7thKING WAR⑳〜魔界氷河期
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遥か地平線の彼方まで雪と氷に閉ざされた平原に、西のラスボスが君臨していた。
蒼銀の髪。紫水晶の瞳。堅固なる氷晶の装甲が、高飛車な態度を鎧(よろ)っていた。
その胸には七代目デビルキング候補者の証である『ジャッジメント白羽の矢』が刺さっていた。
森羅万象の悉くを凍て付かせる氷河期魔法を駆使して、堅実に己の支配地を拡大してきたアイスエイジクイーンが、支配者に相応しい堂々たる態度で挑戦者を出迎えた。
「お~ほっほっほっ! まさか。わたくしの下にまで辿り着くことが出来るとは! 御見事ですわ! 貴方たちを、わたくし自らが軍を率いて闘うに相応しい相手であると認めて差し上げますわ! 光栄に思う事ですわね!」
西のラスボスが搭乗する自動鎧『絶晶』の内部に封じ込められた、魔界屈指の練度を誇る大兵団、『絶滅悪魔軍団』が氷原に隊伍を組んだ。
「さぁ! 何時なりとも挑んで来るが良いですわ! わたくしはアイスエイジクイーン! この魔界を統べる氷河の支配者! お~ほっほっほっ!」
遥か地平線の彼方まで雪と氷に閉ざされた平原に、西のラスボスの高笑いが何時までも響いていた。
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葛葉・御前(千年狐狸精・f36990)は歴戦の猟兵たちをグリモアベースに集合させた。
「遂に西のラスボスとやらが戦場に現れたの。魔界随一のニセ高飛車じゃと、かのジャッジメントガールは言っておったが。その実力は本物のようじゃな」
しかし、これを打ち破る事が出来れば、猟兵たちが『7thKING』の暫定候補者に成る事が出来る。
「そうすれば『7thKING WAR』の終結までオブリビオン・フォーミュラであるガチデビルが戴冠する事は無くなるじゃろう」
もっとも、アイスエイジクイーンの実力も決して侮れるものではなかった。
「敵は氷原に絶滅悪魔軍団なる手勢を率いて御主たちを待ち構えておる。先に言っておくぞ。これを相手とすれば御主たちに勝ち目はない」
葛葉御前の言葉に猟兵たちが響(どよめ)いた。
「敵は大勢。更には各々が誇張ならざる一騎当千の強者揃いじゃ。アイスエイジクイーンが頼みとするに相応しい精強さよ。そのようなものを相手に正面から挑むなど愚の骨頂じゃの」
ならば、どうすれば良いのかという当然の疑問に、しかし葛葉御前は不敵な笑みを口元に形作った。
「軍としての強さが猟兵を上回るとしても、それを率いるアイスエイジクイーンの個としての強さまでもが御主たちを凌駕するとは限らぬであろう。手立ては一つじゃ。絶滅悪魔軍団の猛攻を掻い潜り、一気呵成に統率者であるアイスエイジクイーンの喉元まで肉薄し、これを撃破する」
戦場は見通しの良い氷原。精強な軍団の包囲を突破して、なおかつ相当な実力者である西のラスボスを迅速に倒さなければならない。
「困難な道じゃ。しかし、勝機が零であるとは妾には思えぬ。御主たちならば遣って退けるであろう」
葛葉御前のグリモアが霊験あらたかな光輝を放つと、猟兵たちを戦場に送り届ける界渡りの扉が開いた。
能登葉月
能登葉月です。
よろしく御願い致します。
これは『7thKING WAR』に関係するシナリオになります。
特別ルールとして『絶滅悪魔軍団の猛攻をかわす』とプレイングボーナスが発生いたします。
山田・二十五郎(人間の探索者・f01591)様。
一名のフラグメントを採用させて頂きました。
この場を御借りして御礼を申し上げます。
皆様の御参加を御待ちしております。
第1章 ボス戦
『西のラスボス『アイスエイジクイーン』解』
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POW : 氷河期召喚術『ジュデッカ』
レベル×1体の【絶滅悪魔軍】を召喚する。[絶滅悪魔軍]は【氷】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD : 氷河期魔法『アイスエイジ』
戦場全体に【悪魔も凍てつく氷河期の寒波と吹雪】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【量産型「絶晶」の装着】による攻撃力と防御力の強化を与える。
WIZ : 合体氷河期魔法『ディノホロボシータ』
自身と仲間達の【放つ、氷属性の攻撃魔法】が合体する。[放つ、氷属性の攻撃魔法]の大きさは合体数×1倍となり、全員の合計レベルに応じた強化を得る。
イラスト:屮方
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
プリ・ミョート
お見事ですわ。じゃねえべ。いずれ我ら悪魔軍団、もとい、猟兵に屈服するものの負け惜しみとして聞いておいてやるべ。いざ尋常に……いてえ! 口上も言わせてもらえねえとはなかなかワル!
今回は荒事ドンパチ乱戦な予感だべ。そっと賄賂……おつまみを出して軍団の胃袋を掴み寝返らせるべ。まあそううまくいかねえかもしんねえが、腹一杯になれば動きも鈍るべさ? 腕によりをかけて敵の戦力を減らし、ついでに味方を支援する。これが一流の四天王でありバトラーってもんだべ。
ちなみに食事を中座するやつはぶん殴ります。女王と猟兵が戦ってる最中でしょうが! ってな、ゲヘヘヘ!
ユニ・バンディッド
連携・アドリブ歓迎
数で攻めてくるなら好都合だね、逃げるが勝ちでいっくよー!
吹雪軽減か無効化前提だから始まりが肝心!【エスケープ】狗盗の微風による回避率の底上げ、微風の守りで寒波と吹雪の威力軽減を試みるね。空中でも動ける様に宙に錬成したダガーを足場に蹴って投擲&移動。自慢の視力で敵の動きを盗みつつ、敵の攻撃や障害を避けて進むよ。
ジリ貧かもね?でも避ければ避けるほど、盗みと回復の力増すのが狗盗の微風。そして盗みのターゲットは「絶晶」。鎧の要、留め具、隙間、可動部の弱いところを吹き込んで盗って、一気にバラしちゃえ(例、機械鎧のネジを盗んで分解)
そうして騙し討ちする様に作った好機逃さず一撃を加えるよ!
アリス・フェアリィハート
アドリブ連携歓迎
遂に
クイーンさん
ご本人が…
【WIZ】
味方と連携
翼で飛翔
【空中機動】【空中戦】で
立回り
【第六感】【早業】を駆使し
UC発動
『炎熱の竜巻』を
自身を護る様に発生
中の自分自身も
防御・回避行動を意識
そのまま
竜巻を纏い
絶滅悪魔軍団さんの猛攻を
掻い潜り
(味方を巻き込まぬ様)
突破したら
クイーンさんに
肉薄
『アイスエイジクイーンさん…貴女に挑戦します…!』
竜巻の中から離脱
竜巻を盾にし
ぶつけつつ
クイーンオブハートキーで
炎熱の【属性攻撃】の
【全力魔法】や
【ハートのA(アリス)】も
展開
魔法【誘導弾】の【一斉発射】で
攻撃
※敵の攻撃は
【第六感】【見切り】【残像】
【氷結耐性】【結界術】【オーラ防御】で
防御・回避
アルテミシア・アガメムノン
絶滅悪魔軍団、正面からぶつかるのは下策ですわね。
わたくしは高天から攻めると致しましょう。
超上空からの急降下。これにより殆どの軍団を躱すことができるでしょう。
空を警戒している者もいるでしょうが……
急降下しながら『滅びの創造』により極限熱量魔法【天地開闢】を創造。
アイスエイジクイーンさんは氷結属性の極みとも言える方です。
ならばわたくしは炎熱属性の極みでこれを撃ち破りましょう!
低温と違い高温の上限は無限!(理論上)
これを魔法で実現して敵WIZUC合体氷河期魔法をも無限の熱量で呑み込みましょう。
上空を警戒してかつ対応可能な絶滅悪魔軍団はこの余波で吹き飛ばします。
御形・菘
はーっはっはっは! お主と妾がバトるのはどう考えても世界の必然!
そして普段なら、キャラ被りどうこうとか持ち込むところだが…
此度は、この世界に名を轟かせる偉大な先達に、挑戦者としてよろしく頼む!
右手を上げ、指を鳴らし、さあ降り注げ、感動の花々よ!
はっはっは、相対する者の数が多ければ多いほど、規模が大きくド派手になる!
凍てつく花の猛吹雪、お主らは初体験であろう? 存分に堪能し感動してくれ!
そして視界を攪乱しているうちに、一気に突っ込み接近する!
魔法攻撃は邪神オーラを身に纏いガード、身体がそれなりに動けば十分だ!
妾の積み上げてきたものを! 邪神の左腕の一撃を、その身に全力でブチ込んでくれよう!
夜刀神・鏡介
個々が猟兵以上の戦力を持った軍団と戦えか……まあ、倒すべきはアイスエイジクイーンのみだし、どうにかやりようがあるだろう
神刀を抜いて敵軍と相対。まずは回避と防御優先で立ち回り、敵がUCによる合体氷魔法を使用してきたならば、それに向かって突貫
着弾前に封の型【夕霧】を発動して、魔を封じる神気を戦場に満たして魔法を打ち消す
大技が完全に霧消すれば一瞬なりとも動揺は生まれるだろうから、その隙に踏み込んで大きく跳躍。敵軍の頭上を飛び越えてクイーンに接近
【夕霧】の発動中――最大で約2分は魔法の再発動もできないが、それがなくとも相手は強敵なのは違いない
攻撃できる間に、一気に全力の攻撃を叩き込みにいこう
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「お~ほっほっほっ! 来ましたわね猟兵(イェーガー)とやら! わたくしの絶滅悪魔軍団を相手にする事の愚を思い知るが良いですわ……って。あの方たちはいったい何をしておりますの?」
意気揚揚と配下の軍勢に開戦を告げようとしたアイスエイジクイーンが突如として困惑の表情を浮かべる。
西のラスボス自慢の精強なる悪魔軍団の構成員たちも、如何して良いか分からずに、主人たる氷河期の女王に、その意向を伺うような視線を向ける。
氷原に布陣したアイスエイジクイーンと絶滅悪魔軍団の前に転移した猟兵たちは――。
「まだまだ御代わりはいくらでもあるべな! しっかり食べるべよ!」
「うわぁ。この小籠包(ショーロンポー)、魚翅(フカヒレ)いりで、とっても豪華! 幾らでも食べられちゃうよ!」
「この桃のお饅頭も……餡に沢山の具が練り込んであります……甘くて美味しい……」
「魔界蟹の蒸し物も素晴らしい出来栄えですわね。この黒酢、隠し味の老酒が効いていますわ」
「はーはっはっ! 粒山椒の爽やかな香りと鮮烈な辛さ! 実に見事な麻婆豆腐であるな!」
「魔界にも刺身があるのか。醤油とは違うが、この醤(ジャン)の風味が魚介の甘味を引き立てている」
――何故か皆で満漢全席を囲みながら舌鼓を打っている。
「アイスエイジクイーン様! 奴らは隙だらけです。一気呵成に圧し潰しては如何でしょうか?」
「そうですわね! いえ! お待ちなさい! あれは、わたくしたちを油断させるための擬態! 何らかの策略であると見ましたわ! 下手に動くのは危険です! 何か罠が仕掛けてあるやも知れません!」
「おお! 流石はアイスエイジクイーン様! 見事なる御慧眼!」
眼前の布陣など意にも介さずに食事を続ける猟兵たちの姿に、何らかの策略が潜んでいると深読みした西のラスボスたちは、その警戒を更に強める。
一方の猟兵たちはと言うと――。
「はー。寒いから、温かい御茶が美味しい。それで僕なら、あのゴツい鎧を盗めると思うんだよね」
「あの鎧が無くなれば……私の鍵の攻撃が通り易くなると思います……」
「敵は強く! そして派手な方がカメラ映えするのだがな! 大勢との戦いもカメラ映えするので今回は良しとしよう!」
「確かに。問題はアイスエイジクイーンさんよりも、あの大軍勢ですわね。流石に全てを吹き飛ばすのは骨ですわ。余りにも規模の大きな魔法を使用すると、戦時魔界法に抵触しそうですし」
「おらの料理で何人か買収できないべか。ひひひ。買収とか賄賂って実にワルい響きだべな!」
「足に自信がある者がいるのか。ならば俺の神刀を解き放とう。もっとも懸念事項もある。連携をするのであればタイミングが重要になるな」
――食後の御茶を楽しみながら作戦会議をしている。
「アイスエイジクイーン様! 奴ら、こともあろうに作戦会議などしておりますぞ! 今のうちに圧し潰してしまいましょう!」
「そうですわね! いえ! お待ちなさい! あれを見るのです!」
「あれは……カメラを構えている一団が猟兵の後ろに。まさか魔界テレビ局でしょうか!?」
「ええ! きっとそうに違いありませんわ! デビルキング候補者たる、わたくしの姿を魔界の御茶の間に届けに来た者たちでしょう! これは卑怯な戦い方をする訳には参りませんわね! わたくしたちは正々堂々、西のラスボスに相応しく猟兵たちの策を正面から打ち破りますわよ!」
「おお! アイスエイジクイーン様に勝利を!」
猟兵の中に混じる動画配信者お抱えのスタッフを、テレビ局の取材と勘違いをしたアイスエイジクイーンたちは、カメラの向こうに存在する視聴者を意識して、隙だらけの猟兵たちの行動をあえて見逃すのだった。
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食事と食後の御茶と作戦会議を終えた猟兵たちが立ち上がる。
アイスエイジクイーンと絶滅悪魔軍団が猟兵たちの出方を伺うように武器を構える。
まずは若き黒髪の剣豪が神刀【無仭】の封印を解き放つ。
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)が、真の強敵、真の苦難に遭遇した時のみに抜き放たれる神器の煌めきを合図に、猟兵たちが前方に布陣する大勢へと向けて駆け出す。
「お~ほっほっ! 如何なる策があるかと思えば! 玉砕覚悟の特攻ですの? 笑止! 時間を無駄にしましたわね! せめて華々しく貴方たちの最期を飾って差し上げましょう。わたくしと、絶滅悪魔軍団が誇る必勝の絶技! 合体氷河期魔法ディノホロボシータを食らいなさいませ!」
西のラスボスと麾下(きか)の軍勢が同時に放つ攻撃魔法が融合し、絶対零度の凍気を地上に顕現させる。
それは、地上のあらゆる分子運動を停止させて永遠の終焉をもたらす不可避の滅びである筈だった。
逃れえぬ絶技を前にしても、しかし鏡介の足は止まらない。
「神気解放、魔を祓え。封の型【夕霧】」
氷原を疾駆する黒衣の剣豪が掲げた神刀が、霊験あらたかなる神気をもって魔王の絶技を打ち破る。
それは戦場を支配する新たなる理(ことわり)の制定。あらゆる魔力の行使を封じる、神意がもたらした束の間の平穏である。
「わたくしの魔力を封じるのではなく、戦場全体から魔力を消し去る! ですが、これでは、貴方たちの魔法も――!」
「そこをボクたちが攪乱するよ! 自慢の軍隊も、合体魔法のために全力を集中した後なら! すぐに接近戦には対応できないでしょ!」
魔力が凪(な)いだ氷原を滑るように、贋作の悪魔が軽やかに氷床を蹴る。
ユニ・バンディッド(贋作の悪魔・f31473)の疾駆が、瞬く間に軍勢との間に横たわる距離を零にしようとしている。
「総員! 武器を構えて応戦しなさい! 幾ら魔法を封じられても数は此方が上ですわ! 魔法が使えないのは敵も同じ! ならば物量で圧し潰すのみです!」
アイスエイジクイーンの号令一下、絶滅悪魔軍団が武器を構える。
状況に迅速に対応する軍勢の動きを予測の内と、鏡介の神刀が放つ封魔の神気が消失する。
戦場に再びの混沌と争いがもたらされる。
「生憎だが。流石に、これの維持は二分が限界だ。だが、それで十分。この距離では大勢であるほどに小回りが利かなくなる。魔法を使えば隣の仲間を巻き添えとするぞ」
たとえ魔法が行使できるようになっても、密集した陣形の中に潜り込んだ脚力を自慢とする猟兵を狙うのは困難を極める。
この状況下での下手な攻撃魔法の行使は、悲惨な同士討ちを誘発するだろう。
原始的な武器と暴力に頼らざるを得ない。
「――悪魔だらけの戦場に。微風が吹き抜ける。狗盗の風車。北も南も。東も西も。巡り盗って嗤う。逃げるが勝ちさ!」
それですらも、風を纏い、踊るように兵と兵の間を擦り抜けて、刃の群れを掻い潜るユニを捕らえるには至らない。
振り下ろされる剣を頭上に跳躍して回避する。
突き出される槍を宙に錬成した短剣を足場にして回避する。
避ければ避けるほどに贋作の悪魔は疾(はや)くなり、単騎で軍勢を翻弄する。
「何をしていますの! その娘は囮ですわ! 急いで護りを固めなさい!」
アイスエイジクイーンの命令が戦場を切り裂いて響き渡る。
ユニを捉えるために夢中となっていた絶滅悪魔軍団は、そこで、初めて自分たちの前で編まれていた猟兵たちの大規模攻撃魔法の存在に気が付いた。
それは神格を有する幼きオラトリオの少女、アリス・フェアリィハート(不思議の国の天司姫アリス・f01939)。そして真の蛇神にして偉大なる邪神を自称する御形・菘(オブリビオンではない・f12350)の合体魔法である。
「はーはっはっ! 今更気付いたところで、もう遅い! 受けよ! 余たちの絶技! ところで発動しなかったが先の御主たちの合体魔法は見事であった! 完成していれば、さぞカメラ映えしたであろうにな!」
菘の右手が天を支える巨樹のように高々と振り上げられ、弾かれた指が氷原の大気を震わせて音を鳴らす。
空中に描かれた魔法陣が、遠く世界を隔てたシステム・フラワーズに自称邪神の意思を伝えると、水晶の薄片を思わせる花弁が嵐のように乱舞する。
「綺麗なお花……本当に良いの……?」
氷原を覆う水晶の花吹雪の美しさに見惚れたように、アリスは隣に立つ菘の様子を伺う。
「構わぬぞ! 派手にやるが良い! 御主こそが、妾のコラボレーションの相手に相応しい! カメラの向こうの視聴者たち! 妾とアリスの絶技に刮目せよ! 敵は精強なる悪魔の大勢! それを統べるは、何となく妾とのキャラ被りが心配になる氷河期の女王! 今日も『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』は最高の映像(え)を生放送で届けるぞ!」
菘の生放送番組の人気を陰で支える撮影スタッフのカメラが、アリスの可憐な姿を映し出す。
オラトリオの少女は少しだけ恥ずかしがりながらも、不思議の国の精霊たちに語り掛ける。
その華奢な背中に一対の翼が羽搏くと、呼び掛けに応えた炎と風の精霊たちが水晶の花吹雪に悪戯な指先を伸ばす。
「炎と風……そして花……精霊の力、その片鱗を世界に……! これで、アイスエイジクイーンさんに挑みます……!」
渦巻く風が花弁の螺旋を描き、業火が灼熱の抱擁をもって絶技を完成させる。
それは燃える花弁と熱風により敵軍を蹂躙する災厄の顕現である。
絶滅悪魔軍団が盾を構えて華焔の竜巻に抗するも、それは自然の猛威を前にした木端(こっぱ)にも等しい。
「う、おぉぉぉぉ……!? アイスエイジ、クイーン、様ぁっ……!!」
さしもの精強なる軍勢も陣形の中央から引き裂かれて、その後背で指揮をする西のラスボスの護りを瓦解させる。
「わたくしの軍団が……! こうなれば、わたくし自らの手で……!」
アイスエイジクイーンは、引き裂かれた陣形の真中を駆け抜ける猟兵たちを迎え撃つべく、自らが誇る自動鎧『絶晶』を起動しようとする。
しかし――。
「これは、どうしたことですの!? 何故、わたくしの絶晶が起動しませんの!?」
明らかな狼狽の声が西のラスボスの唇から放たれた。
「アイスエイジクイーンの絶晶! 確かにボクが頂戴したよ!」
ユニの言葉が、アイスエイジクイーンの疑問を氷解させる。
何時の間にか贋作の悪魔の掌中には、絶晶を構成する重要部品の数々が握られている。
真物を贋作と掏り返る盗賊の妙技が、西のラスボスが誇る自動鎧の価値を土塊(つちくれ)に変える。
「許しませんわよ! 無様に凍り付きなさい!」
赫怒(かくど)と共に氷河期魔法を放とうとするアイスエイジクイーンの懐に飛び込んだのは、神刀を構えた鏡介である。
「ようやく踏み込んだぞ! 俺の剣の間合いに!」
鍛えられ、練り上げられた剣術の一閃が軍勢と自動鎧という二重の護りを喪失した氷河期の女王の身体を裂く。
「はーはっはっ! そして! 妾たちも到着である! 吹き飛べ!」
「クイーンオブハートキー……ハートのA(アリス)……炎の精霊さんたち……! 私に力を貸して……!」
華焔の竜巻の内部に隠れて敵陣を突破した菘とアリスの同時攻撃が炸裂する。
邪神の偉業化した左腕が、カメラの前で、新しい伝説を生み出す一撃を見舞う。
可憐な少女の掲げる黄金の鍵が炎を纏い、数多の宝石を周囲に煌めかせながらアイスエイジクイーンを打ち据える。
「……まだ、ですわ……! わたくしは、このような、ところで……!」
女王の矜持にかけても倒れる訳にはいかないと、西のラスボスは、気力だけで地を踏み締める。
それに無慈悲なる終幕を告げるのは黄金の女帝である。
アイスエイジクイーンの紫水晶の双眸が、天空に輝く灼熱を見る。
「あれは……まさか、太陽……ですの……?」
――上空。氷原を一望出来る高度にアルテミシア・アガメムノン(黄金の女帝・f31382)は浮遊している。
豪奢な黄金の巻髪が上空の風に靡く。六対十二枚の堕天使の翼が暁の色に輝いている。
世界の根源を支配して己が欲望を顕現させる無限の魔力が、地上の醜い争いを浄化する無限熱量を極小規模の太陽という形で凝縮されている。
「アイスエイジクイーンさん。貴女の氷河期魔法は氷結属性の極致とも呼べるものです。魔界随一でしょう。だからこそ。わたくしは敬意を表して炎熱の極致をもって挑みますわ」
アイスエイジクイーンの魔法が分子運動を零に停止させるならば、アルテミシアの魔法は分子運動を無限に加速させる。
滅びの創造(アンラ・マンユ)。拝火教における悪神の名を冠した黄金の女帝の絶技である。
「創世の火よ! 女王の氷河期に終焉をもたらしなさい! 極限熱量魔法、天地開闢!」
「永遠の氷河よ! 女帝の太陽を消し去りなさい! 合体氷河期魔法ディノホロボシータ!」
天より落ちる無限熱量と、天に挑む絶対零度が両者の間で激突する。
「ぐ、う……! アイスエイジクイーン様に勝利を……! 我らの最後の魔力を……!」
絶滅悪魔軍団が最後の魔力を氷河期の女王に捧げようとする。
たとえ華焔の竜巻に蹂躙され、半壊させられようとも、精強なる兵士たちは未だに猟兵を上回る大勢である。
その魔力を結集させればアイスエイジクイーンに敗北はない。
絶対零度が無限熱量を凍結させ、黄金の女帝は地に倒れ伏すだろう。
「そうだ! 我らある限り! アイスエイジクイーン様は無敵……!」
上空では一進一退の攻防を続ける炎熱と凍気の激突。その拮抗した天秤を女王の側に傾かせんと魔力を捧げようとした刹那の事である。
「食べるべか?」
プリ・ミョート(怪物着取り・f31555)から差し出されたものは、如何にも食欲をそそる香気を放つ満漢全席である。
(な、に……! この状況で何故、満漢全席を……! しかも美味そうな……! これは先ほど、猟兵たちが美味そうに食っていた――。)
想像の埒外から突き付けられた事態に女王の勝利を願う精神が千々に乱れる。
「……っ!? 魔力が乱れて……!? どうなさいましたの……!」
アイスエイジクイーンの狼狽の声が、絶滅悪魔軍団の思考を現実に引き戻す。
「しまった……! 開戦前の食事は、この時のため! 我らの集中を乱すためか! そのための仕込み……なんという策略……!」
「その通りだべ! あんたたちは、おらの策に嵌ったんだべ! ……と言いたいところだけど。そんなわけないべ。偶然だべな。おらは、ただ皆に戦いの前に腹一杯になって欲しかっただけだべな」
「馬鹿な。すると、あれは本当にただの食事であったと……!?」
「やっぱり戦の前には元気を出すのが一番だべな。腕によりをかけて味方を支援して、ついでに敵も妨害する。これが一流の四天王でありバトラーってもんだべ。さて。あんたたちはオラの飯を食べるんだべ! ゲヘヘ。食べない奴はぶっとばすべな!」
身も蓋もないプリの言葉と共に配される美食を前に、さしもの絶滅悪魔軍団も抗議の声を上げる。
「無理矢理に食卓に就かせておいて、中座したら殴るだとっ!? おのれ! なんというワルなのだ、貴様は――っ!?」
軍団の支援を喪失すれば、さしもの合体氷河期魔法も、その絶大なる威力を発揮する事は適わない。
灼熱と凍気の激突は、前者に軍配が上がる。
アルテミシアの天地開闢が、アイスエイジクイーンのディノホロボシータを凌駕する。
「……お見事! お見事ですわ! これほどの魔法に敗れるならば本望というものです! 最後に、わたくしに勝利した勇者の名前を、御聞かせ頂けますこと?」
自らの敗北を認めて、なお不敵に微笑む女王の誇り高き姿に、アルテミシアは敬意を払う。
「アルテミシア・アガメムノン。魔王国を統べる女帝。アイスエイジクイーンさん。貴女と闘えた事を光栄に思いますわ」
黄金の女帝を名前を胸に刻みながら、アイスエイジクイーンの身体が無限熱量に飲まれていく。
太陽の光輝が大地を照らし、業火の熱が、分厚い雪と氷に覆われた平原を解放する。
その後には、気を失ってなおも美しく、女王としての矜持に満ちたアイスエイジクイーンの姿がある。
「そんな、アイスエイジクイーン様……」
絶滅悪魔軍団が呆然と武器を取り落として、敗北の事実にすすり泣く。
猟兵たちの歓喜に満ちた勝利の雄叫びが、天と地に響き渡る。
かくして猟兵たちは激闘の末に、西のラスボスに勝利をおさめたのである。
大成功
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