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嗚呼、死ニ還ル事勿レ

#サクラミラージュ #反魂ナイフ

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●姉から弟へ
 数年ぶりに故郷に戻ってきた弟は、すっかり骨になって帰ってきました。
 恵まれた身体を持たなかった彼は、やはり小さな小さな骨壺に納められておりました。
 文學で身を立てるのだと帝都行きの汽車の窓より見せた笑顔は今でも覚えております。
 毎週の様に届いていた手紙も、徐々に間が空き。
 やがて病に伏せたと報せが届いたのも束の間。
 結核に侵された弟は、私が看病に行くその前に、短い生涯を閉じたのでした。

 父も母も既に亡く。夫に捨てられ離縁されたわたしの、たった一人の大事なおとうと。
 死に目に会えず終いだったわたしは、せめてもう一度会いたいと願っておりました。
 そんな折りです、送り主の名も無い不思議な小包が届いたのは。

『愛しき人の遺骨に突き立てよ』

 一筆箋にはただそれだけ。そして不思議な形の短刀が封入されておりました。
 それが何かは解りませんでしたが、柄を握った瞬間……悟ったのです。
 これは、わたしの願いを叶えてくれるものなのだと。
 気が付いたら、わたしは遺骨にその刃を突き立てておりました。

「……姉、さん」

 するとどうでしょう! おとうとが……愛しき弟が蘇り現れたではありませんか……!

●有っては為らぬ反魂
「その短刀ってのは、影朧兵器『反魂ナイフ』さよ。かつての大戦で開発された兵器なんだけど、非人道的で倫理面に問題がありまくりなんで封印された筈のシロモノさね」
 早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は肩を竦めつつ集まる猟兵達に説明を開始する。

 夭折した弟の死を嘆き、再び会いたいと願う姉。そんな彼女の元に匿名で『反魂ナイフ』が送られてくる。
 それは遺骨に突き立てる事で、その故人を生前そのまま――知識も記憶も感情も遜色なく蘇らせる事が出来る道具。その姉もまた、突き動かされる様に弟を蘇らせた。
 だが代償も無しにそのまま死者が蘇るなんて巧い話が有る筈も無い。
「反魂者、とでも呼ぶかねぇ。それは『本人の魂』と『強力な影朧』の二つを融合する事で生み出された人外の存在さよ。その弟さんは、弟さんであってそうじゃない存在だ」
 蘇った弟の姿を借りた強力な影朧として、それはいずれ世の中に混乱を巻き起こす。文學を志した青年の身体を使って、怪異を呼び寄せ凶行を巻き起こす存在と化す。

「お姉さんは弟さんを大切に守って囲ってるけど……薄々気付いちゃいるみたいさね、それが弟の姿をした別の何かだってのは」
 しかし彼女は止める事が出来ない。力無き事だけが理由では無い。愛おしい弟が折角自分の元に戻ってきたと言うのに、手放す事など出来ようか。
「その辺はさ、上手く説得してあげられると良いんだけど。彼女も不安な筈なんだ……弟さんが時折違う恐ろしいモノに見えるんだから当然さよね」
 上手くいけば、術者の思いで反魂者の魂の融合は分離される。そうすれば取り憑いていた影朧だけを倒し、弟の魂を救う事も可能なのだと翼は告げる。

 姉弟は近所の夜桜を見に散歩に出るが、既に反魂者に惹かれた低級の影朧達が姿を見せ始めている。それらを撃破しながらその出所であるターゲットを探す事になる。
 二人が僅かの間に別行動をする隙を見て姉と接触し、反魂者と化した弟を――その内に融合した影朧を撃破する事となるだろう。

「彼の魂が無事に召される様に……頼んださよ」
 祈りを捧げてから。翼は転移の道を開くのだった。


天宮朱那
 天宮です。北海道の桜はもうそろそろかしら。
 割と心情重視で行きたい所存でまったりペース運営予定。
 物語構成の都合、再送願う場合あるかも知れません。また、戦争期間に入りましたら其方が優先になるかもですのでご了承の上参加頂けますと幸いです。

 場所は帝都から遠く離れたどこかの地方都市。夜で人通りは少なめ。
《一章》反魂者に惹かれた影朧達相手の集団戦。その出現から姉弟の居場所を推測すると良い感じ。
《二章》姉と接触します。基本的に弟を庇いますが、彼女も不安を抱えている点から会話し、説得して下さい。
《三章》二章の結果次第で敵の強さが変化します。説得成功していれば、弟と影朧は分離し、影朧のみと戦う事に。説得失敗してると反魂者は姉をも取り込んでパワーアップします。いずれにせよ、倒せば弟の魂は解放されます。

 姉も弟も名前は聞かれたら付けるかな、くらいで。

 各章、断章追記予定。
 マスターページやTwitter(@Amamiya_syuna)、タグなどでも随時告知をします。
 適度に人数集まったら〆切目安の告知予定。

 複数合わせは迷子防止に相手の名前(ID)かグループ名記載を。最大3人組まで。
 技能の『』【】等のカッコ書きは不要。技能名並べたのみで具体的な使用方法の記述が無いものは描写も薄くなります、ご了承を。
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第1章 集団戦 『影狼』

POW   :    シャドーウルフ
【影から影に移動して、奇襲攻撃する事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    復讐の狼影
自身の身体部位ひとつを【代償に、対象の影が自身の影】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    ラビッドファング
【噛み付き攻撃(病)】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 年中咲き乱れる幻朧桜。この桜並木の幻朧桜は、特に春の夜が最も美しく艶やかに咲くと言われているのだそうです。

 歩き慣れたこの道。
 幼い頃には父と母に手を引かれ、姉弟で手を繋いで歩いたものです。
 今、隣にはすっかり大人になってわたしより少ぅし背の高くなった弟が歩いております。
「ああ、此処は全く変わらないものだね、姉さん」
「ええ、本当に……」
「ふふ、あの桜の花の彩り鮮やかなこと。まるで人の血でも吸い上げたかの様だ」
「――! そ、そうね……」
 文學的表現を好む弟だから、そんな恐ろしくも妙な喩えをするのだろう……そうに違いないと思う事にしました。
 しかしその横顔――薄笑いの向こうに狂気にも似た危うさを感じてしまうのです。
 そもそも、蘇るなんてそんな事があって良いのでしょうか。
 目の前の弟は、本当にわたしの弟なのでしょうか。
「――どうしたの、姉さん。顔色が悪いよ」
「え、大丈夫よ。少し考え事をしてただけ」
 わたしをこうして気遣ってくれるのだから、ええ、そんな事は無い。
 そうこうして歩いているうち、ふと後ろの方に何かの気配を感じ振り返ってみると、あっ、とわたしは声を上げてしまいました。
 くらやみの向こうに見えたのは確かに野犬。唸り声も聞こえました。
「姉さん、僕の後ろに」
 弟は、怖ろしさに身を竦めるわたしを庇う様にして立つと、狼の様な野犬たちを静かに一睨み致しました。
 するとどうでしょう――犬たちは踵を返し、再び闇の向こうへと駆けて行ったのです。


『僕と姉さんの邪魔をするんじゃあない。向こうへお行き』
 反魂者たる彼は、そう聞こえぬ声で影狼達に命じた。
 この身が低級な影朧を呼び寄せたのだろうと彼は静かに息を吐く。
『準備が整うまでは穏やかに過ごしたいのだからね』
 その為には、この心優しき姉と共にいるのが良いのだから。

 ――そして、姉弟から離れた影狼達は夜桜舞う田舎道を征く。
 浮かび上がった己の怨念を生者に叩き付けるが為だけに。
流茶野・影郎
久遠寺(f37130)と同行
(学生時代の先輩後輩、たまに子分扱い)

世界に咲く桜
長く続く平和
そして影朧ナイフと反魂者

影朧は転生するが、人は生き返らない
「そういう物なんだな」

悪いが邪魔をさせてもらう
亡霊を狩るのが俺と久遠寺の仕事だ
……っていうか、君も猟兵になることないのになあ
じゃあ、行くか――イグニッション!

『メキシカン忍法・疾風怒涛の歩み』

久遠寺の土蜘蛛の檻の中に捕らわれた影狼をメインに狙うよ
影から影への奇襲攻撃
良い手だ……けれど影すら見えない相手を捉えられるか?

一撃
二撃
と打撃を重ね、時には相手の動きを制するかのように鼻っ柱を叩き
判断力を鈍らせ、倒していく

それと久遠寺、無理するな
俺達は若くない。


久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と
(学生時代の先輩後輩、たまに冗談めかして親分と呼ぶ)

ずっと平和な世界で、ずっと大正が続いているだなんて
「一年中、不思議な桜が咲いてる世界、ね。綺麗だけど…」
(走りながら、幻朧桜の花の波を不思議そうに見上げて)
それでも、人は生き返らない。それはそうだよね

犬達がどこから、岐路だとしたらどちらから走ってきたか方角を確認しつつ、イグニッション!

「私達、この先に用事があるから!」
土蜘蛛の檻で犬の膂力を吸収し、弱体化させる
先輩の攻撃でも倒れない敵は、視認できる私を狙うはずなので
光の属性を付与したレイピアで刺突し迎撃

流石に10代の頃みたいにはいかないね…無茶はできないかも



 その世界は一年を通して常に桜色に溢れていると言う。
「一年中、不思議な桜が咲いてる世界、ね」
 綺麗だけど……と一言添えながら、久遠寺・絢音(舞う徒花・f37130)はその瞳に桜花の色を映す。己の生きてきた世界ではとっくに咲いて、散って、今や青々とした葉に覆われているのだと言うのに。
「ずっと平和な世界で、ずっと大正が続いているだなんて……」
 そんな幻朧桜の花の波を物珍しそうに見上げながらも、彼女は見惚れる事は無く。同行者である先輩と共に足早に駆けて行く。
「世界に咲く桜――長く続く平和、か」
 流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)もまた頷く。銀の雨降る世界や似た地球の世界では大正の世は十五年と短い。初めて聞いた時は流石に耳を疑った。
 だが目の前にある光景は。平成生まれの二人が知る昭和の名残より尚古さを感じるレトロな町並み。それは片田舎なだけが理由じゃ無い事は十二分に感じられた。
「私達の世界とはまた違った神秘があって、その技術を用いた術や道具があるって聞いたけど……」
「ああ、そして影朧ナイフと反魂者も――」
 今回の事件を引き起こした道具もまた、この世界ならではの技術を用いて作られたもの。
「だが、影朧は転生するが、人は生き返らない」
「うん……それでも、人は生き返らない」
 死した者は転生を経て先に進む。
 ――生まれ変わるモノであり、生まれ戻るモノでは無い。
「そういう物なんだな」
「それはそうだよね」
 青春時代に幾多の死を見届けてきた二人は、やがて夜闇を駆る黒き狼の群れが此方に向かってくるのを認め、素早く身構えた。
『グルルル……!!』
 唸り声。赤い瞳と口から噴き出すやはり赤い焔が暗闇の中で妖しく輝く。
「この犬達、向こうの角を曲がってやってきたよね」
「ああ。さて……悪いが邪魔をさせてもらう。亡霊を狩るのがオレと久遠寺の仕事だ」
 二人は揃いのカードを手にする。それは元・銀誓館の能力者である証。
「……っていうか、君も猟兵になることないのになあ」
「な に か、言 っ た ?」
「なにも。じゃあ、行くか――」
 イイ笑顔の絢音の問いに影郎は目を見ずに即答。そして二人はカードを掲げ、叫ぶ!

『イグニッション!!』

 嘗ては能力者の力を封ずる為、必要不可欠だったそれ。超能力(アビリティ)が弱化した今は必要無くとも――彼ら二人の戦闘開始に最早欠かす事は不可能な言葉。
 そして今はユーベルコードと名を変えた力を二人は振るうのだ。
「私達、この先に用事があるから!」
 絢音は水晶の錘を飛ばす。そこに連なるは鋼の如き蜘蛛の絲。半径10mもの蜘蛛の巣はネットの様に広がり、影狼の周囲を銀絲で覆い囲む。
『ガウゥゥッ!!』
 周りを囲まれ、逃げ場を失う狼達。力づくの突破を試みた個体は触れた先より力を奪われ、その足が蹌踉めくのが見て取れた。
 だがそれでも狼達の戦意が潰える事は無い。影から影へ――月の薄明かりしか無い闇の中に在る影に沈み、狼達は青年の背後の影より躍り出て彼にその牙を向ける。
「――っ!!」
「先輩!?」
 牙は彼に突き刺さる事は無く。代わりに狼の喉笛に風車の柄が突き刺さっていた。間一髪で避けおおせたらしい。
「影から影への奇襲攻撃、か。良い手だ……けれど」
 穏やかに見える青年から発せられるは高まりゆく覇気。
「影すら見えない相手を捉えられるか?」
 そう告げた瞬間、影郎の姿が風と共に掻き消えた。空気を震えさせた気配すら消えて突然の静寂が夜闇に訪れる。
『ギャンッ!?』
『グォンッ!?』
 それも束の間。蜘蛛の巣に囚われた狼達が次々に悲鳴を上げる。それらの胴体には叩き付けられた痕。何が起こったのかも解らぬ狼達は混乱の極みに追いやられる。
「これが、先輩の新しい忍法……!」
 その名も『メキシカン忍法・疾風怒涛の歩み』!! 覆面忍者ルチャ影の第二シーズンを前に絢音は感嘆の声を上げた。
 視覚嗅覚で捉えられぬ影郎に一撃二撃と打撃を受けては倒れて行く狼達だが、攻撃を食らって尚も立つ個体は、必然的に絢音に対して死に物狂いで向かって行く。
「そこだね?」
 影渡りの移動は先程見て予測が付いた。視認出来る自分に向かう事も。不意さえ突かれねば不意打ちなど怖くは無い。影から襲い来る狼は冷静にその爪を躱し、光を帯びたレイピアを以て迎撃すれば、狼達は塵の様に掻き消えた。

「粗方やっつけた、かな?」
 絢音は剣を納めながら、軽く額が汗ばみ息を切らせている己に気が付いた。
「流石に10代の頃みたいにはいかないね……無茶はできないかも」
「――久遠寺、無理するな」
 これは長期のブランクだけでは無い事は、影郎も解っていた。無尽蔵に生命力に溢れていたあの頃と大きく違う事がただ一つ。
「俺達は――若くない」
 最早三十路に到達した先輩のその言葉は重かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜崎・紅祢
死した者を呼び戻す――世の理に反した行為としか言い様が無い
其れの中身が何であれ、見た目が愛しい者の姿をしているなら、手放す事は容易では無いでしょう
影朧を何時までもそのままにしておく事は出来ない、と理解して頂ければ良いのですが

さて、まずは集まってしまった影狼の対処と
翠葉――発動体の若葉を夜桜の花弁と共に数枚風に舞わせ、そこから一気に広がるのは白い花を咲かせた野薔薇の蔓
絡め、捕らえた狼達が何方に逃げようとしているのかで、お二人の居場所を確認しましょうか
勝手に動かれては困ります、けれど……惹かれてしまうものは仕方がない
勿論許すつもりはありませんが
方向が分かれば、花で埋めて骸の海へと送りましょう



 はらりはらりと桜色が舞う。咲いては散り、散っては咲く。幻朧桜とはそんな不思議な存在で、この世界の理(ことわり)にも大きく関わっているのだと聞いた。
 傷付いた影朧はこの桜に魂を導かれ癒されて、新しい生を得る――転生するのだと言うそうだ。輪廻転生の考えは杜崎・紅祢(翠光纏いし癒し手・f36019)の生まれ育った世界でも聞いた事があった。だから。
「死した者を呼び戻す――世の理に反した行為としか言い様が無い」
 銀の雨降る世界でリビングデッドが事件を起こした時も、そんな事を考えてただろうか。何せ十年近くは前の記憶だけれども。
「其れの中身が何であれ、見た目が愛しい者の姿をしているなら……手放す事は容易では無いでしょう」
 一度失った愛しき者を再び手放せと告げるには余りにも残酷だ。しかし当人は薄々気付いている筈なのだ。理から外れた行いだと言う事に。
「弟さんが影朧で、それを何時までもそのままにしておく事は出来ない、と理解して頂ければ良いのですが」
 気が重くないと言えば嘘になるだろうか。紅祢が軽く息を吐いた所で、向こうの角から現れたのは――影の狼達。
「さて……まずはこの子達の対処、と」
 指先に挟んだ若葉の翠色は、桜色の中に紛れていく。この世界では珍しい葉桜の如く、薄紅色と翠色が風に舞い飛び、目の前の影狼に向かい。
「――」
 念じた瞬間が術式の発動。アビリティからユーベルコードに名を変えた彼の力は花を満開に咲かせし野薔薇の蔦を広げ、結界として狼達に絡みつき、捕らえ封ずる。
『ギャン!?』
『ガウぅぅっ!?』
「逃げようとあがいても痛いだけですよ」
、薔薇の棘が身に刺さりダメージを与えつつ蔦はますます絡み合う。その狼達は揃って今来た方向に引き返そうと藻掻いているのは充分解った。恐らくその先に、件の影朧と反魂の術者たる姉がいるのだろう。
「勝手に動かれては困ります、けれど……惹かれてしまうものは仕方がない」
 弱い力の亡者が強き力の亡者の周囲に発生するのはどこもきっと同じなのだろう。そして離れた先で負傷した時に戻っていく習性も。
「勿論、あなた達が向かう事を許すつもりはありませんが――」
 一瞥。その瞬間、結界を構築する蔦より白花は見る間に咲き乱れ、影狼達を埋めていく。
「還りなさい、骸の海へ」
 やがてその白き花弁がさぁっと散った時、黒き獣達は塵の如く消え去っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

徳川・家光(サポート)
『将軍なんだから、戦わなきゃね』
『この家光、悪は決して許せぬ!』
『一か八か……嫌いな言葉じゃありません!』
 サムライエンパイアの将軍ですが、普通の猟兵として描写していただけるとありがたいです。ユーベルコードは指定した物をどれでも使いますが、全般的な特徴として「悪事を許せない」直情的な傾向と、「負傷を厭わない」捨て身の戦法を得意とします。
 嫁が何百人もいるので色仕掛けには反応しません。また、エンパイアの偉い人には会いません(話がややこしくなるので)。
よく使う武器は「大天狗正宗」「千子村正権現」「鎚曇斬剣」です。
普段の一人称は「僕」、真剣な時は「余」です。
あとはおまかせ。よろしくです!


ニケ・ブレジニィ(サポート)
技能を、フル活用します。

仲間を守りつつサポートし、敵を倒すという戦闘スタイルです。

また、このシナリオ内で戦闘不能になったオブリビオンの肉体と魂を、ユーベルコードの『桜の癒やし』で鎮め、転生できるように祈ります。

「…もう鎮まりたまえ、あなたの名を忘れないように私は憶えておいてあげるから…」

リプレイのために、このキャラクターを自由に扱っていただいて、全く問題ありません。



 幻朧桜が咲き乱れる道を、黒き影が駆ける。
 影狼。書いて字の如く、影の狼の姿をした獣の影朧。
 反魂者と称される強き影朧に惹かれて現れた彼らは、離れていろと命じられたままに四方八方に散り、夜の闇を彷徨う。無論、生有る者に出会えばその黒光りする牙を剥き、本能の赴くまま凶行に走るのだろう。
 だが狼達が遭遇したのは彼らにとって不幸な事に猟兵達であったのだ。
「申し訳ありませんけども、夜の散歩はここまででお願いしますね」
 抜き身の刀を携えた和服の青年――徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)は、この桜吹雪の景色の中に音も無く立つ。そして刃に指を添え、そっと這わせてみれば聞こえるは微かなる刃鳴りの音色。
『ガ、ゥ……』
『グウゥゥ……』
 刃の囀り月をも酔わす。これぞ胡蝶酔月――周囲にある者を刃鳴り響かせる事で眠りに導く家光の秘技である。
「大人しく、事が済むまで眠っていて下さいね?」
 刀を鞘に納めながら家光はすっかり地面に腹這いになって眠りこける獣達に向けてにっこりと優しげな笑みを向けた。
 だが、次の瞬間険しくなる表情。はっと振り返れば影狼達の別集団が此方に向かってくるのが視界に入る。術の範囲に収まらなかった分か、と再度刀を抜こうとした、その時。
 闇の如き黒い影を、桜の色が大きく広がって飲み込んだ。
「決して、誰一人傷付けさせはしないよ」
 ニケ・ブレジニィ(桜の精の王子様・f34154)が角よりその姿を現し、放った桜の花吹雪の中にある影狼達に向かって言う。生きる者を護る為――そして彼らがこれ以上、罪を犯す前に。彼女は告げ、そして祈るのだ。
 桜の癒やしを身に受けた影の狼達もまた、その四肢の力を失う様にその場にへたり込むと、あっと言う間に眠りの世界へと落ちていく。
「そちらの子達も、ぐっすり眠ってるのね。上様の仕業?」
 奇しくも似た性能のユーベルコードを用いていたらしい。思わず二人ともクスリ笑うと、他に逃げた影朧がいないか耳を澄ませ目を凝らして周囲を確認する。
「ひとまず、反魂者に惹かれて現れた影朧はこれで残り全部みたいですね」
「元を絶てば……事件が解決されれば、この子達はこれ以上出てこない筈だけど」
 その為に反魂者とそれを喚び出した術者の元に向かった幾人かの猟兵がいる。そちらは任せるとして。この狼達は寝てる間に一匹ずつ一撃で仕留めて行けば良い。
「そして、この黒い影の狼達も……鎮まりたまえ……私はあなた達を忘れない」
 ニケは祈りを捧げるのだった。どの影朧達も、幻朧桜の導きで浄化されて無事に転生出来るように、心の底から願いを籠めて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 日常 『夜桜の宴』

POW   :    花見に適した場所を確保する。

SPD   :    周囲を散策しながら夜桜を楽しむ。

WIZ   :    提灯の灯りを調整し、最も桜が美しく見える光量を模索する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「…………おや?」
 青年はふと足を止め、姉はそれに倣うと心配そうに彼の顔を覗きこんだ。
「どう、したの……?」
「ああ……いや、ね。大した事じゃ無いんだけども」
 弟は軽く首を横に振り、ぐるりと遠くを見る様に周囲に視線を向ける。

(「――惹かれて集まってきていた連中の気配が、消えた――?」)
 全てを感知出来る訳では無いが、先程まで漂っていた禍つ気配が感じ取れない。

「ごめん姉さん。少しここで待っていてくれる?」
「え?」
「大丈夫、すぐ戻るから。さっきの野犬はもう襲ってこないだろうし」
 それは消えたからだとは告げぬが、弟の言葉には妙な確信が篭められていた。
 何より弟が向けたその笑みが――どこか、怖く見えた。
「ええ……解ったわ。けど、早く戻ってきて頂戴ね」
「全く、姉さんは心配性だな。桜でも眺めていればすぐだよ」
 そう告げた弟は足早に姉の側から離れ――女が一人、幻朧桜の並木道に残される。

 その隙を猟兵たちが見逃す訳には行かぬ。姉と接触し、言葉を交わす機会なのだ。
 告げねばならない、残酷な事実を。
 問わねばならない、彼女の思いを。
 請わねばならない、非情な決断を。
杜崎・紅祢
驚かせてしまうのは仕方ないとして、どう伝えたものか
隠れたりはせずに、あえて姿を見せて近付いてみましょう
ゆっくりと道を進んで、すれ違う際に足を止めて

こんばんは
櫻の、美しい夜ですね
春は出会いと別れの季節、なんて言い方をする事もありますが
言いながら弟さんが向かった方向に立ち、視線を遮ります

貴女は、一度別れ…そして再び手繰り寄せてしまった
でもその糸は正しいモノではない
分かっているのでしょう?
彼は、貴女が願う人では無いと
俺は貴女のような人を沢山見てきました
皆悩んで、後悔して…それでも、最後には皆正しい道を選んだ
強いわけでは無い、普通の人達です
還してあげましょう
貴女ならきっと、決断出来る筈



(「驚かせてしまうのは仕方ないとして……」)
 杜崎・紅祢は遠くから姉弟の様子を覗い、そして弟がその場を離れていったのを見届けながら考える。彼女に、あの姉にどう何を伝えたものか、と。
 しかし、隠れていては始まらない。敢えて姿を見せ、紅祢はゆっくりと道を歩く。散歩に歩く青年にしか見えぬ様にすれば、女と青年の距離が自然と近づいて行く。
 そして、すれ違うかと思った所で――彼は足を止め、静かに振り向いた。
「……こんばんわ。櫻の美しい夜、ですね」
「え……? あ、はい……そうですね……」
 声をかけられ、驚いた顔で女は頷いた。紅祢の優しげで美しい笑みに一瞬ドキリとし、顔を赤らめた様にも見えただろうか。
「春は出会いと別れの季節、なんて言い方をする事もありますが」
 紅祢はやはりゆっくりと歩を進め、彼女の弟が向かった先の視界を遮る様に立ち――そして一呼吸置いてから告げた。
「貴女は、一度別れ……そして再び手繰り寄せてしまった」
「……!? 何の、事ですか……」
 ズサッ、と地面を滑る音。女は困惑を顔に浮かべ、足を一歩引いた。その様子に紅祢は肩を竦め、困った表情で言葉を続ける。
「そんな顔をするって事は……分かっているのでしょう? その糸は正しいモノではないのだと」
 後ろめたい気持ちがあるからこそ、彼女は紅祢の言葉に斯様な態度を見せたのだ。図星を言い当てられ、見透かされた気持ちになった女は視線を伏せ、絞り出す様な声で告げる。
「あなたさまはご存じなのですね……? わたしは……わたしのしたことは、間違っていたのでしょうか……?」
「俺から言える事は――彼は、貴女が願う人では無いと言う事」
 紅祢は彼女の行為そのものは否定はしない。だって分かるから。過ちを犯さぬ人間なんて決して居ないと言う事を。
「俺は貴女のような人を沢山見てきました。皆悩んで、後悔して……それでも、最後には皆正しい道を選んだ」
 それは皆、特別強い訳では無い。普通の人達なのだ。無論、目の前の彼女だって。
「還してあげましょう」
「…………」
「貴女ならきっと、決断出来る筈」
 紅祢は女の背を押す様に語りかけ。対し、女は泣きそうな顔でただ俯いた。
「もう少しだけ……時間を下さい。考える、時間を」

大成功 🔵​🔵​🔵​

久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と

いた…お姉さん、今は一人ね

(警戒させないよう、なるべく柔らかく応対しようと試み。イグニッションカードの衣装チェンジで世界に合わせた着物姿へ)
あの、少しよろしくて?あっ、怪しく見えるかもしれないけど安心してね
ええと…貴女とお話がしたくて
貴女と弟さんのお名前、伺ってもいいかしら?

弟さん、生きていた頃と少しずつ違ってきているのは、気付いているわよね?
家族の死に目に会えなかった悔恨は分かるの…
(脳裏に過ぎるのは大昔。来訪者種族故に色々とあったのだ)

このままだと、弟さんの魂はもう戻ってこれなくなる
…反魂ナイフを使った、貴女に問います
弟さんを、再び喪う覚悟はありますか?


流茶野・影郎
久遠寺(f37130)と同行

どうやら一人
みんなで囲んで説得って、圧迫感強そうだな
イグニッションは解除しておこう

ある程度タイミングを計って複数方向から話しかけないようにしつつ、一息ついたところで

「願いはかないましたか?」
一声

最初の願いはもう一度会う為であって永久に過ごすことではなかった筈
それが一本のナイフで狂ってしまった

「俺には貴女が羨ましい、会えなかった人に会えたのだから」

母が死に父が狂気に捕らわれた俺にとっては
でも

「この世では幻朧桜の元、影朧は転生を果たす。けれど生き返るわけではない。別れは必ず訪れる、ましてや人ならば」

「人生の延長時間は終わりにしましょう、それを望むのは貴女次第です」



 弟が影の狼達の様子を探りに離れた所で間髪入れずに一人の猟兵が声をかけた事も、そこでどんな言葉が交わされたかも、二人は知らぬ。
 分かる事はただ一つだけ。たった今、見える彼女の周囲に人がおらぬ事。
「いた……お姉さん、今は一人ね」
 久遠寺・絢音は闇の狼を屠った後、その出先を追う様に此処に辿り着き。そして振り返り、絢音が先輩と慕う男――流茶野・影郎にそれを指し示していた。
「ああ、一人なら……好都合だな」
 皆で囲って説得となれば圧迫感甚だしい事になる。一般人に過ぎない女を怯えさせる真似は二人ともけして望む所では無かった。
 絢音はその衣装をこの世界に合わせた着物姿へと変じ、影郎も戦闘装備を解除して眼鏡をかけ、ネクタイの形を整えて紳士然とした姿を作り上げた上で女に近づいた。
「――あの、少しよろしくて?」
「……!? は、はい……なんで、しょう?」
 考え事に耽っていた女は絢音の声に一瞬ドキリとした表情で振り返る。その慌てた様子に絢音は極力柔らかい笑みを向けながら、そっと窺う様に言葉続けた。
「あっ、怪しく見えるかもしれないけど安心してね」
「い、いえ、そんな事は……ああ、お二人ともお花見の方、ですか?」
 人は初対面であればその見た目を判断材料にする――見目で違和感を与えぬ猟兵であれど、場に合わせた服装の効果は相手の警戒心を取り払うには充分であった。
「ええと……貴女とお話がしたくて」
「わたし、と……? またどうして……」
 困惑の色が隠せない姉の様子。突然の事に驚いているだけでは無いのは様子を見ていた影郎の目から見て明らかだった。この女は何か後ろめたい気持ちを抱えている――故の挙動不審なのだと。
「久遠寺」
 ここは俺に、と影郎は目配せ一つ。一歩彼女が引いた所で彼は軽く息を吐き出してから――告げるのだ、一言だけ。
「願いはかないましたか?」
「……!!」
 何の願いかは彼は告げてはいない。なのに彼女はその顔色を変えたのは、その意味を理解したが故なのだ。
「あなたがたも……ご存じなのです、ね」
「まぁ、うん、簡単に言えばそう言うこと」
 絢音はあっさりと肯定する。ここで否定する意味は皆無であった。
「願いは――叶ったと申し上げて良いのでしょうか。ああ、しかし……最早分からなくなりました」
「最初の願いはもう一度会う為であって、永久に過ごすことではなかった筈」
 影郎が告げる。それが一本のナイフで狂ってしまった、と言う事も。引き継ぐ様に絢音は女に問いかける。
「弟さん、生きていた頃と少しずつ違ってきているのは、気付いているわよね?」
「……ええ」
 力無く女は頷いた。そして絞り出す様に告げるのは、最近弟に感じる怖ろしさや不気味さについて。上手く言葉に表せないと言いつつぽつりぽつりと口に出していく。
 それでも、と女が口にするのは――弟への愛情。弟が自分に向ける表情は、言葉は、微笑みは昔と変わらないのであれば、それにどうしてもしがみついてしまうのだとも。
「――俺には貴女が羨ましい」
 一通りを聞いた影郎がついそんな言葉を口に出す。
「あなたも……家族を喪って……?」
 青年は寂しそうに笑って頷き肯定した。母は死に、父も狂気に囚われ――失ったのだと。だからこそ羨むのだ。女は会えなかった人に愛する家族に会えたのだから。
 でも。其れはまやかし。残留思念の如き存在。有っては為らぬものなれば。
「この世では幻朧桜の元、影朧は転生を果たす。けれど生き返るわけではない。別れは必ず訪れる、ましてや人ならば」
 女の生きる世界の理(ことわり)。反魂では無く輪廻。それは彼女も分かっている筈なのだ。
「家族の死に目に会えなかった悔恨は分かるの……私も、ね。うん」
 絢音も自分の事を思い返しながらポツリと言葉を吐き出す。その脳裏に過ぎるは大昔の記憶。人有らざる身故に経験した過去。同朋の死を聞かされたのは一度や二度では無かった気がする。
「でも……このままだと。弟さんの魂は、もう、戻ってこれなくなる」
「あれは……わたしが甦らせた弟は、本当に弟なの……ですか?」
「半分は、そう。でももう半分、別のモノが入ってる」
 二人は説明する。反魂ナイフとは、人の魂と影朧を合わせた人ならざる存在を生み出す呪具であると言う事を。無論、それを知った女の後悔じみた表情を見つめながらも――残酷だと知りながらも絢音は問うのだ。
「――弟さんを、再び喪う覚悟はありますか?」
「…………」
「人生の延長時間は終わりにしましょう、それを望むのは貴女次第です」
 更に続く影郎の言葉に女は目を伏せ、袖口で目元を抑え、嗚咽しそうなのを必死に堪えて――。
「ええ……願いは叶いました。弟に再び会えた……本来であれば、それだけで充分幸せなのですよね」
 最初の問いに改めて答える様に、女は告げた。その言葉に迷いは消えていた。
「そうだ、伺ってもいいかしら――」
 絢音は思い出した様に問う。この二人の姉弟の事をもっと知りたかったから。
「貴女と、弟さんのお名前」
「わたしの、おとうとの名、は……」
 その名を絢音も影郎も然りと記憶に刻む。此度の忌まわしき出来事の記録と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

梅小路・尚姫
【雛梅】
解っているよ、なんで姉さんが僕を呼んだのか。
その蒼い灯りを持ってきたのか。
口には出さないけれど。
だから僕はいつも通り、しっかり者の弟として傍にいる。
姉さんを叱りつけ、支える為に。

「私は……いえ、僕は尚姫」
姉に紹介されてお辞儀をして。
その言葉に嘆息して肩を竦め。
「その可愛い弟に心配されてるんだから世話ないよね」
これは二人に向けた言葉。
「……僕は姉さんにそんな顔させている男、死んだって認めないから。それがたとえ自分自身だとしても」
これはもうここにはいない、蒼い灯りに欠片が遺った誰かさんと僕自身も含めてこの場にいる全員に向けた言葉。
「僕は死んでも姉さんに笑っていて欲しい」
たとえ腹違いで、ドジで、手のかかる姉さんでも僕の姉さんで。
幸せになって欲しいと、心からそう願ってやまないから。
「だから勝手に都合の良い残骸(想い出)に縋って、情けない顔してたら、絶対許さないから」
僕は姉さんがそんな過ちはしないと信じている。
たとえ大切な人を見送っても、涙を払って前に進めると、そう信じている。


雛瑠璃・優歌
【雛梅】
猟兵らしき人に構われてたら姿を知らなくても対象は遠目にも判る
隣を歩く異母弟(ひめ)はきっとあたしが何でこの依頼に連れてきたのか分かってる
「姫」
あたしは姉で姫は弟…単純な話
そしてもうひとつ
春の花明かりにはあまり似合わない青いランプ(装備3)の持ち手をぎゅっと握って
「いつも通り、お願いね」
段々近づく対象から目を逸らさず一言呟いた

「こんにちは、あたしは優歌っていいます。隣はあたしの“弟”、姫って呼んでますけど」
普段なら妹と紹介するけど今だけは
「姉だって楽じゃないですよね。運命も世も何も優しくないのに、それでも弟は本当に可愛いの」
姫、ちゃんと釘刺してね
この人にも、あたしにも
「あたしは姫の自慢のお姉ちゃんで在りたい、…貴女は?」
あたし自分が今どんな顔してるか分かんないから
「…蘇らせることが自己満足で済まない世界なんです。此処は」
ランプを持つ手が震える
これはあたしの為に喪われた命の形見が鎔けた蒼
目の前の彼女と本当はお揃いの気持ちを
今も一緒だからと抑えてる内に、諸共に叱って、姫
ごめんね、お願い



 猟兵らしき二人が離れたのを遠目で見れば、あの女性が今回の対象なのだとは姿を知らずとも察する事が出来た。
「姫」
 雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)は隣を歩く少年に目を向ける。――そう、少年だ。常は女の様に振る舞い生きる梅小路・尚姫(メイドさんは見た!!・f22690)は、今だけは違っていた。
「ああ」
 作り声ではない自然な声で、尚姫は小さく頷いた。

(「姫は――きっと、なんであたしが連れてきたのか分かってる」)
 優歌が手にした青いランプ。春の花明かりにはあまり似合わないと解っていながらも、彼女はこれを灯し、ぎゅっと強く持ち手を握る。
(「――解っているよ、なんで姉さんが僕を呼んだのか」)
 そして、その蒼い灯りを持って来たのかも。
 優歌は姉で、尚姫は弟――そう、実に単純な話。
 二人とも口には出さぬ。出さぬとも互いに思いは知れている。
 だって、血の繋がった姉弟であるのだから。
「いつも通り、お願いね」
「ああ、いつも通り――だね」
 段々と件の事件を起こした女に近付く間、優歌は対象から目を逸らさぬまま小さく告げた。そして尚姫もまた心得た、と姉の側を歩くのだ。しっかり者の弟として。そして、姉を叱りつけ、支える役目を担うが為に。

「……あなたたちも、わたしにご用……なのですか?」
 女は二人の近付く姿を見て、どこか諦め受け容れる様に見つめた。自分の成した事に、甦った弟との在り方に言葉を向けに来た者だろう、と。
「こんにちは、あたしは優歌っていいます。隣はあたしの――『弟』。姫って呼んでますけど」
「私は……いえ、僕は尚姫」
 優歌は、普段であれば彼のことを妹と紹介していた。でも今だけは違う。そして尚姫もまたその姉の意向を汲むと、弟として丁寧にお辞儀をして挨拶を済ませる。
「あなたたちも……姉と弟、なのね」
 女は二人を見比べる。まだまだ成長期の筈の少年の背丈は姉を僅かに超えた程だが、その顔立ちは優しく、姉と名乗った優歌に良く似て見えた。
「姉だって楽じゃないですよね」
 優歌は肩を竦めて小さく息を吐く。運命も世も何も優しくないのに――と嘆く様に首を横に振り、それでも、と静かに笑み浮かべて彼女はしかりと告げるのだ。
「それでも弟は本当に可愛いの」
 ――と。
「その可愛い弟に心配されてるんだから世話ないよね」
 肩を竦める仕草は実に良く似ていて。尚姫は実の姉を見、そして目の前の女を見た。彼の言葉は二人に――姉という共通点を持つ二人の女に向けられたもの。
(「姫、ちゃんと釘刺してね」)
 次に告げる言葉が震えそうになりながら、優歌は弟をちらと見た。
(「この人にも、あたしにも」)
 だって、今、自分阿どんな顔しているか最早わからないから。
「あたしは姫の自慢のお姉ちゃんで在りたい……貴女は?」
「わたし? わたし、は……」
 女は俯く。そう言われてみると、そんなこと考えるのは初めてだった。彼女はただただ純粋に弟を愛おしく思っているだけであったのだから。
「……蘇らせることが自己満足で済まない世界なんです。此処は」
「――――」
 優歌のランプを持つ手が震える。蒼い光もまた揺らめく。この蒼は、優歌のために喪われた命の形見が鎔けた色。悲しみを映し照らすその灯りを見詰め、尚姫は堪らず声をあげた。
「……僕は姉さんにそんな顔させている男、死んだって認めないからっ。それがたとえ、自分自身だとしても」
 その言葉に、二人の姉は顔を上げる。そして、互いに見詰め合う。
 女は悟った。優歌もまた、愛する人を喪っているのだろう、と。胸に抱えるその気持ちはお揃いなのだと言う事を。
 尚姫は奥歯を噛み締め、ギッとランプの灯りを睨み付けた。蒼い灯りに欠片が遺ったあの誰かさんはもうここにはいない。先の言葉はその者を含め、この場にいる全員に向けたものだ。無論――自分も例外にあらず。
「僕は、死んでも姉さんに笑っていて欲しい」
 ……たとえ腹違いで、ドジで、手のかかる姉さんでも……僕の姉さんである事は間違い無いのだから。愛する姉に、幸せになって欲しい……と、心からそう願ってやまないのだから。
「だから、勝手に都合の良い残骸(想い出)に縋って、情けない顔してたら――絶対許さないから!」
「姫……」
 泣きそうな顔をした弟を、泣きそうな顔をした姉が抱きしめる。
「――良い弟さん、ね」
 女は二人のその様子を見て、切ない笑顔を見せてそう告げた。
「わたしのことも、きっと叱ってくださった――そうよね?」
 問いかけに、尚姫は優歌から離れながらも照れを隠す様に視線を明後日の方に向け、そしてぽつりと呟いた。
「僕は姉さんがそんな過ちはしないと信じている。それに――」

 ――たとえ大切な人を見送っても、涙を払って前に進めると、そう信じている。

「だから、貴方も――」
 進める筈だ。尚姫は静かに告げると、蒼い灯りは揺らめくのを止め。
 優歌もまた、女と同様に頷くのだ。前に歩もう――と。愛する弟の為にも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『シシャ』

POW   :    魔界への誘い
【怨念】を籠めた【燭台】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【正気】のみを攻撃する。
SPD   :    思い出してごらん
攻撃が命中した対象に【トラウマ】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【幻影】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    いのちの灯火
自身の【持つ蝋燭】が輝く間、【立ち上る煙】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御園・ゆずです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ずっとずっと心苦しかったのです。
 わたしのしたことは間違っていたのではないか、と。
 しかし、あの人達はそんなわたしの気持ちを否定は致しませんでした。
 おとうとを愛する気持ち、いとしく思う気持ち。
 だからこそ――わたしは決断せねばならぬのだと。

「あ、いた。晶(あきら)姉さん……!」
 弟がわたしを呼び、近付いてくる。ああ、しかし――。
「ごめんね、光(ひかる)――わたし、あなたに再び会えてうれしかったわ」
「……ねえ、さん……?」
「気が付いてたの。あなたは光だけど光じゃないって」
 そう、薄々気が付いてはいたのです。わたしはそれを必死に否定しておりました。
 しかし、あの人たちのお陰で目が覚めました。夢は夢。現に戻る時が来たのです。
「姉さん……何を言って……」
「わたしはもう充分。光を、返してあげたいの!!」
 弟が伸ばしたその手を振り払い、わたしは必死に叫びました。
 するとどうでしょう――彼が見せたのは怖ろしき薄笑い一つ。
『あーあ、もう少しだったのに、ね……』

 ◆

 光がそう告げた途端、その身から同じ姿の青年が弾き出された。実体無きその身は晶の方に力無く凭れかかる様に蹌踉めき、彼女は思わずそれを抱き留める。
「……!? 光!?」
(ねえさん……ありがとう……)
 その霊体だけの存在はまごうことなき弟の光であった。彼が立っていた筈の場所を見れば、そこには書生姿の影朧が一体、クスクスと笑みを浮かべている。

『もう少しで、ボクと光クンは一つになって、永遠に姉さんといられたのに』
 残念だよ、とシシャは嗤う。
『ねぇ、考え直さない? 今は分離しちゃったけど、ボクと光クンは一蓮托生。ボクが居る限り、彼の魂は成仏すら出来ないんだしさ』
 そこまで告げて、シシャは自分を見詰める視線が目の前の姉弟だけでは無い事にようやっと気が付いたのだ。
『――君達だね? 晶姉さんに要らないこと吹き込んだのは。邪魔する奴は――』
「そいつを、倒して!!」
 晶が叫ぶ。魂だけの霊体となった弟を抱きしめながら、姉は自分達を翻弄した影朧を涙ぐんだ瞳で睨み付けて猟兵達に願った。
「光が成仏出来るように――お願いします」
 覚悟を決めた彼女。側に寄りそう本物の光もまた、猟兵達に向けてこくりと頷く。

『仕方ないなぁ……じゃ、みんな死んでおくれよ』
 シシャは告げ、猟兵達は身構える。
 姉と弟――晶と光の見守る中、事件の幕引きの時が来たのだ。

 ※※※

 説得成功につき、「影朧から魂が分離した状態」で戦う事になりました。
 姉弟は猟兵を応援してくれますし会話も可能です。敵は猟兵がいる限り姉弟を攻撃する事はありません。
 弟の魂を見送るプレイングがある場合、必然的にトリのリプレイとなりますので纏めての描写や再送の可能性があります。ご了承下さい。

 ※※※
雛瑠璃・優歌
【雛梅】
もっと不安になると思ってた
誰かの弟さんに、仮にも姉のあたしが敵対する
今のあたしじゃ剣が揺らぐんじゃないかって
でも
「今何て言ったの」
その人が大事にするものを自分の為だけに蔑ろにして
「姉と呼んでおきながらその態度は何だって言ってるの!」
別に偉くなんかないけど
姉弟愛すら人質にする様な、姉という生き物に対する最大級の侮辱をあたしは許さない
「お姉さん、貴女の気持ちをあたしに貸して。あの大根役者にお仕置きするから」
抜いたのはタクト(装備11)
「姫、隙が見えたら崩しでもトドメでも入れちゃって」
あと
「万一あたしが押し負けるなら諸共でお願い」
あたしは怒ってるの
霊力の音符達を生み、苛烈な指揮で次々撃ち込む


梅小路・尚姫
【雛梅】
全く、往生際が悪いというか態度が悪いというか。
お陰でうちの愚直な姉に火が点いちゃったじゃないか。
優歌……姉さんの言葉には嘆息して肩を竦め。
「嫌だよ、そんなの。絶対にお断り」
出来の良い弟は熱くなった姉に流されたりなんてしないし、どこかの誰かさんみたいに自分の我儘の為に姉を利用したりもしないの。
そこんとこ解ってる?
「猪突猛進なのは姉さん一人で十分」
幾夜寝覚発動し飛翔。
霊力の音符で圧されているであろう相手に空中から破魔の力を込めた斬撃波をお見舞い。
勿論巻き込みなんて絶対しないよ。
「姉の面倒も見れない癖に弟面すんな。不愉快だ」
冷めた目で見下ろし、容赦なく2回攻撃。



 ――もっと不安になると思ってた。
(「誰かの弟さんに、仮にも姉のあたしが敵対する……今のあたしじゃ剣が揺らぐんじゃないかって……。……でも……」)
 雛瑠璃・優歌は自分の心境が思いも寄らぬ方向に転がっていくのを感じていた。だからと言って揺らぐ事は無く。
「今、何て言ったの」
 むしろ気丈なまでに。低い声にて優歌は影朧に、シシャに問う。その声には滲み出るは隠す事の無き怒り。
『おやおや、何を熱くなっちゃってるの?』
 クスクスとそんな優歌を嘲け笑う影朧。首を傾げるその戯けた様子が彼女の怒れる心にますます油を注ぐ結果となる。
 この書生姿の男は、彼らの横で抱きしめ合う姉と弟二人の思いを、大事にするものを、己の為だけに蔑ろにして踏み躙んだ。許せない――ぜったいに許せない。
「姉と呼んでおきながらその態度は何だって言ってるの!」
 だんっと足を踏み出しそのまま殴りかかりそうな優歌。その腕を掴んだのは、その弟である梅小路・尚姫であった。
「全く、往生際が悪いというか態度が悪いというか……」
 その言葉と視線は、敵対する影朧に向けられたもの。尚姫は肩を竦めながらもシシャに向けて苦情でも申し立てる様に告げる。
「お陰でうちの愚直な姉に火が点いちゃったじゃないか」
『ふふ、どこの姉弟も弟と言うのは姉に振り回されるものらしいね?』
 ちらとシシャは晶の方を見る。その視線と目を合わせた彼女は息を呑み青白い顔をするも、彼女の本当の弟である光がその頬に手を当てた。
(姉さん、アイツの言葉に惑わされないで……!)
『おやおや、優しい弟さんだ。で、そっちの偉そうに講釈垂れてるお姉さんはどうしようって言う訳?』
「別に偉くなんかないけど……!」
 燭台を掲げるシシャの言葉に弟の制止を振り切る様に掴む袖を振り払い、優歌はタクトを手にして敵に向ける。それが挑発だと解っていながらも言わずにいられない。
「姉弟愛すら人質にする様な――姉という生き物に対する最大級の侮辱を、あたしは許さない!」
 それは一人の姉として。彼女の気持ちが嫌と言う程分かるから。
「お姉さん、貴女の気持ちをあたしに貸して。あの大根役者にお仕置きするから」
「……は、はい……!」
『大根……言ってくれるじゃあないか』
 シシャの手にした燭台の灯が青白く燃え上がる。怨念を帯びた炎は正気を奪う様に二組の姉弟に襲いかかる。
 だが優歌も負けじとタクトを振るう。刻まれし音拍と共に生まれる霊力の音符達は、悪しき炎とぶつかり相殺する。
「姫、隙が見えたら崩しでもトドメでも入れちゃって」
 苛烈な程の指揮は優歌の心の激しさを表すかの如く。フォルティッシモの律動がシシャの禍心を穿つ。
『ちっ……!!』
 シシャも舌打ち一つ。生きる者への怨念を更に燭台に篭めて正気を削る灯りを放つ。
「万一あたしが押し負けるなら――諸共でお願い」
「はぁ??」
 後ろに控えていた尚姫は姉のその言葉に思わず声をあげると、大きく嘆息して肩を竦め、そして小太刀を手にして応える。
「嫌だよ、そんなの。絶対にお断り」
 全く――この姉は弟の気持ちを解っているのかそうじゃないのか分かりやしない。
「出来の良い弟は、熱くなった姉に流されたりなんてしないし」
 尚姫は己の身を梅の香気で覆いながら、姉を見――そして敵対する影朧を睨み付けて告げる。
「どこかの誰かさんみたいに自分の我儘の為に姉を利用したりもしないの」
 尤も向こうは偽物の弟だったらしいけど、と呟いて――。
「そこんとこ、解ってる?」
 尚姫の身が空高く舞い上がる。霊力の音符と燭台の炎がぶつかり合う、その拮抗を崩す様に彼が上空より放つは破魔の力を篭めた斬撃波。
『う、ぐっ!?』
「猪突猛進なのは姉さん一人で十分」
 優歌と尚姫――姉弟の攻撃を受けるシシャは徐々に押され、一歩二歩と身を後退させていく。
「あたしは怒ってるの!」
「姉の面倒も見れない癖に弟面すんな。不愉快だ」
 姉の熱帯びた声と弟の冷めた視線。それらが続け様の攻撃と共に、悪しき影朧に容赦無く突き刺さるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

流茶野・影郎
久遠寺(f37130)と同行

誰も死なない
誰も死なせない
影朧は闇に消え、魂は成仏する

エアライダー、白虎拳士――イグニッション!

「覆面忍者ルチャ影はその為に来た」

あ、怪しい人じゃないです
あやしい人じゃないんだ
行こう、久遠寺
終わらせる時間だ

蝋燭から来る煙……そこから攻撃が来るのか
ならば

「ポゼッショナーカード、イグニッション!」

そうだ、これこそがトリプルイグニッションシステム
覚醒、強化そしてユーベルコードの発動を担う新たな力
そしてこれが神秘の力で生み出された反魂を払う鎮魂の刃だ!

『ポゼッショナー・マインド・ダガー』

その蝋燭の炎ごとお前を貫く!
今だ久遠寺、飛び込め!


春から夏へ四季も人生も移り変わるものだ


久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と

……良かった。弟さんの魂から影朧は分離したのね
だったらあとはぶっ飛ばすまでよ。そこのうらなり、歯を食いしばりなさい
イグニッション!
(あ、私達怪しい人間じゃないのよと、着物から様変わりした姿で口に人差し指を当てて晶と光へ振り返り)

杖から呪殺弾を発射し、命中箇所を狙って傷口をえぐるように呪いを重ねていく
魔術だけじゃ決め手に欠けるわね……あなたには、こっちがいいかしら?
(杖をしまい、レイピアを抜き放ち)
一気に距離を詰め、体勢を崩すように突きを2発
先輩が蝋燭の火ごとうらなりを貫いた瞬間、その隙を狙って薔薇の剣戟

名残の花も散るときが来たわね。その後は……次の季節が訪れるのよ



 姉と会話を交わし、その後少し離れて様子を伺っていた二人の猟兵。
 弟の身からその魂のみが分離し、身体として残った其処には書生風の影朧の姿。
「……良かった。弟さんから影朧は分離したのね」
 久遠寺・絢音は魂のみとなった弟を大事に抱きしめる姉の姿を見て胸を撫で下ろす。が、まだ安堵するには早い。
「だったらあとはぶっ飛ばすまでよ。そこのうらなり、歯を食いしばりなさい!」
『全く……君達のお陰でボクの予定が台無しだよ。そこの姉弟諸共死にたいの?』
 シシャの名を持つ影朧は、手にした燭台に灯る蝋燭の炎を揺らしながら嗤う。だがそんな挑発にも似た言葉に流茶野・影郎はネクタイを緩めながら断ずる様に告げる。
「誰も死なない。誰も死なせない。影朧は闇に消え、魂は成仏する」
 二人のその手には魔術で生み出されしカード。
「覆面忍者ルチャ影はその為に来た」
 学生の時と変わらぬ所作で、二人はその言葉(ワード)を口にする――!!

「「 イグニッション!! 」」

 起動。かつての能力者はその言葉と共に戦闘態勢へと移行する。
 絢音の着物姿は瞬時に蒼きドレスの様な戦闘服へと変じ、杖の磨かれし木目が桜色の夜に映える。
 そして影郎は背広姿から一転し、黒きプロテクターにカーキ色のコート、白きマフラーを風に靡かせ……特筆すべきは、覆面がその素顔を伏せた事。これぞ墨西哥式格闘士の証にして誇りである。
 ――のだが。
「…………」
(ねえさん、しっかり)
 その目まぐるしき変身と、余りに見慣れぬその風体に晶は驚きのあまり口をパクパクさせており、光もまた驚きながらも姉をどうにか落ち着かせようとしているの図。
「あ、その、ええと」
「あ、怪しい人じゃないんです。あやしい人じゃないんだっ」
 絢音が人差し指に口を当て、あやしくないですよっ、と何処かで聞いた事のある言葉を告げ、影郎も同じく説得力皆無の格好で弁明する。
『へぇぇ……凄いね。今流行のこすちゅうむぷれい?』
 シシャは二人の変身に動じる事無くクスクス笑うと手にした蝋燭を前に差し出した。揺れる炎と共に吐き出されるは燃焼の煙。それこそ怨念の力を有する敵の武器。
「っと!」
 杖から呪殺弾を放ち、自分に向かってくる煙を相殺する絢音。あれを受けては心を抉られる、と感じたのだ。
「行こう、久遠寺。終わらせる時間だ」
「親分、頼りにしてるわよ」
 影郎もまた風車型の手裏剣を飛ばせば、シシャの放つ煙がそれを捉えて勢いを削ぐ。蝋燭から来る煙が敵の攻撃手段なのは間違い無いと彼は判断し。
「久遠寺、30秒だ」
「りょーかい」
 その言葉に絢音は再び杖から魔術弾を放つ。次々と命中箇所に重ねて狙い、呪いを重ねて動けなくしてやるのが狙い。
『時間稼ぎしてどうしようって言うんだい?』
 だが呪いは向こうも得意とする所か然程効かぬらしい。
(「魔術だけじゃ決め手に欠けるわね……」)
 不敵な笑み浮かべるシシャに対し、絢音は瞬時に得物を杖から細身剣へと持ち替える。
「あなたには、こっちがいいかしら?」
『ぐっ!?』
 突如、一気に距離を詰めた絢音の攻撃にシシャも対応しきれず。体勢を崩す様に放たれた突きは二撃。そして彼女は身を翻し、先輩と慕う男の方を見やる。
「ポゼッショナーカード、イグニッション!」
 詠唱は既に済んでいた。影郎が手にしたカード――それこそが彼の覚醒と強化、そしてユーベルコードの発動を担う新たなる力、トリプルイグニッションシステムの礎!
「そしてこれが――」
 破邪の力と彼の精神にて生成された輝く刃がその手にあった。
「神秘の力で生み出された反魂を払う鎮魂の刃だ!」
 ポゼッショナー・マインド・ダガー!! 撃ち出される短剣はその立ち位置による力を受けた上で書生姿の亡霊を貫いた!!
『がはっ……!?』
「今だ久遠寺、飛び込め!」
 蝋燭の火が消し飛ぶ様に消える。その瞬間を狙い、絢音のレイピアが菫青の薔薇を咲かせながら連続してシシャを刺し貫く!
『うぐぐっ……!』
「残念、一撃外したわね……!」
 死連撃まで至らなかった事に絢音は残念そうな表情を見せるも、敵はかなりの傷を負ったのは見て明らかであった。
「……すごい」
 晶と光はただただ、その目まぐるしい攻防を見つめ、やっとそんな声を上げた所で。
「春から夏へ四季も人生も移り変わるものだ」
 影郎が振り向かずにそう一言告げ。
「名残の花も散るときが来たわね。その後は……次の季節が訪れるのよ」
 絢音もまた姉弟に告げた。彼らの永別の時はもうそこまで来ているのだ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜崎・紅祢
晶さんは、親しき人が輪廻の輪に還らぬ事を喜ぶような方では無かったという事です
諦めて頂きましょうか
貴方がここで出来る事はもう何も無い、骸の海へと向かって下さい

会話を続けながら発動体の若葉をポケットから出して、桜吹雪に紛れる様に周囲に撒き散らし

一旦言葉を切ると一歩下がり、手の中の紅水晶へと力を籠め投げつけて光刃結界を発動
櫻色の光 招くは破邪の力 
鋭き刃よ 敵を祓え

肉親を思う気持ちを弄ぶ等、許せる事はではないですね
――貴方には、消えてもらいます

オブリビオンが消えた後は、言葉を交わせる時間はもう無いでしょうから離れた場所で見守ります
最期一言でも話せたならその方が良いでしょう
還られた際には小さく一礼を



 猟兵達の攻撃を受け、そして姉弟の強き愛情と思いを前に、シシャの名を持つ影朧は最早消滅に向かい始めるも……まだ尚、この世に執着を見せていた。
『光クン……なぁ、もう一度考え直さないか? 晶……姉さんも、さ……』
 姉弟に言葉を投げ掛ける影朧。再び光の魂を取りこめば、共に永遠にいられるのだとそれは告げるのだが。
 そんな影朧の視線を遮る様に、杜崎・紅祢は立ち――そしてゆるりと首を横に振って見せるのだ。
「親しき人が、輪廻の輪に還れない事を喜ぶような方では無かったという事です」
『な……だって、その手で願ったじゃあないか! 光に再び会いたいと……!』
 しかし晶はその言葉を否定する様に首を振った。
「わたしの願いは……死に目に会えなかった弟と再び会う事。ずっと共にいる事ではありませんでしたから……」
 既に願いは成就した。誰かに利用されたが為だと言うのは心苦しくもあるが、恩恵は最早充分に与ったのだ。
『そんな……嘘だろう……?』
「そう言う事で、大人しく諦めて頂きましょうか」
 歯噛みする影朧に向け、紅祢は冷たく言い放つ。その手の平より零れ落ち、桜花と共に空に舞うは、新緑色した若葉。薄紅色の中に多くの翠の欠片が混じる、溶ける。
「貴方がここで出来る事はもう何も無い、骸の海へと向かって下さい」
 告げる言葉は一旦そこまで。紅祢は足を一歩引くと、手の内にあった紅水晶に力を篭め――紅と緑の中に放る。
「櫻色の光 招くは破邪の力」
 若葉は術式の発動体。紅水晶は発動のトリガー。
「鋭き刃よ 敵を祓え」
 水晶が桜吹雪の中で強く閃光を放ち、光刃結界はその内にある邪悪を捕らえ穿つ……!
『――ひぎっ』
 シシャは悲鳴を上げる事すら出来なかった。全身を一瞬で無数の光の刃に貫かれ、手にした燭台をも取り落とす。煙による攻撃すらさせる暇は与えない。
「肉親を思う気持ちを弄ぶ等、許せる事はではないですね」
 穏やかな口調でありながらも、紅祢の声もまた鋭き刃の如く。姉弟を利用し弄んだ影朧を新緑の瞳で見つめたまま、彼は告げた。
「――貴方には、消えてもらいます」
 手にした長剣を突き出す。貫き、最後の一撃とすれば、力尽きた影朧は塵の様に霧散していく。後には、剣に刻まれし芙蓉の花が桜吹雪の中に咲き誇っていたのだった。



(――影朧が消えた。いよいよ本当にお別れだね)
 光の魂が告げる。実体無き霊は姉の腕から離れて立つと寂しそうな表情を見せた。
 オブリビオンが消えた後は、その存在に喚ばれた光もまた消え、輪廻の中に還る。現世に留まれる――言葉を交わせる時間ももう僅か。
 紅祢は姉弟を離れた場所から見守るに留めた。最期に一言でも話せるなら、姉弟水入らずで、と――邪魔をしたくはなかったのだ。
「光……」
 今度こそ永別の時。晶も頭では解ってはいるものの、瞳からは涙が溢れていた。
(ほら、泣かないで姉さん。姉より先に逝く愚弟を叱っておくれよ)
「ええ、本当に、本当に酷い弟ね、光は」
 その言葉に滲むはただただ悲しみ。それでも、と晶は涙を拭い告げた。
「最期に会えて、話せて良かった。嬉しかった」
(僕もだよ、姉さん)
 姉弟は互いに微笑むと、お互い抱きしめあい、最期の言葉を交わす。
「ありがとう、光」
(さよなら、姉さん)
 そして、そのまま弟の魂は静かに桜吹雪の中に溶けて消え。
 紅祢はそれを見届けると、小さく一礼を捧げたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月17日


挿絵イラスト