銀河帝国攻略戦⑥~いつか辿り着く日の為に
都市型民間船・パドヴァ。かつて何処かの居住可能惑星に存在したといわれる、都市の名前を冠した船。この船には嘘か本当か、その都市から引き揚げたとの曰くある古めかしい石像や城の様な建造物が存在し、船内の住人たちの憩いの場となっている。しかしその普段は静かで穏やかな都市船が、今は血気盛んな叫び声と狂気に覆われていた――。
「銀河帝国に恭順せよ!」
「我々を戦争へと送り込む解放軍を許すな!」
「私たちの頭脳は人類の永続的繁栄の為、優遇されるべきなのだ!」
白衣をまとった集団が、ぞろぞろと街中を練り歩く。パドヴァは先の特色に加え科学者が多い船で、星を探す旅を支える技術開発が盛んだ。その技術の高さを欲し、利権を囲う政治家に目を付けた帝国軍が、彼らを唆して今の事態に至る。善良な市民は唐突なデモに殆どがおびえて隠れ、またこの状況を作るのに一躍買った政治家・ヴィスコンティは自らの邸宅で高みの見物を決め込んでいる。歯止めの機能しない中デモはその勢いを拡大し、叫び声と不慣れな激昂に酔い、放っておけば市民に被害が出かねないほど熱が膨れ上がっている。
――事態は、一刻を争っていた。
●説得と好転
「…ま、ちょっと難しくなったけど、要は帝国のあまーい法螺話から彼らの目を覚まさせてって話だね。」
資料を片手に説明していた荒久根・ジジ(ビザールイーター・f05679)が真面目一転、ざっくりと話をまとめにかかった。
「突破口としてはそうだね、怯えて隠れた市民を味方に付ける、帝国軍との癒着の証拠を見つけて晒す、またはデモ隊の科学者たちを口説き落とす…って感じかな。」
科学者たちは今でこそ保身に走っているが、元はスペースシップワールドの民全ての夢である、居住可能惑星の発見を後押しすべく邁進した者たちだ。そしてその彼らをデモに刈り立たせているのはその技術を失うかもしれない、研究が全て水泡に帰すかもしれないという恐怖。戦況を知る猟兵や解放軍からすれば帝国に与することこそ、その技術を無駄にしかねない愚行なのだが、彼らにはまだその先見的視野はない。ならば外から来た猟兵たちが、この状況を変える劇薬となるしかない。
「幸いここのトップを気取った政治家は小物でね。研究以外に目がいかない科学者たちを唆しはしたけど、帝国軍とのやり取りの証拠処理はオソマツなもの。奇襲をかければすぐにぼろが出るんじゃないかな。」
邸宅も市民に広く知れ渡っており、抑えるのはそう難しくないだろう。
「とはいえ時間はあんまり多くない。迅速な行動をお願いするよ。――それじゃみんな、健闘を祈る!」
呼び出したグリモアを前に、ジジが檄を飛ばした。
吾妻くるる
吾妻くるるです。
今回は戦争シナリオをお届けいたします。
下記を一読の上でのご参加をお願いいたします。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●基本情報
今回はシナリオの性質上、本格的な戦闘は発生しません。市民や科学者の中に数人一般人の裏切り者はいますが、オブリビオンはいません。説得・証拠探し・一般人の保護が行動の基軸になります。比較的自由度が高い分、何をするつもりなのか、どういった成果を狙っているのかを書いて頂けるとありがたいです。勿論それに伴った心情も歓迎です。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
第1章 冒険
『⑥裏切者を暴け!』
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POW : 多くの市民の集まるイベントに乗り込み、情熱的な演説等で『解放軍』参加への機運を盛り上げます。
SPD : 銀河帝国派の政治家の事務所などを捜索し、汚職や銀河帝国との内通に関する証拠を見つけ出し、公開します。
WIZ : 反戦集会や公開討論等に乗り込み、銀河帝国の息を受けた反戦派政治家の意見を論破します。
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ネリッサ・ハーディ
さて、こういうケースでは、政治家のスキャンダル辺りを流布するのが効果的ですね。
具体的には、ヴィスコンティとやらが帝国から癒着や賄賂を貰っている証拠を掴めばいいわけです。それによって売国奴扱いされれば、デモも求心力をを失って瓦解すると予想されます。
それに万が一証拠が掴めなくても、それ「らしい」と思われる行為を指摘してやれば、後はその話に尾鰭背鰭がついて伝わる筈です。火のない所には煙は立たない、という奴です。
いっそ、その手の噂をでっちあげる、と言う手もありますね。例え真実がどうあれ、政治家にとって手痛いダメージになるかと。
この手の情報収集や情報操作は、以前のキャリアで慣れてますから。
※アドリブ歓迎
微笑本・ウサ氏
小生としては邸宅に侵入して情報を猟兵達に委ねる系でござる。
【地形の利用】をして物陰から
隠し刀をヴォンと発動させ
壁や床に【トンネル掘り】して潜入
【野生の勘】で情報を掛けしてそうな扉を探す
扉に鍵が掛かっていた場合
カードキーだろうが錠前だろうが
金ペラカードを瞬間形状記憶させ
鍵穴の内側から【属性攻撃・酸】
で溶かしexカリでこじ開ける
【野生の勘】で片っ端から汚職や帝国との癒着、自分だけの利益を【掃除】しながら【情報収集】してスマホで猟兵たちに演説とかに使用するでござると送信
余裕が有れば政治家が逃げない用に尖角諸刀に【毒使い】【マヒ攻撃】で捕縛
うぬが全部さー語ればさー早くねっ☆と思うでござる(スマホ撮影
メテオリテ・クルスタ
【POW】
デモ隊の前に立ち塞がり、武器を捨てご挨拶したのち説得を。
この船では新たな星を探すため、長く研究してきたと聞きます。
関わり方は違えど、私も同じ夢を持つ身。
感服いたしました【技術を褒める※本心】
しかし帝国は過去、多くの星を滅ぼした…皆様の技術をまともに扱うとは思えません。
各地の技術者拉致も、帝国の仕業と聞きます。
帝国に従ったところでどうなるか【技術が潰える危険性】
数多の船が星を探す道を諦めてきました。
それ自体は決して悪しき判断ではありませんが、無理矢理折られるのであれば話は別です。
折らせません。
皆様もまた、私達が守る『世界』の『未来』です【加害しない、保護したい意思】
※アドリブ・絡み歓迎
御形・菘
はーっはっはっは! 甘言を弄するは悪の必須技能よ
しかーし、格上である邪神の妾が来たからにはそうはいかん!
怯える市民どもを解放への戦いの道へと扇動してくれよう!
さて市民の集まるイベントへ乗り込もうか
妾の狙い目は家族愛よ
身振り手振りを交え演説するぞ
お主ら、このままで構わないと本当に思っておるのか?
唇を噛み締めながら死んでいくものも選択の一つであろう
だがな、お主の愛する者達にまで同じ思いをさせるのは、我慢ができるかのう?
コミュ系能力には自信があるぞ
カメラ映えのために日々磨いておる!
誘惑、存在感、コミュ力、言いくるめ、鼓舞、活かすのはこの辺であろうな
皆が隠した勇気を絞り出す、最初の一歩にしてくれよう!
飛砂・煉月
SPD重視。
正直演説とか論破とか難しいの苦手だかんなー。
追跡メインに色んな痕跡とか探せねぇかな?
常に聞き耳は立てて、諸々を聞き逃したくないトコ。
第六感で閃いた事が有れば無理のない範囲でやってみるのも悪くないかなって。
危なくなったらダッシュで脱走!
逃げ足は早いって信じてる。
正直難しいことは解んないけどさ、其れでもオレに出来ることが有るなら見ない振りはしたくない。
それが例え憧れの人に後ろめたいことでも。
オレはオレのやりたい事を貫きたいんだ。
何か見つけたらどばーって公開しちゃうね。
是非もなし!なんてっ。
もし似た行動する人が居たら協力したいかな。
ひとりより出来ることきっと多いしさ。
何より心強いじゃん?
ミスティ・ミッドナイト
本来なら拷問も考慮に入れるべきですが、このような状況では逆効果。
デモ隊の結束が高まってしまう可能性がありますね。
内通の物的証拠を探し出し、皆様の目を覚まさせましょう。
ヴィスコンティ宅に【地形の利用】で張り込み。本人が外出した後にドアの蝶番にUCを撃ち込み侵入。
帝国軍と癒着しているなら賄賂を受け取っているはず。書類、管理帳簿等、証拠になり得る物を【情報収集】。金庫、引き出し、棚上、本の中。悪徳政治家は隠し部屋がお好きなようですから、それらも考慮して調べます。
手に入れた情報はネットに公開。または集会、討論会に向かう猟兵の皆様にお渡しします。
その思想が単なる夢物語であることを教えて差し上げましょう。
――都市型民間船・パドヴァ内部。見渡せば石造りの道に晴れた空、遠くに聳える古城――欧州の観光都市もかくやという情景だ。だが建物は上張りのテクスチャーこそ古い石造り風だが、触れれば金属の冷たい質感をその手に伝え、目を凝らせば投影された青空のグラフィックの向こうに、昏く広い宇宙空間が見て取れた。矢張りここは宙のただ中を泳ぎ、永住の地を求め彷徨う宇宙船の中なのだ。――そして今、長い旅を超えてきた筈のこの船は今、内側から崩壊し、食い破られようとしている。
●開始と開示
解放軍との手引きにより船内への潜入はスムーズに進み、猟兵たちはまず都市部へと降り立った。そして各々が事前に得た情報を元に、自らの行動を打ち立てるべく、散らばっていく。メテオリテ・クルスタ(この身は星片・f14154)と御形・菘(目指せビリオン・f12350)の二人もまた、確固たる行動指針を以て船へと降り立った猟兵だ。
「私は科学者たちのデモ隊を静めに行きたいと思っております。あなた様は?」
「妾は怯える市民どもを解放への戦いの道へと扇動してくれよう!しかし、市民を集めるに適当な場所があるかのう?」
降り立ったばかりでどちらも場所には明るくなく、行く先に宛はない。一先ずは適当に歩き出そうかと結論を出した、その時。
「――アンタたちも、今回の依頼に参加した猟兵…だよな?」
唐突に、そんな言葉が降ってきた。声の主を探し僅かに上を見れば、背後にあった中階段をひらりと飛び越えて、黒い耳付きパーカーの青年――飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が目の前に飛び出してきた。
「俺も猟兵だよ。先に着いたから、あちこち見て回ってたんだ。行きたい所があるなら、たぶん案内できるぜ。」
「おお、ありがたいです。」
そういって、地図代わりに見せられたのは通信用の小型デバイスだ。解放軍から預かっていたものにマップを表示させ、今のデモ隊の位置と、一般人が集まっていそうな場所を地点登録していく。
「あれなら俺が送っていってもいいけど。」
「いや、これだけわかれば十分だ。甘言を弄するは悪の必須技能。しかーし、格上である邪神の妾が来たからにはそうはいかぬからの!お主はお主で、やりたいことを成すがよかろう。」
「そっか、でも今ちょうど追っ手を撒いたりしたところだから、いろいろと気をつけてな!」
無事を祈ってる、という言葉と共に煉月がまたひらりと街を掛けていく。そして目指す地を示された二人もまた、己が向かう先へと足を進めていった。
きゅるきゅると車輪を駆動させて、メテオリテは地図の示す通りの場所へと進んでいく。そして少しずつ聞こえる人の声を追いかければ――熱気に浮かされ、声高に叫ぶデモ隊と遭遇した。
「な――なんだね君は!せ、制圧部隊か!?」
「いいえ、いいえ。私はメテオリテ・クルスタ。対話を以て、貴方たちのデモを止めに来たものです。」
その言葉通り、メテオリテが円筒状の体、その背中に背負った武器を器用に腕で外して地面に置く。戦意はないと示し、改めてデモ隊の科学者たちに向き直る。
「この船では新たな星を探すため、長く研究してきたと聞きます。関わり方は違えど、私も同じ夢を持つ身。感服いたしました。」
深く、本心から述べられる言葉に、科学者たちが僅かに動揺した風を見せる。
「しかし帝国は過去、多くの星を滅ぼした…皆様の技術をまともに扱うとは思えません。各地の技術者拉致も、帝国の仕業と聞きます。帝国に従ったところでどうなるか。」
「技術者の拉致…本当か?そんなことが起こっていたのか…?し、しかしそれが本当に帝国の仕業かはわかるまい。実際ヴィスコンティ氏は私たちに、帝国に協力すれば多額の補助金を出すと約束してくれて…。」
研究に明け暮れるばかりで情勢に明るくないのか、聞かされる情報に戸惑うばかりの科学者たち。そして悪事は知りつつも、まだその確たる証拠を持たないメテオリテに、ヴィスコンティの虚言をここで指摘するのは難しい。――ここで、話し合いが一時膠着した。
「妾の神々しいオーラがこうも裏目に出るとは…市民の心労もかなりのもの、ということかの。」
一方で菘もまた、一般人を相手に苦吟していた。本来猟兵たちはどのような姿であっても、現地の人間に違和感を抱かせないもの。だが、緊迫した空気に委縮しきった市民たちに、自ら邪神と名乗る程の異形を呈した菘の存在感は、“そう”とは気づかせないまでも、よそ者としての印象を強くしまったようだ。だが、それだけで引き下がるようなことを、菘はしない。持ち前のコミュ力と、状況を推し量り、共感する様子を見せながら、徐々に心の距離を詰めていく。しかし――
あと一押し、もう一押しが足りない――そう、どちらもが思った瞬間。
煉月に手渡された通信デバイスが、無機質なコール音を立てる。
それは、知らせ。
此処にはいない同志たちの、反撃を知らせる狼煙。
●詮索と政策
――説得の開始より遡ること1時間前。ヴィスコンティ宅前。
そこには先に船内へと踏み込み、目的を同じくして動く猟兵たちがいた。
「本来なら拷問も考慮に入れるべきですが、このような状況では逆効果。デモ隊の結束が高まってしまう可能性がありますね。」
「目の前にいる6歳児への教育的悪影響を考えても、今回はやめておくべきでござるな。」
建物の陰からヴィスコンティの家を窺い見つつ、ミスティ・ミッドナイト(霧中のヴィジランテ・f11987)と微笑本・ウサ氏(the freedom~歩く悪巫山戯~・f01154)がそんな会話を繰り広げ、ネリッサ・ハーディ(ナイフ・アンド・コーツ・f03206)が肩をすくめた。邸宅の位置は、煉月が街を練り歩き、聞き耳で得た情報によって割り出された。そして今、4人が揃って様子を窺っているのだが――。
「…流石にデモの最中に、政治家の邸宅ともなれば護衛はつきますか。」
ネリッサが冷静な物言いとは裏腹に嘆息し、玄関口に張り付く見張り役を見つめる。今回はオブリビオンが居ないことは情報として共有されているので、つめているのは恐らく一般人だろう。猟兵4人でかかれば恐らく撃退は容易いが、あまり大きな乱闘になって中のヴィスコンティに下手に逃げられるのは避けたい。どうするか、と悩んだ末に――煉月が、立ち上がった。
「俺がおとりになって、アイツらを引きはがしてみる。…正直難しいことは解んないからさ、中であれこれ情報操作、みたいなことの役には立てないと思う。だからそこは皆に任せたい。それでも、オレに出来ることが有るなら見ない振りはしたくないから。」
大丈夫か、と気遣う視線には、これでも逃げ足は速いんだぜ、と笑って見せて。ハンドサインを合図に1、2――3で駆け抜ける。
「いけっ――ハク!」
その肩に寄り添う、真白い竜の名前を叫ぶ。呼ばれた竜はその小さな体躯で矢のように飛び、玄関の警備にあたっていた2人の男へと体当たりする。
「がっ…!?」
「っは…、な、なんだ!?」
「街がデモでヤバイってのに、こんなところでのんびり警備のお仕事かよ!あきれてものも言えねぇぜ!」
挑発するようにべ、と舌を出し、これ見よがしに走り出す煉月。一瞬悩んだそぶりを見せた護衛達も、苛立ちが先だったのか待て!と叫びながら追いかける。近すぎず、また離し過ぎない速度を保ちながら駆けて行けば――邸宅前は、無人になった。
その隙に、と3人がドアへ近寄り、扉に手をかける。
「…まぁ、鍵はかかっていますよね。では。」
ミスティが手早く蝶番を打ってドアを外し、一気に階段を駆け上がれば、ひときわ豪奢な扉が目についた。3人で目くばせをし、バァン!とドアを開けて進めば。
「んなっ…!?なんだね君たちは…!」
悪徳政治家、と言って思い浮かべるテンプレートの1つに在りそうな、でっぷりと肥え太った男。どう見てもこいつが予知に出てきた悪徳政治家、かのヴィスコンティだとすぐに分かった。そしてさすがに敵意に気が付いたのか、ヴィスコンティが慌てて机回りを探り出すのを見て、ミスティがいち早く動いた。
――でたらめに構えたヴィスコンティのブラスターガンを手刀一閃はたき落とし、ほうける隙も与えない速さで腕を捻り上げ、贅肉だらけの上半身を机へ叩きつける!
勿論それでも十分に手加減は施したのだが、凡そ武術などに心得がないヴィスコンティはぐええ、と情けない声を上げて机に突っ伏すばかり。
「賊め…私をヴィスコンティと知っての狼藉か!?なぜこのようなことをする!」
「それは当然、探られて痛い腹を諸共に搔き出す為ですよ。」
ミスティの言葉にえっ、と声を上げたヴィスコンティの顔がみるみる青ざめていく。なるほど、やはり相当痛い腹があるのだろう。そしてそれも、この青ざめようでは証拠がここにあることも明白だ。改めて逃げないようウサ氏が軽く麻痺を施し、ミスティが縛り上げ、床に転がす。
「では、家探しと行きましょうか。何、この手の情報の隠し場所は見当がつきます。」
ネリッサが言葉通り、経験に裏付けられた慣れた手つきで、重要物を隠すに思い当たる場所を探り出す。
――書棚の裏、無し。
――壁の隙間、無し。
――机の引き出しの奥…ヒット。
あえて一番目から外した、ありがちすぎる場所に、一抱えほどの大きさの怪しげな箱があった。一応かかっていた厳重っぽいセキュリティロックも、
「カードキーだろうが錠前だろうが、金ペラカードと溶かしexカリでこじ開けるでござるよ。」
ピピッ、ガチャン。
…ウサ氏があっさりと開けてしまった。そして見つかった書類はご丁寧に、いかにもといった内容のものばかり。
「これとー、あれとそれ。大方の情報はデバイスで共有したでござる。使い方は説得側の猟兵がいればそっちに任せるでござるよ。あとはーうぬが全部さー語ればさー早くねっ☆」
ピッピッピ、と手早くデバイスで書面の写真を撮り送信すると、ひょいっと刀の先でヴィスコンティをつつく。為されるがままの男はひぇぇ、と情けない声を上げるばかりで最早抵抗もない。
「ではこちらを貰って、私はデモ隊と市民に合流しましょう。直筆の現物もあった方が説得力が増すでしょうから。」
そういって、ネリッサが最も厳重に仕舞い込まれていた1枚の書類を抱え、邸宅を後にする。
「…ではこちらはこちらで、最後の仕上げと行きましょうか。その思想が、単なる夢物語であることを教えて差し上げなくては。」
ミスティが床に転がしていたヴィスコンティを手際よく椅子へと座らせ縛り直し、手にしたデバイスのカメラ調節にかかる。
「さぁ、一世一代のショーーーータイムッ!でっふり脂ギッシュなおじさんでも当社比綺麗に撮ってやるので、とっととゲロッてスッキリするでござるよ。」
そう言いながらニタ、と笑むウサ氏が刀でつつけば、ヴィスコンティか完全に目の光を失った。
邸宅を抜け出たネリッサが、護衛を捲き終えて戻った煉月と合流を果たし、共に走る。環境循環システムにより、常に程よい気温に保たれたはずの艦内が、今はなぜか少し暑く感じる。それはこうして大広場へ向かうべく疾走しているからなのか、それとも民衆の慟哭を肌で感じるせいなのか。何にせよ、それはもうすぐ終わりを迎えるはずだ。今ネリッサが胸に抱え、煉月が導き、そしてウサ氏とミスティが着々と整えている“爆弾”によって。
――そして時間は、“今”に追いつく。
『――ってわけなんだ。俺たちがドーンと証拠をアップする場所を整えるから、2人とも大広場へ誘導頼むな!』
「了解いたしました。必ず皆を無事に、そちらまで導きます。」
「任せよ、妾の誘惑をもってすればその程度、造作もないからの。」
それぞれに同意を返し、メテオリテが、菘が、背にした人々へと向き直る。
――持ちうるものすべてを尽くし、皆で大広場へと向かう為に。
●集結と終結
大広場には、普段は他愛無い公共放送を流したりイベントの時に用いられる、見渡すほどに大きな光学ディスプレイが設置されていた。メテオリテと菘がそれぞれデモ隊と市民たちを引き連れて大広場にたどり着いたとき、既に先行していたネリッサと煉月が、ディスプレイにデバイスをつなぐ処理をしていた。
「これはいったい…?」
「何を見せようというんだ。」
「本当に、私たちは何かにそそのかされているの…?」
メテオリテと菘の2人に何とか説得され、渋々ここまで来たはいいが、未だ事態の真相を知らない科学者と市民たちは不安げにざわめいている。
そんな中、煉月がスイッチを入れ――
「さぁ、どばーって公開しちゃうね。是非もなし!」
ブォン、と音を立ててディスプレイが立ち上がり、映し出されたのは――書面だ。それも内容は、ヴィスコンティが帝国より、技術提供の代わりに私的金銭を受領する旨を記した書類。帝国と癒着し、自分だけの利益を追い求めたことの、証左。
「これは、私たちがかき集めた証拠です。貴方たちが、ヴィスコンティに騙されているという事実の。」
ネリッサがきっぱりと言い放つ。そして掲げるのはこの世界において珍しい紙の、しかもヴィスコンティの手書きの署名と判が押捺された――ネリッサが邸宅より持ち出した、最も分かりやすく、言い逃れができない証拠。実物の存在を示しながら、ネリッサが民衆へ語り掛ける。
「私たちがこの船へ来た理由はひとえに、貴方たちを助ける為です。そしてそのために必要だったのは、このヴィスコンティの悪事を詳らかにする証拠集め。…問いますが、科学者たちのデモの発端。それは、ヴィスコンティにこう言われたからではないですか。『解放軍に加われば、科学者であろうとも戦線へ放り込まれる。だが帝国なら手厚い庇護のもと研究を続けられ、ともすればあの――失われたはずのワープドライブ技術すら、解明できるかもしれないぞ』と。」
その言葉に覚えがあるのだろう、数人の科学者たちが顔を見合わせ、頷き合う様子が分かった。
「ならワープドライブが解放軍のお姫様も使える能力だって、知ってる?しかも銀河皇帝が戦争吹っ掛けてるのも、そもそもそのワープドライブの能力を自分以外が持つのを許さないって理由なんだぜ。そんな奴が本当に、技術を開示してくれると思う?」
煉月がさらに続ける。告げられた事実に、そんな、とひざを折る科学者たち。そして止めと言わんばかりに、ディスプレイにライブでの動画が流され始めた。画面を覆いつくすように映ったのは、椅子に縛り付けられた件のヴィスコンティだ。
『…、…。』
『ほらとっとと喋るでござるよ。』ゴンッ
『あまり口が重いようでしたら、滑りが良くなるよう私の技能をお教え致しましょうか。“掃除”に始まり“暗殺”“目潰し”それから――』
『わわわわかった!しゃべる!喋るから、許してくれ…!!』
『では、今まで開示された証拠は全て、真実であると。…そう認めますね?』
『……あ、ああ、そうだ。私は確かに、帝国に――金で、技術を売り渡していた。』
画面を見つめる民衆が、ざわついた。
『わた、私だって死にたくなかった!技術さえ売れば金は手に入るし、帝国内でも地位も約束さりぇ、さ、されてたんだ。今あるものを失うのがこ、怖かった、怖かったんだよぉぉぉ!戦争になんか参加したくなかったんだひょ!そのためなら何を売っても私は、お、おしくなかったんだぁぁ!!』
ブツンッ
映像がそこで途切れ――大広場が、しん、と静まり返った。
自らを庇護してくれていると、そう信じていた相手の醜態を今、確かに目にしたはずだった。怒りを覚える内容だった。檄しても仕方ないくらいの暴言を聞いたはずだ――それなのに。皆を一番初めに襲ったのは怒りよりも、大きな脱力感だった。科学者たちは培った技術の為に、それこそが先につながる行為だと自らを諭し、奮い立たせ、デモを行ってきた。怯え隠れた市民も、目まぐるしく変わりゆく情勢の中、何が正しく、何が間違っているかもわからないまま、それでもいつかはよくなると信じて今を絶えしのいできた。なのにそれ等は全て――無駄なことだったのか。
茫然自失とする民衆を見つめ、メテオリテが静かに、けれどよく通る音声で話しかけだした。
「――数多の船が、星を探す道を諦めてきました。」
それは、スペースシップワールドを生きてきた彼にとって、幾度となく聞いてきた、切なくも現実の話だ。
「それ自体は決して悪しき判断ではありません。長い、あまりに長きに渡り、私たちは旅をしてきました。それは何かを諦めるには十分すぎる歳月です。その時間の長さが皆様の道を違えさせたというならば、私は責める言葉を持ちません。けれど、無理矢理折られるのであれば話は別です。」
ましてや自己の利益を優先させ、守るべき民衆を差し出す悪意などには、絶対に――
「折らせません。皆様もまた、私達が守る『世界』の『未来』です。」
「未来!そうだ、お主ら、このままで構わないと本当に思っておるのか?」
メテオリテの言葉に、菘も自身の言葉をつなげていく。大きく身をそらし、また見つめる民衆の眼すべてを掌握するかのように、腕を差し伸べながら。
「唇を噛み締めながら死んでいくものも選択の一つであろう。実際、長い長い星を巡る旅の中、そうして死んでいった者たちもいただろう。」
共感を、悲哀を。体全てで表すように、その異形の身を抱きしめ、憂いの浮かぶ表情を作って見せる。その舞台演出の様な動きは、否応なしに人々の視線を集め、束ねていく。そして――
「――だがな、お主の愛する者達にまで同じ思いをさせるのは、我慢ができるかのう?」
隣を見よ、というように指先をつい、と横へとそらす。そして誰もがその動きにつられ――隣に立つ、愛する家族を、恋人を、友を、見た。
「何故お主は今まで耐えてこられた?この長い時間を此処までつないでこられた?すべては、いまその目に映る者たちに、望む未来を手渡したいからであろう。」
そう、今まで培ってきた技術は、語り継いできた過去は、夢見た未来への道しるべ。全ては――先を欲したからこそ。
「ならばこのように矮小で取るに足らん奴の言葉に踊らされるでないわ。寧ろこの怒りを、猛りを、今ここで――皆が隠した勇気を絞り出す、最初の一歩にしてくれよう!」
――さぁ!
そう言って、大きく広げられる手に――まるで、胸の内を開かれたかのように。
怒りを溶かし、押し流すように、人々が涙を零した。
●先行きと幸い
「――私たちは、解放軍へ加わることにしました。」
踊らされていたことを理解し、科学者たちはデモを止め、無事市民と和解をするに至った。そのことを、年嵩の科学者が船を代表して伝えてきた。
「ヴィスコンティの身柄もすべて解放軍に一任します。私たちは…この技術を、先に伝える義務がある。責務がある。だからこそ、今は戦う道を…選びます。」
たとえ技術のためとはいえ、保身に走ったのは同じ事。だとしても、振り返り、正すことのできる心を以てこの先を――歩む先を、決めることはできる。そう頭を下げ、決意を告げるパドヴァの人々を見て、猟兵たちは思い残すことなく船を後にする。
戦争は未だ続いている。そして未来がどうなるかは、誰にもわからない。
でも、だからこそ。
――これはいつか、辿り着く日の為に踏み出す一歩。
大成功
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