鋼鉄の華は咲くか、エースの恋慕
●青い春
戦乱の続くクロムキャバリアにあっても恋人たちは愛を確かめ合う。
どれだけ争いが人の本質であるのだとしても、人の愛もまた本質的なものであったことだろう。
争いと愛し合うこと。
そのどちらもが人たらしめるものであるからだ。
百年以上続く戦争状態。けれど、人は愛を、恋をすることは止められない。
「『クロア』、これ」
思った以上にそっけない言葉であったと『ツェーン』は思った。
今日はバレンタインである。戦時下にある『グリプ5』にあっても、それは変わらないものであった。
大変な時であることはわかっている。こんなことしている時ではないってことも。
だけれど、それでも。
『ツェーン』は今までこんなことに気を取られたことはなかった。キャバリア操縦だけが己の存在意義であったからだ。
けれど、そうじゃなくてもいいのだと告げてくれた者がいる。
彼女の背後の闘技場ではバレンタインのささやかな催しというようにキャバリア乗り同士のカップルが覇権を競う音が響いている。
なんとも色気のないことであると思えた。
けれど、目の前の緑の瞳をした少年『クロア』の顔は真赤であった。
何事か言葉を紡ごうとしているようであるが、どうにも言葉がつながらないようである。
その様子を『ゼクス・ラーズグリーズ』と『ズィーベン・ラーズグリーズ』の幼い少女、少年は締まらないなぁというように天を仰いでいた。
「『ツェーン』お姉ちゃんも、もうちょっと言うことあるよね」
「わかりなさいよ。素直になれない女の子の気持ちってやつを」
『ゼクス』少年が、呆れたように言う。
そんな彼を『ズィーベン』少女がたしなめるように大人な態度というか、ませた事を言うのだ。
「……受け取ってはくれないの?」
『ツェーン』の不安そうな声に『クロア』は漸くにハッとして頭を振る。
顔はまだ赤い。
けれど、それでも彼はおずおずと手を伸ばし……そして、『ツェーン』が最もほしかった言葉を告げるのだ。
「ありがとう、『ツェーン』。嬉しいよ――」
●バレンタインinクロムキャバリア
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今日はバレンタインですね」
そう言う彼女の手にあるお皿の上には、半壊したお菓子のドールハウスであった。
あ、誰かに上げるとかそういうのではなく、作ったら食べる、的な。
そういうあれであったのかと猟兵達は理解した。まあ、食べ物としては正解なのだろうが、もっとこうあるだろ、と誰もが思ったかも知れない。
「戦乱の続くクロムキャバリアでも恋人の皆さんはバレンタインにお互いの愛を確かめ合うために、手作りのお菓子や料理を振る舞ったり、お守りを渡したりは勿論、キャバリア乗り同士のカップルさんたちは闘技場で今年のバレンタインチャンピオンタッグを決める催しに参加したりするそうですよ」
ナイアルテは微笑んで、また一つお菓子をつまんで、ドールハウスを崩壊に導く。
一体何を見せられているんだ。
「小国家『グリプ5』では、そうしたものがバレンタインの恒例行事なのだそうです。今は大変な時期なので派手に執り行うことはないようですが、それでも一時の休息を兼ねて小国家の中は穏やかなムードになっています」
猟兵達に声を掛けたのは、そうした行事を楽しむことで世界に良い影響をもたらそうと試みているからかもしれない。
穏やかな日々を楽しむことは世界の危機をいち早く察知することができる礎になるだろう。
「せっかくなので、皆さんも良いバレンタインを過ごして頂きたいと思いまして……」
微笑み、ナイアルテは集まった猟兵達に小さな包を手渡していく。
その中身はチョコレート。
多分、ナイアルテがお菓子のドールハウスを作る時に一緒に作ったものなのだろう。日頃の感謝を込めて、と彼女の瞳は告げているようでもあった。
「それでは、皆さんの今日が穏やかなものでありますように」
僅かな一時かもしれない。
けれど、それでも確かにある平穏を猟兵達は甘いチョコレートと共に味わうのであった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はクロムキャバリアの小国家『グリプ5』において、バレンタインデーを過ごすシナリオになります。
キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
ただし、暴走衛星『殲禍炎剣』が存在しているため、空は自由に行き来できません。
※このシナリオは『期間限定一章シナリオ』です。
ペアでのご参加をお考えに為る方が多いかと思われますので、プレイング締め切りを『2月17日の朝8:30まで』とさせて頂きます。
●第一章
日常です。
クロムキャバリアのバレンタインとなります。
小国家『グリプ5』で過ごすことになります。
闘技場では、キャバリア乗り同士のカップルに寄るチャンピオンタッグシップが開催されています。飛び込みでの参加もオーケーです。
ペアで参加してもよいですし、ソロで参加しても構いません。
また料理を作り、大切な人とレストランなどのお店で食事を共にしてもいいでしょう。バレンタインデーの特別なメニューもあるかもしれません。
もしくは愛を伝える手紙を綴り、贈ることもよいでしょう。
皆さんの良いバレンタインの一時と成れば幸いです。
それでは、戦乱続く世界クロムキャバリアではありますが、一日だけのバレンタインを心穏やかに過ごす皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『クロムキャバリアのバレンタイン』
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POW : 闘技場や訓練場を訪れる
SPD : 料理を作り、大切な人と食事を共にする
WIZ : 愛を伝える手紙を綴る
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フレスベルク・メリアグレース
さて、戦火における慰問もわたくし、メリアグレース聖教皇国教皇の責務です
グリプ5の住民や兵士を各自訪問し、チョコを渡していきます
メリアグレース聖教皇国は義のない政治や財政による困窮被害者達を救い、聖教と国家を拡大させた支援国家
そこにわたくしはオブリビオンマシンによって生じた闘争の被害者をも救います
メリアグレース聖教皇国からのグリプ5に対する支援体制をここに締結
また、いざという時に対する民間人の疎開先としてメリアグレース聖教皇国領を避難受け入れ先として受け入れると誓いましょう
わたくしの名を持って、貴方達グリプ5の人々に帰天の祝福があらんことを
クロムキャバリアはバレンタインの日であっても、変わらぬ戦乱に包み込まれている。
小国家『グリプ5』の幸運は、この日においては戦闘の兆しがなかったことだろう。
恋人たちは愛をささやく。
そして、友愛を育むであろう。
どれだけ争乱が人を包むのだとしても、それでも人は愛することを止められない。
生きるために必要なことだけでよかったのならば、愛は必要ない。
けれど、それだけでは人は人たり得ない。
ゆえにフレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)は、神子の代理たる皇が有せし在るがままの威風(マスターマインド・ザ・ナチュラル)と共に戦火における慰問を為すのだ。
「わたくしの名を持って、貴方達『グリプ5』の人々に帰天の祝福があらんことを」
フレスベルクの言葉に人々は感謝を告げるだろう。
未だ『グリプ5』は代表格の人物たちが負傷や重篤な状態にあり、正式にフレスベルクの提言することを受け入れることはできない。
彼女は『メリアグレーズ聖教皇国』から『グリプ5』に対する支援体制を締結することを表明していた。
いざという時に対する民間人の疎開先として、己の国を提言する。
「まあ、すぐに返事ができるわけでもなし。そちらの厚意だけはありがたく頂戴しておくとするよ」
隻腕のエースとなった『アイン・ラーズグリーズ』がどうにも立ち行かぬ状況ゆえに返答できぬことを伝える。
本来の代表である『ツヴァイ・ラーズグリーズ』は未だ重篤の身。
意識が戻らぬこともある上に、多くの犠牲を払った状況なのだ。
フレスベルクはうなずく。
答えがすぐに欲しいわけではない。この戦乱の世界にあって、互いに助け合うことができるという証明になればいいのだ。
そのために彼女は多くの物資を運び込んでいた。
バレンタインであるからチョコなどの嗜好品が多かったが、これもまた前線で戦う兵士や、住民たちに喜ばれることだろう。
「『メリアグレーズ聖教皇国』は義のない政治や財政に寄る困窮被害者たちを救い、聖教と国家を拡大させた支援国家……」
フレスベルクは慰問として『グリプ5』の国中を見て回る。
物資は滞りなく行き渡っているようでも在る。
プラントの稼働も今は良好であるようだ。けれど、周辺国家との争いは絶えない。
それがクロムキャバリアにおける宿命であるのかはわからない。
けれど、それでもフレスベルクは諦めないだろう。
「闘争の被害者をも救う。それが聖教として、そして支援国家としての役割でありますから」
戦乱の中の一時。
それはほんの僅かな時間でしかなかったのかも知れない。
けれど、それでも人々に憩いの時間は生まれていく。
配られた物資は甘く、疲れを溶かしていく。
どうしようもない世界であったのだとしても、今日だけは心地よい平穏が人々を包み込んでく。
打算も何もない。
小国家間の行き来は未だ空に浮かぶ暴走衛星によって妨げられている。それが人々の中に不和と不信を引き起こすのならば、人の善性でもってこれを払拭せねばならない。
「どんなことも小さな一歩から始めなければならないのです」
フレスベルクは、この戦火渦巻く世界にありて、それでも人の善性を信じるように、この一時を大切にするのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
ふふ、皆浮かれてるわねぇ。災厄がないのはよいこと。
アヤメ、羅睺、あたしたちもこのつかの間の平穏を楽しみましょう。
『グリプ5』で一番いいホテルの、ワンフロアぶち抜きのスイートルームを借りて、二人と一緒に死骸の様子を双眼鏡越しに眺めてみる。
ああ、あの辺がキャバリアの模擬戦場ね。やってるやってる。あなたたちも見てご覧なさい。2対2でタッグマッチやってるわ。
さて、皆でお風呂に入って、身綺麗にしたら、お揃いのキャミソールにショーツ。上はノーブラよ。
さあ、三人でキングサイズのベッドに上がりましょう。これだけ広ければ、何でも出来るわね。
アヤメと羅睺は、どうしたい? いっぱい可愛がってあげるから遠慮しないで。
戦乱の続く世界にあっても特別な日は在るものである。
それがどれだけ人々にとって大切な一日であるかは言うまでもない。恋人たちは愛を囁き、それに近しい間柄の男女は己の思いを伝えあうだろう。
どれだけ戦火があらゆるものを燃やすのだとしても、それだけは燃やし尽くすことはできない。
人の営みが続くのであれば、このような日もまた存在し続けるのだ。
「ふふ、みんな浮かれてるわねぇ。災厄がないのはよいこと」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)はつかの間の平穏を楽しむ。
勿論、一人で、ではない。
彼女は愛奴召喚(アイドショウカン)によって呼び寄せた恋人にしたエルフのクノイチの式神・アヤメと羅喉と共に小国家『グリプ5』のホテルに居た。
一番いいホテルを、と教えてもらったのだが、高層の建物から見下ろす『グリプ5』の街並みは何処も暗闇に沈みながら、街の明かりで彩られている。
空に星があるのならば、地上には絢爛たる星がある。
あの明かりの一つ一つに人の営みが在ることを知ればこそ、その明かりの尊さを知るだろう。
「アヤメ、羅喉、あたしたちもこの束の間の平穏を楽しむとしましょう」
彼女が窓から身を離す。
そこはワンフロアをぶち抜いたスイートルームであった。
三人が並べば、美しき花のようであったことだろう。
眼下にある街並みから、この部屋の明かりは見えても己たちの姿は見えない。
「あちらに見えるのはなんでしょう?」
「とてもにぎやかな催しでもやっているのかな?」
二人の言葉にゆかりも目を凝らす。
小国家『グリプ5』は戦時下である。言うまでもないが、周辺国家においては未だ戦乱が絶えない。
『フルーⅦ』との同盟は僅かなつながりで保たれているが、孤立しない程度のものでしかない。
そして地底帝国『バンブーク第二帝国』と新興小国家『シーヴァスリー』の台頭が『グリプ5』をさらなる劣勢を強いる。
しかし、それでもあの明かりの先にあるのはバレンタインデーのペアによるキャバリアタッグマッチの闘技場だ。
「やってるやってる。あれは二対二のタッグマッチね」
ゆかりが示す先にあったのは、たしかに四機のキャバリアが模擬武装でもって戦う姿であった。
こんな時に、と思わないでもない。
けれど、互いのカップルの愛が燃え上がれば燃え上がるほどにキャバリアの戦いは加熱していくようであった。
「あっちは盛り上がっているようだけれど……」
「こちらも負けてはいられませんよ」
「うん、たっぷりね!」
三人はほほえみながら共に巨大なジャグジーに浸かる。
泡と光、そして穏やかな音が響き渡る。ベッドはキングサイズ。ふかふかであるし、寝心地はよいものであろう。
けれど、今夜はただ眠るだけではないだろう。
「アヤメと羅喉はどうしたい? いっぱい可愛がって上げるから遠慮しないで」
日頃の感謝もあるだろう。
そして、こんな日だからこそ叶えてあげたい願いがある。
甘えるような二人の姿にゆかりは笑みを強くするだろう。今夜は眠れないかもしれない。
そんな風に思いながら、共に過ごす夜は穏やかに時に激しく揺らめく営みの明かりの中に消えていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ガイ・レックウ
【SPD】判定
「いいねぇ、こういう時間も悪くない」
コーヒーで一服しながら、みんなの様子をみてる。
戦いばっかりでこの国に来てるが、平和なのが一番いいんだよなぁ。
「フュンフのやつ、なにやってっかな?」
自分が認めているエースがなにやってるのか…それに考えを巡らすぜ。
『前会ったとき、迷ってたみたいだったからな…ま、迷い悩むのはいいことだ』
迷い無き拳に重さは宿らない‥どこで聞いた言葉だったかな?
そんなことを考えながら、コーヒーを飲み干し、手土産持ってツヴァイの見舞いでも行くかな?
クロムキャバリアに戦乱は尽きない。
小国家『グリプ5』においてもそれは変わらぬことであった。
日々、戦いの渦中に放り込まれる人々の心は荒む一方で在った。だからこそ、この日は誰もが一時の休息に息を吐き出す。
バレンタインデー。
言葉にしてしまえば、それだけである。
こんな戦争状態にあっても、そんな行事がまかり通るのかと訝しむこともあっただろう。
けれど、街中の様子を見たガイ・レックウ(明日切り開く流浪人・f01997)は穏やかに微笑むだろう。
何処もかしこもカップルや恋仲に発展しそうな男女、そして仲睦まじい夫婦の姿があった。
彼らの平穏を己は守らねばならないと思ったことだろう。
「いいねぇ、こういう時間も悪くない」
街中のカフェでコーヒーを一服しながら、待ちゆく人々の姿を見やる。
穏やかな時間はいつだって良いものである。
ガイがこのクロムキャバリアに訪れる時はいつだって戦いの原因を叩き潰すためである。
幾度かこの小国家にやってきてはいるが、どんな時でもオブリビオンマシンの災禍にさらされている。
だからこそ、このような光景は新鮮でありながら感慨深いものもあったのだ。
「やっぱり平和なのが一番いいんだよなぁ」
戦いなどしなければ、それに越したことはない。
争いが人の本質なのだとしても、この平穏なる時こそが何物にも得難きものである。
だからこそ、この『グリプ5』の光景をガイはある人物に見せたいと思ったのだ。
「『フュンフ』のやつ、なにやってっかな?」
彼の言うところの『フュンフ』とは『フュンフ・ラーズグリーズ』である。
この小国家から出奔し、今はこの場にはいない。
風のうわさでは、滅びた小国家『フィアレーゲン』のレジスタンスに参加していたようであるが、今はどうなっているか不明のようであった。
少なくとも『グリプ5』側では関知できていないようである。
しかし、ガイは心配していなかった。
己が認めた『エース』なのだ。
心配をしたのだとしても、それは杞憂に終わるだろう。
どれだけ迷い、悩むのだとしても、彼は答えを出すだろう。
「迷いなき拳に重さは宿らない……どこで聞いた言葉だったかな?」
ガイはコーヒーのカップに残る琥珀色の液体に瞳を写す。悩み、悩み、どれだけ悩み果てたとしても答えのでない問いかけがある。
だからといって、考えることを悩むことを、思うことをやめては人は歩みを止めてしまう。
今もなお『フュンフ・ラーズグリーズ』が歩み続けるというのならば、それでいいとさえ思ったのだ。
ガイは立ち上がりゆっくりと歩く。
「さて、手土産を持って『ツヴァイ』の見舞いでも行くか」
彼は未だ意識戻らぬ『ツヴァイ・ラーズグリーズ』の元へと向かう。
面会が叶うかはわからない。
けれど、何かせずにはいられない。こんな穏やかな日だからこそ、ガイは紡がれた平穏にこそ己ができることをやろうと思った。
平和への歩みは未だ遠く。
されど、遠くない日にきっと訪れることを願う。
幾組もすれ違う穏やかな人々に薄く笑みながらガイは足取り軽く、街中を歩くのであった――。
大成功
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サージェ・ライト
お呼びとあ、ごふっ……(ナイアルテさんからチョコを受け取りながら、とけつ死)
ナイアルテさん、そーゆーとこやぞ(ダイイングメッセージ)
あ、これお返しです
料理下手なので買ったものですが(記念コインのようにチョコが並んでいるケースを手渡す)
ところで『チョコ肌たゆんアイドル』で売り出しませんか私たち?
さて、クロキャにいきましてー
これ、ツェーンさんとクロアさんのデートをずっと見守るクノイチとかダメですか?
バレたらバレたで冷やか……応援に行きますね
ツェーンさんここは攻めです
チョコをクロアさんの口に押し込むのです!!
クロアさんをびっくりさせてその隙に
具体的にはクロアさんの腕を取って抱き着くといいと思います
『チョコ肌たゆんアイルドル』――それは計画された特別なアイドル育成計画。
日の目を見ることはなかった。
けれど、たしかにあったのだ。いや、嘘である。ない。そんな事実無辜なるアイドル育成計画はないのである。多分、どこかの電子の海にひっそりと漂っているのかも知れないが、ないものはないのである。
したら作っちゃえばいいじゃんってなるのがまた人の性であろう。
「お呼びとあ、ごふっ……」
開幕吐血。
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)はその手にあるチョコレートの包を手にしたまま吐血していた。
なんで? となるが、グリモア猟兵からもらったことが嬉しかったのだろう。
女の子だってバレンタインデーを楽しみたいのである。友チョコって文化、イエスだよね。
そんなサージェもまた料理下手ゆえにもらったものではあるが、彼女も記念コインのようなチョコの入ったケースを交換するように手渡す。
そんな心温まる光景があった。
そのおすそ分けではないが、サージェはこっそりクロムキャバリアの小国家『グリプ5』に降り立ち、その街中で繰り広げられている青春のキャッキャウフフを堪能する。
具体的に言えば、緑色の瞳の少年『クロア』と『ツェーン』の恋模様をこっそり見守っているのだ。
スニーキングミッションなどお手の物である。
「ああ、これはもどかしい!」
サージェは歯噛みした。
こういう時にこそ『チョコ肌たゆんアイドル』グループの結成が待ち望まれる。売り出していたらミリオンヒット間違いなしであろうと思われるのに。
多分、誘おうと思っているグリモア猟兵は首を縦に振らないだろう。恥ずかしがり屋さんなのである。
「えぇと、その……」
『クロア』がしどろもどろしている様子にサージェは、飛び出していた。
もやもややきもきするやり取りは青春の味であるが、こんな戦乱の世界である。さっさと先に進んでもらわないと、いらんフラグになってしまいかねない。
具体的には、この戦いが終わったら俺結婚するんだ、とか。そういうやつが立ちかねない。
「というわけで参上、クノイチ! やってやりましょう!」
飛び出しサージェに驚いた『クロア』の口が開いた瞬間、サージェは『ツェーン』の背中を押す。
未だ! 口に放り込め! 押し込め! ねじ込めぇ!
うるせぇ。
地の文がうるさい。サージェは優しく彼らの背中を押す。
口に放り込まれたチョコレートはきっと甘いだろう。それ以上に青春の味は尚砂糖味。
甘い空気は一瞬であった。
けれど、サージェは『ツェーン』の耳元で囁く。
「こういう時は腕をとってだきつくといいと思います」
そんな大胆なことをしていいのだろうかと思わないでもない『ツェーン』であったが、それでも勇気を出して……――。
共に歩く二人を見送るサージェ。
良い仕事をしたな、と思った。『チョコ肌たゆんアイドル』計画は頓挫してはいるけれど。
それでもクロムキャバリア、この戦乱の世界にまた恋の花が一つ咲いたことを喜ぶべきであろう。
「いつか、こんな他愛ない日がずっと続くような世界になればいいですね」
サージェは非常に良い顔で恋人たちを見送る。
さて、と彼女はもらったチョコレートを口に放り込む。甘い、甘い、チョコレートの香りと味がバーチャルキャラクターであるサージェにも感じられる。
優しい味が広がるように、世界にも優しさが満ちる。
それを願うようにサージェはクロムキャバリアの街並みを見つめるのであった――。
大成功
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