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殲神封神大戦⑰〜M'aider!

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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「……今回、皆に倒して欲しいのは……渾沌氏“鴻鈞道人”!
 自分を“骸の海”とか自称しちゃう、なんかヤバい感じの相手だよ」

 グリモアベースにて、招集された猟兵たちを見回しながら隻眼の少女はそう告げる。
 イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)。
 一応グリモア猟兵の風上の端っこのほうにこっそり居座っているような猟兵だ。

「それで、皆に行ってもらうのは仙界の最深部“渾沌の地”なんだけど。
 コントンって言うだけあって、不定形のよくわかんない場所みたいなんだ。
 そこで、鴻鈞道人は皆を待ち構えているハズだ」

 何かアドバイスをしようと思っても、渾沌の怪人に対してどう立ち回るべきか。
 それを思い浮かべるのはイサナには少々難しいようだった。
 何せ、具体的な未来がまだ見えない。予知どころか、予感レベルの漠然としたもの。

「……敵は、どうやらオブリビオンではないらしいんだ。
 わざわざ骸の海を自称しているくらいだから、何か関係があるのかな」

 鴻鈞道人は間違いなく強敵である。
 しかし、猟兵たちはこれまで幾つもの死闘を乗り越えてきた歴戦の強者揃い。
 ならば今回も心配は無用。皆の無事の勝利と帰りを待つばかり。

「あとはそうだな……。鴻鈞道人の顔には左眼しかないんだ。
 なんだか失敗した福笑いみたいな顔してるよね」

 ……そうは問屋がおろさない。

『誰が』
「それじゃあ、皆を渾沌の地に―― え?」
『失敗した福笑いだ』

 送るからね、そう言いかけたイサナは自分の心臓を冷たい手に鷲掴みにされた。
 一瞬、そんな感覚が駆け巡る。
 強烈な違和感、恐怖、本能的な忌避感を覚えるイサナであったが。
 彼女のグリモアは既に猟兵たちを渾沌の地へと送り込んでいる。

「……ま、待って! まだわたし――」

 違和感はそれだけでは終わらない。
 彼女の開いた『門』は、猟兵のみならず、イサナ自身をも吸い込んでいたのだから。



「……えええええ。なんでわたしまでこんなところにいるんだよ……」

 目映い光が晴れた後、転送された渾沌の地にてイサナは困惑の声を上げる。
 周囲では、同様に転送された猟兵たちも頻りに首を傾げていた。
 そういえば、鴻鈞道人とやらは一体どこにいるのだろう?

「ここにいるぞ、先程からな」

 ふと、誰かが上げる問いに答えた声は。
 他でもない、イサナ・ノーマンズランドの唇から出たものだ。

『なんだ、おまえも見えているのは左眼だけか』
「え? 何、これ……」
『私とお揃いだな』

 周囲に響く思念と音声のやりとり。
 こんなところで悪巫山戯はやめろ!そう声を上げる者は誰もいなかった。
 これは明らかに尋常の出来事ではない。

「……そうか。鴻鈞道人はわたしを乗っ取るつもりだったんだ……。
 くそっ、なんかすっごい癪だけど。……みんな、わたしをやっつけろ!
 でないと、わたしがみんなを殺す。……警告、したから……ね……」

 その言葉を最後に、少女の纏っていた気配は全く別のものに変質した。
 そして、振り返ったイサナの左眼は、先程とは全く違う剣呑な光を帯びている。

『……さて、と』
「いや、もう思念で会話する必要はないか」

 言いながら、つい数秒前までイサナ・ノーマンズランドであったはずの娘は。
 否、渾沌氏“鴻鈞道人”は笑った。

「聞いての通りだ。罪深き刃“ユーベルコード”を刻まれし者達よ。
 どうした。さっさと構えろ。これを凌がねば死ぬのは貴様らだぞ」
 
 虚空より現れる巨大な棺桶が重たい音を立てて道人の傍らに出現した。
 各種拷問具と重火器を満載した再殺兵装『カズィクル・ベイⅡ』である。
 本来、オブリビオンを屠るための武装は、今猟兵たちに牙を向こうとしていた。

「せいぜい相争い、私の左目に炎の破滅“カタストロフ”を見せてくれ」
 
 イサナの顔をした敵が笑う。かつて浮かべていたものとは全く異なる表情で。

「……ああ、そうだ。甘い事は考えぬほうが身のためだ。
 大好きだろう? 殺すのが。いつも通りにやればいい」

 定められた形を持たぬがゆえ、どのようにも変容する渾沌の地。
 それが乗っ取った肉体の潜在意識を反映してか、その形を変えていく。
 見渡す限りに広がる荒れ果て、渇き切った赤い荒野。
 そんな不毛の地には嘗て都市であった名残、廃墟群が墓標のごとく乱立する。
 それは、アポカリプスヘルの地にも酷似していた。
 


毒島やすみ
 お疲れさまです。
 戦争シナリオもこれにて6本目。
 こういう変則ネタは面白いのでつい……。
 
 なんと鴻鈞道人は瞬時にイサナの体内に潜り込み、融合してしまいました!
 渾沌の諸相を身につけた悪イサナは、他の猟兵達に襲いかかってきます。
 残念ながら説得の類は効果なし、鴻鈞道人の言うように手加減も非推奨です。
 身体を支配する鴻鈞道人が無力化されるまで、戦い続けることが唯一の解決法。
 戦闘後も容れ物の方が生きている事を祈りながら中身が死ぬまで殴りましょう。
 ……手加減はしちゃいけませんが、やさしくしてね?

 尚、このシナリオに参加する猟兵は、シナリオ開始の時点で
 既に転移させられていたものとして扱います。
 
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 プレイングボーナス
 グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィロメーラ・アステール
ひゃー! ごっつい武器!
あたしのようなモンがアレを食らったら?
そりゃもう大変!

あ、でもアレは破魔の力を宿した装備?
【破魔】の力なら持ってる!
同属性の【オーラ防御】で威力を少しでも抑えよう!

でも、できれば当たりたくない!
とりあえず光を屈折させる光学【迷彩】魔法の【物を隠す】効果で姿を見えにくくしよう!
その上で動き回れば狙いをつけられにくい!

でも敵も強そうだし、迷彩くらい見破りそう!
なんかヤバい殺気的な、狙われてる感じが【第六感】にビビっと来るかもしれない!

そしたら【カウンター】で【目潰し】の聖なる破魔の閃光!
装備はともかく中身は悪だし効くんじゃ?
うまくいったら【スーパー流れ星キック】で追撃だ!


トリテレイア・ゼロナイン
年端もいかぬ少女に刃を向けた事は幾度もありますが

…やはり、やりにくい物ですよ、イサナ様

重機関銃の弾丸を大盾にて防御
恐らく本命は…渾沌籠めし杭打機の一撃!

迫る一撃に瞬間思考力にて反応
剣振るって迎撃
剣が棺桶を捉える前に、杭が此方に届くか

超重フレームの前腕部伸縮機構作動
リーチを伸ばす騙し討ちにて相手の間合い見誤らせ
杭を怪力で武器受け、弾いて逸らし

次の一撃は、放たせはしませんとも!

UC起動
触手の如きワイヤーアンカーを操縦
四肢を始めとした全身に突き刺しナノマシン注入
電気信号にて操作試み相手の抵抗にて動作を硬直させ

綺麗な傷でなければ故郷の再生治療も限度があります
…暴れないで下さいね

御免!

近接攻撃で滅多打ち



●あやつる意図を絶ち切って
「では、始めるとしようか」

 見るからに重厚な作りをした、総金属製の棺桶。
 明らかに少女の腕力で持ち上げられるような代物ではない。
 
「ひゃー! ごっつい武器! アレは食らいたくないやつ!」
「フィロメーラ様、どうか私の後ろへ!」

 しかし、イサナ・ノーマンズランドは猟兵。
 尋常の物理法則を捻じ曲げるような存在だ。
 そしてそんな彼女の肉体を今支配しているモノは混沌そのもの。
 尋常の枠から飛び出した存在は、本来同胞である筈の猟兵たちに牙を剥いた。
 棺桶がその装甲を展開させ、露出する二本の衝角。即ち重機関砲の砲身と、巨大な杭打機。再殺兵装『カズィクル・ベイⅡ』がその本性を顕とし、咆哮する。

「……年端も行かぬ少女に剣を向けた事は幾度もあります。
 それでも……やはり、遣り難いものですよ、イサナ様」

 重機関砲の砲身が向けられた先に居たのはフィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)。そんな彼女を護るべく、無数に降り注ぐ機関砲の弾雨を遮るように立ち塞がったトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)。彼を飲み込もうとする弾丸は、然し彼が構えた身の丈をも超えるサイズの大盾によって弾かれる。装甲を乱打し、擦過しては跳ねていく弾丸たちが上げる悲鳴じみた音。それは途切れる事なく響き続け―― 少しずつ、その音は変化していく。

(……長くは、保ちませんね)

 如何に頑強な装甲であれ、立て続けに強力な弾丸の連射を叩き込まれれば疲弊し、じわじわと削られていく。ただ耐えるだけではより不利な状況へと追い込まれると判断したトリテレイアは、巨大な盾を翳しながら、一歩ずつ着実に彼我の距離を詰めていく。盾を破られようと、彼の巨体は強固な装甲を備えていたが、今彼の後ろに控えるフィロメーラにまでそんなモノは備わっていないのだ。

「うう、あたしがアレを食らったらそりゃもう大変。
 ……でも、アレは破魔の力を宿した装備!」

 フィロメーラもまた、ただ護られるだけの妖精ではなかった。
 その身を盾とするトリテレイアの巨体に寄り添いながら、彼の大盾に自身の破魔の力を流し込む。同質の力を障壁代わりに纏わせる事で、大盾の装甲をより頑丈に強化するのだ。

「……フィロメーラ様、感謝致します!」
「でも多分付け焼き刃だと思う!」

 機関砲の弾幕が不意に途切れる。
 無数の弾丸を撃ち込まれ、強化されて尚歪んでしまった弾痕だらけの盾を打ち捨てたトリテレイアの眼前で、棺桶を抱えたイサナが笑う。イサナの肉体を乗っ取った鴻鈞道人が笑う。その背を突き破り、白い巨大な片翼が姿を現した。

「……このまま一方的に擂り潰すのも良いが、少々盛り上がりに欠ける」
(恐らく本命……渾沌込めし杭打機の一撃ッ!)

 電脳に走る警告音よりも疾く、トリテレイアは抜き放った長剣と共に踏み込んだ。

「……玩具遊びも此処までだ!」

 翻った翼から白い羽根を雪のように幾つも散らし、棺桶から伸び出した巨大杭が唸る。轟音と共に射出される杭は剣閃よりも尚疾く。然し、その切っ先がトリテレイアを撃ち抜く事はない。

「……なに?」
「ざんねん!」

 トリテレイアを穿ったハズの杭先。
 それは何もない虚空を突き刺していた。
 正確に言えば、トリテレイアはまだその間合いに到達していない。
 間合いの認識を狂わされていたのだ。
 自らに及んだ認識の異変を鴻鈞道人が悟るのはトリテレイアの肩の上で笑う小さな妖精の存在に気付いた瞬間だ。フィロメーラは、盾を強化すると同時に、その後ろに身を潜める自身らにある魔術を施していた。それは光を屈折させ、自身たちの姿を本来よりも大きく映す事により――

「こちらの視覚を騙したという訳か」
「……えへん。光学迷彩、ってワケよ!」

 そして、それとほぼ同時。トリテレイアの剣握るその腕が、伸びた。
 装甲を展開し、内蔵フレームが伸縮する事で、未だ届かぬ筈の不足した距離を強引に埋める。空を穿つ杭先を絡め取るように纏わり付く刀身が、強引に棺桶そのものを大きく逸らす。巨大な得物に引っ張られ、イサナの矮躯は虚空を泳ぐようによろめきバランスを崩した。

「……おっと……これはいかん、な……?」
「次の一撃は、放たせはしませんとも!」

 トリテレイアの全身から幾つも射出される触手のごときワイヤーアンカー。
 それらは思い思いの方角から一斉に襲いかかり、少女の全身を突き刺していく。アンカーの先端から流れ込むナノマシンが、イサナの肉体を操る意思に介入するべく、次々と送り込む電気信号。

「……ほう。人形が人形遊びとは、なかなか愉快な出し物だな!」
「……戯言を!!」

 トリテレイアの送り込む強制停止の信号に対し、鴻鈞道人が抵抗する鬩ぎ合い。
 操り人形めいたイサナの肉体は一際強く跳ねて、そして動きを止めた。

「…………っ! やるではないか、だがな!!」
「やらせないってば!」

 強引に電気信号を打ち破ろうと鴻鈞道人が力を込めるその一瞬。
 それを制し、先んじるタイミングでフィロメーラはその眼前に飛び出した。
 彼女がその両手に込めた魔力は、大きく膨れ上がった破魔の閃光を生み出し、イサナの―― 否、鴻鈞道人の左眼へと突き刺さる。

「ぐっ……!?」
「中身は悪だし、ちょっとは効くかもと思ったけど……てきめんって感じ?」 

 視界を一瞬で焼き尽くした目潰しの閃光に堪らず蹈鞴を踏む鴻鈞道人。その頭上に素速く飛び上がったフィロメーラはまるで弾丸のような加速と共に鋭く降下する。

「……うまくいったから、これはおまけの追撃! ……スーパー!!」

 身体のサイズには釣り合わない大音声の叫び。
 続け様にフィロメーラの勢い良く突き出す脚は目映い閃光に包まれる。

「流れ星ッ! キィィィィィィィック!!!!」
「……アガッ……!?」

 その言葉の通りに、小さな流れ星と化したフィロメーラの蹴りが容赦なくイサナの後頭部を打ち据える。サイズ差をものともしない、隕石落下に等しいその衝撃を叩き込まれた頭蓋骨がみしりと軋む感触。いっそヒビさえ入ったかも知れない。
 さしもの鴻鈞道人も、その衝撃に咄嗟に反応する事は難しく―― 

「……スペースシップワールドの再生治療にも限度があります。
 傷はなるべく作りませんが」

 その隙にトリテレイアが追撃を叩き込む事は造作もない。
 間合いを詰め、正確無比に狙いを研ぎ澄ませた長剣が振り上がる。

「……御免ッ!!」
「くくっ!! ……実に罪深いな、貴様たち猟兵は! だが愉快だ。
 背負いしその業“ユーベルコード”、存分に見せるが良い」

 その尽く、剣の腹、或いは鋼の拳による打撃。無数に浴びせられるその衝撃の中、まるで糸の切れた人形のように翻弄されるイサナの矮躯。しかしその全てがウォーマシンの電脳による計算され尽くされた打撃で構成された滅多打ちは、彼女が倒れる事を容易には許さなかった。バランスを崩した身体を強引に引き寄せ、次の打撃を叩き込む流れるようなコンボは暫く止まる事なく続く。その中を、狂ったように鴻鈞道人は笑う。宿主の肉体を襲う激痛の最中にありながら、猟兵たちが相争う悪夢めいた光景に愉悦を覚えているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鋼・ひらり

同士討ちを仕向けといて煽り立てる…これ以上ない位『悪』の所業ね、気に入らない…悪いけど手加減なんて出来ないし、出来ても御免被るわ
とは言えそれでイサナが死んでもそれはそれで思う壺
…だからイサナ、根性出して生き残んなさい?
『悪(あいつら)』の思い通りになんて何一つさせない…諸共ぶっ潰して「ざまァ見ろ」って言ってやるわよ

UCが条件付バフなら先制はイサナの攻撃のみ対処すればよさそうね
各種拷問具と重火器? ふん、イサナから猟兵の能力は共有してないみたいね…磁力で無効化、或いは磁性体での迎撃、凌ぎ切って反撃

…半端な攻撃で流血させるのも厄介
ならこいつ…荷電粒子砲の熱量で血も出ない位に灼き飛ばす…!


疋田・菊月
あらあら、まあまあ!
同じ隻眼のよしみと言うやつですかね。
変なのに好かれてしまいましたねー
うーん、怪我人に鞭打つのは本意ではありませんが、手加減も出来ないみたいです
悪い虫がついてしまったなら、叩いて目を覚まして差し上げねば

いやしかし、あの棺桶は簡単に抜けそうにないですよねー
どうしましょうか、カミオさん

相手は出血大サービスですか。全く人の身体で好き勝手やりますね
ひとまず手投げ弾と九九式で応戦します
弾幕勝負は分が悪いですが、こちらのはるちゃんも装甲板は積んでますから少しはもつはずです
とはいえ、決定打に欠いたら装甲に任せて近付いてきますよね
こんなこともあろうかと、こちらも杭打機を積んでるんですよー!



●裂かすか 鴉か 現在
「……同士討ちを仕向けといて煽り立てる。
 これ以上ない位に『悪』の所業ね、気に入らないわ」
「それは残念だ。気に入って貰えると思っていたのだがな」

 先に浴びせ掛けられた猛打のダメージを意に介さぬ様子で鴻鈞道人は悠々と歩む。
 否、ダメージは十二分にある。彼の精神を宿したイサナの肉体に対して与えられたものだ。彼はそれを踏み倒して、その肉体を使い潰すつもりで居るのだろう。

「……悪いけど手加減なんて出来ないし、出来ても御免被るわ」
「怪我人に鞭打つのは本意ではありませんが、手加減も出来ないみたいですし」

 黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)は対峙する相手から感じた不快さを微塵も隠さずに告げる。そんな彼女の傍らで、蒸気仕掛けの三輪輜重車両『はる』に乗り込んだ疋田・菊月(人造術士九号・f22519)が続けながら、『どうします……?』とでも言いたげな視線をひらりに向けた。
 
「悪い虫がついてしまったなら、叩いて目を覚まして差し上げねば!」
「イサナが死なない程度にね。相手の思う壺なんて、絶対イヤだもの」

 二人の目の前で、鴻鈞道人に操られるイサナの肉体の腕が長く伸びる鎖を引き―― それに引きずられ、巨大な棺桶が地を掻き火花を散らしながら振り回される。咄嗟に『はる』に飛びつき適当な縁を掴んだひらりを乗せ、菊月は車体を強引にバックさせた。蒸気を噴き上げ駆動する車体のすぐ鼻先を振り回された棺桶が薙ぎ払い、その勢いのままにヨーヨー宜しく引き戻される棺桶をイサナの細腕が掴む。棺桶から飛び出した機関砲の砲身から低い唸りが聞こえ出す。

「ちッ……!!」
「出しますよ! 掴まってください!」

 限界を超えるような酷使に蒸気機関が悲鳴めいた唸りを上げ、吐き出す蒸気はまるで血反吐のよう。そんな断末魔めいた機関の唸りを塗り潰すように立て続けに響く砲声。カズィクル・ベイⅡの機関砲から撃ち出される砲弾が、風の壁を容易く引き裂き轟き叫ぶ。着弾するなり大地を抉り爆ぜさせるそれらを掻い潜るようにして、『はる』の小さな車体が赤土の荒野を疾走する。

「全く、人の身体で好き勝手やりますね。大盤振る舞いの出血大サービスですか」
「とは言え、本当に出血されちゃあ不味いのよね。色んな意味で」

 次々飛び来る凶弾を軽やかに擦り抜けやり過ごす。
 際どい弾丸は、しかし『はる』の車体に備わる装甲板が弾いて散らす。
 更に数と勢いに任せて飛んでくるものは、車体にしがみついたひらりの操る、『武器庫』より取り出された数多の鉄板が虚空を舞う盾となって弾き―― 或いは、ひらりの異能“磁力操作”によって強引に狙いを逸らされていく。その様子は同じ極同士を近付けた時、互いを拒むように弾かれてしまう磁石そのものだ。

「あら。分の悪い勝負かと思えば、そうでもない……?」
「結局、銃弾も斧も金属でしょ。磁力使いの前では寧ろあっちのが相性最悪よ」

 ひらりの張った指向性の磁力による不可視の防壁を纏う『はる』が鴻鈞道人までの距離を縮めんと疾走する。それ目掛けて殺到し、しかし不可視の盾に弾かれていく重機関砲の弾幕の隙間を縫うように、菊月の機関銃“型式九九K”が火を噴いた。カービン銃宜しく、騎乗用に切り詰めた短銃身の取り回しは、現在イサナの担ぐ棺桶の比ではない。

「……猪口才なッ!」

 薙ぎ払うような掃射に怯んだところに投げ込む柄付きの手榴弾が次々と爆ぜる。
 鴻鈞道人を囲むように立て続けに巻き起こる爆炎が荒野の風と赤土を乱暴に引き裂き焼いていく。吹き付ける熱風を切り裂いて鴻鈞道人目掛けて飛び込む三輪車両。

「こちらのはるちゃんも装甲板はしっかり積んでいますからね」
「……なんのこれしきッ!!」

 その突進を、真っ向から受け止めるのは巨大な棺桶、カズィクル・ベイⅡ。それはウェポンベイにして、重火器にして、質量兵器にして、重装甲の塊。圧倒的な取り回しの悪ささえ除けば、まさしく汎用性の極地である。

「……むむ、あの棺桶は簡単に抜けそうにないですよねー。
 どうしましょうか、カミオさん」
「おみゃー、だでいかんっつったがや! 知らんだぎゃ!」

 真っ向より叩きつけられた重車両の突撃の勢いまでは殺し切れずに飛んでいくそれを視線で追う菊月。そしてその肩に乗った名古屋弁で喋る黒鳥……の姿をした悪魔、カミオさん。ちなみに地の文を書く人の名古屋弁はインチキだ。

「……大丈夫、私がブチかましてやるわ!」

 言うなり、『はる』の車体を凹まない程度の加減で蹴るひらり。
 磁力の反発を活かして、前方へと弾かれるようにかっ飛んだひらりは、空中にてイサナの身体を追い越した。先回りするように着地するひらりの周辺に次々と展開されるのは、彼女の『武器庫』より転送された新たな鉄板。それは未だ虚空を飛び続けるイサナを取り囲むように次々と群がり―― 瞬く間に、鋼鉄の檻を……否、鋼鉄の砲身(バレル)を作り上げた。イサナの携える巨大な棺桶はまさしく磁性体の塊だ。それを基点に集う金属板たちは結束したのだ。

「半端な攻撃で流血させるのも厄介……だから、これで行くわ!
 ……熱量で血も出ない位に灼き飛ばす…!」

 鋼鉄のバレルの内側に走る青白い電光。それは次第に勢いを増し、その内部を破裂させんばかりに勢いを増しながら一点に収束する。

「何ッ……!? これは、もしや……!!」
「……イサナ! 根性出して、生き残んなさいよ」

 砲身内部に囚われた鴻鈞道人。否、その肉体の持ち主を案じる言葉と共に、ひらりは高らかに掲げた右手の指を弾いて鳴らす。響くスナップの音と同時、砲身の内部で収束したエネルギーが一気に開放される。雷鳴のような轟音。落雷のような衝撃と閃光。

「……ぶっ放した!」

 焼け焦げ融解した鋼鉄のバレルが次々と剥落し、崩壊していく。
 崩れ落ちていく砲身から吐き出された荷電粒子砲の直射を浴びたイサナの肉体は彼方此方を焼き焦がしながら弧を描いて緩やかに落ちていく―― 最中、その手が動き出し、棺桶に仕込まれたトリガーを掴む。黒煙混じりの咳を溢しながらの哄笑。同時に轟く銃声。降り注ぐ鉛弾の雨。それはひらり目掛けて殺到し―― 加えて、鴻鈞道人はその発砲の衝撃を推進力代わりに、菊月の操るはる目掛けて襲いかかろうとしていた。

「……ぐ、ぅっ…… ははははッ!! 今のもなかなか良いぞ、猟兵!
 次から次と品を変え、よくもまあ楽しませてくれるものだ!」
「……しぶといやつね! 本当、面倒くさいったらありゃしない!」

 降り注ぐ弾丸を、鬱陶しげに磁力によって払い除けようとするひらり。
 然し、不可視の防壁が弾丸を弾く事はない。 

「……ちッ!」

 咄嗟に飛び退き、続けて側転するひらりを追い、次々と銃弾が大地を抉る。
 
「……尋常の法則を書き換えられるのが貴様たちだけとは思うな。
 私は混沌。ゆえに、貴様らの操るその柵に律儀に付き合う義理はない」

 弾丸を、己が混沌により金属ならざるモノへと変えた鴻鈞道人の権能。
 その牽制は、ひらりの出足を一寸遅らせ後手へと回らせる。
 己が襲いかかる菊月への援護をさせぬつもりであった。

「まずは一人、仕留めていくとしよう!」
「…………菊月っ!!」

 菊月の駆る『はる』を目掛けて突き進んでいく鴻鈞道人。
 その突進を止める手立てはない。ひらりが全力で追い縋ろうと、間に合うかは紙一重。しかし、それを風防のガラス越しに見上げる菊月に焦る様子はなかった。

「……ご心配には及びませんよ、ひらりさん」
「せっかく積んできたもんだで、はよ使いやぁ」

 カミオの言葉と共に『はる』の車体が割れ、其処から迫り出すもの。鴻鈞道人……いや、その肉体の持ち主たるイサナにはよくよく見慣れたものだったはずだ。

「こんなこともあろうかと、こちらも杭打機を積んでるんですよー!」

 展開されたはるの装甲の内側より迫り出したものは巨大な杭。それは放物線を描いて落ちてくる鴻鈞道人の位置に合わせて角度を調整。まるで砲声めいた、炸薬式の射出音の轟きと共に狙い澄ました重たい一撃を真正面より叩き込んだ。

「……がっ……!?」

 咄嗟に盾代わりにしたカズィクル・ベイⅡが誇る頑強な重装甲。
 それをも易々と突き破る巨大杭の一撃が秘める凄まじい威力。
 その余波はイサナの肩口を浅く抉り、その勢いで棺桶ごと矮躯を吹き飛ばす。
 火花と、血と、鉄片が虚空に散る。

「……同じ隻眼のよしみ、と言うやつですかね。
 けれども、その身体からはすぐに出て行っていただきますよー」
「そうだぎゃ。おみゃー、そのままだともっと痛えー目にあうがや」

 ……それは、その肉体の本来の持ち主にとっても勿論そうなのだが。
 思い当たっても、それを指摘するひらりではなかった。
 結局、全力で相手を無力化するのが最善であるのだから。

「…………ちゃんと、生き残んなさいよ」

 再び吹き飛ばされていく小さな身体を見送りながら。
 せめて紡ぐのは、彼女なりの激励か。或いは祈りか。
 もしくはその両方の込められた小さな言葉が微かに荒野に響く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
殺す事自体は結果に過ぎません
私が大好きなのは、千の睦言にも勝る一合の刃を積み重ねる闘争其の物です

故に愉しみましょう、この『逢瀬』を

◆行動
敵の先制攻撃対策として、相手の傷の度合いに応じて自身を傷付け相手よりも多く出血
攻撃其の物は【限界突破】する程【各種耐性】を高めた【オーラ防御】の展開で対抗

出血させないと言うのは一見ハードルが高そうですが…
ダメージを通しつつ出血を阻害する術も無いわけではありません

<真の姿を開放>

『涅槃寂静』にて「凍結」属性の「濃霧」を行使し【範囲攻撃】
傷口諸共血流を凍て付かせ出血を阻害
失血死も防げますから、後の治療も間に合うでしょう

私自身も【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】
此方も出血を強いる類の攻撃ではありません

負傷は【各種耐性】を【限界突破】する程高めた【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復

貴方には感謝しておきましょう
深淵を見入る事で怪物と重なったグリモア猟兵が戻る事で、我々は骸の海を識る…

では、ノーマンズランドさんを返して頂きましょうか


朱鷺透・小枝子

お前…!お前!お前おまえおまえぇえええええ!!!!

ディスポーザブル03【操縦】後方へメガスラスターで【推力移動】しつつミサイルの【吹き飛ばし】攻撃。近付かせないその上で渾沌の諸相をサイキックシールドで【オーラ防御】

その身体から!イサナ殿から!!出ていけぇええええええ!!!

オーバーロード外殻ユニット装着
内蔵ビーム砲・10指格散ハイペリオンツインランチャーによる【範囲攻撃】
貫通ミサイル【一斉発射】廃墟群一掃、
ナパームミサイルの【地形破壊】で敵移動範囲を狭め、
クラスターミサイルで【絨毯爆撃】
『鴻鈞道人』イサナ殿の動きを人工魔眼の【動体視力】と【瞬間思考力】で捉え、パルスミサイルによる【マヒ攻撃】動きを停めさせる!

エネルギー充填、間に合わない!ああああ敵を壊せ!!なんとしてでもー!!!

【敵壊装】武装:2機目の外殻ユニット装着ディスポーザブル03
イサナ殿に向けて10指超巨大荷電粒子ビームの【収束砲撃】の一撃を放ちイサナ殿と融合している敵・鴻鈞道人の存在のみ【呪詛】崩壊させ【焼却】する!



●死を踏み、生きているモノたち
「殺す事自体は結果に過ぎません」

 対峙する、鴻鈞道人を前にして霧島・絶奈(暗き獣・f20096)はそう告げる。

「私が大好きなのは、千の睦言にも勝る一合の刃を積み重ねる闘争其の物です」
「……とどのつまりは、同じ事であろうが。取り繕うなよ、神を気取る獣が」

 少女の貌をした混沌は嗤う。
 踏み躙られ続けた過去全てを内包する《躯の海》を自称する、オブリビオンならざる敵。それがもし事実ならば、過去は今、現在に追いつき全てを飲み込もうとしているのだろう。その先に待ち受けているのは、炎の破滅という名の未来。虚無の終着点だ。

「共に愉しみましょう、この『逢瀬』を」

 鴻鈞道人の言葉に対する答えではない。
 ただ、闘争(おうせ)を愉しむ。望む有り様のみを絶奈は示して見せた。

「……良かろうさ。ならば愉しめ、獣よ」

 混沌に歪められ、変質した肉体に生じる翼を広げ。
 棺桶を携えた隻眼の少女が嗤う。

「愉しめるものなら――…………?」

 いざ始まる激突。そう思われた瞬間の事である。
 
『お前……! お前! お前、おまえおまえおまえぇぇぇぇッ!!!!』
 
 鴻鈞道人の上に浮かぶ巨大な影。それは、一機のロボットだ。
 その巨体を分厚い装甲、重火力、無限軌道にて鎧う、分かりやすい程のスーパーロボット。朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)が駆る、ディスポーザブル03。過積載気味の超重量機体を外付け式の巨大推進ユニットにて強引に飛翔したそれは、全身の装甲の各所を展開させた。内蔵されたミサイル弾頭が次々と顔を出し、白煙の尾を引いて一斉に射出される。

『その身体からッ!! イサナ殿からッ!! 出て行けぇぇぇッ!!!!』

 小枝子の咆哮を乗せ、降り注ぐミサイルの雨。
 大規模な対地爆撃が地表を荒々しく乱れ打ち、巨大な火球を幾つも生み出した。

「そちらの貴様は、理解り易くて好い」

 燃え盛る爆炎を斬り裂く混沌の白き翼。切り裂いて尚暴れ狂う焔に焼かれ、焦げ散る白い包帯。その下に閉ざされていた、少女の右眼が開く。其処に充ちるのは、躯の海に満ちた混沌そのもの。

「だが、頭が高いな!」
『……ッ! シールド、最大出力ッ!!』

 ほぼ反射的に、小枝子はディスポーザブル03の機体前面をサイキックシールドで覆う。それと全く同一のタイミングで、イサナの開かれた右眼より放たれた混沌は一種の熱線と化し、シールドごと深々とディスポーザブルの纏う分厚い装甲を焼き切った。

『……ぐッ……!?』

 シールドが解け、続いて赤熱化した溶断面が火を噴いた。
 コクピット内に響くアラート音の繰り返しに、小枝子の理性と判断力はじわじわと削られていく。見下ろした先では、焔の海の中に佇む娘が、その両翼を広げながら携えた棺桶をゆっくりと持ち上げている。其処から突き出された砲身が狙っているのは、考えるまでもない……ディスポーザブル03のコクピットの位置だ。

「そろそろ一匹くらいは仕留めておかねばな……!」

 当然、敵を滅ぼす絶好の機会をむざむざ見逃す鴻鈞道人ではない。
 躊躇も淀みもない所作で引き絞られるトリガー。
 しかし、其処から吐き出された弾丸が小枝子を捉える事はない。

「……ただの獣とは、一味違いますよ」
「象も、鯨も、快牛も。群れるものなら、獣とてそうするだろうさ」

 ディスポーザブル目掛けて撃ち込まれた機関砲の弾丸は、射線上に割り込む形となった絶奈がその身を盾とし受け止める。瞬間的に限界以上に出力を引き上げたオーラの障壁は、致命傷となり得る被弾部位の尽くを防護し―― それでも防ぎ切れぬ無数の弾丸が、彼女の腕や足を掠めて肉を裂く。足元へと飛び散った飛沫が荒野の焼けた土をより赤く染める様を、彼女は静かに見下ろしながら呟いた。

「……好きに言ってくれますが。
 こちらは極力、その身体に傷をつけないように戦っているのですよ。
 ですが、そろそろそちらの流儀に付き合うのも終わりとしましょう」

 絶奈の佇まいは一見すれば淑女のそれにも見えるだろう。しかし、其処から滲み出る雰囲気は今や手負いの獣を彷彿とさせる重圧へと変わっていた。 

「ノーマンズランドさんの肉体の保護は、私に任せてください」
『…………ならば、鴻鈞道人を引き摺り出すのは自分がッ!!』

 絶奈と小枝子は、視線を合わせる事なく、同時に互いの意図を確認し合った。

『「これ以上、好きにはさせない」』

 絶奈の纏うローブが、その形を変える。風に靡く銀髪はそのまま。纏う白もそのままに、然しその全容はまるで死神めいたものへと装いを変える。何時しかその手に携えていた大鎌を緩やかに持ち上げ、肩へと担げばその印象は益々に強まった。

「成程、ただの獣ではない。……確かにそうだ」
「……勿論、神ですから」

 赤土の荒れ果てた世界を、白が支配する。
 何時しか風は冷気を孕み、流れ行くそれには雪さえ混じる。
 急速に発生する銀箔の濃霧が、混沌の世界を侵食していた。
 真の姿を開放すると同時に、絶奈が発動させたユーベルコード『涅槃寂静』。それは凍て付く冷気を帯びた濃霧を周囲に撒き散らし、あらゆるものを凍結させていった。それは、今絶奈と対峙している鴻鈞道人に対しても例外ではない。頬や髪先が白く凍りつく。冷気は彼女の纏う異形の翼にも霜を広げていく。その身に帯びた傷口は凍り、血の一滴さえ流れ出る事もない。

「……これで、ノーマンズランドさんが失血死することもない」

 白く凍結した棺桶から貼り付く掌を強引に引き剥がす。
 裂けて破れた皮膚から血が流れない事を確かめながら、鴻鈞道人は嗤った。

「だが、この環境下でこの肉体が長く保つとも思えぬがな」
「無論、そう時間を掛けるつもりはありませんとも。……御覧なさい」

 絶奈の言葉に、鴻鈞道人は彼女の促した先を見上げる。其処にはディスポーザブル03が浮かんでいた筈だった。しかし、其処に浮かんでいたものは先に被弾し、今にも墜落してしまいそうだった機体ではない。

「……更に大きくなったな」
『これは巨大外殻ユニットだ!!』

 その機体限界を越え駆動し続けるディスポーザブル03。機体全体を防護、強化するが如く、更なる巨大な外殻がその身を覆う。まるでマトリョーシカ人形の如く重ね着をしたそれは、今や単なる巨体を通り越して宛ら空中要塞めいた威容を誇っていた。緩やかに浮遊し続けながら、白く染まった荒野に立つ鴻鈞道人を見下ろす圧倒的な存在感。単純な彼我のサイズ差が齎す強烈な重圧は、しかしさしもの鴻鈞道人であろうとも一瞬気圧されるには十二分に過ぎる印象を作り上げていたのだ。

「……ちッ!!」

 一拍の逡巡の後、巨大な翼が大地を叩く。
 白い雪と土砂を散らし、棺桶を抱えたイサナの身体が空を舞う。
 立ち込める冷気によって、その身動きは俊敏さを失っていた。それでも尚強大な混沌の齎す怪力が、不足を補って余りある弾丸の如き勢いを与えている。

『……決して、お前を逃しはしないッ!!』

 重機関砲の連弾が唸りを上げ、飛来する。その尽くは、外殻ユニットから発生される強固なバリアによって弾かれ、装甲に届く前に焼き消えた。それでも諦める事なく続け様に間合いを詰め、叩きつけられる巨大棺桶が重厚な筈のバリアを軋ませ、亀裂を幾つも走らせる。

「……もう一度ッ!!」
「やらせませんよ」

 再度棺桶を叩きつけようとした鴻鈞道人目掛け、地上より絶奈が振るう大鎌の一閃。その刃が切り裂いた空間が揺らぎを生み、それは膨れ上がって幾つもの衝撃波へと変化する。立て続けに振るわれる、遠間からの不可視の連撃を撃ち込まれ、咄嗟に盾代わりとした巨大な棺桶は次々と切り刻まれ、解体されていく。遂に受け止め切れなくなった連弾―― 解体された棺桶の破片を散らしながらも、上空の鴻鈞道人は新たなる得物を取り出した。右手に散弾銃、そして左手には首切斧。解体寸前に抜け目なく取り出された、いずれもイサナの得意とする扱い慣れた武器たちだった。

「……まだだッ!! まだ終わらせはするものか!」
「……ひとまず、貴方には感謝しておきましょう。
 深淵を見入る事で怪物と重なったグリモア猟兵が戻る事。
 それにより、我々は骸の海を識る事ができる」

 尚もイサナの肉体にて食い下がろうとする鴻鈞道人目掛け、絶奈の叩き付けた衝撃波。身を守る盾を失った事で、それをまともに浴びて態勢を崩した鴻鈞道人の視界の先には――。

『…………言ったはずだ。決してお前を逃さないと』

 その十指それぞれに備わったビーム砲。そして全身各所に備わるミサイルの全弾頭を以って。最大火力を解き放つ瞬間を待ち受ける小枝子の姿があった。

「……私は!! このまま過去になど、ならないッ!!」

 至近距離より乱射する散弾。
 この期に及んでは灯籠の斧とも呼ぶべき抵抗であっただろう。
 それは、巨大キャバリアの装甲に届く事もない侭に弾かれ消えていった。

『止まれ…… 止まれ、止まれ止まれ、止まれェェェェェッ!!』
「……ぐぅぅぅぅぅッ!!!!!」

 コクピット内では、小枝子は文字通りに血涙を流していた。
 その人工魔眼を限界以上に酷使し、イサナの肉体を支配する鴻鈞道人の動きを見極めんと注視する。脳が、神経が悲鳴を上げるのも構わず、超加速した思考が彼の身動きを封じようとしていた。無数に降り注ぐ迎撃の中を掻い潜る鴻鈞道人であったが、遂には至近で爆発したパルスミサイルの生み出す強烈な電流が、イサナの肉体の凍りついた神経に漸くトドメを刺した。

「……良いか! 貴様たちに、踏み躙られた過去の全てがッ!!
 貴様たちを飲み込み食らうのだ! 手始めにこの肉体から始末してやる!」

 最後の力を振り絞り、苦し紛れに投げ付けた首切斧が、唸りを上げて回転する。
 ほぼ同時、十本の巨大な指が正確にイサナの肉体を補足する。

『…………イサナ殿は、壊させない! 壊すのは、お前だけだッ!!
 ディスポーザブル、敵を壊せ……! なんとしてもだァァァァッ!!』

 巨大な10指それぞれに収束する荷電粒子ビームの輝きが一点に収束される。
 そこから放たれた巨大な閃光は、逃げ場のないイサナの身体を撃ち抜き―― 
 正確には、イサナの肉体に宿った鴻鈞道人の存在のみを捕捉していた。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 呪詛のみを崩壊させる破邪の砲撃。
 それは凍てついたイサナの肉体に染み付いた彼の存在をまるで漂白していくかの如く焼き払った。異形の翼が跡形もなく砕け散り、空の眼窩を満たしていた筈の混沌は、まるで蒸発するように散り失せていく。

「…………私は、過去になど…… 過去に……」

 染み付いた最後の一欠片が、ビームの閃光に焼かれ、その中に飲み込まれては消えていく。純白に染められた荒野が緩やかに溶けていくその中で、絶奈は見上げた頭上に両腕を伸ばす。

「では、ノーマンズランドさんを返して頂きますよ」

 微かに顔を逸らし、すぐ脇を轟音と共に通り過ぎたものをちらりと一瞥する。
 それはまるで回転鋸めいた勢いで投げ付けられた、先の首切斧。
 其処に込められた最後の執念めいたものに何かを思うのも、ほんの一瞬のこと。
 絶奈の腕は、力尽き墜ちてきたイサナの小さな身体を確かに受け止めるのだ。
 傷だらけの凍りついた身体は、冷え切っていた。それでも微かに身じろぎをしている。呼吸もしている。過酷な環境で生き延び続けてきたその子供は、強い生命力を持ってもいるのだろう。……急いで処置せねばならない状態には違いなかろうが。

(……私は、完全には 滅びぬ。何度でも、蘇ろうぞ。また逢おう、猟兵)

 ふと、最後にそんな声を聞いた気がして、絶奈は思わず背後を振り返った。然し、其処には小枝子の駆るロボットの規格外の超巨体が誇らしげに浮かんでいるだけだった。 

『絶奈殿! イサナ殿はご無事で!?』
「……ええ、問題ありません。急いで手当をすれば大丈夫です」

 大音声で響く小枝子の声に答えて、歩き出す絶奈。
 確かに敵は倒した。グリモア猟兵を死なせず、取り戻す事もできた。
 それでも、鴻鈞道人とはまた相対することになるだろう。
 そんな予感……寧ろ確信に近いものを懐きつつ、絶奈はもう振り返らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月29日


挿絵イラスト