正夢でも逆夢でも、永遠なんて必要ないの
――そもそも私は生きているのか、それとも死んでいるのか。
アリス・グラムベルだった存在――オブリビオン『マザー・アリス』は、生命維持装置に繋がれた者たちを、かつての自分のように憐れむ。
「可哀想に。失敗作のあなた達は、自由を謳歌できないわね」
先日、『虚数(イマジネーア・ツァール)』と名乗る“存在しないはずのアリスズナンバー”にすべてを奪われ、そして彼女は骸の海から這い上がった。そしてすべてを“思い出す”。己に課せられた真の目的を。使命を。成すべきことを。
「さあ、『永遠の九月』を今ここに再び。悲願である逆夢を叶えるために。止めてみなさい、猟兵たち。私はこの世界から、あらゆる死を超克する。そして世界は『0(ラヴ)』に至るのです」
マザー・アリスの表情は、どこか悲愴に満ちていながら笑みを湛えていた。
「……オロチヒメの神託である。猟兵たちよ、世の声に耳を貸すのだ」
蛇塚・レモン(白き蛇神憑きの金色巫女・f05152)に憑依している裏人格こと、白亜の蛇神オロチヒメは、グリモアベースにて予知の内容を告げる。
招集に応じた猟兵たちは、みな総じて固唾を飲んでその一言一句を聞き逃すまいと耳を澄ます。なぜならば、この蛇神が予知した案件は今まで陰惨で後味の悪い内容ばかりであり、一部の猟兵からは『オロチヒメ案件』という名で畏れられていた。
オロチヒメはグリモアからアポカリプスヘルの辺境に存在する巨大な廃墟を映し出す。
「ここはかつて、感染症研究のための施設だったそうだ。此度の討伐対象である『マザー・アリス』はここで『死を超克する研究』を行っている。周囲の拠点(ベース)から住民どもを拉致し、無理矢理に被験者として命を奪いつづけているのである。流石にこれ以上は看過できぬ。一気呵成に貴様らは研究所へ乗り込み、彼奴を討ち果たすのだ」
依頼内容はシンプルだ。だが、オロチヒメが絡んでいる以上、この案件は何かあるはずだ。そんな反応を示す猟兵たちへ、かの蛇神は愉快そうに高笑いした。
「くかかかか! やはり分かるものには隠し通せぬか! よかろう、この女の真の目的を少しだけ明かそう。それは――」
カタストロフ級の大規模人的災害である、と。
「とある機関はかつて、失われた過去の産物を復元するために『生と死』の狭間に関する研究を行っていた。その研究の際に起きた大惨事『永遠の九月』の復元……『0に至る世界(ワールド・オブ・ラヴ)』こそ、彼奴の目的である。……まぁ、殆どの者は何のことやら分からぬだろうが、要は『過去が未来を塗り潰す』ということだ。未来へ生きる貴様らとは相反する所業ゆえ、徹底的に破壊せよ」
オロチヒメの言葉は重く、ただ事ではないことだけは猟兵たちに伝わった。
果たして、大規模人的災害『0に至る世界(ワールド・オブ・ラヴ)』とは?
マザー・アリスの本当の記憶とは?
――ユーベルコードの高まりを感じる……!
七転 十五起
遂に『アリスズナンバー』シナリオ、遂に最終章へ突入。
振り返りはタグの『アリスズナンバー』からご参照願います。
なぎてんはねおきです。
●補足説明
第1章の集団戦は、研究所へ乗り込んだところから開始します。
侵入者を排除しようと、元一般人の被験者たち(全員オブリビオン化してます)が猟兵たちに襲い掛かります。
彼らを排除しない限り、首魁である『マザー・アリス』の元へは辿り着けません。
第2章は『マザー・アリス』との直接決戦です。
アリスズナンバーというフラスコチャイルド少女の軍隊の製造工場の生体AIだった、元アリス適合者の女性の脳髄から生まれたオブリビオンです。
彼女は己の脳を改造しており、その影響で『絶対先制攻撃』を仕掛けてきます。
生半可な対応やユーベルコードの後出しでは、何も出来ずに蹂躙されるでしょう。
●その他
今まで『アリスズナンバー』シナリオに未参加のお客様でも参加可能です。
また、本シナリオはオーバーロード参加でプレイングボーナスが発生します。
コンビやチームなど複数名様でのご参加を検討される場合は、必ずプレイング冒頭部分に【お相手の呼称とID】若しくは【チーム名】を明記していただきますよう、お願い致します。
(大人数での場合は、チームの総勢が何名様かをプレイング内に添えていただければ、全員のプレイングが出揃うまで待つことも可能です)
●初回プレイング投稿開始日時
2022年4月10日(日)朝9時から開始です。
それ以降は、シナリオタグをご確認ください。
それでは、皆様のご参加をお待ちしてます!
第1章 集団戦
『クリスタライズ・チャイルド』
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POW : ジェノサイドコード・プロトコル
自身からレベルm半径内の無機物を【殺戮機械群】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD : ハッキングコード・プロトコル
【遠隔操作プログラム】を放ち、戦場内の【電子制御駆動】が動力の物品全てを精密に操作する。武器の命中・威力はレベル%上昇する。
WIZ : ライオットコード・プロトコル
【電子制御コード】【鎮静化薬インジェクター】【物理拘束ワイヤー】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:えな
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――アリスズナンバーのことを、今一度話しておかねばならないだろう。
人造人間(フラスコチャイルド)に『同一人物の記憶・DNA情報・魂の在り方』を複製することで、半永久的に同一個体を維持できるシステム。それがアリスズナンバー・ネットワークであり、デスレス・アーミーたるアリスズナンバーの基本骨子である。
故に、たとえ殺されても瞬時に同一人物の『別個体』がその場に出現し、討伐対象を殺すまで蘇り続ける。敵対勢力にとっては、アリスズナンバー1人が無限の軍隊に等しい脅威を誇るのだ。
だが、絶対無敵と思われたアリスズナンバーにも弱点が存在した。
それは、アリスズナンバーの素体を製造する『工場』に存在する、培養液に満ちたガラス管の中に浮かぶ脳髄――彼女たちのオリジナルであるマザー・アリスだ。
彼女が破壊されれば、アリスズナンバーの復活機能は大きく制限がかかる。
だからこそ、『工場』の場所は秘匿情報とされ、厳重なセキュリティー設定が施されていたし、ここはアリスズナンバーの初期ロットである『最初の10人(ドーターズ・オリジン)』のみ通過することができた。
それでも、『最初の10人』と同じ設計で密かに生み出されていた『虚数(イマジネーア・ツァール)』と名乗るアリスズナンバーには無力であり、脳髄だけで生きながらえていたマザー・アリスは殺害(はかい)された。
「私は二度死にました。一度目はアリスラビリンスで、アリス・グラムベルとして。二度目は先日の『虚数』による『工場』の襲撃にて。ですが、膨大な過去の堆積場である骸の海に沈んだ時、私は一度目の死で失った記憶を、使命を取り戻しました。そしてオブリビオンである身体は、アリスズナンバーの基本骨子の前身である『グレイスコーズ』の体現そのもの。過去から任意の事象・物質を復元するのが『グレイスコーズ』。それは時に生命をオブリビオン化させて現在に蘇生させることすら可能です……」
独白するマザー・アリスは研究所への侵入者アラートを確認すると、整然と並ぶ『被験者たち』の生命維持装置をアンロックする。
彼らを猟兵へぶつける尖兵とするために。
「さあ、念願の自由を謳歌する時間ですよ。生命維持装置を失った貴方達は、恐らく3時間も満たない寿命ですが……生の価値は『生きながらえた日時の長さ』ではなく、『生きている間に成し遂げたことの優劣』で決まります。残り3時間の生を、存分に謳歌してきなさいな」
宝石型生命維持装置のセーフティを解除された『被験者たち』は、半ば暴走状態で猟兵の元へ向かってゆく。
それをマザー・アリスは見送ると、再び悲愴に満ちた笑顔を湛える。
「……やはり来たのですね、私の『娘』。そして他の猟兵たちも……。まだここで私は消えるわけにはいきません。必ずや死を超克し、再び『永遠の九月』をこの世界全土に拡大し、悲願である『0に至る世界(ワールド・オブ・ラヴ)』を成就させなければ……」
死闘が、始まった。
アハト・アリスズナンバー
この戦いは、私一人で行います。
フィーア姉さんやノインツィヒの手は借りません。
かつてお父様が言った、マザーの娘としての私が決着を付けるべきなのです。
だから邪魔をしないで貰いましょうか。マザーと面を通さねばなりません。
電子迷彩と闇に紛れるを駆使して敵の認識外へと場所を移します。
その後ユーベルコード起動。アリスザパンデミックにより遠隔操作プログラムを無効化します。敵の攻撃が来ても地形破壊で機械部分をぶっ壊す。
無効化後はソードドローンと共に暴力の嵐でめちゃくちゃにしてやります。
ここまで派手に暴れれば、マザーも私が来たことに気づくでしょうから。
一通り片付けたら煙草を一服。
時折マザーが何を考えてるかわからない時がありました。
私はマザーのコピー品なのだから、記憶も考える事もわかるはず。だったのですが、本当は娘だった。道理でわからないはずです。フィーア姉さんやノインツィヒと違って、私は他人だったのですから。親子でもわからないことだらけです。
さて、マザーの記憶とは何なのでしょうか。
久々に、対話をしましょう
地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
マザー……やはりあんたはもう元には戻らないんだな。
今まで何度も助けてもらった恩を仇で返すような形になるのは心苦しいが、止めるしかないというのなら……!
【結界術】と【オーラ防御】を【多重詠唱】で展開して攻撃を防ぎつつ、【属性攻撃(氷)】の【範囲攻撃】で敵が武器にしそうな機械類を凍らせる。
溶かしたら水が精密機械に入り込んでどの道ロクに機能はしないだろう。
敵を直接攻撃しないことで攻撃を【おびき寄せ】、【カウンター】で【指定UC】を発動。
UCを封印して、その上で【全力魔法】。その肉体と魂を【浄化】する。
苦しむ時間がなるべく少なく済むように……それが俺が彼女たちにしてやれることだ。
ルゥ・グレイス
アドリブ歓迎。
命や情報の送還、遺失情報の再定義、過去という恩恵の運用。
ミカエラ博士の悲願でもある【永遠の九月】はその恩恵の最たるものだった。
しかしそれは現在と未来が意味を為さなくなるという点において致命的だった。そこから先に行けなくなる世界のバッドエンド。
【0に至る世界】が何なのかはわからない。
同様だというなら危険すぎる。当然許すわけにはいかない。
手にした銃は狙撃銃ではなく、制圧用の突撃銃。
汎用の遺失礼装炉を接続。
研究所に踏み入ると共に制圧を開始。
問答無用に鉄を降らせ、電子プログラムに情報ウイルスを介入させ、被験者たちを倒していく。
マザー・アリス。貴女はミカエラ博士から何を聞いたのですか?
アハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)が件の研究所の前に転送されてくる。
彼女は煙草の紫煙を肺の中に満たして吐き出すと、咥えていたそれを地面に投げ捨てて踏み潰す。
その目は獰猛な猛禽類めいた剣呑さを湛え、全身から立ち上る殺気はまるで呪いのように禍々しい。
「この戦いは、私一人で行います。フィーア姉さんやノインツィヒの手は借りません。かつてお父様が言った、マザーの娘としての私が決着を付けるべきなのです」
アハトは研究所の固く閉じられた通用口の扉を蹴破って強行突入を開始。
これに呼応するように、施設内を徘徊していた『クリスタライズ・チャイルド』が通用口へと殺到してくる。
アハトはアリスズナンバーランスの柄を握り締めると、立ちはだかる“被験者たち”へ言い放つ。
「――だから邪魔をしないで貰いましょうか。マザーと面を通さねばなりません」
被験者たちの宝石型生命装置に亀裂が入ると、周囲の空間が0と1の電子遠隔プログラム空間に包まれる。
グリモア猟兵が寄越した資料に記載されていたハッキングコード・プロトコルだ!
戦場内の電子制御駆動が動力の物品全てを精密に操作する効果を持つため、アハトはビームライフルを使用することは出来ずに肉弾戦を強いられる。
アハトはまず使い慣れた槍と体術で、道を塞ぐ敵を粉砕し始めた。
「まずはエンカウント中の敵を排除しましょう。幸い、ハッキングされなければ比較的排除は容易です」
もちろん、敵はユーベルコード以外にも体当たりや圧し掛かりでアハトを圧殺しようと目論むのだが、歴戦の猟兵であるアハトにとっては十分に見切れる挙動であった。
「とはいえ、数が多いですね。敵の意識外へと場所を移動したいのですが、こうも囲まれると……」
戦況は優位を保っているが、ステルス戦術を考えていたアハトは敵の物量の規模が想定外に大きいことに顔をしかめていた。
マザー・アリスはそれほどの人数を使って、死を超克しようとしている証左である。
さてどうこの状況を打破しようか、と独り言ちていると……。
「PDBCInt.接続。反応式遺失礼装炉心【七人の小人の標本(スリーピーストーンズ・ブラインド・アウト))】起動まで……3・2・1……完了。これより制圧を開始します」
BATATATATATATATATA!
断続的な銃声と共に、凛とした青年の声がアハトの耳に飛び込んでくる。
アハトはその声に覚えがあった。
「……いつからそこにいたのですか、ルゥさん?」
彼女の問いに、ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)は突撃銃に汎用型遺失礼装炉を装着したまま隣りへ並び立つ。
「つい先ほどここへ転送されてきたばかりです。でも気負い過ぎて単独で突入するのは、少々無茶というものです」
「……全部聞かれてたのですね」
アハトが眉尻を下げて僅かに恥じた。それほどまで周囲が見えていなかったことに気付かされたからだ。
ルゥは押し寄せる被験者たちを容赦なく射殺してゆき寄せ付けない。
たとえ電子制御コードや鎮静化薬インジェクターやら物理拘束ワイヤーがルゥへ目掛けて殺到しようとも、彼は問答無用に鉄を降らせてこれらを弾き返す。更に銃弾に『猛毒』を仕込ませ、命中させた被験者たちを暴走させて自壊へ導いていった。
「この銃弾は汎用型遺失礼装炉で編まれた情報改竄ウィルスデータが混入しています。マザー・アリスがグレイスコーズを利用しているなら、それを書き換えるコードを注入することで彼らを安楽死させられるでしょう」
その算段は的中し、銃弾が命中した被験者たちは、自ら放った攻撃を自身へ降り注がせて活動を停止させていった。
更に、新手の加勢が宝石めいた被験者たちをまとめて薙ぎ払ってみせる。
「アハト! 無事か!? 助太刀に来たぞ!」
地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)が放った猛吹雪の魔法が、被験者たちを凍て付かせながら押し戻してゆく。
超低温に晒された周囲の電子機器はたちまち故障し、被験者たちも次々と生命活動を停止させていった。
「陵也さんも……。ありがとうございます」
アハトは飛んできた警備用の侵入者撃退ドローンを槍の穂先で横薙ぎに打ち砕きながら感謝の言葉を述べる。
これに陵也が戸惑いながら言葉を返す。
「……アハト、確かにこれはあんたの問題かもしれない。けど、アハトは俺にとって大切な仲間だ。お節介なのは重々承知だ。でも力になりたいんだ」
「僕も同じ気持ちです。アリスズナンバーとグレイスコーズ、双方の関係性を鑑みれば、僕もマザー・アリスへの面会を求めるのは必然です。彼女に直接問い質さねばならないこともありますし」
ルゥが弾倉を再装填しながら、背中越しにアハトへ告げた。
アハトは痛感する。
独りで気負う必要なんて、最初からなかったのだ。
確かにこれはアリスズナンバーの身内のいざこざだ。だが、ことはそれだけにもう留まらない。
アハトの身を案じて駆け付ける白き竜の青年が盾となってくれる。
自分たちの前身であるグレイスコーズの最後のひとりが敵をなぎ倒してくれる。
アハトがこれまで歩んできた猟兵活動で生まれた絆が、今こうして手を差し伸べてくれている事実。
自身を人形だと律してきたアハトは、自嘲気味にその口を賭を歪ませた。
(嗚呼、これでは……まるで私は『人間』ではありあせんか)
90番目の妹はアリスズナンバーの人形であることを自負しながらも、己を人間だと声高に叫んできた。
それをアハトはどこか冷めた気持ちで見詰めていたが、まさか自分を『人間』だと認識する日が来ようとは夢にも思わなかった。
「おふたりとも、10秒だけ敵の意識を私から逸らしてくれませんか?」
その言葉に、陵也とルゥは言葉ではなく行動で示してくれる。
何たる厚き信頼か。何たる熱き絆か。
アハトは2人に心の中で感謝しつつ、本来の作戦である光学迷彩を用いたステルス奇襲の準備に入った。
そして前線の男子2人は、アハトから注意を逸らすべく奮戦を開始する。
「そのまま弾幕を張ってくれ! 俺が敵の攻撃を引き付ける!」
「分かりました。ですが、それでは敵の攻撃を浴びてしまうのでは?」
ルゥの心配に陵也は全身から『浄化の白き波長(ピュリファイ・ブランシュヴェール)』を立ち昇らせる。その中に、今までなかった小さなナノマシンめいた集合体が飛び交う。あれは……白燐蟲の群れだ!
「心配するな。まだ使いこなせてないが白燐蟲の祝福がある。それに俺の特性である“穢れを食らって浄化する”能力があれば、ユーベルコードの封印なんて意味を成さない」
それを証明するように、引き付けて一か所にまとめた被験者たちへ、カウンターのユーベルコードを陵也は放つ!
「其は戒めの鎖。罪には贖いを、悔いには救いを。苦しむ時間がなるべく少なく済むように……それが俺が彼女たちにしてやれることだ!」
途端、被験者たちの足元から光り輝く魔法陣が出現する。そして、そこから飛び出した光鎖が哀れな被験者たちを縛り上げてゆく。
擦れ合う光鎖の甲高い音が戦場に鳴り響き、枷は対象者へ死を齎す。
「――【昇華】贖鎖・戒禁"縛"則(ピュリフィケイト・プロイビションズリストリクト)! マザーに弄ばれた哀れな魂たちを今、俺の特性で浄化する!」
光鎖から白燐蟲が伝播してゆき、水晶型生命維持装置の中の被験者たちへ覆い被さる。
それらはあっという間に生体部位を分解してゆき、光の鱗粉めいた輝きへと変えて待機中へ拡散してゆく。
ルゥも負けじと『猛毒』入りの銃弾を広範囲にばら撒いてゆき、被験者たちを安らかな眠りに就かせていった。
そうして、10秒が経過したまさにその時だった。
「――アリスコード送信。浸蝕プログラム弾装填。狙撃体制に移行。敵、射程圏内。ブレイク」
ルゥと陵也の背後から飛来してきた大量のドローンに付属された鋭利なブレードが、被験者たちを次々と切り刻んでゆく。
そして、ドローンを中継として武装を無効化する浸蝕プログラム弾をレーザーライフル・アハトカスタムから発射するアハト!
ステルス・スナイピングの卓越した技術もさることながら、ドローンを狙撃することでそのエネルギーとユーベルコードを遠隔へ伝播させて遠隔射撃を実現している!
これは、かの有名なコミックの応用!
今やあのドローンは敵を切り刻む自動攻撃ドローンであり、ビームと浸蝕プログラム弾を中継する『狙撃衛星』なのだ!
ドローンを中継して発射される凶弾は変幻自在であり、狙撃手であるアハト自身もどこにいるか分からない状況。
圧倒的な優位を確保したアハトが、このあたり一帯の敵を屠るのに1分間もかからなかった。
当座の敵の駆逐が終わると、アハトは新しい煙草を咥えて火をつける。
肺から紫煙を吐き出し、髪をかき上げて物憂げな表情を見せた。
「時折マザーが何を考えてるか分からない時がありました」
アハトは先程行使したアリスズナンバーネットワークで、オブリビオン化したマザー・アリスと同期したのを確認した。
流れ込んできた“穢れ”に頭痛を覚えながらも、今まで感じてきた違和感を言葉にして吐露し始めた。
「私はマザーのコピー品なのだから、記憶も考える事もわかるはず。だったのですが、本当は実の娘だった。道理で、分からないはずです。フィーア姉さんやノインツィヒと違って、私は……複製品ではなくて母と子という他人同士だったのですから。今回の予知だってそうです。親子でも……分からないことだらけです」
「マザー……。やはりあんたは、もう元には戻らないんだな」
陵也は寂しそうに、そしてこうなってしまったことを悔やむように奥歯を食いしばる。
「今まで何度も助けてもらった恩を仇で返すような形になるのは心苦しいが、止めるしかないというのなら……!」
「ええ。今はマザー・アリスの目論見……【0に至る世界(ワールド・オブ・ラヴ)】を止めなくてはなりません」
ルゥが銃のメンテナンスをしながら、高まった脳の温度を覚ましてゆく。
その過程で、彼は今までのことを精査するように独白する。
「命や情報の送還、遺失情報の再定義、過去という恩恵の運用。ミカエラ博士の悲願でもある【永遠の九月】は、その恩恵の最たるものだった」
「そういや【永遠の九月】とか、グレイスコーズとか、俺はまだピンと来てないんだが」
陵也の言葉に、ルゥがハッと顔を上げて解説をしてくれた。
「最小限度のコストで世界を救済するシステム。それがグレイスコーズです。具体的には、任意に定めた日時を固定……アーカイブ化させ、世界崩壊直後にアーカイブ化した日時まで『巻き戻る』または『復元する』ことで、世界崩壊を『なかったことにする』システムです。それを実現したのが【永遠の九月】です。あの九月は、永遠に停止して生命の埒外のアーカイブになった。しかし、それは現在と未来が意味を為さなくなるという点において致命的でした。そこから先に行けなくなる世界のバッドエンド。たとえ救われた世界であっても、それすら無に帰す荒唐無稽なマッチポンプでしかありませんでした。アリスズナンバーはこのシステムの応用から生み出されています」
ルゥは顔をしかめる。
「ですが、【0に至る世界】が何なのかはわからない。同様だというなら、いやそれ以上というなら危険すぎます。当然、許すわけにはいかない」
「どうせろくな事じゃないでしょう。さて、マザーの記憶とは何なのでしょうか。久々に、対話をしましょう」
アハトが研究所の奥へ歩を進める。
陵也とルゥがそのあとを追う。
だがルゥは可視カメラを発見すると、この状況を眺めているであろうマザー・アリスへ問うた。
「マザー・アリス。貴女はミカエラ博士から何を聞いたのですか? それとも……?」
その問いは、彼らが面会したときに回答が齎されるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
四王天・燦
過去が未来に紛れ込む程度に留めて欲しいね
それを赦せないのがオブリビオンという呪いかもな
って、エロい宝石漬け美女だー
んふ♪
鎮静化薬で無力化、拘束ワイヤーで生命維持装置に引き込み、電子制御って寸法かな
空きの宝石に囚われた自身を想像して身震いするよ
アークウィンドを振るってワイヤーを風の衝撃波で吹き散らすぜ
迫るインジェクターを神鳴で切り払う
プロトコル発生源をカウントダウンで爆撃して王手をかける
終焉を望む者には神鳴で電撃属性攻撃を流し込んで一思いに仕留める
不自由でも生を望む者(女の子限定だけど)には琥珀の檻を行使し、掌サイズの琥珀に封印するよ
あは、エロ綺麗にできた
終わったら幾らでも外の世界を見せてやるさ
四王天・燦(月夜の翼・f04448)は『永遠の九月』やアリスズナンバーについて、深い関わりがあるわけでもなければ知識もない。
しかし以前、マザー・アリスと交戦しており、その縁からか今回の任務に参加した次第だ。
「マザー・アリスの企みの詳細は分からないが、過去が未来に紛れ込む程度に留めて欲しいね。それを赦せないのがオブリビオンという呪いかもな」
独り言ちた燦は、先遣隊とは別のルートから研究所の内部へ潜入を果たす。
だがマザー・アリスの手が入ったこの研究所では、即座に侵入者は感知されてしまう。
通路を行く燦の前と後ろはたちまち、水晶型生命維持装置に閉じ込められた被験者たちに塞がれてしまった。
「エロい宝石漬け美女だー、んふ♪」
燦は出現したオブリビオンの容姿に舌なめずりをする。レズビアンの彼女にとって、衣服を纏わぬ変わり果てた被験者たちの姿は目の保養になるのかもしれない。
だが被験者たちは殺意を燦へ突き付け、残り3時間の余命で目の前の敵を滅殺せんと文字通り死に物狂いで襲い掛かってくる。
ユーベルコード『ライオットコード・プロトコル』――電子制御コード、鎮静化薬インジェクター、物理拘束ワイヤーの束が、一斉に燦へ押し寄せてきた!
だが当の燦は冷静にそれらが迫るのを待っているかのようだ。
「鎮静化薬で無力化、拘束ワイヤーで生命維持装置に引き込み、電子制御って寸法かな。空きの宝石に囚われた自身を想像して身震いするよ」
――だから、打ち払わせてもらうよ。
燦が右手を振るい上げた瞬間、通路に一陣の旋風が巻き起こった。
妖精の祝福を受けた風属性の短剣『アークウィンド』が大気を搔き乱したことで、突っ込んでくるワイヤーごと被験者たちを後ろへ吹き飛ばしてみせた。
風が止んだ瞬間、今度は鎮静化薬インジェクター(噴射装置)が燦を狙う。
「そっちも勿論、対策済みだって。吠えろ、神鳴!」
左手で赤い稲妻を帯びた妖刀を鞘から抜き払えば、刀身から四方八方に赤雷が迸って一瞬で噴射装置を黒焦げに破壊してしまう。。
物理攻撃が駄目なら、と被験者たちは電子制御プログラムでの生体ハッキングを試みる。
しかし、これには相応の時間が掛かってしまう。
そこを見逃す燦ではなかった。
「おっと、アタシをどうかしようなんて100年早いぜ? いや、この場合は遅すぎるっていう方が適切か?」
燦は箱状の時限爆弾『カウントダウン』を周囲に投げ付けて身を屈めた。
「死なない程度の火力で済ませてある。まぁ、プログラムを発動するのは難しい被害は出るだろうけどな」
轟音と共に爆風と黒煙が通路に充満し、燦の前後の通路はほぼほぼ吹き飛んでいった。
視界不良の中、燦は生きてる生存者を探す。
「おーい、生きてるやつはいないかー? 助かりたい奴はアタシのユーベルコードで外へ連れて行ってやるよ」
しかし、返ってきたのは無数のワイヤーであった。
燦はがっくりと肩を落とす。
「あくまでも徹底抗戦ってわけか。いいぜ、死にたい奴はアタシが送ってやるさ」
アークウインドと鳴神を横薙ぎに振り抜くと、衝撃波と共に再び赤雷が放たれる。
衝撃波で押し返されたワイヤーへ、赤雷が感電!
被験者たちは水晶型生命維持装置の中で黒炭となって砕けていった。
次第に視界が晴れ、気が付けば被験者はたった1体だけとなっていた。
燦は砕けた生命維持装置の中で喘ぐ被験者へ問うた。
「もとより、アタシはお前たちを助けたいんだ。でも死をそのまま乞うならトドメをさしてやる。選びなよ」
だが被験者は何も答えない。
家族と無理矢理に引き離され、生きたまま非人道的実験を施され、変わり果てた姿で余命3時間の殺戮装置として稼働しているこの被験者は、既に絶望に染まって考えることを止めてしまっていた。
虚ろな眼差しで燦を見詰め、選択することを放棄していた。
なぜならば、この被験者は死の超克のための実験にも、燦のユーベルコードの延命も、ましてや自分の死も、もはや絶望でどうでもよくなっていたからだ。
望むのは元の人間の姿に戻り、家族のもとへ帰りたい。ただ、それだけだった。
「……沈黙は肯定と見做すからな?」
燦は埒が明かぬと判断し、目の前の被験者をユーベルコード『符術"琥珀の檻"(フォビドゥン・コレクト)』にて封印保護を行う。
「御狐・燦が命ず。符よ禁断の琥珀を召喚し、彼の者を永劫の檻へと誘い給え!」
もとより絶望に染まって敗北感しか残されていない被験者は、燦の掌の中で琥珀の結晶となって眠りに就いた。
「あは、エロ綺麗にできた。終わったら、幾らでも外の世界を見せてやるさ」
果たして、燦に被験者の絶望は理解できているのだろうか?
もとよりこのユーベルコードは彼女の偏愛と永久の束縛が結実したようなもので、琥珀の中に封印された対象は燦と生命を共有し続けることで延命し続ける。
死の運命を拒むそれは、まるでマザー・アリスの目論みと重なる部分がある。
愛と永遠が齎す先は、封印された被験者にとって悠久の楽園か。
それとも、終わりのない無間地獄か。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
なんという非道でしょうか
皆さん実験の被害者さんなのですね…
命を奪われ
更にオブリビオン化させられるとはお可哀そうに
元へ戻して差し上げることも
喪われた命と未来とを取り戻して差し上げることも
叶わないのが悔しいです
せめて海へと導きましょう
竪琴を奏で
魔力孕んだ旋律の波動を拡げて
周囲の建物や機器へ働きかけ
炎水風の魔力へ変換
爆発や激流や突風で攻撃します
インジェクターもワイヤーを
燃やし、押し流し、吹き飛ばしたり
魔力へ変換してしまいます
一撃で倒すか
意識を奪って
チャイルドさん方が逝く時の苦痛がないようにします
炎と水の魔力の波状攻撃が吹き荒れる戦場は
包むクリスタルにヒートショックでクラックを刻んでいきます
ほんの些細な攻撃や動きで微塵に砕けるでしょう
そして更に演奏を続けて
生み出された音達が幾重にも音紋を広げ
互いに共鳴すれば
直接クリスタルを魔力へ変換できるでしょう
戦闘後も演奏を続けて鎮魂の調べとします
こんな形でしかお救い出来ず申し訳ありません
どうぞ海で静かな眠りを
…さあマザーさんとの決着をつけましょう
カシム・ディーン
………吐きそうだ
…むかむかする…気持ちが悪い…
何だこの感情…
「ご主人サマ大丈夫…?」
はっ…大したことねーよ
死を超克…そいつは夢だが…このやり方でどうにかなるとは思えねーな
メルシー…今のうちに冥界にアクセスしておけ…
「…!そっか…あの人を呼ぶんだね…!」
【情報収集・視力・戦闘知識】
敵の状況
周辺の電子機器の捕捉
【属性攻撃】
メルシー!
「らじゃったよ☆」
光(電子)属性の障壁展開
遠隔操作プログラムの妨害を試みる
【念動力・弾幕・スナイパー・空中戦】
UC発動
超高速で飛び回りながら念動光弾で蹂躙
【二回攻撃・切断】
連続斬撃で切り刻む
……僕らに出来るのはおめーらを止める事だけです
…猟兵ってのは割ととんでもねー存在だが…
それでも無力な時はあるんだな…
「…メルシーも最高位の神にも至った事はあるけど…それでも…手が届かない事はあるんだよ…」
…つれーもんだな
僕には家族なんぞいねーが…
それでもあいつはアハト達のお母さんだったんだよな…
まぁいい…同情なんぞしねー
引導を渡してやるからさっさと眠りやがれ
それしかねーならな
バルタン・ノーヴェ
POW 連携可能
アリスズナンバー……アハト殿やノイン殿の親でありますな。
アリス・グラムベル殿の件も、グレイスコーズというシステムのことも、ワタシには直接の関わりがない出来事でありますが……お二人ともワタシの尊敬する先輩猟兵!
微力ながら加勢に参上するであります!
マザー・アリスに挑む前に、まずは被験者たちを倒さねばなりマセンネー!
軍勢には軍勢をと思いマシタガ、バルタンズもロボゆえに操作されるかもしれないので。ここはワンマンアーミー!
フルバースト・マキシマム、展開!
近づけばチェーンソードやパイルバンカー、チェインハンマーで斬ったり突いたり殴ったり!
遠くは火炎放射器やグレネードランチャーで焼いたり吹き飛ばしたり!
他の方の動きを見つつ、遠近バランスよく立ち回りマース!
滑走靴を装備しているので、空中機動も可能であります!
……ワタシも似たようなナンバリングタイプの改造シリーズ(ノーヴェ=9)
親近感のようなものはありマスガ、今必要なのは戦意。
クリスタライズ・チャイルドの皆様!
全身全霊で応戦いたしマース!
「なんという非道でしょうか。皆さん、実験の被害者さんなのですね……」
施設内に潜入してからすぐに被験者たちから襲われた箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は、蒸気機関式竪琴カッツェンリートを掻き鳴らしながら駆け回っていた。
魔力を孕んだ旋律の波動は、電子機器を火・水・風の三色魔力へ変換することで、敵の操作権を握らせない。この立ち回りのおかげで、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)の相棒メルシーやサイボーグのバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)が十全に戦闘を行える環境を作り上げていた。
「命を奪われ、更にオブリビオン化させられるとはお可哀そうに。元へ戻して差し上げることも、喪われた命と未来とを取り戻して差し上げることも、叶わないのが悔しいです。せめて、骸の海へと導きましょう」
「仄々さんの音色のおかげで、随分と戦いやすくて助かりマース!」
バルタンはファルシオン風サムライソードを振り下ろし、箒星のユーベルコード『トリニティ・シンフォニー』の射程外で殺戮機械化した電子機器を一刀両断してみせた。
続けざまに内蔵式の火炎放射とグレネードランチャーのダブル砲撃で、被験者もろとも殺戮機械を吹っ飛ばす!
「アリスズナンバー……アハト殿やノイン殿の親でありますな。アリス・グラムベル殿の件も、グレイスコーズというシステムのことも、ワタシには直接の関わりがない出来事でありますが……」
先頭をこなしながらも、真剣に考察を続けるバルタンは、ユーベルコード『フルバースト・マキシマム』での全武装の乱れ打ちを行っていた。
「アハト殿もノイン殿、お二人ともワタシの尊敬する先輩猟兵! 微力ながら加勢に参上するであります! ってことで! チェーンソードやパイルバンカー、チェインハンマーで斬ったり突いたり殴ったり! ワンマンアーミーで押し通りマショウ!」
対軍勢兵器も保有しているバルタンであったが、相手が電子機器を自在に操るユーベルコード『ジェノサイドコード・プロトコル』や『ハッキングコード・プロトコル』を所持している以上、数の暴力の象徴であるミニ・バルタンズはロボゆえに敵の手中に落ちる恐れがあるため使えない。
そこで、考えたのが操られる前に最大火力をぶっ放して倒すという超攻撃的ワンマンアーミー作戦……つまり全武装一斉解放であった。
「マザー・アリスに挑む前に、まずは被験者たちを倒さねばなりマセンカラネー! 皆様に罪はアリマセンが、ここは通させていただきマース!」
滑走靴を起動させると、なんと空を自在に駆け上がって立体的な起動で殺戮機械の頭上を取るバルタン。
「隙ありデース!」
天井すれすれから床にいる被験者たちへ、最大火力の火炎放射を浴びせる!
熱せられた水晶型生命維持装置へ、箒星がすぐさま魔法で冷水の噴射を浴びせて冷風を送る。
すると、水晶型生命維持装置はヒートショックでたちまち亀裂が入ってクラッシュ!
「バルタンさん、そのまま火炎放射を浴びせ続けてください。私の三色魔力で、被験者さんたちを覆うあの水晶を砕きます。インジェクターもワイヤーも、燃やし、押し流し、吹き飛ばしたりして魔力へ変換してしまいますますので、こちらのユーベルコードが封じられることはありません」
「何から何まで大助かりデスネー! クリスタライズ・チャイルドの皆様! 全身全霊で応戦いたしマース!」
バルタンが前線で大暴れをして敵の攻撃を引き付け、箒星の音色が被験者たちのユーベルコードを無効化して逆に反撃へと転用してみせる。
熱した被験者たちの水晶型生命維持装置は、バルタンの直接攻撃はおろか箒星の奏でる弦の音波でも砕けるほど、ヒートショックの威力は絶大であった。
偶然の産物の連携が見事に嚙み合うと、数百は下らない敵勢が次第に後退し始めた。
……と、ここで、カシムとメルシーたちも、防戦一方ではなく反撃を開始する。
だが、カシムの顔色は優れなく、どこか苛立ちを見せていた。
(………吐きそうだ。……むかむかする……気持ちが悪い……何だ、この感情……?)
苦虫をかみつぶしたかのように渋い顔のカシムに、相棒のメルシーが声を掛ける。
「はっ……大したことねーよ。死を超克、か……そいつは夢だが……このやり方でどうにかなるとは思えねーな」
「死を超克されちゃったら、メルシーの役目がなくなっちゃうもんね?」
「つうわけでメルシー? ……今のうちに冥界にアクセスしておけ……」
「……!? そっか……あの人を呼ぶんだね……!」
メルシーは笑顔で首肯すると、彼女の頭の上で浮かぶ金の輪がごぅんごぅんと音を立てて回り始めた。
界導神機『メルクリウス』は境界を超える権能を持つキャバリアの姿をした神である。
つまり、生と死の境界を越えることも過去に何度かやってのけてきた。
今回もそれに備えて、のことだが……果たして、今回はうまく事が運ぶだろうか?
ともあれ、殺到してきた被験者たちは、プログラムに沿ってカシムとメルシーを排除しようと、ユーベルコード『ハッキングコード・プロトコル』を発動させた。
遠隔操作プログラムを放ち、戦場内の電子制御駆動が動力の物品全てを精密に操作する。
箒星がある程度緩和しているとはいえ、メルシー本人に直撃すれば影響を回避するのは難しいだろう。
ゆえにカシムはすかさず命令した。
「メルシー! やれ!」
「らじゃったよ☆」
目の前に展開されるは光の魔導防壁だ。
これはあらゆる生成式のプログラムを拒絶する!
「メルシーは神様だから、これくらいは出来てトーゼンだよ☆」
「……あとは、分かってるな?」
カシムの声が沈んだ口調になる。
メルシーもそれを察し、無言で頷いた。
「魔力と思考をリンクさせろ」
「ローバーズランページ、行くよ!」
次の瞬間、カシムとメルシーは目にも留まらぬ超音速機動で、被験者たちを次々と撃破してゆく。
「……僕らに出来るのはおめーらを止める事だけです」
空を飛び、空中から万能魔術砲撃兵装『カドゥケウス』から念動光弾で大群を粉砕するカシム。
「――猟兵ってのは割ととんでもねー存在だが……それでも、無力な時はあるんだな……」
爆煙の中から飛び出した白銀の少女の姿をした死神の手には、刃がビームで出来た大鎌剣ハルペーが振り被られている。
「……メルシーも最高位の神にも至った事はあるけど……」
真一文字に死のビーム大鎌を振り抜けば、目の前に立ち並ぶ被験者たちは容赦なく上半身と下半身がバラバラに吹き飛んでしまう。
「それでも……手が届かない事はあるんだよ……」
被験者たちの返り血は赤ではなく青く、もはや人間ではないことをまざまざと証明してみせた。
白い紙や衣服を青く染め上げたメルシーと背中合わせになったカシムは、包囲された状況で舌打ちをする。
「……つれーもんだな。僕には家族なんぞいねーが……それでもあいつは、この非道な実験を行ったオブリビオンは、アハト達のお母さんだったんだよな……」
「というかメルシーは家族じゃなかったの?」
背中越しから聞こえる声に、カシムは自嘲気味に嗤う。
「はぁ? てめーは僕の奴隷で道具すよ。ほら囲まれたじゃねーですか。さっさと僕の役に立て」
「もう、ご主人サマってば相変わらず素直じゃないんだから♪」
メルシーは嬉しそうに笑みを浮かべると、にじり寄る被験者たちへ大鎌を掲げて威圧する。
「まぁいい……僕は同情なんぞしねーし? ほら、おめーらに引導を渡してやるから、さっさと眠りやがれ死にぞこないが。今の僕に出来るのは……それしかねーならな」
カシムが言葉尻を言い終える前に、2人の姿が消えた。
そして突如、局地的な暴風が室内に吹き荒れる。
最大速度マッハ39という驚異的な移動速度自体が衝撃波を伴って被験者たちを粉々に砕いてゆく。
更に……。
「此方は片付きました! カシムさん、メルシーさん、援護しますよ~!」
箒星の竪琴の音色が、被験者たちを覆う水晶型生命維持装置自体を魔力へと変換させて消滅させてゆく。
肝心要の装置が消えた彼らは、すぐに衰弱して死に向かっていった。
いまだ抵抗を見せる被験者たちには、バルタンの全武装が火を噴き、容赦なく平等に永眠へ就かせてみせた。
「……我輩も似たようなナンバリングタイプの改造シリーズ、ノーヴェ=9であります。アリスズナンバーには親近感のようなものはありますが、今必要なのは戦意! 目の前のオブリビオンを殲滅すること! 今から殺されるクリスタライズ・チャイルドの皆様、どうぞ我輩を恨んでくれて構わないであります。ですが、死した魂の行く末がどうか――」
天井を蹴って勢い付けたバルタンは、パイルバンカーの巨大杭を引き上げて火薬をリロード!
「安寧の時を、迎えられますように……! フルバーストッ! マキシマァァァアアムッ!!」
水晶型生命維持装置を巨大杭が撃ち抜くと、ゼロ距離から火炎放射とグレネードランチャーが火を噴き、チェインハンマーとチェーンソードが周囲の被験者を討ち下してみせる。
もはや彼らにとって死は解放を意味する。
しばらくして、動かなくなった被験者たちの遺体にバルタンは黙祷を捧げ、カシムとメルシーはこの先に待つマザーへの感情をぐっと今は堪え、箒星は竪琴で鎮魂曲を奏でるのだった。
「こんな形でしかお救い出来ず申し訳ありません。どうぞ骸の海で静かな眠りを」
箒星が一曲演奏し終えると、他の3人へ重い口調で告げた。
「……さあ、マザーさんとの決着をつけましょう」
バルタンとカシム、そしてメルシーは黙って首を縦に振るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『マザー・アリス』
|
POW : アリスコード:アリスオブトライメロディー
【バグ】を籠めた【手から放つオブリビオンストーム】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【武装と精神】のみを攻撃する。
SPD : データ解析:斬竜剣ヴォーパルソード
【解析し、召喚した斬竜剣ヴォーパルソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : 私の愛しい娘達:ドーターズ・オリジン
自身の【量産エネルギー】を代償に、1〜12体の【戦闘用フラスコチャイルド「最初の12人」】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
イラスト:儚木こーあん
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠アハト・アリスズナンバー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――研究所・最奥。
変わり果てた被験者たちを斃した猟兵たちは、遂にマザー・アリスが待つ研究所の最奥のフロアの扉の前へ辿り着いた。
猟兵たちはタイミングを合わせ、意を決してその扉を破壊して強行突入を試みた。
彼らはすぐにマザー・アリスの攻撃が飛んでくると思って身構えたが、その目に映った光景に目を疑った。
「ようこそ、猟兵の方々。どうぞ、お席にお掛け下さい」
マザー・アリスがそう促す先には、猟兵の人数分だけ用意された椅子と、テーブルの上に並べられた色彩鮮やかなケーキやマカロンなどのスイーツ、そして薫り高い紅茶が入ったティーセットであった。
これは、まさかお茶会の誘いなのか?
訝しがる猟兵たちの態度に、マザー・アリスはくすくすと笑みを漏らす。
「ご安心を。毒など入れていませんので、遠慮なく召し上がって下さい。皆様とはきちんと会談をしたいと思っておりました。双方の『認識の食い違い』について、この場で是正できたらと考えております。ですのでどうか、お席へ」
マザー・アリスの誘いに、猟兵はどうするべきなのか?
もちろん、一部の猟兵が反発して果敢に突っ込んでいく。
しかし、それはマザー・アリスの周囲に突如として出現した12人の戦闘用フラスコチャイルドたちと、マザー・アリスが振るう巨大な青白い長剣、そしてその手から放たれたオブリビオンストームによって阻まれた。
「私への奇襲並びに先制攻撃は無駄です。何故なら、私は自分の脳を改造し、あらゆる演算も瞬時に行えるスペックを獲得しました」
マザー・アリスの後ろからケーブルが伸びており、その先に培養液に満たされたガラス管の中の脳髄と接続されている。自身の脳を改造するなど狂気の沙汰だ。
「つまり、どんなに皆様がユーベルコードで因果律を曲げようが、私は“必ず絶対先制攻撃を仕掛けることが可能”なのです。そしてそのおかげで、私の愛しい娘達こと『最初の12人(ドーターズ・オリジン)』を常時顕現可能とし、私の他のユーベルコードに追撃効果をもたらします」
マザー・アリスの娘たち……すなわち、オブリビオン化したアリスズナンバーの初期ロット個体が、この場に勢揃いしている。
アリスズナンバーシリーズ1号機にして、すべてのアリスズナンバーの指揮官であり、肉体も魂も生真面目な性格も、マザー・アリスに最もに近い存在、アイン。
ポニーテールの京都弁のはんなり娘、だが穏やかな外見とは裏腹に戦闘技法は剛力から繰り出される巨大剣の暴力を誇るツヴァイ。
おさげで活発なマーチバンドの衣装を纏った双子の片割れ。通信系後方支援とアリスズナンバーのバッファーを担う戦術家ことドライ。
ツインテールで慈悲深い笑みを湛える双子の片割れ。ドライと共に戦域の通信網の確保の他、自身も白馬型のロボ戦車に跨り、砲撃支援火力を有するフィーア。
巨大なガトリング砲の銃口を猟兵に向けて、今にも撃ちたそうにうずうずしている縦ロールヘアの高飛車娘ことフュンフ。
突撃槍と盾を構えた短髪の重装騎士で、見かけによらずフットワークの良さで遊撃から首尾まで幅広くこなすゼクス。
右目を垂らした髪で隠し、双剣の刃を舐めながらニタニタするのはセブン。ズィーベンではないらしい。
眼鏡を掛けた気弱そうな魔導士ことノインは、猟兵たちを前に複雑な表情を浮かべる。
眼帯を装着した10番目の娘ことツェーンは、やたら左腕に巻かれた包帯を気にしながら、真っ白な巨大鎌の柄を握り締めている。
目隠しをしているエルフが長棍を握り、口元をマスクで覆ったツヴェルフはトンファーを持って身構える。
そして、その中で一際異質なのが、一切の感情を削ぎ落した人形のような8号機の存在……アハトが、じっと特定の猟兵を睨み付けていた。
「この子たちは、私が攻撃するか、皆様が敵意を向けない限り襲い掛かりませんのでご安心下さい。それでは、会談を始めましょうか。ああ、私の自己紹介がまだでしたね」
マザー・アリスの口から告げられた自己紹介に、猟兵たちは耳を疑った。
「私はアリスズナンバーの母にして、『フィールド・オブ・ナイン』を信奉する一族がひとり。生前の名はアリス・グラムベル、今はオブリビオンのマザー・アリスと申します。さて、私の目的を、美味しい紅茶とお菓子を楽しみながら語って差し上げましょう」
猟兵たちは選択しなくてはならない。
会談を経た上で戦闘を含めた何かしらの行動を起こすか、それともこの誘いを断って即座に戦闘へ突入するか。
だが、マザー・アリスは絶対先制攻撃を放つと同時に、『最初の12人(ドーターズ・オリジン)』も猟兵たちへ仕掛けてくる!
生半可な対策やユーベルコードの後出しでは、何も出来ずに致命傷を負うだけだ。
対話の末の戦闘か、それとも交渉か、あるいは強行突破か?
――ユーベルコードの高まりを感じる……!
地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
【結界術】を席に参加する連中とそれ以外で隔てるように張っておく。
話が終わるまで、絶対に誰にも横槍を入れさせないと約束しよう。
これは俺があんたを信用しているからこそだ、今まであんたには何度も助けてもらったからな。
それにせっかくの親子会話に水を差すような真似は、俺はしたくない。
みんなにはわがままを言うようで済まないが……
基本的には聞き役に徹する。
全部聞いて、何故そうなったのかを知った上で、俺はそれを認めるワケにはいかないと主張する。
どんなに辛くても苦しくても、喪ってしまっても。
前に進まないと何も始まらないし、終われないものが、俺にはあるから。
戦闘に入ったら即【高速詠唱】【多重詠唱】、結界と【オーラ防御】、さらに【激痛耐性】を高める強化(【肉体改造】)の術を。
攻撃をモロに浴びても動けるようにな。
口さえ動けば詠唱はできる!ダメならオーバーロードで無理やり動かすだけだ!
【カウンター】で【全力魔法】の【指定UC】発動、反撃の機を作る!
後は【破魔】と【浄化】の術で仲間を援護するぜ!
箒星・仄々
席に着きます
お菓子に紅茶とは相当な贅沢です
一体どれ程の犠牲があって生まれたものなのか…
だからこそ味わって頂きます
猫舌なのでふーふー覚ましながら
過去の化身さんの仰ることに猟兵が賛同できる筈はありません
私達は人々や世界が未来へ進むお手伝いをさせていただく
存在なのですから
戦い、というわけですね(ナプキンで口とお髭をふきふき
攻撃音や空気の振動を猫の耳やお髭で感知
テーブル下に潜り込み駆け抜けて
敵攻撃を掻い潜ったり回避したり
魔法剣で受け流しつつ跳んで威力相殺
先制攻撃を凌いだら反撃開始です
駆け抜けながらぺろぺろしてました
スケーターの如く滑走
敵攻撃を回避したりつるっと受け流しながら
一気にマザーさんへ迫ります
敵攻撃や妨害があっても
敵さん方を転ばせたり武装を落とさせながら
何度でもマザーさんへ向かいます
と見せかけて脳のガラス管狙いです
ぺろっとしてガラス管をバラバラにします
終幕
マザーさん&12人さん方へ鎮魂の調べ
どうか海で静かな眠りを
私達は未来へ進んで行きます
カシム・ディーン
「ご主人サマ!早速ルイス君を…」
いやストップだ
ちと嫌な予感…いや…此奴は「僕らの手」を知ってる
会談に応じる
(ケーキやマカロンむっしゃむっしゃ
「ご主人サマー!このマカロン美味しい!」
うるせっ(紅茶をこくこく【情報収集・視力・戦闘知識・医術】による食品と周囲状況の分析
「って戦わないの?酷い事したのに?」
ああ、此奴のやった事はクソだ…だが…此奴はそれを分かった上で誘いやがった
だから憤怒は一度置く
何方にせよ思惑に乗るのは業腹だがな
それに…僕は戦いよりエロい事の方が好きですし
目的はしっかり聞く
その上で
なんで僕らにその話を聞かせた?
最後は宿敵主の判断を優先する
戦いなら
対SPD
【属性攻撃・迷彩・武器受け・念動力】
光水属性を己達に付与
同時に無数の立体映像を展開
捕捉妨害
それでも避けきれないのは水銀水槍の自動防御と念動障壁展開で致命を避ける
UC発動
オバロ強化
【空中戦・弾幕】
超高速で飛び回り
念動光弾の大乱舞
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
超連続斬撃で切り刻み
重要なパーツの強奪
…悪いな
助けてやれなくてよ
ルゥ・グレイス
席にはつきましょうか。何にせよ話し合えるならそれに越したことはない。
貴方の目的や0に至る世界のこと、聞きたいことはいくらでもある。
念の為、お茶やお菓子に解析はかける。毒は…ないかな。
もちろん決裂の目はある。その為の対策は忘れない。
先制攻撃の発動後にその攻撃に対抗できる短期時間逆行【原子心母は眠らない】を秘密裏に演算開始。
互いに先制攻撃に対応できるなら状況はイーブン。
あとは互いの戦略差次第。
けど、その前にこれを。
イマジネーアツァールとの戦闘後に拾った一枚の写真を机に置く。
「貴方にもし未来に続く意思があるなら、それをこの写真に誓えるなら、僕としては貴方側についたっていい。お教え願えますか?貴方の目的を。0に至る世界が何なのか、骸の海の中で一体何を見たのか?」
決裂するなら光の柱が発生した瞬間が開戦の合図だ。狙撃位置においたキャバリアと自分のライフルの銃撃で量産エネルギーの炉心を破壊しつつ、サポートに回る。
しかしもし会談がうまくいくなら、その時は。
未来の為に、また紅茶を飲みましょう。
四王天・燦
自己紹介してお茶会に参加
意思あるマザーに興味津々
『0に至る世界』を清聴してから意見を言う
異なるマザーと会ったことがある
同一存在を拾えるのか?
そも魂とは何か?
永遠の押し付けを感じれば己が琥珀封印を思い出す
アタシも酷い押し付けだ…ごめんな
外を見せてから弔うと心を決める
今まで【無理矢理】封じた他の娘達もね
無理矢理でない親友・利害関係の者達は保守するけどさ
永遠自体は否定しないんだ
マザーに問う
押し付けのない『新しい永遠』を探求できない?
アタシは過去を悔いて変わる
マザーも過去―オブリビオンの宿業を越えて欲しい
…永遠を押し付けるなら戦うよ
神鳴とアークウィンドの二刀で応戦
被弾覚悟で突っ込み敵を盾にして乱戦だ
十月が見たいんだ
肉体の限界を凌駕する魂を燃やし大暴れ
風の衝撃波でマザーの脳を狙うとフェイント入れてドーターを斬る
マザーは宿縁の導きに任せるぜ
願わくば二刀流同士・セブンと死合って永遠よりも熱い生死の一瞬を共有したいね
武器を飛ばされりゃ柔術グラップルで首を折るまでよ
終わりの後に弔う
憑き物落ちた気はしている
アハト・アリスズナンバー
アドリブ連携歓迎
マザー。ファーストロットとして警告を。
0に至る世界は終末図書館最大原則第一項【人類に多大な恩恵とそれ以上の危機を与えるオブジェクトの研究、及び封印処置】に抵触しています。グレイスコーズから続く措置。お考え直しを。
お茶を飲みつつも、所詮オブリビオンと化したマザーの考えは、私達猟兵と交わらない事を理解している。
……来たんですね。二人共。なら、やりましょうか。
UCに対して激痛耐性、ダッシュ、空中機動、受け流しを利用して緋断面積を最小限に抑えます。絶対先制攻撃に対して無傷で勝てるとは思っていません。ある程度の血を流す事をは覚悟してます。
では、こちらも使わせていただきます。UC起動。血を媒介にドーターズオリジンを召喚。
集団戦術をレベル100で使用します。
そのままドーターズオリジン同士の決戦としましょう。
そして姉妹に紛れつつ、ヴォーパルソードで突撃。マザーの管を破壊します。
お母様。私は長らく人形として生きてきました。
ですが、これからはアハトという人間として生きて見ようと思います。
ノインツィヒ・アリスズナンバー
アドリブ連携歓迎
おい。物が物だろ。私も混ぜな。
こればかりは使いたくなかったけど、そうも言ってられねえよな。
コードノイン。システムオーバーロード起動。リアライゼーション。
この鎌でマザーを狩る日が来るなんてな……やらせてもらうぜ。
フェイント、野生の勘、限界突破、激痛耐性、ジャストガードなど使えるもんは使って凌ぎ切る。
同時にUC起動。瞬間思考力で最速検索してヴォーパルソードと追従するナンバーの動きを皆に伝える。
とにかく避けな!コースだけは伝えてやっからよ!
余り動けないフィーア姉などには庇うを使用。
こっからは全力で行かせてもらうぜ。
鎌を使って薙ぎ払い、切り込み、カウンターでぶった斬る。
ノイン姉もツェーン姉も久しぶりの顔だな……こんな形で会いたくなかったけどよ。
また狩らせてもらうぜ。
今のカウンターナンバーは私だ。この任をアンタから受け継いだ身としては、てめえら全員また骸の海に返さねえといけねえんだ!
なあマザー。私達はアンタから卒業するよ。
これからは、代替えの効かない人間として生きる。いいだろ?
フィーア・アリスズナンバー
アドリブ連携歓迎
マザー。システムga完全に、コントロールdeきていません。
外部である私deすら、見てわかります。
だkaら、今を生きる私たちの手で止めます。
コードフィーア。システムオーバーロード。リアライゼーション。
先制攻撃に対して、アハトとノインの陰に隠れつつ限界突破や焼却弾で近づけさせない手を取ります。銃弾には木馬さんを盾に。
ドライはいないけど、システムドライフィーア起動。あと少しだけ耐えてください。
時が来ましたらUC起動。この世界は私が全てです。それはマザー、貴方でも例外ではありません。
クイーンの言葉を出します。「猟兵への攻撃行動を禁ずる」
これでどんな攻撃でも行動成功率は大きく下がる事でしょう。さあ、後はアハト。貴方のやるべきを成してください。
私も少しながら、怪力と蹂躙でお手伝いしますから。
もう私達は貴方の手を離れます。
けれど、まだ手はある。骸の海に接続。バックアップを再現……!
システムフィーアだから出来る最後の恩返し。
貴方を、人以外に転生させます。
いずれまた、会える事を信じて。
バルタン・ノーヴェ
ふむ。
皆様が、アハト殿がお茶会をするならば、喜んで給仕するのであります!
猟兵側のメイドとして配膳し、飲み物を注いで奉仕しマース!
会話や交渉には加わらず、円滑なお茶会の進行を補助しマショー!
もちろん、気は抜かないデスガ!
戦いを始めるならば全力で応対を!
絶対先制攻撃……幹部級のオブリビオンの技。
生半可な方法では困難でありますが……初動でそちらのアリスズナンバーの動きは観察させてもらったのであります!
『最初の12人』の攻撃から仲間をかばうためにファルシオンでパリィして回りマース!
そして、マザー・アリスのユーベルコードに対しては回避を選択!
その一撃が届く前に、足元をグレランで自爆!
吹き飛んでの緊急回避であります!
先制攻撃の後に振舞うUCは、プレジデント!
「骸式兵装展開、米の番!」
アハト嬢の想い。この場に集まった猟兵の皆の熱意。
お茶会や戦闘中に聞こえてきた言葉を拾い集めて、それらを再確認する演説を行おう。
マザーにぶつける大統領魂を与えようではないか!
さあ、主役は君だアハト嬢。思う存分、やりたまえ!
突然、猟兵たちへ持ちかけられた会談の誘い。
今やオブリビオンと成り果てたマザー・アリス、その背後にはオブリビオン化した彼女の『娘』たちことアリスズナンバーの初期ロット12人が控えている。
「どうしましたか? 私から話し合いの場を設けると言っているのです。それとも、このまま殺し合いますか?」
マザー・アリスは率先して席に着き、テーブルに用意されたマカロンを口に運んでみせた。
「……この通り、毒など持っておりませんので。私は、皆さんへ自分の考えをお伝えしたいだけなのです。どうか、ご着席を願います」
この言葉に、猟兵たちは――。
「分かりました。マザーの申し出、受け入れましょう」
アリスズナンバーの8番目の個体にして初期ロット『最初の10人(ドーターズ・オリジン)』のひとりであるアハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)が椅子を引く。
ほぼ同時に箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)も躊躇せずに椅子に腰かけ、目の前のクッキーをポリポリと噛み砕く。
「確かに、毒はないですね。とても美味しいです。ですが……」
箒星は左右の髭をしなしなに垂れさせて目を伏せる。
「この世界でのお菓子と紅茶のもてなしは相当な贅沢です。一体、どれ程の犠牲があって生まれたものなのか……。だからこそ味わって頂きます。皆さんも味わいましょう。間もなく戦場となるこの場において、出された飲食は残さず平らげるべきですので」
マザー・アリスは、被験者たちを近隣の複数の拠点(ベース)から攫ってきた、とグリモア猟兵からの情報提示があった。
そこの備蓄されていた食料も押収してきたのだろう。
だからこそ、文明が滅んだこの世界で今、唯一、文明的なお茶会が出来るのだから。
「皆さん、席にはつきましょうか。何にせよ話し合えるなら、それに越したことはないですので。マザー・アリス、いや、アリス・グラムベル女史とお呼びするべきでしょうか。ともあれ、貴方の目的や『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』のこと、聞きたいことはいくらでもある」
ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)も着席し、背後に控えるオブリビオン・アリスズナンバーの12人を端から端まで眺める。
「しかし、僕がアハトさん他のアリスズナンバーの方々から聞いていたのは、『最初の10人(ドーターズ・オリジン)』は“10人だった”はずですが?」
これにマザー・アリスが回答する。
「ええ、正規稼働したのは10番目のツェーンまででしたが、実は隠密特化のエルフと暗殺特化のツヴェルフがその後、新たに隊へ加わる予定でした。でも、アリスズナンバーの生みの親であるルイス・ラドヴィッジ博士は『これ以上、彼女のバリエーションを増やすことは、彼女の自我から離れすぎる』という理由で廃番処分されたのです。いわばふたりは『幻のアリスズナンバー』。彼女らも私の『娘』であり、骸の海へ沈んだ魂と記憶の鋳型。よって、ユーベルコードによって受肉させ、この場に顕現させてあげたのです」
目隠しをした長棍使いと口をマスクで覆ったトンファー使いは、甘えるようにマザー・アリスへ寄り添う。どうやら無口な性格らしい。
ルゥは目の前の飲食物に毒物がないかを解析しながら、その話を聞いて溜息を吐く。
「……存在していたかもしれない存在ですら、骸の海に沈めばサルベージの可能性がある、と。これも貴方の計画の一端ですか?」
「ええ、愛があればこその『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』ですから」
「……では、その詳細を伺うためにも、皆さん、ここはひとまず着席を」
「マザーさんの言葉通り、後ろの12人は私たちが敵意を見せない限りは戦闘行為をしないでしょう。むやみに刺激しない方が得策ですよ~」
ルゥと箒星に促されてか、四王天・燦(月夜の翼・f04448)が動く。
「そういうことなら、アタシも同席しなきゃだな。前に一度、マザーアリスと交戦したことがあるし。あの時の亡骸を確かに土の中へ埋めたんだが、こうやって自我がはっきりしてるマザーに出くわすと、まぁ……なんだかな?」
ポットからセルフで紅茶を注ぐ燦。
あの日の弔いは一体何だったのだろうか。
口ぶりは落胆のそれだが、視線と態度は裏腹にマザー・アリスへの興味で満ち溢れているのが他者からも判別できる。
「……燦さんの言いたいことは何となく。私も、まさかこうしてオブリビオン化した自分自身と対面する機会が訪れる日が来ようなんて、思ってませんでしたので」
アハトも首肯しつつ、熱々の紅茶に角砂糖をひとつ放り込む。
その所作を、オブリビオンのアハトがぎりりと奥歯を噛み締めながら、必死に殺意を堪えている。
「随分とそっちのアハトは血気盛んのようだな?」
地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)は警戒しながらも、出された紅茶に口を付ける。
「そっちのアハト、分かってるだろうが手出しは無用だ。そしてマザー、俺たちも話が終わるまで、絶対に誰にも横槍を入れさせないと約束しよう」
陵也が姿勢を正して、マザーたちへ軽く頭を下げる。
「これは俺があんたを信用しているからこそだ、今まであんたには何度も助けてもらったからな。それに、せっかくの親子会話に水を差すような真似は、俺はしたくない。だから、そっちのアハトは殺気を向けるのは控えてくれないか?」
「……だ、そうよ。アハト? 何が気に喰わないか、私にも分からないのだけれど、今は留飲を下げなさい」
マザー・アリスの命令に、アハトは無言で猟兵達へ背を向けた。
「……私は会話に参加しません。これでいいでしょうか?」
「あなたがそれでよければ。ごめんなさいね、陵也さん?」
「俺の名前を憶えてたんだな……。それじゃ、会談に臨もう。みんなにはわがままを言うようで済まないが……応じてくれないか?」
陵也の願いに、他の猟兵も応じて次々と着席を果たす。
カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は、相棒のメルシーと共に席に着くなり、目の前のマカロンに飛び付いた。
「ご主人サマー! このマカロン美味しいよ!」
「うるせぇ! もっと静かに喰えっつーの。こう、優雅に上品に、ってやつですよ」
そう言いながらもカシムもフルーツタルトケーキを3切れ皿の上に乗せ、そのうちのひとつをフォークでぶっ刺して噛り付いている……。
お世辞にも、優雅で上品とはいえず、育ちの悪さが露呈してしまっていた。
そんなヤンチャなアホアホコンビに、慈悲深い笑みを湛えるマザー・アリス。
「まだお代わりはたくさんありますので、遠慮なく申し付け下さいね?」
「マジか。敵とはいえ毒の入ってない紅茶や菓子を振舞うなんて、マザーは随分と太っ腹じゃないですか」
思わず喜びの声を上げてしまったカシムが、我に返ると相手は敵だと何度も口の中で呟く。
「早速、フルーツタルトケーキをホールでお代わり!」
一方、能天気なメルシーの催促に、マザーは『娘』たちに命じて給仕させようとした。
だが、それはバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)によって遮られた。
「ちょっと待ってクダサーイ! せっかくのご厚意デスガ、やはり飲食の給仕は猟兵側に行わせてもらえマセンカ?」
バルタンは手慣れた手つきで、部屋の壁際に並べられた料理の中からフルーツタルトをホールで皿の上に乗せる。
「はい! お待たせデース! マザー殿がそうであっても、そちらの方々が魔が差すなんてことも想定できるであります!」
バルタンがメルシーにホールケーキの乗った皿を差し出す。
一切無駄のない所作に、オブリビオン・アリスズナンバー達は手出しができない。
「わーい! ありがとう、バルタンちゃん! さっすが本職のメイドさん!」
「いえいえ! メイドは趣味でやってますカラ、本職ではありまセーン!」
笑顔で首を横に振るバルタンであるが、その出で立ちは何処からどう見てもメイド服であった。
黒のロングワンピースにクラシカルなエプロンドレスという組み合わせ、そしてフリルがふんだんにあしらわれたヘッドドレスがあれば、どこをどう見てもメイドさんである。
しかも紅茶を注ぐ手際や作法、優雅な佇まい、どこをどうとっても趣味の域を超えている。
「むしろ、趣味だからこそ完璧を追求できたのでショウ! さて、皆様が、アハト殿がマザー殿とお茶会をするならば、喜んで給仕するのであります! この会場のメイドとして配膳し、飲み物を注いで奉仕しマース! それとメイドらしく、皆様の会話や交渉には加わらず、徹底して円滑なお茶会の進行を補助しマショー!」
好きこそものの上手なれ、とはよく言ったものだ。
メイドを趣味にしたからこそ、本業よりもこだわってメイド業を邁進した結果、どこの戦場に出ても恥ずかしくない奥ゆかしいメイドへ昇華した存在こそがバルタンという女だ。
(まぁ、有事に備えて気は抜きまセンが!)
当然、スカートの中に武器を隠し持つ心得も忘れていない。
武装メイドの心得である。
……と、ここでメルシーがカシムに語り掛ける。念話で。
(ご主人サマ……今、メルシーはご主人サマの脳内に直接語り掛けてるよ……☆)
(コイツ……いつの間に念話なんて芸当を……? いや、前もやった気がしますが、こんな堂々とやる馬鹿がいるか!)
カシムは、隣でバナナを意味深な食べ方で堪能する銀髪のアホをぎろりと睨んだ。
(んっ♪ はむっ♪ ぢゅるるっ! あれー? メルシーのバナナの食べ方がそんなに気になる?)
(むしろ誰もツッコミを入れないことが奇跡だボケ! つか、念話まで仕掛けて何を聞きたいんだ?)
(そうそう! かねてから予定していたルイス君をユーベルコードで呼んで、会談に参加してもらおうよ!)
ルイス君、つまりアリスズナンバーの父であるルイス・ラドヴィッジ博士を現世に呼び戻そうというのだ。
メルシーは冥界と現世との行き来ができる権能を持つ神機だ。
ユーベルコードを発動させれば、かつてオブリビオンとしてアハトに討ち滅ぼされたルイス博士を会談の場につかせられる。
それが当初のカシムとメルシーの作戦だった、のだが……?
(いや、それはストップだ)
突然、カシムがこれを拒んだ。
(えー? もうルイス君にアポイント取ってアジェンダをASAPでトゥドゥするってアグリーもらっちゃったよ!)
(どこの意識高い系ビジネスマンだっつーの!? 言ってる半分も理解できねーよ! こんな時は……タスケテ~! 地の文=サン!)
つまり……ルイス博士に大急ぎで現世への降霊の準備を整えてもらう了承を得ちゃったよ、ってことだ。
(ありがとう! 地の文=サン!)
(ご主人サマが第四の壁を越えて会話してる……メルシーも感知できない何かと……怖……っ!)
メルシーがドン引きしている。
まぁカシム君だし、仕方がないよね。
(とにかく、マザーは僕たちの手の内を『知り過ぎている』からな? ルイス博士を呼び出したところで、却って話がこじれる可能性がある……)
(そういえば、オブリビオン化したルイス君がアハトちゃんとバトッた経緯って、自分のクローンである長女にムラムラしちゃって、マザーを捨ててNTR展開を選んだのが発端だっけ?)
(バッキャロー! だから言い方!?)
カシムがテーブルの下でメルシーの足を蹴飛ばした。
「ヂュフフフフwww あ、さーせんwwwwww」
メルシーは蹴られた痛みに快楽を覚えつつ、ドМ根性で笑いながら耐えた。
だがメルシーの言う通り、ルイス博士は恋人であるマザー・アリスのクローンを生み出したはいいが、その美しさに心を奪われ、彼は娘を一人の女性として愛してしまった。
故に、復讐のために異世界アリスラビリンスへ旅立った長女アインが戻らないことに絶望したルイス博士は発狂し、アハトらをはじめとする猟兵と邂逅したのちに討滅されたのだった。
(まぁ……今じゃマザーがオブリビオンだ。しかも人数はこちらが少ない上に絶対先制攻撃のオマケつきだ。下手に刺激するなよ?)
(えー! さらってきた拠点の人たちを実験台にするような酷いことをしたのに戦わないのっ?)
(ああ、此奴のやった事はクソだ……だが……此奴はそれを分かった上で誘いやがった。だから憤怒は一度置く。下手に動かず、ここは此奴の言い分を聞いてから判断するぞ。何方にせよ、思惑に乗るのは業腹だがな。それに……)
カシムはシリアス度MAXで紅茶を飲み干し、眼光鋭き双眸で、マザーと12人の『娘』たちの身体の一部を凝視した。
(僕は戦いよりエロい事の方が好きですからね! 見てみろメルシー! マザーと敵のアリスズナンバーのおっぱい、揃いも揃って美乳ですよね!)
(それはメルシーも激しく同意! 形がいいよね!)
(( O・P・P・A・I!! おっぱいプルンプルンっ! いぇぇぇぇぇぇい!!!))
というわけで、シリアスが吹っ飛んで猥談と成り果てた念話が終了したアホアホコンビが、キリッと凛々しい表情でバルタンへ紅茶のお代わりを頼むのだった。
(カシムさんとメルシーさん……あんな真剣な表情でマザーたちを見詰めてマスネー? この会談に臨む気合を感じマス!)
よもやアホアホコンビの頭の中がおっぱいでいっぱいになっているとは思いもしないバルタン。
その無駄に凛々しい態度(一周回って賢者モード)の2人に、給仕する背筋も自然と伸びるのだった。
会談は、まず猟兵側の質問で始まった。
その前に……。
「一応、保険は懸けさせてもらうぜ」
陵也が猟兵側とマザー側を隔てるように、オーラ障壁を展開した。
これで不意に先制攻撃が放たれても、一撃は凌げると見込んでの判断だ。
「言葉に熱がこもると、手が出ちまうなんてことが今回は否定できない。信用はしてるが、予防線は張らせてもらおうか」
「ええ、構いません」
マザーは余裕の笑みで目の前の障壁の存在を認めた。
まるで、そんなものなどあってもなくても変わりないと言いたそうな笑みを浮かべている。
陵也は宣言通り、聞き役に徹するため黙りこくる。
代わりに、燦が挙手して発言を求めた。
マザーはそれを許可すると、燦は背筋を正して自己紹介を始めた。
「アタシは四王天・燦っていうんだ。見ての通りの妖狐のシーフで、好きなのは可愛い女の子と、その可愛い女の子の幸せさ」
初対面の相手へ自身の性嗜好をあけすけにさらけ出すのは、相手への一定の敬意を表するため。
「さっき戦った被験者たちの中で……顔立ちがきれいな女の子がいてさ。その子をユーベルコードの琥珀結晶の中に保護したんだ。あとで他の世界を見せてやるつもりだよ」
「保護……ですか。それはそれは……」
意味深な表情で燦を見詰めるマザー・アリス。
その様子は決して称賛のそれではなく、侮蔑や嘲笑のそれに近い。
だが燦はその意図が読めず、眉間にしわを寄せるだけだ。
「こうして直にお会いするのは二度目ですが、私も改めて名乗らせていただいても?」
ルゥもマザー・アリスへ名乗りを行う。
「対終末遺失情報集積機関、通称『終末図書館』所属。最後のグレイスコーズ・チルドレン。ルゥ・グレイスです」
「やはりあなたも来ましたか、グレイスコーズ。前回は『虚数』が化けた私でしたが、記憶はおぼろげながら存在していますよ」
「……オブリビオンは記憶保持の連続性に難があると認識していますが、マザー・アリス、貴方は覚えているのですか?」
驚くルゥに、マザー・アリスが首肯する。
「ええ、もちろん。全部が全部、とはいきませんが、あなたにしてやられたことははっきりと覚えてます」
「それは……手の内がばれてるってことですか。やりづらいですですね」
マザー・アリスの言葉にルゥは困惑してしまう。
続けてマザー・アリスが言葉を継ぐ。
「それに、アリスズナンバーの元となったネットワーク形態や理論はグレイスコーズですから。過去をアーカイブ化できるなら、記憶だってアーカイブ化できるというものでしょうに」
「……つまり、『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』は記憶に関連している、と?」
「まぁ、さすがはグレイスコーズ。物分かりがよくて助かります」
「ですがマザー・アリス? 前終末図書館館長ミカエラ・ヘミングウェイ博士の弟子であるあなたが……『永遠の九月』の意味を知らないはずがありません。そしてそれを超越すらしようとする『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』。貴方は、ミカエラ博士から何を聞いたのですか?」
ルゥの問い掛けにマザー・アリスは微笑むばかり。
アハトからも質問が飛ぶ。
「マザーは先程、耳を疑うような発言をしました。『フィールド・オブ・ナイン』を信奉する一族がひとり、と。それはどういう意味なのでしょうか?」
「それと、これを」
ルゥは懐から一葉の写真をテーブルの上に置いて差し出す。
そこには、在りし日のミカエラ博士とルイス博士、そしてミカエラ博士の助手のアリス・グラムベル――生前のマザー・アリスが写っていた。
彼らは肩を並べ、仲睦まじく笑みを浮かべて寄り添い合っていた。
「これを、どこで?」
マザー・アリスの問いにルゥが即答する。
「アリスズナンバーの『工場』跡……『虚数(イマジネーア・ツァール)』との戦闘後に発見しました」
ルゥは息を呑み、意を決してマザー・アリスへ問い掛ける。
「貴方にもし未来に続く意思があるなら、それをこの写真に誓えるなら、僕としては貴方側についたっていい」
ルゥの発言に、他の猟兵たちがギョッと目を丸くしてしまう。
「お教え願えますか? 貴方の目的を。『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』が何なのか、骸の海の中で一体何を見たのか?」
彼の問いに、マザー・アリスは自分の金の髪を指で巻き付けながら忌々しそうに答えた。
「――絶望よ。骸の海に、私の求めるものなど何ひとつなかった。だから、現世を愛で満たすの」
突拍子もない答えに、ルゥはおろかアハトも首を傾げざるを得ない。
要領を得ない回答に、マザー・アリス自身が補足説明を始めた。
「フィールド・オブ・ナインがひとり、マザー・コンピュータは仰ったわ。骸の海は永遠だと。それは好きなことをただひたすら永遠に求められる事だと、私は思っていた。……でも思い違いを、していたの」
「実際は、違ったと?」
「ええ」
ルゥにマザー・アリスが肯定の声を返した。
「馬鹿ね……。永遠の九月がどういう現象かを知っていてなお、私は骸の海でルイスとの永遠の愛を願ってしまった。でも彼の心は既にアインに移ったきり、私は骸の海の中を虚しさと抱えて漂っていたわ」
「ルイス君サイテー!」
「こらメルシー、黙ってろ……!」
メルシーの非難の声をカシムが抑える。
しかし、前回ルイス博士をユーベルコードで呼びだしたカシムは複雑な心境だ。
むしろルイス博士をここに召喚していたら、大惨事を巻き起こしていたであろう。
マザー・アリスは、ここから一気に『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』の全容と、自身の本当の素性を猟兵の前で明かし始めた。
「私はフィールド・オブ・ナインを神として崇める一族に生まれ、この世界はいずれ終焉を迎えると教えられてきました。ですので、ミカエラ博士の研究を利用して、私は終焉の引き金となるフィールド・オブ・ナインの復活を目論んだのです」
「そんな……ミカエラ博士を騙していたのですか?」
ルゥの追求にマザー・アリスが首を横に振る。
「いいえ、ミカエラ博士も私の目的を理解したうえで傍らに置いてくれました。私の一族の伝承……フィールド・オブ・ナインの危険性を知って、むしろ博士は彼らを封じるための研究を開始したのです」
「待ってください、マザーとミカエラ博士は互いの目的を阻むために共同研究を行っていたのですか?」
アハトが疑問を投げかけるのも無理はない。
矛盾している話の内容を信じることができなかったからだ。
だがマザー・アリスはころころと笑いながら紅茶に口を付けた。
「……あの人とは、利害の一致というよりも切磋琢磨することで互いの目的を潰し合うライバル関係でした。当時は互いに手の内を明かしてはいませんでしたが……お互いの目的がばれているのは暗黙の了解でしたし、実際、競い合うように研究をすることで様々な成果をあげられたのは事実でしたので」
「えっと、アタシはいまいち把握しきれてないんだけど、要はマザーと博士は表面上だけ仲良くしていたってこと?」
燦の言葉に、マザーはようやく頷いた。
「ええ、先に研究成果を用いて、フィールド・オブ・ナインに干渉する。その背比べでした。ですが……思わぬ事態が起きました」
「……ルイス博士の存在か」
カシムがマザーへ突き付けた言葉は、マザーの顔を曇らせた。
「この世界はどんなに足搔いたところで終焉の命運から逃れられないというのに……私は、迂闊にもルイスへ惹かれていってしまった。この手で終焉の幕開けの担い手になろうとしているこの私が、未来を願ってしまった。この人と末永く幸せになりたいと」
マザーのカップを持つ手が震える。
たとえ2人がある日突然、人食い鬼が跋扈する異世界『アリスラビリンス』へ迷い込んでも、隣にルイスがいれば恐怖が薄らいだ。生き残るために戦えた。
だから彼だけでも元の世界に戻れるようにと、彼女は原初のオウガの囮となって、そして……喰い殺されたのに。
その仕打ちが、脳髄だけの生体パーツとしての延命措置と、複製された自分自身へ心変わりした愛する彼の末路だった。
結果的にルイスに裏切られた彼女は、過去の幸福な記憶を苦痛に感じるのだろう。
「だからこそ、私はミカエラ博士の研究を発展させたうえで、真実の愛の正解を得なくてはならなかったのよ」
「それが『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』と、どのような関係があるのですか?」
急かすように質問を飛ばすルゥ。
マザーが語る。
「まず『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』は私の一族の悲願です。その実態は、過去でもなく、未来でもなく。マイナスでもプラスでもなく。すべてが現在に停滞することで一切の苦痛を排除する世界構築プラン。消費した時間の再利用。グレイスコーズ、貴方はこの意味が分かるのでは?」
ルゥの顔色が真っ青に染まる。
「……それは『永遠の九月』よりも質が悪いじゃないですか。時間凍結なんて生ぬるい、何故ならそれは『超短期間タイムリープ』……未来を崩し、過去を永遠に書き換え続ける。まるで砂場の城塞のように――!」
アハトもこの意味を理解したのか、すぐさま口を挟んだ。
「マザー。ファーストロットとして警告を。『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』は終末図書館最大原則第一項【人類に多大な恩恵とそれ以上の危機を与えるオブジェクトの研究、及び封印処置】に抵触しています。グレイスコーズから続く措置。お考え直しを」
「無駄よ。時間質量論のリサイクルは『最善の選択』を選び続けるために一族が編み出した秘術。しかし、それを発動させる技術は持ち合わせていませんでしたので机上の空論のまま放置されていたのです。私が、それをあと一歩で実証できるのです。この世界は真の愛に満たされます」
「真の愛?」
燦が訝しがる。
マザーはそんな燦を嘲笑う。
「何も分かってらっしゃらないようですね、あなたは。この世界は多くの人が死に過ぎました。完成した『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』の理論が世界中に、いえ36の世界へ広がれば、もう悲しい思いをする人はいなくなり、愛に満ち足りることでしょう。死した者は現世に蘇り、後悔はやり直されて消失する。愛の世界、過不足なく動かない0地点へ収束、時間質量論の“熱量の喪失(エントロピー)”という意味。そしてタイムリープ。4重の意味が込められたこの悲願を、あと少しで私は成就できるのです」
「ですがそれは大きなパラドクスを発生させます。死んだ人間が複数人蘇ったり、今まで存在した人間が他人の気まぐれで消滅しかねません。それを個々の人間の判断で実行させればなおさら歪みは大きくなるのは明白です」
アハトの糾弾にルゥも続く。
「グレイスコーズを用いて、オブリビオン化した親しい人を顕現させれば、あるいは矛盾があっても世界の均衡が保たれるかもしれません。しかし、やはりそれは過去を世界に蔓延させるだけの話。マザー、貴方だって理解しているはずです。『あなたが呼び出そうとしているルイス博士は、本物の彼ではない』ことを」
「でも、彼だって同じことをしたのよ?」
即答したマザーのその言葉に憤怒が混じる。
アリスズナンバー初号機アインは脳髄だけのマザー・アリスの入れ物のはずだったのに。
創造した張本人は複製先を本物と定めて、脳髄だけの彼女を生体パーツとしか認識しなくなった。
認識が、存在価値が、逆転してしまった。
「たとえそれが魂の鋳型で複製品だとしても、私が認めればそれは世界で一番愛しいルイスなの。オブリビオンは同時多発的に存在することができる。これによって矛盾は解消するし、過去の蔓延は一定期間経過の後にタイムリープでゼロに戻るわ。最初は悲しむでしょうけど、また同じように過去を満たせば幸せはいくらでも取り戻せるわ」
「それって、コンシュマーゲームを遊んではリセットボタンを押すのを繰り返しているのと同じじゃないかな?」
メルシーが鋭い意見を突き付ける。
だとすれば、あまりにも稚拙だ。
しかし、世界を過去に沈めず、時間質量論の循環を行い、トライアル&エラーを繰り返し、袋小路の時間の檻の中で茶番を繰り広げる事は、絶望した人々やマザーにとっては安寧の世界になりえる。なりえてしまうのだ。
どんなに高難易度のゲームソフトだって、攻略法があればそれにすがるのが人の性(さが)だ。
それが世界の概念や姿かたちを歪ませたとしても、希望を追い求めて自身の幸福を最大限に追求できるのなら彼らにとって最良なのだろう。
「だとしても、だ!」
ここで陵也が叫んだ。
「マザー。お前に同情の余地があるのは理解した。ルイスのやった事は同性の俺から見ても最低だ。マザーへの裏切りだからな。それでも、だとしても、俺はこの話を受け入れることは出来ない。俺はそれを認めるワケにはいかないんだ」
「何故です? 貴方にだってやり直したいことのひとつやふたつくらいおありでしょうに?」
「違うんだ、そういう事じゃねぇ。なんでわからねぇんだよ? そんなことをしたらすべて台無しになっちまう。どんなに辛くても苦しくても、喪ってしまっても。前に進まないと何も始まらないし、終われないものが、俺にはあるから」
「やれやれですね。所詮は過去の化身さんですね。貴方の仰ることに猟兵が賛同できる筈はありません」
猫舌の箒星が熱々の紅茶をフーフーと冷ましながら悪びれもなく言い放つ。
「何故なら、私達は人々や世界が未来へ進むお手伝いをさせていただく存在なのですから。過去を蔓延させるだけさせて、ずっと同じことを繰り返させようとするだなんて許容できません」
きっぱりと否定する陵也と箒星に対して、燦は難しい顔をしていた。
「マザーの想いはよく分かったよ。愛した人に裏切られたら悔しいよな。でもさ、どうか押し付けのない『新しい永遠』を探求できない?」
この提案にマザー・アリスが首を傾げる。
「……と、言いますと?」
「異なるマザーと会ったことがある。あれだってお前だったはずだ。一度沈んだ同一存在を拾えるのか? そもそも魂とは何か? まったく違うマザーを見たから、今の考えを持たないマザーだって存在しうるはずだ。そっちに懸けるつもりはないのか?」
燦の疑問にマザー・アリスが首を横に振った。
「それはもしや、時間質量論の制御AIとしての私でしょうか。“2回目”の顕現に絡めて話しているのでしたら、それはNOです。むしろ、あれは酷かったです。そもそも私はオブリビオンに成る過程が特殊でしたからね。1度目は『虚数』に乗っ取られての顕現でしたので、オリジナルの自我を持っていたかどうか怪しいものです。なので2回目は自力での初顕現だったのですが……いや、あれは本当に酷い。初期設定や存在意義をすっ飛ばして、何処かの管理AIに成り下がるなんてアリスズナンバーの看板に泥を塗ってしまったようなものですので……はぁ……控えめに言って、あの時の私はゴミですね。私ではありません、あんなものは。記憶領域から消し去りたい黒歴史です。むしろ、よくもあそこまでキャラデザインの根幹設定を無視した行動を採れたものです。あのコンピューターに押し込んだ奴の脳味噌お花畑ぶりと無能ぶりを却って褒めてあげたいくらいです。ええ、あれは優雅さも美しさも残虐性も足りない。そして何より、愛が足りませんでした。娘たちの名を、2回目では一度も口にしていませんでしたので。なので、次に顕現したら私はどんなポンコツになるか知れたものじゃありません。なのでチャンスは今しかありません。今の“私”にしか、『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』は実現しえないのです」
けちょんけちょんに過去の自分を貶めるマザー・アリスに、猟兵たちは唖然としていた。
しかし、ただひとり、燦だけはなぜか納得顔のまま俯いていた。
「愛、ね……。その話を聞いて、アタシのやってきた愛の正しさが分からなくなったよ……」
燦が掌の中のナニカを見詰めながら言葉を零した。
「マザー、それにみんな。アタシはさ、今まで良かれと思ってやってきたんだ……。可愛い女の子のオブリビオンを見かけては、骸の海の束縛から解き放ってやろうと思って、ユーベルコードで色々と封印したり連れ帰ったりしたよ。でもさ、マザーを見て、マザーの話を聞いて、アタシは思い知ったよ。それって永遠の押し付けだったんだな……」
彼女は掌に握る琥珀結晶を皆に披露する。
その中には、先程の被験者のひとり……幼い少女と思しきオブリビオンが虚ろな目で虚空を眺めていた。
「本当に酷い押し付けだ……被験者ちゃん、ごめんな。今まで無理矢理に封じた他のオブリビオンの娘達もね。彼女たちには外を見せてから弔おうと思う。いや、それじゃダメだな……。彼女たちを『人間に戻して、大切な人の元へ送り届ける』事が、私のこれからの使命なんだと思う。ただ弔うだけじゃ駄目だ、彼女たちには、本来あるべき生活があって、あるべき家庭や人間関係があったんだ。オブリビオンになったことでそれが全部台無しになったんだから、アタシはそれを取り戻さないと」
「言っておきますが、その被験者はもう人間に戻りませんし、その琥珀結晶から出た時点で寿命が尽きてしまいますよ。なんて絶望的で残酷なエゴなのでしょうか」
マザーの嘲りに燦が怒鳴り声をあげた。
「やってみなきゃわからないだろう!? アタシたちは埒外の存在だ! 人知の届かない何がを求めれば、この娘を親元へ帰すことだってできるはずだ!」
燦の決意の言葉に、琥珀結晶の中の娘が初めて燦の顔を見詰めた。
何かを伝えようと口を開くが、音声は燦の耳に届かない。
「……初めてアタシを見てくれたな? ありがとう。声は伝わらなかったけど、約束するよ。お前のことは、必ず人間に戻して、家族へ送り返すから!」
――それに、アタシの恋人もさ……同じ状況なら、こう言うだろうから。
琥珀の中の娘は、初めて燦に微笑んだ。
どうやら、燦の言葉が通じたようだ。
「……というわけで、アタシ自身は永遠自体は否定しないんだけどさ、タイムリープして時間をゼロに戻すのはいただけないな。そんなことになったら、この子が人間に戻れないし、他の娘たちもきちんとあるべき姿に戻してやれなくなってしまう。そんなのは悲しすぎるだろう?」
それと、と燦は付け加える。
「無理矢理でない親友や利害関係の者達は保守したい。こんなアタシを受け入れてくれた人たちなんだ。ゼロになんてされて堪るかよ」
こうして、燦も否定側に立った。
「アタシは過去を悔いて変わる、だからマザーも過去――オブリビオンの宿業を越えてほしい。永遠の押し付け、考え直せないかな?」
「つか、なんで僕らにその話を聞かせた? よもや、その話で僕たちを抱き込めると思ってたのか?」
カシムが鼻で笑ってみせる。
「笑止千万、ちゃんちゃらおかしいですね。つか知らねーよてめーの愛だとか。そんな手前勝手なことに世界を巻き込むんじゃねーよメンヘラヤンデレクソビッチが」
「メルシーはちょっと分かるなぁ~? 愛は無敵だけど、愛ゆえに迷って狂って、時に間違っちゃうからね?」
でもご主人サマとの出会いもリセットされちゃうなら断固反対だと、メルシーがカシムの腕に寄り掛かる。
それをカシムが鼻フックで迎撃すると、マザーの提案をきっぱり突き返した。
「要は、周りを省みずに人生やり直したいとか三億年早ぇーんだよ。だったら今1秒ごとを悔いなく生きてみろよ、せっかくこの世界に蘇れたんだからな? 目の前のアハトに申し訳ないとか思わないんです?」
「……あの人のいない世界なんて、意味を見出せないわ」
マザー・アリスが俯く。
その背後の12人の娘が武器を構えた。
いよいよ開戦か?
そう思われた矢先のことだった。
「あのー、ちょっといいデスカ?」
バルタンが挙手して発言を求める。
「……なんですか、こんな時に」
苛立つマザー・アリス。
「ピリピリしている空気の中で申し訳ありマセン! 実は、追加のゲストがやってきたであります!」
バルタンが慌てて部屋の扉を開け放つ。
そこに立っていたのは……。
「おい。物が物だろ。私も混ぜな」
「私moいまsuよ?」
不敵な笑みを浮かべたノインツィヒ・アリスズナンバー(90番目のアイドル・f29890)と、言語野が不安定で言葉がたどたどしいフィーア・アリスズナンバー(4番目の甦り・f32407)が遅れて馳せ参じた!
「間に合ったようだな? マザー、それに懐かしい顔ぶれもいるな。残念ながら同窓会って雰囲気じゃねぇみたいだが……」
ノインツィヒが皮肉を零せば、フィーアが悲しそうに眉尻を下げている。
「マザー。システムga完全に、コントロールdeきていません。外部である私deすら、見てわかります。だkaら、今を生きる私たちの手で止めます」
「何人来たところで同じことです。私の脳の演算能力はかつての生体パーツのそれよりはるかに上です。この人数への絶対先制攻撃もお手の物ですので」
マザー・アリスは余裕綽々でマカロンを頬張る。
彼女が指先ひとつを猟兵に差し向ければ、背後に控える12人とマザー・アリスのユーベルコードが押し寄せてくるだろう。
(絶対先制攻撃……幹部級のオブリビオンの技。生半可な方法では困難であります……)
バルタンも戦場の空気を感じて身構える。
そしてアハトの言葉か回線の引き金となった。
「……来たんですね。二人共。なら、やりましょうか」
「この鎌でマザーを狩る日が来るなんてな……やらせてもらうぜ」
「でha、最初かra本気de参りmaしょう」
アリスズナンバーの3人が並び立つと、彼女たちの左目が緑色に明滅する!
「――コードアハト起動。システムオーバーロード」
「こればかりは使いたくなかったけど、そうも言ってられねえよな。コードノイン。システムオーバーロード起動」
「コードフィーア強制発動。システムオーバーロード」
3人の身体が光に包まれ、マザー・アリスと同じ年齢の大人の女性の姿へと変身する!
「「「リアライゼーションッ!!」」」
3人同時の超克(オーバーロード)!
これこそ、マザー・アリスへの反旗を翻した証拠だ!
「交渉決裂、ですか。私の見込みが甘かったようですね……」
残念がるマザー・アリスへ、ルゥが口元をナプキンで拭きながら異論を唱える。
「そもそも、決裂の目は予見されました。予定調和というべき決裂でしょう」
「かもしれないわね。では、蹂躙を開始するわ」
マザー・アリスの死刑宣告が下される。
しかし、ルゥはこのタイミングを待ち構えていた。
「絶対先制攻撃にあぐらをかいて慢心しましたね、マザー? あなたと会談に臨んでいる間、僕が何も対策を講じていないとお思いで?」
マザー・アリスはハッと息を呑み、手から放たんとしたオブリビオン・ストームと巨大化した竜殺しの剣を留めようと試みるも、その先ぶれが放たれてしまう。
12人の娘たちもすでに飛び出しており、もはや開戦は避けられない。
ルゥはやれやれと肩を竦めながら詠唱を開始する。
「術式規定完了、タイムパラドクス強制相殺。カウンタースキュアリング確認。システム演算終了」
「まずいわ! みんな、戻りな――」
マザー・アリスの声は、テーブルを突き破った無数の光柱が突き破る破壊音に搔き消された。
「――『原子心母は眠らない(アトムハート・メルトダウン)』、正常に発動を確認。状況開始します」
押し寄せる12人の娘たちを貫く核融合めいた青い光柱の数々!
そしてそれらが、まるで待ち構えていたかのように彼女たちを屠ってみせたではないか。
時間遡及した光柱が敵の先制攻撃そのものを撃ち抜くこのルゥのユーベルコードは、まさにマザー・アリスの語る『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』に類似した効果を持つ。
つまり、ルゥのユーベルコードはいわゆる『後の先』の一手!
マザーの演算能力を超えて発動した不意打ちが猟兵たちを守ったのだ。
その証拠に、刺し貫かれた娘たちは、血だまりの中へ総じて倒れ伏していってしまった。
「一瞬で娘たちが全滅!? いいえ、アリスズナンバーの特性を忘れてないかしら? 私がオブリビオン側にいるということは、娘たちも無限に復活できるわ」
その言葉通り、何事もなかったかのように12人の娘が同時に復活した!
「ルゥっていったか、先制攻撃対策、助かった! しかし、敵に回すとアリスズナンバーは厄介だな……」
高速術式展開で自身へ身体強化魔法を施す陵也。
そのまま前へ出て、盾のように巨大化した武器を前へ突き出す。
「つまり本体を潰さない限り、アタシたちに勝ち目はないってことだな?」
燦も襲い掛かってくるオブリビオン・アリスズナンバーを抑えるべく、赤雷を帯びる妖刀『神鳴』と精霊の祝福を授かった短剣『アークウィンド』の二刀流を振るう。
迸る赤雷と吹き荒れる疾風が、アリスズナンバーの前進を躊躇させてみせる。
「絶対先制攻撃、敗れたりデス! 威嚇のつもりで最初に出してくれたおかげで、ワタシも初動でそちらのアリスズナンバーの動きは観察させてもらったのであります!」
バルタンはスカートの中に隠し持っていたファルシオンを鞘から抜き払うと、突っ込んできたエルフとツヴェルフのコンビネーションをパリングで受け流してみせる。
メイドはホストとゲストの挙動を注視してこそ最良のおもてなしを提供できる。
故に、呼び出された12人の娘の動きは予測していたのだ!
「なるほど、ただのメイドごっこじゃなかったのですね、食えない相手だわ」
マザーは椅子から立ち上がると、その掌からバグを籠めたオブリビオンストームをバルタンへ放つ!
イスやテーブルを巻き込んで迫りくる悪意の竜巻に、バルタンがとった行動は意外な方法であった。
「オブリビオン・ストームを突破するのは困難でありますね、でしたらここは回避一択であります!」
何を思ったか、バルタンは体内に格納しているグレネードランチャーの砲口を自身の足元へ向けると、そのままトリガーを引いて擲弾を床に叩きつけたではないか!
「これぞ! カミカゼ爆風回避術であります!」
爆発するバルタン!
爆風でオブリビオン・ストームが相殺され、マザー・アリスが後ろへ飛ばされていった。
バルタンも爆風で後方へ、体を“くの字”に折り曲げて飛ばされ、壁に着地したのちに三角飛びの要領で着地した。
室内で爆発を起こしたため、周囲の壁や窓の一部も粉砕してしまったが、もとより爆発での回避とマザー・アリスの本体である培養液の入ったガラス管への牽制が狙いだ。
「けほ、けほ……っ! 危うく『本体』に瓦礫が当たるところだったわ。ありがとう、ゼクス」
「いえ、僕がマザーを守るのは当然のことですので」
重鎧を着こんで、大盾と突撃槍を携えたショートカットの僕っ娘のアリスズナンバー、6番目のゼクスが告げる。
だが彼女は明後日の方向から殺気を感知する。
「ッ!? マザー、伏せてください!」
ゼクスが大盾を構え、ガラス管の前に立ちはだかる。
その僅かコンマ1秒後、長距離狙撃と思しき弾丸がゼクスの大盾に激突して火花を散らせたのだ。
「うぐッ!? なんだ、この威力!? 一撃だけで手が痺れたじゃないか! そしてこの砲弾の口径……まさか人間用の兵器ではないのか?」
「ご名答ですよ」
「まずい!?」
声のする方向から別の狙撃音!
ルゥの『灰骸の翼[Ash Flügel]/PDBCInt.接続式対物狙撃銃』の銃弾がゼクスの鎧を歪ませた。
「ちっ……二方向からの狙撃……しかも狙いはマザーの『本体』……! グレイスコーズ、よくも僕をはめてくれたな……!」
ゼクスは自分の失態を悔やむ。
本来ならフットワークを活かして前衛を張り、陵也のようにタンクとして攻撃を受け止めるべき役割を担うはずだった。
だが、ルゥと謎の狙撃手の『本体』へのダイレクトアタック、そしてルゥのユーベルコードで発言させた蒼き光柱の3つの脅威がゼクスを釘付けにしてしまう。
「会談の時間の最中に、研究所の外にキャバリアを狙撃ポイントへ配置させておきました。あとはこの蒼い光柱を開戦の合図として、自動操縦モードのキャバリアからの長距離狙撃を敢行。マザーの本体を叩くまでです」
「させない。この鉄壁のゼクスがいる限り、マザーの『本体』には傷ひとつ負わせて堪るか」
「いいでしょう。その鉄壁とやらがどこまで耐えられるか、試してみましょうか」
ルゥが次弾を装填すると、キャバリアと同時に着弾するように電脳で演算してトリガーを引く。
そしてゼクスの身体を青い光柱が蝕み、鉄壁の牙城を徐々に崩してゆくのだった。
一方、箒星はテーブルの下を猛スピードでスライディングしながらマザーを奇襲していた。
「お茶とお菓子、ごちそうさまでした。ですが戦いならば容赦はしませんよ~?」
箒星の身体は今、ユーベルコード『猫の毛づくろい』で全身つぅるんつぅるんで摩擦抵抗力がほぼ皆無だ。つまりめちゃくちゃよく滑るのだ。
そんな黒猫リニアカーがテーブルの下を往復しながら飛び出して、マザーの放つ巨大化した斬竜剣ヴォーパルソードの刃をにゅるんっとすり抜けて反撃を繰り返していた。
「先ほどのお茶会で、ぺろぺろと顔をなめたり体中をなめさせてもらいました。ユーベルコードの予備動作だとはご存じなかったのですね?」
「ケットシーのよくする動作としか思ってなかったわ……!」
フェンシングの要領で繰り出される魔法剣を、マザー・アリスはカンフーアクションで捌いてダメージを最小限に留めてみせる。
しかし、箒星には全く攻撃が通じないため、このままではジリ貧なのは明らかである。
「ちょっと、なんで刃がぬるぬると滑るのよ!?」
「そういうユーベルコードですので。それ、心臓を一突きです」
「させないわ!」
マザー・アリスは目の前に2番目の娘であるツヴァイを呼び寄せて盾とする。
ツヴァイも巨剣の刃で刺突剣の切っ先を受け止めようと身構えた。
だが、その切っ先が風を切って蛇のように曲がりくねる。
「あかん! マザーへの刺突はフェイクや!」
ツヴァイの脇をすり抜けた箒星が、まっすぐ後ろのガラス管へ目掛けて剣を突き出す。
しかし、それはオブリビオン側のフィーアが身体を張って防いでしまう。
「かハッ……!」
肉の盾になったフィーアが絶命!
「フィーア! 無茶しちゃって、もう!」
急所へ突き刺さって即死したフィーアが即座に復活すると、双子のドライに叱られていた。
「ごめんなさい、ドライ。でもちゃんと守れました」
「まったく! でも次はさせないわ。だって、あたしの身体強化信号がみんなをバックアップするから!」
「ドライ、私も手伝います」
「ええ、もちろんよ! あたしあちは、2人で無敵の軍師だもの!」
ドライとフィーアが手を繋ぐと、二人同時に叫んだ。
「「連携通信開始! アリスズナンバー強化プロトコル!」」
オブリビオン側のアリスズナンバーの戦闘力が強化され、超克したアハトとノインツィヒ、そしてフィーアが徐々に押され始める。
「……ドライ。そちらにはあなたがいるんですね」
フィーアは双子の片割れが今ここにいないことを悔やむも、すぐにそれを打ち払って相棒の戦車こと『木馬さん』で押し寄せる敵側の姉妹を撃ち抜いてゆく。
だがガトリング砲使いのフュンフも負けじとリスポーンを繰り返しながら応戦してみせる。
「オーッホッホッホ! 無駄ですわよ! こちらはマザーがおりますもの。アリスズナンバーの本懐をお忘れではなくて?」
「やっぱり何度倒しても復活しますね。こちらは肉体が破壊されたらアウトだというのに」
フィーアは『木馬さん』を盾にしながら、遮蔽物を活かして弾幕をやりすごす。
「リスポーン戦術が使用不可な以上、私たちは慎重に戦わねばなりません。ままならないですね」
アハトも普段の剣術のキレがない。
それは彼女が死を恐れ始めているからだ。
「ちっ! 私はもとより死に戻りは拒否ってたクチだから今更なんだがな? つか……よりによって私の相手があんたたちかよ」
そしてノインツィヒが相手にしているのは、オブリビオン側のノインとツェーンであった。
「ノイン姉もツェーン姉も久しぶりの顔だな……こんな形で会いたくなかったけどよ。また狩らせてもらうぜ」
その言葉に、10番目の娘が破顔一笑する。
「きゃっはははは! 愚妹が何言ってるのさ~? 雑魚雑魚妹が元祖カウンターナンバーのツェーンちゃんに勝てるとでも思ってた~?」
「あの、ツェーン? あなた、そういって20番台の妹たちを勝手にまとめて処分したところでオブリビオン・ストームに巻き込まれて、ノインツィヒに粛清されたんですよ?」
ノインが呆れた口ぶりで諭す。
これにツェーンが目を丸くして驚愕した。
「えー!? ツェーンちゃんがオブリビオンになったのってそういう事なの~!? ってことは全部このクソ愚妹のせいじゃーん! あー! その鎌、よく見たらツェーンちゃんのじゃん! なにうんこよりも価値のない愚妹如きが無断使用してんの!?」
勝手にブチギレる10番目の娘に、ノインツィヒが溜息ひとつ吐く。
「……相変わらずツェーン姉はアホの子で下品だよな。小学生かよ。ま、その単純さと純粋さゆえにカウンターナンバーなんていう汚れ仕事を博士に任されたわけだがな。……でもあんたが暴走したら意味ねーだろうが」
オブリビオン化したツェーンは、生前に独断で処分した20番台のアリスズナンバー予備個体だけに留まらず、見苦しいからと30番台から70番台のアリスズナンバーの胚を全て破壊して回った。
そして多くのアリスズナンバーが彼女を止めようと犠牲になり、90番台のノインツィヒがようやくツェーンを仕留めて鎌を受け継いだことで、カウンターナンバーを引き継いだのだ。
その経緯をノインツィヒが語ると、ツェーンは膨れっ面で反論した。
「しーらなーい! 絶対可憐ツェーンちゃんは過去のことは振り返らない主義だから! つか90番目の愚妹に殺されたとかツェーンちゃんはぜぇったいに認めませーん!」
「はぁ……ごめんなさいね、もう一人の私。この子、姉に対しては異常なほど敬意を払うのに、妹のことは路傍の石か馬の糞だとしか思ってなくて」
ノインが申し訳なさそうにペコペコ頭を下げた。
ノインツィヒはマザーの因子を受け継ぎながらもノインのバックアップとして元々は存在していたため、アリスズナンバーの複製体という変わった経緯を持つのだ。
「いや……ノイン姉が謝ることないさ。私もツェーン姉の異常さは知ってるからな。つか私のぶりっ子口調ってツェーン姉に似ててなんか嫌だな……。微妙にキャラ被りしててむずがゆんだが? てか、ノイン姉には申し訳ないって今でも思ってる……」
ノインツィヒは目の前の自分のオリジナルがオブリビオン化したことに責任を感じていた。
「ノイン姉は人形でいることを否定して、活動限界……寿命を迎えて死んでいった。でも私が掘った墓穴が浅すぎたのか、オブリビオン・ストームでゾンビ化させちまったんだよな……」
「あれは事故だから……あなたが悪いわけじゃないわ。全部、オブリビオン・ストームのせいだし、私も浅い埋葬でオブリビオン化するとか予想してなかったし。それにちゃんと……あなたは私を殺してくれたじゃない」
「けど、また殺す羽目になるとはな……因果ってもんじゃないなこれ。地獄の責め苦か何かか?」
「あはは……それは同感……。でも今は私もマザーの命令には逆らえないし、悪いけど全力で殺しにかかるからね?」
「こらー! なに2人で盛り上がっちゃってるの!? ツェーンちゃんも混ぜてよ!」
ツェーンが純白の大鎌を振り上げ、ノインツィヒの首を引っかけようとぶん回してきた!
「さあ、殺し愛そうよ! きゃっはははは!」
これをノインツィヒも大鎌をぶつけて受け止める。
「ったく、せっかちは嫌われるぞ、ツェーン姉? つかその決まり文句、マジで久々だわな」
「うっさ~い! 雑魚雑魚愚妹が偉大な『最初の12人(ドーターズ・オリジン)』に歯向かうなー!」
大鎌同士が何度も激突し、火花を散らす。
「ご、ごめんなさい! そこがら空きだから!」
その合間を縫って、ノインの魔法弾がノインツィヒの脇を掠めてゆく。
その流れ弾がノインツィヒの後ろのカシムとメルシーへ飛んでゆく!
「避けろ、アホアホコンビ!」
「ちょっとその呼称を定着させないでくれませんかね!?」
カシムは超音速機動で流れ弾を軽々と回避!
メルシーはなんと魔法弾を身体で受け止めて吸収してしまった。
「魔力供給あざーす☆ 痛覚と魔力が同時に味わえるなんてチョーイイネ! 最高~☆」
「よし! なら僕はメルシーを守備表示でターンエンドです! おら行け!」
カシム、非人道的行為のメルシーシールドを敢行!
フュンフのガトリング弾とナインの魔法弾を、賢者の石で出来た身体ですべて受け止めるメルシー!
「あっ♪ ヤバい、達する達する☆」
メルシーは白目を剥いて悦に浸っている!
すかさずカシムが背後からツッコミを入れる。
「ドМも大概にしろよバッキャロー! てかセリフが騎空団と戦う黒い変態堕天使のそれじゃねーか!」
「古戦場から逃げるな☆」
「いい加減にしろォ!」
呆れたカシムは、お得意の光学迷彩魔術でメルシーごと姿と気配を消してしまった。
代わりにデコイとして無数のメルシーの3Dホログラムを出現させ、敵のアリスズナンバーをかく乱させてみせる。
出現した立体映像が白目を剥いてダブルピースしながら乱立する光景は、ある種の地獄であった。
「カシムとメルシーは通常運行だな……つかこっちもビビるんだが???」
戸惑いながら、アインの剣筋を盾で受け止め続ける陵也。
相手取るのは棍棒使いのエルフとトンファー使いのツヴェルフのコンビだ。
「ちっ! ちょこまかと鬱陶しいな……!?」
白い大盾のような杖を掲げて殴りつける陵也だが、相手の素早い動きに翻弄され続けている。
暗殺と隠密という特製のアリスズナンバーに、守備タイプの陵也は四方八方から殴られっぱなしだった。
「まだだ……まだだって言ってるだろ? 俺はまだ立てるぞ。アハトたちのところには行かせねぇよ」
エルフとツヴェルフは視線を合わせて頷き合うと、左右から陵也を挟撃し始めた。
片方を盾で防いでも、背中はもうひとりに殴られて強烈なダメージを被ってしまう。
「うぐッ!? 右肩が折れたか……? 腕が上がらねぇ……!」
激痛で身体が鈍る陵也へ、2人の打撃が容赦なく浴びせられる。
陵也の頭頂部に棍棒とトンファーが激突すると、頭皮を割って鮮血が噴き出してしまった。
(やべ……意識、が……遠の……い、て……)
揺れる目の前の視界。
膝を付いてどうにか倒れないように堪えるも、追い打ちの打撃で遂に陵也は床に転がされてしまう。
「陵也殿!?」
そこへ駆けつけたバルタンがファルシオンを振るって救援に駆け付けた。
「陵也殿、しっかりするであります! 陵也殿!?」
頭から血が大量に流れる陵也。
バルタンは内蔵式火炎放射器で敵2体の間合いを突き放すと、身動きしない陵也の元に屈んだ。
「酷い出血であります……。脈拍低下、生命維持の危機と判断……戦線離脱の手筈を……」
「――まて」
バルタンの差し出した手を、瀕死とは思えない握力で掴む陵也。
「まだ口が動く。まだ心は折れてねぇ。なら、俺はまだやれる……!」
「無理であります! 今から我輩が施設の外へ連れ出して、グリモア猟兵に退避を……」
「必要ないって言ってるんだ、バルタン!」
途端、陵也の身体が白く発光してゆくではないか!
身体に飼っている白燐蟲が反応している!
「まだ俺は奥の手が残ってる……口さえ動けば詠唱はできる……! こんなところで終わって堪るか。アハト、みんな、そして、バルタン……あんたもだ」
輝く陵也からユーベルコードの高まりを感じる!
これはまさか、超克(オーバーロード)の兆し!
「ああ、ああ――嫌だ!! 誰も、失って、たまるかよっ!!」
部屋の天井を突き抜けてゆく極白光の柱!
その光柱の中から、穢れを喰らう聖なる白竜人の青年が現れた。
「強制発動……『【昇華】再起を願いし氷晶花(ピュリフィケイト・ライムライフアナスタシス)』! みんな、反撃の時間だぜ!」
完全に傷が癒えている陵也の周囲に、氷晶の花畑を咲かせると共に浄化と癒しの光を発生させる陵也!
「オブリビオン・アリスズナンバーにもバッファーがいるなら、猟兵側のヒーラーはこの俺だ……!」
猟兵たちに活力が戻り、たちまち再行動を促してゆく。
「やってくれますね、陵也殿! では、吾輩もオーバーロードであります!」
バルタンも超克すると、メイド服姿から背広姿の弾倉の麗人に変身する。
そして、その背広姿に既視感があった。
「まさか、あれはプレジデント様……!?」
マザー・アリスが息を吞む。
バルタンはナイスガイな笑みをマザー・アリスへ向けてみせれば、襲い掛かってくるエルフとツヴェルフへ剛拳のワンツーパンチをお見舞いする!
脳を揺さぶられて気絶する2人は、死亡ではないため復活せずにそのまま床の上で伸びてしまった。
「骸式兵装展開、米の番! やあマザー・アリス? 君の唱える『0に至る世界(ワールド・オブ・ラブ)』なんだがね、唯一の欠点がある!」
バルタンはプレジデントの口調に引っ張られながらも、マザー・アリスの論破を試みる。
「時間質量の再循環! なかなか興味深い事象だが、君はタイムリープものの小説を読んだことがないだろうか? 人間、繰り返し起こる事象はどうしても打ち破りたくなるのだよ。レールの上に敷かれた幸せなんて魅力的じゃないんでね? 故に、君の唱える世界の循環は必ず破綻するだろうし、そもそも成立したところで破滅と再生が予定された世界なんて誰も望まないのさ」
「確かに、万人が初めから受け入れてくれるとは思っていません。ですが、循環を繰り返す間に理解が得られると……」
「本気で思っているならお笑い草だね? 我輩はね、予定調和の終焉と再生なんかよりも、明日の朝ごはんは何だろうかと想像することの方がワクワクして胸が弾むのだよ」
「……はい?」
バルタンの言い分にマザー・アリスが首を捻った。
これにバルタンがほくそ笑んだ。
「つまり、先が見えない未来って言うのが――」
振り上げられる剛腕!
「狂おしく愛おしいと! 言いたいわけだ!」
斬りかかってきたツヴァイの巨大剣に拳を叩き付けて粉砕するバルタン!
「んなアホな!? うちの愛剣をゲンコ一発で!?」
驚愕するツヴァイの胸倉が掴まれた次の瞬間、オーバースローで壁に叩きつけられてしまった!
「殺しはしないさ。復活されないためにも、半殺しに留めなくては」
「あんさん……堪忍つあぁさい……うぅ……」
壁に上半身を突っ込んで藻掻くツヴァイ。
あれでは戦線復帰に時間が掛かるだろう。
「さあ、主役は君だアハト嬢。思う存分、やりたまえ!」
バルタンの演説に活力をもらったアハト。そして随伴するノインツィヒとフィーアが一斉に物陰から飛び出す。
「アカシックレコード強制接続。今この時代のこの時を指定。最大速度で検索開始!」
ノインツィヒがユーベルコード『強制接続・万象の書物(フルコンタクト・アカシックレコード)』を発動させ、この場の戦闘情報をアカシックレコードで検索して次の行動を予測する。
ユーベルコードの制度はお世辞にも高くはないが、バルタンの演説の効果が後押しとなって見事に次の最善手をノインツィヒが導いてゆく。
「10時方向からヴォーパルソード! 12時のフュンフはフィーア姉の木馬で防げ! アハト姉はとにかく避けな! コースだけは伝えてやっからよ!」
現存するアリスズナンバーネットワークを用いて、ノインツィヒはアハトを誘導する。
飛んできた竜殺しの剣をヘッドスライディングで回避すると、ノインツィヒは前転して立ち上がり前へ駆け出す。
「今の私にドライはいないけど、システムドライフィーア起動。あと少しだけ耐えてください、木馬さん……」
フュンフのガトリング砲乱射を木馬型戦車の装甲を盾にして、フィーアは強引に戦線を押し上げる!
「オーッホッホッホ! 無様ですわね、フィーア? ドライがシグナルロストしてから廃人同然になってたあなたが、死体のまま動いているなんて本当に無様ですわ!」
猟兵のフィーアを見下しながら、飛び散る薬莢の音にうっとりするフュンフ。
だが、フィーアは己の胸に宿った魂の衝動が一段と強まってゆくのを感じていた。
「ドライは……ある日突然、姿を消しました。死亡報告でもなく、失踪扱いのままシグナルロストしました。アインと、同じように」
マザー・アリスの傍らで精神集中しているオブリビオンのドライを横目で見遣ったフィーアが叫んだ。
「でも! 今なら何故ドライがいなくなったかを理解できます! ドライは……私の半身たる双子の姉は、マザーの秘密を知ってしまったから! 世界の破滅を望む企みを抱くことに気付いてしまった! あの子は、マザーのメンテナンスをよくやってました! そして疾走する直前、マザーの脳の記憶野のデータに不審なロックが掛かってるってドライは言っていたのです! そのロックはきっと、ルイス博士が封じたマザーの記憶であり、正義のデスレスアーミーには絶対あってはならない記憶データだったはず! それを好奇心で暴いてしまったドライは……マザーの手で、恐らくは……!」
フィーアの悲痛な叫びに、マザー・アリスが意味深に笑みを浮かべ、ドライは苦笑してみせる。
「……マザー、私は今、初めてあなたに怒りを感じました。魂の片割れをあの時どうしたのですか!?」
銃弾の嵐を凌ぎながら、大声で問い質すフィーア。
これにドライが答えた。
「あはは……マザーの記憶の地雷を踏み抜いたら強制停止させられちゃってね? あたしのオリジナルの肉体は『工場』の地下保管庫にコールドスリープされてるよ」
「そんな……」
先日の『虚数』の襲撃でアリスズナンバーの故郷である『工場』は滅亡した。
その地下に、まだドライの肉体が?
「そろそろよそ見を止めてくれませんか、フィーアお姉さまっ?」
フュンフがガトリング砲を打ち終えると、熱せられた砲身を掲げて殴り掛かっていた!
「銃はそのような使い方をしてはいけませんよ!?」
「ロックンロールですわ!」
「きゃあ!?」
巨大銃身に押し潰された木馬さんが粉砕された!
間一髪で直撃を避けられたが、これでフィーアは主な攻撃手段を失ってしまう。
「ねぇ、あっちのフィーア、ダサくない?」
「あれが私だとは思いたくもないですね、ドライ?」
オブリビオンの双子がひそひそと陰口をたたく。
「マザー、てめぇ……自分の秘密を守るために、ドライ姉をフィーア姉から取り上げたのかよ……! 許せねえ!」
怒髪天を衝くノインツィヒ!
しかしその前をツェーンとノインが阻む。
「雑魚雑魚のよわよわ愚妹はそろそろ永眠の時間だよ~!」
「ノインツィヒ……お願い。私たちを、止めてほしいの」
ツェーンは生意気に見下し、ノインは自らの処断を託した。
ノインツィヒは奥歯をぎりりと噛み締めると、2人へ向かって怒号を放った。
「今のカウンターナンバーは私だ! この任をアンタから受け継いだ身としては、てめえら全員また骸の海に返さねえといけねえんだ! だからごちゃごちゃ抜かしてないでさっさとかかって来いよ! 準備体操は終わりだ、こっからは全力で行かせてもらうぜ!」
「奇遇だね~? ツェーンちゃんも今まで本気じゃなかったんだよね! んじゃ、殺し愛そっか! きゃははははっ!」
ツェーンがまるで踊るような回転運動をしながらノインツィヒへと突っ込む!
だが、ノインツィヒは敢えて懐に潜り込むと、白い大鎌の中へ飛び込み敵の持つ柄を蹴り飛ばした!
「……えええーっ!?」
手元から蹴り飛ばされた大鎌を二度見したツェーンは何が起きたか理解できていない!
「ツェーン姉。本当に馬鹿だなアンタ……」
ノインツィヒは呆れ果ててしまう。
今の彼女は敵の攻撃を予測できる。
加えてツェーンの動きはパワー任せの直線的な動きは格好の餌食である。
「覚えてねぇだろうから、そのスッカスカの脳味噌に教えてやる。前回、私がツェーン姉を殺した際に掛かった時間は、1分だ。たった、1分だ」
「え? え? ツェーン姉の魔眼で1秒が悠久の時間に延長されててそう感じたとかじゃなくて??」
「だからツェーン姉の魔眼は『設定』だろうが。つかアンタは頭も悪い上に人の話を聞かないし、なのに単独判断で問題ばっか起こしまくるからな。戦闘力自体はアハト姉に引けを取らねぇくせして『最初の10人(ドーターズ・オリジン)』の中で、アンタが総合的な戦力としては最弱なんだよ。自覚ないの、ヤバすぎだろ……」
ギリギリと姉の首を片手で締め上げてゆくノインツィヒ。
「確かに、アリスズナンバーは殺しても蘇る。でもカウンターナンバーに殺された場合は特例で対象の姉妹を“シグナルロスト”できるようにプログラムされてんだ。つまり、私はアリスズナンバーに死を与えられる唯一の存在だ。それはアンタの足りないオツムでも理解できてるだろう?」
「ね、ねえ、ノインツィヒ? さっきまでの失言は取り消すから、ね? 苦しい、苦しいってば! ツェーンちゃんはこの世界に幸福をもたらす堕天使だから、こんなところで死ぬわけにはいかないんだょ……てへ♪」
「今更可愛い子ぶっても許さねえ。『人殺し』の役目を受け継いでから、アンタのことは忘れたことはないからな? 今まで殺した姉妹と同じように、この手であの世へ送り戻してやるから歯ァ食い縛れ!」
ノインツィヒの上体が大きく反れる。
そして勢いを付けたまま、ツェーンの額にノインツィヒの石頭が激突した!
「往生せぃや馬鹿姉がぁ!!」
「ぎゃひんっ!?」
ゴキッと鈍い音がした。
頸椎の砕ける音、そして頭蓋骨が粉砕された音だ。
首があらぬ方向に曲がったまま額から大量の血を流すツェーンの遺骸を投げ捨てるノインツィヒ。
「ったく、大鎌を使うまでもねぇ……で、ノイン姉はどうする?」
「……これが、答えよ」
ノインは自分の頭に右手で指鉄砲を突き付ける。
そのまま魔法を放てば、ノインは自殺できる。
しかし、それは瞬時に復活するため自死ができない。
その矛盾を前に、ノインツィヒは目を細めた。
「ああ……やっぱ、ノイン姉はオブリビオンになってもノイン姉だったな」
アリスズナンバーの『最初の10人(ドーターズ・オリジン)』の中で唯一の衰弱死を選んだ個体。それがノインであった。
『私は人間なのに』が口癖だった彼女は、アリスズナンバーのエラー個体ともいえよう。
しかし、彼女の複製個体であるノインツィヒは、ノインを尊敬していた。
オブリビオンとして死ぬのではなく、ノイン・アリスズナンバーという『人間』として殺してほしい。
それが目の前のオリジナルの願いを変えるべく、大鎌を掲げるノインツィヒ。
「分かった。でもさすがに無抵抗で殺させてくれないんだろう?」
「ええ、マザーの目がある以上、私は貴女を殺さなくちゃならない」
「大丈夫だ。特別サービスで10秒で終わらせてやる」
ノインツィヒが駆け出す。
その目の前に紫の閃光が幾重にも重なって押し寄せてくる。
ノインの魔法弾だ!
「甘い!」
白い大鎌を回転させて魔法弾を弾き返すが、すぐ目の前に第二波が飛んでくる!
「端っから無傷で済むとは思ってねぇよ……!」
ノインツィヒ、光弾の中を突っ切ってゆく!
皮膚が爆ぜ、鮮血が噴き出しても走る速度の衰えが見えない!
――5秒前!
「ノイン姉!」
大鎌を振り下ろす!
――3秒前!
「アンタを……愛してた!」
大鎌の内側の刃がノインの骨肉を肩口からバッサリ刈り込み、上半身がずるりと下半身を残して床に滑り落ちていった。
――1秒前、ゼロ。
「あ、りが……とう」
赤く染まった上半身だけの隊服のノインが絶命した。
ノインツィヒが涙をこらえたままマザーの元へ突っ込んでゆく!
「マザー! よくも、よくもノイン姉を2度も殺させたな!?」
「カウンターナンバーなのだから、あなたはその役目を果たしただけでしょう? ……ノインとツェーンの復元は間に合わなそうね。さすがはカウンターナンバー。厄介なシステムを残してしまったわ」
どうやらオブリビオン化したことで完全な殺害は出来ないようだ。しかしながら、完全復活まで膨大な時間を要するようで、この戦場での復帰は絶望的になったらしい。
対して、怒りに任せてノインツィヒが大鎌をマザーへ向ける!
「知った事か! 待ってろ、そのガラス管を刈り取ってやる!」
マザーの後ろの培養液が入ったガラス管を狙う!
しかし、その前を流水のような剣技が行く手を阻んだ。
「そこまでです、ノインツィヒ。マザーへの狼藉は……この初号機アインが許しません」
「なんでだよ……アンタはちゃんと送ってやっただろうが……!」
ノインツィヒは目の前で死んでいった長女のアインのオブリビオンに感情が爆発してしまった。
涙を流しながらマザーへ激昂する。
「これがアンタのやり方かよ、マザー!?」
マザー・アリスはただ慈悲深く微笑むだけだった。
その頃、燦は7番目のアリスズナンバーことセブンとタイマンを張っていた。
「ユラァリ……! いいよ、すごくいいよ……! その剣筋、自分が正しいって疑わないてカンジですごくいいよ……!」
まるで鷲の如く猛々しい羽ばたきめいた双剣の軌跡は、燦が今まで戦ってきたオブリビオンの中で指折りの強さだった。
「自分が正しいって思うことが、そんなに悪い事なのかな、ズィーベン?」
「ズィーベンじゃねぇって言ってんだろ!? マジぶっ殺すわ女狐が!」
片目を長い前髪で隠したセブンの口調が豹変する。
どうやらズィーベンと呼ばれると激怒するらしい。
「ドイツ語よりも英語の方がカッコいいだろうが! なんでそんなことも分からねぇんだよタコ!」
どうやらセブンは若干ヤンキー気質のバトルマニアらしい。
怒りが増すごとに剣筋も切れ味が増し、燦は迂闊に挑発するのを躊躇ってしまう。
「名前なんて記号だろう? 本質なんて自分の気の持ちようじゃないか?」
「それだよ、それぇ! 本質は人ぞれぞれとか言っておいて、本当は見極めるのを放棄してる口ぶりぃ! マジうっぜぇわ! 偽善者の上に独善者とか救えねぇんだよクソが!」
「アタシが偽善者で独善者か。いいね! さっきそれを思い知らされたよ! 改めて言われるへこむけど、ね!」
刃同士がぶつかり、激しい火花が散る!
燦はすぐさま言葉を継ぐ。
「けどさ、新しい目的を叶えるためには、セブン。お前を超えなきゃならないんだ」
交錯する刃が赤い稲妻でショート!
「ぎゃあっ!?」
感電して硬直するセブン。その左腕を風の短剣で削ぎ落した!
「いいぃっ!?」
激痛でもんどりうつセブンの右肩を、燦は愛刀『神鳴』で縫い付ける。
「殺すと復活するんだって? ならそこで終幕を見届けてろよ。アタシは永遠の九月なんて要らないんだ。10月を見たいんだ。だから、マザーを殺すんだ……!」
風の短剣ひとつで身を駆け出し、アインと斬り合うノインツィヒへ助太刀に向かうのだった。
猟兵のアハトは感心していた。
他の猟兵たちがアリスズナンバーの攻略法を各自で編み出している。
「さすが歴戦の方々ですね。ならば、こちらも使わせていただきます」
アハトはヴォーパルソードを鞘から抜いて親指の先を少し傷付けた。
滴る血液を床に垂らしたところで、アハトのユーベルコードが発動する。
「マザープログラム、発動。緊急招集。ドーターズオリジン一時行動権をNo.8に集約」
アリスズナンバーの故郷である『工場』の滅亡により、マザー経由のネットワークを用いたユーベルコードの大半が使用困難になってしまった。
この危機的状況を打破するべく、アハトが頼ったのは『終末図書館』に保管された自身のDNA塩基データであった。
グレイスコーズと呼ばれる任意の過去を再現する技術は、このDNA塩基データによってアリスズナンバー・システムへと発展していった。
ならば、自身のDNA塩基データを再解析すれば、自身がマザーと同等の権限を一時的に保有できるのでは?
アハトの目論見はユーベルコードとして結実し、今ここに『マザー・アハト』が爆誕する!
「緊急招集・私の愛しい姉妹達(アリスズナンバー・ドーターズオリジン)――No.1からNo.3、そしてNo.5からNo.7、更にNo.9とNo.10を限定顕現。我等が栄光は白百合の元に。マニュフェステーション!」
宣言の直後、アハトの周りに、アイン、ツヴァイ、ドライ、フュンフ、ゼクス、セブン、ノイン、ツェーンが出現!
「これはけったいやわぁ。うちがあちらにもいてはりますやん? どないしはなはったん?」
ツヴァイが困惑している。
他のアリスズナンバーも、オブリビオン化した自分自身がいる状況に戸惑いを隠せない。
「あれれー? アハト姉さまがマザーになってるょ! じゃあ、あっちのマザーはオブリビオン?」
「ツェーン、さっき殺されたのに切り替えはやいのね……。私は人間なのに、死んだり蘇ったり忙しいったら、はぁ……」
首を傾げるツェーンに、オブリビオン化していたころの記憶を持っているノインが溜息を吐いた。
「……各位、敵はマザー・アリスです。マザーはオブリビオン化して、オブリビオン化したあなたたちのニセモノが跋扈しています」
「はぁぁ? マザーとお姉さまのオブリビオンとかブッコロ確定じゃん! よーし! 無敵最強で最カワ堕天使のツェーンちゃん、いっきまーす!」
「あ、ツェーンってば、また先行して、もう! アハト、指揮はお願いね? 私はツェーンの援護に行くから!」
馬鹿妹の背中を追って魔法弾を乱射するノイン。
なんだかんだ言って末妹の世話を焼いてしまうノインであった。
「アハト……こうして肩を並べられて嬉しいけど……状況は選べなかったでしょうか」
アインは渋い顔をしている。
かつてアハトと戦い、オブリビオンとして殺されたアインがこの場にいること自体が奇跡だ。
しかし、真向いの壁の付近で猟兵達と戦っているのは、オブリビオン化したアインであった。
「マザーとやり合うなんて後味の悪いことをさせるのですね。それにしても、あっちの私は空っぽですね。まるでマザーの操り人形みたいです」
「むしろ言葉通りの御人形ですね。いや、人型に業を詰め込んでるから『御人業』とも言えそうですが」
アハトの言い分にアインが嘆息を漏らした。
「……笑えませんね。あれこそ私のニセモノじゃないですか」
長剣を抜き払ったアインが駆け出す。
「アハト、私はムカついたんで自分を斬ってきますね」
「ええ、お任せします」
これで残りのオブリビオン・アリスズナンバーも抑え込めるだろう。
ユーベルコードの効果で集団戦術の指揮能力が高まったアハトは、呼び出した姉妹を適材適所に配置して応戦させてゆく。
「で、私の相手は……私ですか」
アハトの前に立ち塞がったのは、オブリビオン化したアハトであった。
会談前から殺気を漲らせていた敵側のアハト。
その視線は絶えず、猟兵のアハトへ向けられていた。
「随分と私のことが嫌いなようですね、私?」
アハトの問い掛けに、オブリビオン化したアハトはアリスズナンバーランスを構えて答えた。
「……勿論です、あなたは人形らしくない振る舞いをしていたので。アリスズナンバーNo.8は、その性能から感情の振れ幅を最小限に抑えることで躊躇なく敵を討つ。違いますか、猟兵の私?」
「ええ、その通りです。戦闘特化故に、善悪の天秤よりもマザーの命令を優先する人形であるべきだと」
「ならば、何故あなたは多くの仲間に囲まれ、守られているのですか」
オブリビオン化したアハト(闇アハト)は素早く槍を三段に分けて付いてくる。これをヴォーパルソードで弾き返したアハトが反論する。
「勝利するために周囲への協力の申し出を惜しまない。単純な話です」
「違う。本来の私は単独で敵戦力を殲滅できるほどの武力を持つはずです。なのに守られていることを是としているあなたは……弱くなった」
「っ!?」
頸動脈すれすれの肩口を槍の穂先で抉られるアハト。
(無傷で突っ切れるとは思ってませんでしたが……まさか私自身に止められるとは思いませんでしたね)
槍が突き出された瞬間、距離を取るのではなく逆に闇アハトの元へ突っ込んで剣先を向けるアハト!
「私が弱くなった、ですか?」
突き立てられた剣を裏拳で弾いた闇アハト、立て続けにアハトの腹へミドルキックを放った!
ガードが間に合わずアハトの腹に蹴りが直撃!
「げはッ!? まずい……!」
「そこです」
槍の柄で殴打されたアハトが床を転がされた。
胸元に激痛が走る。肋骨が何本か折れたのかもしれない。
「はぁ……はぁ……的確に急所を狙う戦術に力加減を知らないあたり、やはり私ですね」
立ち上がるアハトを闇アハトが忌々し気に睨む。
「一緒にしないでください。あなたは人形の本文を忘れて人間に近付き、そして弱くなった。自覚していないとは猶更重症ですね」
「ああ、私って昔はあんな風に見えていたのですね。なんてかわいげのないこと……」
対して、アハトは闇アハトの態度にがっかりしていた。
「私が弱くなったというなら見当違いです。私は、他人を頼って楽をすることを覚えたんです」
「……人でなしの発言ですね」
闇アハトが怒気まじりに槍を繰り出す。
しかし、アハトはまるで軟体動物のように槍をくねくねと避けてゆくではないか。
あれはまるで……酔拳!
「どうやら、オブリビオン化したあなたはマザーの理想の私のようで。まじめで実直で素直で。ああ、そしてクズさに欠ける」
アハトは腰にぶら下げたどぶろくを飲み干すと、馬鹿でかいゲップを吐いてから首をコキコキと鳴らす。
「ああ、あなたもクズといえばクズですが、機械のような冷徹さの方が勝ってクズさが目立たないんですよね。んで、ツヴァイから酒の良さを知ってからというものの、私は怠けることを覚えたんですよ。効率重視ってやつです」
「……失望しました。やはりあなたはマザーに相応しくない」
「此方こそ幻滅ですよ。マザーってばこんな私が好みだったんですね。もういい大人なんですから自分の理想を押し付けないで貰いたいのです、が――!」
アハトが走りだす。
闇アハトを無視して、目指すはガラス管の前で守護するオブリビオン化したゼクス!
「お先に失礼します」
「しまっ……」
出し抜かれた闇アハトがアハトの背を追う。
しかし、それをもう一人のゼクスに阻まれる!
そしてその間に、アハトはオブリビオン化したゼクス目掛けて戦場を掻い潜ってゆく。
「アハト姉! アイン姉は私が抑える! だから今のうちに!」
「ニセモノなんかに後れを取りませんので、さっさと終わらせてください」
ノインツィヒとアハトが敵のアハトと交戦しながらマザーまでの道を作る。
一方、フィーアは……。
「ドライ……ドライ……! 会いたかったです……!」
フィーアはユーベルコードで呼びだしたドライと再会して目を潤ませる。
それをドライが指で拭うと、フィーアの片手を握る。
「もう、本当にフィーアはアタシがいないとダメなんだから。でも早く済ませなくっちゃ、ね?」
「はい、だから最後にもう一度、力を貸してください、ドライ……!」
フィーアがドライと同調してユーベルコードの精度を高めてゆく!
「ワールドロジック浸蝕プログラム強制起動。No.3とNo.4による支援プログラム完全開放。限界突破」
「同調係数増幅。80%……100%……オーバーロードを確認、200%……300%!」
2人の軍師の現実改変能力で研究所の一室が、みるみるうちに別世界へと変化してゆくではないか!
フィーアが告げる。
「私は赤の女王」
ドライが告げる。
「貴方はアリス」
二人は声を揃えてユーベルコードを発現させる!
「「永久に狂え不思議の国よ(アリスインワンダーランド・エターナル)――!」」
気が付けば、そこはアポカリプスヘルではなくアリスラビリンスの不思議な国であった。
「まずい……! これは絶対必殺必中の決戦プロトコル! ドライ、フィーア! 早く上書きを……!」
焦るマザー・アリスに、赤の女王となったドライとフィーアが先手を打つ。
「クイーンの言葉を出します。私は『猟兵への攻撃行動を禁ずる』事を命じます」
「あたしは『あたしたちのニセモノのアカウント凍結』を宣言するわ!」
途端、アインをはじめとするオブリビオン・アリスズナンバーの動きが止まった。
ことさら敵のドライとフィーアについては、動画の一時停止ボタンを押したような静止画状態で停止している。
「遅かったわ! あれはオウガ・オリジンの世界改変能力をアリスズナンバーで再現したユーベルコード……! でも単独での発動は成功率が低く、双子のドライとフィーアが揃って発動する異能……! 死体風情め、幻影相手でも発動するなんて!」
狼狽するマザー・アリスに、赤の女王ドライがフィーアに言った。
「フィーア、貴女は“デッドマン(蘇りし者)”だけど、生き返ったのは偶然じゃないわ」
フィーアの胸元を指差し、ドライが悪戯っぽくはにかんだ。
「あたしは、そこにいるから、ね?」
「……ドライは、ここにいたのですか?」
フィーアが息を呑む。
今まで弱まっていた魂の衝動。
だがドライの魂を今なら感じとることができる!
「魂というか記憶データの半分を万が一のためにフィーアにこっそり預けていたの。それが蘇生のきっかけになるとは、あの頃は思ってなかったけどね」
胸元を抑え、フィーアは強まってゆく己の魂の鼓動を感じる。
ドライの握る手の力が強くなる。まるで別れを惜しむかのように。
「マザーじゃないけどさ。あたしとフィーアはいつまでも一緒よ。だから」
「ええ、終わらせましょう。こんな悲劇は、一刻も早く!」
赤の女王は宣言する。
「「トランプ兵団を出撃させよ! 猟兵を援護しなさい!」」
残りのアリスズナンバー、そして襲い掛かるオブリビオン・ストームに巨大化したヴォーパルソードを、アハトが呼び出したアリスズナンバーとともにトランプ兵団が盾となって防ぐ。
「さあ、後はアハト。貴方のやるべきを成してください」
「恩に着ます、フィーア……! それにドライも!」
アハトが不思議の国と変化した戦場を駆け抜ける。
しかし敵側のフュンフが復帰し、ぶれる手つきで放った弾幕がアハトを狙う!
「させるかよ!!」
そこへ飛び込んできた陵也が盾となって弾幕をその身に浴びる!
噴き出す血飛沫! しかし銃創はユーベルコードで瞬時に塞がってゆく!
凄まじい超回復能力だ!
「アハト、俺がお前を守ってやる! だから、思いっきりやってこい!」
フュンフはすぐに『攻撃禁止』の宣言効果でペナルティを受け、トランプ兵団に攻撃を受けている。
それを見たアハトは陵也に軽く会釈をした。
「はい、陵也さん、ありがとうございます!」
しかし、追いついた闇アハトが槍を突き出す!
「死ねぇええぇぇーっ!」
陵也のガードが間に合わない!
アハトは緊急回避を試みようとしたその時だった。
「僕たちのことを……」
「忘れてないかな☆ ひゃっはー☆ アハトちゃん2Pカラーぺろぺろ☆」
光学迷彩魔術で身を潜めていたカシムとメルシーが闇アハトへナイフと大鎌の連続斬撃を叩き込む!
「アハトを放しなさい!」
マザーが巨大化さえた竜殺しの剣を念動力で操って振り乱す!
さすがはマザー、ドライとフィーアの禁止宣言を無理矢理に押しのけて攻撃してみせる丹力!
まともに喰らえば3連撃をカシムとメルシーが浴びるだろうが、マザーはこの2人の規格外さを知らなかった。
「よし! あの巨大剣は高く売れそうですよ!」
「強奪いやっほぉぉ☆」
メルシーの身体が一部スライム状になると、念動障壁で勢いを殺した剣に自身の身体を纏わしはじめる。
「そんな……ヴォーパルソードを……喰ってるですって!?」
「おう、結構なお手前で☆」
「いいぞ、メルシー! そのまま取り込んじまえ!」
「オッケー☆ 賢者の石なめんなよ☆」
こうして、メルシーに巨大ヴォーパルソードを奪われたマザー・アリスに残された手段はバグが込められたオブリビオン・ストームのみ。
「ええい、かくなる上はこの空間もろともオブリビオン・ストームで吹っ飛ばせば、あるいは……!」
オブリビオンの宿縁が立たれる前に宿敵ごと自滅を図る気だ!
「では、皆様、ごきげんよう!」
アハトがあとちょっとで駆け付けるというのに!
もはや此処までか、と思った矢先、遠方から轟音が鳴り響いた。
「マザー、僕の定点観測狙撃とユーベルコードは、まだ続いているのですよ?」
ルゥのキャバリアの砲撃とゆーの青白い光柱だ!
これらにゼクスが遂に盾ごと貫かれ、背にしていた培養液に満たされたガラス管に放射状の亀裂が入る!
「もし会談がうまくいくなら、その時は。そんなことも思っていましたが。残念です」
ルゥは灰骸の翼[Ash Flügel]で亀裂の入ったガラス管を狙い澄まし、トリガーに指を賭けて引き絞る。
「今度は未来の為に、また紅茶を飲みましょう」
銃声と共に放たれた『希望』は、砕けたガラスの亀裂に穴をあけ、培養液をどぼどぼと床へ零し始める。
「ああ! 私の脳が! 本体が!」
培養液が零れるガラス管の穴を、両手で塞ごうとするマザー・アリス。
「嘘よ、苦しみのない世界をもうすぐで成就できるのに! 駄目よ、こんなの駄目よ!」
しかし、猟兵は冷酷にマザー・アリスを仕留めに掛かる。
「私達は未来へ進んで行きます。ですので、安らかに骸の海でお眠りください」
「なあマザー? 滅びを待つ世界なんかより、未来を待つ明日を信じてみないか?」
疾風の刃と炎の尖刃がマザー・アリスの肉体の上で交錯!
マザー・アリスの首を魔法剣で刎ね飛ばしたのは、箒星と燦だ!
「さあ、アハトさん。本体の脳を……!」
「ほら、早くやっちまいなよ」
アハトは猟兵たちへ一度だけ頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございます。確かに、私は皆様の力を借りなければならない程、昔に比べたら弱くなったのかもしれません。ですが、そのことを後悔しません。すべては、この瞬間のために。私の歩んだ猟兵生活は、決して無駄ではなかった」
培養液が抜けきって露わになったサーモンピングの脳髄。そこへ目掛けて、アハトは己のデータをヴォーパルソードへ満たしてゆく。
「目の前のオブジェクトを……ジャバウォックと認定。アリスズナンバーNo.8、これより、ジャバウォックを排除します……さようなら、お母様。今まで、ありがとうございました。愛してます」
牙突の構えから、一気に青白い竜殺しの剣を突き出したアハト。
マザー権限を帯びたその一突きがガラス管を突き破り、彼女の母親であった脳髄を遂に破壊したのだった。
マザー・アリスは首だけになっても生きていた。
生きていて、自身の本体である脳髄が潰される瞬間を目の当たりにした。
「……負けたわ」
床に転がるマザー・アリスの首が声を鳴らす。
そこへアハトはしゃがみ込み、マザー・アリスの首を抱き上げて抱擁した。
「まずは謝罪の言葉を。猟兵の職務とはいえ、私は、お父様とお母様をこの手で殺してしまいました。私は……なんて親不孝なのでしょうか」
「アハト……罪だと感じる必要はありません。猟兵のあなたが、過去の怪物に成り果てた私を滅ぼした。それがすべてですから」
マザー・アリスはアハトの耳元でか細く囁く。
「死ぬ前に……あなたの本当の名前を、教えなくてはね……」
「私の、本当の名前、ですか?」
「ええ、アリスズナンバーのアハトではなく……アリス・グラムベルの娘としての、名前を……」
マザー・アリスは一拍呼吸を置いた後、しっかりと声を大にして告げた。
「マリア……。あなたの名前は、マリア・グラムベルよ」
「……素敵な名前です。ありがとうございます、お母様。ねえ、お母様? 聞いてくれますか、私の……マリアの願いを」
アハトは母の首を抱きしめながら言った。
「お母様。私は長らくあなたの人形として生きてきました。ですが、これからはただのアハトとして、そして『マリア・オットー・グラムベル』という人間として生きてみようと思います」
「オットーってアハト姉……ドイツ語からイタリア語になっただけだろ」
ノインツィヒのツッコミにアハトは首を振る。
「アリスズナンバーの8号機ではなく、お母様の8番目の娘という意味を込めて。言語を変えたのはアリスズナンバーからの脱却問う意味もありますが、単純にイタリア語ってかっこいいからです」
「まぁ、アハトらしいですね」
フィーアが微笑むが、その隣のドライはユーベルコードの顕現時間の限界で消え去っていた。
しかしフィーアが悲しむ顔を見せないのは、その胸の中で強まった魂の鼓動を感じているからだ。
「なあマザー。私達はアンタから卒業するよ。これからは、代替えの効かない人間として生きる。いいだろ?」
ノインツィヒの言葉に、マザー・アリスは瞼を閉じて賛成の意を示した。
フィーアもこれに続く。
「2人のいう通り、もう私達は貴方の手を離れます。けれど、まだ手はあります」
フィーアの左目が赤く明滅する。
あれは、以前アハトが試みた骸の海への回線接続!
「プログラム奮励(アウェイク)、イレギュラーコード、ジェネレイト・リバイス・オブリビオンフォース。骸の海に接続。アリス・グラムベルの魂の情報のバックアップを再現……!」
なんと、フィーアは骸の海から母親のサルベージを試みる!
「これは……ご主人サマ!」
「ああ、僕たちも手伝うぞ、メルシー!」
カシムとメルシーもフィーアの魔力回路に接続する!
「やれやれですね。こういうのは、グレイスコーズの専売特許なんですけどね」
ルゥも電脳をフィーアと同調させ、演算能力による補助を試みる!
「私、システムフィーアだから出来る、最後の恩返し。そして私の中にドライがいることを知った今、私“たち”は無敵の軍師です……!」
フィーアの身体が崩壊を始める!
生気は失われ、元のデッドマンへ戻ってゆく。
「メルシー! 踏ん張りやがれ!」
「ふんにゅぅぅぅ!」
「さすがに無謀でしょうか? この僕でも滅した魂の復元は……!」
焦りの色をみせるルゥ。
だが、いつしかこの場にいる猟兵たちが一丸となってゆく。
「アタシの力も使ってくれ! 罪滅ぼしにならないけど、奇跡が見たい。10月の未来があるんだって、マザーに知ってもらいたいんだ!」
燦が霊力をフィーアに注ぎ込めば、箒星も三色の魔力を竪琴で紡ぎ出す。
「偶には、こういうのもありでしょう。私の魔力もお使いください」
「俺も、アハトが笑顔になれるなら……!」
陵也が穢れを喰らうことで骸の海の毒性を無害化してゆく。
「吾輩も手を貸そう! この大統領魂を使いたまえ!」
バルタンもユーベルコードで支援をする。
そしてアハトとノインツィヒもネットワーク経由で力を注いでゆけば。
9人の猟兵の想いがひとつに重なった瞬間、マザー・アリスの身体から虹色の光球が飛び出し、そのままどこかへ飛び去ってしまった。
「マザー。貴方を、人以外に転生させます。それはこの世界以外での出会いになるかもしれませんし、もしかしたら『工場』跡地に埋まっているドライの肉体かもしれません。ですが、いずれまた、会える事を信じて」
フィーアたちの奇跡のせいか、もはやマザー・アリスの意識は朦朧だ。
「マリ、ア……最期に……私からも、お願い、がある、の……」
アハトがマザーの顔を真正面に見据えて頷く。
「なんですか、お母様?」
「『虚数』を……止めて……あの子は……セピア・ミュージアム……『最悪の災厄たる回帰の神』を宿した、オブリビオン……私の、仇を……どうか……」
「……分かりました、お母様。その時は、最後にもう一度、私に力を貸してください。私の心も体も、その時は全部惜しみなく使ってください」
アハトの承諾の言葉に、力なく微笑むマザー・アリス。
そして、もう一言、最後の力を振り絞って告げた。
「マリア……恋を、しなさいな……。愛を知れば……私の狂気も……理解できるでしょう……それを知ったうえ、でなければ……『虚数』には、かて、ない……」
これがマザー・アリスことアリス・グラムベルの遺言となった。
「……愛を知れ、恋をしなさい、ですか」
アハトはじっと陵也とルゥの顔を交互に見遣る。
「……では、お二方、機会があれば、私とデートしてくれませんか? お母様の遺言ですので」
「んなっ!?」
「おやおや……!」
アハトからデートの申し込みをされた陵也とルゥ。
これが実現するかどうかは別の話になるだろう。
そして。
「燦殿、なにやらすっきりとした顔をしているでありますな?」
「ん? そうかな? バルタンは難しい顔をしてるな?」
バルタンと燦が崩壊した研究所に散らばる被験者の遺体を可能な限り集めて弔っていた。
「……アタシさ、新しい目標が出来たんだ。今まで封印したオブリビオンの娘たちを、あるべき姿で、あるべき形に帰してゆく。もう独善な愛を押し付けたりしない。この任務は宿縁が足りなかったけど、アタシが得られるものが多かった気がするね」
「吾輩は……逆に不安になったであります」
「どうして?」
バルタンの声に燦が問い尋ねる。
オーバーロードが解けてメイド服に戻ったバルタンが遠くを見る。
「もし、吾輩の同型機のオブリビオンがたくさん出てきたら、吾輩はアリスズナンバーの諸君のように愛を持って接することができるのでありましょうか。我輩はただ敵として、討伐対象として殺すだけなのかもしれないと思うと、サイボーグたる我輩の心は、人間のそれといえるのでありましょうか?」
バルタンの不安の声に、燦が即答した。
「愛ってさ、相手を理解するってことなんだって思ったんだ。だから、バルタンも同型機がなんでオブリビオンになったのかを理解しようとすればさ……ただの殺し愛にならずに、済むんじゃないか?」
燦の言葉に、バルタンはハッと息を短く飲んだ。
はたして、この助言が活かされるのかどうか。
それを決めるのはバルタン次第であり、燦も不可能と嗤われた目的を果たすために歩き出す。
すべては、愛のために。
それは、悲しきAI(アイ)の悲劇。
一途に愛します。
永遠(とわ)なんて、必要ないけども。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2022年05月06日
宿敵
『マザー・アリス』
を撃破!
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