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殲神封神大戦⑰〜ほんとうのりょうへいに。

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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 ああ、嬉しい。
 嬉しい嬉しい嬉しいの。
 こんな嬉しいことがあるなんて。
 あは、あはは。
 これでやっと、あたしは──!

「ほう」
 鴻鈞道人……正しくはその概念あるいは想念とでもいうべきものは、興味深い感覚を覚えて隻眼を細める。
「愉悦、喜悦。六番目の猟兵どもはまこと興が尽きぬ。この鴻鈞道人に取り込まれてなお、喜ぶことがあろうとは」
 然り。
 既にユメカ・ドリーミィは鴻鈞道人の中に取り込まれてしまっている。
 その体も思いさえも、すべて敵の手に堕ちて、それでもなお。
 彼女の歓喜は正真正銘たるものだった。
 魂を揺さぶり心奥を震わせるほどに。

 ああ、だって。
 やっとあたしは、みんなと同じ。
 これまでずっと、寂しかった、悲しかった。
 申し訳なくて、恥ずかしかった。
 あたしはみんなを送り出すだけ。
 皆が命をかけて戦っている姿を、皆が苦しみや悲しみや怒りに震えて、血を流し肉を切らせ涙に濡れている姿を、ただただ後ろから眺めているだけだった。
 そんな卑怯なあたしは本当の猟兵なんかじゃなかった。いつだってあたしは、自分だけが安全で安心な場所に立っているだけだった。猟兵のみんなが、素晴らしい生き方を見せてくれればくれるほど、あたしはそんな自分が許せなくて、恥ずかしくて。

 ──けど。

 ほら、あたしは今、命を懸けてるよ。
 みんなと同じように。
 やっと、命懸けの戦いに出られたよ。
 みんなと同じように。

 敵と一緒になることで。
 あたしはやっと、みんなと同じになれたの。
 これであたしは本当の猟兵だよね。
 本当の仲間だよね。
 だから嬉しい、だから楽しい。
 さあみんな。
 あたしを──倒して。
 命を懸けるって、そういうことだものね。

 ……でも。
 ほんとうなら、……に。
 殺されたかったな。

 鴻鈞道人はユメカを取り込み、先制攻撃を行ってくる。
 これに対応することが勝利への鍵だ。
 なお、鴻鈞道人の力は絶大であり、猟兵たちがユメカに対して何らかの呼びかけや働きかけをしても一切効果はない。また当然、手加減をしながら戦えるほどの弱敵でもない。
 全力で戦い抜くしかなく、そして……その結果ユメカがどうなるかは、運を天に任せるしかない。


天樹
 お久しぶりです。天樹です。
 また素敵なシナリオフレームが出てきたのでついつい魂を引かれてしまいました。
 OPはなんかいろいろぐだぐだ書いていますが、もちろんプレイヤーの皆様には一切関係ありません。普通に戦い、普通に倒してください。
 シリアス風味でもいいですし、あるいは、「何言ってんねん!」とユメカをハリセンでしばくようなプレイングでも構いません。ご自由にどうぞ。
 プレイングボーナスは「グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する」です。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

播州・クロリア
やってくれましたね、鴻鈞道人
マジでふざけんなよ…
(小さく息を吐く)
落ち着け、私
とにかくユメカさんを止めないと
(救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばした後{晩秋の旋律}で『ダンス』を始める)
まずは攻撃は行わず防御と回避に専念することで強化をさせないようにします
攻撃するなら一撃で仕留めなくては…
(ダンスをしながら{蜂蜜色の陽炎}を身に纏うことで『オーラ防御』を行い『衝撃波』を使った移動で攻撃を回避する)
ユメカさん、私にとって貴女はかけがえのない存在です(戦力的な意味で)
言葉が伝わらないのなら
私の想いを乗せたこの旋律を貴女に捧げます
どうか受け取ってください!
(UC【蠱の冬】発動)



●赤、鮮血の

「やってくれましたね、鴻鈞道人……マジでふざけんなよ……」

 播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は煮えたぎる灼炎のような感情に身を焼かせるままに、低く唸るような呼気を吐き出す。その息はじっとりと湿り粘り、揺らめく情念が形を成したかのようにほとりと大地に墜ちた。
 クロリアの眼前には敵がいる。
 敵。
 良く見知った敵が。
 クロリアはその名を知る。
 ユメカ・ドリーミィと知っている。
「ユメカ」は、凝視するクロリアの眼前で、その可憐な容貌をぐにゃりと歪ませた。
 あたかも、目も鼻も口も有さぬ無貌の肉隗であるかのように。
 ──然り。
 渾沌氏・鴻鈞道人──それこそが、今の「ユメカ」。
 彼女の体を取り込んだ、骸の海と名乗る存在そのものだった。

「『どうしたの、クロリアさん』」
 「ユメカ」が、いや渾沌が嘲笑うように歌う。ユメカの声、ユメカの口調で、ユメカのシャボン玉を周囲に漂わせながら。
「『さあ、いつもみたいに、素敵に美しく踊って見せて。せいぜい楽しく、断末魔の踊りで……あたしを楽しませて!』」
 ユメカを取り込んだ渾沌はその記憶さえ操り、掌中で弄ぶ。
 その言にクロリアが歯噛みする間もなく、ユメカは風を切って鋭い手刀を唸らせた──己自身の胸に!
「っ!?」
 クロリアは大きな瞳を見開く。その視界の中で、ユメカの紅い鮮血が噴水のように吹き出し虚空を染めた。ぱちん、と、ユメカの周囲に漂っていたシャボン玉が血飛沫を浴び、力なく割れて消えた。
「あははは! さあ、これで……あたしの方が速い! 強い!」
 ギラギラと鈍色の狂気の響きを宿したユメカの声が呪詛のようにこだました。
 渾沌の能力に付与されている条件、それは「敵より多く血を流していること」。
 ゆえに、クロリアは、当分は回避に専念しながら一瞬の隙を伺うつもりだった。相手に傷をつけることはユメカの命を危険にさらすのみならず、渾沌を強化することにもつながってしまうのだから。
 だが……。
「自分を! ユメカさんの体を自分で傷つけて!?」
 クロリアが驚愕した一瞬にも満たない僅かな刹那、己の血で赤く染まったユメカはクロリアの体にするりとまとわりつくように密着していた。それはまさに、残像すらもたらすほどの動きが可能なクロリアを、さらに数倍上回る速さ!
「しまっ……!」
 ぴちゃり、と己に付着したユメカの血の感触がクロリアの肌を総毛だたせる。次の瞬間、ぎしりとクロリアは重い音を聞いた。己の体内から。同時、意識が暗くなりかける。締め付けられている、と理解したのはそのあとだった。
 クロリアに血を流させては、「敵より多く血を流すこと」によるユメカの優位性は失われる。ゆえに、ユメカは、クロリアに血を流させずに殺そうとしている!
「あはは! ざーんねん、クロリアさん! あたし、あなたのダンス好きだったけどな!」
 無垢で無邪気な、ゆえに残酷な哄笑に包まれながら、クロリアはがくりと力を失っていった……。

「あはは、これで終幕ね……え!?」

 だが、次の瞬間に驚愕の声を発したのはユメカの方だった。
 己の腕の中にあったはずのクロリアの体の感覚がとろりと蜜のように消え、次の瞬間、嵐のように爆発したのだ。
「くっ!?」
「リアなお褒めの言葉をいただきありがとうございます、鴻鈞道人。ですがそのお言葉は、ユメカさん御本人から後で直接いただきますよ!」
 軽やかに宙を舞い、ふわりと着地したクロリアが闘志を失わぬ目でユメカを見据える。
 クロリアは、圧殺される直前、自らの力を自分自身で極限まで抜き、僅かに敵の拘束が緩んだ瞬間に今度は逆にその怪力を振り絞り、あたかも奇術師が華麗に鍵を開けるかのようにその拘束を脱したのだ!
「力の緩急はステップの基本ですよ!」
「ちっ! でもまだあたしの方が速い!」
 吐き捨てたユメカの脚が、しかしドロリと底なし沼に飲みこまれたようにもつれた。
「何っ!?」
 慌てたようにユメカは己の体を見回す。そして知った。──先ほど自分でつけた胸の傷がふさがっていることを! これでは血が流れぬ、ゆえに能力条件を満たさぬ!
「これは!?」

「私が念動力を使うこと、ユメカさんなら知ってたはずですけどね。それをまさか、『敵の傷をふさぐために』使うとは想像しませんでしたか?」
 祈りを捧げるように手を天へと伸ばし、今こそクロリアは、ステップを刻む!
 風が流れるように、空気が吐息をつくように。そこに晩秋の枯葉が舞い散り落ち行く深い寂寥の風景を幻視し、ユメカは力を奪われそうに感じて思わず首を振る。
「惑わしを!」
 遮二無二攻撃に映ろうとして、けれどすでに流血の条件が失われたユメカの手刀は力なく、煌めくオーラを身に纏ったクロリアのステップに軽々とかわされた。
「ユメカさん、私とあなたは似た道を歩んでいます、同じパフォーマーです。私はダンス、あなたはシャボン玉アートの」
 閃くクロリアの舞は鮮やかな輝きの中に万感の願いを込めて。

「だから言います、パフォーマンスとは! 見る人に楽しさを、笑顔を、幸せを与えるものじゃないといけないんです! パフォーマーが人に苦しみを、涙を、悲しみを与えてどうするんですっ!」

 届かぬとわかっていてもクロリアは絶叫せずにいられない。そしてそのたぎる想いはそのまま迸る情熱の旋律となって結実する!
「私の想いを乗せたこの旋律を貴女に捧げます──どうか受け取ってください!」
 叩きつけられたそれは呪い、クロリアの与える冬の呪い。切なさの秋から深い冬へとつながるような。
 けれどその呪いは祈りにも似て。
 冬は命を刈り取るのみにあらず、次の春へ向けて命を休める季節でもある。
 そんな呪いが急激にユメカの体を侵食し、ユメカは、いやその体内に潜む渾沌は、意識が深淵へと沈められていくことを察した。静かにただ眠りにつけと。

「う、く……おのれ、猟兵……」

 初めて渾沌は「自分の言葉」を発した。短い一言ながらも、それはユメカの言葉ではなく。
 ──すなわち渾沌の敗北を意味していた。
 崩れ落ちそうになるユメカの体をからくり人形のようにぎこちなく操りながら、渾沌は闇の中へと姿を消した。
 クロリアも後を追うだけの体力は残っていなかったが、彼女は確かに知っていた。
己の呪いと、そして何よりも心を込めた舞が、深く深く、本物の「ユメカ」に届いたに違いないことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レン・ランフォード
チッ、嫌な手を使う
甘い蓮だとミスるかもしれんから、まずは俺(錬)が前に出る

初手煙幕弾を使用して「目潰し」
スマホに録音した声を再生して「投擲」し陽動
来た攻撃は「第六感」も合わせて「見切り」回避
避けきれないなら「武器受け」後は「激痛耐性」で我慢

お前が道を示してくれるから俺らは戦いにいけたんだろうが
血を流すだけが戦いじゃねえだろうが

命がけなんてするもんじゃないよ…
それでも懸けるのは…譲れないものがあるから
ユメカのは…?

ユメカさん、貴女がどう思っていても私達は仲間です
今はそれだけを伝えて…行きますよ、私達!

UC発動
骸の海、貴方の中に昨日の私達がいたとしても
今を生きる私達に立ち塞がる、貴方だけが敵です!



●橙、果実色の

「チッ、嫌な手を使う……」

 レン・ランフォード(近接忍術師・f00762)は吐き捨てながら首を振った。その鋭い物言いは、レンの中の三人の人格のうち「錬」のもの。
(甘い「蓮」だとミスるかもしれんからな……)
 錬の判断に、蓮が異を唱えることはなかった。それは、僅かの油断もできず刹那のゆらぎさえ命取りになる戦だと重々知ればこそ。
 眼前の敵はそれほどの相手だった。
 ユメカ・ドリーミィの姿を持つ敵──渾沌氏・鴻鈞道人、骸の海を名乗るものは。

「あはっ、最初は錬さんかな? いいよ、誰からでも、結局殺すんだしね?」

 くすくす、と『ユメカ』は笑う。明るく楽しそうに、無邪気に快活に。
 それはまさにユメカ本人そのものの声、されど決してユメカ本人が言うはずのない言葉。
 チリチリと神経がささくれ立つ感覚を覚え、錬は苛立たし気に目を細めた。
 ただの煽りにすぎぬ、わかっている、それに容易く乗じられるほど錬は未熟ではない。けれど同時に、友の姿を愚弄されて平然としていられるほど酷薄でもない。
「──叩き出してやる」
 刃のように一言を紡ぎ、錬は疾駆した。

 傲然と爆煙が吹き上がる。錬の投擲した煙幕弾である。それが周囲一面に次々と炸裂し、漆黒の煙が立ち上って瞬く間に視界を埋めていく。抜く手も見せぬ早業、まさにレンの熟練の忍びたる面目に他ならない。
「うん、知ってる」
 だが、くすりと余裕を見せてユメカは笑う。その背に生やした異形の巨大な白い翼が呵々と哄笑するかのように震えた。
「レンさんたちの戦い方は知ってるよ。見てきたしね」
 楽しげに嘯くユメカの翼が大きくはためくと、おお、なんたることか、その巻き起こす烈風の前に、見る間に煙幕が吹き払われていくではないか。然り……ユメカに潜む鴻鈞道人は、グリモア猟兵として仲間たちの戦いを見つめ続けてきたユメカの記憶をもまた利用する!
「『チッ、読まれていただと!?』」
 動揺したようなレンの声が次第に薄れていく煙の奥から聞こえる。だがユメカはその声の発生源から顔を逸らし、背後に向かって無数の悍ましき触手を苛烈に打ち出した。岩をも穿ち鋼すら断ち切らんほどの勢いで。
「その声は携帯かなんかを使った陽動ってところかしらね? うん、よーくわかるわ。レンさんたちの手はだいたい知ってる」
 ユメカは笑う、いや渾沌は嗤う。相手の手の内はすべて見切っていると自信にあふれて。そしてそれは偽りではなく誇大でもない、レンは身を潜ませ隠れるべき煙を奪われて、陽動の囮も読み切られている、……けれど。

「ああ、そうだろうな。だが、『お前がこっちの手を知ってるってことをこっちは知ってる』んだぜ」

「!?」
 返ってきた声にユメカは初めて顔色を変えた。
 その声は、ユメカが無視した方角──最初に声が聞こえた地点から再び発せられたのだ。
「だからここはスルーすると思ってたぜ!」
 裂帛の気勢と同時、風を切って飛来した苦無がユメカの「左目」を襲い、ユメカは、いや渾沌はかろうじてこれをかわしたものの、その額を切り裂いた刃が鮮血を噴出させていた。
 そう。
 『手の内が読まれていることを読んでいた』レンは、あえて携帯を直接持ったまま音声を発したのである。それは唯一、ユメカが「攻撃してこない」場所であるがゆえに。

「このっ……!」
 「左目」に流れ込んでくる血に、ユメカは苛立ったような声を出す。傷自体は軽傷でしかない、しかし、その「左目」は、渾沌のただ一つの「目」。取り込んだユメカの感覚器官を利用することはできるとはいえ、渾沌自身は己の真の「目」を一時的に封じられたのだ。
 そして無論、その機を逃すレンではない! 化身忍者は時さえ欺くほどの速さで剣を抜き放つ!
「くうっ!」
 十全な動きが取れなくなった渾沌は、それでもユメカの体を強引に操り、力押しでレンを迎え撃とうと試みた。その唇から、ユメカの声でこぼれるように漏れた声。それは怨嗟。それは悔しみ。そしてそれは──憧憬。

「……ずるいよ、レンさん。あたしとあなたは同い年なのよ。──同じ19歳。それなのに、同い年なのに、どうしてあなたはそんなに凄いの。どうしてあなたはそんなに素敵なの。あたしと違って、どうして……」

 それはもちろん渾沌が身勝手にユメカの口、ユメカの声を使って挑発しているにすぎぬ。先ほどと同じだ。そんな手にレンは乗るはずもない。
 ……けれど、なぜか。
 それはもしかしたら、ユメカの、小さな小さな本心であったのかもしれぬと。
 そう思わせる切ない響きが、どこかに、微かに、あった。
 なればこそ──。

「聞こえてるか、いや、聞こえてねえとしても聞け! お前が道を示してくれるから俺らは戦いにいけたんだろうが……血を流すだけが戦いじゃねえだろうが!」
 錬の鋭烈な刃が閃き、唸りを上げようとしたユメカの触手を斬りはらう。
「命がけなんてするもんじゃないよ……。それでも懸けるのは……譲れないものがあるから。……ユメカのは……?」
 れんの軽やかで舞うような一撃が高空に逃れようとしたユメカの翼を深々と斬り裂く。
 そして。
 悪鬼の形相でレンに向かって叩きつけられたユメカの刃を、蓮は手並み鮮やかに受け流し、巻き上げるようにその刃を跳ね飛ばした。
「──ユメカさん、貴女がどう思っていても私達は仲間です」
 静かに紡がれたレンの声に、ユメカは顔を歪ませる。

「……そして、あなただけが敵です、骸の海よ。……たとえ貴方の中に昨日の私達がいたとしても、今を生きる私達に立ち塞がる、貴方だけが!」

 三人のレンが、今こそ無尽蔵に無制限に、虚空を埋め尽くす残像となって天に舞い地を駆ける! これこそ秘奥義──『分身殺法・花鳥風月』!
 瞬間、沸き立つように無数のシャボン玉が渦を為した。ユメカを護るように。幻影と虚実を裏返すかのように。
 けれどそれでも、レンの刃はあやまたぬ。
 錬の、れんの、蓮の。
 三人の一撃はそれぞれ確かに渾沌の体を斬り裂いていた。
 だが、おお、僅かに足りぬ──四撃で確殺するためには、たった一太刀だけ、足りぬ。
 ギリギリのところで身を翻した渾沌は、シャボン玉の中に溶けるように退却していった。
 ひとつだけふわふわと残ったシャボン玉が頼りなく揺れ、やがて静かにパチンと消える。その光景を目に映しながら、レンは小さくつぶやいた。

「ええ、私たちはまだ19歳。果実が実るのは、まだこれからですよ、ユメカさん……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
拙者は他のやつよりやさしくねぇでござるよ!

下準備に少し死ぬ必要がある…一先ずカッコよく先制攻撃してきなさい!
成程拙者の死体から【ギャグ時空】がスイと出た、そしてリスポーン!拙者のパートじゃシリアスは出来ねぇんだ
ついでに119秒経つと拙者は死ぬ!ウッ!すかさず再リスポーン!これで拙者の血が大量の死体分流れるのでUCの無効化もできる訳だ

後はどこからか爆弾を取り出し準備完了でござるな、さあこいつで拙者と一緒に自爆して死ぬでござるよ!
死んでも今ならリスポーンできるから安心して欲しい、いいだろ?ギャグ時空でござるよ?
流石に死んだら道人も排除されてるでござろう!…多分!ではいくぞ!テンさんサヨナラ!


ルエリラ・ルエラ
【アドリブ・改変大歓迎】
なんてこった…ユメカが取り込まれてしまうなんて!
私も取り込まれてみたい!そんな面白そうなのズル…ゴホンゴホン
早く助けて後ろ向きな考えを正さなきゃね!

初手全力防御モード!無理無理3倍相手なんてやってられるかー!
『芋煮ハンドグレネード』のフラッシュと煙幕で相手の視界を悪くして服で障壁張って防御と回避と根性で耐えきれ私!どうせちょっとダメージ受けたら私のが血だらけだー!
そして視界が晴れてきた瞬間、煙幕で隠ぺいしてあった【芋煮ビット】で強襲だー!
ダバーっとして動きを止めた後は、オラオラー正気に戻るんだよー後方支援の大切さを思い知れ!と『純金のゴボウ』でビシバシタコ殴りだー!



●黄色、危険信号の

「なんてこった……ユメカが取り込まれてしまうなんて!」
 可憐な美貌を悲しげに曇らせて、ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)は小さな両手を胸の前で組み合わせた。
「これは一大事でござるな、まさかこんなことになろうとは」
 エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)もまた、深刻そうに堀の深い顔を曇らせる。
 その二人の眼前で、ユメカ・ドリーミィの体を取り込んだ渾沌氏・鴻鈞道人は愉快そうに哄笑した。
「あはははっ! さあ、お二人はどんな「炎の破滅(カタストロフ)」を見せてくれるのかしら? 楽しみにさせてもらい……」

「「ずるい!」」

 自分の言葉が終わるよりも早く食い気味に喚いたルエリラとエドゥアルトの声に、ユメカは思わずビクッと引く。
「……え、な、何が?」
 恐る恐る問い直したユメカに、ルエリラはぷくっと膨れた頬を見せた。

「私も取り込まれてみたい! そんな面白そうなの!」

「……えー……」
 絶句するユメカに、エドゥアルトも拳を握り締めて力説する。

「可愛い女の子の体を取り込んで好き放題できるとは、羨ましけしからんでござるよ! そんな超絶素晴らしい術を独占しているとかずるい以外の何物でもありませんぞ渾沌氏! ……っていうか渾沌氏までが名前なんでござるか? では拙者は渾沌氏氏って呼ぶべきなんでござろうか?」

「うわ、変質者だ。ド変質者だ。さすがに引くなー、今更だけど」
 ルエリラのジト目にエドゥアルトはブンブンと首を振る。
「おっとっと、拙者はあくまでも紳士! 変態でも紳士でござるからには、決してR18的なあれやこれやをしようというのではありませんぞ! Yes変態Noタッチ! 取り込んだうえでも、あくまで愛でるだけでござる! たとえば……美少女ゲームを攻略するとか! 美少女が美少女ゲームをプレイしている図って滅茶苦茶よくない? よくない?」
「わけわかんないよ。っていうかエドが中に入るっていう現象だけで、もうR18どころの話じゃないよね。その20倍くらい危険度あるよね」
「むむっ! その表現だけで軽く達しそうな拙者発見! っていうか20倍だとR360でござるな、つまり一周回って正常……?」

「えい先制攻撃」
 BAGHOOONNN!
 ルエリラとエドゥアルトがわちゃわちゃしている隙に、何かもうめんどくさいわって感じの雑なユメカのパンチが叩きつけられた。
「グワーッ!?」
「アバーッ!?」
 盛大に吹きとばされて転がるルエリラとエドゥアルト。
「くっ、さすが骸の海そのもの……エドはともかく、完璧な世界最高の美少女エルフである私のほんの僅かなスキさえ見逃さないなんてね……」
 フッいいの持ってんじゃねえか的に血の滲んだ唇をぬぐうルエリラだが、しかしその口元はニヤリと笑みを形作る。
「でも、これで私の方が血まみれだよ。これでそっちの能力は使えないね! これもすべて完璧な世界最高の美少女エルフである私の作戦通り!」
「あ、血が出てますよ。ふきふき」
「あ、どうも」
 ハッと気づいたルエリラだが、しかし、なんたることか! 気づいたときには、ユメカのハンカチで血を親切に丁寧に拭きとられてしまっていたのだ!
「しまった! 出血がなくなった!」
「あはははっ! これで再逆転よ! さあもう一度ユメカぱーんち!」
 ユメカが再び拳を振るおうとした次の瞬間。二人の間に滑り込んできた漆黒の影が、ルエリラに叩きつけられた一撃をまともに受けていた。
「ぐえー!」
「エ、エドー!」
 そう、それはエドゥアルトだったのだ。
「ふふふ……美少女にパンチされるなんていうご褒美ラッキーチャンスを見逃すわけにはいかねえでござるよ……ぐふっ」
「うわーなんてことだー、エドが私のために自分を盾にするなんてー!」
「めっちゃ棒読みでござるな……っていうか自分からグイグイ攻撃に押し付けに行くのやめてあっちょっとエド汁出るっ」
 がくり。
 かくしてエドゥアルトは雑に死んだ。

「そしてリスポーン!」

 そして無節操に復活するのである。
「いやまあ……エドゥアルトさんのその体質は知ってるから驚かないけど……改めて敵に回すと滅茶苦茶ウザいわね……」
 ユメカは頭痛を抑えながら疲れたように吐息をつく。
「ぐふふふふ、そんなに褒められると照れますぞ」
 ピンピンしている新しいエドゥアルトがぐいと胸を張るが、
「褒めてない!」
「褒めてないよね」
 ナイナイ、と揃って手を振るユメカとルエリラだった。今は敵同士の悲しい二人だが、この一瞬だけは心を通じ合わせることができたのだ。何という麗しい奇跡であろうか。
「くっ、しかし可愛い女の子に鋭く突っ込まれるのもまた一興! ……そして、この能力はここからが本番でござるよ! 我が骸から『ギャグ時空』を召喚!! これでこのパートはギャグ時空に支配されたでござる!」
「な、なんですってー!」
 思わず顔が蒼白となり、よろよろとよろけそうになるユメカは、唇をわななかせて呟いた。

「……じゃあ、今まではギャグじゃなかったっていうの!?」

「……え?」
「……あれ?」
 今度は顔を見合わせて首を捻るエドゥアルトとルエリラ。
「私はともかく、エドは存在そのものがおかしいからなー」
「最初からギャグだったところにさらにギャグ時空を召喚するとどうなるのでござろう? 反転してシリアスになったり? いやそれではUCの語義に矛盾が生じるから……むむ?」
 エドゥアルトも一瞬悩んだようだったが、まあどちらにせよやることに変わりはない、という結論に達する。
「まあいいでござる。さあ拙者と一緒に自爆して死ぬでござるよ! 死んでも今ならリスポーンできるから安心して欲しい、いいだろ? ギャグ時空でござるよ?」
 ルパンダイブで女の子にとびかかろうとする髭男。どちらが正でどちらが悪かわかったものではない。
「いやぁぁぁぁ変態ゴーホーム!」
 もちろん自爆道連れ作戦とわかっていてただ黙って待ち受けているバカもいない。ユメカは慌てふためきジタバタと逃げ出そうとする。しかし。
「おっと! 逃がさないよー」
 すかさずルエリラの芋煮ハンドグレネードが乱射され、周囲一面は目を晦ませるまばゆい閃光と濛々たる爆煙で包まれた。視界を奪われ立ち往生するユメカ。さらにそこへ、ルエリラの召喚した芋煮ビットが絨毯爆撃を開始! 凄まじい爆音と轟炎が立ち上り、戦場を包み込む! おお、もはやこれはアビインフェルノ・ジゴク!
 これでユメカの逃げ足は奪われた! しかしついでに、特攻しようとしていたエドゥアルトもどこに敵がいるかわからなくなった! ダメでは?
「駄目じゃないよ! 私は完璧な世界最高の美少女エルフだからね! そーれ、純金のゴボウで──エドをタコ殴りだー!」
「アイエエエエエナンデ!? 拙者タコ殴りナンデ!?」
 ルエリラの取り出した純金のゴボウが、まともにエドゥアルトの顔面に叩きつけられ、エドゥアルトはそのままジャストミートされて飛んでいく。そしてリスポーン。
「もう一発―!」
「あっそういうことでござるねぐえー」
 そう、次々とオオタニサンめいてホームランされていくエドゥアルトが次々とリスポーンし、それをルエリラが全方位に乱れ撃ちを始めたのだ! これなら、どこにユメカが潜んでいても関係ない! いつかはどこかで当たるのだから! たぶん!

「あ、見つけたでござる。任務了解! テンさんサヨナラ!」
「ぐええええええええ!!!!」
 KYABAAAAANNNNN!
 かくして、何十発か目に頭を抱え小さくなっていたユメカの居所に偶然飛んで行った何十人目かのエドゥアルトが、無事に道連れ自爆を果たしたのだった。

「こ……これが……「炎の破滅(カタストロフ)」……ナイスオチ……がくっ」
「ま、後方支援は大切ってことだね」
 惨状を前に、ひとり、満足げにうなずいて芋煮を食するルエリラなのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィーナ・ステラガーデン
【アイと参加】
ちょっとー、何か依頼無いのかしら?
えええ、何であんた触手とか生やしちゃってるの!?ストレスか何かなの?
身体に悪いからしまいなさいよ!
んん?なんか変なこと言ってるわね!疲れているのね!一度寝たほうがいいと思うわ!

えー、そうね!とりあえず一発殴られて(私が死にそうならオベイロンにでも轢かれる)頭から血でもだらだら流すわ!
アイテムブラッドジュースを飲み輸血しながら
UCとか【属性攻撃】の火球で相手の傷口を焼いてそれ以上流れないようにして私の方が多く血が流れている状況をじわじわ作り出して敵強化を収めるわ!それまでは宥めながら回避行動メインよ!
(アレンジアドリブ大歓迎!)


アイ・リスパー
フィーナさんと

「ユメカさん、フィーナさんの言う通りです!
何か変なもの食べたなら、すぐにぺってしないとダメですよっ!」

乗り込んだ『機動戦車オベイロンⅡ』の操縦席から様子のおかしいユメカさんに語りかけます。
けれど、ユメカさんは容赦なく先制攻撃してきて……

「オベイロン、緊急回避!
多少のダメージは構いません、致命傷だけ避けてください!」

……あれ、回避行動中に何か(フィーナさん)を轢いたような気がしますが……気のせいですよね!

オベイロンのレーザーガトリングでユメカさんの傷口を焼いて止血していき……

「オベイロン、高機動型に変形を!」

オベイロンの装甲を部分的に装着し、プラズマブレードで攻撃です!

アドリブ歓迎



●緑、猪突猛進の

「あら久しぶりね! なんかいい依頼ないの、依頼! こう、ガーッとしててドカーンバゴーンってできるようなスカッとしたやつ!」

 フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)は久しぶりに見かけたグリモア猟兵、ユメカ・ドリーミィの姿に声を掛けた。だがもちろん、そこにいるのはユメカであってユメカではない。彼女の体を取り込んだ恐るべき骸の海、渾沌氏・鴻鈞道人である。
「……」
 一方、ユメカの知識をも操る鴻鈞道人は、存在の奥底で左目だけの隻眼を細めた。

 ……こいつらはヤバい。

 それがユメカの記憶からフィーナの知識を引き出した鴻鈞道人の結論であった。
 何をしでかすかわかったものではなく、事態がどう転がるか予測できたものではなく、今までのオブリビオンたちもたいがい酷い目に遭わされている。フォーミュラといった最強クラスの相手でさえもだ。
(フィーナさん一人だけならまだしも……)

「あっユメカさん、お疲れです! あらどうしたんですか、顔色が悪いですよ?」
 
 キャラキャラキャラ、と搭乗する機動戦車のキャタピラの音を響かせながら現れたアイ・リスパー(電脳の天使・f07909)の姿に、ユメカはがっくりと肩を落とした。
(やっぱりアイさんもいたー! ダメだわ、これ絶対制御できない! ジョーカーが二枚揃ったから引っこ抜いて場に捨てる的なことできないかしら!?)
「ユメカさん?」「どうしたのよ?」
 きょとんと顔を覗き込むアイとフィーナに、ユメカは咄嗟に決意した。
 ──この生きる災厄たちを自分の戦場に来させてはならない!

「こんにちは、フィーナさん、アイさん。依頼ね、そうねえ……殲神封神大戦の18番とかどうかしら? ものすごいバカ……こほん、純真で無垢な人なら突破できる戦場なの。きっとお二人なら問題ないと思うわ!」
 おお、なんとメタいことか。あろうことかユメカは、別のシナリオにフィーナとアイを送り込もうとし始めたのだ!
「純真ね。まあ確かにムッツリのアイはともかく私はピュアだからよさそうだけど、もっとこう、強敵をぶちのめす的な戦場がいいわ!」
「きょ、強敵ね……もうすぐ多分、ラスボスの張角への道が開くと思うわ。そしたらそこへ……」
 猟兵をラスボスへご案内しようとする幹部敵って。しかしそれにもアイが首を振る。
「ラスボスも都合が付けば相手をしに行きますが、とりあえず今行ける戦場が欲しいですねー、私のデータベースによると……」
 と、アイは細い指で華麗にホロディスプレイを操作し、こくりと頷く。
「今のところ出現している有力敵は、渾沌氏・鴻鈞道人ってやつですね!」
(ああああこの人たち変なところで無駄に優秀!)
 内心で滝汗をかいているユメカは、しかし顔を引きつらせながらも、まだ粘ろうとする。
「い、いや、鴻鈞道人はやめた方がいいと思うな! きっとほら……弱いよ? 他のオブリビオンを呼び出したりするような奴だから自分の力に自信がないのよ。それに人質取るみたいな卑怯なことする奴だし、絶対つまんない相手だと思うよ? もうゴミみたいでカスみたいな奴よ!」
 グサグサ。自分で自分をけなし続けなければいけない鴻鈞道人の心中やいかに。
「いいじゃない、そんな卑怯で下劣でド外道でゴミカスみたいなチンピラで弱いくせにイキってる身の程知らずの根性腐ったアホバカを派手にぶっ飛ばすのはストレス解消にもってこいだわ!」
「そこまで言ってない!」
 涙目でフィーナの言に抗議するユメカの姿に、アイは不思議そうに小首を傾げる。
「やはり先ほどから変ですよ、ユメカさん。何かありましたか? 変なもの食べたりしました? 何か、ゲロ不味くてこの世のものとも思えない下賤で卑しくクズみたいな俗悪で汚らしいものを食べたのなら、すぐにペッてしないとだめですよ?」
「そこまで言うなー! っていうか、あなたたちわかって言ってない!?」
 またもや涙目でジタバタしているユメカの言葉に、フィーナはおもむろに長い髪をふぁさっと風になびかせた。

「フッ、バレてしまったようね。その通り、私たちは最初からわかってたわ!」
「や、やはり! あたしの正体が渾沌氏・鴻鈞道人だっていうことが!?」
「ユメカ、アンタがなんかすごいストレスを抱えてしまってるってことにね! ……って、え?」
「え?」
「え?」

 ぽかんと顔を見合わせるフィーナとアイとユメカという間抜けな構図。
「え、アンタ(あなた)鴻鈞道人だったの(ですか)!?」
「わかってなかったー!?」
 三つの絶叫が響き渡る。
「きっとなんかストレス性の症状で、そんな翼とか触手とか生えてるんだと思ってた!」
「な、なんだってー!? あ、ほんとに生やしたまんまだった!?」
 慌てて自分の体を顧みるユメカ。おそらく先ほどのやり取りで我を失った時のことであろう、渾沌氏としての翼や触手がボロンと露出してしまっていたのだ。
「これでわかりましたよ、私の論理的で完璧な推理によれば、あなたはユメカさんの体を乗っ取ったのですね! ならば、あなたをブッ倒してユメカさんを助けます!」
 ビシッと決めたアイに、ユメカはもはややけっぱちになって攻撃を開始した。
「ええい、こうなったら殲滅なんだからー!」
 嵐のような無数の触手の連撃が、虚空を穿ち風を斬り裂いてフィーナとアイに襲い掛かる! その勢いはまさに疾風怒濤!
「くっ、オベイロン、緊急回避! 多少のダメージは構いません、致命傷だけ避けてください!」
 ギャリギャリギャリ! 超信地旋回の高速機動を伴い右に左にオベイロンはかろうじてその暴雨のような攻撃をかわしていく! かわして(ぷちっ)。
「ぐえーーー!」
「あ、なんか轢いたような……具体的に言うとフィーナさんの声が聞こえたような……そんな気がしますが、まあいいでしょう! オベイロン、前進して間合いを詰めて!」
 ギャリギャリギャリ! ぷちっ。「ぐえーーーーーー!!」
「危ない! オベイロン、今度は後退です!」
 ギャリギャリギャリ! ぷちっ。「ぐえーーーーーー!!!」
「オベイロン、今度は右です、フィーナさんは右にいます!」
「ちょっと待たんかい! アイ、アンタわざと私を狙ったわね!?」
「バレましたか!」
 こんなふうにグダグダになるからこの人たちとやりたくなかったのよー、というげんなりとした顔で肩を落としているユメカを傍らに、アイは自らの意図を得々と説明した。
「何も面白がっていただけではありません。私の分析によれば、鴻鈞道人の能力条件は「相手よりも出血している」こと。すなわち、フィーナさんが血だらけになれば相手の攻撃は効かないのです!」
「なるほどそうだったのね! 鴻鈞道人、覚悟しなさ」
「えい触手―」
BAGHOOOOONN!
 だらだらと血を流しながら胸を張ろうとしたフィーナを、ユメカの放った触手が容赦なくぶん殴った。
「ぐえええ! って、なんで!? こっちは血だらけなのに、アンタ無傷じゃない! 条件を満たさないはず!」
「ふっふっふ、忘れたの? あなたたちがさっき私に深い傷を負わせたことを……」
 フィーナの疑問に、今度はユメカがニヤリと笑む。
「心の傷よ! さっきあなたたち、散々あたしのことけなしてくれたわね! 心が血を流しているから能力は発動するのよ!」
「比喩じゃん! そんなんアリ!?」
 たじたじとなるフィーナとアイに、じりじりとユメカはにじり寄る。ワキワキと触手をうごめかせ、とどめを刺そうと。
 ……だが。

「ふふふ……さあこれで終わりよ、貧乳ども!」

 ぶちぃ。

 ああ、決して超えてはならぬ一線を、その時鴻鈞道人は超えたのだ。

「「だぁれが貧乳ですって!!!!」」
 そう、心が血を流すというのなら。
 今この瞬間、フィーナとアイの心が流した血は鴻鈞道人をはるかに上回ったのだ!
 ゆえに! 敵の能力条件は消え失せる!

「ぶち転がす!『喰らう灼熱の黒炎(スゴクアツイクロイホノオ)』!!」
「しかるべき報いを受けなさい!『プラズマブレードっ』!!」

 二人の炸裂した怒りと悲しみの力の暴発は大地を削り天空を引き裂いて、荒れ狂う龍の慟哭の咆哮のように響き渡ったという。
(だから……この人たちは相手にしたく……なかったのよ……がくり)
 薄れゆく意識の中で、鴻鈞道人はぽつりとつぶやいたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
……バカヤロウ。
「共に戦う」ってのはな、「命を賭ける」ってのはな、
そう簡単なもんじゃねぇだろ!?
軽々しく自分の存在をチップにするんじゃねぇよ!
そう言う分からず屋はなぁ、後でじっくり説教だ!
だから……まずはブッ飛ばして大人しくさせる!

ユメカちゃんの五体のどこが異形化しても、
ヤバいことに変わりは無ぇ。
下手すりゃ全身、だろうね。
けれどもその肉体が攻撃手段である以上は、
右手から放つ電撃の『属性攻撃』と『マヒ攻撃』を込めた『衝撃波』で、
直撃の軌道を逸らすよ。
掠る激痛も、そしてもたらされる呪詛や狂気も。
根性キメて堪えて、返しに『ダッシュ』で詰め寄って。

鴻鈞道人を狙った左手の【魂削ぐ刃】を全力で振り抜く!



●青、清冽の

「……バカヤロウ。「共に戦う」ってのはな、「命を賭ける」ってのはな、そう簡単なもんじゃねぇんだ。この分からず屋め、軽々しく自分の存在をチップにするんじゃねぇよ……」

 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は苦々しい味のする言葉を嚥下する。
 瞳に鮮やかな無数のシャボン玉の光を映し出しながら。
 そのシャボン玉の輝きの中に、一人の少女が無垢な笑顔を浮かべ、佇んでいた。
 ユメカ・ドリーミィが。
 ──いや、その名の少女を取り込んだ骸の海、渾沌氏・鴻鈞道人が。

 浮かび揺蕩ういくつものシャボン玉をつつき、パチンと割れさせながら、『ユメカ』は嗤う。
「酷いなあ、あたし、多喜さんに憧れてたのよ? それなのに悲しいわ」
「口閉じてな。ユメカちゃんの顔で、声で、雑に煽ってんじゃねえ!」
 烈火のような激しさの多喜の声に、しかしユメカは嘲笑うように逆らい、わざとらしくパカリと大きく口を開けた。
 ──そして次の瞬間。その口が天地すら飲みこまんとするほどに裂け、そのまままっしぐらに多喜を襲ったのである。

「ちっ! 悪趣味な奴!」
 多喜は舌打ちしつつ右手を鋭く舞わせる。同時、その手に青白く光り輝く閃電が走った。それこそは熟練のサイキッカーたる多喜の本領を示す電撃。バチバチと不機嫌な唸りを上げる雷光を腕に込め、多喜はユメカを迎え撃たんと身構える。
(ユメカちゃんのどこが異形化しても、ヤバいことに変わりは無ぇと思ってたが、口かい! けれどもその肉体が攻撃手段である以上は──こいつで軌道を逸らす!)

 だが迫ってくるユメカの「口」が、その時、にたりと笑んだ。
「!?」
 一瞬大きく目を見開いた多喜に向かい、ユメカの「口」は、次の刹那、無数のシャボン玉を吐き出したのだ。
 対応する間はなかった。多喜はそのまま電撃を纏った手でシャボン玉を薙ぎ払う。しかし、電撃はあたかもシャボン玉の表面を滑るように流れ、そのまま拡散したのだ。
「こいつ……電撃を拡散する!?」
 驚愕した多喜を、今度は本命の「口」が襲う。がちりと虚空を噛みしめた「口」からすんでのところで身をよじり、多喜は大きく後方へと跳躍した。
 その身に鋭い痛みが走る。致命ではないが、彼女の脇腹は僅かに抉り取られていた。

「あはっ、あたしが多喜さんを尊敬してるってのは本当よ。あたしの記憶、あたしの知識の中にちゃんとそうあるの。だから知ってるのよ、多喜さんの技はね。知ってるから準備もするわ」
「……そうかい。そいつは光栄だね、こんなあたしに」

 楽し気に哄笑するユメカを、血の滲む脇腹を抑えつつ、多喜は目を細めて睨みつける。
「多喜さんは真っ直ぐで曲がらない。いつも全力でいながらユーモアの余裕があって、視野が広くてみんなのことをよく見てくれてる。自分の力に創意工夫を怠らず、努力家でいながら孤高ではなく、社交的。……理想的な大人の女の人よ、ふふふっ」
 得々と語るユメカは、再びくわっと大きく口を開ける。
「だから! そんな多喜さんを殺せるのは嬉しいわ!」
 無論それはただユメカの体と声を使って渾沌氏が勝手に語っているにすぎず、そんなことで多喜の覚悟は微塵も揺るぎはしない。けれど。

「……それがユメカちゃんの記憶ってんなら。そいつは違うよ、ユメカちゃん」

 静かに、そしてむしろ少し寂しげに、多喜はつぶやく。その右手を再び構えながら。轟然と迫りくるユメカをまっすぐに見据えつつ、多喜は自分自身に言い聞かせるように声を落とす。
「ドジってばかり、迷ってばかり、失敗してばかりさ。理想なんてものはどこにもいない、──自分の中以外にはね」
 そんな多喜の声は、再び無数のシャボン玉を吐き出しつつ戦慄すべき勢いで襲い来るユメカの前に小さくかき消えた。
 多喜の腕が先ほどとは異なる唸りを上げた。その表面には大気を斬り裂くような風の渦……衝撃波が纏われている。
 電撃を拡散してしまうシャボン玉は、この衝撃波で吹き払うことはできるだろう。しかし、そこで「一手」、使う。使わされる。
シャボン玉とほぼ同時に襲撃してくる「口」本体そのものを受けるにせよ流すにせよ、対応するのに刹那の間、遅れが出る……!
 ──ゆえに。

「な、かっこ悪いだろ、あたし。こんなことしか考えつかねえのさ……」

 苦く笑った多喜は、衝撃波でシャボン玉を吹き払い、同時に襲い来た「口」に対し──一切、避けようとはしなかった!
 彼女は自らの腕をそのまま「口」の中に突っ込んだのである。
 その肉も骨も嚙み切らんと口が閉じられ、──刹那。
「があああああああっ!!!!???」
 ユメカは大きくのけぞってもんどりうち、よろよろとよろめいた。
 多喜の右腕は深く肉が抉られており、そして。
 ……その肉の中に、バチバチと青白い電光が走っていた。
 多喜は、己の体内に電撃を蓄え、あえて噛みつかせることでそのまま攻撃と為したのである。
 多喜ももう襤褸切れのようになった右腕は使えない。だがもう一本あればよい! サイキックエナジーを、いや魂を込めた左腕が! 朧に霞む力の奔流を纏って、今、多喜の一撃が閃いた!
 
「……見えたよ、本当の「アンタ」って奴が……。引き裂け、アストラル・グラインド!」

 大きく弧を描いて──瞬時に間合いを詰めた多喜の左腕が、鮮烈な手刀となって唸り、ユメカに……いや、その体内奥に潜む渾沌氏・鴻鈞道人に叩きつけられた。
「がぁっ!! ……お、の、れ……!」
 ビキビキ、とユメカの体が軋む。ぐにゃりとその輪郭が歪み、ひしゃげ、ぼこりと膨れあがる。ユメカの中に宿る渾沌氏の苦悶のあがきを示すように。
 そのままよたよたとユメカは、いや渾沌は、ユメカの体を引きずるようにして撤退していく。多喜は荒げた息を整えながら、十分すぎるほど確かな手ごたえが渾沌に伝わったことを感じていた。
「もう一歩で助けられるようだね、ユメカちゃん。……そう、今度こそはってやつだ。あとでじっくり説教タイムだけどな」
 細く長く息をついて、多喜は虚空を見上げる、風の吹き渡る青い空を。

「……大切なものを手の中から取りこぼすなんてことは、もう味わいたくないからね……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
先制攻撃はシャボン玉を用いた物の筈
…渾沌帯びた、まるで違う性質でしょうが

格納銃器で迎撃
瞬間思考力にて剣や盾で防御可能か
推力移動での疾走で躱すか最適な対応見切り

ユメカ様、聞こえておりますか?
聞こえずとも結構

率直に申し上げますと『気に入りません』

鴻鈞道人の言によれば、倒す為の手段でなく戦場に立つという目的の為の憑依である節があります

UDCアースの…3年前でしょうか
どんな手段用いても、誰かの特別になりたかった
【Forget-me-not】…その願いの為に命擲った少女がおりましてね

貴女が最初に案内した依頼でその幻影を見る程に私に刻まれてしまいました
本当に困った方です

ユメカ様の真意は兎も角、捨て身は存外周囲に影響与える物


なので、貴女を辱めようと思います


UC透明機械妖精忍び寄らせ
豚鼻や肉など顔面に落書き
防具改造で鏡面処理施した大盾掲げ


『こんな死に様は乙女として嫌だ』と思って頂ければ生存意欲も向上するかな、と
私は御伽の騎士ではありませんので

同時に取り付けた爆弾起爆
吹っ飛んだユメカ様を近接攻撃で只管追撃



●藍、凛然の

「率直に申し上げますと『気に入りません』」

 トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)の淡々とした声に、ユメカ・ドリーミィは小さな肩を竦めた。
 いや、ユメカではなく、その姿を奪った渾沌氏・鴻鈞道人が。
「あら、それは残念ね、トリテレイアさん。素敵な騎士様に嫌われてしまうなんて、乙女としては悲しいわ」
 くすくす、と『ユメカ』は微笑む。ユメカの無邪気な声がころころと快活に、……そしてそれゆえにこの上もなく残酷に響いた。
「でも、それでもいいのかもしれないわね? たとえ嫌われても、──『忘れられてしまうよりは』」

 トリテレイアはしばし黙する。
 人であれば、慣れる。
 苦しみも、経験が重なればそれに順応し。
 痛みも、積み重なれば、それに適応し。
 悲しみさえも、度重なれば、それを受容できるようになっていく。
 けれど。
 マシーンは。
 メモリーに刻まれた「それ」がリプレイされるごとに、同期する負荷の──痛みの強度に、変化は……ない。
 たとえ何年前の出来事であろうとも。
 
「……なるほど。ユメカ様の記憶をも自分のものにしているわけですね」
 ややあって、軋むようにトリテレイアは声を発する。
 ユメカの、いや鴻鈞道人の嘲弄の意は十分理解できている。
「ですがそれで私を翻弄できるとお考えなら、まだ分析不足かと」
 響く硬い金属音は騎士が長大なる剣を抜き放つ姿。
「私はとうに……それを久遠に抱き続ける決意と覚悟でいるのですから!」
 トリテレイアの白銀の外装が光を浴びて美しく煌めく。それはあたかも彼自身の高潔なる矜持と気高い誇りを示すがごとくに。
 けれど、ユメカはきゅっとその口角を差し上げ、楽し気に手を振る。
「うん、知ってるわ。だから素敵なのよ、トリテレイアさんは。今のはあたしが、ただ楽しんでみたかった・だ・け。ふふっ」
 酷薄に髪を揺らすと、ユメカは大きく手を広げ、目も綾に光移ろう無数のシャボン玉を撃ち放った。普段なら人の心を癒し憧憬を与えるその華麗で儚い輝きは、しかし今となっては妖しく悍ましい死の齎し手と同義!
「やはり先制攻撃はシャボン玉でしたか!」
 トリテレイアは油断なく身構える。鴻鈞道人がユメカの力を使うのならば、おそらく初手はシャボン玉を渾沌化したものと予測はついていた。とはいえ、その属性までは推し量ることはできない。果たしてそのシャボン玉の効果は、触れるものを爆ぜさせる爆裂か、鋼をも侵食する溶融か、それとも全く異なる何かか……。
「さっきも言ったように、あたしはトリテレイアさんのことを知ってるわ」
 くすりとユメカは楽し気に笑う。
「だから、こういうのが一番効果的かなって」
 ふわりとユメカの繊手が指揮するように揺れる。と同時、無数のシャボン玉は群れを成して……大地に沈み、一面の虹色の泡となって戦場に敷き詰められた!
「これは!?」
 見る間にトリテレイアの足元にまでも虹色の泡が押し寄せる、それと同時に。
 ……トリテレイアは大きくバランスを崩していた。
「摩擦係数を極限まで軽減する効果──!」
「うん、まあ、すごい簡単に言うと、めっちゃ滑るの。トリテレイアさんの怖いとこはやっぱりその凄いパワーだから。力を出させないようにするには、踏ん張らせなきゃいいのよね」
 おお、トリテレイアの巨体は大きく揺れ、その大重量を支えんとするランディングギアもまた大地を掴み切れぬ!
「アンカー射出……!」
 チェーンアンカーを撃ち出さんとして、けれどそのアンカーさえ大地に刺さり切れず、虚しく滑り転がる。
 ついに体勢を崩し転倒しかけ、しかし次の瞬間、トリテレイアの脚部スラスターが火を噴いた。もとよりトリテレイアは宇宙を駆けるもの、その全身に装備されたスラスターは容易に空中機動を可能にする──はずだった。
 だがマシンでさえもその制御には一定の抵抗が必要だ。トリテレイアは己のスラスターが、常のような精密正確な挙措をしえないことを認識する! スラスター自体にもすでにシャボン液がしみ込み、適切な角度調整ができぬままに空回りをしている!
 このまま大地に倒れ込んでしまえば、そのまま二度と起き上がることはできないだろう。あとは鴻鈞道人の思うがままだ。

 だが。
 トリテレイアの瞬間思考は咄嗟に、倒れ込む刹那、自らの大盾をその巨躯の下敷きにせしめていた。盾自体が大きく滑りこみはしたものの、盾の上のトリテレイアは体勢を立て直し、あたかも大波を乗りこなすサーフィンをするかのように、雪原を舞うスノーボードを駆るかのように、シャボン玉の海を滑走する!
「器用ねトリテレイアさん、きっと海や山で女の子にモテるわよっ!」
 その光景に苛立たし気に叫んだユメカが、乱雑に無数の触手を撃ち放つ。嵐のように襲い来る触手の群れを、しかし機械騎士の格納銃器がまた乱射の弾幕で迎え撃った。この状況で精密射撃は至難だが、今はただ多少の被弾は覚悟のうえで、敵の元へと近づければよい!

「先ほど私は、気に入らないと申し上げましたが」
 トリテレイアは虚空一杯に広がる弾幕の火花と爆煙の中で声を漏らす。
 聞こえていないだろう、だがそれでもよい。それでも構わず、トリテレイアは言わねばならぬ。
「それは本当のユメカ様の……意思のことです。命をかける捨て身。しかしそれが、どれほど周囲に影響を与えるかを、お考えいただきたかった。ええ、そうです……貴女に最初に御案内いただいた依頼で、その幻影を見る程に私に刻まれてしまった、あの彼女のようにね」
 だから。
 同じ轍を踏むわけにはいかぬ。
 同じように誰かを失うわけにはいかぬ。
 それがトリテレイアの意気地!
「ゆえに──『生きたい』と思っていただきましょう!」
 間合いを詰めたトリテレイアのサーフボード──いや、大盾が、その瞬間、大きく宙に舞う!
 はっと、ユメカはその光景を目に映す。
 鏡のように磨かれた大盾の、その表面に映し出された自分の顔を!

「肉」
「へのへのもへじ」
「ドロボウ髭」
「豚鼻」

 一面に落書きされた自分の顔をである!
「なっ!? 何これ……いつの間に!?」
 愕然とするユメカに、シャボン玉の海に着水したトリテレイアは静かに語る。
「これこそ我が自律・遠隔制御選択式破壊工作用妖精型ロボ(スティールフェアリーズ・タイプ・グレムリン)……ええ、先ほどまでの弾幕と爆煙は、とてもいい目くらましになりました」
 然り。
 トリテレイアは触手を迎撃する銃撃乱射の喧噪にまぎれ、秘かに小型メカを解き放っていたのである。
「……いかがです、そんなお顔のままで命を落としてもよろしいのですか、ユメカ様?」
「馬鹿げてるわ、こんなつまらない悪戯くらいで、この鴻鈞道人の呪縛が緩むとでも……?」
 歯噛みするユメカに、トリテレイアはゆっくりと振り向く。

「ええ、それでユメカ様を開放できるとは思いません。ですが、あなたを倒した時にユメカ様が生き残る確率がコンマ1%でも上昇すればよい。「こんな姿で死にたくない」と思うことによってね。──そしてその「死にたくない」意志は、あなたにはないものです、鴻鈞道人。骸の海であるあなたはもとよりただの過去でしかなく、未来を持たないのですから」

 鴻鈞道人は既に理解している。
 当然、ただ顔に落書きなどされただけではないことを。
 そこまで近接された以上、既に──自分は詰んでいたことを。
「ふん。……乙女の顔に落書きとか、おとぎ話の騎士様らしくないやり方だったわね、トリテレイアさん! 都合によって理想の騎士像と現実を使い分ける、ずるいわ!」
 口惜し気につぶやくと同時、──ユメカに取り付けられていた爆弾が、轟然と爆発した。
 その爆炎を見やりつつ、トリテレイアのセンサーアイは苦笑するかのように明滅する。

「そうですね、でもその狡さが、生きていくということでもあるのでしょう。理想だけに偏っても現実だけに偏っても、バランスを崩してひっくり返ってしまう……このシャボン玉の海のようにね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

ユメカを取り込むとは…厄介な
手加減は厳禁、さりとて全力で当たればどうなるかは神のみぞ知る、か
まったく、親友が悲しむ姿は見たくないのだがな

デゼス・ポアを浮かせてナガクニを装備
軽業を駆使した曲芸の様な動きで渾沌から放たれる触手や刃を回避
敵の攻撃に集中し、避けきれない部分はナガクニやデゼス・ポアの刃で武器受けして防ぐ
さらにデゼス・ポアと背中合わせになるような位置で互いの死角を防ぎ、襲い来る触手や刃の群れを瞬間思考力で瞬時に見切り、次々と回避していく

さて、今度はこちらの番だ
…聞こえなくても構わない、死ぬなよ

UCを発動
ナガクニの封印を解き、短刀から太刀へと姿を変化させる
なおもこちらに迫る触手や刃を全て切り捨て、ダッシュで一気に肉薄
代償によって弱体化しているであろう渾沌を切り裂く
敵が一撃を受けて体勢を崩したら、そのままデゼス・ポアによる追撃を行う

そろそろ観念して、その子を返してもらおうか
彼女がいなくなると私の友人が悲しむのでね…
お前が「骸の海」だと言うのなら、世界の外へと流れ出て行け



●紫、想いの彼方の

「……そう、あなたが来たのね、キリカさん」
 長い影を引きながら、ぽつりとユメカ・ドリーミィはつぶやいた。
 いや、それはユメカにしてユメカにあらず。彼女の体と意思を取り込み奪った恐るべき骸の海、渾沌氏・鴻鈞道人に他ならない。
 だが、その鴻鈞道人のはずの声は、不思議に深く重く沈んで、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)には聞こえた。

「ああ、その子がいなくなると私の親友が悲しむ。そんな姿は見たくないからな」
 微かに不審を抱きつつも淡々と呟くキリカに、きっと鋭い視線を向けて、ユメカは顔を歪ませる。
「なら、あたしは『彼女』を悲しませてあげる。あなたを奪うことによって!」
 言いも終わらず、ユメカの細く小さな体からは無数の悍ましい触手が弾けるように迸り、虚空を斬り裂いて風を巻きキリカに襲い掛かった!
「厄介な……この勢い、手加減は厳禁、さりとて全力で当たればどうなるかは神のみぞ知る、か」
 油断なくその美しい肢体を舞うように空へ投げ出して次々と襲い来る触手を回避しながら、キリカは柳眉を顰ませた。敵の攻撃の中に、殺意、無論それはある。骸の海としての、渾沌氏・鴻鈞道人としての。
 けれど同時に、どこか不思議な切なさと寂しさが入り混じっているかのように、キリカには感じられたのだ。まるで、……人のような。少女のような。

「だが、惑っている暇はないか。行くぞ、デゼス・ポア!」
 ふわりと後方に着地しながら発したキリカの声に応じ、彼女の分身とも言うべき意志持つ妖人形、デゼス・ポアがそのフランス人形のような可憐な姿を風に躍らせた。デゼス・ポアの全身に仕込まれた刃が瞬時に展開し、生ける凶器となって敵襲に対峙する。
 同時、キリカ自身も銘刀ナガクニを抜き放つ。
 嵐のように襲い来るユメカの触手の群れ、そして魔刃の波を、キリカとデゼス・ポアは並び立って次々と打ちはらい、受け流し、斬りはらっていく。あたかもパルクールを演じているかのように優艶にして鮮烈に。それは生と死の一瞬の狭間を駆け抜ける死告天使の舞のごとくに!

「そうよね、キリカさんは強い、知ってるわ。そして! 戦いの中でさえあなたは美しい! それも知ってるわ!」
 そのキリカの姿に、ユメカの悲鳴のような怒声が響く。
 確かに、とキリカは思う。敵はユメカの記憶を利用している、ならば当然自分についての知識もあるだろう、そのこと自体は織り込み済みだ。
 だが、ユメカの攻撃の中に感じられるこの切なさは何だろう……。
 晶々と剣閃を散らしながら、キリカは敵に目を向ける。
 そこには、……あたかも泣き出しそうに顔を歪めた、ユメカの姿があった。
「強いなあ、綺麗だなあ、凄いなあ……かなわないなあ……」
 死を呼ぶ嵐の中で、ユメカの声が細々と流れた。
「だからキリカさんは『彼女』の親友なのよね。一番の友だちなのよね。──あたしじゃなく。あたしが隣にいられない場所でも時でも、キリカさんは隣にいるのよね」
 轟、と、風が酷く虚ろに、唸ったように、思えた。

「……あたしでありたかった。せめて、ともだちとして」

 今しもまた一本、襲い来た触手を斬り伏せながら、キリカは長い睫を微かに揺らした。
 ──怒りに。
 苛烈なる瞋恚に!
「愚劣でつまらぬ盤外戦はやめるがいい、鴻鈞道人。それ以上、その子の大切な記憶を、想いを……利用するな!」
 紫焔が燃え立つように、キリカの美貌が憤怒の色に染まる。
 ユメカの口にしている言葉はすべて鴻鈞道人の意思、渾沌たる骸の海が敵を動揺させんとしている精神戦でしかない。熟練の戦士たるキリカには無論わかっている、わかりすぎるほど。
 ああ、だがそれでも。それであっても。それであるからこそ。
 ──キリカはそれを許せない!
 鴻鈞道人のその行為が、まぎれもなくユメカの心の奥底に大切にしまい込んでいた宝箱の鍵を身勝手に開け放つ行為であるからこそ!

「私の心を揺らそうとしたならそれは成功だ、鴻鈞道人。だがそれで私の力が弱まると思ったのならそれは失敗だ、鴻鈞道人! 自らの愚かさを自らの体で知るが良い! ──『忌まわしき邪龍の牙よっ!』」

 裂帛の気勢が響き渡るところ、ナガクニに施された封印が今解放される!
 同時にキリカの美しい体が無残に引き裂かれ、激しく鮮血が飛び散る、それは己の寿命を代償にする能力であるがゆえに。だが意にも解さぬ、その程度でキリカ・リクサールは止められぬ!
 鮮烈な血化粧を糧にさらなる妖艶を身に纏ったキリカの声が宣する。
「世界の外へと流れ出て行け、骸の海!『影打・國喰(カゲウチ・クニグライ)』っ!!」
 光が反転しナガクニの刀身が太刀と化す。同時に猛進したキリカ、そしてデゼス・ポアが、叩きつけられる触手と刃の怒涛の攻撃を撃ち砕き切り裂いていく。虚空を埋め尽くさんほどだった鴻鈞道人の攻撃の大波が一太刀ごとに弱まり、その翳が薄らいでいって。
 最後にユメカの、いやその奥に潜む憎悪に満ちた鴻鈞道人の顔をキリカが視界にとらえた刹那。
「そろそろ観念して、その子を返してもらおうか……いくぞデゼス・ポア!」
 おお見よ、今こそキリカとデゼス・ポアはその真なる姿を顕現した! 人妖一体、そう、二人の合一こそがキリカの真なる力に他ならぬ!
 キリカの流麗、デゼス・ポアの神秘、その二人の容姿を併せたような可憐にして妖艶な姿が妖精のように天空にひらめいた時。
 ──ユメカの、いや鴻鈞道人の体躯は真一文字に断ち切られていた。
 邪龍と妖人形の呪いを乗せた一撃によって。
 
「……あは、キリカさんはあたしのために怒ってくれるのね。あなたに嫉妬したあたしのために。……やっぱり、かなわないや」

 キリカの耳に最後にかぼそく聞こえたその声が、往生際悪く鴻鈞道人が動揺を誘おうとしたあがきだったのか。それとも、……本当のユメカ自身の声だったのか。
 それは、わからない。
 ユメカ自身、その瞬間の記憶はないだろう。
 元の姿に戻ったキリカは、そっと、横たわっていたユメカの体を抱き上げる。
 ……意識を失ってはいたが、ユメカの胸は小さく規則正しく動き続け、彼女がまぎれもなく、際どい死線を超えて生を掴み取ったことを示していた。
 
 鴻鈞道人の能力は代償を必要とする。ゆえに、力を使いすぎて弱化し、さらにこれまで幾人もの猟兵との戦いで消耗していた鴻鈞道人は、己を維持できずにユメカを手放したのだろう、と推測はできた。
 だが、理屈ではなく……。
 多くの友の、そしてユメカ自身の意思が。
 この奇跡を生んだのだと、キリカは信じてみたい気がしていた。

「……さて、『彼女』は相当怒ると思うぞ。あの子が怒ると怖いからな……フッ、だが、──心配するな、私も一緒に謝ってやるさ」
 キリカは、柔らかい笑みを浮かべ、腕の中で眠る少女に優しく語り掛けるのだった。
 
●そして虹色、シャボン玉の

 正直、まだ、思ってはいるの。
 見送るだけ、見守るだけ、それはやっぱり辛いこと。
 でもね。
 その辛いことを耐えるのが、あたしの戦いなんだなって。
 今度のことで、それが少しだけ……わかった気がするんだ。
 えへへ。
 だからこれからも……よろしくね!

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月27日


挿絵イラスト