「ね。わたしを、ころして」
グリモア猟兵――ロスタ・ジーリード(f24844)は言った。
「……ふふ。はんぶんは冗談よ。それじゃ、説明するわね」
そうしてから、ロスタはからころ笑ってホワイトボードを引っ張り出し、そこにペンで文字を書いてゆく。
『鴻鈞道人討伐作戦』
「はい。戦争案件ね」
そういうことである。
渾沌氏『鴻鈞道人』。
自らを骸の海そのものであると自称する、謎の上位オブリビオン。
その用いる能力のひとつが――融合侵蝕だ。
「敵はねー、今回なんと、お仕事案内をしてるあたしたちグリモア猟兵をむりやり戦場に引きずり込んで、その上身体の中に入ってきて融合しちゃうんですって。びっくりね」
ロスタはホワイトボードに『てき』→『ぐりもあ』『ゆうごう!』などの文字を雑に書き加えてゆき、ざっくばらんな説明をした。
曰く。
今回の敵である鴻鈞道人は、その策の一つとしてグリモア猟兵を自らの元へ呼び寄せ、そしてその身体に入り込むことで融合し、支配するのだ。
既に多くのグリモア猟兵がその毒牙にかかり、猟兵同士の戦いを強いられている。
「とゆーわけで、あたしがみんなのこと殺そうとするから、みんなであたしのこと殺してちょうだい。……あっは。だいじょーぶだいじょーぶ。あたしまだやりたいこといっぱいあるからほんとに死んだりしないわ。たぶんね」
まるで遊びに出かける予定を話すような軽い口振りで、ロスタは猟兵たちへと告げる。
「で、ここマジメなはなしなんだけどー……説得ー、とか、そーゆーの、ぜんぜんきかないから注意してね。敵の支配力がすっごいのよ。おともだちでもなんでもあたしほんと気にしないで殺しにいくとおもうから、油断なく手加減なくきてちょうだい」
とにかく。――結論としては。
「ちゃんと、本気で殺しにきてね」
――ということになる。
「戦闘情報? そうねー……えーっと、神格級UDCとたたかう装備で来てくれたらやりやすいと思うわ。推奨技能は狂気耐性と呪詛耐性ね。あと、シャーデンフロイデ……あ、これはあたしの持ってるキャバリアね。この子も一緒に出てきて、みんなことを殺そうとしてくるとおもうから、こっちも思いっきりとっちめてやってちょうだい」
続けてロスタはざっくりと説明を追加し、そうしてから一度猟兵たちの様子をぐるりと見回す。
「で、もちろんだけど敵はあたしの身体でつかえる能力のほかに、自分自身のユーベルコードもつかってくるわ。あたしが自分でつかうよりもすごいパワーになって襲ってくると思うから、ほんとーに油断しないでね」
グリモア猟兵自身の戦闘能力に加え、その上、鴻鈞道人自身のもつユーベルコードで猟兵たちを攻撃してくるということだ。その戦闘出力は、本来のロスタを大きく上回るものとなっているだろう。
「それからもうひとつ。戦場は仙界の奥。『渾沌の地』……。かたちのきまらない場所、ね。……それよりだいじなのは、ここは敵のナワバリだってことよ。みんなが戦闘領域にはいったら、敵はそれをすぐに感じ取って攻撃をしかけてくるわ。先制攻撃ね。うまくかわして戦ってちょうだい」
――あとは、全力を尽くすほかにない。
とにかく戦って、勝って。と、ロスタは猟兵たちに告げた。
「それじゃ、話はわかったわね。……あたし、たのしみに待ってるわ」
そうして笑顔を向けてから、ロスタはグリモアを掲げる。
かくして、ここにまた猟兵同士の戦いが始まるのであった。
無限宇宙人 カノー星人
ごきげんよう、イェーガー。お世話になっております。カノー星人です。
鴻鈞道人戦はもう戦争攻略についてじゅうぶんな数が出ていると思いますが、これはやりたかったので出しました。我々カノー星人は欲望に正直です。
とはいえ、戦争攻略には協力を惜しまないのも我々カノー星人の性質であるため、この後のフォーミュラ戦など戦争攻略に必要なシナリオが出た場合はそちらを優先し、このシナリオについては後回し気味にゆっくりペースでゆるーくふわっと執筆作業を進めていくことになるかと思います。プレイングを出される際はそのあたりをあらかじめご了承ください。
このシナリオにはプレイングボーナス要項があります。ご確認ください。
プレイングボーナス……グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「殲神封神大戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
|
POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
るろろろ。るろろろろ。るろろろろろろろろ。
おお、眩暈。おお、酩酊。
凄まじい瘴気によって呪染され、泥濘めいて黒く澱んだ大地に、黒く蠢くものがある。
音色が聴こえる。
ひどく冒涜的な音を奏でる異形の“楽団”が狂える弦を掻き鳴らし、呪わしき笛を吹き鳴らし、壊れた鍵を叩き鳴らしている。
彼らはいずれも神性の従属者たちであった。
UDCアースにおいて神格級UDCに対峙した経験のある猟兵であれば、この地に足を踏み入れたとき、想起するものがあるだろう。
ここは、神性の領域――超次元の渦によく似ていた。
るろろろろろろろろろ。
その領域の中心において、謡うように呪詛を紡ぐ声がする。
その領域の中心において、踊るように揺れる呪染の源がある。
その根源こそ、ロスタ・ジーリードの躯体である。
(これは)
蠢く肉体の内側で、鴻鈞道人は嗤う。
(相性が、良い)
――ロスタ・ジーリードは、可憐な姿の少女に擬態した呪詛型生体兵器である。
元来が、『邪神』を。骸の海へと沈みし神格級UDCを“降ろす”ための素体として組み上げられたものであるが故に、骸の海そのものであるという鴻鈞道人の存在核は実によく馴染んだ。
故に、その本来の姿がここに晒されたのである。
「あ」
「あ、あ、あ」
「あ――はあ」
そして――ロスタ・ジーリードは、嗤った。
《……》
そうして、泥濘の地に佇む影がある。
シャーデンフロイデ、と呼ばれる躯体であった。
彼もまた、従属者であった。
主人と同じく膨大な呪染の力を繰るその躯体じゃ、虚な光を双眸に灯しながら騎士めいて偽神のかたわらに立つ。
そうして。
彼らは、待ち受ける。
ロバート・ブレイズ
我等、混沌で在り渾沌に在らず、在り得ては『異けない』深淵(るつぼ)の底で矛盾(たが)いを貪食(ウロボロス)と見做すのか
狂気耐性(ふだん)通りだ、情報収集で呪詛(のろ)いの性質を暴きつつ如何に回避するか紐解いていく。回避が不可能であれば衣(アウトサイダー)に塗り憑け、脱ぎ捨てよう。それも出来ない場合は――其処の機械仕掛け、奴の装甲を栞(いと)で引っ剥がし盾とする
渾沌の諸相は脆い部分を情報収集、嗚呼、奴がかばった箇所があやしい。立ち去れ(鉄塊剣)を叩き付ける
では――三つ葉の愛おしさを想起し給えよ、貴様
オーバーロード、化身と化身が遭遇(かおあ)わせた時、起きるのは嘲笑か別の何かか。兎も角、闇黒(やみ)を散らかすと為(し)よう
延焼分は消すものか、消すつもりはない、他猟兵の邪魔にならなければ幾等でも『燃やす』べきだ――構築の仕方が甘いのだよ、人類!
大殲の鐘(とき)を鳴らせ、■イア■ラ■テ■■!
おおおおおおおお。おおおおおお。おおおおおおおおおおおお。
るろろろろろ。るろろろろ。るろろろろろろろおおおおおおおおんんんんんんん。
にいいいぃああるううううしゅぅうううたああああああんんんん。にいぃあああぁるうううううがぁあしゃぁあんんんああああああああ。
泥濘の地に、異界より呼び込まれた『楽団』が詩を奏でる。
ここは狂気の坩堝だ。
充ち満ちる瘴気と邪悪なプレッシャーは莫大な毒素となり、この領域へと足を踏み入れたあまねく生命に牙を剥く。
猟兵やオブリビオンではない者であれば、この地に踏み入ったその瞬間に狂死するか呪詛に呑まれて喰われるであろう。
泥濘の中から黒い腕が沸き出した。
それは、かたちを得た呪詛の顕現である。
「……」
ロバート・ブレイズ(f00135)は、伸ばされた呪腕を振り払いながら泥濘の地を一人征く。
「普段通りだ」
ロバート・ブレイズは、黒き大地のその先に君臨する異形の女を視た。
似ている。
ロスタ・ジーリードという人形が神格の狂気を降ろした存在であるのと似て、ロバート・ブレイズもまたその宇宙的恐怖にその精神を浸した者である。
故に、その精神はこのような狂気と呪詛に溢れた空間に在っても壊れるどころか小揺るぎもしていない。
そしてその眼差しの先。呪染の中心で歌う異形の躯体に、ロバートは幾許かのシンパシーすら感じていた。
「貴様の根源、視せてもらう」
ロバートは術的視野をもって、開いた双眸でそれを視る。
溢れ出す呪詛の根源。すなわちこの地を呪染せし偽神の核となり衝き動かす魂のかたちを――
《呪縛》
「……ほう」
――しかして、その瞬間である。ロバートはその肉体が突如として“縛り付けられた”感覚をおぼえた。
呪縛黒輪。ロバートの身体を包み込むように、赤黒く邪悪な色の光を湛える奇怪な光輪が展開されていたのである。
《我は遍く生命をほろぼし、遍く終焉をもたらすもの》
そして、ロバートの目の前に白い躯体が降り立った。――シャーデンフロイデ。ロスタ・ジーリードの使役するオブリビオンマシンである。
その躯体には膨大な魔力機関と術式回路が搭載され、並の生命体であればただそれだけで絶命に至らしめることすら可能な呪縛の力を行使することが可能だ。猟兵であろうと、魔術と呪詛への知識と耐性を持たない者であれば苦戦を強いられる強敵となるだろう。
「機械仕掛けが、小細工を」
しかして――ロバート・ブレイズという男は、奇しくも魔と狂気の道を歩む者である。
ロバートは短く呪文を唱えると、その身にまとった外套を放り捨てた。――同時に、ロバートはすり抜けるように呪縛黒輪を脱する。黒輪の中に残されるのは、呪詛移しをされた外套だけだ。
《逃がさん》
「少々黙っていろ、機械仕掛け。貴様の出る幕はない」
刹那、ロバートの手元から光が走った。――銀糸の栞。閃いた糸の光が、シャーデンフロイデの躯体へと絡みつきその動きを縛る。
《……!》
そして、ロバートは走った。――近づいてゆく。呪染の根源へ。
「あああああああああああ」
「ああああああああああああああああ」
「あ、は――あ」
影のように揺れる躯体が、ロバートを出迎える。
(ようこそ)
(よよよよよようこそそそそそそそそそ)
(歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎歓迎しようしようしようしよう)
(じじじじじじじじじじ)
(じりりりりりりじりりりりり)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の)
――思念波。
強烈に歪んだ奇怪な思考の波が、ロバートの脳髄に襲い掛かった。
常人であれば2秒ともたず精神を破壊される狂気の渦であった。
「――ク、カ!」
しかして。
ロバート・ブレイズは揺らがない。――彼は既に狂っている。
浴びせかけられた思念の渦を嘲笑と共に振り払い、そして彼はあらためて目の前に座す異形を仰いだ。
「“いる”な。渾沌のみではない。そこに“混沌”がいるな」
そして、彼は揺れる躯体の中に、彼のよく知るものを見出した。
(ああ)
(ああ、ああ。おもしろい)
(おまえも、わたしか)
(愉快)
(お前も、人ならざるか)
(じりりりりりりじりりりりり)
(まとわりつく虫の声)
「――」
喉を鳴らすように、心底愉快げにロバートは嗤った。
「我等、混沌で在り渾沌に在らず――在り得ては『異けない』深淵(るつぼ)の底で、矛盾(たが)いを貪食(ウロボロス)と見做すのか」
(ははは)
(ははははははは)
呪詛渦巻く異界の中で、狂気と呪染の根源へと狂人が対峙する。
「では――三つ葉の愛おしさを想起し給えよ、貴様」
そのとき。
炎と闇が、狂気と共に渦巻いた。
「化身と化身が遭遇(かおあ)わせた時、起きるのは嘲笑か別の何かか」
たちまちロバートの肉体は黒く変容しながら異形へと変じた。
燃ゆる三眼。渦巻く暗黒。それは果て無き深淵の底より来たる地獄そのものだ。
「兎も角、闇黒(やみ)を散らかすと為(し)よう」
(はははははははあははははああああああああははははははは)
燃ゆる瞳が炎を撒いた。燃え上がる熱は女の異形を包み込みながら激しく炎上する。
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
しかして次の瞬間、膨れた身体から伸びた無数の腕が三眼の肉体を捉えた。ぎゅり、ッ。幼子が悪戯半分に人形を捻り壊すように、三眼の身体がへし折られる。
「クカカッ――!」
だが、燃ゆる瞳は再びその権能を行使した。膨れた女の異形が、篝火めいて更に激しく燃え上がる。
「――構築の仕方が甘いのだよ、人類!」
おお、眩暈。
おお、酩酊。
おお、歓喜。
異形の女が三眼を引きちぎり、三眼の化身が膨れた女を荼毘に付す。
二つの異形は、互いを喰い合うように滅ぼし合った。
おお、■イア■ラ■テ■■!ニ■■ラ■トホ■■!嘲笑う終焉よ!あまねく世界に幾億の欠片もつ無貌なる者よ!
UDCアースに在る狂信者どもがこの場を目撃したならば、あまりの事態に滂沱しながら歓喜とともに絶命していたことであろう。
――しかして。これは児戯である。
ふたつの異形はともに同質のものを降ろした化身であった。
故に、ここに行われているのは外なる神性による人形遊びめいた戯れ事に過ぎないのだ。
それは――いわば、神の掌上で飽きるまで続けられる一人遊びであった。
呪わしき地獄の遊戯盤の上で、ふたつの駒は踊り続ける。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…そう。覚悟が出来ているのなら私から語るべき事は無いわ
…神を狩るのは、この世界でも半魔半人たる私の使命よ
脳内に精神安定物質を精製する肉体改造術式で狂気耐性を強化し、
自前の呪詛耐性で軽減した精神汚染を浄化して「時間王の瞳」を解放
過去の存在を支配する呪詛のオーラで防御ごと敵UCと巨人を捕縛し、
敵が体勢を崩した隙に残像が生じる早業で攻撃を受け流しUCを発動
…来たれ、異端の血を啜る黒剣、神々を喰らう黒炎の鎧
我が手に宿りて、悪なる諸神を断ち斬る剣となれ
600騎の黒騎士霊を大鎌に降霊して武器改造を施し、
対神特効能力を強化した騎士剣を錬成してなぎ払い、
黒炎の魔力を溜めた斬撃波で敵を切断する対神属性攻撃を放つ
「……」
リーヴァルディ・カーライル(f01841)は奈落めいた泥濘の地へと立ち、その中央に座す異形の姿を遠く見据えた。
――その姿から感じ取れるのは、凄まじく膨大な瘴気と色濃い闇の気配。
リーヴァルディはその混沌とした闇の色に、かつて触れた外宇宙の狂気を思い起こした。
「……“降ろした”のね」
おそらくは、“そういう在り方”の者だったのだろう。
リーヴァルディは、取り込まれたグリモア猟兵の性質を類推する。
(ちゃんと、本気で殺しにきてね)
そして、リーヴァルディはここに来る際に彼女が言っていた言葉を思い出した。
「……覚悟が出来ているのなら、私から語るべき事は無いわ」
そうして、リーヴァルディは刃を携える。――グリムリーパー。漆黒の大鎌。その刃がぎらと光った。
「………神を狩るのは、この世界でも半魔半人たる私の使命よ」
ざ、ッ。
踏み出したブーツの靴底が、泥濘の地を踏みしめる。
《――否定》
「……!」
強大な呪縛の魔術式がリーヴァルディを襲ったのは、その時であった。
《その『使命』は、果たされない》
シャーデンフロイデ。――取り込まれたグリモア猟兵の用いるオブリビオンマシン!
「巨人……来たわね」
礼装に刻んだ対呪詛防御によって辛くも呪縛の術式を躱したリーヴァルディであったが、シャーデンフロイデは続けて呪縛の黒輪を放つ。
「けど……あなたと遊んでる暇は、ないわ」
《……!》
リーヴァルディはここで術式を展開した。――写し身の呪詛だ。魔法力によってリーヴァルディは自身と瓜二つの幻像を作り出す。
突然に増えた標的の姿にシャーデンフロイデが困惑したその隙を突いて、リーヴァルディは素早く泥濘の地を蹴って跳び出した。
死角に入り込み、加速。そのままリーヴァルディは巨人の横をすり抜けながら、グリモア猟兵のもとを目指す。
――そして、襲い来る瘴気。
「……まともじゃないわね」
その濃密な闇の気配に、リーヴァルディはグリモア猟兵の姿を目指して進みながらも警戒する。
ここは、奈落だ。――以前に訪れた『宇宙の幼生』たちの閉じ込められたあの場所ですら比較にならないほど、この地は呪詛と狂気に満ちている。
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつ)
「……、っ」
油断してしまえば、この空間に満ちた狂気は僅かな隙間を抉じ開けて精神の内側へと入り込み、そして染め上げてゆくだろう。
「これほどの瘴気……鴻鈞道人に、こんなちからはないはず……。いったい、あの子は“なに”を降ろしているのかしら……」
(――しりたい?)
「……!」
その時。
感知できぬいずこかから、リーヴァルディへと誰かが囁きかけた。
――それと同時、泥濘の地から黒く腕が伸びる!
「……そうは、いかない……!」
リーヴァルディは咄嗟に刃を払い、伸ばされた腕を切り伏せる。
「あ」
「ああああ」
「ああああああああああああああああ」
るろろろろろろろ。
るろろろろろろろろろ。
るろろろろろおおおおおおおおんんんんん。
「……ようやく、おでましね」
「あ、あ、あ――は」
――そして、リーヴァルディは迫る気配へと視線を向ける。
そこに佇むのは、揺らめく黒い異形。――膨大な呪詛と狂気をもたらす精神汚染の思念波を振り撒く、異界の神性を降ろしたヒトガタ。即ち、ロスタ・ジーリードであった。
「……そこにいるのが何であろうと」
リーヴァルディは、呪染の中心たる異形の者を前にしながらもまるで怯むことなく真向から対峙する。
「私は……あなたを狩るだけよ」
そして、刃に炎を灯した。
「……来たれ、異端の血を啜る黒剣、神々を喰らう黒炎の鎧。我が手に宿りて、悪なる諸神を断ち斬る剣となれ」
「あああああああああああああああ」
るろろろろ。るろろろろ。
形容困難な奇怪な音をたてながら、異形がその腕を伸ばした。伸びた黒い腕は途中からいくつもに枝分かれしながらリーヴァルディの身体を捉えるべく追い縋る。
「は、っ!」
迫る異形の腕を、リーヴァルディは切り払う。その手に握られていた大鎌は、いつしか真っ直ぐな刃へと変異していた――それは、騎士剣である。
そして、リーヴァルディはその身に宿すユーベルコードの力を高めた。
【限定解放・血の騎士団】――。リーヴァルディは、ユーベルコードの力によって自らの手にする剣を触媒とし、志半ばで滅びた騎士たちの魂をここに呼び込んだのだ。
「……悪神よ。去りなさい」
騎士たちの魂が集ったその刀身に宿るのは――強力な意志力である。
リーヴァルディの握る剣には今や数百名を数える無数の騎士たちの誇り高き魂が宿っている。
それは、人を苦しめる悪神を討たんとするリーヴァルディの意志に呼応してその力を増しつつあった。
「あ、あ、あ――」
異形がその腕を広げ、おぞましく呪詛の思念波を放ちながらリーヴァルディへと迫る。
「去りなさい!」
だが、リーヴァルディは叫んだ。――襲い来る思念波を振り払い、そして前を向く!
そして、叫んだリーヴァルディの声に応じたかのように、握る剣の刀身が黒く炎を纏う!
「……!」
その炎に――炎の中に見えた強い意志力に、異形が怯んだ。
「はあ、ッ!」
リーヴァルディはその隙を見逃さない。
リーヴァルディは素早く踏み込んで異形の身体を間合いへと捉えながら、全霊の力を込めて剣を振り抜いた。
その刃に宿るのは、神を討つ意志――!その魂の炎が、異界の神性を宿した異形の身体に深く傷を刻み込む!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
――悲鳴!
神を狩るべくして束ねた意志力が、神を宿した異形へと抜群の効果を見せたのだ。ここに刻まれた傷は、間違いなく有効打である!
――しかして、まだその躯体には致命傷は届いてはいないのだ。体内に巣食った鴻鈞道人も、いまだ健在の状態である。
黒い異形はその躯体に焼け爛れた痕を残しながら、じりじりと退き始めた。――形勢不利を感じ取り、一旦退くことを選んだのだ。
「……逃さないわ」
だが、それを見逃すリーヴァルディではない。
手の中で剣を握りなおしたリーヴァルディは、再び刃を構えなおしながら敵の姿を追う。
戦いは――続くのである。
成功
🔵🔵🔴
数宮・多喜
【血反吐】
ああ、ああ。
そうか、ロスタちゃん。アンタもそうだったな。
親和性の高い、「喚びやすい」グリモア猟兵は。
『覚悟』ができてるなら、それでいい。
―――じゃあ、行くぜおらァ!
その場がどんな地だろうと構わねぇ、
むしろそう言う所を走る為に改造されてたんだろうな。
いつものようにカブに『騎乗』し、デカい方のお嬢さん(キャバリア)にゃ『ハッキング』を仕掛けて狙いをブレさせる。
そうしてロスタちゃん、アンタ本体へ向かってSMGで『弾幕』を張りながら一気に突っ込むよ!
タッチダウンまでの道中は、必死で『操縦』しつつも
躱し切れない攻撃は激痛・呪詛・狂気への『耐性』で必死に堪える。
ぶっちゃけ無いよりマシ、程度だけどな。
何せロスタちゃん、サイキックの力はアンタへの攻撃に温存しなきゃならねぇ。
ギリギリまで溜め込んで、手刀に込めた【魂削ぐ刃】。
途中でカブが破壊されたとしても、そのまま『ダッシュ』で貫手の如く骸の海を突き刺して、鴻鈞道人「のみ」をぶった斬る!
アンタをあの時遭った、
姉妹と一緒の存在に堕として堪るかよ!
上野・修介
※アドリブ連携負傷歓迎
生憎と呪詛への耐性は皆無。
だが受ける影響を意識から『外し』、且つ攻撃が直撃さえしなければ、行動不能になるまで幾らか猶予はあるはず。
「チャンスは一度。まあ、いつものことか」
調息、脱力、戦場を観据える。
『間合いを殺し拳を叩き込む』
――己をただそれだけの機構と定め、心を水鏡に
「推して参る」
初手から真っ直ぐ最短を突貫。と見せて、伏せる様に地面を打撃し先ず横方向に跳ぶことで、相手の初撃を回避。
体幹と重心操作による歩法で移動方向と速度に虚実を混ぜて攪乱しつつ接近。
懐に飛び込む勢いをそのままに一撃。
そこから拳を密着させたままUCを用いて勁を生み出し、全関節の螺旋に乗せて透す。
るろろろろろ。るろろろろろろ。るろろろろろろろおおおおおおんんんん。
歪んでいた。
澱んでいた。
壊れていた。
狂っていた。
この空間を構成するありとあらゆるものが、異常であった。
ここは、奈落だ。
「……こいつは、ひどいね」
「はい。……まるで、というか。UDCアースの怪物そのもの……のようですね」
数宮・多喜(f03004)と上野・修介(f13887)は、泥濘の地を踏みしめながらその中央に座す異形の姿を遠間より捉えた。
「ああ、ああ――そうか、ロスタちゃん。あの子もそうだったな」
「“そう”と言うと?」
呟く多喜を横目でちらと見て、修介が尋ねる。
「たまにいるだろ。UDCアース絡みとかでさ。“向こう側”と縁があるっていうか……親和性の高い、“喚びやすい”猟兵が」
「ああ――」
多喜の言葉に、修介は頷いた。修介もまたこれまで多くの戦場を経験してきた古株の猟兵の一人だ。彼が経てきた戦いの中で同道していた猟兵の中にも、そうした異界の魔の力を借り受ける者がいなかったわけではない。
彼女の、そういう類の猟兵だったのだろう、と修介は納得した。
「今回は、それが悪い方向にいってしまったということですか」
「そういうことだね。……ま、でも。向こうだって『覚悟』はできてるはずだよ」
多喜は傍らに置いたバイク――宇宙カブ・JD-1725へと跨り、フルフェイスメットのシールドを下ろした。
「それじゃ、そろそろ話は終わりにしよう。……乗ってきな」
そして、親指でシートの後部を指し、修介にタンデムを促す。
「わかりました。行きましょう」
修介は泥濘を蹴って後部シートへと跨った。――そこから、静かに前を見る。
「よし―――じゃあ、行くぜおらァ!」
瞬間、多喜はスロットルを開き、マシンのエンジンへと火を入れた。ヴォ、ッ!宇宙カブが唸りをあげて発進し、呪染の地を走り出す!
「飛ばすよ!しっかりつかまってな!」
「はい」
黒い泥濘に轍を刻みながら、宇宙カブが加速する。
時折、呪染の地から伸びた腕が二人へと向けられたが、多喜は鋭いステアリングで躱して前進。更にその速度を上げながら呪染の中心へと向けて機体を走らせる。
安定性に欠ける呪染の地であったが、マシンのスピードは決して落ちることなくまっすぐに前へと進んでゆく――むしろ、このように歪んだ世界を走るために最適化調整を受けていたかのように、宇宙カブはこれまででも最高の性能を発揮していた。
「すう――ッ、は―――」
一方、修介は静かに息を吐き出した。
――調息。呼吸を整えながら、修介は身体から無駄な力を抜きつつその精神を研ぎ澄ませてゆく。
この領域へと踏み込んだときから、修介はその精神を抉じ開け忍び寄ろうと目論む“なにか”の干渉を鋭敏に感じ取っていた。
故に、それを躱すためにそのこと自体を意識から『外し』ていたのだ。――物理的接触を伴わないものは、感じなければ存在しないも同然、ということである。
高位へと至る武術家の修行は、厳しい精神修練でもあるのだという。
そして、今この時に至るまでに修介が積み上げてきた研鑽はまさに呪染を遠ざける防壁として機能していた。
「……」
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
思考に入り込もうとするノイズめいた呪詛の音を、修介は強固な精神でもってシャットアウトする。
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
(まとわりつく虫の声)
「……」
だが――それでも、この地を埋め尽くし満ち溢れる呪詛の念は強大だ。
修介ほどの猟兵であっても、この空間に在ってはいつまでも無事でいることは不可能である。
締め出しきれない呪詛の欠片が、自分の精神を抉じ開けようと爪を突き立ててきているのを、修介は感じていた。
(――もってあと十分少々、といったところか)
修介はつとめて冷静に状況を考える。
タイムリミットは10分程度か。――それを過ぎれば、自分自身の正気も危うくなるであろうと修介は推測した。
であれば――必然的に、目標とやりあえる機会は、絞られる。
「チャンスは一度――まあ、いつものことか」
そうして、修介はただ一度の会敵とただ一瞬の交錯にすべてを賭すことに決めた。
「あああああああああああ」
「あああああ」
「ああああああ――ああ、は―――」
「あはははははははははははは」
「あっははははははは」
そして。
――二人は、敵の姿を捉える。
「見えた……おお、おお。随分変わり果てちゃってさ!」
泥濘の地を超えた先。呪染の中心に座す黒い異形を仰ぎ、多喜は叫んだ。
「……このまま一気に突っ込むよ!」
「わかりました」
「あはははははははははは」
るろろろろ。るろろろろろ。るろろろろろろろろろろおおおおおおおんんんん。
猟兵たちの姿を見下ろして、歓喜するように異形が揺れた。
瞬間――黒い腕が、伸びる。
「だああああっ!!」
多喜は腰に吊ったマシンピストルを引き抜くと、遮二無二トリガーを引き絞った。ダダダダダッ!9ミリパラベラム弾頭が秒間約15発の連射速度で撃ち出され、異形の腕を牽制する――しかし!
「あははははは」
「づ……ッ!!」
――地面から伸ばされた呪腕に、バイクの躯体が捉えられた!強制的に急停止された宇宙カブは慣性の法則によって有り余った運動エネルギーを多喜と修介に叩きつける。結果、シートから投げ出される二人!
「くは……ッ!」
「……、ッ!」
ざあ、ッ!しかし、彼らもまた多くの戦いを経てきた猟兵だ。バイクから投げ出されながらも、二人は巧みな体重移動と体捌きで衝撃を殺し、すぐさま態勢を立て直す。
そして――対峙した。
「……よう。来たぜ、ロスタちゃん」
多喜は、口の端に笑みさえ浮かべながら異形の躯体を仰ぎ見る。
ロスタ・ジーリードは、多喜にとっては見知ったグリモア猟兵の一人だ。彼女の案内する任務に参加したことも、一度ではない。
「あはははははは」
揺らめく女の異形は、嗤うように音を鳴らして震える。
(――無駄だ。何をしよう、この身体はいまや私のものだ)
そして、思念波。――ロスタ・ジーリードの身体を支配した、鴻鈞道人の声だ。
「うるせえ、黙ってな。アタシはロスタちゃんのツラ拝みにきたんだ。お呼びじゃないんだよ、お前は」
しかして、多喜は切り捨てる。
「……」
その一方――修介は、ひたすらに冷静であった。
ひたむきであった。
その思考はさざ波ひとつたたぬ止水めいて静かに凪いでおり、ただ一つのことだけにその意識は注がれている。
『間合いを殺し、拳を叩き込む』。ただ、それのみである。
――己をただそれだけの機構と定め、心を水鏡に。
あらゆる雑念を捨て去ることで明瞭に保たれた修介の精神は、今やなにものにも侵されることなく、眼前に聳える、拳を撃ち込むべきものだけを捉えていた。
「推して参る」
「ああ……やるよ!」
そして、二人が駆けた。
「あははははは、あはははは。あっはははははは」
るろろろろろろ。るろろろろろろ。るろろろろろろろ。
哄笑とともに莫大な呪詛と強力な精神汚染思念波が撒き散らされた。――同時に、ずるりと音をたてて伸びる無数の黒腕。
「づあ……ッ!!」
頬を掠める。肩口を削られる。脇腹を掴まれる。
「……!」
首に指がかかる。爪をたてられる。目玉に指を這わされる。
触れたあらゆる箇所から、染み出した瘴気と黒い呪詛塊が二人を襲った。
だが、二人は決して止まらなかった。
「……シュッ!」
修介は巧みに黒腕の襲撃を捌きながら進んでいた。体幹の使い方と体重移動。即ち重心の操作によって修介は変幻自在に立ち回り、追い縋る邪神の腕を躱しながら前進していたのだ。
(間合いを――詰める)
そして、修介は押し寄せる敵の攻撃の合間に、刹那、その喉元へと迫る路を見出した。
ほとんど反射的に動いた修介の身体は、呪詛と狂気の中を掻い潜り――その根源へと、至る。
「――シッ!!」
ご、ッ!
最接近のその瞬間、修介は鋭く拳を打ち出した――突き出した拳が、異形の身体を捉える!
「あ」
「ここは……俺の間合いだ」
衝撃に揺らぐ黒い異形へと、修介はもう一度握った拳を密着するように突きつけた。
そして。
「【――崩す】」
瞬間――寸勁、ッ!!
一瞬のことであった。――修介がその拳に力を込めたかと思えば、異形の躯体が悲鳴をあげながら爆ぜるように跳んだのだ。
必殺の剄力が、異形を貫いたのである!
(ぬ、う――発剄、だと……!?)
その全身を貫いた衝撃は、体内へと潜んでいた鴻鈞道人本体にも直接ダメージを叩き込んでいた。ガワと内部の両方を攻められ、鴻鈞道人が戸惑いを見せる!
「おおおおおおおおッ!!」
そして――修介と入れ替わるように、多喜が飛び込んだ!
襲い来る黒腕の群れの中を強引に突破してきたが故にその身体のあちこちには傷と血が滲んでいたが、それを補うように双眸には決意と覚悟を、そして気合と根性を乗せた光が灯る!
「もういい加減終いにしときなよ、ロスタちゃん――アンタを、アイツみたいなモノと同じに堕として堪るかよ!」
――多喜は、知っている。ロスタ・ジーリードの『おねえちゃん』の存在を。
多喜は思い出す。オブリビオンに堕し、呪詛を振り撒き人を滅ぼす悪しき闇の使者と化した、ロスタ・ジーリードと同じ顔をした少女の姿を。
それと同時――多喜の脳裏に過ぎったのは、かつて失った友の姿である。
(ああ。……お前みたいな奴は、もう増やさせないさ。アタシの手が届く限り!)
そう、させるわけにはいかない。
(だから……力を貸してくれ、準!)
その瞬間、多喜の胸の奥より力があふれ出す――鼓動が送り出す血流に乗せて、サイキックの力が彼女の全身へと行き渡った。
多喜は裂帛の気合とともに一歩を踏み出し、そしてその腕へとサイキックを――ユーベルコード出力を収束させる!
「鴻鈞道人……ッ!!その子は、返してもらうよっ!!」
(ぬううううう、っ!)
一閃、ッ!!
輝くサイキックエナジーの燐光で軌跡を描きながら、【魂削ぐ刃】が異形の躯体を裂く!
(ぐおおおおおおおおおお、ッ!な、なんだ、この苦痛は……!この、力は!)
魂削ぐ刃は、サイキックの力を込めた思念の刃でもって肉体を傷つけずその内側の『核』を討つものである。
すなわち――多喜の放った一撃は、いまこの異形の躯体の中枢を為す鴻鈞道人へと直接のダメージを叩き込んだのだ!
(まさか……まさか、ッ!この私が……“骸の海”たるこの私が、押されている!)
修介の剄による衝撃と、多喜の思念刃による一撃――そのどちらもが、グリモア猟兵の内部へと巣食った鴻鈞道人へ直接的なダメージを与えることに成功していた。
(おのれ……猟兵ども、ッ!)
想像を超えたダメージに戸惑う鴻鈞道人は、態勢を立て直すべく後退を開始した。
「待ちな!」
「いえ……こちらも一度下がりましょう。俺たちもこれ以上は危ない」
下がる鴻鈞道人を追おうとする多喜を修介が制す――この呪染領域にこれ以上とどまり続けるのは、猟兵であっても人間である彼らには負担がある。
「……わかった。けど、こっちも立て直したらすぐ戻るよ」
「わかっています」
二人は頷きあい、そして後退を開始する――。
ここに至るまでの交錯で鴻鈞道人の生命力は既に大きく削られつつあった。
決着の時は、そう遠くはないだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎!
【血反吐】の有無もお任せ!
戦いはまだ続いてマース!
救援に来たバルタンであります!
ご安心くだサイ、ロスタ殿! 全力で倒しに参りマース!
なので、頑張って生き延びてくだサーイ!
っと! 呪詛……! 精神汚染系でありますか!
ワタシ自身は抵抗力はイマイチ……デスガ!
妲己対策で作成した銅鑼型宝貝『猛忍👍』がありマース!
ジャーンジャーンと叩いて呪詛を祓うであります!
迫る『渾沌の諸相』を銅鑼で受け流し、カウンター気味に懐へ入り込み!
「六式武装展開、雷の番!」
戦意十分! 手加減無し!
至近距離にてパイルバンカーによる全力攻撃を!
着弾したところで飛翔して、我輩と共に吹き飛んでもらいマース!
(――!)
グリモア猟兵の躯体の内側で、鴻鈞道人は呻いた。
(敗れたか、張角……。私の見立てより、少々早かったな)
仙界の地を覆う空気が変わったのを、鋭く気取ったのだ。ならば、この戦いも既に決したか。鴻鈞道人は思考する。
(つまり、潮時ということだ。……ここは退くのが賢明かもしれぬな)
数秒の思案――そして意思決定。鴻鈞道人は、グリモア猟兵の躯体を操りいずこかへと去ろうとする。
しかし、そのときである。
「戦いはまだ続いてマース!」
「あああああああああああああああああ」
――爆轟!
(……!)
泥濘の地を爆ぜ、榴弾が爆裂したのだ。突然の事態に、鴻鈞道人は一手対応が遅れる。
「逃がしまセンよ、鴻鈞道人!」
(またも猟兵か……何者だ!)
噴き上がる爆煙の先に、鴻鈞道人は目を凝らす。
「ワタシは……そこなグリモア猟兵殿の救援に来たバルタンであります!」
煙を裂いて鴻鈞道人の前へと躍り出たのは、バルタン・ノーヴェ(f30809)であった。
「ご安心くだサイ、ロスタ殿! 全力で倒しに参りマース!」
忍者めいた素早くも巧みな身のこなし!バルタンは剣を抜き放ちながら異形の躯体へと瞬く間に間合いを詰める!
「なので、頑張って生き延びてくだサーイ!」
「あ、あ、あ――あ、は」
瞬間、異形がその腕を伸ばした。――ぎゅり、ッ。バルタンの首根を捉え、掴む。ロスタの腕はそのままバルタンを力任せに放り捨てた。だん、っ!バルタンの躯体が泥濘の地へと背中からしたたかに打ち付けられる!
「あああああああ」
るろろろろ。るろろろろ。るろろろろろおおおおおおん――。
そして異形の音が響いた。歌うように紡ぐように広がる聲に乗せて、爆発的な呪詛塊と攻勢術式が展開され、周囲一帯を満たした。
「っ、と……!」
染み渡る歌声が、バルタンの脳髄へと忍び寄った。
それは精神に押し入り、そして魂を食いつくす悪性の呪詛である。その性質はUDCアースの神格の精神汚染にきわめて近しい。
開けろ。
開けろ。
受け入れろ。
抵抗はやめろ。
受け入れろ。
委ねろ。
捧げろ。
渡せ。
まとわりつく虫の声。
まとわりつく虫の声。
まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の声まとわりつく虫の
「むう、っ……!これは、呪詛……!精神汚染系でありますか!」
――その精神の内側へと入り込もうとしていた邪悪な想念を振り払い、バルタンは態勢を立て直した。揺れる頭をがつんと叩き、衝撃と痛覚で強引に正気を引き戻す。
「この呪詛を成しているのは、この叫び声……いえ、歌声、デスか……ならバ!」
そして、バルタンは術を繰り、宝貝をここに喚び出す。
その宝貝の名こそ――『猛忍👍(モーニングッ)』!大型の銅鑼のかたちをした宝貝である!
「音が媒介なら、こっちの音でかき消してやりマスよ!――その呪詛、祓うであります!」
バルタンは手にした撥を振りかぶり、そして全力で銅鑼へと叩きつけた。
「あ――」
(――なに……!?なん、ッ、だ、この、音は――!!)
その瞬間――溢れ出たのは、清めの音である。
その宝貝が備えた機能こそ、穢れを祓い毒気や幻惑の術を払い除ける浄化の機構だ。バルタンはそれを力強く叩き鳴らした。――呪染を祓うように、浄めの響きが空間の中を埋め尽くす!
銅鑼の音色が悪意と呪詛に激突する。そして、その強烈な清めの力が、呪染の力を退けたのだ!
(ッ……、おの、れ!)
周囲一帯を埋め尽くしていた筈の泥濘の黒色は、いつしか消え果てていた。
(おのれ――猟兵、ッ!!)
焦燥に身を浸した鴻鈞道人が、激昂と共に動き出す。
蠢く異形の肉体が、再びその腕を伸ばした。――今一度バルタンを捉え、縊り殺そうとしているのだ!
「……二度はやられまセン!」
(なに……ッ!)
しかし――バルタンは巧みに身を反転させ、伸ばされた腕を銅鑼で受けた。
反動と衝撃、そして直で叩き込まれた浄めの音圧に、グリモア猟兵の躯体と鴻鈞道人がその動きを止める――呪詛にまみれたその肉体にとって、浄めの音は覿面の効果を発揮したのだ!
「あ――」
「さあ――そろそろ終わりにさせてもらいマース!」
浄化の音に鴻鈞道人とグリモア猟兵の身体が麻痺したその瞬間を見逃すことなく、バルタンは次なる一手へと進んでいた。
「六式武装展開、雷の番!」
瞬間――電光が走り、光が爆ぜた。
バルタンが自らの内部に宿した機構を起動させたのだ。かくして【荷電粒子体/チャージパーティクルボディ】と化した彼女は、電光の化身と化して光の軌跡を残しながら異形のグリモア猟兵へと一気に間合いを詰める!
――戦意十分!手加減無し!
眼前の敵を至近距離へと捉えながら、バルタンはまっすぐに前を向いた。――その手には換装式パイルバンカー!とどめの一撃を叩き込む、彼女の必殺兵器である!
「これで……とどめデス!――我輩と共に吹き飛んでもらいマース!」
(やめろ)
(やめろ)
(やめろ、オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!)
そして。
――稲妻が、爆ぜた。
(ぐ、おおおおおおおおおお!)
そうして――幾度目かの交錯を経て、猟兵たちのユーベルコードが遂に鴻鈞道人の存在核へと届いたのだ。
(おのれ――おのれ、ッ!)
(骸の海たるこの私に――よくも、このような、ことをッ!!)
満ちる電光の中で、鴻鈞道人はその存在力にひびを入れられてゆく。
――しかし!
(まだだ――まだ……まだ、終わってはいない、ッ!)
鴻鈞道人は自らのユーベルコード出力とグリモア猟兵の躯体に残されたエネルギーを使うと、最後の力を振り絞って満ちる電光の中から逃れた。
「ッ……しぶとい、デスね!」
(私は――この人形は、まだ!)
故に――その呪詛は、致命傷と言えるほどに大きなダメージを受けながらも、健在であった。
しかして、残された生命力も既に僅少であることには変わりない。
敵がどれほど吠えようとも――猟兵たちのユーベルコードは、既に鴻鈞道人の喉元へと迫っているのだ。
決着の時は、間もなく訪れる。
成功
🔵🔵🔴
水鏡・多摘
成程、本気で戦えと。
ならば我の全力を以て戦わせて貰おう。
浄化の属性を帯びた結界術を我の周囲に展開、呪詛と狂気に抗う一助とする。
峻厳のオーラと結界神珠に蓄えた分の霊力を使い構築を補助、速度と強度を上げる。
敵の攻撃には結界に加え祟り縄を念動力で操り直撃を逸らすようにして流す。
瞬間思考力を活用し状況を分析し見切り、致命傷そしてブレスを吐く口さえ無事にできるよう避けれればよい。
躱しつつ縛りつつ、隙を見出したらUC発動し反撃。
ロスタの中の鴻鈞道人を対象に浄化の属性を帯びたブレスを放ち、霊力と呪力を浸透させ力を削いでやろうぞ。
操るだけの力も残さぬ。忌まわしき渾沌は消えよ。
※【血反吐】アドリブ絡み等お任せ
るろろろろ。るろろろろ。るろろろろろろろ。
異形が蠢くその地において、呪わしき瘴気が空間を満たす。
そこは、UDCアースにおいて邪神と呼ばれるタイプの神格級UDCが展開する自己領域――すなわち、超次元の渦によく似ていた。
「ああああああああ、あ、あ。ああ――は、は」
その中で、ロスタ・ジーリードが咲う。
「この妖気…………禍つ神どもと同質のものか」
その姿を目の当たりにして、水鏡・多摘(f28349)は静かに唸った。
――神格級UDC。すなわち、邪神。それらはかつて彼の愛した場所を滅ぼしたと言える存在だ。
対峙した異形の躯体から染み出す邪悪な瘴気に、多摘は焦れるような感覚をおぼえる。
「あ、は」
そして、異形はその腕を伸ばした。
「成程、本気で戦えと」
多摘はその身に秘めた龍神の神気を纏いながら、迫る黒い異形を仰ぐ。
「ならば我の全力を以て戦わせて貰おう」
その瞬間――多摘を中心として、爆発的な光が周囲一帯へと凄まじい勢いでもって広がった。
「ああああ」
(……!)
異形の躯体の内側で、鴻鈞道人が呻く。
「悪いが、汝のような手合いの者の相手は飽きるほどやっておる」
多摘はその手の中に結界神珠を握りしめ、そして神気を更に強める――周囲空間を埋め尽くすように拡散する光は、瘴気を祓う浄化の力の塊だ。そのエネルギーが、邪神の領域を構成していた渾沌の力を跳ね除けてゆく!
(むう――!)
「そして鴻鈞道人……これ以上は汝の思うようにはならぬと知れ!」
続けざま!多摘はその手に縄を握る!神気を帯びた祟り縄だ。念を強めた多摘は祟り縄を槍めいて異形へと撃ち出した!
(思い上がるな、蜥蜴風情が!)
だが――思念波!強力な呪詛と闇の神気を乗せた衝撃が周囲の空間に激しく押し寄せる!
「ぬう、ッ!」
多摘は展開した結界に神気を重ね、その衝撃を辛うじて受け流す――
「あ、あ、あ、あ、あ」
だが、次の瞬間!多摘の目の前には無数に伸ばされた黒い腕が迫っている!
「づうッ!」
「あああ、あああああああ――あ、は」
多摘を捉えた異形の腕は、多摘の身体を掴んだまま、泥濘の地へと叩きつけた。
「ごッ、ふ」
衝撃!老眼鏡にひびが入る!
「あははははははは、あははははははは」
異形は狂ったように嗤い続けながら、二度三度と多摘を地面に振り下ろした。打ち付けられる度、多摘の躯体が軋みをあげる!
「……!」
しかして、その暴力に晒されながらも多摘は冷静であった。
――敵は、既に勝ち誇っている。
決着がついた――と、思い込んでいるのだ。
それは、慢心であった。
(さあ――殺せ。殺せ!)
グリモア猟兵の躯体の内側で、鴻鈞道人が叫ぶ。応じるように、多摘を捉える異形の黒腕が、その手を高く振り上げた――
だが、その時である。
「……は、ッ!」
(……なに!?)
裂帛!気迫の叫びと共に、多摘が再び念を強めたのである!
それと同時に、多摘の思念を受けた祟り縄が再び動き出した。疾った縄は異形の躯体へと素早く絡みつき、たちまちその動きを拘束してゆく!
「骸の海の化身とかいう触れ込みじゃったが――随分と甘いようじゃな」
(む、う……!)
祟り縄がロスタの身体を束縛したことで、緩んだ手の中から多摘は逃れ出る。
痛む身体に鞭打って、倒れそうになる身体を気合で支えながら、多摘は再び異形へと対峙した。
「これで終わりだ、鴻鈞道人」
そして――静かに、息を吸う。
開いた喉の奥に、光が灯った。――多摘が自らの身体に残った霊力を肺腑へと収束させているのだ。
「操るだけの力も残さぬ」
(やめろ――やめろ、ッ!)
そこに灯る光の強さに、鴻鈞道人は焦れた。
これまでの戦いの中で、このグリモア猟兵と自分の生体活力は既に限界だ。ましてや、鴻鈞道人は先の戦いで存在核へとユーベルコード出力を届けられている。
逃れねば、と鴻鈞道人は思考するが――負傷を重ね、そして祟り縄によって縛り付けられた今、もはや逃げ道はなかった。
「――忌まわしき渾沌は消えよ」
そして――多摘は、光を放つ。
全霊を乗せた【悪霊龍の息吹】が浄化の霊力とともに迸り、グリモア猟兵の肉体と――その内部の、鴻鈞道人へと浴びせられたのである。
「あ――あ、ああ、あ――あは、ぁ」
(ぐあああああああああああ――、ッ!こ、これほどの――これほどの力であったか、猟兵ああああッ!)
そうして光は闇を呑み込み、爆ぜた。
爆散する光と共に、渾沌の気配もまた散ってゆく。――猟兵たちのユーベルコード出力が、鴻鈞道人の存在核を打ち砕いたのだ。
「あ――」
残るのは、抜け殻のように打ち捨てられたグリモア猟兵の身体のみである。
「さて……無事であればよいが」
敵の消滅を確認した多摘は、地面に転げたグリモア猟兵を回収しながらグリモアベースへと帰還する。
――かくして、鴻鈞道人との戦いはここに終止符を打たれたのである。
だが、自らを骸の海と名乗り、底知れぬ力をもつ鴻鈞道人はまたそう遠くない未来に再び猟兵たちの前に立ちはだかるだろう。
猟兵たちは決意と覚悟をあらたにしながら、これからの戦いへと思いを馳せるのであった。
成功
🔵🔵🔴