアへと、苛立ったかのように一文銭が飛来した。それは遂にその身体を捉えたが、その瞬間に花の香を残し霞のように消えてしまう。残念、と笑う声は、どのユアから発せられたものか。見回せど、理性を失している与太郎にはわからない。
「これで足りるわけがないだろう? 対価はきっちりと支払ってもらうよ」
 緑の瞳が煌めいて尾を引くかのように、花が春一番に揺られて舞うかのように、素早く。
 分身達から離れ与太郎の背にぴたりと肉薄したユアは、その高度な技術を以て、刺されたことすら与太郎に感づかせぬ程の間に、その背にダガーを突き立て引き抜いた。
「そう、対価はお前の」
 いのち。
 笑むように囁いたユアの手に潜むダガーには、血の一滴も残ってはいない。
 一拍遅れてじわりと、与太郎の背に朱の花が咲いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霄・花雫
【リュシカおねぇさんと】

タダで済むと思うなよ、なんてこっちのセリフ!
これ以上ヒトに迷惑かけて好き勝手やるなんて許さないんだから!

宙を蹴って、レガリアスシューズで大気を爆発させてより速く!全力で蹴り抜いてやるんだから!
だいじょーぶっ、避けられるものは自力回避するよー。おねぇさんの出費はなるべく少なくっ!【空中戦、パフォーマンス、全力魔法、ダッシュ、早業、見切り、第六感、野生の勘】

前に出ることで敵の注目を自分に集めて、不規則な動きで翻弄してくよ。【誘惑、挑発】
あたしに注目が集まれば集まるほど、リュシカおねぇさんが当てやすくなるでしょ。
勿論、隙を見せたら攻撃にも回るよ。


リュシカ・シュテーイン
【花雫さんとですよぉ】

「タダ」ですかぁ
貴方達が暴れることがなければぁ、出費なんてモノは出ることがないのですけどもぉ……
でしたら返すお言葉は一つですかねぇ
タダで済むとぉ、思いにならないことですよぉ

花雫さんによる陽動も有りますのでぇ、そちらに意識が向いたときにぃ、こちらも攻撃を仕掛けましょうぅ
私は鉄鋼石に追尾の法石によるマーキングからぁ、すかさず雷のルーンを書き込んだぁ、雷のルーンを刻んだジュエルを当てた際に発する巨大な稲妻をぉ、【視力】【スナイパー】【援護攻撃】でぇ、確実に当てていきましょうぅ
…一粒ぅ、数万するスフェーンというぅ、宝石ですぅ
タダではないぃ、この一撃はぁ……痛いでは済みませんよぉ?



●ただで済むと思うなよ
 遂に致命の傷を負い、与太郎はそれでもなお逃げ出そうと荒い息を溢す。その図太さは生への執着故だろうか。しかしさすがの与太郎にも最早そのようなことを考える余力はなかった。
 何故なら彼の目の前には、数えるのも嫌になる程の今日何度目かの絶望、猟兵達の姿があったから。
「これ以上ヒトに迷惑かけて好き勝手やるなんて許さないんだから!」
 びしりと与太郎に人差し指を突きつけた霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)が、言うが早いか宙を蹴る。
 ひらり、その足首に薄翅が揺らめけば大気が爆ぜ、一足目とは比べ物にならない程の速度で、歩幅で、二足目を宙に刻む。
 誰より高く、誰より速く。花雫にしか見えない階があるかのように宙をとんとんと駆ければ、腰元の最後の徳利を飲み干して放り投げた与太郎が、花雫を追うように一文銭を乱射した。
 それすらも楽しむかのように、加速し、宙返りをし、まるで予測がつかないトリッキーな動きで与太郎の視線を奪っていく。
「降りて来やがれ、こンの糞餓鬼ィ! ただで済むと思うなよォ!」
「それはこっちのセリフ! 誰が言うことなんて聞くもんか!」
 ムキになって花雫を追う与太郎の背に、リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)は宝石のようなその瞳を細め、巨大なスリングをぎりりと引いた。
「貴方達が暴れることがなければぁ、出費なんてモノは出ることがないのですけどもぉ……」
 今まさに彼女が撃とうとしている鉄鋼石だって、与太郎が現れなければ、配下の泥棒達に女を攫え等と言い出さなければ、使われることはなかったのだ。解決すればお水だけのご飯から多分きっと脱却できるとは言え、この瞬間のリュシカには涙が出る出費である。
「だいじょーぶっ、おねぇさんあたしに任せて!」
 おねぇさんの出費は出来る限り少なく。そのためには与太郎の注意を完全に引き付けることと心得た花雫は、与太郎が狙えそうで狙えない、あと少しで当たるのではないかと思わせる絶妙なタイミングで、しっかりと一文銭を見切って避けていった。
 一文銭が飛来する速度は尋常じゃない。当たりどころが悪ければ動けなくなることが簡単に予想できる程に。もしそうなれば、リュシカが一撃を放つチャンスが減ってしまう。
「だからって、逃げてるばっかりでもない、けど、ねっ」
 ふわりと宙を舞うように身体を捻って与太郎の頭上を越えた花雫の右足が、血が滲んだ与太郎の背を真っ直ぐに蹴った。
「がァァッ!!」
 大気を爆ぜさせた勢いでその速度と威力を底上げした蹴撃は、与太郎の傷を的確に抉り、その身体を吹き飛ばす。
 もんどり打って転がりながら、それでも酩酊していた為か即座に起き上がるその様は見ている方がぞっとする程だ。これだけ死にかけていても、と花雫はぐっと気を引き締め直す。
 再び視線を奪うように宙でステップを踏み、青の視線をリュシカへと。
 首肯を返したリュシカが、鉄鋼石を更にぎちりと目一杯引いた。
 くるり回って、地も蹴って、再び舞い上がって。繰り返せば、遂に花雫を追って一文銭を飛ばす与太郎がリュシカへの注意を完全に失い、彼女へと背を向ける。
「おねぇさん!」
「おまかせをぉ」
 言と同時に引き絞ったスリングを解き放てば、先程花雫が蹴り飛ばしたその場所に、追尾のルーンが刻まれた鉄鋼石がどう、と音を立ててめり込んだ。
「ごガッ!っは……」
 背骨をハンマーで殴られたような衝撃に、さすがの与太郎もリュシカの方へと振り向くが、それは、花雫の蹴撃を呼び込む合図に他ならない。
 すかさず脇腹へと狙いを定めた花雫が一撃を見舞わせ、与太郎の身体をリュシカの方へと蹴り上げる。
 その間にもリュシカは、既にスリングにその瞳のような宝石を構え、与太郎を見据えている。
「……一粒ぅ、数万するスフェーンというぅ、宝石ですぅ。タダではないぃ、この一撃はぁ……痛いでは済みませんよぉ?」
 蹴り出されてきたその身体に正面からぶつけるように、光を浴び複雑に煌めいたスフェーンが真っ直ぐに放たれた。
 宙に舞う与太郎の身体と、空を駆けるスフェーン。どちらも避けようがないとあれば、衝突は、必然。
 その身体を穿つように与太郎へと激突した緑の石は、その瞬間、凄まじい程の閃光と轟音を放ち、与太郎の身体を一瞬にして消し炭にする。
 音と光が退けば、その場に残るはただ、黒ずんだ大地のみ。
「……そういえばぁ、仰っていましたねぇ。ただで済むと思うな、とぉ」
 黒炎を燻らせる大地に目を細めたリュシカは、煙の立ち上る先へとゆるやかに囁く。
「でしたらぁ……返すお言葉は一つですかねぇ。もうぅ、聞こえていらっしゃらないでしょうけれどぉ」

 ――タダで済むとぉ、思いにならないことですよぉ。

 空へと告げたリュシカの元へと、空を蹴り、歓声を上げた花雫が降りてくる。
 こうして匂道の掃除は終わり、辺りには静寂と平穏が訪れたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『街道沿いの旅籠で宴会』

POW   :    酒だ!肉だ!舞妓さんに芸子さんだ!ひゃっほう!

SPD   :    舞妓さんや芸子さんから芸事の手ほどきを受けてみよう。優美な気分になれそう。

WIZ   :    和風建築やサムライエンパイア流の宴会の催し方に興味津々。本陣の主人にいろいろ聞いてみよう。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●梅の花、華やかに今咲き零れ
「やや、みなさん! お怪我はございませんか」
 与太郎と泥棒達を打ち倒した猟兵達が旅籠の様子を見に戻ると、不安げに顔を曇らせていた主が表に飛び出してくる。
 斯く斯く然々。旅籠への害は除かれたことを伝えれば、その顔が晴れやかにほころんだ。
「よかった、本当によかった。私どもにはどうにもできませんで、ありがとうございます。ありがとうございます……!」
 深々と腰を折る主に、猟兵達もほっと一息だ。

 しばしの後、目尻の涙をぬぐって顔を上げた旅籠の主は、どうかこの礼を、と彼らに提案する。
「あいつらに居座られていたもんで他のお客様が遠退いてしまって。がらーんとしたもんです。折角ですから、みなさんどうか寄って行っちゃいただけませんか。勿論、お代はいただきません。お気になさるようなら、賑やかしに手を貸したのだ、と思っていただければ此幸い」
 ささ、と手を引くように案内する主に続けば、旅籠の中は歴史がありながらも丁寧に手入れされ、調度品なども品良く整えられた様子が窺える。
 主によれば、二階のどの部屋からも枝垂れ梅がとても美しく見え、それがこの旅籠の売りらしい。
 また、梅を用いた懐石料理や酒、飲み物や甘味なども自慢の味とのこと。自信たっぷりに話す主の様子を見るに、どうやら期待できそうだ。
 そのまま案内されて旅籠の裏手へとまわれば、そこには銭湯が。
「中に露天風呂がございます。湯に浸かりながら枝垂れ梅を眺められると評判の風呂で」
 こちらも今日は貸し切りだと聞けば、一仕事終えた猟兵達も思わずガッツポーズ。

「どうぞごゆるりとお過ごしください」
 頭を垂れた主に礼を言うと、猟兵達は三々五々別れていく。
 さて、まず何を楽しもうか。
ハーバニー・キーテセラ
梅を見ながら御飯も食べてぇ、舞妓芸子の方々の調べを聞くぅ
なんとも贅沢じゃありませんか~
特にぃ、舞妓芸子さんの芸達者
私も多少芸事を嗜みますけれどぉ、跳んで跳ねてと落ち着きがないのでぇ、違う方向性のそれには関心に感心ですぅ
今後、どこかでそういったことが必要になるとも限りませんのでぇ、手ほどきを受けれるなら是非にぃ
使わないにしてもぉ、パフォーマンスとかの幅が広がるのは良いことですのでぇ、よろしくお願い致しますぅ

あとはぁ、帰る際にはそうですねぇ
(1章の時に)おひねりで稼いだ分ぐらいは黙って置いていきましょ~

客足を戻すまでの間、こういうものは幾らあって邪魔にはならないでしょうから

ふふふ~、また来ますねぇ



●春風に舞う、花と華
 窓の外で、吹く春風に枝垂れ梅がそよいで揺れる。
 ゆうらりと優美に紅の軌跡を描くその花のようにもたげられた真白き手を、ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)はほう、と感嘆の吐息を零して眺めた。
「なんとも贅沢じゃありませんか~」
 先程まで目の前に並んでいたのは、この旅籠自慢の梅の懐石料理。主が自信を持って話していただけのことはあり、繊細に作り上げられた料理の数々に大満足で食事を終えたハーバニーの元では今、食後の茶の共に、とやって来た舞妓と芸子が並び、舞と三味線を披露している。
 嫋やかで柔らかな舞妓の舞は美しく。窓の外の梅の花、料理、美しい舞と、贅沢なひと時を堪能したハーバニーは、舞を終え一礼する舞妓へと拍手を送ると、のんびりと梅の香薫る茶を啜った。
「舞、お上手ですねぇ。ゆったりと美しくてぇ、素敵ですぅ」
「まあ、ありがとう存じます。嬉しゅうございます」
「よければぁ、手ほどきいただけませんかぁ?」
 自分が先程街道で魅せたような軽やかでアクロバティックなパフォーマンスとはまた異なる舞妓の舞の魅力は、今後なにかの機会で役立つかもしれない、とハーバニーが尋ねれば、花咲くように顔を綻ばせた舞妓が喜んでと頷き、ハーバニーの手を取る。
「三味の音に合わせまして、このように手を返し……」
「こうですかぁ?」
「左様でございます、お上手ですよ」
 三味線の撥を打つ音に合わせしばらく手ほどきを受ければ、いつしかハーバニーも優美な舞いを身につけて。舞妓と並んで舞えば、部屋に華やかな笑みの声と拍手が溢れた。

「本日はありがとう存じます。またのお越しをお待ち申し上げます」
 お茶の時間も舞妓達との会話も舞も目一杯楽しみ、舞妓達に見送られ立ち上がったハーバニーは、ふと、懐の重さに気づく。
 探ってみれば、先程街道で彼女へと投げ渡されたおひねりの貨幣だった。戦闘の邪魔にならないようにと、咄嗟に包んで仕舞っておいたのをすっかり忘れていたのだ。
(客足を戻すまでの間、こういうものは幾らあって邪魔にはならないでしょう)
 部屋の入り口に静かにそれを置くと、辞儀をしていてそれに気づかなかった舞妓たちへと、ひらり手を振る。
「ふふふ~、また来ますねぇ」
 きっといつかまた、梅の花の咲く頃に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

坂月・陽波
ご主人、怪我とかはないかな?手伝いの人も無事かい?ないならそれが一番だ。

さて、ご厚意に甘えて飯にしよう。酒はともかく梅の料理はとても楽しみだ。とはいえ俺は隅で料理を突いているわけだが。食器たちも扱いが丁寧だね。良い主人に恵まれている。
同じ道具としては、家具たちのが気になる。あんな輩に絡まれるとは災難だったな。

ご飯は七分目ほどにして、時間があればお風呂に行こう。本体の盃は忘れずに。間違って持っていかれると大変だからね。
用もなくゆったりと見る梅の花もまたいいものだね。あの輩には本当にもったいないものだ。

あと、お菓子って持って帰れるかな?


フェイフェイ・リャン
無事に事件は一件落着!
一仕事したあとのごはんは格別アルな!
お団子とお茶で花見をするヨ!
花より団子? いやいや、ちゃんと梅の花も堪能してるヨ!?
風に乗って流れてくる梅の花の香りでお団子がより一層美味しいアルなー!
「美味しいアルなー!もう1……3本お代わりー!」
腹ペコキャラじゃないからそんなにすっごい食べるわけじゃないヨ!
育ち盛り年相応ヨ?

他の猟兵と絡むのもオッケーネ!


武蔵天狗・弁慶
カッカッカ!
勝利の後のお酒は格別じゃのう!

お酒も肉も最高じゃ!
どんどん食べるぞ!牛若!
舞妓さんも……ははあ。美しいもんじゃ。
わしは学がないからこういう芸はあまり見たことがないが、こういう伝統文化っちゅうのはええもんじゃのう。
文化も芸術も宝じゃ。
これからもわしらがしっかり守らんとのう!牛若!



●花も団子も、料理も風呂も
「んんーっ!」
 旅籠の前、枝垂れ梅の下では、並んだ長椅子に腰掛けたフェイフェイ・リャン(がりゅー・f08212)が、その口いっぱいに団子を頬張って至福の笑みを浮かべていた。 一仕事終えた後の甘いものは、格別だ。
「お味はいかがですか、お嬢さん」
「美味しいアルなー!」
「それはよかった、まだまだ沢山ありますからどうぞ召し上がってくださいね」
 茶のおかわりを注ぐ女将の言に、フェイフェイの瞳がきらりと輝いた。
「それならもう一……」
 ぴっ、と人差し指を立てるものの、そのままぴたりと止まるフェイフェイ。
 別に腹ペコキャラなわけじゃない。だからそんなにすっごい量を食べるわけでもない。
 年相応だ、なんて言ったって十八歳なのだ。まだまだ育ち盛りだ。

 だから、もうちょっと食べたっていいはず!

 小首を傾げ、様子を不思議そうに眺めていた女将に気づき我に返ったフェイフェイは、突き出していた人差し指に加え、中指と薬指もぴぴっと立てた。
「いや、もう三本おかわりー!」
 元気なその声に笑みを零した女将は、旅籠へ戻ると追加の団子を手に戻ってくる。
 盆の上に乗った団子は、三色団子――ではなく、紅と白の小さな二色の団子が交互に串に刺さったもの。梅の花の色をイメージして二色の団子にしたのだそうで、白の方には香り高い梅餡が包まれていた。
「いただきまーす!」
 フェイフェイがおかわりの団子にかぶりつこうと口を開けたところに、くつくつと笑みの音が耳に入る。
「花より団子、かな?」
 ふと見上げれば、長い髪を枝垂れ梅の枝のようにゆうらり風に揺らした青年、坂月・陽波(暁は流霞に埋む・f02337)がフェイフェイの食べっぷりに楽しげに笑っていて。
「いやいや、ちゃんと梅の花も堪能してるヨ!? ここだと梅の花の香りが風に乗って流れてくるから、お団子がより一層美味しく感じるアル!」
 むぐむぐと団子を頬張りながら抗議するフェイフェイに短く詫びて苦笑した彼は、旅籠の様子を確認しながら二階へと上がっていく。

 外にいた女将も、中で見かけた主も手伝いの人々も怪我はなく無事なようだ。それが一番、と案内された部屋の襖を開ければ、先に見た顔が高らかに笑い声を上げながらお猪口を煽ったところだった。
「おお、おぬしは先程の! カッカッカ! 勝利の後のお酒は格別、肉も最高じゃ!」
「へえ、それは良い。俺もご厚意に甘えて飯にしよう」
 新たに注がれた酒もぐいと干した牛若と、彼が被る天狗面である武蔵天狗・弁慶(fast.牛若丸・f14394)の威勢のいい声に笑みを返しながら、陽波も部屋の隅で膳が運ばれてくるのを待つ。
 やがて運ばれてきた梅づくしの膳は、一つ一つ丁寧に、丹精込めて作られたことが一目でわかる出来栄えで、陽波の箸もどんどん進んでいく。
 手にとった小鉢そのものも、真新しくはないものの丁寧に磨かれ、大切に扱われているのだろう様が見て取れた。良い主に恵まれているな、と周りを見遣れば、食器に反して整えられた調度品や家具の中にちらほら見つかるのは、真新しい小さな傷。
 恐らくは与太郎や泥棒達につけられたものなのだろう。
「あんな輩に絡まれるとは災難だったな」
 陽波自身も、盃に宿った魂だ。同じ道具である身として、その小さな傷を痛むように目を細めた。
「んん? おお、傷がついてしまったのか。残念なことじゃのう、折角綺麗な花瓶じゃのに」
 陽波の視線を追った弁慶も、立派な花瓶についた傷に眉を顰める。
「こういった芸術品も、それにおぬしが来る前に舞妓さんが芸を見せてくれたんじゃが、ええと、舞っちゅうんじゃったか。そういった伝統文化もええもんじゃ。しっかり守らんとのう!」
「そうだな」
 そのためにもどんどん食べるぞ、牛若! という弁慶の威勢のいい言そのままに、梅づくしの膳だけでは足らなかったのか、追加の肉をはふはふと口に運ぶ牛若と弁慶に首肯を返しながら、その食べっぷりに思わず感心した陽波も膳に舌鼓をうつ。
 窓の外には、やわらかに揺れる枝垂れ梅。
 用もなくゆったりと見る梅の花も、またいいものだった。与太郎などに独り占めさせるにはもったいないものだが、客足が戻れば、きっと沢山の人々がここからの景色を楽しむのだろう。
「そうだ、銭湯があるんだったね」
 腹七分目で手を合わせた陽波が、牛若が持つお猪口に酌をする舞妓に尋ねると、美しい笑顔で頷いた彼女が、あちらの廊下から裏手に出れば、と手振りで案内をしてくれる。
 間違って膳と一緒に片付けられないように、本体の盃を大事に抱えて廊下へ出ると、窓から先程までフェイフェイがいた長椅子が目に入った。
「あの団子も持ち帰れるかな?」
 美味しそうに頬張っていた姿を思い出し、戻ったら聞いてみよう、と楽しげに銭湯へ足を向けた陽波の背に、弁慶の高らかな笑い声と舞妓の鈴鳴るような笑い声が、いつまでもやわらかに響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久澄・実
まーちゃん(f13102)とォ!

はぁ~~、一汗かいた後の風呂はエエなぁ
存分に湯に浸かり酒まで堪能して
ほかほかと湯上がり上機嫌

しっかしまぁ
せっかくの温泉じゃ言うんに
まーちゃんも難儀じゃのぅ

連れ湯に誘うも断固拒否された片割れ
楽しみも半減じゃろうになぁ
なんぞ土産でも……あ、ねーちゃんねーちゃん!
なんかエエ気分なれる酒とかあるぅ?

酒瓶片手に
鼻唄携え廊下を闊歩
まぁちゃーん、今帰ったでェ!

一人寂しかったぁ?
温泉入れんとか残念じゃモンなぁ
なぁなーぁ、んなつれん事言わずに
ほら、お土産もろて来たから一緒呑もうやァ

あ、なになに?お酌してくれるん?
うはぁ、まーちゃんめっちゃ機嫌エエわ
珍しなァ!ねーちゃんに感謝しとこ


久澄・真
実(f13103)と

不特定多数が一緒になる露天風呂など潔癖の男が入るわけもなく
二階の桜の見える静かな部屋で一人
料理に花見酒にと舌鼓
…としていた所に風情の分からない煩い足音響かせながら入ってきた実を一見して米神に筋が一つ浮かぶ

他人の入った風呂なんかに入れるか
その上お前と入ったら録な事にならないのは目に見えてるしな

温泉でも一人騒がしくしているのであろう片割れの姿を想像してため息
けれどその不機嫌も土産だと言われ差し出されたものが酒であれば多少上昇傾向を見せる
へぇ、たまには気が利くじゃねぇか

窓際から移動しまだ残っていた料理の前へ座り直す
一仕事終えた後の満足感から珍しく片割れに酌をしたりもしてみようか



●仕事終わりの湯と酒と
「まーちゃん、露天風呂やって!」
「…………。」
 主に案内された銭湯に歓声を上げた久澄・実(●◯●・f13103)に返されたのは、久澄・真(○●○・f13102)の刺すような冷ややかな視線と、『入らない』という無言の圧だった。

 それから、ややあって。
「はぁ~~、一汗かいた後の風呂はやっぱエエなぁ」
 首筋に流れる水滴を拭いながら、存分に露天風呂と、それに風呂での枡酒を堪能した実は、今にもスキップでも踏み出すのではという程の上機嫌で旅籠へと戻ってきていた。
「せっかくの露天じゃ言うんに、まーちゃんも難儀じゃのぅ」
 連れ湯を断固拒否されたことを思い出せば唇を尖らせたくもなるが、真は潔癖症なのだ。仕方がない。
 ならばせめても代わりに土産でも、ときょろきょろ辺りを見回した実の目に、丁度良く酒瓶を手にした女中が飛び込んでくる。
「お、エエとこに。ねーちゃんねーちゃん! なんかエエ気分なれる酒とかあるぅ?」
 手を振って問いかけた実に、女中は朗らかに頷いた。

 一方の真はと言うと、二階の部屋で一人、窓際で艶やかに花開いた梅を眺めながら、梅の懐石料理と熱燗を堪能していた。
 料理は主の自信に違わぬ味、目の前には鮮やかな梅の花が立ち並ぶ街道の景色、そして美味い花見酒とあれば、舌鼓の一つも打ちたくなるというもの。
 しかし静かに一人の時間を満喫していた真の耳に、遠くから風情をぶち破るようにどすどすと響く足音と、上機嫌な鼻唄が近づいてくる。
 確認しなくても主がわかってしまうその足音に眉間を揉んでいると、足音が止まると同時に、すぱぁん! と勢い良く襖が開かれた。
「まぁちゃーん、今帰ったでェ!」
 開け放った襖の真ん中に仁王立ちする実の姿を一瞥して、蟀谷に青筋を浮かべた真の口から盛大なため息が飛び出す。きっと風呂でも一連の調子で一人騒がしくしていたのだろうことは、最早想像に難くない。
「なぁなぁなぁ、一人寂しかったぁ? 露天風呂入れんとか残念じゃモンなぁ」
「他人の入った風呂なんかに入れるか。その上お前と入ったら録な事にならないのは目に見えてるしな」
 睨めつける真の視線を意にも介さず、まぁまぁまぁ、などと宥めながら、実は素早く真の元に寄りにんまりと笑う。
「んなつれん事言わずに。ほら、お土産もろて来たから一緒呑もうやァ」
 ずい、と実が真の眼前に差し出した酒瓶を見れば、どうやらかなり上等なものの様子。途端にじとりとした真の視線が和らぎ、口端がに、と釣り上げられた。
「……へぇ、たまには気が利くじゃねぇか」
 唐紅の瞳を細めた真はすたりと立ち上がると、まだ残っている懐石料理の前へと腰を下ろす。
 ほら、と差し出された枡に一瞬ぱちりと瞬いた実も、その意に気づけばぱっと目を輝かせて真の前に膝をつき。
「なになに? お酌してくれるん?」
「煩い、要るのか要らねぇのか」
「いるいる! うはぁ、珍しなァ、まーちゃんめっちゃ機嫌エエわ! さっき酒くれたねーちゃんに感謝せななぁ」
 受け取った枡になみなみと透き通った酒が注がれれば、今度は実の番だ。真が手にした枡に、同じ様になみなみと酒を注ぎ返す。
「おっしゃ、乾杯しよや!」
「ハイハイ」
 楽しげに掲げられた枡と、仕方なしと言わんばかりにもたげられた枡は、同時に飲み干され。
 表裏一体の二人の様子を窓の外から眺めていた梅の花が、まるで微笑むかのように、ゆるやかな風に揺られていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユア・アラマート
無事に解決できてよかったよ。さて、あとはのんびりとしてから帰ればいいんだろうが……そうだな
この梅を見せたいし、イトに来てもらおう。彼女だってしっかり自分の仕事をしたんだし、労られるべきだ

というわけで、彼女が来る前に渡しは少し下準備だ
白地に赤い梅の花を散りばめた着物を借りて、舞妓さんに簡単に踊りを教わっておこう。後々別の仕事でも役に立ちそうだしな
イトが来たところで部屋の前で三つ指ついて待ち構え
いらっしゃいませ、……なんてね

後は本物の梅を楽しみながら食事とお酒を楽しませてもらうよ
ああ、イトにもお酌してあげよう。中身は未成年でも飲める甘酒だがね
美味しいお酒と食事に、満開の梅。いい景色だ



●豪奢な華と、労いの一時
 纏った白地の着物に咲き乱れるのは、外で鮮やかに咲き誇る紅と同じ、梅の花。
 銀の髪を丁寧に結ったユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)は、『待ち人』が来るまでの間に舞妓達から簡単な舞踊の手解きを受けていた。
「そこで膝を折って、そうそう、そのままたおやかに……まあ、筋がよろしゅうございますなあ」
「そう?」
 くすりと口端を上げて賛辞に応えながらも、後々別の仕事に役立てることもできよう、と見様見真似で舞を習得する目つきは、真剣そのものだ。
 そんな彼女の耳に、階下で「お待ち合わせのお客様の御案内を」と主が話す声が飛び込んでくる。
「おや、来たかな?」
 とっとっ、と軽やかに階段を上ってくる足音を確認して、ユアはすかさず舞妓達に目配せを一つ。

「こちらにございます」
「はーい! どうもありがとー!」

 しとやかな声に続き元気に礼を言う声が響いたかと思うと、部屋の襖がすらりと開け放たれた。
 仕事を終えた猟兵達を少しでも労おうと旅籠へやって来た赫・絲(赤い糸・f00433)は、自らが開け放った襖の先の光景に、大きな瞳をぱちりと瞬かせる。
「いらっしゃいませ、……なんてね」
 三つ指をついたユアを先頭に、ずらりと並ぶ舞妓達。各々が色とりどりの着物を纏っていることもあり、圧巻の光景だ。
「わーっ! わーっユアさんもおねーさん達もすごーい! 綺麗!」
 思わず目を輝かせて感激の拍手をする絲の様子に、ユアも満足げに頷いた。
「それ程喜んでもらえたなら準備した甲斐があったよ。さ、食事とお酒もあるんだ。一緒に楽しもう」
「えっ、私もいいの?」
「勿論。イトだって私達をしっかり送り届けてくれたもの、労られるべきだ」
 さあ、とユアが徳利を手にすれば、嬉しそうに頷いた絲がお猪口を手にユアの前に座る。
 着飾ったユアにお酒(と言っても未成年用の甘酒だ)を注いでもらうと、ちょっぴり背徳的な、それでいてとても贅沢な時間を過ごしているような気がして。絲は頬に浮かんだ照れの色を隠すように、ユアの分の徳利を手にした。
「じゃあ、ユアさんの分は私が」
 そうしてユアが手にしたお猪口を満たして二人で乾杯すれば、楽しい慰労の時間の始まり始まり。
「ああ、いい景色だ」
「うん、本当に綺麗な梅だね。お掃除おつかれさま、ユアさん」
 絲が向けた笑顔にゆるやかに笑って応えたユアは、ゆったりと、手の中の酒を飲み干した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霄・花雫
【リュシカおねぇさんと】

おねぇさん、お水生活してたみたいだし……あたし、おねぇさんに美味しいご飯食べて帰って欲しいな。
だから、梅の花が見えるお部屋で懐石料理ってやつを頂けたらなーって。

えへ、あたしもこういう場所初めて来るの。
だから今回の依頼はちょっと楽しみだったんだー。
わ、わ、これが懐石料理……すっごいね、盛り付け綺麗……。
んーっ、おいしー!すごいねすごいね!

梅の花綺麗だよねぇ、あたしの世界にあんまりこういう……えっと、風流?な空気ってなくて、いつでも何処でもお祭り騒ぎーって感じでね。
だから、こういうの見て回るの、すごく楽しいの。

ご飯食べたら温泉行こうね、おねぇさん。
枝垂れ梅、よく見えるって。


リュシカ・シュテーイン
【花雫さんとぉ】

花雫さんに囮役を任せてしまいましたのでぇ、行きたいところにお付き合いしますよぉ

わあぁ、これが懐石料理ぃ……!
最近はぁ、お水ばかりの食事でしたのでぇ、とぉっても助かりますねぇ、嬉しいですねぇ
とても美味しいですねぇ、涙が出そうですねぇ……!
こんな贅沢してしまってぇ、明日罰が当たりませんようにぃ!

はいぃ、この世界のお花はとても綺麗ですねぇ
元の世界でもぉ、お花はありましたがぁ、綺麗な花びらが舞い落ちる木はとっても珍しいんですよねぇ
いつか帰ることが出来たらぁ、大切な親友達にもぉ、この綺麗な姿を伝えねばなりませんねぇ

ふふぅ、そうですねぇ、この後は温泉で綺麗な枝垂れ梅、とても楽しみですよぉ



●お水御飯・脱出完了
「さぁさぁ、花雫さんには囮役をお任せしてしまいましたのでぇ、行きたいところにお付き合いしますよぉ」
 一通り主の案内を受けた後、どこに行きましょうぅ? とにこやかに尋ねるリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)を前にして、霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)は顎に手を当てしばし考え込んだ。
「んーっと、そうだな。おねぇさん、お水生活してたみたいだし……あたし、おねぇさんに美味しいご飯食べて帰って欲しいな」
 花雫のその提案に、リュシカの否がある筈も無く。
 旅籠の主に二人分の懐石料理を頼むと、旅籠の二階へと、いそいそと二人並んで上がっていく。

「私ぃ、実はこういうところに来るのは初めてでぇ」
「えへ、あたしもこういう場所初めて来るの。だから今回の仕事はちょっと楽しみだったんだー」
 共にサムライエンパイア出身ではない花雫とリュシカが、部屋の中の調度品や家具を物珍しげに眺めて料理を待つことしばし。
 二人の元に、待ちに待った懐石料理を乗せた膳を持った女中たちがやってきて、てきぱきと食事の用意を整えていく。
「それでは、ごゆるりと」
 一礼する女中達に礼を返し、襖が閉められたのを確認すると、二人は顔を見合わせて目を輝かせた。
「わあぁ、これが懐石料理ぃ……!」
「すっごいね、盛り付け綺麗……」
 花雫とリュシカの前に並んでいるのは、料理の彩りを引き立てる淡色の皿の上に、芸術品かのように盛り付けられた料理の数々。梅を使った品が多いからか、膳からはふんわりと梅の甘酸っぱい香りが柔らかに漂い、所々に、その目を楽しませる紅白の梅の花が飾られている。
「それではぁ」
「いただきます!」
 二人で手を合わせて、同時に料理に箸を伸ばし、一口ぱくり。
「んーっ、これおいしー! すごいねすごいね!」
「こちらの小さな器のものもとても美味しいですよぉ、花雫さん。最近はぁ、お水ばかりの食事でしたのでぇ、とぉっても助かりますねぇ、嬉しいですねぇ」

 こんな贅沢してしまってぇ、明日罰が当たりませんようにぃ!

 思わず拳を握って天井を仰いだリュシカの目尻にきらりと光るものを見て、「大丈夫、罰なんて当たらないからおねぇさん!」と花雫が慌てて宥めにかかる。
 どうどう、とリュシカを落ち着かせて再び膳へと箸を伸ばせば、その皿に可愛らしく並んだ、紅白の梅。
 窓の外へと目を遣れば、同じ色の花が咲く枝がふわふわりと風に踊っていて。
「梅の花綺麗だよねぇ、あたしの世界にあんまりこういう……えっと、風流? な空気ってなくて、いつでも何処でもお祭り騒ぎーって感じでね」
 だから、自由に駆けたその先で、知った世界にはない未知を識るのは、すごくすごく、楽しいことで。
 花雫の視線を追って梅の花を眺めたリュシカも、目尻を緩ませて頷く。
「私がいた元の世界でもぉ、お花はありましたがぁ、綺麗な花びらが舞い落ちる木はとっても珍しいんですよねぇ。いつか帰ることが出来たらぁ、大切な親友達にもぉ、この綺麗な姿を伝えねばなりませんねぇ」
 いつかのその日のために、目に焼き付けるように。リュシカは瞬きもせずに、風に攫われた花弁に目を細め、微笑んだ。
 その様子を微笑ましく眺めていた花雫が、そうだ、と思い出したようにぽんと手を打つ。
「ご飯食べたら温泉行こうね、おねぇさん。主さんが、枝垂れ梅、よく見えるって言ってたし」
「ふふぅ、そうですねぇ、美味しいものの後は温泉で綺麗な枝垂れ梅。いいですねぇ、とても楽しみですよぉ」
 にこやかに頷き、そうと決まればまず料理を目一杯堪能して、と再び懐石料理に舌鼓を打つ二人を彩るかのように、窓の外ではらり、はらり、紅白の花が舞い飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
いともこっちに様子を見に来てるかな
暫く和装のままうろうろして彼女を探す

見つけたら、ぐいぐい引っ張って
いとも着替えさせて貰おうよ
この服、呉服店で見繕ってもらったんだ

オブリビオン討伐のおまけって事で、このくらいの遊びは許されてもいいと思う
ここの装いで、この街を歩いてみようよ

満足するまで二人で散歩をして、そのあとは旅籠でごはんを食べよう
二階の部屋を借りて、外にある枝垂れ梅に風流を感じながら……まあ、呑むのは甘酒なんだけどね
残念そうな顔なんてしてないよ、ほんとだよ

今日ぐらいは沢山食べてもいいんじゃない? いともさ
おれはまあ……いつも通りに食べるけど

いとも初仕事、お疲れ様
ゆっくり休もうね



●灰絲道中膝栗毛
 彼女もこちらに様子を見に来ているだろうか。

 着流し姿で少女を探していた壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は、見慣れた赫いリボンを編み込んだ黒髪が廊下の先で揺れたのを見て取ると、ずんずんと近づいて少女の――赫・絲の腕を取った。
「わっ、かいちゃん!」
「いと、こっちこっち」
「えっちょっとどこ行くの」
「そこの呉服店。いとも着替えさせて貰おうよ。おれのもそこで見繕ってもらったんだ」
「わっちょっと!」

 灰色に手を引かれるままに呉服店へと辿り着けば、あれよあれよという間に店主の手により絲の着物が、帯が、次々選ばれていく。
 行儀文様の若草色の小紋に、大胆に梅の花があしらわれた帯。それに、呉服店の女将の好意により簪で髪を結い上げてもらった絲が灰色の隣に並べば、梅の名所を楽しみにやって来た、この世界の住人達のようで。
「このままこの街を歩いてみようよ」
 街道の掃除はやり遂げたのだから、きっとこのぐらいは許される、と灰色が歩き出せば、からころと下駄を鳴らして絲もその背を追った。

「この街道のあっちにもこっちにもハゲ泥棒が歩いてて」
「うわー、私も『視た』けど、あんまり想像したくない光景」
「ああ、この辺りでそいつらの親玉に命乞いされた」
「かいちゃんに命乞いって最も効果ないんじゃ」
「うん、ぼこった」
「ぼこってきてー、って言ったの私だけどそーゆートコ容赦ないよね」

 枝垂れ梅が立ち並ぶ街道を、猟兵達の活躍の跡を時に垣間見ながら端から端までのんびりと楽しみ旅籠へと戻った二人は、主から料理を用意してあるからと二階に通される。
「折角だし乾杯でもする?」
「いいけど、かいちゃんそれはダメ。こっちね、甘酒」
「…………」
「残念そうな顔しなーい!」
「してないよ、ほんとだよ」
 やいのやいのと言い合っていても、外でそんな二人の様子を笑うかのように梅の枝が風に揺れれば、その美しさ、風流さは思わず目を奪われる程で。
「お仕事おつかれさま、かいちゃん」
 これでこの梅も沢山の人が楽しめるね、と絲が告げれば、口許を緩ませた灰色が首肯を返す。
「いとも初仕事、お疲れ様。ゆっくり休もうね。――ほら、今日ぐらいは沢山食べてもいいんじゃない? これ美味しかったよ」
 そう言う頃には、灰色の前の膳はいつの間にやら、すっかり平らげられていて。
「着るものが変わってもいつものかいちゃんだねー」
 同じのをもう一つ、と通りがかった女中に頼む灰色の姿に、絲はからからと笑い転げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

嶋野・輝彦
旅籠の主に与太郎の部屋に案内させる
幾らため込んでるよ?
無ぇなら宴会に参加で良いんだが

ため込んでんなら金品を旅籠の二階からばら撒く
観光客に存在感、コミュ力
ご祝儀だぞオラァ!!

返すのどうのっても自己申告だろ?
揉めるしロクな事にならねぇよ
なら景気上げて行った方が金は生きるってもんよ

金ばら撒きながら
恫喝、存在感、コミュ力
「オラァあぶく銭だぞ!使え使え!使って金を回せ!ケチ臭い真似したらぶっ殺すぞゴラァ!」

旅籠の主に
「店の前に酒ェ並べろ!板場を回せ!蔵も空けろ全部売っちまえ!
書き入れ時だぞ!稼げ稼げ!オラオラオラァ!!」

酒も溜め込んでたのか?
二階から撒いちまうか
「ここが桃源郷だぁ!景気よく行くぞゴラァ」


秋遊・空桜
よかったなぁ、狼藉もん達もいなくなってめでたしめでたしや
主さんも大変やったなぁ、これからはここもぎょうさん人が来るようになるな

主さんのお言葉に甘えて、梅の花を眺めながら美味しいもんを頂かせてもらおか
お料理に飲みもんに甘味に…えへへ、至福の時やなぁ
花より団子って諺もあるけど、うちはお花もお団子も捨てられへん
両方あるのが一番や

咲き誇る梅の花、旅籠の様子、主さんの嬉しそうな顔…改めて眺める
…みんな無事や
うちでも守るお手伝いができたって思うと…嬉しいもんやね

(嶋野・輝彦さんがいたら声を掛ける)
今日はえらいお世話んなってもうたなぁ
ありがとうな、お兄さん
よかったら乾杯せえへんか?
「おつかれさん」の乾杯や



●さァさ、此れにて大団円
 時にどよめき、時に逃げ出していた観光客達は、平穏を取り戻した街道をそれぞれに、咲き誇る梅の花を眺めながら穏やかに歩き。
 猟兵達があちらこちらで料理を、酒を、風呂を楽しむ旅籠からは、賑やかな声が絶え間なく漏れ聞こえ。
 震えていた主は、右へ左へと忙しそうに駆け回りながらも、旅籠に戻った賑わいに晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。

 青から紅へ。暮れへと移りゆく空そのものを写したような瞳でその様を眺めていた秋遊・空桜(そらびじょん・f10801)は、旅籠の入り口、一等美しく咲いた立派な枝垂れ梅の下で、主が用意してくれた梅茶と紅白二色の団子を楽しみながら顔を綻ばせた。
 眺めた景色は、無事に戻った平穏は、どれも間違いなく、空桜が、猟兵達が守り抜いたものだ。
(うちでも守るお手伝いができたって思うと……嬉しいもんやね)
 その想いは確かに胸の内で暖かく灯り、一仕事終えた後の至福の時に笑みを零した空桜は、紅の団子にかぶりついて舌鼓を打つ。
「お味はいかがです、お嬢さん」
 梅香る樹の下、花も団子も楽しむその背に旅籠の主がそう声をかければ、振り返った空桜は満面の笑みで頷いた。
「ありがとう、美味しいよ。主さんも大変やったやろけど、狼藉もん達もいなくなって、これからはここもぎょうさん人が来るようになるな。めでたしめでたしや」
「……っ、みなさん方の、おかげ、です」
 思わず涙ぐんで言葉を詰まらせながらもそう絞り出した主に、突如、「その通り」と面倒そうな声が重ねられる。
「あれ、お兄さん」
 聞き覚えのある声の方へと空桜が目を遣れば、嶋野・輝彦(戦場傭兵・f04223)が辺りを見回しながら肩を揺らしてこちらに向かい来る姿が目に入り。
「ああ、お前はさっきの」
「そう、今日はえらいお世話んなってもうたなぁ、ありがとうな。――そうだ、主さん、このお兄さんにお酒持ってきたって!」
 輝彦の鋭い視線に蛇に睨まれた蛙のようになっていた主が、その声に慌てて取って返し、盆に酒を用意して戻ってくる。
「よかったら乾杯しよ、『おつかれさん』の乾杯」
 輝彦へと酒を手渡した空桜がほら、と湯呑を突き出せば、そういうのはいい、と口に出しかけた輝彦も押し切られ、こつりと湯呑と枡を合わせる。
「おつかれさん、お兄さん」
「おお」
 楽しげに湯呑へと口をつける空桜の姿に肩を竦めながらも、輝彦も手にした枡を勢いよく干した。

 そうして、冷えてきた外の空気に空桜が引き上げて行った後。
 輝彦は、主と共に与太郎が占拠していた部屋へと向かった。
 部屋に踏み入った瞬間に家探しを始めだす輝彦に、主も思わず部屋の入り口で目を白黒させていたものの、おいお前、と呼ばれればびくりと肩を揺らして輝彦の元に駆け寄る。
「はいっ、なんでしょう?」
「お前も商売人なら、儲かりゃそれに越したことはねぇだろう?」
「は? はぁ、そりゃあまあ……」
「なら良し」
 にぃ、と口端を上げた輝彦の手には、いつの間にか貨幣や真珠類など、様々な金品が握られている。どうやら、泥棒達が盗み出し、この部屋に与太郎が溜め込んでいたものらしい。
 それは最早、誰のものかもわからない。この街道で盗まれたものかどうかも。それらを持ち主に返すとなればたちまちに揉め事になることを、輝彦はよく知っていた。

 ならば、と。

 枝垂れ梅が見える窓をがらりと開け、そこから半身乗り出すと、大きく息を吸い込み街道へと金品を――投げた。
「オラァあぶく銭だぞ! 使え使え! 使って金を回せ! ケチ臭い真似したらぶっ殺すぞゴラァ!」
 金品に続いて飛んでくる大音声に、街道を行き交っていた人々も思わず息を飲んで足を止めるが、道に降ってきたものが金品と見るや否や脇目も振らず、我先にと飛びついていく。
「お前はそこで何ぼんやりしてやがる! 店の前に酒ェ並べろ! 板場を回せ! 蔵も空けろ全部売っちまえ! 書き入れ時だぞ! 稼げ稼げオラオラァ!!」
 輝彦の隣で呆然と街道の様子を眺めていた主は、突如向けられた怒声に思わず悲鳴を上げたものの、先程の輝彦の問いが何を意味していたのかにようやく思い至ると、直ぐ様一階へと駆け下りていく。
 その背に鼻を鳴らし、部屋を後にしようとした輝彦の目に飛び込んできたのは、隅に山と積み上げられた酒甕。
「んだァ、酒も溜め込んでたのか。仕方ねぇ」
 一つ、たぷりと音を鳴らした甕を手に今一度街道の方へと顔を出せば、旅籠の前では既に大宴会が始まろうとしており。
 甕をぐい、と掲げた姿を見上げる人々へと、高らかに告げる声が響く。
「ここが桃源郷だぁ! 景気よく行くぞゴラァ」
 応じる声もまた、高らかに。

 斯くして、クズ達による苦難に見舞われた旅籠は、結果的に、例年より多くの収益と客を得ることになったのだとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月07日


挿絵イラスト