正々堂々と決戦開始!?
●影の城にて
「見ていますね……グリモア猟兵」
漆黒が物理的な重さを備えてどろりと滴り落ちるような闇。
その中から静かに声が響く。
おお、その声、一度でも聞いたことのあるものならば決して忘れるはずのない声。決して許すべきではなく、決して容赦すべきでもない、悍ましくも魂の底をかきまわし翻弄するような、地獄の道化たる存在──ドクター・オロチと呼ばれるものの、それは声に他ならなかった。
……けれど。
「いいでしょう。さあ、決戦です。持てる力のすべてを尽くし、雄々しく悔いの残らぬような戦いの幕を切って落とすときです。互いに互いの信念を守り矜持を貫き通すため、今こそ最後の戦いを始めましょう」
……なんか違った。
いや、いいことを言ってはいる。とてもいいことを。
だが、よりによってそれをオロチが言うか。というツッコミが一斉に沸き起こってしかるべきセリフであった。オロチは皮肉や嫌味ではなく本気で言っているのだ。ムシュとかも言わないし。
「……わかってはいるが、なんとも奇態なことよ。汝が『まざあ・こんぴゅうた』を憑依させた影響で、口調だけではなく性格までも、『正々堂々』という、以前とは正反対と言っていいほどに変貌したとはな……」
オロチの傍らでむっつりした顔を面に隠した男が慨嘆する。巌を思わせる威圧的な長身に無数の面を纏った奇怪な姿の男、風魔小太郎と呼ばれる百面鬼が。
「やむを得ぬことです。マザーの力を借りなければ今の猟兵には太刀打ちできないでしょう。撤退するまでの時間を稼ぐことも……いえ? 撤退? それは正々堂々としていないのでは? やはり最後の最後まで戦うべきなのでは?」
「待てい! 一応撤退戦がこのシナリオの主眼なのだ! その前提を覆すのではない!」
慌てて突っ込む風魔小太郎という珍しい構図。
オロチはその言葉に不承不承と言った態でうなずいた。その反動で、異常に肥大化した脳髄が揺れ、バランスを崩しかける。
「まあ確かに……この最終決戦シナリオが、成功本数が20本に達した日(達成日)で結果が変わるわけですしね。
5月1日午前中までに私を完全撃破すれば、影の城から私が何度でも蘇っていた原因とみられる「コンクリ塊」を回収、猟兵達で保存できるようになりますし。
また、5月15日午前中まで私を撃退すれば、私は何も持ち帰れなくなります。
それ以降に私を倒した場合、私はすんでのところで残る3体のフィールド・オブ・ナインを発見し、そのうち2体を連れ帰り、1体をアポカリプスヘルに残していくのですが」
「待たんか! それは機密事項ではないのか!? 汝が今、グリモア猟兵に見られていると言ったばかりではないか!?」
「え、だって、隠し事とか良くないですし……正々堂々としないといけませんし……」
頭を抱える風魔小太郎という珍しい構図。
その肩をぽんぽんと叩いてオロチは元気づける。
「気を落とさずに、正々堂々と頑張りましょう小太郎さん! あなたは『増殖無限戦闘機械都市』の力を持ちますから、表示されているユーベルコードのほかにも、環境を機械化しこれを使って猟兵と戦うことができますよ!」
「だからそれは機密事項であろうがー!」
「え、だって、正々堂々としないといけませんし……」
●グリモアベースにて
「……なんか、あたしから付け加えることがもう何もない気がするんだけど、とりあえずあたしのシャボン玉に映った予知はこんな感じ」
こめかみを抑えながら、ユメカ・ドリーミィ(夢幻と無限のシャボン玉・f18509)は猟兵たちに報告を終えた。猟兵たちも、オロチのあまりの変貌ぶりに割とドン引いている。
「まあとにかく、これがオロチとのラストバトルなのは本当よ。みんな頑張ってやっつけちゃいましょう! 別にこっちは正々堂々とする必要もないからね!」
ユメカはきっぱりと断じ、猟兵たちを送り出していく。
「……まあ、あたしたちって、オブリビオン一人に何人もの猟兵でかかる時点で、最初からあんまり正々堂々とはしてない気もするし」
それを言ってはおしまいである。
天樹
こんにちは、天樹です。
ドクター・オロチと決着をつける「最終決戦シナリオ」になります。
まあ、その割にはあんまりオロチらしくないオロチですが。それでいいのかオロチ。
ともあれ、二章構成で、一章は風魔小太郎と、二章ではオロチとケリをつけていただくことになります。
正々堂々の戦い方でもいいですし、そうではなくても構いません。世界の運命がかかっているのですから手段など構っていられませんしね!
それぞれ短い断章を挟んで開始する予定です。
では皆様のご参加をお待ちしています。
第1章 ボス戦
『🌗アザー・コンピュータ』
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POW : 蘇生実践素体
自身の創造物に生命を与える。身長・繁殖力・硬度・寿命・筋力・知性のどれか一種を「人間以上」にできる。
SPD : 迎撃機械迷宮
戦場全体に、【悪意と迎撃機構】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : 演算保護機能
非戦闘行為に没頭している間、自身の【筐体ケース】が【1680万色に激しく光り】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
イラスト:綾智
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ボーリャ・コータス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「くっ、まさか、よりによって己までも『こんぴゅうた』の面を被ることになろうとは……」
マザーコンピュータにどことなく似た姿のオブリビオン、「アザー・コンピュータ」の姿を模した風魔小太郎は面の下で軽い頭痛を覚える。これはもともとオロチがマザーコンピュータを模して作り上げたオブリビオンであった。オロチはその力を小太郎に貸し与えたのである。
透明なカプセルに包まれたセクシーなフォルムから小太郎の野太い声が発せられる様はなかなかにシュールであった。
「されど、己はオロチと異なり、性格までも影響されたりはせぬ。猟兵どもよ、掛かってくるがよい。この風魔小太郎、一世一代の戦いを見せてくれようぞ!」
(セクシーな格好で)
OPでオロチが言っていた通り、風魔小太郎は表示されているUCに加え、【増殖無限戦闘機械都市】──すなわち、『戦場を「無限に増殖する戦闘機械」で埋め尽くす。これは戦場に存在する敵全員を自動的に攻撃し続ける』能力を備えている。
先制攻撃はしないが、この能力にどう対応するかがカギになるだろう。
(『機械都市』に対する策を練っていればプレイングボーナスが得られることになります)
幻武・極
うわぁ、こっちも結構ヤバい状況になってるんだね。
夢見が悪そうだ。
増殖無限戦闘機械都市は厄介だから先制を取らせてもらうよ。
磁場形成で周囲に磁力攻撃だよ。
機械都市ってことは磁力は苦手でしょ。
それに磁力が付与されているってことは機械都市の攻撃にも磁力が付与されているからその攻撃は機械都市やコスプレ忍者のキミにも行くってことさ。
あとはボクはひたすら攻撃を避け続ければいいよね。
「うわぁ、こっちも結構ヤバい状況になってるんだね。……夢見が悪そうだ」
幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は、整った顔をしかめながら、澄んだ瞳で敵を見据えた。
確かにそこに広がっていたものは恐ろしい戦場。
背後遥かに漆黒の炎に包まれた威圧的悍ましき城塞が遠望でき、それを護るように無数のマシンが蠢き、立ちふさがっている。そしてそれを指揮するものは、異なる地でのかつての脅威であり難敵でもあった風魔小太郎に他ならないのだ。
──ほぼ裸身の女性の姿を模しているというセクシーな格好であったが。
「よくぞ来たな猟兵。だがその言葉、既に己の武威に怯えたか。勝負あったな」
「怯えたっていうか、キモいっていうか」
セクシー小太郎の野太い声に、極はうんざりした表情であっさりと返す。
「なんだと! 己の姿のどこがキモいというのか! 己も最初のうちこそは何だこれはと思うたが、よく見ればこう、ボンキュッボンでめっちゃいい感じであろうが!」
「うわぁそっちの方向に目覚めちゃってた……しかも自己陶酔するタイプだった……ほんと夢に出ないでね、マジで」
割とガチで怒った感じの野太い声で怒鳴るセクシー小太郎に頭痛を抑える極。オロチもダメだが小太郎も大概ダメっぽい。
「さっさと終わらせたいから、もう倒すよ?」
投げやりに言い捨てた極はあたかも水の流れるように流麗にして自然な動きで構えを示す。
その姿に小太郎はニヤリと笑みを見せ、一颯、手を振る。応じて、周囲を埋め尽くしていた戦闘機械軍が一斉に地響きを立てて進撃を開始した。
「武術家か。だが、一対一ならともかく、この無数の己の『増殖無限戦闘機械都市』に、その双の拳のみで対抗しうるであろうかな?」
「対抗? しないよ?」
土煙を上げ、じりじりと近づいてくる戦闘機械の群れを尻目に、さらりとい放った極はそのまま……虚空を打つように拳を舞わせた!
同時、極の拳から放たれたのは鮮烈なる衝撃波。とはいえ、まだ距離もあり、戦闘機械軍を打倒しうるほどの威力には達しえない。……と見て、小太郎が軽侮のまなざしを向けた時。
甲高い金属音を立て、戦闘機械のうち二体が衝突した。
「む……?」
無限とも見えるマシンのうち、ただの二体が接触しただけならば、そうおかしなこともない。何せ、これほどの数なのだ。
だが、
ぶつかった二体に近づいた一体が、さらにそこに近づいた一体が、さらにもう一体また一体。もう一体。どんどんどんどんと激しく衝突し、あたかも巨大な鉄塊を作り上げるかのように膨れ上がっていくではないか!
「な、何事ぞ!?」
「増殖無限戦闘機械都市、確かに厄介だから、先制を取らせてもらったよ。ま、所詮機械だからね。磁力は苦手でしょ。磁気を付与してしまえばそれまで、ってね」
動転している小太郎と対照的に、くすくす、と極は笑い声を漏らす。
これこそは極のユーベルコード、『幻武流『磁場形成』(ゲンブリュウ・マグネティックフィールド)』!
本来は接触した対象に磁力を付与する能力だが、極はこれを衝撃波に乗せることで遠隔攻撃にも転用したのだ。まさに天賦の才を持つ拳士、極ならではの派生技!
「き、貴様、武術家でありながらそういうのはこう、なんか、ずるいであろうが!?」
「いや自分が先に物量攻撃してきたんじゃないか。キミが単身で攻撃してきたなら、ボクもいわゆる「正々堂々」で受けて立ったかもしれないけどさ。……あと、キミ自身が忘れてるようだけど」
と、極は小さな肩を竦め、細い指先で視線の先を示した。
「その機械は『無限増殖』するんだよね。ほっといていいのかな?」
「なにっ!?」
慌てて小太郎が視線を戻す。そこには、先ほどとは異なった意味で、恐ろしい光景が展開されていた。
すなわち──。
巨大な鉄塊と化した無数の戦闘機械が、それでもまだ「増殖」を続けている光景である!
おお、ただでさえ見上げるばかりであった塊が、さらに二倍、三倍、四倍へと肥大していく。
相互に押し潰しひしゃげあいながらそれでも巨大化を続けていくのだ。それはまさに空間そのものを押し潰していくほどの絶望的な超質量! 下手をするとそのままブラックホールが発生しアポカリプスヘルそのものが消えかねない!
しかし安心していただきたい、アポカリプスヘルの平和は保たれた。ブラックホールができるより前に、ぐらりとバランスを崩した超巨大鉄塊は……そのまま小太郎の方へと向かって転がりだしたのだから。
「な、なぜこっちに来るー!?」
「なぜって、キミが驚いているうちに念動力で足場を崩しておいたから。そっちに転がるように。一度転がり始めたらもう止まんないよね、その重さ」
なんたることか、ある行動で敵の気を逸らしている隙に本命の行動をとるのはまさに忍法に他ならない。極はニンジャの首領・風魔小太郎を相手に、見事本家取りの忍法を思わせる戦術を使って見せたのだ。
「ま、忍術も武術の一種かな。これはこれで、最高の武術に近づく一歩になったかもね」
断末魔の絶叫を上げながら巨大鉄塊にぺしゃんこにされる小太郎を遠くに眺めながら、極はにっこりと微笑んだのだった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
些か性格に影響あれども、その能力が脅威である事に変わり無し
銀河帝国攻略戦より続く因縁に決着を付けねばなりません
押し通らせて頂きましょう、風魔小太郎
…蘇生された恩とはいえ、忍びの忠義も難儀なものですね…
機械馬に騎乗
戦場を疾走しつつ機械妖精達を出撃
ナノマシン鱗粉を散布し効果範囲内の増殖機械の制御をハッキングで強奪し自軍戦力として活用
忍術なら兎も角、機械制御に関してはエンパイア出身の貴方よりも私が上手
蹂躙させて頂く!
敵軍と砲火交えつつ、機械故の瞬間思考力にて同時多数の兵器を効率的に運用し主導権を奪取
自身は騎馬突撃にて振るう大盾と馬上槍で雑兵蹴散らし小太郎化けたアザーに突貫、槍の一撃繰り出し
御覚悟を!
「己もまた『こんぴゅうた』の面を被ったがゆえに言うが、何とも機械らしくない物言いよのう、異国の侍」
風魔小太郎の言葉に、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は苦笑めいてセンサーアイを明滅させた。
「些か性格に影響あれども、その能力が脅威である事に変わり無し。……銀河帝国攻略戦より続く因縁に決着を付けねばなりません」
先ほど、未だ眼前に立たぬ敵に対し、トリテレイアは静かに言を発したのだ。対話というのならそれはロジカルではない、ウォーマシンらしからぬ行為。されど、己へ向けての宣言、決意の表れであるというのなら。
それもまた論理では無為な行為、されど、騎士としてならばあるべき行為ではあったが。
「……マシンの私が非論理性を指摘されるとはなかなかレアな事例です。されど、あなたの行動もまた意外性がありますよ、風魔小太郎。蘇生された恩とはいえ、冷酷非情な忍びが忠義を示すとは難儀なものですね……」
忍びとは心の上に刃と記す。心情を捨て去った非情な存在こそが忍びであるはずだった。ゆえに、自らの身を挺してオロチを護ろうとする小太郎の姿は、いわば奇異なものではあった。
「忠義にはあらず、忍びに忠義はない。恩義もない。あるのはただ役割のみ。オロチの示した役割がオブリビオンとしての己の在り方に沿うものであったというにすぎぬ。そこに情の絡む余地などはない」
小太郎の言葉は乾いて風に乗る。かつて彼がオロチと邂逅した際に信義と確かに口にした、それさえも忍びとしての口説の術だったというのであろうか。その本心は小太郎本人以外には誰もわからぬ。
しかし、思えば、不思議な共通項であった。ウォーマシンとして生まれたトリテレイア・ゼロナイン、忍びたる風魔小太郎。
「私たちは、どちらも「役割」を与えられて生み出され、それに殉じるのみの存在者である、ということになりますか……」
ある意味では似たもの同士、けれどそれゆえにこそ、どちらも決して譲れぬ意志が厳然として聳え立つ。
──ならば、もはや多言を弄するに及ばず。
渺茫たる荒野の中で、機械騎士と百面鬼は、今、正面から激突した。
土煙を上げてマシンホースが疾駆する。トリテレイアの騎乗した鋼の蹄は荒野を蹴立て、風を切って進軍する。
これを迎え撃つは小太郎の率いる無数のマシンの軍勢。『増殖無限戦闘機械都市』と呼ばれるそれは、通り無限に増殖を繰り返し、己そのものを己の手駒として盤面を埋め尽くし、敵を詰みに追い込もうとして行く。
トリテレイアには勝算があった。いかに無限に増殖しようとも、マシンにすぎぬのならば。
(忍術なら兎も角、機械制御に関してはエンパイア出身の貴方よりも私が上手。蹂躙させて頂く!)
トリテレイアの放った機械妖精たちが秘めやかに虚空を舞う。その放ったナノマシンたる鱗粉が、増殖機械たちにアクセスし、ハッキングによりそのコントロールを奪って逆にトリテレイアの手足とする……それが彼の計算した戦術であった。
けれど。
(……これは……!)
おお、なんとしたことか。トリテレイアに送られてくるはずの敵機のデータが、うまくかみ合わぬ。コントロールしようとしても、十全に働かぬ!
なぜか。
それは、小太郎の駆使するユーベルコードに起因していた。
『自身の創造物に生命を与える』──この能力により、戦闘機械軍はただのマシンではなくなり、一種の生命体と化していたのだ。それもおそらく、人間以上の思考力を有して!
それでも機械ではあるがゆえに多少はトリテレイアのナノマシンは侵食できる、けれど、完全に機能を奪い取ることは困難! 無数無限の戦闘機械が、今しもトリテレイアを取り込み、その圧倒的物量において彼を圧し潰さんとする!
(そうですか。皮肉なものですね……)
しかし、トリテレイアは一人胸中で感慨を浮かべていた。
戦闘機械軍を完全にコントロールができないのであっても、一部にはナノマシンが入り込んでいる。
ならば。
「!?」
己が勝利を確信していた小太郎は、突如、戦闘機械軍が迷うような挙措を見せ、その動きを鈍らせた光景を目にし、愕然とした。
おお見よ、一部だけではない。すべての戦闘機械軍が、ためらうかのように、悩むかのように、その行動を止めていくではないか。
「……ナノマシンを介在し、記録情報を流しただけです。私とあなたの先ほどの会話のね」
迫りくるトリテレイアの淡々とした言葉を、小太郎はどう聞いたか。
「互いに単なる役割のためだけに生まれ、そのためだけに生きて滅びるのであれば。一体、命の意味とは何なのか。……「人間以上」の思考力を持ってしまったがゆえに、戦闘機械たちは己の存在意義について、悩み、ためらい、迷いが生まれてしまったのでしょう。彼らは生まれたばかりの戦闘機械、「知性」は高くても「情緒」が育ち切っていないのなら、なおさらです」
「……そうか。よりによって、己は「情」によって敗れるか。笑える話よ」
小太郎の静かな口調は、既に勝負が決したことを悟ったもの。
トリテレイアの振りかざした巨槍は、すでに眼前にあったのだから。
「異国の鋼の侍よ。汝であればその問いに、何と答えるのか。……尋ねてみたかった気もするが、な」
それを末期の言葉とし、風魔小太郎は砕け散る。
同時に、戦場を埋め尽くしていた戦闘機械生命たちもまた、次々と自壊し爆発していった。
轟炎と爆音と閃光の中、トリテレイアは小太郎の最期の問いに、そして戦闘機械たちの抱いた最初で最後の悩みに、確かに答えた。
けれど、それを聞く者は誰もいなかった……。
大成功
🔵🔵🔵
ダーティ・ゲイズコレクター
私はダーティ!ダーティ・ゲイズコレクター!
ホットな戦場に参加し注目を浴びようと企む
凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王ダーティとは私のことです!
さていきなり無数の戦闘機械に狙われているわけですが
これってつまり無数の視線を浴びている…ってコト!?
Foo~!テンション上がってきました!
(身を震わせながら飛び上がり戦闘機械から{ゲイズ・パワー}を得ると赤紫色の矢印に覆われる)
迷宮に大軍を閉じ込めて渋滞に!そして迷宮に触れさせて殲滅!
残ったオブリビオンさんは『衝撃波』と『斬撃波』で各個撃破!
なんて卑劣!まさに魔王!
ではいきます!
現世に蔓延りし見えざる穢れよ!その身に触れし魂に刃を刻め!
【毒悪!潜侵魂穢刃宮】!
「私はダーティ! ダーティ・ゲイズコレクター! ホットな戦場に参加し注目を浴びようと企む凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王ダーティとは私のことです!
さていきなり無数の戦闘機械に狙われているわけですが、これってつまり無数の視線を浴びている…ってコト!? Foo~!テンション上がってきました!」
「いや落ち着け汝」
ダーティ・ゲイズコレクター(Look at me・f31927)って、人の注目浴びようとすると早口になるの……いややめておこう。風魔小太郎もさすがに多少ドン引きしながら突っ込むほどではあったが。
「おっとこれは失礼! 何分にも巨大な悪事を実行できそうな状況でしたのでついハイになってしまいましたテヘペロ!」
「ハイにというか、灰になりそうなペースであったがな」
「むっ、これはうまいことをおっしゃる! それに対しては『はい、そうです』とお答えしますよ! 私より注目を浴びられてはたまりませんからね!」
「いや汝何を張り合っているのだ……だいたい悪事が実行できそうで盛り上がるとか意味わからぬわ。汝猟兵であろうに」
どうか読者諸氏には疲れ始めた小太郎を責めないであげてほしい。常識のひっくり返ったデビルキングワールド出身者にまともに付き合うのは非常に強い心労を伴うのだ。
「猟兵だから悪事を行ってはいけないというのは偏見ですよ! むっ、しかしそれはそれで一つの悪事かもしれません……勉強になります!」
「いや悪事を行いたいなら猟兵をやめて己らの方に付けばよくはないか」
「駄目ですそんなことでは! バシィ!」
ダーティは自分の左手を相手の頬に見立てて思い切り右手ではたく! その裂帛の勢いと気迫は、思わずまだ遠距離にいる小太郎が自分の頬を抑えてしまったほど!
「グワーッ! えっ今己なんで殴られた(ような気がした)の!?」
「いいですか小太郎さん! あなたは今、悪事を行いたいならオブリビオン側に付けと言いましたね? そんなことではだめです! 全然ダメダメです! あなたたちは、自分が悪を行っている、という認識でいるというのですか?」
細い腰に片手を付け、もう片手でビシッと小太郎を指さして叱咤するダーティの声は凛然と戦場に響き、思わず戦闘機械たちも戦いをやめ、居住まいを正さずにはいられない。
「違うでしょう! あなたたちオブリビオンは、私たちにとっては悪でも、あなたたちにとってみれば正しいと思うことをしているのでしょう! であれば、私がそちらに着いたら、結局正しいことをする羽目になってしまうではありませんか!」
「あれ? そうなのであるか? いやなんか己の頭ごちゃごちゃになってきたのであるが……」
頭を抱え始めた小太郎を、どうか読者諸氏は責めないであげていただきたい。大体デビキンのはっちゃけた設定が悪いのだ。
「そうなのです! しかし私は大魔王たる資質を備えしもの! どこの陣営に属そうが変わりなく普遍的一般的絶対的かつ圧倒的な悪でなければならないのです!」
「いやそんなもの存在しないであろう……そんな純粋な悪など」
「甘いですよ小太郎さん! そんなことではいつまでも中太郎や大太郎になれませんよ!」
「己の名前を出世魚のように言うでないわー!」
なんかもうどうしようもなくダーティのペースである。青筋を立てんばかりの(今はコンピューターなのでできないが)小太郎に対し、ダーティは平然と己がペースを突っ走る。
「あるのです! 私の大魔王たるべき深淵な考察と長年の研究によれば、完全無欠の純粋悪事が存在するのです! それは!」
「そ、それは!?」
「それは!」
「それは!?」
「唐揚げに勝手にレモンをかけることです!」
「なんて?」
「唐揚げに勝手にレモンをかけることです!」
「なんて?」
「唐揚げに……」
「いや聞いたわ! 聞いたうえで聞き返しておるのだ! それのどこが純粋悪か!?」
「わからないのですか……まずもちろん、唐揚げにレモンを掛けられたくない人にとってはそれは悪。一方、レモンを掛けた方が美味しいという人も、勝手に掛けられたという時点で、自分の適時適量を選ぶことができず、やはりそれは悪。お店の人にとっても、せっかくの美味しい料理の席で揉め事が起こってしまっては悪。そして最後に自分自身も、指が汚れたりギュっとし過ぎて痛くなったりするので悪なのです!」
おお、なんたる恐るべき将来の大魔王たるダーティの目論んだすべての方向に対して負の結果しかもたらさぬという究極絶対の大悪事か!
「あまりにも恐ろしすぎるので、私もまだ実行できていないほどの悪事です!」
「……己、甦るんじゃなかったかな……なんかもうどうでもよくなった」
げっそりとした声で、どうにでもなーれと言わんばかりに雑に小太郎が戦闘機械軍に攻撃指令を発したのは、一種の現実逃避であったかもしれない。けれど、それをどこの誰が責めることができるというのだろう。
──だが、それこそが恐るべき真の魔王たるダーティの狙い通りであったとしたなら?
「掛かりましたね! あなたはそうやって戦闘行為に移行せざるを得なくなった!! その時点であなたの絶対防御は敗れたのです!」
そう。
小太郎があくまでも戦闘行為に移らないままでいれば、そのユーベルコード『演算保護機能』により、外部からの攻撃は完全に遮られていたはずだった。
しかし、ダーティの凄まじく熱い語りにより、付き合ってられんわ! という境地に達した小太郎は、ついに戦闘行為に踏み出してしまった。これこそがダーティの恐るべきメンタルトラップだったのだ!
「し、しまった!?」
慌てる小太郎だったが、しかし既に遅い。
既にダーティのユーベルコード『毒悪!潜侵魂穢刃宮(センシンコンアイジングウ)』は発動している!
巨大な迷宮が戦場を覆い尽くし、そこに取り込まれた無限増殖戦闘機械軍は次々とオーラの攻撃を受け、爆発四散していく。
「我ながらなんと恐ろしく、なんと卑劣! まさに魔王ですね! 誰ですか偶然だなどと言っているのは? 全て計算です! たぶん!」
「汝今たぶんって……ぐわあああああ!」
ユーベルコードのオーラ、そしてダーティ本体から放たれた衝撃波と斬撃破をまともに食らい、風魔小太郎は哀れにも宙空遥かにふっ飛ばされていったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
エリー・マイヤー
オロチもコタローも、私はよく知りませんが…
キマフュの方から来たお笑い芸人コンビさんって認識であってます?
まぁ、何にせよ、侵略してくるなら滅ぼすしかないのですが。
そんなどうでもいい話はさておき戦闘ですね。
こちらに飛んでくる攻撃を【念動力】で壁を作って防ぎつつ、
まずは【寵姫の瞳】でコタローを見つめます。
演算保護機能は非戦闘行為への没頭が条件らしいですからね。
私の美貌で集中力をかき乱して妨害してやります。
魅力が足りないようならストリップも辞さない覚悟です。
そして隙を見て念動力でぶん殴ってボコボコにしちゃります。
ついでに増殖無限なんとかも魅了して、同士討ちを狙いましょうか。
自滅してくれたら万々歳です。
「オロチもコタローも、私はよく知りませんが……キマフュの方から来たお笑い芸人コンビさんって認識であってます?」
「はいどーもオロチ&コタローでーす、そういうことでねー頑張っていかなあかんなって思ってるんですけどねー、などと言うと思うか愚か者がー!」
「……いや言ってますし」
エリー・マイヤー(被造物・f29376)の半ばアバウトな言葉に対し、律儀にノリツッコんだ風魔小太郎。しかしそれは決して彼が天然ボケだとかそういうことを意味しない。たぶん。
「くっ、『こんぴゅうた』とはなんと扱いづらい代物か!」
悔し気に地団太を踏む小太郎の言葉からわかるように、今の彼は、その能力を借りた「アザー・コンピュータ」に、存在を半ば引っ張られている。すなわち、入力された情報に適した解を自動的に出力してしまうのだ。つまり、たとえそれがトーク的なフリであったとしても乗っていかざるを得ない! ポンコツなのでは? とか言ってはいけない!
「いやポンコツですよね……まぁ、何にせよ、侵略してくるなら滅ぼすしかないのですが」
ふうっと紫煙を優雅に唇からたなびかせながら、エリーは艶めかしいまなざしを流れるように周辺へと向けた。
「ふん、滅ぼすとは大きく出たものよ。されど、我が防御は完璧。そしてこの増殖無限戦闘機械軍により、攻撃もまた完全無欠。攻略できるものならやってみるが良い」
言い終わるのを待ちもせず、荒涼たるアポカリプスヘルの戦場を埋め尽くす無数の戦闘機械軍が一斉にエリー目掛け攻撃を開始した。
「ん-、ちょっと面倒、でしょうか」
タバコから立ち上る煙が、少し困惑したように揺れつつ流れゆく。
炸裂する砲弾が轟音を上げ、飛来するマイクロミサイルが爆炎を噴き上げ、飛びかうレーザーがまばゆく閃いて虚空を焦がす。その凄まじい攻撃を、エリーは超越的ともいえる念動力のシールドですべて遮断し、受け止め、ガードしていた。……が、同時に、手詰まりでもあった。
その爆煙が、閃光が、轟炎が、戦場一帯を埋め尽くし、エリーからの視線を妨げてしまっていたのだから。
そう、「寵姫の瞳」──。
視線をもって他者を篭絡し懐柔する能力をエリーは試みようとしていたのだ。しかし、それはあくまでも視線が通った場合の戦術。現状ではその視線を小太郎にも戦闘機械軍にも届けることはできない!
「さてと、どうしましょう、ね……」
もう一度、ふうっと煙を唇からこぼしつつ、エリーは念動力の壁の内側で考えを巡らせ……そして、小さく微笑んだ。
増殖戦闘機械軍の一機が、今しもさらにエリーに攻撃を加えんとし、しかし……その場で一瞬行動を逡巡させた。
──エリーがいたのだ。目標として測定していたはずの場所とは異なる場所に。
戦闘機械はその「新たなエリー」に対し機関砲弾を撃ち込む。が、その「エリー」は、撃ち込まれた弾丸に対し、血飛沫を吹き出すこともなく肉片を巻き散らすこともなく、ただ緩やかに……霧散した。あたかも、「もとから煙ででもあったかのように」。
その意外な結果にわずかに戦闘機械のデータ処理が遅延した瞬間。まっすぐに射すくめるような瞳がマシンを貫いていた。
そう。
今の「エリー」は、彼女がタバコの煙を操作して作り上げた虚像であった。
単に念動力で形を為しただけではなく、エリーは自らのタバコの煙に対してまず「寵姫の瞳」を使用したのだ。
結果、煙のエリーはそれ自体かりそめの意思を有するかのように行動し、戦闘機械軍の誤射を誘う。その隙を突いて、真なるエリーは次々と「瞳」を注いでいく。
見る間に形勢は逆転した。
「瞳」の魅力に屈した無数の無限増殖戦闘機械軍を従え、エリーはのんびりと、花畑を散策するかのような優雅な足取りで敵陣へと向かう。
「くっ、やるな猟兵」
「次はあなたですよ、コタロー」
ちろり、と真紅の舌を唇から覗かせ、エリーは妖艶にして優美な視線を──「瞳」を、小太郎に向ける。白い首を白鳥のように傾げ、長い髪をゆらりと風に流して。誘うように差し伸べた繊細な腕から、するりと衣擦れの音を残し、ジャケットが、そしてブラウスまでもが滑り落ちていく。真珠のように輝く肌と、豊かにして滑らかな柔肉が揺れて、震える……。
そう、エリーは「瞳」のみならず、己自身を、その絶世の美貌そのものを武器にしたのだ。
だが、小太郎はそのエリーの、神魔も蕩けさせるような魅惑的な肢体にさえ、平然とした態度を崩さない。
「無駄なことだ、猟兵。今の己は半ば『こんぴゅうた』であると言ったはず。人の欲望などに左右されぬわ。そもそも、今の己の体も、かりそめながら女体であるのだからな」
「そうですね。でも、私の方が美人ですよね、あなたより体のバランスがとれていて。いわゆる黄金比のプロポーション、というやつです」
「なんだと! 黄金比とはそんな簡単に口にできる比率ではないわ。幅の場合、ウエストを1としたときに肩が1.6、乳頭間隔は0.8、ヒップが1.4という……」
「はいこっち見た」
「し、しまったー!?」
そう、半ばコンピュータ化している小太郎は、入力された情報に対して最適解を自動的に返してしまうのだ。つまりエリーの体が黄金比と言われたなら、それを測定しないではいられない!
かくして集中をそがれ絶対防御を解除された小太郎は、そのままエリーの凄まじい念動力ぱんちあんどきっくによってボコにされたのだった。
──ちなみにエリーの美しい肢体が本当に黄金比であったかどうかは、
「……ナイショ、ですよ、ふふっ」
大成功
🔵🔵🔵
アイ・リスパー
フィーナさんと
「なるほど、正々堂々とした戦いですか!
ならば、こちらも正々堂々と戦いましょう、フィーナさん!」
まずは無限増殖する機械に守られた風魔小太郎が相手ですね!
さあ、フィーナさん、敵が無限に増殖するなら、増える速度よりも早く倒すだけですよ!
と、囮にしたフィーナさんが迷宮内を走り回るのを高台から見下ろしつつ、電脳魔術の発動を準備します。
放つは【破砕領域】。全てを消滅させる反粒子ビームで風魔小太郎を塵一つ残さず消し去ってみせましょう!
「あ、フィーナさんは、そのまま戦闘機械たちを一箇所に引き付けておいてくださいね!」
フィーナさん、あなたの犠牲は無駄にしません。
風魔小太郎、よくもフィーナさんをっ!
フィーナ・ステラガーデン
【アイと参加】
正々堂々!!私の為にあるような言葉ね!
無限に出てくるなら無限に倒せば良いんじゃないかしら!っていうわけでドンドン焼いていくわよ!爆破し放題じゃない!ムッフー!!
ってかこれいつ終わるの馬鹿じゃないの!?
アイ何まったり魔法の準備とかしてるの何かありえない量のガラクタが追いかけてきてるんだけどー!!
ダメね!アイは使えないわ!だがしかし!!
例え多勢に無勢でもこの私の頭脳を持ってすれば解決に導ける所を見せてやるわ!!【UC使用】
(だいたい雑念に塗れている)
ああああー!もお早くしてええええ!!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
「なるほど、正々堂々とした戦いですか! ならば、こちらも正々堂々と戦いましょう、フィーナさん!」
「正々堂々!! 私の為にあるような言葉ね!」
アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)と、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)は顔を見合わせてしっかりと頷きあった。そう、いついかなる時にも、どんな強敵相手であっても、彼女たちは力を合わせ、真正面から打ち破ってきたのだから。……まあ、正面から力で押す以外に戦う方法を知らないだけとも言う。
「失礼なことを言っていますね地の文さん! ちゃんと私たちはっていうか私は搦め手の囮とかも使えます! 今回だってフィーナさんを囮にする予定ですから!」
「そうよね! ってちょっと待ちなさいアイ! なんですって!?」
「無敵のフィーナさんの素晴らしい力を信頼して最重要局面をお任せするつもりだと言ったんですよ! これぞ友情の証です!」
「なるほど! それは確かに私向きね! ドーンと任せなさい! 友情の証に!」
薄い胸をドンと叩いて満足そうに高笑いするフィーナと、それに合わせて笑うアイ。
……今回もなんかいろいろダメそうである。
「さあ、フィーナさん、敵が無限に増殖するなら、増える速度よりも早く倒すだけですよ!」
「無限に出てくるなら無限に倒せば良いんじゃないかしら! っていうわけでドンドン焼いていくわよ! 爆破し放題じゃない! ムッフー!!」
アイの激励に応じ、フィーナは紅蓮の炎を駆使して、無限増殖する戦闘機械軍を次々と爆砕破砕大粉砕していく。その威力は確かに凄まじくも見事なものであった。……「ふぃーなさんがんばってー(棒読み)」と、遠くからその奮戦をのんびり眺めているアイ、という光景さえなければ。
「あー、良いか? 良いかな?」
「なによ! 今忙しいのよ!」
遠くから声を掛けた風魔小太郎に、フィーナは邪魔そうに怒鳴り返す。一応小太郎を倒せば話は済むのだが。
「いや、忍びたる己がこんなことを言うのも何なのだが、汝、友は選んだほうが良くはないか? 明らかに利用されておらぬか?」
「何馬鹿なこと言ってるの!」
目を怒らせて怒鳴り返すフィーナ。そう、二人の間の美しく熱い友情にヒビを入れようとする小太郎の離間の策など、二人には通じ
「私がアイを利用しているのよ! めんどくさい計算だけはさせて、美味しいところを全部私が持っていくようにね!」
……うんまあそうだよね。
「いやでも、あちらの者、なんかのんびりおやつ食べておるぞ」
「ン何ですって!?」
キッと振り返るフィーナ。その視界には、確かにドーナツをもぐもぐしているアイの姿があった。
「ゆ、許せないわ……アイ! ちょっと待ちなさい! そんな美味しそうなの独り占めなんてずるいわよ!」
そっちかい。
一応アイのために弁護しておくと、これから極超大威力のユーベルコードの発動に備え、少しでも体力を蓄積しておこうという意図でドーナツを食べていたのだ。
たとえ寝転がってソシャゲやりつつドーナツ食べていたとしても。
「アイィィィ! 私にもドーナツよこしなさいぃぃぃ!!!!!」
「うぇぇぇフィーナさん!? なんでこっち来るんです!!!?」
「ドォォォォナツゥゥゥゥゥ!!!!!」
「しかもゾロゾロと戦闘機械引き連れてこないで下さいぃぃぃぃ!?」
然り、猪突猛進の勢いでフィーナがアイに向かっているその後ろから、同様に凄まじい勢いで無限増殖しながら戦闘機械が追いすがっている! 傍から見ればフィーナが天地を埋め尽くすほどの無数の戦闘機械軍を率いる将としてアイを討伐に向かっているかのように!
「あわわわ、ちょっとこれどうしようもないです! こうなったら、ドーナツパワーを思い知ってください!」
慌てふためいたアイは、もはやドーナツを食べきる余裕もなくこれをポイと宙に投げ捨てると、そのまま真正面に向かってユーベルコードの発射体制に入った! フィーナもろとも!
「『電脳魔術により不確定性原理に干渉。反粒子生成確認。反粒子ビームによる対消滅攻撃、開始します……破砕領域(イレイズ・サークル)ゥゥッ!!!!』」
鮮烈なる閃光が虚空を引き裂き、天地開闢以来の絶対の破滅をもたらす反粒子のエネルギーの奔流が真っすぐに撃ち放たれた! 荒れ狂う魔竜の咆哮のごとき一撃が、無限増殖戦闘機械軍をまとめて虚無の彼方へと葬り去っていく!
……では、フィーナは?
「ドォォナツゥゥ!」
何たる僥倖か、先ほどアイがポイと放り投げたドーナツに即時に飛びついていたフィーナは、破砕領域の範囲から逃れていたのだ!
「ぜー……はー……」
肩で息をしながら幽鬼のようにふらつくアイを、ドーナツを咥えながらその時やっとフィーナは認識する。
「ど、どうしたの、アイ!」
「どうしたって……今ユベコ使って……もうフラフラなんですけど……」
「わかったわ! 風魔小太郎にやられたのね! アンタの犠牲は無駄にはしないわ! おのれ風魔小太郎! よくもアイを!」
……ほらやっぱりいろいろダメなことになった。
それはそれとして、まあ小太郎を倒せば一応は解決するのである。
「いや待てい、滅茶苦茶理不尽な展開ではないか!? なんかキャラの誰も得をしていないのでは!?」
小太郎を倒せば解決するのである。
とはいえ、今の小太郎は絶対防御能力に身を包んでおり、月をも焦がすと言われたフィーナの火力でさえも通用しないだろう。
「くっ、なんてこと。だがしかし!! 例え圧倒的不利な状況でも、この私の頭脳を持ってすれば解決に導ける所を見せてやるわ!! ユーベルコード……『脳内会議勃発(ベツニタダシイコタエガジツゲンサレルワケデハナイ)』!!!」
おお、それこそ理を超え法を超え奇跡さえ起こすフィーナの切り札!
フィーナの脳内のちびふぃーなたちの会議によって願望を叶える神秘の力に他ならない!
今こそのちびフィーナたちの会議で小太郎の絶対防御を打破する力を……
『どーなつもっとたべたいわー』
『どーなつほしいのですわー』
『どーなつをようきゅうします』
……ダメっぽかった。
いや、本当にダメであろうか。
みよ、奇跡は起きる!
次の瞬間、小太郎の体を包んだケースの外側に、超絶めっちゃ美味しそうなドーナツが出現したのだ!
「こ、これは……西洋菓子か……なんと香しい薫……」
西洋菓子に免疫のない風魔小太郎にとってはあまりにも刺激的なバターとミルクの暴力! その魅力の前には、集中力など持ちはしない! そして、絶対防御能力は、集中を必要とするのだ!
「い、今です! オベイロン、狙撃っ!」
「了解」
絶対防御を失った風魔小太郎を、アイの最後の力を振り絞った機動戦車オベイロンの一撃が無情にも貫通していった。
「せめて一口……食べたかっ……」
がくり、と倒れ伏す小太郎に、アイとフィーナはドーナツをもぐもぐとしながら言い放つ。
「「いやあなたコンピュータになってるんだからどうせ食べるの無理でしょ」」
「何でそんなひどいこと言うの……ばたり」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
むっ今度の敵はTSでござるか!
ああこれ風魔氏とオロチマンさんなの?特殊性癖に目覚めちゃった?そんな…性格も変わって…
まあいいか
増殖無限ってダメだよーそんな軽率に増えちゃ
周りが重くなって…ほら見ろ戦場に【物理演算の神】が降臨する!お戯れのバグが来るぞ!んもー不用意に増殖するからー
出てくる機械が片っ端から集まって塊になる!おそらく当たり判定でかくて引っかかってるんでござるな、生まれた素体も巻き込んでる…素体の魂のこもった塊…
いいこと思いついた、適当に爆弾も巻き込ませた塊を押してってTS風魔小太郎氏にぶつけようぜ!
巻き込んだ塊は遠くで爆破でござるな!中の機械と弾薬と仕込んだ爆弾で盛大な花火になるぞ!
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ・改変大歓迎】
な、なんて正々堂々…小太郎かわいそ…
ここは美少女で慈悲深い私は正々堂々正面突破してあげる事にしよう
さて、毎度お馴染みのサメタンクの出番だね!数が多い敵には量産型をぶつけるんだよー!
というわけで、ポーチより量産型サメタンクをいっぱい出して突撃させるよ。一緒にアクションフィギュア"Ruerira"も散らばらせて迷路のルートや敵の親玉の位置を探らせたり各所のサメタンクを援護させたりするね
ボロボロになったサメタンクは順次自爆!周囲敵や迷路を丸ごと吹っ飛ばせー!
親玉までの道が開けたら正々堂々と【芋煮ィッシュ作戦】発動!
街など芋煮の前には無力な事を教えてやるのだー
ふーはっはっはー!
「むっ今度の敵はTSでござるか! ……ああこれ風魔氏とオロチマンさんなの? 特殊性癖に目覚めちゃった? そんな……性格も変わって……」
エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)は慨嘆する。かつてのあの恐るべき強敵たちが、今はなんという姿に……。
「しかし考えてみれば、コンクリ詰め責めなんて言う特殊なプレイをした他の世界の誰かが悪いんでござるな。そりゃあ特殊性癖にも目覚めちゃうでござるよ」
「それプレイなのかな……なんならエドもやってみる?」
ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)がジト目でツッコむのに、エドゥアルトは割と真剣に考えこむ。
「うーむ、例えば美少女の汗と涙が混ぜられたコンクリと一体になるという状況などを考えれば、意外に悪くもない選択かもしれませんぞ? 互いに身動きのできない状況で、永遠に抱きしめ合う二人……そして二人は考えるのをやめ、互いの感触だけを……」
「あーはいはい。汗と涙だけでエドを封印できるなら簡単だし確かに悪くないね。っていうか、これ美少女の汗と涙だよって適当に水道水とか見せても釣れそうだよね」
「水道水……なるほど、上水道に美少女の汗と涙を一滴混ぜることでご家庭の蛇口から24時間365日美少女水が供給される新しいビジネスモデル……これはでかいシノギの匂いがしますぞ!」
「しないよ変態!」
喧々諤々と言いあっている中ではあるが、忘れてはならないのはここが戦場だということである。今しも、無限増殖戦闘機械軍がじりじりと包囲網を詰め、二人に迫りつつあるのだ。控えめに言って危険がピンチで危ないクライシスな状況なのである。
「いや私は忘れてなかったんだけどさー、エドがさー」
「うむ、拙者は忘れていたでござる」
漆黒の髭を撫でながら重々しくうなずくエドゥアルトに、やれやれと首を振るルエリラ。
そんなどこまでもマイペースな二人に、荒野の彼方の風魔小太郎は怒声を発した。
「ええい、ふざけた連中よ。我が増殖無限戦闘機械軍の餌食になるが良い! 勝手に人を異常性癖扱いしおって人の心とかないのか!」
小太郎の号令一下、無限機械軍が一斉に二人に襲い掛かろうとし……けれど。
次の瞬間、その景色が異様にぼやけ、軋み、カクつき、モザイクのように像が乱れた。
「なにっ!?」
「増殖無限ってダメだよーそんな軽率に増えちゃ……んもー不用意に増殖するからー」
驚愕する小太郎に、にやにやと髭の中から笑みを浮かべつつエドゥアルトが肩を竦める。
これこそはエドゥアルトの切り札、「物理演算の神」を呼び出す力──『神の遊び(カミノアソビ)』!
対多数で最大に威力を発揮するこの能力の前で、無限増殖戦闘機械軍はその数量ゆえに次元を超えた処理落ちを起こしたのだ。
「チャンス、だね! ここは美少女で慈悲深い私は正々堂々正面突破してあげる事にしよう! 毎度お馴染みのサメタンクの出番、数が多い敵には量産型をぶつけるんだよー!」
動けなくなった戦闘機械軍に対し、ルエリラの召喚したサメタンクの大群が一斉に襲撃を開始した。まさに血臭をかぎつけ獲物を貪るサメのごとき貪欲さと獰猛さで!
衆によって寡を屠るはずであった戦闘機械軍が、その理を逆用され、次々と撃破されていく。
その傍らでは、サメタンクの餌食にならなかった戦闘機械軍も、表示バグがさらに昂じて次々と一体化していく。見る間に巨大な鉄球のごとくに膨れ上がり、それでもなお成長が止まらない。
「いやー、おそらく当たり判定でかくて引っかかってるんでござるなあ」
のんびりと手を久のようにしてその異様な惨状を眺めるエドゥアルトに、小太郎は歯ぎしりをし怒りと焦りを隠せない。
「おのれ猟兵ども、あえて機械軍が増殖するのを待つために、無駄口をたたいて時間を稼いでおったのか!?」
「いや別に」
「いやなんとなくノリで」
「そこは適当にふふふ作戦通りとか言わぬか! 己がかっこ悪いであろうがー!」
地団太を踏む小太郎に、エドゥアルトは若干申し訳なさげに眉をしかめ、ルエリラは涼しい顔で受け流す。
「拙者たち割とライブ感で生きてるんで……」
「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に瞬間瞬間を必死で生きてるっていうとかっこいいよ。なんとなく。……じゃ、そんなとこで、そろそろとどめだね」
言い放つと、ルエリラの差し招くところ、一天にわかにかき曇り暗雲垂れ込め雷鳴が轟き始め、その漆黒の雲峯の中から、……おお、なんたることか。このようなことがあっていいのであろうか。巨大な、視界全てを覆うほどにあまりにも巨大な……芋煮が落ちかかってきたではないか!
これぞ生命の埒外というか常識の埒外にもほどがあるルエリラの超必、『芋煮ィッシュ作戦(イモニーオトシ)』!
「芋煮の前には無力な事を教えてやるのだー、ふーはっはっはー!」
悪役のごとく高笑いするルエリラを前に、エドゥアルトは静かに首を振る。
「やー、この光景見てると拙者自分が常識人だってことに割と自信が持てるでござるよ。拙者がやることはせいぜいこの鉄球に爆弾仕込んで盛大な花火として小太郎氏にぶつけるくらいでござるからな」
「待たぬか! それも十分外道……」
小太郎が悲鳴交じりに言い終わる間もなく。
天空遥かから世界を終わらせるほどの勢いで落ち掛かってきた超絶無窮大質量の芋煮落としと。
真正面から転がってきた、これもまた無限に増殖を続ける圧倒的絶望的なまでに巨大化した鉄塊が。
挟み込むように風魔小太郎を叩き潰し、跡形もなく消し飛ばしたのだった。
……いやオーバーキルにもほどがあるのでは?
「エンパイアウォーの時、風魔小太郎は隕石落としっていう酷い技を使ったからね。自分が似たような技でやられるのもインガオホーってやつだよね」
「お、なんかうまくまとまったでござるな。ライブ感だけど」
ライブ感言うな。計画通りだよ。きっと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ドクター・オロチwithマザー』
|
POW : メカニカル・シティ
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【戦闘機械】の威力と攻撃回数が3倍になる。
SPD : スチール・ビルディング
戦場全体に【無限増殖機械都市】を発生させる。レベル分後まで、敵は【増殖する戦闘機械】の攻撃を、味方は【自動修復システム】の回復を受け続ける。
WIZ : マザーズ・リンクシステム
レベルm半径内の、敵が制御していない装備・設備を自身の【コアユニット】と接続し、命中率と処理速度を増加させる。
イラスト:みやこなぎ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「何ということでしょう、小太郎さんが倒されてしまったのですか……」
『影の城』に乗り込んだ猟兵たちは、ついにドクター・オロチwithマザー・コンピュータに対峙した。
「やむを得ません。こうなれば、正々堂々戦うまでです。私の全力を振るって……!」
おお、見よ!
ドクター・オロチの力! そして、マザー・コンピュータの力の二刀流! これこそオブリビオン×2の200万オブリビオンパワーだ!
これに対抗するには、猟兵たちも、オロチの弱点を突かねばならない。
オロチはいかなる場合も正々堂々と戦う。ゆえに、前の戦闘でちょっと怪我をしちゃったんでー、とか、あるいは風邪ひいちゃってるんでー、とか、最初はグーと言ってパーを出すとか、うまく駆け引きをすることで戦いを有利に運べるだろう。ぶっちゃけ、なんかうまくズルして騙して隙を突こうということだ。
卑怯? これまでオロチが何をしたのか思い返していただきたい。この程度のことは全然卑怯ではない。多分。
「さあ正々堂々、勝負です!」
ダーティ・ゲイズコレクター
お邪魔してます!はじめまして!
私はダーティ!ダーティ・ゲイズコレクター!
凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王ダーティとは私のことです!
卑怯なオブリビオンさんもかっこいいけど
こういうオブリビオンさんも良いですね!
デビルキングに推挙してあげたいですが
私は魔王なので蹴落とさせていただきます!
ではいきます…が!
実は私は恥ずかしがり屋なので見ちゃダメですよ~!
(姿を隠すどころか見てほしいと言わんばかりにアピールする)
(「ふふふ…これで私を見ようとするでしょう!そして蓄えた{ゲイズ・パワー}を纏ってUC【醜悪!邪王穢澱烙印槍】を発動させてド派手に体当たりしちゃいます!なんて卑怯なの私!まさに悪の権化!」)
「お邪魔してます! はじめまして! 私はダーティ! ダーティ・ゲイズコレクター! 凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王ダーティとは私のことです!」
「あ、これはこれはどうもご丁寧に。フォーミュラをやらせていただいております、ドクター・オロチと申します。なにとぞよしなにお願いいたします」
ダーティ・ゲイズコレクター(Look at me・f31927)とドクター・オロチは、互いにぺっこり90度、深々とお辞儀を交わし合った。そこに流れる礼節と配慮に溢れた尊い交流。っていうか何だろうこの光景。まあアイサツは大事なものだが。
「こちらこそ急にお邪魔いたしまして! あ、これ、私のパワーフードなのですが、もしよろしかったら」
「まあお気遣いをいただきまして申し訳ありません。では今からお茶を入れますのでごゆるりと……」
いやほんと何だろうこの光景。一応最終決戦の場なのだが。
さておき、ふたりはお互いにお茶を飲みつつおやつを食べながら、和やかににこやかに話を進める。
「卑怯なオブリビオンさんもかっこいいけど、こういうオブリビオンさんも良いですね! デビルキングに推挙してあげたいですよ!」
「まあ、そんな過分なお言葉、いたみ入ります。私に仕事がなければ喜んでそのおすすめを受け入れるところなのですが、何分私にも使命があるものでして……」
「それは残念です! まあ、仮に受けていただいたとしても、私は魔王なので蹴落とさせていただきましたが。……では、お互いそろそろお仕事に掛かりましょうか! お仕事は大事ですからね!」
「あ、そうですね、もうそんな時間ですよね。ではよろしくお願いいたします」
二人は律儀にお茶とおやつを片付け、きれいに後始末をしてから離れて向かい合う。
いったいこの時間は何だったのか。ただののんびりしたほんわかな時間だったというのか。
いや、そんなことはない! ダーティには恐るべき魔王たる目論見と計略があったのだ!
(ふっふっふ。今の語らいの間で、私のスタイルをじっくりお目にかけることができました。これでもう、あなたは私から視線を離せませんよ!)
ぐい、とダーティは胸を張る。
胸。
いや、それは果たして、「胸」などと言う凡庸な表現に収まるべきものであろうか。
おお、その圧倒的存在感! その絶対的質感! その決定的量感! 先ごろ開催された猟兵コレクションの場においてもひときわ注目を集めたその超越的豪乳は、まさに乳の暴力とでも評すべき威力を放ち、空間さえも捻じ曲げんほどの威圧感を備える!
「うふ~ん、実は私は恥ずかしがり屋なので見ちゃダメですよ~!」
ダーティはわざとらしく身をよじり、ぼよんたぷんと胸を揺らして強烈にアピールする。そう、ダーティの能力は、自分を凝視されることによって魔力を蓄積するという恐るべきもの! これでもう、ダーティの勝利は疑いなし──
かと、思えた時。
「あ、大丈夫です。イラストをご覧いただければお分かりのように、私、目がありませんから」
「……はい?」
オロチの恐るべき返答がダーティの計算を粉微塵に打ち砕いた!
そう、オロチには目がない! 纏っているパーカーのくまさんには目があるが、それはどう見ても本体ではないだろう。どうやって情報を得ているのかは、なんかこうすごい深淵な設定があるに違いないが、ともかくも目がないことは事実!
「つまりあなたを見ることはできないので心配しないでください。では戦闘を開始しましょう」
「いやちょっと待っ……」
慌てるダーティの周囲に集まってきた無数の戦闘機械軍が、一斉に攻撃を開始した!
「あわわーっ!?」
爆裂する砲弾! 炸裂するミサイル! 飛びかうレーザー! 燃え上る轟炎と濛々たる爆煙とまばゆい閃光が戦場を包み込み、天地を揺らし崩し尽くすほどの衝撃がダーティを襲う!
ああ、ダーティは最大最強の魔王たる夢を果たすこともできずこのまま散ってしまうのか。
……いや、そんなことはない!
「くっ……オロチの……オロチの意気地なしー!」
戦場に響き渡ったダーティの悲痛な声に驚いたように、オロチはぴたりと動きをやめた。
「どういうことですか?」
「だって、そうでしょう! 私とあなたは先ほどのお茶会で語り合い、心を通わせたはずです。それなのに……それなのに、私を見ないというのですか!」
「いやそれは申し訳ないのですが、先ほど言いましたように、私には目が……」
困ったように言うオロチに、ダーティはビシッと言葉を叩きつけた。
「されど心の目は開いておる! 誰かの言った有名なセリフです!」
「はっ!」
オロチはその声に思わずたじろぎ、稲妻を受けたかのような衝撃でよろよろと数歩よろめいた!
「そうです、心の目! それさえあれば、実際の目がどうであっても、友達を見つめることはできるのです! あなたはそれから逃げている! だから意気地なしと言ったんです!」
「た……確かに……!」
確かにじゃないが。
しかしオロチは深く感銘を受けたかのように身を震わせ、胸を抑えた。何故だろう、何かとても熱いものがオロチの胸の奥にこみあげてくる。
「ダーティさんの言うように、心の目をもって見れば、ダーティさんの姿が私にも見えてきたような気がします。先ほどのお茶会で語り合ったあなたの姿が、この心の中にはっきりと……!」
「見えましたか!?」
「見えました!」
「じゃあ倒します!」
まさに外道。
ともあれ、心の目であろうが何であろうが、「オロチがダーティの姿を見つめた」ことに変わりなし。
即ち──それによって瞬時に膨大な魔力を蓄積したダーティの総身に凄まじいまでのオーラが凝集される! 鮮烈に輝く紫の光をその身に纏い、ダーティは虚空を引き裂き風を追い抜いて飛翔した。そのまま、天空を駆け抜けて、ダーティはオロチにその身もろとも暴竜の咆哮のごときエネルギーの奔流を叩きつける! これぞダーティの秘儀、『醜悪!邪王穢澱烙印槍(ジャオウアイデンラクインソウ)』!!
「グワーッ!?」
長い悲鳴を後に残し遥か彼方に吹っ飛んでいくオロチを、ダーティは静かに見送ったのだった。
「ふっふっふ、なんて卑怯なの私! まさに悪の権化!」
……この子、割と本気で大魔王になれそうである。
大成功
🔵🔵🔵
エリー・マイヤー
他人の力を借りておいて、正々堂々とは何事ですかこのマザコン野郎。
マザーの力どころか、魔軍転生もノブナガの猿真似じゃないですか。
正々堂々というのなら、私のように己の身一つで戦いに挑みなさい。
来いよオロチ、武器なんか捨てて、かかってこい…ってやつです。
と、まずはそんな感じで適当言って、武器や環境の利用をためらわせます。
そうして有利な状況を作れたら、
正々堂々と【念動パンチ】でオロチをぶん殴りますね。
敵の攻撃は念動力で壁を作ってガードしつつ、
威力の高そうなやつは念動力でふわりと移動して回避です。
戦ってみて思うのですが…
アナタってもしかして、魔軍転生使わない方が強かったのでは?
「さあ、正々堂々と勝負です猟兵!」
「他人の力を借りておいて、正々堂々とは何事ですかこのマザコン野郎」
「アバーッ!?」
いきなりズバッと切って捨てたエリー・マイヤー(被造物・f29376)の容赦ない言葉に、ドクター・オロチは思わずグハッと吐血した。まあオロチに口はないので、どっから血吐いたと言われると少し困るけど。ともあれ、ぼとぼとと零れる血を手でぬぐいながら、オロチはそれでも立ち上がる。
「しょ、初手から良いのぶち込んできますね……ですが、人は誰も一人だけでは生きていけません。みんながみんな、お互いを支え合い、力を併せながら生きていくものなのです。それを考えれば、他の人の力を借りるのも決して悪いこととばかりは言えないでしょう!」
「いきなり青年の主張始められても困りますね。まともな青春送ってない奴ほど後になってこじらせるんですよ。っていうか、勝手にマザー呼び出して使ってるだけって力を合わせるとは言いませんし、そもそもその魔軍転生もノブナガの猿真似じゃないですか」
「グワーッ!?」
再びカウンターを食らったオロチはもんどりうって七転八倒! 何たるエリーの絶世の美貌から繰り出される情け無用かつ無慈悲な上に鋭きこと世に例えなきほどの言葉の剣か! ある特定の性癖をお持ちの方にはぶっ刺さるかもしれぬ!
「正々堂々というのなら、私のように己の身一つで戦いに挑みなさい。来いよオロチ、武器なんか捨てて、かかってこい……ってやつです」
徒手空拳を見せつけ、エリーはくいくいと手招きしてみせる。何が始まるんです? アポカリプスヘル最終決戦だ!
「くっ、ぶぶぶぶっころですよ! 戦闘機械軍なんて必要ありません!」
かくしてまんまとエリーの術策にはまったオロチは両手をブンブンと振り回してエリーに立ち向かっていくのだった。まあ、落ち着いて考えれば、魔軍転生自体はオロチの能力であって、能力を能力として使用すること自体は別に「正々堂々」に反していない気もするが、そんなことに気づかせないままペースを握ったエリーの作戦勝ちである。
ともあれ、それなりにキレたオロチのパンチが風を切って唸る! なんだかんだ言ってフォーミュラはフォーミュラだけのことはあり、結構鋭い!
「──まあ、まっすぐな軌道は制御しやすいですが」
ああしかし、エリーは平然と煙草の煙をふかしつつ、くいっと指を捻る。同時、オロチの体は大きく弧を描き、びたーんと勢いよく床に激突した!
「グワーッ!? な、何が!?」
「そんなビラビラだらけの服着てるからですよー」
然り、エリーは念動力を使い、オロチの服の装飾をちょこっと周囲の壁に引っかけたのだ。ただそれだけの単純な話。まあ普通の布なら千切れるかもしれないが、さすがフォーミュラの着る服、丈夫である!
ここまでは完全にエリーのペースであった。……しかし。
「……ムシュ?」
コケたオロチの口から不穏な声が漏れ聞こえた。
む、と注視したエリーの眼前で、オロチはゆっくりと立ち上がった。……不気味な笑い声を漏らしながら!
「ムシュシュシュ! このボクによくもやってくれたね。たっぷりとお返しさせてもらうよ。さあ戦闘機械軍、攻撃だ!」
「あら? ……これって、もしかして……?」
オロチの、その身に纏う雰囲気がまるで先刻とは異なる! より不気味に、より悍ましく、より不快に、より恐ろしいものへと完璧に変貌しているではないか!
「……あらあら。これ、もともとのドクター・オロチですかね……」
然り。先ほど転倒し、頭を強く打った衝撃で、オロチの中のマザーの人格が一時的に薄れ、その結果本来のオロチの人格が表に出てきてしまったのだ!
マザーと異なり、本来のオロチは正々堂々などにこだわらない。そればかりか、そんなものを嘲笑い弄ぶような性格! 見る間にエリーの周囲を包囲した戦闘機械たちは、一斉に攻撃を開始した!
凄まじいばかりの攻撃の嵐に、念動力のシールドでかろうじて防ぎながら、さすがにエリーはがくりと片膝をつき、手を地面に付いた。
「ムシュシュシュシュ! いつまで持つかなあ!」
嘲笑するオロチに、エリーはぽつりと答える。
「……だから、そんなビラビラの服着てると危ないですって」
「ムシュ?」
聞き返そうとしたオロチの足元が、その時、ボコリと崩壊し、大洞を開けた! 同時、吹き上がったすさまじい力の奔流が、オロチの服の装飾を引っかけ、宙天高く舞い上げたのだ!
「ム、ムッシュウウウ!?」
おお、これこそがエリーの念動力の真骨頂! 彼女のサイコキネシスは手をついた床から地中を掘り進んでオロチの足元に届き、そこから荷物をひっ掴んで放り投げるかのようにオロチをぶん投げたのだ!
影の城の高い天井に思い切り叩きつけられ、次いできりもみしながらドシャアアとばかりに床にもう一度叩きつけられたオロチ。その姿はあたかも熱血少年漫画の見開き必殺技ページの如し!
そして、しばしの後、もぞもぞと蠢いたオロチの口からは。
「あ、あら、私は一体どうしたのでしょう……?」
「ま、そうなりますよね。もう一度殴れば」
然り、先刻殴られたことで本来の人格になったオロチは、もう一度激しくぶん殴られることでもう一度マザー人格に戻ったのだ。
「じゃ、これでおしまいです。……アナタってもしかして、魔軍転生使わない方が強かったのでは?」
状況が良くつかめずきょろきょろしているオロチwithマザーを、エリーは一切のためらいなくド派手に念動力スーパーぱんちでぶちのめしたのだった。
壁を突き抜け、人型の穴を残して吹き飛んでいくオロチの悲鳴だけがあとに残される。
「こ、こんなギャグみたいなやられ方などぉぉぉぉ!?」
「あら、自分で気づいていなかったんですか?」
エリーはふうっと紫煙をくゆらせ、つぶやく。
「ムシュシュなんて頭悪い笑い方するキャラがシリアスなわけないでしょう、最初から」
……実も蓋もない。
大成功
🔵🔵🔵
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ・改変大歓迎】
私は正々堂々戦ったのにエドは卑怯だったね
まず正々堂々戦うルール決め
「私の猟兵パワーは10万ぐらい。そっちはなんか二人分の200万っていうズルパワー。それって正々堂々って言えるかな?同じ10万パワーぐらいの方が正々堂々じゃない?」
「正々堂々戦うために、そっちはその位置。私はあっちのちょっと遠い場所でタンクに乗ってからスタートね」
と、『私専用サメタンク』を用意して戦い開始
煙幕を展開して、私はタンクから降りて見つからないよう場所移動。サメタンクは自動操縦でバトル
敵がタンクを追い詰めた瞬間【アインス】を叩きこんで完全勝利!
シーフで狙撃手な私の正々堂々だから問題ないね!ヨシッ!
エドゥアルト・ルーデル
いくぞ!正々堂々UCで勝負だ!
全身を【ドット絵】に変換!更にドットの透過率を100%にセット!するとどうなる?拙者の身体は透明になるでござるよ
はぁー?UCの能力を生かしてるだけで一向に正々堂々でござるが???
このまま隙間に潜り道中の敵を無視して接近でござるよ!
ハァイ拙者エドゥアルト、今貴様の後ろにいるの、ホントは正面だけどナ
オロチマンの隙間から潜り込んでマザー・コンピュータのコンピュータ部分に【ハッキング】で潜り込む!
情報体な拙者がスゥーっと効いて…これは…脳内クラック…
聞こえるでござるか…今貴様の脳内に直接語りかけています…
今から貴様の全回路をオーバーロードさせますぞ…つまり…爆発だァ!!
「あのさー、私の猟兵パワーはまあ10万ぐらい。そっちはなんか二人分の200万っていうズルパワー。それって『正々堂々』って言えるかな? 同じ10万パワーぐらいの方が正々堂々じゃない?」
ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)は眼前のオロチに向かって説くように、ちっちっち、と人差し指を振って見せる。
(ふっふっふ。これでオロチは私の誘いに乗って、同じ状況に設定して、せーの、で戦いを始めるに違いないよね。でも私はこっそり抜け出して背後から狙撃って寸法。これで勝利間違いなしだ!)
おお、なんと恐るべきルエリラの深慮遠謀であろうか! 言葉巧みにオロチを正面対決に誘い、自分だけは死角からの狙撃を試みるとは!
っていうか10万猟兵パワーってそもそも何だという話だが。
しかし。事はそう簡単には運ばなかった。オロチは両手を胸の前で組み、さも感激に堪えぬような身振りで言い始めたのである。
「まあ、そんなことはないでしょう。あなたは風魔小太郎をも倒されたお方、さらに歴戦の猟兵とお見受けします。その素晴らしい腕前はまさに神域、まさに絶妙、まさに完璧というにふさわしいものではないでしょうか?」
「……え? いやまあ、それほどでもあるけど?」
「そんなあなたが、たった10万猟兵パワーだけということはないはずです。あの凄まじい攻撃力、驚嘆すべき身のこなし、鮮烈とも言うべき力の輝きは、影の城にいて戦況を見つめていた私でさえもうっとりと見とれるほどだったのですから」
「そんなほんとのことを言うなんてなかなか見る目があるねー、うんうん、もっと褒めていいんだよ? この完璧完全最上最高の美少女エルフのことをねー!」
「おそらくあなたの力は1000万猟兵パワーにも匹敵するはず。私の力などあなたの前ではしょせん蟷螂の斧にすぎません。ですから、全力全開で参りますので、思う存分胸をお借りしますね」
「うんうん全力で……あれっ?」
なんか思てたんと違う。そんな想いがルエリラの胸中をよぎるよりも早く、無数の戦闘機械軍がルエリラを包囲し、一斉に攻撃を開始した!
ここで恐るべき事実は、別にオロチは術策や罠でこんな会話をしていたのではない、ということである。マザー化しているオロチは、その素直で真剣な心根のまま、ガチでマジにルエリラを讃えていたのだ。
「あれえええ!?」
なんでこうなった。砲火の渦に巻き込まれながら、ルエリラはしきりに首を捻るのだった。
「……何してんでござるか、姉ルエ氏は。まあ、うまい具合に目をそらしてもらえたでござるが。ありがとう姉ルエ氏、その尊い犠牲は覚えている限り忘れませんぞ。って今拙者何考えてたんだっけ? 刹那で忘れちゃったけどまあいいや!」
少し離れた場所からその惨状を見つめつつ、エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)はスッとスポーティに戦場に侵入した。
おお、なんと大胆な試みか。まるでさあ攻撃してくださいと言わんばかりの……いや、何としたことか、オロチはエドゥアルトに反応しないではないか。
そう、エドゥアルトの体は、今や不可視と化していたのだ。というか、毎度おなじみの、わけのわからない状態になっている。世に比類なき電脳魔術師たる面目躍如というべき技巧の極み、すなわち、──エドゥアルトは全身をドット絵に変更したうえでその透過率を100%にしているのだ!
……いやリプレイ書いていていうのもなんだが、ほんとわけわかんないっていうかずるくない?
「はぁー? UCの能力を生かしてるだけで一向に正々堂々でござるが???」
まあ確かに、エドゥアルトはちゃんと宣戦布告もしている。大きな文字で『いくぞ! 正々堂々UCで勝負だ!』と記載したプラカードを胸からぶら下げているのだから、これ以上正々堂々とした行為もあるまいというものだ。
……まあ、そのプラカードもろとも不可視化しているのだから、オロチには見えないのだが。いややっぱりずるくない?
「見えるか見えないかはオロチマン氏の方の都合なので拙者には関わりありませんぞ?」
そうかなあ。
……それはともかく、ペラペラになったエドゥアルトは、戦闘機械軍がルエリラに全戦力を集中させている隙を突いて巧みに侵攻していく。このままオロチの体内に入り込み、マザー・コンピュータにハッキングを仕掛けて破壊する……それがエドゥアルトの計画であったが。
しかし、とエドゥアルトはやや逡巡した。
オロチのUCの一つは自動修復。すなわち、なまじっかハッキングを仕掛けてもすぐにリカバリされてしまう危険性がある。この修復機能を突破するにはどうするべきか?
だがその時。
「えーい、こうなったら……『アインス』ッ!」
遠くから響いたルエリラの声と共に──蒼銀に輝く光の矢が虚空を裂いて一直線に飛来し、オロチに突き立ったのだ!
これこそルエリラのユーベルコード、一度発射されてしまえば堅牢な防御や時間操作された空間でも関係なしに全てを貫く輝きの矢!
繰り返す、すべてを貫く! どんな空間でも! 二次元でも!
「あいってえええ!?? いや痛くはないでござるが!!?」
そう、たとえドット絵であっても関係なしに貫通する! ルエリラのアインスは、ちょうどたまたまオロチに近接していたエドゥアルトを巻き込んでぶち抜いたのだ!
まあドット絵であるエドゥアルトに直接被ダメはなかったものの、びっくりしたさ!
思わず声が出てしまったエドゥアルトだったが、当然ながら同時にオロチも驚愕する。アインスだけなら落ち着いて対応し自動修復もできたかもしれぬ、だがいきなり何か髭めいた声が間近で聞こえたのならば!
「えっ、そこに誰かいるのですか!?」
「ハァイ拙者エドゥアルト、今貴様の後ろにいるの、ホントは正面だけどナ」
「何が何で何!?」
完全にパニクったオロチは集中を失い、その一瞬、戦闘機械軍のコントロールを喪失してしまった。凄絶なまでの集中攻撃が中断し、今こそルエリラは完全にフリー!
「今だよ! サメタンク全門斉射―!」
号令と共に、サメタンクの轟砲が響き渡り、爆煙と共にオロチの体を吹きとばす!
「くっ、自動修復を!」
そしてオロチの修復機能は、その瞬間、肉体にのみ集中! コンピュータのガードはがら空きとなった! 情報体と化したエドゥアルトはそのプランク時間ほどの隙さえも見逃さぬ!
「聞こえるでござるか……今貴様の脳内に直接語りかけています……」
「何の何が何!?」
必死で肉体を修復しているオロチの脳内に、エドゥアルトのささやきが風のように語り掛ける。
「今から貴様の全回路をオーバーロードさせますぞ……つまり……爆発だァ!!」
かくして──
オロチwithマザー・コンピュータは恐るべき猟兵たちの見事な連携攻撃によって粉微塵に吹き飛んだのだった。
「くっ、これが2000万猟兵パワーズ……お見事です……」
だから猟兵パワーって何。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
幻武・極
正々堂々と勝負ね。
それじゃあ、2対1はズルくない?
それじゃあ、ボクも助っ人を呼ぶことにするよ。
その為には、キミのユーベルコードの弱点を実証しなきゃね。
まぁこれは簡単かな?
ここは機械都市じゃないから、戦闘機械も地形を利用した戦闘は不向きでしょ。
それに、戦場に元から置かれた物、つまりこのコンクリ塊を戦闘に使っていいのかな?
これでボクの相棒のモフィンクスを呼び出せるかな。
これでキミのユーベルコードを封じた訳だし、モフィンクスは戦闘には向かない。
それじゃあ、始めようか。
1対1の闘いをさ。
「正々堂々と勝負ね……それじゃあ、2対1はズルくない?」
淡々と語る幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)の、さも当然で当たり前なことを普通かつ一般論的に語るかのような自然な口調は、あたかも套路を有さぬ意拳の振る舞いのごとく極々自然。それに、思わずなし崩し的に同意しそうになって、けれどドクター・オロチは慌てて自制した。
「い、いえ、ちょっと待ってください、別に私は2対1の状況を作っているのではなく、私自身はあくまで一人なのです。ただ、マザー・コンピュータの能力を宿しているだけで……」
「だから、それって二人分の力じゃない? ズルじゃない? 正々堂々くないじゃない? 大体思いっきりマザーのビジョン見えてるんだからどこからどう見ても二人じゃない? キミは二人羽織してる人見てあなたは一人ですねなんて言って納得するの?」
おお、あたかも詠春拳の途切れなき連続拳撃のごとく、怒涛の勢いで畳みかける極! その口説に、たじたじとなりながらオロチは必死で抗弁する。
「いえ、そういうわけではないと思うのですが……そ、そうです、あなたは確か武術家だとか。ならば、その道を学ぶ過程があったでしょう。それもまた、他者から力を借りる形態の一つと言えるのではないでしょうか。であれば、私がマザーの力を使うのも、あなたが武術を使うのも、結局は同じということで、これで正々堂々が成立し」
「しないよ何言ってんのさ」
一瞬、氷点下の烈風を思わせる冷徹で冷厳な声が響いた。
今までの極の、どちらかと言えば相手を韜晦し言いくるめようとしている余裕を纏いコミカルにさえ見せていた雰囲気が刹那にして消え失せ、代わって背筋を凍らせるほどの戦慄がその声に載ったのだ。
思わずびくりと後ずさったオロチを、極は温度のない目で見詰める。
「確かにボクは今まで本道だけを歩んできたわけじゃない。邪道にも外道にも手を染めたさ。けど、理念もなく雑に手当たり次第に力だけを奪った挙句、その相手に自分の立ち位置まで揺るがされるような浮ついたキミと同じと思われちゃたまったもんじゃないね。……キミはいくら「正々堂々」を求める性格になろうと、本質の部分では結局オロチでしかないんだ。人の心の本当の力がわからない、愚かで哀れな道化以上にはなれないのさ」
極の声は激昂を抑えつつも高らかに相手の魂さえも貫くように、あたかも極限無比の威力で敵の防御を撃ち砕く八極拳の一撃のごとく。
ぐ、と威圧されながらも、しかしオロチはそれでも踏みとどまった。
「……ですが、何を言われようと私とてここは譲れない一線。勝負あるのみです。戦闘機械軍よ、掛かりなさい!」
オロチの号令一下、「影の城」を埋め尽くさんばかりの戦闘機械軍が一斉に進軍を開始した。けれど、極はその中にあってなお、薄く笑む。
「そのユーベルコード、封じさせてもらうよ。といってもまあ簡単かな。ここは「影の城」、機械都市じゃないんだから、戦闘機械軍って言っても『地形を利用する』ことは不向きでしょ」
「──そうお思いですか」
しかし何たることか、オロチはこれに動じない。
極は、敵の技の弱点を立証することで能力を封じる『モフィンクスの謎かけ』を行使しようと試みたのだ。
ああ、だがしかし、瞬時にオロチはそれに対応してみせた! そうだ、忘れてはならぬ、狂い果てていようともオロチはまさに天才であるのだから!
見よ、ぱちんと指を鳴らしたオロチの指示に応じ、無数の戦闘機械軍は互いに合体し増殖を重ね、巨大な鋼の壁を……いや、鋼の世界を作り出していくではないか!
「ならば『利用できるような地形を作り上げればいい』だけのことです。戦闘機械軍を積み重ねることによって、戦場を覆う疑似機械都市状況を形成します! これであなたの能力は実行できませんね!」
「──そう思うかい」
けれど、そう、ゆめゆめ忘れてはならぬ。
オロチが天才であるのなら、極もまた天才武術家であり天才ゲーマーであることを!
オロチが極の意図を察するよりも早く。
極は風を引き裂く飛燕のごとき蹴りの一撃で、城の壁に巨大な穴を撃ち抜いていた! あたかも天空めがけて鋭い蹴りを放つ蟷螂拳穿弓腿のごとくに!
唖然とするオロチを尻目に、極はのんびりと穴の向こうに広がる外の風景を遠望する。
「……さ、これで『戦場』は外へとつながった。……いわば、アポカリプスヘルそのものが『戦場』に変わったわけさ。キミが『戦場』を創造し利用しようとするなら、『アポヘルの世界そのものすべて』を戦闘機械で埋め尽くさないとね! さあて、一体どのくらい時間がかかるかな?」
「なっ……!?」
オロチは今こそ、自らのユーベルコードが封じられたことを悟る。戦場そのものを作り変えんとしたオロチも確かに広き視野を有していた、けれど、その次元をさらに一つ越えた極の深謀鬼算こそ恐るべし!
召喚された極の相棒、モフィンクスが、のんびりと現れて歩み寄り、無造作に世界に干渉して、能力使用不可の絶対規律を作り出す!
その時間は僅かに3分、しかし、ああ、極の練達の技の前では、なんとそれは永遠にも近い長さの3分であることか!
「それじゃあ、始めようか。……1対1の闘いをさ」
静かに響いた極のその宣告は、まぎれもなくオロチの最後を告げるものに他ならなかった……。
「……これが道を学んだ拳の重みだよ。哀れだね、キミも、マザーも」
倒れ伏したオロチを前に、極は静かに思う。
無暗に力を纏うことしか知らなかったオロチ。──学びて思わざれば則ち罔し。
無限時間の中で思索するだけで、真に他者から学ぼうとしなかったマザー。──思うて学ばざれば則ち殆うし。
思えば、本当の意味でオロチとマザーが協力しあえていれば、それは一つの完成された脅威になりえたのだろう。
今となっては、しかし、その極の言葉を聞く者も誰もなく、すべてはただアポカリプスヘルの乾いた風に運び去られていくのみだった。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・ステラガーデン
【アイと参加】
つまり相手の裏をかけば良いわけね!私のためにあるような場面だわ!
っていうかあんた何それ!?マザー・コンピュータの力を借りるとかその時点で卑怯じゃない!?正々堂々自らの力のみで戦いなさいよ!
だいたい何が200万オブリビオンパワーよ!恥ずかしくないの!?
ここは私達も力を合わせて戦う場面のようね!私とアイと力を合わせれば1億万猟兵パワーよ!!あんたの1万倍ね!ひれ伏しなさい!
あ、うん。粉塵爆発でパワーがあがるのね!え、なにその謎計算!?とりあえずそうらしいから負けを認めることね!認めても爆発させるわ!建造物とかまとめて爆発させてしまえば問題ないわね!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
アイ・リスパー
フィーナさんと
「そちらがドクター・オロチとマザー・コンピューターの力で200万オブリビオンパワーならば、私たちはフィーナさんのレベル(115)と私のレベル(123)をかけあわせて、14145猟兵パワーです!」
はっ、これでは圧倒的に負けてます!?
な、何かもっとパワーアップする方法は……
はっ、そうです!
こういう時こそ、困ったときの粉塵爆発です!
「私とフィーナさんのダブル粉塵爆発により私たちのパワーはさらに14145倍!
これで2億猟兵パワーです!」
これなら私たちの方が圧倒的に強いですね!
この勝負、勝ちました!
「というわけで正々堂々と負けを認めるのですね!」
負けを認めたところを容赦なく吹き飛ばします。
「そちらがドクター・オロチとマザー・コンピューターの力で200万オブリビオンパワーならば……」
アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)は澄んだ瞳で眼光鋭くドクター・オロチを見据え、語気強く言い放った。
「私たちはフィーナさんのレベル(115)と私のレベル(123)をかけあわせて、14145猟兵パワーです! どうですかこの3桁の掛け算を瞬時にこなす計算能力! 恐れ入りましたか!」
「すみません、その計算でいいのでしょうか……」
申し訳なさそうに言うオロチの言葉に、アイははっと気づく!
「はっ、これでは圧倒的に負けてます!? 私の計算に盲点があったとは!?」
そんなアイの傍らで叱咤する声。それこそはアイの莫逆の友、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)の気勢に他ならない!
「何してるのアイ! 数字なんてものはただの飾りよ! 要は気合よ! 気合がすべてを解決するのよ!」
「フィーナさんは気合で物事を考えすぎな気がしますが……」
「何を言っているの! 忘れたのアイ! 数字にとらわれた昔の私たちが陥った悲しみを! あんなことをもう繰り返してはいけないのよ!」
「はっ!」
フィーナの声を受け、電撃に打たれたかのようにアイはその場に立ちすくんだ。
そう、数字。数字が彼女たちにどんな悲劇をもたらしたのかを思い出して。
「そう、そうでした……数字にこだわるなどと愚かでした……70台だっていいじゃないですか!」
「そうよ! 70で十分よ! 80オーバーなんてただの贅肉なのよ!」
「でもフィーナさん70台ありましたっけ?」
「アンタそれを言いだしたら戦争よ!?」
喧々諤々と言い争っている中、オロチは困ったように声を掛ける。
「すみません、先ほどから何のお話なのか良くわからないのですが……」
その声を聴いて、アイとフィーナははっと振り返った。
そう、「声」。
読者諸兄に置かれてはぜひ想起していただきたい、設定上、オロチの声は……
「「アンタ(あなた)、女の子(ですか)?」」
『少女の声』なのである。
「え? え? 私の性別が何か……今関係あります……?」
戸惑うオロチに、アイとフィーナは勢い込んでずいと迫る!
「あるわよ! だってアンタ……」
「どこからどう見てもですね……」
アイとフィーナは声を揃えて高らかに宣言した。
「ペッタンコじゃない(ですか)!!!!!!」
……ああ、こんなところにまで貧乳同盟の魔の手が。
「いや私の性別はどうでも、と言いますか……たぶん異形なので性別とかないんじゃないかなーとか思うのですけど……」
「そんなことはないわ! その平行線を定規で引いたような体形! イコール貧乳! イコール女の子よ!!」
「さすがですフィーナさん! 理論上はデタラメにもほどがありますが感覚上は完全な正解です!」
「こわっこの人たちこわっ……!」
身を竦ませ、がくがくと震えるオロチと、目を血走らせてそれを取り囲む二人の猟兵という図。何これ。
しかし、オロチは見る。その二人の血走った眼が、この上もなく優しい光に満ちていることを。
「……同じ貧乳なら、私たちは友よ」
「あなたは同志です。分かり合えたんです」
手を差し伸べるフィーナとアイ。おずおずとその手を握り返そうとするオロチ。
何たる美しくも尊みに溢れたエモエモな状況か。今ここに、敵味方を超え、猟兵とオブリビオンという宿敵同士であっても結ばれる堅い絆が確かにあることを世界は知ったのだ。見よ、オロチの背後に浮かぶマザー・コンピュータのビジョンも嬉し気に微笑んでいる。
「……って、ちょっと待ちなさいよ? アンタ、それは誰」
「えっと、マザーコンピュータさんですが……私に憑依している……」
こくこくと頷くマザー。
その動きでぼよんぼよん、たぷんたぷんと揺れるマザーの胸。
……胸。圧倒的な。絶対的な。胸。
「「グワーッ!!」」
ああっオロチは何もしていないのにフィーナとアイが血を吐いて倒れた!
「わ、私たちより小さいと思っていたのに……っ!」
「あんな大きいのが憑いているとかずるいじゃないですか……!」
そう、秘かに自分より小さいと判断しオロチを見下していたフィーナとアイのプライドは一瞬にして粉微塵! バラバラに粉砕された!
ああ、だがしかし、不死鳥は灰の中から再び甦るのだ。
「許せません……友だと思ったのにこの裏切り! この「微塵に」粉砕されたプライドを!」
「許せないわ……仲間だと思ったのに実はひそかに嘲笑ってたのね! この「粉々」になった純真な想いを!」
ゴゴゴ、と背中に炎を纏いながらアイとフィーナは立ち上がる! わけもわからずオロチはまた怯えている!
「「粉塵爆発として燃え上がらせるわ!!」」
いや無理がないかな!?
「いいえ、私とフィーナさんのダブル粉塵爆発により私たちのパワーはさらに14145倍! これで2億猟兵パワーです!」
「よくわかんない謎計算だけどたぶん合ってるわ! ひれ伏しなさいオロチ!」
「いやごめんなさい私ほんと何が何でどうなったのかさっぱりわかんないままクライマックスなんですけどー!?」
はわわわと逃げようとするオロチの背後から、しかし無情かつ無慈悲に、そして無茶かつ無理やりかつ無造作に、フィーナとアイの最大級の力の奔流がぶっぱされた!
「『ぶっ飛ばしてやるわ!魔力ノ粉塵(バクレツフィーナスペシャル)』ー!!」
「『粉塵爆発(ダスト・エクスプロージョン)』―!!!」
しかし無茶に見えて実はあまり無茶ではない!
フィーナの使う粉塵は魔力の欠片、すなわち精神力の結晶であるのだから、強い衝撃によって精神に傷を負った場合、それが粉塵化することも十分というか多分あり得るのだ!
また電脳天使たるアイはプログラムを実体化させる能力を有し、ゆえに同じく、傷ついたメンタルというヒューマンプログラムを実体として粉塵にすることだってきっとあるのである! という気がする!
かくして、魔術的に閉鎖された空間内に吹き荒れ逆巻く連鎖大爆発の暴嵐は、盛大に遠慮会釈なくオロチを巻きこんでぶっ飛ばしたのだった。
……しかし、アイとフィーナに勝利の笑顔はない。勝ったのは二人だ、けれど。
「最後まで揺れてやがったわ……」
「散るときまで豊かだというのですか……」
消える瞬間までたぷんたぷんと激しく主張したままだったマザーのビジョンを追想しながら、二人は戦いの虚しさについて今はただ静かに思いを馳せるのだった……。
あと胸の虚しさについても。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
清廉騎士カリスト、無血宰相トビアス、水晶剣ルルモード…銀の雨降る世界にて暗躍した『異形』達
ですがその過去を資料でしか知らず、貴方の因縁に新参の私はこの名を呼びましょう
元銀河帝国執政官兼科学技術総監、ドクター・オロチ
…清算の時です
正確無比なる鋼の物量、策を巡らすのが常道
ですが真正面から挑ませて頂きます
私欲の儘に技術と知識で多くの流血を産む…我が創造主が最も嫌う手合い
そんな相手に騎士として臨まねば嘘になるのです
彼女とその想い人を殺め、そこから始まった我が騎士道が
戦法は単純
駆ける、跳ぶ、躱す、凌ぐ、防ぐ、壊す、斬る
盾と剣、そして己の全性能を以て
あらゆる障害乗り越えその身を斬り捨てるのみ
…御覚悟を!
清廉騎士カリスト。
無血宰相トビアス。
水晶剣ルルモード。
──銀の雨降る世界にてかつて暗躍した、『異形』達を指す名は多い。
けれどあえて、彼は呼ぶだろう。
トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は、その相手のことを。
……元銀河帝国執政官兼科学技術総監・ドクター・オロチ、と。
「ええ……私はかつての貴方にまつわる過去をデータでしか知らず、その因縁に新参であるがゆえに」
「ウォーマシンよ、そこにどれほどの違いがあるというのです」
トリテレイアに対峙し、淡々と語るオロチの口調は、同時にマザー・コンピュータのものでもあった。いや、口調のみならず。その静謐にして深い雰囲気も……そしてその人格も、マザーのものであった。
「あなたが『実際に』遭遇した出来事は特別だと? 『知識』でしか知らぬ過去とは異なると? ……本当にそうでしょうか? あなたにとってはそのどちらも結局は──『データ』としての蓄積でしかないのではありませんか? ……いいえ、別にあなたを軽侮するつもりはありません、私にも、そしてどんな存在者にとっても、結局は同じこと」
生物にとってさえ、しょせん記憶の蓄積は結局シナプスをめぐる電気信号の集積にすぎまい。ましてやウォーマシンにとってのそれは、無機質な数字の羅列に還元される以上の価値を有すのか。
マザーは確かにトリテレイアを挑発しているのではなく、皮肉を投げつけているわけでもなかった。彼女は人の想いについて、思い出について、彼女なりに煩悶を抱えていたのだろう。
けれど、トリテレイアは、マザーの言葉に静かにセンサーアイを明滅させた。
「なるほど、確かに私はあなたのその意見に反証できる客観的エヴィデンスを有しません。……あなた自身を除いてはね、マザー」
どういうことか、と怪訝な様子を見せるマザーに、トリテレイアは続ける。
「最初から違和感を覚えていました。アポカリプス・ランページの際、あなたがとったタクティクスは、グリモア猟兵を取り込むことと、時間操作戦闘。どちらも一般的には『正々堂々』という語義からは程遠いものです。にもかかわらず、今回呼び出されたあなたは、なぜ『正々堂々』を試みたのか?」
たじろぐマザーの様子はトリテレイアの指摘が正鵠を射ていることを示す。あの戦いに参加したものの中で、同じ疑念を抱いたものはきっと多かったはずである。ではなぜ。
トリテレイアは静かに、その答えを提示した。
「あなた自身がその身で知ったからです、ランページの際、人の意思と決意は永遠さえ撃ち砕くのだとね。ゆえに、あなたは人の在り方を模倣することで『永遠以上』が手に入れられるのではないかという可能性に思い至った。それが、あなたが人の生き様としての正々堂々を行った理由。そして、それが、データにはない、実際の『経験』がどれほど大きい力を持ち、人を成長させるかのエヴィデンス。──Q.E.D.(証明を完了しました)」
しばしの沈黙が訪れた。
やがて小さく、マザーは吐息のような声を漏らす。
「……なるほど。それが、思索だけを続けて現実に触れてこなかった私が敗れた理由、そして、数多くの戦場に出撃し、その分だけ『実際の経験』を積み重ねたあなたが強い理由ですか。……私の思索も、一つの解を得たのかもしれませ……」
が、その時。
マザーの言葉を途中から遮るように、フードの中からくぐもった息が噴き出た。暗く悍ましく不気味な声が。
「ムシュ……勝手にボクの体を使って自分の実験を続けるなんてね。多少はキミの力を使えるかと思ったけど、もういいや。消えちゃえ!」
トリテレイアは静かにすらりと剣を引き抜く。重厚にして鋭利な輝きがアポカリプスヘルの鈍い光に照れされて踊った。無情の切っ先を相手に向け、トリテレイアは宣する。
「お出ましですね、ドクター・オロチ。……清算の時です」
「ふざけるなよ! 『経験』だって? 記憶だって!? それが大事だと言うなら、まさにボクこそがそれを持ち帰るべき存在なんだ! 銀誓館! 銀河戦争! 群竜大陸! そしてアポカリプス! そのすべての『経験』をね! だから邪魔するなよ!」
狂乱のオロチに、トリテレイアは冷たく硬い、鋼の声で応じた。
「私欲の儘に技術と知識で多くの流血を産む……我が創造主が最も嫌う手合い。なればこそ、そんな相手に騎士として臨まねば嘘になるのです。彼女とその想い人を殺め、そこから始まった我が騎士道が。──それが私の最初の『経験』なのですから」
もはや聞く耳も持たぬオロチは、暴嵐のごとく狂風のごとくに、ただ無暗に戦闘機械の残骸たちを駆り立て、けしかけ、使嗾した。これまでの猟兵たちとの激戦で半壊し破損し大破した戦闘機械たちは、それでもなお折れた砲塔で照準を合わせ、ひしゃげたアームを伸ばして掴みかかり、ひび割れた機体を走らせる。
……それは、悲壮にして醜悪な光景でもあった。物言わぬ機械でも。物言わぬ機械だからこそ。
だからこそトリテレイアはただ進む。盾を構え、剣を提げ。爆煙が灼炎が、衝撃が閃光が、その白銀の機体を染め抜こうとも、その鋼を破壊し傷つけ撃ち砕き揺らそうとも。漆黒の煙の中にセントエルモの火のように輝くセンサーアイの青白い光は、あたかも常軌を逸した騎士物語の主人公の目。
愚直なまでのその前進は、ウォーマシンとして、論理整合的にも効率的にも、最も選択しえぬ行動。けれど。──最も取るべき行動。トリテレイアがトリテレイアであるためには。
……それが、トリテレイアという存在をここまで形成してきた『経験』の教えるところであるのだから。
「……キミは……狂ってる」
「お褒めのお言葉、過分に存じます」
狂気の科学者、ドクター・オロチをして評されたその言葉を、満身創痍のトリテレイアはひび割れた笑みにも似たセンサーの輝きで受け止めて……。
剣は、まっすぐに、落ちた。
傲慢と暴虐と独善とを斬り裂いて。
完全なる破滅。
──それが、ドクター・オロチが得た最期の『経験』であった。
かくして、オロチの最後の野望はここに潰えた。
「正々堂々」という、まったくもってオロチらしからぬ行動に踊らされたその姿は、これまで他者を散々躍らせてきたオロチに相応しい因果であったかもしれぬ。
無様でちっぽけなただのコンクリート塊。
アポカリプスヘルの乾いた砂塵に吹きすさぶ風は、まるでその無価値な廃棄物のむせび泣く声であるかのようだった。
大成功
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