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或いは夢の終わりに

#ダークセイヴァー #禿鷹の眼の紋章 #闇の救済者 #第3章受付期間:5月23日〜6月9日

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#ダークセイヴァー
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#禿鷹の眼の紋章
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#闇の救済者
#第3章受付期間:5月23日〜6月9日


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●奇跡の終わり
 足を、止めてはならない。進み続けなければならない。停滞に生は無く、でなければあの日に報いることなどできはしない。
「——……ようやく」
 漸く、と男は声を落とす。強く握りしめた手が深い傷を残していた。古い傷。両の手を穿つそれは、あの日の喪失の証であった。
「漸く、ここまで来た。ユーベルコードよ」
 闇の救済者たる男は息を吐く。早朝に落とす息が白く染まるのも気にせぬままに一度だけ目を伏せる。
「これがあれば、私達も漸く戦うことができる。ただ抗うのではなく、抗いすり減っていくものでは無く……ようやく」
 戦いになる、と男は告げる。
「死した仲間を、彼らを漸く眠りに送ることができる。旗印になどせずに。おまえを……、友よ」
 その死さえ、使えと言うように今日まで進んできた。そう、この力を得るときまで。だからこそ思ってしまうのだ。
「——なぜ、いまなんだ」
 あの時、どうしてこの力を得ることが出来なかったのか、と。

●或いは夢の果て
「闇の救済者達についての話は、耳に届いているかしら」
 シノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)がそう言って、猟兵達を見た。
「各地に集結した「闇の救済者」達は今や地方の小領主程度であれば圧倒できるほどの戦力を有しているの」
 そして彼らの中にも、ごく僅かずつではあるがユーベルコードに覚醒しつつある者が現れたのだ。
「彼らがその才能を開花させることができれば、闇の救済者達にとって強力な一手となるかもしれないわね」
 戦う為の術、だ。だが、抗いでは無く戦いになるのであれば——その脅威をヴァンパイア達が見逃す訳も無い。
「領主ヴァンパイアが動いているの。
 拠点ごと彼らを潰すつもりのようね。今から行けば、少しばかり準備の時間もあるでしょう」
 とはいえ拠点は古びた礼拝堂の跡地だ。3つの門だけが残り、屋根は無く、外壁だけが残る。
「ここには、彼らの仲間が眠っているそうよ」
 シノアはそう言って、猟兵達を見た。
「襲撃が来ると言えば、彼らは否を唱えることはないでしょう」
 最初に来るのは古き使徒の大軍だ。大軍を打ち崩せば、指揮をする戦士が姿を見せるだろう。
「少し厄介な相手よ。「禿鷹の眼の紋章」を装備している」
 決して油断できる相手ではないだろう。
 通常の攻撃に加えて、禿鷹の眼の紋章から自動的に放たれる、対象の肉体ごとユーベルコードを捕食する攻撃」で闇の救済者や猟兵を攻撃する。
「この攻撃への対処も必要となるわ」
 そこまで言って、シノアは猟兵達を見た。
「何を手に入れても、満足する答えなど出ることは無いのでしょうけれど……」
 グリモアの光を淡く灯し、シノアは道を開く。
「その悩みも命を、好き勝手に刈り取られる理由など無いのだから」


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

●各章
 第一章:忘れられた教会
 →廃墟となった教会でのひととき。
  準備をしたり、闇の救済者達と話をしたり、廃墟を散歩してみたり。
  闇の救済者達達は、猟兵達に協力的です。

 第二章:信仰し進軍する人の群れ

 第三章:ボス戦。詳細は不明
*「禿鷹の眼の紋章」を装備した強力なオブリビオン。
 通常の攻撃に加え、「禿鷹の眼の紋章から自動的に放たれる、対象の肉体ごとユーベルコードを捕食する攻撃」で闇の救済者や猟兵を攻撃する。

 各章、導入追加後、プレイング受付告知致します。
 プレイング受付期間はマスターページ、タグでご案内いたします。受付前のプレイングは全てお返しします。

 だいたいゆっくり進行です。
 状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

●お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為『お名前』or『合言葉+IDの表記』をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

 それでは皆様、ご武運を。
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第1章 日常 『忘れられた教会』

POW   :    あちこち巡ってみる

SPD   :    物思いに耽る

WIZ   :    祈りを捧げる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●古き眠りの地
 そこは、嘗て白銀の名を持つ地であったという。美しい白い石が採れたのだという地はとうに寂れ、その名残が門に残る。三つの門に、壁ばかりを残した古い教会は、闇の救済者達の拠点であり仲間の墓がある地であった。
「……別に、それらしく形を整えているだけだ」
 ユーベルコードに覚醒しつつある男は、静かにそう言った。空の柩に、僅かばかり持てたものを収めているだけに過ぎない、と。
「運命に使い尽くされた者たちを、いまだ眠らせられずにいるだけだ」
 吐き出された息が白く染まる。僅かだが、今の時期であれば白詰草も咲くのだと男は言った。
「奥の広場……、俺達はそう呼んではいるが実際は礼拝堂があった場所らしい。あそこには鈴蘭が咲いている。どうしてか、今の時期も綺麗に咲いていてな」
 見て回る程度の楽しみにはなるかもしれない、と男は告げた。
 領主ヴァンパイアが差し向けたオブリビオンが来るまでは、まだ少しある。さぁ、何をして過ごそうか。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第一章受付期間:4月21日8:31〜

●リプレイについて
闇の救済者達と会話をしたり、廃墟となった教会を散歩したり、好きにどうぞ。
闇の救済者たちは、猟兵に友好的です。

覚醒したリーダー格の男
→ユーベルコードに覚醒しつつある男。過去に友人を亡くしている。

教会
→古びた教会。三つの門が残るそこそこ大きな教会。地下にあるスペースを拠点として使用している。屋根なし。外壁はそこそこ残ってる。
 白詰草が咲いており、礼拝堂があったスペースには鈴蘭が群生している。

◆―――――――――――――――――――――◆
邨戸・嵐
景色を見るのも楽しそうだけど
目当ては頭目の君
わるい夜にならないといいねって声を掛けよう

友達ってひとのこと聞かせてよ
戦う力を手に入れた気分はどう?
使いこなしたいなら練習ぐらいは付き合うよ
俺は、君に勝って欲しいから
望みが果たされたあとの君に残るものはなんだろう
食べ比べてみたいの

悼む、悔いる、惜しむ
ひとが負の意味を籠めて使う感情の名前たち
もう崩れそうな顔しながら、それを理由に前へ進んだりするんだ
すごく不思議で、面白い
俺にその味を教えて
君の決意ってやつを形作るものを紐解いて、一個ずつ味わいたい

だんまりだったらそれはそれ
戦いは真面目にするから安心してよ
勝利の美酒は甘いんでしょ
デザートにちょうどよさそう



●夜の底にて
 風が、乾いた砂を攫っていた。砂埃になるには薄く——ほんの一瞬、古びた礼拝堂に色を添えた。残された三つの門は、この地の嘗ての姿を残していた。
「景色を見るのも楽しそうだけど」
 銀の瞳を細め、青年はゆるり、と笑う。硬い地面に落とした靴音は不思議と響かぬままに、艶やかな黒髪だけが風に揺れていた。乾いた壁を視線で撫で、辺りを見渡した先、トン、と紡いだ足音と共に青年は——邨戸・嵐(飢える・f36333)は一歩を紡ぐ。
「わるい夜にならないといいね」
 トン、カツン、と僅かに残った石畳を叩くように足音は響いた。声を投げた先、ひとり拠点の外周を眺めるように立っていた男がややあって振り返った。
「……猟兵の方か。……確かに、これ以上悪い夜になるよりは良いものの方が良いだろうな」
 くすんだ金色の髪が揺れるのをそのままに、ユーベルコードに覚醒しつつある男が振り返った。
「何か、分からないことでも?」
 吐息ひとつ、零すように紡がれた言葉に静かに嵐は微笑んだ。
「友達ってひとのこと聞かせてよ。戦う力を手に入れた気分はどう?」
「——……、何故」
 元より、そう愛想が良い訳でも無い男の声が僅かばかり低く響いた。細められた瞳から滲む情に嵐はゆるり、と笑う。それは、人の悪いそれとは違う——どこか、ひとの理の外にあるような者のする美しい笑みであった。
「使いこなしたいなら練習ぐらいは付き合うよ。俺は、君に勝って欲しいから」
 薄く開いた唇は笑みを刻み、ほっそりとした指先で嵐は己の唇に触れるように告げた。
「望みが果たされたあとの君に残るものはなんだろう。食べ比べてみたいの」
 邨戸嵐は蛇である。いつか己を満たす一口を求め、渡り歩く青年は確かな情を唇にひとつのせて、頭目の男に微笑んだ。
「悼む、悔いる、惜しむ。
 ひとが負の意味を籠めて使う感情の名前たち。もう崩れそうな顔しながら、それを理由に前へ進んだりするんだ」
 すごく不思議で、面白い、と嵐は吐息ひとつ零すようにして顔を上げた。
「俺にその味を教えて。君の決意ってやつを形作るものを紐解いて、一個ずつ味わいたい」
「……貴方は、人が良いのか悪いのか、分からないな」
 ため息に似た言葉がひとつ、嵐の耳に届いた。そこにあるのは嫌悪の類いでは無く、物珍しげにこちらを見て、やれ、と落とされた息であった。
「……だが、そうだな。変に気を遣われるよりは幾分か気が楽か」
 あれは、と男は薄く唇を開く。
「……なんてことは無い普通の男だったさ。人より少しばかり思い切りが良くて、変なところで要領が悪いからリーダーにもなって」
 全てがうまく行く訳でも無い。それでも、こいつといればどうにかなるんじゃないかと思うような存在だった、と男は告げた。
「そうして、先に逝った。俺達の後悔も悼みも、全部背負って。つかえ、なんて言ってな」
 楽な終わりでも無かった。この力があれば、あの時、あいつをもっと早く連れ帰ることだって出来たはずだ。
「間に合えただろう。……このユーベルコードは、広範囲に氷結の領域を展開することができる」
 ゆるり、と話を聞きながら嵐は微笑む。後悔、悼み、悔しさ、それと——僅かばかりの懐かしさが男の言葉にはあった。背負った体が冷たくなるのも知っていて——だが、彼らが笑っていた日々のことも覚えているからこそ、声は遠い日をなぞって思い出すような味がする。
「もう普通に眠ったって良いはずだ。だからこそ、間に合わなかった俺は今回こそ間に合わなければいけない」
「それが欲望だね」
「あぁ。——付き合って貰いたい。練習に」
 聞いただろう、と投げられた言葉に、ちいさく笑って嵐は頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィー・アンタレス
朽ちた景色を一瞥しても
感情が薄い俺には特に響くものは無いが
…なんだろうな
僅かに胸の奥で擽る感覚
存在していなかったそれは
恐らく他人に影響された『何か』で
未だ俺自身は理解していない感覚

人形である俺は人の生死にも無頓着
けれども、それを大切にすることを否定はしない
永遠は無い
別れがあることは分かっている
だからこそ、区切りを設けることは大切だし
その時間を他者に歪められるのはおかしいだろう

教会は人によっては神聖な場だろう
心の拠り所して救われる奴がいるのなら
この場を護るのは猟兵としての役割か

花を綺麗だ、と云う感覚は無い筈だが
この世界でも咲く懸命に咲く白詰草を見れば
これ以上荒らさないようにはしようと
何故か思った



●風見の鳥
 冷えた風が、乾いた砂を攫う。くすんだ壁は、元は白くあったのだろう。刻まれた装飾はとうに形を失い、さらさらと白い粉が風に舞っていた。
「……」
 触れてすぐに崩れるようなものでも無いだろう。さく、と靴先が触れた枯れ草に青年は一度目をやった。僅かに残った石畳、奥へと続く三つの門。巡礼の地で無くとも、此処に祈りに来る人々はいたのだろう。
「……」
 ひゅう、と一度風が強く吹いた。高く響いた音は、外壁に残された窓が理由だろう。礼拝堂へと続く道には、細い芝生が点々と残されていた。
「……なんだろうな」
 吐息ひとつ、零すようにサフィー・アンタレス(ミレナリィドールの電脳魔術士・f05362)はゆっくりと視線を上げた。気だるげに落とす息ひとつ、朽ちた景色を一瞥しても、感情の薄い自分に特に響くものは無い。そう、確かに『無い』筈だというのに——足を、止めていた。
「……」
 僅かに胸の奥で擽る感覚。存在していなかったそれは、恐らく他人に影響された『何か』で——未だサフィー自身は理解していない感覚であった。
 息を、落とす。零す吐息と共に、つい、と落ちてきた眼鏡をあげた。冷えた風に億劫に思うことがあれど——別段、暖める必要があるわけでも無い。サファイアンブルーの瞳を細め、サフィーは胸の奥、確かにあるざわつきに似た感覚を思う。いまだ輪郭も朧気なそれを。
(「人形である俺は人の生死にも無頓着。けれども、それを大切にすることを否定はしない」)
 永遠は無い。
 別れがあることは分かっている。
「だからこそ、区切りを設けることは大切だし、その時間を他者に歪められるのはおかしいだろう」
 小さく呟き落とした言葉が風に触れる。二度、三度と気まぐれに風が吹くのは、この地に残ったのが外壁ばかりであるからか。何度目かの息と共に、サフィーは乱れた髪を軽くかきあげる。目の端、小さく見えたのは彼らの墓標だろう。簡素な、小さな石版を墓石に見立てたそれに白い花が置かれていた。
 ——遠からず、此処は戦場となる。
 奥にある広場、嘗ての礼拝堂までは巻き込むことは無いだろうが、教会は人によっては神聖な場だろう。
「心の拠り所して救われる奴がいるのなら、この場を護るのは猟兵としての役割か」
 ふいに、風が花の香りを運ぶ。通りに石畳と共に点々と咲く白詰草だろう。気まぐれに止んだ風に足を向ける。見れば、一面の花畑には及ばずとも——確かに咲き誇る白く小さな花々がサフィーの目の映った。
(「花を綺麗だ、と云う感覚は無い筈だが」)
 この世界でも咲く懸命に咲く白詰草の姿に、これ以上荒らさないようにはしようと——何故かそう思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
いずれ力を得られるなら、何故、あの時に、と。
悔恨するのは人らしい。

リーダー格の方と話してみたい気分なので、探します。
怒らせてしまうかもしれませんが。

この教会には如何なる謂れがあったのでしょう。
人々が拠点にするに相応しい歴史があれば興味深い。
血腥く悲しい挿話であれば、やぶ蛇でしょうか?

え、教会に興味がありそうには思えない?
すみません、仰る通り。
ダンピールだからではありません。

祈りに救済の力はない、と思っているので。
……貴方もそうかもしれませんが。

ふふ、此所に骸があったとして。
魂はありませんよ。

そうですね、友の代わりに戦い、生きて、死んでください。
その果てに、再び会えると……祈っていますよ。



●末尾の棘
 一度強く吹いた風が、砂を巻き上げる。地面が乾いていたのか、或いは外壁ばかりが遺った礼拝堂が故か。刻まれた装飾は姿を無くし、ごつごつとした白い壁だけが並ぶ。屋根は先に落ちたのだろう、点々と通りに白い石が積みあげられていた。
「さて」
 長く伸びた影が、積みあげられた破片に触れる。一つ、二つ似通った形ばかりが残されているのはそれ以外に用途があるからだろう。遠く見えた墓石には、整った小さな石が置かれていた。
「いずれ力を得られるなら、何故、あの時に、と。悔恨するのは人らしい」
 乾いた風が、古い骨の匂いと花の匂いを運ぶ。甘い花の香りは、あの広間に見える鈴蘭だろう。ふ、と吐息一つ零すようにして影の主は笑みを刻む。礼拝堂の手前、その中を眺めるようにして探していた男の姿がみえていた。
「どうも」
 その背に声をかける。乾いた草を踏む男の足音が響く事は無く、影だけが目当ての男の背を叩いていた。
「……猟兵殿か。何か入り用でも? この地も、今の季節であれば見て回るだけのものも一応はあるが……」
 捜し物というわけでも無さそうだな、と振り返った男に影の主人——黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は微笑んだ。
「この教会には如何なる謂れがあったのでしょう。人々が拠点にするに相応しい歴史があれば興味深い」
「……」
「血腥く悲しい挿話であれば、やぶ蛇でしょうか?」
 緩く首を傾げることのも無いままに、風が艶やかな黒髪を揺らす。ほんの一瞬、瞳の赤が隠されれば頭目の男は静かに息をついた。
「相応しい歴史など……、いや教会ってものに貴方が興味を持っているようには思えないが」
 静かに向けられた視線に怒りは無かった。ただ、僅かに見えた警戒に宵蔭は軽く肩を竦めるようにして告げた。
「すみません、仰る通り。ダンピールだからではありません」
「……すぐに肯定するもんだな」
 二度、三度と瞬いた後に男が息を吐く。ため息にも似たそれは男が己を年上と思ってのことだろう。ふ、と吐息一つ零すようにして宵蔭は微笑んだ。
「あなたと話してみたい気分でしたので」
 白皙に黒髪が触れる。淡く落ちた影と共に刻まれた笑みは何処までも美しくとも何処か冷えた夜のような気配があった。
「祈りに救済の力はない、と思っているので。……貴方もそうかもしれませんが」
「救済、か」
 低く這うような声が地に落ちた。男の手から白詰草が滑り落ちる。は、とややあって落とされた言葉は頭目らしい取り繕ったそれではなく、剥き出しの——長く、この地で弔いを続けて来た男の姿だった。
「言ってくれる」
 射るほどの鋭さはあれど、そこに怒りは無かった。吐き捨てられた息ひとつ、随分と、と男は視線を上げた。
「良い性格をしているようだな、猟兵のダンピール殿」
「ふふ、此所に骸があったとして。魂はありませんよ」
 風が吹く。引き結ばれた唇を見ながら宵蔭は静かに微笑んだ。
「そうですね、友の代わりに戦い、生きて、死んでください」
「——」
「その果てに、再び会えると……祈っていますよ」
 では、と宵蔭は背を向ける。言うだけ言って、と響く男の呆れ混じりの声に振り返ることはないままに、カツン、と足音だけを残す。気が付けば、乾いた風に乗る頃には、甘い香りもどこかに消えていた。
「——救済ではない祈り、貰っておこう」
 ダンピールの消えた礼拝堂には男がひとり、壁に背を預け、そう呟いていた。己の運命を、掌握し——いつかの果てを思って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロー・シルバーマン
必要な時が過ぎた後で力を手に入れる、儂のように力はあっても誰も守れない。
どちらでも後悔は避けられず、そして生きている間はずっと苛まされ続ける。
…特にこの世界では。
それでも生を諦める事は許されない。
難儀じゃのう…

迎撃の為周辺の地形を確認。
外壁の強度…登って崩れないかとか、狙撃のし易い場所を見繕えれば。
もし可能なら闇の救済者達と話をしよう。
鈴蘭の咲く場所を散歩しながら、リーダー格の彼をどう思うのか。
今未来をどう考えているのか等を聞いてみる。
…きっと彼は得た力とそれ以上に守らねばならぬという重圧に囚われておる。
だから頼るではなく支える方がいいかもしれぬ、と老人からの助言を一つ。

※アドリブ絡み等お任せ



●祈りの城
 乾いた風が、外壁を削っていた。指先で触れれば、さらさらと砂が零れる。嘗ての装飾は地に落ち、乾いた地面に僅かばかりの白を描いていた。
「外壁は……、そうだな、簡単には倒れない程の強度はあるようじゃのう」
 登って崩れるような事は無さそうだが、それは同時に『あちら側』も登れるという事を意味する。
(「尤も、この奥まで攻め込まれれば、か」)
 ゆるり、と辺りを見渡すと老いた人狼は静かに息を吐いた。
「……この先は、彼らの仲間が眠る場所、か」
 白詰草の添えられた小さな墓石に、ロー・シルバーマン(狛犬は一人月に吼え・f26164)は足を止める。どれもが真新しく——だが、祈るひとの姿はそこには無かった。皆、迎撃の準備をしているのだろう。ローもまた、その為に子の地を見て回ってはいたが——……。
「必要な時が過ぎた後で力を手に入れる、儂のように力はあっても誰も守れない」
 あの時——そう、あの頃。とローは思う。護るべき地が、安らぎたる家族がローの世界にあった頃。襲撃によって聖域は失われ、旅の果てに出会った安らぎも失った。
「どちらでも後悔は避けられず、そして生きている間はずっと苛まされ続ける。
 ……特にこの世界では」
 この手を、滑り落ちた。
 力があったとしても届かずに。喪失は胸に刻まれ続ける。
「それでも生を諦める事は許されない。難儀じゃのう……」
 老いた人狼は息を吐く。ユーベルコードに覚醒したというリーダー格の男とて、ローにしてみれば幾分か若い青年であった。他の救済者たちも、そう年が変わらないか——或いは、下なのだろう。幼子の姿は無くとも、若くして剣を弓を握る姿は点々と見てとれた。
「狙撃手が多いか、墓の辺りは巻きこみたくは無いのう。ならば……外壁、穴があるか。腕の良いものがいれば移動しながらも使えそうじゃのう」
 礼拝堂の手前であれば、扉の名残か柱もある。頑丈なものであれば、上を身軽に移動しても良さそうだ。
「さて、あとは……」
「あ、猟兵さん。迎撃エリアの確認ですか? このあたりは出来て後方支援くらいかなって感じですが……」
 お手伝いできることがあれば、と顔を見せたのは闇の救済者達だった。武器を背負ったまま、崩れた石を運んでいたのだろう。頬についた汚れを気にせぬまま告げた彼らに、ローは好々爺の顔で告げる。
「なら、少し話でもどうじゃ? その鈴蘭の咲く場所でも」
 吹く風に、ふわりと甘い香りが乗った。一歩、二歩と足を進めれば鈴に似た花たちが揺れる。この地を彼らが拠点とした時には既にあったという鈴蘭は気まぐれに花を咲かせるのだという。
「リーダについて、ですか? ありがたいと思ってます。頼りになります」
「色んな事にも詳しいっすよね。先代がいた時は、サポートすることの方が多かったからーって言うんすけど」
 詳しい上によく働いちゃうんすよねぇ、と青年は苦笑した。たまには休んで欲しいんすけど、と零れた言葉と共に救済者達は顔を上げる。
「でも、先代やリーダーのお陰で、俺達は生き続けようと藻掻けてるんだって思うんすよ」
「戦って、勝つか死ぬかで終わりじゃなくて。生きて生き続けようとしないとって。それをあの人のお陰で思い出すことができました」
「そうか」
 それが、彼らの思う「未来」なのだろう。
「……きっと彼は得た力とそれ以上に守らねばならぬという重圧に囚われておる」
 吐息ひとつ、零すようにしてローはゆっくりと言葉を紡いだ。
「だから頼るではなく支える方がいいかもしれぬ」
 老人からの助言だと、ひとつ言い添える。ぱち、と瞬いた青年達が深く頷くのを見ながらローは顔を上げた。
「……」
 風が、変わる。戦いの時が近づいて来ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『信仰し進軍する人の群れ』

POW   :    人の群れが飲み込み、蹂躙する
【槍を持ち一斉突撃を行うこと】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    全てを焼き払い、踏みつけ進軍する
【持ち帰られた弓から放たれる斉射】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【火矢】で攻撃する。
WIZ   :    守るべき信仰の為に
対象のユーベルコードに対し【集団による防御結界】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白き巡礼
 ——風が、変わった。
 土混じりの乾いた風に、鉄の匂いが混じる。一度、濃く届いたのは血の臭いであろう。
「来る」
 誰と無く呟かれた言葉。それは変わった風に気が付いたからではない、拠点の外に『その姿』を見たからであった。
「——」
 それは、一筋の白い光のように『外』にあった。靡く外套、掲げられた槍。乱れぬ隊列は彼らが嘗て祈りの兵として戦いに赴いていた時の名残だ。だが、吸血鬼との戦いに敗れ、オブリビオンとして蘇った彼らには嘗ての信仰は無い。祈りも、矜持も——そして、意志さえも無く、ヴァンパイアの為、書き換えられた信仰の為に彼らが進む。
「照らせ、全ての反逆者を」
「全ての……を祓う為に」
「蹂躙せよ蹂躙せよ」
「これは、天命である」
 闇の救済者たちの拠点に、白き群れが踏みこむ。戦いの時だ。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第2章受付期間:5月4日8:31〜

●リプレイについて
闇の救済者たちの拠点の一角。拠点の手前の方で迎撃可能です。
救済者達も援護します。
ユーベルコードに目覚めつつある闇の救済者は、他の救済者たちの指揮も行います。

シナリオが失敗しないかぎり、彼らに死亡などの被害は出ません。

◆―――――――――――――――――――――◆
邨戸・嵐
動くだけのものに用はないんだ
だってなんの味もしないんだもの
憎悪を飼いながら、希望に満ちながら
武器を手に取る君たちの方が美味しいから
俺はこっちの味方

敵が来る前に拠点のひとにちょっかい掛けて
腹が鳴らない程度には食べておこう
ねえ、勝ってみたい?

夜目なら効く方
闇は紛れるのに好都合
外壁を辿り、群れの中へ不意に飛び込む
UCで暴れて隊伍を乱そう
火矢は自分に掛かるものだけ弾き落として
数体でも同士打ちに至れば重畳

混乱を起こすのが主目的
助けてくれるんだよねえ、どうぞよろしく
救済者たちが優勢になったら最前線からは下がろうか
追い縋って来る敵を迎撃する形で戦線維持

シンプルに痛いのは嫌だし
勝つなら君たちの手でがいいよねえ



●影を踏む
 それは、白い帯のようにあった。
 長く尾を引くように荒れた大地に姿を見せた軍勢は、一度重く足音を鳴らす。オブリビオンとなる前の——吸血鬼と戦っていた彼らの名残か。或いは、存在を告げると同時に踏みこむのが流儀であるのか。
「蹂躙せよ蹂躙せよ」
「これは、天命である」
 低く濁った声が告げる。掲げられた武器がぶつかり合えば、鈍い音が拠点まで届いていた。
「……」
 重く、淀んだ——だが、ただそれだけの音に邨戸・嵐(f36333)は息をついた。
「動くだけのものに用はないんだ。だってなんの味もしないんだもの」
 とん、と足を地面に下ろす。少しばかりの段差に乗って、古い柱に背を預けていた青年は、ひとつ感じた視線に瞳を向けた。
(「憎悪を飼いながら、希望に満ちながら。武器を手に取る君たちの方が美味しいから」)
 ふ、と吐息ひとつ零すようにして嵐は笑う。
「俺はこっちの味方」
「——此処にいたのか。左であればこちらも動くが、このあたりは層が薄くなるが?」
 三つめ、足音を響かせて歩き出した青年が見付けたのは頭目である男だった。僅かに細めた瞳で、射手の配置は向こうになる、と一角を示した男に嵐は一歩を踏みこむ。腹が減らない程度に『食べておく』ために。
「ねえ、勝ってみたい?」
「——、当然だ」
 は、と吐き出された息ひとつ。低く響いた声に嵐は、ふ、と笑った。
 足音が、近づいてくる。ざ、ざ、と統率された音は、ガウン、と一度、槍の背で地を叩いたその時に——崩れる。踏み込みだ、と闇を縫うように外壁を蹴って嵐は身を前に跳ばす。
「……」
 夜目であれば効く方だ。荒く、一度響いた足音を目指すように嵐は、たん、と地を蹴った。
「こんばんは」
 囁くように告げて、白の群れに——その中に、嵐は一気に飛び込んだ。静かな着地、ガシャン、と一度響いた金属の音に反射的にナイフを振り上げた。
「みつけた?」
「——蹂躙せよ」
 ぐ、と槍を押しこまれる感覚に、ナイフを握る腕に力を込めて——身を逸らす。押しこむ力をそのまま利用するように、銀の毒牙を滑らせれば、嵐の瞳が瞬いた。
「綺麗に捌いてあげるからねえ」
 槍の上を滑れば、ナイフは火花を散らす。その赤に一度笑って、嵐は踏みこむ。嘗ての使徒の影を踏み、流れるように振るったナイフが白い衣を引き裂いた。
「れ、は……天……」
 深く沈めたナイフが、群れの一体を貫く。その核を砕けば、崩れおちた一体を飛び越すようにもう一体がこちらを向いた。
「——蹂躙の時だ」
「全てを焼き払い、踏みつけ進軍する」
 時が来た、と低く告げる声と同時に、戦場に火が灯った。
「——」
 頬を撫でる熱。来る、と思った瞬間にはそれは放たれていた。ひゅん、と勢いよく降り注ぐ火矢をナイフで払う。軍勢の只中に入ったのだ。流石に全ては捌ききれずに、腕に、肩に痛みと熱が走る。——だが、その分、敵の意識はこちらに向いていた。
「なるほどねぇ、乱戦もできるか。それとも、こういうのにも慣れてるみたいだねぇ」
 軽く嵐は肩を竦める。た、と間合いを取り直すようにしてナイフを握り直す。
 火矢の扱いには慣れているのだろう。列を乱されようとも、変わらず攻撃を行ってくる軍勢に、ふ、と嵐は笑った。
「助けてくれるんだよねえ、どうぞよろしく」
 告げる言葉は、目の前の相手にではない。この一瞬、たしかに惹きつけた時間を有効に利用するであろう、あの感情の主たちへの言葉。瞬間、援護の矢と冷気が戦場に生まれた。一拍、たしかに動きを止めた敵を見据え、戦いへの一歩を踏み出した彼らの手助けになるように嵐は動き出す。そう、なにせシンプルに痛いのは嫌だし。
「勝つなら君たちの手でがいいよねえ」

成功 🔵​🔵​🔴​

ロー・シルバーマン
ここでならば被害を出さずに戦えそうじゃな。
折角芽生えかけた希望を摘ませる訳には行かぬのう。
…少々、荒っぽくいくとするか。

アサルトライフルで銃弾ばら撒き牽制しつつ、オブリビオンの群にダッシュで接近。
多少拠点外の足場が悪くともどうにかなるじゃろう。
向こうの火矢の射程はかなり長く数も多い、撃ち合いでは少々厳しいじゃろう。
野生の勘と集中力活かし矢の軌道予測し回避、回避しきれぬものは結界術で矢を逸らすようにして直撃を防ぐ。
可能なら拠点から112メートル以上離れた位置かつ射程内に多くのオブリビオン捉えられる位置まで飛び込んだ状態でUC発動。
生き残りが居れば銃弾で確実に追撃、トドメを。

※アドリブ絡み等お任せ



●銀の意志
 降り注ぐ火矢が、一瞬空を焼いた。空を裂くような光に僅かに瞳だけを細めた男は、とん、と廃墟の柱から飛び降りる。
「ここでならば被害を出さずに戦えそうじゃな」
 とん、と草を踏む男は、足音さえ殺す。ゆるり、と立ち上がれば銀の毛が揺れた。
「折角芽生えかけた希望を摘ませる訳には行かぬのう」
 アサルトライフルを手に、ロー・シルバーマン(f26164)はゆるり、と視線を上げた。一体、また一体と倒れる中、白き軍勢は歩みを止めず——ぐ、と僅かに身を沈めた。
「蹂躙せよ」
 軋み響いたその声と共に鎧の擦れる音が、変わる。ガシャン、と一度響いたそれにローは瞳を細めた。
 ——来る。
「……少々、荒っぽくいくとするか」
 荒く入れられた踏み込み。ぐん、と一気に距離を詰めるように行進から乱戦へと切りかわった敵の動きに、ローは息を落とし——地を蹴った。
「——蹂躙を」
「天命である」
 軋み歪んだ声でくり返される言葉に、ローは銃口を向ける。アサルトライフルで派手にばら撒いた銃弾が荒く地面を叩いた。ギンと一度鈍い音が響き、続いた白の衣を破る。
「——抗うか。我らが蹂躙に」
「そうじゃな」
 それが、とばら撒いた銃弾と共にローは前に出る。一歩、二歩、飛ぶように入れた踏み込み。最後の一歩は低く、人狼は入れた。
「天命というものであれば、尚更の」
 跳ぶ。身を沈め、加速に合わせて銃口を下げる。拠点の荒れた足場など気にせずに、瓦礫を飛び越え、横の柱を蹴る。
「ここで終わりにはさせん」
「ならば、我らの天命に跪け。全てを焼き払い、踏みつけ進軍するこそ」
 きりり、と弓の引き絞る音が耳に届く。ローの視界に一つ、二つと光が灯る。
「来るか」
「我らだ。蹂躙せよ」
 次の瞬間、一斉に火矢が放たれた。雨のように降り注ぐ光にローは身を大きく振る。集中しろ、と口の中己に告げる。火矢の射程は長く、敵の数も多い。
(「ならば、直撃は避けるべきじゃな」)
 残った壁を影に、走る。一箇所に留まったところで居場所を特定さえるだけだ。ガウン、と壁を叩いた火矢を合図に前に出る。
「——」
 瞬間、何かが焼ける匂いを感じて身を横に飛ばす。壁を蹴るようにして回避を入れたのは半ば——勘だ。戦場を知り、戦いを知る人狼の野生の勘。それに応えるように声がした。
「……さん! 援護します!」
「前へ。でてください!」
 拠点にいる救済者たちだ。援護射撃と共に弓を番えたオブリビオン達が一拍動きを止める。ユーベルコードに目覚めつつある者の力か。
「——あぁ」
 皆で戦い、進もうとするその姿にローは一瞬口元を緩める。研ぎ澄まされた狼の姿から、少しばかり年嵩の人狼の顔をする。
「そうじゃな」
 手を前に出す。指先、揃えて描いた結界術で火矢を弾く。ひゅん、と頬を掠るように一撃抜けたが——傷は浅い。奥へ、奥へ、軍勢の中にローが踏みこんだのは理由がある。
「来たか、反逆者よ」
「この距離であれば充分だと思ってのう」
 ひゅん、と至近で向けられた矢を躱すとローは吼えた。
「ルォオオオオオオ……!」
「な……れ、は」
 それは、と続くはずであったオブリビオンの言葉が散る。人狼の咆吼。畏怖を紡ぐその吼声に、最後に放たれた火矢が砕け散る。ぐらり、と崩れおちていくオブリビオン達を前に、迷わずローは銃口を向けた。
「これで終わりじゃな」
 拠点からの歓声が擦れるように耳に届く。白き軍勢は崩れつつある。——あと、少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
争いは野蛮でも、聖戦ならば許される。
詭弁ですよね。

だからこそ、私は苦痛を善意としているのです。
誰にでも平等に降り注ぐものですから。

血の糸を戦場に仕掛けつつ、前へ。
結界を張られる前に、何体か仕留められればよいのですが。

距離を詰め、鉄錆で直接攻撃しましょう。
その結界が糸に対応しているならば……阻めますか?

槍に正面から仕掛けるのは不利でしょうから、
敵の影を死角と使い、緩急を付けた攻撃を意識し。

殺し、殺されるだけが戦いではありません。

苦痛の応酬となることは、常に覚悟しています。
骸の海に還るまで、私と血と泥にまみれて踊ってください。

折角神の庭で争っているんです。
一撃で終わるなんて……つまらないでしょう?



●純麗
「——蹂躙せよ」
「我らは天命と共にある」
 軋み響いた声と共に、掲げられたのは信仰であったか。蹂躙を口にしながら突き進む群れに、影から姿を見せた男は静かに息を落とす。
「争いは野蛮でも、聖戦ならば許される」
 揺れる衣が、影を伸ばしていた。艶やかな黒髪が揺れるのをそのままに、黒蛇・宵蔭(f02394)は口元に笑みを敷く。
「詭弁ですよね」
 同じように流れる血でも、容易く美談へと変じ、転がる首は遺物にさえなる。律法の騎士であれば、或いは——信仰そのものが、詭弁を生むのか。
「だからこそ、私は苦痛を善意としているのです。誰にでも平等に降り注ぐものですから」
 瞬間、戦場の空気が変わる。強く吹いた風が止み——血の香りが踊る。空も大地も赤く染まってなどいないというのに、空間そのものが変じていく。
「これは……ダンピール、貴様」
「いずれも、即ち……祝福というものですよ」
 低く這うように響いた声に宵蔭は微笑む。手の中、握る鉄錆と共に一歩を踏みこんだ瞬間、戦場に血の糸が仕掛けられた。ひゅん、と響く音も無く、最初の一体から次へと縫うように血の籠は紡がれれば荒く踏みこもうとしたオブリビオンの腕がごとり、と落ちた。
「これは……、貴様の呪いか」
「呪いだなんて、大層なものではありませんよ」
 それに、と宵蔭は悠然と笑う。祝福を口にした男の指先が空間を撫でた。
「ちょっとした捧げ物です」
 ピン、と仕掛けられた糸が次の一体を仕留めた。膝を付く前、向けられた銀の槍が鈍い光りを帯びる。
「——おや」
「守るべき信仰の為に」
 嘗ての聖戦をオブリビオン達は告げる。今は吸血鬼に使われながら、掲げた銀の槍が鈍い光りを放ち宵蔭の紡いだ糸を——切る。
「お気に召しませんでしたか?」
「蹂躙せよ。全て光で照らす為に!」
 踏み込みと同時に突き出された槍に、軽く後ろに飛ぶ。ひゅん、と空を切った一撃。着地と同時に高く飛んだ一体が槍を突き出すように投げた。
「楽しいお話の時間になるかと思ったのですが」
 ひゅん、と放たれた槍が肩を抉った。流れた血に宵蔭は軽く息をついて見せる。痛みは痛みとして、苦痛は苦痛として認めながら、だがどこか他人事のような顔で血を吸って艶めいた鉄錆を振り上げた。
「殺し、殺されるだけが戦いではありません」
 払う一撃と共に、身を横に飛ばす。槍に正面から仕掛けるのは不利だ。何よりあの瞬間、彼らが血糸を払うのに結果を紡いだのであれば踏みこんでくるか。
「信仰こそ……!」
 だん、と荒い踏み込みと共に槍は薙ぐように振るわれた。喉元、首を落とすように来た一撃に宵蔭は軽く身を逸らす。引いた片足を軸に、真横の敵の影を踏む。上背は然程変わらない、だが長物を使う相手、乱戦となれば白い衣は随分と邪魔だろう。
「我らが行軍となる!」
 軋む声と共にオブリビオンが吼えた。影を踏むように、闇を縫うようにして宵蔭は背後を取る。振り下ろす一撃が白衣を引き裂けば、崩れおちる一体の向こうから銀槍が来た。
「蹂躙の時だ。ひれ伏せ」
「おや、これはまた随分と」
 頬に一筋、流れた血に肩口から滲む赤に宵蔭は静かに微笑む。白衣の敵は鉄錆の好む者では無さそうだが——握り手たる男の血は、有刺鉄線のような鞭を染める。
 苦痛の応酬となることは、常に覚悟している。血濡れの腕を構わず振り上げて宵蔭は微笑んだ。
「骸の海に還るまで、私と血と泥にまみれて踊ってください」
 ひゅん、と一撃振り下ろす。棘の鞭が白衣を引き裂く。瞬間、真横から来た一体に身を沈め、死角に入るようにして大きく薙ぎ払った。
「きさ、ま……!」
 打ち据えた一撃にオブリビオンが崩れおちる。銀の槍が地に落ちるのを見ながら男は悠然と告げた。
「折角神の庭で争っているんです。一撃で終わるなんて……つまらないでしょう?」
 苦痛の応酬を。或いは——互いの善意を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

双代・雅一
やれやれ、どの世界も狂信者ってのは厄介だな?
まぁ本当に邪神を喚ばないだけマシか

敵が得物を持ち替えるのが見えたら、救済者の皆は一旦下がり退避する様伝え
出来るだけ防ぐつもりじゃいるけど、的は少ない方が良い

氷蛇槍を手にUC発動
穂先はまず飛んでくる火矢に
次いで向こうの敵連中に
進む事が出来なければ行軍とは言えないな
まずは凍らせて動きを封じ、慌てずじっくりオペに入る――氷使いの戦いの基本だよ
さぁ、動けない氷像なら君達でも倒せるだろうから頼むかな
まだ動けそうな奴は俺が凍らせ、槍で撃ち砕こう

リーダーさんも氷使いに目覚めつつあるのだと耳にした
冷静な思考こそ大切な力だと思う
常に慌てず…不動の精神を強く持つ事だな



●遺塵
「——信仰を」
「光を。今こそ、我らは炎を以て浄化する」
「我らが進む道にこそ——光が、信仰があるのだ」
 重なり響くそれは、歪んだ人の声であった。軋み擦れたように響くのは嘗ての「彼ら」が理由か、或いはあの白頭巾が理由か。
「……」
 青年はひとつ、息を落とす。古い骨と血の匂いが乾いた土に乗る。濃く深い青の瞳(要確認)は、レンズ越しに見た世界に細められた。
「やれやれ、どの世界も狂信者ってのは厄介だな? まぁ本当に邪神を喚ばないだけマシか」
 双代・雅一(氷鏡・f19412)はそう言って、軍勢を見た。ひりひりと感じる気配。これは——殺意だ。
 それが、今やオブリビオンとなった『彼ら』の信仰の先にあるのか、確かめる方法も無いままに雅一は、ひとつ息を落とす。
「……」
 軍勢の踏み込みは止まず、構えた槍はそのままに来る。踏みこむ前は後に構える気か。片手が弓を掴むように動いているのが雅一の目に見えた。
「一旦下がって避難してくれ。出来るだけ防ぐつもりじゃいるけど、的は少ない方が良い」
「分かった。……って待て、あんたは……!」
 前に出るのか? と慌てるように上がった声に、雅一は足を止める。どこか心配の滲む声に、振り返るようにして告げた。
「……、そうだな。気にしないでくれ」
 任せてくれ、と告げるのも何か違う気がして、言葉一つを添えるままに雅一は前に出る。たん、と瓦礫のひとつを飛び越えれば、しゅるりと姿を見せたラサルハグェが、ぺたりと顎を手の甲に乗せた。
「……あぁ、行くか」
 ラサルハグェ、と雅一は魔蛇の名を呼ぶ。一瞬、這うように冷気が巻き上がる。トン、と手の中に落ちた氷蛇槍が周辺ごと空気を変えていく。
「何もかも全て」
「——貴様」
 それは空間ごと置き換えるような力だった。静かに向けられた穂先が構えられた矢に向く。その意味に気が付いた軍勢が矢を引き絞る。
「全てを焼き払い、踏みつけ進軍せよ。それこそ我らが——……!」
「凍り付け――」
 火矢と、凍てつく吹雪がぶつかり合うように戦場に放たれた。だが、発動は雅一の方が——早い。
「まずは凍らせて動きを封じ、慌てずじっくりオペに入る――氷使いの戦いの基本だよ」
 凍てついた足が、腕が軍勢の動きを封じる。全員では無い。だが、辛うじて放たれた火矢だけでは雅一を射貫くことなどできはしない。
 ひゅん、と僅か、届いた火矢を払い、雅一は顔を上げる。
「さぁ、動けない氷像なら君達でも倒せるだろうから頼むかな」
「あぁ。分かった!」
 後方、響く声に頷いて雅一は前を見る。彼らに任せる以外を、確実にこちらで撃ち砕いていく。一気に全員留められるとは思ってはいない、一歩、踏み込み動いた一体の間合いへと雅一は踏みこんだ。
「貴様、その力で我々の……行軍を……ッ」
「進む事が出来なければ行軍とは言えないな」
 貫き倒せば、白い衣を身に纏った嘗ての祈りの兵が崩れていく。淡い光の中、消え去った行軍を見ながら雅一はゆっくりと振り返る。
「……」
 自分とは違う、冷気を感じたからだ。霜柱のような、押し上げる氷の力。ばきばきと生えた氷の槍は自分の操る吹雪と違って、疎らだ。
(「敵味方の区別がむずかしいのかもしれないな。うまく制御が出来ていないところもある」)
 恐らくだが、維持の時間もそう長くは無いのだろう。一体、また一体と倒されていく軍勢を視界に雅一はリーダー格の男を見た。
「リーダーさんも氷使いに目覚めつつあるのだと耳にした。冷静な思考こそ大切な力だと思う」
「冷静、ですか」
「あぁ。常に慌てず……不動の精神を強く持つ事だな」
 勝利の為の力は、同時に戦う為の力だ。だが、それだけが強くなれば——誰も彼も傷つける力となってしまう。
「ありがとう、感謝する。猟兵殿。……その感覚、忘れずにいよう」
 そして、白き軍勢の、最後の一体が崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『暗き森『オンブラ』』

POW   :    幽歩
レベル分の1秒で【姿と気配】を消し、更に【毒が塗られた暗器】を発射できる。
SPD   :    堕霊術
【召喚した炎の精霊】が【毒の炎を纏った竜】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    夢幻
【剣】を【レベル×1本複製すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【生命力吸収】を付与した【複製した剣】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は須藤・莉亜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●暗き森の刃
「——結局、こうなるか」
 静寂に、声が落ちる。
 白き軍勢がかき消え、その影も祈りに似た軋む声も消え失せればいつの間にか、1人の男が立っていた。
「貴様らも」
 色の無い瞳は、感情をそぎ落としたかのようであった。死んだ目がゆるりと上がる。見据えているのか、眺めているのか分からず——だが、ひたひたと這うような妙な感覚はあった。
「祈りも願いも必要無い」
 殺意とも敵意とも違う。ひどく淡々とした声で男は——嘗て『暗き森』と言われていた一族の戦士は刃を抜く。
「約定だけがこの地にはある」
 嘗ての戦士は、一族を滅ぼした吸血鬼だけでなく、全ての人々を殺し尽くす為だけの動く。その手に禿鷹の眼の紋章を宿らせ、強欲なる神の言葉を信じ——止まることなど無いままに。
「俺は、世界を捧げる」
 それが今は亡き一族への唯一の手向けとなると言って。
 ——彼にとっての、約定を手に。
 
◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第3章受付期間:5月23日〜

●ボス・暗き森『オンブラ』について
強力なオブリビオンです。
光る手の甲に「禿鷹の眼の紋章」を宿しています。
ユーベルコードに目覚めつつある闇の救済者に襲いかかります。リーダー格の男は応戦しようとするので、対応をお願いします。

戦闘メインになるかと。

●「禿鷹の眼の紋章」について
オブリビオンは通常の攻撃に加え、「禿鷹の眼の紋章」から自動的に放たれる、対象の肉体ごとユーベルコードを捕食する攻撃」で闇の救済者や猟兵を攻撃します。
こちらへの対処も必要になります。

それでは皆様、御武運を。

◆―――――――――――――――――――――◆
邨戸・嵐
真っ向勝負は得意じゃない
小手先でどうにかしなきゃねえ

あれが君の仇でしょう
憎らしいかな、それとも虚しい?
どっちにしろ倒すだけだよねえ

救済者の君を嗾けて、背後からの支援を頼む
俺自身はナイフで割って入って
捌けるだけの剣は落として背後を庇おう
怪我は戦闘不能にならないなら幾ら受けても良い
耐え凌いで好機を待つ

同時に幾らでもは食えないでしょ
氷結の力を捕食するその瞬間を狙って、孤影で敵の影を縫う
不意をつけたら最接近してUC
めいっぱいの生命を喰おう

紋章への警戒は続ける
攻撃の気配を感じたら喰うのは止めてナイフで対処

一口ぐらい食べてみたかったな
自分を失くしても果たすべき約束を
懸けるだけの愛執の色が、君の瞳にある頃に



●異客の言の葉
 草を踏む足音が、風に揺れた。た、と短く落ちた音と共に来訪者——暗き森『オンブラ』が、たん、と地を蹴る。一足、地を掴んだ足と共に嘗ての戦士が腰を沈める。——踏み込みが、加速するか。
(「真っ向勝負は得意じゃない。小手先でどうにかしなきゃねえ」)
 間合いひとつ、詰める姿を視界に邨戸・嵐(f36333)は前に出る。一歩、二歩、踏みこむ男の足音は響かぬままに、淡い影をひとつ残しながら救済者の男の横を抜ける。
「あれが君の仇でしょう。憎らしいかな、それとも虚しい?」
「……何が聞きたい」
 言いたい、とは聞かぬ頭目に、ふ、と笑って嵐は一歩を入れる。彼の前に、割って入るように——背に、庇うように立つ。
「どっちにしろ倒すだけだよねえ」
「——……、倒す以外に、この力を手に入れた意味が何処にある」
 低く、告げられた言葉にふ、と笑う。短く援護を告げた救済者を中心に冷気が零れる。覚醒しつつあるユーベルコードを使うのだろう。
「——それか」
 それに、気がつかないオンブラでは無いか。呟きひとつ、剣に空いた手が添えられる。鈍く零れる光は禿鷹の眼の紋章か。
「ユーベルコード」
「気になるかい?」
 狙いひとつ、定めるように落ちた言葉に応えるように嵐は、ナイフを手に踏みこむ。間合いを相手が詰めてくるのであれば、先にこちらから行くまでだ。間合いを、己の絶対の領域を掴んでいく。
「君にとっては」
「……今更、邪魔者は必要無い」
 言の葉ひとつ、戯れに投げれば色の無い声が嵐の耳に届く。次の瞬間、感じたのは強い——殺気だ。
「——」
 来る、とそう思った瞬間、オンブラの手にした剣が一気に複製された。
「夢幻、展開」
 多重に円を描くように一気に展開された剣が宙を舞った。ひゅん、と振り下ろされる一刀をナイフで受けとめる。弾き上げるようにして、次の一刀を受けとめれば、続く一振りが真横を抜けた。
「——それは」
 は、と息を吐く。眼前の剣よりも、抜けた一撃を——救済者達を狙おうとするそれに嵐は踏みこむ。
「困るよねえ。俺と君が遊んでいるんだから」
 ザン、とオンブラの放つ剣が、嵐の肩口に沈んだ。胴に、腕に、深く沈んだ一撃に息を吸う。ばたばたと流れた血に、指先が痺れるような感覚が残るが——だが、まだ生きてる。
「こっちだよ」
「……邪魔者から捧げるか。それも良い」
 息を吐くようにしてオンブラが来る。残る剣を全て放つようにして、前に出した身体は——だが冷気によって阻まれる。
「……これが、例の」
 救済者の展開した氷結の力だ。射るほどに強い視線を、感情を背から感じながら嵐はふ、と笑う。オンブラの視線が救済者に向く。手の紋章が鈍く光る。
「全ては捧げるだけだ。喰らい尽く……」
「——待ってたよ」
 そう、この瞬間を待っていたのだ。氷結の力を捕食しようとする、この瞬間を。
「同時に幾らでもは食えないでしょ」
 告げて嵐は孤影を放つ。オンブラの影を縫い、絡め取った動き。踏みこむ足に加え、剣を握る手を——その動きを奪い取れば、蛇は滑るように獲物の影を踏む。
「これでおあいこ」
 全身を蛇の鱗で覆い、銀の毒牙を滑らせる。胴に深く——嘗ての戦士の胸に、嵐は誓月を沈めた。
「——な、貴様、ひとでは……」
「一口ぐらい食べてみたかったな。自分を失くしても果たすべき約束を」
 人ではないのか、と落とされた言葉に嵐は静かに笑う。嘗ての戦士を、守るためにあった男の瞳を見た。
「懸けるだけの愛執の色が、君の瞳にある頃に」
 どれほどの感情が、その中にあったのか。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒蛇・宵蔭
やれやれ、無辜の人々を巻き込んだ心中は困ったものです。
この世界に残るのは、物質としての骸。
かの世界に至るのは、物質ではない魂。
捧げても捧げても、何も救われたりしませんよ。

さて、私がすべきことはシンプルです。
鉄錆の棘を握り、血を流すだけ。

貴方の力も、紋章の力も、この命を代償に止めてみせましょう。

90秒もあれば一撃くらいいけるでしょう。
刻限までに接近、傷を抉りに。

この程度の負傷は問題ではない?
いいえ、攻撃の担い手は……他にいますから。

とはいえ……このまま死ぬと彼も危険ですし。
95秒内にUCを解除して、彼を守ります。
身体で止めるか、武器で止められるかは、運でしょうか。

自分の手で一矢報いて、如何です?



●再び、幕は開ける
「俺は、世界を捧げる」
 強欲なる神の言葉を信じ、約定を掲げた嘗ての戦士――暗き森『オンブラ』はゆるり、と視線をこちらに向けていた。
「やれやれ、無辜の人々を巻き込んだ心中は困ったものです」
 オンブラの鋒が、上がる。滴り落ちた血が黒く淀んでいく。それが『捧げる』ということなのか。僅かばかり細めた瞳でそれを見送ると、黒蛇・宵蔭(f02394)は薄く唇を開く。
「この世界に残るのは、物質としての骸。かの世界に至るのは、物質ではない魂」
 影のように黒衣が揺れる。崩れかけの石畳を踏んだ靴が、カツン、と音を鳴らす。嘗ての礼拝堂を背に、宵蔭は静かに告げた。
「捧げても捧げても、何も救われたりしませんよ」
 ゆらり、と揺れるオンブラの瞳がひたり、とこちらを向く。ひた、ひたと迫るようにあった視線が――ふいに、変わった。
「――まだ、終わらないだけだ」
 明確な、殺意へと。
「そうですか」
 瞬きひとつ無く、踏みこむ男を見る。た、と一気に跳ぶように来るのは近接を好む戦士である証拠か。身を沈め、踏み込みの速度を上げた相手に宵蔭はさて、と鉄錆を握る。その棘を、迷う事無く握れば白い肌が裂け、指先から赤く染まっていく。
「私がすべきことはシンプルです」
 ぱたぱたと零れる血が、鉄錆を真紅に染め上げる。緩く弧を描き、割れた石畳に触れていた棘から僅かに零れ落ちた血が大地に陣を描いていく。
「――搦め手か」
 た、と踏み込みが近く聞こえた。剣と共にオンブラが来る。ゆるり、持ち上がる鋒で狙うのは胴か、或いは首か。
「それで俺を阻めると」
「貴方の力も、紋章の力も、この命を代償に止めてみせましょう」
 悠然と笑い告げるのではなく、ただ静かに黒衣の男は告げた。最後に一度、棘を握って零した血を以て――放つ。
「身動ぎすらできない苦痛を」
 苦痛を。誰にでも平等に降り注ぐものを、猛毒を以て解き放つ。
「――な」
 瞬間、大地に描かれた血の陣が脈を打った。周辺の空気が変わる。染め上げられていく。
「きさ、ま」
 刃と共に踏みこんできた戦士が、宵蔭の胸を裂くように滑った刃が――止まる。斬り裂いた筈の刃は黒衣ひとつ乱してはいない。
「何をした」
「ちょっとしたことですよ」
 低く這うようにあったオンブラの声に、初めて殺意以外の何かが乗った。敵意か、怒りか。僅か、首を擡げてきたそれに宵蔭は静かに応える。攻撃の無効化。己の血を以て苦痛の猛毒を放ち――紡いだ呪。
「――」
「失礼」
 た、と間合いひとつ取り直すように跳んだ戦士に踏みこむ。前に行く体が軋む。別段、不思議なことでは無い。90秒。時を過ぎれば、先に死ぬのは己だ。
(「90秒もあれば一撃くらいいけるでしょう」)
 一足、踏み込みを入れる。ひゅん、と振り下ろした鉄錆がオンブラに届く。受けとめるように振り上げた剣は――だが、押しこまれるようにズレる。刀身を滑るようにして、棘が刃を砕けば強かに撃つ一撃が戦士の体に沈んでいた。
「――邪魔をするものだな。だが、この程度の傷、問題では無い」
 一度、吐いた血を雑に拭ってオンブラは刃を構え直す。
「お前もだ、猟兵」
「いいえ、攻撃の担い手は……他にいますから」
 静かに宵蔭は笑う。吐息ひとつ零すように、削り落とされていく時を数えながら、背後に聞こえた息に告げる。
「自分の手で一矢報いて、如何です?」
 血濡れの指で呪を解く。オンブラの踏み込みを視界に、瞬間、展開された無数の剣を鉄錆で弾きながら宵蔭は雪を見た。
「一矢か。――あぁ、この手で奴に代わりに戦い――俺が、果たす」
 氷結の力。後方より、解き放たれる冷気がオンブラの踏みこんだそこから大地を凍てつかせていく。
 救済者の、男の力だ。
「見えるところで死んでくれるなよ、猟兵」
「おや、死んだりする予定はありませんよ」
 落とす息が白く染まる中、宵蔭は静かに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

双代・雅一
無神論者なもので。君の求める意味が理解出来ない
俺は必死に生きる命を無下にされるのは好まない。医師としてはな

さてリーダーさんにもう一人の氷使いを紹介するよ
俺の弟だけど

UC発動
喚びだした惟人に氷蛇槍を渡し前衛を任せ、召喚された竜も素早く動いて引き付けて貰う
俺は敵の動きに意識集中し、紋章の攻撃は双氷槍で受け薙払う

今日はいつもより俺の使い方が荒い…!
仮初めの身体だし捨て身の囮に向いてるのは否定せんが!

炎の竜は最大出力の冷気で攻撃相殺
隙見て雅一とタイミング合わせ、氷の力乗せた槍で敵を貫く

そこの頭目は俺みたいな戦い方絶対するなよ?
お前は自分の距離だけまず把握しろ、いいな!
(危ないから前に出てくるなの意)



●氷結の袂
 ばたばたと、零れ落ちた血が石畳を濡らす。靴先が赤黒く染まり、は、とひとつだけ息を落とした暗き森『オンブラ』は静かに視線を上げる。
「全ての人々を殺し尽くす」
「……」
 至って正常だ、と双代・雅一(f19412)は静かに息を落とした。真っ当に——ひどく当たり前にこの男は言っているのだ。
「無神論者なもので。君の求める意味が理解出来ない」
 鋒が上がる。一歩、踏み込むように前に倒されていく身体を視界に、雅一は冷えた青の瞳を向けた。
「俺は必死に生きる命を無下にされるのは好まない。医師としてはな」
 さて、と雅一は軽く後ろを振り返る。
「リーダーさんにもう一人の氷使いを紹介するよ。俺の弟だけど」
「弟……?」
 なぞるように落とされた頭目の言葉に僅かに口の端を上げて、雅一はただ——言った。
「惟人、頼まれてくれるか」
 かける言葉が、告げるべき名が基点となる。一度抜ける風は冷気であり、コツン、と硬く落ちた足音と共に変わらぬ黒髪が揺れた。
『相変わらず弟遣いの荒い事だな、雅一』
「ほら」
 雅一が氷蛇槍を放る。躱す視線も無いままに、軽く片手で受け取った惟人が前に——出た。
『俺が相手だな』
「誰であろうと構わない。全てを、生命を、世界を捧げるだけだ」
 た、と落ちた踏み込み。身を低めたオンブラが一気に斬り上げる。キン、と高く刀身を受けとめた槍が音を上げた。高く響く氷の音に、オンブラが息を吐き一度後ろに退く。
「堕ちよ炎の囁き、混濁たる炎にて生まれ直せ」
 オンブラの握る拳が炎を招く。舞い上がった赤き熱は次の瞬間、狂気に満ちた叫び声と共に毒の炎を纏った竜に変わる。
「狂え」
 その一言を合図とするように毒竜は咆吼と共に羽ばたいた。
「ギィアアアアアアアアア!」
「——惟人」
『今日はいつもより俺の使い方が荒い……! 仮初めの身体だし捨て身の囮に向いてるのは否定せんが!』
 言いながら惟人が一気に踏みこむ。素早い動きはオンブラへと距離を詰めるものであり、同時に——あの竜を引きつけるものだ。狂い果てた竜に理性は無い。ぐん、と横へ——惟人を追って竜が動けば、雅一の瞳に光る紋章を構えたオンブラの姿がみえた。
「喰らい尽くせ」
「生憎」
 紋章の一撃を双氷槍で受けとめる。軋む感覚は、侵食でもあるのか。武器で受けとめ続けるにも恐らく限界はある。
「仕掛けるべきだな」
 吐き出した息ひとつ、とん、と片足だけを引く。眼前の竜は惟人を追っている。吐き出された炎を最大出力の冷気で受けとめれば、ガウン、と爆発が生じる。瞬間、空に受けた熱を、炎に構わず雅一は前に出た。
「——オンブラ」
「無下にはしない。世界を捧げるだけだ」
「そうか」
 だが、と吐き出した息一つ、低く構えた槍を一気に振り上げる。キィイン、と冷気が帯のように揺れれば、オンブラが剣と共に後ろに飛ぶ。
『雅一』
 ——筈だった。
 挟み込むように立った惟人の一撃がオンブラに届いていた。傾ぐ体が剣を構え直すより早く雅一は踏みこむ。穿つ一撃が嘗ての戦士の胸に——沈む。
「——な」
 俺は、と荒く落ちた息が傷口から氷に覆われる。払うように後ろに飛んだオンブラを視界に、救済者達に向かう射線に、雅一は踏みこむように立った。
「そこの頭目は俺みたいな戦い方絶対するなよ?
お前は自分の距離だけまず把握しろ、いいな!」
 声を、放つ。雅一と惟人2人の戦いに最初こそ呆気にとられていたリーダー格の男は、今はただほんの少しだけ、どこか懐かしそうな顔をした後に頷いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロー・シルバーマン
何とも禍々しいが…目覚めつつある彼を倒させる訳にはいかぬ。
全力で戦わねばな…

精霊に対しては儂が囮になろう。頭目の彼には後方からオンブラへの攻撃を頼む。
UC発動しつつアサルトライフルで誘導弾を乱れ撃ち。
炎の精霊が竜と化し攻撃してきたら全速力でダッシュ、生存本能から来る直感、野生の勘を活かして軌道見切り回避。
その間も表層意識の方でオンブラの動きには注意、紋章で頭目の彼に反撃し始めたら竜から逃れながらオンブラへとダッシュで距離詰めつつ銃弾ばら撒き妨害。
標的こちらに切り替えてきたら飛び越えるように跳ねて同士討ち狙いつつ空中で猟銃で紋章に狙いを定め狙撃。
そこに氷が来ればやれる…か?

※アドリブ絡み等お任せ



●或いは、夢の終わりに
「俺は、世界を捧げる」
 冷気と共に突き出された槍が襲撃者を穿っていた。ばたばたと派手に零れた血が地面に触れた瞬間に消えていく。それが捧げるということなのか。嘗ての戦士は、ゆらり、と身を揺らすようにして顔を上げる。
「それが今は亡き一族への唯一の手向けだ」
「……」
 そこに狂気は無く、純粋であるが故に——危険だと、ロー・シルバーマン(f26164)は思う。
(「何とも禍々しいが……目覚めつつある彼を倒させる訳にはいかぬ」)
 は、と一度だけ息を落とす。肩口から身を赤く染め、だらりと垂れた腕を暗き森『オンブラ』は紋章が宿る腕で直して行く。形ばかりだ。だが、それでも襲撃者の異様な姿に闇の救済者達は戸惑いを覚えているのは確かだった。
「……」
 恐怖では無いだろう。だが、その異様に弓を引く手が緩むのは理解はできる。リーダー格の彼、目覚めつつある男は別のようではあったが、彼の氷結の力だけに頼ってはそれこそ苦しむだけだ。
『だから頼るではなく支える方がいいかもしれぬ』
『支える……俺達で、出来るでしょうか……』
『いや、出来ないじゃなくてやりたい、っすよね? こういうのは』
 戸惑いながらも頷いた青年を、力強く頷いた少年をローは覚えている。
「全力で戦わねばな……」
 は、と一度だけ息を落とす。
「精霊に対しては儂が囮になろう。後方からオンブラへの攻撃を頼む」
「分かった」
 頭目に短く告げ、ローは前を見る。相談か、と静かに告げた嘗ての戦士がゆらり、と身を揺らした。
「何を話そうが構わない。全て捧げ尽くすだけだ」
 静かに、落ちた声と共に踏み込みが来た。瞬間、周囲が熱を持つ。炎の精霊を召喚する気か。
「下れ、下れ、顕現せし……」
「そう、生き延びるには単純」
 その熱に、召喚の気配にローは己の拳を握る。原初の生存本能を呼び起こす。
「全て避けて花を咲かせ続ければいい――感じたままに動くだけじゃ」
 は、と吐く息と共にぐるる、と喉が鳴った。表層意識から乖離した生存する為の破壊衝動が、身体を突き動かす。ぐん、と持ち上げたアサルトライフルを迷うことなく敵に向けた。
「来るか?」
 放つは誘導弾。静かに息を吐き、零した言葉は——眼前膨れ上がる穢れに対してのことだ。
「炎の君。今こそ——歪め」
「ルォオオオオオ!」
 オンブラが拳を掲げた次の瞬間、その手に降りた炎の精霊が竜に変じる。毒の炎が舞い上がった木の葉を侵食していく。
「ルグァアア!」
「——」
 吐き出された炎に、ローは地を蹴る。瞬発の加速。右を選んだのは——直感だ。生存本能から来る感覚。生を掴むように跳んだ男は、着地のそこから銃を持ち上げる。
「グルァアア!」
 一撃に、竜が怯む。素早く動く者を追う竜は、ただローを追ってくる。だが——オンブラは別だ。
「その力、全てを捧げよう」
「——誰が、貴様の思うとおりになると」
 紋章が鈍く光る。オンブラの言葉に、頭目が氷結の力をかき集める。だが、オンブラの方が早い——筈だった。
「防がせてもらおうかのう」
 荒く、地面を蹴る。飛び込むようにして一気に距離を詰め銃弾をばら撒く。ずっと、見てはいたのだ。彼を——頭目を守るために。
「終わりじゃのう」
「お前がだ」
 ヒュン、と返す刃をオンブラが持ち上げる。だがそのを刃の横をローは抜ければ同時に熱が走った。
「ルグァアアア!」
 毒竜。ローを、素早く動く男を追ってきていた竜がそのまま一気に飛び込んでくる。ぶつかる一線、召喚したそれに飲まれることは無いのかオンブラが身を逸らす。だが、その一瞬を、ローも『彼』も見逃すことは無かった。
「今じゃ」
「——あぁ」
 紋章へとローは猟銃を向ける。合わせるように頭目の紡いだ氷結の力が暗き森『オンブラ』を貫いた。
「——れ、は……全て、を」
 ぐらり、と身を揺らし暗き森『オンブラ』は崩れおちる。毒竜が氷結に飲まれて消えれば、訪れた静寂に救済者たちの喝采が響き渡った。
 ——勝利だ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月10日


挿絵イラスト