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ウエルカム・トゥ・ザナドゥ

#サイバーザナドゥ #カワサキ

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#サイバーザナドゥ
#カワサキ


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 サイバーザナドゥ世界、旧日本領――“享楽都市”カワサキは、旧日本国領内の都市の中でも比較的に治安と秩序の保たれた街である。
 旧日本領最大の都市であるトーキョー・シティと、旧関東区画第二の都市といわれるヨコハマ・シティの間に浮かぶこの街は、旧時代には柄の悪さで有名だった街だ。今でも街に入れば『淫猥な』『すぐ接続できる』などの卑猥な文言を掲げた非合法店舗の電脳看板が並ぶ歓楽街があり、あるいは街中を大手を振って暴力的ヤクザウォーリアが闊歩しているのが目につくだろう。
 しかして、この街は逆にそうした非合法暴力組織の自警団的活動によって守られてきた都市でもあった。――それが功を奏して、巨大企業群もリスクを避けるために手出しを控えている現状を作り上げることができていたのである。
 そうした事情もあって、荒廃を重ねるこの世界においてもカワサキは比較的多くの人口を抱え、それを養うだけの物資の流通が行われている、比較的安全な都市としてこの世界に存在していた。

「――ってことで、実地調査にいってきて頂戴」
 開口一番、ドローテア・ゴールドスミス(f35269)は猟兵たちにそう告げた。
「ええ。新世界の話は聞いてるでしょう?サイバーザナドゥね。今から皆には、この世界の視察をしてきてもらうワ」
 ドローテアは教室のプロジェクターを起動し、ホワイトボードにプレゼン資料めいたスライドを映し出す。

『サイバーザナドゥ世界をしらべよう!』
『現地の文化を調査し、今後この世界で活動するにあたっての行動指針を学ぼう』
『大きな戦闘はない予定なのであんしんしてね』

 ――とのことである。
「とりあえず、みんなにはこのカワサキ・シティに出向いてもらうワ。ヤクザクランの勢力が強めでメガコーポの影響力が比較的緩めのー……まあ、この世界の中じゃ安全な方の都市ね」
 スライドが切り替わる。次にホワイトボードに映し出されるのは、カワサキ・シティと注釈のついた街の簡易的な地図である。
「みんなの仕事は、この街で遊んでくることよ。まずは――そうねぇ、とりあえず適当な居酒屋とか安いバーとかで飲み食いしてらっしゃい。そのあとは遊技場にでも顔を出してくるといいワ」
 ドローテアは更に画面を切り替え、飲み屋の並ぶストリートや市内の存在するいくつかの遊技場の情報をピックアップして映し出した。
 サイバネティック競馬場、サイバーカジノ、サイバネティックスポーツセンターに非合法地下闘技場施設――。ドローテアは指折り数えながら猟兵たちへと施設を紹介してゆく。
「ま、好きなトコ見てらっしゃい。いろんな世界があるもの。そこにどんな文化があるか、どんな人たちが生きてるのかを見てくるのはきっといい勉強になるワ」
 遊んだ後は最後に二次会でもしてぱーっと飲んでらっしゃい、とドローテアは付け加えた。
「ってことで、いいワね。みんなのやるべきことは、現地に行って、遊んでくること。それだけよ。……あー、でも、レポートはあとで提出して頂戴ね。これは絶対よ。それから、できれば現地の人たちともコミュニケーションとって今後の活動に繋がるようにしてくれればなおよし。こっちは努力目標でいいワ」
 そうして、そこまで言い終えたところでドローテアは一度言葉を切り、猟兵たちの姿を見渡した。
「いいワね。それじゃ、楽しんでらっしゃい」
 そしてグリモアに光が宿る――。かくしてドローテアに見送られ、猟兵たちは新たな世界へと赴くのであった。


無限宇宙人 カノー星人
 ごきげんよう、イェーガー。カノー星人です。
 新世界ですね。
 まずは文化習俗からイメージしていきましょう。よろしくおねがいします。
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第1章 日常 『サイバー居酒屋の夕暮れ』

POW   :    好きなメニューを好きなように飲み食いする

SPD   :    店主や他の客のオススメを頼む

WIZ   :    他の客との世間話を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――カワサキ・シティ、セキュリティランク・イエローエリア。『シルバーウィロウ・ストリート』。
 旧い時代から多くの店舗が立ち並ぶ飲み屋街として栄えたこのストリートでは、今なお無数のバーや飲食店が電子カンバンを軒先に掲げて営業している。
 ヤクザ・クランのヤクザウォーリアたち。再開発エリアや港湾部の工事・警備といった業務に従事する肉体労働者。市内のサイバネティック競馬場や電脳カジノに入り浸る博徒ども。そんな男たちを相手にする商売女やサイバーホステス。
 一見してまともな人間が不在の街であったが、カワサキ・シティは実際ガラの悪い連中で溢れかえる猥雑な街だ。ヤクザや肉体労働者のケンカは日常茶飯事で、白昼堂々ストリートのど真ん中で殴り合いが始まり、仲裁のために武装警官が出張ってくることも珍しい光景ではない。

 猟兵たちが降り立ったのは、そんな街並みである。

『美味い』『イタリアの風』『1000YENで酔う』
『合成肉が好き』『DASSAI風』『電子ブランあります』

 ――街並みを照らし出すのは、極彩色に輝く電子看板の群れ。
 見渡せばカネモチ向けの天然素材の使用を謳った高級店もあれば、消化器系をサイバネに置き換えたサイボーグ向けの飲食店もある。ちょっと奥まった路地に往けば、脱法電脳ドラッグを扱う非認可店舗やちょっと危険を伴う密造酒を提供するアンダーグラウンドなバーまで。様々な店を見つけることができるだろう。
御園・桜花
「樹が、一本も生えてません、よ…?」
桜の精のアイデンティティが覆りそうなほどショックを受けた

「今まで行ったどの世界よりも、死生観が乾いている気がします…」
放心したまま通りをあっちへよろよろこっちへよろよろ

「『DASSAI風』って何でしょう…脱サイバーの略でしょうか」
悩んだ末に『DASSAI風』に入店

「あの、お店のお勧めを、一通りお願いします?」
消毒済みの鼠の唐揚げ位は出てきても食べる覚悟で注文

「…ブフッ。此もしかして…メチルアルコール入りだったりしませんか…?」
「サイバーアイで内臓も換装済みなら、カストリ酒は手頃でしょうね…」
UC「花見御膳」使用し店内全料理を同じ外見の解毒効果料理に総入替


斎藤・斎
SPD
アドリブ歓迎

他の娯楽とは違って、食事は生命に直結しますから。
サイバネティック・オーガン――機械化した臓器を持たない“生肉”の私でも食べられるものがあるかどうか。事前調査の機会を頂けるのは、実際ありがたいですね。

メガコーポの都合で世界は回る――とはいえ、商品を選ぶのは客の側。売り物ひいては製造企業が信頼されなければ購入されることもないでしょう。
……まあ、最悪ドクワゴンの救急設備で治療すればいいか。

というわけで、中流以上向けの消化器官未改造でも大丈夫なお店で食事を。こういう場所では隣のテーブルの会話に聞き耳を立てるのはマナー違反。お店の方にお勧めを聞いて、それを頼んでみましょうか。


ガロウ・サンチェス
サイバーザナドゥ、カワサキシティか。
このゴチャゴチャした下品な感じは嫌いじゃねえな。
ガラの悪い連中たちとメンチ切りあいながら散歩して、
テキトーな居酒屋に入店だ。
…そいやフツーの店で飲み食いするのって何十年ぶりだ?
今までサバイバル生活が基本だっただけに、ちょっと戸惑うぜ。
あー、じゃあこれとこれと…ついでにコレ
(あてずっぽで注文)(何が出てきても泣かない)
んん、なんだこりゃ…合成酒?うーん。美味いっちゃ美味いんだが。
あんまし酒って感じじゃねえな。微妙。
だが…おつまみ類は意外に悪くねえな。
俺が普段食ってる缶詰やらとそう変わらない気がしてきたぜ。
ちゃんとした工場の食いもんなら、アポヘルより美味かもな。



 ――カワサキ・シティ。シルバーウィロウ・ストリート。
 規則性のない乱雑なネオンサインとサイバー広告が街並みを埋め尽くし、空を行き交う広告塔ドローンが消費者金融や最新遊技機の宣伝を叫ぶ。
 時刻は17時を回った頃。業務シフト交代や幸運な定時退社にありつけたサラリマンがぽつぽつと出没し始める、そんな時間帯であった。
「サイバーザナドゥ……カワサキシティか」
 ガロウ・サンチェス(f24634)は眩い電飾の洪水を仰ぎながら呟いた。
 次の瞬間にはサイバー・グラスに『すぐ相手ができる』の文字を光らせた煽情的な風貌のレプリカント女性が、ガロウの前で挑発的に投げキスをして通り過ぎ、その後には腕にゴリラの刺青を入れたメタルアームドヤクザがよそ者であるガロウを睨みつけながらすれ違った。
「ま……このゴチャゴチャした下品な感じは嫌いじゃねえな」
「ええ……私はちょっと困惑です……」
 ガロウの横で、御園・桜花(f23155)は困ったように眉尻を下げた。
「そうかい?賑やかで悪くねえと思うが――」
「それはそうなんですけど…………こ、この街……どこにも、樹が、一本も生えてません、よ……?」
 桜花はひどくショックを受けていた。
 ――それもそうであろう。桜花はサクラミラージュ世界の出身であり、桜の精として生まれた女である。
 出身であるサクラミラージュ世界は神秘の幻朧桜がいかなる場所でも咲き誇っており、幻朧桜から生まれ出でた桜の精である彼女からすればサクラミラージュ世界では常に家族が自分を見守り続けてくれていたような心持ちであった。
 猟兵として様々な世界を飛び回るようになってからは幻朧桜のもとを離れる機会こそ大幅に増えたものの、行く先々の世界でも木々は茂り、その中には幻朧桜に似た美しい花咲く樹木も少なくはなかった。
 しかして――この世界には、自然というものはほとんど存在しないのである!
「まあ、俺の世界も似たようなもんだったが……」
「アポカリプスヘルにもちゃんと草花は芽吹き始めてましたよっ!」
 そう。荒廃しきった無尽の荒野であるアポカリプスヘルにも、環境改善の兆しは見えつつあった。――そう、アポカリプスヘルですら、である。
「ああ……」
「どうもここは他の世界ともまた違った雰囲気のようですね……」
 くらっときた桜花の背中を、斎藤・斎(f10919)がそっと支えた。
「……たしかに、この街には街路樹一本すらありません」
 桜花を支えながら、斎はストリートの中にそっと視線を走らせた。
 なるほど、と斎が頷く。――たしかに、見えた範囲では草木の一本もその姿を確認することはできない。街の外に出たところで、骸の海による環境汚染を考えればまともな動植物の存在を期待することもできないだろう。
「文明が崩壊しているわけでもないのにこの崩壊ぶり……。ある意味、アポカリプスヘル以上かもしれませんね」
「ふうん、そういうもんかね。俺はこういう世界も悪くねえと思うが」
「あ、あれでもですか……?」
 桜花はガロウをつついて、視線を促した。示された方向――ストリートの端にガロウが視線を移せば、そこでは飲んだくれの老人が安価で粗悪な合成ドラッグ・カクテルのケミカル合成酒をしこたまカッ食らった結果としてひきつった笑顔で痙攣しながら転がっている。
「……まあ、本人がよけりゃいいんだろう」
 一見して治安の悪い猥雑な街並みにも見えるが、グリモア猟兵からの前情報によればここカワサキ・シティは地元を仕切るヤクザ・クランの勢力が強く、メガコーポの影響力が比較的少ないためにこの世界における主なオブリビオン関与事件である企業間抗争なども起こりにくい、“平和”な街なのだという。
 ならば、この光景もこの街の日常の一部なのだ。ガロウはそう納得して頷いた。
「ええ……」
「そういうことなのでしょう」
 斎もまた冷静に首肯して、ストリートを歩き出す。
「今まで行ったどの世界よりも、死生観が乾いている気がします……」
 ――まるで、スペースシップワールドのど真ん中にたった一人で放り出されたような。そんなとんでもない異郷に来てしまった気分であった。
「おおい、置いてくぞ」
「あ、待ってください!」
 半ば放心しかけていた桜花であったが、ガロウの呼びかけで我に帰りよろよろしながらついてゆく。
 かくして、三人の道中が幕を開けたのである。

「……『DASSAI風』って何でしょう……脱サイバーの略でしょうか」
 ぎらぎら光るネオン看板を仰ぎ、桜花がはたと足を止めた。
「わからねえ。だが、脱サイバー……なら、オーガニック的な何か、とかか?」
 ガロウが首を傾いだ。
「いえ。サイバーは「Cyber」……『C』ですから違うと思いますが――」
 斎は冷静に指摘する。
「……ですが、とにかく入ってみないことには、ですね。グリモア猟兵からの依頼は実地調査とレポートでしたから」
 ここで斎はここへ来る前にグリモア猟兵が話していた言葉を思い返す――。『現地の文化を調査し、今後この世界で活動するにあたっての行動指針を学ぼう』である。
「おお、そうだったな」
「はい。しっかりとした調査が必要です。特に他の娯楽とは違って、食事は生命に直結しますから」
 ――この世界の人類の殆どは、肉体の一部を機械に置き換えたサイボーグである。
 それは即ち、通常の人間とは身体の構造が異なる者も決して少なくはないということだ。サイバネティック・オーガンと呼ばれる人工臓器をもつのもこの世界では一般的である。
 では、そうした機械の身体をもった人類の食事は通常の人類と全く同一か――といえば、答えは否だ。消化器系を機械化した人類であれば、それに適した食事――いわゆる『サイバネ飯』を必要とするし、街にある居酒屋とてそうした需要に応えた食事を提供する。
 そうした状況の中で、その多くが“生肉”――あるいは“ウェット”だとか呼ばれる非サイバネ化人類である猟兵たちの食糧事情をどうするか。摂取可能な食事は提供されているのか。
 それを調査することこそが、今回の任務の目的なのだ。
「私も不安がないわけではありませんが……メガコーポの都合で世界は回る――とはいえ、商品を選ぶのは客の側。売り物ひいては製造企業が信頼されなければ購入されることもないでしょう」
 即座に死ぬような危険な食品が提供されるようなことはそうそうないはずです、と斎は付け加えた。
「そうですね……そ、それじゃ、思い切って入ってみましょうか!」
「ああ」
(……まあ、最悪ドクワゴンの救急設備で治療すればいいか)
 どれにせよ、ここで立ち往生していては任務を遂行することもできまい。清水の舞台から飛び降りる勢いで、猟兵たちは決意し、そして入店する!

「いらっしゃいまセ」
 猟兵たちを迎え入れたのは、150cmほどの体高をもつオートマトンであった。A3規格ほどのサイズのモニタに『サケ・バー カワウソ』の文字が表示されている。
「なんメイさマでスか」
「3人です」
「ごアンなイしまス」
 斎が人数を告げると、下部のローラーを走らせてオートマトンが空席へと猟兵たちを先導する。
 恐る恐る席に着いた猟兵たちの様子を見遣って、オートマトンがテーブルの横についた。
「おお……すげえ、ちゃんと席がある…………いや、当たり前だが……」
 席に座ったとたんに、ガロウが声を漏らす。
「……どうしました?」
「いや、どうもしねえが……」
 ガロウの故郷であるアポカリプスヘルにおいて、こうした食品を提供する店舗という概念は久しく存在していなかった。
 そう――既に四十路を過ぎたガロウであったが、彼が文明的な概念をもつ世界の中で生活した経験は、アポカリプスヘルがそうでなかった時代――今から考えてみれば、もう何十年かの昔である。
 すなわち、『食品を提供する店に入る』という経験自体が、彼にとってはもはや数十年ぶりのことなのだ。
(……今までサバイバル生活が基本だっただけに、ちょっと戸惑うぜ)
 今まで必死に生きてきたものだから気づきやしなかったが、よくよく考えれば酷い生活をしてきたものだとガロウはかつての日々を懐かしむ。 
「ごちゅうモんは、パネルをタッチしてくダさい。ごフメイな点がアレば、スタッフをおよビくだサイ」
「ん……おう」
 オートマトンの雑な案内音声が、ガロウを思索の中から引き戻した。
「あー、じゃあこれとこれと……ついでにコレ」
 ガロウはオートマトンのモニタ部に表示されたメニューボタンをあてずっぽうで適当に押してゆく。
「サイバネメニューが選ばれマした。ヨろシイですカ?」
「なにぃ?」
「……あ、なるほど。ちゃんと確認してくれるんですね」
 ここでオートマトンの音声案内に顔を上げたのは斎である。
「どういう意味だ?」
「ええと、たぶんここ、おなかの中まで機械に置き換えてる人向けのメニューとそうでないので分けてるんですよ」
 訝しむガロウを制し、斎がモニタを見る。
「ほら、ここに『サイバネ』ってアイコンがついてます。多分これですね」
 画面を覗き込む斎が、パネルに触れて操作する。キャンセルボタンを押して、斎はガロウの注文したメニューの中から『人工消化器対応ハイカロリー合成ウドンヌードル/ミソ・フレーバー電脳パッケージ』をキャンセルした。
「お、おう」
「じゃ、じゃあ私はせっかくですから、お店のおすすめを……あっ、えーと……さいばね?じゃないのでお願いします」
 桜花は恐る恐るオートマトンへと注文を伝えた。それを聞いたオートマトンは承知しましタと返し、ゆっくりと店の奥へと向かってゆく。
「……どんなのが来るんでしょうね」
 既に桜花は戦々恐々としていた。
「……大丈夫ですよ、たぶん」
「まあ……ウチの世界のもんよりはマシなのが出る……と思うぜ」
 他の二人も一抹の不安を抱えながら、注文した料理の到着を待つ。
「おまタせしまシた」
 およそ5分程度経過したところでオートマトンが席へと戻り、そして内蔵したマニピュレーターで料理の皿や飲み物のグラスをテーブル上へと提供してゆく。
「こちラ、フライド・ベジキューブと、栄養成分配合型合成マルゲリータ・ピッツァ。動物性タンパク質合成フェイクビーフのロースト。それかラ、お飲み物は電子ブランデー、電脳フレーバー再現型ビール。それとDASSAI風飲用アルコールでス」
 卓上に並んだのは、フライド・ベジキューブ――一片3センチ程度の緑の立方体を揚げ調理したと思しきものと、見た目と香りは他の世界でも見ることのできるそれによく似たマルゲリータ・ピザ。妙に四角く角ばっていることに目を瞑れば、割合普通のそれに見えるローストビーフらしきものである。
 いずれもオーガニックなものでないことは品名が物語ってこそいるものの、思っていたほど奇怪なものが飛び出してこなかったので斎はほっと一息ついた。
「このDASSAI風っていうのは……?」
 目の前に出された透明なアルコール飲料に、桜花は首を傾ぐ。
「旧時代に存在しタ伝説的なアルコール飲料・「ダッサイ」のフレーバーを極めて精巧に再現しタ、当店自慢の飲用アルコールでス」
「はあ……」
 このサイバーザナドゥにおいては、環境汚染や時代の変化によって旧時代に存在していた伝統文化や老舗の商品などが失われてしまったものも決して少なくはない。
 特に多くの影響を受けたのが、昔ながらの製法を用いていた老舗の酒蔵や発酵食品を扱うメーカーだ。この世界で旧時代のものと同じ酒を飲みたければ、限られたカネモチが道楽のためにパトロンとなって保護している僅かな酒造を頼る他にない。
 当然、そうした高品質なオーガニックアルコール飲料が一般市民の間に出回ることは極めて稀である。
 そのため、代用として発展したのが科学的再現性フレーバー飲料である。これは無味無臭の飲用アルコールをベースとして、科学的成分分析によって緻密に計算されたバランスで適切な分量のフレーバーシロップを加えることでその味わいを科学的に再現した飲料なのだ。
 中でも『DASSAI風』は人気の高いフレーバーで、これを用意しておくだけで客足が増える魔法の味だと言われているのである。
「なるほど、ダッサイですか。UDCアースで同じものの名前を聞いたことがあります」
 一口もらえますか、と斎がグラスに手を伸ばした。
「……んっ。……ああ、思ってたよりは美味しいですね」
 舌先に感じる甘味は日本酒のそれに似た味わいであった。なるほど、再現性は悪くないかもしれません、と斎は飲み下して思案する。
「どれ。俺ももらおうか」
 続いてガロウがグラスへと手を伸ばした。琥珀色のアルコール飲料を口に含み、その味を確かめる。
「んん、なんだこりゃ……合成酒?」
 電子ブラン――旧時代に存在したブランデーの再現を目指して調合されたブランデー風アルコール飲料である。
 その痺れるような刺激ある辛口の味わいに虜になるファンも多いとされるが、反面、ケミカルな味を感じやすく、そこに気づいてしまうと酒らしさを見出しにくくなる弱点があるとも言われている。
「うーん。美味いっちゃ美味いんだが……あんまし酒って感じじゃねえな。微妙」
 ガロウは眉根に皺を寄せた。しかして矢継ぎ早、口直しとばかりにベジキューブへと手を伸ばす。
「ん……」
 さくさくとした食感に、内側から染み出す枝豆に似た味わい。大豆をもとにした植物性タンパク質源をベースに健康維持に必要な野菜成分をミックスしてつくられた健康栄養食がベジキューブであるが、これを揚げたフライド・ベジキューブは子供のおやつや酒のアテの定番として広く親しまれている。
「こっちは意外に悪くねえな……俺が普段食ってる缶詰やらとそう変わらない気がしてきたぜ」
 ガロウは呵々と笑いながらふたつめのフライド・ベジキューブをつまんだ。
「それでは、私はこれを……」
 そして、桜花がまだ誰も手を付けていない電脳フレーバー再現型ビールを手に取り、一口口に含む。
「……ブフッ」
 そこで桜花の下を襲ったのは――真正面から襲い掛かるアルコールそのものの味!
「なんですこれ……あ、アルコールの味しかしないっていうか……此れ、もしかして……メチルアルコール入りだったりしませんか……?」
 顔を青くした桜花が口の周りを除菌オシボリで拭きながら眉を顰める。
 ――しかして、これは店側の誤りである。ここで提供された電脳フレーバー再現型ビールは、味覚系の神経をサイバネ化したサイボーグ向けの飲料だったのだ。本来は自分の電脳を調整し、味蕾から感じ取った味に補正を加えながら飲むことが正解の飲料なのである。
 だが、それと知らぬ猟兵たちにとっては単なるアルコールの味がするだけの粗悪な飲み物だ。
「サイバーアイで内臓も換装済みなら、カストリ酒は手頃でしょうね……」
 脳髄を直撃したアルコールの刺激に頭をくらくらさせながら、桜花がふわふわと呟いた。
「あの……こっち、飲んでみます?」
 見かねて斎がDASSAI風飲用アルコールを桜花へとパスする。
「……」
 すこしの逡巡を置いてから、桜花はグラスを口にした。
「あ……。こっちはそんなに悪くないですね……」
「……とりあえず、食べて害のあるものはなさそうですよ」
「ああ。ちゃんとした工場の食いもんなら、アポヘルより美味かもな」
 ――かくして、3人は卓上の料理へと手を伸ばし、それぞれに味を確かめてゆく。
 少なくとも――いま、卓上にあがった食事は、いずれも生身の人間が食べても問題なさそうなものだ。
 身をもってそれを確認した猟兵たちは、更なる調査のためにオートマトンを呼び出して、次の注文を開始する。

 こうして、カワサキ・シティでの実地調査任務はスタートを切ったのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

デンゾウ・ゴガミ
安全、安全ね。グフフ、ドローテア=サンの言葉は実際正しい、カワサキはまだマシなほうだぜ。前に来た時よりゃ悪化してるみたいだがね。

シルバーウィロウといやァ、なンといっても「羽名琴」のケバブ料理だ! 鍋もいいが、サケのツマミにするなら、ケバブをかじりながらやるのがいい。グフフ……ヨダレが出てきちまったぜ。

てわけで店に来てみたが、運が悪いな。店の前でヤクザどもが揉めてやがる。
ドーモ、グフフ……ちょっとやめないか。マッポが来たら面倒だぜ?
……聞いちゃねェな。なら……イヤーッ!
ウワテナゲでイポンだ。スモトリみたいだろ? グフフ……こンな腹してるだけはあンのさ、
まだやるかい? 次は手加減は出来ンぜ……。


白斑・物九郎
【エル(f04770)と】



アーハ、ココがサイバーザナドゥですかよ
サイバーパンクシティはキマイラフューチャーで歩き慣れちゃいるつもりですけども、こっちゃはなんてゆーか……全体的に……マッポー感強めですわな

って、なんでエルが居るんスか??
(ふと気付くとなんか着いて来られてた)


・エルとその辺を見て回る

・ヒトもモノも非天然素材で満ち満ちた界隈で自分の【野生の勘】がどのくらい利くか確認しておこう
・視界外、路地向こうの地形や道路の行き交いを漠然とイメージしてみてから、エルの出した画像で答え合わせしてみたりして

・女連れである所でガラ悪いのに絡まれでもしたら、エルを自分の後ろに下がらせて素手喧嘩で応対しとく


エル・クーゴー
【物九郎(f04631)と】



躯体番号L-95_新世界サイバーザナドゥに現着
これよりマスターに随行しての現地情報収集を開始します
(しれっと物九郎に着いて来た)


・物九郎とその辺を見て回る

・自前の電脳世界をこの辺のネットに(一応【暗号作成】で発信元情報は適当にアレしてから)接続し【情報収集】、周辺地図を出しては物九郎に見えるようにお出しする
・自分も自分でパーツショップ系に興味があるので調べてみたり

・ガラ悪い人と出くわしたら、ゴーグルのバイザー部分に『コンチニワ』って電光掲示してアイサツしてから物九郎の後ろに下がる

・武装警官とお会いすることになったら、電光掲示の内容を『実際善良』って変えてアイサツする



 渇き、澱んだ風の匂い。
 空を仰げば夕映えの中を回遊するクジラめいてゆらゆらと進む電光掲示広告塔ドローンの群れ。
 地上へと視線を落とせば、見渡す限りの薄汚れたストリート。そこらに転がる薬物中毒者に、客を待つサイバーヨタカ。そして、そうした汚れを覆い隠す化粧めいて、ネオンサインと電光看板が街中どこもかしこも光で塗り潰していた。
 サイバーザナドゥ。カワサキ・シティ。
 白斑・物九郎(f04631)が降り立ったのは、そういう街であった。
「アーハ、ココがサイバーザナドゥですかよ」
 物珍しがるように、物九郎が視線を巡らせる。通りすがりに目が合ったサイバーヨタカの女が物九郎へと色目を使ってきたので、物九郎はこれを無視。続けて通りすがった武装サイボーグアイアンヤクザが怪訝そうな目で物九郎を睨んだが、幸いにもメンチの切り合いや因縁のつけあいにまで発展することはなく、そのまますれ違うのみにとどまった。
「フーン……サイバーパンクシティはキマイラフューチャーで歩き慣れちゃいるつもりですけども、こっちゃはなんてゆーか……全体的に……マッポー感強めですわな」
「肯定。マスター及び当機の現在地である『カワサキ・シティ』の治安レベルは、ワイルドハント本部施設の周囲10キロ圏内に比して約3000%の危険値と推測されます」
 即ち、普通に街中を移動していて危険・あるいは犯罪行為に遭遇する確率がキマイラフューチャーのおよそ30倍ですね、とエル・クーゴー(f04770)が解説を加えた。
「はーん、30倍……そりゃ物騒なことですわな……」
 なるほど、たしかにこの薄汚れた街並みと行き交う連中のガラの悪さを見ればその数値も納得がいく。物九郎は納得した面持ちで頷いた。
 そして。
「……って、なんでエルが居るんスか??」
 ここで物九郎はようやく呼びつけた覚えのない副官が自分の横についていることに気づく。
「当機もグリモア猟兵より正規のルートで依頼を受注しました」
「おう」
「これよりマスターに随行しての現地情報収集を開始します」
「ニャんでですかよ!?」
「先述の通り、我々の現在地の危険度はキマイラフューチャーの約30倍に相当します。単独での行動はリスクを伴うでしょう」
「はー……」
 物九郎は苛立つように髪を掻き毟った。
「まあ、ついてきちまったモンはしょうがねぇっすわな。……オラッ行くぞエル。ついて来なさいや」
「了解。マスターからの命令を正式に受諾しました。当機はこれよりあらためて現地情報収集を開始します」
 エルはゴーグルのバイザー部に[ヤッタ-(^_^)]の顔文字を表示しながら、物九郎とともにストリートを歩き出した。
「……つっても、グリモア持ちが言うにゃアここは安全な方の街ってハナシでよ――」
「グフフ……安全、安全ね」
「……なんすか?」
 物九郎の目の前に、突然肉の壁が立ちはだかったのはそのときである。
「グフフ、ドローテア=サンの言葉は実際正しい。カワサキはまだマシなほうだぜ。前に来た時よりゃ悪化してるみたいだがね」
「お前さん、一体――ああいや、猟兵っすな?」
 突然出てきた巨漢の姿に一瞬面食らった物九郎であったが、男の口から出たグリモア猟兵の名に気づけば同じ立場の猟兵であると気が付く。
「いかにも。ドーモ、ゴガミ・デンゾウです」
 デンゾウ・ゴガミ(f36547)は二人へと向けて奥ゆかしくアイサツした。
「ドーモ、ゴガミ=サン。当機は躯体番号L-95です。ハジメマシテ」
 エルは素早くアイサツを返す。
「あー……ドーモ、ゴガミ=サン。モノクロです」
 一方、物九郎はやや面倒臭がりながらもアイサツを行った。
 これは事前にグリモア猟兵より伝えられていたサイバーザナドゥ世界における礼儀のひとつなのである。出会いがしらには必ずお互いに名乗り挨拶を交わし合うのがこの世界においては最低限かつ最重要の礼とされているのだ。これは戦いや殺し合いの場においても例外ではなく、アイサツのできない者は周囲の人々からスゴイ・シツレイのレッテルを貼られ、それ以後はあらゆるコミュニティにおいて冷遇されることになるのである。
「で、言うトコを見るとお前さん、ここいらの出身なんすか?」
 ここで物九郎はデンゾウに振った。
「その通り。なに、これから世話になる先輩方にな、アイサツがわりに案内役でもさせてもらおうかと思ってね」
「そりゃ殊勝な心掛けで」
「提言。現地の情報に通じた協力者の存在は任務にとって非常に大きな助けになることが考えられます」
「そこまで言わなくたってわかってますでよ。……ンじゃ、せっかくだからお前さんに案内任すとしやしょうかね」
「グフフ……任せてくれ。さあ、まずは腹ごしらえといこうぜ。ここらはウェットでも食える美味い店も多い。おれは詳しいンだ」
 ウェットとはサイバーザナドゥの一部で用いられるスラングのひとつであり、『生身の人間』を意味する言葉である。場合によっては差別用語として用いられる場合もあるが、飲食に関わる場においては消化器系をサイバネ化していないことを指す。
「カワサキのシルバーウィロウ・ストリートといやァ、なンといっても「羽名琴」のケバブ料理だ!」
 道中、デンゾウは物九郎たちに熱っぽく語った。
「ほーん……ケバブすか」
「ああ、ケバブだ。鍋もいいが、サケのツマミにするなら、ケバブをかじりながらやるのがいい。グフフ……ヨダレが出てきちまったぜ」
「ま、悪かなさそうですわな」
 まァ、焼いた肉なら不味いってことはあるまい。ふんふんと頷きながら物九郎はデンゾウについてストリートを進んでゆく。
 しかして、その一方。
「エル」
「はい」
「右路地の先――剣呑な感じっすわ。こりゃ“事務所”かなんかですよな?」
 ストリートを往きながらも、物九郎は自らの“勘”が通じるかを試していた。
 物九郎はキマイラである自分の性質をよく理解しており、自分の身体が持ち合わせた『野生の勘』を大きな武器のひとつとして数えている。
 しかして、勘、というのは周囲への鋭い洞察力と変化に気づく違和感というふたつの資質で構成されている。それが最も活きるのは『よく知った環境下』だ。
 逆を言えば、新たに訪れた世界――すなわち、見知らぬ環境に置かれた状況では、その勘は鈍っても仕方がない、といえるだろう。
「肯定。ヤクザ・クランの集会所と推察されます」
 エルは展開した電脳領域に周辺の地図を表示し、それを物九郎に見せながら頷いた。
「ふん……ま、及第点ってトコっすな」
「提言。この調査任務の間に、この世界の環境に感覚を慣らしておくことが推奨されると考えられます」
「言われなくたってわかってまさァな」
 ふす、と鼻息を吹きながら、物九郎はエルを小突いた。
「グフフ……二人とも、随分と仲良しのようだな」
 その様子を見遣って、デンゾウはからかうように声をかけた。
「肯定です。当機とマスターはたいへん“なかよし”です」
「エル。その冗談やめろって前にも言ったはずで――んん?」
 苦虫を噛み潰す顔をした物九郎が、渋面のまま視線をストリートの先へと向ける。
 その時である。
「ダオラーッ!!」
「ダッコラー!!テメッコラー!」
「スッゾコラー!!」
「アイエエエエエエ!」
「ヤクザだ!」
「ケンカだ!!」
 ――騒乱!
 そこは既にケオスの坩堝となりつつあった。友好関係ではないふたつのヤクザ・クランの構成員同士がうっかり肩をぶつけ合い、口論となってそのままケンカに発展してしまったのである!ウカツ!
 片や片腕をクラマ・インダストリ製戦闘用拳打装甲によって武装したアームドヤクザ!アトウレ・ヤクザクランの若い衆である。
 対峙するのは三条鉄工製戦闘用ブレード・アーム“イシキリ”で武装したラウゾナ・ヤクザクランの者だ!
「ダオラーッ!」
 アトウレのヤクザが赤熱した拳打装甲を振るう!轟音!頭部を打ち抜かれたラウゾナのヤクザがストリートを三度バウンドして転がった!
「テメッコラー!ヤリヤガッタナコラッー!」
 だが、ラウゾナのヤクザはすぐさま態勢を立て直し、“イシキリ”を振りかざしながらそのままアトウレのヤクザへと切りかかりに行く!
「おーおー。やってやがンなァ……。ったく、運が悪い」
 そのケンカの様相を見ながら、デンゾウは肩を竦めた。
「ちょっと止めてくるぜ。店はすぐそこなンだ」
 そして、デンゾウは物九郎たちに手を振ってから二人のヤクザのもとへと向かい、ヤクザ同士の間に割って入る。
「なんだテメエ!」
「邪魔するつもりかァ!?」
「まア、まア。ドーモ、グフフ……ちょっとやめないか。マッポが来たら面倒だぜ?」
 デンゾウはゆったりとした態度で二人のヤクザを諫めにかかる。
 ――しかし。
「ザッケンナコラーッ!!」
「スモトリ風情がッコラー!」
 既に脳天へと血が上り切ったヤクザたちは聞く耳持たず、手にした武装を振り上げながらデンゾウへと襲い掛かる!はさみうちだ!
「……聞いちゃねェな。なら……」
「――ちょいと痛い目見てもらわニャ、っすわな」
 瞬間、横合いから鋭く蹴り足が飛び込んだ。
「グアーッ頸椎フレーム!!」
 クリーンヒットした下駄の歯がしたたかに頭部を打ち、衝撃で派手に吹き飛んだラウゾナのヤクザが悲鳴をあげて地面を転がり、そのままノックダウンする。
 鮮やかな喧嘩殺法であった。――言うまでもあるまいが、物九郎が割って入ったのである。
「なに……ッ!?」
「余所見してンじゃねえぞッ!イヤーッ!!」
「グアーッ頭蓋骨!!」
 突然の闖入者に困惑した瞬間を見逃すことなく、デンゾウがアトウレのヤクザへと掴みかかり、そのまま投げを決めたのだ!これもまた見事な決まり手であった!
「ウワテナゲでイポンだ。スモトリみたいだろ?グフフ……こンな腹してるだけはあンのさ」
「う、グウ……!」
 転がされたアトウレのヤクザが呻きながら立ち上がろうとする。
「なンだ、まだやるかい?次は手加減は出来ンぜ……」
 デンゾウはその前にしゃがみ込むと、にこやかな笑みを向けながらそう言った。
 ――しかして、その表情とは裏腹に、デンゾウは強烈なプレッシャーを放っている。それは、死線を潜り抜けた経験のある者だけが持てる静かな威圧感であった。
「アイエッ……や、やらねえ……」
「ならいい」
「警察だ!全員そこを動くな!」
 武装警官たちが現場へと到着したのは、丁度そのタイミングであった。

「――はい。我々が現場に到着した際には既にケンカ状態でした。こちらは巻き込まれたため、仕方なく応戦したのです。実際正当防衛の範疇と判断できるはずです」
 目元のバイザーに『実際善良』『やさしい市民』『平和を愛する』などのピースフル・ワードを投影しながら、エルが警官たちによる聴取に応じた。
 カワサキ・シティの都市刑法は既に電脳領域を介した情報収集によって抜け目なく把握済みだ。エルは最適な受け答えをすることで武装警官たちに疑念の欠片も抱かせることなく、この場を解決することに成功したのであった。
「オツトメご苦労様です」
 白黒ペイントのパトロール・ホバーホイールに乗ってヤクザたちを連行する警官たちを見送って、猟兵たちはあらためてストリートの探索へと戻る。
「グフフ……あンた、やるじゃねえか。さすが先輩ってことかね、さっきのケリ・キック、惚れ惚れしたぜ」
「ふん。まア当然ですわな。あの程度の連中に後れを取る俺めじゃねえっすわ」
 一方で、共にステゴロの格闘術に通じた者同士であるところで通じ合った二人は上機嫌で先のやり合いの感想戦を行いながらシルバーウィロウ・ストリートを進んでゆく。
「マスター。デンゾウ=サン。間もなく目的地に到着します」
 ――そうして、3人はようやく目当てであったケバブ店へとたどり着くのであった。

 余談であるが――。
 ケバブとは旧時代において旧中東圏で育った食文化であり、主に串に刺してローストした肉料理のことを指す。
 旧時代において旧日本領では、串に刺さった巨大な肉の塊を削ぎ切りにしたものをピタと呼ばれる薄い円形のパンにサンドして食べるドネルケバブが特に有名だろう。
 しかして、環境汚染が進行し、例に漏れることなく畜産業の大きく衰退した現代サイバーザナドゥにおいてオーガニック食材を入手することは非常に困難だ。そのため、現在出回っている多くの食肉は食品生産プラントを有するメガコーポによって培養・生産されたタンパク質合成ミートである。当然ながらオーガニック食材には味は劣ると言わざるを得ない。
 だが、それでも人類の――その中でも特に旧日本領に住む人々の――食事に対する情熱は凄まじいものがある。
 そうした情熱を持つ者たちは、手に入れることが可能なこの合成肉や代用ベジタブル、あるいは遺伝子改造済小麦使用の調整済合成小麦粉を用いたパンなどの食品を使いながらも、人々の日々の生活に食事という名の潤いをもたらすべく切磋琢磨を続けているのだ。そう、ご飯は笑顔なのである。
 何が言いたかったのかというと――――つまり、猟兵たちは満足のいくケバブ料理にありつけた、ということである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アスカ・ユークレース
サイバーザナドゥ……初めて来る世界のはずなのに懐かしく感じるのは、なぜでしょう……

ま、ややこしい事考えるのは後!とにかく今は豪遊するわよー!

まずは合成鳥肉の焼鳥屋に行きましょう。皮やもも、ねぎまに舌鼓打ちつつVR烏龍茶で一杯。にしても中々凄いですねこの再現度……味どころか匂いも食感も本物そっくりですよ、

誘われたら相席もやぶさかではありません、地元民の方との交流も大事ですし。ついでにオススメの遊べるスポット情報も聞けたらいいですね

アドリブ絡み歓迎


夢ヶ枝・るこる
■方針
・【POW】選択
・アド/絡◎

■行動
確かに、どの様な世界か博する為にも、まず回ってみるのは良さそうですぅ。
折角ですし、楽しんで参りましょう。

肉体労働者の方が多い街でしたら、そういう方向けの『量の豊富なガッツリ系の料理』が有りそうですぅ。
年齢的にアルコール類は頂けませんから、その様な『ガッツリ系の料理』を探して、其方をお願いしますねぇ。
年齢的に、他のお客さん等に色々とからかわれそうな気もしますが、笑顔でいなしつつ『量が豊富な料理』をしっかりと[大食い]で頂き、場合によりお代わりもしてしまえば、或る程度は認めて頂けるでしょう。
その後は、他のお客さんの世間話等を聞きつつ、色々と頂いてみますねぇ。



 ――淀み、薄汚れてこそいるが、活気のある街。
 というのが、アスカ・ユークレース(f03928)から見たカワサキ・シティの印象であった。
 行き交うサイバーネットワーク。ストリートを見上げれば、元来電脳世界の内側をルーツとするバーチャルキャラクターの彼女の網膜には痺れる電波が忙しなく飛び交うさまが映る。
「サイバーザナドゥ……初めて来る世界のはずなのに懐かしく感じるのは、なぜでしょう……」
 ぼんやりと呟くアスカの胸に、仄かな望郷の念が湧き出た。
 その在り様が、この世界の姿との高い親和性をもつが故であろうか。――雑多なストリートの中に佇みながらも、アスカはこの世界の空気に居心地の良さすら感じ始めていた。
「ま、ややこしい事考えるのは後!」
 ここでアスカは思考をぱしっと打ち切って気分を切り替える。おー、と拳を突き上げて、グリモアベースから供与された調査活動用のクレジット・トークンを掲げた。
「とにかく今は豪遊するわよー!」
「わあっ」
「……おっと!?」
 Bump!しかしここでアクシデント!気分を切り替えようとしたアスカであったが、ここで通りすがりの人にうっかりぶつかってしまう!
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫ですぅ……。ちょっとびっくりしただけですからねぇ」
 苦笑しながら緩々と首を振るのは――夢ヶ枝・るこる(f10980)であった。
 奇遇なことに、彼女もまたグリモア猟兵からの任務を受けてカワサキ・シティへと調査のために赴いた猟兵である。るこるのバストはきわめて豊満であった。
「わっ、すご――おっと」
 るこるの豊満さに驚きかけたアスカであったが、よくよく考えればサイバーザナドゥの人々も猟兵も様々な価値観をもって自分の身体や見た目を誇らしく生きている。多様性の時代だ。びっくりして声をあげそうになった自分をちょっと恥じて、アスカは姿勢を正した。
「ごめんなさいね、ちょっと……その、テンション上がっちゃって?」
「いいですよぅ。私も不注意でしたからぁ……あっ、ところで、あなたも猟兵のひとですよねぇ?この街には任務ですかぁ?」
 ――ここで目ざとくサイバーザナドゥ慣れしていなさそうなアスカの雰囲気から察して、るこるが切り込んだ。
「あっ、あなたもご同業?やっぱりわかっちゃうかー」
「やっぱりでしたかぁ。……それじゃあ、あの。せっかくですから、一緒に回りませんかぁ?私も一人でちょっと心細かったところなんですぅ」
「わかったわ。なら、ここは共同戦線といきましょう!」
 二つ返事に近い気安さで、アスカはどんと胸を叩きながらるこるの申し出た同行を快諾する。
 ――というわけで、そういうことになった。即席で道連れとなった二人は、まず腹ごしらえのためにシルバーウィロウ・ストリートをゆく。

「……あっ。そこのお店、良さそうじゃないです?」
 ストリートをゆく中で、アスカが一度足を止める。
 アスカが指し示した先は一軒の居酒屋であった。サイバーザナドゥの例に漏れずギラギラに光る派手なネオンサイン看板で『地鶏風』『伝統の味にきわめて近い』『串の旨味が』といった文言と、荘厳な雰囲気のサイバネイタマエが合成フェイクチキン串焼きを焼き上げる映像が映し出されている。
「たぶん……焼鳥だと思うんだけど」
「いいですねぇ。美味しそうですぅ」
 店内から漂ってくるタレ・フレーバーソースの香りが芳しい。匂いに釣られるのもあって、るこるが頷いた。
「じゃ、突入ね!すみませーん、あいてますかー!」
 合意を確認すればアスカは素早く店のドアを開き、店内へと上がり込む。るこるもそれに続いて入店した。
「エーラッシェー!!」
 店内のカウンターの向こう側から、熟練の風格をもつサイバネイタマエが声を張り上げて二人を迎え入れる。
「そこのカウンターにドウゾ!」
 割烹着を着込んだ中年のサイボーグ女性が二人を席へと促した。どうもと頭を下げて、アスカとるこるは席へと着く。
 店内は既に6~7割ほどの席が埋まっていた。そのほとんどが、粗野な雰囲気の男性客だ。港湾区域の肉体労働者と思しき中年男性が電脳フレーバー再現型ビールのジョッキを掲げて乾杯を叫び、また一方ではくたびれた雰囲気の全身義体型サイボーグの男性が人工消化器対応易消化ツクネ串で合成アルコール飲料を一杯ひっかけている。
 それが故が、アスカとるこるの二人には店内の客たちからの視線がいくらか向けられており、二人もそれを鋭敏に感じ取っていた。
「……なんだか見られてる気がしますぅ」
「いいのいいの、気にしないようにしましょ。それで、なに注文します?」
 集まる注目に気恥ずかし気にするるこるであったが、アスカはそれをものともせずメニュー表を開く。
 るこるは開かれたメニュー表を横から覗き込んで、いくらか視線を巡らせてからその一角を指さした。
「あ……それじゃあ、この串の盛り合わせを……」
「あー、いいですね。これならいろんな種類が食べられますし……」
「10人前……」
「10人前ぇ!?」
 アスカが思わず素っ頓狂な声をあげた。
 ここで補足として説明しておこう。るこるは桁違いな発育とも言われる非常に豊満な体型をもつ猟兵であるが、その身体をかたちづくるのに一役買っているのが彼女の性質であるとんでもない大食いである。
 故に、焼鳥の10人前程度は朝飯前どころか、本人からすれば“抑えている”レベルだ。
「あの……」
「あっ、す、すみません~……あ、アスカさんの分もありますから、11人前ですねぇ」
「あっ、うん……そうですね……」
 ちょっと驚いたアスカであったが、これも多様性の時代だ。いろんな人がいていろんな猟兵がいる。ならば、フードファイターめいてよく食べる少女がいたところでなんら驚くべきことはあるまい。アスカはそのように自分を納得させ、そうしてから注文へと移った。

「お待ちー!」
「わあ、美味しそう!」
「そうですねぇ」
 注文を通してから数分後、二人の前に11人前のヤキトリ・セットが通された。
 皮、モモ、ネギマ。それにレバーやスナギモといった多様な種類の串の盛り合わせである。
 ――余談ではあるが、合成肉や代用肉といった現代サイバーザナドゥに供給されるタンパク質源は生産ラインに乗せられるまでに多くの調整が成されている。
 多くの場合の合成肉はメガコーポの有する食品生産プラントにおいて培養生産されたタンパク質マテリアルを加工してつくられているのだ。
 さて――ここでいま二人の目の前にあるヤキトリへと目を向けてもらいたい。
 そしてお考えいただきたい。食卓上に供される鶏肉とは主にどの部位か――ということを。
 それを考えた時、真っ先に挙げられるのがモモ肉であり、次いで胸肉といったところだろう。
 ――では、『スナギモ』や『ぼんじり』は?『レバー』や『ハツ』は――?
 そう。焼鳥には、焼鳥の定番とも言えるメニューでありながら、それ以外では供されることの少ない部位がいくつか存在する。
 乱暴な言い方をしてしまえば、焼鳥以外には使えないとまで言えるのだ。――それは即ち、需要の狭い商品、という意味である。
 そのような状況を考えれば、当然ながらそれらのマイナー部位の食肉培養は利益を追求するメガコーポにとっては真っ先にコストカット対象として切り捨てるべきものであった。――需要の狭い商品を生産するよりも、それに使う分の資源をより求められている――売れる商品の方へと注ぐ方が、コストを削減し利潤の追求により近づくからである。
 しかして、旧日本領文化を受け継ぐ都市の人々からの根強い声があったのだ。
 その情熱に胸を打たれた食肉生産プラントの研究者たちが現場で努力を重ねたことによって、ほとんどヤキトリ専用として使用されるマイナー部位の合成培養肉の生産は辛うじて続けられている。そうした人々の努力が、今日のサイバーザナドゥ世界の食文化を支えているのだ。
 二人は決してそれを知る由もないが――
「あっ、これ美味しい……!中々凄いですね、この再現度……味どころか匂いも食感も本物そっくりですよ!」
「本当ですぅ……。この世界のお肉も、美味しいですねぇ」
 舌鼓をうつ二人にデリシャスマイルを届けた焼鳥串の裏にある、サイバーザナドゥ世界の人々の経済や流通、そして文化の動きを、我々は決して忘れてはならないのである。
 話を戻そう。
「……オイオイ、ダンナァ。どういうこったい、今日はいやに乳臭ェじゃねエかよォ」
 しかして、突然のことである。
 アスカとるこるの座る席より少し間をあけたカウンターから、乱暴な男の声がした。
「カッ!いつからここは女子高の学生食堂になったンだイ?」
 半身をサイボーグ改造した柄の悪いサイバー肉体労働者だ。既に何本か代用ビールの瓶を開けている。
 男は嫌味ったらしく二人の様子を横目で見遣りながら、「アア、マッタク!」と叫んで追加の代用ビールを注文した。
「……なんです?嫌な感じですけど……」
「ふむぅ……」
 二人は顔を見合わせた。
「どうします?」
「うーん……女子供と思ってからかってるのかもしれませんねぇ。……わかりましたぁ、それじゃあ私に考えがありますぅ」
「考え?」
「はいー……。すみませーん、串の盛り合わせ、追加で10人前お願いしますぅ」
 ここでるこるはサイバネイタマエへと追加注文を投げかけた。
「またぁ!?」
 アスカが再び素っ頓狂な声をあげる。
「10人前ぇ!?」
 それと同時に、二人を揶揄していたサイバー肉体労働者も変な声をあげた。
「ちょっと、なんで追加してるんです!?」
「それはですねぇ……。こう、たくさん食べるところを見せて、『ただものじゃない!』って思ってもらえたらいいなぁと思いましてぇ」
「……」
 にこにこと笑顔を湛えながら、るこるは卓上の串の続きに手を付け始めた。あっというまに最初の注文の10人前を食べ終えたかと思いきや、続けざまに到着した追加分の10人前も驚くべき速さでぽいぽいと口に入れてゆく。
「お、おお……」
 その光景に、先までは二人へと嫌らしい目を向けていたサイバー肉体労働者の男は絶句しながら表情を変える。
「な、なるほど……?」
「ふふふ……」
 既にあわせて18人前分程度までの串をたいらげていたるこるは、笑顔のままでサイバー肉体労働者の男の方を見る。
「……す、すまん。じょ、嬢ちゃん、タダモンじゃなかったんだな……悪かったよ、そんな目で見んじゃねえやい」
 男はすっかりるこるの大食いの様子に気圧された様子で委縮していた。
「おお……本当に大人しくなりました……」
 アスカは状況に困惑しつつも、合成タンパク質性鳥皮串を頬張った。
「いや、すげぇな嬢ちゃん。その腹どうなってんだ?」
「なあ、まだ食えんのか!食えるならおっちゃんがおごってやるぜ!」
 店内の客の何人かから、二人へと声がかかったのもそのくらいの頃合いである。
「わぁ、ありがとうございますぅ」
「えーっと……結果オーライなんでしょうか?」
 ――そういうわけで。
 焼鳥店において他の客たちから畏敬の念すら集めた二人は、そのままそこで充実した時間を過ごすことができたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

これはまた…個人的にはそそられる世界だな
フッ、調査にも力が入るというものだ

私の故郷にも同じ名前の場所はあるが…もはや別物だな
ネオン管から降るギラギラとした光の雨を受けながら街を散策しよう
まずは天然素材100%を謳っている高級スシ店に入ってみるか
カウンターに座って注文をしよう

大将、まずは酒を一本付けてくれ
それと、今日のおススメはあるかい?
…では、それを握りで

ふむ、元々は海が近いだけあって海鮮類も豊富だな
それに味も素晴らしいな…天然物を謳うだけあって食材も新鮮だ
とりあえずは軽い食事だけで店を出たが…金額も凄い事になってるな
大物のヤクザやフィクサーなんかがこういう場所を使うんだろうか?
さて、美味い食事も取った事だし、今度は真逆の大衆居酒屋に行ってみよう
安酒に工場製の合成食…これはこれで味があるな

ここは初めてなんだが、随分と景気が良い場所だな
なぁ、美味いビズなんかも転がってるんじゃないか?

等と居酒屋の店主にYENを握らせて話しかける
高級店で食事をするよりも、得られる情報は多そうだ



「これはまた……個人的にはそそられる世界だな」
 弾ける泡沫めいてきらめくネオンの光の洪水。
 夕暮れの空に迸る電波群。雑多な喧騒。0と1が織りなす電脳の規則性と泥臭く生き汚い人間の営みが渾沌と渦巻く新たな世界。サイバーザナドゥ。
 その世界の姿を見渡して、キリカ・リクサール(f03333)は口の端を歪める。
「フッ、調査にも力が入るというものだ」
 カ、ッ。ヒールの底がアスファルト舗装を叩く。仕立ての良いドレスを翻し、キリカはカワサキ・シティの雑踏の中へと飛び込んだ。
「さて」
 キリカは手首に巻き付けた端末を叩く。デバイスには既にザナドゥ世界圏のネットワークに対応するよう調整済みだ。スクリーンをタッチしながら、キリカはカワサキ・シティの案内情報を引き出しながら先へと進んでゆく。
「フム……私の故郷にも同じ名前の場所はあるが…もはや別物だな」
 記憶の中にあるUDCアースの都市の姿を思い浮かべるが、それとは随分に雰囲気が異なっている、というのが彼女のおぼえた感想であった。
 ネオン管から降り注ぐ眩しい光を仰ぎながら、物珍しがるようにキリカは街の様相をもう一度見る。
「まあ、いい。そうでなければ調査のし甲斐もないからな。……ふふ、ちょっとした探検気分か」
 キリカはほんのりと胸の奥に灯った好奇心という名のときめきを自覚していた。
 新たな世界。はじめて見る街――そういえば、よくよく考えてみれば普段は戦いばかりで、新世界への訪問も始まるのは大抵戦場の真っ只中からだ。
 こうして新世界の様子をゆっくりと見て回るというのも、ひょっとして初の経験なのではないだろうか。
 ――それに気づいてしまえば、キリカはおぼえた新たな感覚に胸を躍らせる。
 そう、身も蓋もない言い方をしてしまえば、彼女はワクワクしていた。
 任務であるという点は否めないものの、これは実質的に自由観光なのだ!それに思い至ったキリカは、足取り軽くシルバーウィロウ・ストリートを進んだ。

「――ほう」
 そこは、シルバーウィロウ・ストリートの路地へと少し入った場所であった。
 ストリートの中心部とはうって変わって道をゆく人々の人数が少なく、更にその雰囲気もあからさまに異なる。
 キリカがちらと視線をやれば、そこらに立っているのは非合法な稼業に手を染めている者――ヤクザの構成員のようであったが、黒服を着込んで静かに佇むその姿はサンシタの末端構成員とは明らかに違うことが見て取れる。
(……見張り役、ということか)
 その先に口を開けた門構えの様子に、キリカは得心がいった。
 わかりやすく高級店だ。門の周囲を黒服のガードマンたちが固めており、出入りする客の様子を睨めつけるように伺っている。
 門に掲げられた看板には燦然と輝く『天然スシ』の文字。
「スシか」
 そこでキリカは得心がいった。
 メガコーポの台頭によって環境が汚染され、供給の極めて不安定となった天然食品を用いた食事処となれば当然その価値は跳ね上がる。
 ――この街においては、それさえも有力なヤクザ・クランのシノギのひとつなのだ。この荒廃した世界においてオーガニック食材を仕入れるのは宝石の取り扱いにも匹敵する商売であり、大きなカネが動く案件なのである。であれば、そのカネの匂いを嗅ぎつけたヤクザ・クランが目を付けるのもなんら不思議ではないことだったと言えるだろう。
「失礼する」
 しかしてキリカは居並ぶヤクザガードマンたちの前をまるで臆することなく通過し、当たり前のように店へと入ってゆく。
 その堂々とした態度のせいか、一見の客にもかかわらず見咎められることなくキリカは入店に成功した。
「どうも、大将」
「ラッシャイ」
 旧時代の『寿司屋』を強く意識したつくりの店内は、カウンター越しにイタマエへと注文を付ける古き良きスタイルの構造をしていた。
 また、店の壁の一部には強化アクリル製の水槽が埋め込まれており、その中には食材である遺伝子調整済み食用サバや遺伝子調整済み食用クルマエビなどが泳ぐ姿を見ることができる。
 これは旧時代に『イケス』と呼ばれたものである。こうして生体として動いている食材を客の目に見えるように展示しておくことで、合成タンパク質や培養バイオサクではなく生体食材を使用していることをアピールできるのだ。現代サイバーザナドゥの高級スシ店の多くがこれを採用している。
「ふむ……。元々は海が近いだけあって海鮮類も豊富だな」
 ここで補足をしておこう。
 現代サイバーザナドゥの環境汚染は著しく、環境への配慮を一切行わないメガコーポの経済活動はむろん海洋の汚染にも大きな影響を及ぼしている。
 海に出る漁業こそ未だ失われてはいないものの、汚染環境に対応した装備への設備投資が必須であり、また海洋汚染の影響で漁獲量は旧時代の1/1000以下に減少しているのだ。そのため、本物の天然食材の値段は跳ね上がり一般の市民では到底手にすることができない金額に達している。
 その代替として用いられるのが養殖の魚介類だ。幸いにもカワサキ周辺の地域には養殖業のノウハウをもつ業者が残っていたため、この辺りではサイバーザナドゥの他の地域に比しても生体食材を入手しやすい。
 この店もその恩恵を受けたが故に食材の調達が可能なのだろう、とキリカは想像する。
 そしてキリカはカウンターの席へと着きながら、その向こう側に立つイタマエへと頭を下げる。
「アンタ、ここは初めてだね」
「ああ。仕事でな。このあたりは来たばかりなんだ。……心配はない。カネならちゃんとある」
「わかった。注文を聞こう」
 イタマエは三条鉄工製ダマスカス包丁を磨きながら、ゆっくりと動き出した。
「大将、まずは酒を一本付けてくれ」
「銘柄は?」
「適当でいい。そちらで選んでくれ。それと、今日のおススメはあるかい?」
「イカが入ったばかりだ。それでいいか」
「……では、それを握りで」
「アイヨ」
 イタマエがカウンターの端末を操作するとカウンター横の壁が開き、そこからレールに乗せられたイケスがイタマエのもとへとやってくる。
 イタマエは衛生用防護手袋をすると、イケス内を泳いでいた遺伝子調整済食用アオリイカ生体を掴み出し、素早く締めて調理へと入った。
「お待ち」
 そうして提供されたのは、シンプルなイカの握りと、サイバーセラミック製一合トックリに注がれたオーガニック・サケである。
「頂こう」
 キリカはオーガニックムラサキを小皿に垂らし、そこへイカの握りをかるく浸してから口にする。
「ほう……」
 その味わいは、彼女の故郷であるUDCアースで供される料亭の寿司と比較しても決して遜色ないレベルの高さであった。
「素晴らしい味だな……天然物を謳うだけあって食材も新鮮だ。何よりイタマエの腕がいい」
 この荒廃した世界では、生体食材を調達して寿司屋を営むというだけでどれほどの努力が必要になるかは想像に難くない。そうした経営に力を注いだ上で、これだけの味を出せる職人を用意するには相応の労力を要しているのだろう。キリカは素直に賞賛の想いでイタマエに笑みかけた。
「お口に合ったなら光栄です」
 イタマエは恭しく頭を下げ、キリカもそれに礼を返した。

「……とはいえ、なかなか凄い金額になってしまったな」
 店を出たキリカは、手にした領収書を見て苦笑いした。
 握りと酒だけで軽く済ませたつもりであったが、そこに記されたのはとんでもない金額だ。レッド・エリアであればこの額だけで一年は暮らせるだろう。
「やはり一般の市民ではなく大物のヤクザやフィクサーなんかがこういう場所を使うんだろうか?」
 ふうむ、と声を漏らして思索しながら、キリカは領収書をしまい込み、再びカワサキの雑踏へと紛れた。
「さて――次はこっちを見てみるとしようか」
 ――続けてキリカが足を向けたのは、『安い』『酒は人生の友』『ええじゃないか』などの品性のない宣伝文句を電飾でギラギラと輝かせたあからさまな大衆酒場だ。
 店内へと足を踏み入れれば、労働者階級の男たちが粗悪なアルコールで酔っ払いながら品のない冗談でげらげらと笑い転げている。また、学生と思しき若い集団の姿もちらほらと見られた。また、電子ケーブルをつなぎ合わせたサイバーゴス・ウィッグを1680万色に光らせるサイバネパンク・ファッションに身を包んだ女などの姿も見られる。客層は様々だ。
 キリカは店員を適当にあしらい、空いていたカウンター席に腰かける。
「ほう。こちらの店は端末で注文を取るのか」
 席に設置された小型端末にメニューと『注文をします』のボタンが表示されている。キリカはその中から適当に選んだ料理を指定し、注文ボタンを押した。
「注文アリアザース!!」
「「ザァース!!」」
 厨房に注文が通った瞬間、店のスタッフたちが一斉にチャントを唱えた。威勢の良い声が店内に響き渡る。
(……UDCアースにもあったな、こういう居酒屋)
 キリカは注文の品が届くのを待ちながら、店内の様子を眺めていた。
「お待たせーッス!」
「ああ、ありがとう」
「シャッス!!」
 パートタイマー・スタッフと思しき若い男性店員がキリカのもとへ料理を届ける。ポン・サケ風フレーバー合成飲用アルコールと、魚介風合成タンパクブロック・サシミ盛り合わせである。
 どちらも工場で生産され、科学的フレーバー調味料によって味付けの成された合成食品だ。その味については、キリカが先まで訪れていた生体食材を用いる寿司屋のそれとは比べるべくもないだろう。
「ああ、ありがとう。そこに置いてくれ。……ここは初めてなんだが、随分と景気が良い場所だな」
「アザッス!お陰様で大忙しッス!」
 キリカが声をかけると、店員の青年は愛想よく笑った。
「なあ、君。私は先ほどこの街に来たばかりでね。ちょうどなにか仕事のアテがないかと探しているんだが――これだけ人の出入りがある店だよ。心当たりはないか?美味いビズの話なんかも転がってるんじゃないかと思うが」
 ここでキリカは素早く切り込んだ。――そう、ここへの来訪は実質的に自由観光のようなものであったが、その反面、キリカは本来の目的である情報収集も忘れてはいなかった。人の出入りが激しいこうした酒場は情報収集には恰好のポイントだ。キリカは店員の青年へと訊ねる。
「いやいや、カンベンしてくださいよお客さん。まあ、確かにいろんな話は聞こえちゃきますけどね。守秘義務ってのあるんで……ほら、そんな話したら俺、店長に怒られちゃうし――」
「――ああ、そうだ。忘れていた。これはチップだ」
 言い渋った青年の手を素早く引き寄せ、キリカはいくらかの紙幣を青年の手に握らせた。
「……」
 青年の目が一瞬細まり、そして手の中のカネへと視線を落とした。さりげなく金額を確認し、こっそりとポケットにしまう。
「……じゃあ、まあ、世間話程度っすよ、お客さん。ところで知ってます?来月、商工会館でサイバネ・アームの展示会があるんですが、それでクラマ・インダストリやら三条鉄工やらが人を集めてるとかで――随分報酬がいいらしいって――」
 そうして、静かに耳打ちするように青年はキリカへと話をする。
「ほう……。この街はメガコーポの影響が緩いと聞いていたが――」
「……まー、手出ししないつもりじゃない、ってことなのかもしれないっすねえ」
「面白い話だな。ありがとう、有益な情報だった」
 そうしてキリカはいくらかの話を青年と交わし、それからテーブルの料理へと手を付け始めた。
 ――あからさまでケミカルなフレーバーの雑な合成アルコール。食感の弱いグミ菓子めいた合成疑似サシミ。十数分まえまで味わっていた生体食材とはまるで異なる味わいにキリカは苦笑するも――
「これはこれで味があるな」
 それもまた、世界の色なのだとキリカは納得する。

 かくして、カワサキ・シティに日が落ちてゆく。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 日常 『サイバー遊技場』

POW   :    とにかく全力で遊びまくる

SPD   :    自分の得意な分野で勝負する

WIZ   :    策を巡らせ、一瞬の勝負を狙う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夕刻を過ぎ、日が落ちた頃。
 カワサキ・シティには更なる活気が満ち溢れる。
 カワサキは多くの娯楽施設が揃った都市だ。街を巡れば多くの遊戯施設を見ることができる。

 サイバネ競馬場では戦闘用強化改造を施された武装バイオバトルホースとそれを操るバトルジョッキーたちによる白熱のサイバネティック競馬が夜毎開催されている。
 サイバネティック競馬は銃火器や刀剣といった武装の使用を認められた過酷なレースである。そう、このレースでは前を走るバイオバトルホースに向けてバズーカ砲をぶちかまして粉々に粉砕することで1位を奪い取る戦いが許されているのだ。カワサキ・シティの人々の娯楽の中でももっともポピュラーなものであるとも言える。
 尚、今夜のレースは10頭立て。
 1番 マハリタ。
 2番 テックマック。
 3番 プリンセスハレーション。
 4番 ビューティーセレイン。
 5番 シルバークレイオン。
 6番 マジョノカーニバル。
 7番 ケセラセラ。
 8番 マーブルスクリュー。
 9番 トロピカルパラダイス。
 10番 キルゼムオール。
 ――以上の全10頭がエントリーしている。
 いずれのサイバネティックバトルホースも焼却光線や電磁砲、近接格闘戦用拡張アームなどのさまざまな武装を施されており、人気は拮抗している。一番人気は実力なら最強格と噂されるマーブルスクリュー。次いで対抗馬はプリンセスハレーションであるが、新進気鋭のトロピカルパラダイスも大穴ながら面白い戦いをするとして観客たちには高い人気がある。
 競馬に挑戦するのであれば、チケットを購入して予想を立ててみても面白いだろう。

 また、競馬の他にも手軽に遊べる民営賭博場もカワサキの人々の間で人気が高い。
 特に博徒の間で日常的に行われているのは、『パーティクル』という遊技機だ。これは通貨を投入することで店舗から金属製の『玉』を借り入れ、その玉を遊戯機内へと打ち出す機構を用いて機器内部の抽選口へと狙い入れ、スロット形式の抽選を行うギャンブルである。
 抽選で当たりを引けば、一時的に大量の玉の払い出しが行われる状態へと変化し、幸運であればもともと借り入れた分よりも多い玉を獲得することができる。遊戯終了時にこの獲得した玉は店舗内のカウンターで景品と引き換えることが可能だ。
 ちなみに、玉を現金と引き換えることは不可能となっている。(ただし、不思議なことにカウンターで獲得した景品を現金と引き換えてくれるまったく無関係の店舗が店の近場には存在するらしい、という噂がある)
 この遊技機はパーティクル・スロット。通称『パティ・スロ』と呼ばれている。
 その手軽さと抽選の当たりが決定した際の演出の煌びやかからギャンブル中毒になるものが続出しており、むろんカワサキにおいても人気のギャンブルのひとつだ。一部では製造に関与したメガコーポが機材の中に催眠効果をもたらす機構を組み入れているのではないかと噂されている。
 なお、多くの店舗においてはハッキングによる不正を防ぐために二重三重のプロテクトを施した上で侵入経路をつくらない非データリンク式で運用されており、その上機械を操作するためには保護パネルを外して内部機器に専用のコネクタで有線接続する必要があるため、少なくとも通常の遊興のために訪れる今回の案件においては、イカサマや不正は不可能と思っていただきたい。
 現行の人気機種は『前進紀アヴァンギャリオン50th』や『銀狼(ぎろ)〜シン・黄金魔界の章2』、『CRフィーバー神器絶翔シンマギアXX』『ヴァルハラ神獣バトルNeo Generation 進め、ヴァルハラマンゼオン!3』などである。

 そのほか、カワサキには伝統的なテーブル・ゲームを備えたサイバーカジノや、主にヤクザなどによって運営されている地下闘技場などの遊興施設が存在している。

 こうした施設を巡り、サイバーザナドゥの文化に触れるのも愉快な経験になることだろう。
御園・桜花
「可愛いお馬さんが頑張っているなら、全員にお布施するべきでしょうか」
頑張ってる君を応援したい、と言うことで全競走馬分馬券買う

「勝率は勿論あるでしょうけれど。購入分の何%かは、そのお馬さんにも支払われるかな、と。どのお馬さんにも頑張った賞金はあって良い気がするのです」
損得度外視

「…ひああ?!」
先行馬にバズーカ発射で吃驚
「…お馬さん~」
涙目で馬券握り締めそれでも勝負がつくまでは我慢
勝負が終わった瞬間生き残った全馬にUC「癒しの桜吹雪」
全快させる
「爆散したお馬さんは救えませんけど、他のお馬さんは安楽死して欲しくなかったので」
爆裂お馬さんミンチが桜肉販売されるなら購入してグリモアさんのお土産にする…


カルマ・ヴィローシャナ
ヤッホー☆彡 今日のキトゥンchは遠征編!
何とカワサキのアブないお店の潜入レポだにゃ♪

では早速…サイバネ競馬やってんじゃーん!
うわ、ヨコヤマ厩舎のマハリタにアカツカ厩舎のテックマック
カトリ騎手のビューティーセレイン!
いやぁお客さんにこいうの好きな人がいて…え、何を買うって?
それじゃあカルマちゃん成人記念(先日誕生日)に1-6一本で!
やっぱマジョっ子でしょここは!

等と盛り上がりながら場内を撮影しつつ練り歩く

次はパティスロ! 音! 光! カネ!
やー初めてなんだけどこれどうするの?
近くの猟兵に遊び方を聞いたりレポしたり
で、ザナドゥどう? 実際楽しい? アブない?
色々あるけどヨロシクにゃん♪

※おまかせ


デンゾウ・ゴガミ
おれァ、ギャンブルの類はあまりやらねェタチでよ
なンでかって? そう強くないってのもあるがね……
この手の遊びはどォーも熱くなりすぎちまうのさ、グフフ
特に対面でやる系のはダメだな、最終的にカラテで解決したくなっちまう
何事も暴力で解決するのはダメさ、文化的にやらねェとな、文化的に……

ってワケで、久々にサイバー競馬でもやるかねェ
どうせなら大穴一点買いでいこうじゃねェか、トロピカルなンとかだったか?
競り上がってくるようならキアイ入れて応援しちまうぜ!
リキ入れすぎて柵とかブッ壊さねェようにしないとな
暴力はだせェぜ、グフフ……気をつけるぜ? 気をつけはする、グフフ


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

日も暮れてきたが…街の活気は衰えんな
むしろ、これからが本番と言ったところか

昼の頃よりも、更に強烈な光を吐き出すネオン看板が夜空を切り裂くように輝いている
この世界では、あの極彩色の光が星の代わりに輝くのだろう
その光の下で、人々の活気はより熱を帯びてくるようだ
まずは、酔い覚ましに合成コーヒーを自動販売機で買って一服
お勧めされたサイバネティック競馬を見てみよう

ふむ…どうせ賭けるなら大穴だな
「9番」の単勝一点買いで行こう

とは言え、賭ける金額はそれなりだが
勝ち負けはあまり気にせずにレース観戦を楽しもう
武器の使用もあり、と言う事で中々白熱しそうだな
場内の屋台からモツ焼きを買って、食べながら観戦しよう
…あの店主、何の「モツ」かは最後まで教えてくれなかったな…

競馬の次はパティ・スロで遊ぼうか
競馬で勝っていたら、その分を注ぎ込むか
遊ぶ台は銀狼で行こう
…故郷で似たモノを見た事はあるが派手さは段違いだな
瞼を閉じても光がチカチカしている気がする
小当たりでもしたら景品でケミカルなお菓子と交換するか


ガロウ・サンチェス
遊び足りねえなあ。どれ、ちょっくらサイバネ競馬でも見に行くか。コンビニで新聞を買って眺めてみるが、詳しいことはよく分からん。あとはパドックで実物を見ないとな!いくら装備が立派でも、走る気がなさそうなヤツは買わない方がよさそうだぜ。馬券はとりあえず当たるも八卦、当たらぬも八卦。ここは穴を狙って一攫千金だぜ。三連単に、9番トロピカルパラダイスを組み込むぞ!
ひとしきりレースを楽しんだら、地下闘技場に足を向けてみよう。さて、どんなファイターがいるのかなっと…。むっ、あの軽量級の選手はムエタイ使いか。ちょっと親近感を感じるぜ。それにあいつの目付き、結構ヤル気満々ぜ。いけるんじゃねえか?俺の勘だがな…。



「日も暮れてきたが……街の活気は衰えんな」
 夕刻を過ぎ、カワサキ・シティに夜が訪れる。
 サイバー居酒屋で腹拵えを済ませて、キリカ・リクサール(f03333)はシルバーウィロウ・ストリートの雑踏へと身を躍らせた。
 ――夕刻よりも更に強烈に、激しく光を吐き出すネオン広告看板が夜空を裂くように輝き、地上を埋め尽くしている。
「……むしろ、これからが本番と言ったところか」
 ――この世界においては、この電子の極彩こそが星空の代わりに人々の夜を照らし出しているのだろう。
 キリカはポエットな感覚に浸りながら、自動販売機にコインを投入し、合成コーヒー風飲料を購入する。
「遊び足りねえなあ……」
 コーヒーを啜るキリカの横を、ガロウ・サンチェス(f24634)が通りすがる。
「さて、こっからどうすっか――いや、今日は競馬だな……。グリモアの姉ちゃんから軍資金も預かってるワケだし……」
 その手に握られているのは一束の競馬新聞である。――ひとしきり眺めて、詳しいことはよくわからん、とお手上げしたものであったが、お守りがわりにガロウはそれを握ったままサイバネ競馬場へと足を向ける。
「……サイバネ競馬か」
 そうして目の前を通り過ぎたガロウの様子に、キリカは目を細めた。
「そうだな。たしかにグリモア猟兵も勧めていたことだ。……見に行ってみるとするか」
 飲み終えた合成コーヒー風飲料の缶を清掃用ゴミ回収オートマトンへと投げ渡し、キリカもまた競馬場へと足を向ける。
 競馬――そう。競馬である。それは前述のとおり、カワサキ市民の間で親しまれている公営ギャンブルのひとつだ。
 夜毎カワサキ競馬場で開催されるこのサイバネティック競馬は、他世界に存在する競馬と異なり、出場する超頭脳改造超重バイオバトルホースにはいずれも戦闘用の強化改造が施されている。
 また、騎手であるバトルジョッキーも同様に強化改造を施されたサイボーグであることが多く、そうしたバイオバトルホースと戦闘サイボーグバトルジョッキーが協力し合うことによって、いずれの競走馬も強力な戦闘ユニットと化しているのだ。
 当然、レース中には凄まじい攻防が行われ、人馬の損耗は他世界において行われる競馬競技の10000倍にも及ぶ。(ただし、馬も人もともに身体の大部分を機械に置き換えたものが多いため、絶命に至らない限り大抵の場合は一定の修理期間を置いてレースに復帰する)
 カワサキの人々は、その過激さから夜毎開催されるこの命がけの競馬競技に熱狂していた。
 ――そういうわけで、カワサキに観光に来たならば一度はこのサイバネ競馬を見るべきなのである――というのが、グリモア猟兵の勧めであった。
 
 ところ変わって、カワサキ競馬場――場内。
「可愛いお馬さんが頑張っているなら、全員にお布施するべきでしょうか……」
 御園・桜花(f23155)は、これからレースに参加するバイオバトルホースたちの姿をパドックで仰ぎ見た。
 パドックとは、レースに参加する馬たちがレース会場である馬場に行く前に客たちへと顔見せをする場所である。博徒たちはここで馬の状態を観察し、今日の調子を確認してから馬券購入へと臨むのだ。
「……可愛い、というよりも、かっこいい……でしょうか、これは」
 桜花は今回のレースへと参加するバイオバトルホースたちの姿にぱちくりとまばたきする。
 戦闘用バイオバトルホースは当然ながら生身の馬とは大きく異なった生き物だ。馬をベースに鎧を着込んだような姿をしている。その様相に騎士の騎馬めいた凛々しさを感じる者もいれば、スーパーロボットめいた勇壮さを感じとる者もいるのだという。
 想像していた馬のかたちとちょっと違った雰囲気に、桜花はほんのり息を吐き出した。
「ほお……こいつはなかなか壮観じゃねえか。どいつもこいつもいい面構えをしてやがる」
 タイミングを同じくして場内へとやってきたガロウが、パドックに並んだ馬たちの姿を見ながら目を細めた。
「……ん?おお、さっきも会ったな。おめぇも来てたのか」
「あ、先ほどはどうも」
 桜花とガロウが互いに気づいたのはその折である。ついさっきまで同じ店で飲んでいた顔だ。さっきぶりだな、と二人が挨拶を交わす。
「うっわー!!ヨコヤマ厩舎のマハリタにアカツカ厩舎のテックマック!!カトリ騎手のビューティーセレインじゃんっ!!」
 その瞬間、二人の横で大きく叫び声をあげたのはカルマ・ヴィローシャナ(f36625)である。
「わあ」
「うおっ」
 カルマの声に桜花とガロウは一瞬ぎょっとした。
「あっ、ゴメンゴメン!お二人にゃん、驚かせちゃった?」
 慄いた様子の桜花に気づいたカルマはすぐさま腰を低く頭を下げ、素早く謝った。なにしろ今はバリバリの動画配信中。撮影ドローンにちゃんと映るように誠意ある謝罪を見せる。
「いえ……大丈夫です。そ、それより……お詳しいんですね?」
「ああ……アレか?競馬のプロとか、そういうやつか?」
 二人はやや困惑したままではありつつも、気を取り直してカルマへと会釈して返す。
「いやぁ、お客さんにこいうの好きな人がいて……で、カルマちゃんもちょっと勉強したっていうか?」
「ほう……そいつは丁度いいじゃねェか。グフフ……そンなら、ぜひご教授願いてェところだな」
「わあ」
「今度はなんだよ!?」
 ずしん――。地響きがする、と思っていただきたい。
 地面を揺さぶるような重量の巨体を揺すって三人の横に現れたのは、デンゾウ・ゴガミ(f36547)である。
「いやァ、人に勧められてここまで来たはいいが、おれァ、ギャンブルの類はあまりやらねェタチでよ」
 そして、デンゾウは身体を揺すって笑いながら続ける。
「なンでかって? そう強くないってのもあるがね……この手の遊びはどォーも熱くなりすぎちまうのさ、グフフ」
「ああー、わかる……カルマちゃんのお客さんにも、こーいうので熱くなりすぎて身を持ち崩したひととかいるにゃん」
「それは……そうですね、自覚できてるぶん、えらいんじゃないでしょうか……」
「うん、うん。そうなンだ。特に対面でやる系のはダメだな、最終的にカラテで解決したくなっちまう……何事も暴力で解決するのはダメさ、文化的にやらねェとな、文化的に……」
 デンゾウは腕組みをしながらしみじみと頷いてみせた。
「その点競馬はイイ。グフフ、熱くなっても殴る相手がいねエもンだからな……で、お嬢サン。今日のウマの調子はどうだい?」
「そうだにゃー……うんうん。カルマちゃんの見たとこ、特に不調そうな子はいないかにゃ。で、カタくいくならやっぱりマーブルスクリュー……それにマジョノカーニバルも今日はいい感じにゃ」
「へぇ……見ただけでわかるのか?」
「フフ。サイバネ競馬はお客さんのリクエストで何度か見に来てるのよ。ばっちりおまかせにゃ!」
 カルマちゃんは撮影機材ドローンに向けてカメラ目線でぱちりとウインクした。散った星がきらきら輝く。
「そうかいそうかい……。わかった。不調な感じはねェんだな」
「うん」
「そンなら、もうハラは決めたぜ」
 面白がるように笑いながら、デンゾウは膨れた腹をタヌキめいてぽんと叩いた。
「へえ。デカいあんちゃん、おめぇさんはどうすんだ?」
「グフフ……調子は悪くねェそうだぜ。それじゃアどうせなら大穴一点買いでいこうじゃねェか」
「なんだ、気が合うな。俺も決めたぜ。穴狙いの一攫千金だ。いや、どうせなら大穴組み込んでの三連単ってヤツでいくか!」
「おおーッ。二人ともチャレンジャーだにゃん!……ンー、でもカルマちゃんはもうちょっと堅実に?カルマちゃん成人記念に1-6一本でいくにゃ!」
「1-6ぅ?あーっと、『マハリタ』と『マジョノカーニバル』だったか……?」
 ガロウは手にした競馬新聞を広げ、目を通した。
「やっぱマジョっ子でしょここは!」
 ぎゅっと拳を握りしめ、カルマはテンション高くその腕を天に向けて突き上げた。
「あンたはどうすんだい?」
 デンゾウが横目でちらと見て桜花に尋ねる。
「そうですね……私はぜんぶの馬券を買うつもりです」
「ぜんぶ!?」
 カルマが素っ頓狂な声をあげた。
「はい。頑張ってるお馬さんたちを応援したい、というか……勝率は勿論あるでしょうけれど。購入分の何%かは、そのお馬さんにも支払われるかな、と。どのお馬さんにも頑張った賞金はあって良い気がするのです」
 桜花はやわらかな微笑みとともにパドックの馬たちへと視線を移す。
「そういう楽しみ方もアリかー、ちょっとカルチャーショック感じちゃったにゃ」
「まァ、いいだろ。それよりホラ、馬券買いにいくぞ」
「そうだな。締め切りの時間を過ぎても困る」
 そして、ガロウが3人を促し――かくして、猟兵たちは馬券購入窓口へと向かったのである。

 そして。
『さあ、ついに始まります今宵のカワサキ・サイバネ競馬のメインレース。お聞きくださいこの歓声!今夜も今夜もカワサキ競馬場は超満員。場内もお集まりのサイバネ競馬ファンの皆様の熱気で熱く燃えております。えー、本日の実況は私、ウマバシリ・エイトが務めさせていただきます。皆さん、よろしくお願いいたします』
 場内に響く実況の声。猟兵たちが客席から馬場を望めば、そこにはスタート位置へとついた出走バトルホースたちの居並ぶさまが見える。
 いずれもレースのために仕上げてきた武装を光らせ、そして鋭い戦意を滾らせていた。
「ふむ……」
 キリカは最前列の客席から馬場を臨みながら、場内の屋台売店で購入したもつ焼きにサイバーチョップスティックを伸ばす。
「なるほど、これがサイバネ競馬か……どの馬もなかなかの面構えだ」
 ふうむ、と思索しながらキリカはもつ焼きを齧る。――合成疑似大豆味噌類調味料のややケミカルな風味と独特の食感が舌先で広がる。
 競馬場で食べる雑な食べ物の独特の味わいもまた良いものだ。これもまた競馬の醍醐味なのだろう、とキリカは思った。
「しかしこのもつ焼き……美味いことは美味いが、あの店主、何の「モツ」かは最後まで教えてくれなかったな……」
 ――そうこうしているうちに、レースの開始時間は訪れる。
 それぞれ観戦のできる席へとついた猟兵たちは、各々が購入した馬券を握りしめながら出走の瞬間を固唾をのんで見守った。
『各馬、既にゲートインを済ませました。まもなく出走の時間となります』
 場内に設置されたスピーカーから、伝統的な出走ファンファーレの音が響き渡った。
 緊張の一瞬――観客席の人々が、一斉にコースへと注目する。
『――今!』
 そして――がこん、ッ!出走ゲートが開かれる!その瞬間、サイバネ改造バトルホースたちは一斉にコースへと出撃した!

『さあ、各馬一斉にスタートを切りました!まずは前馬横並び――おっと、ここで前に出る5番シルバークレイオン!脚部増設人工筋肉でブーストアップした脚力で先行する!』

 ――先陣を切ったのは5番シルバークレイオン!加速力に優れた改造を施された逃げのバトルホースだ!

『そのスピードで先行して逃げ切るつもりか――ああっと!しかしここでバズーカが炸裂ぅ!』

 だが、トップへと躍り出たシルバークレイオンが突如爆発する!――バズーカ砲による妨害を受けたのだ!
「……ひああ?!」
 その衝撃的な光景にまず桜花が悲鳴をあげた。
「うおお……マジだ。マジで撃つのか、これ……!」
 ガロウは半ば呆然としながら口を開けてレースの進行を見ていた――まるでレイダーどもとのカーチェイスだ。立ち上った爆炎に熱狂する観客の歓声をききながら、ガロウはこの世界もかなりイカれているのではないか、と思った。
「ほぉ……今日は初っ端から派手にいくじゃねェか……」
「あっ!あれ6番だにゃ!6番!いけいけマジョっ子ー!」
 その一方、元々のサイバーザナドゥ民であるカルマとデンゾウにとっては常識の範疇を出ない光景だ。いま爆散したシルバークレイオンも損傷度合いによるがひと月もすれば修理を終えて復帰してくることだろう。
「お、お馬さん~……」
 しかしてカルチャーショックに頭をぶん殴られた気分の桜花は既に気が気ではない。この先何頭の馬があんなことになるのだろうか。戦々恐々とした思いで桜花はレースの行方を見守っていた。
 ――そして、レースは続く。

『撃ったのは6番マジョノカーニバル!マジョノカーニバルだ!これはどっきりどっきりドンドン!!爆発に巻き込まれシルバークレイオン転倒!その隙に後方から迫った集団が追い抜いてゆく!

 ここでトップに立ったのは1番マハリタと並んで2番のテックマック!それを追う位置取りでマジョノカーニバルが食らいついてゆく!そこから1馬身差でマーブルスクリュー、プリンセスハレーション、ビューティーセレイン、ケセラセラ、そしてトロピカルパラダイスと続き――おや、最後尾についていたキルゼムオールが加速を始めました!ここでキルゼムオール変形合体っ!!バトルジョッキーとの合身を果たし格闘戦用のバトルモードになります!更にブーストを噴かす!』

「えっ!?合体!?」
 桜花はぎょっとして悲鳴をあげた。
「ほう……文字通りの人馬一体、といったところか。……面白い」
 一方、別の客席からレースを見守るキリカはもつ焼きを呑み込みながら――ああいうのちょっと欲しいな、という気持ちに駆られる。

『速い速いキルゼムオール!瞬く間に前を走る馬へと距離を詰めていき――ここで飛び掛かったア!キルゼムオール、得意のグラップルでケセラセラを捉えました!ケセラセラ、これに応戦し後ろ足から蹴りを打ち込むがキルゼムオール耐えます!更にキルゼムオール組み付いた!そして――ああーっと!これは関節が極まった!キルゼムオール見せつけますその強さ!サブミッションこそ王者の技!ケセラセラの後ろ足関節を極めきった!ケセラセラここで脱落ーっ!!』

「おお……見事なカラテじゃねェか、おい。最近のサイバネ馬はなかなかやるらしいぜ。グフフ……」
「キルゼムオールはダーティプレイで有名だけど、実力自体はちゃんとある馬だからにゃん」
 また一頭がレースから脱落!客席からブーイングと歓声が同時にあがる!

『さあ、その一方先頭集団は第2コーナーを曲がったところ!トップはかわらずマハリタとテックマックが1位2位を争います!

 ――おおっと!ここで4番手の位置からプリンセスハレーションが動きます!騎手が構えたのはクラマ・インダストリ製20ミリ口径馬上機関砲!トリガーを引き絞り先頭の二頭へと鉛玉を浴びせます!ああっとマハリタ被弾か!?目に見えてここでスピードが落ちる!』

「あーーーっ!マハリターー!!」
 カルマが悲鳴をあげた。1-6の馬連を狙っていたカルマであったが、その片割れであるマハリタがここで失速したのだ!サイバネ競馬において、一度の減速はその後の展開に大きく影響するが故だ!

『その隙を見逃すことなくテックマックがスピードを上げ逃げ切りにかかりました!――いや、しかしそれはマジョノカーニバルが許さない!再び炸裂するバズーカ砲ぉっ!テックマック、直撃は避けましたが爆風に飛ばされ柵に激突ーっ!

 これは勝負がわからなくなって参りました。先頭は入れ替わってマジョノカーニバル!その後ろにぴったりとついてゆくプリンセスハレーション。そしてビューティセレインと続きます――』

「おお……さっきの合体馬、また来たみてぇだな」
 ここでガロウが後方集団へと視線を向けた。――そこでは、先の交錯で7番ケセラセラを脱落に追い込んだダークホース・10番キルゼムオールが前をゆく馬へと距離を詰めてきていたのだ!

『おっと!ここで後方で動きがありました!再び牙を剥くキルゼムオール!キルゼムオールのグラップリングがマーブルスクリューに襲い掛かった――だがマーブルスクリュー、これを躱します!そして……こちらもバトルモードに変形合体っ!』

「あのお馬さんも!?」
 桜花はぎょっとして悲鳴をあげた。
「マーブルスクリューはカワサキのサイバネ競馬でいちばんって言われるくらい実力のある馬にゃん。そのスタイルは格闘戦の真っ向勝負……一対一でマーブルスクリューに勝ったことのある馬はいないにゃん」
 カルマが静かに解説を加えた。

『そしてカウンター!マーブルスクリュー、同時に鮮やかな蹴り技が映えてキルゼムオールを捉えるーッ!これは綺麗に入りました!キルゼムオールの馬体が宙を舞い、馬場へと叩き落とされる!マーブルスクリュー素早くレーシングモードへと移行し、トップ集団を追いかけに行きます!その実力は花拳繍腿ならざることを証明しました!』

「ううむ、信じられン技術だぜ……。ありゃ乗り手の方もかなりの使い手だな。ニンジャかもしれン」
 デンゾウは思わず真剣に見入っていた。所詮ショウビズの一種と侮っていたところが自分にもあったのかもしれない。しかしてその実、サイバネ競馬の中で繰り広げられる戦いは実質コロセウムにおける剣闘士たちの殺し合いのそれだ。そこで披露される戦いの技術にデンゾウは舌を巻く思いですらあった。

『ここでもう一度トップ集団に目を向けていきましょう!トップは引き続きマジョノカーニバル!』

「ううー……マハリタがだめになったぶん、せめてマジョカだけでも上を目指してにゃん……!」
 祈るような想いでカルマがぎゅっと拳を握った。

『そして第3コーナーをまわります……あっとここでビューティーセレイン仕掛ける!レーザーガンが爆ぜるっ!マジョノカーニバル回避機動をとりますが……掠めました!スピードダウンを余儀なくされます。おっとここで差し込みにきたのはプリンセスハレーション!素晴らしい脚力で追い込んでゆきます!ぐんぐん追いつく……ここで並んだ!更にその横へとビューティーセレインが食らいついてくる!

 さあ間もなく最終コーナーへ差し掛かる!現在トップはマジョノカーニバル、並んでプリンセスハレーションやはり強い!ビューティーセレインも食らいついていきます……そこからおよそ二馬身差で必死についてゆくのはトロピカルパラダイス。遅れてマハリタが追いかけますが……いえ、今これをマーブルスクリューが追い抜いた!鋭い加速でマーブルスクリューがトップ集団へと迫ります!』

「ふむ……。マーブルスクリューか。たしかにあれは頭一つ抜けて実力があるようだ。一番人気というのも頷ける」
 キリカが最後のもつ焼きを呑み込みながら馬場を見遣る。

『だがマーブルスクリューの実力は誰もが知るところ!火器の制御でスピードダウンは余儀なくされますが、やはり真後ろから迫るプレッシャーは捨ておけないか!追いつかれてはたまらないとトップ3頭、バトルジョッキーが一斉に振り向いてトリガーを引き絞ります!マジョノカーニバルのバズーカが炸裂……いや躱した!噴煙を裂いて飛び出すマーブルスクリュー更にトップ集団との差を詰めてゆきます!続いてビューティーセレイン、プリンセスハレーションも迎撃に入る!お聞きくださいこの小気味良い砲声!20ミリ弾頭と8000度のレーザー熱線がマーブルスクリューを襲う!おおっと、しかしマーブルスクリュー躱す躱す!そして間合いが詰まります!遂に近接戦の間合いだっ!飛び込みながらマーブルスクリュー、バトルモードへと変形合体ーっ!

 先頭集団、ここで各馬足を止めての戦闘状態へと入りました!マジョノカーニバル!プリンセスハレーション!そしてビューティーセレイン完全に迎撃態勢!唸る火砲がコースを燃え上がらせる!しかしマーブルスクリュー一歩も引きません!駆ける姿はさながら白と黒、モノクロームの電光!あああーーっと!ここでビューティーセレインにマーブルスクリューのタックルが直撃!これには耐え切れずに転倒だ!近接戦の王者と謳われるマーブルスクリュー、このまま残る2頭も倒し切り悠々と1着を勝ち取るか!!』

 そうして、最終コーナーでの攻防が始まった――そのときである!

『……いや、待て!しかしここで後ろかトロピカルパラダイスが来た!トロピカルパラダイスだ!』

「なにっ!?」
 ガロウが叫んだ。
「おお……!?」
 デンゾウが目を擦る。
「マジにゃッ!?」
 カルマも素っ頓狂な声をあげた。
「ふむ……!」
 キリカもまた、思わず身を乗り出す。

『ここまで沈黙を保ってきた大穴馬が遂に動きを見せた!トロピカルパラダイス、先頭集団が動きを鈍らせたのを見て勝負に出た!トロピカルパラダイス、ぐんぐん加速しながら先頭集団に迫ります!』

「おいおいおいおい、マジか!来たじゃねえか穴馬がよ!」
 ガロウは立ち上がって柵にしがみつき、拳を振り上げた。
「あの……穴馬とはなんですか?」
「誰にも勝つと思われてなかった馬のこと!いまそれが上がってきたところにゃ!」
「そうなんですね……すごい!がんばれーっ!」
 馬場を駆けるトロピカルパラダイスの姿に、桜花は手を振って応援の声を投げかけた。
「グフフ……競り上がってきたじゃねェかよ、穴馬が……!よォーし行けェ!行けェ!一発大穴開けてやれよォ!グフフ……!」
 静かに興奮を高めたデンゾウが、がしゃがしゃと音をたてて柵を殴りつけた。

『いや、だが漁夫の利は許さぬとマジョノカーニバルがバズーカシュート!魔女がおジャマを許さない!
 いえ、ですがこの砲火をトロピカルパラダイス躱します!ご覧ください華麗に踊るようなステップ!高出力の火器も格闘戦性能も他の馬に差をつけられ穴馬に甘んじていたトロピカルパラダイスでしたがここで機動力の高さを見せつける!

 ああっと!トロピカルパラダイスここで更に前進……追い抜いたアーッ!!戦闘状態真っ只中の先頭馬たちを掻い潜り、なんとここで穴馬のトロピカルパラダイスがトップに立ちました!』

「よし、行け!そのまま走り抜け!」
「頑張ってくださーいっ!」
「っしゃア!行け行け行けッ!!トロピカれッ!!トロピカってくれッ!!」
 白熱――熱狂!!ゴール前の攻防から、トップへと躍り出た穴馬の姿にカワサキ競馬場のすべての観客が声をあげ、今日一番の大歓声を響かせる!

『そのまま走る!!トロピカルパラダイスが走る!!トロピカルパラダイスが行く最終ストレートッ!一拍遅れてマジョノカーニバル、マーブルスクリュー、プリンセスハレーションと続きます!だがトロピカルパラダイス更に加速する!この時を待って温存していたのか!トロピカルパラダイス独走!トロピカルパラダイス独走!そして今ゴールラインを抜けたーッ!!』

 ――そして、決着! 

『ヴィクトリーーーーッ!!まさかの番狂わせ!穴馬トロピカルパラダイスがいま一着でゴールです!』

「勝ったじゃねェか!グフフ……こいつは大番狂わせだぜ……面白ェ、面白ェ」
 デンゾウが抑えきれない笑いを漏らしながら、がしゃんがしゃんと柵を叩く。
「す……すごいレースでしたね……」
 やや圧倒された感のある桜花が、短く息を吐き出しながら客席へと深く腰を下ろした。

『只今のレース結果が確定いたしました』

 会場にアナウンスが響いたのは、そのときであった。
 場内に設置された無数のモニターへと今回のレースの結果が映し出されたのである。

『1着 9番・トロピカルパラダイス
 2着 6番・マジョノカーニバル
 3着 8番・マーブルスクリュー』

 ――かくして、今夜のレースは終了する。
「よーし!勝ちだ勝ち!早速交換に行こうじゃねえか!」
「グフフ……まさか本当に勝っちまうとはな……面白ェこともあるもンだぜ」
「私は負けちゃったけどにゃん……」
「ええと……ほ、ほら、でもマジョちゃんは2着でしたよ!」
 馬たちの戦いを見終え、勝ち馬券を持つ猟兵たちは交換窓口へと向かってゆくのである。
「ところで皆さん、この後はどうされます?」
「闘技場ってのがあるって聞いたもんでな。俺はそっちを見に行くぜ」
「ああ、闘技場か……グフフ、そう言やあったな、そンなトコも……いいぜ。せっかくだ、そっちはおれが案内してやろう」
「カルマちゃんはパティスロのお店に行く予定にゃん。今日のキトゥンchは遠征編!カワサキのアブないお店の潜入レポだからにゃ♪」
 ここからの行先は、それぞれがまた分かれることになる。現地解散だ。猟兵たちは最後に一度挨拶を交わし、そしてそれぞれの目的地へと向けて動き出していった。 

「さて――。次はパティ・スロか」
 一方、ちゃっかり9番の単勝馬券で勝ち分を出していたキリカは、グリモア猟兵の勧めを再び思い出し、次の目標をパティスロへと定めていた。
 幾分軽くなった足取りで、彼女もまた次の目的地へと向かう。

 カワサキの夜はまだ長い。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

斎藤・斎
アドリブ歓迎
1から10まで機械内部で処理されてしまいますと、結果が多少恣意的に見えても欲目が絡んで正常に判断できません。ブラックボックスのない伝統的なゲームの方が個人的には気楽に遊べますね。

というわけで、トラディショナルなカードゲームを楽しみたいです。ヤクザさんのところは遠慮したいので、そうするとポーカーかブリッジ、ブラックジャックあたりでしょうか。『沈思黙考』も使って、1回目2回目で勝ったぶんを3回目の負けで返却してお咎めなしで出てくるようにします。
勝ちすぎると別室に連れ込まれて取り立てされるとかいう話も、根拠は無くともたまにあるようですし。



 既に日も暮れ、夜の帳に包まれながらもカワサキ・シティは地上に充ち満ちる電子の光に真昼と変わらぬ明るい顔色を見せる。
 行き交う人々の雑踏は昼間にも増してストリートを埋め尽くし、眠りを知らぬ街並みはその輝きを更に増してゆく――。
「ふーん……パーティクル、ですか」
 その猥雑な空気の中を斎藤・斎(f10919)は歩き、そして一軒のパーティクル専門店の前で足を止めた。
 パーティクル――この街においては多くの人々がその虜になっていると言われるギャンブル・マシンだ。この機械に取り付かれたが故に破滅へと進んだ博徒たちも少なくはないのだという。
「アミューズメント性としては興味がないでもありませんが……」
 斎はそっとパーティクル店の中を覗き見る。丁度近くのパーティクル台で当たりが出たところらしい。極彩色に煌めきながら気が狂ったような大音量で過剰なほどの大当たり演出をするのを、斎はやや冷めた目で眺めていた。
 しかして、すこし視線をずらせば――負け続きと見える貧相な男が、絶叫しながら台を殴りつけている様子もまた見られた。
「……1から10まで機械内部で処理されてしまいますと、結果が多少恣意的に見えても欲目が絡んで正常に判断できなくなるんでしょうね……」
 であれば、それはきっと自分向けではないのだろう。――斎は一瞬、パティ・スロ台の前で大負けして狂乱する自分の姿を思い浮かべ、緩々と首を振った。そんな醜態を人前で晒す可能性がある――かもしれない、というのは少々気が引ける。
「ブラックボックスのない伝統的なゲームの方が個人的には気楽に遊べますね」
 ここで斎は回れ右し、再びストリートの雑踏へと入り込んでゆく。
 ――パーティクル専門店を離れて歩くこと数分。斎はシルバーウィロウ・ストリートの中に一軒のカジノを発見することに成功する。
「これは……また、随分と味わいのある」
 『ストアハウス』と看板の出された、やや古ぼけた外観の店であった。怪しげな漢字でわけのわからないペイントを施された扉を潜り、斎はいかがわしいガラクタに溢れた通路を進む。
 武侠界に存在する、香港租界の雰囲気を斎は思い起こしていた。
「……おや」
 しかして――上層階へと足を踏み入れれば、その雰囲気は大きく変じる。
 斎を迎え入れたのは、外観から想像していたものとは異なり、整備の行き届いた近代的なカジノ・スペースであった。
「なるほど。入り口付近の荒れた感じは雰囲気づくりのためのもの……ということでしょうか」
 納得しました、と頷いた斎は、そのまま場内のカウンターへと訪れ、サイバー通貨をカジノ・チップへと交換する。
「さて。……では、少し遊んでいくとしましょう」
 そして、斎はテーブルへと向かった。

「――ショウ・ダウン」
「7のスリーカードだッ!」
「クク……俺はキング入りのフルハウスだぜ!」
「フッ……降りて正解だったか」
 ディーラーの声に応じて、テーブルに掛けた博徒たちがカードをオープンしてゆく。
 ポーカー・テーブルであった。
 トラディショナルなカードゲームを楽しみたい、と考えていた斎の前に折よく現れたのがこのテーブルだったのである。席に着いた斎は、ここで既に二回戦目の勝負に入っていた。
「……嬢ちゃん、アンタもテを見せな」
「はン!どうせ大したことねェぜ!さっきの勝ちだってビギナーズラックに違ェねえさ!」
 そして、現在は二度目の決着の瞬間を迎えようというところである。
 斎は一回戦目でフラッシュを揃えてチップを総取りしていた。だが、今度の対戦では別の博徒がフルハウスという強力な手を揃えている。
「コイツに勝てる役はそうそう揃いやしねェよ……さあ、さっき渡したチップを返してもらうぜ!」
 フルハウスを揃えた博徒が、勝ちを確信した顔でにやにやと下卑た笑みを浮かべながら斎をじとりと睨む。
「では――」
 しかし、斎は僅かたりとも落ち着きぶりを崩すことなく、手にしたカードをオープンした。
 そこに並ぶ札の内訳は――ハートの2と、4枚のQ!
「Qのフォーオブアカインド」
「な、ッ、にイイィィ~ッ!?」
 瞬間、博徒たちが絶叫する。
 ここまで出揃っていた役で最も強かったものはフルハウス――悪い手でこそないものの、フォーカードには勝てない!
「では、私の勝ちですね」
「ええ、おめでとうございます」
 役を確認したディーラーが卓上のカジノ・チップを集め、そして斎の傍へと滑らせた。
「ま……待て!て、テメー!もう一回だ、もう一回勝負しろ!」
「ええ、いいですよ。私ももとからそのつもりです」
 因縁をつける博徒へと、斎は涼やかに微笑みを返した。
 ――実のところを言えば、“本気”を出してしまえば斎に負けは絶対に在り得ない。
 ユーベルコードの領域にも達した集中力は超能力めいた高い知覚能力を彼女にもたらしており、その思考処理のレベルを大きく引き上げていたのである。
 これによって場の流れを読み切った斎に、駆け引きでの負けは100%の確率で在り得ないと言えた。
「このガキャア……ほえ面かかせてやるぜ!」
「ええ、望むところです」
 かくして、挑む3戦目――!
 ――――だが、しかし。この3回目の戦いは、実に意外な形で幕を閉じることになる。
「……ショウ・ダウン!」
「ストレートだッ!」
「こっちもストレートだぜ、見ろ!Kハイだ!俺の方が強ェッ!」
 巡る3度目の決着の時――博徒たちがまたしてもカードを開き、そこに作り上げた役を見せつけてゆく!
 そして、そこで肝心の斎のテは――
「……ツーペア、ですね」
 ――微妙、ッ!
 ワンペアよりはまだまし、というレベルの安手であった!それを見た博徒たちが一斉に吹き出し、やはりビギナーズラックだったか、とげらげら笑い転げる。
「はは……負けてしまいましたね」
 この負けで、先の二戦で得たチップの7割ほどが持っていかれた。残ったのは収支的にはかろうじてプラスと言える程度のチップだけである。
「楽しい勝負でした。ありがとうございました」
 そして、この3戦目を終えたところで斎はテーブルを離れる。
 ――実のところ、この負けは斎にとって計算通りであった。
 多くの賭場は、大なり小なりその背後には運営にかかわる非合法的な組織が存在している――というのは、どこの世界でも共通のパターンだ。
 実際、UDCアースなどでもこうした非合法組織の運営する賭場が人死にまで出すほどの大きなトラブルを生み出してしまうというのはよくある話である。
(勝ちすぎると別室に連れ込まれて取り立てされるとかいう話も……、根拠は無くともたまにあるようですし、ね)
 斎は自分の姿をさりげなく目で追ってくる黒服の警備員たちの視線に気づいていたのだ。――恐らく、この賭場もある程度は地元のヤクザの息がかかっているのだろう。派手に勝ちすぎればトラブルの元になったかもしれない――斎はここで間違いなく自分は賢明な判断をしたと確信していた。
(とはいえ――まだチップは残っていますし。向こうも手出ししてくる様子はありませんからね。もう少し遊んでいきましょうか)
 ここで斎は別のテーブルを目指した。――彼女が向かった先は、今度はブラックジャックを扱うテーブルである。
「よろしくお願いします」
 そうして、斎は再び勝負のテーブルへと着く。
 かくして斎はトラブルを起こさぬように細心の注意を払いながらも――勝負の駆け引きを楽しむひとときを過ごしたのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

アスカ・ユークレース
カジノに競馬、闘技場パティスロ……まさに大人の遊び場、ですね……
未成年の私でも問題なく楽しめそうなのは……サイバネティックスポーツセンターでしょうか?普通のスポーツとの違いはVRだったり神経接続してプロの動きをトレース出来る点みたいですが、大まかな根の部分は同じでしょう。

スタッフさんの説明を受けたら
ボウリングにビリヤード、テニス……様々なスポーツを体験。思い切り体を動かして発散します
好スコアが出せたら思わず飛び跳ねて喜ぶかもしれません

アドリブ絡み歓迎



「カジノに競馬、闘技場にパティスロ……まさに大人の遊び場、ですね……」
 アスカ・ユークレース(f03928)は端末へと送られてきたカワサキ・シティの夜遊びガイドマップを眺めて短く嘆息した。
「未成年の私でも問題なく楽しめそうなのは……」
 アスカは端末に触れながら、カワサキ・シティのマップを開いて観光情報を確認してゆく。
 ――なお、現サイバーザナドゥのカワサキ・シティ都市刑法においては18歳を一応の成人年齢と定めており、カワサキ市刑法上では彼女は問題なくカジノや競馬場に出入りすることが可能だ。
 データとして受け取った情報の中にもその旨は記載してあったが、しかしてアスカの暮らす環境においては、彼女はまだ成人として認められない年齢である。
 そう。アスカは自分自身の意志によって自らを律したのだ。未成年のうちからこのように危険な香りのする場所に染まってしまっては不良になってしまう、と。
「……サイバネティックスポーツセンター?」
 そうこうしているうちに、アスカは観光ガイドの中からひとつの施設の情報を見つけ出す。
 サイバネティックスポーツセンターは、カワサキ市民の多くが利用するスポーツ施設である。
 通常の肉体を用いて利用することのできる多くのアクティビティのほか、VR接続機器やイントロンツールを用いた電脳空間上へのフルダイブによって行うことができるサイバーダイブ・スポーツなどを楽しむことができる。
 また、電脳神経系をインプラントしているならばデータセンター内に記録されているプロスポーツ選手のモーションデータをダウンロードすることで、その動きをトレースして遊ぶことなども可能だ。
「ふうん…………面白そうですね!」
 いいじゃないですか、と笑顔を浮かべるアスカは電脳内データストレージへと地図情報を登録し、端末を閉じて歩き出す。
「よーし、出発ーっ!」
 かくして、アスカはサイバネティックスポーツセンターへと向かうのであった。

「ええーいやあっ!!」
 きゅ――ッ!!ボウリングシューズが磨かれた床面を踏みしめ、靴底が甲高く音を鳴らす!
 そして助走をつけたアスカは、そのまま手にした9ポンド重量サイバーボウルを見事なフォームで投球する!
 がらがらがらごろ――ぱかん、っ!!コースをまっすぐに走り抜けたボウルは並んだピンへと見事な入射角で直撃ッ!!小気味よい音と共にならんだ10本を一網打尽する!ストライク!
「わあ、すっごい!!ほんとにできた!!」
 あまりにも見事に再現されたストライク投球に、アスカは自分の身体ながらにすごいすごいと声をあげて喜んだ。
 ――そう、彼女は自らのバーチャルキャラクターという存在の特性を利用してサイバネティックスポーツセンターのデータセンターを利用していたのである。
 アスカがダウンロードしたのは世界記録保持者の女子プロボウラー・マナ=パズルダ氏の投球フォームのモーション・データだ。この投球モーションをアスカは完全に再現し、100点満点のストライクを出してみせたのである!
 続けてもう一級!更にもう一級!アスカは次々に9ポンドボウルをコースへと向けて放り投げ、その度に完璧なストライクを連発してみせる!最終スコアはむろんパーフェクトゲームだ。はじめて見るとんでもないスコアに、アスカは思わず飛び上がった。
 なお、データセンターからダウンロードしたプロ選手のモーションデータはそのまま電脳内に保存しておけばいつでも手軽に再生することが可能だ。残しておけば別の機会にこれを披露することがあるかもしれない。
「ふふ……私のこの雄姿、一一にも見せてあげたいですね」
 ボウリング用グローブを外し、休憩に入りながらアスカはにまにまと笑みを浮かべた。
「それにしても……このシステムってほんとうに凄いですね。ものすごく便利っていうか……ほとんど素人の私でも、プロのデータを入れ込むだけでこんなことができるなんて」
 パーフェクトスコアの記録用紙を手に取りながら、アスカは思わず笑みを深める。
 そうしてから、アスカは端末を開いた。
「……そうだ。せっかくですからほかのスポーツも体験してみましょうか。いまみたいにまたすごい記録が出せちゃうかも……!」
 アスカは端末を操作し、サイバネティックスポーツセンター内の設備を再確認する。
「そしたら……」
 現在いるフロアは3階。同じ階には何があったでしょうか、と案内図を見てみれば――アスカはそこに、『ビリヤード場』の文字を発見する。
「ビリヤード!うん、うん……いいですね。ビリヤード……あんまりやったことはありませんけど…………かっこいいですよね……」
 アスカは目を閉じながら想像する――しゅっとした感じのかっこいい衣装に身を包んだ私が、ものすごくかっこいいプロの動きですごくかっこよくキューを操り、自由自在にビリヤードボールを操るかっこいい姿を。
「……かっこいい!」
 これは映える――!アスカの電脳内はナルシシズムでちょっとキマりかけていた。実際、ビリヤードは多くの世界において非常に人気が高く、そのかっこよさで多くの人を魅了し続けているスポーツだ。これができれば注目の的になれるのは間違いなし。
「こうなれば善は急げですね……ふふ。さっそくデータをダウンロードしてこないと。……そうだ、動画を撮って記録に残しておくのもいいですね……!」
 そんなわけで、ぎゅっと拳を握りしめたアスカは小走りでスポーツセンターの受付へと向かい、データセンターへのアクセスを目指すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎

■行動
これはまた、楽しそうな施設ですねぇ。
とは言え、私の年齢(17歳)ですと、『パティ・スロ』でも制限に引っ掛かってしまう可能性が高いですから、制限の無い『ゲームセンター』の様な場所を探しましょう。

そうして見て回りましたところ、何やら景品付きのゲームが。
機械のアームを動かし、この辺りでは珍しい品を取るゲームですかぁ。
名称は『Ultra・Funny・Object・Catch・Arm』、略して『UFO・キャッチアーム』です?
面白そうですので、『効果弱め・効果時間中程度』の『秘薬』を摂取し【霊結】を発動、集中力を高めて成功率を上げ、遊んでみますねぇ。
面白い物が取れると良いのですが。



《リーチ!》
《激熱!!》
《ボタンを押せぇ!》
《♪疾風の如く往け 闇を断つ銀牙 陰る月の下で 閃く刃!
 かがやく姿の 剣の魔人よ! ただしき祈り護るために 背いた闇を叩き伏せろ! 銀狼!》
「ィヨッシャアアー!!確率変動ゥーッ」
「アーーーーーッザケンナーッ!!!!」
 ――熱狂!!
 今日も今日とてカワサキ市民の博徒たちに親しまれているパーティクル専門店には、悲喜こもごもの絶叫がこだまする。
 冷静に見てみれば見た目を派手にしただけのおそろしく単純なくじ引きといったところなのだが、そこに人生すら賭した者たちが存在するのは真実なのだ。
 パーティクル専門店は、今日も盛況である。
「これはまた、楽しそうな施設ですねぇ……」
 夢ヶ枝・るこる(f10980)は、シルバーウィロウ・ストリートに店を構えるパーティクル専門店の一軒を覗き込みながら、未知の世界の光景に短く息を吐いた。
「……とはいえ、私じゃ入れませんけどぉ」
 ――しかして、るこるは未だ17歳。このサイバーザナドゥにおいても成人として扱われるのがレアケースの年齢の範疇だ。ここで店に入っても、店のスタッフたちに見咎められる可能性があるだろう。
 るこるは冷静に判断し――漏れ聞こえる博徒たちの熱狂の声にほんのりと後ろ髪を引かれる思いを抱えつつも、その気持ちを振り切って店の前を離れた。

「あっ。こっちなら……よさそうですねぇ!」
 そうしてパーティクル店を避けた先――るこるがたどり着いたのは、若年層も利用可能なゲームセンターである!
 そこは古式ゆかしい筐体操作型のビデオゲームから最新式のイントロン式フルダイブ・ヴァーチャルゲームに至るまで様々なゲーム筐体を取りそろえた、市内でも有数のゲームセンター施設だ。『楽しい時間』『最高の体験』などの美辞麗句を掲げたサイバー看板のもとへと、るこるは吸い込まれるように入っていった。
「わあー……この世界にも、いろんなゲームがあるんですねぇ……」
 るこるは物珍しげにフロア内に並んだゲーム筐体を眺めながら、ゲームセンターを探索してゆく。
 サイバーザナドゥ文明の技術水準は、これまで猟兵たちが発見してきた世界の中でも非常に上位に位置している。おそらく科学技術でトップに立つのはスペースシップワールドだが、サイバーザナドゥはそれに次ぐ科学文明の力を保有しているといえた。
 ――その上で、生存のために多くのリソースを割く必要性をもつスペースシップワールドに比して、サイバーザナドゥはそこまで必死になる必要性を持たない。
 それ以上に激しいのは、巨大企業群の中でのシェア争いである。
 そして――巨大企業群の中には、当然ながら高い技術水準をもってしてアミューズメント機器の開発に携わり、経済的生存競争によって殺し合いを繰り広げている企業も決して少なくない数が存在していた。
 そうして血で血を洗うような苛烈な生存競争を繰り返し、成長を続けてきたのがこのサイバーザナドゥのゲーム業界であり、その過程で生まれてきた数々のゲーム筐体は非常に高品質なものが揃っている。例えば専用のブースからイントロン技術を用いてバーチャルスペース内の戦場へとサイバーダイブし、格納庫に準備された10メートル級機動兵器に搭乗して出撃し陣地を奪い合うロボットバトルシミュレーションなどは多くの熱狂的ファンを抱えているし、同様にフルダイブを行うことでサイバースぺース内に展開したステージでキャラクターをダンスさせ、しかもそれを360°いずれの角度からでも干渉が可能なアイドル・リズムゲームにも根強いファンが多い。
「ふうん……これはなかなか面白そうですぅ」
 どれもこれもが魅力的で目移りしてしまう――。るこるは筐体群を眺めては通過する。どれも楽しそうなのだ。すこし優柔不断な面が出てしまったるこるであったが――最終的に、彼女はあるゲーム筐体の前で足を止めた。
「……まあ。景品付き」
 『Ultra・Funny・Object・Catch・Arm』――。古式ゆかしい、クレーンゲームだとか呼ばれるタイプの、筐体内を動くアームを操作することで内部に置かれた景品の獲得を目指すゲームセンターの定番筐体である。
「しかもあれは……お菓子、ですかぁ?」
 なによりもるこるの目を惹いたのは、筐体の内部に鎮座する『おいしい棒Premium・プライズ景品限定トロマグロ味50本パック』である。
 夢ヶ枝・るこるはよく食べる。
 もっと言ってしまえば、どえらい大食漢である。――であるが故に、こうした食べ物がかかることとなれば、彼女は非常に真剣だ。
「ぜひ頂きたいところですねぇ」
 るこるは胸元からひとつの小瓶を引き出すと、その蓋を開き、瓶の中から一粒取り出した丸薬をぐっと飲み込んだ。
 ――それは、彼女の能力を一定の時間増強することができる秘薬である。ユーベルコードの領域にも達した秘伝の薬だ。
 るこるは躊躇なくそれを飲み下すと、筐体のコントローラーパネルの前に陣取り、そして通貨コインを投入した。
(……まずは一度、挙動を覚えましょうかぁ)
 そして一度目の挑戦。るこるはボタンを押し、筐体内のアームを動かしてゆく。
 ボタンを離すと、アームがぐいと伸びて筐体内の下部へと向かった。――しかして、アームが景品を掴むパワーはひどく弱々しい。ゲームセンターとて商売。仕入れ値と経費を確保するために、客には一定以上のカネを使ってもらう必要がある――故に、このテのプライズは一発獲得ができないように調整して置かれている。
(押し込む形なら……いけそうですねぇ?)
 しかして、秘薬の影響によって高められた集中力によって、機械の動き方を注意深く観察していたるこるには勝算が見えた。
「では、もう一度……」
 るこるは再び通貨コインを筐体へと投入し、続けてもう一度コントローラーパネルのボタンを押してゆく。
 るこるの意に従い、クレーンのアームが景品の上へと移動した。
 そして――
「これで……うまくいけば、ですねぇ」
 アームが下降を開始した。
 ゲームセンター側の想定であれば、アームを引っかけることで景品パックをかるく持ち上げ、アームが外れる際にそこから倒れる際の挙動で景品パックを動かして獲得位置を目指す、というふうに設定されている。
 しかし、るこるが今回とった作戦はそのようなまどろっこしい手段ではない。
 るこるは一回目のアームの動きを観察することで、アームが思っていたよりも深く下へと届くことに気が付いたのだ。そこで彼女は考えたのである。――ひっかけるのではなくて、適切な位置にアームのツメを喰い込ませて押し込めば、その圧力で景品パックを獲得位置まで落とせるのではないか、と。
(さあ、これは……)
 下降するアームのツメが、景品パックを押す――僅かな緊張の一瞬。張り詰める刹那!
 そうして――次の瞬間である!
 がこん、っ。
「わあ、やりましたぁ」
 るこるの目論見は見事成功を迎えたのである。アームの絶妙な位置取りによって押し込まれた菓子のパックは、そのまま獲得位置へと落下と果たしたのだ。
 取り出し口から菓子のパックを引きずり出して、るこるはぐっと拳を握る。
「ふふふ……せっかくですからぁ、他の景品も見てみましょうかぁ」
 それからるこるは視線を動かし、次なる獲物を探し始めたのである。
 ――存外ハマってしまってか。この日、るこるは結局この後10個ほどの景品を獲得し、UFO荒らしと店舗スタッフに大層恐れられたのだという。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『二次会パーリナイ!』

POW   :    思いっきり夜更かししてあれこれ楽しむ

SPD   :    面白そうな店やイベントに顔を出してみる

WIZ   :    飲み物と会話を楽しみながらのんびり過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 カワサキ・シティ。シルバーウィロウ・ストリート。
 夜は深まり、光化学ガスで薄ら曇った空には青白い月が朧げに顔を見せる。
 そのうっすらとした月明かりの下――眠りを知らぬカワサキは、街中を照らし出すネオン管の光の中に溺れるように浮かび上がっていた。

「そちらの旦那、これから二次会はイカガですか!」
「ギリ遵法行為!遵法行為の範囲内でイイコトできますよ!ノーリスク!ノーリスク!」
「いいハーブあるヨ!合法!ゼンゼン合法!ネ、チョトだけ!チョトだけ試してみて!トべるから!」
「ネ、オニイサン。イイコトしない?ダイジョブ。ほとんど合法ヨ」
 そして、その明かりにへばりつくようにストリートには合法を謳う非合法客引きやサイバーヨタカがわらわらと溢れている。カワサキではお馴染みの光景だ。
 当然ながら、そのような客引きに捕まってしまえば連れていかれるのは粗悪な合成アルコールにあり得ない高額の値段設定をした非合法バーや、ホストやホステスたちの接待を受ける代わりに凄まじい金額を請求されるヤクザ・キャバレー。あるいは完全に非合法のドラッグを提供する犯罪の温床など、いずれも恐ろしくいかがわしい店舗だ。注意しなくてはならない。

 その一方で、カワサキにもそれなりの品質を保つ夜の店がないわけではない。
 個人経営の小さなバーから、大人数で踊り明かせるサイバーナイトクラブまで。下調べをしっかりとしておけば、良い店との出会いもあるだろう。

 また、近年では映像投影システムの進化と普及によって店内設備にAR技術を取り入れた店舗が流行りつつあるのだという。
 例えば――店内の壁に森の風景を映し出すことで癒し空間を作り出すことを狙った『フォレスト・バー』や、同様に海の底の風景を映し出す『ディープシー・バー』といったところである。変わり種としては店内に暴れ回る怪獣や廃墟の映像を映し出した『カイジュウ・バー』なども存在している。(基本的にはAR機材を導入するだけで済むため、安価で店内の雰囲気を大きく変えられることから近年のカワサキでは爆発的に数を増やしつつある)
 なお、これらの技術はダンスフロアでも活かされており、同様に映像投影技術を用いたARダンスクラブなども定番化しつつあるのだという。

 幸いにして、猟兵たちにはじゅうぶんな持ち合わせがあるはずだ。
 君たちはカワサキのどこへ遊びに行ってもよい。
デンゾウ・ゴガミ
同行:カルマ/f36625
よう嬢ちゃん、さっきは世話ンなったな
情報屋としちゃ、どうあれ情報には対価を支払うモンだ
大穴当てた金で奢ってやるぜ、よけりゃついてきな

とはいえこンなナリだ、洒落た店は知らねェ
だがここ『トリ・テイ』はオススメよ
養殖バイオスズメやバイオニワトリのヤキトリは勿論だが、肉巻きアスパラケバブも悪くねェ
……あン? あンた成人になったばっかだって?
グフフ、そりゃチョージョー。チューハイでもビールでも好きに呑みゃイイ
おれは燗のサケでのんびり呑るぜ、ツマミはスナギモさ……

フィクサーってのはコネが命だ
トレジャー・エヴリー・ミーティング。あンたとはいい縁になる気がするぜ、カルマ=サン


カルマ・ヴィローシャナ
同行:デンゾウ/f36547
あ、ドーモ、デンゾウ=サン
こっちこそメチャ楽しかったよ!
……パティスロで有り金全部溶けたけど

マジで? それじゃあカルマちゃん奢られちゃう!
って、変な所はダメだかんね!

これはまさか『アカチョウチン』って奴?
ううん、一度入ってみたかったから全然オッケー♪
何故ならば、つい先日成人になったばかりなので!

お酒…それじゃあこのバイオイモ焼酎『大魔王峠』!
ここでカクテルとかマジで花拳繍腿っしょ
ダイジョーブ、私の胃はブラックホールなんだから
それじゃあ肉巻きアスパラケバブと純合成ネギマで!

うん。私も色々調べてるんでフィクサーがいたらマジ助かるし!
コンゴトモヨロシク、ね。デンゾウ=サン



「ぷあー……っ……だ、だめだったにゃー……」
 極彩色に光るネオン看板の下、カルマ・ヴィローシャナ(f36625)はがっくりとうなだれながら店を出た。
 パーティクル遊戯店・『ゲキアツ』。
 カルマは動画配信のネタのために『パーティクル遊戯機チャレンジ!アタリを引くまで帰れません!』と称してパーティクルに挑戦していたが、これがいけなかったのだ。
 先のサイバネ競馬での負け分を取り戻すにゃん!とばかり意気込んでカルマが座ったのは『CR緋剣のリリア 15th-Special』。旧時代に流行った美少女バトルアクションアニメをモチーフにした遊技機だ。通常時アタリ確率は1/213。アタリ後は確率1/78の確率変動状態へと移行する。
 カルマはここにそれなりの紙幣を投入し、実に450回転目にしてアタリを掴んだものの――その後の確率変動継続チャレンジ50回転で次のアタリを掴めず撃沈。(※ここでアタリを引けていれば、次回以降の確変継続チャレンジは120回転まで延長されたモードとなっていた。)結局、スカンピンになって店を出たのである。
「あ、あそこの赤フラッシュでアタってればにゃーん……」
 ぐすぐすと涙ぐむカルマちゃんであったが、現実は非情である。
 もうテンションがどん底まで落ちてしまったがために今日はもう帰って不貞寝でもしようか――そう思った、その時である。
「ん――おおう、やっと見つけたぜ」
「んえっ?」
 カルマちゃんの視線の先を、大きな影が遮った。
「よう嬢ちゃん、さっきは世話ンなったな」
 そこに立っていたのは――デンゾウ・ゴガミ(f36547)の巨躯である。
「あ、ドーモ、デンゾウ=サン」
 先のサイバネ競馬でご一緒した猟兵だ。ひときわ目立つ体躯にすぐさま思い出したカルマちゃんはぴょいと頭を下げてオジギする。
「ああ。さっきの競馬、お陰さンで随分楽しめたぜ」
「えっへへ、それはよかった!こっちこそメチャ楽しかったよ!」
 熱に満ちた競馬場の活気を思い返し、カルマは笑んだ。
「……パティスロで有り金全部溶けたけど……」
 そして――視線を外しながら、苦笑いする。
「なンだ、ツいてねえな今日は」
 デンゾウはそのしょぼくれた姿を笑い飛ばした。
「なら、その負け分を補填してやるとするか。グフフ……『同じ穴のタヌキ』だぜ」
 ポエット!デンゾウは日本領古来のコトワザを引用し、助け合いと義の精神を見せる。
「えっ!いいの!」
「おうさ。情報屋としちゃ、どうあれ情報には対価を支払うモンだ。大穴当てた金で奢ってやるぜ、よけりゃついてきな」
 現金で膨らんだ財布を見せて、デンゾウは顎でシルバーウィロウ・ストリートの先を示す。
「マジで?いいの!?それじゃあカルマちゃん奢られちゃう!」
 カルマちゃんは飛び上がって喜んだ。――しかし。
「……って、変な所はダメだかんね!」
 一応念のためにクギは刺しておく。何しろここはカワサキだ。いかがわしく不健全な店舗も多く軒を連ねる街であり、活気と賑わいの代償として品性という言葉から大きくかけ離れている。そして配信者はイメージも重要な商売だ。オトコがいると噂になればガチ恋勢は拗らせた憎悪をぶつけるサイバーゴーストへと変貌し、配信者を血祭りにあげるために心血を注ぐ邪悪な存在と化してしまうだろう。
「この街じゃ変じゃねェところの方が珍しいぜ」
 その懸念を、デンゾウが笑い飛ばす。
「…………それもそうにゃん」
 二人は顔を見合わせて笑った。

「とはいえこンなナリだ、洒落た店は知らねェ」
「うん」
 二人はシルバーウィロウ・ストリートの路地へと入った。
 メインストリートを外れて枝分かれした道であるが、こちらにも多くの店舗が軒を連ねている。
 しばらく歩いたところで、デンゾウは一軒の店の前で足を止めた。
「だがここ『トリ・テイ』はオススメよ」
 やや古びた店構え。ニワトリを象ったカンバンに刻まれた『トリ・テイ』の屋号と、入り口に吊るされたサイバー提灯が照らす大衆向けのサケ・バーである。
「おーっ……これはまさか『アカチョウチン』って奴?」
「好みじゃねェかい?」
「ううん、一度入ってみたかったから全然オッケー♪」
 カルマは一歩踏み出して、店の扉を開いた。
「何故ならば、つい先日ハタチになったので!」
「……あン?成人になったばっかだって?」
 そりゃチョージョー、とデンゾウは頷いた。
「そンなら祝いも兼ねてやろうじゃねェか。チューハイでもビールでも好きに呑みゃイイ」
「やったー!デンゾウ=サンたらフトッパラ!」
「グフフ、伊達にこのハラはしてねェぜ」
 デンゾウは腹をぽんと叩いた。
「ダンナ。二人だ。座れるかい」
「ヨロコンデー!」
 そして、手慣れた雰囲気でデンゾウは店内へと入り席に着く。カルマもそれに続いてテーブル席にかけた。
「へえー、フンイキあるね」
 カルマはきょろきょろと店内の様子を見渡した。古式ゆかしい木造建築の雰囲気を取り入れたレトロ・スタイルの店舗だ。『ひとのあたたかみを』という言い訳で注文や配膳を請け負うロボットを配置せず、古式ゆかしく店員が注文を取りに来る形式で運営している。
「おう。味もいいぞ。養殖バイオスズメやバイオニワトリのヤキトリは勿論だが、肉巻きアスパラケバブも悪くねェ」
「それじゃあ肉巻きアスパラケバブと純合成ネギマで!」
「好きに頼みな。サケは?」
「お酒……」
 カルマはテーブルに置かれた手書きのメニュー表を手に取る。
「それじゃあこのバイオイモ焼酎『大魔王峠』!」
「渋いねェ。だいぶ重いがダイジョブか?」
「ダイジョーブ、私の胃はブラックホールなんだから!ここでカクテルとかマジで花拳繍腿っしょ」
「わかったわかった。……おおい、ダンナ!オーダーだ!」
「ハイヨロコンデー!!」
 注文がまとまったところで、デンゾウは店員を呼びつけて注文を通す。
 ――待つこと数分。テーブルにはいくつかの皿とアルコール飲料のグラスが並んだ。
「わあ、おいしそう!」
「ンじゃ、頂くとするか」
 二人は手を合わせイタダキマス・チャントを唱えると、皿に手を付け始めた。
「くあーっ!効くねー!」
 バイオイモ焼酎『大魔王峠』――。正式に言えば、風味再現型飲用アルコール・芋焼酎風である。
 現在進行形で環境汚染の進行しているサイバーザナドゥにおいて供される食品は、大別して3種に分けられる。
 ひとつは他のワールドと同様のオーガニック食材を用いた食品だ。これらは家畜の肥育や作物の生育が困難化した現行のこの世界においては非常に希少価値のあるものとなっており、巨大企業群に囲われたごく一部の製造者たちが細々と生産している。
 ふたつめはバイオ生体を食材として用いた食品だ。これらは汚染環境下のサイバーザナドゥで生存可能なように生体改造されたバイオ改造済生体を用いており、オーガニック生体に大きく品質で劣るものの比較的安価で生産されている。ただし、バイオ生体はオーガニック生体に比して不安定なところがあり、一部の悪質業者などが汚染環境での肥育を行うことや肥育の際に使用する薬剤に規制がないことから有害物質を含有した食材が出やすいというリスクも孕んでいるため、一部の人々はこれの利用に否定的である。
 みっつめが、工業製品として生産される合成タンパク質などを素材とした可食マテリアルに科学的フレーバーを混ぜることでそれらしい食品として仕上げたものである。工場で培養されるバイオ培養食肉ブロックやバイオサクなどもこれに含まれる。最も安価であり、現在では中流以下のサイバーザナドゥ民に最も普及していると言われている。
 無論、旧時代で流通していたような本物の酒造が作ったオーガニックな芋焼酎は現在のサイバーザナドゥにおいては天文学的な数値の売値がつくだろう。そのため、こうした店舗に流通する酒の大部分はフレーバーを再現した調整済飲用アルコールである。
 とはいえ、このフレーバーの調整というのもまたサイバーザナドゥ世界の食品開発研究社たちが粉骨砕身の想いで研鑽を重ねてきた技術だ。ひとくち飲んだだけではまるで違和を感じないことだろう。敏感な味蕾の持ち主であればケミカルな合成風味に気づけるかもしれないが、気付かず美味しく頂ける方がこの世界においては却って幸福なのかもしれない。
 話を戻そう。
「ふーっ……。いやァ、やっぱりサケは燗に限るぜ」
 デンゾウは熱々の耐熱セラミックトックリボトルから小型セラミックグラスに次いだ合成サケ・フレーバー飲用アルコールを呷り、熱い吐息を漏らす。
 それから、ショウユフレーバー・ソースで甘辛く煮込まれた合成スナギモを口にした。弾力の強い食感が歯ざわりよく、ショウユフレーバーの味わいがデンゾウの舌先で広がってアルコールの残り香に交じり合う。
「このアスパラケバブもすっごい美味しい!デンゾウ=サン、いいお店知ってるね。今日カワサキ来てよかったぁ」
 合成食物繊維質の野菜風の味わいとバイオブタバラの脂の甘味を感じながら、カルマは肉巻きアスパラケバブを齧る。
「グフフ……喜んでもらえたようで何よりだぜ。……まァ、俺も来て正解だった。こうしてまたコネが繋がったワケだからな」
 酒とツマミに舌鼓を打つカルマの姿に、デンゾウは微笑んだ。――その細まった目の奥に映るのは、九割の親愛と一割の打算。サイバーザナドゥを生き抜いてきた人間は如何なる時も抜け目ない。
「うんうん。お互いイイ関係でいられたらいいねー?」
 芋焼酎を呷るカルマも、その奥底では冷静な部分を残している。
 二人は互いの様子を観察することで理解していたのだ。二人はお互いに利用し合える価値があり、win-winの関係を結べるパートナーたりえるということを。
「アア。フィクサーってのはコネが命だからな」
「だね。私も色々調べてるんでー、デンゾウ=サンみたいなお友達がいたらマジ助かるし!」
 カルマとデンゾウは笑い合いながら、その視線を交錯させた。
「トレジャー・エヴリー・ミーティング。あンたとはいい縁になる気がするぜ、カルマ=サン」
「こちらこそだよ。コンゴトモヨロシク、ね。デンゾウ=サン」
 同じ猟兵という立場である以上、二人は今後とも一致した利害関係のもと協力体制を取っていくことができるだろう。
 ヤクザ・クランの構成員がサカズキを交わし合うように、二人はここに協力関係を結び合ったのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ガロウ・サンチェス
いい感じに夜が更けてきたなあ。
まだ金には余裕があるしもう少し遊んでもいいんだが、
出来ればいい店を探したいよな。
とりあえず、こぢんまりしたラウンジを見つけて入店。
「ん、じゃあウイスキーくれや。あとナッツ」
義眼の綺麗なネーチャンとしゃべくりながら、合成酒をちびちびとやる。
酒に女…こんな時、破戒僧でよかったってつくづく思うぜ。
「んぁ?ああ、俺これでも元坊主なの」
故郷の国の昔話。若い頃の、血の滲む修行の日々。
寺院と軍政の癒着、そして悪夢のクーデター…ウイスキー片手に
ぽつぽつと嬢に語るのは、苦い思い出だ。
少し飲みすぎたみてえだ。つまんねー話に付き合わせちまったな。
もう、帰るわ。…宿はどこにしよっかなァ。



「いい感じに夜が更けてきたなあ」
 仄かに機械油の香りの混じるサイバーザナドゥの生温い夜風に身を浸しながら、ガロウ・サンチェス(f24634)は再びシルバーウィロウ・ストリートの雑踏へと紛れた。
「……まだ金には余裕があるし、もう少し遊んでもいいんだが」
 先のサイバネ競馬でトロピカって当てた勝ち分と地下闘技場のファイトマネーでガロウの懐は満たされていた。
「オニイサン!イイコいる!イイコいるよ!合法で濃厚接触し放題!」
「ネ、キモチイイアルヨ。キモチイイ。どうネ?」
「あー、いらねえいらねえ。そういうのは間に合ってんだ」
 その懐具合の匂いを嗅ぎつけて、悪質なキャッチやサイバーヨタカがガロウに次々と纏わりついてくるが、ガロウはそれを一切無視して押し通り、ストリートを進んでゆく。
「出来ればいい店を探したいよな……」
 いくらカネに余裕があるとはいえ、非合法店やヤクザ絡みはお断りだ。ガロウは眉根に皺を寄せながら、そうではない店を探して歩き回った。
「……おお?」
 そうして小一時間ほど歩いたところで――ガロウが巡り合ったのは、ストリートを外れた片隅にあるこぢんまりとしたバーラウンジである。
 他の店舗に比して明らかに控えめな弱々しいネオン・サインは、『オヒガン』の店名を示していた。
「まあ――他のトコよりはマシっぽいな」
 佇まいこそ陰気だが、妙な客引きも出てこないところを見れば比較的まともな店なのだろう。そろそろ足もくたびれたところだと納得し、ガロウは『オヒガン』の扉をくぐった。
「いらっしゃい――あら、新顔?」
 手狭な店内。バーカウンターにはバーテンダーの男が一人。カウンターで安物の合成ジョイント・シガーの煙をくゆらすホステスの女が二人。
 黒いドレスの癖毛女が、ぎょろりと大きな目をガロウへと向けた。
「ああ、旅のモンでな。……酒はあるかい」
 見るからに場末のバーといった趣きであるが、ガロウはまるで気にすることなく店内で一番大きなソファに腰かけた。
 何しろ、アポカリプスヘル育ちのガロウともなればそもそもがバーに入った経験も遥か遠い昔の話だ。ともなれば、陰気な雰囲気も特に気になるものではない。
「はいはい。コレ、料金表とメニューね」
 黒いドレスの女が、咥え煙草のままにはすっぱな調子でガロウへと雑にメニューを放り投げた。ガロウは何も言わず無言で受け取って目を通す。
「ん、じゃあウイスキーくれや。あとナッツ」
「合成のしかないけどそれでいいわよね。マスター、ウイスキーとナッツだってー」
 注文をカウンター奥のバーテンへと通し、黒いドレスの女は無遠慮にガロウの横に腰かけた。
「はあい。あらためまして、『オヒガン』へようこそ~。アタシのことはクロミって呼んでちょうだい」
 黒いドレスの女は『クロミ』を名乗る。ぱちりとした両目が印象的であったが、ガロウはそのどちらの瞳孔の奥にも緑色の発光体があるのに気が付いた。サイバネ義眼だ。
 クロミは口の端を歪めて艶やかに笑み、ジョイント・シガーの火を灰皿で潰して消した。
「あんた、義眼か」
「サイバー・アイよ。きらきらしててキレイでしょ」
 クロミは指先を両目に添えて、ぱちぱちと瞬きしてみせる。
「ああ。そこまで光るのを見るのは初めてだぜ」
「あっはは。お上手ー……あっと。お酌お酌」
 ここで合成ウイスキーフレーバー・飲用アルコールと代用合成ローストナッツがテーブルに届けられる。クロミがけらけら笑いながら用意されたグラスへとアルコールを注いだ。
「アタシももらうわね~」
 クロミはちゃっかり自分のグラスを用意し、水割りで注いでいた。カンパイ・チャントを唱えて、ガロウとグラスをぶつけあう。
「おう」
 ガロウは素直に頷いて、グラスに口を付けた。――安っぽいアルコールの香りが舌先と鼻孔を刺激し、喉が熱さを覚える。いくらかのケミカルさこそ感じられるものの、その風味はしっかりと彼の記憶しているウイスキーとよく似通っていた。
「美味いな」
「安物だけどね?」
「ああ、それだ。安っぽさがよく表現できてる味だ」
「あっはは。それ貶してない?」
 クロミがけらけらと笑う。
「……フフ。女の酌で酒か……破戒僧でよかったぜ」
 二口めのウイスキーを飲み下し、ガロウはしみじみと呟いた。
「あら、お坊さんだったの?」
 クロミはそれを耳ざとく聞きつけ、ガロウに問いかける。
「んぁ……?ああ、俺これでも元坊主なの」
「へえー……意外。どっちかっていうと闘技場のグラップラーって感じなのに」
「はは。まあ、似たようなモンかもしれねえな。少なくとも身体は鍛えてたぜ」
「あっ、それ聞いたことある~!大陸の方であるヤツでしょ?ショーリンジみたいな!」
「似たようなモンかもしれねえな。……まあ、色々あったのさ」
 ガロウはウイスキーを口に含みながら、静かに目を細めた。
「ふうん……それじゃ、色々あって……お坊さんやめちゃった、ってコト? ……おっと。それともアタシ、無遠慮に聞きすぎ?」
 ゴメンナサイネ、とクロミは冗談めかして笑った。
「あー……まあ、そうさな。……いろいろあったのさ、色々。……軍隊のな、お偉いさんが来て――。俺のいた寺も、変わっちまって、な」
「……まー……。思ってたよりヘビーな話?」
 ふうん、と息を吐いてクロミが首を傾ぐ。
「ああ――ハハ、そうだな。あんまり思い出したい話でもねえかもしれねえ」
 ガロウは力なく笑って、グラスをテーブルに置いた。
「あん時ゃ自分ならなんとかできる――なんて思っちゃいたが、結局何もできやしなかったのさ。自分の小ささを思い知らされた――っつうかな」
「……あらやだ。こんなでっかいナリして、随分弱気なこと言うのね?」
「辛辣だなアンタ」
 からかうような調子で言うクロミに、ガロウは苦笑いして返す。
「……少し飲みすぎたみてえだ。つまんねー話に付き合わせちまったな」
「ンー……そうね。つまんないハナシだったわ」
「おい、そこは『そんなことないわ』って言うトコだろ」
「いっひひ。アタシ、嘘がつけない性分なのよ」
 面白がって笑うクロミに、ガロウは呆れて肩を竦めた。
「ったく……。おめぇのお陰で冷めちまった。今日はもう帰るわ」
 そして、ポケットから支払いの紙幣を掴み出すとテーブル上にぽいと置く。
「はーい。まいどありー。……いっひひ。またつまんないハナシしたくなったらいつでも来ていーわよ。アタシきいたげる」
 クロミは今日一番のいい笑顔でぱたぱたと手を振った。
「うるせー!二度と来るかこんな店!」
「またきてねー」
 ガロウは苦笑いしながら振り返りもせず手を振って、店を後にする。
 そうしてから、雑踏の中へと向けて歩き出した。
「さて……宿はどこにしよっかなァ」
 そしてガロウは再びシルバーウィロウ・ストリートをゆく――。次なる目的は、今宵の宿探し。
 ガロウの夜は、まだ長い。

成功 🔵​🔵​🔴​

夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎

■行動
(先程の『景品』を【豊艶界】にしまい)
こういう顔も有る街なのですねぇ。

調べてみますと、「飲酒をしない前提」であれば、未成年でもバーへの立ち入り自体は問題無いみたいですぅ。
ただ、お店ごとに制限を設けている場合も有るそうですので、端末で近くのお店を検索、未成年者の立ち入りが許されている場所を探しましょう。

無事に到着出来ましたら、こういう場所以外ではあまり口にする機会のない、『ノンアルコールカクテル』をお願いしてみましょうかぁ。
メニュー自体はお任しますが、何となく「ミルク系の品」が出て来そうな気がしますねぇ。
おつまみ等も問題無い範囲で頂きつつ、ゆっくり楽しませて頂きましょう。



「オッ!オジョーチャン!イイネ、キミカワイイネ!楽にオカネ稼げるシゴトあるけどどう?どう?」
「合法!全然合法だって!」
「ナンモ・コワクナイ!実際安全!横になってるだけで終わる簡単なシゴト!」
「結構ですぅ」
 夢ヶ枝・るこる(f10980)はしつこく絡んでくるいかがわしいスカウトを躱して、シルバーウィロウ・ストリートを進む。
「……こういう顔も有る街なのですねぇ」
 ――なるほど。治安の悪さはたしかにそうなのだろう。ストリートを歩きながら視線をさ迷わせれば、るこると同じように胡散臭いスカウトに絡まれている女性や、まったく合法には見えない客引きに引っ掛かっている男性グループの姿などもちらほらと見える。
(触らぬ神に祟りなし、でしょうねぇ)
 るこるは賢明な判断を下し、そうした怪しい人物からかけられる声の全てを一切合切無視した。
「……さてさて……。どうしましょうかねぇ?」
 端末をタップして画面を映し出す。指先でディスプレイを操作して呼び出すのは、カワサキ・シティの案内図だ。
「んー……」
 るこるは情報検索システムに未成年でも入店可能な店舗の情報を求めた。
 待つこと数秒。端末にはいくつかの店の情報が映し出される。
「ふーん……飲酒をしない前提であれば、未成年でもバーへの立ち入り自体は問題無いみたいですねぇ」
 カワサキ・シティの法律上でもそのあたりは問題はないらしい。しかして、お店の方針で未成年の入店を断る場合もあるという。るこるは更に情報の検索を深め、現在地と照らし合わせた上で手近な入店可能な店舗を探り出した。
「あっ、ここですねぇ?」
 そこでるこるは辿り着いたのは一軒の小さなバーであった。
 控えめな明るさで光る『タイアン』の看板。ごめんください、と声をかけてるこるは店のドアを開ける。
「……いらっしゃい」
 るこるを迎えたのは、頭部の半分ほどをサイバネ部品に置き換えた男性のバーテンダーであった。
「どうぞ。カウンターでよければ」
 ややぶっきらぼうに言い捨てるように、バーテンダーはるこるを席に着くように促した。
「あっ、はい。失礼しますぅ」
 るこるはおそるおそる店の奥へと進み、バーカウンターのスツールへと腰かける。
「……お客さん、随分若いね」
 カウンター越しに、サイバネ・バーテンダーが左のサイバーアイを細めながらるこるを見た。
「アルコールは出せないが、いいね?」
「はい、大丈夫ですぅ」
 ――やや固めの雰囲気に、るこるはほんのりと緊張をおぼえる。
「……ノンアルコールカクテルで、なにかお願いできますかぁ?」
 しかして、るこるは勇気を振り絞って注文を投げかけた。
「こっちで適当につくるが、いいね。好みは?」
 変わらぬぶっきらぼうな調子で、バーテンダーがるこるに問いかける。
「じゃあ……甘めのだと嬉しいですぅ」
「わかった。適当にやらせてもらうよ」
 バーテンダーは頷くと、手早くグラスをひとつ取り出してそこに鮮やかな紅色のシロップを注いだ。
 次いで、バーテンダーはカウンター下の冷蔵庫から白いボトルを取り出し、封を切ってグラスへ白い液体と注ぎ入れる。それから軽くステアして、出来上がったのは薄紅色のドリンクである。
「グレナデンミルクだ」
 ――グレナデンミルクとは、ざくろの果汁に砂糖を加えたグレナデンシロップにミルクを混ぜ合わせたシンプルなノンアルコール・カクテルである。
 ただし、ここはサイバーザナドゥ。使用されている食材にはすべて「代用」や「合成」の接頭詞がつく。植物性タンパク質のエキスに科学的フレーバーを加えてそれらしく仕上げられた代用ミルクや香料と科学的フレーバーの混ぜ物である合成シロップなどである。
「ありがとうございますぅ」
 るこるはカウンターに出されたグラスを受け取って、静かに口をつけた。
 舌先に広がるミルク風の――甘味とふくよかな香りを持ちつつも仄かな植物性の風味を残す代用ミルク風の――味わいに、混ざり込む仄かな甘酸っぱさ。強いて言うならいちごミルクに似た味と言えるだろうか。
「うん。美味しいですねぇ」
「そうかい」
 付け合わせとして、バーテンダーからはチーズフレーバー・ブロックケーキが供される。(ブロックケーキとは、工場で大量生産される固形糧食のうち生地がやわらかく甘味のあるもののことを指す。安価で市民に供給されるため、主に中流~下層民に親しみのある食品だ)
「この街にははじめてきましたが、面白い場所がたくさんあっておどろきでしたねぇ。刺激があって毎日楽しそうですぅ」
 るこるはブロックケーキを齧りながらバーテンダーへと話した。
「……そりゃよかった。だが、ここらも最近きな臭くなってきたところだよ、お嬢さん。長居は避けた方がいいかもしれない」
「きな臭い、ですかぁ?」
 意味ありげなバーテンダーの物言いに、るこるは首を傾いだ。
「あくまで噂程度だがね。……せっかくうちに来た可愛いお客さんが、明日には物言わぬホトケになってる――なんてことにでもなりゃ寝覚めが悪い。とにかく、妙なことには首を突っ込まないことさ」
 特に、メガコーポ絡みにはね、と小さな声でバーテンダーが言い添えた。
「そうなんですかぁ……うん、ご心配ありがとうございますぅ。気を付けますねぇ」
 るこるはバーテンダーの気遣いに素直に礼を言って返すと、そのついでで二杯目の注文へと入る。
 ――しかしてその一方で、るこるは言い知れぬ不穏な空気を気取り始めていたのである。
 ひょっとして、そう遠くないうちに猟兵としての任務でこの街を再び訪れることになるのではないか。――そう考えながら、るこるは二杯目のグレナデンミルクへと口を付けた。

 とはいえ、今日の彼女の冒険はここまでだ。
 今はただ、緩やかな時間ばかりが過ぎる。

成功 🔵​🔵​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

やれやれ、すっかりと夜も更けてしまったな
だが色々と楽しめたし、懐も多少は暖かくなった
もう少しだけ、見て回ってみようか

個人経営の小さなバーに入ってみよう
隠れ家的な店…と言う奴だな
薄暗いが、落ち着いた雰囲気の店内に、上品な感じのマスター
これはいい、当たりの店を引いたな

マスター、マティーニを一杯
うんとドライにしてくれ

静かな店内に、微かな音楽だけが響く
これはジャズミュージックか…私の故郷でも聞いた覚えがある、古い歌だ
きっと、この世界でも愛されてきた曲なのだろう
出されたマティーニを口に含む、美味い
合成アルコールと合成フレーバー独特の味わいだな
天然物は使ってないだろうが、それでもマティーニ特有のしっかりとした辛口の味わいがある
口の中で転がしつつ、付けられた人工オリーブを齧る
これも天然ものではないだろうが、しっかりした渋味と塩味が心地良いな

良い味だな、マスター

多くは語らずとも良いだろう
マスターの計らいか、店内に深い海をイメージしたARが表示される
泳ぐ魚達を見ながら、もう一杯注文しようか


アスカ・ユークレース
アドリブ絡み歓迎

ギリ遵法とかほとんど合法とか限りなく濃いグレーにはあえて触れませんよ私は。

遊び疲れを癒す静かで落ち着いた高級志向のナイトバーにしましょうか。具体的にはステージで歌姫が小粋なジャズを歌ってる感じの。幸い持ち合わせは余る程ありますし

お洒落なBGMに耳を傾けて、マスターとのお喋りに花を咲かせながら、ノンアルコールカクテルとおつまみを楽しみましょう

この機会に一度はやってみたかった、個人経営の隠れ家的名店巡りもやりたいですね。

今夜はオールで遊び倒す悪い子になっちゃいます



「ネ!ネ!ダイジョブ!合法合法!ギリ合法だから!違法性はほとんどない!」
「スッゴイ気持ちイイヨ!トぶ!合法的にトべる!規制されてないからダイジョウブ!」
「……」
 アスカ・ユークレース(f03928)はやや苦い顔をしつつも、しつこく声をかけてくるドラッグ売りを躱してシルバーウィロウ・ストリートを進む。
「……触れません。触れませんよ私は」
 サクラミラージュの合法阿片にだって抵抗感があるっていうのに。この街のこういうところはあまり好ましくはありませんね、とぼやきながらアスカは少し目を細めた。
「とはいえ……流石にそろそろ疲れましたからね。どこか、静かに過ごせるようなお店はないでしょうか……」
 アスカはため息交じりに重くなり始めた足を進め、メインストリートを少し外れた小路へと入る。
「……んっ?」
 彼女の耳に歌声が触れたのは、そのときであった。
「ほう……こういった店もあるのか」
 また、キリカ・リクサール(f03333)が足を止めたのも同時であった。
 ナイト・ジャズ・バー『ムーンサイド』。
 サイバーザナドゥでは珍しく、生身の声帯をもつ歌手と義肢化していないミュージシャンにこだわった、古式ゆかしく音楽と酒を楽しむために開かれる大人のバーである。
 地下階へと降りる階段の先から漏れ聞こえるムーンサイドのミュージシャンたちの音楽が、二人の猟兵の足をとどめたのだ。
「まさかこの世界にジャズバーがあるとはな」
「良さそうなお店ですよね」
 興味深げに店へと続く階段を覗き込んだキリカへと、アスカが後ろから声をかける。
「こんばんは」
「こんばんは。……ああ、君も猟兵か」
 キリカはすぐさま直感的にアスカの立場を見抜く。
「はい。観光中の、ですけどね。……ちょうど今、私もここに入ろうと思ってたところなんですよ」
 ご一緒しますか?とアスカは首を傾ぐ。
 実際、バーに入ってゆくならば成人の同伴者がいた方が都合がいい。未成年のアスカにとって、この同伴者を得られるチャンスは渡りに船のタイミングであった。
「そうだな……袖すり合うも、とはエンパイアのコトワザだったか」
 いいだろう、とキリカは頷いて返す。
「それじゃ、入ってみましょう」
「ああ」
 かくして二人は行きずりの道連れとして即興の縁を結び、そして連れ立って階段を降りたのである。

 『ムーンサイド』の扉を開き、二人は店内へと足を踏み入れる。
 薄暗い照明。壁際のカウンターと点在するテーブル席。そして、店の奥まった位置にこぢんまりとしたステージ。
 ステージ上では数人のジャズ・バンドと、スタンドマイクを前にして静かに声を奏でる歌姫。流れる曲は『cry me a river』。控えめなバックバンドの音が静々と店内を満たす中、しっとりとした歌声が旋律と踊る。
 客入りは6割ほどといったところか。年齢層は比較的高めに見える。――カワサキとしては驚くべきことに、そこに猥雑な空気はほとんど感じられなかった。客層もお行儀のいい方が揃っているらしい、とキリカは推察した。
「へえ……」
 そこにあったのは先のシルバーウィロウ・ストリートの喧騒や治安の悪さからは想像もつかない、品の良いバーの姿だ。そのギャップも手伝ってか、アスカの表情が綻ぶ。
「ふむ……薄暗いが、落ち着いた雰囲気の店だな」
 キリカもまた、やや驚いた顔を見せる。この街の印象と言えば、ヤクザと品の悪い大衆酒場と異常に過激なギャンブルだ。そのイメージを一気にひっくり返す静かなジャズ・バーの様相に流石のキリカもちょっと面食らったのである。
「……いらっしゃい。お二人さん。新顔だね?」
 そして、バーカウンターの向こう側からバーテンダーが声をかける。実に品よくバーテンダー・スタイルを着こなした初老の紳士であった。
「あっ、はい」
「ああ。二人だ。そこのカウンター席は空いているか?」
「勿論。どうぞ、お客様」
 バーテンダーが二人に着席を促す。
「こんばんは、マスター。いいお店ですね。なんていうか……外の空気と全然違って。なんだかここだけカワサキじゃないみたい」
 アスカはにこやかに言って、ステージ上の歌手へと視線を向けた。
「よく言われます。……さて、ご注文はお決まりですか?」
「私はマティーニを一杯頼む。うんとドライにしてくれ」
 キリカはすぐさま注文を通した。
 マティーニは『カクテルの王』とも謳われる有名なレシピのひとつだ。多くのバリエーションがあり、バーテンダーならば必ず練習するのだという。
 これひとつでバーテンダーの腕がわかる、とも言われるカクテルであるが故に、店の質をはかるには一番ともされていた。
 ――これは、一種の挑戦状であったとも言える。
「かしこまりました」
 受け取った挑戦状に、バーテンダーは不敵な笑みでこたえた。
「私はそんなに詳しくないからよくわからないんですけど……ノンアルコールカクテルで、なにか美味しいものを頼めます?」
 一方、アスカもまた注文を通す。お任せで、という内容もまたバーテンダーの腕の見せ所であると言えよう。承知しました、と笑みを深めたバーテンダーが、手早く作業へと入った。

 本来のマティーニは、辛めの味わいをもつジンとハーブを配合したフレーバー・ワインを混ぜたカクテルだ。
 香りと味に癖があり、その独特の風味は好き嫌いの分かれるところではあるが――。サイバーザナドゥにおいては、本来の材料の入手の困難さから、それに似た味付けの合成アルコールやフレーバーマテリアル。そして人工香料の調合によって作られる。
 最終的には、香料やフレーバーマテリアルをどの程度配合するかで完成したカクテルの味は大きく変化するのだ。
 それはさながら魔法や錬金術である。この世界において一流のバーテンダーを志す者は、必ずそうしたフレーバーマテリアルや香料の調合実験を繰り返し、理想のレシピを求めて日夜探求を続けているのだ。であるが故に、一部の界隈においては腕の良いバーテンダーのことを“アルケミスト”とと呼ぶサイバー風習が存在する。
 話を戻そう。
「お待たせしました」
 カウンター越しにキリカのもとへとグラスが届けられる。合成オリーブを添えた、ベーシックなマティーニだ。
「ああ、頂こう」
「こちらのお客様にはシャーリー・テンプルを」
「ありがとう」
 続けてアスカのもとにはシャーリー・テンプルが届けられた。
 これはグレナデン――ざくろの甘いシロップと、辛めのジンジャー・ソーダを混ぜたところにレモンを添えたノンアルコールカクテルだ。(当然、サイバーザナドゥであるが故にすべての材料に『合成』や『代用』の言葉がつくが)
「じゃ、乾杯します?」
「そうだな。では――カワサキの夜に」
「乾杯」
 そして二人はグラスを掲げ、乾杯の言葉を交わした。
 キリカはマティーニに、アスカはシャーリー・テンプルにそれぞれ口をつける。
「……うん。美味い。合成アルコールと合成フレーバー独特の味わいだな……。天然物は使ってないだろうが、それでもマティーニ特有のしっかりとした辛口の味わいがある。よくここまでのレベルにできたものだ」
 キリカは舌先に広がるアルコールの辛味と香るフレーバーに満たされ、饒舌に言葉を零す。
「そして――うむ。このオリーブもいいものを選んでいる。これも天然ものではないだろうが、しっかりした渋味と塩味が心地良いな」
「ほう……。“天然もの”の味をご存じとは、恐れ入りました。……いえ、その上でそのように言っていただけるのなら光栄です」
 キリカの講評にバーテンダーが目を細めた。
「ええ。私たち、ちょっと特別なところから来たから」
「ああ。……そうだな、あまり環境汚染が進んでいない地域だ。天然物の食材も手に入りやすい」
「それは羨ましい限りですな」
 二人は異世界の出身であることを曖昧にぼやかした。まだ猟兵が流入して間もない世界であるが故に、無用の混乱のタネを生むまいと直接的な表現を避けたのである。
「……こちらのカクテルも美味しいですね。この炭酸のぴりっとした感じとレモンの酸っぱいのでちょっと痺れますが、そのあとから甘さが湧いて出てきて……美味しいです。本物はまだ飲んだことはまだありませんけど、お酒ってこんな感じなんですかね」
 そしてアスカもグラスのノンアルコール・カクテルに口をつけ、そしてその味わいを楽しむ。
「いい味だ、マスター。雰囲気も味も良い。我々は当たりの店を引いたな」
 二口めのマティーニを飲み下しながら、キリカが微笑みアスカへと同意を求めるように首を傾ぐ。
「はい。……ほんとにいいお店です。見つけられたのは運がよかったですよ」
 そうして、二人は頷きあった。
「はは……。そこまで褒めていただければこちらも冥利に尽きます。どうぞごゆっくりお楽しみください」
「ああ、ありがとう」
 そうして、バーテンダーは二人の前を離れ、別の店内作業へと入る。
 気づけば店内のステージでは歌手のパートは終了し、今はジャズ・バンドのインストゥメンタル演奏だけが行われていた。
 キリカはマティーニの味を楽しみながら、聞こえるバンドミュージックへと耳を傾ける。
「――このあと、二軒目どうします?」
 そこへ、アスカは耳打ちするようにそっと声をかけた。
「二軒目?」
「はい。……ふふ。せっかくこんな街まで来たんですからね。この機会に隠れ家的な名店巡り、っていうのもやってみたくて……」
 一度はやってみたかった、という未知の体験を前にして、アスカは目を輝かせていた。――カワサキはサイバーザナドゥでも有数の享楽都市であるという。ならば、ここの他にも良い店はあるのだろう。キリカもそれに興味がないわけではない。
「そういうわけで、今夜はオールで遊び倒す悪い子になっちゃおうと思うんです」
「面白い提案だな。……わかった、乗ろう」
 そして、キリカは空にしたグラスをカウンターへと置いた。
「しかし、だ――」
 しかして――キリカはそこで一度、バーテンダーへと視線を向ける。
「しかし――なんです?」
 そこで勢いを一旦遮られ、アスカはきょとんとしてまばたきした。
「……もう一杯もらってからだ」
 キリカは面白がるように笑って、そのままバーテンダーを呼び止めて二杯目の注文をかける。
 それじゃあ私もとアスカも便乗して二杯目を注文し、結局、二軒目を探しにこの店を出られたのはこの一時間後であった。

 かくして――猟兵たちはそれぞれに思い思いの時間を過ごし、眠らぬ街の夜は更に更けてゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年03月15日


挿絵イラスト