亡国の獄炎は勇士を襲う(作者 佐和
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 船が、燃えていた。
 私達が暮らし、島を渡り、商売をするための飛空艇が。
 仲間の怒声と、悲鳴と、血臭、そして遺体と共に。
 私のかけがえのない日常と共に。
 燃えていた。
 どうしてだろう。
 お昼まではいつも通り。交易のある島で一休みしていた。
 顔馴染みの食堂で、トムソンが食べ過ぎて、ナベラーテが飲み過ぎて。
 広場で、ブラッド船長が売られた喧嘩を嬉々として買って、暴れて。
 市場での買い物を、ベラが手伝ってくれて。
 後で食べようと、シャムーティとサルスチアーナが花型の砂糖菓子を買ってきて。
 船に戻ったら、モロ技師長と双子が出迎えてくれて。
 いつも通り、次の島へ向けて出発した。
 順調に空を行って、そろそろ夕飯の支度をと思っていたら。
 災厄が、来た。
 単騎の飛空艇がやってきたかと思うと、炎の剣を持った長い灰髪の少女が飛び降りて。
 甲板に着地するや否や、すぐ近くにいたサルスチアーナを斬り殺す。
 そして、剣を船に突き刺せば。そこから船が燃え上がり始めて。
 シャムーティが、モロ技師長が、サンギネロとサンギネリが、炎の中に消えて。
 ベラが、トムソンが、ナベラーテが……皆、次々に倒れ伏していった。
 それを私はただ、呆然と見る事しかできなくて。
 どうして、と。
 ただそれしか考えられなくて。
 血塗れのブラッド船長が膝をついた、その向こうから、少女が笑いかけてくる。
「待っててね、お姉さん。すぐにコルディリネへ連れてってあげるから」
 ぎゅっと胸元のペンダントを握りしめる私を見て。
 私の大切なものを燃やしつくしていく炎の中で。
 少女は、とても嬉しそうに、笑った。

「ある飛空艇がオブリビオンに狙われているよ」
 グリモアベースに、雲海に浮かぶ無数の大陸を映しながら、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は、猟兵達に説明を始めた。
 それは、浮遊大陸の間を交易のために行き来する、商船とでも呼ぶべき飛空艇。
 ザガラと呼ばれる島で、いつも通りに商売と補給、そして一時の休暇を過ごした船は、大空へと飛び立ち……その数時間後、『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットが現れる。
「突如として船を襲った災厄は、船の料理番をしている女性以外を皆殺しにする。
 さらに飛空艇を燃やし落としてから、その女性を攫っていくようだよ」
 飛空艇でこの世界を行き来するからには、乗組員は勇士ではあるし、そこそこの腕はあるけれども。比較的安全な航路を行く船ゆえか、オブリビオンに敵う程の者はいない。
 飛空艇の性能自体はいいから、魔獣との空戦であれば何とかなったかもしれないが、直接乗り込まれてしまっては成すすべがないようだ。
「だから、先回りして船に乗り込んで、オブリビオンを倒して欲しい」
 幸いにも、船はまだザガラに停泊中で。島を発つ前に、つまりはオブリビオンよりも先に、猟兵達を送り込むことができるのだという。
「転送先は島にしておくよ。
 船が出発するまでは、島を見て回ったり、準備を整えたりするといい。
 ザガラは、オレンジが名産品の島らしいよ」
 乗り込む船の停泊場所は判明しているし、猟兵であれば特に交渉せずとも飛空艇に乗せてもらうのは容易いから、必要な下準備はないと、夏梅は説明するけれども。
「島には船の乗組員も降りているし、もちろん船に残っている者もいる。
 気になるなら先に接触しておくのもいいかもしれないね」
 そんなことも提案して。
「それと、オブリビオンを倒した後は、夕食という名の酒盛りに招かれるだろうよ」
 飛空艇の上での宴会も楽しめると教えると。
「よろしく頼むよ」
 にやりと笑った夏梅は、ひらりと手を振り猟兵達を送り出した。


佐和
 こんにちは。サワです。
 この世界の商船は、魔獣の肉とかも運ぶのでしょうか。

 第1章は、飛空艇が停泊しているザガラ島での一時です。
 時刻はお昼前後。昼過ぎには飛空艇は出発します。
 飛空艇に乗り込むのに特に交渉等は不要なので、出発までは自由に過ごせます。
 名産品はオレンジ。食堂、広場の屋台、市場、菓子屋等に様々な形で見られます。
 乗組員に接触することもできます。島での彼らの行動はOPを参考ください。

 第2章は、飛空艇の船上でのボス戦です。
 襲い来る相手は『『獄炎剣』ブレイザ・ブランネット』です。
 乗組員にも戦える勇士がいますが、実力差がありすぎるので参戦しません。
 巻き込まれないようにはしてくれるので、避難指示などは不要です。

 第3章では、オブリビオンを倒した祝勝の宴が催されます。
 飲めや歌えやの陽気な酒盛りです。

 それでは、勇士達との一時を、どうぞ。
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第1章 冒険 『冒険の始まり』

POW何はともあれ腹ごしらえ!飯を食べるとしよう
SPD忘れ物はない?必要な物資を買い込むぞ
WIZ異常なし?ヨシ!乗り物を整備点検しよう
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


セシル・バーナード
商船の航路に入ってるだけあって、栄えた浮島だね。そう思わない、プラチナちゃん?
ぼくの荘園も、もっと商人の出入りを活性化させたいなぁ。余所の世界での事例を考えるに、余計な税を撤廃するのが近道なんだろう。それから……あ、ごめん、プラチナちゃん。こんなことはマナーハウスの執務室だけで十分だよね。

さて、特に準備するものもないし、軽いものが食べられるお店で時間潰そうか。
こんにちは、ここはオレンジが名物なんだってね? 搾りたてのオレンジジュースを二つお願い。

んー、濃厚で甘酸っぱさが絶妙。プラチナちゃん、気に入った?

さて、飛空挺に置いていかれないように、そろそろ船へ向かおうか。
ジュース、ごちそうさま!


 幾つもの飛空艇が並ぶ港を、立ち並ぶ家々の間に見ながら、セシル・バーナード(サイレーン・f01207)はストローに口を付ける。
 グラスに入っているのは、搾りたてだというオレンジジュース。
 軽食がメインの、小綺麗なカフェのテラス席で、時間を潰すかのように、セシルは名物だというオレンジの甘酸っぱさを味わっていた。
「商船の航路に入ってるだけあって、栄えた浮島だね」
 遠くを眺めていた視線を周囲に向ければ、そこは商店が並ぶ市場の一角。
 テラスの面した道を行き交う人の流れは途切れることなく。買い物メモらしき紙と店とを見比べている人がいたり、屋台で買ったらしき軽食を食べ歩きしている人がいたり。いろいろな品を詰め込んだ紙袋を抱えて走って行く人に、気に入ったもの1つだけを大事そうに持ってゆっくり歩く人、と客層も様々。
 商品を山積みにした荷車が通ったかと思えば、手ぶらで店から出てくる者もいる。大量発注したら配送してくれるサービスなんかも充実しているのかもしれない。
 このカフェのような飲食店も幾つかあり、昼時だからかなかなか盛況な様子。気取らず入れそうな大衆食堂では、テーブルの上を料理で埋め尽くした太っちょや、昼間から酒瓶に囲まれている痩せた男なんかも見える。
 そんな心地良い賑やかさにセシルは緑色の瞳を細めて。
「そう思わない、プラチナちゃん?」
 話しかけると、隣に座る少女が、セシルと同じオレンジジュースを両手で持ったままこくりと頷いて、長い銀髪がさらりと流れた。
「そうですね。活気がある、って言うんですよね。いい感じだと思います」
 セシル以上に物珍しそうに少女は辺りを見回して。観光という視点以外でも市場を、そしてこのザガラという島を見ている様子。
「ぼくの荘園も、もっと商人の出入りを活性化させたいなぁ。
 余所の世界での事例を考えるに、余計な税を撤廃するのが近道なんだろう。
 それから……」
 だからついついセシルは、荘園領主としての立場であれこれ考え、話してしまったけれども。難しい話に戸惑い始めた少女に気付いて苦笑を零し。
「あ、ごめん、プラチナちゃん。
 こんなことはマナーハウスの執務室だけで十分だよね」
「いえ、あの……べ、勉強になりますっ」
 ちょっとホッとしながらも、でもそれじゃいけないのではと慌てるように、少女が必死に言葉を紡ぐから。
 その一生懸命な可愛さにセシルはまた破顔して。
 でも勉強はまた今度と示すように、のんびりとオレンジジュースを傾けた。
「んー、濃厚で甘酸っぱさが絶妙」
 オレンジが名物だと言うだけのことはあると、その美味しさに舌鼓を打ち。
「プラチナちゃん、気に入った?」
「はいっ。美味しいです」
 問いかければ、少女も両手で持ったグラスから顔を上げ、嬉しそうに微笑む。
 賑やかながらも穏やかな市場の喧噪に包まれて。
 オレンジが彩る、愛しい少女との一時。
 それを存分に味わってから。
「さて、飛空挺に置いていかれないように、そろそろ船へ向かおうか」
 空になったグラスを置いて、セシルは立ち上がり。
 テラス席から店内へ、女性の多いテーブルの間を軽食を運びながら忙しそうに笑っている可愛い女の子にひらりと手を振り、声を飛ばした。
「ジュース、ごちそうさま!」
大成功 🔵🔵🔵

フリル・インレアン
ふええ、大変です。
もう、飛空艇が出発してしまう時間じゃないですか。
アヒルさんがいけないんですよ。
お店でオレンジを食べ過ぎるから。
ふえ?私もお土産選びに時間がかかりすぎるからって、しょうがないじゃないですか。お土産を選んでいたら時間がかかるのは当然です。
って、そんな無駄話をしている時間はありませんよね。
飛空艇はそこの角を曲がればすぐでしたよね。
もう時間も過ぎていますし何か問題があってまだ出発できてなければいいんですけど。
ふええ、よかったまだ出発してませんでした。
ふえ?出発は1時間後って?
アヒルさん、こうなると思って私には1時間前の時間を教えていたって。
そういうことは自分では覚えていてください。


「ふええ、大変です。もう、飛空艇が出発してしまう時間じゃないですか」
 市場から港へ向けて必死に走っているのは、大きな帽子を被ったフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)。
 その両手には、品物が沢山詰め込まれた大きな紙袋が抱えられていて。いつもは手に持っているアヒルちゃん型のガジェットも、その袋の中に、袋から零れそうなオレンジの実と実の間に乗せられていた。
「アヒルさんがいけないんですよ。お店でオレンジを食べ過ぎるから」
 半泣きで走りながら、フリルが非難の声を上げれば。袋からガアと声が返り。
「ふえ? 私もお土産選びに時間がかかりすぎるからいけない、って……
 しょうがないじゃないですか。お土産を選んでいたら時間がかかるのは当然です」
 傍から聞いてるとどっちもどっちなんだな、と思うような口論が続く。
 とはいえ、ガジェットの声はフリル以外にはガアとしか聞こえないから、全力疾走しながら1人で騒いでいるようにも見えてしまうわけですが。
 そのことには慣れた様子でフリルは気にもせず。
「って、そんな無駄話をしている時間はありませんよね」
 ふんわりした青いスカートを翻しながら、ちょっと踵が高めの運動には少し不向きな青い靴で、ひたすらに走っていった。
 何だか喧嘩らしき騒ぎが起きている広場を抜けて、だんだんと人混みがまばらになってきた道を右へ左へ迷わず進み。
「飛空艇はそこの角を曲がればすぐでしたよね」
 ガア、と頷くような、そして急かすようなガジェットの鳴き声に背中を押されるようにして、フリルは走る。
 出発の時間はさっき過ぎた。予定通りなら、港に着いたフリルは、乗る予定だった飛空艇が遠ざかっていくのを見送ることになってしまう。
(「何か問題があって、飛空艇がまだ出発できてなければいいんですけど」)
 申し訳ないと思いながらもトラブルまで願ってしまうくらいに。
 フリルは、間に合って欲しい、と祈りながら、最後の角を曲がり。
「ふええ、よかったまだ出発してませんでした」
 目指していた飛空艇がまだ停泊しているのを、そしてまだまだ出航しそうにない様子を見て、安堵のあまりにへたり込んだ。
 抱えていた袋からオレンジの実がころりと転がり落ち。ついでにガジェットもフリルの横に着地する。そしてオレンジはころころと、飛空艇に向かって転がっていって。
 船の傍にいた2人の少年、その1人の足に当たって止まった。
 オレンジを拾ってくれた少年は、すぐにその落とし主に、フリルに気付く。
 そして、もう1人と共に近づいてきてくれて。
 双子だろうか、全く同じ顔をした2人は、にこやかに話しかけてきた。
「あれ? どうしたのお嬢さん」
「もしかして、僕らのガレオンに乗る人かな?」
 どうやらもう話は通っていたらしい。同年代くらいの、少し年上かなと思う2人の友好的な態度に安心しつつ、でも人見知りなフリルは何となくおどおどしてしまい。
「は、はい……えっと、間に合いましたか……?」
 申し訳なさそうに尋ねれば。
「もちろん。出発まであと1時間あるしね」
「もう少しザガラを観光しててもいいのに」
「ふえ?」
 思ってもいなかった返答に、赤い瞳を見開く。
「まあ、整備は終わってるし、技師長ももう休んでるし」
「先に乗っててくれてもかまわないよ?」
 そんなフリルの驚きに気付かずに、双子は船を指し示し。鼻の周辺に散るそばかすまでもがお揃いの同じ顔で、どうする? と首を傾げた。
 先ほどまでとは違う意味で力が抜けて、座り込んだままのフリルは、呆然とそんな2つの顔を見上げて。
 そこに、思い出したかのような鳴き声が、ガア、と響く。
「こうなると思って私には1時間前の時間を教えていたんだった、って……」
 唯一その意味を正確に理解したフリルが、ゆっくりと首を動かし、ガジェットに恨みがましい視線を流せば。
 先ほどまで本気でフリルを急がせていたガジェットは、どこか誤魔化すように明後日の方向を向いて、その背だけを見せていた。
「そういうことは自分では覚えていてください」
大成功 🔵🔵🔵

アルジャン・ボワレゼル
アドリブ連携歓迎
【SPD】
そうなんだよな、飛空艇は強力な単騎に乗り込まれると厄介なんだ。
……俺と主はどっちかって言えば突っ込んでいく方だったわけだが。
今回は防衛側として飛空艇へ乗り込ませてもらうぜ。

それまではこの島を見て回るぜ。
名物だっていう花型の菓子を買ってみようか。
できれば薔薇型がいいんだけどあるかな?
そこで乗組員に会ったら買い出しを手伝おう。
男手はいくらあっても困ることないだろ?
ああそうだ、お嬢さん方火事対策はしてるかい?
昔乗ってた船が火をつけられてめちゃめちゃ焦ってなあ……
(思い出話をしつつ警戒をさせる。敵のユーベルコードで出される炎なら普通の耐火対策は意味がないかもしれんが)


 賑やかな市場の道をゆるりと歩きながら、アルジャン・ボワレゼル(面影と翔ぶ大角・f34125)は、うんうんと頷いていた。
「そうなんだよな、飛空艇は強力な単騎に乗り込まれると厄介なんだ」
 思い出しているのは、グリモア猟兵から聞いた予知。今回託された飛空艇を守る依頼についての情報で。
 魔獣の群れに遭遇、とか、飛空艇での空戦を行える状況だったらきっと猟兵に声はかからなかったのだろうな、なんて考えながら。弱点を突いてくるような、相手の動きに感服するやら懐かしむやら。なにしろ。
「……俺と主はどっちかって言えば突っ込んでいく方だったわけだが」
 召喚獣『クリプトペリュトン』……鷲の翼を持つ大鹿『ペリュトン』の内、人間と影を共有して、そこに潜む、つまりクリプトすることで、人間の相棒となった種族。
 ゆえに騎士だった主と、それこそ単騎でも、戦場を翔け巡っていたアルジャンは、かつての戦いにふと思いを馳せて。
 今度はそれを防ぐ側になろうとは、と苦笑する。
 大往生した主へのいい土産話になるかもしれない。
 鷲の翼と鹿の角と脚を残しながらも、人の身体となり、さらに主の若い頃に瓜二つな顔を持つことになったアルジャンは、楽し気に微笑み。主も同じ顔をしただろうかと、今この場に鏡がないことを少し残念にすら思う。
 そんな風に思考も弾ませながら、アルジャンは市場を散策し。
「そこの騎士風のお兄さん。いい人に贈り物とか、どう?」
 ふと、店からかけられた声に足を止めた。
 そこは菓子店だろうか。入り口というより壁を全て取り払ったかのように大きく開け放たれた間口から、可愛らしい焼き菓子が並んでいる店内が見えて。道に近い、一番目立つ棚には色とりどりの砂糖菓子が並べられている。
 砂糖菓子は、そのほとんどが花の形を模していて。
「この島の名産、オレンジの花の形が一番人気よ。
 本物は真っ白だけど、オレンジの果皮を入れてるからちょっとオレンジ色なの」
 売り子のお姉さんが勧めてくれたそれに、アルジャンは近づいた。
 星のように、少し長細い5枚の花びらを広げ、その中央に二重の円が点描で描かれている。ほんのり橙色がかっているのがオレンジらしい色合いだけれども、どうやら本来のオレンジの花は白いらしい。
 それも可愛いらしいけれども、とアルジャンは他に視線を移し。
「花なら、できれば薔薇型がいいんだけど……あるかな?」
「もちろん。定番人気よ。どんな色がいいかしら?」
 問いかければ、買ってくれそうと上機嫌になった売り子が、白や淡いピンクなど、幾つかの砂糖菓子を指し示してくれるから。物珍しく、どれにしようかと眺めていると。
「へえ。オレンジのは、この前来た時には見かけなかったわね」
「新作? それじゃあ、シアに買って行きましょうか?」
「いいわね。シャムのおごりで」
「ちょっと、それはないわよアーナ」
 通りかかった2人組の女性が、わいわい話しながら店に入ってきた。
「他の島にも宣伝しておいて。あ、商品に加えるなら店長を呼ぶわよ」
「ウチの船で扱うには、ちょっと繊細すぎないかしら?」
「そうね。ただの砂糖になっちゃうかも」
 売り子とも顔見知りのようで、そんな会話が冗談半分に交わされていくから。
 アルジャンは、その2人が探していた乗組員だと気付き、柔和に微笑み声をかけた。
「こんにちは。俺はアルジャン・ボワレゼル。この後、飛空艇でお世話になるよ」
「ああ、お客さんね。聞いてるわ。
 私はサルスチアーナ。アーナでいいわ。こっちは……」
「シャムーティよ。大抵の人にはシャムと呼ばれるわね」
 挨拶を交わしてから。
「買い出しかい? 手伝おう。
 男手はいくらあっても困ることないだろ?」
「ありがとう。でも、私達はお土産探しなだけだから」
「観光みたいなものねぇ」
 穏やかに笑い合い、どの砂糖菓子を買うのかとか、ここの砂糖菓子は美味しいから新作も楽しみだとか、他の猟兵も交えて話を弾ませていく。
 そんな中で。
「ああそうだ。お嬢さん方の船は、火事対策はしてるかい?
 昔乗ってた船が火をつけられてめちゃめちゃ焦ってなあ……」
 思い出話を混ぜながら、予知で見た火への警戒をそっと呼び起こし。さり気なく、今後の備えをと、注意を促しながら。
(「ユーベルコードの炎なら、普通の耐火対策は意味がないかもしれんが」)
 それでもできることならと思いつつ。
 でもそれが楽しい買い物の邪魔にならないように気遣えば。
「それじゃあ俺は、赤い薔薇のにしようかな」
「私達は、やっぱりオレンジの花の。ね、シャム」
「そうですね。アーナのおごりで」
「あっ、仕返し!?」
 菓子屋にわいわいと賑やかな笑い声が響いていった。
大成功 🔵🔵🔵

佐伯・晶
折角だから島の様子を知りたいし
市場に行ってみようか

特産はオレンジらしいけど
どんな物が売られているのかな

とっても楽しみですの

興味津々に出て来てる分霊は
封じられた邪神の外部端末みたいなもので
割と人間に近い思考をするから
はしゃいでるのを見てる分には年相応の女の子に見えるよ
憎みにくいという意味で凄くたちが悪いのだけれど

あら、とても可愛らしい砂糖菓子ですの
いくつか頂きますの

こっちはオレンジを見てみようか
そのままでも美味しそうだけど
加工品にはどんなのがあるのかな?

市場の様子を眺めつつ
船の買出し陣の様子も見てみよう
食材やお菓子の目利きについて話してたら
話しかけてみても良いかな

分霊の事は双子と言って誤魔化そう


 飛空艇の出立まではまだ時間があるからと、折角だから島の様子も見たいと市場に繰り出したのは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)も同じ。
「特産はオレンジらしいけど、どんな物が売られているのかな」
 好奇心に弾む笑顔で辺りを見回しながら、活気ある道を進んでいたけれど。
「とっても楽しみですの」
 傍らから聞こえた声に、その表情が曇った。
 見たくない物を見るような、苦い青瞳に映ったのは、晶と同じ顔の少女。
 長い金髪を、飾りっ気のないボーイッシュなポニーテールに纏めている晶と違い、リボンが特徴の可愛らしいヘッドドレスから長くさらりと下ろし広げ。体形を隠すかのようにゆったりしたパーカーと動きやすいジーンズな晶と対照的に、華奢な肩に豊かな胸部、細い腰や美しい脚のラインを魅せるかのような、丈の短いスカートの黒ゴシックドレス。長手袋や、ニーハイソックスもロングブーツも黒いから、ドレスを飾る白いフリルと、肩まで開いた胸元やちらりと見える太腿の白く艶やかな肌がとても際立つ。
 そんな、晶と同じ姿だけれども全く正反対な服装をした少女は、実は晶と融合してしまっている邪神の分霊で。本体は晶の中で封じられたままだが、外部端末のように、こうして時折外に出てきては興味津々に世界を見ているのだ。
 その存在は、普通の人間だった晶の全てを変貌させてしまった元凶なのだけれども。
 割りと人間に近い、晶にも理解できる思考をするし、いきなり破壊活動に及んだりという目が離せないような行動もなさそうで。こうしてはしゃいでいるのを見ている分には、年相応の女の子。
(「だから憎みにくいんだよね」)
 そういう意味では凄くたちが悪い、と苦笑しながら。
 晶は、市場を眺めて楽しみ始めた分霊に倣うように、辺りへ視線を戻した。
 やっぱり目につくのは、特産と聞いたオレンジか。野菜や果物を売る店では、ひときわ目立つところに、他のものより多く並べられていたし。ジャムやコンポートを始め、シロップにマーマレードにドライフルーツ、オレンジピールと保存がきくように加工された形でも様々に置いてある。
 もちろん、すぐに食べれるようにカットしたものを売る出店もあれば、搾ったばかりのジュースを楽しめるテラス席つきのカフェや、ケーキや焼き菓子を並べた菓子店もあり。オレンジが零れそうな程盛ったクレープを客に手渡している屋台も見えた。
 そしてオレンジそのものでなく、オレンジの形を模したものもあって。輪切りにしたオレンジを象ったアクセサリーや、絵画が飾られているのも見かけたその中で。オレンジの実だけでなく、花も使われていることに晶は気付いた。
「あら、とても可愛らしい砂糖菓子ですの」
 そんな中で、分霊が目を付けた砂糖菓子の1つも、オレンジの花の形をしていて。ほんのりオレンジ色の白砂糖は、オレンジの果汁か果皮かを少し混ぜているのかもしれない。
 中央に円を抱いた星のようなその形を、晶も横から眺めて感心していると。
「いろんな形がありますの」
「本当に。どれにしようか迷いますよね」
「このオレンジの花のは新作よ」
 気付けば分霊は、他の女性客とわいわい交流し始めていた。
「オレンジですの? 小さいけど可愛いですの」
「そうそう。ちょっと花びらが細長いのが可愛いわよね」
「でも、小さいし細いしで象るのが大変そう」
「薔薇みたいに花びらが纏まってる方が作り易そうよね」
「だから今までありそうでなかったのかしら」
 目の前で交わされる会話の間に、晶は、その女性客2人が飛空艇の乗組員であることに気が付いて。
「いくつか頂きますの」
 分霊が砂糖菓子を買おうと店員の方へ向かったところで、入れ替わるようにその位置に入り、彼女達に声をかけた。
「ああ、貴女もお客さんなのね」
「佐伯・晶。よろしく」
「私はアーナ。こっちはシャムよ」
「さっきの子と同じ顔だけれど……もしかして双子かしら?」
「あら、私達の船にも双子がいるの。男の子だけど」
「双子の船に双子のお客さんってすごい偶然ね」
 まさか邪神ですと紹介するわけにもいかなかったので、いい具合に勘違いしてくれたのを否定せずに上手い事誤魔化しながら。
 砂糖菓子の話を、そして特産のオレンジの話を、どれが美味しいだの目利きのポイントだの様々に盛り上がっていくと。
「可愛らしいオレンジがあるですの?」
 そこに戻ってきた分霊も青い瞳を興味に輝かせて割り込んできたから。
 穏やかに見守る召喚獣の青年と共に、女性4人でわいわいと交流を深めながらのお土産巡りが始まっていった。
大成功 🔵🔵🔵

ユディト・イェシュア
この世界では商船も空を飛ぶんですね
けれどもうすぐ炎と殺戮の災厄に見舞われてしまう…
まだ間に合うようで本当に良かったです

それにしても料理番の女性だけ攫っていくとは
…何か目的がありそうですね

せっかくですから彼女と話をしてみたいですね
市場に行けば会えるでしょうか
名産のオレンジを買ったり
おすすめの食材やレシピを聞いてみたり

話が弾むようなら今まで行った島や
仲間の乗組員の皆さんのお話も聞けるといいですね

皆さん仲が良さそうで
家族みたいな感じなのでしょうか

俺の生まれた世界では
空を飛ぶなんて夢のようなことだったんですが
この世界で何度か飛空艇に乗せてもらいました
どこまでも続く空の世界は本当に素敵な光景だと思います


「この世界では商船も空を飛ぶんですね」
 建物の向こう、港がある辺りへ下りようとしている飛空艇を遠目に見て、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)は茶色い瞳を細めた。
 見えた船が商船かどうかは分からないけれど。これからユディトが乗ろうとしている、今この場からは見えない飛空艇は、商売で浮島を渡ると聞いていたから。
 世界が違えば船も違う、と面白そうに微笑む。
 そういえば、ちらりと見てきた港には、海どころか水すらなく。広い平坦な陸の上に飛空艇が並んでいるような光景で。空港と呼ぶべきか、と悩む光景だった。
 そんな違いも楽しみながら。
 ふと、グリモア猟兵から聞いた飛空艇の話を過らせて。
(「けれどもうすぐ炎と殺戮の災厄に見舞われてしまう……」)
 少し悲し気に表情を曇らせ。でもすぐに。
(「まだ間に合うようで本当に良かったです」)
 その未来を変えられるのだからと微笑みを取り戻す。
 守れると言われたなら、守ってみせようと。静かな決意を穏やかに抱いて。
(「それにしても料理番の女性だけ攫っていくとは……何か目的がありそうですね」)
 気になるのは、オブリビオンの思惑。
 何か特別な女性なのだろうかと考えてはみるけれど。
 考えたからといって分かるわけもないから。
 ユディトは、彼女がいると聞いた市場へと足を向けていた。
 名産だと聞いたオレンジがさすがに多く目に入ってくる商店に挟まれた道を歩き。
 賑わう店よりも、通り行く人々に目を向ければ。
 きらり、と金のコインのペンダントがその視界の端で輝く。
 振り向くと、満杯の買い物袋を片手に1つずつ軽々と抱えたがっしりした体格の強面な女性と並んで、探していた彼女がにこにこと楽しそうに歩いていた。
 ユディトよりも明るい茶色の、光の加減でオレンジ色にも見える長い髪をさらりと靡かせ、市場の品々に目移りしているその姿にゆっくりと歩み寄ると。
「こんにちは。あなた方の飛空艇に乗せていただくことになりました」
 丁寧で優しい声に、柔和な微笑みに、彼女はさほど警戒を見せず。
「伺っています。
 御客様が増えて、食事も作り甲斐があります」
 嬉しそうに微笑む隣で、同行の女性も頷いていた。
 彼女はユディトと年が近そうだが、同行者は大分年上のようで。その落ち着いた雰囲気と、幾多の戦闘を潜り抜けてきたかのような細かい傷の残る肌に、倍の年とまではいかないまでも確実に10年は間があると感じる。
 年長者への礼も失さぬようにと気を付けながら、ユディトは笑みを向け。
「もしかして、俺達が増えたから追加の買い出し?
 それじゃ荷物持ちくらい手伝わないとね、梓」
「お前も手伝うんだよ、綾」
 そこに、赤いサングラスの糸目の男と仔竜を連れた黒いサングラスの男も、ひょいっと顔を出し。
「重そうだな?」
 にっと笑った少年が、女性から買い物袋を片方受け取っていった。
 猟兵仲間の動きに、ユディトは笑みを深めると。
「俺は、ユディト・イェシュアです」
 そっと胸に手を当て自身を示し、名前を伝えれば。
「私はバレンシア。船では料理番をしています」
「……ベラだ」
 2人も、そして他の猟兵達も名を告げて。
「では、買い出しの続きを。
 その合間に、お話を聞かせてください」
 ユディトの申し出に、止まっていた足が動き出した。
 最初はやはり、この島・ザガラの名産であるオレンジの話から。美味しい実の見分け方や、様々な加工品について、実物を見ながら会話が弾み。それらを使ったレシピについては、黒いサングラスの男が身を乗り出して。
 他にも、おすすめや珍しい食材をあれこれ紹介してくれながら。
 1つ、また1つと、バレンシアは買い物袋を増やしていく。
「皆さんが手伝ってくださるので、つい買い過ぎてしまいますね」
 ユディトも1つ袋を受け取れば、バレンシアが照れたように笑い。
「いつもベラが手伝ってくれるんです。
 でも、いくらベラが力持ちでも、かさばると持てませんから……
 本当に重いものや量があるものは、配送をお願いしてるんですけど。
 それでもやっぱり、買いたいものがたくさんで」
 楽しそうに話す姿を、ユディトも嬉しそうに微笑んで見つめる。
「トムソンもナベラーテも、食べたり飲んだりに夢中で手伝ってくれませんし。
 ブラッド船長だって、すぐどっかに行ってしまって。
 技師長達は、船から長く離してしまうわけにもいきませんから、頼めませんよね。
 サルスチアーナやシャムーティは手伝うって言ってくれるんですけど、やっぱり女性に重いものを持たせてしまうのは申し訳ないですし……
 って言いながら、女性のベラに毎回お願いしちゃってるのも悪いなと思うんですが」
「気にすることはない」
「ありがとうございます。
 ……って、甘えちゃうんですよね」
「皆さん、仲が良いのですね」
 ユディトの感想に、バレンシアは照れたように笑う。
「家族みたいな感じなのでしょうか」
「家族……そうですね、大事な家族です。
 あ、でも、私には本当の家族がちゃんといるんですよ。
 ネロリっていう綺麗な島で、父と母と祖父が港近くで食堂兼宿屋をやってます」
 はにかむその姿からは、この世界を誇り、愛する気持ちが感じられたから。
 ユディトの笑みも深くなって。
「俺の生まれた世界では、空を飛ぶなんて夢のようなことだったんですが。
 この世界で何度か飛空艇に乗せてもらいました」
 ふっと青空を見上げながら、眩しい陽の光に、短い茶色の髪をさらりと撫でていく優しい風に、茶色の瞳を細める。
「どこまでも続く空の世界は、本当に素敵な光景だと思います」
 遮るものなく広がる澄んだ青を眺めてから、視線を下ろすと。
 バレンシアがとても嬉しそうに笑っていた。
大成功 🔵🔵🔵

灰神楽・綾
【不死蝶】
わぁ、オレンジのクレープだって
美味しそうだな~梓も食べてみたくない~?
クレープの屋台を指差しながら梓の服をぐいぐい引っ張る
チェッ、バレたか
渋々と自分で自分のクレープをお買い上げ
爽やかな香りと甘酸っぱさがたまらない

気になるならこれからその子と話しに行ってみる?
今のうちに乗組員と仲良くなって損は無いしね
それにこのままだとずーっと梓の眉間にシワが寄ってそうだし

件の女性に会えたら
飛空艇に乗せてもらう予定だから宜しくね、とまずは挨拶
他愛もない会話で程良く緊張がほぐれたら
胸元のペンダントについてさり気なく聞いてみようかな
そのペンダント、綺麗だね
どこで買ったの?それとも誰かからの贈り物?


乱獅子・梓
【不死蝶】
食べたくて仕方ないのはお前の方だろうが!
俺をそそのかしてちゃっかり二人分俺に買わせる魂胆だろう!
綾に説教しつつも、クレープは気になるので自分の分を買う

クレープ食いながら、グリモアベースでの話を思い出す
突然乗り込んで皆殺しとはかなり胸糞悪い話だが…
何故オブリビオンは料理番の女性だけ攫おうとしたんだろうな
先にオブリビオンを倒せばいいだけの話だが…何となく気になる

綾の言葉に甘えて、その女性に会いに行く
いきなり大男二人が話しかけたらビックリさせそうだから
仔竜たちを使って緊張をほぐしながら交流を試みる
広場で買い物中のようなので荷物持ちを手伝ったり
俺も料理が趣味だからその話題を持ち出したり


 市場には、食材や資材を売る店だけでなく、それを調理や加工して売る店や、すぐに食べれるような気軽な屋台も幾つか並んでいる。
 味を見てから買えるのは、買う側はもちろん売る側としても利点があるのだろうなと感心しながら、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はそれらの店を眺めて。
「わぁ、オレンジのクレープだって」
 そのうちの1つ、カラフルな可愛い看板でクレープを売る屋台を指差す灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)に、黒いサングラスの下から据わった目を向けた。
「美味しそうだな~。梓も食べてみたくない~?」
 だが綾はその視線に気付かず、というか恐らくは気付いているのに気にせずに、梓の服の袖をぐいぐいと引っ張るから。
「食べたくて仕方ないのはお前の方だろうが!
 俺をそそのかしてちゃっかり2人分俺に買わせる魂胆だろう!」
「チェッ、バレたか」
 大きく腕を振り手を振りほどけば、悪びれた様子もなく綾は自分の財布を取り出した。
 とはいえ、説教しつつも梓もクレープは気になったし、両肩に乗っていた2匹の仔竜、炎竜の焔と氷竜の零も興味津々といった様子を見せていたから。綾に続いて、梓もオレンジのクレープをお買い上げ。もちろん自分の分は自分で払います。
「んー、爽やかな香りと甘酸っぱさがたまらない」
 早速頬張り、口の端にクリームを付けながら大喜びする綾を見てから。
 梓も一口。確かに、オレンジの芳醇な果汁が程よく感じられて美味しい。
 身を乗り出した焔と零にも順番に与えながら、嬉しそうな2匹にも口元を綻ばせ。
 穏やかでのんびりした時間も味わっていって。
 ふと、グリモアベースでの話を思い出す。
(「突然乗り込んで皆殺しとは、かなり胸糞悪い話だが……」)
 苛立つ話の中で、気になったことが1つ。
(「何故オブリビオンは料理番の女性だけ攫おうとしたんだろうな」)
 唯一、殺されないと予知されたその人こそがオブリビオンの目的のようだけれど。どうしてなのかがさっぱり分からない。
 分からないままでも、オブリビオンを倒して惨劇と誘拐を防げばいいだけの話だが……何となく気になってしまって。
 考え込むうちに梓の動きが止まり。
 夢中でクレープを食べていた仔竜達もさすがに気付いて、不思議そうに首を傾げた。
 となれば、綾が気付かないわけもなく。
「気になるならこれからその子と話しに行ってみる?」
 どうしたのかと問うまでもなく、梓の思考を読み取って提案する。
 はっとして顔を上げた梓に、綾は口の端についたクリームを、最後の1口とばかりにぺろりと舐め取りながら。
「今のうちに乗組員と仲良くなって損は無いしね。
 それに、このままだとずーっと梓の眉間にシワが寄ってそうだし」
 クレープがなくなって空いた手の指で、自分の額辺りを指差し笑う。
 からかうようなその様子に、口の端で少し悔しそうに笑った梓は。残ったクレープを、仔竜達が食べていたので1口程度でしかなかったそれを、口に押し込むと。
 綾の言葉に甘えるように、件の女性を探して歩き出した。
 面白がるようについてきた綾が、すぐに隣に並ぶのを感じながら。ちょっと癪なので、そちらをわざと見ないようにしながら市場を眺めていると。
「あ。あそこにいるのがそうじゃない?」
 金のコインのペンダントを胸元に揺らした女性が、両手に袋を抱えた長身で大柄な女性と一緒にいるのを。そこに猟兵らしき茶髪の青年が話しかけているのを見つけた綾が、無遠慮にそちらを指差す。
 頷いて足を速めれば、綾もひょいひょい軽い足取りで近づいていって。その涼やかで優しい声が耳に届いてくる。
「御客様が増えて、食事も作り甲斐があります」
 それを綾も聞き取ったか、覗き込むようにして顔を出すと。
「もしかして、俺達が増えたから追加の買い出し?
 それじゃ荷物持ちくらい手伝わないとね、梓」
「お前も手伝うんだよ、綾」
 からかうような口調に、また自分にだけ押し付ける気かと怒って見せれば、綾がすんなり、はーい、と返事をするから。そのやり取りに、くすくすと笑いが零れ、ペンダントが楽し気に揺れる。
 荷物を持っている体格のいい女性の方を見れば、そちらには猟兵の少年が声をかけていて。一言二言短く声を交わすと、2つある買い物袋のうち1つだけを受け取っていた。
 それなら荷物持ちは、この後買う物で大丈夫か、と思っていると。
「私はバレンシア。船では料理番をしています」
「……ベラだ」
 簡単な自己紹介が始まっていたから。
「俺は灰神楽・綾。よろしくね」
「乱獅子・梓。それと、相棒の焔と零だ」
「キュー」
「ガウ」
 綾が赤いサングラスの下でへらりと笑い。梓は仔竜も併せて紹介する。
 名前に反応してか、順に鳴いた仔竜に、バレンシアは青い瞳を瞬かせて。
「ドラゴンの子供、ですか?」
 かわいい、とその顔が綻ぶ。
 おずおずと差し出された手に、人懐っこい焔がすり寄るように飛び出して。しばしの触れ合いを経て、ぱたぱたとまた梓の肩へ戻ってきた。
 男ばかりで女性を囲んでしまったから、驚かせたり警戒させたりしてしまうのではと少し心配していた梓だが、相棒達がいい緩衝材になってくれたようで。また、穏やかな物腰の青年や、すんなり手伝いに入った少年、そして陽気で親しみやすいふざけたような綾のおかげでか、さほどの抵抗もなく同行を受け入れてもらえた様子。
 よかった、とほっとしつつも、綾に面と向かって礼など言えず。
「……ん?」
「何でもない」
 こちらの視線に気づいて振り向いた綾から、ふいっと顔を反らす。
 その口元に淡い笑みが浮かんでいたのを、梓自身も知らぬまま。
「そうですね。デザートが多いオレンジですけど、サラダとかもいいですよ」
「オレンジサラダか。その場合、ドレッシングは酸味があるものがいいのか?」
 そして、趣味の料理に関連した、オレンジを使ったレシピの話題を聞きつけると、ずいっと会話に入っていき。それぞれの知識や経験談を、あれはこれはと話していく。
 その盛り上がりについていけず、焔と零が、逃げるように綾の元へ飛んでくるから。綾は、2匹にくすくすと笑いながら話しかけ。
「心配しなくても梓は女子力高いから、すぐ仲良くなれるのにね」
「何か言ったか? 綾」
「何でもなーい」
 そうして買い物は進み。会話も弾んで。
 梓も綾も、満杯の買い物袋を1つずつ抱えた頃。
「そういえば、そのペンダント、綺麗だね」
 さり気なく、綾はバレンシアの胸元で揺れるペンダントについて話題を振った。
 それは、古びた金のコインに穴を開けて紐を通しただけのシンプルなものだけど。
(「オブリビオンが攫おうとする理由がこれかもしれない」)
 予知を聞いた時に、梓も気になっていたものだから。
「どこで買ったの? それとも誰かからの贈り物?」
 でもそんな重苦しい雰囲気は欠片も見せず、これまでと同じ気楽な感じで綾は尋ねる。
 バレンシアは、大切そうにペンダントへ手を添えると。
「小さい頃に、亡くなった祖母から貰ったものなんです」
 ふふっ、と嬉しそうに笑いながら話してくれる。
 祖母も同じ船で料理番をしていたこと。
 バレンシアが生まれるより前に船を降りたが、船が島に来る度に、乗組員の皆が実家の食堂に立ち寄り、祖母の料理を食べに来ていたこと。
 だからバレンシアは小さい頃から船の皆を知っていて。憧れていて。
 あの船の料理番になりたい、と祖母に話していたから。
 亡くなる間際の祖母が、その夢が叶うようにと、船に一緒に乗っていたペンダントを譲ってくれたのだと。
「だからこれは、祖母と私の夢を繋ぐものなんです」
 愛おしそうにペンダントのコインを握りしめて語るバレンシアを、にこにこ笑顔を崩さない綾の陰から、梓はそっと見つめていた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

木霊・ウタ
心情
また過去の亡霊がとち狂ってんのか

過去に
今を生きる命を、未来を奪われて堪るか
獄炎剣なんて名乗ってる敵なら猶更だ
船の皆を守るぜ

行動
まずは折角だからザガラを楽しむぜ
色々と体験したいよな

観光農園?っぽいところでオレンジ狩り
オレンジにも色々種類があんだよな
一通り堪能するぜ
爽やかな香りと甘さがやっぱいいよな

その後は市場近くの屋台で飯だ
まああれだ
宴会も控えているからちょいと抑え気味にしとく
オレンジソースの魔獣の肉まんをぱくぱく
口直しにオレンジゼリーっと

…あの食材とかを買ってるのが料理番とベラって子か

声をかける

重そうだな?
それだけの買い込みってことは
飛空艇の乗員なんだろ
俺はウタ
猟兵なんだ
船に乗せてくれないか
あと二人の名前も教えてくれよ

荷物を持つ

なあ、あんたそのペンダントのこと聞いていいか?
知り合いが持ってたのとちょいと似てる
謂れとか知ってたら教えてくんないか

そっか大切なものなんだな


 いつもの大剣の代わりに、借りた小さな果物ナイフを振るい。くし切りのイメージで4等分にしたオレンジを、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は口に運んだ。
「爽やかな香りと甘さがやっぱいいよな」
 瑞々しさを味わった口元に浮かぶのは、にっと嬉しそうな笑み。
 名産だと言われるだけのことはあると舌鼓を打ちながら。
「オレンジにも色々種類があんだよな」
 もう1つを、まだ切っても剥いてもいないものを手に取ってしげしげと見つめる。
 それは今口にしたものと大きさも形も色合いも似ていたけれども。並べてよくよく見て見ると、皮の色が少しだけ黄色がかっていた。
 とはいえそれは微々たる差。違う種類だと事前に聞いていなかったら、見た目ではほとんど分からなかったと思いながら。再び閃く果物ナイフ。こっちは種が多く見えるな、と思いながら口にして。甘味より少し酸味を強く感じるスッキリとした味わいに、ウタは感心するように頷いてから、周囲をぐるりと見回す。
 見渡す限りのオレンジ色。
 そこは、数多のオレンジを積み上げた倉庫のような場所だった。
 本当はオレンジの木から収穫体験をと思い、観光農園っぽい所を探していたウタだったが、そういった場所は港や市場から離れていると説明され。船に乗るなら尚更、乗り遅れないように港近くにいた方がいいと、道を聞いた者達に口を揃えて言われてしまって。
 仕方ないと残念そうな顔を見せたウタに、農園経営者だと言う男が提案したのが。
「どうだい、ウチの貯蔵庫は。
 なかなかこれだけの数のオレンジはお目にかかれないだろ?」
 港近くでもできる、オレンジの山の見学と試食のお誘いだった。
「ああ、すごい光景だな。それに、どれも美味い」
 笑顔で答えるウタ以上に、男は満足そうな顔を見せて頷く。
 その横から、面白半分に着いてきた男達が、ウタのようにオレンジを食べながら、でもオレンジよりもウタに興味を向けてきて。
「そういや兄ちゃん、オレンジ船に乗るんだって?」
 問いかけにウタが首を傾げると、別の男が、説明が足りねぇよ、と小突き補足する。
「ブラッドの船のことさ。
 先々代からずっとザガラのオレンジを運んでくれてるから、そう呼ばれてるんだ」
「あれはいい船だぜ。商売の腕はいいし、何より乗ってる奴らが皆いいヤツだ」
「空での迷い人を助けたり、行き場のないやつを受け入れたりもしてるんだぜ」
「沈んだ浮島から逃げてきたのを助けた、なんて昔話もあったぞ」
「普通に島に家がある奴らもいるけどな。
 逆に、巡った先の島で縁を見つけて船を降りたのもいるし」
「そういや、ブラッドも、どっかの島で孤児だったのを先代が拾ったんだろ?」
「そうそう。小生意気なガキが立派になりやがって……って親父がよく言ってら」
 説明は船への賛歌となり、さらに乗組員のエピソードに発展していった。
 ウタはオレンジを食べながら耳を傾け、止まらない話を聞き。
「優しい船なんだな」
 嬉しそうな笑みを浮かべて、感想を零す。
「それに、優しい島だ」
「おっ。ザガラも褒めてくれるのかい。ありがとうよ」
 破顔する男達に。爽やかなオレンジに。
 本当にいい島だなとウタは穏やかな一時を過ごし。
 そしてそんな彼らが褒め慕うオレンジ船と、そこに予知された災厄を思う。
(「過去に、今を生きる命を……未来を奪われて堪るか」)
 オブリビオン。骸の海から滲み出した過去。
 世界を滅亡に導こうとするそれに、猟兵達はずっと抗ってきたし。
(「獄炎剣なんて名乗ってる敵なら猶更だ」)
 今回の相手は、ブレイズキャリバーたるウタと同じ、炎を扱う剣士のようだから。
(「船の皆を守るぜ」)
 決意を新たに、ぐっと空いた拳を握りしめて。
 もう1つ、気になることのために、オレンジの山に礼を言って市場へと向かった。
 港近くの市場だからか、どの店も活気に満ちた賑やかな道を通り。
「やっちまえブラッド!」
「オレンジを粗末にする奴に遠慮なんかいらねぇよ!」
 喧嘩でもしているのか、野次馬が集まって大騒ぎしている広場を通過して。
 ふらりと足が向いたのは飲食店街のような道。
 そういえば昼時だったな、と思いながら。しかし船で美味しい夕食にありつけそうだと聞いていたから、ちょいと抑え気味にしておこうかと店よりも手軽な屋台を見ていると。
 入口に屋台を置いた食堂のような店から、賑やかな声が聞こえてきた。
「おやじ、魔獣肉おかわり!」
「まだ食うのかよ、トムソン」
「仕方ねぇだろ。おやじの焼き加減が絶妙すぎるのが悪い!
 あと、おかみのオレンジソースな。絶品だぜ」
「あら、ありがとう。じゃあサービスしちゃおうかねぇ」
「ではこちらにはオレンジ酒の追加を」
「ナベラーテは飲み過ぎだって。これから出航だろ? 何本目だ?」
「まだ9本だ」
「まだじゃねぇよ」
「それじゃ、ナベラーテさんは10本目とオレンジ水ね。これで最後よ。
 トムソンさんもちょっとお肉サービスしたから、これで終わりにしてね。
 あとはバレンシアちゃんにお願いしなさいな」
「ありがとう、おかみ」
「さすがおかみ。話が分かるぜ」
「お前は甘ぇなあ」
 そんな楽し気なやり取りに思わず足を止め、食堂の中をそっと覗いていたウタに。
「どうだい? 聞いての通りおススメなオレンジソースの魔獣肉だ」
 屋台にいた男が、苦笑しながら勧めてくる。
「もらおうか」
 ウタが受け取ったのは、薄く焼いた小麦の生地で肉と野菜をくるりと巻いた、片手で食べれそうなラップサンド。食堂の中では皿に盛られていたもの、なのだろう。
 早速一口頬張れば、なるほど、絶賛されていたのも納得の味で。
 ウタは食べ進めながら、肉をがっついている太った男と、かぱかぱ酒を空けている細身の男……さっきまでうるさかった2人の客を眺めて、屋台の男に聞いた。
「あの客は船乗りか?」
「そうだよ。オレンジ船の連中だ。騒がしいけど気のいいやつらでね」
 浮かんだ苦笑は、困りながらも親しみがある温かいもので。
 返ってきた答えは、ウタの予想通りのものだったから。
 食堂の中へ入ってみようかと思ったけれども。
「あと、あそこを歩いてる2人もそうだよ。騒がしくはないけど」
 屋台の男が、目の前の通りをすっと指差したのを振り向いて目で追う。
 そこには、2人の女性が……大きな買い物袋を2つも抱えた大柄で年長な女性と、金のコインのペンダントを胸元に揺らしている女性が、並んで歩いていた。
(「あれが……」)
 屋台に挨拶してからウタは彼女達へ、気になっていたことへと歩み寄る。
 近づく間に、茶髪の青年が、黒と赤のサングラスをかけた2人組が、ペンダントを身に着けた女性に話しかけていたから。
「重そうだな?」
 ウタはもう1人の、がっしりした体格で自身とそう身長の変わらない、でも確実に10歳以上は年上と思われる女性に声をかける。
 彼女は、普通の女性だったら1つ抱えるので精一杯じゃないかと思える程に大きな袋を2つも、両手それぞれに力強く持っていた。大変そうには見えなかったけれど、両手が塞がっているのは不便だろうと、ウタは片方に手を伸ばし、手伝う意思を示す。
 しかし、女性はウタをじっと見たまま、動きを見せないままで。
「船に世話になるんだ。運賃代わりにもならないが、せめて手伝わせてくれ」
 意思を言葉にしても無反応。しかし。
「島の皆がいい船だって言ってたからな。一時でも仲間になりたいんだ」
 続けたウタの笑顔にふっと口元を緩めて。
 ようやく女性は大袋を1つ、ウタに渡してくれた。
 にっと笑みを深めたウタは、大事に袋を受け取って。思ったより重かったそれに、女性の力強さを改めて感じながら、任されたぜ、と告げ。
 そういえばまだ名乗ってすらいなかったことに気付く。
「俺は木霊・ウタ。猟兵なんだ。
 2人の名前も教えてくれよ」
「俺は、ユディト・イェシュアです」
 尋ねるウタの傍で、茶髪の青年も名乗り、流れを作ってくれたから。
「私はバレンシア。船では料理番をしています」
 ペンダントを揺らした女性がふわりと微笑み。
「……ベラだ」
 荷物が1つとなった女性が、それでも片方の手だけで軽々と持ちながら、短く名乗る。
「俺は灰神楽・綾。よろしくね」
「乱獅子・梓。それと、相棒の焔と零だ」
 2人組も、ついでに仔竜の紹介をしつつ名前を交わして。
 そこからわいわい会話を弾ませながら……といってもベラは無口なままだったが、特に煩わしそうな表情などは見せないまま、買い物が再開されていく。
 名産のオレンジの話で盛り上がり。レシピの話題に黒いサングラスの梓が喰いついて。
 オレンジ船の乗組員達の話に、家族のようだと茶髪のユディトが目を細める。
 その間にも、買い物袋は順調に増えていき。
 バレンシア以外が1袋ずつ抱えた状態になった辺りで。
「そういえば、そのペンダント、綺麗だね」
 さり気なく話しかけたのは、赤いサングラスをかけた綾。
 へらりと気楽な様子だけれども、その向こうで梓がそわっと気にした素振りを見せているし。ウタも一番聞きたいことだったから、平静を装いつつ耳を傾ける。
「小さい頃に、亡くなった祖母から貰ったものなんです」
 バレンシアの手がそっと触れたペンダントは、金色の古びたコインに穴を開け、紐を通しただけの至極シンプルなもので。正三角形を4つ組み合わせて作り上げた大きな正三角形を、文字のような模様がぐるりと丸く囲んでいる面と。王冠のような円を囲むように5枚の花びらが広がる、オレンジの花のような模様を刻んだ面が。バレンシアの細い指の動きに合わせてくるり、くるりと入れ替わって見える。
 それに纏わる祖母とオレンジ船、そして自身との繋がりの話を、バレンシアは嬉しそうに愛おしそうに話してくれたから。
「そっか、大切なものなんだな」
 ウタもその温かな想いに優しく微笑んだ。
 しかし同時に、既視感のようなものを感じて。思い出したのは、先日、リモナイアという浮島で助けた1人の少女。
 その少女も、曾祖母から譲られたという金のコインのペンダントを持っていて、オブリビオンに狙われていたから。
「知り合いが持ってたのとちょいと似てる」
 見た目も。手にした経緯も。そして、それを狙うようなオブリビオンの動きも。
(「また過去の亡霊がとち狂ってんのか」)
 それが偶然なのか必然なのか。
 さらにそれをどう確認したものかと、ウタは考え。
「謂れとか知ってたら教えてくんないか」
「いわれ……ごめんなさい、特には聞いてません。
 祖母が幼いころからずっと持っていたものだとしか……」
 聞いてはみたけれども、バレンシアは知らない様子。
 となれば、あとの手がかりは元の持ち主だろうかと、ウタは問いを重ねてみる。
「バレンシアは他の島の生まれなんだろう?」
「ええ。ネロリという島です」
「ネロリでよくあるペンダント、とかではないんだな」
「そうですね。私は祖母が持っていたこれ以外、似たものを見たことがありません」
 不思議そうなバレンシアと、そんな会話を続けていると。
「……アラニはネロリの生まれではないはずだ」
 不意に、ベラがぽつりと零すように言った。
 驚くウタに、そうですね、とバレンシアが頷いて。
「祖母は船に……先々代の船長に拾われたのだと聞きました。
 それで、船が商売をしていたネロリで祖父に会ったのだと」
 その言葉に、ウタは、オレンジ船の話を聞いた中に『沈んだ浮島から逃げてきたのを助けた』船員の昔話があったことを思い出す。
 もしそれがバレンシアの祖母のことならば。
(「ベルナと似てる」)
 似たペンダントを持つ少女の曾祖母を、生まれた島は小さい頃に沈んでしまったと曾孫に話していたという女性を、金色のペンダントに重ね見て。
 もう少し話を、と思ったけれども。
「ごめんなさい。船の話ばかり聞いていたので、祖母自身のことはあまり……
 でも、昔から船に乗っている人……ブラッド船長やモロ技師長なら、祖母と一緒に船に乗っていたことがあるはずですから、何か聞いているかもしれません」
 返ってきたのは、そんなバレンシアの困ったような笑顔。
 ちらりとベラに視線を向けても。
「……私はネロリの食堂で働くアラニしか知らない」
「トムソンやナベラーテもそうですよね、確か」
 淡々とした返答に、バレンシアが苦笑を深めるだけだったから。
 そうか、と頷いたウタは、それでも充分話は聞けたと、礼を告げた。
(「後は、船に乗ってから、だ」)
大成功 🔵🔵🔵


第2章 ボス戦 『『獄炎剣』ブレイザ・ブランネット』

POW ●天使核接続
自身の装備武器に【追加の天使核】を搭載し、破壊力を増加する。
SPD ●地裂炎獄柱
自身が装備する【獄炎剣を地面に突き刺すことで対象の足元】から【激しい火柱】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【火傷・炎上・黒こげのいずれか】の状態異常を与える。
WIZ ●獄炎滅殺灰塵裂焼爆砕(中略)焔硝粉砕紅蓮爆炎撃
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【獄炎】属性の【技名を詠唱しながら繰り出す連続攻撃】を、レベル×5mの直線上に放つ。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 私達の船は、予定通りザガラの港を出発した。
 今回は沢山のオレンジだけでなく、大勢のお客さんも乗せて。
「今晩は歓迎の御馳走ね」
 ふふっ、と思わず独り言が弾む。
 祖母から教わったこの船の昔ながらのいつもの料理だけでなく、ザガラの食堂のおかみさんに聞いた魔獣肉のオレンジソース添えも並べよう。オレンジを絞ってジュースにしたら、オレンジの花の砂糖菓子を浮かべてみるのもいいかもしれない。昼間にお客さんと話した、オレンジサラダも出してあげようかしら。
 メニューを考えながら、食糧庫と調理室とを行き来して。
『飛空艇接近。警戒を』
 そこに、伝声管からサルスチアーナの声が響く。
 操舵手のシャムーティと一緒に、航海士としてブリッジにいるはずの彼女は、続けて方角を告げるから。
 何となくその方向を見上げると。
 1隻の飛空艇がぐんぐんとこちらに近付いてきていた。
 最初は、遠くにいる飛空艇だろうと思っていた。だって見えた船影は小さかったから。
 でもそれは違っていたことがすぐに分かる。
 小型で単騎の飛空艇だから、近くにいても小さく見えたのだと。
 その事実が肉眼で確認できるようになるまでもあっという間で。
 甲板に、単騎の飛空艇からツインテールの少女が飛び降りたのと、船内にいた皆が出て来たのは、ほぼ同時だった。
 無人になった飛空艇が勝手にどこかへ飛んでいくのを少女は見送りもせず。
 ぐるりと、少女を取り囲む皆を見回して。
 その視線が、私を見て、ぴたりと止まる。
 そして、少女は、にっこりと朗らかに笑った。
「見つけた。お姉さんが、そうだね」
 無邪気で元気な笑顔のまま、少女は自身の身長と同等の長さの刃を持つ大剣を軽々と掲げて。天使核でも埋め込まれていたのか、その刀身を炎が覆う。
「すごいでしょ。『獄炎剣』って言うんだよ」
 その笑みは年相応の幼さも感じられる少女のそれだったけれども。
 大剣の鋭さは。燃え盛る炎は。酷く恐ろしいものだったから。
 その差異にくらりと眩暈を感じ、私は思わず胸元のペンダントを握りしめる。
「待っててね、お姉さん。すぐにコルディリネへ連れてってあげるから」
 そんな私に、少女は訳の分からないことを言うと。
 船の仲間を、そしてお客さん達を、また見回して声を張り上げた。
「さあ、誰からでもいいからかかってきなよ!
 頼まれた仕事はちゃんとやるけど、それより強い相手と戦いたいんだ!」
 
アルジャン・ボワレゼル
アドリブ連携歓迎
【POW】

「それじゃあお相手させてもらおうか、お嬢さん!」
船員たちを庇うようにダッシュで飛び出す。
炎に対抗するためエクライリゼ(ルーンソード)に水の魔力をまとわせて振るい、相手の剣を受け止める。
防御力を上げることで増強する破壊力にも対応を試みるぜ。
「どんな仕事かは知らないが、罪もない人たちを傷付けさせるわけにはいかないんでね、
ここで止めさせてもらう!」
対話やら情報収集やらは他の猟兵に任せて、
俺の目標は船員に被害がいかないようにすること。
そのためなら俺自身の多少の怪我は構わないぜ。


「それじゃあお相手させてもらおうか、お嬢さん!」
 大剣を掲げ好戦的に笑う少女――オブリビオン『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットへと飛び出したのは、アルジャン・ボワレゼル(面影と翔ぶ大角・f34125)。
 自身が前に出ることで、状況に対応しきれていない船員達を後ろに庇う形を取る。
 構えたルーンソード『エクライリゼ』の柄に刻まれたルーンが、水の精霊の属性を喚起して、その刀身に水の魔力を纏わせた。
「どんな仕事かは知らないが、罪もない人たちを傷付けさせるわけにはいかないんでね。
 ここで止めさせてもらう!」
 一緒に砂糖菓子を買ったアーナとシャム。快く船に迎え入れてくれた船長。気さくに笑いかけてくれた太っちょトムにやせのナベ。忙しくも楽しそうに仕事をしていた技師長と双子の少年ネロとネリ。そして、誰よりも困惑と怯えの表情を見せているシア。
 それぞれの姿と愛称とを思い浮かべて、アルジャンは決意を抱く。
(「彼らに被害がいかないようにすること。それが俺の目標だ」)
 気になることがないといえば嘘になる。
 どうしてブレイザはシアを狙うのか。仕事とは何なのか。誰に頼まれたのか。
 コルディリネという名称は何を示すのか。
 ブレイザに聞いてみたいと思わないわけではない。
 でもそれよりも。
 守り抜くことの方が、アルジャンには重要だから。
(「俺は、俺の目標に向けて動く」)
 対話だの情報収集だのは他の猟兵に任せて、アルジャンはエクライリゼを振るう。
「水か。相性悪いよね」
 一撃を大剣で受け止めたブレイザは、水の魔力で消えていく炎をちらりと見て。
「でもそれだけじゃ勝てないよ?」
 にやりと不敵な笑みを浮かべると、獄炎剣に天使核を追加した。
 天使核接続。
 途端、勢いを増して炎がさらに燃え上がり、剣がぐっと押し返される。
 アルジャンの身体にも炎と剣圧が及び、ちりりと肌を焼く熱が、幾つもの小さな傷が、じわじわと蝕むように襲い掛かるけれども。
 アルジャンは怯まず、むしろ自身を盾とするかのように、鷲の翼をも力強く広げて立ちはだかり。
 ユーベルコードで、纏う水の魔力を強化すると、防御力を上げていった。
「止めさせてもらうと言ったはずだ」
「そうこなくっちゃ!」
 水が少しずつ炎を押し返していくと、ブレイザの笑みが面白そうに深くなる。
 その勢いに乗って、アルジャンがエクライリゼを振り抜けば。
 剣閃と水流に圧されるように、ブレイザが後ろへ大きく飛び退いた。
大成功 🔵🔵🔵

セシル・バーナード
予知されたオブリビオンの女の子だね。こうしてみると可愛いなぁ。連れて帰りたいや。
ねえ、ぼくの居場所へ来てみない?
と「誘惑」しつつ、相手の虚を突いて空間転移。死角から、「暗殺」のために研ぎ澄ました「貫通攻撃」の貫手を放つ。

プラチナちゃんは戦えない人の避難誘導に回ってね。ぼくはこの女の子としばらくダンスするから。

短距離の空間転移を繰り返して攻防を行い、ステップの速さを上げていく。
その得物でぼくを捕らえられるかな?
戦いの中で、彼女の剣の使い方を覚え、「見切り」を正確なものに練り上げていく。

そうだね、女の子の首が欲しいというのも風情がない。ここは君の心臓で手を打とう。
最後にその左胸に貫手を突き刺して。


「あれが予知されたオブリビオンの女の子だね。
 こうしてみると可愛いなぁ。連れて帰りたいや」
 現れた『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットの姿を眺めて、にこにことセシル・バーナード(サイレーン・f01207)が呟く。
 その言葉に、傍らにいた銀髪の少女が、複雑な表情でじっとセシルを見つめるから。
 セシルはその可愛らしいやきもちに笑みを深くすると、少女の身体を抱き寄せ、耳元に唇を触れんばかりに近付けてそっと囁きかけた。
「プラチナちゃんは戦えない人の避難誘導に回ってね」
「はいっ! 私めっちゃ頑張ります!」
 途端に表情を輝かせた少女は、ほんのり染まった頬のままくるりと踵を返して、船員達の方へ走り出す。
 揺れる長い銀髪を、愛らしい後姿を見送りながら。
「ぼくはこの女の子としばらくダンスするから」
 セシルは妖艶に微笑み、改めてブレイザを見つめると。
 クリプトペリュトンの翔剣士と切り結ぶそこへと歩いて近づいた。
 炎と水が押し合って、ブレイザが後ろに飛び退いたそこへ。
「ねえ、可愛い女の子。ぼくの居場所へ来てみない?」
 幼いながらも艶やかに、魅惑的な緑瞳でブレイザに微笑みかけた妖狐の寵姫は、誘惑の声を投げかけるけれども。
「弱い奴に興味はないよ」
 中性的で華奢なセシルの姿に、貴族を思わせる良家の子息といった服装に、ブレイザは一瞥しただけですぐに視線を反らす。
「そう言わないで考えてみてよ」
 しかし、セシルは諦めずに誘いの手を伸ばし。
 その姿が不意に消えた。
 ユーベルコード『空間転移』。
 空間のひび割れを利用し、ブレイザの死角に現れたセシルは、口説いていた時と変わらぬ笑顔で貫手を放つ。
 しかし間一髪、ブレイザはその身を翻し、直撃を避け。
 だが鋭い一撃は、ブレイザの長い上着を貫き、大きく切り裂いた。
「へぇ……」
 そしてブレイザの顔に、セシルへの興味が好戦的な色と共に浮かぶ。
 やっとこちらを見てくれた、と言うようにセシルは肩をすくめて見せ。
「その得物でぼくを捕らえられるかな?」
 ダンスのような軽やかなステップが、短距離の空間転移を織り交ぜて、ブレイザの剣舞と息を合わせたかのように続いていく。いや実際は、セシルを切り裂こうとする大剣が、ブレイザを貫こうとする手刀が、繰り出されては躱されていっているのだが。
 どんどんとテンポが上がっていく、何時までも続くかのような踊りの最中に、ブレイザはその剣を甲板に突き刺して。
 セシルが着地した場所に火柱を生み出す。
 地裂炎獄柱。
 激しい炎の中に金髪の少年の姿が飲み込まれて。
 だがすぐに、ブレイザの背後にセシルは姿を現した。
「そうだね、女の子の首が欲しいというのも風情がない」
 空間転移からの貫手。
 それは最初と同じ攻撃だったけれども。
 共に踊り、ブレイザの動きを、剣の使い方を覚えていったセシルの手刀は、より鋭く正確にその左胸を狙って突き出されて。
「ここは君の心臓で手を打とう」
 躱しきれなかったブレイザの左腕に深く突き刺さった。
成功 🔵🔵🔴

佐伯・晶
飛空艇の上で炎は厄介だね
空飛ぶ手段はあるけれど
船員を皆助けるのは大変そうだ

私はアーナ様やシャム様達といますの
流れ弾くらいなら防いで差し上げますの

とりあえず船員達を守ってくれるみたいだし
こっちは敵に集中しよう
コルディリネって何だ、くらいは聞いてみようか

まずは挨拶代わりに
射線に気を付けつつガトリングガンで攻撃
こっちが気にしてる事は気づかれるのは覚悟の上
相手の攻撃はワイヤーガンを使って移動したり
神気で炎を固定したりして防御

見えない神気による麻痺で自由を奪っていこう
呂律が回らなくなれば詠唱できないしね

ガトリングガンを撃ちにくい状況になったら
ワイヤーガンの攻撃に切り替え
相手を拘束してじっくり締め上げよう


「飛空艇の上で炎は厄介だね」
 炎を纏う大剣『獄炎剣』に、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は苦い顔を見せる。
 地上なら遠くへと離れてもらえばいいけれど、狭い船上では、離れるといっても限度がある。船外は雲海が下に広がる大空で、そこを飛ぶ手段がないわけではないけれど、船員を皆助けると考えると大変そうだった。
 さてどうしようか、と晶が考え込むと。
「私はアーナ様やシャム様達といますの」
 ひょっこりと晶の隣に顔を出したのは、双子のようにそっくりな、でも活動的でボーイッシュな晶とは正反対に可愛らしく黒ゴシックドレスを着こなした姿。
 晶と融合している邪神の分霊は、遊びに行くかのように軽い足取りで、楽しそうに船員達がいる方へと歩き出すと。
「流れ弾くらいなら防いで差し上げますの」
 振り返らぬまま声だけを晶へ残し、離れていく。
 船員達を守ってくれる、ということだろうか?
 揺れる長い金髪を見送ると、銀髪の少女と一緒に、分霊は船員達へ……ちょうど甲板へ降りて来たアーナや、ペンダントを握りしめて怯えるシアへ、落ち着かせるように声をかけているようだった。
(「任せていい、のかな」)
 何しろ相手は分霊とはいえ邪神だから、少し迷いはあったけれど。外見相応の女の子として、ザガラの島でも交流した相手に、友達のような感覚は持っていそうだったから。
(「こっちは敵に集中しよう」)
 気持ちを切り替え、晶はオブリビオンに――『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットに向き直ると、武骨なガトリングガンを構えた。
 女性の細腕では振り回されてしまいそうな大型銃器を、しかし晶は慣れた様子で取り回し。まずは挨拶代わりにと斉射する。
 狙うのはもちろん、水纏う剣に圧されて下がり、手刀を躱したブレイザ。
 重なる攻撃に体勢を崩していたところだったけれども、さすがにそれくらいで撃ち落とせる程油断を見せるはずもなく。ブレイザは回避を見せた。
 だが、逃げるブレイザをガトリングガンの銃口は追いかけて。
 銃弾の雨の中を、手刀を繰り出す少年と難しいステップを踏んで踊り続ける。
(「気付かれてる、か」)
 その最中に晶は悟る。
 晶の銃弾は、ブレイザを倒す為のものでなく、ブレイザを船員達に近付けないようにするもので。それが見切られてきたことに。
 それでも、援護射撃とは言っても、うっとおしいことに変わりはないだろうから。
 痺れを切らしたかのように、ブレイザはその剣を甲板に突き刺して。
 途端、晶の足元から炎の柱が立ち上った。
「危ない危ない」
 間一髪、ワイヤーガンの牽引力も使ってその場を逃れた晶は。この攻撃の間に逆にブレイザへカウンターを仕掛ける者達の姿を見て。ガトリングガンではもう邪魔になってしまうかと、そのまま攻撃手段をワイヤーガンに切り替える。
 そこに何故かいきなり降り出した大雨で、一旦戦いが中断するけれども。
 雨が止みそうな気配を見せ、弱まった瞬間、撃ち出したのは試製電撃索発射銃。
 放たれたワイヤーは、回避しきれなかったブレイザの左足に絡みついて、拘束状態を、そして電撃による麻痺を与えていった。
 じわりじわりと自由を奪い、じっくりと締め上げていくワイヤーを晶は見つめ。
 ブレイザに、1つくらいは、と思った質問を投げかける。
「コルディリネ、って何だ」
「何だ、って島だよ。それとも国って言った方がいい?」
 絡みつくワイヤーに苛立っているからか、当たり前のことを聞いてくるような質問に怒ったのか。ブレイザは投げやりな口調でそれだけを答えた。
大成功 🔵🔵🔵

フリル・インレアン
ふえ?コルディリネって、どこかで聞いたような?
アヒルさん、覚えてませんか?
かつて雲海に沈んだ島って、あの人も島が沈んだことを理解できないかわいそうな人なんですか。
ふえ?私がそれを言うなって、私はそこまでボケてないですよ。
でも、ノアさんが島から子供を逃がそうとしていたのに、あの人は島に連れていこうとしていますね。
ということは、ノアさんの前の時代の人ということですよね。

えっと、おしゃべりはここまでということですか。
というより、それズルいですよ。
詠唱しながら攻撃して威力も上がるなんて、極炎といっても火ですから雨に弱い筈です。
恋?物語で雨を降らしましょう。
雨強いですね。
この船沈んだりしないですよね?


 飛空艇に乗り込んで来たオブリビオン『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットに、元々人見知りなのもあって、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)はびくびくと怯えていたけれども。
「待っててね、お姉さん。すぐにコルディリネへ連れてってあげるから」
「ふえ?」
 料理番の女性にかけられたそんな声に、はっと顔を上げた。
「コルディリネって、どこかで聞いたような……?
 アヒルさん、覚えてませんか?」
 思い出そうと眉を寄せ、いつも一緒のアヒルちゃん型ガジェットにも聞いてみれば。
 少し緊張したような声色で、ガジェットがガアと鳴く。
「かつて雲海に沈んだ島……って……
 あの人も島が沈んだことを理解できないかわいそうな人なんですか」
 ガジェットの指摘にフリルはようやく思い出す。
 リモナイアという島にやってきた、ノアの名を持つ箱舟を。
 雲海に沈みゆく島から子供を逃がそうとした、そんな過去から生まれたと思しきオブリビオンは、リモナイアがその島だと思い込み、必死で子供を助けようとしていた。誘拐や略取だと気付かずに。オブリビオンになってしまっていることも理解しないまま。
 その時にノアが口にした島の名が、コルディリネ。
 遠い過去に雲海へ堕ちた島。
 純粋で優しい想いが生んでしまった悲しいすれ違いの事件を思い起こし、フリルは赤い瞳を寂し気に曇らせて。
 そこに響く、呆れたようなガジェットの鳴き声。
「ふえ? 私がそれを言うな、って、私はそこまでボケてないですよ」
 現状を理解できないかわいそうな人筆頭みたいに言われたフリルは、怒る、というより困ったように、頑張って反論する。
 しかしガジェットは、曇ったフリルの表情がいつもの調子に戻ったのをちらりと見ながら、素知らぬ顔でやり過ごしていた。
 それに気付かぬまま、フリルは、もう、と息を吐いて。
「でも、ノアさんが島から子供を逃がそうとしていたのに、あの人は島に連れていこうとしていますね」
 その違いに気が付いた。
 沈みゆく島から助けようとしていたオブリビオンと。
 沈んだはずの島へ招こうとしているオブリビオン。
「ということは、あの人はノアさんの前の時代の人ということですよね」
 過去は過去でも違う時間から生まれたオブリビオンなら、コルディリネという島に対する認識が違うはず、と素直に考えたフリルは、まだコルディリネに沈む兆候がなかった時代から染み出た過去がブレイザなのかと納得するけれども。
 ガジェットは頷かず。
 別の指摘をフリルに飛ばす。
「えっと、おしゃべりはここまでということですか」
 言われて見れば、すでに甲板で戦いは始まっていて。乗組員達に被害は及ばなそうだったけれども、挑む猟兵達を飲み込もうと幾つもの火柱が上がっている。
 さらに、ぶつぶつと何かを詠唱しながら繰り出す連撃は、剣に纏う獄炎の威力をどんどんと上げていっていたから。
「それズルいですよ」
 困り顔ながらも頑張って怒ったフリルは、ユーベルコードを発動させる。
「獄炎といっても火ですから雨に弱い筈です」
 ウォーターハザード……『突然の大雨と雨宿りが齎す恋?物語』。
 急に降り出した雨に慌てて飛び込んだ雨宿り先で運命の出会いがある、といった物語を生み出すかのように、唐突に、何の前触れもなく、雨が降り出して。
 炎の柱を、獄炎を纏う大剣を、そして暴れるブレイザに、次々と雨粒が降り注ぎ。
「雨、強いですね」
 一気に豪雨と呼べる程になると、戦闘を一時中断させる。
 運命の出会いとか淡いことを言ってる場合じゃない、災害レベルの酷すぎる雨に、フリルは次第におろおろしだして。
「この船沈んだりしないですよね?」
 不安そうに、足元の甲板を見下ろした。
 ガア。
大成功 🔵🔵🔵

ユディト・イェシュア
この船を炎の海になどさせません
もちろん彼女を連れて行かせもしません

この船も船員の皆さんもザカラの人々に愛されています
このオレンジも待っている人の元へ
必ず守ります

仕事…
誰かに依頼でもされているのでしょうか

あなたが連れていきたいのはバレンシアさんですか?
それとも…そのペンダントの持ち主でしょうか

あなたが望む強い相手かはわかりませんが
お相手させてもらいましょう

敵が詠唱を続けるのを阻止するように
間髪入れずにUCで天からの光を放ちます
俺の攻撃で致命傷を与えられなくても
仲間の攻撃への手助けになれば

猟兵は強いですよ
仲間と力を合わせればより一層

必要なら仲間をかばいつつ
出来る限り船への損傷を抑えるように戦います


 突然降り出した大雨が、甲板に立ち上っていた炎の柱を消していく。
 それだけならよかったのだが、雨は敵味方問わずその行動を阻害するほどの勢いで降ってきていたから。ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)も、雨宿りを余儀なくされて。困惑しながら皆の様子を伺う。
 猟兵達はそれぞれに『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットの動向を油断なく見据え。雨上がりの次の手をと考えているようで。
 飛空艇の船員達は、急襲した炎とそれ以上に唐突な雨とに戸惑いながらも、促されるまま安全と思われる位置まで避難していた。
 その不安そうな姿に、ユディトは優し気な表情を微かに曇らせる。
(「この船も船員の皆さんもザカラの人々に愛されています」)
 島で過ごした温かな時間。それは船員達の人柄はもちろん、彼女らの客だというだけで島の人々が温かく接してくれたからだと、ユディトは感じていたから。
 愛され、想われている人達の笑顔を。そして。
(「このオレンジも待っている人の元へ……」)
 信じて託された大切な果実を。
(「必ず、守ります」)
 ユディトはそう誓って。
 改めてブレイザを見据えると、挑むべく巨大剣を持つ少年の傍に立った。
「この船を炎の海になどさせません」
 柔らかく微笑みながらも宣言のようにしっかりと言い切った言葉に、少年がニッと笑ったから。ユディトは頷きを返して。
「もちろんバレンシアさんを連れて行かせもしません」
 急激に弱まっていく雨の中、真っ直ぐに繊手を伸ばすと。
 ブレイザを指差し、茶色の瞳で真っ直ぐに見つめ、宣言した。
「あなたが望む強い相手かはわかりませんが、お相手させてもらいましょう」
 途端、天から雨に代わるように降り注ぐのは、光。
 ユディトのように優しく淡い輝きは、だが強く抱いた決意のように迷いなく鋭くブレイザへと襲い掛かる。
 とはいえその光には、一撃でブレイザを倒せるような威力はない。
 だからこそ、ユディトは、巨大剣を振るう少年を援護するように、また、大鎌を手に戦列に加わっていく赤いサングラスの青年を守るように、天からの光を放ち続け。
 ブレイザが紡ごうとする、連続攻撃の威力を上げる為の詠唱を途切れさせていく。
 さらに。
「君に仕事を頼んだのって誰?」
 気を惹こうとしてか、赤いサングラスの青年が質問を投げかけ始めた。
(「仕事……」)
 それは、ユディトも気にしていた単語。
 頼まれたと。ちゃんとやると。ブレイザが零していた言葉はつまり。
(「誰かに依頼でもされているのでしょうか」)
 ブレイザが自分の意思で飛空艇を襲っているのではない、ということを示している。
 となれば、誰が、何のために、どんな依頼をしたのか。
 青年が尋ねてくれた質問は、ユディトも聞いてみたいと思っていたこと。
 しかし、その返答には、欲しい情報はなかなか含まれず。
「あなたが連れていきたいのはバレンシアさんですか?
 それとも……ペンダントの持ち主でしょうか」
「名前なんて知らないよ」
 続くようにユディトも問いかけるけれども、バッサリと切り捨てられ。
「ペンダントを持ってる子供を連れて行くだけ。名前なんて要らない」
 でも僅かに零れてくる片鱗は、推測を少しだけ裏付けてくれる。
 そして、重なる問いに答えるための思考で、幾分、ブレイザの周囲への注意力が削られていき。その意識をユディト達へと引き付けられていると感じられたから。
「今は目の前の強い相手を倒したいんだ!」
 ユディトに、そして、挑みかかる者達に、ブレイザの獄炎が向くのを見て。
「猟兵は強いですよ」
 微笑みと共に、ユディトは天からの光を増し。
 巨大剣と大鎌の援護をしつつ、ブレイザに僅かな隙を生み出して。
「仲間と力を合わせればより一層」
 その言葉を合図にしたかのように現れた妖狐が、天使核を奪う。
 動揺を逃さず、巨大剣が閃いて獄炎剣を打ち砕き。
 さらに、ブレイザの死角から接近してきた小さな青い翼が炎を凍らせていく。
 連なる攻撃。重なり増していく力。
 その一端を担いながら、ユディトは誇るように微笑み。
「あなたにはない強さ……如何でしたか?」
 振り下ろされた大鎌の向こうへ、最後の問いを投げかけた。
大成功 🔵🔵🔵

木霊・ウタ
心情
屍人帝国がかつての浮島の住人達を集めてる?
コルディリネ…それがその島の、帝国の名前か
気になるけど今は獄炎剣を倒すのが先だ
優しい船の優しい皆を守るぜ

戦闘
巻き込まれないようにしてくれるみたいだけど
予知の通りならかなり荒っぽい奴だ
船への被害が心配だ
焼きオレンジも嫌いじゃないけど

獄炎纏う焔摩天や炎壁で敵攻撃を防御し
被害を最小限に食い止める
万が一乗組員に攻撃が向いた時も庇う

因みに任意に消去可能なんで
俺の炎で被害はないぜ

飛び火あれば
地獄の炎で迎撃したり
取り込んで消去したりして
延焼を最低限に留める

炎翼で一気に間合いを詰めたら
爆炎噴出で剣速を上げて焔摩天を振るう

敵さんも大剣の炎使いだし
いい勝負だろうけど諦めず攻撃を続ける

天使核のパワーは無限じゃないし
戦いに魅了された奴は慢心して引き際を間違えるから
獄炎剣の火力が弱まる時が必ずくる

その機に炎を敵剣の天使核に集中させて
力の弱まった核を一気に高熱で溶かしたら
すかさず獄炎剣を砕き
ブレイザを紅蓮に包み灰に帰す

事後
風に流れる灰を見送りながら鎮魂の調べ
安らかに


「私めっちゃ頑張ります!」
「流れ弾くらいなら防いで差し上げますの」
 銀髪の少女が張り切って、金髪の少女が何てことのないように、長い髪を揺らして乗組員達の元へと向かって行く。
 鷲の翼を広げた騎士が振るう水を纏った剣は、攻撃よりも防御に徹し。ポニーテールの金髪を揺らす少女のガトリングガンは、乗組員達と戦場とを隔てるように降り注ぐ。
(「巻き込まれないようにしてくれるみたいだけど」)
 そんな猟兵達の動きにホッとしつつ。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は『獄炎剣』を振るい続けるブレイザ・ブランネットの動きを油断なく目で追った。
 身の丈以上と思える大剣を軽々と扱ってはいるけれど、大きさゆえにその動きは豪快になっていて。些細な事など気にしないかのような、大雑把で荒っぽい、そんな印象がぬぐえない。
 それにブレイザはこの飛空艇を燃やし沈めに来たはずで。当然、飛空艇のことは、そしてバレンシアを除いた乗組員や猟兵のことは、気にも留めていないはずだから。
(「船への被害が心配だ」)
 思った瞬間、ブレイザが剣を甲板に突き立て、周囲に幾つもの炎の柱が立ち上った。
 それぞれに回避を見せ、まともに巻き込まれた者はいなかったようだが。
 生み出された炎は、甲板を荒れ狂うように燃え上がっていく。
「焼きオレンジも嫌いじゃないけど、こんなに荒っぽく作りたくはないからな」
 口元に皮肉気な笑みを浮かべると、ブレイズキャリバーたるウタは、自身の身体から噴出する地獄の炎を壁のようにして放った。
 炎の柱を囲い、閉じ込める様にして。燃える物を先に燃やし尽くし、新たな燃焼物にその炎が触れられないようにして、延焼を最低限に留めていく。
 そのためにはウタの炎は威力を増し、燃え盛り続けるけれども。
 紅蓮の炎はウタの意に従う、言わばウタの一部だから。
 飛空艇に被害を出すことはない。
 1つの火柱を消し、次の炎へとウタはその紅蓮を向け。騎士が振るう水の剣も炎を鎮めようと振るわれていく。
 しかし火柱は幾つも立ち上り。手が回らないかと苦々しく思った、その時。
 突然の大雨が降り注いだ。
 災害級の大雨にウタの動きが止まるけれど。それは周囲の皆も同じこと。
 そして、炎の柱が次々と消えていったから。ウタはこの雨がユーベルコードによるものだと理解した。
 であるならばきっと、炎が鎮まった後に、改めて戦う時が来るはずと。
 ウタは、今だけはと雨宿り。
 視界が悪い中でもブレイザの動きを注視しながら、態勢はしっかり整えて。
 待つ間に、ふと、思考が巡る。
 コルディリネ。
 昔、雲海に沈んだはずの浮島。浮遊大陸。
 寿命だったのか、何か要因があったのか、それは知らないけれど。
 もう存在しないはずの島。もしくは国。
 でもウタは知っている。
 浮島が沈んで、それで終わりとは限らないことを。大陸が雲海に沈み消滅した後、オブリビオンを満載した『屍人帝国』として蘇ることがある事実を。
 猟兵として、ブルーアルカディアの理を知っているから。
(「屍人帝国がかつての浮島の住人達を集めてる?」)
 コルディリネが今も存在するかのような、ブレイザの言動も併せると。
 ウタの中に、その可能性が浮かび上がる。
 コルディリネ。
 昔、雲海に沈んだ浮島。
 そして、屍人帝国として蘇ってしまった浮遊大陸。
 もしかしたら、リモナイアという島を襲ったオブリビオンも、子供を助けて逃がそうとしていた先が、同じ屍人帝国だったのかもしれない。
「気になるけど……」
 しかしウタは、そんな推測を振り払うように首を横に振ってから。
「今は獄炎剣を倒すのが先だ。優しい船の優しい皆を守るぜ」
 巨大剣『焔摩天』を構え、ニヤリと笑う。
 その傍に立った柔らかな物腰の茶髪の青年も、倣うように微笑んで。
「この船を炎の海になどさせません」
 同意するように頷いてくれたから。
 彼に笑い返して。雨が急激に弱まってきたのを見て。
 ウタはブレイザへ向かって駆け出した。
 その背に炎翼が広がり、手にした焔摩天にも獄炎が纏う。
 僅かに残る雨粒を瞬時に蒸発させながら、左腕に深い傷を負い、左足にワイヤーを絡ませたブレイザに迫り。
 天から降り注ぐ光の援護も受けながら、ウタは斬りかかった。
 大剣を受け止めるのは大剣。そして炎を受け止める炎。
 焔摩天と獄炎剣。
 似た力は拮抗し、攻防を入れ替えながら切り結び。
 剣舞のように流れを止める事なく、剣戟が続いていく。
「いいねいいね。猟兵は強いね」
 さらに大鎌の攻撃も加わってきても、ブレイザは、戦いに魅了されたかのように、その表情を喜色に染めて。
「強い相手を倒して、もっと強くなるんだ!」
 獄炎剣に新たな天使核を追加して、纏う炎の威力を上げた。
 それに応えるように、ウタも爆炎を噴出して剣速を上げ、焔摩天を繰り出す。
 スピードを、それに伴う破壊力を、お互いにぶつけ合って。
 さらにとブレイザが天使核を手にした。
 1対1だったなら、破壊力の増大に対応しきれなかっただろう。
 だがしかし、天からの光が、2刀となった大鎌が、ウタに加勢して。
 ブレイザの左脚に纏わりついたワイヤーが動きを鈍らせ。
「首の代わりの心臓の代わり、かな」
 獄炎剣に埋め込まれる前の天使核を、不意に現れた妖狐の少年が奪って消えたから。
 驚き、一瞬動きが乱れたブレイザを見逃さず。
 いやむしろ、好機が必ず訪れるはずと、待ち望んでいた瞬間に。
 ウタは炎を集中させる。
 狙うは、獄炎剣の力の源、搭載された天使核。
 これまでの戦いで力が弱まっていたであろう核を、紅蓮の炎で包み込めば、高熱で溶けたかのようにぐにゃりと形を変えたから。すかさずウタは焔摩天を力いっぱい振り抜いて獄炎剣を打ち砕いた。
 折れ飛ぶ刀身。一気に短くなった剣。
 驚愕の表情を見せるブレイザに、ウタは少し悲し気な穏やかな笑みを向けて。
「安らかに」
 その最期へと、鎮魂の祈りを送った。
大成功 🔵🔵🔵

灰神楽・綾
【不死蝶】
バレンシアと、ペンダントと、お祖母さん…
オブリビオンと、正体不明の黒幕…
色々と気になるけど、今は戦いに集中しないとね
上の空で勝てる相手じゃなさそうだし

君は強い相手と戦うのが好きなんだね
奇遇だね、俺もなんだ
君のお眼鏡にかなうかは分からないけど、お相手願おうか

両手にDuoを構えUC発動
敵の攻撃を直接喰らうのは危なそうだ
強化した反応速度で敵の行動を見切りながら
時には躱し、時には武器受けで凌いでいく

戦いながら一応聞いてみようか
君に仕事を頼んだのって誰?
君よりももっと強いの?
コルディリネってどんなところ?

梓のUCが決まったら攻勢に転じよう
武器をEmperorに持ち替え
力溜め渾身の一撃を叩き込む


乱獅子・梓
【不死蝶】
てっきりあのオブリビオンとバレンシアに
直接何か因縁があるのかと思っていたんだが…
奴は誰かから頼まれたに過ぎないのか
何故バレンシアを狙うのか、と問いかけたところで
碌な答えが返ってこなさそうだな

ひとつハッキリしているのは黒幕が別にいること
もしかしたらまたバレンシアが狙われるかもしれない
そんな嫌な予感がよぎるが、とにかく今はこいつを倒さないと

まずは、オブリビオンと戦う綾の後方から
自分が動くべきタイミングを見極める

…今だ!
綾が敵にあれこれ質問を投げかけて
敵の注意がそちらに向いている時、
死角からこっそり仔竜の零を接近させ
氷のブレス攻撃を浴びせてUC発動
動きを封じて攻撃のチャンスを作る


「バレンシアと、ペンダントと、お祖母さん……」
 炎と雨が織り成す戦場を、どこか楽し気に眺めながら。
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は右手の指を順に3本立てて見せる。
「てっきり、あのオブリビオンとバレンシアに、直接、何か因縁があるのかと思っていたんだが……」
 黒手袋に覆われた右手を口元に当てて、俯き気味に、独り言のように呟くのは乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。
 ちらりと梓を見た綾は、今度は左手の指を2本、言葉のリズムに合わせて立てて。
「オブリビオンと、正体不明の黒幕……」
「奴は誰かから頼まれたに過ぎないのか?」
 梓はさらに考え込むかのように俯く。
 全てを知っていそうな立場にいるのはオブリビオン『獄炎剣』ブレイザ・ブランネットだけれども。嬉々として大剣を振るう様子に、問いかけたところで碌な答えが返ってこないのは目に見えている。
 もやもやする心の内を抱えながら、梓は猟兵達が挑んでいく先を複雑そうに見つめ。
「色々と気になるけど、今は戦いに集中しないとね」
 そこに、ひらひらと開いた両手を動かしながら、肩をすくめた綾が気楽に言う。
「上の空で勝てる相手じゃなさそうだし」
 その指摘に、はっとして梓は顔を上げた。
 そう。まずはとにかく、こいつを倒さないといけないのだ、と。
 ブレイザとは別に黒幕がいて、これからもまたバレンシアが狙われるかもしれないし、似た状況で襲われる別の誰かがいる可能性だってある。でも、そんな嫌な予感を気にするの前に、今、目の前で起こっていることを、優しい飛空艇が墜とされバレンシアが攫われてしまうすぐ近くの未来を、防がなければならないのだから。
 改めてそれに気付かされた梓は、でもそれを綾に告げるのも何だか癪で。素直に頷くことすらできずに、黒いサングラスの下から微妙な視線を綾に向けた。
 その様子に気付いているのかいないのか。
 綾はひらひら遊んでいた手に、黒地に赤色の大鎌と、赤地に黒色の大鎌を握りしめ。
 赤いサングラスの下でへらりと笑みを浮かべたまま、ブレイザへ向かい甲板を蹴る。
「君は強い相手と戦うのが好きなんだね。
 奇遇だね、俺もなんだ」
 炎を纏う大型で片刃の獄炎剣と、それを受け止める巨大な両刃の焔摩天。
 似た2刀が攻防を入れ替えながら切り結ぶところへ飛び込んで。
「君のお眼鏡にかなうかは分からないけど、お相手願おうか」
 綾は楽し気に、大袈裟な動作で大鎌を振るった。
 光が瞬く中での剣舞を邪魔しないようにも見える動きだが、それは綾が大鎌の動きを猟兵の剣士に合わせているからであり、ブレイザが全ての攻撃を受け弾きまたは回避して見せているからで。
 大剣での見事な立ち回りに、へえ、と綾の笑みが深くなる。
 強い相手と戦うのが好きだと言ったのが本当のことであると示すかのように。
 いつまでも踊り続けようと、綾は大鎌を片手で軽々と振るっていく。
 しかし、ブレイザは、拮抗した状態を長く続けるつもりはないらしく。
「いいねいいね。猟兵は強いね」
 楽し気に口にすると共に、獄炎剣に天使核を追加すると。
 纏う炎の勢いが爆発的に上昇する。
「強い相手を倒して、もっと強くなるんだ!」
 一気に剣舞のテンポが上がり、繰り出される攻撃の手数が増えた。
 ならばと綾もユーベルコード『ヴァーミリオン・トリガー』でスピードと反応速度とを強化して、1刀ずつ振るっていた両手の大鎌を2刀同時に繰り出していく。
 剣を躱し、大鎌で受け、大鎌を躱され、剣で受けられる。
 幾つもの攻防を重ねる中、周囲に舞うのは、赤。
 ユーベルコードの代償たる、綾自身の血液。
 自らが傷つくことを厭わない戦い方。
 ちらり、と一瞬、視線を流すと、少し離れた場所でこちらを見ている梓の姿が映る。
 冷静に戦況を見極めているようでいて。
 きっと内心怒っているだろう相方。
 それでも綾を止めず、綾が作り出す『その時』を待っている。
 その肩にしがみ付いている仔竜の焔が、どこか心配そうに、梓を宥めるかのように、てしてししているのに微笑み。
 信頼しつつも憤慨していそうな、複雑であろう梓の胸中を思い。
 だからこそ綾は楽し気に笑って、大鎌を振るい続けた。
 そして、ふと思い付いて、ブレイザへと声をかける。
「君に仕事を頼んだのって誰?」
 碌な答えは返ってこないだろうけれど、それでも一応聞いてみようかと思ったから。
 それに、質問でその注意を引き付けられるかもしれないと考えて。
 試しに投げかけてみたのだけれど。
「それが今の戦いに何か関係あるの?」
 予想通り、そう簡単に情報が得られることはなく。
 でも、綾へ意識を向けてきてくれた。
 釣れた、なんて思いながらも、そんな様子は見せないまま。
 綾は、どうでもよさそうな雰囲気でひょいと肩を竦め。
「だって、気になるでしょ。君よりももっと強い誰かが君に頼んだのかなって」
 口元に好戦的な笑みを深く刻みながら、告げる。
「君よりもっと強い相手がいるのかなって」
 その答えに、ブレイザも楽しそうに笑みを深くして。
「だから、ねえ、コルディリネってどんなところ?」
「そうだね。強い相手もいっぱいいるよ」
 続く質問に少しだけ情報を零すけれども。
「でも今は目の前の強い相手を倒したいんだ!」
 やっぱり言葉のやり取りよりも攻撃の応酬がいいと言うかのように、さらに獄炎剣の威力を上げようと新たな天使核を取り出した。
 そうはさせないと大鎌を繰り、炎の剣が天からの光が妨害に動いていけば。
 ブレイザの左脚を捕えていたワイヤーがさらに動きを鈍らせ。
 その中でも鎌を剣を光を捌ききっていた、その一瞬の隙に。
「猟兵は強いですよ。仲間と力を合わせればより一層」
 柔らかな声が響いたと思った、刹那。
 ブレイザのすぐ傍に不意に現れた妖狐の少年が、天使核を掠め取る。
 少し悪戯っぽく、どこか艶やかに笑いながら、少年の姿が現れた時と同様唐突に消え。
 何が起こったのか、ブレイザが把握するまでの、僅かな戸惑いへ。
 爆炎の勢いを持って振るわれた巨大剣が叩きつけられ、獄炎剣の刀身が折れ飛んだ。
「……今だ!」
 そこに響く梓の声。
 それは綾に向けたものでも、他の猟兵達へのものでもなく。
 定位置である綾の肩に姿が見えなかった、仔竜の零への指示。
 氷の属性を持つ青い仔竜は、こっそりとブレイザの死角へと回り込んでいた零は、待ってましたと言うように氷のブレスを吐き出して。獄炎剣に残る炎を打ち消すと共に、ブレイザの動きを凍らせ封じる。
 梓は大鎌を手放し。
 代わりに愛用のハルバードを振りかぶると。
「終わりにしようか」
 楽し気な薄い笑みを浮かべたまま、その斧でブレイザを斬り伏せた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第3章 日常 『勇士達の酒盛り』

POW沢山飲んで沢山食べる
SPD宴会芸で盛り上げる
WIZ自慢の料理やドリンクを振る舞う
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 炎を纏い大剣を持つ少女の姿が消え。
 甲板に少し傷を残しながらも、船に元の平穏な時が戻る。
 私がほっと安堵の息を吐いたところで、ブラッド船長も戦いの終わりを感じたようで。
 力強い声が船に響き渡った。
「お客人達のおかげで船は無事、オレンジも無事、そして皆も助かった。
 となれば、祝いと礼の宴会だ! 皆、張り切って準備しな!」
 その嬉しそうな声に、にっと笑った顔に、応えない私達じゃない。
 むしろ待ってましたとばかりに皆が動き出す。
 私も急いで、そしてワクワクしながら、調理を始めた。
 材料を運んだり、お皿を出したりと、ベラが無言で手伝ってくれて。
 夕焼けを見ながら食べれるようにだろう、トムソンとナベラーテが樽や木箱を並べて、甲板にテーブルを作ってくれる。
 声をかければ、サンギネロとサンギネリが代わる代わるだと思うけれど、ひょいひょいと出来た料理をそのテーブルに運んでくれたし。
 ブラッド船長が上機嫌に酒瓶や酒樽を次から次へと引っ張り出してきていた。大酒飲みのナベラーテや酒豪なベラがいるから、お酒の量が多いのはいつものこと。
 シャムーティは飛空艇の操縦のために残っているとサルスチアーナが言ったけれど、きっといつも通りに途中で2人は交代するだろう。
 文句を言いながら甲板の傷をちまちま修理しているモロ技師長も、料理が増えればどこかそわそわと、こちらの様子を伺ってきているから大丈夫。
 だから後は。
(「私の料理が、お客様達に喜んでもらえるかどうか……」)
 ザガラの島を出たばかりだから、新鮮な食材も多くある。今朝焼いてもらったパンもあるし、野菜も全然元気。島に戻ってきた他の船から魔獣肉も分けてもらってあるから、豪快な肉料理を中心にしていく。大食いなトムソンに、お客様達の分まで食べ尽くされないように、いつも以上に大量に。
 長期保存が可能な、加工した魔獣肉とか乾燥野菜を使った船上食も珍しいのかもしれないと思って少し作ってみた。ちょっと火を入れたり、煮込んでみたり、この辺りは祖母直伝のレシピが多い。見た目は地味だけれど、味に自信があるものばかりだ。
 それと、せっかくザガラでオレンジを沢山積んだのだからとブラッド船長にお願いしてオレンジ料理も増やしてみる。魔獣肉のオレンジソース添えはもちろん。マーマレード漬けにした魔獣肉の唐揚げ、豆とオレンジの煮物。スライスオレンジと薄切り魔獣肉をオイル漬けにしたり、櫛切りオレンジに魔獣肉ハムを乗せたり。パンにはオレンジジャムを添えておいて。オレンジサラダは、酸味のあるドレッシングでまとめた野菜たっぷりの食事系と、オレンジメインで甘いチョコレートソースをかけたデザート系で2種類。
 ぎゅっと絞ったオレンジジュースには、オレンジの花を象った砂糖菓子を浮かべて。はちみつを入れた紅茶にも、砂糖菓子は溶けてしまうからスライスオレンジを入れた。
 オレンジ酒の方は、言わなくても出てくるからジョッキとグラスを用意するだけ。グラスに飾れるように輪切りオレンジは用意しておくけど、きっと使ってくれるのはお客様達だけだろう。ナベラーテやベラは飾りなど邪魔と言わんばかりの勢いだろうし、ブラッド船長やモロ技師長は見た目なんて気にしないから。
 そんないろいろを考えながらも沢山沢山料理を用意して。
 サルスチアーナが、今日も美味しそうね、と笑ってくれて。
 つまみ食いしかけたトムソンがベラに転がされたその時。
「それじゃ始めようか! 遠慮なく飲んで食ってくれ!」
 ブラッド船長が茜色に染まり始めた空を背にジョッキを掲げて、また声を張り上げた。
「ありがとうよ、猟兵!」
 
セシル・バーナード
どうにかあの女の子は討滅したね。連れ帰れなかったのが残念だ。

バレンシアだっけ? プラチナちゃん共々、お料理美味しくいただいてるよ。
もしよければ、人の目のないところで、三人で気持ちいいことしない? と「コミュ力」で「誘惑」してみる。
たっぷり愛してあげるからさ。
大人のみんなが酔い潰れた頃にどう?

約束が取れたかどうかはともかく、せっかくの料理。お腹いっぱいいただこう。
はい、プラチナちゃん、口開けて。あーん、としたところに魔獣肉の唐揚げを食べさせて。
ん? 今度はぼくの番? いいよ。あーん。

段々日が暮れてきたけど、皆盛り上がってるねぇ。よい子は引き上げる時間だ。
お腹が一杯になったら、別の欲が出てきたよ。


 宴の準備が進み、盛り上がって行く甲板の一角から、セシル・バーナード(サイレーン・f01207)は視線を下に雲海が広がる空へと向ける。
 陽の位置が低くなり、茜色に染まり始めた空は、燃えているかのよう。
 その赤に、炎を繰り飛空艇を襲ってきたオブリビオンを、猟兵達が倒した獄炎剣の少女の姿を思い。天使核を船に譲り渡したことで空いた掌を、そっと誘うように伸ばす。
「連れ帰れなかったね。残念」
 言葉の割には楽しそうに呟くと、何も掴めなかった手を軽く握って引き戻し。
 振り返ると、また複雑な表情を見せていた長い銀髪の少女に、くすくすと微笑んで同じ手を伸ばした。
「さあ、行こうプラチナちゃん。宴会が始まるよ」
 料理が酒が、ところ狭しと並ぶそこへと、他の皆と共に集まれば、船長の開催宣言と乾杯の音頭が響く。
 一気に賑やかになった会場に、そして美味しそうな料理の数々に。
 銀髪の少女がわくわくとその表情を輝かせていたから。
「ぼくたちも頂こうか」
「はいっ」
 セシルの誘いに少女は一も二もなく頷いた。
 豪快な魔獣肉の料理を中心にどんっと置いて、郷土料理のような少し珍しいものや、オレンジ色が鮮やかなものなど、いろんな料理が並べられている。どれにしようかと少女が迷うのも当然だろう。
 楽しそうに目移りする少女に、セシルも楽し気に微笑んで。
 近くにあった魔獣肉の唐揚げを1つ摘まみ上げると、ちょっと悪戯っぽく、少女に差し出した。
「はい、プラチナちゃん、口開けて」
 あーん、と声をかけるセシルに、少女は目を見開く。
「えっ、あのっ、その……」
 唐揚げは美味しそうだけれども、セシルの手から直接食べることを望まれていて、嬉しくないと言ったら嘘でも、恥ずかしい気持ちがより大きいから。
 混乱していく少女の様子に、セシルはさらに面白がるように笑みを深め。
「せっかくの料理、お腹いっぱいいただかないと」
 妖艶に声を響かせて、口元に唐揚げを近づければ。
 少女は真っ赤な顔でおずおずと、その小さく可愛らしい口を開く。
 噛み付いてくるより先にその口に唐揚げを突っ込んで。必死に受け入れ、食べるその唇を、指先ですっと撫でてから。
「美味しい?」
 顔を寄せ、耳元で熱く囁くと。
 少女は何かを誤魔化すかのように、真っ赤な顔でこくこく頷いた。
 その可愛らしい様子を楽しんでから、セシルも自分の分を取ろうとすると。
「ん?」
 少女が真っ赤な顔のまま、ずいっと唐揚げを差し出してきた。
 先ほどとは逆の構図。
 セシルの思いに応えようとしているかのようないじらしい姿に、セシルは微笑んで。
「いいよ。あーん」
 口を開けて待っていると、戸惑うようにそろそろと、唐揚げが入ってくる。
 セシルはそれを受け止めて。そして、離れる前の少女の手をそっと掴むと。その指先に小さくキスを送った。
「ん。美味しい」
 くすくす笑うセシルの前で、少女の顔がさらに赤く染まっていく。
 そんな楽しい美味しさを味わっていったセシルは。
 ふと、給仕に忙しそうに動き回る、胸元にペンダントを揺らした女性に目を留めて。
「バレンシアだっけ? プラチナちゃん共々、お料理美味しくいただいてるよ」
「ああ、お口に合いましたか。ありがとうございます」
 声をかけると、どこかほっとしたような嬉しそうな笑みが振り返った。
 その様子にセシルは艶やかな笑みを向け。
 すっと身体を近づけると。
「もしよければ、人の目のないところで、3人で気持ちいいことしない?」
 熱く囁き、誘う。
 驚いたような、きょとんとしたバレンシアの手に、自身の繊手を艶めかしく重ねると。
「たっぷり愛してあげるからさ。大人のみんなが酔い潰れた頃にどう?」
 中性的な美しい顔に、妖艶な笑みを浮かべて、魅せた。
 けれどもバレンシアは、こくんと首を傾げて。
「皆さん、船の上では酔い潰れるまで飲みませんよ。
 お酒に強い方が多いですしね」
 セシルの誘いを理解していないような、言葉をそのまま聞いたような反応が返る。
「だから、ちゃんと予定通り航行できますから。安心してくださいね」
 バレンシアがそういう方向に鈍いのか。それとも、セシルを子供と見て本気にしていないのか。本当のところは分からないけれど。
 純真なその笑顔は、動揺もなく変わらぬままだし。
 少し離れた所から、警戒するかのように、男と見紛う程に大柄な女性が、じっとバレンシアとセシルを見ていたから。
 セシルはひょいと肩を竦めて。
 お礼を言って、その場を収めた。
 そしてバレンシアから離れ、元の席に戻れば。また複雑な顔をしている銀髪の少女。
 思わずセシルは笑みを深め。
「さて、そろそろよい子は引き上げる時間だ」
 子供扱いされてきたのをちょっと揶揄うようにそう告げると。
 少女の身体をぐいっと引き寄せて。
「お腹が一杯になったら、別の欲が出てきたよ」
 重なって1つになった影は、人の目のないところへ消えていった。
大成功 🔵🔵🔵

アルジャン・ボワレゼル
アドリブ・連携歓迎
【POW】
「乾杯!」
勝った後の、興奮と安堵が入り混じる宴が好きだ。
昔もよく主と一緒に参加して楽しんだもんだぜ。
というわけで早速料理をいただいていく。並んでるやつみんな美味しそうだ。
魔獣肉のオレンジソース添えに舌鼓。
空飛ぶ鹿だけど、肉のが好みなんだ俺は。
お祖母さん直伝の煮込み料理も具材に程よく味がしみていて美味しい。
オレンジ酒も口にしながらほっと一息。

「……みんな無事でよかった」
この空は近年益々屍人帝国の出現が増えている……ような気がする。
それに伴い、罪のない人々が様々な被害を受けることも多い。
だからこそ、救えるとほっとする


「乾杯!」
 船長の開催宣言のような挨拶が終わるや否や、アルジャン・ボワレゼル(面影と翔ぶ大角・f34125)はジョッキを掲げてそう声を上げた。
 途端、皆の喜びの声が唱和して。
 わっと一気に盛り上がると、宴が始まっていく。
 互いの労をねぎらい、活躍を褒め称え、そして何より無事を喜び合う。
 勝利の後の興奮と安堵が入り混じる宴席。
(「昔もよく主と一緒に参加して楽しんだもんだぜ」)
 騎士だった主と戦場を翔け巡った日々。そこにもあった賑やかさと温かさも思い出しながら、アルジャンは青い瞳を細めた。
 大往生した主と一緒に眠った相棒のクリプトペリュトンには、こんな一時はもう訪れないだろうと思っていた。
 でも、どんな因果なのかアルジャンはまだ空にいて。
 こうして料理に囲まれ、酒をあおり、笑顔を眺めている。
 主は隣にいないけれども。
 何故か自分が若い頃の主の顔を持ち、新たな時を紡いでいる。
(「また1つ、土産話が増えたかな」)
 あっちへいってしまった主に、小さく口元で笑って。
 そっと、ザガラで買った砂糖菓子を手にする。
 薔薇を象った、甘い花。
 その形を見つめ。
 そして、それを手にした時の、買い物の時をも思い出していると。
「ジャン、ちゃんと食べてる?」
 ひょいと覗き込むように声をかけて来たのは、サルスチアーナ。
「シアの料理は美味しいわよ。早く食べないとなくなっちゃうから」
 仲間を誇りながらも悪戯っぽく笑う女性に、アルジャンも応えるように微笑んで。
「本当に、みんな美味しそうだ」
 改めて料理の山を見渡して告げれば、サルスチアーナがまた嬉しそうに笑う。
「お酒もね。それ、オレンジ酒? まだまだあるからどんどん飲んで」
 そしてアルジャンのジョッキに自身のグラスを重ねて、小さな乾杯をするかのように触れ合わせながら勧めていくけれど。
 その中身はアルジャンのものとは違うように見えたから。
 疑問を顔に浮かべると、問いかけるまえにサルスチアーナが肩を竦めて微笑んだ。
「私はジュース。後でシャムと交代だから」
 航海士だけど飛空艇の操縦もできるのよ、と船の舵を握るような仕草を大袈裟にして見せるから。アルジャンもその雰囲気に合わせてぱちぱちと手を叩いてわざとらしく褒め、互いに噴き出すように笑い合う。
 宴を楽しみつつも、飛空艇の安全はしっかりと確保する。
 かつても今も変わらない、飛空艇乗りの意識の高さも感じながら。
「ジャンは遠慮なく飲んで食べてね」
「ありがとう」
 では頂こうか、と料理の山に向き直る。
 やはり目を惹くのはメインに置かれた魔獣肉料理。その量もさることながら、調理法も様々あるようで。ステーキのように焼かれたものも、添えられたソースを変えればいろんな味が楽しめるようだった。
 その中でも、オレンジソースが珍しく、そして美味しい。
 ザガラのオレンジかな、と思いながらも舌鼓を打つアルジャン。
(「鹿だけど、肉のが好みなんだ俺は」)
 鷲の翼で空を舞う鹿は、胸中でそんなことを思い笑いながらも。
 そうでなくても美味しい肉だと、勧められた通りに遠慮なく食べていく。
 合間に他の料理もちゃんと味わえば。
 具材に程よく味が滲みた、煮込み料理がどこか懐かしくホッとする美味しさで。
 どれもこれもが心にまで沁み込んでくる。
 そして、傾けたジョッキから流れ込んでくるオレンジ酒。
 器を空にしても仄かに漂う柑橘の香り。
 何よりも、料理と酒の向こうに広がる、笑顔の数々。
「……みんな無事でよかった」
 アルジャンは呟きながら、ほっと息を吐いた。
 この空は、ブルーアルカディアという世界は、近年ますます屍人帝国の出現が増えているようにアルジャンは感じていた。浮遊大陸に侵攻したり、こうして飛空艇を襲ったりしてくる頻度も増えているような気がする。
 それに伴い、罪のない人々が様々な被害を受けることも多いから。
 だからこそ。
 こうして、救えることに、救えたことにほっとして。
 アルジャンは、空になったジョッキを掲げて、茜色の空にもう一度、呟いた。
「乾杯」
 何度でもまたこうして守って見せると誓いながら。
大成功 🔵🔵🔵

佐伯・晶
この世界の夕暮れも綺麗だね
雲の上から見る夕日も良いものだよ
UDCアースだと高い山に登らないと難しいけど
ここではこれが普通なんだろうね

もう宴は始まってますの
私は先に行ってますの

まあ、確かに折角開いて貰ってる宴会だし
ご馳走になりに行こうか

オレンジ酒と魔獣ハムを頂きつつ
まずは周囲の様子を見てみよう

サルスチアーナさんを見かけたら料理を頂きつつ
次の島の話とか航海の予定とか聞いてみよう
面白い場所があるかもしれないし
旅暮らしは大変だとは思うけど
興味深くはあるんだよね

私もデザート系のサラダと紅茶を頂きながら
お喋りに参加しますの
後でシャムーティ様の所にもお邪魔しますの

操舵の邪魔にならないように釘は刺しておこうか


 一面に広がっていた青が次第に薄れ、茜色へと変わっていく。
 真っ白だった雲海も、燃えるような赤を映して、じわじわと染まっていって。
 暗くなっていく青から紫を経てオレンジがかった赤へ、そこからオレンジが薄くなって黄色を見せつつも白へ。複雑に色が混ざり合ってどんどん変化していく、昼間とは全く違って見える美しい空に、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は目を奪われていた。
「この世界の夕暮れも綺麗だね」
 飛空艇の縁からの、見下ろす夕焼け。
 雲の上から見る夕日。
 UDCアースでは見られない、いやもしかしたら高い山に登ったら見えるかもしれないけれど珍しい景色に分類されるであろう光景だけれども。
「ここではこれが普通なんだろうね」
 茜色に染まっていく空をじっくり眺めているのは晶だけで。花より団子とでも言うかのように、わいわいと盛り上がった乾杯の音頭が後ろから聞こえてくる。
「もう宴は始まってますの。
 私は先に行ってますの」
 晶と同じ姿をした、といってもボーイッシュな晶とは正反対に少女らしく可愛らしい黒ゴシックドレス姿の、邪神の分霊も。景色よりも美味しそうな料理に、楽しそうに盛り上がる人々に、より興味を抱いているようで。
 船の外を眺めている晶を放って、さっさと宴会へ向かっていった。
 ヘッドドレスの下で楽し気に揺れる金髪を眺めた晶は、確かに、と苦笑する。
 美しい夕暮れもいいけれど。
 折角開いて貰っている宴会だから。
「そうだね。ご馳走になりに行こうか」
 それが礼儀だし。そして晶も楽しみではあったのだから。
 もう一度、さらに赤く染まった気がする夕焼けを振り返って見つめてから。
 晶も、分霊の後を追うように、宴の席へつく。
 そこには、所狭しと数々の料理が並べられていた。肉の存在感が大きく、そして鮮やかなオレンジ色が随所で目を惹いて。どれから食べようかとすごくすごく迷う程。
 まずは様子見とでもいうか、軽めの肉からと思い手を伸ばせば。
「おっ。嬢ちゃん、最初から魔獣ハムとは鼻が利くね。
 シアが仕込んだ保存食だが、塩味が絶妙でな。この船の隠れた逸品だぜ」
 太った男が上機嫌に、分厚いステーキを食べながら笑いかけ。
「酒はイケる年かい? このオレンジ酒は俺のとっておきでな」
 痩せた男も、オレンジ色の瓶を晶に押し付けるかのように差し出した。
「私はこちらのオレンジサラダを頂きますの」
「何だい嬢ちゃん。肉を食おうぜ肉を」
「デザート系がいいですの。飲み物は紅茶にしますの」
「いやいや酒だよ酒。何なら紅茶にオレンジリキュール入れようぜ」
 さらに2人は分霊の方にも声をかけ。
 半ば押し売りのような状態に、晶があっけにとられていると。
「トムもナベも、女の子に絡まないの!
 大人しくそっちで勝手に飲み食いしてなさい!」
 ぴしゃんと年上を叱ったのは、サルスチアーナ。
 晶達を守るかのように間に立ちはだかり、睨んで見せれば、トムソンもナベラーテも、悪かったな、と笑っていく。
 全く、と呆れたように肩を竦めたサルスチアーナは、改めて晶へ向き直り。
「ごめんね。楽しめてる?」
 苦笑しながら、分霊へと紅茶を入れ始めた。
「大丈夫ですの。サルスチアーナ様」
「アーナでいいのに。晶もね」
 ホッとする湯気が立ち上り、琥珀色がティーカップを満たしたところに。
 仕上げ、とサルスチアーナが浮かべたのは、オレンジの花の形をした砂糖菓子。
「これは、ザガラで買った?」
「そう。一緒に買い物した時のよ」
 砂糖ゆえに花はすぐに溶けて消えていくけれども。
 その刹那の時がまた美しくて。
「お好みで、スライスオレンジをどうぞ。はちみつもあるわよ」
 サルスチアーナに言われても、分霊は何も入れずにカップを覗き込んでいた。
「ノンアルコールもいろいろあるんだね」
「ええ。ネロとネリは未成年だし、私とシャムは船では飲まないから。
 シアも、20歳になったばっかりで、まだジュースの方がいいって言ってたし」
「飲まない?」
「私は航海士、シャムはパイロット。基本は2人交代でこの船の舵を握ってるの。
 まあ、船長や技師長も操舵できるけどね」
 そして飲み物の話から、船の話へとどんどん話題が膨らんで。
「この船は次はどんな島に?」
「次はオウニね。水が綺麗で美味しいから、いいお酒があるのよね。
 今回はちょっとゆっくり滞在する予定だから楽しみ」
 航海の予定や、面白かった島の話など、晶はいろいろ聞いていく。
 旅暮らしは大変だろうとは思う。
 でも、その中には語り尽くせない程に楽しいこともあるようで。
 興味深く晶は耳を傾け。
 その合間にちゃんと料理に舌鼓を打っていった。
「さて、そろそろシャムと交代かな」
 弾む会話が一段落したところで、サルスチアーナが立ち上がる。
 パイロットのシャムーティは、唯一宴に参加せず、今も飛空艇を飛ばしているが。最後まで仲間外れにするつもりはないので、途中で操舵を交代することになっているのだと、先ほどまでの話で晶は聞いていたから。
 有難いなと思いながらも見送ろうとすると。
「シャムーティ様の所へ行きますの? 私もお邪魔しますの」
 ひょこっと続けて立ち上がったのは分霊。
 その様子にサルスチアーナが微笑んで。それじゃ、と誘ってくれたから。
 嬉しそうに分霊はサルスチアーナの後をついて歩き出す。
「操舵の邪魔はしないように」
「分かってますの」
 一応、と釘を刺す晶の声に、分霊は振り向きもしないまま即答。
 適当にも見える様子に、ちょっと不安になるけれども。
 晶はオレンジ酒を傾けて味わいながら、楽しそうに並ぶ2つの背中が遠ざかっていくのを、茜色の空と共に、眺めた。
大成功 🔵🔵🔵

灰神楽・綾
【不死蝶】
いやぁ、無事解決して良かったねぇ
わいわいと盛り上がっている乗組員たちを見ていると
皆本当に仲が良いんだなぁと微笑ましい気持ちになる

まぁまぁ、もしまた変な奴が襲ってくることがあれば
その時は俺たちが駆け付ければいいんだよ
今は素直に楽しもう
そんな難しい顔してたら、料理が美味しくなかったのかもって
バレンシアが不安になっちゃうよー?

んーっ、お肉柔らかくて美味しい~
魔獣肉ってちょっと固そうなイメージあるんだけど
こんなに柔らかいのはオレンジの効果もあるのかな?
おっ、梓も真剣に料理の研究してる
さっきとは違う意味で難しい顔になっちゃってるけど
あれはもう性分みたいなものだから仕方ないね


乱獅子・梓
【不死蝶】
無事解決、とは言ってもなぁ…
オブリビオンこそ倒せたが、気になっていることは
ほとんど分からずじまいだ
いつかまたこの飛行艇が襲われるのではないかと思うと気が気じゃない

……まぁ、それもそうか
綾に諭されたのは若干癪だが
せっかくこんなに美味そうな料理を用意してくれたのだから
楽しい気持ちで食べないとな

どの料理も絶品だが
特にオレンジを使った料理のバリエーションがすごいな
オレンジってこんなにも色々な料理に活用出来るのかと感心する
メインに使っても良し、下準備に使っても良し、飾り付けても良し
オレンジ、恐るべし…!
食べながら料理メモを取る
あとでバレンシアにレシピを聞いてみるのもいいな


 乾杯の音頭に合わせて掲げたジョッキから、なみなみと注いだオレンジ酒がちょっと零れかけて。灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、おっと、と早速口を付けた。
 思ったより濃いアルコールが見事にオレンジの味わいを写し取っていたから、あっという間に柑橘系の爽やかさが広がっていく。
 予想以上の味わいに、綾の笑みが深くなり。もう1口、とすぐにまた、先ほどよりも多く飲んで。オレンジの香りにも心地よく包まれてから。
 ふと、近くの盛り上がりに、赤いサングラス越しに目を向けた。
「おいトム! 俺の分の肉も残しておけ!
 ナベのそれは俺の酒だっつってんだろーが!」
「何だよ船長、心狭ぇなぁ」
「船長とはいえ、独り占めは良くないですな」
「食い過ぎと飲み過ぎが何言ってんだコラ!」
 わいわいと楽し気に騒ぐ乗組員たち。
 遠慮のないやり取りは、表面だけではない、本当の仲の良さを伝えてくるから。
 微笑ましく彼らを見回してから。
「いやぁ、無事解決して良かったねぇ」
 その状況を楽しんでいられる今に。
 オブリビオンが飛空艇を沈める、そんな予知を回避できたことに。
 綾はにこにこと隣へ笑いかけた。
「無事解決、とは言ってもなぁ……」
 しかし、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の黒いサングラスの下に浮かべられた表情は、どこか複雑で難しいもので。綾のような笑顔からは程遠い。
 確かに、船を襲ってきたオブリビオンは倒せた。
 飛空艇は沈まなかったし、乗組員も全員無事。
 だったけれども。
(「気になっていることは、ほとんど分からずじまいだ」)
 何故オブリビオンがこの飛空艇を狙ったのか。
 バレンシアが持つペンダントとの関連は。
 祖母の存在とも関わりがあるのか。
 コルディリネという名の沈んだはずの島の謎と。
 そして、獄炎剣に仕事を依頼したという黒幕は誰なのか。
(「いつかまた、この飛空艇が襲われてしまうのではないか?」)
 その心配はぬぐい切れず。落ち着かない梓に、その肩それぞれで、炎竜の焔と氷竜の零もどこかそわそわしていた。
 しかし綾は、考え込む梓の目の前に、引っ掴んだオレンジをぐいっと突き付けて。
「まぁまぁ。もしまた変な奴が襲ってきたら、その時はその時。
 また俺たちが駆け付ければいいんだよ」
 ひょいと引いたオレンジを、弄ぶようにぽんぽん上に投げては受け止める。
「今は素直に楽しもう」
 そして最後に、ぽんっとオレンジを梓に向けて放れば。
 黒手袋に覆われた両手が、少し慌ててそれを受け取った。
 オレンジの動きで、ふわり、と爽やかな香りが微かに漂う。
「……まぁ、それもそうか」
 その芳香にも、梓は口元を緩め。
(「綾に諭されるとは……若干癪だが」)
 素直に受け止められないところは隠しつつ。
「せっかくこんなに美味そうな料理をこんなにたくさん用意してくれたのだから、楽しい気持ちで食べないとな」
 受け取ったオレンジが置かれていたはずのテーブルを。オレンジがどこに置いてあったのか既に分からなくなっているくらいに混み合い、目移りしてもしきれない程の料理が並ぶ光景を。梓は改めて眺め、笑った。
 両肩の仔竜達も、期待するように尾をパタパタしています。
 だから綾も、おどけたようににっと笑って。
「そうそう。そんな難しい顔してたら、料理が美味しくなかったのかもって、バレンシアが不安になっちゃうよー?」
 そう梓を揶揄えば。
「はい。呼ばれましたか?」
 思わぬところからの返事に、ちょうど通りかかったバレンシアからの声かけに、梓は驚いて。咄嗟に反応できなかった。
「呼んだ呼んだ。どれもこれも美味しいね、って」
 しかし綾はあっけらかんと応え、自分の取り皿を差し出して見せる。
「特に、このお肉。柔らかくて美味しい~。
 魔獣肉ってちょっと固そうなイメージあったんだけど、こんなに柔らかいのはオレンジの効果もあるのかな?」
「そうですね。少し漬けておくだけでも違うんですよ」
「こっちのオレンジソースも最高!」
「それはザガラの食堂で教わったんです。一口食べて気に入ってしまって」
 わいわい盛り上がっていく2人を横目に、梓は話題の肉を取り分けて。
 自分でもぱくり、と口にしてみれば。
「……絶品だな」
「でしょー?」
 思わず口にした感想に、何故か綾が胸を張った。
 普段の梓なら、お前が言うな、とかツッコむところだが。
「特にオレンジを使った料理のバリエーションがすごいな。
 オレンジってこんなにも色々な料理に活用出来るのか……」
 今回は感心する方に忙しいようで。
「あ、そうだ。これ、ザガラで話したオレンジサラダです。
 私はこんなドレッシングと合わせてみてるんですけど」
「……なるほど。この酸味は合うな。
 というか、ドレッシングにもオレンジを入れているのか?」
「そうですね。配分はこんな感じで……」
「そうか。だから酸味が程よく……」
 バレンシアと料理を挟んで、真剣な表情で語り合う。
 しっかりメモまで取って、本気で研究しているその両肩から、困ったような仔竜がぱたぱたと綾の方へ寄ってきた。
「さっきとは違う意味で難しい顔になっちゃってるよ」
 焔と零を迎え入れながら、くすくすと綾は笑い。
「あれはもう性分みたいなものだから仕方ないね」
「キュー」
「ガウ」 
 肩を竦めると、同意するような鳴き声が響く。
 そんな相棒達に気付かない程、梓は料理研究に没頭し。
「メインに使っても良し、下準備に使っても良し、飾り付けても良し……
 オレンジ、恐るべし……!」
 そのメモ帳に実りある記載が増えていく間。
「魔獣肉のステーキ、焼き加減が最高! 焔も見習ってね」
「キュー?」
「オレンジそのまんまも美味しいよねぇ。
 あ、ねえねえ零、オレンジ凍らせてシャーベットにできない?」
「ガウ?」
「オレンジ酒も美味しい! でも君達にはあーげないっ」
「キュー!」
「ガウ!」
「子供はジュースだよー。梓に怒られちゃうからね」
 綾は仔竜を揶揄いながら、一緒に様々なオレンジ料理を楽しんでいった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

フリル・インレアン
ふわぁ、美味しそうな料理がいっぱいですね。
一口だけですから、いただきましょうよ、アヒルさん。
ふええ、ダメなんですか?
さっきの大雨で甲板が濡れてるからモップかけなんて、
確かにあの雨を呼んだのは私ですけど、食事の後でもいいじゃないですか。
食事の後は暗くなるから今すぐって、そんなぁ。


「ふわぁ、美味しそうな料理がいっぱいですね」
 所狭しと並べられた様々な料理の数々に、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)はその赤い瞳を期待に輝かせるけれども。
 フリルが居るのは、宴の輪の外側で。
 料理との距離がそこそこ遠い。
「一口だけですから。いただきましょうよ、アヒルさん」
 だからフリルは、少しでも宴に加わろうと、料理に近付こうと、手にしたアヒルちゃん型ガジェットに懇願するような声をかけた。
 だがしかし。無情に響く、ガジェットの鳴き声。
「ふええ、ダメなんですか?」
 その言葉を唯一正確に理解して、フリルはさらに情けなく赤い瞳を困らせる。
「さっきの大雨で甲板が濡れてるからモップかけなんて……
 確かにあの雨を呼んだのは私ですけど、食事の後でもいいじゃないですか」
 両手でぎゅっと、抱きしめるかのようにモップの柄を握りしめながら。フリルが足元を見下ろせば、確かにそこはびしょ濡れで。
 宴会をしている辺りの甲板は、双子の少年が2人揃って並んでモップをかけていたから大丈夫だけれども。それ以外の場所は、まだまだ雨水が残っている。
 だからといって今でなくても、と。美味しそうな香りと、賑やかな声に惹かれながら、至極当然な抗議の声を上げるフリル。
 でもやっぱり、ガジェットの様子は変わらず。
「食事の後は暗くなるから今すぐ……って、そんなぁ」
 茜色に染まる中に、急かすようなガジェットの声が響いた。
「何だか大変だね」
「そんなに気にしなくてもいいのに」
 甲板にへたり込んだフリルに――尚、ちゃんとモップ掛けが終わった部分に座り込んでいるのでご心配なく――覗き込むようにして声をかけてくれたのは、2つの同じ顔。
 飛空艇の技師として修業中だという、フリルと年の近そうな双子の兄弟は、揃いの服を着て、にこにこと同じ笑顔を見せていたから。
「ええと……」
「忘れちゃった? 僕はサンギネロ」
「僕はサンギネリ」
 おずおずと見上げるフリルに楽し気に、改めて名乗ると。
 その場でくるくると2人の立ち位置を変えて。
「さあ、僕はサンギネロ?」
「僕はサンギネリ?」
「ふええ……」
 どっちがどっちか分からなくなったフリルが、頭を抱えるように大きな帽子の広いつばを引き寄せた。
 その困惑を双子は嬉しそうに眺めて。ごめんね、と形だけ謝ると。
「明日はいい天気になるから」
「甲板はすぐに乾くよ」
「気にせず食べにおいでよ」
「肉もオレンジも美味しいよ」
 妹分を優しく誘うかのように、交互にフリルへ言葉をかけてくれる。
「ほら、アヒルさん。折角のご厚意ですから、やっぱり先に食事を頂いた方が……」
 そんな双子を指し示して、フリルは改めてガジェットを説得するけれど。
 ガア。
「やっぱりモップかけなんですね……」
 ふええ、とフリルは項垂れる。
「じゃあ、ちゃんと後で食べれるように」
「取っておいてあげるね」
「大丈夫。シアさんの料理は冷めても美味しいから」
「安心して、頑張って」
 そして双子が、優しいような冷たいような声をかけて戻っていくから。
 助けを失ったフリルはまた情けなく肩を落として。
 急かすようなガジェットに、のろのろとまた動き出した。
 ガア。
大成功 🔵🔵🔵

ユディト・イェシュア
この船が…バレンシアさんと皆さんが無事で本当に良かったです
わあ、盛大な祝宴ですね
バレンシアさんが作ってくれたんですよね
本当にすごいです
ありがたくいただきます

皆さんとオレンジ酒で乾杯します
爽やかで美味しくて…これは飲みすぎ注意ですね

オレンジ料理をいくつかいただいて
魔獣肉を食べるとこの世界に来たって気がします
バレンシアさんにとても美味しいとお伝えしましょう
オレンジとサラダはこんなに合うんですね

彼女自身はそのペンダントの秘密を知らないようですし
ブラッド船長やモロ技師長からお祖母さんの話を聞いてみたいですね
あの様子だとまた狙われないとも限りませんし
俺たちにできることがあるなら力になりたいと思います


「わあ、盛大な祝宴ですね」
 食べきれるのか心配な程に並んだ料理の数と、その種類の多さ。そして、それを囲んで集まった乗組員達の楽し気な笑顔に、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)もふわりと微笑んだ。
「兄ちゃんはイケる口かい?」
「年若くも見えますが、成人してますね?」
 ふとっちょがずいっとジョッキを手渡し、ひょろりと痩せた男が酒瓶の口をこちらへ向けて問いかける。どうやら皆に飲み物を注いで回っているらしい。
「はい。頂いていいでしょうか?」
 ユディトは繊手でそっとジョッキを受け取り、瓶へ向けて口を傾けてみせる。
 痩せた男――確かナベラーテという名だったか――が、にっと笑って注いでくれたのは透明な水のようだったけれど。ふわりと立ち上るのは、アルコールとオレンジの香り。
「ザガラで積み込んだオレンジ酒です」
「美味いぞー。俺は肉の方がいいけどな」
「トムの好きな料理にも使われていますよ」
「だったらナベが飲む分も全部肉に使っちまえ!」
「俺の分は俺が飲みます」
 目の前で繰り広げられる陽気なやり取りに、そして目一杯まで注がれたオレンジ酒に、ユディトはくすくすと好意的に微笑んでいると。
「乾杯!」
 そこに響いたのは、船長の挨拶のような開催宣言を経ての音頭。
 ナベラーテも、そして何だかんだ言っていたトムソンももちろん、自身のジョッキを掲げて唱和していたから。ユディトも零さないように気を付けてジョッキを持ちあげ。
 2人と同時にオレンジ酒を口にした。
「爽やかで美味しくて……これは飲みすぎ注意ですね」
 その味と飲み口に、ユディトが感想を零せば。
「大丈夫です。まだまだありますから」
「ナベの分まで遠慮なく飲んじまっていいぞ、兄ちゃん」
 酒豪は違う意味に受け取ったらしく、ちょっとズレた答えが返ってきた。
 あえて正さず、ふわりと微笑むだけに止めたユディトに。
 続けてずいっと差し出されたのは、どんっと肉が乗った皿。
「肉も美味いからな。肉も。酒ばっかじゃなくて食え、兄ちゃん」
「確かに、このオレンジソースは食べるべきですね」
 にかっと笑うトムソンと、隣で頷くナベラーテに、ユディトは一度ジョッキを置いてから皿を丁寧に受け取ると。
「バレンシアさんが作ってくれたんですよね。本当にすごいです」
 綺麗に盛り付けられた元の大皿を見て感嘆の声を上げる。
 取り皿の方は、トムソンが見た目通りに豪快に取ったようで、ちょっとぐちゃっとしてしまっていたけれども。それでも充分に美味しそうだったから。
「ありがたくいただきます」
 切り分けるのは難しそうだったので、失礼にならないようにと噛みつけば。
 肉の旨味と共に、オレンジソースの爽やかさが、口いっぱいに広がった。
 これは美味しいと、咀嚼しながらユディトの表情が華やぐ。
 トムソンとナベラーテはそれを見届けてから。
「よし、俺も食うぞ」
「俺も飲みましょう」
 それぞれの食欲を満たすために、料理に酒瓶に、向かっていった。
 その楽し気な様子を見送りながら、ユディトは料理を食べ進め。最初に取ってもらった以外のものも、少しずつ頂いて行って。
「魔獣肉を食べると、この世界に来たって気がします」
 誰にともなく、嬉しそうに呟く。
「とても美味しいです」
「お口に合ってよかったです」
 そこに今度は、くすくすと微笑むバレンシアが声をかけてくれた。
 ちょうど食べていた、緑色とオレンジ色の皿を見せるように少しだけ傾けると。
「オレンジとサラダはこんなに合うんですね」
「フルーツはデザートというイメージですから、驚きますよね。
 ザガラでは結構普通に出てくるんですよ。私も勉強させてもらいました」
「お肉にもソースとしてかかってましたよね」
「ええ。魔獣肉の臭み取りとか、下準備にも重宝するんですよ。
 祖母も、隠し味とか、さり気なくオレンジを使うのが得意で、教わりました。
 船の皆も喜んでくれて、よかったです」
 嬉しそうな笑顔は、自身の料理が褒められたこともだろうが、料理を通して、祖母などの料理を教えてくれた人達をも褒められたからか。
 先人を敬い、誇るような姿に。血のつながった本当の家族も、絆で結ばれた『家族』も大切にしている姿に。ユディトも好ましく微笑んで。
 そして、そんなバレンシアの胸元に揺れる、金色のコインをそっと見る。
「沢山作りましたから、遠慮なく食べてくださいね」
 その視線に気付かぬまま、バレンシアは、食事の邪魔をしないようにとの配慮か、話題の切れ目を見て給仕に戻っていった。
 でもすぐに、サングラスをかけた猟兵2人に声をかけられたようでバレンシアは足を止め。そこでまた楽しそうに会話を弾ませ始める。
 ユディトはそれをしばし眺めて。
(「彼女自身は、ペンダントの秘密を知らないようですね」)
 思いを巡らせるのは、バレンシアの持つ金のコインのペンダント。
 オブリビオンが目印にしていたと思しきその由来が、ユディトは気になっていて。
(「元の持ち主……彼女のお祖母さんのことを知れば、手掛かりになるでしょうか」)
 そう考えて、乗組員の中でも年配な者達……初老のモロ技師長と、経験豊富そうなブラッド船長の2人を探せば。丁度、その2人が黒髪の猟兵と酒を飲み交わしていたから。
(「話を聞けるでしょうか」)
 ユディトはゆっくりと、そちらへ足を向ける。
(「あの様子だと、また狙われないとも限りませんし」)
 気になっているのはペンダントの謎よりも、バレンシアの安全の方で。
 彼女を守るために、知らなければならないと思ったから。
(「俺たちにできることがあるなら、力になりたいですしね」)
 猟兵として。新たな友として。
 そして、美味しい料理を作ってくれたそのお礼として。
 バレンシアを気遣いながら、ユディトは2人へと声をかけた。
大成功 🔵🔵🔵

 オレンジの香りが漂うジョッキを傾けながら、技師長が懐かし気に語る。

 儂が初めてアラニに会ったのは、この船に乗ってしばらくした頃だ。
 確か、まだ17にもなってなかったか。まあ、そんなひよっ子な時分だよ。
 ネロリの島で、珍しく船に誰も残さず全員で降りてな。
 これまた珍しく、全員で同じ宿に泊まったのさ。
 理由はすぐ分かった。その宿がアラニの宿だったからだ。
 正確には、アラニの旦那、ビガラードの宿なんだがな。
 生まれたばかりの娘を抱いて、ビガラードと仲良く並んで、儂らを出迎えてくれたよ。
 アラニは、ずっと一緒に船に乗っていて、儂が加わる2年程前に降りたのだと聞いた。
 だから、ネロリに来たら皆でこの宿に泊まるのだと。
 それはアラニが亡くなった今も変わってない。
 アラニの孫……バレンシアにとっちゃ、定期的な里帰りだな。

 アラニはこのオレンジ船が拾った子だ。
 ああ、このぼんくら船長のように、島で孤児になって行き場をなくしてたのとは違う。
 本当に、文字通り『船が拾った』子だ。
 住んでた浮島が沈んで、そこから逃げてきたらしい。
 壊れかけた飛空艇にしがみ付いていたのを、先々代の船長が助けたそうだ。
 ちょうど船には、年の近い先代船長がいたからな。
 その妹のように船で育てることになったとか。
 そうさ、先代は先々代の息子で、生まれてからずっと船に乗ってた。
 このぼんくらに船を譲るまで、ずっとな。

 10でオレンジ船に来たこのぼんくらよりもっと幼い時分から、アラニは居たんだよ。
 そんな齢で船にいたのは、他には先代しかいない。
 先代は立場が特殊だから、まだ分かるんだがね。
 アラニは、どこかの島に預けていい程幼かったはずだ。
 飛空艇での旅は、行き慣れた航路を主に行き来するこのオレンジ船でも危険が伴う。
 子供の安全を考えたら、島で暮らす方が絶対にいい。
 でも、先々代はそうせず、船でアラニを育てた。
 理由は知らん。聞いても教えてくれんかったからな。先代も、先々代も。
 ただ、先々代が船を先代に譲る時、知っててくれとアラニの話をしてくれた。
 船に乗って3年目の、まだまだ見習いに近い儂に、だ。
 儂がこの年までオレンジ船を降りないと分かっていたのかもしれん。
 話せる限りの話を、してくれたんだ。

 先々代は、先代に跡を譲って1年と経たずに亡くなってな。
 先代は目に見えて落ち込んどった。
 父親と師匠と船長を一度に亡くしたんだから当然だろうがな。
 それを見かねてかもしれんが、アラニはオレンジ船に戻ってきた。
 確かまだ娘が5つになったくらいだったか。
 自分もその年には親がいなかったから大丈夫、とかって笑っとったな。
 それから8年程経った頃か。先代がこのぼんくらの面倒を見始めて。
 ぼんくらのお守りも必要なくなった頃に、アラニは今度こそ船を降りたよ。
 それから15年間、儂らをまたネロリで迎えてくれていた。
 ぼんくらの船長就任祝いもやってくれたのう。
 バレンシアから花冠を貰ったのを、こいつ、酔っ払ってその場で壊しおった。
 忘れんよ。5つの子供を泣かせおって。このぼんくらが。

 ……そうだな。アラニにとって、オレンジ船は第二の故郷だったのやもしれんな。
 儂らはアラニの実家の家族、と思ってもらえておったのかもしれん。
 このぼんくらは、出来の悪い息子だったのかもしれん。
 確かアラニの娘とそう年は離れておらなんだろ。
 アラニと先代と、同じくらいの年の差だったはずだ。
 だからぼんくらは、一時期、アラニの娘に懸想して……ん? 誤魔化しても無駄だ。
 何故分かるって、そりゃ先代もそうだったからな。
 だから先代は独りもんだったんだろう、ってのは古い仲間内では共通認識だよ。
 知らんかったか?
 まあ、バレンシアには黙っておいてやる。
 それに、そう思われたくないなら、今からでも嫁を探せ。ぼんくら。
 
木霊・ウタ
短時間にこれだけのものを
手際よく作っちまうなんて
さすが優しい船の料理番
感服するぜ

遠慮しちゃ却って悪い
ガンガン食べるぜ

唐揚げは揚げたてサクサク
オレンジ&ハムも甘みと旨味がぐっ!だぜ
ジャーキーも美味い
ついつい止まらなくなりそうな奴だ
オレンジジャムのパンも爽やかで口直しにぴったり

食べて人心地つく頃には
きっと呑んでる奴はいいカンジのはず
きっと口も滑らかだ

船長や技師長が呑んでるところに
邪魔させてもらう
俺はまだジュースだ
オレンジ酒もいい香りだけど

さっきのブレイザって奴
バレンシアを
そう、あのペンダントの持ち主を連れ去ろうとした
元々祖母ちゃんが持ってたものなんだろ
どこのどんな島から来たのか教えてくれないか
コルディリネって名前も心当たりがある?

あとブレイザを落としてった飛空艇が
どっちへ向かったとか見当つく?

聞けるだけ聞いて
呑兵衛の愚痴?にちょいと付き合ったら
その後はギターを爪弾くぜ
風を感じながら夜空に音をふりまく

毎回思うけどこういう喧噪や笑い声が
俺達猟兵の守るものであり力の源だよな
優しい船の皆に乾杯!


 頬張った唐揚げは揚げたてサクサク。中からじわっと出てくる肉汁が熱いけど美味い。
 ステーキは分厚いのに、絶妙の焼き加減で程よく柔らかく。酸味の残るオレンジソースとの組み合わせがこれ以上ないほど絶品。
 味気ない保存食な印象のジャーキーは、丁寧に叩かれ、そしてそっと炙られていることで食べやすくなっていて、噛めば噛むほど味わいを増していく。
 薄切りにしたハムが余計かと思っていたオレンジは、食べてみれば甘味と塩味で旨味がぐっと強くなっていて。
 オレンジが乗せられたサラダも、緑に彩りを加えただけではないと納得する。
 ふわふわのパンはそれだけでも美味しかったけれど、オレンジジャムを添えてみれば、爽やかな風味が口直しにぴったりだった。
「短時間にこれだけのものを手際よく作っちまうなんて、さすが優しい船の料理番」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は、あっという間に用意されたご馳走を、そして魔獣肉やオレンジを見事に使いこなしたレシピを、感服して眺めやる。
 もちろんその間も、料理を選び、口に運ぶ手は止まらない。
 折角用意してもらったのだから、遠慮する方がかえって悪いと思うし。すぐには到底なくなりそうにない程の量がテーブルの上に並んでいたから。
「ガンガン食べるぜ」
「いいねぇ、兄ちゃん。いい食いっぷりだ」
 大食い太っちょのトムソンが、仲間発見とばかりに笑いかけてきた。
 そして勝手にウタの皿へ、まだ食べていない料理をどかどか積み上げると。
「こっちの骨付き肉も、食いにくいがおススメだぜ。
 特に骨近くの肉が美味ぇから、もう骨をしゃぶっちまえ。行儀なんかくそくらえだ」
 にかっと笑ってから、骨付き肉に噛み付いて。慣れた様子であっという間に肉を食べ切るけれども、勧めた通りに骨は咥えたまま。
 確かに行儀が悪いから、近くにいたシャムーティが困ったように眉を顰める。
「あらあら、トムってばまたその食べ方して」
「おっ、シャム。来たか」
「ええ。アーナと交代したばかり。
 よかったわね。私じゃなくてアーナに見られてたら、シアに、もう作るの禁止、って言われてたわよ?」
「うへぇ。勘弁してくれよ。これが美味ぇってのによ」
 苦笑しながらも楽し気に弾む会話を聞きながら、ウタも件の骨付き肉を食べてみた。
 確かに、美味しい。特に最後まで骨についている部分の肉が。
 作法を気にして残すにはもったいない程だけれど、周囲に不快を与える程行儀悪く食べるのも躊躇われるから。ウタはどうにかこうにか四苦八苦して舌鼓を打つ。
「これ、お手拭きです」
「よかったらどうぞ」
 その様子を見ていた双子の少年が、濡れた布巾を1つずつ差し出してくれたから。
「サンキュな」
 ウタは2つとも受け取り、にっと笑った。1つはすぐに使って、もう1つは続きを食べた後にと残しておくことにする。
 双子はそんなウタの様子を、にこにこ微笑んだまま見ていて。
「飲み物のおかわりも要りますか?」
「オレンジジュースならここに」
「オレンジ酒もあります」
 そこに酒瓶片手に、酒好き瘦身のナベラーテが赤ら顔を見せた。
「いいですね、オレンジ酒」
「僕らも飲みたいです、ナベさん」
「黙ってなさい未成年。あと2年の我慢です」
 ねだる双子をぴしゃりと跳ね退け、でもそのやり取りも楽し気に、ナベラーテはウタへと酒瓶を掲げて見せるけれども。
「いい香りだけど、悪いな。俺もあと2年……いや1年半弱ってとこだ」
「あれ? もしかして僕ら同い年?」
「すごいね。もう独り立ちしてるんだ」
「僕らも負けてられないや」
「早く見習い卒業しなきゃ」
「はいはい。頑張ってくださいネロネリ。祝杯は付き合いますよ」
「それ、ナベさんが飲みたいだけ」
「でも、祝ってもらえるように頑張ろう」
 わいわいと盛り上がる3人に、ウタも嬉しそうに、オレンジジュースを傾ける。
(「毎回思うけど……
 こういう喧噪や笑い声が、俺達猟兵の守るものであり力の源だよな」)
 ふと、テーブルの向こうを見れば、大柄なベラがジョッキを傾けながら、無口無表情でじっとバレンシアを見つめていて。サングラスをかけた猟兵に料理の紹介でもしているのか、楽し気に話す様子を、穏やかに見守っていた。
 その瞳は、心配するようであり、それ以上に、嬉しそうなバレンシアの笑顔を見ていられることを喜んでいるようでもあったから。
 ウタの口元も自然と緩む。
(「本当に、優しい船だ」)
 だからこそ、気にかかる。
 バレンシアの胸元で揺れる、金色のコインのペンダントが。
 しかし、バレンシア自身は、祖母から譲り受けたもの、としか知らなかったから。
(「その祖母ちゃんを知ってそうな人、というと……」)
 ウタはオレンジジュースを片手に視線を巡らせ、その2人を探した。
 船長として、この船の乗組員を纏めているブラッドと。
 長老とでも呼べそうな、技師長を務める老爺、モロを。
 そして、喧噪の外れで、2人で酒を飲み交わしている年長組を見つけると。
「邪魔させてもらっていいか?」
 ウタは、にっと笑って入っていった。
「おう、いいぞ坊主。……は、ジュースだな、まだ」
 にやりと笑った船長が、椅子も面倒くさいと言わんばかりに座り込んでいた甲板を、その大きな手で叩いて示し。
「なんぞ、おいぼれとぼんくらに聞きたい話でもあるのか?」
 技師長は、ウタの様子から何かを察したかのように、そう切り出してくる。
 そして、ちらりとウタの後ろへ視線を流せば。
「僕も同席しても?」
 ふわりとした茶色の髪を揺らした青年が柔和に微笑んでいて。
 技師長は、構わんと言うように、2人へ手招きした。
「そっちの兄さんは酒だな」
「はい。美味しく頂いてます」
 そしてオレンジ酒とオレンジジュースとが新たに振舞われてから。
 ジョッキを傾けた技師長が、促すようにウタを見る。
「さっきのブレイザって奴」
 だからウタはジュースを脇に置き、真っ直ぐに技師長を見据え。
「バレンシアを……そう、あのペンダントの持ち主を連れ去ろうとした」
 隣で青年が頷く気配を感じながら、問いかける。
「ペンダントは、元々祖母ちゃんが持ってたものなんだろ?」
「ああ。アラニが拾われた時から持っていたものだと聞いた。
 自分と故郷とを繋ぐ唯一のものだ、とな」
 返ってきた答えは、ウタが予想していたものであり。
 そして、リモナイアと呼ばれる島で、とある少女から聞いた話と似たものだった。
(「やっぱり、同じペンダントなのか……」)
 片面に花を、もう片面に三角形を組み合わせたような紋様を刻んだコイン。
 でも、バレンシアが持つそれと、あの少女に見せて貰ったものは、刻まれていた花の形が似ているけれども違ったから。
 どういうことだろうと思いながら、ウタは質問を続けた。
「祖母ちゃんはどこのどんな島から来たんだ?」
「場所は知らん。誰もな」
 技師長はそっけなく答え、ぐいっと酒をあおってから。
「アラニは、ある空域を通ると必ず空に酒を撒いておった。
 そこは、自分がこの船に拾われた場所だから、と笑ってな。
 故郷の島の場所が分からんから、そこで手向けをしとったんだろう」
 空になったジョッキにオレンジ酒を注ぎながら続ける。
「その空域を教えることはできる。
 だが、先々代は、アラニは大分流されてきていただろうと言っとった。
 アラニの島の場所を知る手がかりにはなり難いだろうな」
 今度は酒瓶を空にして、どんっと甲板に置く技師長。
「コルディリネって名前に心当たりは?」
「……アラニの住んどった島の名だ」
 そして、重ねて問うウタに、口元に運んでいたジョッキを止めた。
「バレンシアは聞いとらんのかもしれん。
 儂が聞いたのは先々代からだったからな」
 そしてしばし、ジョッキの中で揺れるオレンジ酒の水面を眺めて。
「儂の知っとるアラニを話そうか?」
 ふと、そう切り出すと。滔々と語り始める。
 それはアラニの話であり、このオレンジ船の歴史であり。
 最古参の技師長しか今は語れないであろう話。
 船長も興味深そうに、そして時折、自身も語られて居心地悪そうに、聞き入って。
 だが次第に、それが現船長の嫁とりの話になっていき。
 そこから呑兵衛の愚痴のような、船長に絡むような状態が出来上がったから。
 苦笑しながらウタは、船長に助け舟を出すように問いかけた。
「ブレイザを落としてった飛空艇がどっちへ向かったとか、見当つく?」
「お、おお。この船から離脱した方向は分かるぞ。
 しかし、あの飛空艇は、すぐに雲の向こうに隠れたからなぁ。
 そこで方向を変えられていたら、どことも分からん。普通はそうするしな」
 これ幸いと船長はウタに振り向いて、一応、飛空艇が消えた方角を教えてくれる。
 その慌てっぷりが好ましく。追撃してはこない技師長にも、温かさを感じて。
(「本当に、優しい船だ」)
 話の礼に、とウタは愛用のギターを取り出した。
 爪弾くのは穏やかな旋律。オレンジ船を表すかのような、親しみのある調べ。
 気付けば、茜色から夜闇へと、色合いを変えていた空を見上げ。
 ひんやりとしてきた風を心地よく感じ。
 夕日の代わりに、美しく煌めき始めた星に目を細めると。
 夜空に音を振り撒いていく。
 その音色に、船長はさらにオレンジ酒を空け。
 隣に座る茶髪の猟兵は聞き入るようにそっと瞳を閉じて。
「……アラニは」
 技師長は、ぽつり、と語る。
「アラニは、エンジェルの子供が生まれたらペンダントを譲る、と言っとった。
 そうでなければ、墓に一緒に持って行く、とな。
 だから、人間のバレンシアがペンダントを譲り受けたと聞いた時は少し驚いたよ」
 空になった皿をベラと共に片付けながら、まだ飲み食いしている者達と言葉を交わし、笑顔を弾けさせるバレンシアを遠目に見つめて。
「バレンシアがこの船に乗りたいと言うてくれたのが、よほど嬉しかったんだろう。
 決意を、信念を、揺らがせるほどに。
 もしくは、ペンダントだけでもこの船と一緒にいたいと、思ってくれたのか……」
 独り言のように、呟く。
 その声に、ウタがじっと技師長を見やると。
 そこに浮かんでいた疑惑を肯定するように頷いて見せる。
「ああ。アラニはエンジェルだ。
 あのペンダントは、コルディリネのエンジェルに与えられていたものだそうだよ」
 爪弾くギターの調べの中で、ウタはその答えにぎゅっと口元を引き締めた。
 
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2022年05月15日
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵