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銀河帝国攻略戦⑰~勇戦

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●グリモアベース
 パンッ、と乾いた音がグリモアベースに響く。
「皆さん! 作戦が次の段階に移ったわ!」
 ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が手を叩いたのだ。
 彼女は急ぎ、説明に入る。
 精神破壊兵器『アゴニーフェイス』を中心に布陣した、黒騎士アンヘル直属の艦隊――アゴニーフェイス。
 猟兵たちの数多の活躍により、いよいよもってそこへ攻勢開始となった。
 しかし、精神破壊兵器という強大な名を冠する『アゴニーフェイス』は、かつて自由の旗印を掲げ立ち向かった解放軍をも苦しめた攻撃手段を持つ。
 専用カートリッジ――サイキッカーの脳の装填により作動させる『テレパシーの悲鳴』と呼ばれる脅威だ。
「その『テレパシーの悲鳴』を受けた艦にいる人たちは、精神を破壊されるのよ」
 そして何より、解放軍には『テレパシーの悲鳴』を防ぐ術がない。
 まともに直撃すれば、いくら戦力に満ちた解放軍と言えど、一溜りもないだろう。
 サイキッカーの脳というカートリッジゆえに、向こうには射出にも回数制限がある。かといって全弾出し切るまで待てば、解放軍が壊滅しかねない。
 そのため猟兵たちには、『アゴニーフェイス』艦隊がスペースシップワールドの艦隊を射程に収める前に急襲する必要がある。
「打開しましょ。この状況を」
 行われる作戦は、猟兵による『アゴニーフェイス』への破壊だ。
 『アゴニーフェイス』艦隊とは言うものの、戦艦があるわけではない。
 最低限の護衛と、残敵掃討用の戦力以外は、隠密性を重視して挑んでいるようだ。
 当然だろう。帝国軍からしてみれば、『アゴニーフェイス』の攻撃で敵を無力化できるのだ。余分な戦力を割く必要もない。
「私たちが襲撃すれば、こちらへ向けて『アゴニーフェイス』を発射するはずよ」
 猟兵と言えど、精神破壊攻撃を無効にはできない。
 肝心の精神破壊攻撃の効力は『理性を失わせ、その姿を強制的に真の姿とする』もの。
 ――つまり、猟兵たちは真の姿での戦闘が叶う。
「猟兵としての生存本能が『アゴニーフェイス』の力を上回ってるのよ、きっと」
 精神破壊攻撃を受けたところで、容易に命を落としたりはしない。
 猟兵たちが持つ力は危機すれも凌駕し、立ち向かえる。
「それともうひとつ、お話ししておくわ」
 ホーラが告げたのは、『アゴニーフェイス』についてだ。
 外観は『苦痛に喘ぐ人間の顔のような形をした金属の塊』だとホーラは言う。
 不気味な外観ではあるが、意外にも通常の戦闘力は無い。精神破壊のみに特化しているからだろう。
「アゴニーフェイスの破壊か私たちが戦場から撤退するまで、精神破壊効果は継続よ」
 一度発射されれば、猟兵たちは真の姿のまま戦闘を続けられる。
 また真の姿が、通常時から大きく外れているほど、より強力な力を発揮できるようだ。
「たぶん、『アゴニーフェイス』の副作用みたいなものね」
 こちらとしては有益だけど、とホーラは告げた。
 作戦内容をまとめると、『アゴニーフェイス』艦隊を急襲し、精神破壊兵器『アゴニーフェイス』が発射され次第、真の姿になって戦闘を開始。
 そして敵の掃討と『アゴニーフェイス』の破壊を行う。要はほぼ戦闘だ。
 説明を終えると、集まった猟兵たちの顔を確認して、ホーラはにっこり微笑んだ。
「そういうことだからよろしくね。それじゃ、用意ができた方から転送します!」

 さあ、勇戦の時だ。


棟方ろか
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です!
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 当シナリオでは『⑰『アゴニーフェイス』艦隊』を攻略します。

 お世話になります、棟方ろかと申します。
 シナリオの主目的は『アゴニーフェイス破壊と敵の掃討』です。
 平たく言えば、いきなり真の姿での戦闘ができます。
 プレイングにて真の姿の詳細をご指定ください。
 他、情報はオープニングをご参照くださいませ。

●ご友人と一緒に行動なさる方へ
 プレイング冒頭に【お相手のID】か【グループ名】の記載をお願いします。

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『醜き嫉妬の生命体』

POW   :    妬心の暴虐
【対象の優れた部位を狙う触手】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    精巧贋物
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【喉から手が出るほど欲しい他者の所持品】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ   :    縋る腕
【醜い羨望】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【粘着性の高いぶよぶよした黒い塊】から、高命中力の【対象の所持品を奪おうとする触手】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

真の姿、か…良かろう、愚物共に見せつけてやろうではないか
そして、それが奴らが目にする最期の光景よ
半神の英雄をも死に至らしめた大蛇の猛毒、その身でとくと味わうが良い

星の海にて、UC:ヒュドラを発動させる事になるとは思わなかったが…この姿が最も真の姿に近いのでな、動き易くもある
もっとも、今は単なる九つ首の大蛇では無く、前足や後ろ足、巨大な翼まで生えた竜の如き姿ではあるが
九つの顎にて喰らい付き、牙から呪詛や毒を流し込んでやる
効くかは怪しいが、誘惑や恐怖、催眠といった効果も狙ってみるか
負った傷は、吸血や生命力吸収にて賄うとしよう
さあ、我を愉しませろ…!

※アドリブ歓迎


フィリア・セイアッド
【WIZ】を選択
「精神を破壊する」…怖い攻撃方法があるのね
解放軍の人を そんな攻撃にさらすわけにはいかないもの
私たちに対抗できるというのなら 頑張らないと、ね

真の姿:二対の白い翼を持つ天使の姿 長い黒髪がさらりと宙に

剣や銃での戦いでは まだまだ足手まといだけども…
気持ちだけは負けたくないの
どうか皆が 大切な人の元へ戻れますよう
精神攻撃に負けないよう 菫のライアに乗せ【祈り】と【鼓舞】を歌う
触手は回避狙い 
他の人が攻撃しやすいよう 囮役
宇宙船の天井を蝶のようにひらひら舞う
回避が無理な場合や傷ついた仲間がいれば【オーラ防御】で盾に
傷ついた仲間には シンフォニック・キュアでの回復


樫倉・巽
刀を振るうのは強くなるため
誰よりも鋭く誰よりも強く
ただそれだけのため
どちらが強いかを比べるため
ただそれだけだ

だが、この剣が何かを救うために役立つなら
喜んで力を貸そう
俺は剣により自由を得た
ならば俺の剣によって自由を取り戻す

【真の姿】
墨色の羽織袴を身につけた六尺の背丈の人間の青年
背中には「理」の一文字を背負い
両手に一振りの刀を持ち
穏やかな表情を浮かべ静かに佇んでいる
己の目指す天無き無限の成長を具現化した存在であり
理を持って意のままに敵を斬る
己が思い描ける限り

【蜥蜴剣術無天流】を使い戦う
宇宙であろうと理はある
心を無にして敵を斬る
静かに時を待ち
機を見て刀を振る
ひと思いに過去の因果を断ち切る
ただ無心に


レイン・フォレスト
【SPD】
真の姿……悪の化身みたいだからあんまり好きじゃないんだけど
まあ力を出せるのは有難いからいいか

力が解放される
背中に悪魔の羽、犬歯が大きく尖り頭には悪魔のような2本の角

この姿を見たからには覚悟するんだね

【ブレイジング】使用で「先制攻撃」「2回攻撃」
そのまま敵が動こうとする方向へ弾丸を撃ちまくって射程から逃がさないように
触手が飛んできたら「狙い撃ち」で撃ち落とす
敵が隙を見せたら「吸血」「生命力吸収」で敵の体力を奪ってやろうか
「第六感」を働かせて敵の不意打ちは喰らわないように気をつけよう

お前が何を欲しがってるのか知らないけれど
もう嫉妬に苦しむ事は無い
なぜなら僕らがお前をここで終わらせるからだ


ガーネット・グレイローズ
【真の姿を解放】ヴァンパイアの姿となり、背中から黒いコウモリの翼を生やす。

接敵したら【念動戦闘法】を発動。装備している十字架型ブラスターを大量に複製し、それらを〈念動力〉をもって操作。〈空中戦〉の技能を活躍し、宇宙空間を自由に飛び回って敵機を撃ち落としていこう。複数のブラスターで取り囲んでのオールレンジ射撃、タイミングをずらし、フェイントを交えながらの援護射撃で味方を支援するぞ。

「なんだ、これは……声が聞こえる? クッ、頭が! 脳に直接情報を送り込んでいるのか!」
私の〈第六感〉が、犠牲となったサイキッカーの意志を感じ取っている! 目からは自然に涙が。どこだ……どこにいる、黒騎士アンヘルッ!



●精神破壊兵器『アゴニーフェイス』
 悲憤が声なき声となって、急襲部隊の猟兵を襲う。
 痛覚に異常は無くとも、心臓が締め付けられたような苦痛を感じる。
 頭を鷲掴みにされ、激しく揺さぶられるのに似た感覚が、猟兵たちを苛める。
 解せぬ、と樫倉・巽(雪下の志・f04347)は、死と相まみえたかのごとき緊迫を呑み込んだ。
 最低限の装甲と護衛のみを携えた『アゴニーフェイス』艦隊は、耳にした通り戦艦などではなく、小惑星の陰に潜めてしまうほどの船であった。
 その小型船に積まれた凶器から放たれた波動が、精神を切り刻む威力を放ったのだ。
 巽は身体の軸も臓も狂わせる感覚に侵され、忌々しげに眉間を寄せる。
 ――此れをヒトへ向けて放ち、此の威力を生むため脳を設えたというのか。
 常人ならば、一瞬にして心を砕かれ死していた。理性を失い、肉体を朽ちさせた。
 埒外の存在である猟兵たちだからこそ、眠る本能に守られた――それを猟兵たちは、実感する。
 彼らの身を構成する物質のすべてが、死してなるものかと気概を示すかの如く、彼ら自身の外に溢れだした。身体が、変わっていく。
 それは猟兵たちが時無しに秘める――真の姿。
「ッ! 今のが……そうなのか」
 急襲部隊として出撃していた猟兵のひとり、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が喉を震わせた。
 すでに彼女もヴァンパイアと化している。宇宙空間に於いても鮮明な黒翼を生やした自身の姿に、目を瞠る。

 これが、『アゴニーフェイス』に装填されたサイキッカーの脳により作動する――テレパシーの悲鳴。

 下す眼差しは如何な時も傲岸を緩めず、フォルター・ユングフラウ(嗜虐の乙女・f07891)の堂々たる様相を世に知らしめる。
 慈悲を与えない指先が辿るのは、宇宙を行く悪意の残滓。
「……良かろう」
 薄い唇を震わせるのは、過去の上を這いずる醜き嫉妬。
 心蝕む『アゴニーフェイス』に中てられたフォルターも人の殻を割る。変貌する彼女は、ユーベルコードにより変化する、かの姿を彷彿とさせた。
 腐爛の血毒を滲みこませる九つ首の蛇。元来であれば、天地をも喰らわんばかりの大蛇と化すのだが、今のフォルターは蛇というよりも竜に近い。
 頑丈な足で巨躯を支え、広げれば小遊星を覆わんばかりの双翼をたたみ、鱗に愉悦を塗りたくる。
「見せつけてやろうではないか。愚物共に」
 彼女の両の眼が捉えたのは、妬心に溺れた生命体。
 道行きを阻むうねりは粘着質な液体のようで、フォルターはしかし不快感ではなく喜びに打ち震え、不定形の生命体へ食らいつく。食い込ませた牙から呪詛を流入し、汚泥にも思える歪な存在の死を予言する。
「光栄に思え」
 この威容を目に焼き付けて逝けることを。
 そうして免れない終をオブリビオンへ与えたフォルターだが、それを見届けるつもりは微塵も無い。
 喉の渇きを覚え、フォルターは目を眇めた。
 ――潤すために進むとしよう。
 己の欲するものは、己自身が良く知っている。
 飛翔する竜を見送り、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は翼を広げた。
 深々と積もる冬に埋もれ、時を待つ春のように、やわらかくも強かな光を二対の翼に纏う。
 ――怖い。
 フィリアの内側に走った感情は、眠る姿が花開くことにではない。精神を蹂躙する、帝国軍の兵器に対してだ。
 言葉で聞いただけで、恐ろしい攻撃方法だとフィリアは震えた。そして戦場で受けてみて解った。伝説の解放軍を苦しめたという脅威の実態を。今を生きるため戦う解放軍もまた、同じ兵器に脅かされているのだ。
 ――剣で切って銃で撃つ。そういう戦いでは、まだまだ足手まといだけども……。
 憂う気持ちを胸に秘め、決して顔色は曇らせずフィリアは前を向く。
 彼女が取り出したのは、天を透かす美しい菫のライア。花竪琴が奏でる旋律は展望に溢れ、春空のようなフィリアの瞳に強い意志が宿る。
 ――気持ちだけは、負けたくないの。
 竪琴の音色に乗せた鼓舞が、清らかな祈りが、猟兵たちの苦痛を和らげていく。
 菫が歌う小さな幸せは、持ち主の心の侭、戦地に響き渡る。
 ――どうか皆が 大切な人の元へ戻れますよう。
 それを支えるために、フィリアは竪琴と一緒に歌う。
 耳に馴染む澄んだ歌声は、悪魔の容姿になったレイン・フォレスト(新月のような・f04730)の胸にも届く。
 アゴニーフェイスの力で理性を削ぎ落されようとも、友の声は負けない。そしてレイン自身も。
 ――悪の化身みたいで、あんまり好きじゃないんだけど。
 纏う黒に映える悪魔の羽と二本の角。尖った犬歯は鋭く、まるで物語に描かれそうな悪魔の風貌だ。苦々しい笑みを口の中で噛み砕いて、レインはオブリビオンへと銃を構える。
 澱んだ意識で生命体がレインを睨みつけ、飛んでくる銃弾に身構えた。
 だが、レインの射撃は彼の者より速い。幼き頃より仕込まれた射撃の腕は、生命体から咲いた花を散らす。
 鈍く呻いた音を鳴らして、異形は彼女のハンドガンを真似た。
 精巧な贋物が仕返しとばかりに銃撃する。咄嗟にレインは漂っていたデブリを蹴った。蹴られた岩屑が弾に破砕し、欠片の隙間をレインが狙う。
「覚悟するんだね」
 破片の合間をすり抜けた連射は、先ずオブリビオンが作り出した贋作のハンドガンを、そして瞬く暇も与えず生命体そのものを消し飛ばした。
 指に引っかけ回したハンドガンを、今度は別のオブリビオンへ向けて構える。
「この姿を見たからには、一匹たりとも逃がさないよ」
 レインの宣言に違わず、銃口を弾かせた射撃はアゴニーフェイスを護衛する生命体へ次々と穴をあけていく。
 一方、駆ける銃弾から近い場所で、巽は差していた刀を抜いた。宇宙にも染まらない墨色の羽織袴は微塵も靡かず、ただただ巽の身を――人間の姿となった青年の身を、そうっとくるんでいる。
 地を這う蜥蜴じみた形は潜め、そこには六尺の背丈が佇む。
 ――刀を振るうのは、強くなるため。
 表情は至って穏やかだ。襲い来る奇妙な生命体を前にしても、巽が纏う気は揺らがない。
 生ある限り戦いは免れぬと染みこんだ巽の両手が、光る刀身で敵を見据える。
 ――誰よりも鋭く、誰よりも強く。ただ、それだけだ。
 強者がどちらか比べるのに戦場ほど適したところは無いと、巽は短く息を吐いた。
 振り下ろした刀は、人に似た形を真似たオブリビオンの、肩口から脇腹へ斜めに抜ける。斬った生命体の消滅を見届ける間もなく、別の敵が近づく。
 暴虐に浸そうと、敵が伸ばしたのは触手。太い触手が走る横では、別の個体が巽の死角へ回ろうと飛んでいた。
 す、と息を吸い、止める。停止はほんの一瞬のため。研ぎ澄ませた神経の先端は刀へ寄越し、巽が披露したのは無天流の技。
 狂った触手が彼の腕を目指そうと、彼の腕はそれを認めない。
 踏み込む地面が無くとも巽の動作に無駄はなく、突き出された触手を見事に捌く。触手の先端から入った切っ先が、見る見る裡に触手を真っ二つに裂いていった。
 続けて彼は、死角に入ろうとしたもう一体を、振り戻した刀の錆にする。
 力の侭、技の侭に振るう間、頬は人の肌をもってしても強張りを解かなかった。
「為すには甘い」
 飛散した生命体の名残が、巽の一言と共に闇へ消えた。
 巽の背負う『理』の一文字だけが、そうして消えゆく敵を見つめる。
 猟兵たちの攻撃が、徐々に護衛の数を減らしていく中、ガーネットもまた戦いを続けていた。
 生えた蝙蝠の翼で縦横無尽に宙を舞う。ガーネットにとって、得意とする空中戦と要領は同じだ。
 そんな彼女自身と同様、十字架を模った熱線銃も自由をものにし、浮遊する。ガーネットが複製したブラスターは、熱線の雨を群れへと降らせた。
「……神殺し」
 念動力で操るブラスターの不定な動きは、贋物の銃で落とそうと試みたオブリビオンの想定を上回る。
 オブリビオンの反撃ですら、狙いを定めたガーネットにとって造作もないことだ。偽りの熱線を、真の熱線で焼き切る。
「その力の一端。……目にして損は無い」
 自由に飛び、自由に撃つ熱線銃の雨を浴びて、嫉妬の醜い塊はあっという間に溶けていった。
 護衛が減少し、徐々に距離を詰めつつあった猟兵たちは、ようやく本命を射程圏内に捉える。
「……アゴニーフェイス……」
 誰もが口にし、あるいは声を喉に留めながらも思った。
 何者にも混じらずうら寂しく浮かぶ、精神破壊兵器の名を。

●貌
 蠢く生命体の群れを突き進んだ先、猟兵たちを出迎えたのは寂しげな顔だ。
 くすんだ金属が鳴り響く。訪れた猟兵たちへ、嘆き助けを乞うように。
 明瞭に姿を現したアゴニーフェイスは、苦痛に喘ぐ人間の顔を模してあった。
 標的へ仕掛けるべく動き出す猟兵たちだが、残敵がそれを許さない。嫉妬に塗れた生命体が、阻もうと寄ってくる。
 渇望を癒すため行く大蛇――フォルターは、かつてただ血を欲したときのように敵を喰らい続けた。
 貪るまでもなく、血肉の通らぬ生命体から血は吸えない。それでも生きる力を奪うには、丁度良かった。
 オブリビオンが触手を伸ばし、大蛇を模したフォルターを叩いても、都度、縋る腕より生命力を吸収してきた彼女の足取りは、軽いままだ。
 さらにフィリアの歌う治癒も重なり、黒い触手に鱗を擦られた痛みも無い。
 ――これこそ、奴らが目にする最期の光景よ。
 竜とも見紛う大蛇を模したフォルターは、追走する生命体に噛みつく。
 骨をも腐らせる猛毒を巡らせると、振り向いた勢いで別の個体を尾で叩く。
「……その身で篤と味わうが良い」
 異形の生命体は、英雄をも死に至らしめた大蛇の猛毒に狂わされながら、潰えていく。
 止まず追いつく敵をフォルターが喰らう傍で、アゴニーフェイスへの道を切り開くため、ガーネットは砲塔デバイスによる弾幕を展開した。
 ぬるりと這い寄る不定形の集まりめがけた熱線は、眩く辺りを照らしながら、飛び込んできた無数の触手を焼き捨てる。
「今のうちに!」
 ガーネットが声を張り、レインがすり抜けてきた触手を狙い撃ちして落とす。
 射手同士、視線を重ね頷いてから撃つタイミングをずらしていく。接近されるまでの時間を稼ぐ彼女たちに、心得た、と巽が応じる。
 刀を斜めに下ろし、巽は宙を駆ける。風を切るような姿勢のまま突き抜け、アゴニーフェイスへ向かう彼を別方向からオブリビオンが触手で狙う。
「だめっ!」
 銃口の前へ躍り出たのは、眩い真白。
 煌めく双翼を羽ばたかせたフィリアが、醜き生命体の前方で両腕を広げた。
「これ以上、あれを撃たせないためにも……」
 アゴニーフェイスを一瞥し、息を吸うのも忘れてフィリアは言葉を吐き切る。
 黒き魔手が彼女の白を叩いた――かと思われたがしかし、フィリアは帯びていたオーラを一点により集め、光の珠で触手の先端をはじき返す。衝撃で、長く黒い彼女の髪が大きく波打った。
 続けてフィリアは愛唱する。道端で咲く菫のようにさりげなく。人の手で固められた路の縁からも顔を出す菫の強さを、竪琴から解き放って。
「フィリア、無茶は良くないよ」
 敵の突破を許さぬよう、銃撃を休まずにレインが告げる。フィリアの表情は安堵に綻んだ。
 凍てつく宇宙に光がちらつき、銃弾は次から次へと暗い生命体たちを貫く。
 すると空いた穴の向こうから、もう一体が突撃してきた。腕らしき細い身の先端にあるのは、贋作の銃。
「お前が何を欲しがってるのか、知らないけれど」
 レインの眼差しと銃口の先が、重なる。
「もう嫉妬に苦しむことはないよ。なぜなら」
 生きとし生けるものを嫉妬で抉ろうとする生命体は、精巧な銃を模した腕から連射した。
 弾と弾が正面からぶつかり砕け、後続の弾同士もすれ違うことなく相打つ。
 だが、醜怪な生命体はひとつ見逃していた――レインの速射の腕を。
「僕らがお前を、ここで終わらせるからだ」
 生命体が気づいたときにはもう、レインの銃弾が命を撃ち終えていた。
 消滅していくオブリビオンの余韻を掻き消したのは、竜に近い相貌の大蛇、フォルターだ。
「苦悶の貌には、まだ遠かろう」
 図体に食らいつく九つの顎。牙から流し込むのは、死へ誘う毒素。
「さあ、我を愉しませろ……!」
 最後の一体となったのが運の尽きか。
 足搔こうと吐き出した妬心の塊も、そこから生まれた触手も、縋るすべなくフォルターの毒に命を奪い尽くされた。

●終の声
 宇宙であろうと理はある。
 そう胸中に想いを宿す巽は、アゴニーフェイスの目と鼻の先にいた。
 世界を映してきた目を閉じ、瞼の裏に広がる闇へ意識を浸す。
 思い描く姿が露わとなった彼は、在り方を今一度かみしめる。
 無限なる天によって生がある。だが、地べたを知る蜥蜴に人間のような成長はなく、鳥よりも高いところは得られない。だからこそ、巽の『真の姿』はヒトなのだろうか。
 思考は沈みきらず、ただ指の腹で刀の柄をなぞるばかり。
「平時は唯のトカゲだが、今だけは此の形で相手になろう」
 瞼越しに、アゴニーフェイスの表情を想う。
 静かに時機を待ち、翳そうとするのはかつて彼が自由を得た剣。自由を取り戻すために、助けとなるため、彼はそれをまた手にする。
 やがて彼の心が至るのは無の境地。
 そしてひと思いに過去の因果を――アゴニーフェイスを断ち切った。

 常の姿を取り戻した猟兵たちの内、ガーネットが突然、息を呑んだ。
 呼吸を置き忘れたかのように瞳孔を開き、微動だにしなくなる。
「……どうしたんだい?」
 異変を察知したレインが顔を覗き込み尋ねると、ガーネットは繊細な身を慄かせた。
 なんだこれは、と愕然としながら頭を抱える。
 頭痛や耳鳴りとは違う。自身が有する念動力を通して訴えてきているのだと、ガーネットは察した。
「声が聞こえた……あいつらの」
 伝えながら、彼女の双眸が雫を落とす。
「犠牲になった、サイキッカーの声だ」
 ガーネットが力んだ拳は爪が食い込み赤く滲む。そして秘める口惜しさを刷いた唇は、噛みしめたことで白んだ。
 キッと宇宙の彼方をねめつけたガーネットは、艦隊を率いる者の名を叫ぶ。
「どこだッ……どこにいる、黒騎士アンヘルッ!」
 ガーネットの視界に捉えられずとも、未だに宙を跳ぶ船があり、いずれもアンヘル直属のアゴニーフェイス艦隊であると考えれば、虫唾が走った。
 宙を探し始めたガーネットの後背を見つめ、猟兵たちは昼も夜もない宇宙の色を瞳に映す。
 星の何処かを行く数々の船と、果ての無い空間に在る自分たち猟兵の姿。
 少なくとも今彼らが浮かぶ場に、数多の人生を苦痛に歪ませた『アゴニーフェイス』は、もう存在しない。
 猟兵たちの手で砕いた金の残骸と共に、底気味悪い表情は跡形もなくなった――けれど。
「戦はまだ続くのね……」
 手を合わせて指を折りたたみ、フィリアはそっと祈った。
 どこにでもいる少女は、どこにでもあるような悲しみと、どこにもないような苦しみに胸を痛め、瞳を濡らす。
 精神破壊兵器の弾薬として利用された脳と、その悲鳴に飲み込まれ命尽きたかつての解放軍。
 非道を地でゆく兵器によって生まれ続いた苦悶。それが少しでも晴れて欲しいと、フィリアは願わずにいられない。無念の底に沈んだ魂が、良き方向へ導かれるようにと。
 彼女は帰還するその時まで、歌を紡ぎ続けた。
 導きの星に似たペンダントを、ぎゅっと握りしめて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト