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殲神封神大戦⑰〜死に際

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』 #プレイング受付中

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●グリモアベースにて
 灰色の煙が折り重なる、その先にいつも通りに比良坂・彷(冥酊・f32708)は佇んでいた。
「殲神封神大戦、随分と駒が進んだわけだけどさぁ」
 名残惜しむように煙草を捨てて再び咥える。マッチを擦る横顔は何時もより愛おしげに見えた。
 炎がちらつき消えた中、彷の声だけが妙に響く。
「仙界の最深部、いまだ形定まらぬ“渾沌の地”に、鴻鈞道人って奴がいる。此奴がまァおもしれぇことに【骸の海】を自称してんの。オブリビオンですらないんだって」
 そんなものをどうやって倒せば良いのか、と、誰しもが疑問を抱くだろう。だからグリモア猟兵は答える。
「残念ながら現時点で鴻鈞道人を完全に滅ぼす方法は無いらしいよ。とはいえ、徹底的に戦い打ちのめせば殺す事は可能だって。まぁいつも通り、全力で殺りあっておいで」
 彷は足下の麻雀セットの革鞄を持ち上げる。
「攻撃はね、これで殴りかかってくるよー、結構痛いらしい。あとは中身の麻雀牌をばらまいて目くらまししや射撃もお手の物。蹴飛ばしや、そうかと思うと羽ばたいて距離を取ったり……」
 泥臭いねとの笑いは屈託がなかった。何かを心待ちにしている子供めいた無邪気さすらある。
「相手は俺です。宜しくね」
 つまり、鴻鈞道人は転送担当のグリモア猟兵を乗っ取ってしまうのだ。敵は比良坂彷の戦い方で、そこに鴻鈞道人の膨大な力が上乗せされる。
「折角の殺し合いなのにね、俺は俺でいられねぇの、残念。意識とかそういうの全部なくなっちゃう。何処にいくんだろうねぇ? 自称通りならやっぱ【骸の海】かな」
 ……煙草が尽きた。
 だが男は何時ものように咥えずに前を向く。
「俺と融合する鴻鈞道人は強いよ。だから仏心は出しちゃダメ。手加減なしで全力で殺りにきて」
 猛禽類の翼を畳み白い彼岸花に触れると引きちぎるように掴み、離した。
「遠慮はなし。俺は悪運だけは強いし、なにより死に際を味わえずに死ぬなんざゴメンだ。人を生かすのが気力だってんなら、まぁ俺は死なねぇよ」

●しにたがりの裡
 過去は無数にあるのにそれぞれが全てバラバラで孤独だ。
 だからあんたも寂しいのかね、いいよだったら入っておいで。
 ――でも、俺は俺って部分は残しといて欲しいんだけど……あ、やっぱ無理? あらそう。
 ならしょうがないとやすやす受け入れてしまうのは、なんでもかんでも己に流し込んでしまう性質が所以だ。
 そうやって相手と同化し心を覗き見したい悪癖がこの男にはある。当たり前だが鴻鈞道人は満たしてくれない。
 それどころかこの學徒兼博徒の男の全てを塗りつぶし己のモノにして仕舞った。
 もう、姿見以外は比良坂彷という博徒は何処にも存在していない。これよりの戦いで躰が耐えきれなければ身も心も完膚なきまでに死んでしまう。
 恐らく意識があったなら「それは悔しいな」と彼は呟くだろう。自分の死に目なんて最高のショウに立ち会えないのだから――。

 裸電球の下がる薄暗い部屋の中に、血の染みた麻雀鞄をつり下げた男が佇んでいる。足下には花札やトランプ、麻雀卓といった、賭博用の道具が散乱している。
 博徒らがひしめき合うそこにぽつりと1人だけ、だからか部屋は妙に広々として見える。
 いつもと違うのは、煙草が口元にないこと、そして、からかいや愛着や退廃他様々な感情を孕む紅眼が無機質な無色に変じカサカサに乾ききっていること。
「……さぁ、遊びま……しょ……徹底的、に」
 これが転送された猟兵に対し、彷として吐けた最後の言葉だ。


一縷野望
オープニングをご覧いただき有り難うございます
殴り合い殺し合い愉しみましょう

>受付関連
公開時点よりプレイングを受け付けております
執筆は25日からの予定です
締め切りは成功度達成でチャレンジできなくなるまで
戦争シナリオのため、全員は受理出来ないと思います。ご了承ください

>プレイングボーナス
グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する

>敵の攻撃
オープニング中にあるように麻雀セット(割と色々やれる)と蹴りでの攻撃となります
ユーベルコードは『鴻鈞道人のもの』を使用します
泥臭い流血沙汰になりそうです
なお、彷と何らかの「心のつながり」があったとしても、一切有利には働きません。また彼の意識はない状態です

>同行
2名まででお願いします
【チーム名】を冒頭にお書きください

以上です、ご参加お待ちしています
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

大町・詩乃
ここが彷さんの心象風景でしょうか?
先日の九龍城よりはずっとましですね。
では鴻鈞道人にお仕置きして、彷さんを救い出しましょう(と拱手後に太極拳の構えを取る)。

第六感と幸運で鴻鈞道人の攻撃タイミングを掴み、革鞄や蹴り等の近接攻撃は見切り・功夫・受け流しによる化勁でいなし、麻雀牌や射撃等の遠距離攻撃は結界術・高速詠唱による防御壁やオーラ防御を纏った天耀鏡による盾受けで防ぐ。

UC:神性解放を発動。
「あなた、背中が煤けてますよ。」と言い放ち、UC効果と空中戦で室内を縦横に舞って幻惑ししながら念動力で相手の身体を捕縛。
振りほどく前に接近し、功夫・光の属性攻撃・神罰・破魔・衝撃波・貫通攻撃で発勁を放ちます!




 パキリ、大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)の足下で踏まれた点棒が啼いた。
「……ここが彷さんの心象風景でしょうか?」
 火の爆ぜる音に似たそれは、先日潜った九龍城の賭場に渦巻いていた濁りがない。
 さぁ、勝負事に真っ直ぐなのか、堕ちていく事に真っ直ぐなのか……そこまで彷を知らぬ詩乃にはわからぬが、ただあそこよりはずっとましだと思えた。
 拱手。
 男の前に立ち、左手を右手で包みまずは礼を尽くす。
『――』
 鴻鈞道人は鏡映しのように返した。ここを攻めれば先手がとれる、などという無礼はもってのほかだ。
「お仕置きです。彷さんを返していただきます」
 腰を沈め開いた手のひらを翳す。柳のように緩やかにどのような衝撃も受けていなす構えをとる。
 満ちた静の中、鴻鈞道人は左手を背中に回し右肩に当てた。直後、骨が断たれ肉の剥がれる音が反響する。
「……」
 ぱたりぱたりと右肩からあふれ出す血、引きちぎった猛禽の翼を掲げる様を歯を食いしばり見据えた。
(「大丈夫。猟兵は埒外の筈ですから……」)
 そして突如、パッと、目の前が文字や模様で埋め尽くされた。
「……ッ」
 反射的に結界を編み弾く、だか翼を握りしめた拳が防御を物ともせず突入してきた!
 左右か仰け反りか受け流しか……判断の猶予は一瞬しかない。考えるより先に詩乃の躰はバク転で後方へ舞い上がっていた。
 空中で、立っていた左右の床が抉れ削れるのが目に入る。あんなものを喰らったらひとたまりもなかった。
 若草色の気を纏い、空中の軌跡を無理矢理ねじ曲げて壁に降りる。そこへ待ち受けていたように革靴の蹴りが見舞われた。
「片羽根なのに上手に飛ばれるんですね」
 素早く口元で護りを唱え天耀鏡を招聘、後ろ手に置いて壁を駆ける。翻る巫女服の袖は青葉の中を駆ける白き蝶のよう。
 すとんと、直角に着地する両肩に防護壁の欠片が降り注いだ。
 既に空中に男の姿はない。長い黒髪で弧を描き振り返る、両手持ちで振り下ろされる麻雀セットは化勁でいなした。
 蹌踉けた隙を逃さず背後にまわりこむ。
「あなた、背中が煤けてますよ」
 傷口に手のひらを宛がい渾身の波動を流し込んだ。
『……ッ、ぐ』
 紙切れめいた頼りなさで揺らぎ、男の躰は前へ倒れ伏した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ポエトリィ・テクスフィールド
「あー……よし。全力で行くから、よろしくな!」
そんなに顔を合わせたことがあるわけじゃないけど、知った顔ってのはやりにくいっちゃやりにくいな!
まあ、一宿一飯の恩大事、ってな。

先制攻撃は扇で[受け流し]
[高速詠唱]で気休め程度だろうけど[結界術]
俺自身がどこまで持つかわからないけど、歌うように鴻鈞道人の注意がこちらを向くように[言いくるめ]ながら[誘惑]
お色気よりは興味を引く方向で!

どっちかが大怪我してても気にしない。ように冷静に。
[衝撃波]とUCを織り交ぜながら全力で攻撃
「焼き焦がせ、Sirius!」

皆無事に戻れたら、一緒に卓を囲んでみたいのう
(アドリブ、連携大歓迎)


夜刀神・鏡介
麻雀はやったことがなくてな。遊ぼうと言われても難しい
まあ、ルールを教えてくれるというなら話は別だが……その状態では、そういうわけにもいかないだろうしな

利剣を抜いて相対。先制攻撃を凌ぐ間はこちらから攻撃は仕掛けないで防御と見切りに徹する
敵が自傷するなりで血を流すなら、此方も自傷するなりで敢えて出血してUCの発動を阻害しながら観察
鞄にせよ麻雀牌にせよ、飛んできたものは刀で弾き飛ばして再利用できないようにしておこう

十分に見極めた所で反撃に出よう。攻撃を先読み、後の先を取る形で澪式・壱の型【落花】の打撃で攻撃を止めた所で刀の斬撃
このために、今まで不利な防戦を続けていたと言っても過言じゃないからな




 ポエトリィ・テクスフィールド(Recordare Atratus・f01100)は、既に片羽根を失っている彷を前に軽く額に手をあてる。
「あー……もう派手にやらかしてるのな。よし。全力で行くから、よろしくな!」
 直近の九龍城の依頼が初顔合わせ、知り合い相手はやりづらい。
「麻雀はやったことがなくてな。遊ぼうと言われても難しい」
 柄に手をあてる夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)のきまじめな口調にポエトリィは先日のあれやこれやを思い出し、にんまり。
「中々に面白い遊びだよ、あれは」
 悪い緊張が幾らか解けた、ありがたい。
「そうなのか。まあ、ルールを教えてくれるというなら話は別だが……」
 現状の雀鬼のグリモア猟兵はそれどころではない。この話の続きは彼を取り戻してからだ。
 ぶぅんっと、2人の眼前で重く低い風切り音が喚いた。振り回す麻雀鞄でふたりを巻き込む気満々だ。
 既に背中よりだくだくと血を流す彷の有様に、渾沌氏は甚く機嫌が良い様子。
(「はやい……」)
 利剣を前で構え堪える鏡介。 
 隣のポエトリィは口中で練った詠唱を即座に解放、きらりと細い糸が広がりふたりを守るように覆う。
「助かる」
 礼と鞄の底に一筋傷を穿ち己の身を抉らせぬのが初手鏡介の精一杯。
「いえいえ、旅は道連れ世は情け……て、つぁっあぁ」
 なんて嘯き夜色の扇をねじ込むポエトリィは、じんと痺れる手に眉を顰めた。痺れはやがて痛みに変わり腹には痣。存分に対処してこれだ、まともに喰らったならどうなっていたことか!
「……ッ、結界と扇子二重で凌いでもこれか、たまらんな」
 振り抜かれた鞄が逆手で更に連撃に入った所へ、すかさず鏡介が庇い割り入る。
 振り子のように返るかと思ったら、いきなり頭上に振り上げられた。随分と無茶な動きをする、彷元来の物だろうか? だが強い癖は憶えやすいとも言える。
 突きで応じた鏡介。鞄に切っ先がつきささり躰が固定されたなら、それが狙いと男が嗤った。
 ひゅ、と、避けにくい態勢を狙う蹴りは敢えて浅く腹に喰らっておく。
「おっと……大丈夫かい?」
 口元から明度の高い血を吐きながら、気遣いへは片手あげ無事と示す。
 致命傷になりかねぬ初手を凌いだならば、此方も相応に血を流さねば、力の差は埋まらぬ儘だ。
 鞄から抜いた刀で更に己の脇を薄くそぎ血を増やす仲間を前に、ポエトリィも腹を決めた。
「鴻鈞道人よ、手の内は見透かされてるって気づいてるか」
 ぱきりと藍を広げ、涼しげに扇いでみせた。黒髪を靡かせながら、わざと悠然とした足取りで片羽根博徒に近づいていく。
「元の彼より勝負が下手くそなんじゃないかい? なぁ」
『……私は全ての過去である。この者の踏みしめた軌跡は全て此方に』
 再び腕をまげ肩まで振り上げられた麻雀鞄を前に、ポエトリィは白聖の星を招き射出した。
『ぬっ……』
 彷が魔法の矢に気を取られた隙を鏡介が逃す筈もない。利剣を素早く鞘に収め、柄に渾身の力を乗せて薙ぎ払う。
 蹈鞴を踏み上体を揺らす敵へ、今度は素早く居合い斬り。袈裟に千切れたシャツから浅くはない斬傷がのぞく。
 そこへポエトリィの星が容赦なく突き刺った。両肩と左足首、後は腹。まるで針で固定される蝶のようだ。
 ガンッ、と、
 麻雀鞄が床に叩きつけられて空間を振るわせた。弾けでた麻雀牌を辛うじて自由な左足が蹴飛ばし散らした。
 鏡介が素早い刀捌きにて全てを切り砕く。この戦いの中、少しでも武装を減じておきたい。
 麻雀牌も利剣と同じく猟兵(らちがい)に誂えた武器だ、この2人の戦いの最中封じられたら上等だ!
 それより重要なのは――。
「右だ、気をつけろ」
 目くらましで姿を隠しての不意打ちに警戒すること。
 鏡介の警告にあわせポエトリィは九十度振り向き、咄嗟に急所の頭部に扇子を宛がう。
 短く飛んだ男の踵落としが、ずしりと突き刺さってきた。
「本当、喧嘩がお好きなようで……!」
 扇子で払い返し即座に星の矢で追撃。今の防御で折れた手首の痛みが後から襲いかかってくるのを、片羽根男が腹を灼かれるのを眺めながら感じておく。ちなみに、熱は即座に傷を焼き固め出血は最小限である。
「これはきついな……一宿一飯の恩大事、てな」
 ホントもう、と、肩で息をするポエトリィの前に再び出た鏡介は刀を構え男を壁際へと追い込んだ。
 直後、ぱさり、と乾いた音が耳を打つ。
「それも想定済みだ」
 なんのために序盤不利な防衛戦を続けたと思っているのだ。
 床を蹴り垂直に飛んだ片翼に追いすがると、渾身の一打で斬り伏せた。
「皆無事に戻れたら、一緒に卓を囲んでみたいのう……一緒にカモってやろうじゃないかね」
 片眉あげての人が悪い笑みのポエトリィへ、鏡介は仲間の無事への安堵を内心に首を竦める。
「どうぞお手柔らかに」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
ヤる必要があるならば、ヤっちゃうのが僕でして。
躊躇?何それ美味しいんです?
謝りませんよ。
えぇ、遊びましょう。徹底的に、ね。

超強化…
羽…は元よりお持ちですし。
視線。狙い目。牌の残数。
腕の動き。体幹、捻り、屈み。羽撃き…
触手に刃、鞄なら、凡ゆるを視、見切り、回避へと繋げる。
上を取る、目眩し、射撃なら、
此方も鋼糸で空中にて機動、場合によっては触手を盾に。
動いてる間も、無駄にはしませんとも。
仕掛ける鋼糸。
カウンターよろしく、撒いて巻き絡げ、張りて斬る
――拾式


「骸の海」ってのは、消費され排出された「過去」で。
時間ってのは「質量を持つ物質」だって通説は知ってます。
…けど、おかしいですよね?
貴方が骸の海なら、浮かぶ世界の高々一つ、カタストロフくらい起こせないんです?
それに…
オブリビオンの様な過去の化身でも無い、
過去そのものが現在に在るなんて、パラドクスもいいところ。
――時が止まれば、貴方も止まるんですかね?


さて、戯言おしまい。
僕、人の嫌がる事が大好きなので?
彷の救出、回復は、得意な方に任せちゃいます♪




 攻撃で散った牌が麻雀鞄に吸い込まれていくのは、逆回しのフィルムを見ているよう。
「ヤる必要があるならば、ヤっちゃうのが僕でして」
 なんて、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が鞄をつり下げた男に呼びかける様は和やかな世間話めいている。
『ほう、この男とお前は仲間だろうに、躊躇いはないのか』
 彷の声帯を使った硬い問いかけに、クロトはいやいやと右手をふる。
「躊躇? 何それ美味しいんです? ――謝りませんよ」
 最後は鴻鈞道人ではなくて彷に向けの言葉だ。彼は渾沌に融けているが、意識があるならこう返すだろう――え、謝罪のでてくる流れ? と。
「えぇ、遊びましょう。徹底的に、ね」
『そうか、この躰が惜しくないと見える。ならば相争い、私の左目に炎の破滅(カタストロフ)を見せてくれ』
 鴻鈞道人は、鞄に麻雀牌を呼び寄せ終えて留め金をかける。成程、会話のさなかの回収か、少なくともこの場では無制限に麻雀鞄に牌がわき出る仕様ではないのだ。
 ならば賭博でカードを憶えるように牌の残数を把握、それだけじゃあない、視線、四肢の動き、躰の角度……他、全てに注視し行動の先読みを試みる。
 ――ああ、なんと賭け事めいているのか、なんて、普段通りともいう。
「……」
 鞄を持ち直す瞬間、僅かに視線が左上に向いた、残る翼が羽ばたき根元から模様が抜けたのを見逃さない。
 床を蹴り、クロトもまた暗闇の虚空に留まり立った。
 地上の得物をいたぶるつもりだった鴻鈞道人の腕が僅かに引きつる、その刹那、鞄を持つ指を狙い、斬。
 ごとり、と、麻雀鞄が落ちた。
 武器を手放し指の切断を免れた時には既に背面をクロトに取られている。
「お喋りしている間、僕も準備しないわけがないでしょう?」
 キキキィと耳鳴り音をたて敵の胴体が締め上がり、滑車の要領で糸を引き絞るクロトが着地した。
「――拾式」
 精緻に渡され制御された糸が、空中に吊した鴻鈞道人めがけて幾重にも滑り斬りかかる。
 ぶぢり、ぶぢりと肉が絶たれ血がしたたり落ちる音……出血が多いのは代償も含めてなのだろう、それら耳にしつつ、すっと力を抜いて糸を回収する。
 まぁ、もとより、彷の救出、回復は、得意な方に任せてしまうつもりだ。
『おぉおっ……ぐ、うぉあぁあああ!』
 麻雀鞄の元にぼとりと落ちた血だるまと一瞬だが目が合った。その瞳は赫い、よく見れば血が流れ込んだだけだとわかる、が。
 それでも鴻鈞道人に取り込まれた彷を呼び戻せている感触が、ある。
 ――だって、笑ってる。
 口から溢れる苦痛の悲鳴は鴻鈞道人で、唇を笑みの形にしているのは比良坂彷に違いない。
(「成程、こういう局面で笑う人なんですね」)
 確かに負けが込だどん底で消沈するようじゃあ賭博なんてやってられないか、と納得と共に静かに罠を張り巡らせる。
 血を拭い立ち上がると同時にぶちまけられた麻雀牌は、その片手間に糸で斬り払い。綺麗に表面そがれ白板にされたのは136枚。
 残り8枚。
 こんな所からでも這い上がるのが博徒だ、油断は禁物。絶対に警戒は緩めずに白い片羽根で後方に下がる男を伺っておく。
 こぽり、と地面が生き物のように脈打った。よく見れば遠くの男の出血が更に増えている。
 触手が来ると認知した直後、薄汚れた畳が白妙に染まり捻り上がる。顕現した触手はクロトを取り込まんと襲いかかる!
「……」
 手元の糸を繰り此方に触れる寸前でなます斬りで退けた。
「……『骸の海』ってのは、消費され排出された『過去』で。時間ってのは『質量を持つ物質』だって通説は知ってます」
 削り飛ばしながらも前へと進む。
「……けど、おかしいですよね?」
『何がだ?』
「貴方が骸の海なら、浮かぶ世界の高々一つ、カタストロフくらい起こせないんです?」
 核心を突かれ戦く気配。だが同時に嗤いもわき起こった。
(「もうちゃんと笑い方は憶えていますよ、比良坂さん」)
 この笑い声は、彷だ。
 同時に起こった不均等な羽ばたきから、刻一刻と変わる位置を捉え続けた。
 片羽根だが一切の危なげなく滑空する男が至近距離にて、人差し指と中指に挟んだ赤い五筒をクロトの目をめがけて投げつける。
「おっと、あと7枚ですね」
 クロトは触手を糸でくくって引き上げ眼前で弾いた。
 だが、目潰し狙い、それすら見せ技……そんな直感を信じ横転で避ける。外れたら大きな隙が生じる賭けだが、見事勝利。
 ごぉっ! と、轟音あげ立っていた場所に突き出されたのは、雀牌を握り込み殺傷力を増した拳。
 ――外しちゃった、と、また笑う。屈託無くて、じゃれ合うように生き死にを愉しんでいる。
 だが、再び彷の容は苦渋を噛みつぶした鴻鈞道人のものになった。クロトも表情を凜然寄りに戻し、再び口火を切る。
「それに……オブリビオンの様な過去の化身でも無い、過去そのものが現在に在るなんて、パラドクスもいいところ」
『……では、私はなんなのだ?』
「もっとひどい戯れ言を聞くとは思いませんでした。そんなことは自分でで探してください」
 つぇん……と、糸が啼き、鞄を持つ人差し指と中指の第1関節から先が断たれた。
「それとも――時が止まれば、貴方も止まるんですかね?」
 止めて差し上げた方が慈悲でしょうね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヲルガ・ヨハ
アドリブ歓迎、真の姿への変身なし

嗚呼、嗚呼
はじめようか
血腥い、奪うか奪われるかの
ーー手遊びを

からくり人形の腕の中
蜷局をまいて、うっそり微笑み

刹那
ぶわり、鱗が逆巻く
「限界突破」にて神力を解放し

身に纏うは
ふうと息吐く、煙(けぶり)が如き「オーラ防御」
肉薄の機に
顕れた白き部位を、わが尾で薙ぎ斬り
「部位破壊」を狙うが
際限なく生えるなら止め

"おまえ"と
呼ばう人形の腕に抱かれた儘
或は、蹴り上げる"おまえ"の腕離れ、宙泳ぎ

代償を顧みぬ闘い方
なれど、それが己が身でなければ
解せぬと臍曲げ
【骸の海】だったか知らぬが
所詮、過去は過去
力こそ膨大なれど、それだけだ
われが恋し"戦"に非ず

肉体を
魂を
存在を
賭してこそ、だらう?
なぁ、と かの博徒へ微笑み

喰らって、喰らって
喰らい尽くしてやろう

流るる血で人形に、戦化粧を施し
われは、消えるを恐れない
いとし戦場(いくさば)に
"おまえ"と在るならばーー

だが、未だだ
何故にわれは生に縋ったか
胸に抱く想いの残滓さへ
未だ、知らぬ

二手に別れた"おまえ"に背後に回わらせ
手厚い目醒めの、一打を




 じぐりじぐり、と。
 致死量を超えた血の染みる畳を踏みしめる感触が“おまえ”の腕越しに伝わってくる。
 部屋の奥にちゃぶ台をたて腰掛ける男を見いだし、ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)はうっそりと頬をゆるめる。
「嗚呼、嗚呼、はじめようか」
 優雅にゆれる竜尾が、刹那、牙を剥く。逆巻く鱗、室内が神色に染まる。
「血腥い、奪うか奪われるかの――手遊びを」
 吐かれた言葉は荘厳。
 煙る息は全て神徳を孕み己と“おまえ”を包み込む。
 迎え打つ男は棒立ちになると腕を天井に掲げた。すると、部屋中に触手湧きだし四方八方よりふたりへと襲いかかるではないか!
「児戯よ」
 くるり、くるり、ヲルガの胸を抱えた“おまえ”が廻る。あわせて翻る龍尾が弧を描き、白妙の腕を次々と薙ぎ払った。
 八割方潰した所で“おまえ”がヲルガを解き放つ。宙を自由に泳ぐ神が天蓋から眺め下ろす世界では“おまえ”が白の手をまとめて掴み引き抜くように投げ飛ばした。
 ふつり、と、鈍い音と共に触手を操る敵の躰が傾ぎ左腕の付け根から血が溢れ出した。だが傷なんぞどこ吹く風、所詮己の躰あらずと腕を横に渡し白刃を放った。
「代償を顧みぬ闘い方、なれど、それが己が身でなければ……」
 無意味。
 そのようななまくら、肌に触れる前に粗方削り血糸作ろうが致命には至らぬ!
 再び鴻鈞道人の攻撃はほぼ無に帰す。
 膨れ面の主の元に歩み来た従者の腕に再び収まって、ただ立ち尽くす鴻鈞道人に向けて神は秀麗なる眉を顰めた。
「【骸の海】だったか知らぬが、所詮、過去は過去。力こそ膨大なれど、それだけだ」
『私の力の元で踊るのは、罪深き刃(ユーベルコード)を刻まれし者達。即ちお前達だ』
 自らに科した呪詛は男の身動きを奪ったというに、ぺらぺらと軽薄に口だけが動き続ける。それが甚くヲルガの気に障った。
「他人の争いを眺め下ろし超越者気取りか」
 敢えて神とは言わず、
「われが恋し“戦”に非ず」
 切って捨てた。
 そうして面紗を汚す己の血を指ですくい取り、浅黒い肌から地続きの唇に紅を施す。
 ――嗚呼、ただそれだけで人に近づいた。
「われは、消えるを恐れない」
 るりるりと血をのせて輝く唇から指を離し、残りは頬紅がわりとなすった。ある種の懐旧が胸を席巻するも、やはりその中身はわからないのだ。
「いとし戦場(いくさば)に“おまえ”と在るならば――」
 土塊を滑り降りた指を胸板にあてて、鼓動なきそこに耳を寄せ瞳を閉ざせば、哀悼が勇みに書き換わる。
 そうして、これ以上の戯れ言はいらぬと鴻鈞道人の口元に手を宛がい、握った。
 それが合図。
“おまえ”は再びヲルガを手放すと、無音の拍子で彷の背後へと回り込む。
『ぐぬぬ……』
 呪詛に歯がみ、更なる代償を持って対抗を試みる鴻鈞道人は、背後からの突きで躰を前に折った。すかさずヲルガの掌底が顎の下から打ち上げた。
「肉体を、魂を、存在を賭してこそ、だらう?」
 代償すら他所に背負わせる者が本当に満たされるものを得られるわけがない。言葉を区切る度、ヲルガと“お前”の巧妙な突きと蹴りが敵に損傷を与えていく。
「なぁ」
 今は蹂躙されるが儘の博徒へ笑みかける。
 喰らって、喰らって、喰らい尽くしてやろう――博徒を避けてなぞ器用な真似は生憎出来ぬが、それで倒れるならばそこまでの運。
「博徒よ」
 悪運だけはあるとほざいたのだ、死に捕まるな、と、手厚い目覚めの一打はふたりで。
『……ぐっ」
 前後からの圧殺に喉仏晒し頭が天を向く。降り注ぐ血潮で頬から耳をぬらした男は、瞳に赤色を戻した。
「……れ、は」
「漸く、お目覚めか」
 男は……彷は、瞳だけでヲルガと“おまえ”を交互に見やる。
 浅黒い腕で抱かれ献身を受け止める主と、全てを注ぐ無垢で無心な従者。
 従者が彷の手首を掴み辛うじて転倒を防ぎ、主は面紗ごしの瞳でグリモア持ちの無事を確かめんとのぞき込んでくる。
「……どっち、だろぉ……俺、は……従者と、主の……」
「ほう」
 夢現で呟かれたそれはヲルガの興味をそそった。この無頼の男、誰ぞと主従関係を欲しているのだ。既に相手がいるのかそれとも見失って彷徨っているかは定かではないが。
「常に死へ向かうそなたへは鎖が必要だろうか。主が従者を死に巻き込むは愚の骨頂」
 吐いた言の葉は、生存願い下僕の土塊の全ての想い出を佚した己に刺さる魚の小骨だ。
 未だ、知らぬ。
 何故にわれは生に縋ったか。そもそも何を望んだか、胸に抱く想いの残滓さへ――知らぬ。
「…………あぁ、あなたも、探し物があるの……ね」
 面紗に隠された容は何一つわからぬ筈なのに、彷は労るように瞳を眇めそう言った。続けて何か零そうとした唇が、蝋をなすったように無機質に固まる。
「避け……て」
 直後、ヲルガを抱き上げくるり、身を翻す“おまえ”
 ふたりを突き飛ばそうとした彷の翼が再び漂白されていく――確かに、目覚めには届いた。しかし未だその躰には鴻鈞道人が居座り続けているようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒葛・旭親
初めまして。
僕は黒鬼、お前さんは何方さん?
此の部屋はなんだか寂しいね
此の部屋の主と話をしたいと僕は思うよ
だから渾沌、お前さんはお呼びでない

彷君のことは僕はなにも知らない
知らなくても佳い戦で佳かったよ
ただ……賭博がお好き?
僕も好きだ
帰って来たら遊ぼうよ

片翼喪い血流す彼のが強いかな
其れでも僕は鬼だから
鬼事と行こう
捕まったら帰って来ること、此れは決まりだよ
知りはしないが、お前さんにも待つひとが居るんだろ?

なんて
聴こえてなくても構わんよ
渾沌、お前さんが過去だと云うのなら
ご覧の通り僕は過去など気にしないからね
なにを強化されても黒曜石の氣が少しは軽減してくれるかな
後は傷付いても構わんよ
鬼とはそう云うものだ




 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
 声にされずともわかる。そう聞いたなら追いかけぬわけにいくまいて。

「また隠れん坊かな」
 ――此の部屋の主と話をしたいのに。
 黒葛・旭親(角鴟・f27169)の声は、じゃらりじゃらりと牌がぶつかり鞄に集まる賑やかさに負けず、明瞭。
「初めまして。僕は黒鬼、お前さんは何方さん?」
 牌を戻した麻雀鞄を綴じる彼は即座に答える。
『私は渾沌氏』
「お前さんはお呼びでない」
 柳のようにしなやかにしかし画然と遮断し歩み寄る。
 既に片翼を失い致死量を遙かに超えた血が畳に染みこんでいる、だが其れでも、鬼は畏れを与こそすれ震えはしない。
「捕まったら帰って来ること、此れは決まりだよ」
 頭頂の双つの角が灯り全身へ宿った。
 黒色の人の形が、消失。跳躍し刀を振りかぶる鬼の影が、鴻鈞道人の全身を塗りつぶす。
『上からかッ』
 直後、岩が砕けるような鈍くて重厚な音が場を打った。
「…………ッつぅ、随分と石頭だね」
 血が滲む額を抑え下がる旭親の眼前には、深く斬られながらも頭突きを返した男が立っている。
 間髪を入れずばらまかれた牌を横に躱し下段からの斬りあげ。己の寿命を贄にした一振りだ、そう易々と見切られるものではない。
「血を流させてくれて良かったよ。お陰で強さが釣り合う」
 突き出された拳が黒曜石の氣に囚われた。
「渾沌、お前さんが過去だと云うのなら……ご覧の通り僕は過去など気にしないからね」
 手首を掴み後方へと引き倒す。
『それでも過去は消えぬ。踏みしめてきた今を作り上げている』
 戯れ言続ける背中を黒の爪で貫いて――、

「捕まえた」

 出血多量でふらつきながらも上半身を起こす男へ投げかける。
「知りはしないが、お前さんにも待つひとが居るんだろ?」
 また過去を騙る某に奪われそうだから、答えは期待しない。けれど倒れた男は寂寞塗れの吐息ひとつなんて、わかりやすい態度を取ってきた。
「彷君」
 踏みにじられてもう遊べない札、ひっくり返り蜘蛛の巣が貼ったルーレット台……まるで持ち主に打ち捨てられたよう。
「此の部屋はなんだか寂しいね」
「……そうかな?」
 荒い息の元で唇の端を持ちあがる。
「俺はもう終焉って仕舞ったから、資本家が見限ったデパアトが鉄球がぶち当てられて壊れんのを待ってんの」
 知らずの戦いは幕引き、ならば此より彼を知るのもまた一興。
「……賭博がお好き?」
「そりゃァ、見た通りね」
「僕も好きだ、帰って来たら遊ぼうよ」
「いいねぇ」
 斬り飛ばされた指と片翼を見比べる瞳からまだ白は去らない。
 あと一押しと、更に寿命を削りに掛かる手が止まる。
「じゃあお願いするよ」
 仲間へと、託す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・ユア
流血沙汰・アドリブ大歓迎

あはは!
君ってホント…こういうのに囚われがちだな、彷さん
ふー…と気に入りの煙草を吹かして、彼の状態に笑ってみせよう

ああ、もちろん手加減なんてしないとも
だって、君と僕はそんな半端な仲でもないわけだし?
刹那、彼が千切った白き彼岸花を拾い上げ笑う

…殺り合おうか――この花に誓って、徹底的に

先制攻撃の対処
・体にオーラ防御を纏う
・月呪刀を以って武器受け・受け流し凌いでみせよう
・相手が肉弾戦で来るならオーラ防御纏った手足で受け流す

――彷さんを攻撃する事、僕は躊躇わない
だが、殺しはしねぇよ?
ソイツの死はお前が扱っていいもんじゃないのだから

さぁ、遊ぼう!
心配するなよ。この戦場を愉しんでやる!

戦闘
UC:殺月歌
精神攻撃を用いて混沌氏を狙う

この身が壊れども…噫、派手に戦を踊ろう

有象無象を呪い斬る刃を相手に振るい
混沌氏を狩ってみせる
多少怪我させるけど
終わったら帰り待つ愛し子達に治療託すよ

――死の果てに帰れ
いずれ相まみえる時まで消し飛べ

彷さん、返してもらうよ
――そいつが死ぬ場所はココじゃない




 薄昏闇にふわりとした煙が足された。
 鴻鈞道人にとっては、異物。
 だからこの部屋の構築から敢えて省いた。
 ……煙草のけむり。
「あはは! 君ってホント……こういうのに囚われがちだな、彷さん」
 蒼のシガレットを唇に引っかけて月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)は鈴を転がすように笑った。
『知り合いか』
「まあね。だからって手加減なんてしないとも」
『ならば、この左目はついに炎の破滅を……』
「お前は邪魔だ」
 ユアは敢えて吸い終えた煙草を床に放る。普段なら咎められる行為も、この“古びた男の時代”なら当たり前できっと彼らしい。
「僕は彷さんと遊びに来たんだ。お前みたいな半端な奴に割り込まれるとうんざりだ。ねぇ、彷さん」
 かさりと足に当たったのは奇跡的に踏みにじられていない彼岸花。血が跳ねて随分と赫く汚れたそれを拾い、裡の彷へと見せつけるように掲げた。
「……殺り合おうか――この花に誓って、徹底的に」

 刹那、彷の片羽根が漂白される。

 真っ白な片羽根、赫く汚れた彼岸花――懐旧を育てたのはほんの一瞬。
「さぁ、遊ぼう!」
 ユエは素早く床を蹴り気を増幅させる。その直後、月色の大太刀で暗がりを上へと真っ二つ、連れ合いは鞄があいて弾け飛ぶ麻雀牌だ。
「やっぱりね、そう来ると思ったんだ。相手の頭をかち割ったら一気に有利だもんね」
 片羽根だろうが自由自在に飛べる彷は上空からユアの頭を狙い、それを見事に読み切ったと言うこと。
 無論ユアが動かすのは口先だけではない、ぶんっと風切り音響かせ虚空の鴉を叩いて落とす、彷は仰け反りギリギリで躱した。
「やっぱりやり口が君だ。安心したよ、思いっきり愉しめる」
 くくっと喉を鳴らすユアの唇にはいつの間にやら煙草がある。
 留め金が小さく啼いた直後、煙草の穂先が三日月の軌跡を描く。閉じた鞄の殴打へは宙返り。彼女もまた翼ある者のように軽やかに遊ぶ。
 壁に着地したに間髪入れず、長く伸ばした月呪刀でこそぎに掛かる。
 ふつり、と、白鴉の右膝下が引っかかり骨が見えるほどに斬れた。疎ましげに顔を顰めるのは鴻鈞道人だ。
「殺しはしねぇよ? カタストロフとやらもお預けだ」
『それは私の望むところではない』
 亡霊めいた足取りで立ち上がった鴻鈞道人は、虚空に浮かせた麻雀牌の群れをユアへと見舞う。
「……くっ」
 ぶぢぶぢと草千切るような音をたてユアの守護が削れた。肩や頬に無数の糸傷が刻まれていく。
『殺すのを躊躇うのとはな』
「やり合いは躊躇わない――ただ、ソイツの死はお前が扱っていいもんじゃないのだから」

 ――いい加減、黙ってもらおうか。

 煙草を捨てたユアの月の瞳が凜然と尖る。それはちょうど月呪刀と同類の彩。
 さぁ、この身を“呪い”にくべよう。
 ユアの動きが、変わった。
 防御を完全に捨てて、鴻鈞道人の前に躍り出ると大太刀をぶん回す。飛び上がった敵の踵落としを今度は受け流さずに喰らう。肩の骨が外れる痛みを笑い飛ばし、下方から月呪刀を振り上げた。
 ぶづり、と、左腕と残っていた白い翼も断ち切られ男は斬り飛ばされていく。
「彷さん、ほら、はやく……僕は、君を呪ってないんだから」
 呪いを向けたのは、過去だのとほざく詐欺師のみ。
 半身をもがれ錐もみする様は蜘蛛の巣に捕まった蝶だ。ところで、果たしてどちらが蝶なのやら? 黒葬蝶を連れているのはユアなのに。
 血塗れの肩をぶらさげた片手持ち、ずしりとした重みを堪え上段からの振り下ろす。
「――死の果てに帰れ、いずれ相まみえる時まで消し飛べ」
 腰まで斬り進んだところで捻り胴体を抉る。そこに鴻鈞道人が巣くっているとの確信で月呪刀を一気に振り抜いた。
「彷さん、返してもらうよ――そいつが死ぬ場所はココじゃない」
 紙切れのようにひらひらと痩せた博徒の躰がすっ飛んでいく……。
「……ッ、く……ふふ……あは、あはは……」
 壁に叩きつけられた敵は、彷は、笑っていた。
 ごん、と無事な右手で壁を叩く。すると見世物小屋のセットのように壁が倒れ瓦礫と共に彼を隠した。同時にユアの足下からわき出た無数の白妙が、その身をいたぶるように殴りつけてくる。
「……ッ、くぅう」
 二の腕を囓り取られる苦を漏らし、再び寿命を贄にしようとするが。

「ダメだよ、無茶しないの……ほら……もう、落ちる」

 聞き覚えのある声の直後、白妙の触手が萎れるように消え去った。
「彷さん……っつ、いたた」
 腕をぶらさげ声のする方に駆け寄った。
 ああ、これはもう帰ったらお互い相当に叱られそうだ――二人それぞれの愛し子達に。
「やー……ありがと、ね。みんな……」
 ユアを含め助けにきてくれた皆へ手を揺らす彷は、それはもう生きてるのが不思議なぐらいズタズタのヒドイ有様だった。
「はい、今日は奢るよ」
 横たわったまま笑みの形の唇に煙草をさした、火もサービスしておこう。
 じじじと先っぽが燻り、煙草の根元に人差し指と中指が宛がわれる。
「わかってンねェ……あァうめぇわ、やっぱ煙草吸わないと死ぬ」
 そばにしゃがむユアも咥え煙草に火を入れた。
 なにもなかった薄昏がりに煙草のけむりが足されただけ、相も変わらずアンダーグラウンド――でも、それが比良坂彷という人だ。
 取り戻せたんだ、良かった。
 ユアの口元がふにゃりと猫のようにゆるんだ。
「ところで最後のあれ、彷さんだろ?」
「あ、わかったァ? ……知らない力って、なんか面白そうだし、つい、ね? やっちゃった」
 ユアちゃんなら笑って済ましてくれそうで、なんて言われたら、もう吹き出すしかない。
 紫煙は笑いで不規則に曲がり、乱れ、虚空へと散らかっていった。見慣れた景色、それ即ち日常への帰還。

ー終ー

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月02日


挿絵イラスト