●剣は剣を呼ぶ
「こいつはいいお宝を発見したぜぇ」
終の王笏島の一画、凍てつく領域に上陸したその者は氷山に突き刺さった剣を抜いた。
その者が持つ魔剣を一回り細長く伸ばしたような蒼剣だ。これでその者は双剣の使い手となり――同時にメガリスの使い手にもなる。
だが、ぎらつく輝きを見せたのはその者ではなく魔剣であったことを、猟兵達は知ることとなる――。
●グリードオーシャン・7thラウンド
丸一年を費やして尚、メガリス確認の報があるのは驚きもあろう。それだけカルロス・グリードの蓄えた宝は膨大というわけだ。
「グリードオーシャンの秘宝、メガリスがまた一つ、終の王笏島にて確認できました。急ぎ回収に向かいましょう!」
ロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)は猟兵達を集め呼び掛けている。足を止める者、聞き流す者、反応は様々。程良く頃合いを見計らい、ロザリアは話を続けた。
「メガリスの名は『氷剣エタニクル』。名の通り、終の王笏島でも氷雪が酷く荒ぶ一帯にて、そのメガリスは眠っていました。……はい、過去形で話すのは、それが既に暴かれているからです。暴いた者は『魔剣べルゼ・パンデとその使い手』、使い手は傀儡で、意思は魔剣にあるようですが……立ち回りは剣を持った人型オブリビオンと区別がつかないでしょうから、普通に戦えばよいかと思います。ただし、その者は氷剣エタニクルを手にしており、氷剣エタニクルが発動するユーベルコード『氷雪地獄』を同時に使ってきます。つまり、二つのユーベルコードに対処しなければならないわけですね」
氷雪地獄は戦場全体に猛烈な吹雪を発生させ、さらに味方を雪だるまアーマーで強化するユーベルコード。まさに氷雪の中に在るべきメガリス。春の気配も漂ってくるこの季節に、真冬への逆行は少々厳しい冒険になるやもしれぬが。
「難敵ではありますが、今更カルロスの影に怯えるわけにはいきませんし、ここはビシッと解決して暖かい春を迎えましょう! それでは、よろしくお願いします!」
沙雪海都
沙雪海都(さゆきかいと)です。
メガリス回収はどこまで続きますのやら。
●フラグメント詳細
第1章:冒険『凍りついた島』
とりあえずめっちゃ吹雪いて寒い場所を踏破していく感じです。スリップ事故に注意ですね。私は今冬盛大にこけて傘を折りました。
メガリスがある場所が一番寒いのではないですかねえ……そんなこんなで突き進んでいきましょう。
第2章:ボス戦『魔剣べルゼ・パンデとその使い手』
剣を持った人間と同等の動き方をするので、まあ普通に人型オブリビオン相手と思えばいいです。
ただし、メガリス「氷剣エタニクル」を所持しており、ユーベルコード「氷雪地獄」(戦場全体に【猛烈な吹雪】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【雪だるまアーマーの装着】による攻撃力と防御力の強化を与える)を、フラグメントのユーベルコードと同時に放つ「二回攻撃」状態ですのでその点は注意しておきましょう。
第1章 冒険
『凍りついた島』
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POW : 寒さに耐えながら原因を探し出す
SPD : 凍結した大地や海の対策をしながら原因を探し出す
WIZ : 吹雪をやり過ごしながら、原因を探し出す
イラスト:みささぎ かなめ
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サカマキ・ダブルナイン
【SPD】
さ、さむいのじゃ……。
ロボのくせに寒がるなって?精密機器は過酷環境に弱いんじゃよ!!
定番のネタは置いといて、動き出さねば消耗するばかりじゃ……手がかりを探さぬとのー。
ここで「99式カメラアイ」の便利機能!サーモグラフィ〜。
ぶっちゃけ初使用じゃが行けるじゃろ、起動起動!
……おー、視界が極彩色じゃ。
温度が低い所が濃い青色、そこにメガリスがある可能性が高い。そちらへ向かうように移動じゃ!
あとはスリップ対策じゃが……ここはシンプルに行くとするかの。
"悪路走破"開始!脚部、爪をめいっぱい展開!!氷や雪に突き刺しつつ進めば滑り防止になるはずじゃ。
これぞ天然のスパイクよ、わらわ人工物じゃけどな!
●誰だって寒けりゃ寒いって言う
まるで別世界。終の王笏島のその一画はぶつ切りにされたように環境が変化しており、吹雪が荒ぶ大地であった。サカマキ・ダブルナイン(ロボ巫女きつねのお通りじゃ!!!・f31088)はグリモア猟兵に転送されてこの地にやってきたが、今のところ一歩も動いていない。
「さ、さむいのじゃ……」
身を抱きすくめ、唇を震わせながらどうにかこうにか発した第一声。だがそこには「寒いね」と返してくれる人の温かさは無く、サカマキが絞り出した心の丈はぱりぱりと凍り付いて落ちていく。
もふっとしていようがロボであり、ロボであっても寒いものは寒い。むしろロボであるからこそ過酷環境は人一倍過酷で、サカマキは機能不全とエネルギー切れの恐怖に挟まれて立っていた。
「定番のネタも、聞く者がおらんとのう……いかんいかん、動き出さねば消耗するばかりじゃ……手がかりを探さぬとのー」
サカマキはその場で足踏みしつつ少しずつ向きを変えて周囲を一望する。そこは一面、白銀の世界。どちらへ行くにも正解不正解が判然としないが。
「まあ、すぐに分かれば苦労はせんわな……ならばここは『99式カメラアイ』の便利機能! サーモグラフィ〜! ぶっちゃけ初使用じゃが行けるじゃろ、起動起動!」
ぶっつけ本番で大役を任された99式カメラアイに爛々と生気の潤いが宿る。サカマキの視界に寒冷の情報が加わって世界は白銀から極彩色の青に変わっていた。しかし一面、と思えばそうではなく、濃淡によって寒冷度合いが細かく区別されている。サカマキの初期の向きから十一時の方向が最も色濃い。
「おー、やりおる。流石じゃ! で、温度が低い所が濃い青色じゃから……向こうじゃな! メガリスよ待っておれ! わらわが今行くぞよ!」
意気込んで、サカマキはようやくの第一歩をざしと踏み出し感触を確かめる。積もる氷雪は多少の滑り止めにはなるようだが、それもどこまで信用していいのかはわからない。
「ここはシンプルに悪路走破していくとするかの。備えあれば憂いなし! ゆくぞ!」
爪を立てて次の一歩。今度は脚部、足元に目一杯展開した爪ががしりと氷雪に食い込んで足の滑りを止める。悪路走破で氷雪との摩擦も掴めばそうそう転ぶことはなく、二歩、三歩と踏み出しながらサカマキは徐々に速度を上げる。
「……うむ、うむ! 寒さは如何ともし難いが直に慣れるじゃろ! 足元は爪のお陰で安定そのもの、これぞ天然のスパイクよ、わらわ人工物じゃけどな!」
飛び出した定番ネタは元気が出てきた証拠だ。サカマキは氷雪の猛威に負けることなく、メガリスの元へ着実に近づいていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
シフォン・メルヴェイユ(サポート)
『楽しい世界が待っていたらいいなぁ。』
普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
怒った時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
のんびりとして、無邪気な性格をしています。
基本的に常に笑顔で人に接して、
敵以外なら誰に対しても友好的な性格です。
因みにトランプを使った手品が得意で、必要に応じて皆を楽しませます。
あとはお任せします。宜しくお願いします。
高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
スペースノイドのウィザード×フォースナイトの女性です。
普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●寒いだけでは終わらない
ざし、ざし、ざし、ざし、雪原に足跡が二つ、テンポ良く連なっていく。真白の息を汽車の蒸気のように吐き出しながら、シフォン・メルヴェイユ(夢見る少女・f19704)と高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)は氷雪吹き荒ぶ雪原をジョギングしていた。
陽気すら漂い始めていた早春のグリモアベースから一転、冬感満載の終の王笏島に飛ばされるに当たり相応の準備は整えたが、メガリスの在処に近づくに従い寒さは徐々に増してくる。残りは耐えて凌ぐしかなかったが、ただ精神力に頼るだけでは芸がない、と茉莉が提案したのがジョギングだ。体を動かし温める、そして移動も速くなればメガリスの在処へより早く辿り着ける。戦うための体力を残しておく必要もあるためペースは幾分ゆったりとしていたが、各方面に最大限配慮した行軍は着実に効果を上げているようだ。
「終の王笏島に、まだこんな場所があったなんて……つくづく不思議な島よね」
「今回はメガリスの影響もありそうですけど、継続的な調査が必要になるかもしれませんねー」
大戦を繰り広げていた時は決戦の場ともなったこの島だが、当然その時は島の調査などできるはずもなく。決着、終焉、而して調査の場が設けられ今に至る。島は思いの外広大で、手の行き届かぬ場所からは今なおメガリスが発見されていた。どうにもコンキスタドールに先を越されがちではあるが。
「……あぁ、またちょっと寒くなってきました……ですが、これこそメガリスに近づいている証ですし、頑張りませんと」
「そうよ、もうちょっとだし――」
冷え込みの増す大気に敢えて身を投じていくのも、全ては事件解決のため。その一念を貫いてきた二人だったが、不意に上がった悲鳴に言葉が途切れた。人の物ではない、ともすればただの物音だが。
みし――足元から聞こえてくる。雪を踏み締めるだけではない謎の音は二人を追い抜いていき、
「――ぅひゃあ!!」
大地が揺れた――否、そもそも二人が走っていたのは大地の上ではなかった。大氷山の一角、そこに亀裂が生じて二人は分断され、シフォンは雪崩れる氷山に呑み込まれ――。
「シフォンさんっ!!」
咄嗟に体が動いていた。茉莉が手を伸ばしシフォンが掴む。茉莉の足場とて危険だが、落とすわけにはいかないと氷塊の足場に食らいつくように踏ん張って引き上げた。だが未だ足場は揺れ続け、新たな亀裂が深い谷底に二人を引き摺り落とそうとしている。
「早く逃げよ!」
今度はシフォンが茉莉の手を引き立ち上がらせた。息も絶え絶え、しかし予断は許さない。振動を立てれば亀裂は広がるばかりとも言っていられず、一目散に氷山を駆ける。びしびしと割れていく氷に心臓が飛び出そうなほど苦しい。火のついた導火線と競争をしているような気分。いつ爆発するかもわからない氷山の爆弾は二人に負担を強いて、全力疾走は段階的に落ちてくる。
「……あっ……あれ……! 何か…………あります、よ……!」
茉莉が図抜けた視力で右方向前方に発見したそれは風雪で消えかけていたが、平均的な人間が持つ歩幅の足跡だった。一度二人の進路上近いところまでやってきて、そこからUターンしてまた離れる。まるで危険に気付いて遠ざかったかのように。
「足跡のように……見えますね……!」
「だったら……追いかければ、誰かいるのよね……!?」
それは大きな希望の光。少なくとも寒さを肌で感じるよりはずっと当てになりそうで。
「その可能性は……高そう、です! 行きましょう!」
二人は進路を変えて疾走。氷の亀裂は今まさに二人へ襲い掛かろうとしていたが、謎の人物がUターンしたそこは陸地で侵入できず、境目を剥ぎ取り二人の前から去っていった。
「助かった……のよね…………?」
「そのよう……です…………」
雪の上にへたり込む二人。寒さを感じるのも忘れて今は窮地を脱したことを喜ぶ。
息を整えるまで一、二分は要したか。その間に見据えた足跡の先は霞んでおり、メガリスはまだ遠いか――しかし。
「…………」
どちらともなく二人は立ち上がり、視線を交わした後、歩き出す。
辿り着くまで歩みは止めない。確固たる意志は大地のように固かった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『魔剣べルゼ・パンデとその使い手』
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POW : 『俺が当たると痛いぜぇ!』
【魔剣べルゼ・パンデの刃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 『俺の力を見せてやる!』
装備中のアイテム「【魔剣べルゼ・パンデ】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ : 『俺の邪魔する者は許さない』
攻撃が命中した対象に【魔剣のオーラ】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【記憶を喰らうオーラ】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:片川 香恵
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ルイス・グリッド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●本体は左手側にあるやつ
「俺よりちぃとばかし『長ぇ』のが癪っちゃ癪だが……まぁいい。これから俺の舎弟として存分に働けやぁ!!」
傀儡がメガリス「氷剣エタニクル」を天に突き上げると、一帯に吹雪が巻き起こり空も陸も染め上げて白銀の世界を作る。
間もなく自分の時代がやってくる――高揚せずにはいられなかったが。
「……ぁあ? ……猟兵か、面白れぇ。この『俺』の力、見せてやるぜぇ!」
傀儡が喚く。その手にあるのは一振りの魔剣と一振りのメガリスだった。
サカマキ・ダブルナイン
やはり体の持ち主の意識は残っていないと見える、とんだお宝じゃな……野放しにはしておけぬ、ここで決着と行くぞよ!
「炎熱狐」起動……感情プログラム停止。
敵対存在の能力を分析……武装の強化能力を確認。威力、射程共に増大しています。
並びに天候操作、雪の装甲を確認……長時間の戦闘は不利と判断。
『99式・顔部解除』発動……フェイスパネル解除。
強制暴走状態に移行、正常思考リソースの減少開始を確認。
脚部・腕部への通電を確認、脚部出力を最大まで上昇。近接戦闘を実行します。
【学習力】最大発揮。敵対存在の動作を学習、攻撃箇所を最適化。雪の装甲を破壊後、同一箇所への攻撃を続行……正常動作中の早期殲滅を目標とします。
●究極理論に代償の有無は問わない
その者が左手に持つ黒紫の剣。妙にぎらぎらと輝いているのは光の反射だけではあるまい。
魔剣べルゼ・パンデ。使い手たる傀儡にもかつては名があったのだろうが、その口はもう彼の物でなく、名乗る自由は無い。
「やはり体の持ち主の意識は残っていないと見える、とんだお宝じゃな……」
ニタニタと笑う傀儡の目鼻口は連動しておらず、福笑いのような歪な印象を与えた。笑うという「動作そのもの」を知らない者。人であればどれだけ精神が歪んでいても顔くらいは自在に動く。
「野放しにはしておけぬ、ここで決着と行くぞよ!」
サカマキは腹を決めた。魔剣、メガリス――どちらも世界に解き放ってはならぬ物だ。勇ましき咆哮、而してその源たる感情は冷えて眠る。
「俺に敵う奴ぁいねぇ! 俺の力――見せてやるぜ!」
傀儡は左後方へ体を捻りながら腰をやや沈め魔剣を陰に隠すように構えると、捻った体を戻す回転運動から一閃。斜に斬り上げた魔剣より斬撃波が迸り、白雪の煙を舞い上げサカマキに迫る。
魔剣の刃渡りからは説明のつかない斬撃波の挙動。傀儡の背丈を優に超え、伸び上がるように飛翔するそれをサカマキは、しん、と凝視する。驚くでも慌てるでもなく事象の在るがままを捉えて分析すると、導かれる明快な答えと共に背面跳躍し、傾いた斬撃波の上を越えて天地の返る中に傀儡を見た。
「武装の強化能力を確認。威力、射程共に増大しています」
「ちっ……だが、まぐれは二度はねぇ!!」
地より天を衝く――あるいはサカマキには天より地を衝いたに見えたか。メガリスの氷剣は怪しく青い光を放つと、傀儡を中心に吹雪く竜巻を引き起こした。サカマキは捻り返る中で猛烈な吹雪に見舞われ軸が揺らぐも、着地後の重心移動で切り返して推進力へと変え、吹雪の流れに乗りながら円状に疾駆する。
傀儡は中心に巻き込んでくる吹雪を纏い膨れ上がっていた。雪だるまを想起させる雪の装甲は時間が過ぎるにつれ厚みを増していく。対しサカマキは吹雪に晒され続けることで熱量の不足による機能不全のリスクが高まり、長期戦は二重の意味で得策ではない。
故にサカマキが選んだのは短期決戦の道だが、感情が目覚めたままでは逡巡もあり得たであろう。世界に馴染んだ皮を脱ぎ捨て生来の姿を露にする行為は世界との関係性を変えかねない。
だが今のサカマキは論証にて導かれた判断を躊躇わない。必要とあらば顔すら捨てる。フェイスパネルを解除し鋼色の素体を剥き出しにして吹雪に切り込んでいく様はサカマキがプログラムの塊であることを彷彿とさせた。
サカマキは紫電を手足の爪として猛然と突き進む。思考ルーチンを刻一刻と失っていく中で空き容量を埋めていくのは傀儡の行動パターン情報。雪の装甲で小回りを幾許か失った傀儡は大股で向き直って魔剣を薙いだ。サカマキに向けて打ち下ろされてくる斬撃波はその半身を消し去れるほどに厚い。
「脚部出力……最大…………」
状態を示す発声も危うくなる中でサカマキは踏み込み右足を振り抜いた。紫電の爪は遠心力で大きく飛び出し斬撃波と衝突、炸裂したエネルギーが閃光となって発散していくのを見届ける間もなく勢いのままに傀儡へ肉薄する。
連撃――傀儡は氷剣をほとんど垂直に振り下ろしてきた。暴風雪の発生源は迫るだけで脅威。サカマキは両手の紫電を重ね合わせ、二重の防壁として氷剣目掛けて叩き込む。
それを阻む暴風雪。紫電と激しく摩擦して新たな電撃が生じ、双方の視界に稲妻の落ちるが如き明滅が幾度となく繰り返された。
「うぉっ!?」
傀儡が呻いた。強烈過ぎる光の刺激に魔剣の意志が耐えられなかったのだ。他方、サカマキは刺激を受容したが、それに拒絶反応を示す生物的意識は残っておらず、ただ瞬間の隙に氷剣の裏へ回り込みながら紫電の爪を傀儡の右腿に突き立てていた。
雪の装甲を穿つ――が、まだ体には到達しない。ならば行動は戻ってまた穿つ。サカマキは掘り返した一点にひたすら紫電を突き立て続けた。
傀儡の動きの鈍さは学習済みだ。サカマキは逃れようとする傀儡の動きを僅かだけ上回るように小回りを利かせて打点を正面に据え続けた。一寸の狂いなく打ち込んだ爪は数十に達し、ついに装甲が砕けて肉体を突き通す。
「ぎゃ! あ! あ! ああ!!」
苦痛の叫びが痙攣していた。サカマキの攻撃は雪の装甲を砕くだけに留まらず、傀儡そのものを焼いていく。やがて黒煙が上るようになり、苦痛の叫びも細くしなびてきた頃に。
「………………………………エラー、エラー、命令を認識できませんでした」
サカマキは思考ルーチンの欠如から緊急停止。それで傀儡はよろよろ逃れていったが、右腿は火炎放射でも受けたかのように大きく焼け爛れていた。
大成功
🔵🔵🔵
高階・茉莉
アドリブや他猟兵との連携歓迎
■心情
寒い中を頑張って駆け抜けて来たのですから
このまま帰る訳には行きませんね。
必ず、メガリスを回収しましょう。
■行動
童話の披露会(UC)を使用して戦いますね。
【高速詠唱】でUCを唱え、絵本から飛び出た悪魔の爪で
敵を攻撃しますね。
【継戦能力】で長時間のUCの使用で、確実にダメージを与えます。
敵の魔剣のオーラには、【呪詛耐性】で記憶を奪われない様に耐えつつ
氷雪地獄に対しては、こちらも【氷結耐性】で持ち堪えて
敵が雪だるまアーマーを装着したら【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】で
アーマーごと打ち砕きます。
「さぁ、メガリスは回収させて頂きますね」
●吹雪の中の絆に誓って
傀儡に作用する感覚の全権は魔剣にあった。魔剣は世界を見て、音を聞いて、風を肌に感じ、そして紫電の爪に抉られた右腿に激痛を覚える。自分はひたすら斬り続けて、負傷は傀儡に任せ知らんぷり、とは虫が良すぎた話だった。
「くそっ、どうなってやがんだ……しっかり働けやこの腐れメガリスがよぉ!」
「物の良し悪しは使い手次第……あなたの不始末でしょうに」
「ぁあ?」
魔剣は怒りの矛先を茉莉に向ける。誰彼構わず当たり散らすのは図星を突かれた者の常套手段だ。そのまま茉莉へ凄んで迫れば晴れて小物の仲間入りだが、生憎足の負傷が良くも悪くも響いている。
「そのメガリスは少なくとも、あなたにこき使われるために在るのではありません。必ずや、回収させていただきます」
茉莉は吹雪の中、耐え難きを耐えてメガリスの元まで駆け抜けてきたのだ。本懐を果たすという覚悟。秘めたるものは熱い。
「はっ、猟兵風情が……やれるモンならやってみなァ!!」
『ハッピーエンドを、お見せ致しますよ!』
傀儡は魔剣を細かく舞わせて薙ぎ払った。空を乱れ斬って飛翔させた斬撃波は刃渡りに合った大きさの三日月で、圧こそ少ないが群れを成して襲い来る。だが茉莉もすかさず応戦しており、左手に絵本を抱えていた。開かれた絵本からは暗黒の代名詞――悪魔が幾筋も飛び出して、影のように自在に形を変えながら宙を走破し三日月の斬撃波に漆黒の爪を立てた。
魔剣の速度に詠唱の高速化を合わせて互角は維持した。斬撃波と悪魔の爪はほぼ中央で衝突して喰らい合う。悪魔に斬撃波が突き刺さり、反撃に爪が斬撃波を断った。斬撃波は断たれればそれまでだったが、茉莉は絵本へ魔力を流し続けることで悪魔本体の傷を治癒して継戦能力を高め、次の斬撃波が放たれるまでの間に悪魔を押し進めさせていた。
少しずつ、だが確実に押していく。斬撃波も無限に放てるわけではない。傀儡は左手の魔剣で薙ぎ続ける傍らで右手の氷剣を宙に捧げていた。
物は使い手を選べない。魔剣の邪悪な意志に応じるしかない氷剣が不気味に輝くと、ごおお、と吹雪は荒れ狂い、結晶化した雪が茉莉の肌に突き刺さってきた。
「――っ!」
吹雪に乗じて魔剣のオーラが忍び寄り、脳裏の景色に闇が侵食し始める。吹雪の中の行軍は辛かった、苦しかった、折れそうになったが、一緒だったから頑張れた。
――誰が? 桃色の髪をして、無邪気に笑う――それは誰?
「忘れない……忘れない忘れない忘れない忘れない忘れない忘れないっ!! ――!!!」
茉莉は『彼女』がさも召喚獣であるかのように高らかに名を叫び、強く耐えた。呪詛に抗え、氷結を砕け。印を切るように右手で鋭く振り払って魔剣のオーラを退けると、真っ直ぐと悪魔の突き進む先、傀儡の姿を捉えた。
傀儡は雪の鎧を新たに備えていた。氷剣の力は攻防一体を成す。突き通せるか――いや、突き通すという確固たる意志で、茉莉は悪魔とシンクロするように右手を振り上げていた。
雪の鎧が何するものぞ。悪魔の爪には互いに助け合った絆の力が乗っていた。魔剣と氷剣は所詮、魔剣と氷剣という個に過ぎない。何の結びつきもない別種の存在に負けるわけにはいかなかった。
茉莉が右手を突き出し振り下ろす、同時に悪魔の爪が雪の鎧に刺さった。ずぶ、とめり込み、しかし止まる。傀儡はニィと口角を吊り上げた。だが爪の周囲から放射状に亀裂が鎧の上へ走っていくと、内側からの圧力に負けた鎧が破裂して爪が息を吹き返した。
「なン――ごぉっ!?」
爪が傀儡の腹を貫く。それはまさしく、茉莉の意志が魔剣を貫いたと同義。吹雪がやがて鎮まる中で、茉莉はその手に望む未来の一端を掴み取っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
【ワンダレイ】の皆と参加
皆の呼び方は名前の左側を呼び捨て
ただし、地籠・凌牙(f26317)は名前呼び
使い手は元々、俺の友人だが俺は覚えていないので魔剣だけが覚えている状態
妙に胸騒ぎがするんだ、何でか覚えていないはずなのにな
皆は付いてきてくれてありがとう
SPDで判定
寒いが【地形耐性】【気合い】で耐える
銀腕を長剣の形に【武器改造】し敵の攻撃を【見切り】ながら【ダッシュ】【悪路走破】【早業】で懐へ入り込む
射程を伸ばしても懐に入られてしまえばどうしようもないだろう
そこで【怪力】【戦闘知識】【覚悟】【鎧無視攻撃】を使ってUCを発動
攻撃は風の【結界術】で防ぐ
仲間が危なかったら同様に守る
土御門・泰花
【ワンダレイ】アドリブ歓迎
「ルイスさん、私も助太刀致します!」
(この結末が何か彼に衝撃を与えるなら、もしかしたら仲間が傍にいることが癒しになるやも……等と、私の独善でなければ良いのですが)
仲間が揃い次第【早業】で【オーラ防御/結界術】展開、各々に守りを。
腐食性……ふむ。【呪詛】を込めた黒揚羽の式神や薙刀なら効くでしょうか。
攻撃は【第六感/聞き耳】で察知。結界で弾き、貫通したものは【武器受け】し薙刀か黒揚羽で【咄嗟の一撃/カウンター/2回攻撃】。
敵のUC発動前、または仲間との連携を踏まえて、【高速詠唱】でUC発動。
移動や回避は【軽業/早業/地形の利用】で。
連携しつつルイスさんの支援を重視し行動。
尾守・夜野
■ワンダレイ
基本名前左側呼び捨て(地籠・凌牙のみ凌牙呼び)
「そうそう水くせぇっての」
軽口叩いても敵から視線は外さんよ
あまり覚えていねぇという事らしいが何かあるってなら因縁もあんだろう
なら好きに動けるようにサポートするさね
(腐食…ね)
元より最初から落とされる事前提でUC発動
箇所は腕
攻撃来るなら…そう より致命的、つまり普通であれば取り返しのつかん切断とかそういう被害になんだろ
それが罠とも知らずにさ
制限時間ぎりぎりで触れれば、切れば本体に直接呪詛がいくだろうよ
「はっ!残念だったなぁ?」
なお攻撃受けたら刻印から直ぐに予備の出して埋めるぜ
※アドリブ歓迎
地籠・凌牙
【ワンダレイ】アドリブ歓迎
水くさいこと言うなよルイス、俺たちは仲間なんだからよ。
さぁて、参戦遅れた分働いて取り返さねえとなあ!
【指定UC】発動!黒竜に変身して炎のブレスで吹雪を相殺する!
ついでに後ろから詠唱する仲間は【かばう】!
攻撃を受けて鱗が裂けたらそこからも炎が噴き出して相手が自分で自分の首を絞めるって寸法だ。
ついでに俺の背中に仲間が登りゃ真上から奇襲も仕掛けられる。
『穢れを喰らう黒き竜性』で穢れを食ってる分、攻撃は俺に【おびき寄せ】られるから
みんなのダメージは最小限で済むハズだ。
確かにそのメガリスの吹雪は凄まじい。
……だがな!俺のこの憤怒の炎をこの程度で消せると思うなよ!
バルタン・ノーヴェ
【ワンダレイ】
POW アドリブ連携歓迎!
何やらルイス殿と因縁のある相手のご様子!
援軍として参上しマース!
持ち主ではなく剣の方が本体とは、稀有なタイプデスネー!
腐食性の武器があれば良く効きそうデース!
しかしワタシは持ってないので、こちらで勝負しマショー!
「六式武装展開、炎の番!」
メガリスの吹雪に負けない業火で暖めてあげマース!
夜野殿たち前衛組を中距離からサポートしマース!
ルイス殿と泰花殿の結界があるゆえ、フレンドリーファイアは心配ないデスネー!
如何に魔剣と言えど、炎は破壊できぬデショー!
それに、持ち手が熱にやられたら振るえなくなりマスネー!
凌牙殿のブレスと合わせ、たっぷり過熱してさしあげマース!
●死に分かたれた光と影
魔剣べルゼ・パンデと猟兵達が相見えてから凍える寒さは一層厳しくなっていた。メガリスの元へ、魔剣の元へ向かう、旅団「飛空戦艦ワンダレイ」の面々。その先頭を走るルイス・グリッド(生者の盾・f26203)は得も言われぬ胸騒ぎを覚える中で、後方を走る四人を気に掛けた。
「皆……ついてきてくれてありがとう」
グリモア猟兵の話は対岸の火事のように聞いていたが、どういうわけだかルイスは胸の内が妙に騒いだ。その原因が何なのかは未だ判然としていない。少し目を逸らしていれば流行り風邪のように過ぎ去っていたかもしれない。
だから、やはり現場に向かうことを決めた時に、共に行くと手を上げてくれた者達がいたことは純粋に嬉しかった。そして今は申し訳なさが募る。
胸騒ぎの何たるかをルイスは伝えようがない。他人を説得するには曖昧な感覚で、それでいて現実は氷雪荒ぶ厳しい環境を突きつけてくる。釣り合いが取れていない、無理を強いているのではないか――懸念は膨らんでいくばかりで、彼らの尽力に報いるためにもルイスは感謝の気持ちを伝えずにはいられなかった。
だがルイスの後を行く彼らは、そんな彼の言葉を額面通りに受け取って終わらせる者達ではない。神妙な面持ちで振り向いてきたルイスが述べた感謝の言葉。その中に滲む自責を見通した地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)はルイスの左へ走り出ると、ルイスの心に渦巻く負の感情を一蹴するようにニッと笑んで、
「水くさいこと言うなよルイス、俺たちは仲間なんだからよ」
あっけらかんと言ってのける。事情はルイス以上に知りようもないが、そんなのは些末なことだ。仲間である、だから共に行く、それで十分。
「そうそう、水くせぇっての」
今度は右から声が掛かり、ルイスが振り向き見下ろすと尾守・夜野(墓守・f05352)がニヒルな笑みを向けていた。ルイスは礼儀を尽くす男――知ってはいるが、二度も三度も懇切丁寧に感謝されなければならないほど関係が疎であるとは思っていない。仲間なのだから当たり前。単純な理屈だ。
「何やらルイス殿と因縁のある相手――と、ワタシの勘が言ってマスネー! こんな時は援軍がつきものデース!」
「同じ旅団で旅する仲間ですもの、私も喜んで助太刀致します!」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)と土御門・泰花(風待月に芽吹いた菫は夜長月に咲く・f10833)も思いは変わらない。共に助け合ってきた仲間、他人行儀な雰囲気すら漂っていた感謝は不要とバルタンの明朗な性格が吹き飛ばせば、泰花も自ら望んでこの場に在ることを強調した。
「そうか……」
「あぁそうだ! さぁて、先に向かったヤツらがおそらく上手くやってんだ、参戦遅れた分、きっちり取り返してやろうぜ!」
凌牙の号令で五人は同じ景色を目指す。待ち受けるのが如何なる者であっても、固く結束した彼らは臆せず立ち向かっていくに違いない。
魔剣は右腿と腹に損傷を負った傀儡の左手に握られていた。そしてグリモア猟兵に聞かされた氷剣のメガリスは右手に輝く。食いしばった歯間から溢れる血を垂れ流し辛そうな様子だったが、五人の到着――正確にはルイスの姿を見るや、傀儡は大仰に両腕を広げる。
「……オイオイオイオイ、何の冗談だルイスぅ。お前まさか……生きてたなんてなぁ」
傀儡に意志は無く、全ての言葉は魔剣によるものだ。魔剣はルイスの顔をよく覚えているようだが、対するルイスは肯定も否定もしようとしない。
「ルイス、知り合いか?」
夜野に尋ねられ、ルイスは視線を足元に落とす。
「……わからない。『死ぬ前』の俺の知り合いなのかもしれないが……」
「お相手はルイスさんのことをご存知の様子ですから、その可能性はありそうですね」
「これは援軍として参上した甲斐がありましたカナ?」
太々しくも驚きを隠さない魔剣の態度には泰花とバルタンも浅からぬ因縁の気配を感じ取る。それがどれほどの物なのかは想像の域を出ないが、
(この戦いの結末がルイスさんに何か衝撃を与えるなら、その時に私達仲間が傍に居ることが癒しになるやも……独善になっていなければよいのですが)
泰花はルイスの横顔を憂う。手を差し伸べるべき時に、手を差し伸べられる場所に居たいと願うのは不思議なことではない。
「……いや……違うのか。一度死んで生き返った……それで……? 俺とお前の立場は……こんなにも変わっちまった……笑えるなァ……」
傀儡の顔を見据えるだけのルイスに魔剣は自虐して、笑った拍子にむせて血痰を吐き捨てた。そして次に顔を上げた時、そこに在ったのは恨み辛みが結晶化したかのような三白眼。
憎い。目の前に現れたことが憎く、自分のことをまるで覚えていないのが憎い。生き返っているのが憎く、世界に仇為す自分を打ち滅ぼす猟兵として立ちはだかっていることが殊更憎い。
「……反吐が出るぜ」
これ以上語るは不要だった。傀儡が唐突に氷剣を突き出し戦場を猛吹雪に――!
「守ります!」
相対すれば逃げ場無く、泰花が傀儡の動きにいち早く反応して両手を正面に翳しながら半透明のオーラ結界を展開するが、先駆けた一陣の烈風がびゅおと吹き抜けて、後方の四人に圧を腕で遮る動きがあった。続いて叩きつけてきた氷雪は瞬く間にオーラ結界を白く濁らせる。
「そういやメガリス回収任務もあったな! 俺のこの憤怒の炎は地獄への片道切符だ! 消せるモンなら消してみやがれ!!」
オーラ結界を突き抜け上空へ飛び出したのは、黒竜へと変身していた凌牙だった。真白の世界に漆黒が浮かび、更には紅蓮のブレスがオーラ結界前方に吐き出される。
「あれで剣の方が本体とは稀有なタイプデスネー! 腐食が効きそうですがワタシは持ってないので――六式武装展開、炎の番!」
続くバルタンが内蔵の火炎放射器から粘着性の火焔を放って、オーラ結界の外と内から灼熱の二重奏となった。融合して爆発的な火力を生んだ炎は襲い来る吹雪を引き摺り込んで掻き消していたが、同時に凌牙の巨体が危うく。
「凌牙!」
ルイスが呼ぶ風は包むように凌牙の周囲に渦巻いた。風は凌牙のブレスに勢いを齎しながら、その身を守る盾にもなり吹雪から飛来してくる氷の結晶針を弾く。
相乗の力。まずは一つ、凌ぎ切ったと見た夜野がルイスの脇を抜けて飛び出していく、その際に。
「あまり覚えていねぇっつっても、胸騒ぎはしたんだろ? なら因縁の一つもあんだろうさ。思い出せとは言わねぇよ、その代わり――悔いなく戦え」
自らはその引き立て役、と夜野が先陣を切る。オーラ結界を保護膜として灼熱を掻き分け、刻印で「何か」を融合させた右腕に力を溜めて突っ切り傀儡の前へと躍り出た。
「ちっ……ンならここは……『俺』がっ!」
傀儡が氷剣を引き下げると入れ代わり、夜野の右方向から魔剣が薙ぎ払われてくる。
「『早ぇ』んだよ」
一振りは確実に腕を、そして先にある心臓までも狙っていた。夜野にはある思惑があったが、実現するのはその言葉通りに。渾身というにはやや不完全な斬撃を前に夜野は雪上を滑り込んで躱しながら、傀儡の右脛を掻っ攫うように引き裂いた。
「ぐぁあっ!! こンの――」
「悔いなく――分かった」
「腐食であれば――我等に仇なす者には痛みを!」
戦況は目まぐるしく動く。夜野が上げた反撃の狼煙、メガリスの吹雪が収まるのを見計らったルイスは夜野の言葉に背中を押される形で傀儡に突っ込んでいた。それを追って、自らもルイスの支えにならんと泰花は薙刀を携え駆ける。
雪原には黒が良く映えた。泰花が唱える真言と共に現れた黒揚羽蝶は寒風に乗って一足早く魔剣の元へ。
「うじゃうじゃ、と……うぐぉっ……だらぁっ!」
周囲に舞い踊る黒揚羽蝶は目の上のたんこぶほどに邪魔な存在。傀儡は双剣を遮二無二振り回す。だが踏ん張りの利かなくなった右足では右の氷剣をまともに振るえず、ひらひらと斬撃を躱した黒揚羽蝶は傀儡に触れて呪詛を撒く。かと思えば魔剣にはまるで止まり木を目指すかのように黒揚羽蝶は降りていき、刃に斬られながら呪詛を遺した。
「ぎゃああぁぁ!!」
直に触れた呪詛はよく響いた。仰け反りながら痙攣する傀儡へ、次なるは銀腕を長剣に改造したルイスが切り込み一閃。穴の開く胴を更に真一文字に捌いて傀儡の右手側に抜け、逆を行く泰花が未だ傷の無い左足、腿の外側をざんと斬り払った。
「――ァァアアッ!! ルイスゥゥゥッッ!!」
因縁は根強いらしく、魔剣の意識は追い討った泰花ではなくルイスに向いていた。傀儡はお返しとばかりに魔剣を垂直に叩きつけて斬撃波を雪上に走らせる。ルイスを軽く二人分は真っ二つにしてくる斬撃波は破壊力も凄まじく。
「させるか!」
それはルイスへ到達する前に、割り込むように急降下してきた凌牙の巨体に命中した。鱗が砕けて肉が裂け、而して憤怒は更に滾って獄炎を生み出す。火炎弾と化した巨体を以っての特攻突進。迫り来る凌牙を前にして、傀儡の後ろに道は――。
「たっぷり過熱してさしあげマース!」
無い。バルタンの放つ火焔は傀儡の逃げ道を閉ざしていた。ずどんと凌牙の巨体をもろに食らって、着火して吹き飛んだ傀儡の体を粘つく火焔が受け止める。
「ガアアァァァッッ!! ――――ルゥゥイィィィスウゥゥゥッッッ!!!」
最早執念。魔剣は二重の火焔に塗れながら、もがき苦しみ因縁の名を叫んでいる。ここで断っておかなければならない何かがあると、ルイスもその身に感じ取っていた。
「あとはお任せ致しマース、ルイス殿!」
火炎放射器もこれにて御役御免。バルタンはいち早く前線を離れ行く末を見守る。残されたのは黒焦げた衣服が皮膚と癒着して影のような姿になった傀儡と、メガリスたる氷剣、そして魔剣。
「そろそろ『お膳立て』といくかね」
度重なる攻防の中で機を伺っていた夜野がここで再び仕掛けていった。同じ姿勢、同じ角度。右腕は狙っている。
魔剣にも意地があった。傀儡は酷く焼けていたが、まだ一振り二振り繰り出す分だけ肉は繋がっている。歯牙にもかけていなかった目の前の相手は、今なら格好の標的だ。
膝から崩れ落ちていた傀儡は氷剣を杖代わりに震えながら立ち上がって、魔剣を叩きつけるように振り下ろした。滑り込みは許さない。その動きは見えていたから――夜野は素直に右腕を差し出す。
腐っても魔剣。切れ味は鋭く、夜野の右腕、肘から先を一瞬で断つに至った。だが「くれてやる」のは右腕だけだ。斬られる間際に後方へ跳んでその場には右腕だけ残す。切断された肘から先は呪詛の汚染を魔剣に浴びせて、
「オッ――ォオゴォゥァアア!!」
「はっ! 残念だったなぁ?」
すぐさま刻印から出した「予備」で埋めた夜野の目の前で急速に朽ちて崩壊した。
「ルイス! しっかりやれよ?」
「ルイスさん! 私達がついています!」
「ここで決めろ! ルイス!」
仲間達の声が熱い。魔剣が、それを保持する傀儡の左手すら満足に操れていない状況。見る影もない、とはまさに今の傀儡の姿を言うのだろう。ルイスが人生の何処かに落としてきてしまった友人の面影はもう何処にもない。
ルイスは銀腕の刃を定位置に据えた。放てば全てが終わるまで止まらない連続攻撃、放つべく雪を踏み締め飛び出していく。
(ありがとう、皆。そして、すまない……思い出してやれなくて)
記憶喪失はそれに纏わる何かに触れることで快復することもあるとされるが――刃を交えても「知り合いだったであろう使い手」が何者であったかは分からず。
「ル……イ、ス……ゥゥ……」
「あぁ……俺だ。ルイスだ。だが――」
ルイスは傀儡へ肉薄すると、銀閃を右から放って胴を断ち、翻して胸を断ち、再度斬り込んで首を断ち――。
「お前が知る『ルイス』は、もう過去なんだよ」
渾身の力を以って、決別する覚悟を以って、ルイスが振り下ろした最後の一閃は魔剣のど真ん中に叩き込まれ、魔剣は真っ二つに砕け散る。
消費された過去は骸の海となり漂うが、魔剣がルイスと出会うことは二度と無いだろう。
因縁は断ち切られた。それは完全なる消滅を意味する。
魔剣があったという事実は、ただ戦場に立った者達の記憶の中に。
そしてルイスが最後に掴んだ、氷剣のメガリスに刻まれるのだった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2022年03月25日
宿敵
『魔剣べルゼ・パンデとその使い手』
を撃破!
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