●咒いと呪い
結ぶ、絆ぐ、繋げる。
縛る、絡める、括る。
結い紐に麻紐、括り糸に釣り糸。注連縄に吊り縄、ゴム紐、それから――リボン。
結ぶ為の紐や糸の種類は多岐にわたる。その中でもひときわ可愛らしい印象を与えるものが、包装用や髪飾りとしてのリボン。されど、それはただ可愛いだけのものではない。
ひらり、ひらり。
風に舞う不思議な黒いリボンには触れてはいけない。
何故なら、それは――誰かを永遠に縛り付ける呪いが宿されたものだから。
●黒の結び
「……という曰く付きの呪物がデータ上にあったんだ。データの上だけでは、な」
UDCエージェントのディイ・ディー(Six Sides・f21861)は、『呪いの黒いリボン』という呪物のデータを書類として印刷してきた。
黒のリボンは組織の或る支部で管理されていた呪物のひとつなのだが、今の今まで所在が不明だった。確かに収容して保管を行っていた事実はあるのだが、いつしか何処かに消えてしまっていたらしい。
リボンの効力は、手にした者と『何か』を繋ぐというもの。
たとえばヒトとヒト。
手錠のように繋げられた二人はずっとリボンで拘束される。
或いはヒトと場所。
黒いリボンを拾った場所と、そのヒトが繋がれてしまう場合もある。
どちらにしても、リボンが解かれない限りは永遠に縛り付けられる呪いだ。呪いだけあって本人には絶対に解けないおまけ付きだという。
「誰かが使わなきゃ呪いは発動しないものなのが不幸中の幸いだった。捜索はされていたが使われていた形跡や報告はない。なかったんだが……どうしてか呪いのリボンがカクリヨにあるってことがわかった」
おそらく何らかの要因によって、支部に保管されていた呪物がカクリヨの世界に流れていってしまった。それゆえにリボンはデータ上だけの存在となり、今まで行方不明になっていたのだ。
「拙いことにカクリヨにいた赤鬼の少女が呪物を使っているようだ。水底に存在する神域の神社に遊びに行ったときに、流れ着いたリボンを拾ったみたいだな」
スピカという名の少女は水底の神社から出られなくなった。
どうやら土地に縛られたようだ。
そのうえ厄介なのは黒いリボンの力が巡り、水底の神社が迷宮化されていること。神社内には見えない壁が張り巡らされ、普段よりも妙に広い異空間に変わっている。
「赤鬼のスピカも呪物に当てられて、水底の神社に訪れた者を『ともだち』として引き摺り込もうとしてるんだ。無邪気に見えるが正気じゃねえな、あれは。何とか倒して元に戻してやらねえと……」
今は被害が小さいが、放っておけば幽世の崩壊に繋がるかもしれない。
何より、UDCから流れたものならば元の世界へ回収しなければならない。
方法としてはまず迷宮化した神域内を進み、奥に辿り着くこと。或いはスピカにこちらの気配に気付いて貰えばいい。
いずれにしろ、赤鬼のスピカは此方に興味を持って出てくるだろう。
そして、彼女と戦って倒す。そうすれば呪物と少女は引き剥がされ、どちらも無傷でもとに戻るというわけだ。
「妖怪は頑丈だって話だから遠慮は要らないぜ。寧ろ全力で戦って綺麗さっぱりリボンを取ってやった方が彼女のためかもな!」
どうか頼む、と両手を合わせたディイは仲間達に事件解決を願った。
そして――水底の社への道がひらかれる。
●ひとりぼっちのかくれんぼ
泡沫が浮かび上がり、桜の花が水中を游ぐ。
其処は幽世の水底に存在する、水咲之社という名の大社だ。
不思議な力が巡る神域には水中でありながらも多くの桜が咲いている。社の中央に佇む、ひときわ大きな樹が神木とされていた。
だが、今は社を覆い隠すような桜の樹と、不可視の壁が神木への路を塞いでいる。
姿の見えぬ水神様はいるらしいが、迷宮化と呪いを解く力はない。
唯一の幸いは、水神様は普段から神域に入る者に長い間の呼吸が可能な加護を授けてくれているということ。
雑面をつけた式神もいるらしいが、彼らは言葉を発しないので詳しい案内には向かない。それに今は呪物の力と気配に怯えており、顔を出せないようだ。
そんな迷宮神域の奥。神木の傍から響く声があった。
――もういーかい?
かくれんぼ遊びの声だろうか。繰り返される呼び掛けに応える者は誰もいない。
――もういーかい? もういーかい?
何度も何度も、幾度聞いても「もういいよ」の言葉は返ってこなかった。それでも赤鬼の少女は呼び掛け続ける。もし此処に誰かが来たら、きっと応えてくれるから。
「誰かが来たら、このリボンを結んであげよう。そうしたらもう、ともだちなの! ふふ……楽しみだな。はやく誰か、ここに来ないかなぁ」
そして、独りぼっちのスピカは呼び続ける。
その腕には水底の色よりも深い、漆黒のリボンが絡みついていた。
犬塚ひなこ
今回の世界は『カクリヨファンタズム』!
UDCから流れついた呪いのリボンが、カクリヨに住む赤鬼の少女や水底の神社に影響を及ぼしてしまいました。迷宮化された社の奥にいる少女を倒して、呪物を引き剥がしましょう!
●第一章
冒険『水咲之社』
水中に佇む不思議な神社が今回の戦場です。
神社におわす水神様による、呼吸が出来る加護が巡っているので息継ぎなどの心配は不要です。(水神様が姿を現すことはないようです)
神域は呪物によって迷宮化しています。
視界を覆うように並ぶ水中桜の樹々や、泡と共に舞う花弁、見えない壁などを避けて神木を目指しましょう。途中にある賽銭箱や社にお参りしたり、何処かに隠れている式神を見つけて安堵させてあげたりすると、何かが起こるかもしれません。
元は神聖で心地良い場所なので、冒険気分で探索してください。
敢えて迷宮内で遊んでいたり、楽しく過ごしていたりしても大丈夫です。過ごし方や進み方はどうぞご自由に!
●第二章
ボス戦『独りぼっちのスピカ』
迷宮化した社の内部、最奥に当たる神木の傍にいます。
登場は二章からになりますが、一章で楽しく遊んでいると皆様に対しての強い興味を持つようになります。
腕の黒いリボンが彼女の気を狂わせており、遊び=戦いだと認識させているようです。倒すと呪物と少女を引き剥がせます。
妖怪は丈夫なので倒しても死にません。全力で戦って助けてあげてください。
第1章 冒険
『水咲之社』
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POW : 丁寧に御参りする
SPD : 美味しいものをお供えする
WIZ : 式神の手伝いをする
イラスト:ひなや
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱赫七・カムイ
⛩迎櫻
◎
リル!水底の社は実に美しいが…
いけない、私の巫女が藻屑になってしまう!
甘やかしすぎだというイザナの目が痛いが
サヨは水につけるのが早いと駄目なんだ
神斬に甘えられる前に素早く抱える
イザナも水が苦手?と首を傾げ
──昔溺れたことがあったのだ
と云う小さな弁明も微笑ましい
もしやサヨの水嫌いは君由来か
おお!ヨルが名探偵に
ホムラも一緒にいっておいで
偵察しながら神域の迷宮を進む
ご覧、サヨ
揺らぐ桜が美しいよ
…ここは行き止まりだが…彷徨う時もまた楽しい
勿論嬉しい
サヨが甘えてくれるからね
式神を保護して事情をきこう
社が?他の神に挨拶するのも良さそうだ
真なる結びは無理やりでは叶わない
厄なる結びを断つ事も
私の役割だ
リル・ルリ
🐟迎櫻
◎
ヨル!綺麗な場所だね、て笑ったのもつかの間
櫻ー!!しっかり!気を確かに!
お水の中だけど呼吸もできる
大丈夫!
またそうやってカムイに甘えるんだから
イザナは泳げて……ん?甘えん坊だ
もしかして櫻と同じく泳げな…
水底の桜を見上げてくるり泳ぎ
口ずさむのは「探索の歌」
名探偵ヨルにも手伝ってもらって迷宮の中を探検だ
ホムラと一緒のヨルは頼もしい
櫻の示す道は通せんぼばかりだ
カムイ…嬉しそうだね
せっかくだから、お水の神様にもご挨拶しようよ
式神が迷子になってたら助けるんだ
ヨルも元式神だから気になるって
社を見つけたらお祈りをする
願いはひとつ
皆、しあわせでいておくれ
結び結ばれ路を編んで
今僕らはここに居るのだから
誘名・櫻宵
🌸迎櫻
◎
ヒュッ
水!遠のく意識!もうだめ!
ふと抱き留めてくれる力強い腕!師匠抱っこ、と甘える前にカムイがいつもの様に抱えてくれた
はやいわね、カムイ!
さすが私の神様
おじいちゃんだって強がりながら師匠に掴まってるじゃない!
…実はあまり得意じゃないの
同じね
このまま探検よ!
カムイが抱っこしてくれるから大丈夫
落ち着いて見れば桜も綺麗にみえる
ヨル達と一緒に
私も思う道を示してあげる
行き止まり?
楽しげなリルに幸せそうな師匠達
頼もしいカムイ
皆で巡るのが楽しくて嬉しくて適当な道を示しているのは秘密
困ってる式神は助けなきゃ!
何があったのかしら
社にもちゃんと挨拶するわ
私は禍津神の巫女だもの
…本当に私は
倖に結ばれたのね
●咲きゆく倖
此処は水咲之社と呼ばれる場所。
揺らめく水面を天に仰げば、水中に舞う桜花弁が眸に映る。
水底の境内へ続く路を潜ったリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は、すいすいと横を泳ぐ仔ペンギンに呼び掛けた。
「ヨル! とっても綺麗な場所だね」
「きゅー!」
二人が視線を重ねて笑ったのも束の間、悲痛な叫び声が水中に響き渡る。
「水! 水が!」
「リル! サヨが……! 私の巫女が藻屑になってしまう!」
誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)は水への恐怖を捨てきれず、どうしていいか分からずにもがいていた。朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)はその隣で立ち止まり、先を行くリルを呼んでいる。
「もうだめ! 先立つ不孝を許して! 母上、美珠……リル、カム……ッ!」
「櫻ー!! しっかり! 気を確かに!」
リルが急いで泳ぎ寄り、櫻宵の傍をくるくると回った。水の中ではあるが、呼吸もできるのだと言い聞かせたリルは、大丈夫だと櫻宵に告げる。
其処へ腕を差し伸べたのは神斬だ。
「さぁサヨ、おいで」
「師匠、抱っこ……あら、カムイ?」
「いいや、こっちだよサヨ。ごめんね、水につけるのが早かったか」
抱き留めてくれた力強い腕に縋ろうとした櫻宵だが、カムイが素早く間に割り込む。水底の社は実に美しいが、カムイにとっては巫女の方が優先すべきことだ。
「さすが私の神様」
「またそうやってカムイに甘えるんだから。イザナは泳げて……ん?」
櫻宵とカムイの様子をのんびりと眺めていたリルは、イザナの様子が普段と違うことに気付く。カムイに甘やかしすぎだという視線を向けていた彼は先程から何も喋らない。無言のまま、手が空いた神斬の袖口を密かに握っているようだ。
櫻宵もイザナを見遣り、お揃いだと笑う。
「おじいちゃんだって強がりながら師匠に掴まってるじゃない!」
「甘えん坊イザナだ。もしかして櫻と同じで泳げない?」
「イザナ、君も水が苦手?」
「まぁ、な。昔溺れたことがあったのだ」
やっと口をひらいたイザナは落ち着かない様子だ。小さな弁明が微笑ましいと感じていたカムイは、ふと思い立つ。
「もしやサヨの水嫌いは君由来か」
「そうね、おじいちゃんの魂に刻まれてるのかしら。同じね」
カムイの言葉を聞き、櫻宵も納得した表情をみせる。イザナはふいっとそっぽを向き、優しい表情をしている神斬に願った。
「……神斬、背負え」
「わかったよ、イザナ。カムイとサヨ達みたいな抱き方でいいかな」
「彼奴らの……? いや、待て神斬。此処では……!」
神斬はイザナを抱き上げる。暴れるイザナを軽々と姫抱きした神斬は、同じくお姫様抱っこ状態のカムイ達に笑い掛けた。
イザナは頬を染め、照れ隠し代わりに神斬の胸に顔を埋めている。
「あらあら」
「おやおや」
「ふふ!」
櫻宵とカムイは敢えて頷くだけに止め、リルは楽しげに笑った。その傍ら、ホムラを抱っこしたヨルが神斬とカムイを真似している。
そんなこんなで一行は水咲之社の探索に向かっていく。
「このまま探検よ!」
カムイの腕の中で櫻宵は片腕を振り上げた。彼が抱いていてくれているので強気になれているらしい。落ち着いて見れば桜も綺麗で、水神の加護も感じられた。
「うん、行こう!」
リルも水底の桜を見上げながらくるりと泳ぎ、歌を口遊みはじめる。
紡ぐのは探索の歌。
「きゅ!」
「ちゅん!」
歌の力で瞬く間に帽子とコートを羽織った名探偵の姿に変わったヨルは、虫眼鏡を持って駆けていく。ホムラも助手としてぱたぱたと水中を飛んでいった。
「おお! ヨルが名探偵に。ホムラも一緒にいっておいで」
カムイは二羽を見送り、辺りを見渡す。
今の神域には見えない壁があるようだ。迷宮化した内部を普通に進もうとしても何かにぶつかって進めなくなるという。
「ヨルとホムラも気を付けるのよ。ほら、そっちは行き止まりよ」
「本当だ。櫻はどうしてすぐに分かったの?」
「桜のおかげかしら」
「そうか、サヨは桜の花の流れを見ているんだね」
カムイに抱かれる櫻宵と、歌いながら泳ぐリル。その後についていく神斬とイザナ。一行はあちらでもない、こちらでもないと探索しながら進む。
「また行き止まりね」
「櫻の示す道は通せんぼばかりだね」
「ご覧、サヨにリル。水の流れに揺らぐ桜が美しいよ。案の定、ここは行き止まりだが……彷徨う時もまた楽しいさ」
「カムイ、嬉しそうだね」
「勿論嬉しいよ。サヨが甘えてくれるからね」
「うふふ!」
伴侶に抱きついた櫻宵は嬉しげに笑む。楽しそうなリルや幸せそうな師匠達、頼もしいカムイの姿を見ていると心が弾んだ。苦手な水の中でもこうして皆で迷路を巡るのが心地よくて、適当な道を示しているのは秘密だ。
そうしていると、ヨルとホムラが何かを見つけたようだ。
「きゅきゅ?」
「ちゅん、ちゅちゅんぴぃ!」
「見て、ヨル達が式神とお話してるみたい」
リルは行く先を指差し、雑面を被った式神達を示した。どうやらもう大丈夫だと話しているらしく式神達には安堵したような様子がみえる。
「式神が困ってるなら助けなきゃ! 何があったのかしら」
「この社に起きている異変が彼らを不安にさせていたようだね」
「迷子になってたのかな。でも、僕達が来たからには平気だよ! せっかくだから、お水の神様にもご挨拶しようよ」
櫻宵とカムイは小さな式神に優しい眼差しを送り、リルは進む先に見えた社を見遣る。ヨル達も式神を連れて社に向かっていた。
他の神に挨拶するのも良さそうだと感じたカムイは頷き、櫻宵も同意する。
「私もちゃんと挨拶するわ。これでも禍津神の巫女だもの」
「これからこの地で戦うことへの許可も貰っておかないとね」
「お祈りもしよう!」
社の前に辿り着いた一行は両手を合わせ、それぞれに瞼を閉じた。
こういった時間もまたかけがえのないもの。
自分達のまわりをくるくると回っている式神達を可愛らしいと思いながら、リルはヨルと一緒に頷きあった。
「願いはひとつだね!」
「きゅ!」
「どうか――皆、しあわせでいておくれ」
その言葉は心からのもの。
結び、結ばれて。路を編んで、道を紡いで。
今、自分達はここに居るのだから。
カムイの腕から下りた櫻宵は、水中に加護を巡らせてくれている神に礼を抱く。
(……本当に私は、倖に結ばれたのね)
リルの願いを聞いた櫻宵は穏やかな気持ちを抱いていた。
真剣に瞼を閉じている巫女の横顔を見つめていたカムイも、社の方を向く。
此処には今、厄災が巡っている。
水底に囚われている少女を救け、社を元に戻すことが自分達のやるべきこと。真なる結びは無理やりでは叶わないとカムイは知っている。
「厄なる結びを断つ事も、私の役割だ」
見ていてくれ、と水神に願ったカムイは凛とした思いを抱いた。
振り返った先には零れるほどの花を湛える神木が見える。桜の下で悲しみは生ませないと決め、カムイ達は先に進んでゆく。
暫し後、彼らは気付くことになる。
水神の社から手を振って見送ってくれた式神達が、青の勾玉が入った桜色のちいさなお守り袋を皆の荷物に忍ばせてくれていたことを――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
麒麟(f09772)さんと一緒ですね。
水中の神社ですか、凄いですね。
水の中と言うので水着で来ましたが、戦う姿ではない気がします。
水神様にお目通り出来ないのは残念ではありますが、それは僭越が過ぎると言うものですわね。
呪物による迷宮化と申しますが、綺麗なものですね。
抜けることが目的ではありますが、少々この景色を楽しみたいと思います。
大鰐霊様と一緒に泳ぎたいので、呼び出しておきましょう。
ほらほら麒麟さん、桜だらけ。水中なのに不思議です。
ちょっと視界が悪いですが、大丈夫でしょう。
迷わないように参りましょうね。
あら、式神さん、でしたか?
そうですね、今に元に戻しますので、安心して隠れていてくださいな。
七々澤・麒麟
水着姿で【ティーシャ(f02332)】と参加
アレンジOK
こんな水中の一番奥で独りぼっちなんて、かわいそーだもんなぁ。
囚われている女の子を、助けない訳にはいかねーよな!
ティーシャと話して進む最中、彼女の呼び出した大鰐霊に目を丸くする
…おおう、でかい鰐だなぁ。危険が近づいたら、知らせてくれよ!
水中桜に共に感心していると
「おー、水中で桜舞い散ると水着のティーシャ…桜もティーシャもすげー見事で綺麗だぜ!」
(ぐぐっとさむずあっぷ)
途中、桜の木の陰に隠れている小さい式神を見つけると
「あー…呪いの力に怯えてんだな。
まーもう少しだけ待っとけって、オレがココを元に戻してやっからよ」
指先で小さく式神を撫でて励ます
●水桜を辿って
普段は穏やかな水底の社。
此処には今、黒いリボンの呪が蔓延っていた。一見は水の中にある神社に見えるのだが、辺りには見えない壁が存在しているという。
「水中の神社ですか、凄いですね」
ティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)は辺りに視線を巡らせた。
静謐な空気を感じたティーシャは双眸を細める。水域ということで水着を纏って訪れたが、戦う姿ではない気がした。
しかし、今回は同じく水着姿の七々澤・麒麟(GoldyFesta・f09772)も一緒だ。
「この社におわす水神様にお目通り出来ないのは残念ではありますが、それは僭越が過ぎると言うものですわね」
「こうして加護が巡っているから、オレ達を見てくれてはいるのかも」
麒麟もティーシャと同じように社を眺める。
それに、と言葉にした麒麟は奥から感じる呪の気配に意識を向けた。今はまだ幽かにしか漂ってはいないが、奥からは妙な雰囲気がする。
迷宮化した社には現在、ひとりの鬼少女がいると聞いていた。
「こんな水中の一番奥で独りぼっちなんて、かわいそーだもんなぁ。囚われている女の子を、助けない訳にはいかねーよな!」
「はい、救いに参りましょう」
「それじゃさっそく出発だ!」
二人は頷きあい、境内に踏み出していく。
不穏な気配はあれどまだ危険はない。ティーシャは水に舞う桜の花弁に目を向けつつ、この場に感じた思いを零す。
「呪物による迷宮化と申しますが、綺麗なものですね」
「本当だな、荒らされてるわけじゃないみたいだ」
「まずはあの神木……あそこまで抜けることが目的ではありますが、少々この景色を楽しみたいですね」
ティーシャは少し遠くに見える神木を見つめた。
一見は一直線に行けそうな道だが、先程に見えない壁があることは確認済み。呪いの迷路を抜けて遠回りしなければ辿り着けないようだ。
途中には幾本も立ち並ぶ満開の桜もあり、神木までは予想以上に通そうだ。それゆえに二人はこの眺めを楽しみながら進むことに決めていた。
「気を張り詰めすぎてもいけないよな」
「その通りです。大鰐霊様と一緒に泳ぎたいので、呼び出していいですか?」
「大鰐霊様?」
ティーシャの言葉に対し、麒麟が首を傾げる。
こちらの御方です、と語ったティーシャはユーベルコードを巡らせ、古代の大鰐の霊を召喚してみせた。麒麟は彼女の呼び出した大鰐霊を見て思わず目を丸くしたが、すぐに明るい笑みを浮かべた。
「……おおう、でかい鰐だなぁ。危険が近づいたら、知らせてくれよ!」
「お願いしますね、大鰐霊様」
二人と一匹になった一行は水中迷路を進み続ける。
大鰐霊がすいすいと先を泳ぎ、ティーシャと麒麟がその後を追う形だ。その際、ティーシャは前方を指差した。
「ほらほら麒麟さん、桜だらけ。水中なのに不思議です」
「おー、改めて見ると水中で桜が舞い散るのも不思議だな。それに水着のティーシャ……桜と一緒の姿もすげー見事で綺麗だぜ!」
ぐぐっと片手をあげてみせた麒麟の瞳には、淡く揺れる桜と泳ぐティーシャの姿が映っている。彼に笑みを返したティーシャは軽く地面を蹴った。
大鰐霊と共に泳いで彼女は、麒麟とはぐれないように気をつけている。
「ちょっと視界が悪いですが、大丈夫でしょう。迷わないように参りましょうね」
「ああ、ティーシャも気を付けて……って、何だ?」
ティーシャに頷いた麒麟は、ふとした違和を抱く。自分達以外に誰かが居る気がして振り向いてみると、通り過ぎた桜の樹の後ろに何かがいた。
其処に隠れているのはどうやら、小さな式神のようだ。
「あー……呪いの力に怯えてんだな」
「あら、式神さん、でしたか?」
ティーシャも社の式神に気付き、こわくありませんよ、と自分達のことをアピールをした。大鰐霊も気を遣い、少し後ろに下がっている。
麒麟は式神に一歩だけ近付く。怯えている子達をこれ以上怖がらせないように配慮した麒麟は明るく笑ってみせた。
「まーもう少しだけ待っとけって、オレがココを元に戻してやっからよ」
「そうですね、今に元に戻しますので、安心して隠れていてくださいな」
ティーシャも微笑み、式神に手を振る。
そうしていると警戒を解いたらしい式神が二人に歩み寄ってきた。ティーシャは指先で式神を撫で、麒麟も後少しの我慢だと励ましてやる。
すると、式神は或るものを二人に差し出してきた。
「ん? くれるのか」
「破魔矢でしょうか。お守りの代わりに?」
それは一本の立派な破魔矢だ。どうやら励ましてくれたお礼らしい。破魔矢を受け取った麒麟はティーシャにそれを手渡す。
「ありがとな。大事に持っとかないと」
「はい、何だか応援を受けたみたいで嬉しいですね」
不思議と意気込みも強くなる。
麒麟とティーシャは、再び樹の裏に隠れた式神と別れ、更なる奥を目指していった。
この先に巡るであろう戦いと、呪いのことを思いながら――二人は前に進む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、水の中の神社ですね。
すごいです。
水の中で息ができるなんて、水神様ありがとうございます。
でも、黒いリボンなんて不吉ですね。
ふえ?シルバーレインで八尺様に髪を結んでもらった私がよく言うって八尺様は素敵な方ですよ。
あ、アヒルさん、そこ壁ですよ。
よく壁が見えないのに分かるって、これでもガラスのラビリンスをよく使っているんですよ。
ガラスでできた壁なんて時々見えなったりするんですから、なんとなく雰囲気で分かるようになりますよ。
ふえ?自分で使っているのだから場所を覚えているって、あんな大きな迷宮を全部覚えている訳ないじゃないですか。
あ、アヒルさんそこも壁です。
●水底と硝子の迷路
深くて穏やかで、とても静かな水の最中。
揺らめきながら咲き誇る桜の花は美しく、花弁が水面に昇っていく様は不思議だ。
「ふわぁ、水の中の神社ですね」
フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は水底から見上げる景色を瞳に映し、感嘆の声を零した。
普通ならば水底に留まり続けただけで人は溺れてしまう。しかし、この領域には水神の加護が巡っているらしく、呼吸も行動も地上のように行える。
「すごいです。水の中で息ができるなんて」
フリルは普段よりも身体が軽いようだと感じながら、鳥居を眺めた。
この神域の神は姿を表さないらしいが、感謝を伝えることも大切なはず。鳥居に向かってお辞儀をしたフリルは素直な気持ちを言葉にした。
「水神様、ありがとうございます」
一緒にアヒルさんもグワグワと鳴いている。フリルが溺れないで済んでいることについてのお礼を伝えたようだ。
そして、フリルとアヒルさんは迷宮化した境内に踏み出していく。
見えない壁や異様な数に増えた桜の樹々は、神域を奇妙に覆い隠していた。こうなっている理由はUDCから流れてきた呪物の影響らしい。
「でも、黒いリボンなんて不吉ですね」
先を進むアヒルさんの後を追いながら、フリルは首を傾けた。
すると、ぐわっと声が返ってくる。アヒルさんは何か言いたいことがあるようだ。
「ふえ? なんですか、アヒルさん」
ガジェットに歩み寄っていたフリルは問いかける。
其処から伝えられたのは以前の出来事について。シルバーレインの世界で八尺様に髪を結んでもらったフリルがよく言う、といった内容のことだ。
「八尺様は素敵な方ですよ」
だから不吉ではないと主張したフリルは自分の髪に触れてみる。件の鬼の少女はどんな気持ちでリボンを手にしたのだろうか。
想像を巡らせていると、アヒルさんが先に進んでいった。
「あ、アヒルさん、そこ壁ですよ」
フリルが注意を呼びかけると同時にアヒルさんが不可視の壁にぶつかる。くるりと踵を返して戻ってきたアヒルさんは、何故にもっと早く言わないのか、どうして壁だと分かったのかをフリルに言ってきた。
「ふえぇ、これでもずっとガラスのラビリンスを使ってきたんですよ。最初は自分の迷路にぶつかることもありましたが、もう慣れっこです」
これまでにフリルはアリスとしての力を巡らせ、幾度も窮地を切り抜けてきた。硝子で出来た壁は時々見えなくなったりするので感覚が研ぎ澄まされていったというわけだ。
なんとなく雰囲気で分かるようになったのだと語るフリル。
しかし、アヒルさんはもう少しだけ反論する。
「ふえ? 自分で使っているのだから場所を覚えているって……あんな大きな迷宮を全部覚えている訳ないじゃないですか」
フリルはふるふると首を横に振り、先に行ってしまったアヒルさんを追う。しかし、其処に不幸な事件が再び起きた。
「……あ、アヒルさんそこも壁です」
短い鳴き声と共にガジェットと壁がぶつかる音が響く。
そうして、更にアヒルさんは怒ってしまい――涙目のフリルから、ふええ、という声があがった。どうやら今日も今日とて普段通り、ふたりの道は続いていくようだ。
大成功
🔵🔵🔵
霆・綿雪
「きれい……この場所も、空気も――気配も」
こんなに美しい場所を、ゆきは初めて見る……
見えない壁にぶつからないように手探りで進みましょ
「んっと……ここ、は、かべ……?」
泡と舞う花弁があんまり綺麗で、顔が綻んじゃうんだよ
「あれ……?あの、お花の中に、いるのは……式神さん?おいで、おいで……ゆきはこわくないよ……」
差し出した掌に招いて、優しく撫でて
「頑張ったね……いいこ、いいこ」
玉枝で浄化をしてあげたら、散策の再開
お社を見つけたら、そうっと手を合わせて
「……どうか、やつじが日々、元気でいてくれますように――守ってくださいませんか」
ゆきのやつじ
ゆきの大事な大事な子のために祈りと僅かばかりだけどお賽銭を
●美しき空にさいわいを
澄んだ水の色に透き通った泡沫。
ちいさな泡粒は水面の天上に浮かび上がり、陽を受けて煌めいている。
「きれい……」
霆・綿雪(ルナエンプレスの土蜘蛛の巫女・f37309)は水底の社の前に立っていた。普段は見下ろす側にある水面が、今は遥かな天になっている。
「この場所も、空気も――気配も」
水底の神社におわすという神様の力によって、此処に訪れるものには加護が宿る。綿雪がこうして息継ぎをしないまま水中にいられるのも水神のおかげ。
心地良さを感じた綿雪はゆっくりと歩き出す。
水が澄んでいるだけではなく、この場所には不思議な桜が咲いていた。樹々から花片が散る様も美しく、綿雪は幻想的な光景に暫し見惚れる。
きっとあの桜の樹々も水神様の加護を受けているのだろう。
「初めて見るものばかり……」
水中に咲く花や水底に建つ鳥居。不思議ながらもあたたかい場所を見渡した綿雪は、その中に宿る不穏を感じ取った。
きれいな場所であっても、此処は呪いの最中。
迷宮化している境内にはたくさんの見えない壁があり、ぼんやりしているとぶつかってしまう。入り口から見えた神木に辿り着くには真っ直ぐ進むだけではいけない。遠回りをしてやっと到着できるところに、救わなければならない少女がいる。
きっと、彼女は今もひとりぼっち。
綿雪は見えない壁に頭をぶつけてしまわぬよう、そっと腕を前に出した。そのまま手探りで進んでいく綿雪の指先に冷たい何かが触れる。
「んっと……ここ、は、かべ……?」
両掌を壁に添えてみた綿雪は壁の向こう側に揺らぐ泡と花弁を見つめた。
すぐ傍にあるというのに、まるで別の世界のようにも感じられる。花と水が織り成す景色があまりにも綺麗で、綿雪の頬も思わず緩んでしまう。
ふわふわとした快い気持ちを抱いた綿雪は先を目指してゆく。
そんな中、視界の端で何かが動いた。
「あれ……?」
花咲く樹々の片隅に目を向け、綿雪は首を傾げる。花の影に隠れている誰かが此方の様子をうかがっているようだ。
悪いものではないと感じた綿雪は其方に歩み寄っていく。
「あの、お花の中に、いるのは……式神さん? おいで、おいで……」
ゆきはこわくないよ。
なにもしないよ。
綿雪は穏やかに語りかけながら掌を差し出した。手招いたことでちいさな式神がひょこりと顔を出し、ててて、と綿雪に駆け寄ってくる。
その頭を優しく撫でてやった綿雪は、式神が心細い思いをしていたのだと知った。
「頑張ったね……いいこ、いいこ」
そうして、櫻珠の砡枝を揺らした綿雪は浄化の力を巡らせた。もうだいじょうぶ、と告げたことで式神は嬉しそうにお辞儀をする。
その際、式神は綿雪に真っ白なお守り袋を渡してきた。
「くれるの? ありがと……」
お守りを受け取った綿雪は淡く笑む。このまま桜の影に隠れていたいらしい式神に別れを告げた綿雪は、行く先に社を見つけた。
そうっと手を合わせた綿雪は社に祈りと願いを捧げる。
「……どうか、やつじが日々、元気でいてくれますように――」
守ってくださいませんか。
ゆきのやつじ。大事な大事な子を。
賽銭を投げ入れた綿雪は頭上の桜と水面を振り仰ぐ。その瞳の奥には大切なあの子を想う、まっすぐな気持ちが宿っていた。
大成功
🔵🔵🔵
鈴原・椿
◎
にゃ、にゃ!水の中に神社があるの?すごいわ!椿、水の中は初めてなの。
桜もあるわ。あまり外と変わらないのかしら?にゃお、椿は綺麗なの好き。だからここも気に入ってしまったわ!
ちゃんと、お賽銭も用意したの!椿は知っているわ。神社は神様のお家なのでしょう?だからね、ちゃんとお賽銭を入れて挨拶をするの。お邪魔しますと、安心してねを。
ちゃんと挨拶できたわ!
にゃ!探検気分で、いざ出発!
にゃーにゃお!何もないのに壁があるのもおもしろい!花びらが入った泡を追いかけるのも楽しい!
なんだか体もふわふわする感じ?
ここでしかできないこと、せっかくだからやってしまおうかしら!にゃあ!
●水桜と天を往く猫
揺らぐ水中花と共に、光が煌めいている。
水底に沈む不思議な社に訪れた猫妖の少女は、瞳を輝かせていた。
「にゃ、にゃ! すごいわ!」
鈴原・椿(黒猫は今日も行く・f37355)は深い水の中をぱたぱたと駆け回っている。水の中に神社があることもそうだが、こうやって地上と同じように呼吸ができるうえに自由に動けることが不思議でならない。
「楽しいわ! 椿、水の中は初めてなの」
いつもなら身体が濡れてしまって大変だが、今日の水は特別。
椿は大きな鳥居をくぐり、好奇心のままに進んでいく。目を向けた先には水中に咲き誇る桜の樹々が見えた。
揺れる水に合わせて桜の花々も可憐に舞っている。
「桜もあるわ。きれい……!」
あまり外と変わらないのかしら、と首を傾げた椿はあちこちを見回った。その途中、ごつんと音を立てて見えない壁にぶつかってしまったりもしたが、椿の好奇心はそんなことで消えたりはしない。
此処は呪いのせいで迷宮化しているというが、これもまた楽しいわくわくを呼んでくれる要素のひとつに思えた。椿は少しだけ慎重になりつつも、自由気ままに駆ける。
「にゃお、にゃあ!」
呪いの気配はするが、まだ危険は遠い。
椿は綺麗なものに囲まれた境内をすっかり気に入っていた。くるり、ひらひらと水中を踊る桜の花はまるで椿を誘っているかのよう。
そうして、暫し桜についていった先で椿は社を見つけた。
拝殿の中央には石段があり、その上に賽銭箱が置いてある。駆けていった椿が見上げた先には大きな鈴緒があった。腕を伸ばし、さっそく鳴らそうとしてみるが――。
「いけない、お作法があったわ」
神社があると聞いていた椿は賽銭を用意してきていた。
賽銭箱に手をかざして落とすと、硬貨がゆらゆらと揺らめきながら沈んでいく。普通の神社であるならば軽快な音が響いたのだろうが、此処では小さな音が聞こえるのみ。
それもまた面白いと感じた椿は鈴緒の縄に触れた。
じゃれつきたくなる気持ちは抑え、鈴を鳴らす。りぃんと水の中に不思議な音が鳴る様子も楽しくて、椿の瞳も爛々と煌めいた。
「椿は知っているわ。神社は神様のお家なのでしょう?」
だから挨拶するの、と胸を張った椿は拝殿に向けて元気な声を駆けた。それから両手を合わせ、自分の行いを宣言する。
「お邪魔します。すこし暴れちゃうかもしれないけれど、安心してね」
瞼を閉じてにゃむにゃむしていると、不意に誰かの声が聞こえてきた気がした。
――いらっしゃい、ゆっくりしておいき。
はたとした椿は目を開けてみる。しかし、周囲には自分以外に誰もいなかった。きっと水神様が歓迎してくれた証の言葉だ。
嬉しくなった椿は石段からぴょこんと飛び下り、拝殿に手を振った。
「にゃ! まだまだ探検! いざ出発!」
にゃーにゃお、にゃー。
上機嫌に鳴きながら、椿は花片が入った泡を追いかけてゆく。なんだか自分の身体もふわふわの泡に包まれているようで軽い。
「よーし。ここでしかできないこと、せっかくだからやってしまおうかしら!」
にゃあ! と気合を入れた椿は地面を大きく蹴った。
ふわりと浮くように桜の樹の上に飛び乗った椿は、少し遠くにある神木を見上げた。泡のように、或いは鳥の如く。
きっと翔べるはずだと信じた椿は枝から枝に飛び移り、そして――。それから暫し、優雅に水底の空を飛ぶ猫妖の姿が見られたという。
大成功
🔵🔵🔵
壱織・彩灯
【黒緋】
水の社も陸の社も
俺にとっては護るべきものよ
ふふ、またレンと赴けるのは嬉しいな
……さあ、共に呪いを断ちに往くぞ
ひらり、ふわり、泡沫の中の薄紅の天蓋に
紅眸を細めて
頼りはお前の手のひらじゃ
……ふむ、迷宮攻略は不得手でなあ
おっと、此れは驚いた
レンのお陰で頭をぶつけなくて済んだな?とからから咲う
想いを、置いていく、か……
では、俺は『俺の傍に居てくれる子と共に倖せに成れますように』と
ひとりで満たされても其れはまた孤独なのじゃ
なあ、レン
生きるも果てるも、俺は一緒なのだから
そんな貌をしてくれるな
おや、式神か……、否、鬼の子か
かくれんぼならば存分に付き合おうではないか
いつものわんこに無邪気な鬼は笑うだけ
飛砂・煉月
【黒緋】
◎
また水中の神社だよ、彩灯
新年を振り返りながら
独りも呪いも厭だ
だから、うん…断ちに
先ずは水中桜が視界を覆う先へ
行こってキミの手を攫い迷宮の中
わ、ホントに迷路みたい
あっと、そこ多分壁がある
見えないけど
ぺたぺた触ってほらねって
ふふん、狼は鋭いんだよと得意気に
神木を目指す途中に見つけた社
折角だしお参りしていこっか
想いを置いてくみたいな
『キミの側に何時だって誰かがいますように』
己の解呪より願うは家族みたいなキミの事
だって独りは寂しい
彩灯…でもオレ、は…
隣の同じ彩に視界が滲む
一緒の言葉に安心してぐしぐしと目許を拭った
あれ、何かあっちに気配…
彩灯は解る?
次に見せる緋色は
へらりと咲ういつものわんこで
●紅と緋、桜と泡
「また水中の神社だよ、彩灯」
桜が揺らめく水中の社で、思い返すのは新年のこと。
飛砂・煉月(渇望・f00719)は隣に立つ壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)に緋色の瞳を向け、少し眩しそうに瞼を眇めた。
見上げる先には水面から降り注ぐ、天使の梯子めいた陽の光が見えている。
煉月に倣って天上を振り仰いだ彩灯も、双眸を細めていた。
「水の社も陸の社も、俺にとっては護るべきものよ」
「それじゃ、今日も張り切っていけるね」
「ふふ、またレンと赴けるのは嬉しいな」
二人は視線を下ろし、互いの顔に目を向ける。其処には互いを思いあう笑みが宿っていると同時に、救うべき少女への思いがあった。
「独りも呪いも厭だから」
「……さあ、共に呪いを断ちに往くぞ」
「だから、うん……。――断ちに」
奇妙な呪いのリボンと縁を結んでしまい、この地に縛り付けられた鬼の少女。彼女に会いに行くために、煉月と彩灯は水咲之社に踏み入っていく。
ひらり、ふわり。
視界一面に広がったのは泡沫の中に浮かぶ、薄紅の天蓋。水の中でも咲き誇る桜の樹からは花弁が美しく散っており、様々な花片が舞っていた。
何よりも先ずは水中に揺らぐ桜の先へ。
「行こ、彩灯」
煉月は手を伸ばして彩灯の手を攫う。水底はほんのりと冷たいが、その分だけ繋いだ手と手の熱を強く感じられた。
彩灯は紅色の眸に美しい景色を映し込み、穏やかな心地を抱く。
「頼りはお前の手のひらじゃ」
「任せて。わ、ホントに迷路みたい」
二人は見えない壁を見つけ、不思議そうな顔をした。向こう側が見えていて、硝子があるわけでもないのに進めない。
そういった部分が幾つもあるとなると進み辛いだろう。彩灯は慎重に前を見つめたが、どこがどうなっているのか判断しきれなかった。
「……ふむ、迷宮攻略は不得手でなあ」
「見えないけれど、ね。あっと、そこ多分壁がある」
「おっと、此れは驚いた。分かるのか」
しかし、煉月はどうやら感覚で壁の位置が分かるようだ。見えないけれど確かに其処にあるものをぺたぺたと触り、ほら、と笑う煉月。
「ふふん、狼は鋭いんだよ」
「レンのお陰で頭をぶつけなくて済んだな?」
得意げな煉月の様子を見遣った彩灯はからからと咲った。
ゆっくりでも、こうして進んでいけばいずれは神木に辿り着くはず。彩灯と煉月は暫し境内を進み、桜に導かれるようにして拝殿を見つけた。
「折角だしお参りしていこっか」
「名案じゃ」
「こういうのは、えっと……想いを置いてく、みたいな」
「想いを、置いていく、か……」
煉月がふと零した言葉を聞き、彩灯は神妙な顔をした。煉月は賽銭箱と鈴緒が並ぶ拝殿の前に歩み寄り、両手を合わせる。
――『キミの側に何時だって誰かがいますように』
煉月は己の解呪より、家族のように思う彼のことを願った。どこまでも優しい煉月の声と思いに対して、彩灯も願いを紡ぐ。
「では、俺は……」
――『俺の傍に居てくれる子と共に倖せに成れますように』
言の葉として祈るのは互いのことや、幸福を願うこと。揺らめく水の中で交わした思いはあたたかい。しかし、ふと煉月が寂しげな声を落とした。
「独りは寂しい、から」
どうやら永き時を生きることについて、彼は語っているようだ。煉月の横顔に目を向けた彩灯はそっと首を横に振る。
「ひとりで満たされても其れはまた孤独なのじゃ。なあ、レン」
「彩灯……でもオレ、は……」
「生きるも果てるも、俺は一緒なのだから。そんな貌をしてくれるな」
彩灯が告げた思いを受けた煉月も視線を巡らせた。隣の同じ彩に視界が滲み、どうしようもなく切ない気持ちが浮かぶ。
けれども、一緒だという言葉を聞いて安堵もしていた。ぐしぐしと目許を拭った煉月は彩灯に向き直り、もう平気だと告げようとする。
だが、その言葉を紡ぐ前に妙な違和感を覚えた。
「あれ、何かあっちに気配が――」
「おや、式神か……」
「彩灯はあの気配が何か解る?」
煉月が問いかけると、誰かの声が何処かから響いてきた。
――もういーかい。もういーかい。
その声は少女のものであり、言葉を発しないというこの社の式神ではない。彩灯は声のする方向に耳を澄ませた。どうやら声の主は何度も同じ言葉を繰り返しているようだ。
「否、鬼の子か」
「そっか、あれが……」
「かくれんぼならば存分に付き合おうではないか」
「そうだね、先に進もう!」
煉月が次に見せた緋色の瞳は、へらりと咲ういつものわんこらしいものに戻っていた。無邪気な鬼は笑みを返すだけ。
さぁ、いざ――ひとりぼっちの子と遊んで、水底から救い出すために。
手を差し伸べに行こう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】◎
わっ、わわっ
お水の中!……だけど、お話できるわ!
水神様もお参りに来て欲しいのかな
独りは寂しいものね
そうね、ルーシー達がごあいさつしましょう!
早速お参りしに行きま……って、わわ
桜が咲いてる!
とてもキレイね、ゆぇパパ
ここなら桜さんもお水飲み放題だし
はーい!
目の前をひらと揺蕩う
花びらを取ろうと追いかけていくと……う?これ以上進めない?
あれ?こっちも進めないわ?
どうやったらパパの所に戻れるの??
ぱ、パパ!助けて頂ける……?
ううう。ありがとう……
もう!絶対に!
ルーシーはパパの手をはなさないわ……!
どうやら見えない壁がL字になってたみたいね
奥に真っ白な、……ウサギさん?
このコが式神さん!かわいいね
もしかして、あなたも迷子かな
ルーシー達といっしょに行く?
ようやくたどり着いたお社
お参りしていきましょう!
神社へはパパと一緒に何度も行ったことあるし
レイギはもう大丈夫!な、はず
なあに?パパ
かくれんぼ?いいわ、喜んで!
でも手加減はダメよ?
さあっ
ララ、行くわよう!
桜の樹のかげに隠れて
ふふー、もーいーよ!
朧・ユェー
【月光】◎
あや、本当に息が出来てお話が…
水の中で不思議ですね
そうですね、水神様もお独りは寂しいでしょうね
ご挨拶のお参りしましょうね
本当に綺麗な桜
枯れずに咲いてすごいですね
えぇ、そうですね
ルーシーちゃん、独りで遠くへ行ってはいけませんよ?
危ないですから
おや?どうしましたか??
進めない??
そっと手を出して回りを触っていく
ん?何か壁らしきモノがありますねぇ
おやおや、少し待っててください
ベラーターノ瞳で解析と解読をし
壁を見えるように
壁を避けながら、ルーシーちゃんの所へ行き彼女の手を繋ぐ
えぇ、大丈夫ですよ?ルーシーちゃんも手を離さないようにね?
真っ白なうさぎ?
式神さんでしょうか?
えぇ、ご一緒しましょう
神社に辿り着きましたね
では一緒にお参りして
大丈夫、綺麗な作法ですよ
ふふっ、ルーシーちゃん
かくれんぼしませんか?
僕が鬼です
もういーーかい?
可愛らしい姿がチラリと見える
ふふっ、ルーシーちゃんとララちゃんみーつけた
さて貴女もみーつけた
●鈴の音とかくれんぼ
「わっ、わわっ」
ぶくぶくと沈む感覚と、ふわふわと浮かぶ心地。
両方を同時に味わうような巡りの中で、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は思わず声をあげた。
「もうすっかりお水の中! ……だけど、お話できるわ!」
「おや、本当に息が出来てお話が……水の中なのに不思議ですね」
ルーシーと共に水中の社に訪れた朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は、奇妙にも感じる心地を確かめる。
水神の加護が巡っている神域では、呼吸も行動も地上と同じようにに行えるという。
水は冷たいのに、雰囲気はあたたかい。
そう思えるのは水神様がやさしい思いを向けてくれているから。嬉しい気分を抱いたルーシーは立派な鳥居を見上げてみる。
「水神様もお参りに来て欲しいのかな。きっと、水の底で独りは寂しいものね」
「そうですね、水神様もお独りは寂しいでしょうね」
ユェーもルーシーと一緒に鳥居を眺めた。
神域への入口を示す朱塗りの柱。その奥には桜並木が見える。今は迷宮化しているらしいが、あの景色は元からあったもののはず。
寂しそうに感じたが、あれほどに花が活き活きしているのならば心配はなさそうだ。
ルーシーは水桜をきらきらした瞳に映した。
「だけどこんな風に遊びに来れたら、きっとみんなが来てくれるわ」
だからきっと、寂しいことは少なかった。
現在は少しばかり困ったことになっているけれど、此処で悲しい事件は起こさせない。そのために自分達が来たのだとして、ルーシーは気合いをいれていた。
意気込む少女を優しく見守っていたユェーは先を示す。
「ご挨拶のお参りをしましょうね」
「そうね、ルーシー達がごあいさつしましょう!」
「拝殿はあちらの方でしょうか?」
「早速お参りしに行きま……って、わわ。桜が咲いてる!」
鳥居を潜り、進んでいく二人は何気なしに頭上を見上げた。はっとしたルーシーは近くで見る桜の樹に目を奪われている。
しみじみとした様子のユェーも暫し桜を見つめた。
「本当に綺麗な桜です」
「とてもキレイね、ゆぇパパ」
「枯れずに咲いてすごいですね」
「ここなら桜さんもお水が飲み放題だからかしら?」
「えぇ、きっとそうですね」
おそらく水神の力がこの桜達を此処まで美しく咲き誇らせているのだろう。幼くも愛らしいルーシーの意見に微笑みながら、ユェーは周囲を見渡した。
「それよりもルーシーちゃん、あまりひとりで遠くへ行ってはいけませんよ?」
「はーい!」
危ないですから、とユェーが告げる前にルーシーが先に進んでいった。繋ぐために伸ばそうとしていた彼の手は空を切る。
はしゃいでいるルーシーは、どうやら遠くでなければ大丈夫だと思ったらしい。
目の前には桜の花弁がひらりと待っている。
揺蕩う花に腕を伸ばしたルーシーは、掌で花片をつかもうとしたのだが――。
「……う?」
ルーシーの指先が何かに当たった。花弁を取ろうと追いかけていたのだが、見えない壁にぶつかったようだ。
「これ以上進めない? あれ?」
迷宮化の影響なのだろう。不可視の壁の間に入り込んでしまったらしいルーシーはきょとんとしている。辺りの景色は見えているのに進むことも戻ることもできない。
「こっちも進めないわ?」
「おや? どうしましたか??」
「ぱ、パパ! どうやったらパパの所に戻れるの??」
戸惑うルーシーを追いかけてきたユェーは、自分達の間に壁があることを知る。手を伸ばしてみても何かに阻まれてしまった。
まるで限りなく透明な硝子で隔てられているようだ。
「これは……進めないとなると――」
「助けて頂ける……?」
「待っていてくださいね」
ユェーはそっと手を出して不可視の壁を触っていく。念のため、ベラーターノ瞳を使った彼は壁の周りを予測した。
そして、その切れ目を探し当てたユェーはルーシーに手を差し伸べる。
その手を取ったルーシーはしょんぼりとしていた。
「ううう。ありがとう……」
「言ったでしょう、ひとりで行ってはいけないと」
「ごめんなさい」
優しく諭すユェーを見上げたルーシーはぎゅっと手を握った。
「えぇ、大丈夫ですよ? ルーシーちゃんも手を離さないようにね?」
「わかったわ。もう! 絶対に! ルーシーはパパの手をはなさないわ……!」
固く手を繋ぎあった二人は一緒に歩いていく。
先程の場所はどうやらどうやら見えない壁がエル字型になっていたようだ。行き止まりに迷い込んだ経験は、なんだか不思議の国に迷い込んだアリスのようでもあり――。
「あれ?」
「どうしましたか、ルーシーちゃん」
道行く先に白い何かが見えた気がして、ルーシーはユェーの手を引く。
「奥に真っ白な、……ウサギさん?」
「真っ白なうさぎ? 式神さんでしょうか?」
ぴょんぴょんと跳ねるように桜の木の影に進んだものは兎のようにも見えた。ルーシーはユェーとはぐれないように駆け出し、樹の後ろに回り込んでみる。
其処には雑面を被った白い着物姿の式神がいた。
「このコが式神さん! かわいいね」
「…………」
「もしかして、あなたも迷子かな。ルーシー達といっしょに行く?」
「えぇ、ご一緒しましょう」
式神は怯えていたようだが、ルーシーとユェーの呼び掛けにこくりと頷いた。そうして、二人と式神は迷路を抜けながら社を目指す。
それら暫し後。
ようやく辿り着いた拝殿を見て、式神はとてとてと駆けていく。きっと社に戻れて安心してるのだろう。
「神社に辿り着きましたね」
「お参りしていきましょう!」
「では一緒にお参りしましょうね」
「神社へはパパと一緒に何度も行ったことあるしレイギはもう大丈夫! ……な、はず」
「大丈夫、綺麗な作法ですよ」
二礼二拍手一礼をしてみせたルーシーを見て、ユェーはそっと頷く。
お参りをしていると、二人の足元に何かが置かれた。丁寧に敷かれたちいさな布の上には金色と銀色のお守り鈴がそれぞれひとつずつ並んでいる。
先程の式神がお礼に持ってきてくれたのだろう。
りんりんと鳴る鈴を手にしたルーシーはとても嬉しそうだ。式神からのささやかな贈り物に感謝を抱きつつ、ユェーは或ることを思いついた。
「ふふっ、ルーシーちゃん」
「なあに? パパ」
「よければ、かくれんぼしませんか?」
「かくれんぼ? いいわ、喜んで! でも手加減はダメよ?」
「では、僕が鬼です」
「はーい。さあっ! ララ、行くわよう!
大切なお友達を抱えたルーシーは桜の樹の影に隠れていく。
ユェーは幾つか数をかぞえ、少女が隠れた頃合いを見計らって顔を上げた。
「もういーかい?」
「ふふー、もーいーよ!」
辺りに目を向けてみると、木の後ろに可愛らしい姿がちらりと見える。ルーシーはちゃんと隠れている心算なのだが、ララの足がひょこりと飛び出していた。
あまりにも可愛らしいので、このまま見つけられないふりをしていたくなるほど。しかし、手加減はなしだという約束だ。
「ふふっ、ルーシーちゃんとララちゃんみーつけた」
「わ、もう見つかっちゃった!」
驚いたルーシーだったが、その表情はとても楽しげだった。
そのとき、何処かから別の少女の声が響いてきた。
――もういーかい?
ユェーはルーシーの手を取り、声の方に向き直る。
「さて、あの声の主の貴女も――みーつけた、してあげなければいけませんね」
「最初はあの子が鬼さんかしら?」
気を引き締めた二人は更なる奥へ踏み出していく。
凛と鳴る鈴音は可愛らしく、水底の社にちいさく響き渡っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァロ・タハティ
※喋らせないで下さい!※
お星さま光る昼の空に
お魚がわーっと泳ぐ透明色の
フード付きローブをすっぽり被って
ぶくぶく?
てくてく?
水の底のおやしろ
わー!ふしぎ!
わくわくドキドキ瞳を輝かして
いかなくちゃ
声のほうへ行こうとしたならば
びたーん! ころりん
……すすめないみたい
どうしたんですか?かくれんぼ?
雑面のひと?をつんつん
こてん、首傾げ
ボク、悪い魔法使いじゃないよ!
身振り手振りでアピールするけど
うろうろちょろちょろ
みつけたお面のひと?をなでなでして
桜の花びらと水流に身を任せて
(楽し~い!の顔)
ボクはもう、どこへだっていけるけど
しゃららんと揺れる黄昏色
繋がる誰かももういない地縛鎖
キミは、そうじゃないんだね
●ちいさきもの
透き通った深い水底に沈む社。
水咲之社と呼ばれている、この場所。此処は現在、迷路のように入り組んだ透明な壁に包まれた呪いの地になっている。其処へ、まごまごと駆けていく影がひとつ。
ちいさなシャーマンズゴーストの子。
不思議で静かな境内の中を懸命に駆けていく、その子の名前はヴァロ・タハティ(キセキ・f05764)。
かれが纏うのはお星さまが光る昼の空にお魚が泳ぐ透明なローブ。フードをすっぽりと被っていても、見上げればすぐ天を眺められるお気に入りのもの。
ヴァロは境内を駆けながら、ときおり立ち止まっていた。
振り仰ぐのは水面の天上。
普段から見上げている星も空も、水底からでは更に遠い場所になっている。
ヴァロはふたつのまあるい瞳を天に向けた。
そうして、ヴァロは片腕を伸ばす。そのちいさな手のひらに、水中をひらひらと舞い落ちてきた桜の花片が乗っかった。
それはまるで、ひとつの星が落ちてきたかのようで――。
●ボクとキミと水底の星
ぶくぶく。
きれいな泡がゆれて、ぷかぷかと浮かんでいる。とってもきれい。
てくてく。
ボクは歩いて、走って、止まって、また歩いていく。
どうしてか誰かによばれた気がして、いてもたってもいられなかったから。
夜空とは正反対の水の底で、寂しくひかる一等星。きっと、その名前を聞いたから。
ふわふわ。
水の底にひろがっているおやしろの景色はふしぎ。わくわくドキドキする。
両手を上にあげてみたら、水の心地がとっても気持ちよかった。息ができるのも、地上とおんなじように動けるのも、このおやしろの水神さまのおかげみたい。
ここにあるものはキラキラしている。
ボクの瞳もきっと、ゆらゆらしている光みたいに輝いているのかも。
なんだか楽しくなって、嬉しい気持ちのまま走り出してみる。きょろきょろ、うろちょろ、ぱたぱた。ひらりと舞っている桜のお花も気持ちよさそう。
手をのばしてみたら、ふわりと花のかけらが落ちてきた。お星さまが落ちてきたみたいだと思った、そのとき。
遠くから女の子の声が聞こえてきた。
――もういーかい?
いかなくちゃ。
だって、呼んでいるから。呼ばれているって、わかったから。
ボクは声がした方に走っていこうとした。けれども、びたーん! となってそのままころりんと転んじゃった。
声がするご神木は少し先にあるのに。どうやら、すすめないみたいだ。
きょとんと首をかしげていたら、ボクとおなじように困っているひとをみつけた。そのひとは見えない壁にぶつかったあと、桜の木の影に隠れていった。
どうしたのかな。
かくれんぼをしているのかな。
木のそばにいって、雑面のひとをつんつんとつついてみる。ふしぎなお面をつけているひとがびくりと体を震わせたから、ボクもちょっぴり驚いた。
それから思わず、こてんと首を傾げる。
たしか、そうだ。式神というひとだったはず。
式神くんをもっとびっくりさせてしまわないように、ボクは両手をぱたぱた揺らす。
悪い魔法使いじゃないよ。
助けにきたんだよ。もう大丈夫だよ。
いっしょうけんめい、身振り手振りをしてみたらわかってくれたみたい。式神くんはこくこくと頷いてくれた。
式神くんはボクよりも少し大きかったけれど、腕を伸ばしてなでなでしてあげる。
そうしていたら、強い水流があたりに巡った。
桜の花びらがキレイに舞っていたから、ボクも水の流れに身を任せてみた。
楽しい! と思ってくるくる回っていたら、式神くんが雑面の奥で笑った気がした。なんだか式神くんも安心したみたいでよかった。
それからボクたちはおやしろまでいっしょに歩いた。途中でいくつも見えない壁があったけれど、ふたりで進んでいけば迷うのもまた楽しい。
そうして、式神くんとはおやしろの前でばいばいした。
ボクたちはおしゃべりできないけれど、ちゃんと友達になれたとおもう。お別れする前に、式神くんは真っ白な鈴のお守りを渡してくれた。
ちりん、ちりん。
揺らしてみたら可愛い音がして、握りしめたら勇気がわいてくる。
次に向かうのはご神木のところ。
そう思っていたら、少し離れたところからまた声が聞こえてきた。
――もういーかい? もういーかい?
女の子の声はずっと続いているけれど、やっぱり寂しそう。
深い星の空みたいな水の底に、たったひとりきり。どこにもいけずにきらめく、ひとつぶの光のよう。
声の方に進んでいったら、足元の黄昏色がしゃららんと揺れた。繋がる誰かももういない地縛の鎖は、ボクが歩んでいく路に足跡をつくっていくもの。
ボクはもう、どこへだっていけるけど。
キミは、そうじゃないんだね。
待っていてね。
ひとりぼっちのお星さま。いま、キミのところへ行くよ。
きらきら輝くなら、みんなといっしょがいいから。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『独りぼっちのスピカ』
|
POW : つかまえた!
【力加減がへたっぴな鬼の手の“タッチ”】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 手の鳴るほうへ!
レベルm半径内に【星を食べつくすまっくらやみ】を放ち、命中した敵から【一番近くにある大切なものがくれた幸せ】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : きみがほしい!
【きみと私を結ぶ約束の黒リボン】が命中した敵の部位ひとつを捕縛し、引き寄せる。
イラスト:西洋カルタ軒
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ヴァロ・タハティ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●孤独の鬼仔
これは罰なのかな。
私は誰とも遊んじゃいけないのかな。
いつも気付けば独りぼっち。
あいつは力強くて怖い鬼だから、近付いちゃいけないぞって誰かが言ってた。
それでもいつだったか、一緒に遊んでくれた子もいた。鬼ごっこやかくれんぼはすっごく楽しくて、とっても面白かったのに。私はつい、強い力であの子を掴んでしまった。
つかまえた、って。
その途端に悲鳴があがって、みんなが逃げていって。優しいあの子は痛いよ、痛いよって泣きながら走っていった。やっぱり私、力を使うのがへたっぴだったみたい。
ごめん。ごめんね。ごめんなさい。
謝っても誰もきいてくれなかった。遊んでくれる子はいなくなった。
だから私は探しに出かけた。
こんな鬼の子でも遊んでくれる、強くて変わった誰かを。
そうして、不思議な水の底のお社に降り立ったとき。真っ黒なリボンがゆらゆらと漂っているのが見えた。髪に結んでいたリボンと同じ黒。
真っ暗な夜空みたいな素敵な色。
そのリボンも寂しそうに見えて、私はそっと手を伸ばした。それから私は、ずっとこの水底から出られていない。
誰も来ない。いても怖がって近付いてくれない。
なんだか心が真っ黒に染まっていくみたい。
深くて底なしの闇に飲み込まれていくよう。誰か、ねえ、だれか。
私を、たすけて。
●一等星の名前
迷宮化した水底の社。
その中央に位置する神木の前には、赤い角と腕を持つ鬼の少女が立っていた。
もういいかい、と独りでかくれんぼの鬼役をやっていた彼女は、猟兵達をみつけると明るく微笑んだ。
「ねえねえ、きみきみ。私と遊んでよぉ!」
その瞳は妙に曇った色をしている。腕には呪いの黒いリボンが巻き付いており、水の流れに合わせて揺らめいていた。
あの呪いに侵され、少女は正気を失っている。
鬼変の腕を大きく振った少女、スピカはにこにこと笑っていた。されど、彼女の瞳の奥には寂しさのようなものが見える。
スピカは猟兵を手招き、遊ぼう、と誘った。その遊びが無邪気ながらも危険なものだということは語られずとも理解できた。
「私の友達にしてあげる。リボンを結んだら、ともだちなの!」
鬼ごっこ、かけっこ。
かくれんぼに綱引き、影鬼や高鬼、なわとびなんかも楽しそう。
どれにしようかな、と笑うスピカは黒いリボンを揺らし、双眸を細める。
そして、少女は笑う。
「決めた! おにごっこしよう。私が鬼! タッチされたらきみの負け!」
此処から始まるのは遊びという名の戦い。
闇に囚われた少女を呪いの世界から助け出すために――さあ、遊ぼう。
フリル・インレアン
ふえ?鬼ごっこってこんなのでしたっけ?
私の知ってる鬼ごっこは私達が逃げて鬼さんが追いかけるのですが、なんで私は黒いリボンに縛られてスピカさんの方に引っ張られているんですか?
私がほしいと言われてもあげられませんから、それにアヒルも呑気に見てないでスピカさんの気を引いてください。
ふえ?それは私の役目って、アヒル真拳なんて使わないでください。
それに私を囮にしないでください。
●追いかけっこの始まり
遊びましょ、遊びましょ。みんなで鬼ごっこしましょ。
ねぇねぇ、早く逃げて?
水底の社に響くのは無邪気な少女の声。
鬼の腕を振り上げているスピカの腕には黒いリボンが巻き付いている。まるでそれそのものが意思を持っているかのような動きだ。
「ふえ? 鬼ごっこってこんなのでしたっけ?」
フリルは疑問を抱いていた。
鬼ごっことは大体において、鬼にタッチされたら追いかけ役を交代するもの。
だが、この鬼ごっこは何かが違う。フリルは追いかけてくるスピカから逃げるために全速力で駆け出した。
「待ってよ、ねぇ!」
「ふえええ! 待てません、絶対に痛いですから……じゃなくて、鬼ごっこなら力いっぱい逃げるのが礼儀です」
スピカはフリルに鬼の手で触れようとしている。彼女が遊びたいと願っているのならば遊んでやりたいが、今の状態は危険だ。
極力スピカを傷付けないような物言いを心掛けたフリルは神木のまわりをぐるぐると回って逃げていた。このままだとバターになってしまうのではないか、と頭の上のアヒルさんがからかっているがフリルにもいつか限界は来る。
「ふぇ……」
フリルの知っている鬼ごっこは自分達が逃げて鬼が追いかけるシンプルなもの。だが、途中からスピカは黒いリボンを伸ばしてきた。
「なんで私は黒いリボンに縛られてスピカさんの方に引っ張られているんですか?」
「きみがほしいから!」
「私がほしいと言われてもあげられませんよ。ふえぇ、それにアヒルも呑気に見てないでスピカさんの気を引いてください」
スピカは笑顔で語りかけてきたが、フリルはそれどころではない。
呼び掛けを受けたアヒルさんはぴょこんと帽子の上から飛び降り、神木のまわりでリボンだらけになっているフリルを眺める。
引き寄せられないように樹を利用して駆けるフリルは必死だ。
しかし、それこそがアヒルはさんの狙いでもあった。
必殺、アヒル真拳。
別名は『フリルを斬らせて敵を断つ』、或いはクロスカウンター。
「ふえ? 引き付けるのは私の役目って……私ごと巻き込むアヒル真拳なんて使わないでください。囮じゃなくて魔法で戦ってスピカさんを助け……ふええぇ!?」
リボンに引っ張られたフリルは懸命に抵抗する。
その間にアヒルさんが死角から飛び出し、スピカに立ち向かっていく。
黒いリボンでぐるぐる巻きにされたフリルが助け出されるのは、まだもう少しばかり先のことかもしれないが――。
「ふぇえ……」
「あはは! 遊んでくれるの、うれしいな!」
リボンを揺らしているスピカは、とても楽しそうに笑っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
麒麟(f09772)さんと引き続き共に。
追いかけっこ?
随分と気侭ですね、水の中はあまり得意ではありませんが。
リボンを巻かれないように戦うのであれば、逃げながらで問題ありませんわね。
きゃッ!
思ったより速い、ありがとうございます。
・・・もう大丈夫ですので!離して!いただけると!
私を抱えたまま戦うわけにいかないでしょうし!恥ずかしいですし!主に私が!
私は大鰐霊様にしがみついて移動しましょう。
自分で泳ぐより自在に動けますから。
そういえばこの破魔矢、効果があるでしょうか?
大鰐霊様、捕まらないように少女の周りを回れますか?
タイミングを見て少女の背後からすれ違ってください、破魔矢でリボンを斬り付けますから。
七々澤・麒麟
◎
水着姿で【ティーシャ(f02332)】と参加
二人で和気藹々喋って進んでいると少女と遭遇
おーいいぜ、女の子と遊ぶのは得意だからな
相手してやるぜ!
相手の瞬発力に合わせ危険を察知し
咄嗟にティーシャの腕を手繰り抱き寄せて回避
「おっと危ね~…へっへへ、そう簡単にタッチさせやしないぜ★」
密着して照れて焦るティーシャにもけらけら笑う
少女の猛攻をのらくら交わし、ティーシャと息を合わせてUCで反撃
確かに、呪いのリボンってコトはリボンを攻撃するのが効果的かもなあ
「嬢ちゃんは元気一杯だし、こんくらいの刺激が丁度良いよな…!」
派手なUCで鰐と共に気を逸らしつつ、破魔矢で狙って貰う
ほら、そろそろその子を離してやんな!
●黒の呪いと守護の破魔矢
「追いかけっこ?」
「おーいいぜ、女の子と遊ぶのは得意だからな」
スピカからの遊びの誘いを聞き、ティーシャと麒麟はそれぞれの反応を見せる。
少女はとても無邪気に笑っているが黒いリボンから湧き出る呪いの雰囲気は隠せていなかった。今回の猟兵の役目は、あの呪いを解くこと。
リボンを解くにはある程度の遊び、つまりは戦いに付き合う必要がある。
「随分と気侭ですね、水の中はあまり得意ではありませんが……」
「相手してやるぜ!」
ティーシャは身構え、麒麟が明るく答える。あのリボンを巻かれないように戦うのであれば、追いかけっこのように逃げながら対抗する方がいい。
「問題ありませんわね。行きましょう、麒麟さん」
「鬼さんこちら、ってな!」
麒麟はティーシャと共に駆け出し、渦巻くリボンを避けていく。待て待て、と追いかけてくるスピカの腕が伸ばされているが、あのタッチを受けるわけにはいかなかった。
「このまま神木の周りを回って……」
「えへへ、タッチするよ?」
スピカからもっと距離を保とうとしていたティーシャだったが、そのすぐ後ろにはスピカが迫っている。思ったよりも相手が速いことに気付いた時には、鬼の腕とリボンがティーシャを捉えようとしていた。
「ティーシャ!」
「きゃッ!」
相手の瞬発力を察知していた麒麟が、咄嗟にティーシャの腕を手繰り寄せた。そのままの勢いで彼女を抱き寄せた麒麟は見事に一撃を回避してゆく。
「ありがとうございます、助かりました」
「おっと危ね~……へっへへ、そう簡単にタッチさせやしないぜ★」
その間もスピカが此方を捕まえようとしてきたが、麒麟はティーシャを抱いたまま素早く駆けていった。はたとしたティーシャは慌てて首を横に振る。
「……もう大丈夫ですので! 離して! いただけると!」
「このまま逃げた方が速いぜ?」
「い、いいえ。逃げるだけならともかく、私を抱えたまま戦うわけにいかないでしょうし! 恥ずかしいですし! 主に私が!」
「そっか、残念」
麒麟は自分と密着して照れているティーシャに対し、けらけらと笑ってみせた。彼が何も気にしていない様子であることが更にティーシャの照れを増幅させている。
しかし、此処からは反撃の時。
ティーシャは麒麟にもう一度礼を告げた後に離れ、控えて貰っていた大鰐霊を呼ぶ。その背にしがみついたティーシャが捕まるようなことはもうないだろう。
「大鰐霊様と一緒なら、自分で泳ぐより自在に動けますね」
「まてまて、まってったら!」
スピカは他の猟兵を追いかけては笑っている。ターゲットをくるくると変えて駆けている鬼少女の追走は猛攻と言い換えてもいい。
麒麟は少女を振り切りながら、ティーシャに視線を送った。息を合わせて解き放つのはインドラの雷槍。
ティーシャは状況をよく眺め、次にどうすればいいかを考えていく。
「あのリボンだけを攻撃できるでしょうか」
「確かに、呪いのリボンってコトはリボンを攻撃するのが効果的かもなあ」
無数の幻影の槍を解き放った麒麟は呪いの根源だけを狙った。敵のみを捕捉する金色の電撃結界が迸り、スピカを包み込んだ。
「なにかな、これ」
「嬢ちゃんは元気一杯だし、こんくらいの刺激が丁度良いよな……!」
当のスピカは結界をものともしていない。
だが、麒麟の攻撃は継続ダメージを発生させるものだ。麒麟自身が倒れない限りはじわじわと呪いの効力を削るはず。
「そういえばこの破魔矢、効果があるでしょうか? 大鰐霊様、捕まらないように少女の周りを回れますか?」
そんな中、ティーシャが式神から貰った破魔矢を見遣る。
大鰐霊に願ったティーシャは、タイミングを見て少女の背後からすれ違う作戦を取ることにした。そうすれば破魔矢を使って何かが出来るかもしれない。
リボンを斬り付けるか、或いは――ティーシャが考えを巡らせていると、不意に破魔矢が光り輝き始めた。
「きゃ、破魔矢が……!」
「それは……なるほど、結界だ!」
はっとした麒麟は破魔矢には護りの神力が込められていることに気付いた。現にティーシャに迫っていた黒いリボンが結界に阻まれて引っ込んでいる。
きっと、この破魔矢は守護のためのもの。本当の意味でのお守りとして二人に渡されたのだろう。ティーシャと麒麟は頷きあい、社の水神を思う。
「きっと神様が私達に託してくれたのですね。この子の未来を――」
「ほら、そろそろその子を離してやんな!」
そして、二人は攻勢に入っていく。狙いはもちろんリボンのみ。
破魔矢も雷槍も、大鰐霊も決して少女を滅ぼすための力ではない。悪い縁を断ち切り、明るい未来を手繰り寄せていくためのものだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霆・綿雪
……!あの子、が……
そうだね。ひとりはさみしいよね……
ゆきには、やつじがいてくれ……ううん、今でもいっしょだから、
だけど、ひとりぼっちはさみしいの、ゆきも知ってるよ
だkらわかる……わかる、から――スピカちゃんををちゃんと、止めなきゃ、ね
ゆき、運動は苦手
でも舞だけは得意なの
ひらひら避けて、範囲に入ったスピカちゃんへUCを
水中の花舞い
ね、きれいでしょ?
ゆっくりふたりでいっしょにみましょ?
その黒いけがれば、ちゃんとゆきが祓うから――なんにもしんぱい、いらないよ
おみずのせかいはとってもきれい
ね、スピカちゃん
ゆき、次はちゃんとスピカちゃんと遊んで、お話、したいな
わがまま言って……ごめん、ね
鈴原・椿
◎
にゃあ、誰も遊んでくれないのって寂しいよね。
あいつには近寄るな、って言われるの辛いよね。
椿はアナタの事、全部じゃないけどわかるよ。だから、椿が助けてあげる。椿が遊んであげるわ!にゃあ!
鬼ごっこ!にゃあ、椿も得意よ!
ふっふっふー、さっき色々試したから水の中での動きはお手のもの!
木の間を抜けながらリボンを避けるの。にゃにゃ、もし捕まりそうだったら受け流しながら。椿は呪詛耐性が少しあるからちょっぴり当たっても大丈夫よ!
距離を詰めれたら【零號魔獣】を使うわ。椿は大きな黒い魔獣になるの。みぃ…少し、乱暴になってしまうわ…。
スピカ!悪い夢から覚めたら、椿と遊びましょう!だから、それまでおやすみ。
●守護のひかり
神木の傍に立っていたのは何処か寂しそうな鬼の少女。
その表情は笑顔ではあるが、何かに取り憑かれたような雰囲気がする。おそらく腕に巻き付いた呪いのリボンによって精神を支配されているのだろう。
「……! あの子、が……」
綿雪は少女が抱く本当の気持ちが分かった気がした。
今は正気を失わされて無邪気に笑っているが、心の奥底では寂しいと叫んでいる。
椿も々思いを感じ取り、切なげに呟いた。
「にゃあ、誰も遊んでくれないのって寂しいよね」
あいつには近寄るな。
遊んであげない。遊んじゃ駄目だ。そんな風に遠ざけられることは辛い。
「苦しいことを言われるのは、辛いよね。椿はアナタの事、全部じゃないけどわかるよ」
「そうだね。ひとりはさみしいよね……」
綿雪は身構え、呪いのリボンを見つめた。あれはもとから孤独だった少女を更に孤立させてしまう存在だ。
椿もそっと頷き、綿雪と共に戦う覚悟を決めた。
「だから、椿が助けてあげる。椿が遊んであげるわ! にゃあ!」
「ゆきには、やつじがいてくれ……ううん、今でもいっしょだから、」
彼女と綿雪は違う。
けれども、ひとりぼっちが苦しいと感じる気持ちは理解できる。もし、大切な人が居なくなってしまったら。何処かに行ってしまったら。
おまえなんていらない、と言われたら――そんなことは想像もしたくない。
「さみしいの、ゆきも知ってるよ」
だから、わかる。
理解できるからこそ――。
「スピカちゃんをちゃんと、止めなきゃ、ね」
綿雪は決意を込めて駆け出した。鬼ごっこをしたいのならば存分に。運動は苦手でも舞だけは得意だと自負する綿雪はくるりと身を翻した。
その背を見つめたスピカも駆け出ていく。
「さぁさぁ、鬼ごっこしましょ!」
「鬼ごっこ! にゃあ、椿も得意よ!」
「どこまで逃げられるかな? タッチされたら君の負け!」
椿も綿雪と一緒に走り出し、追ってくるスピカの方に振り返った。その表情は今のスピカと同じく、とても楽しそうな笑顔だ。
「ふっふっふー、さっき色々試したから水の中での動きはお手のもの!」
椿は木の間を抜け、伸ばされてきた黒のリボンを避けた。しかし、リボンはくるくると周りながら椿の背に触れた。
その瞬間、ぞわりとした感覚が背から伝わってくる。
にゃにゃ、と思わず声を出した椿だったが、すぐに身体を捻って受け流す。ちょっぴりではあるが呪詛に対抗する力があったゆえに大事には至らなかった。
「へいき、だった?」
「椿は大丈夫よ! にゃあ!」
心配してくれた綿雪に笑顔を見せた椿は猫特有のしなやかさを発揮していく。
神木の周りを駆けて舞って、ひらひらと避けて。櫻珠の砡枝を揺らした綿雪はまっすぐに向けた瞳にスピカを映した。
「待て待て!」
「咲いて舞いましょう、大丈夫。怖くは無いから」
珊瑚で出来た玉枝から桜の花弁が舞い上がり、水中に美しく浮かんでいく。
それは櫻嵐の花渦。わ、とスピカが声をあげたことで綿雪がふわりと微笑んだ。
「ね、きれいでしょ?」
「うん……っ!」
「ゆっくりふたりでいっしょにみましょ?」
花に包まれたスピカはぱちぱちと目を瞬かせていた。綿雪は更に桜の水流を巡らせていき、黒い呪いのリボンに浄化の力を注ぎ込む。
「その黒いけがれば、ちゃんとゆきが祓うから――なんにもしんぱい、いらないよ」
「あははっ、もっと遊んでよぉ!」
「いいよ、遊ぼ!」
まだ呪いは彼女を支配しているようだが、椿と綿雪は優しく答える。
「ええ、スピカちゃん」
「ずっと、ずっと遊びたいな。こんなにきれいな場所だから……!」
「そう、ね。おみずのせかいはとっても、きれいね」
約束の黒リボンがスピカから放たれたが、呪いに繋がれるわけにはいかない。綿雪はひらりと躱し、更なる桜舞でリボンを逸らした。
そのとき、綿雪が式神から渡されていた真っ白なお守り袋が光り出す。
「これは……?」
「にゃ?」
――きみたちを、まもるよ。その子を助けてあげて。
綿雪と椿が首を傾げたとき、水神様の声らしきものが耳に届いた。ふわりと光ったお守り袋は呪いを跳ね除けてくれている。
「ありがとう、ございます」
「にゃあ! わかったわ、神様!」
綿雪はお守り袋をそっと握り、心強さを感じた椿が勢いよく駆けていく。
零號魔獣の力を解き放てば、千切れたリボンの欠片が水中に舞った。やはり一度はスピカを倒さなければ、あのリボンは解けない。
「みぃ……少し、乱暴になってしまうけれど――!」
呪いに対抗し得る黒い魔獣の姿になった椿は爪を振るいあげた。
その一閃が黒呪を引き裂いていく中、綿雪も力を紡ぎあげていく。
「ゆき、次はちゃんとスピカちゃんと遊んで、お話、したいな。呪いになんて、けがされていない、ほんとうのあなたと――」
これは我儘だろうか。
しかし、あのリボンの呪いさえ引き剥がせばスピカ自身も無事に助けられる。そのときが訪れることを願い、綿雪は砡枝をそっと掲げた。
「おもいっきり、嵐を起こすけど……ごめん、ね」
ちょっとだけ痛いかも。
思いを込めて解き放った櫻嵐の渦が戦場を満たしてゆく。花の嵐に紛れながら全速力で駆けた椿も真正面からスピカを見つめた。
「スピカ! 悪い夢から覚めたら、椿たちと遊びましょう!」
だから、少しだけおやすみ。
黒いリボンの呪いに塗り潰された意識を掻き消すが如く、椿の一撃が振り下ろされた。スピカの身体が揺らぎ、呪いのリボンの一部が引き裂かれる。
「あれ……私、は――?」
ふらついたスピカの瞳の奥に僅かな光が宿った気がした。頷きあった綿雪と椿はこのまま戦い続けることを決め、それぞれの思いを強める。
そして、リボンと鬼ごっこの攻防は更に続いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
飛砂・煉月
【黒緋】
◎
友達はしてあげるものじゃなくて、なるものだよ
だからリボンは要らない
でも『ともだち』だから遊ぼうか
鬼ごっこは得意だよ
ね、彩灯は…?
あっは、いざとなったら担いで攫ってあげる
本来の身体能力と、首の刻印の化け物の力
奔り跳ねる力も全部を使って彩灯と目配せしつつ
鬼子と互いが見える距離で躱して逃げ
誰も見えなくなったら…寂しいかんね?
彩灯の方に追いつきそうなら槍投げで進路妨害
――ハクも遊んであげな
別にルール違反じゃないよね?
鬼さん此方、手の鳴る方へ
遊んでる誰かは此処に居るって実感してよ
ある程度相手をしたら彩灯に合図して
斃す気持ちで全力の一撃を
助けるんだ、寂しいから
――もう、いいよ
共に響かす終いの合図
壱織・彩灯
【黒緋】
◎
なに、リボンなど無くとも
ともだちになれるとも
ほら、俺もお前と同じ鬼じゃし
のう?と柔い笑顔で彼女へ
鬼ごっこか、うむ……
見付けるのは得意だが
逃げるは些か苦手かもなぁ
はは、何せ爺じゃ
おや、之は頼もしい。お前にならば担がれるも感慨深いのう
いや、冗談よ、俺も本気を出そう
ほれ、おいで鬼子、
遊んでやるぞ
ギリギリをすり抜け躱して
タッチされるわけにはいかぬと
レンへ目配せしながら
己の鴉を羽ばたかせて彼女へ足止めを
いや、違反じゃなくハクも鬼灯も共に遊びたいだけだろう?
さあ、て、そろそろ終いじゃ
レンに合わせて紅影を穿ち
黒きものを断ち切って
お前の解放を希っている
もういいかい?
さあ、応えよう
ーーもう、いいよ
●繋ぎ、絆ぐもの
リボンを結べばもうお友達。
そんなことを話していた鬼の少女、スピカを前にした二人は各々の思いを言葉にする。
「友達はしてあげるものじゃなくて、なるものだよ」
だからリボンは要らない。
煉月がそのように告げると、彩灯もスピカを見つめながら語りかける。
「なに、リボンなど無くともともだちになれるとも」
「本当に?」
スピカは首を傾げていた。彩灯の眼差しと少女の視線が重なる中、煉月もその通りだと同意した。そして、煉月は手を伸ばす。
「でも、リボンなんて関係なく……『ともだち』だから遊ぼうか」
「……嘘だ、そんなのウソにきまってる」
しかし、スピカは彼らの言葉を信じようとしない。無邪気に見えても正気は失われており、心の奥底には自分が忌み嫌われたものだという感覚が残っているらしい。
それゆえに呪術めいたこと――此度の場合は、呪いのリボンで縛り付けて繋がなければ友達は得られないと思い込んでいるのだろう。
だが、そんなはずはない。
「ほら、俺もお前と同じ鬼じゃし。……のう?」
「…………」
彩灯は柔い笑顔を浮かべ、スピカに優しく問いかけてみた。対する少女は無言のまま何も答えない。一瞬だけ表情が曇ったかと思った刹那、その口許に笑みが宿った。
「そんなことより、鬼ごっこしよ?」
少女は不自然なほどの満面の笑みを湛えている。
先程まで見え隠れしていた友達に対しての思いや葛藤めいたものは全く感じられなくなった。煉月はその理由が黒いリボンのせいだと察する。
「あの様子、呪いのせいかな」
「そのようじゃな。意識を塗り潰されたか……」
彩灯は呪いが厄介なものだと感じつつ身構えた。相手が遊びたいと望むのならば呪いが解けるまで存分に付き合ってやればいいだけだ。猟兵達はその力を持っている。
煉月も気を強く持ち、スピカに返答していく。
「鬼ごっこは得意だよ。ね、彩灯は?」
その流れで彩灯に問いかけた煉月は地を蹴った。同時に追いかけてくるスピカ。彼女に捕まってはいけない。煉月に続いて駆けた彩灯は緩く頭を振った。
「うむ……見付けるのは得意だが、逃げるは些か苦手かもなぁ」
「そうなの?」
「はは、何せ爺じゃ」
「あっは、いざとなったら担いで攫ってあげる」
「おや、之は頼もしい。お前にならば担がれるも感慨深いのう」
「ずっと抱えてた方がいい?」
「いや、冗談よ、俺も本気を出そう」
幾つかの言葉を交わした二人はスピカに捕まらないように逃げていく。くすくすと笑うスピカの眼差しには静かな狂気が宿っていた。
おそらく、近付かれたら力任せのタッチが此方を襲うことだろう。されど警戒や怖れなどは見せず、煉月は手を何度か叩いてみせた。
「鬼さん此方、手の鳴る方へ」
「ほれ、おいで鬼子。遊んでやるぞ」
煉月は本来の身体能力と、首の刻印の化け物の力を巡らせながら距離を保つ。奔り、跳ねる力も全部。己の全てを使って駆け続ける。煉月は鬼の子と互いが見える距離を保持しながら、揺らめきながら迫るリボンを躱した。
「全力でも逃げられるけど、見える所に誰も見えなくなったら……寂しいかんね?」
「そうじゃな。遊びならば駆け引きも必要……と、」
「彩灯!」
追いつかれそうになったことに気付いた煉月は、咄嗟に槍を投げてスピカの進路を妨害していく。彩灯は視線で礼を告げながらギリギリをすり抜けた。
「触れられるわけにはいかぬ」
「そうだね、それじゃあ――」
煉月へと目配せをした彩灯は己の鴉を羽ばたかせ、更なる足止めを行った。煉月は相棒竜を呼び、スピカとの鬼ごっこに参加するよう語りかけた。
「ハクも遊んであげな」
「それはいいな」
「別にルール違反じゃないよね?」
「いや、違反じゃなくハクも鬼灯も共に遊びたいだけだろう?」
煉月と彩灯が頷き合う中、槍から穿白の竜に戻った仔が翼を広げた。対するスピカは彼らを見遣り、嬉しそうに笑う。
「おともだちが増えるの? じゃあ、その竜の子も繋いであげる!」
駆けて、走って、腕を伸ばして。
ひらり、ひらりと躱して逃げて。
スピカの方に振り返った煉月は全力を尽くす。
(ねぇ、遊んでる誰かは此処に居るって実感してよ。ちゃんと遊ぶから)
敢えて声はかけず、煉月は神木の周りを駆けた。
ともだちを縛り付けるなどという悲しいことはしなくていい。そうして、煉月はある程度の相手をしたと判断する。
彩灯に合図を送った煉月は劈く葬送曲を響かせに掛かった。
「さあ、て、そろそろ終いじゃ」
「嫌だよ、まだ遊びたい!」
彩灯が語った言葉を聞き、スピカがぶんぶんと首を振った。駄目じゃ、と答えた彩灯は煉月に合わせて紅影の力を解き放っていく。
煉月も斃す気持ちで全力の一撃を重ねていった。
「助けるんだ、寂しいから」
「その黒きものを断ち切って救ける。皆、お前の解放を希っているゆえ」
彩灯と煉月。二人の力は激しく巡り、黒の呪を引き剥がしていく。間もなくすればあの呪いの根源も力を失うだろう。
だが、戦いが未だ暫し続くことは二人にも解っている。
もしもまだ遊びが続いて、鬼の少女が「もういいかい?」と聞いてくるのなら。ひとりぼっちの心が隠されたままだとしたならば。
さあ、応えよう。
――もう、いいよ。
煉月と彩灯が共に響かせたのは、隠れ鬼が光に向かって駆け出す合図代わり。
終わりの始まりが、此処から巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩迎櫻
◎
腕の中の巫女が咲えば胸の裡に倖が咲き誇る
同志であるリルが歌い、ホムラもヨルと一緒に遊ぶ
イザナは神斬に抱えられると借りてきた猫のようになるのだな
私にはかけがえの無い存在が居る
その倖を識っている
鬼ごっこをしよう
サヨを抱えたまま駆ける
リル!急い──ヨル、速いな
大丈夫だよ、サヨ
きみのしあわせを奪われようと、また与えてみせる
即座に!
立てたのは偉いけど
抱えなくても?
ならば
抜くのは厄斬る刀
そなたの厄を祓おうか
─送桜ノ厄神
スピカはいつも追う鬼役かい?
今度は私達が追いかけよう
この鬼の腕も怖くはない
つかまえた、とその腕を掴もう
サヨがリボンを巻いて可愛くしてくれる
力の使い方は慣れていけばいい
ひとりではないよ
誘名・櫻宵
🌸迎櫻
◎
カムイに抱えられたままゆらゆら心地いい
リルは歌ってヨルとホムラは追いかけっこ
イザナは師匠といい感じ…
私には甘えるなっていうのに自分は甘えんぼなのね
ひとりではない幸せ
あなたひとりぼっちなの?
…幼い頃
師匠に出逢う前
屋敷でひとりきりだった私と少し重なる
そのリボン、似合わないわ
黒のリボンが解けたならば結び直すの
綺麗な桜のリボンを
遊ぶわ!
カムイ!鬼ごっこよ!走って
童子のように走り回って清らな水底に呪いなんて溶かすの
春華─咲かせて妨害して
ほらこっち
鬼さんこちら
幸せが奪われて水底に一人立つ
た、立てたわ!
でも溢れるしあわせは止められない
一緒に遊んだのだから
捕らえなくても私達は友達よ!
ほら一人ではない
リル・ルリ
🐟迎櫻
◎
皆で泳ぐ水中は心地いい
奏でる歌も聴いてくれる人がいるのは幸せなことだ
皆甘えんぼでいいんじゃない?
独りぼっちは寂しいよ
水槽の中ひとりきり、深い水底にひとりだけ──こんなに綺麗な場所なのにそんなのは神様だって望まないよ
あの子が呪いに囚われた子だね
ん?カムイも神斬も手が愛しい桜で埋まってる…
つまり両手が空いて戦えるのは…
僕、がんばるんだから!
鬼ごっこか…僕は泳ぐの遅いからな…
「薇の歌」
捕まってない!と巻き戻しながら泳いでまわる
櫻、立てるじゃん!すごい!
それを見ていそいそと神斬の腕の中から降りようとするイザナが微笑ましい
そうだね!僕らは友達だよ!
結ばれるのは呪じゃない
優しい縁であるべきなんだ
●結びと縁
皆で泳ぎ、歩く水中は心地好い。
奏でる歌や響く音。それを聴いてくれる人がいる、とても幸せな時間。
リルが泳いでいく後方には櫻宵を抱くカムイの姿がある。腕の中の巫女が咲えば、胸の裡に倖が咲き誇ってゆく。
ヨルとホムラは先程から追いかけっこをしており、神斬に抱えられたイザナは借りてきた猫のように大人しくなっている。ゆらゆらと揺蕩う心地を感じながら、櫻宵は淡く笑んだ。
「イザナは師匠といい感じ……」
「噫、良いものが見れたね」
「私には甘えるなっていうのに自分は甘えんぼなのね」
櫻宵とカムイ、神斬とイザナの姿はよく似ている。自分達が更に歳を重ね、今以上に縁と絆を深めれば彼らのようになるのだろうとカムイは感じていた。
自分にはかけがえの無い存在が居る。その倖を識っていることが、幸福そのものだ。
「皆、甘えんぼでいいんじゃない?」
「そうね、ひとりではない幸せを確かめられるもの」
リルがふわりと笑えば、櫻宵も目を細めた。
しかし、今から向かう先にはたったひとりで過ごしている少女がいる。スピカという名の鬼娘に思いを馳せたリルは、そっと思いを零す。
「独りぼっちは寂しいよ」
少しだけ重なるのは自分の過去。水槽の中ひとりきり、深い水底に自分だけ。こんなに綺麗な場所だというのに、孤独に縛られている。
「そんなのは神様だって望まないよ」
「ええ、だから助けに行きましょう」
「孤独の厄など巡らせないよ」
三人は思いを重ね、少女が待つ神木の傍に踏み出していった。其処には無邪気に笑う鬼の子がおり、新しい遊び相手が来たことを喜んでいる。
「あの子が呪いに囚われた子だね」
「きゅきゅゆ!」
「ちゅぴちゅ!」
リルはスピカを見つめ、ヨルとホムラもその名を鳴き声で呼んだ。かわいい、と笑った鬼の少女はリル達に手を伸ばす。
「きみたちも遊ぶ? おいでよ!」
「あなた、ひとりぼっちなの?」
「友達をこのリボンで繋ぐから、ひとりなんかじゃないよ」
櫻宵が問うと、スピカは腕に絡みつく黒いリボンを示してみせた。櫻宵はその言葉が空虚なものだと感じ取っている。少女の心が呪いによって塗り潰されているからだ。
櫻宵もまた、幼い頃を思い出す。
あれは師匠に出逢う前。屋敷でひとりきりだった自分と、スピカの境遇が重なる。
「そのリボン、似合わないわ」
「そう?」
スピカはきょとんとしていた。その黒の呪いが解けたならば結び直せばいい。この神域を包み込むような、優しくて綺麗な桜色のリボンを――。
「そんなことより、遊ぼ」
「遊ぶわ! さぁカムイ! 鬼ごっこよ!」
「そうだね、鬼ごっこをしよう」
カムイは少女に呼び掛けられた通り、まずは遊びに加わる心算で駆けた。その際も櫻宵は抱えたまま、華麗に神木の傍をすり抜けたカムイはリルの方に振り向く。
「リル! 急い――ヨル、速いな」
「きゅー!」
同志に呼びかける前にホムラ抱っこヨルの素早さを見てしまったことで、カムイは驚いた。リルも仔ペンギン達は大丈夫だと察し、ぐっと拳を握る。
「ん? カムイも神斬も手が愛しい桜で埋まってる……ということはつまり、両手が空いて戦えるのは……僕だけ? よーし、がんばるんだから!」
気合いを入れたリルはふわりと神木の上部に泳いでいった。泳ぐの遅いことは自覚しているゆえ、もしスピカに追いつかれたら歌ってやれば良い。
そう、薇の歌を。
「つーかまえ……あれ?」
「捕まってない!」
リルは歌の力で事象を巻き戻しながら泳いでまわる。
こうやって童子のように走り回って、清らな水底に呪いなんて溶かしてしまえばいい。櫻宵はリルを援護する形で神力を帯びた桜吹雪を舞わせた。咲かせて、防いで――。
「ほら、こっち。鬼さんこちら」
「しあわせそうな、ひと。それ、ちょうだい?」
すると、スピカが星を食べつくすまっくらやみの力を巡らせた。途端に櫻宵から幸福の感情が奪われ、身体がカムイから離れた。
水底にひとり立つ櫻宵の心が一瞬、幼い時分のときのようになっていく。
だが、幸福はなくなるものではない。
「大丈夫だよ、サヨ。きみのしあわせを奪われようと、また与えてみせる」
それはもう即座に。
カムイは櫻宵を抱き寄せ、愛しさを示す。今までは怖かった水が恐怖の対象ではなくなっていることに気付いた櫻宵は足元を見遣った。
「た、立てたわ!」
「偉いね、サヨ。もう抱えなくても?」
「ええ、後はいつものようにやりましょ」
溢れるしあわせは止められない。カムイと櫻宵は並び立ち、それぞれに刀を構える。それでこそ二人だと感じたリルは満面の笑みを浮かべた。
「櫻、立てるじゃん! すごい!」
リルが尾鰭をぴるぴるして喜ぶ中、三人の様子を見ていたイザナも動き出す。神斬の腕の中から降りようとする彼を見たリルは敢えて何も言わずに口元を緩めた。微笑ましさを感じたリルは更に気を強く持ち、スピカに歌を響かせていく。
カムイも黒のリボンを見据え、厄を斬るべく駆けた。
「そなたの厄を祓おうか」
「やく?」
スピカはカムイの言葉に首を傾げる。禍津神の慰めと厄された御魂を掬う祈りと共に、カムイは呪いを断ち切るための一閃を振り下ろした。
其処に合わせて櫻宵が生命力と意思を喰らう桜を解き放つ。その狙いは呪いのリボンにだけ向けられており、悪しき意思だけが融かされて咲かせられていく。
「いや、このままじゃリボンを結べない……!」
「スピカはいつも追う鬼役かい?」
「絶対に結ばなきゃいけないわけじゃないよ」
頭を振ったスピカに対し、カムイはそうっと問いかける。リルもリボンには拘らなくていいのだと語り、少女を見つめた。
「鬼ばかりじゃつまらないこともあるでしょ?」
「今度は私達が追いかけよう。その鬼の腕も怖くはないよ」
「え?」
櫻宵は桜色の軌跡を描いてスピカの周囲を彩る。其処にリルが紡ぐ薇の歌が響き渡り、呪に操られた行動を巻き戻した。
そして、カムイが腕を伸ばしてやる。
「つかまえた」
少女の腕を掴んだ瞬間、黒のリボンの一部が解けた。されどスピカはすぐにカムイの腕を振り払い、彼の手に深い傷を刻んだ。
「あ……私……ああ、また……!」
呪いの影響が僅かに剥がされたことによって、本来のスピカの感情が露出する。血が流れ落ちることにも構わず、カムイは優しく微笑んだ。
「力の使い方は慣れていけばいい。大丈夫、もうひとりではないよ」
「でも、おともだち……私に友達なんか――」
鬼化していない方の手で頭を押さえたスピカは過去のことを思い出しているようだ。しかし、すぐに櫻宵とリルが真っ直ぐな思いを伝えた。
「一緒に遊んだのだから、捕らえなくても私達は友達よ!」
「そうだね! 僕らは友達だよ!」
「きゅきゅゆ!」
「ちゅちゅんぴぃ!!」
ヨルとホムラも懸命な思いを呼び掛けているようだ。櫻宵は淡く笑み、カムイと共にそっと踏み出していく。
「ほら、一人ではないの。みぃんな、貴女のお友達になりたいのよ」
「怖いだろうが、踏み出しておいで」
櫻宵とカムイは敢えて立ち止まり、スピカの意思を尊重する姿勢を見せた。きっと此処からが彼女の心を取り戻す為の大事なときだ。
リルも微笑みを向け、そのときが巡るのを待つことにした。
結ばれるのは呪ではない。
此処に集ったひとたちとの、優しい縁であるべきなのだから――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】◎
何となく彼女の気持ちはわかります
鬼の子
自分も昔はそう呼ばれてましたから
自分よりも強い者やわからない者はどうしても恐怖の対象になってしまいますからね
えぇ、そうですね
強い子ならそれと同じそれ以上の強い子と遊んであげるのが良いですね
ふふっ、ルーシーちゃんが遊び相手ならきっと楽しいでしょう
僕も僭越ながら遊び相手を
えぇ、遊びでも全力ですね
捕まる気はありません
おや?ララちゃんにありがとうねぇと上に乗って
鈴の音と共に
彼女が距離を取る様に
ベラーターノ瞳で予知と予測して彼女にアドバイス
そうですね、あの子が気になる場所へと案内しましょうか?
ルーシーちゃん、あの子に近づいてくれませんか?
大丈夫ですからと
敵の攻撃を避けつつわざと軽く攻撃が当たる様に
おやおや、捕まったので次は僕が鬼ですね?
屍鬼
さぁ、本当の鬼さんあの子の呪いを喰べてください
軽い怪我ですから大丈夫ですよ
心配させましたのねと頭を撫でて
ふふっ、楽しかったですね
また遊びましょうねぇ
おや?僕に?
ありがとうねぇと嬉しそうに受け取って
ルーシー・ブルーベル
【月光】◎
遊んでくれるひとが居ないのはさみしいね
ゆぇパパも鬼の子って言われていたの……?
で、でもでも
パパは独りじゃないよ
少なくとも今は!
ルーシーもね、昔は遊び相手がいなかったの
だから、いいよ
遊んであげましょう
強くて変わっただれかなら、ルーシー達はうってつけよ
ただし
ちょっとやそっとじゃ捕まえられたりしないんだから!
ふふ、そうそう
手加減はナシ、よ
変身するお友だち
さ、ゆぇパパもララに乗って
飛び立つと式神さんから頂いた鈴がりりんと鳴る
“タッチ”されないように
パパのご助言をきき距離をとるわ
けれど鬼ごっこであることは忘れずに
鬼さんこちら
鈴音のなるほうへ
花の香りで少しは動きも抑えられているかしら
パパ、どこにお連れしましょうか
いいの?……うん、わかった
でも無茶はダメよ?
鬼ごっこで遊ぶなら
最後は捕まえたって、しないとね
スピカさんを捕まえてくれるひとは、どなたかしら
パパに駆け寄って、
おケガが大事ないかじぃぃっと見て
痛いところない?
そうね!また遊びましょう
金銀のお守り鈴
金色の方をパパへお渡しするわ
はんぶんこ!
●花咲く道標
ずっと、ひとりぼっちだった。
鬼は力が強いから、触れられただけで怪我をしてしまうから。
本来の少女の心が水を伝って流れ込んできた気がした。ユェーとルーシーはスピカの心を感じ取り、互いに視線を交わす。
「遊んでくれるひとが居ないのはさみしいね」
「何となく彼女の気持ちはわかります」
――鬼の子。
自分も昔はそう呼ばれていたのだと語り、ユェーは僅かに俯いた。
「ゆぇパパも鬼の子って言われていたの……?」
「えぇ、自分よりも強い者や、素性のわからない者。理解の範疇を超える存在はどうしても恐怖の対象になってしまいますからね」
ユェーの横顔がとても寂しそうだったので、ルーシーは慌ててしまう。
過去にあった出来事は変えられない。どんなに頑張ったとしてもそのときにユェーが感じた思いをどうにかすることは出来ないだろう。
「で、でもでも、パパは独りじゃないよ。少なくとも今は!」
ルーシーは懸命にユェーに呼び掛けた。過去には手が届かなくても、今は孤独に沈む必要はないのだと伝えたい。ルーシーの瞳は真剣だ。
「えぇ、そうですね」
ユェーはルーシーが言いたいことをしっかりと理解していた。過去は変えてやれないが、今ならば。そして、此処から続く未来ならば――。
「強い子ならそれと同じか、それ以上の強い子として遊んであげるのが良いですね」
「うん!」
絶対に孤独の未来を変えてみせる。
二人は頷きあい、遊んでと願うスピカを見つめた。今の彼女は笑っているが、その心は黒いリボンの呪いに塗り潰されている。
力任せに腕を振るい、呪いのリボンを伸ばして、他者の幸福を喰らう。
そんな存在のままでいれば、待っているのは不幸だけだ。
「ルーシーもね、昔は遊び相手がいなかったの」
「そうなの?」
そっとルーシーが語りかけたことで、スピカが首を傾げた。彼女の瞳はユェーにも向けられていた。まるで、きみにはその人が居るじゃない、と問いかけるような目だ。
スピカはどうやら無意識に、ひとりきりの自分とユェーが傍にいるルーシーを比べてしまっているようだ。
「だから、いいよ。遊んであげましょう」
「ふふっ、ルーシーちゃんが遊び相手ならきっと楽しいでしょう」
しっかりと宣言したルーシーに続き、スピカに呼び掛けるユェーも優しく微笑んだ。遊びは戦いと同じだが、それを超える力を持っていると自負している。
「では、僕も僭越ながら遊び相手を」
「強くて変わっただれかなら、ルーシー達はうってつけよ」
「やったあ! じゃあ私が鬼だから、きみ達が逃げてね」
スピカは無邪気に笑った。
瞳の奥に寂しさが宿っていることを確かめた後、ルーシーは人差し指を立てた。
「ただし、ちょっとやそっとじゃ捕まえられたりしないんだから!」
「えぇ、遊びでも全力ですね」
「ふふ、そうそう。お互いに手加減はナシ、よ」
「もちろん!」
手加減や手心を加えることは失礼に当たる。ルーシーとユェーの言葉を聞き、スピカは望むところだという姿勢を見せた。
「捕まる気はありませんよ」
「どうかな。絶対に捕まえてみせるよぉ!」
そして、ユェーの宣言と共に鬼ごっこが始まりを迎える。他の猟兵にも狙いが向けられている中、ルーシーはすかさずユーベルコードを巡らせた。
――変身するお友だち。
ぬいぐるみのララが青花咲く蔦竜に代わり、背を示す。
「さ、ゆぇパパもララに乗って」
「おや? ララちゃん、ありがとうねぇ」
ルーシーに誘われたユェーもララの背に飛び乗った。ララが翼を広げたことで花が揺れ、水中に渦が巡っていく。
その際に、ちりんと鳴ったのは道中で式神から貰った鈴の音色。
清廉な音と共に飛び立ったララの背に捕まったルーシーは、そのまま神木の周りをぐるりと回っていく。その際、ユェーはベラーターノ瞳で眼下を眺めた。
最初は距離を取ること。
彼の助言を聞きながらも、ルーシーはこれが鬼ごっこであることを忘れていない。
見えなくなるほどに遠くに行ってしまうことも出来たが、そうしてしまうとスピカの興味を引けなくなってしまうだろう。
ララに飛ぶ後方を示すルーシーの狙いは、スピカとつかず離れずの距離をとりながらも決してタッチされないこと。上手く鬼を躱していくルーシーをそっと支えながら、ユェーは双眸を細めた。
「そうですね、次はあの子が気になる場所へと案内しましょうか?」
「気になる場所?」
「ルーシーちゃん、あの子に近づいてくれませんか?」
「ええ! パパ、どこにお連れしましょうか」
「僕のところです」
「いいの? だって、あのタッチは……」
「大丈夫ですから」
「……うん、わかった。だけど無茶はダメよ?」
ユェーの言葉を信じたルーシーはララに急旋回を願う。翼から零れた花の欠片に気付いたスピカは頭上に目を向けていた。
――鬼さんこちら、鈴音の鳴るほうへ。
ルーシーとララは少女を誘うようにふわりと飛んだ。その際に広がる花の香りはスピカの動きを鈍らせている。
動きを抑えられていると感じたルーシーはユェーに合図を送った。
その瞬間、彼が水底に降り立つ。
スピカにとってはタッチのチャンスが訪れたことになる。
「つーかまえた!」
刹那、激しい殴打の如き力がユェーを襲った。身体が大きく揺らぐほどの衝撃が襲ったが、彼は上手く致命傷を避けている。
「おやおや、捕まったので次は僕が鬼ですね?」
――屍鬼。
其処から発動していったのはユェーのユーベルコードだ。敢えて血が流れるように相手に向かったのも発動条件を満たすため。
流れる紅血の雫を代償に、狂気と暴食の巨大な黒キ鬼を呼んだユェーは薄く笑う。
「さぁ、本当の鬼さん。あの子の呪いを喰べてください」
狙うのはスピカ本人ではなく、リボンとして彼女に巻き付くリボンのみ。彼の力が巡った後、ララから飛び降りたルーシーは急いで駆け寄る。
「パパ!」
「軽い怪我ですから大丈夫ですよ」
「すごく痛いところはない? おケガが広がらないようにしなきゃ……」
「心配させてしまいましたね」
自分を気遣ってくれるルーシーの頭を撫で、ユェーは静かに微笑んだ。今の一撃でスピカからそれなりの量の呪いを引き剥がせたはず。
二人は敢えて身を引き、体勢を立て直そうとしているスピカの視界から外れた。そうした理由は、呪いに本当の意味での終わりを齎す子がいると気付いていたからだ。
「鬼ごっこで遊ぶなら、最後は捕まえたって、しないとね」
「ふふっ、楽しかったですね」
「スピカさんを捕まえてくれるひとは、どなたかしら」
「僕達はもう見守るだけですが、元に戻ったあの子と一緒にまた遊びましょうねぇ」
「そうね! また遊びましょう」
戦いが終わった後にはきっと、最上級の終わりと始まりが巡っていくはず。そのときが訪れることを信じたルーシーは、ユェーにそっと身を寄せた。
「そうだわ、パパ。これ!」
「おや? 僕に?」
ルーシーはそれまで自分が持っていたふたつの鈴を掲げる。銀色の片方は自分に、もう片方の金色はユェーへ。それぞれがひとつを持っていた方が良いと考えたからだ。
「はんぶんこ!」
「ありがとうねぇ」
嬉しそうに受け取ったユェーの笑みを見られることが、今のルーシーの幸福だ。
幸せは奪うものではなく、縁も無理矢理に繋ぐものではない。
それに、友達はもう此処にいるから。
そして、運命は巡り始める。
星の名を抱く少女と猟兵が織り成してゆく軌跡は、きっと――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァロ・タハティ
◎
※喋らせないで下さい!※
……ともだち?いいのぉ?
ぱぁっ(うれしい)
ぱぁぁ~(うれしい~)
ハッ!ほわほわしてる場合じゃないや
助けなきゃ
悪い呪い(まほう)なんて、やっつけてあげるよ!
『全力魔法』で木の根を生やして攻撃したり、防いだり
駄菓子屋兵器で『援護射撃』したり
こっちだよ~って『おびき寄せ』
本当のキミが
悪い魔法の中でかくれんぼしてたとしても
痛い顔だったり
おびえた顔だったり
しちゃったらきっと、かなしいよね
キリリとした顔、してみせるよ!
式神くんのお守りをぎゅって握って
ぜんぜん、へいき!
恐くないよ
大丈夫だよ
声にすることはないけど……
その手をぎゅっと握ったり
そっとなでなでしたり
伝わらなくても、たくさん
何回だって!
ボクの魔法はよわよわだけど
皆の痛みを少しでもなくしたくてUCを使う
たくさん疲れたってボクはへっちゃら!
悪い魔法が解けたなら
大丈夫かな?しげしげ覗き込み
キラキラ、お星さま色のリボン
あげます!どうぞ~
お星さまはね
はなれてるけど繋がってて
ピカピカなんだ
ボク達だってそうなんだ
皆、ともだちだよ!
●巡り逢いの縁
鬼さんこちら、手の鳴るほうへ。
あのこがほしい、あのこじゃわからない。じゃあ、きみがほしい!
そうやってタッチしてつかまえたなら、誰でも友達になれる。真っ黒なリボンできみと私を繋いだならば、ずっとずっと離れない。離れられない友達になれる。
でも――それって、ほんとうに?
独りぼっちのスピカは猟兵達を追いかけ、赤い鬼の手を振り上げた。
力加減は今もへたっぴで、勢い任せに振り下ろしたら皆を傷つけてしまう。楽しそうに笑っていても、心の中は宇宙みたいまっくらやみ。
星すら食べつくしてしまう闇が誰かの幸せを奪っていく。
約束の黒リボンを結んでも、きっと無理矢理に引き寄せているだけ。
解っているのにスピカは止まらない。呪いのせいで止めることが出来ないといった方が正しい。心では寂しく泣いて、顔では笑って、独りぼっちへの道を歩んでしまう。
しかし、真っ暗闇には光の欠片が集まりはじめていた。
昼の空にだってお星さまが輝く。
水の中に泳ぐお魚だって、いつも星空を眺めていられる。澄んだ色のローブを纏って、まあるい目をぱちぱちと瞬かせたシャーマンズゴースト。
その子こそが――孤独の星に手を伸ばす、ヴァロという名のキセキの子。
●お星さまの子
ちりん、ちりんと鈴が鳴る。
式神くんがくれた真っ白な鈴からはかわいい音色がする。音といっしょにすすんだ、ご神木の傍には女の子が立っていた。
スピカという女の子はボクたちに『私の友達にしてあげる』と話してくれた。
ともだち!
あの子はボクをともだちにしてくれるみたい。
お星さまのひかりが広がったみたいに嬉しくなって、ボクは両手をあげた。
いいのかな、いいのかな。
うれしい。とってもうれしい。ぱぁぁっと腕を振っていたら、スピカがしゅるしゅると黒いリボンをのばしてきた。
「きみ、かわいい! 私の一番の友達になる? ううん、なって!」
スピカの声はなんだか少し厳しい。
ハッとしたボクは、ほわほわしている場合じゃないと気付く。
あの子とともだちになれるのは本当にうれしい。けれども、あのリボンにはよくないものがついてしまっている。
助けなきゃ。きっとリボンに巻かれても、ほんとうのともだちにはなれない。そんな気がしたから、ボクはスピカにぱたぱたと手を振った。
ボクの言葉は届かないけれど、それ以上にめいっぱい思いを込める。
だいじょうぶ。
悪い呪い(まほう)なんて、やっつけてあげるよ、って!
そのとき、ボクが持っていた白の鈴もいっしょにりんりんと鳴った。今ならわかる。式神くんが託してくれた鈴には、この社におわす水神様の力が宿っている。
きっと神様も、あの子を助けたいと思っているんだ。
神様の応援があるならボクだって負けない。悪い魔法がスピカを苦しめているなら、全力で戦うことがボクの使命。
大樹の杖をぶんぶんすれば、びゅーんって魔法が飛んでいく。
ひらひらと伸ばされたリボンに捕まってしまわないように木の根を生やしていけば、枝が黒い布をつらぬいた。
「あはは! すごいすごい!」
追いかけてくるスピカと鬼ごっこをしながら、リボンだけを攻撃するのはちょっとだけ難しい。けれども、ボクは負けないと決めていた。近くまで迫ってきたリボンを伸ばした木の根で防いだら、スピカは楽しそうに笑ってくれる。
でも、違うんだ。
あの子はずっと泣いている。
寂しい。誰かにそばにいてほしい。けれど、傷つけちゃうから願いはかなわない。
あの子の気持ちがわかるのはどうしてだろう。理由はわからない。でも、もし理由を知れたとしてもボクがやることは同じ。
そんなことはないよって教えたいんだ。ボクもキミのともだちになりたいから。
だから、リボンとはさよならしよう。
もちろん黒の色だって素敵だよ。だって、スピカの髪に結ばれているリボンはとっても似合っているから。腕のリボンも悪い呪いがなければ、いいのにな。
「待て待て、待ってたら!」
ご神木のまわりをくるくる回っていたら、他のみんなもスピカと鬼ごっこを始めてくれていた。みんなみんな、あの子を思ってくれている。
だからボクはうれしくなった。
こんなにともだちが出来たら、もうこれからは寂しくないよ。はやくキミにもわかってほしいから、ボクはクラッカーを構えた。
紐をひいたら、ぱぱーん! ってとびだす金平糖。
きらきらを宙にうちだしたら、水中にたくさんの色が弾けた。天から色とりどりのお星さまが降ってきたみたい。
こっちだよ~ってひらひら手を振ったら、スピカがまたボクを見てくれた。
「わぁ、とってもきれい!」
スピカは目を輝かせて笑ってくれている。
本当のキミが悪い魔法の中でかくれんぼしてたとしても、やっぱり笑顔がいい。痛い顔だったり、おびえた顔だったり、つらい顔をしちゃったら、かなしいから。
だからボクもキリリとした顔でキミにむかうよ。
押し寄せてくる呪いの力に、ちょっとだけ心がひゅっとしちゃうけれど。式神くんのお守りをぎゅっと握ったら勇気がでてくる。
ぜんぜん、へいき。
キミのことは恐くないよ。
だから、逃げるのだってただの遊びのなかのこと。ほんとうにキミのことから逃げているわけじゃないって伝えるために、何度も何度も手を振ってみせる。
大丈夫だよ。
鬼さんこちら、おいでおいで。
ボクが紡げない声のかわりに、まわりの泡粒がぷかぷかと揺れる。そうしていたら、他のみんながスピカに宿っている呪いを削ってくれた。
でも、鬼の腕の攻撃はとっても痛いみたい。ほんとうのスピカだってみんなを傷つけたくはないはずなんだ。
いたいのいたいの、とんでいけ。心の痛みも、からだの痛みだって止めてあげたい。
ボクの魔法はよわよわだけど、それでも。
みんなの痛みを、つらいことを少しでもなくしたくて。どんなにたくさん疲れたってボクはへっちゃら。白い鈴のお守りだって力をくれている。
ねぇ、スピカ。
ボクたちと、ほんとうのともだちになろう!
●キミは真珠星
ヴァロが齧った魔導鉱石ユークレースから奇跡が溢れる。
呪いが齎していた痛みや苦しみが瞬く間に取り払われていき、猟兵の傷が癒えた。それだけではなく、スピカの意識が本来のものに戻っていく。
「う……あ……私――」
猟兵達の攻撃によって呪いが一部だけ晴れたのか、スピカが片手で頭を押さえた。
はっとしたスピカは周囲を見渡す。
これまでの記憶がはっきりしてきたのか、その表情はみるみる真っ青になっていく。ヴァロがぱたぱたと両手を振ったが、スピカは俯いてしまう。
「また、誰かを傷つけちゃう……!」
ぎゅっと目を瞑ったスピカは嘆いている。ほとんど千切れかけているとはいえ、その腕にはまだ黒いリボンが巻き付いていた。
「鬼――私はよくない鬼だから、友達なんてできっこないよね」
呪いの影響なのか、スピカの思考は真っ黒に染まっている。ヴァロが駆け出していくと、びくっと身体を震わせた少女が後ずさる。
「あ……ええと、」
口籠ってしまったスピカに、ヴァロがそっと腕を伸ばした。
だいじょうぶ。
こわくはないよ。
そうやって、伝わるまで何度でも繰り返すと決めた思いを届けるために。しかし、スピカはヴァロから距離を取ってしまった。触れることで自分がヴァロを傷つけてしまわないかと怯えているようだ。
「そうだ、鬼の交代……次はかくれんぼしよ! きみが鬼ね!」
遊びの提案をしたスピカは逃げるように駆け出していく。おそらくヴァロ達に触れないための言い訳でもあったのだろう。
かくれんぼするの? というようにヴァロは首を傾げた。
きっと少女は何処かに隠れて出て来ない心算だ。されど、今のスピカはこの水底に縛られたままでもある。また何処にも行けずに独りで過ごし続けるしかない。
ヴァロは少しだけ困った顔をした。だが、すぐに表情を引き締めたヴァロはスピカを探す鬼役になることを決める。ぱたりと腕をあげたヴァロは、猟兵の仲間達にみぶりてぶりで伝えた。
今度はみんなが鬼。
ぜったいにぜったい、スピカをみつける。
えいえいおー、とヴァロが片腕を振り上げたことで仲間達も気合いを入れた。水底の社に広がっていた見えない壁の迷路は消えかけている。
つまり呪いも弱まっているということ。
それゆえにあとはスピカの心次第。彼女が抵抗さえしてくれたならば、呪いのリボンは腕から解けていくはずだ。
ヴァロは駆けた。一生懸命に走り回った。
お社の後ろや賽銭箱の陰。ぐるりと境内を巡って、水中桜の裏を見て、ご神木までまた戻ってきてみる。
途中で白い影が見えたことから、スピカが見つからないように動き回っていることが分かった。鬼ごっこと隠れんぼを一緒にしているような追いかけっこは暫し続く。
そして、水底の社にはたくさんの声が響いた。
――もういいかい。
――もーいいかーい。
――もういーかい?
猟兵達の声が重なり、スピカに届いていく。もういいよ、の声は返ってこなかった。見つかることが怖くて、まーだだよ、という声すらも出せないのかもしれない。
それでもヴァロは探し続けた。
そうして、樹々が折り重なった茂みでヴァロは立ち止まる。他の猟兵達がもういいかいと呼びかける声の後に、微かな声が聞こえたからだ。
「……もういいよ」
それはもう探さなくていいという意味だったのかもしれない。されど、合図の声とも同じ響きだ。ヴァロは声の方に駆け出した。
見れば、茂みの中から黒いリボンの端っこがはみ出している。
ヴァロは両手を懸命に伸ばし、茂みの中に飛び込んだ。そして――。
(みーつけた!)
蹲っていたスピカに抱きつく勢いで、ヴァロは懸命な思いを身体中で伝えた。
「あっ……!」
スピカは驚いていたが、ヴァロがその手をぎゅっと握る。
みつけたよ。
隠れていてもぴかぴか光る、一等星のお星さま。
ヴァロはスピカの掌をちいさな手でぎゅっと握り、そっとなでなでした。全部が伝わらなくてもいい。キミを探して、やっと見つけたことを知ってほしかった。
「きみ、私に触るとあぶないよ」
(へいきだよ!)
「だめだよ、怪我しちゃう……」
(もしも痛くたって、へっちゃら!)
「だって、だって、私……私は鬼、で……」
スピカの声は震えていた。そんな彼女の頭を撫でていくヴァロはまっすぐな眼差しを向けていた。何度も、幾度も。何回だって大丈夫だと伝え続ける。ヴァロの思いを感じ取ったスピカの身体からふわりと力が抜けた。
その瞬間、腕に巻き付いていた黒いリボンが完全に解ける。
「……うん」
みつけてくれて、ありがとう。
穏やかに目を閉じたスピカはヴァロを抱き締め返した。
壊れないように、そっと。
優しい思いを知った鬼の抱擁は、ちっとも痛くなんてなかった。
もう力加減はへたっぴなんかじゃない。スピカの背中に腕を回したヴァロは、よしよしと宥めた。
リボンは水中に揺らぎ、いつの間にかなくなっていた。きっと呪いが弱ったことで水神様がそっと水面に押し上げてくれたのだろう。
おそらくUDCアースの組織には呪物ではなくなったリボンが回収されるはずだ。
これで悪い魔法は解けた。
ヴァロはスピカの手を引き、仲間達の元に戻っていく。
大丈夫かな? とヴァロが覗き込んだスピカの顔にはもう苦しみはない。それでも暴れてしまったことが恥ずかしいのか、少女は僅かに俯いている。
「あの……ごめん、なさい」
社の前に集まった猟兵達に向け、スピカが申し訳無さそうに謝った。だが、誰も彼女を責め立てるようなことはしない。
「呪いが解けて良かったです。アヒルさんも一件落着だって……ふぇ、つつかないでくださいアヒルさん。スピカさんが見てますから」
フリルは鬼ごっこが終わったことに安堵を抱いていたが、普段のようにガジェットのアヒルさんに嘴で突かれていた。
「隠れんぼは俺達の勝ち! だけど勝ち負けよりも楽しかったかどうかだな」
「ふふ、麒麟さんの言う通りですね。ね、大鰐霊様」
麒麟は朗らかに笑い、ティーシャもほっとしながら微笑んでいる。
「もう、ひとりぼっちじゃないよ……」
「にゃあ! 悪い夢はもう終わりだからね!」
「隠れんぼも出来てオレ達も楽しかったよ」
「終わりよければ全てよしじゃ。昔からよく言われておるからな」
綿雪と椿は穏やかに目を細め、煉月と彩灯も優しい視線をスピカに向けた。カムイと櫻宵も笑みを湛え、リルはくるりと少女の周りを泳ぐ。
「ありがとう、そなたのお陰でうちのサヨが水を克服したんだ」
「本当にそうね。息ができないところで泳げって言われたら、まだ怖いけど……」
「よーし。カムイと僕で、櫻の水泳教室をやるぞ!」
「え、嘘……」
仲の良い三人を見たスピカはほんの少しだけ笑った。良い兆候だと感じたユェーはルーシーと手を繋ぎ、最良の結末になったことを確かめる。
「おやおや、いい表情ですねぇ」
「ルーシーもあなたのお友達だからね。これからはいつでも呼んでね?」
ユェーの手を握り返したルーシーはスピカに笑い掛けた。きっと、これこそが大団円といった解決だろう。
そして、ヴァロは笑顔を取り戻したスピカに手を伸ばした。
「どうしたの?」
きょとんとしたスピカはヴァロの手に新しいリボンがあることに気付く。それはキラキラと薄く煌めく、お星さま色のリボンだ。
(あげます! どうぞ~)
そんな風に差し出されたリボンがスピカの腕に巻かれた。黒いリボンもシックで悪くはなかったが、スピカという少女の名前にはキラキラがよく似合っている。
「ありがとう、えーっと……」
こちらの名前をまだ知らなかったスピカに対し、ヴァロは自分の名前を文字で教えた。そうして、スピカは思いを込めてその名を呼ぶ。
「私の一番目の友達。ヴァロ!」
それから、と猟兵達を見渡したスピカはひとりずつの名前を聞いていった。
フリル、麒麟にティーシャ、煉月と彩灯。綿雪に椿、櫻宵とリルとカムイ。ユェーにルーシー。皆、スピカの心を救った功労者だ。
「うれしいな。本当に……ほんとうに、みんな友達なんだね」
そのとき、スピカがひと粒の涙を零した。
嬉しい気持ちから生まれた雫は、水底に揺らめく。薄く煌めいた涙はふわりと浮かびあがり、そして――遥かな水面の天蓋に昇っていった。
その様子は宛ら、夜空に輝く一等星。真珠星の光のように見えた。
●ボクとお星さま
こうして、ボクたちは出会った。
とおいとおい空を見ていると、真っ暗闇ばかりですこし寂しくなるときもある。独りぼっちで光り続けることが苦しく思えるときもあるかもしれない。
お星さまはね、ひとつずつがはなれているけれど。
ほんとうは繋がっていて、とってもピカピカなんだよ。ひとつひとつが違ういろをしていて、生まれたときから輝いている。きらきらともる、命のひかり。
ボク達だってそうなんだ。
だから――皆、ともだちだよ。ずっと、ずっとね!
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2022年06月05日
宿敵
『独りぼっちのスピカ』
を撃破!
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