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銀河帝国攻略戦⑯～宙に響け、心揺さぶる旋律

作者：鈴木リョウジ

●惑わしの音
　難攻不落の帝国大要塞「エンペラーズマインド」を突破した解放軍は、帝国旗艦『インペリウム』を目指し快進撃を続ける。
　不意に『それ』は意識にするりと滑り込んできた。
　なにか、その、音色。
　ゆったりとした旋律は低くも穏やかに、しかして悲愴で。
「なんだ……？」
　解放軍の人々は、『それ』がどこから聞こえる音楽だと意識できただろうか。
　できたとして、抗おうとできただろうか。
　ある者は糸が切れた操り人形のようにくずおれ、ある者は手近なもので己の喉を掻き切り、ある者は……。
　ごく自然にその不自然な行動を起こし、そうしてひとり、またひとりと動かなくなっていく。
　静かに心の奥底にまで入り込む『それ』の正体にも気づかずに。

●宙に響かせろ
「お前らの好きそうな話かは分からないが」
　レース仕立ての目隠しをした顔をめぐらせ、スフォルツァンド・スケルツァンド（バーチャルキャラクターのガジェッティア・f10365）は、少女のように細い外見を裏切る口調とことさらに感情を消した声で猟兵たちに告げる。
「『クライングシェル』艦隊の洗脳音楽によって、解放軍の戦力が削がれている。……洗脳音楽がなにか、だと？　聞いたままだ。無気力になったり、意識を失ったり……実に不愉快なシロモノだ」
　吐き捨て、それらは猟兵以外には抗いがたいものだとも伝える。
　つまり、解放軍の人々ではどうしようもないということだ。
「そこでお前らの出番になる。この洗脳音楽に対抗してこれを打破しろ。やり方は簡単だ。お前らの音楽をぶつけてやれ。斬った張っただけが戦いじゃない。こういった戦い方もある」
「だが、届くのか？」
　ひとりの猟兵のもっともな問いに、グリモア猟兵は首肯する。
「この『洗脳音楽通信』に対抗するために、芸能船の放送設備を増強してある。そこで音楽放送を行う」
「音楽放送を……」
　もちろん、ただ音楽を奏でればよいわけではない。
　洗脳音楽通信を打ち破るための『何か』が必要だ。
　それは或いは超絶技巧であったり、或いは全身全霊を込めることであったり、ひとつだけではないだろう。
　ひとりで奏でるか複数人で奏でるかも自由だ。
　求められるのは、『聴く者の心と魂を揺さぶり圧倒する音楽』。
　シンプルだがだからこそ厄介な要求に顔を見合わせる猟兵たちを見つめ、グリモア猟兵は少女のように薄い胸に手を当てる。
「お前らが当たる相手は、悲愴な旋律の曲を放送している。その影響を受けた者はネガティヴな反応を……最悪には自害する。そんな音楽など俺は認めない」
　目隠しのために隠された表情ははっきりしない。
　耳飾りを揺らして、深く頭を下げた。
「任せたぞ、猟兵。俺はここで待つ。お前らが吉報と共に戻ってくるのを」

第1章 冒険 『洗脳音楽通信を撃ち破れ！』

POW   :    激しいビートで、魂を揺さぶり、洗脳音楽通信の影響を撃ち破る。 SPD   :    超絶的な技巧で、聴く者を圧倒して、洗脳音楽通信の影響を撃ち破る。 WIZ   :    心に響く歌声で、感情を揺り動かして、洗脳音楽通信の影響を撃ち破る。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　低く奏でられる旋律に、解放軍の人々は何が起こったか分からないまま心を巣食われ、奮い立つ意気を奪われていった。
　死人じみた虚ろな顔で或いは倒れ、或いは自身を傷つける。
　そんな人々を死へと煽り追い立てるように、洗脳音楽通信の奏者は音色をそのままに徐々に音量を上げていく。
「……あたしのいちばん大っ嫌いな敵」
　他の船内で起きているその様子を、芸能船のなかから青葉・颯夏（悪魔の申し子・f00027）がじりと睨み付けた。
「音楽は生きる力になるものよ。ゆがめるなんて許さないわ」
　吐き捨てるというよりは宣言するように言い、イリュジオンだけを持って放送設備のところへ赴く。
「あれは……」
「アコーディオン？」
　控えめに言葉を交わす声がどこからか聞こえたが、彼女が手にするのはアコーディオンではなく、ボタン型の鍵盤を押して弾くバンドネオンのなかでも７１の鍵盤を持つライニッシュ式というものである。
　猟兵たちが見守るなか、奏でるのはタンゴをベースにしたE-durの即興歌。

　思い出して、あなたのこと
　好きなもの、好きな人、楽しかった想い出
　あなたの根っこにあるあなた自身
　かぶせられた偽りを打ち破って
　今一度、あなた自身の足で歩いて
　その手で未来を拓いて

　イリュジオンを左右に開き閉じれば、アコーディオンとは違う、ストレートで鋭く、そして艶やかな音色が奏でられる。
　透きとおるソプラノ・リリコ・レッジェーロは軽やかに、抒情的に。
　バンドネオンの豊かな旋律と、いつわりのない心と情感に満ちた声は、敵の流す洗脳音楽を圧倒し、人々の心に光を取り戻す。
　気づけば、ひとりの男性が彼女の演奏に合わせて体を揺すっていた。
　その顔は初めて聴く曲に目を輝かせ、悲愴な旋律でなく快い旋律にこそ身を委ねている。
　男性の楽しげな様子に榎木・葵桜（桜舞・f06218）は頬を緩め、しかしきりと表情を引き締めた。
「私も歌は好きだから、歌や音楽をこんな使い方するの、すごく許せない」
　音楽には音楽で、というなら。私は、お母さんから教えてもらったこの歌を歌うよ。
　胸に手を当て、彼女が歌うのはUDCアースのJ-POP。
　伴奏はピアノとギターがいいけれどアカペラでも大丈夫。そう思いながら歌っていると、曲を知っている誰かが用意してくれたか、伴奏が添えられた。
　彼女の歌唱スキルは高いほうではない。だが、丁寧に心をこめて歌うその歌は、スキルや技量ではかれるものではない。
（「歌はプロ並ではないけど、ちゃんと届くって信じてる」）
　洗脳に、絶望に負けないで。
　私は、あなた達の強い気持ちを、力を信じてる。
　今苦しくても、希望はあるよ。
　自分たちの力を信じて、立ち上がって！
　私達と、一緒に戦おう！

　わたしは歌う
　わたしは願う
　あなたへと繋がる「奇跡」があるならば、いつか
　たどり着くその未来に
　この歌が、祈りが、届くように

　優しく、柔らかく、そして力強く響く歌声。
　力なくうなだれていた少女が顔をあげて、かすかに唇を動かした。その動きは葵桜と同じで。
　葵桜の歌に合わせて口ずさむ少女の表情はお気に入りの曲を聴いている時のそれに似て、次第に明るく口を動かし歌う。
　彼女だけでなく、他にも幾人か、同じように歌い出した。
　その様子を見つめながら最後まで丁寧に歌い上げ、そおっと息を吐く葵桜へ、誰からともなく拍手が捧げられる。
　と。
「道化師サクヤの見せ場がやってきたの！」
　スカートの裾を翻し、サクヤ・ニイヅキ（ムーンレイカー・f01673）が高らかに宣言した。
「わたしの渾身のパフォーマンスで、みんなを虜にするの☆」
　その発想は、普段は道化師として人々を笑わせ喜ばせている彼女らしい。
　どれどれと周囲の視線が集まるなか、声帯のボリュームを調節して、古びたアコーディオンを奏で歌いだす。
　そしてすぐに、誰もが知ることになった。
　狂った音程！　歪んだ旋律！　とっ散らかるテンポ！　無駄に大音量！
　ゲロでも吐いてるほうがマシなんじゃと思うような！
　耳にクソでもいいから詰めたくなるような！
　音楽という概念に挑戦するひっっっっっどい歌を！
　ああ、そうだとも。彼女は歌唱のスキルを持っている。だが、持っているが使うとは言っていない。
　……しかし歌唱スキルを使わないからと言って、ここまでとんでもない演奏を演出できるものだろうか。
　現に、今まさに手にする武器で自ら命を絶とうとしていた男は呆然として取り落とし、意識を失っていた女はショックを受けたようにぶるりと身を震わせて起き上がった。
　音楽によって正気を取り戻したというよりは、横っ面をひっぱたかれてショック状態のほうが近い。
「ブーイングを浴びせずにはいられない！　ゴミを投げつけずにはいられない！　悲愴な気分になんて絶対に浸らせてなんかやらないの！」
　方向性が間違っている気もするが、『悲愴な気分にさせない』というのは間違いではない。
　間違いではないが、別の意味で死屍累々、惨憺たる有り様である。
　洗脳音楽の奏者も心なしか怯んでいるような気もしたがきっと気のせいだ。
「イェーイ、みんな聞いてくれてありがとうなの！」
　ハイテンションにパフォーマンスの終了を告げるサクヤの言葉に、猟兵たちは安堵の溜息をつき……。
「それじゃ、二曲目いくの☆」
「もう大丈夫だから！！」
　ハイテンションに次の演奏を宣言する彼女を慌てて止めた。
　キケ・トレグローサ（たった一人の流浪の楽団・f00665）は、す……と息を吸い、
「『僕が奏で、俺が歌い、私が舞う！』」
　その声は独りか、否、３人か。
　リュート弾きの少年の傍に、彼と似た面差しの青年と少女が寄り添った。
「音楽が人々を苦しめるなんて、あっていいはずがない！　旋律で自由で音は心を慰める癒しであるはずよ！」
　竪琴を持つ少女が、放送設備越しに訴える。
　流浪の楽団と名乗る旅芸人の人格を宿すキケと兄エド、妹ルナ。三人がユーベルコードで具現化し音楽を奏でる。
「音楽は人を苦しめるための兵器なんかじゃない。心を癒し、夢を魅せる、人が希望を見出す輝きそのものだ！」
　力強くエドが声を張る。彼らの奏でる音楽がそうであるように。
「悲哀を歌うのも自由だとは思う。共感してほしい、その気持ちを奪う権利は誰にもない……だけど！　それは決して誰かを傷つけることはないんだ！」
　自身を抱きしめるようにリュートを抱き、キケは優しく撫でるように弦に触れた。
　竪琴を爪弾いて、ルナが放送設備の向こう、敵艦隊のなかで彼らと同じように奏でている奏者を見えなくとも見据えた。
「魅せてあげる。本物の音楽を。魅了し、誰かの心を救い出す音楽の力を！」
　キケがリュートをルナが竪琴を弾きエドが歌う。流れ星に乗せた人の夢の詩だ。
　三兄弟の息と想いがぴったり合った演奏は、心折られた人々を掬い上げて救い、失いかけた夢を再び思い出させる。
　戦争のさなかだ、悲しい思いをした人もいるだろう。
　だが、だからこそ。音楽は心を癒し、前へ進む夢と希望と力を与えるのだ。
　リュートと竪琴の最後の音が空間に広がりとけ、歌声の余韻が消えると、名残惜しげな歓声が上がった。
　『クライングシェル』艦隊から聞こえる洗脳音楽通信に、ノイズが混じり始める。
　次はあなただ、と促され、ルベル・ノウフィル（星守の杖・f05873）はふるりと首を振り、
「僕、歌なんて……い、いえ！」
　今度は振り払うようにもう一度首を振った。
「僕にできる最高の歌を！　全力で！」
　深く息を吸い、アップテンポで明るく楽しくリズミカルに。子供が喜びそうな感じでメロディを紡ぐ。

　大人たちは暗い顔でしょんぼりして
　メソメソジメジメ情けない
　僕らが元気に声を出そう
　僕らは明るく前を見よう

　彼の歌に合わせて、楽器を持つ猟兵が即興で伴奏する。それに背を押され、歌に込めた願いと力を強めた。
　ルベルの声を聞いた少年は、億劫げではあるがぐるりと周囲を見渡す。
　ああ。大人たちがあんなにも落ち込んでいる。あれでは頼りにならないではないか。
　そうであれば、自分たちがしっかりしないと。

　大人たちが暗い目で及び腰
　クズクズグダグダかっこ悪い
　僕らは強気で手をあげよう
　僕らが未来を切り開こう

　子供たちへ向けた歌は、朗と響く。
　簡単な歌なので、呼びかけて子供に一緒に歌ってもらうのだ。
（「子供の歌声が銀河を救う力になるのでございます」）
　ルベルの想いが彼らに伝わったか、ひとり、またひとりと立ち上がると、近くの大人へ声をかける。
　大人なのに情けない。ほら、しっかりして。そう、声をかけながら。
（「僕は歌はそれほど上手くないけど心を込めて一生懸命歌います」）
　捨て身の一撃（？）で鼓舞するのです。
　想いを込めて紡ぐ歌は、子供たちだけでなく大人たちにも、格好悪いところは見せられないぞと訴える。
　子供に向けてなのかと問われ、こくりと頷いた。
「でも、一般の子供の声が一番の武器かなって。みんなで大人を励ますのです」
　彼の言うとおり、子供たちに励まされる大人たちを見て控えめに微笑んだ。
　先程よりもノイズが頻繁に混じる洗脳音楽通信に、ジェフリエイル・ロディタ（光り繋ぐ手・f04365）は笑みを浮かべる。
「ふふふ。使い方が全くわからない施設設備しかないけれど、そのあたりはわかる人に任せて更に僕は輝くとも」
　隙あらば輝こうと、そして更に輝こうとして。
　しかし分からないとはいえ、先に船内の人達の様子を見て導入や深い共感を得る参考にし、彼なりに対策を取っていた。
（「そういえば船の仕組みやコアマシンに心はあるのかな」）
　ふと、そんなことを思う。
　無いと言い切れないなら彼彼女達にも宛てよう。
　もし届けば各船内により響かせて欲しい、なんてね。
　答えは分からないが、やらないよりはやったほうがいい。やらなかったらその是非だって分からない。
「伝説の解放軍の再来に留まることないさ」
　正直先代よりスケール大きいし、相応しく歌いあげる。
「『輝くべきものへ』――」
　お披露目するのは歌唱と楽器演奏によるエコーリング。
　世界から滅びを払う解放軍の一大叙事詩（まだ途中）だよ。
　朗々と歌い上げるジェフリエイルに、人々は時折合いの手のように歓声をあげる。
　そうだ、これは彼らの歌。解放軍である彼らが築き上げ、そして果たすまでの一大叙事詩。
　そしてそれはまだ完成していない。完成させるのは、彼ら自身だ。
　人々の命を守り育んできた船も、船を支え生きる人々も。
「さあ遠慮はいらない。繋ごう。皆の力を。この世界の輝きを！」
　自身が輝きながらジェフリエイルが訴えると、解放軍の人々は一斉に声をあげた。
　もう、洗脳音楽通信はほとんどノイズと化している。だがこれで終わってはいけない。
　ベルリリー・ベルベット（ルーナフラウ・f01474）がぱちんと手を叩く。
「音楽で世界を救うの？　それならリリの得意分野じゃない」
　だってリリはサーカスの花形スターだもの。
　ふんわり微笑み、踊る足取りで放送設備の前へ立とうとし、ふとくるりと身を翻した。
「リリ1人でも自信はあるけれど、」
　一緒に音楽を奏でたいわ、と他の猟兵たちを誘う。
「皆で演奏した方がもっと楽しくなると思うの」
　皆、音楽に親しみ音楽を愛している。誘いを受けて、幾人か楽器を構えた。
　嬉しげに笑ってタンバリンを叩きながら、ベルリリーは軽快なダンスでパフォーマンスを披露する。
「放送では映像は見えないかもしれないけれど、そこは気持ちが大事なのよ」
　そうして奏でるのは楽しい音楽。
　聴いている人もつい一緒に踊り出したくなっちゃうような曲がいいわ。皆をどんどん巻き込みながら盛り上げたいの。
　そう導かれれば、即興でメロディを奏でたり、或いはアレンジをしたりして、軽快で楽しくてついつい体が動いてしまう曲に仕上がる。
　即席でセッションしたり、もっともっと！　と促してそれに乗ったり。
　いつしか音楽は猟兵たちが奏でるだけでなく、そこここで解放軍の人々も歌ったり踊ったりし始めていた。
　今は戦争中なのに歌ったり踊ったりなんて。いや、こうして鼓舞することも必要だ。そうだろう？
　どんどんと高く、明るく、そして楽しく広がっていく音楽に、ひどく耳障りな音を立てて悲愴な曲の演奏が途切れたことすら掻き消されてしまう。
　彼らが『クライングシェル』艦隊のうちの一隻が喪失したことを知るのはもう少しあとだろう。
　悲しみも絶望も何もかもを追い払い、前へ進むための勇気と希望と輝きと、とにかくそういったものをごちゃ混ぜにした音楽は、まだまだ終わりそうになかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月17日