●君は拒めるか
あの人に会えるのなら、もう一度会えるのならば、あらゆる全てを擲つことができたかもしれない。
世界中のすべての人から避難されることになったとしても胸を張ってうなずく事ができただろう。
啼泣して、流涕して、枯れ果てるほどに涙を流して。
それでもなお諦められないのならば、この思いは本物なのだろう。
だからこそ、『早苗』は手にした『反魂ナイフ』を握りしめて、愛おしきあの人の遺骨が眠る墓の前に立つ。
数ヶ月前に『早苗』――彼女の下に送られてきた一振りのナイフの刀身は剣呑なる輝きを放っていた。
「良くないことだとわかっているの。それでもあなた様は、きっとわかってくださるわ。お優しい方だから。わたくしの笑顔が好きだと言ってくださった。わたくしの笑顔を見ると、くしゃりと笑むあなた様がわたくしはどうしようもなく愛おしかった。もう一度あなた様の、そのお顔が見れるのなら」
きっと彼女は悪魔にだって魂を売るだろう。
彼女の下に届いた『反魂ナイフ』には『愛しき人の遺骨に突き立てよ』というメッセージがあった。
そうすれば、その名の通り、彼女の愛おしき人は蘇る。
ダメだと理性が叫んでいる。
けれど、とめどない涙がまたあふれるのだ。
「止まらないの。笑えないの。前に進むことも後ろに戻ることもできない。だから、せめてできることをしたいのです」
墓を暴く。
きっと己は地獄に落ちるだろう。
『早苗』はそう思った。けれど、もう止められない。どんな地獄が待っていたっていい。愛おしきあの人が戻ってきてくれるのならば。
どんなことも辞さぬ。
前にも後にも行けないのなら、『今』のままである必要なんて何処にもない。
涙は溢れて溺れるものだ。扉を開けたくても、涙の水圧で開けられない。誰かに扉を開けてもらわなければならない。
「その扉を開けるのは、あなた様であってほしいのです、『ラーズグリーズ』のあなた様――」
●計画を壊す者、もしくは、戦いを終わらせる者
「ああ、ああ! ああ、やっぱり! あなた様はわたくしの下に戻ってきてくださった! あの日の約束のように! わたくしは笑えていますか?」
『早苗』は目の前に蘇らせた愛する人『永瀬』の胸に飛び込んだ。
いつだって自分を受け止めてくれた、笑わせてくれた人の胸のぬくもりは、あまりにも暖かなものであった。
笑顔を見せたいと思っていたのに、どうしようもなく涙がとめどなく溢れてきてしまう。止められない。あふれる激情は、どうしようもない。
「――……泣き笑いだけれど、ね。君はやっぱり笑っている方がいい。君の笑顔を見ると、僕も笑ってしまうんだ。だから、君はいつまでも笑っていてほしいんだ」
『永瀬』の言葉に『早苗』はうなずく。
それを望むのならばと。
いつまでも笑おうと、あふれる涙のままに心の底から笑うのだ。
「君の涙が――僕を消すのだから。僕の体を消すことができるのは君の涙。僕は――『■■■■■』は消えたい。涙に消えたい。君の、お前の涙を」
「なに、を……? 何をおっしゃっているのです?」
「違う。僕は、君に泣いて欲しくなんて無い。だから、君の涙を」
奪い去りたい。
君がもう泣かなくて済むようにと。
他ならぬ君の涙を。だから、涙を欲する――。
●反魂ナイフ
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。サクラミラージュでの事件……その予知に『影朧兵器』の使用が確認されました」
ナイアルテの語る影朧兵器の名は『反魂ナイフ』。
それは亡くなった大切な人にもう一度会いたいと願う者の下に匿名の送り主から送られてくるのだという。
亡骸に突き立てることによって、知識も記憶も感情も生前のままに蘇生させる影朧兵器。それが『反魂ナイフ』である。
しかし、その蘇生させた者の魂と強力な影朧の魂を融合させることによって怪物を生み出す兵器なのだ。
匿名の送り主は、これをもって世界を破滅に導こうとしている。
「『反魂ナイフ』の使用者は『早苗』さんと呼ばれる女性。彼女は『永瀬』さんという恋人を事故で喪っているのです」
すでに『永瀬』は蘇生されている。
『早苗』は『永瀬』を自身の住まう邸宅に匿っている。
蘇生の事実が知れ渡れば、どうなるかなどわかりきっているからだろう。しかし、蘇生された『反魂者』である『永瀬』に惹かれるようにして低級の影朧『古塚の呪い』が邸宅の周辺に集まりつつ在るのだという。
「邸宅に匿われている『反魂者』、『永瀬』さんの所在はすぐにわかります。影朧たちが集まってきているからです。これらが多く集う場所こそ『永瀬』さんを『早苗』さんが隠している場所なのです」
まずは低級影朧たちの撃破と排除である。
その後に『早苗』を説得しなければならない。
「『早苗』さんは頑なです。『永瀬』さんを蘇生させたという事実を隠し、守ろうとするのです」
愛するものをもう一度失うことに耐えられないからであろう。
だが、彼女は気がついている。
心の何処かで蘇生させた『永瀬』が『本当に自分が会いたかった者なのだろうか』と。まったく同じ知識、感情、記憶を持つ『反魂者』である『永瀬』に違和感を感じているのだ。
それはいわば不安と言ってもいい。
このままでは良くないことが起こるのではないかという彼女の心を揺さぶり、説得することで『反魂者』を倒すことを納得してもらわなければならない。
「……死した者は戻らない。影朧となったとしても、転生したとしても、まったく同じ存在ではないのです。そして、『蘇生者』は『早苗』さんの不安を的中させる形で世界に仇をなすでしょう。そうなってしまって、最も傷つくのは……」
他ならぬ『早苗』である。
傷つく人間がまたひとり増えることになる。それはどうしたって止めなければならない。世界の破滅だけではない。
徒に心を傷つけられる者を増やさぬためである。
「もしも、彼女を説得できぬ場合は……『早苗』さんと『反魂者』である『永瀬』さんは『強力な影朧』に取り込まれ、凄まじい力を伴って皆さんに困難をもたらすことでしょう」
死した者は戻ってはならない。
『今』ではないから。『過去』であるから。
その死出の旅路は安らかなものでなければならない。故に、猟兵達は『早苗』を説得し、『永瀬』の魂を『強力な影朧』より引き剥がすことを諦めるわけにはいかないのだ。
「どうかお願いいたします。人の想いを汚す兵器を、そしてそれを利用する者たちを止めるために彼女たちを説得できるのは皆さんしかいないのです」
そう告げ、ナイアルテはサクラミラージュへと猟兵達を転移させるのであった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
サクラミラージュに蔓延る『影朧兵器』、『反魂ナイフ』によってねじれるように歪んだ恋人たちの末路を救うシナリオになります。
●第一章
集団戦です。
『反魂ナイフ』によって蘇生させられた『永瀬』を匿っている『早苗』の邸宅に転移した皆さんは、その周辺に集まった低級の影朧たちの姿を見るでしょう。
続々と集まっているのは『反魂者』に惹かれて来ているからです。
低級影朧『古塚の呪い』たちが色濃く集まる場所にこそ、秘匿されている『永瀬』が存在しているのです。
これらを撃破しながら、邸宅へと迫りましょう。
●第二章
日常です。
低級影朧と『反魂者』の生み出した幻覚は、蘇生させた者である『早苗』の想いを利用するように彼女を『過去』に引きずり込もうとしています。
それに加え、『早苗』は『永瀬』が蘇生したことを隠し守ろうとしています。
しかし、僅かに心に不安があります。
『本当に自分の知る者』なのか、という疑念が小さくくすぶっているのです。これを踏まえた上で、揺さぶり、説得しましょう。
●第三章
ボス戦です。
『反魂者』である『永瀬』との戦いになります。
しかし、彼は『反魂ナイフ』によって『己の魂』と『強力な影朧』の二つが融合されたことによって生まれた怪物です。
もしも、前章で『早苗』の説得に成功していれば『影朧から魂が分離した状態』での戦いに突入します。
失敗していれば、『早苗』と『永瀬』の二人は『強力な影朧』に取り込まれ、超パワーアップ状態での戦いになるでしょう。
いずれの場合も説得が成功していれば、戦いの最中に『早苗』と『永瀬』と話す機会があります。
彼等を励ますことができたのならば、戦いの後で彼等の心を救うことができるでしょう。
それでは、愛しき人を想う者と蘇生された者、そして影朧が織りなす事件を解決する皆さんの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『古塚の呪い』
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POW : 百手潰撃
レベル×1tまでの対象の【死角から胴から生える無数の腕を伸ばし、体】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD : 百足動輪砲
【両腕の代わりに生えたガトリング砲】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【銃弾の嵐】で攻撃する。
WIZ : 百足朧縛縄
【呪いに汚染された注連縄】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
失った人を取り戻したいと願うのは、当然のことであっただろう。
『早苗』にとって、『永瀬』はそういう存在であった。どんな時だって自分を笑顔にさせてくれる人。そんな人であったから、己の固く閉ざした心はほぐされたのだ。心から笑うことができるようになったのだ。
だから、どうしてももう一度彼と、『永瀬』と同じ時を過ごしたいと思った。
それは確かに叶ったのだろう。
「あなた様は私の太陽。照らしてくださらなければ、わたくしは道を歩むこともできません……ですから、どうかいつまでもわたくしの傍にいてください」
叶った願いの端からまた願いがあふれる。
どうしようもない女だと嗤われるかもしれない。
けれど、それでもよかったのだ。
きっと自分は幸せなのだ。目の前に『永瀬』がいる。『早苗』にとって、それだけがもっとも大切なことであり、それ以外は些細なことだったのだ。
「僕は、君の笑顔が見たい。君の笑顔で――」
『永瀬』の言葉が切れる。
その顔に浮かぶのは確かに、『早苗』が望んだ笑顔であったけれど。
それでも何処か、不安の火種が彼女の心の中にはくすぶっていた。不穏な言葉を彼女は効いた『■■■■■』。あれは一体何という意味なのだろうか。
わからない。
馴染みのない言葉の響き。
「ええ、ええ、わたくしは此処です。あなた様の『早苗』です。ですから、どうか」
その願いは歪み、偽りとなっても。
それでも彼女たちは歪な泥濘の如き幸せの中に溺れていく。
責めることはできないだろう。
誰もが境遇が違えば、彼女たちのようにしていたかもしれないのだから。
邸宅の周囲に集まるは低級影朧たち。
かつて打ち捨てられた旧き社や無縁仏が影朧として怪物化した『古塚の呪い』たちが邸宅を取り囲む。
それは『反魂者』である『永瀬』に惹かれてきているからである。
猟兵達は転移した後、邸宅を取り囲む影朧たちを見ただろう。やはり、此処に居る。これだけの影朧が集まっていることは、怪異と呼んで差し支えない。ならばこそ、猟兵達は邸宅へと突入し『早苗』を説得するために戦いに赴くのであった――。
村崎・ゆかり
雑霊がうじゃうじゃいるわね。この街中で十絶陣は使えない、と。
じゃあ、地道にいきましょうか。
「全力魔法」炎の「属性攻撃」「範囲攻撃」「破魔」で不動明王火界咒。
陽炎の腕が届く範囲の外から、次々と放っていくわ。
接近されたら、薙刀で「貫通攻撃」「串刺し」に。
極力近づかれないように、間合いを維持して動くけれども。
アヤメ、羅睺。死角のフォローお願い。
反魂法か。安倍晴明公も用いた術式だけど、『魂の呪術』はどの程度機能するのか。
少なくとも、影朧を呼び寄せるようじゃ、日常生活は出来ない。
反魂ナイフの送り主の悪意が知れるわね。
火焔の霊符を繰りながら、影朧を燃やしていく。急ぐんだからどいてよね、あなたたち。
転移した先はある邸宅であった。
大きな屋敷と言ってもいいだろう。今は人払いがされているのか、人の気配はない。これだけの邸宅であるというのなら、使用人がいるはずである。
しかし、今はいない。
なぜならば、『早苗』は『反魂者』である『永瀬』の存在を秘匿しようとしているからだ。使用人たちにしばしの暇を与え、死した人間が蘇生したという事実を隠匿する。
そうすることで彼女は『永瀬』との時間を過ごそうとしているのだ。
これが愛のなさしめるところであるというのならば、それは事実であったことだろう。
邪念など何一つ無い。
誰かに非難されることも厭わぬ愛の前には、正論も真理も倫理も意味をなさない。
その『反魂者』の気配に吸い寄せられるようにして低級の影朧『古塚の呪い』が蔓延る。
古びた社や無縁仏といった無機物合わさった奇妙なる体躯。
彼等は低級故に統率などなかった。だが、まるで百足のように生える腕が邸宅に近づく猟兵達を敵と見なして放つのだ。
死角より放たれる手の一撃を躱しながら、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は邸宅の入り口を見やる。
「雑霊がうじゃうじゃいるわね」
街中で彼女が得意とするユーベルコードは使えないと判断していた。
如何に影朧を打倒するのだとしても、他を巻き込むことは本意でははないのだろう。
「じゃあ、地道にいきましょうか」
ゆかりは瞳をユーベルコードに輝かせる。
手にした白紙のトランプから噴出する炎が『古塚の呪い』へと放たれ、陽炎のごとき手を振り払い、迫る腕を薙刀で切り払う。
「――!」
『古塚の呪い』たちは皆、『反魂者』に吸い寄せられている。
きっと蘇生したという事実が死した存在である影朧たちを惹きつけるのだ。そうすることで『反魂者』と融合した『強力な影朧』はさらなる力を身につけ、世界の破滅をもたらそうとする。
近づかれぬようにとゆかりは薙刀を振るう。
百足のように地を這いながら、『古塚の呪い』たちが迫る。
跳躍し、その頭上より薙刀の一閃を撃ち込み、己の式神たちに死角をフォローさせる。
「反魂法か。安倍晴明公も用いた術式だけど、『魂の呪術』はどの程度機能するのか」
ゆかりは邸宅への道を切り開く。
炎を手繰る不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)の力は、不浄を灼く。
『反魂ナイフ』はたしかに人を蘇生させる。
しかし、このように低級とは言え影朧を集めるということは、これまで影朧兵器を使った事件から顧みるに、全てが都合の良いことなどありえないのだろう。
影朧兵器はどれもが人道に反するものばかりであった。
だからこそ、ゆかりは『反魂ナイフ』の送り主の悪意を知る。
「少なくとも、影朧を呼び寄せるようじゃ、日常生活は出来ない。影朧に寄って汚染されたのなら、後に残るのは遺恨しかないのだから」
白紙のトランプから炎を噴出させ、『古塚の呪い』たちを焼滅していく。
時間は多くはない。
『反魂ナイフ』を使った『早苗』を説得し、『反魂者』である『永瀬』を倒すことに同意してもらわなければならない。
愛ゆえに行ったこと。
それを理解し、また同じ境遇であったのならば、己はそれを拒むことができたであろうかとゆかりは自問する。
答えが何処にあるのかは本人だけが知るものである。
『早苗』もまたそうなのであろう。
もう一度会いたい。
その願いは確かに美しいものであったが、それを実現するものは悪意に塗れている。
いつだってそうであるが、美しきものは醜いものと表裏一体。
誰かの美しさは誰かの醜さを証明する。
そして、醜さはいつだって美しさを生む。
「急ぐんだからどいてよね、あなたたち」
ゆかり炎の中を駆け抜け、その薙刀の刀身をきらめかせながら『古塚の呪い』を切り裂くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
ま、反魂ってのを否定できない立場ではありますけれどー。それでも、此度は止めないといけませんよねー。
…なんですが。陰海月が運動したいとのことで。
陰海月に憑依しましてー。あとは四天霊障(極彩色化)で結界張りつつ。陰海月に任せますねー。
…陰海月、話せないだけで何か感じてるようですしね?
※
陰海月、今月は運動月間にした。極彩色な呪詛で注連縄も弾く(呪詛耐性)。
風属性つきの光珠を複数飛ばして、建物に配慮しながら倒していく。
ぷっきゅぷきゅー。反魂ナイフは、何か嫌な予感がする!
一度死した者が蘇る。
それが反魂であり、同時に本来ならありえぬことであったことだろう。
悪霊となった者は、本当に元来そのものであるであろうか。その答えを知るのは悪霊のみであるし、それを観測できるのもまた互いに四柱を一柱たらしめる者たちばかりであったことだろう。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は影朧兵器『反魂ナイフ』に対して、否定できぬ立場であった。
己達は一度死した者である。
四柱を一つの悪霊となさしめた事はイレギュラーであったかもしれないが、また同時に『反魂ナイフ』でもって蘇った者でもない。
「ま、反魂ってのを否定できないですけれどー。それでも此度は止めないといけませんよねー」
柱の一つ『疾き者』はサクラミラージュに転移し、『反魂ナイフ』でもって愛しき人『永瀬』を蘇生させた『早苗』の住まう邸宅へと走る。
止めなければならない。
影朧兵器を使った蘇生は、たしかに知識、感情、魂は生前の愛おしき者そのものであるが、同時に『強力な影朧』と融合させることにこそ意味がある。
影朧兵器はどれもたが人道に反するが故に歴史の闇に葬り去られたものだ。
それらを飾る言葉は確かに美しいものが多かっただろう。
死せる者を蘇らせる。もう一度会える。
その言葉はあまりにも甘く魅惑的であった。だからこそ、『反魂ナイフ』を人は使う。使ってしまう。
「それを咎めることはできませんがー」
『疾き者』は影より飛び出した『陰海月』と合体し、四悪霊・『虹』(ゲーミングカゲクラゲノツヨサヲミヨ)の煌きと共に迫る低級影朧である『古塚の呪い』に突っ込んでいく。
放たれる呪いの注連縄が迫る。
それらを防ぐのは極彩色なる呪詛であった。
「ぷっきょぷきゅー!」
『陰海月』の鳴き声が響く。
嫌な予感がするからこそ、『陰海月』は合体を申し出た。今月は運動月間であるのも理由の一つであるが、何か感じるところがあるのだろうと『疾き者』は判断する。
こういう時にこそ、彼等の直感は頼りになるものである。
「……何か感じているようですしね」
嫌な予感が何を差すものかは言うまでもない。
『反魂ナイフ』である。
あの死者を蘇生する影朧兵器は、禁忌そのものだ。
なぜ、影朧兵器が使用を禁じられたのか。これまでサクラミラージュにおける多くの事件に関わる影朧兵器は、どれもが人の生命を生命とも思わぬ効果ばかりであった。
甲冑も銃弾も、どれもが人の生命と引き換えにするものばかりである。
ならばこそ、『反魂ナイフ』もまたそうなのだろう。
この場に集まった影朧たちがそれを示している。蘇生した『永瀬』を以て影朧たちは強大な存在へと成り代わろうとしている。
「ならば、それを止めなければなりませんね。偽りの蘇生。人の営みは、いつだって流れていくもの。ときが止まらぬように。逆巻くことがないように。人の死も覆らない」
『疾き者』は合体した『陰海月』と共に戦場を飛ぶ。
煌めくユーベルコードの光は、次々と呪詛の光珠となって『古塚の呪い』達を打ち据えていく。
砕けるように霧消していく嘗ての無縁仏や社といった無機物を百足のような姿に変えた影朧たち。
「――!」
彼等の意志は、いつだって誰かを傷つけるものであっただろう。
ならばこそ、放たれる風を伴う光珠はこれらを退ける。
「共に同じ時間を過ごす事ができる……それが本当は一番なのでしょうが」
邸宅の周囲に蔓延る低級影朧たちを蹴散らし、『疾き者』は極彩色に輝く呪詛と共に進む。
きっと説得できると『陰海月』は思っているだろう。
しかし、愛する者を失い、そしてまた得た者に己たちの言葉は届くであろうか。
過ちとわかりながらも突き進む者を止めることができるのは、真理でも倫理でもないのだ。
しかし、人の心は揺らぐもの。
『早苗』の持つゆらぎ、くすぶる不安こそが、きっと過ちを正すものであると『疾き者』は人ならざる、そして一度死した者として相対することになるのである――。
大成功
🔵🔵🔵
弓兵・アーチャー
『起動(イグニッション)!』
弓術士アーチャー、召喚に応じて参上したわ。とりあえず、あいつらをやっつければいいのね?了解したわ。
予め神器を大量に錬製。
先制攻撃でガトリングの破壊を狙って貫通攻撃/鎧砕き/鎧無視攻撃の千里眼射ち!
移動して発射地点を変えながら攻撃を続けるよ。
近付かれたら念動力で神器を周囲に浮かべて、敵へ飛ばして攻撃しながら二刀流で戦うわ。
別に、全部倒しちゃってもいいんでしょ?
サクラミラージュにおいて影朧兵器とは人道に反するものである。
それ故に多くが歴史の闇に葬られてきたものであり、同時に使用してはならぬ兵器でもある。
これまで猟兵たちが対峙してきた影朧兵器は甲冑であったり、銃弾であったりと、様々な形を取っていた。
そのどれもが人の命を苛むものであったことは言うまでもない。
今回、猟兵たちが退治することになった『反魂ナイフ』もまた同様である。
死した者を蘇生させる。
その一点においては、たしかに抗いがたき効果であろう。
亡骸に突き立てるだけで、愛しき者は蘇生し、生前の感情や記憶、知識はそのままであるのだから。誰もが欲するであろうし、誰もが羨むであろう。
「起動(イグニッション)!」
弓兵・アーチャー(召喚獣「アーチャー」の魔弾術士(予定)×神器遣い・f36767)はその言葉とともにサクラミラージュへと転移する。
彼女は予め神器を大量に複製し、宙に浮かび上がらせる。
念動力に寄って制御されたそれらの切っ先が向くのは、『反魂ナイフ』によって愛しき人を蘇生させた『早苗』の住まう邸宅であった。
しかし、今は『反魂者』の存在により低級の影朧たちが惹かれるようにして集まっている。
百足のような姿となった多くの無縁仏や社が重なり合う『古塚の呪い』たちが一斉にガトリングガンの腕をアーチャーへと向ける。
「とりあえず、あいつらをやっつければいいのね?」
向けられたガトリングガンに向かって、その瞳がユーベルコードに輝く。
十秒間の集中を要するユーベルコード。
放たれる弾丸を念動力でもって制御された神器が阻む。
火花を散らし、轟音が響く戦場。
これだけの騒ぎであっても『反魂者』を匿う『早苗』はでてこない。いや、でてこれるはずがない。
彼女にとって、それはどうでもいいことだからだ。
最も彼女が気にかけなければならないのは、蘇生させた愛しき人を秘匿することだけだ。
きっと彼女はためらわないだろう。
どれだけ他者から非難されようとも、自分の愛しき人を護るためならば、あらゆる犠牲を厭わない。
それが愛であるというのならば、誰もが彼女を責めることはできないだろう。己に置き換えた時、その心は痛いほどわかるからだ。
「別に、全部倒しちゃってもいいんでしょ?」
千里眼射ち――それはアーチャーのユーベルコードである。
放たれる矢が『古塚の呪い』の腕部、ガトリングガンへと打ち込まれ破壊する。
アーチャーは走りながら射撃の位置を変える。
ガトリングガンが常に己を狙っている。ばらまかれる弾丸の凄まじさは言うまでもない。
けれど、それ以上に複製された念動力に寄って制御される神器が弾丸を防ぐのだ。
「得物がどちらも飛び道具だっていうわけじゃないのよ!」
アーチャーが複製した神器を飛ばし、手にする。
二刀流の構え。
振り抜かれる神器の斬撃が『古塚の呪い』の巨体を切り裂き、霧消させる。
手がしびれるほどの硬さであるが、それでも彼女の神器は影朧を切り裂くことができる。迫る多くの影朧たち。
全てを倒す気概が彼女には在る。
そのために複製された神器を大量に用意したのだ。
時に矢を射掛け、時に神器の斬撃を見舞う。
位置を変えるように走る様は、まるで舞うように。
弾丸飛ぶ中、アーチャーは煌めくユーベルコードの光を瞳に宿し、その矢を解き放ち『古塚の呪い』を撃ち抜くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
(ナイフに祝福を施したのは誰だろう。どうしてそんな術を持っている? どうしてその術を持ちながらして、周囲へと病邪を降り注ぐ。……)
……何であれ。死者蘇生には、憧れを抱いてしまいそうになります。しかし。…………他人の思い出を。利用し、嘆きを撒いた者の存在を、私は怒りを込めて。否定をします
私も影朧たちの後に続き……いえ、追い抜きましょう。駆け抜けます。目的地はわかっているのです。待ち構えた方が銃弾も当てやすい
それを行う前に、銃弾の嵐に足を絡め取られるかもしれませんが。私も、抵抗をします
何故、でしょうね……何故、望みと称して希望を与え、幸福とともに不幸をも呼ぶのか。…………、
やるせ無いばかりだ
『反魂ナイフ』は言うまでもなく影朧兵器である。
人道に反した力を持つが故に、それらは尽くが悪魔の如き所業である。だが、いつだってそうだ。
悪魔のごとき所業はいつだって魅力的である。
死した人が蘇る。
その甘美為る響きは、誰もが求めるものであろう。
祝福の如き力。
薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は、そう思うのだ。
また同時に『反魂ナイフ』に祝福のごとき力を宿した者が如何なる存在であるかにも思いを馳せる。
どうしてそのような術を保っているのか。
どうしてその術を持ちながらにして、周囲に病邪を降り注ぐような行いをするのか。
どれもが不可解であった。
「……何であれ」
そう、なんであれ、壽綯にとってそれは憧れを抱くに足り得るものであった。
死した者が蘇るのならば、他の何ものも擲つ覚悟は誰しもに宿るものであったから。そうして蘇生を為した『早苗』を彼は如何なるように思うだろうか。
その美しい思いが、誰かに利用されている。
「……他人の思い出を。利用し、嘆きを撒いた者の存在を、私は怒りを込めて。否定します」
転移した先。
サクラミラージュの『早苗』の邸宅に集まる低級影朧『古塚の呪い』たちが現れた壽綯に気が付き、その百足の如き体躯をうごめかせ、その両腕のガトリングを向ける。
銃口が怪しき煌き、弾丸がばらまかれる。
壽綯は彼等に続くようにして走っていた。いや、追い抜く。
弾丸の雨を突っ切るようにして、彼は『古塚の呪い』たちを追い抜き、振り返る。銃弾の嵐が彼の足を止める。
絡め取るには至らない。
それは抵抗の意志でもあった。
彼の瞳に映るのは『古塚の呪い』たちの意味のない怨嗟そのものであった。
旧き無縁仏に社が集合した存在。
それが彼等だ。意志無き呪いが見せる怨嗟は、今を生きる者に牙むいていいものではない。
だからこそ、彼等に向き合った壽綯は軽機関銃を向ける。
引き金を引く。
「……手早く、終わらせたいものですね……」
moxibustion(キュウヲスエル)。
ユーベルコードに煌めく瞳が、凄まじい速度でもって手にした軽機関銃の銃口から弾丸を排出させる。
それは弾丸の嵐にも負けぬ速度であり、正面から打ち合えば数の不利などものともしないものであった。
壽綯は思う。
『反魂ナイフ』は蘇生を望む者にとって、希望そのものである。
「何故、でしょうね……何故、望みと称して希望を与え、幸福と共に不幸をも呼ぶのか」
考える。
思う。
今の彼にできることはそれだけであった。引き金を引いた軽機関銃から放たれる弾丸が『古塚の呪い』たちを撃ち抜いていく。
しかし、それ以上に彼の心に去来するものは唯一つ。
「やるせないばかりだ」
そう呟く。
そう、やるせない。どうしたって表裏一体でしかない。
愛する者の蘇生を望み、それを為したとしても、訪れるのは幸せではない。それは泡沫の如き幸福に似た不幸だ。
だからこそ、壽綯は邸宅の中に飛び込むだろう。
愛おしき人との時間を邪魔する闖入者でしかないのだとしても、その偽りの幸福が弾けて不幸に彩られる前に、止めなければならないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
大切な人と一緒にいたい。その気持ちは否定できない
だが……この事態は看過できない。こんな事をしても、誰も幸せにはならないだろう
それにしても、よくもこれだけの数が集まったものだ
戦いが長引けば周囲に被害を出しかねない。古塚の呪いは可能な限り手早く祓ってしまおう
神刀の封印を解放。金色の神気を纏って、弐の秘剣【金翼閃】を発動
浄化の力を込めた斬撃波で周囲の敵を一気に攻撃しつつ、敵が纏った注連縄を切断
敵のUCが注連縄を放ってくるなら、切断する事で射程を抑える事もできるだろう
後は一気に切り込んで、一体ずつ仕留めていく
恨まれてでも止める覚悟はあるが、できれば穏やかに済ませたい
俺は彼女に何を言うべきだろうな
誰かと共に在りたいと願うことは人として自然なことであろう。
一人では生きていけぬからこそ、寄り添う誰かを求める。
比翼連理の如き存在であったとしても、人という生命が雌雄を決するのならば、諌められるべきものではなかったからだ。
死した者を蘇らせる『反魂ナイフ』は、そんな人の思いを歪める。
どれだけ高潔な者であったとしても、その誘惑に抗うことは難しいだろう。
誰もが己の大切な者が喪われたのならば、それを取り戻すことを望むだろう。だからこそ、『早苗』という女性が『永瀬』という死した者を蘇生させたのは無理なからぬ話であった。
「それは否定できない」
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)にとって、彼女の思いは、気持ちは否定できぬものであった。
サクラミラージュに転移し、即座に駆ける。
目の前には『反魂者』に惹かれて集まってきた低級の影朧たちの姿がある。『古塚の呪い』と呼ばれる百足のごとき体躯を持つ影朧たちは、その注連縄を解き放ち、鏡介へと襲いかかる。
「だが……この事態は看過できない。こんなことをしても、誰も幸せにはならないだろう」
影朧は弱いオブリビオンであるが、それでも一般人にとっては脅威だ。
放たれた注連縄を金色の神気纏う神刀でもって薙ぎ払う。
封印を開放された神刀は、鏡介の瞳をユーベルコードに輝かせる。
「神刀解放。我が剣戟は空を翔ける――弐の秘剣【金翼閃】(ニノヒケン・キンヨクセン)」
放たれる斬撃波は金色に輝き、一瞬で『古塚の呪い』たちの胴を薙ぎ払う。
浄化の力を込めた斬撃は、あらゆる呪いを消し飛ばすだろう。
「――!」
『古塚の呪い』たちにとって、その怨嗟の咆哮は意味のないものであった。
彼等が抱く怨嗟の理由すら忘れ去ってしまっている。
だからこそ、この邸宅に集っているのだ。
『反魂者』に惹かれるのは、その魂に融合している『強力な影朧』の糧となるためである。これらと『強力な影朧』が融合してしまえば、手のつけられない存在に昇華してしまうだろう。
「一気に切り崩す」
駆け抜けるは金色の斬撃。
そのユーベルコードの煌きは呪いさえも切り裂いて、道を開くだろう。
きっと邸宅に飛び込めば、『反魂ナイフ』を使用した『早苗』がいるのだろう。彼女は『永瀬』の存在を秘匿するであろうし、何より影朧と一体化していると説いたところで、納得はしないだろう。
「恨まれてでも止める覚悟はあるが、できれば」
そう、できることならば、と鏡介は神刀を振るいながら思うのだ。
穏やかなる旅路を見送ってやりたいと。
穏便に済むのならば、それに越したことはないのだと。けれど、それが難しいことも理解している。
もう一度愛した人を失えということと同じであるからだ。
『早苗』にとって、それは残酷なことだろう。
しかし、そのまま影朧を放置すれば世界は滅びる。愛が世界を滅ぼすというのならば、鏡介は呟く。
「俺は彼女に何を言うべきだろうな」
答えは未だ出ないか。
しかし、それでも時間だけが過ぎていく。迫りくる影朧を切り捨て、鏡介は邸宅へと一歩を進む。
この一歩が、最後の一歩になるその時まで鏡介は答えを出せるだろうか。
未だ心に湧き続ける懊悩と共に、それでも人は進むしかないのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
シャイン・エーデルシュタイン
「一度、天命を全うした者が再びこの世に生を受ける……
それは神の理に反する行為です。
神に使える神官として許すわけにはいきません」
そのためにも、まずは『古塚の呪い』たちを排除しましょう。
彼らもまた、この世に迷い出た者たち……
あの世へと還るべき者たちなのですから。
『古塚の呪い』に指先を向け【ジャッジメントクルセイド】による天からの光をお見舞いしましょう。
「呪いによって汚染された注連縄など通じません!
なぜなら……私はファンタジー世界の神官!
注連縄とは宗教が違います!」
しまった、つい仲間の魔女のノリで無効化しようとしてしまいましたが、そんな論理が使えるのは、あの魔女だけでしたっ!(注連縄に捕縛される
生命は変わりの効かぬものである。
だからこそ尊いのだと言えるものでもあったが、変わりないものが須らく尊いのであれば、それが喪われることは何よりも恐るべきものであったことだろう。
金も、権力も、全てを手に入れた者が行き着く先にあるのはいつだって生命の在り処である。
生命を繋ぐのではなく、延命する術を求める。
故に、『反魂ナイフ』はそれを為す。
愛しき人を蘇らせる。
ただそれだけの思いに駆られる。
人は誰もそれを否定できないだろう。失ってしまった大切な誰かを蘇らせることができたのならば、それはどんなに良いことであっただろうか知れぬからだ。
シャイン・エーデルシュタイン(ついうっかり悪霊として蘇ってしまったクレリック・f33418)は悪霊である。
一度死した。
しかし、またこうして己は立っている。存在している。
「一度、天命を全うした者が再びこの世に生を受ける……それは神の理に反する行為です。神に仕える神官として許すわけにはいきません」
彼女にとって、それは己の存在をも否定する言葉であったことだろう。
自身が今この場に在ることに意味を見出すのならば、迷える魂を導くことだけである。
迫る低級影朧『古塚の呪い』たちが放つ注連縄がシャインを捕縛せんと迫る。
彼等に向き合い、シャインはうなずく。この世に迷いでた者達であるからだ。彼等もまたあの世へと還るべき者たち。
自身を含め、この場に在ることに意味を見出す。
「ジャッジメントクルセイド」
放つ光は指先からユーベルコードの煌きを示す。それは一瞬にして天より降り注ぐ光でもって『古塚の呪い』たちの体を貫く。
「――!」
怨嗟の咆哮が轟く。
しかし、それは意味のない怨嗟であった。
何故彼等が怨嗟を上げているのか、その理由さえ彼等は理解していない。
自分たちが何を憎しみ、何に悲しみ、何を求めているのかさえ忘れてしまったからだ。そんな彼等が惹かれているのは『反魂者』である『永瀬』だけだ。
かの魂に融合した『強力な影朧』に融合を果たすために、この邸宅へと集まってきている。
「呪いによって汚染された注連縄など通じません! なぜなら……」
シャインの瞳がユーベルコードに輝く。
天よりの光は次々と『古塚の呪い』たちを貫いていく。
だが、それでも注連縄が飛ぶ。シャインの体を拘束しようとしているのだ。だg,あシャインは頭を振る。
そう、彼女はファンタジー世界の神官。
注連縄とは宗教が違うのだ。
自信満々であったが、それは誤りである。
如何に宗派が違えど、現に示される神性に陰りがあることはない。
信仰が神を神たらしめるが、神が示す威光と『古塚の呪い』は関係ない。放たれる注連縄がシャインを縛り上げる。
「しまった、つい仲間の魔女のノリで無効化しようとしてしまいましたが、そんな論理が仕えるのは、あの魔女だけでしたっ!」
シャインは思わずうめいてしまう。
仲間の悪ノリが感染ってしまったのかもしれない。それは時に良いことにも転がるのであろうが、シャインにとっては今まさに蓑虫状態である悪い方向に転がったとも言える。
「ですが! まだ私は戦えますよ! 神の理を示すためには!」
必死に体を回して指先を迫る『古塚の呪い』たちに向ける。
その指先に示された彼等を撃ち貫く光が天より降り注ぐ。仲間の魔女に毒されたともいえるギャグ補正。
そんな状態であってもシャインは己の信じる神の威光を持って、迫る脅威を打ち払う。
ある意味、信徒の鏡ともいえるのではないかと。
そんな風に彼女は己の信仰を今まさに試されるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
鉄・千歳
出逢いがあれば別れは影のようについてくる
とはいえ僕は、彼女のように突然大切な存在を失った経験はない
もしその立場であったなら、あのナイフに縋ったのだろうか
…分からない
ただ…蘇った愛する者によって命を奪われる結末は見過ごせない
そんな終わりは、双方にとって悲劇でしかないのだから
「行こう、那由多。止めなければ」
周囲を飛び回る小竜に手を差し出せば、彼は返事をするように鳴いてドラゴンランスに変じる
『集団戦術』『不意打ち』『地形耐性』を活かし立ち回る
【スクワッド・パレヱド】で『範囲攻撃』
弱った敵を『串刺し』
確実に敵の数を減らす
※那由多
鳴き声は「キュン!」「キュマ!」
近所の犬と仲良くなったことで挙動が犬っぽい
運命というものがあるのだとして、それが如何程の力を持つであろうか。
それを寄る辺にするのならば、人との縁は途切れることはない。本当に出逢った者に別れがこないのならば、何故『早苗』は泣いているのか。
泣き顔は、永劫の別れによって隔てられた『永瀬』との別離をもってもたらされるものではなかったはずだ。
しかし、彼女は泣いた。
涙で溢れた世界は、きっとたやすく壊れてしまうだろう。
『反魂ナイフ』は、そんな彼女にとって縋り付くものであった。
涙で溺れる前に手を伸ばしてしまうのも無理なからぬこと。
「出逢いがあれば別れは影のようについてくる」
鉄・千歳(霧隠・f32543)は学生帽を目深にかぶる。その視線は、『早苗』の邸宅に群がる低級影朧『古塚の呪い』たち。
あれらは全て『反魂者』である『永瀬』に引き寄せられて発生した影朧である。『永瀬』の魂と融合した『強力な影朧』と融合を果たすために集まってきているのだ。もしも、あれらが全て『強力な影朧』と融合を果たしたのだとしたのならば、手のつけられない存在へと成り果てるだろう。
人の別離はこころを傷つけるものであったが、同時に傷つけられた傷跡からあふれるは世界を滅ぼす愛の如き感情である。
『反魂ナイフ』はそれを力に変える影朧兵器。
「とはいえ僕は、彼女うお尿に突然大切な存在を失った経験はない」
千歳は己の人生を振り返る。
もしも、があったのだとして。
その立場にあったなら、己はあのナイフに縋ったのだろうかと。大切な者はいる。だからこそ、理解できるかもしれない。
けれど、どうしても千歳には。
「……分からない」
ただ、蘇った愛する者によって生命を奪われる結末は見過ごせない。
そんな終わり方は双方にとって悲劇でしかない。
だからこそ、止めなければならない。
彼の周囲を飛ぶ黒の小竜が鳴く。それは千歳の思いに答えるような声色であったことだろう。
「キュン!」
「行こう、那由多。止めなければ」
「キュマ!」
鳴き声と共に小竜がドラゴンランスへと変じ、千歳の手に握られる。その瞳にあるのはユーベルコードの輝き。
迫る『古塚の呪い』たち。
彼等は百足の如き体躯でもって猟兵である千歳へと迫る。
その異形なる存在を前にしても恐ろしさはない。
彼が恐れるのは、自身がわからなかった愛するものを失うという経験と、そしてそれ故に世界を滅ぼしかねない禁忌に手を染めることへの渇望であった。
『古塚の呪い』たちは、その数多の腕を死角から出現させ、千歳を泥濘の奥へと引きずり込もうとするだろう。
思索は、いつだって懊悩の入り口である。
「わからなくても。これから起こる悲劇の意味だけはわかる。世界を滅ぼすのが愛であってはならない。そんな悲劇を見たくないと願ったからこそ僕は」
振るうドラゴンランスの切っ先が『古塚の呪い』たちを見据える。
闘気を纏う。
きらめくユーベルコードと共に千歳は戦場を駆け抜ける。
スクワッド・パレヱド、彼の仲間――かけがえのない存在、那由多と共に突き進む道に彼を阻むものは存在し得ない。
放たれた闘気が一陣の突風のように『古塚の呪い』たちを吹き飛ばし、その体を槍の切っ先でもって貫く。
「――!」
怨嗟の咆哮が轟く。
しかし、それらをかなぐり捨てるように千歳はドラゴンランスを振るうだろう。
悲劇を止めること。
人の生きる道に悲しみは付きものである。けれど、かけがえのない幸せもまたあったはずなのだ。
だからこそ、かけがえのない人との思い出の最後を悲劇で塗りつぶしてはならない。
その涙で濡れた世界を望む者を、許してはならないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
死者の蘇生ねぇ…不可能である…と言いきる気は無いけど…
…簡単にできるならどこかに落とし穴があるものなのだよね…
…説得出来れば良いけど…まずは…
うーん…低級影朧が沢山居る…まずはこれをなんとかしないとか…
あいつら自体が呪いで出来た物であるなら…
【神話終わる幕引きの舞台】を発動……その呪詛を減衰させてしまうとしよう…
あとは弱った影朧を術式装填銃【アヌエヌエ】で浄化復元術式【ハラエド】を込めた銃弾を発射…影朧達に打ち込んで浄化してしまうとしよう…
…それにしても…これだけの影朧が集まっているとなると時間にあまり余裕は無いかも知れないね…急ぐとしよう…
『反魂ナイフ』がもたらすのは、死者の蘇生である。
確かに死した者は蘇生される。
影朧と魂の融合によって。生前の知識、感情、記憶さえもそのままでありながら、決定的に違ってしまっている。
これまでサクラミラージュにおいて用いられた影朧兵器は、どれもが人道に反したものばかりであった。
甲冑しかり、銃弾しかり。
あらゆるものが人の道に外れたものであるからこそ、それらは使用を禁じられた。闇に葬られてきた。
けれど、それらを用いる者は後を絶えない。
何故ならば、死者の蘇生は甘美なる力であるからだ。
「死者の蘇生ねぇ……不可能である……と言い切る気はないけど……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は時が逆巻くことがないように、それはありえぬことであると思う。しかし、けれど『反魂ナイフ』は現に死者を蘇生させているのだ。
故に何処かに落とし穴があるものだ。
人の生は常に先が見えぬ暗闇に包まれている。どうしようもないほどに暗闇ばかりが広がっているのだ。
だからこそ、人は怯え、恐れる。
死は終着点なれど、誰もが遠ざけたいと願うものであればこそ。
「……説得できれば良いけど……まずは」
メンカルは己に迫る『古塚の呪い』たちの百足の如き体躯を見やる。
あれらは全て低級の影朧たちだ。『反魂者』に惹かれてやってきているということは、きっとあれらは贄のようなものであるのだろう。
『反魂者』に融合した『強力な影朧』がさらなる強大な影朧に変貌するためだ。
故に、『古塚の呪い』たちを尽く打倒しなければならない。
「まずはあれらをなんとかしないとか……あいつら事態が呪いで出来たモノであるなら……人知及ばぬ演目よ、締まれ、閉じよ。汝は静謐、汝は静寂。魔女が望むは神魔の去りし只人の地」
メンカルの手にあるのは世界法則を改変する数多の鍵剣。
それらが空より降り注ぐ。
神話終わる幕引きの舞台(ゼロ・キャスト)は此処に開かれる。あらゆる加護と呪詛が極端に減衰される結界にありて、メンカルは『古塚の呪い』たちの源である理由すら忘れ去られた怨嗟を衰退させる。
「――!」
彼等の咆哮に意味はない。
理由も忘れてしまった呪詛に、力は宿らない。そして、今此処に張り巡らされた結界は、その全てを減衰させるものである。
「……これだけの影朧を引き寄せる『強力な影朧』……時間にあまり余裕は無いかも知れないね……」
メンカルの手にあるのは術式装填銃。
その銃口が放つのは浄化復元術式『ハラエド』を込めた銃弾だ。
「……急ぐとしよう……」
『早苗』の邸宅へと走るメンカル。
これだけの影朧が集まっているということは、『反魂者』の中に融合した『強力な影朧』が『永瀬』の意識を乗っ取るのもまた時間の問題。
そして、完全に人の魂と融合した影朧が次に為すことをメンカルたち猟兵は知っているのだ。
世界の破滅。
そして、近くに居た『早苗』さえも取り込みながら強大化していく。
そうなっては手のつけられないほどの存在になることは言うまでもない。ならばこそ、メンカルは走る。
愛するものを失った『早苗』を説得すること。
愛はいつだって盲目であるし、同時に巨大な力を持っている。世界すら敵にまわしても構わないとさえ思えるだけの力が愛にはある。
だからこそ、世界を滅ぼす愛で破滅は起こり得る。
故に猟兵達は走るしかない。
その愛が誰かを傷つけるその前に――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『月夜にあなたは笑う』
|
POW : 影朧が作り出した幻覚と対話する。
SPD : 過去に引きずり込もうとする影朧に惑わされない。
WIZ : 幻覚と向き合うことで、影朧を浄化する。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「――何事ですか」
その静かな声は猟兵たちにとって驚きであったかもしれない。
これだけ多くの低級影朧たちが集まってきていた邸宅に住まう者とは思えないほどに落ち着き払った女性の声。
『反魂ナイフ』を使用した『早苗』は、その瞳に意志を宿して猟兵達と対峙する。
邸宅の入り口に立ち、凛然とした態度で挑む姿は在る種の美しささえ感じるほどであった。
己が何をしたのかを理解し、またそれ故に彼女は恐れてさえいる。
けれど、その恐れを覆すのが愛である。
彼女は失った愛する者を守ろうとしているだけなのだ。猟兵たちに対する敵意はない。あるのは再び失うことへの恐れだけ。
「これより先には行かせはしません」
幻影が『早苗』の背後から噴出する。
それは『反魂者』に融合した『強力な影朧』の見せる幻影。
空に浮かぶは月夜。
あふれるほどの幻影は『早苗』を取り囲む。其処に在ったのは、笑顔を浮かべる『早苗』と『永瀬』の顔ばかり。
それが記憶であることを猟兵達は知るだろう。
二人の記憶。
仲睦まじい二人を引き裂いたのは死である。しかし、それは覆してはならぬもの。不可逆であるからこそ、時は前に進む。
世界は前に進む。
それが過去でしか無いと知りながらも、決して戻してはならぬ時計の針であると猟兵達は知っている。
猟兵たちの侵入を阻むように邸宅の入り口を固める眩いばかりの記憶が見せる幻覚は、その瞳を持って猟兵達を押し止めるのだ。
「お引取り願います。わたくしたちの生活を、どうか脅かさないで」
その瞳に意志あり。
されど、戸惑いもあることを猟兵達は知るだろう。
僅かな違和感。
生前の記憶、知識、感情。どれもが本物。けれど、入り混じった違和感。
それが『早苗』の中でくすぶっている。
愛する者への疑念。
『本当にあの人は己の愛した人なのか――』
変わってしまった愛は、果たして愛と呼べるのか。猟兵達は幻覚を乗り越え、彼女を説得しなければならない――。
村崎・ゆかり
反魂ナイフか。あたしだって、愛しい人を喪ったなら使っちゃうかもしれないわね。送り主の悪辣なこと。
お騒がせしてごめんなさい。でも、どうしてもあなたに会わなくてはいけなくて。
あなたが反魂ナイフで黄泉還らせた『永瀬』って人のこと。
死線を越えまた戻ってきて、それで本当に魂は元のままかしらって。
本当の『永瀬』さんだったら、あなたに迷惑をかけたくないって言うんじゃないかな?
実際、彼を求めて大量に影朧が来てた。愛する人をそんな状況に置こうとするかしら?
二人の世界と言えば聞こえはいいけれど、いつまでもそんなこと出来ないわよね。使用人を雇い止めするにも限度がある。
本当は分かってるんでしょ。死者は蘇らない。
『反魂ナイフ』の力を知れば、その抗いがたい力は魅力的に思えたことだろう。
死者を蘇らせる力。
それは代償を必要としない。
必要とするのは『反魂ナイフ』と愛しき人の亡骸だけ。
その亡骸に突き立てるだけで愛しき者が戻ってくる。ただ、それだけなのだ。それはあまりにも規格外なる力。
だが、代償の存在しない力などあるわけがない。
確かに『反魂者』は生前の知識と感情、記憶を有する。そこにあるのは確かに己が愛した人なのだろう。
変わらぬ風貌。
変わらぬ声色。
変わらぬ感情。
己が求めた愛しき人が目の前にいるという事実は、どうしようもなく人の心に甘やかなる思いを蘇らせる。
「『反魂ナイフ』か。あたしだって、愛しい人を喪ったなら使っちゃうかもしれないわね」
送り主の悪辣なことであると村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は思っただろう。
あの『反魂ナイフ』は罠だ。
使うことに寄って本来であれば弱いオブリビオンである影朧を強大な存在へと変える。『反魂者』と使用した者を取り込む力。
影朧兵器はどれもが人道に反したものである。その代償が、影朧に寄る汚染である以上、この『早苗』のいる邸宅もまた世界の破滅への第一歩に過ぎないのだ。
「お騒がせしてごめんなさい。でも、どうしてもあなたに会わなくてはいけなくて」
「何をおっしゃっているのです」
『早苗』の言葉はにべにもない。
それもそのはずだ。彼女は直感的に理解しているのだ。目の前の者たちが己の愛しき人を再び喪わせる要因になりえるのだと。
けれど、それは同時に彼女の中にくすぶる疑念を燃え上がらせるものでもあった。
「あなたが『反魂ナイフ』で黄泉還らせた『永瀬』って人のこと」
「何故、それを……誰にも、わたくしは告げていないというのに」
ゆかりはうなずく。
彼女にとっての最大の関心事は『永瀬』である。誰にも告げていない。そのために使用人たちに暇を与えて人払いもしたのだ。
低級とは言え影朧にたちが引き寄せられた状況にあって被害がでていないのは、この人払いのためであり、同時に不幸中の幸いでも在ったのだ。
死線を超えて戻ってきた『永瀬』。
しかし、それは本当に元の『永瀬』であるといえるのか。
「本当の『永瀬』さんだったら、あなたに迷惑をかけたくないって言うんじゃないかな?」
ゆかりの言葉は推量でしかない。
彼女自身は『永瀬』という人物を知らない。彼女の語る言葉は一般論でしかない。もしも、己の恋人が危機に陥るとわかっていてもどってくるわけがないという一般論。
それを『早苗』は頭を振る。
「そんなことはどうでもいいのです。わたくしは、あの方が戻ってきてくださったことが嬉しいのです。最上の喜びなのです。それ以外は何も要らないのです」
ゆかりの言葉はきっと届かない。
すでにもうこの邸宅は二人の世界だ。
二人だけで完結している。それ以上は要らないとさえ思っているのかも知れない。事実、『永瀬』に惹かれるようにして多くの影朧が集まってきていても、『早苗』は動じなかった。
逃げようとさえしなかったのだ。
愛する人をそんな状況に置こうとする者がいるだろうか。
今は小さな疑念であったのかも知れない。
「それは二人だけの閉じた世界。二人の世界と言えば聞こえはいいけれど」
そんなことはいつまでも続かない。
世界はいつだって前に進んでいる。変わらない世界などない。不変などない。それが衰退していくのか、繁栄していくのかは関係ない。
いつだってそうだ。
変わりゆくからこそ、美しさも醜さも尊いものである。愛おしいものなのである。
「本当は分かってるんでしょ」
その言葉に『早苗』は動揺するだろう。
そう、変わらないものはない。いつまでも続くものはない。
『永瀬』との生活がそうであったように、今のこの再び戻ってきてくれた愛しき人との生活もまた同様であるから。
「死者は蘇らない――」
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
さてねー、ナイフを刺して反魂完了。反動も代償もなし。
そういうのって、ないんですよねー…。
早苗殿。早苗殿は、永瀬殿の違和感に気づいておられるのでは?
死者が甦るにしても、代償がないのはおかしいのですよー。『何かを支払う』みたいにねー。
それに…死の瞬間のこと、覚えてたりするんですよー。
ふふ、私も甦りですからー。
あー…私はねー。どうしてもオブリビオンを呪うのですよー。それがなければ…まあ成仏しますね。
あと、わりと『堕ちない』ように気を付けてますよー。悪霊なのでー。
陰海月のように、癒しの存在を側に置かないとねー。
※
ゆらゆら踊る癒しの陰海月。ぷきゅ。
代償無きものは見返りを求めぬ人の善性の発露か。
そういうものもあるのかもしれない。
けれど、人の生き死には例えどれだけの善性によって左右されるのだとしても、影朧兵器『反魂ナイフ』は違う。
代償なしに死者が蘇ることなどありえない。
あってはならないのだ。
時が逆巻くことがないのと同じように。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たち四柱の生命が元に戻ることがないように。
悪霊となり四つの魂を束ねることに寄って彼等は存在している。
オブリビオンを呪う。
唯一つの事柄に寄って、その存在は保たれている。
もしも、オブリビオンを呪うことがなくなったのならば、彼等は存在することができなくなるだろう。
「オブリビオンを呪う。ただそれだけが我らを我らたらしめるものでしてー」
『疾き者』は目の前に立ちふさがる幻覚を見やる。
『早苗』の背後の邸宅から噴出する幻覚たち。
それは彼女の記憶そのものであった。『反魂者』である『永瀬』と共に暮らした記憶を元に生み出された幻覚の中にある彼等は確かに幸せなものであったのだろう。
死が二人を分かつことさえしなければ、きっと続いていたであろうと思わせるものであった。
だが、それは続かなかったのだ。
『反魂ナイフ』は人道に反した兵器。影朧兵器である。
そんなものがなんの代償もなしにということはありえないのである。それはこの邸宅に、『反魂者』に迫っていた低級影朧たちを知ればわかることだ。
『反魂者』は『強力な影朧』と融合している。
確かに生前の記憶も、知識も、感情も有しているのだろう。
「あの方は、わたくしの愛したお方。もう二度と失いたくはないのです」
その言葉はわかる。
痛いほどわかるのだ。失いたくないという思い。それは己の生命が喪われるよりも辛いことであったはずだからだ。
けれど、『疾き者』は頭を振る。
目の前の早苗もまた理解しているはずなのだ。同じ姿、同じ声、同じ思いでを共有しながらも、どこか違うと感じてしまう違和感。
直感的に気がついているのだ。
『永瀬』は『強力な影朧』と融合しているのだと。不純物が入り混じっているのだと。だからこそ、彼女の心は今、くすぶる疑念によって揺れ動く。
「『早苗』殿。『早苗』殿は、『永瀬』殿の違和感に気づいておられるのでは?」
「そんなことはありません。わたくしが信じるのはあの方の言葉だけです」
ゆらぎながらも、しかし、『早苗』は頑なであった。
だからこそ、『疾き者』はうなずくのだ。
確かに『永瀬』は彼女と共にいたいのだろう。けれど、どう考えてもおかしいのだ。
「死者が蘇るにしても、代償がないのはおかしいのですよー。『何かを支払う』みたいにねー」
何も代償なしということは悪魔との取引であってもありえない。
何かを得るためには何かを失わなければならないのだから。
「それに……死の瞬間のことを、覚えていたりするんですよー。ふふ、私も蘇りですからー」
だから、おかしいのだと言う。
その言葉に『早苗』は疑念をふくらませるだろう。
目の前の同じ蘇りだという存在。
その言葉を信じることができない。ゆらりと揺れる影から這い出す巨大なクラゲ鳴く。
それは癒やし。
呪いだけを吐き出す存在でありながら、それらを束ねて猟兵として在れるのは、ひとえに癒やしが在るからであろう。
「悪霊なのでー。『堕ちない』ように気をつけているんですよー」
どんなことにも代償がある。
今まさに『早苗』が払っている代償は何か。
そして、『反魂者』である『永瀬』が支払っている代償は何か。
この邸宅に引き寄せられる影朧がそうであるというのならば、本当に蘇った『永瀬』は同じ『永瀬』であるといえるのか。
燻り続ける疑念は、徐々に『早苗』の中で膨れ上がり、燃え広がっていく。
どうしようもないほどに膨れ上がった炎は、『早苗』の中で消しようのないものとなって立ち上るだろう。
それがどんなに残酷な現実であるかを知りながらも、けれど、それこそが見据えなければならない事実であるというように『疾き者』は告げるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
そのナイフは、誰が送ってきたにせよ。利害が一致すれば双方の願は叶ってしまう
私が此処に来なくとも……何故か。どうしてか。巧妙に隠しても誰かは貴方達の元へとやって来る
私もその一人なのでしょう。私は、貴方達にとって有害でありましょう。此処は貴方達の思い出なのですから、貴方の記憶に居ない私は違和感そのもの
違和感は貴方に語ります。何故、私を認知するのですかと
危害を与えたくはありません。傷付けたくもありません。しかし、それで愛を覆って良いのですか
愛を覆うのは恐れでも幻影でもなく。……早苗さんの、想いだと。違和感たる私は、語るのです
愛は、覆い隠すものでしたか? 広げたからこそ、互いを包めたのではないのですか
この邸宅に誰かが訪れるということは『早苗』と『反魂者』である『永瀬』の生活は終わりを告げるということである。
その予感こそが違和感の源であったのかもしれない。
死したはずの『永瀬』の姿を秘匿し、人払いをしてまで遠ざけたのは何故か。
誰かが『永瀬』の姿を見れば、混乱が招かれるからだ。
混乱が起これば必ず『永瀬』と自身は引き裂かれる運命にあると『早苗』は理解していたのだ。
だから。
「だから、わたくしは護るのです。あの方を。これまでわたくしが護られてきたのならば、今度はわたくしが」
その瞳に宿るのは強靭な意志であった。
誰が来たとしても、彼女はきっと一歩も退かなかっただろう。
その決意に溢れた瞳を見やり、薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)はうなずく。
「私が此処にこなくとも……何故か。どうしてか。巧妙に隠しても誰かは貴方達の元へとやってくる」
『反魂ナイフ』は誰が送るにせよ、利害が一致すれば双方の願いが叶うように出来ている。
影朧兵器をもたらすものには『強大な影朧』の誕生が。
反魂を望む者には愛しき者の蘇生が。
けれど、それは長く続かない。何故ならば、その存在が世界を壊すから。その世界の悲鳴を受けて駆けつける者が存在するから。
それを猟兵と呼ぶ。
「私もその一人なのでしょう。私は、貴方達にとって有害でありましょう」
壽綯は彼女たちにとて異物であると理解している。
ここは二人だけの世界だ。
周囲にあふれる幻覚がそれを物語っている。どれを見ても、何処を見ても、此処にあるのは『永瀬』と『早苗』の二人だけだ。
他の誰も居ない。
それだけ拒絶しているのだ。自分たちの生活を脅かす存在が悪しき者であれ、善き者であれ関係ない。
「此処は貴方達の思い出なのですから、貴方の記憶に居ない私は違和感そのもの」
壽綯は一歩を踏み出す。
「だから、わたくしたちは――」
「違和感は貴方に語ります。何故、私を認知するのですかと。危害を加えたくはありません。傷つけたくもありません。しかし、『それ』で愛を覆って良いのですか」
胸にくすぶる違和感の炎は種火から大きく成長しているのだ。
この生活を失うという恐れ。
そして、同時に二度目の恐れをこの上なく恐れている。その恐れが根幹に在る異常、その愛は。その愛は、壽綯にとって歓迎するものではない。
「愛を覆うのは恐れでも幻影でもなく」
そう、愛とは。
その根幹にあるべきものとは。
「……『早苗』さんの、想いだと」
違和感たる彼は告げる。
『早苗』は瞳を伏せ、もう一度瞳を開く。
消えない違和感は目の前の青年。その青年が己の愛しきものを奪う者であると理解している。
「わたくしの愛は」
「あなたの愛は、覆い隠すものでしたか?」
「違う、違う、わたくしは、ただ、失いたくないのです。大切なものはいつだって包んで傷つかぬようにしていなければならないのです。あの方の笑顔は」
そう、いつだって己に新たなる世界を見せてくれた。
世界がこんなにも美しく。
そして愛おしいものであると教えてくれたのは他ならぬ『永瀬』であったのだから。
「広げたからこそ、互いを包めたのではないのですか」
壽綯は告げる。
それは残酷な言葉であったかもしれない。
詳らかにするのならば、きっと彼女の愛は違和感によって終わりを告げる。
終わらぬものがこの世に存在しないことを知りながら、それでも『早苗』はこみ上げるものを飲み込み、如何ともし難い違和感に涙を流すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
突然の訪問と騒ぎを騒ぎを起こした非礼は詫びる
だが、そうしなければならない理由がある
俺も……恋人とかじゃないけれど。かつて大切な人を失った事がある
だから、縋りたくなる気持ちは分からなくもない
だが、だからこそ。反魂は認められない
強力な影朧を生もうとする犯人の思惑は一旦置いておくとして、だ
死者の蘇生なんて領分を超えた現象がいつまでも続く保証はない
いずれ再び別れの時が訪れるだろうし、そうなればあなたは……
多分、立ち直れなくなると思う
それは――恐らく、彼の望むところではないだろう
死者を忘れる必要はない。時には立ち止まるのもいい
だが、歩き続ける意思を忘れてはならない
それが、生者の義務であり権利だと思うから
時が逆巻くことがないように涙もまた零れ落ちたのならば、戻ることはない。
世界には不可逆為るものが満ち溢れている。
それを悲しむ感情があるのを生というのならば、なんと苦しみに満ちたものであろうか。
生きることは常に苦しみの雲海を歩くようなものであったのかもしれない。
けれど、時として人は其処に喜びを見出すことができる。
どれだけの苦しみと悲しみに塗れても尚、輝くものがある。
それが愛だというのならば『早苗』は如何なる思いで猟兵たちの前に立つのだろう。
頬を流れる涙を前にしながら夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は己たちの非礼を詫びる。
「突然の訪問と騒ぎを起こした非礼は詫びる。だが、そうしなければならない理由がある」
『早苗』にとって猟兵達は、『反魂者』である『永瀬』との時間を邪魔する闖入者でしかない。
わかっていることだ。
彼女が己たちに対して良い印象を持っていないことも、また同時に己達を簡単に受け入れてくれないことも。
けれど、その頬を伝う涙は鏡介にとって彼女の心の中で膨れ上がる違和感ゆえであることを知る。
「だが、そうしなければならない理由がある」
鏡介にとって、愛しき人との別れは分からない。
経験したことがないからだ。
けれど、大切な人を喪ったことはある。だから、すがりたく為る気持ちはわからなくもない。
「わたくしたちの生活を邪魔しないでいただきたいだけなのです。ようやく、ようやくなのです……」
『早苗』の言葉に力はない。
彼女にとって『永瀬』こそが唯一。
その愛を護ることこそが、今の彼女の体を支えているからだ。
「わかる。わからなくもない。だが、だからこそ。反魂は認められない」
例え、『反魂ナイフ』による蘇生が強力な影朧を生み出そうとする犯人の思惑であるのだとしても。
それは一端話の端に置いておかねばならない。
「死者の蘇生なんて領分を越えた現象がいつまでも続く保証はない。何れ再び別れの時が訪れるだろうし、そうなればあなたは……」
鏡介は言葉を切る。
二度目の別れは耐え難いものであろう。
一度の別れですら、その心を散り散りにするには十分であったのだから。
恐らく立ち直ることができないだろう。
「わたくしが立ち直れないとおっしゃりたいのですね。そんなにわたくしが弱々しい女に見えますか」
その瞳に宿るのは強靭な意志であった。
何をおいても二人の生活を護ると決めた者の瞳。その瞳に鏡介は気圧されそうに為るが、それでも彼は言葉を紡ぐ。
「それは――恐らく、彼の望むところではないだろう」
その言葉に彼女は目を見開く。
望んでいるはずだ。誰よりも己との生活を。けれど、目の前の鏡介は否定する。
そう、なぜなら彼女も違和感を覚えるように『永瀬』の中には混ざり合う何かがある。それを不純物と呼ぶにはあまりにも簡単なことであった。
けれど、鏡介は言葉を紡ぐ。
望み、望まれる。
それが最も良いことであることは言うまでもない。
けれど涙が不可逆なのと同じように人の生き死にもまた不可逆なものなのだ。
「死者を忘れる必要はない。時には立ち止まるのもいい。だが、歩き続ける意志を忘れてはならない」
いつだってそうだ。
人の人生は歩み続けることで続いていくし、紡がれていく。
例え、死しても残るものがある。
それが思い出だというのならば、それを抱えていかなければならない。
「それが、生者の義務であり権利だと思うから――」
大成功
🔵🔵🔵
鉄・千歳
早苗さんを怯えさせないよう、那由多は小竜の姿に
帽子を外して一礼
「驚かせて申し訳ありません。猟兵の鉄千歳と申します。こちらは相棒の那由多」
挨拶をするように鳴く那由多に微笑み、彼を肩の上に
飛び回っていると早苗さんも落ち着かないだろう
「早苗さん…貴女の愛する人は、どのような人ですか?」
まずは早苗さんの話を聞きたい
永瀬さんは優しい人だろうか、面白い人だろうか
共に過ごす日々はどれほど色鮮やかで、暖かなものであっただろう
「恋愛に縁遠い僕には想像するしかできません
…だから最愛を見つけた貴女を、少し羨ましく思います」
そして最愛だからこそ、失った悲しみは深い
けれど、止めると決めたから
「早苗さん…蘇った彼は、本当に貴女が愛した方でしょうか?」
認めることは、きっと悲しく辛い
二度も喪失の痛みを味わいたくはないだろう
しかし、これだけは譲れない
奪われてなるものか
頬にすり寄る那由多に勇気を貰い、正面から彼女を見据える
「お願いします、そこを通してください。貴女の愛しい人を、貴女達の絆を、影朧に奪われる訳にはいかない」
涙と共に邸宅のまえに立つ『早苗』の意志は瞳に宿る。
強靭な意思。
超弩級のユーベルコード使いである猟兵達を前にしても彼女は退くことをしなかった。邸宅の入り口に立ち、背後から噴出する影朧の放つ幻覚たちと共に立ちふさがるのだ。
涙を流しながらも、その頬に乾いた涙の痕をまた濡らす。
「わたくしがあの方を護らねばならないのです。貴方たちがどれだけ強く恐ろしいのだとしても。わたくしは決めたのです」
何をおいても『永瀬』を隠し通すと。
誰にも邪魔はさせないのだと。
別れはいつだって突然にやってくる。
けれど、それに抗おうとしないのは間違いである。だからこそ、己が間違っているのだとしても、世界と戦うだけの気概がある。
世界を滅ぼす愛があるのだとしたのならば、それが今まさに鉄・千歳(霧隠・f32543)の目の前にある。
千歳は手にしたドラゴンランスを小竜の姿に変じさせ、己の肩に止まらせる。
目深にかぶった帽子を外して、一礼する。あの強靭な視線を千歳は真正面から受け止めることはできなかったかもしれない。
けれど、帽子を脱いだのは、彼女に意思を伝えるためだ。
「驚かせて申し訳ありません。猟兵の鉄千歳と申します。こちらは相棒の那由多」
キュン! と鳴く那由多の仕草に千歳が柔らかく微笑む。
小竜は千歳と『早苗』の間に流れる空気を察しているのか、察していないのか、彼の肩の上を飛ぶ。
それは落ち着きのないものであったし、それをなだめるように千歳は那由多の頭を撫でる。
こうしているだけでも心に勇気が灯る。
確かに自分は猟兵である。
彼女の、『早苗』の愛しい人、『反魂者』である『永瀬』に再び二度目の死を与える存在でしかない。
だからこそ、知らなければならないのだ。
彼女を説得するためではなく、彼女の愛した人を知らなければならない。己たちがもたらす死。それが受け入れがたいものであることは百も承知である。
彼女の頬を濡らす涙の痕を見れば判る。
どれだけ泣いたのかもわかる。彼が死した時、どれだけ打ちのめされたのかも。
「『早苗』さん……貴女の愛する人は、どのような人ですか?」
その言葉に『早苗』は息を呑む。
あの人は死んだのだ。生き返るはずがない。けれど、それでも彼は生き返ってくれたのだ。それを偽りだという者たちがいる。
わかっている。
この胸にある違和感はそういうことなのだろうと。
けれど、彼女は捨てられない。手放すことができない。何故ならば、何よりも大切なものであるからだ。
「優しい人でしたか、面白い人でしたか。共に過ごす日々はどれだけ色鮮やかで、暖かなものであったのか……」
判る気がした。
あの涙の痕がそれを雄弁に物語っている。捨てたくなかったのだろう、失いたくなかったのだろう。
あんな思いは二度としたくはないと思っただろう。
けれど。
「わたくしのあの方は、お優しい方でした。そして、わたくしの世界に彩りをもたらしてくださった。どうしよもないほどに悲しい時も、どんなに苦しい時も」
片時も離れることはなかった。
肩を優しく撫でるように、いつだって己の笑顔を欲してくれていた。例え、涙にくれていたとしても、彼の言葉一つで、彼の笑顔一つで全てが報われるような気がしたのだ。
だからこそ、失いたくなかった。失われてしまうとわかってしまったからこそ、今を手放したくないのだ。
「恋愛に縁遠い僕には想像するしかできません……だから最愛を見つけた貴女を、少し羨ましく思います」
千歳にとって、彼女の言葉は花が咲くような光景であったことだろう。
悲しみにくれていたとしても、その言葉が飾る彩りは眩いものであった。目を細めてしまうほどに。そして、目を細めれば口角が上がる。
他者の幸せは、時に周囲の人間にもまた幸せを運ぶものであると知るだろう。
それほどまでに彼女たちは最愛という最上なるものを手に入れ、そして喪ったのだ。
その悲しみが人を歪めるのならば、最初から得なければよかったと思うほどに。
けれど、其処に在るのは後悔ではないのだ。
目の前の『早苗』を見ればわかる。どれだけ目の前の猟兵が超弩級のユーベルコード使いであったとしもて、立ち塞がることに恐れを抱いていない。
もしも、彼女の瞳に恐れが宿るのだとしたのならば、それは『永瀬』を失う時だけだろう。
「『早苗』さん……蘇った彼は、本当に貴女が愛した方でしょうか?」
違和感を突き止めるようなものであった。
真実を突きつけるようなものでもあった。
残酷なことだと知っている。それを認めてしまえば、二度の喪失を意味しているからだ。
だが、千歳は譲れなかった。譲りたくなかった。
彼女の涙を奪われてはならない。奪ってはならない。涙があるからこそ、その先に在るものが得られるのだから。
それを『永瀬』もまた知っているはずだ。
頬にすり寄る那由多のぬくもりを受けて千歳は言葉を紡ぐ。視線をそらしていた瞳を真っ直ぐに向ける。
『早苗』の瞳は強いものだった。
だからこそ、目をそらしてはならないと、その瞳を向ける。
「お願いします、そこを通してください」
「――、い、いや、です……それだけは」
ああ、と思う。
涙が零れそうに為る。けれど、その涙をたたえる瞳を見た。彼女もまた戦っているのだ。
ならばこそ、千歳は真正面から見据え、一歩を踏み出す。
「貴女の愛しい人を、貴方達の絆を、影朧に奪われる訳にはいかない」
そう、奪わせない。
どれだけの悲しみがあるのだとしても。
果てがあるのだ。涙で終わらせる悲劇はもたらさない。その意志を持って千歳は己の意志で足を踏み出す――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
……反魂ナイフによる死者の蘇生…使った人には奇跡にも思えるのだろうけど……
…手っ取り早い奇跡なんてありはしない…自分か周囲に相応の代償を求めるものなのだよね…
…それが借り物であればなおのこと…
…早苗さん…もう判っているでしょう…?
…低級の影朧が集まってしまう理由も…永瀬さんがどうなってしまったかも…
…それでも否定するなら…質問をするよ…
…蘇生が為された永瀬さんは…それに戸惑ったりしなかった…?
…死んだ自分が再び生を受けたことに…そして早苗さんが自身を蘇生させたことに…
…蘇生を受け入れ…即座に事態を把握したなら…その『奇跡』に対する戸惑いがないことが…永瀬さんに『何か』がある事を示してるよ…
猟兵たちの言葉によって『早苗』はたじろぐ。
強い言葉であったからではない。誰もが彼女の身をあんじていたし、彼女と『永瀬』の間にある絆と思い出を慮っていたからだ。
それを優しさというには、あまりにも不器用な言葉であっただろう。
けれど、それは同時に奇跡の否定でもあったのだ。
『反魂ナイフ』は死者を蘇生する。
確かにその力は実証されている。『永瀬』は一度死した。だが、現に『早苗』の元に蘇った『永瀬』がいる。
「それでも、わたくしはあの方を、あの方との生活を失いたくはないのです!」
涙は、いつだって誰かのために流される。
それを美しいと思うこともあるし、同時に、彼女の言葉にうなずきたくも在る。
奇跡そのものだ。
その失わないようにと、あらゆる世界から目を背けたくなる気持ちもわからないでもない。
けれど、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)はかぶりを振る。
「……手っ取り早い奇跡なんてありはしない……」
それはいつだって己か周囲に相応の代償を求めるものであるから。
そして、それが借り物であるというのならばなおのことである。己が手に入れたものではなく、他者からもたらされたものには、悪意が潜んでいてもおかしくはない。
この邸宅に集まった低級影朧たちが良い例であろう。
人道に反した影朧兵器は、どんな高尚な理屈を掲げようとも、いつだって今を生きる者たちを脅かすのだ。
そして、愛するが故に、真の愛があるからこそ『早苗』もまた理解しているはずなのだ。
「……『早苗』さん……もう判っているでしょう……?」
「……わたくしは、知りません。わかりません。わかりたくもありません!」
幻覚が膨れ上がっていく。
猟兵達を否定したいという気持ちが幻覚を強めるのだろう。
数多の記憶が形を取った幻覚。
それが邸宅の奥から溢れ出している。二人の記憶なのだろう。世界に二人しかいなかったのならば、この幻覚もまた真実であっただろう。
けれど、それは違う。
幻覚は幻覚なのだ。
「……低級の影朧が集まってしまう理由も……『永瀬』さんあgどうなってしまったかも……」
「違います! 違う! 違う! 違う!」
否定する言葉は、あまりにも虚しい。
ならば、何故、とメンカルは畳み掛ける。
「……蘇生が為された『永瀬』さんは……それに戸惑ったりしなかった……?」
その質問は違和感の核心を突くものであった。
そう、愛しき人が蘇ったあの日。
忘れることもできない奇跡の瞬間。その時を『早苗』は思い出すだろう。違和感の大本を思い出すのだ。
「……死んだ自分が再び生を受けたことに……そして『早苗』さんが自身を蘇生さえたことに……」
メンカルは告げる。
これはただの理詰めでしかない。
ただ事実を端的に告げているだけだ。
わかっている。それが何を意味するのかを、そして自身で悟らせようとしていることも。
メンカルにとって、それは手段であった。
自分の言葉は事実を告げることしかできない。けれど、それだけではただ否定されるだけだ。
自身の中からあふれる違和感を自覚することで、気が付かなければならない。
目を覚まさなければならない。
この泥濘たる喜びと幸せに塗れた虚構の中から自分で這い出さなければならないのだ。
「……蘇生を受け入れ……即座に事態を把握したなら……その『奇跡』に対する戸惑いがないことが……『永瀬』さんに『何か』が在ることを示しているよ……」
その言葉は『早苗』を射抜くことだろう。
どうしようもないほどに、痛烈に。
その違和感を覆い隠すものを取り払う言葉は、嗚咽を呼ぶ。
こうなることはわかっていたことだ。けれど、メンカルはそれをしなければならない。誰かが泥をかぶらねばならないというのならば、己がかぶろうとメンカルは言葉を突きつける。
いつだって自分の足で人は歩まねばならないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
シャイン・エーデルシュタイン
「早苗さんと永瀬さんとの記憶……
笑顔に溢れていますね」
思わず眩しそうに幻影に魅入ってしまいます。
私も生前は仲間たちと笑顔で過ごしていられたのですが……
今は、果たして神の理に背いてまで現世に戻ってきてよかったのかと自問自答する日々です。
「早苗さん。その記憶をよく見て下さい。
おふたりとも、心の底から笑っているでしょう?
ですが、想像してください。
これからの日々、永瀬さんを匿い続けながら、いつ秘密がばれるかと怯えて過ごす毎日。
そんな生活でも、お二人は以前と同じように笑えるのですか?」
――私は、以前のように笑うことなどできない臆病者です。
もし、本物の愛があれば笑って過ごせるというなら……
私も――
願うことはいつだって唯一つである。
幸あれと祈ることは尊ぶべきことであろう。偽りはない。一片の悔いもない。
だからこそ、シャイン・エーデルシュタイン(ついうっかり悪霊として蘇ってしまったクレリック・f33418)は目の前に広がる『早苗』と『永瀬』の生前の記憶であろう幻覚が生み出す光景にうなずく。
「笑顔に溢れていますね」
恐ろしいものではない。
例え、自分たち猟兵を邸宅に入れまいとする拒絶の壁であるのだとしても、シャインはそれを恐ろしいと感じることはなかった。
何故ならば、人はいつだって幸福を求めるものであるから。
明日をより善きものにしようと祈る。
一日の終りに感謝するように。
そうすることで信仰は形を作り、力と為る。眩いばかりの幸せな記憶の幻覚に魅入る。
眩しい。
目をそらし難いほどに。
だからこそ、シャインは己もまた心に忸怩たる思いを描く。
「『早苗』さん。その記憶をよく見てください」
シャインは告げる。
自分もそうであったのだ。幸せであったのだ。笑顔に溢れていたのだ。だが、それは失われてしまう。
失われてしまったのだ。
元に戻らない。戻ってはならない。それは停滞を意味する。時は止まらない。止めてはならない。過去を排出して前に進むように、人の歩みもまた止めてはならない。
それは諦観となるから。
「おふたりとも、心の底から笑っているでしょう?」
シャインは顔を伏せ、手で覆う嗚咽響かせる『早苗』の手を包み込む。
見れないのだろう。
涙で視界が歪んでいる。直視してしまえば、彼女の胸にあふれる違和感を認めてしまいそうであるから。
だから、彼女は見れない。
嗚咽ばかりがこだまするようであった。
「ですが、想像してください。これからの日々、『永瀬』さんを匿い続けながら、いつ秘密がばれるかと怯えて過ごす毎日」
それは苦痛に塗れたものだろう。彼女たちが願った平穏で幸せな生活ではない。
「――……」
「そんな生活でも、お二人は以前と同じように笑えるのですか?」
それは同時にシャイン自身にも返ってくる言葉であっただろう。
自分もまた同じである。
過去に在りし日々は戻らない。何もかもが変わっていく。どうしようもないほどに過去は手のひらからこぼれていく。
降りしきる砂のように変わり果てたものばかりが、紡がれていく。
世界の色は、今もまだ灰色だろうか。
「わたくしは……あの方の笑顔を見たい。くしゃりとした、あの笑顔を、もう一度見たいのです。ただ、それだけなのです」
『早苗』の言葉にシャインはうなずく。
涙は笑顔を呼び込むものではない。
けれど、涙がなければ笑顔も生まれないだろう。相反するものであるからこそ、隣り合うことができる。
シャインは己を臆病者であると言う。
以前のように仲間と笑うことができない。神の理に背くように存在している悪霊であるからこそ。
それが彼女の負い目であるからだ。
祈り、願い、導きを求めても神は何も言わない。何もしない。何ももたらさない。
だからこそ、シャインはその手を力強く握るのだ。
そうであってほしいと願うように。
「ならば、笑ってください。真の愛があれば吾って過ごせるというのならば」
それを貴女自身が証明しなければならないのだというように、シャインは『早苗』の手を暖かく握りしめる。
涙は笑顔に似合わないけれど。
泣き笑いの顔は、時に他者に笑顔を呼ぶものである。己もまたそうであった。泣き笑いのような笑顔で、シャインは『早苗』と向き合う。
失うことはいつだって悲しいことである。
けれど、それでも前を向かねば喪った者が安心などできようはずもない。
数多の言葉が紡いだ結果が此処にある。
どうしようもないほどの悲しみにくれようとも、路は前にこそあるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『枯地のスクォンク』
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POW : 号哭の根
命中した【羽飾り】の【根本】が【根を張る枯れ草】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : 痛哭の牙
自身の【血】を代償に、1〜12体の【影で作られた獣】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ : 慟哭の眼
【髪の先に付いている目玉】から【呪術】を放ち、【絶望するような幻影を見せること】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:柑橘るい
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鉄・千歳」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
邸宅の中から吹き出す幻覚が風に吹き飛ばされる。
それは『早苗』がうなずいたからだ。
偽りの蘇生。
影朧兵器に寄ってもたらされた悲劇。その悲劇を糧に涙を奪い取ろうとする『■■■■■』――……『強力な影朧』の癇癪めいた声が響き渡る。
「もう少し! もう少しで! 涙の箱がいっぱいに為るはずだったのに!!」
それはまるで子供めいた声であったことだろう。
邸宅の中から飛び出したのは、『永瀬』であった。
しかし、それは『永瀬』であって、『永瀬』ではない。
『反魂ナイフ』によって『永瀬』の魂と融合した『強力な影朧』。
涙を求め悲劇を起こすことに執着する存在。
『永瀬』の顔を覆っていく仮面の奥で笑う顔が僅かに見えた。怒りでもなく、悲しみでもなく、いらだちでもなく。
あるのは笑顔であった。
歪な笑顔。
笑い、嗤い、あらゆる全てを嘲笑い、その悲劇を引き起こすためだけにあらゆる理不尽を引き起こさんとする存在。
欲するものは涙。
「あなたはわたくしが――……わたくしが愛したあの方ではない!」
『早苗』の言葉は否定の言葉。
己が蘇生させた愛しき者を否定する言葉であった。違和感はあれど、目をつむっていたのだ。けれど、猟兵たちの言葉によって彼女の瞳は見開かれた。
「そうだ。そのとおりだ。君の言うところの何も出来ない君はもう居ない。昨日の君は確かに目を閉じていた。けれど、今の君は違うんだね」
その言葉は『永瀬』のものであった。
影朧に融合したはずの魂が、『早苗』の言葉によって分離していく。否定するものであった。奇跡を否定する言葉であったけれど、それでも、紡がれた言葉は二人の魂を救うものであったことだろう。
「『■■■■■』は――……『スクォンク』は涙に消えたい。だから、涙をよこせ! 悲劇に寄って生み出される涙で箱をいっぱいにして消えたい! もっと悲劇を! もっと悲しみを!!」
『強力な影朧』は『永瀬』と分離し、その矮躯と仮面の奥の嗤い顔と共に叫ぶ。
己の欲望のために他者の悲劇を望む。
それが如何に歪んだものであるかは言うまでもない。
確かに『早苗』も『永瀬』も涙を流している。
けれど、それは『枯地のスクォンク』が求める涙ではない。惜別の歌は紡がれる。
本当に出逢った者に別れは来ない。
「消えるために!『スクォンク』が消えるためにお前の涙をよこせ――!!!」
ならば、その涙はきっと悲しみではない。それを証明するために『永瀬』から分離した『枯地のスクォンク』を猟兵達は打倒しなければならないのだ――。
馬県・義透
引き続き『疾き者』ではあるが
なるほどー、そんな考えですかー。…なら、その思惑は満たされぬように。
涙に消えることのないようにねー。
陰海月(と霹靂)に考えがあるようなのでー…お任せしますねー?(UC使用。ついでに極彩色な四天霊障で結界張ってる)
ふふ、たぶん、二匹と考えてることは一緒ですよ。これは、悲しみのではなく。
※
陰海月、地上でダンスしながら極彩色な呪詛で弾きつつ、極彩色な光珠を飛ばす。ちなみに囮を兼ねてる。ぷきゅっ!
霹靂、そっと影から出て。上空からダイレクトアタックを仕掛ける。クエクエ。
二匹は友達!
笑って別れられるなら、それの方がいい。
『枯地のスクォンク』は言う。
涙を欲しているのだ。
悲しみに暮れる涙こそが、己を消すために必要なものである。涙に溶けて消えたいと慟哭する様は癇癪を起こした子供のようでもあった。
「『スクォンク』は涙がほしい! 悲しみに! 悲哀に! 哀切に! 冷たく散り散りになりそうなほどの涙がほしい!『スクォンク』にそれがないから!」
叫ぶ仮面の下の笑顔。
それは歪な笑顔であった。
己の感情ではない。涙はないのだから。涙顔を壊す笑顔は、いつだって『スクォンク』の顔に張り付いている。
嬉しいわけでもないのに。
楽しいわけでもないのに。
張り付いて、張り付いて、離れない。それがどうしようもなく、狂おしく嫌なのだ。
「なるほどー、そんな考えですかー」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』はうなずく。
『枯地のスクォンク』の言うところの目的とは即ち誰かの涙。
悲哀に満ちた涙をこそ、『枯地のスクォンク』は求めるのだ。そのために悲劇をこすことも、他者を巻き込むことも厭わぬのだ。
「……なら、その思惑は満たされぬように。涙に消えることののないようにねー」
その瞳がユーベルコードに輝く。
極彩色の色。
それは呪詛を纏う四悪霊・『虹』(ゲーミングカゲクラゲノツヨサヲミヨ)。
影より飛び出した巨大クラゲとヒポグリフが『枯地のスクォンク』の放つ呪術を光で持って切り裂く。
「ぷきゅっ!」
「クエクエ」
『疾き者』と合体した『陰海月』が極彩色の呪詛で呪術を弾く。
更に光珠が飛び、『枯地のスクォンク』へと迫るのだ。
「ふふ、多分、二匹が考えていることは一緒ですよ」
「『スクォンク』は涙がほしいと言っているのに! どうしてお前たちはそれを邪魔する!『スクォンク』はただ涙に溶けて消えたい! 泡になって消えたいだけなのに!」
己の欲望のために他者の悲劇を望む。
それが『枯地のスクォンク』である。そのために『早苗』と『永瀬』の間に入り込み、引き裂くことで悲劇を生み出そうとしていた。
「これは悲しみではなく」
『疾き者』の瞳に映るのは、呪術の影を照らす極彩色の光。
その影から飛び出すのは『霹靂』であった。上空からの強襲。その一撃は『枯地のスクォンク』を打ち据える。
二匹は友達である。
だからこその連携。
けれど、友達であれ、恋人であれ、家族であれ。
生ある者に別れはつきものだ。いつだって別れの時は訪れる。それは止めようのないものだ。
『早苗』と『永瀬』がそうであるように。
死がふたりを分かつまで、幸せであっても必ず別れは訪れる。
けれど、そこに悲しみはない。穏やかなる別れがあるだけだ。本当に出逢った者に別れは来ない。
こんなにも空が青いのだから。
「笑って別れられるなら、それの方が良い」
誰もが願うことだ。
永遠には生きられない。
「そんなことはない!『スクォンク』は涙がほしい! 涙に消えたい!」
「なら、その願いは満たされない。涙に消えることはできない。何一つ、お前の願いは叶わない」
誰かを巻き込むこと。
己の欲望のままに振る舞う者には、望みを叶える未来は訪れない。
極彩色に輝く呪詛が『枯地のスクォンク』を打ち据える。
どれだけの慟哭があるのだとしても、それを許してはならぬとほかならぬ悪霊が言う。
いつか訪れる別れであっても、笑顔で見送ることができる。
それを二匹が証明するように痛烈なる打撃を『枯地のスクォンク』に叩き込むのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
出てきたわね、悲劇くらいの影朧。これ以上の悲劇はいらないのよ。さっさと討滅させてもらうわ。
『早苗』は離れてて。お屋敷の中とかへ。あたしたちが全部終わらせる。
「全力魔法」炎の「属性攻撃」「破魔」で不動明王火界咒。焼き上げるはあなたの身体だけ。さあ、篝火のように激しく燃え上がりなさい。
お屋敷には一切延焼しないように注意。
反撃の羽根は間違いなく呪物ね。できるだけ回避するけど、当たったら「オーラ防御」と「呪詛耐性」で対抗する。
狂乱する影朧を、「衝撃波」纏う薙刀で「なぎ払い」、「貫通攻撃」で「串刺し」に。
かわいい女の子を泣かせた罪は重いわよ。骸の海へ沈みなさい!
後は反魂ナイフの送り主か……。
二匹の巨大クラゲとヒポグリフの打撃が『枯地のスクォンク』を打ち据える。
その矮躯が衝撃に吹き飛ばされながら、地面を弾むように態勢を整えた。仮面の下には歪な笑顔がある。
嘲笑っているのだ。
どれだけ猟兵が悲劇を防ごうとしたとしても、人の欲望はいつだって悲劇の種火となる。
今ある悲劇を未然に防ぐのだとしても、そこかしこに巻かれた種は必ず芽吹く。
それら全てを防ぐことなどできようはずもないことを『枯地のスクォンク』は知っているのだ。
「『スクォンク』はまだまだ涙がほしい! もっと! もっと! もっと悲しみを! その涙が満ちた時、『スクォンク』は消えることができるのだから!」
己が消えることを欲望とする存在。
しかし、涙で消える影朧は、悲しみの涙でしか、欲望を満たせない。
そして、それを己欲望として他者に悲劇を強いる。
「出てきたわね、悲劇喰らいの影朧。これ以上の悲劇は要らないのよ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は『早苗』を下がらせる。
彼女が傷つけば、『枯地のスクォンク』から分離した『永瀬』の魂も浮かばれない。
彼女を護ることを優先するべきであった。
けれど、彼女を邸宅の中へ避難させようとしても、吹き飛ばされた『枯地のスクォンク』がその道を塞ぐのだ。
「逃さない!『スクォンク』は苦さない! その涙を全部奪うまでは!」
放たれる羽がゆかりへと走る。
それを手にした白紙のトランプから噴出した炎で焼き切りながら、ゆかりは『早苗』をかばうのだ。
「さっさと討滅させてもらうわ」
吹き荒れる炎が不浄を灼く。
それは『枯地のスクォンク』のみを灼く炎であった。
目の前の不浄為る存在。
他者の悲劇を望み、己の欲望のためだけに理不尽を持って悲哀を呼ぶ存在。それが『枯地のスクォンク』である。
涙を欲する存在は、いつだって誰かの悲劇を求めているのだ。
「『早苗』、離れて……!」
悲劇の主は、『早苗』である。『永瀬』は『枯地のスクォンク』から分離しているが、力にはなれない。
無力であるというほかない。
けれど、ゆかりは違う。放たれた羽が『早苗』をかばってゆかりの腕に突き刺さった瞬間、その羽が姿を変じて根を張る枯れ草となって吹き上がる。
痛みが全身に駆け巡る。
ゆかりは歯を食いしばり、不浄を灼く炎でもって枯れ草を焼き払い、迫る『枯地のスクォンク』に薙刀を叩きつける。
「『スクォンク』はほしい! 涙が! 消えるだけの量が! 消えることができないのは恐ろしいことだから!」
ぎりぎりと矮躯に似合わぬ腕力でもってゆかりに迫る『枯地のスクォンク』。
力負けするのは、穿たれた羽の一撃であるからだろう。
「かわいい女の子を泣かせた罪は重いわよ」
ゆかりにとって、戦う理由はそれだけで十分であった。
悲しみを生み出す悲劇であるとか、世界がどうとかではない。
ただ、誰かを目の前で傷つけられて怒らぬ理由など何処にもないのだ。例え、それが自分に関係のない人間であったのだとしても。
悲劇を前にして立ちすくむことだけはしてはならないのだ。
人に心があるのならば、例え、恐怖に体が縛られたとしても、心まで縛られてはならない。
「骸の海へ沈みなさい!」
煌めくユーベルコードが瞳にやどり、その手にした白紙のトランプが『枯地のスクォンク』に投げつけられる。
噴出する炎が、放たれた羽を焼き切り、さらに『枯地のスクォンク』へと巻き付く。
「消えない! 炎では『スクォンク』は消えない!」
「でも、あなたを生み出そうとし存在、その悪意は燃やしてあげるわよ!」
『反魂ナイフ』。
その影朧兵器をもたらした存在をゆかりは許さないだろう。
悲しみだけを撒き散らす者。
遠かれ早かれ、こんな苦しみや悲しみだけが世界を覆うというのならば、『早苗』と『永瀬』の間にある愛だけが、それを覆すことができる。
ゆえにゆかりは、『早苗』と『永瀬』の魂が寄り添う姿を視界の端に捉える。
「不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)! 照らしなさい、彼等の行き先を!」
不浄灼く炎が吹き上がり、悲劇望む者をゆかりは、再び分かたれる二人に近づけさせないのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
……思いは伝わったか。俺達から彼女への思いも、彼と彼女の間の想いも
なら、やるべき事は一つ
――奴を倒す。それで、少なくともこの事件は決着だ
利剣【清祓】を抜いてスクォンクの元へと切り込む
落ち着いて羽飾りの動きを見切り、捌の型【水鏡】
変幻自在の太刀筋で切り落としながら一気に接近
悲しみは……自身の想いと決着をつける為にあるものだと俺は思う
決して、誰かが利用して良いものではない
しかも、死者を――大切な人を利用して悪趣味極まりない
こちらの射程圏内に入ったならば、多少の被弾は覚悟の上
大上段から渾身の一撃を振るって奴を叩き切る
……今は泣いている彼女もが、いつか笑える日がくるように
そのためにも、お前は邪魔だ
「あなたを喪ったあの時から、わたくしは悲しみにくれていた。どうしようもない悲しみだけがわたくしの中を埋め尽くしていた」
『早苗』の言葉は淀みない。
涙の痕は痛々しいものであった。けれど、その瞳にあるのは悲しみだけではなかった。悲しみがないわけではない。
そして、『強力な影朧』、『枯地のスクォンク』より分離した『反魂者』である『永瀬』の瞳にあるのまた哀切の色だけではなかった。
悲しみは誰の心にも在る。
どうしようもないことだ。けれど、知るべきであったのだ。悲しみの土台にあるのは喜びだ。
生きる喜び、知る喜び、どうしようもなく理解し難い他者が存在していて。それでもなお手を伸ばし合って互いに心を認める。
全てを受け入れることができなくても。
「それでも君は前を向いてくれる。君と僕は出逢った。だから、もう分かたれることはない。本当に出逢ったのだから」
その言葉を聞き、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はたしかにうなずいた。
『枯地のスクォンク』が引き裂き、悲劇としようとした二人は、今互いの存在の間に横たわる溝を認識しながらも微笑むのだ。
涙顔は、崩壊する。
崩れるように剥がれ落ちた涙顔の向こうにあるのは、笑顔。
「……思いは伝わったか。俺達から彼女への思いも、彼と彼女の間の想いも」
ならば為すべきことは唯一であると鏡介は『枯地のスクォンク』と対峙する。炎より飛び出す矮躯から羽飾りが放たれる。
あの羽は当たれば枯れ草の根が傷口から這い回り、激痛をもたらすだろう。
だが、恐れることはない。
「我が太刀は鏡の如く――捌の型【水鏡】(ハチノカタ・ミズカガミ)」
抜き放たれた斬撃は変幻自在。
彼の瞳に映るのは羽の軌道。
それらを捉えることなど造作もない。己に触れる前に寸断される羽は炎の中に溶けて消えていく。
「『スクォンク』の涙をよこせ!『スクォンク』は涙に消えるためにも、その顔はいらない!『スクォンク』にはもう、それがあるのだから!!」
癇癪を起こした子供のように矮躯が飛ぶ。
跳ねるように、歪な笑顔を仮面の下に浮かべながら、恐るべき力を振るう。
「悲しみの涙に消えたい! そんな顔では『スクォンク』は消えない!!」
「悲しみは……自身の想いと決着をつけるためにあるものだと俺は思う。決して、誰かが利用して良いものではない」
鏡介の瞳はユーベルコードにきらめいていた。
涙を見た。
『早苗』も『永瀬』も相手を思って涙を流す。
誰かのために流す涙は、いつだって美しくも儚い。
残酷なまでに美しい世界であるからこそ、その涙は確かに『スクォンク』を消し去るには十分なものであったのかもしれない。
けれど、させてはならぬものがある。
「しかも、死者を――大切な人を利用して悪趣味極まりない」
悪辣そのもの。
大切なものを喪った悲しみを利用する者がいる。
己の野望を、欲望を、目的を果たすためだけに他者を踏みつけにできるものがいる。迫る羽を切り払いながら鏡介は走る。
狂乱の如く叫ぶ『枯地のスクォンク』が放つ羽が肩に命中し、根を張る。
しかし、その痛みが鏡介を留めることはなかった。
これしきの痛みなど、あの涙の痛みに比べれば大したことではない。
「『スクォンク』はほしい! 涙がほしい! 悲しみに! 冷たい悲しみに満ちた涙が! それでこそ『スクォンク』は消えることができるのだから!!」
「……今は泣いている彼女もが、いつか笑える日がくるように」
それは願いであり、祈りでもあった。
そうであってほしいと思う己の心でもあった。忘れるのではなく、前に進むために抱いていく。
『早苗』はそういう女性だ。そして『永瀬』はその背中を押すことができる男性だ。
だからこそ、鏡介は抜き払った斬撃の一撃を叩き込む。
そう、今此処にあって存在してはならぬものはただ一人。
「そのためにも、お前は邪魔だ」
放たれた斬撃が『枯地のスクォンク』の体を袈裟懸けに切り裂く。
吹き出した血潮は溶けていく――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
…出たね…上手いこと分離出来たか…
あの2人の別れの邪魔はさせないよ…ここで打倒させて貰うとしよう…
…【新世界の呼び声】を発動…この一帯を仮想現実世界と交換する…
…そしてここでは私の意志と言葉が絶対上位となる…
…即ち…箱が涙で満ちることは無いし…何より…『お前はそこから動けない』…
(ついでに戦闘が別れの邪魔にならないように2人を隔離しておく)
…この意志と言葉で動き(成功率)が鈍った枯地のスクォンクに対して黎明剣【アウローラ】に炎の刃を付与して斬り付けよう…
…涙とやらを集めなくても…消えることの手伝いぐらいはしてあげよう…
…遠慮無く骸の海へと消え去ると良いよ…
「『スクォンク』は痛みでは消えない! どんな刃も、どんな銃弾も!『スクォンク』を消すに値しない! 消えない! 消えることができない! なぜなら!!」
『枯地のスクォンク』は叫ぶ。
それは癇癪を起こした子供のようであり、その叫びは悪意と純粋さを取り違えたものであった。
泡のように消えたいと願う怪物。
それが『枯地のスクォンク』である。己の流す涙は枯れ果て、歪み、消えていく。仮面の下にあるのは歪な笑顔だけだ。
猟兵の打撃も、何も彼の表情を崩すことなどできやしない。
『枯地のスクォンク』を消すことができるのは悲しみの涙だけだ。だからこそ、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は新世界の呼び声(ハロー・マイワールド)を上げる。
「新たなる世界よ、換われ、染めろ。汝は構築、汝は創世。魔女が望むは万物統べる星の声」
メンカルが構築シチューベルコードに寄る仮想現実。
分離された『枯地のスクォンク』と『永瀬』は、もう別物だ。
融合は分かたれ、今は寄り添うように『早苗』と共にある。最後の逢瀬。ならば、メンカルは彼女たちを護る。
残された時間を惜しむこともあるだろう。
「悲劇こそが『スクォンク』のほしいもの! 悲しみの涙で箱をいっぱいにすれば、『スクォンク』は消えるのだから!!」
「……その箱が涙で満ちることはない……何より……『お前はそこから動けない』……」
メンカルの言葉は、この仮想現実の中にあって絶対である。
彼女の構築した仮想現実の中にある『枯地のスクォンク』は戸惑ったように仮面の下の歪な笑顔をさらに歪ませる。
体が動かない。
その矮躯の何処に力があるのかというほどに強力な影朧であった『枯地のスクォンク』はしかし、指一本動かせないでいた。
「『スクォンク』が動けない!?『スクォンク』になにをした!!」
「この世界にあって私は絶対上位……涙とやらを集めなくても……」
邪魔はさせない。
メンカルは『早苗』と『永瀬』の二人を背に走る。
僅かな時間でも良い。喪った者との邂逅は奇跡だ。それが例え、悲劇を引き起こすための下準備に過ぎなかったのだとしても。
それでも此処に奇跡がある。
死せる者と再び見えたのだ。
邪魔などさせない。手にした黎明剣『アウローラ』の刀身に炎が集まっていく。枯地の如く涙が干上がった『枯地のスクォンク』の肌を焼く炎は、メンカルの手にした剣によってさらに燃え上がる。
「……消えることの手伝いぐらいはしてあげよう……」
振るう斬撃が『枯地のスクォンク』の体を斬りつける。
噴出する血潮さえも溶けて消えていく。
激情がほとばしるように『枯地のスクォンク』が叫ぶ。
「涙で消えたい!『スクォンク』は涙で! 熱い炎は嫌だ! 熱いのは! 冷たい悲しみの涙で! 激情の涙なんていらない! 温かい涙なんて、そんなものは『スクォンク』は要らない!!」
動けぬ体の侭、軋む体と共にメンカルに襲いかかる『枯地のスクォンク』の腕を黎明剣が切り裂く。
跳ねるようにして飛び散って消えていく片腕。
メンカルは言う。
その身勝手な願いが、他者の悲劇を弄ぶというのならば。
それが世界の悲鳴となって己たちに届くことを。
「その願いは叶わない……だから、遠慮なく骸の海へと消え去るが良いよ……」
いつだって悲しみは誰かの心を散り散りにする。
けれど、メンカルの背後にある二人は違う。本当に出逢ったからこそ、来る別れを別れのままにしない。
別れを別離とするのではなく。
新たな門出とするために、今はつかの間の逢瀬をこそ、メンカルは護るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
シャイン・エーデルシュタイン
「そうなのですね……
生前に紡がれた絆は、死してなお、お互いを結びつけてくれるのですね。
早苗さんと永瀬さんがひとときでも愛を取り戻したように。
私がかつての仲間たちと再び出会うことができたように」
ならば、再び別れが来るその時まで、与えられた奇跡の一瞬を謳歌してもいいのでしょうか?
問いかけても神は何もお答えになりません。
つまり、それは私が……そして早苗さんと永瀬さんが自身で答えを見つけろということ。
「ならば悪霊としての力、存分に振るいましょう!」
【悪霊の癒やし】によって敵の生命力を奪いつつ、それを用いて自分の生命力を回復させましょう。
呪術ごとき悪霊の私には通用しません。
地獄ならすでに見てきています!
本当に出逢った者に別れはこない。
それはともすれば絆と言い換えることもできるであろう。
別離は否応なくに訪れるものである。再び出会えるかもわからぬ別離が世界に満ちている。
だからこそ、人は懸命に生きるのだ。
どんな別れも、どんな出会いも、あらゆるものが流転していくからこそ、交錯したことにこそ意味を見出すのだ。
「そうなのですね……生前に紡がれた絆は、死して尚、お互いを結びつけてくれるのですね」
シャイン・エーデルシュタイン(ついうっかり悪霊として蘇ってしまったクレリック・f33418)は願うように、祈るように手を合わせ『早苗』と『永瀬』を見やる。
そこにあったのは互いに寄り添う恋人の姿があった。
一時でも愛を取り戻したのだ。
ならば、己はどうであろうか。
死して悪霊と成った身を彼女はずっと憂いていた。どうしようもないほどに己の信仰とかけ離れた姿。
本来ならばありえぬこと。
しかし、奇跡と呼ぶにはあまりにも数奇なる運命が彼女を待ち受ける。
彼女がかつての仲間と再び出会うことができたのは運命ではない。これが運命であるというのならば、あまりにも。
そう、あまりにも。
「ならば再び別れが来るその時まで、与えられた奇跡の一瞬を謳歌してもいいのでしょうか?」
言葉にすることはできない。
けれど、万感の思いを込めてシャインは己の力を発露する。
瞳がユーベルコードに煌めく。
己の神は問いかけても何も答えをもたらさない。これまで一度たりとて。
「『スクォンク』は、そんなもの信じない! 信じられるのは目の前の悲劇だけ! その悲劇がもたらす涙だけが『スクォンク』を消してくれるのだから!!」
絶望の幻影が『枯地のスクォンク』から放たれる。
それはシャインにとっての絶望の形でもあったし、同時に『早苗』にとっての絶望でもあった。
再び分かたれること。
けれど、シャインは、その煌めく瞳を絶望の幻影に向ける。
目をそらさない。逸してはならない。
目をそらせば、そこにあるのはまた別の形の絶望だけだ。だからこそ、シャインは悪霊の癒やし(ゴースト・ヒール)をもって対峙する。
己の魂に触れた者、『枯地のスクォンク』の生命力を奪い取る。
パスはつながっている。
「ならば悪霊としての力、存分に振るいましょう!」
満ちる生命力。
それは『枯地のスクォンク』にとって、あまりにも理不尽な出来事であっただろう。消えたいと願いながらも、消える方法こそが目的となっていたからだ。
「こうじゃない!『スクォンク』が求めていたのは、こんな形じゃない! 涙を! 涙をよこせ!!」
叫ぶ矮躯がたわむようにして隻腕から滴る血潮を溶かしながら飛ぶ。
けれど、シャインは頭を振る。
「そのような呪術ごとき、私には通用しません。地獄ならすでに見てきています!」
迫る『枯地のスクォンク』をユーベルコードの煌きで押し止める。
彼女は見たのだ。
寄り添う恋人たちを。彼女たちの逢瀬を護るためにこそ、己は此処に立っている。そして、己が境遇をこそ乗り越える。
割り切るのではなく。
乗り越えるのだ。
自分自身で答えを導き出す。
神ではなく、己自身が掴み取らねばならないのだ。
己の手で勝ち取ったものにこそ意味がある。祈り、願い、その果てに伸ばす手。シャインの体は悪霊であったとしても。
「私が欲するものが、『それ』ならば!」
その手は願い欲するものを掴み取るはずであろうから――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
消えたいのですか。消える為には、涙が必要なのですか
……私には貴方が望むものは用意、できません
幻影。絶望した私は貴方が放った幻影を理解して視認します。それは過去の話。過去は私を見つめています。私も過去を見つめ返します
私はあの子を取り戻したいか? いいえ。私はもう一度は望みません。ですが化けて出てきた時に備えてはいます。必ず私の手であの女を僕は殺すのです
……、違う。違いますね、貴方は鈴谷じゃない、でも幻影ですから。何度でも殺すんだ殺してやるんだ。殺したくて私は仕方がない
貴方は消えたくて仕方がない。だから早苗さんと永瀬さんに頼った。貴方は確かに二人を利用しました。私に過去を再確認させました
……いけませんね。私はナイフを渡してきた誰かこそに怒りを示さなくてはならなかったのに。これじゃあ、八つ当たりだ
絶望をもたらす影が『枯地のスクォンク』から這い出す。
奇妙な仮面の奥にある顔は、未だ笑顔が張り付いていた。隻腕となりながらも、その体に小さからぬ傷を刻まれてもなお、嘲笑っていたのだ。
あらゆる全てを嘲笑する。
そうすることで悲劇を引き起こす。
どんな仲睦まじい二人にも、これまで積み重ねてきたものを誇る者たちにも、悲劇をもたらすことでもって『枯地のスクォンク』は悲しみの涙を流させる。
その涙こそ、己が消えることのできるものであるから。
ただの材料にほかならぬのだ。
「『スクォンク』は消えたい! ただ消えたいだけ! そのために涙が必要! だから、お前の涙が必要であったのに! その顔はなんだ!!」
『早苗』の傍には『永瀬』の霊が寄り添っている。
すでに分かたれた者たち。
けれど、その光景は『枯地のスクォンク』の求めるものではなかっただろう。
だからこそ、その癇癪を起こすかのような地団駄でもって世界を揺るがすのだ。再び絶望に突き落とそうとしているのだ。
「消えたいのですか。消えるためには、涙が必要なのですか」
薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は『早苗』と『永瀬』たちを背にかばうようにして立つ。
目の前の『枯地のスクォンク』が求める涙。
それは悲しみの涙。
「……私には貴方が望むものは用意、できません」
幻影を真正面から見据える。
そこにあるのは、己の絶望の形である。目をそらさない。逸してはならない。それは己の絶望である。
心の中にこそある絶望であるがゆえに彼は、それが『過去』であると知る。
見つめ返すだけでいい。
それを乗り越えることも、振り払うことも必要とはしていない。
ただ見つめる。
真っ向から見つめるだけで絶望は消え失せる。
『あの子を取り戻したいか?』
問いかける絶望に首を横に振る。もう一度は望まない。
胸のうちにあるのは。
唯一。
「必ず私の手であの女を僕は殺すのです」
純然たる決意が胸に宿る。いや、蘇る。だが、頭を振る。
そう、目の前にあるのは絶望の幻影だ。
「……、違う。違いますね、貴方は鈴谷じゃない。でも幻影ですから」
漲るのは殺意か。
溢れかえるように、こぼれ落ちるように、それは自然と口から紡がれていた。
「何度でも殺すんだ殺してやるんだ。殺したくて私は」
仕方ない。
手にしたのは零れ続ける色あせた南天の花びら。
壽綯はうなずく。
幻影を埋め尽くしていく花びらの色を君は知っているか。この光景を見た。何度も何度も心のなかで反芻したのかもしれない。
強い愛は殺意に変わるか。強い殺意は愛に変わるか。
流転する、反転するなどと。そんなことを伝える術すらうしなっているのだ。
「貴方は消えたくて仕方ない。だから『早苗』さんと『永瀬』さんに頼った。貴方は確かに二人を利用しました。私に過去を再確認させました」
溢れかえる南天の花びらが『枯地のスクォンク』を包み込んでいく。
その矮躯を包み込み、声すら届かせないだろう。
「――……!!」
涙を欲し、己の消えることをこそ最優先にする欲望。
あるゆるものを踏みつけにする価値観こそ、彼を苦しめる過去の幻影。
しかし、それを壽綯は。
「……いけませんね」
頭を振って否定する。
何故ならば、それは己の過去の再確認と己の過去を否定することであったから。
覆らぬ過去がある。
どうしようもない過去がある。
「私はナイフを渡してきた誰かこそに怒りを示さなくてはならなかったのに」
南天の花びらがいつまでも消えない。
涙で消える怪物は、涙でなくては消えることはないのだから。
だからこそ、その花びらは『枯地のスクォンク』を蝕み続ける。痛みも、悲しみも、何もかも妨げる花びらは常に渦を巻くように。
壽綯は息を吐き出すようにして呟くのがやっとであった。
胸の内側を知る事ができるのは彼自身のみである。
誰もが察することができたのだとして、それは真ではないのだ。
「これじゃあ、八つ当たりだ」
壽綯は涙を流すことなく、ただ一つ言葉をこぼす。
それが南天の花びらの奥に遮られて、溶けて消えていく。
愛は増すばかり――。
大成功
🔵🔵🔵
鉄・千歳
枯地のスクォンク…!
その姿、伝え聞く通りだ
一族の中でも、僕が相見える事になるとは
涙を求めて悲劇を起こす…それも、己が消えるために、か
何も残らない結末を許すわけにはいかない
鉄の一族として、そして猟兵として
「もう一度戦闘だ、那由多。彼の者の悍ましい欲望を壊し、悲劇を終わらせよう」
鋭く鳴き再びドラゴンランスに姿を変えた那由多と共に、戦場を駆ける
【降魔化身法】発動
代償の苦痛に臆することなく敵を見据える
『地形の利用』を活用
『破魔』の力を纏わせたドラゴンランスで『串刺し』にする
敵からの攻撃は『オーラ防御』
涙はその人だけのもの
他者が利用していいものではない
一滴たりとも渡すものか
悲劇を何としてでも止めてみせる
南天の花びらが渦を巻くようにして『枯地のスクォンク』を取り囲む。
しかし、その花びらを吹き飛ばしながら影で出来た獣が飛び出す。それは己の血を代償にして呼び出される影の獣。
どうもなる気配を伴う姿は、絶望の形にして、悲しみを呼び起こす咆哮を轟かせる。
「『スクォンク』は消えたいだけだと言っているのに! 悲しみの涙をよこしてほしいだけなのに! そうすることで消えることができるのに! だというのに! おまえたちは!!」
癇癪を起こしたように隻腕となった傷だらけの矮躯を震わせる。
彼にとって必要なのは悲しみの涙だけである。
それがなければ溶けて消えることもできない。悲しみを求めるだけの装置そのもの。
故に、彼は涙を求める。
悲劇を生み出し続け、己の求める箱いっぱいの涙で消えたいと願う。
それがあまりにも手前勝手な願いであることは言うまでもない。
「『枯地のスクォンク』……!」
鉄・千歳(霧隠・f32543)は鉄の一族に伝わる伝承を知る。
一族の中でも己が相まみえることになるとは思っていなかった。けれど、その性質を彼はよく知っていた。
涙を求めて悲劇を起こす。
ただ己が消えるために。
「それでは何も残らない。泡沫のように消える結末を許すわけにはいかない。鉄の一族として、そして猟兵として」
千歳に漲るのは、これまで紡いできた『早苗』と『永瀬』の二人がこぼした涙の意味すら解さぬ『枯地のスクォンク』への怒りであったかもしれない。
許してはならない。
あの悲劇は何も生まない。何も残さない。あらゆるものを意味のないものへと変えてしまう。だからこそ、千歳は走るのだ。
どれだけの傷も厭わぬ。
「もう一度だ、那由多」
呼びかけるは相棒であるドラゴンラスに変じる小竜。
鳴き声は千歳に応えるものであり、そのドラゴンランスの切っ先を『枯地のスクォンク』に向ける。
「彼の者の悍ましい欲望を壊し、悲劇を終わらせよう」
その瞳はユーベルコードに見ていた。
千歳は知ったのだ。未だ経験浅い己。愛とは、恋とはわからぬものであった。けれど、彼は見た。
『早苗』の世界を敵に回してでもと願う気概を。
『永瀬』の愛する人と別れてでもと思う心を。
互いに見つめ合うことはもはや出来なくても。互いに前を向くことはできると示す姿にこそ、千歳は悲劇が似合わぬと思うのだ。
降魔化身法によって己の体に妖怪、悪鬼、幽鬼が宿る。己の体が血が噴出し続ける
痛みが体を貫いていく。どうしようもないほどの痛みが、彼の足を絡め取ろうとするだろう。
さらに襲い来る影の獣たちが牙を向く。
だが、破魔の力煌めくドラゴンランスの一撃が影の獣達を貫く。
「『スクォンク』の邪魔をするな!『スクォンク』は涙に消えたいだけだ! そのためにはもっと悲劇を! 悲劇が必要! 悲しみに暮れる涙が、もっと増えなければ『スクォンク』は消えない!」
その咆哮に千歳は己の視界が歪むのを感じただろう。
ただ悲劇を生み出すためだけの存在。
涙を求め、己が立ち消えるためだけにあらゆるものを利用しようとする悪辣さは、ともすれば純粋であったからだ。
「涙はその人だけのもの」
ドラゴンランスで迫る影の獣を貫き、霧消させながら血潮を撒き散らし千歳は走る。
目の前にある仮面の下に歪な笑顔を貼り付ける『枯地のスクォンク』を目指してまっすぐに進む。
オーラが砕け、牙が肩に突き刺さる。
「他者が利用していいものではない。一滴たりとも渡すものか」
悲劇の涙で消える『枯地のスクォンク』。
これまでその矮躯に叩き込まれた猟兵たちの打撃が紡ぐものがあった。
確かに涙以外では消えない。
また再び過去より戻りて悲劇を生み出し続けるだろう。それは果のない永劫輪廻。苦しみに囚われた生き方であろう。
ならば、『枯地のスクォンク』の存在そのものもまた悲劇の一つ。
「だから、わたくしの涙は差し上げられないのです」
「君もまた悲劇の中心だというのなら、君を救うのは君が求めた涙顔ではない」
『早苗』と『永瀬』の声援が千歳の背中を押す。
温かい手のひらのように己の背中に灯るものがある。これが温かいもの。悲しみの冷たさがあるのならば、この暖かさこそが涙顔を崩壊に導くものである。
手にしたドラゴンランスの切っ先が『枯地のスクォンク』に迫る。影の獣は全て貫き、霧消させている。
「悲劇を何としてでも止めてみせる」
止める。
そう、涙の訳はもうわからない。
笑顔が張り付いた理由も。
歪な感情も。
喪った涙も。
だから、その泣くこともできない『枯地のスクォンク』という悲劇を止めるということは、救うことでもあるのだ。
「『スクォンク』は涙で消えたい」
「嗚呼、ならば、この涙は君の涙だ。君が嘗て在りし過去に、いつかの君の涙だ。それで消えるがいい」
千歳のにじむ視界の先に『枯地のスクォンク』は溶けて消えていく。
泡のように儚く。
耐え難いほどの悲しみを湛えた瞳がこぼした雫に寄って、かつての誰かは溶けて消えていく。
千歳は学生帽を目深にかぶった。
『早苗』は小さくうなずき、その手を離す。『永瀬』の手を離すのだ。
ゆっくりと溶けて消えていく。
「ありがとう」
その言葉は恐らくたった一人のものではなかっただろう。三者三様の言葉。
最愛を喪った人からの感謝。
遺した最愛の人を思っての感謝。
悲劇に囚われ続けた存在からの開放への感謝。
それを受けて千歳は目深にかぶった学生帽の下で己の手によって、それを拭う。
それは涙顔の崩れた先にある笑顔――。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2022年03月18日
宿敵
『枯地のスクォンク』
を撃破!
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