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銀河帝国攻略戦⑯～「よくもこんな洗脳音楽を！」

作者：佐渡

●悪魔の音楽通信
　その船は、『解放軍』の軍艦だ。いや、だった、という方が正しいかもしれない。
　いまや乗員は皆気が触れて、あちこちを彷徨ったり、自分の身体をレーザー銃で焼いて食べたり、宇宙服を脱ぎ捨て船の外へ飛び出したりといった、散々たる有様だ。
　その船の中では、未だ大音量である音楽が流れている。僅かにでも耳にすればたちまちに人の心を奪う、魔性の歌が。

●音楽には音楽をぶつけんだよ
「皆様は、音楽はお聴きになられますか？」
　ヘッドフォンを外したオクタ・ゴート（八本足の黒山羊・f05708）は、猟兵達に問いかける。頭がどう見ても山羊の骨であるこの男がよく見る人型用のヘッドフォンでどうやって音楽を聞いていたんだという突っ込みをするものは、幸いこの場に存在しない。

　しかしこれは雑談ではなく任務の前の確認事項。曰く今回の件には音楽が密接に関わっているらしい。オクタが自身の聞いていたヘッドフォンを引き抜くと、大音量で流れ出す不協和音を織り交ぜた実に気色の悪い歌。思わず耳を塞ぐ猟兵達の様子に音を止め、オクタは言葉を続けた。
「これが、今回皆様に戦って頂く相手です」

　銀河帝国の擁する黒騎士アンヘル配下の『クライングシェル』艦隊。この艦隊が『洗脳音楽通信』なるものを用い、解放軍の軍船を攻撃を開始する、という予知が行われた。この曲を聞いた者はすぐさま発狂し、人間性を木っ端微塵に破壊されてしまう。たかが音楽と侮るなかれ、まさに兵器といって差し支えない強い力を持っているのだ。
　しかしここで猟兵達は首を傾げた。確かに耳障りなひどい音楽ではあったものの、この場にオクタが並べたような発狂かそれに類する症状を発症する猟兵は一人もいない。

「そう。我々猟兵に、この音楽は通用しません」
　つまり、この音楽を打ち破れるのもまた猟兵のみ、ということ。
「作戦の概要は、放送設備を増強した芸能船へと転送後、敵の音楽放送と同時刻にライブを行って頂きます。この音楽は敵艦隊もライブで放送する。つまり音楽を用いた全面戦争ということで御座います」
　猟兵の力を以てすれば、歌の力を伝播させ悪しき敵を吹き飛ばすこともできる、はずだ。

「それでは、不肖オクタ皆様の歌をここからでは御座いますが応援しております」
　手作りと見える法被とハチマキ、それに【I LOVE 猟兵】と書かれた団扇を手に、オクタは猟兵達を見送るのであった。

第1章 冒険 『洗脳音楽通信を撃ち破れ！』

POW   :    激しいビートで、魂を揺さぶり、洗脳音楽通信の影響を撃ち破る。 SPD   :    超絶的な技巧で、聴く者を圧倒して、洗脳音楽通信の影響を撃ち破る。 WIZ   :    心に響く歌声で、感情を揺り動かして、洗脳音楽通信の影響を撃ち破る。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

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　『クライングシェル』艦隊に射程圏内に入る一隻の船。今正に解放軍に向けて、悪魔の音楽を放送しようとした矢先の事であった。
　確認すればそれはどうやら解放軍に所属する艦船であると見るや、すぐさま洗脳音楽の放送を準備する。どうやら解放軍の精神的健康の為に用意されたらしい娯楽船とでもいうべきその船を、音楽で壊滅させる。デモンストレーションとしては最上と言える。

　そして、洗脳音楽を奏でるためのバンドメンバーが演奏を始めた……まさにその時だった。
　突如鳴り響く軽快なメロディ。艦内の音響設備だけではなくディスプレイまでもが突如ジャックされ、SD化されたキャラクターたちが飛び回る。そして、画面いっぱいに映し出されたタイトルの文字。
　『猟兵ミュージック』―――そのものズバリなタイトルと共に、オープニングイラストは360度継ぎ目のないディスプレイによって銀河を映す特設ステージに切り替わる。そこに立っていたのは、二人の猟兵だった。
　赤い衣装の猟兵はセクシーさを前面にアピールするドレスに身を包み、衣装という要因のみに呑まれない魅力を持つミケ・ナーハ（にゃんにゃんシーフ・f08989）。
　逆に、青い衣装の猟兵は見るからに幼く、青いエプロンドレスもまた小動物的な愛くるしさを一層助長する。コトト・スターチス（バーチャルネット辻ヒーラー・f04869）は、ミケの隣にちょこんと立っている。

　―――『クライングシェル』の洗脳音楽を打ち破るために音楽を用い戦う。ここまではいい。しかし、ただ敵を斃す為だけに歌うのは余りにも不毛。戦争という精神の摩耗する場所に立つ戦士たちの心を癒し、勇気を奮い立たせる為にこそ、歌は捧げられるべきである。
　そんな判断から、解放軍の面々にも見やすいようにと番組仕立てで放映されることになったこの『猟兵ミュージック』。解放軍の人々からのリアルタイムな反応と、敵艦に歌を届ける洗脳音楽の意趣返し。そして何よりも―――。
「ムギュッと抱きしめて、あなたの心盗んじゃいます♪」
「みなさん、ぼくのうたをきいてくださいっ！」
　視覚からの情報と合わせると、人の記憶には残りやすいものである。

　最初に歌ったのはミケ。自身が投稿している動画サイトでも人気を博するオリジナル楽曲、『にゃんにゃんシーフ』。薄暗い中で赤と桃色の照明に切り替わり、甘い歌声と誘惑的な視線と振り付けが人々を引き付ける。ダンスによって上気する顔、汗ばむ肌によって更に加速するセクシーさに、男所帯の軍船の人々は釘付けだ。
　続く二番手はコトト。先程と一転し落ち着いた白と青のライトに照らされ、未来の希望や人々を勇気づける明るい歌詞を歌う。疲弊した人々の心にじんわりと染み渡っていくだけでなく、小さな手でマイクを持ち必死に歌う懸命な姿は、また別の紳士諸兄だけでなく女性の心をもがっちりと掴んだ。
　そして、コトトが歌い終わると、今度は二人の即興デュエットが開始される。アイドルソングのようなポップで明るいメロディに合わせ、解放軍に向けた応援歌にも似た歌詞をつけたもの。届くコメントはとんでもない速度で流れてゆき、みるみる数字の桁が増えていく。
　
　伝播していく希望の波。しかし、それに水を差すように猟兵達のステージの音響に走るノイズ音。耳をつんざく程のギターの音。同時に流れ出す、あの耳障りな洗脳音楽。意味深な暗い歌詞と陰鬱なシンセサイザー。心を捻じ曲げるような、重苦しいビートが、心を砕くべく一層激しく声を張り上げる。
　荒々しい抵抗。けれど、本当に心に届くのは、そんな力任せのサウンドではない。
　小さく、けれど澄んだ音色が、奇矯な歌をかき消す。音の正体は、新たにステージに立っていた猟兵―――パティ・チャン（月下の妖精騎士・f12424）が奏でるマリンバの音色だ。
　騎士の礼装に身を包みながら、ユーベルコードを用い生み出す自前の炎の柔らかな照明が、気品と穏やかな空間を演出する。
　小さな体でしっとりと歌うバラード。声はピンマイクによって調節され、同時にマリンバの音色もしっかりと拾われる。只々人の感情を乱す為だけの音ではない、獣と心を交わす際にも用いられる清浄な音色は、放送を通じて洗脳音楽をわずかに耳にしてしまった人々を優しく目覚めさせていった。
「ご清聴、ありがとうございました」
　演奏を終え、優雅に一礼する彼女に向けて、思わず拍手が起こるような。不意に涙が零れるような。真に心を動かすことのできる音は、彼女か奏でるものなのは明らか。

　最早勝負はついたも同然。それでも、往生際悪く2曲目に入ろうとする『クライングシェル』艦隊。―――だが、敵も、今放送を見ている解放軍の人々も、大トリに現れた男の存在に完全に目を奪われた。
　白黒ミックスのキュートな顔立ち。対してビシッと決まった背広。両手に携えるバトルアックスは武骨ながらに雄々しく、勇猛だ。
　おお、あれこそまさに動物界のキング。旗村・グローリー（ザ・ジャイアントパンダ・f04986）。空気が一瞬で彼のものになったと同時に流れ出す、渋いフォークソングのメロディ。大きく、息を吸い込んだ。

『パンダ座は北西の空に』　作詞作曲：旗村グローリー

銀河は言うほど銀じゃない　
どっちかって言うと　黒
どっちかって言うと　闇
ブラックホールとかあるし
暗黒物質とか　かなりやばい

パンダは言うほどパンじゃない
どっちかって言うと　獣
どっちかって言うと　熊
竹とか毎日かじっちゃうし
寝てばかりとか　かなりやばい

銀河は黒で　パンダは白黒
白がある分　パンダがつよい
銀河よりも　パンダはつよい

　カラオケで85点を出したことのある自慢の歌声、バトルアックスが響かすパーカッション。そして、サポートとしてパティが差し込んでくれたマリンバのアレンジ。
　彼の熱く燃えるジャイアントパンダ魂は、今確かに銀河の全てに届いた。

　―――気が付けば、もうあの忌まわしい洗脳音楽は聞こえない。レーダーを確認すれば、既に反応はロストしている。猟兵達の奏でた歌声が、勝利したのだ。
　一部始終を目の当たりにした解放軍の人々は、口々に猟兵達を賛美し、続けてアンコールを求める。―――こうして、求められるがままこの放送の最後を締めくくったのは、猟兵全員の合唱だった。

　戦いは続く。それでも猟兵の歌を心の支えにする者もいるだろう。
　歌は人を繋ぐ。想いを、願いを繋いでいく。
　だからこそ、声は、歌は、世界の果てだって輝き続けるはずだ。
　

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月15日