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7thKING WAR㉔〜巨体の死闘

#デビルキングワールド #7thKING_WAR #召喚魔王『ゼルデギロス』

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#召喚魔王『ゼルデギロス』


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 デビルキングワールドの命運を決する“7thKING WAR”。そんな戦場のどこからでも見える存在がいた。
『おのれ若津姫め……!』
「あなたの能力は恐るべき能力です、ゼルデギロス。私の身体を操り、天槍を振るわせることも可能でしょう」
 溶岩を垂れ流す山々が連なるこの地獄のような世界の中で、その女は山よりも大きかったからだ。巨大な女とその“仮面”の会話は、戦場全ての大気を震わせる。
「――――」
 天槍、女が持つ武器は都市よりも大きく、それを軽く振っただけで周囲に存在する大気は断熱圧縮され、軌跡が熱で描かれた。
「しかし欲望渦巻かんとするこの世界で、ただの傀儡何するものぞ。あの方達は容易く私を殺すでしょう」
 直後。そんな大量の陽炎も、槍から放出されたオーラによって一瞬で吹き飛ばされた。
「聞きなさい!!」
 頭上から押し付けられるような力の放出は、戦場全体を等しく圧し、しかしその圧力すらも張りのある声で上書きされる。
「この“仮面《マスカレイド》”を破壊すれば私は死にます! 私は既に死した身……。しかし捨て身の戦いによって、みなさんに教えられる事もあるはず!」
『ぐっ……。“仮面”を放出できぬ!』
 圧倒的な力を持つ女が“仮面”に操られている。実際としてそれは間違っていないのだが、この状態は“仮面”にとって想定外であることは、戦場にいる誰もが解っていた。
 そして、
「――六番目の猟兵達よ、いざ尋常に勝負!」
 女が決死の覚悟であることも。


「“7thKING WAR”……。デビルキングワールドの命運を賭けたこの“戦争”は、各所で行われています」
 猟兵達が集まるグリモアベース、そこでフォルティナは言う。言葉と共に広げるのは今回の戦争におけるマップだ。
「そして、その戦場のどこからでも見える相手がとうとう動き始めましたわ」
 マップ上で一際存在感を示す中央上段、そこにフォーカスする。
「ゼルデギロス。ガチデビルが特級契約書で呼び寄せた“異世界の魔王”です」
 山よりも遥かに巨大な身体を持ち、都市ひとつはあろうかという超巨大槍を携えたその姿は、地図の上における比喩でも何でもなかった。
「操られているらしき巨大な女性は、完全には操られていないようですが、そんな制限された中で全力の攻撃をしてきます」
 超巨大な槍は天槍と呼ばれ、その質量以外にもオーラの放出や様々な攻撃手段があることも解っていた。
「彼女の周囲にいた気骨のある悪魔が攻撃をしてみたところ、やはり軽くあしらわれましたが、その様子からしてもどうやら彼女は“自分より小さな者との戦闘”に長けているようですわ。
 肌の上に攻め上る存在を巧みに……、ときには自分への負傷をいとわず的確に攻撃してきます」
 それは、一体何を意味するか。
「戦闘において、皆様は相手の巨体を利用できないということですわ」


 転移の準備を進めながら、言葉を続けた。
「皆様はゼルデギロスの山より高い身体の上部、弱点である仮面を破壊する必要があります。……周囲にある標高数千メートル越えの山々より遙かに巨大な存在と言えば、その高さと困難さが想像できるでしょうか」
 そしてクリアすべき難点はまだある。
「相手からの先制攻撃を如何にして対応するかも、また重要ですわ。規格外のスケールの攻撃が、規格外のレンジからぶち込まれるわけです」
 相手のユーべルコードの詳細を説明するころには、時間だった。
「――ご武運を!」
 順次、転移が進められていく。


シミレ
 ●目的
 ・魔王ゼルデギロスの撃破。

 ●説明
 ・デビルキングワールドで戦争イベントが始まりました。オブリビオン・フォーミュラである魔王ガチデビルの元へ到達するため、猟兵達は戦っています。

 ●プレイングボーナス
 以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。

 プレイングボーナス……先制攻撃に対応し、相手の巨体を利用「しない」戦い方で反撃する。

 ※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私から相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
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第1章 ボス戦 『魔王ゼルデギロス・此華咲夜態』

POW   :    ジェットランページ
【天槍から噴出する強烈なオーラ】によりレベル×100km/hで飛翔し、【身長】×【武器の大きさ】に比例した激突ダメージを与える。
SPD   :    天槍乱舞
【貫通衝撃波「フォーススティンガー」】【螺旋回転突撃「ドリルインパクト」】【神速連続突き「ミラージュランス」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ   :    ジャッジメントランス
【天高く天槍を投げ上げるの】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【オーラで構築した天槍の分身】で囲まれた内部に【裁きの雷】を落とし、極大ダメージを与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達が転移した先、戦場は大きな音に包まれていた。
「……!?」
 完全に動き出した巨体に様々なものが反射するからだ。各所の戦場で生まれた衝突音や溶岩が産み出す激しい上昇気流など、それら全てが若津姫の体表にぶつかって、周囲に返っていく。
 その時だった、
「動くぞ!」
「――!」
 数千メートル級の大槍が持ち上がっていくのが見えた。槍が顔横に上げられれば、地表の大気すらも引っ張られていくのが感じた。
「私は操られていますが……、お気になさらず!」
 そんな声と共に、上段からの一撃が戦場にぶち込まれていった。
 戦闘の始まりだった。
トーマ・ライムミント
見上げるほどに大きい方ね
こんなに大きな方はクロムキャバリアでも見たことがないわ
新鮮な気持ち
旅ってやっぱりいいものね

先制攻撃対策
空中浮遊して膝を抱えて
小さくなった自分の周囲を念動力で覆うの
電気は空気を通る
絶縁体で自分を覆ってしまえば切り抜けられるはずよ
地面にいると伝わってしまうから浮くわ

そうやって先制攻撃をやりすごしたら
エレメンタル・ファンタジアで水属性の地震を起こすわ
地面が液状化してふかい泥沼になるでしょう
戦士は踏み込みが大事だと聞いたわ
沈んで転んで動けなくなってくれたら
体力を消費させられると思うの
そこにサイキックストーンからレーザー攻撃よ
いまの私にできることはこれで全部




 戦場へ転移したトーマは、倒すべき相手を見た。
「見上げるほどに大きい方ね……」
 自分の首ほぼ真上に上げてもなお、視界に収められたとは言えない。それほどまでのスケールだった。
 こんなに大きな方はクロムキャバリアでも見たことがないわ……。
 あの世界にいるキャバリアも体高五メートルと大きな存在だが、今自分の目の前にいる相手ともなれば、もはや規格外だ。
 旅ってやっぱりいいものね……。
 まさかこんな存在に出会えるとは。様々な世界があることは知っているが、このような摩訶不思議な相手と実際に対面すると、やはり胸中に新鮮な気持ちが生まれる。
「――旅、ですか」
 すると、声が聞こえてきた。頭上からだ。
 白く巨大な顔が、満月のようにこちらを見下ろしていた。
「武士よ、よくぞ来てくださいました。貴方の旅はこれからも続くでしょう」
 しかし今は、と言葉は続く。若津姫がこちらの周囲に、オーラで構築した天槍の分身を多数出現させた。こちらを囲むように林立するそれは、まるで荘厳な神殿の柱のようだった。
 そして、
「私の死出の旅に付き合わせる無礼を、お許しください……!」
 天槍が大空へ投げ上げられたのと、己が浮遊するのは同時だった。


 若津姫はそれを見た。槍を天高く放り投げたが、視線は未だ大地に向けられている。
 飛翔……。
 否、とすぐに認識を改める
「浮遊ですね」
 遙か眼下で、緑色の光が浮き上がったのが見える。先ほどの猟兵だ。彼女は膝を抱えて小さくなると、その場から浮き上がった。最初はそこから攻撃にしろ回避にしろ、何らかの動きを見せるのかと思ったがどうやらそのような気配は無いようだった。
「果たして如何様にするのか……、見せていただきましょう!」
 己の声が雷鳴にも似た響きを持つことは知っている。だが今、雷鳴は現実のものとなっていた。
「ジャッジメントランス!!」
 大空へ放った天槍が最高点に達した時、そこから莫大な光が生まれたからだ。雷光だ。
 浮遊している猟兵目がけて、極圧の威力が大気を破りながら一直線に落下していく。
「――!」
 一瞬という間も無く、雷光は猟兵に直撃した。
 激しいスパークが巻き起こり、光と音、大気、そして猟兵。衝突点にあった何もかもを吹き飛ばす。
「!?」
 そのはずだった。
 見る。遙か眼下、打ち下ろされた雷はしかし猟兵を消し飛ばしておらず、未だ浮遊を続けていた。
 一体何がと、そう思い、急ぎ猟兵を確認すれば、彼女の身体の周囲に手がかりが残っていた。
 彼女の周囲がまるで屈折するように僅かに歪んでおり、スパークの残光が彼女を包むように、迂回するように広がっていたからだ。
 それが意味するものは何か。
「大気を操り、絶縁したのですね!」


 トーマは自身がまだ無事でいることで、己の選択が間違っていなかったことを実感した。
「成功したわね」
 膝を抱えて小さくなった体を伸ばしながら、己の周囲に浮かんでいるサイキックストーンを見た。
「自分の周囲を念動力で覆って絶縁すれば、電気は空気を通る……」
 念動力で身体を覆い、天槍から振り下ろされた雷撃を凌いだのだ。事前に浮遊したのも、接地していると通電するためだ。果たして、雷は絶縁の層を突破出来ず、周囲の大気へ散っていった。
「次はこっちの番よ」
 片手を向けた先は、若津姫の足下だった。
「――エレメンタル・ファンタジア」
「……!!」
 直後。大地が歪に揺れたかと思えば、どこからともなく大量の水が溢れてきた。澄んだ色味とその気配は、この火山地域の地下水という訳ではないことを示していた。
「水の地震よ」
 ユーべルコードによって生じた大規模な浸水だった。そして地震という通り、地面を揺らす程の大きな揺れを伴っている。すると、どうなるか、
「地面は液状化して深い泥沼になるわ。そして、戦士は踏み込みが大事なのよね?」
「くっ……!」
 水分を多く含んだ土壌はその形を保つことを諦め、緩慢に解けていき、その上にある全てを飲み込んでいく。それは若津姫も例外ではなかった。
 足が沈み、堪えられなくなった身体が下がり、思わず手を付いてしまう。そんな相手を見ながら、己の周囲に浮遊するサイキックストーンを展開した。
「いまの私に出来る事はこれで全部」
 刹那、閃光が迸る。宝石から放たれた鋭い光線が若津姫の身体に衝突したのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンティ・シェア
でけぇ姫さん、勇ましすぎて惚れ惚れするわ
ま、死んだ体を再利用ってやり口はとことん気にいらねーし
頑張って仮面殴りに行くわ

一撃は軽いっつっても当社比とか言う奴だろ?普通に死ぬわ
各種耐性で耐えられる程度に抑えられるように
ぎりぎりまで引き付けて、あんまり無駄のないように動く
全部、躱しきれなくていい
這ってでも動けりゃ、それでいい

気が巡れば即かえしうたを発動して
次にいつ攻撃が来ても受けられるように警戒を
出来れば仮面に直接叩きこみたいけど
しっかり受け止めるためになら立ち止まりもするし、
攻撃を誘うために多少の無理無茶は厭わない
他の連中が動きやすくなるなら、それでよし
味方を送り出すのも立派な仕事の内、だからな




「――でけぇ姫さん、勇ましすぎて惚れ惚れするわ」
 戦場に到着したフィルオールは岩場にもたれかかりながら、口の端を緩めた。操られてなお気概を失くさず、こちらのために挺身するというのだ。
「ま、死んだ体を再利用ってやり口はとことん気にいらねーし……俺も頑張って仮面殴りに行くわ」
「ええ。感謝します、猟兵。……期待していますよ」
 頭上、天空と言っていい位置にある巨大な顔からの声だった。顔は確かにこちらの方を向き、声はまるで雷鳴のように腹の底から揺らす。
「手は、抜きませんので」
「おう、任せろ、……ってこっちも勇ましく言えたらいいんだけどな」
 軽口に対して若津姫は微笑し、槍を構えた。
 天槍という名に相応しき巨大な一本が、空を掻き削りながらこちらへ穂先を向けてきた。
「行きます」
 若津姫が槍を引く動きに合わせて、周囲全ての大気が空に引っ張られる感覚が肌に走った。
 次の瞬間。
「!!」
 引かれた槍が突き込まれ、大気が転じていく。こちらの身体を押す突風は攻撃の予兆だ。
 若津姫が使うユーべルコードについては知っている。今、頭上に見える緩い構えと、そこからの抜き打ち気味の一発は速度重視の攻撃だろう。一撃が軽いと、そう言えるが、
「当社比とかいうやつだろ? 普通に死ぬわ……」
 数千メートル、否、もしかすると数万メートルの槍が、こちらに向かって突き込まれてくるのだ。対策が無ければ比喩ではなく身体が消し飛ぶ。
「!」
 若津姫の動きに遅れて音がやってきた。掻き飛ばされた大気が破裂し、渦巻く気流がこちらへ近づいてくる音だった。あまりの巨大さに遠近が狂うが、槍自体は超高速で迫っている。一秒のロスが数秒後において致命的となる状況だった。
 回避か反撃か。取るべき選択肢はいくつかあるが、
「つっても、このサイズじゃなあ……。――っと!」
 槍自体もそうだが、影響範囲が莫大すぎる。今も、吹き飛ばされた瓦礫が飛んできたのを回避したところだった。かなりの距離を逃げないと話にならない。
 迫り来る瓦礫を最小限の動きで回避しながら思う。回避は困難であり、ならば反撃をする場合は、
「――ま、這ってでも動けりゃそれでいいよな」
 槍が迫る度に風圧は増し、もはや身体は岩場に押し付けられている。瓦礫もまるで散弾のように迫ってきており、全てを回避するのは難しい状況だった。実際、致命的な瓦礫以外は躱していない。
 そして、もう空は見えなくなっていた。視界の大部分を穂先が埋め尽くしていたからだ。
「…………」
 来る。破壊の力が。


 若津姫は、突き込んだ天槍から手応えを感じていなかった。
「!!」
 だがそれには戸惑わず、攻撃を続けていった。猟兵とはいえ二メートル足らずの肉体だ。サイズ比から手応えを感じることは難しいが、
 手応えが“無い”のはおかしいです……!
 相手の身体が吹き飛んだり潰れたとしたら、周囲の地殻や大気を打撃した反力が返ってくるはずだが、それすらも“無い”。
「まるで私の――」
 攻撃が無効化されたようだと、続く言葉は言いさした。次の一撃のために槍を引き抜いたところ、土砂や瓦礫の粉塵で覆われていた猟兵の周囲が開け、相手の様子がよく見えたからだ。
「――――」
 遙か眼下の様子だが、解ったことが二つある。
 一つは、猟兵の背後から先の大地が全くの無傷だったことだ。貫通する衝撃波を放つ一撃目であれば、猟兵の背後にある地形ごと削れているはずだ。しかし彼の背後から先、地面は扇形に形を保っている。
 そしてもう一つは、彼自身は血を流していることだった。
「…………」
 二撃目を突き込む動きに合わせて、猟兵の身体が僅かに揺れた。最初は風に揺れたのかと思ったが、違う。槍に先行する瓦礫を最小限の動きで回避しているのだ。
「っ」
 二撃目、槍を螺旋回転させて突撃する踏み込みは、しかし、否、やはり途中で止まった。
 副次である物理現象で傷を負うが、ユーべルコードによる槍撃自体は無効化されている。それはこの時点においてもはや確信だった。
「――ならば、このまま削り切るまでです!」
 迷わず三撃目をぶち込んだ。
「ミラージュランス……!」


 戦場に走った神速の連続突きは、猟兵の周囲を粉塵で覆った。砂礫を孕んだ風が突き込まれ、槍を引き抜く動きで周囲一帯が真空となり、全方向から瓦礫すらも流れ、嵐となる。
 猟兵を中心として半径数百メートル。それだけの範囲が暴風圏となっていた。
 幾度と無く繰り返された連撃だったが、
「――――」
 最後の突き込みによって、周囲一体の砂嵐は消し飛ばされた。
 見える。
 爆風の中心と言える場所で、未だに猟兵が立っていたのを。
「…………」
 失った大気を補うため、周囲から突風が流れ込んでくる。その中心で猟兵は何と言ったのか。
 直後。
 猟兵の持っていた杖から鈴の音が鳴り響いた。


「――げほ……」
 埃っぽくなった喉を咳き込みながら、フィルオールはそれを見上げた。己が握る杖、獣奏器から奏でられた音の行く先をだ。
「上手くいったみたいだな……」
 ユーべルコード、“かえしうた”。脱力した状態で受けることを条件として、自分が受けた攻撃をカウンターとして相手へ放つ術だ。
 自分が受けた攻撃は三種類、一発目は貫通衝撃波であり、二発目は螺旋回転突撃。そして三発目は神速による連続突きだった。超質量の槍が織りなすそんな連撃の全てのエネルギーを合わさればどうなるか。
「ま……、這って動けるだけ頑張った方だろ、俺」
 満身創痍だった。身体は地面に倒れ伏し、視界もぼやけているが、音は聞こえる。
「見事……!」
 極厚の音波の向こうから聞こえてきた声に眉尻を下げながら、接近してくる他の猟兵の気配に声をかけた。
「後は頼んだわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ムゲン・ワールド
【莉出瑠(f36382)と】アドリブ歓迎

 なんという巨体。美しい女性は好きだが、あそこまで大きいと反応に困るな。

 如何に規格外の先制攻撃と言えど、発動に槍を天高く投げ上げる必要がある以上、回避の余地はあるはず。あの巨体なら見逃すことは無いしな。
 という訳で、相手UCを起動し始めると同時、こちらもUCを起動。莉出瑠を載せて、攻撃範囲を離脱だ。
 ダメ押しで真の姿(若返る前の27歳の姿)になって多少でもパワーアップを図っておこう。
 完全回避は無理だろうから、尻が燃えるくらいはあるかもしれないが、リミッター解除で耐えるぞ。

 後は回避しながら進むだけだ。

 莉出瑠がやることをやってくれたのを確認したら、仮面に向けてランスチャージをつきたてる!

「問う! ゼルデギロスとは何者か? 今後また蘇る事もあるのか?」
 こちらに敵対的という訳では無い様子。もしかしたら、答えてくれるかもしれない。
 本当は「六番目の猟兵」なる言葉も気になるが、どうにもこっちは答えてくれない予感がするんだよな……。


有栖川・莉出瑠
【アナタ(ムゲン(f36307)の事)と】アドリブ歓迎

 うー、アナタ、また、他の女、こと、話してる。
(ムゲンを恋人だと一方的に思っているので他の女の話をしてると嫉妬する)
 っと、そんな話、してる場合、違った。でも、後で、絶対、シロクロ、つける。
 アナタ(ムゲンの事)、背中、乗って、一緒、回避。
 無駄、思う、けど、一応。軽機関銃、牽制、射撃。(莉出瑠の軽機関銃はアリスランスに添え付けられていて、引き金もアリスランスの取手についています)
 
 アナタ(ムゲンの事)、敵、上空到達、したら、私、飛び降りて運動エネルギー、乗せて、適当な箇所、ランスチャージ!
 そのまま、ユーベルコード発動。行動回数、減少、させて、アナタ(ムゲンの事)、攻撃、する、チャンス、作る。

 うー? 遠くて、聞こえない、けど、アナタ、また、他の女、お喋り、してない?




 戦場、そこに砂塵が跳ねていた。
「なんという巨体」
 跳ねる飛沫は四重、戦場中央にいる若津姫を回り込む様な軌跡を描いていた。その源はムゲンだ。だが、普段の姿とは大きく違っていた。
「美しい女性は好きだが、あそこまで大きいと反応に困るな」
 言って、目の前にある瓦礫を跳躍。揃える四つ足は馬のそれだが、上半身は違う。普段の姿とも違う。年齢を重ねたその姿は真の姿だった。
 人騎一体。騎乗槍を携えたその背に乗る者も含めれば、正しくその言葉通りだった。
「うー……。アナタ、また、他の女、こと、話してる」
 莉出瑠だ。背からの呻きや唸りにも似た声を聞きながら、ムゲンはどう返したものかと思ったが、結局それどころではなかった。
 ユーべルコード、“ナイトメアビースト・ユニゾン”。己がこれを発動しているということは、
「来るぞ」
「!!」
 敵は既にユーべルコードを発動しているということだったからだ。


 直後。天空と言っていい位置で光が炸裂した。若津姫によって投じられた神槍が最高点に達したのだ。地表からでもその輪郭が分かるほどの巨大な投射物体は、今や爆発的な光によって包まれていた。
 そして、光は大きくなっていた。
 地上に近づいてきているのだ


 ムゲンは見る。自分達の周囲、大地に突き刺さった複数の光の槍をだ。
 この内部が効果範囲だ……。
 オーラによる神槍の分身体が、等間隔で柱のように建てられている。だが、そんな光景を視認できたのも一瞬だけだった。
「――!!」
 天空から迫り来る光によって、周囲の色が飛ばされたからだ。莫大量の光の正体は極厚の雷撃であり、全てを白に染めるに遅れ、大気すらも轟音で消し飛ばす。背後で叫んだ莉出瑠の言葉すらも果たして何だったのか。
 しかし、雷撃の到着に一瞬でも時間があれば十分だった。
「!!」
 ナイトメアと融合した身体は既にトップスピードに達していた。もはや四足を使った疾走ではなく、背中に生えた翼による飛翔だ。通常であれば時速にして五百キロメートル越えだが、真の姿を解放した今はそれ以上の速度で、突き進んでいく。
「……!」
 背中を掴む力の強さが増したのを感じながら、一気に距離を稼いでいく。目指すは効果範囲の外、先ほど見えた槍の柱の外側だ。地平線の向こうからなおその高さを誇っていたあの柱までの距離ともなれば、この速度であっても生半可ではない。
 事実、そこまで考えたところで背後で爆音が響いた。降り注いだ雷撃が大地を抉り飛ばしたのだ。
「ぐっ……!」
 完全回避は最初から想定していない。痛みは走ったが、飛翔の速度は緩めなかった。雷撃が終わった今、視界はクリアだ。目指すべき柱の麓を一気に通り抜けて安全圏へ達すると、身体を上に振って急上昇。
「ほう……。あの雷を耐えましたか」
 若津姫へ、向かっていく。


 地面に対してほぼ垂直上昇していく軌道の中、莉出瑠はムゲンの背の上で慌てていた。
 も、燃え、燃えてる……!
 ムゲンの後ろにいる己の、さらに後ろ。馬体となった彼の尻が燃えているのだ。先ほどの電撃の熱で火が着いたのだろう。幸い、小さな火種だったので手で叩いて消し終えると、片腕一本で支えていた体勢のまま、装備していた己の得物を構えた。
「無駄かもしれないけど……」
 アリスランスだ。穂先を若津姫へ向けるが、それは槍として用いる為ではない。槍の取手にあるトリガーを引き絞ることで、添えつけられた軽機関銃が唸りを挙げた。
「……!」
 相手は何と言ってもあの大きさだ。厳密に狙わずとも弾丸は敵へ全てぶつかっていく。
 射程距離と重力の関係上、射角を下にした流すような牽制射撃は、上昇していくムゲンの動きに合わせて若津姫の足を打ち、その後は腰と腹、そして胸や肩を経て、やがて、
「――――」
 照準越しに、“仮面”の向こうにある目が合ったと、そう感じた。
 銃身にマウントされた照準器どころか、視界からもはみ出すほどの巨大な顔だった。
 綺麗……。
 目元は解らないが、端正で美しい顔だと見た瞬間に思った。そして同時に思うのは、やはり彼の先ほどの言葉だ。彼も同じ感想を抱いていた。
「後で、絶対、シロクロ、つける」
 彼に聞こえていたかは解らない。向こうからの応えを得る前に、己は彼の背から飛び降り、身を宙へ投げ出していたからだ。


 莉出瑠は高空故に荒れる大気の中を、一気に落ちていった。耳の中で、竜巻のような風の唸りが聞こえる。
「――!」
 構える得物はアリスランス。軽機関銃を射撃した時と同じだ。穂先を向ける方向は下方で、照準は適当。重力の従うままに落下し、
「突撃ですか!」
 こちらの狙いを察知した若津姫の声が大気を揺らす。こちらの落下軌道もぶれそうになるほどの圧だったが、何とか姿勢を制御。最短距離を続行する。
 しかし、かなりの速度が出てるとはいえ、現状は重力任せの自由落下だ。加速の無い軌道は、武芸に長けた相手からすれば迎撃は容易だろう。実際、眼下ではこちらに対処しようと相手は動き出していた。
「うぅ……!」
 片手一本で神槍を盾のように眼前で構え、空いた片腕をその後ろに控えさせる。たったそれだけの動きで周囲の大気が一気に乱れ、先ほどの声とは比較にならない程こちらを滅茶苦茶にした。
 空中でもんどり打ったように姿勢が乱れる中、“仮面”へのルートはかなり阻害されたことを知る。“仮面”を狙うために神槍を迂回したところを、控えの手で払い落すか打撃するか、といったところだろう。
「く!」
 揺れる視界の中、もはや神槍はすぐ側の距離にあった。迫る青銅色の柱との激突を必死に回避し、そこを狙ってやはり二の手がやってきた。神槍を回避したこちらを払い飛ばす手の動きだ。
 だが、
「ワタシ、別に、“仮面”、狙って、ない……!」
「!!」
 乱れた気流に逆らわず、そのままさらに流されて行った。壁のように押し込まれてきた掌も、見上げてくる“仮面”も無視していったのだ。
 読みが外れた掌が、背後で空を掻くのが解った。
 落下していく。
 慌てた動きで手がこちらを追って来るのは気配で解ったが、己の狙いはもうすぐそこだった。
 “仮面”でもなく、迫る手でも無い。己が槍を突き立てたのは若津姫の首下だった。
「……!」
 激しく動かないそこは吹き飛ばされる心配もなく、落下した勢いそのままに穂先を飲み込んだ。一気に肌の下へ沈んでいく手応えを感じるが、それでも彼女からすれば蚊に刺されたようなものだろう。自分を覆うように影が落ちるのは、蚊同然に叩き潰そうと先ほどの掌が迫って来ている証拠だ。
 掌に潰される前兆として、圧縮された大気に抑えつけられる圧迫感の中、しかし自分の胸中に焦りはなかった。膝を着き、足下に広がる大きな肌に手で触れる。
 触れた。
「……!?」
 たったそれだけで、若津姫の様子が一変した。
「な――」
 叩き潰さんと迫った手が、途中で止まったのだ。驚愕の声が足裏から響くのを感じながら、己は緊張を緩めるように吐息し、上を見上げた。
「チャンス、作ったよ」
 釣られるように若津姫も見上げた空に、その姿があった。
 ムゲンだ。
 こちらへ向けて加速している。


 ムゲンは行った。重力降下に羽ばたきによる加速を加えた、パワーダイブを敢行しているのだ。
 先ほどまでは守りの体勢に入っていた若津姫だったが、今、眼下では状況が変わっている。驚愕した表情でこちらを見上げながら、しかし動きらしい動きを見せない。
 莉出瑠のユーべルコードの成果だった。サキュバスとしての彼女の能力が敵の行動を封じたのだ。ならば、後はどうするか。
「……!」
 騎乗槍を構えながら、ただただ速度を追求する。今、目の前には牽制の為に構えられた神槍があるが、動きが無いのを解っていればただの邪魔な柱でしかなかった。
 落ちながら、羽ばたき、
「――――」
 柱の表面を勢いよく蹴ってさらに加速。蹄の高らかな音も、やがて風に揉まれて消えていく。周囲の火山から沸き上がる煙も、遠くの戦場の煌めきも、何もかもを背後に捨て去りながら、ただ前へと落下していく。
「おぉ……!」
 神槍を抜け、腕による妨害も無ければ、最早標的は目前だった。力を込めた叫びと共に、黒布の“仮面”へ、一切の減速無く槍の先端を突き込んだ。
 全エネルギーを籠めた一瞬の衝突は、果たして“仮面”の表面に傷を入り、その裂け目は徐々に広がっていった。
『お、のれ……!』
 痛苦と怒りに満ちた声が周囲に響いた。“仮面”の裂けは決定的であり、それは自分達猟兵の勝利が確定した瞬間でもあった。しかし、
「――問う!」
 己には、まだやるべきことがあった。


「……うー?」
 こちらを叩き潰そうとし、しかし途中で止まった掌の屋根の下、莉出瑠は首を傾げていた。
「アナタ、また、他の女、お喋り、してない……?」
 遠くて聞こえないが、ムゲンが“仮面”の上で何か話しているのは若津姫の指の隙間から見えた。
「……やっぱり、後で、シロクロ、つける」
 


「…………」
 “仮面”に突き刺した馬上槍を引き抜き、ムゲンは急ぎ降下していた。
「アナタ!」
「莉出瑠」
 若津姫の胸上にいた莉出瑠を回収し、戦場から離脱しながら、先ほど問うた質問について考える。
 ……ゼルデギロスとは何者か? 今後また蘇る事もあるのか?
 彼女からの返答は有った。それを今一度思い返していると、背中から声が聞こえた。
「……アナタ? 後で、話、ある」
「? ……解った」
 声音から、彼女が不機嫌なのは解ったが、しかしその理由までは解らなかった。が、
 ……どうやら、考えなければならない事がさらに増えたようだな。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年05月20日


挿絵イラスト