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殲神封神大戦⑰〜灰色の鬼

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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 来島藩、刹羅沢郷。
 今やただ一人の羅刹が住まうというサムライエンパイアにおける秘境の片隅には、比較的新しい洋館が建っている。
 その一室にて、刹羅沢サクラは、座して瞑目していた。
 金次第で転ぶごく少数の部族として、戦の中に生きていた刹羅沢の鬼がサクラただ一人を残して滅び、主だった戦乱の火種も潰えて来島藩に平穏が訪れてから約五年。
 穏やかに暮らしていたサクラが猟兵として、忙しく世界を転々とするようになった頃よりも前から、彼女は一人、部屋に座して瞑目する時間を確保していた。
 卑劣な罠にかかり、同業諸共滅んでしまった家族の事を思い、その復讐に身を投じ、やんちゃしていた事もあったのを振り返る日々は、彼女にとって大切なものであった。
 本来は名を持たぬ刹羅沢の鬼が、この地を姓とし、幼馴染が付けた愛称をそのまま名乗る日々は、すっかりと刹羅沢サクラという名を根付かせたといっていいだろう。
 だが、どうしてか、今日は胸騒ぎがする。
 あの時のような、悪い事が起きる様な予感がしてならないのだ。
 刹羅沢を、同胞の妖狐、甘縞一族とを戦場にかち合わせ、地雷火の炎で戦場ごと焼き尽くしたあの日のような。
「……! これは」
 グリモアを手にしたサクラの下に訪れる予知は、いつだって唐突だ。
 戦場に生きたサクラにとって、グリモアによって齎される予知はもどかしいものだった。
 自分が見た予知に対し、グリモアを手にする猟兵は手を出すことができない。
 それがたとえ、自分の宿敵であろうとも、自らが手を下せば、それは予知を大きく外れ、グリモアの及ぶものとは別の結末を呼んでしまうことだろう。
 少なくともグリモアという力を下賜した存在は、この力が及ばぬ外に溢れる事を好とはせず、何があろうとも自らの予知に手を下すことを禁じ手とし、グリモアベースに被害が及ぶことを避けるようだった。
 それでも、もどかしくある。強く思っても、手が届かぬというのは、あの時に似ている。
 自らの手で決着を付けねばならぬ事を、彼岸の彼方に追いやられる無念を、サクラは身に染みて知っている。
 復讐を成したとて、その空白はいつまでも埋まらない。
(ならば、やり直せばよい。過去は、無限に積み上がる)
「何者──!」
 予知の先から及んでくるその不意の一手を、抜きつける刃で迎撃した、筈だった。
 しかし、白濁と染まる翼のような何かが刀をすり抜け、サクラの胸に突き刺さっていた。
「不覚……! かくなる上は……!?」
 吐いた息が吸えぬ苦しみは、即座に相手のほうが上手である事を悟らせ、サクラはこれ以上の被害をもたらさぬよう、震える手で刀を握り直し、その切っ先を自らの首筋に宛がおうとするが、それ以上は一寸も身体が動かなくなってしまった。
 白い何かは一瞬にして胸から広がり、サクラの身体を包み込み、消し去ってしまう。
 海中に放られたような浮遊感と共に、意識は刈り取られ、流される先には過去の光景が広がっていた。
 やがて降り立った地、仙界の最深部『混沌の地』には、彼女の幻視する光景がちらほらと見え隠れしていた。
「みんな……あき、ら……あたしが、無念を……晴らす!」
 骸の海の白い濁りに染まった瞳には、何が映っていただろう。
 燃えて揺らめくかがり火。
 遺骸も残らぬ戦場を一人歩き、刹羅沢の、甘縞の無念を化身忍者として背負い、ただ一人向かった先はどこだったか。
 来島藩藩主が家臣、一族を謀った中村家の屋敷を前に、
 狐の霊を背負い、隈取のような羅刹紋を浮かべた羅刹一人。
 鴻鈞道人に捉われ、過去に捉われたサクラには、もはや誰の声も届かず、真実も見えはしない。
「何度でも殺してやる。中村ァ……中村家楚斗ォォ!!」
 家族を、初恋を、決着を、全て彼岸の彼方に追いやった者の幻想を前に、無念の血涙を流す。
 後の報告によれば、屋敷に詰めていた二百余名の藩士が討ち死に、中村家楚斗はその首を藩主の寝所にまで手ずから運ばれたという。
 刹羅沢の灰鬼と語り継がれる過去を、彼女は再びなぞろうとしていた。
 ただ、その足元にわずかに光る、桜の花びらの如きグリモアの片鱗を散らしながら。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 猟兵が攫われるのがトレンドだそうなので、私もやってみたくなりました。
 完全に趣味です。
 猟兵の皆さんは、サクラちゃんのグリモアの形跡を辿って、同じ戦場に追いかける事が可能です。
 鴻鈞道人はサクラちゃんの中に入り込んで洗脳し、妄執に捉われたサクラちゃんは猟兵を敵と思い込んで襲い掛かってきます。
 サクラちゃんもそこそこ使い手ですが、中身の鴻鈞道人はとんでもない強敵なので、一筋縄ではいきません。
 必ず先制攻撃をしてくるので、それに対抗する術を考えてみてください。
 骸の海そのものとされる鴻鈞道人を完全に滅ぼすことは現状では不可能とされておりますが、撃退する事は可能です。
 頑張って倒しましょう。
 サクラちゃんは、猟兵になる前、誰とも知り合う前の幻想を見せられ正気ではないので、説得は不可能です。倒してください。
 どうでもいい情報ですが、中村家楚斗はイエソドと読みます。カバラみたいですね。
 このシナリオは、まったくそうは見えないかもしれませんが戦争シナリオとなっておりますので、1章完結となっております。
 プレイング募集期間、断章などは設けず、いつでも好きな時にお送りいただいて大丈夫です。
 以下、ユーベルコードとは違いますが、それぞれの行動パターンなども用意しておきます。

 POW『颶風・波濤』……猛烈な剣や拳による攻撃。主に地形が壊れる。
 SPD『鴇追・無念』……ホーミング手裏剣や刀による連撃です。
 WIZ『影身・双炎』……特殊な歩法による残像殺法や、狐火鬼火などを使う忍術で攻撃してきます。

 それでは、皆さんと一緒に、楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

信楽・黒鴉
……いやね。こういうの、武芸者の業じゃないですかね。刀があれば。技巧があれば。強い相手が居れば。試してみたくなるでしょうよ。使ってナンボのもんです。その全部が、今此処にある。家楚斗とやらを知りませんし、興味もない。けれども、その技の全てを見せて頂きましょう。

敵の太刀筋の観察と防御に徹し、致命傷に至る攻撃をぎりぎりで【見切り】、【武器受け】で凌ぎ行動不能に陥るのを阻止。破壊された地形を【軽業】にて踏破。初太刀の観察から敵の術理を【盗み】、その隙を突いて【切断】。

変異する部位を代償に……?
それなら、変わるより先に斬り落とせばいい。
……後で、ちゃんと繋いで下さいよ。

その過去ごと、斬らせてもらいます。



 懐かしいようにも思う。
 冬の風に、かがり火の饐え焦げた臭い。
 迎え撃つは、味方にもなったこともある顔ぶれ。
 今や関係ない。
 ここに立つ理由は、ただの怨恨。ここで力尽きるども、あの小男の首だけは取らねばなるまい。
 中村家楚斗……その首だけは。
 仙界の深奥部に位置するという、『渾沌の地』にはおおよそこれという定まった形は無いのかもしれない。
 ただ、強い残留思念と渾沌氏『鴻鈞道人』の入り込んだ刹羅沢サクラの抱く激しい情念だけが、不定形のこの地を、かつてあったかもしれないサムライエンパイアの屋敷を彷彿とさせる。
 いくつも生じる罅割れ。歪に揺らめく情景。それが本物とはおおよそ思えるようなものではないが、それでもサクラは白く濁った目元に憎しみを抱え、ゆらりをその幻想へと歩みを進める。
「……」
 その足が止まる。
 渾沌に攫われ、恨みに身を任せ、宿業に突き動かされるかの如く、怨霊をいくつも背負っているサクラに冷静な判断力があるようには見えなかったが、思わず足を止めたのは、危機感からであった。
 はて、来島の藩士にこのような相手は居たろうか。
 気兼ねなく通りすがるには、あまりにも危うい間合い。
 戦場にて剣を振るい続けた者の本能が、目の前の相手の脅威を知らせていた。
 狐のように細めた目元。一見すれば人の好さそうな顔つきだが、一触即発の戦備ええあるこの屋敷の前にはあまりにも不釣り合いで、そして纏う空気は似合っても居た。
 信楽・黒鴉(刀賊鴉・f14026)は、いつも独りである。
 現実をのらりくらりと柳のように過ごし、無気力であるかと思えば、戦いの場に於いては敵の術理を解き明かし、掻い潜っては盗み取ることを生業としている。
 いいや、生業と言うのも足りまい。そうしていなければ生きていられぬほどに、黒鴉は乾いている。
 それがたとえ、見知らぬ間柄でもない。まして、付き合いの少なくないサクラが相手だとしても、変わらぬ事なのだろう。
 恐ろしい気配を隠しもしないサクラは、黒鴉の事を分かってはいないだろう。
 しかしそれでも、自分を前に警戒した様子を見せたことに、奮えを覚えるほど喜びを感じたのも事実であった。
「……いやね。こういうの、武芸者の業じゃないですかね」
 袖内に納めた両手を晒しつつ、近づくともなくその顔を見つめる。
 おおよそ、戦う者には似合わぬ小柄。それに合わせて打たれたであろう刀に手をかけ、抜き放つ様は、改めて真正面から見るのは初めてかもしれない。
 嬉しいな。自分の為に剣を使ってくれるらしい。
「戦わぬという道は、無いように見受ける……路傍の石とて、邪魔になるなら退ける」
 目の前の黒鴉を敵と定めたのには違いないようだが、その口振りからは、邪魔にならなければ見逃すとでも言いたい風であった。
 そんなことは。と、無粋を口にしかけて、ハッと息を吐いて笑う。
「刀があれば。技巧があれば。強い相手が居れば。試してみたくなるでしょうよ。使ってナンボのもんです。その全部が、今此処にある」
「……物狂いめ」
 凄絶に笑う黒鴉が剣を抜くのも待たず、サクラは素早く踏み込む。
 地を這うような切っ先を掬い上げる様な初太刀を、間合いを見切って後ろに半歩下がるのみで回避する。
 距離の見切りというよりかは、サクラの刀の長さを最初から知っているからこそできた躱し方でもあった。
 吹き上がる風と捲れる着物の袖で次の動作が見えないが、その切っ先と足運びから、防御に徹していた黒鴉は、次のサクラの手を読む。
 振り上げた腕を引き戻すように畳みながらさらに踏み込んでの押し迫り。
 小柄なサクラが行うには体重差で有利になるとは思えないが、黒鴉は相手が羅刹である事を知っている。
 そのまま刀を合わせ競り合いとなっては、力負けしかねない。
 怪力で鍔迫りされるより早く、その押し合いをすぐさますかして、逸らす。
「臆したか。いや、中村もいい武芸者を雇ったようだ」
「うん? ハハ、いやいや」
 地を打つ音が響くほどの激しい踏み込みを見せた鍔迫りを外され、更に体勢を崩したと見せかけたところに、空いた拳が地を打ち、穿たれた地面が罅と窪みを作るのを冷静に退いて躱す黒鴉と距離が開くと、サクラは億劫そうに肩をすくめる。
 まだそんなトリップに浸っているのかと思う反面、焦れる思いもあった。
 いい加減に、こっちの剣に集中してほしい。
「僕はね、家楚斗とやらを知りませんし、興味もない。けれども、別のことには興味がある。その技の全てを見せて頂きましょう」
 そうして黒鴉は、防御に徹した構えを変える。
 ここまで見たのは、あくまでもサクラの技。まだ、中に潜む鴻鈞道人のものではないだろう。
 あれがまともな剣術に収まるとは思えない。
 剣術同士の戦いなど、あれにとっては、価値あるものではないはずだ。
 ギリギリの命の取り合いの最中だろうと、あいつは無粋にも手を加えてくることを辞さない。
 今のような状態でなく、サクラがちゃんと自分と対峙してくれたなら、もっと純粋に……いや、それは言うまい。
「ならば、尚の事……すぐにでも退いてもらう……!」
 刀を担ぐサクラの姿を見て、その太刀筋はすぐに予想できるものであったが、同時に凄まじい重圧を感じるものでもあった。
 あれはいわば、天災のようなものだ。来ることがわかっていても、止めることはできない。
 むしろ、止める努力よりも、やり過ごす方向で打開する手を考えた方が楽だ。
 お互いにそれがわかっているならば、問題はその直後に何をするかという事。
 片手で小枝のように剣を振るう羅刹の膂力は、無手による打撃とて容易に地形を破壊する。
 寄って警戒すべきは左腕。……そこに、鴻鈞道人による横やりがくる可能性が高い。
「その腕、貰った──!」
 猛然と迫るサクラの一刀。
 何の変哲もない筈の外袈裟をギリギリのところで見切り、吹き荒れる颶風に身を嬲られ体のあちこちに細かな傷を作りながらも、迎える一撃の先を宣言する。
 【我流再現・梶原長門】──、かの達人は予告した個所を正確に切る事を得意としていた。
 その技を再現した黒鴉の一手は、振り抜きざまに繰り出されるサクラの拳が見る間に白く濁った何かに変じていくのを察知し、それが完全に変異するより前に斬り飛ばしていた。
「がぁあっ!? ……こ、これ、は……!?」
 交錯の数舜後、桜柄の着物の袖ごと切り落とされた腕が泥のように溶けていく。
 残像を切った? いや、手応えは確かにあった。
 だが、苦痛に顔を歪ませるサクラの顔は、腕を切られたからとは言い難い様子だった。
 切られたはずの左肩から流れ出るのは血ではなく、白い渾沌とした何かだった。
 それがゆるゆるとアメーバのように膨らんでは奇妙な形を取って、すぐさま元のサクラの左腕になり替わる。
「……やれやれ、もはやどこまで原形なのやら……後で、ちゃんと繋いでくださいよ」
 過去をなぞろうというその姿は、過去に無かったことは許されないのか。
 いいや、だというのならば、その過去ごと、斬ってやろう。
 黒鴉は、さて次も同じ手が通用するのか考えながら、再び刀を構えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天道・あや
ま、まさかサクラさんまで攫われるとは。恐るべし鴻鈞道人……!
うーん、サクラさんだし甘いものとか目の前でちらつかせたり正気に戻ったりは……しないよねー、流石に。

……うし!ここは一つ、これで正気に戻してみますか…!(拳を鳴らして)
鴻鈞道人よし!サクラさん……よくない!あたしよし!

という訳でサクラさん!後で謝罪と甘味持っていくんでガツンと行かせて貰いますぜ!

相変わらず何ともパワフルで洗練された剣術と拳…!
しかーし!それでも普段よりはキレも落ちている!そこを見極めて突く…!【見切り、足場習熟】


ーーそこっ!攻撃を放った直後!次を放つ間での僅かな隙を突く!ダメージ覚悟で攻撃!【ダッシュ、激痛耐性、鎧砕き】



 誰かの逃げ惑う声が聞こえる。
 怒号を上げ、侵入者に襲い掛かる者の声が聞こえる。
 断末魔と共に、何かが飛び散る嫌な音と、ふすまや天戸、柱と言った色々な場所が壊れるメキメキという音に混じって、ゆったりと歩みを進める音だけが、不思議と安定していた。
 刀を持った女一人。たったそれだけの襲撃者。ただし、キツネや鬼といった怨霊を背負い、尋常ならざる気配を持つその姿を見た者は、恐らくはそれを真っ当な人間とは思わぬだろう。
 これがもし、本当に刹羅沢サクラの見た光景を映しだした幻影だとするならば、なんとひどい戦場だろうか。
 だがこの『渾沌の地』に於ける幻想は、本当によくできている。
 ところどころに火の手の上がる和風屋敷は、まさしくサムライエンパイアのそれだし、踏みしめる床板はすべすべで、場所によってはぎしぎしと鳴る。
 天道・あや(スタァーライト(皆の道を照らす一番星)・f12190)にとって、見知った顔である筈のサクラの姿は、実際に目の当たりにするまでそれと信じられぬほどには、変わって見えていた。
 あやの知っているサクラとは、どんな人物か。
 甘いものが好きで、たまに物騒なことを言うが、真面目な顔でボケる愉快な忍者で、共に戦場に立てばドラゴンにも果敢に挑む……そんな感じだったはずだ。
 だが、火の灯で照らされた廊下をゆるりゆるりと歩んでくるその姿、その形相に浮かんでいるものは、マグマのような怒りであった。
 だがその背格好を見間違えるはずもない。
 まさか、まさか、サクラまで鴻鈞道人の手に落ちてしまうとは……。
 いや、サクラのことだから、甘いものでもちらつかせれば、案外……などとわたわた考えるが、どうもそんな雰囲気ではない。
 いつもなら効きそうだけどなー。
「……? 逃げ遅れたか。向かって来ぬものに興味はない。退いてもらう」
 いつもの綺麗な緑の瞳を白い渾沌に濁らせ、いつもは熱く語る時くらいにしか表に出さない羅刹紋を顔に迸らせ、しかしなお小首をかしげる姿は、いつもとさほど変わらない。
 その両手をおびただしい血に染めていても、彼女は目に見える目標以外、向かってくる敵しか壊さないのだろう。
 見たところではただの一般人に過ぎないあやに対し、無力な娘と侮ったか、それとも目標と異なるものを標的としないのか、怖い雰囲気ではあるが敵意は感じられなかった。
 安堵する。それと同時に、自分を認識しないサクラが、本当に変わってしまっているという事に、少なからずショックを受ける。
「っ、はぁ~……やっぱり、サクラさんだ。……うし! ここは一つ、これで正気に戻してみますか……!」
 黒地に金の装飾の手甲。それをがちゃりと打ち合わせて、あやは気合を入れてサクラと向き合う。
 目の前の友人のような知人のような……うっせー、めんどうくせぇから戦友とかでいいや。
 とにかくサクラを奪い去った鴻鈞道人をブッ飛ばすべく、目標を改めて設定する。
「鴻鈞道人よし! サクラさん……よくない! あたしよし!」
 目の前の相手を右拳で指し示し、自らを鼓舞すべく左拳で胸を打つ。
 うっ、と息が漏れるのはご愛嬌。しかしそれで気合は十分。
 湧き上がる気合と戦闘力。もはやそれは一般人とは言いがたいものである。
 さしものサクラとて、向き合うそれが常人と異なるものである事は察したらしい。
 何よりも、彼女の内側に巣食う鴻鈞道人が見逃しはすまい。
 その心の内より出でるのは、絶ったはずの遺恨が何倍に膨れ上がったもの。
「……そうか、貴様も……中村の手の者か!」
 その身が加速するや、担ぎ上げた刀が颶風のごとく振り抜かれる。
 羅刹の並外れた筋力で振り抜かれる剣は、その巻き起こす剣風すらすさまじく、壊れた障子やら畳やらをひっくり返す勢いで吹き荒れ、すんでのところで身を屈めて回避したあやも、そのふわっとしたアイドルチックな髪の毛をいくつか持っていかれたりもしたが、直撃はしていない。
 流石にここまでのむちゃくちゃな威力は想定していなかったが、これも鴻鈞道人の手助けによるものか。
「うーべべっ、相変わらずパワフル……! しかーし! 普段のキレは、こんなもんじゃない!」
 躱しざま、頬肉が凄まじい風圧で持っていかれそうになるものの、いつもよりか大分荒い印象のサクラの攻撃を掻い潜り、手甲で固めた拳を今この瞬間にこそ、叩き込む。
「──そこっ!!」
 【想いの乗った重い一撃!3だーー!!】という叫びをあげる余裕すらない間隙であったが、あやの拳は、間違いなくサクラの左頬にめり込んだ感触があった。
 めきめきと足元の床板が破損する。ダッシュの勢いを込めた猛烈なパンチが踏み込みに余ってしまったのだろう。
「ぐはぁっっ!?」
 吹き飛ぶサクラ。凄まじい筋力を持っているとはいえ、体重が重いわけではない。重たい手甲の分だけ体重で勝るあやのパンチで軽々と吹き飛ばされてしまう。
 断じてあやの体重があれな訳では無い筈だ。
 だが、打ち勝ったはずのあやも、その場に身体を折るように屈み込んでしまう。
「あいたぁ……さすが、パンチもパワフル……!」
 攻撃を掻い潜ってのパンチ。しかし、それを行っていたのはサクラも同じだったようだ。
 あやのほうが到達が速かったとはいえ、脇腹に突き刺さった拳の一撃は、多少の痛みにも強いあやとて、血の気が引くほどのものであった。
 もう帰りたくなってきた。
 だが、吹き飛んだ先で、まだ起き上がる姿見える。
「うう、こんな、ところで……まだ、中村、奴の首を取るまで……!」
 顔を腫らして妄執のままに立ち上がる姿を目の当たりにしては、まだまだグロッキーになるには早い。
 仕方ない人だな。
 へばりそうになる体に喝を入れ、立ち上がる。
「……後で謝罪と甘味持っていくんでガツンと行かせて貰いますぜ!」
 もう少しばかり、徹底的に、ぶん殴り合わなければならないらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
洗脳されたものは仕方あるまい
本音を言うと気は引けるが、ここでバトルを躊躇うとか妾のキャラではあるまい?
まあ後で甘味でも奢って労うから!

邪神オーラを左腕へと集中させて纏い、全力で防御を行おう
一撃一閃が重く、手数重視ではないタイプなら、腕の一本を犠牲にすればガードは間に合うであろう
痛みは我慢して決して表には出さんよ
ただでさえカッカしておるようだから、心理戦で有利に立たんとな?
攻撃を捻じ込む隙は、言葉で、演技で生み出すものよ!

はっはっは、あまり接近戦を続けるのはお勧めせんぞ?
目立つ『武器』を防御に回し、攻め手は無いように見せかけているのでな
さあ存分に食らうがよい、妾の隠し切り札、右手の一撃を!



 逃げ惑う悲鳴と断末魔。
 ここは何処の世紀末か。
 火の粉の飛び交う屋敷の屋内に響くは、無残なる残響と緩やかな足音のみ。
 燃えるような空は、冷え切った冬の夜半過ぎだろうに、目にするだけで熱く感じる。
 本当にここは封神武侠界の深奥部なのだろうか。
 だとするならば、かの鴻鈞道人の作り上げた渾沌、その幻想たるや、凄まじい威力である。
 或は、これもまた、どこかに捨てられた骸の海に沈んだどこかの情景の一つなのだろうか。
 だとするならば、これを見せているのはきっと……。
「……この屋敷は、どうなっている……化け物まで出てくるとは……中村め……」
 どこか消耗した様子のその姿は、見覚えがあるのに別人にも見えた。
 両の手を血に染め、緑の瞳は白い渾沌に濁り、抜身の刀には血糊がこびりついている。
 普段の刹羅沢サクラを知っている御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、その有様に、あっ、いつもはだいぶ余所行きなんだなーなどと暢気な感想を抱いていたりした。
 そりゃあ、本職の忍者で侍世界の人だもんね。殺伐としてても仕方ないね。
 やべーよ、ガチじゃん。洗脳されてるって、マジだったんだぁ。
 などという内心の焦りはおくびにも出さず、菘はその持ち前の恐ろしげなキマイラの姿を大きく見せ、初めて出会うかのように尊大な態度で迎え撃つ。
「洗脳されたものは仕方あるまい。
 本音を言うと気は引けるが、ここでバトルを躊躇うとか妾のキャラではあるまい?」
 尊大な魔王のごとく。いや、そう装うと思っていたのだが、うまい言い回しが出てこなかった。
 だって知り合いだぜ? 知り合いに改めて、でたまかで演技ぶっこむとか、なんか、ほら、あれだろ。
 キマイラフューチャー出身で、基本的に動画配信者としてのロールに過ぎない魔王ムーブだが、その実力は猟兵としても折り紙付き。とはいえ、とはいえだ。
 なんでこんなことになってしまったのだろう。
 内輪で喧嘩なんて、ホントのとこやりたくない。
 そりゃあ、動画配信者なら、プロレスの一つや二つは打つだろう。その心得がないわけじゃない。
 そのためにコミュ力発揮してるわけですよ。
 でもさー、あっちガチじゃん。ホントに洗脳されてますよ。
 あー。やだなー。
 などという逡巡が、ついつい口をついて出てしまったのが上記のセリフであった。
「……何を、言っている……化物の身内など、母親しか知らない」
 化物? 本気で言っているのか。いや、今のサクラならば、説得の一つも聞きはしないだろう。
 つまり、出会った時にはそう思ってたってことかぁー!?
 じゃあそう言ってくれればよかったのに。
 真の蛇神と嘯く菘は、恐れられることに関しては割と喜ぶ。
 ならば、と。その口元に邪悪な笑みを浮かべ、鱗と強靭な爪を生やした左腕を前に、ぎちぎちと翼を広げ、婀娜のごとく撓う蛇腹をうねらせる。
 その手に握るは戦車に積みそうな巨大なレーザー砲。とても頑丈なので殴るのにももってこいらしい。
「邪神め、たとえ神であろうとも、あたしの前に立ちはだかるなら……斬る」
 化身忍者の本領とでも言うべきか。その身に背負ったキツネや鬼の怨霊を纏い、尾を引いて踏み込むスピードは、やはりというか、回避が難しいようだ。
 尤も、菘は最初から避けられるものと考えてはいなかった。
 過激な動画配信をしているという意識は無かったが、猟兵として活動していれば、どうしても危ない目に遭いがちである。
 自分が目立ちたい一心である以上、菘はスタンとも自ら買って出る。そのお陰で、ただでさえ頑丈な体は、余計に受けるのがうまくなってしまった。
 覚悟も、防御も、とっくに固まっている。
「消えろ、我が幻想……さもなくば、あたしに斬られろ!」
 暴風のような一撃が菘の腕に叩き込まれる。
 刀で打ち付けた様なものとは思えぬ自動車事故みたいな衝突音が鳴り響くが、どうやら受けた左腕はまだ繋がっていたらしい。
 正直、鴻鈞道人と同化しているサクラの攻撃が効かない訳も無く、防御を固めていてもその苦痛が無になる筈もないのだが、菘はそれを顔に出すことは無い。
 蛇神たるもの、ちょっとのことで動じる事は無いのだ。超痛いけど。
 いや、武器持ってるんだから、武器の方を叩いてくれ。マジいてぇ。
「どうした。幻想は斬れぬようだな?」
「触れるなら、砕けぬ道理なし……はぁっ!!」
 更に打ち付ける拳。あの小柄から繰り出される拳が、よもや、炸薬でも使ったかのような衝撃と音を発するとは。
 そしてそれは、確実に菘の身体を打倒せんと、打ち砕かんと突き刺さるのだが、菘は尚も笑みを絶やさない。
 いい加減にしろよ小娘ェ……超いてぇんだぞ。殴ってて痛くないのかよ。
 などとは、思っても口に出さず、顔にも出さないが、その拳が眼差し同様に骸の海の白い濁りを帯び始めると、いよいよまずさが増してくる。
 洗脳されたサクラは正気ではない。間違いなく、いつもより怒りっぽくなっている。というか、最初からキレっぱなしだ。
 そこにつけ入る隙はあると、余裕を見せつける形で敢えて受けに回った菘であったが、いよいよ鴻鈞道人の力で以て、その身を代償にし始めては、サクラの身がもたなくなる。
 だが、攻撃は最大の隙でもある。
 さんざん防御に徹していた菘は、サクラがその腕を引き絞って変形させる一瞬の間隙を見出し、レーザー砲ことアーダーライトを押し付けるようにして、サクラの刀を逸らし、胴を開かせる。
 この間隙、おそらくは二度もあるまい。
 変異する前に、いつも空いてますねと言われがちな、比較的人間っぽい右手を手刀に【命門穿孔】の貫手を放つ。
「これが、妾の隠し切り札よ!」
 とすっ、と意外なほど柔らかな手応えと共に、菘の窄めた右手は、サクラの着物を突き破り胸を突いた。
 肉を、骨を破る感触とは裏腹に、飛び散るのは白く膿んだような骸の海。
 直後に、そのまま中身を抉り出さんとするその手を、がしりとサクラの左手が掴んだのを感じ、反射的にサクラの身体ごと放り投げた。
 あんなパンチを打てる筋力で握られたら、手が壊されかねない。
「不覚……反撃を封じていたつもりで、その実、受けに回られていた……!」
 ぼとぼとと胸元を濡らしつつも起き上がるサクラから闘争心が抜けていないのを感じ、菘は不敵な笑みをなおも崩さないが、小さく嘆息する。
「とことんまで、つき合うしかない、か……! まあ後で甘味でも奢って労うから、許せ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

テリブル・カトラリー
生きていれば、誰にでも過去はある。
それが辛い事でも、幸せな事でも。

超重金属の盾で盾受け、盾を犠牲に渾沌の諸相を回避。
機関銃で制圧射撃、から機関銃で上段から振るわれる刀を武器受け、銃を怪力で押し断面で刀身をズラし威力を軽減させ、義手黒剣の片腕、力瘤(もっとも太い部位)で刃を受け止め、クイックドロウ、自動拳銃でサクラの足へ連射貫通攻撃。更に義手黒剣腕及び流動黒剣で刀ごとサクラを拘束。

そしてそれは、当人だけの物だ。
お前が勝手にして良い物ではない。

早業【換装・邪神兵器】片腕を換装し、指に神気を集めてサクラを貫き、中にいる鴻鈞道人の生命力を攻撃。
同じundefinedなんだ、少しは役に立て。



 空が燃えているように見える。
 そして、気温は冬の夜中。
 この建物は、サムライエンパイアの何処かだろうか。
 ひどく重たい空気。しかし、どこか作り物のような。
 まるで誰かの思い出を、ぼんやりと夢に見ているかのような。
 もしも夢というものを見る機会があれば、破損しかけたテープ媒体じみたこの情景に似るのだろうか。
 引きずる様な足音が近づいてくる。
 恐らくは、この景色は誰かの思い出をもとに、この渾沌の地に咲いた幻想の一端なのだろう。
 こうまで肉感的に、風や火の匂いまで機械にすら誤認させるというのは、極めて高度なものであろう。
 或は、本当に形を成しているものなのかもしれないし、この情景はもしかしたら骸の海に捨て去られた一幕を引きずり出しているだけなのかもしれない。
 そうであるならば、この状況を成さしめる鴻鈞道人という者の力量たるや、恐るべきものである。
 しかしながら、戦うために作られたからこそ平和主義を願うテリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)は、マスクの奥でその目を細める。
 しかしながら、仮に幻想であるならば、立ち会う羽目になった彼女もまた、そうであればと願わずにはいられない。
 戦場に於ける逡巡が長引けば、それは死を意味する。ウォーマシンであろうと、人間であろうと、それは違いない。
 だがしかし、戦うために最適化されているはずのテリブルの電子頭脳は、その相手に対する識別に僅かな逡巡を要した。
 両の手のみならず、おびただしい赤い血に染まるのは返り血だろう。
 しかし、その身に生じた手傷の数々を埋めるように這う白く濁った骸の海。
 周囲に纏う怨霊の数々は、まかり間違うことなく刹羅沢サクラ本人というのはわかっていたものの、それを敵とするかどうかに、ほんの少しだけ手間取っていた。
 いいや。本質はその中身だろう。
 彼女の中に、本物の敵は居る。
 ターゲッティングを一時解除する意味も込めて、佇む小柄の鬼へと、テリブルはまばたきを交えて見据える。
「……たくさん斬ってきた。報いもあろう。だが許せぬ……これほどの使い手を揃えておいて、あのような……!」
 妄執に駆られたサクラには、自分はどう見えているのだろう。
 中村なにがしとやらが、襲撃者に差し向けた刺客……とでも思っているのか。
 詮無い事だ。今の彼女の胸中を探ることに意味は無い。そして、何を言ったところで、聞く耳は持たぬ事だろう。
「生きていれば、誰にでも過去はある。
 それが辛い事でも、幸せな事でも」
 だからこれは、彼女に向けた言葉ではない。
 サクラの二倍を超える体格のウォーマシン、テリブルはマスク越しのくぐもった声で告げ、盾を構える。
「皆死んだ……でも、誰一人とて、過去にはさせぬ。捨てさせなど、しない」
 白く濁った眼差し。しかし、その奥にあるであろう緑の瞳は、かつてグリモアベースで語る時のように、真っ直ぐと光っているのかもしれない。
 煮え立つような太陽がその飛沫をプロミネンスとして撃ちあげるかのように、敵意が牙を剥いて疾駆する。
「……ッ!」
 辛うじて見えたのは、振りかぶる拳。
 子鬼のようなその姿は実に俊敏であり、しかし、打ち付ける拳は鴻鈞道人の力も備わってか、変質して加速度を増し、構えた盾へと吸い込まれていく。
 戦車砲のような衝撃が、超重金属の盾に突き刺さる。
 宇宙船の外壁にも用いられる装甲を加工して作り上げたシールドが、瞬く間に変形していく。
 非常識なり、羅刹の拳。
 だがしかし、初弾は受けた。これ以上は何発もつかわからない。
 テリブルの機関銃が火を吹き、弾幕形成すべく掃射する。
 鎧らしいものを着込まないサクラには、銃弾の一発とて馬鹿にはできまい。
 しかし、着物を翻してましらの如く飛び退く素早さは、容易に射線に収まらない。
 そして彼女の周囲を漂う怨霊は、化身して装甲になるらしく、機関銃の弾を逸らしていく。
 手負いとは思えぬ運動能力。飛び跳ね、身を躱すその挙動の一つ一つを追いきれぬテリブルであったが、それでも攻撃の手筈は近接に頼るであろうことを予測していた。
 手持ちの手裏剣ではこの装甲は抜けまい。ならば、まずはこの盾を封じてくる可能性が高い。
 稲妻のように残像を残すサクラの軌跡を追い、攻撃予測地点に盾を向ければ、再び雷鳴のような拳が突き刺さった。
 金属の拉げる嫌な音とともに、今度こそ盾が用を成さなくなると、更に続けざまにサクラの刀が振り下ろされてくる。
 やはりここぞとばかりに、仕留めにかかるか。
 暴風のような剣を、手持ちの機関銃で受けるが、真正面から受けた刀は重心を容赦なく切り裂いていく。
 凄まじい膂力で金属を圧倒するその刀の力をどうにか逸らしつつ、その刀身をつかみ取る。
「その手ごと、貰う」
「斬れはしない」
 装甲で固めた腕から黒いシミのような液体が生じ、艶を帯びたそれは金属の硬度を得ていく。
 液体化したテリブルの義手を担うそれは、地獄の炎を宿した黒剣。
 本来の形状に近い硬度を維持すれば、如何に使い手の刀とはいえ容易には斬れまい。
 完全に動きを封じた。
 それも一瞬のことだろう。サクラならば、刀ごと腕を固められる前に刀を手放して行動するかもしれないが、それでも今は義手の構造に、いわばギョッとしている。
 その隙に、もう片手には自動拳銃が握られ、足に銃弾を撃ち込んでいた。
「ぐ、うう……!!」
 先に機動力を封じておき、さらに時間を稼いでいるうちに腕ごと動きを封じる。
 その意図に気づいたサクラの手が、黒く固まるテリブルの腕を握りしめる。
 手が傷つくのも構わず、異様な握力で黒剣を砕きにかかる。あまり時間はなさそうだ。
 必要以上に彼女を傷つける必要はない。
 元から、サクラを殺すために戦っているわけではないのだ。
「そしてそれは、当人だけの物だ。
 お前が勝手にして良い物ではない」
 即座に空いた手の封印を一時解除、内に秘められた兵装へと【換装・邪神兵器】とする。
 白く輝く骸の海。その中心となっている胸元へと、その指先を突き入れていく。
「同じundefinedなんだ、少しは役に立て」
 装甲が剥がれ、内側を晒すテリブルの指先には、邪神の神気がこもっている。
 それはサクラの肉体ではなく、彼女の内側に取り付いた怪物、鴻鈞道人その者へと向いていく。
 サクラに巣食う、白い濁りが徐々に罅割れていくのが見て取れるが、
「離れろ……離せェ……!」
 みしりみしりと、腕が悲鳴を上げていくのがわかった。
 それを口にするのはサクラなのか、それとも。
「腕一本で、払い落とせるならば……まあ、安い」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティエル・ティエリエル
1回どかーんとやっつけなきゃ、ダメなんだよね。
ううううう!うりゃーーー、サクラを返せー!

先制攻撃してくるけれど、頑張って耐えたら自滅、していきそうだね!
ようし、避けて避けて避けまくっちゃうぞー☆
「空中機動」で飛び回って、触手が絡まるような飛び方をしちゃうぞ☆

先制攻撃を耐えたら反撃だ!
ホーミング手裏剣に追いかけられたら、インメルマンターンでぐるっとUターン!
そのままホーミング手裏剣を振り切るように加速して【妖精の一刺し】をぐさーっといっちゃうぞ☆

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 おかしいな。何を見ているのだろう。
 こんなに燃えていたかな。
 初めて見る筈なのに、異様な既視感があった。
 こんな筈じゃなかったのに。
 後悔はない筈なのに、押し寄せる郷愁は、ひどくむなしいものであった。
 それが空虚と気づいているのに、これがまやかしであると気づいているのに。
 どうしようもない流れが、身体を突き動かしている。
 抵抗などできない。これはもう、起こってしまった、過去に捨て去られるべき物語だったのだから。
 だというのに、刹羅沢サクラは死に体で、空回りするような呼気を漏らしながら、ただ一人、中村の屋敷の中をさまよっていた。
 どうして誰もいない。
 あの小男の寝所に真っ直ぐと向かっているその足取りは、とっくに辿り着いてもよかった筈だ。
 だというのに、一向にその足は目的地につかず、気が付けば同じような所を歩き回っていた。
 もはや、この記憶もこの身体もぼろぼろに崩れ始めている。
 整合性を取ろうともしていないかのようだった。
 それはそうかもしれない。
 サクラにとってのこの日の事件とは、もはや過去である。
 どれほど心に深く根付いている出来事でも、恨みや怒りは、いずれ記憶の中で擦れていく。
 いつまでも怒り続ける者などいない。
 ただ、その手にかけた人間の命の記憶は、忘れる事は無い。
 だからこそ、この場には、この幻想の中に彼は居ないのかもしれない。
 サクラという肉体が死にかけている。それは同時に、この肉体に入り込んだ鴻鈞道人の力も弱まりつつあるという事でもあった。
 驚異的な生命力と執着心が、この幻想の中で幽鬼の如く歩み続けるのだとしたら、それはあと一歩で成る事なのかもしれない。
「逃げたか、中村……手引きした者がいるのか……否、居らぬ筈がない」
 身体は、ただただ妄執に駆られるままに標的を探して歩く。
 そして、襲い来る者には戦う者の本能で反応するだけだ。
 それがたとえ、小さな妖精の少女であろうとも。
 ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は、まだまだお子様の妖精に過ぎない。
 しかしながら、彼女がサクラの案内で猟兵として仕事をすることは、決して少なくはなかった。
 少なくとも、顔と名前を覚える程度には、お互いを認識していてもおかしくない。
 たとえ仕事のみの間柄とはいえ、仕事を円滑に回すために笑い、時には生真面目に、子供だからと侮ることなく、或はそれ相応に気を回すことも厭わず。
 ただの仕事人として過分なく、少なくない時間を共有した相手が、おおよそ見られぬ姿でその身を血で染めている。
 その目で見るまで、ティエルは信じたくはなかった。
 或は、自分の呼びかけに、いつもと同じくやや事務的に笑ってくれるやも……と思わなくはなかった。
 だが、返り血と手傷にボロボロになったサクラの眼は白く濁り、あの緑の瞳は精彩を欠いている。
 そしてティエルを見るその眼差しに含まれるものは、紛れもない敵意だった。
 実はお姫様なティエルは、人を見る目はそこそこあると自負している。
 そうでなくては、王族たる器足り得ぬ。
 ある程度の観察を以てすれば、相手が交渉可能かどうかくらいはわかるつもりだ。少なくとも動物と心通わせるセンスの持ち主であるティエルは、その能力を総動員したとしても、今のサクラに言葉が届くようには思えなかった。
 10歳の少女には、あまりに含蓄のある苦い顔を浮かべ、引き結んだ口元が波打つように強く窄んでいた。
 しかしそれもひと時のこと。深呼吸とともに引き抜いたレイピアを手首のスナップで慣らしその柄本を胸の前に添えると、改めてサクラに向き合った。
「1回どかーんとやっつけなきゃ、ダメなんだよね」
 戦うために、その内に潜む怪物を打倒するために、少女はひと時の間、気持ちを押し込めた。
 その有様を、攻撃するでもなく見つめていたのは、サクラが正気を取り戻したからだろうか?
 否である。彼女はあくまでも、目標以外を打倒する気はない。
 それも今はぶれようとしていた。肉体が命の危機に瀕し、その中に潜む鴻鈞道人は、もはやサクラの狂気のままに任せはすまい。
「子供がこんなところに来ちゃいけない……子供? あれが子供なものか。あれも、敵……!」
 疑念めいた敵意が、明確な指向性を得てティエルに向く。
 敵中にあって尚、サクラは敵を選んでいた。あれでも抑えていたのだ。
 だが今はもう違う。明確に猟兵を敵とみなし、女子供とて容赦せず、なんら躊躇も見せずに攻撃してくるであろう。
「来るなら、こーい! 全部よけちゃうもんね」
「……死ね」
 身に纏わせた怨霊が、手元に集まり、サクラの手に握られたいくつもの短刀手裏剣に宿ると、次々とそれらは放たれ、それと同時に踏み込むサクラの身体からは、白く濁った触腕が無数に伸び始める。
「うわわっ! ホントにきたー!」
 それらを、ひとまずは距離を取りつつ全速力で回避に徹する。
 手裏剣の射線は切ったはず。と思いきや、怨霊を乗せた化身忍者特有のホーミング手裏剣と化したそれらは、ティエルのおしり側について離れようとしない。
 的が小さいからと、そんな手を使ってくるとは。さすが忍者、汚いな。
 だが、追い立てられる先には、サクラ本人から伸びる触腕。
 これらはたぶん、鴻鈞道人の手によるもの。
 いくつもできた傷から出血しながら飛び出している触手は、見ていて痛々しい。
 でも、わざわざサクラ本人に頼らず、自分の手を下し始めたのは、いよいよ本体の維持が難しくなってきたという事か。
「このまま相手をし続ければ、自滅……ッ! しそうだねっ☆」
 恐らく、敵は相当に追い詰められているに違いない。
 そう決め打ちし、迫りくる触腕をあっちゃこっちゃと上下左右に飛び回って避けていく。
 ただしスピードを落としたら、すぐさまホーミング手裏剣に追いつかれてしまう。
「ぬぅ!? まさか!」
 聞きなれない声がする。
 それは、スピードを落とさぬよう、高速で飛び回るティエルを更に追い回す触手が絡まり合い、身動きが取れなくなり始めてからだった。
 やはり相当に余裕が無いと見える。
 サクラの口から、おおよそ聞こえる筈もない声がする。
「んんんーー! とーう、ここでターンッ!」
 触手の追跡が絡まり合ったことで幾つか減ったところ、残すは手裏剣のみとなり、ティエルは十分に加速を取ってから急に垂直ターンへと移行する。
 それを追いかける手裏剣は、スピードに乗せられていたため曲がり切れず、スピードに乗ったまま天井にずががっと刺さって動かなくなった。
「よーし、このままー……!!」
 垂直ターンから上下反転しつつ、ティエルはさらに加速してレイピアを構える。
 その先に居るのは、無数の触手を雲海の如く生やしたサクラの姿。
 その出足を払いのけ、おぞましき白い触手を茂みでも狩るかのように斬り進み、更に更に加速していく。
「ううううう! うりゃーーー、サクラを返せー!」
 そのまま、激突する勢いで、その胸に向かって飛び込んでいく。
 【妖精の一刺し】は、最初にサクラに繋がった胸の傷を通じ、鴻鈞道人の気配を貫いていく。
 そこで肉体との結びつきに限界が来たのだろう。
 根負けしたように、鴻鈞道人を象る煙のような何かが、サクラの肉体からゆらりと抜けていくと、周囲の和装建築じみた幻想が徐々に薄らいでいくのがわかった。
(この娘の執着が、カタストロフへの導となるかと思うたが……また、中てを外されたか……しかし、無駄な事。私を倒したとて、過去がまた一つ増えるだけぞ)
 ゆらりゆらめいて、そのまま渾沌と共に消えていく雲のような何か。
 ただうっすらと表情を見せる左目だけがあざ笑うかのように細くなったのを、ティエルはたまらず、そこに浮かぶ虚空へ向かって剣を振るう。
「どっかいけー! もう、でてくるな!」
 ここで倒せる相手ではない。それがわかっていても、その切っ先は、雲を切った。
 今度こそ、鴻鈞道人の気配は何処にも感じられなくなっていた。
 しばらく肩で息をしていたティエルだが、やがてその身体を包む光が生じたことに気づいた。
 その桜の花びらにも似た輝きは、何度も見たものだった。
「……ここにはもう、敵は居ない……皆さんを、送り届けねば……」
 緑の瞳に辛うじて命の輝きを宿す羅刹が、刀を握り続け血のにじんだ手の内にグリモアを出現させているのだった。
 こうして、連れ去られたグリモア猟兵、刹羅沢サクラは正気を取り戻し、彼女を連れ戻すべく立ち上がった猟兵たちもまた、無事に帰途につく。
 その身はまるですべて無事という訳にはいかなかったものの、生命の埒外の存在と言われる猟兵ならば、すぐにでも復帰は可能であろう。
 そう、願わずにはいられない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月31日


挿絵イラスト