殲神封神大戦⑱〜知られざるエピローグ
●君の知らない明日
――最期なんて、いつ訪れるかもわからないのに。
――遠い未来に起こることを、今考えるだなんて。
けれど此処を満たすのは、間違いなく終焉の匂い。死の気配。破滅の予感。
祠へ踏み入った君を出迎えたのは、果てなく続く無限の書架と、数多の世界を織り成す無数の言語。ひどく冷えた空気が君の頬を撫で、髪で遊び、袖や裾をくいと引き込む。
辺りを心地良さそうに流れる言語は、君が知るものかもしれないし、知らないものかもしれない。漂う呪文めいた文字の並びも、読み解けるかもしれないし、読み解けないかもしれない。
どれもが魔力を湛えて君を飲み込み、そして教えてくれる。
いつか出会う可能性のある『破滅』が何かを。
ひとに刺される明日か。呪いに狂う明日か。熱で溶ける明日か。氷で凍てつく明日か。
いっそ殺してくれと願いたくなるような病に臥した果てか。
抗えぬ闇の手で八つ裂きにされるか、底なき影に喰い殺されるか。
「やめてくれ」
自分が襲われるだけならば、耐えられると思っていただろう。
戦を終わらせるため、覚悟をもって祠へ飛び込んだのだから。
「もうやめて」
けれどもし、君の出くわした破滅が、唯一無二の存在を目の前で失う光景だったら。
いつもの日常が抵抗むなしく奪われていくのを、見ることしかできなかったら。
君は、あなたは――その絶望を乗り越えられるか?
●グリモアベースにて
「汚染された祠だからこそ、なのかしら」
小首を傾げたホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が話すのは、伏羲の祠で猟兵たちを待ち構える運命についてだ。
「具現化するの。あなたに起こり得る、破滅の未来が」
破滅の未来。そう聞いて訝しい顔をする猟兵もあれば、然して興味のアンテナが立たぬ猟兵もあるだろう。祠内には、伏羲の発明した「陰陽を示す図像」が刻まれている。この図像が、踏み入った者へ未来を教えてくれるのだが。
オブリビオンに汚染されている影響か、祠の図が「教えてくれる」だなんて生易しい状態ではない。未来が形を成して「襲いかかってくる」のだ。形も、色も、匂いも、声や音もすべてが実現し、猟兵を包み込む。
「可能性のひとつだから、空想や妄想よりもずっとリアルに感じるはずよ」
こんな未来など有り得ないと突っぱねることが出来るような、現実味の薄い光景ではない。それは祠に入った当事者が、一番よく理解できるだろう。いつかは訪れるとほぼ確信できている未来や、信じたくないけれど懸念している未来だ。
「破滅、と一口に言ってもいろんな状況がありそうよね」
指先で顎をつつきながら、ホーラは続けた。
「でも、この戦いを終わらせるためには、そこを乗り越えなきゃいけないのっ」
だからお願いね、と微笑んでホーラは転送の準備にとりかかる。
「……気持ちの準備とか覚悟ができたら、声をかけてちょうだいね?」
すぐに踏み出せる者だばかりではないと、彼女も知っている。
ヒトのココロは迷いや葛藤を経て築かれるものだと、知識として持っていたから。
「大丈夫! あなたなら、きっと……」
きっと、とびっきりの「ただいま」を聞かせてくれるはずと信じて見送るだけだ。
棟方ろか
いつもお世話になっております。棟方ろかです。
一章のみのシナリオでございます。
あなたに起こる可能性の未来、ぜひ教えてください。
このシナリオでは、『あなたの「破滅」の予感を描写し、絶望を乗り越える』ことで有利になりやすいです。
ありえるかもしれない未来。
ありえるかもしれない破滅。
それを実際にプレイングに描き、その絶望に抗い、乗り越えましょう。
もちろん、あえて乗り越えられない展開へ向かうのも大歓迎!
今回の冒険が、あなたの物語を彩る一幕となりますよう、お祈りしております。
第1章 冒険
『八卦天命陣』
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POW : 腕力、もしくは胆力で破滅の未来を捻じ伏せる。
SPD : 恐るべき絶望に耐えながら、一瞬の勝機を探す。
WIZ : 破滅の予感すら布石にして、望む未来をその先に描く。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
糸井・真海
俺の目の前にある「破滅」とは、俺自身が狂ってしまう未来。
俺自身が、多重人格の括りに関わらず殺人鬼と化す予感。
見境なく破壊だけがあり、泣き叫びながら己に絶望する可能性。
正義を正義、悪を悪として切り捨てる俺にとっては、可能性はゼロじゃないものだろう。
…猟兵になってからも2年、こいつに好き勝手やられていた時期があったしな?
『ええ? なんのことかしら? まみ、分からないわ!』
…そうやってとぼけていればいい。
この闇の刃で、具現化した一切を斬り裂くだけだ。
善か悪かだ。それ以外は無い。
破滅なんぞも必要ない。
だから目も逸らさず、間近で斬り裂いてやるよ…!
俺は俺、まみはまみだ。
要らない物は要らない、それでいい。
空と海のあわいに潜む青が、昏き祠で末期を視る。
細めても伏せても途絶えぬ悲鳴と血のにおい。
糸井・真海(まうとまみ・f08726)を襲う終焉は、ひどく騒々しいものだった。
「ッは、ハハ、アははハ……!」
折れそうな程に上半身を揺さぶって、真海の笑い声が狂い咲く。ぽたり、ぽたりと雫を垂らして。
一切の優しさや情けを持たぬその声音のまま、真海は剣を赤黒く染め上げ、尽きぬ魔導書で死を唱え続けた。ぬめる手に反応して刃が開いたナイフを振るえば、真海の眼前でまたひとつ命が溶けていく。かれらが織り成すひきつった呼吸音にすら、背がぞくりと打ち震える。
恐れや不安で慄く身がない真海を突き動かすもの。
それは世に蔓延る――正義と悪。
孤月が滲む空の下、真海は救いを祈る者の指を切り落とし、乞う者の涙を赤く塗っていくだけ。
そんな彼をひとはどう呼ぶか。
化け物と叫んだ男が歩んできた悪の路を、真海が一太刀のもと裁く。
殺人鬼と叫び挑んできた女の正義を、破り捨てた。
見境なく破壊だけを燈し、彼はそれぞれを切り捨てる。今までと何ら変わりない。猟兵になってからの二年、刻んできたものがある。正義は正義、悪は悪として見てきたものが。
その中で、好き勝手やられていた時期もあったと振り返ることができるぐらいに、真海は眼前の絶望を受け入れつつあった。
――ええ? なんのことかしら? まみ、分からないわ!
凶悪な意思がそう笑おうとも、熱を帯びた真海の眼差しは揺らがない。
「……そうやってとぼけていればいい」
どんな応えが返ろうと、泣き叫ぶ己をも闇の刃で断ち切るのみ。
得物を握る彼の手は、破滅の光景と同じかたちをしていて、違う色を宿していた。
「俺は俺。まみはまみだ」
ひとつの器に双方の人格が生きていようと、認識するべき真実は此処にある。
だから目を逸らす必要もなく、要らないものを――目の前で咲いた破滅の花を切り裂く。
痛む傷痕も頬を伝う涙の跡も、今の真海に有りはしない。
大成功
🔵🔵🔵
月居・蒼汰
相棒兎のうさたと一緒に、祠へ
俺にとってのあり得るかもしれない絶望の未来なんて…
それこそ大切な人も、うさたも失われてしまう未来
誰も救えなくて、世界も守れない…そんなの、ヒーロー失格じゃないか
きっと本当にその未来が訪れた時
俺は立ち上がれなくなってしまうかもしれない
どんなに名前を呼んでも答えてくれなくて
目を開けてくれなくて、身体は、冷たくなっていって――
頭の上のうさたがぐっと鼻を押し付けてくる
…うん、そうだよね、うさた
そんな未来にしないために、今よりも強くなるんだ
彼女のことも、うさたのことも、世界も守れるように
こんな未来には絶対にしないと固く決意を込めて
目の前の光景をうさたと一緒に破魔の光で浄化する
開けた景色が月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)を出迎える。見知った町の頭上を泳ぐ、いつもの白雲。何の変哲もない日常の中に、彼は立つ。
しかし首を傾げて歩き出した彼はそこで、穢された日常に遭遇する。変わらず在った建物からは煙りと、焼けた臭いが昇っている。まるで砲弾でも撃ち込まれたかのように折れたドアや、崩れた外壁、粉砕された窓硝子たちは物言わぬ痕跡と成り果てた。
ぶわっと冷や汗が浮かんだ。
「誰かッ、いたら返事してくれ!」
思わず叫びながら駆け出していた。光景の端から端まで、絶望へと塗り変わっていく。瓦礫の下敷きになった誰かは冷え切り、人だったモノも行く先々に転がるばかり。蒼汰の足取りに合わせて水溜まりが虚しく跳ねた。雨も降っていないのに出来た、赤黒い水溜まりが。
「誰か……生きて……っ」
幾度となく呼ぶも、次第に窄む声。熱を失っていく息。
やがて彼の双眸はもうひとつ、信じたくない光景を捉える。警鐘を鳴らす心が、嘘だと訴え続けた。激しかった鼓動も急激に冷えるようで。何故なら彼の前で、大切な人と相棒のうさたが――死のにおいにまみれ、倒れていたから。
「あ……ぁ」
膝から崩れ落ちた彼を支えるものは、ない。顔をあげる気力も湧かなかった。怯えた指先でどうにか触れてみるも、相手は目を開けてくれない。名前を呼んでも答えてくれない。血が通っていた肌も、疾うに色を忘れていた。
――世界どころか、誰ひとり救えないなんて。そんなの……。
ヒーロー失格じゃないか。
己の命が凍てついていくのを感じる。喪失を目の当たりにし、いつもの日々が取り返せないと痛感してしまったから。
そこで突然、ぐりぐりと頭に何かが押し付けられた。
瞼を押し上げれば、蒼汰の眸に横たわっていたはずのうさたの姿が飛び込んで来る。いつから頭に乗っていたのだろう。相棒の鼻で探られて漸く、蒼汰は浅い吐息だけで笑えた。
「これは……うん。そう、だよね。うさた」
夜明けの境界線を彩る金色を潤ませ、光を集わせた。
「こんな未来にはしない。絶対に」
桜色を忘れた春も、月明かりを失った夜も、迎えさせない。蒼汰の決意が、うさたの温もりが、魔を滅ぼす輝きとなって絶望の未来を吹き飛ばす。
「そのために強くなるんだ。今よりもずっと」
大成功
🔵🔵🔵
山崎・圭一
こちとら死と隣り合わせの青春送ってきたんだ
破滅ぎりぎりを何度も渡り歩いてンだよっての
………。
制服を着た少女が絞首台の上で俺を待ってる
あれは…姉貴か
中1の時、両親と姉貴を…この手で殺めたんだ
家に火を放って逃げてきた
なんであんな許されない事したんだろう
分かんねーけど…唯一つ分かってる事は…
俺の犯した罪は死罪だなって事
首が…絞まる……
ゴーストと戦ってれば償いになると思ってた
だからこそ今気付いた。これが俺の破滅かよ
死ぬまで俺は殺人犯なのは間違いねぇ
だからこそ死ぬまで戦う道を選んだ
平穏な未来なんざとっくに捨ててらァ!
再確認さしてくれてありがとよ
【曼呪沙華】
俺の「旅」を阻む破滅は…全部燃やせ!
ひとごろし。
誰のものでもない声が、耳の奥を擽る。
ひとごろし。
不明瞭な音で織られた響きは、ひどく熱を帯びていた。
糊で張り付けられたかのような瞼を押し上げると、目の前には絞首台があった。喉がこくりと鳴るのを感じて山崎・圭一(虫退治ならお任せを・f35364)は呼吸を止める。真白の世界でぽっかり浮かぶ絞首台。そこに居る人物を、圭一が見間違うはずもなく。
「姉貴……」
制服姿の少女。細長い影を地面へ落とした、ひとりの人間。
嗚呼、と圭一が吐いた嘆きさえも黒く色づき、地を湿らせる。まるで圭一の息や言の葉のすべてが、罪科を知らしめてくるようだ。いつまでも少女はそこで揺れ、いつまでも自分は此処で竦んでいる。
「俺は……俺が……」
仕出かした事実がかたちとなって現れたからか、圭一の指先まで夜気に似た冷たさが迸る。
そしていつしか焼ける感覚に囚われた。瞬く間に広がった炎が絞首台ごと世界を燃やそうとしている。ぱちりと弾ける火の粉とは別に、炎の中からは、もがき苦しむ時の呻きが幾つも重なって零れゆく。圭一は閉ざせない双眸と耳で、すべてを受け入れるしかない。
今の圭一へと触れる熱さも、皮膚の下を走り抜ける寒さも、彼自身を咎めるものでしかなく。この状況下で解るのは。
「これが俺の、犯した罪……ってこと、だな」
狭まった喉から、やっと絞り出した声は吐息めいていた。
――苦しい。
焼ける有様と向き合っても、倒してきたゴーストを数えても、世界はありのまま流れていくだけ。
「これが、俺の破滅かよ」
突きつけられたモノに気づいてからは、早い。
喰い破られる感覚を振り払い、圭一が罪深い光景で作り上げたのは曼呪沙華。
「ッ、こちとら死と隣り合わせの青春送ってきたんだ……!」
淡色の輝きで模った白燐蟲たちの霊が、彼の視ている世界へ飛び出した。
ひとごろし、と唄う声なき声と包むために。
圭一という存在を焼却せんとする色を、変えるために。
「破滅ぎりぎり上等。ンなの数えきれないぐらい渡り歩いてンだよっ」
平穏に生きていけるなんて、思っていなかった。
罪人たる己に、ごくごく普通の生活なんて訪れやしないと。
未来永劫、背負っていくものだから。死ぬまで戦うだけ。ならば、成すべきはひとつ。
「俺の『旅』を阻む破滅は……全部、全部!」
燃やして、燃やして、葬るのみだ。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
死霊に自分を明け渡し過ぎて、ついに完全に乗っ取られて、
暗闇に飲み込まれ、囚われるか…消える
そんな未来がない、と誰とも断言できない
むしろ、その日がいつか来ると、心の隅にずっと危惧している
ああ…これは、失敗した『器』の結末ですか
何も見えない、聞こえない、感じられない、時間と空間の感覚すら失った暗闇の中で
ただただ完全に消える時を待つ
私はやっぱり…ダメな子だった…
まあ…いいでしょう
死霊(あなた)なら、それでもいいか…
本当にいいですか
ここまで足掻いて来たのに
本当にいいか
心の奥はまだ諦めていない
そして『あの子』もそう望んでいない
魂の繋がりから伝えてきた温もりに涙を零す
ええ…もう少し…一緒に頑張りましょう
誰かが焦がれた色は、確かにそこに在った。
誰が望んだ色なのか、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)にもそれを手繰る想い出はあるけれど。その想い出すら飲み込んだ暗闇が、彼女を空虚な世界へ連れ去ってしまう。
何もなくて、誰もいない。白磁の如き美しい手を伸ばしても触れる物は存在せず、微風さえ起こらない場所。一緒に居た死霊の姿も、見えないどころか感じられない。
「ああ……これは」
己を明け渡しすぎたからだと、気付くのは早い。
レザリアにとって、充分に考えられる先行きの暗さだったから。まばたきしても変わらぬこの闇が、可能性の未来であると。
――完全に、乗っ取られた……ついに、この日が……。
来てしまったのだと解った途端、彼女の心の裏側からじわりと滲み出る冷たさ。いつか訪れると危惧していたからこそ、躯と精神、魂までもが今の感覚を受け入れやすかった。
「こんな未来はありえない、なんて……断言できたら、よかったのに」
惜しむかのように振り返るも、過去は疾うに消えていた。歩んできた道のすべてが昏く沈み、彼女に戻るすべを与えない。
嗚呼、これこそが――失敗した『器』の末路。
誰に認められるでもなく、看取られることも叶わずに溺れた闇はひどく寒い。
今日は何日だっただろう。今は何時だっただろう。
さっきまで自分が立っていたのは、何処だった?
全部がレザリアから抜け落ちてしまった。きっとそのうち、自分の名も姿も忘れてしまう。こうなったが最後、完全なる消滅を迎えるはずだと考えたら、にぎりしめた拳からも熱が奪われていく。
「やっぱり……ダメな子、だった……」
どうにか絞り出した声も、彼女自身の耳朶を打つより早く暗闇に喰われる。
でも死霊(あなた)なら。あなたに呑まれたのなら、それでも――。
「……ダメ」
それでも良い、と一度は思ったのに。口を衝いて出たのは、違う響きだった。
散々足掻いてきたのだと、ほぼほぼ滅びかけた状態で想起できたのは、彼女の心奥に、まだ消えぬ灯があるからで。それに。
――『あの子』も、望んでいない。
魂の繋がりを知らせてくれた温もりが、レザリアの目許を拭ってくれるよう。
「ええ、もう少し……一緒に頑張りましょう」
こうして死霊の力でもって打ち破った暗黒の向こうに、彼女は現実を見た。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
目の前からトラックが走ってくる
それはあまりに唐突で
現実的な破滅の未来だった
物語の中では
悪役は猫や子供を助けたりするけれど
僕の場合は単なる不注意だ
単なる不注意で僕は死ぬ
車のフロントガラスに追突する虫のように
呆気なく生涯を終えるのだろう
あらゆる事象には原因が存在する
これは今までの僕の行動が引き起こす結末だ
納得はすれど絶望はしないよ
僕はこうなって当然の事をしてきた自覚がある
黙してその判決を受け入れるべきだ
或いは
今知れたのは幸運かもしれないけどね
明日から行動を改めようかな
なんて
何より僕がこの運命を
甘受しようと考えるのは
この惨めすぎる死に様が
非常に人間らしくて面白いからだ
…ああ
生き残ってしまった
残念だよ
虫の知らせや胸騒ぎといったものは、ここぞという時に役に立たない。
あ、ぶつかる。
そう思った時には遅く、目と鼻の先まで巨大なトラックが迫るのを見届けるしかなかった。あまりに唐突で現実的な、破滅の未来。一瞬の出来事と呼べるはずなのに、どうしてか巡らせた思考を結び付ける余裕ぐらいはある。
これが物語であったなら。猫や子どもを助けた悪役の評価がひっくり返るのも珍しくないけれど。身を挺する対象もない自分の場合、悪い方へ加点されるだけだろう。つまり、あいつは単なる不注意で死んだのだと。
死後の評判まで想像してしまえば、次に脳を占めるのは死に方だ。車のフロントガラスに追突する羽虫も、こんな心地だろうか。ひとの耳に届くこともない潰れた音を立てて、呆気なく生涯を終える。今の自分も、かれらと同じ。
なるほど、とひとつ頷けた。実際に頷く時間があったのかは分からないけれど。
事象には「原因」が存在する。トラックに轢かれる理由が不注意だとしても、原因は別だ。
お天道様が見ている、と昔話のように語り継がれてきた道徳が人間社会にはある。天地のみならず事を起こそうとした己の心と、見ていると教えてくれた相手が見ているのだからという戒め。天や神とやらはともかく、そう言われるのにも原因があるのだろう。
結局、今までの自分の行動が引き起こす結末なのだ。
自覚があるからこそ断言できる。
これが世界の判決だ。ならば黙して受け入れるべきで。
生と死の潯は、しんとして寂しい。暗澹たる意識の狭間、己の身に何が起きたのかも理解できずに事切れるのがヒトだろう。或いは、理解したからこその後悔がヒトには生まれる。嗚呼あの時あんな悪事をしなければ、などと先に立たない悔やみを噛み締めながら潰えるのもまた、心を持つがゆえ。
それこそが人間らしさ。
あらゆる行動に成功するニンゲンじみた誰かさんからは、抜け落ちているもの。
だからだろうか。甘受しようとした運命は、惨めな死に様を世間に晒してはくれなかった。
「明日からは行動を改めようかな、なんて」
経験できなかった末期を思い、呟く。本当にお天道様とやらが見ているかもしれないから。
今日も生き残ってしまった事実を胸に、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は歩を進める。
「残念だよ」
ちっとも残念そうではない表情で。
大成功
🔵🔵🔵
宙夢・拓未
俺はいつの間にか椅子に座っていて、何かをそわそわ待ってる
「まだかな? まだかな? ああ……!」
オギャアという声が近くの扉から聞こえて
「産まれたか!?」
俺は幸せに包まれながら、『分娩室』に入り
俺が愛する女性(※未定につき、ぼかし描写希望)の無惨な骸と
機械と赤子が融合したようなUDC怪物の姿を見るんだ
分かってた
分かってた、はずなんだ
俺は、機械を至高と考えるUDC怪物の手で、サイボーグになった
それは、機械生命体を増やすためだ
つまり、俺の子も機械生命体に、もっと言えばUDC怪物になるのは必然なんだ
俺は自分の子であるその怪物を『オブリビオン・キラー』で殺害し
「俺のせいだ」と呟き、自分の首に刃を当て
……待つんだ
これは未来の可能性の話
まだ起きていない
俺の子が機械生命体になるかどうかはともかく
怪物になるのは必然、というのは飛躍してる
UDC組織で、改めてちゃんと調べてもらえばいい
それに、子を為すだけが人の愛し方じゃない
俺に、誰かを愛する資格がないだなんて
……絶対に言わせないぜ!
揺れる膝は沈黙を知らず、踵で床を叩く。硬く冷たい椅子の座り心地も構わずに、宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)は来たる時を待つことしかできなかった。
「まだかな、もう結構な時間が経ったはず……ああでもまだ……!」
時計を一瞥しても針は殆ど進んでいない。体感と実際とで時間の流れが大きく歪んで思えた。
普段の自信溢れる面差しも、今だけは形無しだ。何故なら。
――……ャァア、ンギャァ……。
閉ざされた扉の向こうから零れてくる、新生児の声。
拓未が何よりも待ち望んだ「来たる時」の訪れ。幻聴ではないかと耳を澄ましてみる。けれどこの世に生を受けた事実を物語る泣き声は、彼の総身を震わせていた。期待から聞き間違えたのではない。そう実感した途端、ぶわっと汗が滲み出るかのような、疲弊と安堵の入り混じった感覚に襲われる。
やっと。やっとだ。
幸せな心地に包まれながら、開いたドアの奥へと踏み入った彼は。
「……ッ、あ……?」
愛する女性へ微笑みかけることが、叶わなかった。
眼前の光景を満たすのは、ぬるい死の臭い。面影までもが血塗られてしまった骸が、無残な有様で転がっている。表情どころか温もりも声も失った彼女に寄り添うのは。曲線的な動作を知らぬ冷たい機械と融合した、柔く丸みを帯びた――愛しき赤子で。
だが愛しいと呼ぶには躊躇う容貌をしていた。単に機械を人間に装着したのとは訳が違う。骨の髄から血液めいた流れに至るまで、機械に浸蝕されたかのよう。融け合った機械も、決して生命を補助するものではない。今にも我が子の肉を、命をも貪り喰らって嗤い出しそうな色艶を宿している。
拓未は立ち尽くすしかなかった。靴裏が床と接着したみたいに、動けない。
――分かってた。分かってた、はずなんだ。
UDC怪物によって改造された拓未だからこそ、想像せざるを得なかった未来だろう。赤子の泣き声は機械音を孕み、拓未の心を更に痛め付ける。
「俺の……所為だ。俺が」
刃が絶つのは、世界を知って間もない我が子と、自分。そのはずだった。
「……いや、待つんだ」
己へ言い聞かせた声音こそが、首筋へ向かう刃の歯止めとなる。
「見誤るな。これは可能性の話。まだ起きていない未来だ」
膿んで熱くなっていた拓未の考えは、次第に冷静さを取り戻していく。
いつかの未来、我が子の身に想定外の異変が生じても、UDC組織で調べてもらえばいい。体制は整っているし、歴史が積み重なれば重なるだけ技術も進歩する。
しかも、ひとの愛し方は種々の色や形を持っていて。子を為すという枠組みだけに留められやしないと、拓未はよく知っている。だから。
「俺に、誰かを愛する資格がないだなんて……絶対に言わせないぜ!」
彼が切り裂いたのは未来の子でも自身の首でもない。
具現化した破滅。それだけだ。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK
(急速に全身が狼化していき、意識は破壊衝動に飲まれかける)
『壊せ…殺せ…食らい尽くせっ!』
ぼくの頭の中で、痛くなるくらい響く、ぼくの声
いう通りには…、ならない!
UC発動、魔術陣の首輪と、そこから伸びる魔術回路の鎖で自分を拘束
精神汚染に対抗するけど…
激しい心臓の痛み!
わかってる、これが、だいたい20年後に、ぼくに起きる未来
変化を防ごうとするぼくの魔力と、狼に変化させようとする満月の魔力が、ぼくの心臓を破壊する未来
息が…、くるしい…
でも、ぼくは、分かってる
きっとぼくは、この最後を迎えても、必ず残してるものがある
大事な、大好きな人たちのために
そして、もう一つ
これは「今の段階の」ぼくの未来
ぼくには、支えてくれる人たちがいる
手を貸してくれる人たちがいる
一緒に「生きたい」と、思う人たちがいる
だから、この未来は、ぼくの絶望なんかじゃない!
(戦場⑬で入手したサシェから香りが立ち上る)【狂気耐性・呪詛耐性・落ち着き】
この痛みを、感じられるうちは、止まらないの
生きる為に
這ってでも、進むんだ
清かな月明かりを踏むや否や、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)を模る影が歪んだ。静けさを湛えた光を浴び、身を構成する要素がほどけていき、瞬く間に形を変えてしまう。
ぎゅっと眼を瞑れば、ロランの脳内へ響くひとつの声。
壊せ、と誰かが云う。
拒みたいのに、かぶりを振るのもままならない。
殺せ、と誰かが云う。
飢えか渇きかも判らぬ感覚に苛まれ、呼吸が荒くなった。内側から叩きつけてくる破壊の衝動で、全身が軋む。軋んで痛む。瞼を押し上げることすらできない。
そして、喰らい尽くせと叫ぶ痛みを感じたとき、ロランは理解する。
――これは、ぼくの声。
やまない声の在り処を理解したところで、重たい睫毛を震わせてそっと上げてみると、霞んだ光景が現れた。月夜の恩恵を受けた道が現れた。しかし道を彩るのは、ひとを描いたカタチではなく――狼。
吠え猛る獣の姿が、夜道にぽっかりと浮かぶ。物言わぬ満月の眼差しを背に。
そんな狼に飲まれ、朦朧としつつもロランには察することができた。
このまま夜を闊歩し、大好きな人たちと出くわしたら。
大事な場所へと、辿り着いてしまったら。
想像でぞっとするよりも先に彼を進ませたのは、他でもない自分自身。
――っ、いう通りには……ならない!
ひとたびユーベルコードが発動すれば、首輪と鎖が狼を拘束してくれる。満月の魔力がいかに強大でも、魔術回路が作用した二種の拘束具が己を抑えてくれる。
だが同時に、絶叫せずにいられない程の激痛がロランを襲った。心の臓を引きちぎられるような痛みだ。
――わかっ、てる……これは、これも、ぜんぶ……!
ぼくに起きる、二十年後の出来事。
せめぎ合う二つの魔力によって心臓が壊される未来だと、疾うに知っていた。だから息苦しさに喘いでもロランの双眸はもう、閉ざされない。
苦痛から繋がる死へと沈みかけながらも、瞳は前を見据える。世界が滲み、揺らいでも。
――分かってる。
二粒の紫水晶は光を失わない。
――きっとぼくは……ぼくなら。この最後を迎えても、必ず残してるものがあるから。
今までに出逢った大事な、大好きな人たちのために。
未来の自分を信じているからこそ、ロランには先が視えていた。視えているがゆえ、大地を踏み締める足に力を込める。そして苦しみながらも思うのは。
「これは『今の段階の』ぼくの未来……でも」
まだ、定まったわけじゃない。
破滅へと至る道行きは、未だ真白のまま。どう染め上げるのかはロラン次第だ。かと言って不安もなかった。
支えてくれる人たちがいる。手を貸してくれる人たちが。一緒に「生きたい」と、そう思う人たちがいるから――ロランの胸に宿る光は、月の魔力より目映くなれる。やがて鮮烈な輝きを音に換え、彼は叫んだ。
「だから、この未来は、ぼくの絶望なんかじゃない!」
心身を蝕もうとする絶望を振りほどこうとした途端、ふわりと鼻孔をくすぐった、甘く清浄なる桃の香。授けられた花びらを包んだサシェから昇ってきたものだと気付き、すぐさま深く息を吸う。
ひとりではないと、熾烈な命を燃やしながらロランは、絶望渦巻く未来を切り拓いていった。
――止まらないの。止まりたくないの。この痛みを、感じられるうちは。
這ってでも、生きて進むために。
大成功
🔵🔵🔵