燎原全体を覆い尽くす『黒い炎』は、探索者に圧倒的な恐怖と絶望を植え付けた上で悲劇の幻影を見せ、かれらに【悲劇に巻き込まれた無力な一般人】と錯覚させ力を奪った上で、圧倒的な暴力を以ていのちを刈り取ろうとする。
かくして、先発隊が持ち帰った情報をもとに、猟兵達は『黒い炎』に対処しながら少しずつ常闇の燎原の探索を進めているが、開始から3か月たった今でも上層への進出は果たせていない。
北瀬沙希
北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
よろしくお願い致します。
ダークセイヴァー上層への道を開くためには、もう少し常闇の燎原の探索を重ねる必要がありそうです。
過酷な幻影の中で圧倒的な絶望や恐怖に抗いながら、燎原の探索をお願い致します。
●本シナリオの構造
冒険→集団戦→ボス戦となります。
第1章は冒険『一筋の希望の光を絶やさないために』。
村人の希望たる教会が襲撃されようとしておりますので、迎撃の準備をお願いします。
ただし、猟兵達は『黒い炎』の効果で【無力な一般人のひとりである】と思い込まされておりますので、ユーベルコードの使用はできません。
力づくで突破するのではなく、無力な一般人として打てる手を打ち、希望を捨てずにいれば、おのずと道は開けるでしょう。
この章での準備状況は、2章の判定に影響します。
第2章は集団戦『朱殷の隷属戦士』
生者を滅ぼす先兵と化した戦士らが、教会を壊滅させるために一斉に襲撃しますので、撃退をお願い致します。
戦闘中も「自分は無力な一般人だ」との錯覚は付きまといますが、ユーベルコードの使用は可能です。勇気をもって対峙し、幻影と錯覚を振り払って下さい。
第3章はボス戦『戦争卿』ブラッド・ウォーデン』
両目があるべき場所から『黒い炎』が噴出している、破滅主義者で戦争狂の「狂えるオブリビオン」との戦闘です。
同族殺しや紋章持ちに匹敵する強敵ですが、「相手が抱いた恐怖や絶望の感情を感知する」ことで攻撃対象を選ぶ性質を持っているため、この性質をうまく利用して立ち回れれば有利に戦えるでしょう。
●プレイング受付について
全章、冒頭の断章追記後からプレイング受付を開始。
受付締切はマスターページやTwitter、タグにて告知致します。
なお、本シナリオはサポートをお呼びしつつ早めの進行を心がけますので、プレイングの採用は必要最小限となる見込みです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『一筋の希望の光を絶やさないために』
|
|
POW | 敵が現れそうな場所へ見当をつけて先回りし、待ち伏せして迎撃に備える |
SPD | 交流や説得により人々の信頼を勝ち取り、素早く避難誘導を行って人的被害を減らす |
WIZ | 術式を展開して、既に敵が何らかの仕込みをしていないか探り、発見したら無効化する。 |
👑7 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 |
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ダークセイヴァー地下第4層・???――過去の『幻影』
――闇に覆われし世界の片隅にある、隠れ里の外れにある小さな教会にて。
「あの騎士の襲撃からかろうじて逃げ延びられたのは……これだけか」
村長らしき初老の男性が、教会に身を寄せ合っている村人の人数を数え、小さくため息をつく。
突然隠れ里を襲撃した血塗れの鎧姿の『朱殷の隷属戦士』の手から逃れ、この教会に逃げ込めた村人の数は、20を少し超える程度。
その中には、恐怖と絶望に心を侵され、無力感に苛まれている猟兵たちの姿もあった。
「旅の者たちよ、このような状況に巻き込んでしまい、本当にすまない……」
村長は、村人と同様に震える猟兵たちに対し、丁寧な物腰で詫びる。
その物腰とは裏腹に、沈み込んだ村長の表情は、この教会に訪れる未来に不安を抱いているかのようだった。
――そう。
猟兵たちは既に『幻影』に取り込まれている。
転送されて直ぐ黒い炎に呑まれた猟兵たちは、強い恐怖と絶望を植え付けられ、自らを【無力な一般人】であると錯覚させられた上で、悲惨な過去の幻影を見せられている。
世界の祝福は植え付けられた無力感で一時的に剥ぎ取られているため、ユーベルコードは猟兵の力にならない。
一方、猟兵たちは、この後教会が『朱殷の隷属戦士』達に襲撃されることを知っている。
――そして、過去の歴史では、教会ごと蹂躙された村人たちが惨殺されたことも。
幸い、教会が襲撃されるまでには時間があるため、教会が現実と同じ末路を辿らぬ様、一般人なりに防衛、ないしは迎撃のための準備を整えてほしい。
今の猟兵たちは、村長や村人たちに「一般人の旅人」と認識されている。
多少無茶な行動を取ったとしても、村人たちから不審に思われることはないはずだ。
精神を蝕む恐怖と絶望に抗うために。
幻影の中だけでも、悲惨な過去を変えるために。
そして何より――幻影を打ち破り、力を取り戻すために。
猟兵たちは無力感に苛まれながら、一般人として行動を開始した。
※マスターより補足
第1章では、教会を守るための下準備を行うことになります。
POW/SPD/WIZを参考に、防衛・迎撃のための準備をお願い致します。
ちなみに、村人たちを避難させるかどうかは、任意です。
ただし、現在の猟兵たちは、黒い炎に呑まれて恐怖と絶望に心を支配され、強制的に無力な一般人だと思い込まされております。
そのため、1章の段階では【ユーベルコードの使用はできません】。
もしプレイング、ないしは指定UCでユーベルコードの指定があった場合、その箇所は無視して判定致しますので、ご注意ください。
力ずくで突破するより、悲劇に巻き込まれた一般人の立場から工夫して状況を打開するほうが、結果的により早く幻影を打ち破りやすくなるでしょう(プレイングボーナスの対象となります)。
なお、この章の結果は、2章に反映されます。
――それでは、より良い未来を目指して。
真宮・響
【真宮家】で参加
これは・・・酷い状況だね。でも何も出来ない一般人の家族連れが来たとて、何が出来るだろうか。いや、目の前の惨状を見過ごせずにいられるか。出来る限りの事をするよ。
【戦闘知識】で敵が襲撃してきそうな地点を予測、【怪力】で出来る限りの土嚢や石や材木を運んで即席の砦を作る。即崩されるだろうが足止めにはなるさ。
後、トラバサミやワイヤートラップなど出来るだけの罠を予測した地点の道中に仕掛ける。・・・何故か野外の地形の仕組みは手に取るようにわかる。どこで覚えたんだろうね。
凶暴な敵には些細な障害にしかならないと思うが、出来るだけ抵抗はさせて貰うさ。黙って死を待つなんて冗談じゃない。
真宮・奏
【真宮家】で参加
生存者が20人、だけですか・・・無力な私達にこの方達を守りきれる保証があるでしょうか・・・ううん、考えこむよりまず行動する事だ。
私に出来る事は、教会にいる住民の皆さんを【手をつなぐ】【鼓舞】で励ましてあげる事でしょうか。できれば避難誘導させたい所ですが、何故か剣と盾を持ってるようですのでとりあえず構えて、住民の皆さんを先導しましょう。
母さんと兄さんの情報で危険そうな地点はわかっているはずですので、安全な道を選択して誘導を。
【パフォーマンス】【鼓舞】で努めて明るい声で住民の皆さんを励ましながら避難誘導を。無力なりに、最大限の努力を。脅威には無駄な抵抗に見えても。
神城・瞬
【真宮家】で参加
既に追い詰められた状況ですか・・・何とか打開したい所ですが、無力な家族連れが何が出来るか・・・
でも記憶の片隅から、このままにしておけない、との声がした。何とかしなければ。
母さんと協力して危険な地点を塞ぎましょう。【式神使い】で鴉の朔を飛ばして危険な地点を探し当てます。何故か僕は場所を遮る術を知っている。体と杖の動くままに【結界術】で危険な地点と村に境を形成。できれば、母さんの砦も【結界術】で囲っておきたい。いつかこうして境を作って守った時があったような。思い出せない。
危険な地点を察知してる分、安全な道もわかるはずだから奏に伝えておく。抗えずにいられない。何故か強くそう思うんだ。
上野・イオナ
(母親の血の影響か自身をオラトリオと誤認 一人称:私 柔らかな口調に)
子供達が泣いている。戦士達に襲われてさぞ怖かったでしょう。
でもここで心が折れたら終わってしまう。なんとかして勇気づけてあげたいわ。
私が出来る事といったら、うん、絵を描きましょう。
(即興でカッコイイ騎士の絵を描き子供達に近づく以後リクエストに答えながらイラストを描く)
うんうん、強い子だね。ちょっとでも気が紛れたなら良かった
1つ質問なんだけど、教会の近くで人にバレない秘密の道とかないかな。村の外れの方に行ければいいのだけど。
(情報をもとに他猟兵や村人と避難経路を相談 避難誘導を行う)
※アドリブ・連携歓迎
●絶望と恐怖の狭間に芽生える希望の兆し
――隠れ里の外れにある、小さな教会にて。
オブリビオンらしき戦士の襲撃を受けた隠れ里から逃れ、命からがらこの教会に逃げ込んだ20名に満たぬ村人と4人の『旅の者』は、一様に恐怖に震えながら、礼拝堂の床に蹲っていた。
彼らを先導しここに導いた村長が冷静さを保っているからか、今のところはかろうじて秩序は保たれているが、もし何かきっかけがあれば、あっという間に絶望が伝播し、集団パニックに陥るだろう。
その中に紛れている、『旅の者』たる真宮・響(赫灼の炎・f00434)と真宮・奏(絢爛の星・f03210)の母娘は、村人たちを見回しながら呟いた。
「これは……酷い状況だね」
「生存者は……これだけですか」
ふたりの声は、恐怖に満ちた空気の中に溶け込み、誰の耳にも届いていない。
なぜなら、母娘の紫の瞳も、村人たちと同じ恐怖に囚われ光を失っていたのだから。
――次々と惨殺される村人たちを前に、何もできなかった。
その事実は、母娘の全身を絶望という名の無力感で縛り付けるには十分すぎたから。
「……何とか打開したいところですが」
そして、真宮母娘の義息子である神城・瞬(清光の月・f06558)も、絶望に塗りつぶされた金紅のヘテロクロミアを教会の天井に向けながら、力なく壁に身を預けていた。
もし、黒い炎に精神を蝕まれていなければ、一家は状況を打開する術を考え始めているが、今の3人は自らを猟兵ではなく、無力な一般人だと錯覚している身。
――既に追い詰められているこの状況で、無力な家族連れに何ができるのだろうか?
果てしない無力感に苛まれながら、一家は力なく座り込んでいるしかできなかった。
一方、『オラトリオの』旅人たる上野・イオナ(レインボードリーム・f03734)は、背の翼で自身の身体を半ば包み込みながら、蹲っていた。
本当はキマイラとオラトリオのハーフなのだが、今のイオナは自身をオラトリオと誤認している。
おそらく、オラトリオたる母の血が色濃く浮かび上がったのだろう。
(「けど、オラトリオであっても、自分は……」)
何もできない、と無力感に囚われそうになった、その時。
「ひっく……ひっく……うううぅ……」
イオナの耳に、子供の泣き声が届いた。
顔を上げ視線を巡らすと、礼拝堂の隅で子供がふたり、身を寄せ合いながら泣いていた。
子供たちの近くに、親らしき大人の姿はない。
(「戦士たちに襲われて、さぞ怖かったのでしょう」)
恐怖におびえる子供たちを見て、イオナの心がチクリ、と痛んだ。
イオナ自身も、無力感に身を苛まれてはいるが、かろうじて心は保っている。
だが、もし、イオナ達大人の心が折れたら……?
「……なんとかして子供たちを勇気づけてあげたいわ」
イオナの口から、無意識に本心が零れ落ちる。
それは、特に気負いせずに呟かれた言の葉だったが、それを耳にした瞬がはっと顔を上げた。
(「このままにしておけない」)
イオナの言の葉に続くように胸中に響いた何者かの声が、瞬の心を揺り動かす。
ふたつの声に突き動かされるように、瞬は気持ち張り気味の声で母と義妹に呼びかけた。
「母さん、奏。何とかしなければ」
「瞬兄さん……」
何を、と口にしようとして、何か思い直し軽く首を振り、立ち上がった。
「……いや、考え込むよりまず行動する事か」
「そうだね、目の前の惨状を見過ごせずにいるものか」
響も義息子の声に心を揺り動かされたか、のろのろと立ち上がり始める。
同じころ、イオナもまた、真宮一家の様子を見て、立ち上がっていた。
――村人たちが絶望に打ちひしがれているなら、せめて自分たちが。
村人たちを前に、状況を打開しようと決意した『旅の者』の4人は。
誰から言い出すともなく二手に分かれ、村人の希望を繋ぐために動き出した。
●知見が絶望に喰われることはない
イオナと奏を教会内に残し、教会の外に出た響と瞬は、手分けして教会の周囲を調べ始める。
響は何気なく周囲の地形を調べ始め……直ぐに違和感に気づいた。
(「初めて目にするはずの野外の地形なのに、仕組みが手に取るように見通せる」)
無力な旅人のはずなのに、響には敵が襲撃してきそうな地点が次々と予想できる。
なぜ、と響は自らに問いかけるが、解は得られそうになかった。
――それは、響が長年家族と旅し続け、得た知見から導き出せる予測。
たとえ黒い炎に精神を蝕まれ、無力な一般人だと思い込まされていても、身についた技術と得た知識は、過酷な状況でも響を裏切らなかった。
かくして、あっという間に教会周辺の地形を把握した響は、村から教会に繋がる広い道に石を積み上げ、裏から土嚢や材木で固めて即席の石壁を構築し始めた。
一通り石壁で道を塞ぐと、今度は道から少し逸れた木陰や草むらなど、敵が通りそうだと予測した地点に、トラバサミやワイヤートラップなど出来るだけの罠を仕掛けておく。
急ごしらえゆえ、石壁は簡単に崩され、罠も力まかせに破られる可能性は高いが、それでも短時間足止めが出来れば十分だろう。
(「凶暴な敵には些細な障害にしかならないと思うが、出来るだけ抵抗はさせて貰うさ」)
「……黙って死を待つなんて、冗談じゃない」
そう、無意識に呟いた響の瞳には、僅かながら光が戻っていた。
一方、瞬は。
(「とにかく、まずは周囲の危険な地点を把握して……ん?」)
周囲に目を凝らそうとしたその時、右肩に蹴り上げられたような圧力がかかる。
思わず空に目をやると、いつの間にか1羽の鴉が空を舞っていた。
恐らく、知らぬ間に瞬の肩に止まっていた鴉は、教会の外に出ると同時に空に飛びあがったのだろう。
――鴉の正体は、瞬の使い魔である「朔」。
朔は主たる瞬の現状を豊かな霊力で察知した上で、主が無意識に臨んだ命に従い空に飛びあがり、周囲を観察し始めていた。
やがて、朔の目を通して得られた周囲の状況が、瞬にもたらされる。
――見通しの良い道。
――雑草が生い茂り、鬱蒼とした茂み。
――全身鎧姿の戦士が身を隠せる大木。
朔が目撃した情報の中から、瞬は危険と思われる地点を頭の片隅にメモ。
ある程度把握したところで、瞬は六花の杖を取り出し、念を籠めて一振り。
振られた杖の先端から淡い銀の結界が半円状に展開され、たちまち教会全体を覆い尽くしていた。
更に杖をもう一振りし、響が積み上げた即席の石壁とトラップも銀の結界で覆い、強化した。
結界に覆われる教会を見た瞬の脳裏に、既視感が過る。
(「いつか、こうして境を作ったような……」)
恐怖と絶望が記憶に蓋をしている今、何時、どこでやったのかは思い出せない。
だが、確かに銀の結界で誰かを救ったような気がする。
(「……あの時と同じように、これで教会を守れるなら」)
何故か抗わなければ、と焦燥感に近い感情と共に抱いたその想いは、確かに銀の結界に宿っていた。
●待ち受けるか、脱出するか
――一方、教会内では。
「今、母さんと瞬兄さんが守りを固めにいきましたから」
教会内に残った奏は、歌を口ずさみつつ手を繋ぎながら、大丈夫ですよと大人たちを励まし続けてた。
とはいえ、奏自身の声音も、恐怖を無意識に隠すかのように上ずっている。
奏自身、虚勢を張っているという感覚がどうしても拭えないからだ。
目の前の恐るべき脅威に対しては、いくら抵抗しても無力なのかもしれない。
今、こうして励まし合っていても、敵の姿を見たらまた恐怖に囚われてしまうかもしれない。
だが、それでも……。
(「無力で無駄であったとしても――諦めたくはない」)
「今は皆で励まし合って、耐えましょう」
とにかく今は村人たちがパニックに陥らぬ様、奏は手を取りながら励まし続けていた。
一方、イオナは涙を流すふたりの子供を前にして、紙とペンを取り出していた。
「お兄ちゃん……何?」
「少し待っていてね」
諦念に囚われている子供たちの目の前で、イオナは即興で紙にさらさらとカッコイイ騎士の絵を描き上げた。
「わぁ……お兄ちゃん上手だね」
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
イオナに絵を手渡された子供たちの顔が、ぱっと明るくなった。
「おにいちゃん、次は猫の絵描いて?」
「お安い御用よ」
子供たちのリクエストに応えて、イオナはさらさらと可愛い猫の絵を描きあげた。
その後もイオナが、子供達からのリクエストに応えて次々と絵を描いていくにつれ、少しずつ子供たちの表情が和らぎ、瞳に活気が戻り始める。
数枚ほど描き上げた頃には、すっかりイオナと子供たちは打ち解けていた。
「うんうん、強い子だね。ちょっとでも気が紛れたなら良かった」
「オラトリオのおにいちゃん、ありがとう」
背中の翼を軽く羽ばたかせながら、照れ隠しとばかりにそっと視線を逸らすイオナ。
子供達の目からはすっかり涙は引き、今は笑顔も浮かべていた。
(「ここまで打ち解けられたなら、何か情報を引き出せるかも?」)
そう考えたイオナは、「1つ質問なんだけど」と前置きしてから、子供たちに話しかけた。
「教会の近くで人にバレない秘密の道とかないかな。村の外れの方に行ければいいのだけど」
「ひみつのみち……しってるよ。えっとね……」
子供たちはたどたどしい口調で、イオナに知る限りの情報を話した。
何でも、礼拝堂の裏手の茂みに子供一人が潜れる程度の隙間が開いており、その奥に獣道のような細い道が伸びているらしい。
もっとも、子供たちは毎回途中で引き返すため、道の果てを見たことはないそうだが、避難経路としては十分役に立つかもしれない。
(「頑張って入れれば、見咎められることはないでしょう」)
紙にメモを取りながら、イオナは子供たちの話に耳を傾けていた。
やがて、外から戻って来た響と瞬を交え、イオナと奏は今後の段取りを相談する。
響と瞬が教会の周囲の守りを固めたため、ある程度の時間は稼げるかもしれないが、ここが襲撃者に見つかるのは時間の問題だろう。
ゆえに、『旅の者』たちはこう結論付ける。
――この教会から村人たちを逃し、安全な場へ避難させようと。
「問題は脱出経路ですが……」
「それなら……ひとつあるわ」
イオナが子供達から聞き出した道を瞬たちに伝えたところ、響が目を丸くした。
「まいったな……その道には気づかなかった」
頭を掻きながら「子供には勝てないね」とぼやく響と、静かに首を横に振る瞬。
響も瞬の使い魔たる朔も、子供の視線でしか見えない道までは見つけられていなかったが、ふたりと1羽が見つけられなかった道ならば、襲撃者が教会に辿り着いても簡単には見つけられないだろう。
「その道を使えば逃げられそうですね」
「では、私が村人に話してきます」
イオナが子供たちに頼んで村人を集め、真宮一家とともに話し合った方針を伝える。
「この教会から脱出し、秘密の道を通ってできるだけ遠くに離れましょう」
皆が生き残る為です、と添えたイオナの提案に、意を唱える村人はいなかった。
●脱出
「それじゃ、道案内、よろしくね」
「うん、オラトリオのおにいちゃん」
イオナが秘密の道を知っている子供に先導を頼むと、奏が「私も一緒に」と子供の横に並び立つ。
奏の手には、いつのまにか一振りの剣と大きな盾が握られていた。
奏自身、なぜ剣と盾を持っているかはわからない。
だが、これがあれば皆を守れるような気がしてならないのだ。
「じゃ、アタシが殿につくよ。瞬は奏のサポートをしてやりな」
「では、私は足の悪い村人に手を貸します」
「私はこの……鴉の目を借りて警戒しながら、奏のサポートをしますね」
「では、行きましょう!」
誰からともなく役割分担をした『旅の者』たちは、村人たちを連れてそっと教会を抜け出した。
教会を抜け出した一行は、子供の道案内で礼拝堂の裏に回り、ひとりずつ身を屈めて秘密の道の入口たる茂みを潜り抜ける。
多少苦労しながら潜り抜けた茂みの先には、鬱蒼とした森を切り開くかのように細い獣道が伸びていた。
「慎重に行きますね」
ここからは奏が一行の先頭に立ち、時折剣で草を払いながら慎重に獣道を歩いてゆく。
「奏、そこに……」
「おっと」
途中、朔の目を通して『森に潜む危険地点』があると認識していた瞬が、獣道にぽっかりと空いた穴を警告する場面もあったが、慎重に迂回して事なきを得た。
獣道に足を踏み入れてからいくばくかの時間が立った頃、一行の耳に届き始めたのは、石壁を殴りつける音。
――ガンッ! ガンッ!!
「……ひっ」
隠れ里での惨劇を思い出したのだろうか、若い女性が小さく悲鳴をあげた。
おそらく、襲撃者が教会周辺の石壁や結界を壊し始めているが、一方で襲撃者は、教会内が既にもぬけの殻である事にはまだ気が付いていないのだろう。
「大丈夫、追ってくる気配はないから先を急ごう」
念のため、響が背後から追う不穏な気配がないことを確認し、一行に先へ進むよう促す。
「なら、今のうちに距離を稼ごう」
「ええ。もう少し、頑張りましょう」
響に同意した村長と奏の鼓舞で、一行はさらに獣道を歩き続けた。
それからしばらく歩くと、唐突に鬱蒼とした森が途切れ、広い空間が開ける。
思わず足を止めた一行の目の前には、小さいながらも穏やかな草原が広がっていた。
●芽生えた希望、変わった『幻影』の未来
「おぉ……」
突然広がった空間に広がる穏やかな草原を目にした村人たちの間から、安堵のため息が漏れる。
空が闇に閉ざされているため、木漏れ日のような幻想的な光景は期待できないが、危険な生物が棲んでいる気配もないため、短時間なら安心して休めそうだ。
「ざっと調べましたが、危険はなさそうです」
「旅の者たち、有難う……感謝するよ」
草原をざっと調べ、危険がないことを確認した瞬やイオナたちに村長が謝意を述べている間、村人たちはずっと張り詰めていた神経を解くように大きく息をつき、身体を伸ばしていた。
「もう少し、先に進んでおかないか?」
「なら、一休みしてからこの森を抜けよう」
村人たちが今後に備え、休息を取ろうと腰を下ろした、その時。
――突然、血塗れのフレイルを構えた戦士たちが、何人も姿を現した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『朱殷の隷属戦士』
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POW |
●慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
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SPD |
●血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
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WIZ |
●裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
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👑11 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 |
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ダークセイヴァー第4層・???――過去の『幻影』(改変)
「うわあああああ!」
「な、なんで追い付いてきた!?」
何の気配も前触れもなく、開けた草原に突然『朱殷の隷属戦士』たちが現れ、安堵に満ちた空気が一変した。
「気配すらなかったのに、何故!?」
「とにかく今は逃げろ、逃げろぉぉぉぉぉぉ!!」
「森へ飛び込むんだ!!」
隠れ里を蹂躙した戦士の姿を見て一瞬でパニック状態に陥った村人たちは、我先にと駆け出し、次々と森へ飛び込んでゆく。
だが、戦士達はなぜか標的であるはずの村人を追おうとせず、猟兵たちの前で立ち止まった。
村人を追わぬ戦士の姿に、猟兵たちが違和感を抱いたその時、戦士のひとりが口を開く。
『燎原を抜けようとする不埒な輩よ、我らの狙いは貴様らの命だ』
死刑宣告とも取れる厳かな予告は、明らかに猟兵たちだけに向けられている。
戸惑う猟兵たちに対し、戦士たちはさらに厳しい言葉を突きつけた。
『我らは決して突破を許さぬ。まぼろしに取り込まれたまま、朽ち果てよ!』
『ここで黒い炎に蝕まれ、無様な姿を晒すがいい!』
猟兵のみに明確な殺意を向けながらフレイルやマスケット銃を構える戦士たちを見て、猟兵たちは戸惑いながら得物を手にし、戦士たちと対峙するしかなかった。
……さて。
今、猟兵たちの目の前にいる戦士は、隠れ里を壊滅させ、生存者を探しあてようとしている戦士たちとは、別の存在。
常闇の燎原に広がる黒い炎が、幻影の隠れ里を蹂躙した『無力な人々を恐怖と暴力で蹂躙しようとする敵の姿』を借り、猟兵に対する刺客として直接実体化させた――猟兵のみを狙う暴虐者だ。
悲惨な幻影に抗い、村人たちを救ったおかげで、猟兵たちの精神を縛り付けていた恐怖と絶望は徐々に薄れ、世界の加護も記憶も少しずつ戻りつつあるが、【無力な一般人】であるとの錯覚は未だ付きまとっている。
おそらく、ユーベルコードは使えても、効果は限定的にしか発揮されないだろう。
今の猟兵たちは心身共に到底万全とは言えない状態だが、ここで勇気を持って戦士たちを討ち取ることができれば、黒い炎はその勢いを徐々に弱め、猟兵たちは完全に幻影から解放されるはず。
さあ、猟兵たちよ。
黒い炎からの刺客たる『朱殷の隷属戦士』達を討ち、全ての力を取り戻せ。
それこそが幻影から抜け出し、燎原に戻る、唯一の術だから。
――健闘を、祈る。
※マスターより補足
1章の判定の結果、村人たちは教会から脱出し、安全な森に逃げ込むことができました。
そのため、2章は教会周辺ではなく、【森の中に開けた草原】で『朱殷の隷属戦士』との戦闘のみに集中できるようになりました。
この章はユーベルコードが使用できますが、無力な一般人だとの錯覚は未だ消えておらず、事あるごとに脳裏に錯覚がちらつくため、威力は弱まります。
だが、勇気を持って絶望と恐怖に抗い、錯覚を振り払って敵を倒し続ければ、黒い炎は自然とその威力を弱め、猟兵たちを幻影から解放するでしょう。
ちなみに、この章で登場する『朱殷の隷属戦士』は実体のため、猟兵だけを攻撃します。
よって、森に逃げた村人たちが襲われる心配はございませんので、村人を守るプレイングは不要。全力で戦士たちを打倒してください。
――それでは、良き未来を求めて。
真宮・響
【真宮家】で参加
村人は逃げたね。大分怯えていたようだが、これ以上は足止めだ。
・・・はっきり言って恐れがないわけじゃない。目の前の敵の忌々しい姿を見れば足がすくむようだ。でも子供たちの怯えの表情を見て心を奮い立たせる。
そう、アタシは子供たちの為に強い母親でなければいけない。真紅の騎士団、力を貸しておくれ。強引にでも、押し切るよ!!
【ダッシュ】で先行し、【怪力】【気合い】【範囲攻撃】で力任せに薙ぎ払う!!回避は無意識に【オーラ防御】を展開していたりするがほぼ考えないで攻撃に集中する。奏、瞬、アタシに続きな!!村人達の為にここを突破させる訳にはいかない!!(【グラップル】で敵を蹴っ飛ばしながら)
真宮・奏
【真宮家】で参加
(村人の声に驚き)こ、この血まみれの鎧の人・・・怖いです・・・私達殺されてしまうのでしょうか・・・たとえ剣と盾持っていても・・
母さん?そうだ、これ以上進ませると村人の逃げた森へ行ってしまう!!
母さんを助けなきゃ・・・力を貸して!!無意識に彗星の剣を発動して必死に【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で精一杯剣と盾を構えて【怪力】【シールドバッシュ】で敵を吹き飛ばしていく!!
母さんを一人で戦わせない!!なぜか見慣れたような気がしたような背中を追って力任せに剣と盾を振り回します!!
神城・瞬
【真宮家】で参加
村人たちは逃げてくれましたか・・・でも目の前の敵は・・・僕達もあのフレイルに叩き潰されてしまうのでしょうか。僕は、あれを抑えるのはあまりにも非力・・・
母さん!?そうだ、僕たちが抑えないと村人たちにあのフレイルが・・・無意識に杖から氷晶の矢を放つも、敵の弾丸の痛みに顔を歪めます。
思うように動かない体ですけど、腕が動けば・・・【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【武器落とし】を込めた【電撃】を【範囲攻撃】で撃ちます。
母さんと奏が前で頑張ってる。僕が守らなければ・・・前にもそう思った気がした。それが僕の役目、強く感じるような。
上野・イオナ
戦闘の雰囲気ですが、ど……どう戦えばいいんでしょう?
でも村人の皆さん為にもここでなんとかしたいですし、記憶は少し怪しいですが私はこの先に人を探しに行かなきゃいけない気がします。
なにか武器を、
っ痛、腕が痛い。なにか声が、遊んで?アレっ二本の刀、いつの間に握って!?
UC【妖剣解放】使用
(2つの日のような怨念を纏い刀達に引っ張られるように走り出す)
熱い、正直訳わかんない。
だけど、やらなきゃ。多分、色んな人と色んな約束したから
(勢いで切り抜ける)
※アドリブ・連携歓迎
●暴力は実体を伴って
「に、逃げろぉぉぉぉ!!」
前触れなく突然現れた血塗れの『朱殷の隷属戦士』達の姿を見るなり、村人たちは怯え叫びながら次々と森に逃げ込んでゆく。
だが、真宮・奏の足は、何故か竦んで動かなかった。
「こ、この血まみれの鎧の人……怖いです……」
――私達、殺されてしまうのでしょうか。
戦士らの敵意と殺意を真正面から浴びたからか、足の震えが止まらない。
手にしたままの剣と盾が、何故か妙に重く感じた。
一方、神城・瞬は安堵半分、不安半分のため息を漏らしていた。
「村人たちは逃げてくれましたか……」
どんな形であっても、村人たちが安全な森に逃げ込めたのは僥倖。
しかし、目の前の敵は、明らかに瞬たち『旅の者』を狙っている。
ゆえに、村人たちと同じように瞬が森に逃げ込めば、その時は……。
(「僕達もあのフレイルに叩き潰されてしまうのでしょうか」)
一般人たる瞬であっても、一目見ればわかる。
――あれを抑えるには、自分たちはあまりにも非力なのだと。
一方、上野・イオナは、戦闘の雰囲気に一変した状況に戸惑っていた。
「ど……どう戦えばいいんでしょう?」
オロオロしながら無為に周囲を見回すも、武器となりそうなものは枝の1本すら転がっていない。
「でも村人の皆さんの為にもここでなんとかしたいですし、それに……記憶は少し怪しいですが私はこの先に人を探しに行かなきゃいけない気がします」
「ああ、村人は逃げたね。大分怯えていたようだが」
奏と瞬の母でもある真宮・響は、表面上は冷静さを取り繕っているが、足は微かに震えている。
(「……はっきり言って、恐れがないわけじゃない」)
目の前の敵の忌々しい姿を見れば、無力な一般人だと錯覚している今は足が竦んでしまう。
だが、背後で震えている響の子供たちは、明らかに怯えていた。
(「そうだ、アタシは――」)
――子供たちの為に強い母親でなければいけない!
心の奥底から湧き上がる想いに突き動かされるように、無理やり心を奮い立たせながら。
「真紅の騎士団、力を貸しておくれ!!」
響は闇に覆われた空に、喉の奥から迸るまま、その願いを叩きつけていた。
●頼れる紅が切り開く道
叫んだ響の目の前に、突然胸に「1」と刻印された真紅の鎧の騎士が現れた。
現れた……正確にはユーベルコードで召喚された真紅の騎士の数は、通常の半分程度……60体程。
錯覚が拭えない以上、弱体化したユーベルコードの効果が騎士の数という形で如実に表れてしまうが、召喚された真紅の騎士たちが目の前の戦士たちに恐れを抱いている様子は全くなかった。
信頼できる騎士団の存在が、未だ恐れを拭えぬ響の心に、さらなる活を入れる。
「強引にでも、押し切るよ!!」
恐怖を振り払うために、響はあえて叫びながら穂先が灼熱する愛用の槍・ブレイズランスを構え、真紅の騎士たちと共にダッシュで戦士たちに肉薄した。
戦士たちもまた、表面に棘を備えた盾を構え、真紅の騎士団と響を待ち受けるが。
「村人達のために、ここを突破させるわけにはいかない!!」
戦士たちが盾を突き出すより早く、響が怪力任せにブレイズランスを横薙ぎに振るった。
我武者羅に、しかし真っ直ぐに振るわれた灼熱する槍の穂先は、戦士たちの盾をバターのようにするりと両断し、ガラクタに変えた。
盾を失った戦士たちが、盾を落としてフレイルに持ち替えるより早く、響に合わせるよう突撃した真紅の騎士たちが我先にと剣や槍を突き出し、戦士の頭や胴を貫く。
串刺しにされた戦士たちは、フレイルと膝を落とし、黒い炎となって霧散した。
「奏、瞬、アタシに続きな!」
第一陣を退けた響が、後ろで未だ足を竦ませている子供たちに活を入れるよう叫びながら、次なる戦士へと向かう。
……それがいつもの光景だと、響に気づく余裕はないけれど。
声が届いた子供たちが動いてくれると信じて、響は薙ぎ払いを回避した戦士に肉薄し、胴を蹴っ飛ばしていた。
●愛用の剣と精霊の盾が押し開く道
「……母さん?」
母の呼び声に顔を上げた奏が見たのは、母が討ち漏らした戦士たちが奏に向かい走ってくる光景。
(「これ以上進ませると、村人の逃げた森へ行ってしまう!!」)
未だ怯える心を奮い立たせ、奏は再び剣と盾を構える。
戦士の狙いが奏たち『旅の者』だけとは気づかず、森に逃げた村人を守るために。
そして何より……目の前で戦う母を助けるために。
「母さんを助けなきゃ……力を貸して!!」
奏が手にしている剣――ブレイズセイバーに願いを込めると、周囲に同じ剣が複数浮かび上がった。
「え!?」
突然虚空に浮いた60本近いブレイズセイバーを目にし、呆気に取られる奏。
しかし、目の前に棘付きの盾を構えた戦士たちが迫っているのを見ると、即座に翠のオーラを纏いながら盾を構え、全力で突き出された盾を受け止めた。
――ガンッ!!
スパイクシールドとエレメンタル・シールド、性質のことなるふたつの盾から繰り出されたシールドバッシュが真正面から激突し、双方の腕を痺れさせながら火花を散らす。
戦士は悠々と、奏は必死に盾を押し込もうとするが、敵を磨り潰す盾と精霊の力が籠められた盾はお互い一歩も譲ろうとはしない。
戦士が一気に奏を吹き飛ばさんと、さらに腕に力を籠めようとした、その時。
――ガガガガガッ!!
周囲に浮かんだ60本のブレイズセイバーが、戦士の全身に次々と突き刺さった。
頽れた戦士の身体を盾で除け、痺れの残る腕を軽く振ってから改めて戦場と化した草原を見渡すと、響が真紅の騎士を引き連れて戦士たちと戦っている。
――この光景、何故かとっても見慣れている気がする。
「母さんを一人で戦わせない!!」
若干の違和感を抱きつつ、真紅の騎士団と共に燃え盛る槍を振り回す母の背中を追いながら。
奏は力まかせに盾を振り回し、念力で複製された剣で母たちを守るように飛翔させながら、次々と戦士たちを盾で吹き飛ばしていった。
●氷と雷が切り開く道
「母さん!?」
義母の呼び声を聞いた瞬もまた、義妹と同じ光景を目にしながらも、じわじわと真綿で空気を絞めるようなプレッシャーを伴いながら別の戦士がフレイルを振り上げ迫るのを目の当たりにしていた。
(「そうだ、僕たちが抑えないと、村人たちにあのフレイルが……」)
もし、フレイルで殴られれば、村人たちはもちろん、自分たちもひとたまりもない。
――だが、どうやって!?
必死に思考を巡らすも、フレイルを抑える術は全く思いつかない。
それでも、目前に迫る戦士に向け無意識に六花の杖を振りかざすと、杖の先端から250本を超える氷の矢が発射された。
(「……え?!」)
何の前触れもなく撃ち出された氷の矢を、茫然と見送る瞬。
だがそれは、非力な瞬を殴りつけようとした、戦士も同じ。
突然現れた氷の矢を避けられず、真正面から全ての氷の矢を受けた戦士は、フレイルを振り上げたままの姿で氷像と化していた。
だが、別の戦士が凍結した戦士の陰に隠れながら、マスケット銃の狙いを瞬につけ、引き金を引いた。
――ターン!!
「……っ!?」
銀の弾丸が瞬の肩を掠めると同時に、氷の矢の勢いが目に見えて弱まった。
おそらく、銀の弾丸が瞬の魔力を封じたのだろう。
「あの杖持ちを狙え!」
戦士たちは凍結した仲間の氷をフレイルで砕きながら、フレイルの先端の鉄球を振り回しつつ瞬に接近。
後退しながら急ぎ迎撃しようとしたが、銀の弾丸は瞬の身体を捕縛する効果もあったようで、手足が思うように動かない。
「雷よ!!」
それでも、瞬は六花の杖に残る魔力を籠めながら強張る腕を無理やり動かし、杖で目の前の空間を薙ぎながら電撃を撃ち出した。
真正面から電撃を浴びた戦士たちは、次々と全身を雷に焼かれ、麻痺しながら草原に沈んでいった。
目前に迫った戦士たちを排除した瞬は、一呼吸おいて周囲を見渡す。
草原の一角では、母と義妹が、真紅の騎士団と複製した愛用の剣を従えて奮闘していた。
(「僕が守らなければ……」)
前にもそう思った気がしたが、何よりそれが自分の役目だと強く感じるような気がして。
瞬は押し寄せる戦士たちを少しでも足止めし、ふたりを援護すべく、再度杖を振り電撃を打ち込んでいった。
●ふたつの日が照らす道
――一方、その頃。
イオナは、突然現れた戦士たちの集団を見て、慌てて武器を探していた。
「な、なにか武器を……」
腰や背に手を伸ばすが、武器らしきものは何一つ身に着けていないため、全く見当たらない。
このまま丸腰で戦うのか、とイオナが覚悟を決めかけた、その時。
――ズキッ
イオナの両肘から先に、鉄を流し込まれたような激痛が走った。
「っ痛、腕が痛い」
(『――ねえ、遊んで』)
禿(かむろ)のような無邪気な声が、イオナの頭に直接響く。
それに誰何の声を返そうとすると、嘘のように両腕の激痛が収まった。
「アレっ?」
掌に棒状のようなものを握っている感触がして、思わず両手を見るイオナ。
いつの間にか、イオナの両手には二振りの妖刀が握られていた。
「いつの間に握って?」
戸惑うイオナの目の前で、二振りの妖刀そのものが闇を祓う日の光のように輝き出す。
それは、闇を照らす日光のようにも闇を喰う怨念のようにも見えるけど、イオナはそれに懐かしさすら感じていた。
二振りの妖刀から漏れ出したふたつの日のような怨念が、イオナに纏わりつく。
刹那、イオナの身体は、二刀に引っ張られるよう走り出していた。
身体が熱い。
正直、訳がわからない。
だけど、今は……。
「やらなきゃ」
――多分、色んな人と色んな約束したから。
胸中に燻る想いを糧に、あるべき場所に還るべく。
「今は、ただ……!!」
ふたつの日に導かれながら、イオナは目前の戦士を狙い、妖刀を我武者羅に振り回す。
すれ違った戦士は、日の光に斬り伏せられたかのように鎧ごと切断され、地面に落下し黒い炎に戻って霧散した。
続きざま盾を構え突進する戦士も、イオナは二刀を交差するよう振り下ろし、発射した衝撃波で足を止めてから、一気に踏み込んで盾ごと斬り捨てた。
妖刀を一振りするたび、寿命が削られるかのように全身に激痛が走るが、身体の芯から湧き上がる熱はとどまることを知らない。
その熱に突き動かされるように、『二朝』の銘を持つ妖刀に導かれるように。
イオナはただただ勢いのままに草原を駆けまわり、二刀で戦士を斬り伏せ続けた。
●闇炎を切り裂き、現実に戻る
瞬が氷矢と雷撃で援護し、響が真紅の騎士団と共に切り込み、奏が護り。
一方でイオナが3人の間隙を縫うように走り回り、次々と斬り伏せてゆく。
いつしか無言で連携しながら、4人は次々と黒い炎が差し向ける戦士たちの数を減らしていった。
戦士の数が減るにつれ、瞬の氷矢と奏の複製剣の数が増し、真紅の騎士団の数が増え、イオナのスピードと剣筋にキレが増す。
徐々に力を取り戻しながらも、次々と押し寄せる戦士を前に、4人はひたすら戦い続けた。
やがて、草原に斃れた最後の戦士が、黒い炎となり霧散する。
全ての戦士が黒い炎と化し消えた後、イオナたちは全てを思い出していた。
――そう、自分たちは猟兵だったのだと。
響たちが完全に己を取り戻した瞬間、草原と森が水面のように揺らぎ、霞み、崩れてゆく。
猟兵たちが恐怖と絶望に打ち克ち、勇気を持って刺客を斬り伏せたことで、恐怖と絶望を植え付けていた黒い炎は完全に勢いを失っていた。
●常闇の燎原に現れる狂気とは
草原や森の幻影が消えた後に残ったのは、荒れた地面に僅かに燻る黒い炎と、どこまでも見通せぬ漆黒の闇。
「とりあえず、抜け出せたか……」
「そのようだね」
真紅の騎士団を送還しつつ安堵の息を漏らす響に、イオナは改めて手にした二刀を見やり、馴染んだ気配に微笑する。
一方、奏は握り締めた剣と盾の感触を確かめながら、ほっと一息ついていた。
「助かった……幻影からは脱出できたようです」
「そうなると、次に待ち受けているのは……」
確か、と瞬が何か思い出そうとした、その時。
「アッハッハッハッハッハ!!」
妙に勘に触る貴族の嗤い声が、響たちの耳に突き刺さった。
大成功
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オープニング及びマスターコメントに記した通り、本章に登場する『戦争卿』ブラッド・ウォーデンは「相手が抱いた恐怖や絶望の感情」を感知し、攻撃目標を定める性質を持ちます。
視聴嗅覚による索敵は行いませんが、少しでも戦争卿に対する恐怖や絶望を抱いていれば、たとえ視聴嗅覚を遮断していたとしても戦争卿に感知されますので、ご注意ください。
よって、黒い炎が齎していた恐怖や絶望は完全に払拭されておりますので、無力な一般人との錯覚に囚われることはありません。本来の能力や記憶、知識をフル活用し、存分に戦って下さいませ。