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敵性国家進撃 対国土攻略用砲撃施設破壊作戦

#クロムキャバリア #第一強国理念抗争

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#クロムキャバリア
#第一強国理念抗争


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●アサガシア・ムルチ、浮上!
「対象三、エネルギーの異常上昇が止まりません!」
「見れば分かる、何とかさせろ!」
 なんか忙しそうね。
「護衛者がなんか頑張ってますが、何とかなってません!」
 なんかってなんです?
「何とかさせろと言っとるんだ!」
 無茶を言うな無茶を。「お前が何とかしろ」となる台詞を耳に、オペレーターが冷や汗を流すのは振り切ったメーターの並ぶ画面。悲しいかな、見るだけで事態は解決しないのだ。
 柳眉は逆立ち眉間にシワ、口から唾を飛ばして怒鳴る男。彼はこんな状況だと言うのに後方で黒ビキニパンツ一丁、筋骨隆々な色黒ボデェにオイリーしている男へ声を張り上げた。
「代表、起動実験の中断を。このままでは我が国もろとも!」
「どうしたんだいそんなに焦って。まずは笑顔さ笑顔っはっはっは!」
 状況わかっとんのかこいつ、とでも言いたいがそんな者はほんの一握り。
 一人を除き大慌てしているこの部屋は巨大な制御室だ。三十を余る人数が右往左往する中で選ばれし一人が今、怒鳴られている訳ですね。かわいそ。
 状況に躍起となる人々、前方には巨大モニターが室外の状況を映し、分割された内のひとつに件の動力炉。
『──ビンッビンに感じるぜ、この力ぁ!』
 動力炉には馬型の機体に跨るキャバリアが有線接続され、どうやら異常の原因はこのマシンにあるようだ。
『隊長! 機体の暴走とその下ネタを止めてくれぇ!』
『下ネタじゃないだろ! こうなりゃあの機体をひっぺがしてッ』
「むっ、動力システムに直接干渉するな! エネルギーを放出できなければ即爆発してしまうぞ!」
 実力行使と息巻くキャバリア組を制すおこりんぼおじさんことアサガシア代表補佐。お手上げやんけ。
 察するに動力利用しているらしいキャバリアが爆発すれば、施設そのものに被害を及ぼすのだと。
 被害がそこまで拡大するのも、アサガシア・ムルチは小国家アサガシア地下に建造された、もとい小国家アサガシアこそアサガシア・ムルチのコントロール施設だった事による。
 そもそもアサガシア・ムルチって何よ?
『くそぅ、だからお上直接の仕事は嫌だったんだ!
 国ひとつ丸ごと国土攻略用の粒子砲撃兵器だなんて、今さら説明されてもよ!』
『そうだそうだ、隊長の乗った機体と接続することでエネルギーの圧密による二種のエネルギー流体、完全流体と粘性流体が発生するとか。
 完全流体で砲身内面をエネルギー飛沫による損傷から保護しかつ粘性流体が超高速で回転するとかっ。
 要は流れるプールだけどプールと違って浸かると死ぬとかとかとか!
 理論上はエネルギー体の状態差による分離がモノレールの役割を果たし電磁保護された物やエネルギー体をプールに投下して発射するとか言われてもッ!」
 どこかで聞いたながらもモブさんの説明口調は非常にご都合がよろしい。
 内容としてウォータースライダーやハンマー投げ、あるいはジェットコースター的力学運動により物資を運ぶ施設なのだろう。
 理解不能? 考えるな、感じろ。己のご都合主義を信じるんだ。
「物事はシンプルにすべきだよ何事も。射撃準備開始、エネルギーを解放するぞうっははは!」
「それは軽率です!」
「そーだそーだ! あんた責任取れんのっ!」
「誰に口きいとるんだ貴様は!?」
 オペくんの八つ当たりが遂に炸裂、代表補佐の鉄拳が彼の後頭部を襲う。君は独りじゃない、第二第三の君がオペレーターをしてくれるから安らかに眠るのだ。
 便乗男を処す間も勝手に操作盤を弄り倒す一国の代表。これは軽率ですね。
「状況の打開を第一に、安全策を講じるべきです!」
「だからさ。ガス抜きすれば爆発はしない、これぞ安全策。ふふふ、元々発射の予定であったのが実験なしにするというだけさ」
「……しかし……」
「この一撃は、我らが長年をかけ待ちに待った始まりの報となる祝砲だ、止める訳にはいかんよ。
 そう、我らが第一共国の為の、……うっふふふふふ……」
 『第一連邦共和国』。思わず零す代表補佐にちらと目を向けて、よくテレビ番組で見る自爆装置のようなクソでっけぇボタンを守る保護ガラスを拳で叩き割る。
「ふふふ、責任というのは一国一城の主が取るもので、一介の兵士に任せられんよ。さあ、ダンテアリオンとアサガシア、どちらが残るかの運試しといこうじゃないか!
 はっはっはっはっはっはっはっは!」

●と思っていたのか?
 結果的とは言え護衛していたアサガシアの謀。それを猟兵たちの心境とは。
「理論なら知ってるけど現物、それもこんな特殊な代物なんて。環状マスドライバーとでも言うのかな」
 政治に興味ないようで、ライアン・フルスタンド(ヒューグリーム決戦の悪魔・f30184)は予知で垣間見た国土そのものを兵器と成した存在に感心している。こちらも猟兵より技術屋の一面が垣間見えたと言える。
 だがそれを野放しとはいかず。
「これ、地下の巨大兵器だけに浮上は都市へ影響を与えるね。アサガシアンはヴィエルマ、カイラン・テンと第一連邦共和国だのの設立を考えたみたいでさ。
 儀礼的意味合いもあって国民の反感を買えないだろうし、そこを利用するか」
 浮上の邪魔になる箇所へ人を集める。
 極悪非道をさらりと零すライアン。集う猟兵たちも思わず顔を見合わせたが、さすがに肉の壁を作る訳ではない。
 マスドライバーはまだ十全でなく、最後の部品がカイラン・テンより鉄道輸送される。そう、猟兵たちの護衛した車両にも備品は積まれていた。人海戦術に猟兵も組み込まれていたのだ。
 だからこそ利用し返す。お国の設立記念祭があちこちで開催中、交通機関は低速を課された。それは鉄道も例外ではない。
「猟兵は英雄扱い、輸送ルート上で騒げば幾らでも観客が押し寄せるよ。
 対人制圧用のキャバリアが警備してるけど、国民や猟兵を相手に短絡的な行動は取らないさ」
 逆に言えばこちらの短絡的な行動が市街地戦を喚び、犠牲を生む事もあり得る。そう言葉を繋いでホワイトボードに足止め地点を記した。
「お次は鉄道に乗って動力炉に直行。英雄扱いだし、通して貰えるんじゃない?」
 雑ゥ! でもこの国だったら普通に通じそう。
「残るは時間。転移するのは暴走前だけど、それも今だけ。更にヤツの搭載するスターフォーカスエンジンは欠陥品で、全力を出せば都市中心部ごと吹き飛ぶ。
 暴走したパイロットに繊細な制御なんて無理さ」
 が、予知に見た馬型の機体は動力を安定させ自爆の危険性を下げる為、戦うなら馬ごとだ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、と言うが。
 猟兵からの視線を受けたライアンはばつの悪い表情で目をそらす。敵機の詳細を知るのは以前、戦った事があるからだと。
 故に知っている。力を渇望するマシンの根底に、憎悪がある事も。
「このアサガシアを守る為に戦った猟兵もいるだろうけど。所詮、俺たち猟兵はこの戦争での被害も、アサガシアが敵か味方かもどうでもいい。
 それでも今まで猟兵の参加した戦闘で両軍の犠牲は確認されてない。今回も被害を出さないようにしたいって言うなら」
 オブリビオンマシンの操縦席、その位置を教える。
 出来うる事ならば操縦者も巻き込まれて欲しくない、そう言葉を付け足す彼の心には何があるのか。が、それもまた猟兵にとってはどうでも良いことだ。
 平和の為にせよ、ただ戦う為にせよ。
 すべき事はオブリビオンを狩る事なのだから。


頭ちきん
 命は救った者のモンだ! 頭ちきんです。
 建国記念日だし敵国を砲撃しようぜ、という頭おかしい国家の陰謀を止めましょう。
 猟兵は英雄扱いされており国民・兵士の圧倒的信頼を利用できます。
 第一章の戦闘は人的被害が発生しやすいですが、戦う必要はありません。
 それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 全章を通し量産型キャバリア、スーパーロボットをレンタル可能です。性能風貌に関し記述がない場合はランダムです。また性能に関して簡略的な記号を使用できます。
『R:量産型キャバリア』『S:スーパーロボット』
『C:近接戦闘系』『O:遠距離攻撃系』
 SC、ROなどで表記下さい。スーパーロボットは音声入力方式になるので、必殺技を好きに叫びましょう。

●追加装備でロボ・生身ともに各章一回ずつ周囲の注意を引くアイテム使用可能です。
 一章ではグリモア猟兵の指定箇所でアイテムや技能、口車を使い人を集め戦闘を起こさせない事が可能です。同時に輸送車両を止め、信頼を利用してオブリビオンマシンまで直通の移動手段にできます。
 参加者一人でも戦闘を選んだ場合、市街地戦が始まり多大な被害が発生します。対策を講じるのも手かも知れません。
 二章では重要施設内におけるオブリビオンマシンとの戦闘になります。力と速度に優れた強敵ですが、自壊の危険性があり、国家諸共吹き飛びます。敵機UCのWIZで安定性が向上するので、それを利用するのも手ですが、同時に敵が強化されます。
 三章は猟兵の攻撃活動が知れ渡る前に輸送車両での脱出となります。国家内に混乱を巻き起こすため、派手な大道芸や歌などを披露しつつ撤退しましょう。
 一歩間違えれば国家存亡の危機ですが、本シナリオで猟兵の信頼は失墜します。しかし、発生する人的・物的被害はシナリオの正否と無関係です。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 集団戦 『MPC-JU156-NSI『スクンク』』

POW   :    RS-A 拠点破壊用多砲身グレネード砲
【建造物破壊に優れたグレネード弾の高速連射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    RS-B 対人行動用『鎮圧ガス』噴霧器
攻撃が命中した対象に【攻撃で用いた『制圧ガス』の特殊成分】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【曝露させた『制圧ガス』の様々な毒性】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    EP 戦術統御用高速データリンクシステム
全身を【状況解析用の特殊センサー】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃や妨害行為の回数】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●群青色が、がしょんがしょん。
『せっかくのパレードだってのに、市内警備たあつまらねーな』
 がしょんがしょん。
『そうぼやくな。隊長は三人で何かの実験だかテストパイロットだかって話だし、副長なんてカノスと一緒に親衛隊入りだ』
 がっしょん! がしょんがしょん。
『かーっ、出世してるはずなのに嫌すぎる!』
 がしょがしょ、がしょしょん。
『私たち四人、こうやってのんびり警備している方が当たりだったかも知れませんね』
 がっしょんしょん。
「あーっ、サボりがいるぞー!」
「いっけないんだいけないんだー! 治安維持機構高等府にいってやろー!」
『うるっせ、ガキがそんな難しい言葉使ってんじゃねえ!』
 いかにも忙しい風を装ってただひたすらに関節が逆になった足をがしょがしょしていたキャバリア乗りたちは、その様子に気づいた通りすがりのお子ちゃまを威嚇する。君たち警備が役目なんだぞ。
 彼らの搭乗するキャバリアは【MPC-JU156-NSI】、スクンクと呼ばれる代物だ。対人性能に特化した能力を持ち、敵地への侵入・破壊及び虐殺行為といった戦場を突破するよりも戦場を創る力を持つ。
 とても市内警備などに向くように思えないが、ものは使いよう、市民を巻き込みはするもののテロなどを迅速に鎮圧する事が可能と言える。
 そこまで警備を強化した理由は単純明確、今日この日より、みっつの国が一つとなる記念すべき式典があるからだ。同時にそれは敵対国からすれば自分たちの姿勢を周辺国家に示す格好の攻撃目標にも成り得る。
(こんなことを極秘裏に進められるなんてな。下っ端の俺たちだけじゃねえ、政の中核を担う面子だってそうとは知らなかったはずだ。
 これだけで済むとは思えないぜ)
 塗装が間に合わなかったのか、それでも機体の頭部のみを群青色で染め上げた四機は元レンジャー部隊としての想いをそれなりに持っているのだろう。胸中の不安を飲み込んで、子供たちの投げつける石を受けながら警備へ戻る。
『カイラン・テンより入電あり。到着までそう長くはありませんが、正確な時刻報告は控えるとのこと。各員、武装勢力の蜂起に注意して一層の注意を払ってください』
『フン、何が連邦だ。信用されてないじゃねえか』
 そうボヤくな、と彼の独り言を制す声が上がらなかったのは考えが同じだからか。
 どちらにせよ何かがある。そう気配を感じた彼らは一つ所に固まって行動する。何かあった時、不測の事態に対して特に信頼できる仲間と背中を預け合えるように。
『それにしても、こう人が多くてはよほどじゃなきゃあ先手は打てませんよ』
 歩道も車道も軌条も関係なく、四方八方から歩く人々。そこら中に並ぶ出店、大道芸人たち。
 ごみごみしい狭い町並みがまるで会場だと言わんばかりだ。
『だが、撃たれれば優先目標は敵の撃破だ。その命令が徹底されている事は忘れるなよ』
『あーあ、独身はこれだから怖い』
『お前も独身じゃーん!』
 おっさん同士のいちゃこらとか止めてくれません?
 かくて人込みへとがしょがしょ行くスクンクたち。彼らが行く前から、すでに周囲を警戒する同じ逆関節が人を踏まぬよう慎重に周囲を警戒している姿が見受けられる。
 そんな兵器の間を笑顔で駆け回る子供や、微笑ましく眺め、あるいは慌てて止める大人たち。
 彼らの行く末を決める者が自国でもなく、ましてや敵国でもなく第三者だとは、誰も思っていないだろう。


・集団戦となります。しかし猟兵は国民、兵士ともに英雄視されており、攻撃を仕掛けない限り戦闘は発生しません。
・参加者の内、誰か一人でも攻撃を行えば市街地戦が勃発します。非戦闘員を巻き込む大惨事となりますので、何かしらの対策をしておくのも良いかも知れません。
・各章毎に一回、周囲の注意を引くアイテムが使用可能です。ロボットに装備させたり、猟兵自身が携帯できます。必要であれば量産型キャバリア、あるいはスーパーロボットを借りてみましょう。詳細はオープニングのコメントにあるのでご参照ください。
・猟兵たちが技能やプレイングを駆使した騒ぎを起こすことで人を集め、壁を作る事が出来ます。カイラン・テンからの輸送車両を足止めし、乗り込みましょう。適当に理由をでっち上げれば信じてくれます。猟兵は英雄なのです。
・輸送車両は低速のため事故を起こす事はありませんが、戦闘が発生した場合は速度を上げて強行突破にかかりますので注意してください。最悪、輸送車両が破壊されても施設内へ到達可能ですが、時間がかかります。
・付近を警戒するキャバリア、スクンクは群青色の頭の者でなくても猟兵の言葉は大抵信じ込みます。上手く味方につけてトラブルを回避しましょう。
・三章は小国家アサガシアからの脱出になるため、今章にて何らかの下準備を行う事も可能です。
鳳鳴・ブレナンディハーフ
☆…主人格
★…第二人格

(第二人格主導)
★(変 態 降 臨)
さてと、何をすればいいんだ?
しかも戦ってはいけないと
ええい…フラストレーショる……
仕方がないので鳳鳴を召喚して殴るよ
☆なんで拙僧が殴られるのだ!
待てよ…確か騒げばいいと言っていたな…
おい変態!一度殴り飛ばさなければならないと思っていた所だ
覚悟しろ!
(輸送ルート上で乱闘
武器は使わず素手やその辺にあるもので)

☆★(以下、共通
輸送車両を見つけたら上に飛び乗り乱闘
車両の持ち主にこう言う)

★「猟兵をやっているものだ
目的地まで乗せてもらおうか!
さもなくば僕の情欲を余すことなくぶつけてやる」

☆「大丈夫だ、言う通りにすれば尊公も車両も無事帰れよう」


シル・ウィンディア
ふむ、平和の祭典に無粋な兵器の話は必要ないよね。
さてさて、どうしたものかなぁ…

輸送ルートを調べてから…
何ができるかな?ここはやっぱり…

空中機動で低空飛行をしながらの空中戦機動っ!
バレルロールやら、インメルマンターンやら宙返りやら…
せっかくだから、空戦の機動で魅せていくよっ!
人が集まったら、地上に降りたってっと…

どうだった、わたしの空中機動?楽しんでもらえたらうれしいなっ!

一通りパフォーマンスをした後は…
あの色のキャバリアは、間違いなくあの人たちだよね…

こんにちわー♪元気そうで何よりですっ♪
ねね、ちょっと聞きたいんだけど…
ここから逃げるときの隠し通路とか、そんなのあったりするのかな?



●邪魔してやる、邪魔してやるぞ警備兵!
 ぽんっ、ぽんと遠くの空から聞こえる祝砲を耳にして、希望と輝く陽光を万倍にしたかの如く照り輝いた頭部をつるりと撫でて、鳳鳴・ブレナンディハーフ(破戒僧とフリーダム・f17841)は腕を組む。
 彼の着用する【戦闘作務衣】は読んで字の如く作務衣デザインの戦闘服だ。赤系統ながら落ち着いた色合いを見せ、その険しい顔も含め敬虔な僧侶を思わせるには十分だった。
 そして彼は考える。何をすればいいのかと。
(しかも戦ってはいけないと言うじゃないか)
 すべき事がある上で制限が多いのだと頭を悩ませ、ついでに抱える鳳鳴。
「……ええい……フラストレーショる……仕方がないので鳳鳴を召喚して殴るよ」
 鳳鳴あんたじゃん。いやなんでその結論になった?
 フラストレーションが溜まり過ぎて独り言ちた言葉はまるでワケワカメ。禁欲生活のし過ぎがたたったかとも考えよう。しかしこの言葉、実は文章として成立するのである。
 何を隠そう真人間で僧侶の主人格『鳳鳴』と、変態の第二人格『ブレナンディハーフ』がひとつの体に同居しているのだ。なんだおめーHENTAIの方かよ。
 文章としては成立するけど論理として破綻しているのはHENTAIだからしようがないのである。
「出でよ鳳鳴、【オルタナティブ・ダブル】!」
 HENTAIことブレナンディハーフが高らかに宣言すると同時に始動したユーベルコードはもう一人の彼、当然この場合は鳳鳴に実体をもたらす。
 時空のずれが生じたか肉体が新たに創造されたか、現れた鳳鳴はしっかりと前後の記憶を持っているご様子で、ブレナンディハーフの振り上げた拳が落ちてこないようにとその腕を掴む。
「なんで拙僧が殴られるのだ!」
「フラストレーションがルってるからさ!」
「意味が分からん!?」
 掴まれた腕ごと力と体重をかけて押し倒そうとするブレナンディハーフの訳の分からない主張に率直な感想を述べて鳳鳴は歯を食いしばる。
 同時に思い起こすのはグリモア猟兵の言葉だ。
(……待てよ……確か騒げばいいと言っていたな……)
 視線を周囲に走らせれば喧嘩は華とばかりにごった返した通行人の幾人かが足を止めてこちらを見物している。
「――ならば! おい変態、一度殴り飛ばさなければならないと思っていた所だ。
 覚悟しろ!」
「むむっ!? ……仏に仕える身でありながら自分の意志を暴力に委ねるなんて……っ、聡を知れ、聡を!」
「これは暴力ではなく折檻で――、えっ、……さと……何? 誰?」
 ブレナンディハーフと言葉に思わず惑わされた鳳鳴。隙有らば是非もなく、押してもダメならと手を引けば彼へ向かうように体勢を崩す鳳鳴。
 ふたつのハゲ頭が煌めけば、同時に閃くはブレナンディハーフの飛び膝蹴り。すんでの所でこれをかわし、耳に膝を掠らせながらも逆に体勢を崩す形となった片割れの背中に回り込み、がっちりとホールドする。
「せいりゃあああっ!」
「ひゃあああああっ!」
 気合と同時に海老反りになった鳳鳴のバックドロップにブレナンディハーフは情けない悲鳴を上げた。が、その勢いを利用して自らの体も回転、拘束する両腕を内側から外してしまう。
 回転を予備動作に鳳鳴の体から跳ねて脱出したブレナンディハーフは軽やかな足音で実にムカッ腹の立つドヤ顔を周囲に見せた。鳳鳴の方もブレナンディハーフが自らの腕より脱すると共にその身を反転、海老反りのまま落下するかと思われたおハゲを天に向け、日輪は沈まぬとばかりに低い姿勢で受け身に成功している。
 姿勢がちょっとヒーローっぽいですね。
「おお~!」
「すげえぞ兄ちゃんたちーっ!」
「双子の大道芸人かぁ!?」
「奥さん、お昼に買った包丁、あの方々に渡したほうがよろしいんじゃなくて?」
「あら、それもそうねぇ」
 二人の活躍に見物人にも熱が入り、中には狂気の入っている人もいるけどそれはノーサンキューだと片手を振る鳳鳴。
 彼としては本気でブレナンディハーフを石畳に叩きつけるつもりであったが、結果として多くの人間の好奇を引き寄せたのは間違いない。
「このまま輸送ルートに移動しながら戦えば、作戦も自ずと成功に近づくだろう。行くぞ!」
「まあまあ、まずは包丁を貰ってからでも」
「戯けっ!」
 身の危険を察知した鳳鳴の左ストレートが、珍しくブレナンディハーフの顔面に直撃した。
 一際盛大な歓声が上がる人の群れより少し離れ、辺りを見回しながら歩く少女の姿。青い髪と同じく大海を思わせる青の瞳を左右に揺らしシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)は、ふむ、と思案気にあごに指を添える。
 新たなる国家体系の樹立。よりよい安定と安寧に満ちた生活へ向かうであろうと誰もが予見し、お祭り騒ぎバカ騒ぎするこの国家アサガシアの中で必要な物とは何があるだろうか。
 テロに対抗すべく闊歩する兵器か。確かにそれは必要なものだろう。だが平和を謳歌する上で語るべきではない。
(そう、平和の祭典に無粋な兵器の話は必要ないよね。とすると、……さてさて、どうしたものかなぁ……)
 まずすべきはやはり、輸送ルートの偵察だろう。目標となる輸送車両の足止めは勿論、地形を把握しておかねばその他の状況に対応できないのだ。
 シルはそう結論し、グリモア猟兵が示した場所と思わしき地点に目測を立て、蟻一匹も通り抜けられなさそうな人の波を小柄な体で乗り回す。
 と。
『くそう、進めない!』
『ええい、散れ散れ!』
 拡声器から拡散する大音量。頭上から降り注ぐのはキャバリア・スクンクを駆る兵士たちの声だ。だがそれでも町の喧騒を押しやることは出来ず、声は聞こえるものの気に留める程ではない。で、あれば人の群れがそれに従うはずもなし。
 シルと言えば可哀想な兵どもをしっかりと見上げ、機体の頭部が群青色に染められてない所を見れば「彼らではなかったか」とそのまま偵察を続ける。こちとら一介の兵士にかまける時間なんて無いんだよね。
(それにしても喧嘩だなんて、平和だなぁ)
 それとも、もう猟兵たちが動いているのか。
 振り返れば今も人込みに入れずおたつくキャバリアの姿がある。これが同僚の仕事だと言うのなら、狙いは上々と言える。
「えっと、あっちが町の入り口で、こっちにタワーがあるから……うんうん……よーし、ここだね!」
 こちらも頑張ろうと行き交う人々の背で見えなくなりそうな景色を、ちょこんちょこんとジャンプして確認。目標となる車両足止め地点をその目に焼き付ける。
(結構、道は開けてるね。……人を除けば……)
 だが軌条は例の場所へ向けての行き帰りだけで、当然だが道を広々と使っている訳ではない。自分たち猟兵が抑えるポイントとしては十分だが、撤退の事を考えれば包囲されてもおかしくない場所だ。
 そこも踏まえてグリモア猟兵は目標の破壊を優先するため、時間を短縮できる直行便を選んだのだろうが。
(何か他の道、も押さえられるなら押さえておきたいよね?)
 ひとまず質問すべき事を頭に残し、続いてはどうやって足止めするかを思案する。
「何ができるかな? ……ここはやっぱり……、うん!
 傭兵稼業が盛んな国なら、機動兵器の操縦だよね! 低空飛行をしながらの空中戦機動っ! これでいこう!」
 名案だと少女の顔に笑顔の花が咲く。
 兵器ではなく技術として、平和の祭典らしく空を飛ぶのだ。檻に閉じられたこの空を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

赤城・晶
連携OK

なるほど、そういうことだったか。だが、俺達のやることは変わらないな。
被害を抑えつつ、オブリビオンを倒す、ってな。
お前ら、今回は特に見てるからな?道中は気をつけていけよ。

列車には口車で乗るとするか。個人的な技術協力って名目といった理由かオブザーバーが妥当かねぇ。
足止めとしてキャバリア用拡声器【注意を引くアイテム】を付けて音楽を流しつつ、幻影で大道芸をしている人々を投影だ。

基本戦闘は控え、しそう仲間を警戒監視。
止めない場合は制圧、か。
したくはないが、念の為の警戒だ。

もし兵士に前々の共闘者がいるなら話しつつ、情報と出来そうなら協力を取りつけるか。

■UCは非常、仲間暴走用


支倉・錫華
キャバリア:RC

あいかわらずこのあたりはキナ臭いね。
記念日に敵国を砲撃なんて、花火としてはちょっと危なすぎるかな。

こちらとしてはアイテムとして、普通の花火を『スクンク』から打ち上げてもらって、
わたしのキャバリアが、花火をバックにデモンストレーションの演武をして、
みんなの注意を引いて、鉄道をさらに低速にするか止めるかしたいな。

せっかくだから演武の中に『スクンク』との殺陣とか入れてもいいかもだね、
しっかり時間を稼いだら、そのまま鉄道に乗って動力炉へ向かうよ。

個人的な印象だけど、笑い方の気持ちよくない人は、だいたい碌なこと考えてないよね。
オブリビオンマシンから引きずりおろして、反省してもらいたいな。


ルゥ・グレイス
アドリ歓迎

「とはいえ人を集めるとか苦手ですしね。そういうのは他の方に任せましょう」
市街地より北方7km。狙撃用にチューニングしたキャバリア、シルバーモノクルは狙撃形態へ。
散布ドローンやスコープ越しの情報を確認しつつ、コーヒー片手に情報収集。のんびりしたもんである。
「アサガシア・ムルチね。今のうちに別枠の潜入ルートは確定しておきたいが、さて」
不正アクセスやらなんやらで施設マップを探してみる。腐っても電脳魔術師なのだ。これくらいはやっておかねば。


戦闘を起こすつもりもないがもし交戦が確認されれば狙撃、必要とあらば転移しての鎮圧も辞さない。(ワイヤー機動とともに狙撃用ライフルを近接で当てる必要がある)



●アサガシアの目的ってなんじゃらほい?
「なるほど、そういう事だったのか」
 鳳鳴らの大喧嘩によって引き起こされた人流の滞り。
 そこより離れて建物の上、様子を窺う男は熱い風に迷彩柄の袖を捲る。軍服の類にしか見えぬそれは【アンサーウェア・ステルス】であり、ただの迷彩柄でなく迷彩能力、そして機械制御を内蔵した衣装型装甲なのだ。
 男の名は赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)。動き始めた猟兵による町の混乱とスクンクらの行動範囲を確認しつつ、頭に浮かべたのはグリモア猟兵の言葉。
 自分たちは利用されていたのだと。
 おそらくはダンテアリオンと武力衝突中のアサガシア、技術開発に秀でていない敵国の資材奪取は目に見えていた。そこで目をつけたのが猟兵という事だろう。
 戦力差の大きいダンテアリオンと言えど、猟兵と正面からぶつかって勝てる見込みはない。猟兵が護衛につくような事があれば、その列車は無事に備品を運ぶことが出来る。
 だがどうやって猟兵に目的の輸送車両を守らせれば良いのか。その方法は至って単純、輸送車両をオブリビオンマシンに襲わせればいい。
 そう考えればこの戦いの裏にあったものが自ずと見えて来る。
「相変わらずこのあたりはキナ臭いね」
 不意に投げかけられた言葉に振り返りもせず肩を竦める。それを同意と受け取って、風に混じる砂が黒髪に絡むのを煩わしそうに払い、支倉・錫華(Gambenero・f29951)は小さく息を吐いた。
(経緯や理由は分からないが、第一連邦共和国となる国家の代表たちがオブリビオンマシンに毒された。
 オブリビオンマシンの力を使っても弱国ひとつで強大なダンテアリオンに勝てず、表立って行動すれば潰される。だからちょっかい出されていたのを利用して一芝居を打ったんだろう)
 間にある国家が壁になるとは言え、近い距離にあるダンテアリオンは目障りな存在。これさえなくなればオブリビオンによる混乱は長く続ける事も出来るだろう。
「記念日に敵国を砲撃なんて、花火としてはちょっと危なすぎるかな」
「ああ。だが、いやだからこそ、俺達のやることは変わらないな」
 被害を抑えつつ、オブリビオンを倒す。
 特に今回、降りかかるであろう被害で言えば非戦闘員が極端に多い。被害を抑える事は急務だろう。錫華も共通の認識を持っているらしく、これには頷いた。
 これらの戦闘によってどれだけの被害が出たとしても所詮、あくまで戦闘での犠牲というだけだ。オブリビオンマシンとの戦いに左右されるものはなく、猟兵の第一目的の邪魔にならないのなら仕方のない犠牲も有り得る。
 だが、そんな事が起きれば寝覚めが悪い。正義の為などと青臭い事を語る必要はなく、理由などはこれで十分だ。
「ならわたしも行くね。花火を貰ったから、これを利用して注意を集めようと思うんだけど」
 ぺらりと出して見せたのは袋に詰められた花火の数々、バラエティーパックと言った所か。無論、これだけでなく人が手に持って使えるような大きさでないものまでグリモア猟兵より頂いているとの事。
 それでも他に聞きたい事があるのかと言い淀む錫華に聞けば、それなりの花火もあるとは言え、もう少し効果を上げたいのだと言う。
「誰か協力してくれる人とか知らないかな? キャバリア乗りとか」
「この国じゃあ、猟兵が多くの危機を救っているから誰でも協力してくれると思うが。強いて言うなら群青色の塗装がされているキャバリアだな。
 多分、あれはレンジャー部隊の奴らだ。何度か共闘しているし、警備任務もほったらかして手伝ってくれるだろうぜ」
「レンジャー部隊、だね。了解だよ」
「錫華。そのレンジャー部隊や警備部隊は勿論、俺たち猟兵も今回は特に見てるからな? 道中は気をつけていけよ」
 お互いにな。
 晶の言葉に、錫華はこれまた勿論だと小さな笑みを残した。
(さて、わたしも機械を借りてこようかな)
 ごった返す人々の流れに次々と猟兵が消えていくのを見つめて、ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)は気怠く肩を回す。
 車両、及びキャバリア・スクンクの足止めに人を集めるのは単純かつ効率的で効果的な方法だ。これは間違いないのだが。
「とはいえ人を集めるとか苦手ですしね。そういうのは他の方に任せましょう」
 人の波より外れて露店のひとつに腰を掛けるルゥ。彼は「無料ですから」と出されたお湯を啜っている。熱い陽射しに風も冷たくないものの、そこでお湯を飲めば逆に表皮が涼しく感じるというもの。
 ひとしきり喉を鳴らして彼はコップを露店主へと返し、よっこいしょと腰を上げる。現地の様子を簡単に、とは言え確認したルゥが進むのは町の外れ、目的の場所から大きく離れる方向だ。
 あちらへふらふら、こちらへふらふら。
 やる気もなく歩いているように見えるが、実の所そうではない。彷徨の蝶、レテノールと称する【PDBCInt.接続式超小型観測機】。一ミリの十分の一にさえ満たぬ大きさで、空気中に散布する情報収集用のドローンである。
 光学的、魔術的監視が可能となっており、ルゥとの親和性も高い。
 人込みという視界の悪い場所も、これだけの数の目が上下左右と言わず配置されるのだから死角も無くなるだろう。あちらこちらへと目的無くぶらついているように見えたのもこれらを配置する為だ。
 流れる風は滞りを知らず、浮遊するドローンには打ってつけの天候だ。
「あ。……コーヒー……」
「お、なんだい兄ちゃん! 買ってくかい!?」
 ふらふらと歩くルゥが見かけたのは、先程のお湯とは違い氷に突っ込まれてキンキンに冷やされたコーヒー缶である。
 如何にも安そうな見た目だが、この気候では冷たいだけで掛け替えのない味になるものだ。
「それではひとつ、お願いします」
「あいよ!」
 キンキンのキンキンに冷えたコーヒーを片手に町の外を目指す。その後姿は正に物見遊山の祭り客そのもので、のんびりとしたものであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「戦争に正義などない。分かりやすくて、とてもよい話ではありませんか」
嗤う

「人は権力を持つほど邪道に魅いられやすくなる。人の弱さを体現した、とてもよい依頼です。楽しませていただきますとも」
嗤う


「こんにちは。建国記念祭の手伝いに来ましたよ」
自分は風火輪
黄巾力士は飛来椅で飛行しながらスクンクに話す
「ええ、この世界の攻撃をほぼ無効化出来る方法があるので、一緒に一番大事な場所の警備をさせていただけませんか」
嗤う

にこやかに手を振って飛行しながら観客達の口の中に仙術+功夫で仙丹を軽く指弾
飴ちゃん好きの国民を激甘甘味で誘導しながら移動

「蜃夢の中で攻撃できるのは宝貝持つ仙だけです。猟兵も例外ではありません」
嗤う


御園・桜花
「人を集めるのと車両に乗り込むのは別対応でも良いのかな、と思ったのです。いえ、人集めの手段しか浮かばなかった訳ではないのですが…」
目を逸らす

「ええ、私も設立記念祭を見学に来ました。ところで、此方の国歌を教えていただけます?」
ケータリングカーで乗り付け猟兵と明かし軍に接触したらお祭りにかこつけて国歌・軍歌を聞き出す

指定箇所迄車で乗り付けUC「魂の歌劇」
アサガシアの国歌や軍歌を歌い分かり易く人目を集め続ける

輸送車を停め鉄道に乗れるかは遭遇して会話が出来れば同乗して警備手伝いしたい旨申し出るが、難しそうならポイントで人集めを重視する

「マッハで飛べば、然程遅れず現地到達出来そうな気がしますから…多分」


紅月・美亜
 敵になったり味方になったりと全く忙しいな……こういう時に戦闘を選ぶ私ではない。堂々としていればいいのなら堂々と列車に乗り込んでいよう。
「何、私の偵察機が何か異変を見付ければ知らせるので悠々としていればいい……おっと、いきなり何か見付けたようだぞ。少し速度を落としたまえ」
 異変が無ければ作ればいい。こっそり採掘用レーザーでレールの一部を焼き切り平然と”今見付けました”と言う態度で報告する。
「列車は脱線したら大変だからな。一体誰がこんな事をしたのやら」
 私だが。工作用機体を使って自ら手早く修理する。
「これでよし。ああ、この先にも何か仕掛けられていないか調べるので少し止まっていてくれ」



●も・ん・じゅ!
「敵になったり味方になったりと……全く忙しいな……」
 それはアサガシア、そして敵国ダンテアリオンを指した言葉だろう。大いなる始祖の末裔、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットこと紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)は面倒だとばかりに俯いている。
 もっともその顔色を見る限り、状況に対してと言うよりこの気候にいてこまされているようにも見えた。紫の艶やかな毛髪も陽光の前にしなびて感じる。
 吸血鬼にこの季節は厳しいと思います。
 そんな美亜を晒うのは鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)。彼は暑い気候もなんのその、別世界であるサクラミラージュの帝都桜學府制服風【八卦衣】を涼し気に着こなす。
「戦争に正義などない。分かりやすくて、とてもよい話ではありませんか」
 晒う様子に美亜は憮然とするも、彼の笑みが自分に向けられた事でないと理解はしている。それでも、不快なものは不快なのだ。
「例えそうであったとしても、こういう時に戦闘を選ぶ私ではない」
「私とてそうです」
 それは非戦闘員の安全を考えての事ではないだろうと、妖仙たる冬季に目を向ける。のらりくらりとした佇まいだがこの男、大妖怪を自称する点もあり人の命に執着しない。
 ともすれば周囲の被害などお構いなしの行動をしたと美亜は耳に挟んでおり、要注意人物と考えているようだ。
 と、不穏な空気漂う二人の元へ現れたのは一台の【ケータリング用キャンピングカー】。桜色のそれは見覚えのあるもので、人を轢かないようにゆっくりと進むそれは美亜の目前で停まる。
「お二人とも、何か良い案でも思いついたんですか?」
 運転席から顔を覗かせたのは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)、桜のように柔らかな笑みを見せた。
 挨拶もそこそこに、開いた窓から流れ出る冷気を感じ取った美亜は車内へ体を滑り込ませた。ついでとばかりに冬季も誘えば、世話になると帽子を取って頭を下げる。
「はぁ~、やはりクーラーは殺人熱への対策であり、心のオアシスだ」
「それは良かったです」
「桜花さんは何か思いつきましたか?」
 何の気なしである冬季に「うっ」と言葉を詰まらせた桜花。
「まだ案が思い浮かばず、それでこの大いなる始祖の末裔 レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットを探していたと?」
「いえ、そこは別に探していません」
 そっか。
 助手席に座るその姿はどことなく悲し気なご様子。冷気を浴びるレイリスを尻目に、人を轢かないようにとゆっくり車を走らせていた彼女は人の密度に堪らず停車した。
「えっと、探していませんというのは何と言うか。私は人を集めるのと車両に乗り込むのは別対応でも良いのかな、と思ったのです」
 決して人集めの手段しか浮かばなかった訳ではないのだ。す、と目を逸らす彼女の姿に某かを察して頷く冬季。
 三人寄れば何とやら。露骨も過ぎる話題逸らしはさておき、ならばと出し合うのは奇縁に募った三人の知恵と言うわけだ。
「なあに、隠れての潜入工作というワケでもない。堂々としていればいいのなら、堂々と列車に乗り込んでいよう。
 そこから足止めをすればいいのだ」
「新たな国家の設立記念祭、そこを猟兵として突けばどこへでも行けそうですしねぇ」
 どこもかしこも浮かれて浮つく祭りの日、と考えれば英雄である彼ら猟兵の登場は喜ばれこそすれ疎まれる事はないはずだ。
 …………、警備中なのに疎まれないっておかしくない?
 当たり前にわいた疑問であるが、三人は視線を合わせたものの「まあ大丈夫っしょ」と結論する。それはやはり、以前より親交のあるお国柄、どうとでもなるとしっかり理解しているのだろう。
「祭、ですしね。私は軍人さんたちにも声掛けして、全体の注意を引いてみようと思います」
「なるほど、その時はこちらもご一緒しましょう。美――、もといレイリスさんはどうされます?」
「……そうだな……うむ……しばらく車内で考えを、その、まとめようかと……」
 ちらちらちらり。
 桜花が露骨すぎる程の話題逸らしならば、こちらは露骨すぎる程のアピール。思わず桜花はくすりと笑い、車の中にいるのは勿論、大丈夫だと頷いた。
「いやあ、この暑さだと頭が茹で上がるようで、助かる」
「本当なら風通しもいいんでしょうけど、人が壁になってて蒸し暑くもありますし。熱中症には気を付けてくださいね」
 気を付けるようにと言葉を添えた桜花に、了解だと美亜は笑う。
 そんな二人を後部座席から見ていた冬季は外へと視線を移し、人の群れをゆっくり歩き抜けるキャバリアを見上げた。
「人は権力を持つほど、邪道に魅いられやすくなる。人の弱さを体現した、とてもよい依頼です。楽しませていただきますとも」
 晒う彼の言葉に思わず二人は振り返ったが、冬季はただの独り言だと返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
依頼内容はオブリビオンマシンの撃破。了解。

周辺被害は少ない方がいいので、自爆させる手もなしですね。
穏便に入り込んで手早く倒すのが最適解でしょう。

傭兵をやっていれば、敵側に恨まれるのも日常です。
それは一向に構いませんが……しかしこの流れは……(ふむ
パイプを完全に切るのも先行きが怪しくなりそうですね。

もちろん、事前に警告はできません。
しかしレンジャー部隊の方々の立場が無用に悪化しないよう、
交戦前の接触は可能な限り避けましょう。

そして市内各所に、街頭無線スピーカーを、こっそり設置。
なに、電池式の小さな物を隠し置くだけです。些細な保険に。

その後、エイストラに「猟兵」と書いた旗を立てて現場へ。
列車に乗り込むにあたっては
「事故やら何やらの突発事態に備えるためです」
と事実を告げます。
嘘を吐く必要もありません。安全第一。

他の猟兵が交戦を始めた場合は――

――面倒くさいので、出来れば止めて欲しいですが。
味方面して入り込むしか打ち手がなくなりますから、
流れ弾の心配がないブレイドで当該猟兵を奇襲しましょう。


黒木・摩那
ちょっとダンテリに行っていたら、アサガシアもすっかり不穏な空気が漂って……ませんね!

市街でひと騒動、となりそうですから、まずはドローン『マリオネット』を上空に滞空させて、周辺監視します。
これで列車の到着時間もばっちりです。

人集めには、ヨーヨー『エクリプス』登場!
即席ヨーヨーショーの始まりです。
【電撃】も加えて、ヨーヨーもピカピカです。

定番の犬の散歩から始まって、ループ・ザ・ループ、アラウンド・ザ・ワールド、ムーンサルト、バックフリップなど見た目が派手な技を使って、場を賑わして、人を集めます。
メインイベントは、頭の上にリンゴを乗せて、ヨーヨーで狙い撃つ、アップルジュースショー。
大丈夫です。ヤバそうだったら【念動力】で軌道逸らして、また当てますから。
リンゴだって、ジュースに再利用です。

列車が来たら、UC【胡蝶天翔】で周囲の色々を黒蝶に変換して、列車を止めます。
自然現象では止まるしかないですね。

動力炉まで行くなら、ついでに猟兵のキャバリアも届けてくださいよ!【言いくるめ】


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

設立記念祭楽しそーねー
アリスも一緒に楽しんじゃおうかしらー
でもまずは保険からー
【アイテム:『アリス』の幼い妹(幼虫)】
せんとーは無いと思うけど有事に備えて【迷彩】状態の幼い妹達を『スクンク』に張り付けておきましょー
不穏な雰囲気になったらグレネード砲と噴霧器をガリガリ齧って【捕食】しておけば安心よねー

【アイテム:『アリス』の妹(成虫)】
あの輸送車両を利用したらいーのねー?
妹達を沢山呼んで【団体行動】でお祭り行列をつくり、設立記念おめでとー!と注目を集めて住民を呼び集めながら街を練り歩いて輸送車両を取り囲むのー
お祭りだからきっと皆ノリノリで参加してくれる筈だわー
車両を取り囲めたら【力持ち】の妹達と一緒に輸送車両をお神輿代わりに担いでお祭り!お祭り!わっしょいわっしょい!と誤魔化しながら目的地に向かうのよー
中の乗員は車両から引きずり出して優しく【運搬】してあげましょー
他の猟兵さんがいたらついでに乗せてあげるといーかなー?
さー、このまま車両を載せて目的地へGo-!


チェスカー・アーマライト
以前の列車の件
あたしらはまんまと利用されたってワケだ
ま、傭兵界隈では良くある話さ
今更気にもならねーよ
だがそれはそれとして
舐めたマネしてくれたツケは高く付いてんだ
お礼参りはキッチリさしてもらうぜ

人目を引くようなド派手な一芸なぁ
パッと思いつくのは打ち上げ花火くらいか
スタンディングモードで脚部アンカー展開
曳光弾の応用でチョチョイと作成した
派手さ重視の花火弾を主砲に詰めて
景気良くポンポン打ち上げてくぜ
上向きに射角をつけなきゃいけないんで
ビッグタイガーは割と仰反る感じになるが
見るからに不安定な姿勢の方が
攻撃の意志が無いってアピールになるだろ

以前の仕事での知った顔に出くわしたら
世間話ついでに
ギャラリー集めを頼むか

あたしらだって何もドンパチするだけが仕事じゃねーしな
そういや隊長サンは元気にしてんのか?



●かくて人? は揃い踏み。
 久方にやって来たアサガシア。熱い風に他の人々と同様、髪に絡む砂を払う黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。と言っても彼女が守ったアサガシアは領内でも堺と言える端も端、町の気質は知らないが人の気質は知っていると周囲を見回す。
「ちょっとダンテリに行っていたら、アサガシアもすっかり不穏な空気が」
 右を向けばもこもこの綿菓子を持った家族連れ。
「……漂って……」
 左を向けばいちゃこらするペアルックバカップルが。
「ませんね!」
 周辺国家の中では一際の力を持つダンテアリオンと争っているというのにこの体たらく、祝福ムードどころか祝勝ムードとも言えようか。摩那は痛む頭にこめかみを押さえつつ、まあ辛気臭いよりは良かろうと咳払いをひとつ。
 空には小型の機械がいくつも飛んでおり、政府による監視用の機械と言うよりも各国メディアや個人の撮影用といった物が大半のようだ。
(これなら特に問題なさそうですね)
 ここで取り出したるは索敵ドローン【マリオネット】。黒い戦闘機の如き見た目だが戦闘用ではなく諜報活動用の代物で、各種センサーを搭載しその情報は彼女の常用する赤いアンダーフレームのスマートグラス、【ガリレオ】と共有される。
 ドローンの情報を映しながら環境に合わせて映像を調整しつつ、同時に操縦感度や機能の不備がないかも確認を入れた。
市街でひと騒動となればこの人波、迅速な情報収集が重要。マリオネットで常に周辺監視をしておけば、列車の到着時間もばっちりという訳だ。
 それも人込みの中で起きるトラブルについてルゥの展開した極小ドローンがある。互いに情報を共有更新すれば、察した異常をの詳細、位置を含めて全猟兵て展開が可能となる。
 同時発生したものすらも、もはや死角がないどころか千里眼の領域だ。扱ってるのは猟兵だからいいものの、一般市民が利用しようものなら逮捕案件待ったなし。
 旋回するマリオネットから受信した映像の片隅に、列を成す人外の生物。早速オブリビオンのお出ましかと言われれば何の事は無い、彼女たちアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)も猟兵である。
 宇宙戦艦の軍用装甲をも引き裂く爪、刃の取り付いた【前肢】には風船の紐が結びつけられ、子供らしくぬばたまの瞳をきらきらさせながら周囲をきょときょとと見回している。
 その巨体は歩くだけで人波を押し退け、その姿に気づいた人々は仰け反り道を開けていた。猟兵らの姿は本来、人々が違和感を覚える事がないよう世界ごと認識に影響を与えるのだが、単純に捕食者である彼女らと巨体に圧力を感じるのだろう。
 実際、食べようと思えばその辺の石ころでも人間でも問題なく食べられるのだ。何の事は有ったね。
(あのふわふわもこもこしたのは何かしらー)
(食べ物みたいよ~)
(みんながかぶってる動物のお面は何かしらー)
(狩猟の成果を見せあってるのよ~)
 好奇心旺盛な彼女たちの言葉に誤解も見られるが平和な心を持つ彼女たちの事、問題はなさそうである。コミュニケーションには思念を飛ばし対象の脳へ直接語り掛ける事が可能という特性もあって、その勘違いを解消する事もできないが。
「ギチギチ、ギチチ!」
(設立記念祭楽しそーねー。でも、アリスも一緒に楽しんじゃう前にまずは保険からよー)
 狂暴な前肢もあれば、捕食者に相応しいそこららの代物ならなんでも斬り裂く凶悪な【鋏角】。それを軋ませ号令をかけたのは一体のアリス。
 群体であるが司令塔も存在することから、群体を指揮する現在の頭が彼女、という訳だろう。彼女の言葉に屋台のおっちゃんがもこもこさせていた綿菓子を根こそぎ回収しながら「了解です!」と散開する妹たち。
 彼女らは護衛中のスクンクに向かっている様子だが。
 女が一人、人を踏まないようぶつからないようにと足下に気をつかうアリス妹の内の一匹に手を振って、返された前肢に結ばれた風船に目を細める。
 こちらはまごうことなき人型、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)だ。警戒に頭上を飛び始めた見覚えあるドローンに、この地に集まる者たちの顔を頭に浮かべつつ位置を確認する。
 線路があり、進むべき場所も限定されているとは言えその影響は町ひとつに及ぶ。誰も彼もが目を光らせているとは言え、自分も確認しないでは連携の齟齬になるだけだ。
 銀の髪が強い陽射しで橙色に輝きを放ち、そこはかとなく天使の輪を思い起こさせるが彼女にとっては他の猟兵たちと同じく煩わしい熱の象徴でしかない。
 傍らをずんずこ歩き抜けるアリス妹の甲殻に反射する光を、意味が無いと知りつつ手で払う。
(依頼内容はオブリビオンマシンの撃破。それは了解ですけど)
「周辺被害は少ない方がいいので、自爆させる手もなしですね」
 群れ成す人々を見て思わず零す。それだけ取れば不穏な言動、しかしどいつもこいつも浮かれてワッショイしているので独り言に気を揉む者はいないのだ。
 こっちだけ悩んでる猟兵さん可哀想、いや一応は護衛班も気を揉んでるね。いつだって辛いのは現場なのだ。
「穏便に入り込んで手早く倒すのが最適解でしょう。急がば回れと言いますが、シンプルにすべき事はシンプルに済ませるべきで」
「おっと」
 くるりと振り返った先で、降下したドローンから冷えたグラスを受け取るチェスカー・アーマライト(〝錆鴉〟あるいは〝ブッ放し屋〟・f32456)。自分のことに気づいていたのか、とばかりに目を丸めていたが、彼女はカメラの先にいるであろう摩那へお礼を述べて向き直る。
「穏便に手早くは当然としても、敵に悪意があるならどうもいかない。ほれ」
 以前の列車の件だ、と口にして彼女はグラスを渡す。中に入っているのはただの水だが、この気温ではありがたい。こちらはチェスカーに礼を言って互いにグラスを傾ければ、色黒な地肌の彼女と白い肌を持つノエルが鏡映しになっているようだ。
 一息ついて口元を拭い。
「あたしらはまんまと利用されたってワケだ」
「傭兵をやっていれば、敵側に恨まれるのも日常です」
「ま、その通り。傭兵界隈では良くある話さ。今更気にもならねーよ」
 戦乱の世、武力と権力は等しく扱われるほど近しくなる。利用された者は彼ら、武力と権力を司る者たちにその立場さえも歪められる。
 力こそが相手をも変える合理的な方法なのだ。それは同時に、利用された者たちの力をも認めることになるのだが。
 ノエルとしてもこの状況は一向に構わないと認めつつ。
「……しかしこの流れは……」
「そう、気にはならねー。が」
 ふむ、と小さく頷くノエルにチェスカーも言葉を繰り返して肩を竦めた。
 このアサガシア、国家運営する人間の考えはどうあれ今まで共に戦ってきたのだ。今回の一件、どう足掻いてもそのアサガシアの中枢部へ殴り込むのだから関係悪化は必至。
 今までの繋がりを完全に断ち切ってしまえばその悪意を止める術はないだろう。
「パイプを完全に切るのも先行きが怪しくなりそうですね」
「だがそれはそれとして、舐めたマネしてくれたツケは高く付いてんだ。
 お礼参りはキッチリさしてもらうぜ」
 唇の端を持ち上げて攻撃的な笑みを見せるチェスカー。それこそが力ある者の選択である。
「こちらとしては事前に警告もできませんし。しかしレンジャー部隊の方々の立場が無用に悪化しないよう、交戦前の接触は可能な限り避けましょう」
「人目を避けるか、猟兵だと周りにバレなきゃいいってことか」
 確かに協力できる相手だけに、立場を悪くさせては面倒事が増えるだけだ。
「摩那さんも情報集めに動いていますし、他の皆さんも同じでしょう。私たちも行きましょうか」
「そうだな。…………、なんか騒々しいのもいるが、まさか猟兵じゃないよな?」
 そのまさかだったらどうだと言うのだね。
 大分離れた場所ではあるが、明らかに催し物ではなく乱闘の類の騒ぎの熱を見せる一画。考えても詮なき事と目を逸らして人目を引く算段をつける。
「人目を引くようなド派手な一芸なぁ。パッと思いつくのは、打ち上げ花火くらいか」
「音と光は分かり易く人を惹きつけられますしね。私も準備に入りましょう」
 何の準備だろうか。視線で問うチェスカーへ、ノエルは珍しく悪戯っぽい笑みを見せて片目を閉じた。
「なに、電池式の小さな物を――、街頭無線のスピーカーをこっそり隠し置くだけです。些細な保険に」
 些細な保険、という言葉は引っ掛かるが物はスピーカー。要は人集め用の代物だろうかとチェスカーは軽く考えている様子だ。
 その小さなスピーカーとやらが、この一帯各所に設置されるとは思うまい。何やら嫌な予感がするね。
 頭上を行くドローンを視線で追い駆けて、彼女は摩那との情報を共有しようとその姿を探すのだった。


●では準備を始めよう!
(ふんふんふ~ん♪)
「おや、アリスさん……妹さん、なのかな……?」
 散開してそれぞれがキャバリアへ向けてずんどこ進むアリスの一匹へかけられた声。どちら様かと振り向くその目に映るのは錫華だった。
 群青色に頭部が塗装されたキャバリアを目指す彼女が声をかけたという事は、この個体もまた錫華と同じ機体を目指していたのだろう。
「目的が同じなら、わたしも連れて行ってもらっていいかな? 他にも行きたい場所があるんだけれど、この人込みじゃあ、ね」
 錫華は台車を幾つかまとめて運んでおり、屋外であることや人の数もあって運ぶのに苦労していたようだ。
(大丈夫よー、アリスの頭に乗るといいわー!)
 す、と足を折り頭を下げたアリス妹にお辞儀をして跨る錫華。荷物はいわゆる蜘蛛の糸こと【アリスの糸】で自らの体に固定する。非常に強靭で熱や冷気にもよく耐えるに加え、強度や粘性は操作できる正に蜘蛛の糸が如しなのだ。
 「発進しまーす!」と元気もよろしい声を脳内に響かせながら急発進するアリスの頭から振り落とされないようにしっかりと掴まり、目指すはレンジャー部隊。
(摩那さんのドローンから交信があったけどー、レンジャーの皆さんに迷惑がかからないように身分を隠すか、目立たないように接触して欲しいんだって~)
「なるほど。これからの事を考えればそれも止むを得ない、って感じだね」
 他の兵士が一機ずつで仕事をこなす中、明らかに不必要な四機のキャバリアがひとまとまりとなって動くにも難儀している。何してんのこいつら。
(こんにちはー!)
『あん? なんだこのガキ、風船欲しいならこっちにゃねえぞ!』
『子供相手に大人気ないですよ』
『何で肩車?』
『……いやちょっと待て……』
 捕食者の前で呑気な言葉を口にする彼らに、錫華は肩車されているように相手に認識されているのかとアリス妹から飛び降りた。
 アリス妹は挨拶に上げた前肢をそのままにしており、意外にも風船が欲しいのかというレンジャー部隊の言葉は正解だったのかも知れない。
『こ、このガキ、見覚えがあるぞ。確か……やたらと同じ顔で沢山いた……そうだっ、補給拠点の!』
『つーことはなんだ、猟兵かぁ!?』
「あー、えっと。あんまり騒がないようにお願いするね」
 スピーカーから響く声に集まる視線、錫華は面倒だとばかりであったが頬を掻き掻き、言外に注目を集めないようにとお願いする。
 途端に明後日の方向を向いて口笛を吹き始めるレンジャー部隊。君たちさぁ。
 その様子に何でもなかったか、とばかりに各々の楽しみ事へと戻る一般市民の皆さま。お前らさぁ。
『それで、その猟兵がどういったご用件なのよ。面倒事って話だろ、これ』
「それはまあ、そうなんだけど」
 錫華の言葉に押し黙る一同。ただのトラブルなら嫌味や愚痴を零しながらもそつなくこなせるほど場数を踏んでいるのが、彼らアサガシアの兵士たちだ。
 それでも猟兵が認めてしまう面倒事となれば、自分たちの手に余る内容だと察するのに疑いはない。
「迷惑をかけるほどじゃあないよ。ただ手伝ってほしいことがあるんだよ」
『…………、聞かないと始まらんか。恩は覚えているし、今、この場にいないが隊長や他のメンバーは二回救われている。ある程度の協力はする』
(えー、ある程度しか協力してくれないのー?)
「妹さん、この場合のある程度というのは建前で、実際には命を賭けて協力するっていう意味なんですよ」
『恥ずかしい事を説明してると思ったらどさくさに紛れて何をゆってんの?』
 照れるな三下。
 協力の約束が錫華の機転により命がけの協力を約束された事となり、溜息を吐く男。とは言え、サボっていた彼らも長々と大人しくしている訳にはいかない。協力すべき内容を錫華へ問う。
 周りの仲間はアリス妹にそのへんのガキから取り上げたであろうポップコーンや風船を献上していた。下っ端根性が染みついている故か親戚のおじさん的なノリかはわからないが、アリス妹も風船を装備し嬉しそうだ。
『それで、協力とは?』
「こちらのタイミングに合わせて、花火を打ち上げて欲しいんです」
 色々あるのだとアリス妹の腹に付着していたそれらを剥がす。先に彼女が晶へ見せたのと同じ人が手で持つ物もあれば、言葉通り打ち上げる巨大な筒までピンキリだ。
 そんな物を見せられて早速協力を承諾した自分を後悔する男であったが同時に、だからこそ人の注目を集めないようにしたのかと理解する。
『……どこが迷惑をかけるほどじゃないんだ……』
「何か言った?」
『いや、いいさ。大体わかった、詳細は聞かない』
「今から詳細の説明があるんだけど」
『マジかー』
 操縦席の中で頭を抱える男。彼としては適当な所で設置して点火、猟兵の働きから目を逸らす程度だと考えていたのだろう。甘いぞ三下、命を賭けろ。
 錫華はグリモア猟兵から知らされたポイントで彼らに手伝って欲しいことをかいつまんで説明し、更に四機もいるのだからどうせなら二機ほどこちらに回して欲しいとも。
 そのポイントが彼らの護衛する輸送ルートと重なっている事にももちろん気づいているはずだが、あえてその疑問を省いて聞かぬ知らぬ存ぜぬのスタイルを貫くレンジャー部隊。ついでに彼らの通信に使われるチャンネルも教えてもらったけど仕方ないよね。
(晶さんの目に狂いはなかった、って所かな)
 そこはかくかくしかじか、諸々の説明を終えたことでどんよりした雰囲気から面倒事の押し付け合いを始めたレンジャー部隊を放置し、錫華は再びアリス妹とともに移動を開始する。
 今度は近くのキャバリア整備工場だ。緊急出動しているであろうキャバリアも多く、ともすれば不調を来す機体もあるだろう。このようなお祭り騒ぎでは彼ら自身の手でトラブルの対処は難しい。
 そこで活躍するのが一般の整備工場と言う訳だ。むしろ傭兵を生業とする武力国家、民間とはいえ信頼性も高いというもの。余りもあれば英雄視されている猟兵の頼み、貸出だってあるだろうという目論見だ。
「そういえば妹さんの用事は?」
(大丈夫よー、先に済ませてるのー)
「ふーん?」
 綿菓子を包装ごともしゃもしゃやって風船を括りつけている所しか見ていないが、と錫華は小首を傾げる。実際の所、アリス妹に付着していた【アリスの幼い妹】ことその幼虫たちがレンジャー部隊のキャバリアに潜り込んでいた。
 彼女たちの言う保険というのは【保護色】により目視で発見することが困難な擬態中の妹らをスクンクに潜り込ませる事にある。幼虫は体長も四十センチほど、芋虫状で目立つものの如何せん擬態をし、更には大きなキャバリアに潜り込むのだから発覚する恐れはないだろう。
(せんとーはないと思うけど、有事に備えあれば憂いなし、不穏な雰囲気になったらグレネード砲と噴霧器をガリガリ齧って捕食しておけば安心よねー)
 グレネード砲や噴霧器に対して捕食、というという言葉に違和感を覚える方もいらっしゃるかも知れないが、これは生物も非生物も等しく餌だと認識しているスーパー雑食系女子であるアリス姉妹による感覚なので捕食扱いなのだ。
 食物連鎖のトップランカーだね!
(そーよねー)
(こっちもオーケイよー)
(まだ食べちゃダメー?)
(ガマンするのよ~!)
 同じ策を次々と他の警備キャバリアに行っているのだろう、市街地戦に発展しても即座に無力化できるのは猟兵の行動を守れるものだ。
(アリスは今日も平和の為に頑張ります!)
「ふふっ、よろしくお願いするね」
 ふんす、とやる気を見せるアリス妹を愛でるように錫華は頭を撫でた。

 摩那のドローン・マリオネットから受け取ったアイスティーに舌鼓を打つ桜花。とは言え配られる飲み物はこのアサガシアの出店にあるような一般的な物。それでもこの気温、そして気遣いが更なる味付けとなってくれるだろう。
 同じく喉を潤し隣に並ぶ冬季とともに、人込みで睨みを利かせるアサガシア兵の一人へ目をつけた。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは。見学かい?」
「ええ、私たちも設立記念祭を見学に。……ところで……」
 男の足下には子供もうろちょろしており、興味本位で近づいたのだろうと特に気にしていない様子である。ひとまずその子供は冬季がちょちょいとその辺にぶん投げておき、人目を憚りながら桜花は男の耳元に口を寄せる。
「実は私たち、猟兵なんですが」
「えっ!? サ、サササ、サイン下さい!」
「却下で」
 満面の笑みを浮かべて書くものを探す兵士に、こちらも満面の笑みを浮かべて冬季。その足下にはぶん投げられたのがよっぽど楽しかったのか、先程の子供がうろちょろしている。凄い煩わしそう。
「すみませんがプライベートなので」
「くぅー、仕方ないですね!」
「それで、せっかくなのでこちらの国歌や軍歌を教えていただけます? 新たな形の国家になるということですし、このアサガシアの歴史にも触れたいなと思いまして」
 特に国を挙げての記念事、当然国歌の斉唱もあろう。みなが歌う中、自分も歌えるのは気持ちがいいものだ。
 ライブとかちょー楽しいもんねー。わかるわかる、そういった様子で頷く兵士。あながち間違いではない。
「今は書き出す物がありませんが、この先でパンフレットを配っている露店があります。無料ですし、アサガシア国家、〝筋肉あれば憂いなし、筋肉万事塞翁が馬〟が載っていますのでご確認を」
「――きっ……あ、ありがとうございます」
 予想だにしない国歌の名前に思わず顔を逸らす。それ軍歌に回したほうがいいよと思えるタイトルだが、国歌と軍歌は一緒のようだ。
 武力の国だからこその発想と言うべきか、脳みそが筋肉になった発想と言うべきか。無論、後者だね。
「私は見学もですが、建国記念とも設立記念とものお祭り、手伝いに来ましたよ」
「もっともっとーっ!」
「私も投げてーっ!」
 冬季さん、賑やかですね。
 足に絡みつく児童をボールよろしくぽんぽんと蹴り上げるがリフティングの要領でふんわりと地面に着地させるため、彼らは更に目を輝かせて冬季にまとわりつく。
 さすがに何かあっても困るので桜花が児童を保護している間に兵士へと歩み寄り。
「この一画を警戒しているキャバリアと話をつけたいので、指揮系統上位の方とお話したいのですが」
「え、ええ、それは勿論。……ただどれが上位とは分かりませんが……、ああ!
 頭の色が群青色のキャバリア、それ以外とお話すれば確実ですよ! 彼らはこちらから見ていてもサボりまくりですし、他の操縦者からも叱られている様子でしたよ」
 …………、あいつらさあ。
 冬季は愛想笑いを見せて情報のお礼を返しつつ、児童をあやす桜花へ振り返る。
「私はスクンクに搭乗する人たちと直接話をつけてきます。桜花さんは?」
「うーん。私は車へ戻りますね。人集めのとっかかりもできそうなので、他の猟兵のみなさんとも話を通しておきます」
 クソガキの土埃で汚れた服を払ってやり、手を振って野生児を自然に還した所で桜花は笑う。何はともあれまずはパンフレットだと冬季から離れるその背を見送り、自らの両足首に嵌めて使う飛行装具、宝貝・【風火輪】に明かりを灯す。
 たちまちに地より離れた体は人々の頭上へと舞い上がった。地を這う愚物という揶揄に腹を立て自作したというのだから、才能の凄さを称えるべきか、それとも器の小ささを揶揄すべきか。
 後者取ったら国ごと滅ぼされそうだから前者だね。
 更に下方、彼の飛び立った場所から地面がもこもこと盛り上がり、姿を見せたのは無骨なる戦闘用人型自律思考戦車。冬季の作製し、その名も宝貝【黄巾力士】。
 桜花に諭されて帰った児童とはまた別の面子が目を輝かせて殺到するが、彼らに掴まる前にその姿からは想像もつかないほど華麗に――、否、めっちゃ衝撃波を吐き出して子供らが空を舞う。
 クソガキは喜んでいるようだが露店の商品に砂埃が混入しちゃったね。店主、衛生管理の意識が足りてないよー!
 冬季よりも高度を上げる事で地上への影響を抑えたものの、この飛行能力は黄巾力士本来のものではなく、これまた冬季作成の自作宝貝、【飛来椅】。飛行時に発生するソニックウェーブで無差別に周囲を攻撃してしまう欠点があるものの、出力をそこまで高めなければ問題なかろう。
 飲食店経営者は泣いていい。
 飛び立った際の被害は気にも留めず、とりあえずと手近なスクンク一体を見繕い、無造作に接近する。その様子に驚いた搭乗者も、余りにも警戒のない姿から敵意は無いのだろうと肩の力は抜いたようだ。
『止まれ。何か用か?』
「ええ。余り声を大にできる内容でもないので、いいですか?」
 上空とは言え付き従う黄巾力士は停止させる冬季の姿にスクンク・パイロットは信頼したと、操縦席を開いて自らの姿も晒す。
 冬季はこの対応すら警戒心が薄すぎると内心晒う程だが、折角の利用所にケチをつける必要もない訳で。
「私は猟兵です。色々とお話をうかがいたいので、指揮権のあるようなキャバリア乗りの方とお話させていただきたいのですが」
「猟兵ッ? あっ、俺俺、俺です今この辺りの指揮を頼まれてます俺です!」
 オレオレ詐欺っぽくて信用なんないんですけど?
 それも猟兵愛故とスルーしておくことにして、愛想笑いの裏に感じる頭痛をも抑え込む。
「今回のお祭り、内容については知っています。皆さんの護衛対象が市民だけでないことも理解しています。
 そこでこの世界の攻撃をほぼ無効化出来る方法があるので、一緒に一番大事な場所の警備をさせていただけませんか?」
「ええっ? 猟兵と共闘っ? ち、ちょっ、カミさんに連絡しても!?」
「守秘義務って言葉ぐらいはありますよねこの国?」
 切れ味ある口撃を受けてもそこまで反省よりも浮かれている感の強い指揮担当。この国、というかこの一帯の国は本当に大丈夫なんです?
 だがそこはプロ、持ち場を離れる訳にはいかないのだと血の涙を流しつつ、一番大事な物が来るであろう場所の説明を始める。
 それ自体はグリモア猟兵が話したものと一緒で、到着時間は分からないとは言え騙し討ちのような展開は無さそうだ。
「……この地点は……まだまだ人がいるようですが?」
「勿論、到着に合わせて人払いはします。時間が分からない以上、多少の遅延は生じますがそれも織り込んで――、あ」
 冬季に説明をしていた男の動きが止まる。疑問符を浮かべて彼の視線を追えば、頭部を群青に染め上げたキャバリア組、レンジャー部隊がスクンクの上体に何やら荷物を固縛し移動している所だった。
 隠れるように姿勢を低くがしょんがしょんと歩いていたが、それで隠し通せるはずないわな。気づかれると同時にあちらも気づいたのか、移動速度が上がる。お前ら本当にプロかよ。
「おいおい、お前ら持ち場を離れて――、クソ! 申し訳ありませんが後は!」
「大丈夫ですよ、お任せを」
『こらーっ、待てレンジャー部隊! 〝C-4〟地点より人を回せ! レンジャー部隊の穴を埋めろ!』
 操縦席を閉じ外部拡声器から声を張り上げ指示を飛ばすが、それはまあ彼に関係のない事だ。案内された地点に向かう道すがら、その目が捉えたのは動き始めた桜花のキャンピングカーであった。
「なるほど、準備は整いつつあるようだな」
 車内ではクーラーによりすっかり復調した美亜の姿。ハンドルを握る桜花から大体の経緯は聞いたようで、同時にラジオを利用した摩那のドローンより情報を共有、ついでにレンジャー部隊の通信を傍受と警備部隊の動きも共有されている。
 集まるべき場所は決定したと言ってもいいだろう。後、すべきことは各々の作戦の擦り合わせ。
「しかし、目的は足止めと乗車。輸送ルートの混乱となれば、それほど厳密な作戦は必要ないかも知れないが」
「人命に関わるかも知れないので、混乱はさせても人々が危害を受けない事が大前提です」
「となると、人の流れを作らなければいけないな」
 先は見えたと美亜は笑う。
「列車に先んじて乗り込む面々を目標地点へ移動させよう。大々的に魅せてやろうじゃあないか、猟兵の催し物をな!」
 ――ふっ、ふふふ、くっくっく……! はぁーっはっはっはっはっはっはっは!」
「あの、ラジオが聞こえないのでもう少し静かに」
 悪役よろしく、見事な三段笑いを魅せた美亜であるも、桜花に止められて「はい」としょんぼり俯いたのだった。


 市街地より北方七キロ。砂塵の叩く環境で装甲に被せられた防塵布は市民か、それとも兵士に借りた代物か。
 全局面対応高機動型であり、かつ長距離狙撃用に調整されたキャバリア、【シルバー・モノクル】は自身を静寂に沈めて街中を観察している。
 操縦席に座るのはルゥ・グレイス。すでに水滴すらついていない空のコーヒー缶と、摩那のマリオネットが運んでくれた新たなコーヒー缶を額に当てて眠気を覚まし、操縦席上部より降りたスコープ型式のサブモニターを目にあてがう。
 同時に頭部の装甲が展開して巨大な狙撃用カメラが露出した。操縦席のこのサブモニターはシルバー・モノクルの狙撃用カメラと同期しており、キャバリアでありながら兵士としての感覚で狙撃が可能。
 倍率を調整しながら照準を合わせ、調整を行うルゥ。その間にキャバリアの背中が隆起し、防塵用の布を解いて背中に折り畳まれていたロングレンジライフルを展開、左腕へ接続する。
 伏せの姿勢から四足に体勢が切り替わり、まるで獣が威嚇するような姿勢でその身を固定、安定させた。
 祭りを楽しむ人々の顔すら鮮明に映るほど狙撃地点を克明に映し出すシルバー・モノクル。狙撃用と言われるだけはある性能だ。
 額に当てていた缶の中身を一口啜り、その身についていた水滴が額から流れ落ちるのを感じながら缶を片手に調整を終えた目を瞼の上から揉む。
「アサガシア・ムルチね。時間があるなら今の内、別枠の潜入ルートは確定しておきたいが、さて」
 気温や映像など、市街地から得る狙撃にも流用できる情報の他、普通するドローンを利用し本来ならば必要ないであろう筋道や排水溝、地下、可能ならば家屋やそこから繋がる土地建物など詳細な地形情報をも吸い上げていく。
 それだけならばまだしも
(あらー? 交信が来てるわー!)
「ああ、ごめんなさい僕、ルゥ・グレイスです。アリスさんにお願いがあって」
 摩那のマリオネットを経由し浮遊するドローンへ情報を伝達、更にこれを利用したアリスへの連絡である。何かご用かと首を傾げる姿をモニターに映しながら、思わず笑みを浮かべる。
 アリスという群体に対して、わざわざ現在の司令塔である彼女に連絡を回す必要はない。しかし彼女と同じ自我の共有された、『代りの存在する者』として何か思う所があったのかも知れない。
 ルゥ自身もそこまで深く考えた訳ではなかろうが。
「今、妹さんたちの寄生しているスクンクから出来る限り情報を吸い出したいので、経由するスポットになってもらいたいんです」
(今みたいに交信波を送ればいいのかしらー? それなら大丈夫なのー、すぐにでも始めるわ~)
「ありがとうございます。……さて……」
 アリスとの交信を切ると同時に、続々とシルバー・モノクルへ転送される電磁情報。各交信記録からリアルタイムのものまで、全ての情報だ。
(不正アクセスでもなんでも、施設マップを探す。腐っても電脳魔術師、これくらいはやっておかないと)
 自らの適正を把握し出来得る限りのバックアップを考えるのが後衛としての務めだとルゥは考えているのだろう。不確定要素を潰し、戦略の幅を広げるのはあらゆる局面において功を奏す。
 情報とは武器であり防具であり、そして魔法でもあるのだ。
(今の所、みんな戦闘を起こすつもりもない、無血に向けて行動を続けてる。でも、もし交戦が確認されれば即座に狙撃して無力化するのも必要だし、場合によっては直接その場に介入して鎮圧させる)
 片手の缶コーヒーはのんびりとした様子でその実、もう片方の手はいつでも攻撃できるよう引き金に指が置かれていた。
 と。
(流れが出来てる? 人に動きが、――あ)
 一定方向へ流れ始めた人の波に注意を向けたルゥ。彼の注目へ情報を最大限に集めようとシルバー・モノクルの狙撃カメラが輝く先に見えたのは、何やら揉める禿頭が二人。
 鳳鳴と〝HENTAI〟、もといブレナンディハーフだ。熱い拳の殴り合いに見せかけて、奇々怪々な投げ技や暑っ苦しい関節技、奥さんもムフフな踊る裸体(全裸じゃないよ!)に輝く汗と、良い子への刺激は悪いが男女ともに楽しめる乱闘を繰り広げている。
 戦いながら移動する彼らを追うようにして人の波が起こり、それに釣られて他の面々も移動を開始したといった状況だ。
 付近には彼らの様子を気にしたであろう晶の姿もあり、ルゥと同じく市街地戦への警戒をしている事が分かる。でも苦笑いも強く、唯一の不穏分子があの様子なので念の為といったところだろう。
 猟兵の中ではやはり、戦闘を起こそうと考えている者はいない。
「ふう。じゃあそろそろ始まり、ですか?」
 メインモニターから仰ぎ見る空に、航跡雲が描かれた。その先を行くのは青空に白のコントラストを描く銀青のキャバリア。精霊機、シル・ウィンディアの駆る【アルジェント・リーゼ】だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『廃城の騎士』

POW   :    近接攻撃
【爪や槍等の近接攻撃やSOCS起動中の突進】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    SFE最大出力・SOCS起動
自身の【再生力を持つピコマシン内在モルトアーマー】から【余剰エネルギー】を放出し、戦場内全ての【R-B属性の攻撃】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
WIZ   :    サベージ・ライダー
自身の身長の2倍の【馬型オプション用強化装備】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ライアン・フルスタンドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●全ての要因は一つに集約し、結ばれた因果が答えを示す。
『……くっそー……何でこんな事せにゃならんのだ……』
『上官にまで怒られてさぁ』
 ぶちぶち、ぶちぶち。
『このクソ暑いのにグチグチうるさいぞ』
『まあまあ、そうでもしなきゃこの暑さ、堪えられませんし』
 いらいら、いらいら。
 花火を運ぶレンジャー部隊。彼らは錫華に頼まれた花火を運搬中、上官殿とやらに見つかりどやされコックピットブロックの空調設備、冷却機能を強制停止させられている。
 熱中症は命にかかわるものなので、良い子のみんなは我慢しちゃいけないぞ!
『どうせクーラーの再起動まで幾らもないんだ、我慢しろ』
『うるせえ、そもそもお前が猟兵に掴まるからだぞ!』
『その猟兵に喧嘩を吹っ掛けなきゃ逃げられたかもしんないけどねー』
 責任転嫁する人ばっかりでやんなるね。しかしこれも彼らの雰囲気、口が回れば手も動く。この程度は許容すべきかも知れない。
「おーい!」
『はい?』
 不意に呼び止められて周囲を見回し、巨大な戦車が近くで停車していた事に気づく。こちらも箱詰めされた何かが大量に積載されており、イベント用の物資運搬車かと見逃していたようだ。
 ハッチが開けば中から顔を覗かせたのは青い髪、チェスカーである。
『おぉう、また猟兵じゃねえか』
『おいッ』
 余計な事を言うなと制する様子に、頭の色で見当をつけていたがやはりレンジャー部隊かと彼女は笑う。
 そのまま中に引っ込むと、タンクモードであった【ビッグタイガー】を起動、身を起こすようにして戦車形態から二足歩行のスタンディングモードへと移行する。
 ワンタッチでポン、とはいかず全てマニュアル操作で変形に時間がかかるも、それもあって露出した腕で上部の荷物を下ろしながら被害なくキャバリアの姿へと変化した。
 汗だくながらもその変形を待っていたのはレンジャー部隊も男の子だということだろう。立ち上がった瞬間などは歓声が漏れたほどだ。
『ん、んんッ。――それで、今度は何の頼み事だ?』
『話が早いな』
 そりゃこの状況だもの、とどこか悲しそうな三下の言葉が風に乗る。チェスカーはばつも悪そうにしながら、通信回線を開いて外へ声が漏れないよう、人集めをして欲しいと頼み込む。
 わざわざ通信回線でか、と男は溜息を吐く。その意図が分かるだけに、結局は上官に大目玉を喰らう事は確定だ。
『なぁに、それとなく集めてくれればいいさ。今、結構な人数がこっちに向かってる。交通整理の要領で混雑を解消している――、ように見せてこっちへ人を流して欲しいんだ』
『それとなく難しい役割だな』
『すまんね。あたしらだって何もドンパチするだけが仕事じゃねーし、こういう仕事もある訳だ』
 男のぼやきに笑みを見せて、【錆びたシガーケース】から【野菜スティック】を取り出す。まるで煙草とでも言うようにそれを咥え、蓋の内側に刻まれた鴉の刻印を指でなぞる。
 その動作に特に意味は無かったが、昔は名刺代わりだったそれも嗜好品入れと変わり、その流れでついた癖かそれとも元よりあったものか。
『短気な連中に誘導係は期待出来んな。お前は向こうを頼む、勿論お前ら二人は花火の準備と猟兵様のご相手だ』
『お任せください』
『俺らが短気だって言いたいの~?』
『言ってンだよ! とっとと終わらせるぞ。暑くて苛々する!』
 レンジャー部隊のやり取りに耳を傾けながら無自覚であろう行為を終えて蓋を閉じていれば、動き出した仲間を先にやって残る男。ビッグタイガーに乗せられていた荷物を訝しんだのだろう、中身を問う。
 そこは腐っても国民、自国への脅威に敏感だ。
『なぁに、ただの打ち上げ花火さ。せっかくの記念なんだからそれぐらいの用意がなきゃな』
『真昼間っからか?』
 じっとりした視線を機械越しに感じて苦笑する。
 チェスカーの言葉通り、彼女が用意した沢山の箱は花火である。しかも中身は砲弾の形だ。
 彼女は周辺に残置された装備や残骸、果ては路傍の石ころすら弾へと変え効果的な威力へと昇華する。「節約が高じた趣味みてーなモンさ」と本人は語るが、しっかりと実益を上げた【弾丸芸術(ダンガンゲージツ)】だ。
 花火なのは確かだが形は砲弾そのもののため、見せるのも都合が悪い。チェスカーはそういえばと彼らの隊長、ボイット・レンジャーの名前を出す。
『元気にしてんのか、隊長サン。姿が見えないようだけど?』
『…………。元気も元気、我らがアサガシアの代表に見初められて今は中央でテストパイロットだか何だか。他にも二人』
『ついでに言えばあのカノスのヤツはもう一人と一緒に副長の腰ぎんちゃくで親衛隊だとよ! 嫌になるぜ』
『お前はとっとと行って来い!』
 答えるつもりがないなら仕方ないと嘆息しつつ、話題替えに従うレンジャー部隊。未だに近くをうろついていた一人を叱りつけ、彼もまた花火の準備に取り掛かる。
『……親衛隊、ね……』
 親衛隊と言うからには、国家代表直属の部隊なのだろうか。猟兵を利用した企み事をするような相手だけに戦力を自分の手元に集中させようとしている、その動きを始めたとも予想できる。
 レンジャー部隊の面々は彼、彼女らを出世したと捉えているようだが、どのような扱いになるか分かったものではない。
「チェスターさん、準備手伝いましょうか?」
 どうすべきかと思案するチェスカーへ声をかけたのは摩那。ドローン・マリオネットを鷹使いのように左手に乗せ、一先ずの情報共有は終了した、という事だろう。
 地上の監視にはルゥの散布ドローンが行き届いた事もあり、猟兵の動きに合わせての使用を考えている所だ。
『あたしの方は問題ないさ。錫華がレンジャー部隊の皆サンに頼んだ準備もじき終わる。
 そういやあ、向こうにシルのキャバリアが飛んで行ったがそっちはどうだ?』
「シルさんは準備万端、待機中です。あそこには錫華さんもいらっしゃるみたいで、こちらの開始に合わせてくれるそうです」
『そりゃ笛の鳴らし甲斐がある』
 笛と言うよりはラッパを吹く真似をビッグタイガーにさせたチェスカー。摩那はお道化て見せるそれウィンクで答え、他にも準備が整った面子に話を向けた。
 美亜、桜花、そして桜花は所定の待機場所におり、何故か二人いる鳳鳴はハーメルンよろしく市民を誘導し、念の為と護衛についている晶は後に美亜らと合流予定。
 アリスらは市街地を穴だらけにすることも出来ないので地上を歩いて残りのキャバリアへ幼虫を寄生させ、これまた美亜らと合流予定だが密度を増した人の群れにあの巨体では移動を苦にしているとの事だ。
 ルゥは遠距離から全体の見通し役、ドローンでの情報収集を含めその他気になるルートの探索。ノエルはキャバリアの整備台が付属した大型の装輪式戦闘車【コンバットキャリア】を操縦し、鳳鳴らによって出来た人の波を利用し晶所有のキャバリアを牽引運搬中。
『開始の予定時刻は?』
「例の起動実験に必要な部品、これ以上遅くなるとは考えられません。こちらの準備ももう終わりますし、錫華さんからゴーサインが出次第、開始という考えでいいと思います。
 もう誰もが私たちの活躍を見られる位置になります。ド派手に打ち上げちゃってください」
『了解。せいぜいハデにやらせてもらうぜ』
 咥えていた野菜を齧り取り、チェスカーは笑みを見せた。

 一方、錫華の訪ねた整備工場、その屋上に音も小さく軽やかに降り立ったのはアルジェント・リーゼ。
「よいしょ、っと」
 銀より姿を見せたシルは空中で反転、衝撃をその柔軟な体でしっかりと吸収し着地を決める。航空機やキャバリアなどを載せられるよう頑丈に出来た屋根には内部へ通ずる扉もあり、開けば簡素な建物の、すぐ内部が覗けるようになっていた。
 階段を駆け足で降りた少女が見たのは、見知った猟兵の後ろ姿と、その前で腕を組む如何にもこの工場の主だと言いたげなつなぎ服の男。
「…………、どうかしたの? 何か問題?」
「それが、よく分からないんだけど」
 困惑よりも面倒そうなその顔に見つめられ、つなぎの男は頭の髪の毛を剥ぎ溜まった汗をタオルで拭う。カツラやん。そんな堂々とやって被る意味ある?
「父は、あんたら猟兵と関わったばっかりに、電磁がどうだのロケットパンチがどうだの飛ばない拳はただの拳だなどと、訳の分からない事を言って廃人になってしまった」
 oh...だからなんじゃい。
 何ゆってんのこいつ、その言葉がそのまま顔に描き出されたが如き表情で思わず男を見つめる二人に対し、まるで気づかぬ男は「だが、それでも!」と両腕を広げ天、もとい天井を仰ぐ。
「父の意志、いや魂は、物作りにおける心意気はこの俺に引き継がれている。そうっ、俺こそは!
 二代目ゴッドハンド、タコヤキ・ヤタイ!!」
「えっ、猟兵っ?」
「……多分……いや絶対に違うかな」
 拳を握る若禿に驚くシルと否定する錫華。
 禿はきったねぇ声で咳払いをすると、興奮さめやらぬと今度はこちらに背を向け背後に立つキャバリアへ向き直った。
「この二代目ゴッドハンド、否、ゴッドハンド・セカン? 否否否! 真のゴッドハンドにキャバリアを用意してほしいと言ったね!?」
「キャバリアをお貸しくださいとしか言ってないけども」
「紹介しよう、これがアサガシア次期主力となるべき試作キャバリア、その名も『ドスコイダーゼット』!」
 だっさ。
 じゃかじゃん! と紹介されたのは彼が制作したであろう試作型のキャバリア。要は特に世間的評価を持たない量産型性能のキャバリアである。
 線の太い、がっしりとした体型であるが動きの阻害されるような装甲はない。頑丈さが取り得とまではいかないが、自らのパワーに耐えるべく造られたのは一目でわかる。
 東洋人であれば馴染み深い名前から力士的姿を想像した方もいたかも知れないが、スモウウォリアーと比べればまだまだ細身なのですでに名前の由来が分からない状態だ。
「それでこのドゼットにはどんな機能が?」
「ん? ドゼ?」
「うん、ドゼット」
 若禿は覚えのない呼び名に「あれっ?」と訝しんだがそれよりも性能の説明だとカツラの下から取り出した眼鏡をかける。もうカツラ捨てろ。
 このドスコイダーゼット、もといドゼットは肩や背中、肘や膝、掌に手甲といった部分にエネルギーの射出口が設けられている。外装を必要としない攻撃手段に富む機体である。
 が、それも遠距離戦を想定した装備ではなく有効射程距離も大したものではない。どちらかと言えばエネルギーブレードの類を突出する、という説明が正しいだろう。
 刃と言える程の持続時間はないが連射する事が出来る為、敵機を掴みエネルギーを直接叩き込む、或いは体当たりや蹴りに合わせた打撃に合わせ破壊力を高めるといった使い方が主となるだろうか。
「格闘戦用に調整された究極のキャバリア、それがドッコイダァアアアア……ゼ――」
「それがドゼットの特性と、他に武器はないのかな?」
「…………。はい、一般的に使われるサブマシンガンやライフルなどがあるので、肩の後ろに一丁ずつマウント可能です」
 良くも悪くも量産型らしい、癖はあってもそれ以上を求めるのは酷かと納得して操縦席へよじ登る錫華。すっかりしょげた若禿は放置してそこらにあった武器に装弾、左右肩の後ろへサブマシンガンとライフルを一丁ずつ男の言葉通り装備。
「ふむ?」
 一般的なキャバリアの操縦システムであったが見慣れないスイッチがひとつ。分かり易く書かれているのはリミッター解除の文字である。
「…………。ちなみにゴッドハンドさん、リミッターを解除したらどうなるんです?」
「んあ? あー、何のことはない。しばらくパワーアップしてエネルギーが放出しっぱなしになるので全身刺だらけになるだけだ。
 機体に負荷がかかるから僅かな時間無防備になるがな」
 使い所を誤らなければ有用そうではある。
「燃料も問題なし、各部エラーなし。いけるよ、シルさん」
「じゃあわたしも上で待機しておくね」
 操縦席から親指を立てた錫華の言葉、シルも親指を立てて太陽を思わせる満開の笑みを浮かべた。再び駆け足で階段を登る小柄な姿が見えなくなれば、ゴッドハンドハゲに視線を移す。
 しばらくは中で待機するので、邪魔にならないようにすると。
「出口の開閉だけ、お願いするよ」
「……へい……」
 彼女の言葉を了承して他の機械整備へと向かうしょぼくれた後ろ姿。
 どんだけあのだっさい名前に自信を持っていたらこれ程の哀愁を漂わせる事ができると言うのか。


「そぉうらああああっ! 超至近高速ローリングソバットゥウウウウ!!」
「甘いぞ鳳鳴! キャッチ・アンド・リリー! スクリューッ!!」
 そりゃ幾ら速いと言っても溜めがあっちゃテレフォン・キックよ。
 気合と怒号と恨み辛みの詰まった足をブレナンディハーフはがっちりとホールド、その足を巻き込むように回転しつつ倒れ込む――、という一般的なドラゴンスクリューではなくジャイアントスイングもかくやと言う程の大回転ぶん回しと投げっぱなし方式のぶん投げを繰り出した。
 もうこれハンマー投げじゃん。
「……一体、俺は何を見せられているんだ……」
 同じ顔をしながらも表情と性格のまるで違う二人の乱闘を具に見せつけられた晶の、思わず零す素直な一言である。
 無論、彼らとて他の猟兵が待ち構える場所へと移動しながら乱闘を続けており、一進一退の攻防は時に男を、時に女を熱狂させている。
 これがプロレスならば大変見応えもよろしかっただろうが、所々HENTAIが見え隠れしているのだから晶の気持ちも分からないでもない。
「ん?」
 足下からやってきたもぞもぞとした感覚に目を向ければ、ワラスボよりも凶悪な凶悪な顔面丸ごとの口を広げよじ登る芋虫の姿。アリス妹、その幼虫である。
 見慣れていなければ仰け反るどころか絶叫必至の光景であるが、幼虫であろうと成虫であろうと互いに交信する能力を持つ為に通信手段としても便利なツールとなるのだ。この状態で地上の行けば踏まれるであろうことから、ルゥのドローンと情報を共有しながら地下を来たのかも知れない。成虫と違いこの大きさなら街への影響も少ないはずだ。
(晶さん、そろそろノエルさんも到着予定よー)
「待ちに待ったってところだ」
 アリス妹の言葉に晶は思わず息を吐く。
(トラブルの起きそうな仲間の監視、やりそうもないし念の為の警戒だったが。止めない場合は制圧も有り得ただけにな)
 人格的にもトラブルメイカーであることは間違いないが相手は猟兵、もし戦闘に発展した場合は仲間意識など抱いている余裕もなくなるだろう。
(ノエルさんが鳳鳴さんたちの様子を聞いてるわ~)
「情報なら共有できているだろ。問題なく、問題行動を実行中だ」
(晶さんの所見を聞きたいそうよー?)
「所見? ああ、大丈夫だ。傍から見ても激情にかられているようにしか見えず、……その実、やっぱり感情炸裂しているが……互いにあれはあれで一線を引いているな。
 良く言えば兄弟、悪く言えば腐れ縁の悪友だ」
 相手を小突くもコミュニケーション、本当の闘いにはならないと。ならば周りも同様に、彼らの空気に呑まれて乱闘が起きたとしても暴動にまで発展する事もない。
 こういった空気、雰囲気というものは映像による平面的な情報だけで全て受け取るのも難しい。現場にいる人間の感じ取った生の情報も必要なのだ。
「…………、向こうも動き始めたな」
(あらー?)
 晶の言葉。彼の視線の先には人の流れに異常を察したスクンクらの姿があった。だが鳳鳴らによって誘導された人の波が壁となり、キャバリアでの進入は困難だ。
 本来ならばテロ、人の誘導を疑い緊急警戒態勢を取ってもおかしくないがその動きは見えない。これは冬季が兵士の指揮者と接触した事で『猟兵が行動している』と認識した安心感、あるいは猟兵がこれを行っていると言う期待感の表れかもしれない。
(と、なると強行突破は有り得ない。実際にテロ活動が発生したとも言えない状況で市民を巻き込むのはいい手とは言えないしな。
 どっちにしろ、冬季の動きが利いたか)
 彼の動きには周りの被害を気にしないものもあったが、それも大事に至らないとの判断だ。もっかい言うと飲食店関係者は泣いて良い。
 考え込む内に人々の喧騒とは別の軋んだ音が後ろから近付いてきた。ノエルのコンバットキャリアだ。キャバリア用の火器も使用できる戦闘能力を有した運搬車であるが人込みを行き警備の手前、使用できないようにと取り外してある。
「お待たせしました」
「いや良いタイミングだ。警備の注意も集まっている今が、まとめて輸送車両への警戒をさらうチャンスだ」
 運転席から降りたノエルに笑みで返し、コンバットキャバリアの後方で牽引される【ヴェルデフッド】を見やる。仰向けとなったクロムキャバリアは圧倒的な機動力を耐えうる剛性、迷彩能力を兼ね備えた強行偵察機でもあり。
 もう一つの特性。
「事を起こしてからの人の流れは俺がコントロールしよう」
「よろしくお願いします。他の猟兵が交戦を始めた場合は――」
 ちらと今現在の騒ぎの中心である二人に肩越しに気にかけて。
(味方面して入り込むしか打ち手がなくなりますから、流れ弾の心配がないブレイドで当該猟兵を奇襲するつもりはありますけど)
「――面倒くさいので、出来れば止めて欲しいですが」
「確かにな」
 逡巡した考えをその言葉に収めてノエル。それは察して晶も同調、ヴェルデフッドの操縦席を開く。同時に休止中であったシステムが起動、エンジンに火の点るヴェルデフッドの内部から声がかかった。
『おはようございます、マスター』
「おはよう、【ウィリアム】。起き抜けで悪いがすぐに仕事だ、頼むぞ」
 情報処理、自立戦闘に特化したサポートAIウィリアムはご覧のように会話が可能で、快く応えて乗り込む晶を受け入れる。
 台車で簡素に固縛されていたワイヤーを外し、半身を起こすヴェルデフッド。アイカメラに流れる光りが宿した生命を表したように全身を脈動させ、立ち上がる。
 大きな音をたてて歪んだ台車はそのままに、ノエルは直立するヴェルデフッド、そして晶へ手を振ると外からコンバットキャバリアを操作し装甲を展開、内部に収められていた白のキャバリア【エイストラ】がリフトアームにより台座を持ち上げられ姿を見せる。
 こちらは基本性能の向上に特化した、高汎用型の高出力機と呼べる代物だ。迅速かつ精密な行動が可能であらゆる状況に対応できる。
「さて」
 歩き出したヴェルデフッドを横目に、ノエルが車内から引きずり出した布にはでかでかと〝猟兵〟の文字が描かれていた。


●開演ですってよ!
 砂塵を散らして駆ける足。
 横薙ぎにされる裏拳に体を仰け反らせてかわし、あわや倒れるかという所で退避の間に合わなかった露店の椅子を掴む。退避の間に合わなかった露店の、椅子である。
「――すいっ!」
「くっ!?」
 支えにした椅子を利用した体のバネで跳ね上がり、同時に鈍器として振るったそれを、後方への跳躍でかわし退避の間に合わなかった露店の、お次は机の上に背中から落ちた。
 衝撃で呼吸も難儀となるが、更に振り上げられた椅子をかわすために転がり落ちて机を盾とする。
 机の上にあった食べ物類の退避は間に合ってたのが不幸中の幸いだろう。
「ふんっ、でええええい!」
「うわ、とっ、おぉおお!?」
 盾にした机を背中で持ち上げ、亀の甲羅よろしく背での体当たりに椅子を弾き飛ばされて後退すれば、振り向く動作を予備動作に変えた机による一回転での殴打を見舞う。
 追い詰められながらも尻もちをついてこれをかわし、地面から直上へ振り上げた足が机を弾く。
 意外にも、机と椅子とが地面に転がった音は同時。
 その間に立ち上がり互いに構える双つの顔は睨み合う。
「はあ、はあ、はあ、……く……、いい加減にもう、どうにかならないか!?」
「はーっはっはっはっはっは! ……はあ……はあ……、い、いっ……はぁはぁ……息がすっかり、ふうっ、切れてないかい!?」
「それはお前もだろう変態!」
「変態じゃないHENTAIだ!」
 どこで対抗してんの。
 互いに直撃コースの打撃は上手く受け流し、直接受けている訳でもなく肉体のダメージはないもののこの暑い中、陽射しを受けながら飛んだり跳ねたりの大乱闘を移動しながら続けていたのだから疲れもする。
 むしろここまでやれてたのが凄いっすわ。
 しかし体力もすでに限界が近づいている。互いの呼気を合わせるようにして直立し、拳を握る両者。その瞳には態度は違えど燃えるは闘志。
 踏み込む一歩。跳ぶ次足。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「いけぇぇえええええ!」
「決着よー!」
 野次馬の声援を背に受けて、狙うは顔面、放つは鉄拳ただ一つ。
 ここまでの流れと違い決定打を狙う一撃はしかし、両者の拳が交差する前に轟く音で目測を誤り、互いの顔面をぶつける形で墜落してしまった。
 何事かと辺りを見回す人々は、二度、三度と続けて鳴り響く音にその原因を見つけて声を上げた。
「なんだありゃあ、祝砲?」
 天へと向けて、地上からそそり立つ砲塔、否、キャバリアである。
 スタンディングモードのビッグタイガーである。開いた脚部側面にはパイルバンカー【工業用電動式CICTロックアンカー】が設けられ、射撃時の衝撃に耐えられるよう姿勢制御に地面へ打ち込まれている。
 更にビッグタイガーの特徴である巨大な戦車砲を限界まで上向きにしており、その不安定な荷重を支える為に【高靭性軽鋼ワイヤー】が【路外走破用ウィンチ】から射出され、離れた地面やアリス妹らによって固定されていた。
(止めに入られてもまともな抵抗なんて出来ないが、見るからに不安定な姿勢の方が攻撃の意志が無いってアピールになるだろ)
 とても動けるような状態ではないこの姿を衆目に晒すのも、全ては敵意が無いことを表す為。集まる視線をメインモニターで認めて手応えを確認し、次弾を装填し景気よくポンポンと打ち上げる。
「――おっ」
 空から来る衝撃、同時に開く火薬の花。
 炸裂と同時に大輪を咲かせ、昼間でも目立つよう彩煙雷が空に棚引く。色鮮やかな煙が打ち上げられた順に花開き、太陽の強い陽射しを遮って昼間にも限らず空を染め上げた。
「曳光弾の応用でチョチョイと作成した程度のモンで少し不安だったが、派手さ重視の花火弾、無事に成功して良かったぜ」
 笑う間も手は止めず、、どんどんと花火の詰まった砲弾を空に打ち上げて光と煙が消える前にその数を増やしていく。
 呆気に取られたようにスクンクらも空を眺める中、空に溶けていく煙を頭上にいつの間にか鳳鳴とブレナンディハーフが立っていた場所に摩那が姿を現した。
 こほん。
「レッディィイース、アァーンドッ、ジェントルメンンン!」
 小さな咳払いの後、この場の間抜け面連中全ての視線を集めるために声を張り上げる。
「皆様、このくっそ暑い気候の中でわざわざようこそ来やがって下さいました。みっつの国家が手を取り歩幅を合わせ、新たな平和に向けて歩み始めた記念すべき日。
 不肖ながら猟兵である我らも祝福をと馳せ参じました」
 ざわざわ。
 英雄視する猟兵が集まっている。それも自国を祝う為に。HENTAIどもの乱闘を見ていた時とはまた違う熱の籠った視線だ。
 しかしながら摩那の口上には多分にこの状況への嫌味が混じっていた訳だが。
「わざわざ長く語ることもございません、それでは始めていきましょう!
 猟兵による特別イベント、〝他人様に迷惑をかけるなバカヤロウ〟の開演です!」
 天を仰ぎ両腕を開く摩那に合わせるようにその背後、彼女を中心に左右に別れるよう花火による火柱が次々と上がる。レンジャー部隊の用意した花火の一部である。
 大地を揺るがし空を割かんばかりの拍手喝采、歓声万雷のを受けて、まるで直接雨でも受けているかのような痺れを全身に感じた。さしもの摩那もその熱狂する圧力に思わずたじろいだが、しっかりと踏み留まる。
 ここで取り出したるは超可変ヨーヨー【エクリプス】。その名の通り摩那の意思ひとつで質量可変、今回は戦闘目的でないので使用はしないが側面より刃の出し入れも可能である。
 その素材はヒーロー戦争で入手した謎金属。もひとつオマケで頑丈さが取り得なのだ。
 まずは基本中の基本、誰もが通る道スローダウン。左手の中指を通じて落とされたエクリプスは高速回転により普通とは思えない摩擦音を周囲に撒き散らすが、観衆は小さなそれに身を乗り出し、何事かと目を白黒させるのみ。
 離れている者などは何をしているかもよく分からないだろう。だがそれでいい。人を惹きつけるのは最初から〝分からせる〟必要はないのだ。事実今、誰もが目をこらし摩那の手元に集中しているのだから。
 手元に戻す速度を上げながら周囲を見渡し、頃合いだとヨーヨーを受け止めた左手より乾いた音。同時に閃くは雷光、青白い輝きが地に落ちた太陽の如く激しく弾けて周囲を打つ。
「うおっ、まぶしっ!」
「アーク溶接かよぉ!」
「そんなヤバいワケないだろちゃんと見ろ!」
 そんなヤバい訳ではないけど溶接工のみなさんはちゃんと目を保護しましょうね。注視していた物がどれだけ小さかろうが発光してしまえば些細な問題、その激しい光の動きが華麗を表すのだから。
「さあ、本番を始めますよっ。まずはウォーク・ザ・ドッグならぬラン・ザ・ドッグ!」
 いわゆる犬の散歩。ヨーヨーのスリングを伸ばした状態で回転をキープ、地面を走らせるというものだ。一般的なヨーヨーならば遠心力で軸であるアクセルの固定が外れる遠心クラッチというものが普及しているのだが、地面に当たる事で回転速度を失ったヨーヨーはアクセルが固定され、数十センチ程で手元に戻る。
 しかしこれは攻撃にも使われる謎金属仕様のヨーヨーなのだ。
「よっしゃああああああッ!」
 掘削機の如く土塊を砕き路面を裂いて激走する。激しき光は本体を大きく見せて喜びはしゃぐそれに飼い主が後を追う様は正にラン・ザ・ドッグ。
 緩から急、静から動。見た目の変化に加え唐突な動きの変化に歓声が上がる中、やはり登場する退避しそびれた露店。椅子に飛び乗り屋根を駆け上り、先行くイクリプスをワイヤーのしなりで誘導、まるで生物さながらの跳躍や複雑な軌道を描いて更なる人々の歓声を誘う。
 関心を引き、心を打つ。これぞ人心掌握の基礎。
 屋根から跳躍すればループ・ザ・ループ、手に受け止めることなくスリングとなるワイヤーを手首のスナップだけで引き戻す勢いを利用し放つを繰り返し、空中で更なる輪を描けば花火にも負けぬ大輪となる。
 ついでに言えば楕円の軌道により狂ったようにはしゃぐワンコに見えなくもないね!
 着地の瞬間には更に大きく放つ事で更に更にと巨大な円を描き頭上で振り回す摩那。リズミカルに腰の動きも合わせる事でノリを観客にも分かり易く伝播させた。
「いーち!」
『いちぃぃい!!』
「にーい!」
『にいいいぃ!!』
 一周、二周と数を増やすごとにカウントを誘い、それに答えて熱量を上げていく、もはや会場と言って差し支えないこの場所とこの状況。
 カウントが十に達した頃、鳳鳴とブレナンディハーフが姿を見せた。先の一撃に気を失っているのかぐったりとした鳳鳴を机に固定して立たせ、同じくなぜかぐったりして半裸の成人男性を鳳鳴と同じく机に縛り付けていく。マジで何してんの?
 摩那はそれを確認すると頭上のイクリプスを右側方へと投げ放ち、鳳鳴の顔に触れないギリギリで引き戻す。髪の毛があったら巻き込まれていたかも知れない、さすがの人選である。
 しかもこの際、ただ引き戻すのではない。注目を集めるよう天を指し銃を象った右手の人差し指でワイヤーを叩き、指を支店に半回転させたイクリプスをワイヤーの上に乗せる。
 回転したまま綱渡りのようにワイヤー上を巡る雷光にどよめきが走った。更に動きを組み合わせ腕の間を立体的に動けば光の玉が摩那の手の中、光源によりワイヤーが見難いのも相まって浮遊しているとすら錯覚する。
 ムーンサルト・バックフリップ。ワイヤー上にヨーヨーを留めるムーンサルトと動きを組み合わせた先程までとは難易度の異なる技だ。電流により長い黒髪が帯電によりざわめき逆立てば、魔女と錯覚する者もいるだろう。まあそれも雰囲気出てていいじゃんね。
 更にリリースすると同時、今度は腕の下からワイヤーに乗せ、同じくバックフリップの要領で腕を飛び越えさせるなど、立体的な動きを増やしたグラインド・ツイスター、左右の人差し指へ交互にワイヤーをかけその間にイクリプスを収めるソニック・ホール。
 右へ左へ上へ下へ自在に駆け回る雷光玉に誰もが見惚れ、進む場所戻る場所へ顔を向ける人々の様子に頃合いかと再びムーンサルトの状態に持ってきたイクリプスを指の動きで跳ね上げるザ・ホップ、それを繰り返し上中下の三方向に打ち出す上位技術のスピア・ホップで行いながら歩いた先は、机に括りつけられた男たち。
「準備はいつでもオーケイだよ!」
 パチコン☆ と力強いウィンクで男たちの頭の上にへ絶妙なバランスでリンゴを乗せるブレナンディハーフ。
 ところで皆さん不自然に耳から上の髪の毛が無くなってるけどどうかされたんです?
「それでは〝他人様に迷惑をかけるなバカヤロウ〟第一幕、〝黒木・摩那ヨーヨーショウ〟のメェイン、イベンッツ!」
 アップルジュースショー。
 声も高らかに告げられた内容、嬉々としてコップを用意するブレナンディハーフ。髪のない理由が理解できたけど許されないね。でも英雄だから許されそう。
 スピア・ホップからスピア・ループ、ループ・ザ・ループを上中下に打ち別ける上位技術へと変えて腰元で止める。雷光が消え、逆巻く風に散る砂埃に晒される摩那の後ろ姿は西部劇のガンファイターだ。
「……ふーぅ……」
 にわかに立ち込めた緊張に周囲の声も静まり、ゆっくりと深く息を吐きながら足を開く。距離を計るように腰を切り、息を止め。
 重い沈黙が場を支配した刹那。
「――シッ!」
 腰を切ると同時に左掌から滑るように放たれたイクリプス。正面からぶち当てるだけでは一部を抉るだけで弾き飛ばす形になり易い。ただ薙ぎ払うのでは切断能力が上がっても果汁の出る量は少ない。
 故にやるべきは角度をつけることで遠心力を生み、巻き込むように叩きつける、これである。
「――ああっ、外れっ……!」
 方向は良かったもののリンゴの斜め下に向かう軌道に悲鳴が上がる。顔に当たりそうじゃないし良かったね。
 ――ところで、皆さんはボウリングというスポーツを知っているだろうか。知名度も高いスポーツであり国によっては家族友人同僚と集団でやるにも人気のスポーツ。それだけあって幼少の頃から親しみがあっても最初の頃はボールを転がす事も苦労しただろう。
 だが狙えるようになってきて初めて思うはずだ。正面から当ててしまっては力が分散され、ドミノ倒しの要領で十本のピンを倒せるかと思いきやむしろ力や速度が無ければ難しいと。
 そこでプロボウラーは魔球を編み出した。カーブである。しかしカーブにもやり方は人によってまちまちであり、感覚ですら異なり習得に難儀した者、習得できなかった者もいる。
 そして不器用な素人は思った。斜めから当てれば別にストレートでも良くね? と。
 角度さえつければ結果的にはカーブと同じ効果を得られるんじゃね? と。
 実際にこの考えが正しいかどうかはさておき、運動エネルギーの伝達方向を変えることで破壊の効果を変えられるのは確かなのだ。即ち。
(力が逃れられないように狙撃するッ!)
 今までの技で培った勘の冴えと技術。右の人差し指でワイヤーを引き、下方からすくい上げるアッパースイングの軌道へと変える。
 掠める抉る軌道からなる巻き込む力がリンゴを噛み砕く顎となって半分以上は粉々に打ち砕く。叩きつければいんじゃね、と思ったそこの君。その軌道はリンゴの乗ってる頭にダメージ行くから止めようね。
「…………、ふっ」
 果実を握り潰すにも似た濡れた音に、見事な一撃を視認して思わず笑う摩那。
 空へとぶちまけられた果肉は果汁ごとブレナンディハーフがボールで回収し、ついでに頭の上残っていた三割二割ほどの大きさのリンゴを握り潰す。
 これがコップに注がれるんですね。
「す、すげえ、神業だ!」
「あのヨーヨー、急に蛇みたいにのたうったぞ、どうなってるんだ!?」
「雷じゃないか? かなり鋭角に曲がったと見たね、俺は!」
「あんな速いの見えるワケないだろなにゆってんだおめぇ」
 わいのわいの。
 ただのヨーヨーショウだけでなく、帯電による見た目の派手さに分かり易い狙撃による技術の高さなどを演じたとは言え、彼らが足を止めて食い入るほどの成果を叩き出す事に安堵の溜息を零す摩那。
 これが第一幕となれば次々と始まるショーを期待して彼らはその場に留まり続けるだろう。
「この調子で次々といかせてもらいますよ!」
 一発撃つだけで満足なはずがない。お次は連射だとスピア・ループで連射を想起させつつ、観衆の興奮が冷めやらぬ内にと今度は最初の一投ほどの溜めもなく次々と男たちの頭皮に直接置かれたリンゴを打ち砕く。
「……う……うー、ん……?」
「!」
 しかしここで気が付いたのは鳳鳴だった。軌道を変えてリンゴを狙うイクリプスに対し、上げた顔が直撃コースとなってしまう。
 ブレナンディハーフは他の面子の頭皮から果汁を回収するのに忙しく、といってもそもそも助けてくれないだろうけども。それなりの威力を伴うだけに摩那の心臓が跳ね上がる。
(――大丈夫!)
 ぐねり。
 鋭角に進行方向を変えて、直線に近い動きしかできなかったそれが螺旋を描く。今までのワイヤーへ力を加えた軌道修正ではない、摩那の【念動力】によるイクリプスへの直接干渉だ。
 螺旋の渦を利用して鳳鳴の頭をかわし、虚空を切るイクリプスの軌道を更に捻じ曲げてくるりと回し、上空より直接リンゴを打ち砕いた。ワイヤーの反動を利用した軌道修正ではないため減衰はなく、念動力の威力も加わり音をたてて迫る謎金属が、見た目からは想像もできない質量でもってリンゴを貫いた。
 その威力故に安定した軌道、だがそれでは貫通力が上がるだけで必要なのは破壊力。直進に左右の揺らぎが加えられたイクリプスはその分巨大な弾と同一の意味を持つ。
 一撃でリンゴを果肉すら残らぬ果汁へと変えてしまった摩那のイクリプス。それ自体に汁気は一粒たりとてなく、乾いた音を立てて摩那の手へと収まった。
(まあ、多少のズルはセーフでしょう!)
 ここでくるりと観客へ振り返り、摩那は大仰に頭を垂れた。
「……すっ……すげぇーっ!! 神業っ、いやもう神業を超えた魔法だこれ!?」
「あのヨーヨー、急に蛇みたいにのたうったぞ、どうなってるんだ!?」
「……いや雷……じゃないな、蛇だなあれは!」
「だからあんな速いの見えるワケないだろなにゆってんだおめぇら!」
 中には多少の混乱も見えるが、全ては技巧による匠の力と信じ込んでいるようだ。
「まだまだ続きますこの催し。さあ、次の幕を上げましょう!」
 小さな破裂音が断続的に、きらきらとした紙切れと共に鳴り響き、舞い散る紙吹雪へ人々が期待へ声を張り上げた。
 その声に答えるように人々の頭上を駆け抜ける銀青のキャバリア――、アルジェント・リーゼ。
 巻き起こした風は烈風となって人々の体を足下から駆け上がった。スカートを押さえる者、帽子を押さえる者、逆巻く髪に声を上げる者もいたがそれは悲鳴ではなく、肌で感じた迫力への称賛だ。
 髪が吹っ飛んで蹲った人は悲鳴だろうけど、個人による感想なので気にしなくていいね。
 一方で果汁の滴る良い男となった鳳鳴は、甘味と共に爽やかな香りと、顔中べったべたになった状態でぼんやりと呟いた。
「なんぞこれ」
「さささ、移動だ移動、急ぐよ鳳鳴!」
 鳳鳴の果汁だけはそのままに、回収したリンゴジュースは先着順に配り終えたブレナンディハーフは彼の縛り付けられた机を引き倒し、そのままいずこかへと引きずり去って行ったのだった。

『……すっごい光景だ……!』
 花火に合わせて人々の頭上を駆け抜けたアルジェント・リーゼ。搭乗するシルは羨望と歓喜の表情でこちらを見上げているのだから壮観だろう。
 若干の照れ臭さもあって頬を染めるがこれも平和の為に為すべき仕事、能天気で危機意識があるように見えない市民どもとは言え、今まさに都市部爆砕の可能性があるなどと知る必要もない。
(それに、みんな戦いが続く中で疲れていただろうし、みんなが力を合わせるこの新しい連邦共和国。紛争が終わると思っていたのなら尚更だよね)
 実際にはこれを契機に力を示す、それだけの理由で敵国を壊滅させようとしてるのが第一連邦共和国の考えだ。
 敵対者を完全に消し去る事。それは戦争国との火種を残さぬ力はあるのかも知れない。だが更なる戦争を呼ぶ行為であり、力を優先する者は反発する力を呼び寄せるのは確実。
 民草は否応なしに戦いの渦へ引きずり込まれてしまうのだ。
『だから不安は消す、全力で!』
 先程まで摩那らのいた場所はすでに空き、火花が柱のように噴き上がり道を作る。天を往くアルジェント・リーゼはひらりと反転急降下。
 そのまま加速して彩られた花火の道を貫いた。夏の陽射しも吹き飛ばす涼風が人々の合間を駆け抜けて、その振動、迫力にただひたすらの歓声だ。
 舞い起こる風も本来なら爆風と呼べる代物で、専用の道があると言っても加速したキャバリアが人込みを行くのは危険だ。しかし今回、操縦席に持ち込んだ風精杖【エアリアル】にも契約された風の精霊、エアリィの加護がある。
 これは戦いに非ず、平和を謳歌する人々を守る為の催し物。巻き起こされる風を精霊機へと集約し回転拡散、人のいない後方への推進力と同時に周囲へも弱まった風を押し出す事で、風の集約された機体負荷の低減と人々の体感要素を安全に引き上げているのだ。
 花火を潜り急上昇するアルジェント・リーゼはレールに導かれるが如き華麗なターンを見せ、背が地に、表が空へと向けばシルの目には眩しい太陽を抱える青空がどこまでも続いていた。
 この光景は、精霊機を追って空を見上げた人々も見ているはずだ。同時に思い出して欲しくもある、奪われた空の青さと自由を、そしてその自由を守る為に戦う事は、決して無為な犠牲を強いる事とイコールでないことも。
 そう、例えこの空という道を見なくなって、ただ大地に広がる手足をぶつけあった人々が争うというのならばなおの事。
 機体をロールして顔を下に向ければ、変わらず輝く瞳がこちらに向けられていた。猟兵を希望とする世界もある。ここではそこまでの象徴ではないが、それでもこの世界に影響を与える、例え武力であっても戦乱の世を平定へと導く力があるのなら。
『いくよっ、リーゼ!』
 インメルマンターンを決めたシルは人々の集まった場所のみならず、まだまだ広い範囲にいる人々の視線を釘付けにし人を集めようと大空に羽ばたいた。
 背部に装着する、翼を模した大型スラスター【エール・リュミエール】が光を放ち、飛行機雲とは違う光の軌跡を描く。
 シルの行う演目はエアコンバットマニューバ、戦闘機による空中戦闘機動をキャバリアで行う。通常戦闘機による進行方向に対し上下の軌道修正をループ、左右の回転をロールと呼びそれらを組み合わせた鮮やかな動きはドッグファイトとも称される戦闘機同士の後方の取り合いに切磋琢磨された技術だ。
 なお、彼女の実演したインメルマンターンと呼ばれるものは上方向へのループとロールを組み合わせて元の進行方向と逆方向へ切り替えるものとなっている。アルジェント・リーゼが地面すれすれのタッチ・アンド・ゴーに似た超低空飛行を行ったのも、観客へのサービスだけでなく縦方向の空間を確保する為だ。
「定刻通り、ただいま到着です」
 誰もが空を見上げる中、やって来たのはキャンピングカーに乗った桜花――、と、そのキャンピングカーを持ち上げたアリス妹軍団であった。

 空を描く光の軌跡の町の一画を覆う頃。
 シルバー・モノクル内で啜る二つ目の缶コーヒーもすっかり温くなって、ルゥは空調設備の前にそれを置く。常人であれば渋い顔でもしそうな場面と同じ気分を味わっているだろうが、顔には出ない様子である。
 その間も彼の目は忙しなく各モニターを行き来しており、散布ドローンによる地形情報と家屋やその他の施設からなる地下の状況も情報化し積極的に共有に努めていた。
 と、ここで小さな電子音。
 摩那のドローン・マリオネットからの情報だ。彼女がヨーヨーショウをやっている間もこちらが情報を収集していたが、それも終わった事で本格的に動き出したのだろう。
 皆が集まっている場所より離れて町の出入口のひとつに、集合ポイントへ応援に向かったキャバリアたちが引き返していく動画が送られていた。
「…………、あの指揮官からは冬季さんの行動もあって応援を呼んでる様子は無かったし、自主的に動いたなら戻る理由はふたつだけ、ですか」
 ひとつは現場と連絡を取り合い問題なしと判断したか。
 もうひとつは輸送車両の到来だ。
 マリオネットの情報を共有し他の場所に待機しているキャバリアたちも確認すれば、猟兵らの催し物に関していないキャバリアの内の一部は引き返した者らと同じ方向へ移動を開始している。
 ただ持ち場に戻っているだけではなく応援を呼び、されどその方向にトラブルの様子は見られない。
(ビンゴ、ようやくお出ましか)
 地平線の彼方に噴き上がる蒸気を認めて、ルゥは気合を入れ直すでもなくただ渇いた喉の為に、未だ冷えぬ缶コーヒーに手を伸ばした。


●パフォーマンスとはこれ即ち筋肉である。
 よっこいせ、と車を下ろしたアリス妹たちは先程アルジェント・リーゼの駆け抜けた花火を撤去と言う名の摘まみ食いにしつつその場に固定、二匹一組の前後に並んだツー・インセクト・セルだ。
 「しけてるわー」「消し炭ねー」「カリカリして美味しい!」など味の感想が溢れているが、量は足りない事で一致しているご様子。
 桜花も目立たない箇所へと車の移動を終わらせて、とことこと戻って来れば摩那のラン・ザ・ドッグで砕かれた地面の一部を糸で固められたお立ち台まで用意されていた。
 空に描く光の軌跡を目で追って、桜花はシルの願いを汲み取ったように真剣な眼差しを、しかし笑みを浮かべて台に上がる。その様子を見て前にいたアリス妹たちは身を伏せて、後ろのアリス妹たちは前肢と胸部から生える天地無用の悪路走破に長けた移動用の多脚【関節肢】を伏せた側のぷりっとしたお腹に乗せた。
 ぷりっ、と言うにはサイズ感がやべーけどそこは女子、表現には気を遣う事は大事である。
(桜花さん、シルさんもそろそろ戻って来るそうよー)
「分かりました。それでは妹さんたち」
(はーいっ)
 頭の上でぴょんぴょんと跳ねる幼虫はシルと交信しており、少女の動きに合わせて桜花が蒸気機関式の拡声器【シンフォニックデバイス】を構えれば成虫たちは他のアリスの腹を軽やかに叩いて音の確認をする。
 ぽこぽこと独特な音が鳴り、大抵の音はわかったと動きを止める一同。
(来るわー!)
『ハートループいっくよーっ!』
 ループによる上昇から頂点付近でエール・リュミエールの片翼を広げて推力を止め、風の抵抗に合わせて不安定な機体をループ頂上でくるりと機体を回転させるアルジェント・リーゼ版のスナップロールを実行。
 更に風の精霊による力で機体内部の熱を急速放散、風力による冷却を同時に行う事で機体表面を濡らす事で発生した厚みのある航跡雲が、精霊機の跡を描き出す。
「うっほほい素敵! ハートマークだ!」
 下方ループにより発生地点と結べば、ヒゲゴリラのような親父が叫んだ通り空に刻まれた白のハートとなった。
 ここで響くドラムロール。無論、アリスらである。
 小波のような流れる音と、小刻みに叩かれた小高い音。それも本当のドラムではないのでどこか軽い、可愛らしい音となってマーチを刻む。楽器としてはアリスの腹太鼓のみであるが、甲殻を持つ体と前肢、関節肢という異なる硬度、重さ、形を利用する事で多彩な音を表現していた。
 唐突の演奏に驚く面々に対してシンフォニックデバイスを向けた桜花が息を吸うのと、シルが空に描いたハートの中心をアルジェント・リーゼで貫くのは同時だった。
 射抜かれたハートを表す飛行機雲なんて、こりゃロマンティックなラヴソングの始まりだね。
『――全ての愛は、筋肉に通ずッ……!』
 歌じゃないわ宣言だわこれ。
 ロールし機体を横に傾け、観衆の外回りを旋回する精霊機。その飛行音すらもアリス妹軍団の演奏に華添えし、桜花の宣言を受けて踵を揃え、背筋を伸ばしたアサガシアンが子供どころか母に抱かれた赤子までもが敬礼する中、遂に歌唱が始まる。
『皆様の一時を私たちに下さい。響け魂の歌劇、この一瞬を、永遠に!』
 【魂の歌劇】――、歌を披露する事で対象の心を強く震わせ、彼女の魂そのものとなった歌唱を聴き続けたいという感情を与える。シルのマニューバにより更に衆目を集めたこの場では、彼女の歌と演奏、そして空を行くアルジェント・リーゼとが一体となり人々の心をお縄にかけること間違いなし。
 国歌斉唱、〝筋肉あれば憂いなし、筋肉万事塞翁が馬〟でございます。
『青人草よ、武器を取れ』
 歌い出しと共に曲調のテンポががらりと変わる。ロックを思わせる激しさに転調し、激しく力の籠った打のリズムが力強く人々を足から、そして鼓動を高鳴らせる。
 アリス妹らも音に深みが出るよう大きく口を開き、ぽこぽこという音に口の開閉で変化を与えていた。あくまでぽこぽこであるが、これだけの数が揃い一糸乱れぬ集団行動となれば音の厚みも相当なもの。
『畑を耕すは素手でも出来るだろう
 社会に出るも無学で出来るだろう
 その時 君は 終点を見るか
 その時 君は 夢を見てるか』
 国歌と呼ぶには余りにも攻撃的な律動だが、その素直な歌詞にはただシンプルに人々へ語り掛ける力を持っていると言っても良いだろう。
 シルもタイトルの割りに思いの外まともそうな歌詞が出て来た事に驚いたようだがそれはそれ、こちらも負けてはいられないと旋回していた機体をロールしピッチを上げ、螺旋を描いて渦巻くように天へと向かう。
『その時 君は 幾つだろう
 その時 君は 燃えるのか』
 先と同じく描く航跡雲は、途中途中にロールとピッチアップを組み合わせた、その名の如く樽の腹をなぞるようなバレルロールを行っている。竜巻のように駆け上がるアルジェント・リーゼ自身をも旋回することでふっくらとした雲の山が人々の視界に顕現したのだ。
『青人草よ、武器を取れ!
 さあ さあ
 今こそ
 時は過ぎる 非情に!
 人は消える 無情に!
 さあ さあ
 今こそ!』
 先も後もない、今こそが。人生を生きていく上で学びし過去は重要だ。人生を生きていく上で夢見る未来は重要だ。
 だが今、自分たちが立つ場所はどこか。そう、現在にしかないのだ。生きる上での時間の節約の歌だと見たねこれは。
 ここで激しいドラムロールは尾を引いて消えゆき、アリスらの鋏角を軋ませる音が弦楽器のように優しい旋律を奏でた。
 実際には耳障りな音ではあったのだが、甲高い飛行音と組み合わせる事でエグみが消えて澄んだ音に聞こえるのだ。勿論、桜花の歌声という糊付けがあったらばこその現象で、カクテルパーティ効果の利く人だと辛いかもね。
『土を耕すならば農具を 社会の荒波にはペンを』
 シンフォニックデバイスを持つ右手はそのままに、左手を空へと向けた。揃えた指から親指と小指を開き、封じられし戦闘機の形をアルジェント・リーゼに重ねる。
『人は生きる時代の中で 人は紡ぐ時代の流れを
 生きる為に持つ物それは全て武器なのさ』
 太鼓役のアリスが強力な前肢で地面を砕き、奏者アリスたちも力を込めて腹太鼓を叩く。
 再び戻る激しい旋律の中、桜花の頭上から舞い降りるアルジェント・リーゼの腕の中にはそれよりも背丈が低いながらがっしりとした体つきのドゼットが収まっていた。
 着地する前に打ち上がる花火の閃光が視界を白く染め上げて。
『青人草よ、武器を取れ!』
 閃光が消えればアルジェント・リーゼの姿は無く、代わりとばかりに二体のスクンクが新たに現れる。
 実はこの二体、アルジェント・リーゼが運んだ訳でもなければ自ら閃光の隙に登場した訳でもない。【ワイヤーハーケン】による手繰り寄せだ。
 これは錫華の用いる自身を遥かに凌ぐ重量を支えられる鉤爪のついたワイヤーをキャバリア用に制作された代物で、ゴッドハンドがありあわせで仕上げたという。
 コストの割りに使用感は彼女の持っている物と変わらないらしく、二つ名は伊達ではないと言えよう。
『……え……?』
『いつの間に俺たちここにいるんだよ!?』
『今の間だけど、外部スピーカーの電源はちゃんと切ってね』
 混乱する操縦者の言葉に注意を入れる錫華。実際の所、熱狂する人々に混乱して零しただけの彼らの声を拾われる心配はないが、もしもがあると桜花のユーベルコードの力も減衰してしまう。
 それにしても、このワイヤーハーケン。両腕に射出できるよう装備されてはいるものの、これは戦闘でないため使い道が悩ましい。
(これを使えば派手な演武は可能だけど、それじゃ猟兵がアサガシアの兵士を一方的に倒しちゃう格好になるんだよね)
 錫華がとある連合国で教わった戦闘術で、ワイヤーハーケンの撃ち込み箇所を支点とし、キャバリアのスラスター併用から成る三次元機動戦術。それは山峡や森の中など狭い箇所でその真価を発揮するが、飛翔能力を持つ機体であれば地面を利用した急降下・急旋回と十全でなくとも回避性能を伸ばすには打ってつけだ。
 名付けてずばり【蜘蛛の舞】。
 その反面、どうしても自分の活躍を中心とした見世物になってしまう。アサガシア正規兵に敵役を任せるに近く、それでは新たな国の始まりを祝福する催しとして不完全ではないか。その疑念が錫華の頭に浮かぶ。
(レンジャー部隊が共感されるようにして、かつ、…………。
 うん、これでいこう!)
 戦闘機を模した手を握り拳に変えて力強く引き下ろす桜花。そこへ後方から頭上を抜ける銀青の装甲が風を巻き起こし、桜色の髪を巻き上げる。
『戦え今こそ 過去を振り返らず
 体を鍛え 爪と牙を砥げ
 筋肉あれば憂いなし 筋肉万事塞翁が馬』
(そこでタイトル入るのかぁ)
 曲の盛り上がりに合わせて入るタイトルってテンション上がるよね。
 錫華はじっとりとした視線を桜花の背に向けたが、これは彼女を批判する意味でない事は当然の如く。
 言わんとしている事は分からんでもないのだが、なんかもうフレーズが独特よね。
『外野は大盛り上がりで外の集音器は切れってさぁ、なんか盛り下がるよねー』
『クーラーのロックが解除されてなかったら暴動もんだぞこりゃあ!』
 相変わらずグチグチしてんなこの二人。
 桜花の歌の影響が彼らにも及ばないようにと外の音が聞こえないように気遣っている訳だが、そんなのは知っちゃこっちゃねーとばかりである。
 こちらとしても不信感を持たさぬよう言い出せないので仕方がない事だ。
『しかし動きや音楽に合わせて演武たって、こうも聞こえないんじゃ勘も取れないぜ』
『大丈夫。ダンスはお互い相手を踊らさせるものだし、演武も一緒だよ』
『そんな馬鹿な――うをっ!?』
 激しくなった強打のドラムに合わせた踏み込み、そして手刀の縦一閃がスクンクの武器化した腕とも呼べる拠点破壊用多砲身グレネード砲にへと叩き込まれる。が、勢いはあっても接触前にその速度を落とし、実際には押し下げる形だ。
 それでも急激な力を加えられれば打撃でなくとも体勢は崩れる。傾いた機体を巻き込むように回転して足をかけ投げ飛ばす。
 格闘戦用に調整されはいても動きは固く、パワーはあっても運動性は低いと見ていいだろう。体つきも機体出力に傾き内蔵兵器のお陰で厳ついだけで装甲が厚くもない。デッドウェイトが少ないので動きが遅すぎる事もないが。
(演武だからいいけど、実戦となると攻撃力以外に思いの外、長所ないんじゃないかな、これ?)
 ゴッドハンド仕事弱いよぉー!
 投げ飛ばす際もグレネード砲を掴み、それとなくかけた足で再び足をひっかけることで回転する体を支え、綺麗に着地させ。
(なぁるほど、それなりにやってくれるって事か!)
 錫華の巧みな近接行動に安心して、と言うよりも腹立ちまぎれに背後から殴りかかるスクンクに、後ろ蹴りで殴りかかった右腕を脇の下から巻き込んで引き倒す。
 受け身らしい所作は見えなかったが、実は保護色で潜んでいたアリス妹の張った糸で衝撃は低減されており、見た目ほどのダメージはないだろう。パイロットの精神状態は不明だが、最悪は潜むアリスらの糸で操り人形になるので問題ない。
 その間も桜花とアリス妹軍団による歌唱は続いている。
『青人草よ、武器を取れ!
 戦え今こそ 未来に目を眩むな
 筋肉あれば憂いなし 筋肉万事塞翁が馬』
 ここでどこからともなく現れたアリス妹、恐らく演武補助をしていた一匹が桜花のお立ち台を持ち上げ彼女を高みへと導きながら前へ移動する。
 妹軍団の演奏も再び静かな部分に入っており、歌が止まっている間に錫華らの演武区域を広げたようだ。これで更なる大暴れをしても中の人であるレンジャー部隊以外は大丈夫という訳である。
『ンなぁろおおおおおっ! やってやるぜクソったれえええええ!!』
『いいように蹴り転がされているだけじゃーさすがにねー!』
 やる気満々じゃん。
 別々のタイミングで仕掛けても流される、ならば同時と踏み込む二機のスクンク。射撃に偏重した機体であるのに市民を巻き込まないよう使えず、時間差を組み合わせた連携も固定された腕を振り回す程度ではやりづらいだろう。
(ならば――)
 右足を側方に大きく伸ばし、左足は膝を外側に向けてこちらは大きく曲げ、腰を深く落とす。柔らかな挙動の機体であればもっと楽に自然体で出来ようが、この機体だと少々無理な格好となる。
 だがお陰で体は左方向にずれて大きく下がった溜め、同時に殴りかかった正面右の一機からは左の機体が邪魔で攻撃できず、左の機体も屈んだに近い姿勢の精霊機に当てられる攻撃は縦軌道の振り下ろしぐらいのもの。
『もらったぜーッ!』
『誘ったんだよ、ねっ』
 槌の如く振り下ろされたグレネード砲。ここへ交差した腕で受け止める――ではなく挟み込み、逆にスクンクの腕を引き込む。それを支えに機体側面に回り込むようにして起き上がり、目の前には振り下ろした腕を引かれて大きく体勢を崩した機体と、その後ろには仲間が邪魔で対応できない機体と。
『ちょっと強いから、妹さん!』
 密着に近い肉薄距離。瞬時に繰り出した左肘がスクンクの右脇腹を狙い、錫華の言葉に「そいっ!」と投げられた糸玉がヒットポイントに付着、見事な緩衝材となり機体損傷を防ぐ。
 が、それでも声掛けするほどの威力。弾き飛ばされたスクンクが後方のスクンクを巻き込んで転がり倒れ、しかし受け身を取って起き上がる。
 どう考えても機体構造上無理な反応だが、まあパペットマスターがわいのわいのしながら糸を飛ばしてるからなんとかならぁね。
 だがこの攻防、見る者はやはりアサガシアン。強大な猟兵を前に挑む我らが兵士として映るらしく、何度投げ飛ばされ、その身を打たれても立ち上がる様は国歌にある武器を手にした人間の、がむしゃらに前へ進む行動力と重なったらしい。
 錫華の狙い通り。目に涙を浮かべる者もいて感動しているのが見て取れる。猟兵効果ってすげーや。
 中の人にまだ意識があるかは不明だが、睨み合う両者の間を裂くように花火が打ち上がる。これはレンジャー部隊が仕掛けた物ではなくチェスカーのこさえた花火砲弾。
 閃光により両者の姿が消える中で、影となって浮かび上がるのは改めてアリス妹作の高台に固定されたお立ち台より、桜花だ。
『人を倒すならば武器を 悪意の矛先には防具を』
 静かな歌い出しにの中でも紙吹雪が散り、黒い影となった彼女に真夏の雪が如く白のアクセントを加えた。
『人は生きる争いの中を 人は紡ぐ血潮の昂りで
 生きる為に歩む道それは全て戦いなのさ』
 闘争こそは生きる標、とでも言いたげな歌詞である。それも真理のひとつかも知れないが、それを是とする者がどれだけいるだろうか。
 少なくとも戦いを生き抜く事が力であり、力こそが命そのものと言い換える事は可能だろう。
 なれば歌え、平和を求めて
『青人草よ――』
 消え入りそうな細い声。それに呼ばれたとでも言いたげで、左右に駆け抜けたアルジェント・リーゼが閃光を消し去り新たに打ち上げられた彩煙雷が彩るは桜花と、後方に立ち並ぶスクンク・ドゼットであった。
 摩那のドローン・マリオネットから位置情報だけ算定してメインモニターを切り、閃光の中でワイヤーハーケンを打ち出して対立していた両者が立ち並ぶよう高速移動。崩れ落ちる一体のスクンクを、他のスクンクとドゼットで支え合う。
 他国とも手を取り合う、そんな未来を象るように。
 桜花の手が観衆へと広げられる。
『武器を取れ!』
 返されるは雄々しく叫ぶ男たちと女たち、子供までもが目に涙を浮かべ、流し、彼女の想いに応えるように会場がひとつとなる。
『さあ さあ 今こそ
 時を超えろ 友情と
 人は満ちる 愛情と
 さあ さあ 今こそ――』
 長く、長く、息が続けば続くだけ長く。
 想いはまだ乗るのだと、天高く仰ぐ桜花の歌声が街を駆け抜けて。
 止まる。
 だがその沈黙も一瞬で、敬礼を終えた全ての人間が拳を突き上げた。
『青人草よ、武器を取れ!!』
 再動するアリス妹たちの激しい旋律に桜花は再び前を向き、観衆もまた声を揃えた。
『血を流す過去はもう終えただろう!
 未来に縋る絶望をも超えただろう!
 この時 君は 始まりの空を
 この時 君は 誰と手を握る
 その時 君に 武器は無くて
 その時 君に 熱い心在れば
 そうさ 君の 鍛えた肉体は
 そうだ 君と 鍛えた仲間は』
 筋肉あれば憂いなし、筋肉万事塞翁が馬。
 最後のフレーズは観客たちに捧げ、音楽が止む。拍手喝采が巻き起こるのは余韻もなく、息次ぐ間すらない刹那の後だった。
 息を切らし汗を拭う桜花は風の中心にいたとは言え、また熱の中心にいたこともあって頬を上気させており、即座に飛んで来たマリオネットから受け取った水を一気飲みしている。アリス妹によって高台から降ろされた桜花は国民たちに熱く、そして暑苦しく迎え入れられるが、妹らの接近禁止というガードの硬さでそれを防いでいる。
 人の群れから距離を置く事で、ようやく落ち着いて新たな水をゆっくり飲む桜花。
『どうだった、わたしの空中機動? 楽しんでもらえたらうれしいなっ!』
 そう言って着陸したのアルジェント・リーゼ、言葉の後に姿を見せるシル・ウィンディアを、これまた「勿論だ!」と熱烈に受け入れ機体の足下に駆け寄る熱狂派をアリス妹らがころころと転がしその辺に放置している。
 予想を遥かに超えた反応に苦笑いしつつ、操縦席から風精杖を持ちふわりと降下。辿り着いた先で桜花を涼やかな風で取り巻いて、お疲れさまだとその活躍を労った。
「いえいえ、シルさんこそ。素晴らしい空中機動でした」
「出来るだけハデにやろうと頑張ってさ。正直に言うと、そっちよりみんなを吹き飛ばさないようにするほうが難しかったよ」
 照れて笑うシルの頭を撫でてやりながら、桜花はお陰で回復出来たと立ち上がり背伸びを行う。
 余計に照れ臭そうな様子のシルは視線を逃がした先で群青色の頭部を備えたスクングがぼんやりと座り込んでいるのを見かけ、「あれはレンジャー部隊の!」と逃げるようにそちらへと向かった。
 走り去る少女の後ろ姿を見送って伸びをする桜花は、人々によって封鎖された軌条へ目を向けた。
(……輸送車両との乗り合いが難しいならマッハで飛べば、さほど遅れず現地到達出来ると……多分ですけど。
 難しくはなさそうで良かったです)
 人の波より現れる蒸気と汽笛の音は、輸送車両の到着を示していた。


●時計の針を少し戻そう。
 時は溯り輸送車両のアサガシア到着時刻。
 カイラン・テンより連絡はなく、輸送車両を確認したアサガシア軍部の報告を受け街の出入口へ集まるスクンクたち。
 輸送車両の進行方向では閃光や飛行物体を確認しており、問題ないとする指揮官の言葉を受けながらも念の為とその場所へ向かう者たちもいたが軍部の連絡に持ち場へと引き返した。
 少なくとも連絡確認が可能な事、被害が出ていない事、何より猟兵が介入している事を信用したのだろうか。生温い対応だが最優先すべきは輸送車両の護衛を徹底されている証明だろう。
 市民の人命よりも優先すべき事項として。
『止まれ! 顔は見せなくていい、所属と行動目的を述べよ』
『あと三歳の娘の誕生日プレゼントに何がいいか教えてくれ』
 輸送車両を止めての言葉。なんか個人的な質問してる奴いるけど?
 元々顔を知らない間柄であり、急ぎの物品とあってか必要最低限。輸送車両の確認自体は随時やっているはずなので、あくまで礼儀的な質問だったのかも知れない。
『カイラン・テンより陸上走行艇マーマレード所属、タロウ・モモチ大尉。趣味はハンドルキーパー、特技は飲酒運転、好きな物はアルコール、嫌いなものはマーマレード。行動目的は貴国へ命じられた物品の運搬と速やかなる引き渡し、お土産品の物色と余った時間で特産品のお酒を浴びるように飲み定刻までに帰投する事だ。
 個人的な意見として三歳の娘へのプレゼントなら、まずは父親が一緒に遊んであげること、それから一緒に彼女の欲しい物を買いに行く。これがベストだろう』
 なにコイツやかましいんだけど?
 何か不要な情報がありまくりだが所属はマーマレードなる陸上を走る施設ないし兵器、目的はアサガシア・ムルチ起動に携わる部品だろう。
『うるせえただのプレゼントじゃなくて誕生日プレゼントだって言ってんだろ! 誕生日ケーキのロウソク消してから買いに行けってかこの野郎!』
『落ち着け伍長、常識的に考えて誕生日会の始まる前にすべき事だ。その日は有給を取らせてやる』
 怒りポイントがずれてるけどしっかり同僚のケアをするアサガシアは割とホワイトだと思う。けどプライベートではなく公の場で私事を強制する奴は処刑でいいと思います。
『じゃあ通ってもいい?』
『勿論だ。輸送ルート上には市民が多く、交通整理も十分に進んでいる訳じゃない。すまんが事前の制限速度よりも更に低速での通行になる。
 ちなみにおすすめの特産酒はマーマレードワインだぞ』
 マーマレードは嫌いだつってんだろ。
 気が利くのか利かないのかわからん門番は注意事項と共に輸送車両の入場を認め、軌条を往く車両を追跡する警備兵たち。速度を落としているとは言え完全に追従するのも無理と判断されており、各区画ごとにリレー形式で警備を展開している。
 近場から輸送ルートに集まったスクンクたちがそれぞれ持ち場を受け持っている訳だ。
(遠くでは花火でもやってるのか、パレードで喜んでいるのは良いことだがこちらの業務に影響が出ているようではな)
 飲酒運転を特技にしている男が何を言ってるんです?
 タロウ大尉は先行きに不安を感じている様子だが、キャバリアの追従があれば大きなトラブルに発展しない限り問題は起こり得ないと結論する。
 もしもの場合の強行突破も各自に通達されている内容だからだ。
(む?)
 しかし道中前方、早速トラブルの類を見かけて汽笛を鳴らす。
 速度を落とした輸送車両を追い抜いてトラブルの種へと近づくスクンクたち。ぶっちゃけこうなる前にそういう要素を排除するのが君たちの仕事じゃろがい。
『! ……貴方がたは……』
『見ての通り、猟兵です』
 ででん、と並び立つエイストラとヴェルデフッドの背負う巨大なのぼりを操縦者のノエルが指せば、風に棚引く猟兵の文字。書いてるし名乗ってるんだから猟兵だ、間違いないね。
 桜花が歌を披露している場所とは離れており、こちらは外部拡声器で言葉のやり取りで間接的に輸送車両を扱う大尉にも聞こえている。
『その猟兵が、何故道を塞ぐ?』
『おっと、勘違いしないでくれカイラン・テンの旦那よ』
 口数だけはやたら多かったタロウ大尉から放たれたひりつく緊張感。追随するアサガシアンもまた訝し気な空気を発する中で間に入ったのはレンジャー部隊より、花火の準備を終えた者。
 一人は観衆の誘導、二人は猟兵との演武、そして彼は。
『こちらの猟兵がたは個人的な技術協力をしてくださるそうだ』
『ああ、オブザーバー的なものと考えて貰っていい』
『オブザーバーだと?』
 挑発するような言葉遣いの男に、厄介な物言いだと舌を巻きつつも晶は言葉を加えた。あの四人の中ではリーダー格を担っていたものの、本質的な大差は無いと見える。そんなやり取りのせいかより警戒を強めた声音にこちらを睨む大尉の顔が浮かぶようだ。
 確かに急に出てきて相乗りを、その目的が内密に運搬する物品に関連する事を言えば警戒するのも当然と言える。しかし。
『俺たちの事は知ってるだろう、ダンテアリオンとの戦闘にアサガシアと継続して協力する立場にある。奴らがヴィエルマでやらかした事を知っているなら、お前たちも他人事だと思ってはいないはずだが?』
『それに事故やら何やらの突発事態に備えるためです。スクンクの装備を見て頂ければわかると思いますが、距離を潰されてしまうとこの兵装では巻き込まれる可能性の方が大きいですし』
 確かに、それは事実だ。今までの行動と培ってきた信頼があるのだからそれに訴えるのも手だ。言葉を繋いだノエルも語るのは事実、猟兵を使うべき有用性を説いたもの。
(嘘を吐く必要もありません、安全第一)
 うんうんと頷くノエル。しかし相手の解答は予想外のものであった。
『それと今の状況に何の関係がある? 妻のヘソクリの場所を知っているこの私ですら運び荷の目的を知らないんだ』
『うん?』
『その前提に何の関係が?』
『言いたい事は分かるが今は静かにするんだ、ウィリアム』
 耳を疑う言葉へ的確に返したウィリアム。良くぞ言ってくれたとノエルが操縦席で頷くも、晶は頭を抱えてウィリアムを制した。
 なるほど大尉の語る前提はさておいても機密事項を知っているともなれば不審に思う。晶の信頼も、ノエルの理屈も分かった上での判断だ。ならばどうするかとヴェルデフッドへ目を向ければ、任せておけとばかりに首を縦に振る姿。
『とかく、我らカイラン・テンも猟兵を友好的に見ているがそれだけだ。直接助けられたアサガシアやヴィエルマとは違う』
『その不安を解消する為に必要なのは俺たちがどうして機密情報の核心を知っているのか、それが分かればいいと言う訳だろう?
 だが直接言うと立場が悪くなるんだ――、そこの男の』
『…………、え、俺?』
 ヴェルデフッドに指を向けられ、目を瞬かせる。どういう事だとアサガシアの兵士たちと共にタロウ大尉も首を捻り、話は長くならないからと晶の進言に困惑しながらも通信回線を開いた。
『それで、理由と言うのは?』
『今、彼の隊長がこのプロジェクトに携わっていてな』
『うん?』
『隊長が漏らした内容を部下のこの男が俺たちに漏らしたんだ』
『あちゃぱー』
 情報管理どうなってんのアサガシアン。
 他国の失態ながらすでにもうひとつの国になろうというこのタイミング。余りにもお粗末な内容は、すでに身内の恥だと聞いたタロウ大尉も羞恥に顔を染める。
 勿論、これは晶の口から出任せだ。タロウだけに聞かせたのもレンジャー部隊の風評を気にしての事だが、この男の様子を見るにこれからは自分たちの醜聞となる内容を吹聴する事もないだろう。
『……はぁ……、だが難しい事だ。猟兵が味方してくれているのは周知の事実、協力してくれるなら心強いだろうが私の役目ではない。
 連れて行く事は出来てもその先はわからんし、こちらまで門前払いを受けるかも知れない』
『その時は俺たちを降ろせば済む話だろう』
 元凶を押し付けられたにも関わらず状況に置いてけぼりなレンジャー部隊はさておき、話は終わったかと空よりやって来たのは鳴上・冬季と黄巾力士。
 その脇に抱えられるのは鳳鳴とブレナンディハーフだ。
「……も、もう乗っていいのか……?」
 エイストラの足下からむくりと身を起こして、美亜は僅かな陽射しからも逃れるようにしてすっかり覇気を無くした顔だ。
 桜花のキャンピングカーという快適な空間から出る事になり、暑さと渇きに耐え忍んでいたのだろう。摩那のドローンが定期的に冷水の差し入れをしてくれているので熱中症などになってはいないが、余程辛かったと見える。
 よろよろと立ち上がる彼女が進めば「まだですよ」とノエルがエイストラの手で止めに入るが。その間にも、黄巾力士から飛び降りたブレナンディハーフが今度は輸送車両上へと飛び乗っていた。
「猟兵をやっているものだ、目的地まで乗せてもらおうか!」
『ちょっ、何だこのケダモノ!?』
「ええい止めんか! 話の流れを読めうつけ!」
『何かテカってる人も来たぞ!』
 暴れる片割れに未だ果汁を滴らせる鳳鳴も輸送車両をよじ登り止めに抑えにかかる。本来ならば兵士たちも止めに入ったろうが相手は猟兵、仲間たちの命を救い勝てぬはずの戦場を勝利へ導いた者たちだ。
 そんな彼ら同士が護衛対象の上で取っ組み合いするもんだから混乱してしまっているようだ。
 とは言えスクンクでは車両内部にまで被害が及ぶ。どっちにしろ彼らに手出しは出来なかろうが。
『マスター、止めに入るべきでは?』
『いや、論は使って心はこっちに着いているしフォローは要らない。立場に縛られてるなら、後は実力行使ってのも悪くない手だ』
 思わずにやけた顔を引き締めた晶。状況を楽しんでいる、それもあるが事を進められる確信があったればこそ。
 そんな晶の心を知る由もなく鳳鳴に抱き止められたブレナンディハーフが吠える。
「さあ乗せろ、出なければ降りろ!
 さもなくば僕の情欲を余すことなくぶつけてやる」
『ひえっ、意味がわからない!』
「く、このっ!」
 全く持って理不尽かつ理解すらしたくないブレナンディハーフの主張に震えあがるタロウ大尉だったが、これでも大尉、彼は軍属である。
 自らの携わる任務の為、ここで退くという選択肢は一切無いのだ。
『なめるなよケダモノめ! 愛妻家であり恐妻家でもあるこの私、三十も後半となった男盛りまっしぐらなタロウ・モモチに目をつけたのだろうがそうはいかん!
 例え武力を他国に預けていたと言えど軍に預ける身、カイラン・テンの為ならば命を捧ぐという誉れに偽りはない! ただし命が惜しくないかと言われればそうでもないし男に襲われたくないかと言われれば当然そうだと答えるのでお忘れなく!!』
 切実ゥ! でも誰だって共感するよねそりゃあ。
 しかしそれはあくまで個人のお気持ち。例え悪漢にその身を開く事になろうと、定まった覚悟を宣言したのだから漢と呼ばざるを得ないだろう。
「大丈夫だ、怯えずとも言う通りにすれば尊公も車両も無事帰れよう」
『覚悟を理解して頂ければそれで良い! 車両を開くのでそのケダモノを押さえたままにして貰おうか!』
 誉れはどうした犬野郎。
 完全降伏の意志を公言したタロウ大尉により、輸送列車の全ての装甲が展開し、誰をも受け入れる形となった。後方の資材運搬用車両も一両を除き全て展開しているがいずれも空だ。
「おや、必要な部品とやらは随分と少ないようですね」
「仔細は聞かないで欲しいものだが、まあ残りの車両は経由したヴィエルマ領に荷物を降ろしている。キャバリアを載せるもいいだろう」
 詮索するつもりはなかったのだが思わず呟いた冬季に、運転席まで開く平身低頭の態度を見せた大尉はしっかり疑問に答えている。
 すっかり従順になったタロウ大尉だが、美亜としては救いの手だとしっかりお礼を述べて車両に乗り込む。満足したのかブレナンディハーフも手間なく鳳鳴と共に車両へ移った。
『世話になる』
『よろしくお願いします』
 人と同じサイズとは言えとても座席には座れぬ黄巾力士と合わせ、エイストラ、ヴェルデフッドも貨物用の車両へ上がる。
 ここまで追従していたスクンクたちも猟兵が相乗りになった事で必要ないと判断された。色々と出汁にされたレンジャー部隊の一人も同様である。
「私は空からついていきますので、こちらの警戒もしておきましょう」
「ああ、頼むぞ」
 す、と浮き上がる冬季に手を上げて、タロウ大尉は車両へと戻って行った。


●時計の針を少し戻そう。
 そして時は流れ現在へと至る少し前。
「そろそろ他の猟兵たちの居る所も近いな」
 車両内の冷気ですっかり回復した美亜は外を眺めて意地の悪い笑みを見せた。
 猟兵らが乗り込んでいる事で相変わらず輸送車両を追従するアサガシアの兵士はいないし、この付近の者であれば猟兵の催し物に引き込まれて骨抜きになっているだろう。
 そうでなくとも押し合い圧し合いの密集地、すぐに動ける状況ではあるまい。
 動くとしようか。周囲の者へ目配せし、美亜は席を立つ。向かうは先頭車両、運転席だ。
 セキュリティも糞もない引き戸をがらりとやれば、鼻をつくアルコールの臭いに思わず眉を潜める。もう特技を披露してらっしゃる?
「ああ、猟兵の……ええと……?」
「レイリスだ、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット。大いなる始祖の末裔である」
「そこまで聞いてないが俺も喋り過ぎるので親近感を禁じ得ない」
 自覚あったのかタロウ。
 よろしくと差し出された手を握り、大尉は何の用事かと胡散臭そうな目を向ける。いや酔った人に良く見られるちょっと眠たげな目である。やっぱこいつもう飲んでるよ!
「何、私の偵察機を先行させようと思ってな。仲間が空から見張りはしてくれているとは言え、先んじない理由にはならない。
 だからそこの窓を開けてくれ、何か異変を見付ければ知らせるので悠々としていればいいさ」
 ここで取り出だしたるはユーベルコード【Operation;MORNING GLORY】からなる戦闘機型の工作機。片腕から背中にまで達する大型装備【神喰級空母の飛行甲板】に搭載されていた物の一機で、左腕に装備された滑走路から発進する機体が右の掌に乗る。
 掌に乗るサイズで何の役に立つのかと疑問に思えるが、内容が偵察となれば相手を警戒させ難い小型機は良い案だ。
 しゃかしゃかと作業用アームを無意味に忙しなく動かしているキモカワイイ姿から目を逸らし、任せたと窓を開ければ早速発進する工作機。
(周りにアサガシアンはおらず、ここらの警備兵は我らの策に囚われて腑抜けている。私に時間を与えると言う事がどういう結果を招くか教えてやろう)
 悪い笑みをタロウ大尉の後ろで浮かべる。フロントガラスに映った怪しげな表情に気づいた彼だったが「顔色悪いし疲れてるんだろうなぁ」という優しい思いやりから特に触れる事はなかった。
 もう猟兵と関わった時点で何もかもが遅いけどね。
「…………、おっと。いきなり何か見付けたようだぞ。少し速度を落としたまえ」
「了解した」
 元々低速だった大尉は素直に美亜の忠告を受け入れ更に速度を落とす。牛歩とまではいかないが人の足でも追いつく速度だ。
 現場付近に浮遊する工作機は大尉の目には見えなかったが、あれだと美亜の示した軌条の問題個所はしっかりと確認できた。
 軌条の一部が焼き切られ、捻じ曲げられたように跳ね上がっている。
「不穏分子の仕業だろうか」
「おそらく、だが決めつけるのは早計だろう。
 列車は脱線したら大変だからな、……一体誰がこんな事をしたのやら……車両を停止してくれ、幸い上空から確認している仲間から周囲の安全は確認できているし、異常箇所付近にも問題はない」
 やたら饒舌っすね。美亜自身、本当は何の連絡もしてないがと胸中で舌を出す。
 そもそも空を行く冬季からは不穏な行為をしている工作機の姿は丸見えで、搭載された採掘用レーザーで線路を焼き切り、ご自慢の作業用アームで分かり易く通行不能にしている姿を視認できたはずだ。
 自作自演のマッチポンプである。勿論、ここで得る利と言えば。
「こちらで修理をしておく、この機体はこのテの作業に強くてな」
「感謝する。こちらとしても市民側と無用な揉め事は避けたい。ヒステリーの感染した人々は手に負えないからな。私は結婚して初めての夜にその事を知った」
「いや知らんが」
 うんうんとしたり顔の大尉を斬り捨てると窓を開かせて応援の工作機も順次発進。数を入れれば修復が早くなるのも当然で、美亜のサポートもタロウへ分かり易いアピールとなる。疑いを逸らす為の工作でもある訳だ。
 軌条の方も見る見るうちに修復されていき、最後はリズミカルな打撃音と研磨、切削する甲高い音が鳴り響き、新品同然へとなって修復は完了した。
 ともすれば三桁代の工作機を大量指揮し、波動砲による標準兵装を持った攻撃力と時間さえ割けば城どころか街までも築くのが彼女の使用したユーベルコードでありこの機体の性能だ。美亜の言の通り、この程度の修復などお手の物と言う訳だ。
「これでよし。ああ、だがこの先にも何か仕掛けられていないか調べるので少し止まっていてくれ」
「え? さっき異常はないから安心して車両を止めろと?」
「馬鹿者、状況は死体ではない。刻一刻と変化しているのだ。それを分かるんだよ軍属!」
「イ、イエス・マム!」
「よろしい。では付近の猟兵にも伝える為、汽笛を鳴らせ」
 思わず敬礼する大尉に頷き、その姿勢につけ込んで更なる要求を飲ませた。
 猟兵らの演目は終了しているはずだが市民も殺到している頃合い、これで輸送車両の到来を彼らも把握できるという寸法だ。
 喧騒の中、耳で音を捕えるよりも目で確認が出来るように。
(本当は通信で確認を取りたいが、歌に因るユーベルコードを始動していては集中力が重要となるし、周囲が騒がしければあれこれ考えるよりも目だけで情報を判断できるのだから良いだろう)
 噴き上がる蒸気と車内でも耳をつんざく程の大きな音に顔を僅かに歪め、これで良しと美亜は息を吐く。
「ふむ。これでこちらも次の行動へ移れますね」
 停車した車両上で冬季は哂い高度を上げる。進行方向には軌条を修復した工作機たちがそのまま偵察、という名の時間稼ぎだ。彼は彼でそれ以外の方向をと周囲を見回した。
 距離もあって鳳鳴らに誘導されなかった市民たちもちらほら見受けられ、演武や歌などは見ていないが足を止めて打ち上がる花火に喜んでいる。
(アメちゃん好きの国民性を利用させて貰うとしましょうか)
 懐から取り出したは【仙丹】は彼の自作でおやつとして持ち歩いている。よくボリボリ食べており他人にも気軽に渡す、激甘な嗜好品だ。本当に嗜好品として良い物なのかは知らない。
 しかしこのアサガシア、実はアメちゃん好きの激甘党な国民性を持ち合わせてはいないのだ。対立するダンテアリオンは病的甘党という激ヤバ国民性を持つ異常国家であり、アサガシアンらにそのような特徴はない。
 しかし一人だけ、その激ヤバ国民性に共感を示す人間がいたのだ。何を隠そうレンジャー部隊の隊長ボイット・レンジャーその人である。
 両国の武力衝突に初めて猟兵が介入した事件でもあり、ボイットの印象がそのまま国民の印象となったのだろう。
 妖仙という彼の出自と、そもそもの関りの無い相手に対する関心の低さによるものをと見れば、当然とも言える勘違いである。興味もってない事ならしゃーないね。
 とりあえずと近くの家族連れの元へ向かえば自国では見かけない装備と空中遊歩に猟兵だと気づいたのか、家族揃って黄色い声を上げて手を振るう。
 こちらもにこやかに手を振って――、閃くは逆の手。仙丹を指弾として親指から弾き出し、次弾を装填するように握り込む仙丹を絞り出して人差し指で捕え、続けざまに放つ。
「うッ?」
「ひゅっ!」
「おげぇ!」
 父母息子が一様に喉を抑えて膝をつく。咳き込む彼らに見向きもせず、次のターゲットを探してその場を後にする冬季。
 一体何が起きたのか、彼らには判断もつかなかっただろう。
「かぁー、ぺっ、ぺっ! うぅ、何だろう。虫でも飲み込んだかぁ?」
「わからないけど、でも……なんだか甘い香りが……?」
「なんだこれっ! 喉の中がゲロ甘いよとーちゃん!」
 ゲロとか言うじゃないよ小僧。
 一般アサガシアン家族は喉の奥に残った甘味に気づき、同時に驚いた。甘い、甘過ぎる!
「な、なんだこの甘さは! 配給の砂糖だけでは感じられない脳みそが痺れる程の濃厚な甘み!」
「それも喉の奥に微かに残っただけでこれなの!?」
「まるで甘味の核戦争や!」
 イマイチ共感できない例えが出たが、兎にも角にもその甘さに感動しているらしい。だが悲しいかな、母の言葉通りそれは喉を通り抜けた残り香のようなもの。仙丹本体ではない。
 慌てふためく一家がアサガシアンを次々と暴力的甘さの毒へ沈める妖仙の姿を探し始めるのも時間の問題だろう。それこそが甘さの中毒性、一度知れば人間を囚われの身として無限獄へ繋げる最強の毒ッ!
 その中毒性、身体への影響、あと大量摂取した際の罪悪感。甘味とは! 麻薬を超える魔薬なのだ!!
「ふむ。とりあえず姿を見せるか、手を振るだけで相手が友好的になる状況というのは楽でいいですねぇ」
 愛想笑いとも蔑みの哂いともつかぬ笑顔で次々とこちらを見上げる人々の咽頭を攻撃する冬季。
 急いで飛び回らず、わざとゆったり移動することで人々が自分を見失わないように調整しつつ。肩越しに振り向けば彼の姿を追う人の姿が、段々と増えているのが確認できた。
 甘味を求め生ける屍と化した人々が群れを成すまで、幾らもかからないだろう。
(実際に暴動が起きてしまったり、何かあれば宝貝【蜃夢】を用いて無力化させるつもりでしたが)
 彼が始動を考えていたユーベルコードは対象区域を蜃が見せる夢中の封神武侠、仙界へと入れ替える事が出来る。蜃は龍とも蛤ともされる存在だがこの点はさておき、攻撃を加えるには同じく宝貝を使わねばならないという法則が支配する世界だ。
(つまり、蜃夢の中で攻撃できるのは宝貝の類を持つ仙だけです。猟兵も例外ではありませんのでまとめて無力化できるのですが)
 使う機会が無いのを良かったと見るべきか残念と見るべきか。
 冬季の人々に向けられる笑みの裏で、彼は何を考えているのだろうか。

『晶さん、状況はどうでしょう?』
『ああ。ウィリアム?』
『展開した幻影は移動中、冬季さんの誘導するアサガシアンとは別方向から人々の誘導を試みています』
 貨物車両でのノエル、晶そしてウィリアムの会話。
 彼の扱うヴェルデフッドには、その肩に電磁波で敵機の位置を探り索敵妨害機能も有する【複合型ミラージュレーダーユニット】が装備されている。
 これにより電子戦にも秀でるヴェルデフッドだが更に【増幅器】を取り付ける事でジャミング機能を強化、鮮明な幻影までをも生成できるようになる。現在この区画にはルゥの散布したドローンが蔓延している為、これらを中継に何処へでも幻影を伝播する事が可能だ。
 そこで晶がウィリアムに制御して貰い街中に溢れさせた幻影が〝大道芸をしている人々〟だ。
 猟兵の催し物も終わり、汽笛により自分たちが集まっている事も周知している中、行動を開始する頃合いだとも判断できるだろう。新たな人のうねりに新たな策が有りと。
 と、ここで輸送車両が大きく揺れた。外の景色が流れ始め、走行が再開したのだと思わず唸る。
『先頭車両には美亜――、レイリスさんがいますし、鳳鳴さんブレナンディハーフさんもいるので心配はないかと』
『内訳の一名には心配しかないが』
 乱闘の内容を思い出し苦い顔をする。
 しかしノエルの言う通り、美亜が先頭車両にいれば状況の変化に対し強行突破をタロウ大尉が選択しても止めに入る事ができる。
『どちらにせよ、速度を上げさせないようにしないといけないな。ウィリアム、市民を輸送ルート付近に配置、接触は避け、幻影を横断させるんだ』
『オーケイ、マスター』
 晶が状況を動かす間、ノエルは摩那へと通信を飛ばす。
『摩那さん、そちらの状況はどうでしょう? こちらは』
『人が多すぎて面倒になっちゃってますけど。アリスさんたちに頑張ってもらえばルート上のアサガシアンはポイポイ可能です。輸送車も動き始めたみたいですね、急いで道を空けさせます?』
『…………。いえ、こちらも車両の速度を落とすので、人が多い事を見せつけながら道を開けさせましょう。交通整理をしていれば無理に速度を上げる事もないですし、先に空いた道を見られて万が一にも速度を上げられないように』
 安全第一。この車両に乗り込んだ際のスローガン的な言葉を思い浮かべてノエル。
 確かに無理はよくないかと摩那もこれに同意し、アリス妹たちへ内容を説明する。これでタロウ大尉の牽制は十二分だろう。
『いよいよ、ですね』
 貨物室から天板が開いたままの貨物車両から立ち上がり、エイストラの目を通してノエルは人々の先に鎮座するアサガシア政治施設、否、アサガシアムルチのコントロールルームを見つめた。


●猟兵が往く。
「こんにちはー♪ 元気そうで何よりですっ♪」
「……お、おう……」
「…………」
 元気一番、満点の笑顔を咲かせたシルの挨拶に、消え入りそうな声で何とか答える男と口を半開きにしたまま俯く男と。
 どちらも膝を抱えて背を丸め、とても通常の精神状態とは言えない様子のレンジャー部隊。錫華との演目で吹き飛ばされ、シートベルトで体を固定されたとは言えシェイクされたようなもの、真っ青な顔に体調を崩しているのは一目瞭然だった。
 いつもなら軽口憎まれ口を叩く彼らが黙っているのは心地が良いぜ!
「……え、ええっと……その、ちょっと聞きたいんですけど」
「…………、あー、……なんだ……?」
「…………」
 まるで老人、会話のテンポも送れる姿にさすがのシルも苦笑いを浮かべた。
 こちらの言葉をきちんと聞いているのかも怪しいが、だからと言って会話しない訳にもいくまい。
「ここから逃げる時の隠し通路とか、そんなのあったりするのかな?」
「……ここから……? 郊外に、か?」
「えっと、別に郊外とかじゃなくて、この街の外って言うのかなぁ?」
「…………」
 眉間を押さえてふらつく頭に喝を入れ、だんまり状態の相棒を支えに立ち上がる。代りにそちらは死体のように崩れ落ちたが、まあほっときゃいいよ。
「ああ、クソ。誰かが逃走する予定でもあるのか?」
「そこはあんまし知らないほうが、後々面倒にならないって聞いてます」
「まぁな、好奇心はコネをも潰す。他所様に関心を強めんのは首を絞めるモンだしな」
 その例えちょっと違いますよ。自国のトラブルを他所様で一括りにしてしまえるのは問題に見えるが、これがレンジャー部隊のスタンスであり、接触当初から協力的なのもそれ故だ。
 男は厚底の踵で石畳を叩き地下を示す。
「ここいらの下水道は各施設、家庭に枝分かれしているが本道は一本道だ。人が通るにも簡単で外の水処理施設に繋がってるぜ。
 それにここいらの電力は地中送電線だ。結構古いモンで昔からあったものを利用してるらしい。だからメンテナンスしやすいようにマンホールの増設だの送電路の拡張だのやってるから、人が隠れ易いしこっちもまた外に抜けられるから潜り込まれると厄介だぜ?」
 ただこちらは複雑な道だと欠点があることも告げる。隠れるには良いが抜け出すには苦労する地中送電路、抜け出し易いが見つかり易い下水道という訳だ。
「……地下、か……ありがとうございます!」
 参考にするとげんなりした二人組にお礼を述べて、その二人へ水を運んできたドローン・マリオネットを捕まえルゥへの通信回線を開く。
 内容は勿論、レンジャー部隊より聞いた地下通路である。
『下水道に送電路、ですか。今は地下通路についてもマッピング中ですし、どちらも外へ繋がっているなら候補を絞りましょう。
 僕たちに必要なのは迅速な移動、とは言えこれも念の為のものですが、使うなら下水道がベターでしょうね』
「うん、わたしもそう思う」
 レンジャー部隊の言葉からすればこの地下送電路、恐らくアサガシア・ムルチ由来の物。それよりは多少不潔かも知れないが、都市が建設されるにあたり整備された比較的新しい下水道の方がトラブルなく進めるはずだ。
 道としても単純となれば、選ぶに足る理由だろう。
『散布ドローンを使ってのマッピングを続けます。場合によってはそのまま地下通路から現場へ向かいますので、時間稼ぎと表の通行はお願いしますね』
「うん、こっちからもお願いっ。皆にも報せておくね!」
 ルゥの言葉に力強く応えてガッツポーズ。ここまで来ればお膳立ては揃ったと見ていいだろう、輸送車両ももう到着するはずだ。
(お客様~、お触りは禁止ですー)
(マナーの悪い方はお帰りいただくのー)
「うひゃあっ! でもこっちも猟兵だからいっか!」
 客寄せパンダよろしく、アリス妹の上でゆったり水を飲み休む桜花。彼女へ近づく不届き者をサクサクとどかし、輸送車両の道を確保しつつも人をまばらに残し、突っ込んでくる事がないようにと配慮している。
 彼女もまた猟兵なので、片付けられる方も嬉しいらしく。
『さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。見るアホウに踊るアホウ、同じアホなら金落とせ♪
 みんな大好き大道芸の時間だよォ。良い子のみんなはジジババから、悪い大人は子供の小遣いから金を抜こうねぇ♪』
「……何だか趣味の悪い宣伝だなぁ……」
 流れて来る楽し気な声と旋律、に対してまともな内容でないそれに思わず錫華がぽつり。
 車両の到着を待つ間にドゼットに損傷はないかと確認していたが、割かし無理な扱いをしたとは言え短期間、特に問題はなかった。内部に兵器を格納していても基本的な構成がシンプルである事も影響していそうだ。
 その宣伝というのも貨物車両に乗っているヴェルデフッドによるもの。グリモア猟兵から受け取ったキャバリア用拡声器で、宣伝文句を謳っているのはなんとウィリアムである。
 文章は勿論、彼らが考えたものではなくルゥの散布ドローンが見かけたサーカス団の広告からだ。内容が内容な事もあってそのまま使うのは憚られたが、これもこの国で一般的に使われているやり取りと考えれば新たな文面を考えるよりも集客能力が高いのは確かだ。
(……もっとも、言い訳する方の身にもなって欲しいものだが……)
「な、何だかどんどん集まってきている気がっ!?」
「パレード用という事にしているのだから、ある程度は近づくものだろう」
 ひっそりと嘆息する美亜の前では慌てるタロの姿。ヴェルデフッドの作り出した道化師らしい道化師の幻影が線路上を横断する事で横断者をタロウに意識させると同時に、ウィリアムの放送で輸送列車をパレード用車両と思わせ、逆に敢えて近づけさせず遠くから観賞するものだと観客に刷り込ませる――、それが美亜の苦労して考え出した言い訳である。
「せいっ! せいっ!」
「ふんっ! ふんっ!」
 パレード用の装飾も何も無いので無理にも程のある設定だが、とりあえずとばかりに鳳鳴、ブレナンディハーフの双方を車両の上に演武という名の準備体操をしてもらっている。
 エイストラも貨物車両から身を出し愛想よく両腕を振っているが、中の人こと操縦者ノエルは無表情の極み。
(こんな無理のある人払い対策を不信に思うのは百も承知。冬季さんと晶さんの誘導で市民の皆さんが近くにいるのも大尉の考えを裏付けますし、お陰で横断者を意識させられた大尉は非常事態にならない限り速度を上げられないですし)
 こちらの無理な言い訳があちらの無理を封じる。おや、案外と良い作戦ではないかとノエルも思い至る。
 実際の所、特に危険な位置には近づかないよう道化師を柵のように配置しており、幻影と分からぬ人々もそれより先に出る事は無い。
「おあつらえ向きに、道が出来始めましたね」
(摩那さーん、もう片しちゃいたいのだけどー?)
「むふふ、すぐに終わりますし、片付けも私に任せてください!」
(摩那さんがいいならお任せするわ~)
 桜花の使っていたお立ち台に佇み腕を組む摩那へ、その下をうろちょろしていたアリス妹は言葉を返して後にする。余裕の笑みでそれを制しつつ、摩那はスマートグラスに表示された輸送車両との相対距離や観客との距離、そして人々の密度の濃淡を計測。
「これだけ人がいればどうしたってゴミも出るし、まあ、乱闘騒ぎでゴミになっちゃった物もあるワケで。
 ――天に漂いし精霊よ、物に宿りて我に従え。姿さずけよ!」
 天を仰ぎ、高らかに宣言する摩那の声を受けて、応えるように降り注ぐ強烈な風。それは摩那を取り巻き黒髪を撫で上げ前方、輸送列車へ向けて駆け抜ける。
 吹き抜けた風が治まると同時に「とうっ!」と短い掛け声とともに後方へ宙返り。足先の離れた部分からアリスお手製のお立ち台が解けるように崩れていき、風もなく浮き上がるそれらは揺らめいて黒き蝶へと姿が変わる。
 摩那の始動したユーベルコード【胡蝶天翔(パピヨン・ノワール)】は周囲の無機物を蝶の群れへと変換し、操作するものだ。それもただの蝶ではなく、各種索敵機能を妨害する黒い翅。
「自然現象では止まるしかないですねぇ、カイラン・テンさん!」
 姿なき風に導かれるまま、新しき黒い風が人々の隙間から飛び立っていく。
「な、何だぁ!? 異常発生――、通信が利かん!?」
「慌てるな、自然現象だ。どれだけ大量に発生しても蝶の群れ、この車両はびくともしない」
 慌てるタロウに落ち着けと美亜。フラグが立ったよ!
 視界が塞がるので停まらざるを得ない輸送車両、屋根の上では大量の蝶に慌てて内部へ避難する二名を除き、予定調和とエイストラ並びにヴェルデフッドは冷静に座り込んで貨物車両の装甲を閉じる。
「これは中々の光景ですねぇ」
 更に高度を増して空より見下ろす冬季は黒い波が濁流となり、道化師らを境に作られた道を沿う姿に思わず声を上げた。
 誘導された人々も蝶に驚いていたが彼らの所まで溢れる事は無く、しっかりと手綱は摩那に握られている。これもまた、猟兵の催し物だと好意的に解釈するだろう。
「キレーだねぇ」
「美しい、とも言えるがここまでの〝量〟となると恐怖が勝る」
 人工的に起こされた超自然現象とは言えそこにあるのは仮初でも生命、畏敬の念を感じたのか両手を合わせて頭を下げた鳳鳴に、せっかくなんだからちゃんと見ろとばかりにその頭を叩くブレナンディハーフ。
 第二ラウンドが車両内で起きる中、ガタガタと揺れ始めるのは件の車両。無論、彼らの喧嘩が原因ではない。
「ギイイィエエエエエエエエッ! ガチガチガチガチ!」
(みんな並んで突撃よー! 目標はあの輸送車両よーっ!)
(はーい!)
(道がすいすいだわ~)
(ちょうちょさんも待て待てなのー)
 アリス妹たちの活躍によって整理の終わった人々の間から姿を見せたのは司令塔アリス率いるアリス軍団である。
 先導する蝶を追い駆けるように、否、実際に追い駆けて喰らい尽くしながら輸送車両へと迫る光景は恐怖そのものだが、漆黒に塗り潰された視界にタロウは気づいていない。
(設立記念おめでとー!)
(めでたい、めでたいっ♪)
(今日は無礼講なのよ~)
 大地を揺らして走る巨体の威圧感が消えるようにか、祝福の思念波を飛ばす事も忘れない彼女らに、やはり猟兵らの企画かと周辺のそこかしこから歓声が上がった。
 黒蝶がもっしゃもっしゃされてるのも大道芸的なアレだと思っているのだろう。実際の所、ユーベルコードの効果が解除されれば元のゴミなどに戻ってしまうため、町の片づけにも一役買いながらもアリスにしか出来る芸当でなく、大道芸としても良いかも知れない。
 そんな事は露知らず、謎の振動に戦々恐々の彼が蝶の後に見た光景とは。
「ギチギチッ」
(きゃっ)
「ふぁっ!?」
 ずどん、と正面からぶち当たったアリスの巨体が今度は直接車体を揺さぶった。すぐに「ごめんねー」と屋根へ側面へとしゃかしゃかしていくアリスの群れの姿はモンスターパニックのそれである。
 きちんと謝っているのでそこは評価しよう。
「おっ、おおっ、おおおおお!?」
 取り乱すのも無理はない、猟兵たちの姿は各世界に最適化され、〝以前からそうある者〟としてその世界の住人に認知される。感覚で言えば普通になるだけに、普通を逸脱した行動をすればどうなるか。
 そりゃ驚くよね。
「ギチチッ、ガチッ、ガチッ!」
(こんにちはー! 美亜さん、乗ってる人はこの方だけなのかしらー?)
「レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットだ! 運転手しかついていないようだな。連れて行っていいぞ」
「ピェーッ!?」
 鍵がかかっていたはずの非常口をその強靭な肢でガチャコンと穿り開き、顔を覗かせたアリスに予想外の台詞を告げた美亜。救いを求めるように口をぱくぱくさせて彼女を見上げるが「早く出て出て」と差し込まれるアリスらの肢に難なく引きずり出されてしまった。
 まだ終わってなかったよモンスターパニック!
「ま、待て待てどこに連れて行く気だ! レイリスさん? レイリスーッ!?」
 恐怖するタロウ大尉はバケツリレーが如くひしめき合うアリス妹の背から次々と流されて行く。群れの最後に大口をあけた彼女が待っている訳ではないので安心して欲しい。
 邪魔者はいなくなったかと美亜は車内連絡用拡声器の電源を入れる。
『あー、諸君! 私だ。これから少々揺れるのでしっかり捕まっているように。特に鳳鳴・ブレナンディハーフ!』
「拙僧とて問題を起こしたい訳ではないが!」
 名指しされて思わず声を上げるもその間にも軋んだ音をたてて車両が大きく傾いた。通路を転がる鳳鳴をよそにちゃっかり座席に掴まって難を逃れるブレナンディハーフ。彼らの耳にも車外から「うんとこせ!」「どっこいしょ!」という声が――、否、思念波が届いていた。
 輸送車両を覆い尽くしたアリス妹らが、先頭車両のてっぺんで音頭を取るアリスに合わせて車体そのものを持ち上げているのだ。
 ひしめき合った怪物により持ち上がるそれは、無数の肢の生えた鉄の獣、あるいは蟲と例えれてもおかしくはない異様である。
「それじゃあ、頼むぜアリス」
(わかったわー!)
 晶のゴーサインに、アリスの張り切った声が響くと鎌首をもたげるように輸送列車が立ち上がった。

「体調はどうだい?」
「全く、快調です。ただ視線に晒されるだけというのは、どうも慣れませんね」
 未だじっと蹲るアリス妹の上に座る桜花はチェスカーの問いに答える。こちらはレンジャー部隊から受け取った燃料をビッグタイガーに注いだ後で、錫華と同じく準備は完了といった所だろう。
 空になったコップをアリス妹の花咲きへもっていけば、嬉しそうにお礼を言ってそいつをぱくり。
「それにしても、凄いのが来るね」
 二人の会話に入ってぽつりと零したのは錫華だった。彼女の言葉に思わず黙して互いに顔を見合わせ、迫る輸送列車へ目を向ける。
 大地を揺るがし爆走するアリスらの上に乗っかった車体は先の走行速度の比ではなく、さらにその上で司令塔となるアリスが自らの糸で編んだ扇子をパタパタと振って檄を飛ばしていた。
 「お祭り、お祭りっ。わっしょい、わっしょい!」と掛け声を入れているが、下の妹たちは「よっこいせ」「うんとこしょ」「そーらん、そーらんっ」などばらばらである。ばらばらであるにも関わらず一糸乱れぬ意志疎通故か、神輿のように担いでいるはずのそれに上下の振動が乏しい。横、前後はあるにしてもこの衝撃吸収率には乗り物酔いの激しい方々なら一家に一匹は是非欲しいと願うだろう。
 この速度でもし、カイラン・テンのタロウ大尉がそのまま運転していては警備するアサガシアンから顰蹙を受けたかも知れないが相手は猟兵、人が巻き込まれないようにと注意をも払っているし問題視されないだろう。
 そして。
「ギィィイイッ!」
(停車しまーす!)
 敷設されたレールを剥がし飛ばし、鋼を引き裂きアスファルトを引き千切る悲鳴のような音をたてて車両、と言うよりもアリスたちが停止する。
 その後ろでは美亜の放った工作機がせっせせっせと修復中である。急停車しなくとも集団で走れば軌条はぐちゃぐちゃになるので素晴らしいフォローです。
「さあ、動力炉まで行くなら私たちと、ついでに猟兵のキャバリアも届けてくださいよ!」
 アリスらの上をよじ登り、彼女らがほじくり開けた扉からババンと中を覗き言葉を叩きつける摩那。叩きつけられた先にいたのは無論、タロウ大尉ではなく腕を組んだ美亜であった。
 あれっ、と目を瞬く摩那に対して不敵な笑みを見せて彼女は親指で後ろを指す。
「じゃんじゃん積むといい。まとめて運んでやろうじゃないか!」
「……いや……美、レイリスさんの物じゃ……まあ、いいですね、そこは」
 運転席から顔を出し、下で待つ仲間へと手を振れば、嬉しそうに立ち上がるアリス妹がキャンピングカーごと桜花を運び、次いで足となっていた妹たちもわらわらとやって来てドゼットやビッグタイガー、アルジェント・リーゼを貨物へと運んだ。
 それぞれが接触しないようありあわせの物で簡素な緩衝材を用意していた黄巾力士が、自らの糸でキャバリアを降ろすアリスらに中から合図を送っている。
「これで後は進むだけ、ですね」
「ルゥさんは地下通路から合流するって話だったよ」
 空から舞い降りた冬季の言葉に、同じく並ぶシルが言葉を交わす。チェスカーは車内に入ると同時に、アリスの糸でがんじがらめに縛られていた鳳鳴に目を円くしていたがそれには触れず、先に席に着いていた摩那らへ手を上げる。
 貨物車両からやって来た桜花は車内の人数を確認して小首を傾げた。
「晶さんとノエルさんは?」
「その二人は貨物車両です。キャバリアに乗ったままですよ」
 冬季の答えになるほどと振り返り、同じく貨物車両に乗せられたキャンピングカー内で保存していた料理を頭に思い浮かべ。
「それなら、何かお持ちしておきます。皆さんにも簡単なスープなど、何かお運びしますね」
「本当かい!? 鳳鳴の分も僕が貰うよ」
「もがーっ!」
 喜ぶブレナンディハーフと怒る鳳鳴。怒ればそれだけ腹が減るぞと多少の同情を鳳鳴に見せたチェスカーだったが、どちらかと言えば次の戦う相手、状況こそだろう気にしているのは。
「起動実験ができない以上施設が爆発することはないが、キャバリアそのものが大爆発するってんだから面倒な話だよ」
「そんな物を自覚して兵器や施設の一部として扱うんだよね。個人的な印象だけど笑い方の気持ちよくない人は、大体碌なこと考えてないよね」
「……う、うーん……ちょっとわかるかも」
 この国の代表はさておき、オブリビオンマシンに乗せられている人間も自ら部品となる事を了承した事になる。マシンから引きずり落とし、反省してもらいたいものだと錫華は独りごちてシルも思わず同意した。
 実際レンジャー部隊がそれらについて知ったのは実験の直前だが、理解を超えたシステムであっても説明を受けた以上、後の行動は彼らの判断だ。例え兵士としての職務であったとしても責任の全てがないとは言わせない。
 なぜならこれは戦場で戦う事ではなく、自らの国を危険に晒す行為なのだから。
「みなさん、スープをお持ちしました」
「これはこれは、良い香りですねぇ」
 ふわりと漂う甘い香りに冬季は思わず目を細めた。彼の食し、攻撃、もとい食べさせた仙丹とは違う優しさのある甘い香り、クリームスープ。
 アサガシアの気候もあって塩見を効かせていると断りを入れて、それぞれに配る桜花に満面の笑みで礼を返すチェスカー。口に咥えている野菜スティックとか非常に合うと思います。
 先頭車両に向かう桜花の後ろで各員にスープを配るエプロン付き黄巾力士。それを車外からじっ、と見つめるぬばたまの瞳が無数に群がっているが、そこはまあ移動が終わってからだと錫華が申し訳なさそうに頭を下げた。
「ん、美味しそうな香りだな」
「クリームスープですか、とろとろで美味しそうですね!」
「……具材はほとんでありませんが……」
 申し訳なさそうにする桜花へ、構うものかと笑う美亜。皿に注がれた乳白色は湯気立ち、彼女の言葉通り上に乗ったパセリ以外に具と呼べるものは見当たらないが、鼻を擽る香りにそれだけで涎も滴る程だ。
 匙を差し込めばとろりとした液体が溜まり、口へと運べば香りからは予想できないほどしっかりした味付けに舌鼓を打つ。
「やはり美味しいじゃないか」
 ほくほくと頬張りながらふと横を見れば、真っ赤な中身の【調味料ポーチ】から、各ワールドより収集した様々な香辛料を取り出す摩那の姿。
 乳白色が血の色に染まるのを何もなかったかのように見送り、ルゥへ通信回線を開く。
「こちらレイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット、ルゥ・グレイスどうぞ」
『こちらルゥです。そろそろ出発ですか?』
「ああ。マッピングの状況は?」
『終了しています。それと施設入場の際ですが、タロウ・モモチ大尉の認証コードは抜いてあるのでこちらから送信できますし、後は会話する時、アリスさんたちから思念波を送ってもらい、彼の声を真似てもらえば何とかなるかと。
 監視の位置情報は送りますので、アリスさんの基本性能ならやってやれない事はありません』
 それは頼もしい。とても生物へお願いできる協力内容ではないが、やってやれない事はないと断言されたのだからやっちゃえるんだろう、うん。
「それでは、これから目標施設、アサガシア・ムルチの動力炉を目指す。各位、スープを零さないよう気を付けてくれ。アリス、号令を」
「ギチギチギチギチ~♪」
(みんな~【ぜんそくぜんしん】よ~♪)
 車内への通達、そして再び鳴動する車両、否アリスたち。
 大地を埋め尽くすほどの数が大道芸人らの柵から溢れ出ないよう突進する姿は、悪夢の遊園地とでも題せようか。しかしながら観客からは声援を送られているので悪夢に例えるのは失礼だろう。
 ともすれば前に出た存在全てを弾き飛ばす、群体が暴力の個となったアリスたちはただひたすらに、アサガシア・ムルチを目指すのだった。
 ――その道中。
『あー、あー、テステス。マイクテス』
「? 集音器の不調か?」
 操縦席内でスープを平らげたノエルの声が響き、こちらは外でスープを飲み干した晶が不思議そうに彼女を見上げている。
 ノエルはルゥの散布ドローンの拾った自分の声を確認し、「ただの保険ですよ」と首を捻る晶へ告げるのだった。


●それは怨嗟を刻む者。
『…………?』
「? 隊長、どうかしたんで?」
『いや、なんかな。……なんつーか……』
「早く準備終わらせときましょうよ」
 部下に急かされようとも、ボイット・レンジャーは感じた不吉、不安、焦り、何とも言えぬ嫌な感情を拭い切れずに彼らのキャバリアに装備される武器を運んだ。
 漠然とした感覚ではない、方向を伴って感じたもの。絶対的な感覚、予知に近い感情。
(……イヤなのが……来る……?)
『!』
 その感情を言葉として明確化した瞬間、彼の脳裏にノイズにもにたヴィジョンが焼き付いた。たった一瞬のその光景は、彼が理解する間もなく痛みと共に消えた。
 否。
(な、何だ、この感覚っ、記憶?)
 フラッシュバックするように瞬くワンカットに目眩を覚えれば、彼の搭乗するキャバリアの手から武器が滑り落ち、逃げ惑った部下から非難の嵐が吹き荒れる。鉤爪のついた手に、通常キャバリアの使用する武器はそもそも持つに苦労するのだろうが。
 いつもなら軽口で返す男にその余裕はなかった。
「た、隊長? どうしたんです?」
「腹ァ壊したなら、まだ実験も出来ないって言うしトイレ行って来たらどうです?」
『う、う……うるっ、せ……ぇ……! ……くっそ……!』
 歯を食いしばっている間にその現象は収まったが、湧き上がる不快感は強くなっていくだけだ。
 イヤな奴が、あいつが、来る。
『…………、準備だ』
「あ、はい。さっさと終わらしますか」
『戦闘準備だ! キャバリアに乗り込め!』
「えっ、いや訓練はあくまで研究施設の――」
 やかましい。
 反論する部下を怒鳴りつける。下の言葉を受け付けず、全ての判断を上が下す。それは軍隊として正しい在り方ではあったが生き残る為に部隊で道を模索し続けたレンジャー部隊では有り得ない事だった。
「どうしたんだ、隊長?」
「二日酔い、ってワケじゃないだろうが。一先ず仕事は仕事だ、ちゃっちゃと終わらせようぜ」
「……戦闘準備が、か……?」
 とても腑に落ちるものではないが、彼らの行動は逐一モニターされている。それもこのアサガシア国の代表にだ。これ以上のトラブルを巻き起こすのはごめんだとばかり、二人は用意されたキャバリアへと向かう。
 強く血流を押し上げる心臓。二人の後ろ姿に、どうしようもない程に自らの権力を意識した。
(部下、俺の部下。俺の言う事を聞く手足、俺の力の一端、証明のひとつ。そして、こいつが――)
 操縦桿を握る手へ、否応なしに力が籠る。
 こいつが俺の力か。これがあれば、富も、名声も手に入る、何もかもが。
(! 何考えてんだ、……そんな子供クセエ妄想が……)
 彼らの様子を気遣うのは、未だ到着せぬ部品に焦る副代表を含めほとんどおらず、辛うじてその変化に気づいたのは代表セルゲイ・ウォン・カラッツェだけであった。
「ふむ。面白い事になりそうだなぁっはっはっはっはっはっはっは!」


・ボス戦です。シナリオは猟兵たちがボス機のいる動力炉へ侵入した所から始まります。侵入前に付近のヴィエルマ領施設よりキャバリアやスーパーロボットのレンタルが可能ですが、前章参加者はレンタルした兵器を引き続き使用します。降りる事も可能です。
・敵基地内での戦闘となりますが、敵味方ともに施設への被害を考慮する必要はありません。動力炉は広大でキャバリア同士の戦闘にも耐える広さです。
・中心部にキャバリアからエネルギーを取り込む巨大な電送設備があるものの、現在電源は入っていません。攻撃を防いだり身を隠す盾に使えますが、頑丈な設備ではないので簡単に壊れます。
・アサガシアのキャバリア、レンジャー部隊が二機配属されボス機を護衛しています。ただし現状に不信感を抱き、猟兵の説得で協力を得る事ができるでしょう
・レンジャー部隊はそのまま基地内に留まり猟兵の援護を行います。彼らに命令を出す事も可能ですが、オブリビオンマシンと直接戦闘した場合、まず間違いなく破壊されるので注意して下さい。戦力差が激しい為、防衛手段がない場合は命を落とす可能性もあります。
・オブリビオンマシンは非常に強力な個体で高い運動性能、機動力、回復能力を有しています。が、装甲は強くありません。
・オブリビオンマシンの動力炉は欠陥品であり、最大稼働で暴走しアサガシア中心部諸共吹き飛びます。ですが動力炉を安定させる騎乗型のオプションが付随しており、Wiz系のUCでそれを発動させる事が可能です。より強力になりますが、破壊する際はオプションではなく本体を狙いましょう。
・オブリビオンマシンの操縦席は首の付け根後ろ側に開閉ハッチが存在します。また位置についてはグリモア猟兵により、全ての猟兵に共有されています。
・ボイットに意識はありますが猟兵の接近に伴い不安定なものとなり、動力炉到着時には自分を抑え切れず暴走を開始します。人格が変わる事はありませんがオブリビオンマシンに記録された記憶、感情と親和性があり、両者は深く結びついて説得が利く状態ではありません。
・グリモア猟兵の言葉から、力への渇望がこのオブリビオンマシンに刻まれている事がわかっています。力とは相手より優位に立つ為の全てのものを表しており、同時にその根底にあるものは猟兵への憎悪です。
・力へのコンプレックスを刺激する事でパイロットとオブリビオンマシン間の親和性を揺らがせ隙を作れますが、結果的に結びつきが強くなるので攻撃性が著しく上昇します。同時に冷静さを失うので更なる隙が露呈し易くなるでしょう。
・戦闘後、輸送車両を使った施設、ひいては街からの脱出が予定されていますがルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)、シル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)によって地下からの脱出ルートも検討されています。

※動力炉は常に監視されていますが、アサガシアからの増援はありません。国家代表と会話が可能なので、質問などすれば何かしら話が聞けるかも知れません。
鳳鳴・ブレナンディハーフ
第二人格主導

ここは変身しかない!
隙を伺ってUCを使うよ
そうしたら僕はダークブルーの色をしたシリアスなジャイアントキャバリアのような姿になる
そして人格もこの戦いのために生み出されたものに変わる

「オレの名はミゼラブル。
キサマに不幸をもたらすモノだ」

(メカに見えるが普通に喋れる)

接近して格闘で攻撃する
この姿だとオーラ防御が強化されており、敵の攻撃を防ぐ
小細工は味方に任せ、たとえ不利でも挑発して攻撃の矛先を己に向ける
「どうした…キサマの力はそんなものか」
「そんな攻撃などオレには通用せん」
場合によっては強がり

もとに戻るタイミングはお任せ。
全裸です
戻ってからは変態的な味方の援護やギャグに徹するよ



●ゲットセット・イェーガーズ!
「あん?」
 アサガシア・ムルチ唯一の出入口が開き、現れたのはカイラン・テンの国旗が先端に刻まれた輸送車両で、どこの所属か一目で分るというもの。運転席のドアが剥がれていたり、何かがぶつかったようにへこみが出来ていたりとトラブルが発生していた事も一目で分かる。
「…………」
 手早く機体の確認を済ませた二人は、互いに顔を見合わせた。アサガシア・ムルチの起動に必要な部品が運搬される事は知らされていたが、到着したと言うのに本部からの連絡も未だに無く。
 仕方がないと我らが隊長を振り向けば、こちらも黙り込んだままだ。
 が、その踵や爪先を斬り落とした針のような足を広げて腰を深く落とし、硬製爪を広げた仕草は近接戦に特化した機体構成もあって如何にも肉食獣が飛び掛かる寸前といった様子。
「どうするよ?」
「どうする、たって。大将はやる気だぜ?」
「……本部からの連絡もないし……まあ、ありゃどう見ても何かあったって感じだ。戦闘準備ってのはナーバスになったんでもなく胸騒ぎが的中したって事なのかもな」
 やるか。
 仕方ないと互いの拳を軽く当てて、キャバリアへと潜り込む。輸送車両の装甲が展開するのはそれとほぼ同時であった。
『到着したの? ……それじゃ……、出撃しますっ!!』
『何だと!?』
 貨物車両を勢い良く踏みつけて跳躍するのは銀青の精霊機。宙へと現れウイングスラスターを開いたアルジェント・リーゼ。
 元気良く――、その中に某かの覚悟を見せる少女、シル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の声が動力炉に響き、驚愕の声を上げたのはレンジャー部隊。
 慌てて体を起こした重量級のキャバリア内で、見覚えのあるその姿に驚きを隠せなかったのだろう。細部は違うが間違いない、猟兵だと。
『ちょっと待てちょっと待て! 何で猟兵がここで出て来る!』
『何かあったって事だろ、なあ隊長!』
『……黙ってろ……集ッ、中……できねえっ……』
 戦闘態勢を維持しているのかと思いきや、目眩と頭痛、時折脳裏を掠める光景に頭を抱えて背を丸めるボイット・レンジャー。明らかに様子がおかしいボイットに苛立ちを隠せず舌を打つ。
『何を言ってんです? おいレフティ、制御チームに連絡回せ!』
『もうやってるっつーのに!』
 向こうから遮断されているのだと返すレフティ。なぜわざわざ通信を途絶するのか、いやそもそも、本当に向こうが通信を切ったのか。
 猟兵による妨害行動ではないのか。
『判断つかねぇぜこいつはもう! 隊長、早いとこトンズラこきましょうって!』
『…………、トンズラだ? 逃げるってのか、あいつから』
 普段の陽気な、中途半端でいい加減な男からは想像すら出来ない、背筋が凍えるようなその声音。
 それは彼らの知る兵士として腹を括った時の様子とも、戦士としての誇りを賭けた時とも違う、彼らの知らない明らかに異質な、そう、まるで別人のような。
『ライター、レフティ、両翼。センターは俺だ』
『いやいやいやいや、何言ってるんですか、やり合うつもりですか!?』
『隊長、せめて攻撃の意志は見せないようにしないとどんな間違いが起こるか分かりませんぜ』
『間違い? 何が間違いだ。目の前にいるんだぞ、敵が! 戦争屋風情が、排撃して功を立ててこそだろうが!』
(……いつからそんな熱血系に鞍替えしたの……? というか、戦争屋ってなんか他人事みたい?)
 こちらはまだ姿を見せただけだと言うのに浮足立つレンジャー部隊。その隊長であるボイットの言葉に眉を潜めたシル。
 とは言え囮としての役割は十二分、たった三機の現場でちぐはぐな行動をしているのだからこちらが展開する隙ばかり。
(何だか隊長の性格、前評判とは随分と様子が違うみたいだね)
 貨物車両から転がり出たドゼットを駆り、支倉・錫華(Gambenero・f29951)は車両から離れて距離を取りつつ回り込む。何だかんだと言いながらもボイットの言葉に従いこちらを警戒するライターに舌を巻く。
 自分たちの混乱と戦況とを別に行動できる、外にいたレンジャー部隊らと言動に違いはないが彼らは彼らで修羅場をくぐる抜けたベテランの兵士なのだろう。
 錫華のドゼットと同じく側面へと回り込むのはチェスカー・アーマライト(〝錆鴉〟あるいは〝ブッ放し屋〟・f32456)、タンクモードのビッグタイガー。こちらはドゼットと比べ動きが鈍重な事もあり、転がり出るような真似もしなければ軽快に走る事も出来ず、故に走破性の高いタンクで展開した装甲を斜路に飛び出したのだ。
 音をたて着地したタンクは履帯を回して耳障りな音を響かせ、床に焦げ目をつけながら疾走する。無論、こちらもレフティーが警戒し携行したサブマシンガンを向けていた。
『やる気は十分、ってか!』
『うっ』
 チェスカーの言葉に思わず呻く。本当はやりたくないんです、とばかりに意志が揺らいで聞こえるが、照準に揺らぎはない。共に肩を並べて戦った仲間、などと聞こえの良い言葉に惑わされない生粋の兵士だ。
 轡を並べただけに身の程を知る実力差、戦いたくないってのは本音だろうけどね。
『展開したのは三機だけ……中にいるのも……?』
『もちろんっ、三機だけってこたーないでしょう!』
 よっこらせ、とばかり奥の貨物車両から身を起こしたのは黒い装甲、この動力炉への急行途中で回収した黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)の零式操念キャバリア【エクアトゥール】。摩那のような超能力者専用機として鍛え上げられ、両腕には特徴的な大型盾バインダーが標準装備。機動性に長けた格闘戦機でありその能力は勿論、レンジャー部隊も目の当たりにしている代物だ。
『だー、もう! すまんがちょっと、ちょっと待ってくれ!』
 いつもならば口八丁の役目はこちらじゃないと言うのに。
 銃口を下げて降参だと声を荒げたレフティ。アイコンタクトだけで動きもまともにできないボイットのマシンを抑えるライター機。抑える、と言うより支えるに近いか。
『ありゃ、もしかして……もう状況クリアー……なワケはないですよね』
 一先ずこちらも貨物車両から飛び降りて摩那。相手が武器を下げたからといってこちらが下げる必要はない。そもそも、こちらの狙いはオブリビオンマシン一機のみ。
「ふぅむ、何故こうなったのか」
「ギチギチッ」
(どーかしたのー?)
 糸で簀巻きにされているのは鳳鳴・ブレナンディハーフ(破戒僧とフリーダム・f17841)。同じようにがんじ絡めにされていたのは分身体に移した主人格であっただけに、今は消えているがなぜブレナンディハーフが表出している本体が絡まっているのか。
 その巨体を窮屈そうに座席を押し退けて、疑問符を浮かべるブレナンディハーフにこちらも疑問符を浮かべるアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)。
「いやね、僕もみんなと一緒に颯爽と外に踊り出る予定だったのに、どうしてこうなったんだろうって」
「カチカチ、カチカチ」
(えー? ブレナンディハーフさんが縛られたいって言うからそこに詰めたのよー?)
 困り顔の男へ鋏角を小さく鳴らしてアリス。原因も全て自分じゃないの。
 「おバカなこと言われても困るわー」とアリスは取り合わず、表皮を周囲の景色へと溶け合わせて外に這い出ていく。彼女が出て行った後も軋む車内に、同じ種族の妹らが続いているのは想像に難くない。
「ああっ、そんなご無体な! せめて解いてくれても!」
「黄巾力士、お願いしますよ」
 みのむしのように跳ねる事も出来ず、首だけを動かすブレナンディハーフに鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)が肩を竦め、その呼びかけに答えた宝貝が力任せにアリスの糸を引き裂いた。
 ここでもまた「ああっ、そんなご無体な!」と躍り出る裸体のHENTAIの姿がそこにはあったが、冬季の目はすでに外へと向けられている。
「皆さん人命救助第一のようですから、グリモア猟兵の言われていた〝あの馬〟を起動させた上で本体破壊するのでしょうねえ。お優しいことです」
 晒う冬季に侮蔑の色はないが、その色がないと言うだけで本性がどこにあるのか定かではない。どちらにしろその仲間の行動を阻害するつもりなどはさらさらないのだから。
「とりあえずの展開、次は相手がどう動くのか、ですね」
「ではここで僕が一石を投じるのもアリ寄りのナシ、という事かっ」
「……意外に現状の把握は出来るんですねぇ……」
 冬季の言葉を床の上に転がりつつ受け取ったブレナンディハーフ。そんな男の世迷言に対し、ようやくと冬季はそちらに目を向けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルゥ・グレイス
戦闘の情報補佐をしつつ、開いていた回線を繋いで、国家代表と会話してみる。
言ってしまえば軽率な、この行動の真意は何か?
あと個人的に、アサガシア・ムルチの技術的なことについて。一技術者としてはとても興味のそそられる代物なのです。


地下ルートを駆け抜けて辿り着いたのは戦場の真下。
ここから上がっていく時間も勿体無いのだ。なので。

「共有情報精査、レーダー強化始め」
レーダー便りで真下から撃ち抜くことにする。

真下というこの場所に限り戦兵の動きは二次元的なものとして計算できる。
なのでこれはチェスのようなもので、撃ち抜くことはさして難しくない。

戦闘後は弾道間転移門を使って皆と合流。
今後の逃亡手段について相談。



●裏でも準備する猟兵たち。
 さて。
 動きの停滞した戦場の雰囲気、と言うよりも戦場と化す寸前の雰囲気を感じ取って赤城・晶(無名のキャバリア傭兵・f32259)は愛機、ヴェルデフッドを見上げ開いたままの操縦席に相棒のウィリアムへ声をかける。
「ウィリアム、ミラージュ装甲展開。レーダー、ジャミングをフルパワー、識別認識を妨害し幻影を展開準備。
 常に状況を把握、更新してくれ」
『オーケイ、マスター』
 戦闘AIの心強い言葉に頷いて、今度は正面のエイストラへ視線を変える。こちらはヴェルデフッドと向かい合うようにして、対になる搭乗席にはノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)が座っていた。
(代表までの距離次第では細工が面倒でしたが。……会話が可能なら――)
 獲った。浮かんだ言葉を心に沈めて通信状況を確認する。
 勝手にくっちゃべってくれる右左なボイット部下の言葉からすると本部と連絡が取れない様子だが、ヴェルデフッドによるジャミングは現在レーダーに関してのみであり、通信機能に問題はない。
「向こうは様子を窺っているみたいだな。だが、何の為にだ?」
 ノエルの思考を読み取って晶は当然の疑問を口にする。重要施設の動力炉、普通の対応で考えれば増援を回すだろう。
 普通ならば。
『ここ自体が機密みたいですし、戦力を厳選でもしているんですかね。まあ、レンジャー部隊さんからの通信を受け付けないという事は、戦力を回す気はないという事でしょうけど』
「……こちらの戦力を見極めるつもりにしても……、オブリビオンマシンとは言えキャバリア一機の性能で測れると本気で考えているのか」
 そもそもこのアサガシアにオブリビオンマシンを認知している人間が居るかどうか。
『ですが、これまで戦った相手は相当な力を持っていました。警戒すべきかと』
「分かっているさ、ウィリアム。まともにぶつかり合った所は見てないが、要所要所での踏ん張りやこちらの指示をこなしたあのレンジャー部隊が相手だ。強敵だというのは理解している」
 ウィリアムの懸念に対して思わず苦笑する。
 だがそれを差し置いても数の上で有利、更に言えばダンテアリオン国内で暴れた時とは違い重要施設の防衛すら必要が無いと来れば地形すら有利と言えるだろう。
 向こうがそれを気にすれば良いのだが、憎悪を根底とする相手に理性が残っているかは疑問である。
「ふむ。……戦力的には十分と思える……晶の言葉通りにな」
 彼らの言葉に聞き耳を立てた大いなる始祖の末裔レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットを名乗るが所謂厨二病の少女、紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)も貨物車両内で手を打ち合わせた。
「それでも当然、策を講じ万全を期し被害を少なく危害を大きく、それが戦略というものだ」
 言葉を残し奥の車両へと向かう美亜。その方角から軽やかなピアノの音がなぜか流れて来るのだが。
 興味を示したウィリアムを窘めていると、ノエルは別方向からの接近反応に片眉を上げた。地下通路である。
『これ、ルゥさんですかね? ジャミングの併用で敵には気づかれていませんか』
「その点は大丈夫だ。ウィリアム、ルゥに位置情報と地下通路の出入口の情報を共有してくれ」
 元々、地下通路から施設構造を把握していたのはこのルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)の手並みに因るもの。だが、常時位置関係を把握しておかねば突入にも問題が生じかねない。
 晶の対応にさすがと一言を付け加え、それにしてもと共有された位置情報から移動速度に思案を巡らせる。
 ルゥは下水道を移動しているが一定の速度を保っており、キャバリアでの移動と言うよりも専用の移動設備があると見ていいだろう。都市建設に当たり新しく設置されたという話もあって、清掃用など作業用マシンの搬入や移動も対策がされているのかも知れない。
「おや。これは脱出にも使えそうですね?」
『地下から脱出する場合、という条件付ですが』
 先程仲間たちに配ったスープ皿を片手に重ね、軽い身のこなしでヴェルデフッドの操縦席を覗き込んでいた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。到着後のルゥからどのような設備を利用しているのか確認すれば、オブリビオンマシン破壊後の脱出作戦にも幅が利くかも知れない。
「桜花はどう動く?」
「隊長さんがいつまでも動きを止めてくれているとは思えないので、動き出せば彼の注意を引いたり救助に向かおうかと」
 生身の強みを活かすのだとする桜花に了解だと晶も片手を上げた。

 軌条を軋ませる鋼の音が、火花を散らし横向きのGがシルバー・モノクルと操縦桿を握るルゥ。凹んだ空き缶を散らばらないようにまとめて、巨大なトロッコの中で膝を抱えちょこんと座り込むキャバリアの姿は細いシルエットもあって子供にも見える。
 ウィリアムよりヴェルデフッドから送られる位置情報を確認しながら、動力炉下部となる部屋を目指し路線切り替えのスイッチをトロッコ内から遠隔操作。
 ばちん、ばちんと鋼が爆ぜて、その度に急旋回するトロッコにかかる横薙ぎの重力でルゥの体も揺さぶられ。
(皆さんの反応からすると、レンジャー部隊は代表に切られたかそれに近い状態、捨て石扱いといった所ですか)
 本部と通信連絡が取れないという事は、そういう事だろう。だがグリモア猟兵の予知を考えれば彼らは常に動力炉内部を確認しているし、猟兵の動きも把握しているはずだ。
(施設内にいる以上は通信設備もありますし、動力炉に集音器があるかも知れませんし、彼らとの会話は問題なさそうですね。
 と、なると)
 知りたいのはふたつ。
 まずひとつ、このアサガシア国家代表の真意。先手必勝でありながら自国が粉砕する可能性もある一か八かの賭けをわざわざする、その狙いとは何だ。あるいはただリスクを度外視しリターンだけを求めたと言うのだろうか。
 確かに国力に大きな差があるダンテアリオンに対し、三ヵ国がひとつとなった第一連邦共和国であっても長期戦になれば負けとなる確率も跳ね上がる。まだ強固な一枚岩でもないならば。
(あるいはリスクを三分の一で済ませられる、という考えかも知れませんね)
 そしてもうひとつ、それは彼自身、個人の興味に過ぎないがこの地下に広がるアサガシア・ムルチだ。グリモア猟兵からの情報ではこのコントロールシステムを中心に建設された都市がアサガシアという小国家になったと。
 ならばアサガシア・ムルチはそれより以前の代物となる。成り立ちに興味がある訳ではないが、その技術、兵器としての価値はルゥの興味を惹くには十分だった。
『…………、そうこうしている内に』
 トロッコにブレーキをかければ急減速、つんのめるように後輪が一瞬だけ浮いて、停止と同時に衝撃がシルバー・モノクルの尻を打つ。
 到着だ。
 それまで子供を思わせたそれはトロッコからのそりと這い出て、銀の獣として天井を睨みつけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

支倉・錫華
キャバリア:RC

だから●ERNの研究は危険だとあれほど……え?そういうのいい?
ま、時間にまで影響を及ぼしてないから、まだなんとかなるよね。

とりあえずは国家自爆の可能性を抑えないとかな。
相手にUCを発動させて出力を安定させてから反撃することにしよう。

『後の先』って言えばかっこいいけど、そこまで余裕はなさそうだけどね。

最初の一撃は【第六感】と【野生の勘】に【アウェイキング・センシズ】乗っけてなんとか回避。
そこからは【アミシア】にもサポートしてもらって、相手の攻撃をいなしつつ【歌仙】と【天磐】で対抗していくね。

今回の切り札は……レンジャー部隊から(強引に)借り受けた発光弾。
ある程度押されているように見せかけて、
相手が攻勢に出てきたところで不意打ちで目潰しさせてもらおう。

アミシア、エネルギーライン確認してるね?

天磐で相手の装甲を打ち壊し、歌仙でエネルギーラインを断ち切って、
相手のエンジンが全力を出せないようにしたら、ここから反撃開始だよ。

コクピット以外はバラバラにしてもおっけー、だよね。


ノエル・カンナビス
代表までの距離次第では細工が面倒でしたが。
会話が可能なら――

(獲った)

「セルゲイ代表、こちらはエイストラ。聞こえますか」

動力部自爆による都市壊滅を避けるため介入する。
同型機のデータを猟兵が確認済み、確実に自爆するため実験中止を要請。
容れられない場合、都市壊滅から市民を守るため強制停止させる。
動力部の機体はOマシン(以下同様に呼称)。周辺人員の退避を。

あくまで救助。
そのスタンスを崩さず、代表の目論見を微妙に批判し反論を誘引します。
そして会話を録音、現場の通信や外部音声もミックスし、
私を除く猟兵+レンジャー部隊の固有名詞をマスキング。

交戦中も、他者への通信には状況説明をさりげなく紛れ込ませます。
代表の政治的立場にダメージを与えられる程に至れば、
MIX録音の最初からタイムシフト放送。
EPデータリンカー発・街頭スピーカー経由で市街全域に流します。
なお、リンカー通信の妨害は無駄ですよ。

同時に味方への火力支援で隙を伺いつつ敵ダメージを蓄積し、
機があれば高速戦闘に持ち込んで頭部・腕部の破壊を狙います。


赤城・晶
連携重視

やることは変わりない。俺達は被害を最小限にオブリオンマシンを破壊するだけだ。
だがやはり気に入らん!
どいつもこいつも国のトップは馬鹿ばかりだ!自分の事、思想を固執して民の事なんか考えねぇ!
たまには自分を殺して真の平和ってもんを考えやがれ!!

レンジャー部隊の奴らを説得して基地周辺の奴らの避難を指示するか。

ウィリアム、ミラージュ装甲展開【迷彩】、レーダー【索敵】、【ジャミング】をフルパワー、識別認識を妨害し、幻影を展開。
常に状況を把握、更新してくれ。
そして、オブリオンマシンの行動パターン分析だ。ライフル等で援護、牽制しつつ、な。

分析後は仲間に共有し、UCを使い、動きを止めてボイットをマシンから引き剥がす。
引き剥がすと同時に一斉攻撃だ。UCはフルパワーで派手にぶっ放せ!それだけ終わった後の脱出が楽になる。

ボイット、一人だけの力なんて結局は仲間の力に負けるんだよ。それをお前は理解してるはずだ、目にしたはずだ。

脱出経路は地下下水道が良いだろう。ジャミング、幻影を駆使すればなんとかなるだろう。


シル・ウィンディア
到着したの?
それじゃ…。出撃しますっ!!

推力移動で加速して接近するけど、レンジャー部隊の2人に向って
ここは危険だから、早く下がってっ!
ボイットさんが部下の人達に狙いをつけるそぶりを見せたら、ビームバルカンで牽制射撃。
牽制とは言え当てるつもりで撃っていくよ

…ここは抑えるから、後ろに下がってね。正直、余裕があるわけじゃないから。

下がってくれたなら、ここからが本番!
上に注意して、出来る限り空中機動で空中戦を挑むよ
ビームランチャーは連射モード
バルカンとのコンビネーションで牽制しつつ、逆手でビームブーメランを抜いて投げつけるよ

機動力に自信があっても…
わたしとリーゼも負けないからっ!!
接近したら、ビームセイバーとブーメラン(ビームダガーモード)の二刀流で近接攻撃。
そのまま、蒼の閃光で撃ち続けるよ

ボイットさん、マシンに取り込まれないでっ!
あなたには…。
あなただけの力があるんだからっ!
弄られても、それでも慕ってくれる人たちがいる
それが、何よりの力でしょうがっ!!

いざとなったら、腕部でぶん殴ってみるよ


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

セルゲイさんがたのしそーねー、でも面白がっているじょーきょーじゃない気がするなー
さて、あのロボットを止めたい所だけど回復能力があるのねー?
中途半端に攻撃しても意味がなさそーだからまずは機動力を奪いましょー
とりあえず隠蔽状態の妹達を沢山呼んで機をうかがっておこーかしらー?
きっとみんなと戦っているうちに隙ができるはずだわー
いー感じに注意がそれて『廃城の騎士』が【馬型オプション用強化装備】に騎乗したら【迷彩】状態のまま【忍び足】で忍び寄ってから【アリスの糸】で雁字搦めにしてしまいましょー
敵から馬型オプションが外れないよーにぐーるぐーる
特に馬型オプションの脚は念入りにねー
騎乗している以上、オプションが動けなくなったら移動しずらくなるはずよー
ある程度ダメージが蓄積したらアリスも隠蔽かいじょー!【ジャンプ】で首の裏に飛びついて開閉ハッチを【切断】するのー
上手く中身が取り出せるかなー?パイロットがもげたらかわいそーだからそっとねー


紅月・美亜
「ふむ……戦力的には十分と思える。ここは搦め手で行くか……コレ、私にも何が起きるかよく分からないのでな」
 RAGTIME SHOWを起動し、召喚した複葉機に乗って突入。
「見た目はレトロを通り越して博物館行きだが、スペックはSTGのお約束的で高いのでな」
 機銃を連射してヒット&アウェイで気を逸らせる。が、まあなんかで堕とされるだろうなぁ。
「おっと、やられてしまった……と、思っているのか」
 召喚したゾウに乗り換えてやたらと強い拳銃で応戦! まあ、ゾウがやられても、
「じゃあ次だな」
 召喚したキリンに乗り換えてやたらと強い拳銃で応戦! まあ、キリンがやられても、
「そろそろ機械も出そうか」
 自走ロケット砲に乗り替えてミサイルを連射! やられても、
「ははは、まだまだあるぞ」
 戦車、バイク、ジープ、ウマ、自転車、ホッピング、戦車、ロボット。何かに乗ってれば死にはしないのだ。
「これが、ギャグ補正と言う奴だ」
 そしてその影響は相手にも及ぶ……全く、恐ろしいUCだな、コレは。


鳴上・冬季
「皆さん人命救助第一のようですから、あの馬も起動させた上で本体破壊するのでしょうねえ。お優しいことです」
嗤う

「強化して発射前に機体のみ倒す、ですか。アリスさんが砲関係を食い荒らせば難易度が下がる気もしますし。メインは皆さんにお任せしましょうか」

レンジャー部隊の所へ飛行
「誰に何と言われようが、ここで貴方達が私達の援護をする必要はありませんよ。暴走したボイット隊長の手で二階級特進は嫌でしょう?第一連邦共和国上部から鎮圧の指示もない。国家事業を潰した軍規違反で貴方達が銃殺刑になるのも寝覚めが悪い。私達猟兵の言うことは一切聞かなくて構いません。副長達と合流し、暴虐な猟兵から上層部をお守りなさい。それなら悪くても減給で済むでしょう。今貴方達自身を守れるのは貴方達だけです。転進なさい」
「敵や知らない相手が何万死のうと構いませんが、知り合いは違う。それだけの話です」
嗤う

「誰かが隊長も救うでしょう。その時はオーラ防御で庇え、黄巾力士」

UCで一瞬敵の足止め
「多少は仕事もしないと怒られそうですからね」
嗤う


御園・桜花
「ルゲイ代表!此れを発射したら、結局地上に居る人間が犠牲になります。アサガシアとダンテアリオン、2国を共に滅ぼした盟主として歴史に名を残すのが貴方の望みですか」

「発射させずに止めて見せます。ボイットさんも助け出します。其の為に来たのですもの」

UCで回避率上げ周囲を敵周囲を羽虫のように飛び回る
「大丈夫です、ボイットさん。其れに乗っても乗らなくても、貴方が粗忽で副長さんに勝てないのは変わりません。お金を得たって、すぐにスッテンテンの文無しになるのも変わりありません。何を得ても何処に行っても、貴方が三下頓痴気さんである事は、私達が力一杯証明して差し上げます!」
全力で煽る
少しでも当たれば戦闘不能になると理解しているので第六感と見切りで只管躱す
仲間の攻撃は遮らないようその際は急ぎ後退
なおそれでガッツリ組合って動かない状態になったら首後ろに回り付け根の開閉スイッチオープン
操縦席から隊長を解放する下準備
可能ならその後機会見て座席に入り込み隊長を殴って気絶させ桜鋼扇の縁でベルト切り裂き担いで退避する


チェスカー・アーマライト
機体損傷OK
Howdy、ボイット・レンジャー
しばらく見ねぇ内に
えらく力を付けたらしーな
一曲付き合ってもらうぜ
アンタの力を証明してみせな!

ビッグタイガー、スタンディングモード
〝力〟っつーワードを連呼して挑発
あたしにヘイトを向けさせたい
前に報酬の件で脅しつけた事もある
憎悪の矛先としちゃ適任だろ
味方が動ける隙を作れりゃ御の字だ
タイミングを見てワイヤー射出
ビッグタイガーと敵機をガッチリ固定するぜ
チェーン・デスマッチみてーなモンさ
至近距離で相手の攻撃に晒される事にはなるだろーが
こう言う時のための重装甲だ
攻撃を受けながら距離を詰めて
主砲か『カンナ』の銃口を直に押し当てる
この距離でも無効化できるか、試してみな!

必死こいて求める奴ほど
誰かの〝力〟にビビってんだ
テメェの恐怖一つ乗りこなせねーで
証明もへったくれもあるモンかよ

あの筋肉ムキムキマッチョマンの変態(代表)にも
一発カマしてやりてーが
そいつは余裕があったらだな
これまでのツケは必ず払ってもらう
必ずだ


黒木・摩那
オブリビオンマシンとは言え、今回のは一段と恨み骨髄ですね。
前世に何かあったんでしょうかね。きっと。

そんなマシンに乗っ取られたとあっては、救出どころか、動きを止めるのもひと苦労しそうです。
さらに各種兵器も無力化するとかひどいですね。

これは一撃必殺を狙うより、着実に繰り返し当てることでダメージの蓄積を図ります。
特に関節や脚回りを重点的に狙って、機動力を奪います。

格闘戦で挑みます。
『エクアトゥール』起動します。

相手からの攻撃は【第六感】と機体の盾で【受け流し】つつ、機体性能を生かして【ダッシュ】や【ジャンプ】で接近。UC【龍顎龍尾龍撃乱舞 】を使って連撃します。
威力不足は真の姿パワーで【念動力】を込めて補完します。



●時に忘れられた者こそ、時を忘れる者であり。
 戦うつもりがないなら、単刀直入に言わせて貰うけど。
 未だにオブリビオンらしい行動を見せないマシンを抑えるレンジャー部隊に、シルは距離を保ちながら着地し声をかける。
『そのマシンは危険なの! ここは危険だから、早く下がってっ!』
『おいおい、幾ら何でもそんな言葉は聞けないぜ。ここをどこだと思ってるんだ』
『それに危険ったって、こうなっちまったら起動実験もできっこないしな。隊長も何だか調子悪そうだし』
『――だから! そのボイットさんの乗ってるマシンが危険なの!』
 シルの必死の叫びに、まさかと両名の視線が支えるキャバリアへと――、オブリビオンマシンへと向けられた。
 脚部の履帯を利用して弾かれたようにボイット機から離れる二機のキャバリアが、今度は自らの隊長へとその銃口を見せる。
『……誰に銃を向けてやがる……』
 あの声だ。ボイット本人の声、言葉遣いに変わりはないが、感情を無くしたかのように平坦な、機械的とは言わないが状況を理解していないのではないかとすら疑える冷めた声。
『あっははは、いやまあ、……その……ねぇ?』
『隊長、別に俺たちも猟兵の言葉を信じたって訳じゃーありませんが、念の為、的な。ね?』
 ライターとレフティが互いに確認し合うように控えめな言葉を発するが、要は猟兵のせいなので許して下さいといった所だ。責任感のない大人はやーねぇ。
 そんな彼らを威圧するようなしばしの間に、骨を鳴らす音が混じる。首か指かは判然としないが、反抗的な態度を見せた部下に対する行動として、そんな直接的な――あるいは幼稚な仕草をボイットが見せた事は一度もない。
 故に二人は直感する。猟兵の言葉が正しいと。
『お前たちは俺の部下だ。俺が率いる以上、お前らは俺の力の一端だ。離反する事は許さん』
『はぁ?』
 有無を言わさぬ態度のボイットにレフティの言葉尻も不機嫌に吊り上がった。
『よく分からないが、猟兵の言った事はマジらしいぜ、レフティ。隊長よ、悪い事は言わねえ、そいつから降りろ。戦力差を考えてくれよ』
(! マズい!)
 シルらと相対した時のように、相手を落ち着かせようと銃口を下ろすライターが不用意に機体の足を前に出す。
 戦慄く長爪の動きを察してアルジェント・リーゼが翼を開くと、白い軌跡を残してライター機の脇を抜け頭部に内蔵されたビームバルカン、【エリソン・バール】の近接射撃を行う。
 小口径故の取り回しの良さから牽制や迎撃を主目的とした射撃兵装だが。
(敵を倒せる力がなくても、牽制とは言え当てるつもりで撃っていくよ!)
 閃く光の礫が列となり、オブリビオンマシンに連射される。見てくれとしても古兵、装甲の傷が目立つそれは身を庇うようにして巨大な手を突き出し盾とした。
『……ここは抑えるから……、後ろに下がってね。正直、余裕があるわけじゃないから』
『…………!』
 低く押し殺した少女の声。後方には声をかけるだけでその動きにまで気を配る余裕がない。射抜くような目は正面、盾と構えた両腕の隙間から覗くゴーグルを睨みつけている。
 打ち鳴らす閃光が目に灼き付くが、まるで生身の探り合いのように視線を逸らす事も、瞬する事すら許されない緊張の瞬間。
『――射線が開けた、シル!』
『はいっ!』
 さすがのレンジャー部隊、危機管理はしっかりしているとばかりに少女の言葉一つでアルジェント・リーゼからは離れており、控える巨大重戦車の砲塔が精霊機の背ごとオブリビオンマシンを狙う。
 チェスカーの言葉にシルが答えるのと、ゴーグルの下にアイカメラと思しき光が映るのとは同時だった。
『――……っ!』
 エネルギー光を掻い潜り射線を抜けて、下方より床を削りながら迫る爪をしかし、退避行動へと移っていたシルはそのまま速度をあげて掠る事もない。
 同時にチェスカーの、ビッグタイガーの主砲の前に残るのは攻撃を空振る阿呆の姿、ただひとつ。
『こりゃビギナーズラックでジャックポットか!?』
 瞬時に到来した大きなチャンスに声を上げたチェスカー。照準はすでに目標と重なり、後は引き金に乗せた指を引くのみ。今は例のオブリビオンマシンも本調子ではない、スターフォーカスエンジンとやらの最大稼働前ならば。
 轟音。
 咆哮する鋼の筒口より放たれるは散華と乱れる炎の語り。
 排撃を声高に叫ぶ砲弾がオブリビオンマシンへと迫り――、こちらもまた虚空を抜ける。身を伏せるようにした犬面の機影、その頭上を駆け抜けて壁に突き刺さった砲弾が炸裂する。
 爆光の影に染まり、目だけを光らせた敵機は獣の如く。
『ケッ、まあ言っててフラグとは思っちゃいたが!』
 顔の前で輝くスコープカメラを退けて、全速で後退するビッグタイガー。
(なるほど、元から大降りの初手は避けられて当然、その後のこちらの行動に対応できるよう、空いた手を床に突っ込んで体を引き寄せたってワケですね!)
 接近したアルジェント・リーゼ、そして後退するビッグタイガーよりも更に後方、貨物車両上に立つエクアトゥール内で状況を確認する摩那。
 つまりあの一手は誘いの一手、となれば次の一手は反撃の一手。狙いは当然。それを察して後退するチェスカーだろう。
 と、なれば。
『こちらも必要なのは次の手、ですね。エクアトゥール、戦闘モード起動します』
 動力炉の出力を上げ、システムを切り返る摩那。メインモニターに浮かぶ情報も戦闘用への内容と切り替わった。
 その画面内に収められた敵機へ急接近する機影。
『そうは問屋が卸させないけど』
『何ッ――』
 獣となって全身をばねと成し、ビッグタイガーへ襲い掛からんとするオブリビオンマシン。対するは側方から姿を見せた錫華の駆るドゼット。思わず素の声をあげたボイットは、ビームバルカンの連射でシルが視界を塞ぎ、注意を引き付けている間に回り込んでいたのだと悟る。
 本来ならば展開した陣形を頭に入れるのは当然の事、行動する四機から一機が欠ければ注意を割くものだ。が、その間の彼と言えば部下に銃口を突きつけられ、本人もまた錯乱に近い精神状態。まともな状況の把握など出来るはずもない。
 そう踏んでの接近であったが。
(正直、あの状況で回避じゃなく二段構えの攻撃に転じるのは中々の勝負勘だよね。ゴリ押しは厳しい、かな)
 とは言えここで彼女の扱うドゼットは力押しにこそ真価を発揮する性能。やるっきゃないね!
『こっちを気にしてくれれば十分だから』
 錫華の言葉に気を取られたボイットへ、更にこちらへ意識を割かせるべく言葉をぶつけて加速する機体。衝撃に備えて重心を下げ、自らの体をひとつの塊として固定する。お次は言葉だけでなく質量と速度をそのまま叩きつける、ショルダータックルである。無論、その肩の突端にドゼットの最大の特徴を示して。
 粒子兵器の発射音と思しき重い音と同時に、光の刺が灯った。その形を固定し続ける程の性能はない、故に発せられるのは削岩機の如き光の連撃。
『おおおっ!?』
 触れると同時に砕け散る光の刺が、次々と生成されてオブリビオンマシンの肩のを削り取る。悲鳴を上げた甲高い装甲の音と熔解する赤々とした欠片が周辺に撒き散らされて、一撃の威力よりも数千の連撃を目の当たりにし、慌てて回避行動へ移った。
 上がらない左腕――、あっさりと駆動系に達した損傷に右腕を盾としてドゼットへ向き直るボイットへ、十分な役割は果たしたと滑走し、脚部より火花を散らして急制動をかけ。
 両者の間を横切る青の閃光。
 【BSビームランチャー】ブラースク改を構えたアルジェント・リーゼだ。ブラースク改は操縦者であるシルの魔力を粒子兵器として撃ち出す事が可能である。
 鮮やかな青を目で追うボイットに対し、連射モードへと切り替えたランチャーから溢れる光が強襲する。
 すでに防御と構えた後、致命傷には至らないがそれはもちろん想定内だ。そのまま上方へと駆け上がる精霊機と、それに重なるようにしていた黒の装甲が姿を現す。
『目の良さが命取りですってね!』
 正面でエクアトゥールの交差させた大型盾、その先端より放出されるのは光り輝く【BX-S エール・ノワール】。
 サイキックエナジーを利用した翼であり、刃である。
『ちぃ!』
 交差された刃に薙ぎ払われる事を直感したのか、右手で盾の動きそのものを止めようと後退はせず、敢えて前へ踏み出す。
 止めるにしても他に方法があるだろうが、囲まれていることを理解した上での判断。そして何より、目が良いと語る摩那に偽りなし。
(命取り、と言うのも間違っちゃーいませんよ!)
 その巨大な右手に握り込まれ光の刃で薙ぎ払う事は出来ないが、左腕と共に動きの止まった右腕に、狙うならば尚の事。
(と、でも思っているんだろうが)
 たてた長爪から軋んだ音が響く。肉薄した状態であり、エクアトゥール背面のドゼットは勿論のこと上方へと抜けたアルジェント・リーゼ、離れた位置にいるビッグタイガーと言い、仲間を危険に晒す射撃援護は不可能とヴォイットはほくそ笑む。
『このまま圧し折る!』
 万力の如く締め上げ負荷を与えるそれは、爪の鋭さを考えれば盾を斬り捌かれると考えられるも。
『冗談!』
『!?』
 ぐん、と掴んだ右腕が引き上げられて、機体が浮くオブリビオンマシン。エクアトゥールの盾は攻撃に備え可動式、衝撃に備えて強靭な構造と力を持つ。加えて敵機は従来のキャバリアと比べ重い訳でもない。
 あっさりと持ち上げられて驚くボイットを前に、ふふんと笑う摩那は盾より覗くエクアトゥールの両手を拳へと変える。
『魚は深く餌に食いついて――、ボディががら空きですよっ!』
『ぐっ!!』
 これぞ格闘機の真骨頂か、単純至極の殴りつけを受けて揺れる胴体に操縦席のボイットが呻く。
 彼の搭乗する位置としては背面に近い分、ダメージは緩和されているだろうがそれでも装甲の薄い機体である。堪らず手を離すオブリビオンマシンへ離れ際に足刀を食らわせ弾き飛ばす。
(距離が――)
(――開きました!)
 同じ言葉を正反対の感情で発したヴォイットと摩那。その瞬間を猟兵が逃すはずもなく。
『……う……っ……!?』
 照準が固定されたことによる警告音を耳にして、男は歯を食いしばった。

 戦闘が始まった。
 施設を震わせる爆音や鋼の軋み、衝撃音が貨物車両内にもよく響く。この状況、アサガシア上層部とていつまでも静観はできないだろう。
 仕掛けるなら今だと、ノエルはエイストラの通信回線を利用し輸送列車に備えられた外部拡声器へ声を繋ぐ。
『セルゲイ代表、こちらはエイストラ、ノエル・カンナビス。聞こえますか』
『何だね、君は。このアサガシアにカイラン・テンの車両で潜り込み――、ほげっ!?』
『ご機嫌よう猟兵諸君! 私だっはっはっはっはっは!』
 ノエルの問いに答えたのは神経質な男の声で、おそらくは代表補佐。異物である猟兵へおこりんぼおじさんの叱責が飛ぼうとするが、あっさりとそれを押し退けた代表の馬鹿笑いが木霊する。うるしゃい。
 国歌の秘匿兵器のど真ん中に武力進攻されているというのに、とんでもない器のデカさでなければただのバカである代表の対応だ。
 まあ、それだけ簡単に連絡が取れるのだからそこはこの男の気質をありがたいと取るべきか。
『応答感謝します代表。単刀直入に言いますが我々は現在、この施設の動力として使用される予定のキャバリアと同型機のデータを確認済みです。
 その機体の動力炉には大きな欠陥があり、最大稼働を要する利用計画は確実に爆発、施設崩壊と共に都市壊滅は免れません。実験中止を要請します』
『ほぉう、同型機に欠陥だと?』
 面白がるような代表の後ろで喚くおっちゃんの声も聞こえるが、適当にあしらっている様子だ。意外と聞き分けが良いと見えるが、そんな人間がここまでの計画を進めるはずがあるまい。
 実情としては喚く代表補佐と一緒で、そんな情報は信じられないだとか、国家機密に触れて何を言うのか、という感情論が先に立つはず。
 しばしの沈黙を経て、所でと代表が話を振ったのは代表補佐であった。
『市内の様子はどうなっているね?』
『は、はぁ……今の所は猟兵らによる扇動で、可動区域からの撤去も未だに……』
『それはどうでもいいが、いや……うん、そうだな……なるほどっ!』
 わざわざと会話内容が聞こえるようにこちらに流す。何に納得したのかは知らないが、相手も何かを確認したがっていると踏んだノエルは内心舌を出した。
 市内の情報を確認したということは、こちらとの会話がそのまま放送されているのではないかと疑ったからだろう。こちらに会話が聞こえるようにしたのも動揺を誘う為、こちらの考えお見通しだとプレッシャーを与える事が目的なのだと。
 だがこちらはレンジャー部隊という組織の人間へ協力を仰ぐ手前、そのまま会話を流す事など考えてはいないのだ。
(やはり曲者でしたか。けれど、今回はそのお陰で裏の顔を楽に引きずり出せそうです)
 そう、そのまま流すつもりはないが、この会話を市中へ放送する。それが彼女の目的である。
 理由はどうあれこのアサガシアの中央へ殴り込みをかけたのだ。軍部だけでなく国家そのものが猟兵を敵視するに十分な行動だ。
 だがそこに正当性を持たせられれば?
 緊急を要する事態が国民には秘密裏に進められているとしたら?
 評価というもの手札ひとつで簡単に逆転する。彼女はその手札を揃える為に行動していたのだ。
『結論から言わせて貰えばその要請は極めてノーだよ、んっふっふっふ』
 極めてキメェですだよ。
『何故です? 失敗すればこの施設の瓦解、引いては地上の崩壊を意味します。人道的見地から言ってもここは一度、考え直すべきではないですか?』
『理由は単純だ。我々は今、戦争をしている。相手の喧嘩を買ったぞぅヤッホイ! という私の言葉を受けたメッセンジャーボーイが敵対国に帰国しようとしているのだ。
 まずは相手が準備を整える前に叩かねばなるまい、その為には多少の無茶はしなくちゃならない!
 確か、一部の地域では〝豪傑にならずんばコージーを得ず〟と言うらしいじゃあないか! コージー、どんな凡夫をも立派な武人とする、きっと素敵な女人なのだろうなぁっはっはっはっはっは!』
『勘違いも甚だしいのですが』
 きっと虎穴に入らずんば虎子を得ず、的な事を言いたいのだろうが、明らかに言い回しが変なのに巡り巡って本来の意味で使われてるのが癪に障るよね。
 思わずこめかみを押さえ、これが素なのか、あえての愚なのか判別できない代表の言動と意味のないことを考えてしまう。
 こちらの想いなど考えてもいないだろう男はそれだけに留まる事無くここで一言、付け加えるならばと。
『私がそうしたいからだ。第一共国の理想の為に』
『…………? それは、敵国を打ち砕いて、アサガシアとカイラン・テン、ヴィエルマの連邦国家としての地位を不動のものとしたい、そういうお考えでしょうか?』
『不動の地位だと? ふふふ、下らんな』
 心底見下したような声音に、眉を潜めたノエルだけでなく代表のいる施設の制御室からも動揺した気配が伝わる。
 長年をかけたというこの行動、それは三国を、後には更なる国々を結合し巨大な国家設立を目指していたからではないのか。その為の示威行為ではなかったと。
『代表っ、このような会話はお止め下さい。どこで誰に聞かれているか!』
『おっとぉ、っはははーっ! それもそうだな、うん!
 まあなんだ、とりあえず実験の中止要請は却下という話でひとつよろしく頼むよ猟兵諸君!』
 なるほど、交渉の余地はないと。代表の言葉に思わずほくそ笑む。容れられない事など当然予測済み、その場合の選択肢など決まっているのだから。容れられない場合、都市壊滅から市民を守るため強制停止させる。
『で、あれば我々は都市壊滅の危機から市民を守るため、対象を強制停止させます。
 こちらの持っている情報とそちらの持っている情報を突き合わせて調査すれば進展することもあると思ったのですが、残念ですね』 
『必要ないのだよ、なぜなら、――フンッ! 必要な情報はすでにあるからだぁーはっはははっはぁ!』
 言葉の途中に力む声やら布の裂ける音やらが響き、全方向にうるさい代表のお言葉であのてってか油ギッシュボデーでマッスルポーズを決めている場面を想像し、ひっそりと溜息を吐く。
『それに我々は傭兵を生業とする武の国家! 国家間闘争による人的被害など想定して然るべし!』
『だ、代表、過激な発言はそろそろ控えてっ!』
 止めに入る代表補佐はやっぱりおこりんぼおじさんでも補佐としての仕事は全うしている。ここで気になるのはおバカなトップとも言える言動を繰り返すこの男。
(底が浅い、浅過ぎる。浅過ぎるというレベルじゃないですね。それだけにどこかわざとらしい、と、言いますか)
 わざとこの会話を聞かせているのではないか、そうとも思える。ノエルからすれば願ったり叶ったりの状況だが、事が余りにも上手く運ぶと疑念も生まれてしまうものだ。
『…………、これ、どう思います?』
『さあな。本心か本心じゃないか、判断する必要はないさ』
 相手側には聞こえないよう、ヴェルデフッドへ搭乗した晶へ通信を回す。彼としては代表の真意がどこにあっても、行動に伴う結果に変わりはないと見ている様子だ。
 事実、セルゲイ代表は条件が揃えば民草の命など気にせずに引き金を弾くだろう。
『やることに変わりはない、俺たちは被害を最小限にオブリオンマシンを破壊するだけだ。
 ――だがやはり気に入らん!』
 それは彼にとって、唾棄すべき行いだ。
 生きる為ならば何でもやるし、何でもやったという自負すらある晶。だが最後の一線として区別する、人の道に外れた行いだけはせず、越えてはならない事と指針のひとつにしている。
 だがこの国の代表は、代表でありながら国民をただの消耗品としか考えていないのだ。その生死に関わる事の判断さえも、自らの一存で決め、何も知らぬ者らへ選択権なき死を与えようとしている。
『どいつもこいつも国のトップは馬鹿ばかりだ。自分の事、思想を固執して民の事なんか考えねぇ!
 たまには自分を殺して真の平和ってもんを考えやがれ!!』
 激昂する男の叫びは自らの生い立ちを匂わせるものであったが、果たして。
『マスター、今は状況の解決こそ先決です』
『……ああ、悪い……、分かってはいるんだ』
 ウィリアムの言葉に顔を拭う。少なくとも彼の逆鱗に触れるセルゲイの言葉は、現状を打破する為のものではなく、猟兵の評価を占う為の手札に過ぎないのだ。
『まずはレンジャー部隊の奴らを説得して、基地周辺からの避難指示を出させるか。
 あの隊長の様子を共有させれば、レンジャー部隊が敵対するってのは考えられないしな』
 命の危機に際しては迷わず撤退を選択できる男、それについて行った仲間たち。彼ら部隊の絆は単に命令によるものでなく、家族とも呼べるものであったと晶は感じていた。それが傭兵らしい報酬という鎖で縛られていたにしても、彼らはその関係を受け入れ、その判断に命以上のものを預けていたのだ。
 そんな彼らだからこそ、ボイットの異常を前に、軍属としての命を全うするような生真面目さを持ち合わせていないと断ずるに十分。
『では施設内の人間にも呼びかけましょう。動力部の機体はオブリビオンマシンであること、我々の行動はあくまでパイロットの救助、そして被害防止の為だという事をアピールしないといけませんね』
『ああ。ウィリアム、ノエルから音声データを共有したら拡散してくれ。それまでは時間の引き延ばしとオブリビオンマシンのデータ解析、出来るな?』
『勿論です、マスター』
 ウィリアムに命じながら準備するのは【複合バヨネット装着型ビームライフル】。その名の通り銃剣付きのビームライフルで、二挺一対で運用され平行に連結すれば長射程用のキャノンモードへと移行可能な代物だ。
 つまり彼の言う時間の引き延ばしとは、戦闘行為への参加、援護を行う事。幸い、敵機は以前対峙した相手と違い、攻撃そのものは通るのだから戦闘能力において劣り、時間稼ぎを考えるのも妥当だろう。
 敵の危険性とはその動力炉にあるのだから。
(とは言え、時間稼ぎも国家であるアサガシアそのものへの対策用だ。四の五の言っていられない状況になる前に、終わりにしなきゃあな)
 ヴェルデフッドは両手に構えたライフルを肩へと担ぎ、貨物車両の装甲を展開する。
 本当ならば本領を発揮していない今こそが叩き時なのだが、自爆の怖れある欠陥機を相手に持たせねばならないのが本戦闘の難点である。
(それもこの国家まるまるひとつの存亡に関わる事、前回と違って確定的なものとなれば、嫌でもやり切るしかないな)
 車両を見送っていた市民たちの悪意なき笑顔を、武力衝突の中でもその悲惨さを忘れようと明るく努める彼らの姿を想えばこそ。
 いやでもここ一帯の国民性を考えるとマジに忘れてるだけかも知れないよね。
 一抹の不安を振り払い、輸送列車から上半身だけを覗かせて車両の屋根に固定する。狙撃態勢を取るヴェルデフッドの肩に装備された【複合型ミラージュレーダーユニット】が起動、電磁波により敵位置を捕捉。
 特に探知系の妨害機能はないようで、正常に稼働している。
 やりやすい、異様に。戦う為に調整されたかのような場所だ。
(…………、今は状況の解決こそ先決、か)
 浮かんだ疑念をアシストAIの言葉で振り払い、晶はメインモニター上の標的へ照準を向けた。
 味方からの援護もなく孤立するオブリビオンマシンへ着々と包囲網が形成される中、攻撃準備を終えたヴェルデフッドを横目に施設床面との色彩差を無くしたアリスがとことこと歩いて行く。
 車両に搭載された外部拡声器の声を拾って施設内拡声器から答えるセルゲイの言葉は、当然と彼女にも伝わっている。
「ギチギチ、ギチチッ」
(セルゲイさんがたのしそーねー、でも面白がっているじょーきょーじゃない気がするなー)
 状況を愉しんでいるかのような代表の口調に、裏表などなく率直な感想を抱くアリス。見てくれこそ化け物、もとい禍々しい巨体、もといもとい、発育のよろしいお嬢さんであるが歳で言えばまだまだ幼い。それだけに彼女の正直な感性は的を射ている事もある。
 周囲を意識共有する群体の妹たちとともに複数の眼で状況を観察しながらも、周囲を構成する要素のひとつたるオブリビオンマシンも勿論、観察中だ。
「ギィイ、ギギギギギ、ガチッ、ガチッ!」
(さて、あのロボットを止めたい所だけど回復能力があるのねー?
 中途半端に攻撃しても意味がなさそーだわー)
 動体視力含めあらゆる視覚能力が一体いくらあるのかは分からないが、ドゼットの攻撃により駆動系にまで達したはずの損傷が回復を始めた事に彼女は気づいたようだ。
 猟兵らはボイットを追い詰めるべく行動しているだけである為、その回復に気づいても阻止するような事はしない。無論、攻撃の手を緩める事もないが。
(下手に反撃の手段を無くしちゃうと、動力炉を全開にした時に間違えて爆発しちゃうかもしれないものねー)
(あのロボットも大変よねー)
(面白がってる状況じゃないのにね~?)
(あの代表も大変だわー)
 他人事ですね。他人事だったわ。
 とは言えそんな危険地帯のど真ん中で危険物の排除に動いているのだから、当事者よりも当事者らしいと言える。
「ギイィィィ! ギチギチギチ~!」
(【みんな~助けて~】)
(はーいっ)
 司令塔アリスに妹たちが小気味の良い返事を返す。
「ギィイエエエッ! ギィギィギィ!」
(まずは機動力を奪いましょー。ボイットさんの周囲だけでなく、壁面床面いろんなところで妹たちは機をうかがってもらおーかしらー?)
(はーいっ)
(かくれんぼと忍び足は得意なのー)
 司令塔アリスの言葉を受けて山ほど沢山のアリス妹たちがわらわらと散らばっていく。まるで生まれたばかりの子蜘蛛が危機に瀕して脱出する津波のような光景であり、見る人が見れば、否、常人が見れば卒倒するような光景だがそこは彼女らの擬態能力、全く目立たないところはさすがと言える。
(抜き足差し足忍び足ーっ)
(ゆっくり急ぐのよー!)
 全周囲に妹たちを配してアリスはうんうんと首、と呼ぶか上半身と呼ぶべきかをを縦に振る。
「ギチチッ!」
(きっとみんなと戦っているうちに隙ができるはずだわー。見逃さずに動くのよ~)
 「あ、それそれ」と自らの糸で作った扇子をパタパタ振り号令するアリス。迷彩状態にあるとは言え、元からその場にいるとわかって注視すれば見えないこともない。
 その様子を窺う冬季も彼女の仔細まで把握している訳ではないが、この施設内にその勢力を拡げているのは十分に理解できる。
「オブリビオンマシンの破壊へ皆さんも着手したようですし、こちらもこちらで動くとしますか」
「だがしかし待ってくれっ! 僕は未だに裸一貫、外へ出るには余りにもっ!」
「この施設が稼働しないよう、動力源足るオブリビオンマシンを倒し。オブリビオンマシンが自爆しないよう強化させる」
「聞く耳を持たない!」
 面倒な事態を考察する冬季の足下で吊り上げられた魚のようびビチビチと跳ねるブレナンディハーフに関心はなく、一人状況を整理する。
「アリスさんが砲関係を食い荒らせば難易度が下がる気もしますし。メインは皆さんにお任せしましょうか」
「しかもこれ見よがしの独白が続くっ!」
 独り言は続けてもオーディエンスに反応はしないのだ。
 ブレナンディハーフは捨て置いて宝貝・風火輪で空を往く冬季。自分の目的とするレンジャー部隊へ向かう前にと扇子を振るアリスを眼下に収めて、声をかけた。
「アリスさん、万が一という事も有り得ますしこの施設も苗床に繁殖されては如何ですか?」
「ギッ? ギィ、キィ、キッ!」
(グリモア猟兵さんは技術的な価値があるように見ていたみたいだけどー?)
「人命優先ですし、アリス・ラーヴァという種族なら正しい行動でしょうから、問題ないのでは?」
 それもそっすね。
 アリスの言葉に種族としての観点から諭されて「それもその通りね」と頷くアリス。理由があれば問題ないね!
 配置に偏りのあるアリス妹を余りアリス妹部隊として、床やら壁面やらをそのまま喰らい、地下へと潜り込むよう指示を出す。ついでに糸で穴を塞ぎアフターケアもばっちりである。
「セルゲイ代表!」
 そんな折、響く高音に冬季は眉を潜めて声の方向へ首を向けた。そこにはボイットの注意を引くべくオブリビオンマシンへ接近したはずの桜花の姿。
 彼女はどこからかこちらを見ているであろうセルゲイらアサガシア上層部へと声をかける。
「これを発射したら、結局地上に居る人間が犠牲になります。アサガシアとダンテアリオン、二国を共に滅ぼした盟主として歴史に名を残すのがあなたの望みですか」
『我らが代表は民主主義によって選ばれたのだ。愚帝とでも言うつもりか!』
「選ばれた方法に関係などありません! 命を命と思わずして何の為の代表ですか!」
 すかさずお怒りのコメントを挟む代表補佐へ、更なる怒りを見せた桜花。国家とは国民の為にあって然るべし。その怒りは晶にも通ずるものだ。
 だがここでもこちらの感情の高ぶりを、まるで下らないものとばかりに鼻で笑う声――、セルゲイ・ウォン・カラッツェである。
『あー、女猟兵の君。君は何か勘違いしているようだ。私こそ命を命として扱っている者はいないさ』
 命とは、道徳を口にして初めて価値が生ずるもの。
 それ以外はただの数でしかない。
『全ての命は消耗品だ。そこに違いなどありはしない。価値を謳うならば道徳において他にないだろう、だが争いにおいては数にしか価値はない。
 より少ない被害で、より多くの被害を。戦いの基本であり、命を救う上でもっとも確実な事だ』
 それとも、説得などという下らない時間の為に我が民の命を減らせと言うのかね。
 いつもの含み笑いはなく、淡々と話しかけているようで侮蔑的で、それでいて高圧的な、見下しの言葉。
 この男の本性が冷徹なものだと確信するには十分であり、この国が傭兵を生業とした理由に納得がいくほどの戦争屋的思考。
「……その消える命が、例え自分のものであってもですか……?」
『奪われるだけの命など、所詮はそこまでの価値という事だなぁっはっはっはっはっは!』
『あの代表、もう少しお言葉をマイルドに』
 代表の過激発言に代表補佐も苦労しっぱなしっすね。そんな苦労などは知った事ではないが。
「その言葉、ご自分が奪われる立場になっても口にできるかどうか、もしも本当にそうなった時は見届けたいものです」
 戦争屋の考える事、喋る事、信念なくば土壇場まで貫けるかどうかも疑わしい。もはや論ずるに値しないと判断した桜花の言葉だが、それも市民に流すには良い情報だとノエルは一人頷く。
 彼女の激情が掘り出したのが代表の本心であろうとなかろうと、人を人と思わぬ彼の言葉がこうも続けばその求心力を下げる効果は高いだろう。
「桜花さん、感情的になるのは構いませんが、すべきことを見失わないでくださいね」
「勿論、発射させずに止めて見せます。ボイットさんも助け出します。その為に来たのですもの」
 それならば安心だと、強い光を瞳に宿した桜花とは対照的に茶々を入れたのは薄ら笑いを見せる冬季。
 続いて首を巡らせれば、目にするのは「なんかッベーこと聞いちゃったわー」と知らんぷりしているライターとレフティである。
 飛行する彼の顔に見覚えがあったようで、二人、というよりもキャバリア二機はあらぬ方向へと首を回す。おそらく彼らの記憶にあるのは巨大なロボットで地形を変えながら哂う彼の姿だったのだろう。
 状況的に味方であると分かっても相手したくはないよね!
「お久し振りですね、レンジャー部隊の皆さん」
『あっ、はい。奇遇ですね』
『お久し振りです』
「わざとらしい対応というのも鬱陶しく感じたりするものなんですねぇ」
 必要以上に気づかなかった振りをされ、笑顔はそのままに圧をかけられて小さな悲鳴が二人から洩れる。
 気を取り直して咳ばらいをし、自らを奮い立たせる左右さん。
『あー、えっと。それで何の用で?』
「別に、ただの避難勧告ですよ。あの戦闘を見ればわかるでしょうが、誰に何と言われようとも、ここで貴方たちが私たちの援護をする必要はありませんよ。
 暴走したボイット隊長の手で二階級特進は嫌でしょう?」
『……それは……まあ……』
 歯切れの悪い答えだ。幾らレンジャー部隊とは言え弾避けとなるボイット隊長の存在なく、上層部の目の前で敵前逃亡を行う踏ん切りはつかないと、そういう事だろう。
「第一連邦共和国上部から鎮圧の指示もないでしょう。とは言え、国家事業を潰した軍規違反で貴方たちが銃殺刑になるのも寝覚めが悪い」
 彼らの心を透かしてこれ見よがしに嘆息しつつ、その背を押す冬季。
「私たち猟兵の言うことは一切聞かなくて構いません。副長たちと合流し、暴虐な猟兵から上層部をお守りなさい。それなら悪くても減給で済むでしょう。
 今貴方たち自身を守れるのは貴方たちだけです。転進なさい」
『…………』
 上手い事を言う。黙りこくって考え込む二人に晶も笑う。これならば外のレンジャー部隊らと共に、自らの火の粉を振り払うべく動くはずだ。
 それも彼らのやる事、周囲を巻き込み自分たちの責任を極力減らすように仕向けるだろう。
『本部、応答願います!』
『本部というか、こっちは代表直通だぞ! どうしたんだレンジャー部隊!』
『えーっとぉー、我々の火力ではー、敵を相手にぃー、制圧は不可能とぉー、隊っ長っがっ!!
 判断されましたぁー』
『なので言い出しっぺの隊っ長っがっ!! 足止めしてくだすってる間に我々は応援を呼びに行ってまいりまぁ~す』
『馬鹿者、そんなものは許可していない! 何のでたらめを』
『ままま、いーじゃないかね、現場判断だよ? そこは気を利かしてあげようじゃないかぁ、うんっふっふっふ!』
 ここで助け船を出すのが代表とは。
 目を丸くしたのはレンジャー部隊だけでなく、桜花や晶も同じだ。だが彼の本質に近い部分を感じ取った猟兵にとってこの言葉を額縁通りに受け取る事はなかろうが。
 それでも彼らの命を優先するお墨付きを国の代表が出したのは大きな事実だ。即座に脚部の履帯を回して転身する二機のキャバリアは、上官を心配する素振りもなく輸送車両によって閉じられない出入口からそのまま外へと駆け抜ける。
 自らの身を案じての行いなのは勿論としても、ボイットに非を押し付けたのは猟兵らがこの場を治めてくれるはずだという確信あってのこと。
 きっとそのはずだと晶は確信し、飛行する冬季へ言葉を投げた。
『意外だったな。てっきり逃げないなら勝手にしろ、ぐらい言うもんだと思ってたが』
「別に。敵や知らない相手が何万死のうと構いませんが、知り合いは違う。それだけの話です」
『ああ、確かにな』
 命の価値を問うならば道徳の話だと、代表の言葉は真実なのかも知れない。
 だがそれがあるからこそ、彼らは人としての繋がりを持ち、人としての拘りを得ているのだ。
 それは人が人である証明と言える、大袈裟に言えば己の存在を証明する要素のひとつ。
(ならば逆に、奴が自分を自分としている要素はなんだ?)
 彼らのやりとりに疑問を浮かべたのは美亜である。
 哲学的な話ではあるが、あの男の行動理念を理解するには必要な事。奴の本心を知る為には。
「……ここは搦め手で行くか……コレ、私にも何が起きるかよく分からないのでな」
 彼女の視線の先には空間の歪が発生し、溢れ出る音楽と共にずるりと何かが姿を見せた。


●恒星エンジン・フルドライブ!
『ちいいっ!』
 飛来する粒子の光をかわし、あるいは手甲の曲線で流し迫る黒影の盾を利用した体当たりにはこちらも手甲を盾として受け止め、互いに打点をずらして重心を崩す。
 一対一ならばおそらく互角、返し技のひとつやふたつの差で結果は決まる。だが一対多ではそれ以外にも意識を割かねばならない。その差は、返し技のひとつやふたつで埋まるものではないのだ。
『残念ですよ――、こういう形での手合わせは!』
『ッ、……しまっ……!?』
 押しに出たオブリビオンマシンの手甲を、同じようにして受けた盾を利用して下方へ潜り込み、柔術を応用した動きでがら空きの足下へ。
 上体の泳いだオブリビオンマシン、足をつっかけ前につんのめったその体を転がすなど赤子の手を捻るようなもの。立ち上がり、盾を跳ね上げて相手の勢いと重心を利用して投げ飛ばす。
 天地逆となって床に激突するかに見えたが、あっさりと受け身を取って前転し立ち上がる。
 動きに滞りはなく、瞬時の立て直しであった事もあって隙は極めて小さい。が、故に軌道修正も最低限での攻撃が可能である。
『チェスカーさん!』
 上方より降り注ぐ光の雨、アルジェント・リーゼのビームバルカンに追い立てられたオブリビオンマシンのその先で、タンクモードからスタンディングモードへと身を起こしたビッグタイガーの姿があった。
 重厚さを勇壮さへと変換したかのような鈍。
『〝Howdy〟、ボイット・レンジャー。しばらく見ねぇ内にえらく力を付けたらしーな』
『あぁ!?』
 一曲付き合ってもらうぜ、そう晒うチェスカーの言葉に青筋を立てるボイット。目すらも血走らせた彼の形相は彼女に見えないが、狩人に追い立てられる野兎や野狐のような獲物から、瞬時にして襲い掛かる猛獣の雰囲気へと変じた。
『……調子に乗るなよ猟兵どもっ……、この俺が! 今まで貴様らの下に甘んじていたのは兵器の絶対的な差のせいだ。俺自身の力が引けを取っているなんて思ったこたあ一度もねえ!
 このキャバリアの力を手に入れた今、兵器の差が埋まればお前ら猟兵なんぞ物の数じゃねえんだ!!』
 兵器の差が埋まっても多勢に無勢の差は埋まらない。
 その明白な答えが理解できない程の激情か。
『そーかいそんなら、アンタの力を証明してみせな!』
 振りかざした長爪を、前進することで威力が発揮する前に両肩で受け止め、そのまま力で押し退ける。勢いに乗った所で突きでも体当たりでもないとくれば、速度が力に乗るのは振り下ろしのみ。
 特に質量差のある相手である。動きが止まった相手を押すのは易い。
『パワー不足だと!? 力の差はないはずだ、猟兵相手だろうと!』
『そういう問題じゃないと思うがね!』
 押し退けられて離れた相手にぶん回しのアッパーカット。テレフォンパンチとばかりに掠る様子すらないが見え透いた手も相手を引き離すには丁度いい。
(態勢を崩した状態で受け止めるはずはねーからな!)
 拳の距離から蹴りの距離へ。今度はこちら番とばかりに踏み込んで、勢いと質量とを乗せる回し蹴りがオブリビオンマシンの胴体へ直撃、装甲を陥没させて吹き飛ばす。
 態勢を崩した所への打ち込みとは言え後退する敵機へ追いすがる攻撃であらば威力も減衰するが、そこはキャバリア小隊を率いる者、立て直しの速度も素晴らしく、故にその威力は完璧に近く。
 派手な音をたてて地面を転がるオブリビオンマシンの中で、揺さぶられたボイットは操縦桿に噛り付く。
 まだだ。
 横倒しになった姿勢を正すべく背面に背負ったウィングユニットが肩の上へと可動、展開して翼を開き、内部より噴射剤を放出する。
 白い炎を更なる翼と成して低空を駆ける犬面を捕捉するが、その無駄に盛大な炎が邪魔をして正確な位置取りが難しい。
(とは言え離れた位置からすれば予測するのも楽だがな)
『ウィリアム、回避パターン解析!』
『右そのまま、左修正、誤差十三。タイミング三、二――、いけます』
 発射。
 並ぶ銃口より閃く二条の光。だがそれらは急旋回する白き炎の塊には触れず床へと突き刺さった。
 あの野郎、もう位置取りを把握していやがったかのかと晶は唸るが、自分の実力を猟兵とも引けを取らないと豪語したのは過信ではないらしい。
 それも、本人の意識故かオブリビオンマシンとの浸食を受けたが故かは分からないが。
『……纏わりつきやがって……、お前らはいつもいっつも!』
 空へと逃れて纏う炎を散らし、恨み言をぶつけるボイット。その下方を抜けて背面飛行、ビームバルカンを連射するアルジェント・リーゼ。
『空中戦なら!』
『俺をやれると!?』
 青き風を見下ろして歯噛みする男はシルを追う。射線から逃れようと翼を開き、右へ左へと機体を揺らすボイットへ合わせるように、シルもアルジェント・リーゼのウイングスラスターを展開、風を受けて速度を落とす。
 射撃の精密性を上げる為の動作も敵の追い足の加勢となるが。
『そこっ!』
『見え透いた手を自信ありげにかよ!』
 回避運動に合わせてブラースク改で退路を塞ぐも、三次元機動を使えばかわせない事もない。バレルロールの軌道に減速と加速を合わせて光弾をかわすオブリビオンマシンへ、もちろんそれだけではないとシルは珍しく勝気な笑みを見せた。
『ボイットさんのいつもの機体とはまるで正反対なのに、こうも扱えるんですから』
 加速接近する敵機の死角から逆手に抜くは【BXSビームブーメラン】エトワール・フィランド、投擲することでブーメランとも機能するビームダガーである。
『……機動力に自信があっても……っ』
 ビームランチャーの合間に投げ放つそれは、同じく粒子光弾として処理されたであろうボイットはあっさりとかわして白兵戦の間合いへ持ち込んだ。
『自信だけじゃねえってことが分かったかよ!』
『それでも、わたしとリーゼも負けないからっ!!』
 弧を描いて戻る光の刃がオブリビオンマシンの肩に突き立った。
『だ、誰がっ!?』
 それぞれの機体の配置を記憶し、それぞれの攻撃に対応するべく動いていたつもりのボイットとしては、不意に背後へ敵が現れたかのような感覚だろう。
 実際にはシルの投げたビームブーメランによる餌に食いついてしまっただけで。
『私は前にしかいないよ!』
『!? ――!』
 意識を前後へ分断されたボイットへ、眼前の自分を強調させながらその肩口に輝くエトワール・フィランドを引き抜く。
 逆手に握ったビームダガーと純手に握った星の輝き、【BXビームセイバー】エトワール。片手半剣然とした佇まいに煌びやかな光刃がボイットの視界を埋め尽くし。
 神懸かった反応で状態をそらし、必中と思われたエトワールの横薙ぎをかわすも続くビームダガーが胴を薙ぐ。鋏のような動きに対応しきれなかった男を載せて、オブリビオンマシンの装甲が悲鳴をあげた。
『はあああーっ!』
 逆手に握る光の刃から流し込まれるのはシルの魔力。それは印として刻み込まれ、オブリビオンマシンの存在を自らの魔力を通じて知覚に固定する。
 これぞユーベルコード、【蒼の閃光(ブルー・エクレール)】による初撃。
『ボイットさん、マシンに取り込まれないでっ! ……あなたには……!』
『うるっ、せえっ!』
振りかざした長爪をエトワールの柄頭で受け止める。力だけなら相手が上だが、空中戦で負けるつもりがない言葉通り、機体の扱いはこちらが上だとシル。
 柄で受けた事で力の流れをそらし、反動に合わせて空転、敵の力の勢いを利用して機体頭部を蹴り上げる。衝撃にメインカメラを揺さぶられて視界が混濁するボイット、その間に上下逆さとなったアルジェント・リーゼがオブリビオンマシンの足下を駆け抜け反転。
『あなたには、あなただけの力があるんだからっ!』
 背中から覗くのは伸縮式の砲身を持つ【BS-Sツインキャノン】テンペスタ。構えたブラースク改に加えエリソン・バールの照準を向けた。
『――だからっ、分かりやすい手をっ!!』
 怒声を上げた男へ、振り向き様の蹴りをエトワール・フィランドで受けて装甲を穿ち。静かに告げるシルの言葉には必死さ故の怒りが滲み。
『リーゼ、全開で行くよっ!!』
 受けた刃を捻ってオブリビオンマシンの体を崩し、向けた砲火の一斉を集中した。
 炸裂する光が雪崩のように押し寄せて、目を見開いたボイットは瞬時に両翼を展開、白き炎を見に纏う。それ自体に防御効果はないが、流れを起こす事で少しでも直撃弾を減らそうという涙ぐましい努力である。
『――おっ、……お……おおおっ!』
 エネルギーの奔流に流し落とされるように錐揉み回転を見せるが、それも両翼を体に巻きつけたことによる不安定さだ。
 しかしシルの魔力的知覚内にいる限りその不規則軌道も常に捕捉されているのだ。
『ごっ、くぐ、くっそおおおっ! ライター、レフティどうした!? 援護しろぉ!』
 すでに姿がないことに気づいているのかいないのか、ただの状況に対する苛立ちか。隊長である彼が周囲へ当たる姿などは見慣れたものだったが、それに声を返す者がいないことなどなかった。
 弄られても、それでも慕ってくれる人たちがいる。
『それが、何よりの力でしょうがっ!!』
『それを奪ってきた奴らが!?』
 叫ぶシルに怒鳴り返すボイット。それは間違いない憎悪と烈火の如き怒りであったが猟兵との接点にそのような歴史が彼にはないことを、彼自身が知っていた。
 シルの言葉が見覚えのない光景を脳裏に浮かべ、抗いようのない感情が坩堝と化す。
『…………っ! 来い、サベージ・ライダー!』
 ボイットの叫びに反応し、動力炉の影に鎮座していたライドユニットに火が灯る。被せられていた布は小腹を空かせたアリス妹によっておやつ代りに全て食べられているがこの作戦の重要物だけあって、さすがに本体まで食べてはいない。
 噛み跡はあるが破損していなければセーフなのだ。
(立った、お馬さんが立ったわー!)
(ホネホネね~)
 白を基調とした馬型のライドユニットは装甲らしい物もなく、アリス妹らの言葉通り骨だけの馬が動いているように見えるが動作はしっかりとしており、これもまたオブリビオンマシンの一端である事が知れる。
 紫の光が双眸から発せられて、馬型ユニットは空を飛ぶ。
『! ……あれが……』
 高速飛行するそれはアルジェント・リーゼとオブリビオンマシンの間とに割って入り、エネルギー光を弾き散らした。
 その見た目にそぐわぬ堅牢さだ。
『見せてやるよ、何よりの力ってヤツを!』
『そんなのは誰も望んでない!』
『俺の望みだ、否定をするな!』
 サベージ・ライダーの背骨から伸びたコードを本体と接続し、騎乗する機体と動力を共有する。その腰に差された槍を抜き、ゴーグルの下のアイカメラが光を見せた。
 その滾る情熱は。
『オブリビオンマシンとは言え、今回のは一段と恨み骨髄ですね』
 前世に何かあったんでしょうかね。きっと。
 空を行く敵機と精霊機との戦いを見上げて、摩那は呆れたような苦笑いを浮かべた。
(記憶の混濁も見られますし、そんなマシンに乗っ取られたとあっては救出どころか、動きを止めるのもひと苦労しそうです)
 さらに予測されるのは各種兵器を無力化するその能力。
『いやぁ、ヒドイですね。これは一撃必殺を狙うより、着実に繰り返し当てることでダメージの蓄積を図るとしましょう』
 特に関節や脚回りを重点的に狙って、機動力を奪う。それは敵の回復力を考えれば有効とは見えないが、実際には狙い続ける事に意味がある。
 回復の阻害を続ければ別部位の回復に割く時間も減少するはずだ。敵の特性を大きく奪う要素となるはずだ。
『格闘戦で挑みます。シルさん、こちらへ!』
『わかりました!』
 摩那の言葉を受けて急旋回、降下する青い装甲に目元を引き攣らせながらこちらも追うボイット。床面すれすれで軌道を変えたシルと違い、ライドユニットで激突するように着地しそのまま床を駆けるサベージ・ライダー。
 ほとんど減速せず擦り抜けるような飛行を見せたアルジェント・リーゼと違い、僅かとはいえ動きを止めたオブリビオンマシンとでは距離に大きな差が生まれる。
 その間に立ちはだかったのはエクアトゥール。
 ――龍顎拳!
 裂帛の気合は口には出さず、打ち出した正拳突きがサベージ・ライダーの鼻っ面を捉える。ひしゃぐ顔に首が撓み、同時に放たれた衝撃波が壁となってライドユニットが大きく傾くつんのめるも、止まらぬ敵機。
(この特大の衝撃波を――、龍撃砲でも止まらない、か! 分かってますとも!)
 そのまま側方へ回り込み、傾いたサベージ・ライダーの前肢へ放つ回転蹴り、龍尾脚が巻き付くように張り付き、威力の全てを通す。
『何ッ、だテメエ!』
 左足を支える事もできず崩れ落ちたオブリビオンマシンの頭部を襲撃する。この一撃は槍に止められたがそもそもこの連撃はユーベルコードを伴う【龍顎龍尾龍撃乱舞】、一撃二撃が防がれ止められ受け流されても。
 両肩の盾が後方へと可動し、露わになった細身の黒いシルエットが構えた双拳に次の行動を察して目を見開くボイット。
 この間、傾いたサベージ・ライダーが着地する暇すらありはしない。
 瞬撃一閃。
『――がああっ!』
 百を超える連打の煌めき。一撃一撃に重さを重視したものではないが、それが瞬の間に放たれればそれはひとつの拳と化す。
 まるでキャバリアをもってしても巨人に殴られたかと見まごう衝撃に吹き飛ばされたオブリビオンマシンは、動力炉の壁面を破壊して叩きつけられた。
『……こぉンの……!』
『まだまだっ!』
 怒りの目を向けたボイットは瓦礫をすくい、礫として投擲する連弾を盾で盾で受け止め地表を走る。苦し紛れの行動にしか見えないが、時間を稼げれば十分と言うのだろう。
 盾を構えて跳躍するエクアトゥールへ槍を向けるボイット。
『貫けぇっ!』
『甘いですって!』
 構えた盾でその矛先を受け流し、開いた両方盾から打点を確保する摩那。
 再びの襲撃――、をさせる程、相手もまた甘くはない。
『ざけんじゃねえええええええっ!!』
 激昂。
 叫ぶ搭乗者の心に呼応するようにオブリビオンマシンの出力が増大する。過剰に引き上げられた動力炉から発散される余剰エネルギーは全身を駆け巡り、ピコマシンによる回復能力を有するモルトアーマーより解放される。
 溢れる白き光が施設動力炉の壁面を巻き上げて吹き散らしながら、施設内を照らし出した。
 慌てて盾を前に戻し防御態勢を取ったエクアトゥールを押し流して、広げた翼から炎を巻き上げるオブリビオンマシンを戴き、サベージ・ライダーは立ち上がった。
 異彩を放つ装甲は、エクアトゥールを吹き飛ばした時ほどではないがその全身に一機のキャバリアが備えるには過剰なエネルギーが流れている事を証明している。
『ようやくお出ましって訳ですか!』
『今ので蒸発しなかったのは褒めてやる、だがな!』
 踏み込むサベージ・ライダー、しかしその足取りは覚束ない。摩那の打撃がライドユニットの各関節へ与えた損傷、そして。
(アリスはみんな大丈夫かしらー?)
(糸のお陰で助かったわー)
(でも動けなくなったアリスもいるわよ~)
(ばたんきゅ~)
 姿を隠したままライドユニットに取りつく複数のアリス妹たち。彼女らの糸が周囲の景色、そしてオブリビオンマシンとの色彩差を消したまま絡みついていたのだ。
 これにより拡散するエネルギー光の一部を軽減したもののその威力は凄まじく、動けなくしようと拘束していたアリスは足や胴体に裂傷を生じ体液を漏らしている。
 一目に見て人間なら致命傷であるが、そこは虫に近い節足動物なのだろうか、自分たちの糸で患部を固定し、負傷した妹たちは施設地下へと連れ込まれていた。
 回復に勤しむ彼女らとは違い、重大な損傷を体に負わなかった妹たちは引き続きオブリビオンマシンに取りつき機動力を削ごうと、そしてオブリビオンマシンがライドユニットと離れないよう、その体を雁字搦めに固結している。
 ボイット自身は不可視の糸に気づいておらず、可動や装甲への異常も先のエクアトゥールの連打によるものが全ての原因だと思い込んでいるのだ。
(だが近づけさせなければこのマシーンの力で、すぐに動けるようになる。近づいた所でスターフォーカスエンジンをフル稼働させて吹き飛ばしてやるだけだ)
 更に踏み込む。
 エクアトゥールによりダメージを受けているはずの体だが、それでも怪力でもって絡みつく複数のアリス妹を引きずるだけの膂力があった。町ひとつを超える規模の攻撃施設を賄う力を持っているのは伊達ではないと言うことだ。
 だが動きが鈍いのに違いはない。
『共有情報精査完了、レーダー強化経過良好。スクリプトラプラス、スタンドアウト。公理神域省察。照準よし。…………、射撃準備完了。
 摩那さん、指定通りです』
『勿の論ですって!』
 専用回線から響く青年の声。
 エクアトゥールとの情報を共有するは地下に構えるシルバー・モノクル。直接相対する他猟兵らの視覚情報から共有した高低差を修正値に、戦場とは遥か低い位置にいることで見上げた先に平面的な位置取りを映す事が出来る。
(真下というこの場所に限り、戦兵の動きは二次元的なものとして計算できる。
 だからこれはチェスのようなもの、撃ち抜くことはさして難しくない)
 口から放つ丁寧な言葉と違いその胸中は淡々としたもので、獣のように這うシルバー・モノクルの左腕に接続した長大な銃身から、その字に似合う巨大なアイカメラを露出し多角的な情報から敵機の位置を透過。
 【砂糖菓子の霹靂は撃ち抜けない(スクランブル・スターリングラード)】。それはマッハ五を超える弾丸ですらもってしても、一分かかる距離すら未来計測により狙撃する、技術と超常能力とを掛け合わせたユーベルコード。
『おお!?』
 床面を貫通して輝く一条の光は空間の断裂。踏み込んだ足を増したより撃ち抜かれて驚愕する。もしもこの一撃が、もう数歩分でもずれていれば搭乗席に乗る自分の身がどうなっていたか。
 が、もちろんボイットを狙うつもりなどルゥにはなかった。彼の目的は狙撃そのもの、空間断裂による損傷個所の情報はオブリビオンマシンですらも正確に把握するには難しく、回復には時間を要するだろう。
 ――そして。
『……だから〝CERN〟の研究は危険だとあれほど……え? そういうのいい?』
『いっ、いつの間に!?』
 光の柱より姿を見せたのはドゼット、支倉・錫華である。 
 ルゥの残した弾痕は空間断裂を利用した転移用の門として、追撃や足場に利用できる。それを通して出現したドゼットにはさしものボイットも対応できず。
『ま、こうやって出てきても反応できないなら時間にまで影響を及ぼしてないか、利用することはできないんだろうし、まだなんとかなるよね』
 が、ここで先手を取らぬ錫華のドゼット。
 ボイットにとっては意味の解らぬ言葉に対し、動かぬ足の一つは槍を地面に突き刺す事で代用しサベージ・ライダーを反転、強烈な後ろ蹴りを放つ。
 突き下ろす槍を刺突すると見せかけた必殺二の段構え。
 それをかわすからこその『後の先』である。
 全身を弛緩し脱力する事で、瞬間を意識し反応する。だがその先手の厳しさに言葉通りを実証する余裕があるかは、果たして。
『――全部……』
 見えてる。
 【アウェイキング・センシズ】。相対する敵を第六感的感覚で知覚する事で、敵よりも超えるまでに感覚を研ぎ澄まし第八感の域にまで強制開眼する驚異的な能力。
 敵という存在を認識し、それを超える為の局地的だがこと戦闘において極めて有用なユーベルコードである。
 一部の乱れもなければ淀みもない、流れるようなオブリビオンマシンの二連撃を、後の先を謳いながら見る前からの反応で紙一重の動きを為す錫華。
『お願いね、アミシア』
『お任せください』
 呟く錫華に答える声。
 操縦席内にて突如として現れた小さな黒い人影はどこかじっとりとした、錫華に似た目を持つ人物へと姿を成す。
 【アミシア・プロフェット】、錫華のパートナーユニットであり、実体化プログラムを用いる事でユニット内部は勿論、周辺でも生身にもなれる。
 今回はコックピットブロックという事もあり姿を小さくしての登場だが、小さなパートナーはドゼットの一部操作を賄い、錫華が貨物列車搭乗前に用意していたキャバリア用ファンクションシールド【天磐】を構える。
 この盾には武器や火器、補助動力すらも積んだ代物で、盾裏から同じくキャバリア用の片刃実体剣、【歌仙】を引き抜いた。
 一般的な剣より少し細身で、速度重視の作りになっている。受け太刀に秀でた物ではないが、斬るには良し。厚き装甲を持たぬ相手ならば尚の事。
とりあえずは国家自爆の可能性を抑えないとかな。
相手にUCを発動させて出力を安定させてから反撃することにしよう。
『後の先』って言えばかっこいいけど、そこまで余裕はなさそうだけどね。
最初の一撃は【第六感】と【野生の勘】に【アウェイキング・センシズ】乗っけてなんとか回避。
そこからは【アミシア】にもサポートしてもらって、相手の攻撃をいなしつつ【歌仙】と【天磐】で対抗していくね。
『…………!』
 蹴り砕くと伸ばした足を紙一重でかわされ、続く流れで関節部分に深々と刃を打ち込まれるオブリビオンマシン。かわすだけで良いのだ、錫華は。後はアミシアがやってくれる。
 アウェイキング・センシズによって生み出された攻撃の瞬間で最大の威力を、彼女が行わずともプログラム・アミシアがなぞってくれる。これぞ攻防一体、武の極致に数えるべき戦闘方法だろう。
「チャンスッ!?」
 流水の如き状況の流変の中で、確実な意識の断絶を感じ取ったブレナンディハーフ。これもHENTAI的には第六感と言えるのかも知れないっすね。
 ここは変身しかない、生じた絶対的な隙を前に確信する裸体の男が決めるポージング。無論その間にも状況は常に流れているので隙とかそんなものは些細な問題と化していた。
完全変態・身体改容(パーフェクトヘンタイ・メタモルフォーゼ)
成功率 76%(SPD)
「行くぞォォォ! 【完全変態・身体改容(パーフェクトヘンタイ・メタモルフォーゼ)】!!
 でゅわわっち!!」
 それは全ての衣服を脱ぎ去る事で望みの姿に変身すし、その姿に相応しい人格と戦闘力増加を得る壮大なユーベルコード。
 解除するまで毎秒理性を喪失するという欠点があるが――、というか衣服を脱ぐという現代人にとって何とも辛い欠点があるのだが、それはとっくにクリアしていたので問題なかろう。
 消し炭のような彼の理性が、そもそも喪失することに何か意味があるのかすら不明である。
 そんな彼の叫びとともに天、もとい貨物列車天井へ突き上げた拳は瞬く間に巨大化し、その装甲を突き破る。カイラン・テンの私物ですよそれ。
 輸送列車を破壊しつつ、その身を巨大化、ダークブルーに彩られていく裸体の男は車両外へ足を踏み出した時、その姿はすでにジャイアントキャバリア然とした姿へと、正に変身を完了していた。
『オレの名はミゼラブル。キサマに不幸をもたらすモノだ』
 どこいったHENTAI。
 発言だけで実にシリアスな空気を撒くジャイアントキャバリアは、その目をピッピカ光らせながら言葉を発する。
 新たな敵の登場に再びその装甲に光を纏うオブリビオンマシン。
 スターフォーカスエンジンの最大稼働――、サベージ・ライダーが付属する事で安定しているとは言え、何度も繰り返させる危険性は勿論、HENTAIでなくなった彼には把握できている。
『とうっ!』
 跳躍。
 空中で無意味に一回転、更に一捻り二捻りの無駄なアピールをして着地したブレナンディハーフはその臀部に自らのオーラを凝縮しエネルギーフィールドを形成する。
 どこいったシリアスと案ずることなかれ、これがホントの尻アスである。
「ってやかましいぞっ!」
 どこからともなく響く大いなる始祖の末裔レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットのツッコミが冴え渡るがその実、臀部というクッション性に富む部位を盾として使用するのは理に適った行為なのだ。
 だから割とおかしな事ではないかなぁ、多分。
『! …………!? な、舐めているのか!?』
『ワタシにも分からん!』
 余りにも不可解な態勢に驚くボイットへ素直な気持ちを告げるブレナンディハーフ。
 そう、彼自身、そんなことをするつもりなど全くなかったのだ――、ジャイアントキャバリアへと変身し、あの軽やかなメロディーが頭に響くまでは。
 溢れ出る光を光の溢れ出るケツで受け止めるブレナンディハーフに対し、この状況を何だと思っているのだと怒りを見せた美亜ははたと自らのユーベルコードの効力に気づく。
 【Operation;RAGTIME SHOW(オペレーションラグタイムショー)】。ラグタイムのBGMと共に異相次元からあらゆる物体を召喚するこのユーベルコードは、触れた対象に対し、過去のギャグ補正を倍加させるという概念を改変する、ある意味では世界の法則を粉砕する悪法とでもいうべき代物。
 故に移送次元から流れるその音楽もまた効力の一端、ならば親和性の高いHENTAIという過去の因子を持つブレナンディハーフが幾ら尻アスを気取った所で飲み込まれるのは必定。
「……まさか……私のせいだったか」
 まあ、いい。
 額に浮かんだ汗の一滴を払い、強張った顔で無理に笑みを見せる大いなる何とかさん。
「さあ、何でもありのグレートなラグタイムショーの始まりだ」
 強張った表情を自信ありげなものへと無理に変換し、ブレナンディハーフの引き裂いた車両の屋根より美亜の搭乗する複葉機が姿を見せたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『熱情の旋律』

POW   :    魂を込めた歌声を響かせる

SPD   :    巧みな演奏テクニックを披露する

WIZ   :    他のアーティストを応援し、盛り上げる

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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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※トミーウォーカーからのお知らせ
 ここからはトミーウォーカーの「相原きさ」が代筆します。完成までハイペースで執筆しますので、どうぞご参加をお願いします!
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ジード・フラミア(サポート)
『2つで2人』12歳 男

ジード 内気 一般人の安全が優先
セリフは「」でぼく、~さん、です、ます
独り言やメリアに対してはですます無し
例「……よろしくお願いします。」
スクラップビルダーの力をよく使う

メリア 元気 どちらかと言えば撃破が優先 ジードに合わせることが多い
セリフは『』でワタシ(ごく稀にボク)、~さん、デス、マス
例『よろしくお願いシマス!』
人形遣いの力をよく使う

メリアの方が行動力があり、普段はジードを振り回してる

メリアはアイコン右の人形、及びその人形を動かす人格の仮の名前
ジードの人格が表でも、まるで自分の体の様に人形を動かす。


UCを使っていない時、メリアの五感はジードの体or遮断している。


六代目・松座衛門(サポート)
ヤドリガミの人形遣い×UDCメカニック。人形を用いて異形(オブリビオン)を狩る人形操術「鬼猟流」の使い手です。
 ヤドリガミの特徴である本体は、腰に付けている十字形の人形操作板です。
 普段は「自分、~君、~さん、だ、だろう、なのか?)」と砕けた口調です。

いつもは、大道芸として人形劇を現地の人たちに披露しています。
機械的な仕掛け(からくり等)に興味があり、各世界の技術を鬼猟流に取り入れようと努力してます。


日下・彼方(サポート)
人間のUDCエージェント × 月のエアライダーの女です

戦闘での役割はレガリアスシューズを使っての空中戦、
影の狼を使役して斥候・偵察ができます
武器は通常大型ナイフを使用しますが
強敵には太刀・槍を持ち出す事もあります

普段は(私、君、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)
機嫌が悪いと (私、~様、です、ます、でしょう、ですか?)

性格は受けた仕事はキッチリこなす仕事人のような感じです
仕事から抜けると一転惚けた風になります

ユーベルコードは必要に応じて、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 仲間達の乗る輸送車両が次々と町を疾走していく。
 その最後に残った大きなトラックの荷台が、華やかな曲と共に大きく開いた。
「皆さん、ようこそお越しくださいました! これより見せるのは、猟兵達による人形と生身の体を使ったエキシビジョンでございます」
 荷台のステージにいるのは、六代目・松座衛門(とある人形操術の亡霊・f02931)。松座衛門は慣れた口調で説明していく。
「先ほどよりもいささか派手さに欠ける部分もありますが……キャバリア同士の戦いばかりで飽きてしまっているかも知れません。そこで、我々は皆さんに楽しんでいただくために、いつも行っているバトルを、この舞台で披露したいと思います」
 そうにこりと民衆達へと微笑むと。
「え? こんな狭い所でのバトルって言ってもねえ?」
「でもさ、なんだか面白そうじゃない?」
「あの猟兵が見せてくれるっていうんだから、凄いんじゃないのか?」
 ざわつき始めたのを見て、松座衛門は、さっそく今回の挑戦者を呼ぶ。
「まずは、愛らしい人形の使い手、ジードさん!!」
「……よろしくお願いします」
 ぺこりと可愛らしい黒いドレスを纏った人形のメリアを伴って現れたのは、ジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)だ。
『ちょっと待ってくだサイ! ワタクシの紹介もしてくだサイナ!!』
 と、人形がしゃべった。
「ああ、ごめんごめん。こちらはシードさんの大切な相棒の……」
『メリアと申しマス。皆様、お見知りおきヲ』
 そういって、華麗に丁寧なカーテシーを見せてくれた。
「えっと、今回はどちらが戦うか決まってるのかな?」
 その松座衛門の質問に。
「……それは」
『もちろん、このワタクシに決まっていマスワ!』
 ジードが答える前にメリアが前に出ていた。
「わ、わかりました。では、メリアさん、よろしくお願いしますね。対して、彼らと戦うのは……」
 そう、松座衛門が告げた時だった。
「どうやら、バイトの時間に間に合ったな」
 開いた荷台の天井から、颯爽と飛び降りて出てきたのは、日下・彼方(舞う灰の追跡者・f14654)。
「日下彼方さんです! ……って、どこから出てきてるんですか!」
 ちょっと驚きながらも、しっかりと松座衛門は彼方の自己紹介を行う。
「彼方さんは、月追う狼の名を冠するレガリアスシューズの使い手です。きっと素晴らしい戦いを見せてくれることでしょう。あっと、申し遅れました。自分は六代目松座衛門。このエキシビションの解説役であり……即席人形劇!!」
 |鬼猟流 裏芸「即席人形劇」《キリョウリュウ・ウラゲイ・ソクセキニンギョウゲキ》で、クラッカーや紙吹雪、紙テープなどを使って、派手に演出を施す。
「こうして、お二人の戦いに少しのエッセンスを加えさせていただこうと思います。今日はどうぞ、ごゆっくりお楽しみください。それともう一つ」
 松座衛門はそこで区切って告げた。
「このエキシビジョンは移動式となっております。最後まで見届けたい方は、周囲のお客様の迷惑にならないよう……しっかりついてきてくださいね」
 そう告げたとたん、トラックが動き出し、疾走感のある派手なテクノ曲に合わせて、ジードと彼方が戦い始めた。
 まずは彼方が先行。試製翔靴『Managarmr』で派手なパフォーマンスを行いながら、発揮するのは。
「この一撃を以て、冬の始まりを告げる!」
 試製封刃『Tyr』を代償に放つは、|冬の刻撃《フィンブルストライク》。内なる獣の力の一端を籠めた一撃を放つその技は、見た目にも少々地味な見た目かもしれないが……、そこは松座衛門の召喚した隠れた人形達が、派手なエフェクトを演出。氷の結晶が振りまく世界をプロジェクションマッピングを利用して、それっぽく映える演出を施していた。
『ジード! こっちデス!』
「わわっ! メリア、引っ張らないで!」
 |人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー《バトル・インテリジェンス》で、華麗に避けつつ、メリアが彼方へと蹴りを繰り出す。その蹴りに合わせて、爆発を演出するのは、松座衛門の召喚した隠れた人形達。
 派手な空中戦で見せる彼方に、メリアに操られているように見えつつも、素晴らしい戦いを見せるジード。
「おおっと、見ましたか皆さん! どちらも素晴らしい攻撃です!!」
 そして、松座衛門の盛り上げる解説に人形達の演出が加われば、否が応でも人々の視線が釘付けになる。
 それに、この戦い、移動しているトラックの荷台ステージで行われているのだ。それだけで、注目度が増すというところだろう。
 大いに盛り上げる中、他の仲間達は恐らく、既に町の外へと脱出を果たしていることだろう。
「さて、自分達もそろそろいきますか」
 楽しい戦いを演出しながらも、最後に残ったトラックは、大好評のうちに町を去っていったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年11月04日


挿絵イラスト