7thKING WAR⑬〜天使再臨
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デビルキングワールド某所。ここは東のラスボス『スーパーカオスドラゴン』が丁寧な立ち退き交渉を終えた後に暴れまわった事により生まれた、崩壊を続ける『カオスの混沌領域』である。
今その地で、一人の女が祈りを捧げていた。女の背にあるのは美しき六翼。それはまるで神々しき天の御使い……あるいはそれより堕ちし悪魔の象徴の如しだ。
「ああ、ガチデビル様……どうか私に、新たなる力を……!」
その女が祈るのは、この世界唯一にして最大の悪。初代悪魔王として暴虐を尽くし、今オブリビオンとして蘇り再びこの世界を手中に収めんとする存在。そしてそれに祈る彼女もまた、同じオブリビオンであった。
だが、彼女の力はガチデビルはもちろん、他の7thKING候補よりもはるかに弱い。もちろん彼女とて一端のボス級の力はあるのだが、この戦いにおいては余りにも比較対象が強すぎる。
それ故彼女は悪魔に祈った。心より真摯に。あるいは、自らの立場も忘れ恥も外聞もなく。
そして、それは答えた。
『天使よ、お前も愚かしき望みに命を賭すか』
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「お疲れ様。今日も7thKING WARの依頼よ」
子豚・オーロラ(豚房流剣士・f02440)が集まった猟兵たちに言う。
「今日行ってもらうのは東のラスボス『スーパーカオスドラゴン』勢力下の『カオスの混沌領域』というところ。ここは彼が大暴れした結果崩壊を続ける領域よ。スーパーカオスドラゴンは自分の勢力下がこうなるのは分かっているから、事前に丁寧かつ誠実にそこに住む者と交渉して同意の上で立ち退かせて安全を確保してから暴れているらしいわね」
新しい居住地と快適な生活の保障、そんな抗いがたい手段を容赦なく使う彼の立ち退き要求に逆らえるものはなく、混沌領域は着々とその範囲を広げているという。
「ここの特徴は、猟兵の恐怖心や敗北感が形をとって現れること。そして厄介なのは、悪魔やオブリビオンはそれを『憑装』として扱えるということ。中にはそれ目当てでこの混沌領域に訪れる者もいるみたいね」
なぜ猟兵がピンポイントに対象にされているのかは分からない。ただいかに強いとはいえ、悪魔たちは所詮基本平和なデビルキングワールドしか知らない。いくつもの世界を渡り歩いて多くの恐怖、強敵を知る猟兵の記憶の方がより混沌に影響を与えやすいのかもしれない。
「今回も一人のオブリビオンがここで憑装を得ることに成功しているわ。『セラフィムブラスター』という天使型のオブリビオンなんだけど、彼女に憑装としてついたのは……あの『大天使ブラキエル』よ」
その名に猟兵の間にどよめきが起こる。アックス&ウィザーズのオウガ・フォーミュラにして猟書家の首魁。今まで猟兵と戦ったオブリビオンの中でも指折りの強者が、憑装としてであれ再臨したというのだから当然である。当のオーロラ自身も彼と戦ったことがありその強さは身をもって知っているため、その表情は硬い。
「ただ、これは魔軍転生と違って本人が降りてきてるわけじゃない。あくまで猟兵の記憶と恐怖から作られたものよ。ただ、恐怖心を元に作られているだけあって、怖気づけばそれだけ相手は強くなるわ」
ここでの恐怖とは単純な怯えだけでなく、相手に対する不安や、その存在や思想に対しての無暗な拒絶や怒りなど、自制のきかない負の感情全てが含まれる。
「セラフィムブラスターはこの力を持ってこの混沌領域を制圧、ひいてはガチデビルの力になることを望んでいるわ。彼はこの世界において唯一の明確な悪。それに与するというなら倒すよりほかはない。戦闘ではまずセラフィムブラスター自身の能力であるガトリングガンを用いた様々な戦法を取ってくる。さらにそれに加え、憑装しているブラキエルが呼応するように動いてさらなる攻撃をかけてくるわ」
別れて動くことは出来ないとはいえ、実質二人を同時に相手取るような状態だ。しかもブラキエルは『憑装』であるが故直接攻撃することは出来ない。
「ただ、セラフィムブラスターの方は正面から相手するしかないけど、ブラキエルはあくまで猟兵の恐怖心から現れたもの。その恐怖心を知識や経験を持って正しく乗り越えれば、憑装を弱めることができる。戦った経験があるならその時の戦法を再現してみてもいいし、ないなら報告書を読んで対策を練っていくのもいい。それが慢心と違う根拠ある確かな自信であれば、それだけでブラキエルに抗する力になるはずよ」
確かに強敵であった。だが、結果として猟兵は彼を下しているのだ。その経験、知識は間違いなく猟兵の中に蓄えられている。
「恐怖というのは本来生存に必要な感情よ。それを制してこそ戦いの中で正しく行く手行くことができる。皆が過去の恐怖を糧にいかに強くなったか、どうか見せてちょうだい」
そう言ってオーロラはグリモアを起動し、猟兵たちを混沌領域へと送り出すのであった。
鳴声海矢
こんにちは、鳴声海矢です。こんな戦争ですがシリアス目の依頼も。
今回のプレイングボーナスはこちら。
『プレイングボーナス……かつての強敵に対する恐怖心や敗北感を描写し、乗り越える』
今回の敵はボス敵『セラフィムブラスター』に、アックス&ウィザーズのオウガ・フォーミュラ『大天使ブラキエル』が憑装としてついています。ブラキエルは猟兵の恐怖心から再現された存在なので、それに対する恐怖心や敗北感を描写し、乗り越えることでプレイングボーナスとなります。
一例としては、戦ったことがあるなら相手の強さを思い出し、当時に比べ自分がどれくらい強くなったか冷静に判断する、通じなかった技や作戦を改良し、より完成度の高い形でぶつけるなど。戦ったことがないなら当時の予兆やリプレイを読むなどして相手がどれだけヤバい奴かを予習し、かつそれでも自分が勝るにはどうすればいいか考えるなど。勝利した他人の行動を参考にするのも良いでしょう。
あくまで『乗り越える』のが条件なので、『知らないから怖くない』とか『そもそも当時から恐れてない』とかは通じ辛いです。少なくとも今のカンストレベルでも無策でタイマンすれば確実に負ける程度には強いはずです。
具体的な敵の能力値別行動としてはセラフィムブラスター自身のUCに加え、
『POW:岩の腕で強力な一撃を繰り出す』
『SPD:絶対物質ブラキオンの鎧でこちらのUCを防ぐ』
『WIZ:浴びると徐々に石化する光線を放つ』
以上を追加で行ってきます。こちらはUC扱いではなく、ブラキエル本人が使用したものから一部効果がオミットされているので、恐怖の克服と合わせて攻略の鍵にしてください。
ちなみにセラフィムブラスター自身はブラキエルを『超格上な天使のオブリビオン』くらいにしか思っていません。敬意は持っていますが彼女の信仰は基本ガチデビルに向いています。
それでは、恐怖を乗り越えたプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『セラフィムブラスター』
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POW : 銃撃の使徒
自身の【翼】を代償に、【空飛ぶデビルガトリング】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【魔力弾の銃撃】で戦う。
SPD : セラフィムブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【デビルガトリング】から【銃弾の雨】を放つ。
WIZ : スマイルガトリング
自身が【微笑んでいる】いる間、レベルm半径内の対象全てに【デビルガトリングの掃射】によるダメージか【セラフィムの加護】による治癒を与え続ける。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
ブラキエルさんですかぁ。
強力な相手でしたが、私も当時より力を増しておりますので。
新しい力、お見せしますぅ。
『FAS』を使用し飛行、【餮囹】を発動し範囲内を『乳白色の波動』で覆いますねぇ。
強化されても『ガトリング弾のサイズ』は同じ、短時間で『吸収』可能ですぅ。
重量のある『岩の腕』は『重力』の影響を受け易い筈、『FGS』の重力結界で偏向させ『FMS』のバリアで防御するか、『FIS』による瞬間移動で回避しましょう。
後は天使自身の『吸収』に『FRS』『FSS』の[砲撃]と『FDS』の[爆撃]を集中、一気に叩きますぅ。
*【餮囹】『FAS』『FGS』『FIS』等は当時未修得/未所持
ソニア・シルヴァーヌ
ブラキエルですか…私は話に聞いただけではあるのですが、相当に強大な存在であったそうですね。
然し、彼もまた猟兵によって討たれた。即ち勝てない敵ではないのです。
その事実を胸に、敵へ向かっていきましょう。
ブラキエルの岩腕は、Elder Armを出しての【盾受け】で凌ぎ、セラフィム本体の銃撃は【オーラ防御】によるオーラの気流で受け流す形でのダメージ軽減を試みます。
凌ぎましたら悪意の戯れを発動、自身を強化した上にて残酷な光翼での【推力移動】で飛翔。
間合いを詰めて触手で打ち据えたり、Elder Armで殴りかかったりします。
触手での【捕縛】が成功したら波動砲を至近距離から叩き込むとしましょう。
崩壊を続ける『カオスの混沌領域』で天使の祈りに答えたもの。それはやはり天使の姿をしたものであった。
「ガチデビル様、ありがとうございます……大いなる天使よ、どうか私と共にこの世界にカタストロフを」
『天を目指した果てこのような地の底に迷い出た私に願うか。お前もまた愚かなる天使であるのだな』
悪魔に感謝し、悪魔に身を捧げる天使にその天使は冷たく言った。だが、両者が分かたれることはない。全てを憂うその天使は、真摯で愚かな願いを持つ者にこそ力を与えようとしているのだ。
そしてその天使の名を知る者が、ここに現れた。
「ブラキエルさんですかぁ」
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)が呼んだ通り、その天使の名は大天使ブラキエル。フォーミュラ亡き世界に侵攻する猟書家の首魁とも呼べる存在であり、アックス&ウィザーズのオウガ・フォーミュラとして君臨せんとした強大なオブリビオンである。
その強さは猟兵と戦った数多い敵の中でも屈指の上位に入る。またただ強いだけでなく猟書家の侵略という新たな戦いを齎した存在ということもあり、その名は直接対峙したことのない者にも知れ渡っていた。
「ブラキエルですか……私は話に聞いただけではあるのですが、相当に強大な存在であったそうですね」
ソニア・シルヴァーヌ(玻璃の白百合ラスボス仕立て・f31357)はブラキエルと直接相まみえたことはない。だがその強さは様々な場所から聞こえ、たとえ直接会ったことはなくともその強大さだけは容易に想像がつくものであった。
「猟兵すら恐れる頼もしき天使よ。私と共にどうか真の悪の世界を……」
彼を背に負う六翼の天使、セラフィムブラスターは自身の翼のうち二つを自らもぎ取り、宙に投げた。その翼は二丁の巨大なガトリングガンになり、猟兵に銃口を向ける。そしてそれを構えるかのように、ブラキエルは己の象徴の一つである岩の腕を銃に添えた。
両者を同時に相手取るこの状況。それがいかに困難かは想像に難くない。
「然し、彼もまた猟兵によって討たれた。即ち勝てない敵ではないのです」
「強力な相手でしたが、私も当時より力を増しておりますので。新しい力、お見せしますぅ」
そして、それが乗り越えられぬことではないこと。それもまた、確かな事。その事実を胸に、二人は敵に向かい合った。
「大いなる豊饒の女神の使徒の名に於いて、咎人を留め置く扉の鍵を此処に」
るこるは飛行しながら【豊乳女神の加護・餮囹】を発動する。それに対し、まずはセラフィムブラスターがガトリングガンを撃ちかけた。
それに対してはユーベルコードが撒く波動で吸収をかける。小さな弾丸はそれで消えていくが、ならばとブラキエルの岩の腕が凄まじい勢いでそこに叩きつけられた。
「流石に、重いけど……!」
その腕は、割って入ったソニアが筋肉質な巨腕『Elder Arm』で受けた。完全に受け止めるのではなく、角度を付けて流すことで衝撃をまともに受けないようにして破壊力を少しでも抑える。
ならばそちらをとセラフィムブラスターがガトリングガンを撃ちかけるも、それもまた自身のオーラで受け流し、るこるの方へやって完全に吸収させた。
『望みままならぬ身なれど、己が腕くらいは動かせる』
ブラキエルは岩の腕を動かし、ソニアを躱してそれをるこるに直接叩きつける。だがるこるの体は瞬時に移動し、岩の腕は狙いを失ったまま勢いを削がれその下方に叩きつけられるにとどまった。
『地に這うが私に似合いと。何も言い返せぬ』
冷たい表情のままそう言うブラキエル。重力の壁で強引に逸らされた岩の腕は、彼の言通りに地面に張り付けにされていた。
るこるの用いたユーベルコードや飛行、重力、瞬間移動の道具、それは全てかつて彼女がブラキエルと戦った時にはまだなかったものだ。以前戦った時は、全ての守りを何度も破られ再生を繰り返すことでどうにかそれに抗した。同じ手を用いても、今度はセラフィムブラスターの存在によって越えられるかもしれない。なれば新しい力で、より確実に。
「天使の翼なんていらない、ガチデビル様のためならば!」
悪魔への信仰を掲げ、さらに翼をもぎ取ろうとするセラフィムブラスター。だが、そのあがきをソニアは冷たく切り捨てた。
「これも生き物のサガですか……」
【悪意の戯れ】の力で倍加した翼でセラフィムブラスターに接近し、その身を触手で捉えて筋肉の腕で殴りつける。
「ぐぼっ……!」
くぐもった声を上げ、血反吐を吐くセラフィムブラスター。それに対し、ブラキエルは何も返さない。
彼は猟兵の恐怖と不安から生まれた憑装。正しく恐れ、不安を乗り越えればその力は削がれる。
既知の強敵に新たな力で、未知の強敵に己の持つ十全の力で、それによって強大な天使の力は今弱められていた。
そのままるこるの残りの兵装と、ソニアの霊障『波動砲』が至近からセラフィムブラスターに叩き込まれる。
「が、あ……」
ガトリングガンを破壊され、残る四翼を広げ地に倒れるセラフィムブラスター。その姿は、かつて彼の大天使がたどった末路をなぞるかのようであり、猟兵が彼を乗り越えた事実を自ら証としたようでもあった。
大成功
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グレナディン・サンライズ(サポート)
『ここはこの年寄りに任せてもらおうかね?』
『こう見えても、まだまだ衰えちゃいないよ』
年齢3桁の婆。
スペースシップワールド出身の元宇宙海賊。
主な武装はフォースセイバーとブラスター。
戦闘スタイルは基本的には前衛遊撃。敵を翻弄するような戦いを好む。
グルメではない酒好き。
年齢なりの経験を積んでいるので、冷静さと余裕をなくすことはない。
口調(あたし、あんた、だね、だよ、~かい?)
オブリビオンや悪魔に年齢の概念は薄い。一見子供のような見た目でも数百年生きている者や、生きていた時代が遥か昔な者もいる。1stKINGであるガチデビルに仕え、さらにここ数十年眠り続けていたジャッジメントガールなどが良い例だろう。あるいは元から神話的存在を模したような見た目のものなど、実際はどれほどの年月を生きているものか。
「ここはこの年寄りに任せてもらおうかね?」
だが、グレナディン・サンライズ(永遠の挑戦者・f00626)はそれ相手に年寄りを名乗ることに躊躇しなかった。そこにあるのは、年齢と共に積み上げ、刻まれたものへの自負と信頼。
「人間風情が年輪を語るとはおこがましい」
『短い時に永劫さえ凝縮するのが人間。それを重ねたとあればどれほどの高さになろうな』
それに真逆の言葉を返す二人の天使。人を下に見る者と人であるが故侮らぬ者の差は、天使としての格の違いか。
だが、人そのものを侮ったとしても猟兵を軽く見ることはない。セラフィムブラスターは残る四翼のうちまた二つを躊躇なくもぎ取り、空舞うガトリングガンへと変えた。
「撃ち抜きなさい!」
指示と共に宙を舞い、情報から弾丸の雨を降らせる二つのガトリングガン。その鉛玉の嵐を、グレナディンはフォースセイバーを振り回し高速で切り飛ばしていく。
「天使ってのは紀元前で頭が止まっちまってるのかい?」
老練なフォースナイトに銃を撃ちかけるのはただ相手を引き立てるだけ。ある種のお約束を見せつけながら切り進んでいくグレナディン。
『如何な時を経ても変わらぬ真理もあろう。力は偽らぬ』
ブラキエルが岩の腕を出し、それを真っ直ぐにグレナディンに向けて叩きつけた。枯れ木の如き体をへし折るには十分すぎるその力を、フォースローブをふわりとたなびかせ吹き飛ばされるような動きでゆっくりと、だがその実全力を持って躱す。
「なるほどね……案外面倒見がいいってことか」
セラフィムブラスターの隙や失敗をブラキエルが埋めている。同種の格上を憑装したが故のその動きはまさに恐るべきもの。そしてセラフィムブラスターも、決して弱いわけではない。
これを如何にすべきか。その答えは、相手自身が既に言ってくれていた。
それを成すべく、岩の腕を飛び越え銃弾を切り払いグレナディンは一気に距離を詰める。
『戻れぬと思ったか』
ブラキエルが岩の腕を戻し、後ろからグレナディンを叩き潰そうとする。しかし、その前にグレナディンは距離に入っていた。
「下がらなきゃ怪我するよ!」
至近距離から、グレナディンは二人の天使に【理力榴弾】を叩きつけた。長距離からでも撃てる技だが、飛び道具主体の戦いをする二人相手なら近づいた方が何かとやりやすい。
炸裂する攻撃的なオーラの塊が、露出の高い天使たちの肌を容赦なく引き裂き、抉る。
「きゃああああっ!」
『力、か……!』
「豆鉄砲や石くれよりよっぽど効くだろう?」
特筆するような秘密はない力の塊。力強いということに時代も年齢も、何も関係はない。
恐ろしい相手を力でねじ伏せる。それを蛮勇と呼ばれぬように成すにはどうすればいいか。それを見せたのは、正に恐れを超え長く生きてきた年の功と言うべきものであった。
成功
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アラン・スミシー
やれやれ、ブラキエルというと頭も体も硬い彼だったかね?
役目を終えてもまだ残っているとは……、私たちはもう『天上界』にいたったよ。
銃撃戦は苦手じゃないが、2対1は少しばかり分が悪いね。ましてや話を聞く限りまともに相手をしたくない御仁だ。おお怖い怖い。
さて、おそらく彼女の方もそれなりに固くなってはいるのだろうけど…、あのガトリングは当時無かったね。ならその銃口に弾丸を撃ち込んでやろう。
外側からならともかく、内側からの衝撃に耐えられるかい?
そして堕天使のお嬢さん、君の瞳は宝石でできている訳じゃ無いはずだ。だから口づけの代わりに鉛玉をプレゼントしよう。無骨で悪いが贈り物のセンスは無いんでね。
大天使ブラキエル、その目的は友であるブックドミネーターの遺志を継ぎ、天上界を目指すことであった。彼は天上にある存在を愚か者と吐き捨てながらもただ一途に、その愚か者と呼ぶ者たちのあり得ぬ慈悲に縋ってまでその地を求め続けていた。
「やれやれ、ブラキエルというと頭も体も硬い彼だったかね?」
アラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)は彼のその姿勢を、その司る絶対物質と合わせそう評した。
「天の……神の裁断は絶対。人間如きが変えられると思わないでくださいませ」
『骸の海に落ち、オブリビオンとなったその日から全ては定められていたこと。友と猟書家たちに報いる術を私は他に知らぬ』
二人の天使はそれぞれに言葉を返すが、アランはやはりブラキエルの方を見て軽く笑った。
「役目を終えてもまだ残っているとは……私たちはもう『天上界』にいたったよ」
ブルーアルカディア。空駆ける船と冒険者のその世界は、ブックドミネーターとブラキエルが求めた天上界であると目されている。現状それが明言されたわけではないが、雲の上に広がるその世界がその名を冠して否定されることは決してないだろう。
『そうか。ならば失望したであろう。いや、言わずともよい。今の私の役目はお前たちを恐れさせること、そしてこの愚かなる天使の鎧となること』
ブラキエルの言葉と共に、肌も露であったセラフィムブラスターの体に荘厳な鎧が纏われる。それはただの鎧ではなく、絶対物質ブラキオン。ブラキエルの司るユーベルコードさえ防ぐ絶対の鎧だ。
見るからに重厚なその鎧を纏いながら、しかしまるで何の重さも感じていないかのようにセラフィムブラスターが宙に舞う。ブラキエルの力はセラフィムブラスターを阻害することはなく、彼女の飛翔と射撃の力を十全に引き立たせてさえいた。
「銃撃戦は苦手じゃないが、2対1は少しばかり分が悪いね。ましてや話を聞く限りまともに相手をしたくない御仁だ。おお怖い怖い」
挑発じみた口調だが、相手への恐れは本物。決して弱くはないオブリビオンが、意思の通じる大物の援護を受けている。その状況が恐ろしくないわけがない。だが恐怖を自覚することはあれど、それをわざわざ相手に曝してやる必要もまたないのだ。
そして何が恐ろしいかを分析すれば、そこにこそ突破口が見えてくる。
「恐れ、平伏しなさい。私はただの代行者なれど、背に負うは悪魔の王、大いなる天使。我が矮小なる身を持って、その威光を知らしめましょう」
自身が威を借りていることなど承知の上とばかりに、セラフィムブラスターが上空を高速で飛び回り銃弾の雨を降らす。命を奪う鉛の雨が降り注ぐその光景は、まさに悪魔の齎す最終戦争か、あるいは神が人を見限った終末の如し。
その速度、アランならば決して見切れぬものではない。しかし、それを守るためのブラキオンの鎧である。いかに正確に撃ったとてそれを貫くことは出来ないだろう。優れた銃士故に、アランは己の銃の限界を正しく理解していた。
「さて、おそらく彼女の方もそれなりに固くなってはいるのだろうけど……」
そしてブラキエルを憑装したセラフィムブラスターの肉体も、その域とまではいかずとも相応に強化されていよう。
「悪魔と神、好きな方に祈りなさい」
『祈ったとて何も答えはあるまいがな』
攻め時を見極めようとするアランに、上空から天使たちが告げる。その言葉は決して奢りではない。彼女たちにはそれだけの力は間違いなくあるのだ。
「意外とそうでもないさ。ピンチを脱するには一発の弾丸さえあれば問題ない。わざわざ銀の弾丸なんか探さなくても良い。必要なのは確信と祈り、ハートって奴さ」
飄々としたその言葉は、しかしこの状況で極限まで集中した精神から出たもの。そして放たれた弾丸が向かうのは高速で飛び回るセラフィムブラスターでも、もちろんその背に宿るブラキエルでもない。セラフィムブラスターが持つガトリングガン、高速で回転するその銃口に、まるで招き寄せられたかの如く吸い込まれた。
「外側からならともかく、内側からの衝撃に耐えられるかい?」
ブラキエル本人は持っていなかった銃。そして鎧が纏われることはない武器。この【最終局面】で、アランは敵の最大の武器が最大の弱点と見切ったのだ。
不快な轟音を立てガトリングガンが天使の手の中で暴れまわる。そしてそのまま中の弾丸と火薬に誘爆し、巨大なガトリングガンが大爆発を起こした。
「きゃあっ!」
手元での爆発でバランスを崩し、地表へ落下するセラフィムブラスター。地面に強かに打ち付けられた時、まるでその衝撃で砕けるようにブラキオンの鎧が消え去った。
「な……大天使よ、どうして!?」
強き力の突破口を自ら見つけ出した。それはブラキエルの力を自ら乗り越えたということであり、恐るべき力に打ち勝ったということでもあった。
「怖かったよ、本当に。だから急いで終わらせた」
顔を起こしたセラフィムブラスターのその眼前に、アランが銃を突きつける。
「そして堕天使のお嬢さん、君の瞳は宝石でできている訳じゃ無いはずだ。だから口づけの代わりに鉛玉をプレゼントしよう。無骨で悪いが贈り物のセンスは無いんでね」
そして引き金を引いたその瞬間、確かに恐怖に満ちた表情をしてセラフィムブラスターは消え去った。
悪魔に祈った天使はどこへ行くのか。それは分からないがオブリビオンとなった彼女の行く先は骸の海しかない。
銃をしまい、アランは混沌領域を立ち去る。今度は心の中からではない。現実に存在する恐るべき敵が、もうそこまで迫っているのだから。
大成功
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