8
殲神封神大戦⑱〜破滅の未来に抗え

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑱

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#封神武侠界
🔒
#殲神封神大戦
🔒
#殲神封神大戦⑱


0




●汚されし塒
 それは如何なる仙術の神秘か、はたまたこの祠も宝貝なる不可思議な道具だったのか。
 一歩足を踏み入れれば目を引くのは内壁を埋め尽くす書架だ。明らかに外見よりも広い間取りの中に数えきれないほどの書架が並ぶ。さらには上だ。書架は上にも伸びている。その終わりは見えない、何故なら天井を肉眼で確認できないのだから。
 無限にしか思えない書架には、無数の本が収められている。この世界でよく見かけるような装丁の本もあれば、異なる世界の書物に思える物の。興味本位で手に取ってみれば、様々な世界の言語や呪文が記されている事がわかるだろう。
 ただ文字があるだけではない。魔術の心得が無い者ですら感じ取れるほどの、恐ろしい程の魔力が祠の中には渦巻いている。その流れは祠の中を流転し相生し、最終的に一つの図像へと集中していく。
 この祠は、主を失っても尚、その機能を留めていた。
 だが、この祠ですら、主を失ってしまえば、邪悪なる汚染をま脱がれる事は出来なかったのだ。、

●襲い来る破滅の未来
「みなさん『破滅の未来』に抗ってください」
 グリモアベースの一角で真月・真白(真っ白な頁・f10636)が声を上げる。随分と抽象的な物言いに首を傾げつつも、幾人かの猟兵が詳しい話を聞かせろと集まった。
「三皇『伏羲』の祠への攻略が可能となりました」
 集った猟兵達に頭を下げつつ本を開き真白は語る。封神武侠界の文化の祖とされる神、伏羲はオブリビオンとして蘇っては居なかった。だが、その祠には無限の書架と、さまざまな世界の言語や呪文で満たされ、恐ろしい魔力が充満しているのだという。
「そんな祠の内部には、伏羲の発明した『陰陽を示す図像』が刻まれ、踏み入れる者に未来を教えるとされていました。ですが今は、オブリビオンによって祠が汚染されてしまい……」
 本来なら正しき未来を示してくれた筈の祠は、今は『あり得るかも知れない破滅の未来』そのものが具現化され襲い掛かってくるのだという。
「それは祠に踏み入った人にとってあり得るかもしれない物なので、各人異なる破滅の未来が出現すると思います」
 例えば冒険者ならば危険なダンジョンやモンスターに襲われ殺されるような未来もあり得るだろうし、現代社会で暮らす若者ならば志望する進路に落ちてしまったり、恋人に絶縁を切りだされるような未来だってあり得るだろう。
 第三者から見た時には大したことが無いように思えても、当人にとって破滅だと感じられる可能性なら具現化し得る。
「未来には無限の可能性があるというのなら、確かにそのような絶望の可能性もあり得るのでしょう……けれど、皆さんならきっとそれを乗り越え、輝かしい可能性(ゆめ)を掴み取れると信じています」
 真白は本を閉じ一礼すると転送準備に入るのだった。


えむむーん
 閲覧頂きありがとうございます。えむむーんと申します。

●シナリオの概要
 冒険のみのシナリオフレームです。
 三皇伏羲の塒、そう呼ばれる祠の中には、足を踏み入れた者の未来を示す図像があります。
 しかし現在はオブリビオンによる汚染により、足を踏み入れた者にとってあり得るかも知れない破滅の未来そのものが具現化して襲ってきます。皆さんはこれをどうにかして乗り越えてください。
 現れる破滅の未来は人によって異なります。どうかプレイングにお書きください。特にない場合は、今最も起こり得る破滅として、「封神武侠界のカタストロフが発生、破滅の炎に燃やされる」という感じになりますが、は破滅も書いてきた方がいいでしょう。
 破滅はコミカルな物でも当人にとって破滅なら問題ありません。例えば、甘いお菓子が大好きな女の子が、今年の夏に予定していた水着を着られなくなる……これはまさに破滅の未来ですよね?
 勿論シリアスな、命を奪われる危険が襲ってくる破滅の未来も大歓迎です。
 今回のプレイングボーナスはこちら。
 プレイングボーナス……あなたの「破滅」の予感を描写し、絶望を乗り越える。
 それ以外にも、私が唸るような素晴らしいプレイングであれば基本のルール通りにプレイングボーナスは発生します。

●合わせ描写に関して
 示し合わせてプレイングを書かれる場合は、それぞれ【お相手のお名前とID】か【同じチーム名】を明記し、なるべく近いタイミングで送って頂けると助かります。文字数に余裕があったら合わせられる方々の関係性などもあると嬉しいです。
 それ以外の場合でも私の独断でシーン内で絡ませるかもしれません。お嫌な方はお手数ですがプレイングの中に【絡みNG】と明記していただけるとありがたいです。
 それでは皆さまのプレイングをおまちしております、よろしくお願いします!
41




第1章 冒険 『八卦天命陣』

POW   :    腕力、もしくは胆力で破滅の未来を捻じ伏せる。

SPD   :    恐るべき絶望に耐えながら、一瞬の勝機を探す。

WIZ   :    破滅の予感すら布石にして、望む未来をその先に描く。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エリカ・タイラー
私にとっての破滅の未来は、ヴァンパイアに攫われた双子の妹の変わり果てた姿。

死した姿を見た……程度ではない。
再会したもののヴァンパイアと化していて力及ばず私が殺される、といったところか。
復讐と奪還の完全否定、まさに破滅だ。

だが、それも覚悟はしている。
あの子を救うために私は異世界の剣を手に取ったのだから。

殺されかけながらユーベルコード「フォー・ディメンション・マリオネット」。
からくり人形の中からBXSビームダガーがあの子に飛ぶ。
解放された私は武器の解除度を上げ、さらにRXサーフブレイドとキャバリア・シュヴェールトを出現させ乗り込み、あの子を葬ろう。

「私は、愛しいあなたのお姉ちゃんだから……!」



●貴方を救う為の『剣』
「あなたは……まさか」
 祠に足を踏み入れたエリカ・タイラー(騎士遣い・f25110)は、目の前に現れた人影に瞳を大きく開いて立ち止まる。
「……」
 人影は静かに微笑む少女。エリカと同じ顔立ちをして、エリカと同じ背格好で、エリカと同じ大きなリボンを付けている。
 かつて、故郷がヴァンパイアに滅ぼされた時。燃え盛る廃墟の向こうに連れ去られた双子の妹。追いかけたくても右腕を貫く刃が重くて、痛くて、ただの少女でしかなかったエリカには何も出来なくて、手放してしまった半身。彼女がそこに、立っていた。
「そんな、まさか……」
 動けないエリカに向かってゆっくりと歩いてくる妹。微笑みながら手を伸ばし、エリカを抱きしめ、再会を喜ぶように頬を摺り寄せる。
「「……あぁ、貴方は……」
 小さな子供用に無邪気に頬を寄せる妹に、エリカは涙を流す。熱い涙は直ぐに熱を奪われ冷たくなっていく。妹の頬に触れた方だけが。
「……貴方は……あぐっ!?」
 次の瞬間、エリカの首に鋭い痛みが走る。何かが彼女の内側へと侵入してくる。そして、『命(血液)』が吸い取られていく。
「遅かった、ん、ですか……そんな……」
 抱き着かれ、頬を寄せられた瞬間に気付いた。妹の頬は冷たかった、人の、命ある者の体温が無かった。人としての命を奪われるばかりか、憎むべきヴァンパイアへと変じられていたのだ。
 それはエリカにとって最悪の、絶望の、破滅の未来。奪い返すべき妹が復讐すべき悪鬼と同じ存在に堕とされた結末。彼女の芯となるべき決意の完全否定。
 妹だった存在(モノ)に命を吸われ、エリカの四肢は瞬く間に熱を失っていく。心臓の鼓動が弱まり、首筋に噛みつかれた痛みすら遠のく。
 いつの間にか周囲は闇に落ちていた。そして目の前の妹だった存在の姿まで掠れていく。光を奪われたかの世界(故郷)。いつか妹を救い出すために戻ると誓ったその永遠の暗闇に、エリカはいつの間にか戻っていた。
 エリカは静かに瞳を閉じる、そこにはもはや涙すら無く……
「ビルト、お願い」
 漆黒の闇の中、一筋の光が生まれた。光は巨大な刃となって妹だった存在を貫き吹き飛ばす。
 エリカの傍らには一体の人形。お辞儀をするように頭を垂れたその人形から、体積を無視するほどの刃が放たれていた。
「覚悟は、しているのです」
 人の命が弄ばれる暗黒の世界で、支配者たるヴァンパイアに連れ去られた妹が無事ではない可能性は、その世界を良く知るエリカだからこそ何度も頭に浮かんできたのだ。
 その覚悟をしているから。
「私は……」
 エリカの指から光が生まれていた。十糸の光は遥か闇の彼方へと伸びて。
「私は異世界の剣を手に取ったのだから」
 光の糸の先、突如として闇が『斬れ』た。斬り裂かれた闇の先から蒼い輝きが洪水のように溢れる。
「シュヴェールト」
 輝きの中から現れたのは鋼の巨人。エリカが闇の世界を発ち、仲間と共に数多の世界を巡る中で出会ったキャバリアだ。そのコクピットは主を待ちかねる様に開かれ、彼女の指から放たれた十糸の光が続いている。
 導かれるようにエリカの姿はコクピットへと吸い込まれて行く。
 主をその内に入れたシュヴェールトは、構えていた超巨大な剣を空中に放るとその上に飛び乗る。
「……RXサーフブレイドで行く」
 コクピットの中でエリカが光の糸を手繰れば、シュヴェールトを乗せたRXサーフブレイドが蒼の軌跡を描いて滑るように空を飛ぶ。
 メインカメラが妹だった存在を捉える。シュヴェールトにとっては小剣サイズの光の刃が、彼女の右腕を貫いていた。
 エリカはアームスリーブに包まれた右腕に痛みが走った気がした。それでも、彼女はモニターに映る妹だった存在から目をそらさない。
「私は、愛しいあなたのお姉ちゃんだから……!」
 だから、この剣であなたを『救う』。
 蒼き剣(シュヴェールト)は流星となって、『妹』を『救った』。
「……」
 光の中に全てが消えていく中で、『妹』が笑顔でエリカに伝えた言葉は、彼女だけに届いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK!
破滅の未来:崩落に閉じ込められ窒息死

元々坑夫だし廃坑の調査に向かう事もあるでしょうね
戦場で死にたいと思った事は無いけど、こんな最期もっと嫌よ

さて……状況を確認しましょう
装備はスコップと写真だけ
山だから上に掘ってもダメね
ビッグモールとの通信は……届かないわ
勘に任せてスコップで真っすぐ掘って行くしかなさそう
う、体中が痛いわ……

気分を落ち着ける為に写真を見ましょう
みんなの遺品とか出て来ないわよね。出て来ないで

UCは外がすごく近くて岩盤にぶち当たった時だけ
戦闘不能でも前のめりに飛び出せば誰か見つけてくれるわ
だから思い切りやるわよ
「ありがとう! ここまでやれたの、みんなのおかげよ!」



●光(て)を掴む為の自爆
(「いやぁ、まいっちゃうわね」)
 アメリア・バーナード(掴空・f14050)は暗闇の中で独り言つ。無の暗黒というわけではない。スーツに備え付けられたライトのスイッチを入れると、眼前には岩があった。
 そこは元坑夫であるアメリアにとってある意味馴染があり、そして決して出会いたくない状況。廃坑の調査中に崩落が起きたのだ。
 最悪の事態は避けられた。それが幸運だったとなるかはここからだ。
(「さて……状況を確認しましょう」)
 アメリアは声を発さず、呼吸も最低限で行いながら冷静に荷物を確かめる。殆どの装備は岩に潰れてしまった。咄嗟に手に掴み得たのは一枚の写真と一振りのスコップ。
 まず写真を摘まんで掲げてみる……揺れない。
(「風の流れが無い……やはり空気は有限と考えた方がいいわね」)
 それは刻一刻と死が忍び寄っているということ。
(「戦場で死にたいと思った事は無いけど、こんな最期もっと嫌よ」)
 待ち受ける末路を思い背筋が寒くなるが、その焦茶色の瞳には諦めの色は無い。
(「さて……状況を確認しましょう」)
 手にしていた装備は写真とスコップのみ。山の中に掘られた廃坑なので上に掘るのは無理だ。
 スーツの通信機を起動させる。ノイズのみ、反応は無い。愛機ビッグモールとの通信は不可能。
 アメリアは静かに体を回してライトで周囲を確認する。坑木の並び方、土砂に埋もれず微かに残る線路のレールの減り具合を屈んで確かめる。坑夫として培った経験、記憶、その全てを総動員して勘を働かせどちらに向かうべきか見定める。
(「きっと、こっちね」)
 斯くして脱出は始まる。
 土砂は硬く重く。人力での作業は遅々として進まない。アメリアの心を焦りが覆い始める。急がなくては、けれど無理をしてスコップすら握れなくなればそれで終わり。
 ある程度進んでからアメリアは気分を落ち着けるために小休止に入る。腰を下ろし懐から取り出したのは写真。
 感光しているその写真には、故郷の友人達が写っている。坑夫をしていた者も多い。
 友人達の顔を眺めていると、不意に嫌な想像が湧き上がる。これが絶望させるための破滅の未来だというのならば……。
(「みんなの遺品とか出て来ないわよね。出て来ないで」)
 嫌な想像を否定したくて作業を再開するアメリア。群れる事を好まぬ彼女だが、故郷の友人達は彼女にとって大切な者達だ。彼らの万が一の姿など見たくは無い。
 幸いと言うべきか他の死者等は出てこない。ひたすらに土を掘りかき分けて進む。だが。
(「あと少し、の筈なのに……!」)
 遂にスコップが固い岩盤を叩いた。勘が正しければこれさえ突破できれば外の筈なのだ。
 向こうからも削ろうとしている気配を感じる。アメリアは察した。友人達の死が己の絶望ではない。友人達が必死に助けようとしてこの岩盤を砕いた時、酸欠で苦しみと絶望に顔を歪ませた己の亡骸を見て崩れ落ちる友人達。それこそがこの破滅の未来が見せる絶望なのだ、と。
 外の友人達の作業ではここの酸素が間に合わない。声を発せず酸素を温存してきたが、どうにもならないのだ。
 かといってスコップ一本ではこちら側からはこれ以上掘り進めることも不可能。つまり己の死は避けられない。
「ふ、ふふ、ふふふ……」
 アメリアの口から遂に声が漏れる。それは笑い声だった。彼女は絶望し狂気に溺れたのか。
「みんな、そこまで来てくれているのね、なら簡単だわ。この岩さえ砕けばいい」
 だがそれは不可能だ、アメリアの手には粗末な只のスコップしか残っていない。彼女は絶望し現実から目を背けてしまったのか。
「みんなが居るなら、戦闘不能でも前のめりに飛び出せば誰かが見つけてくれるわ」
 否、否だ。アメリアの瞳に宿るのは狂気の光ではない、絶望の闇でもない、強い、強い生きるという意思の輝きだ。
「だから思い切りやるわよ!」
 アメリアのスコップが赤く点滅した光を放ち始める。危機感を煽る点滅。彼女の超常なる力(ユーベルコード)によって、只の古びたスコップは危険な自爆装置と化した。
「ありがとう! ここまでやれたの、みんなのおかげよ!」
 アメリアの口をついたのは別れの言葉ではなく感謝の言葉。死ぬためではない、生きる為の自爆を、今彼女は行う。
 激しい大爆発が硬い岩盤を吹き飛ばす。爆風はアメリア自身をも傷つけ、彼女はその意識を手放す。顔面から地面に倒れこむ彼女を、外からの光と共にいくつもの腕がしっかりと抱き支えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
破滅の未来か。想像もしたくないけど、前に立ち塞がるなら乗り越えないとだね。

うん。何もないね。ぼくにとっての破滅は、食べる情報が何もない無の世界。

ないなら創るしかないね。アリスワールド!ちびアリスたちを召喚して自由に行動させるよ。

ちびアリスたちはぼく自身。でも彼女たちが生み出すお話は新たに生まれた情報だから。

コミュニティを作り、対立し、次第に大きくなっていく。

魔王になるもの、ドラゴンを倒しに行く勇者、内政無双をするお姫様。
うんうん。美味しいね。元気になってきたし、どんどん世界を作っちゃうぞー!



●無のキャンパスに物語(いろ)を乗せて
 アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は歩いている。否。主観において歩いている筈だ。
「うん。何もないね」
 アリスは独り言つ。否。主観において言葉を発した筈だ。
 破滅の未来を体感させられる。そう聞いて、アリスはそんな想像もしたくない絶望でも、前に立ちふさがるなら乗り越えないと、と先刻祠に踏み入った。
 アリスの目の前には『無』が広がっている。一見すると真っ白い空間に思えるが、これは本来正しくないのだろう、と彼女は思考する。
 『白い空間』ならばそれは『この空間は白いという視覚情報が存在する空間』の筈なのだ。だが、世界の情報を操るアリスはこの空間からその情報を取得できて(たべられて)いない。
 本当に何の情報も存在していない『無』の空間を自身のイメージで真っ白く仮定しているだけなのだ。
 情報の存在しない『無』においては、アリス自身が行ったアクションに対する反応すらも返ってこない。歩いている筈なのに地面を踏む感触どころか、足を上げて前に進んだという過程すら情報として得られないのだ。
 そんな絶対的な『無』の世界においてアリスは……飢えていた。久しぶりの、本当に久しぶりの飢餓感だ。猟兵になってから一度も無かった事だ。
 アリスは情報妖精。様々な情報によって編まれる物語が『飲食物』となる。それを得られぬ『無』の空間は、人が砂漠に放り出されたようなもの。
「まいった、な……」
 アリスは倒れた……筈だ。この空間には上も下も無い。既に立っているのか倒れているのかわからなくなっている。
 この空間で情報を有しているのはアリスのみだ。だがそれはもうアリスが『食べた』ものであり、それをもう一度食べることなど出来ない。人でいうなら、自らの腕を千切って食べたとして、結局はその腕を千切った怪我で死んでしまうようなものだ。
「ないなら創るしかないね」
 アリスは呼吸するように電脳魔術を起動する。周囲の空間にモニターが出現し複雑な魔術式が駆け巡る。
「ぼく自身の情報じゃ……どうにも……ならなくても……」
 飢えた今のアリスにとって更なる力を使う事は寿命を縮める危険な行為。これは己の中に残された最後のリソースをかき集めて行う最後の賭けだ。
「……いでよ!ぼくの分身!」
「よばれてとびでてー!」
「ばばばばーん!」
 術式(プログラム)が走り、アリスの周囲には無数の人影が現れる。彼女を小さくしたような存在。ちびアリス達だ。
「みんな……頼んだ、よ……」
「りょーかーい!」
「あとはまかせろー」
「やすらかにねむれー」
 ちびアリス達は口々に勝手な事を言いながら周囲に散開する。
「なんもないなー」
「つまんないねー」
「なにもなさすぎてくさはえる、はやそう!」
 一体のちびアリスが両手をぐっと上に伸ばすと、その動きに合わせる様に一本の草が生える。それを見た他も真似をする、それに合わせて一本、二本と何もない空間に草が生えてくる。
「くさをはやしすぎるなー、おはなもほしー」
 別のちびアリスが手の平を広げると今度は茎が伸びて花が咲く。
「はやしっぱなしはよくない、みずまきせねば」
「ならばかわがひつようですな」
 別のちびアリスが泳ぐ真似をすれば川が現れる。
「かわのとなりにぶんめいはおこるのです」
 家を作りだす者、お城を建てる者。ドレスを作る者、それを着てお姫様を気取る者。姫には騎士がいると白馬の騎士が現れ、それならこちらは魔王になっちゃうぞ、ドラゴンがでたぞー!
 ちびアリス達は思い思いに何かを想像し、創造していく。それらは交差し影響し合い、物語へと成っていく。
 勇者がドラゴンを倒しに行けば、お姫様は内政無双して魔王を政治交渉で追い詰めていく。
 滅茶苦茶でハチャメチャでワクワクの、無数の物語が無の空間に広がっていく。
「うんうん。美味しいね」
 アリスは城内の立派なベッドに寝ていた。ペロリと唇を舐める。多少はしたないが今だけはしょうがない。欲して欲してたまらなかった『情報(しょくじ)』にようやくありつけた所なのだ。
 ちびアリスもまたアリス自身ではある。けれど、彼女達がアリスとは無関係に生み出す物語は新たに生まれた『情報』だ。故に食べる事が出来る。
 その可能性に賭けてアリスは、自由に行動するよう命令を入力して召喚した。そして彼女は見事勝ったのだ。
「元気になってきたし、どんどん世界を作っちゃうぞー!」
 起き上がれるほどに回復したアリスは、先ほど以上に十重二十重にモニターを生み出す。分身たちに負けてはいられない。世界を形作る情報を、彼女は解き放つ。
 ……そうして、『無』の空間は『無』くなってしまいましたとさ。めでたし、めでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

伏羲の祠…
ここにある破滅の未来、どんなのだろう
まつりん、どんな絶望でも乗り越えて行こうね

気合いを入れ足を踏み入ると
…?何やら美味しいな匂いが

ローストチキンに焼肉にステーキ等お肉三昧の景色
おかしいな?ここは天国かな?
す、少し味見を…

ぱくぱく食べていると
…んむ?何やらわたしの身体、ふくよかに…
!!た、食べると太る…、そんな
わたしも年頃の女の子、太るのは困る、食べると太る……
美味しいお肉を食べられなくなる!!

がーんとショックを受けるけど
ん、よく考えたら運動すれば大丈夫
ふふ、これからも沢山食べる!
解決策見出し満足し、この破滅の未来を乗り越える!

よし、まつりん次行こう!


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と!

破滅の未来を見に来たよー♪
ぜつぼうって、どんな棒かなー?

ん?
アンちゃん、なんか今、聞こえなかった?
コケ、って。
ローストチキンじゃなくて。

ばっと振り向くと、白い影。
あれ。たまこ?(飼い雌鶏)
何でここに?
わ、なんで飛びかかってくるの!?(よけ)

と、あれ?
今ココにたまこいるのに、背後からも鳴き声。
振り返ると、一回り小さいニワトリが目の前に。
うわ、増えてる!?

気が付くと、たまことその一族(メスs)に囲まれてた。
みんなココココ鳴きながら寄ってくる……!
うわーん、助けてメカたまこー!!(蹴散らす)

まだ116体より少なくてよかった……まだ?(ぶるり)
こんな未来は来なくていいー!



●踏み出す双子
 祠の前に並んで立つ二人がいる。
「破滅の未来を見に来たよー♪」
「ここにある破滅の未来、どんなのだろう」
 不穏な内容の言葉を元気よく放ち木元・祭莉(マイペースぶらざー・f16554)は尻尾を揺らす。その隣で木元・杏(焼肉処・杏・f16565)は自身にとっての破滅とは如何なるものか思案している。
「まつりん、どんな絶望でも乗り越えて行こうね」
「おっけーあんちゃん! ごーごー♪」
 双子は気合を入れると元気いっぱいに祠へと踏み入った。

●お肉天国食べたら地獄
「……?」
 踏み入った杏の小さな鼻を香しい匂いがくすぐる。なにやら美味しそうだ。
 普段よりも若干視線を鋭く、小刻みに周囲を確認する杏。その視界に飛び込んだものは。
「ローストチキン!」
 ローストチキンに焼肉にステーキ等、およそ考え得る限りのありとあらゆる肉料理が無数の皿の上に鎮座し、これまた地の果てまで続くほどの長い長いテーブルに乗っている。焼いたり蒸す料理は湯気が漂い、今まさに食べごろと言った雰囲気を醸し出している。
「おかしいな? ここは天国かな?」
 破滅の未来と聞いていたはずなのに……ゴクリ。杏は周囲を警戒しながら小走りでテーブルへと向かう。きょろきょろ、周囲を確認しながら、す、少し味見を……と、ローストチキンへと手を伸ばす。誰がやってくれたのか、丁寧に切り分けられている。手にしたのは骨付きモモ肉の部分。
「はむ……っ!?」
 小さな口を大きく開いてかぶりついた。肉を噛み切った瞬間、杏の目がカッと開いた。
「お、お、美味しい……」
 肉がとても柔らかい。しっかりと塩と胡椒が揉みこまれて下味が付いているだけではない、ほのかに香るこれは……そうバターだ、これはただ焼いたのではない、一度揚げて、その上でバターを塗って蒸し焼きにしたのだ、それゆえ表面の皮はこれほどカリカリになっている。そしてその内側の肉からは肉汁がじゅわーっと口内に溢れてくるのだ。
 と言ったような事を目で語りつつ杏はひたすらに口を動かしてモモ肉を食べていく。止まらない。
「んぐんぐ……おかわり」
 ムネ肉も手羽先も手羽元も、余す所無くいただきます。
「あぁ……美味しかった」
 最終的に一羽分丸々食べきった杏。ポッコリと膨らんだお腹を撫でて満足気な表情を浮かべる。
 だが、お肉はこれで終わりではない、視線を伸びるテーブルの先へと進めれば、他の肉料理も延々と並んでいる。そして不思議な事に全く冷めた様子が無い。今も湯気を揺らして杏を招いているのだ。
「も、もう少し、味見を……」
 味見の定義が揺らぐ発言をしながら杏は次の肉料理へと手を伸ばすのだった。 
「ぱくぱく……美味しかった、さて次は……あれ?」
 何皿目かを空にして、隣のお肉に移ろうとした時、杏は異常に気付く。何だか体が重い気がする。それに妙に服の袖やらが突っ張るのだ。何だか気になってその腕に視線を降ろす。
「……んむ?」
 己の腕は、こんなだっただろうか? 右手で左の二の腕を摘まんでみる……たっぷり摘まめる。視線を皿に落してみる、お腹周り、いつもよりきついような気がする。
「わたしの身体、ふくよかに……」
 その時杏は気づいてしまった。気づきたくなかった事実に気付いてしまった。すなわち。『食べると太る』と言う事に。
「そんな……」
 膝から地面に崩れ落ちる杏。がっくりと両手も地面に付いて項垂れる。何せ彼女だって年頃の女の子、花も恥じらう木元杏じゅうよんさいなのだ。太るのは困る。しかし食べると太る……つまり。
「美味しいお肉を食べられなくなる!!」
 体型や洋服の事よりも先に出る心配がこれなのが杏と言う少女である。無論、そっちだって大事だ、むしろ気にしているからこそ、これ以上お肉を食べられないという結論に至るわけだが。
 杏はしばしそのまま動けなかった。もうお肉を食べられない未来、その絶望は彼女の心を強く傷つけ、立ち上がる力を四肢から奪っていく。
 絶望に飲まれた杏は力なくその身を横たえる。脳裏に甦るはこれまでの日々、走馬燈。
 お肉をいっぱい食べた日。猟兵としてオブリビオンを追いかけて走り回った日、お肉をいっぱい食べた日、友人と街へ出かけて走り回った日、お肉をいっぱい食べた日、住んでいる村で畑仕事で走り回った日……あれ?
「ん、よく考えたら運動すれば大丈夫」
 そう、よく考えれば杏はこれまでもお肉大好きでお肉を良く食べていたのだ。けれど今までの体型を維持していた。日常で、猟兵としての戦いで沢山体を動かしていたからだ。
 お肉を食べて増えるカロリーより運動で消費するカロリーが多ければ太らない。単純な引き算なのだ。
「ふふ、これからも沢山食べる!」
 杏は飛び起きる。その姿はすっかりいつも通りの可憐な物に戻っていた。解決策を見出した杏の正面は空間が裂け、光が差し込んでいる。
「よし、まつりん次行こう!」
 杏は双子の兄に手を伸ばす。

●絶望の鳴き声
「ぜつぼうって、どんな棒かなー?」
 絶望の意味をやや誤解しつつ祭莉は周囲の変化に気付く。祠という建物の中に入ったはずなのに、己は今草原にいるのだ。
 走る風が祭莉の耳を揺らす。その時祭莉の耳は微かな音を捉える。
 コケ。
「ん? アンちゃん、なんか今、聞こえなかった?」
 傍らの双子の妹を振り返った祭莉は首をかしげる。杏は何もない中空を見て呆けているのだ。
「ローストチキン!」
「ローストチキンじゃなくて。あんちゃーん?」
 謎の言葉を吐きながら杏は何もない空間へ向かって歩き出し、天国がどうした、味見がなんとかとつぶやきながら何かを掴んで食べるような動きを見せる。
「ちょっとあんちゃんどうし……」
 その時、祭莉の全身の毛が逆立つ。野生の勘が危機を告げる。
 ぱっと咄嗟に振り向くと、そこには二本の足で立つ白い影が。
「コケー!」
「あれ。たまこ?」
 それは家で飼っている雌鶏だ。何でここに? と首をかしげる祭莉に向かってたまこは勢いよく飛びかかってくる。
「わ、なんで飛びかかってくるの!?」」
 混乱しつつも身軽なその体はさっと横に飛びのいてたまこの突撃を回避する。しかし。
「こけー!」
「と、あれ?」
 そのたまこととは別に背後からさらに鳴き声が響く。祭莉が振り返ると一回り小さいニワトリが飛びかかり目の前に迫っていた。
「うわ、増えてる!?」
 咄嗟の所をしゃがみ込み難を逃れる祭莉。しかし絶望への道はまだ始まったばかり。気が付けば、十重二十重にニワトリの群れが祭莉を取り囲んでいたのだ。どれも鶏冠を持たない雌鶏ばかり。さらにいえば、どことなくどのニワトリもたまこの面影がある
、たまことその一族達だ。
「ココココ……」
 ニワトリ軍団は不気味に鳴きながら包囲の輪を狭めてくる。その表情は鬼気迫り、皆その背には鬼を背負っている……ような気迫がある。このニワトリ達はあの恐ろしいたまこの血と気迫を完全に継承している。360度逃げ場無し、木元祭莉じゅうよんさい。絶体絶命である。
「コケー!!」
「うわーん、助けてメカたまこー!!」
 遂に一斉に飛びかかるたまこ子孫軍団。その絶望的な光景を前にして祭莉は全力で助けを求めた。逃げ場の無い祭莉が無数の白に覆われ消えていく。最早これまでかと思ったその時だ。
「KOKE-!」
 祭莉を覆わんとしたニワトリの群れが吹き飛ばされる。祭莉の周囲には機械の駆動音をその身の内から鳴らす鋼のニワトリ達、ニワトリ型ロボのメカたまこ軍団が布陣していた。その数実に116体。
 オリジナルのたまこに負けるとも劣らぬ気迫を滾らせるメカたまこ達は、吹き飛ばしたニワトリ達、たまこ子孫軍団を追撃する。両者激しくぶつかり合い、コケー! KOKEー!と鳴きあう。恐るべきはたまこ子孫軍団。メカたまこに拮抗し得る実力を見せるが、メカたまこの方が数が多く、一羽のニワトリに対して複数のメカたまこが連携することで倒していく。
「まだ116体より少なくてよかった……まだ?」
 メカたまこの優勢を見て安堵する祭莉。けれどもし、たまこの子孫が116匹を超えていたら……そこまで想像が及んだ時、この破滅の未来の中のたまこと視線が交わる。
「コケー!」
 それはまるで、怠けているようなら次はもっと産んでやるぞ、と言っているように、祭莉には思えた。
 祭莉は思わず立ち上がり走り出す。
「こんな未来は来なくていいー!」
「よし、まつりん次行こう!」
 その時、杏が祭莉を呼びかけた。どうやらあちらも破滅の未来を乗り越えたらしい。先ほどまで呆けていた杏の意識がしっかりとして、祭莉に向かって手を伸ばしている。
「おっけーあんちゃん!」
 祭莉は妹の手をしっかりと握り、二人は未来(さき)へ向かって駆け出していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
当人にとっての破滅の未来か…
またろくでもない罠を用意してくれたものだな。
!あの姿は…

具現化したのは、生き別れた弟「ギュンター・グレイローズ」
私の数少ない肉親で、フォースナイトとして研鑽を積んでいた。
その筈だ。
だが、目の前の弟からは暗黒のフォースが感じられる。
私の絶望、それは闇に堕ちた弟の姿だ。
禍々しく染まった光の剣を抜き、私に襲い掛かってくる!
咄嗟に二刀を抜いて反応し、《武器受け》。
戦闘のセンスでは一族随一の彼だ、私では長く受けきれない。
「目を覚ませ…!」
斬撃に武器を弾かれた瞬間、【サマーソルトブレイク】
による《カウンター》で攻撃を相殺、
エーテル波動を帯びた当身で吹き飛ばす!
そう、これは幻。わが血族なら、心闇に堕ちたりはしない。
今は会えなくても、私はギュンターを信じよう。



●闇を払う深紅
「当人にとっての破滅の未来か……」
 またろでもない罠を用意してくれたものだな。とガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は独り言ち祠に踏み入る。
 ガーネットが立っていたのは機械的な室内。どこかの宇宙船のフロアのようだった。
 見慣れた風景にもガーネットは警戒を崩さず、眼前の自動ドアが開く間も武器から手を放さなかった。
「! あの姿は……」
 ドアの向こうに立っていたのは一人の男。剣呑な空気を隠そうともしないままガーネットを睨みつけている顔は、どこか彼女に似ている。
「ギュンター……」
 ガーネットの噛み締めた唇の奥から呻くように名前が漏れる。ギュンター・グレイローズ。薔薇を冠する彼女の血族。かつて生き別れた弟がそこに立っている。
 記憶の中に焼き付いたかつての面影を残すその姿に、けれどガーネットは警戒を解かない。フォースを操る彼女だからこそ感じられる明確な変化。ギュンターからは凄まじい暗黒のフォースが感じられるのだ。
「なるほど……ギュンター、あなたが私の絶望か」
「……」
 闇に落ちた弟(ぜつぼう)を理解し対峙するガーネットへ、ギュンターは何も言葉を発しない。その代わりに抜刀する。彼の手に収まった剣はフォースを光の刃に成す武器。ギュンターが手にする刃は禍々しい気配を放つ赤黒く染まったものだった。
「!? くっ!」
 ギュンターは彼我の距離を一瞬で詰める。迫る暗黒の刃。
 コンマ数秒未満もの襲撃に、ガーネットが咄嗟に二刀を抜いて受け止められたのは、それ自体が彼女の剣士としての技量の高さを示すものだろう。
(「私では長く受けきれないな……」)
 そのガーネットを以てして、戦闘のセンスでは一族随一のギュンターの一撃にはついていくのがやっとなのだ。
 初手を防がれたギュンターは、表情一つ変えずに手首を捻り、闇の刃をガーネットの首へと差し向ける。当然ガーネットもそれに対応して片方の剣で受け、もう一刀を振り下ろす。ギュンターは後方に飛びそれを避ける。
 受けに周っては不利。故にガーネットは追随する為に前に飛び出す。再び縮まる彼我の距離。踊るように揺れる赤い髪と同様に紅い刀身が怪しくきらめき、今度はギュンターの首を狙う。と同時に白き太刀が脳天めがけて振り下ろされる。
「……!」
「くっ!」
 必殺の同時攻撃に対し、ギュンターは闇のフォースをまき散らしながら漆黒の刃を回転させ、紅と白の斬撃を凌ぐ。
「ハァッ!!」
「くぅっ!」
 ギュンターの刃は更にガーネットに肉薄し、二刀を弾き飛ばす。武器を失ったガーネットの頭上から、闇の刃が迫る。
 次の瞬間、朱が舞った。それはガーネットの血(いのち)か。否。爆発的に噴き出したガーネットのフォース(いのち)だ。
「これが、グレイローズ家秘伝の一撃!」
 紅いフォースを吹き出しガーネットの両足が宙を舞う。弧を描き三日月の軌跡を残し、ギュンターの闇の刃を蹴り上げる。
「はああっ!!」
 再び床を踏む両足は、そのままガーネットを前方へと弾きだす。エーテル波動を纏い突き出された肘をまともに腹に受けたギュンターは遥か後方へと吹き飛んでいく。その最中でその姿は書き消えていく。
「そう、これは幻。わが血族なら、心闇に堕ちたりはしない」
 きっぱりと言い切るガーネットの目に迷いはない。グレイローズは闇の眷属たる吸血貴族だ。では、彼らは宇宙に遥かな闇を見て旅立ったのか。否。彼らは広大な闇の中で尚、幾億と輝く星々へと向けて発ったのだ。永久なる星(ひかり)へ、短き命(ひかり)燃やす人類と共に。
 そのグレイローズの血族が、闇に堕ちることなど、あり得ない。それは生き別れた弟とて同じだ。
「今は会えなくても、私はギュンターを信じよう」
 二刀を拾い光へ向けて歩みだすガーネット。その背後には彼女が信じるままの弟が笑顔で見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桂木・京
私にとって破滅と絶望、それは愛する人の死

私達は多くの戦いをくぐり抜けてきた。
世に在る全てのモノが手を取り合える。
そんな夢の為に己自身を剣と化して戦う彼女と共に。

彼女が倒れる。
時間を超え、場所を変え、数多の戦場で。
繰り返し、見せつけられる、心を切り刻まれる。
抱き止めた私の腕の中で、その命が零れる、温もりが失われていく。

だが、彼女はこう言うだろう。
戦って、と。牙なきものの為に、と。

ならば、私は戦おう。
破滅の未来も絶望も、新たにこの手に宿った不死鳥の炎で焼き払って。
「そうだ、こんな未来は決してありえないのだから」



●その愛の為に不死鳥は飛ぶ
(「あぁそうだ。これが私にとって破滅と絶望」)
 桂木・京(土蜘蛛のファイアフォックス・f35523)は今まさに失われようとする温もりを抱きしめながらうつむく。眼鏡越しの銀の瞳は、その瞬間を余さず覚え続ける為に閉じられる事もそらされる事も無い。
「ぁ……み、やこ……」
 腕の中の命は、焦点の定まらぬ瞳で京を探す。京が愛してやまないその肌も髪も、今は夥しい血によってかつての色を失っている。
(「これでもう『何度目】だ?」)
 幾度目か思い出すのも難しくなった愛する人が息絶えようとする瞬間を迎えつつ京の心は絶望に飲まれていく。
 祠に入ってどのくらいの時間が過ぎたのか、まだほんの数分のようでもあり、もう幾年も過ぎだったように感じる。
 京の隣には愛する人がいつもいる。いや、京が愛する人の隣にいるというべきだろうか。
 今から10年以上前、ゴーストと戦い続ける銀誓館学園で能力者として2人は出会った。面白そうな事には首を突っ込みたがる京にとって彼女は興味深い対象だったのか、交流ははじまり、友となり、そしてやがて恋人となった。
 生と死が隣り合わせの青春を送る日々の中、彼女は一つの信念を持って戦っていた。
 世に在る全てのモノが手を取り合える世界。
 そんな夢の為に、己自身を剣と化して戦う恋人と共に、京もまた戦った。
 そうして、多くの銀誓館学園の同胞と共に、遂に『何か一つだけを選ばないという道を選び続け』て、最後の戦いまで走り抜けて、辿り着いたのだ。二人で。
 その筈だった。だが、今京の目の前で愛する彼女は倒れる。
 彼女の胸には、深々と土蜘蛛の爪が突き刺さっている。己と同種の、しかし別の女王により産み落とされた土蜘蛛だ。見えざる狂気に陥った現地の能力者集団と、強大なゴーストの女王率いるゴースト集団と、その土蜘蛛一族によって支配された人間の都市を解放する為の戦い。彼女と出会い初めて共にした戦場。何の憂いも無く生還した筈の戦争で、彼女が今、死んだ。
 次は伊豆半島の山林の中だ。拠点である銀誓館学園のある鎌倉市を向かって海より来る巨大な妖獣と、それに引き寄せられるゴーストの大群を、なんとか伊豆半島で迎撃する戦い。これも二人は生き延びたはずだ、その筈なのに、目の前で愛する彼女は巨大な足に潰された。
 その次は地中海のコルシカ島だ。ヨーロッパの世界結界を破壊しようとする危険な儀式を食い止める為に上陸したその島で、やはり彼女は死んだ。人狼騎士の剣で斬り伏せられて。
 その次も、その次も、そのまた次も。時間を超え、場所を変え数多の戦場で。繰り返し繰り返し、見せつけられる。
 それはこの祠が見せる幻影だ、あり得る破滅の未来というだけだ。それが、わかっているのに。
 抱きしめた京の腕の中で命が零れていくのだ。温もりが失われて行くのだ。その感覚だけは、どこまでもどこまでも現実感を持って京の心を切り刻んでいくのだ。
 無限に繰り返される愛する人の絶命の瞬間に、京の心はもはや……。
「……戦って」
 声が、聞えた。愛しい人の声が。もう二度と聞けない筈の声が。
「ぇ……」
 京が見つめ続ける彼女は、唇を動かしていない。もう心臓の音は止まっている。
「戦って……」
 でも、でも、声が聞こえるのだ。
「……牙なきものの為に」
 あぁ本当に……と京の死にかけた心は苦笑いをしてしまう。私の最愛の人は、こんな時まで何を言っているのかと。そこは残される私への愛の言葉とかではないのかと。あぁでも。
「……ならば、私は戦おう」
 冷たくなった最愛の人の唇にキスをして。その亡骸を抱きかかえたまま、京は立ち上がる。
 京の腕の中で亡骸が光を放つ。金色の光の中で亡骸は消えて、京の利き腕には金色の炎が燃えたつ。
「そうだ、こんな未来は決してありえないのだから」
 猟兵として京が得た新たな力。その手に宿った炎が黄金の不死鳥となって飛び立つ。
 破滅の未来も絶望も、全てを不死鳥が焼き払っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月31日


挿絵イラスト