7thKING WAR⑩~メモリィ・スナッチャー
デビルキングワールドを統治する悪魔の王・デビルキング。
その7代目を決定する『7thKING WAR』が開催されていた。
しかし、その戦いにまっさきに名乗りを上げたのがオブリビオン・フォーミュラにして伝説の1stKING『魔王ガチデビル』で、デビルキングになったら『他世界への悪魔輸出』をするというから、さあ大変!
かくして、猟兵達も乱入してのデビルキング決定戦が真面目に始まったのだった。
「……というわけで『悪魔王遊戯』の1つに行ってもらいたいんだがね」
九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)はすっごく腑に落ちないといった顔をして、猟兵達へとそう切り出した。
何しろデビルキングワールドという世界は、猟兵に匹敵する強さの悪魔が住んでいて、でも皆良い子すぎて絶滅の危機に瀕してしまい、ならばと悪事がカッコイイとする『デビルキング法』を制定、真面目にそれを守って悪事に励んでいる世界なのだから。
もうこの時点で夏梅は頭を抱えてます。
そんな中でも比較的、夏梅にも理解できて予知できたのが。
「向かってもらうのは、フェアリーランドだ」
自身が住むアックス&ウィザーズでよく聞く場所。
もちろん、そこはデビルキングワールドで。思いの詰まったアイテムを持ち込むと、アイテムの中に眠る小さな異世界、すなわちフェアリーランドに飛び込めるという、摩訶不思議な巨大工房。様々な思いを、様々な異世界を、見て感じて楽しむ事が出来るデビルアトラクションだという。
どっかの世界から妖精さんが迷い込んだんですかね?
「フェアリーランドに飛び込む、だけなら平穏なんだがね。
そこを荒らし回っているオブリビオンがいるんだよ」
その名は『ザ・スナッチャー』。他者の姿や存在を奪う悪魔。
他者に成りすまして悪行を行うそのオブリビオンのワルさは、住民たる悪魔達を感嘆させ、ありがたい都市伝説とまで思われているようではある。だって何もしなくても自分の偽物が悪いことをしてくれるんですから。この世界では大歓迎です。困ったことに。
ただ、普通に考えれば迷惑なことなので。
「猟兵が『思いの詰まったアイテム』を持ち込んで自分の『小さな異世界』を作ることでザ・スナッチャーをおびき出し、待ち伏せして有利に倒してしまおう」
ザ・スナッチャーは、フェアリーランドと見れば飛び込んできて。
そしてそこに居る誰かと入れ替わって悪さをしようとする。
それは例えば、思いを向けた大切な人だったり、忘れられない人だったり。他に誰も居ない世界だったなら、自分と同じ姿をして現れるだろう。
偽物だということはすぐに分かる。だって偽物の方がワルだから。
「複雑な状況になるかもしれないが……まあ、よろしく頼むよ」
なんだかねぇ、と最後まで苦笑したままの夏梅は、ひらりと手を振り猟兵達を送った。
佐和
こんにちは。サワです。
思いを荒らすとかものすごいワルですね。
フェアリーランドの中に入った状態でリプレイは始まります。
持ち込むアイテムや『小さな異世界』はご自由に指定してください。
敵は『ザ・スナッチャー』。他者の姿をとって現れてワルいことをします。
思いの中に居る誰かと入れ替わられていることもあります。
ザ・スナッチャーの姿や、どんなワルいことをするか、ご希望があればどうぞ。
特に指定がなければ、自分の姿となってフェアリーランドを荒らしまくります。
ザ・スナッチャーは様々なフェアリーランドを渡り歩きます。
それぞれの世界で1撃ずつ攻撃を受けては去って行く形になるかと。
蓄積していくダメージで、最終的には倒せます。
そのため、思いや偽物との関わりに重点を置いていただいても大丈夫です。
尚、当シナリオには特別なプレイングボーナスが設定されています。
それに基づく行動をすると判定が有利になります。
【プレイングボーナス】自分の『小さな異世界』を利用して戦う。
それでは、貴方のフェアリーランドを、どうぞ。
第1章 ボス戦
『ザ・スナッチャー』
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POW : シャドウ・スナッチ
【収奪の魔力】を籠めた【影の腕】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【存在強度】のみを攻撃する。
SPD : ボディ・スナッチ
対象の攻撃を軽減する【対象そっくりの姿】に変身しつつ、【対象と全く同じ能力】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : ブラッド・スナッチ
自身の身体部位ひとつを【対象】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ライカ・ネーベルラーベ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
龍巳・咲花
思いの詰まったアイテムでござるかあ
拙者は修行で使っていたクナイでござろうか
山林での修行の日々を思い出すでござるなあ!
一体何者に化けるのか……何れにせよ拙者の“庭”故、遅れは取らぬでござるよ!(誰に化けるのかドキドキしますが現れるのは自分)
……そ、そういえば拙者ずっと一人で修行してたでござるー!?
クナイや手裏剣を投擲しながら、死角になった瞬間にこっそり木や草影に一斉爆破する様に時間調整した時限爆弾化したムシュマフの鱗を仕掛けていくのでござる
後は立ち回りながら仕掛けた場所へと追い込み、タイミングを見計らって分銅と鎖で縛り付け爆破に巻き込むでござる!
言ったでござろう!
ここは拙者の“庭”でござると!
思いの詰まったアイテム、と言われて龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)が真っ先に思い当たったのは、修行を共にしたクナイだった。
もちろん、忍びとして、他の武器の扱いも鍛えられている。龍陣剣に龍陣籠手、手裏剣や撒菱、毒針、ムシュマフ・クロウの銘を持つ鎖鎌などなど。
でもやはり、携帯しやすく多用途に使えるクナイが、一番『共にいた』武器だった。
「山林での修行の日々を思い出すでござるなあ!」
気付けば、辺りの景色は懐かしい修行の地に様変わりしていて。鬱蒼と立ち並ぶ木々から、ちらちらと木漏れ日が差し込む、少し薄暗く静謐な雰囲気が漂う。
これが『悪魔王遊戯』フェアリーランドの効果。
生み出された、咲花の小さな世界。
厳しい修行の苦しさや辛さ。1つ1つ出来る事が増えていった達成感。それでもまだまだ追いつけない高みの目標への憧れと。そこへの長い道のりを感じての焦燥。
様々な感情が入り混じった、咲花を造ったとも言える地。
それをぐるりと見回して。
「敵は誰かに化けて現れるのでござるな」
事前に聞いていた説明を復唱して、気を引き締める。
見知った相手との戦闘は、戦いにくいものになるだろう。そうでなくても、偽物と気付かなければ油断を見せてしまうかもしれない。
現れるのは全て敵、と疑うぐらいの気持ちで、咲花は油断なく周囲に視線を向け。
(「一体何者に化けるのか……」)
その一方で、自分のフェアリーランドに現れるのが誰なのか、ちょっとドキドキする。
思いが創り出す世界なら、その現れる誰かも咲花の思いが強い相手のはず。
自分は一体、誰を思っているのか。
思い当たらないゆえに、咲花の緊張は高まって。
「何れにせよ拙者の『庭』故、遅れは取らぬでござるよ!」
そのドキドキを隠すように、威勢よく声を張り上げ、構えれば。
咲花の前に、咲花が現れた。
「…………」
龍陣忍装束に身を包み、大きな花が2つ咲いたような飾りのついたフードつき龍陣忍者マフラーを巻いた、小柄な姿。短めな髪と、可愛くもキリリとした瞳で、中性的に見える顔も、鏡を見ているかのようで。
見紛うことなき自分自身に。
はっと気付いて、咲花は頭を抱えた。
「そ、そういえば拙者ずっと1人で修行してたでござるー!?」
期待が大きかった分、裏切られた落胆も大きいが、その原因は他ならぬ咲花自身。気持ちのやり場がない状態でぐるぐると混乱する咲花の前で。
偽の咲花が……オブリビオン『ザ・スナッチャー』が動く。
一気に近付いてきたザ・スナッチャーは、咲花がそうしようと思っていたのと同じようにクナイを投げてくる。それは攻撃というより牽制。真っ直ぐな軌道は、避けさせて相手の動きを制限させるためのもの。
だから咲花は避けつつも相手の裏をかくように動き。そしてこちらもクナイを投げる。
クナイが、手裏剣が、動き回る2人の間を飛び交って。
盾にした木立に当たって落ち、また、下草の中に埋もれていく。
実戦形式の、戦う相手のいる修行。実際にはあまり行わなかったものだが、鍛錬を積んだ場所ゆえに、そんな状況にいるような錯覚さえ抱いて。
咲花はしっかりと立ち回っていく。
と、その最中。ザ・スナッチャーの踏み出した足が、ザ・スナッチャーのクナイを邪魔そうに踏み潰したのが視界に入り。
「大事な武器を粗末に扱うとは、何というワルでござるか……!」
あれは間違いなく自分ではないと、憤慨すると。
見計らったタイミングが訪れたのを確認して、分銅を投げ、そこに連なる鎖でザ・スナッチャーを縛り付けた。
がっしりとザ・スナッチャーを捕えた鎖だが、そこには鞘に納めたままの剣が咄嗟に噛み合わされている。上手く力を入れればそう難しくなく抜け出せる状態。
でもそれは、咲花であってもそう対処することゆえに、想定内の反応だったし。
咲花の狙いは、先ほどまでの攻防の最中、死角になった瞬間に木や草陰に仕掛けていった炎竜ムシュマフの鱗が囲むこの場所に、ザ・スナッチャーを一時的に足止めすることにあったから。
「龍陣忍法・バビロニアン・ムシュマフ・スケイル! の術でござる!」
時限爆弾化した鱗の爆破が、ザ・スナッチャーを見事に巻き込む。
「言ったでござろう! ここは拙者の『庭』でござると!」
完全な土地勘のある場所で罠をしかけるなど、龍陣忍者にとっては容易い事。
勝利を確信して胸を張る咲花の前で、爆炎が晴れていき。
そこにはもう、誰の姿もなく。
咲花は修行の時と同じく1人ぼっちで、山林の中に立ち尽くした。
大成功
🔵🔵🔵
虹月・天柳
(持ち込むアイテム:柘榴石のピアス)
(出来る小さな異世界:親友(ガーネットのクリスタリアン)と冒険した街路、一番記憶に残っている夕焼け空)
(スナッチャーの姿:在りし日の親友)
UCで「ケートゥ」を本来の姿である「刃の脚をもつ鋼の身体をした半人半馬」に戻し、その背に乗ってスナッチャーを追い立てながら、「ヴィトニール」と「ウト」には行き先に回り込むよう別行動を取らせる。
彼方が記憶まで再現するのでなければ、逃げ場の無い場所まで追い込むのは難しく無いだろう。
相手のUCは、「泡影の角燈」で生じさせる幻影(残像)で狙いを外させよう。
偽物だと端から分かっているのだから躊躇なぞせんぞ。
虹月・天柳(人形憑かせの悪魔遣い・f30238)は、半人半馬の背に乗って、見覚えのある街を駆け抜けていた。
そこは、親友と旅した路。鮮やかな茜色の夕焼け空が、それに染まっていつも以上に美しく輝いていたガーネットのクリスタリアンの姿が、一番記憶に残っている場所。
天柳は、不愛想で偏屈で。季節に関わらず濃紅色のインバネスコートを纏い、伸ばした前髪で左目を隠した怪しげな風体だから。その隣にいてくれたクリスタリアンは、物好きな男と周囲から評されつつ、それを気にしないでいて。だからこそ天柳の親友だった。
そんな彼は、今、天柳に追い立てられている。
懐かしい街路で、懐かしい姿が、必死に天柳から逃げている。
それもそのはず。天柳が駆る半人半馬は、刃の脚を持ち、鋼の身体をした悪魔で。見ただけでその鋭い刃に切り裂かれる光景が思い浮かぶ程、恐ろしい姿だったし。その背から見下ろす天柳の琥珀色の右目も、笑みの1つもない、淡々としたもの。
無表情なその顔に、親友に対する優しさや慈しみといった感情は欠片もない。
「偽物だと端から分かっているのだから躊躇なぞせんぞ」
それは予知で事前に聞いていた『ザ・スナッチャー』の能力。
他者の姿を奪い、ワルいことをして、思いを荒らすオブリビオン。
そうとは知らなくとも。
天柳は、前髪で隠れた左耳、そこに輝いている柘榴石のピアスの存在を感じる。
それは、この懐かしい街路の光景を、天柳のフェアリーランドを生み出した元であり。親友が死んだことを天柳に知らしめているものだったから。
目の前に現れた親友が偽物だと。
ワルいことをするのだというその挙動を見る前から断言して。
迷いなく、天柳は半人半馬の悪魔『ケートゥ』を、ユーベルコードによりハイアラキの銀時計に蓄積していた魔力を代償に本来の姿に戻った義体の悪魔を、駆る。
天柳が創り上げた青年型のからくり人形から一時的にとはいえ解き放たれた悪魔は、喜び勇むかのように、天柳の命に従いその刃の脚で力強く路を駆け抜け。クリスタリアンを切り刻もうと迫るけれど。
ザ・スナッチャーもやられるだけではいられないと、その美しいクリスタルの姿から、黒い影の腕を伸ばしてくる。
それは相手の存在強度のみを攻撃する、シャドウ・スナッチ。
だが、影の腕は、天柳が掲げた『泡影の角燈』、その仄かな青紫色の光が生み出す幻影に惑わされて、天柳にもケートゥにも触れられぬまま空を切り。
ザ・スナッチャーの顔が、親友の表情が、驚愕に引きつった。
そこに、天柳の指示で回り込んでいたもう2体の悪魔『ヴィトニール』と『ウト』が、ザ・スナッチャーの行く手を阻み。
咄嗟に横手の路へと逃げたザ・スナッチャーは、そこが逃げ場のない行き止まりになっているのを見て、慌てて振り返る。
「この街のことはよく知っている」
2体の悪魔を左右に引き連れて、ケートゥの上から、天柳は、追い詰められ恐怖に歪んだ親友の顔を見下ろした。
「彼方が記憶まで再現するのでなければ、この結末を導くのは難しいことでは無かろう」
冷淡に、ただ事実を指摘するだけのように、告げて。
歪まされたその姿がもう見えないよう、右目を伏せる。
そして、天柳の意を汲んだように、ケートゥがその刃の脚を振り上げ、下ろすと。
茜色に染まった街路から、ザ・スナッチャーの姿は、消えた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
愛する夫との永遠の愛を誓った証「結婚指輪」で作り出す世界は
夫婦仲睦まじく暮らす平和な世界
二人で囲む夕餉の食卓
温かなシチューにサラダ、焼き立てのパン
いつもならば穏やかな一時を過ごすはずだけど
「こんなつまらない料理などいらない。
それよりも俺は……お前を食べてしまいたい」
偽物の彼は欲望に眼をぎらつかせ
下卑た微笑で舌なめずりをする
人狼の誇りなど無き卑しい獣
最初から偽物だと分かっていても
彼の姿と声で非道を働き尊厳を貶める
吐き気を催すその在り方に虫唾が走る
強引に抱き寄せようとする偽物に必死で抵抗し
出来た傷痕から滴る血
それが反撃の種となって
神罰の薔薇は不埒者を縛め葬り去る
わたくしの貞節は誰にも穢させはしない
そこに広がった光景は、平和で平穏な、ごく普通の日常。
ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が愛する夫と仲睦まじく暮らす、特筆することもない、穏やかで温かな家だった。
少し家具や物が乱れてているのは幸せな生活がそこで営まれている証だし。整理整頓という程整ってはいなくても、きちんと掃除の行き届いた、心地よい空間。
テーブルの上には、湯気が立ち上るシチューと、新鮮な野菜の緑が美しいサラダが2人分の皿で用意され。中央に置かれたバスケットには、焼き立てのパンが、潰れないように盛られている。
それは決して御馳走ではないけれど。テーブルの向こう側の椅子に夫が座って、優しく微笑んでくれているから。ヘルガにとっては最高の食卓。
そっと、左手の薬指に嵌めた指輪に触れて、ヘルガは、夫との永遠の愛を誓ったその証が作り出したフェアリーランドにふわりと微笑んだ。
アイテムに込められた思いから小さな世界を作り出す、摩訶不思議な巨大工房。
実際にその効果を体感して。
玻璃色の水晶が輝く、対の結婚指輪、その片割れを抱くようにして。
ヘルガは温かな食卓へと近づいた。
夫は、ヘルガを出迎えるように椅子から立ち上がり。
そのまま腕を乱暴に振るうと、テーブルの上の料理を横に叩き落とす。
ガシャガシャン!
大きな破壊音に思わずヘルガの足が止まる。
しかし、夫とヘルガの距離は変わらず狭まって。
テーブルを蹴散らし、近寄ってきた夫は。
「こんなつまらない料理などいらない。
それよりも俺は……お前を食べてしまいたい」
ヘルガの細腕を痛いほどに掴み、力強く引き寄せようとした。
その青い瞳に灯るのは、いつもの優しさではなく、恐怖を覚える程にぎらつく欲望。
穏やかな微笑みは下卑たものになって。厭らしく歪んだ口元を、舌が舐めていく。
人狼の誇りなどない、卑しい獣の姿。
(「……偽物、でしたわね……」)
聞いていたはずの情報を思い出し。
寸分違わぬ姿形を目にして、忘れてしまっていた事実を実感して。
ヘルガは夫の姿をした偽物を――オブリビオン『ザ・スナッチャー』を強く睨んだ。
夫の姿と声で非道を働き、尊厳を貶める。
その在り方に吐き気すら覚え。
虫唾が、走る。
一瞬でも夫と見間違えてしまった自分にすら、嫌悪と罪悪感が浮かんだ。
もしかしたら、最初は、ザ・スナッチャーが入れ替わる前の、ヘルガの思いの中に在る本物の夫の姿だったのかもしれないけれど。だとしても、そのせいで捕まってしまったのであれば、油断したことへの後悔しかないから。
ヘルガは必死で、抱き寄せようとするザ・スナッチャーに抵抗する。
だがザ・スナッチャーは、夫の姿をしながらもヘルガの意思を完全に無視して、強引にことを進めようとするから。男女の力の差が、体格の差が、容易くヘルガを抑え込んでしまい。雪のように白い髪が乱れ、蒼いミスミソウの花が散る中で。ヘルガの細腕に、鋭い爪が食い込んでいく。
その傷痕から、色白の肌に映える赤い血が滴って。
ザ・スナッチャーの手をも赤く染めると。
そこから生み出された薔薇の蔓がザ・スナッチャーに絡みつき、鋭い棘を突き刺した。
突然の反撃に、思ってもいなかったユーベルコードに、ヘルガから離れるザ・スナッチャー。しかし、神罰の薔薇は、不埒者を戒め、縛り上げ。ヘルガの血のように美しい紅薔薇を大きく咲かせる。
さらにユーベルコードの効果が、偽物の言葉と分かっていても傷つき、そして、逃れきれなかった後悔に悲嘆するヘルガの心を、ザ・スナッチャーへさらなるダメージとして刻み込んでいくから。
紅薔薇に捕らわれたまま、ザ・スナッチャーが苦しみ、のたうち回る。
ゆっくりと立ち上がったヘルガは、その姿を見下ろして。
夫と同じ、でも夫とは違う姿を、その青い瞳で精一杯睨み付けると。
「わたくしの貞節は誰にも穢させはしない」
大事な結婚指輪を抱くように、胸の前で左手に右手を重ねて、告げる。
紅薔薇が、その決意を讃えるようにまた花開いて。
ザ・スナッチャーの姿が、逃げ出したかのようにかき消えた。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
左手薬指に嵌められた、薔薇を模した小さなダイヤの指輪を持ち込む
美しい薔薇園の風景は、恋人が将来の約束をくれた大切な場所
だから入れ替わられるとしたら紫崎君かな、とは思うけど…
いくら元ヤンとはいえ、根は優しくて素直で良い人だもん
人に迷惑かけるような事は絶対しない人
だからこそ好きになったんだから
どんなに見た目が同じだとしても、偽物だってすぐにわかるよ
彼が僕にくれた告白の言葉は?
最期の瞬間の約束事は?
言えないでしょう
僕にとっては恋人である前に命の恩人なんだから
思い出を汚さないでほしいな
恋人の姿でも躊躇いなく【指定UC】で攻撃します
彼と同じ能力、なら炎だけど
大切な薔薇園燃やさないでよね
掲げた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の左手には、小さな薔薇の花が咲いていた。
いや、正確にはそれは、薔薇を模した形に加工された宝石。薬指に嵌められた指輪を台座に煌めくダイヤ。
恋人が澪にくれた将来の約束を、伝え続けてくれるもの。
ゆえに、その指輪が作り出したフェアリーランドは。
指輪と約束をもらった大切な場所――美しい薔薇園を生み出す。
あの時の驚きと嬉しさと照れくささとが入り混じった幸せな気持ちを思い出して。
(「だから、入れ替わられるとしたら柴崎君、かな」)
この場所にいるのなら、澪自身の他にはもう1人しかいないと予想すれば。
思い描いた姿が、目の前に現れた。
茶色の髪に赤いバンダナをぐるぐると巻き。両耳にはシルバーのピアスやカフス、首元にも似た意匠のチェーンネックレスが揺れる。色黒で、がっしりと頼れる男らしい身体には、黒を基調としたワイルドな服を着て。黒い瞳は少し目つきが悪く、不敵に笑う。
同じ歳なのに、澪と頭1つ分は優に違う長身も。両手に残る傷跡も。粗野な印象を与えるから。元ヤンキーという事実を説明するまでもない雰囲気だけど。
(「根は優しくて素直で良い人だもん」)
現れた恋人が、綺麗に咲く薔薇に一瞥もせず、むしろ少し入り組んだ道を作り上げる花々を邪魔だと言うかのように、踏みつけ蹴り倒してこちらへ向かってくる。
(「柴崎君は、人に迷惑かけるような事は絶対しない人」)
どんなにワルぶっていても。その言動が乱暴に見えても。
澪が美しいと喜ぶ花を、誰かがきちんと手を入れて咲かせたことがすぐに分かる花を、身勝手に荒らしていくような悪い事は、絶対しない人だから。
(「だからこそ好きになったんだから」)
あり得ない姿に、澪はすぐに理解する。
この恋人は、オブリビオン『ザ・スナッチャー』であると。
どんなに見た目が同じでも、見た目だけだから、間違えたりしない。
だから澪は、すぐ傍に近付いてその手を伸ばしてきた恋人の姿に。
「……柴崎君が僕にくれた告白の言葉は?」
問いかけ、琥珀色の瞳で迷いなく真っ直ぐに見つめ、その動きを止める。
「最期の瞬間の約束事は?」
姿形だけを模した者に、その事実を突き付けて。
「言えないでしょう。ザ・スナッチャー」
澪は、伸ばされた手を払いのける。
きっと本物の恋人も、別の意味で言えないと思う。気恥ずかしさもあるだろうけど、澪にちゃんと伝わっていると分かっていることだから。こんなことで何度も何度も繰り返して、その言葉を、約束を、軽いものにはしないだろうから。
同じ問いを恋人にしても、きっと彼は言えない。言わない。
でも、今目の前にいるザ・スナッチャーのように、問いかけへの答えが分からず、酷く動揺した困惑の表情を浮かべることも、絶対にない。
そのあり得ない姿を、澪は哀し気に、微かに怒りすら抱いて見上げ。
指輪が煌めく左手を、ぎゅっと胸元に引き寄せながら。
「僕にとっては恋人である前に命の恩人なんだから、思い出を汚さないでほしいな」
その全身から、魔を浄化する光を放った。
ユーベルコード『Fiat lux』。
オラトリオである澪の聖なる光は、暖かく穏やかに見えてもかなりの威力を持つ。
それを、偽物であるとはいえ恋人の姿に向けて躊躇いなく放つと。
ザ・スナッチャーは、その姿の人物が戦う時そうするように、炎を生み出そうとして。
「大切な薔薇園、燃やさないでよね」
それを予想していた澪がさらに光を強めれば。
反撃を許されぬまま、ザ・スナッチャーの影は光の中に消えた。
大成功
🔵🔵🔵
神宮時・蒼
持ち込むアイテム:本体であるブローチ
小さな世界:夜空輝く白銀の世界、氷晶石で出来た花畑
敵の姿:黒く揺らめく悪意の影
…フェアリーランドに、デビルキングワールド
…何とも、対極な存在が、揃っているのは、不思議な、気分、ですね
何とも、嫌な雰囲気の、影、ですね
流石に、噛みつかれるのはちょっと…
念のために【結界術】を展開しておきます
近付いてきたならば【弾幕】で牽制
必ず距離を取って行動
【高速詠唱】で【全力魔法】を展開
周りの氷晶花も操って、全力の【雪花誓願ノ禱】を放ちます
以前なら、もっと、此の小さな世界は、荒れて、いたの、でしょうけれど
今は、ちゃんと、真実を、知ったから…
これからは、しっかり、護って、いきます
「……フェアリーランドに、デビルキングワールド。
……何とも、対極な存在が、揃っているのは、不思議な、気分、ですね」
ヤドリガミという種族は、百年使われた器物に魂が宿り、人間型の肉体を得た存在。
ゆえに、思いの詰まったアイテムを、と言われた神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)が真っ先に思い当たったのは、自身の本体だった。
それは、氷晶石と琥珀で作られたブローチ。
財と長寿を与える『祝い』の品。
それを元に作り出されたフェアリーランドは。
氷晶石で出来た花畑。
夜空に小さく散りばめられた、琥珀色にも見える星の輝きが、どこか硝子のようにも煌めく白銀の世界に映り、瞬いていく。
きらきら、きらきらと。
訪れた者を祝福するかのように。
宝石の花が美しく輝く。
「…………」
しかし、その景色を無表情に眺めていた蒼の、左右で濃さの違う琥珀色の瞳が、僅かに陰りを見せた。
見つめる先に現れたのは、黒く揺らめく影。
人の姿のようだけれど、人とは違う形に歪んだそれは。
オブリビオン『ザ・スナッチャー』であり。
この世界を蝕む、悪意。
「何とも、嫌な雰囲気の、影、ですね」
ザ・スナッチャーは、誰かの姿を奪い、悪事を働くと聞いた相手だけれども。今のザ・スナッチャーの姿は、蠢く影は、もともとが悪意そのもの。
蒼の本体が、持つ者に『呪い』をもたらす曰く付きの品として扱われてきたがゆえの、この小さな世界を蝕む悪だったから。
蒼を噛み砕こうとするかのように、影の一部が大きな顎に変形すると、ワルどころではない凶悪な牙を見せつけるようにして向かってきた。
「流石に、噛みつかれるのは、ちょっと……」
油断なく結界術も展開していた蒼は、ほんの少しだけ顔を顰めると、ザ・スナッチャーから距離を取りながら詠唱する。
「……解けぬ氷、白き色彩、凍露の花。
……此れは、呪いと、共に歩む、覚悟の、唄」
応えるように周囲の氷晶花が浮かび上がり。パキ、パキンと砕けると。
欠片の間に、水晶蝶が、ふわり、ふわりと生み出されて。
蒼を守るかのように、辺りに漂えば。
蒼の肩辺りで揺れていた、毛先だけが赤い白髪が長く伸びて。煌めく真の姿が現れた。
「……翔けろ、天高く」
そして、蒼の覚悟と共に、ユーベルコード『雪花誓願ノ禱』が舞う。
氷晶花の破片を引き連れた水晶蝶が、躍るように影へ向かっていって。
足元に咲く氷晶花にその輝きを映し、さらに煌めきながら。
きらきら、きらきらと。
蝕む影の呪いをも祝福するかのように。
宝石の蝶が美しく咲く。
その景色を、蒼はしっかりと見つめて。
(「以前なら、もっと、此の小さな世界は、荒れて、いたの、でしょうけれど」)
今の本体から作り出されたフェアリーランドの美しさに目を細める。
(「今は、ちゃんと、真実を、知ったから……」)
まだ呪いの影は在るけれど。
氷晶花の花も、水晶蝶も、美しい世界。
無表情に見える顔に、蒼は、静かな決意を宿して。
「これからは、しっかり、護って、いきます」
誓うように、告げた。
大成功
🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
真面目に悪さをしてて偉い?けど
やりすぎはよくないよな
お仕置きさせてもらうぜ
戦闘
アイテムはワイルドウィンド
じゃんと弦を鳴らして入る異世界は
キマイラフューチャーっぽい世界だ
…あの落書きしたり
意味がない破壊活動をしている
悪っぽいテレビウム
ソリじゃないのが丸わかりだ
無理して悪ぶっているようにも見えて
ちょいと痛々しくもあるよな
さっさと倒すぜ
ギターをかき鳴らせば
拡がる音が炎の波紋を生む
音が紅蓮の炎を纏う
炎の熱が影の腕を燃やし
輝きが影そのものを掻き消す
演奏はクライマックス
幾重もの音紋が炎の衝撃波となって
偽物を紅蓮の炎で包む
火傷してちょいと懲りてくれるといいけどな
事後
思い出を振り返りながら演奏を続ける
じゃん、と愛用のギター『ワイルドウィンド』をかき鳴らすと。
紛れもなくデビルキングワールドだった木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の周辺が、一気に、ポップでサイバーパンクな景色に変わった。
立体映像の看板が遠くに見え、賑やかな映像広告が忙しなく入れ替わる大通りから、ちょっと反れたかのような裏路地。薄暗く、少し落ち着いた雰囲気にはなるけれども、やっぱり近未来的なビルはごちゃっとして、充分にカラフルで奇抜な様相を見せる。
どこ、という特定の場所ではない。
キマイラフューチャーでよく見かける光景の1つ。
そんなフェアリーランドへ足を踏み入れたウタは、ワイルドウィンドを爪弾きながら、ゆっくりと歩き出す。
このギターとはいつも一緒に戦ってきた。
いくつもの世界を渡り、数多のオブリビオンを骸の海へ還してきた。
もちろん、キマイラフューチャーもそこに含まれる。
何度も訪れ、思い入れのある世界の1つで。
見知った友が居る場所だった。
ごく普通のテレビウムなのに、何故か様々な騒動に幾度も巻き込まれてしまって。だからこそ猟兵であるウタとよく会い、友人となれた相手。
最初は誰も友達がいなくて、独りで寂し気だったけれど。猟兵に背中を押され、今は友達と賑やかで楽しい日々を送っている。まあ、多少振り回されている感は否めないが。
ちょっと気弱なのは変わらず、まだ自分に自信を持ちきれていないようで。友達に嫌われないかとか、また独りになってしまわないかとか、不安を抱くこともあった。それでも彼なりに一生懸命乗り越えて、友達を大事に楽しい時間を紡いでいるから。
応援したくなる、大切な友人。
その姿がまたウタの前に現れた。
しかし、見覚えのあるテレビウムは、ビルの壁に落書きをしたり、路地に飛び出ていた看板を蹴り倒したり、窓を割ったり。意味のない破壊活動をしていたから。
「ソリじゃないのが丸わかりだ」
あまりにもあり得なさすぎて、本物と違いすぎるその行動に、ウタは苦笑する。
テレビ画面な顔に映っているのはワルい笑みで、自動扉を棒でガンガンに叩いて壊そうとしている動きに躊躇いも迷いもない。紛れもない悪者なのだけれども。
それが友人の姿を象っているというだけで。
(「無理して悪ぶっているように見えるな」)
印象が変わって見えてしまうから。
(「ちょいと痛々しい」)
偽物とはいえ見ていられないと、ウタはワイルドウィンドを弾く手に力を込めた。
激しくかき鳴らされた旋律は、紅蓮の炎を纏い、炎の波紋を生み出す。
一気に響いた演奏に、ザ・スナッチャーが振り向くも。
既にテレビウムな姿は炎に囲まれていた。
「真面目に悪さをしてて偉い? けど、やりすぎはよくないよな」
デビルキングワールドの価値基準に理解を示しつつ、でもこれはワルではなく悪だと、ウタは不敵ににやりと笑いかけると。
「お仕置きさせてもらうぜ」
奏でる旋律をさらに力強くし、クライマックスへと駆け上る。
ザ・スナッチャーが、テレビウムな姿から影の腕を生やし、反撃を試みるけれど。
炎が生み出す光で影が消されていくかのように、輝きの中に飲み込まれて。
さらに、音紋が炎の衝撃波として幾重にも重なり。
紅蓮の炎の中にザ・スナッチャーの姿が消えていく。
倒せた、という手応えはない。
きっと他のフェアリーランドへ逃げたのだろう。
それでも、ウタの獄炎は、思いは、ザ・スナッチャーを確実に焼いたと思うから。
「火傷してちょいと懲りてくれるといいけどな」
ふっと苦笑を浮かべて、辺りの炎を消すと。
周囲の光景を眺めながらワイルドウィンドを奏で続け、しばし思い出に浸った。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
大切な世界は人それぞれ
その中に入り込むワル、よくないね
まつりんはどんなの持ってきた?
わたしはこれ。おおかみテール
まつりんから貰った大切な一品
それじゃ、れっつごー
異世界は色んな世界が混じってる
人魚の勇者達に、あっちにはハル、ソリ達もいる
そして…まつりん。見るからにワルな学ランに下駄姿
よっしゃ!(ぐ)
ワルまつ一度見てみたかった
さ、どんなワルいことするの?
元はまつりんだから悪戯的ワル
最初はわくわく眺めていたけど段々もやもや
……まつりんはびびり…(こほん)優しいから、ワルい事なんてしないもん
大剣ぶん投げて退治する
戻ったらいつものまつりん
ふふ、やっぱりこっちのがいいね
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)とー♪
妖精さんの国だ。
悪魔の世界なのにね!
想いの詰まったアイテム……(むむむ)
……アンちゃんはどうする?
なーんだ、そういうのでいーんだ?
ならおいらは、このドッグタグでー♪(軽いノリ)
ひゅぽんっ☆彡
あ、スゴい。おいらたちが来た頃の木元村だ。
そろそろ田植えかなあ。
牛さんたちものんびりしてるし。
お隣のおばさんも優しそうだし。
小路の傍には白い……白い?(威嚇してくる小さな鶏)
わ、純真そうな(?)たまこ!
ということは。
……おまえ、偽物!(びしぃ)
たまこを騙る愚か者ー!
喰らえ、灰燼拳!
初見で飛びかからないたまこは、たまこじゃないし!
たまこじゃなきゃ恐くない……もん!(わーんと逃)
すたたっとそこへ走り込んできた木元・祭莉(まつりん♪@sanhurawaaaaaa・f16554)は、物珍し気に辺りを見回した。
「妖精さんの国だ。悪魔の世界なのにね!」
まずは、説明されたその不思議に首を傾げて。
それから、後に続く双子の妹へとくるりと振り向く。
「大切な世界は人それぞれ。その中に入り込むワル、よくないね」
木元・杏(ワンコイン以下とは思えぬコスパ・f16565)も、食い止めなきゃと意気込んで。ぐっと両手を握りしめて見せた。
うんうんと頷いた祭莉は、それじゃあと準備をしようとして。
「想いの詰まったアイテム……」
どうしようかと考えて、悩んで、また杏に振り返った。
「アンちゃんはどうする?」
「わたしはこれ。まつりんから貰った大切な一品」
差し出されたのは『おおかみテール』。祭莉の狼尾と同じように、先っぽが黒から銀色に色の変化を見せる赤茶の毛でできたミニしっぽ。
いつも双子の兄と一緒に居る気がして、いつも持ち歩いているもの。
「なーんだ、そういうのでいーんだ?」
それを見た祭莉は、難しく考えすぎていた自分に気付き。
「ならおいらは、このドックタグでー♪」
それにしても軽すぎるくらいのノリで、名前と誕生日が刻まれた狼型のプレート『わんこのしるし』を、杏から貰ったそれを、首元からちょっと持ち上げて見せた。
物が決まれば、準備は万端。
「それじゃ、れっつごー」
「ごー!」
仲良く揃った掛け声と共に、それぞれのアイテムからフェアリーランドが広がって。
杏の周囲に現れたのは、いろんな世界が混じった景色だった。
自然いっぱいのアックス&ウィザーズな光景には、川が流れていて。そこから顔を出した人魚が、川岸に腰掛けた勇者と笑顔でおしゃべりしている。
と思えば、その川の流れる先にあるのは、顔の描かれた花が並ぶアリスラビリンス。ゆらゆら揺れながら歌う花と共に、鈴の髪飾りをつけたアリスの歌声も聞こえた。
ポップな世界が一気にサイバーパンクな近代的街並みになると、そこには気弱そうなテレビウムがいて。銀の髪のネコキマイラと、ホワイトライオンのキマイラ、アマゾンの奥地が似合いそうなヒーローマスクに、体格のいい女装バーチャルキャラクターと、中々濃い面々に囲まれている。
杏が訪れた数多の世界。杏が出会った様々な人達。
それが一斉に、ごちゃ混ぜになって、カオスなフェアリーランドを作り上げて。
その中に、サムライエンパイアを思わせる穏やかな村があったと思うと。
そこに祭莉が、いた。
見るからにワルな改造学ランを着て、変な形のサングラスをかけて、狼耳が分かり難いくらいに無駄に赤茶の髪の毛を立たせて、歩きにくそうな下駄を履いて……
「よっしゃ!」
その姿に、杏は、ぐっと拳を握りしめる。
ずっと一緒の双子の兄、その見たことのない格好は。
紛れもなく、オブリビオン『ザ・スナッチャー』だったから。
「ワルまつ一度見てみたかった。
さ、どんなワルいことするの?」
杏は、金の瞳をきらきらさせて、期待一杯にザ・スナッチャーを見つめる。
そんなワルまつは、ザ・スナッチャーは、杏の期待通りに動き出し。
人魚と話す勇者に頭から水を被せたり。
楽しく歌う花に巨大扇風機で風を吹きつけたり。
集まっているテレビウム達の真ん中にねずみ花火を放り込んだり。
悪戯っぽいワルが繰り広げられていく。
それは子供の楽しい戯れのようだったけれど。
勇者も、歌う花も、テレビウム達も、困った顔をしていたから。
杏は段々ともやもやしてきて。
「まつりんはびびり……優しいから、ワルい事なんてしないもん」
途中にこほん、と咳払いを入れて言い直しながら。
ぷうっと頬を膨らませると。
スカートを捲ろうと近づいてきたザ・スナッチャーに、杏は、大剣をぶん投げた。
その頃。
別のアイテムを持つゆえに、別のフェアリーランドに入り込んだ本物の祭莉は。
「あ、スゴい。おいらたちが来た頃の木元村だ」
住んでいる村の、ちょっと昔の姿を眺めていた。
そろそろ田植えの時期だろうか。水が張られただけの水田が並び。
小さな緑が沢山並んでいる畑は、まだまだ茶色い面が多い。
牛ものんびり草を食み、時折、ゆったりした鳴き声を響かせ。
お隣に住むおばさんが、優しそうににこやかに笑っている。
そして、小路の傍には小さな白い影が……
「白い?」
むむ、と思って近づくと。
それは、キリリとした瞳でこちらを見上げ、威嚇してくる小さな雌鶏だった。
「わ、純真そうな(?)たまこ!」
今はもう少し大きく立派になった、木元村の守り鶏。
凶暴で、祭莉の天敵である、白い悪魔。
その少し幼い姿に。絶えず鳴き続け、今にも襲い掛かってきそうな凶悪な様子に。
「ということは……おまえ、偽物!」
びしぃっと祭莉は指を突き付け、指摘した。
「たまこを騙る愚か者ー! 喰らえ、灰燼拳!」
そして全身のバネを使って狼拳を打ち放ち。
ぽーんと見事に殴り飛ばされる、白くて小さなザ・スナッチャー。
「初見で飛びかからないたまこは、たまこじゃないし!
たまこじゃなきゃ恐くない……もん!」
普段たまこにどんな対応をされているのか心配になる根拠を言い放ち。
でも、やっぱりたまこと同じ姿に怯えがあったのか。
わーんと逃げだす祭莉。
木元村を駆け抜けて、必死に走っていけば。
どんっ。
「わっ、まつりん?」
驚き顔の杏にぶつかる。
互いにフェアリーランドを抜け出て、再会した双子の兄妹は。
「アンちゃーん。たまこがー」
わっと泣き出した祭莉を、よしよしと杏が宥めて。
「ふふ、やっぱりこっちのがいいね」
泣き声の中で嬉しそうに、杏は微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ビビ・クロンプトン
【単独希望】
持ち込みアイテム:特注ブラスター(亡き科学者である父親の製作品)
異世界:小さなサイボーグ研究室
スナッチャーの姿:父(ガリガリ体型の白衣の男)
※ビビは父に関する記憶を忘れています
この特注ブラスター…
私しか使う人がいないから、てっきり私の姿を真似るって思ってた、んだけど…
…あなた、誰…?
…それに、この部屋…記憶にないはずなのに、なんだか、すごく嫌な感じがする…
…早く終わらせるよ
たまたま目についた椅子を敵に向けて投げて怯ませて【シンクノダンガン】で一気に焼き尽くす…!
――っ!呼ばないで、私の名前を呼ばないで!
私は知らない、あなたなんか知らない
知らない、知らない、知らない――
思いの詰まったアイテムをと指定されたビビ・クロンプトン(感情希薄なサイボーグ・f06666)が持ち込んだのは、特注ブラスターだった。
スペースシップワールドの熱線銃をUDCアースの技術で改造した、小柄なビビに合わせて小さめに作られた、ずっと使っている武器。
いつからか、なんて思い出せない。
でも、サイボーグであるビビと常に共にあったから。
他に使う人なんていない。
ビビだけのためのアイテム。
他に誰の思いも、誰への思いもないはずのアイテムだから。オブリビオン『ザ・スナッチャー』が姿を真似るなら、自分の姿だと思っていた。フェアリーランドも、オブリビオンと戦ってきた世界のどれかになるのだろうと、思っていた。
それなのに。
「……あなた、誰……?」
目の前に立つのは、白衣を着た男の人。
ガリガリに痩せていて、白衣の長さは合っているけど、すごくぶかぶかに見える。
「それに、この部屋……」
周囲に見えるのは、機械の並んだ研究所のような部屋。
広くない、どころか、小さな部屋だと思うけれど、そこにはぎっしりと機械と部品と設計図のような紙束がある。
サイボーグとしてメンテナンスに訪れる部屋と似ている気もするけれど、そこよりも雑多で、もっと開発や実験的な印象が強くて。
(「なんだか、すごく嫌な感じがする……」)
知らない人。
知らない場所。
記憶にないはずなのに、心が騒めく、気がする。
「……早く終わらせるよ」
だからビビは動く。
目についた椅子を、ザ・スナッチャーへ向けて投げて。
怯んだであろう敵に、特注ブラスターを構え、その引き金を……
「ビビ」
「――っ!」
瞬間、白衣の男がビビの名を呼びかける。
とても優しく、穏やかに。父親が娘を慈しむように。
「ビビ」
愛おしそうに、男はビビを呼んだ。
しかし呼ばれたビビは。
「呼ばないで、私の名前を呼ばないで!」
頭を抱える様にしてヒステリックに男を拒絶する。
サイボーグであるビビに、人間らしい感情は希薄だった。それでも、猟兵として様々な経験を経て、少しずつ取り戻すかのように、感情を得てきた。
そのビビの心に、まだまだ少ない感情が、一斉に渦巻く。
恐怖。嫌悪。愛情。悲哀。歓喜。憎悪。他にも数多に。
手に入れた感情の全てが。
「ビビ」
白衣の男が名を呼ぶ声に、かき乱されて、引きずり出されていく。
何が何だか分からない。
ただ名を呼ばれているだけ。
ただそこに立っているだけ。
ただこの部屋にいるだけ。
それなのに。
思い出したくない記憶が、揺り動かされて……
「ビビ」
「私は知らない、あなたなんか知らない。
知らない、知らない、知らない――」
ぐちゃぐちゃの心を必死でかき集め、言い聞かせるように自分に繰り返して。
縋るように特注ブラスターを握りしめたビビは、自分をサイボーグへ改造した研究室に立つ父親の姿へ、シンクノダンガンを撃ち放った。
そしてザ・スナッチャーは、断末魔の叫びを上げて、消えていく。
「うあああああああああ!」
大成功
🔵🔵🔵