7thKING WAR㉔〜地の底の魔女
山よりはるかに巨大な体が揺れる。それは都市ひとつはあろうかという巨大槍を、苦も無く鋭く旋回させた。
風を切る音は嵐よりも鋭く、大きく。
その一撃で草ひとつ生えぬ巨大な岩の山々が、瞬く間に粉砕されていった。
『やめろ、言う事を聞いて戦え……六番目の猟兵に殺されてしまうぞ!』
悲鳴を上げるような声。それはその巨体から放たれているようで、どこか違うものの声のようであった。それはちらりと、地上に顔を向ける。
「なるほど、彼らが六番目の猟兵たち」
『そうだ。だから……』
「なんと頼もしい目をした方々ではございませんか! 私のぼうや達に勝るとも劣らない、素晴らしい目をした方々に出会えたことは、私にとっても幸運でしょう」
どこか優しいものを見る目で、巨大な女は口の端をゆがめる。その目は仮面に覆われていてわかり辛いが、微笑んでいるようにも見えた。
「六番目の猟兵たちよ! 私を倒す力を持つという、あなた方を待っておりました! 時間がありませんから手短に申し上げますが、顔の仮面を破壊すれば私は死にます」
『この……っ!』
よくよく聞くと、女の声とは別に、それに重なるように叫ぶ声はその巨体の目を覆うか面から聞こえるようであった。仮面からは禍々しい力が感じられるが、女は全く構わず言葉をつづける。
「私は操られていますが……お気になさらず! 私は既に死した身……しかし捨て身の戦いによって、みなさんに教えられる事もあるはず!」
そうして……見るも巨大な槍を、彼女は構える。
「いざ尋常に勝負!」
●
「此華咲夜……。此華咲夜若津姫だっけ」
リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は一瞬間をおいて、その名を口にした。
「あの大きな、どこからでも見られる人のこと」
そういうと、ああ、と誰かがうなずく。どこからでも見られるから、たくさんの人が、一度は目にしたことがあるのかもしれない。
「といっても、弱点……本体はあの仮面らしいけれど。正式名称は魔王ゼルデギロスっていって、ガチデビルが特級契約書で呼び寄せた「異世界の魔王」みたいだね」
もっと正確に言うと、あの巨大な女性は新で操られているらしいんだ。とリュカは話を進める。
「自称だから、たぶん間違いはないと思う。あの仮面を破壊すれば彼女は死ぬらしい。……どうにも、彼女自身にとっても歓迎すべき黄泉返りではないらしいから」
助けてあげて欲しい。と、リュカはそう言葉に添えた。……言葉に添えてから、
「まあ、それが一筋縄ではいかないんだけど」
なんて、若干面倒くさいものを見る目をするのであった。
「魔王ゼルデギロスは、あの巨大な槍……『天槍』をぶん回して戦ってくる。言葉は優しいけど、操られてるからかわわりと攻撃は全力なので注意してほしい。……あの大きさだと、戦いで不便することもあるだろうと思うけど」
うーん。とリュカは若干悩むように顔をあげる。どこかその巨大さを仰ぎ見ているような動作であった。
「あのあたりの地形は何てないところだから、障害にはならなさそうだよね」
うーん。とそしてっ再び視線を元に戻す。
「加えて割と彼女は自分より小さな者との戦闘には慣れてるみたいだし、自分を守る気がないから、自分を巻き込んででも攻撃してくると思う。……割と、厄介になると思われるから」
気を付けてね。とリュカは言葉を添えるのであった。
「相手の先制攻撃に対処しつつ相手の体の上に載って戦うにもかかわらず相手の巨体を利用しない戦い方をしなければならない……」
ちょっと難易度高すぎるんじゃないかな、という顔を、リュカはしていた。そうしながら、
「とにかく、大変だろうし、けが人も出るだろうけれども、いってきてほしい」
そう、リュカは言葉を添えて送り出すのであった。
「彼女は……俺たちを待っていたみたいだから」
ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
今回は全力戦闘で行きます。全力です。
まずは恒例のご連絡。
=============================
プレイングボーナス……先制攻撃に対応し、相手の巨体を利用「しない」戦い方で反撃する。
=============================
※また、「ぼうや達」「ゼルデギロス」「マスカレイド」「正月に見た不思議な予兆の正体」などについては質問していただければ返答はしますが、このリプレイでは返答した、とのみ描写されます。
戦闘後にまとめて回答されますので、ご了承ください。
また、呟きか質問かわからない可能性がありますので、質問は必ず【】でくくってください。【】でくくってないものは質問とみなしません。
※グループ名等、明らかに質問じゃないな、と思えるものは省くのでそこを変える必要はないです。ご安心ください
******
以上となります。
また、負傷・重症となる可能性がございます。
身体から血が出ない、緑の血が出る、器物的に壊れる、痛みを全く感じない、〇〇への負傷は絶対に避ける等のこだわりがある方は、必ず明記してください。
(わからない場合は、描写が無難になります)
●プレイング受付期間
5月12日8:30~
締め切りは設けず、書けるだけ書き、間に合わなさそうならお返しします。
早めに閉め切る場合もあります。
その性質上、全員の描写は保証しません。
特に問題がないプレイングでも、間に合わなさそうなら見送る可能性があること、ご了承ください。
先着順ではなく、書きやすい方から書いていきますが、例えば全く同じプレイングをいただいた場合は、先にいただいた方から書きます。
以上になります。
それでは、良い戦闘を。
第1章 ボス戦
『魔王ゼルデギロス・此華咲夜態』
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POW : ジェットランページ
【天槍から噴出する強烈なオーラ】によりレベル×100km/hで飛翔し、【身長】×【武器の大きさ】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : 天槍乱舞
【貫通衝撃波「フォーススティンガー」】【螺旋回転突撃「ドリルインパクト」】【神速連続突き「ミラージュランス」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ : ジャッジメントランス
【天高く天槍を投げ上げるの】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【オーラで構築した天槍の分身】で囲まれた内部に【裁きの雷】を落とし、極大ダメージを与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
栗花落・澪
【龍花】
【激痛耐性】を上乗せした【オーラ防御】
更に僕自身も【高速詠唱】で雷魔法の【属性攻撃】を行い
雷の軌道を誘導
僕自身はそれくらいしかできないから
先制対処は雷使いの鉄馬君に任せる
代わりに先制攻撃さえ凌げれば
翼で自身の機動力を上げ
風魔法で自分の飛行を補助しながら鉄馬君を抱えて【空中戦】
【聞き耳】で攻撃時の微かな動きで立てる音を聞き取り
【ダンス】のように追撃を回避しつつ【戦場の歌姫】発動
【歌唱】に乗せた【誘惑】と今回は【催眠術】も乗せて
若津姫…もとい魔王の動き封じと鉄馬君の攻撃力増強
頃合いを見て鉄馬君を解放
体の大きさ問わず
動けなければ同じ事でしょう
後はお願いね
※痛みは慣れてるから態度に出さず頑張る
不知火・鉄馬
【龍花】
先制攻撃には澪のオーラ防御に自身の【オーラ防御】を重ね掛け
指先で印を組む事で【電撃耐性】を上乗せ
更に間に合うならば掌から取り出した★迅雷で雷を操る【電撃】
敵の雷を逸らせる、或いは自分に引き寄せ澪を庇う
先制を凌いだら一時的に澪に体を委ね
お前も手伝え、シエン!
龍形態に変化させた★紫龍〜焔〜も【空中機動】と雷属性のブレスで攻撃に向かわせ
俺自身も片手で迅雷を振るう事で雷の【斬撃波】を飛ばし
電撃による【マヒ攻撃】を澪のUCに上掛け
俺らの連携、味わいやがれ
澪の合図で【空龍貫雷】発動
澪のUCで動きを封じている間に少し長めの詠唱を行い
仮面ごと若津姫を狙う【範囲攻撃】
※怪我は元ヤンの【気合い】で耐える
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は顔をあげる。……大きい。とてつもなく、大きい。
思わずぎゅっとその拳を固める。固めた拳の上から、澪のものではない大きい手が、澪の拳を包み込んだ。
「……」
不知火・鉄馬(戒めの正義・f12794)は何も言わなかった。そしてその手は、温かかった。
「……うん」
その手の温かさに、澪は小さく頷く。
「……行こう」
そうして、二人は。
自分よりもはるかに巨大なそれに立ち向かうのであった。
ごう、と音がする。それと同時に衝撃波で辺り一面の岩石が弾けた。
「……っ、風圧で山砕くたぁ、いい度胸じゃねえか……!」
槍が振られる。その風圧で消し飛んだ岩の破片が二人へと降り注ぐ。
「それでは……参ります!」
しかしそれすらも余興のように、巨大な女が槍を振ると同時に周囲に同じような槍が現れた。
「鉄馬君……!」
女が動き出したのを見て取った瞬間、澪が祈るような仕草を。そして鉄馬が手をかざすとともに、二人にオーラの盾が展開される。同時に、女が出したオーラでできた槍は無数の数となり二人を逃がさぬように取り囲んだ。
「……っ、からの……!」
次いで鉄馬は指先で印を汲む。雷撃体制を乗せるとともに雷を自在に操る長剣をその手の中に取り出した。
「いいか、一撃だ。……この一撃、何とかして耐える!」
「うん!」
「その心意気や善し! 参ります!」
澪の目に、鉄馬が強く頷いたその時、
「が……っ!!」
「……!!」
無数の雷が二人を打った。
言葉を挟む余裕もない。二人の守りなどたやすく破るその雷が、意思を持つ洪水のように二人を打つ。
(でも、その軌道を……そらす。少しでも、澪よりも俺のところへ……!)
(鉄馬君に集まる雷の軌道を、少しでも逸らす……!)
魔法を展開させる澪。鉄馬は雷の祝福を持つ剣を握りしめる。
「鉄馬君……行くよ!」
雷の軌道をわずかに逸らす。逸らせながらも澪は声をあげた。ああ、と鉄馬は頷く。未だ雷に打たれ続けているが、その痛みに二人は耐えながらも前を向いた。……少しでも力が弱まったら、その時が動き出す時だ。
「痛くない……二人で頑張るなら、平気……!」
鉄馬の体を支えながら、澪が最初に翼を広げた。鉄馬は澪に体を預ける。……ここから先は、澪の仕事だ。
痛くなんてない。未だ身体を撃ち続ける痛みを、感じていないわけではないけれども会えて澪は封じ込んで翼とともに大空へと舞い上がる。
「行くよ……。ここは僕に任せて!」
「その思い……受け止めましょう!」
澪自身が弾丸のようになって、巨大な女へと接近する。
狙うはただ一つ。女の目を覆っている仮面である。
無数の稲妻が乱舞する中、巨大な女の腕が振られる。
その当たっただけで体が砕けそうな一撃を、澪は音で予測して紙一重で受けた。
「……っ」
風圧ですら。よろけそうになる。それでも躍るように態勢を立て直す。
けれども澪は構わずに、ぎゅっと鉄馬を抱える手に力を込めて……飛んだ。
「体の大きさ問わず、動けなければ同じ事でしょう……!」
そうして歌う。声に出して歌う。聞いたものの足を止める美しい澪の歌声が周囲に響き渡り、それは巨大な女の耳にも届く。
「……!」
女の動きが一瞬、止まる。そのすきを彼が見逃すはずがない。
「後はお願いね、鉄馬君……!」
それまで。黙って澪に運ばれていた辰馬が顔をあげる。どこか澪の歌を懐かしそうな顔で聞き、その動きを止めた女に向かって、
「お前も手伝え、シエン!」
金眼の紫龍が応えるように駆けた。竜の形態である紫龍が動くと同時に、鉄馬もまた、雷の長剣を握りしめる。
「俺らの連携、味わいやがれ! 轟け、王者の咆哮。猛き空の前に平伏せよ……!」
紫色の雷が放たれた。それは無数の雷の槍となり、動きを止めた女の顔へと一斉に走る。
顔。……その顔を覆う仮面から、すさまじい絶叫が聞こえる。
『何故だ……なぜ動きを止める……!』
「それは、このものの歌が素晴らしかったからです。そして……」
「ああ」
女の声に鉄馬が口の端をあげて笑う。体中雷に打たれて傷だらけであっても、その顔に気合で笑みを作り出した。
「俺もまた、雷を扱うからだ」
「僕たちが力を合わせれば、最強なんだよ!」
鉄馬の言葉に、澪は全力でそう声をあげる。
それは強がりでも何でもなく……心の底から、そうと信じている声であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
篝・倫太郎
胸糞悪いったらねぇな……
死して尚のその矜持にゃ敬意を表す
こちらもその矜持と覚悟に応えなきゃな
『彼女』の四肢は大地と同じ
傾斜があろうと一気に駆ける
先制対応
直線移動は避けて移動し攻撃し難い状況を意識
残像とフェイントを用いて見切りで回避
完全回避は無理でも直撃と致命傷さえ貰わなきゃいい
回避不能時はオーラ防御で防ぎ
華焔刀でジャストガード
負傷は激痛耐性で凌ぐ
以降も同様に対処
爪牙烈撃使用
烈の機動力や跳躍力を利用して仮面に一息に接近
鎧砕きと衝撃波を乗せた華焔刀を目一杯振り抜いて一撃くれてやる
既にダメージがある箇所があるならそこを部位破壊で狙ってく
ああ、ついでだ、こいつも持ってきやがれ!
破魔も乗せてもう一撃
エンティ・シェア
先制攻撃に対しては、正直私には耐えるしか思いつかない
せめて何らかの障害物を挟んだり、
化術を駆使して直撃の瞬間に弾力性のあるものに化けておこうかな
気を失わなければ上等だよ
脚が使い物にならずとも、飛ぶ羽根を、増やせばいい
一矢報いるだけの力があれば
私の真の姿を模した猫耳姿に化けて
魔力で出来た花弁を周囲に舞わせよう
二撃目が怖いからね
その時に、せめて反撃できるように備えて
しかしあの大きさだ。それだけじゃ足りないだろうし、
大き目の花束を生成しながら少しでも仮面へ迫りたい
ご機嫌いかがと軽い調子で、何も気負ってなどいないと笑みで告げて
厭わない。躊躇わない。貴方を焼き払う事を
貴方が託してくれた信頼に、応えたい
ディフ・クライン
ネージュ、君の力を解き放とう
姿と力解放した雪姫の手を取り
氷の加護受け
戦場に吹き荒れる極寒の猛吹雪
此処まで冷えた雪は氷と同じ
出来る限り雷を散らして通さぬよう
それでも防ぎきれぬ雷を
部位を選んで受けながら
駆け上がる吹雪の道
ネージュの解放は大きな魔力を消費する
怪我や消耗で動けなくなる前に
ある程度の怪我は厭わず
…母っていうのは
どうしてこうも強いのだろうね
小さな笑み
吹雪の方向を示唆し
狙うはその仮面、唯一つ
絶対零度の吹雪叩きつけ
…貴女の望むままに
*怪我は器物的に壊れる(歯車や回路等)
血ではなく赤い液体魔力
魔力消費が半分を超えると行動に支障、1/3以下で昏倒
痛みの感じ方は普通
コアの在る胸の負傷は絶対に避ける
「胸糞悪いったらねぇな……。俺苦手なんだよなー。あーゆー敵!」
かしかし、と軽く頭を掻いたのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)であった。怒りを滲ませるその声に、そうだねえ、と穏やかに頷いたのはディフ・クライン(雪月夜・f05200)だ。
「早く解放してあげよう……。というのは、どうにもオレには畏れ多い気がするけれども、けれども、早く彼女を解放してあげたいな」
開放するというと痛々しい感じがするが、実際はあれである。巨大な女を見上げながら言うディフに、ふ、と思わず笑ったのはエンティ・シェア(欠片・f00526)であった。
「そうだね。彼女を倒して開放するのが私たちの役目。今はそれを精一杯果たせばいいんじゃないかな。先制攻撃に対しては、正直私には耐えるしか思いつかないが」
「おま、前のめりにもほどがあるだろーって。まあ俺もそうなんだけど!」
完全回避は無理でも直撃と致命傷さえ貰わなきゃいいよねー。なんていう倫太郎に、エンティはうんうん、と頷く。
「……では」
「おう! 死して尚のその矜持にゃ敬意を表す……。こちらもその矜持と覚悟に応えなきゃなっ」
「待って。二人とも待って。……最果ての世界樹より生まれた雪の末姫。……ネージュ。君の力を解き放とう」
うっきうきで走り出しそうな倫太郎と、さっさと始めようかとばかりに歩き出そうとしたエンティをディフが思わず止める。次いで開放したのは己の雪精、ネージュの力を解放した。
「……おや」
雪姫の姿が現れる……と同時に、周囲に極寒の猛吹雪が降り注ぐ。ここではないどこか、もっと別の気候がもつ冬をそのまま持ってきたような寒さ……であったが、倫太郎とエンティにとっては全く苦痛を感じぬ不思議な寒さであった。……冷気のヴェールが二人の加護となっているのだ。
「さあどうぞ。正直、完全に止められる気は全くしないけれど……」
「おう! 少しでも止めてもらえるならありがたい……ってとこだよな!」
「ああ。ありがとう。では……」
倫太郎がガッツポーズをして、エンティが微笑む。それから、
「行ってこようか」
「ああ!」
そうして、戦いは始まったのだ。
「う……りゃああああああああああ!」
倫太郎は走った。全力で走った。自分の足以外で走る手段がないわけではなかったが、それは奥の手である。二つの足で、その巨大な柱よりも太い敵の足に飛び乗って。それから全力でかけていく。
「そう歩き回れては……痒うございます!」
「……っ!」
槍が旋回する。転送はためらうことなく敵自身の足を串刺しにする。その風圧ですら倫太郎を吹き飛ばしそうになって、倫太郎は思わずよろめく。
「ちょ……!」
「そこです!」
ぴんっ!
攻撃しづらい槍の裏に回り込もうとした瞬間、敵が槍から手を離した。一撃、ただの人差し指でのつまはじきが、巨大な鎚のように倫太郎の眼前に迫った。
「この……!」
避けられない。気づいて倫太郎は華焔刀を前面に出す。オーラの防御と、書けてもらった氷の加護と。ついでに気合でどれほどまで耐えれるかは皆目見当がつかない……!
「が……っ!!」
華焔刀ごと敵の指が直撃して、倫太郎は空に投げ出された。指で撃たれた衝撃が全身を襲う。
「変、身……っ!」
慌てて、その傍を翼を生やして飛んでいたエンティが、慌ててぼわんとでっかい人出型クッションに変身した。倫太郎を後ろから受け止める。
「大丈夫かい?」
「ああ……問題ねー!」
ごほ、と咳込みながらも倫太郎は答える。エンティはそれならよかったと息をつきかけた……ところで、
「ああ。少し離れてしまいましたね……」
敵が、不穏なことを呟いた。
「失礼!」
「……っ!!」
飛んだ。山より大きな女の体が一瞬にして飛んだ。槍を構える突撃姿勢にエンティは気付く。
「頼んだよ」
「うん、彼は任せて」
とっさにエンティが倫太郎を離す。落下していく倫太郎をディフが吹雪の加護を利用しながら受け止める。
「その心意気、素敵にございますね……!」
「うん。好きになってもいいんだよ。ついでに手加減してくれるともっと嬉しいかな……!」
今日は私といっているからお喋りな私。フィルオールと自分では名乗っているエンティだから、そんな軽口も叩きながら即座にエンティは変身する。クッションから、弾力性のあるマットのようなものに……、
「……ほんと」
余波で飛んできた岩石の裏側に回り込んでも、氷の加護をもらってもまだ足りない。それごと粉砕して一瞬で突撃してくる巨体にエンティは対峙する。
「気を失わなければ上等だよ……!!」
槍がその体をつらぬ田、その次の瞬間には、エンティは翼を生やした人の姿へと変化していた。……脚が使い物にならずとも、飛ぶ羽根を、増やせばいい。そう主張するエンティのどてっぱらには大きな穴が開いていた。
「……っ!」
ディフが顔をあげる。助けに行こうかと一瞬手を伸ばしかけた時、ネージュが不思議な声を発した。雪姫の彼女はひとのような、獣のような、言葉のような、そうでないような。不思議な音を細く長く発する。
……警告だと、ディフは即座に理解した。
「仲間を思うのは善きことです。……ですが」
女が、ぶんと血のついた槍を旋回させ、
同時に、周囲にオーラで作られた槍の大群が現れていた。
「余所見はいけませんよ」
「――!!」
ディフは一瞬だけ、視線を逸らす。……倫太郎がすでに駆けだしていることを確認して、ディフは全力で来るべき雷を散らすように吹雪を作り出す。
檻のように円を作り出した槍たちは、一斉に雷を吐き出した。吹雪がそれを逸らし、阻む。本来なら絶対に通さぬ壁を作れただろうが、今回は作らない。
「……!」
雷は防ぎきれない。なるだけ殺そうとするがそんな努力を捻り潰すように雷がディフを襲う。
身体が軋むような音がする。コアへの損傷を避けられればそれだけで構わない。けど、内側から壊れたら困るかなあ、なんてことを無駄に冷静にディフは考えながら、
「大丈夫」
吹雪の道を作り出し、そこを全力で走り出した。
「すぐに、貴方の元へ行くから」
もとよりこの魔法は魔力を大量に消費する。ならば負傷をいとわず短期決戦に持ち込むしかないのだ……!。
「……!」
敵が、わずかに目を見張るような仕草をする。動きが留まるその一瞬を、倫太郎は見逃さなかった。
「烈、ここへ」
倫太郎は呼んだ。呼ぶと同時に自分の倍ほどもある、巨大な狼が現れた。金の瞳に白と灰の斑な毛皮。れるは何も言わずに、すかさず拾い上げるように倫太郎を背に乗せる。
『……! お前、いつの間に……!』
走っていると思っていた倫太郎が、一瞬で飛翔したからだろうか。仮面付近から、驚愕の声が聞こえてきた。
「お前にゃ……」
倫太郎は華焔刀を構える。一瞬で、少し前に戦った猟兵たちがつけた傷を見抜いた。
「かける言葉なんてねぇよ!!」
目いっぱい叫んで、倫太郎は華焔刀を振りぬいた。……正直体はバッキバキに痛かったけれども、
「ああ、ついでだ、こいつも持ってきやがれ!」
もう一撃、破魔の力を持って仮面を愛用の薙刀で突き刺した。
もっとやってやれ、とばかりに烈が倫太郎の体を押し込む。
『この……! こいつを、振り落とせ……!』
「おやおや、なぜ私が、言うことを聞くとお思いですか……!」
仮面の声に、女がいっそ晴れやかなくらい清々しい声で答えている。それと同時に、僅かにディフの口元が、緩んだ。
(……母っていうのは、どうしてこうも強いのだろうね……)
まるで何でもないことのように、歌うように言う敵は朗らかで、元の人格を忍ばせる。……それがほんの少しディフにはさみしいけれども、寂しいと言ったらきっと、彼女自身に笑い飛ばされてしまうだろう。
「そんな風に、普通に話してみたかったけれど……」
「あなた方のような輝きを見ることができたこと、それだけで重畳です」
呟いただけなのに、答えがあった。ディフは顔をあげる。……はるか遠く、吹雪の階段を駆け抜けても遠く。彼女はいつくしむようにディフを見ていた。
「……貴女の、望むままに」
人ではあり得ぬ、軋む音を立ててディフは手を掲げる。掲げると同時に雪姫の作り出す絶対零度の吹雪が仮面へと襲い掛かった。
大地を揺るがすような悲鳴が響く。それは女のものではなく、醜く、叫ぶような声であった。それを聞きながら、エンティは翼をはばたかせる。
真の姿を模した、猫耳姿。足だけは動かせなかったら、背には翼が生えている。
どてっぱらに穴が開いているが気にしない。魔力でできた花弁を周囲に回せて、反撃できるように状況を整えて一直線に、エンティは飛んだ。
(しかし……あの大きさだ)
こんなさわやかな花吹雪、一瞬で消し飛ばされてしまうかもしれないとひとつエンティは思案して。
「じゃあ、ねえ。こんなのは如何かな」
大きな大きな花束を、エンティは作り出したのであった。
まるでご機嫌いかがと軽い調子で。デートにでも誘うようなそぶりでエンティは彼女の眼もとに近づいて、
一瞬、いいかな、とでもいうように倫太郎とディフに視線をやると、二人はしっかりと頷いたのでエンティはちょっと微笑んで。
「貴方が託してくれた信頼に、応えたい」
花束を仮面へと渡す。渡した花々は炎となる。
「赤々と萌え咲かれ」
花の渦は火炎の渦となり、仮面を飲み込む。
女のものではない。恐ろしげな悲鳴が、周囲に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユーフィ・バウム
戦いを越えた先で得るものがある
ならばこそ全力で戦いましょう!
体躯の違いを越えて
ええ真向から!勝負しますっ!
先制されるジェットランページを
オーラ防御を全開に武器受け!
自分から吹き飛ばされるように飛び、致命を防ぎます
大丈夫!耐えるッ
そして初撃を凌げたなら
武器に風の属性攻撃を宿し、
勢いを加速させたダッシュで
彼女の巨躯を駆けのぼりますよ!
勇気と覚悟を力とし迫る攻撃を受け、耐え
なぎ払いと衝撃波で打ち払い、
時に弾かれるとしても怪力で彼女の体にしがみつき、
体からは落ちずに上っていきますっ!
貴女の威容、そして溢れる愛には
私の育った世界アックス&ウィザーズの神を思い出す
【言葉の神シャルムーン、闘神ガンダッタ
貴女の言った「ぼうや達」にこの名前はありますか?】
答えの有無は問わず全力で駆け上がり
仮面の前にたどり着いたなら、最大まで力を溜めた
《トランスバスター》の一撃で仮面を砕きます!
やはり私は戦士として未熟なのでしょうか
仮面を砕いた後、貴女ともっと語り合いたかったと想う
――私達はどこまでも戦い、生きていきますよ
シキ・ジルモント
体格差から繰り出される攻撃は脅威だが退くつもりはない
それよりも…他者を操るあの仮面のやり方、気に入らないな
連続攻撃は手数に惑わされずに、攻撃が当たる瞬間に一つずつ捌く
体格差があろうと人の形をしている相手なら、動作の予想も不可能ではない
落ち着いて攻撃の種類を判断したい
槍は躱せるなら回避を、難しいならハンドグレネードを槍に投擲、爆発の衝撃で槍の軌道を逸らす
衝撃波はその場から飛び退き直撃を避けることでダメージを抑える
負傷は覚悟の上、怯まず対峙する
動けなくなるような傷を負わなければ上出来だろう
相手の攻撃を凌ぎつつユーベルコードで反撃する
攻撃に直結する槍や手足の他、せっかく教えてくれた弱点らしき仮面も狙って
傷の痛みは一時意識の外へ、攻撃を通す事に集中する
…身体の自由を奪われても猟兵を待っていたのだから、最後くらいは望み通りに
◆質問
先の言葉、ふと疑問が湧いた
【『六番目の猟兵』とは、一体どう言う意味だ?】
これまでも度々そう呼ぶ者はいたが、その意味は未だに分からない
他にも猟兵のような存在が居るのだろうか
西条・霧華
「それがあなたの覚悟なのですね。」
ならば私も、【覚悟】を示します
相手の先制攻撃は【視力】を以て【見切り】ます
致命傷となる物を中心に【残像】と【フェイント】を交えつつ回避や【武器受け】で往なします
一撃が軽い様ですから、叶うなら【カウンター】で迎撃してしまうのもありかもしれません
それでも捌き切れない物は【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
どれ程打ち据えられようと、どれ程切り裂かれようと…
それでも私は立ち上がり、あなたに挑み続けます
それがあなたに示せる私の、守護者の【覚悟】です
<真の姿を開放>し右腕と武器に蒼炎を纏います
私が討つべきは仮面ただ一つです
巨体も目標への道程と考えるなら、踏破すべき要塞や足場と言うだけです
纏う【残像と【フェイント】で眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
そういえば質問しても良いんでしたね
聞きたいのは二つです
【「界渡る」や「神隠し」もあなたの召喚と同じ性質のものなのですか?】
【六番目の猟兵の「六番目」とはどういう意味なのですか?】
「うわー……」
ぽかん、とユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は天を見上げた。
「大きい、ですね……」
「ああ」
感心したような声をあげるユーフィとは対照的に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の声は冷静だった。様々な敵と戦ってきたシキだが、これほど巨大な敵と戦う機会は、そう沢山はないだろう。
「体格差から繰り出される攻撃は脅威だが……退くつもりはない。いつも通り、全力を尽くすまでだ」
「ええ……そうですよね! 体躯の違いを越えて、ええ真向から! 勝負しますっ!」
シキの言葉に、ぎゅーっとユーフィは己の手を握りしめる。それはおそれではなく、どこかその強敵に向かって心を弾ませているようにも感じられた。
「そうだな。全力を尽くそう。それよりも……他者を操るあの仮面のやり方、気に入らないな」
シキがポツリとそう言ったとき、すぐ近くにいた西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は目を眇めて敵の姿を仰ぎ見る。
「そう……ですね。だからこそ」
倒せと、言ったのか。そう言いかけて、ちょっと霧華は胸が詰まる。
「それがあなたの、覚悟なのですね……」
胸に手を宛てて、一度敬礼する。それから彼女はそっと眼鏡に手をかけて……、一息、ついて、そして手を戻した。
「ならば私も、覚悟を示します」
「はい! 戦いを越えた先で得るものがある……ならばこそ全力で戦いましょう!」
霧華の決意に満ちた声に、ユーフィが大きく頷いて……、そして、戦いが始まった。
槍が揺れる。風圧だけで岩山をも粉砕させる槍が、まっすぐに彼らに向いていた。
すでに体には幾重にも傷ができ、その仮面にも傷が入っている。……それが小さいような気がするのは、彼女がむしろ、誰よりも大きいからかもしれない。
「いざ……」
彼女は、敵ははゆっくりと槍を傾ける。その顔にある仮面が何か言っているような気がしたが、
「参ります!」
高らかに宣言する声にかき消された。その巨体からは想像できない俊敏さで彼女の足が地を蹴って。少し離れたところにいた三人へと、瞬く間に距離を詰めた。
「私が、蛮人がお相手しましょう!」
ユーフィが一歩踏み出す。真正面から大剣を掲げた。昔から創世の大剣として部族に伝わっていたものを叩き直し作り上げたそれに、ユーフィは全力でオーラを流し込む。
「では……全力で参ります!」
敵もまた、加減をするつもりは全くなかった。勢いを利用して、全力で槍を構えて突撃する。鋼と鋼の激突する音が、激しく、まばゆく周囲に響き渡った。
「ぐ……っ!!」
勢いに剣が折れそうになる。ユーフィは踏ん張りながらも県にオーラ防御を流し続ける。ちらと周囲に目をやると、傍にいたはずの二人もすでに行動を開始していた。
「ありがたいです……!」
これなら、大丈夫。力ます槍に、ユーフィは剣を傾けて勢いを流す。自然、力を受け止めきれずに彼女は吹っ飛んだ。
「大丈夫! 耐えるッ」
「……っ!」
体が浮く。致命傷を避けるためにユーフィはわざと後ろへと吹き飛ばされたのだ。ユーフィは遠く飛び、岩場に激突して止まる。全身がきしみ上げるように痛むが、それをこらえて即座に起き上がる。
「まだまだ、これからです……!」
「この一撃で、倒れないとは、素晴らしいですね……!」
急に勢いを失い、敵の方もまた、バランスを崩す。しかし彼女の方はぎりぎり持ちこたえていた。素早く態勢を立て直す……その、前に、
「鬻ぐは不肖の殺人剣……。それでも、私は………」
霧華がその背面に回り込んでいた。一瞬でもできた隙を、彼女たちが見逃すはずがない。霧華は刀に手をかける。敵が振り向く……その前に、
「ふふ……。なんだか私も、楽しくなってきました」
「……!」
ありえない角度から槍が曲がった。と霧華は感じた。実際にその巨大すぎる体をうまく使ったのだと気づくのは数舜後のこと。理屈を感じる前に、霧華は一瞬でその動きを判断して体を捻る。それでも槍垣里香を追いかけた……その時、
「後ろだ」
「は……はいっ!」
声がかかる。一瞬で察して霧華は後方に跳ぶ。飛ぶと同時に手榴弾が槍へと炸裂した。
「きゃ……っ」
爆発と爆風は槍を削るほどでもない。しかしながらそれは確実に槍の軌道を逸らして揺らした。敵もまた声をした方に目を向ける。
「そこですね……!」
シキだ。霧華とは離れた場所、三人で取り囲むような位置取りを行ってシキは冷静に駆けた。走りながらも、手榴弾を投げて動きを逸らすことは忘れない。
「さすがに……」
幾度となく振り回される槍を避ける。体格差があろうと人の形をしている相手なら、動作の予想も不可能ではない。巨体ならなおのこと分かりやすい。落ち着いて敵が何をするのか判断し、一つ一つ対処していくのは不可能ではない。……が、
「厳しいな。だが……っ」
が、そのうえで敵は彼らを粉砕してくる。掠り傷でも重傷を与えてくるあの槍は、ある程度ダメージを受けることを前提にしなければ近付くことさえ難しかった。
「まだまだ、行きますよ!」
シキの指向を楽しそうな敵の声が引き戻す。その一瞬で敵はシキとの距離を詰めてきていた。目の前に巨大な敵の姿。
「そうか。こちらも覚悟はできている」
しかしシキは一瞬でその状況を飲み込んで、怯まず冷静に、いったん体制を整えようと残り少なくなってきた手榴弾を手にした時……、
「待ってください……っ!」
霧華が声をあげる。その糸を一瞬で察して、シキは手にしていたそれを投げずに飛びのいた。同時に入れ替わるようにして霧華がシキの前に出る。
「ぐ……っ!!」
オーラの防御を施した愛刀で霧華は槍を受け止める。そのまま刃を滑らせて、カウンターで槍を伝って敵の懐に飛び込んだ。
「返します……!」
二種の倶利伽羅の彫刻が施された刀を、敵の懐にたたきつけた。
「どれ程打ち据えられようと、どれ程切り裂かれようと……、それでも私は立ち上がり、あなたに挑み続けます。それがあなたに示せる私の、守護者の覚悟です……!」
戦いは長く続いた。
戦う敵の姿はどこか楽しそうで、嬉しそうだった。
戦うこと自体に喜んでいるわけではない。
ただ……成長した子供を喜ぶような、不思議な感情が彼女を突き動かしていた。
眼もとで仮面が何かわめいていたが、それはだれの耳にも届かなかった。
また、猟兵たちは時折彼女に問いかけた。
己の祖国にいる神のこと、
神隠しなどの言葉のこと、
六番目の猟兵という、その六番目という意味。
応えられる範囲内で、彼女は回答を行った。
できる限りの、誠意で持って。
そして……、
「……わかりましたぁ!」
戦いは長く続き、互いに傷を負っていた。それでもなお、ユーフィは傷だらけの体で顔をあげた。
「それでは僭越ながら……わたしが行きますよぉ!」
走り出す。まさに自称蛮人の名にふさわしく、全力で己を顧みることなく彼女の巨体を駆けあがる。
「……参ります」
「ああ。この期に及んで、動けなくなるような傷を負わなければ上出来だろう」
即座に霧華とシキも後を追う。最早満身創痍ではあるが……それは敵も同じ。
「足は止める。無論仮面への攻撃も行うが……」
「はい、頼りにしてますよぉ!」
シキの言葉に、即座に明るい声が返った。シキはそれで微かに頷く。
愛用のハンドガン、シロガネを構える。あの先ほどから小うるさい仮面を砕きたい気持ちはあるが……、
「――そこだな」
巨体の腕が振るわれる。それは出鱈目な動きのように見えて、それでいてその体を駆けあがる彼らを振り落とそうとするためのものであった。
なんとかそれに落とされないように動き回りながら、シキは目を細める。その瞬間、シキの体から痛みや疲労が一時的に消え去った。
「……身体の自由を奪われても猟兵を待っていたのだから、最後くらいは望み通りに」
それは極度の集中によるものであった。シキは一呼吸おいてのち、一斉に銃弾を浴びせかける。それは彼女の腕を、足を、槍を。……そして仮面を狙っていた。
動きを止めるための、広範囲への攻撃。少しでも隙を作れば、ほかのものが動きやすいだろうと思う。そうしながら、シキはふと、
「……ずいぶん、待たせてしまったか」
そんなことを言ったので、女は、
「いいえ。待つ時間も……楽しいものでしたよ」
なんて。まるで待ち合わせ相手がやっと来たかのような柔らかい微笑みを浮かべたのであった。
その微笑みの傍らで、霧華は真の姿を解放する。
「……」
右腕と武器に蒼炎を纏うその姿は、力強いはずなのにどこか儚さを感じさせるような色をしていた。
「……私が討つべきは仮面ただ一つです。巨体も目標への道程と考えるなら、踏破すべき要塞や足場と言うだけです。だから……」
動きが鈍ったそのすきに、ためらうことなく霧華は一気に敵の眼前まで駆け上がる。
「……」
一瞬。
断ち切れぬ何かを断ち切るようにして、霧華は刀を握りしめた。
『やめろ! これ以上は近……』
「終わらせます!」
一閃。
霧華の手元から刃が煌めく。煌めいたと思った瞬間、さやに彼女の刃は戻っていた。
『くそ、くそぉぉぉぉぉォぉォぉォぉォぉォぉ!!』
すさまじい悲鳴が聞こえる。……居合術。瞬く間にその仮面を斬り伏せた彼女に、敵の腕が迫る。
「往生際が……」
その腕が伸びたと思った瞬間、巨大な武器がその腕を叩き伏した。
何度も落ちそうになりながらも、踏ん張り、弾かれながらもしがみついて敵の体を登っていたユーフィが、高らかに声をあげる。
「悪いですよぉ!」
叩き伏せた後、手を離す。これ以上は武器はいらない。拳ひとつでそのままの勢いで、ユーフィは敵の眼前に踏み込んだ。
「これが森の勇者の、一撃ですっ!」
限界まで、力を込めて。
ユーフィは仮面の真ん中に、拳を叩き込んだ。
聞くに堪えない悲鳴が周囲に響き渡る。仮面はついに耐え切れずに全身に罅が入り……そして砕けた。
「あっ」
顔を、見ようと思った。けれどもユーフィがその顔を覗き込んだ、瞬間。
「……善き、戦いでございました」
ふぅ。と。
ため息をつくような声が聞こえたと思ったら。
もうすでに、彼女の姿は掻き消えていた。
巨体も、槍も、一瞬で。
まるで最初からいなかったかのように……。
「彼女は……還ったのでしょうか」
うまく受け身を取りながら、霧華が小さくつぶやいた。穏やかだったその声を思い、どうか安らかにと両手を合わせる。
「そうだな。ゆっくり休んでくれていればいいが……」
その仕草にシキもならう。何となく……穏やかな先ほどの会話を思い出せば、不思議と悲しい気持ちにはならなかった。そういう雰囲気を持ったものであった。
ユーフィもまた、その言葉に小さく頷き息をつく。そして、
「……やはり私は戦士として未熟なのでしょうか。仮面を砕いた後、貴女ともっと語り合いたかったと想う……」
ぎゅっと己の手を握りしめた。
「――私達はどこまでも戦い、生きていきますよ……」
声は荒野の中、風に乗って消えていって。
そうして、あとには静かな世界が残ったのであった。
大成功
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