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目を閉ざす。目を逸らす。現実から? 自分から?

#UDCアース #邪神の仔

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#UDCアース
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#邪神の仔


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 嫌な、夢を見ました。
 はっきりと覚えている出来事の記憶。
 覚えていてはいけない出来事。覚えていると知られてはいけない記憶。
 友達が黒い水に溶けた記憶。
 黄昏と、白い羽の記憶。
 知られてしまったらどうなるのだろう。
 特異な視線? 奇異の視線?
 友達と離されてしまうだろうか。今の関係は壊れてしまうだろうか。
 それとも…。
(やだよ…。)
 半ば眠った意識のまま、頬に熱い雫が滑るのを感じながら規則的な振動に身を任せながらまた眠りに…。
(……?)
 トトン、トトン。トトン、トトン。ガタン、ゴトン。
 家で寝ていたはずなのに、どうしてそんな振動と揺れを感じるのだろう。
 トトン、トトン。トトントトン。
(電車?)
 の、ような振動。
 意識を眠りの淵から引き上げ、目を瞬かせながら体を起こし周囲へ目をやる。
 自分が寝ていたのは、横に長く青い座席。
 空間は細長く、対面にも平行に同じ座席がある。
 自分以外にも何人か人が居て、座席に横になっていたり凭れたりして眠っている。
 視線を上げれば揺れに倣うように揺れる吊革…様な、ではなく此処は電車の中だった。場所の認識が出来たのなら、次は当然『どうして?』になる。
 けれど、それには何となく予感があった。
 指先からゆっくりと冷えて凍っていくような嫌な予感。
「…っ」
 急き立てられた様な恐怖心が頭を埋め尽くし、咄嗟に眠っている人たちの中に友人の顔を探す。
 居ない。
 体が震え、涙が溢れてくるが座席から立ち上がる。
 ここ以外にも車両がある。
 前か後ろか迷って、何となく進行方向へと足を向ける。
 その歩く気配に、眠っていた人達が目を覚ます様に身を震わせるがどうでもいい。
 車両間を仕切る扉の窓から先を覗けば、この車両と同じように幾人か人が見えた。
 取っ手に手を掛け引こうとした瞬間、背後が騒がしくなった。
 正確には扉で仕切られた後部車両。
 矢にはに暴れる音、ぶつかる音、悲鳴、不明な甲高い鳴き声が響き始める。
 周囲の人達がはっきりと目を覚まし、不安そうに後部車両へ続く扉を見つめる。
 前方の車両でも音に気付いたのか、扉の向こうからざわつく気配が伝わってくる。
 そして、視線の先の後部車両の騒ぎも勢いよく近づいてき、勢いよく扉が開かれた。
「ちーちゃん!」
「みーちゃん⁉」
 扉を開けたのは知ってる顔、探してた友達の顔、千歳音だった。
 千歳音は一瞬驚いて足を止めかけたが、すぐさま足を動かし駆けてきた。
 駆け寄る、と言う勢いでは無く全力で駆けてきて叫ぶ。
「みーちゃん扉を開けてください!!」
 余裕のない声に咄嗟に扉を開くと、千歳音は近づくや否やこっちの腕を掴んで引っ張って走り続けた。
 そんなにも焦っていた理由はすぐに分かった。
 騒ぎの中心。『それ』が千歳音に続き姿を現したから。
 黒い羽を撒き散らしながら、烏と人の合いの子の様な物が次々にこちらの車両へと飛び込んできた。狭い扉に次々に殺到し、空いている隙間へと体を捻じ込む為にまるで黒い水の様に溢れ出てくる。
 千歳音が飛び込んできた時点で、近づいてくるものを察知して動きだした人はよかったが、そうでなかった者は捕まった場合の結果を示す事になった。
 驚いた表情のまま固まっている男にそれが近づくと、その体を両翼で掴み持ち上げ、異様に開いた口で頭から丸呑みしていった。
 悲鳴が溢れるが、千歳音は脇目も振らずに手を引いて車両を後にしていく。
 離れた先、続いて逃げてくる人々の隙間から、その怪物と視線が合った。
 明確に、確実に、個として自分を『見た』。
『仔だ。仔が居た。あそこ。あの子。“欲しい、欲しい、欲しい”』
 ぞっと、悪寒が走る。


「やほ~、私だよー。」
 酔っ払いがへらへら笑っている。
「今日もーお仕事でぇす。でー、今回は子供と結構深く関わる事になるからさー? 子供嫌いな人はー……いや選択次第じゃありかぁ。」
 何やら一瞬考えて変な事を言う。
「今回はねー、『邪神の仔』の案件だよー。」
 【邪神の仔】。酔っ払いは平然と言っているが、物としては特異な事件だ。
 それと言うのも、“邪神の仔は人ではなく、自身がそうと知らずに『普通の人間』として暮らしているUDC”なのだ。
 そして、個々の能力や性質には違いはあれど、もし自覚しUDCとして覚醒してしまえば、それは世界規模にまで被害を齎す存在となる。
「今回の敵はぁー、細々とした低級UDCが沢山。…………おかしな空間に攫われてて、そこには一般人も居るけれど、多分大雑把にだけれど邪神の仔が狙われて巻き込まれたんだと思う。」
 酔っ払いが少しだけ考えて、少しだけ真面目に言ったがすぐににへら顔に戻った。
「で~、おかしな場所って言うのは電車の中なんだけど、間違いなく異空間だねぇ。先頭車両にはつかないし、窓壊して外に出てもいいけれど、降りたら私が肝を冷やしちゃうねー。」
 一応注意なのだろう。
「今回私が転送できる場所が最後尾だけだからさぁ。流れとしては追って倒して保護してあげてー。空間が向こうのホームだから、追ってる間にも妨害…と言うか邪魔があるから突破してぇ、群れを倒して―、倒せば空間も解けるからー。どっかしらに放り出されるけれど、無事な一般人はUDC職員呼んで任せちゃえ。」
 一般人は。次に邪神の仔について話し始める。
「邪神の仔は傷つけると覚醒・暴走の危険性があるから注意してねぇ。で、保護した後だけれど、どの程度かは分からないけれど邪神の仔はショックを受けて不安定になっているからケアして欲しいなー? それと、その子記憶処理が効かないみたい。」
 メンタルケアの面でとても面倒な事を言われた気がした。
 そして、間が空きそれで全部かと思った瞬間にそれが付け足された。
「君達の多くが『邪神の仔は処分すべき』と意思を合わせたのなら、そうするのも間違いじゃない。もし、どこかで事故にでもあって死にかければ、それで世界規模の事件にまでは発展するんだ。自分達でやりたくなければUDC職員に言うと良い。彼らはその案に乗るだろうね。」
 グリモアが彼女の手の上で複雑にその規模を広げていく。
「いつも通り、選択も結果も君達の手の上だ。」


みしおりおしみ
 あいー、邪神の仔シナリオです。
 冒険、集団戦、日常です。

 MS的に一章のやれることが少ないのでは? 選択肢が少ないのではと不安があるけれど、猟兵様ならきっとどうにかしてくれる。
 はい、ごめんなさい。

 要約状況説明です。
 場所:電車の中です。普通の電車を想像していただければ。……通常の電車内部はそこまで差ないですよね?

 下級UDC:沢山です。最後まで〇ョコたっぷり…とは言わないけれど、幾らでもぶっ飛ばせる程度には密度も数もいる。特に戦闘で詰まったりはしません。

 邪神の仔:記憶処理が効きません。

 関連シナリオ(特に必須ではありません)
 【目を閉ざして】【閉ざされて】。
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第1章 冒険 『暴走列車』

POW   :    力技でなんとか電車を停めようとする

SPD   :    人をかき分け運転席に行って電車を停めようとする

WIZ   :    どうにかして乗客を電車内から避難させる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵が転送された先は確かに電車であった。
 UDCアースにおいてはありふれた構造の電車…なのだが、その様相は普通ではありえない状態と化していた。
 無数の大小さまざまなひっかき傷。引き千切られた吊革。
 ひび割れた窓と天井灯。
 そして床に積もるほどに落ちた黒い羽。
 先の車両間扉はへし曲がる様にして向こうの車両に転がっている。
 見える限り、先の先もこの車両と同じような状態なのだろう。
 けれど、猟兵が一歩踏み出した瞬間に流れていた空気が入れ替わる。
 圧し折れ転がっていた扉が巻き戻る様に元の場所に戻り、さらに何かが向こうから張り付いたような音がして硝子窓から向こうの様子も見えなくなった。
 そしてそれは周囲の窓も同様で、元から景色も見えなかったが闇が流れている事は理解できていた景色も、何かに塞がれ見えなくなってしまっていた。
 まぁ、どうにかして進もう。

※フラグメントのPSWはスルーの方向でお願いいたします。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

うっわ。
ヤバいのは分かるし、もっと色々思う所はあるねぇ。
この空間を作った奴らは、少なくともアタシらを感じられて、
そしてアタシらの存在に危機感を感じてる。
けどな。隠すのが遅いんだよ。

外が見えないのが一番の肝さ、
この車内は「直った」んじゃない、
何者かがそう「見せかけている」だけだよな。
なら、アタシはその幻を削ぎ散らす。
左手にテレパスの思念を込めて、
空間の綻びを『見切り』、【魂削ぐ刃】を振り抜いていく。
そうすりゃ惨状は見えてくるだろ、
その中を怯まず『悪路走破』の応用で『ダッシュ』!

吐いた唾を飲むなってのと同じで、
見ちまったら無しにはできないよな。
後はどう呑み込むか、さ。



「うっわ。」
 裂傷だらけの車内。降り積もった黒い羽。
 そんな諸々を目にし数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は思わずそんな声が口に出た。
 散乱乱雑惨状。もしもこれが映画の一場面なのだとしたら、次か次のカットでモンスターと邂逅するような雰囲気だ。
「ヤバいのは分かるし、もっと色々思う所はあるねぇ。」
 数宮の目の前で、壊れ外れていたと扉が巻き戻る様に元の場所に収まる。
 感じる空気は異常。感じる気配も異常。肌を刺す感覚は痺れる様に異常を示す。
 間違いなく周囲全てが現実じゃない。
 自身に非現実と非常識が押し付けられる世界だ。
 …なのだが、数宮は特に気負う様な様子も無く片手を顎に当て少し考える様に沈黙する。
 こんな空気、一般人やらなら兎も角、ある程度UDC案件を経験した猟兵なら慣れてくるものも出てくる。
 ある程度以上の経験があるのなら言わずもがなだろう。
(アタシに反応した。)
 話を戻そう。壊れていた扉が元に戻った。
 それを見て、数宮はそう判断していた。
 ここが異空間だという事を鑑みて、その事象単体で考えるのなら考えられる候補が2つある。
 自動修復か、何者かの介入。
 自動修復は、周囲のひっかき傷が直っていない事からして無い。
 なら何者かの介入、この空間の意志的な物であるのだろうがそれが塞いだのだろう。
 空間自体が猟兵が現れた事に気付き、その行動を阻害しようとしたのだ。
 猟兵に進まれる事を嫌った。介入される事を嫌った。
 猟兵の存在を『恐れた』。
「隠すのが遅いんだよ。」
 猟兵に見つかった時点でその程度で止められるものか。
 何より、理外の理でもあるのか、扉は壊れる以前の状態に“直った”のではなく、形だけ戻して“塞いで”直ったように見せかけているだけだ。
 意思の介在を認識する。やっているのは間違いなく超常的存在だ。
 数宮は左手にテレパスの思念を込めていく。
 朧げな光が手を包み込み、数宮はその形を手刀に変える。
「っらァ!」
 おもむろに扉へと近づき気合一発、手刀を振り抜く。
 断つは超常ゆめまぼろし…なのだが、まるで空を切ったように手ごたえが無い。
 数宮は勢い余って一瞬態勢を崩すが、すぐに持ち直して疑問に視線を前に戻す。
 その視線の先には扉が無かった。
 扉が地面に落ちているなどではなく、扉が消えていた。影も形も。
 数宮が使ったそれ、【魂削ぐ刃】が斬るのは超常のみ。
 で、あるのならばそう言う事なのだろう。
 グリモア猟兵がおかしな世界、異空間と言った以上この空間は幻術ではない。
 この空間は物理的な世界ではない。
 ここは夢の中だ。UDCが操る夢などまともな筈が決してないが。
 数宮はそれを理解すると一気に駆けだす。
 数宮にとってこの場所の障害は、そうと分かった瞬間に触れれば消せる物に変わった。物理的干渉ではなく、精神的干渉を操る数宮だからこそではあるのだが。
 駆けて、駆けて、先を考える。
 邪神の仔。それも記憶を消す事の出来ない子供。
「吐いた唾を飲むなってのと同じで、見ちまったら無しにはできないよな。後はどう呑み込むか、さ。」
 その為に、早く追いつかなければ。

成功 🔵​🔵​🔴​

九重・灯
表に出てる人格は「オレ」だ。

なんで電車の中なのか知らねえが、一本道だから話しが早い。
扉が塞がれているなら力尽くで突破する。
UC【呪装変転】。攻撃回数×5、装甲半減。
カゲツムギの黒刃を複数形成。刃で扉を切り抜いて蹴り倒す。

扉の窓に張り付いてたヤツって何だ。恒例の変な肉の塊とかか? もう動かないならこれ以上は気にしたりしないけどな。
生存者や犠牲者の姿がないか確認しながら急ぐ。

邪神の仔ってのは、関わるのは初めてだな。
UDCってのは大概が存在するだけで世界を破滅に導くオブリビオンで、UDC-Pみたいなのはごく一部の例外だ。
邪神の仔がどうなのか、まあ直接見てみればわかるだろ。



「なんで電車の中なのか知らねえが…」
 九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)は、足から伝わる振動を感じながら口にする。
 異界が電車である理由。
 電車が関係する怪異、有名どころで言えば猿夢。連れられるのであれば如月駅。
 怪異ではないが、類する話としては銀河鉄道の夜も似たような話だろう。
 それらの話の意味、象徴は全て似たような物である。
 要するに、電車は死の国へ向かう。
 車列が葬列代わりなのか、人生にも例えられるレール故なのか、実質的な密室だからか、操る者に干渉できないからか、憶測は出来るが結局は本質は分からない。
 この事件も、それになぞらえられているのかは分からないが結末は準ずるだろう。
 事件をケース分けし、分析し、同様の事件が起こった場合の対処法を考える様な仕事にう従事するUDC職員等であれば、そのような事を考えたであろう。
 『わたし』であれば九重も軽くではあれそんな事も考えたであろうが、初めの呟きの通り今の九重は『オレ』であり、そんな事は知らねぇの殴る担当なのだ。
「一本道だから話しが早い」
 理解すればいいのはそれだけ。
 探し回る必要も、迷う可能性もゼロ。なんてシンプル。
 で、あればあとやる事は、
「呪装変転…」
 塞がれた扉を突破して突き進む。方法は無論力尽くで。
 九重が腕を上げれば、それに合わせる様に影がゆらりと沸き起きる。
 数は五。
 そして、九重が一歩踏み出す。その瞬間、その出現とは真逆の鋭利かつ機敏な動作で影が伸び、瞬く間に押し付ける様に塞がれていた扉を、再びその枠に沿う様な形で切り抜いた。
 押さえる支えが無くした扉はゆっくりと倒れ…る事を待つことなく九重は蹴り倒した。
 九重は座席にぶつかる扉を目で追い、その後扉があった枠をなぞる様に視線を滑らせ、眉を顰める様にしながら少し首を傾げる。
 わざわざ蹴り倒したのにも理由はあるのだ。倒れかけているなら踏み倒した方が早いのだから。
「扉の窓に張り付いてたヤツって何だったんだ…?」
 扉を押さえ、窓を塞ぎ先が見えなくなっていた何か。
 それが居たか、間違いなく在ったのだ。
 それを警戒して蹴り離したのだが、影も形も無い。
 なんなら足先で倒れた扉を持ち上げてみても何もない。
 九重の候補としては、よく見る変な肉の塊だったのだが。
「……。」
 気になるのであれば、まだ車窓を塞いでいるのを観察もできるし、先の扉の窓も同様の状態なのだから幾らでも調べる事は出来る。
 が、先述の通り今の九重はぶん殴る担当である。
(ここまでやって何にもしてこないなら、これ以上気にする必要はないか…)
 脅威度及び警戒度の修正で、そちらは興味はないようだ。 
 そんな事を考えながら車両の中を堂々と歩き、次の扉に使づくと影が難なく切り抜き、今度は進むついでに扉を踏み倒し、また次へと歩を進めていく。
 一応、人影が無いか視線を走らせはするが、隠れ場所などほとんどない車両ではそれも視線を横に動かすだけに終わる。
 ただ、人影も無いが血痕も皆無だ。大量の黒い羽に埋もれているだけと言う訳ではなく。
 楽観的に考えるのであれば犠牲者が居ない…なのだが、UDC事件の場合犠牲者が居てもそうなる事がざらにあるのだから安心できない。
(犠牲者か…)
 その言葉で連想するものは、今回の事件でグリモア猟兵がその案件だと語ったそれ。
 邪神の仔。
 九重はそれに関連する事件に関わる事は初めてであった。
 九重の考えとしては、『UDCってのは大概が存在するだけで世界を破滅に導くオブリビオンで、UDC-Pみたいなのはごく一部の例外』だ。
 無論それが事実だ。そしてUDC組織の考えとも一致した考えであろう。
 一つ…面白くもあるが、それをここで口にした場合に深読み裏読みをしたならば、グリモア猟兵の『被害は世界規模になる』と言うのを『そんなのは全て同じだろう』と暗に言うようにも聞こえてくる。
 邪神の仔が危険だという意味か、グリモア猟兵の言への皮肉かどちらになるのだろう。
 また一つ扉を踏み越え九重は先へ進む。
「邪神の仔がどうなのか、まあ直接見てみればわかるだろ。」
 それが大概か、例外か。
 それとも別の何かか。

成功 🔵​🔵​🔴​

寧宮・澪
おやまあ……どう、しましょか……まあ、進むだけ、ですね。

さて、扉に手をかけて……開きますかね。開いたなら良し、そのまま全力で進むだけ……。
開かなかったら、無理にでも開けるしかないですよね……うん。
歌って、世界に干渉、この電車を取り巻く現象へ、ハッキングー……同時に、【お手伝い猫の召喚】……。
地形破壊を100レベルで使ってもらって、ハッキングで緩んだときにドア、壊してもらいましょー。
壊れたら抜けて、先頭まで同様に……。もし一般の人がいたなら、とりあえず、その場で大人しくしていた方がいい、とだけ声かけておきますね。

お仔さん。うん、知ったなら、手を伸ばしたい、ですねぇ。処分はやーですよ……うん。



「おやまあー……。どう、しましょかー……」
 どこかのんびりとした、と言うよりもぽやぽやぼんやりとした眠たそうな声が、車両に染みるように広がり、溶ける様に消えていった。
 その声の主は寧宮・澪(澪標・f04690)なのだが、その声同様にどこか眠たげで、警戒心が欠如していると言われても擁護する事が出来なそうな様子であった。
 先の発言も塞がれた扉を見ての発言なのだが…本当に困っているのだろうか。
「まあ、進むだけ、ですねー……」
 本当は半分より少し寝ているのではないだろうか。
 いや、方針としては間違ってはいないのだ。正しいのだ。が……どうしましょう進みましょうかのとても短い思考の飛行距離がそう思わせる。思わせてくる。
 寧宮はゆくーりと、扉へとと近づくと取っ手へと指をかけ「開くでしょかー…」と口にしながら引くも、余り力の入っていない指先はするりと簡単に取っ手から外れてしまった。
 とは言え、壊れた物を直されたでもなく、何かによって向こうから押さえつけられているだけの本来の機能の損なわれた扉では、例え力が入っていてもよほどの怪力でもない限りそれでは開いていなかっただろう。
 寧宮は特に何か感慨を抱いたという風でも無く、眠たそうな目で取っ手から外れた自分の指を見つめながら呟いた。
「無理にでも開けるしかないですよねー……うん……。」
 言葉がどことなく悲しそうだが、もしかしたら少しがっかりしていたのかもしれない。
 それは置いておいて、寧宮はそっと口を開き、薄く伸ばす様に、空間に溶かすような声で歌い始めた。
 透き通る様な? 儚い? 過小な言い方だ。そして正しい言い方でもないのだろう。
 そしてここで言葉尽くす場でもないのだ。
 その歌声も只者ではないが、その歌声が起こす事象も聴衆の喝采だけではない。
 歌声は呪文代わり。シンフォニックウィザードはそれでもって世界へ干渉する。
 寧宮の歌声は拡がり、この電車…空間を取り巻く事象を聞き惚れさせ、改変する為に干渉する。
 それに加え、干渉で抑えの緩んだ扉を壊す為の自分の手代わりの猫の手【お手伝い猫】が、髪に咲いたかすみ草からころりと現れ出で地面に着地してみぃと鳴く。
 歌声の効果は少し、どころか歌い始めて数秒で現れた。
 トン、と少し大きい音が扉の下方から響いた。
 恐らく、押さえられ少しだけ浮いていた扉が床とぶつかった音だろう。
 そこまでは寧宮の狙い通りだ。が、起きた事はそれだけではない。
 周囲、車窓も何かに塞がれていたのだが、それもバラバラと何か細長い布の様な物が剥がれ落ちる様に解かれていく。
 元から暗闇である為、見える景色はほぼほぼ変わらないのだが、それを見て寧宮と召喚された猫がお互いの顔を見る。
 そしてトテトテと猫は扉へと近づき、その小さな前足を扉にポンと置いた。
 ゆっくりと、それだけでバランスが崩れ奥へと扉は倒れて行き、鈍い音を立てて転がった。
 再び寧宮と猫は顔を見合わせる。
 思った以上に効果があった。と言うよりも相手側の抵抗力が弱かったのだろう。
 寧宮は先へと視線を戻す。先…と言うよりは、扉があった場所の周り。
 そこには布ともテープとも言えそうな、黒いような包帯状の物が幾本もだらりと垂れ下がっていた。
 先端は、それぞれの本数も形状もばらばらだが指の様に分かれており手の様であった。
 おそらくこれが押さえていた何かなのだろうが、今は何というか…眠っているように動かない。
 それが寧宮の干渉の結果なのだろう。
 特に藪をつつく必要もないので放置して抜けていく。
 電車の隠れられそうな場所を、猫と覗きながら進んでいくが見つかる物は裂傷と黒い羽ばかり。
 そうしながら寧宮は特に障害(にならないと分かった扉は毎回あるが)も無くマイペースに車両を進んでいく。
 そうなると、思考は当然のようにこの先、これから出会うと言われた存在へ向く。
「お仔さん……」
 どんな人なのだろうか。どんな思いで今いるのだろうか。助けられるのか。その人は自らを受け入れられるのか。
「うん、知ったなら……手を伸ばしたい、ですねぇー……」
 彼女はそう口にする。可能性を、その先を。
「処分はやーですよ……うん」

成功 🔵​🔵​🔴​

葛籠雄・九雀
邪神の仔か。
…子供を殺すのは本気で気が進まぬが。必要ならば殺すしかあるまいな。
まあ…いずれを選ぶも、見てからであるな。それと他の猟兵ちゃんの出方による…ひとまず電車を解決するか。

ふむ…全部隠してしまっておるのか。扉を開く破壊力もオレには…なくもないが、そこまで荒事にしたいとも思わんであるし、下手に刺激するのもよくはあるまい。ロアの手記からアドニス・ラモサで何か探してみるか。

…ふむ、このあたりが使えそうか?
『…そうして煙草の火をつけると、たちまち隠れていた道や物が見つかった』…オレは煙草を持っておらん筈であるが、こうして煙が立ち上るのは不思議なものであるよなあ?
はてさて、本当に見つかるものやら。



「邪神の仔か…」
 電車の内に奇妙な声が沸いた。まるで壁越しに聞きでもしたような低く、くぐもった声。
「…子供を殺すのは本気で気が進まぬが。必要ならば殺すしかあるまいな」
 その声の主は奇妙な仮面をした男であった。
 黒い地に、奇妙な模様と三日月の様に歪んだ目だけが描かれた、角の付いた仮面。
 最も奇妙であろうは、その仮面には目元に視界の為の穴が開いていない事だろうか。
 そのモノの名は葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)。
 いや、ここで正確に記しておこう。
 そのモノの、仮面の名は葛籠雄・九雀。
 声を発したは肉体でも、その意志と行動は仮面である葛籠雄の行いだ。
 まぁいい。この物語においてはさして重要な事ではない。ただ、正しく記して置いておいた方がいいだけの話だ。
 葛籠雄は独白する様に言葉を紡ぐ。
「まあ…いずれを選ぶも、見てからであるな。それと他の猟兵ちゃんの出方による…」
 今は見えはしないが、向かう先に必ず出会う事になる対象の事を口にする。
 口にはするが、それはどこかゆらゆらとふらふらとしている。
 気は進まないが、必要あれば殺す。
 選ぶのは見てから、だが他の猟兵の行動にも左右される。
 色々真面目な風に言っているがこうだろう、『とりあえず行って、その場のノリに任せればオッケー』。
 猟兵らしい話だ。

 葛籠雄は調べる様に車窓へと手を伸ばし、指を触れさせる。
 触れた限り普通の窓。だが、その向こうは一寸の隙間も無く何かに押し塞がれて暗い。
 葛籠雄は、指先を窓に触れさせ滑らせるようにしながら前方へと歩いて行き、その歩みと指先はすぐに扉とその窓ガラスで止まった。
 その窓ガラスの向こうも、車窓同様に塞がれたように何も見えない。
「ふむ…、全部隠してしまっておるのか」
 これでは観光も景色を楽しむもあったものではない。
 目的としては、単純に閉じ込める為の方が強いのだろうが、臭い物には蓋ともいうしある意味で隠してもいるのだろうか。その場合は外をでは無く内を、という事になるが。
「扉を開く破壊力もオレには…なくもないが、そこまで荒事にしたいとも思わんであるし、下手に刺激するのもよくはあるまい」
 考えた結論は中々に慎重派であった。
 とは言え、果たしてあるのか。そんな手段が。
 葛籠雄は何やら懐を探すように手を動かし、一瞬動きを止め引き出せばその手には『ロアの手記』が挟まれていた。
「ふむ…」
 パラパラとページを捲っていき、
「このあたりが使えそうか?」
 そう口にし、ページを繰る手を止めると葛籠雄はそこに記された“ある人曰く”を読み上げ始めた。
「さてこの話は、ある人曰く、と始まるのであるが…『チクタクと、時計が私を追ってくる。規則正しく整列し、耳へと行進してくる。私は逃げた。ホールを、舞台を、庭園を抜け駆けていくが、時計は私を見失う事無く私に迫ってきた。駆ける私は焦り、近くの扉を開き中へ入ると勢いよく扉を閉めた。そして、そこですぐに私は失敗を悟った。そこは客間だった…逃げ場も無く、窓の一つも無い。すぐに取って返せばまだ間に合うとそう思い振り返れば、そこにはもう扉は跡形も無く消えていた。時計はチクタクと、規則正しく近づいている。焦燥に頭を満たされた私は、いつの間にかその手に煙管を取り出していた。頭ではそんな事をしている場合じゃないと、そう思っていても手はその準備を進めていく。煙草を詰め、火を点ける。それに口をつけ、ゆっくりと煙を喫い、そして同じように長く煙を吐き出す。私はこんな状況だと言うのにそれで落ち着いてしまった。もしかしたら、それで諦めてしまったのかもしれない。私は茫と、揺ら揺らとする煙を眺めていると、ある煙が目に留まった。部屋の隅で薄い煙が踊っていたのだ。私はそこへ近づき、手を伸ばした。そこには煙が教えてくれた通り道があったんだ』」
 葛籠雄が終わりまで口にしそして言葉を切ると、初めは薄く、そして段々と車両を満たす様に細く長い煙が充満していった。
「はてさて、本当に見つかるものやら。…それにしても、オレは煙草を持っておらん筈であるが、こうして煙が立ち上るのは不思議なものであるよなあ?」
 どこか愉し気にそう口にしながら葛籠雄は、揺れる煙を眺める。
 が、そんな気も無い心配もすぐに終わった。
 壁の一か所で、煙が奇妙な流れを見せていた。まるでそこに隙間がある様に。
 電車であればどこか隙間があるのは当たり前? 違う違う、窓のそばでもなく、扉でもなく、一枚の壁の中心辺りで煙が動いているんだ。
 葛籠雄はその場所へと近づいていき、手を伸ばす。
 すると、壁に手を付くはずのそれはするりと壁の中へと潜ってしまった。
 そのまま葛籠雄は手首、肘、肩、そして体。そのまま通り抜けていってしまう。
 通り抜けた先は壁の向こう側か、それとも先の先までの『抜け道』であるのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『強欲の傀儡『烏人形』』

POW   :    欲しがることの、何が悪いの?
対象への質問と共に、【自身の黒い翼】から【強欲なカラス】を召喚する。満足な答えを得るまで、強欲なカラスは対象を【貪欲な嘴】で攻撃する。
SPD   :    足りないわ。
戦闘中に食べた【自分が奪ったもの】の量と質に応じて【足りない、もっと欲しいという狂気が増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    あなたも我慢しなくていいのに。
【欲望を肯定し、暴走させる呪詛】を籠めた【鋭い鉤爪】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【欲望を抑え込む理性】のみを攻撃する。

イラスト:こがみ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 走って、走って、走って、走って、逃げ続ける。
 けれど、ゴールが見えない。ここに逃げ場なんて無い。
 少しずつ、少しずつ、怪物との距離が詰まっていっている。
 焦り。焦燥。追い立てられる恐怖が息を不規則にする。
 何人も私たちの脇を通り抜け、時には押しのけて我先にと逃げていった。
 そんなのは構わない。私だってみーちゃん以外の人の事なんて気にしていなかったのだから。ただ、結果的に今私たちが最も怪物達に近いという事実が頭を痺れさせる。
 扉を力任せに引き開け、みーちゃんを引っ張りながら次の車両に飛び込む。
 その瞬間、金属の拉げる悲鳴が聞こえた。
「…―っ」
 悲鳴を上げかけるが、喉が引き攣りそれが出ない。
 怪物が一つ手前の車両…もう、すぐそこまで来ている。
 一瞬後にはすぐにでも怪物の手が届くんじゃないかと言う恐怖が突き刺さる。
 唇を噛み締め、必死に足を動かす。
 すぐ近くに居るみーちゃんからはもうぜいぜいと辛そうな息が聞こえる。
 それはそうだ。もうどれだけ全力で走ったのだろうか。けれど、足は止められない。
「――…」
 …。
「――――助けて…」


 邪神の仔? 誰が? 私が?
 私が。
『欲しい。欲しい。あれが欲しい。邪神の仔! あれが欲しい!』
 幾つも幾つも幾つも幾つも幾つものしゃがれた声が重なって、一足先に耳に届く。私に届く。
 明らかに私にだけ視線を突き刺して。確りと私にだけ声を向けて。
 邪神の仔? 私が? それは…なに?
 それは……。
 木霊する声、溶け落ちた友達、白い羽。
 黄昏の視線、襲ってきた影、悲しそうな天使…。
 それは……、私は…ちーちゃんとは違うの?
 私は、佐々見・実伊里は、普通じゃない?

“引き取りたくなんて無かった”
“なんで子供だけ残して死ぬんだか”
“本当に、迷惑”

 頭の中にお母さんとお父さんの、偶然聞いてしまった/知ってはいけなかった 言葉が反響する。
 私に無関心で、私に興味が無いお父さんとお母さん。必要な分だけの生活だけを与えてくれる人達。それは、私が異物だったから。
 じゃあ。じゃあ?
 私はちーちゃんと違ったら? きっとみっちゃんとも違かった。
 私が、異質で、異物で、異常な存在だったら…。
 拒絶される…?
 いやだ。絶対に。絶対に、嫌だ。
 嫌われるのは良い。距離を置かれるのもいい。二度と会えなくなるのもいい。
 けれど拒絶される事だけは、絶対に嫌だ。
 必死に足を動かしてちーちゃんに付いていく。
 そう言えばどうして、私の口は笑っているんだろう。


 猟兵が突き進んでいると前方に黒と白の塊が見えた。
 塊と言うには語弊があろうか。正確には、先など見えないが少なくとも目の前の一両は埋め尽くすほどに居る。
 けれど埋め尽くすほど居たのもついさっきまでの事であった。
 段々と、目に見える速さで、水が抜ける様にするすると先の車両へと移っていっていた。
 決して規則正しく順番を守って移動している訳ではない。全てがそれぞれ荒々しく、我先にと争いながら進んでいると言うのにだ。
 時に搔き分け、踏み越え、踏まれ、乗り越えて先に進んでいく。
 総数などわからないが、やるしかない。
 場所と数が相まって、適当に何か投げても外す事は無い。
 が、数で来られれば逃げ場も無い。
 一応屋根や側面から回り込めると思うが……踏み外して落ちでもすれば恐ろしいらしいし、さて。


 戦闘特記事項
・烏数一杯
九重・灯
表に出ている人格は「オレ」だ。

詠唱銃をブッ放して、敵の注意をこちらに向ける。
「電車の中で暴れるなよ。マナーがなってねえなあ?」
『音響弾3、挑発5、おびき寄せ3』

逃げ場がない? そりゃあオマエらのコトだ!
UC【影の森】。カゲツムギに生命力を注ぎこむ。
無数の黒刃を形成、敵を貫く。それでも狂的に突撃してくるヤツらには槍衾のように刃を並べて迎え撃つ。
こんな場所じゃ羽なんかあっても役立たずだろ。自分から針山に突っ込んで来いよ、ニワトリ野郎が!
『地形の利用5、串刺し10、カウンター5』

邪神の仔はまだ先か。
「そぐにそっちに行く! そのまま走り続けろ!!」
届くかどうか分からないが、大声で呼びかけて急いで行く。



 障害をぶち破り、走り、繰り返し続けやっと前方に蠢く黒い塊を見つけた。
 見えるのは最後尾の部分のみ。総数など推し量る事も出来ない。
 が、躊躇はしなかった。
 薄く笑いを浮かべながら、九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)は今も前へ移動を続ける烏人形の塊へ向け詠唱銃の引き金を引いた。
 撃音。
 響いたその音は、電車内と言う閉所での反響を抜きにしたとしても、いつも以上に大きく轟いた。
 放たれた弾丸は、外れる事などあるはずが無く烏人形の一団に突き刺さり…埋もれた。
 ダメージが無かったわけでも効果が無かったわけでもない。
 その数の多さによって二、三体倒れたところで規模はさほど変わらないのだ。
 とは言え、烏人形が進み続けていればその後に死体が転がって一発でどれほど倒せたかは分かったのだろうが、今回はそうはならなかった。
 その撃音に、轟音に反応して最後尾集団が進行を止め、一斉に振り返る。
 首を捩じり回し、体をそのままに頭だけを九重の方向へ向け、その感情の読めない口元だけが出た顔で視る。
 ぞわりと、九重の全身に悪寒が走った。
 烏人形の目は包帯で隠されていると言うのに、九重ははっきりとその視線が自分に突き刺さるのを自覚した。
 それも、敵意や害意ではなく、価値を量る様に全身を舐めまわす視線。
 いったい何の価値を量られているのか。恐らくは、この世で『欲』と言う文字の付く事柄全て。
 九重は、その視線を心底不快そうな顔で流しながら足を止め、
「電車の中で暴れるなよ。マナーがなってねえなあ?」
 そう、皮肉を口にした。
 そして、その言葉が端を発したのかは定かではない…が、烏人形が一斉に動き出した。統制などと言う言葉は微塵も無い、殺到。
 床も壁も天井も構わずに、聞き取れない鳴き声を叫びながら濁流の如く九重へ襲い掛かる。
 逃げる、避けるのであれば逃げている一般人と同様に居ない方向へ退いて行くしかない。
 対策が無ければそれしかない。
 だがやり様があれば逆にもなる。
「逃げ場がない? そりゃあオマエらも同じコトだ!」
 九重は詠唱銃を下ろし、腕を振るう。
 瞬間、床を、壁を、天井を、植物の根が伸びるように影が這い、そして僅かの間の後に棘を生やす様に一斉に刃を形成し突撃してきていた烏人形を貫いた。
「こんな場所じゃ羽なんかあっても役立たずだろ。自分から針山に突っ込んで来いよ、ニワトリ野郎が!」
 飛んで火にいる夏の虫。この空間は、数をどうにかできる猟兵であれば避けられる事も、散らばる事も無いのだからイージーモードだ。
 とは言え、通常の人基準で常識的な思考を持っているのならば、この状況は躊躇や逃げの兆候を示すものだろう。
 けれど、烏人形は違っていた。
 躊躇も恐怖も怯懦も見せる事無く、その剣山に構わず続いて突撃してきた。
 動かなくなった者を踏み潰し、押し潰し、押し付け、そして自らも死ぬ様は一種狂気と言う物の見本の様であった。
 ブツ切りの様な烏人形の体の一部が足元まで転がってくると、乾いた笑いが思わず漏れる。
 次々に切断されたパーツが床に落ち、そして溢れていく。
 次々に、次々に車両を満たす。
 そして襲撃が一段落付いた時、九重は一つ後ろの車両に下がっていた。
 押されたわけでは無い。残骸が多すぎて足の置き場がなかったのだ。
 一息つくと、呟く。
「時間を取られたな。邪神の仔はまだ先か。そぐにそっちに行く…そのまま走り続けろよ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
アドリブ・連携お任せ

はい、助けにきましたよー……お待たせしました。もう大丈夫ですからね。

さてさて、お話しするにもちょっといっぱいですね……うん、頑張ることにしましょう。
【謳函】、起動……さあ、頑張りましょう。皆が無事に帰れるように。乗客を無事に帰せるように。
もし一般人がいるなら、かばいましょうね……お子さんと、お友達ももちろん。オーラ防御で守ったり、烏人形をこっちにおびき寄せたり。
手が足りなければ、バディペットのたまにも手伝ってもらいましょうね……。
余裕があれば、世界に干渉。椅子を動かして障害にしてみましょか。

我慢なんてしてませんよ……だって。

誰かの自由を捻じ曲げる、貴方達が嫌いですから。



 足から感覚が抜けていく。肺が痛い。頭が朦朧とする。
 けれど、引かれる手を必死に掴んで足を動かす。
 離したくない。離されたくない。
 けれど、文字通り足を引き摺っている。
 床を蹴る足の力も弱まり、もつれる。
「――…」
 背後から段々と近づいてくる怖い物の声に紛れて、千歳音の喰いしばっている歯の隙間から聞こえてきた。
「――――助けて…」
 気配が、すぐ後ろまで迫ってる。きっと腕が伸ばされてる。
 私は。私は…。
 私は離せない。
「はい、助けにきましたよー……」
 唐突に、突然に聞いた事の無い声が耳に届いた。大きくないのに耳に届く声。
 車両の側面が解ける様に穴が開くと、そこから座席が通路を塞ぐように突っ込んできた。
 さらに、間髪入れずに左右の座席が浮き上がり、空いていた隙間を埋めるようにして塞いだ。
 ちーちゃんも、私も、思わず振り返ってしまって、そのまま足をつっかけて通路へ転んでしまった。
 二人で掠れた荒い息を繰り返し、床に手を付き立ち上がろうとしながら背後へと目を向ける。
「お待たせしましたー……もう大丈夫ですからねー……。」
 死んでしまいそうな恐怖の中駆けてきていた中で、場違いとも思える様なのんびりとした声の主は、初めに突入してきていた座席に座っていた。
 黒く長い、流れる様な髪を持つ女性。
 その傍らで、小さな金色の小箱…オルゴールが細く音を奏でていた。


「さてさて、お話しするにも…ちょっといっぱいですねー……」
 寧宮・澪(澪標・f04690)が、座席からオルゴールを手にしながら降り、振り返る。
 “黒く薄い、包帯の様な無数の手の様な物”が、座席を抱え上げ押さえつけ、バリケードの様に通路を塞いではいるが烏人形の圧力に負け、段々にだが隙間が作られていっていた。
 今も新たに一つ、座席の接合部が解ける様に外れ、手の様な物によって傅く様に寧宮の傍に運ばれてくる。
 その“手の様な物”…それは追走していた時に扉や車窓を塞いでいた物なのだが、寧宮はそれに干渉し使っていた。
 追走中、寧宮は電車自体がそれだと察し、ならばとやったのだ。
 今同様に、座席を分離させそれに乗り、電車の側面をその手でバケツリレーの様に運ばせたのだ。
 流石に空間全てには干渉できずとも、自身の周囲は十分に可能であった。
 オルゴール【謳函】はその干渉をサポートする保険でもあるが、それと一般人の精神安定の一助になるだろうかとも思っている。
 その一般人ではあるが、今目の前に居る二人はパジャマ姿であり恐らく中学生か高校生前半辺り。片目が髪で隠れた一人が警戒心全開。気弱そうなもう一人は目を丸くしながらも、何かを思い出そうとしているようだった。
「さあ、頑張りましょうー……。皆が無事に帰れるように……。」
 ゆっくりとそう口にしながら二人に近づこうとした時、バリケードの隙間に烏人形が腕を捻じ込み爪を振るった。
 その爪は寧宮の腕に当たるはずだった…が、空を切る様にして抵抗も無く通り過ぎた。服にほつれの一つも出来ていない。
 寧宮は一瞥だけ向け、そして二人に向き直る。
 そのタイミングで気弱そうな方が、思い当たったように小さく口を開いた。
「えっと…たしか………リョウヘイ…?」
 微かな声ではあったが確かにそう言った。
 寧宮が覚えている限り初対面。こういった事で二度出会うと言うのも稀な筈だ。
 だから、猟兵を覚えているそちらの子が例の『邪神の仔』だろう。
 よく観察しそうになったが、背後の騒ぎが激しくなったので寧宮は“手の様な物”で二人を取り外された座席に乗せ、自分も続いて乗った。
 警戒していた方は、邪神の仔の呟きが聞こえていたのか疑問そうにしていて、その後謎の手によって座席に座らされ混乱を極め目を白黒させていた。
 けれど、邪神の仔の方が特に抵抗も見せない為、飲み込めずともすぐに受け入れていた。
 そうして、取り外された座席が“手の様な物”によって電車の中を小さな電車の様にスムーズに運ばれ始めた。
 車両を抜けるたびに“手”によってバリケードを作る為、恐らく追いつかれる事も無いだろう。
 ある程度緊張が解けたのか、二人はぐったりとしていた。
 アニマルセラピーではないが、バディペットのたまにも二人の傍に居てもらっている。
 ぽつぽつと話せば、邪神の仔の名前が佐々見・実伊里。もう一人の方が千波・千歳音と言うらしい。
 見る限り、二人とも人間……の様に思う。
 精神面は分からない。疲れ切っている為分かりにくいという事もあるだろうが。
 
 背後遠くから壊れる様な音が響いた。
 確実にバリケードの一つが壊された音。
 寧宮はその方向へ目を向けながら心の中で呟く。
(我慢なんてしてませんよ……)
 烏人形の爪は、外れてなどいなく確かに届いていた。
 寧宮の“欲望を抑え込む理性”に。
(だって…誰かの自由を捻じ曲げる、貴方達が嫌いですから)

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

この鳥ども……何かを追いかけている?
ここまで必死になるような奴がこの先に……
いや、コイツらはそもそもとんでもない欲望と執着心の塊だったね。
この狭い空間にこの密度で猟兵以外がやられたらマズい、一気に吹き散らすよ!

奴らの後を追跡するようにダッシュしながら、
そのままサイキックのオーラを衝撃波の様に周囲へ放つ。
そうして列車の中をさながら嵐の禍中にいざなって、
人形共へ範囲攻撃を加えるよ。
勿論、無差別に荒れ狂わせるつもりはないさ。
この場の烏人形以外へは防護を施せるようにサイキックの性質を上手く調節しながら、突き進む。

見た事あるヒトが巻き込まれてなきゃいいけど……望み薄だよな。



 先に見える黒い塊は、数が減っただろうにその勢いも濃さも減っている気がしなかった。閉所では先が見通せない。
「この鳥ども……何かを追いかけている? ここまで必死になるような奴がこの先に……」
 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は、そう口にしながらもその対象は分かっていた。
 そんな対象は邪神の仔しかいない。
 未だこうして追いかけているのならまだ逃げ続けているのだろう。
 そこまで考えて頭を振る。
「いや、コイツらはそもそもとんでもない欲望と執着心の塊だったね…」
 最善の未来を妄信するのは良い事ではない。願うのも望むのも大切ではあるが、それしか想定しないことは不幸を生む。
 あの烏人形であれば、その価値が屑であっても欲しいと思えば全力で追うだろう。
 様子見するようなペースであった足に力を込め、足を速める。
 途端、吊革が不自然に、大きく揺れる。
 電灯が明滅し、空気の弾ける音が響く。
 サイキックの電光と衝撃波が数宮を中心と知って拡がって行き、車両の内を嵐の様に吹き荒らしていく。
 先の、先の先の車両まで。
「一気に吹き散らすよ!」
 烏人形にとっては突然に、電撃に貫かれたと思えば体が天井方向へ押し付けられ、かと思えば側面に叩きつけられ、そして反対側へ、下へ、前へ、後ろへ…。
 文字通り嵐の渦中の様に振り回される。
 その度に、折れる音、潰れる音、千切れる様な音が幾つも騒音に紛れて響く。
 烏人形は動揺し混乱する……事は無かった。
 その目にも、頭にも『欲しい』と言う考えしか満たされておらず、状況を把握するという考えなど存在しなかった。
 故に、烏人形の行動は二つに分かれた。
 そのまま前へ進み続けたのと、後ろの方に居て偶然数宮を認識しそちらに向かい、その個体を認識し取らせるものかと続く者の二つであった。
 とは言え、まるで洗濯機に放り込まれたような状況でまともに近づける訳も無く、過密状態から疎に移った接近しようとした者達はより振り回され、壁や床に叩き付けられる結果となった。
「烏人形以外が居た場合に備えはするけれど…」
 通った後には、少なくとも生き残った者は居ないだろう。
 何となく、どうしようもなく数宮はため息を付きたくなった。
「見た事あるヒトが巻き込まれてなきゃいいけど……望み薄だよな」
 なんというか、縁と言う物がある気がしたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
この手記は中々面白い事が起きるであるな。
贈り主に感謝である…と、さて。

一先ずはこやつらの対処であるな。
実物と会って話をしてみんことには何も始まらんし、始める気にもならん。

今は『まだ』普通の子供というのなら、こんな烏に追いかけ回されるのも恐ろしいものであろうしな。
さっさと前へ進むとするか。
折角『壁を抜ける』なんぞという面白い体験もさせてもらったであるしな。

数がおるならウルティカ・ディオイカで始末するのが得策そうであるかな。増やした思念針で刺して引き抜いて刺して、…まあ正直、何も特別なことはない。相手に体液があろうがなかろうが、動かなくなるまで刺せばよい。それだけの数と強度はある。

アドリブ連携歓迎



「この手記は中々面白い事が起きるであるな。贈り主に感謝である…と、さて」
 葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)は手記を閉じる。
 その視線の先には、“こちらへと向かってくる”黒い群れが見えた。
 いつ追い抜いたのか。如何にして成したのか。
 葛籠雄は特に驚く事も気にする事もなくその状況を受け入れている。
「一先ずはこやつらの対処であるな。実物と会って話をしてみんことには何も始まらんし、始める気にもならん」
 そう言うと、針を…と言うよりかは串か棒手裏剣と言った方がいい大きさだが、を取り出すと宙へ放り投げた。
 それは緩く回転しながら宙を舞い、ぴたりと空中で静止したかと思えば、方位磁針の様にその先端を廻し烏人形の方へと向けた。
「数がおるなら……ウルティカ・ディオイカ」
 その言葉と共に針が二、四、八、十六…と数を増していき百を少し超える程で増殖を止めた。
「数も多い、思い通りに動くというのも、存外扱いが難しいものであるが……なに、動かなくなるまで刺せばよいだけよ」
 百と数の針が一斉に動き出し烏人形の波に殺到する。
 突き刺して突き刺して突き刺して、引き抜き突き刺す。
 横殴りの雨の様に次々に烏人形に突き刺さる…が、如何せん刺突は突撃の勢いを殺すには弱い。
 数体倒れようと変わらない勢いで構わず前進してくる烏人形に、興味深そうな、けれどさほど気にしても居なそうに声を出す。
「ふむ、まぁ止まらぬか…。前へ進むとするか」
 葛籠雄が背後の扉に手を掛けると、それを引き開ける前にその窓から見えた向こうに首を傾げた。
 何か見える。見覚えがある。それもつい最近。と言うよりも、すぐ傍らにある座席の生地だ。
 葛籠雄はなぜそこに座席があるのかが分からなかったが、そもそもここに降り立った時点に扉が塞がれていた為そのせいだと納得した。
 納得したから、『壁』を抜けた。
 するりと壁に入り込み、明らかに接していない先の車両の壁から滑り出てくる。
 烏人形を追い越した術。『壁』を抜ける。
 さて、壁とは物理的な物だけなのか。
「さっさと前へ進むとするか。折角『壁を抜ける』、なんぞという面白い体験もさせてもらったであるしな」
 微かな笑い声を仮面の下から漏らしながら思いを馳せる。
「今は『まだ』普通の子供というのなら、こんな烏に追いかけ回されるのも恐ろしいものであろうしな」
(とは言え、誰かが先に保護したようであるが…)
 口にしながらもそうとも思い、先ほどまでいた車両へと視線をやる。
 未だ飛翔する針は踊り狂っている事だろうが、その様子は見えない。
 見えない理由は先に進んでいる猟兵を察した理由でもある。
 扉を塞ぐように集められた数個の座席。
 要はバリケード。
 先からの戦いで数を減らした烏人形を殲滅するのに、それは随分と気を楽にできる要素となった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 耳障りな鳴き声が小さくなり、微かになり、途切れる様に消えた。
 再び規則的なレールの音だけが耳に響き始める。
 空間から、不気味な空気だけを残して緊張感が消えていく。
 警戒したまま一度、二度、足に響く振動が過ぎていくのを感じていると、突然地面が抜けた。
 落ちていくのに上っていくような感覚がする。
 幻が解ける様に、夢から起きる様に、現実に覚める様に世界が溶けていく。
 


第3章 日常 『星の観測』

POW   :    星や流れ星を、気合で見つける

SPD   :    星や流れ星を、技術で見つける

WIZ   :    星や流れ星を、知識で見つける

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 いつの間にか、眩む様な光から逃げる様に瞼を閉じていた。
 白飛びした視界が収まっていくと、遠くに瞬く生活の光が見えた。
 今立っているのはどうやら丘の上の公園らしい。
 遠くの光は住宅街や大きな橋、人の生活地の光だ。
 周りを見渡せば、少女がそこに居た。一人だけが居た。
 譫言の様に体を丸め、友人の名前を繰り返している。
 隣に居たから心はにか、眩む様な光から逃げる様に瞼を閉じていた。
 白飛びした視界が収まっていくと、遠くに瞬く生活の光が見えた。
 今立っているのはどうやら丘の上の公園らしい。
 遠くの光は住宅街や大きな橋、人の生活地の光だ。
 周りを見渡せば、少女がそこに居た。一人だけが居た。
 譫言の様に体を丸め、友人の名前を繰り返している。
 隣に居たから心はもった。
「やだ、やだ。一人は嫌。傍に居て。嫌いって言わないで。嫌いでいいから拒絶しないで。私は…私は……。私は居るから。何もいらないから。」
 その間にそれぞれの手段で調べてみれば、少なくとも猟兵が電車内で見ることが出来た一般人は元の場所に戻っているようだ。
 そこの部分は安心なのだろうか。
「あぁ…リョウヘイさん達、ですか?」
 いつの間にか、視線がこちらに向いていた。
「彼方達は、わかりますか? 知ってるんですか?」
「私は…なんなんですか?」


 先の断章などは予兆的に垣間見た映像として知っていても問題ありません。


断章変なことになってる…
 
●●修正版
 いつの間にか、眩む様な光から逃げる様に瞼を閉じていた。
 白飛びした視界が収まっていくと、遠くに瞬く生活の光が見えた。
 今、立っているのはどうやら丘の上の公園らしい。
 遠くの光は住宅街や大きな橋、人の生活地の光だ。
 状況を認識し周りを見渡せば、少女がそこに居た。一人だけが居た。
 譫言の様に体を丸め、友人の名前を繰り返している。
 隣に居たから心はもった。
「やだ、やだ。一人は嫌。傍に居て。嫌いって言わないで。嫌いでいいから拒絶しないで。私は…私は……。私は居るから。何もいらないから。」
 その間にそれぞれの手段で調べてみれば、少なくとも猟兵が電車内で見ることが出来た一般人は元の場所に戻っているようだ。
 そこの部分は安心なのだろうか。
「あぁ…リョウヘイさん達、ですか?」
 いつの間にか、視線がこちらに向いていた。
「彼方達は、わかりますか? 知ってるんですか?」
「私は…なんなんですか?」


 先の断章などは予兆的に垣間見た映像として知っていても問題ありません。
数宮・多喜
よっ、久しぶりだねぇ。
そういや、自己紹介がまだだった。
アタシは数宮・多喜。アンタの言う通り、猟兵さ。
思い出したくないかもだけど、覚えてるだろ?
そこにいる九重さんと一緒に黄昏時の校舎で、怪物どもとやり合ってた事をさ。
本当はもうひとりも居ればもっと鮮明だろうけどね。
あん時とは違って、すっかり日も落ちちまったな。

大丈夫、ちーちゃんは家に帰ってる筈さ。
きっと心配しているよ、電話で声を聞かせて安心させてやりな……
っても先に、最初の質問に答えないとねぇ。

実伊里ちゃん、アンタがいったい何者なのか。
正直アタシにも分からねぇ!
……おいおい、何ガッカリしてるのさ。
そこまで世の中都合よくねぇよ?
だから、これから一緒に調べよう。
不思議な力を持ってるのは違いない、
でもそれはアンタが「人間じゃない」証明じゃない。
人間のアタシが、その反証さ。
そして二度も縁があったんだ、
困った事があったら心の中ででも呼んどくれ。
人と共に在りたいと願う限り、アタシはいつでも駆けつける。
アンタは、決して一人じゃない。
それを忘れないどくれ。


寧宮・澪
何かと聞かれれば……うん
貴方は、佐々見・実伊里さんですねー……千歳音さんと一緒に頑張った貴方、ですよ

邪神の仔……んー、己が変という恐怖はありますよね……
そういうのも、聞いてあげられたらいいなぁ、とは

まず、実伊里さんが言いたいことあれば、聞きましょー……
彼女の前で、恐怖とか不安とか、言葉を受け止めて
もしも知ったほうが納得できるなら、邪神の仔について伝えましょか……

その上で、少しだけ
実伊里さんはお友達が大切で、危険な場所でも一生懸命お互い頑張れる、そんな方だと思います
思うこと、色々いっぱいあるでしょうね……頑張りましたね

手を離せないなら、離さなくていいかと思いますよ
だって千歳音さんは貴方がちょっと変わってるくらいで、拒絶するような、方でしょか
あんなに怖い場所でも手を離さなかった彼女なら、大丈夫だと思いますよ

【謳函】の音色が頑張る彼女の背中を、少しでも支えてくれたらいいですね……
実伊里さんの望む選択をできるように
その道が辛くても、幸せになれるように
流れ星に、お願いしましょー……


葛籠雄・九雀
うーむ。
隠し立てしておっても仕様があるまい?
いや、他の者が隠すべきだと言うならばそのようにするが。
『そう生まれついた』ことは別に『罪でも何でもない』。
少なくともオレはそれによってこの娘を否定も拒絶もしたくない。

『己』を教えた上で『どう生きるか』を…選ばせる方が、オレは、好ましく思う。正直、これはただの好き嫌いである故、多数決には従う。

名は何と言ったかな。名を呼んで、…慰めなど苦手なのであるがなあ。
他者と少し違うだけのこと、少なくともオレは拒絶せんよ。
猟兵の名で組織に『保護』を求めておけば、まあ、今より多少は生きやすかろう。
最悪の事態が起きたら責任を持って殺しに行こう。それがオレの意向であるよ。


九重・灯
表に出ている人格は「わたし」

千歳音さんとお話ししておきたいですね。
「お久しぶりです。わたしのことは覚えていますか?」
会うのは3度目。「彼女も」記憶処理が効きにくい体質だったはず。
「実伊里さんについてのお話、詳しく聞きたくないですか?」

千歳音さんが覚えているなら、UDC-HUMAN……以前あなたの身に起きたことに近いと言えばわかりやすいでしょうか。ただ、実伊里さんの場合は多くの被害をもたらし、人間に戻れる保証もない。
「彼女のこと、恐ろしいですか?」
強制なんてできないけれど、それでも実伊里さんと共にいてくれるのなら、彼女を支えてほしい

今の実伊里さんを人の側に留めるには、千歳音さんが必要だと思うから



 猟兵達が、『邪神の仔』佐々見・実伊里の傍へと歩みを進める。
 それぞれがそっと、スタンスとしての立ち位置を確認する様に互いの様子を盗み見る。そうして、心の中でほっと息を付く者もいた。
 『処分』を前提に動いている猟兵は居ないらしい。
「よっ、久しぶりだねぇ」
 初めに声を掛けたのは数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)だった。
 その声音はいたって普通に、街中で偶然知り合いに会ったような気軽さで話しかけていた。
 これから話す内容がシリアスである事なんて、数宮だって重々承知の上だ。けれどだからと言って、態々それに合わせた姿勢で話して実伊里にプレッシャーをかける事態になってもマイナスでしかない。
 実際問題、先の戦いで一足先に彼女らを保護し、その時の様子を見ていた寧宮・澪(澪標・f04690)の目から見れば今の実伊里の状態は明らかに悪くなっていた。
 まだ数分と経っていない。涙を流しているのは変わらない。
 けれど、繋げた手が無くなったその一瞬で、精神の均衡は明らかに崩れて行っていた。彼女が口にした問だって、確信しながらの逃避の為の問いかけだ。
 繋がらない掌は、逃避したい確信と悪い空想ばかりを手繰り寄せる。
「そういや、自己紹介がまだだった。アタシは数宮・多喜。アンタの言う通り、ここに居る人達は猟兵さ」
 数宮とてその事は分かっている。それでも『そんな事はどうとでもない』と、そう示す様に話し続ける。
「思い出したくないかもだけど、覚えてるだろ? そこにいる九重さんと……ってあれ、九重さんどこだい?」
 猟兵の一人を示そうとした数宮が周囲を見渡す。確かここに出てきた直後にはいた筈だった。その一人が居ない。
 疑問に思いながらも仕方なし、と頭を掻きながら数宮が続ける。
「あたし達が黄昏時の校舎で、怪物どもとやり合ってた事をさ。覚えてるかい? あん時とは違って、今日はすっかり日も落ちちまったな。」
 上げた視線のその先には、夜空を焼く光から逃れた星がよく見えた。
 けれど、実伊里は応えない。視線を追わない。
 ただ、振れそうになる瞳をただ猟兵へと向け、問いを繰り返す。
「私は、なんなんですか?」
 望んだ答えが返ってきたとしても、信じる事など出来ないと知っているのに。
 その様子を見、数宮は心の中で小さく呻きながら考える。
 気分転換の世間話が出来ない。事実を言って問題ないか分からない。
 かといって、嘘で誤魔化せるとも思えない。
「実伊里ちゃん、アンタがいったい何者なのか…。」
 ならば教える…が、伝えるにしてもショックの少ない言葉が無いかと必死に頭を巡らし考える。
 その横からオレンジの頭がぬっと突き出す、と
「自分が何か、か。それは今まで実伊里ちゃんが育て上げた常識やら当たり前から外れた異常な存在であるな。」
 はっきりと、今まで特に口を出さなかった葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)が断言した。
 実伊里の瞳が揺れる。
「ちょっ…」
「うーむ、隠し立てしておっても仕様があるまい?」
 慌てる数宮を横に、葛籠雄はマイペースに続ける。
「それにな、“外れた存在”とは言ったが“人から外れた”とは言っていないのである。なに、“そう生まれついた”事は別に“罪でも何でもない”。正直、これはただの俺の好みであるが、己を知った上でどう生きるか…であろう」
 生まれではなく生き方だと。存在ではなく心だと。それが大事なのだと、そう仮面は説く。
 葛籠雄九雀はそう肯定する。
 その言葉を理解したとて、受け入れられるか分からない。受け入れたとしても、その理屈を飲み込むのはきっと時間が掛かるだろう。
 けれど、そうやって生きていればいつかは来るのかもしれない。
 『必ず』…なんて言えはしなくとも。
 葛籠雄はしゃがみ目線を合わせると、少し困ったような調子の声を発する。
「…慰めなど苦手なのであるがなあ。まぁ、そうであるな。あれである…他者と少し違うだけの事、少なくともオレは否定も拒絶もせんよ」
 それはありきたりな慰めではあるが、同時にある意味では最も実践する事が難しい慰めであるとも思う。
 言葉だけの嘘や建前であれば、容易に透けて見えてしまうのだから。
 葛籠雄の言葉は、実伊里の瞳には嘘は映らなかった。
「そうですねー……何かと聞かれればー……うん。貴女は、佐々見・実伊里さんですねー……千歳音さんと一緒に頑張った貴女、ですよー……」
 寧宮の『なんなのか』という答えも同じであったのか、少し眠そうにしながらも続くように口にする。
 『何か』ではなく『誰か』なのだと。
(あ、あたしがどうショックを回避しようかとか、傷が浅く済む様にって悩んで躊躇ったあの瞬間の意味は…)
 一名、二人のシンプルイズベストな答えに驚いている数宮がいた。
 数宮自身、その答えが無かったわけではない。
 ただ生真面目に慎重に悩んだ。思考派と感覚派、それだけである。
「あー…こほん。邪神の仔については、正直アタシにも分からねぇ。不思議な力を持ってるのは違いない。でも、それはアンタが人間じゃない証明じゃない。人間のアタシが、その反証さ」
 事実、『邪神の仔』が何なのかを説明しようと悩みはしたが話せることなど全くと言っていいほどない。
 どうして生まれたのか不明。その力の規模は分かっても細かい部分は不明。
 ただ、UDC怪物に狙われる…それが分かる程度だ。
「全部が分かる。そこまで世の中都合よくねぇよ? だから、これから一緒に調べよう。それにさ、二度も縁があったんだ、困った事があったら心の中ででも呼んどくれ。人と共に在りたいと願う限り、アタシはいつでも駆けつける。アンタは、決して一人じゃない。それを忘れないどくれ」
 数宮は実伊里の前に膝を付くと、その手を取って小指を絡ませ約束した。
 友を探し続け、見つけ出した猟兵の約束であった。
「邪神の仔……。んー、己が変という恐怖はありますよねー……。だから、そういう不安とか…怖いとか、そういうのも話してくれたらいいなぁ、とはー……」
 寧宮がクッションを抱き締めながら、オルゴールを取り出して言う
「実伊里さんが言いたいことあれば、受け止めますので聞きましょー……」
 傍に寄り、両の手を乗せる様に取りそっと促す。
 実伊里の揺れる瞳は取られた手に落ち、次第に、ゆっくりと、引き攣る様に唇が歪み、問いを発した時よりももっとひび割れた声で不安と恐怖を決壊させる。
 無くすかもしれない拠り所、親友。自分自身の存在。
 怪物がはっきり自分だけを見ていた事。
 自分が目的であったのなら、また襲われるかもしれないという不安。
 そして、それに思い至っていながら親友の手を離せない自分。
 かつて死んだもう一人の親友の事。
 止めど無く溢れるそれを、寧宮はただ相づちを返すだけにとどめ聞き続けた。
 そして、次第に納まっていき、途切れた頃に寧宮は口を開いた。
「少しだけ…。実伊里さんはお友達が大切でー……、危険な場所でも一生懸命お互い頑張れる、そんな方だと思いますー……。思うこと、色々いっぱいあるでしょうねー……。頑張りましたねー……」
 多くの言葉は無い。解決も無い。ただ、その思い悩みを許し、賛した。
 壊れなかった事を。
「それに、手を離せないなら……離さなくていいかと思いますよー……。だって千歳音さんはー……貴方がちょっと変わってるくらいで、拒絶するような方……でしょか……。あんなに怖い場所でも手を離さなかった彼女なら、大丈夫だと思いますよー……」
 ほら、と寧宮はその手を引き、実伊里の体の向きごとその視線を動かす。
 その先に、この場に居なかった九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)とその隣に『ちーちゃん』…千波・千歳音が寝巻のまま立っていた。


 九重は邪神の仔が知った人物であると分かり、そして異空間が解かれその場に二人の片割れが居なかった時点で、もう一人が必要だと判断した。
 九重が彼女等に会うのは三度目。
 一度目は、三人組であった彼女らが二人組になった事件。
 二度目は、三人が二人になった違和感が繋いだ、救いの邪神の事件。
 そして、三度目が今回。
 九重は走りながらUDC組織と連絡を取り、千歳音の位置を求めた。
 過去に二度事件に関わっている事から要観察対象であったのか、位置はすぐに九重まで上ってきた。
 今、突然家から飛び出した…と。
 ……。
 ……。
「お久しぶりです。わたしのことは覚えていますか?」
 九重は、移動の足に使ったUDC職員の車の助手席から降りると、目の前に立つ寝巻のままの千歳音にそう声を掛けた。
 二度目の時、彼女は記憶処理が緩んでいた。
 邪神との繋がりが残っていたからか、“彼女も”記憶処理が効きにくい体質なのか…だから、久しぶりと声を掛けた。
 その結果は、知らない者を見る様な警戒と、それを一瞬で捨てて再び駆けだそうとする、『覚えていない』事を示唆する態度。
 それはUDC職員としてはある意味安心する事ではあるが、猟兵としては少々面倒な事であった。事態の説明と信用を取るのに手間がかかる。
 だから、とりあえず話をする為に関心を引く事にした。
「実伊里さんについてのお話、詳しく聞きたくないですか?」
 九重自身、随分と悪役の様な言葉の掛け方だと思いはしたが、その効果は絶大だった。
 千歳音は一瞬で弾かれたように振り返ると、躊躇いも無く全速力で駆けてきて九重に掴みかかると叫んだ。
「どこっ!」
 文字通りの食って掛かる勢い。先の烏人形は覚えていても、今目の前に居る人間との繋がりが分からない。あれと人に繋がりがあるとも思えない。けれど目の前の人が何か知っている事は間違いないのだから、なりふり構わず聞きだしてやる。そんな雰囲気があった。
 その姿は一度目に出会ったあの時を、九重に容易に想起させる光景だった。
「あの…ちょっと落ち着いてください。落ち着かないと話せませんから。」
 とは言え、思い出に浸っている暇も、そんな物思いに耽るような雰囲気でもない。
「わたしは猟兵です。貴女の助けが必要なんです」
 九重がそう口にするとぴたりと、けれど怪しむ視線は変わらないでも詰問する勢いであったのが止まった。
「リョウヘイ…」
 とりあえず話が出来る状態にまで落ち着きはしたらしい。
 そうして、過去の出来事、つい先ほどの出来事、そして本題である邪神の仔の話を…無論、必要のない話は数多く省いてではあるが九重は千歳音にした。
 最も重要な話は、今回の事件は実伊里を狙っての事。そして、その実伊里自身が人間よりも今回襲って来た側に存在が近いという事。
 それを説明した上で、九重は問いかける。
「彼女のこと、恐ろしいですか?」
 もしも、知った事で恐れるなら、何かしらのマイナス感情を抱いたのなら強制はできない。したところで逆効果にしかならない。
 かと言って、知らずに今合わせるという選択肢は無い。それはただの時間稼ぎ、もしくは最悪を引き起こす選択になる。
 彼女は一瞬、顔を顰めると答えた。
「実伊里はどこ?」


 九重に連れてこられた千歳音は、寧宮が実伊里を促すより先に突撃してきて実伊里へと抱き着いた。
 まぁ、あとは大丈夫だろう。
 少なくとも現状、実伊里が疑心暗鬼に陥って千歳音を先に拒絶するという事も無さそうだ。
 今後のUDC組織の保護、もしくは観察対象などの処遇は向こうが決めるだろう。
 もしも、将来最悪が起こったのなら…
(オレが、責任を持って殺しに行こう…)
 仮面の男は胸中で願う事なくそう思う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月24日


挿絵イラスト