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7thKING WAR㉔〜武勇、咲きて

#デビルキングワールド #7thKING_WAR #召喚魔王『ゼルデギロス』

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#デビルキングワールド
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#7thKING_WAR
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#召喚魔王『ゼルデギロス』


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●7thKING WAR
 これまで空位だった、デビルキングワールドを統治する悪魔の王の座。
 それが悪魔輸出を目論む『魔王ガチデビル』の手に渡らないよう、日々あんな戦いこんな戦いがデビルキングワールドにて繰り広げられている。
 それはこの戦いが始まって以来ずっと見えていた謎の超巨体の女性――都市ひとつはあるだろう超巨大槍を携えた『異世界の魔王』も対象となっていた。
「名前はゼルデギロス。でもあの大きな女性の名前じゃなくて、本体……仮面? の名前らしいんだ。多重人格とは、多分違うよねコレ?」
 不思議そうに呟いたリオネル・エコーズ(燦歌・f04185)だが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。そういうワケだからと猟兵達を見るリオネルの手元で、いつの間にか現れていたグリモアがくるくる回り始める。
「これからみんなをあの人の所に転移させるね。で、相手は山よりも大きい人だけど、相当の手練って感じが半端ない。あの人の巨体を利用して攻めるのは無理だと思う」
 隙をついて巨体を利用しようにもその隙が無く、仕掛けようとするより速く先手を取られてしまうだろう。
 そして巨体の上へと攻め上がる猟兵へ、『天槍』と呼ばれる槍やユーベルコードを巧みに使い、的確かつ全力で攻撃してくる筈だ。時には自身をも傷つける事になるが、猟兵達を『素晴らしき武士(もののふ)』と語った性質の持ち主は一切躊躇わないだろう。
「だからメチャクチャ大変だと思う。でも、みんななら戦えるって知ってるからさ」
 よろしくねと添えたリオネルの笑みはいつもと変わらない。
 “これまで”を知っているからこそ、信じて、“これから”を託すのだ。
「……にしてもさ。凄い清々しくて敵なのが不思議な感じだよね。……それと」

 お母さんって感じ、しない?

 そう呟いたリオネルの周囲が揺らぐ。
 世界の境界を超え、グリモアベースからデビルキングワールドへ――そして猟兵達と、かの魔王との視線が交わった。

●武勇、咲きて
「来ましたね」
 女が槍を手に向き直る。
 それだけで周りの空気が押され、流されていくようだった。
 唇が動き――、
『やめろ若津姫! おのれ、このような筈では……!!』
「私は操られていますが……お気になさらず!」
 突如響いた何者かの声。今のがゼルデギロスだろう。
 しかし若津姫と呼ばれ、言葉を遮られた女は気分を害した様子はなかった。屈託のない声を響かせた女は、仮面の下にあるだろう瞳で猟兵達を真っ直ぐ捉え、語る。
 この体は乗っ取られている。
 力も、封じられた。
 既に、死んだ身である。
「しかし捨て身の戦いによって、みなさんに教えられる事もあるはず!」
 響いた声はどこまでも凛として。
 構えられた天槍は、山も天も貫くよう。
 そして告げたのは自身の弱点と、それを突かれれば確実に至る終焉だ。
「顔の仮面を破壊すれば私は死にます。さあ、六番目の猟兵達よ」

 ――いざ、尋常に勝負!


東間
 これは胸が熱い。
 東間(あずま)です。

●このシナリオについて
 導入場面はありません。
 受付期間はタグ、個人ページトップ、ツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせ。送信前に確認をお願い致します。
 オーバーロードは受付前でも送信して頂いて大丈夫です。
 完結優先の為、全採用のお約束は出来ません。ご了承下さい。

●プレイングボーナス
 先制攻撃に対応し、相手の巨体を利用「しない」戦い方で反撃する。

 ユーベルコードによる先制攻撃を放ってきます。
 ですが、上記プレイングボーナスによる戦い方で挑まなければなりません。
 自分より小さな者との戦闘に長けた相手へ、どのような戦法を取るか。どのような気概で挑むのか。こちらをプレイングに込めて頂ければと思います。

 ※ゼルデギロスの弱点=仮面を破壊すれば、ゼルデギロスの超巨体は消滅します。

●グループ参加:二人まで
 プレイング冒頭に【グループ名】、そして【送信日の統一】をお願いします。
 送信タイミングは別々で大丈夫です(【】は不要)
 日付を跨ぎそうな場合は翌8:31以降だと失効日が延びますので、出来ればそのタイミングでお願い致します。

 グループ内でオーバーロード使用が揃っていない場合、届いたプレイング数によっては採用が難しくなる可能性があります。ご注意下さい。

 以上です。皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『魔王ゼルデギロス・此華咲夜態』

POW   :    ジェットランページ
【天槍から噴出する強烈なオーラ】によりレベル×100km/hで飛翔し、【身長】×【武器の大きさ】に比例した激突ダメージを与える。
SPD   :    天槍乱舞
【貫通衝撃波「フォーススティンガー」】【螺旋回転突撃「ドリルインパクト」】【神速連続突き「ミラージュランス」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ   :    ジャッジメントランス
【天高く天槍を投げ上げるの】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【オーラで構築した天槍の分身】で囲まれた内部に【裁きの雷】を落とし、極大ダメージを与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

クロト・ラトキエ
母、というのは記憶にありませんが。
そうですね。ああいう方なら、悪くない。
ぼうや達は、幸運ですね。

槍の構え、向き、体捌き…
視力を以て死力を尽くし見切り、突きは点から円に留意し避け、
巻き起こる豪風は、利用し空中に躍り出る糧に。
接近叶うまでは周囲に、近接したら服へと鋼糸を掛け、操り、移動手段に。
登るなら、触覚の鋭い肌より服の上。皺や弛みも視認阻害に利用し、
背に回り、槍よりの攻撃可能性を下げ。
手など来るなら、一旦高度を下げ回避を。
頭まで届けば…仮面、攻撃してくれません?無理?

何と清々しい方か。
その終焉を、終わらせられたらと思う程。
けれど…その力は無い僕は、貴女の思いに応えるのみ。

仮面へと、薔薇の剣戟を



(「母、というのは記憶にありませんが」)
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、大気をビリビリ震わせ、容赦なく鼓膜を揺らした宣言に笑みを浮かべた。
(「……そうですね。ああいう方なら、悪くない」)
 『ぼうや』達は、幸運だ。
 超がつく巨体の主が脚に力を入れれば、そこにあった大地が砕けた。
 相手のスケールを冷静に感じ取る最中、背丈同様に超がつく槍の穂先が僅かに動いたのが見えた。紅走る黒髪と衣が不思議と柔らかに揺れ――全身が粟立つ。
(「来る」)
 己の持つ全てが鳴らす警鐘を静かに受け止め、両目に映し視力で捉えるのは、巨体を乗っ取ったものの名しか知らぬ女の体捌き、繰り出される技。その、全て。
 力強く突き出された一撃が周り全てを巻き込み、貫いた瞬間生まれた豪風に体を派手に掬い上げられた。天と地もぐるんと逆転させようとする勢いは凄まじく――それを利用した瞬間、荒れ狂う視界は一瞬でクリアになる。
 空中へと躍り出たクロトの目。天槍を手にした女の、仮面で覆われた目。双方の眼差しが交差した刹那を再びの豪風が幾度も引き裂き、それが止まったと思う間もなく目で捉えるのも困難な突きがクロトを屠りにかかる。
 絶えず繰り出される技の間に、どおんと轟いた破壊の音。突撃の為に蹴られた大地の悲鳴に、クロトが四方へ巡らせた鋼糸の切れる様が儚く混じる。
 だが途切れない攻撃へ添うように鋼糸も絶えず空中を駆けていた。衝撃波や天槍でぶつんと断たれる前に足場となってクロトを天へと羽撃かせ、女の周囲へと巡り背後にまで至る。
 その瞬間。天槍が女の肉体ぎりぎりを薙ぎ払った。
 クロトの姿は――背後にはない。手応えのなさに女が笑う。
「ああ、実に良い身のこなしです。――そこ!」
 心からの称賛の直後に天槍が紅の衣を貫き、紅の布片が幾つも舞った。その向こうからひゅんと高度を下げ現れた黒い色、頭までいい感じだったんですけどとクロトは笑み、服に仕掛けた鋼糸を利用し振り子の如く宙を翔けながら、先程の言葉を思い出す。 
(「何と清々しい方か」)
 この終焉を終わらせられたら。らしくない事を思う程にこの状況は彼女とそぐわな過ぎる。だが――これ以外の終焉へと結ぶ力は自分には無い。だからこそ。
「貴女の思いに応えましょう」
 背後からどおんと響いた衝撃波に乗り一気に距離を詰める。

 黒の仮面に軌跡を伝える光が映り、薔薇の幻花が溢れていく。
 止めろと響く仮面の声に誰も答えない。
 迫る猟兵の姿に、女の唇だけが笑みを描いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
姫、あなたの気高き覚悟には敬意を
ゆえに全力でお相手仕ります

鎖使いの私に雷撃とは御しやすいというもの
早業の範囲攻撃で我が108本の鎖を周囲へ展開
一種の結界とし、避雷針として使うことで雷撃を逸らしましょう
無論、それだけでは十分にダメージを回避しきれないでしょうが
同時に衝撃波を撃ち放ち敵の攻撃の威力と相殺
併せてオーラ防御によって身を護ります

落雷の衝撃は暴風を生み出すでしょう
衣服を変化させ風を捉え空中戦で舞い上がります
無数の残像による誘惑の陽動と共にね
ええ、そして「私自身さえ」陽動です
本命は我がしもべたる鮮血の胡蝶たち

悪夢をもたらす鱗粉が仮面とやらを撃ち砕くでしょう
されど姫、あなたの志は死にません



 紅糸で縫われた黒塗りの仮面から耳障りな悲鳴が響いた。
 だが、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)と見つめ合う女の唇は柔く笑んでいる。
『ぐううっ……若津姫ッ、貴様何と愚かな!』
「おかしな事を言うのですね、ゼルデギロス。乗り移る相手に私を選んだ時点で、こうなる事は決まっていたのですよ」
 死した身であり、更には体を乗っ取られている。というのに、天槍を手にした女から溢れるものは、相変わらずの気持ち良い清々しさだけだ。初めて会った女が見せた勇ましさ、気持ちの良さに、魅夜もまたそっと微笑み胸元に手を当てる。
「姫、あなたの気高き覚悟には敬意を。ゆえに全力でお相手仕ります」
 女の唇が小さく開かれ、ほう、と一言だけがこぼれ落ちる。
 仮面が邪魔をしているが、魅夜の眼差しと纏う空気から実力を感じ取ったのだろう。そしてそれを、喜んでいる。唇に再び弧を描いた女は仮面で見えない瞳に敬意を浮かべ、魅夜を見ているようだった。
「あなた方は、私のぼうや達に並ぶ素晴らしき武士ですね」
 威厳と愛情両方を宿した声を紡いだ唇が結ばれる。そして。
「参ります」
 女の纏う空気が研ぎ澄まされたものとなった瞬間、天槍が空へと放たれた。
 流星が地上から空へと翔るような速さと輝きが天へ触れ、光り輝く天槍の輪が咲く。だが淡く清い輝きは一瞬で烈しいものに変わり、裁き齎す雷撃の檻が現れる。
 内に閉じ込めた魅夜に雷撃が降り視界を灼き、轟く雷音は聴力を奪うよう。しかし凄まじい雷撃を放った女は訝しげな様子を浮かべ――雷撃が外側へと爆ぜて無数の鎖が大地に落ちた瞬間、空へと舞い上がった漆黒に気付き顔を跳ね上げる。
「やはり十分な回避は望めませんでしたね」
 落雷の衝撃が生んだ暴風に、先程とは変化した服を纏った魅夜が笑む。
『貴様、なぜ――!』
「ゼルデギロス、あなたは彼女が如何にして致命傷を防いだか、わからないのですね!」
 疑問に返った声には喜びが滲んでいた。
 雷撃が叩き込まれた瞬間魅夜が展開した108本の鎖は避雷針となり、更に重ねて放たれた衝撃波が威力を相殺したのだ。防護を纏う事で更に――と教えてくれる声はどこにも無い。
 舞い上がった魅夜の姿が瞬きの間に増え、静かに微笑む。その全てを天槍の穂先が捉えた瞬間だった。一斉に溢れた真紅の胡蝶が暴風の如く仮面へと殺到する。
『ぐおおっ!? おのれ、六番目の猟兵め!!』
「悪夢をもたらす鱗粉に撃ち砕かれる心地は如何です?」
 それは邪悪な魂を苦しめるだろう。
 だが、
「されど姫、あなたの志は死にません」

大成功 🔵​🔵​🔵​

不知火・鉄馬
【龍花】
先制攻撃には澪のオーラ防御に自身の【オーラ防御】を重ね掛け
指先で印を組む事で【電撃耐性】を上乗せ
更に間に合うならば掌から取り出した★迅雷で雷を操る【電撃】
敵の雷を逸らせる、或いは自分に引き寄せ澪を庇う

シエン!

突撃は龍形態に変化させた★紫龍〜焔〜に掴まり
【空中戦、空中機動】で回避行動
せめて致命傷だけは避ける

シエンはブレスで
俺は迅雷を振るう事で雷の【斬撃波】を飛ばしながら
電撃による【麻痺攻撃】
一瞬でもいい、隙が出来た瞬間【龍の雷】発動

この技に敵の大きさは関係無い
鋭い雷で若津姫の体を包み継続ダメージを与える【範囲攻撃】
そこにシエンの雷のブレスも合わせる事で仮面本体ごと攻撃してやるぜ


栗花落・澪
【龍花】
【激痛耐性】を上乗せした【オーラ防御】
更に僕自身も【高速詠唱】で雷魔法の【属性攻撃】を行い
雷の軌道を誘導
僕自身はそれくらいしかできないから
先制の雷対処は主に雷使いの鉄馬君に任せる

激突ダメージは翼の【空中戦】での回避とオーラ防御で
せめて致命傷だけ避けたい

その後は★マイクを取り出し【指定UC】を発動
【聞き耳】でいち早く動きを察知しながら回避を維持しながら
僕と鉄馬君の負った傷の回復に努めつつ
適度に【歌唱】に【誘惑、催眠術】を乗せる事で
若津姫…魔王様と言った方がいいのかな
の心を惑わせ足止め狙い

僕の仕事は、隙を作る事
そこから先は鉄馬君の仕事
サイズ差が活かせないなら、それなりの戦い方をするまでだよ



 天槍が天高く投げられたなら、天槍の分身に囲まれ、容赦なく叩きつけられる雷撃に呑まれるだろう。その烈しい音は耳を塞いだとしても輝きと共に脳の奥にまでこびりつき、心身を引き裂く裁きの雷撃となる。
 ――しかしそれは狙い通りとは行かなかった。
 凄まじい痛みに耐えられるようにした守りを纏う栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の元から翔けた雷が、女の放った雷撃を誘い、軌道を奪う。
(「よし、上手く起動を誘導できてる……! 僕自身はそれくらいしかできないけど……」)
 天槍に囲まれた瞬間、自ら纏ったものとは違う防護が重ねられた。電撃に耐えうる力を孕んだそれをやった上で、長剣から放った電気で軌道を大きく逸らせた不知火・鉄馬(戒めの正義・f12794)の目が、ちらりと澪を映す。
(「無事だな」)
「?」
 すぐに外された視線が気にならないわけではない。だが今対峙している相手は、どうしたのと隣へ問う暇をくれは――、
「一瞬の間に……お二人とも、実に見事です」
 褒められた。
 仮面である本体とは大違いの性質に澪はぱちりと目を瞬かせるが、ありがとうございますと礼をしっかり伝えながらその背にある純白の翼を広げた。
 女の手に戻った天槍。腰を低く落とした態勢。
 次の一手が、すぐに放たれる。
 澪だけでなく鉄馬もそれを察していた。
 女の巨体が浮く。超がつくスケールだからこそ不思議とゆっくりに見えたその様は、天槍から噴出し揺らめく輝きと共に、容赦なく暴力的な勢いと一体化して突っ込んできた。
「シエン!」
 呼び声へ応えるように金龍彩る濃紫の巨大槍が光を放った。響く咆哮と共に槍は金眼紫龍となり、掴まった鉄馬を暴風の塊そのものじみた突撃から寸前で守り切り――突撃の勢いで抉られた地面が大小様々な欠片となって降り注ぐ。
(「致命傷を避けてこれかよ……!」)
 その欠片も直撃を受けぬよう対処は出来るが、いかんせん数が多かった。
「鉄馬君!」
「平気だ、俺のことより自分のことに集中しろ!」
 今しがた恐ろしい圧で過ぎた超巨体の飛翔は止まっていない。
 女は武芸の技量を示すかのように、空へと羽撃いた澪へと鮮やかに軌道を変える。結われた長い黒髪がほんの一瞬ふわりと浮かび――豪速と呼べる勢いがそのまま伝わった途端、ぴんと真っ直ぐになった。
 山が、迫るようだった。
 圧倒的な大きさ。圧倒的な速さ。
 だが澪は決して女から目を逸らさず、力いっぱい翼を動かし宙を舞う。たっぷりの守りも忘れずに纏い――思い切り吹き飛ばされるような衝撃に瞑りかけた目を、しっかりと開いた。
 その手元で花弁が舞った。
 可憐に舞った花弁は見る間に翼の意匠を持つマイクとなり、ぎゅっと握りしめた澪へ応えるようにかすかな光を弾く。
(「敵も、味方も関係ない――」)
 この歌声を、届けたい。
 共に戦ってくれている鉄馬。致命傷は受けていなくとも、その身には傷が刻まれている。
 勇猛に槍を揮う、名前も知らない大きな女の人。立場は敵である筈なのに、不思議とそれだけで捉えきれない存在。――そして。
「この歌声は……」
『馬鹿め! 敵の傷を癒やすとは、実に――』
「うるせぇよ」
 一瞬手を止め、しかし勝負と宣言したからこそ攻撃を再開した女の体を奪い――鉄馬の揮う斬撃から放たれた衝撃波と、シエンのブレス、二つの攻撃を同時に受けたゼルデギロスにも。
 幸せを願い、祈りを込めた澪の歌声の温かさに女が微笑んだ。
「あなたは優しい子ですね。わたしのぼうや達の中にも、素晴らしい歌を聞かせてくれた子がいました」
(「若津姫……それとも、魔王様と言った方がいいのかな?」)
 呼び方に悩みながら、澪はふいに届いた音を頼りに身を翻した。
 ついさっきまで飛んでいた所を天槍の穂先が貫き、速度と圧の余波が澪の髪をば撫でてばさばさと躍らせる。
 歌いながら回避の維持に務めていなければ、どうなっていた事か。巨人族のような体躯の女に見合った槍の一撃だ。体に穴が開く、というレベルでは済まなかったろう。
 浮かびかけた想像を澪は振り払い、歌い続ける。
 自身の歌は、想いは、届いている。これを止めるわけにはいかなかった。
(「僕の仕事は、隙を作る事。そこから先は――」)

「――そこだ」

(「鉄馬君の仕事!」)
 澪の作り出した一瞬の隙。
 光を通すような僅かな隙間を鉄馬が捉える。
 視界を真っ白に照らして灼き尽くす光と共に、全身をつんざくような音が轟いた。轟音はバチバチと爆ぜる衝撃となり女の体を駆け抜けながら龍に変わり、巻いたとぐろの内に超巨体を閉じ込める。
「これは……!」
 仮面までに至った雷撃は先程の一発で終わらず、奥底まで刺すような痛みへシエンの雷ブレスが加わり、黒い仮面に罅を刻んでいく。
『おのれ! 小賢しい、ちっぽけな種族風情が……!』
「未だに理解していないのですね、ゼルデギロス」
 女の口が呆れを紡ぐ。
 それに同意した鉄馬は不敵な、澪は勇気宿す眼差しを寄り添わす。
「サイズ差が活かせないなら、それなりの戦い方をするまでだよ」
「それすらわかってねぇからお前は負けるんだ。俺らと――そこのお姫さんにな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
おかーさん、ってぇにはスパルタじゃなくて?
ま、嫌いじゃナイけど

向こうから来てくれるンなら話は早いわ
登るのも大変だし?
とは言えまんまでも威圧スゴいのに激突なんてされたらシャレになんない
先ずは誘うよう駆けると見せ掛け残像置いての騙し討ちで目標をブレさせ
可能な限り力を分散させれる進路見切り第六感と空中戦駆使して回避するわ
同時に喚びだしたくーちゃん達を周囲に展開し中継地点にしオーラ防御展開
避けきれない分を弾き、それでも負った傷は激痛耐性併せ見ぬふりネ

至近に迫ったら眼前へ躍り出て
「グルマンの狂愛」へ【天齎】の晴天纏わせ構え反撃
ヨウコソ、
優雅にお行儀よく、ありったけの呪詛を籠めその仮面を喰らいましょ



 パラパラと、欠片になった黒色が落ちていく。
 それが大地に触れる寸前で霧散し、消えた。
「フーン? 消える仮面だなんて不思議ね」
『仮面さえ放出できていれば、貴様らなど……!!』
「要らないわよそンなもん」
「ええ。この様な物は必要ありません」
 間髪入れず続いた同意に、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はアラと笑って超巨体を見上げる。肌の色は冬を思わす青白さだが、不思議と冷たさを感じないのは女が纏う空気のせいか。
 清々しいだけでなく、“いざ尋常に勝負”と宣言した時から変わらぬ戦意をも纏っているのだけれど。
「おかーさん、ってぇにはスパルタじゃなくて?」
「おや。私のような母はお嫌いですか?」
「ンー? ま、嫌いじゃナイけど」
 お茶会を楽しむような口ぶりで言葉を交わしながら、それぞれの得物を手に相手の姿を捉える。どこからでも見えるほど大きい相手だからこそ、こちらから距離を詰めるのは一苦労。しかし。

 ドオンッ!

 大地と空気を盛大に震わせる飛翔――ああして向こうから来てくれるンなら話は早いわ、なんて思考は迫りくる超巨体を前に一瞬で済ます。だって登るのも大変だ。ダイエットもしていない。ならどうする? このまま受け止める?
(「冗談。ミンチにすらならないわ」)
 両目に迫る巨体を捉えたまま大地を蹴る。向こうからすれば僅かな距離でも、駆けた分だけ誤差は生じる筈。そこを利用して――。
『逃すな、殺せ若津姫!』
 ゼルデギロスが声を上げる。女は応えない。ただ己の超巨体を存分に生かした飛翔、そこから生まれる圧倒的パワーによる激突でコノハの全身を捉え――ぐんっと天槍を回転させ穂先を大地に突き刺した。
 すぐには止まれず、凄まじい轟音と共に大地の欠片をド派手に吹っ飛ばしていく。
 ガンゴン轟く音には無理矢理の停止が生んだ余波がこれでもかと現れていた。それをあらまーと楽しげに笑うのは、捉えた筈の姿。にんまりと笑む薄氷に、仮面の下にあるだろう瞳が向けられる。
「残像ですね」
「そゆコト」
「ではそれよりも速く飛ぶとしましょう」
 強制おかわりの気配に引きつりかけた笑みは、再び響いた轟音で不敵な彩へと切り替わる。
 一つ消されればまた一つ。シャレにならぬ激突回避ついでに黄金カトラリーでちょっと摘み食いをしながら、無数の管狐・くーちゃんもこの場へご招待。
 それでも、避けきれず傷を刻まれもしたけれど。
『長くは耐えられまい!』
「期待してるトコ悪いんだケド。こちとら痛いのは慣れてンの」
 笑って巨体を迎えるように躍り出る。空模様浮かべたカトラリーに流した血が添う。新鮮な紅色に呪詛も加えれば準備はバッチリ。
「ヨウコソ」
『待ッ……!』
 最初の一口を優雅に掬い上げ――頂きます。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
蒼黒

何をするにも初手を防ぎきらなくては
リュカ、傍に
寒いのは我慢しておくれ

ネージュ、おいで
持てる魔力全てで、最果ての冷気を編み上げよう
手繰るは極低温の氷の津波
それを己たちを囲むように幾重にも幾重にも重ね
氷は殆ど電気を通さない
裁きの雷が惜し通ると言うのなら
オレの魔力が続く限り幾重にだって重ねて防いでみせるよ

雷を防ぎきったら
リュカ、行って
津波をそのまま足場にすればいい
壊されても貴方の足場はオレが作るから

魔力消耗が激しくて追ってはいけぬとしても
そっと笑み浮かべるのは
信じて欲しいと願うから
他人を信じぬ友に信を置いてもらえるよう
言葉は違えない
死ぬ気はないよ、大丈夫

あの仮面を撃ち落しておいで
彼女を解放しよう


リュカ・エンキアンサス
蒼黒

ん。俺の手持ちだとかなり近付かないとこれは厳しいかな…
お兄さん、飛べ…
え、なんだって?
熱い寒いは平気だけど…(これ、大丈夫なのって顔
……わかった
いざというときのことを考えながらも、ひとまずはお兄さんに任せる

お兄さんが作ってくれた足場をもとに接近。時にはそれに隠れるようにして近付く
一応第六感とか見切りとか最悪自分で回避だけはできる手はずを整えてはいるけれど、今は近づくのが優先、守りは任せる
…やめて、信じるとか嫌い。危険を感じたらそっちも逃げて

至近距離まで来たら仮面を狙って砂漠の龍で呪殺弾を撃ち込んで、あとは倒れるまで灯り木を撃ちこもう
…その仮面、邪魔だから
消えて貰うよ
うるさいのは苦手なんだ



『ギャアアアアッ!!』
 耳障りな悲鳴が木霊する。
 しかし、女の手は壊されつつある仮面に触れはしなかった。
 細い腕だが、その両手は身の丈はあろうかという天槍をしっかりと握り、すらりとした伸びやかな足は大地を踏みしめている。唇は笑みを浮かべており――欠けた黒の下から、白焔を宿したかのような赤い片目が覗いていた。
「さ、続けましょう。まだ決着はついていませんよ」
「ああ。そうだね」
「うん、もう少し続く感じがする」
 ディフ・クライン(雪月夜・f05200)とリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)の返答に、唇以外で唯一見えている目がニコリと弧を描いた。その目が再び開かれて――空気がぴりぴりとした鋭さを帯びる。
 その瞬間天槍が空へと放たれ、見えぬ何かを貫き起動させたかのようにして数多の槍が現れた。光を帯びたそれは放たれた筈の天槍と瓜二つ。あれが齎すものは、既に目にしているから構える事は出来る――のだが。
「何をするにも初手を防ぎきらなくては」
「ん。俺の手持ちだとかなり近付かないとこれは厳しいかな……。お兄さん、飛べ……」
「リュカ、傍に。寒いのは我慢しておくれ」
「え、なんだって?」
「ネージュ、おいで」
 我慢って何が? そう聞く暇すらなかった。暇が来る代わりに儚き冬彩の姫が現れ、その手をディフの手が取る。
(「ああ。我慢ってそういう」)
 リュカの納得にバヂッと嫌な音が被る。カウントする間もなく雷の輝きは視界を灼き始め――その数秒に冬が重なった瞬間、双方が同時に爆ぜた。
 轟く雷撃の輝きと音はすぐそこで見舞われている筈だが、ディフがネージュと共に紡ぐ冬は光も音も飲み込む極低音の氷津波。氷同士が生む繊細な音色は透き通ったそこに殆ど電気を通さず、瀑布の如く叩きつけられる雷撃から二人を――ネージュも加えた三人を遠ざける。
 透き通っていた氷が何重にもなって見せる色彩を、リュカはじい、と見上げていた。
「熱い寒いは平気だけど……」
 これ、大丈夫なの。
 そう語る顔に、大丈夫、とディフは笑む。
「押し通ると言うのなら、オレの魔力が続く限り幾重にだって重ねて防いでみせるよ」
 持てる魔力全てを注ぎ、最果てに冷気を編み続ける。
 穏やかさの中にある気概は、ぐんと増した寒さでかき消されるようなものではない。
「……わかった」
 いざという時は――。
 もしかしたらの場合を考えながら見上げる。絶対零度守りの向こうで轟いているのだろう雷撃の輝きが、うすらと浮かび上がっては瞬いて――ふつりと消えた。それは時間にしてどれぐらいだったか。1分? 59秒以下? わからない。ただ、考えるその一瞬が次の一撃を生む前に。
「リュカ、行って」
 ディフの声と同時、まだはっきりと残る氷津波の上にリュカが立つ。
 冷たく堅いそこを思い切り蹴って駆ければ、ディフの魔力を存分に注がれて作られた氷からは氷が罅割れる音ではなく、氷とそれ以外が触れ合い擦れた時特有の音だけがした。
 わざわざ視線を向けずとも、好ましいものを見るように笑む女の姿はよく見えていた。そして、再び天へ放たれようとしている超巨大な槍も。
「あのようにして防がれたのは、初めてかもしれませんね」
『感心などするな! あれを止めろ、殺すのだ!!』
「あなたの指図は受けません。何も出来ぬまま、彼らの武勇を見ていると良いでしょう」
(「またあれが来る。けど」)
 鋭く隆起した氷波の後ろへと滑り込み、立ち止まらずに駆け続ける。氷津波の上に自分の影が妙にハッキリと浮かんで見えるが、それでも立ち止まらない。再び見えた天槍の分身、それが創るリングが雷を帯び――、
「させないよ」
 濃密な魔力を宿した新たな氷津波が、リュカの姿を隠すように流れ込んだ。
 雷撃が止んですぐに飛び出したリュカを導くように、新たに編まれた氷津波が山の如き巨体へと凄まじい勢いで伸びていく。
『おのれ……だが貴様の魔力量は無尽蔵ではあるまい!?』
「そうだね」
 ゼルデギロスの言葉にディフは静かに頷いた。
 永遠に湧き出すのであれば、今のように激しい魔力消耗を覚えながら遠ざかる背を見守るのでなく、あの背を追いかけ、隣を駆けながら戦えただろう。
 だがディフはそれを嘆くのではなく、そっと微笑む。
 再び放たれた天槍が風を裂き、リュカを中心に天槍の分身がリングを描く。
 雷撃が放たれるより速く氷津波が溢れる。次々に落ちる雷撃を更なる氷津波が受け止める。
 バリンと響いて砕けたその下から飛び出したリュカは駆け続け――一瞬。ディフの方を向き、微笑みが語るものを捉えてすぐ前を向いた。
「……やめて、信じるとか嫌い。危険を感じたらそっちも逃げて」
「死ぬ気はないよ、大丈夫」
 他人を信じない友に信を置いてもらえるように。願いを宿した笑みから紡いだ言葉は違えぬと、示すように魔力を限界まで注ぎ込んでいく。
「あの仮面を撃ち落しておいで。彼女を解放しよう」
『させるものか!!』
「うるさいな」
 氷津波を蹴るのは止めた。靴裏は離さず、そのまま急勾配のジャンプ台じみたそこを一気に滑る。遮ろうとする大きな手を躱し、仮面の至近距離へと飛び込む。ずっと近くなった片目は信じられないくらい大きかった。じ、と己を映した目が、笑う。言葉はない。
「……その仮面、邪魔だから。消えて貰うよ」
『止めろ! 若津姫、早く――』
「黙って。うるさいのは苦手なんだ」

 銃声が一発。
 悲鳴が響く。
 だが、流星群の如く打ち込まれた銃弾が悲鳴を無慈悲にかき消して――ひとつの終焉に至る道筋を、願いと共に刻みつける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクアス・サラザール
エンティ(f00526)と

あの大きさが突撃してくるとかやばいですね?
躱せそうなら躱しますし、盾になりそうなものがあれば何でも使います
お隣の彼も、彼の出した拷問具も、ね
後は部分的にソーダ水になっておいて、攻撃の衝撃を少しでも緩和
これで、凌げればいいんですけど

無傷でいようなどと思っていません
むしろ、傷は多い方がいい
ブレイブソード
光の斬撃の威力を増すには、傷を厭ってはいられません
ええ、この一閃の為に、動けなくなることを覚悟で俺を庇った彼の分も…
…傷を増やせとは言ってないんですけどね
ま、それも含めて威力に換えて見せますよ

お相手願おう、異世界の魔王ゼルデギロス
勇者の間に対峙できなかった事が、残念ですね


エンティ・シェア
勇者さん(f31387)と
僕の真の姿を模した熊耳姿に化けておきます

先制攻撃の際は、なるべく僕が彼の盾になります
まぁ自分への攻撃対処だけで手一杯でしょうが…
気を失わなければ、それでいいので
拷問具をありったけ出して盾にしながら、凌ぎましょう

彼の無事を確認してから告白を発動
どこに居たってよく見える姫をしっかりと見据えて
物は試し、鋒で己の片目を潰す
仮面に通ろうと通らずとも、見えなくなるのは困るので片目だけ
後は…適当に、僕の無事な部分を刻みましょうか
別に、貴方にも得があるだけで、僕が攻撃したいだけです
頼りにはしてますが

元とは言え勇者なんですから
他人の身を使うような姑息な魔王に、後れを取らないでくださいよ



 バラバラと黒き仮面の破片が降る。それでも未だ、女の顔全てが露わとなるに至っていない。
 壊されゆく仮面の破片は見えているのだろう。この場で口を開いていたのは、呪詛を振りまくように恨み言を吐き続けるゼルデギロスだけだった。
 体を乗っ取られているという女の手が、手放しかけた天槍をぐっと掴み直す。
 ゆらりと立ち上がる超巨体は二人の猟兵へと向き――天槍の穂先が、ルクアス・サラザール(忠臣ソーダ・f31387)とエンティ・シェア(欠片・f00526)の二人をぴたりと捕捉した。
「あの大きさが突撃してくるとかやばいですね?」
 飛翔からの突撃は既に目にしていたが、他に向くのと自分に向くのとでは、桁違いスケールの感度が違う。
「なるべく僕が盾になりますから、頑張って下さい」
 さらりと言ったエンティの頭で、ふわふわとした熊耳がぴるっと揺れた。
 女の足元からオーラが迸る。浮き上がった巨体が眼前へ迫るまで――すぐだ。
(「まぁ自分への攻撃対処だけで手一杯でしょうが……」)
 気を失わなければ、それでいい。
 終わるまで意識を持って両足で立ち、盾として在り続ければ足りる。
「来ますよ」
「ええ」
 全身。大気。大地。周りにある全てを呑み込む震動と轟音が生まれた直後、女が天槍と共に突っ込んでくる。衝撃の余波で巻き上がった大地の欠片は、超巨体が前では小石にも満たないだろう。それは、エンティが一気に現した拷問道具にも言える事かもしれない。
(「ですが僅かでも盾になるならば」)
 大いに、使う意味はある。
 ありったけと表現するに相応しい量の拷問道具は、天槍と共に迫る女にぶつかっては砕け、弾き飛ばされる。その勢いと飛距離は凄まじく――だが、駆け出したルクアスの足は止まらず、飄々とした笑みもそのままだ。
「大盤振る舞いですね。俺がお仕えするのは尊き星である唯一人ですが……応えましょう」
「おや。ではこちら、躱せますか?」
「やれそうならやるだけですよ。盾になりそうなものがあれば、何でも使いますしね」
 丁度いい所に飛んできたアイアンメイデンを足場に高く跳ぶ。ふっ飛ばされた乙女が彼方の星となる中、女の足が大地に触れ、ガゴゴゴと凄まじい音を響かせ抉っていった。
 乱暴だが確実に早く止まれる手段。それの直後、三種の技を組み合わせた攻撃が雨の如く降り注ぐ。そのうちの一撃が、ルクアスの身を貫いた。だが、弾け飛んだのは肉片ではなくソーダ水だ。
「ッ……! 意外と痛いです、ね……!」
 だが無傷でいようとは思っていない。
 無傷で済むだろうとも、考えてはいかなかった。
 ――寧ろ。
『貴様、何を笑っている!』
「いえ。傷は多い方がいいなと。俺も、彼も」
 ぼたり。
 エンティの身から大地へと落ちた赤の量は、決して少なくない。
 しかしその身は傾かず、無言のまま一度だけルクアスを見ると、次の一撃の体勢を取った女をしっかりと見据え――手にしていた鋒を己の片目へと向かわせた。
「!」
『なっ――』
「……傷を増やせとは言ってないんですけどね」
「片目だけです、大して支障はありません。それに物は試しでしょう」
 傷。
 多い方がいいって言ったのは誰です?
 冷静な声の後、エンティは己の無事な部分を更に刻んでいった。ぼたぼたと落ちる血の量が増えていく。
「別に、貴方にも得があるだけで、僕が攻撃したいだけです。頼りにはしてますが」
「そうですか。ま、それも含めて威力に換えて見せますよ」
『――! まさか、』
「判断が遅いですよ、ゼルデギロス!!」
 女の声が響く。
 しかしそこにあるのは焦りでも、目前に迫る終焉への恐れでもなかった。
 躊躇いなく手段を選ぶ心。確かな力量。相対する者への敬意と、戦う機会に出逢えた喜びであった。
 姿は女だが、その声質は武士――母のようだと言われた女の様にエンティは無事な片目だけを静かに向け、はあ、と息を吐く。同じく無事である耳に届く、駆ける足音――ルクアスの方へ目を向けなくても、どう動いているかは何となくわかった。
「元とは言え勇者なんですから。他人の身を使うような姑息な魔王に、後れを取らないでくださいよ」
「言われるまでもない。この世界の名前を忘れたんですか?」
「? デビルキングワールドでしょう。それが何か――」
「この世界に、あんな王はいらないんですよ! なぜなら!!」
 心に輝く一等星。
 ルクアスは満面の笑みを浮かべて大地を蹴り――その双眸に、自身を見上げる巨体。その身を奪った存在を捉える。勇者の武器が、それに相応しい光を孕み、輝いた。燦然と世界を照らすそれは太陽のようで――。
「……ああ。美しいですね」
『止めろ、止めるのだ!』
「お相手願おう、異世界の魔王ゼルデギロス。勇者の間に対峙できなかった事が、残念ですね」
「……私もです。さようなら、素晴らしき武士よ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年05月16日


挿絵イラスト