殲神封神大戦⑰〜不滅・不撓・不変の黄昏
●グリモアベース
「皆もう、知ってるかもしれないが」
黄葉・契次(牙折りクロムイエロー・f25437)は少しばかり神妙な顔つきで切り出した。
――渾沌氏『鴻鈞道人』、自らを『骸の海』と称するモノ。
今は戦い倒す事はできても、完全に滅ぼすことはかなわぬ敵。
それが、猟兵を送り出したグリモア猟兵に入り込み、融合してしまうという、事件。
自分もまた、その戦いにお前たちを送り出さねばならないと、契次は告げた。
このグリモアが輝けば、『渾沌の地』とやらにたどり着けば、次に会う時の自分は、最早『黄葉・契次』ではない。
敵は、融合し乗っ取った肉体を異形化させて襲い掛かる、異形を宿し自らの強化を図る等の攻撃を、猟兵達より先に仕掛けてくる。
猟兵達の声は届かない。手加減などする余裕はない。『鴻鈞道人』が力尽きるまで、ひたすら攻撃を加えるしかない。
「なぁに、そんなに深刻に考える事じゃない。こっちも頑丈さには自信がある」
契次は笑う。
それに、こう言っちゃなんだが、俺は一度死んでる。身体がどんなに壊れようが、自分から諦めない限り、これ以上死ぬ事はない。
契次は手の中を眺める。時を告げるように、グリモアは輝きを増している。
「そういうわけで、せいぜい派手にやっちまってくれ。敵さんが『こんな手もうゴメンだ』ってなるぐらい」
『――信じてるぜ、猟兵』
輝きの中、契次のいつもの言葉が、聞こえた。
●それは黒の中の
インク壺に放り込まれたような、黒色の中にいた。
長身の男がゆらりと、その場に現れる。感触を確かめるように幾分か手を動かし、首を動かし、『渾沌の地』に降り立った猟兵達を見遣る。
(絶えず時は運び、全ては土へと還る)
(罪深き刃(ユーベルコード)を刻まれし者達よ)
(相争い、私の左目に炎の破滅(カタストロフ)を見せてくれ)
思念が、直接頭に響く。
送り出す前に契次が告げた通り、表情も、言葉も、気配も、彼のものではない。
でも、その瞳は変わらず、夕焼けの色をしていた。
関根鶏助
関根と申します。近頃勢いで動きすぎたせいで、シナリオ10本目を祝いそびれた気がします。
衝動に駆られて融合乗っ取りもう一つ。
注意事項は以下。
敵『鴻鈞道人』は、黄葉・契次の身体に入り込み、融合してしまいました。敵の使用技の詳細は敵情報参照ですが、姿は契次のものです。契次自身の所持武器は特になし。
相手の強力さ故に戦闘での手加減は不可能。担当の猟兵との心のつながりに訴えても効果はありません(=知り合いかどうか等は一切気にせず参加して頂いてOKです)。
鴻鈞道人が力尽きるまで全力で攻撃を加えるしかありません。乗っ取られた猟兵がその後どうなるかは、祈るしかありません――ただし、本人がオープニングで言っていますが、契次はデッドマンです。
敵は先制攻撃をしてきます。「グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する」事で、プレイングボーナスがつきます。
プレイングに利用可能な省略記号についてはMSページに記載してありますので、必要に応じご利用ください。
複数での参加は、【同行者の名前or呼び方(ID)、或いはグループ名:グループ人数】という形でプレイング冒頭に記載して頂き、できるだけ同日内(8:31~翌8:29)に送っていただければ検討致します。
※MSページの方では、プレイングの受付を「断章公開以降いつでも」としていますが、戦争シナリオに限り「オープニング公開次第いつでも受付」と致します。〆は基本的に、「🔵が必要数集まりシステム的に〆になるまで」です。
それでは、良き死闘を。
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
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POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フィロメーラ・アステール
大丈夫と言っても損傷は避けたいな!
あんまり気分いいモノでもないし?
でも、手加減はしないぞ!
とりあえず先制攻撃に備える!
血を流させないよう攻撃を控え、防御専念!
武器はないようだけど肉弾戦中心かな?
【空中浮遊】して距離をとりつつ【第六感】を働かせ、急な遠距離攻撃にも対応できるよう警戒だ!
【残像】の速度で回避したり、各種耐性を含む【オーラ防御】バリアとかで攻撃を防いだり!
あとは【気合い】で頑張る!
反撃の機会には【中天たなびく七覚の星食】だ!
『星装《あくあ》』から水【属性攻撃】を放ち【捕縛】して【鎧無視攻撃】とする!
【破魔】の聖なる水で【浄化】しつつ圧迫&窒息的攻撃!
後は契次と敵の我慢比べってワケよ!
●落日、のち一番星
小さき妖精――フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)は、黒々とした虚空を舞う。どこからが空中でどこからが地面なのか、はっきりしない。
目の前の男がふらつかずに立っているからには、そこに地面と呼ぶべきものはあるのだろうが、フィロメーラが降り立とうとしたらそこにも同じものはあるのか――と考えると、不安になる。
でも、気にするのは後だ。たとえそこに地面がなくとも、フィロメーラは戦える。
(大丈夫と言っても損傷は避けたいな!)
姿形は人なのだ。少なくとも、まだ。それが壊れる(と、彼は言っていた。自分の身体を、まるで物体のように)のは、あまり気分が良いものではない。
もう一つ、彼女が気にしていたのは、相手よりも多く血を流せば力を増すという、敵の能力だった。
契次の夕焼けの瞳が、小さな妖精の姿を映した。左目だけが、笑うような形に歪む。
彼は山吹色のジャケットを脱ぎ捨て、シャツの上から自分の腕に爪を立てた。
必要ならば、こちらはこの身体が多少傷つく事など、意に介さない。そう、挑発でもするように――爪が服を裂き、皮膚を破って、血が流れる。流れる血に嗤う渾沌の諸相、その条件はこれで満たしたと、敵が、動いた。
多少、無理はあったのだろう。契次の力は増したようではあるが、完全ではないようにも思われた。少なくとも、これならば避けられる。フィロメーラがひとつ宙返りをすると、彼女ににとっては自分の全身とさほど変わらぬほどの巨大な手が、すぐそばを通り過ぎた。
「天空に託された祈りが、見えるモノも見えなくする!」
契次の頭上で、フィロメーラは高らかに叫ぶ。
詠唱が呼ぶのは『中天たなびく七覚の星食』。その媒体は『星装《あくあ》』、星が纏う水の層、海をイメージした魔力圏だ。
空中の妖精を掴もうと手を伸ばした契次が、突如現れた星の輝きに目が眩んだか、短く声を上げる。光は膨れ上がって水に変わり、降り注いで契次の全身を包む。
契次は片手で自分の目元を覆い、もう片方の手を闇雲に振り回す。掴みさえすれば、当たりさえすれば、あんな小さな生き物など簡単に捻り潰せるとばかりに。
しかし、水は流れ、柔軟に形を変えるものである。大きく頑丈な体躯をその内に納めて、指先まで覆って、脱出を許さない。水の中でもがく契次の口元が歪み、泡を吐き出す。その苦悶は思念の声となって、フィロメーラに届いた。
呼んだ水には破魔の力をこめている。広がりすぎないように、流れ落ちないように、相手の周囲に押し込めている分、内部には水圧がかかっている事だろう。
(後は契次と敵の我慢比べってワケよ!)
自分が諦めない限り、と言って送り出したのだ。簡単には折れるなよ?
フィロメーラの青い瞳は、破魔の海の中で溺れる『骸の海』の姿を捉え続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
ルウィア・ノックス
◇○
弟(f03274)が世話になったと聞いた
アイツは別の骸の海の処分に忙しくすぐに駆けつけられないので、勝手に先陣を切ることにした
戦いのために生まれ変わった弟と違い俺のできることは微々たるものだ
――だが舐めるなよ
人を舐めるな、異端者め
先に攻撃されるのは知っている
向かってくる異形は素早く動き残像を発生させ狙いを外させる
それでも接近する物は部位破壊の技能も活かし切断
どこまで通用するかはわからんが、こっちはやりあう覚悟を決めている
対するお前は、借り物の体に執着もないだろう?
攻撃を凌いだらすぐにベルグを「地竜覚醒」により変身させ、重力操作により敵の動きを妨害させる
俺はそれでも近付く部位を切断し続けよう
●宵闇に、竜が飛ぶ
ルウィア・ノックス(止まない雨・f03190)は、契次の姿を静かに眺めていた。
彼には、弟が世話になったと聞いていたが、こちらからきちんと名乗る余裕はなかった。
(話しておけばよかっただろうか?)
そんな思いも浮かばぬでもなかったが、それは今悔いる事ではないと、押し込めた。
この場にいない弟を、想う。今はここではない場所で戦っているのだろう弟。戦いの為に生まれ変わった弟。自分は、そうではない。できる事は、微々たるものだ。そんな事はわかっている。
――だが、先陣を切ると決めた。その意志は、誰かと比べるべきものではない。
契次の両腕がずるりと、地に向かって根を下ろすように伸び、中で何か暴れているような動きでぼこぼこと膨れ上がった。形状の変化に耐えきれずシャツが破れ、上半身が露になる。もとからあったのであろう傷跡から、白い異形の肉が溢れてうごめいている。
白い肉塊と化した右腕が、鞭のごとき動きでルウィアを襲う。
ルウィアは軽やかに後方へ跳び、契次を攪乱し死角を探すように、彼の周囲を駆ける。一歩ごとに速度が増し、その姿がぶれて、いくつもの残像を作り出す。
白い腕がルウィアを追って、その姿が増えるのに合わせて枝分かれしていく。残像がひとつふたつ、逃げきれず貫かれて消えた。
枝分かれした腕のひとつひとつは、元よりも細い。ルウィアより明らかに勝っていたはずの重量と膂力を、残像を追うために分割した――その隙を、ルウィアは見逃さない。鈍色のダガーを抜き、追いすがる腕を斬り落としていく。半分以上斬ったところで、漆黒の槍を、契次に向けて放った。
「ベルグ、お前の力を見せてやれ」
名と共に呼びかければ、暗闇を飛ぶ槍が、身の丈3メートルほどの竜に変わる。新たに目の前に現れた相手を捕えようと、契次は残った左腕を伸ばすが、空を掴むばかり。
契次を翻弄するように飛び回る竜は、その速度に加えて、重力操作の魔法を行使できる。魔法自体はそれほど強いものではないが、動きを鈍らせるには十分だ。
ならば術者を捻り潰すと、左腕がルウィアに狙いを変える。先程の右腕よりも遅いが、枝分かれせず一度に襲い来るその肉塊は、ダガーで斬り落とすには大きすぎた。回避が遅れ、白い肉塊はルウィアの胴に絡みつき、捕える。そのまま潰そうと、締め上げる。
肋骨が軋む。息が詰まる。しかし、意識を手放すわけにはいかない。
黒い空に向かって、竜の名を呼ぶ。青い瞳と橙の瞳、交わった二色の視線を、黒い光が高速で横切った。上空のベルグが加速しながらその姿を再び槍に変えて、白い異形の肉を貫いて、黒い地面に縫い留める。身体を締め上げる力が弱まり、ルウィアは肉塊から抜け出す。
「人を舐めるな、異端者め」
呻く異形を眺め、ルウィアは冷ややかに告げた。
成功
🔵🔵🔴
サンディ・ノックス
◇○
(ルウィアとの連携希望は特になし)
契次さんには何度か仕事を紹介して貰ったね
いつも楽しい仕事(サンディ基準)を紹介してもらって感謝してる
今回も楽しい仕事だと信じてるよ
…貴方の衝動(デッドマンの特性)を、信じてる
骸の海、お前に見せてやる破滅なんてない
どうしても見たいなら骸の海の内からこちらを観察してればいいじゃないか
こちらの領域に手を出すな
お前が本当に骸の海ならば、お前は過去の集積体というただの事象だろう?
オーバーロード、真の姿開放
金の瞳の赤き竜人と化す
飛行して敵に接近
敵の攻撃は魔力を高めオーラを発生させての【オーラ防御】で防ぎ
オーラを貫通して攻撃を受けても【激痛耐性】で耐える
(憑代の契次が敵にとってどのくらいの重要度なのかは不明だが、自身を削る攻撃と比べれば威力はそこまで伸びないと推測)
第一波を耐えたら俺の番
悠長にしていたら一方的に攻撃されかねないからね
真の姿を開放したことで、魔力で構成されている黒水晶と化した肉体を組み替えて飛輪を作り出し【投擲】、一切の躊躇なく相手を切り刻むよ
●夜半、赤き竜はこじ開ける
サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)が戦場に降り立った時、契次は既に異形と化していた。右腕は途中で千切れ、左腕は赤色を垂らしながらだらりと黒い地に伸びている。顔こそ見知った形を残しているが、サンディに向けられているのは、感情の抜け落ちた、知らないモノを見る目だ。
サンディだって、こんな表情の彼は、知らない。
彼についてサンディが語れる事は、きっと多くはない。でも、『自分は一度死んでいる』などと笑いながら言うヒトではあったけれど――あんな、熱を感じられない、『死んだような』目をするヒトでは、なかったはずだ。
彼には、何度か仕事を紹介してもらった。それらは、サンディにとって『楽しい』ものだった。だから、今回も『楽しい』と、信じている。
そして、何より――
「……貴方の衝動を、信じてる」
そこに、偽りはない。
橙色の左目が、ぎょろりと動いた。
「衝動は、在る。この左目で、炎の破滅を見る事」
契次の唇が、抑揚のない、地を這うような声を発する。
聞かれていたのか、とサンディは少し不快そうに眉をひそめる。
「お前に見せてやる破滅なんてない」
見たいなら勝手に見ていればいい。だが、こちらの領域に手を出すなと、冷ややかに突き放す。
「お前が本当に『骸の海』だというなら、過去の集積体――ただの事象だろう?」
事象が衝動を語るなと、ねめつけて煽る。
『骸の海』が、契次の顔の筋肉をぎこちなく動かし、不快そうに歪めた。
骨が砕けるような音がした。前屈みになった契次の背中からずるりと現れた細長いものが、見る間に肉を纏って太い腕に変わる。
一方、サンディの身体もまた、変化していく。目の色が黄金に変わり、竜の角と尾、そして翼が生える。
赤い竜人の姿をした、魂喰い。それが、彼の真の姿である。
サンディは翼を広げ、黒い空へと舞い上がる。赤い翼で黒色を裂くように、契次に向かって飛ぶ。
両膝と左腕で体を支え、契次は獣のように唸った。背中から生えた白い腕が巨大な掌を広げて、飛来する竜人を鷲掴みにして、無造作に投げる。
空も地面も黒一色、地面は確かにあるのだが、その境界は視覚では捉えづらい。受け身を取るタイミングを逸して、サンディは黒色に叩きつけられる。
しかし、転がった黒色はどこまでも平坦で、決して柔らかくはないが、岩のように硬いというわけでもない。摩擦は感じたが、衣服や皮膚を削るほどざらついているわけでもなく、身体は痛みはしたが、大きな怪我には至らなかった。
(握り潰されるよりは、ましだったかな)
四肢と翼が問題なく動く事を確かめながら、サンディは立ち上がる。
あの身体は契次のものであって、『鴻鈞道人』のものではない。代償として差し出す『形』の重さは、直接己を削るよりは軽く――その差は、得られる異形の力にも響くのではないか。サンディはそう推測していた。
しかし、わざわざそれを確かめる為に、何度も攻撃を受けてやる必要はない。好き勝手に弄られて捻じれていく見知った形を、手をこまねいて見ているほど非情ではない。
「今度は俺の番――身体も心も刻んであげる」
サンディは手の上に、黒い水晶を呼び出す。真の姿――魔力で構成された身体、その一部たる黒い水晶はその場でくるくると回る。回る速度は次第に上がり、水晶は漆黒の輪に形を変える。
再び翼を広げ、今度は捕まらぬように飛び回りながら、漆黒の輪を次々に生成し、放つ。
一切の躊躇はない。全力を尽くすと決めた。
『今回も、楽しかった』と言える結末の為に。
『今回も、楽しかった』と、彼に言う為に。
己の望みも、彼の望みも、こんなところで迷う事では、ないのだ。
漆黒の輪は契次の周囲を舞って、あらゆる方向から彼を襲う。契次の背から生えた異形の手が、高速で回転して迫る輪の一つを握り潰そうとして、そのまま真っ二つに切り裂かれる。輪を叩き落とそうとした他の腕や触手も次々に斬り落とされて、肩口に、腹に、黒い輪が食い込む。赤色が噴き出る。流れる。辺りを染める。
竜人の瞳は、金色の炎を宿し、赤を映し、それでも、揺らがない。
大成功
🔵🔵🔵
仰木・弥鶴
まずは相手の出方を見つつ
攻撃してくるようなら左右の機械羽で受け流し
狙いをつけにくいように迷彩を展開して渾沌に紛れる
自分の番手が来たら
ディバインデバイスの避雷針から白燐浸食弾を一斉発射
宿主の体内に寄生する白燐蟲は浸食するのに血を流すような傷口など必要としない
染みるように、侵すように体内から食い荒らしてくれるだろう
派手にやってくれ、と言われて
遠慮できるような性じゃないんだよね
迷いなく全ての機械羽を開き
体内に宿す白燐蟲を次々と装填
こちらの攻撃は全周範囲
相手が渾沌のどこにいようと半径約100m以内なら捉えることが可能
休む暇を与えず、互いの位置関係も関わりなく『Now or never』を撃ち込み続ける
●暁光、銀の翼は拓く
戦いの様子を少し離れたところで窺っていた仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)は一度軽く俯き、眼鏡を押さえる。
おぞましい姿だ。膨れ上がった白い異形の肉は裂けて、赤色に塗れている。傷を塞ぎ再び動こうとする異形の脈動と力の増大は、相手と距離をとっていてなお、弥鶴の肌をぴりぴりと刺激する。
(相手より多く血を流せば力が増す、だったかな)
契次の身体は満身創痍、確かにこの局面で利用せぬ手はない。などと一人で納得する弥鶴の背に、機械の羽が開き――どこまでも黒い世界に、白銀の輝きが亀裂を入れる。
契次がゆっくりと振り返る。背中から生えた腕が二つに裂けたまま伸びて、弥鶴を襲う。
機械羽が、弥鶴の身体を包むように動いて、迫る腕を弾き、逸らした。衝撃は防ぎきれなかったが、身体を捻り、機械羽を広げて立て直した。
(派手にやってくれ、と言われて、遠慮できるような性じゃないんだよね)
弥鶴は、自らの体内に宿す白燐蟲を、ディバインデバイスに装填していく。機械羽に宿った光は、黒い空に放たれて、黒い地に降り注ぐ。
黒い地とそこに立つ契次に無差別に降り注ぐが、触れたものを抉るでもなく焼くでもなく、一見静かに消えていくだけのそれは、雨に似ている。
白燐蟲は、宿主の体内に入り込む為に、わざわざ皮膚や肉を食い破ったりはしない。静かに染み込み――本番は、その後だ。内側から侵し、喰らっていく。
契次の口元が動き、微かに声をあげる。異形の肉が、崩れていく。
白燐蟲が効果を現した事を確認しても、弥鶴は攻撃の手を緩めない。
最速で最善の手を打とうというのなら、機会は、いつだって今しかない。こちらに近付く事も、逃げる事もできぬように、全ての機械羽を開き、可能な限り白燐蟲を放つ。
弥鶴を映して、契次の左目が落ち着きなく動いている。
「……破滅を、この、左目、に」
途切れ途切れに紡がれた言葉を遮るように、白燐蟲が降り注ぐ。
――そんなに破滅が欲しいなら、君にあげよう、鴻鈞道人。
白い光の雨の中で、鴻鈞道人のシルエットが揺れる。空気が抜けたようにくたりと折れて、黒い地面に沈んでいく。
その身体から、白燐蟲のものとは違う光が生じる。弥鶴をこの渾沌の地に導いたのと、同じ光だ。
次第に強くなり視界を染めるそれは、朝焼けによく似ていた。
気づけば、弥鶴は元いたグリモアベースに佇んでいた。
渾沌の黒い地も空も、異形の血も肉も、契次の姿も、そこにはなかった。
悪い夢でも見たような気分だが、弥鶴の体は疲労が、機械羽には戦闘の痕跡が残っている。
白燐蟲の光とグリモアの光、二色の光の欠片が雪のように、ふわりと舞った。
――翌日、けろりと猟兵達の前に姿を現した契次が、「いやー凄かった、一度死んでなきゃ死んでたな!」などと軽口を叩いて周囲をぎょっとさせたのは、また別の話である。
大成功
🔵🔵🔵