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銀河帝国攻略戦⑤~強襲接舷衝角艦、襲来!

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●宇宙のずーっとあっちの方で
 ――銀河帝国攻略戦。
 その主力たりうる主要な艦船の大半が予定ポイントへの集結を終えたその段にあって、未だ辺境星系の一角を航行する船がある。
 貨物輸送船「ボア・ボア」――その船が戦争という一大商機……もとい、正義のための一大事に遅れを取ったのにはワケがある。
 かの船の自慢はその速力。
 その足の速さを活かし、辺境星系の少数船団を回っては、帝国へと立ち向かう気概を持つ義勇兵達や彼らから供出される物資、あるいは各星系の特産品などをどさりと詰め込む――いわば戦場行きの乗合バスの役割を果たしていたのだ。
 数少ない貴重なコアマシン搭載の船を戦争に駆り出す訳にはいかないが、何もせずに居るのは歯痒い……そうしたニーズにお応えしてみせたというわけである。格安で。
「といって、遅刻しちゃあ元も子もないからねぇ」
 透き通った緑の肌に、厳めしい大蛇の彫刻を刻んだクリスタニアンの女船長は、カンカンとコンソールパネルを指先で鳴らしながら上機嫌に体を揺らす。
 船団の中には乗船代金どころか此方の御足代まで気前よく差し出してくれる所まであり、物資を売りさばくまでもなく懐がぽかぽかと暖かい。
 なにより、あの鬱陶しい帝国に一矢報いる手伝いができるのだから、やる気になるのも無理はなかったのだ。
「あとはこのまま何事もなけりゃあ」
「親分! 帝国艦一隻ワープアウト!」
「キャプテンって呼びなっ!」
 躾のなってない部下の頭を張り倒しながら、女船長は一息に慌ただしくなったブリッジの中央に仁王立つ。
「座標と艦種、特定急げ!
 デコイ撒きながら全速離脱、反撃しようなんて考えんじゃないよ!」
「六時方向マイナス二〇! 距離六〇〇〇!」
 報告を聞いて女船長はニヤリ、と笑う。
 自船の後方、それだけの距離が離れていれば、高速駆逐艦相手でも海賊船「ボア・ボア」……もとい、今は貨物輸送船である「ボア・ボア」なら逃げ切れるだけの自信があった。
 続けざまの報告が耳に届きさえしなければ、その笑みに歪みが走ることもなかっただろう。
「艦種……強襲接舷衝角艦!?」
「『ドリル』かよ!?」
 モニターに表示される帝国艦艦種データ。
『強襲接舷衝角艦』と銘打たれたその艦は、正しく巨大なドリルの如き螺旋の船体図のワイヤーフレームモデルを描きだしていた。

●グリモアベース
「と、いうわけでして。
 皆さんにはこのドリルの中で一暴れして頂きたいなと」
 山技・勝安(酔いどれ剣客おねーさん・f01447)はくぴり、と自前の瓢徳利を煽りながら、真っ赤な顔で今回の作戦を伝える。
「えー……強襲なんとかかんとか、つまりこのお船はですね。船と言うより、弾丸なんです。うふふふっ、何それ?」
 何それと言われても困るので、猟兵の皆々様にはお手元の資料をご覧頂きたい。

 ――強襲接舷衝角艦。
 その艦はその名の通り巨大な螺旋状の衝角――衝角とは、突撃攻撃用に備え付けられる突起型の武装のことだ――そのものにコアマシンを載せ無数のブースターを取り付けただけ、という単純過ぎる構造の戦艦である。形としてはいわゆるドリル、そのものだ。
 小型船一隻相当のサイズに巨大戦艦を軽々動かせる大型コアマシンを積んでいるのが特徴であり、その重量出力比は並の高速艦では比べ物にならない。
 外装はひたすらに頑強であり、姿勢制御も兼ねる無数のブースターと帝国の誇る高精度演算機によって、超高速機動力と高い旋回機能を持つ。
 言うなれば、巨大な追尾ドリルが弾丸となって敵艦へと突撃、衝角攻撃によって打撃を与える、というわけだ。
 だが、それだけではない。
 艦の内部には百体を越える戦闘兵器が搭載されており、敵艦の内部に食い込んだ衝角艦の先端部から侵入。すみやかに占領、あるいは破壊し尽くしてしまうというのである。
 艦は事前プログラムされた通りに動くのみであり、内部に操船システムは存在しない。
 艦内には気密ブロックすら設けられておらず、船外同様の真空・無重力空間。
 ただ、ひたすらだだっ広い円錐状の船体の内側に、張り付くように固定された帝国兵器がずらりと居並んでいるばかりである。

「えー、皆さんはそのお船の中の、ど真ん中にお送りさせていただきますので。
 襲ってくる兵器の皆さんをどってんばったんずんばらりと、余さず残さずやっつけていただきたいわけですね、うふふふっ♥」
 どっちを向いても敵だらけの戦場。それも、遮蔽物どころか足場さえない宙空に放り込むのでよろしく――と、この酔っ払いグリモア猟兵は言っているわけである。
 なお、動きを阻害することのない最新式のスペーススーツの用意はあるので、真空で生きられる自信がない者は自由に使ってくれればいい。
「向こうさんとしてはですね。中に突然敵がわーっ! っと来るわけですから、向こうもわーっ!? っとなっちゃうわけです。
 その隙にどれだけ大暴れできますか、それがえーっと、アレですよ? うふふふっ♥」
 ――酔いどれ語を翻訳すれば、転送直後の不意打ちによる初撃でどれだけ効果的な不意打ちを与えられるかがカギということだ。
 何しろ狙いをつけずとも、四方八方上下左右、どこを向いても敵なのだ。転送直後に仕掛けた攻撃は盲撃ちでも外れはしまい。
 やりようによっては、敵の反撃を許さず制圧することも不可能ではないかもしれない。

 なお、お手元の資料によればミディアの宇宙船が近海に迎えに来る手筈になっている。
 内部の敵を掃討後、速やかに衝角艦を破壊、脱出まですれば後は彼女らの指示に従う形で問題はないだろう。

「今はほら、一人ひとりの色んな力が大事な時期ですから。
 一隻一隻勝って助けて、祝杯と参りましょう♥ うふふふふふふっ♥」
 祝杯、というフレーズに大変なアクセントを乗せて、グリモア猟兵はぐびぐびと徳利を煽った。


宝来石火
 お久しぶりです、宝来石火です。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 と、いうわけで遅ればせながらもこうして戦争に馳せ参じることとなりました。
 帝国恐怖のドリル型戦艦、強襲接舷衝角艦! その艦内に所狭しとずらり居並ぶ首なしウォーマシンの群れ!
 上も下もない無重力の世界で、全方位から襲い来る無数の敵を前にして、猟兵達は如何なる戦いぶりを見せるのか!
 皆々様の綺羅星の如き輝くアイディアと大活躍を期待しております。

 なお、打ち合わせのない他PLとの共闘などについて、特にNGな場合、或いは積極的に希望する場合などありましたら、プレイング末に書き添えください。
 そのプレイングを採用した場合、希望はなるべく、NGは必ず遵守させて頂きます。

 以上、宝来石火でした。

 ……酔っぱらいグリモア猟兵ですが、仕事はきちんとこなします。大丈夫です。信じて。
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第1章 集団戦 『彷徨うウォーマシン』

POW   :    多弾頭型収納ミサイルポッド
レベル分の1秒で【腰元から複数の誘導ミサイル】を発射できる。
SPD   :    演算処理
【高性能ソナーによって】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    近接形態
自身に【強化外骨格】をまとい、高速移動と【スラスター】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

諏訪野・みすず
スペーススーツを着て戦います。「向こうが数なら、こっちも数で」【エレクトロレギオン】を使い、出せるだけロボットを出して攻撃します。「最初の一太刀が大切だね」基本的に、援護やサポートにまわるようにします。「パパの故郷はみすずちゃんが守るのだ」共闘、アドリブ歓迎。


レイ・アイオライト
【POW判定】
形はナンセンスだけど、まあ対象の殲滅、って意味ならドリルは理にかなってるのかしらね。
まあいいわ、あたしは極近接で魔刀の居合斬り、【斬影ノ型・閃煌】(攻撃回数重視)で襲いかかってくるウォーマシンを片っ端から両断していくわよ。
撃ってくるミサイルはあたしの背中の傷跡から漏れ出す影で『オーラ防御』か魔刀の『クイックドロウ』『鎧無視攻撃』で真っ二つにするわ。
一応周囲の猟兵にも影を分けて『オーラ防御』、支援に回す。
攻撃の予測なんて、光以上の速さで抜かれる刀を予想したとしても回避なんてできるかしら?
敵が逃げる場合も考えて、鋼糸を張り巡らせることも忘れないわよ。
(共闘、アドリブ歓迎です)


苧環・つづら
また肝の据わった女傑さんね、しかも宙間乗合輸送中なんて。
……戦争後もそのまま堅気の輸送屋さんを続けてくれるといいけれど。

で、今回は艦内でも無重力……はいアタシ担当案件。
宇宙バイクの(後部にサモニング・ガイスト付)2人乗りで先陣切っちゃいましょ。
ガイストの槍と炎、アタシの衝撃波で味方に邪魔なウォーマシン達撃破、
ついでに奴等のターゲット役になるべくバイク駆って縦横無尽。
見切り残像フェイント駆使してガンガン逃げ回るわよ。
カウンター紛いの全速力突撃で撥ねられたく無けりゃ退く事ね!

勿論他の猟兵さん達の救援や援護も忘れずに。敵も此方も数は力よ。
……あ、ガイスト霧消後は猟兵さん乗っけて疾走出来るかも。


生浦・栴
【壁】で行動
共闘やアドリブも歓迎

移動中に高速詠唱を完成させておき
放出された感覚直後に猟兵の影無き方向へ範囲攻撃の衝撃波
無重力ならば無理な姿勢でも問題なかろう
周りは的ばかりとは楽し過ぎるな
背は山羊のに任せ
翼で体勢を調整しながら範囲攻撃の魔法で2回目の衝撃波
移動は付かず離れず
俺とお主で半々だな
上や下にも気を付けよと軽口を叩き合いながら

接近中の敵にはマヒ攻撃でスナイプ
近接はKanoで防ぐがあまり向かぬ
囲まれるならオーブから呪詛を練り上げ
山羊のに注意を発してからUCを発動
機械に電撃は堪えよう
ミサイルも叩き落とす

掃討後
この強度の破壊は骨が折れる
増幅器、演算機、コアマシンにUCを叩き込めば良かろうか


明石・鷲穂
【壁】で参加

無重力で戦うの初めてだ。
テンションあがるな。スキップとかできるか?
[空中戦]を活用するとしよう。

 「大暴れだ!…うわ移動難しいな」 
「的が多く楽しいのは同感だ。だが安心は出来ないからな。後ろは頼んだぞ。」 
移動直後には何の準備も出来てないからな。
[怪力]で前足や後ろ足を駆使して近くの敵を蹴散らそう。
移動は背中の羽根でゆっくりとだ。
 [地形の利用]をして、栴に背後を任せるような体勢に。

 「捕まえたぞ。……『これは慈悲だ』」
 [オーラ防御]で身を守りつつ、敵の攻撃から仲間を[かばう]。
近づく敵を[グラップル]で逃がさないよう掴んでUC発動だ。
あとは繰り返しだな。

(アドリブ連携歓迎)




 僅か〇.七秒。
 それが帝国謹製・強襲接舷衝角艦が、その艦内に本来有り得べからざる侵入者の存在を感知し、眩いレッド・アラートで艦内を照らし、エマージェンシー・コードをウォーマシン全機に通達するまでに要する時間である。
 円錐形をした艦艇の内壁面をびっしりと埋め尽くすように脚部を固定されて配備されたウォーマシンの群れが一斉に“上”を向く。
“上”とは即ち、艦の中心部。
 犇めくウォーマシン群が侵入者に向け、強化外骨格の甲高い駆動音を響かせて一斉に飛び立つ――だが。
 この戦いの始まりをその時点から描写したのでは、もう遅い。


 生浦・栴(calling・f00276)がウォーマシン群の一角を薙ぎ払う衝撃波を撃ち放ったのは、猟兵達がグリモアベースより帝国艦艦内へと転送された〇.〇八秒後のことだった。
 艦内に出現した猟兵へと対応すべく飛び立ったウォーマシン達であったが、その内の一角は衝撃波によって波打つ様に揺らぎ、隣接する僚機に激突し、その行動を阻害する。
 ユーベルコードではないその技が、一撃でウォーマシンを破壊したわけではない。
 しかし、広くもない艦内に密集配置された哀れな機械兵達の一区画は、自身らの覚醒よりも早く起こったドミノ倒しに巻き込まれ、慣性のままに玉突き事故を拡大させていったのだ。
「成程、周りは『テキ』だらけとはこういうものか」
 テキの字に『敵』と『的』とを当てながら、栴の口元は自然とにやけた。
 転送直後の発動を狙った高速詠唱での先制攻撃は期待通り、いや、それ以上の戦果を上げたと言えるだろう。
「いかんな、これは。少し楽しすぎる」
「それは同感だが――」
 スペーススーツに備え付けの通信機能を通じて、明石・鷲穂(門前の山羊・f02320)が声が届く。
 互いに目の届く距離に居ても、音は真空中を通らない。尤も、そうでなくては、眼前のウォーマシンのぶつかりあう大騒音で耳を塞ぐ羽目になっていたかもしれないが。
「――安心は出来ないからな。後ろは頼んだぞ」
「勿論。だが後ろだけか?
 上と下のを買って出てくれるとは、山羊のは剛腹だな」
「割り勘に決まってるだろ」
「吝嗇め」
 男たちはニヤリと笑い、それぞれの翼を大きく拡げてみせた。


 猟兵達の不意打ちは完全にウォーマシンの虚を突き、圧倒的な有利をもたらした。
「とは言え、大した数の差よね」
「あら。じゃあ、少し増やす?」
 明滅する真っ赤なアラートの光の中で、それでも影の色に染まったレイ・アイオライト(潜影の暗殺者・f12771)の通信機越しの呟きを、苧環・つづら(残響にて紡ぐ円環・f06155)は肌から通じる宇宙バイクの振動に紛れて耳にした。
 青灰色の車体は赤い光の中ではその色合いの妙を思う様に発揮することが出来ない。その代わりというわけではないのだが、既に暖気を済ませたマシンは抵抗のない無重力の真空空間をベストコンディションで疾走する。
 栴の第一撃に負けず劣らずのロケットスタートで既にウォーマシン共へと肉薄する、そのマシンの後部に浮かび上がる、仁王立つ戦士の陰。
 星屑の世界に不釣り合いな槍を携えし古代の戦士が、真空中に燃え盛る炎を纏い、具現したのだ。
 頼もしき増援を背に、つづらは一息にアクセルを吹かす。
「一番槍は、イタダキね!」
 急接近するつづらに負けじと、ウォーマシンは持ち味である機械的な――即ち、単調なれど完全に同調されたスラスター噴射による高速起動での対応に移る。否、移ろうとする。
 ――轟、とまるでソニックウェーブが起きたかのように。疾走するバイクの急旋回に合わせて、ウォーマシン達のボディがぐらりと揺れた。
 無論、それはソニックウェーブ等ではない。先の栴が放ったような――とは言え、技の由来はまるでことなるが――ユーベルコードによらぬ衝撃波を、丁度空間内に響き渡る音のEchoの様に放って見せただけだ。
 陣を乱したウォーマシンの群れの中に、古代の戦士が飛び込んでいく。さながら竜の尾の如く、バイクの機動に振り回され、曲乗りの様に足を絡めて。
 数体のウォーマシンが槍の穂先に薙ぎ払われたことを、戦士の体とバイクの振動を通じて、つづらは感じ取る。
 機械のボディが炎に灼かれ破裂するその閃光を目にするよりも速く、次の獲物の群れに向けてEchoは駆けた。


「とは言え、大した数の差よね」
「向こうが数なら、こっちも数で!」
 通信機から漏れるレイの呟きにつづらが応えてみせたのと、丁度被さるように。
 諏訪野・みすず(不思議系ダンサー・f00636)はより溌剌と、そしてより大きな数の増援を生み出していた。
「肝心なのは、最初の一太刀が――」
 ――エレクトロレギオン。電磁の軍勢が彼女の呼び声に応えるように召喚される。ずらりと、どさりと、ずららら、と。
 数の不利など、本当にあったのだろうか? 猟兵の転送された艦の中心部に向け殺到せんとするウォーマシンに対し、機械兵器の軍勢が殺到し返すその光景を見ればそんな疑問さえも浮かんでくるだろう。
「――何太刀になるかなのだーっ!」
 ウォーマシンの軍勢が、突如数を増やした敵対反応に向けて誘導ミサイルの弾幕を放つ。一のマシンが十に分かれる十の弾を放てば、百のマシンは万の破壊を齎す、数の暴力。
 しかして、一の機械兵器が十のデコイをばら撒き、誘爆に散る間際にも百の無誘導徹甲弾をばら撒くことを忘れずにいれば、九十の機械兵器が齎したものもまた、数の暴力だった。
 厄介な機動兵器の一つに肉薄したウォーマシンが感情の無い心を苛立たせるかの様に鎌爪状の脚を深々と突き立てる。
 バチリ、と一瞬のスパークを残して機械兵器は消滅し、後にはただ影が残った。
 ――そう、影。
 銀河帝国が誇る殺戮兵器たる首なしのウォーマシンのセンサーはあらゆる実体を感知してみせるだろうが、しかし。
 影は、見えない。
「――光断一閃」
 その声を伝える大気も、この空間にはない。
 然るに、そのウォーマシンは遂に自身の破損を感知する暇さえ与えられることなく、一刀両断の憂き目にあって爆発、四散する。
 その閃光の様な瞬きの中で、刹那、初めて影に陰が浮かんだ。
「どうどう? みすずちゃんタクシー、気に入ってくれた? 星幾つ?」
「評価は全部片付いたらね」
 みすずの通信に応える影の名は、レイ・アイオライト。
 機械兵器の背を掴み、その陰に入り、影となって一息に敵陣深くへと飛び込んだ、彼女はこともなげに未だ鞘に収めたままの魔刀の柄を柔らかく握り込む。
 味方の大破を通じてようやっとその存在を感知したウォーマシンが、レイという名の影に向け、あるいはミサイルの雨を、あるいは強化外骨格を頼りにした体当たりを仕掛けんとする。
 レイは、その刃を抜いた素振りは見せない。
 ただ――彼女を中心にして真空の無重力の艦内に、丸い水滴が散っていた。まるで、なにもない宇宙に、雨が降ったかのように。
 そうしてその、次の瞬間には。
 影の背から染み出した影が影を覆って影へと溶け込んでいった。
「――終わりよ」
 後には囁きだけを残して。

 ――斬影ノ型・閃煌。
 それは光速を凌駕する魔刀の居合。

 直前まで鞘に収まっていた刀は、直後にはもう、鞘に収まっている。
 どんな高精度の予測も無意味。
 光速に劣る高機動など論外。
 彼女がその刃を振るったことを、光以下の速度しか持たない世界は、決して観測出来ない。
 ただ――縦に、横に、逆袈裟に両断されたウォーマシンの残骸だけが、その魔技の実在を声なく叫び訴えていた。


「最初は凄く難しいなと思ったんだ」
「ほう?」
 鷲穂が何やら講釈を始めようとしている様子を感じ取り、栴は興味深げに首を傾げてみせた。
「コツは二つだ。まず、敵は足場になるってこと」
 姿勢を制御するように軽やかに拡げた鷲の翼の優雅さとは裏腹に、山嶺を駆ける山羊の後脚が眼下より二人目掛けて迫りきていたウォーマシンの土手っ腹を蹴り砕いた。
「成程然り。ならば、二つ目は?」
「足場は敵だってこと。
 壊れるくらい踏み込むのに遠慮はいらない」
 ウォーマシンを蹴り砕いた、その反動で大きく飛び出しかけるその体を、鷲穂は人の形の上半身を捻ることでぐぅぅ、と九十度回転させる。勢いそのまま、宙空でステップを踏むような脚さばきを見せ、横蹴りの様に繰り出された右前脚がウォーマシンの振りかぶった腕を砕いた。
 見事に慣性を殺しきり、栴との付かず離れずの距離を維持した鷲穂は大変に気持ちのいい笑みを浮かべた。
「無重力でもスキップはできる!」
「拍手喝采だな、音は鳴らんが」
 見渡せば、敵は動けるモノより残骸の方が、ずっと数が多い。対して、此方は損害らしい損害はない。確かめたわけではないがもしかしたら――全員が無傷、なのではないか?
「後は、時間が問題ね」
 そう口にするつづらが操るバイクの残像を追いかけて、連装ミサイルの軌道が絡み合い、ぶつかり合って、味気ない花火が戦場に散った。
 動き出した強襲接舷衝角艦を停止させる術はない。自動操縦により「ボア・ボア」に衝突する前に中の敵を掃討し、艦そのものも破壊して脱出しなければならないのだ。
「ならば――纏めて灼くか」
 そう言って、栴が自身のユーベルコード――Curse of Thunderの性質を伝えれば、皆まで言わずとも猟兵達は各々の役割を把握した。
「――OK、わかったわ。惹きつけ役は任せてちょうだい」
 応えたつづらの操るバイクが、速さをそのままに、挑発的な軌道を増して残骸の散る戦場を駆け抜ける。
「後詰めはあたし達が。仕掛けは済んでるわ――みすず?」
「ばっちり! なんと、もう配置に付いてるのだ!」
 今も何処に潜んでいるやも知れぬレイの声に応えたみすずは、ちゃっかりつづらのバイクの背に古代の戦士に代わってしがみついていた。回避行動をつづらに任せ、機械兵器の操作に集中しているのだ。
「山羊の、後ろを頼む」
「上と下もな」
 剛腹な山羊は笑った。


「ほらほら、こっちこっち!
 ノロノロしてると撥ね飛ばしちゃうわよ!」
 通信回線はフルオープンにされてはいたが、果たしてその言葉での挑発がウォーマシンに届いていたかは定かではない。
 さりとて、彼の操るバイクの軌道がマシンの注意を惹き付け、魅了していたのは確かだ。
 縦横無尽に、まるで自由に飛び回っているように思われるつづらのバイクは、しかし、徐々にその旋回軌道を狭め、ウォーマシン達を一所に呼び寄せている。
 即ち――自身を中心に周囲を迸る雷で灼き尽くす、その呪詛を唱える、栴の周囲へと。
 ――ウォーマシンに搭載された戦術プログラムは、公平に言って、優秀だったといえるのだろう。
 致命的打撃を受けるその前に、確かに彼らは仕掛けられた罠に気づき、その対策を実行に移したのだ。
 栴より比較的距離を取っていたマシン達は一斉に退避行動に移り――その全てが、先んじて雷に撃たれ、ショートし、機能を停止した。
 みすずの機械兵器の間を縫うように渡されたレイの雷竜真銀鋼糸が、青白い閃光を真空に弾けさせる。
 彼女の言う後詰めは見事に役目を果たした。
「知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し――」
 知らず、鷲穂の口をついて出たその言葉の出典が、さて何処だったか。
 鷲穂自身は思い出せなかったし、そもそも由来など知らずに聞き覚えただけだったかも知れない。
 深く思案する暇はなかった。栴に肉薄し、やぶれかぶれの突撃を仕掛けたウォーマシンを、オーラを纏った体全体で受け止め、掴み取らなければならなかった。
 心無い機械が仲間を救うために命懸けの特攻を仕掛けたのは、果たして心の芽生えた奇跡なのか。心亡きが故の全のための個の犠牲に過ぎないのか。
「――何にせよ。捕まえたぞ」
 鷲穂の左手が、その腕に抱いた全てを砕く。

 一切合掌・蓮解経。

 ――これは、慈悲だ。


 呪詛より放たれた雷が遍く敵を平等に灼き尽くし、さて。
 レッドアラートの消え、灯りを失った艦内――つづらの乗ったバイクのライトの正面に立ち、ポーズを決めるようにしてみすずはビシリッ! と細い指を一点に向ける。
「出口は――あっち!」
 続けて逆の方へと向き直り。
「で、この船のコアマシンは――そっち!」
 再びビシリ。
 それぞれ向けた指先のそのどちらにも、機械兵器がチカチカとライトの合図を送っていた。
「細工は?」
「りゅうりゅう!」
「後は?」
「しかけを!」
「御覧?」
「じるのだ!」
 つづらが、鷲穂が、栴がそれぞれ入れた合いの手に、律儀に乗っかるみすずちゃん。
「星五つね」
 そうして最後に下された、レイの評価に満足気に胸を張って、言った。
「パパの故郷はみすずちゃんが守るのだ!」

 ――強襲接舷衝角艦を脱出した猟兵達が目にしたのは、誘導灯をチカチカと照らす「ボア・ボア」とミディアの乗るスペースシップ。
 音もなく爆発、四散するドリルの如き艦を背に、完全勝利の栄誉を手にして猟兵達は凱旋を果たしたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト