●蒼穹に沈む
――どこまでも広がる青空。
白い雲海に浮かぶ無数の浮遊大陸が、生まれては消えていく。
空の世界「ブルーアルカディア」では当たり前の光景のひとつ。
この世界の理(ことわり)通り、今まさに沈もうとしている大陸が在った。
自分達の住み慣れた此の場所が寿命を迎える。
それを知った人々は、惜しみつつもその浮遊大陸を放棄せざるを得なかった。
残されたのは、限られた大地に造り上げた繁栄の名残。
それと、地を這う植物や野生の動物達を残して。
空を駆ける鳥のように自ら宙を渡れぬ者達は、最期を此の大陸と共にする運命にあった。
人々の去った大陸では、急速に荒廃が進んでいった。
無機質な建築物を覆うように蔦が這い、木々が伸び、陽の光を追って緑が生い茂る。
青々と広がる草地を小さな動物たちが駆け回り、鳥たちは広い青空に羽ばたいた。
上空を悠々と舞う数羽の鳥が、甘い香りに誘われて一本の果樹に降り立った。
金色に輝く果実、芳醇な香り立つ実を啄もうとしたその時――。
グラリと樹の生える地面が揺れ、それに驚いた鳥たちは慌てて逃げるように飛び立つ。
ぐらぐらと不自然に揺れるそれは自然な地殻変動ではない。
やがて一帯の地面そのものが小高い丘のようにぽこりと盛り上がり、
地面の下から空色のつぶらな瞳が姿を現した。
その瞳は広い青空に飛び去っていった鳥達を静かに見上げていた。
●沈みゆく天空都市
今から赴く場所は空の世界、ブルーアルカディア。
けれど飛空艇で空を駆け巡ったり、屍人帝国と戦ったり……、
と言った内容の任務ではない。
「今回、俺たち猟兵に舞い込んだ仕事は、大陸に残された魔導機械を運び出すことだ」
集った猟兵達に向けて、ノヴァ・フォルモント(月蝕・f32296)は普段どおり淡々と状況の説明を始めた。
既に大陸に居た住人や生活に必要な資源は粗方運び終えているため、そちらの心配をする必要は全くない。
然しまだ、都市中央に聳え立つ時計塔の内部に魔導機械が眠っていることが判明したのだ。
資源に限り在る空の世界では天使核を持つ魔導機械は貴重な存在だ、
出来るだけ運び出して欲しい。……というのが今回請け負った任務になる。
ただ、中にはそのまま運び出すには難しい物や危険な物も眠っている。
巨大な機械、武器の類がそれに当たるだろうか。
実際に行ってみなければ何が在るかは分からない。
けれどそのまま放置すれば、雲海に沈み屍人帝国として大陸が蘇った時に悪用されないとも限らない。
運搬が難しい物はその場で破壊するか、機能を停止させて封印して欲しい。とのことだった。
勇士達の協力で飛空艇を借りられるのは今日一杯。
沈む危険性の在る大陸で何時までも長居は出来ない。作業は昼間の半日限りらしい。
……とはいえ、目的の時計塔までは船着き場から然程遠くなく、道も整備されている。
作業に関しては急くことも無いだろう、合間の時間で荒廃した都市の景色を楽しむ余裕も在るかもしれない。
雲海に沈めばこの景色はもう二度と見られない。
荒廃し廃墟と化した都市を少し探索してみるのも悪くはないだろう。
もちろん、きちんとやるべき事は済ませた後でね。と、ノヴァは小さく微笑んだ。
魔導機械を回収して、無事飛行船が移住先の浮遊大陸へ到着すれば任務は完了する。
その後、今日の労いにと猟兵達のためにカフェを貸し切ってくれる予定も在るそうだ。
「せっかくのご厚意だ。そちらにも足を運んでみると良いんじゃないかな?」
雲海に沈む夕日を眺めながら、仕事終わりの夕暮れティータイムを。
朧月
こんにちは、朧月です。
太陽に照らされ、青々とした緑は良いものですね。
空の上より冒険と日常のお話をお届けです。
●概要(フラグメント)
1章:冒険『沈みゆく天空都市』
2章:ボス戦『シマヤドカリ』
3章:日常『空の花蜜カフェ』
●1章について
雲海に沈みつつある浮遊大陸から魔導機械を運び出すお仕事です。
住んでいた人々は既に避難しているので人の気配はありません。
その代わり、大陸全土が荒廃した廃墟の様相を呈し始めています。
何れ沈みゆく都市の探索をしてみるのも良いかも知れません。
●この章ではプレイングの内容を下記の何方かに絞ってください。
①魔導機械を運び出す作業に勤しむ。
②合間の時間に都市の探索や景色を楽しむ。
※POW/SPD/WIZは行動例ですので、特に気にせずご自由にどうぞ。
●2章について
大陸に住み着く巨大生物(オブリビオン)と遭遇します。
詳細は章開始時の断章にて追記いたします。
●3章について
魔導機械を乗せた飛行船は移住先の浮遊大陸に無事到着。
猟兵貸し切りのカフェで仕事終わりのティータイムが楽しめます。
養蜂家が経営する蜂蜜カフェで自家製蜂蜜を使用したメニューが特徴のようです。
蜂蜜を使用したワークショップ、お土産なども購入できます。
詳しいご案内は章開始時の断章に追記いたします。
●進行・プレイング受付について
マスターページ、シナリオタグでご案内します。
お手数ですが都度ご確認いただきますようお願いします。
●共同プレイングについて
【相手のお名前(ID)】or【グループ名】をご明記ください。
送信日は可能な限り揃えていただけると助かります。
●アドリブ・連携について
記号表記を設けてみました。必要な方は文頭に添えてください。
従来どおり、文章での記述でも大丈夫です。
◎…アドリブ歓迎。
☆…連携OK(ソロ参加者さま同士で合わせる場合があります)
◆…アドリブ・連携控えめ(出来るだけプレイング通りに再現します)
●以上です。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『沈みゆく天空都市』
|
POW : 雲海に沈む前にできるだけ魔導機械を破壊する。
SPD : 雲海に沈む前にできるだけ魔導機械を運び出す。
WIZ : 雲海に沈む前にできるだけ魔導機械を無効化し、封印する。
イラスト:クロマス
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夏目・晴夜
◎
リュカさんf02586と
②
二人で仲良く手分けして作業しましょう!
いや、どうだろうじゃなくて
私だって遊びたいのに狡いです!
此処を冒険、それは絶対楽しいやつですね…
よし、素早く作業をこなして冒険へ行きましょう
一緒に
うわ、舌打ちした
何か出た時はハレルヤが助けて差し上げますよ
それよりも今舌打ちしました?
よし、探検です!
植物に覆われた数々の建築物、実に退廃的で美しいです
そしてこのハレルヤ並みに神秘的…って、待って下さい
そうだ、敢えて足場の悪い所にも行きましょう
スリルあっての冒険ですよ!
…ん?なんですか、リュカさん(落ちる
…
…え、何かハレルヤに言う事ありません?
いや心配して下さいよ!
あと手を貸して下さい
リュカ・エンキアンサス
◎
晴夜お兄さんf00145と
②
そうだね…
お兄さんは働く
俺は周囲を見回る
それでどうだろう?
遊んでるんじゃないよ。役割分担
だってこんなところ冒険するとか絶対楽しい
…
……(ちっ
分かったよ。一緒に行こう
気を付けてね。虫とか竜とか出ても助けないからね
あーうん舌打ちは…褒め言葉だよ
というわけで探検する
旅慣れてるしこういうところは得意ではある。安全確認して迷わないよう地形を見ながらどんどん進む
昔住んでた人の生活の名残とか
珍しい動植物とか好き。見たい
…あ、お兄さん(そこ天然落とし穴
……(大丈夫か)
いや。帰ったらパイナップルでも食べたいね
…
……
いやほら。そんなこと言ってるからだよ
ごめんごめん(軽
はいはい、どうぞ
青空の下、快晴の天空都市。
依頼された作業を手際よく熟していた二人は一息をつく。
ふぅ、と額に滲む汗を軽く振り払った 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は清々しい笑顔を浮かべながら、燦々と照る太陽を見上げた。
「たまには、こうして身体を動かす作業も良いものですね」
心做しか陽に照らされた笑顔もキラキラと眩しく光っている気がする。
「さ、続きも手分けして作業しましょうか、リュカさん?」
「……ん、そうだね」
そう声を掛けられたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は相槌混じりの軽い返事をかえすと、何かを思い付いたようにくるりと振り返り。
「……役割分担。じゃあお兄さんは働いて、俺は周囲を見回る。それでどう?」
人差し指を交互に向けて、そう言うリュカの表情は大真面目に。
「えっ……!?いや、どうだろうじゃなくて、ですね!
私だって本当は遊びたいのに……それはズルいというものですよ!」
「遊んでるんじゃないよ。だってさっき、お兄さんも手分けしてって言ったし」
それに、と。リュカはもう一度荒廃した街の景色に目を向けて。
「こんなところ冒険するとか、絶対楽しいよ」
それは、此の場所に訪れた時から感じていたけれど口に出さなかった言葉だ。
晴夜は軽く唇を尖らせて。
「……此処を冒険。それは絶対楽しいやつですね。
よし、それじゃあ残りの作業もササッと終わらせて冒険に行きましょう。
一緒に」
「…………、一緒に?」
晴夜を置いて自分だけ悠々と探検をしよう、なんて考えていたリュカは視線を逸らすと、ちっと小さく舌を鳴らす。
――うわ、今リュカさん舌打ちしました?
「ふふ、一緒にです」
「……はぁ。わかったよ、じゃあ一緒に行こうか。
でも気を付けてね。虫とか竜とか、何か出て来ても俺は助けないからね」
「それは大丈夫です。その時は逆にこのハレルヤが助けて差し上げますよ。
……あ、それよりも。さっき舌打ちしました?」
にっこにことリュカに笑顔を向ける晴夜。
「あー……。うん、あの舌打ちは、褒め言葉みたいなものだよ」
そんなこんなで、残った作業をテキパキと終わらせた二人は冒険へと出発する。
目指すは目の前に広がる廃墟と化した都市。
二人が歩くのは嘗て人々の往来で賑わっていたであろう大通りだった。
けれど今は朽ちたタイルが剥がれて転がり、隙間からは雑草たちが姿を覗かせている。
広場らしき中央には立派な噴水もあるようだ。勿論水は張っていない。
枯れた噴水は苔を纏い、水の代わりに青々とした植物が溢れ返っていた。
まだ人々が去ってからそれ程の歳月は経っていない筈だった。
けれど、放棄された街はまるで自然界に帰るように急速に緑にのまれている。
この時をずっと待っていたかの様に、伸び伸びとその青葉を茂らせて。
「――植物に覆われた数々の建築物、実に退廃的で美しいですね」
朽ち果てていく廃墟の儚さと美しさ。そして自然の力強さを感じながら。
静まり返った街並みにそよぐ風が、晴夜の柔い髪を揺らす。
「ふふ。そしてこのハレルヤ並みに神秘的……って、待って下さいリュカさん!」
雰囲気に浸る晴夜を他所に、リュカはずんずんと先へ進んでいた。
旅慣れしているリュカにとって荒れた土地を進むのは造作もないことで。
安全確認と帰り道で迷わないように地形を把握しつつ、崩れた塀の瓦礫をよじ登る。
登りきった塀の先に広がるのは、庭園のある大きな屋敷だった。
「何かありました?――って、豪邸ってやつですかね。これ」
レンガ造りの壁は殆どが蔦に覆われて、嘗ての威厳は見る影も無い。
庭にある木々も剪定されず伸び放題、花壇も雑草に溢れて荒れ放題だ。
「ちょっと探検してみよう」
思い付きでヒョイと塀から飛び降りたリュカは荒れた庭園を奥へと進む。
晴夜も後を追うように降りると、サクサクと庭の草を踏み締めた。
「これ、不法侵入になりません?」
「うーん、どうだろう」
嘗てはどんな富豪が住んでいたのやら。そんな事も今の二人には関係無い。
屋敷の窓から部屋の様子を覗き込む。
棚やソファなど、幾つかの家具は置かれたままになっていた。
運び出せなかったのか、要らなくなって置いていったのか。
何れにせよ、再びこの家の主が戻ってくることはない。
「……何だか勿体ないですね。まだ普通に住めそうです」
「――なら、晴夜お兄さんが住んでみる?」
「ふふ、遠慮します。街と一緒に心中なんて御免ですよ」
一頻り敷地内を見て回り、リュカが塀沿いの木屑の上を通り過ぎた時だった。
足元でミシリと不穏な音が鳴る。
「――あ、そこ」
「……ん?なんですか、リュカさ―――、」
後を追うように歩いていた晴夜に声を掛けるが、それは間に合わず。
足元の木屑がバリバリと音を立てて割れ、ぽっかりと空いた穴が姿を現した。
晴夜は穴に吸い込まれるように、すぽんとリュカの視界から消え去ってしまう。
「……いや、えーと。帰ったらパイナップルでも食べたいなって」
リュカは少し心配そうに、そろりと足元の穴を覗いた。
使われなくなった枯井戸か何かだろうか。穴は深く、底は真っ暗で見えない。
井戸の端には何とか手を引っ掛けた晴夜がぶら下がっている。
「……え、リュカさん。この現状のハレルヤに何か言う事ありません?
いや心配して下さいよ!
あと、手を貸して下さい……」
下を見る勇気もないが、落ちたら暗闇へ真っ逆さまだ。考えたくもない。
「いやほら。そんなこと言ってるからさ。ごめんごめん。
はいはい、どうぞ」
手を伸ばしたリュカは何とか晴夜を穴から引っ張り上げた。
前途多難な二人の冒険はまだまだ続く――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
瑞月・苺々子
【星縁】◎②
もも、お空の上には初めてきたの
ちょっと変わったお仕事の途中だけど
お散歩でもして休憩しましょ?
もももレイラも迷子にならないようにしなきゃね
見たこともないお花や建物がたくさん!
こういう景色、頽廃美っていうのだっけ……?
キレイね
ねえ
レイラの旅をする理由
よく考えたら聞いたことなかったかも
2人きりなのだから教えてくれる?
ももはね、たくさんの思い出を両親に伝えるため!
(レイラ、嘘をつく時はね
まばたきをしなくなるの
あまり訊かれたくないこと訊いちゃったかな?)
何だか甘いもの欲しくなっちゃったね
あっ、あのお花の蜜吸ってみよう!
白いお花だからきっと甘いよ
ツツジのお花とか舐めたことない?
ふふ、あまいねぇ
レイラ・ピスキウム
【星縁】◎②
空の上の都市……、あまり来る機会が無いからね
うん、良い経験になったかも
苺々子さんより僕の方が働いてるのは秘密です
小さな子に力仕事は危ないからね
雲の上、けれどここは確かに大地
時の経過でしか織り成す事の出来ない景色
……ええ
綺麗ですね
ふふ、苺々子さんらしい理由
僕の旅の理由……
何てことは無いです
"ただ美しい景色を心に沢山留めておく"
これだけ
勿論"知らない事をもっと知りたい"もあるよ
(本当の理由は
彼女にも
誰にも
良い顔をされないから
今も
これからも
打ち明けないよ)
……毒とか無い?
あなたは僕が知らない事、何でも知ってるね
何だか僕が失くしてきた子供の頃の思い出を
今埋め合わせてるみたい
……甘いね?
自分達が踏み締める大地は確かに此処に存在する。
けれどこの地も全て空に浮かんでいるなんて、中々想像は付かないものだ。
「空の上の都市……考えると本当に不思議ですね。
あまり来れる機会も無さそうだし、今回は良い経験になったかも」
澄み切った青空に昇る太陽を見上げ、レイラ・ピスキウム(あの星の名で・f35748)は眩しそうに額に手を翳した。
「ふふ。ももも、お空の上には初めてきたの」
道端に咲く花をしゃがみ込んで観察していた 瑞月・苺々子(苺の花詞・f29455)はそう言うと、たたっとレイラを方へ駆け寄る。
「お仕事、疲れちゃった?少し休憩しましょうか」
魔導機械を見つけて運び出す。
単純だが、意外と体力は使う作業だ。
「……うん、実は少し。休憩したいなって僕も思ってた」
レイラは心做しか頼りなく、へらりと笑みを零す。
身体の小さな苺々子に力仕事は危ないからと、密かに自分が率先して働いていたのは言葉にしない。
もしかしたら、勘の良い彼女は気付いていたかもしれないけれど。
ちょうど太陽も天辺に差し掛かる頃合いだ。
お昼も兼ねて休憩を終えた二人は、周辺をのんびりと散歩してみる事にした。
「見てみて、レイラ。知らない建物やお花がたくさん!」
天空都市の建物は二人にとってはあまり見慣れない様相で。
その造りもさる事ながら、蔦に覆われた壁や屋根、それを彩るように咲いた花々。
緑にのみこまれた街はもはや人の住めそうな環境ではない。
まるで別世界にでも来たようだった。
「こういう景色、頽廃美っていうのだっけ……?キレイね」
そよそよと暖かい風が月白の髪を揺らす。
そっと目を閉じれば、風に乗って遠くの鳥や動物たちの鳴き声が聴こえてくる。
草木のさざめきも、ざわざわと賑やかに話しかけてきた。
「時の経過でしか織り成す事の出来ない景色。
……ええ、綺麗ですね。とっても」
レイラも苺々子の隣に並び、何れ沈みゆく都市の光景を眺めた。
隣に並んだレイラを横目で見上げ。苺々子はぽつりと言葉を零す。
「そういえば、レイラが旅をする理由って聞いたことなかったかも。
今日は二人きりなのだから、教えてくれる?」
「ちなみにももはね、たくさんの思い出を両親に伝えるため!」
苺々子は無邪気に笑い掛け、返事を促すようにレイラの反応を伺った。
見上げる瞳は青空を映してキラキラと輝いて。
レイラは見下ろす視線をそっと合わせると、柔く微笑みを返し軽く膝を抱えた。
「ふふ、それは苺々子さんらしい理由だね。
僕の旅の理由、か……」
瞳に刻まれた星は、天空都市と青空と、更にその向こう側を見つめて。
「――何て事はない理由だよ。
こんな風に"ただ美しい景色を心に沢山留めておく"、それだけかな。
勿論、"知らない事をもっと知りたい"って気持ちもあるよ」
(「――旅をする本当の理由は別にあった。
でもそれを聞いたら、彼女にも、誰にも。きっと良い顔をされないだろう。
だから今も、これからも。誰にも打ち明ける事はない」)
レイラは遠い空を見つめたまま、瞬きも忘れてそう呟くと。
苺々子の方へ振り返り、そっと笑みを零した。
「……ふうん、そっか。それなら今日ここに来たのは正解だった?」
(「――レイラが嘘をつく時の癖。ももは知ってるの。
まばたきをするの、忘れちゃうんだよね。
あまり訊かれたくないこと、訊いちゃったかな?」)
心做しか向けられた笑顔も寂しそうに見えて。
苺々子はすくっと立ち上がると、ぐーっと伸びをした。
「おはなししてたら、何だか甘いものが欲しくなってきちゃった。
あ、あのお花の蜜吸ってみよう!」
たたっと苺々子が向かった先には、住宅街の植え込みに咲く白い花。
名前は分からないがその形はツツジの花に似ていた。
花をひとつ摘み取り、茎との境目をぱくりと咥える。
「……毒とか、無いの?」
「ん、白いお花だからきっとだいじょうぶよ。ほら、甘い」
苺々子はもう一つ花を摘み取り、レイラにそっと手渡した。
口には白い花を咥えたまま『こうするの』と示すように笑顔を浮かべて。
「……本当だ、甘い」
そっと咥えてみれば、さらりとした甘い味がレイラの口の中に広がる。
こうして何処にでも在るような花の蜜を味わえるだなんて、レイラには思い付きもしないことだった。
(「あなたは僕が知らない事を、何でも知っている」)
楽しそうに自然の中を駆け回る苺々子を見て、レイラは自分が体験出来なかった子供の頃の思い出を今取り戻しているような、そんな気がした。
「レイラ!美味しそうな木のみがあるの、あれも食べてみましょ!」
ぴょんぴょんと手を伸ばして跳ねる苺々子の頭上には、真っ赤な木苺が実っている。
「ふふ、取ってあげますね。今行きます」
そっと咥えていた白い花を植木に戻し、レイラは愉しげに駆けていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
結・縁貴
かみさま(f16930)と
魔導機械と天使核を雲海に落とさないのが目的で、壊したり封印しても構わない
…つまり、落ちなければ所在は問わないってことだ?
じゃあ俺の懐に入れても問題ないですよね、かみさま!
この因果律捻じ曲げる動力源、ずっと気になってたんです!
時計塔に付いたら「御縁」を探そう
俺とかみさまと御縁が深い、俺達が持ち出す道筋が在る魔導機械を
御縁の糸が結ばれていれば自然と辿り着ける
持ち出しは…、…俺の仕事ないですね?
かみさま相変わらず多芸で!
移送の際に、天使核と「場からの認識」の御縁は斬っておこうね
認識されなくば、其処に無いのと同じだ
かみさまはおやさしいなァ、見事な力の行使で
邪魔せぬよう見守るよ
朱酉・逢真
虎兄さんと/f33070
心情)そォなるなァ。じゃ、心臓集めと行こう。
行動)飛空艇の内部につながる"裂け目"を開いて、眷属《獣》らを喚び出して運ばせよう。場所は虎兄さんが教えてくれらァ。武器兵器は俺が触れば腐食風化する。この宿(*カラダ)は病毒の塊だからね。そうやって核に触れないように、泥みてェになった周りをどけよう。兄さん、取り分だよ。俺の本命はこっちだ…《鳥・蟲・植》を喚び出し、そいつらを通じて残る"いのち"へ呼びかける。このまま島とともに死ぬか、他の島に移って生きるのか。選ぶがいい、未だ生きる"いのち"よ。移るなら、他の島に通じる裂け目を作ろう。植物だって眷属らが掘り出してつれてくさ。
――雲海に沈む大陸。
目の前に見える景色も、物も、小さな命たちも、
文字通り全て消えて無くなる。
それはもう変えることの出来ない未来だった。
でもそれなら、沈む前に少しくらい拝借しても構わないだろうか。
還せる当てはないけれど。
だってもう、持ち主であった人間たちは此等を置いて早々に逃げ去ってしまったのだから。
「…つまりはだ。落ちなければ其の所在は問わないってこと?」
今回、猟兵たちに舞い込んだ依頼は。
魔導機械、それに使用されている天使核を雲海に落とさない事が重要視されていた。
勿論、貴重な天使核を少しでも回収しようとする目的も在ったかもしれないが。
壊したり封印しても構わないという辺り、回収に関しては出来る範囲で、なのかもしれない。
「じゃあ俺の懐に入れても問題ないって事ですよね、かみさま!」
翠縁の瞳を輝かせ、結・縁貴(翠縁・f33070)は青空に向かって聳える時計塔を目前に意気揚々と一歩を踏み出した。
「……まァ、見方を変えればそォなるなァ」
頭上に照る初夏の太陽へ眩しそうに目を細めると、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は口端に僅かに笑みを湛える。
「この世界にしか存在しない天使核って動力源、俺ずっと気になってたんですよね」
天使核。それはこの世界のオブリビオンの心臓、其の物だ。
オブリビオン達が生きるための動力源、命の核。
その輝きがどんなものか、見て・触れて。この手に取ってみたい。
縁貴は先導して時計塔の内部へ足を踏み入れると、神経を研ぎ澄まし"縁の糸"を手繰り寄せる。持ち出すべき魔導機械の所在、其処へと辿る道。
塔内の階段を登り、歩む足がぴたりと一つの扉の前で止まった。
「この部屋……、何かありそうですよ」
取っ手に手を掛けると、まるで向こう側から迎え入れるようにするりと軽い力で扉が開く。
中は然程広くない小部屋だった。
棚に積もった厚い埃、締め切った部屋の空気が重く伸し掛かる。
縁貴は軽く咽返ると、正面に見える部屋の窓をばっと全開にした。
「……随分長いこと、使われていない部屋みたいですね?」
埃の積り具合からして、この大陸が沈む話が出る以前からずっと、忘れられていた場所のようにも思えた。
「……あァ、そうみてェだなァ。
けど、兄さんのおかげで目的のモンは見つかったみたいだぜ?」
逢真が見上げる先を縁貴も目で追えば、棚や壁には汎ゆる魔導機械が整然と並べられていた。
「うわあ。何でしょうコレ、魔導武器収集家の部屋?
どれも綺麗で使われた形跡は無いみたいですけど……」
嘗て貴重な魔導武器をコレクションする輩が存在したのだろうか。
けれど長い年月、足を踏み入れた形跡の無い部屋の主は疾うの昔に亡くなったのか、何かの理由で来れなくなったのか。何れも想像の域を出ない。
「……ともかく!
これだけ沢山運び出せば仕事は十分したと言っても大丈夫そうですね。
でもあの階段を何度も上り下りは……、さすがの俺でもちょっと堪えそう」
「はは、虎兄さんは場所案内してくれたからなァ。
俺もそろそろ働いておくか」
そう言うと逢真は部屋の壁に向かって軽く手を翳し、其処に別の場所へと繋がる"裂け目"を開いた。繋げた先は飛空艇の内部だ。
この場から直接運び出せば移動する手間も省けるというもの。
眷属の《獣》らも喚び出して、汎ゆる獣達に手際よく運ばせてゆく。
「そォだ、兄さんは心臓が欲しいンだったな?」
逢真は部屋に在る魔導武器の中、一際大切そうに飾られたひとつに手を伸ばした。
触れた機械は逢真の毒に侵されて腐食し、忽ち泥のようにその形を無くしてゆく。
機械の心臓、天使核には触れないように。腐食した泥を払い除けて。
「ほら、兄さんの取り分だよ」
「わあ!ありがとうございますね、かみさま!」
縁貴は掻き分けられた泥の中から、金色に輝く核を慎重に取り出した。
手にした核にはズルリと様々な"縁の糸"が絡みついている。
今までこの核が辿ってきた道行きに存在した、証。
縁貴はゆらりと手元に具現化した鋏でそれらの糸をぱちん、と切る。
これでもう、この核は"其処に存在しなかった"事になる。
それを知り得るのは今この場に居る二人だけだ。
満足そうに天使核を見つめる縁貴を横目に。
逢真は部屋の窓の外、時計塔の小さなテラスから望む景色を眺めた。
人々の消えたこの街には未だ沢山の”いのち”で溢れ返っている。
然しそれらも、そう遠くない未来に全て無に消える定めなのだ。
逢真は《鳥・蟲・植》の眷属も呼び出し、
それらを通じて島に取り残された"いのち"へと呼びかける。
(「このまま島と共に死ぬのか、他の島に移って生き延びるのか」)
自ら選ぶがいい、と。
未だ生きる意思が在るならば、俺が道筋を示そう。
――瞬間、空気が静まり返り。
やがてザワザワと何かが迫る音が響いてくる。
周囲に生い茂る木々や草花、鳥や小動物、ちいさな虫達。
其れ等が視界を覆うように一斉に逢真の前に姿を現した。
「……そうか、生き延びたいンだな。それじゃあこの先へ征くといい」
逢真が手を翳して創り出したのは新たな"裂け目"
それは此処とは別の、他の島へ通じている。
「時間がアレば、この島の"いのち"を丸ごと移してやりたいが」
生憎、かみさまも万能ではない。
それに、本来死ぬはずだった過剰な"いのち"を残せば何れ何処かで歪みが生まれる。
今回はたまたま縁が合った、それだけのことだ。
「へへ、かみさまはおやさしいなァ、見事な力の行使で」
後ろで様子を見守っていた縁貴は大切そうに天使核を握り締めて。
「それじゃ、仕事も終わったし俺らも帰りましょうか?」
開け放たれた部屋の窓からは、そよりと柔らかな薫風が吹き抜けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
よーし!運び出し作業頑張るよ!
ペンギンクルーと一緒に、ヨナに運び込めるだけ運び出すよ!
運搬技能100の運び特化のキング&エンペラー型と、牽引用のカスタムをしたフロヲトバイ紅路夢で、楽しく道中を楽しみながら、お仕事をしていこうね!
危険な機械は停止が必要みたいだけど、そこはぼくの出番だね、停止コード(メカニック)を作動させて、安全に冷温停止で持ち出していこう。
……見れば見るほど、立派な街だったんだね。
……そうだ!写真におさめていこうよ!ペンギンクルー🐧も一緒に、あの時計塔を背景にして!
いつかなくなるとしても、何かの形に残しておくのも、きっと悪くはないはず。
愛用のフロヲトバイ・紅路夢に跨って、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)は颯爽と天空都市を駆け抜ける。
緑に溢れた街、初夏の風が心地好く吹き抜ける。
状況が違えばこのままドライブにでも駆けたくなる陽気だった。
キュッとバイクを止め、目的地の時計塔に到着した鈴鹿は紅路夢で牽引していた空飛ぶ大きなクジラの頭をぽんぽんと軽く撫でた。
鯨を模したそれは浮遊する小型船、
鈴鹿はそれを『ヨナ』と呼ぶ、スカイクルーザーだ。
「さ、お仕事だよ!ペンギン乗組員!」
鈴鹿が喚び掛けるとクジラの頭部の蓋がぱかりと開き、中からぴょんぴょんと機械仕掛けのペンギンクルー達が元気よく飛び出してきた。
乗組員たちは総勢9匹。
運搬技能に優れたキングペンギンとエンペラーペンギン達だ。
ピシッと横一列に整列すると、鈴鹿はうんうんと笑顔を零した。
「よーし!それじゃあみんなで運び出し作業、頑張るよ!」
えいおー!という掛け声とともに。
鈴鹿とペンギンクルー達は時計塔内部へと楽しげに乗り込んでゆく。
魔導機械を見付けるのはまるで宝探しのようで。
時計塔内部に地下を見つけたり、秘密の小部屋を見つけたり。
そのまま持ち出すには危なそうな魔導武器の類は、鈴鹿得意のメカニック技術で停止コードを作動させ、機能を停止させてから安全に持ち出していく。
そうして、気付けば探索時間はあっという間に過ぎて行った。
通りに止めていたスカイクルーザー『ヨナ』に見つけた魔導機械を乗せられるだけ乗せて、後はこれを飛空艇まで運べば此処での仕事は完了する。
ふぅ、とひと仕事を終え。
鈴鹿は改めて退廃した天空都市の景色に目を向けた。
立派な大通りを中心に広がる住宅街やお店の数々。
目の前の時計台も然ることながら、遠い丘の上にはお城も聳え立っているようだ。
「……見れば見るほど、ここは立派な街だったんだね」
きっと沢山の人が生活して、沢山の思い出が刻まれた街だ。
けれど、この景色も近い未来に全て雲海に沈み消えてしまう。
少し寂しさも覚えつつ、鈴鹿は あ!と思い立ったように鞄の中を漁った。
「……そうだ!写真におさめていこうかな。
ペンギンクルーたちも一緒に、あの時計塔を背景にして!」
我ながらいいアイディア!と、
カメラと脚立を準備して鈴鹿とペンギンクルー達は時計塔を背に集まった。
いつか無くなる光景だとしても、
こうして何かの形に残して置くのは、きっと悪くない。
この写真と共に、この瞬間の思い出や記憶も一緒に残せるはずだから。
大成功
🔵🔵🔵
アレクシス・ミラ
【双星】②
◎
セリオスが運んでくれた機械達はペンダントで触れて
【星灯の隠処】の森に一時的に保管していこうか
あとは飛空艇に戻って…
セリオス?
…機械は時計塔の中だと聞いたけれど?
駄々をこねる彼に苦笑ひとつ
…君もお手伝いを沢山頑張ってくれたしね
分かった。少しだけだよ
空の街をふたりで歩こう
文明達が皆自然に還っていく…
はは、本当だ。此処は空の上だったね
気付けば僕も子供の頃みたいに楽しむようになって
…そして思い出した
この島は沈んでしまうこと
此処に生きる命も島の外へ連れて行けたら、なんて考えが過ぎってしまうけれど
それを決めるのは…きっと自然の彼らだ
だから…この空にこの島が在った事を、僕は記憶の中に残していきたい
…うん。そうだね、セリオス
秘密基地らしき場所に行けば
ほんの少し寂しさも感じるようで
…その中で聞こえた僕達の故郷の歌
この歌は…そうだ
葉で草笛を作って歌声と合わせる
久々に吹くが…ちゃんと覚えている
青空の上に確かに在ったもの
最後までそこに在るもの
…響く君の歌声
寂しさはない…優しい記憶
ー忘れないよ、ずっと
セリオス・アリス
【双星】②
アドリブ◎
歌で身体強化して、アレスのところに機械を運ぶ
よぉし!こいつでこのへんは…
気合を入れて持ち上げたところで機械に隠れてた道を発見
外に続く道みたいだよな…
なぁアレス!
ウキウキ顔でアレスを呼んで
こっちにも機械があるかもしれないだろ!
いいや他にも何かあるかもしれない!
なんて駄々をこねつつ説得だ
二人で空の街を冒険だ
何か子供の頃に戻ったみたいで楽しいな
しかし、空の上にこうやって街があるの、不思議なカンジだよなぁ
これがそのまま沈んでいくってのも…
ならしっかり覚えておかなきゃな!
街の人たちだけじゃなく、俺達の記憶にも
…っと、みろよアレス!
ここ、秘密基地みたい
大きく息を吸って、耳を澄ませる
賑やかな人の営みはもう聞こえない街…
ならせめて、思い出す街が寂しくないように歌を歌おう
故郷でよく聞くわらべ歌を歌えば
アレスがそれに合わせてくれた
アレスと同じ色の
溶けるような空と街
思わず見とれちゃうようなそれと
優しい音楽
俺の記憶に残るこの街は、とってもキレイで、忘れらんねぇんだろうなぁ
蒼穹の運ぶ初夏の風が、新緑の薫りを連れて優しく吹き抜ける。
時計塔の欠けた天窓からふうわりと舞い込む花びら、射し込む陽光のカーテン。
その光景に朝空の青い双眸を柔く細め、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は目の前の魔導機械にそっと小さなペンダントを近付けた。
すると、機械はペンダントが触れた空間に音も無く吸い込まれてゆく。
空間の先は限られた者のみが出入りできる緑溢れる森の隠れ処。
ユーベルコードで創られたその場所に、アレクシスは一時的に集めた魔導機械を保管していった。後は飛空艇に戻り、送った機械を再び呼び戻すだけだ。
「セリオス、おつかれ。そろそろ飛空艇に戻るかい?」
アレクシスが声を掛けた先、部屋の隅でガタゴトと何かを探す人影。
「――アレス、もうちょっと。ここにもまだあるみたいなんだ。
こいつを運んだら終わりに……ん?」
華奢な体躯で棚を退かし、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は壁際に残されていた大きな魔導機械を見つけ、それを持ち上げた。
すると、まるで隠されていたかのように不思議な扉が姿を現したのだ。
扉は木製の、大人が屈んで入れる程度に小さなもの。セリオスが衝動的にドアノブへ手を掛けると、軽い力と軋んだ音を立ててゆっくりと扉は開かれてゆく。
開いた隙間から覗くのは外から射し込む陽光に照らされた、緑生い茂る草地。
――もしかして外の何処かに続いている?それとも庭か何か?
何方にせよ、こんな風に隠してある扉なんて。何だか気になってしまう。
「なぁアレス!こっちこっち」
「セリオス?」
ぶんぶんと手を振って手招くセリオスに、アレクシスは軽く小首を傾げつつ様子を覗き込む。
「なんか不思議な扉を見つけたんだ!
外に繋がっているみたいだけど……ちょっと行ってみないか?」
「……外に?機械は時計塔の中だと聞いたけれど?」
「ゔ。いや、こっちにも機械があるかもしれないだろ……!
いいや他にも何かあるかもしれないし!なぁ、ちょっとだけ行ってみよう」
はしっとアレクシスの服の裾を掴み、キラキラと瞳を輝かせるセリオスを見て。アレクシスは、ふぅ。と小さく息をはいた。
「……分かった。少しだけだよ。
セリオスもお手伝い、沢山頑張ってくれたしね」
アレクシスが少し困ったような笑みを浮かべ頷くと、セリオスはやった!と小さく声を上げて満面の笑顔を向けた。
――扉をくぐり抜けた先は、太陽の下。どこまでも続くような細い小路。
青い空に流れてゆく白い雲を見上げ、緑生い茂る路を歩き、木々のアーチをくぐる。
見知らぬ土地、空の街を冒険する二人は自然と手を繋ぎ――。
「何だかこうして歩いてると、子供の頃に戻ったみたいで楽しいな」
小さな世界を冒険する、子供心のワクワクした気持ち。
自分にもそんな頃があっただろうか。
セリオスがふと言葉を零すと、隣を歩くアレクシスも柔く微笑んで。
「そうだね、何だか懐かしい気持ちだ」
アレクシスも気付けば子供の頃のように、この冒険を愉しんでいた。
……けれど、同時に今の状況も思い出す。
この島は何れ沈んでしまう事に。
人々が消えて、文明の名残が自然に還っていくさなか。
残されたこの自然も、命たちも、皆一緒に島の外へと連れ出せたら――なんて。
そんな考えも過ってしまうけれど。きっとそれを決めるのは自分達ではない。
「空に浮かぶ街、沈む大陸か…。不思議なカンジだよなぁ。
足元にあるこの地もそのまま沈んでいくってのがさ……」
セリオスも同じように、島の未来を憂い。ふ、と青空を見上げて。
「……でも、それならさ。しっかり覚えておかなきゃな!
街の人たちだけじゃなく、今日ここに来た俺達の記憶にも」
セリオスのそんな横顔を見て、アレクシスも小さく頷いた。
「……うん。そうだね、セリオス。
この世界の空にこの島が確かに在った事、僕も記憶の中に残していきたい」
おんなじ気持ちだ、とセリオスは振り向くと嬉しそうな笑顔を零して。
次いで、あ!と何かを見つけたように人差し指を前に向ける。
「……っと、みろよアレス!」
時計塔を抜け出し、続いた小路の先で辿り着いたのは街の片隅の小さな空間。
木々や緑に囲まれ周辺の住宅街から隠れるようにひっそりと存在したその場所は、
「なんだかここ、秘密基地みたいだ」
街の子供達が集まる、秘密の場所だったのだろうか。
転がった丸太や切り株は椅子やテーブル代わりに、天井を覆うように伸びた木々の葉の隙間から零れる陽光はキラキラと瞬いて。大きく息を吸えば、心地好い自然の薫りが胸いっぱいに広がる。
耳を澄ませば、子供達の笑い声や賑やかな人々の声も聴こえるような気がしたけれど……。セリオスがぱちりと青い瞳を開いても、目の前には秘密基地に残された緑が溢れ返っているだけだった。
――しん、と静まり返った秘密基地に、木々の隙間から涼やかな風が吹き抜ける。
物寂しさを感じ取ったセリオスはきゅっと口を噤み、そしてそっと唇を開いた。
紡ぎ出す歌声は故郷でよく聞いたわらべ歌。
自分達が思い出すこの街の記憶が、寂しくならないようにと。
優しくて穏やかな旋律、懐かしい故郷も思い出しながら。セリオスの歌声は爽やかな風に乗って静かな街に響き渡る。
――僕達の、故郷の歌だ。
セリオスの紡ぐ歌声に気付き、柔く微笑みを浮かべたアレクシスも周辺の緑葉の中からそっと一枚を摘み取って自分の唇に沿わす。
優しく息を吹けば、懐かしい草笛の音色が響き渡る。
久々に吹くけれど身体はちゃんと覚えている。
天空都市の片隅、緑の秘密基地で。
セリオスとアレクシスは二人で愉しくわらべ歌を奏でた。
この蒼穹の世界に確かに在ったものや、人々の営みを感じ取りながら。
何れ沈みゆく未来が訪れるとしても、最期まで此処に在ったもの。
青空と緑に溶ける美しい街、楽しい冒険、二人で響かせた優しい音色。
記憶の裡に残るこの場所の事は、
きっと、ずっと忘れない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『シマヤドカリ』
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POW : 島を脱いだら隠れなきゃ
自身と武装を【防音効果のある気流】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[防音効果のある気流]に触れた敵からは【空の飛び方に関する記憶】を奪う。
SPD : 味方になったら癒やしてあげるよ
戦場全体に【飛行困難なほどの大嵐】を発生させる。レベル分後まで、敵は【不規則に襲う稲妻や竜巻】の攻撃を、味方は【温かい家の幻影を見せる果樹からの光と香り】の回復を受け続ける。
WIZ : 食べたら寝ようね
【食べると飛び方を忘れる果実から甘い香り】を披露した指定の全対象に【この果実を食べて遊んで暮らしたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:tora
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リュート・アコルト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●草地背負う
猟兵達が見つけた魔導機械の数々が、勇士の飛空艇に運ばれてゆく。
まだ使えそうな物、そうでない物。用途も種類も様々な機械達はきっと、別の島へ移り住んだ人々の役に再び成っていくのだろう。
日が傾き始め、最後の積荷を乗せた運搬車が飛空艇へ戻って来たその時だった。
ガタガタと急に地面が音を立てて揺れ出す。
空に浮かぶ島では自然発生の地震はほぼ起きないに等しい。
ならこの揺れは――?
瞬間、ドオン!と呻るような音と共に草地覆う地面が迫り上がる。
『わぁぁぁっ!?』『な、なんだっ……!』
運搬車を運転して居た飛空艇乗り達は既の所で巻き込まれずに済んだが、盛り上がった草地の丘のような物体は未だゆらゆらと動いている。
よく見ればその根本には甲殻の様な殻、脚、二本の鋏。
そしてぎょろりと此方を見る空色の大きな目。
草地を背負ったその姿はまるで――。
『まさか、シマヤドカリ!?』
勇士の一人がそう叫ぶと、シマヤドカリと呼ばれた魔獣は驚いたように地響きを鳴らして再び地面へと潜ってしまう。
唯一地上に飛び出ているのは、丘の上に生えていた一本の果樹。
不思議な金色の果実を実らせるその樹は甘い香りを放ち、キラキラと輝いていた。
********
●マスターより
二章は島に住み着いていた魔獣との戦闘です。
今回は既に放棄された島に住み着いてる魔獣なので、飛空艇付近から追い払うだけでも十分です。が、この場で討伐する事もできます。
頂いたプレイングの全体の傾向から、最終的に何方かの結果になります。
●シマヤドカリ
性質はとても臆病で、中々地上に姿を現しません。
背負った草地を次々と乗り換えて地中を移動します。
ただし天辺に生えている金色の果樹は隠せない様です。
ちなみにシマヤドカリ本体は食用で大変美味。果実も解毒すれば美味しいらしいとの情報もあります。
反撃方法は能力通りです。戦い方はご自由にどうぞ。
詳細、説明は以上となります。
それでは、よろしくお願いいたします。
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
【トコヨ・ミクリヤ】
シマヤドカリ!
美味しいって言うなら、せっかくだしお土産にしちゃおうよ!
ぼくの神饌カミムスビ・アプラヰアンスなら、なんでも食材にしちゃうよ!
あの木が隠せないなら、隠密気流も綿飴に変えちゃって、本体も美味しい食材になってもらうよ!
果実の解毒化で食べられるって聞いたし、積極的に無毒化改変狙ってみよう!
どんな味がするのかなぁ?
こっそり戦闘中に一つもらっていっちゃおう!
うーん!これはとっても美味!
余さず、食材にしてやるよ!
そしたらみんなでパーティだ!
草地を背負ったシマヤドカリは勇士や猟兵達に囲まれ、まるでモグラのように周辺の地面をモコモコと掘り返し暴れまわっている……と言うよりは、逃げ回っていた。
今のところ、此方に敵意を向ける様子は無い。
けれどこの状態では落ち着いて飛空艇の出航作業が進められないのも事実。
驚き慌てた様子のシマヤドカリを追い払うか、いっそ討伐してしまうか……。
その判断は居合わせた猟兵と勇士達の行動に委ねられていた。
「シマヤドカリ!…って、どんな味がするんだろ?」
万が一にもシマヤドカリが飛空艇に突撃しないようにと、勇士の飛空艇乗り達と船を守る様に構えていた、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)が暴れまわるヤドカリの様子を見てぽそりと呟いた。
『……シマヤドカリ。中々に希少な魔獣だからな。俺も食べたことはねぇけど、
ヤドカリってくらいだから蟹か海老に似てるんじゃないか?』
近くに居た勇士の一人がそう答えると、鈴鹿の狐耳がぴこりと反応する。
「カニ……エビ……!
うん。美味しいって言うなら、せっかくだしお土産にしちゃおうよ!」
アレだけの大きさの魔獣。食材にすれば何人分になるか。
いや、そもそも実際食べられる身の部分は意外と少ないかも?
などとアレコレ思考を巡らせつつ、鈴鹿は紅路夢に跨がり颯爽とシマヤドカリとの距離を詰めていった。
シマヤドカリは地中に潜る際、度々隠密気流を放ち、自分の所在が分からぬようにと音と気配を消している様子だったが……。慌てふためいている為か、元来の生態の癖なのか。常に背中から生やす果樹だけは隠すことが出来ず、その所在は一目瞭然だった。
「あの木が隠せないなら、厄介な隠密気流は綿飴に変えちゃおうかな!」
鈴鹿は紅路夢の機動力を活かしてシマヤドカリの居る上空へブワっと舞い上がる。
そのままシマヤドカリが放つ隠密気流に合わせて上空をぐるぐると旋回した鈴鹿が頃合いを見て木の棒を翳すと、気流がふわふわと雲のように纏まり始めた。
「よーし、これで美味しい綿飴の出来上がり!」
シマヤドカリから放たれた気流はすっかり掬い上げられ、鈴鹿の手にはふわもこな巨大綿飴が完成した。ふんわり甘い薫りを漂わせる綿飴の味見も捨て難いけれど。
「あの果実も、やっぱり気になっちゃう」
シマヤドカリの天辺に常に輝く金色の果実。
見たこともない其れへの興味も唆られてしまう。
そうと決まれば善は急げ。
紅路夢のハンドル紐を握り直し、シマヤドカリの動きを銃で牽制しつつ鈴鹿は果樹へ向かって一直線に駆け抜け。掠め取るようにそのひとつをもぎ取った。
りんご大サイズのその果実は枝を離れ、鈴鹿の手の中でもなお黄金色に輝き続けている。芳しい甘い香りについそのまま口に運びたくなってしまうけれど……。
「確か毒があるんだっけ?解毒化出来るのかな」
腕に抱えた巨大綿飴に、手には甘い香りの果実。残すは美味しいと噂の本体。
余さず食材に出来ればみんなでパーティだって出来てしまうかも。
鈴鹿は愉しげに想像を膨らませつつ、一先ず味見と綿飴をもふりと食んだ。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
虎兄さんと/f33070
心情)どォする虎兄さん。処す? 処す? 追っ払うってのかい? ン、なら果実集め勝負と行くかァ。
行動)虎兄さんが居るトコに敵が居るワケだから、見つけるンは楽だなィ。
匂いを防ぐ結界で覆った《鳥》を飛ばして実を集めさせよう。ンでそれに交える感じで、喚んだ毒使いカラスにさっき集めた天使核をひとッつ渡す。すると天使核はひどく傷むから、それを咥えてヤドカリに突撃。莫大なエネルギーを蓄えた天使核が衝撃で大変な爆発をするンで、結界術カラス・8羽で防御。兵器に使われるよな天使核だ、効くだろ。これで追っ払えっかな? ン、処す? ッし、なら毒をばァっと烟管から煙で流して吸わせる。お別れさァ。
結・縁貴
かみさま(f16930)と
哎呀、巨大なヤドカリ…(物理的に)頭高くない?
処しても利がないので追い払いましょうか
果実には興味あるので、俺とかみさまで何方が多く集められるか勝負しません?
かみさまは多芸だけれども、敵の所在を掴むのは俺の方が得手だろう
シマヤドカリの出現位置を「御縁の糸」で掴んで樹から果実をいただくよ
変わった果実だよ…ね…
かみさまの眷属が飛んでくるのを見て、凄まじく嫌な予感がした
俺の本能が!此奴から離れろと言っている!
(ヤドカリから飛びのき、物影に逃げ込んで大爆発に目を見開く)
…かみさま、追っ払うの意味はご存知ですか!?
此れ既に処してません!?
いや処せって意味じゃ…嗚…さらばヤドカリ…
「哎呀、あの巨大なヤドカリ……頭高くない?」
結・縁貴(翠縁・f33070)は目の前の魔獣の姿を見上げてそう呟いた。
地上に姿を曝け出した時のシマヤドカリはかなりの巨体。
天辺に輝く金色の果実は地上からも僅かに伺えるけれど、空でも飛ばない限り直接取りに行くのは中々骨が折れそうだ。
当のシマヤドカリは、勇士等に追い立てられて地中から出たり潜ったり。轟音を立てながら忙しなく逃げ回っている。
そんな巨大ヤドカリの様子を朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)もほぅと見上げて。
「どォする虎兄さん、処す?処す?」
「処しても利が無さそうですし、今回は追い払いましょうか」
なんだ、追っ払うってのかい?と逢真は意外そうな声を返し。
「でも、あの果実には興味ありますよ。
ここは俺とかみさまで何方が多く集められるか、勝負しません?」
遠目でも珍しそうだと解る果実、宝物のように金色に輝く其れはこの手に取ってみたくもなるもので。
「ン、なら果実集め勝負と行くかァ」
「ふふ、負けませんよ」
そうして二人は、ザッと足を踏み出した。
気付けば逃げ回っていたシマヤドカリの姿は地上から消え、どうやら一旦地中に身を潜めてしまっている様だった。勇士達は警戒して周辺を見廻っている。
こんな時、敵の所在を掴むのは縁貴の得意分野だ。
"御縁の糸"を手繰り寄せつつ、シマヤドカリの出現位置を予測する。
糸を辿って行けば徐々に視えて来る、この島の地中全土にシマヤドカリと縁を結ぶ糸が張り巡らされているのを。
永い年月、人々が住む以前からあのヤドカリはこの島に住み着いていたのかもしれない。全ては憶測でしかないけれど、繋がる糸の模様はその証となる事実でもあった。
縁貴が徐に歩を進めて行き着いた場所は、船着場近くの森。
木を隠すなら森の中、敵も冷静さを取り戻せばその野性的本能はあるようで。けれどもあの目立つ果樹を隠せないなら、かくれんぼは不得意なようだ。
縁貴がその場で待ち構えれば、程無くして地響きが近付いて来る。地中を移動するシマヤドカリだろう。グラグラと揺れる地面に足を取られつつも、目前にあの果樹が丁度良く現れれば縁貴は満足気に笑顔を零した。
「場所は予想通り。それじゃあ、果実はいただくよ」
一方、逢真は元居た場所からさして動かずに縁貴の気配を追って居た。
(「虎兄さんが居るトコに敵が居るワケだから、見つけるンは楽だなィ」)
縁貴なら敵の居場所を探るのも容易いだろうと踏んで、縁貴の気配を辿りつつ逢真は《鳥》の眷属達を喚び出した。
其の内、8羽はあの果樹が放つ甘い匂いを防ぐ結界を纏わせて。それに交えてもう1羽、毒使いカラスには天使核をひとつ咥えさせる。
つい先刻、時計塔の部屋で見つけた兵器に使用されていた核だ。
「さァ、目指すは虎兄さんが居る場所だ。
果実集めとヤドカリを追っ払いに行こうか」
縁貴は手に生み出した鋏で、パチンパチンと枝から果実を切り落としていく。そうして数個を腕に抱え、改めてそのひとつを手に取って見た。
見た目はりんごに似ている。けれど甘い香りと金色に輝く其れは明らかに異質な雰囲気を纏っていて、流石にこの場で囓ろうとは思わなかったけれど。
シマヤドカリがじっとしている間にもう少し、と手を伸ばしかけた所で縁貴は何かの気配に気付き、空を見上げた。
上空から颯爽と飛来してきたのは鳥の群れだった。
鳥達はそのまま縦横無尽に飛び回り、眼の前の金色の果実を掠め取ってゆく。
「……啊、もしかしてこの子達はかみさまの?
……って、何かやな予感するな」
縁貴の本能が不意にそう告げた。凄まじく嫌な予感がすると。
――此処から今直ぐ離れろと、本能が必死に叫んでいる。
縁貴は反射的にヤドカリから飛び退き、周囲の木の陰に逃げ込んだ。
その直後――。
ドゴォォン!!
轟音と大爆発。まるで巨大な爆弾が降ってきたかのような光景に縁貴は目をぱちぱちと見開いた。忽ち爆風も襲い掛かるが、眷属の鳥達が縁貴の前に結界術を張る。
勿論、果実はきちんと確保して。そして気付けば逢真も後ろに佇んでいた。
「よォ、兄さん。無事だったか。
さっき集めた天使核をちょいと使ってみたんだ、効くだろ。
これで追っ払えっかな?」
「……かみさま、追っ払うの意味はご存知ですか!?
此れ既に処してません!?」
当のヤドカリは爆煙立ち込める中、その状態はまだ分からない。地中に潜っていたとはいえ、流石にこの大爆発で何かしらの衝撃は響いていそうだが。
「ン、処す? ッし、なら次は毒をばァっと煙で流して吸わせるか」
逢真は懐から取り出した烟管を持ち、揚々と笑んだ。
「あ、いや処せって意味じゃ……。嗚……さらばヤドカリ……」
そう嘆きつつ、ふと向けた視線の先。
風が吹き抜け爆煙が薄らいだ森の光景からは、あの金色の果樹の姿は何時の間にか消え去っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
はいはいお兄さん凄いすごい(雑
さて、撃とう
上手く行けばあの枝を落として、果実は回収できるはず
したら毒を抽出して…
え、食べるの?実を?
時々お兄さんは勇者になるよね、わかった
基本は黄金の果実から視線を離さず
その地面付近に本体がいると想定し狙いを定めて広範囲を撃っていく
見失ったら果実を探す。お兄さんと交戦しているときは見つけやすいだろうから、お兄さんの攻撃に追撃するように撃っていくよ
ああは言ったけど果実を落とすのは最終手段
まあ、お兄さんが食べたいらしいからね。それだけは置いていってもらうよ
…(狸の皮算用にも程がある…)
毒あるゆうとるやん
毒消しあってもちょっと怖いし、要らない
夏目・晴夜
リュカさんf02586と
おや、随分と臆病な
このハレルヤの威光に畏れ慄いているのでしょうね
ともあれ手早く片付けますか
あ、あの果実、気になるのですが回収できますかねえ
素晴らしい、流石はリュカさんです!
ええ、毒を抽出して、無毒になったやつを食べましょう!
え、食べないんですか?実ですよ?
身を低くし、『喰う幸福』の高速移動で稲妻や竜巻の間を駆け抜け
妖刀での斬撃から衝撃波を放ち、シマヤドカリ達を脅かして追い払います
リュカさん、果実はどうやって食べましょう!
最近暑いですからね、冷やして食べるのがいいですかね
勿論、ひと口差し上げますからご安心を!
わかりました、アイスと一緒に盛り付けます(稲妻でよく聞こえない)
猟兵や勇士等に追い立てられ、辺りの地中を右往左往としていたシマヤドカリが次に向かったのは……。幸か不幸か、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)と夏目・晴夜(不夜狼・f00145)が待ち構えていた場所だった。
迫り来る地響きと共に、隠し切れていない黄金の果樹が草地を連れてゆらゆらと移動する。シマヤドカリは未だ地中に潜ったままの様子だ。
「……おやおや、随分と臆病な魔獣ですね。
このハレルヤの威光に畏れ慄いているのでしょうか」
ふふん、と自慢げに胸を張り。草地に向かって誇らしげに笑みを浮かべる晴夜を余所に。リュカは担いでいた銃を手元に抱え直す。
「はいはい、お兄さんは凄いすごい。……さて、アレどうしようか?」
「……そうですねえ、向こうからせっかく来てくれましたし。
ぱぱっと追い払ってしまいますか」
あ、でも!と晴夜はぴっと揺れる黄金の果樹に人差し指を向けて。
「あの黄金の果実はとても気になるのですよ。
何とか果実だけ回収出来たりしませんかねえ」
「果実だけ?まあそれなら……」
リュカは銃を構え、ゆらゆらと動く果樹に狙いを定めるとタイミングよく引き金を引く。狙う先は実がぶら下がる枝だ。リュカの望んだ通り、星の軌道を描く弾丸は枝を掠め、重たい果実の幾つかが跳ねてコロコロと地面へ転がった。
「素晴らしい、流石はリュカさんです!」
嬉々として落ちた果実を拾いに駆け寄った晴夜の足元がグラグラと揺れる。
あ、と気付いたリュカの声は間に合わず。
ドオン!と呻る音と共に、黄金の果樹周辺の草地が跳ねるように持ち上がった。丁度良くその上を駆けていた晴夜は果実と共に草地の上から転がり落ちていく。
「……流石に背中の上で色々としてれば気付かれたかな」
地中から起き上がったシマヤドカリを見上げ、リュカは冷静に考察をした。
気付けば上空には急な暗雲が立ち込め、忽ち周辺一帯が大嵐の様に荒れ狂う天候に変化して行く。魔獣の防衛反応のようなものなのか、嵐の中から不規則に放たれる稲妻や竜巻は、リュカと晴夜にも襲い掛かる。
「……何だか面倒な事になってきた」
リュカは時折銃でヤドカリを牽制しつつ、木や物陰に隠れながら機を伺っていた。
「嗚呼……私、急にお腹が空いてきちゃいましたよ」
転がり落ちた後、むくりと起き上がった晴夜は確りと両手に黄金の果実を抱えたままそう呟いた。果実は一旦、からくり人形達に預け。代わりに手にしたのは怨念渦巻く妖刀。
「大丈夫、これは脅しです。
私がいま食べたいのはヤドカリではなく、この果実ですからね。
……ですから、手早く片付けてしまいましょう」
晴夜は体勢を低くし、妖刀の怨念を自身に纏わせて獣のように地を駆けた。襲い掛かる稲妻や竜巻の合間をババっと駆け抜け、シマヤドカリの懐まで接近すると妖刀での斬撃から鋭い衝撃波を放つ。
キュキューッ!?と奇声を発しながら、晴夜の衝撃波を受けたシマヤドカリは二本の鋏をジタバタと動かし。ズズズ、と再び地中へ潜っていく。
「お兄さん、ナイス」
様子を伺っていたリュカが背後から追い打ちをするように、果樹の位置と先程見た本体の大きさを想定し、星の弾丸を広範囲に撃っていく。飽く迄も追い払う目的、飛空艇とは逆方向へ向かうように促しながら。
「あ!そうだ、リュカさん、果実はどうやって食べましょうか!」
未だ大嵐の中、晴夜はシマヤドカリの動向を見届けつつ、思い付いたように喋り始める。
「……え、食べるの?あの実を?」
時々お兄さんは勇者になる。俺は毒消しがあってもちょっと怖いんだけど。
「最近暑いですからね、冷やして食べるのがいいですかね!?」
「ああ、勿論、リュカさんにもひと口差し上げますからご安心を!」
「わかりました、アイスと一緒に盛り付けますね!!」
稲妻の轟音が二人の間に響き渡る。
「……いや、俺は食べるなんて言ってないよ。って、聞こえてないな」
――斯くしてシマヤドカリは地中に潜り、また別の場所へと逃げ去っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
…アレも一応敵ってことになるんだよな…?
敵ならまっすぐぶっ飛ばす!って思うけど…
アレスが森に返したいなら、俺は手伝う
まあ、この島で生まれてこの島で死ぬんだ
害はないしな、うんうん
アレスに引き上げられるままヴェガに騎乗
これなら空中でも好き放題動けるな
動けて…かつアレスが居るなら
これしかねぇよなぁ?
歌い上げるのは【鳥籠の反響】
敵の注意をこっちに集めて、夢中にさせてやる…って
あっはっは!やべぇやり過ぎた!
本当なら危機感を持たなきゃ行けねぇんだろうけど
なんか…こういうのもいいなって思ったら笑っちまった
おう…ま、お前に落とされるとは思えねぇけどな!
ぎゅっとアレスに掴まりつつも
器用に片手で剣を握り閃光を放つ
アレスはやっぱ優しいなぁ
自然へ誘う姿が、表情が優しくて
なんだか俺までホッとしちまう
(もし再会した時の姿が食材だったら…美味しく食ってやろうかな)
アレクシス・ミラ
【双星】
◎
襲いに来た…という訳ではなさそうだね
流石にこのまま放っておく訳にはいかないが
僕としては…討伐はせずに飛空艇から離れた所へと誘導したい
…今すぐ骸の海に還すのではなく
住んでいた自然と空の元へ帰したい、なんて
少々甘い考えだろうか
思わず考え込みそうになる、けど
彼の言葉が霞を払う風のようで
…ありがとう、セリオス
白馬のヴェガにふたりで騎乗し
飛翔して近づこう
…思い切り歌って大丈夫だよ、セリオス
君の傍にはこの盾《僕》がいる
彼が歌っている間、風属性で気流を作り
果実の香りが届かせないようにしよう
君を守り、君の為のステージを作ろうか
…って
流石にこれは笑ってる場合ではないぞ!?
速度を上げるから僕に掴まっていて!
ヤドカリを誘き寄せながら遠くへと翔け
剣から閃光を放ち
怯んだ隙に【星宿りの子守唄】で一度眠らせよう
飛空艇の方も大丈夫そうな頃合いを見て起こすよ
驚かせてごめんよ。…落ち着いたかい?
君が戻る方向はあっちだよ、と
自然の方へと導こう
(もし狩られて食材にされてしまったら…悲しいが
せめて美味しく料理しよう…)
「……アレも一応、敵ってことになるんだよな?……でも」
セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)とアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)、二人の前に姿を現したのは見上げるほど巨大なシマヤドカリ。
ヤドカリの青い瞳が宙の空色を映す、と思えばぎょろりと此方に視線を向けた。
けれど襲い掛かる様子はなく、両者に暫し沈黙の時が流れる。
飛空艇乗りの勇士達も武器を持ち、威嚇するように周囲を取り囲んだ。
「どうやら僕たちを襲いに来た……という訳ではなさそうだね」
「……そうだな、敵ならまっすぐぶっ飛ばす!って思うけどさ」
アレクシスは同じ青色の瞳でシマヤドカリを見つめ返し。
「向こうに敵意が無いのなら、僕は此処で討伐はせずに飛空艇から離れた所へと誘導したい。……今直ぐ骸の海に還すのではなく。住んでいた自然と、空の元へ還したいな」
……なんて、
魔獣、オブリビオンを目の前に少々甘い考えだろうか。
ヤドカリが襲って来ないのは、たまたま機嫌良いだけなのかもしれない。
思わず意思が揺らぎ、考え込もうとするアレクシスに、
「アレスが森に返したいなら、俺は一緒に手伝うぜ。
この島で生まれて、この島で死ぬ。有りの侭に、いいんじゃねぇか。
今のところ害も無さそうだしな」
「セリオス」
ふっと積もる不安を払う風のような彼の言葉に、アレクシスは柔く微笑んで頷いた。
「……ありがとう。やってみようか」
二人が即興で考えたのは、自分達を囮にして追わせ、そのまま島の内部へと誘導する方法。それにはシマヤドカリの注意を此方に集めなければ成らない。
「さ、セリオス。乗って」
白馬のヴェガに颯爽と跨ったアレクシスは、セリオスに馬上から手を差し伸べる。
「ああ、よろしくな」
セリオスはアレクシスの手を取りそのまま引き上げられ、ヴェガの背にすとんと腰を下ろした。
「よし、まずはヤドカリの頭上まで飛翔して近付くよ。
そのあとはセリオス、君の歌声の出番だ」
アレクシスが手綱を引くと、ヴェガの白い足がふわりと地を蹴る。
宙に跳ね、その身体からは輝く光の翼が現れた。
青空に羽ばたき舞う白馬が優雅に旋回し、天へと舞っていく。
周囲に居た勇士達はその美しい光景に、思わず感嘆の声をあげていた。
シマヤドカリもそんな二人の姿を追う様に、その巨体を動かし始める。
どうやら最初の興味を惹くことには成功したようだ。
セリオスはヴェガから少し身を乗り出し、眼下のシマヤドカリを見下ろしながら大きく息を吸い込んだ。
身体はアレクシスに任せ、自身はより敵を惹き付ける歌声を。
その細い首から紡ぎ出されるのは、甘やかに響く声。
透き通るような、心奮わせるような、誰しも惹かれてやまない、天性の歌声を。
その声を間近で聴いていたセリオスも目を細め、瞬きと共に改めてシマヤドカリの動きに注視した。セリオスの歌声に反応してシマヤドカリの背にある果樹が光かがやいている。果実から放たれる誘う香りを気流で払い除けつつ、手綱を操り徐々に島内部の森へと誘導していく。
暫くすると眼下から二人を追い掛けるシマヤドカリが高々と両手の鋏を振り上げた。
それは威嚇のポーズの様にも、手を伸ばしている様にも見えて。
ザカザカザカと高速で動くヤドカリの脚が、二人を追う速度も明らかに増している。
「あっはっは!やべぇ、やり過ぎたか。
アレス、惹きつけたは良いが。このあとどうする?」
追い掛けるシマヤドカリを見ながらセリオスは半ば愉しそうに笑む。
空中を駆ける二人の元にシマヤドカリの攻撃が及ぶことは今のところ無さそうだが、このまま何時迄も追いかけっこをする訳にもいかない。
「……って、セリオス。流石にこれは笑ってる場合ではないぞ!?」
「はは、ワルい。
本当なら危機感を持たなきゃ行けねぇんだろうけど。
なんか……こういうのもいいなって思ったら笑っちまった」
まったく、とアレクシスは眉を下げつつもセリオスにつられて笑顔を零し。
再度ヴェガの手綱を強く引く。
「じゃあ、速度を上げるから僕に掴まっていて!」
「おう。ま、お前に落とされるとは思えねぇけどな!」
ぎゅっとアレクシスの身体を掴みつつ、セリオスは器用に片手で純白の剣を握った。
それに気付いたセリオスも、片手で手綱を引きつつ腰の鞘から白銀の剣を抜く。
青星と赤星、二人其々が手にする双星の剣から眩い光閃がシマヤドカリに向かって放たれる。照り付ける太陽よりも明るい輝きは、相手の目を眩ますには十分な程に。
怯んだシマヤドカリに向かってアレクシスは更に夢見を誘う浄化の聖光を放った。
シマヤドカリはすっかり大人しくなり、頃合いを見て二人も地面へと降り立つ。
アレクシスは剣を収め、静かになったシマヤドカリにそっと近付いた。
「……アレス、」
セリオスはやや不安げな声色を零してアレクシスの服の袖を掴む。
「……大丈夫、心配ない」
いざと成れば斬る覚悟も出来ている。
左手は鞘に添えたまま、アレクシスは青い双眸を細めた。
もう一度シマヤドカリの方へ向き直れば、魔獣は完全に眠ったわけでは無いようで。
「驚かせてごめんよ。……落ち着いたかい?」
シマヤドカリの大きな空色の瞳がアレクシスの姿を映す。
「僕達はもうこの島から出て行く。
だから君も、君が居た場所へとおかえり」
言葉が通じるかどうかは分からないが、シマヤドカリは其れきりスッとその場から動かなくなった。離れようとするアレクシス達を追う様子もなく、ただじっと青い空を見上げて。
「……もう、追って来ないか?」
「ああ、たぶん。確証は無いけれど、きっと平気だと思う」
気付けばヴェガに乗り随分と遠くまで来ていた。
急ぎ戻り、待っているであろう飛空艇と皆に報告をしなければならない。
「にしても、アレスはやっぱ優しいなぁ」
「えっ……。そうかな」
アレクシスが自然へと誘う姿や表情が優しくて。
見守っていたセリオス自身も穏やかな気持ちの帰路に包まれていた。
「もう、この景色も見れないのかぁ。……あ、そうだ。アレス!」
アレクシスが相槌を返す前に、ぱしっとその手を掴まれて。
「またこうやって走ろうぜ!さっき探検した時みたいにさ」
ぱっと眩しい笑顔を向けたセリオスはアレクシスの手を引いて愉しげに駆け出す。
「……っと、セリオス。ふふ、はしゃぎ過ぎて転ばないようにね」
アレクシスは素直に手を引かれつつ、口許に手を当ててふくふくと笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『空の花蜜カフェ』
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POW : 甘い蜂蜜スイーツ食べ放題!
SPD : ワークショップに参加。作れる物は蜂蜜リップ・石鹸・練り香水などなど。
WIZ : 蜂蜜キャンドルに火を灯し、軽食とお話。写真家が撮影してまわっている。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●暮れる夕陽と黄金の蜂蜜
魔導機械を運び出す作業を無事終えた猟兵、そして勇士等を乗せた飛空艇は暮れて征く空を泳ぎ、目的地の島へ到着する。
現地で船の帰りを待っていた船員達と共に物資の荷降ろしをするさなか、飛空艇乗りのリーダーが思い出したように猟兵達に声を掛けた。
「そうだ。今日のお礼に、よく行く店を貸し切ってあるんだ。
アンタ達は先に行って休んでくれててもいいぜ。話は付けてある」
俺達はこの作業を終わらせてから合流するからよ、と飛空艇乗りはにかっと笑った。
案内を頼りに猟兵達が向かったのは、島の先端に位置する小さなカフェ。
周辺には放牧場などもあり、辺りは長閑な光景が続いていた。
店の扉を開ければ、ドアベルがチリンと涼やかな音色を鳴らす。
いらっしゃいませー、と明るい笑顔の店員が出迎えた。
店の作りは自然の木をそのまま利用した無垢な木材を中心に、柔らかな木の色合いと白い壁が落ち着いた雰囲気で、温かみある心地好い空間を作り出していた。
すると、ふうわりと店内に甘い香りが漂う。
その正体は蜂蜜だろうか。
レジ横の棚にはキラキラと煌く様々な種類の蜂蜜や、蜂蜜を使った雑貨が置かれている。覗き込むと奥には作業場のような場所も見え、蜂蜜を使用した雑貨を自分達で作ることも出来るようだ。
メニューには蜂蜜を使用した料理、軽食からデザートまで種類は様々。
特にオススメされているのは、自家製蜂蜜を使用したデザートメニュー。
蜂蜜がけのふわふわパンケーキ、厚切りハニートーストにはホイップクリームと季節の果物を添えて、ハニーチーズトーストは香ばしいチーズの塩味と蜂蜜の甘味が食欲を唆りそうだ。
ドリンクはカフェ定番のものから、はちみつカフェラテ、はちみつ紅茶などもある。
様々なメニューに目移りする中、この時間ならぜひ此方にと店員に案内されたのはテラス席だった。
空に張り出した設計のテラスから眺める空には一面、何も遮るものはない。
まるで雲の上に居るかの様な作りの空間は特に夕暮れ時がオススメだと店員が微笑んだ。
雲海に沈みゆく夕陽で空が茜色に染まってゆく。
このまま眺めていればやがて太陽は隠れ、星空の帳が降りてくる模様まで見届けられるかもしれない。
暮れる夕陽を眺めつつ、甘い蜂蜜を堪能するのも。
落ち着いた店内でまったりと過ごすのもいいだろう。
********
●マスターより
三章はカフェで仕事終わりのティータイムです。
花蜜カフェの雰囲気は断章からご自由に想像してお過ごしください。
アルコール飲料の提供はありません。
貸し切りですがお店の迷惑になるような行為はお控えください。
※POW/SPD/WIZは行動例ですので、特に気にせずご自由にどうぞ。
●黄金の果実
シマヤドカリ戦にて多数の方が果実に興味をもたれていたので、
三章にもお遊び要素として取り入れてみます。
ご自身で手に入れたor勇士達が拾った黄金の果実を解毒して貰い、デザートとして食べることが出来ます。お味は食べてみてからのお楽しみですが、調理法の希望があればご指定を。特に無ければパティシエおまかせになります。
※此方の要素を楽しみたい方はプレイング冒頭に【*】の記号を添えてください。
●また、今章のみシナリオ案内役のノヴァが同行しております。
テラス席で雲海に沈む夕陽を眺めながらまったり過ごしているようです。
プレイング内でお声掛け頂いた場合のみリプレイに登場します。
掛け合いに関してはお誘いに合わせて基本アドリブになります。
予めご了承ください。
詳細、説明は以上となります。
それでは、佳き時間をお過ごしください。
国栖ヶ谷・鈴鹿
【*】
シマヤドカリの実!
ぼくもどんな味か気になるな!
サクラミラージュのパーラーメイド、パテシエイルとして、発想は大事にしておきたいからね。
というわけで、今日は完全にお店のメニューにおまかせして、異世界の味をたのしんでいこうか!
ふうわり香る、蜂蜜の香り。
微かにそよぐ風はテラス席から迎える初夏の風だろうか。
まだ真夏の暑さまでは感じない、心地好い空気の中。
国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)はカフェのメニューと睨めっこをしていた。
「あれもこれも気になる料理ばかりだけど、今日はやっぱり……」
ごそごそと傍らの荷物から取り出したのは、シマヤドカリの背に生えていた黄金の果実。
キラキラと金色に輝く名前も分からない異世界の食べ物。
鈴鹿はサクラミラージュのパーラーメイドだ。そして自らパティシエとしてその腕をふるう事もある。ともなれば、異世界の果実の味や調理法はどんなものか。
発想の一つとしても情報を得ておきたい。
「よし、決めた!
今日は完全にお店におまかせして、異世界の味を楽しんでいこうか!」
ぱたりと開いていたメニューを閉じ、鈴鹿は手を上げて店員を呼んだ。
程無くして料理を楽しみに待つ鈴鹿の元に、甘さと香ばしさを連れた品々が運ばれる。
黄金の果実をメインに頼んだ料理は果実の甘さを活かしたデザートが中心だ。
まずは果実のフィリングがぎっしり詰まった黄金の果実パイ。
見た目はよくあるりんごパイにも似ていて、サクサクのパイ生地とバターの香りが食欲を唆る。中身は瑞々しさが溢れたリンゴの様な食感、甘さと香りは桃にも似て。
けれど何方とも違う、口の中に広がる豊かな甘さと芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
もう一つのデザートは涼し気な硝子容器に盛られたグラスデザート。
黄金の果実を薄く切り、果肉を一枚ずつ並べて薔薇の花のように飾り立てた、見た目にも可愛らしいデザートだ。果実の花の下に沈むのはぷるりと揺れる白いパンナコッタだろうか。
此方は果実に殆ど手を加えられていない、素材そのものの味を楽しめる一品になっている。
「あ、コレ。両方とも蜂蜜も入ってるかな?この紅茶にも」
掛け合わされた甘さだが、それも諄くなく。料理ごとに使い分けられた味の違う蜂蜜は程よいアクセントとなり、意外にも後味はスッキリとしている。
「……ふむふむ、後で詳しいレシピも聞いてみちゃおうかな?」
ぽそりと呟きながらも鈴鹿の手は止まらず。
黄金の果実の意外な美味しさに、舌鼓を打ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
夏目・晴夜
◎*
リュカさんf02586と
さて、何を注文しますか?
あ、以心伝心でわかりましたよ
全部ですね!
そうだ、果実も食べてみたかったんでした
パティシエに料理してもらいましょう
皮むき出来るとは素晴らしい!ハレルヤの使用人になれますよ
あれ?でもそのナイフ…ええ、実に便利ですね!
前にそれでアレなの捌いてませんでしたっけ?という疑念は一旦飲み込みます
リュカさんが専用コック…
その話はさておき食べますか!
(黒焦げ料理を食わされてきたのであまり触れたくない
そういやコレ、解毒してますよね
…
……(察した顔
やっぱり料理してもらいましょう!
懸命に生きようとして失望されるとかツラい
まあ、ハレルヤの今後の男気に期待してて下さいよ
リュカ・エンキアンサス
◎*
晴夜お兄さんf00145と
はいお疲れ様
そうだね。暑いからちょっと軽くて冷たい…
聞け
何一つ伝心してないから
いや、貰うけど
そういえば、この実も食べられるんだよね。
料理?いや果実なんだから、皮をむくだけで大丈夫だろう
(自覚なき料理下手の雑な所感
包丁さばきは得意だよ(普段からあれとかそれとか解体してるナイフでくるくる
ナイフ?良いでしょう。便利なんだ
使用人かー。俺はそこまで器用に立ち回れないし
色々一手に、って言うのは大変だと思う
専用のコックならなってもいいよ(自覚ないけど料理はすごく下手
…
……え。解毒?(不思議そうな顔
…お兄さんにはがっかりだよ(横暴
いや。珍しく男気溢れてるなあとは思ったんだけどさ
切り株で出来た椅子に腰掛けた二人は、テーブルに添えられたメニューを手に取った。
「改めて、今日はお疲れさまです。リュカさん。
さて、何を注文しましょうか……私、もうお腹ペコペコで」
メニューに並ぶ様々な料理の名前を見るだけで、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)のお腹は小さくグゥと音を立てる。
「はい、お疲れ様。
……そうだね。暑いからちょっと軽くて冷たいものとか――」
リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)も手元のメニューを眺めつつ、その興味は冷たいドリンクやデザートに注がれていたが。
「あ!リュカさんの食べたい物、以心伝心でわかりましたよ。
すばり全部ですね!?私もそうしたいと思ってたんです」
「……いや、何一つ伝心してないから。って、まだ注文は待て待て!」
手を上げて店員を呼ぼうとすると晴夜をリュカは慌てて静止した。
「あれ?違いましたか。どちらにしろ私は色々と頼んで食べてみるつもりですが。
……そうだ!島で手に入れたあの果実も食べてみたかったんでした」
ぱっと思い出したように、晴夜は荷物の中からシマヤドカリの背に生えていた果実をごろりと取り出した。あの時手に入れた果実の幾つかは住民への食材として寄付し、晴夜とリュカの二人分は譲って貰ったのだった。
「そういえば、この実も食べられるんだよね」
リュカはテーブルに出された黄金の果実をひとつ手に取り、改めてまじまじと見つめる。
木に実っていた時は光り輝いていた気もするが、いま手元にある果実は金色ではあるものの、あの時のような煌めきは消えている。実っている時にしか光らないのか、その生態にも少し興味が湧いたけれど。
「持った感じはリンゴみたいだ。これなら皮を剥くだけでも食べられそうな気がする」
スッとリュカが手に取り出したのは使い込まれた小型のナイフ。
そのまま果実にそっと押し当てると、器用にスルスルと皮を薄く剥いていく。
「わ。リュカさん、皮むきお上手ですね!その腕ならハレルヤの使用人になれますよ」
くるくると剥かれた果実の皮が渦巻状に落ちてゆくと、徐々にその中身が姿を見せた。気になる中の様子は特に変わった事も無く、どうやら果肉部分も見た目の色は黄金色のようだった。果実は硬さを保ちつつ、瑞々しく艶めく実の香りは桃にも少し似ている。
「ナイフ?良いでしょう。便利なんだ。コレ一本で剥いたり捌いたり、色々できる。
……でも、お兄さんの使用人かー。
俺はそこまで器用に立ち回れないしな。専用のコックくらいならなってもいいけど」
などと返しつつ、気付けば黄金の果実はすっかりその中身をさらけ出していた。
「はい、どうぞ」
リュカは綺麗に皮を剥いた果実を晴夜に差し出す。
さあ食べてみてくれ、と言わんばかりに。
晴夜は差し出されたその果実をじっと見つめた。
先ほどは絶賛していたが、リュカの手にするナイフは彼が何時も使っている物。
アレソレを捌いたり、時には武器として使ったり、していた物のような気がする。
(「そういえばリュカさん、料理の腕前もアレだったような……」)
色々な意味でそれ以上は触れないようにしつつ、晴夜は果実を受け取った。
「ありがとうございます。それでは遠慮なく……」
「…………」
「……」
「――食べないの?」
リュカはナイフについた汁を布で拭き取りながら、なかなか口に運ばない晴夜を見遣る。
「いや、これ。解毒してますよね?」
「……え。解毒?」
沈黙から続く会話の後、察した晴夜は果実を片手にガタッと椅子から勢いよく立ち上がった。
「やっぱり料理、してもらいましょう!店員さん!」
「……なんだ、そのまま食べてくれると思ったのに。
お兄さんにはちょっとがっかりだよ」
シマヤドカリと対峙している時は晴夜が勇者にも見えた気がしたが。
珍しく男気溢れている様子はあの時限りだったのか。
「ちょ、懸命に生きようとして失望されるとかツラい」
晴夜のピンと立った耳が僅かに垂れる。
あの時は空腹からの勢いもあったのだけれど、それこそ食べたいと思わせる果実の甘い罠に引き寄せられていたのかもしれない。
「……まあ、ハレルヤの今後の男気に期待してて下さいよ」
程無くしてやってきた店員に、二人は漸く注文を頼む。
暫くした後、テーブルの上は沢山の料理で埋め尽くされた。
その殆どは晴夜の胃袋の中にきっと収まるだろう。
無毒化して生まれ変わった黄金色の果実も他の料理と同じように並べられる。
さて、気になる味と互いの感想はどうだろうか――?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
生浦・栴
巣篭の(f02775)と
蜂蜜は使い勝手が良いので色々と試すのに
客観的な意見を貰うために付き合うて貰うた
テラス席に案内されると夕日の頃合い
この景色だけでも来た甲斐があったやもな
巣籠のは此の世界は初めてか?
そうか、其れでは他の世界に出掛けても楽しめそうだな
嫌でなければ機会を増やそうか
メニューは受け取るも直ぐ巣籠のに渡す
珈琲と、あまり甘くないものを店員にお任せして仕舞おう
待つ間にワークショップで作ったハンドクリームや練り香水をテーブルに並べる
俺は手袋を外せぬので使用感が分からなくてな
使用感など聞かせて貰えれば幸い
…成程?
では今日の礼としてお主にプレゼントしよう
希望があれば追々改良して行こうか
巣篭・ひばめし
生浦様(f00276)にご一緒させていただきます。
景色の美しい場所だと聞いて来ましたが……なるほど。
これは確かに見にくる価値のある光景ですね。
空の世界に限らず、行ったことのない場所は多いです。
出不精ですから、こうして連れ出されでもしないと、なかなか機会がありませんので。
ですから、今日は声をかけて下さって有難うございます。
それで、これが生浦様が作られたクリームと練り香水ですね。
早速試してみるとしましょう……ふむ、ふむ。
素人の感想ですが、どちらも良い出来をしているように感じます。
折角生浦様が自ら作ったのです、どなたかへの贈り物にしてみるのも良いでしょう。
きっと喜ばれると思いますよ。
テラス席から望む景色は何処までも広がる茜雲。
暮れる夕陽は一帯を朱色に染め、ゆっくりと静かにその身を雲の海に沈めてゆく。
此の世界では日々当たり前に望めるこの光景も、地に足を付く大地に住み慣れた者にとっては一際珍しく美しく見えた。
「この景色だけでも、来た甲斐があったやもな」
ほう、と小さく感嘆の声を洩らしつつ。
テラス席に案内された、生浦・栴(calling・f00276)は思わず脚を止めた。
「……なるほど、景色の美しい場所だと聞いて来ましたが。
これは確かに見にくる価値のある光景ですね」
その傍らで、巣篭・ひばめし(レディーメイド・f02775)も目の前に広がる景色を見つめて僅かに目を細める。
「巣籠のは、此の世界は初めてか?」
「はい。空の世界に限らず、ですが。行ったことのない場所は多いです」
ひばめしは景色に向けていた視線を戻すと、改めて栴の方へと向き直し。
「もともと出不精ですから……。
こうして連れ出されでもしないと、なかなか機会がありませんので」
「ですから、今日は声をかけて下さって有難うございます」
ひばめしが感謝とともに軽く頭を下げると、栴は気にするな、という風に柔く笑みを返し。
「そうか、其れでは他の世界に出掛けても楽しめそうだな。
お主が嫌でなければ、その機会を増やそうか」
そうして二人は茜色に染まるテラス席に腰を下ろした。
栴は店員から受け取ったメニューに軽く目を通し、そのままひばめしに手渡す。
「俺は、珈琲と……あまり甘くないものをひとつ、お任せできるか」
かしこまりました、と店員は返し。次いでひばめしの様子も伺う。
渡されたメニューを眺めていたひばめしは、僅かに迷う仕草を見せた後。
「それでは、私も珈琲と。本日のおすすめデザートというのを、ひとつ」
メニューの目立つ場所に載せられたそれを指差し伝えると、店員は返事と共に手元のメモにスラスラとペンを滑らせ、にこやかな笑顔を残して静かに二人の元を去った。
栴は店員を見届け、荷物の中から小さな紙袋を手に取る。
袋から取り出した小さな容器をふたつ、ことりとテーブルに並べた。
「……そちらは。生浦様が先ほど作られていたものですか?」
「ああ、此処の作業場を借りて作ったハンドクリームと練り香水だ。
けれど俺は、あいにく手袋を外せぬので使用感が分からなくてな。
巣篭のに使ってみた感想など、聞かせて貰えれば幸い」
わかりました、と頷いたひばめしは其々の小瓶を手に取る。
ハンドクリームは蜜蝋を使用したもので。固めのテクスチャーをそっと指で掬い取り、手の甲に乗せて伸ばせば、すっと馴染むように潤いが広がる。
練り香水も同じように手首に軽く馴染ませると、ふわりと優しい花の香り。
上品に薫る此れは何の花の香だろうか、と。ひばめしは思いつつ。
「……素人の感想ですが、どちらも良い出来をしているように感じます」
ひばめしの返事を聞き。
成程、と頷いた栴は並べた小瓶を一旦紙袋へと丁寧に戻す。
「……折角生浦様が自ら作ったのです、どなたかへの贈り物にしてみるのも良いでしょう。きっと喜ばれると思いますよ」
「そうか。では今日付き合うてくれた礼として、此れはお主にプレゼントしよう。
希望があれば追々改良して行こうか」
栴はハンドクリームと練り香水を収めた紙袋を、改めてひばめしへと差し出した。
「私に……?良いのですか」
「ああ、勿論。お主が気に入ってくれたなら」
僅かに迷いつつも、ひばめしは感謝を述べつつ。そっと小さな紙袋に手を伸ばす。
ふうわりと柔い、花の香が優しく広がった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱酉・逢真
虎兄さんと/f33070
心情)虎兄さんに、小鳥どもが集めた金果を渡そう。彼岸に落ちてた金貨を渡そう。かわいい信者らに土産を買いたいが、俺は店にゃア入りづらい。なにせこの宿(*カラダ)は病毒のカタマリ、毒と腐敗は飲食店の怨敵だろう? 俺のかわりに選んできておくれ。
行動)《小路》を通ってテラス席。開放的なここならば、店内よりずっとマシだろうさ。〈枷〉と結界でキッチリ抑えていよう。おかえり虎兄さん。選んでくれてありがとよゥ。好みの食いモンはあったかい? ひひ…彼岸にある蜂蜜は金色が過ぎる。買ってきてもらった蜂蜜の香りを楽しみ、黯(*影)に沈める。兄さんの食事を眺めるよ。生きるものはかくも愛いねェ。
結・縁貴
*
かみさま(f16930)と
御馳走しようかと思ったのに、駄賃貰っちゃったなァ
まァお使いはこなそうね
数種類の蜂蜜を駄賃で買えるだけ、箱に詰めてもらおう
あとは俺達用
蜂蜜の味比べがしたいんだ、香りが強いものを並べてもらっても?
かみさまが毒抜きしてくれた黄金果実も調理を頼もう
調理方法はお任せ
購入したものを持ってテラス席に居るかみさまの所に行くよ
他者を思いやれる神って稀有的だよね、俺の基準ではだけど
お待たせしました、今回はお付き合い謝謝您!
蜂蜜って俺の世界では高級品だったんですよ、種類が揃うと贅沢ですね
…集めた蜜によって花の香りが違うんだなァ
応、果実の方も好吃
かみさまも香りは楽しめるなら、どうぞご一緒に
「……御馳走しようかと思ったのに、駄賃貰っちゃったなァ」
翠緑の髪を揺らし、結・縁貴(翠縁・f33070)は独り店内のショップコーナーを覗いていた。握った手の中にはキラキラ光る金貨を転がして。
頼まれたお使いの品は、渡されたこの金貨一枚で十二分に買えるだろう。縁貴は数種類の蜂蜜を駄賃で買えるだけ選び、箱に綺麗に詰めてもらう。土産用だと一言添えて。
「あとは俺達用だね。さて、どうしようかな……」
改めて棚を眺めれば、黄金色に輝く蜂蜜の瓶が整然と並んでいた。
同じ金色でもその色彩は様々で、薄く輝く透明な金色もあれば、飴色の様な奥深さを感じさせる金色もある。採る時期や集めた花の蜜によって味も香りも様々なのだろう。
縁貴は軽く首を捻りつつ、箱詰めしていた店員に再度声を掛けた。
「蜂蜜の味比べがしたいんだけど、香りが強いものを並べてもらっても?」
香りが強いものですか?と店員が返しつつ頷き、色とりどりの金色小瓶の中から幾つかを選び出す。それぞれがどの様な蜂蜜か、細かに説明をしてくれる店員の話に縁貴は真剣に耳を傾けた。
――そうして選んだ金色小瓶を別に包んで貰いながら、思い出した様に縁貴は荷物の中から布袋を取り出す。
中にはあの島で、かみさまと一緒に手に入れた黄金の果実が入っている。
「これの調理もお願いしていいかな?調理法はおまかせで!」
テラス席から望む雲海は夕陽に照らされ、朱く燃える雲の山並みが何処までも続く。
縁貴にお使いを頼んだ 朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はテラス席のひとつに腰を下ろしていた。
自らも土産を選びに行きたい所だったが、なにせこのカラダは病毒のカタマリ。店内には少々入り辛い。けれど開放的な此処ならば、中よりはずっとマシだろうと。
そうして沈む陽を眺めつつ、近付く気配に逢真はゆるりと振り返った。
「かみさま!お待たせしました」
小走りに駆け寄る縁貴は嬉しそうに笑みを浮かべつつ、その腕にはお使いの品々が大事そうに抱えられている。
「おかえり虎兄さん。選んできてくれてありがとよゥ」
「はい、まずは頼まれていたお土産です!
色んな種類の蜂蜜を箱詰めして貰いましたよ」
軽く掲げた大きめの手提げ袋には、贈答用にと丁寧に包装された品が入っている。
それを見て満足気に頷く逢真の様子に、縁貴はつられて笑顔を返し。
(「……他者を思いやれる神って稀有的だよね。俺の基準では、だけど」)
ふとそんな事も思いながら、手提げ袋はそっとテーブルの脇に置いて。
もうひとつ、抱えた紙袋から取り出したのは金色に輝く小瓶が3つ。
「今回はお付き合い謝謝您!これは俺達用です。
かみさまと一緒に蜂蜜の味と香り比べをしたいなって思って」
ほぅ、と逢真は顎に手を添え。テーブルに並べられた異なる金色の小瓶を興味深そうに眺めた。
「……蜂蜜って俺の世界では高級品だったんですよ。
こう沢山の種類が揃うと、何だか贅沢ですね」
蜂蜜は栄養豊富。それゆえ処によっては薬の代わりにもされて来た。
「さて、蜂蜜の種類の説明もちゃんと聞いてきました!
此れはハーブ系、ラベンダーの蜂蜜で。此方はフルーツ系、オレンジの蜂蜜です」
ラベンダーは透き通る黄褐色の蜜で、スッと抜けるような爽やかな香りが強い。次いでオレンジの蜜は色合いも当にオレンジの様に見目鮮やか、柑橘系の香りはそれだけでも酸味を感じられる程だった。
「ひひ……彼岸にある蜂蜜は金色が過ぎるな」
其々に異なる金色、異なる香りを楽しみながら。逢真は静かに目を細める。
「いい香りでしょう?気に入って貰えましたか。
あと、最後のひとつはこれ。百花蜜という蜂蜜です」
百花蜜はその名の通り、たくさんの花々の蜜を集めて自然にブレンドされた蜂蜜だ。謂わば花畑の蜜。縁貴が選んだそれは、ちょうどこの土地で春に咲いた花々から集められた蜜だそうだ。
「季節やその年によっても味や香りが違うらしいですよ。
だからこの香りと味を楽しめるのは、今だけなのかもと……」
小瓶を開ければ、濃厚な強い花の香りがふわりと広がる。
そっと目を閉じると裡に染み込む香りと共に、春の野山に咲く可憐な花のひとつひとつが感じられるようでもあった。
「……何だか本当に、贅沢な時間ですね」
「アァ、そうかもなァ」
過ぎ去った筈の春の余韻に浸る二人を呼び戻したのは、店員の一声だった。
「わ……!頼んでた果実の料理!」
縁貴はテーブルに広げていた物を慌てて隅に寄せて、調理されて戻って来た黄金の果実を嬉々として迎え入れる。
そんな縁貴の様子を眺めつつ、逢真は小さく笑みを零した。
――生きるものは、かくも愛いねェ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【*】
【双星】アドリブ◎
ん〜!すっごいうまそうな匂いがするなアレス!
店内に漂う甘い匂いにご機嫌でアレスを見る
なあ、アレスはどれ頼む?
俺は〜…全部食いたい!
キラキラ笑顔でメニューを広げ
いっぱい動いたしきっと入るって!
ん?アレスはそんだけでいいのか?
…そうか!
うわーどれもすっげぇうまそう!
だいたい蜂蜜使ってっからきっと全部甘くてうまいんだろうけど
チーズとか入ってるちょっとだけ甘くなさそうなやつから味見していこう!
もぐもぐご機嫌で食べ始め
…って思ったけど、だんだんお腹いっぱいになりかけてきたな
んー…アレスさっきお腹いっぱいって言ったし…
アレスの申し出に尻尾があったらぶんぶん状態
いいぞ!俺のをはんぶんこ
ふふ、なんだかアレスと食べると思うともっと美味しく感じるな
最後に運ばれてきたデザートに目をぱちくり
おおー!こんな感じなのか
アイツ、無事帰っていってよかったよなぁ
今日の光景を思い出しながら
俺もとアレスのアルバムに触れる
だって、俺の見た、いちばんの光景も残しておきたい
きっと、忘れることはないけれど
アレクシス・ミラ
【双星】*◎
蜂蜜の甘い香りがするね
ああ、何を頂こうか……え、全部?
(セリオスには美味しい物を沢山食べて欲しい気持ちはあるが…
恐らく食べ切れないだろうな…
なら念の為)
僕は蜂蜜紅茶にしようかな
まだお腹はそんなに空いていなくてね
沢山の料理を頬張る彼に目を細める
…本当に美味しそうに食べるなあ…
よかった。紅茶も優しい味で美味しいよ
その内に彼に満腹の兆しが見え始めて
(…予想通り
君も残すのは望まないだろう
だから『はんぶんこ』だ)
セリオス。君が良ければ僕にも分けていただけるかい
恥ずかしながら…段々お腹が空いてきて
そう言って彼から頂こう
―僕も
美味しいと笑う君を見れて
君と美味しいを分かち合えて
嬉しさも倍になったような心地だ
最後に運ばれた…こ、この果実は…
まさか、あの子を狩…!?あ、拾ったのか…
ああ。…今もこの空を見つめているだろうか
ずっと忘れはしないが
アルバムに今日僕らが見た光景を想い綴ろう
空にあった島
自然に還る文明と秘密基地
空色を映すヤドカリ
(それから…僕の見た
君がいる景色も)
うん。一緒に残そう、セリオス
優しい蜂蜜の香りに包まれたカフェの店内。
キッチンからはきっと誰かが注文したのだろう、焼き菓子の香ばしい匂いが店内の席までふうわりと運ばれていた。
席に着いて早速メニューに手を伸ばした セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)はキラキラと期待いっぱいの笑顔を浮かべる。
「ん〜!すっごいうまそうな匂いがするなアレス!なあなあ、どれ頼む?」
向かいの席に座るアレス、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)にも見えるように広げたメニューを横向きに滑らせて。
「……俺は〜。全部食いたい!」
「ああ、何を頂こうか……って。え、これ全部?」
「いっぱい動いたし、きっと入るって!」
青い瞳を輝かせて頷くセリオスの表情は、もう決めたと言った自信満々の様子で。
アレクシスはぱちりと空色の双眸を瞬かせた。
(「セリオスには美味しい物を沢山食べて欲しい気持ちはあるが……」)
恐らく全部は食べ切れないだろう。かと言って残してしまうのも店に忍びない。
それなら念のため。
「じゃあ僕は、蜂蜜紅茶にしようかな。まだお腹はそんなに空いていなくてね」
それを聞いたセリオスはきょとりと意外そうにアレクシスの顔を覗いて。
「アレスはそんだけでいいのか?
うーん……そうか!じゃあ早速注文しようぜ」
暫くして二人の目の前には蜂蜜を使用した沢山の料理が並ぶ。
丸い大皿には香ばしいチーズの薫りを纏う、特製チーズと蜂蜜のピッツァ。
蜂蜜とレモンを添えた鶏もも肉のソテーはブラックペッパーをアクセントに、ピリリさっぱりとした風味に。
生ハムとグリーンリーフ、彩りにトマトやパプリカも合わせたサラダには蜂蜜入りのシーザードレッシングを振り掛けて。
厚切りのサクフワなはちみつトースト。バターがとろけるはちみつパンケーキ。
ベリーとフルーツのパフェにも勿論はちみつを。
他にもドリンクを除き、頼んだ料理がテーブルを埋め尽くす。
蜂蜜はそれぞれの料理にメインとして、隠し味として、調理法に合わせてふんだんに使われていた。
「うわー!どれもすっげぇうまそう!」
沢山の甘い誘惑に、どれから食べようかとセリオスは贅沢に悩みつつ。まずはあまり甘くなさそうな、そして焼き立てを食べたいチーズと蜂蜜のピッツァに手を伸ばす。
サクサクのピザ生地にとろけるチーズ、甘さ控えめの蜂蜜はチーズの塩味を邪魔せず程よい甘味を与えてくれる。
もぐもぐと嬉しそうに料理を頬張るセリオスの様子に、アレクシスは柔く目を細めた。彼が美味しそうに食べる姿を見ているだけで、自分も十分に幸せを感じている。
「ふふ、よかった。この紅茶も優しい味で美味しいよ」
ふわりと上品に蜂蜜が薫る紅茶を片手に。ゆるりと食事の時間が流れてゆく。
程無くして、セリオスの手が止まり。ぅ~ん?と困った様に小さく唸った。
(「……だんだん、お腹いっぱいになってきたな」)
ちらりと紅茶を啜るアレクシスに視線を移す。
(「んー……でもアレスはさっきお腹いっぱいって言ってたし……」)
そんなセリオスの視線に気付き、アレクシスが顔を上げると二人の視線がぱちりと合う。先に表情を綻ばせたのはアレクシスの方で、
「……それ、美味しいかい?君が良ければ、僕にも少し分けていただけるかな。
ふふ、実は恥ずかしながら……段々お腹が空いてきてしまって」
きっと君も、このまま残すのは望まないだろうから。
だからここは君と『はんぶんこ』
「……!もちろん、いいぞ!俺のをはんぶんこだ」
アレクシスの申し出にぱっと顔を上げたセリオスは、嬉しそうに笑顔を零す。
「ふふ、なんだかアレスと一緒に食べると思うと、もっと美味しく感じるな」
小皿に彼の分を取り分けつつ、思わずそう呟いたセリオスに、アレクシスも微笑みつつ頷いた。
「うん、――僕も」
美味しいと笑う君を見れて。君と一緒に美味しいを分かち合えて。
嬉しさも倍になったような心地だ。
「――ふぅ、何とか完食出来たかな?」
「ああ、俺もおなかいっぱいだ~……」
二人で食べ切るにもかなりの量があった料理達は綺麗に空の皿となった。
「でも、すっげぇうまかった……!」
「うん、だね」
満足そうに椅子に凭れる二人の横で、空いた食器を下げていた店員が替わりに小皿を乗せたトレーを運んでくる。
食後に注文されていたフルーツです、と。
テーブルに置かれたのは金色をした林檎に似た果実。
「……ん?こ、この果実って……」
一瞬青褪めたアレクシスの向かい側で、セリオスは「あ」と小さく声をあげて。
「……そういやこの果実、島を出る帰りに拾ってさ。
食べられるって聞いたから、食後に出して貰うよう頼んでたんだった」
セリオスはひょいと手を伸ばし、カットされた果実の一切れを口に運ぶ。
食感は林檎のようだけれど、味は桃のような。後味のスッキリとした甘味が口の中に広がる。食後に食べるには確かにちょうど良いかもしれない。
「え、あ、拾ったのか……」
島に残してきたあのヤドカリが何時の間にか狩られて居たのではと、一瞬驚いたアレクシスはほっと一息を付き、島で見た光景を思い出した。
今も沈みゆくあの島で、あの子は同じ空を見つめているのだろうか。
アレクシスは徐ろに荷物の中から一冊の本を取り出す。
此れは記憶から想い出を綴る魔法のアルバム。
今日この時を忘れない様にと、白紙のページに触れれば。
空に浮かぶ島、自然へと還る文明、秘密基地、そして空色を映すヤドカリが描かれてゆく。
「ふふ。アイツ、無事帰っていってよかったよなぁ」
椅子をずらして隣に移動してきたセリオスも「俺も」とアルバムにそっと触れた。
思い出す光景は色々あるけれど、自分が見たいちばんの光景も残しておきたい。
そっと触れる手が重なった。
「うん。一緒に残そう、セリオス」
「……ああ」
互いに思い描く光景はアルバムの中で重なって。
青い空と緑溢れる街並み、そこに並ぶ二人の姿が描かれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
瑞月・苺々子
【星縁】
ふふ!カフェに入る前から、蜂蜜の甘くて幸せな香り
どれにしようかな?
店先のメニューを眺めるだけでも迷っちゃう
そんな中、テラス席にいるお友達の姿をみつけるの
ノヴァ!
ノヴァは何にしたの?
ももはね、「そば蜂蜜のパフェ」!
お蕎麦の花の蜂蜜ってね
黒糖みたいにまったりとした甘さなの
和風、だけど和風じゃない
不思議なスイーツね
段々と日も暮れてきて
お空の上から眺めるお星さまも格別ね
旅先で出会ったお友達と弟と
お茶をしながら景色を眺めるの
また1つ、両親に伝えたい素敵な思い出が増えちゃった!
夜風は少し涼しくなってきたけれど
こんな暖かい時間に
いつまでも身を置いていたいな
なんて
懐郷の感傷に浸りすぎかしら?
レイラ・ピスキウム
【星縁】
苺々子さんは僕よりも鼻が利くみたい
入る前から幸せそうにしてる姿、和みますね
メニューは座ってから選んでも遅くはないですよ?
ふとテラス席に目を向ければ
夕陽に染まる空に溶け込むような、橙色の髪の見知った姿
ノヴァさん
ご相席、いいですか?
ノヴァさんは何を選んだのか
きっとあなたが何を選んでも
あなたらしいと思うかな
僕は「山盛りパンケーキ」を
5段重ねの分厚いパンケーキに
バターとたっぷりの蜂蜜
シンプルだけれど最高に贅沢な一品
多いように見えるでしょう?
これが後3皿あって漸く満足出来るはず
苺々子さんに呆れられるので
流石にそこまでしないけれどね
こうして3人で過ごした時間
同じく僕にとっても大事な宝物になりますね
「ふふ!カフェに入る前から、蜂蜜の甘くて幸せな香り」
先に店内へと入って行った猟兵達を見送り、店先のメニュースタンドを眺めながら 瑞月・苺々子(苺の花詞・f29455)は何を頼もうかなあと既にわくわくし始めていた。
「メニューは座ってから選んでも、遅くはないですよ?」
既に幸せそうな苺々子の様子を レイラ・ピスキウム(あの星の名で・f35748)は傍らで微笑みつつ見守る。
そんな二人が程無くして店内へ足を踏み入れれば、中は蜂蜜がより一層甘く薫っていた。其れとともに別の甘さや食欲を唆る香ばしい匂い。先に入って行った他の猟兵達が注文を終えた頃合いか、きっとキッチンでは今大慌ての最中なのだろう。
苺々子とレイラの二人が向かったのは店員に勧められたテラス席。
暮れる夕陽が辺り一面を朱色に染め、目の前に広がる雲海には今当に雲に沈んでゆく太陽の姿が在った。二人はその光景に感嘆の声を洩らしつつ、ふとテラス席の端に座っている人影に気付く。
空に溶け込むような髪色に、夜色を纏ったその後ろ姿は二人も良く知る人物で。
「――ノヴァ!」
たたっと駆け寄る苺々子に気付き、名を呼ばれて振り返った青年の瞳は雲に沈む太陽と同じ色をしていた。
「……苺々子、とレイラ?君たちも来てたんだね」
ノヴァの朱色の双眸が柔く細められると、苺々子はにこやかに相槌を打つ。
「はい。もし良かったらご相席、いいですか?」
レイラが軽く会釈をしてそう問えば、二つ返事でノヴァが返す。
「ああ、勿論」
テラス席の丸いテーブルを囲む三人。其々に見知った間柄ではあったけれど、こうして顔を合わせて同じ時間を共有するのは今日がきっと初めてだ。
「ねえねえ、ノヴァは何をたのんだの?」
注文を待ちつつ、そわそわする苺々子が彼の手元を見てそう尋ねた。
ノヴァの手元には紅茶のようなものが注がれたカップがひとつ。
けれど自分達より前からこの席にいる様子だったから、と。
「……うん?俺はこの蜂蜜紅茶だけだよ。他に頼むかは、気が向いたらで。
そう言う君たちは、何を注文したの?」
ノヴァの返答に。そうなんだ、と苺々子は少し首を傾げつつも。
「ももはね、そば蜂蜜のパフェ!
お蕎麦の花の蜂蜜ってね、黒糖みたいにまったりとした甘さなのよ」
黒糖と聞けば、侍の世界や桜の世界に在るような和菓子を思い浮かべるが、頼んだパフェも和風の要素があるのだろうか。
「僕は、山盛りパンケーキを。分厚いパンケーキにバターとたっぷりの蜂蜜。
シンプルだけど、きっと最高に贅沢な一品だと思うんです。
……あ」
などと話していれば、トレーを抱えた店員が此方に近付いてくるのが見える。
どうやらお待ちかねの時間のようだ。
「わぁ!とってもおいしそう」
苺々子の元にはそば蜂蜜のパフェ。
クリームと抹茶風味のショコラムースが美しい層を描き、上には玄米茶のアイスクリーム、クレームシャンティ。そば蜂蜜は別容器で用意され、お好みで掛けながら食べられるようだ。
レイラの山盛りパンケーキはたっぷり五段重ね。
表面がつやつやきつね色のパンケーキは切り分ければふんわり軽く。
此方も蜂蜜は別容器で、お好みで甘味を足せるようになっている。
「……レイラの山盛りパンケーキ。本当に山盛りなのね」
「うん、俺はひとりじゃ食べきれないかも」
二人からの視線を余所に、そうですか?とレイラは目を丸くした。
(「本当はこれが後三皿あって漸く満足できるくらいなんだけど」)
きっと更に呆れられてしまうから、今日はこの一皿だけで。
蜂蜜の甘味、三人で過ごす和やかな時間は過ぎて。
気付けば空には宵の幕が下り始めていた。
先程まで輝いていた夕陽は沈み、雲の畝から溢れる光が雲海を朱く照らす。
見上げれば、頭上には白く明滅する星明かりも見え始めていた。
「お空の上から眺めるお星さまも格別ね」
今日は旅先で出会った友達と弟と、お茶をしながら景色も愉しんで。
またひとつ、両親に伝えたい素敵な思い出が増えたと、苺々子は嬉しそうに星空を見上げる。
……こうして三人で過ごした時間、僕にとってもきっと大事な宝物になる。
星を映した瞳でレイラは苺々子と同じように夜空を見上げた。
そんなふたりの様子を眺めながら、ノヴァは小さく微笑む。
そのまま夜空を見上げ、僅かに目を細めた。
この世界も他と変わらない、数多の星が落ちてくるようだと。
――吹き抜ける夜風は少し涼しく、けれど夏の気配を含む暖かさも乗せていた。
大成功
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