世界を分かつ一撃、その名は
●世界大戦
戦いとはいつだって人の歩みを加速させるものである。
技術がそうであるように、争いは常に人間のあらゆるものを飛躍的に向上させる。その代価が破滅であるというのならば、なんと無為なることであっただろうか。
強化人間。
それは第一次世界大戦と第二次世界大戦にかけて開発され始めた肉体改造や魔術的儀式によって後天的にユーベルコードを移植された人間のことを差す。
強化人間『マギニア』はそうした強化人間のクローニング兵士である。
暴風と重力、そして太陽光を操るユーベルコードを移植しても尚、後遺症にさいなまれることのない才能ある人間のクローニング体。
その一体である『ユィット』は、その類まれなる肉体の耐久値の高さ故に選ばれた。いや、選ばれてしまったと言うべきであろうか。
『病院』と呼ばれる組織があった。
彼等の目的は世界に蔓延る病巣を取り除くこと。争いが止められぬものたちを、我欲に走るものを殲滅することをこそ、理念に掲げるヴィラン組織である。
「これは必要な儀式である。世界に救う病を取り除くための聖戦。人は力に憧れる。誰もが望まずには居られないだろう。己の平穏を脅かすものを撃退するだけの力を。しかし、力を求めれば、必ず『そこ』に行き着く。『最強』を求めてしまう」
それが人の争いを加速させる。
守るだけの力が欲しかったはずなのに、いつしか、それは他者を脅かす力になる。他者を脅かす力は、最初の心を忘れて暴走する。
支配する力を求めるようになってしまう。
「だから我等がもたらすのだ。これは支配のための戦いではない。闘争の輪から人々を開放するための戦いである。今こそ立てよ、鋼鉄巨人『ゴーワンダー』!」
その声と共に立ち上がるのは全高18mはあろうかという巨人であった。
かつて『魔法使いの時代』に確認された鋼鉄の巨人を再現するために『病院』が開発を進めてきた戦術兵器である。
しかし、かつての時代に確認された鋼鉄の巨人の出力を再現しようとするとどうしても大型化してしまう。これが『世界大戦』の時代においては限界であった。
そして、炉心に焼べられるのは、『ユィット』と呼ばれる少女である。
その血液の全ては猛毒に変わっている。その猛毒を炉心に焼べることによって強大な出力が得られたことは『病院』にとって幸いであった。
「この力ならば、超えられる! 如何に『最強』の名を恣にしている者が来ようと! 鋼鉄巨人『ゴーワンダー』には敵うべくもない――!」
●抒情詩
『スナークゾーン』は過去のヒーローズアースを再現した空間である。
仮想空間であったとしても、現実に及ぼす影響は未だ計り知れない。過去の再現で当たっとしても、そこに息づく人々は世界を巻き込んだ戦いの渦中にあって心身ともに疲弊しきっていた。
誰もが争いのない明日を求めていた。
「だから、誰かが犠牲にならないといけないというのか」
強化人間『マーサス』は戦っていた。
彼の身に移植された『クロックアップ・スピード』は強力無比なる力であった。時を止めたと紛うほどの速度を生み出すユーベルコード。
だが、不完全であった。
彼のユーベルコードは1,901秒――2秒にも満たぬ効果時間しか発露できない。失敗作と呼ばれた存在である。
「そのとおりだ。世界を統一するためには敵がいる。正義と悪。わかりやすいのを民衆は求めるものだろう?」
鋼鉄の巨人『ゴーワンダー』を操る『病院』総統の男が言う。
圧倒的な力。
正義と悪があるのだとして、それを決めるのはいつだって勝者のみである。だからこそ、力が要るのだ。
「お前のような失敗作が、『ゴーワンダー』に勝てるものか。お前には『ユィット』は救えぬよ!」
振るわれる鋼鉄の拳が衝撃波を生み出し、『マーサス』を吹き飛ばす。
体が軋む。
改造された肉体であっても痛覚は残っている。その痛みが彼を未だ強化人間ではなく、人であることにつなぎとめていた。
「救う救わないじゃない。俺は言ったのだ。必ず君を――」
だが、その言葉は鋼鉄の拳によって遮られる。荒ぶ衝撃波が彼の体を吹き飛ばし、さらに強化人間『マギニア』たちが迫る。
多勢に無勢である。この数をかいくぐり、鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心に囚われている少女『ユィット』を救い出さなければならない。
そうしなければ、『病院』は世界の覇者になろうと、あらゆる国々へと侵攻するだろう。だから、なんとしても此処で止めなければならないのだ。
だが、どうやって?
心に広がる焦燥。時間もない。力も足りない。どうすればいいのかと『マーサス』は追い詰められていく。その瞬間、声が聞こえる。あっけらかんとした声。こんな緊張状態にありながら、どこか飄々とした声が降って湧く。
「『アズマ』……!」
「手助けはいるかな? あの娘を助けたいんだろう、『マーサス』――」
●スナークゾーン
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はヒーローズアース……『スナークゾーン』によって再現された『世界大戦』が舞台です」
ナイアルテはヒーローズアースにおける第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての時代にオブリビオンが世界の覇者、『病院』と称して列強に侵攻しようとしていることを告げる。
「すでに世界大戦にはヒーローやヴィランが戦力として投入されている時代です。強化人間もまたこの時代から開発が始まったものです……オブリビオンの侵攻は今、強化人間『マーサス』さんと徒手空拳の青年によって食い止められているようなのです」
ただ、多勢に無勢である。
さらに言えば、明らかにオブリビオンの有する巨大人型兵器、鋼鉄巨人『ゴーワンダー』は時代にそぐわぬものだ。
ユーベルコード使いと言えど、どうしようもないかもしれない。
「彼等二人と協力してオブリビオンの軍団を打倒しなければ、彼等はこのままの勢いで持って列強や他国に侵攻し、蹂躙するでしょう。仮想空間である『スナークゾーン』であっても、この結果が現実世界にどのような影響を及ぼすか……」
それさえわかっていない。
過去の『スナークゾーン』の戦いの結果によって、現実世界には猟兵たちの戦いの影響が僅かだが見受けられる。
石像化した敵や武器。今回の鋼鉄巨人『ゴーワンダー』のように猟兵が扱う武装に着想を得たであろう戦術兵器。
そのどれもが本来の歴史ではなかったものである。
「どうかお願いいたします。オブリビオンが『世界大戦』の覇者となる未来だけは避けなければなりません」
これを打倒し、『スナークゾーン』を消滅させる。
そのために猟兵たちは次々と転移していくだろう。その背中をナイアルテは頭を下げて見送るしかない。
しかし、今も何処かで雷鳴が轟いている――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はヒーローズアースにおいて発生した『スナークゾーン』に存在するオブリビオンたちの目論見を打破するシナリオになります。
今回の『スナークゾーン』は『世界大戦』です。
スナークゾーンのシリーズとして各時代を巡っていくシナリオ群になります。
過去シナリオは、シナリオタグ『神月円明』から参照できます。
※このシナリオは二章で構成されたシナリオになります。
●第一章
集団戦です。
強化人間『マーサス』と徒手空拳の青年が、『世界大戦』の覇者とならんとしているヴィラン組織『病院』を乗っ取り、配下である強化人間『マギニア』の大軍勢と鋼鉄巨人『ゴーワンダー』を率いているオブリビオンと戦っています。
オブリビオンは、この軍勢を用いて世界列強全てを蹂躙し、支配しようとしています。
まずは強化人間『マーサス』と徒手空拳の青年と協力しましょう。
強化人間『マーサス』は発動時間2秒にも満たない不完全なユーベルコード『クロックアップ・スピード』を持っています。
徒手空拳の青年は、五体全てが武器です。拳、蹴撃、投げ技を駆使しています。
彼等と協力し、強化人間『マギニア』たちを打倒しましょう。
●第二章
ボス戦です。
砲弾やユーベルコードが飛び交う戦場で鋼鉄巨人『ゴーワンダー』との戦いになります。
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』は、体高18mもある巨大な戦術兵器です。
その出力を支えるのは、血液全てを猛毒に変えられた実験体の強化人間『ユィット』です。彼女を炉心に焚べて、その毒素を持って駆動しています。
これを倒せば、『スナークゾーン』は消滅します。
それでは、ヒーローズアースにおける『世界大戦』を再現したスナークゾーンにおける皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『強化人間『マギニア』』
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POW : コード・ブラスト
【周囲の空気を自身の周囲に収束する】事で【暴風操縦モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : コード・エゴ
自身の【微かに残っていた自我】を代償に、【自身に掛かる数十倍の重力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって微かに残っていた自我を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
WIZ : コード・グロウ
自身からレベルm半径内の無機物を【太陽光】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:Nekoma
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
世界は争いに満ちている。
どうしようもないことであるとわかっていたし、心には正義が宿っている。己に対峙するのは悪である。
けれど、正義は人の数だけあるし、その胸に宿したものはどれもが同じものではなかった。己が悪だと断じたものもまた、正義であったのだ。正しさと過ちが無い混ぜになったのが世界である。
だからこそ、唯一つのことを極めた力は、眩い。
雷光の如く煌めく拳。
雷鳴の如く唸る蹴撃。
そのどれもが力の象徴であった。
「征くぞ。お前に立ち止まっている時間なんて無い。決断は先送りにしたって、問題は解決しない」
徒手空拳の青年は、強化人間『マーサス』に告げる。
わかっている。
わかっているのだ。どうしたって、あの哀れなる少女の末路は、ただ一つしかない。けれど、それは己にも同じことだ。
誰かが止めなければならない。
「それが救いになるのかわからなくても。立ち止まってはならない」
どんなに苦しくても答えは出さなければならない。
きっと『ユィット』は己を救おうとするなと言うだろう。血液全てが猛毒になっているからだ。触れるもの全てに死を齎す存在へと変えられてしまっている。もうどうしようもないことだ。
「いいや、もう手遅れよ。何かもね」
「ええ、そのとおり。あのような体になってしまったのなら。もう、彼女の生きる場所は彼処しかない」
「鋼鉄巨人『ゴーワンダー』を突き動かす炉心となって生きていくしかない。あの娘を哀れだと思うのならば、お前たちこそ生きるのをやめなければならないわ」
強化人間『マギニア』たちが嘲笑うように言う。
ヴィラン組織『病院』によって人体改造を施された『ユィット』は、もう人ではない。
人の形をした何かでしかない。
彼女たちは大軍勢と呼んで差し支えのない戦力であった。これだけの数があれば、列強国と言えど、またたく間に侵攻を許すだろう。
そして、『ユィット』を炉心に焼べる鋼鉄巨人『ゴーワンダー』を止める術はない。
「黙れ」
瞬きの間に強化人間『マーサス』の体躯が稲妻のように戦場を走り抜ける。
誰も彼の動きを捉えることはできなかった。
『クロックアップ・スピード』。
不完全なユーベルコード移植を施された強化人間。それが『マーサス』である。けれど、彼の瞳は燃える。稲妻よりも、雷光よりも、雷鳴よりも強大なものに突き動かされ、『世界大戦』の戦場を駆け抜ける。
その閃光の最中、転移してくる者たちの姿がある。
そう、猟兵である。
「ははぁ、あれがそうか。伝え聞く所の『世界の外からやってくる』連中っていうのは」
徒手空拳の青年がうなずき、『マーサス』に告げる。
彼等は敵ではないと。
ここに猟兵とたった二人の青年たちの共同戦線が張られる――。
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風
んー…『アズマ』殿は気になれど。その通りなんですよねー。
『私たち』は味方ですー。
さて、相手多いんですけどー…まあオブリビオンですよねー?ならば、加減なく。
漆黒風を投擲していきましてー。
反応速度もスピードも速いでしょうが。避けた先にあるのが【四悪霊・『怪』】による見えぬ拳ですよー。
ええ、見えない。それをどうやって避けるのか。
さらにいえば、風は私の領域ですのでー。天候操作で僅かでも散らしてみせましょう。
ふふ、長くは続かぬその状態…そこを、私も、あの二人も逃すはずがないんですよねー。
戦いはいつだってあらゆるものを引き裂くものである。
生と死に。
敵と味方に。
どんなに言葉を叫ぼうとも、時代の奔流は押し流していく。誰もが声を上げたとしても、誰もが押し流されていく。
激流は人の力の及ぶところではない。
世界を分かつほどの戦いともなれば、個としての存在は歯車になることによって埋没していく。
名も無き生命が散っていく。
それが『世界大戦』の時代である。誰もが命を懸けなければならない。
ヒーローもヴィランもそうだ。
戦わなければ生きている証すら残せないのだ。
ならば強化人間『マーサス』はどのような存在であっただろうか。人体実験によってユーベルコードを後天的に植え付けられた存在。
不完全なユーベルコードの発露しかできない失敗作。けれど、その力は強化人間『マギニア』を打倒する。
「それだけが俺のやらねばならないことだからだ」
「そう張り切るなよ。今からそんなんじゃあ、息切れしてしまうぞ」
徒手空拳の青年が『マーサス』に告げる。彼等は同胞というわけではないようであった。
けれど、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たる一柱『疾き者』は、いつもと変わらぬ様子で言う。
「そのとおりなんですよねー。『私たち』は味方ですー」
その言い回しに『マーサス』は疑問を持ったようであった。けれど、その疑問を待ってくれるほど強化人間『マギニア』たちは悠長な存在ではなかった。
暴風を手繰るユーベルコードが発露し、凄まじい速度で三人を取り囲む。
「どれだけ数が増えようとも」
「私達の優位性は変わらぬ。揺るがない」
「そのとおり。全て殺す。私達の悲願を果たすまでは」
迫る『マギニア』たちは速い。けれど、『疾き者』はその名を冠するが故に、落ち着き払っていた。
敵の数は多い。
けれど、オブリビオンである。ならば、加減する必要など無い。煌めく瞳はユーベルコードの輝き。
放つ棒手裏剣が『マギニア』たちを襲う。
「遅い。この程度の飛び道具が今更――」
だが、その棒手裏剣は囮である。
本命は、ポルターガイストとも言われる四悪霊・『怪』(シアクリョウ・アヤ)。その四悪霊の呪詛を放つ一撃。
透明な拳。
見えぬ拳を『マギニア』たちはどう躱すというのだろうか。目に見えるものしか反応できないのであらえば、これを躱すことは不可能である。
徒手空拳の青年は、飛び交う呪詛の塊が見えているように邪魔にならない戦い方をしている。
そもそも『マーサス』は目にも留まらぬ速度で戦場を駆け抜けている。
ならば、『疾き者』の障害になるものは何一つない。
「ええ、見えないでしょう。それをどうやって避けるのか……さらに言えば、風は私の領域ですのでー」
吹き荒れる暴風。
それは『マギニア』たちのユーベルコードである。だが、呪詛はその風すらもつかみ操作する。
散らす風は微風そのもの。
そんな中を走り抜ける『疾き者』を『マギニア』たちは止められない。
「ふふ、長くは続かぬ状態……そこを、私も、あの二人も逃すはずがないんですよねー」
その言葉通り、徒手空拳の青年の拳が唸り、『マーサス』の当身が『マギニア』たちを吹き飛ばす。
そこに『疾き者』の手繰る呪詛と風が『マギニア』たちを巻き込んで舞い上げていく。
「――馬鹿な、私達のユーベルコードの風が、通用しない!?」
「呪詛も、数も、年季も、違うのですよー」
道を開く。
彼等二人は、止められぬ者。
どれだけ戦いの濁流が時と共に襲いくるのだとしても、立ち続ける一本の木のように踏みしめる者。
それを『疾き者』は知るからこそ、彼等の正しさを証明するように悪霊の呪詛でもって過去の化身を吹き飛ばすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドル・バジル
今回は『世界大戦』の時代か。順調に現代に近づいてんな。
そして、またアズマ君もいるのか。
俺に縁があると考えるよりは予知するナイアルテに縁があると考えるべきか……まあ、問題がある訳じゃねえ。
とりあえず、強化人間の群れを潰すかね。
ゴッドハンドの体術を以て強化人間達を蹴散らしましょう。
振るわれるUCは『紫微天尊』
拳や蹴りが触れた敵は爆発したり同士討ちしたり。
敵POWUCに対しては
スピードが上がっても動きが単調じゃあな
と先読み(瞬間思考力×見切り)で機先を制して手玉に取りましょう。
暴風が荒れ狂っている。
強化人間『マギニア』たちは、『世界大戦』の時代にあってそぐわぬ力を持つオブリビオンであった。
ヒーローもヴィランも戦力の一つとして世界の列強国たちは相争う。
世界の覇権を巡って戦い、疲弊していく。
戦いとは流血しながら前に進むことと同義である。流された血を如何にして止めるかが戦いを終わらせることに直結する。
血を流さずにいられないのであれば、それをどれだけ少なくできるのか。
そこに戦いを仕掛けるものは考える。
けれど、オブリビオンは違う。
『病院』と呼ばれたヴィラン組織の総統はどれだけ血が失われようと構わなかった。
世界が滅びようとも構わなかったし、もとより滅ぼすつもりであったのだ。
此処は『スナークゾーン』。過去の地球全てを再現した仮想空間である。けれど、その仮想が現実に牙を剥くのならば猟兵は立ち止まることを許されない。
「今回は『世界大戦』の時代か。順調に現代に近づいてんな」
アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)は紫微天尊(セイサツヨダツ)たる佇まいのまま、戦場を睥睨する。
魔力をまとった拳と脚。
襲いくる暴風は強化人間『マギニア』のユーベルコードである。
「私達を見下ろして」
「何様のつもりだ、お前は」
「私達は選ばれた存在だ。それを見下ろすことなど許されない」
強化人間『マギニア』たちがユーベルコードの発露と共に凄まじい速度でアレクサンドルを取り囲む。
けれど、その速度はアレクサンドルにとっては、どれもが遅いと感じるものであった。一瞬の攻防でアレクサンドルの拳と脚でもって『マギニア』たちを霧消させる。
流し込んだ魔力は彼女たちを爆破させ、その恐るべき力の発露を知らしめるのだ。
「遅ぇな。どうにも。誰一人として、あの二人より疾くはない」
アレクサンドルは戦場を駆け抜けていく強化人間『マーサス』と徒手空拳の青年を見下ろす。
「『アズマ』君もいるのか、また」
その金色の瞳が見下ろす。その先にあるのは徒手空拳の青年。『魔法使いの時代』に見た少年とは違う姿をしている。別人であるとわかるだろう。
けれど、その拳と蹴撃は紛うことのない同一。
子孫なのか、連綿と紡がれた『名』がどこに縁を結ぶのか。アレクサンドルは考える。
己にある縁であるのかもしれない。
ゴッドハンドたる体術は、究極に突き詰めれば、理合の果てに同じものへと変わるだろう。
「まあ、どちらにせよだ。問題がある訳じゃねぇ」
纏う魔力の発露はユーベルコードの輝き。
神の如き拳はあらゆる外敵を討ち滅ぼすだろう。『マギニア』たちがどれだけ暴風をまとい、その速度を上げるのだとしても、動きが単調すぎるのだ。
アレクサンドルにとって、速度は関係ない。
その動き、体捌きのほうが脅威に映る。
人が連綿と紡いできた人体の極地。それがゴッドハンドと呼ばれる所以である。
「何故、防がれる。何故、躱される。これだけ圧倒しているはずなのに!」
「動きが単調じゃあな。本当に戦うというのはな」
アレクサンドルの裏拳が背後より襲いかかる『マギニア』を一撃のもとに爆ぜさせる。
爆発霧散する『マギニア』。けれど、それでも数を頼みにアレクサンドルを取り囲む。しかし、それで止まるほどアレクサンドルという猟兵は容易い相手ではない。
「こういうことを言うんだよ」
それに、とアレクサンドルは戦いの推移を見て思うのだ。
一瞬と言えど、強化人間『マーサス』は己の知覚領域を超えている。それは徒手空拳の青年にとっても同様であったことだろう。
唯一のことを極めていけば、あれほどの速度を出すことが可能であるのだと知る。
それこそが人の可能性そのもの。
「お前たちは、可能性を閉じている。それでいいと思っているから、其処までしか来れない。それじゃあな、どうしようもねぇんだよ。届くわけがねぇ」
アレクサンドルはまるで赤子の手をひねるように『マギニア』たちを圧倒し、手玉に取り続ける。
雷光のように戦場を駆け抜けていく、紫電そのものとなって――。
大成功
🔵🔵🔵
黒影・兵庫
過去の世界が侵略される...ってもう滅茶苦茶ですね!せんせー!
(「そうね…猟書家の親玉を倒したと思ったら…平和は遠いわね」と頭の中の教導虫が返事する)
まったくです!しかし一つ一つ解決していけば必ず平和に辿り着くはず!
そのためにもまずは目の前の連中を倒さねばなりません!
(「よし、じゃあどう戦う?」)
マーサスさんと徒手空拳の人に協力をお願いします!
UC【煉獄蛍】で火計兵さんの常温の炎を纏ってもらい
その炎を敵に着火してもらった後、炎の温度を上げて
敵を燃やし尽くします!
(「黒影は何をするの?」)
『念動力』で敵の動きを封じたり『衝撃波』で炎を延焼させます!
(「よし!じゃあ作戦開始!」)
おー!
『スナークゾーン』はヒーローズアースにおける過去の地球全てを再現した仮想空間である。
仮想空間であれど現実に侵食しないという確証はない。
これまで繰り広げられてきた『スナークゾーン』での戦いは、僅かと言えど現実に影響を及ぼしていた。
『神々の時代』からは石像化した敵や剣に、センターオブジアースに刻まれた戦いの痕。
『魔法使いの時代』には猟兵が戦いに際して使用した武器がヴィラン組織の兵器開発を加速させた。
オブリビオンの策動を阻止しただけでもこれだけの影響が出ている。
もしも、オブリビオンの世界を破滅に導くほどの目論見が成ったのならば、現実世界にはどのような影響が及ぼされるのか。
どうなるかわからないまでも、それを座して待つことは許されない。
「過去の世界が侵略される……ってもうめちゃくちゃですね! せんせー!」
黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の中に宿る教導虫たる『スクイリア』が頷く。
そのとおりであった。
現実を侵食する仮想。虚構より生み出されようとしていた超生物『スナーク』の名残であるというのならば、オウガ・フォーミュラである『ミストレス・バンダースナッチ』撃破の影響は多少ならずともあるのかもしれない。
長きに渡り戦いの歴史が紡がれてきたヒーローズアースにおいても、オブリビオンの脅威が排除されたとしても平和は遠いと『スクイリア』は言う。
しかし、兵庫はかぶりを振る。
一つは同意を示す。平和は程遠い。けれど。
「しかし、一つ一つ解決していけば必ず平和に辿り着くはず! そのためにもまずは!」
兵庫は走り出す。
『世界大戦』の時代。それが今回の『スナークゾーン』である。
強化人間『マギニア』たちの大群が迫っている。吹き荒れる暴風のユーベルコードとともに兵庫を取り囲む。
まるで嵐一つが兵庫を標的にしたように迫るのだ。
「邪魔をするな。私達の存在を」
「争いという病巣を取り除こうというのだ」
「そのためには、貴様たちを排除する」
『マギニア』たちの強みは数と連携。そして、速度であった。暴風を操るユーベルコードは、兵庫をまたたく間に取り囲む。
この状況に『スクイリア』が兵庫に問いかける。
「じゃあ、どう戦う?」
その問いかけに兵庫は単純明快に応える。数で劣るというのならば、協力を要請する。人は一人では戦いきれない。
どれだけ強烈な力を持っていたとしても、個での戦いでは限界はいずれくる。ならば、ともに戦う者が同じ戦場に立っているのならば、手を取り合うべきだ。
それができるのが人間であるからだ。
「『マーサス』さん、それに徒手空拳の方! 協力をお願いします!」
兵庫の声に徒手空拳の青年が反応する。
「何か策はあるのか」
「はい!火計兵さんの常温の炎を敵に着火させてください!」
兵庫の言葉とともに光を放つ蛍が徒手空拳の男と強化人間『マーサス』の手に渡る。暴風の中ではうまく飛べないからだ。
ユーベルコードに輝く瞳を『マーサス』は見やる。その真っ直ぐな瞳を見て、彼もまた頷く。信用に値する人物であると理解したのだろう。
「それだけでいいんだな?」
「はい! あとは火計兵さんたちの力を借ります!」
煉獄蛍(レンゴクボタル)は、森羅万象に着火する翠玉色の炎である。
兵庫一人の力では暴風を手繰る『マギニア』たちには触れさせることが難しかったかも知れない。
けれど、雷光のごとく凄まじい速度で走る徒手空拳の青年や、強化人間『マーサス』のユーベルコードがあれば話は別だ。
「このようなか細い炎で何が!」
「吹き飛ばせばいい。このようなものなど」
『マギニア』たちは戸惑ったことだろう。何が目かわからなかった。強化人間『マーサス』のユーベルコードは瞬くの間に火計兵たちを『マギニア』たちの体に付着させる。
ただそれだけではどうにもならなかった。
けれど、兵庫の瞳がユーベルコードに輝き、念動力でもって彼女たちの動きを止める。
「火計兵さん!燃やし尽くしてください!」
それが合図となり、同時に衝撃波が走る。
兵庫の意志によって火計兵たちの炎は温度を上昇させる。あらゆるものを燃やす森羅万象の炎は、一気に『マギニア』たちを翠玉色の炎の中に巻き込んでいく。
戦場を照らし出す翠玉色の炎。
それはオブリビオンとして生まれた『マギニア』たちの歪んだ生を滅ぼすものであった。
「どれだけ無駄に思えるものであっても、一つ一つ重ねていくこと。積み上げていくこと。それを怠っては何一つ手に入れることなどできはしないんです!」
兵庫は念動力でもって炎の中に消えていく『マギニア』たちを圧し潰すように霧消させる。
吹き荒れる衝撃波が暴風をかき消し、道を作る。
一足飛びでは何事も為すことは出来ない。ならばこそ、兵庫は実直なる瞳で、その道を見据えるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK
やれやれ、悪趣味なのはどこにでも現れるものだわ
正義だ悪だとか、民衆がどうとか、随分とくだらない話、私は興味ないのだけれど
でも、救うために、足りない力に歯噛みしても、立ち向かうことを止めない奴って……僕は嫌いじゃないぜ
まあ、私は今回だけの縁だろうし、あと腐れなく往きましょう
シャリオはマーサスの援護に回そう
2秒後の隙を狙うのは定石のはずだからね、あの速さを追いかけて、危ないときはそのまま浚って態勢を整えたら、発動のインターバル位は稼げるでしょ
後はアズマって人?
殴るのは私も手伝おう
太陽光ってのが腹立つし、手加減は無しだ
照らし焦がすのがお前らの専売と思わないことね
『スナークゾーン』は過去の地球の再現である。
戦いの歴史が紡がれてきたヒーローズアースにおいては、あらゆる時代が戦いに満ちていた。
神代から脈々と続く戦いの歴史。
そこに善悪が生まれたのならば、それは肆陸・ミサキ(黒白を弁ぜず・f00415)にとっては興味のないことであった。
「正義だとか、民衆がどうとか、随分くだらない話」
しかし、ミサキは知っている。
そういう言葉を弄する者たちが、いつだって弱者を食い物にしてきたことを。
その悪辣さ、その悪趣味さ。
どれもが彼女にとっては呆れ果てるほどに繰り返されてきたことである。どの世界にも存在するもの。
「くだらないとは言わせない」
「この戦いは聖戦なのだから。人々から争いという病巣を取り除くための戦い」
「これこそが私達の生まれた意味」
強化人間『マギニア』たちの瞳がユーベルコードに煌めく。周囲の無機物を太陽光に変えるユーベルコードは燦然たる輝きを解き放ちながら、ミサキを襲う。
目がくらむほどの太陽光。
それはダンピールたるミサキにとって、不快そのものであった。
「どれだけ言葉を弄したとしても、やっていることはくだらない。何度だって言う。くだらない」
ミサキは太陽光に灼かれながらも、言葉を放つ。
その瞳に光は宿らない。
けれど、彼女は見たのだ。雷光のように煌めく光を。戦場を駆け抜ける強化人間『マーサス』の姿を。
不完全なユーベルコード。二秒にも満たない効果時間。
されど、その不完全さを持って立ち止まる理由にしないものを。
「でも、救うために、足りない力に歯噛みしても、立ち向かうことを止めない奴って……僕は嫌いじゃないぜ」
ミサキは掲げる。
太陽光が己を焼く。けれど、太陽光が生み出すのは光だけではない。ましてや、己の肌に生まれる熱傷でもない。
そう、影である。
掲げた手が大地に生み出す黒い影から飛び出すのは、大型重二輪車であった。
「嘶け! 轢き裂け! 踏み砕け! 来い、街路の騎馬!」
それはChariot(シャリオ)。ミサキのユーベルコードによって生み出された黒い影纏う大型獣二輪車である。
しかし、ミサキは己がまたがることをしなかった。
大型獣二輪車は『マーサス』を追う。彼の速度は凄まじいものである。けれど、効果時間が僅かなものである。
発動後のインターバルがどれほどのものであるかはわからない。
けれど、『マギニア』たちも気がついている。そのインターバルに入る直前を狙うことが『マーサス』を攻略することの一手であると。
だからこそ、ミサキは大型重二輪車を彼の援護に回すのだ。
「なんっ、――だ!?」
『マーサス』を浚うようにしてミサキの手繰る大型重二輪車が戦場を駆け抜ける。彼を跨がらせ、不完全なユーベルコードの間隙をカバーする。
「『マーサス』、乗っておけよ。どうやら援護してくれるようだぜ」
徒手空拳の青年が笑う。
ミサキは拳を握りしめ、迫る『マギニア』を打倒する。その背後を護るように徒手空拳の青年が蹴撃を繰り出す。
「『アズマ』って人? 殴るのは私も手伝おう。手加減はなしだ」
「あんた、怒っている? 太陽の光は苦手かい?」
「そうだね。腹立つし、照らし焦がすのが彼奴等の専売と思われるのも癪だから」
ミサキは徒手空拳の青年と共に超常を滅ぼす血の鎌を振るう。
どれだけ太陽光が彼女の肌を焼くのだとしても、関係ない。
「まあ、私は今回だけの縁だろうし、後腐れなく往きましょう――」
大成功
🔵🔵🔵
ロウガ・イスルギ
生憎ヒーローってワケにはいかねえが、傭兵として
手助け位はさせてもらうぜお二人さん!
敵の攻撃は【残像】と【カウンター】でしのいでいこう
俺の尻尾の影すら踏ませねえぞ
適当に引き付けたら攻撃に転じるとして……
やれやれ、要は暴れ回る小型台風ってトコか。つまりは
「台風の目」を狙って……いや、狙う必要さえねえな、俺の得物は
『認識』すれば『届いてぶち抜く』!決めろガンディーヴァ!
速度が速かろうが数が多かろうが武器の権能プラス【誘導弾】で対処、と
誘導弾とはいえ敵と対峙したマーサスや青年を巻き込む危険性があれば
フック付きワイヤー「グレイプニル」による捕縛拘束へ切替
場合によってはUC絶冥拘縄を発動、援護又は排除する
猟兵たちの『スナークゾーン』への介入は、仮想空間であっても現実に影響を及ぼしかねないほどの世界の破滅を齎すオブリビオンたちへと矛先を向ける。
それは当然のことだ。
猟兵たちが『スナークゾーン』での戦いに勝利したとしても、その戦いの結果としか思えない影響が現実世界にもたらされている。
その結果がヴィラン組織『病院』の開発した鋼鉄の巨人という戦術兵器の登場である。それは数多ある結果の一つにしか過ぎないだろう。
けれど、もしも、猟兵が破れてしまったのならば。
そうなった時、世界の破滅は訪れてしまうだろう。現実のものと成ってしまうだろう。
「生憎ヒーローってワケにはいかねえが、傭兵として手助けくらいはさせてもらうぜお二人さん!」
ロウガ・イスルギ(白朧牙虎・f00846)は、その白虎の如き姿でもって戦場へと舞い降りる。
『世界大戦』の時代は、世界中に戦いが溢れている。
傭兵としての身分を持つロウガにとっては本領を発揮するには十分な環境であったことだろう。
「ほう、これが獣人ってやつか」
徒手空拳の青年がロウガの姿に驚いたような顔をする。
けれど、その拳や蹴撃に乱れが現れることはない。正確無比なる一撃が強化人間『マギニア』を撃ち抜く。
「私達の宿願を、聖戦を邪魔するものは排除する」
「争いを呼び込む種を取り除く。病巣は取り除く。それが私達の使命だ」
「誰にも邪魔はさせない。私達はそのために存在するのだから」
暴風の如きユーベルコードをたぐり『マギニア』たちが迫る。凄まじい速度。戦場を覆い尽くすほどの暴風でもってロウガを取り囲む。
強化人間『マーサス』は猟兵のユーベルコードによって、さらに先に進んでいる。このままでは孤立してしまうかもしれない。
だからこそ、ロウガは焦らない。
「やれやれ、要は暴れまわる小型台風ってトコか。つまりは」
ロウガはスマートガンを手にし、その銃口を『マギニア』たちに向ける。
「『台風の目』を狙って……いや、狙う必要さえねえな、俺の獲物は!」
彼の手繰るスマートガンは認識した瞬間に自動追尾によって標的を貫く。精神力によって弾数も軌道も自由自在だからだ。
故に、その名を叫ぶのだ。
「決めろ『ガンディーヴァ』!」
放たれる弾丸が暴風の中心たる『マギニア』達を貫く。
どれだけ速度が早かろうがロウガはもう認識している。ならば、放たれる弾丸は必ずや『マギニア』たちを撃ち抜く。暴風の中を走る。
標的は単純なものだ。
考える暇すら必要さえない。
「ひゅー、弾丸の軌道も変えられるのか。やるなぁ」
徒手空拳の青年は笑っている。関心しているようである。暴風の最中を共に走る。互いの存在を認識しながら、互いの邪魔にならぬように戦う。
背中に目が付いているのかと思うほどの反応でもって『マギニア』たちを打倒していく。
「パズルは得意か?貴様がピースになる方の話だがな!」
ロウガのはなったフックの付いたワイヤーが絶冥拘縄(ストラングラーフィニッシュ)の如く『マギニア』を拘束し、吹き飛ばす。
誰も強化人間『マーサス』の背中を負わせない。
誰かのために走る者を阻むことは許しはしない。『マギニア』たちの言う所の闘いという病巣はたしかに取り除かれなければならないものだろう。
けれど、それは人の性を否定することだ。
争いがあったからこそ得たものもある。
喪ったものがどれほど大きいかは言うまでもない。けれど、前に進むためには全てを抱えていくことなどできないのだ。
掌から零れ落ちたものだって少なくはない。
「悪いが傭兵が『戦場』で負けるわけにはいかないんでな」
ロウガは、ただ一つ。
その信条をこそ曲げぬためにこそ戦うのだ。
ヒーローではなく、傭兵として。誰かを救うことができなくとも、誰かを救う者を護ることができるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
これまでも『スナークゾーン』の結末は現実世界に影響を及ぼした。
だから悲劇的な結末は防ぐとしても、現実に無かった幸せな結末を起こせば、現実世界に良い影響を起こせるのでは?
ダメ元でやってみる意味はありそうです(UC:回生蒔直でユイットさんを無害な眷属神として生きられるようにできないか考え中。)
という訳でマーサスさん、アズマさん、助太刀します。
(上記の目論見も伝えますよ。)
UC発動。
貴女達も早いですが、私も負けませんよ!
とUC効果の高速飛翔能力に第六感・見切りを組み合わせて対抗。
攻撃を躱し、雷の属性攻撃・神罰を籠めた煌月のなぎ払い・貫通攻撃・範囲攻撃で暴風による護りを突破して、彼女達を斬り伏せます。
仮想が現実を侵食する。
それはこれまでの『スナークゾーン』での戦いを経て大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)が感じたことの一つであった。
オブリビオンの目論見は言うまでもなく世界の破滅である。
仮想空間である『スナークゾーン』は過去の地球の再現を為している。そんな中で世界の破滅が、もしも起こったのならば、現実世界に如何なる影響が及ぶのかは言うまでもなく悪影響であろう。
そして、これまでの戦いで猟兵たちの行いが、仮想空間での戦いの結果としか思えぬ事象を現実にもたらしてきたのもまた事実。
「だから」
詩乃は力強く頷く。
そう、希望は捨てない。
過去は変えられない。時は逆巻くことがない。
生命は回帰しない。
喪われてしまったものは戻らない。けれど、全てを諦めてしまうことはできない。詩乃は己の神性が叫ぶのを知っただろう。
強化人間『マーサス』と鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心に組み込まれた『ユィット』という少女に待ち受ける悲劇的な結末は防げるかどうかはわからない。
『スナークゾーン』の影響の法則性すら未だわかっていないのだ。
現実はいつだって非情だ。
叶わなかった幸せな結末が仮想空間で引き起こされたのであれば、現実世界に良い影響を及ぼすことができるのではないか。
「ダメ元でもやってみる価値が在るって言いたいんだろう、あんたは」
詩乃の意図を組んだ徒手空拳の青年が強化人間『マギニア』を打倒しながら言う。
「ええ、そのとおりです」
詩乃は徒手空拳の青年と背中を合わせながら、己たちの周囲を暴風のように飛び交う『マギニア』たちを見据える。
凄まじい速度だ。
けれど、立ち止まる理由にはなっていない。強化人間『マーサス』が不完全なユーベルコードであろうと立ち止まらなかったように。詩乃も立ち止まらないと決めたのだ。
「無駄だ。どんなことを企んでいるのかわからぬが」
「お前たちのやることは全て、私達が阻む」
「それが争いという病巣を取り除くための行いであるのならば、私達が負ける理由にはならない」
迫る暴風を見据え、詩乃の瞳が輝く。
彼女に危害を及ぼそうとするもの全てを浄化する若草色のオーラが体を覆い、神性解放(シンセイカイホウ)によって人々や世界を護りたい想いと共に空を駆ける。
「それを決めるのは貴方たちではありません。人は人の手でそれを掴むことができるのですから」
どれだけ敵が早かろうが詩乃の瞳にはユーベルコードが輝く。
そして、決意がみなぎっている。悲劇的な過去があった。それは『今』となっている。変えることができるかもしれないというか細い可能性であっても、詩乃は手をのばす。
彼女が神性を宿すからではない。
これまで共に歩んできた人々がいたからこそ、辿り着いた詩乃自身の想いだ。
この想いをないがしろしていいはずがない。例え、徒労に終わるのだとしても、詩乃は歩む。
「人々を世界を護る為、全力でお相手致します!」
手にした薙刀を振るう。
彼女の想いが彼女自身の背中を押す。
そして、彼女が出逢ってきたもの全てが彼女の力となるだろう。振るう神罰の雷が暴風を薙ぎ払い、詩乃は薙刀を振るう。
その一閃が『マギニア』たちを切り裂き霧消させる。
「できるできないではないのです。手をのばすことに意味があるはずなのです」
詩乃は前を見据える。
もう終わってしまったこと。
『今』目の前にあることが過去の残響なのだとしても。手を伸ばし続けることをやめた時こそが、詩乃の猟兵としての終わりだ。
だから、彼女は瞳に光を宿し、その力をふるい続けるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
仮想世界のマーサスさんは
ユィットさんを殺さずにすむ可能性があるって事か
なら出来る限りの手助けはしたいとこだね
お互い名乗る余裕もないだろうし
義によって助太刀致すってとこで
ここは任せて先に行くよう伝えよう
当然僕も死ぬつもりなんかないよ
大軍を相手するに丁度いい方法もあるしね
静寂領域でまとめてマギニアを凍らせよう
石像にすると歴史に影響しかねないしね
それは私の権能を甘く見過ぎですの
私が望めば永久に姿を留めますの
…マネキンにしておこう
同じのがたくさんあってもおかしくないし
重力の一撃は体に纏わせたり射出する形なら
攻撃自体を神気で固定して防御
僕の周囲に重力を発生させる形なら
自分を希少金属の彫像に変えて耐えるよ
過去の地球の再現。
それが『スナークゾーン』である。仮想空間であるがゆえに、目の前の光景はかつてヒーローズアースで起こった過去。
しかし、仮想が現実を侵食しないという理屈は崩れた。
超生物『スナーク』が虚構から生まれようとしたように、目の前の光景が現実ではないと否定はできない。
否定できぬものは、消し去ることができない。『スナーク』がそうであったように。ゆえに猟兵たちは『スナーク』の名を恐怖の象徴とせぬために上書きしてきた。
例えば正義の秘密結社として。
そうすることで人々の中に生まれた虚構よりの存在『スナーク』を別物へと変質させてきた。
「この仮想世界の『マーサス』さんは、『ユィット』さんを殺さずに済む可能性があるって事か」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、過去の強化人間『マーサス』のことを知っている。誰かがしなければならなかったからこそ、己の手で哀れなる少女を殺さねばならなかった『マーサス』。
その末路は言うまでもなく茨。
長年苦しみだけを胸に抱いた彼の姿を見たからこそ、晶は瞳を前に向ける。
「なら出来る限りの手助けをしたいとこだね」
大型重二輪車に浚われるようにして強化人間『マーサス』が戦場を駆け抜ける。
彼のユーベルコードは不完全なものだ。二秒に満たない効果時間しか持たない。そのインターバルを強化人間『マギニア』たちが見逃すわけがない。彼女たちのユーベルコードは重力を手繰る力。
自我を失うことが欠陥であったが、もはや彼女たちに余裕はない。
徒手空拳の青年の存在、そして猟兵たちの介入は『マギニア』たちが如何に数で勝っていたとしても、劣勢に立たされるには十分な材料であったからだ。
「いよいよ持って、余裕がなくなってきたようだな。自我を忘れたものに彼等が止められるわけがない」
重力の中を走る徒手空拳の青年は笑っていた。
薄紅色の瞳が爛々と輝いていた。
「お互い名乗る余裕もないだろうし、義によって助太刀いたすってことで」
晶は戦いのさなかに名乗り合うことこそが時間のロスであると考えた。徒手空拳の男の周囲に渦巻く重力が開放される。
晶の瞳がユーベルコードに煌き、静寂領域(サイレント・スフィア)に包まれる。
身に宿した邪神の権能。
神気に触れたものを人形へと変える力。『マギニア』たちの体が自我を喪っている今だからこそ、彼女たちは己たちの体が人形へと変わることを認識すらできないだろう。
「ここは任せて先に行って」
「ありがとうな。義……確かに受け取ったぜ」
徒手空拳の青年が晶に礼を告げて走り抜ける。その先にあるのは強化人間『マーサス』だ。彼と合流すれば、『マーサス』の負担も減るだろう。
「さて、残りは……」
晶に迫る『マギニア』の大群。『世界大戦』の時代にあって、世界の覇権を握ろうとする勢力。ヴィラン組織『病院』。彼等の目的は言うまでもなく世界の破滅だ。
ならばこそ、晶は死ぬつもりなどない。
「石像にすると歴史に影響しかねないしね」
「それは私の権能を甘く見すぎですの。私が望めば永久に姿をとどめますの」
身の内に宿した邪神の声が聞こえる。
『神々の時代』においてもそうであった。石像へと変えた敵や刀剣。それが今の時代まで残っている。
現実を侵食する仮想。
その事実の一端を晶は担ってしまっている。
だから、マネキンにしたのだ。
同じのがたくさんあってもおかしくはない。歴史に与える影響も軽微であろう。
「けど、此処を乗り越えてからだね」
神気が迸る。
如何に重力を手繰る力であったとしても放出するのならば、攻撃自体を停滞させればいい。
邪神の権能はあらゆるものを永遠にする。
ならばこそ、彼女が対象にできぬものはないだろう。しかし、大群を相手取るのは難しい。
「仮想が現実を凌駕することもあるかもしれない。けれど、それはいつだって過去より良いことがあればこそ」
変わらないかもしれない。
けれど、変わる可能性が少しでもあるのならば、晶は手を伸ばす。
それをやめてはならないと知るからこそ、晶の瞳はユーベルコードに煌き、その煌きこそを美しいと称することができるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
うーん、世界に歴史あり
歴史の追体験と思えば興味深いけど、それが少しでも影響を与えるかもしれないってのは、何というか凄い話だなあ…
技術の進歩には犠牲は付きものとは言うけれど、気分の良い話では無いね
●
数が多いならこちらも数で応戦だ
一応《RE》Incarnationと空の記憶を抜刀
そして【Overdrive I.S.T】起動
200本の剣を雷と蒼炎で組ませて100体の私(剣だけ)完成!
さあ、行って暴れておいで
『なぎ払い』、『串刺し』、それに雷と蒼炎のオンパレードだ!
…あ、私攻撃受けたらあれ消滅するんでそこのお二人さん護衛よろしく
一応『オーラ防御』で盾を貼り『武器受け』でダメージカットはするけどさ
強化人間『マーサス』はこの状況を不可解であると思った。
何故ならば、この戦いは己個人のものであるからだ。己は強化人間。人体実験の果てに後天的にユーベルコードを移植された存在。それも不完全なユーベルコードしか有していない。
失敗作と罵られたことに感情は揺らがない。
彼の感情が揺らぐ事があるのだとすれば、己と同じ苦痛を味わったものたちの悲哀を目の当たりにした時だけである。
「これまで何度も取りこぼしてきた。この指の間から何度も取りこぼしてきた」
今回もそうだろう。
あの哀れなる少女『ユィット』もまた己の指の間からすり抜けていく。
徒手空拳の青年が隣に立つ。何も言わない。わかっている。これは己が始めたことだ。己が決着を着けなければならないことだ。
しかし、迫る強化人間『マギニア』たちの猛攻はとめどなく。
迫る彼女たちを蒼い残光が切り裂く。
「うーん、世界に歴史ありっていうけどね」
月夜・玲(頂の探究者・f01605)が模造神器の二振りでもって『マギニア』たちを討ち滅ぼす。
彼女にとって『スナークゾーン』は興味深いものであった。
仮想空間。
しかし、過去の地球の再現である以上、この空間での出来事は歴史の追体験。この戦いの結果がヒーローズアースの歴史の本筋を大きく変えることはないだろう。
けれど、これまで『スナークゾーン』での戦いは後年に影響を僅かながら与えてきている。
『魔法使いの時代』における戦いは、ヴィラン組織に新たなる兵器の着装を与えた。
「なんというか、すごい話だなぁ……技術の進歩には犠牲はつきものというけれど、気分の良い話ではないね」
鋼鉄の巨人の炉心に組み込まれている強化人間『ユィット』は血液全てを猛毒に変えられている。その猛毒を持って巨大な兵器を制御する。
どれだけ進歩を早めたところで、未だ人の歴史は追いつかない。
速すぎるということは、急ぎすぎているということだ。
急ぎすぎた歩みは、多くのものに犠牲を強いる。人の命であっても同じである。だからこそ、倫理観のない行いができる。
「システム、多重起動。負荷は完全無視。さあ、暴れ狂え!」
そういうのはごめんだと思うからこそ、玲の瞳はユーベルコードに輝く。雷纏う百振りの剣と蒼炎纏う百振りの剣が彼女の周囲に展開される。
Overdrive I.S.T(オーバードライブ・アイエスティー)は、彼女にとって諸刃の剣であった。
己の振るう模造神器と同じ力を持つ都合、二百の剣が乱舞する。
けれど、彼女が一撃でも受ければ解除される力だ。
「そういうわけで、お二人さん護衛よろしく」
「とんでもない奴もいたもんだな。だがまあ、数には数ってことだろ。安心しなよ」
徒手空拳の青年が笑う。
玲の手繰る二百の剣が乱舞する中、あらゆる攻撃を拳と蹴撃のみで打ち払う。その業はこれまで見てきた過去の時代にあって同一のものであった。
高まっているようには見えない。
最初からそうであったように拳は地を砕き、海を割る。
戦場にあって、尚、煌めく武技は美しさすら感じさせるものであったかもしれない。
「『マーサス』! 行けよ、こっちは俺がなんとかするから」
「……頼んだ。『アズマ』! そして、剣の貴方も!」
「はいはーい。ま、どうなるかわからないけれどさ。行って暴れておいで」
世界はいつだってボーイ・ミーツ・ガールで回っている。振り回されるのが世界の役割であるというのならば、彼等の物語はこれからだ。
どんな結末を迎えるのかを彼等は知らない。
けれど、結末を知るからと言って、違う結末を願ってはならぬという理屈は何処にもない。
なにせ、玲は、彼女たちは。
生命の埒外たる猟兵である。ここが仮想であろうと現実であろうと関係ない。玲の瞳はユーベルコードに煌き、『マギニア』たちを霧消させていく。
「過去の化身が過去を変えようなんてね」
停滞する時を望み、己の欲望のままに世界を破滅に導く。
ならば、その停滞をこそ切り裂くのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、胸が大きくて忍べてないとかそんなことないもんっ!(お約束
なんかもう過去と現在が入り交ざるって大変ですねー(おめめぐるぐる
この『マーサス』さんはあのスナーク症候群と戦っていた『マーサス』さんの過去、ですか
え?じゃあこのアズマさんはどこのアズマさん??
まいっか、クノイチいっきまーす!
あのスピードと反応速度は厄介ですね
こんな時はこう!
【VR忍術】超強力トリモチ蜘蛛の巣の術!!
空一面に張っちゃいますよー
飛んでる以上は避けられないですね(フフフ
マーサスさん、アズマさん、縦糸です縦糸はくっつかないです!
え?二人ならそこを足場に跳弾みたいな動き出来るでしょ?(無茶振り
暴風が吹き荒れる。
それは強化人間『マギニア』の手繰るユーベルコードの力であった。
彼女たちはクローンである。類稀なる声質を持った存在をクローニングし、強化人間へと変え、ヴィラン組織の尖兵としたオブリビオン。
「私達は世界から病巣を取り除くために生まれた」
「そのために生き、そのために死ぬ」
「これこそが大義。大義には正義が宿る。これは正しい行いだ」
暴風となって強化人間『マーサス』の道を阻む。
ここが『スナークゾーン』、過去の地球の再現であるというのならば、猟兵の介入は過去と現在が入り交ざる状況である。
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)にとって、それはあまりにも目が廻る状況であった。
かつて猟書家との戦いで見た強化人間『マーサス』は深く傷つき、己を苛んでいた。自責だけが彼の人生であった。
あらゆるものを取りこぼしてきた。
救うべきものを救えず、己を責めるだけの人生。
それでも彼はやり遂げたのだ。ヴィラン組織『病院』を壊滅させ、その生涯を全うしようとしていた。
どれだけ傷ついても。
どれだけ喪っても。
それでも彼は生きていたのだ。ならばこそサージェは前口上を高らかに言う。強化人間『マギニア』たちの言う所の正しさが、本当に正しかろうが関係ない。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、胸が大きくて忍べないとかそんなことないもんっ!」
「お約束ってやつだなー」
冷静に言われると恥ずかしい。徒手空拳の青年がなんとなく白い目でみているのがサージェには一番きつかった。
彼の姿は見覚えのないものであった。
面影があるかもしれないと言われれば、そうかもしれないと思う程度の名残。過去の『スナークゾーン』で見た徒手空拳のものたちそのものではない。
「此処は過去で、『マーサス』さんは『スナーク症候群』と戦っていた『マーサス』さんの過去、ですよね。なら、え、じゃあ、この『アズマ』さんはどこの『アズマ』さん??」
「いや、『アズマ』は俺でしょ。当代に一人しか名乗らないんだから」
何いってんだこの人、と徒手空拳の青年は首を傾げている。
お互いに首を傾げているのだから、よくわからない空間に成っている。けれど、『マギニア』たちはそんな当人たちの困惑を考慮しない。
暴風が吹き荒れ、サージェたちを襲う。
「まいっか、クノイチいっきまーす! あのスピードと反応速度は厄介ですね。だから、こんな時はこう!」
VR忍術(イメージスルノハカッコイイワタシ)。
コンソールにインストールされたのは、バーチャル忍術、強力トリモチ蜘蛛の巣の術。
空一面に張り巡らされた網目状の糸。
暴風を手繰る『マギニア』たちにとって、己たちのフィールドに張り巡らされた蜘蛛の巣はあまりにも邪魔なものであった。
そして、羽ある者が蜘蛛の巣から逃れられぬ運命であるように彼女たちもまた同様なのである。
「フフフ、これで貴方達の反応速度も何もあったものじゃないんです。流石クノイチ、汚い! さあ、『アズマ』さん!」
「縦糸はくっつかないっていうんだろう」
「そのとおりです。そこを足場に跳弾みたいな動き出来るでしょ?」
無茶振りもいいところである。けれど、それを現実に変えるのが徒手空拳の青年であった。
空を走り抜けるように、蜘蛛以上の速度で戦場を駆け抜けていく徒手空拳の青年。彼の蹴撃はあらゆるものを切り裂くだろう。
これまで過去の『スナークゾーン』で見てきた技と同一。
見紛うことのない技量。
サージェは無茶振りであったけれど、本当にやっちゃうんだなーと自分で振っておいて、なんだけれどと思う。
「結果オーライだからオッケーです!」
サージェもこうしてはいられないと、徒手空拳の青年と共に強化人間『マーサス』の後を追う。
この後に控える結末を彼女は知っている。
けれど、此処は仮想空間である。ならば、彼女はどうするだろうか――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
『マーサス』『ユイット』…偶然である筈も無し
ここが『スナークゾーン』である以上、迎える結末は…
“だからどうした”というのです
騎士として為すべきは唯一つ
大盾を放り電脳禁忌剣で一閃
戦場に無数の花弁を散らし、それら支点にバリア形成
降り注ぐ太陽光の熱線を防御
救わんと欲する者に助太刀するは騎士の本懐、先に進みなさい!
『アズマ』様、彼を…『マーサス』様を頼みます
なに、直ぐに追い付きますとも
恒星の光など我が故郷の戦場では前提条件
私の装甲を溶かせる等思わぬ事です
花弁を攻撃に転用
握る剣と共に立ち塞がる敵を悉く斬り捨て切り刻み
全てが仮初ならば、思考演算が形為す我が自我こそが仮初
ええ、この瞬間こそが“真”ですとも!
世界は偶然を重ねて必然へとより合わさっていく。
可能性はいつだって切り捨てられたものを過去にしていく。排出された過去は時を前に進める。
決して逆巻くことはない。
けれど、仮想空間『スナークゾーン』は不可思議な現象であった。
虚構より生まれようとしていた超生物『スナーク』。存在しないからこそ否定できぬ存在。
そして、今『スナークゾーン』での出来事は現実世界に多少なりと影響を与えている。『神々の時代』においては戦いの痕跡が。『魔法使いの時代』においては、猟兵の手繰る武器がヴィラン組織の兵器開発への着想へと影響を及ぼした。
「『マーサス』『ユィット』……これが偶然である筈もなし」
トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は、ここが過去の地球の再現であるというのならば、彼等の迎える結末が如何なるものであるのかを知る。
強化人間『マーサス』は血液の全てを猛毒に変えられ、触れるもの全てに死を齎す存在へと成った少女『ユィット』を殺す。
そうしなければ、多くの生命が危険に晒されたからだ。どうしようもないことであった。この悲劇は必定。
「“だからどうした”というのです」
炉心が燃える。
己の中に心というものが、エラーとしてはじき出されるべきものが存在するというのならば、彼はその心にこそ従うのだ。
燃えるは騎士道精神。
その炎が知らしめる先にあるのは唯一。己を騎士と足らしめるものは、それだけでいい。
凄まじい太陽光がトリテレイアと強化人間『マーサス』を襲う。
大盾を投げ捨て、電脳禁忌剣が振るわれる。
戦場に無数の花弁が舞い散る。それらは花弁を支点にバリアを形成するブローディアの花びら。
電脳禁忌剣・通常駆動機構:兵装改造『守護の花』(バリアビット・ブローディア)。護るために振るう剣が見せるは、未来への道筋。
例え、それが悲劇に連なる道であったのだとしても、『今』を護るためにこそトリテレイアは己の剣を振るう。
「救わんと欲するものに助太刀するは騎士の本懐」
「だが、貴方が……!」
強化人間『マーサス』の心配は尤もであったことだろう。トリテレイアが此処で立ち止まるということは、多くの強化人間『マギニア』を一手に引き受けるということだ。
大群だ。どうしようもない。けれど、トリテレイアは『マーサス』に一喝するのだ。
「先に進みなさい!『アズマ』様、彼を……『マーサス』様を頼みます」
トリテレイアのセンサーには追いついた徒手空拳の青年がいる。
同じ『名』を持つものを何度も見てきた。全てが違う人物であるが、その業は全てが同一。寸分たがわぬものであった。
そして、かの『名』を持つものたちがいつの時代においても、正しき行いをしてきたことを知っている。
「ああ、わかった」
「でも……!」
「なに、直ぐに追いつきますとも」
トリテレイアは揺らめくアイセンサーと共に彼等の背を押す。
「この私達を一人で足止めすると」
「無謀なことを」
「自棄になったと見える。私達の光はあらゆるものを溶かし、焼き尽くす!」
操られる太陽光が勢いを増していく。けれどトリテレイアは何も自棄になっていなかった。
「恒星の光など我が故郷の戦場では前提条件」
そう、銀河の海を往くものたちにとって、この地上とは比べ物にならぬほどに過酷な戦場は常なるものである。
だからこそ、トリテレイアは己の装甲が彼女たちの力では溶けぬことを知っている。
花弁が舞い散る。
バリアとなった花びらたちが空を舞う。太陽光を覆うように、そして握る剣が告げるのだ。
護ることこそが本懐であると告げたのならば、やり遂げてみせろと。
「全てが仮初ならば」
そう、此処は仮想空間。現実ではない。変えられぬ過去がある。どうしようもない結末がある。
「思考演算が形為す我が自我こそが仮初め」
閃く剣。
切り裂く体躯。そのどれもが過去の化身のものであり、同時に仮想でもある。けれど、仮想が現実を侵食しないわけではない。
これまでの結果を見ても承知の上。
どんな悲劇が待ち受けたとしても、トリテレイア止まらない。知って尚、立ち止まらないことを選んだのだ。
何故ならば。
「ええ、この瞬間こそが“真”ですとも!」
その言葉が徒手空拳の男の耳に届くだろう。仮初であっても構わないのだと。その熱量は確かに魂を持つものであった。
だからこそ、トリテレイアは全てが徒労に終わるかもしれなくても、それでも剣をふるい続ける騎士であったのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『鋼鉄巨人ゴーワンダー』
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POW : 剛腕ロケットパンチ
単純で重い【ロケットパンチ】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : ワンダービーム
【額の三日月からビーム】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : ワンダーロケットモード
全身を【ワンダーエナジーのオーバーレイ】で覆い、自身の【これまでに受けたダメージ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠エルシー・ナイン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』が唸りを上げる。
その炉心に焼べられた少女『ユィット』は諦観にまみれていた。思えば、己の人生は全てが諦観に塗れていた。
仕方のないことだから。
その一言が彼女の全てであった。
自分の両親が死んだのも戦争のせい。仕方のないことだ。大きな争いは人一人ではどうしようもない。
自分が一人生き残っても、寄る辺ない。仕方のないことだ。彼女の親しい者たちは全てが戦火に消えた。
だから、己の身を金に変えるしかなかったのだ。仕方のないことだ。生きるためには金がいるし、彼女と同じ身寄りのない子供らを養うには自分が犠牲になるしか無い。
その犠牲が徒労に終わってしまったことも。仕方のないことだ。戦火はいつだって弱いものから殺していくからだ。
自分を犠牲にして救ったはずの子らもまた人体実験に叩き込まれていた。仕方のないことだ。仕方のないことだ。仕方のないことだ。仕方のないことだ。
「もううんざりなの。仕方のないことだと、そう言って自分を納得させるのは。私の体が触れるもの全てに死を齎すものになったのも仕方のないことなの」
焼べられた炉心の中で『ユィット』と呼ばれた少女は叫ぶでもなく、悲嘆するでもなく、ただ諦めていた。
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』が咆哮する。彼女の諦観と比例するように破壊の力を振るうのだ。
「――もう生きていたくはないの」
自分が生きている限り、死はもたらされる。自分と同じ境遇のものたちを生み出すだけ。ならば、止めて欲しい。
強化人間『マーサス』に願うのだ。
「殺して」
「――いいや、止める。殺すのではなく、止める」
どうしようもないことであったとしても、どうしようもないまま終わらせてはならないと彼の瞳が輝く。
彼のユーベルコードは1,901秒――2秒にも満たぬ効果時間しか発露できない。失敗作と呼ばれた存在である。
だが、今は一人ではない。
彼と共に戦ってくれる者たちがいる。
定められた結末が悲劇であるのだとしても、それでも戦うと決めた者たちが共に在る。
その名は猟兵。
猟兵は、悲劇の中を走る者なれば――。
アレクサンドル・バジル
血液全てを猛毒ねえ……まあ、どうとでも方法はあるだろ。
とはいえ、それは俺の仕事じゃねえな。
とりあえず、元気一杯なお前さんを弱らせてやろう。
後の奴がやりやすいようにな。
『魔力解放』を発動。魔力を纏い戦闘態勢へ。
超音速の機動戦闘。
ガタイはデカいが……それだけだ。
『剛腕ロケットパンチ』に対しては躱して魔力を込めた蹴りで、その一撃を巨人自身のボディに当てるように計算して対処。
それで生じた隙に渾身の一撃を横っ面に叩き込みましょう。
まあ、俺はこれくらいで良いかな。
囚われのお姫様の救出はヒーローの活躍に期待しよう。
『世界大戦』の時代において、ヒーローもヴィランも列強国の戦力の一つに過ぎないものであった。
ユーベルコードを手繰る強き者は、それだけで戦いの趨勢を変える存在であった。
強い力は欲望を集める。
他よりも優れたるを求めるのならば当然の流れであったことだろう。
人為的にユーベルコードを扱うことのできる兵士を生み出すことができたのならば、列強のパワーバランスは一変する。
強化人間とは、そうした欲望の産物でもあった。
強化人間『マーサス』がそうであったように。
強化人間『マギニア』がそうであったように。
『ユィット』と呼ばれる少女が血液全てを猛毒に変えられたのもまた、戦いが続き、欲望の代価として差し出されたがゆえであった。
「……血液全てを猛毒にねぇ……まあ、どうとでも方法はあるだろ」
アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)は鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の巨躯を見上げる。
体高18mはあろうかという巨躯。
ヴィラン組織『病院』が求めたのは、過去の時代にありし鋼鉄の巨人。
されど、この時代の技術ではどうしても大型化してしまう。小型化できないのだ。本来であれば体高5mの汎用戦術兵器を目指していたが、膨大な費用がかさむ上に機構を圧縮できない。
「だから、デカブツになったと。とは言え、その物理はどうしようもならんわな」
アレクサンドルは考えるのをやめる。
この鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心に組み込まれた哀れなる少女をどうにかするのは己の仕事ではないのだ。
その仕事にはうってつけの者すでにいる。
「とりあえず、元気いっぱいなお前さんを弱らせてやろう。後のやつがやりやそうようにな」
彼の瞳がユーベルコードに輝く。
魔力解放(スーパーパワー)によって、黄金に輝く魔力が発露する。
絶大な魔力の奔流を遠く離れた場所でヴィラン組織『病院』の総統を目の当たりにした。戦いの歴史が紡がれたきたヒーローズアースにおいて、戦いは常である。
だからこそ、力を求める。
力があれば世界さえも意の侭にできる。
だからこそ、人は力を求める。だが、それを一蹴するかのような力の発露をアレクサンドルは見せつけるのだ。
「ガタイはデカイが……それだけだ」
「とは言ってもな。あれだけの硬さだぜ?」
徒手空拳の青年が笑っている。これだけの状況にあってなお、アレクサンドルと徒手空拳の青年は笑っている。
「言っただろ、デカイだけだってな」
振るわれる鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の拳が大地に叩きつけられる。
周辺の地形を変えるほどの一撃。巨大な拳の一撃は衝撃波を生む。強化人間『マーサス』は吹き飛ばされる。
けれど、諦めはしないだろう。
「あいつは諦めから一番遠いところにいるな」
「なら、やることやろうぜ」
アレクサンドルの瞳が再び魔力に輝く。
叩きつけられた拳をアレクサンドルの蹴撃が吹き飛ばす。巨大過ぎて投げ技が決まらない。ならば、その奮った拳の体勢のまま横合いの衝撃で強引に崩すのだ。
其処にさらに徒手空拳の青年の拳が叩き込まれる。装甲が砕ける。破片が飛び散りながら、アレクサンドルは、その破片をこそ足場にして『ゴーワンダー』の頭部へと迫る。
「魔力開放――」
黄金に輝く魔力が嵐のように吹き荒れ、その拳を横っ面に叩き込まれる。
「まあ、俺はこれくらいで良いかな」
アレクサンドルは見送る。
己の直ぐ側に駆け抜ける影。その背中を見送るのだ。
それはヒーローと呼ぶにふさわしい背中。
ヒーローをヒーローたらしめるのはユーベルコードの力ではない。全てを諦めた者はヒーローになれない。
全てを仕方ないと割り切った少女が、あの鋼鉄の巨人炉心に今も囚われて前に踏み出せぬというのならば。
「お姫様の救出はヒーローの活躍に期待するっきゃねえよな」
行けよ、とアレクサンドルは、あの背中につぶやく。
背中を押すことくらいはしたっていいだろう。
後ろを振り返ることさえしなくていい。脇目も振らずに進めと、アレクサンドルの黄金の魔力が強化人間『マーサス』の背中を押すのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
戦火というものは、たしかにそういうものでー(戦国時代出身)
ですが、あれを止めるというのならば、協力しがいのあるというものでしてー。
ならば、止めるための戦いを。
UCを防御力方面へ。認識は、陰海月と霹靂がしてますねー。
何度潰されようが、『私たち』はここに戒め戻る。やがては、受けて四天霊障の結界で包みきれるまでに上がりましょう。
地形は…元に戻せますしね?
そうなれば、関節部分を狙っての漆黒風を投擲ですねー。少しでも、動きを阻害して…あの二人を『アズマ』殿と『マーカス』殿を届けられるようにしませんとー。
ふふ、本当に。縁とは不思議なものですねー。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)、『疾き者』は戦乱の時代に生まれた存在である。
戦いに生きて、戦いで死ぬ。
それ自体に意味はない。
戦火とはそういうものである。強き者にも弱き者にも平等に降りかかるものだ。そして、弱き者から死していく。
定めのようなものだ。
仕方ない。
まるでそれは呪詛だ。
諦観にまみれていながら、全てを放棄してもなお、世界を呪う呪詛。それが鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心に組み込まれた少女『ユィット』に唯一出来ることであったのだ。
放たれる巨腕の一撃が大地を砕く。
猟兵の発露した黄金の魔力が強化人間『マーサス』の背を押す。だが、再び振るわれる拳の一撃。直撃はしないまでも凄まじい衝撃はが荒び、彼がまた降り出しに戻されるように吹き飛ばされる。
「けれど、諦めてはいないのですねー。戦火というものはたしかにそういうものでしてー」
彼の瞳にまだ光が在る。
諦観に塗れた少女を救わんとしている。殺すのではなく止めようとしている。この過去が悲劇であり、末路が決まっているのだとしても、それでもあの光を『疾き者』は、四悪霊たちは見たのだ。
「殺して」
そのつぶやきは、まるで世界にそう言わされているかのようでもあった。
「ならば、止めるための戦いを」
心の中から湧き上がるものがあった。
人の心の中には、まだ光がある。強化人間『マーサス』が諦めていないのであれば、それは『疾き者』たちにとって為さねばならぬことであるからだ。
「『私たち』はここに戒め戻る」
叩きつけられる巨腕の一撃を『疾き者』は受け止め、砕けて消える。霧消する。けれど、即座に体が再構築される。
荒ぶ衝撃波は体高18mはあろうかという巨躯から放たれている。
近づくことすら敵わない。けれど、それでも徐々に『疾き者』の……四悪霊の生み出してきた呪詛が膨れ上がっていく。
「四悪霊は滅びず」
「滅びるというのに、どうして抗うの。何もかも徒労に終わるのに。どんなに頑張っても無意味だというのに」
『ユィット』の声が響く。
嘆きだと『疾き者』は理解しただろう。諦観に塗れて響く声は、いつだって嘆きを含んでいる。
死して楽になりたいと思うのもまた無理なからぬほどの地獄だ。
戦火とはそういうものだ。
だが、それを否定しないこととは違う。抗うことこそが生きることであるというのならば、人は負けるようには出来ていないのだ。
殺されてしまうかも知れない。
死んでしまうかも知れない。
それでもなお、『疾き者』は知っている。己達を形作る結界で包みきれぬほどの呪詛が膨れ上がっていく。
「あなたの紡いだものは、受け継がれていく。あなたの悲しみは、あなただけのものかもしれない。ですがー」
その悲しみを止めようとする者たちがいる。
強化人間『マーサス』がそうであるように。
「限界まで済まないな。でも助かったぜ」
徒手空拳の青年の拳が『疾き者』へと振るわれる巨腕の一撃と打ち合う。轟音が響き渡り、『ゴーワンダー』の拳に罅を走らせる。
「いいえ、少しでも動きを阻害できればと思いましてー。『マーサス』殿を届けられるようにしませんとー」
「損得なしってやつだな。頭が下がる。ありがとうな」
徒手空拳の青年は笑っていた。
薄紅色の瞳が『疾き者』たちを見る。いつだって、いつの時代だって、彼等の業は同じであった。
正しき者の傍にありて拳を振るう。
そこに『疾き者』は、四悪霊たちは不思議なものを感じていただろう。
「ふふ、本当に。縁とは不思議なものですねー」
吹き荒れる呪詛。
それは『ゴーワンダー』の関節へと染み込み、動きを阻害する。さあ、と『疾き者』は見上げるだろう。
何度打ちのめされても諦めぬ者を。
あれこそが人の在り方であると証明するように不完全なユーベルコードが、限界を越えて征く――。
大成功
🔵🔵🔵
ロウガ・イスルギ
アドリブ連携歓迎
全く、餅は餅屋、戦争は戦争屋に任せてもらいたいモンだぜ
素人弄って戦場送りなんざ迷惑極まりないっての……
基本はマギニア戦同様に攻撃を【残像】【カウンター】にて
回避し攻撃
炉心が剝き出しになればアグネヤストラによるUC火天破邪使用
ユィットの改造部分を後天的憑依物と見なし浄化焼却させよう
これだけの人間が救いたいと願うなら……
奇跡ってヤツは結構おこるモンさ、きっとな
お前も彼女を救いたかったのかって?ノ、ノーコメントだ、傭兵が私情を
挟むわけ……
ユィットの無力化に成功したら救出はマーカスに任せるか
残りのガラクタは派手に片づけてやろう!
終わったら「未来」は任せるぜ。傭兵には荷が重いんでな。
戦争というものは、いつだってあらゆるものを破壊していく。
物体や肉体といったものだけではない。
心も魂も尊厳させも破壊していくのが戦争だ。だからこそ、人は平和を求める。けれど、壊れてからでなければ、それが尊いものであると実感できぬのもまた人。
『世界大戦』の時代は、世界を巻き込んだ戦いが二度起こった時代である。
もう二度と繰り返してはならぬと知りながらも、それでも人は争う。
世界の覇権という目に見えぬものを求めて、力と金とを奪い合うのだ。
それに巻き込まれる弱き者たちに意思決定の権利はない。
あるのは生命を如何にして使うかだけだ。
「全く、餅は餅屋、戦争は戦争屋にまかせてもらいたいモンだぜ」
ロウガ・イスルギ(白朧牙虎・f00846)はため息とともに体高18mはあろうかという鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の巨躯を見上げる。
振るわれた拳がひび割れているのは猟兵たちと徒手空拳の青年の一撃があればこそであった。
動きが鈍っているのもまたユーベルコードのおかげである。
だが、炉心に焼べられた少女は未だ救われてはいない。彼女は何処までも諦観に塗れていた。
「仕方のないことだから。私はもうどうだっていい。何もかも諦めている」
振るわれる巨腕。
ひび割れていたとしても、その巨大な質量で持って叩きつけられる一撃は猟兵であっても防ぐのは難しいだろう。
それ以前に圧倒的なサイズ差がある。如何ともし難いものだ。
けれど、ロウガは戦場を走る。
彼のの心にあるのは、ただ一つであった。手にしたハンドガンから放たれるユーベルコード、火天破邪(スペルブレイクフレイム)は弾丸と成って『ゴーワンダー』の炉心を覆う装甲を撃ち抜く。
それは肉体を傷つけるものではない。
邪念、邪心、憑依物といったものだけを貫く弾丸。
『ユィット』の血液全てが猛毒となった肉体は、後天的な改造によって得られた特性である。
その炉心に焼べられる劇毒こそが『ゴーワンダー』を突き動かすもの。
そして、改造されたがゆえに彼女はもう後戻りはできない。けれど、浄化の炎は立ち上る。
どれだけ彼女に諦観の念が押し寄せているのだとしても。
この場に集まった者たちは誰もが諦めていない。
「その涙を、嘆きを、痛みを焼き尽くす!オン・アギャナエイ・ソワカ!」
輝くユーベルコードは誰かを救うためにあるものである。
その一念のみがロウガを突き動かす。
きっと誰にも言えないことだ。
照れくさいのかも知れないし、柄でもないと思っていることかもしれない。けれど、ロウガの一念は唯一それだけが込められている。
諦観に塗れ、仕方ないと嘆きながら死ぬことなど許されはしない。
「奇跡ってヤツは結構起こるモンさ、きっとな」
「そう願うから、人はいつだって前に歩みを止めない。足を止めても、また歩き出せる。いつだって人の手にあるのは白紙なのだから」
強化人間『マーサス』が走る。
『ゴーワンダー』の巨腕が振るわれる。
それは拒むようでも在った。
諦観に一度は身を浸したのだ。今更元に戻ることはできないからかもしれない。
「アンタもあの娘を救いたかったんだな」
徒手空拳の男が告げる。
ロウガは、首を振る。
「ノ、ノーコメントだ。傭兵が私情を挟むわけ……」
ロウガは慌てていた。徒手空拳の男の言葉は彼の本心を射抜くものであったからだ。けれど、ロウガは素直に言うことはなかった。
徒手空拳の男の薄紅色の瞳が笑っていた。
巨腕振るう鋼鉄の巨人が唸りを上げる。
『ユィット』の血液は未だ猛毒のままだろう。浄化滅却するには未だ足りない。けれど、その動きを鈍らせることはできた。
あの巨躯を維持するための出力。
『ユィット』から排出される猛毒の血液は、循環している。浄化された一部の血液がまた彼女に戻れば、もしかしたのならば。
そう、もしかしたのならばという希望が膨れ上がっていく。
「終わったら『未来』は任せるぜ」
「最後まで見ていかないのか?」
その言葉にロウガは鼻の頭を拭うようにして言い放つのだ。あとは、『ゴーワンダー』の躯体を破壊するだけだ。
照れくささもあるし、らしくもないことを言った。
けれど、もう一つ理由がある。
「そういうのは傭兵には荷が重いんでな」
気軽なフリーランスが一番いいのだと。
そして、未来を作る若者たちの道行きに生涯がないようにと振り払うのが己の仕事であるのだと、ロウガは笑うのであった――。
大成功
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肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK
どこの世も理不尽なんだ
君の諦めも、絶望も、仕方ないことだろうね、僕はそれを解って上げられると思うよ
でも、救おうと、手を伸ばしてくれる人がいるって、恵まれているし、幸せなことだ
そんな、僕が持っていないモノを持ってる君が、容易く死ねるなんて思うなよ
さて、皆、ヒーローの背中を押して行くんだ
僕も倣わなきゃね
ボロボロになってるけど、潰す力は残ってるだろ?
ありったけを搾り出したそれを、受け止めてあげる
力比べは自信があるんだ
あとは、こっちもありったけをぶつけるだけだね
ここの主役は残ってるんだし、追撃トドメのハッピーエンドは、勝手に回収してくれよ
後味悪いのは、嫌いだからね、頼んだよ
世界は不条理に満ちている。
困難に満ちているし、悪意にも満ちている。それらから逃れようとしても逃れられるものではない。
世界が変わろうとも、それは摂理そのものだ。
涙を流したとしても、悲嘆にくれたのだとしても。
「どこの世も理不尽なんだ」
肆陸・ミサキ(黒白を弁ぜず・f00415)は光宿さぬ瞳で鋼鉄巨人『ゴーワンダー』を見上げる。
体高18mにも及ぶ巨躯。
圧倒的なサイズ差。けれど、その巨躯は猟兵たちのユーベルコードによって罅が走っている。
「仕方のないことだもの」
ただそれだけであった。炉心に焼べられた少女は、ただそれだけをつぶやいた。どうしようもないことであるからだ。
どんなに涙を流したとしても、終わらない苦痛が彼女の生を縛っている。
「君の諦めも、絶望も、仕方ないことだろうね、僕はそれを解ってあげられると思うよ」
ミサキにとって、それは同じものを抱えることと同じであった。
彼女と『ユィット』の人生は似ている。
あらゆる辛苦が彼女を苛んできた。痛みと苦しみが体を駆け巡った。
ミサキと『ユィット』を分かつものがあるのだとすれば、それは二秒にも満たぬ刹那に伸ばされた手だけだ。
あのユーベルコードの煌き。
「でも、救おうと、手を伸ばしてくれる人が居るって、恵まれているし、幸せなことだ」
ミサキは否定する。
もう死にたいと。生きていたくはないと言う少女の言葉を否定する。
煌めくユベールコードと共に強化人間『マーサス』が走る。何度これまで鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の拳の放つ衝撃波で彼が吹き飛ばされてきただろう。
体はボロボロだ。
けれど、それでも彼の瞳には意志が輝いている。
彼一人では立ち上がることすらできなかっただろう。けれど、猟兵たちが彼の背中を押す。
ここが仮想空間だろうと関係ない。
激突するユーベルコード同士。荒れ狂う衝撃波がミサキの頬を撫でる。この戦いの結末が悲劇である必定ことを知っていたとしても、彼等は走る。
己が信じる道を歩んでいる。
バットエンドも、トゥルーエンドも今は必要ない。
「何故、こんなにも。私は死を望んでいるのに」
『ユィット』は炉心に焼べられながら、己の頬が動くのを感じたことだろう。頬を伝うのは熱量。
それを見上げ、ミサキは言うのだ。
「そんな、僕が持っていないモノを持っている君が、容易く死ねるなんて思うなよ」
振るわれる巨腕。
その一撃は凄まじいものであった。猟兵達によって消耗しているというのに、振るわれる拳は『ユィット』の諦観に比例するように威力を底上げしていく。
まだ足りない。
ミサキは、そのありったけの拳を受け止める。
血潮が吹き出す。体中から、骨が軋む音が響く。大地が割れる。踏みしめた足場は完全に砕けてしまった。
けれど、ミサキの瞳はユーベルコードに輝く。
彼女が見送ったヒーローの背中にあったように、ユーベルコードが輝く。
「ありったけを搾り出したんだよね、受け止めてあげたよ」
力比べは負けない。
徒手空拳の青年が驚嘆の声を上げた。
「業のぶつけ合いじゃなく、丹力だけで受け止めるかよ! すごいな、アンタ!」
硝酸の声であった。
けれど、ミサキには今は届かない。意味がないからだ。称賛も驚嘆も。何もかもミサキには意味がない。
彼女の瞳が見据えるのは『ゴーワンダー』の炉心に繋がれた少女のみ。
「あとは、こっちもありったけをぶつけるだけだね」
それは煌めく生命の輝き――FLASH FLUSH(セン)。
生命力を消費して生み出される大鎌。
その一閃は『ゴーワンダー』の巨腕を一撃のもとに切り裂く。
彼女が求めるのは、ハッピーエンドのみ。
その一閃は彼女の生命力を枯渇に導く。もう一歩も動けない。けれど道筋は着けた。彼女の一閃の先を走る者がいる。
諦観に塗れた少女の元に駆け抜けていくヒーロー。
あれこそがミサキの求めたもの。自分には居なかった者。幸せの形。ならばこそ、ミサキは震える唇で言うのだ。
「後味悪いのは、嫌いだからね、頼んだよ」
ああ、と応える声が聞こえた気がした。
動けぬミサキを抱えて安全地帯へと運ぶのは徒手空拳の青年。
彼が何事か称賛の言葉を告げていたことをミサキは知るだろうか。知らなくてもいい。彼女の切り開いた一閃は、たしかに少女の未来という閉じたはずの可能性を切り開いたのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
黒影・兵庫
(「こんなんだから人間は管理、教導すべきなんてふざけたことをぬかす虫が跋扈するのよ。まぁアタシらのことなんだけどね」と頭の中の教導虫が話しかける)
故郷ディスりへの返答は控えさせていただきます!
(「さぁてこのデカブツどうしましょうか?動力になっている女の子に協力してもらうってのも難しそうね」)
いや!せんせー!ここは内側から攻めるのがベストです!
UC【穿つ言霊】で言霊兵さんを召喚し、言霊で彼女の心の壁を打ち砕いてデカブツの停止に協力していただきましょう!
(「黒影、説得とか得意だったっけ?」)
俺では荷が勝ちすぎてできません!なのでマーサスさんの言葉を言霊にします!
説得が終わるまで俺は徒手空拳の人と一緒に『衝撃波』を使った『ダッシュ』とかでデカブツの周りをうろちょろして敵の気を引きつけます!
(「たった2人で!?危険よ!」)
問題ありません!...こうすればいいので!
(超克(オーバーロード)で真の姿に変身する)
さぁ!かかってきな!俺たちが人と世界を救える本当の治療ってやつを見せてやるよ!
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の片腕が生命のきらめきを思わせるような一閃によって落ちる。
地鳴りを響かせるような音と共に巨腕が大地に落ちる。
「どうして仕方のないことを、そのままにしないの。私はもう諦めてしまっているのに」
どうしようもないことは世に満ち溢れている。
炉心に焼べられた少女『ユィット』だけではない。世界には多くの不条理が命を奪っていく。
ときにそれは正義と悪という観念そのものを超える。
良きも悪きも、老いも若きも。性差すら関係なく争いは命を奪う惨禍。
争いの悲惨さを知りながら、伝えながらも、人は争うことをやめられない。人の本質が争うことであるというのならば、人の愚かさは手の施しようのないものであったことだろう。
「こんなんだから」
その言葉は黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の頭の中にある教導虫『スクイリア』のものであった。
人間は管理、教導すべき愚かなる生物である。
それはふざけたことであると彼女は言う。
争いばかりの世界。
人の側面を見て愚かだという同種がいる。けれど、『スクイリア』はそうではないと思うからこそ、人の別の側面に光を見る。見出したのだ。
兵庫は故郷への侮蔑にも似た言葉への返答を控えた。
彼にとって故郷は故郷だ。変わりない。そして、彼女が言う所の同種もまた彼の頭にいる変えがたき存在と同じである。
だから、どれだけ彼女の言葉が真理を告げるのだとしても、それに答えるわけにはいかないのだ。
「さぁて、このデカブツどうしましょうか?」
咆哮する鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の体高は18mにも及ぶ。それに炉心に焼べられている少女『ユィット』に協力してもらうことは、難しいと判断できた。
けれど、兵庫は頭を振る。
「いや!せんせー!」
違うのだと兵庫は言う。隻腕になっても振るわれる拳の一撃。衝撃波が荒び、『ゴーワンダー』に近づこうとする強化人間『マーサス』を吹き飛ばす。
あれを受けては兵庫とてひとたまりもないだろう。
強固な装甲も外側から破壊するのも一苦労だ。
ならば、どうするか。答えは単純であった。内側から攻める。それがベストだと兵庫は告げる。
けれど、教導虫『スクイリア』は兵庫にとって、その狙いが難しいことであることを知っている。
純粋であり性根の善良である彼の言葉は、不器用であるがゆえに真。それゆえに届かないだろうとわかる。
「俺では荷が勝ちすぎてできません!」
だから、己ではない者がいる。これ以上無い適任者が居る。
二秒にも満たぬユーベルコードで戦うヒーローがいる。そして、兵庫とともに戦ってくれる猟兵達がいる。
さらには徒手空拳の青年もまた同じだ。
「危険よ!」
彼女の言葉も尤もだ。けれど、兵庫は聞き分けない。今此処で退いてはならない。『スナークゾーン』が過去の再現であっても構わない。
現実世界に影響を及ぼすとしても、過去を変えることなどできないかもしれない。
けれど、それでもと兵庫の意志が超克に至る。
オーバーロード。
彼は己の意志でもって超えていく。蟲の四肢が軋む。煌めくユーベルコードは、穿つ言霊(ウガツコトダマ)となって『ユィット』の心の壁を穿つ。
自分では届かない。
あの諦観に塗れた少女の心には触れることはできないだろう。
「諦めたのに。全て諦めたのに。まだ私をこの世に引き止めるものがあるから!」
叫ぶ声とともに振るわれる拳。
その衝撃波が戦場に吹き荒れる。けれど、それでも兵庫は立ち止まらない。
強化人間『マーサス』が走る。兵庫が穿った心の壁に手を伸ばすのだ。その光景を兵庫は見た。
あれが人の愚かさと相対する優しさだ。
人は強くなければ生きることができない。悪意が満ちているから。けれど、優しくなければ生きる資格などない。
悪意があれば善意がある。人とはそういうものだ。だからこそ、兵庫は軋む肉体を推して構えるのだ。
「さあ! かかってきな! 俺たちが人と世界を救える本当の治療ってやつを見せてやるよ!」
「よく言ったな、少年。アンタは正しい。人を殺すのが拳であっても、人を救う事ができるのが手だ。同じ腕であっても、人はそれを選ぶことができる」
徒手空拳の青年が兵庫と共に荒れ狂う『ゴーワンダー』の拳をいなし続ける。
「ええ、救えぬと誰が定めたんです! だから、言霊兵さん、羽音に乗せて俺の想いを届けてください! あの人の心を、諦めに塗れた人の心に触れさせてください!」
兵庫の願いに思いを受けて鈴虫の羽音が戦場に響き渡る。
心の壁は壊す。
人と人との境目にある壁。
「人は人との間に壁を作る。境目を作る。個を維持するために必要な隔てり。けれど、助けを求める人に手を差し伸べられる人は!」
そんなものさえも超えて行けると兵庫は信じる。
教導虫『スクイリア』は見ただろう。
超克の果を進む兵庫の姿を。彼女が否定した同種たちとは真逆の道を、険しくも厳しい道を進む兵庫の姿を。
彼女は己の正しさを確信する。
そして、兵庫の見せるオーバーロードの輝きを背に受けてヒーローが手を伸ばす――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
さて、後はあのでかいのだけだけど
単純に大きいのは厄介だね
ガトリングガンで援護射撃して
二人への攻撃の邪魔をしよう
あれだけ大きいなら
取り付いてしまえば
侵入できるかもしれないし
ロケットパンチはワイヤーガンによる移動や
空中浮遊を利用して回避
隙を見つけて兵装創造でグラビティガンを生成
回数を減らして威力を上げて脚を狙って攻撃
脚の破損と重力の増加で転倒させ
二人が行動する時間を作ろう
誰かユィットさんを救える人がいれば良いけど
もし居ないなら彫像として眠る案を提示しようか
死の結末が仮死になるだけだけど
まだ病院の研究資料が残ってる可能性もあるし
いつか治せる日がくるかもしれないからね
もちろん本人達が望むのなら、だけど
心の壁を突き崩す輝きがある。
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心に焼べられた少女の心の壁。
それは仕方ないという諦観に塗れた壁であった。同時にそれは、彼女の心を護るものであった。
これ以上傷つきたくない。
誰も近づかせなければ、誰も傷つくことはない。己もまた傷つくことはない。
『ユィット』の血液は全て猛毒である。
彼女が触れれば、それだけで生命は喪われるだろう。
仕方ないと全てを諦めたことの代償がそれであるというのならば、あまりにも酷な運命であったことだろう。
「だから、もういいの。私はもう生きていたくはない」
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』が咆哮する。
それは彼女の諦観に比例するように力を増すようであった。振るう巨躯の豪腕が大地を破壊する。凄まじい破壊の衝撃が強化人間『マーサス』をまた吹き飛ばす。
猟兵たちの攻撃によって隻腕と成った『ゴーワンダー』であったが、未だその力は健在であった。
『ユィット』の心の壁もまた強固なものであった。
けれど、そこに穿たれたものがあるのを佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は見た。
「どれだけ心を鎧うのだとしても、誰かが手を伸ばし続ける。人の悪意は計り知れないものであるかもしれないけれど」
それでも、手をのばす者がいる。
晶はガトリングガンでもって体高18mはあろうかという『ゴーワンダー』に立ち向かう。
徒手空拳の青年も、強化人間『マーサス』もまだ諦めていない。
ならばこそ、晶は己がすべきことを見定める。あの二人を死なせてはならない。特に『マーサス』は『ユィット』の救うためになくてはならない存在だ。
「単純に大きのは厄介だね」
「ああ、だが。取り付く島もないというわけじゃない」
「任せたぜ、ヒーロー」
晶たちは走る。悲劇の中を。これが定められた悲劇であることを知っているのは晶たち猟兵だけだ。
ここが過去の再現であることは百も承知である。
けれど、それでも猟兵たちは戦う。徒労に終わると知りながらも、それでもか細い可能性を見出す。
それは暗中の光のようなものだ。
どれだけ遠い道のりであるのかもわからない。けれど、たしかに其処に在るとわかるからこそ、手を伸ばし続ける。諦めないのだ。
「取り付く!」
晶はワイヤーガンをもって『ゴーワンダー』の巨躯に打ち込み、ワイヤーを巻き取ることによって巨腕の一撃を躱す。
それでも大地を破壊する衝撃波は凄まじい。
暴風に煽られるようにしながら、晶の瞳は見据えていた。その瞳に宿るのはユーベルコードの輝き。
兵装創造(オルタナティブ・ウェポン)によって携行ガトリングガンが分解される。
「何をしてる。攻撃の手を緩めては――」
強化人間『マーサス』が『ゴーワンダー』の瞳を向けられた晶の警告する。未だ『ゴーワンダー』の一撃は隻腕となっても凄まじい威力を持っている。
その一撃が晶に向けられている。
「もういい! 私は、もう! どうなってもいい! ただ、誰も傷つけたくない! もう誰も死ぬのを見たくない!」
少女が叫ぶ。
誰が彼女を救えるだろうか。例え、『ゴーワンダー』を打倒しても、彼女の血液が猛毒なのに代わりはない。
ならば、どうすればいい。
彫像化して、仮死にすればいいのか。ヴィラン組織『病院』の研究資料をあされば、もしかしたら治せる日が来るかも知れない。
そもそも、彼女は望んでいるのか。
生きることを。
これまで諦観に塗れた人生であったはずだ。疲弊しているはずだ。
「本人たちが望むなら、だけど……けれど、何もかも遅いなんてことあるわけがない」
晶の瞳が煌めく。
生み出されたのは鋼鉄の巨人、キャバリアの兵装。
グラビティガンの一撃が唸りを上げる。『ゴーワンダー』の脚部を狙って放たれた一撃が、その装甲を削り吹き飛ばす。
戦いはいつだってあらゆるものを奪っていく。それはどうしようもないことだ。
けれど。
「人は、神にだって負けない。負けるようには出来ていない」
晶は諦めない。
ここが仮想空間だろうと関係ない。彼女の身に宿る邪神の権能。それは停滞と永遠。ならばこそ、あまねく全てに眠りを齎すことができる。
時間がかかるというのならば、その時間を齎すことができる。
「何も諦める必要なんてもうないんだ」
脚部から崩れ落ちる『ゴーワンダー』へと走る輝きを見た。
強化人間『マーサス』の背中を晶は押す。どんな結末になろうとも、どんな悲劇が待つのだとしても、それでも臆さぬ者がいる限り、晶は手を差し伸べることをやめないだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
いやあ、男の子的な展開だねえ
良いね良いね、実に滾るシチュエーションじゃない
やろうよ、ちゃんと助けてあげようよ
…けどゴーワンダーって名前は締まらないなあ
いいけどさ
さてと、超克…オーバーロード
外装展開、出力上昇
模造新器全抜刀
さて、どうしてくれようかな
いやしかし、18mってデカイなー
だけどまあ、やるしかない
まずは『斬撃波』をひたすらゴーワンダーに放ちまくってこっちに注意を引かせよう
囮は任されたから、後は頑張ってね
さて、引き付けた敵の攻撃を『オーラ防御』でオーラを纏わせて強化した右手以外の3本で『武器受け』して、敵の攻撃を引き受ける
質量差ってさあ…卑怯だよね!
ぐっと堪えて耐えきったら、反撃開始だ!
【断章・機神召喚】起動
機械の右腕召喚!
『念動力』で浮かせて私の右腕と動きをリンク
質量的に言えばこれで大体一緒
反撃開始といこう!
とはいえ、胴体を狙うわけにもいかないしね
召喚した腕の振るう剣で、ゴーワンダーの脆くなってる部分を斬って『部位破壊』していこう
助けるなんて細かい作業は苦手だし、後はお任せ!
「仕方のないことだもの。何も、誰も悪くない。私は、私を諦めているのだから」
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心に焼べられた少女『ユィット』の声が響く。
彼女の諦観に塗れた言葉は、彼女の全てを物語っていた。
諦めだけが彼女の人生であったからだ。その諦観が『ゴーワンダー』の動力として発露していることは、皮肉でしかなかった。
血液全てを猛毒に変えられた少女。
彼女の触れるもの全ては死に絶える。存在するだけで死を齎す。だから、もう諦めたのだ。
けれど、彼女の瞳に映るのは、そのにじむ視界に映るのはまっすぐに煌めく輝くばかりであった。
諦観に塗れた視界を塗りつぶす輝く。
猟兵たちのユーベルコードが煌めいている。諦観に塗れ、暗闇のように閉ざされた道を照らす輝きがある。
「その諦めを砕く」
これまで強化人間『マーサス』は何一つ救うことができなかった。
救いたいと願う物は全て、その指の間から滑り落ちてきた。これまでもそうであったように、これからもそうであろう。
だが、それでも彼は超えて征く。
「いやあ、男の子的な展開だねえ。良いね良いね、実に滾るシチュエーションじゃない」
月夜・玲(頂の探究者・f01605)は鋼鉄巨人『ゴーワンダー』のネーミングだけが締まらないものであると思いながらも、それはまあ、別にいいことだと頭を振る。
「やろうよ、ちゃんと助けてあげようよ」
悲劇は必定。
此処は過去の再現。仮想空間である。だが、だからと言って手を差し伸べない理由には成ってない。
「ああ、理由になっていない。助けない理由にはなってない」
徒手空拳の青年が笑う。
玲の瞳が輝く。
転送されてきた外装の出力が上昇していく。四振りの全抜刀。模造神器の蒼き刀身が破壊を齎す戦場に走る。
超克。
オーバーロードへと至る玲の力は膨れ上がっていく。救うと決めたのならば、必ずそれを為す。
「さて、どうしてくれようかな」
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』は隻腕と成り果て、脚部の一部を損壊させられている。
けれど、未だその振るわれる巨腕は凄まじい威力を保っている。振るうだけで大地は破壊され、衝撃波が吹き荒ぶ。
それゆえに強化人間『マーサス』は近づけない。少女『ユィット』の心の壁は突き崩され、むき出しの心が叫んでいる。
鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の体高は18m。
未だ猟兵たちにとって不利な状況が続いている。けれど、それでも退くという選択肢はない。
「だけどまあ、やるしかない」
放たれる斬撃波が『ゴーワンダー』の装甲を削る。けれど、焼け石に水だ。装甲を削るばかりでは、致命傷を与えられない。
「囮は任されよう。後はあいつ次第だ」
徒手空拳の青年と共に玲は『ゴーワンダー』の注意を惹きつけ続ける。強化人間『マーサス』だけが彼女を救えるというのならば、かつて届かなかった手を玲は届かせるだけだ。
吹き荒れる衝撃波。
致命打を受けていないまでも、衝撃波と瓦礫が礫のように玲たちを襲う。
散弾のように大小様々な瓦礫が玲たちの動きを止める。とっさに外装の副腕を交差させ、さらに左手に握りしめた模造神器でもって『ゴーワンダー』の一撃を受け止める。
大地が隆起する。凄まじい力の激突。
火花と力の本流が迸る。
「質量さってさあ……卑怯だよね!」
外装が最大出力の唸りを上げても尚、押し止めるので精一杯であった。オーラをまとわせても防御の上から押しかかる一撃。
それはあまりにも強烈な一撃であったし、単純であるがゆえにこらえきれるものではなかった。
けれど、玲は見上げる。振るわれた巨腕を横合いから蹴り飛ばす徒手空拳の青年の一撃。
ぐらりと揺らめく。もしも、片足が残っていたのならば『ゴーワンダー』はこらえただろう。けれど、猟兵たちの重ねられた一撃が、この状況を生み出す。
「偽書・焔神起動。断章・機神召喚の章の閲覧を許可。術式起動――断章・機神召喚(フラグメント・マキナアーム)!」
機械の右腕がユーベルコードの煌めきと共に出現する。
玲の念動力とリンクした巨腕が雷鳴を呼ぶ。
雷光が手にした模造神器を巨大化させる。彼女の動きをトレースする鋼鉄の右腕。質量で言えば『ゴーワンダー』の右腕と同じであろう。
これならば、質量差は埋められる。
「反撃開始といこう!」
玲の生み出した模造神器が蒼光が戦場を埋め尽くす。
ここに至るは、天頂の力。
神を模し、神を超克する力。迸る神器は世界に知らしめる。人の歩みを止めるのは恐れや悲しみではない。
諦観であると。
ならば、その諦観を切り裂くのは何か。
人の意思だ。
人は死ぬ。殺されてしまう。大きな力の前には無力だ。
けれど、負けるようには出来ていない。神代より発祥した人の歩みは、連綿と紡がれている。
振るわれる蒼き巨大刀身の一撃が『ゴーワンダー』の頭部を刎ね飛ばす。
「助けるなんて細かい作業は苦手だし、後はお任せ!」
行っちゃえよ、ヒーローと玲はつぶやく。
彼女の瞳は見ただろう。
振るわれた蒼き刀身の上を走る強化人間『マーサス』の姿を。これまで何度も打ちのめされてきたであろう彼が、必死に手を伸ばすのを。
仮想空間だろうと、決して変えられぬ必定であろうと。
それでも玲は示したのだ。
「いつだって超えて征ける」
超克とは己を超えていくこと。ならば、彼に出来ぬことはないはずだと。不完全だと失敗作だと言われた彼は負けない――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
超克…オーバーロード始動
電脳禁忌剣
その奥底の設計図に強制アクセス
変ずるは巨人に比する大きさ
『破壊兵器としての最高傑作』の姿
“騎士に討たれる忌むべき竜”
御伽を愛し、銀河帝国に望まぬ兵器開発強制された彼女の憎悪
その証左たる忌むべき姿に
もし、取り零した命救えるなら…その択をとらないかもしれません
己の剣の結果に、騎士とは責任を取らねばなりません
ですが、今は“違う”
眼前に諦念に震える少女がある
眼下に使命に燃える男達がある
であれば我が標、御伽の騎士は何を為すべきか
EPDユニットの砲撃で鉄拳迎撃
砲撃による素粒子干渉にて分子レベルで分解、蹂躙
宙にも届かぬ兵器が勝てると思うなァ!
剣、盾、爪、牙、尾
巨人圧し装甲引き裂き少女を露出
『マーサス』様、我が創造主の叡智をその身に託します
…届けなさい!
男を手に掴み空へ放り
禁忌剣最大励起
────!!
空に、宙に、スナークの領域をも超えて
傷を胸に今も戦う疾風の男に
哀れな少女の墓に
御伽の騎士に焦がれる鋼の兵器の邪竜、僅かでも届けと咆哮し
斬撃に乗せ少女の元へ男撃ち出し機能停止
蒼き刀身の一撃が鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の頭部を刎ね飛ばす。
風を切る音が戦場に響き渡る。
ぐるり、ぐるりと回転しながら大地に落ちた鋼鉄の頭が地鳴りを響かせて、ひしゃげる。
だが、未だ諦観は拭えず。
そう、この悲劇の末路は必定である。
ここは仮想空間。過去の再現。『スナークゾーン』である。けれど、同時にこの仮想が現実を侵食することを猟兵たちは知っている。
定められた悲劇は覆せるのか。
それは誰も知らない。可能なのか、不可能なのか。
それさえもわからぬままに猟兵たちは歩みを止めない。時は逆巻くことはない。時は過去を排出することで前に進んでいく。
ならば、ためらっている時間など皆無であることをトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は知っているのだ。
僅かな逡巡が全てを喪わせることを。
「超克……オーバーロード起動」
手にした電脳禁忌剣の奥底に眠る設計図にトリテレイアは強制的にアクセスしていた。電脳がエラーを吐き出し続けている。何度もシャットダウンさせるようにプログラムが走る。
けれど、トリテレイアは、その全てを拒否した。
彼がアクセスしているのは数多の惑星破壊兵器を封じた剣の集大成にして『破壊兵器としての最高傑作』の設計図。
シャットダウンさせようとするプログラムが働くのまた無理なからぬことであった。
彼の創造主が望むはずがない。けれど。
「数多の居住可能惑星滅ぼしたテクノロジーを、ただ人の涙拭う為だけに使うのです。滑稽な非効率の極みで、愉快な御話でしょう?我が創造主」
トリテレイアの姿が“騎士に討たれる忌むべき竜”としての姿に変容していく。鋼鉄巨人『ゴーワンダー』に匹敵するほどの巨躯。
悍ましき恐怖の象徴。
竜としての姿がそれである。同時に憎悪の形でもあったのだ。忌むべき姿であるとわかっている。
これを、この姿を、この兵器を世に解き放ってはならぬ。
けれど、この力の使い方をトリテレイアは知っている。
「もし、取りこぼした生命救えるなら……その択を取らないかもしれません。己の剣の結果に、騎士とは責任を取らねばなりません」
生命は回帰しない。
時が逆巻くことがないように。
否と叫ぶものがある。電脳ではなく、炉心が叫ぶ。
眼前に在るものを見よ。
眼下に在るものを見よ。
あらゆる電脳のエラーを排して叫ぶものが己の炉心にはある。
「ですが、今は“違う”」
煌めくアイセンサーが告げる。
眼前に諦念に震える少女がある。
眼下に使命に燃える男達がある。
「であれば我が標、御伽の騎士は何を為すべきか」
六枚羽の浮遊砲門が咆哮する。紡ぐは、電子と鋼の御伽噺(ナーサリーテール・フォア・アレクシア)。
撃ち放たれる砲撃が迫る鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の拳を打ち砕く。
「どうしてそっとしておいてはくれないの。生きていたって何もいいことなどないのに! またこれから辛いことが続くというのに!」
人生はいつだって不条理に満ちている。
それは言うまでもないことだ。諦観が人の歩みを止める。けれど、その歩みを止めた者の隣に立つことができる者だっている。
唸り声を上げる『ゴーワンダー』と組み合う巨竜。
トリテレイアは、その諦念こそを打破しなければならぬ。
ヴィラン組織『病院』が生み出した時代にそぐわぬ巨人兵器。されど、此処にあるのは惑星すらも破壊せしめる兵器。
「宙にも届かぬ兵器が勝てると思うなァ!」
剣、盾、爪、牙、尾。
あらゆる兵装が『ゴーワンダー』の巨躯を砕く。既に隻腕であった腕は砕け、打ち抜かれた脚部、残ったものすら尾の一撃が切り裂く。
喪った頭部では、もはやこちらを見ることすら敵わないだろう。
組み敷いた『ゴーワンダー』の胸部装甲を引き剥がしながら、トリテレイアは己の炉心が叫ぶのを聞いた。
「――!」
溢れるは『ユィット』のユーベルコード。血液すらも猛毒に変えたエナジーの腕がトリテレイアの装甲を侵食していく。
巨竜を引き剥がさんとするエナジーの腕を振り払いながら、トリテレイアは告げる。
「『マーサス』様、我が創造主の叡智をその身に託します」
「だが、あなたが……! それは、俺には」
使えないはずだと言う。
けれど、トリテレイアは構わなかった。この仮想空間において、もしも『ユィット』に届くのであれば、彼女を救わんと走る彼だけであることをトリテレイアは知る。
取りこぼしてきた過去を知っている。
きっと在りし現実には、救うことが叶わなかったことを。
あの背中を知っている。懊悩の日々を送ったことも。後悔と懺悔だけが満ちる未来を知っている。
だからこそ、トリテレイアは言うのだ。
「……届けなさい!」
巨竜の腕が『マーサス』を掴む。電脳禁忌剣が最大励起する。
その兵装が齎すのは破壊だけではない。トリテレイアは知るだろう。この結末を彼は見ることがないのだと。
けれど、『スナーク』がそうであったように。
虚構とは何処にも存在しないからこそ、存在を否定できない。己が、この結末を見届けられないということは、己の炉心が見る夢が夢の侭であることを否定できないのと同義。
ならばこそ、トリテレイアはためらわない。
『破壊齎さず悲しみを拭う』電脳魔術が煌めく。その煌きこそを背に受けて『マーサス』は走る。
二秒にも満たぬユーベルコードの煌き。
されど、トリテレイアは夢想する。その結末を。
「――!!」
その咆哮は意味のないものであったかもしれない。
けれど、空に、宙に、スナークの領域をも超えて傷を胸に今も戦う疾風の男に。哀れな少女の墓に。
御伽の騎士に焦がれる鋼の兵器の邪竜は、その咆哮を轟かせる。意味のない咆哮であったし、それで何が変わるわけでもない。
叫ばずにはいられなかったのだ。
「いいや、アンタの咆哮は届く。見ろよ、あの背中を」
その声は誰のものであったか。
判別できない。すでに機能がシャットダウンされている。
暗闇の中で輝くものを見た。
見届けられぬことこそ必定。
されど、ああ、されど。“見える”ようであった。仮想が現実を侵食出来ぬと誰が定めたのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
オーバーロードで真の姿に
マーサスさんとアズマさんに「先程話した通り、ユィットさんの毒を消しますので、救出とゴーワンダーの破壊をお願いしますね。」と。
空中浮遊・自身への念動力・空中戦にて自在に空を舞い、第六感・見切り・ダンスで軽やかにゴーワンダーの攻撃を躱しつつ、ユィットさんに「これより貴女の毒を消します。代わりに私と共に、世の為、人の為に働いて頂きますが束縛はしません。自由に生きられますよ。」と優しさと共に鼓舞。
更に「血液が猛毒になったから”仕方ない”のと、それ以前の”仕方ない”は違いますよ。
ユィットさんの心が死にそうになった時、心を護る為に口にした言葉です。
それに私は一人でも多くの人が幸せになると気分が良いのです。
ですので自分勝手でタチの悪い神に目を付けられたのが運の尽きと思って下さいね。」と語り掛け、”いつもの言葉”を引き出し、誓約成立して、ユィットさんを無害な眷属神とします。
結界術・全力魔法・高速詠唱でユィットさんを保護し、ゴーワンダーとの接続解除。
マーサスさんに救助して頂きますよ
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は人と交わって暮らすことを好む神性である。
彼女自身が神性であることと、人の世に交わることはイコールではない。
彼女の欲望をあえて言い表すのであれば、人の隣に立つことである。
植物と活力を司る神。
神名をアシカビヒメ。
『スナークゾーン』は仮想空間である。現実ではない。過去の地球のすべてを再現した空間であれど、定まった悲劇は覆らない。
だが、過去の『スナークゾーン』での戦いは、大なり小なり現実に影響を及ぼしていた。
『神々の時代』の戦いは、センターオブジアースに石像と傷跡を残す。
『魔法使いの時代』の戦いは、後年にヴィラン組織の兵器開発へと影響を及ぼした。
その結実が鋼鉄巨人『ゴーワンダー』である。猟兵たちが扱っていた戦術兵器は完全に再現できていない。この時代にそぐわぬ技術であったし、小型化出来ぬがゆえに体高18mというサイズでしか出力を保てなかった。
けれど、その鋼鉄巨人もまた猟兵達によって打倒される。
四肢は砕かれ、頭部は切断された。
胸部に残った装甲さえも引き剥がされる。そこに駆け抜ける影があった。それは強化人間『マーサス』。
猟兵の咆哮と共に打ち出された彼は、迫る鋼鉄巨人『ゴーワンダー』の炉心から溢れた少女『ユィット』の猛毒の血液から循環したエナジーの腕を切り裂く。
「どうするんだ。できるのか、アンタに、それが」
徒手空拳の青年が詩乃に言う。
彼女はもとより、この戦いに際して『ユィット』の猛毒となった血液を消す、と言っていた。それは本来であれば不可能であったことだろう。
何故ならば、過去にありてもそれは叶わなかったからだ。殺すしかなかった『マーサス』は『ユィット』を止めた。
生命を奪うことで。
それが懊悩の始まりだった。心が苛まれながらも、後年まで一人で戦っていた『マーサス』を詩乃は知っている。
あの必定たる結末を知っている。けれど、だからなんなのだと彼女は言うだろう。仮想が現実を侵食しないなどと誰が定めた。
この『スナークゾーン』は虚構。
されど、虚構は誰もが否定できぬものである。誰もが夢想するであろう。誰もが願うであろう。此処に集った猟兵たちの誰もが願っていたことであった。
それを神性は受け止める。
「これより貴女の毒を消します」
告げる言葉は厳かであった。されど、少女は頭を振る。炉心に焼べられながら、彼女は諦観にまみれていた。何故ならばこれまでもそうであったからだ。
「仕方のないことだもの。だって、私はもう、どうしようもない。触れれば生命を奪う。無為に、意味もなく、ただ、ひたすらに存在するだけで人を殺してしまう存在だから」
だから、殺して止めてほしいと願ったのだ。
けれど、それを否定する輝きがある。
オーバーロードの煌きが諦念に塗れた暗闇を照らす。
そのさなかをか細い光が流れるよにして『ユィット』へと迫る。以下に徒手空拳の青年が疾かろうとも、追いつけぬ速度を出すことの出来る世界で唯一人の存在。
猟兵もまた届かない。
けれど、たった一人だけ届かせることのできる手を持つ者がいる。
「いいえ。貴女は願っていた。いつも、いつだって。誰かのために、己の身をなげうってきたでしょう。私は束縛をいたしません。自由に生きてください。貴女の献身は必ず報われる」
例え、現実世界では、何一つ報われることなく、誰かの傷となって一生生きることになるのだとしても。
それでも詩乃は己の真なる姿を晒して、言うのだ。
「血液が猛毒に成ったから“仕方ない”のと、それ以前の“仕方ない”は違いますよ」
『ユィット』の心が傷つき、死に絶えそうに成った時に、心を護るための言葉であった。
仕方ない。
そう、仕方のないことであったのだ。誰も責められない。誰も責めたくない。仕方ない。仕方ない。仕方ない。
心の壁は猟兵のユーベルコードの煌きによって穿たれている。
ひび割れた壁の外から手が伸ばされる。
「私は一人でも多くの人が幸せになると気分が良いのです」
それは彼女の勝手な欲望であったし、願いでもあったことだろう。
時に身勝手なものであると断じられても仕方のないことだ。けれど、詩乃は笑う。微笑む。世界には悪意が満ちているが、それと相対するものもまた満ちている。
今は暗闇の中だろう。
だが、だからこそ一層輝くものが見えるはずだ。
「自分勝手でタチの悪い神に目をつけられたのが運の尽きだと思ってくださいね」
「本当にな。心からそう思うよ。けれど、それが誰かを救うというのなら」
徒手空拳の青年が迫る猛毒のエナジーを蹴撃で持って切り裂く。海すら割る一撃はエナジーを霧消させる。
大地に倒れ伏した『ゴーワンダー』の巨躯めがけて走る光。
届かなかった手をのばす者がいる。
『ユィット』は知っていた。彼がどんな存在であるのかを。親しい者たちが全て戦火に消えた時、己の手を引いてくれた男の子のことを思い出した。
あれが光。
「――言いたくなったでしょう?」
「あ、あぁ、ああ……!」
涙で暗闇が溶けていくのを感じた。詩乃は神気に彼女を包み込む。悲劇は振り払われた。その身に宿した猛毒は、人の悪意もまた霧消させられた。
これが神の恩寵。
眷属神と為すユーベルコード。
回生蒔直(カイセイマキナオシ)。詩乃の神性の発露によって生み出された光が、『ユィット』の中から猛毒の血液を無害なものへと変えていく。
新たなる眷属の神が生まれる。
悲劇と悪意は消える。
けれど、涙だけが残っている。
「『マーサス』さん!」
詩乃は叫んだ。己に出来るのは此処までである。神はいつだって見守ることしかできない。
隣に立っていても、それだけしかできない。
けれど、同じ人ならば。
同じ境遇に在りて、同じ道を歩むのならば。そんな彼だからこそできることがある。
あの日、戦火の中で彼が言ったことだ。
「君が涙を流すのなら、僕が拭う」
悲劇と悪意は消え、諦観は吹き飛ばされる。爽やかささえ感じる疾風が、それを為す。
そして、ただの少年が涙を拭うのだ。
他の誰もが出来なかったことを――。
●後年
『世界大戦』の時代は終わりを告げる。
『スナークゾーン』においても、変わらぬことであった。時代が紡がれていくものであるからこそ。
どれだけ争いが絶えぬのだとしても、人は人の歴史を歩んでいく。戦いが終わり、また新たなる戦いが始まる。連綿と紡がれていく。
人の悪意が満ちるのならば、人の善意もまた立ち上がるものであると知るから。
「きっとこれでよかったと思う時が来る」
徒手空拳の青年は二つの墓標を前に告げる。
諦観は振り払われた。涙は拭われた。
強化人間『マーサス』を支えていたのは、後悔と懺悔であった。取りこぼしたものが多すぎたから。
強化人間『ユィット』が諦めたのは、戦火に全てを奪われてしまったからだ。何もかも炎の中に消えたから。
「強化人間は死んだ。『マーサス』の名も『ユィット』の名も、後には続かない。これでよかったんだよ」
徒手空拳の青年は笑った。
薄紅色の瞳を細めながら、二つの墓標に刻まれた名に背を向ける。
「だから、アンタたちは生きろ。精一杯に生きろ。強化人間ではなく、ただの男と女として」
その墓標の下には『名』だけが埋められている。
それでいい。そこには名を捨てた者たちはもう居ない。ただの男と女に戻った二人のその後は歴史の表舞台に二度と名を顕すことはなかった。
平凡で取り留めもない日常の中にこそ、得難きものが在るように。彼と彼女は、穏やかな日々に埋没していく。
そして、時は罪過を穿つ。
ヴィランは胎動する。多くが力を喪ったからこそ、弱者は己が次なる強者になり変わらんとする。
富、名声、力、この世の全てを手に入れんとする巨悪は、己を弱者と偽る。何故ならば、弱者こそが強者を覆すことの出来るたった一つのジョーカーであるがゆえに。
巧妙なる者。
狡猾なる者。
偽る者。
「皮肉なものだ。私が、その『名』を受け継がなければならないのか――」
大成功
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