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7thKING WAR㉔〜仮面の慈母

#デビルキングワールド #7thKING_WAR #召喚魔王『ゼルデギロス』

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#召喚魔王『ゼルデギロス』


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 支配されゆく我が身を感じながらも、女は朗らかに笑う。
『あの方達は容易く私を殺すでしょう』
『あの方達は、私のぼうや達に勝るとも劣らない、素晴らしき武士でしょうから』
 女の言葉に嘘はない。
 女は討たれることを良しとする。
 愛児の成長を見届ける慈母が如く、女は猟兵たちの刃を待ち受けるのだ。

●仮面の慈母
 はるかに聳える女を指差す連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)の眼差しは険しい。
 山よりも巨大で、都市ひとつはあろうかという超巨大槍を携えた女は、ガチデビルが特級契約書で呼び寄せた「異世界の魔王」だという。
「名は、ゼルデギロスって言うらしいよ。『7thKING WAR』の戦場のどこからでも見えるんだから、そうとうな大きさだよね」
 そこで、ふぅ、と。
 希夜がらしくない溜め息を吐く。
 これから敵対する相手が、自ら弱点を高々と告げてくるせいだ。

『顔の仮面を破壊すれば私は死にます。六番目の猟兵達よ、いざ尋常に勝負!』
『私は操られていますが……お気になさらず!』
『私は既に死した身……しかし捨て身の戦いによって、みなさんに教えられる事もあるはず!』

「……操られてるのは明々白々。でも彼女は、討たれることを望んでいる」
 ゼルデギロスではなく『彼女』という呼び方に変えた希夜の胸中には、複雑に渦巻いているのだろう。
 とはいえ、デビルキングワールドを救うためには、躊躇いに足を止めてはならない。何より、彼女自身がそれを許さない。目を背けようものなら、彼女は母のそれを思わす叱咤を飛ばしそうだ。
「望まれてるのだから、やるしかないよね」
 意を決したのか、いつもの笑顔に戻った希夜は、勝利のための手段を明らかにする。

「彼女の得物は、山よりも巨大な『天槍』だ。制限された中でも、彼女は全力での戦いを皆に挑んで来る」
 自分より小さい者との戦闘に長けた彼女は、肌の上に攻め上る猟兵を巧みに、そして的確に攻撃してくるだろう。
 つまり先制は彼女側、猟兵たちは、彼女のユーベルコード攻撃に必ず備えなければならない。
「その上で、彼女の巨体を利用しない戦い方で反撃する必要があるよ。今回は『小さいこと』がアドバンテージにはならないからね」
 目標は、彼女の顔にはりつく仮面の破壊。弱点であるそこに到達するには、山より高い身体を駆け登る必要がある。

「とんだ体力勝負にもなりそうだね。けど、仮面を破壊すれば、彼女はきっと喜んでくれる。支配されたまんまなんて、絶対にご免だろうからね」
 だから、頼むよ。
 大丈夫、皆ならどうにかなるって。
 然して希夜は猟兵たちを、「異世界の魔王」の元へ送り出す――。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 出さずにはおれませんでした……くうっ。

●プレイング受付期間
 タグならびにマスター個別ページにてご案内致します。
 ※オーバーロードの方に限っては、いつ送って頂いても構いません。

●シナリオ傾向
 全力戦闘。心情ウェルカム。

●プレイングボーナス
 先制攻撃に対応し、相手の巨体を利用「しない」戦い方で反撃する。

●採用人数
 スケジュールの都合上、👑達成最低限を予定。
 全員採用はお約束しておりません(オーバーロード頂いても、お返しする時はお返しします)。
 採用は先着順ではありません。

●同行人数について
 ソロ、あるいはペアまでを推奨。

●他
 文字数・採用スタンス等は個別ページを参照下さい。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 ボス戦 『魔王ゼルデギロス・此華咲夜態』

POW   :    ジェットランページ
【天槍から噴出する強烈なオーラ】によりレベル×100km/hで飛翔し、【身長】×【武器の大きさ】に比例した激突ダメージを与える。
SPD   :    天槍乱舞
【貫通衝撃波「フォーススティンガー」】【螺旋回転突撃「ドリルインパクト」】【神速連続突き「ミラージュランス」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ   :    ジャッジメントランス
【天高く天槍を投げ上げるの】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【オーラで構築した天槍の分身】で囲まれた内部に【裁きの雷】を落とし、極大ダメージを与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

クーナ・セラフィン
なんだろ、あの姫様物凄い戦闘寄りの思考していそうな雰囲気が…
強大なのは間違いないけど私達も多くの戦いを乗り越えて来たんだ。
その煩い仮面やガチデビルの奴隷になんて誰もさせないために、貴女と戦い勝利を勝ち取ろう。

予め風のルーンを記述した符を大量に準備。
連続攻撃にはオーラを纏いつつ向こうの天槍に突撃槍カウンターで合わせて私自身の体を空に弾かせるようにして回避。
空中での姿勢制御は翔剣士の身軽さと念動力利用、槍だけで躱し切れぬ場合は符に魔力籠めて私の体を天槍や衝撃波の直角方向に吹き飛ばすよう突風を起こし回避。
凌ぎきったら一気に顔の方まで駆け上がりつつUC起動、仮面をできる限り攻撃。

※アドリブ絡み等お任せ



「さあ武士よ、おいでなさい!」
 天上から降る大音声の圧に今にも攫われそうな羽帽子のブリムをくっと掴み、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は風を切って走る。
 見上げる巨体は、ケットシーであるクーナでなくても途方もない大きさだ。扱う天槍も、クーナの銀槍とは比べるべくもない。
 しかしクーナの裡に焦燥はなかった。
(あの姫様物凄い戦闘寄りの思考していそうな雰囲気が……)
 ふ、と。クーナの口元が軽やかな笑みの曲線を描く。
 強大過ぎる相手なのは認識している。が、猟兵たちとて既に歴戦の猛者だ。後れを取るつもりはない。
 それに――。
「その煩い仮面やガチデビルの奴隷になんて誰もさせないために、貴女と戦い勝利を勝ち取ろう」
「その意気や良し、です」
 直後、ヴンッと大気が鳴いた。
(――っ、ここ!)
 視認ではなく、肌感覚でクーナは敢えて両足を地から浮かす。そして天槍の切っ先が巻き起こすうねりに身を任せた。
 クーナの身体が、直撃を躱すように宙へと逃げる。クーナ自身の軽さゆえではない、風のルーンを記述した符が功を奏したのだ。
 ふわり、ふわり。シャボンの泡の如く、二突、三突と続く連撃を、クーナは物理法則を味方に掻い潜る。仕掛けられたフェイントには、己の軌道を念動力で操ることで抗った。
 一切の衝撃がないわけではない。荒ぶる気流にクーナ自慢の毛並は翻弄され、細かな裂傷がそこかしこに走っている。けれど、致命傷にまでは至らない。
「今度は私から征くよ」
 騎士猫は、旋風のように。
 捉えた天槍の乱舞の終わりに、クーナは再び地に足をつけると、急な斜面――地も斜面も、魔王ゼルデギロスの肌の上だ――を一息に駆け上がった。
「さあ――クーナの槍さばき、とくと味わうといい」
「実に見事です!」
 女の心からの称賛を全身に浴びながら、クーナは超高速の連撃を放つ。
 残影に白雪と白百合を咲かす銀閃は、狙いを過たず、黒に赤が這う仮面を幾度も幾度も貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
あの女性、まるで聖母さね
全てを包み込む様な包容力すら感じる
貴女の覚悟に俺も殉じるとしよう

分身天槍の包囲内に入れば仕掛けて来るのは解る
彼女が槍を投げ上げるのに合わせて俺もサーベルに雷属性纏わせて高く放り投げ
要は避雷針代わり…雷が電気に吸い寄せられると良いけど
剣をデコイに俺は背の翼にて一気に飛び上がる
靴や手袋もラバー製、多少受けても耐え抜いて見せるさ

高く、高く
あの姫様を見下ろせるくらい高く飛び上がり
…そう言えば途中、腹の傷が気になった
女性にとって大事な場所さよね…貴女が亡くなる前からそうなのか?

UC発動
上さえ取れば俺の力は増す
そのクソ仮面から貴女を解放してやる!
魔剣を召喚、仮面目掛け切りかかろう



 ――まるで聖母だ。
 山よりも聳える身体ではなく、大地を抱き締めてなお余りありそうな腕でもなく、『彼女』が持つ気配そのものに、早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は心の柔らかい部分を震わせる。
(包容力っていうのかね?)
 おおよそ『敵』に覚えるには不似合いな感情であり感傷だ。
 でも、だからこそ。決する意はある。
「貴方の覚悟に俺も殉じるとしよう」
 遥か高みで女の首がゆるりと廻った刹那、翼はエンジェルズ・デライト――細身のサーベルを柄ごと腰から外す。
 彼女の手の内は分っている。そして翼の読み通り、彼女は手にした天槍を投げ上げた。それを合図に、翼の周囲に天槍の分身が出現する。
 さながら巨大な檻だ。けれど翼の頭の中には、囚われの身とならぬ図式が完成していた。
「――悪い、あとでちゃんと手入れするから」
 囁くように呟いて、翼は渾身の力でサーベルを放る。
 直後、世界を灼く白と轟音が地上を襲う。裁きの雷だ。直撃を受ければ、翼は炭素の塊と化したであろう。
 しかし翼は健在であった。
「成る程、逸らしましたね?」
「それだけじゃない、靴も手袋もラバー製さ」
 女の感嘆に、翼は口角を上げる。
 雷は雷だ。寄る辺を与えれば、降り落ちる先を幾らかずらすことも不可能ではない。デコイにしたサーベルは買い直す以上の手入れが必要になるかもしれないが、彼女に応えるためなら惜しくはなかった。
 さらに放たれた熱量を背の翼に受けた翼の目線の高さは、一瞬にして女のそれを超えていた。
 急激な上昇と、雷の余波に、頭はまわり、四肢にも違和感がある。でも折れぬ心が翼を衝き動かす。
 空を翔け上がる最中、翼は女の腹に傷を見た気がした。女性にとって、そこは子を育むために大事な場所である。
「……貴女が亡くなる前からそうなのか?」
「ぼうやのように優しい子ですね」
 女の口元が優しい曲線を描くのを目にした翼の裡に、明確な怒りが湧く。
 何故、どうして。彼女のような女性が、こんな利用のされ方をせねばならないのか――。
「そのクソ仮面から貴女を解放してやる!」

 後天的に得た血染めめく赤い翼が飾り出ない証左と、喚んだ魔剣で、翼は渾身の一撃を繰り出した。
 割り砕くまでは至れずとも、仮面の眉間に走った罅は、翼の願い通り、彼女を解放へと導く一手となったであろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
まあた随分スパルタね
ま、考え方は嫌いじゃないケド

生憎地道に登山しましょってぇガラじゃあねぇの
デショ?と【翔影】でくーちゃん達招き背に乗り飛ぶわ
攻撃がまた厄介そうでアゲてくれるじゃナイ
槍を掲げたのを見計らい先ずはオーラの槍に囲まれないよう……といいたいトコだけど
そう簡単には逃してくれないでしょうね
雷落ちる前に魔力や気の集積を読み見切って
第六感も併せ直撃を避けるよう飛ぶわ
その上で乗ってないくーちゃんを周囲に飛ばせ盾になってもらいましょ
アタシがオチちゃ意味ないもの

雷に紛れ顔付近へ接近
「氷泪」から紫電奔らせ仮面を喰らいましょうか
アンタの雷に比べりゃ可愛いモノだけど
大丈夫、跡形もなく食べてあげる



「ああんもうっ! チートな上に先出しとかズル過ぎでショっ」
 気付いた時には幻影の天槍に取り囲まれていた。
 下拵えの術も許さぬ強者の猛攻は、裁きの雷となってコノハ・ライゼ(空々・f03130)の頭上に降る。
「っ、くーちゃん」
 半ば反射で発した聲に、一体の黒狐が跳ねた。其れは変幻自在にして、影より生まれしもの。そしてコノハを守る盾にもなりえるもの。
「――、ッ」
 黒の四散でも相殺しきれなかった衝撃が、コノハを打つ。
 全身を襲う激痛にコノハはギリと奥歯を鳴らす。言い換えれば、それだけの余力が残った。
 威力を幾らか削げたのと、刹那の間にも魔力と気の流れを読んだおかげだ。
「よく耐えました。しかし痛いでしょう?」
「痛みなンて、どうってことないのヨ」
 強かに打ち据えたくせに、案じる女をコノハは見上げる。軽率にスパルタが過ぎるが、彼女の考え方そのものをコノハは否定しない。むしろ好ましささえ覚える。
「熱烈な歓迎のお礼はキチンとしなきゃネ?」
 ――ミチを、
 重い躰と痺れと熱にまみれた手足を叱咤して、コノハは新たに百を超える数の黒影の管狐を喚ぶ。
 雷の余韻が渦巻く空に、いっせいに黒が広がる。否、ただ広がったのではない。管狐たちの四肢には羽根があった。そしてその羽搏きでコノハを空へと運ぶ。
 轟き残す稲妻に、数体の管狐が消失した。なれどコノハは昇る速度を緩めない。
 間合いを詰められるのは、大技を繰り出し終えた女が次手を構えるまでの僅かの隙のみ。
(アタシがオチちゃ、意味ないもの)
 脇目も振らぬ、垂直飛翔。重力に引かれたがる血も意地で意思に従わせ、コノハは女の顔に唇を寄せる。
「アンタのそれ、頂戴な?」
 囁きは女へ、力を行使するのは女の仮面へ。
「その力は――」
「大丈夫」
 コノハの食指が禍つ力に伸びたのを察した女の制止は、いまさらだ。これまでだって、数多を喰らった。この仮面とて、コノハにとっては美味しい命。
「上手に食べてあげる」
 熱く疼く右目のシルシにコノハは牙を剥かせる。
 うすいうすいアオから生じた氷牙は雷を帯び、巨大な仮面をぼろりと欠けさせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アドナ・セファルワイド
相手の巨体を利用しない……小さな人間サイズの相手との戦いはお手の物、か
ならばドラゴン化のUCでお相手しよう

まず先制攻撃はホワイトレクイエム・D.Dとブラックアンセム・D.Dで時空と因果を歪め『攻撃した、されたという未来と過去を破却』する事で回避
そのまままっすぐと肌の上を走り、天槍から噴出する強烈なオーラに向かい合う
UC発動
巨大な時間凍結氷結晶の肉体持つドラゴンとなり、彼女に叫ぶ

あえて言おう!
余こそが世界の全て!
だが、意味は排他に非ず!自愛に非ず!
只、生に真摯でありたいと願うから世界と自己を同一化できる!
……それは『私』の関わる人々達の広げた輪が無辺になる事を祈るだけの事!
つまりは――『誰かの瞳に映る悲劇の終焉』を赦さぬ心よ!

問う事は一つ!
貴様の子と『私』達『六番目の猟兵』の道は交わるか?
確信しているのだがな、交わるなら『我ら』は正真正銘無敵だ!
だから……全力で行くぞ、此華咲夜!

氷の剣を竜の手に作り、握りしめて天槍と矛を交えていく

さぁ、刮目しろ
これが『六番目の猟兵』の一人よ!



 まるで大地に飲み込まれるようだ。
 天槍を手にした巨大な女が、空へと飛び立つ威容に、アドナ・セファルワイド(セファルワイド初代にして最後の皇帝・f33942)は静かに息を整える。
 アドナの心に恐れも緊張もない。何故ならアドナも、皇帝の座に就く者だから。
 小柄な体躯を縮こまらせず、凛と背筋を伸ばし。鳴動する大気に、薄青に透ける髪を泰然と遊ばせる。
「皇帝の名の元に宣言する。世界よ、我が意のままと成れ!」
 高速で飛翔しているにも関わらず、その事実が判然とし難い――それほど魔王ゼルデギロスが巨大なのだ――肉薄を目の当たりにし、アドナは気概を口にして二つのディバインデバイスを構えた。
 ひとつはホワイトレクイエム・D.D、未来をあやつるもの。
 もうひとつはブラックアンセム・D.D、過去をあやつるもの。
「余は攻撃されぬ、余は如何なる損傷も負わぬ!」
 試みたのは、時空と因果を歪めた未来と過去の破却。魔王ゼルデギロスの攻撃そのものを、なかったことにする天命の初期化。
 ――なれど。
「なかなかに面白い技ですね」
 魔王ゼルデギロスの突撃は、無とならなかった。魔王ゼルデギロスが有す圧倒的な力と存在感が、アドナの奇跡を上回ったのだ。
 しかしアドナの策も無意味ではない。
「っ、十分だ」
 アドナの超次元への干渉により、魔王ゼルデギロスの軌道は誤差が生じていた。結果、アドナは超質量と超速の直撃を免れた。
 無論、掠めただけでもダメージは大きい。ただ人ならば、立つことさえままなかったろう。けれどもアドナは猟兵であり、誇り高き皇帝だ。
 目的を達せずして、心を折ることなどあり得ない。
「皇帝の名の元に宣言する。総ての叡智を求め識る歴史と凍結を司りし蒼き竜の王よ、汝の氷と時を我が鎧と魔導書としよう」
 全身の骨が砕かれたような苦痛を、無きものと振る舞い、アドナは朗々と唱えた。途端、アドナの肉体は時間凍結氷結晶で覆われ、ドラゴンのそれと化す。
「っ、あえて言おう!」
 音速を遥かに超えて、アドナは空へと舞い踊る。
「余こそが世界の全て! だが、意味は排他に非ず! 自愛に非ず!」
 魔王ゼルデギロスを追って、アドナは飛ぶ。
「只、生に真摯でありたいと願うから世界と自己を同一化できる!」
 流れる景色は、もはやただの面だ。何をも形作ることもなく、意味さえ失う。空にはただ、魔王ゼルデギロスとアドナのみ。
「……それは『私』の関わる人々達の広げた輪が無辺になる事を祈るだけの事! つまりは――『誰かの瞳に映る悲劇の終焉』を赦さぬ心よ!」
「悲劇の終焉を赦さぬ、ですか」
 ふわり。
 まるで花香るように、魔王ゼルデギロスが纏う慈しみの気配が増大する。そして魔王ゼルデギロスはアドナを待ち受けるよう身を翻した。
「貴様に問う! 貴様の子と『私』達『六番目の猟兵』の道は交わるか?」
 仮面越しにも感じた温もりの眼差しに導かれるように、ドラゴンとなったアドナは巨大な女の零距離まで翔び征く。そこに微塵も惑いがないのは、疑問を発せども、アドナ自身に確信があるからだ。
(交わるならば、『我ら』は正真正銘の無敵となるだろう)
「……全力で行くぞ、此華咲夜!」
「その名で呼んでくれるのですね」
 魔王ゼルデギロス――此華咲夜若津姫の嬉し気な声を全身に浴び、アドナはドラゴンの手に氷の剣を出現させると、天槍を掠めて忌むべき仮面を目指す。
「さぁ、刮目しろ。これが『六番目の猟兵』の一人よ!」

 アドナ渾身にして二度目のない一撃は、此華咲夜若津姫の仮面を鋭く穿った。
 猟兵として持てる全力と、皇帝としての自負とを如何なく発揮したアドナは、剥がれゆく氷結晶と共に落ちながら、割れた仮面の隙間から、此華咲夜若津姫の目元が柔らかく笑むのを見た気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
歌うように踊るように回避していくのでっす!
おびき寄せて軌道を読み、避けきれない分はオーラ防御、吹き飛ばされても空中浮遊で空中演舞!
凄まじい連撃ですが決まった技の組み合わせである以上、時間を稼ぎつつリズムを掴んでいくのでっす!
無論、技巧は相手の方が上なのでっすが、心に寄り添わせてもらうのでっす。
敗北はあの方の祈りと、藍ちゃんくんと並び称された子どもたちに顔向けできないですので!
幸運さえも引き寄せて耐えるのでっす!
ところで此華咲夜のお母さん。
これだけおしゃべりできる以上、口は自由でっすよね?
なら、一緒に歌うのでっす!
子守唄など得意なのでは!
一緒にゼルデギロスを倒すのでっす!



 貫通衝撃波に螺旋回転突撃。そして神速連続突き。
 山をも凌駕する女が紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)へと繰り出す天槍の攻撃は、いずれか三種の組み合わせだ。
 つまり、如何に速かろうが、如何に苛烈だろうが、『読む』ことは不可能ではない。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
 水脈枯渇平原に、少年の歌声が高らかに響く。その自ら紡ぐリズムに合わせて、今日も今日とて少女の態(なり)をした藍は躍るように走る。
 おびき寄せるのは得手だ。地形だって利用できる。
 放たれる技は、歌と所作(ダンス)で誘う。意表を突かれないよう、全てに全力投球だ。それでもぎりぎりを掻い潜り続けることに、体力と精神力は摩耗していく。
(でもっ、それではあの方のお心に反してしまいますからっ)
 長い髪を箒星の尾のように靡かせ、藍は駆けて駆けて駆けて、賭ける。
 躱しきれない風圧は、オーラの防御で凌ぐ。足がもつれそうになったら、空中に低く浮いて、あらゆる摩擦を殺した。
「実にお見事です」
 猛攻の最中に降り来た女の声に、藍は弾むように応える。
「藍ちゃんくんは、藍ちゃんくんですので!」
 女の声に含まれた感情は、我が子の成長を喜ぶ母のものに酷似していた。それが分かるからこそ、藍は幸運さえも味方につけて、一撃も浴びまいと奮闘する。
(敗北はあの方の祈りと、藍ちゃんくんと並び称された子どもたちに顔向けできないですので!)
「っ、ところでっ! 此華咲夜のお母さんっ!」
「まあ、なんでしょう?」
「これだけおしゃべりできる以上、口は自由でっすよね? なら、一緒に歌うのでっす!」
「――!」
 ばちり。何かが弾けたような音は、おそらく彼女の瞬きが起こしたもの。それくらい藍の求めが意外だったに違いない。でも。
「子守唄など得意なのでは! 一緒にゼルデギロスを倒すのでっす!」
「ふふふ、素敵なお誘いですね」

「歌うのでっす! 皆々様と歌うのでっす!」
 ――ぼうや、ぼうや。
「藍ちゃんくん達は、独りじゃないのでっす!」
 ――かわいい、ぼうや。
 二つの歌声が遠く、広く、渡ってゆく。
 それは癒しの歌であり、鼓舞の歌。
 そして涙色の空に笑顔の虹をかける歌であり、呪縛の仮面をも揺るがす歌であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルゼブ・アズモリィ
おいおい、あんなデカいの、今のオレたちにやれるのか?
『操られているがゆえに討たれることを望む、か。もしかすると、貴様に今までなかった感情が芽生えることになるかもしれんぞ』
どういうことだよ……?
とにかく、待ってろデカいの! 猟兵たちの力を見せてやるからな!!

相手は突撃してくるだろうから、こちらは《ダッシュ》からのローリング回避を試みる
ヤバいな……もろに喰らったら地面に埋まるだけじゃ済まない

よーし、今度はこっちの番だ!
いでよ、【岩の魔人】!
一緒に駆け上がる! こっちは外で遊び回って鍛えた足腰があるんだ!

あまりに急なところはしがみついて《クライミング》を試みる。
駆け上がる最中に振り払おうとするなら《根性》で耐えられるか?
直接攻撃してくるなら、魔人が的になる。

首尾よく頂上に辿り着けたなら、仮面に向かってレブヤ・ベザルで《斬撃波》だ

なあ、レブヤ・ベザル。
こいつさ……こんな覚悟をもって、一体何を守ろうとしたんだ……?
『……お前は若い。考える時間ならたくさんある』

*アドリブ共闘歓迎
*『』は喋る武器の声



 山が動いた――違った。山ではなく、山より大きな女であった。
「おいおいおいおい」
 度を超した女の威容に、アルゼブ・アズモリィ(玉座を見据えし悪魔・f31513)が覚えたのは、恐怖を上回る驚嘆。
 あんぐり開いた口は閉じる気配がないし、瞬きを忘れた赤眼は乾ききってカピカピの一歩手前だ。
 込み上げてきた唾に、唇がようやく合わさり、嚥下のために喉がごくりと鳴る。
「……あんなデカいの、今のオレたちにやれるのか?」
 堪らず、弱気――というより、不安が口を吐く。
 ワルの道をまい進する、ワル〜いビッグマウスの持ち主であるところのアルゼブは、典型的なデビルキングワールドの住人だ(つまり根が善良で良識的)。
 常識を逸し過ぎた巨大さに、身震いが止まらない。先ほどからアルゼブの手は小刻みに揺れて――。
『操られているがゆえに討たれることを望む、か。もしかすると、貴様に今までなかった感情が芽生えることになるかもしれんぞ』
 ――揺れていたのは、アルゼブが手にした喋る武器の自己主張であった。
「どういうことだよ……?」
『それくらい、その小さなお頭で考えたらどうだ』
「……っ!」
 常と変らぬ喋る武器――レブヤ・ベザルの尊大さに、アルゼブの頭の芯がスンと冷える。
 立ち止まっていても、潰されるだけだ。そして抗わなくては、デビルキングワールドに真の混沌が訪れる。
「つまり、やるしかないってことだな! 待ってろデカいの! 猟兵たちの力をみせてやるからな!!」
「ここにも勇ましい武士がいましたね。その心意気に、私も全力で応えましょう」
「!?」
 己の声を拾われたのに、アルゼブの背筋が無駄に伸びる。うひぃ、と叫ばなかっただけで上出来だ。そして一度括った腹は、解かれない。
「なるようになりやがれ!!」
 飛翔からの降下。
 その巨体からは想像もつかない速度で迫る女に目に、アルゼブは全力で駆け出す。
 距離を稼ぐのが目的ではない。女の狙いを僅かでも逸らすためだ。
 空が瞬く間に暗くなる。夜が地上に落ちて来たとしたら、きっとこんな風なのだろう。
『来るぞ!』
「分かってるッ」
 レブヤ・ベザルの合図に、アルゼブはつんのめるように前に転がった。
 直後、大地が割れ、アルゼブの身体が宙に浮く。小山ほどの瓦礫が跳ね、世界が荒ぶる。姿勢を制御するための上下感覚なぞ、秒を待たずに消し飛んだ。
 しかし。
「ヤバかったな……でも、今度はこっちの番だ!!」
 埋もれかけた地面だか瓦礫の中から、アルゼブは跳ね起きた。細かな傷はそこかしこだが、四肢の駆動に問題はなく、意識だって鮮明だ。
「いでよ、【岩魔人】!」
 ここから先は、アルゼブのターン。
 自身の二倍はある岩で出来た魔人を召喚すると、良い子らしく外で遊びまわって鍛えた足腰で、急な斜面を駆け登る。
 アルゼブの動きをトレースする岩魔人の動きも速やかだ。アルゼブの身長だけでは越え難い段差は足場となって、女の挙措に生まれる鳴動には支えになった。
「なあ、レブヤ・ベザル」
 比較的なだらかな肩を征きながら、アルゼブは内側から自然と湧いた疑問を口にする。
「こいつさ……こんな覚悟をもって、一体何を守ろうとしてるんだ……?」
『……お前は若い。考える時間ならたくさんある』
 不遜な剣の『子ども扱い』はこんな時でも変わらず。
 けれど得られなかった答にもアルゼブは「ふーん」と鼻を鳴らすに留め、レブヤ・ベザルの柄を両手で握り締めた。
 目的地はもう目の前。
「岩魔人!!」
 足を止めずアルゼブは、岩魔人が両手で作った受け皿に飛び乗ると、そのまま空高くへ放り上げられる。
 到達点は、女の顔を覆う仮面の正面。
「こんなもの、オレたちがぶっ壊してやる!!」
「良く出来ました」
 気合一閃。女の掛け値なしの称賛を耳に、アルゼブは衝撃波を放つ。
 不可視の斬撃は、巌が如き呪縛へ解放の兆しを刻みつけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百合根・理嘉
帝竜戦役の時もこういうパターンあったけど……
胸糞悪いったらねぇな

矜持を踏みにじるような遣り方そのものも気に入らねぇ
望むならその通りにしてやろーじゃん?
こっちも元よりそうしなきゃ勝ちはねぇんだし
フィー……ひとまず懐でイイ子にしててくれよ

先制対応
オーラ防御を展開
全速力のSilver Starで往けるとこまで駆け上がる
ジャンプも可能な限り使ってくし
直線走行も避けて進路を読ませないよう注意

騎乗と操縦も駆使しながら
見切りと残像で可能な限り直撃回避
負傷は激痛耐性で凌いで進む
以降も同様に対処

一撃が軽いつったってこのサイズから繰り出されるなら
バカになんねぇだろ……
Silver Starも全損でなきゃどうとでもなる!

双撃使用
デカい体の何処かしらに早い段階で一撃入れる
まずはパターンを掴むことと仮面に近付く事を優先
宙に放り出されたら
本来の姿に戻ったフィーに騎乗して仮面の元へ
空中機動と空中戦を駆使して接近

可能な限り死角から
Black Diamondと鎧砕きを纏った一撃を叩き込む
既にダメージがある場合はそこ狙い



 世界を打ち貫くが如き衝撃波に、大地が轟き揺れる。
 僅かでも気を緩めれば、百合根・理嘉(風伯の仔・f03365)は駆る宇宙バイク――Silver Starごと地に転がるだろう。
 そうなった後の想像は、更に容易い。
(悪い冗談だ)
 落ち着きなく暴れるハンドルを力づくで制しながら、理嘉は望まぬ終焉の足音に歯噛みする。
 遥か頭上より繰り出される天槍の連撃に、未だ収束の気配はない。
 初撃から現在までの経過時間は、さしたる長さではないはずだ。だが一瞬が永遠に思えてしまう。それほどに魔王ゼルデギロスは体躯のみならず武力も強大だ。
(……いや、なんちゃら魔王じゃなかったな)
 ぎりり、と。込み上げる怒りに心を染めて、理嘉は再び奥歯を噛み締めた。
(胸糞悪いったらねぇな)
 己が意思に関わらず、戦いに用いられる。帝竜戦役の時もあったパターンだ。
「矜持を踏みにじるような遣り方そのものも気に入らねぇ」
 目にも留まらぬ回転で、理嘉が置き去りにしてきたばかりの地面が抉られた。
 はじけ飛んだ石礫――と言うには大きすぎる、成人男性よりも大きな瓦礫の雨を理嘉は懸命に掻い潜る。
 Silver Starの車体に出来た疵は、途中で数えるのを止めていた。
 愛着はあるが、全損さえしなければ修理でどうにでもなると、腹はとっくに括ってある。
(ごめんな)
 姿勢の安定を図るべく、上半身を車体に寄せた理嘉は、全身で感じるエンジンの鼓動に小さく詫びた。
 でも今は、犠牲を覚悟してでも為し遂げたいことがあるのだ。
(フィー……ひとまず懐でイイ子にしててくれよ)
 ライダースジャケットの内側で、もぞりと動く温もりにも内心で祈る。
 いつもならば心の癒しである腕白なラビットグリフォンも、今日ばかりはとっておきの切り札なのだ。
「望むならその通りにしてやろーじゃん?」
 天から容赦なく降る槍にも折られぬつ剛さを眼光に灯し、理嘉は空の高みをねめつける。
「こっちも元よりそうしなきゃ勝ちはねぇしな!!」
 不安定な足場に弾んだ車体を、理嘉はそのまま滑らせた。ただのジャンプの応用だが、だてに空中戦の経験がないわけではない。物理法則より本能に従った刹那の判断は、天槍を握る女の手元を狂わせるのに一役買った。
「お上手ですね」
「お褒めの言葉はありがたく受け取っとくぜっ」
 揶揄ではなく本音だと察せられた女の賛辞に、理嘉はSilver Starの再加速で応える。
 ひたすらで、がむしゃらな、直撃だけを回避できればいいと思っての行軍だ。宇宙バイクだけではなく、理嘉にもダメージは入っている。
 なれど、痛みは無視だ。
(オレも致命傷でさえなけりゃイイんだよっ)
 自身をSilver Starと同列に扱ってまで、理嘉は疾駆し続ける。右に左にと変則的にハンドルを切っているのも、進路を読まれぬためだ。大きく傾く車体にしがみつくのも労が多いが、直撃を喰らうことを考えれば物の数でもない。
 そして好機は、不意に訪れる。
「っ、フィー!」
 唐突にも感じた静寂の訪れは、天槍の猛攻の区切りの証。
 呆けることなく事態を即座に察した理嘉は、息を潜ませていたラビットグリフォンを空へと放つ。
 その姿が愛らしい兎から、理嘉の体躯をも凌ぐ大きさのグリフォンに転じるのに要した時間は、一度の瞬きにも満たず。また、理嘉がSilver Starからグリフォンの背に乗り換える判断にも迷いはなかった。
 肉体的にも、精神的にも、二度目は期待できないタイミングだ。
「飛べ、フィー!!」
 理嘉の声に、グリフォンが勢いよく羽搏く。原型を留めぬ大地は見る間に遠ざかり、理嘉の視界には不実な仮面が大きさを増す。
「この地の武士たちも、ぼうや達のように無理ばかりするのですね」
「言っとくが、勝算あっての無理だからな!!」
「ええ、ええ。分かっていますよ」
 次手を繰り出すまでの束の間、女の邪魔はなかった。それどころか、交わした会話の和やかでさえあり、理嘉の裡側に嵐を吹かす。
(くそったれが。やっぱ胸糞過ぎるだろうがっ!)
 激情に、理嘉の目と集中力は冴えに冴えた。
 女の顔を覆う仮面の一点、眉間に走る罅に理嘉は中空で狙いを定める。
「学習能力って大事だろ、っ?」
 死角を狙うべくもない、望んで受け入れられた正面からの一撃は、女の攻撃をここまで凌ぎ切ったが故の精彩を纏う。
「――覚悟はしちまってるんだろ?」
「はい。元より私は、既に死者ですから」
 淀みない女の言葉に、理嘉は純度の高い黒を帯びた拳を、全身全霊を賭して打ち出す。
 ――バリン。
(……どうしたって、胸糞悪いな)
 分かりやすい何かが砕ける音色を、精も根も尽きかけの理嘉は、満足と不満が綯い交ぜになった心地で聞いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
山が蟻と闘えるなんざとんでもねェな…
真面に食らえば国ごとぶっ壊れそうだ
まるで御伽草子、此の機を逃すなんざ絵描きの名折れってもんよ

大槍で渾身のひと突きか…
したが二撃目は考えず、此処を一点突破
真っ直ぐ、奴の方へ走駆ける
小さく速くって事じゃねえ、止まれば忽ち的になっちまうからヨ
素早くかわすにゃ動くしかねえ
突きが弱ェのは、後退じゃなく前進なんだよ

眼で捉えず、空気の動きを読む
風が引き肌がひりつくのを全身で感じて、突きに合わせて足から一気に地を滑る
喧嘩への場数と、此の場への気概が肝だ
言葉にゃ出来ねェが、俺が出来ると云えば出来る

槍を滑ってかわし乍ら、容貌を獅子へ
此の大きさでもってしても遠く及ばねェたぁ凄まじいこった
咆哮ごときで身を縛れるかは知れねえが、此れは俺の気合いサ
空を駆け、鬣を燃やし、其の面をぶち破ってやらあ



「山が蟻と闘えるなんざとんでもねェな……」
 育つ好奇心に任せ唇を舐めたところで、菱川・彌三八(彌栄・f12195)はそこが乾ききっていたことに気付く。
 自覚している以上に、目の当たりにした威容に緊張してしまっていたようだ。
 けれど怖気づいてはいない。むしろその逆だ。
「悪かねェな、……いんや、面白れえ」
 湿り気を帯びて動きの滑らかになった唇が、にんまりとした弧を描く。
 女自身の巨体も、女の繰る天槍も。常軌を逸したどころか、彌三八の識る世の理から外れている。女の力が乗った天槍の一撃を真面に喰らったあかつきには、彌三八の躰のみならず、彌三八が立つ大地ごと――此の国ごと、壊れてしまってもおかしくはない。
「まるで御伽草紙だな」
 誰かの夢物語だと思っていたものが、現実として聳えている。
 鼓動を、息吹を、肌で感じることができる。
 こんな稀有な機会を逃したとあっては――。
「絵描きの名折れってもんよ」
 喜々とした笑みを満面に佩き、彌三八は着丈の長い外套を脱ぎ捨て、駆け出す。
 途端、女の身体が宙へと浮いた。違う、浮いただけではない。おそるべき速さで飛翔している。
「いいぜ、受けてたってやらあ」
 きっとあの速度ごと降って来るのだ。そう理解した彌三八は、天槍の切っ先目掛けてますます足を早めて征く。
(こういう時は、一点突破あるのみサ)
 そも一撃目を凌げなければ、彌三八に未来はない。女は間違いなく全力だ。よしんば意思の自由があったとしても、手心を加えてくれるとは思えない。
「獅子の子落としたァ、よく言ったもんだぜ」
 仮面の割れ目から覗く目と視線が合った気がして、彌三八は地面を蹴る足に力を込める。
 僅かの休止も許されない。瞬きの暇でも立ち止まれば、忽ち天槍は彌三八を穿つであろうから。
 女に対して直線の軌跡を描くのも、万が一の奇跡を狙ってのことではない。
(突きが弱ェのは、後退じゃなく前進なんだよっ)
 黒の装いのせいで、今の彌三八は文字通りの黒風だ。速さに、髷も乱れる。だが髪のそよぎも彌三八にとっては大事な情報源。
 この戦いに於いて彌三八が重んじるのは、肌感覚だ。目で認識してからの反応だと、全てが遅すぎる。
「っ、」
 覚えた変化は、不思議なものだった。
 強風に立ち向かうのにも似た圧が、重力に縛られるような圧に変わった――そんな奇妙な差異。
 なれど明確な判断材料足りえないのも当然だ。だって、山をも凌駕する『敵』と相対する経験は、生まれてこのかた彌三八には無い。
(つか、そねいなやつあってたまるかよ――)
 やけに地面にひっつきたがる鬢(びん)のほつれを、彌三八は信じた。肌という肌をひりつかせる凄みを、本能で読み解く。
「――、此処だァ!」
 場数を踏んだ喧嘩の勘で、彌三八は前へ前へと足を滑らせる。所謂、スライディングだ。 尻を地に付ける以上、少しでもタイミングがずれれば、頭はおろか胴も木っ端みじんになったろう。
 しかし天槍は彌三八の頭上を、紙一重で掠め去った。
「良い気概を見せてもらいました」
「あたぼうよ!!」
 衝撃に鳴動する地面から彌三八は跳ね起き、鼓膜を打つ女の賛辞に応えて、今日一の脚力で割れた大地を蹴りつける。
「獅子團乱旋の舞楽の砌。牡丹の英匂ひ充ち満ち大筋力の獅子頭ァ!」
 刹那、彌三八の身が真紅の唐獅子と化す。
 三十メートルにも届こうかという大唐獅子だ。
(此れでも掌で転がされちまうたァ、おかしれえ)
 ひとつ、ひとつ、またひとつ、と。宙に躍る瓦礫を足場に、唐獅子は跳ね、その勢いのまま空を翔く。
 決まっていたのは、腹だけ。
 策はあったが、趨勢は運に任せたところが大きい――否。
(俺が出来ると云えば出来る。そう云うこった)
 気勢代わりに咆哮を上げ、唐獅子は見る間に女の目線に並ぶ。その目には、赤々と燃える唐獅子の鬣が映っている。
 ――どうぞ、存分に。
 微かに細められた女の眼が、まるでそう告げているようで。ともすれば、すわ侮られたか、と苛立ちかねない心の彩なれど、彌三八はそこに菩薩の慈愛を視る。
(其の面をぶち破ってやらあ!!)
 最後の一蹴りは、女の鼻筋。
 然して唐獅子――彌三八は、鋭い爪を元凶たる仮面に突き立てた。

 人の身に戻った彌三八は、遠い遠い頭上を見上げる。
 其処にはまだ、仮面があった。
 されど――。
「何、直ぐに終わるサ。俺がそうだって、云ってンだから」
 からり笑う彌三八が描く未来図は、もう間もなく現実となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
【奇縁】
こうも大きな方となると、多少は躊躇しそうですよね
…普通なら
けれど
感じるのは悪意では無いから、不思議と胸でも借りる気分
如何です?
では…参りましょうか

突けば槍雨、薙げば鈍器か衝撃波…
まるで奈落の一丁目
それでも間合いに入らねば
初撃より、体幹、槍の向きに挙動…
見切り得、次手予測を繰り返し
周囲、可能となれば彼女の衣服にも鋼糸を掛け、
強く引き移動速度を上げる等、直撃は避けつつ接近
且つ、一歩で容易く離されそうな間合いを繋ぎ留め

小さき者をよくご存じなら、蟻の一噛みの脅威もお解りかと
彼へ意識が向かっている間に、古傷と見ゆる腹へとナイフ投擲
更に意識を逸らしたく
直に位置を把握されよう肌は登らず
周囲環境や重なる布等、鋼糸で以て空中を取り
最中も槍には留意し、射程外であるなら背に回る事も辞さず

御免なさいね。お育ちが悪くて
けれど
折角の貴女の眼差しが、仮面《そんなもの》に覆われているのは忍びない
眼前以上の高さを取れたなら
アイスレイピアにて全霊の
――薔薇の剣戟

終焉らせ、生きて、帰りますとも
僕を待つ唯一のひとの元へ


エンティ・シェア
【奇縁】

小さい相手との戦いに慣れたでかい相手
厄介としか言いようもねーのに
…なんでかなぁ。行かねーって選択肢が見当たらない

連れの動きには十分気を配り、歩調合せて
纏めて狙ってもらえば好都合
ぎりぎりまで引き付けて、直撃避けて飛び退こう
こっちは纏めて薙ぎ払えるサイズとはいえ、
ばらけて散れば、どちらを狙うか多少迷っちゃくれねーか
…傷つけるのは本意じゃない
でも、躊躇わない
使えるものは何でも使う。誰の血飛沫だろうが、目晦ましにだってしてやるさ
全力のあんたに応えられねーなんて、笑えねぇ

風薙を足場目的で放ちつつ、肌の上から中空まで、縦横無尽に駆けて回る
目立つのも狙われるのも承知の上
連れの動きは視界の端でだけ捕えて
動きやすくなるように、精々派手に立ち回ろうか

無事に、仮面にたどり着けたなら
後はもう、存分に蹴り壊すだけ
流れる風にだって足掛け乗り上げ、姫の視界真正面に陣取ってやる
ここでも気を引く目的で、羽虫みてーに鬱陶しく、な
払いのけてみろよ、ゼルデギロスとやら
この姫さんは、てめぇにくれてやるほど安かねーんだよ



 深い関わり合いがあるわけではない。
 喩えて云うなら、奇縁。
 共に手を携えこの地に降り立った、というより、居合わせたついでに手を組んだ――そんな、ような。
 とはいえ気心が知れているのも、また事実。
「こうも大きな方となると、多少は躊躇しそうですよね……普通なら」
 『普通なら』の部分に、分かり易くアクセントを置いたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、首の痛くなる姿勢を正し、視線だけを傍らへ遣る。
「如何です?」
 どれだけ天槍を振るおうと、その撃で大地を砕こうと、クロトが巨大な女から悪意を覚えることはない。だからだろう、心と思考を占めるのは、胸でも借りるような気分ばかり――そんな意を含ませた簡単な尋ねに、エンティ・シェア(欠片・f00526)は愛想のない相槌を打つ。
「……なんでかなぁ。行かねーって選択肢が見当たらない」
 ――小さな相手と戦い慣れた、大きい(大きすぎる)相手。
 ――当たり前に考えれば、ただただ厄介だとしか言えないはずなのに。
 これまた文脈の大半を省略した応えだ。だがそれも今の『エンティ』の表層に在るのがリージュであるのを鑑みれば、さもありなんである。
 お互いに、程よい距離感だ。慣れ合いもなければ、衝突もない。
 つまり、おそろしく『やりやすい』。
「では……参りましょうか」
 クロトの一声に、エンティが先に駆け出す。
 途端、エンティは全身の血が沸騰するような感覚を味わう。
(――来る)
「右へ二歩っ!」
 エンティが猟兵の本能で察した猛攻の始まりに、クロトの声が重なる。そしてクロトの言葉のままに右へ二歩跳ねたエンティの際を、回転を加えられた天槍の切っ先が穿つ。
「そのまま伏せて下さい」
「“下さい”は要らねぇっ」
 クロトの『目』は本物だ。だからエンティは無条件に信じる恐ろしさをかなぐり捨てて、クロトの警鐘に身を任すことを厭わない。
「ッ、危なねえ」
 エンティが地に這った途端、直上を衝撃波が掠めた。僅かでも遅れていたなら、エンティの上半身は今ごろ四散していたはずだ。
 余波で吹く風を受けて身を起こしたエンティは、すぐさま足を前へ動かす。
 広げた視界の端に、クロトはいる。二人でまとまらないのは、攻撃の的を分散するのが狙いだ。
 しかし。
(まったく、微塵も迷っちゃくれねーか)
 天槍の狙いは今、エンティに絞られているらしい。影響が及ぼされる領域が広いため、クロトも巻き込まれているが、それでもあくまで魔王ゼルデギロスの意識はエンティのみにある。
(一人ずつ確実に、か。ほんとーに容赦ねぇな)
 無意識に込み上げてきた笑いに、エンティは喉を鳴らす。とんだ窮状だが、むしろ気分は上がる一方だ。
 エンティの纏う空気に、形容しがたい軽快さが加わる。
 何だかんだで、任務には忠実に励む男だ。繰り出され続ける連撃にも、折られる心は持ち合わせぬのだろう。
「全力前進っ」
(突けば槍雨、薙げば鈍器か衝撃波……)
 見切った一撃をエンティがまたしても潜り抜ける様に、自身も重力を無視した動きで煽りを凌いだクロトは、覚悟していた現実に内心で嘯く。
(まるで奈落の一丁目ですね)
 奈落の先に、得るものの有りや無しや。もしかすると新たな協力者なぞも居るやもしれぬが、クロトに一丁目より先に逝くつもりはない。
「意地でも間合いに入らせてもらいますよ」
 科白は柔らかく、でもその奥に刃を潜ませ、クロトは鋼糸を女の衣に絡げる。
 天を衝くほどの巨躯の女だ。着物の裾に人間がまとわりついたとして、虫が這うほどもないに違いない。ましてや鋼とは言え、糸のひっかかりだ。
(器用ってこういう時に便利だな)
 女が意にも留めないのを好いことに、一撃の所作に棚引く衣を利用するクロトへ、エンティは眼差しを遠くする。
 けれどもクロトはクロト、エンティはエンティ。成れない己を希いはしないし、今の自分の最大限にエンティは不平を唱えはしない。
(使えるものは何だって使う。絶対に、勝つ)
 相変わらず、天槍の連撃の中心はエンティのまま。とは言え、タイミングを揃え、各個動くことに意味がないわけではない。
 共に征くからこそ、出来る何かが必ずある。
「全力のあんたに応えられねーなんて、笑えねぇからな」
「ええ、ぜひとも全力で応えてください」
 エンティが息継ぎの合間に吐いた気勢に、女の声が降った。温もりのあるその響きに、エンティは一度だけ唇を噛み締める。
 操られているのが明確な女だ。傷付けるのは本意ではない。
(でも、応えるからこそ、躊躇わない)
「そこで停止――いえ、違っ」
 元より決まっていた覚悟をエンティが新たにするのと、クロトの語尾が跳ねたのはほぼ同時。
「構わない!」
 見切るが故に、女にフェイントをかけられたのだ。その意図を勘付いたエンティは、危険を承知で歩を弛める。
「――まぁ」
「これも計算だ」
 直撃こそ免れたが、女が放った衝撃波にエンティの左腕の肘から先が吹き飛んだ。
「おい、今だ!」
 不意をつかれた失態を、クロトは詫びず。エンティが負傷の道を選んだ意図に、クロトは即座に応じる。
「強引に行きますよ!」
 此処は戦場だ。果たすべき目的の前に、責任の所在は意味を持たぬし、考える暇があったら次の動きに繋げるほうが建設的に決まっている。
 然してクロトはエンティが散らす血煙に紛れて鋼糸で網を編み、エンティを空へと打ち上げた。
「小さき者をよくご存じなら、蟻の一噛みの脅威もお解りかと」
「十分、承知しています。だからこうして本気でいるのですよ」
「だろうな! けど、少し大人しくしていてもらおうか!!」
 挑発めいたクロトの弁。女の是。それらを耳に、文字通りエンティは空を舞う。
 翼を持たないエンティが足場にしているのは、自らの蹴撃が放った衝撃波だ。
 おそらく女のフェイントは、猛攻の切り返し。的がエンティからクロトへ転じる先触れ。そのことを、エンティが瞬間的に理解できたかは不明瞭だ。なれど攻勢に転じた機は絶妙。
 縦横無尽に翔け、エンティは四方八方へ血煙を撒く。女の視野からすれば、さしたる目くらましでもない。けれど攻撃の向かう先がクロトである以上、“人間”サイズの邪魔は十二分に役に立つ。
 戦の定石に、体格の差など物の数ではない。
「見事な連携ですね」
「やっぱり遊ばれてるな?」
「いいじゃないですか、遊ばれましょう」
 女の楽し気な声音に、エンティとクロトは声も心も弾ませる。
 また女の上機嫌に、クロトの寄り道も一役かった。
「素晴らしい注意力ですね」
 変わらず衣を伝手にした移動の最中、クロトは女の腹の古傷へナイフを投じていた。その余力が女には、この地の武士たちの頼もしさに感じられたのだろう。
「褒められるほどのものではありませんが、褒め言葉は有難く受け取っておきますね」
 女のクロトへの攻撃は、微妙に真芯が逸れていた。おかげでクロトの鋼糸を用いた全方位への移動は阻まれない。
「残念だったな、ゼルデギロスとやら」
 ついに仮面の真正面まで辿り着いたエンティは、問答無用の蹴りを諸悪の根源に対し繰り出す。
「この姫さんは、てめぇにくれてやるほど安かねーんだよ」
 憂さ晴らしめいた連蹴は、おりしも天槍の切っ先が、自身の袖越しにクロトを貫こうとした間際。
 深手を負った身体での渾身は、エンティに想像を絶する負荷をかける。
 勢いをつけるたびに、血はますます失われ、エンティの意識にも霞がかかっていく。それでもエンティは、爪先に、踵に感じる手応えに満足感を得る。
 一息には砕き切れはしない。
 だが蓄積が未来に活きることは、疑うべくもない真実。そしてエンティの気迫を継いで、クロトは女の前髪を滑り降りた。
「まさか稚児の戯れのように、私の身を使うとは思ってもいませんでしたよ」
「御免なさいね、お育ちが悪くて」
 女の戯れに、クロトもまた戯れで返し。降り立った女の鼻筋で、クロトはアイスレイピアを構えた。
「折角の貴女の眼差しが、仮面《そんなもの》に覆われているのは忍びない」
 仮面の欠けから、女の眼差しが覗いている。その目はまさに慈母が如く。
「ご存知です? 五手先まで読めねば、終焉なのですよ」
「成る程、私は五手先まで読めなかったということですか」
「――読むのを由としなかったのでは?」
 精魂尽きたエンティが落ちていくのを視界の端に、クロトは全霊で以て冷気を帯びた細剣を振る。
 一閃、二閃、重ねて二閃。
「嗚呼……懐かしい」
 計四閃の奇跡に咲いた幻の花に、女の目が細くなったのをクロトは見た。不思議な懐古の声も聞いた。
 しかし同じ好機が二度ないのを知るクロトは、エンティを追って宙に身を翻す。
 終焉への布石は磐石だ。
 きっと次の一手が、彼女の戦いを終焉(おわ)らせる。
「だから僕らは、生きて、帰りますとも」
 鋼糸の網でエンティを掬い上げるクロトの脳裡に在るのは、クロトを待つ唯一のひとのみ。
 なれどその唯一こそが、人に未来を諦めさせない鍵となるのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
慈愛に満ちた言葉たち
その声音が心地好いとさえ感じてしまう
美しく、勇ましいあなた
ひと時のお相手を、していただける?

あなたはどのような御方なのかしら
如何なる世界の景色を観て来たのでしょう
本当は言葉を交わしてみたいけれど
一刻も早く、その呪縛を解き放ちたい

お喋りが叶わないのは残念だけれど
代わりに、一度きりの対峙をもって語らいましょう

降り注ぐ天罰の如き雷たち
直に受けたならば、身体は散り散りでしょうね
――ラン
常に共に在る、幽世蝶のあなた
わたしたちを護る覆いを

その天の槍と比較してしまえば
わたしの宿す黒鍵は、小さきものでしょうけれど
最大限の“風”の属性を付与して、払う

全力で挑んでくださるのだもの
此方も、持ちうる総てを賭してお応えするわ

風に委ねるのは、麻痺を齎す猛毒
体勢を崩すためのものでは無く
動きを少しでも抑えられたのならば、と

これが、わたしの扱う獲物たち
あなたへと届いたかしら
名残惜しいけれど、終幕へと至りましょう

手にする黒鍵は切り拓くためのもの
駆け上がって、登り詰めて
あなたを捕らう仮面の呪縛を解き放つわ



●結(むすび)…エンド・ブレイク…
「――ラン」
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)のほろり零れる熱めいた囁きに、羽搏きにくれなゐを纏う真白の幽世蝶があらわれる。
 一夜の夢が如き儚き光景だ。しかし美しき蝶は雷鳴の予感にも散らず、七結の頬をくれなゐでくすぐる。
 常に七結と共に在るモノだ。だからきっと七結のこころを理解しているのだろう。
 だから七結の次句は、先ほどよりももっともっと小さく、それでいて謡うように。
「わたしたちを護る覆いを」
 ふわり。
 七結の求めに、蝶がひときわ大きく翅を揺らす。すると蝶の纏うくれなゐが、七結をも覆う紗と化した。
 七結の視界を染める事もない、薄い守護のとばり。猛る雷ででも打たれたなら、見る間に四散してしまうだろう――でも、七結にはその『見る間』だけで良い。
 天上におわす神々を拝む心地で、七結はひとたび空を仰ぐ。
 そこに居るのは、山よりも巨大な威容を有す女。芯よわき者ならば、姿だけでも射竦められるに違いない。
 けれども猟兵たちは――七結は、そうはならない。
 何故なら『彼女』は悪鬼に非ず。魔王ゼルデギロスに操られてなお、彼女の立ち振る舞いは七結を穏やかにする。
(慈愛に満ちた言葉たち)
(その声音が心地好いとさえ感じてしまう)
「嗚呼、美しく、勇ましいあなた」
 抱き締めたくて、七結は細腕を宙へ伸べる。もちろん腕(かいな)に収まるのは、今にも弾けんばかりの大気のみ。でも七結は、そこに殺意のひとかけらも感じない。
 ――あなたはどのような御方なのかしら?
 ――如何なる世界の景色を観て来たのでしょう。
 叶うなら、『彼女』と数多の言葉を交わしてみたいと七結は思う。
 でも、でも、でも、でも――。
「わたしはあなたの呪縛を、一刻も早く解きたいのです」
「やさしい娘よ、全てはお前の心の侭に」
 七結の声に、女は応えた。そしてその応えこそ、終わりの始まり。
「ランっ」
 今度は明確に、七結は幽世蝶を呼ぶ。
 直後、一人と一羽は天槍の分身に取り囲まれた。
 唯一女の手にある天槍が、高く掲げられるのが合図になる。巨大な切っ先に突かれた天が降らせるのは、裁きの雷。
 だが七結は、天命を待たない。
「全力で挑んでくださるのだもの、此方も持ちうる全てを賭してお応えするわ」
 くれなゐのとばりが保つのは、一瞬だ。
 なれど生じる『見る間』の間に、七結は駆け出す。
 耳をつんざく轟音を連れ、雷は来た。が、くれなゐの守りが貫かれる前に、七結は直撃から逃げ果せる。
 薄氷よりも脆く、きわどい賭けだった。
 事実、届いた余波にさえ七結の四肢は熱と痛み、痺れを帯びた。
 それでも七結は生きている。斃れず、進んでいる。
 転がるより早く、七結は足を前へ前へと運ぶ。急な斜面も、懸命に跳ねた。
 整えてあった装いも、髪も、好き勝手に乱れるが、七結は一切を気にかけず、ただひたすらに、ひたすらに昇り詰めて征く。
 見据えるのは、一点のみ。女の顔を覆う、歪な仮面。それがもう崩壊間際なのは、近付くごとに輪郭が明らかになる罅で知れた。
「名残惜しいわ」
 終焉を先延ばしにしたい気持ちが、七結の裡には息衝いている。
 しかし多くの言葉を交わさずとも、一度きりの対峙で得られるものもある。
 『彼女』の信は、猟兵たちにある。
 猟兵たちならば、自分を乗り越えて征けると信じている。
 闇に閉ざされた未来でも、きっと切り拓いて往くだろうと確信している。
 そして七結が手にする黒鍵は、彼女の信に応えるに相応しい。
 天槍と比べれば、極めて小さき刃だ。とは言え、黒鍵の銘は『払暁の華宴』。永遠なる氷結と停滞の闇を薙ぎ払い、暁を喚ぶもの。
 然して七結は、女の頭上に立つ。
「よく至りました」
 女の偽りのない賞賛に、七結は切なさを覚えながら風を吹かす。
 ――悪いこは、だあれ。
 いつもより哀し気に唱え、七結は風に猛毒を乗せる。甘く香るそれは、麻痺をあたえ、女の意思に反し女の身を操る邪悪を封じるもの。
「終幕へと至りましょう、あなたを捕らう仮面の呪縛を解き放つわ」
 斬、と。
 七結は握り締めた黒鍵を薙ぐ。
 生じた烈風は、下へ下へと迸り、女の仮面へ最期の衝撃を与えた。

 ――ありがとう、かわいい此の世のこどもたち。
 訪れた静寂に、七結は夢見るように瞼を落とす。
(あなたへと届いたかしら)
 応える声は既になく。
 でも七結のこころには、消え逝く女の感謝の言葉がいつまでも響き続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年05月17日


挿絵イラスト