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摩天楼に舞う

#ヒーローズアース #戦後 #グリモアエフェクト #『神月円明』

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●天空の覇者
 天を摩するかの如きシンボリックな建築物。
 即ち摩天楼。
 ヒーローズアースにおける日本にもそのような建造物があるのだ。いや、正確に言うのであれば、これから出来上がったのだ。
 電波塔として建築されていながらランドマークであり、同時に観光施設でもあった。
 新たなランドマークに街は活気づき、竣工式を終えた後、落成式に移ろう時、それは起こったのだ。
 黒き龍の如き影がランドマークとなった電波塔をなめるようにして垂直に飛ぶ。
 それは凄まじい速度で飛翔し、電波塔の最上へと向かうと急制動を掛け、ピタリと止まる。竜の四肢の如き脚部が電波塔の最上に降り立ち、地上を睥睨する。
「――」
 肉声ではない。
 無機質な機械音声が響き渡る。

「――コレヨリワレハヘイゲイスル。コノソラハワレノモノダ」
 黒き竜の如き影は『黒龍』と呼ばれる無人戦闘機であった。
 Sj-68 Hēilóng。全長25mにも及ぶ戦闘機であり、展開する随伴ドローン機と共に機体に格納した四肢の如きランディングギアを開放し、格闘戦すらこなす傑作機だ。
 本来であれば無人機であり、AIのような電脳を備えた存在ではない。
 けれど、ランドマークに現れた『黒龍』は違う。
 明らかに知性を備えていた。展開された随伴ドローン機はランドマーク自体を人質に取るように内部に訪れていた落成式の作業員たちや、観客を取り囲む。

 弾丸の一発でも打ち込まれれば大惨事になることは間違いない。
「トウダイサイキョウヲモトメル」
 何を、と誰もが思っただろう。
 機械音声であるがゆえに、言葉の意味すら定かではなかっただろう。この電波塔の落成式に招かれた客の一人がもしやと呟く。
「――当代最強を求める……?」
 言葉の意味がわかったとしても、『黒龍』の意図がわからない。戦闘機械が最強を求めて何になるというのだ。

 おのれの兵器としての価値を高めようというのか。
 しかし、何を持って最強と言うのだろう。集まった落成式の客たちは誰もわからなかった。
 けれど、ただ一つわかっていることがある。
 この空の監獄と化した電波塔は、今や『黒龍』の管理化にある。高層建築であるがために日本のヒーローも警察も手を出しあぐねるだろう。
 そうなれば、己たちの生命は、あの冷たい機械音声の主である『黒龍』に握られている。ただそれだけがはっきりしていることであった――。

●空を駆け上がる
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。グリモアエフェクトにより、将来訪れたであろう『大いなる危機』の一つを前段階で予知することができました。その事件はヒーローズアースの日本で起こります」
 ナイアルテは新たにランドマークとして建築された電波塔を示す。
 それは摩天楼の如き高さを誇り、そして、多くの商業施設を兼ね備えた観光施設として今まさに落成式を迎えようとしていた。
 けれど、オブリビオン『黒龍』によって電波塔は占拠され、落成式に訪れていた客や、その他の一般客たちが高層に取り残され人質にされているのだ。

「もちろん、日本のヒーローや警察も出動しては居ます。しかし……『黒龍』の展開した随伴ドローン機が電波塔周囲を飛び交い、警戒しているのです」
 かと言って内部はどうかと問われれば、これも難しい。
 内部には随伴ドローン機からハッキングされた警備ロボが蠢いている。
 内か外か。
 どちらを選ぶにせよ、ヒーローたちでは荷が重いというわけである。
 猟兵たちでなければ対処できないのだ。

「みなさんは転移した後、この電波塔の内か外を駆け上がり、最上部まで到達しなければなりません。最上部にはオブリビオン『黒龍』と呼ばれる無人戦闘機が鎮座しています。傑作機と呼ばれるほどの高い戦闘力を持っていますが、本来はAIのような知性を有してはいませんでした」
 彼女は首をかしげる。
 オブリビオン化することによって知性を得たのか。それとも隠された機能があったのか。もしくは、無人機であるがゆえにこれまで獲得した戦闘経験の集積によってAIの如き知性を有したのか。

 正しいことはわからない。
 けれど、どうやら『黒龍』は最強を求めているようである。
「何故、そんなものを求めるのかはわかりませんでした。けれど、強敵を求め、己の有用性を示してみせる……誇示する……そのような思惑があるのかもしれません。ですが、電波塔の高層部に捉えられた人々を救出するためには、『黒龍』を打ち倒さなければなりません」
 どうか、とナイアルテは頭を下げる。
 戦うために生み出され、戦い続け、その果てに『黒龍』が何を見たのか。造られたものは、いつだって自分で選び取ることができない。
 かくあれかしと願われたことをまっとうするしかない。
 兵器として生まれたのならば、それをまっとうする以上、最後は破壊しかない。

「……『黒龍』が求めるのは、それなのかもしれません。存在の証明。己が不要と言われることへの否定。なまじ知性があるから、わかってしまうのでしょう。自身が旧きモノに成り果てたことが」
 ナイアルテの瞳は揺れている。
 造られたモノ。
 創造主の都合で不要と切って捨てられる。必要と不要の二つに一つ。オブリビオンとなった『黒龍』の無機質な意志が求めるのは、己の有用性と証明。

 ならばこそ、猟兵たちはこれを打ち倒さなければならない。
 そこに知性が生まれ、本能を獲得するのだとしても。オブリビオンである以上滅ぼさなければならい。
「どうか、お願いいたします」
 ナイアルテが再び頭を下げ、猟兵達を見送る――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はヒーローズアースにおけるグリモアエフェクトにより判明した『大いなる危機』、その先駆けたる事件の解決をするシナリオとなります。

 ※このシナリオは二章で構成されたシナリオになります。

●第一章
 冒険です。
 高層建築物であり、ランドマークである電波塔はすでに『黒龍』のはなった随伴ドローン機とハッキングに寄って操られている内部の警備ロボたちでもって道を阻まれています。
 壁面を登ろうとすれば随伴ドローン機に。
 内部を駆け上がろうとすれば内部の警備ロボたちに、といった具合に皆さんの道を阻むでしょう。
 これらを無力化しつつ、最上部に駆け上がりましょう。
 高層部には人質にされている人々もいます。彼等を保護することも忘れないようにしましょう。

●第二章
 ボス戦です。
 最上部のヘリポートが戦場になります。
『黒龍』は無人戦闘機のオブリビオンです。空を自在に高速で飛ぶことはもちろんのこと、四肢の如きランディングギアでもって格闘戦や、銃撃を行うことも可能としてしています。
 ランドマークの電波塔を奪還するためにも、『黒龍』を逃さず仕留めましょう。

 それでは『大いなる危機』の先触れである事件を解決し、ヒーローズアースに平穏を取り戻す皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『デンジャラス・ハード!』

POW   :    ビルの外壁をよじ登ったり、通風孔を強引に通り抜ける。

SPD   :    階段やフロアを駆け回り、見つかる前に作業を終える。。

WIZ   :    パソコンやネットワークをハッキングし、システムを乗っ取り返す。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 電波塔の周囲には『黒龍』のはなった随伴ドローン機が常に飛び交う。
 そこに一部の隙も見いだせない。壁面を登るのならばある程度の覚悟をしなければならない。
 同時に内部また同様である。ハッキングに寄って内部の警備ロボたちは侵入者を全て排除すべく攻撃を仕掛けてくるだろう。
 さらに内部には落成式の来賓客や一般客たちが捉えられている。
 戦いの余波で彼等が傷つけられることがあってはならない。
 多くの制限が猟兵たちの足かせとなるだろう。けれど、それでもやらねばならないのだ。
「ワレハモトメテイル。トウダイサイキョウヲ。ソレハカナラズイル。ワレハ、サイキョウヲダトウシテ、ツクラレタイミヲエルノダ」
『黒龍』は電波塔の最上部に座す。

 もしも、人格が在るのならば、彼と称するべきであっただろうか。
『黒龍』が求めるものは果たして現れるのか。
 答えは出ない。
 生きることは問いかけられ続けるということだ。あらゆるものが問いかけてくる。
「ワレハ、マダタタカエル。サイキョウヲシテワレハ、ソンザイノイギヲトウノダ――』
白雪・まゆ
わざわざ人質を取ってまで『最強』を求める理由はなんなのでしょう?

最強を証明して、自分の価値を認めさせたいのでしょうか?
それとも兵器としてふさわしい最期を求めているのでしょうか?

どちらにしても、人質を取ってまですることではないですね。
真意は直接確かめることにするとしまして、いまは会いにいきますのです!

ビルの内部に突入して、警備ロボットを【Showering Blows】で蹴散らしながら、
『黒龍』さんのところを目指しますですよ。

『摩天楼』といわれるだけあって、かなりの階数がありますですですが、
ここはあえて階段を使って1フロアずつ制圧していきますですね。

人質さんも、しっかり解放していきますのですよ!



 無人戦闘機『黒龍』の機械音声が告げるところの『最強』。
 それは時として意味のないものであったのかもしれない。盛者必衰の理があるように、それは移ろいゆくものであるからだ。
 だからこそ、『黒龍』は『当代最強』と言葉を発する。
 世代が移ろうのと同じように時代に寄って『最強』の意味が、その内容が変わるように、当代における最強をこそ求める。

「けれど、わざわざ人質を取ってまで『最強』を求める理由はなんなのでしょう?」
 白雪・まゆ(おねーちゃんの地下室ペット・f25357)にはわからなかったし、理解できるものではなかっただろう。
 最強を証明して、自分の価値を認めさせたいのか。
 それとも兵器として相応しい最期を求めているのか。
 答えは出ない。

 けれど、どちらにせよ人質を開放しなければならないことにかわりはない。そして、『黒龍』の真意を確かめるには、目の前の摩天楼の如き電波塔を駆け上がり、最上を目指さなければならないのだ。
「今は会いにいきますのです!」
 手にしたハンマーでもって、まゆは電波塔の内部へと飛び込んでいく。
 日本のヒーローも警察も、この電波塔という高層建築物に配置された警備ロボの性能と熟知している。
 ヒーローたちであったのならば制圧することが可能であったかも知れない。
 けれど、彼等は人質を取っている。
 人質の安全を確保しながら戦うことが難しいのであれば、それは選択肢として取りづらいものであった。

 かと言って、外からの侵入もまた困難である。
『黒龍』の随伴ドローン機が外には飛び交い、外部からの干渉を妨げている。
「手数でだって、負けないのですよ!」
 まゆのハンマーがロケット噴射でもって勢いよく振り抜かれる。
 それは乱打と言ってもいいほどの手数であった。警備ロボたちに、その乱打を耐える術はない。
 打ち込まれる衝撃は凄まじく、次々と警備ロボたちが破壊されていく。

「このフロアには人質さんたちはないみたいですね」
 警備ロボたちの残骸を後にまゆは駆け上がっていく。
 フロアが上がれば上がるほどに様々な施設がある。観光施設にもなっているせいであろう。一般客たちが囚われているのは、きっと高層だ。
 この立地を十全に使うのならば、人質となる人々はきっと高層に集められる。
 そして、まゆが侵入したことも高層の随伴ドローン機や『黒龍』には知られているだろう。

「『摩天楼』と言われるだけあって、かなりの回数がありますですですが……」
 振るうハンマーがジェット噴射と共に警備ロボを叩き伏せる。
 何処に見落としがあるかわからない。
 まゆは一フロアずつ慎重に昇っていく。そうすると、警備ロボたちから逃れて固まっていた子供らを見つめる。
 彼等は声を押し殺し、まゆの顔を見上げ、ようやく安心した顔を見せる。
「もう大丈夫なのですよ。安心です」
 微笑み、まゆは子供らを開放しながら、下のフロアへと向かうように告げる。一フロアずつ地道に警備ロボを排除してきた、まゆならではの人質開放であった。

「下の階にはもうロボットはいませんです。だから安心してくださいね。さあ、行ってください」
 まゆはハンマーを肩に載せ、また勢いよくさらに上のフロアを目指す。
『黒龍』が求める『当代最強』。
 それが如何なる理由であったとしても、オブリビオンが『今』に干渉していい理由ではない。
 まゆは、駆け上がる。
 この摩天楼の先にこそ、打ち倒すべき敵がいると見定めた以上、まゆの前に生命奪われる人質など存在してはいけないのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フランツィスカ・リュッツオウ
●アドリブ連携歓迎
当代最強かは分からんが、少なくとも最速で在らんとはしている。一つ、お相手願おうか。

装着している脚部飛行ユニットを変形させて飛翔。外部からの直接突入を試みる。
生憎、こちらの装備はアナログでな。電波だのハッキングだのは通じん。

無論、そのまま素通りさせてくれるなどとは思っていない。速度を生かし、電波塔に沿って大きく螺旋を描くよう上昇しつつ、重機関砲の掃射でドローンを叩き落としてゆく。

こちらは最高速度こそ一級品だが、一度失速すると再加速に難儀する機体だ。
行き足を止めず、突破を優先して進むとしよう。

内部の様子も適宜窺い、仲間や人質が危急の際には、窓なり壁なりをぶち破って援護に向かおう。



 最も優れたるモノ。
 それは存在証明足り得るものであったことだろう。
 少なくとも、オンリーワンではなくナンバーワンであるという自負は、そのモノを確固たるモノへと変えうる要素でもあった。
 しかし、時は残酷である。
 常に最も先を往く物は、最も早く旧きモノへと変わり果てる定め。
 それを盛者必衰と呼ぶのであれば、無人戦闘機『黒龍』は、正しく過去の化身であったことだろう。

「当代最強はわからんが」
 その言葉はあらゆるものを置き去りにする。
 ジェット推進機の唸り声がヒーローズアースの空に響き渡る。音速を超える速度で飛ぶフランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)の姿を『黒龍』の随伴ドローン機は感知しただろう。
 それは旧式であり、速度以外の取り柄のないものであった。
 どんなにチューンを施したのだとしても、旧式であることは否めず。されど、その誇りは一片も奪えるものではなかった。

「――」
 随伴ドローン機たちは困惑するようでもあった。
 最新鋭の機械であったのならば、ハッキングもできればジャミングも出来た。しかし、あまりに旧式であるがゆえに、そのジェット推進機はあらゆる最新を拒むものであった。
「少なくとも最速で在らんとはしている。一つ、お相手願おうか」
 音速を超えた速度でソニックブームを生み出しながら、フランツィスカは電波塔の周囲を螺旋を描くように飛ぶ。
 上昇する体にかかる加速度Gは凄まじいものであったが、彼女はレプリカントである。古びたジェット戦闘機であった出自は、彼女の体に音速の世界をなじませるものであったことだろう。

 雷鳴のように大気の壁を撃ち抜く轟音が響き渡り、周囲に衝撃波を生み出す。
 随伴ドローン機たちは即座に動いていた。
 この機体を最上にある己の親機である『黒龍』にたどり着かせてはならぬと判断したのだ。
 過去の化身たる『黒龍』を食い物にする旧きモノ。
 それがSchnellste Schwalbe(シュネルステ・シュヴァルベ)――最速の燕たる所以。
 燕が龍に打ち勝つことなどできようはずもない。
 されど、随伴ドローン機たちは見ただろう。あらゆる最新を受け付けず、『最速』という唯一を突き詰めた機体であればこそ、突破することのできる壁があることを。
「最速のツバメ…その名が過去のものでない事を、ここに示そう」
 重機関砲の掃射が随伴ドローン機たちを次々と叩き落としていく。
 その速度は随伴ドローン機では止められない。
 さらに螺旋を描くことで、射線を定めさせぬところがフランツィスカが手練であることを示していた。

「――!!」
 だが、旧きモノに翻弄されるのが最新ではない。
 その軌道、その速度、あらゆるものをパターン化し、結論を導き出す。
 目の前の鋼鉄の燕は、最高速度、其処に至るまでの短さこそ一級であるが、一度失速しつぃまえば、加速することが難しい機体であると理解する。
 足を止めてしまえば、あえなく失速し、大地に失墜するだけの存在。
「理解したか。だがな――!」
 音速の世界にありて、フランツィスカは見る。
 高層に集められた人質たち。彼等は警備ロボたちに集められ、ひとかたまりにされている。もとよりフランツィスカは『最速』を謳う。
 ならばこそ、人質を開放するまでの時間さえも最速であるのだ。体をねじるようにして加速し、螺旋を描く円の動きは凄まじい勢いと共に衝撃に備えられた電波塔の壁面をぶち抜く。

 轟音と共にフランツィスカは内部に入り込み、またたく間に警備ロボたちを打ちのめす。
「随伴ドローン機は……振り払ったか。後は」
 己を取り囲む警備ロボたち。
 けれど、フランツィスカの動きは早かった。一瞬の判断を誤れば、それだけで危険に晒される生命が増える。
 弾丸が走り、人質たちを取り囲んでいた警備ロボたちを沈黙させる。
「安心しろ。もう大丈夫だ。階下から突入してきている猟兵もいる。上よりは下の方が安全だろう。外からの襲撃は気にするな」
 そのために、己がいるのだとフランツィスカは己の脚部に装着した飛行ユニットのエンジンを回す。

 浮き上がる体。
 鋼鉄に身を包んだ燕は飛ぶ。
 空が龍のものだと誰が言ったのだ。あらゆる速度において他を凌駕する『最速』こそが、空の覇者足り得るのだと告げるように電波塔のフロアから飛び出し、再び最上を目指して飛ぶ。
 その背中に人々は何を見ただろうか。

 ある少年は憧れを持って、その背中を見送ったことだろう。
 まるで雷鳴の如く大気を打ち破るフランツィスカ。彼女はその背に憧憬を受けることをなんとするだろうか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星海・冴香
しがない地獄配達人とはいえ、私も戦闘機乗りの端くれだもの
上から見下ろされたまま黙っているなんて、性に合わないわ

UCで戦闘機パイロットに変身、適性と戦闘力を強化
『ムクロキャリバー』を操縦して、電波塔の外側から攻略します
死霊ナビ、サポートよろしくね

後の憂いを排除しながら行きましょう
ドローン機達とドッグファイトを繰り広げながら
誘導弾の『ムクロミサイル』を発射、敵を追尾させて電波塔に被害が出ないタイミングで起爆、そのコントロールは死霊に任せる

見えているかしら
コクピットに接近してきたドローンに対して、死霊と一緒にサムズダウンのパフォーマンス
待っていなさい、これから私達の空を取り戻しにいくから



 星海・冴香(地獄配達人・f36316)は己のことをしがない地獄配達人だと言う。
 彼女のユーベルコードは自在にコスチュームを変え、あらゆる職業に変身(コスプレ・サービス)する。
「私も戦闘機乗りの端くれだもの」
 ヒーローズアースのランドマークたる電波塔をジャックしたオブリビオン『黒龍』は随伴ドローン機を展開し、電波塔の周囲を取り囲む。
 内部ではハッキングされた警備ロボたちが取り残された人々を人質としている。
 これらを救いつつ、最上に座すオブリビオン『黒龍』を打倒しなければならない。
 彼女が身を包んだパイロットスーツと共に『クロムキャリバー』が飛ぶ。
 死霊のナビゲートによって大空を飛ぶ戦闘機『クロムキャリバー』は彼女の操縦技術と相まって、凄まじい速度で電波塔へと飛来する。

「上から見下されたまま黙っているなんて性に合わないわ」
 その言葉は『黒龍』の随伴ドローン機たちによって阻まれる。ドローンであるがゆえに空中での機動力は凄まじいものであった。
 無人機であるからこそできる直角的な動き。
 片や戦闘機は速度こそ勝るものの、機動力においてはドローンに引けを取るだろう。
 しかし、冴香はナビゲート役の死霊と共にサムズダウン……即ち親指を地に向けるパフォーマンスでもってドローン機を挑発する。

「見えているかしら」
 その挑発は安い挑発だと言わざるを得ないだろう。
 けれど、この電波塔に近づくもの全てを迎撃する随伴ドローン機は一斉に『クロムキャリバー』に襲いかかる。
 敵機が機動力に優れるのならば、一箇所に惹きつけなければならない。
「それに後の憂いは排除しなければならないしね」
 冴香の操縦によって惹きつけられた随伴ドローン機たちは、己たちが誘い込まれている事に気が付かなかっただろう。

 むしろ、己たちが『クロムキャリバー』を追い込んでいるとさえ思えたはずだ。
 けれど、それは誤りである。
 空中を舞う『クロムキャリバー』の機体が太陽を背にするように急旋回する。それは機首を反転させるものであり、同時に凄まじい加速度Gを冴香の肉体に強いる


 けれど、その急旋回の前に放たれた誘導弾の『ムクロミサイル』がばらまかれる。火線を引くようにして大空を奔る誘導弾は、次々と随伴ドローン機に激突し、火

球を生み出していく。
「死霊ナビ、サポートありがとう」
 冴香はミサイルの誘導とコントロールを死霊に任せていたのだ。

 彼女は機体の制御と操縦に専念すればいい。
 役割分担であり、同時に機体の性能を十全に引き出すための方策でもあったのだ。
「まだまだ数はいるみたいね……これだけのドローンを制御しながら戦術起動を取る……やはり侮れないわね」
 無人戦闘機でありながら、『黒龍』は知性のようなものを有している。
 それはヒーローズアースにおいても特に秀でた戦闘癖である証拠だ。けれど、それでも『黒龍』はオブリビオンである。

 同時に『当代最強』を求めている。
 己の照明か。
 それとも徒に破壊をもたらすためだけの存在か。
 どちらにせよ、冴香は奪われたものを取り返すだけだ。
「待っていなさい、これから私達の空を取り戻しにいくから」
 冴香は電波塔の最上に座す『黒龍』を見上げるようにねめつける。
 下から見上げるのはもううんざりなのだ。
 大空を人の手に取り戻す。それは例え、世界が違えど変わりない冴香の意志であったことだろう。

 彼女のコスチュームが変わるたびに彼女は力を変える。
 猟兵としての力であり、また同時に彼女の地獄配達人たる矜持でもあったことだろう。
 戦場となった大空を駆け抜ける『クロムキャリバー』は、奪われた空をこそ切り裂くように一直線に飛ぶのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
最強ねえ、そう在れれば脅かされる心配はないだろうけど、
あえてそれを目指すほどではないかなあ。
まあ、あたしと向こうの考え方は違うし、今は関係ないか。

さて、中と外どっちから行こうかねえ。
んー、足場になる物もあるし手っ取り早く外からにしようか。
【飛天襲爪】で飛んでるドローンを蹴飛ばしながら、
蹴った反動で更に跳んでどんどん上まで登っていくよ。
敵の攻撃は噴気孔でジャンプの軌道を変えたりして避けよう。

外から見えたり声が聞こえるなりして人質を見つけたら、
戦闘に巻き込まないよう飛び込むと同時に生体パルスを放って、
警備ロボットを壊そうか。

あ、人質の人たちの携帯とかも壊しちゃった?
……だれか弁償してくれるかなあ。



『最強』――その名を求めることは如何なる理由からであろうか。
 オブリビオン『黒龍』は間違いなく、その名を求めている。
 あえて当代最強という言い回しをしたことは、腑に落ちないところがあったかもしれない。
 ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)にとって、『最強』とは目指すところではなかったからである。
 彼女は幼少の頃から魔物と見間違えられる容姿ゆえに人里に近づくことができなかった。自然の中で一人で生きてきたのだ。
 脅かされる日々もあっただろう。
 力がなければ生きていくことすら困難な過去があるからこそ、彼女は『最強』という言葉に惹かれることはない。

「そ在れれば脅かされる心配は無いだろうけど、あえてそれを目指すほどではないかなあ」
 ペトニアロトゥシカと『黒龍』の考え方は違う。
 相違あるから互いに相容れぬ。猟兵とオブリビオン。それ以前に相違なる考えが互いの道を分かつのだ。
「今は関係ないか」
 彼女は電波塔の壁面を蹴って飛ぶ。
 内か外か。
 どちらから侵入するか考えた時、彼女は足場になるものがある外を選んだ。足場とは即ち、随伴ドローン機である。

 最上に至らんとする彼女を目ざとく見つけた随伴ドローン機たちが一斉に飛来する。
 けれど、ペトニアロトゥシカは意に介することはなかった。
 己に飛び込んでくる随伴ドローン機は足場だ。
「どこに居ようが、ひとっ飛びだよ!」
 迫る随伴ドローン機を足場にするように瞬時に距離を詰め、蹴り飛ばす。
 さらに蹴り飛ばした反動でペトニアロトゥシカは上へと上昇していく。さらに背部の噴気孔から空気を圧縮して放つことによって空中での軌道を変える。

 飛天襲爪(レイダース・リープ)とは良く名付けたものである。
 彼女のユーベルコードは彼女自身の五体をもって完成するものである。あらゆるものが足場になり、空中で軌道を変える彼女を如何に機動力に優れる随伴ドローン

機出逢っても捉えることはできないだろう。
 むしろ、彼女の足場として電波塔の最上を目指す手助けにしかならない。
「……と、そうだった。中に人質がいるんだったね」
 上昇を続けるペトニアロトゥシカの視界に映るのは高層に集められた人々。
 すでに此処に至るまでに猟兵によって救われたものたちもいたが、上に上がるに連れて未だ囚われているものたちがいることに気がつく。

「戦闘に巻き込んではならない……ならさ」
 ペトニアロトゥシカが壁面を蹴破り、人質たちが集められているフロアへと突入する。
 破片を撒き散らしながら飛び込んできたペトニアロトゥシカの姿に警備ロボたちが一斉に反応する。
 だが、内部の下から上がってくる侵入者ではなく、横合いから殴りつけるようにして現れたペトニアロトゥシカに対応が後手になってしまうのもまた無理なからぬ

ことであった。

 彼女の体から発せられる生体パルスが一瞬で警備ロボたちを破壊する。
 機械である以上、ペトニアロトゥシカの強力な生体電流から生み出される電磁パルスはたやすく破壊するだろう。
 ハッキングされていたとしても、機械制御であるのならば、破壊してしまえばもう操られることもない。
「た、たすかった……!」
「でも、なんで……? まだスマホ使えない……!」
 人質の人々が己たちが助かったことを安堵するのも束の間であった。彼等の持つ電子機器の殆どがペトニアロトゥシカの放つ生体パルスによって破壊されているの

だ。

 それは当然であろう。
 警備ロボを破壊するほどの電磁パルスだ。彼等の持つ電子機器など一発である。
「……」
 ペトニアロトゥシカはこれまでとは別の意味で冷やせをかくことになっただろう。
 いやでも命あっての物種という言葉もあるくらいである。
 誰か弁償してくれるだろうか。
 非常事態であるし、こういう事情であれば、なんらかの保険が在るような気がしないでもないが、ペトニアロトゥシカはそういうところにまで気が回らないかもし

れない。

「……下は安全だから、慌てず騒がず落ち着いて」
 ひとまず生命は助かったのだからと、ペトニアロトゥシカは階下へと開放された人々を導き、再び上を目指す。
 今は余計なことを考えないようにしよう。
 そう思いながら、ペトニアロトゥシカは再度最上に座す『黒龍』を目指すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
俺も旧作の量産型
更に欠陥品として
銀河に破棄された身だ
有用性を示し存在証明を希う気持ちは
分からなくもないが

何かを望むなんて出来ない
救われて、こころを得た
それだけで、報われてるんだ

だから今日も
ヒトを護りに、征こう

ファム・ファタルに搭乗し飛翔
外側から攻めるか
Srt…オディールの助言も受け
ドローンの攻撃見切りつつ
マシンの片腕を機関銃に変形させ
電気を纏う弾丸を乱れ打ち
ドローンを無力化して行こう

ヒーローや警官、人質に
流れ弾が飛べば身を挺して庇う
人質は怪力で抱え
可能なら愛機に避難させようか
マシンの制御は頼んだぞ、オディール

俺も、破棄されたあの日
否、いまも尚何時だって
彼と同じことを思ってる

まだ、俺は戦えるんだ



 暗闇の中に銀河の星々が煌めく。
 それは彼――ジャック・スペード(J♠️・f16475)にとって希望に溢れた道行きではなかっただろう。
 終わりを示す光景であった。
 銀河帝国の衛兵として製造されたのが己の始まりだ。しあkし、欠陥機の烙印を押され、銀河の海へと遺棄された。
「俺も旧作の量産型。更に欠陥品」
 ジャックにとって、それは痛いほどに理解できるものであった。

 オブリビオン『黒龍』が『最強』を求めるのが何故であるのかは問うまい。
 其処に何を見出すかは千差万別であるからだ。
「有用性を示し存在証明を希う気持ちはわからなくもないが」
 オブリビオンマシン『ファム・ファタル』は黒鳥の如き機翼も持って空を舞う。
 電波塔の外からアプローチするジャックが騎乗し、破滅を約す悪魔の如き機体がAI『オディール』からのサポートを得る。
「何かを望むなんて出来ない」
 そう、ジャックは救われた。
『黒龍』は救われることなくオブリビオンへと変じた。
 其処に違いが会ったのだとすれば、報われているか否かである。

 オブリビオン『黒龍』が人に害を為すというのならば、ジャックは己の心のうちから発露するものを持って進むのだ。
「だから今日もヒトを護りに、征こう」
 英雄たちが住まう世界。
 そこに至りて彼が得たのは優しさである。ならばこそ、彼は飛ぶ。
 迫る随伴ドローン機を電気纏う弾丸を乱れ打ち、撃ち落として更に上へと目指す。彼の眼下にはヒーローや警官がいる。
 己を見上げて託してくれている。
 この電波塔に捕らえられた人々を救うためにこそ、ジャックは己の力を救う。

 流れ弾を出すことは許されない。
 一人たりとて犠牲にはできない。犠牲にしていい生命など何処にもないのだ。ならばこそ、ジャックは『ファム・ファタル』から飛び出して高層に捕らえられてい

る人々を見つければ、躊躇なく飛び込んでいく。
「マシンの制御は頼んだぞ、『オディール』」
 ジャックの瞳がユーベルコードに輝く。

 その腕は銃火器に変じる。
 己をロックオンするセンサー。警備ロボたちが一斉にこちらを認識した瞬間であった。壁面の破片が飛び散る中、即座にジャックは見ただろう。
 怯えに濡れた瞳。
 あれらは己が救わねばならぬ生命だ。
「此の身は異形なればこそ――我が身総てが引鉄也(トリガーハッピー・クリーチャー)」
 変じた銃火器が火花を散らす。
 放たれた銃弾がまたたく間に警備ロボたちを貫き、沈黙させる。

「俺も、破棄されたあの日。否、今も尚何時だって、彼と同じことを思っている」
 人質を開放し、『ファム・ファタル』に人々を任せる。
 戦うことしかできないと嘆くことはない。
 その戦いは誰かを救うための戦いであるからだ。いつだって、己の機械じかけの胸には「こころ』がある。
 ぬくもりが、恩義が己の躯体を突き動かしている。
 ならばこそ、ジャックはためらわないだろう。

「まだ、俺は戦えるんだ」
 少しも迷うことはない。
 ただ進むだけでいい。それだけで己は証明できるのだ。あの日己を救ってくれたものたちに報いるため。
 そして、報われた存在を意味無きものへと堕すことなく、突き進むため。

 ただそれだけの理由があればジャックは戦える。
 例え、これより対峙するオブリビオンが、掛け間違えたあの日の己であったのかもしれない可能性だとしても――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『黒龍』

POW   :    “黒雲翻墨既遮山”
【機体内部に格納していた鋼の四肢を解放する】事で【格闘戦形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    “灰雨跳珠亂入船”
【随伴ドローン機と翼下の副砲】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    “卷地光來忽吹散”
【機首】を向けた対象に、【機首下の主砲から発射される緑色の光線】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:最古青

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「ワレハモトメテイル」
 何をと問うまでもない。
『最強』を。最も強きものを。
 この世界は強きモノたちで溢れている。稲妻を操るヒーローも居れば、太陽の如き光熱を発するヒーローもいる。
 ヴィランとてそうである。
 変幻自在に姿を変えるヴィラン。遍く破壊をもたらすヴィラン。

 数多ある存在の中で最も強きもの。
 それが『最強』である。
 オブリビオン『黒龍』は求めている。己を証明するための存在を。己は最も優れた無人戦闘機。
 しかしながら、最新鋭ではない。
 己は過去の化身。
 すでに追い抜かれ、過去の遺物そのもの。
「――ダカラドウシタ。サイシンガサイキョウタルトハカギラナイ。ナラバ、ワレハオノレノソンザイヲサイキョウタラシメツヅケルノミ」

 電波塔の最上に在りて、『黒龍』は四肢の如きランディングギアを格納し、大空へと舞い上がる。
 もうすぐ来るという予感があった。
 電子頭脳とは思えぬ知性を宿したAIが導き出した勘とも言える事象の予知。

 ヒーローズアースの空に昏き影が奔る――。
白雪・まゆ
なるほど、自らが『最強』である、との証明ですか。

ドッグファイト限定、とかであれば、まだ解りますですけど、
それはロマンの中だけのものだと思いますのですよ。

ただ『黒龍』さんの求めるものは、限定のものに近い感じですよね。
それを否定するのですから、正面から戦わないといけないですよね!

ということで【移動砲台】に乗って、空中戦を挑むのです!

【野生の勘】や【第六感】も使って相手の攻撃を回避しつつ、
こちらも砲撃で攻撃をしながらチャンスを待ちますですよ。

隙を見つけたら【Cannonball Crush】で」飛び出して、
『黒龍』さんのどこかをぶっとばしますですね。

あとは……落ちる前に捕まえてもらいましょう。



 オブリビオン『黒龍』は言った。
 己が最強たらしめるのは、己が最新鋭であることではないのだと。あくまでこの大空にありて『黒龍』という存在以上はないと証明する。
 その『最強』の証明によって『黒龍』は己を存在する意義のあるものであると言うのだ。
 確かに兵器は常に刷新され続けるものである。
 破壊をもたらし、破壊され、そしてそこで終わりだ。
「ホカニナニヲスレバイイ。ホカニナニヲスレバ、ワレハソンザイヲユルサレルノダ」
 兵器であるからこそ。
 その存在は破壊を持って終わりを迎える。

 しかし、オブリビオンである『黒龍』は己が最強であることにこだわる。ゆえに現行における兵器において最強たる存在を求める。
「なるほど、自らが『最強』である、との証明ですか」
 白雪・まゆ(おねーちゃんの地下室ペット・f25357)は、それが現実的ではないということを理解している。
 ドッグファイト限定であるとか、限定下における局地的な最強なら在り得るかも知れない。全ての環境において最強であることはロマン以外の何物でもない。

「だから、それを否定するためには、正面から戦わないといけないですよね!」
 まゆはハンマーを抱え、移動砲台を呼び寄せ真っ向から『黒龍』へと対峙する。
 サブフライトシステムと戦闘機。
 どちらに軍配が上がるかなど言うまでもない。けれど、まゆの操る移動砲台は、彼女が手繰るからこそ、その真価を発揮する。
 ドッグファイトで移動砲台が勝つ必要はない。
 迫る『黒龍」のランディングギアが四肢のように、まゆを襲う。

 鉤爪のように迫るランディングギアはまゆの体を引き裂こうとするだろう。けれど、まゆはそれを躱す。
 まるで野生の獣のようなしなやかさでもって、猛禽を思わせる『黒龍』の一撃を躱すのだ。しかし、『黒龍』のランディングギアの一撃が当たらずとも、凄まじい速度で空中を飛ぶ無人戦闘機が放つ衝撃波は強烈なものであった。
「わうっ……!?」
 体勢が崩れる。
 そこにランディングギアの一撃が再び襲う。

「オワリダ。チイサキケモノナド、ワレノマエデハカラレルコトリトカワラヌ」
「まだ終わりませんよ、なのです!」
 まゆの背後から移動砲台の一撃が『黒龍』を襲う。砲弾が走り、直撃弾であることをまゆは確信しただろう。
 けれど、その一撃は随伴ドローン機による『黒龍』への体当たりでもって軌道を変えることによって砲撃の一撃を躱す。
 凄まじい空中機動と機転。

 だが、それはまゆにとってのチャンスも同然であった。
 無理に軌道を変えたせいで、『黒龍』はこちらへの猛攻を止めざるを得ない。ならば、まゆはハンマーを構えたまま飛び込む。
 迫るランディングギアの一撃がまゆの体を捉えようとした瞬間、その瞳がユーベルコードに輝く。
「砕けないものなんて、ないのです!」
 その手にしたハンマーの一撃がランディングギアの一つを捉える。
 Cannonball Crush(キャノンボールクラッシュ)の一撃。それは確実な破壊をもたらす一撃である。

 打ち込まれたハンマーがランディングギアをへし折り、ひしゃげさせる。衝撃波が荒び、『黒龍』の機体が傾ぐだろう。
 吹き飛ばされるようにしながら『黒龍』が体勢を整えようとしている。
「どれだけロマンの中に生きているのだとしても、それは見果てぬものなのです。戦いのために生み出されて、戦いの中に消えていく。それは一瞬の煌きなのです。最強なんてものをほっしなくても、『黒龍』さん、あなたが求めたものは」
 まゆは移動砲台の上に着地し、彼女の放ったハンマーの衝撃で失墜していく『黒龍』を見下ろす。

 そう、最強の名がなくとも『黒龍』は傑作機として名を残しているだろう。
 人の記憶に残るということはそういうことだ。
 彼の無人戦闘機によって救われた生命もあっただろう。
「きっとすでもう得ていたはずなのです」
 だから、過去のまま終わればいい。
 まゆはそう願わずにはいられない。それが彼の『黒龍』が求めるものを否定することになるのだとしても、オブリビオンという相容れぬ存在に成り果てた、かつての大空の覇者への手向けなのであるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
いつどこでを抜かした強さなんて語っても仕方ないと思うけどねえ。
陸に上がった鮫より強い事に意味なんて無いし。
まあ、アンタの領分が空だというなら、付き合うとしようか。

翼とヒレを生やして空を飛べるようにしたら、
【瞬迅斬鰭】を使って空中戦を挑むよ。
空を飛ぶことでさらに加速しながら、
ドローンと副砲の攻撃を見切って回避しつつ、
ドローンと本体に接近してヒレで斬っていこう。

最強であろうとなかろうと、アンタはここに居て、あたしの敵だ。
だったら倒すだけだよ。



 ハンマーの一撃で失墜した機体が立て直される。
 大空の元で繰り広げられる戦いは猟兵に趨勢が傾き始めていた。だが、しかし。そう、だがしかしである。
 オブリビオン『黒龍』は無人戦闘機。
 その本領というのは有人機で在りえぬ軌道を描くことができることである。機体を立て直すことができなければ、そのまま大地に激突してそれで終わりであったことだろう。
 だが、『黒龍』はランディングギアを四肢のように扱い、周囲にそびえる高層ビルの壁面をつかみ、まるで昆虫の如く張り付き、再び空へと飛び立つ。
 その姿はオニヤンマの如き空中機動であったことだろう。
 周囲に衝撃波が荒び、破片を撒き散らしながら『黒龍』が飛ぶ。
「ワレヲウチオトスニハアタイセズ。ワレハサイキョウ。ナンビトタリトテワレヲシッツイニオイコムコトアタワズ」

 さらに随伴ドローン機が飛ぶ。
 機銃の斉射でもって、オブリビオン『黒龍』は電波塔の最上にありし猟兵を狙う。
「いつどこで抜かした強さなんて語っても仕方ないと思うけどねえ」
 ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)の瞳がユーベルコードに輝き、変異する。
 翼とヒレ。
 その異様なる姿は、『黒龍』にとって驚きに値するものであったことだろう。
 だが、それでも随伴ドローン機と共に放つ機銃はペトニアロトゥシカを捉えていた。

「陸に上がった鮫より強いことに意味なんて無いし」
 そう、どれだけ強くとも。
 陸の覇者が空の覇者に撃ち落とされるように。
 空の覇者もまた海の覇者に食い殺される。
 強さという一要因は平等に測ることのほうが難しい。戦闘機という分野に置いて、『黒龍』はたしかに傑作機と呼ばれるに値するだけの存在であったのだろう。

 けれど、そこに意味はない。
 存在したということ。そして、その存在によって証明されるのは有用性だけだ。『最強』という言葉を追い求めた時、そは意味がないことであったのだ。
「けれど、まあ、アンタの領分が空だというなら、付き合うとしようか」
 ペトニアロトゥシカは放たれる機銃の弾丸を生やした翼を羽ばたかせることによって躱す。
 飛翔はできても、それは鳥類のそれと同じだ。
 オニヤンマの如き機動を見せる『黒龍』にとって、それは獲物でしかない。急制動、急旋回。それを可能にする機体は、即座にペトニアロトゥシカを追い詰めるだろう。

 しかし、最高速度ではどうだろうか。
 その速度に到達するまでの時間さえ稼げたというのならば、ペトニアロトゥシカの翼は一気に加速する。
「速く鋭く、いっていみようか」
 その輝く瞳が見据えるのは『黒龍』。
 随伴ドローン機の銃撃を躱しながら、一瞬ですれ違いざまに随伴ドローン機を切り裂く。
 ヒレは鋭く、あらゆる鋼鉄を切り裂くだろう。
 火球へと変わる随伴ドローン機。
 ペトニアロトゥシカは戦いのさなかに在りて、冷静であった。
「最強であろうとなかろうと」
 そう、彼女にとって『黒龍』は無人戦闘機ではない。オブリビオンだ。そして、ペトニアロトゥシカは猟兵である。

 滅ぼし、滅ぼされる間柄でしかない。
「アンタはここに居て、あたしの敵だ」
「ナラバナントスル。ワレノサイキョウヲシメスイシズエトナルカ」
 ペトニアロトゥシカは頭を振る。
 一瞬の交錯。
 随伴ドローン機を切り裂いた火球が放つ熱波を背に受けて、さらに加速するペトニアロトゥシカの瞳にあったのは己に向ける機銃。
 その銃身を睨めつけ、ペトニアロトゥシカは己のヒレを放つ。

「アンタはオブリビオンで。あたしは猟兵。だったら倒すだけだよ」
 瞬迅斬鰭(フィン・リッパー)が弧を描く。
 放たれた斬撃は一瞬で機銃の銃身を切り裂き、さらに『黒龍』の底部を切り裂く。
 オイルが血潮のように噴出し、大空を汚す。
 そこに感傷などない。
 あるのは敵同士であるということだけ。

「そこに『最強』であるかないかは関係ない。そういう意味では」
 確かに『黒龍』は居た。
 ただそれだけが真実であるというようにペトニアロトゥシカは、己のヒレの一撃を持って『黒龍』に存在を刻むのだ。
 互いの存在を知らしめること。
 戦うことでしか、それを証明できないというのならば、ペトニアロトゥシカはそうすることで過去の化身たるオブリビオンを打倒するのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星海・冴香
答えは示してあげられないけれど
手助けくらいならできるかもしれない
ドッグファイトを繰り広げながら天空へと誘った黒龍に
サムズアップで宇宙を指すわ

戦闘機の限界を突破した者として、最強を証明する
それに黒龍が乗ってくれば
ナビ、ムクロキャリバーを『黒龍』にドッキングさせるわよ
カウントダウンよろしく

黒龍は全力で飛んで
私達はエネルギー補給により黒龍のUCを維持
そして最後にUCを使ってロケットブースターの役割を果たして、分離

幸運を
ナビ「……」
そうね、幸運が必要なのは私達の方だったわ
それにしても黒龍、見られたかしら

※後はマスターにお任せします。よろしくお願いします。



 存在の証明を為すことができるのは、他者在りきであることは言うまでもない。
 他者が存在しないのならば、そこに存在を観測することはできない。
 ゆえに比較するモノがいなければならないのだ。
 鮮血のごとくオイルを撒き散らしながらオブリビオン『黒龍』は空を飛ぶ。
 その姿は血を滴らせながらも、飛び続けることをやめられない猛禽の如き姿であったことだろう。
 星海・冴香(地獄配達人・f36316)は答えを示すことはできない。

 無人戦闘機。
 そのあり方は本来知性を宿すものではないだろう。
 常に『最強』であることを目指し続ける存在に何を示せばいいというのだろうか冴香には己にできることが驚くほど少ないことを知る。
「でも、それでも手助けくらいならできるかもしれない」
 それは冴香が思いつく唯一。
 彼女が駆る『クロムキャリバー』と共に『黒龍』は戦場の空を飛ぶ。

 螺旋を描くように互いの後ろを取ろうとしているのだ。
 ドッグファイト。
 それが戦闘機同士の戦いである。後ろを取った方が勝つ。だが、『黒龍』にとって、背後を取られたとて、その四肢の如く扱うランディングギアが急制動、急旋回を可能にした無人機ならではの挙動でもって冴香を翻弄するのだ。
「テダスケナドフヨウ。ワレニヒツヨウナノハタダヒトツ」
 そう『最強』の名のみである。
 しかし、そんな『黒龍』に『クロムキャリバー』のコクピットから冴香はサムズアップする。

「――?」
『黒龍』にそれは何を示すものであったかわからなかっただろう。
 急制動によって『クロムキャリバー』の背後を取った背面跳びのような機体の挙動のさなかに見た冴香のそれ。
 その親指の示す先にあるのは空。
 いや、違う。
 空より遠い場所である。宇宙。
 冴香の『クロムキャリバー』が己の命運をかけ、残されたエネルギー全てを支払って背後を取る『黒龍』のさらに上に飛ぶ。

 垂直に上昇した機体に追いすがる『黒龍』。
 それはただの反射であったことだろう。敵が逃げるから追う。ただそれだけ。
 しかし、無人機とは言え、『黒龍』は大気圏を飛ぶ機体である。当然限界は来るのだ。
 けれど、冴香は『クロムキャリバー』の合体機構を使い、『黒龍』とドッキングを果たす。
「ナビ、カウントダウン宜しく」
「ナニヲスル。コレハナンダ」
 理解不能なる冴香の行動に『黒龍』は困惑してるようであった。
 全力で天を目指す。
 それは時として人の求めたものであろう。空を飛ぶこと、空の先に行くこと。
 ただそれだけのために生み出された存在であったのならば、どんなによかったことだろう。

 機体ははるか天空に至る。
 ラグランジュ・ポイントの残骸が見えるだろう。
「幸運を」
「……」
 ナビゲートの声が聞こえない。冴香は『黒龍』を天空の彼方まで連れ去り、そのドッキング機構を解除する。
 いわば、己たちはロケットブースターの役割であった。
 限界を超えた機体は自壊する。
『黒龍』の機体はあちこちがひしゃげている。けれど、その先に見える光景を見たはずだ。

「そうね、幸運が必要だったのは私達の方だったわ」
 冴香は機体の破片が落ちる中見上げる。
『最強』を示すことができなくても。
『最先端』を見せることはできる。無人戦闘機の限界。大空という天蓋を突き抜けた『黒龍』が見た世界は如何なるものに映っただろうか。

「見られたかしら」
 冴香は願わずにはいられなかっただろう。
 例え、あのオブリビオンに止めを差すことができなかったのだとしても。それでも己は示したのだ。
『最強』以外の何かであっても存在を証明することができることを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フランツィスカ・リュッツオウ
●連携アドリブ歓迎
さぁ、エースとご対面だ。
同じ空を征く者同士、精々踊って貰おうか!

敵の格闘戦に乗っても徒に速度を失うだけだ。ここは定石通り、一撃離脱に徹するとしよう。
降下と上昇を繰り返しながら、重機関砲での射撃を繰り返し、着実にダメージを蓄積させてゆく。
隠し手足を警戒し、過度な接近は避ける。

…しかし、よもや字義通りの格闘戦とはな。此の身ではそこまでの無茶は効かん。とは言え、手がない訳でもない。
機を見計らって急上昇し、最高高度で反転。機関砲を投棄し、長剣を抜刀しながら降下。
切先に全空戦エネルギーを乗せた突撃を敢行し、そのまま敵を穿ち貫こう。

同じ旧きと言えども、私はまだまだ現役のつもりなのでな!



 オブリビオン『黒龍』は遥か天空より舞い降りる。
 その機体は本来の戦闘空域である戦場を離れ、ボロボロになっている。底部は切り裂かれ、オイルを鮮血のように撒き散らしながら、なお存在し続ける。
 満身創痍と呼ぶにふわさしいだろう。
 されど、未だ己の存在を証明できていないというかのように『黒龍』は空に舞い戻る。
 無人戦闘機であるからこその継続戦闘力とでも言うのか。

 鋼鉄の翼はひしゃげながらも、空を飛ぶ。
「ハイボクナドユルサレルワケガナイ。ワレハサイキョウナノダ。ソウデナケレバソンザイスルイミガナイ」
 その言葉はもはや怨念であったことだろう。
 最強たるために生まれた最新鋭。
 されど、時が経つにつれて旧きモノへとかわりゆく。誰もがそうだ。どんなものだってそうだ。
 いつだって、時こそが戦闘兵器の敵だ。

「ワレハフルキモノデハナイ。ダンジテ。イマコノトキヲオイテモナオ、ワレハ――」
 舞い戻る『黒龍』に迫る一つの光があった。
 ジェットエンジンの轟音を響かせながら、大空を切り裂く一陣の光。それは、フランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)の飛ぶ姿であった。
 天空の彼方より舞い戻る『黒龍』を迎え撃つ鋼鉄の燕。
「さぁ、エースとのご対面だ。同じ空を征く者同士、精々踊ってもらおうか!」
 彼女の声が響く。
 エース。
 そう、己はエース足り得るものとして存在している。
 ならばこそ、『黒龍』は四肢の如きランディングギアを展開し、まるで猛禽からオニヤンマのように姿を変える。

 対するフランツィスカは一撃離脱を是としている。
 格闘戦に乗れば、きっと彼女は敗北するだろう。そして、敵の能力は急旋回と急制動である。
 そして、近づけばランディングギアの一撃によって打ちのめされる。
 だからこそ、一撃離脱。
 降下と上昇を織り交ぜながら、重機関砲で射撃を繰り返す。
 放たれた弾丸の全てが当たらなくていい。
 徐々にダメージを蓄積させていく。無難な戦法であると言われれば、それまでであっただろう。
「……しかし、よもや字義通りの格闘戦とはな。此の身ではそこまでの無茶は効かん」

 それほどまでに『黒龍』の格闘戦技能は突出していた。
 だが、それでもフランツィスカは勝利する。かならず勝つのがエースである。ならばこそ、彼女は急上昇する。
 それに追いつくほどの力が未だ残されているのが『黒龍』の恐るべきところであったことだろう。
 まただ、と『黒龍』は思ったことだろう。
 猟兵たちはいつも己を天空へといざなう。
 空の天蓋は、天蓋ではないのだと示すように自由に飛ぶ。『黒龍』にとって空は存在を証明するための場所でしかなかったというのに。
 己の前を飛ぶフランツィスカは違う。

「ソラハコンナニモヒロイモノナノカ」
「そのとおりだ。人が己を囲うことで限界を決めるように。お前もまた己の限界を此の空に囲う」
 ならば。
 フランツィスカは己の手にした重機関砲を投棄し、長剣を抜き払う。身の丈を超えるほどの直剣。
 これまで格闘戦を嫌っていたフランツィスカであったが、最高高度に達した瞬間身を翻すように反転し、『黒龍』へと相対する。
 この瞬間を待っていたのだ。

 彼女の瞳がユーベルコードに煌めく。
「Sturm und Drang(シュトゥルム・ウンド・ドランク)――疾風怒濤とは正にこの事…一撃離脱、それで事足りる」
 己は燕。
 鋼鉄の燕。
『黒龍』は見ただろう。己より遥かに小さき者が、まさに乾坤一擲の一撃をもって己を射抜こうとしている姿を。
 感動すら覚える。

 互いに同じ旧きモノ。
 されど、その瞳に輝くのは過去ではない。見ているのは未来という可能性だ。閉じた可能性である己を貫く一撃。
「同じ旧きと言えども、私はまだまだ現役のつもりなのでな!」
 どれだけ新しきモノが背後から迫るのだとしても、それが己の性能という価値を減ずるものではない。

 旧きものは礎に。
 そして、新しきものは新たなる可能性へ。
 フランツィスカの長剣の一撃は、まさにその壁を撃ち抜くものであった。
 飛燕が舞う。
 それを『黒龍』は見つめるように、そして、その四肢の如きランディングギアを伸ばすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
旧式は辛いな、お互いに
最新型には逆立ちしても勝てないことを
俺たちはよく知っている
造られた存在であるからこそ、特に

お前は強さにしか
存在意義を見出せなかったんだな
戦闘機は本来、其れが正しい
だから、憐れんだりはしないさ

同じ戦闘機のよしみだ
生身で相手をしてやろう
ブーツの踵を3度鳴らせば宙を駆ける
防御は捨て、創を負いながら
ただ黒龍を追い立てよう

躰から火花が散ろうと
マスクに、ヒトに似せた貌に
罅が入ろうと構わない

守るべき祖国は滅びた
帰る場所は何処にもない
お前と同じように俺も
存在意義なんて、本当は無いんだ

だからこそ
機械の性は殉じたがってる
いまは亡き祖国と主に――

だが、俺は未だ動けるんだ
動ける限りは、ヒトの善き隣人で居たい
いま壊れるのは、惜しい

リボルバーから電気を纏う弾丸放ち
敵機の動きを狂わせたい
体制を崩した隙に肉薄すれば
鋼鐵の蹄で思い切り蹴りを入れる

お前は、強い
旧型新型の括りなど超越する程に
お陰で俺も此のザマだ

黒龍という戦闘機のこと
当機のメモリに確りと刻んでおこう
存在証明は、観測者が居てこそだろう?



 旧きモノは新しきモノの礎。
 失敗も成功も、何かもその先へと連れて行く。それが可能性というものだ。
 人が連綿と紡いだ先にあるのが、はたして終焉なのだとしても、そこにあるのはゼロではない。至るためのあらゆる全てが必要であり、不必要なものは何もなかったのだ。
 無人戦闘機『黒龍』もまたそうである。
 傑作機と呼ばれたのは確かに過去のものであるかもしれない。

「旧式は辛いな、お互いに」
 最新型には逆立ちしても勝てないことをジャック・スペード(J♠️・f16475)は知っている。
 造られた存在であるからこそ、可能性は閉じている。
 スペックという名の呪いがかかっているのだ。そして、得てして数字でしか人は評価しない。
 だからこそ、オブリビオン『黒龍』は最強を求めたのだ。
 形のない呪いの如き名。
 それが己の存在を証明するためのただ一つの称号であったが故に。

「お前は強さにしか存在意義を見出せなかったんだな」
 空より失墜する『黒龍』の姿を見上げる。
 この電波塔の最上にありて、なお高き空を飛ぶ『黒龍』。その翼は尽くがひしゃげ、猟兵たちの一撃によって打ちのめされてきた。
「ソレイガイノナニガヒツヨウダトイウノダ」
「そうだな。戦闘機は本来、其れが正しい。だから、憐れんだりはしないさ」
 ジャックは己を戦闘機と定義する。
 戦い、朽ち果て、その役割を全うする。失敗作はそれさえ許されないままに朽ちゆく運命である。

 だからこそ、此の戦いに憐れみは必要ない。
 彼の漆黒ボディーパーツ。刻まれたスペードの意匠。それがジャックの中にある唯一つのアイデンティティ。
 存在証明である。
 故に、彼はブーツの踵を3度打ち鳴らす。彼の体が空を駆ける。
「ショウメイスルダケダ。コノソンザイヲトシテワレハココニアッタノダト」
 ランディングギアが四肢のように展開される。その動きは精彩を欠いていた。けれど、それでもなお空中で格闘戦を繰り広げるには十分であった。
 ジャックと打ち合うランディングギアがひしゃげる。
 砕けた破片が飛び散る。
 衝撃波がジャックの躯体を打ち据えるだろう。ひび割れる装甲。

 それでもなお止まらない。
 速度で勝り、急制動、急旋回を可能とした無人戦闘機『黒龍』。それは猛禽すら食い物にするかのような、圧倒的な速度で持ってジャックを打ちのめす。
 電波塔の最上に叩きつけられ、躯体が軋む。
 だが、なおもジャックは立つのだ。
 何故、とは問うまい。

 すでに護るべき祖国は滅びた。帰る場所など何処にもない。
「お前と同じように俺も――存在意義なんて、本当は無いんだ」
 砕けたマスクは歪に歪む。
 人に似せた容貌は、人に寄り添うためのもの。砕けたマスクの先にあるのは、機械たる己の、戦機としての本性であったのかもしれない。
 唸りを上げるものがある。
 ジェネレーターではなく、人はそれを心と呼ぶのかも知れない。

「アルハズナノダ。ワレガウマレタイミガソンザイシテイイハズノリユウガ」
「だからこそ機械の性は殉じたがっている。今は亡き祖国と主に――」
 喪って、喪って、喪い続ける。それが生きることであったのというのならば、正しくジャックは生きているのだろう。
 動く。
 躯体は動く。

 その躯体が動くのは一体何のために。
 簡単なことなのだ。己が漂着した時に得られたものがある。喪って初めて得られるというのならば、ジャックは今まさに、ただ『それ』だけのために動いている。生きている。
「ヒトの善き隣人で居たい」
 最強でなくてもいい。最新鋭でもなくてもいい。最優でなくたって構わない。
「今壊れるのは、惜しい」
 唯一つの願い己の心を突き動かすのだ。

 摩天楼の最上にて交錯する影と点。
 抜きはらったリボルバーから放たれる弾丸は『黒龍』を打ちのめすには足りなかった。けれど、その電気纏う弾丸は機体の動きを狂わせる。
 しかし、ランディングギアの四肢がジャックを押しつぶさんと迫る。
「ソンナソンザイイギナド」
 兵器には必要ない。
 そういうかのように『黒龍』の一撃がジャックに打ち下ろされる。

 見よ。

 これがオーバーロードの先にある光。
 鋼鐵の蹄(ダンス・レベジュ)は此処に高らかに打ち鳴らされる。その響きを『黒龍』が聞くことはないだろう。
 鋭き蹴りがあらゆるものを切り裂く。
 大気を、鋼鉄を、そして『黒龍』の核たる知性宿す電脳を、一刀両断の元に切り裂く。
 オーバーロードの代償はやすからぬものであった。
 砕けた脚部。カカシのようにジャックは立つことしかできなかった。

「お前は、強い。旧型新型をの括りを超越するほどに。おかげで俺も此のザマだ」
 苦笑いするようにジャックは呟く。
 たった一つを求めて天空を飛んだ嘗ての覇者。
『黒龍』――その名はジャックのメモリに刻まれる。
 それは無意味だと『黒龍』は最期に告げたかも知れない。摩天楼の最上にありて、砕けた機体が霧消していく。

 否定の言葉であった。
 けれど、ジャックはそれでも構わない。そのアイセンサーが煌き、告げるのだ。
「存在証明は、観測者が居てこそだろう?」
 確かに其処に在った。
 不明瞭な意義などなくとも、存在することができる。ジャックの中に刻まれた『黒龍』は、唯一無二として刻まれ、その姿を忘れない。

 そう、摩天楼に舞う『黒龍』の姿を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年03月31日


挿絵イラスト