●常幻
有り触れた賃貸物件の一室で、ヘッド・マウント・ディスプレイを装着し、すっかり廃れてしまった物理式の入力媒体、キーボードの打鍵音を、男は投影される電脳空間を見渡し、静かに響かせる。
社員に与えられたアバターは極めて無個性で有り、人を無闇に刺激しないと言う理由から、髪色から服装に至るまで、モノクローム一色で染め上げられている。タイの色とタイピンだけが違い、社員の等級と部署が一目で分かる様になっている。
骸の海に汚染され、大企業群が何もかもを手中に収め、モラルの破綻し切った世界で、人は加速度的に娯楽を求める様になった。金品のみが信頼出来る友人であり、上司であり、力である。それを誇示する場所として、電脳空間、サイバースペースの娯楽は目覚ましい発展を遂げ、競争も激化していった。
傘下である、彼が所属する企業も例外では無く、このビジネスに参入している。今ではすっかりと遠い物となってしまった、緑に溢れた世界を冒険するロール・プレイング。そのマップと、数値データを作り上げながら、男は僅かに呻いた。
他の社員が気に掛ける言葉を余所に、先日交換したばかりで未だ馴染まない右腕を一瞥し、キーボードを叩いていく。
増設した副脳が、電脳空間に映し出される膨大な情報の波を難なく並行処理を実行する。情報の嵐が発するジッターノイズを、弦楽器の旋律で和らげる。
そうして仕事を進めていけば、夕方頃には、生きて行くには十分な給与が振り込まれるのを確認し、男はディスプレイを外し、何も無い部屋を見渡して、息を吐いた。
男には、これと言った趣味も無く、世間が騒ぐ程の欲も無かった。すっかり終わってしまった世界の、膨れ上がった欲望の象徴の様な、無機質に出来上がった摩天楼を硝子越しに見渡し、そこに映った情報入出力特化の機械化四肢と極小の服脳ポッドに、誰よりも終わっているのは自分だと、自嘲する様に薄く笑う。
ノイズの様な不必要な情報を送り続けるグローバル・ネットワークとの接続を切ろうとした矢先、不可解なデータ・キューブが彼へと投げられる。興味本位にそれを開き、男はすぐさま、個人所有のアバターで電脳世界へ入り込み、出来得る限りのロックを施し、隠蔽し、潜ませた。今まで理解が出来なかった危険に身を冒す者の興奮と昂揚を、生が終わる前に、始めて理解し、男は生の実感を得て、世界から解き放たれた。
誰かが居なくなっても、他の社員は毛程も気に留めず、世界の歯車は回り続ける。
●グリモアベース
「サイバーザナドゥで事件が起きるみてえじゃけー、皆に解決を依頼するな」
海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は猟兵に資料を配り追えた後、自身も帳面を捲りながら、まずは世界の様相について話し始めた。
「もう行った人の方が多いと思うし、分かっとる人は本題まで聞き流してな。サイバーザナドゥは巨大企業群の暴走で壊滅的な打撃を受けた地球じゃな。環境は骸の海と呼ばれる有害物質によって、汚染されとる。人間含め、生物は肉体の一部をサイバーザナドゥ、つまり機械化せんと生命維持が難しい所まで来とる。逆に、これでユーベル・コードに覚醒する人等も居るみてえ」
人間の悪の一面に、不快感を抑え込む様に目を閉じ、軽く湯呑みを傾けてから、鎮は説明を続けていく。
「世界は科学技術で発展、繁栄したのは確かじゃけど、代償として政府機関も巨大企業群、メガコーポの傘下に入ってしもうた。当然、倫理は崩壊して、人権は当然の様に無視されとるし、骸の海の過剰投与によって人工的に作り出される ”オブリビオン” を使役しとる。この世界は金が有れば何でも出来ると思って良え」
代わりに、猟兵への特別な支援も無いと、鎮は続けた。資産ののみが人を人たらしめる事を強調し、無い物は知恵を絞るか、奴隷となるか、悪徳に身を窶すか、死ぬだけだと。
「正直好感が持てん世界じゃけど、当然、不満が溜まるし、正義を訴える人も居る。そう言う反社会的、反メガコーポ組織の方が正しいんかな? そう言う所から、報酬なんかの援助は受けられると思う……と、こんな所かな」
資料を確認し、二度首肯して、伝え忘れが無い事を確認してから、鎮は顔を上げた。
「本題じゃ、メガコーポ傘下のとあるゲーム企業から、メガコーポの重要なデータが、サイバースペースに流出する。これを確保して欲しい。流出元はとある男性なんじゃが、それ以上の事は分からん。皆は流出する前から動く事になるけー、先ずは情報収集をする事になると思うよ」
男性の分かっている事は、情報処理特化の四肢を持つ事、服脳を使用すること、この世界ではかなり珍しい部類だと予想出来るハーフダイバーで有る事だ。
「この世界は、電脳空間へのフル・ダイブが容易なんよ。現実と変わらん感じで身体を動かせるし、物理的な入力機器とか、マウント型とは言え、物理ディスプレイを使う人は珍しいと思う。多分、単純にしっくり来るとか、近くのフリーポータルに行くのすら面倒とか、それくらいの理由じゃろうけど。何しても良えけど、取り敢えず、無難なのは人捜しの為の情報収集じゃと思う。でも好きな事して大丈夫じゃけー、やり方は皆に任せる。うん、信頼しとるよ」
鎮は丁寧に頭を下げ、猟兵を送る準備をし始めた。
紫
●挨拶
紫と申します。
今回の依頼は【サイバーザナドゥ】。
1章は【冒険】自由度の高い【情報収集】としております。
●シナリオについて
・シナリオ目的
【犯罪の証拠データを奪還すること】です。
・1章目的
【情報収集】となります。
・章構成
【冒険】→【集団戦】→【ボス戦】です。
・ギミック
【※このシナリオには、脳内当て要素が含まれています】
主要NPCである【男性の生存】は目的に含まれておりません。
よって今回、生存条件を非常に難しく設定しております。
ほぼ此方の脳内当てとなっている為、結構理不尽に死ぬかも知れません。
予め、ご了承の上での参加をお願い致します。
【フリー】
猟兵は自由に動けます。推奨行動である【人捜し】以外の事も出来るでしょう。
現場での行動は全て猟兵に一任されています。
【情報の不足】
オープニングの通り、情報が基本的に不足しており、大体の事が不明瞭です。男性が勤めているゲーム会社名すら掴めていません(単純に情報量が多すぎた様です)。
【サイバースペース(電脳空間)】
フリーポータルから自由にアクセス可能な、生身の様に動ける電脳空間です。手軽にダイブ出来ます。有効に利用出来そうで有れば使用するのも良いでしょう。
●その他
・1章毎にopを制作します。
・psw気にせず、好きに動いてみて下さい
・途中参加;歓迎
●最後に
なるべく一所懸命にシナリオ運営したいと思っております。
宜しくお願い致します。
第1章 冒険
『酒場で情報収集』
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POW : 多くの人から多くの話を聞く
SPD : より詳しそうな人物に話を聞く
WIZ : 一般人に紛れた情報屋を見つけ出し、情報を買う
イラスト:十姉妹
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
村崎・ゆかり
機密情報の外部流出なんて、メガコーポも気が緩んでるわね。自分たちを神か何かと勘違いしているからそうなる。
じゃ、電脳空間へフル・ダイブしましょう。
レトロゲーム好きなゲーマーを装って、「コミュ力」でゲーマーが集まる界隈で情報収集するわ。自然っぽい世界で遊ぶRPGってないかしら?
逆に、ここ近づいたらやばいってとこも教えてもらうと助かる。変なアバターが最近うろついてるとかそういうところ。
情報は仮想メモに取り込んで、二つの情報を重ね合わせ。
両方の重なってる範囲が怪しい。
一足先に黒鴉の式を向かわせて、現地を確保してからあたしもそちらへ。
当たりか無駄足か。せっかく来たんだから、おもてなしの一つも受けたいわ。
アマネセル・エルドラート
◎
「ここがサイバースペースね。外とは環境は違うみたいだけれど…なるほど。動くには支障は無さそう。」
初めてダイブするサイバースペース。とりあえず体を軽く動かしてみて感覚を確認。
アバターとは言え、操作は普通に動くのと差は無さそうだ。
「それにしても、情報が殆ど無いのが辛いところよね。虱潰しに聞き込みをして回るしかないかしら。普段こっちに居る人なら、もしかしたら何か普段と違う物を見聞きしてるかも。」
サイバースペースへのダイブは初めてでもサイバーザナドゥに来た事はあるので、住人の気質は知っている。
情報料として渡す程度のお金を持って、とりあえずは人の多そうな所に行って聞き込みをして回ってみよう。
ラスク・パークス
(鎮さんの世界観説明を聞き)客観的に酷い世界。
『・ω・) とてもよくワカルマン』(なお現地出身)
重要データ。デスゲームのリーク、とかかな? 興味深い。
『・ω・)ノ ありがとう謎の男性! 君のことは忘れないZE!』
三日くらいは。
情報収集開始。サイバーリンクシステム起動。サイバースペースにアクセス。
流出するということは、何か切っ掛けがあるはず。
ゲーム企業に網を張って、社員たちのやり取りを、公私問わず探る。
『・▽・) 不平不満を口にせずとも、パワハラ被害とか不和の種は残ってるかもだ』
情報処理を加速して、ピックアップしていく。
『-ωー) 他の猟兵の皆は電脳面は不慣れだろうし、サポートしていこう♪』
●フル・ダイブ(摺り合わせ)
「機密情報の外部流出なんて、メガコーポも気が緩んでるわね」
未来的な高層建築と空間投影技術を利用した疑似看板がそこかしこに並ぶ街並みを歩きながら、白煙で煙る曇天を仰ぎ見て、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は、独りごちた。
「自分たちの事を勘違いしているから、そうなる」
「とてもよくワカルマン」
文字出力機構を備えたヘッド・マウント・ディスプレイ、人工繊維によって編まれた銀のポニーテイル。機械音声と同じ短文を、文頭に顔文字を追加して、何時の間にか、ゆかりの隣に立っていた。ゆかりが驚いて口を開けると、ディスプレイ表示が即座に変わり、片仮名で平時の挨拶と、手を上げている顔文字が表示された。
「この辺りのお勧めフリーポータルなら心当たりがあるよ! 案内するね♪」
ラスク・パークス(『パクス・ザナドゥ』最後の死神・f36616)は固まっているゆかりを余所に宙空にマップを投影し、指を差して、前を歩いて行く。
「私も良いかしら?」
上機嫌な顔文字と共にモチロン! と文字が表示され、青のエプロンドレスを着た時計ウサギ、アマネセル・エルドラート(時計ウサギのアリスナイト・f34731)は、快諾を得て、穏やかな微笑みを見せた。
「取り敢えず……歩きながら、自己紹介にしましょう。それから、どう動くかも教えてくれると嬉しいわ」
ゆかりは状況をどうにか呑み込んで、頭を抑えながら、二人の意思を確認した。ラスクからはモニタから軽い返事、アマネセルは謝罪をしてから、名前を告げた。
「情報が殆ど無いのが辛いところよね。彼方で聞き込みをして回るしか、ないのかしら?」
「ゲーム会社って言うのは分かってるから、その辺りのコミュニティを当たっていくわ。宛てが無いのなら、協力してくれないかしら」
「それは名案ね。勿論、協力するわ」
「決まりね。それで、ラスクは……」
目を瞑った、のんびりとした雰囲気の顔文字とサポートの一文。
「プロフェッショナル」
表情を変えず、しかし何処か自信満々な様子で親指を立て、機械音声で告げた所で、お勧めのフリーポータルへと辿り着いた。
建物の内部に、等間隔でずらりと並ぶ流線型のリクライニング・クレイドル。オート開閉式の透明なキャノピーが上がっている物が、空席を示す。フルダイブの手順自体は、これに身体を預けるだけで良い様だ。
問題点は2つ、1つ目は、有事の際の安全は、ある程度のレベルまで保証されてはいるものの、現実世界の身体は無防備となること。
2つ目は、この世界の特性上、公共施設で有っても、その質は人や地域によって著しく左右される事だ。
「サイバーリンクシステム起動。アクセス開始」
ディスプレイに浮かび上がる、クラッキング・ノープロブレム。ラスクは予め機器を掌握し、プログラムによって出来る範囲で、独自のセキュリティを改竄、構築したらしく、それを合図に、二人はクレイドルに身体を預けた。
(デスゲームのリーク、とかかな? 今から興味深い)
キャノピが閉じられていく間、一足先にサイバースペースに足を踏み入れたラスクは、投影されて来る視界を埋めて余りある、押し寄せてくる多重情報を淡々と処理して行く。
●サイバースペース
チュートリアルを兼ねた歓迎メッセージが投影され、それに指先で触れて消去する。電脳空間で有る以上、情報の取捨選択等、細かに設定が出来る様だ。
「重力が無いのが、少し気になる位かしら?」
端末を触る事、術式の行使と変わらない事を確認し、現実と異なるのは浮遊感程度であるとゆかりは一つ首肯した。他細かな違いはラスクが資料として纏め、二人に書類の形にして渡している。
「現実では眠っている状態なのよね。信じられないけれど」
面白いものね、とアマネセルはその場でくるりと回ってみる。自分は確かに、クレイドルで目を瞑って身体を横たえたのに、実際に自然に身体を動かしていると言う奇妙な感覚は好奇心を刺激するのに、十分な体験だった。
ラスクは情報処理作業を非公開としたまま、レトロゲーマーが集まるコミュニティへのアクセス・ポータルを開く。地面が発光し、その上部でカスタマイズされた文字情報……顔文字付きのグッドラックと、URLらしき英数字が空間に投影される。
「実際にネットワークの海を歩くって、こんな感じなのね。それじゃあ行きましょうか」
「どんな所なのかしら? いまから楽しみね」
●レトロ・ゲームセンター
星空の天蓋に覆われたドーム状の建造物、その中で、ゲームを彩る音楽と効果音が鳴り響き、覆い被さる様に操作音が其処彼処で鳴り響く。多重に重なる規則性と調和を欠いた雑音は不協和音となって、静謐な空間を満たしている。区分けされた音楽ゲームコーナー等は顕著に酷く、ノイズになりがちな音情報を意図的に切る。
レトロと言っても、サイバーザナドゥからすると、その層は多種多様だ。2Dドット、ポリゴン、平面3Dグラフィックなども彼等にとってはレトロだった。その方が、ゆかりにとっても都合が良かった。
「あたしも、このゲーム好きなのよね」
趣味で市民権を得るのは、何時も最先端で分かり易いものだ。ディープな領域に、若い女性は付いて来ない。要求操作や知識量が膨大複雑、煩雑になればなるほど、その傾向は顕著になりやすい。
例えば、今ゆかりが手を出した縦スクロールシューティングなど、最たる物だと言って良い。高難易度で有名であり、最後は上から数えた方が早いプレイヤーにテストプレイをした結果、ボスの耐久性を異常なまでに上げ、理論上は回避可能な弾幕を何パターンも張ることに行き着いた代物だ。最も、普段から同じ様なことをしている彼女にとっては特に問題も無く、ゲームの特性とルールを理解しつつ、隠しボスまでを短時間で突破して見せると、シューター達は所謂神プレイの遭遇に、自分の事の様に喜び、ゆかりの実力を認め、歓迎した。
「ありがと、それで、少し聞きたい事があるのだけど」
隣でのんびりゲームをプレイしていたアマネセルが、ゆかりの視線に気付き、少額の電子クレジット・データを提示する。
「サイバースペースで、自然っぽい世界で遊ぶRPGについて、心当たりあるかしら?」
幾つか嗜んでいると言う回答は得られるが、各人思う所が有るようで、苦い顔を隠さなかった。
「ゲームへの不満は大なり小なり有るわよね」
「そうだね。好きな所と悪い所がハッキリしてる。好きな所は品質だったり戦闘システムだったりだけど、嫌いな所は総じて、富裕層を優遇する所だ。金を払っている客を優遇するなとは言わないが、行き過ぎてる。サイバースペースを利用した、マトモなRPGは存在しないね。特に自然景観を重視したエリアは、普通のユーザーじゃ気軽に足を踏み入れる事も出来ない様に作られてる」
痩身の男がそう語り、界隈では、そう言ったマップを作り、富裕層を取り込む競争が激化している様だ。
「リアルでも、眺める環境は身近じゃ無くなったからね。ゲームとサイバースペースを利用した観光事業、なんて揶揄されてる」
「実情は分かったわ。もう一つ、サイバースペースで近付いたら駄目な所とか、分かるかしら?」
彼等は暫し顔を見合わせ、見返りを保証するからと、クレジットを追加で幾らか要求した。
「ヤバい奴が集まってる区画は当然。ただ、これは言う程絞り込める物じゃないし、雰囲気で分かる。それから、開発途中、拡張中のエリアやサーバー。これは絶対に近付いちゃいけない。企業が絡むからね。暗黙の了解に近いかな。もう少し詳細に知りたいなら、此所に行くと良い。さて、クレジットも貰った事だし、そろそろタイムアタックに戻るかなぁ……」
URLと合言葉が記された一枚のアクセスカード・キーを投げて、彼等は愛する筐体へと戻って行く。
「ダーク・マター?」
アマネセルが記された店名を小さな声で読み上げると、機械的にリズムゲームをプレイしていたラスクが合法の電子ドラッグを取り扱うヤベーところ、と端的に検索結果を伝えた。
●情報収集
ラスクは聞き込み中も並列情報処理を行っていく。先ず厄介だったのはゲーム参入企業の予想以上の多さ。利益の為に枝分かれに枝分かれを繰り返した結果だった。資本金と売上上位から順に辿ろうとしたが、何方も特定出来ない様に細分化され、やむを得ず枝葉の先から順々に辿っていく必要が有った。結果的に、資本力が高く、力を入れている企業を幾つか絞り込む所まで漕ぎ着けた所で、界隈で有名な合法電子ドラッグバーの名前がアマネセルの口から告げられ、投げられたカードキーを利用して、ポータルを開く。
●合法電子ドラッグバー「ダーク・マター」
電脳世界の特徴は情報を物質化し、肉体と感覚を連動出来る点に有る。電子ドラッグとは、液体化、固形化した特定のデータを、アバターを通じて直接、経口摂取する行為だ。単なる昂揚剤程度までなら合法として扱われるが、そもそも合法性の線引が意図的に曖昧にされている。ダークマターはそう言った酒場の中では、随分と優良な部類ではあるが、それでも、不健全な店で有る事には変わりが無い。不健全な店には当然、そう言った情報屋や業界人も、嘘か本当かも分からないあやふやな情報を高値で捌こうと居着くのも、世の理だ。
踏み入れた店内の照明は最小限にされており、暗く、サイケデリックな音楽が店内に設定されている。時に七色の光が店内をぼんやりと照らし出し、目当ての人物を探せる様になっている。見渡してみれば、実年齢は兎も角、入場にアバターの外見制限も無く、小柄な影も見受けられた。不埒に耽るのも推奨されているのかもしれない。
店主は注文通りにデータを調合、制作し、我関せずと、客を静かに持て成すのみだ。貰ったアクセスカード・キーを見せると、データの中身を見て、店主は一人の男が座っている席を顎で示した。
「初めまして、早速ですが一杯、如何です?」
「おお、ウサギの嬢ちゃん、良く分かってるじゃねえか。話が早くて助かるぜ。ま、もう少しイロ付けてくれると嬉しいけどな」
アマネセルは笑みを崩さず、男の言われるまま、追加でクレジット・データを差し出した。男は二指で抓める小さなグラスに注がれたデータを一息に干し、クレジットを懐に収めた。すると、何故か男は頬を掻いた。
「嬢ちゃん達みてえに正直な奴は希なんだよなぁ……こうも簡単にボれると、変な気分になるもんだ……調子が狂う。いや、要件は大体分かってんだがよ」
タイトロープ・サーカス社の名前がラスクのモニタに映し出され、男は頷いた。
「上がってんじゃねえか。ああ、リアニメイトとツルんでるあいつ等だよ。よっぽどの事が起きたんだろう。血眼だ。動いてやがる」
「もう少し詳しく伺っても、宜しいかしら?」
アマネセルの質問に男は快く答えていく。まず、タイトロープ・サーカス社は物理的な拠点を持たない会社だ。統制の取れた集団と言っても良い。仕事場でのやり取りは少なく、契約通りに仕事を進める日雇い環境だ。完全な実力主義であり、課せられたノルマが終わるまで業務は続く。これでも、一般層への待遇は良い方だと男は説いた。ただし、人間関係は非常に淡泊である事、社用アバターを黒服で統一している事、バイオノイド企業である、リアニメイト社と関係が深い事が特長として取り上げられる。
ラスクの方も此所までは追う事が出来た。
社員同士のやり取りは極端に少なく、精々、見かけだけの心配り程度だ。つまり、情報流出の原因は、クラックが容易な一般社員や下位系列企業のセキュリティレベルでは無く、もっと上流で起きていると推測が出来ていた。どうも、そこまでは合っていたらしい。
「……開発中のエリアを教えてくれない?」
「ほらよ。直接は飛べねえけど付近のアドレスだ。好きに使いな。代わりに、もう一杯奢ってくれねえか?」
男にもう一つ、別の液体データを奢り、3人はアドレスの先へと飛び入る。
●刻限間近
彼等が言っていた富裕層向けのゲームエリアでのパラメータは、ラスクが偽装し、改竄する。ゆかりはすぐに印を結び、一足先に黒鴉を向かわせる。一方でラスクは流出の起きたデータを掴む為に情報の嵐に身を曝す。継続して来た処理時間と超過気味の情報量に一瞬、顔を顰めた。流出させたアカウントの特定の為に枝分かれしているメガ・コーポの系列企業を上へ上へと辿って行く。
誰かが薄く笑っている気配がして、潰した古巣の上司を思い出し、ラスクは無意識に歯噛みする。
「ゲームだよ。君達も好きだろう?」
嘲笑うかの様に開かれた上位セキュリティ・ポートの先に残された、ラスクのみが見る事の出来たメッセージ。社員データの洗い出しは出来たものの、件のデータキューブの行方は、未だ掴めてはいない。
「当たりか無駄足か。せっかく此所まで来たんだから、おもてなしの一つも受けたいわ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『リアニメイト社・暗殺向け汎用クローンN』
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POW : 1人、だと思った?
自身が戦闘で瀕死になると【人混みや物陰から、自身と同じクローン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 貴方は、人に紛れて死ぬ
指定した対象を【人混みの中にいる暗殺対象】にする。対象が[人混みの中にいる暗殺対象]でないならば、死角から【一般人】を召喚して対象に粘着させる。
WIZ : ……たとえ、転んでも
【人混みや物陰からの、ナイフの一撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に転び、蛍光色の培養液をばら撒き】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:番場たくみ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●タイトロープ・サーカス
鳥型ペーパー・クラフトデータの侵入。スキルツリーとの照合結果に問題は無かった。陰陽術はゲーム内でも公式の職業だ。釣り出し、索敵として、こう言った特待エリアでも重宝されている程度にはメジャーなスキルだ。
問題点と言えば、開発区域エリアへの侵入、しかも誰かによって重要データの漏洩が起きた直後、データの行方も分かっていない状況で、だ。本来なら一度目はクラック行為であろうと、警告で追い返すのみに留めるが、状況がそれを許さない。
データは誰かに行き渡ったか、ネットワークの海を未だに漂っている。
このため、先ずは全てのサイバースペース内の社員に、問答を行う必要性が有り、暴行、脅迫行為は、手段として極めて合理的だ。
損をするのは業務時間の延長が課せられる社員だけ。現実の肉体には傷一つ残らない。加えて、ゲーム・システムを逸脱した死への恐怖、痛覚への刺激は、肉体損傷を来さずに、脳が誤認し、死を招く。サイバースペースは、そう言う意味で、企業側にとっても、非常に都合が良い。
つまり今の開発区域エリアは、そう言った惨状だ。セキュリティを強化した上で、表向きには社員同士の他愛ないやり取りになる様、グラフィカルデータ、音声データは巧妙に偽装を施している。
黒服姿の社員は、上位アカウントからの干渉により操作権を剥奪され、リアニメイト社のクローン達によって、無抵抗のアバターを、脳死が起きない程度に、丁寧に痛め付けられ、脅迫されている。
「知らない」の連呼を致命傷寸前まで続け、社員は漸く、無罪を証明出来る。
今回の様なケースで有れば、この時得られた情報を元に、駄目押しとして、現実へ隠密性の高いクローンの多量派遣も行われる。各社員の現住所とアクセス・ポータルは、問答の際に聞き出し、共有済だ。
●状況把握、行動指針
猟兵達の手元にあるのはクラックによって入手した社員情報だ。
住所情報、アクセスポータルについては、偽装されている可能性が有るものの、より詳細にデータを調べる事が出来れば、大凡の位置は特定出来る。
一方で、サイバースペース内の開発区域エリアでは、巧妙に偽装され、捉える事の出来なかった黒服の社員達への一方的な暴行・脅迫行為が確認出来ている。裏を返せば、まだ目的としているデータ・キューブは、誰の手にも渡っていない可能性が高い。
敵数については、タイトロープ・サーカス社が、バイオノイド企業であるリアニメイト社と関係が深い事も有り、クローンの大量投入が実行されている。
人海戦術と言える人数を意識するのが良いだろう。
このクローンは日常生活に紛れての暗殺を得手とする関係上、隠密性が非常に高い。変装等の準備も行う上、クローン同士での情報交換も適宜実行されている。しかし、急造品であるため、軍隊と言える程の統制はされておらず、奇襲を除けば、単体の戦闘能力はけして高くはない。
猟兵に残されている時間は少なく、対応事項も多い反面、取れる行動の択は多い。下記に提示する事以外でも、有効な行動を思い付くのであれば、実行するのが良いだろう。
1つ目は情報の嵐に身を曝し、データ・キューブを奪取する為の情報戦。現時点で、企業からの妨害行為も多く、極短時間で膨大な量の情報処理が必要となる。戦闘行為を並列処理する場合は、余程で無い限り、何らかの補助が必要だろう。
2つ目はサイバースペースでの攻防だ。
1つ目の情報戦を行うとしても、既に企業が管理している開発エリアに侵入行為を働いた以上、企業からの妨害は避けられない。
数秒毎に不正アカウントとして企業側の権限で、行動権の剥奪を行おうとする。対策を講じつつ、戦闘する必要が有るだろう。
また、エリアには一般社員が居る事も留意する必要がある。フルダイブは脳を通じて五感を現実の肉体と共有している。この事は頭に入れておくべきだ。
3つ目は現実世界での行動だ。
状況として、開発エリアに足を踏み入れた猟兵も、問題無くサイバースペースから帰還出来る。制約は無いものと考えて良い。
此方は、大まかな行動指針として、並行出来る二つが思い浮かぶ。他にも有効な行動が思い付く場合は、それを実行してみると良い。
現実世界での行動指針の1つ目は、情報戦に負けた場合、或いは情報戦を行わない場合の次善策だ。
割り出した社員情報の確度を上げ、住所である現場に向かい、周囲のクローン体を処理し、人命ごと情報を保持する、と言う行動指針。後手ではあるが、2と並行する事も可能ではある。
現実世界での行動指針の2つ目は、先手を取って脅威となるクローンを片端から排除する事。
1とほぼ基本方針は同一となるが、確度を上げる時間が無い為、情報を社員本人が偽装していた場合、先手を取れない可能性が高く、意味が無くなる可能性も高い。運に身を任せるか、非常に迅速な行動、もしくは瞬時に多量の人手を呼び寄せる等の方策が望ましい。
並行するにせよ、何方か一方のみに注力するにせよ、帰還への決断は早ければ早いほど良い。ただし【情報戦】を選択した猟兵の支援を受けるのは難しい。互いに何らかの補完が出来るのであれば、それが理想となる。
社員にデータが行き渡れば、表の顔に偽装したクローンが日常生活に紛れて凶刃を振るう。裏に紛れ込めば其方は圧倒的に企業の庭だ。紛れ込んだ新参の顔を、情報屋が企業に高値で捌き、屍肉を鴉が貪る事となるだろう。
猟兵は現状を把握し、自身にとって、或いは自他にとっての最善を為す為に、行動を開始する。
雁野・リジ(サポート)
「オレが盗んでいいの?それとも盗まれたいの?何をくれる?」
貼り付けたような笑顔を浮かべている女性。
怪盗であると言うが怪盗が何かは分かっていない。
人間の姿をとる狸。人間には人間の、狸には狸の、オブリビオンにはオブリビオンの生活があるし考え方も違う。ということを知っている。
合わせられることは合わしていきたいけれど、
世界が滅ぼされると困っちゃうので、普通に戦う。
●怪盗たぬきの気紛れ
藍色の髪をスモーキーな空に流して、護符で編まれた和服に袖を通し、上機嫌に鼻歌を謡いながら、雑踏に紛れ、雁野・リジ(たぬき・f34917)は人間を何となく探る。
人間には人間の、狸には狸の、そして、オブリビオンにはオブリビオンの生が有ると、彼女は良く弁えている。ただ、全ての人間が、人と機械の混じり物となると、どう受け止めて良いものかと、頭を捻って、自身が狸である様に、人が人間だと主張するのならば、それは人間なのだろうと、一人で納得して首肯する。
宙空のホログラフィには、犯罪行為が幾つも幾度も取り上げられて、皆欲しい物が沢山有るのだと、狸は共感し、二度ほど頷いた。
「オレにはちょっと複雑だけど、ここは色々、出来るみたいだね」
彼方此方を気の向くままに歩いて、物色する。人が寝台に横たわる病院の様な施設に通り掛かり、建物から急ぎ足で出て来た分厚い機械眼鏡を掛けた女性が気になって、一反木綿に化けて、追い掛ける。
「急ぎなら、乗っていく?」
気配を消そうとした女性に、速度には自信があると、微笑み掛けた。
「怪盗だからね、オレ」
成功
🔵🔵🔴
村崎・ゆかり
情報戦か。専門家じゃないんだけどなぁ。
「目立たない」よう摩利支天隠形法で情報の嵐に身をさらしましょう。
「失せ物探し」「占星術」で、データ・キューブの行方を探り、黒鴉を先に送って状況把握しながら可能な限り全速力。
スタッバー(暗殺者)達の目は隠形法で欺けているはずだけど、システム管理者から探知されていないかどうか。
まあ、ここは人混みじゃないし、まあ、ここは人混みじゃないし、奇襲なんて出来ないはずよね。
筋道が、見えた!?
アヤメ、悪いけどスタッバーの相手お願い。あなたなら抑えきれるはずよ。あたしは急いでデータ・キューブをとってくる!
これ、移動速度とかいじれないのかな? 手が届くまで、後どのくらい?
アマネセル・エルドラート
「今居る場所は敵地も同然の場所。となると…あんまり目立ちたくはないわね。」
サイバースペースの中に残る事を選択。
情報戦に向かう猟兵が居るのであれば、敵の数は少しでも減らしておくに越したことはないだろう。
とは言え、あまりに目立ってアバターの行動権を剥奪されても困る。
「監視に対しての効果は未知数だから賭けにはなるけれど、此処は身を隠しながらクローンを倒していこうかしらね。」
監視に対してどれほどの効果が見込めるかは不明だが、ここはUCドリームベールで身を隠す。
クローンを発見次第、離れた位置から属性攻撃で電気を纏わせた赤のプレイングカードを投擲する事で攻撃、一体ずつでも確実に数を減らしていこう。
ラスク・パークス
◎ 選択は、現実の2、になるのかな?
……状況把握。
『>▽・)b さくっとクローンから情報を絞り取ろう!』
ファントム・ザナドゥ、起動。
眼には闇を、耳には静寂。『>▽<)ノ 鼻には無臭DA!』
漆黒の闇を纏い、投入されたクローンから目立つ者を選択。
『-ωー) 接触感知はされるので、触れたモノはフォトンセイバーで即KILLよ』
闇に触れた敵から、連携している敵の情報データを奪って、殺す。
『・ω・)ノ 次の獲物へレッツゴー!』
もし気づかれても、素早く他の重装備を抜いて、蜂の巣にすればOK。
悠長にする時間はない、けれど。敵を減らし、情報を得る。一挙両得。
得た情報は、リアルタイムで仲間の猟兵たちにも共有する。
●星詠み人の情報世界(データ・ワールド)
警告と共に、メッセージ・データが赤色に明滅する。自然景観に囲まれた開発エリアは侵入者を感知し、エリア全体が星の無い夜天に切り替わり、眩い赤と不気味な黒が猟兵達の視界を覆う。
「情報は専門じゃないんだけどね」
「今居る場所は、敵地も同然……あんまり目立ちたくはないけれど、動くわ」
「……状況把握。さくっと ”向こう” から情報を絞り取ろう!」
「今更だけど、表示されている語調とやることの落差が激しいわね、ラスク」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は、手早く摩利支天隠形法の印を結び、真言を紡ぐ。ソウカナー等と惚けた文字が表示され、宜しくと呟いて、ラスク・パークス(『パクス・ザナドゥ』最後の死神・f36616)のログアウトを見送った。
「ここは本当に、夢の様な世界だけれど、賭けね」
陽炎に包まれ、揺らめき朧気になっていくゆかりの姿に、アマネセル・エルドラート(時計ウサギのアリスナイト・f34731)も、胸元に仕舞っている懐中時計に触れる。足下から湧き出た深い深い七色の夢が、アマネセルの身体を柔らかに覆う。仕様外の行為でアカウントごと隠蔽され、管理者は二人を追うことが出来なくなったのか、警告ウィンドウは非表示になった。
「OK、管理者の近くに詳しい人は居ないみたいね」
「状況は理解しているけれど、ハイドアンドシークみたいで、ちょっと胸が躍ってしまうわ」
「やんちゃは楽しいものよ。行き過ぎないのなら、楽しめる方が良いわ。私は動けないから、露払いはお願いするわ」
ホログラフィックを通した情報収集では無く、情報を片端から脳に叩き込むダイレクト・インプット・インタフェースを許可(オン)。起こることは、合法電子ドラッグを呑む行為とほぼ同じ。
白亜の世界に、多量の情報が、渦巻く七色の嵐となって雪崩れ込む。文字は文字として、音楽は音楽として、画像は画像として。風音の様な、ジッターノイズの様な、形容しがたい不快な雑音が鳴り響く。瞬く間に酷い頭痛を覚え、神経からじんわりと血が滲む様な感覚に囚われる中、ゆかりはそのイメージを、自身に有利な物として作り替えていく。
(地面は八卦が良いわ、情報は水流の様な物よね、なら、龍脈だと都合が良。……後は取捨選択を繰り返して、必要な情報を掴めば……)
毛細血管から小さく血が噴き出す様な錯覚と共に、頭に霞が掛かる。神経の摩耗に感覚が麻痺し、痛覚が遠退いている事に気付き、背筋が凍る。確認は出来ないが、アバターの指先が勝手に痙攣していた気がする。事情を知らない者が見れば、立派なデータ・ジャンキーだ。
(体験したくは無かったけど……始めての感覚だわ)
うねりを続ける情報龍脈から、足下の八卦盤で条件を絞り込みつつ情報を汲み上げて行く。有益無益を分け、イメージの空模様に星を描く。
●夜天のハイドアンドシーク
警告ウィンドウの明滅が無くなった代わりに、ゆかりのアバターが人形の様に棒立ちになったののと同時、通信用のウィンドウを開かれ、文字データとなった彼女の思考が流れてきて、胸を撫で下ろした。
「それじゃあ、今度こそ、ハイドアンドシークね。鬼の方が多いけれど」
マイペースに微笑んで、獣人の少女は、よく整備されたキャンプ場の様な、夜天の林をふわりと駆ける。
居場所を割り出すには、大小様々な声を辿るだけで良かった。データ追跡に頼っている所為か、気配を読むのは不得手な様だった。特徴的な赤柄の54枚を無作為に5枚引き、投擲する。小さな風切り音の後、弾けた雷撃に身を打たれ、5人が意識を失い、倒れ伏す。念の為、両脚をカードで深く斬り付けた。
「ごめんなさいね」
悟られない様に極めて小声で謝罪を零し、アマネセルは付近の哨戒を続けていく。遠目で伺う限り、黒服の男も何かを服用し、痛覚を鈍らせていた様だ。
「飲み物があるのなら、きっと、カプセルなんかも有るわよね」
液状の方が気分に浸り易いと言うだけで、固形の電子ドラッグも存在するのだろうと、アマネセルは推測し、赤茶の髪を深い夢に溶かし、夜天に靡かせる。
●エンカウント・フライング・コットン
直接二人の入ったフリーポータルを掌握し、リアルでも周囲を見張りながらバックアップを行っていたラスクは保護が続く様に、遠隔操作可能な小型端末をリクライニング・クレイドルに接続した。端末自体は有り触れたアタッチメント・パーツであり、怪しまれる心配は無いと、陽気な顔文字を添えて、二人にメッセージを送る。
足早に、建物を去る。すぐにユーベル・コード・モジュールを起動。
「鼻には無臭DA!」
眼には闇を、耳には静寂を。漆黒の闇は触れた者から音も無く、全てを奪う。人工繊維の銀毛も、人工皮膚を覆うサイバネティックス・スーツも、兵装も、漆黒が覆い尽くす。気配を消して、チェーンシューズを剥き出しにして地を蹴った所で、フライング・キルトがラスクに話し掛けて来た。
「怪盗だからね、オレ」
そんな言葉と共に、小さな白煙と共に人の姿を曝す。藍色の長髪に微笑みを湛えて、リジだと名乗った男に、ラスクはモニタにハイテンションな顔文字と共にヨロシクを表示し、機械音声で告げた。少し話をしてみたところ、リジは怪盗については良く分かって居ない事が判明したが、それは別の話だ。
●ニンジャ・リアリティ・アタック・ウィズ・ミステリアス・シーフ
リジの化けた一反木綿に移動を任せ、ラスクは近場から哨戒し、社員のアドレスを囲む影を急襲する。クローンの挙動には、同類だからこそ分かる、独特のクセ、法則が有った。大通りを普通に歩いている様に見えて、僅かに気配を消し、雑踏に紛れる事を意識した、ほんの僅かな違和感。それにアタリを付けて、空から残らず光剣で刈り取って行く。僅かのフラッシュに、徒党を組んでいたチームが遠間から怪しもうと、気配は無く、忍び寄った闇に情報を抜かれ、それに気付いた頃には、意識を保ったまま、動から首が離れている。遠間からの発砲に、自動小銃のセミオートの無慈悲な軽い発砲音を響かせる。漆黒に包まれた鉛の猟犬が、容赦なく内臓を抉って喰らう。、
(アドレス合致、与えられているのは担当のみ)
人混みに紛れて襲撃を敢行したクローンに、光剣を人知れず瞬かせ、ラスクはリジと協力しながら、超速で屍を積み上げ、エリアブロックを黒々とした血海で満たしていく。カジは時に暢気な様子で提灯お化けに変化し、相手の虚を付き、その隙を逃さず、ラスクが光剣で首を狩る。
リアルタイムで共有していくが、急造品である為か、目的とその為の手段をインストールされている個体が殆どであり、彼方に有力な情報は無かった。代わりに、クローン達が利用しているポータル・アドレスが共有されており、ラスクはリジと共に、時間が許す限り、其方も潰して行く。
「次の獲物へレッツゴー!」
曇った青空に、オレンジが混じる。
●生死の司(つかさ)
靄が掛かり、酩酊した様な頭で、ゆかりは機械的に情報流の処理を行っていた。目的意識を手放すだけで廃人になってしまいそうな程、心地が良くて気持ちが悪い。痛覚が機能している方が、幾分かマシだった。
必要な情報の宛になりそうな文字情報、映像情報、人々の噂話、他愛の無い暗号化されたテキスト、何処かの企業にとって、重要そうな暗号化された取引目録。流通経路から掬い上げて掬い上げて、星図を増やす。足下の陰陽魚が食い合うように、ぐるぐると回転する。
吐き気が込み上げて、無様な声を上げた気がする。嘔吐をしたかもしれない。茫洋としていた紫色の瞳に、一際輝く北斗と南斗が映り……紅白の二人の老人を幻視する。
「……え?」
情報龍脈から吸い上げた情報が道筋を開く。情報の波を漂ったデータ・キューブの僅かな軌跡。一筋の光明は陰陽魚の上でサイバースペースの一箇所の区域を指し示した。アドレスを即ZOAにメモリへ保存し、他猟兵と共有する。同時にダイレクトインプットをオフ。サイバースペースの現状へと戻ると、調子は最悪だった。四肢が痙攣して思う様に動かず、アバターが片膝を突く。頭はひっきりなしに鈍痛と刺激痛を訴え、一部神経が機能停止している所為か、脳信号が弱まっているのか、一つ一つの動作伝達に時間が掛かる。口を動かしている筈なのに、動かした感覚が無い。靄の掛かる視界で、のろのろと動く四肢が見えた。全ての身体の力を抜いて倒れ込み、ばら撒かれた愛用の霊符に、どうにか思念だけで命令を伝える。
「ゆかりさん?」
倒れ込んだゆかりを、哨戒から戻ったアマネセルが心配そうに覗き込み、肩を貸す。共有された情報では、状況は好転。アマネセルが順調に数を減らし、幾らかは現実世界で、ラスクが手を貸してくれたらしい。サイバースペースの余力は少ない。アマネセルが見た限りでは一時の引き上げも視野に入れている様だ。
暫く、ばら撒かれた白一色のトランプの一枚から、忍装束を纏った長耳の女性が召喚され、アマネセルに微笑みかけた。
「アマネセルさん、事情は見ていたので承知しています。ゆかり様の式神の、アヤメと申します。以後お見知り置きを。先に式を出来る限りの最速で飛ばしておきました。急ぎましょう!」
「アヤメさんね、丁寧に有難う。ゆかりさんの事は」
散けた白一色のトランプデッキが、アヤメと名乗った長身の女性の周囲で浮遊し、纏まっていく。
「アヤメさんに任せた方が良さそうね」
「はい。お任せを」
憔悴した主人を抱き抱え、アマネセルと共に開発区域エリアを去ると、再ログイン時に弾かれたラスクが、陽気な顔文字を浮かべて、手を振っていた。
「ミッション・コンプリート」
データ・キューブの所在アドレスの効率的な道筋を提示しながら、機械音声でリアルの成果報告。目立つ方から主クローン体の主要部隊は壊滅に成功した様だ。
アドレスの先は、意図的に再現された、瓦礫の山が連なる廃墟ブロックだった。時間は夕刻。
黒服の社員の内の一人、この時代には珍しいハーフ・ダイバーの男性は、少し普段とは違った物の、概ね、何時も通りの、無味乾燥な一日を過ごす。仕事終わりに、趣味の弦楽に浸り、心身を癒す。
それが少数の猟兵が紡いだ、小さく、ささやかに見える、紛うこと無き奇跡だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ゴシャク・バスター』
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POW : ゴシャク・バスター
【五尺の釘】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : クギ・パーティー
自身からレベルm半径内の無機物を【無数の釘】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ : ビビッド・スターダスト
戦場全体に【極彩色の星の雨】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【自動追従する極彩色の星屑】による攻撃力と防御力の強化を与える。
イラスト:カザマトウキ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「義永・香蓮」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●フェイスアウト・マーダー
「あーあー、使えねえ、使えねえ、使えねえ。どいつもこいつも。どうしてオレの前で綺麗な顔下げて平気な面ァ出来んだ? なぁ、オイ?」
失敗報告を淡々と告げたクローンの頭を、愛用の得物で殴って潰す。フラグメント・データが飛散し、力無く五体が沈む。
黒いライダーヘルムを被った女は、不快だと言わんばかりに自分の喉を掻く。力加減を忘れたその行為も、現実の肉体には何一つ影響を及ぼさない。
骸の海の過剰投与は、少女の顔を奪うだけに飽き足らず、神経を壊し、薬物への依存症を発症させた。頭は終始胡乱でありながら、荒事に関してのみ、妙に昂揚して頭が回る。
少女は手にした得物から、ゴシャク・バスターと言う名を与えられ、骸の海と呼ばれるドラッグの供与を条件に、企業によって飼われている。
いつもの通り、今回の件の総指揮と責任は、全て彼女が被る様になっている。実際の指揮権限など、精々、居なくなっても良いクローン体を、ストレスのはけ口にしても良い、と言う程度だ。
「あー、本当何もかもクソクソクソ。クソの掃きだめだ。赤く塗り潰さないとなァ。赤は良いよな。ミソとモツとハツ、フワフワもハチノスだ。みんな紅い。オレの髪も赤い。だから世界は赤いのが正しい。ほら、そこで倒れたヤツも血に濡れて綺麗だよなぁ、幸せだよなァ、なァ?」
指先が震え始め、無針アンプルに詰められた液状データ・ドラッグを首筋に投与する。脳髄を情報の海に浸す、筆舌に尽くしがたいバッド・トリップの恍惚に、甘やかな息を漏らす。ホログラフィに強制投影された指示を見て、少女はゆっくりと動き出した
「イエッサー了解。あなたの可愛いゴシャクちゃんがSOSデストロイ。全部砕いて染めて愛してもらって可愛いって誉めて貰いたいからそんな目で見ないで死にたい死にたくないから殺し殺されオールウェイズマイホームゴーホームアットホームカミングカース。そんで、再編は当然終わってるよな? 終わってねえ奴等は悪い子だから殺さないと可愛くないから殺さないと怒られちゃうんだ殺さないと殺されるから殺すの? おーけー終わってんな。それじゃあ呪い殺してゲットバッカーズなミッションにレッツゴー」
連れ立って動きながらも、その指揮としても怪しい独り言を聞いているクローンは一人も居ない。彼女と同じ様に、ホログラフィに投影される端的な指示に、従っているだけだ。
●状況進行
再現された廃墟ブロックは、サイバースペース内でも忌避すべき場所として扱われ、アクセス手段が非常に限られている。リンク・ポータルをブロックが拒否しており、その特性から、人の流入自体は少なく、移動方法はサイバースペース内部に設置された乗り物を利用するのが最善となる。
余談ではあるが、アバターの徒歩移動速度パラメータの変更は、それなりに高度な専門知識と情報処理速度を要求する。
効率的なルートは提示されている為、素直にクレジットを払い、世話になる方が早いだろう。
一方で敵もほぼ同時にデータ・キューブの所在を掴んでいる。道中、クローン体の生き残りが、猟兵のルートに勘付き、襲撃を行う可能性は高い。警戒しておいて損は無いだろう。クローン体の残党は10に満たず、非常に少ない。猟兵はクローンのデータを入手し、共有している事から、先手を取れる状況だ。
ゴシャク・バスターは道中で襲撃が起こると同時にルートを変更する為、猟兵を道中に襲撃する事は無い。
以上の理由から、発生する状況は道中のクローン体からの襲撃と、廃墟区画でゴシャク・バスターとの攻防の二つであり、猟兵はこれに対処する事になる。
瓦礫の山が連なる廃棄ブロックは遮蔽物が多く、身を隠すのが容易であると同時に、見通しが悪い。必要であれば、上手く利用すると良い。
何方にせよ、敵であるゴシャク・バスターはこれを利用しない。
常に酩酊状態である為か、この敵の行動基準は非常に曖昧で、データ・キューブに向かったかと思えば、猟兵を襲撃しようと一転する等、一貫性が無い。戦闘能力自体は高く、不意打ち気味の行動や不意の遭遇には注意するべきだ。
猟兵達は状況を認識し、行動を開始する。
政木・朱鞠(サポート)
ふーん、やっと、ボスのお出ましか…。
もし、貴方が恨みを晴らすためでなく悦に入るために人達を手にかけているのなら、不安撒き散らした貴方の咎はキッチリと清算してから骸の海に帰って貰うよ。
SPDで戦闘
代償のリスクは有るけど『降魔化身法』を使用してちょっと強化状態で攻撃を受けて、自分の一手の足掛かりにしようかな。
ボス側の弐の太刀までの隙が生まれればラッキーだけど…それに頼らずにこちらも全力で削り切るつもりで相対する覚悟で行かないとね。
得物は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】【生命力吸収】の合わせで間を置かないダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
●追い忍
「状況把握完了っと。ポータルからサイバースペースへアクセスして、そこから廃墟ブロックに向かえば良いのね。乗り物が必要で残党の襲撃アリ、刺激的ね。楽しめそう」
豊満な肢体の輪郭線を強調する、蠱惑的な装束を身に纏い、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は事の経緯を把握し、付近のフリーポータルに設置されたリクライニング・クレイドルに身を預け、サイバースペースへと身を浸す。
ホログラフィとして投影されるチュートリアルをスキップ。軽く意識を集中し、印を結ぶ。何時も通り、淀み無く身体を巡るのを確認し、情報として纏められ、示された廃墟区画へのルートを割り出していく。
「面倒無いし、寧ろ、お誂え向きって感じかな?」
良く出来たマン・サイバー・インタフェースの表層は扱い易い。考えるだけで検索結果画面がホログラフィとして投影され、其れ等は両手の届く範囲内で、空間へ自在にスライドし、設置出来る。自由度の高さが容易に想像出来る。
「色々は、合流してからね」
地面に現れた白色に発光するアクセス・ポータルに足を踏み入れ、先に居る猟兵達と合流する。
成功
🔵🔵🔴
村崎・ゆかり
このエリアにデータ・キューブがある訳ね。メガコーポに奪還される前に入手しなきゃ。
う、まだ頭がふらふらする。アヤメ、後で一杯ご褒美ちょうだい。
見通しの悪い領域ほどあたしの十八番。
黒鴉の式を打って、上空からエリアを俯瞰するわ。
アヤメは先行よろしく。こういうのは忍者の専門でしょ。
あたしは「地形耐性」で乗り越える。
残存のスタッバーは、パターンがシンプルだから対処も容易。黒鴉の式から丸見えだし、アヤメもいる。
炎の「属性攻撃」を付与した薙刀で確実に討滅する。もうお呼びじゃない。
あなたが親玉ね。面倒ごとのお礼はさせてもらうわ。
「召喚術」「降霊」で執金剛神様を顕現。こちらに近接される前に前に金剛杵で切り払う。
アマネセル・エルドラート
「あの大きな釘みたいな武器を持ってるのが一応指揮官…になるのかしら。理性的ではなさそうだけれど、却って動きが読めないのが厄介ね。」
乗り物から廃墟区画に降り立ち、遮蔽物で身を隠しつつゴシャク・バスターの姿を確認。
敵に見つかったら一直線に向かってくるか、それとも無視されるか、或いは無視されていたと思っていたら急に向かってくるのか。
「無視されるなら仕方ないけれど…私を攻撃してくるなら突っ込んでくるはずよね。」
予めUC【アリスナイト・イマジネイション】で戦闘鎧を纏い、攻撃に備える。
遮蔽物から飛び出しランスチャージ、攻撃の為に敵が突っ込んでくるなら敵の勢いを利用、アリスランスでカウンターで攻撃しよう。
ラスク・パークス
無事に再ログインできたし。
『・ω・)b 皆共々現地IN』
大丈夫。データ・キューブは渡さない。
《ザナドゥの黒霧》を起動。廃棄ブロックの隙間に入り込み、潜伏。
敵が接近したところで部分的に武装を実体化させ、射撃攻撃でクローン体の生き残りorゴシャク・バスターを蜂の巣にしてみよう。
挨拶前の奇襲は、一度ならセーフティ。
『・ω・) ドーモ、タイトロープ・サーカス社の社畜=サン』
ラスク・パークスです。
あなたは、赤が好き、と。私は、白が好き。
『>▽<)ノ ホワイト万歳! ホワイト万歳!』
『・ω<)☆ミ という訳で、ブラックコーポの手先は虐殺DEATH!』
トリッパー相手でも油断は禁物。近づかずに鉛弾を叩き込む。
●摺り合わせ
「このエリアにデータ・キューブがある訳ね。メガコーポに奪還される前に入手しなきゃ」
少し調子を取り戻した村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は従者の腕の中でマップデータとルートを確認した所で、頭に残る不快感に呻く。
「まだ頭がふらふらする。アヤメ、後で一杯ご褒美ちょうだい」
「苦いのですか、甘いのですか?」
「……ズレてない?」
「ズレてませんよー。後で良く効く薬をきちんと調合しますから、ね?」
主が抵抗出来ないのを良い事に、白い肌の柔らかな頬を指先で突く。スラッシュを3つ付けた分かり易い照れ顔を付けて、オトナノアジとモニタに表示させ、ラスク・パークス(『パクス・ザナドゥ』最後の死神・f36616)は両手で顔を覆うジェスチャーをしてみせる。
「アヤメさんは、ゆかりさんにぞっこんなのね。良い事だわ」
姉妹の様な触れ合いと、ラスクの発言に、アマネセル・エルドラート(時計ウサギのアリスナイト・f34731)は暖かな笑みを零した。
「まだ動いてなくて良かった……応援に来た朱鞠よ。短い間になると思うけど、宜しくね」
ポータルから姿を見せた朱鞠が、片目を瞑って見せ、案内の証拠とばかり、転送前に渡された3人の資料と、経緯を話し、提示されたルートを示して見せた。
「ドウギョウ」
敵方の刺客にしては不必要な情報も持っており、疑う余地はないと考え、ラスクは朱鞠を歓迎する様に親指を立て、改めてルートを開示した。
「朱鞠さんも宜しくね。手配はラスクさんが終えてくれたみたいだから、皆で行きましょうか」
「少しみたいだけど、クローンの残党が残ってるのよね? 私はそっちを撒くから、別に行動するわ」
「助かるわ。アヤメ、現地に着いたら先行お願い。あたしも、成る可く早く鴉は飛ばすから」
「了解致しました」
「ラスクちゃんは皆に合わせるヨー」
「私もそうね。視界が悪いみたいだから、敵の様子を探りながら、だけど」
「遮蔽物は多いみたいだから、探り終わったら、包囲して道を塞ぐのが早そうね」
「取り敢えず、私は先に行くわ。後で落ち合いましょう」
朱鞠は小さく手を振り、ラスクの出現させた2箇所のアクセスポータルの一つに飛び込む。残った方に4人も足を踏み入れ、移動を開始する。
●サイバー・トレイン
リンクポータルで飛んだ先は、人気の無いホームステーションだ。路線は幾つかの廃墟ブロックに繋がっており、その全てが直通となっている。塗装が所々剥がれ、錆が見え隠れする古ぼけたデザインの鉄道オブジェクトが、切符のクレジットを払う事で出現した。
機械音声のアナウンス、良く研究されたと思しき搭乗時の振動パラメータ。鈍行では無い速度で走るアンバランスな感覚は、サイバースペースならではの体験だった。
「不思議な感じね」
「違和感が凄いわ……こっちが静かなら、あっちで釣れたみたいね」
●大立ち回り
「上手く釣れたみたいね」
先行した廃墟区画行きの別ルート、同様の寂れたステーションに先見が3体。敵と断定し、棘付きの鎖で手早く一人を絡め取り、締め上げ、残りの二人目掛けて振り回す。触れた先から棘が値を吸い上げ、荊が染まる。
「こう言う機能は、此所でも変わらないみたいね」
人形の様に転げた3人に肉薄し、急所を長槍で穿つ。動かなくなったアバターを確認してから、切符代のクレジットを払い込み、列車を出現させる。事切れたのを認識し、出現した列車に、朱鞠が乗り込む素振りを見せると、残党6人が追い縋る。一両編成の狭い車内で、一人を盾にする三方からの包囲を、朱鞠は焦ること無く、冷静に返していく。
盾となる一人目、正面からの襲撃に合わせ、身体を低く沈め、拳で腹を抉る。身体を捻り、左の敵影を蹴り飛ばす。肌に迫るナイフの軌道を見切り、肘を突き込む。一陣を崩壊させ、淀む事無く迫る二の三手。片手を付き、後ろに跳びながら正面の顎を蹴り砕く。荊野鎖を跳躍の僅かな間に操作。蛇の様に蠢く鎖が獲物を絡め取り、荊を突き立て、血を啜る。地に足が付くと同時、最後の一人の間合を制し、腕を捻り、組み伏せる。遠慮無く組み伏せた背中に体重を乗せ、極めた腕を折る。
「残念でした。気配の消し方だけは、きちんとしてたけどね」
倒れ伏したクローンの心臓全てに長槍を突き立て、止めを刺す。
●廃墟ブロック
廃墟区画の一角、寂れたを通り越して、錆び付いたホームステーション・オブジェクトの案内板には、辛うじてエリアを示すアルファベットと番号が振られている。
ホームを出れば、スクラップの山が幾つも聳え立ち、崩落し掛かった背の低い建物がちらほらと目に入る。
「それじゃあ、始めましょうか」
ゆかりはアヤメの腕の中から降りて、フラつきながらも、手慣れた様子で印を結ぶ。宙空に浮かんだ52枚の白一色の霊符が、呪によって鴉に変じ、周辺を探る。
「音声共有はコッチでやるネー!」
ラスクは愛用しているプライベート通信網を開示し、共有する。距離は限定されているが、代わりに秘匿性が高い。
「先行致します。ゆかり様、無理は駄目ですよ?」
「必要な事だけに絞るわ……式の操作をするだけで辛いのは、久し振りね」
「今の内に、私も支度をしておきましょう。魔法使いも、南瓜の馬車も無いけれど、灰被りのアリスは、夢を解いて、ドレスを仕立てるの」
七色の夢がアマネセルを覆い、各所に虹色の宝石が散りばめられ、繊細な装飾が施されたドレス・メイルへと変を変える。アリスランスを携え、スクラップの山にぴたりと身を付け、周囲を絶えず警戒しながら、アマネセルは歩を進めていく。
「パーティの始まりDA!」
ハイテンションな顔文字と共にラスクの輪郭が崩れ、黒霧となって拡散する。何処にも潜り込む死の招き手が、瓦礫の隙間を縫う様に移動する。
「見た感じ、間に合ったみたいね?」
「思ったより早かったわね、朱鞠」
「まあね。アマネセルさんはゆっくりだけど、皆先行ね、そっちに行くわ」
「ええ、出来る限り包囲を敷ける様に案内するわ」
朱鞠の後を追うように、身体の負荷を最小限にしながら、ゆかりも手近な場所へと身を隠す。
●開戦
「襲撃隊は呆気無く全滅、最短ルートは使えねえ、サイアクだ。ドレもコレもアレも使えねえ、こんな仕事さっさと終わらせてクスリキメてぇんだよ。こんなんじゃあ物足んねえ、我慢できねえ……我慢できねえんだよォ!」
データ・キューブの在処、廃墟ブロックのスクラップに、意味も無く巨大な五寸釘を振り下ろす。手が震える度に無針アンプル剤を打ち、空になった残骸データを雑に放る。足跡となっているが、それを気にする気配は無い。
猟兵達よりも早く辿り着いた彼女は、スクラップの山にもたれ掛かる様に歩を進め、データ・キューブの在処に向かい、指示や悪夢にも似た幻覚に無為な暴力を振るう。
「誰の顔が醜いだァ? 誰が廃棄生体物品だァ! オレより酷え奴が良く言うぜ。誰も生き延びれなかったクセによォ! 誰にも、誉められなかったクセによぉ!」
鴉が宙空を過り、叫びを掻き消す様に5本の苦無がゴシャク・バスターに降り注ぐ。
(一度に5本が限界でしょうか? 分身も……駄目ですね。後で私にも弾んで貰いましょう)
降り注ぐ苦無を残らず叩き落とし、彼女は気配を消したアバズレの匂いを追う。
「んだ、喧嘩売るのにアイサツも無しかァ! 売女は礼儀知らずだなァオイ! 愛されて幸せだね。羨ましいな赤が似合う赤く染めて赤く染めてバラ色のドレスが喜ばれるよ。わたしもそうなの! 赤いのがかわいいの!」
「ドーモ、タイトロープ・サーカス社の社畜=サン」
ラスク・パークスです。あなたは、赤が好きと。私は、白が好き。
機械音声の後、肉声で独り言の様に呟き、中距離から秒を切るクイック・トリガ。吐き出された死神の牙。鈍色の金属片型の顎を、彼女は無骨な得物で打ち落とす。
「白はクソだ。反吐が出来る赤に決まってんだろ世界はオレの髪みたいに赤くねえといけねえんだよ白服が近付いてくる白が近付いてくる止めていたいの死ぬ殺す殺されるイヤダ赤に染めなきゃ黒に沈んで赤くなるの! そうだ……正しく(赤く)しなきゃ」
気の抜けたようにふらりと虚空を眺めて踵を返す。目的の通りにデータ・キューブの在処を目指す様な足取りの先、別のスクラップの物陰から白銀の突撃槍が飛び出し、得物でガードしたゴシャク・バスターを吹き飛ばす。動きが止まった所に、五本の苦無が彼女の影を縫い止め、フルオートに切り替えられた、カラシニコフがマズル・フラッシュを高速で瞬かせ、彼女の胴体を寸断し、食い千切る。吐き出された薬莢が甲高い音を響かせて地面に落ち、淀み無くマガジンをリロード。痛覚が擦り切れた彼女は食い千切られた身体を物ともせず、神経の断裂が起きている事など知ったことかとアバターの損壊を修復し、苦無で固定された四肢を上から引き抜き、復帰させる。
「……いたくないいたくないいたくない? いたい? 死なない死んでない死なない死なない死なないならオレは強ェ。生き残ったから強ェ。腕の感覚が無ェ? 何でだ?」
「同情の余地は有るけどね、どんな理由であれ、貴方は人を手に掛けた咎人だ。キッチリと、清算して貰うよ」
「とが、とが。尖った物が好き。オレも好き。釘って良いよなァ」
印を結び、呪を唱える。親指を噛み、血と呪縛を代償に口寄せた悪鬼の力で、周囲の瓦礫を変換し、周囲一帯に注ぎ始めたニードル・レインを荊野鎖で手繰り、絡め取る。
「痛くないなら、少しは楽に逝けるよ?」
敵を絡め取った鎖が、悪鬼の力を宿し凶悪に生命の根元を狩る。爛々と輝く荊が、彼女の大好きな真紅に染まる。身体がもう一度、無数の金属片に蝕まれ、彼女の身体が横たわる。
●終幕の鐘
居場所を特定し、包囲を任せた後、ゆかりは侭ならない身体で霊力を絞る。ぶり返した頭痛、節々の鈍痛に構わず、黒鴉に変じた霊符で法陣を描く。冷や汗が滴る度に頭が締め付けられる様な痛みが奔る。九字切りを重ね、霊力の質を高め、細い径路を重複させる。
「オン ウーン ソワカ。四方の諸仏に請い願い奉る」
形成までに辿り着き、焦点の合わない瞳で息絶え絶えに、最後の呪を紡ぐ。
「其の御慈悲大慈悲を以ちて、此の時此の場に御身の救いの御手を遣わしめ給え!」
疾く、為し給へ。擦り切れそうな精神で紡がれた呪は祈祷にも似て、淡く紫色を湛えていた霊力が、一瞬黄金色に満たされ、護法善神、金剛杵を携えた執金剛神が、少女の身を借り、顕現する。
「哀れな衆生也。我が手は短く、我が身は極大故に、此方に届くこと能わず。僅かな暇に、一片の施しを与えるのみ」
依代となった紫瞳の少女の身体を動かし、小さな不完全な身体で、執金剛神は自身の得物を振り下ろす。
「死の間際、僅かな暇、先が無間であろうと、今は、清らな夢に浸るが良い」
黄金の杵が、幸福で有った時の赤髪の少女の憧憬を写し、ゴシャク・バスターは崩壊した顔に穏やかな笑顔を湛え、消えて逝く。
●データ・キューブ
ゴシャク・バスターが消えた後、回収したデータ・キューブに収納されていた情報は骸の海の過剰投与実験の記録と、その為にバイオノイドを使用した少年少女の拉致行為、また、異能開発部と称して、サイバースペース内で秘匿的に行われたサバイバル・ゲーム、その際の賭博履歴、その犠牲となった少年少女の購入履歴が記載されていた様だ。
何処へ出しても非難は避けられない動かぬ証拠では有るが、果たして、腐敗した政治と治安維持組織が何処まで動くのか、考えれば絶望が過るだろう。精々、蜥蜴の尻尾が切られて、幕を引く程度だ。
そして、データ・キューブにはゲームクリアおめでとうと、小馬鹿にしたような賞賛テキストが同梱されていた。
●終幕
政木・朱鞠はサイバースペースに興味を持ち、少しの間滞在し、周辺を遊び回ったようだ。
村崎・ゆかりは倒れ伏していた所を従者であるアヤメに抱き起こされ、一先ずこの世界で比較的安全なホテルを取り、口に苦い薬を飲ませた。起きた後にUDCアースに戻り、ご褒美として料理を振る舞い、全快するまでは研究を注視し、家に籠もる様に強く願い出て、数日、二人きりで甘やかな時を過ごしたようだ。
アマネセル・エルドラートは好奇心の儘、この世界を巡って見ようか考えて、何方にしろ、今日はティータイムを取れなかったと、自前のティーセットで紅茶を楽しんだ。
ラスク・パークスは入手した情報の使い道と使うタイミングを思案した。騒ぎとして拡散するのも良いが、火消しも早い。一先ずはレジスタンスを探すか、信頼出来る伝手を当たるかと、考えに耽りながら、明けない夜の摩天楼を駆ける。
大成功
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