7thKING WAR㉔〜終焉に咲き誇れ、天槍の魔女
●枯れた先に咲き誇れ
デビルキングワールドの水脈枯渇平原。
その名の通り荒涼とした大地が広がる地に天を突くような巨体の女がいた。
顔の上半分は目を隠すように黒い仮面に覆われていて、下半分も酷く顔色が悪いように見える。
『成程。つまり私は天寿を全うした後、あなたに乗っ取られたのですね』
『ククク、悔しかろう……生前のみならず、死後なお我に翻弄されるとはな!』
巨大な女が美しい声で呟き、その言葉を嘲笑うように邪悪な男の声が響く。周囲には誰もいない男の声は、黒き仮面から発されていた。
『……少し安心しました。ゼルデギロス、あなたはまだ、何も学んでいないのですね』
時は二度と戻らない。だから時は美しく、残酷に光輝くのだと、女は何も理解せぬ仮面に言い切った。
その時になって、仮面は自身の能力が上手く発動できないという異変に気付く。
『仮面(マスカレイド)を放出できぬ! 貴様、何をした!』
見苦しく狼狽える声に、巨人の女は微笑む。何度でもやり直せる気楽さに甘え失態を繰り返す――決死の覚悟で困難を乗り越えてきた『ぼうや達』と比べるまでもない痴れ者だ。
『あなたの支配を完全に退ける事はできませんが、この程度の支配度ならあの方達は容易く私を殺すことでしょう』
山より巨大な女は愛用の天槍を手に、魔王ゼルデギロスの邪悪な声を聞き流しながら自身を打ち倒す者の到来を待ち望んでいた。
「『7thKING WAR』も順調に進んでいるね」
グリモアベース、一匹の騎士猫クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が猟兵達に呼びかける。
「今回私も予知を拾ったんだ。召喚魔王『ゼルデギロス』……強敵だけど、ちょっと頑張って戦ってきてくれないかな」
ケットシーのグリモア猟兵は羽付き帽子を被り直つつ、彼女の見た予知についての説明を開始する。
「異世界から召喚された魔王の一人であるゼルデギロスは山よりも遥かに巨大な……帝竜ガルシェンとかに近い大きさの女性だ。本人の意識ははっきりしてるみたいだけど仮面に力を封じられて操られているようで、その仮面が魔王ゼルデギロスらしい」
力を封じられて操られているとはいえ、その中で彼女は全力を尽くしてくるのだと、クーナは言う。
「武器はあの巨大な槍……天槍っていうらしいけど、それを非常に巧みに操って攻撃してくる。こういう大きな相手は小さい敵に弱いっていうのが定番だけど、この人は逆に小さい相手との戦闘に長けていてそういう隙は一切ないから気を付けてね。非常に高い技量で先制攻撃を仕掛けてくるからそれをどうにか凌いで顔の仮面を砕く事ができればゼルデギロスは消滅するだろう」
非常に強力な魔王ではあるが、一つ気になる事があるとクーナは続ける。
「体は操られているけど意識ははっきりしてて会話はできるみたいだね。質問したら彼女が分かる範囲で色々答えてくれるかもしれないよ」
それじゃ頑張ってね、とクーナは話を締め括り灯篭のようなグリモアを取り出して、猟兵達を召喚魔王の戦場へと転送したのであった。
光に包まれた猟兵達が辿り着いたのは奈落の如き殺風景な光景。
『よくぞいらっしゃいました、六番目の猟兵達』
距離はまだあるのに、その位置からでも見上げるような高所から優しい女性の声が響いた。
その声こそが召喚魔王ゼルデギロスーーに操られる山のような巨体の女性だ。
『私は操られていますが……お気になさらず!』
『やめろ、言う事を聞いて――』
『顔の仮面を破壊すれば私は死にます。私は既に死した身……しかし捨て身の戦いによって、みなさんに教えられる事もあるはず!』
邪悪な男の声を遮るかのように屈託のない声が厳しく凛々しさを伴った声へと変わり、巨人がその槍を構える。
一切加減無い全力で戦って、そして自分を乗り越えて欲しいとでも言うように。
『――私のぼうや達に勝るとも劣らない素晴らしき武士達よ、いざ尋常に勝負!』
召喚魔王ゼルデギロスーーそれを討つための戦いが、今ここに始まる。
寅杜柳
オープニングをお読み頂き有難うございます。
まだあの魔王に下がる株があったとは。
このシナリオはデビルキングワールドの水脈枯渇平原で『魔王ゼルデギロス・此華咲夜態』と戦うシナリオとなります。
山よりも遥かに巨大な女性は仮面に力を封じられ体を操られているようですが、その状態での全力で山より巨大な天槍を振るい攻撃を仕掛けてきます。
更に彼女は自分より小さなものとの戦闘に長けているようで、巨体の相手によくあるような隙は存在しないようです。
また、質問すれば「ぼうや達」や「ゼルデギロス」等について彼女の知る範囲で返答してくれるようです(リプレイ中では具体的な記述はなく戦争後に情報のまとめが出ます)。
下記の特別なプレイングボーナスがある為、それに基づく行動があると判定が有利になりますので狙ってみるのもいいかもしれません。
=============================
プレイングボーナス……先制攻撃に対応し、相手の巨体を利用「しない」戦い方で反撃する。
=============================
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『魔王ゼルデギロス・此華咲夜態』
|
POW : ジェットランページ
【天槍から噴出する強烈なオーラ】によりレベル×100km/hで飛翔し、【身長】×【武器の大きさ】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : 天槍乱舞
【貫通衝撃波「フォーススティンガー」】【螺旋回転突撃「ドリルインパクト」】【神速連続突き「ミラージュランス」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ : ジャッジメントランス
【天高く天槍を投げ上げるの】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【オーラで構築した天槍の分身】で囲まれた内部に【裁きの雷】を落とし、極大ダメージを与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
カシム・ディーン
機神搭乗
ぼうやの意味は?
お姫様には子供が一杯いるんですか?
「この人の世界の人は皆お姫様の子供なのかな?」(鶏立体映像
【情報収集・視力・戦闘知識】
姫の立ち回りと動き
己の交戦経験と他の依頼との差異を見据えながら解析
対SPD
もう何度目か分からねーが気張れよメルシー!
「ご主人サマこそ☆」
【属性攻撃・迷彩・念動力・武器受け】
光水属性を機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源や匂い音も隠蔽
更に立体映像を無数に展開して攪乱
避けきれないのは念動障壁と武器で受け流し致命は避け
UC発動
【空中戦・弾幕・スナイパー・二回攻撃・切断】
超高速で飛び回りその巨体は利用しない
念動光弾を仮面に乱射
距離を詰め鎌剣で切り刻む!
天槍を構えし魔王ゼルデギロスに対し、先陣を切ったのは界導神機『メルクリウス』という一機のサイキックキャバリア。
「もう何度目か分からねーが気張れよメルシー!」
幾度となくこの巨大なる魔王と交戦を重ねてきたカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)が、コックピットに浮かぶ鶏の立体映像に気合を入れるように叫ぶ。
『ご主人サマこそ☆』
そんな主にいつもの調子で立体映像が答え、メルクリウスが加速する。
恐れる様子もなく向かってくるキャバリアに、魔王は口の端を僅かに上げて叫ぶ。
『さあ、天槍をご覧あれ!』
瞬間、強烈な衝撃波が魔王の得物たる天槍から放たれて、それに続くように神速の連続突きが続く。
これまでの戦いで見てきた天槍の連撃に対し、カシムは盗賊の視力でその起こりを見極めていた。
メルクリウスに光と水の属性を付与、光の屈折により姿を隠しながら水の障壁を纏う事で熱や匂い、キャバリアの駆動音を閉じ込めつつ周囲にキャバリアの立体映像を展開し衝撃波を回避する。
山をも貫くと言われてもおかしく感じない強烈な衝撃波に続く連続突きが無数に展開した立体映像を貫き霧散させていく中、カシムはキャバリアに装着した空中機動用のウィング『タラリア』で空中を強引に移動しながら直撃を回避。
幻影すら伴う神速の連続突きが全ての立体映像を貫いた後、魔王は即座に天槍を回転させながら何も見えぬ座標へと突撃を喰らわせる。
(「読まれたか!」)
天槍の先には姿を隠しているメルクリウス、魔王がキャバリアの位置を読み取ったのは単なる直感か、或いは持ち前の戦闘経験によるものかは不明。
だがこの槍の直撃を受ければメルクリウスであってもただでは済まないのは間違いない。全力で回避行動を取りつつ念動障壁を前面に展開、更に鎌剣を振り被り天槍に叩きつける。
強力な念動障壁と天槍の穂先が衝突し、コンマ一秒以下の時間で貫かれる。
しかしそのわずかな時間に鎌剣は天槍に振り下ろされ、その反動を利用して受け流すようにしてキャバリアは天槍の一撃から逃れる事に成功する。
衝撃に巨大なキャバリアは弾き飛ばされつつもタラリアで姿勢制御を行い、同時にカシムが反撃のユーベルコードを発動した。
「加速装置起動……メルクリウス……お前の力を見せてみろ…!」
瞬間、メルクリウスが超速度で飛翔を開始する。
音の十倍の速度を超えるキャバリアは更に三倍に速度を跳ね上げて、蛇の意匠が刻まれた杖型兵装より念動力を変換した光弾を魔王の眼を覆う仮面に向けて連射する。
その念動光弾の弾幕は天槍に阻まれるが、本命は鎌剣による接近戦。炸裂する光弾に紛れ振るわれた天槍の横をすり抜け仮面へと飛び込むと、その鎌剣で二度仮面を切り裂いた。
仮面に二つの傷が刻まれた事を確認するや否や、カシムは反撃の前にその機動力で天槍の間合いから離脱。
しかし、魔王は彼に即座に追撃を行ってくることはなく、代わりに言葉をかけてくる。
『――お見事です』
仮面への斬撃で僅かに支配が緩んだのか悪しき気配が薄れ、操られている女性本来の穏やかな言葉が響く。
今なら気になっていたことを問う事もできるだろうと、カシムと鶏の立体映像とがキャバリアを通し問いかける。
「……ぼうやの意味は? お姫様には子供が一杯いるんですか?」
『この人の世界の人は皆お姫様の子供なのかな?』
その二つの疑問に巨人の女性は早口で答えて、そして答え終わると同時に再び邪悪な気配が彼女を包んでいく。
『支配力が再び強まってきましたが……貴方達ならきっと乗り越えられます』
そう言って再び魔王ゼルデギロスは天槍を構える。
カシムとメルクリウスも武装を構えると、この魔王に終焉を与える為にキャバリアを加速させるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
穂積・直哉
デッカー!?
槍は突き攻撃が主とはいえ、こんだけデカいと避けんのも辛ぇ!?
何発かは攻撃を受ける覚悟で走るしか……!
第六感や見切りで致命傷はどうにか避けつつ
跳躍やスライディングを駆使して、縦横無尽にインラインスケートで駆ける!
耐性で堪えつつ、サイバーアイで敵の動きを情報収集だ
……次は多分あの攻撃! カウンターでUC!
巨体を利用しない戦い方、っていうのは中々難しいけどさ
どんな敵でも目前で発動する技を使えばいいんじゃねぇか!?
吹っ飛……吹っ飛ぶのかなこの人??
っと……そうだ、質問!
帝竜ワームも仮面の呪いをかける奴だったんだよ
「私こそが、世界の全て」とか言ってたっけ……
あいつもマスカレイドって奴なのか?
「デッカー!?」
かなり離れた場所からでも見えていた魔王ゼルデギロスの巨体だが、相対した穂積・直哉(星撃つ騎士・f06617)は思わずそう叫んでしまう。
比喩無しに山のような巨体の魔王ゼルデギロスの武器である天槍も相応の大きさで、突きが主体と思われるとはいえこのデカさは避けるのも辛いだろう。
『さあ、この攻撃を乗り越えて見せてください!』
そして気合十分な声と共に魔王はその天槍から強烈なオーラを噴出し爆発的に加速、空へと飛翔する。
それを見た直哉は即座にインラインスケートで水脈枯渇平原の地を全力で走りだす。
(「何発かは受ける覚悟で……いやまともに喰らったら死ぬ!?」)
サイバーアイで空の魔王の様子を確認しながら直哉は思考する。
あの巨体と速度から繰り出される衝突エネルギーは猟兵であってもまともに受け切る事は困難と直哉は直感で判断、どうにか直撃を避けて致命傷を避けるように立ち回るしかないだろう。
そして空から魔王が急降下突撃、そのタイミングを見切った直哉は全力で前方に跳躍する。
直後、背後の地面が爆発する。魔王の急降下突撃が地面を砕きクレーターを作り出したのだ。
背後から襲い掛かる衝撃に全身を揺さぶられながら飛来する岩石をインラインスケートで地面を滑るようにして躱し、直哉は魔王へと振り返り体勢を立て直す。
流れるように天槍を直哉の方へと構え直す魔王の天槍からは再びオーラが噴出し、突撃を再開せんとしている。
「……次も多分あの攻撃!」
だがその攻撃は先ほど見たもの、だからカウンターを合わせる事も不可能ではない。
「吹っ飛……吹っ飛ぶのかなこの人?? まあいいか――吹っ飛べ!」
魔王の二度目の突撃が始まる前に直哉のユーベルコードが発動、途端高速で飛翔していた魔王ゼルデギロスの眼前に刀剣を模した衝撃波が出現する。
このユーベルコードにはサイズも距離も関係ない、眼前に衝撃波を発生させ攻撃するものだからだ。
攻撃のタイミングに見事にカウンターを合わせられた魔王はその顔の仮面に無数の斬撃の如き衝撃波を受けて体を浮かせ、1キロほど後方へと吹き飛ばされた。
『見事な業ですね。その調子で私を倒すのですよ』
再び魔王の支配力が緩んだのか、天槍から噴出するオーラが収まって優し気な女性の声が響いてくる。
「っと……そうだ、質問!」
今が好機と直哉は慌てて声を張り上げ巨体の女性に問う。
「帝竜ワームってヤツが仮面の呪いをかける奴だったんだよ。『私こそが、世界の全て』とか言ってたっけ……あいつもマスカレイドって奴なのか?」
かつて群竜大陸に現れた帝竜の一体、それとこの魔王ゼルデギロスの力に共通点があるように直哉には思えたのだ。
少しばかり女性は思案し、答えを紡ぎ直哉に答える。
『……まだまだ先は長いでしょう、けれど私をきっと乗り越えてくれると信じていますよ』
励ますように、信じるように。魔王ゼルデギロスに操られる巨体の女性はそう告げて、再び天槍を猟兵へと構え戦闘を再開するのであった。
成功
🔵🔵🔴
ミーガン・クイン
なんて大きさなの…。
私の拡大魔法よりもっと巨大な存在がいるなんて、…許せないわ。
・先制攻撃対処
ミニ大型車両を元に戻し盾にして【武器受け】するわ。
暗器たちも元に戻して障害に。
お気に入りのベッドのマットレスで衝撃吸収できるかしら。
あとは【オーラ防御】【激痛耐性】【受け流し】で耐えるしかない。
一撃で退場だけは避けないとね。
消し飛んでしまいそうな衝撃…、でも生き残れれば…!
私の、最高の、縮小魔法を喰らいなさい―――
―――小さくしすぎちゃって探すのに苦労したわぁ。
20cm以下にする魔法ですもの、好きなだけ小さくできるわよねぇ。
私が山のような巨体に見えるくらいに縮めさせてもらったわぁ、形勢逆転ね♪
山のように大きかったのに今では砂粒以下の大きさになっちゃってぇ、惨めねぇ♡
さっきまでの私たちみたいに立ち向かってみる?
こんな大きさの相手なんてしたことないんじゃない?
そろそろ踏み潰して終わりにしてあげたいけど、何か言い残すことはあるかしらぁ?
…よく聞き取れないしもういいわぁ。
さようなら 私の最大の敵。
「なんて大きさなの……」
巨体の魔王に対し、ミーガン・クイン(規格外の魔女・f36759)と言う名のサキュバスの魔女も思わずそう口にしてしまう。
けれど、そこに含まれる感情は驚きや恐怖などではなく、
「私の拡大魔法よりもっと巨大な存在がいるなんて、……許せないわ」
魔女である彼女の得意とする魔術は物体の拡大縮小を自由とするもので、それに絶対の自信を持っているからこそこの規格外のサイズの魔王の存在を許せないのだ。
猛烈なオーラの噴出と共にゼルデギロスが飛翔し一直線に突撃してくる。
即座に縮小の魔法陣により小さくしていた大型車両を元のサイズに戻し、天槍に対する壁を形成する。
直後、大型車両が轟音と共に貫かれ吹き飛ばされた。
その巨体と獲物の長さから繰り出された衝撃波計り知れぬ程強大で、その衝撃の余波でミーガン自身も吹き飛ばされる。
直に槍を受ける事は避けられたが、オーラで身を守りできるだけ受け流してなお感じる消し飛んでしまいそうな衝撃。吹き飛ばされた先にあった岩壁に衝突する寸前にお気に入りのベッドを元のサイズに戻し衝撃を吸収させる。
嫌な音と共に軋むベッドのマットレス、しかし魔女のお気に入りだけあって衝撃はほぼ失われてミーガンは無傷でベッドから飛び降りた。
「……流石に一撃で退場はできませんわぁ」
あくまで余裕たっぷりに魔王ゼルデギロスに言ってのけるミーガン、生き残る事が肝心だったのだが、それを為せれば反撃の時間だ。
「私の、最高の、縮小魔法を喰らいなさい――――!」
規格外の魔女が縮小の魔法陣を展開し、全力を込めたユーベルコードが発動し、放たれた魔法は再びの攻撃の為に再度突撃を行おうとしていた魔王に命中する。
途端、その恐るべき速度で進むよりも早く魔王の巨体が縮小されていく。
普通の人間並、更に縮んで指の先程にまで縮んだ魔王の突進は、衝撃が身長と武器の大きさに由来するが故に激突ダメージを大幅に落としてオーラ纏うミーガンの肌に弾かれてしまう。
見苦しく喚く仮面を無視して縮んだ魔王は慌てず空中で体勢を整え荒野の地面に着地する。
だが、
「――――小さくしすぎちゃって探すのに苦労したわぁ♡」
魔王ゼルデギロスの上からかかる声。見上げれば縮小された彼女からすれば山のように見えるミーガンと、高く上げた足。
敵を20cm以下に縮める魔法――つまりそれ以下のサイズであるならもっと小さくできるという事であり、
「こんな大きさの相手なんてしたことないんじゃない? ――形勢逆転ね♪」
蟻のようなサイズになった鮮やかな着物の色を見下ろし、嗜虐的な笑みを浮かべたミーガンがわざわざ靴を脱いだ生足で踏みつける。
「山のように大きかったのに今では砂粒以下の大きさになっちゃってぇ、惨めねぇ♡」
踏み躙る感覚、ダイレクトに魔王から伝わってくる圧倒的な体格差からくる屈辱と恐怖は、規格外の魔女を充足させる感情だ。
――ただ、一つ計算外だったのは。
「そろそろ踏み潰して終わりにしてあげたいけど、何か言い残すことはあるかしらぁ? ……え?」
どうせよく聞き取れないだろう、そう最後に煽ろうとしたミーガンに、伝わってくる感情は操られている女の喜びと闘争心。
魔王ゼルデギロスの体は縮小されてもユーベルコードによる速度は健在だったという事。
「これは、まだ……!?」
ミーガンが踏み躙る力を強めるが、その前に魔王ゼルデギロスはやわらかな足を力技で持ち上げてから天槍より莫大なオーラを噴出して高速で脱出、更に空へと再び飛翔する。
音を軽く置き去りにする速度で離脱した魔王ゼルデギロスは飛翔しミーガンから離れながら自身を縛り付ける縮小魔法の解除にかかり、時間を置くことなく縮小魔法の術式が耐えきれず崩壊する。
直後、幾分か負傷した魔王ゼルデギロスが元の大きさに戻りながら着地し、周囲に轟音を響かせる。
『――私よりも大きな相手と相対したのはいつ以来でしょうか。懐かしいですね、昔を思い出しましたよ』
やや高揚したように女は言う。
どうやら仮面の方はともかくとして女性の方は苦境に絶望したり屈するのではなく、乗り越えようと燃えて活路を見出そうとする性格だったようだ。
「……流石は私の最大の敵ね」
呟いたミーガン、最大の敵たる彼女に『さようなら』を告げるにはもう少しばかり先になりそうだ。
成功
🔵🔵🔴
キャロル・キャロライン
槍から噴出するオーラによる飛行――
その攻撃は見せてもらいました
如何にその威力が強かろうとも、それは想像の範囲内
《刻印珠》の力を解放し、進化させた盾と鎧とで防ぎます
耐えることができたなら、次はこちらの番です
鎧から翼を広げ、空を駆けて接近[防具改造、空中戦、ダッシュ]
先ほどから何も喋らないようですが、その方を支配するので精一杯ということですか
死者を弄んだその報い、受けてもらいます
仮面をターゲットに槍を進化[武器改造]
残りの《珠》を解放し、身体を傷付けずに仮面のみを破壊[カウンター、鎧砕き、継続ダメージ]
彼女の身体は《刻印》での融合を図ります[捕食、生命力吸収]
その力、次の戦いの為にお借りいたします
『さあ、次の攻撃を受けたいのはどなたでしょう!』
天槍を構え力強く叫ぶ魔王ゼルデギロスの前に飛び出したのはキャロル・キャロライン(蘇生者・f27877)だった。
「その力、次の戦いの為にお借りいたします」
淡々と告げるデッドマンの女にその意気です、と魔王ゼルデギロスは微笑み天槍よりオーラを噴出し空へと飛翔する。
軽く音を置き去りにする速度で飛翔する魔王は地上のキャロルを周囲の地形ごと破壊する勢いで空から地へと加速しながら急降下突撃を仕掛ける。
「――その攻撃は見せてもらいました」
けれども、そのオーラによる飛行は既に見ているから予測していた通りの動きであり、驚きはない。
キャロルはその身に装備した刻印珠のエネルギーを解放して、アリスナイトの想像力が結晶化した白銀の鎧と盾を進化させていく。
あの地をも割る強烈な破壊力の一撃を思い出し、それに耐えられる強度を想像して最硬に進化させた盾を天槍に向けてその穂先を受ける。
――隕石のような天槍の衝撃が、キャロルを吹き飛ばした。
けれどその盾と鎧を天槍は貫く事もできず、逸らした衝撃の余波による結果であり、ダメージはかなり抑制されている。
「次はこちらの番です」
衝撃波により生じた嵐のような気流の乱れの中、白銀の鎧を改造進化させて翼を広げて空を駆けるように魔王の仮面へと迫っていく。
「……先ほどから何も喋らないようですが、その方を支配するので精一杯ということですか」
カウンターとして向かう先の仮面、それからは邪悪な意志を感じるがこの戦闘において何も喋らないのは巨大な姫君を支配する事で精一杯なのだろうか。
そんな事を思考しつつ、仮面のみに狙い定めて槍を最適な形に改造進化させていく。
本来の彼女が有さないそれらは発動させたユーベルコードによるものの一端、更に残りの刻印珠のエネルギーを全開放して槍を真っすぐに構え加速していく。
「死者を弄んだその報い、受けてもらいます」
アリスランスが仮面を貫き、仮面の一部が崩壊して欠け落ちた。仮面の禍々しい気配が強まり、魔王ゼルデギロスの天槍がキャロルを退けるように振るわれる。
「……ッ、これ以上は難しいですね」
魔王の肉体を傷つけぬように突き込んだ槍の一撃と同時、万物を喰らい融合する刻印の力でその体を融合しようとしたが、十分な時間なく振り払われたため一部のみで不完全に終わってしまう。
その上、まだ魔王は倒れることなく仮面も健在のままだ。
仮面に支配されし姫君を眠らせる為にはもう少し有効打を与える必要がありそうだが、天槍の攻撃により鎧や盾越しに受けた衝撃のダメージも無視できない。
そう判断したキャロルは、天槍構える仮面の魔王から翼広げて一旦離れ、次の機会を伺うのであった。
成功
🔵🔵🔴
クレア・フォースフェンサー
身長差はざっと見積もって一千倍
質量差は十億倍といったところか
随分と絶望的な数値じゃが、かような状況をも乗り越えてきたのがわしら猟兵じゃ
帝竜やクェーサービーストよりは組みしやすかろうて
とでも考えねば、怖くて逃げだしたくなるとおろじゃな
まずはフェンサーに乗って対抗
敵の軌道を見切り、光の弓と剣で僅かなりとも攻撃を逸らし、完全破壊は免れよう
一撃を耐えられたなら、破損したフェンサーからは降り、自らの身体と武器をもって対峙
遠間から光弓で仮面を狙い打とう
再び近付いてきたならば、全開にした最長の光剣で仮面を切り裂こうぞ
此度の戦争で現れたおぬしは、おぬしで最後のようじゃ
何か伝え忘れたことがあったりはしないかの?
再び槍を構える魔王ゼルデギロス、ダメージは間違いなく重なっているがその迫力には些かの衰えも見られない。
「身長差はざっと見積もって一千倍……質量差は十億倍といったところか」
随分と絶望的な数値じゃな、と分析するサイボーグはクレア・フォースフェンサー(旧認識番号・f09175)。
「かような状況をも乗り越えてきたのがわしら猟兵じゃ。帝竜やクェーサービーストよりは組みしやすかろうて」
そう力まずに言う彼女はフォトンフェンサーという名の騎士型機動兵器に乗って神経接続し、即座に行動できるように構えている。
――寧ろそう考えねば、怖くて逃げだしたくなるだろうとも内心思いながら。
『さあ、行きますよ!』
そう魔王の口から告げられた直後、天槍全体から強烈なオーラが噴出し後方に向かって流れ出す。
それを推進力として爆発的に加速してクレアに突っ込んでくる。見切りの技術を極限まで研ぎ澄ませた彼女は、即座に機動兵器を操り武器である光の弓より天槍に向けて矢を放つ。
光の矢自体は噴出するオーラと圧倒的な質量を前に攻撃としては機能しなかったが、ほんの僅かに槍先をずらす事に成功する。
そして抜かれた光の剣をジャストタイミングで叩きつけ、クレア自身に直撃せぬようにずらし逸らして凌がんとする。
莫大な激突ダメージ全てを完全に逸らし切る事はできない。彼女の見切りの技術をもってしてもフェンサーが半壊する程のダメージを受けてしまう。
(「だがこれなら十分」)
破損したフェンサーから即座に離脱し天槍を蹴って距離を取りつつ彼女自身の得物であるフォトンボウに光矢を番え、放つ。
山をも越える巨体の魔王と同程度の全長を誇る天槍が魔王の仮面とクレアの距離――しかし彼女の弓はその距離をも射抜く。
極限まで集中し、無言で矢を放てば甲冑や玉鋼すらも断ち貫く光矢は狙い過たずに仮面へと突き刺さり、女性のものとは違う男の絶叫が周囲に響き渡る。
そして不自然な何かに操られるような挙動で魔王が後退、そしてその気配が威圧感から僅かに穏やかなものへと揺らぎ変化する。
「此度の戦争で現れたおぬしは、おぬしで最後のようじゃ。何か伝え忘れたことがあったりはしないかの?」
『いいえ、ありません。……伝えられることは、すべて』
クレアの問いかけに迷いなく巨体の姫君はそう応える。
そしてまた悪しき気配が立ち込め、魔王の気配が変化していって、天槍を構え直す。
既に満身創痍の魔王――次が最後になるだろうと思いつつ、クレアは光剣を握り締めた。
成功
🔵🔵🔴
エンティ・シェア
人の身体を登山して戦う日が来るとは
なんにせよ、初手躱せなきゃ話になんねぇ
一撃は軽いっつったってサイズの違いがどうしようもないし…
喰らえば相当やばいだろうからな
足を止めるな、見極めろ
無傷でいる必要はない。最低限、動ける程度に身を守る
生き残れば、十分
駆ける速度が落ちようと、獣奏器だけは手放さず
這ってでも仮面に近づいてやるよ
向かってくるものは、払わずにはいられないだろ?
二撃目が来れば、好機
しっかりと力を抜いた上で、かえしうた
仮面目がけて、叩き返してやる
響くのは綺麗な音色か不協和音か
どちらにしろ、それが答えだよゼルデギロス
姫さんの在りようはどこまでも美しくて
あんたの企みは、どこまでもお粗末ってことだ
箒星・仄々
操られてなお
私達を導こうとしてくださるとは感動です
その思いに応えましょう
怒涛の連続攻撃ではありますが…
天槍を引いて出すタイムラグがあります
猫のお髭で全集中
空気の振動から槍の軌跡を察知して
巨大槍が起こす風圧も借りて
ひらりひらりと避けて見せましょう
先制をいなしたら
指笛で影から召喚したランさんに騎乗
自身とランさんをぺろしてUC
槍に対してランさんの吻で突撃
と見せかけてするっと摩擦抵抗ないので
斬り落としの如くすり抜け
その機に飛びついてぺろ
得物を落としたりすってんころりんしてもらいます
最後は摩擦0の超速で突撃して
仮面を砕きます
終幕
姫へ鎮魂の調べ
静かな眠りを
黒城・魅夜
古来より槍止めの術は至難とされてきたものですが、ましてあの大きさ
一撃が軽い、と言っても、あの槍の質量自体は無論軽視できないでしょうね
では、こんな方法はいかがでしょう
鎖を早業で舞わせ衝撃波を発生、これによる結界を展開
槍の勢いを僅かでも鈍らせてから
アイテムでもある私の髪「殺め髪」を範囲攻撃のように伸ばし
さらにオーラを纏わせて強化して槍を絡め取ります
完全に止められなくても見切りが通用する程度には鈍化できるはず
衣服を変化させ相手の攻撃が起こした風に乗り空中戦で飛翔して接近
UCを発動して仮面を集中攻撃し砕きます
あなたのお覚悟には敬意を
……こほん、その素敵なファッションセンスにも敬意を払います、ええ
既に仮面は崩壊寸前の状態ながら、魔王ゼルデギロスはしっかりと地を踏みしめ猟兵達へその巨槍を構え闘志を漲らせている。
「人の身体を登山して戦う日が来るとは……」
白兎のぬいぐるみをストラップに変え、山よりも巨大な魔王を見上げ呟く悪霊はエンティ・シェア(欠片・f00526)。
多重人格者でもある彼、この場で表出している人格は不愛想なリージュだ。
「古来より槍止めの術は至難とされてきたものですが……」
魔王ゼルデギロスの戦いぶりを見、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は呟いた。
人間サイズですら鋭き突きは止めるのに難儀する、それに加えて山をも斬りかねない烈しき天槍のサイズは規格外の巨大さ。
複数の槍技を組み合わせたユーベルコードは一つ一つの攻撃が軽いという欠点はあれど、あの質量では欠点足り得ないだろう。
「……操られてなお私達を導こうとしてくださるとは感動です」
黒の毛並みの箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は、大きな緑の目で山のような巨体の魔王を見上げていた。
彼女が操られているのは言動からもよく分かる。その上で、支配だけを切り離したり解除する事が不可能だという事も。
『さあ、この忌まわしき魔王を乗り越え、終焉を!』
鼓舞するように魔王ゼルデギロスは自身を討つように猟兵達へそう呼びかける。
「あなたのお覚悟には敬意を……こほん、その素敵なファッションセンスにも敬意を払います、ええ」
少々独特な格好の巨人の女性ではあるが語られた覚悟は紛れもなく本物。魅夜はそのいずれにも敬意を表し、そして試練を乗り越えると決意を固め戦に臨む。
「その思いに応えましょう!」
すらりとカッツェンナーゲルーー猫の爪の意味を持つ細身の魔法剣を抜いて構える仄々。悪霊の青年も無言ながらその瞳に決意に満ちている。
そんな猟兵達の姿に魔王の口元は一瞬微笑み、そしてすぐに引き結ばれて攻撃を開始した。
先手で繰り出されるのは魔王の目にも止まらぬ速度の無数の突き、ほんの僅かの隙間も無い槍衾の壁が猟兵達に襲い掛かる。
それを躱す為に悪霊はその槍から目を離さぬように走り始めた。
(「なんにせよ、初手躱せなきゃ話になんねぇ」)
サイズの違いはどうしようもない。掠めただけで手足の一本どころか胴体の大半が持っていかれる程に巨大な天槍が、魔王の恐るべき技量と速度で振るわれているから当たればその時点で酷い事になる。
脅威に思いながらどうにか槍の直撃を受けぬように地を駆けるリージュ、一方で仄々は猫のお髭に全神経を集中させて槍の軌道を見極め回避に専念していた。
武器を振るえば剣風を感じる事もあるが、この山のような天槍だと暴風のように周囲の気流がかき乱される。
天槍に引き起こされる気流の変化、空気の振動を感知して槍の攻撃のタイムラグを利用し槍の軌跡を予測、目にも止まらぬ槍の嵐の隙間を縫うようにひらりひらりと躱していく。
それは敵の強烈な攻撃の余波も利用した回避――決して小柄だから風圧に吹き飛ばされて制御不能になっている訳ではないのだ。
(「……大丈夫なんでしょうか」)
ただ、後方から魅夜が見る限り少しばかり心配になるような機動ではある。
そして天槍の攻撃は続く。槍衾は更に速度を増し、回避する猟兵達を貫かんとその密度を高め逃げ場を奪おうとする。
そのタイミングで槍と猟兵達の中間地点にじゃらじゃらと網のように伸びた鎖が舞う。魅夜の早業から繰り出された鎖からは槍を鈍らせる衝撃波を発生させ、猟兵を守る結界を展開する。
圧倒的な質量の天槍を完全に阻む事は当然できない。だが、僅かにその速度を鈍らせる目的は叶い、黒きケットシーと悪霊の青年が回避する為の隙が生まれる。
その隙間を見逃さずリージュは全速力で走り、どうにか致命の連撃をやり過ごしながら前へ、魔王の仮面へと距離を詰めていく。
今の彼にできる事はと言えば足を止めぬ事、そして見極める事。
――どんな位置からでもその動き自体は見る事はできるが、死そのものが襲い掛かっているような現状には思わず目を背けてしまいたくなる。
服の端を回転する天槍が掠めた。それだけで彼の体は大きくバランスを崩し、次の致命の一撃を受けてしまう隙ができてしまうだろう。
だが彼は多少鈍れども足は止めず、魔王の構えを、腕を、繰り出される技から目を離さない。
無傷の必要はない、ただその手の獣奏器を離さぬように握り、致命の攻撃を躱す事だけを考え彼はひた走っていた。
そして無限にも続くような天槍の連撃が一瞬止まる。
卓越した戦闘技術を誇る魔王ゼルデギロス、それは本当に集中していなければ見出せないであろう、隙。
「……ここです!」
そしてそれを魅夜は見逃しはしない。ギリギリ見切れる速度に鈍った天槍に、魅夜の長く伸びた黒髪が絡みつく。
元より鋼を断つ切れ味を有する暗器として操る彼女の髪は、禍々しきオーラを纏い何重にも槍を絡めとる。
魔王ゼルデギロスはそのまま天槍を引き戻し次の攻撃に移ろうとするが、魅夜はその勢いさえも借りて漆黒の衣を風を捉えやすいように変形させてゼルデギロスへと加速。
景色が後方に高速で流れていく中、手元に引き戻された天槍が次の突きに移る瞬間に魅夜は一気に髪を伸ばし減速せぬまま魔王の仮面へと飛び込んでいく。
「こちらから行きます!」
更に先制攻撃をいなし切った黒のケットシーも指笛を鳴らして影から巨大な目旗魚であるランさんを召喚して、その背に騎乗。
その際軽くぺろりと目旗魚の口吻から胴までと自身を舐めたのはその次への布石。
「ランさん全速力で行ってください!」
そう仄々が言えば、ランさんは飲み込んだメガリスの力で空へと飛翔して魅夜に続く。
二人を迎撃する為に振るわれる天槍、その余波で地が砕け、魔王を目指し駆けていたリージュの体が宙へと跳ね上げられてしまう。
そんな彼の隙を魔王は見逃すことなく、強烈な貫通衝撃波を伴う高速の一突きを放つ。
貫通どころか消し飛ばされるだろう一撃、そして今彼がいるのは回避など望めない空中――そんな窮地において、赤髪の青年は空中に弾かれながらも抵抗する様子もなく体から力を抜いていた。
今更抵抗もできないし、最初からそのつもりもない。必要なのは覚悟、怖れて体が強張ってしまえばこのユーベルコードは機能しないのだから。
(「生き残れば、十分」)
巨大な貫通衝撃波が恐るべき勢いで悪霊に命中しその身体を――貫かない。
流水のように変幻自在技の数々で敵を捉え穿つ天槍、しかしユーベルコードによる攻撃であるそれは、ユーベルコードを発動させている彼に触れた事で無効化されたのだ。
「聞けよ、お前の音だ」
ユーベルコード【かえしうた】、そう告げると同時、彼が握りしめていた獣奏器から音波が放たれる。
彼のいる天槍の先から邪悪な仮面までの距離は音でも数秒かかる位には離れている。
しかし、関係ない。
どこまでも響く、天槍の連撃を変換した強烈な音波は鋭き槍の如く指向性を以て魔王の仮面へと襲い掛かり、漂う邪悪なオーラを掻き乱し仮面へとダメージを刻み込む。
そしてその音波にダメージを受けながらも魔王は天槍をドリル回転させ目旗魚に騎乗した仄々に真っすぐ突き出す。
予備動作のほぼないその一撃は、周囲に気流の乱れも然して起こさぬ一点集中、流石の仄々も回避はできないであろう一撃だ。
けれど、ランさんの口吻に触れた天槍は空飛ぶ魚もケットシーも貫けず、するりと魚の真下へと滑らせられるようにしてすり抜けられてしまう。
何故ならばユーベルコードによりその部位の摩擦抵抗が極限まで減らされていたからだ。
すり抜けた直後の隙を見逃さず、ランさんから飛び降りて仄々がが飛びついたのは天槍握り締めるその右手の手元。
特に強く力がかかっている部分を見切り、ぺろと舐めれば突然摩擦を失った影響で天槍がその手からすっぽ抜けてしまう。
反射的に逆の手で抜けかけた天槍を掴む魔王だが、そのまま仄々は自身の極限まで減らされた摩擦を利用し、魔王の伸ばされた腕を滑走路のようにして超速度で仮面へと飛び込んでいく。
そして天槍が抜けそうになり生じた隙に魅夜がユーベルコードを起動。
「殺屠滅絶、もって四象の予言と為す、黒き風に崩れ征け運命」
漆黒の翼が魅夜の背より広がり羽ばたきと共に黒き風を巻き起こす。
構えを乱された状態から迎撃にかかろうとするゼルデギロス、けれどもその腕は風に拘束されてリカバリーできない。
――黒髪の呪いは猟兵達の希望のように。
ユーベルコードにより放たれた魅夜の鎖は、空間を跳躍して仮面へと殺到する。
一つ、二つ、三つと命中――そして四つ目が仮面に襲い掛かろうとした直前、魔王は天槍のドリル突撃による加速で一気に移動し最後の一撃を回避せんとする。
しかし、
「これで、終わりです!」
移動しきる前に軽やかな土鈴の音と共に飛び込んできた仄々の『ねこのつめ』が仮面に突き立てられ、魔力が流し込まれる
仮面のヒビは大きくなっていって、更に空間を跳躍してきた魅夜の最後の鎖が仮面を強かに打ち据える。
死の連撃を受けた仮面の全体に茨の如きヒビが広がっていき、ガラスがひび割れるような不協和音が響き渡る。
「どちらにしろ、それが答えだよゼルデギロス」
不協和音と共に響く声にならぬ絶叫に対し、悪霊の青年は冷徹に言い捨てた。
「姫さんの在りようはどこまでも美しくて、あんたの企みは、どこまでもお粗末ってことだ」
不本意にも復活させられて操られる魔王の姿を一瞬たりとも見逃さぬように目を逸らさなかった彼の、その言葉と共に悪意の仮面は完全に崩壊した。
――砕けた仮面の下から現れた美しき顔は穏やかに微笑んでいた。
そんな彼女へ黒猫の奏でる竪琴の鎮魂の調べが穏やかに姫君を包み込んでいく。
姫君の巨体が完全に消失し再び静かに眠りへと還るまで、鎮魂の調べは安らかに、やわらかく響き渡っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵