ヘッズマンの懊悩
●邪神の仔
『エクシー』は自分の名前ではない。
いわゆるハンドルネームというやつだ。まあ、それはどうでもいいことだ。
本当の名前なんていうのは、本当に出会った人に教えればいいことだ。すれ違うだけの日々や、ただ同じ箱の中に入っているだけの人に教える必要もない。
だから、私は『エクシー』と名乗るのだ。
手にしたスマートフォンを自分に向ける。シャッター音が響き、自分の顔が、姿が画像となって表示される。
「うん、いい感じ。ふふ」
笑みが溢れる。
自分で言うのも何だけれど、カワイイと思う。
周囲の人たちも同じことを思っている。人は誰でも自分を自覚するべきだ。頭の良い人は己の知能の高さを。手先が器用な人は自分が芸術を刻むことを。
そして、私のようにカワイイ娘は自分のカワイイを自覚する。
SNSのアカウントはもう端数を数えるのはやめた。
この数字が私の価値であるだなんて思いたくはなかった。
けれど、数字は心地よいものである。数字が多ければ多いほどに私の価値を高める。評価されることは大切なことだ。
どれだけ綺麗事を言ったところで、人は評価と金で生きている。
評価とお金は汚いけれど、それ以上に魅力的なものだよね。知ってる。
「だからなのかな? だから、私の周りはこんな事が起こるのかな?」
私の目の前にある世界が変わって行く。
スマートフォンのカメラを通してみても、自分の目を通しても、駅のプラットフォームが歪んでいるように見える。
「これって、私の目がおかしいんじゃないよね。世界が歪んでるんだよね?」
たわみ、歪み、そして出口がない。
いや、あるのだと理解はしているけれど、理解してはいけないと私の理性が叫んでいる。この歪みを理解し、この迷図の出口をくぐった瞬間、私は私でなくなるという予感だけがある。
「でも、行かないといけないって、私の心が言ってる。前に進まないと、辿り着けないから」
私は歩む。
たとえ、目の前に破滅が広がっているのだとしても。
「何で破滅なんか恐れないといけないの。生きている限りお先真っ暗なんだから――!」
●迷宮に蠢く
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はUDCアース……普通の人間として暮らしているUDCとUDC怪物とが接触しようとしています」
ナイアルテの言葉に猟兵達は息を呑むだろう。
『邪神の仔』――それは素質を持つ存在として発生しながら、自身がそうであることに気が付かずに『普通の人間』として暮らしているUDCである。
「はい……私は、その『邪神の仔』の本当の名前を知りません。『エクシー』とハンドルネームを名乗っている女子高校生……でいいのでしょうか。年の頃は16歳だとは思うのです」
彼女の言葉は何処か曖昧であった。
予知で見た『邪神の仔』、『エクシー』の容貌はUDCアースにあって美しさと可愛らしさ、愛嬌をもつ者であった。誰も彼もが彼女のことを目で追わずにはいられないだろう。
それが『邪神の仔』としての性質や能力であるのかはわからない。
けれど、その力を自覚した瞬間、彼女はUDCとして目覚めてしまうだろう。
「彼女がUDCとして覚醒してしまえば、周囲の人々はおろか、世界にすら甚大な被害をもたらしてしまいます」
そして、この『エクシー』に今まさに覚醒させるためにUDC怪物が迫っているのだという。
今はまだ危険ではない。
けれど、目覚めれば強大なUDCとして世界に破滅をもたらすだろう。
「彼女は今、UDC怪物のもたらした怪異の中にいます。彼女の利用する駅が歪み迷宮のような様相をもたらし、彼女を惑わしつつ、己たちの領域に引き込もうとしているのです」
怪異によって変異した迷宮は、猟兵達であっても手を焼くかもしれない。
しかし、時間は少ない。
UDC怪物たちによって『エクシー』が覚醒されられる前に迷宮を突破してたどり着かねばならない。
駅の構内はまるで生きているかのように常に変動し、蠢いている。
マッピングは無意味であるといえるだろう。
「さらに悪いことに、『邪神の仔』、『エクシー』を利用し強大な力を得ようとするUDC怪物……『ロッジ・ゴーレム』が駅のあちこちから変異して現れます。彼女の群がるUDC怪物を排除せねばなりませんが……」
『エクシー』を傷つけると覚醒と暴走の危険性があるのだ。
しかし、彼女に群がる『ロッジ・ゴーレム』の数は多い。拘束されていたのならば、さらに戦いの難易度は跳ね上がるだろう。
「……恐らく、この変異に『エクシー』もまた己のルーツを知ることになるでしょう。ショックを受けていることもあるのか、周囲の空間が鏡で覆われた屋敷のような空間に変わってしまいます。彼女の心のケアをお願いします」
だが、それでも己という存在が如何なるものであるかを彼女は知ってしまうだろう。
そのショックを取り除くことができれば記憶処置を施した上で安全な元の生活に戻すも良し。
しかし、取り除くことができないのであれば『邪神の仔』として処分する他ないだろう。
「こればかりは現場の皆さんの判断にお任せするしかありません。どちらの処置もUDC組織の職員の方がしてくださいます」
猟兵たちがどちらを選ぶのだとしても、その決定に従う。
多数決になってしまうことは仕方のないことである。より良きを選ぶためには時として犠牲も必要とされるものであるからだ。
ナイアルテは頭を下げ、猟兵達を見送る。
自覚なき者はいつだって不幸な結末を辿るだろう。しかし、自覚している者に幸せな未来が訪れるとも限らない。
しかし、それは世界が存続していればこそである――。
●ヴァーサス
確かに何かがいる。
『エクシー』は、歪む迷図の如き駅のプラットフォームの中で顔を上げる。
「なに……? これ、誰か私を見ている?」
それは己にかくあれかしと思い込ませるような視線であった。
いつのまにか自分の中に入り込み、いつのまにか自分を軋ませている。
心が軋む。
痛みではない。軋んでいるのだ。捻れているのではない。
「私に価値を見ている? 私に意味をもたそうとしている? でも、生憎ね。私は自分の代わりにものごとを考えてくれる人なんて必要ないのよ。そういうのって、新しい可能性って言うんでしょ」
『エクシー』は己に絡みつく視線と対峙する。
それは自分に似ているような気がした。だからこそ、自分を喰らい尽くしに来ていると理解できる。
「それって自滅するだけじゃない?」
強大な力は、矮小なる力を食らう。近づくだけで吹けば消える。己を見つめる視線は安易な方法を他者である自分に求める。
「それって根性なしってやつよね。そんなのに私は流されない。私の終わりは私が決める。そうじゃなきゃ、いつまで立っても何もはじめらんないじゃない――!」
海鶴
マスターの海鶴です。
今回はUDCアースにて予知された『邪神の仔』の完全覚醒を阻み、己のルーツを知った『邪神の仔』の処遇を決めるシナリオとなっております。
●第一章
冒険です。
『邪神の仔』は恐らく高校生ほどの年齢である16歳ほどの容姿をしている『エクシー』と呼ばれる少女です。
既に彼女が利用していた駅は怪奇現象によって飲み込まれ、常に変動し続ける迷宮となっています。
この障害を乗り越え、『エクシー』の元へと急がねばなりません。
●第二章
集団戦です。
『エクシー』を利用して強大な力を得ようと、駅の構内に潜んでいたUDC怪物『ロッジ・ゴーレム』たちが彼女に群がり、拘束しようとしています。
『ロッジ・ゴーレム』たちの数は多く、壁となって『エクシー』と猟兵の間に立ちふさがっています。
普通に戦うと『エクシー』を巻き込んでしまいます。
彼女を傷つけると覚醒と暴走の可能性があります。注意しつつ、『ロッジ・ゴーレム』を排除しましょう。
●第三章
日常です。
『エクシー』の『邪神の仔』としての覚醒は阻止できましたが、自分のルーツを知った彼女はショック状態にあり、また駅の構内は迷宮から鏡があちこちに散らばり出口を隠してしまっています。
恐らく『エクシー』の心象が影響を及ぼしているのでしょう。
彼女のケアを行いましょう。
また、この章で皆さんが『邪神の仔を処分すべし』と選択する方が半数を越えた場合は、UDC職員によって実行されます。
ケアを行い、ショックを『エクシー』から取り除くことができたのならば、UDC職員によって彼女の記憶処置を施した上で、安全な身分と生活を保証してくれます。
それでは、UDCアースにおいて『邪神の仔』をめぐる皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 冒険
『駅という名の迷宮』
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POW : ひたすら歩き回り、体で道を覚えて目標に近づいていく。
SPD : 警察や駅員、通行人などに道を尋ねつつ、目標を探していく。
WIZ : 地図やアプリを活用しつつ、目標の場所を特定していく。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
迷宮と化した駅の構内に転移した猟兵達は胎動する視界にめまいを覚えたかも知れない。
明らかに物理法則を無視したかのような構造。
天井も床も、壁も関係ないかのように蠢きながら形を変えていく駅の構内。
こんなところに『邪神の仔』が迷い込んでしまっているのだ。さらに悪いことには、『邪神の仔』、『エクシー』を利用して強大な力を得ようとしているUDC怪物まで潜んでいる。
彼女が今どこにいるのかはわからない。
けれど、もしも己たちがUDC怪物であるというのならば、この怪異の現象の最奥に『エクシー』を飲み込むだろう。
目指すべきは、この駅の中心。
急がねば、UDC怪物によって『エクシー』は『邪神の仔』として、UDCに覚醒してしまう。
それを彼女が望むと望まざるとて関係なく、世界を滅ぼすものとなるだろう。
世界の危機であると同時に『エクシー』が抱える日常の危機でもある。
猟兵達は急ぎ彼女のもとに馳せ参じなければならない。
全ての混乱が解消されるとは限らないだろう。
もしかしたのならば、渾沌のままであるかもしれない。呪いに変わるかもしれない。
けれど、それでも懊悩し続ける者こそが、道を歩む唯一の者なのだから――。
村崎・ゆかり
未覚醒のUDC、あるいは『邪神の仔』か。不幸になる人は少ない方がいい。守りきって見せましょう。
「式神使い」で黒鴉召喚。さあ、「偵察」してちょうだい。『エクシー』の居場所を探すのよ。
情報が送られてくる間にも、駅の深部へ向かって歩みを進める。
UDCモンスターも見つけたら、要監視ね。
あたしは、『エクシー』が見つかるまでの間、彼女の情報を再確認。
髪の色、服装、その他そういったもの。
情報が多いほどに、彼女を見つけられる精度が上がる。
人は評価と金で生きていると分かった上で、それを利用して生きるっていうスタイルは嫌いじゃないわ。
だから、上手くこの状況を乗り越えてよ。あたしが行くまで、そのままのあなたでいて!
駅の構内は歪み果てていた。
すでに色や形が駅であったものの名残を遺しているばかりの迷宮。
それがUDC怪物たちの作り出した怪異、怪奇現象であったのかもしれないが、今此処に囚われているのは『邪神の仔』である。
本来ならば弱小のUDC怪物たちにとっては直視するだけで支配されてしまうほどの強力なUDCである。
しかし、未覚醒の状態であるというのならば、その力を利用して己たちが強大な力を得ることが出来る。
いわば、彼等もまた『邪神の仔』を利用しようとしていたのだ。
「急急如律令! 汝は我が目、我が耳なり!」
黒鴉召喚(コクアショウカン)によってカラスに似た鳥形の式神が迷宮と化した駅の構内に飛ぶ。
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は五感を共有しながら『邪神の仔』と呼ばれた『エクシー』を探す。
本名はわからない。
ただSNSのアカウントだけが存在している。
金色の髪にカラーコンタクトだろうか、極彩色の瞳が眩く煌めく画像がアップロードされている。
確かに彼女のフォロワー数が凄まじいのも理解できるだろう。
「人は評価と金で生きていると判った上で、それを利用して生きるっていうスタイルは嫌いじゃないわ」
ゆかりにとって、SNSのメディア欄は彼女の情報を再確認するものであった。
情報が多いほどに彼女を見つけ出す精度があがる。
式神の黒鴉が複雑に、立体的な迷宮として蠢く駅の中を飛ぶ。
この迷宮の中心に『エクシー』が囚われているのならば、この迷宮は自分たちに対する時間稼ぎだ。
どうやらUDC怪物たちはコンクリートや鉄筋といったものに潜み、自在にその形を変えることで猟兵たちをはばむ迷宮へと駅を作り変えているようである。
「不幸なる人は少ないほうがいい」
当たり前のことだとゆかりは足を進める。
人の幸、不幸というものはいつだって誰かが居てこそ認識できるものである。他者がいなければ、幸福も感じることはできないだろう。
すなわち評価とは他者との比較によってしか生まれない。
それを意味のないことだと断じることは簡単なことである。もっと言ってしまえば容易な解決方法でしかない。
そんな解決方法を選んだと所、人は何者にもなれぬことを『エクシー』は知っているのだろう。
「……だから、うまくこの状況を乗り越えてよ」
人は戦うべくして生まれてきている。
平穏なのが最も良いことであるのかもしれないが、個でしかない人の生命にとって争いは大なり小なり避けられぬ命題であろう。
故にゆかりは駅の深部へと進む。
立ち向かわなければ、何もかもが得られぬ。
「あたしがいくまで、そのままのあなたでいて!」
黒鴉の式神が示す方角へとゆかりは走る。手遅れになんてさせはしないと、ただひたむきに走るしか、今の彼女には方策がない。
愚直さと愚かしさは違うものである。
蛮勇と勇気が違うものであるのと同じように。
故に迷宮を踏破するために必要なのは、賢明さではなく懸命さであることを示す。
駅の中心部はさらに歪んでいく。
だが、そこに救わねばならぬ生命がまたあるのならば、手をのばすのを諦めないのが猟兵であるとその瞳はユーベルコードの輝きに満ちるのであたた――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
未覚醒で、まだ間に合うのでしょう?ならば、助く方に向くが四悪霊なれば。
陰海月、出てきなさいな。一緒に迷宮を解くように…離れてもいけませんから、いっそ、合体しましょう(UC使用の意味)。
地縛鎖は陰海月も扱えますからね。素早く情報集め、さらに迷宮も解きましょう。
人のままで…彼女自身でいられるのならば、それが一番ですよ。邪神になる必要なぞ、ないのですからね。
だからこの企み、潰しましょう。
※
陰海月、張りきって迷宮解く。助けるんだ!
『邪神の仔』、それは未覚醒のUDCである。
UDCに変わりない。けれど、普通の人間として生きている。自覚なき力はただの力だ。他者に害をなすことがないままに、無自覚のままに一生を終えることもあるかもしれない。
ならば、それが一縷の望みであるのだとしても可能性に代わりはない。
はてなきもののように思えるUDCとの対決も、糸口が見えるかも知れない。
「未覚醒で、まだ間に合うのでしょう?」
ならば、助く方に向くのが四悪霊である。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱、『疾き者』が迷宮と化した駅の構内に入り込む。
目指す先は唯一。
UDC怪物たちが群がっているであろう『邪神の仔』、『エクシー』である。
彼女は今、この災禍の中を生きている。
UDCではなく人として生きている。ならば、『疾き者』は彼女を助けなければならない。どれだけ未来に遺恨を残す結果になるのだとしても、今は助けなければならない。
「『陰海月』出てきなさいな」
『疾き者』の影より巨大なクラゲが飛び出す。
四悪霊・『虹』(ゲーミングカゲクラゲノツヨサヲミヨ)によって合体した体が1680万色に輝くの呪詛を纏う。
その姿は駅の構内に在ってひときわ目立つものであったことだろう。
一緒に迷宮を解く。
この複雑怪奇に、それこそマッピングすら無意味のように蠢き形を変えていく構内はすでにUDC怪物のテリトリーに入ったということだ。
突き立てられた地縛鎖が、この変化した迷宮の情報を集める。
「ぷっきゅ!」
『陰海月』が張り切ったように周囲の情報を集めていく。
空間が歪んでいる。
これは邪神の力なのだろう。徐々に『邪神の仔』、『エクシー』の力が覚醒状態に移行しているからだろう。
万華鏡のように煌めく光が、それを示している。
空間すら歪める極彩色の光。
さらにその光に群がるようにUDC怪物たちが駅の構内に入り込み、そのコンクリートや鉄筋といったものに融合し形を変えている。
この蠢いている迷図は、いわばUDC怪物たちの胃の中であるといえるだろう。
「ならば、この蠢き私達を遠ざけようとする先にこそ『邪神の仔』がいるのでしょう」
『疾き者』が煌めく呪詛と共に構内を走る。
敵が蠢き迷図を変化させるというのならば、蠢きよりも早く走り抜ければいい。
「人のままで……彼女自身でいられるのならば、それが一番ですよ」
そのアイデンティティが脅かされるというのならば、その脅かす者を排除する。UDC怪物たちが彼女の力を利用しようとするのならば、世界の破滅はすぐ其処にやってきていると言ってもいい。
「邪神になる必要なぞ、ないのですからね」
だからこそこの企みは阻止しなければならない。
どれだけ力を蓄えようとも。
人一人の平穏を守れずして何のための猟兵か。
『疾き者』は走る。その名の通り、風のように歪み形を変えていく迷宮の尽くを躱し、その最奥へと突き進む。
そのまばゆい光がどうか『エクシー』の灯火になるようにと――。
大成功
🔵🔵🔵
星海・冴香
酷い歪みですね……。エクシーさんとの合流を急ぎます。
もう此処まで歪んでしまっているなら、遠慮しなくてもいいですよね?
ユーベルコードでライダー適性を強化し、セクシーなライダースーツ姿で参戦します。
そして召喚したポルーチェ666(大型バイクの姿)を駆って
ライトで闇を照らし、怪異に叫び抗うが如く爆音を轟かせます。
歪みに惑わされないよう、細かい事は気にしない。
そして行動は強引且つ大胆にして、しかし心は落ち着いて
マイクロミサイルで道を抉じ開け、邪魔する物はクロ(大鎌)でなぎ払う。
兎に角早く、兎に角奥へ。迷宮が大きく変動する前に走り抜ける
と、次々と障害を乗り越えていきます。
目の前に広がる駅の構内は、駅という面影ももはやなくなっていた。
迷宮。
その言葉がひどくしっくりくるほどの歪み。
『邪神の仔』として覚醒しかけている『エクシー』のUDCとしての権能と、その力に群がるUDC怪物たちとの能力が掛け合わされ、今目の前に広がる迷宮を生み出している。
敵の存在を感じる。
けれど、それはこの駅の構内のコンクリートや鉄筋の中に入り込み形を変え、蠢き猟兵たちの到達を阻まんとしているUDC怪物たちの抵抗でもあった。
「酷い歪みですね……」
星海・冴香(地獄配達人・f36316)は思わずうめいていた。
目の前に広がる迷図は、今も尚蠢いている。
天地も関係なく。左右も関係ない。どこもかしこもが歪み、己の道を阻んでいる。
いや、『邪神の仔』である『エクシー』と合流させまいとしていることを冴香は感じ取ったことだろう。
「もう此処まで歪んでしまっているなら、遠慮しなくてもいいですよね? As you wish.」
ユーベルコードに煌き、変身(コスプレ・サービス)する冴香のコスチュームはライダースーツ姿であった。
さらに召喚された大型バイクを駆って彼女は駅の構内へと飛び出す。
ライトが道を照らし、怪異に抗うが如くエキゾーストパイプを通じて排出される爆音が響き渡る。
轟音。
それは咆哮のようにも感じ取られたことだろう。
反響する音が、冴香の肌に突き刺さる。振動が己の体にリズムを生み出す。
「歪みに惑わされることはありません」
高揚する体。
しかし、心は落ち着けている。彼女は今まさに行動は強引且つ大胆なるライダーなのだから。
放たれたマイクロミサイルが道をはばむ迷宮を破壊し、爆発の中を大型バイクが走り抜ける。
「邪魔をしないで頂きましょうか。道は空けて頂きます!」
手にした大鎌を振るい、UDC怪物が作り出した障害物を冴香は切り裂きながら飛び出す。
タイヤを斬りつける音が構内に響く。
目指すは最奥。
そこにあるのは『邪神の仔』の持つ権能とUDC怪物がもたらす怪異の源。
迷宮がこれ以上大きく変動する前に走り抜ける。
複雑怪奇な怪異は、道を複雑にし、さらに『邪神の仔』がいるであろう中心への壁を分厚くしていく。
時間との勝負だ。
「いいでしょう。最速でゴールへと飛び込むのが、今このコスチュームの力」
フルスロットルでエンジンが唸りを上げ、冴香は突き進む。
どれだけ敵が多くとも、どれだけ今救わねばならぬ対象が『邪神の仔』という世界に破滅をもたらす可能性を持つ者であったのだとしても。
救うと決めたのならば障害は障害なりえない。
終わりを見定めた者こそ、終わりをもたらすことができる。
故に、冴香はためらうことなく障害の尽くを踏破していくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ウルスラ・ロザーノ
例えは悪いけど、つまり犯罪者予備軍みたいなイメージなんかな
どんな理由であれ、一線超えてまったなら容赦なく討伐するで
でもな、踏み止まらせて、まだ引き返せる可能性があるんなら、ボクは絶対に見捨てんし助けたるよ
それがどんだけ困難であってもな!
進攻の方針は割と総当たりやな
外れの道だとかは一々気にせーへんよ
速い移動速度で踏破距離を稼いで、探索範囲をできるだけ広げて当たりを見つけるわ
さー、エアシューズをブン回して構内を滑走してくよー!
移動困難なとことかも問題ないよ
壁も天井も突っ走れるし、何もあらへん空中だってボクなら足場にできるんでな
焦らず、でも急いで行くで
悲しい結末なんて、少ない方がええんやからね
UDCアースにあって『邪神の仔』は世界の破滅をもたらす危険な存在の可能性でもあったことだろう。
今は無自覚だからこそ力を振るうことはない。
当然『エクシー』と呼ばれる少女もそうなのであろう。
外見と同じように己の力に無自覚であるからこそ『普通の人間』として生きている。
だが、その使われぬ力を欲する存在が在る。
UDC怪物である『ロッジ・ゴーレム』たちは駅の構内のコンクリートや鉄筋の中に潜み、彼女の力を取り込まんと機会を伺っていたのだ。
今まさに駅の構内は『邪神の仔』の無自覚なる力の発露と、UDC怪物たちの奸計によって迷宮と化し、その最奥にして中心部に存在する『エクシー』と猟兵たちを分断せしめている。
彼女との合流を猟兵に果たさせないことこそがUDC怪物たちの狙いであった。
『エクシー』の強大な力を掠め取れば、今は弱小たる力のUDC怪物たちであっても世界を滅ぼしうる力を得ることだろう。
「たとえは悪いけど、つまり犯罪者予備軍みたいなイメージなんかな」
ウルスラ・ロザーノ(鈴振り燕・f35438)は首をかしげる。
彼女にとって『邪神の仔』という存在は、世界を破滅せしめる力を内包した雛のようなものであったのかもしれない。
無自覚故に力を発露することはない。
けれど、その力に自覚した時、『邪神の仔』はその本能によって世界を破滅に導こうとするだろう。
「どんな理由であれ、一線超えてしまったなら容赦なく討伐するで」
ウルスラにとってそれが絶対であった。
駅の構内をひたすらに走り抜ける。
道が誤っていたとしても関係ない。素早い彼女の移動速度は、大気を圧縮して駆動力に変えるインラインスケートによって支えられている。
どれだけ蠢き、己の道をはばむのだとしても、それは障害になり得ない。
彼女の軽やかな走りは、天地を逆さにし、左右を歪める迷図であっても衰えることはない。
言ってしまえば、総当たりであった。
「でもな、踏みとどまらせて、まだ引き返せる可能性があるんなら、ボクは絶対に見捨てんし助けたるよ」
それはあまりにも途方も無い道のりであろう。
この戦いできっと『邪神の仔』、『エクシー』は己の存在を自覚するだろう。
どうしようもないことだ。
これほどの怪異に巻き込まれて己に無自覚なほど人は鈍感ではないのだから。
空中でウルスラは方向転換するように大気を蹴って迫る迷宮の蠢きを躱し、滑走する。
走り抜ける。
焦らず。でも急がねばならない。どんな時にだって救える者は救いたい。
それが死と隣合わせの青春を送ってきた能力者であったウルスラたちの共通の願いであったのかもしれない。
選択をしいられ、選ぶことに疲れることもあっただろう。
「それがどんだけ困難であってもな! 悲しい結末なんて、少ないほうがええんやからね」
かつての戦いで得たことは今もウルスラの心の中にあるだろう。
誰もが傷ついて、涙を流す。
けれど、その涙を拭うことができるのはいつだって、自分以外の誰かであるのだ。
だからこそ、ウルスラの瞳はユーベルコードに煌めく。
助けると決めた彼女の覚悟は、どれだけの障害であったとしても止めることはできない。
大空を駆けるようにあらゆる天井、壁、障害の全てを彼女はインラインスケートでもって斬りつけるように駆け抜けていく。
「よっしゃ、絶対助けたるからな!」
目指す先は最奥。
迫る障害を蹴って、ウルスラは己の心に従うままに迷宮を走破するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
楠井・沙智
久しぶりの冒険だね。
ちょっと違った日本だけど、若い子が迷ってるのはどこも変わらないのね。お姉さんが助けてあげよう。
鼻歌を奏でながら携帯で彼女のデータを調べつつ、駅の中を探索。怪奇現象の中を気にせず自分の庭の様に進みます。
……いけないいけない。慣れた状況だけど、ブランクも長いし、見知らぬ世界の法則の中じゃ私は単なるルーキー。気を引き締めて探索するよ。
鼻歌に込めて放出してた魔力で、歪められた世界と共鳴、同調。変異のリズムと自分を合わせる事で進むべき方向を読み、探索の成功率を上昇させます。フリッカースペードの能力、【コトダマヴォイス】です。
彼女の音はどう聞こえるんだろう。世界と調和できるといいね。
世界が一つではないと知った時、楠井・沙智(スレノディ・f36496)は如何なる思いであったことだろうか。
異なる世界。
異なる歴史。
異なる時間。それらを知った彼女はUDCアースの光景を同じ日本であるが、どことなく自分の知る日本とは違うことを肌で、直感的に理解していたことだろう。
音を司る能力者であった彼女はブランクこそあれど、こと戦いに際しては、これまで培ってきた能力に衰えを感じさせることはなかったのだ。
足を踏み出す。
駅の構内は迷宮のような様相を見せている。
このような怪奇現象はこれまでシルバーレインの世界であっても経験してきたことであった。
ゴーストタウンのような怪異が蔓延る場所で彼女たちは戦ってきたのだ。
「久しぶりの冒険だね」
鼻歌を奏でながら迷宮と成った構内へと足を踏み出す。
携帯端末で彼女は『邪神の仔』と呼ばれる少女『エクシー』の情報を調べる。SNSのアカウントはすぐに見つかった。
メディア欄を見れば、自撮りの写真などがアップロードされている。
金色の髪に極彩色の瞳。
その顔立ちはカワイイと呼ぶに相応しいものであった。彼女のフォロワー数を見ても、それが世間的には高い水準を持っていることが伺える。
「……いけないいけない。慣れた状況だけど、ブランクも長いし、見知らぬ世界の法則の中じゃ私は単なるルーキー」
気を引き締めなければならないと彼女は鼻歌に込めた魔力でもって歪められた世界に共鳴、同調していく。
確かに『邪神の仔』の権能と、それに群がるUDC怪物たちのコンクリートや鉄筋に融合する力は迷宮を複雑怪奇にしていくが法則性が見いだせぬわけではない。
変異のリズムを自分に合わせるように調律する。
それが彼女のユーベルコード、コトダマヴォイスである。
世界に共鳴する魔力の込められた音が奏でられれば奏でられるほどに沙智は、この探索に置いて無類の力を発揮するのだ。
進むべき道は音の反響が教えてくれる。
フリッカースペード。
それが彼女の能力者としての原点。
故に彼女の目の前に立ちふさがる障害は意味を為さない。SNSのアプリケーションを閉じる。
「若い子が迷っているのはどこも変わらないのね。お姉さんが助けてあげよう」
今は道にまどい、己の無自覚なる力に振り回されるだけなのかもしれない。
それは嘗て能力者の多くがシルバーレイン世界でたどってきた道であったのかもしれない。
あの死と隣合わせの青春を過ごしてきた沙智にとって、それは己が先達であることを活かすことのできる事柄であった。
そして、それ以上に沙智は楽しみでもあったのだ。
鼻歌はその前触れ。
『邪神の仔』であるからとか、SNSで人気者であるとか、そんなことは彼女にとって些細なことであった。
「彼女の音はどう聞こえるんだろう」
ただそれだけが彼女にとっての唯一の関心事であったことだろう。
世界の破滅をもたらすUDC。
されど、そのUDCとしての己に無自覚なる存在。
それが『邪神の仔』であり『エクシー』という少女であった。
だからこそ、沙智は今日も鼻歌混じりで変異し続ける迷宮を踏破していく。目指す先にある音。
その音色がどのように世界と調和し、答えを出すのか。
沙智はスタッカートを踏むように、迷宮の床を蹴るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
機械妖精で周囲を探査しつつ疾走
(※ 海鶴MS 大祓百鬼夜行⑧〜対決ブルームーン
にて過去依頼の言及あり)
邪神の仔…貴女に近しい者が数多存在していたとは…
宇治田 希様
【Forget-me-not】…貴女の願いは片時も忘れてはおりませんとも
内心はどうあれ、此度の仔の『エクシー』様は人生を謳歌しているように見えます
であれば、私は彼女の生存に力を尽くすべきなのです
…嘗て、死を望んだ貴女を手に掛けた騎士として
醜い代償行為だと余人や貴女は詰るやもしれません
そもそも私の目は『エルシー』様本人でなく、己の過去を見ているのかもしれません
だとしても、私は進みましょう
命を、心を救う…理想の騎士とは、そういう物でしょう
自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット(スティールフェアリーズ・ネスト)が迷宮と化した駅の構内を飛ぶ。
情報を精査するように探索しつつ飛ぶ機械妖精を追うようにトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は疾走する。
そんな彼の電脳の中で響くのは、ただ一つであった。
幾度となく繰り返してきた懊悩。
片時も忘れることの出来ぬこと。
何度繰り返しても、何度演算しても、繰り返される結末。
異なる結末が在ったのかも知れない。けれど、どれだけ演算を重ねたとしても現実は覆ることがないのだとトリテレイアは知るからこそ迷宮の如き様相を見せる駅の構内を疾駆する。
繰り返さぬために。
「ええ……貴女の願いは片時も忘れてはおりませんとも」
その名を呟く。
『邪神の仔』。
それが嘗て在りし者と似通ったものであることにトリテレイアは宿命じみたものを感じていたことだろう。
これが偶然であるというのならば、救われなかった生命に救いをもたらすことができるかもしれないというか細い希望を抱いてしまうのかもしれない。
『邪神の仔』、『エクシー』――彼女のデータはすぐさま見つけることが出来た。
金色の髪、極彩色の瞳。
人間の水準に照らし合わせて見ても、彼女の容姿は美しさと愛らしさを併せ持つものであったことだろう。
トリテレイアは、そんな彼女が人生を謳歌しているように思えるのだ。
だが、彼女は『邪神の仔』である。
人間ではない。無自覚なるUDCである彼女に本来人としての生活は存在しないものだった。
けれど、何の因果か、今トリテレイアはそんな彼女を守ろうとしている。
「……」
トリテレイアは今一度己に問うのだ。
『邪神の仔』、無自覚なるUDCと言えど、これを助ける意味があるのかと。いいや、答えはすでに出ているのだ。
どんな状況であれ、『エクシー』が生きているのならば彼女の生存に力を尽くすべきなのだと。
「嘗て、死を望んだ貴女を手に掛けた騎士として」
そう、死を願った者がいた。
生命永らえるのが生命持つ者の定めなのだとしたのならば、それはただの代償行為であると言う他無い。
余人も、電脳の中だけ今は存在する彼女もまた己を詰るやもしれない。
「そうでしょうとも。そもそも私の目は『エクシー』様本人ではなく、己の過去を見ているのかもしれないのですから」
トリテレイアは恥じるかもしれない。
目の前に救うべき存在があるのに、今己の電脳が視界を覆うのは過去の出来事ばかりである。
人であれば忘れたかも知れない事柄。
しかし、それをトリテレイアは是としない。
彼はウォーマシンであるが故に忘れることができない。その負荷が電脳にもたらすものはどれほどのものであっただろうか。
しかし、それでも。
「私は進みましょう。生命を、心を救う……理想の騎士とは、そういうものでしょう」
迷宮を走る。
変化し続ける障害を切り裂き、機械妖精のもたらす情報を音に己達猟兵を遠ざけようとするUDC怪物たちの策略をも乗り越えて最奥足る中心に迫る。
きっと『エクシー』という少女は今も尚抗うだろう。
たとえ、今思う己が本来の己ではないのだとしても。それでも今ある自分のためにこそ彼女は抗うはずだ。
かつて在った少女のように。
【Forget-me-not】――そう己の視界を染め上げる言葉が今も尚、トリテレイアを突き動かすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ロッジ・ゴーレム』
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POW : ゴーレムパンチ
単純で重い【コンクリートの拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : サンドブラスター
【体中から大量の砂粒】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ジャイアントロッジ
予め【周囲の無機物を取り込んでおく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
イラスト:純志
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「なになに、なんなのこれって!」
『エクシー』はあまりの光景に混乱していた。
駅の構内の迷宮化はもう驚きようもない。けれど、駅の壁や天井、床から次々と湧き出るようにして『ロッジ・ゴーレム』が現れる。
それはまるで現実味のないものであった。
「どういうことなの。私を狙っている? 私を見ていたのはアンタ達ってこと? 違うよね? アンタたちが見ているのは、私じゃないもの」
彼女は無自覚ながら理解していたのだ。
己を見る他者の視線に彼女は敏感であった。
これまでもそうであった。誰かが自分を見ているという自覚があったからこそ、己は己に恥じぬ生き方をしようと思っていたのだ。
「何を見ているのよ。私の何を」
『ロッジ・ゴーレム』たちは『エクシー』に迫る。
膨大な数だ。どこにこれまでいたのだと思うほどであった。同時に『エクシー』の中で揺らめくものがある。
恐怖に寄ってであろうか、それともUDC怪物たちに近づいた事によって己の中の権能が首をもたげるようにして力を発露させはじめる。
「違う、これ……私の中にある、……?」
煌めく極彩色の瞳。
彼女は見ただろう。歪み、揺らめく視界の外から迫る滅びの力を。世界の悲鳴を聞き届け、世界の破滅を止める猟兵の力を。
それをこそ彼女は恐れる。
あれは己を滅ぼす力だと理解したのだ。
「私、人間じゃ、ない? じゃあ、これって、これって、私が――!!」
「――……ッ!!」
『ロッジ・ゴーレム』たちが咆哮する。彼等にとっても猟兵は破滅を運ぶ力。
己たちと滅ぼし、滅ぼされるだけの関係の存在。
故に彼等は『エクシー』を取り囲み逃さぬようにしながら、陣形を組む。
もう少し、もう少しで己たちの願いが叶う。
強大な力を持って世界を組み替える万華鏡の力が手に入るのだと、追いすがる猟兵たちを退けようと咆哮を轟かせ、膨大な数で襲いかかる――!
馬県・義透
引き続き『疾き者』なのだが、UC使用継続中。
まあねー、陰海月が張りきって、そのままいくと訴えてくるのでー…。伝えたいことは同じなんですから、良いかなーと思いましてー。
しかしこれですと、ぬっと現れる極彩色な巨大クラゲ状態ですねー…。
陰海月はぷきゅぷきゅ踊っている。輝き踊りながら光珠を放つ。自動追尾するから、光珠は『エクシー』さんに当たらない。
踊っているまま、攻撃は回避していく。間に合わなかったら、四天霊障(極彩色化)で柔らか結界張ってるので、それで受ける。そして怪力カウンターパンチする。
『エクシー』さんは人間だよ。そんな思いを込めて踊る陰海月。
人と怪物を隔てるものは何であろうか。
その答えを知る者は人でも怪物でもないのかもしれない。けれど、人は、怪物は、その答えを求める。
真理でなかったのだとしても、そこに決着という名の終わりを見出すからこそ両者は歩み続けることができるのかも知れない。
『エクシー』と呼ばれた『邪神の仔』は、己のルーツを知る。
己は人間だと思う心は偽りで、己の本質はそうではないと叫んでいる。
「私が、違う。この怪物たちこそが、私の……っ!」
万華鏡のように極彩色の瞳が輝く。
その輝きを受けてUDC怪物『ロッジ・ゴーレム』たちは力を増していく。
駅の構内にあったコンクリートや鉄筋といった無機物をその体に融合し、巨大化した腕をもって猟兵たちと対峙する。
「そのまま行きますか、『陰海月』」
「ぷっきゅい!」
己の陰から飛び出し、合体して1680万色に輝く馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』と『陰海月』は迷宮化した駅の構内を飛び越え、『エクシー』に群がり、彼女を取り囲む『ロッジ・ゴーレム』たちの姿を見る。
彼女を傷つければ覚醒と暴走を促してしまうだろう。
だからこそ、彼女を巻き込まぬように戦わなければならない。
舞うように煌めく『陰海月』の体が光を発露する。はりきっているのだと『疾き者』は感じたことだろう。
訴えはわかる。
伝えたいと思う気持ちも同じだ。
ならば、時にはこうした気持ちのほうが伝わりやすいのかもしれない。
「なに、光……でも、これは私とは違う。私を滅ぼす光じゃない!」
『エクシー』がUDCである以上、猟兵の放つ光は灯火たり得ないだろう。
なぜならば、猟兵は世界の敵を滅ぼすものであるから。
彼女にとって猟兵とは本能的に敵であると理解できるものであったからだ。どれだけ無自覚であっても。いや、無自覚であるからこそ、敏感に感じ取ってしまうのかもしれない。
「言葉で通じるのが人間同士。けれど、人間同士ではないというのならば」
悪霊とUDC。
そこに隔てるものはなんであったか。
ともに人間という存在を介在するもの。
悪霊は嘗て人であったもの。
『邪神の仔』は人だと思いながら人ではなかったもの。
「ならば言葉は不要でしょう。『陰海月』……頼みましたよ」
その言葉に『陰海月』が応えるように1680万色に輝く光珠を放つ。たとえ、それが四悪霊の呪詛をまとった姿であったのだとしても、踊るように光珠を解き放つ。
それらは『ロッジ・ゴーレム』の巨大化した腕を穿ち、地面に叩き落とす。
「―――……!!」
咆哮が轟く。
『ロッジ・ゴーレム』にとって『エクシー』は力の源だ。
自分たちにはないものを持っている存在であり、己たちが利用できる力でもある。だから群がる。同時に、彼女を傷つけて覚醒させてしまえば、彼等は瞬く間に支配下に置かれてしまうだろう。
未だ『ロッジ・ゴーレム』たちが己の意志で動いているという時点で『エクシー』の完全覚醒はなし得ていないことであるとわかるだろう。
「ぷっきゅい!」
放たれた光珠が『ロッジ・ゴーレム』の巨躯を穿ち、放たれる怪力の触手の一撃が彼等を打ち倒す。
言葉は通じないだろう。
人を介在するものでもなかった。
「私が人間だっていうの、おまえ……」
『エクシー』には通じるものがあるだろう。
どれだけ言葉がなくとも、『陰海月』の訴えは、思いとなって伝播する。感じやすい知覚を持っているからこそ、『エクシー』にはそれが真実だと思えるだろう。
人と怪物を隔てるものは未だわからない。
答えもでない。
けれど、『エクシー』の瞳はまっすぐに煌めく光を見る。
たとえ、おのれが深淵の如き闇の中にいるのだとしても、いつだって光は闇の中でしか輝かないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
やっほ、『エクシー』。助けに来たわよ。
こんな奴らのことなんて気にかけないで。あなた自身があなたを定義する。日常に回帰するか決別するかは、全てあなた次第。
でも、こんな場所で襲われながらじゃ、ちゃんと考えられないよね。
邪魔者はあたしたちが排除するから安心して。
ここは一応駅だから、元に戻ったときに施設が壊れてたら面倒。地味でも手堅く行きましょ。
「範囲攻撃」で不動金縛り法。一気にゴーレムを捕縛して、「衝撃波」纏う薙刀を振るい、「なぎ払い」、「貫通攻撃」で「串刺し」に。
戦闘中は偶神兵装『鎧装豪腕』に『エクシー』を護衛させる。
ゴーレムの数、減ってきたかしら? 『エクシー』は下手に動かないで。守れなくなる。
砕け散る『ロッジ・ゴーレム』の破片は悲鳴のようにも『邪神の仔』、『エクシー』には感じられたかも知れない。
なぜならば彼女は人間ではないからだ。
『邪神の仔』――無自覚なUDCであるからこそ、彼女の存在はUDC怪物である『ロッジ・ゴーレム』の方に傾くのだから。
それが本来あるべき姿であったのかもしれない。
どうしようもないことであったのかもしれない。
けれど、猟兵たちにとって大切なことは、『エクシー』自身がどうしたいかに尽きる。
彼等は確かにUDCを滅ぼさなければならない。
世界に破滅をもたらす存在である以上、それは避け得ぬことであっただろう。
「やっほ、『エクシー』。助けに来たわよ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)の言葉は『エクシー』には確かに届いていた。
未だ『ロッジ・ゴーレム』たちに群がられ、猟兵との間には壁のように彼等が立ちふさがっている。
けれど、それ以上に彼女の極彩色の瞳には怯えが勝るものであった。
「私を助けに? そんなはずない。だって、あなたたちの光は、私を滅ぼすための光なんでしょう?」
理解していると分かる言葉であった。
正しく己のルーツを自覚したものの言葉。けれど、ゆかりは鎧装豪腕でもって『ロッジ・ゴーレム』の一撃を受け止め、薙刀を振るう。
「こんな奴らのことなんて気にかけないで。あなた自身があなたを定義する」
ゆかりの言葉は『エクシー』を揺さぶるだろう。
己のルーツは彼等とは違うことを彼女は、もう知ってしまっている。
どうしようもなく隔てる溝があることも理解している。早すぎる理解は、きっと彼女の早熟さが起因しているのだろう。
けれど、『エクシー』がもしも日常への回帰を願っているのならば、ゆかりは其処にこそ見出すべきものがあると知る。
放たれる『ロッジ・ゴーレム』の拳の一撃が鎧装豪腕を押しつぶしながらゆかりに迫る。
「ノウマクサンマンダ バサラダンセン ダマカラシャダソワタヤ ウンタラタカンマン」
不動金縛り法(フドウカナシバリホウ)によって霊符より不動明王の羂索が飛び出し、『ロッジ・ゴーレム』の躯体を縛り上げる。
「全てあなた次第。でも、今場所で襲われながらじゃ、ちゃんと考えられないよね」
邪魔者は自分たちが排除するとゆかりは笑いながら、薙刀の斬撃で切り裂く。
彼女の出す答えは違うかもしれない。
回帰を望まないかもしれない。
己のルーツを忘れられぬ者は、どれだけ回帰を望んだとしても、もう二度と同じものにはならない。
壊れた器が元に戻らぬように。
戻ったように見えて、その実決定的に違うものに成り果てていることもまた真理である。
「私は、私だってわかっている。けれど、やっぱり違うものだって理解もある。だから、私は」
極彩色の瞳にあるのは絶望でもなければ諦観でもない。
あるのはただ万華鏡のような煌きのみ。
『エクシー』とゆかりの間に隔てるものは、溝であったけれど、それ以上に互いの存在が互いを滅ぼす者であるという直感が溝をさらに深いものとする。
薙刀の一撃が『ロッジ・ゴーレム』の胴を貫く。
「――……!!」
咆哮が迷宮と化した駅の構内に響き渡る。
それを聞いた『エクシー』が耳をふさぎ、頭を振る。どうしても悲鳴に聞こえてしまうのだ。
これまで彼女が感じたことのないような断末魔。
それに『エクシー』は涙する。
「だって、どうしようもないじゃない。こんなに違うはずなのに、どうして私は人の形をしているのよ」
ゆらりと体を動かす『エクシー』にゆかりは鎧装豪腕でもって護衛につける。
敵の数は未だ減らず。
下手に動かれると守れなく為る。
だからこそ、ゆかりは『ロッジ・ゴーレム』を打倒するしかない。彼女へ累が及ぶことがあれば、それこそこれまでの積み重ねが無為になる。
「守れなくなる前に……!」
溢れ出る『ロッジ・ゴーレム』を打倒しつくさねばならない。
振るう薙刀の刀身が紫に輝く。けれど、その先で万華鏡のような煌きを持つ極彩色の瞳もまた狂乱に輝くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
楠井・沙智
何とか辿り着けたかな。
イグニッションカードをかざして詠唱兵器を起動。両手に剣を構えゴーレム達と対峙。
詠唱インカムを介し、戦況を「情報収入」。ソナーの様に、音で周囲を認識出来る詠唱兵器なのです。
敵は多いけど、それよりもエクシーちゃんが不安定になってるみたい。
無理もないよね。兵器を使わない訳にはいかないんだけど、それでも【アンチウォーヴォイス】を歌います。私達は彼女を助けたいだけ。争わずに済むならその方が嬉しいの。
ゴーレムの攻撃力を封じながら彼女の元へ。それでも邪魔するなら双剣で「切断」していきます
土蜘蛛や吸血鬼、戦いながら私達は分かり合っていったの。さぁ、理解し合おう。
分かり合うこと。
それは争いに勝利することよりも難しいことであったかもしれない。
戦うこともまた簡単なことではない。
対話というものは、常に力が拮抗していなければ為し得ぬことであるからだ。力弱き者に耳を傾ける強者はいない。
対話よりも簡単な争いという手段に身を投じてしまうからだ。
これまで紡がれた歴史が証明するように、対話するためにも力が必要なのである。
「なんとか辿り着けたかな」
楠井・沙智(スレノディ・f36496)はブランクを感じさせぬ足取りで、迷宮化した駅の中心へと進む。
かつて銀誓館で戦っていた能力者であった彼女にとって、これは肩慣らしでもあったし、自身が戦いから遠ざかっていた時間を埋めるような作業でも在ったことだろう。
そこにあるのは誰かのためにという感情が起点となっていることは言うまでもない。
「―――ッ!!」
咆哮する『ロッジ・ゴーレム』たちの腕が巨大化していく。
それはこれまで猟兵たちが此処にたどり着く間、コンクリートや鉄筋と融合することによって蓄えられた力である。
その振るわれる拳の一撃を沙智は躱しながら、己の手にしたイグニッションカードから詠唱兵器たる詠唱インカムを装着し、両手に剣を構えて、その叩きつけられた腕を叩き切る。
「――、また悲鳴! これが悲鳴に聞こえる。聞こえてしまう、私は……!」
『邪神の仔』、『エクシー』にとって、UDC怪物である『ロッジ・ゴーレム』たちの咆哮は悲鳴に聞こえてしまうのだろう。
猟兵たちにとってはそうは聞こえない。
けれど、UDCである彼女にとってはそうではないのだ。それは非情なる現実を彼女に突きつけるだろう。
「敵は多いけど……」
それよりも沙智が気にかけるのは『エクシー』であった。
彼女の心は己のルーツを自覚しつつある。自分が人間ではないと気がついてしまっているのだ。
無理もないことであると沙智は理解を示す。
自分が人間ではないという現実は、ただの少女にとってはあまりにも荷が重すぎる事実であったことだろう。
己であったものが瓦解していく瞬間。
その音色は悲痛なる色として沙智に知覚されるだろう。
「それでも私達はあなたを助けたいだけ。争わずに済むならそのほうが嬉しいの」
戦うこと、争うことはいつだって奪い奪われることである。
それは悲しくも虚しいことであると理解しながらも、奪われぬために奪う側に絶たねばならぬというジレンマを抱える。
沙智の瞳がユーベルコードに輝き、その声は詠唱インカムを通してアンチウォーヴォイスを響かせる。
『ロッジ・ゴーレム』たちの動きが止まる。
その武器たる腕を言魂によって封じられ、動きが止まる。
「多くの来訪者が居た。誰も彼もが戦わずにはいられなかった。不理解が、不寛容が、いつだって争いを生み出してきた」
けれど、と沙智は己の死と隣合わせの青春を振り返る。
いつだって戦いの最中にいた。平穏とは言えぬ日々であったけれど、それでも彼女は、彼女たちは戦い続けたのだ。
その見果てぬ夢のために。
「だから、私もあなた達と違うって。だから、私とも戦うっていうんでしょう」
『エクシー』の言葉に沙智は、そのユーベルコードにまで昇華された反戦の歌で応えるのだ。
「戦いながら私達は分かり合っていったの。強いも弱いもなく。ただ分かり合うために戦ったの」
沙智は手をのばす。
未だ届かぬ手であったけれど、己の思いは届けることができる。
それが彼女の紡ぐ歌の真骨頂であったことだろう。
手でもなく、けれど音として届く思いは『エクシー』の中にある他者とは違う自分を受け入れることへの恐れを解いていくかもしれない。
「さぁ、理解し合おう」
沙智のこれまでがわからぬように。
これからも彼女は手を伸ばし続けるだろう。変わっていくものがある。けれど、変わらぬものもあるのだと示すように、彼女は『エクシー』に向かって手をのばすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
ロッジ・ゴーレム……
三年前のあの依頼、記憶領域を嫌が応にでも刺激されますね
そして私が為すべき事も、当時と変わりはしません
UCにより出力向上
『エクシー』様に迫るゴーレムを片端から大盾で殴打
衝撃で遠くへ弾き飛ばし、その威力を以て粉砕
放たれた拳を怪力で掲げる大盾で受け止め即座に剣で両断
一体一体に時間掛けず速やかに蹂躙
…怯えておられるのですね
“戦い”ではなく、“私達”に
少々、人より目(センサー)が多いもので
確かに私達は、あのゴーレムのような人の世を脅かすモノを討つモノです
ですが幸福を
隣人を、家族を、そして己を愛したい事を望むのであれば
どのような存在であろうと、私は騎士として全霊を賭け御守りしましょう!
コンクリートの塊の如き『ロッジ・ゴーレム』の拳が振り下ろされる。
駅の構内を破壊しながら迫るその巨躯。
UDC怪物としては弱小の部類に入る彼等であったが、それでも驚異的な膂力を持っていることに違いはない。
トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は己の記憶領域が刺激されることを知覚していた。
それは普段ならばエラーとして検出されるべきものであったが、今ならばわかる。
これが人で言うところの如何なる感情であるのかを。
時は三年前に遡る。
『邪神の仔』、『エクシー』と同じように。いや、厳密には異なるのかもしれない。
忘れようとしても忘れることのできない。得難き悔恨。
それは人にとっては負荷にしかならない。
「私が為すべきことも、当時と変わりはしません」
どれだけの負荷が己の電脳を焼き切ろうとするのだとしても、トリテレイアは『ロッジ・ゴーレム』の拳を大盾で受け止める。
軋むフレーム。
しかし、大盾の向こう側でトリテレイアのアイセンサーがユーベルコードに輝く。
「機械騎士の蛮力(マシンナイツ・ランページ)――受けていただきます」
振り下ろされた拳を押し返す大盾が『ロッジ・ゴーレム』を吹き飛ばす。
その強打は『ロッジ・ゴーレム』の巨躯であってもたやすく吹き飛ばして、『エクシー』に群がる彼等を粉砕していく。
手にした剣が煌めく度に『ロッジ・ゴーレム』が引き裂かれ、断末魔のごとき咆哮を上げる。
『エクシー』にとって、それは己が悲鳴と同じように聞こえたことだろう。
「なんで、悲鳴に聞こえるの。これが、ただの咆哮だってわかっているはずなのに。私にはどうしても悲鳴に聞こえてしまう。あなたたちは何。私を怯えさせる、その光は何」
「……“戦い”ではなく、“私達”に」
「そうよ、どうしてあなた達は」
その言葉に応えるすべはない。
あるのは戦いを切り抜けるための方策だけである。トリテレイアはウォーマシン。戦うために生み出された機械騎士。
ならばこそ、迫る『ロッジ・ゴーレム』たちを切り裂き、吹き飛ばしながら『エクシー』を見やる。
「少々、人より目が多いもので」
センサーはたしかに『エクシー』の感情の揺らぎを捉えていた。
彼女は己たちをこそ恐れている。
当然だ。
彼女は人間ではない。UDCだ。無自覚なるUDCなれど、猟兵がオブリビオンを知覚できるように、UDCもまた猟兵を敵として認識する。
教えられていなくても、理解できてしまうのだ。
「確かに私達は、あのゴーレムのような人の世を脅かすモノを討つモノです」
砕ける『ロッジ・ゴーレム』の破片と共にトリテレイアのアイセンサーが放つ残光が走る。
『ロッジ・ゴーレム』たちはトリテレイアを『エクシー』の元に行かせぬように壁と為る。
だが、それは無意味であった。
トリテレイアの精密攻撃は『エクシー』を巻き込むことなく尽くを打ちのめしていく。
「ですが幸福を。隣人を、家族を、そして己を愛したいと事を望むのであれば」
トリテレイアは繰り返すかもしれない。
同じことを二度繰り返すかもしれない。矛盾を抱えながら存在することを宿命漬けられたからこそ、間違えるのかもしれない。
ともすれば、それはウォーマシンとして致命的なものであったかもしれないけれど、それでもトリテレイアは言うのだ。
違えることが罪なのではない。
「どのような存在であろうと、私は騎士として全霊を掛け御守りしましょう!」
振るった剣は二度とその振り下ろすべき場所を違えない。
違えるかもしれないというゆらぎがあるのだとしても、それを踏破して今此処に在るのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ウルスラ・ロザーノ
なはは、そういう時期もあるわな、捻くれ具合も可愛らしいもんや
まー助けに来た、なんて安っぽい言葉を君がどう感じてまうか、気持ちも大体分かるで
だから行動で示すよ、まずは目の前の邪魔な奴らを片付けてな?
ボクは回避以前の、そもそも高速機動で当てさせん戦法やで、無差別攻撃とは相性が悪いんよ
まあなんとかするけどな?
引き続き、エアシューズを駆動させて戦場を駆け回るで
敵を盾にしたり、攻撃の出がかりを蹴り込んだナイフで牽制したりしながらな
弾幕ってか砂の攻撃の密度が薄い場所、瞬間は必ず生まれるやろ
ある程度のダメージは辛抱、隙を見つけたら踏み込む!
全力の蹴りと、斬撃波の追撃を一気にブチ込んでったるわ!
己が何者であるかを正しく自覚するものは幸せであったのかも知れない。
自分の形が他者によって形作られるからこそ、自己を自覚できるものである。人とはそういう生き物である。
一人では生きていけない。
真に一人であったのならば、ただ一人でも生きていくことができたのかもしれない。
けれど、人は己以外から生まれる生命である。
父が居て、母が居る。
生まれた時点でただ一人であることはなく。故に一人では生きていけないことを生まれた瞬間から自覚する。
「だから、私は――人間じゃない」
『邪神の仔』、『エクシー』の極彩色の瞳が煌めく。
万華鏡のような歪みを生み出しながら彼女は己のルーツを自覚する。
父も、母もなく。
ただ単一の存在として生まれでた『邪神の仔』。
故に彼女は今この瞬間に置いてただ一人であった。たとえ、UDC怪物である『ロッジ・ゴーレム』たちの咆哮が悲鳴のように聞こえたとしても、世界に彼女は逸れ者であったのだ。
「なはは、そういう時期もあるわな」
捻じれ具合も可愛らしいものだとウルスラ・ロザーノ(鈴振り燕・f35438)は戦場と成った歪んだ駅の構内を走り抜ける。
彼女の足に装着されたレガリアスシューズは大気を圧縮して噴射しながら縦横無尽に彼女を駆け抜けさせる。
「まー助けに来た、なんて安っぽい言葉を君がどう感じてしまうか、気持ち大体判るで」
『エクシー』にとって猟兵とは己を滅ぼす存在でしか無い。
猟兵がオブリビオンを見ただけで、それと判断できるように、UDCである彼女もまた知識なくとも猟兵が己を滅ぼす存在であると理解できてしまう。
己が人であると自覚していたからこそ、己が人ではないという事実は彼女のこれまでの価値観を衝撃でもって揺らすものであったからだ。
「だって、あなたたちは、私の敵なのでしょう。私を滅ぼすための存在なのでしょう。わかってしまうもの、理解できてしまうもの。恐ろしいものだって」
ウルスラは『ロッジ・ゴーレム』の放つ無差別攻撃をいともたやすく躱す。
彼女に無差別攻撃は無意味である。
砂の一粒まで彼女は認識している。それ以前に空気を圧縮して推進させるレガリアスシューズの力を手繰れば、迫る砂の噴射を吹き飛ばすことも容易であった。
「だから行動で示すよ、まずは目の前の邪魔な奴らを片付けてな?」
振るう足が放つ一撃は薔薇の花弁を撒き散らしながら『ロッジ・ゴーレム』に逃れ得ぬ死の四連撃をもたらす。
「無差別攻撃なんてのは、そもそもボクとは相性が悪いんよ。砂粒程度でボクを、風を止められるわけないんよ!」
彼女が走る度に風が巻き起こる。
巻き起こった風は嵐のようにあらゆる懊悩を切り裂いていく。
人ならずとも人の形をするもの。
それが今の『エクシー』であろう。己を助けるというウルスラの言葉を信じられぬことも理解できる。
人は言葉を弄する生き物であると知っているから。
だから、ウルスラは己の体で表現するのだ。
己が何者かを。如何なる思いをもっているのかを。それはこれまで数多の来訪者や敵と邂逅してきた能力者であるからこそ為し得ることであったのかもしれない。
戦いか対話か。
そのどちらも己たちが選んできた道が今此処につながっている。
砂を吹き飛ばす風と共にウルスラは駆け込む。
繰り出されるユーベルコードにまで昇華した高速の四連撃が『ロッジ・ゴーレム』の巨躯を砕き、歪み果てた駅の構内に静寂をもたらす。
「さあ、選ぼうや。君がどうしたいのかを」
どちらを選ぶにしても。
ウルスラは己が彼女の心を助けたいという思いをもって手をのばす。
難しいことはいいのだ。
今どう思い、どうしたいのか。
それを知ることもまた必要なことなのである。大前提として力が対話には必要なのは言うまでもない。
けれど、対話を行う上で力を行使するところはない。
ただの礎でしかない。
「だから聞かせて」
その言葉は最初の一歩――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『黄昏時の鏡の館』
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POW : 勘と直感を頼りに出口を目指す
SPD : 内部構造を元に出口を目指す
WIZ : 想いを振り切って出口を目指す
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
UDC怪物である『ロッジ・ゴーレム』達は猟兵達によって一掃された。
それによって駅の構内は迷宮化を解かれ、元の形に戻って……はいなかった。この駅の構内を迷宮化していた力は確かにUDC怪物である『ロッジ・ゴーレム』たちのちからに寄るものである。
しかし、空間の歪みは『邪神の仔』である『エクシー』の権能によるものであった。
彼女は己のルーツを自覚してしまっていた。
人ではない。
己が人ではなくUDCであることを自覚してしまっていた。
「……なら、終わりは来るってことよね。わかっている……ううん、わかってしまったのね。これが私」
その瞳は極彩色。
万華鏡のような煌きは、空間すら歪めていく。
歪んだ空間は砕けて鏡のように散らばっていく。彼女の心象がそうさせているのだろう。
この場を抜ければ、きっと己は死すしかない。
そう思っているのだ。
なぜならば、目の前にいる猟兵達は彼女にとっての救世主ではなく死神にして処刑人と同じなのだから。
知識ではなく、本能的に理解しているのだ。
猟兵とは滅ぼし、滅ぼされるだけの間柄であると。
「きっとあなた達が私の終わり。終わりは始めるために必要なものだってわかっていたけれど、終わりの後に来るものは、本当は何もない。わかっていたはずなんだけれど」
この迷宮を覆う鏡は、彼女の権能以上に彼女の諦観を示していたのかも知れない。
猟兵達は選ぶことができる。
此処まで来て選ぶことができるのは幸いであったのかも知れない。
『邪神の仔』として彼女を処分するのか。それとも彼女の心を救って、記憶処置を施した上で全てを忘れてまた人として生かすのか。
選ぶことができるということは、必ずどちらかを選び取らねばならぬということ。
猟兵たちが下した決断は如何なる結末を迎えるのであったとしても、誰からも咎められることはない。
だからこそ、その選び取る手は――
村崎・ゆかり
改めてこんにちは。そう身構えないで。あなたにはまだ帰る場所がある。
人間じゃなくても、人間と共存してるUDCはそれなりにいるよ。
例えばあなたは、世界を滅ぼしたいと思ってるのかな? そうならあたしたちの敵。でも、みんなと同じ時間を過ごしたいのなら、全力でこちら側に引き戻す。
助けられる命は一つでも多く助けたいからね。それにはあなたの命も含まれてるよ。
人を止めるのは簡単。でもそうしたら元には戻れない。
『エクシー』にも家族や友達みたいに大切な人がいるでしょ。それを思い出して。
大丈夫、人間であることを選んでも、この駅で起こったことを『なかったこと』に出来るから。
一緒に今を歩んでいこう?
『邪神の仔』、『エクシー』にとってUDC怪物は恐ろしいものであったが、同時に近しいものでもあった。
その咆哮は悲鳴のように聞こえていたし、彼等が猟兵に打倒される姿はどこか胸に傷を訴えるものであったからだ。
そうなるのもまた当然であったことだろう。
無自覚なるUDC。
それが『エクシー』の本当のルーツである。
彼女はこれまで己が人間であると自覚していた。けれど、この事件において彼女は自身を自覚し、己がなぜこれまで人として生活していたのかを原点から覆されてしまった。
「改めてこんにちは」
そう身構えないで、と言っても猟兵である村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)の存在は『エクシー』にとっては己を滅ぼす存在にしか思えなかっただろう。
しかし、言葉を手繰る以上、そこに対話が生まれる。
「あなたにはまだ帰る場所がある」
そう告げるゆかりの言葉に極彩色の瞳が見つめ返す。
鏡のように歪んだ空間は、彼女の心象そのものである。己を見つめ返すのは他者の視線ではなく、自身の視線だ。
屈折した視線は四方八方から己を見ているのだ。
「そんなものないわ。私は人間ではなかった。わかるでしょう。人は自分と同じものではないものを排斥するものなのだから」
だから、帰る場所などないのだと彼女は告げる。
「人間じゃなくても、人間と共存しているUDCはそれなりにるよ。例えば」
そうここからが革新である。
『邪神の仔』は言うまでもなく世界を滅ぼしうる可能性を持ったUDCである。
放置すればいずれは世界を破滅に導くだろう。
けれど、ゆかりは彼女を処分することは考えられなかったのかもしれない。
「あなたは世界を滅ぼしたいと思っているのかな? そうならあたしたちの敵。でも、みんなと同じ時間を過ごしたいのなら、全力で此方側に引き戻す」
「思ったことなんて無い。世界がなくなってしまえばいいだなんて思っていない。私が世界にあるのは、私も世界の一部だから」
その言葉にゆかりはうなずく。
助けられる生命は一つでも多く助けたいと思う。
線引ができているのならば、それは『エクシー』の生命もまた含まれている。
人を止めるのは簡単なことである。
だが、一度止めたものは元には戻らない。
「あなたにだって家族や友達みたいに大切な人がいるでしょ。それを思い出して」
彼女の情報はいつだってメディア欄にある画像ばかりであった。
自分ばかりが写っている。
当たり前だ。彼女にとって、家族や友人というものは存在しない。個でしかなかった。けれど、彼女を繋ぎ止めているのはSNSのアカウントばかりである。
これまで彼女がUDCに覚醒しなかったのはそのアカウントに紐付けられたフォロワーたちの認識があったからこそ。
極彩色の瞳は万華鏡のように他者の視線に寄って『エクシー』という人間の人となりを作っていたのだろう。
「大丈夫、人間であることを選んでも、この駅で起こったことを『なかったこと』にできるから」
そうでしょう、とこの事件の収拾にやってきていたUDC職員たちに視線を送る。
彼等にまかせれば『エクシー』は記憶処置を施し元の生活に戻れる。
それは猟兵達と歩む世界ではないのかもしれない。
けれど、同じ時間を過ごすことができる。彼女を処分したのならば、その機会は永遠に失われることだろう。
「それがよいことなのか、悪いことなのかわからない」
ゆかりは手をのばす。
「一緒に今を歩んでいこう?」
いつだって答えの正誤はわからない。
人生はいつだって一寸先すら闇に包まれている。だからこそ、その瞳で見なければならない。
己の行く末を自覚できるものは、この世でたった一人だけなのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
おやまあおやまあ。『エクシー』殿は人間だと思いますけどねー?
陰海月…あの極彩色巨大クラゲの踊り、どう思いますー?癒されませんー?
その他にも『可愛い』とか『目がチカチカする』とか…まあ、他の思いも抱ければよいのですー。それはそう思える『心』があって、化物ではない、ということなんですからー。
あなたは今回、巻き込まれただけですしねー?本当。
それに、こう見えて私、生きてませんし?悪霊なんですよ、私。
でもね、こうしているんですよー。終わってなんか、いないんですー。
あ、陰海月は生者ですよー?
※
陰海月はゆるゆる極彩色ダンスをしている。ぷきゅぷきゅゆらゆら。
『エクシー』さんは人間だもん!
人と怪物を隔てるものは一体なんであろうか。
その答えを知る者は人ならざるものでなけれならず、また怪物に成っていてはならぬものである。
条件を満たすものは限られているだろう。
「私は怪物で、世界の敵なんでしょう。だから世界の悲鳴を聞くあなた達に私は恐怖を抱いている」
『邪神の仔』、『エクシー』にとって猟兵とは己を滅ぼす存在である。
その存在に恐怖を抱くのは当然のことであった。
「だから、私は人間じゃあない」
己のルーツを自覚した彼女にとって、この心象を写したかのような鏡の迷宮は視線を集め、己を見つめる万華鏡であった。
「おやまあおやまあ」
そんな彼女の言葉をたしなめる事が場が聞こえる。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)はゆっくりと己の影から飛び出した『陰海月』と共に『エクシー』へと歩み寄る。
「『エクシー』殿は人間だと思いますけどねー?」
そんな『疾き者』の後ろでゲーミングカラーに輝く『陰海月』がゆらゆらと踊る。
何をと、理解するよりも早くその楽しげな雰囲気に『エクシー』の表情からこわばりが解けていく。
奇妙なダンスであったし、ゆらゆらと揺れる姿は『エクシー』の心をやすらぎに導くものであった。理由はわからない。
理由はわからくても感じることができたのならば、それは力であった。
それは虹のように(ゲーミングカゲクラゲ)、この鏡の迷宮の中で光を反射させて『エクシー』の極彩色の瞳に光を当てる。
「癒やされますよね」
「……うん」
言葉は多く必要なかったのかもしれない。
目がチカチカする。
カワイイと思うこともあるだろう。
だが、それでいいのだ。その感じる心があるのならば、己の本質やルーツは関係ない。
他のものだっていいのだ。
己たちを恐怖で見る目も。
彼女を見つめる優しげな目も。
何もかも同じものではないけれど、その存在を形作るのに必要なものだからだ。
「あなたは今回、巻き込まれただけですしねー? 本当」
『疾き者』は『エクシー』の境遇に如何なるものを抱いていたことだろう。
自覚なきUDCは、自覚なければ他に害を為すことはなかった。
ならば、それは怪物ではない。
怪物とは誰の心のなかにも存在するものであるが、表層に現れることがなかったのならば、怪物たらしめることはない。
それを押さえつけるものを人は理性と呼ぶのである。
「あなた、猟兵だけれど……」
「ええ、生きていません。悪霊なんですよ、私。いえ、私たちは」
その言葉に『エクシー』は目を開く。
これまで彼女の瞳は閉じていたようなものだ。目に見えるものだけを見て、己を見る者だけでもって己を為していた。
それを崩す現実が洪水のように襲いかかるからこそ、彼女は己を見失っていたのだ。
「でもね、こうしているんですよー。終わってなんか、いないんですー」
『疾き者』の言葉と『陰海月』のダンスが『エクシー』の瞳を真に開かせる。
彼女を人間たらしめるのは、他者の目。
ならば、『陰海月』はおどるのだ。
「ぷきゅぷきゅゆらゆら」
彼女が人間だと。
己たちが見て居る限り、それはまことに失われることはないのだと訴えるように――。
大成功
🔵🔵🔵
ウルスラ・ロザーノ
いやいや、なんでそんな捻くれた方向に考えてまうんかな
イヤなものはイヤ、だからそっちの道は選びません!って君が決断する、ボクらはそれを応援する、それでええやろ?
生まれは選べんけど、生き方は自由に選べるでな
てかむしろ、本能に逆らう私カッコいい、ぐらいクールに考えてればええんや
てか君はかなりすごい!
自分から進んで転がり落ちる、なーんて選択肢もあったやん
周りまで巻き込んで破滅してく、そんな奴らもボクはいっぱい見てきたしな
それに比べて、君は踏み止まる勇気とか気概とか、あるいは優しさとかそんな感じのを持ってる! なんとかなるて!
普通の人とはちょっと違う、その程度や
しっかり胸張って生きてこやないか、な?
人の心は歪み、ねじれるものである。
自己に自覚はなく、けれど他者からの視線で持って己の心は傷つき歪んでいくのだ。それは『邪神の仔』、『エクシー』がUDCでありながら人の心を持つ存在であることの証左であった。
けれど、それは遠回りのように思えてしまうことだろう。
捻れてしまった方向に考えてしまうのだろうかと思うこともあっただろう。
「イヤなものはイヤ、だからそっちの道は選びません! って君が決断する。ボクらはそれを応援する。それでええやろ?」
ウルスラ・ロザーノ(鈴振り燕・f35438)はからっとした笑顔で『エクシー』に言い放つ。
確かに『邪神の仔』としてのルーツは取り消すことができるものではない。
けれど、それでも選ぶことができる。
選択肢は目の前にあるのだ。
時として、人は目の前の選択肢すら見えなくなる暗闇に視界が閉ざされることがある。生きているのならば、常にそうだ。
「生まれは選べんけど、生き方は自由に選べるでな」
それは簡単なことではなかっただろう。
誰もが知覚、簡単な道を選ぶ。厳しく険しい道を選ぶ事ができるものは少ない。
だからこそ、ウルスラは簡単なことだと笑っていうのだ。
「てかむしろ、本能の逆らう私カッコいい、ぐらいクールに考えてればええんや」
「そんな簡単なことでいいの?」
『エクシー』にとって、それは目からうろこであったし、同時にこれまでの彼女の考え方に似通っていたことであろう。
自分がカワイイと自覚するからこその『エクシー』としての生き方。
それを彼女はこれまで『邪神の仔』としてではなく、人として行ってきたのだから。
「てか君はかなりすごい!」
ウルスラはうなずいて伸ばす『エクシー』の手を取って引き上げる。
彼女が立ち上がり、見上げる形になってしまったけれど、その極彩色の瞳にある輝きはこれまでのそれとは違う。
「自分から進んで転がり落ちる、なーんて選択肢もあったやん。周りまで巻き込んで破滅してく、そんな奴らもボクはいっぱい見てきたしな」
自暴自棄。
そういう選択肢も彼女にはあったのだ。
けれど、己のルーツを知りながらも、それを行使しなかった『エクシー』はウルスラにとって称賛するに値する存在でもあったのだろう。
「それに比べて、君は踏みとどまる勇気とか気概とか、あるいは優しさとかそんな官女のを持ってる! なんとかなるて!」
ばしん、とウルスラは『エクシー』の背中を叩く。
小さく悲鳴が聞こえたけれど、彼女の表情は柔らかい。鏡の迷宮は彼女の極彩色の瞳の色を受けて明滅している。
どれだけ彼女の体がUDCなのであったとしても、この迷宮を形作っている力はコントロールすることができる。
自覚があるからこそであると理解した時、それは嘗ての能力者たちの生い立ちとも似通っていたことだろう。
あの懐かしき死と隣合わせの青春の日々をウルスラは思い出したかもしれない。
「普通の人とはちょっと違う、その程度や」
「それでいいの? 私、それでいいの? いつもと同じように、笑っても」
「ええんや。それで。そら、背中を曲げるな」
笑ってウルスラは『エクシー』の背中を押す。
道はもう目の前にある。どれだけ彼女の心を惑わすUDCとしての本能があるのだとしても、ウルスラは彼女が大丈夫だということを理解していた。
「しっかり胸張って生きていこうやないか、な?」
親しみを込めてウルスラは彼女の背を叩く。
それは彼女の心を支える優しい痛みとなって、きっと記憶を失っても尚、『エクシー』を支えるものとなるだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
三年前より続く懊悩は気取られてはならない
今、真に向き合うべきなのは己の過去でなく
目の前で惑う少女であるのだから
…失礼ながら、SNSの活動を活発に行っているようですね
他者との繋がり求めてか、自己表現か
或いは模索の最中であったか
それは私達が存じ上げる事では御座いません
ですが人が、いえ、どのような存在であっても
『生』を謳歌したいという欲求は庇護されるべきものです
世界の加護で分かり難いやもしれませんが
実は私はウォーマシン…其方の世界で言うロボットです
(頭部取り外してみせ)
何者ではなく、何を求め何を為したいか…
肝要なのは其処であると言わせて頂きます
貴女を拒絶する程、世界は狭量では無いと私は信じております
他者を導くのならば、己は迷ってはならぬとトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は理解していた。
もとより己はウォーマシンである。
迷いとは矛盾をはらむものであるがゆえに、生来無関係なものであったはずだ。けれど、己が猟兵であるという起因は恐らく抱える矛盾故に。
ならばこそ、トリテレイアは己の過去より抱える懊悩を『エクシー』に悟られてはならぬと一歩を踏み出す。
『邪神の仔』、『エクシー』はすでに一歩を踏み出している。
彼女の心象を現す鏡の迷宮を前に彼女は猟兵たちの言葉を受けて前に進もうとしている。
ならばこそ、トリテレイアは己が過去に向き合うことではなく、目の前の少女にこそ向き合わねばならない。
取りこぼしたものは多い。
どうしようもなく取り戻すことのできぬものばかりを取りこぼしてきた己の手で何ができるか。
それは懊悩と呼ぶに相応しいものであったことだろう。
己はヘッズマン――処刑人になってはならぬ。
だからこそ、トリテレイアは慇懃無礼な態度を崩さず『エクシー』と向き合う。
「……失礼ながら、SNSの活動を活発に行っているようですね」
それは他者との繋がりを求めてのものであったのか、それとも自己表現であったのか。
もしくは、何かを探していた途中であったのか。
トリテレイアには知る由もない。
「うん、それが私の自覚すべきことだと思っていたけれど……それは違ったんだね。私の権能の一つだったんだと思う。愛されること。それで自分を形作っていたんだって」
『エクシー』の極彩色の瞳が煌めく。
そこにあったのは確かにUDCとしての権能であったのだろう。
「きっとそれが間違いだって……」
「いいえ。人が……いえ、どのような存在であっても、『生』を謳歌したいという世級は庇護されるべきものです」
トリテレイア、己の頭部を外す。
それは普通の人間ならば認識できぬものであったかもしれないが、目の前のUDCである『エクシー』には正しく理解できるものであったことだろう。
「――……ロボットだったんだ」
「ええ、正確にはウォーマシンと呼ばれるものでありますが……ロボットで、間違いないかと」
トリテレイアは外した頭部を小脇に抱えるようにしながら、そのアイセンサーを明滅させる。
ユーベルコードであったかもしれない。
彼女を人の道に戻すための説得、術策の一つでもあったのかもしれない。
けれど、トリテレイアにあるのは打算ではなかった。
あるのは唯一つのこと。
それを『エクシー』は理解するからこそ拒むことはなかった。
「何者ではなく、何を求め何を為したいか……肝要なのは其処であると言わせて頂きます」
「うん、わかるよ。そういうこと。私がどんな存在であっても」
トリテレイアは己の頭部を首に添えて座りを直す。
「貴女を拒絶するほど、世界は狭量ではないと私は信じております」
「ありがとう」
未だ世界は悲鳴を上げていない。
トリテレイアは己の為すべきことはここまでであるというように、騎士がレディにそうするように『エクシー』に道を譲る。
彼女を導こうと考えることなどおこがましかったとトリテレイアは思っただろう。
彼女の足はすでに自身の力で立っている。
何をしたいかも、自分が何者であるのかも。その背中を騎士は見送ることしかできないだろう。
隣にそう事もできたかも知れない。
けれど、懊悩を抱え続ける己には、それができないこともまた知る。
いや、できないと決定しているのは己自身であると知るからこそ、いつかその懊悩もまた昇華される時が来るのかも知れない。
その結実をトリテレイアは『エクシー』の背中に幻視するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
楠井・沙智
起動解除。イグニションカードに武装を収めます。
邪神の仔とは違うけど、私達も生まれたままだったら世界の敵になってたかもしれないの。このカードに力を封じたおかげで人間として生きていける。
大人達が、子供達の為に作ってくれた技術なの。
この世界だって同じ。あなたみたいな子供を助けてくれる大人はちゃんといるよ。UDCを倒すのが人間の為なら、人間でいようとするUDCがいるなら守るのが道理なのよ。
ルーツはあなたを構成する要素のたった一欠片。今まで積み重ねてきた沢山のあなたの要素が大切なら、捨ててしまってもいいのよ。
大丈夫。世界は理想郷じゃないけど、それでも充分優しく出来てるの。
鏡の迷宮は『邪神の仔』、『エクシー』の心象を現す風景でもあった。
その極彩色の瞳が煌めく度に万華鏡のように鏡が形を変えていく。道を閉ざしているようにも、道を開いているようにも思えたことだろう。
猟兵達によって心を励まされ、彼女は一人で歩いてる。
そんな彼女の近づく猟兵が一人いた。
手にしたイグニッションカードの起動を解除し、楠井・沙智(スレノディ・f36496)は『エクシー』の隣に歩く。
「あなたも私と似たようなところがあるね」
「ええ、『邪神の仔』とは違うけれど、私達も生まれたままだったら世界の敵となっていたかもしれないの」
能力者。
言葉で告げたとしても、それは理解されないことであったことだろう。
なにせ世界が違う。
そして、沙智たち銀の雨の降る世界を戦い抜いた能力者たちは一つの戦いを終えていた。
力を封じていなければ。
その言葉に『エクシー』はうなずく。
きっと理解しているのだ。
「きっと優しい人がいたんだね」
「ええ、だから人間として生きていける」
多くの大人たちが子どもたちのために作ってくれた技術。これながければ、多くの生命が失われていただろう。
意味も、理由もわからぬままに死んでいたかもしれない。
「この世界だって同じ。あなたみたいな子供を助けてくれる大人ちゃんといるよ」
沙智は隣を歩きながら『エクシー』に告げる。
彼女はもう歩んでいる。自分の足で。誰かに頼らずとも、確固たる己を自覚している。どれだけそれがUDCという己のルーツであるのだとしても、人ではないのだとしても、それでも彼女は。
「私は人間でいたい。みんなと違うのかも知れないけれど、みんなもまた私とは違う。それが人というものなのでしょう」
『エクシー』の極彩色の瞳は前を向いている。
うつむいていたのは僅かな時間であった。
「うん。ルーツはあなたを構成する要素のたった一欠片。今まで積み重ねてきた、沢山のあなたの要素が大切なら、捨ててしまっていいのよ」
そんな簡単なことでいいのだ。
人は拾って、捨てて、得て、失って、傷ついて、傷つけて生きていくものだ。
ならば、世界はいつだって目の前に明日を開いてくれる。
沙智がそうであったように時に優しく、時に残酷に。
「捨てて……そして、身軽になればいいんだよね。終わりがあるから始めることができる。ええ、私ってそういうのがきっと好きなんだわ」
鏡が消えていく。
万華鏡のように道を塞いでいた迷宮は、元の駅の構内に変わっていく。
プラットフォームに電車の車両が滑り込んでくる。
沙智もいつかの日に、これとは違うけれど、プラットフォームから一歩を踏み出したのだ。
だから、今の己がいる。
電車の車両の扉が開く。
どこか不安げな顔をしているように思えてしまった。
だから、『エクシー』に沙智は言うのだ。
「大丈夫」
そう、短くうなずく。
大人が子供にできることは多い。けれど、大人になろうとしている子供に大人ができることは唯一つだ。
見送ることだけ。
「世界は理想郷じゃないけど、それでも十分優しく出来ているの」
送る言葉は簡単なものであったけれど。
それで十分なのだ。微笑む万華鏡のような瞳を沙智は忘れないだろう。『エクシー』はUDC職員たちによって記憶を封じられて、己たちのことを忘れてしまうだろう。
けれど、それでいい。
かつて自分たちがそうしてもらったように。
誰かの平穏を護ることにこそ、沙智は己の力の使い所を見出したのだから。
ヘッズマンの、処刑人の懊悩は程遠く。
されど、それで良いのだと春を告げる風が、それらを忘却の彼方に運び去るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵