子孫尋ねて黄泉帰り
●託された手紙
そこでは、季節外れの桜が舞っていた。
初めて訪れた場所なのに、見渡す限りの光景に懐かしさばかり感じてしまう。
ただただ無情に過ぎ行く時間が緩やかに奪っていった、何もかもがここにあるからだ。
取り壊されてしまった思い出の場所や、今は亡き大切な人達の笑顔が、ここにある。
ずっとここに留まっていたいーーなんて思ってしまうのに、時間はかからなかっただろう。
「君は、こちら側の人間ではないな」
夢見心地に陥りかけた時、意識をはっきりと呼び戻すような低い声が聞こえて振り返る。
身分を示すかのような真っ白い制服を着た人は、人にしてはとても奇妙な形をしていた。
軍帽をずらして被り、尖った耳を覗かせたその人は、蒼い瞳でこちらを見つめてくる。
朱色の毛に覆われた手に持っていたのは、一枚の手紙……それを差し出された。
「この手紙を、届けてはもらえないだろうか。
牙国(きばのくに)の血を継ぐ、俺の子孫へ。
……どうしても、会いたいんだ。 だから、頼む」
潮の香りが染み付いた、古びた手紙を受け取ったその時……懐かしい世界が幕を閉じる。
ぼんやりとした意識が現実に帰された時、目の前の地面に描かれた奇妙な陣に驚いた。
あの光景は幻だったのだろうか……そう考えはしたが、持たされた封筒が考えを否定する。
牙国の子孫に届けてほしいと頼まれて、思わず受け取ってしまったそれが、手元にある。
「届けなくちゃ」
ふと口にしたのはいいけれど、いざ届けようとなると情報が足りなすぎる。
差出人だって現実として受け入れにくい姿をしていた、人に話せば嘘か夢かと思う程に。
あまりにも奇妙な手紙をなぜ届けなければと思ったか、目に焼き付いた光景を思い返す。
この手紙を届けたら、また行けるかもしれない。
愛しくて懐かしい、季節外れの桜が舞うあの世界に。
手紙を持つ前に持っていた羊羮の包みが無くなっていたことに気付いたのは、家に帰りついた後のことだった。
●人狼軍人の噂話
「見ず知らずの尋ね人を探すにはどうしようか。 人に聞くのが一番だよね」
そうやってこの話は噂になってしまうんだと、ジファー・グリムローズ(人狼の文豪・f13501)は困ったような笑顔を浮かべて猟兵達へと振り返る。
ただの噂なら良かったのにねと呟くけれど、グリモアが映した光景から逃れた人間が発する『噂』を糧にして増殖する存在は……猟兵の間では『感染型UDC』として知られていた。
たとえ善意の行動によって広められた『噂』でも、それは人々に被害をもたらすUDC怪物として姿を現してしまう……これ以上の噂が広がってしまう前に、対処しなければならない。
「早速だけど、皆を第一発見者である曽根崎・光介(そねざき・こうすけ)さんの元へ転送するよ。 既にUDCの増殖は始まっていてね……光介さんの周りには『怨嗟の手紙』が大量発生しているんだ」
第一発見者が受け取った品が手紙だからだろうか、発生する集団敵も手紙の形をしている。
怨嗟の手紙と呼称されるそのUDCは、巡り巡った不幸の手紙や読まれずに捨てられた恋文などに溜まった怨念が具現化したような存在だ。
人々に不幸ばかりをもたらす手紙の嵐が、第一発見者とその協力者を襲い出している……被害が出てしまう前に、ジファーはまず早急な手紙の破壊を猟兵達に求める。
何より第一発見者である曽根崎・光介から噂の出所を聞き出す必要がある為、彼の身の安全確保は欠かせない……光介を失えば、UDCの発生源に辿り着けなくなってしまう。
光介の証言を元に……無傷であればその足で案内してくれるかもしれないが、そうして辿り着くであろう『噂』の発生源には何やら怪しく光る魔法陣が描かれているという。
それに一歩足を踏み入れたなら……邪神の力によって生み出された幻に魅せられるだろう。
そこには踏み入れた人が心から望む光景ばかりが広がるという……『ここに居たい』と強く望んでしまう世界の中には決まって『満開の桜』と『心に深く刻まれた人』が現れる。
しかしこの幻は生命を蝕むものだ、長く留まれば猟兵すら等しく死へと向かわせる。
「何が現れるかは人によると思うけど……命を奪われてしまう前に幻を振り切ってね」
魅せられた幻影を振り払いながら奥へと進んで行けば……噂の発生源である邪神が現れる。
白い軍服を身に纏った、蒼い目をした朱色の人狼だ。
「予知を見る限り、この人は『牙国(きばのくに)』さんと言うらしいね。
これは私個人の意見だけど、進んで人に危害を加えたがる類いではないと思う。
ただひたすらに『会いたい』って気持ちが強いんだ……『牙国の子孫』に該当する人に。
発生している世界に則って『邪神』と呼んでるけど、彼の性質は影朧のそれに近いのかもしれない……けどやっぱり邪神に変わりなく破壊の意志を持っていて、猟兵とは敵対してくる」
戦うとなれば、『牙国さん』は強敵であるに違いない。
軍刀と小銃から繰り出される攻撃には、いずれも警戒が必要だろう。
例え猟兵の中に『牙国の子孫』がいたとしても、攻撃の手を緩めることはないはずだ。
「私もね、UDCアースのことを少し勉強したんだけど……『牙国さん』が着ている服は日本の海兵さんが着ているモノなんだね。
ってことは、彼は軍人さんだったんだろうね。 人狼の軍人さんかぁ……出来ればもうちょっと別のかたちで会いたかったなぁ」
今や命の境をも超越し、悪霊として甦る猟兵が現れる最中、そこが残念でならないと。
心の奥底にある憂いを吐き出しながら、ジファーは転移の扉を開いて猟兵達を導いた。
骸の海を渡ってまで子孫と会うことを望んだその人は、今や邪神となった。
謀らずとも人に不幸をもたらす手紙をばらまくその人を、猟兵は討たねばならないから。
四季臣
七十四度目まして、四季臣です。
この度はここまでOPを閲覧して頂き、ありがとうございます。
お盆の時期ではありませんが、このお方はそれまで待ちきれなかったようです。
第1章は、集団戦です。
第一発見者が持たされた手紙や噂を軸にして現れた、『怨嗟の手紙』の討伐。
及び第一発見者である『曽根崎・光介』の生存が必須項目となっています。
他の一般人は手紙の発生に驚いて、それぞれが散り散りになって逃げていますが、第一発見者は手紙に囲まれてしまい、逃げ遅れています。
第2章は、冒険パートです。
第一発見者の案内によって、猟兵は怪しく光る魔法陣を発見します。
それに一歩足を踏み入れたなら、誰もが『満開の桜』、『ここに居たいと思える場所』、そして『心に深く刻まれた人』の幻が現れます。
プレイングには『場所』もしくは『人』の描写を必ずお願いします、どちらもなかった場合は不採用の対象となります。
猟兵はこの魔法陣が魅せる幻を、どうにかして打ち払って先に進まなければなりません。
第3章は、ボス戦です。
白い軍服を着た人狼こと『牙国さん』との戦闘になります。
ただ『子孫に会いたい』という想いだけで甦ってしまった人で、敵意はないように見えますが……邪神に宿る破壊の意志が彼を戦いへと導いてしまいます。
軍刀『牙龍刀』と小銃『牙龍小銃』、2つの武器を操る強敵です、攻撃そのものに特異性は薄いですが、命中精度が高く回避困難です。
断章でも語るつもりですが……特に近接戦闘を挑む場合は覚悟が必要になると思います。
余談ですが、『牙国さん』は生前、軍人として戦に出ていたという都合上、実の子に会うことなくこの世を去っています。
が……仮に『子孫』が自らの領域に入ったならば、本能で気付くかもしれません。
あと、極度の甘党です……第一発見者が持っていた羊羮はおいしく頂きました。
●NPCと手紙について
第一発見者である『曽根崎・光介』は、『牙国さん』から手紙を預かっています。
救出された際『自分が牙国の子孫だ』と名乗る人がいれば、その人に手紙を渡します。
当然ながら、手紙の内容を光介は知りませんし、更に言うなら四季臣も知りません。
随分と長くなりましたが……それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 集団戦
『怨嗟の手紙』
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POW : アナタハ ダレヲ アイシマスカ?
対象への質問と共に、【手紙】から【情念に縛られた女の亡霊】を召喚する。満足な答えを得るまで、情念に縛られた女の亡霊は対象を【黒髪による呪縛や、様々な心霊現象】で攻撃する。
SPD : オマエモ フコウニ ナレ……
攻撃が命中した対象に【蓄積された怨嗟による呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【あらゆる行動を失敗させ、自滅させること】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ : ワタシ イガイ ミンナ フコウニ……
【手紙に溜まった全ての怨念】を解放し、戦場の敵全員の【希望、友情、信頼、運気、愛】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
👑11
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●噂話
ーー季節外れの桜が舞う場所で、白い軍服姿の狼が人に手紙を託している。
ーー手紙を受け取ってしまったなら、狼の子孫へ届けなければならない。
ーーさもなくば、狼に呪い殺されてしまうだろう。
ーーなぜ、手紙を届けてくれなかったのだ、と。
栗原・嘉狼
『牙国』って、まさかあの人の…?
真偽を確認するためにも救出を急がないと。
…人狼種族のよしみで来たけれど、本当は俺が行くべきじゃ、ないんだろうな。
あの人には全て終わってから話そう。
・氷
いわゆる不幸の手紙ってやつ?懐かしいネタだよな。
誰を愛してるかって?
義弟で家族で恋人のアイツだよ!
答えに満足か?なら、凍てつけ。
・うそ
俺は牙国の…(知り合いじゃダメだよな、ごめんっ!)牙国の子孫だ。親の旧姓が牙国なんだ。名前を聞いたとき、まさかとは思ったけれど…その場所を教えてくれないか?それと、その手紙も預かりたい。
ああ、あと…(当て身で気絶させて)…これ以上は、一般人は立ち入っちゃダメだ。本当に、ごめんな。
●遭遇戦
「怨嗟の手紙、か……いわゆる不幸の手紙ってやつ? 懐かしいネタだよな」
噂が駆け巡る現場へと降り立つ栗原・嘉狼(クルースニクのヴィジランテ・f35771)は、そう独りごちつつも宙へと手を翳す。
周辺の空気を急激に冷やすことで現れた氷の剣『不見乃刃』を握り締め、噂から湧き出た手紙の群れへと直ぐさま斬りかかる。
冷気纏う刃に裂かれ、砕けた紙くずが散るのが視界に映るその横で、咄嗟に飛び退いたであろう男性が体制を崩して地へと転げる。
嘉狼は男性の手を引いて起こし、今もなお溢れ出る手紙から男性を庇うべく立ち塞がった。
「曽根崎さんだな? 今は俺から離れるなよ!」
『アナタハ、ダレヲ、アイシマスカ?』
裂かれたモノとは別の手紙が声を発する……問いかけと同時に現れた赤黒い女の亡霊が、長い黒髪を振り乱しながら嘉狼へと迫る。
誰を愛するのか、問いに対して嘉狼はニヤリと笑う……その答えは決して揺らぐことはない。
迷い込んで別たれた世界と運命の糸が繋がったことで、ようやく再会できた最愛のフランケンシュタインだ。
「義弟で家族で恋人のアイツだよ! 答えに満足か?」
ならば凍てつけと、自らの体温を代償にして不見乃刃を絶対零度の刃へと作り替える。
それはクルースニクの成せる業、フロストファング……代償により自身の負うリスクに比例して効果や威力が増幅する氷の剣が、次いで現れた手紙さえも打ち砕いた。
●『牙国』
手紙の群れを粗方砕き、嘉狼は男性……曽根崎・光介を連れ、物陰へと身を潜める。
グリモア猟兵の予知や光介が目にしたモノ、その真偽を確認しなければならない。
「(『牙国』って、あの人のことだよな)」
何せ嘉狼は予知に映る人狼の尋ね人に心当たりがある……人狼種族のよしみで来た以上は、代わりに見聞きしたモノを伝える必要があるだろう。
「ありがとう、ございます……まさか、あんなことになるとは」
少し息を切らしつつも礼をする光介の手には、説明にもあった古びた手紙がある。
牙国の子孫へ届けてほしいと託された手紙だが、光介に持たせたままでは再びUDC怪物に襲われるリスクが高い……嘉狼は意を決して口を開く。
「俺は牙国の……、牙国の子孫だ」
「……貴方が?」
「ああ、旧姓が牙国なんだ、まさかとは思ってたけど……軍服の人狼を見たって言う場所を教えてくれないか? それに手紙も預かりたい」
嘉狼が牙国の子孫、という話は嘘である……心の中であの人に詫びを入れる嘉狼だが、それを光介に見抜く術などない。
光介は嘉狼へ手紙を渡すと、人狼を目撃した場所についてもすぐに教えてくれた。
「まさかこんな早く見つけられるとは……これで僕はまた、あの世界に……うっ」
すぐに向かおうとする光介だが、嘉狼が当て身を仕掛けて光介を瞬時に気絶させる。
説明が正しければ、噂の場所には命を奪う仕掛けが施されている……一般人を同行させるべきではないと嘉狼は判断を下したのだ。
「本当に、ごめんな」
確かに受け取った、役目は俺が引き継いだ。
手紙を懐に仕舞い込んで剣を取る……不幸の手紙はまだ飛び交っている。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
見ず知らずの人だけど…
言えなかった言葉
届かない手紙
伝わらない想いってのは切なくて念も乗りやすそーだもんな
光介へ【忍び足】駆け寄り
あんたが曽根崎さん?厄介事に巻き込まれたなァ
イヤな幻だ…とにかく気をしっかり持てよ?【催眠術/かばう】
光介を背に彼に危害なす手紙は【念動力】で操る手裏剣で弾く
敵へは猫目雲霧を布状のまま振り回し払いつつUCで強化して
敵UCの女へ猫目雲霧を槍化し【串刺し】
手持ちのクナイで髪を裂き物理的な心霊現象へは【カウンター】で弾き破壊し念動で【投擲】して反撃
躱すと曽根崎さんにあたるしな
愛ねぇ…
焦がれる恋なら幼友達
いつも案じるのは郷の身内たち
…あんたは誰を愛して堕ちたんだい?
アドリブ可
●怨嗟は続く
両目をバンダナで覆った男が再び戦いへと戻った頃……鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)もまた、UDCアース世界へと降り立ち、予知に見た人の姿を視認した。
第一発見者と説明された男性、曽根崎・光介はどうやら気を失っているようだが……未だ危険が残る最中、要救助者がまるで動けない状況は今後をどう左右するかは分からない。
「曽根崎さんか? おい、しっかりしろ」
「う、うぅ、ここは……貴方は?」
トーゴに身体を揺さぶられて意識を取り戻した光介は、見たところこれといった外傷はないし、呪縛に犯された気配もない……目覚めたばかりで動作は鈍いが、特に問題はないだろう。
寧ろ呪いの気配は背後から感じた、光介も目覚めたばかりであるに関わらず直ちに身体を起こして、すぐ後ろにあった壁まで後退りしていった。
「て、手紙は届けたはず……なのに、なんで!?」
「厄介事に巻き込まれたなァ曽根崎さん。 とにかく、気をしっかり持てよ?」
トーゴは光介が暴れださぬよう催眠術をかけてから、彼を庇うようにして振り返ってみれば案の定……赤黒い邪気を纏う手紙がいくつも飛び交っていた。
その手紙のどれもが光介を狙っているようだが、無論このまま通すわけにはいかない……挨拶代わりに放った手裏剣を念動力で操って、迫る手紙を弾いて仰け反らせた。
まるで生き物のように飛んで跳ねる手裏剣が手紙を牽制している最中、トーゴは猫柄の手拭いを振り回して見せる。
そうしている間に攻めあぐねたのだろう、手紙はやがて邪気を女の亡霊の形に変えて、問いを投げ掛けた。
『アナタハ、ダレヲ、アイシマスカ?』
「愛ねぇ……」
問いかけと同時に女の黒髪が伸びて、トーゴを呪い殺すべくして迫る時……トーゴは散々振り回していた手拭いを両手でぐっと握り直す。
その手拭いは『猫目・雲霧』……普段こそは八本ひげが描かれた猫柄のそれが瞬時に槍状へと形を変え、矛先は女の亡霊へと向けられた。
「焦がれる恋なら幼友達、いつも案じるのは郷の身内たちってとこかね……」
返答を受けた亡霊の動きが鈍った時、次いで放ったクナイが女の黒髪を引き裂く。
「……あんたは誰を愛して墜ちたんだい?」
トドメの一撃は、羅刹旋風。
振り回した布はその実暗器、槍に転じてから繰り出すある種の不意打ちは……女の亡霊を奥に控えた手紙ごと串刺しにし、呪縛を破壊した。
「手紙、か」
一先ずの敵郡を打ち破った所で、トーゴはふと独りごちる。
予知に映った邪神や彼が探す『牙国の子孫』は、トーゴにとって見ず知らずの人物だ。
それでも言えなかった言葉、届かない手紙、伝わらない思い……切なさばかり感じるそれらにトーゴ自身、思う心当たりはあるものだ。
攻撃を弾くことに専念した甲斐あって、背に控えさせた光介は無傷である……催眠術の効果で意識はぼんやりとしているが、少なくとも取り乱して暴走することはないだろう。
ただし手紙を渡し終えても噂は止まず、怨嗟の手紙は発生し続けている……手紙が出尽くすまで、この戦いはまだ終わらないようだ。
大成功
🔵🔵🔵
サーティ・ファイブ
噂を元に増殖するタイプの呪いとかそういうのって、厄介なんだよなー。
こういうのって確かカバーストーリーって奴で覆って無力化するのが定石ってやつだっけ?
ま、いいや。とりあえずこの手紙タイプの呪物、破壊しなきゃだなー…
えーと、…え?誰を愛するかって?また答えにくい質問来たなあ…
そもそも愛するとかそういうの俺よくわかんねーし。
でもまあ、好きっていうと個人的には32番の兄ちゃんが一番好きだけどさあ…あ、この髪邪魔なんだけど。(気軽にぽんぽん一撃必殺しつつ女の亡霊相手に一方的にトーク中)
32番の兄ちゃん、たまーに考えてる事よくわかんなかったり…このポルターガイストも邪魔だなあ。
●合流
グリモア猟兵から通達があったのだろう、涌き出る怪物から一般人を救護すべく、UDC組織……人類防衛組織職員が現場入りを果たして各々の行動を開始している。
サーティ・ファイブ(SLM-35 Marchocias Proto・f34542)は組織と合流し、危険クラス認定された呪物の破壊に手を貸す形で連携を取ることになった。
職員が一般人を逃がす傍ら、サーティは迫る手紙に徒手空拳の戦闘を仕掛けていく。
飛び交う手紙の呪縛を軽快な立ち回りでやり過ごしていく、“イマドキのワカモノ”風な狼男もまた、とある一枚の手紙から避けようのない問いかけを投げ掛けられていた。
『アナタハ、ダレヲ、アイシマスカ?』
「……また答えにくい質問来たなぁ」
手近な手紙を踏み潰しつつ、サーティは問いかけに対して何とも言えぬ表情を浮かべる。
そもそも愛とは何なのだろうか、そういった概念がよく分からないのだから、ただ単純に言葉が詰まる……が、怪物がこちらの内情を察してくれるはずもなく、女の亡霊が姿を現す。
満足な答えを得られねば、情念に縛られた霊は黒髪でサーティを呪殺しにかかるだろう。
でもまあ、あえて言うのならばとサーティは口を開く……『愛』を『好き』に置き換えて。
「個人的には32番の兄ちゃんが一番好きだけどさあ……あ、この髪邪魔なんだけど」
あえてそれを『愛』に例えるなら、それは『家族愛』と言うべきか……行方知れずとなったサーティ以外の“兄弟姉妹”である71人、そのうち一人の『32番』の顔を思い浮かべた。
この間にも、サーティの繰り出す一撃必殺の拳が亡霊を、女の黒髪を、そして手紙を次々と、気軽なテンポで貫いていく……一方的なバトルトークで手紙の群れを圧倒していく。
「32番の兄ちゃん、たまーに考えてることよくわかんなかったり……あぁ、前に天文学の呑み込みがいいって褒めてくれたっけなぁ」
ーーまぁ、それは幻だったわけだけど。
振り返した苛立ちを全部、手紙の怪物へとぶつけていく人狼を止める者はこの場にいない。
「ここら一帯の避難誘導は完了したね、ご協力に感謝するよ、猟兵さん」
最後の一枚を粉砕した頃、他の職員と連絡を取り合っていた男がサーティに礼を述べる。
敵の制圧も終わったと思いたいが、噂を元に増殖するタイプの敵とは厄介だ。
「こういうのって、カバーストーリーってヤツで覆って無力化するのが定石ってやつだっけ?」
「へぇ、よくご存じで。 それについて、君に相談があるんだけど……これ着てもらえる?」
UDC怪物の存在を隠匿する為の情報操作のことをサーティが尋ねてみれば、職員は正にその情報操作作戦の概要を説明すべく紙袋を差し出してくる。
気になった中身は、白い軍服のコスプレ衣装だった。
大成功
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水澤・怜
季節外れの桜に軍人、影朧のような邪神…か
どうにも他人事のようには思えんが…
まずは青年の保護が最優先だな
『シロ』に甘えさせて青年の注意をひく
言葉で状況を説明するより動物の方が恐らく心を落ち着かせてくれるだろう
(相変わらずの犬扱いに若干不服そうなシロはさておき)
【結界術・オーラ防御・カウンター】で青年に攻撃が当たらぬよう【かばう】ことを最優先
問いに対しては「幸せにしたいと願う人ならば、いる」と
俺も…未だ想いは伝えぬまま
だが…何でも伝えればいいと言うものでもない、だろう?
自嘲気味に苦笑い
相手の攻撃が鈍ったら【二回攻撃】の一撃目で【体勢を崩し】二撃目にUCを放つ
青年に怪我があれば【医術】で治療を施そう
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
生前は狼獣人(キマイラ)。名は馬舘景雅(身長194cm)
まあ、また厄介なことに巻き込まれとるの?情念とは残りやすいものであるが。
陰海月、護衛を頼むぞ?…なんだその看板?
さて、その問いの先はわしのみと判断するぞ?
愛する者は決まっておる!5歳年下なおてんば娘、身長154cmな妻の陽織(ひおり)よ!可愛いのだぞ陽織は!
(強火力な愛妻家)
ま、心霊現象は怖くないしな。UCつき黒燭炎で払い、足らんかったら四天霊障で押し潰してしまうか。
※
陰海月、ゆらゆら護衛。持ってる看板には『耳とタコ』のヘロヘロ絵が。
ぷきゅ(何回も聞いたよ…)
●一先ずの決着
散り散りになっていた怨嗟の手紙は、猟兵やUDC職員に追い立てられて一ヶ所へと集められていく、この間にも怪物達は隙あらば人に不幸をもたらさんと怨念ばかり吐き出していた。
第一発見者である光介の護衛についていたトーゴの元へ、水澤・怜(春宵花影・f27330)と馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)
……二人の猟兵が合流を果たし、手紙の迎撃を連携して行っている。
結界術とオーラ防御を展開させた怜が主に防衛を、そして第三の人格『侵す者』……炎にも似た毛色持つ人狼の姿を取った義透こと『馬館・景雅』が猛攻を請け負う形となった。
『アナタハ、ダレヲ、アイシマスカ?』
「……幸せにしたいと願う人ならば、いる」
愛の矛先を問われ、怜はどこか自嘲気味に苦笑いを浮かべる……想いは未だ伝えぬままだ。
「だが……何でも伝えればいいと言うものでもない、だろう?」
それもまた一つの愛の形であるとして、返答を受けた女の霊の動きが鈍った所に斬撃を放ち、敵の体制を崩す。
月の如く蒼白い光を反す、鋭利な軍刀『月白』……その刀身に浄化の力を込めた。
「人々の安寧を脅かす悪しき者よ……砕けろ」
追撃として繰り出す一撃は天之尾羽張……邪悪を断つ大刀は女の霊を的確に捉え、手紙が纏う呪縛の念をも切り祓う。
為すべき事を為す、ただ実直に務めを果たす學徒兵が敵を一人も通さんとする一方で、景雅の……複数の人格が共存する彼等の内、問いの先はわしのみと判断すると前置きをした狼の武人の想う所は、実に対照的だった。
「愛する者は決まっておる! 五歳年下なおてんば娘、身長154cmな妻の陽織(ひおり)よ! 可愛いのだぞ陽織は!」
超火力な愛妻家となれば、妻の身長さえも的確に答えられるようだ……問いかけた側も答えに満足というより、あまりにもはっきりとした返事に驚かされて動きを止めたまである。
無論、その隙は命取りだ。
一度は砕けた黒い槍『黒燭炎』……矛先が纏う怒りの炎をこの時ばかりは惚気に変えて、繰り出されたのは四天境地・『狼』の一撃が、情念の残り香すら焼き焦がしていくのだった。
●関連する事柄
手紙の発生はようやく打ち止めとなった、軍刀を収めた怜は光介の元へと歩を向ける。
突然の出来事にすっかり疲弊している様子の光介だったが、恐慌することなく落ち着いていてくれたのは傍らに寄り添った『シロ』の存在が大きいだろう……愛嬌ある動物は人の心を和ませる効果があるという。
相変わらずの犬扱いに若干不服そうな幻朧桜に宿る神の心境はさておいて、怜は今回の事件の黒幕である邪神について、仲間と話し合うべく口を開いた。
「季節外れの桜に軍人、影朧のような邪神か……か。 どうにも他人事のようには思えん」
「それも人狼の姿で現れると言うではないか。 子孫に会う為に骸の海を越えてきたとか……まあなんだ、妻を愛する心はわしも負けぬぞ! む、陰海月……なんだその看板?」
思案を始めた怜と合流した景雅が再び愛する妻の話をし始めると、シロと同様に光介の護衛に当たっていた『陰海月』が「ぷきゅ」っと鳴きながら看板を取り出して見せる。
へろへろとした文字で『耳にタコ』と書かれている、惚気話は聞き飽きたようだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 冒険
『幽冥Farewell』
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POW : 揺るがぬ心を強く持ち打ち勝つ
SPD : 足を止めずに幻惑を振り払う
WIZ : 力尽くで幻を消し去る
👑11
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●情報隠匿
怨嗟の手紙の討伐を終えた猟兵はUDC組織の男から状況説明を求められ、それに応じた。
これから噂の発生源である邪神討伐へ向かうことの説明や、第一発見者である曽根崎・光介の保護を求めることを話していると、その途中で“軍服姿の人狼”が合流を果たす。
「……こんなんで良かったのか?」
「あぁ、度重なるご協力に感謝するよ。 いやぁ、日本国軍人制服姿の人狼か……ファンタジーとミリタリーのコラボレーションだ、過酷な仕事の中に点在する男の浪漫の象徴だね」
重苦しかったと言わんばかりに軍服を脱ぎ捨てたサーティをちらっと見て、実に眼福と顔を綻ばせた職員……彼の説明によれば、組織はこれからカバーストーリーの流布を行うようだ。
「題して『自主映画撮影』って所かな。 ここいらの噂の鎮静は僕達に任せてほしい」
「映画撮影? いや、そんなはずは……」
「はい、ちょっと体温測りますよっと」
職員は説明の最中、反論しかけた光介の額に何かを押し当てる……組織の装備知識に詳しい者ならば分かるであろうそれは、体温測定器を模した記憶消去銃だ。
これにより光介の口から再び噂が広がることはないだろう……呆然と立ち尽くす一般人の身柄を確かに確保した職員は、先程とは打って変わった真剣な面持ちで猟兵達を見る。
「他、僕達に出来ることと言えば……君達が仕事を終えるまで邪魔が入らないようにするくらいだ。 任せてばかりで申し訳ないけれど、邪神の討伐をお願いするよ。 どうか気を付けて」
●魔法陣の世界
証言を頼りに現場へと向かえば、それは古びた神社の片隅に存在していた。
土肌に刻み込まれた黒の魔法陣……一歩足を踏み入れたなら、視界は瞬く間に形を変える。
夜の闇を彷徨い歩かされるような、薄暗い世界の中……桜の花弁が静かに流れてくる。
その流れに導かれるように歩を進めていった先で、“貴方”が見たものは。
誰かが言う、或いは誰かの言葉を思い出す。
それは幻だ……命を等しく蝕むものだと。
それでも、“貴方”の目に映るのは……貴方の『心に深く刻まれた人』だった。
●状況変化
第1章において猟兵全員が『人物への愛』を語った結果、出現する幻が『満開の桜』と『心に深く刻まれた人』に固定化されました。
これにより、プレイングの条件であった『場所の描写』は除外されます……『人物の描写』については変わらず必須項目となります。
●注意事項
『心に深く刻まれた人』が『現在、キャラクター登録されている猟兵』である場合、リプレイにおいて人物名をぼかす表現となります。
馬県・義透
真の姿ver.2(紅炎狼)な『侵す者』(狼獣人なのを参照願います)
人:妻の陽織
あの日に焼けた黒髪に橙の目。動きやすいよう着物をたすき掛けしておるのは…わしに相応しくあろうと武を修めた結果、二回攻撃が得意になった陽織だの。婚姻初日、固まってガチガチになっておったのに
「景雅さま!お待ちしておりました!」という声も、その顔も。たしかに陽織ではあるが…
知っておるか?陽織はもう、生きてはおらぬ
あの日(8月25日。四悪霊誕生日=命日)、陽織は『わしの目の前で、腸食べられて死んだ』のよ
まぼろし橋(大祓百鬼夜行⑧~対決ブルームーン)で再会したが、そこで言葉を交わした
だから、お前は偽物で幻であろうよ、と薙ぐ
●死が二人を分かつとも
四悪霊が一人、『侵す者』たる紅炎狼……景雅の見た『心に深く刻まれた人』とは、この人以外はありえないと言って過言ではないだろう。
飛び交う怨嗟の手紙の問いかけにもそう答えたし、その上で孫のように可愛がっている陰海月が『もう何度も聞いたよ』と呆れる程に、愛の炎は決して尽きることもないのだろう。
満開の桜の下で景雅を待ち受けていたその人は、妻の陽織であった。
「景雅さま! お待ちしておりました!」
橙の瞳をぱあっと見開かせて、駆け寄ってくるその声から表情、仕草までも陽織のまま……五つ年下の元気娘といった最愛の伴侶のことは、今も瞼を閉じれば姿を鮮明に思い描ける程だ。
婚姻初日は身体に障るのではと心配になってしまう程、ガチガチになっていた様ですら愛おしく……『武の達人』たる景雅に相応しくあろうとして自らも武を修め、二回攻撃の達人にまでなったのには流石に驚かされた。
そう、思い返せば連れの三人や孫が砂糖を吐き出させる程に愛を語れる景雅ではあるが……それ程愛しているからこそ、目前にいるその人が幻であると分かってしまうのだ。
「知っておるか? 陽織はもう、生きてはおらぬ」
景雅自身は勿論、連れの三人もその事を事実として知っている。
忘れもしない『あの日』の事を……『義透』にとって誕生日であり命日でもある日に、妻は死んだのだ。
景雅の目の前で、黒い髪も動きやすいようたすき掛けにした着物も焼かれてしまった、その姿さえも脳裏から離れない。
程無くして景雅も死に、こうして甦った今となってもこの事は鮮明に覚えている……無論、大祓百鬼夜行の際、まぼろし橋で再会し、言葉を交わしたこともだ。
『景雅様、こっち来たら容赦しませんからね!』
猟兵として甦って戦いへと赴こうとする景雅を、陽織はそう笑顔で送り出したのだから……こんな所で『お待ちしていた』と言うのは、到底有り得ない話だ。
「だから、お前は偽物で幻であろうよ」
炎を纏う黒燭炎の一薙ぎが、最愛の人の幻影を瞬く間にかき消していく。
ふと、背後からそっと見守っていた陰海月の気配を感じた景雅は、妻を真似て笑った。
「ふっ、偽物なぞに絆されてしまっては、陽織に焼きもち焼かれてしまうからな!」
……少しの間の後、渾身のキメ顔をした景雅の前で、陰海月は再び砂糖を吐いていた。
大成功
🔵🔵🔵
サーティ・ファイブ
32番の兄ちゃん―――
(ああ、話していたらその本人が―――幻だが、幻であるという確証が持てない)
…そういえばさ、この間の天文学の話の続きだけどさ。
(確証を持つために精気を消耗してでも会話を続ける。
自身の記憶から構成された幻なら、自身の知る事以上のことは話せない。
ボロを出させたなら。)
…やっぱり、偽物か。ごめんね、兄ちゃんっぽい人。
今ここで、壊すね。
(魔術回路を励起させ、詠唱を始める。)
黒き大地の鎖よ 林檎を手にせし大地よ 汝の子らは天の先を目指し 地から離れゆく 汝がまだ子を求めるのならば その鎖で全てを縛れ!
(重力塊で満開の桜ごと幻を破壊しにかかる。)
●二度目の幻
『SLMシリーズ』と呼ばれる生体兵器の実験体『35番』であるサーティは、よからぬ企みによって離散してしまった“兄弟姉妹”を探し続けている。
サーティ含め72体にも及ぶ家族は、今もなお見つかっていない。
家族との再会を望む彼にとって、『心に刻まれた人』とは家族以外に有り得ないだろう。
見慣れた研究施設の通路で待つ人は『32番』……数多く存在する“兄弟姉妹”の中でも一番に会いたい兄だった。
「今まで何処にいたんだ、皆で随分探したぞ」
「32番の兄ちゃん……」
穏やかに微笑む兄が徐に手を差し出してくるのに、サーティは導かれるように一歩、また一歩と近づいていく。
七つの大罪における“色欲”を司る力を持ちながら、さほど積極的でもない兄の姿は、サーティが最後に見た姿と変わりなく見えた。
それなのに、自身の魔術回路は警鐘を鳴らすように震え出す……『警戒せよ』と。
あれほど必死になって探し続けた家族が、こんなにもあっさり見つかるものか、と。
「行くぞ。 皆、お前に会いたがって」
「……そういえばさ、この前の天文学の話の続きだけどさ」
「ん? あぁ、勉強会の途中だったな」
勉強会、と兄が口にするのと同時にその姿が大きく歪むのを、サーティは見逃さなかった。
確かにサーティは兄に誘われて、天文学の勉強会に向かったことがある……が、その時の兄は“幸福の館”が見せていた幻だ。
つまり、現実にいるであろう兄とは勉強会なんてしていない……これはサーティの記憶から構成された兄の幻が、再び現れているのだろう。
「……やっぱり、偽物か。 ごめんね、兄ちゃんっぽい人」
ーー今ここで、壊すね。
「黒き大地の鎖よ 林檎を手にせし大地よ」
魔術回路を励起させながら、呪文を唱える。
「汝の子らは天の先を目指し 地から離れゆく」
研究施設の光景が取り払われ、満開の桜が緑色の瞳に映る。
「汝がまだ子を求めるのならば その鎖で全てを縛れ!」
咆哮にも似た詠唱の末、黒の鎖が兄の幻や満開の桜を貫いて、地へと縫い付ける。
捕らえたならば、決して離すまいと重力の抱擁が全てを抱く……欺瞞を嫌った狼は、二度目の嘘を完膚なきまでに破壊した。
大成功
🔵🔵🔵
栗原・嘉狼
ここって…お前、は…。
そうだよな、ここがそういう、『心に深く刻まれた人』がでる世界なら。それは、俺にとってお前以外ありえないんだ。
なぁ、そうだろ?――――。
あいつだけど、目の前にいるのは幻なんだ。
幻だけど、目の前にいるのはあいつなんだ。
ごめんな、今まで寂しい思いをさせて。
もう会えないかもと思ってた。再会できたとき、俺は嬉しかったよ。
だから、また別れるのは辛い。『今ここにいる』お前は幻だけど、この気持ちは嘘じゃない。嘘にできない。
幻のあいつを強く抱きしめる。
…誰かに会いたい、そんな感情がこんなにまで人を狂わせるんだな。
…じゃあ、俺は行くよ。出てきてくれて、ありがとう。
●運命さえ越える想い
「まあ、そうなるよな」
魔法陣が見せるのが『心に深く刻まれた人』なのだから、この出会いもまた必然となる。
嘉狼の目前に立つその人は、義弟であり恋人でもあるフランケンシュタインだ。
「俺にとって、お前以外は有り得ないんだ……そうだろ?」
「勿論だ、兄貴」
愛しの人も当然のように、嘉狼を受け入れる。
思い返せば、数奇な運命を辿ったものだ。
かつて能力者として戦いきった嘉狼達は、気が付いたらまるで違う世界に迷い込んでいた。
嘉狼はその世界で数学教師として生活し……猟兵として覚醒していた義弟は様々な任務をこなして日々を過ごした。
その間、二人を互いの事を片時も忘れたことなどない。
きっといつかはと……そう願い続けていた結果だろうか、嘉狼は猟兵として覚醒して、愛しの義弟が待つ銀色の雨降る世界へ帰還を果たしたのだ。
それでも誰かが言う、或いは誰かの言葉を思い出す……これは幻だと。
分かっている、幻だと……それでも嘉狼の目の前にいるのは“あいつ”だ。
「ごめんな、今まで寂しい思いをさせて」
異世界に飛ばされてすぐの頃は帰る手段を探したが、その当時では打開策は見つからず、帰還を諦めざるを得なかった。
もう会えないかもと思っていた、だからこそ再会出来た時はどんなに嬉しかっただろう。
ここにいる“お前”は幻だけど、この気持ちは嘘ではない、嘘には出来ない……だからこそ、ここで離れなければならないのが、辛い。
「大丈夫だ、兄貴」
離れがたいと言わんばかりに、嘉狼が強く抱きしめるのを、その人もまた抱き返す。
しばらく抱き合った二人は、しかし命を蝕むものと自覚した幻は、嘉狼の肩に手を置く。
「離れていた分は、これから取り戻せばいい。 そうだろう?」
「……あぁ、そうだな」
もう時間だと、幻は行くべき道を指し示す……ここで兄貴を死なせる訳にはいかないと。
「じゃあ、俺は行くよ。 出てきてくれて、ありがとう」
嘉狼は礼を告げて、導かれた方へと歩みだした。
懐から手紙を取り、潮に滲んでもなお濃く綴られた『牙国』の字を見て呟く。
「……誰かに会いたい、そんな感情がこんなにまで人を狂わせるんだな」
成功
🔵🔵🔴
鹿村・トーゴ
組織が来たし曽根崎さんは大丈夫か
何処かに行きたがってたけど…普通の暮らしに戻れると良いねェ
魔方陣?ここを進めば牙国って人を探してる奴が居るわけか…
(桜の中念の為UCの蜂で手探りしつつ
オレの記憶に心に刻まれた…っていやァお前だよね?ミサキ
(かつて殺めた同年の恋しい幼友達は年相応18才の姿で手を振って
ふふ、ミサキは生きてたらこんな姿なんかな
『ね、どこ行くの?
『…?
『用事が無いなら私と話そう
『私には時間なんて関係ないもん
ごめんなーミサキ
オレ急ぎの用があってね
放ったUCの蜂がミサキをすり抜ける
敢えて幻だと実感を得て
それでもミサキの前髪を少し撫でる仕草
オレがそっち行ったらさー
目一杯話しよーな?
アドリブ可
●もしも共に歩めていたなら
「ここを進めば、牙国って人を探してる奴が居るわけか……さ、七針、お前たちの出番だ」
桜の花弁が導く魔法陣の世界の中……誰もが懐かしい場所や人の念に沈みかける所で、トーゴは比較的冷静な判断を下せていた。
特殊空間で何が待ち受けているか、噂の発生源たる邪神はどこにいるのか。
それを探るために虚蜂……七匹の大型蜂を先行させて進んでいくと、やはりトーゴも出会うこととなる。
「オレの記憶に、心に刻まれた……っていやァお前だよね? ミサキ」
「うん、久しぶり」
トーゴが予期していた通り、目の前に現れたのはかつての恋しい幼友達だった。
訳あって死した少女、ミサキはどういうことか、年相応十八歳の姿で手を振っている。
「(ふふ、ミサキが生きてたらこんな姿なんかな)」
まるで起きたまま見ている夢のようだ、現実では話すことも見ることも叶わなかった願望として『今も生きている幼友達』が、トーゴを誘おうとする。
「ね、どこ行くの? 用事がないなら私と話そう?」
「ごめんなーミサキ。 オレ急ぎの用があってね」
ミサキが手を差し伸ばしてくるが、トーゴは笑顔を向けつつも誘いを断る。
少しだけ「むっ」となったミサキの顔を、虚蜂が通過する……そうすることで、古い針に降ろされた使役霊は主に対し警鐘を鳴らすのだ。
『これは幻だ、分かっているだろう』と。
言われずとも、トーゴには分かっていたことだ……何故ならミサキを殺めたのは他でもない自分自身なのだから。
ミサキの幻とすれ違う時、トーゴはミサキの前髪辺りに手を翳して少し撫でる仕草を取る。
彼女は俯いていた、どんな表情をしているかまでは分からないが……トーゴは歩を止めない。
「いつかオレがそっち行ったらさー、目一杯話しよーな?」
背を向けたままで手を振って、トーゴはそのまま立ち去る。
虚蜂が振り返った時、十四の姿になったミサキが見送るように手を振り返していた。
成功
🔵🔵🔴
水澤・怜
父と兄は人間、母は桜の精
兄が病死後影朧になったことを怜は知らない
満開の桜の先は見慣れた光景
幻朧桜咲き誇る俺の故郷
現れたのは…父さんに母さん
それにあの軍服姿は…兄さんだ
父は強く、母は優しい人だった
兄は俺の憧れだった
…本当に幸せだった
ずっと、ここにいたかった
『わん!』
何処かから犬の鳴き声がする
兄が病に倒れ、俺が医大進学の為故郷を離れた間に
影朧に襲われ故郷は滅びた
父と母は行方知れずのまま
『わん!』
…そうだ
俺の故郷はもう、ない
幻といえ家族に刃を向けるのは躊躇われるから
せめて桜の癒しを
偽りの故郷に背を向ける
幻を抜けるとシロが心配そうにこちらを見ていた
その頭を撫でて
すまんな…俺もまだまだ修練が足りぬらしい
●桜が導き、桜が閉ざす
一際大きな桜が咲き誇っている。
幻朧桜だ、一目見てそうだと分かってしまえば、後に広がる光景は愛しい故郷だった。
帰ってきたのだと怜の心は感じていた、それほどに魔法陣の魅せる世界は、心の中で鮮明に描かれていた故郷そのものだ。
「励んでいるようだな、怜」
「元気な顔を見られてよかったわ」
故郷の象徴でもある桜の下、怜の両親が相も変わらずといった様子で息子を出迎える。
強い父の記憶が、優しい母の記憶が溢れる最中……任務帰りだろうか、軍服を着た兄も合流を果たし、家族が揃う。
「丁度時間が空いたところだ、剣の稽古でもするか」
「兄さん……」
面倒見が良く剣の腕も優れ、組織の中でも有能な軍人とされた兄は怜の憧れだった。
家族と共に過ごす日々はただひたすらに幸せで、この日々が続けばいいとさえ思った。
ずっと、ここにいたかった。
「わん!」
遠くない場所から犬の鳴き声が響くと、幸せな光景に波紋が広がっていく。
兄が病に倒れたことを切っ掛けに、医の道を志す怜は後に目の当たりにすることとなる。
揺らめき出した世界の狭間に見えたのは、影朧に襲われ燃え落ちる故郷の幻朧桜。
傷付き俯せた人々の中、懸命に治療しつつ両親の姿を探し回った、過去が甦る。
故郷が滅びていく、その瞬間を鮮明に覚えている。
「わん!」
二度目の鳴き声で、怜は意識を取り戻す。
「そうだ……俺の故郷はもう、ない」
改めて自身の口でそう呟くのに、視界には懐かしい故郷の幻ばかりが映し出される。
打ち払わねばならない幻だが、だからとて家族や故郷に刃を向けるのは躊躇われた。
だから、せめてもの手向けに桜の癒しを偽りの故郷に向けて放つ。
愛しくも懐かしい故郷の記憶を、今は心の奥底に眠らせよう。
「くぅーん」
幻を抜けた先で、シロが心配そうな顔で怜の事を見ていた。
途中で聞こえていた犬の鳴き声は、シロが怜を呼び戻そうとしていたものと気付いた。
「すまんな……俺もまだまだ修練が足りぬらしい」
礼を兼ねて、怜がシロの顔をわしわしと撫でると……小さな神様はここでやっとご満悦だ。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『二代目牙国龍次』
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POW : 牙の陣二代五之型『悪月』
【牙龍刀もしくは牙龍小銃】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【防御や回避、攻撃パターン】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD : 牙の陣二代目奥義『牙国龍治』
【牙龍刀】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 牙の陣二代九之型『長月』
【牙龍小銃の銃口】を向けた対象に、【銃撃もしくは牙龍刀の衝撃波】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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●子孫尋ねて黄泉帰り
各々が『心に刻まれた人』へ別れを告げ、或いは打ち払っていった頃。
穏やかな死をもたらす幻の桜の世界は、桜の精の祈りによって徐に眠りに落ちていく。
夕暮れ時を思わせる暖かな色が少しずつ闇色に近付くと、その人は姿を現した。
「君達は……そうか。 君達が、猟兵か」
その人も幻に魅せられていたのだろうか、今しがた目覚めたばかりの様子で問いかける。
そして、誰からの答えも待つことなく……右手には既に小銃が握り締められていた。
「……成る程、此が『破壊の意志』か。 どうやら俺は、君達を殺さねばならないらしい。
狂っていると思うか? だが……俺を殺さねばならないのは君達も同じことなのだろう?」
猟兵と邪神、相容れぬ者同士が語らった所で戦いは避けられないと、彼は言う。
自らの口で『殺さねばならない』と言うのに、殺気を感じないのがかえって不気味だ。
「彼岸で待つべき者の身勝手を、そして……俺に出会った不幸を恨んでくれ」
凛とした佇まいの日本国軍人、といった様でいたのはこれまでだった。
未練に縛られた呪いの言葉を呟いた時……その人はこちらの言葉も届かぬ敵となる。
「俺も恨むとしよう……、手紙を届けてくれなかった彼を、そして君達を」
●特殊ルール説明『第一発見者の末路』
手紙を受け取ってしまったなら、狼の子孫に届けなければならない。
その噂話を達成出来なかった第一発見者『曽根崎・光介』への呪いは終わっていない。
これにより🔴が8を越えた時、光介は後日『不幸な事故』に遭って命を落とすだろう。
本当の意味で彼を救うためには、🔴が規定数を越える前に敵を撃破せねばならない。
それでは幸運を祈る、救われた筈の悲劇を起こさない為にも。
鹿村・トーゴ
牙国さんか…
あんたの様な理知的にも思える人が何の因果で邪神になったんだろなァ
UCで全強化
代償流血は目に入らぬよう拭い
敵UC刀を威力・射程とも多めに見積もり遠間合いから手裏剣とクナイを【投擲】
刀で弾かれ撃ち落とされた手裏剣はそのまま
クナイは【念動力】で回収
地面を蹴り上げ砂利や土煙、UC代償流血を【目潰し】に投擲
撃ち落とされた手裏剣数枚を【念動力】で敵へ【串刺し/暗殺】
同時に【スライディング】で足元を掬うように蹴り手にしたクナイで斬り付ける【暗殺】
敵UC射程に入る為【激痛耐性/野生の勘/視力】で極力躱すか被弾しても反撃へ
【カウンター】至近距離からクナイで眉間や首、顎下等【串刺し/暗殺】
アドリブ可
●憑物
「牙国さんか……あんたの様な理知的にも思える人が、何の因果で邪神になったんだろなァ」
トーゴの呟く通り、目前で敵となったその人を『邪神』と呼ぶには違和感がある。
少なくともこちらを『敵』と認識する前の『牙国さん』は狂気に侵されておらず、出会う世界が違っていたならば、話し合いでの解決も有り得たのではと思うほど穏やかなものだ。
もしかしたら、こことは違う世界線なら味方であったかもとさえ感じさせる『邪神』は、自ら言葉を封じて刀に手をかける……間合いを間違えれば、即刻切り捨てる構えだと分かる。
トーゴの肉体表層に刻まれた赭の羅刹紋が、高まる戦意に呼応するように広がっていく。
血筋に憑いた化生が求めたのか、降魔化身法によって強化が施されたトーゴの身から力の代償として血が吹き出す……血が視界を覆わぬようにと目を閉じる寸前、『邪神』が自らと同様に目を細め、軍帽を深く被り直す様が見えた。
「(目潰しを警戒されてんな)」
間伐入れずに手持ちの手裏剣とクナイを投擲すれば、手裏剣は僅かな動きで避けられクナイは小銃の放つ弾丸や銃身によって弾かれる、必殺の一撃を秘めた軍刀は未だ鞘の中だ。
弾かれたクナイを念動力で回収する傍ら、更に地面を蹴り上げて砂利を飛ばす、数多くの飛来物で『邪神』の動きを制限し、あわよくば土煙で視界を奪いにかかる。
目潰しを嫌って『邪神』が目を背けたタイミングを見計らって、トーゴは駆け出す……避けられた手裏剣も同時に念動力で操り、『邪神』の背後から暗殺の刃が幾つも突き刺さった。
避けたはずの手裏剣による思わぬ奇襲によろめいた、その隙をトーゴは逃さない。
高速で駆けつけた勢いのまま繰り出すスライディングで邪神の足元を掬うように蹴りつつ背後に回り込むと、回収していたクナイを振り上げての追撃を見舞おうとした。
刹那、トーゴの首を狙う鋭い殺気を感じる……僅かな時の中で羅刹の眼が、体勢を崩されてもなお軍刀に手をかけた『邪神』の目線と真っ向からぶつかり合う。
一瞬で抜かれた軍刀……『牙龍刀』による一撃は超高速かつ大威力の奥義が放たれた。
互いに急所を狙い合った、被弾覚悟の一撃は、刀とクナイの剣戟によって相殺される。
それでも牙の陣二代目奥義と銘を打つ一撃の威力を殺しきれず、トーゴの身は後方へ大きく弾き飛ばされた。
「今ので捉えたと思ったが……、恐ろしい腕をしているな、猟兵」
反撃として放たれたクナイを刀で打ち払いつつ、『邪神』は獣の表情を薄く歪める。
「そりゃァこっちの台詞だ、牙国さんよ」
憑き物がそうさせるのか、トーゴもまた口の端を吊り上げてそれに応じた。
成功
🔵🔵🔴
馬県・義透
引き続き『侵す者』で真の姿『紅炎狼』
恨みと呪いの強さは…悪霊としてわかるがな?あれってたまに融通きかんのよ。
だが、そのままにしておくわけにもな。
陰海月に乗っての戦闘。影からこっそり霹靂も出ておるが。
UC効果により、陰海月の怪力パンチ(手数多し)がいつもより強いな。同時にわしも黒燭炎で薙いだり突いたりするが。
気をこちらに向けたままにしたいからな…その攻撃は見切りて回避。間に合わねば四天霊障での武器受けからの落としで対処しよう。
ああ、わしらに気を向けるようにしたは、空から霹靂が体当たりしてくるからの?
※
陰海月、今までの砂糖の反動で無心パンチ。ぷきゅ。塩。
霹靂も砂糖の山に突っ込んでました。クエクエ。
水澤・怜
※真の姿はJC参照
俺も一度は修羅に墜ちた身
狂っているとなど言える立場では、ない
相手は強敵、恐らく小技は通用しない
しかも俺の得物は殆どが近接戦向きだ
ならば…一撃にかけるのみ
真の姿を解放し【覚悟】を決めて
青藍を【投擲】し遠距離から【毒使い・マヒ攻撃】
敵の攻撃はできる限り【見切り・第六感・残像】で回避、避けきれぬ分は【オーラ防御・受け流し・激痛耐性】でしのぐ
戦況把握と間合い確保、反撃の機会を見逃さぬよう【集中】
相手との間合いが保てなくなったらUC発動
相手の攻撃を【カウンター】で受け流し渾身の【二回攻撃】
斬撃から放つ【衝撃波】で【追撃】
もし彼岸に逝くのなら、故郷の皆に伝えてくれ
…俺が必ず仇を取ると
●不屈
「むぅ……どうやら早めにけりをつけねばならんようじゃな」
「ぷっぎゅ」
自らもまた呪いに精通する悪霊だからだろうか、引き続いて四悪霊の主導を担う景雅は未練を紡ぐ『邪神』の声に呪術の気配を感じ取る。
陰海月に乗り込み、炎を纏う黒燭炎を振り回しての強襲を仕掛ける……先程まで砂糖ばかり吐いていた陰海月もまた、見た目からは予想も出来ぬほど機敏に動いた。
化け海月に乗った狼という風貌に『邪神』も面を食らったのか……対処の反応が一瞬遅れる。
『邪神』は咄嗟の牽制射撃を返すが、陰海月を駆る景雅は最小限の動作で銃弾を避けつつ迫る……瞬きをする間もなく『武の達人』は『邪神』を己の間合いに収めてしまった。
「騎獣に関しては、わしでなぁ。 まぁとにかくだ、お主をこのままにしておくわけにもいかぬのでな!」
『邪神』の持つ恨みや呪いの強さに関しては、悪霊である『彼ら』にとって理解があるものだ……故に融通の効かない部分があることも知っている。
第一発見者である青年への呪いは止まらないことを、景雅はいち早く察知していた。
呪殺を阻止すべく、陰海月もまたゼラチン質の触手を総動員した怪力パンチで加勢する……何故か『塩』と書かれた看板でも殴りかかる荒業に、『邪神』さえも気圧された。
これには堪らず飛び退いた『邪神』だが、距離を置いた上で振り返り様、軍刀の一閃を背後に向けて振り抜く。
刀身から発生した衝撃波は、『邪神』の背後から迫っていた幾つもの刃物を切り払う。
硬質な音を立てて散らばったそれは、桜の刻印が彫られたメスだ……それらを投じた怜と『邪神』の目線がぶつかると、『邪神』は更に衝撃波を飛ばして怜を牽制してきた。
『狂っていると思うか』と、『邪神』の目が怜に再び投げ掛けたような気がした。
「俺も一度は修羅に墜ちた身……狂っているとなど言える立場では、ない」
故郷が滅ぼされた時、怜には怒りや復讐心といったものに囚われていた時期があった。
癒しの力で浄化出来るはずの影朧を、癒すことなくただただ斬り捨てた過去があった。
闇を抱えたことのある自身が、他者に対し『狂っている』などと言えるはずがない。
防御を固めて衝撃波を受け流し、少し体勢を崩すもすぐに立て直し、軍刀に手を掛ける。
この『邪神』に小技は通じない、いくら青藍を投じたところで刃が敵に届くことはない。
だからと言って、ここで退くわけにはいかない……一呼吸置いて、覚悟を決める。
「どれだけ相手が強くとも……俺は諦めるわけにはいかんのだ……!」
「わおーん!」
「くえー!」
不利な状況下に置かれても屈せぬ誓いは、布都御魂の活力を以て怜を奮い立たせる。
激励しているのだろうか、聞き慣れたシロの鳴き声と……もう一つ別の鳴き声が聞こえた。
狼達の剣戟は激しさを増していく、刃同士が擦れ合う音に混じって銃声が轟く。
景雅と陰海月による連携攻撃を凌ぐ『邪神』はやがて、その行動パターンを分析し、狼と海月の主従を少しずつ……しかし着実に追い詰めていった。
「よう頑張ったのぅ陰海月、下がれ。 ここからはわしが相手じゃ」
「ぷぎゅ……」
表面にいくつもの傷を刻まれた陰海月を庇うべく、景雅は陰海月から飛び降りる。
「退いてくれないか、俺が完全に狂い出す前に」
「そうはいかぬとお前も分かっておろう。 さて、仕切り直しじゃ」
「そうか……ならば恨んでくれ」
呪いは止まらない以上、退くことは出来ぬと景雅は『邪神』の要求を突っぱねて槍を構える。
いつまで保つかは分からない、戦いが長引くほど戦況は『邪神』の優位に傾いていく。
それでも、景雅はニヤリと笑みを浮かべた。
「恨みはせんよ……基本、わしらは呪わんし。 それになぁ、」
ーーようやく、勝ちの目が見えたところじゃ。
「くえーっ!」
高く嘶くそれは、遥か上空から彗星の如く現れた。
四悪霊の陰よりこっそりと抜け出た、鷹の顔持つ獅子の幻獣『霹靂』の奇襲突撃だ。
押し潰すかのような、ヒポグリフの予期せぬ突撃に不意を突かれた『邪神』の身は、地へと転がされる。
景雅と陰海月が接近戦を仕掛け、『邪神』の注意を引いていたのはこの為の布石だった。
そしてこの奇襲はそれだけに留まらない……倒れた『邪神』がそれでも上空に目をやった先にいたのは、真の姿ーー幻朧桜に宿る神と一体化したかのような姿をした怜だった。
浄化の白光を纏う軍刀『月白』が、倒れてもなお反撃を仕掛けようとする『邪神』に迫る。
狙い定まらぬ衝撃波を避け、縦一線に振り落とした太刀筋の後、追撃の切り上げを見舞う。
覚悟を決めた怜の連撃は『邪神』を捉え、身に纏う狂気を打ち破りつつ吹き飛ばす。
これには怜も確かな手応えを感じたが……目で追った先の『邪神』は、まだ倒れていない。
「う、グ……俺は、まだ……」
「余程、強い未練があるのだな……」
まだ彼岸には戻れぬと軍刀に手を掛ける『邪神』へ、怜は再び刃を向ける。
彼に故郷の皆への言伝てを頼むには、まだ早いようだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗原・嘉狼
・謝罪と誠意
牙国さん、先に謝っておくことがある。
俺はクルースニクの栗原嘉狼。あんたとは違うルーツの人狼だ。
あんたがあの青年に送った手紙は、俺が預かっている。
親の旧姓と偽って『牙国』を名乗った。
…仕事とはいえ、手紙を奪ったんだ。俺に対しての罰は甘んじて受けるさ。
そして、改めていう。
俺は『牙国』という人物を知っている。嘘じゃない。
彼は家庭をもって息子もいる。
あんたの子孫は生きてるんだ。
たぶん、あんたの存在はなにかしら感じたと思う。
だけど、今のあんたには会わせられない。
…手紙は俺が、必ずその人に渡す。
だから今は、今だけはもう一度眠ってもらう。
この氷の刃で、あんたの殺気を凍らせてもらう!
●未練
真の姿を露にした桜の精の覚悟により、戦局は大きく変化した。
身に纏う狂気、『破壊の意志』を力に変えて襲い来る『邪神』の動作は、浄化の光に当てられたことによって鈍くなってきている……そこへ羅刹と紅炎狼が追撃を加え、あと一歩といったところまで追い詰めるに至っていた。
「待ってくれ」
呪いを止めるべく、止めを急ぐ猟兵達を制したのは嘉狼だった。
『邪神』が第一発見者に託した手紙を手にした嘉狼は……深々と頭を下げる。
思いがけぬ振る舞いと手紙を目にした『邪神』は、一瞬目を見開かせた後に猟兵へと向けていた銃口を下ろす……その様を見ていた猟兵達も、各々の構えを解いて成り行きを見守る。
「一応聞こうか……その手紙を、なぜ君が持っている?」
そう尋ねる『邪神』の声は始めに出会った時のように穏やかだったが、滲み出る苛立ちを隠しきれてはいない……一目見ただけで、嘉狼が『牙国の子孫』ではないと見抜いたからだ。
嘉狼は自らの名を名乗り、第一発見者から手紙を預かったことから、その際に旧姓と偽って『牙国』と名乗ったことを詫びる……手紙を奪った自身への罰は、甘んじて受けるとして。
改めて、以下の事実を述べる……嘉狼が知る、『牙国の子孫』の所在についてだ。
「俺は『牙国』という人物を知っている、嘘じゃない。 彼は家庭をもって息子もいる、あんたの子孫は生きてるんだ。 たぶん、あんたの存在は何かしら感じたと思う」
「君が言う“彼”が、俺の息子か孫か……何代目に当たるかは分からないが、生きているのは分かっている。 滅んでいると思っていたなら、手紙を出しに現世へ甦ったりなどしない。
……君は、そんな分かりきったことをわざわざ報告するためだけに、俺の邪魔をしたのか?」
「ああ、今のあんたには会わせられないからな」
手紙を懐に収めた嘉狼は、その手に氷の刃を生み出して身構える。
彼や、目の前の『邪神』とはルーツの異なる人狼、クルースニクの力を顕現させる。
「手紙は俺が、必ずその人に渡す。 だから今は、今だけはあんたにもう一度眠ってもらう」
「……成る程。 『破壊の意志』に侵された邪神を、会わせる訳にはいかないと言うことか」
絶対零度の剣を嘉狼が掲げた時、『邪神』は……二代目牙国龍次は酷く寂しそうに俯いた後、横目で景雅を見る。
「……嗚呼、妬ましいなぁ」
怨念や執着を抱いて死にながら、オブリビオンと化す宿命から免れた者へ、心臓に爪を立てるような呪いの言葉を呟いた後……小さく頷いた。
「分かった。 終わらせてくれ、手紙は君に託すから」
「牙国さん……」
「早く済ませたほうがいい……罰は甘んじて受けるといっても、流石に死の罰は嫌だろう?」
「……あんたの殺気を、凍らせてもらう」
人狼騎士の凍てつく牙が振るわれる、彼岸にいるべき人を眠らせる為に。
厳しい冬の寒さを刻み込まれ、倒れ伏した軍人は……この死を受け入れながらも。
「あぁ、俺は、我が子すら……抱くことも出来ずに……」
求めるように伸ばした手は何も掴むことなく、再びの深い眠りへと落ちていく。
「もし次があるなら、あんたに『破壊の意志』が宿らないことを祈るよ」
季節外れの桜は散り、後には夜の闇だけが残された。
嘉狼は託された手紙を確かに手にして、転移の扉へと歩を向ける。
手紙を受け取ってしまったなら、狼の子孫に届けなければならないから。
大成功
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