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ハートフル・プレジデント

#アポカリプスヘル #戦後 #ドクター・オロチ #プレジデント #風魔小太郎 #魔軍転生

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●燃え続ける黒き炎に隠れし邪悪
『ムシュ〜ここまでやられちゃうとは……』
 メンフィス灼熱草原の黒く燃え続ける炎の中に隠された影の城の中に、残念がるような少女のような高い声が響く。
 その声を発した可愛らしいクマのパーカーを纏う者は人型であるが、けれど頭部は脳みそそのものの異形。
 星の海の世界、斧と魔法の世界と現れ邪悪な所業を続けてきた『ドクター・オロチ』そのものであった。
 そんなオロチに仕える無数の面を持つオブリビオン『風魔小太郎』は何も言わず顔を伏せている。
『もうすぐ、猟兵がボクを見つけちゃうかもしれないね……しょうがない、『魔軍転生』でフィールド・オブ・ナインを憑装するよ!』
 そう呟き何かを憑依させると、ドクター・オロチの気配、そしてその肉体が変形していく。
『…………こういうのは私がやるべき事ではないのでは? 肉弾戦はあまり得意ではないのだがね』
 ドクター・オロチの口調は堂々とした落ち着きはらった物に変わり、その可愛らしいパーカーは内側からの圧力にはちきれんばかりになっている。
 異形が憑装させたのはプレジデント、かつてこの国を導いた者の一人の力は異形を筋骨隆々な肉体に変え、その両腕には水晶剣ではなく巨大な機械の拳を装着している。
 あまりの変貌ぶりに、比類なき忍びである風魔小太郎も呆然としていて、そんな彼に顔面脳みその異形はカリスマ性を溢れんばかりにして優しく語り掛ける。
『多少の変化はあるが、これならば猟兵達の相手をするには十分だ。――いいかね、風魔小太郎。キミもとっておきの『百面鬼の術』を使い、そしてこのプレジデントの力を重ねて私の本体を守ってくれたまえ』
 はっ、と仮面の忍びは短く返し、その身を他のオブリビオンの姿へと変えていく。
 四つの腕を持ち、二つの刃を腰に帯びた異形の羅刹――その二つの腕を巨大な機械腕に変えた引き締まった肉体の魔人は、プレジデントを憑装したドクター・オロチの言葉に従い、黒き炎の草原へと向かっていった。

 グリモアベース。
「さて、アポカリプスヘルに姿を見せていたドクター・オロチの居場所がメンフィス灼熱草原だと判明したのは皆も知ってるだろうけど」
 丸みのある大柄な体のシャチのキマイラ、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)が白黒模様も鮮やかな顔をしかめ、そう切り出した。
「今回俺が予知したのはフィールド・オブ・ナイン『プレジデント』を憑装したドクター・オロチだ。漆黒の影の城……銀の雨の降る世界で同じ名前のものが存在しているらしいけど、そこに陣取って時間稼ぎをしようとしているようだよ」
 目標としていた残り三体のフィールド・オブ・ナインの探索を諦め軍勢を纏めてどこかに撤退しようとしているようだと、ヴィクトルは説明する。
「ただ、逃げ切る前に俺たちが予知できたのは幸いだ。メンフィス灼熱草原……消えない黒い炎が地面の中まで燃え続けているその地の中心に、影の城はある。そこに乗り込んでドクター・オロチを完膚なきまでに撃破して欲しいんだ」
 シャチのキマイラはそう言って、その目的の為の障害についての説明に移る。
「影の城に向かおうとすると、配下にしていた風魔小太郎が『百面鬼の術』で『二刃四拳の魔人』に変化して襲い掛かってくる。戦場としては特に障害物もないから真っ向勝負になるだろう。他の配下と同じようにフィールド・オブ・ナインの力を使えるみたいで、四つの腕の半分を巨大な機械腕にしていて殴り合い……ボクシングには非常に強くなっていて、剣術だけでなくそっちでのスタイルも使って戦いを挑んでくるだろう」
 強力だが勝機は十分にあると、ヴィクトルはにやりと笑んで。
「風魔小太郎を撃破したら影の城にいるドクター・オロチとの決戦になる。ただプレジデントを憑装している影響でその性格とか見た目が引っ張られているようだね。でも力は本物だし本質は邪悪なままだから容赦なく叩き潰してね」
 そうして説明を終えたヴィクトルは首にかけた鍵型のグリモアを手にし、転送の準備を開始する。
「ああそうそう、ドクター・オロチは逃げようとしているみたいだけどまだ準備は出来てないみたいだよ。速攻で十分な回数倒せればあの何度も甦っていた原因とみられる『コンクリ塊』も回収できるかもしれないから、頑張ってチリも残さず倒しちゃおう」
 そうシャチは締め括り、黒き炎の燃え盛る草原へと猟兵達を転移させた。


寅杜柳
 オープニングをお読み頂き有難うございます。
 三度目の正直、決戦。今度こそきっちり後腐れないようにしたいですね。

 このシナリオはアポカリプスヘルのメンフィス灼熱草原『影の城』に潜んでいた『ドクター・オロチwithプレジデント』との最終決戦シナリオになります。
 第一章は風魔忍法奥義『百面鬼の術』によって『二刃四拳の魔人』に化けた風魔小太郎との戦いになります。
 この二刃四拳の魔人は【プレジデント・ナックル】の能力も併せ持っており、二つの腕が巨大機械化していてボクシングで戦う際の攻撃力・攻撃回数・攻撃範囲が超強化されます。
 第二章は冒頭に状況説明を追加致しますのでそちらをご確認下さい。

 また、以下の特別ルールが存在しているので、早期の完結を目指します。

=============================
 この最終決戦シナリオが、成功本数が20本に達した日(達成日)で結果が変わります。
・5月1日午前中まで:ドクター・オロチを完全撃破し、影の城からオロチが何度でも蘇っていた原因とみられる「コンクリ塊」を回収、猟兵達で保存します。
・5月15日午前中まで:ドクター・オロチを撃退し、何も持ち帰らせません。
・それ以降:ドクター・オロチは、すんでのところで残る3体のフィールド・オブ・ナインを発見します!そのうち2体を連れ帰り、1体をアポカリプスヘルに残していきます。
※いずれの場合でも最終決戦シナリオが20本成功すれば風魔小太郎は撃破されます。
=============================

 それではご武運を。
 皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『二刃四拳の魔人』

POW   :    剛刃・火車
自身の【記憶と人間性】を代償に、【理屈無き圧倒的な武芸から成る二刀で、剛力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって記憶と人間性を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    二刃四拳の魔人
【刃避ければ四拳が襲い、四拳避ければ二刃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    幻刃・朧車
自身の【記憶と人間性】を代償に、1〜12体の【実体ある分身】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレオンハルト・アウストラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

秋月・充嘉
へぇ、プレジデント?
プレジデントは俺の横で…て言う冗談はおいといて。

こいつ相手なら、まだ呼ばなくてもいいか。
たまには自分の体を動かさないとね。
さぁて、影遊びの時間っす。

影龍の顎で噛みついて暴れるっすよ!
向こうが二刃四拳でくるなら、こっちはほぼ全影っす。
指に腕足、翼、耳におまけに尻尾。
目に見える末端部位が龍の顎になるっすよー?
次、変わる部位はどこかな?
こっちと見せかけて、実は別の部位とフェイントも織り混ぜるっすよ。

それじゃ、プレジデントさんにお会いするっすかね。


雨野・クラリス
ココが異世界……なんだかさみしい場所デスね。文明社会が滅びるなんて……悲しいことがいっぱいあったのでしょうネ。
お兄様、私、なんだかこわいデス。
(側にいるスケルトンに話しかけ)

そこにいるのは忍者サンですか?
(目を輝かせ)
忍者、カッコイイですよネ! 私の友人も忍者で……ってお喋りしてる暇はないのデシタ。

記憶と人間性を代償にしてまで、貴方ハ……。
わかりしタ、私も新技を披露するのデス! 数は負けるけど、騎士サン、蛇竜サン、お願いしマス……!
【リザレクト・オブリビオン】

久々の戦闘で敵に勝てるとは思っていないのデス。せめて、少しでも貴方の体力を削るのデス。


鞍馬・景正
オロチ――その生き汚さは見習うべきところがあるかも知れませんが。
これで最期としましょう。

そして風魔、貴様もだ。


かつて北条に仕えていた当家と風魔、敵味方に別れる事に無常を感じておりましたが、もう何も言いますまい。

禄寿応穏の志を忘れオブリビオンに与する報い、受けて貰う。

風魔が人たる心も記憶も捨てるなら、此方も肉の眼と迷妄を捨て挑みましょう。

敵の打って来る瞬間を【第六感】も駆使して【見切り】、その一瞬早く【無明剣】にて無我の境へ。

剛力の二刀を【怪力】の【斬撃波】で叩き伏せ、拳より迅くの【二回攻撃】で一閃。

忍びは刃の下に心と書くと言うが――人間性を捨てれば、ただの刃。
何を恐れる事がありましょう。


レン・ランフォード
風魔にリベンジ…というには変身しているからそうとは言えませんが
兎に角オロチを止める好機、逃すわけにはいきません
お覚悟を!

…刃使ってる時点でボクシングじゃないですよね?
真面目に相手する必要がないならこちらもそのつもりで行きます
UC発動、大典太召喚、「気合」を入れた一刀を叩きこみます

この一太刀で潰せるならそれでいいですが
これをUCで迎撃してきてもそれも良し
回避して私狙いで来るならそれを「第六感」で察知し「見切り」
「武器受け」し防ぎます
どちらにしても刀を犠牲に敵の人間性を奪います
ボクシングは紳士のスポーツ…人間性を失った獣に使えるものではありません
大典太の拳を叩き込んでやりましょう



●風魔、襲撃
 アポカリプスヘルの荒野でも際立って奇妙な黒き炎が燃え盛り続けるという特徴をもつ、メンフィス灼熱草原。
 この地に潜むドクター・オロチと決着をつけるために猟兵達はこの地へと転移してきた。
「オロチ――その生き汚さは見習うべきところがあるかも知れませんが」
 鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)という羅刹の青年は黒き炎を見遣りながら静かに呟く。
 最初にドクター・オロチが暗躍していたのは銀河帝国、次に群竜大陸で帝竜として猟兵達の前に現れて、後者は景正自身も戦った事がある。
 そのどちらでも猟兵達に撃破されてはいるが、何故か三度現れたオロチはこのアポカリプスヘルでフィールド・オブ・ナインの力を部下達に与えて陰謀を企てていた。
「これで最期としましょう」
 そんな邪悪に、景正はここで決着をつけるという強い決意を以て戦場に臨む。 
「ココが異世界……なんだかさみしい場所デスね」
 黒き炎の草原にやってきた霊媒師の少女、雨野・クラリス(止まぬ雨・f35423)は銀の雨の降る世界の出身だ。
 局所的に見ればオロチ大乱等の大破壊はあったが、あちらの世界ではまるごと文明が崩壊する事は避けられている。
 それでも悲劇は確かに存在していて、この文明社会が滅びた後の世界ではどれ程の悲劇が存在したのだろうか。
「お兄様、私、なんだかこわいデス」
 クラリスが不安げに隣に付き従うレイピア携えた『お兄様』の骨の頭部を見上げれば、彼女の不安を和らげるようにそっと前に出る。
「――そこにいるのは忍者サンですか?」
 と、骨のお兄様の向こうの黒き炎の陰に何か異なる気配を感じて、クラリスが声をかける。
「あ、私も忍者ですけれども風魔小太郎じゃありませんよ」
 ひょっこり顔を出したのはレン・ランフォード(近接忍術師・f00762)という化身忍者。
 先行して罠の有無や炎に隠れて忍び寄って来ていないか周囲を偵察してきた彼女だが、そのような仕掛けや敵の奇襲の気配もなさそうだ。
「忍者、カッコイイですよネ! 私の友人も忍者で……」
 そんな彼女の姿に少しばかりクラリスがはしゃいで話しかけ、温厚なレンも興味深そうに彼女の話を聞いている。
 そして話しながら少し草原を進んだ辺りで周囲の空気が変化する。
 ――何かが、くる。
 身構える猟兵達に、黒き炎の向こうから現れた異形の人影――四つの腕を有し二刀と二つの機械腕を武器とする、引き締まった肉体のオブリビオン。
 それこそがかつてサムライエンパイアの地で散々暴れ、この世界でも暗躍していた風魔小太郎が変化したオブリビオンだ。
「――風魔、貴様もだ」
 そして冷徹に景正が言い大太刀を構える。。
 鞍馬と風魔、かつて北条に仕えていた同僚として敵味方に別れる事に無常を感じていたが、この場に至ってはもう何も言うつもりはない。
 鉄籠手纏う手の甲に浮かび上がる竜胆紋が全身に剛力を漲らせていく感覚が景正にあった。
「禄寿応穏の志を忘れオブリビオンに与する報い、受けて貰う」
「へぇ、プレジデント?」
 一方で、屈強な肉体を持つキマイラの秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)は目を細めながらどこか面白がるように言う。
 あの機械腕は見紛うこともなくフィールド・オブ・ナイン『プレジデント』の能力によるものだ。
「プレジデントは俺の横で……て言う冗談はおいといて、こいつ相手なら、呼ばなくてもいいか」
 たまには自分の体を動かさないと、と充嘉はファイティングポーズをとる。
「さぁて、影遊びの時間っす」
「風魔にリベンジ……とは言えませんが」
 かつてエンパイア・ウォーの折に忍者屋敷に陣取っていた風魔小太郎に苦い思いをさせられたレンは、愛刀であるクレセントムーンを構えつつそう告げる。
 元の忍者の姿でもなく他のオブリビオンに変身した今の状態では少々不満はあるが、これはオロチを止める好機でもあるから。
「逃すわけにはいきません、お覚悟を!」
 鋭いレンの言葉と同時、黒き灼熱草原での戦いが幕を開ける。

 瞬時、ユーベルコードにより二体の分身が四本腕の魔人の左右に召喚され、それぞれが猟兵達に襲い掛かる。
「ってお喋りしてる暇はないのデシタ」
 本来の姿である風魔小太郎としての忍者の姿にも興味があったクラリスだが、向こうは魔人のこの姿で
 クラリスはかつてのクラスメイトから貰った愛用の蛇鞭を振るい迎撃するが、魔人の分身はそれを躱して二刀で斬りかかる。
 魔人の刃が振り下ろされる直前、スケルトンが霊媒士の少女の手を強く引いて斬撃から逃がせば、その分身に対しレンが斬りかかり分身を両断した。
 消失していく分身、まずは小手調べと言った所か。
 既に会話能力を無くしているのか、すぐさま二刀と二つの機械腕を構え分身と戦う景正ではなく充嘉へと斬りかかる。
 抜き放った二刃を神速で振るってくる魔人に対し、キマイラはユーベルコードを起動してその腕を影龍に変じてその刃持つ腕を防ぐ。
「影龍よ噛みつけ!」
 自身の身体部位のひとつを実体持つ影龍に変じさせるユーベルコードはぐるりと腕を絡めとったままに首を伸ばし魔人の喉元に食らいつかんとする。
 だが、魔人は機械腕を装着した二腕の左で影龍の頭を殴り飛ばすと、まるでこの草原がリングの上であるかのように左右にステップを踏んで影龍の拘束を振り払うと、右の機械腕でストレートを放つ。
 渾身の一撃――しかしそれを見切ったように充嘉は翼広げバックステップ、拳の間合いから逃れた。
 即座に魔人は横から斬りかかってきたレンに構え直し、二刀を構えレンに剛刃を振るう。
「……刃使ってる時点でボクシングじゃないですよね?」
 人間性すら感じさせない魔人の双刃を受けず横にスライドするようにステップして躱しながらレンが苦無を投擲。
 向こうの足運び自体はボクシングでも見るようなステップ、そして拳撃をブロックするように苦無を機械腕の拳で逸らすように弾きつつ魔人は距離を詰めてくる。
 しかしそれはレンの狙った通り、景正の間合いに魔人を誘い込むように移動していたのだ。
 とっくに向かってきた分身を切り捨て間に割り込むように飛び込んできた景正に標的を切り替えた魔人は全力で二刀を振り下ろす。
 理屈無き圧倒的な武芸から成る剛力の斬撃、人たる記憶と人間性を代償にした一撃に対し、景正はその起こりを見切ってユーベルコードを発動する。
「我空、人空、剣空――右三空一心観。無明にて断つ」
 無我の境へ至った景正は視覚に頼らず迷妄を切り捨て、ただ打成の一片として鞍切正宗という大太刀で切り上げる。
 魔人の二刀が景正の体に届く前に景正の斬撃波に弾かれた。間合いに入ったもの全てを斬る無我の境の景正の斬撃の速度と剛力は、心と記憶を代償にした魔人の凶刃をも上回る。
 魔人は体勢を崩しながらもその本能か、残る二つの機械腕で殴り掛かろうとするがそれ以上の速度で景正が刃を返し一閃した。
 深々と袈裟懸けに斬られた魔人は景正の間合いから逃れるように後退し、そこをクラリスの蛇鞭が打ち据え体勢を崩す。
 よろめいた魔人に追撃を仕掛けるのは充嘉だ。
 迎撃する二刃四拳に対し、充嘉は体の各部位を交代で影龍の頭部に変形させて迎撃していく。
 指に腕足、翼、耳におまけに尻尾。一度に一つという制限はあるとはいえ、胴以外の全ては影龍の頭部となり生命力を奪ってくる充嘉には二刃四拳の魔人も守りから攻めへと転じあぐねている。
「次、変わる部位はどこっすかね?」
 右腕で殴りつける――と見せかけくるりと反転、頑強な竜の尾の先端の影龍の顎と化して魔人の脚に食らいつく。
 苦痛にその身体が一瞬硬直、だが次の瞬間に魔人の姿がぶれ、六体の分身が召喚されて周囲の猟兵に対し一斉に襲い掛かる。
 剛刃を連続で振るった事と分身を一度に大量に召喚したせいか、魔人の剣術はより荒々しく、拳撃も力任せのものに変わり始めていた。
(「記憶と人間性を代償にしてまで、貴方ハ……」)
 オブリビオンとは過去の存在。風魔小太郎が変化してはいるものの、この魔人のオリジナルは確かに存在している。
 そのオブリビオンがなぜそのような代償を払ってまで力を得るユーベルコードを得たのか、それに少しばかりクラリスは思いを巡らせる。
 だが今は刃拳交える戦場、躊躇っている暇はない。
「わかりましタ、私も新技を披露するのデス! 数は負けるけど、騎士サン、蛇竜サン、お願いしマス……!」 
 ユーベルコード【リザレクト・オブリビオン】、銀の雨の世界で戦ってきたクラリスの猟兵としての力の一つが発動し、付き従うように死霊騎士と死霊蛇竜が召喚される。
 召喚を維持する間彼女が戦う事は出来ず、傷を負えば召喚も解除されてしまう。
 しかし両者の力は彼女と同等、強力な魔人の分身に対して騎士がカトラスで蛇竜がその大口を開いて喰らいつかんと飛び込み魔人の分身達を押し込み後退させていく。
 クラリスの狙いは魔人への勝利ではない。久々の戦いで相手は強敵、そう上手くいく筈もない。
(「せめて、少しでも貴方の体力を削るのデス」)
 彼女を守るように分身達を食い止め削っていく死霊達の戦いを、クラリスは応援しながら傷を受けぬように距離を取りつつ上手く立ち回っていく。
 だが、分身達に紛れ飛び出してきた本体がクラリスへと獣の如き速度で襲い掛かりその機械腕を振るわんとする。
 既にボクシングですらなくなっている、なら真面目に相手をする必要もないだろうと、クラリスの傍に飛び込んできたレンがユーベルコードを起動する。
「これは私たちの新たな剣、三界の力で生まれた機械仕掛けの覇王!」
 その言葉共に、その背後に白いマフラーを巻き付けた漆黒の鋼鉄の絡繰武者『大典太』が召喚される。
 その大きさは彼女の倍……いや、五倍はあるようにも見えて、携えた武器はレンのクレセントムーンと同じ日本刀型近接斬撃兵装。
 裂帛の気合を込めてレンが袈裟懸けに刃を振るえば、それ以上のリーチで大典太もその動きをトレースし、魔人へと袈裟懸けに日本刀を振るった。
 魔人はそのその一太刀を巨大な機械腕でガードしつつ、表面を滑らせるようにしながら足を踏み出しレンへと距離を詰める。
 巨大な大典太の懐に潜り込みレンを直に斬り裂くつもりか――だが、
(「それは見切っています」)
 そう来ることは読んでいて、愛用の刀で敵の剛力受け流すようにして凌ぎ切った。
 ――紳士のスポーツであるボクシングに人間性は不可欠。つまり、人間性を無くした獣にはボクシングは扱い切れるものでは無い。
 攻撃直後の隙を見逃さず、飛び込んできた充嘉が影龍に変えた左拳で魔人の胴を抉るように食らいその生命を咀嚼する。
 その間にレンが後退しつつ大典太の丁度いい間合いに魔人を捉え納刀。そして拳をぎゅっと握りしめ腰辺りに構えて思いきり前に突き出せば、トレース巨大な絡繰武者の拳がアッパー気味に魔人を殴り飛ばした。
 宙を舞った魔人の先には羅刹の武士が構えていて。
(「忍びは刃の下に心と書くと言うが――人間性を捨てれば、ただの刃」)
 仮に、元のままであったならもっと苦戦したかもしれない。けれども、心を失い単なる刃に堕した風魔小太郎に景正は恐れる事など何もなかった。
 既に理性なく本能で反射的に機械腕で防御せんとする魔人だが、それはもう意味を為さない。
「――おさらばです」
 ユーベルコードと共に大太刀一閃、羅刹の剛力から放たれた斬撃は魔人の機械腕ごとその体を両断し、その生命を刈り取ったのであった。
 風魔小太郎の襲撃を返り討ちにした猟兵達は呼吸を整えつつ周囲を見遣る。
 オロチのいる影の城、それはあの魔人がやってきた方角に存在する可能性が高い。
「それじゃ、プレジデントさんにお会いするっすかね」
 影の龍を元の左手に戻しながら飄々と充嘉が呟いて、猟兵達は影の城を目指し歩き始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ドクター・オロチwithプレジデント』

POW   :    ロケット・ナックル
【恐るべき筋力】で超加速した武器を振るい、近接範囲内の全員を20m吹き飛ばし、しばらく行動不能にする。
SPD   :    プライド・オブ・プレジデント
全身を【大統領のオーラ】で覆い、自身の【大統領魂】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    プレジデント・フェイタル
【華麗なステップ】で敵の間合いに踏み込み、【衝撃波】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●影の城、憑装せしは先導/扇動者
 黒き炎燃え盛る草原の中心部へと猟兵達は向かっていく。
 黒炎の中からオブリビオンや恐るべき敵の幻影が出現してくるこの地ではあるが、幸いそれらに遭遇する事もなく彼らは目的である影の城を発見し、その内部へと突入する。
 踏み込んだ内部はひんやりとした空気の広大な石畳の街並みで、生物の気配は全く感じない寒々しい場所だった。
『ふむ……風魔小太郎が敗北したのか』
 周囲を警戒する猟兵達を、奇妙な威圧感を帯びた可愛らしい少女の声が迎える。
 風魔小太郎を撃破した今、この城に存在するのはドクターオロチのみ。身構える猟兵達の前にかつかつと靴音を鳴らしながら、赤いクマのパーカーの異形はやってきた。
 ――やってきたのだが。
『どうしたのかね。来客を私が出迎えるのは当然だろう?』
 顔面が脳髄であることと、纏う衣装に奇妙な水晶の剣は間違いなくドクター・オロチである事を示しているのだが、その体格はこれまでと明らかに異なっていた。
 赤いパーカーが内側からの圧力にはちきれんばかりに膨れ上がり、両腕に装着した機械腕にも振り回される事無く操れるのだろう。
 合わせて身長も伸びていて、おまけに何故か火を点けた葉巻を指で挟んで口元(?)にやっている。
 銀の雨の降る世界にいたそっくりの異形は石像になっていた時に胴体部分が空で頭部だけに実体があったとの資料はあるが、どうやらこのフィールド・オブ・ナイン『プレジデント』を憑装したドクター・オロチはそうではないようだ。
 見た目は何とも言えない事になっているが、纏う気配は紛れもなくプレジデントのものにそっくりであり、実力自体は非常に強力な事は疑いはないだろう。
『このままここで朽ち果てるのは御免だ。さあ猟兵の諸君、私の拳の錆になるがいい!』
 オロチが拳を構えステップを踏み始め、それに応ずるように猟兵達もこの邪悪を討たんと一斉に行動を開始したのであった。
虚偽・うつろぎ(サポート)
世界問わず大歓迎
世界を超えて自爆活動さ
アドリブ連携等ご自由に

登場即自爆
自爆できれば台詞も活躍もいらぬ!
速攻で自爆することが最優先
1歩も動かず即自爆
そう、自爆だ
僕に自爆をさせるんだ!
僕もろとも鏖殺だ
これぞ鏖殺領域なり

ただ自爆するためだけに現れる存在
何かいきなり自爆する怪奇現象
もはや災害である

技能:捨て身の一撃を用いての
メッサツモードによる高威力な広範囲無差別自爆

射程範囲内に敵が1体でもいれば速攻で自爆
自爆することが最重要
なので敵がいなくても自爆するよ
大事なのは自爆までのスピード
有無言わせぬスピードで自爆する
これ最重要だね

捨て身の一撃なので自爆は1回のみ
1回限りの大爆発
自爆後は爆発四散して戦闘不能



●ハームフル・ディザスター
 戦闘態勢に入った憑装オロチはその身にオーラを纏い猛烈な加速と共に低空を飛翔し突進する。
 整えられた影の城の街並みを疾走する邪悪の先には一体の文字のような形状をしたブラックタール、虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)。
 オロチの恐るべき速度に反応できていないのか、うつろぎにその場を移動し回避する様子はない。
『まずは一つ!』
 両腕に装着された機械腕で拳を作り、憑装と大統領魂に強化されたストレートを真っすぐに突き込んだ。
 黒き液体の体といえど、その強烈なストレートと生じた衝撃波には耐えきれずバラバラに吹き飛ばされてしまう――しかし、うつろぎにはそんな事はどうでもいい。
 彼の頭にあるのはある一つの衝動のみ。それを速やかに満たす為ならばその身がどうなろうと知った事ではない。
 ぞわり、とブラックタールを拳で打ち抜いた憑装オロチの背に嫌な悪寒が過る。
 だが既に手遅れ、よく見れば周囲にいたはずの猟兵は二者の周囲から離れ姿を消していた。
「うつろぎ式・切宮殺戮術『一爆鏖殺』 これが僕の鏖殺領域さ」
 ユーベルコード発動。瞬間、狂気のブラックタールがまるで炸裂寸前の爆弾のように瞬時に膨張する。
 それは彼が内包する殺戮衝動、或いは自爆衝動が表出したかのよう。
 大統領のオーラにより凄まじい速度の飛翔を可能にするオロチと言えど、この至近距離の自爆から逃れる術はない。
 咄嗟にオロチが両腕の肘と肘を合わせて密着させ顔面を機械腕でガードした直後、うつろぎは盛大に弾け飛んだ。
 彼の半径121メートル内の空間全て――至近距離にいた憑装オロチを整然とした影の城の街並みごと吹き飛ばす強烈な爆発により、うつろぎ自身も四散し戦闘不能となる。
 しかし、直撃を受けたドクター・オロチは倒れる事無く地を踏みしめ立っていた。
『自身の身を省みない自爆……これも猟兵の強さなのか!』
 その自爆は纏った大統領のオーラを吹き飛ばし強靭な肉体にもダメージを刻み込む程に強烈。
 それでもオロチはプレジデントの如く感心した風に呟き、その拳を構え直した。

成功 🔵​🔵​🔴​

島津・有紗(サポート)
絡み・アドリブ歓迎
「じゃあ、始めましょうか」
戦闘前にイグニッションカードから装備を展開して装着します。
味方と連携しつつ索敵しながら行動し、相手との距離に合わせてなぎなた、強弓、ガンナイフを使い分けて戦います。
味方と連係する場合は、攻撃より味方の支援を優先します。
UCは状況に合わせた物を選択して使用します。



●ハートレス・シューティング
「起動(イグニッション)!」
 掛け声と共に武装を展開、装着した巫女装束姿の島津・有紗(人間の戦巫女・f04210)が弓を構える。
 先の猟兵が巻き起こした爆発に紛れ周囲を確認しつつ、標的から約二百メートル離れた影の城建物の屋根へと上り射線を確保した彼女の狙うは憑装オロチ、脳髄の頭部。
「じゃあ、始めましょうか」
 明らかに拳の間合いでの戦いを狙ってくるオロチに対し、有紗は先の爆発の範囲外より大型の弓を引き絞り牽制の矢を連続で放つ。
 改良により腕輪型まで小型化された回転動力炉により出力を向上させた強弓の矢は、命中すればオロチをも貫通するであろう。
『おっと』
 だが、憑装オロチはボクシングスタイルでの華麗なステップで矢の群れをすり抜けると爆発的な加速と共に有紗へと飛び込んでいく。
 有紗の矢を巧みに躱しながら見る見るうちに距離を詰めてくる憑装オロチ、その狙いはその巨大機械腕をフルに活かせる接近戦なのだろう。
 近づかせる訳にはいかない――自身とオロチの距離が百メートルを切った瞬間、有紗はユーベルコードを起動する。
「逃がさないわ!」
 有紗のユーベルコード【アロ―レイン】、浄化の力を宿せし1110本もの破魔矢が強弓より放たれ、幾何学的な軌跡を描きながら憑装オロチの四方八方から襲い掛かる。
『これは少々厄介だな』
 複雑な読み辛い軌道で襲い掛かる破魔矢の嵐に対し、オロチは衝撃波をも伴う機械腕で殴り吹き飛ばしていく。
 四連撃全てが命中すれば相手を死に至らしめる強烈な拳は千以上の矢を薙ぎ払い、けれど数発の矢はそれをすり抜け憑装によって筋骨隆々となった脳髄の異形の胸を貫き浄化する。
『ムシュシュ……その程度で私が倒れるとでも?』
 それでもオロチは悠々と突き刺さった矢を引き抜いて、余裕綽々にそう言い放つ。
 確かに矢は命中しているが、まだまだこの異形を撃破するには有効打を重ねる必要がありそうだ。そう有紗は思考しつつ、次の矢を強弓に番えるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

大神・零児(サポート)
アドリブ共闘可
単純戦闘の場合
強力な一撃を叩き出せそうなUCか、形勢逆転が狙えそうなUCを

味方や護衛・救助対象への援護や支援が必要な場合
味方や護衛・救助対象へのサポートとなるようなUCを

戦闘のみ
所持している武器・アイテムを効果的に使い戦局を有利にするよう行動(所持アイテム等を駆使し攪乱や敵の隙をつくる等)

救出・護衛
対象者の命最優先で行動
敵の動きに注意し、牽制しながら戦う
仲間との連携・連絡はアイテムも駆使し密に

常時使用技能
戦闘知識
第六感
野生の勘
見切り
地形の利用
世界知識
咄嗟の一撃
情報収集
早業

護衛・救出対象等有
拠点防御
時間稼ぎ
鼓舞
失せ物探し
オーラ防御
覚悟
救助活動
かばう
聞き耳

C-BA使用
運転
操縦
運搬
騎乗



●ネームレス・リベンジ
 破魔矢の嵐を耐えきった憑装オロチは、堂々とした立ち振る舞いを崩さない。
『さあ次は――其方か』
 影の城内をぐるりと見渡すドクター・オロチ、その視線の先には鮮血の氣のオーラを纏う大神・零児(魂から別れたもう一人の令二・f01283)という人狼の姿。
 城内の建物を遮蔽物として利用しつつバイクで疾走する黒き人狼は、機械獣でもあるバイクに搭載された砲撃ユニットから小型グレネードを次々に発射、オロチを牽制する。
 憑装オロチはその機械腕を構えると見事な連打でグレネードを殴り飛ばし追いかけてくるが、零児は更にバイクを巧みに操り建物を上手く利用して接近を許さない。
(「ここで終わらせるぞ」)
 悪しき銀河帝国の科学者、帝竜として再孵化した緑の巨龍と、倒されても何故か復活する奇怪な異形の要となる物体がこの城には眠っているとの事だ。
 倒してもまた何処かに現れるだろうと予想はしていたが、今回それを確保できれば本当にこの邪悪を終わらせる事ができるかもしれない――そんな事を思考しつつ、水晶の剣を抜く。
 群竜大陸、帝竜ドクター・オロチが存在していた脳髄牧場の領主である彼が有するその剣は奇妙な残光を放つ不思議な剣だ。
 牽制しながら行っていた周囲の地形を確認も十分、水晶剣を手に零児はバイクを一度停止し、華麗なステップで距離を詰めてくるへと方向転換。
 ――彼を苛んだ悪夢の記憶、その中で悪辣を極めていた異形そっくりのこの存在に対し、今回彼が使用すると決めたユーベルコード。
「戦士達よ、無念を晴らせ!」
 それを起動すると共に水晶剣を振るえば、彼の周囲の空間が水晶剣の残光のような色合いで人の形にくり抜かれたように変化する。そして、その中から多数の霊が飛び出して配置についた。
 それは零児を苛んできた悪夢、シルバーレイン世界でかつてあった戦争で見た人狼騎士達の霊。彼らは、長年にわたりこのドクター・オロチそっくりの異形とその同類に操られ、無惨な最期を遂げさせられていた。
 無念をぶつけるかの如く名も無き無数の人狼騎士の霊達の半数が詠唱ライフルを一斉に発砲、同時残り半数が長剣や槍を手に憑装オロチへと飛び込んでいく。
『人狼騎士か。うっとおしいね!』
 少女の声で苛立ちを露にしながらオロチはライフル射撃を機械腕で防ぎつつ飛び込んできた騎士達を華麗なステップでいなしながら殴り飛ばす。
 フィールド・オブ・ナインの一人であるプレジデントを憑装したオロチは多勢である人狼騎士の霊とも真っ向から殴り合えるほどに強化されていて、
『……そっちが狙いなのだろう?』
 そして背後からオロチの頭部目掛け飛び込んできた人狼騎士の奇襲を機械腕で受け流し、その長剣を砕きながら衝撃波で吹き飛ばす。
 けれど読みが当たったのはそこまで。
 もう一人――零児自身が音もなく無名の人狼騎士に紛れ飛び込んできていたのだ。
 危険を感じ振り返るが間に合わず、水晶剣は憑装オロチの脳髄に深々と突き刺さる。
『そんな攻撃、効きはしないさ!』
 オロチはアッパーで殴り飛ばそうとするが零児はその前に後退して直撃を回避、衝撃波に弾かれる勢いで一気に距離を取ってバイクに再び騎乗。
(「……嘘だな」)
 零児はオロチの言葉に偽りの気配を感じとっていた。確かにまだ倒れるには早いのだろうが、確実にダメージは積み重なっている。
 そして零児は今度こそこの異形を終わらせる為、再びバイクを加速させ次なる攻撃の機会を伺うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋月・充嘉
(確認次第、すぐに【指定UC】発動)
…ふむ、あれは確かに私のようだな。自分で自分を見ることになるとは、なんとも奇妙な感覚だ。

しかし、今の私は彼に従っているのでね。
ボクシングといこうじゃないか!
こちらは彼の作り出した影のそれだが、向こうは機械腕まで用意できたとはね。あれも気に入ってはいたが、今の私にはこれで充分。

相手の攻撃にあわせて、ブロックや回避をしつつ反撃に転じよう。
多少、身体が痛むだろうが許容範囲だろう。

そういえば、彼から聞いたよ。君は幾多の世界をまわった腰抜けだと。
挙句、他人の力を借りてまで逃げの算段をとろうとも。

そんな君に、『私』は相応しくない。とっとと失せたまえ。


イグニス・ランフォード
…今はオロチだったかの事を聞いて駆け付けたんだが…
随分と様変わりしたな…口調まで変わって…
兎に角、お前が俺の知る異形であろうとなかろうと
ここで終わらせてやる

ボクシングスタイルで真正面から行く
筋力である以上、腰・胸・肩等の筋肉の動きで初動を「見切る」
更に「第六感」も合わせて感知した攻撃に少しズルだ
装備バリアウォールで攻撃の軌道上に透明な障壁を発生させ
超加速を少しでも減速させてこちらの対応を間に合わせる
覇気で直接触れないよう「武器受け」それを堪えずに受け流し
懐に踏み込む
そして頭にUCをアッパーで決める
他所の世界に迷惑をかけるな!



●最後は拳を
 かつて銀誓館学園と交戦した異形の一体、無血宰相トビアスは、その悪辣かつ邪悪な作戦の数々で能力者達を苦しめた。
 あまりの非道さに全力で警戒された結果、11年前の夏に大きな戦いで石化捕獲、更には城主の許可なしに出入りできない影の城に徹底的に封印され、そしてそのまま他の異形達の消滅と同時に消滅した――という事になっている。
 その異形とドクター・オロチの正確な関係性は不明だが、同じ異形を少しばかり混ぜて名前を変えただけのようなその存在は当時の異形とそっくりな邪悪さで三つの世界に現れ出でて暗躍している。
 その事実を聞きつけたかつての能力者、イグニス・ランフォード(近接武術師・f35304)という青年は、この邪悪を討つためこの世界にやってきたのだ。
 ――とはいえ。
「……随分と様変わりしたな……口調まで変わって……」
『私が憑装されているからね!』
 十字架の紋様に集中する人狼騎士の霊の銃撃を機械腕で受けブローによる強烈な衝撃波で反撃しつつ、余裕ありげな口調でドクター・オロチはイグニスの呟きに反応する。
 単品なら可愛らしさも感じられる赤い熊のパーカーにおぞましい脳髄そのものの顔面、響く声は少女のよう。
 だが肉体はと言えば――パーカーが可哀想になる位に内側から筋肉に圧迫されており、声も奇妙なカリスマ性を有しているようにも聞こえる。
 彼の知っている異形と印象はまるで別物だ。
「……ふむ、あれは確かに私のようだな。自分で自分を見ることになるとは、なんとも奇妙な感覚だ」
 そんな言葉を呟くのは秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)、彼の雰囲気は普段の軽薄なものから今の憑装オロチに似た堂々としたものに変化している。
 ユーベルコード【肉体譲渡・大統領だった男】、充嘉自身の肉体を憑依させたプレジデントに使わせて代わりに戦わせる力だ。
 ――もっともドクター・オロチの憑装とは異なり巨大な機械腕は装着されておらず、純粋な戦力としては一歩譲る形になるだろう。
『君も私ならば、共に戦ってくれないのかな?』
 そう、充嘉に問いかけ握手を求めるように機械腕を差し出してくる憑装オロチ。
 だが、
「今の私は彼に従っているのでね。――さあ、ボクシングといこうじゃないか!」
 それを拒否した上で、筋骨隆々なキマイラはそうするのが当然のように両腕を構えオロチに相対し。
「兎に角、お前が俺の知る異形であろうとなかろうと……ここで終わらせてやる」
 かつて銀誓館学園で戦った青年は殺意を籠めて構えを取り。
『なら私は諸君を打ち破ってみせようか!』
 そうオロチは宣言し、装着された機械腕を構えて二人の猟兵に襲い掛かった。
 恐ろしいまでの筋力から放たれる超速度の拳――狙いは充嘉、彼は先を読んでいたようにバックステップで回避する。
 拳が空を切り、豪風の如き衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばしていく中、回避した直後に姿勢を低くして充嘉が憑装オロチの懐へと飛び込んでいく。 
「――そういえば、彼から聞いたよ。君は幾多の世界をまわった"腰抜け"だと」
 影とは言えどプレジデント本人と遜色のない華麗なステップで踏み込んだ充嘉のリバーブローがドクター・オロチを打ち抜く。
「……挙句、他人の力を借りてまで逃げの算段をとろうとも」
『腰抜けとは心外だな』
 しかし強化され筋肉の鎧纏う憑装オロチはその一撃を耐え、反撃に強烈なフックを繰り出してくる。
 回避が間に合わぬと判断した充嘉は咄嗟にガードを固めるが、オロチの恐るべき筋力は彼の鍛えられたキマイラの肉体をも大きく弾き飛ばし建物に叩きつけた。
 崩れる建物にキマイラの体が埋まっていく中、入れ替わりにイグニスが憑装オロチへと飛びこんでいく。
『ここで真っ直ぐに来るか。成程、面白い!』
 対するオロチも巨大な機械腕を装備した腕を上げ、半身に構える。
 ボクシングスタイル同士の対決となった二者、先にオロチの左拳が最小限のモーションから超速度で突き出される。
 恐ろしくシンプルな殴り合いだが、イグニスは持ち前の勘と戦闘経験でその高速ジャブをダッキングで掻い潜りオロチの懐へと飛び込んでいく。
 それをオロチは冷静にバックステップで距離を取り、恐るべき筋力から機械腕を装着した右拳を繰り出してくる。
『中々やるじゃないか! ああ、殴り合いは実にいい!』
 一撃貰えば暫く行動できなくなる程に強烈な憑装オロチの拳に対し、イグニスは有効打を貰わぬように慎重に間合いとタイミングを図りながら拳を躱していく。
「……ここまでやるとはね。戦いの後は多少、身体が痛むだろうが……」
 がらりと、瓦礫を押し退けながら立ち上がる充嘉。
 少々痺れはあるが許容範囲だろう、と充嘉の肉体を操るプレジデントは立ち上がり、回避の為後退したイグニスを追撃しようと踏み込んだオロチへと仕掛けていく。
『しつこいな、君は』
 そう冷たい声で言って憑装オロチは充嘉へとカウンターのストレートを見舞う。
 だが充嘉はそれを完全に衝撃波の範囲も含め見切り、ギリギリのところで回避してその脳髄の顔面に影纏う拳を撃ち込んだ。
『グッ……!』
 よろめく憑装オロチ、加えてイグニスが回避から攻撃に切り替え取った距離を一気に詰めて攻撃にかかる。
 憑装したプレジデントの直感からか、反射的に体勢を立て直してストレートを合わせてくるオロチ。
 だがイグニスは盛り上がった筋肉――特に肩と胸の挙動に注意を向けてその一撃の起こりを読んでいた。
 そのストレートの軌道上に詠唱兵器に組み込まれた装置により透明な障壁を発生させつつ身を更に屈める。
 バリアは憑装したオロチの膂力にガラスのように砕かれてしまう。けれど、その一撃を僅かに減速させる事には成功。
 万全な状態での反撃だったならその次のイグニスの狙いにも対応できたのだろう。だが、体勢を崩された状態からどうにか合わせた程度、それ以上のまともな反撃は困難。
 身に纏う覇気で苦し紛れに振るわれる機械腕の勢いを直に触れぬように受け流しつつ、イグニスはもう一歩前へと踏み込んでいく。
 完全に懐に潜り込まれたこの状態、ここでオロチは自分に逃げ場がない事に気付いたのか、
『い、イヤだ……! このボクがこんな所で……!』
 憑装したプレジデントの面影もない、見苦しい叫び。
 それを聞き届けるはずもなく、イグニスは竜殺しの聖人の名を肖った詠唱兵器纏う右手を握りしめてユーベルコードを起動。
「……他所の世界に迷惑かけるな!」
 影の城の地を踏みしめ、脳髄の頭部に真下から拳を突きあげる。
 いわゆるアッパーカット、充嘉により軽く体勢を崩されていたオロチの弱点を見事捉え、空へと打ち上げた。
「他人の力で逃げを打とうとするそんな君に、『私』は相応しくない」
 とっとと失せたまえ、その充嘉の言葉と共に、オロチの体がどしゃりと墜落。
 そしてそのまま立ち上がる事無く肉体は萎み元の姿に戻って、そのまま消滅していった。

 ――かくして、複数の世界で暗躍したドクター・オロチはその復活能力の根源であるコンクリート塊を猟兵達に回収された。
 生命存在への悪意振りまく悪しき異形は、今やかつてのように他を害する事の出来ない動けない存在へと封印されたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月28日


挿絵イラスト