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常闇に揺蕩う絶望の黒炎

#ダークセイヴァー #常闇の燎原

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「今回の依頼はダークセイヴァーの調査です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「かねてより調査を進めていた『常闇の燎原』の、内部探索が可能になりました」
 辺境の果てのさらに向こう、ダークセイヴァーの既知領域を超えた先にある魔境かつ、まだ見ぬ『第3層』に通じると考えられている常闇の燎原。長く続いた辺境探索の結果、今まで謎に満ちていたその場所に足を踏み入れることが可能になったのだ。

「常闇の燎原の内部は、空は完全なる闇に覆われ、大地は『黒い炎』に包まれた、不毛の平原となっています」
 まさに「常闇」の名にふさわしい暗黒の地だが、恐ろしいのは風景だけではない。この「黒い炎」は見る者の恐怖と絶望を駆り立てる幻影を実体と共に生み出し、燎原への侵入者を阻むという。
「辺境の探索中も様々な危険がありましたが、常闇の燎原の危険度はそれに勝ると言って間違いないでしょう」
 しかし、これを乗り越えない限り、さらなる領域への探索行は不可能だ。未踏の領域に挑む猟兵達をサポートする為に、リミティアはグリモアの予知で得られた情報を伝える。

「皆様が常闇の燎原を訪れると、黒い炎は『オブリビオンの襲撃を受けた後の村の光景』を幻影として生み出します」
 壊れた家屋、踏み躙られた畑、痛みに呻く声、散乱する血、膿の匂い、蔓延する疾病、不足する医療品、栄養失調――風景だけでなく村人の苦しむ姿まで幻影とは思えないほど具体的で、実際にその場にいるかのような悲劇的な光景が、猟兵達の前に現れる。
「この幻の恐ろしさは、取り込まれた者に『幻の住人の一部』だと思い込ませてしまう事にあります。つまり幻影が出現すると、皆様は一時的に猟兵としての自覚を失い、自分のことを『この悲劇の中の無力な一般人のひとりである』という風に錯覚してしまいます」
 実際には猟兵としての能力が失われた訳ではないのだが、自覚がなくなればそれを使う事もできなくなるだろう。ユーベルコードのような『問題解決に役立つ超常的な能力』を封じられた状態で、猟兵達は先述した悲劇に直面させられることになる。

「無力感を植え付けたうえで悲劇に巻き込むことで、恐怖と絶望を駆り立てるのが狙いなのでしょう。ここで屈すれば常闇の燎原の先に進むことはできません」
 オブリビオンの襲撃で傷ついた怪我人や病人は、放置していれば次々に息絶えていく。
 苦痛に苛まれ、恐怖に怯え、絶望と共に死を待つことしかできない無力な人々の姿を、同じ立場から見せつけられるのだ。その精神的苦痛は計り知れないだろう。
「ですが、諦めてはいけません。悲劇に巻き込まれた一般人の立場から、この惨状にどう立ち向かうのかを考えて下さい」
 たとえ特別な力がなくても、悲劇に抗うことはできるはずだ。例えば病人や物資を運ぶとか、知識を用いて怪我人を手当てするとか。死にゆく者に祈りを捧げるだけでもいい。恐怖や絶望に屈さない意思と行動を示すことが、幻影を打ち破る力になるだろう。

「絶望に抗い続けていれば、やがて幻影の中から『敵』が集団で姿を現します」
 これは無力な人々を恐怖と暴力で蹂躙することで、侵入者を絶望させようとする黒い炎からの刺客だ。ただの幻影ではなく実体を持っているため、戦わなければ生命が危うい。
「この段階では幻影の影響も多少は弱まっているはずですが、『自分は無力な一般人だ』という錯覚はまだ残っていると思います。万全の状態での戦いは望めないでしょう」
 出現する敵はオブリビオンとしては下級の力しかないが、一般人には恐るべき脅威だ。
 それでも勇気をもって立ち向かい、知恵と工夫で敵を倒すことができれば、本来の自分を取り戻していけるはずだ。

「黒い炎が見せる幻を完全に振り払うことができれば、一体の『狂えるオブリビオン』が皆様の前に現れます」
 詳細までは予知する事ができなかったが、このオブリビオンにはひとつの特徴がある。
 それは本来なら両目のあるべき場所から「黒い炎」を噴出させている、という点だ。
「このオブリビオンに理性はなく、視覚だけでなく聴覚と嗅覚も失っていますが、実力は同族殺しや紋章持ちにも匹敵します。そして失った感覚のかわりに『相手が抱いた恐怖や絶望の感情を感知する』ことができるようです」
 この性質をうまく利用できるかによって、戦闘の難易度は大きく変わるだろう。取り戻した本来の自分自身の力も十分に活かして、この謎めいたオブリビオンを倒してほしい。

「狂えるオブリビオンを撃破することができれば、ひとまず今回の探索は終了です。常闇の燎原で皆様が経験した事は、次の探索に活かされるでしょう」
 まだ全貌も明らかになっていない常闇の燎原を、一度の探索で踏破するのは不可能だ。
 だが探索依頼は今回だけではない。繰り返し調査を続けることで情報を集めていけば、いずれは次の領域にたどり着けるだろう。

「未知なる上層に到達するために、どうか皆様の力をお貸し下さい」
 説明を終えたリミティアは、手のひらにグリモアを浮かべて常闇の燎原への道を開く。
 そこは永遠の闇と黒き炎に包まれた不毛の大地。果たして猟兵は突きつけられる絶望を乗り越えることができるのか。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回のシナリオはダークセイヴァーにて、常闇の燎原の探索を行う依頼です。

 1章は「黒い炎」が見せる悲劇の幻影に立ち向かうシーンとなります。
 辺りにはオブリビオンの襲撃で破壊された村の光景が広がり、大勢の傷病人が満足な手当ても受けられないまま横たわっています。
 この章の間、参加者は自分のことを「この悲劇の中の無力な一般人のひとりである」と錯覚します。記憶を失うわけではないですが催眠にかかったような状態で、夢を見ている時に現実ではありえないシチュエーションにも違和感を覚えない、あの感覚に近いです。
 錯覚中は猟兵としての力を万全に振るうことはできないので、悲劇の住人のひとりとして絶望に抗ってください。

 2章は幻影の中から現れるオブリビオンとの集団戦です。
 この敵は「無力な人々を恐怖と暴力で蹂躙する」ことを目的にしているため、猟兵だけでなく幻影の中の一般人に襲いかかる可能性もあります。
 1章の時よりはマシとはいえ「自分は無力な一般人だ」という錯覚も残っています。本来の自分を取り戻すためには、勇気をもって敵を倒し続けるしかありません。

 無事に幻影を振り払えれば、3章は『狂えるオブリビオン』とのボス戦です。
 非常に強大な敵であり、視聴嗅覚のかわりに恐怖や絶望の感情を感知することで攻撃対象を見つけだす性質を持ちます。これを上手く利用して立ち回れば有利になるでしょう。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『大量の怪我人や病人を救え』

POW   :    ●『運搬する』:怪我人や病人を、または薬や道具などを運搬する。

SPD   :    ●『処置する』:瞬時に症状を見極め、自分の持つ技量で適切に処置する。

WIZ   :    ●『祈祷や儀式をする』:自分の魔術的な知識で治癒の祈祷や儀式を行う。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリス・フォーサイス
お話の当事者になれるってことだね。うけてたつよ。

こんなに病人が!?でも、やれることをやるしかない!
なぜかぼくの中にある病気の知識、薬の知識を使って、治療に入るよ。

この症状はさっき見た植物を処方すれば治るはず。この症状はたぶん、こうすれば......。



「お話の当事者になれるってことだね。うけてたつよ」
 喜劇も悲劇も含めて様々な物語を"食べて"きた【物語中毒】のアリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は、自分もその住人になる事を恐れなかった。闇に支配された『常闇の燎原』に足を踏み入れると、その瞬間から黒い炎が勢いよく大地から燃え上がる。
「うわっ……!」
 炎はまたたく間にアリスの周りを包み込んだが、それ自体に火傷等のダメージはない。
 だが、揺らめく陽炎の中にここではない何処かの光景を彼女は見る。破壊された村落、怪我と病に苦しむ人々――この世界では普遍的でありふれた悲劇の光景を。

「こんなに病人が!? でも、やれることをやるしかない!」
 幻影に取り込まれた時点で、アリスは自分が猟兵だという自覚を失っていた。ただ現場に居合わせ、巻き込まれた一般人として、それでも彼女は己にできる事を行おうとする。
「うぅ……苦しい……」「いたいよ……おかあさん……」
 倒れている村人達はみな絶望に打ちひしがれ、すでに亡くなった者も少なくなかった。
 死に対する恐怖と無力感、そして絶望がこの場所には満ちている。それと直面させる事で侵入者の心を折るのが、黒い炎の狙いなのだろう。

「待ってて。すぐに助けるから」
 しかしこの程度の絶望に膝を屈するほど、アリスの心は弱くなかった。病人の手をとって懸命に励ましながら、その容態や患部を見る。『自分は無力な一般人だ』という錯覚を幻影に与えられていても、培った経験や知識の全てが失われたわけではなかった。
「この症状はさっき見た植物を処方すれば治るはず」
 "なぜか"自分の中にある病気や薬の知識を使って、彼女は治療に入る。村の周りに生えている草や花――一見すると雑草にしか見えないものを煎じて薬にし、病人に飲ませれば顔色が少し良くなるのがわかった。

「ぁ……ありがとう……」
「よかった。もう大丈夫だからね」
 この病に自分の知識は通用する。その実感を得たアリスは笑顔になって、より精力的に治療に励む。一人で全ての命を救うことはできなくても、諦めることだけは絶対にない。
「この症状はたぶん、こうすれば……」
 頭の中にある知識をフル回転させるうちに、だんだんと彼女は自分を思い出していく。
 そうだ。自分はただ悲劇と絶望の物語に翻弄されるだけの、力なき登場人物ではない。

(お話の当事者はこんな気持ちだったんだね)
 アリスにとってこの幻影は、実体験としてより深く物語を味わえる面白い機会となる。
 まだ暫く登場人物としての錯覚に包まれながらも、彼女はいち登場人物としての自分をどこか楽しんでいるようにも見えた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
何と惨い……!
急ぎ治療せねばならぬ!

<医術>の心得はある
まだ助かる中で重傷の者から優先して<救助活動>だ
できるだけ多くの者の命を助けることを優先して行動するぞ

周りのまだ動ける者に協力を求める
少ないながらも医薬品をかき集め、なるべく清潔な布や水を用意してほしい

手当てして一命を取り留めたとしても、気力を失っていれば保たぬ
住民達を<鼓舞>して励まそう
オブリビオン相手に命があっただけありがたい
生きてさえいれば、何れこの支配からの開放も望めるはずだ

全ての者を助けることは出来ぬであろうし
襲撃で殺された者も多いだろう
治療を終えたら、犠牲になった者の冥福に<祈り>をあげるぞ

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ連携歓迎



「何と惨い……!」
 常闇の燎原にて黒い炎に包まれた瞬間、天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)の目の前に現れたのは今にも息絶えそうな大勢の傷病人だった。満足な手当てを行う術もないのか、ほとんどの者は廃墟となった村落で野晒しになっている。
「急ぎ治療せねばならぬ!」
 このまま見てはおれぬと、彼女はすぐさま治療に臨む。幻影に呑まれた影響で猟兵としての自覚は失っても、心根まで変わりはしない。神鏡のヤドリガミとして人の助けとなり導くことが、彼女の信条だ。

(医術の心得はある。まだ助かる中で重傷の者から優先して救助活動だ)
 できるだけ多くの者の命を助けようとすれば、もう助からない者を見極める判断も必要になる。残酷ともいえる選択だが、百々は迷わなかった。今ここで自分が躊躇えば手遅れになる命がさらに増えることを彼女は分かっている。
「まだ動ける者は手を貸してくれ。残っている医薬品をかき集め、なるべく清潔な布や水を用意してほしい」
「わ、わかりました」
 周囲にいる人達にも協力を求め、オブリビオンに破壊された村の中から役に立つ物資を回収する。量は決して多くはないが、今はあるだけありがたいという状況。使えるものはなんでも使って、身に着けた技能と知識を頼りに治療を施していく。

「私……もう、だめかもしれない……」
「諦めるでない。この程度の傷、すぐによくなる」
 苦しげにうめく重傷者を治療しながら、百々は励ましの言葉をかける。肉体的な負傷も見過ごせないが、彼らが心に負った傷もまた深い。住んでいた村を破壊され、大切な家族や隣人を失った者も多くいよう。
(手当てして一命を取り留めたとしても、気力を失っていれば保たぬ)
 絶望して生きることを諦めてしまった患者を救うのは、どんな名医にも不可能である。
 ゆえに百々は休みなく皆を鼓舞し、少しでも生きる気力を取り戻せるよう務めていた。

「オブリビオン相手に命があっただけありがたい。生きてさえいれば、何れこの支配からの開放も望めるはずだ」
 この惨状を前にして、楽観的な発言だと否定するのは簡単だろう。しかし絶望的な状況に屈さず、自分にできることを行い続ける百々が言えば、その言葉は重みが違っていた。
「あなたがそう言うのなら……」「もうすこし、がんばってみようか」
 心が折れかけていた村人達も、少しだけ前向きな言葉を発する。まだ先行きは見えないが、膝を抱えて丸くなっていても何にもならない。辛くても、苦しくても、明日がある限り希望はゼロではないと、彼らも思い出したようだ。

「では、明日の前にやらねばならぬ事をしよう」
 治療が一段落したところで、百々は犠牲になった者の冥福に祈りをあげる。全ての者を助けることはできなかったし、襲撃で殺された者も多い。そうした者達の魂が穏やかに眠れるよう弔うのも、神職としての務めである。
「どうかあの世にて、我らのことを見守っていてくれ」
 そしてそれは現世に取り残された者達にとっての慰めでもある。弔いを行う童女を見た周りの人々も、おのおの目を閉じて祈りを捧げる。死せる者には安らぎを、生ける者には未来を――祈りとは、すなわち希望のかたちであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
眼前に浮かぶのは、生まれた時から見ていた光景……あの怪物達との小競り合いがあった後はいつもこうです。
辛うじて生き残った私の役目は、怪我人を運ぶ事。
私には何人も運べる力もありませんし、生存者には時間もありません。
息があっても助かりそうにない人に対しては励ます事も出来ず、比較的生き残れそうな人をひたすら運びます。
運んだ所で薬や医療器具が十分にある訳でもなく、正直効くのかどうか分からない草や石を飲ませたり貼ったり……結局死なせる事があるのもいつもの光景です。
だから私は戦います。
あの怪物を追い払う事が出来れば被害は減らせるはずだから。
ボロボロの剣と服でしか武装出来ない私でも、いないよりはマシでしょう。



「……あの怪物達との小競り合いがあった後はいつもこうです」
 眼前に浮かぶのは、生まれた時から見ていた光景。この世界の出身であるハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)にとっては、黒き炎が見せる絶望の幻影も驚くようなものではなく、淡々とした様子で現状を把握していた。
(私の役目は、怪我人を運ぶ事)
 惨劇から辛うじて生き残って、身体も動かせる自分にできることを考えて、実行する。
 猟兵となる以前から繰り返してきた通りに、彼女は心と身体に染み付いた行動を取る。

(私には何人も運べる力もありませんし、生存者には時間もありません)
 破壊された村を歩きまわれば、何人もの怪我人や病人に会う。その中には息があっても助かりそうにない者も大勢居た。そんな人に対してハロは励ますことも出来ずに、比較的生き残れそうな人をひたすら運ぶ。
「薬は?」
「ほとんど家と一緒に焼けてしまって……」
 安静にできる場所まで運んだ所で、薬や医療器具が十分にある訳でもなく、ただの村人には医療の知識も乏しい。聞き齧りや伝承などを頼りに、正直効くのかどうか分からない草や石を飲ませたり貼ったり、あとは患部に布を巻いて血を止めるのが精一杯の処置だ。

「うぅ……いたい……いた……ぃ……」
 そうやって、どんなに苦労して運んでも、懸命に治療を試みても、結局死なせてしまう事は多い。苦しんで、苦しんで、だんだんと衰弱しながら息絶えていく人の顔を、ハロは取り乱すでもなく静かに見つめていた。
(これもいつもの光景です)
 どうしようもなく自分が、自分達が無力であることを彼女は知っている。幼い頃から吸血鬼と戦うために剣を学ばされていても、今日まで生き延びてこられたのは奇跡に近い。怪物達がすこし本気になるだけで消し飛んでしまうような、脆くて儚い存在だ。

「だから私は戦います」
 亡くなった者達に祈りを捧げてから、ハロは刃こぼれした剣を握りしめて立ち上がる。
 か弱くて無力な自分にも出来ることはある。諦めないこと、そして立ち向かうことだ。
「あの怪物を追い払う事が出来れば被害は減らせるはずだから」
 傷ついた者を救うことができないなら、傷つく者を一人でも減らす。そのために自分が傷つくことを彼女は恐れない。絶望的な力の差にも屈することなく、ひたむきで真面目に己の務めを果たさんとする。それは彼女の大きな美徳だった。

「ボロボロの剣と服でしか武装出来ない私でも、いないよりはマシでしょう」
 鍛えたこの身と剣技にかけて、一体でも多くの敵を撃退してみせる。猟兵である自覚を失い、一人の少年兵であった頃に戻ったハロは、何ら変わることのないあり方を示した。
 傷ついた村人達に背を向けて村外れに立ち、闇にじっと目を凝らす。その向こうにいる敵の気配を感じて――いつでもかかって来いと言うように、刃をまっすぐに突きつけて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
仁義なき愛と青春の家族っていいよねBE HARD!酔いどれセフィリカ物語カビィ―将軍VS越後屋戌
~どちらが勝っても猟兵に未来はない?~

製作総指揮 戌MS
出演 主人公:大勢の傷病人
   ヒロイン:越後屋戌
   無力な一般人:ベルリーナ
   黒幕:ダークセフィリカ
   白幕:ホワイトシェルファ
   ニートキング:カビパン

悲劇の幻影、大勢の傷病人を前に無力というか無気力のニートキングはこう思った。
(うわめんどくせ…!?そうだわ!)

(トドメ刺してあげよう)

無力な自分ができることは、こいつ等をさっさと楽にすることではないだろうか。そんな恐ろしいR-18指定まっしぐらな発想。彼女は哀愁の演歌を歌い出した。


ベルリーナ・シリアス
ここ、どこ、なんで私呼ばれたの??
姉から『べ、ベル!助けて!!このままだともう…』
と連絡を受けて急いで駆け付けたら何か始まっていた。
そして自分は無力(姉を止められない意味で)だと悟り、無気力になった彼女はセフィリカを見かけた途端に身体に電流が走った。

(うわっこの人も苦労してそう…)

「は、初めまして。ベルリーナ・シリアスと申します。姉がいつも大変お世話になっております」
「これが私の連絡先です」
「姉さんの知り合いに常識的な人がいたなんて知りませんでした、世の中捨てたものじゃないですね!」
似たようなオーラを感じた彼女達はたちまち仲良くなり、友情が成立していた。
ダークセフィリカが黒幕とは知らずに…


セフィリカ・ランブレイ
カビィちゃん(f24111)、ベルリーナちゃん(f35149)と

何処にも出口のない現実
奪われた側に広がる無力感
目の前のオブリビオンに襲われた村の光景
積み上げたモノを奪い去られた絶望が心を満たす

時に差し出されたのは冊子
仁義なき愛と青春の(以下略)という新たな映画の台本……

頁を捲る度に整合性なし超展開の嵐

せめてコンセプトを絞ってよ
要素が渋滞事故を起こしてる!

でも、突っ込んだら正気に戻った
絶対に感謝はしたくないけど

『何度も呼び掛ける私の声より駄脚本で自己を取り戻すあたりホントどうかと思うんだけど』
ごめんって と、シェル姉に謝ったり

ベルリーナちゃんもこの状況で自然体な感じだよね
アレが巻き起こす不条理に慣れてるせい?
カビィちゃんのお世話をしていると聞いて会わない頃から尊敬してた
良い感じの処理の仕方、私にも教えてね

えーと?私が黒幕としてベルリーナちゃんをいい感じで裏切ると、わークソ脚本

こんないい子を裏切れるか!倒れるべきはニートキング!
全ての登場人物が目的のために一つになる!王道展開で打倒カビパン!



「そんな……酷い」
 何処にも出口のない現実。奪われた側に広がる無力感。目の前のオブリビオンに襲われた村の光景に、セフィリカ・ランブレイ(鉄エルフの蒼鋼姫・f00633)は息を呑んだ。
『セリカ、しっかりしなさい!』
 腰に佩いた愛剣にして相方、意志ある魔剣シェルファが呼びかけても、闇の炎が見せる幻影は強烈なショックを彼女にもたらしていた。積み上げたモノを奪い去られた絶望が、心を満たすのを止められない。

「はい、これ読んで」
「…………え?」
 そんな時、横からすっと差し出されたのは一冊の冊子。表紙には『仁義なき愛と青春の家族っていいよねBE HARD!酔いどれセフィリカ物語カビィ―将軍VS越後屋戌 ~どちらが勝っても猟兵に未来はない?~』とタイトルが書かれている。
「今から撮影よ、すぐに台本覚えなさい!」
「え、え?」
 それを書いたらしい女性――カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)に言われるまま、セフィリカはぱらりと冊子を開く。その最初のページには確かに自分とシェルファの名前があった。

 出演 主人公:大勢の傷病人
    ヒロイン:越後屋戌
    無力な一般人:ベルリーナ
    黒幕:ダークセフィリカ
    白幕:ホワイトシェルファ
    ニートキング:カビパン

「……ナニコレ?」
 頁を捲るたびに整合性のない超展開の嵐。仁義なき愛と青春の(以下略)という新たな映画の台本は、読み込むほどに脳内に疑問符が増えていく奇書であった。シリアスもへったくれもない内容に、セフィリカは思わず叫んだ。
「せめてコンセプトを絞ってよ。要素が渋滞事故を起こしてる!」
 もう何度目か数えたくもないが、彼女はたびたびカビパンの撮影に巻き込まれている。
 その都度こうしてツッコミを入れてきたのも含めて、もはやお約束の展開と言えよう。

(でも、突っ込んだら正気に戻った)
 どんなに悲劇的な状況でも変わらない【ハリセンで叩かずにはいられない女】のペースに巻き込まれた事が、幻影の影響を吹き飛ばすきっかけになったようだ。一種のショック療法と言えなくもない。絶対に感謝はしたくないけど、と心の中でセフィリカは思う。
『何度も呼び掛ける私の声より駄脚本で自己を取り戻すあたりホントどうかと思うんだけど』
「ごめんってシェル姉」
 不満げな声を上げるシェルファに謝ったりしつつ、改めて状況を確認。破壊された村や傷ついた人々の光景はそのままだが、さっきまでよりは落ち着いて見渡すことができた。

「ここ、どこ、なんで私呼ばれたの??」
 その光景の中に、他の村人とは雰囲気の違う人物がひとり。カビパンの妹ベルリーナ・シリアス(はただのツッコミ一般人・f35149)は、ひどく困惑した様子できょろきょろと辺りを見回していた。
「姉から『べ、ベル! 助けて!! このままだともう……』って連絡受けて急いで駆け付けたら何か始まっていたんだけど……」
 こんなお通夜よりも暗い雰囲気でいつも通りおかしな事をやろうとしている姉を見て、それを止められない自分は無力だと悟る。そうして無気力になった彼女は膝を抱えていたのだが――そこでセフィリカとふと目があった途端に、身体に電流が走った。

(うわっこの人も苦労してそう……)

 多分、それはセフィリカも同じ考えだっただろう。どちらからともなく二人は近付き、おずおずと挨拶を交わす。カビパン被害者の会メンバー、まさかの邂逅の瞬間であった。
「は、初めまして。ベルリーナ・シリアスと申します。姉がいつも大変お世話になっております」
「こ、こちらこそ。私はセフィリカ・ランブレイ。こっちは魔剣のシェル姉」
『シェルファよ。よろしく』
 似たようなオーラを感じた彼女達はたちまち仲良くなり、お互いに連絡先を交換しあったりと和やかな空気が流れる。これはこれで周囲とだいぶ浮いているような気がするが。

「姉さんの知り合いに常識的な人がいたなんて知りませんでした、世の中捨てたものじゃないですね!」
「ベルリーナちゃんもこの状況で自然体な感じだよね。アレが巻き起こす不条理に慣れてるせい?」
 二人の共通の話題はやはり、カビパンというギャグとカオスの権化について。お互いの苦労を分かち合い、双方の印象を語りつつ労いや励ましの言葉をかけあっているうちに、二人の間には友情が成立していた。
「カビィちゃんのお世話をしていると聞いて会わない頃から尊敬してた。良い感じの処理の仕方、私にも教えてね」
「私に教えられることでしたら……」
「ほら二人とも、そろそろ撮影始めるわよ!」
 そんな感じで話題にされていると知ってか知らずか、カビパンがハリセンをバシバシとはたきながら話を遮る。あの一読するだけで問題ありすぎと分かる謎脚本、どうやら本気で撮るつもりのようだ。

 仁義なき愛と青春の家族っていいよねBE HARD!(以下略)のあらすじはこうである。
 悲劇の幻影、大勢の傷病人を前に、無力というか無気力のニートキングはこう思った。
(うわめんどくせ……!? そうだわ! トドメ刺してあげよう)
 無力な自分ができることは、こいつ等をさっさと楽にすることではないだろうか。そんな恐ろしいR-18指定まっしぐらな発想により、彼女は哀愁の演歌を歌いだした。あまりにも音痴で聞くに堪えない絶望的なそれは、人々の心から最後の希望すら奪い去る――。

「えーと? 私が黒幕としてベルリーナちゃんをいい感じで裏切ると、わークソ脚本」
 台本ではニートキング・カビパンが一般人役のベルリーナを苦しめた後、ここぞというタイミングでダークセフィリカで正体を現し、絶望のどん底に叩き落とす段取りだった。
 どうしようもない位に救いようがないバッドエンドである。冊子を最後まで読み切ったセフィリカはそれを投げ捨て、音痴歌に苦しむベルリーナを守るように立ち上がった。
「こんないい子を裏切れるか! 倒れるべきはニートキング!」
『まあ、そっちのほうが観客受けもいいわよね』
 知らぬうちに育んでいた友情とクソ脚本、どちらを取るか聞かれたら当然前者を取る。
 裏切らないという裏切りで黒幕から白幕になった彼女は、【シェルファ顕現】によって人間の姿になったホワイトシェルファと共に、革命の乙女のごとく邪悪に立ち向かう。

「全ての登場人物が目的のために一つになる! 王道展開で打倒カビパン!」
「今日こそ姉に引導を渡す!」
「「おぉぉぉぉーーっ!!!」」
「ば、ばかなー!!」

 かくして超展開につぐ超展開により、無力であったはずの人々は悪しきニートキングを打ち倒す。その中にはギャグの雰囲気に巻き込まれた幻影の住人達すらも含まれていた。
 幻影に飲み込まれないコツは自分を見失わないこと。ある意味では誰よりも揺らがないマイペースさを誇るカビパンが、ベルリーナとセフィリカの心を守ったとも言えるが――だからと言って二人が彼女に感謝することはないだろう。絶対に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…っ。どうやらこの村も奴らに襲われたみたいね
馴れてはいるけれど、いつ見ても本当に酷い光景…

…生憎だけど、貴方達に施せるほど手持ちの物質に余裕は無いの
無力な私に出来る事は早々に立ち去る以外、何も…ん?


…貴方、その傷なら清潔な布で傷口を押さえておけば死にはしないわ

…そこの貴方も。大げさに血が出ているけど見た目ほど重傷じゃない

…動ける人は沸騰したお湯と布を大量に用意して
清潔を保ち安静にしていれば、今より悪化する事は無いはずよ

無意識の戦闘知識から直感(第六感)的に傷病者の具合を見切り、
無意識の肉体改造術式の知識から人体構造を把握して適切な処置を行う

…医者じゃないわ。あの人ならもっと手際が良いもの



「……っ。どうやらこの村も奴らに襲われたみたいね」
 黒い炎に包まれた瞬間、眼前に現れた光景にリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は顔をしかめる。幻覚の影響で猟兵としての自覚を失っていても、この世界で生きた記憶が消える訳ではなく、それは彼女にとって見慣れた惨状だった。
「馴れてはいるけれど、いつ見ても本当に酷い光景……」
 痛ましげに眉をひそめながら、破壊された村を歩く。腐臭の混じった血の臭いが漂い、弱々しく呻く傷病人の声は絶えることがない。圧倒的な暴力と恐怖に蹂躙された人々は、彼女の姿を見ると助けを求めた。

「お願いです、薬を……それか、食べるものを……」
「……生憎だけど、貴方達に施せるほど手持ちの物質に余裕は無いの」
 同情心に引かれて安易に施しを行えば、自分もここで共倒れになる。見捨てるようで心苦しいが、この世界で生きるためには非常な決断も必要――内心では悔しさを噛み締めながら、リーヴァルディは無表情に村人たちの頼みを断ろうとする。
「無力な私に出来る事は早々に立ち去る以外、何も……ん?」
 だが。ふと目に入った彼らの怪我の容態を見て、言葉が止まった。医療知識のない村人には分からない事かもしれないが、その傷はまだ助かるもののように見えたのだ。物資を与えることは無理でも、手当てくらいなら自分の知識でも出来るかもしれない。

「……貴方、その傷なら清潔な布で傷口を押さえておけば死にはしないわ」
「え……?」
 自分は無力だと思い込まされていても、吸血鬼を狩る過程で身に着けた知識や経験は、リーヴァルディの心身に染み付いている。彼女はほぼ無意識下で傷病者の具合を直感的に把握し、どうすれば死なずに済むのか理解していた。
「……そこの貴方も。大げさに血が出ているけど見た目ほど重傷じゃない」
「ほ、本当ですか……?」
 驚く負傷者のそばに膝をつき、落ち着いて容態を確認する。これよりもひどい怪我なら何度も見てきた。加えて肉体改造の術式を操る彼女は人体構造の知識にも精通しており、必要な処置を適切に行うことができた。

「……動ける人は沸騰したお湯と布を大量に用意して。清潔を保ち安静にしていれば、今より悪化する事は無いはずよ」
 てきぱきと手当てを行いながらリーヴァルディが指示を飛ばすと、周りの雰囲気も変わってくる。絶望して死を待つのではなく、まだ何かやれることはあるのかもしれない――そう気付かされた人々の顔にはかすかな希望が宿っていた。
「お湯を沸かさないと……」「布ならこっちにあったわ!」
 言われた通りに処置すると怪我人の具合も目に見えて良くなった。勿論、それで全ての人間が助かるわけではないが、今までは助けられる者まで死なせてしまうところだったと考えれば、正しい知識を持つことの大切さがよく分かる。

「ありがとうございます。お医者さまのお陰で助かりました」
「……医者じゃないわ。あの人ならもっと手際が良いもの」
 村人からの感謝を涼しげに受け答えながら、リーヴァルディは自分がこの知識を誰に、何のために教わったのか、おぼろげながらも靄が晴れるように思い出しはじめていた。
 それは彼女が幻覚の影響から脱しつつある兆候。【限定解放・血の鎖錠】にて無意識に封印されている己の力に、彼女は気付きだしていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
…………これ、は……

目の前に広がる破壊の痕跡
傷つき横たわる人々、山と積まれた屍
状況は理解できない
だが、彼らを捨て置くことなどできはしない

息のある者へ駆け寄り、診察
簡易救急セットで出来る限りの治療を施していく(医術・救助活動・薬品調合)
飢えた者には手持ちの携帯保存食から水にパン、チーズや干し肉などを分け与える(料理)
今治療します、気をしっかり持ってください
水を一口……喉を潤したらこちらの食べ物を……

たとえ間に合わず、どれだけの命を取り零そうと、挫けはしない、諦めない
身体が動く限り、自身に出来ることを為し続ける
――この光景を創り出した、オブリビオンへの怒りを胸中に渦巻かせて



「…………これ、は……」
 目の前に広がる破壊の痕跡。傷つき横たわる人々、山と積まれた屍。黒い炎が見せる幻に囚われたオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は、あまりの惨状に一瞬言葉を失った。
「………っ!」
 状況は理解できない。だが、彼らを捨て置くことなどできはしない。彼女はすぐに走りだすと、倒れている村人の中からまだ息のある者へ駆け寄り、怪我や病の診察を始めた。

「今治療します、気をしっかり持ってください」
 この幻覚の世界ではオリヴィア自身も無力な一般人のひとりに過ぎない。治療の手段は持っていた簡易救急セットと医術の知識のみ。ショルダーバッグに入った医薬品や包帯を取り出して、できうる限りの処置を施していく。
「ぁ……ありが、とう」
 薬も物資も満足になく、医療の知識を持った人間もいない集落において、彼女の行動はまさに救いの御手だった。苦痛の中で死を待つだけだった人々は、真剣な表情で手当てをするシスター服の女性に励まされ、かすれた声で感謝を口にした。

「水を一口……喉を潤したらこちらの食べ物を……」
 さらにオリヴィアは水にパン、チーズや干し肉などの携帯保存食を小さくちぎって患者に食べさせ、その他の飢えた者にも分け与える。貴重な手持ちの食糧を見ず知らずの相手に提供するその行為に、村人達はとても驚いた。
「よいのですか? これは貴女の……」
「構いません。私の分はまだありますから」
 怪我や病から一命を取り留めても、食べるものがなく飢え死にしては何にもならない。
 畑や倉庫まで破壊された村の住民全てが食い繋ぐには、まるで足りない量ではあるが、それでも無いよりはずっとマシだ。

「感謝します……あぁ、よかった……」
 絶望に包まれ死に絶えるはずだった人々に、オリヴィアの行動は小さな希望を与えた。
 だが、どんなに懸命に治療を行っても、甲斐なく命を落とす者は少なくない。その最期が苦痛に満ちたものでなく、誰かに看取られる事ができたのはせめてもの幸いか。
(……諦めるものか)
 体温を失っていく遺体に触れながら、オリヴィアはぐっと歯を食いしばる。たとえ間に合わず、どれだけの命を取り零そうと、挫けはしない、諦めない。襲いくる絶望を強固な意志で振り払い、惨状に果敢に立ち向かう姿は、普段の彼女と何も変わりはしなかった。

「どうか、皆さんも諦めないでください。心が折れない限り、希望はあります」
 その身体が動く限り、オリヴィアは自分に出来ることを為し続ける。成果はささやかなものでも、それで救われた者は確かにある。無駄なことなど何ひとつないと、懸命な看護を続ける彼女は、どの傷病人よりも必死に見えた。
(……絶対に、赦しはしない)
 ――この光景を創り出した、オブリビオンへの怒りを胸中に渦巻かせて。その熱すらも絶望と戦う原動力に変えているうちに、彼女の心は徐々に幻影の影響を脱しつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
うぅ…どうしてこんな事に…
これじゃあ生き延びたって、直ぐに全滅してしまう…

……?
なんで私はこんな状況で後生大事に本なんか持っていて…
(私物の蒐集物である騎士道物語)

ああ、そうだ
本に綴られた数多の騎士の如く、清く正しく生きられたら
そんな事を想い日々を生きてきて…

…今がその時

先ずは水と火の確保です
怪我人の手当てに飲料水や消毒用の熱湯は必要
物語にも書かれていたではありませんか

燃料は家屋の瓦礫を使うとして、井戸は…やはり潰されていましたか
近くの川から汲みましょう
家畜は殺されても運搬用の荷車は修理すれば使える筈

後は人力ですか
想像を絶する重さでしょうが…為さねば大勢死ぬのです
これくらい!

…存外、運べますね



「うぅ……どうしてこんな事に……」
 オブリビオンの襲撃により破壊された村で、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は呆然と立ち尽くしていた。幻覚により自分を無力な一般人だと錯覚した今の彼は、普段の騎士然とした振る舞いとは違い、ひどく弱々しく見える。
「これじゃあ生き延びたって、直ぐに全滅してしまう……」
 死者や傷病者の数は夥しく、村の再建も覚束ない状況に、彼はすっかり絶望していた。
 鼻をつく血と膿の臭い、闇にこだまする苦痛の呻き。それらから少しでも離れたくて、一歩後ずさったとき――。

「……?」
 トリテレイアはふと、自分がいつの間にか分厚い本を抱えているのに気付いた。それは世界各地で収集した騎士道物語や御伽噺を書き記した書物。猟兵として様々な世界を巡るうちに、その分量は電話帳サイズにまで膨れ上がっていた。
「なんで私はこんな状況で後生大事に本なんか持っていて……」
 不思議に思いながらページを開くと、そこにはびっしりと手書きの字が綴られている。
 胸躍る騎士の活躍や、心温まる人と人のふれあい。現実の辛さをひととき忘れさせてくれる優しい物語の結末は、どれも「めでたしめでたし」で締めくくられていた。

「ああ、そうだ。本に綴られた数多の騎士の如く、清く正しく生きられたら。そんな事を想い日々を生きてきて……」
 幻影により白紙の自分に戻ったトリテレイアは、今改めて自分のルーツを思い出した。
 どんなに絶望的な状況でも、騎士は膝を屈したりしない。目の前に苦しむ人がいれば、騎士は逃げたりしない。御伽噺のようなまことの騎士ならば、きっと立ち向かうはずだ。
「……今がその時」
 憧れや理想に手を伸ばすべき時は今。打ちひしがれるだけの無力な自分を乗り越えて、彼は前に踏み出した。態度から弱々しさも消えて、いつもの調子が少しずつ戻ってくる。

「先ずは水と火の確保です」
 怪我人の手当てに飲料水や消毒用の熱湯は必要。物語にも書かれていたではありませんかと、トリテレイアは書物から学んだ知識を元に行動する。村は手ひどく破壊され物資も殆どが失われたが、知ってさえいれば利用できるものはまだ沢山ある。
「燃料は家屋の瓦礫を使うとして、井戸は……やはり潰されていましたか。近くの川から汲みましょう」
 自由に動くこの身体こそが、今は自分が持ちえる最大の資本。瓦礫運びも川での水汲みもかなりの重労働になるが、彼は労苦を惜しまない。騎士になると決めたなら、この程度で音を上げてはいられない。

「家畜は殺されても運搬用の荷車は修理すれば使える筈」
「お……俺も手伝おう」
 そんなトリテレイアの働きに感化されて、自ら協力を申し出る村人もちらほら現れる。
 猟兵としての力を忘れてしまったからこそ、一般人の範疇で事を為そうとする彼の姿に己を重ねる者もいたのだろう。彼自身が物語の騎士達に憧れを抱いたように。
「まだ諦めるな」「がんばろう!」
 そうした人々の助けもあって、不格好ながらも壊れた荷車の修理に成功する。車を牽く家畜が居ない以上、あとは人力でなんとかする事になるが、それでも手で抱えるより多くの荷物を運べるようになった。

「想像を絶する重さでしょうが……為さねば大勢死ぬのです。これくらい!」
 薪にする瓦礫や水汲み用の桶を荷車いっぱいに積み込んで、トリテレイアはうんと力を入れる。すると彼が思っていたよりもすんなりと、車はガタゴト音を立てて動き出した。
「……存外、運べますね」
 幻影に囚われていてもウォーマシンの身体機能が低下したわけではないのだ。思い込みでセーブされていた怪力が、逆境を乗り越えんとする意志によって解放されたのだろう。
 これならば行けると、彼はより一層村の救済のために尽力する。御伽噺の騎士のようになろうと奮闘するうちに、彼の錯覚はすこしずつ解けだしていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
荒れ果てた村、血の匂い、人々の嘆き
この光景は黒い炎が見せる幻
そして、あの日わたくしの故郷を襲った災厄
偽りと真実、二つの記憶が交錯する

純白の翼も、聖なる歌声も
「一介の無力な娘」の身ではただの気休めに過ぎない
それでも、目の前の人々が苦悶の果てに死にゆく悲劇を
ただ手をこまねいて見ていることなどできない

今この場に必要なのは「奇跡」ではなく「尽力」なのだと

清潔な水で傷を洗って
包帯を巻いて止血して
温かな粥で飢えをしのいで
一人でも多くの人を救う為に

それでも……この手から零れ落ちて救いきれぬ命があるならば
せめて安らかに眠れるよう鎮魂歌を
「あの日」救えなかった同胞の分まで
あなたが遺した願いを背負ってゆくわ



(この光景は黒い炎が見せる幻。そして、あの日わたくしの故郷を襲った災厄)
 荒れ果てた村、血の匂い、人々の嘆き。ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の心の中で、偽りと真実、二つの記憶が交錯する。これは幻影だと頭では理解しているはずなのに、突きつけられる衝撃的な光景から目が離せない。
「たすけて……」「かみさま……」
 恐怖と暴力に蹂躙され、心身とも深く傷ついた村人には、神に救いを求める者もいる。
 ただ死を待つことしかできない無力な彼らにできる事は、もうそれしかないのだろう。天の御使いとも呼ばれるオラトリオのヘルガに、すがるような視線が向けられる。

(純白の翼も、聖なる歌声も、一介の無力な娘の身ではただの気休めに過ぎない)
 今のヘルガにこの場にいる者達を救う奇跡はない。正確にはあったことを忘れている。
 だが、それでも彼女が何もせずにいる訳がない。目の前の人々が苦悶の果てに死にゆく悲劇を、ただ手をこまねいて見ていることなどできない。
(今この場に必要なのは「奇跡」ではなく「尽力」)
 涙をぬぐって、惨劇から目を逸らさずに直視する。現状をきちんと受け入れなければ、何をすべきかも分からない。人々の苦しみを少しでも和らげるために、彼女は今の自分にできることを始めた。

「すぐに手当てします。傷を診せてください」
 ヘルガは怪我人の具合を確認し、まずは清潔な水で傷を洗い、包帯を巻いて止血する。
 破壊された集落では残された物資も限られている。それでも、他の者が見つけてくれた物資を効率よく活用して、時には自らも村中をまわって必要なものをかき集める。
「このお鍋、使わせてもらって構いませんか?」
「あ、あぁ、いいよ……」
 水が足りなくなれば川まで汲みに行き、瓦礫から薪を集めて火をおこし、湯を沸かす。
 過酷な労働をこなすうちに、彼女の真っ白だった肌も翼も、泥にまみれて汚れていく。しかし本人はそれを気にする様子もなく、一人でも多くの人を救うために奔走し続けた。

「お粥ができました。食べられそうですか?」
 さらにヘルガは残された食糧で粗末な粥を作り、村人達にふるまった。たとえ傷病から一命を取り留めても飢えをしのげなければ明日はない。それに、温かい食事は人に活力をもたらしてくれることを、彼女はきちんと知っていた。
「あったかい……」
 差し出された粥を口にすると、村人の苦悶の表情がすこし和らいだ。おいしいと思えるのなら、それはまだ身体が生きたがっている証だ。陰鬱な絶望に包まれていた村に、少しだけ希望が戻ってくる。

 それでも――ヘルガが力を尽くしても、その手から零れ落ちて救いきれぬ命はあった。
 か弱きもの達のささやかな抵抗を嘲笑うように、死神が命をさらっていく。ゆっくりと冷たくなっていく村人の死に顔を、彼女は何度も見ることになった。

「……せめて安らかに眠れるよう鎮魂歌を」
 天国に旅立った人達のためにヘルガが捧げるのは、鎮魂の祈りをこめた【不屈の歌】。
 それは弔いの歌であると同時に、亡くなった者の存在を自らの心に刻みつけ、いかなる悪意や妨害にも負けぬ覚悟を誓う歌だった。
「『あの日』救えなかった同胞の分まで、あなたが遺した願いを背負ってゆくわ」
 かつては「天使の歌声を持つ歌姫」と称された、清らかなメロディが村中に響き渡る。
 祖国が滅びたあの日から今日までにあった全ての犠牲、全ての涙を忘れない。その高潔な意志は黒き炎の幻影を打ち破る力となり、人々の心身に癒しをもたらすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
これは酷い、どこもかしこも傷病人だらけです
俺も何か怪我をしたのでしょうか?外傷はないはずですが、頭が、胸が、喉が、いえ全身が焼けるかのようです
外傷のない俺でこれなら怪我や病に罹っている人は相当辛いはず
何か出来る事はあるでしょうか

【行動】POW
常時自身の中に滾る殺意+呪詛の怨念の炎を正体不明のまま感じながら、その痛みを起点に自分より苦しそうな周囲の人々に目を向ける
怨念や状況による混乱を各耐性と瞬間思考力で頭を働かせる事で誤魔化しつつ、周囲の瓦礫をどかし崩れた家や瓦礫の中から使える物を集める
人が横になれる場所ができたら自力で動ける人を先に処置し、動けない人の運搬の運搬や応急処置の手伝いを頼む



「これは酷い、どこもかしこも傷病人だらけです」
 オブリビオンに破壊された村の惨状を前に、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は静かな衝撃を受ける。表情に変化は乏しく落ち着いているようだが、よく見れば視線が泳いでいることから、内心ではかなり混乱しているようだ。
(俺も何か怪我をしたのでしょうか? 外傷はないはずですが、頭が、胸が、喉が、いえ全身が焼けるかのようです)
 それは先祖から代々受け継いだ殺意と怨念、そして呪詛。幻影に囚われ己のことを無力な一般人だと思い込んでいても、オブリビオン狩りを至上目的とする西院鬼一門の末裔、その狂気の炎は絶やせはしない。

「外傷のない俺でこれなら怪我や病に罹っている人は相当辛いはず。何か出来る事はあるでしょうか」
 無自覚で行き場のない怨嗟を正体不明のまま感じながら、織久はその痛みを起点に自分より苦しそうな周囲の人々に目を向ける。視界に広がる惨状と身体の内側から焦がす熱、そのふたつによる混乱も、今やるべきことに頭を働かせることで少しは誤魔化せた。
「村は壊されてしまいましたが、まだ残っているものがあるかもしれません」
 彼はまず、周囲の瓦礫をどかして崩れた家や瓦礫の中を調べ、使える物はないか探す。
 壊れた建物や家具の破片は薪に、破れた衣類は包帯代わりになるだろう。他にもへこんだ鍋や欠けた包丁など、少しでも役に立ちそうな物は片っ端からかき集めていく。

「動けますか? こちらへどうぞ」
「あぁ、ありがとうよ……」
 物資を回収するうちに、瓦礫をのけた場所には人が横になれるスペースができていた。
 織久はその場所にまずは自力で動ける人から先に案内し、止血等の処置を行う。普通は重傷者から先に救助が必要そうなものだが、これは後のことを考えての判断だ。
「これで大丈夫です。よろしければ、手伝っていただけますか」
「わかった。何をすればいい?」
 彼は手当てが済んだ村人に、動けない人の運搬や応急処置の手伝いを頼む。ここにいる傷病人全てを自分一人で対処するのは無理だ。だから人手を確保するために、比較的怪我の軽い者を優先したのである。

「こちらに乗せて、ゆっくり運びましょう」
「おう。せー、のっ……」
 瓦礫から集めた資材で簡単な担架を作り、重傷者を乗せて安静になれる場所まで運ぶ。
 自覚はなくとも戦いと鍛錬で鍛えられた肉体は、こうした労働においても役に立った。そして傷の具合をみて、今できる限りの応急処置を施す。
「あんた、落ち着いてるな。こんな状況だってのに」
「そうでしょうか」
 表情ひとつ変えずにそれらの作業をこなす織久を、助けられた村人のひとりが評した。
 確かに傍目には冷静に見えるかもしれない。だが内面で蠢く怨念の炎はむしろ激しさを増していた。表にそれが出ないのは、彼が持つ耐性の強さゆえだ。

「一体誰が、こんな事を……」
 傷ついた人々を助けながら淡々と呟く織久。まだ思い出してはいないはずなのに、その身からは狂戦士としての殺気が滲み出す。黒い炎の幻惑でも、かき消せなかった本性が。
 その様子は檻に入れられた飢えた獣が、解き放たれる時を待っているようでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
唯一無二と驕る魔神の性質は“無力な一般人”とは真逆
その声に四六時中晒されてる私も不本意ながら、
そういう暗示への耐性はある方なのだけれど……

認識できる自分の姿は猟兵として目覚める以前、
翼も無ければ人狼でさえない小娘のもの。魔神の声も聞こえない
幾つか推測は出来るにせよ、今はこの幻影を突破できる事だけ分かっていればいいわ
無力だなんて認めない。許さない。……このプライドだけは奪わせない

【衛生兵特級資格】は無力化の影響を受けているとしても、
《医術》《救助活動》そして《鼓舞》の心得は元々身に着けていたものよ
絶望とやらに立ち向かう事が幻影の突破に繋がるなら、
傷ついた人の幻に手当を施す事にも意味はあるでしょう



「私も不本意ながら、そういう暗示への耐性はある方なのだけれど……」
 カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)がその身に宿すのは、唯一無二と驕る魔神。その性質は"無力な一般人"とは真逆であり、その声に四六時中晒されている彼女は、今回の依頼を聞いてある程度は抵抗できると考えていた。
「……けど、これは酷いわね」
 いざ常闇の燎原に踏み入れれば、待ち構えていたように黒い炎が地面から燃え上がり、破壊された村の惨状と傷ついた人々の姿を見せる。幻だと分かっていても強烈な存在感、実体すら伴った光景に、さしものカタリナの認知も歪む。

「この姿は?」
 ふと気づけばカタリナの姿は、猟兵として目覚める以前に戻っていた。背中に翼はなく人狼でさえないただの小娘そのもので、魔神の声も聞こえない。幻影の影響で体まで変化したのか、あるいは認識できないように錯覚させられているだけか。
「幾つか推測は出来るにせよ、今はこの幻影を突破できる事だけ分かっていればいいわ」
 魔神の化身からただの一般人にされた彼女だが、その瞳の輝きだけは変わっていない。
 顔を背けたくなるほどの惨劇でも、決して目をそらさない。ぐっと握りしめた拳には、立ち向かう意志が込められていた。

「無力だなんて認めない。許さない。……このプライドだけは奪わせない」
 今の自分にもまだ出来ることはあるはずだと、カタリナは破壊された村内を駆け回る。
 【衛生兵特級資格】は無力化の影響を受けているとしても、人として地道に学んだ医術や救助活動、そして鼓舞の心得は元々身に着けていたものだ。
「すぐに助けるわ。気をしっかり保って」
 地べたに倒れた傷病人を安静にできる場所まで運び、限られた物資や手持ちの小道具を使って治療を行う。それは魔法のような劇的な効果はもたらさずとも、失われるはずの命をひととき繋ぎとめるには十分だった。

(絶望とやらに立ち向かう事が幻影の突破に繋がるなら、傷ついた人の幻に手当を施す事にも意味はあるでしょう)
 全ての重傷者を救うのは難しいかもしれない。だからといって諦めるつもりは無いし、手足を動かすのも止めない。必要なのは絶望に抗う意志を示すことだと分かっていた。
 その懸命な姿から発せられる熱量は、幻影とはいえ周囲にいる人々にも伝播していき、ただ死を待つだけだった彼らは少しだけ気力を取り戻す。
「ねえ……私にも何か手伝えない? あまり出来ることはないけど……」
「ありがとう。じゃあ、この患者さんの手を握っててあげて」
 おずおずとした申し出にカタリナは笑顔で応え、各自できる範囲での手伝いを任せる。
 猟兵のように特別な能力のない一般人でも、おのおのが出来ることをして支えあえば、きっと未来は切り拓ける。そう語って人々を励ましながら。

(周りの雰囲気が変わってきたわね)
 おそらく幻影の変化は、取り込まれた者が影響から脱しつつある事を示すものだろう。
 まだ翼や魔神の力は戻らないが、胸の奥には熱の高まりを感じる。今の方針が間違っていないのを確信したカタリナは、傷病者の救助により一層力を入れるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
以前、このような事を思ったことがある。
もし俺が弱々しかったら、多くの知識を持たなかったら、
俺は一体どうするのかと。
そして、今がまさにその時……か。
■行
【SPD】
答えは初めから分かっているだろう、清綱!
「己の想う最良の行動をする」、此の一択のみだ。

俺の想う最良は……持てる知識を以て、人々を救う事。
怪我をした人々の治療にあたるのだ。
先ずは止血や骨折部の固定など、適切な応急処置を行おう。
道具は刀に巻いた布など、使える物は何でも使うべし。

処置が済んだら、怪我の度合によって適切な姿勢を保たせるぞ。
勿論、この姿勢で辛くないかを聞くのも忘れない。

立ち止まるな……只管動き続けろ、清綱!

※アドリブ歓迎・不採用可



「以前、このような事を思ったことがある。もし俺が弱々しかったら、多くの知識を持たなかったら、俺は一体どうするのかと」
 常闇の燎原に突入する直前に、愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)はそんな事をふと呟いた。若き頃より鍛錬や勉学に励み、武術の達人の域に達した彼にはあり得なかったIFだが、だからこそ「無力な自分」がどのような道を歩んだのかについては興味がある。
「そして、今がまさにその時……か」
 燎原に一歩足を踏み入れば、たちまち大地から黒い炎が燃え上がり、周囲の景色が一変する。辺りには破壊された村の家屋や、地面に横たわる大量の怪我人や病人。この世界ではありふれた惨劇の舞台に、気づけば彼は観客ではなく役者の一人として立っていた。

「うぅ……痛いよぉ」「もう終わりだ、何もかも……」
 オブリビオンの襲撃にあった村の住人は、誰もが大小はあれど傷を負っていた。肉体的な怪我もそうだが、それ以上に深いのは心の傷。隣人の命を奪われ、生活の場を壊され、明日をも知れぬ状況に立たされた彼らは、多くが生きる気力を失い絶望していた。
(こんな状況で、今の俺は一体どうする?)
 清綱はじっと己の手のひらに視線を落とす。ここにいるのは百戦錬磨の武芸者でなく、ただの無力な一般人だ。それが錯覚だと薄々理解していても、抜け出せない幻影の強さ。依って立つ経験の積み重ねをなくした彼は、果たして何をするのか――。

「答えは初めから分かっているだろう、清綱!」
 一喝。あまりの声の大きさに、周りにいた村人達までもがハッと驚いた顔で振り返る。
 清綱は拳を固く握って、決意の表情をしていた。そうだ、例えこの身に力がなくとも、自分の選択肢は決まっていた。
「『己の想う最良の行動をする』、此の一択のみだ」
 迷うことなど何もない。己が選んだ道をまっとうする為に、彼はまた一歩を踏み出す。
 目前には傷つき苦しむ多くの人。この状況での「最良の行動」とは何かを考えながら。

(俺の想う最良は……持てる知識を以て、人々を救う事。怪我をした人々の治療にあたるのだ)
 そう決心した清綱は怪我人の元に歩み寄ると、まずは止血や骨折部の固定など、適切な応急処置を行う。そのために必要な道具も足りない状況だが、かき集めれば何とかなる。
(使える物は何でも使うべし)
 壊された家の廃材を添え木にし、刀に巻いた布を包帯代わりに。それでも布が足りなければ着物の袖を切るのも厭わない。非力な今の自分は、持てるもの全てを使わなければ、誰かを救うことなど到底できないのだから。

「これで良し。あとは此処で安静にするといい」
 応急処置を済ませた清綱は、次に怪我人をその度合いによって適切な姿勢を保たせる。
 姿勢が悪ければせっかく施した固定がずれたり、包帯がほどけることもある。負傷者の体に余計な負荷を与えないためにも、姿勢とは非常に大事なのだ。
「この姿勢で辛くないか?」
「ああ、さっきよりだいぶ楽になったよ……ありがとうな」
 勿論、考えるのは負傷者の容態が第一。気遣いの言葉をかける清綱に、相手はかすかな笑顔を見せた。絶望に打ちひしがれていた先程までとは明らかに違う表情が、彼の取った行動が間違いではなかったと証明してくれる。

「良かった。では俺は他の怪我人の様子を見てくる」
 一人を助けられても、手当てを必要とする者はまだまだ大勢いる。清綱は救助のために休みなく村を奔走するが、終わりは見える気配もない。幻影の中とはいえ疲労は蓄積し、気を緩めれば足元から絶望が忍び寄ってくる。
(立ち止まるな……只管動き続けろ、清綱!)
 それでも彼の精神力には些かの衰えもなく、心の中で己を叱咤し、肉体に活を入れる。
 歩みの成果は小さなものでも。踏みしめた足跡のひとつひとつが、この地を乗り越える道標になると信じて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『スケルトン』

POW   :    錆びた剣閃
【手に持った武器】が命中した対象を切断する。
SPD   :    バラバラ分解攻撃
自身が装備する【自分自身のパーツ(骨)】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    骸骨の群れ
自身が戦闘で瀕死になると【新たに複数体のスケルトン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 黒い炎が見せる恐怖と絶望の幻を、それぞれの方法で乗り越えようと奮闘する猟兵達。
 なかなか心が折れないのに業を煮やしたのか、常闇の燎原はより直接的な方法で彼らに絶望を与えようとし始めた。

「ひっ、また出たぞ!」「もうダメだ!」

 めらめらと燃え盛る黒い炎の中から"敵"が現れ、幻の村人達が恐怖の悲鳴を上げる。
 それは錆びた武器を持った人骨の群れ――スケルトン。失った生命や肉体への羨望から生ある者を襲い、上位の吸血鬼などに使役されることも多い下級のオブリビオンだ。

 本来ならこの程度の魔物、群れていようと猟兵にとってはさしたる脅威にはならない。
 だが今の猟兵達は「自分は無力な一般人だ」という錯覚から完全に抜けきれていない。
 幻影に抗う過程で徐々に自分を取り戻してきてはいるものの、武器やユーベルコードの扱いも本調子とはいかないだろう。

『―――……』

 物言わぬ死者の群れは、生者を恐怖と暴力で蹂躙し、絶望を与えようと武器を構える。
 無力な一般人の視点に立てば、ただのスケルトンですらこんなにも恐ろしい敵なのだ。猟兵達は今それを知識ではなく体感として理解していた。

 だが、ここで立ち向かうのを諦めてしまったら、常闇の燎原の探索は振り出しに戻る。
 たとえ万全の状態でなくても、勇気をもって敵を倒すことができれば、幻から脱出できるはずだ。

 破壊された村に再び現れたオブリビオンの群れ。傷つき、怯え、絶望する人々の悲鳴。
 この惨劇の幻影を打ち払い、本来の自分に戻るために――猟兵達は戦いの構えを取る。
リーヴァルディ・カーライル
…しまった。長居し過ぎた

…無力な私が生き残る為には、今すぐ彼らを見捨てて、この場から離脱する

…そうする他に生存の道はない。明白過ぎるほど明白なはずなのに…

…何故、私は彼らを守る為に戦おうとしている?
あまつさえ、この選択に満足感と誇り高さを感じているのは…何故?

無意識の怪力で反動を受け流しつつ銃を乱れ撃ち、
敵の体勢を崩しながら自問自答を行い幻影を打ち払いUCを発動
光の魔力を溜めた121本の魔刃による集団戦術で敵を浄化する光属性攻撃を放つ

…決まっている。私が、私自身の魂に誓ったからよ
人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を…とね

…消えなさい黒い炎、絶望の影よ。これ以上、私の心を操れると思うな



「……しまった。長居し過ぎた」
 傷ついた村人の治療にあたっていたリーヴァルディは、敵の足音を聞きつけるとはっと顔をしかめた。まだ生きている人間がいるのなら、魔物が再び襲ってくるのは予想できたことなのに。気がつけばスケルトンの群れがもうすぐ近くまで迫っている。
(……無力な私が生き残る為には、今すぐ彼らを見捨てて、この場から離脱する)
 賢明な彼女はすぐに現状での最良の判断を導きだす。非情だと誹られようと、この残酷な世界で生き抜くには他者を切り捨てる決断も必要だ。良識に囚われて残ったところで、皆殺しにされるだけなのだから。

「……そうする他に生存の道はない。明白過ぎるほど明白なはずなのに……」
 足が、後ろに動かない。気付けばリーヴァルディは一丁のマスケット銃を手に、敵の前に立ちはだかっていた。生者を蹂躙することしか頭にないスケルトンの群れは、突出した彼女に狙いを定めて襲ってくる。
「……っ」
 恐怖を感じながらも、無意識に身体に染み付いた動きで銃口を向け、トリガーを引く。
 二連装の銃身から放たれる弾丸は、群れの先頭にいたスケルトンを衝撃で吹き飛ばす。
 その戦果と銃声はさらなる【骸骨の群れ】を彼女の元に集めるが――恐ろしいはずなのに、逃げるべきなのに、不思議と後悔はしていない。

「……あまつさえ、この選択に満足感と誇り高さを感じているのは……何故?」
 自問自答を行いながら「吸血鬼狩りの銃・改」を乱射するリーヴァルディ。反動の大きい大口径銃を撃ってもよろけないのは、人並み外れた怪力ゆえ。錯覚に囚われていても、戦う力は彼女の中にある。そして、戦う理由も。
「……決まっている。私が、私自身の魂に誓ったからよ。人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を……とね」
 誓いの言葉を口ずさんだ瞬間、リーヴァルディは完全に幻影を打ち払い、本来の自分を取り戻した。黒き外套をなびかせ、右手には大鎌を、左手には銃を。誇り高き闇の救済者にして吸血鬼狩人、リーヴァルディ・カーライルはここに復活を遂げる。

「……この刀身に力を与えよ」
 リーヴァルディは【吸血鬼狩りの業・魔刃の型】を発動し、光の魔力を宿した121本の結晶刃を召喚する。彼女が一言ささやけば、その刃は敵群を駆逐すべく一斉に飛翔する。
『――……!!』
 ひとたび猟兵が本気を出せば、ただのスケルトンなど今さら敵ではない。飛び交う光の魔刃に切り裂かれ、生者への怨嗟を浄化され、ただの骨に戻ってバラバラと崩れ落ちた。
 思惑が外れ動揺するオブリビオンどもを睨み、黒衣の少女は毅然とした態度で告げる。

「……消えなさい黒い炎、絶望の影よ。これ以上、私の心を操れると思うな」
 リーヴァルディが一体敵を倒すたびに、周囲で燃え盛る黒い炎の勢いが弱まっていく。
 それと呼応して幻影も薄れていくのを確認した彼女は、121の魔刃をもって更に苛烈に敵を追撃する。ひとたび軛を脱した彼女を縛められるものは、もうここにはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
くっ……骸骨の怪物が攻めてきたというのか……
動ける状態で無い怪我人達も多い
ここは何とかして守らねば……!

弓を手にして、治療した怪我人達のいる建物を背に敵を迎撃だ
骨を相手に弓矢がどこまで通じるかは解らぬが、
それでも何もせずに怪我人達を見捨てるわけにはいかぬ!

最初は通じぬとしても、次第に弓矢に<破魔>の力が宿れば
下級のオブリビオンを倒す事は出来るはずだ

そうして敵を倒していけば
何れは我が何者かが掴めるはずだ

我は神鏡、ヤドリガミの猟兵なり
『天神遍く世界を照らさん』
本体の神鏡より放つ光で戦場が清浄なる神域と化せば
もはやスケルトン如きに遅れは取らぬ!

●アドリブ連携歓迎
●本体の神鏡へのダメージ描写NG



「くっ……骸骨の怪物が攻めてきたというのか……」
 カタカタと不気味な音を響かせてやってくるスケルトンの群れに、眉をひそめる百々。
 心はまだ錯覚から脱しきれてはいない。「無力な一般人」の視点では、ただの白骨でも恐るべき強敵になるが、彼女にはまだ逃げ出せない理由があった。
「動ける状態で無い怪我人達も多い。ここは何とかして守らねば……!」
 たとえ我が身を危険に晒しても、助けを必要とする者達を捨て置くことなどできない。
 幼き少女は古めかしい弓を手にして、治療した怪我人のいる建物を背に敵を迎え撃つ。

「汝らの相手は我である!」
 小柄な身を張って勇ましく宣言し、百々は近付いてくる敵に弓を引く。錯覚はあっても体は射法を覚えていたのか、放たれた矢は過たずスケルトンの眉間を捉えるが――大したダメージを受けたようには見えない。
(骨を相手に弓矢がどこまで通じるかは解らぬが、それでも何もせずに怪我人達を見捨てるわけにはいかぬ!)
 不利など始めから承知の上で、彼女は一歩も退かずに矢を射続ける。自覚をなくしても決して変わることのない魂のあり方、鏡のように曇りなき心が敵に立ち向かう志となる。

『………!!』
 やがて変化は訪れる。最初のうちはまったく効いていなかった矢が、神々しい光を放って標的を追尾するようになる。その矢に射抜かれたスケルトンは怨念を浄化され、力なく地面に散らばった。
「この力は……!」
 神弓「天之浄魔弓」の力を引き出すことができた。それは百々自身が次第に本来の力を取り戻しつつある証。夢中になって光の矢を放ち、押し寄せる【骸骨の群れ】を打倒していくうちに、彼女は己が何者かを掴んでいく。

「我は神鏡、ヤドリガミの猟兵なり」
 その宣言と同時に、百々の本体である「天神鏡」が眩い輝きを放つ。日輪を連想させるその光に恐れをなしたように、黒い炎が勢いを弱め、周囲の幻影がぼやけて消えていく。
 そう、この身に映すは真実と未来。偽りの幻影を暴き、邪なる過去を討ち、人々を助け導く事こそ我が信条なれば。斯様なところでこれ以上、手をこまねいている暇はない。
「これにてこの地は神域と化した。悪しき者よ、その罪を悔い改めるがよい」
 完全復活を遂げた彼女は【天神遍く世界を照らさん】と、神鏡より放つ光で戦場を清浄なる神域に変える。万物を遍く照らす主神の威光の前では、悪しき闇の住人は本来の力を発揮できない。機敏だった白骨の群れの動きが明らかに鈍っていく。

「もはやスケルトン如きに遅れは取らぬ!」
 百々がぐっと力を込めて弓を引くと、光の矢はこれまで以上の輝きを放って敵を貫く。
 これが本来の彼女の実力だ。スケルトンの群れは新たな仲間を呼ぶ間もなく破壊され、骸の海に還っていく。その勇姿を晴れやかに神々しく、破魔の神鏡の光が照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
見縊られたものね。
雑兵如き……と言ってもいいけれど本質はそこじゃないわ
どれだけの障害を用意したところで私の歩みを阻ませはしない
夜明けは必ず訪れる。昇らない朝日なんて無いのよ

使うUCは【空覇絶閃】
猟兵として目覚める以前から磨き上げた私の剣技、その結晶
……とはいえ普通のダガーだと万全にはまだ遠いわね

《第六感+戦闘知識》で敵群の動きを読み手頃な一体に《暗殺》の要領で
至近から【空覇絶閃】を叩き込み仕留め武器を奪うわ
ナマクラでも剣は剣、ダガーで無理やりに振るう剣技とは訳が違うわよ

いつまで遊んでいると苛立つ魔神の声が聞こえる
《武器改造》で使い慣れた騎士剣へと再錬成
【空覇絶閃】の本領で纏めて斬り捨てましょう



「見縊られたものね。雑兵如き……と言ってもいいけれど本質はそこじゃないわ」
 村に迫るスケルトンの群れを眺め、カタリナは普段と変わらない余裕の笑みを見せる。
 幻影の影響はまだ残ってはいるが、だからとて暴力による蹂躙で恐怖と絶望を与えようという浅はかな狙いに屈する彼女ではない。
「どれだけの障害を用意したところで私の歩みを阻ませはしない」
 手にするのはどこでも入手できるようなごく普通のダガー。長く使ってきた得物を構えて、彼女は自分から敵の群れに立ち向かっていく。臆していては何も守れはしない、道は自分の足で切り拓くのみだ。

「森羅万象、我が刃の前にこそ等しく。天命を知れ――なんてね」
 仕掛ける技は【空覇絶閃】。猟兵として目覚める以前から磨き上げたカタリナの剣技、その結晶。ゆえに幻影に囚われた現在も放つことができ、剣閃は鋭くスケルトンを抉る。
「……とはいえ普通のダガーだと万全にはまだ遠いわね」
 普段の威力を発揮できていなら一撃で斬り伏せていたはずだが、敵はまだ動いている。
 逆に折れた骨も含めた自分のパーツを複製し、【バラバラ分解攻撃】で反撃してきた。

「だけど問題はないわ」
 カタリナは取り戻してきた戦闘の勘と知識を頼りにして、念力で操作された骨の群れの動きを読み、その隙間をするりと抜ける。そして手頃な一体に死角から迫ると、至近距離からもう一度【空覇絶閃】を叩き込んだ。
『……!!!』
 暗殺術の要領で放たれた鋭い斬撃は今度こそ標的を仕留め、あとにはバラバラのままの骨が地面に散らばる。彼女はその中から敵が持っていた武器を拾い上げると、軽く振って使い心地を確かめてから次の敵へと向かった。

「ナマクラでも剣は剣、ダガーで無理やりに振るう剣技とは訳が違うわよ」
 敵から武器を奪ったことでカタリナの技はより冴え渡り、次々に敵を斬り倒していく。
 同時に黒い炎の勢いも弱まり、頭の中にかかっていた靄が晴れる感覚がする。その時、彼女は自分の中から響く"声"を聞いた。
『いつまで遊んでいる』
 苛立った様子のそれは彼女に宿る魔神の声。また聞こえるようになったということは、制限されていた権能もどうやら回復したらしい。軽く力を込めてみると、手に持っていたなまくらな剣が、使い慣れた騎士剣へと再構成される。

「これでようやく本領を出せるわね」
 万全の状態に復帰したカタリナが放つ、三度目の【空覇絶閃】。それはもはや肉眼では捉えられず、研ぎ澄まされた斬撃は概念すら断ち斬る。斬られたことにも気付かぬまま、真っ二つになったスケルトンの骸が荒野に散る。
「纏めて斬り捨てましょう」
 その宣言通り、舞うが如く騎士剣を振るう彼女の周りで、敵は余さず殲滅されていく。
 閃風の舞手カタリナ・エスペランサ。その自由なる道行きを阻めるものは誰もいない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
あれが敵!?怖いよ!でも、なんでだろう、その咲きには美味しいものが待ってる気がする!

木の枝を持って構えるよ。力が沸いてくる。ぼくたちがこの町を救うんだ!

うわぁ!あんなのあたったら死ぬ!当たらないように、隙をねらって、すばやく離れないと。

わからないけど、ぼくはこの戦い方を知ってる気がする。身体が動く。これならいけるかも。



「あれが敵!? 怖いよ!」
 カタカタと音と立てて迫ってくる不気味なスケルトンの群れに、アリスは怯えた様子で泣きべそをかく。まだ幻影の錯覚が強く残っているのか、普段あまり見られない反応だ。
「でも、なんでだろう、その咲きには美味しいものが待ってる気がする!」
 そんな状態でも彼女の気質、よりドラマティックなお話を食べたいという【物語中毒】な性分は変わらない。恐怖にめげずに落ちていた木の棒を持って構えると、不思議と力が湧いてくる気がした。

「ぼくたちがこの町を救うんだ!」
 そう意気込んで敵の群れに突っかかっていくアリス。対するスケルトン達はひゅんっと手に持った剣を振るい【錆びた剣閃】を放つ。実力は下級オブリビオンのそれとはいえ、並の人間の剣士では到底及びもつかない威力だ。
「うわぁ! あんなのあたったら死ぬ!」
 アリスの威勢の良さは、その剣技を見るなりすぐに吹き飛んだ。しかし逃げ出すつもりはないようで、繰り出される斬撃をやや不格好ながらも躱している。小柄な体格ゆえ攻撃が当たりづらいのもあるだろうが、それを差し引いても素早い。

「当たらないように、隙をねらって、すばやく離れないと」
 アリスは恐怖を集中力にかえて意識を研ぎ澄ませ、スケルトンの動きをよく観察する。
 数は多くて剣閃も鋭いが、連中の動きはワンパターンだ。事前のモーションが分かれば見切るのは不可能ではなく、そして攻撃を出した後には必ず隙ができる。
「えいっ!」
 錆びた武器を空振った後の無防備な頭蓋骨めがけて、力いっぱい木の棒を叩き付ける。
 その一発だけでは流石に倒せないが、よろめかせることは出来た。スケルトンが体勢を立て直すまでに、アリスはさっと剣の間合いから離れる。

(わからないけど、ぼくはこの戦い方を知ってる気がする)
 殴っては逃げ、逃げては避けて、また殴る。そんな戦い方を繰り返すうちに、アリスの動きは徐々に洗練されて無駄がなくなっていく。最初は大袈裟に避けていた敵の攻撃も、今では最小限の動作だけで紙一重で躱すようになった。
『………?!』
 木の棒を振るう攻撃もより的確に、骨の脆くなっている部分を叩くように。何度も同じ弱点に攻撃を叩きつけられたスケルトンは、とうとうパキンと音を立てて砕け、崩れた。

「身体が動く。これならいけるかも」
 無意識のうちに発動していたユーベルコードが、アリスの身体能力を増大させている。
 恐怖に震えていた少女が勇気をもって恐ろしい怪物達に立ち向かい、勝利する。まさに彼女が好むドラマティックな展開そのものを、彼女は今「当事者」として味わっていた。
 スケルトンが一体倒れるたび、黒い炎が消えていく。それはこの物語のクライマックスが近付く証でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
仁義なき愛と青春の(略)という新たな映画による恐怖と超展開の嵐をそれぞれの方法で乗り越えようと奮闘する出演者達。なかなか思うように撮影が進まないのに業を煮やしたのか、カビパンはより直接的な方法で彼らに演技指導し始めた。

「ひっ、また姉さんが!」「もうダメ!」

めらめらと燃え盛る炎の中から"鬼監督"が現れ、出演者達が恐怖の悲鳴を上げる。

「次は酔いどれセフィリカのパートよ」

「酔っ払いエルフのセフィリカが未成年飲酒で捕まる!そこで始める大逆転裁判劇。スケルトン達の協力で実は二十歳だったことが証明され無罪を勝ち取る感動の場面!!」

「次物語のパート、母シェルファを訪ねて離れ離れ三千里のベルが復讐しに行く!」


ベルリーナ・シリアス
私は姉の横暴撮影行為に断固として抗議したが、それは流された。どうして我が一家は私の話は誰も聞いてくれないのだろうか?本調子ではないベルリーナはツッコミが限界を超えたので、しゃがみこんで地面に「の」の字を書いていたら監督にシバかれた。

そうしていたらエキストラのスケルトン達と演じることに。悪霊の姉となんか仲良くしている…
私は余程悲壮な顔をしていたのだろうか?セフィリカさんとシェルファさんどころか、骨だけのスケルトンのエキストラ達ですら明らかに可哀相な人を見るかのような雰囲気で、気遣ってくれた。そして何とかこのパートの撮影を終えられた。

骨にまでこんな配慮してもらう私って、一体なんなんだろう。鬱だわ…


セフィリカ・ランブレイ
カビィちゃん(f24111)、ベルちゃん(f35149)と

手には最強の武器があるのに、迫るスケルトン程度の群が怖いなんてね……
この場の影響からは、抜け切れてないか

ベルリーナちゃんも、この光景に恐怖を覚えているはず
守ろう……!
同志を守ろうとする心が、恐怖を和らげてくれる…!

『むしろ別の心労で恐怖を感じてる暇もないみたいね』

寧ろまともを訴え続けて心が折れてるな……
この場の空気に一切動じてないあたり流石カビィ妹

まだ仁義なき愛の(略)の撮影を強行する気!?
この脚本、私が未成年飲酒で逮捕とか最悪か!

この美少女に逮捕されるレベルの酒乱を演じろなんて無粋な

スケルトンのほうも既に撮影側に取り込まれてる……
でも、それなら!

ベルちゃん、(いい感じのハリセンを手渡しながら)

あのスケルトンは倒さなきゃならない相手だよね
つまりやっていい。それを使って撮影するカビィちゃんをやってもノーカン。

反逆、しようぜ、一緒に!

『ナチュラルな味方殺しの思考ヤバいわよ。でもアレ、味方ってくくっていいのか分からない存在だし、いいか』



「手には最強の武器があるのに、迫るスケルトン程度の群が怖いなんてね……」
 蒼き魔剣シェルファをぐっと握りしめながら、セフィリカは迫りくる敵を睨みつける。
 勝てる相手だと頭では分かっているはずなのに、体がすくむ。まるで始めて剣を握った時のような感覚だ。天賦の剣才も魔剣の力も、今は万全に発揮できる気がしない。
「この場の影響からは、抜け切れてないか」
 自分を「無力な一般人」だと思わせ、暴力と蹂躙にて恐怖と絶望をもたらさんとする、常闇の燎原の黒い炎。改めて厄介な幻だと実感しつつも、彼女には退けない理由がある。

(ベルリーナちゃんも、この光景に恐怖を覚えているはず)
 敵に剣を向けたままちらりと視線を動かすと、しゃがみこんで俯いているベルリーナの姿が見えた。戦力的には一般人と大差のない彼女が、いきなりこんな危険な戦場に放り込まれたのだ。感じる恐怖はセフィリカ以上でもおかしくない。
(守ろう……! 同志を守ろうとする心が、恐怖を和らげてくれる……!)
 王族としての養育の賜物か、あるいは生来の気質か。守るべき相手がいる時こそ彼女は奮起し、恐怖に立ち向かう勇気を得る。どんなに不利な状況でも、絶対に負けはしない。
 ――の、だが。よくよく様子を見てみると、ベルリーナのほうは単純に敵に怯えているわけではなさそうだった。

「もうやだ、私疲れた……」
 ベルリーナにとって現在最大の敵は、スケルトンではなく姉のカビパンのほうだった。
 彼女は姉の横暴撮影行為に断固として抗議したが流され『仁義なき愛と青春の(略)』なる作品に無力な一般人役とかで勝手に出演させられ、いい加減疲れてしまったらしい。
「どうして我が一家は私の話は誰も聞いてくれないの……?」
 幻影の影響で本調子ではない彼女はとうとうツッコミが限界を超えて、地面に「の」の字を書いていた。それは傍目からは現状に絶望しきっているようにしか見えないだろう。

『むしろ別の心労で恐怖を感じてる暇もないみたいね』
「寧ろまともを訴え続けて心が折れてるな……この場の空気に一切動じてないあたり流石カビィ妹」
 シェルファとセフィリカもベルリーナの様子が違うことにはすぐに気付く。この状況下で恐怖よりもツッコミ疲れが先にくるのは、方向性は違えど血は争えないと言うことか。それだけカビパンに疲弊させられている事実については深く同情する。
「ほら、何サボってるの!」
「ひっ、また姉さんが!」
 そんな可哀想な妹を容赦なくシバき倒すのは【ハリセンで叩かずにはいられない女】ことカビパン監督。こっちはこっちで撮影がなかなか思うように進まないのに業を煮やし、恐怖や絶望なんてそっちのけであった。

「ほらセフィリカさんも準備して! ベルも立ちなさい!」
「まだ仁義なき愛の(略)の撮影を強行する気!?」
「もうダメ!」
 めらめらと燃え盛る炎の中から現れる"鬼監督"に、出演者達が恐怖の悲鳴を上げる。
 シリアスになりかけた空気はすぐさまカビパンのペースに支配されてしまい、本来なら恐怖を与えるはずだったスケルトン達は立場を取られて呆然と立ちつくす。
「ここからは私が直接的に演技指導するわ!」
「嫌な予感しかしない……」「やっぱり守らないと……!」
 新たな映画を完成させるためならあらゆる方法を辞さない監督と、恐怖と超展開の嵐をそれぞれの方法で乗り越えようと奮闘する出演者達。両者の戦いは本題とは関係なく繰り広げられ、熱を増していく。

「次は酔いどれセフィリカのパートよ」
 こうして撮影は波乱万丈ながらも進められ、中盤の山場と言えるシーンがやってくる。
 カビパンの指示でしぶしぶ台本に視線を落としたセフィリカは、そこに書かれた内容に目を疑った。
「この脚本、私が未成年飲酒で逮捕とか最悪か!」
 国や時代によって飲酒が許される年齢は違うが、彼女は御年20才。だいたいの国の法ではもう成人である。別人設定でもないのに謂れのない罪を着せられるのは、いくら映画でも嫌過ぎる。

「酔っ払いエルフのセフィリカが未成年飲酒で捕まる! そこで始める大逆転裁判劇。スケルトン達の協力で実は二十歳だったことが証明され無罪を勝ち取る感動の場面!!」
 そうシーンの内容を語るカビパンはノリノリだったが、周囲の空気はどんよりムード。
 絶対ロクなことにはならないという確信が、これまでの経験から出演者達にはあった。
「あ、ベルはエキストラのスケルトン達と一緒ね」
「えぇ……なんか仲良くしてる……」
 メインを張るセフィリカとは対照的に、ベルリーナはスケルトンの群れの中に放り込まれていた。普通なら袋叩きにあうが、悪霊であるカビパンはいつの間にか死体の彼らとも波長があったようで、いつの間にか出演者にされていた。

「この美少女に逮捕されるレベルの酒乱を演じろなんて無粋な」
 セフィリカのほうは酔いどれエルフ役に大層不満があるご様子で、ほっぺを膨らませてぷんぷん怒る。しかし今までの経験からして、ギャグ世界でカビパンに直接的に逆らっても意味がないのは分かっている。
「スケルトンのほうも既に撮影側に取り込まれてる……でも、それなら!」
 だがその経験が彼女に、あの鬼監督に一泡吹かせるアイデアを思いつかせた。このまま撮影が続いても絶対ロクなことにはならない。作品のクオリティを上げるためにも、どこかで軌道修正をかけるのだ。

(私って余程悲壮な顔をしていたのかな?)
 一方でベルリーナのほうは心が折れかけていた。セフィリカとシェルファどころか、骨だけのスケルトンのエキストラ達ですら明らかに可哀相な人を見るかのような雰囲気で、自分のことを気遣ってくれるのだ。
(骨にまでこんな配慮してもらう私って、一体なんなんだろう。鬱だわ……)
 お陰でなんとかこのパートの撮影は終えられたものの、いたわるようにぽんと肩を叩く骨の手が逆に辛い。すっかり精根尽きた彼女は再びしゃがんで「の」の字を書きだした。

「ベルちゃん」
「え、セフィリカさん……?」
 そんなベルリーナの元に話しかけてきたのはセフィリカ。彼女はにこりと優しい笑顔を見せると、【ガジェットショータイム】で召喚したいい感じのハリセンをそっと手渡す。
「あのスケルトンは倒さなきゃならない相手だよね。つまりやっていい。それを使って撮影するカビィちゃんをやってもノーカン」
 敵の敵は味方なら、敵の味方は敵理論。わるいスケルトンを利用してわるいことをする猟兵がいるなら、それを懲らしめるのも同じ猟兵と身内の務めではなかろうか? そんな理論武装を展開しつつ、エルフの姫は今日イチの笑顔で告げる。

「反逆、しようぜ、一緒に!」

 理不尽なるカビパンのもたらす恐怖と絶望に抗うときは今だと、なんかドラマチックな雰囲気でセフィリカはベルリーナをそそのかす。あっちが超展開の嵐で襲ってくるなら、こっちも超展開返しで対抗するのだ。
『ナチュラルな味方殺しの思考ヤバいわよ。でもアレ、味方ってくくっていいのか分からない存在だし、いいか』
 シェルファのほうも消極的賛成、というか黙認の態度を取ったため、もはや止めようとする者は誰もいない。差し出された反逆の剣(ハリセン)を、ベルリーナは少しの間じっと見つめていたが――やがて決意したように握りしめる。

「次物語のパート、母シェルファを訪ねて離れ離れ三千里のベルが復讐しに行く!」
 鬼監督カビパンは相変わらずバシバシとハリセンをはたいて撮影の指揮を執っている。
 これまではなんやかんやで彼女の思惑通りにシーンは進んでいた。だが今回は違う――カメラが回り始めた瞬間から、出演者達はハリセンを振りかざして鬨の声を上げる。
「「復讐するは我らにあり!!」」
 スパーンッ! と快音を響かせてスケルトン共をしばき倒し、セフィリカとベルリーナが猛然とカビパンに向かっていく。ここは邪悪な魔物を使役する悪霊に被害者が復讐しに行くシーン。そういうことにしてギャグ世界のノリに適応しつつゴリ押しするつもりだ。

「え? ちょっと脚本と違うわよ」
「うるさい!!!」
 困惑するカビパンに一番槍をかましたのはベルリーナ。日頃の鬱憤を込めて叩きつけられたハリセンは、いい感じにバシッと相手の横っ面を張り飛ばして、空中に舞い上げた。
「ナイストス!」
「ごふっ!!」
 そこにセフィリカの追撃も見事に決まり、地面に叩き落されたカビパンはスケルトンの群れの中にシュートイン。ボウリングのピンのように白骨がバラバラと散らばっていく。

「やっぱりドラマにはカタルシスがないと。ベルちゃんはどうだった?」
「少しすっきりしました!」
 シーンの改変と復讐と敵の掃討を一挙に果たし、清々しい笑みを浮かべるセフィリカとベルリーナ。すっかり忘れ去られた黒い炎はちろちろと弱火になり、幻影が薄れていく。
 すでに最強の敵を倒したような雰囲気だが、果たして本題は覚えられているだろうか。ギャグ時空に適応した今の彼女達なら、どんな絶望もある意味怖くはないだろうが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
現れましたね、怪物。
こんなに大勢……ですが、私も兵士です。
村を守るため、退く訳には行きません。
本当なら一体を相手にするにも複数でかかりたいのですが、一人であっても戦って見せます。
敵の武器も剣、まずは距離をとって対応しましょう。
【おびき寄せ】て村から引き離すように動きます。
岩や木陰に隠れて呼吸と心を整え、不意を打つチャンスを待って。
私の剣がどれだけ通用するか不安ですが【勇気】を振り絞って
スケルトンに斬りかかります。
通るはずがない刃。
私自身、それがある程度敵にダメージを与えている事に驚きましたが、気付けば手にしたボロボロの剣も綺麗に輝いています。
そう、思い出して来ました……戦い方、斬り方を!



「現れましたね、怪物」
 夜闇の中からわらわらと湧いて出たスケルトンの群れを、ハロは正面から睨みつける。
 他の者達とは違って、彼女はすでに臨戦態勢だ。装備はボロボロの剣と衣服だけでも、どんなに不利な戦いだとしても、立ち向かう覚悟はもうできている。
「こんなに大勢……ですが、私も兵士です。村を守るため、退く訳には行きません」
 ここで敵を追い払えなければまた村に被害が出る。今度こそ村人は全滅かもしれない。
 これ以上は誰も殺させない。決意を宿した少女の眼差しは、凛として澄みきっていた。

「本当なら一体を相手にするにも複数でかかりたいのですが、一人であっても戦って見せます」
 他の者達もめいめい自分のことで手一杯。援護は望めない。多数の敵相手に単騎で挑むことになったハロは、まずは敵を村から引き離すように動く。不利な戦いだからこそ冷静に、ただ突っ込むだけでなく策を巡らせなければ。
「さあ、私が相手です」
 剣を振りかざして挑発すると、スケルトンはまず手近な生者から殺す気なのだろうか、錆びた剣を手に襲い掛かってくる。カタカタと骨が鳴る音はまるで嘲笑のようで、ひどく不気味だ。ハロは一見それから逃げだすように、くるりと背を向け村外れへと走る。

(敵の武器も剣、まずは距離をとって対応しましょう)
 敵はハロの思惑通り、まんまとおびき寄せられてきた。連中の【錆びた剣閃】の間合いに入らないよう気を付けながら、村から十分遠ざけられたところで岩や木陰に身を隠す。
『………?』
 あちらに索敵能力はないようで、追ってきた獲物を見失ったスケルトン達はうろうろと辺りを徘徊する。このまま隠れていれば生き残れるかもしれない――そんな考えがふと、ハロの脳内によぎる。

(いいえ。やらないと)
 臆病な考えはすぐに捨て、ハロは呼吸と心を整える。生き残るのではない、守るのだ。
 こちらを見失っている今は不意を打つ絶好のチャンス。もたもたしていれば機を逸し、敵がまた村に戻ってしまうかもしれない。それだけは絶対に防がなければ。
(私の剣がどれだけ通用するか不安ですが……)
 それでも勇気を振り絞って、頼りない武器を握りしめ、意を決して怪物に斬りかかる。
 敵の死角から、ただ一心不乱に剣を振るう。その瞬間、彼女の剣閃は本人すら思いもよらぬ鋭さで、スケルトンの骨体を傷つけた。

「……通った?」
 通るはずがない刃だった。ハロ自身、それがある程度ダメージを与えている事に驚いている。だが気付けば手にしたボロボロの剣は綺麗に輝いていて、研ぎ澄まされた刃に自分の顔が映っている。幻覚と錯覚のせいでずっとボロボロに見えていただけだったのだ。
「そう、思い出して来ました……戦い方、斬り方を!」
 頭の中にかかっていたモヤが晴れ、身体に力が戻ってくる。勇気をもって錯覚を脱したハロはもう一度、さらに鋭い斬撃を放つ。妖狐の霊力を宿した「リトルフォックス」から繰り出される【剣刃一閃】は、今度こそ敵を真っ二つに両断した。

「私が、私と剣達がお相手いたします!」
 復活を遂げたハロは高らかに、より力強く宣言する。本来の戦い方さえ思い出せれば、もはやスケルトンなど敵ではない。剣刃が閃くそのたびに、白骨がバラバラに四散する。
 幼き頃から積み重ねてきた技術が、敵を討つ。それは、守るために手にした力だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
もう一度襲われたら次は誰も生き残らない
全身が焼ける、喉が渇く。これは恐怖でしょうか

否、これは餓え。ああそうだ
俺は、喰らわなければ

【行動】POW
オブリビオンを前にした事で呪詛+殺気の怨念が強まり狂気と呪詛耐性を越え始める
勇気ではなく怨念による闘争心で一般人らしい感覚を塗り潰し、それに合わせて滾る怨念に共鳴した黒酸漿が顕現

五感と第六感+野生の勘で状況を把握し戦闘知識+瞬間思考力で敵の行動を予測し見切る能力を充分に扱えない分を黒酸漿で補助
黒酸漿の鎧を砕く怪力+捕食と巨体によるなぎ払いで敵陣に穴を空ける
敵がそちらに気を取られた所にUC+怨念の炎の範囲攻撃で周囲をなぎ払う



(もう一度襲われたら次は誰も生き残らない)
 まだ傷も癒えきっていない内に訪れたスケルトンの襲来。絶望的な状況の中で、織久は自分の裡なる燻りが強くなっているのを感じていた。まるで体の中に炉心があるようだ。ぐっと胸を押さえても、痛みも熱もいっこうに消えてくれない。
(全身が焼ける、喉が渇く。これは恐怖でしょうか)
 普通なら恐怖に囚われた人間は血の気が引いて冷たく感じるものだという。しかし今の彼の状態は真逆だ。恐怖と絶望の象徴――オブリビオンの群れが近付いてくればくるほど血は滾り、心は荒ぶり、底なしの衝動が湧き上がってくる。これは本当に恐怖なのか?

「否、これは餓え。ああそうだ」
 その衝動の名を思い出した織久は、それまでとは違う殺意の宿った眼差しで敵を見る。
 怨敵たるオブリビオンを前にした事で西院鬼一門の呪詛と殺気の怨念が強まり、本人の耐性を越え始めたのだ。内にて渦巻く殺意と狂気が、彼に何をすべきかを教えてくれる。
「俺は、喰らわなければ」
 勇気ではなく怨念による闘争心で一般人らしい感覚を塗り潰す。それに合わせて、百貌の化身である大蛇「黒酸漿」が、滾る怨念に共鳴して顕現する。織久と同じ鬼灯のような赤い目が、群れなすスケルトンどもをじろりと睥睨した。

「まだ能力は充分に扱えないか」
 我を取り戻した織久は冷静に状況を把握し、全感覚と直感を研ぎ澄ませてスケルトンと対峙する。普段ならあの程度の敵の行動を予測し見切るのはたやすいが、知識も思考力も鈍っている今はそうもいかず、黒酸漿の補助が頼りだ。
「存分に喰らえ」
 織久が命じれば黒き大蛇は巨躯をうねらせて泳ぐように飛び、敵の群れに襲いかかる。
 鎧をも砕くその牙をもってすれば、スケルトンの骨を噛み砕くなど簡単なこと。さらに尾をひと振りすれば轟とすさまじい風切り音が鳴り、何体もの敵が同時に薙ぎ払われた。

『……!!』
 巨躯と怪力による圧倒的な蹂躙に、敵も警戒を強めたのか。それまでか弱い人間ばかりを襲っていたスケルトン達は、目の前の大蛇に標的を変えて【錆びた剣閃】を仕掛ける。
 だが、そちらに気を取られれるのは織久をフリーにする事でもある。獲物が自分から目を逸らした隙を逃さず、西院鬼の狂戦士は【殺意の炎】を開放する。
「焼き尽くす」
 常闇の燎原に燃える黒い炎よりもなお昏い、何代にも渡り継承された怨念と殺意の炎。
 それは黒酸漿が敵陣に開けた穴に襲い掛かり、周囲のスケルトンを纏めて焼き払った。

「我等が怨念尽きる事なし」
 自らの個を捨てて「我等」と称し、敵を狩り怨念の糧とする事に全てを懸ける。それが織久の本来のあり方。およそ一般人とはかけ離れた道だが、彼は往くことに迷いはない。
 消えることなき怨念と殺意の炎が、愚かな白骨の群れもろとも燎原の炎をより深い黒に塗り潰していく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
き、来ましたね、化け物共…!
怪我人がいる場所に向かわせる訳にはいかないのです!

こっちです!

誘き寄せるは、事前に罠を仕掛けた場所
穴に落ちた敵へ投石器(スリングショット)で石を放ち
(世界知識・投擲・スナイパー)

喰らえ、喰らえっ!
あ、紐が…

ならば投石で最後まで…!
…こちらの方が威力が出ますね

弾切れ時の最後の頼みと持ち込んだ剣代わりの角材

…何故か手になじみます

一、二度振り回せば調子を取り戻すは十分
白骨を粉砕

…『無力な一般人』と甚だしい乖離がある種族柄、その解消の為に強い影響を受けていたようですね

持つに値せず、と自己防衛機能で電脳空間に隠れていた電脳禁忌剣を引き出し

さて、騎士の務めを果たすと致しましょう



「き、来ましたね、化け物共……!」
 村に迫ってきたスケルトンの群れと対峙する、トリテレイアの声は微かに震えていた。
 まだ幻影による錯覚から抜けきっていないらしく、戦いの構えも普段の堂々としたものとは違う。しかし戦う理由だけはいつもと変わることは無かった。
「怪我人がいる場所に向かわせる訳にはいかないのです!」
 彼はわざと大声をあげて敵の注意を引きつけながら、村の中心とは違う方向へと走る。
 相手は知性の低いスケルトン、とにかく目立つ人間を優先的に狙う習性でもあるのか、錆びた武器を振りかざして彼を追いかけだした。

「こっちです!」
 叫びながらトリテレイアが敵をおびき寄せるのは、事前に罠を仕掛けた場所。救助活動の合間を縫って一生懸命掘った落とし穴が、木の枝や葉や土による偽装で隠されている。
『………!?』
 そうとは知らずにのこのことやって来たスケルトン達は、【錆びた剣閃】を放つ寸前に穴に落ちた。ダメージは大したことは無さそうだが、トリテレイアが(無意識な怪力で)掘った穴は相当深くて大きく、すぐには上がってこれそうにない。

「喰らえ、喰らえっ!」
 トリテレイアは穴に落ちた敵に向かって、ありあわせの材料で作ったスリングショットで石を放つ。この村に残っていた武器などこれが精々。穴の淵に手をかけるスケルトンを叩き落とそうと、必死になって何発も何発も撃ちまくる。
「あ、紐が……ならば投石で最後まで……!」
 即席の投石器はすぐに壊れてしまうが、彼はまだ諦めず。近くに転がっていた石ころを掴んで投げつける――ウォーマシンの怪力をもって繰り出されたそれは、ビュオッと風を切る音とともに、スケルトンの頭蓋骨を割った。

「……こちらの方が威力が出ますね」
 思わぬ威力に逆に冷静になりつつ、トリテレイアはさらなる投石を続ける。が、投げるのに適した石も無限に転がっているわけではない。ほどなくして弾切れになれば、最後の頼みと持ち込んだ剣代わりの角材を手に掴む。
「……何故か手になじみます」
 敵はまだ多数残っているというのに、それを握っていると不思議と落ち着く。あんなに恐ろしかったはずの怪物に、今ではさしたる恐怖を感じない。あとは一、二度軽く角材を振り回せば、調子を取り戻すには十分だった。

『――……!!!』
 ようやく落とし穴から這い上がってきたスケルトンは、横殴りに振るわれた角材の洗礼を浴びることになる。ただの木の棒とはいえ重くて固い質量の塊を、人外の膂力をもって叩きつける――それは白骨を粉砕するのに十分すぎる威力だった。
「……『無力な一般人』と甚だしい乖離がある種族柄、その解消の為に強い影響を受けていたようですね」
 ようやく己を取り戻したトリテレイアは、本来の装備である「電脳禁忌剣アレクシア」を電脳空間から引き出す。騎士としての自己認識を忘れた彼には自分を持つに値せずと、その剣は自ら姿を隠していたようだ。

「さて、騎士の務めを果たすと致しましょう」
 右手に剣を、左手に盾を。騎士本来のスタイルに立ち返ったトリテレイアを前にして、もはやスケルトン程度では敵にすらなれない。復活劇を彩るエキストラのようなものだ。
 【戦場の騎士】の重い一撃が、敵を容赦なくなぎ払う。これ以上の恐怖も絶望もこの地には不要だと、鋼の身体には信念が漲っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
敵襲ですって!?
そんな……ようやくここまで生き延びてきたというのに
今のわたくしには、戦う力などないというのに……

それでも、今五体満足で動ける者は限られている
今わたくしが動かなくて、誰がこの人たちを守るというの

誰かの形見らしき細身の剣を手に取り
なけなしの勇気を振り絞って怪物たちに立ち向かう

かつてわたくしを助けてくれた『あの人』のように
今度はわたくしが、ここにいる人々を守る番
傷つくことを恐れず敵に立ち向かう背中を
差し伸べられた手の温もりを決して忘れない
わたくしの最愛の夫……ヴォルフ

わたくしはもう、虐げられ己の無力を嘆くだけのお姫様で終わりたくない
大切な人を、みんなの笑顔を守る『王子様』になる



「敵襲ですって!? そんな……ようやくここまで生き延びてきたというのに」
 惨劇から立ち上がり、ようやく明日の希望が見えてきたという時に、それを見計らったかのように再び来襲したオブリビオン。恐怖に怯える村人達と同じように、ヘルガの表情も青ざめていた。
「今のわたくしには、戦う力などないというのに……」
 普段ならスケルトン程度恐れはしなかったはずだが、今は無意識に身体が竦む。幻覚の影響から脱しきれておらず「自分は無力な一般人」という錯覚が本来の力を奪っていた。

(それでも、今五体満足で動ける者は限られている。今わたくしが動かなくて、誰がこの人たちを守るというの)
 たとえ力が無かったとしても、そんなことは言い訳にならない。誰かの形見らしき細身の剣を手に取り、なけなしの勇気を振り絞って、ヘルガは恐ろしい怪物達に立ち向かう。
「かつてわたくしを助けてくれた『あの人』のように、今度はわたくしが、ここにいる人々を守る番」
 決意を口にすれば少しは身体が軽くなった、迫りくる【骸骨の群れ】の攻撃を、不器用に回避し、細剣で受け流す。その戦い方は心に浮かんだ大切な人の姿を真似たものだ――彼の顔を、名前を思い浮かべるたびに、恐怖で冷たくなった身体に熱が戻ってくる。

「傷つくことを恐れず敵に立ち向かう背中を、差し伸べられた手の温もりを決して忘れない」
 それは憧れであり理想。いつだって優しく力強くて、自分を助けてくれた「あの人」の存在が、自分をここまで導いてくれた。その者は人狼にして孤高の蒼騎士、そして――。
「わたくしの最愛の夫……ヴォルフ」
 一閃。本来の輝きを取り戻した聖奏剣「ローエングリン」が、骨の怪物を切り伏せる。
 錯覚は消えた。ここに居るのは力なき雛鳥ではない。魂の伴侶と共に世界を羽ばたく、天翔ける白鳥だ。

「わたくしはもう、虐げられ己の無力を嘆くだけのお姫様で終わりたくない」
 剣と共に構えるは願い。悲劇も、後悔も、憧れも、全て抱えて羽ばたこうとする意志。
 もう誰も泣くことのない世界をと願ったのだ。それを叶えられるのは他の誰でもない、自分自身の力だ。
「大切な人を、みんなの笑顔を守る『王子様』になる」
 猟兵として完全復活を遂げたヘルガは、その力をもって【白鳥の騎士】に変身する。
 身を包むは騎士礼装、背に広がるは天使の白翼。麗しくも凛々しい男装の王子となった彼女は、立ちはだかる怪物に刃を突きつけて名乗りを上げる。

「僕の名は『白鳥の騎士』! この剣は、弱きを助け邪悪を挫く正義の証。この僕がいる限り、奴らの非道を許しはしない!」
 理想を具現化した勇ましい振る舞いで、スケルトン達に斬りかかる白鳥の騎士ヘルガ。
 その剣技は普段以上に冴え渡り、刃が閃くたび敵は倒れ、黒い炎の勢いが衰えていく。常闇の燎原が見せる幻影との戦いも、いよいよ佳境に入りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
眼前に立つ死者は見るも恐ろしいが、人々の為にも戦わねば。
だが……それと同時に、彼等から深い悲しみを感じる。
もし、この場に俺の思う「誠の兵」がいたのなら……
■闘
危険は承知で、頭の中で描いてみよう。
心を【落ち着かせ】ながら刀の鞘を掴み、死者達を高い
【視力】で目視。
その際は弔いの想いと、道を切り拓く意思を以て対峙する。

敵が骨を次々と飛ばしてもみだりにその場から動かず、
鞘で一つずつ【受け流す】。

俺の思う誠の兵……其れは、救える者は必ず救うこと。
人々の命も、貴方達の誉れ高き魂も、救うべし!
雑念を振り払い、【破魔】の力を一気に高め【心切】を放ち、
痛みもなく彼等の無念を【浄化】せん!

※アドリブ歓迎・不採用可



「眼前に立つ死者は見るも恐ろしいが、人々の為にも戦わねば」
 村を襲うスケルトンの群れに、迷いなく立ち向かう姿勢を見せるのは清綱。幻の錯覚は今も彼を惑わすが、さりとて挫ける様子はない。己の背後に守るべき者たちがいる以上、身命を賭して戦うのみだ。
「だが……それと同時に、彼等から深い悲しみを感じる」
 彼の瞳に闘志はあれど殺意はなく、物言わぬ白骨の群れに憐れむような視線を向ける。
 あのスケルトン達とて生前は普通の人間だったはず。死してなお未練から怪物となり、生ける者への執着や羨望を向け続ける、その様は確かに不憫でもあった。

「もし、この場に俺の思う『誠の兵』がいたのなら……」
 危険は承知で、頭の中で描いてみよう。そう決めた清綱は心を落ち着かせながら刀の鞘を掴み、死者達をじっと目視する。胸中には弔いの想いと、道を切り拓く意志をもって。
『………』
 動かない相手にもスケルトンは容赦せず、全身の骨格を複製した【バラバラ分解攻撃】によって彼を攻めたてる。一個一個に大した威力はないが、無数に分裂したパーツの波状攻撃は脅威だ。特に錯覚により万全の力を振るえない今では。

「貴方達も、この闇に囚われているのだな」
 だが清綱はみだりにその場から動かず、次々と飛んでくる骨を鞘で一つずつ受け流す。
 視線はその先にある敵の頭蓋骨から離さずに。眼窩の暗闇の中にある死者の哀しみを、彼はしかと見た。
「俺の思う誠の兵……其れは、救える者は必ず救うこと」
 信念を言葉にすれば心と体が研ぎ澄まされていく。さざ波も立たぬ明鏡止水の境地へ。
 骨の攻撃を受け流す所作も洗練されていき、幾十と攻めたてられても微動だにしない。それは正に兵(つわもの)たらんとする彼本来の力量であった。

「人々の命も、貴方達の誉れ高き魂も、救うべし!」
 雑念を振り払い、錯覚を打ち破った清綱は、破魔の霊力を一気に高め【心切】を放つ。
 それは気魄と霊魂を断つ不可視の一太刀。鞘走る瞬間さえ見切らせない居合の奥義が、痛みもなく死者の無念を浄化する。
『――……!!!』
 念力によって浮遊していたスケルトンの骨が、空中でぴたりと止まり、落下していく。
 物理的なダメージは一切ないが、清綱の技は確かに彼らの霊魂を"斬った"のだ。怨念を祓われた死者の魂は、未練より解き放たれ彼岸へと去っていく。

「どうか、貴方達の魂が安らかならんことを」
 清綱は刀を再び鞘に収め、散っていった死者達の冥福を祈る。幻影の異常にあっても、あくまで己の信じた道を貫き通した彼の意志によって、黒い炎は退散していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
血と肉、屍の山、迫り来る骨の群れ
惨劇と絶望の坩堝、事態の好転はなく、どこまでの地獄のままで
英雄も救世主も神の救いも、希望が訪れる気配など微塵もありはしない

――ならばこそ、私が希望となろう
逃げ惑う人々を背に、骸骨どもへと立ちはだかる

数で劣る、力で劣る、それがどうした
【気合い】を武器に、【根性】を鎧に、【祈り】を糧に
拳を握り締めて殴りかかる
ぉおおおおお!!

殴る、蹴る、技も何もない稚拙な暴力
斬りつけられ血を流そうと、自らを分解する特異な動きで組み伏せられようと、諦めはしない

渦巻く怒りを薪として心を燃やす
抗うと、赦さぬと、決めたのだ
ならば、この程度――!!

身体の内より湧き出る力を解き放つ(聖煌爆裂)



(惨劇と絶望の坩堝、事態の好転はなく、どこまでの地獄のままで)
 血と肉、屍の山、迫り来る骨の群れを眺めながら、オリヴィアは静かに思いを馳せる。
 これは、この世界では普通の悲劇。絶望に終わりはなく、英雄も救世主も神の救いも、希望が訪れる気配など微塵もありはしない。
「――ならばこそ、私が希望となろう」
 逃げ惑う人々を背に、骸骨どもへと立ちはだかる。いつもの聖槍ではなく拳を握って。
 危ないぞ、逃げろと叫ぶ声が聞こえた気がした。だが彼女は振り返らない、退かない。

「数で劣る、力で劣る、それがどうした」
 どんなに勝てない理由を探しても、ここで負けられない理由のほうがずっと多かった。
 気合いを武器に、根性を鎧に、祈りを糧に。ありったけの気魄と共に拳を握り締めて、オリヴィアは敵に殴りかかる。
「ぉおおおおお!!」
『………!』
 技も何もない稚拙な暴力。多少は相手を怯ませることはできても、すぐに反撃がくる。
 切れ味は最悪とはいえ、素手と武器との差は歴然だ。避けきれなかった体に鋭い痛みが走る。幻影の中とはいえ受けるダメージは本物だ。場合によっては死ぬこともあり得る。

「負けるかぁっ!」
 だがオリヴィアは斬りつけられ血を流そうとも、怯むことなく敵を殴り、蹴りつける。
 猛獣のような暴れように、スケルトンの群れは【バラバラ分解攻撃】で複製した多数のパーツに分かれ、彼女を組み伏せようとするが――。
「抗うと、赦さぬと、決めたのだ。ならば、この程度――!!」
 彼女は絶対に諦めはしない。負けてなるものかと、渦巻く怒りを薪として心を燃やす。
 個人の暴力は数の暴力に押さえつけられ、無数の白骨の下に埋められようと、眼だけは毅然と敵を見据えている。その強く折れない心が、ついに幻影の影響を打ち破った。

「光よ、爆ぜろ――!」
 身体の内より湧き出る力を解き放つ。それは眩き光の爆発となって、オリヴィアの周囲にいた骨を吹き飛ばした。絶望の闇を祓い邪悪を打ち払う、この技の名は【聖煌爆裂】。
『――……!!?』
 強烈なる閃光に身を灼かれたスケルトンは、ダメージと同時に一時的な硬直を受ける。
 その間にオリヴィアは自分を押さえつけていた骨を振り払い、聖なる光を身にまとって立ち上がった。その瞳には、これまで以上に強く激しい怒りの炎が燃え盛っている。

「今まで好き勝手していたようだが、ここまでだ!」
 破邪の力を取り戻したオリヴィアの前に、もはやただのスケルトンは敵にもならない。
 圧倒的な光の爆裂は燎原に満ちる常闇をも照らし、黒い炎を退ける。惨劇の幻は消え、彼女の視界には元の荒野が戻ってきた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『血染めの災厄』ルベルレギナ』

POW   :    女王の慈悲
【ルベルレギナに恐怖したものの生命力】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【五感で認識したものを無抵抗に嬲り殺す爪牙】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    女王の躾
【視界内の全てのものに恐怖をもたらす咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    女王の奴隷
戦闘力のない【ルベルレギナに恐怖し絶望した奴隷】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【ルベルレギナに生きたまま食われること】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 絶望の試練を経て、脅威に立ち向かう猟兵達は、ついに黒炎が見せる幻を振り払った。
 完全に自分自身を取り戻した彼らは、気が付けば元の平原に立っていた。大地を覆っていた黒い炎の勢いは弱まり、かわりに一体のオブリビオンがそこにいる。

「グルルルルルル……ッ」

 血のように赤い布で体を覆った異形の魔獣。その眼窩にあたる箇所からは黒い炎が噴出しており、獲物を探すように辺りをうろついている。その唸り声に正気は感じられない。
 こいつが予知で伝えられていた狂えるオブリビオンだろう。その名は『血染めの災厄』ルベルレギナ。恐怖という感情を操る魔竜の女王である。

「オオォォォォ……アアァァァァ……」

 本来は知性的で極めてプライドが高いというルベルレギナだが、ここにいる個体は完全に理性を失っているようだ。視覚はもちろん聴覚や嗅覚も欠落しているようで、これだけ距離が近くても猟兵の位置を正確に把握している様子はない。

「グルルウゥォオォォォォ!!!」

 彼女の知覚手段は感情だ。相手が抱く恐怖や絶望を感知することで獲物を見つけだす。
 もしルベルレギナの暴力や咆哮に恐れを抱けば、彼女は即座にそれを察知するだろう。逆にその性質を逆手に取れれば、有利に立ち回れるのは間違いない。

 常闇の燎原に住まうオブリビオンの実力は、これまでのダークセイヴァー内で邂逅した同族殺しや紋章持ちといった強者にも匹敵する。決して油断できるような相手ではない。
 だが、ここで退けば探索を進めることはできない。まだ見ぬ第三層に向かうためにも、立ちはだかる障害は全て排除する。

 絶望の幻影を乗り越えた先で猟兵達が戦うのは、絶望を喰らう魔竜の女王。
 此度の常闇の燎原探索は、いよいよ正念場を迎えようとしていた。
天御鏡・百々
ようやく幻惑を乗り越えたかと思えば……
これほどの強敵が立ちはだかるか
だが、三層へと進むため、ここで負けては居られぬ!

『合わせ鏡の人形部隊』を使用して、鏡像兵を召喚するぞ

そして、我自身は神通力(武器)の障壁(オーラ防御)と
真朱神楽(武器:薙刀)による武器受けで防御専念だ

これほどの怪物相手に、恐怖を感じぬのは流石に無理だ
ならば、我は敵の攻撃を引きつけることとしよう
そして、感情を持たぬ人形部隊で一斉攻撃だ!

召喚された奴隷は、人形部隊の一部で運ぶなり突き飛ばすなりで
ルベルレギナに捕食されぬようにするぞ

人形の攻撃で敵に隙が出来れば、我も斬撃を叩き込むぞ!

●神鏡のヤドリガミ
●本体の神鏡へのダメージ描写NG



「ようやく幻惑を乗り越えたかと思えば……これほどの強敵が立ちはだかるか」
 一難去ってまた一難。息を整える間もない敵の襲来に、気を引き締めなおすのは百々。
 流石は未踏の地と言うべきだろうか。常闇の燎原の危険度はダークセイヴァーの辺境や第五層にも勝る。
「だが、三層へと進むため、ここで負けては居られぬ!」
 己を鼓舞するように叫び、本体の神鏡を掲げると、魔獣ルベルレギナものそりと動く。
 視聴嗅覚と引き換えに恐怖を感知する力を得た『血染めの災厄』は、朧げにではあるが彼女の位置を把握しているようだ。

「我が眷属、合わせ鏡に果てなく映りし鏡像兵よ、境界を越え現世へと至れ」
 黒い炎の眼窩の視線を感じながら、百々が発動するのは【合わせ鏡の人形部隊】。小型の人形兵を二枚の鏡の間に映すと、無限に連なる鏡像達が実体を得てずらりと整列する。
「グルルルルル……ッ!」
『ひっ……』『ここはどこ?!』
 対するルベルレギナは【女王の奴隷】を喚ぶ。不毛の荒野に現れるのは居るはずのない力なき奴隷達。黒い炎が作りだした幻ではない、正真正銘の生きた人間――魔獣の保存食として隷属させられた彼らの表情は、恐怖と絶望に染まっていた。

(これほどの怪物相手に、恐怖を感じぬのは流石に無理だ)
 百々には奴隷達の恐怖が手にとるように分かった。対峙しているだけでも感じる強烈なプレッシャー、身体に突き刺さる狂気をはらんだ殺意。あの絶望的な幻影を乗り越えた後でも、背筋が冷たくなるのを感じる。
(ならば、我は敵の攻撃を引きつけることとしよう)
 勇気とは恐れを知らぬことではなく、恐れに立ち向かうこと。その点で言えば、薙刀を構えて一歩も退かぬ百々の姿は間違いなく"勇敢"であった。その勇気を恐怖ごと貪り食わんと、黒い炎の魔獣が襲いかかる。

「グルルォォォォォッ!!!」
 咆哮と共に振り下ろされる、短刀のごとく鋭い爪。人体など豆腐のように引き裂くであろうそれを、百々は朱塗りの薙刀「真朱神楽」で受け流す。凄まじい衝撃が手に伝わってくるが、柄を取り落とさないようぐっと握りしめる。
「なるほど、強い……だが、耐えてみせる!」
 続いて襲ってきた牙の追撃も、神通力の障壁を張って防ぐ。ルベルレギナの攻撃は苛烈だが、防御に専念すれば凌げぬほどではない。ただ守っているだけで勝機がないことは、彼女も重々承知だが――。

「今だ、一斉にかかれ!」
 敵の意識が"恐怖"を抱く自分に引き寄せられるのを待って、百々は眷属に号令する。
 感情を持たぬ人形部隊が、ルベルレギナの背後や左右から同時に斬りかかる。彼女はそれを感知することができなかった。
「グオゥッ!!?」
 感覚は欠落すれど痛覚はあるのか、刃を受けた魔獣の口から悲鳴が上がる。恐怖を知覚するルベルレギナの索敵力は鋭いが、逆に感情を持たない者の存在は認識すらできない。それが彼女の弱点となった。

「隙を見せたな」
 人形たちの攻撃で敵が怯んだのを見逃さず、百々も反撃の刃を振るう。舞うが如き流麗な薙刀さばきで放たれた一閃は、過たずルベルレギナを捉え、その傷をより深く抉った。
「グガァッ! オォォォッ!!」
 思わぬ痛手を負った魔獣は後ずさり、咆哮で奴隷を呼び寄せようとするが――その声に応じる者はいない。こんな時のために用意しておいた生き餌だというのに、一体何故だ。

「気付いたか。汝の奴隷達は遠ざけさせて貰った」
 百々が守備に徹していたのは人形兵が攻める隙を作るだけではない。召喚された奴隷達がルベルレギナに捕食されぬように、人形部隊の一部に運ばせる時間稼ぎも兼ねていた。
 これで気兼ねねく戦えると、彼女は一層力をこめて斬撃を叩き込む。合わせ鏡の人形達もそれに呼応して、四方八方から敵を攻め立てた。
「三層への道、切り拓かせて貰うぞ!」
「グオォォァッ!!!」
 狂える魔獣の絶叫が常闇の燎原に轟く。真っ赤な鮮血と共に黒い火の粉が闇夜に散る。
 いかに強大な敵であろうとも、勇気をもって新天地を目指す、神鏡のヤドリガミの歩みを止めることはできなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
カビパンは絶望していた。
もうダメこのアカデミー賞総なめ奇跡の大作『仁義(略)』は終わったの。絶望絶望絶望しかない、もう嫌ワタシオシマイ

冒頭より遡る事、数分前。
それまでの仁義なき愛と青春の(略)の撮影は順調であった。
豪華出演者達の迫真の演技、予想もつかない超展開の嵐。
クライマックスの撮影を迎えようとしていた。

「最高に盛り上がる、クライマックス!カビィ―将軍VS越後屋戌!!…ん?」
急にカビパンに連絡が入った。

「えぇ!?そんなバナナ…貴女様がいらっしゃなければ…代わりもいませんし、どうか我々を導いてください、戌製作総指揮様!!」

なんとヒロイン役が急遽撮影に不参加。カビパンを悲しみと絶望が覆いつくす。


ベルリーナ・シリアス
今までハッスルしていた姉さんが突然、ある連絡を受けてから狂気と絶望に呑まれて鬱になった。いつも変な騒動に巻き込まれるので正直私は、内心の嬉々を隠して木の枝で地面に『の』の字を書いていた。

ふふふなんてね。姉さんが静かでうるさくないからもうこの変な撮影とやらも終わったと思うと嬉しくて仕方なくて、顔がにやけてきて…
人に見せられない、だらしない顔してると思ったから、ずっと顔を両手で覆って隠しながらこんな心の叫び声をあげるので精一杯だったの。

いやっほー!姉さんに連絡してくれた越後屋戌?さん最高!凄いわ!!
私をこの呪縛から解き放ってくれたヒーローよ!!

え?この犬みたいのを代役にして撮影続行するの!?


セフィリカ・ランブレイ
カビィちゃん(f24111)、ベルちゃん(f35149)と

『左腕部ロスト!活動限界まで52秒!セリカ、やれるわけ?』
いける!次の接敵で全力をぶつける!

迫る魔竜に相対する巨大人型
切札のキャバリア、スプレンディア

ナビ役の相棒の魔剣に言葉を返目の前の敵に意識を集中……
これ私一人で三人分くらい戦ってる気がするのなんでかな!?

カビィちゃん!何でもいいからその行動力で状況をかきまわして…
何故この世の終わりみたいな顔してるの!?

はあっ!?ヒロインと連絡つかない!?
そこまで落ち込むとは眼鏡にかなった素晴らしい子なんだろうけど!?

ベルちゃんは何かもう全てが終わったって雰囲気で全身のオーラが緩みまくってる!
今もうこれで安心だわ―みたいな表情だろ実は!!?
妹ならよく考えてみて!アレが!なんか変な事思いついたら一瞬で混沌だぞ!安心するな、常に逃げの姿勢を忘れるな!

……は?
ヒロイン変更。
アレとキャバリアでラブロマンスをやれと

何処に需要があるの絵面!?
カビィちゃん、また無駄にやる気出し始めて嫌な予感しかしない!?



『左腕部ロスト! 活動限界まで52秒!』
 紫水晶の巨大人型兵器「スプレンディア」の操縦席に響く、緊張をはらんだシェルファの声。悲劇の幻影と鬼監督の撮影を乗り越えたセフィリカの前に立ちはだかる新たな敵、血染めの魔竜ルベルレギナとの戦いは苛烈を極めていた。
『セリカ、やれるわけ?』
「いける! 次の接敵で全力をぶつける!」
 敵の実力は想像以上だ。会敵からわずかな時間でセフィリカの愛機は大きなダメージを受けていた。だが今のセフィリカに撤退の意思はない。魔剣の相棒のナビゲートと切り札のキャバリアの力を信じて、目の前の敵に意識を集中――。

「これ私一人で三人分くらい戦ってる気がするのなんでかな!?」
 ――しようと思ったのだが。自分がこうして身体を張っているのに、一緒に来たはずの二人は何しているのかが引っかかる。意気込んではみたものの、これほどの強敵に有効打を与えるには、味方の支援も欲しいところなのだが。
「カビィちゃん! 何でもいいからその行動力で状況をかきまわして……何故この世の終わりみたいな顔してるの!?」
 機体のセンサーで周囲を確認すると、地面に仰向けになって絶望してるカビパンの姿が見えた。さっきまで元気いっぱいにカオスを振り撒いていた彼女が、幻影の影響もまるでスルーしていた彼女が、どうしてか深い哀しみに包まれている。

「絶望絶望絶望しかない、もう嫌ワタシオシマイ」
 遡る事数分前。それは丁度セフィリカがルベルレギナとの戦闘を開始した頃、カビパンは歓喜の絶頂にあった。それまでの『仁義なき愛と青春の(略)』の撮影は順調であり、豪華出演者の迫真の演技(と反逆)、予測もつかない超展開の嵐に本人も大満足だった。
『最高に盛り上がる、クライマックス! カビィ―将軍VS越後屋!! ……ん?』
 そのままクライマックスの撮影を迎えようとした時、急にカビパンに連絡が入った。
 こんな地の果てでよく連絡がつくものだと思うがそれは置いておく。重要なのは連絡の手段ではなく、その内容にあったからだ。

『えぇ!?そんなバナナ……貴女様がいらっしゃなければ……代わりもいませんし、どうか我々を導いてください、製作総指揮様!!』
 なんとヒロイン役の役者が急遽撮影に不参加になったという。それを聞いたカビパンの心はたちまち悲しみと絶望に覆いつくされた。今までどんな撮影トラブルに見舞われても何やかんやでどうにかしてきた彼女の、ガチの絶望である。
「はあっ!? ヒロインと連絡つかない!?」
 そして時は現在に戻り、事情を聞いたセフィリカは操縦席から素っ頓狂な声をあげる。
 どうりでさっきからルベルレギナがカビパンの方に向かいたそうな素振りをしているわけだ。視聴嗅覚を失った彼女にもわかる、とてつもない絶望を発しているからだろう。

「そこまで落ち込むとは眼鏡にかなった素晴らしい子なんだろうけど!?」
 絶賛絶望中のカビパンに襲いかかろうとするルベルレギナを、必死に食い止めながら叫ぶセフィリカ。いい気味だと思う気持ちが1ミリもないとは言わないが、流石にここで知人を見捨てるのは寝覚めが悪い。
「グルルォォォォォッ!!!!」
 恐怖をもたらす【女王の躾】の咆哮が轟くたび、キャバリアと乗り手の心身にダメージが蓄積されていく。このまま味方をかばったままでは反撃のチャンスすら生まれない――そう言えばもうひとりの味方はどうしているのかと、周囲をもう一度確認してみると。

「ああ、大変だわ……ふふふなんてね」
 今までハッスルしていた姉が突然、ある連絡を受けてから狂気と絶望に呑まれて鬱になった。いつも変な騒動に巻き込まれているベルリーナは、木の枝で地面に『の』の字を書いて自分も落ち込んでるふうを装いつつ、内心の嬉々を隠しきれていない。
「ベルちゃんは何かもう全てが終わったって雰囲気で全身のオーラが緩みまくってる! 今もうこれで安心だわ―みたいな表情だろ実は!!?」
「あ、バレちゃいました?」
 セフィリカから指摘されて顔を上げたベルリーナは、それはもう清々しい笑顔だった。
 今までどれだけのストレスを感じていたのかが逆説的に分かってしまう、開放感に満ちた表情。今夜の飯はさぞかし美味かろう。

「姉さんが静かでうるさくないからもうこの変な撮影とやらも終わったと思うと嬉しくて仕方なくて、顔がにやけてきて……」
 ベルリーナにも慎みはあり、他人に見せられない、だらしない顔してると思ったから、ずっと顔を両手で覆って隠しているが、本当はこんな心の叫び声をあげるので精一杯だ。
(いやっほー!姉さんに連絡してくれた越後屋? さん最高! 凄いわ!! 私をこの呪縛から解き放ってくれたヒーローよ!!)
 まあ、あまりにも歓喜の感情が顔に出すぎているせいで、何考えているのかはバレバレだったが。1ミリも恐怖も絶望もしていないお陰でルベルレギナの標的にならないどころか認識すらされて無さそうなのは幸運と言えるだろう。

「妹ならよく考えてみて! アレが! なんか変な事思いついたら一瞬で混沌だぞ!」
 が、セフィリカはそんなベルリーナの楽観的ともいえる態度に警告する。あのカビパンがいつまでもああして大人しく絶望している女だろうか? いや、それだけは無いという悪い意味での信頼感が彼女にはあった。
「安心するな、常に逃げの姿勢を忘れるな!」
「グウオオォォォォォッ!!」
 たとえカビパンがどんなに弱っていてもセフィリカは警戒心を忘れない。目の前にいる本来の敵以上に。視聴覚がないので誰と何の話をしているかは伝わっていないだろうが、無視するなと言わんばかりにルベルレギナが一際大きく咆哮を上げる。

「ハッ。そうだわ、代役ならそこにいるじゃない」
 その咆哮を聞きつけたカビパンが、はたと何かをひらめく。おそらくは彼女以外の誰も望んでいなかったひらめきを。喜びの絶頂にいたベルリーナは「え?」と首を傾げ、警戒していたセフィリカは「ほらきた!」と叫ぶ。
「ヒロイン変更よ。その魔竜とキャバリアでラブロマンスをやるわ」
「……は?」
「え?」
 そして彼女がひらめきを口にした時、二人はそろって間の抜けた声を出してしまった。
 狂えるオブリビオンと巨人兵器の恋愛。ニッチを通り越して誰をターゲットにしたのか分からないジャンルの爆誕である。

「この犬みたいのを代役にして撮影続行するの!?」
「何処に需要があるの絵面!?」
 ベルリーナとセフィリカのツッコミは至極真っ当なものだった。考え直すように二人してカビパンに迫るが、一度火がついてしまった彼女は止まらない。絶望すらも乗り越えて撮影意欲を取り戻した彼女は、再び世界をギャグで覆い尽くす。
「さあクライマックスよ! 準備して!」
 ハリセンをバシバシ叩いて撮影強行。そのテンションは落ち込む以前を上回るほどだ。
 仲間二人はもちろんのこと、敵であるルベルレギナさえ、この混沌から逃れられない。

「カビィちゃん、また無駄にやる気出し始めて嫌な予感しかしない!?」
 そんなセフィリカの予感はすでに現実になりつつある。恐怖の咆哮にかわって鳴り響くのは気が抜けるハリセンの音。ギャグに侵食された常闇の燎原ではルベルレギナも本来の力を発揮できないのか、困惑気味に唸っている。
「グルルルル……???」
 考え方を変えれば、これは強敵が見せた隙だ。【ハリセンで叩かずにはいられない女】のペースに支配された環境では、いかにその環境に適応できるかが勝負を分ける。そして初対面の敵よりも、数々の無茶振りを受けてきたセフィリカの方が、適応力は高かった。

「えーっと……好きですっ!」
 告白とともにセフィリカの"スプレンディア"が繰り出したのは【月詠ノ祓・隠神】。
 キャバリア用の光剣「SBX-07」による、全力を込めた神速の一閃がルベルレギナを襲う。もし魔竜の目が見えていたとしても、その刃を捉えることは不可能だっただろう。
「グギャオォッ!!!?」
 ノリは軽かったものの威力は絶大。閃光に斬り伏せられた魔竜が苦悶の絶叫を上げる。
 それと同時に、活動限界に達したキャバリアも動きを止め――「カーット!」の叫びとともに、映画『仁義なき愛と青春の(略)』の撮影はクランクアップとなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
その強大な力はもとより、絶望した奴隷を召喚し
生きたまま食らう悍ましい所業…
それでもわたくしは恐れない
全てを救う
その悲願の為「成すべきこと」は既に思い出した

祈りを込めて歌う【星導の歌】
天に輝く星の光は、わたくしに、そして奴隷たちにも降り注ぎ
勇気を与え進むべき道を指し示す

武器を持たぬ奴隷たちが敵に恐怖するのは避けられない
それでも決して「絶望」だけはさせない
懐かしい故郷へ必ず生きて帰るという強い意志の力に変えて

大丈夫、必ず守るから

背後の奴隷に反応した敵の攻撃をかばい
聖奏剣「ローエングリン」で受け流す
たとえ傷ついても激痛耐性で耐え抜き
破魔と浄化の力込めて反撃

わたくしは戦う
人々の願いを守るために



「グルルウオォォォォ……」
「ひっ!」「た、助けて……!」
 侵入者の絶望を喰おうとしたルベルレギナは、猟兵の反撃に思わぬ苦戦に見舞われた。
 彼女はこの戦局を覆そうと【女王の奴隷】を戦場に召喚する。狂えるオブリビオンと化した魔竜にとっては、単に腹が減っただけかもしれないが。
「その強大な力はもとより、絶望した奴隷を召喚し、生きたまま食らう悍ましい所業……」
 静かに肩を震わせながら、そんな魔竜を睨みつけるのはヘルガ。怖気をふるうとは正にこういう事を言うのだろう、先ほどの幻に勝るとも劣らぬ非道極まる敵が目の前にいる。

(それでもわたくしは恐れない)
 全てを救う。その悲願の為「成すべきこと」は既に思い出した。猟兵としての使命と力を完全に取り戻したヘルガは、ルベルレギナの非道を阻止するために敢然と立ち向かう。
「もしも道に迷ったならば、思い出して。北の天蓋に輝く星を。貴方の旅立ちを祝福した優しき光は、今も変わらず貴方を見守っている」
 祈りを込めて歌うは【星導の歌】。完全な闇に覆われた燎原の空に、星のまたたきが現れる。天に輝く星の光は彼女に、そして奴隷達にも降り注ぎ、進むべき道を指し示した。

「この光は……?」
 導きの星の力を宿した光の欠片に触れた奴隷たちの心に、ぽうっと温かいものが宿る。
 目の前にはあんなに恐ろしい怪物がいるのに、足がすくんでしまうほど怖かったのに、なぜだろう。今はまた身体が動く。
(武器を持たぬ奴隷たちが敵に恐怖するのは避けられない。それでも決して「絶望」だけはさせない)
 恐怖を乗り越える勇気を与えるために、ヘルガは聖歌を奏でながら彼らの元に向かう。
 恐れや絶望を持たぬ者をルベルレギナは認識できない。黒き炎を噴き出す眼窩は、急に獲物の存在感が失われたことに戸惑い「ウオォォ……?」と唸りながら彷徨うばかりだ。

「大丈夫、必ず守るから」
 奴隷達を背後にかばい、聖奏剣「ローエングリン」を構えるヘルガ。今は白鳥の騎士の姿ではないが、凛とした佇まいとかける言葉には、人々を安堵させる頼もしさがあった。
「わたくしが貴方たちを故郷へ帰します」
「は、はいっ……!」
 懐かしき故郷に必ず生きて帰るという強い意志が、絶望を克服する力になる。恐怖とは消し去るのではなく立ち向かうものだと、導きの星と聖歌姫が教えてくれた。ただ怯えて喰われるだけのはずだった奴隷達は、ほのかな希望を抱きだしていた。

「グルルゥゥゥゥゥッ!!」
 ようやく獲物の所在を突き止めたか、そこにルベルレギナが咆哮を上げて襲いかかる。
 身の毛がよだつような異形、凶器そのものの爪牙、それらを目の当たりにしてもヘルガは奴隷たちの前から一歩も退かない。
「もう誰も傷つけさせない。わたくし以外は、誰も」
 おぞましき爪牙は聖奏剣で受け流す。強大なる魔竜の攻撃を完全に凌ぐことは難しく、一撃を浴びるたびに彼女の身体からは浅く血が流れるが――それでも、決して怯まない。負傷の痛みにも耐え抜いて、果敢に反撃の刃を振るう。

「わたくしは戦う。人々の願いを守るために」
 祈りと誓い、そして破魔と浄化の力を込めて放たれた聖奏剣の一撃は、流星の煌めきを思わせる斬光を描いて、ルベルレギナの巨体を深々と切り裂いた。これまで自身が与えてきた痛みを何倍にも返されて、魔竜は耳をつんざくほどの絶叫を上げる。
「グオォォォォォッ!!!!?」
 恐怖よりも、絶望よりも、未来に向かって進もうとする意志と、誰かを護りたいという想いは強い。狂えるオブリビオンには決して理解できない感情が、敵を追い詰めていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
感情以外を知覚出来なければやり様は…!?

ここは辺境の筈、呼び寄せたとでも!?
騎士として見捨てる訳には参りません

大盾をUCに変換
舞い散る花弁を支点にバリアを構築
奴隷をかばい

絶望に逃げ惑う複数の明確な目標
薄く知覚出来る個体
そして食事阻む透明な壁…

ええ、私が障害ですとも

応戦しつつ自己ハッキング
“怯懦”の思考パターンを己の電脳に再現
解除条件は…敵の肉薄

ああっ…なんて恐ろしい…!

召喚奴隷に紛れ、敵の認識を攪乱
恐怖する奴隷…つまり私を喰らわんと口が迫る事で再現停止

大口に飛び掛かり剣を一閃
花弁を追撃に放ち体内をバリアの刃で切り刻み

恐怖を我が物に…いえ、これは違いますね
やはり正道の騎士のようにはいかぬものです



「ルウウゥゥゥゥ……」
 眼窩から黒い炎を噴き出しながら、魔竜ルベルレギナは静かに唸る。手強い獲物どもに苛立つ彼女は、飢餓の本能のままユーベルコードを使い、【女王の奴隷】を呼び寄せる。
「こ……ここは?」「ひぃっ!」
 現れたのは、かの魔竜に恐怖し絶望した奴隷達。彼女に喰われるために生かされている存在。その様子は皮肉なことにも、先ほどまで猟兵達が見ていた幻影ともよく似ていた。

「感情以外を知覚出来なければやり様は……!?」
 強敵に対抗する手段を考えていたトリテレイアは、その敵――ルベルレギナの付近に人の姿を捉えて思わず目を疑った。それが幻の類ではなく実体を持った生物であることは、各種センサーの反応が示している。
「ここは辺境の筈、呼び寄せたとでも!?」
 ユーベルコードならばそんな理不尽が通ってもおかしくはない。だが、この常闇の燎原の環境は一般人が滞在するにはあまりに酷だ。主たるルベルレギナからすれば、召喚した時点で長く生かすつもりは無いので問題はないのだろうが。

「騎士として見捨てる訳には参りません」
 取り戻した矜持に衝き動かされるように、トリテレイアは【電脳禁忌剣・通常駆動機構:兵装改造『守護の花』】を起動。装備していた大盾を無数のブローディアの花びらに変化させ、女王の奴隷に向かって飛ばす。
「ウオォォォ……?!!」
「ひぃっ!! ……あ、あれ?」
 まさに奴隷達を喰らおうと牙を剥いたルベルレギナは、その花びらを支点に構築されたバリアに阻まれる。食事を邪魔された女王は不快げに唸り、窮地をかばわれた奴隷は驚いた顔で目を丸くした。

「絶望に逃げ惑う複数の明確な目標、薄く知覚出来る個体、そして食事阻む透明な壁……ええ、私が障害ですとも」
「グルルウオオォォォォッ!!」
 騎士の声も姿も分かりはしないが、感情を頼りにルベルレギナは邪魔者に襲いかかる。
 この状況から人々を救うためにはどうすべきか。『守護の花』で魔竜を食い止めながらトリテレイアは思案する。奴隷を食わせない為には敵の注意をこちらに引き付けることが肝心だ。
「ああっ……なんて恐ろしい……!」
 格納銃器で応戦しつつ、彼はそれまでの勇敢な態度から一転、怯えたように後ずさる。
 機械である彼にとっては感情さえもデータと演算の結果。ハッキングによって「怯懦」の思考パターンを己の電脳に再現したのだ。

「ここは一時撤退です……!」
 怯懦の芽生えたトリテレイアはいつになく頼りない様子で、怯える奴隷集団の中に紛れ込んだ。助けてもらえると思っていた人々からは「えぇっ?!」「そんな!」と非難じみた声が飛ぶ。
「グルルルルルッ??」
 標的が別の獲物の中に紛れこんだことでルベルレギナは一瞬困惑するが、その知覚能力はすぐに新たな獲物を見つけだす。あの奴隷達の中で最も強い恐怖を発している個体――つまりトリテレイアに狙いを絞って、彼女は猛然と飛びかかる。

「オォォォォォッ!!」
「ひ、ひぃっ!」「もうダメ!」
 怯える奴隷には文字通り目もくれず、一目散にトリテレイアに接近するルベルレギナ。
 この常闇の燎原のどこに逃げようとも、魔竜の疾走から逃げられるものは存在しない。怯える獲物を喰らわんとする爪牙と口が、機械仕掛けの騎士に迫る。
「……掛かりましたね」
 それが感情再現を停止するために設定していた条件だった。電脳内に構築された偽りの怯懦は消え去り、正常な思考を快復したトリテレイアは即座の状況判断で、敵に向かって自ら飛び掛かった。

「オォッ――……? グガッ!!!」
 獲物の恐怖をふいに見失いルベルレギナが戸惑った直後、その大口めがけて一閃された電脳剣が彼女の口内を切り裂いた。いかに強壮なる魔竜とて、身体の内側は脆いものだ。
「恐怖を我が物に……いえ、これは違いますね」
 機械としての機能を活用して恐怖を「利用」したトリテレイアは、そう独りごちながら追撃を行う。防壁として展開されていた花びらがルベルレギナの口に飛び込み、バリアの刃で体内を切り刻む――守護の花も攻撃に転用すれば、斯様に鋭い切断力場に変わる。

「やはり正道の騎士のようにはいかぬものです」
「グガアアアァァァァッ!!!」
 己が理想とする戦い方ではなかったものの、トリテレイアの作戦は間違いなく敵に痛手を与えていた。体内に直接ダメージを与えられたルベルレギナの絶叫が燎原に響き渡る。
「や、やった……!」「私達、助かるの……?」
 ころころと態度を変化させる騎士の姿を見ていた奴隷達は、それに困惑の視線を向けていたものの――彼が闇の救済者と知ったその眼差しには、期待と希望が宿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
なるほど、強いですね。
既に自分が猟兵である事も思い出しましたし、力も存分に振るえます。
それでも、いえ、だからこそ見ただけで分かるほどに……ですが、臆する訳には行きません。
持ちうる限りの【勇気】と【落ち着き】をもって挑みます。
自らを奮い立たせる為に【大声】を出して【気合い】を入れる事も出来るでしょう。
それでも敵はこちらの所在を正確には掴めないでしょうし、力を十分に発揮する事も出来ないはず。
ならば後は恐れを抱いてしまう前に戦い、倒してしまうのみです。
私の持てる力をこの一撃に込めて、この恐怖の種ごと敵を【切断】してやります。



「なるほど、強いですね」
 幻影にかわって姿を現した敵、魔竜ルベルレギナを見据えて、ハロはそう独りごちた。
 視聴嗅覚を失っていてもなお強大な実力。他者の恐怖や絶望を感知し襲いかかる性質。常闇の燎原の守護者としてふさわしいオブリビオンだ。
「既に自分が猟兵である事も思い出しましたし、力も存分に振るえます。それでも、いえ、だからこそ見ただけで分かるほどに……」
 自分が強くなり、相手との力量の差が縮まったからこそ理解できてしまう恐怖もある。
 幻の中で戦ったスケルトンとは及びもつかぬような強敵。果たして今の自分でも勝てるのか、不安が一瞬脳裏をよぎった。

「……ですが、臆する訳には行きません」
 持ちうる限りの勇気と落ち着きをもって、血染めの厄災に挑むハロ。レイピアをぐっと両手で握りしめ、大きく上段に振りかぶる。細剣の扱いとしてはやや奇異に見える構え。
「この一撃に、全てを込めます!」
 さらに自らを奮い立たせる為に、大きく声を張り上げて気合いを入れる。普通なら敵の注意を引いてしまう行為だが、幸いにもあのオブリビオンは耳が聞こえない――恐れさえ感じなければ、敵はこちらの所在を正確には掴めないはずだ。

「グルルルゥゥゥゥッ!!!」
 ルベルレギナは姿の見えない獲物を探して闇雲に爪牙を振り回す。大地を抉り裂く威力にひとたび恐怖を抱けば、たちまち【女王の慈悲】がその者の生命力を奪い取るだろう。
(ですが逆に言えば、恐怖しない者には力を十分に発揮する事も出来ないはず)
 現に奴はハロのいる所とはまるで見当違いの方向に爪を振るっている。ユーベルコードが発動している様子もない。恐怖と絶望を糧とする魔竜は、それゆえに恐れを持たぬ者に対しては無力。それが彼女から見れば唯一最大の突破口だった。

(ならば後は恐れを抱いてしまう前に戦い、倒してしまうのみです)
 長期戦はおそらく望めない。宣言通り、ほぼ全ての体力と魔力を費やして勝負に出る。
 この一撃が通じなければ後はないが、その場合の事は考えない。暴れ狂う魔竜を切り伏せるイメージだけを強固に思い描き、思考を研ぎ澄ませ、感情を滾らせる。
「はあぁぁぁぁぁぁ……!」
 手にしたレイピアが巨大な剣に変形する。標的を一刀両断するに足るだけの刃渡りに。
 まだ幼さの残る相貌に歴戦の兵士の表情を浮かべ、ハロは烈帛の気迫で斬り掛かった。

「ちぇえすとぉおぉおぉおぉぉぉぉ!」

 その技の名は【スターブレイカー】。持てる全てをただ一撃に籠めた乾坤一擲の斬撃。
 二の太刀を考えぬ思い切りと恐怖を踏み越える勇気が、その刃に恐怖の元凶を切断するための、雷霆の如き疾さと鋭さを与えた。
「グガ―――……ッ!!!!」
 ハロ渾身の大技を認識できなかったルベルレギナは、事前に身構えることすら叶わず。
 深々と斬り裂かれた胴体から夥しい量の血が噴き出し、苦痛の絶叫が荒野に木霊する。

「どんな強敵が待ち受けていようと、私は先に進みます」
 ありったけを出しきったハロは体力の消耗によりふらつきながらも、格好をつけて剣を構えなおす。本当はもう剣を振るうだけでも辛い状態でも、弱音なんて決して吐かない。
 勇敢なる少女と地を這う魔竜。力の差を覆す意志の差を、対照的な姿が物語っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
相性が良いと言うべきか悪いと言うべきか
自己《ハッキング+催眠術》の暗示による精神障壁の構築――
理不尽を殺す理不尽、絶望をこそ薙ぎ払う希望。
それが私の在り方である以上、恐怖も絶望も感じる事などこのプライドが許さない
つまり真っ向勝負ね。流石に攻撃を受けた相手の方向くらいは分かるでしょうし

【異聞降臨】で召喚し宿すは勇猛を司る無双の獅子
嘗て最も強靭な肉体を持つと定義されたこの化身を打倒し得るのは
決して揺るがぬ正義を持つ勇士のみ。貴女にその資格はあるかしら?

オーバーロード、纏う毛皮は如何な攻撃を以ても傷つかないと謳われた護りの象徴
四肢には《オーラ防御+属性攻撃》の要領で巨大な獣爪を作りあらゆる護りを引き裂く刃と為す

UCで《封印を解く+ドーピング》増強された《怪力+激痛耐性+継戦能力》を軸に正面から叩き潰すとしましょう
《第六感+戦闘知識》で敵の動きを《見切り》先読み
敵UCの咆哮は《早業+先制攻撃+カウンター》で喉元を潰し、余波も獣爪の斬撃で捻じ伏せる
直接攻撃は《受け流し》隙を作って連撃で仕留めるわ



「相性が良いと言うべきか悪いと言うべきか」
 暴力と威圧によって恐怖をもたらし、その恐怖を知覚することで獲物を補足するという黒炎のルベルレギナ。本来なら厄介極まりない特性だが、カタリナの表情に恐れはない。
「理不尽を殺す理不尽、絶望をこそ薙ぎ払う希望。それが私の在り方である以上、恐怖も絶望も感じる事などこのプライドが許さない」
 自己暗示による精神障壁の構築。それは心に対するハッキングや催眠術を用いた非常に強固なものだ。怖気をふるう魔竜の咆哮も、今の彼女にとっては小鳥のさえずりが如し。相手がどんな強敵であろうとも、眼差しはまっすぐに前だけを睨んでいた。

「つまり真っ向勝負ね。流石に攻撃を受けた相手の方向くらいは分かるでしょうし」
 そう言ってカタリナは【異聞降臨】を発動し、平行世界から魔神の化身を召喚する。
 たとえ同一視される神格であっても、神には様々な側面がある。このユーベルコードはそうした魔神"暁の主"の別側面を化身として喚び出し、自らに宿すものだ。
「"――我は汝、汝は我! 交わらざるイフの時空より来たりて聖暁の威を示せ!!"」
 今回召喚されたのは、勇猛を司る無双の獅子。超克(オーバーロード)に至ったその身は金色の毛皮をまとい、四肢には眼前の魔竜に勝るとも劣らぬ巨大な獣爪が生えてきた。

「嘗て最も強靭な肉体を持つと定義されたこの化身を打倒し得るのは、決して揺るがぬ正義を持つ勇士のみ。貴女にその資格はあるかしら?」
 耳も聴こえぬ相手から返答などこないと分かっていて、あえてカタリナは問いかけた。
 そして四肢の獣爪を振りかざすと大地を蹴り、凄まじいスピードで獲物に飛びかかる。
「ウオオォォォォォォォ―――ッ!!!!!」
 対するルベルレギナは目も見えぬまま闇雲に咆哮を撒き散らす。たとえ標的を捉えられていなくとも【女王の躾】は周囲にある者を無差別に傷つける。彼女に近付くということは即ち、その攻撃の範囲に自ら飛び込むということだが――。

「この程度ッ!」
 ユーベルコードで増強されたカタリナの身体能力は、まさに野獣の如き強靭さを誇る。
 身に纏いし獅子の毛皮は、いかなる攻撃を以ても傷つかないと謳われた護りの象徴だ。
 それによって彼女は咆哮がもたらす苦痛を耐えて一目散に接近し、魔竜の喉元へと獣爪を突き立てる。
「―――ガッ!!?」
 魔神のオーラで形成された爪はあらゆる護りを引き裂き、強固な魔竜の外皮さえ抉る。
 喉を潰されたルベルレギナの咆哮が止み、一瞬の静寂が常闇の燎原に訪れる。敵の懐に入ったカタリナの口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。

「さあ、正面から叩き潰すとしましょう」
「グ……オオォッ!!」
 咆哮の余波を獣爪でねじ伏せ、揚々と宣言するカタリナ。ルベルレギナも負けじと反撃するが、これだけ近くにいても視聴嗅覚を失った彼女には敵の正確な位置が分からない。
(こちらが恐怖を抱かなければ、向こうは当て推量で動くしかない、理性のない獣)
 そんな相手の動きを先読みするのは、カタリナには造作もないことだ。研ぎ澄まされた第六感と豊富な戦闘知識を活かして、魔竜の爪牙をこちらの獣爪で受け流し、隙を作る。
 獣の相を宿しながらもヒトとして鍛えた技や知恵は失わない。それが今の彼女の最大の強みだ。強大だが正気や感覚など多くのものを失った魔竜とは、そこが決定的に違う。

「私を絶望させるには手札が足りなかったわね」
 青黒い外皮に叩き込まれる獅子の連撃は、容赦なく肉を抉り骨を断ち血飛沫を上げる。
 鮮血を浴びながら獣爪を振るうカタリナの姿は、野性味のある勇猛さにあふれていた。
「グ、ギガアァァァァ―――ッ!!!」
 ルベルレギナの上げる絶叫は恐怖をもたらす咆哮ではなく、苦痛を訴える悲鳴となる。
 いかなる恐怖にも屈すまいとする強靭な意思には、絶望を食らう魔竜も無力であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
弱者と誤認させ、恐怖を与える
なるほど、確かに有効な策だった――今日、この時までは

手を掲げる、何も持っていない手を
そして呼ぶ
槍よ――来いッ!

遥か彼方より、地を覆う黒き炎を【吹き飛ばして】飛来する、我が半身(念動力)
その黄金の輝きは、常闇の中にありて些かの陰りもなし
握り締めた白銀の柄の頼もしさ
幻覚のせいとは言え、あなたのことを忘れるとは……私としたことが

私の幻覚からの目覚めに呼応して、聖槍もまたその真なる力を覚醒させる(聖槍覚醒・神罰・全力魔法・属性攻撃・破魔)
こちらを察知できない邪悪な竜へ――吶喊!(ダッシュ)

極光を纏う聖槍は、一振り毎に我が身を焼き、激痛に苛む
しかしそんな代償、【気合い】と【根性】があれば耐えられる(激痛耐性)
斬り打ち穿ち【なぎ払い】、縦横無尽に光の軌跡を描き、邪竜を追い詰める
至近距離で咆哮を浴びようと、もはや我らの心に恐怖はない(勇気)
狙いの付けられない闇雲な爪牙などに当たりはしない(見切り)

全霊の力を以って(怪力)、突き穿つ!(ランスチャージ・貫通攻撃・限界突破)



「弱者と誤認させ、恐怖を与える。なるほど、確かに有効な策だった――今日、この時までは」
 黒い炎を纏う『血染めの災厄』ルベルレギナを毅然と睨み付けて、オリヴィアは語る。
 絶望の幻を打ち破り、力と己を取り戻した彼女は手を掲げる、何も持っていない手を。そして呼ぶ、天よ轟けとばかりに高らかに。
「槍よ――来いッ!」
 その呼びかけに応えて遥か彼方より、地を覆う黒き炎を吹き飛ばして飛来するは彼女の半身。その黄金の輝きは、常闇の中にありて些かの陰りもなし。離れていたのは僅かな間だけだったが、握り締めた白銀の柄の頼もしさよ。

「幻覚のせいとは言え、あなたのことを忘れるとは……私としたことが」
 共に数多の邪悪を屠ってきた「破邪の聖槍」は今、再び遣い手の元に舞い戻ってきた。
 オリヴィアの幻覚からの目覚めに呼応して、聖槍もまたその真なる力を覚醒させる。
「覚醒せよ、我が聖槍。無窮の神威を今ここに――!」
 封印の解かれた聖槍は極光を纏い、真昼もかくやという明るさで常闇の燎原を照らす。
 これぞ神罰の具現、破魔の体現。悪を穿ち、邪を破り、魔を斬り裂く、神聖なる威光の顕現である。

「オォォォォォォ……?」
 黒い炎に視力や聴力を奪われたルベルレギナには、その輝きを見ることさえできない。
 頼りとなるのは標的が発する恐怖だが、恐れを抱かぬ相手にはそれも無意味。こちらを察知できない邪悪な竜へ、オリヴィアは聖槍の矛先を向け――。
「――突貫!」
 地面が爆ぜるほどの強烈な踏み込み。まるで自身も槍の一部となったかのように、彼女はまっすぐに駆けていく。聖光の軌跡を燎原に刻みながら、その矛先は魔竜に容赦のない初撃を抉りこんだ。

「グオォアアァァッ!!?」
 腹を抉った強烈な一突きに、ルベルレギナが悲鳴を上げる。視聴嗅覚を失っても痛覚はまだ健在なのか。オリヴィアはそこで手を緩めることなく聖槍を振るい、追撃を見舞う。
「うぉおおおおおっ!!」
 極光を纏う聖槍は、一振りする毎にオリヴィア自身の身を焼き、激痛に苛んでもいる。
 かの槍に課せられていた封印は、遣い手を反動から護るためでもあったのだ。人の身に余る神威は、ただ顕現させるだけでも彼女の寿命を毎秒ごとに削っていく。

(しかしそんな代償、気合いと根性があれば耐えられる)
 どれほど重い肉体的な苦痛も、オリヴィアの心に滾る烈火をかき消すことはできない。
 握った手が焼けるのも構わずに聖槍を振るい、斬り、打ち、穿ち、なぎ払い、縦横無尽に光の軌跡を描き、邪竜を攻め立てていく。
「グ、ウオアアアァアァァァァァッ!!!!」
 追い詰められたルベルレギナは【女王の躾】を発動して、恐怖をもたらす咆哮を放つ。
 だが、それを至近距離で浴びようと、オリヴィアは攻撃の手を緩めるどころか怯みすらしない。喧しいと言わんばかりにより深く、黄金の穂先を突き立てるばかりだ。

「もはや我らの心に恐怖はない」
「グ、ウゥゥゥッ!!!?」
 悲劇の幻を乗り越えたことで、オリヴィアの勇気はこれ以上ないほど燃え盛っている。
 その気迫は相手の方が逆に圧倒されるほどで、進退窮まったルベルレギナは破れかぶれの肉弾戦を仕掛けるが――。
「狙いの付けられない闇雲な爪牙などに当たりはしない」
 たやすく躱され、懐に潜り込まれる。無防備にも胴体ががら空きだ。ここが勝機と見込んだ聖槍の遣い手は、全霊の力を以って柄を握りしめ、烈帛の気迫を込めて穂先を放つ。

「突き穿つ!」
 無窮の閃光が闇を切り裂き、悪しき竜の身を貫く。腹から背に突き抜けるほど壮烈に。
 止めどなく噴き出す鮮血、そして絶叫。燎原に響くそれは魔竜の生命が尽きゆく音だ。
「ガ――アアアァァァァァッ!!!?!」
 幾度も猟兵達を絶望させようとしてきた常闇の燎原での戦いも、いよいよ終局が近付きつつあった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
(その場で足を止め、竜の咆哮に耳を傾けている)
この異様な気配……途轍もない力を持った者が近くにいるな。
俺が喰われるのが先か、其れとも俺が其の身を断つのが先か。
■闘
あえて、其の咆哮を身体が震えるまで聞き続ける。
そうすれば奴も来る筈。

敵が仕掛けてきたら、一気に心を【落ち着かせ】ながら攻撃を
【受け流し】、周囲の奴隷を庇いつつルベルレギナを牽制する。
その際は『【怪力】のみで敵の一撃を受け止める』など、辺りの
奴隷ですら『どんな神経をしている?』と思うような立ち回りを
見せ、彼等から少しでも恐怖や絶望を取り除くことを試みる。

ルベルレギナが奴隷を喰らおうとしたら、此方も一気に動く。
裏奥義【剣域・無】を発動し、その場の全員の動きを一時的に止め、
今まさに喰われんとしている奴隷の間へ【ダッシュ】で割り込む。
仕掛けるに丁度いい場所を見つけたら頭部目掛けて斬りかかり、
刀が当たる限界寸前の位置で剣域を解除。
頭ごと真っ二つに【切断】するのだ!

後戻りはせぬ……只管前進あるのみ。

※アドリブ歓迎・不採用可



「グウゥゥゥゥゥ……オォォォォォ……!!!」
 おぞましき咆哮が常闇の燎原に響き渡る。それは獲物の恐怖を煽り絶望へと誘うもの。
 悲劇の幻覚から脱した清綱はその場で足を止め、竜の咆哮にじっと耳を傾けていた。
「この異様な気配……途轍もない力を持った者が近くにいるな」
 兵(つわもの)としての己を取り戻したからこそ分かる強者の予感。今までこの世界で戦ってきた同族殺しや紋章持ち、第五の貴族といった強大なオブリビオンにも比肩する、あるいはそれ以上の力を持った輩が、この地には蔓延っているようだ。

「俺が喰われるのが先か、其れとも俺が其の身を断つのが先か」
 清綱はあえて竜の咆哮を聞き続け、恐怖を己の心に呼び込む。次第に身体は震えだし、指先の感覚がこわばり、背筋を冷たいものが流れる。歴戦の兵とて怖れと無縁ではない。
「グルルルゥゥゥゥ……!」
 そうすれば奴も来る筈との予想通り、恐怖の臭いを嗅ぎつけたルベルレギナが彼の元に姿を現した。血染めの外套に包まれた肉体は既に深手を負っており、苦痛と疲弊は飢えを加速させる。落ち窪んだ眼窩からは黒炎とともに強烈な殺気が発せられていた。

「ひ、ひぃっ……」「もうダメ……!」
 周囲にはいつの間にかルベルレギナの力で召喚された【女王の奴隷】もいる。生き餌として呼び出された彼らは女王の威圧に怯え、絶望にうなだれるだけだが――清綱は違う。恐怖を抱きながらも恐怖に屈しない、鋼のように強靭な心を宿している。
「ウオオォォォォォォォッ!!!」
 それ故にかルベルレギナが標的として選んだのも、自らの恐怖を御する清綱であった。
 敵が仕掛けてきたと見るや、彼は即座に落ち着きを取り戻し、徒手空拳で構えを取る。
 猛然と迫る魔竜に対して一歩も下がらず、周囲の奴隷たちを庇うように前に出て――。

「来い!」
「グオォッ!!」
 剥き出しになった竜の爪牙をガッと両手で掴み取り、両足に力を入れて衝撃に耐える。
 血染めの災厄と畏怖された狂えるオブリビオンの一撃を、彼は膂力のみで受け止めてみせた。それを可能にする豪腕にも驚きだが、よほど肝が据わってなければ試みもすまい。
「な、なんだあの男は?!」「あのバケモノを、素手で止めた……!」
 庇われた奴隷達ですら『どんな神経をしている?』と度肝を抜かれるような立ち回りをあえて見せたのは、彼らから少しでも恐怖や絶望を取り除くため。強大な敵にも臆さない勇猛さを示すことで、皆を鼓舞しようというのだ。

「血染めの災厄、何するものぞ」
「グ、グルルッ……!」
 豪快に見えてその実、一手の誤りが致命傷になる綱渡りじみた挙動で、ルベルレギナを牽制する清綱。目前にいるのに喰らえない獲物に魔竜は苛立ち、怒りの唸り声を上げる。
「す、すごい……!」
 人々はいつしか震えることも忘れて、その戦いぶりに見入っていた。恐れを越えて立ち向かう者の美しさに、見惚れていたと言ってもいい。冷え切っていた胸の奥から、熱いものがこみ上げてくるのを感じる。

「ウゥゥ……ッ!」
 傍目には勇者の偉業としか思えない拮抗状態に、先に音を上げたのはルベルレギナの方だった。より捕食しやすそうな獲物を求めて、付近にいる奴隷にドス黒い殺意を向ける。
「ひいっ?!」
 奴隷達はたまらず悲鳴を上げるが、清綱も敵の注意が逸れたタイミングで一気に動く。
 腰に佩いた刀に手をかけ、繰り出すは目にも留まらぬ一瞬の抜刀術。鞘走りと共に放出された膨大な剣気は、束の間だけ戦場の「時空」を止める。

「我が"剣域"、遁ぐ事能わず……」
 幾多の戦を経て編み出した、時を断つ剣【剣域・無】。怯える奴隷も、吼える女王も、その場にいる全員の動きが一時的に止まる。燎原を覆う黒い炎すら氷のように制止した、この領域で動ける者はただ1人。
「もう誰も、彼奴の餌食になどさせん」
 今まさに奴隷を食おうとするルベルレギナの間に、清綱は猛然とダッシュで割り込む。
 敵は大口を開けたまま停止しており、仕掛けるには丁度いい場所。ここが好機と見込んだ彼は抜き放った刀を大上段に構え、竜の頭部目掛けて斬り掛かった。

「押し通る!」
 限界寸前の位置で剣域を解除。停まっていた時が動きだすのと、敵の脳天に刀が当たるのは同時だった。そのまま清綱はありったけの膂力と気魄と全霊を込めて刃を押し込む。
「ガ……―――!!!?」
 回避も防御も許さない。何が起きたのか理解する暇もない。ルベルレギナがはたと気付いた時には、退魔の刀は頭蓋へと滑らかに食い込んでいき――頭から尾の先に至るまで、真っ二つに両断する。

「後戻りはせぬ……只管前進あるのみ」

 立ちはだかる障害を文字通りに"斬り開いた"兵は、血に塗れた刀で静かに残心をとる。
 縦に割れた竜の巨体はゆっくりと左右に倒れていき、大地を紅に染めあげる。断末魔を上げる暇もないまま、それは完全に絶命していた。



 かくして、猟兵達は常闇の燎原に住まう最大の脅威、黒炎のオブリビオンを討伐した。
 黒い炎が見せる幻にも屈さず、恐怖や絶望を乗り越えた一同の前には、未だ果ての見えない荒野が続いている。この先にあるという『第三層』に至るまでの道はまだ遠かろう。
 なれど前進を続ける猟兵達の足跡は、その上層にたどり着くための道のりを一歩ずつ、着実に踏みしめているのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月25日


挿絵イラスト